(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-25
(54)【発明の名称】金属の熱間加工における潤滑および/またはスケール除去用組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20230418BHJP
C10M 137/06 20060101ALN20230418BHJP
C10M 105/74 20060101ALN20230418BHJP
C10M 103/06 20060101ALN20230418BHJP
C10M 125/28 20060101ALN20230418BHJP
C10M 125/06 20060101ALN20230418BHJP
C10M 105/22 20060101ALN20230418BHJP
C10M 129/26 20060101ALN20230418BHJP
C10M 125/26 20060101ALN20230418BHJP
C10M 129/32 20060101ALN20230418BHJP
C10M 129/40 20060101ALN20230418BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20230418BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20230418BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20230418BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230418BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M137/06
C10M105/74
C10M103/06 G
C10M125/28
C10M125/06
C10M103/06 C
C10M105/22
C10M129/26
C10M103/06 Z
C10M125/26
C10M129/32
C10M129/40
C10N10:04
C10N10:02
C10N40:24
C10N30:00 Z
C10N30:06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555772
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(85)【翻訳文提出日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2021055199
(87)【国際公開番号】W WO2021185568
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】102020107159.0
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020126746.0
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596009652
【氏名又は名称】ケミスケ ファブリック ブデンヘイム ケージー
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】バルゴン,マルヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ブーグナー,シュテッフェン
(72)【発明者】
【氏名】マズラット,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーバー,アンドレイ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA18A
4H104AA18C
4H104AA23A
4H104AA23C
4H104AA26A
4H104AA26C
4H104BB14A
4H104BB14C
4H104BB16A
4H104BB16C
4H104BB17A
4H104BB17C
4H104BH04A
4H104BH04C
4H104FA01
4H104FA02
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA26
(57)【要約】
金属の熱間加工における潤滑および/またはスケール除去用組成物であって、前記組成物が以下の構成成分を含む固体混合物からなることを特徴とする。
(a)20~60重量%の濃リン酸アルカリと
(b)ホウケイ酸ガラス、ホウ酸、ホウ酸塩またはこれらの混合物から選択される10~40重量%のホウ素化合物と
(c)10~30重量%のアルカリまたはアルカリ土類硫酸塩と
(d)5~25重量%の脂肪酸、脂肪酸塩、またはこれらの混合物とであり、
ただし、前記構成成分(a)と(b)との合計が前記混合物の少なくとも50重量%を構成し、前記構成成分(a)~(d)の合計が前記混合物の少なくとも85重量%を構成することを条件とする組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の熱間加工における潤滑および/またはスケール除去用組成物であって、前記組成物が以下の構成成分を含む固体混合物からなることを特徴とし、すなわち
(a)20~60重量%の濃リン酸アルカリと
(b)ホウケイ酸ガラス、ホウ酸、ホウ酸塩またはこれらの混合物から選択される10~40重量%のホウ素化合物と
(c)10~30重量%のアルカリまたはアルカリ土類硫酸塩と
(d)5~25重量%の脂肪酸、脂肪酸塩、またはこれらの混合物とであり、
ただし、前記構成成分(a)と(b)との合計が前記混合物の少なくとも50重量%を構成し、前記構成成分(a)~(d)の合計が前記混合物の少なくとも85重量%を構成することを条件とする組成物。
【請求項2】
前記濃リン酸アルカリ(a)が、濃リン酸ナトリウムもしくは濃リン酸カリウムまたはこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記濃リン酸アルカリ(a)が、ポリリン酸塩および/またはピロリン酸塩および/またはメタリン酸塩またはこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記濃リン酸アルカリ(a)が、ピロリン酸二ナトリウム[Na
2H
2P
2O
7]、ピロリン酸三ナトリウム[Na
3HP
2O
7]、ピロリン酸四ナトリウム[Na
4P
2O
7]、トリポリリン酸ナトリウム[Na
5P
3O
10]、トリメタリン酸ナトリウム[(NaPO
3)
3]、ポリリン酸ナトリウム[(NaPO
3)
n]、ピロリン酸二カリウム[K
2H
2P
2O
7]、ピロリン酸三カリウム[K
3HP
2O
7]、ピロリン酸四カリウム[K
4P
2O
7]、トリポリリン酸カリウム[K
5P
3O
10]、トリメタリン酸カリウム[(KPO
3)
3]、ポリリン酸カリウム[(KPO
3)
n]、またはこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記ホウ素化合物(b)が、ホウ酸[H
3BO
3]、ホウ酸ナトリウム、無水ホウ酸[B
2O
3]、ホウケイ酸ガラス、およびこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記ホウ素化合物(b)が、四ホウ酸ナトリウムおよびその水和物段階[Na
2B
4O
7×H
2O]、特に無水四ホウ酸ナトリウム[Na
2B
4O
7]、四ホウ酸ナトリウム五水和物[Na
2B
4O
7・5H
2O]、四ホウ酸ナトリウム十水和物[Na
2B
4O
7・10H
2O]、メタホウ酸ナトリウム[NaBO
2・4H
2O]およびこれらの混合物から選択されるある割合のホウ酸ナトリウムを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記アルカリまたはアルカリ土類硫酸塩(c)の割合が前記混合物の15~25重量%であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記脂肪酸または脂肪酸塩(d)が、6~26個の炭素原子を有する飽和および不飽和脂肪酸またはこれらの塩およびそれらの混合物から選択され、ただし、前記脂肪酸または脂肪酸塩が30℃で固体として存在することを条件とする請求項1乃至7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記脂肪酸または脂肪酸塩(d)が、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、エイコセン酸、エルシン酸、ネルボン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、チムノドン酸、クルパノドン酸等、それらの塩、およびそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記構成成分(a)~(d)に加えて、前記混合物が、構成成分(e1)として、10重量%までの二級もしくは三級リン酸カルシウム化合物、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの混合物、および/または構成成分(e2)として、15重量%までのグラファイトを含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記リン酸カルシウム化合物(e1)が、ヒドロキシアパタイト[Ca
5(PO
4)
3OH]、リン酸三カルシウム[Ca
3(PO
4)
2]、およびこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
金属の熱間加工における潤滑および/またはスケール除去用本発明による組成物の使用であって、組成物が粉末状または粒状で金属に塗布されることを特徴とする組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の熱間加工における潤滑および/またはスケール除去用組成物に関し、この組成物は固体混合物からなる。本発明はまた金属の熱間加工における本発明による組成物の使用を含み、この組成物は粉末状または粒状で金属に塗布される。
【背景技術】
【0002】
スケール除去剤は、典型的には固体の混合物であり、ピアス加工直後に、得られた中空ブロックの内部に空気圧で導入される。約900~1250℃の高温の鋼表面と接触すると、固体混合物は溶融し、大気中の酸素と反応してすぐに形成される、主にFeO(ウスタイト)、Fe3O4(マグネタイト)およびFe2O3(ヘマタイト)の層からなる硬質スケールと反応する。
【0003】
バーを保持した現代の連続圧延工程では、中空ブロック内面のいわゆる「スケール除去」は、技術的に必要な工程として避けられないものである。この工程を経ないと、通常は固体潤滑剤(一般にグラファイト系)でコーティングされた工具(マンドレルバー)と被圧延材(鋼の中空ブロック)との間でスケールにより生じる摩擦力が大きくなり、いわゆる「プラグ」が発生する可能性がある。実際にプラグが発生すると、被圧延材を繰り出せずに圧延スタンドに残ってしまい、プラグを除去するために継目無鋼管の連続製造を停止しなければならなくなる。
【0004】
また、未変換のスケールが管内面を損傷し、製造される管の品質を低下させることもあり得る。さらに、スケールはマンドレルバーに損傷を与える可能性があり、工具のコストが比較的高いため、製造工程の経済性に大きな影響を与える。
【0005】
圧延工程による継目無鋼管の製造では、高温の潤滑剤が使用される。従来の高温用潤滑剤の多くは、ホウ砂と硫酸塩の混合物をベースとする。当該技術分野で知られる他の高温潤滑剤は、濃リン酸塩またはホウ酸塩をベースとする。
【0006】
リン酸塩ベースの配合は、実際には比較的繊細で複雑であり、いかなるエラーも許されない。特に、空気圧式吹き込みシステムを介して固体混合物を塗布する場合、中空ブロックの内面全体に潤滑剤の量の均一な配分を達成するために、システムの設定における比較的狭い範囲で投入しかつこれを遵守するよう注意を払わなければならない。特に、中空ブロック内に過剰に投入された箇所があることで、鋼管を圧延する際に内部欠陥が発生する危険性が高くなる。
【0007】
ホウ砂ベースの配合は、非常に信頼性が高く、取り扱いが比較的簡単であることが実証されている(特に過剰投入に関して)。しかし、ホウ砂ベースの配合は、リン酸塩ベースの配合に比べると潤滑性が足りないため、湿度が高くなると吸水して凝集しやすくなるのが大きな欠点である。
【0008】
濃リン酸塩をベースとし、ある割合のホウ酸塩を有する高温用潤滑剤も先行技術から知られる。ただし、特に水溶性ホウ酸塩の割合は、既存の生態学的かつ毒物学的リスクに鑑み、通常、意図的に低く保たれる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2013 102 897号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述に鑑みて、本発明は、局所的な過剰投入または凝集化等の上記の従来の高温潤滑剤に見られる欠点がない、金属の熱間加工における潤滑および/またはスケール除去用組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、この目的は、金属の熱間加工における潤滑および/またはスケール除去用組成物によって達成され、この組成物は、以下の構成成分を含む固体混合物からなる。
(a)20~60重量%の濃リン酸アルカリ。
(b)ホウケイ酸ガラス、ホウ酸、ホウ酸塩、またはこれらの混合物から選択される10~40重量%のホウ素化合物。
(c)10~30重量%のアルカリまたはアルカリ土類硫酸塩。
(d)5~25重量%の脂肪酸、脂肪酸塩、またはこれらの混合物。
ただし、構成成分(a)と(b)との合計が混合物の少なくとも50重量%を構成し、構成成分(a)~(d)の合計が混合物の少なくとも85重量%を構成することを条件とする。
【0012】
本発明による組成物が、スケール除去剤として、また金属の熱間加工用の潤滑剤として非常に適しているという驚きの事実がわかった。これは特に、成分(a)濃リン酸アルカリおよび(b)ホウ素化合物のバランスのとれた比率と、成分(a)および(b)の合計が混合物の少なくとも50重量%を構成することによる。ある実施形態では、成分(a)および(b)の合計は、混合物の少なくとも60重量%を構成することもある。
【0013】
本発明によるホウ素化合物の割合により、本明細書で提案される組成物は、スケールを非常に効果的に化学的に変換することが可能である。また、鋼表面では酸洗反応も起こり、より高い品質が得られる。さらに、本発明による組成物は、非常に信頼性が高く、取り扱いが比較的簡単であることが実証されている(特に、過剰投入に関して)。
【0014】
本発明による濃リン酸アルカリの割合は、高温安定な流体力学的潤滑膜の形成を確実にし、これが圧延力の減少につながることが実証されている。また、二次スケーリングの危険性を効果的に低減することが示されている。濃リン酸アルカリの割合によって与えられる潤滑効果は、工具(マンドレルバー)を摩耗から保護して、寿命を延ばすことができる。
【0015】
また、本発明により提供されるアルカリまたはアルカリ土類硫酸塩と脂肪酸、脂肪酸塩、またはこれらの混合物の割合では、本発明による組成物には、局所的過剰投入または凝集化等の上述の従来の高温潤滑剤にみられる欠点がみられない。
【0016】
特に、本発明による組成物は、中空ブロックの内面全体に潤滑剤の量の均一な配分が達成される比較的許容範囲が広い空気圧式吹き込みシステムを介して投入され得る。従って、中空ブロックにおける局所的な過剰投入のリスクは低減される。さらに、本発明による組成物は、湿度が上昇した場合であっても、凝集化する傾向にない。
【0017】
本発明により使用される濃リン酸アルカリ(a)は、ポリリン酸塩、ピロリン酸塩、メタリン酸塩、またはこれらの混合物であってもよい。本発明のある実施形態では、濃リン酸アルカリ(a)は、濃リン酸ナトリウムもしくは濃リン酸カリウムまたはこれらの混合物から選択される。
【0018】
本発明の特定の実施形態において、濃リン酸アルカリ(a)は、ピロリン酸二ナトリウム[Na2H2P2O7]、ピロリン酸三ナトリウム[Na3HP2O7]、ピロリン酸四ナトリウム[Na4P2O7]、トリポリリン酸ナトリウム[Na5P3O10]、トリメタリン酸ナトリウム[(NaPO3)3]、ポリリン酸ナトリウム[(NaPO3)n]、ピロリン酸二カリウム[K2H2P2O7]、ピロリン酸三カリウム[K3HP2O7]、ピロリン酸四カリウム[K4P2O7]、トリポリリン酸カリウム[K5P3O10]、トリメタリン酸カリウム[(KPO3)3]、ポリリン酸カリウム[(KPO3)n]またはこれらの混合物から選択される。
【0019】
本発明によれば、濃リン酸アルカリ(a)の割合は、混合物の20~60重量%である。本発明のある実施形態では、濃リン酸アルカリ(a)の割合は、混合物の30~50重量%である。本発明の特定の実施形態では、濃リン酸アルカリ(a)の割合は、混合物の35~45重量%である。
【0020】
本発明により使用されるホウ素化合物(b)は、ホウケイ酸ガラス、ホウ酸、ホウ酸塩、またはこれらの混合物であってもよい。本発明のある実施形態では、ホウ素化合物(b)は、ホウ酸[H3BO3]、ホウ酸ナトリウム、無水ホウ酸[B2O3]、ホウケイ酸ガラス、およびこれらの混合物から選択される。
【0021】
本発明の特定の実施形態において、本発明により使用されるホウ素化合物(b)は、ある割合のホウ酸ナトリウムを有するかまたはこれからなり、ここでホウ酸ナトリウムは、四ホウ酸ナトリウムおよびその水和物段階[Na2B4O7×H2O]、特に無水四ホウ酸ナトリウム[Na2B4O7]、四ホウ酸ナトリウム五水和物[Na2B4O7・5H2O]、四ホウ酸ナトリウム十水和物[Na2B4O7・10H2O]、メタホウ酸ナトリウム[NaBO2・4H2O]、およびこれらの混合物から選択される。
【0022】
本発明によれば、ホウ素化合物(b)の割合は、混合物の10~40重量%である。本発明のある実施形態では、ホウ素化合物(b)の割合は、混合物の15~35重量%である。本発明の特定の実施形態では、ホウ素化合物(b)の割合は、混合物の20~30重量%である。
【0023】
好ましくは、可溶性ホウ酸塩またはホウ酸はヒトおよび環境に対して高い危険性を有するので、本発明の固体混合物には、わずかな割合しか含まない。その代わり、成分(b)によるホウ素化合物は、少なくとも70重量%や、少なくとも80重量%、またはさらに少なくとも90重量%のホウケイ酸ガラスからなることが好ましい。この点でホウケイ酸ガラスが有利なのは、地中のホウケイ酸ガラス中のホウ酸塩含有量が、適用される廃水規制の高い要件を容易に満たす程度に、水溶性が低いからである。
【0024】
本発明により使用される硫酸塩は、本発明により使用されるホウ素化合物と協働して、特に良好な酸洗剤を形成するため、鋼表面の品質向上に大きく寄与する。
【0025】
本発明により使用される硫酸塩(c)は、アルカリもしくはアルカリ土類硫酸塩またはこれらの混合物であってもよい。アルカリ硫酸塩は比較的低い融点を有するため、塗布中に比較的早く液相に移行するが、これはほとんどの場合において望ましいことである。アルカリ土類硫酸塩は、より高い融点を有する。
【0026】
本発明のある実施形態では、アルカリまたはアルカリ土類硫酸塩(c)は、硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、またはこれらの混合物から選択されるアルカリ硫酸塩である。
【0027】
本発明によれば、アルカリまたはアルカリ土類硫酸塩(c)の割合は、混合物の10~30重量%である。本発明のある実施形態において、アルカリまたはアルカリ土類硫酸塩(c)の割合は、混合物の15~25重量%である。本発明の特定の実施形態では、アルカリまたはアルカリ土類硫酸塩(c)の割合は、混合物の18~22重量%である。
【0028】
本発明により使用される脂肪酸または脂肪酸塩(d)は、600~1300℃の使用範囲において大気中の酸素と反応し(燃焼)、鋼のさらなるスケーリングを低減させる。さらに、脂肪酸または脂肪酸塩の本発明により提供される割合を混ぜることにより、特に細粒固体混合物の凝集化を著しく減少させることができ、貯蔵寿命を向上させることができることが示された。
【0029】
本発明により使用される脂肪酸(d)またはその塩は、6~26個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和脂肪酸またはその塩、またはこれらの混合物であってよく、ただし、脂肪酸または脂肪酸塩が30℃で固体として存在することを条件とする。ある実施形態において、使用される脂肪酸の鎖長は、10~24個の炭素原子の範囲であり、12~22個の炭素原子の範囲であることが特に好ましい。
【0030】
本発明のある実施形態において、使用される脂肪酸(d)またはその塩は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、エイコセン酸、エルシン酸、ネルボン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、チムノドン酸、クルパノドン酸等、それらの塩、およびそれらの混合物から選択される。
【0031】
本発明によれば、脂肪酸(d)またはその塩の割合は、混合物の5~25重量%である。本発明のある実施形態では、脂肪酸または脂肪酸塩(d)の割合は、混合物の10~20重量%である。本発明のある実施形態では、脂肪酸または脂肪酸塩(d)の割合は、混合物の12~18重量%である。
【0032】
本発明による潤滑剤は、所望の有利な特性に著しく悪影響を及ぼさない限り、かつ構成成分(a)~(d)の合計が混合物の少なくとも85重量%を構成するという条件で、さらなる構成成分を含むことができることは当然である。本発明のある実施形態では、構成成分(a)~(d)の合計は、混合物の少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、または少なくとも98重量%をも構成する。
【0033】
本発明による組成物中に含んでもよく、かつ不利にならずむしろ所望の有利な特性に好影響を与えるさらなる構成成分の例としては、二級もしくは三級リン酸カルシウム化合物、ヒドロキシアパタイト、グラファイト、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0034】
さらに、例えば、固結防止剤をさらなる構成成分として本発明による組成物に含むことができる。典型的な固結防止剤は、シリカ、炭酸カルシウム、アルカリヘキサシアノフェレート、ケイ酸アルミニウム、または水酸化アルミニウムである。好ましくは、疎水性パイロジェンシリカが使用され、これは、例えば、Evonik社からの商品名Aerosil972の焼鈍物質をベースにした98重量%超のSiO2含有量で入手可能である。
【0035】
追加の構成成分(e2)としてグラファイトを含む実施形態では、この割合は15重量%までの範囲であってよい。追加の構成成分(e1)として二級もしくは三級リン酸カルシウム化合物、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの混合物を含む実施形態において、この割合は10重量%までの範囲であってよい。グラファイトと二級もしくは三級リン酸カルシウム化合物、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの混合物の両方を含む場合、またはこれらの成分の1つ以上とさらなる追加の構成成分との組み合わせを含む場合、これらの割合の合計は、本発明による組成物の15重量%以下である。
【0036】
本発明のある実施形態において、ある割合のグラファイトは、組成物の潤滑効果にさらに寄与することができる。アパタイトと同様に二級および/または三級リン酸カルシウム化合物は、金属の熱間加工のための本発明のタイプの組成物に対して特に好適な固結防止剤である。
【0037】
追加の構成成分(e1)として二級もしくは三級リン酸カルシウム化合物、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの混合物を含む実施形態において、ある実施形態におけるこの構成成分は、ヒドロキシアパタイト[Ca5(PO4)3OH]、リン酸三カルシウム[Ca3(PO4)2]、またはこれらの混合物から構成される。
【0038】
本発明の固体混合物は、粉末状または粒状で存在することが好ましい。
【0039】
粉末状の実施形態においては、混合物は、1μm~1000μmの範囲の粒径を有する粒子からなる。粉末状混合物の粒径は、レーザーグラニュロメーター(例えば、Cilas U.S. Inc.社のCilas Model 715/920)を用いて決定される。その際、約80mgの試料を2-プロパノールに懸濁させ、懸濁液の調製から1分後に製造者の指示に従って測定を行う。
【0040】
粒状の実施形態では、粒の大きさは1mm~30mmの範囲である。これは、球状の粒だけでなく、凝集体および円筒状のペレット、ならびに遷移形態を有する実施形態を含み、ただし、粒、凝集体、およびペレットの一次元における長手方向の最大の広がりが、30mmを超えないことを条件とする。粒、凝集体、およびペレットの一次元における長手方向の広がりの最大サイズは、機械的な篩い分けによって決定される。
【0041】
粉末状の実施形態では、表面への噴霧によって塗布されてもよく、それによって、非常に均一な層形成またはコーティングが金属表面上に達成され得る。本発明による混合物の構成成分の特別な組み合わせおよび比例配分は、さもなければ小さな粒径を有する潤滑剤において定期的に発生し、重大な欠点につながる可能性がある、凝集化の傾向を低減する。
【0042】
本発明はまた、金属の熱間加工における潤滑および/またはスケール除去のために本発明による組成物を使用することを含み、ここで組成物は、粉末状または粒状で加工対象の金属に塗布され、好ましくは吹き付けられる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0043】
以下の表1~表3は、本発明による組成物を示す。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
実施例A~Cによる組成物を用いて、ドイツ、ニッダ・ハーブのLohrentz GmbH Prueftechnik(Lohrentz GmbH Prueftechnik,Nidda-Harb,Germany)のトライボメータ「HT-Tribometer Pruefstand 564」で摩擦値測定を実施した。このトライボメータは、直径280mmのThermodur2342EFS鋼製の誘導加熱式回転ディスクと、S355MC鋼製の抵抗加熱式試験片が取り付けられる、回転ディスクに向かって油圧で伸縮するテーブルとで構成される。
【0048】
摩擦値測定のために,回転ディスクには薄い接着剤層を設け,粉末状の調査対象組成物を定められた層厚で塗布した。特に明示しない限り,組成物は200g/m2の層厚で塗布した。
【0049】
その後の測定では,ディスクを10rpmで回転させた。試験片を1230℃(±20℃)に加熱し、油圧式可動テーブルを用いて、32000N(±2000N)の押圧力(FN)で回転ディスクに押し付け、押圧力に対して垂直にディスクに作用する径方向力(FR)を数秒間にわたって測定した。
【0050】
摩擦値(μ)は径方向力(FR)と押圧力(FN)の商、μ=FR/FNである。各サンプルで6回測定した(6重測定)。回転ディスクにワークを接触させてから2~6秒後に検出された摩擦値の平均値をそれぞれ測定時の摩擦値とした。本明細書において得られる摩擦値は、各サンプルで5回測定した平均値である。このようにして求めた摩擦値の平均値を以下の表4にまとめる。
【0051】
【比較例】
【0052】
本発明による組成物の潤滑効果を従来技術から公知の組成物と比較できるようにするために、従来の組成物について、上述の方法に従って平均摩擦値[μ]を決定した。
【0053】
以下の表5~表6に、比較例の組成物を示す。
【0054】
【0055】
【0056】
これら2つの比較例の組成物について求めた平均摩擦値[μ]を以下の表7にまとめる。
【0057】
【0058】
測定結果は、本発明による組成物が、ホウ砂と硫酸アルカリの混合物から大部分が構成される比較例V2の組成物よりも非常に良好に潤滑することを示す。
【0059】
また、本発明による組成物は、一部は、大部分がリン酸アルカリから構成される比較例V1の組成物とほぼ同等の摩擦値を達成し、中空ブロック内の局所的な過剰投入により鋼管の圧延中に内部エラーが発生するリスクはない。
【国際調査報告】