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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-25
(54)【発明の名称】便迂回補助装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/445 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
A61F5/445
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555136
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(85)【翻訳文提出日】2022-09-12
(86)【国際出願番号】 KR2021003063
(87)【国際公開番号】W WO2021194139
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0036293
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519418293
【氏名又は名称】ジェイエスアールメディカル カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225543
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 真
(72)【発明者】
【氏名】金 戴晃
【テーマコード(参考)】
4C098
【Fターム(参考)】
4C098AA09
4C098CC31
4C098CD01
4C098CE11
(57)【要約】
腸内の排泄物を迂回排出するようにする便迂回補助装置が開示される。
本発明の便迂回補助装置は、支持部が1つの空気移動管に連結されており、空気が注入すると同時に膨脹し、支持部の数値が限定されており、腸の内壁及び外壁(粘膜及び腸膜)を損傷しない。
また、腸内の圧力が増加すると、迅速に治療液の自動逆流を許容する液体移動管を含むことで、患者の腹痛が引き起こされることを防止することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸内の排泄物を迂回排出するようにする便迂回補助装置において、
肛門に挿入されて腸の内側に位置するメインボディ部、
前記メインボディ部の外周縁に沿って互いに8mm以上、25mm以下の間隔で離間して形成され、空気又は液体が注入されると膨張して前記腸の内側面に密着することで、前記メインボディ部が前記直腸に位置するように固定する支持部、
前記メインボディ部の内側に設けられ、空気又は液体が注入されると膨張して前記メインボディ部の内側の空間を閉鎖する遮断部、及び、
前記遮断部が膨張しても閉鎖されないように前記メインボディ部の内側に設けられ、前記肛門の外部から注入される治療液が前記腸に注入されるようにする液体移動管
を含む、便迂回補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載の便迂回補助装置において、
支持部のベースの大きさは、4mm以上、15mm以下であり、
前記メインボディ部の外径の大きさは、10mm以上、30mm以下であること
を特徴とする、便迂回補助装置。
【請求項3】
請求項2に記載の便迂回補助装置において、

0<[S-(D+2H)+1.5T]<[5+1.5T]
を満たすことを特徴とし、ここでSは腸管の内径、Hは1つの支持部の高さ、Dはメインボディ部の外径、Tは腸の厚さである、便迂回補助装置。
【請求項4】
請求項2に記載の便迂回補助装置において、
前記支持部と連通するバイパス部が形成され、空気が注入されると前記複数の支持部が同時に膨張するようにする空気移動管
を含む、便迂回補助装置。
【請求項5】
請求項2に記載の便迂回補助装置において、
前記液体移動管は、上部が開放されるように形成され、前記治療液が前記腸の内部に注入され、
前記腸の蠕動運動によって前記腸の圧力が高くなると、前記治療液と混合した腸内の排泄物が一部移動可能な余分の空間を許容することで、前記腸内部の圧力を自動的に調節すること
を特徴とする、便迂回補助装置。
【請求項6】
請求項5に記載の便迂回補助装置において、
前記液体移動管の断面の大きさは、3mm以上、23mm以下であること
を特徴とする、便迂回補助装置。
【請求項7】
請求項1に記載の便迂回補助装置において、
前記便迂回補助装置は、
前記肛門への前記メインボディ部の進入を容易にするために設定された長い管状のカバーであって、前記カバーの内部に前記メインボディ部が位置することができ、前記カバーの上側はラウンド状に形成され、前記カバーの上側の中央を基準に切開部が対称となるように形成された、前記カバーを含むこと
を特徴とする、便迂回補助装置。
【請求項8】
請求項7に記載の便迂回補助装置において、
前記便迂回補助装置は、
前記カバーと前記カバーの内部に配置されたメインボディ部との分離のために、前記メインボディ部の下側と当接し、前記メインボディ部を上側に押して前記メインボディ部を上側に移動させて前記カバーの上側のサイズを大きく変形させることで、前記メインボディ部が腸内に進入できるようにする長い棒状のプッシャーを含むこと
を特徴とする、便迂回補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、直腸手術患者のための便迂回補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2018年統計庁の発表による3大死因は、がん、心臓疾患、肺炎であった。
【0003】
【表1】
【0004】
特にがんは、上記の統計庁の資料より確認されるように、90年度から死亡率1位を記録しており、95年以降には他の原因に比べて圧倒的な死因とされている。がんは、40代で1位、20代で3位、30代で2位の死因とされている。医療業界では、がんを征服するため絶えずに努力しており、がんを治療する試薬、治療方法、治療器具などを開発している。
【0005】
がんのうち、大腸がんは2000年代以降増え続けている。よって、大腸がんに対する関心も増加し続けている。大腸がんは、結腸と直腸に生じる悪性腫瘍であり、大部分は大腸の粘膜で発生する腺がんである。腺がん以外にも扁平上皮がん、悪性リンパ腫など種々の腫瘍などが発見され、時にはがんが大腸を侵襲するか他の部位に転移する場合もある。
【0006】
現在、大腸がんの治療方法は、病変部位の上下端部を切開して正常部位を連結した後、切開した部分を縫合する方式である。
【0007】
大腸がんは、治療自体が患者に苦痛を与えるが、手術後に吻合部位で発生する漏れ(leakage)も危険である。吻合部位での漏れは、深刻な合併症を引き起こし、患者の生命を脅威する恐れがある。また、長期的に吻合部の狭窄を起こし、患者の生活の質を深刻に低下させる恐れがある。
【0008】
これを防止するために、手術部位から一定の上部位置に生分解性バンドを腸に縛り、この部位に便を迂回できる便迂回補助装置を固定した後、便迂回補助装置の下側に移動する空間を閉鎖して治療液を注入した後、治療液を便迂回補助装置の内側空間に排出する方式により便を迂回排出することで、吻合部位の漏れを防止している。
【0009】
しかし、便迂回補助装置を用いる患者は、便迂回補助装置の利用にあたって持続的に同じ問題点及び不満を話しており、この問題点及び不満を解決するために必須の研究が求められる。顧客の言う問題点は下記のようである。
【0010】
第一の問題は、腹痛である。
【0011】
治療液が患者の腸管内に注入されると腸は蠕動運動を行う。この運動は、腸内の物質を肛門側に移動させる運動であり、このとき便迂回補助装置は腸の内部を閉鎖しているため、腸内の圧力を増加させる。腸内圧力の増加は患者に腹痛を引き起こした。
【0012】
第二の問題は、腸内壁の損傷(erosion)である。
【0013】
便迂回補助装置は、腸の外壁に固定されたバンドを基準に腸の内壁に固定されている。腸の内部圧力が増加すると、腸内に固定された便迂回補助装置は、腸内で押されないために腸の内壁を押してバンドに圧力を加えるようになり、この過程が繰り返されることで腸の内壁を損傷する。このような腸内壁の損傷は、腸穿孔、腸管周囲膿瘍、及び敗血症という深刻な合併症を引き起こす恐れがある。
【0014】
第三の問題は、患者の生活の質の低下である。
【0015】
大腸がん患者は、大腸がんによって心的に大きい苦痛を受けているため、手術後の便迂回補助装置による腹痛は、患者に精神的、身体的にひどい苦痛を与え、この苦痛のため一部の患者は便迂回補助装置の除去を要請する場合もあり、便迂回補助装置の使用を中断し、おむつをつける場合もあった。しかし、これは患者の立場では面倒で恥ずかしいことであった。
【0016】
上記のような問題は、本発明者が最初に特許文献1の発明を考案した2000年度から現在まで十数年にかけて必ず解決されなければならない課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】韓国登録特許第10-0375584号公報
【0018】
本発明者は種々の解決策を探し続けており、この解決策のために十数年にわたって数え切れないほど多くの実験により長い間持続してきた問題点を解決しようとした。
【0019】
以下は、本発明者が問題点を解決するために行ったいくつかの解決策である。
【0020】
本発明者は、患者の腹痛を抑制するために平滑筋弛緩性鎮痛剤であるHyoscine-N-Butylbromide、消炎鎮痛剤であるNSAID、麻薬性鎮痛剤であるOpioidを患者に処方した。この場合、患者の腹痛は解消された。しかし、腸の過度な蠕動運動によって腸が破裂し、便の漏れによる深刻な合併症が発生した。本発明者はこの合併症による再手術を行うこともあった。このため、本発明者は、患者の苦痛をなくすのに十分な鎮痛剤を投与することができなかった。
【0021】
このように鎮痛剤の処方では問題点を解決できないところ、本発明者は、治療液の量を減らして患者に注入する方式で問題点を解決しようとした。
【0022】
しかしこの場合、洗浄液の注入時間が長くなり、患者の日常生活に支障を与えるという問題点が発生し、また洗浄液の量を減らしても、洗浄液の注入による腸の蠕動運動は行われるので、患者の腹痛は減少されなかった。
【0023】
さらに、患者に治療液が少なく注入されることによって、腸内の内容物が治療液と混合されず、固形化して腸の外部に排出されなかった。
【0024】
本発明者が行った最後の解決策は、便迂回補助装置の空間を開放することであった。すなわち、治療液を患者に注入中に患者が腹痛を訴えたら、治療液の注入を止めて観察することである。治療液の追加注入が中止されると患者の腹痛はなくなった。治療液の注入を止めても患者の苦痛が続く場合は、空間を開放して(便迂回補助装置の内側風船を減圧させて便迂回補助装置を開放して)治療液を外部に排出させることで問題点を解決する方式であった。
【0025】
この方法は、腸管内の圧力を高めた原因である便と混合した治療液を便迂回補助装置の外に排出させる結果、高まった腸管内の圧力を下げる効果があった。結果的に患者の腹痛が減少するか又はなくなった。また、この方法には、腸破裂の危険がないという長所があった。
【0026】
しかし、治療液の注入期間中でこの過程を繰り返すと一時的に問題を解決することはできるが、腸内の内容物が外部に排出され、患者及び寝床を汚染させる恐れがあり、患者を不快にした。
【0027】
結果的にこの方法は、安全であるが時間がかかり、周囲を汚染して病院環境に悪影響を与えた。このような過程はさまざまな操作が必要であった。すなわち、注入される治療液を閉ざして待ち、痛症が続くと腸管の内容物を排出させる操作を行わなければならないため、ほとんどの場合は患者一人では困難であり、保護者や看護スタッフの補助が必要であった。
【0028】
このような過程を何回も繰り返さなければならない患者や保護者は非常にストレスを受け、便迂回補助装置をつけたことを後悔する場合もあった。ひどい場合は、患者より便迂回補助装置の早期除去を要求された場合もあった。しかし、便迂回補助装置の早期除去は非常に危険である。除去過程で吻合部の損傷が発生する恐れがあり、早期除去による吻合部漏れの予防の意味がなくなるためである。
【0029】
この方法は時間がかかり、治療方法が面倒で看護スタッフを含む他のスタッフの補助が必要であった。また、結果として患者の生活の質を低下させた。さらに、この方法は、患者及び寝床の汚染を引き起こし、これは病院環境の汚染を引き起こすことで、他の患者の健康までも害する恐れがある。
【0030】
上記のように、本発明者は多くの試行錯誤を重ねて持続的に解決方案を模索してきたが、大部分の解決策は問題を解決したように見えてもまた他の問題点を生じた。
【0031】
しかし、このような試行錯誤は単なる失敗だけではなかった。本発明者は、種々の試行錯誤の末、腹痛の解決は、治療液の注入時における腸の蠕動運動による腸の内圧変動ということが分かり、これに新しい方式で宿願である課題を解決しようとした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
(技術的課題)
本発明は、患者が本発明を用いて、従来の便迂回補助装置とは異なり患者に腹痛を引き起こさないようにすることをその目的とする。
【0033】
また、本発明は、患者が本発明を用いて、腸の内壁に損傷を与えない便迂回補助装置を提供することをその目的とする。
【0034】
また、本発明は、患者の生活の質を向上させることができる便迂回補助装置を提供することをその目的とする。
【0035】
本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した技術的課題に制限されず、言及されていない他の技術的課題は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、以下の記載から明確に理解できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0036】
(技術的解決方法)
本発明の便迂回補助装置は、腸内の排泄物を迂回排出するようにするものである。
【0037】
本発明の便迂回補助装置は、肛門に挿入され、腸の内側に位置するメインボディ部、前記メインボディ部の外周縁に沿って8mm以上、25mm以下の間隔で離間して形成され、空気又は液体が注入されると膨張して前記腸の内側面に密着することで、前記メインボディ部が前記直腸に位置するように固定する支持部、前記メインボディ部の内側に設けられ、空気又は液体が注入されると膨張して前記メインボディ部の内側の空間を閉鎖する遮断部、及び前記遮断部が膨張しても閉鎖されないように前記メインボディ部の内側に設けられ、前記肛門の外部から注入される治療液が前記腸の内部に注入されるようにする液体移動管を含む。
【0038】
ここで、支持部のベースの大きさは、4mm以上、15mm以下に設定されることが好ましい。
【0039】
また、メインボディ部の外径の大きさは、10mm以上、30mm以下に設定されることが好ましい。
【0040】
また、本発明の便迂回補助装置は式1を満たす。
【0041】
式1は、
0<[S-(D+2H)+1.5T]<[5+1.5T]
である。ここで、Sは腸管の内径、Hは1つの支持部の高さ、Dはメインボディ部の外径、Tは腸の厚さである。
【0042】
また、本発明の便迂回補助装置は、支持部と連通するバイパス部が形成され、空気が注入されると前記複数の支持部が同時に膨張するようにする空気移動管を含む。
【0043】
ここで、液体移動管は、上部が開放されるように形成され、前記治療液が前記腸の内部に注入され、前記腸の蠕動運動によって前記腸の圧力が高くなると、前記治療液と混合した腸内の排泄物が一部移動可能な余分な空間を許容することで、前記腸内部の圧力を調節することを特徴とする。
【0044】
ここで、液体移動管の断面の大きさは、3mm以上、23mm以下に設定されることが好ましい。
【0045】
ここで、便迂回補助装置は、肛門に前記メインボディ部の進入を容易にするために設定された長い管状のカバーを含む。前記カバーの内部に前記メインボディ部が位置してもよい。前記カバーの上側はラウンド状に形成され、前記カバーの上側の中央を基準に切開部が対称となるように形成される。
【0046】
ここで、便迂回補助装置は、前記カバーと前記カバーの内部に配置されたメインボディ部との分離のため、前記メインボディ部の下側と当接し、前記メインボディ部を上側に押して前記メインボディ部を上側に移動させて前記カバーの上側のサイズを大きく変形させることで、前記メインボディ部が腸内に進入できるようにする長い棒状のプッシャーを含む。
【発明の効果】
【0047】
本発明は、腸の蠕動運動によって腸内の内圧増加及び膨張が発生する場合、治療液又は混合液が移動可能な空間を設けることで、腸内の圧力を減少させることができ、患者に腹痛を引き起こさないようにする。
【0048】
また、治療液が自動で腸内に供給され、液体移動管に逆流するので、治療液が過剰に注入されることがなく、腸の蠕動運動による腹痛を引き起こさず、短時間内に治療液が腸内で内容物と混合されるため、治療時間を減縮することができる。腹痛の減少と治療時間の短縮は、結果的に本便迂回補助装置が腸管内で押される現象を最小化することで、腸管壁の損傷(浸食:erosion)の危険を最小化して便迂回補助装置を除去することができる。
【0049】
また、本発明の便迂回補助装置は、腸内の特定位置で堅固に固定できると共に、腸の内壁に損傷を与えない数値を有するように製造され、患者の腸内壁に損傷を与えない。
【0050】
したがって、患者が本発明の便迂回補助装置を用いても腹痛が引き起こされず、腸の内壁に損傷が発生しないため、患者の生活の質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明の便迂回補助装置を示す。
図2】本発明の便迂回補助装置のカバーを示す。
図3】本発明の便迂回補助装置のプッシャーを示す。
図4】本発明の便迂回補助装置の各構成が組み合わせられた状態を示す。
図5】本発明の便迂回補助装置の各構成が組み合わせられた状態の断面を示す。
図6a図5の上部側のみを拡大して示す。
図6b図6aで遮断部が膨張した状態を示す。
図7a】本発明の便迂回補助装置が直腸内に引き込まれる前の状態を示す。
図7b】本発明の便迂回補助装置が直腸内に引き込まれた後の状態を示す。
図7c】本発明の便迂回補助装置が直腸内に引き込まれた後にカバーだけ分離した状態を示す。
図7d】プッシャーを利用して本発明の便迂回補助装置が腸内の特定位置に配置された状態を示す。
図7e】支持部が膨張して本発明の便迂回補助装置が腸内で固定された状態を示す。
図7f】液体移動管を介して治療液が腸内に供給された状態を示す。
図7g】腸の内圧又は腸の蠕動運動によって治療液、又は治療液と腸内の内容物とが混合した混合液が液体移動管に逆流した状態を示す。
図7h】遮断部が縮んで治療液、又は治療液と腸内の内容物とが混合した混合液が排出される状態を示す。
図7i】支持部が縮んだ状態を示す。
図8】本発明の便迂回補助装置の各構成の数値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の一実施例を例示的な図面を通じて詳細に説明する。しかし、これは本発明の範囲を限定しようと意図されたものではない。
【0053】
各図面の構成要素に参照符号を付加するにあたって、同じ構成要素に対しては、たとえ他の図面上に表示されてもできるだけ同じ符号を与えるようにしていることに留意しなければならない。また、本発明を説明するにあたって、関連する公知の構成又は機能についての具体的な説明が本発明の要旨を不明確にする恐れがあると判断される場合は、その詳細な説明は省略する。
【0054】
また、図面に示された構成要素の大きさや形状などは、説明の明瞭性と便宜性のため誇張して図示されることがある。また、本発明の構成及び作用を考慮して特に定義された用語は、本発明の実施例について説明するためだけのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0055】
図1は、本発明の便迂回補助装置を示す。
【0056】
図2は、本発明の便迂回補助装置のカバーを示す。
【0057】
図3は、本発明の便迂回補助装置のプッシャーを示す。
【0058】
図4は、本発明の便迂回補助装置の各構成が組み合わせられた状態を示す。
【0059】
図5は、本発明の便迂回補助装置の各構成が組み合わせられた状態の断面を示す。
【0060】
図6aは、図5の上部側のみを拡大して示す。
【0061】
図6bは、図6aで遮断部が膨張した状態を示す。
【0062】
本発明の便迂回補助装置は、ボディー部(100)、チューブ(700)、支持部(200)、遮断部(300)、液体移動管(400)、第1空気移動管(500)、第2空気移動管(600)を含む。
【0063】
また、便迂回補助装置は、カバー(800)、プッシャー(900)をさらに含んでもよい。
【0064】
ボディー部(100)は円筒状に形成されてもよい。ボディー部(100)は中空状である。すなわち、ボディー部(100)の上部と下部は開放され、ボディー部(100)の内側にも空間が形成される。ボディー部(100)の内側空間には、後述の治療液、及び治療液と腸内物質との混合した混合物が排出されてもよい。
【0065】
チューブ(700)は、ボディー部(100)の下側に設けられてもよい。チューブ(700)は、ボディー部(100)の周りのサイズよりも少し大きな周りのサイズを有するため、チューブ(700)にボディー部(100)を引き込むことができる。すなわち、チューブ(700)の上側にボディー部(100)の下側を引き込むことができる。よって、ボディー部(100)の内側空間を通じて移動する治療液、又は治療液と腸内の内容物とが混合した混合液がボディー部(100)とチューブ(700)との間の空間に流れることが防止される。
【0066】
チューブ(700)の下側は、示されていないが、治療液、又は治療液と腸内の内容物とが混合した混合液を保管できるパウチと連結されてもよい。
【0067】
ボディー部(100)の内側空間には、第1空気移動管(500)、第2空気移動管(600)が設けられてもよい。ボディー部(100)の内側空間には遮断部(300)が設けられてもよく、ボディー部(100)の外側にはボディー部(100)の周りに沿って支持部(200)が形成される。
【0068】
支持部(200)は、ボディー部(100)の上側の周りに1つ、またこれと離間してボディー部(100)の下側に1つ形成されてもよい。遮断部(300)は、図6a、6bで確認されるように、ボディー部(100)の内側面の片側に形成されており、第1空気移動管(500)と連結されており、2つの支持部(200)は第2空気移動管(600)と連結されていてもよい。
【0069】
第2空気移動管(600)は、図6a、6bで確認されるように、バイパス流路が形成され、それぞれの遮断部(300)と連結されている。したがって、第2空気移動管(600)に空気が注入されると、ボディー部(100)の上部に位置する支持部(200)と下部に位置する支持部(200)とが同時に膨張することができる。第1空気移動管(500)に空気が注入されると遮断部(300)が膨張することができる。
【0070】
ここで、第1空気移動管(500)及び第2空気移動管(600)は、実施例によっては空気でなく液体(食塩水)が注入されてもよい。
【0071】
遮断部(300)が膨張すると、ボディー部(100)の内側空間を閉鎖することができる。また、支持部(200)が膨張すると、腸の内側面に密着してボディー部(100)の位置を固定することができる。よって、腸内の空間は、ボディー部(100)を基準に分けることができる。これに対する内容は後述して詳しく説明する。
【0072】
液体移動管(400)もボディー部(100)の内側空間に設けられてもよい。液体移動管(400)は、遮断部(300)が膨張しても閉鎖されないようにボディー部(100)の上側に延びて形成される。液体移動管(400)は、図示されていないが、シリンダーと連結されてもよい。これにより、シリンダーによって供給される治療液を腸内に注入することができる。
【0073】
カバー(800)は、上部がラウンド状に形成された長い管状に形成されてもよい。カバー(800)は、上部と下部とが開放されているが、カバー(800)の上部は閉鎖されたように見えることがある。カバー(800)の上部は、中央を基準に切開線が形成されている。切開線は、カバー(800)の中央を基準に複数形成されてもよい。
【0074】
したがって、カバー(800)の上部は、カバー(800)の内側から上部に力が加えられる場合、カバー(800)の上部が上方向にますます移動するようになり、中央の開放された部分の大きさを徐々に大きくすることができる。また、カバー(800)の下部にはフランジ部(810)が形成されている。フランジ部(810)は、カバー(800)の周りのサイズを伸ばす役割をする。
【0075】
プッシャー(900)は、グリップ部(920)とプッシュ部(910)とで構成されてもよい。プッシャー(900)は、後述で説明するが、ボディー部(100)を腸内に押して移動させる役割をする。
【0076】
図7aは、本発明の便迂回補助装置が直腸内に引き込まれる前の状態を示す。
【0077】
図7bは、本発明の便迂回補助装置が直腸内に引き込まれた後の状態を示す。
【0078】
図7cは、本発明の便迂回補助装置が直腸内に引き込まれた後にカバーだけ分離した状態を示す。
【0079】
図7dは、プッシャーを利用して本発明の便迂回補助装置が腸内の特定位置に配置された状態を示す。
【0080】
図7eは、支持部が膨張して本発明の便迂回補助装置が腸内で固定された状態を示す。
【0081】
図7fは、液体移動管を介して治療液が腸内に供給された状態を示す。
【0082】
図7gは、腸の内圧又は腸の蠕動運動によって治療液、又は治療液と腸内の内容物とが混合した混合液が液体移動管に逆流した状態を示す。
【0083】
図7hは、遮断部が縮んで治療液、又は治療液と腸内の内容物とが混合した混合液が排出される状態を示す。
【0084】
図7iは、支持部が縮んだ状態を示す。
【0085】
以下では、本発明の便迂回補助装置が腸内に設けられて便を迂回排出する過程について説明する。
【0086】
患者は、大腸がんの治療のために腸の病変部位を切断し、切断した腸を再度縫合した後、縫合した位置から上側に離隔した位置に生分解性バンドで腸の周りを巻いて固定されている。ここで、生分解性バンドは、腸の外側を大きくない圧力で締めていても構わない。
【0087】
患者は、カバー(800)の内部にボディー部(100)を配置させる。患者は、第1空気移動管(500)を通じて空気を注入させ、遮断部(300)が膨張してボディー部(100)の内側空間が閉鎖される。また、プッシャー(900)のプッシュ部(910)がボディー部(100)の下部と当接するように配置する。ここで、プッシャー(900)のグリップ部(920)は長い棒状に形成されるため、外部に露出し得る。
【0088】
ゲル又は潤滑剤がカバー(800)に塗布され、プッシャー(900)を患者の肛門内部に引き込むことができる。カバー(800)が患者の肛門に引き込まれるとき、カバー(800)のフランジ部(810)は肛門に引入されず、フランジ部(810)は尻と当接してカバー(800)を支持する役割をする。
【0089】
フランジ部(810)が尻に当接すると、カバー(800)は肛門から引き出される。カバー(800)の上部は、上述したように切開線が中央を基準に形成されているので、カバー(800)を肛門から引き出すと、カバー(800)の中央に形成された開放された部分がボディー部(100)の大きさと支持部(200)の大きさとを合わせた大きさ程度に大きくなり、カバー(800)のみ肛門に引き出すことができる。
【0090】
医師は、プッシャー(900)のグリップ部を握って患者の肛門の内側にさらに押し込み、ボディー部(100)を、腸の縫合部位を経てバンドのバインディングされた部分に位置させる。ここで、ボディー部(100)の位置は、ボディー部(100)の上部に位置する支持部(200)と下部に位置する支持部(200)とが、バンドを中心に対称な位置に置かれることが好ましい。
【0091】
その後、患者は、第2空気移動管(600)を通じて空気又は液体を支持部(200)に注入させて支持部(200)を膨張させる。膨張された支持部(200)は腸の内側面に密着する。ここで、バンドが腸を設定された圧力で加圧しているため、支持部(200)は腸を少し押すことができる。
【0092】
このように支持部(200)が膨張すると、患者の腸は、ボディー部(100)を基準に上部と下部に分けられる。すなわち、腸は、遮断部(300)、ボディー部(100)、支持部(200)によって空間が閉鎖されてもよい。
【0093】
支持部(200)が膨張すると、患者はシリンダーを操作して液体移動管(400)に治療液を注入することができる。医師は、600~1000ccの治療液を20分ないし25分にわたって注入してもよい。治療液が注入された腸が蠕動運動を行うことで、治療液は腸内の内容物と混合される。
【0094】
その後、患者は、第1空気移動管(500)を用いて遮断部(300)から空気又は液体を引き抜き、遮断部(300)が再度縮むようにする。それによって、閉鎖された腸は、ボディー部(100)の内側空間に移動空間が形成され、治療液と腸の内容物とが混合した混合液をチューブ(700)を介して外部に排出させる。
【0095】
患者は、第2空気移動管(600)を用いて支持部(200)を縮ませ、チューブ(700)を引っぱってボディー部(100)を腸の外部に移動させて治療を終えることができる。
【0096】
上記のような治療過程は便の迂回排出を可能とするが、治療液の注入時に発生する腸内圧の増加による患者の腹痛、支持部(200)が腸の内側面を密着固定するときの、腸の蠕動運動による支持部(200)の圧着固定による腸管壁損傷の問題点が発生した。
【0097】
よって、上記の問題点を解決する必要がある。
【0098】
しかし、上記の問題点を解決する際に、便迂回補助装置の構成の元の役割はそのまま維持されなければならない。すなわち、遮断部(300)は、膨張時にボディー部(100)の内側空間を閉鎖しなければならず、支持部(200)は、膨張時に腸管に密着しなければならない。
【0099】
上記のような問題点を解決するために種々の条件下で各構成の数値を変更してみた。下記の数値変更はいずれも、支持部(200)が膨張し、治療液を腸内に注入し、十分に時間が経過して腸の内圧が増加し、腸が十分な蠕動運動を行った場合に、腸に損傷があるか否かを複数回実験した結果である。
【0100】
図8は、本発明の便迂回補助装置の各構成の数値を示す。
【0101】
*腸の太さと厚さは各個人と疾患の種類によって異なる。腸は、柔らかくて弾力性のある特殊な組織で構成され、膨張時と収縮時で太さと厚さが異なる。
【0102】
このため正確な直径と厚さの計測が困難である。よって、腸内に固形の器具を挿入して腸内の内容物の流れを短絡する機能を備えることは困難である。さらに、このような機能を果たすうちに、腸管に損傷が与えられてはならない。腸管は圧力に対して非常に脆弱であり、固形の器具を外部で固定して腸を安全に維持することは非常に難しいためである。しかし、本発明はこのような困難を克服した。
【0103】
本発明を考案するには、ボディー部(100)の外径を設定することが最も重要である。ボディー部(100)の外径が大きいと洗浄液の注入が容易であるが、誤って設定すると患者の腸に破裂が生じる恐れがあるためである。
【0104】
腸の直径が大きい場合は、ボディー部(100)の外径及び支持部(200)の高さを合わせた数値に大きく影響しないが、腸の直径が小さい場合は大きく影響する。種々の患者の腸の直径を測定した結果に基づいて腸の収容範囲を確認したところ、これによって得られた数値は18~60mmである。
【0105】
すなわち、本発明の便迂回補助装置は、支持部(200)の膨張時に全体的な断面の大きさが18~60mmであると小さな腸に固定でき、腸の破裂が生じない。本発明の便迂回補助装置は、この設定された断面の大きさの範囲内で製造されなければならないが、洗浄液の投入、製造の便宜性、粘膜損傷の低下などを考慮すると、ボディー部の外径は最小10mm以上、最大30mmでなければならない。
【0106】
もちろん患者の状態によってより大きいバリエーションが存在し得るが、多くの患者より得られたデータに基づいて標準化してみると、上記の範囲で十分であると思われる。
【0107】
まず、ボディー部(100)の外径を10mm単位に設定した。
【0108】
ボディー部(100)の外径を10mm単位に設定した理由は、10mmより小さい場合は、便が希釈された治療液が良好に排出されない問題点が発見されたからである。そのため、始点を10mmに設定した。
【0109】
ボディー部(100)の外径の大きさの始点を10mmに設定した他の理由は、本発明者が行った種々の臨床実験の結果から導かれた。臨床実験で通常用いられる直腸管は、外径が10mm以下である。
【0110】
しかし、臨床実験で用いられる直腸管は、便が希釈された治療液によって通路が詰まるという問題点が持続的に観察された。本発明者は、臨床実験でこのような問題点を持続的に確認した。よって、本発明者は、本発明の考案時、ボディー部(100)の外径が最小10mm以上でなければならないと考えた。また、この見解に基づいて外径の異なる種々の器具を製作して、動物実験を行った。その結果、ボディー部(100)の外径は10mmより大きくなければならないことが分かった。
【0111】
よって、本発明では、ボディー部(100)の外径の始点を10mmに設定した。
【0112】
また、ボディー部(100)の外径の終点を30mmに設定した。
【0113】
その理由は、ボディー部(100)の外径が30mmより大きい場合、大きすぎて肛門を通じて腸内に引き込ませることが困難であるためである。また腸管吻合に通常用いる円形吻合器(circular stapler)による吻合部を損傷する恐れがあるためである。参照として、円形吻合器の外径は約25-34mmである。
【0114】
したがって、本発明の便迂回補助装置の除去時に腸の収容範囲を考慮すると共に、吻合部の損傷を避けるためには、ボディー部(100)の外径の大きさが30mm以下であることが好ましいであろう。ボディー部(100)の大きさが30mmを超過すると、これを腸管に挿入又は除去時に問題となるためである。よって、ボディー部(100)の外径の大きさは最大30mm以下であることが好ましい。
【0115】
結果として、ボディー部(100)の外径が10mm~30mmであれば、腸管の太さによって安全で機能上効果的に用いることができるという結論に到逹した。このように本発明者は、ボディー部(100)の外径を設定し、その後に支持部(200)の高さの変更による腸の粘膜損傷実験を行った。
【0116】
本発明者は、支持部(200)の高さの変更時に生理食塩水を用いた。
【0117】
また、支持部(200)の高さの変更による腸損傷の有無は動物実験により確認した。動物実験は体重15Kg~26Kg以下の雑種犬で行った。この大きさの雑種犬の腸が人間の腸の大きさと類似するためである。
【0118】
(1)ボディー部(100)の外径が10mmのときにおける支持部(200)の高さの変更による腸の粘膜損傷の有無
【0119】
以下で説明する支持部(200)の高さは、支持部(200)がボディー部(100)の外側に対称となる位置に設けられた支持部(200)の高さを合わせたものを指称する。例えば、支持部(200)の高さが膨張時に9mmであるなら、2つの支持部(200)が対称となる位置で膨張するので、支持部(200)の高さは18mmとなる。
【0120】
動物実験は、体重15~19Kgの雑種犬の大腸を対象とした。この雑種犬より得られたサンプルは、一般化するのに十分であった。
【0121】
【表2】
【0122】
ボディー部(100)の外径が10mmのとき、支持部(200)の高さを1mmから次第に増加させて腸管内側壁の損傷(粘膜損傷、腸膜の破裂など)の有無を確認した結果、支持部(200)の高さが18mm(1つの支持部(200)の高さは9mm、ボディー部(100)の外径と支持部(200)の高さとの和は28mm)のときまでは内側壁の損傷が発生しなかった。しかし、支持部(200)の高さが19mm以上のときから雑種犬の腸膜の損傷(粘膜損傷、破裂)が現れ始めた。ただし、支持部(200)の高さが8mm未満のとき、支持部(200)は腸の内側壁に密着できず、腸内圧の増加時に便迂回補助装置が移動するという問題点が観察された。しかし、支持部(200)の高さが8mm以上のときからこのような問題点は解決された。
【0123】
(2)ボディー部(100)の外径が20mmのときにおける支持部(200)の高さの変更による腸の粘膜損傷の有無
【0124】
ボディー部(100)の外径が20mmの場合は、器具は体重19Kg以上、22Kg以下の雑種犬の大腸を対象とした。
【0125】
【表3】
【0126】
実験の結果、支持部(200)の高さが19mm以上のときから(1つの支持部(200)の高さは9.8mm、ボディー部(100)を含む外径の大きさは39mm以上)腸膜の破裂が観察された。
【0127】
(3)ボディー部(100)の外径が30mmのときにおける支持部(200)の高さの変更による腸の粘膜損傷の有無
【0128】
ボディー部(100)の外径が30mmの場合は、器具は体重23Kg以上、26Kg以下の雑種犬の大腸を対象とした。
【0129】
【表4】
【0130】
実験の結果、支持部(200)の高さが18mmを超過した場合(1つの支持部(200)の高さ9mm、ボディー部(100)を含む外径の大きさは48mm超過)のときから腸膜破裂が観察された。
【0131】
(4)検討の結果、ボディー部(100)の外径が10mm以上、30mm以下である場合、支持部(200)の高さが8mm以上、18mm以下内であると、腸管の口径による数値の変形によって腸管の腸膜損傷を避けることができた。
【0132】
まとめると、支持部(200)の高さは8mmないし18mmが好ましい。その理由は、支持部(200)の高さが8mm未満の場合は、遮断部(300)を閉鎖して洗浄液を腸内に注入する場合、支持部(200)が確実に固定されない問題が発生し、18mmを超える場合は、腸内粘膜又は外壁の腸膜損傷を引き起こすためである。
【0133】
一方、上述したように、腸の周りには生分解性バンドが締められるので、支持部(200)の間隔によっても腸の粘膜損傷が発生する。よって、ボディー部(100)の上部に位置する支持部(200)と下部に位置する支持部(200)との間の間隔が適正に設定されることが重要である。
【0134】
【表5】
【0135】
実験を行った結果、支持部(200)の間の間隔が8mm以上のときから、バンドを中心にボディー部(100)の上部に設けられた支持部(200)と下部に設けられた支持部(200)との間隔が十分に広がり、バンドによる腸の内側壁の粘膜が損傷しないことを確認した。よって、支持部(200)は、ボディー部(100)に8mmの間隔を置いて設けられることが好ましい。また、その支持部(200)の間の間隔は、最大25mm以下に制限されることが好ましいであろう。
【0136】
支持部(200)の間の間隔が25mm以上となると、ボディー部(100)の長さが過度に長くなるため、骨盤内で直腸部位又は吻合部の腸管部位の曲線に沿っていきにくくなる。
【0137】
腸管自体の厚さが少なくとも1~1.5mmであるため、2つの支持部(200)の間は4mm以上でなければ、腸管内部の器具を固定する狭い紐さえ縛ることができない。正常な腸管でない場合(腸管浮腫や線維化により腸管が厚くなった場合)は、それ以上の間隔が必要である。しかし、紐を縛ることができると共に腸管の損傷が発生しないことは当たり前であろう。
【0138】
種々の支持部(200)の間隔を有するプロトタイプの器具を用いて実験を行った結果、支持部(200)の間の間隔が8mm以上広がる前には、粘膜損傷が手術後1日目から現れた。
【0139】
しかし、支持部(800)の間隔が8mmであると、たとえ粘膜損傷がたびたび観察されても、これによる腹膜炎は生じなかった。すなわち、許容可能な範囲内であった。
【0140】
したがって、ボディー部(100)の上部に位置する支持部(200)と下部に位置する支持部(200)との間の間隔は8mm以上、25mm以下に設定して、支持部(200)のベースの大きさを設定することが好ましいであろう。
【0141】
さらに、ボディー部(100)の上部に位置する支持部(200)と下部に位置する支持部(200)との間の間隔が8mm未満の場合、本発明の便迂回補助装置を除去することは容易であったが、遮断部(300)が閉鎖された状態で蠕動運動による圧力を受けると、ボディー部(100)に若干の振動だけあっても蠕動運動方向の圧力によって捻れる恐れがある。
【0142】
これにより、ボディー部(100)の縦軸が腸管の縦軸からずれるようになり、遮断部(300)の開放時に腸管の内容物の流れが支障を受ける。ひどい場合は、捻れが進行してボディー部(100)が腸管を完全に塞ぐようになり、治療液及び混合液を排出できないという問題点が発生した。
【0143】
ボディー部(100)の上部に位置する支持部(200)と下部に位置する支持部(200)との間の間隔が25mmを超える場合、治療終了後に便迂回補助装置の除去が困難であり、便迂回補助装置の除去時に腸内粘膜の損傷が発生するという問題点が発生した。
【0144】
また、便迂回補助装置の通過する腸管は、仙骨の構造に沿って曲がって形成されているので、硬い便部分が長すぎると、便迂回補助装置の除去時に除去が困難である。ボディー部(100)の上部に位置する支持部(200)と下部に位置する支持部(200)との間の間隔が25mmを超える場合は、器具の除去が困難であった。
【0145】
【表6】
【0146】
上述したように、便迂回補助装置は、腸の粘膜を損傷しないことも重要であるが、腸内の圧力蠕動運動に対しても安定して腸内で固定されることが重要である。そうでないと、便迂回補助装置の役割を果たせず、便が吻合部位に流れて漏れが発生する恐れがあるためである。よって、上記の実験では、腸内の粘膜を損傷しない支持部(200)の最小の高さである8mmのときに、ベースの長さを変更して支持部(200)のベースの大きさを異なるようにした。実験の結果、支持部(200)のベースの直径が8mm未満の場合は、腸の蠕動運動又は腸の内圧によって移動するか、又は腸を区画できず吻合部位に治療液又は混合液が流れて漏れが観察された。支持部(200)のベースの大きさは小さいほど好ましいが、大きさが小さすぎると現実的に製品への製作が困難である。したがって、支持部(200)のベースは最小限であるが、最大の高さを有するようにすることが理想的である。理由としては、支持台のベースの大きさが大きいと、これに比例してボディー部(100)の全体の長さを長くしならなければならず、これは理想的でない。
【0147】
ボディー部(100)の長さも、長すぎると直腸の骨盤湾曲部を通過しにくい。骨盤湾曲部は、尾骨(sacrum&coccyx)によって形成される丸く曲がっている部位で、直腸は仙骨とほぼ密接に付いており、仙骨と直腸は通常同じ曲線を有する。よって、便迂回補助装置が直腸部位を通過するとき、ボディー部の長さが長いと通過障害が生じる。通過障害を考慮しなければならない理由は、臓器の損傷を引き起こす恐れがあるためである。これによって導き出される結論は、ボディー部の長さは短ければ短いほど好ましいということである。
【0148】
しかし、これは実現することができない。理由として、ボディー部の長さが短すぎると、腸内で腸と同軸(縦軸)を維持するのに問題が生じるからである。便迂回補助装置が腸内にあるとき、腸内の内容物の質(大腸の内容物は固体・液体・気体いずれも存在でき、常に対称性を維持しながら下りることはない)によって非対称圧力を受け、このときにボディー部の縦軸が腸管の縦軸からずれることがある。
【0149】
その結果、便迂回補助装置の離脱(バンド部位からの離脱)や、腸が閉鎖する詰まり現象(閉塞)が生じ得る。よって、ボディー部の長さは、少なくとも腸管の直径よりは長くなければならない。
【0150】
一方、支持部(200)の高さを大きくすることはボディー部の外径を大きくすることと同じなので、支持部(200)の高さが設定された高さより高いと、腸が過膨張して腸の腸膜破裂(tearing of serosa)を引き起こす恐れがある。
【0151】
よって、支持部(200)の高さが低いほど腸管には安全である。しかし、低すぎるとボディー部(100)を十分に支持できず、ボディー部(100)がバンド部位から容易に離脱するようになる。そのため、機構を離脱しない最小限の高さと腸膜を破裂しない最大限の高さを決めなければならない。
【0152】
このような最小限の高さは、前述した支持部の高さに関する実験を行った表で確認されるように、8mmである。この高さ以下では器具の離脱が生じる恐れがある。最大限の高さは、ボディー部の外径によって許容値が異なるので、臨床試験でボディー部(100)の外径が30mmの機構を用いる場合、支持部(200)の高さが18mm以下であると安全である。
【0153】
また製作上の問題であるが、支持部(200)のベースが大きいと支持部の高さも十分に安定に高めることができるが、ベースの大きさが小さいと限界がある。支持部(200)のベースの大きさが小さい場合、支持部(200)の高さが高くても十分な支持力を提供できず、支持部(200)の高さが高く、かつ支持部のベースの大きさが小さい場合は、力が加えられたときに押される現象が生じ、十分な支持力が得られなかった。
【0154】
このような実験の結果、支持部(200)のベースの大きさが4mm以上であると、支持部(200)の役割を果たすことが可能であった。支持部(200)のベースのサイズが大きければ大きいほど、支持力に優れた支持部(200)を形成できるが、支持部(200)のベースが大きすぎると、これに対応してボディー部全体が長くなるため、ベースの大きさは15mm以下であることが好ましい。
【0155】
まとめると、本発明の便迂回補助装置は、
(i)ボディー部の外径:10mm以上、30mm以下
(ii)支持部の高さ:8mm以上、18mm以下
(iii)2つの支持部(200)の離隔間隔:8mm以上、25mm以下
(iv)支持部のベースの大きさ:4mm以上、15mm以下
(v)ボディー部の長さ:25mmないし55mm
の制約条件を有するように形成されることで、便迂回補助装置の本来の役割を果たすと共に、腸の内側壁の損傷を最小化することができる。
【0156】
上記のような数値的限定事項を有する便迂回補助装置の最適化された数値を導き出すためには、身体と連関して最適の数値を選定するしかない。人はそれぞれ個性を有しているので、患者の身体の大きさ(サイズ)を考慮すると、患者に苦痛を加えることなく、腸の粘膜(mucosa)及び腸膜(serosa)の損傷が発生しない便迂回補助装置を製造することができる。
【0157】
このために、患者の肛門の大きさと腸の厚さなどを考慮して、本発明の便迂回補助装置の数値を決定すると、下記の式1が導き出される。
【0158】
式1:0<[S-(D+2H)+1.5T]
ここで、Sは腸管の内径(mm)、Hは1つの支持部(200)の高さ(mm)、Dはボディー部(100)の外径(mm)、Tは腸の厚さ(mm)である。
【0159】
患者の腸の内圧の抵抗性は腸の厚さによって決定されるため、腸の粘膜及び腸膜(serosa)の損傷防止のためには腸の厚さを考慮しなければならない。また、複数の実験を行った結果、粘膜及び腸膜(serosa)の損傷が発生しない第1定数は5であることを数値的に確認し、腸の厚さを考慮した結果、腸の厚さに1.5という第2定数を乗算することが最大であることが分かった。
【0160】
すなわち、本発明の便迂回補助装置において、ボディー部(100)の外径に1つの支持部(200)の高さ×2を足した値が、腸管の内径に第2定数×腸の厚さを足した値より小さくなり、腸管の内径に第2定数×腸の厚さを足した値から、ボディー部(100)の外径と1つの支持部(200)の高さ×2を引いた値が、第1定数に第2定数×腸の厚さを足した値より小さくなるように、ボディー部(100)の外径と支持部(200)の高さを決定すると、患者の腸の粘膜及び腸膜(serosa)が損傷しない。
【0161】
しかし、上記の制約条件は、腸内の内側壁の粘膜及び外層の腸膜(serosal layer)の損傷を最小化することはできるが、患者の腹痛を減らすには十分でない。よって、本発明は液体移動管(400)を含むように構成される。
【0162】
従来は、便迂回補助装置を用いる患者の腸内圧の増加による苦痛は考慮されなかった。すなわち、治療液が腸内に注入され、腸を密閉させることだけが考慮された。しかし、これは上述したように患者の腹痛を引き起こすだけでなく、便迂回補助装置を肛門側に強く押すため患者の粘膜が損傷した。
【0163】
これを克服するために、本発明の液体移動管(400)は、液体の一方向への移動を許容すると共に他方向への移動が可能になるように構成された。すなわち、治療液を腸内に注入できるようにするが、腸内で圧力が増加して本発明の便迂回補助装置に強い圧力が加えられる場合は、一部の治療液、又は治療液と腸内の内容物とが混合された混合液が一部位置するか移動可能な余分の空間を許容した。
【0164】
ただし、この場合、液体移動管(400)は下記のような条件を満たさなければならない。
【0165】
第一に、腸の蠕動運動によって腸の内圧が特定圧力になるまでは治療液が移動してはならず、また内圧が特定圧力になると自動で液体移動管(400)を通じて逆流しなければならず、第二に、腸内の内容物によって閉鎖されてはならず、第三に、腸内の内容物によって閉鎖されても閉鎖された部分が容易に貫通されなければならない。
【0166】
【表7】
【0167】
上記の条件を満たす治療液逆流許容液体移動管(400)を製造するために、液体移動管(400)の断面の大きさを変えて実験した結果、液体移動管(400)の断面の大きさが3mm以上のときから、患者が腹痛を感じずに腸内の圧力で治療液の逆流を生じさせることが可能であった。すなわち、蠕動運動による腹痛は、液体移動管(400)の断面の大きさが3mmの場合から減少し、液体移動管(400)の断面の大きさが4mmの場合、治療液の逆流が円滑になった。また、液体移動管(400)の断面の大きさが3mm以上のときから、変塊による液体移動管(400)の閉塞も生じなかった。ただし、液体移動管(400)の断面の大きさが3mm、4mm以上の場合、変塊による液体移動管(400)の閉塞がたまに観察されたが、液体移動管(400)に少量の治療液(約50cc以上)を注入することにより容易に解決された。
【0168】
ただし、液体移動管(400)の断面が3mmないし10mm以下の場合は、液体移動管(400)を通じて治療液の逆流を許容したが、たまに腸内の内容物によって液体移動管(400)の断面が閉鎖された。しかし、この場合、液体移動管(400)に吸入器(例えば注射器)を用いて吸入力を印加すると、液体移動管(400)の通路が再度開通された。
【0169】
液体移動管(400)の断面が17mm以上の場合、腸が蠕動運動を行うと治療液、又は治療液と腸内の内容物とが混合した混合液が逆流する現象が確認された。
【0170】
したがって、複数の実験を行った結果、液体移動管(400)の断面が3mm以上、23mm以下に設定される場合に、患者が腹痛を感じない範囲内で治療液、又は治療液と腸内の内容物とが混合した混合液の逆流を許容し、腸内の内容物によって液体移動管(400)が閉鎖されても容易に通路が開通された。
【0171】
より好ましくは、腸の蠕動運動を考慮し、自然な治療液の逆流のために、液体移動管(400)の断面は5mm以上、20mm以下に設定されなければならないであろう。
【0172】
また、本発明は、液体移動管(400)の存在により、腸の蠕動運動によって腸内の内圧が増加すると液体移動管(400)に洗浄液が逆流し、腸内の内圧が減少すると再度腸内に洗浄液が移動するようにすることで、従来患者に注入された治療液の量を画期的に減らすことができ、患者自身や補助スタッフの補助や操作なしに自動的に逆流、減圧及び液体の再注入が行われる。
【0173】
液体の移動が常に起きるため、腸内の内容物と洗浄液(治療液)とがよく混合される。これにより治療時間が減少し、治療期間中にボディー部や支持部が圧力によって押されることが多く発生しないため、腸管壁の粘膜損傷の減少も可能である。
【0174】
本発明は、特定の実施例に関して図示して説明したが、以下の特許請求の範囲によって提供される本発明の技術的思想を逸脱しない限度内で、本発明が多様に改良及び変化できることは、当業界における通常の知識を有する者において自明であろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7a
図7b
図7c
図7d
図7e
図7f
図7g
図7h
図7i
図8
【国際調査報告】