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特表2023-517487チェックポイント阻害剤に対する応答を予測するためのバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】チェックポイント阻害剤に対する応答を予測するためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20230419BHJP
【FI】
G01N33/574 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548860
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 JP2021011302
(87)【国際公開番号】W WO2021187615
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】P 2020048845
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】岩井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 正道
(57)【要約】
本発明は、チェックポイント阻害剤に対する応答を予測するためのバイオマーカーを提供する。本発明者らは、PD-1/PD-L1阻害剤が、リンパ節中のPD-L1を妨害することによって、PD-L1発現が低レベルであり免疫砂漠表現型を有する腫瘍に対して抗腫瘍活性を発揮することを実証する。本発明は、既存の方法と比べて優れた有効性予測バイオマーカーであると予想される、抗原クロスプレゼンテーション細胞に対する腫瘍内マーカーとT細胞ケモカインとの新規な組合せを提供する。
【選択図】図6C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のPD-1/PD-L1阻害剤の投与を含む治療法に応答性であるがんを有しているかまたは有していると疑われる患者を同定する方法であって、以下の段階を含む、方法:
患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン。
【請求項2】
治療法が、有効量の抗PD-L1抗体の投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
治療法が、有効量のアテゾリズマブの投与を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
がんが非小細胞肺癌である、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
各マーカーが、T細胞活性化マーカーではない、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのマーカーが、XCR1、Clec9、Irf8、Batf3、CD205、CD103、およびCD141のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、またはすべてである、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのマーカーがXCR1である、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのケモカインがCXCR3リガンドである、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのケモカインが、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のうちの1つ、2つ、またはすべてである、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのケモカインが、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のすべてである、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
(i)を検出する段階が、マーカーのmRNA発現レベルを測定することであり、
(ii)を検出する段階が、ケモカインのmRNA発現レベルを測定することである、
請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
(i)および(ii)を検出する段階が、マーカーおよび1つまたは複数のケモカインのmRNA発現レベルを測定することである、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
マーカーがXCR1であり、1つまたは複数のケモカインが、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ケモカインが、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のすべてである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
がん患者に対するPD-1/PD-L1阻害剤の治療的効果を予測する方法であって、以下の段階を含む、方法:
患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェックポイント阻害剤に対する応答を予測するためのバイオマーカーを提供する。
【背景技術】
【0002】
プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)は、宿主の抗腫瘍免疫応答を抑制する際に主要な役割を果たす(非特許文献1)。癌細胞または腫瘍浸潤免疫細胞の表面のPD-L1が、T細胞表面のその受容体、すなわちPD-1およびB7-1(CD80としても公知)と相互作用すると、T細胞の活性化を阻害するシグナルが送達される(非特許文献2)。通常、PD-1/PD-L1阻害剤は、腫瘍内PD-L1を高発現している患者において特異的に、より大きな臨床的利益を示す。興味深いことに、(非小細胞肺癌の)第III相OAK試験では、腫瘍細胞および免疫細胞(TC0/IC0)の表面のPD-L1が低レベルまたは検出不可能であるサブグループにおいてさえ、アテゾリズマブ(PD-1/PD-L1阻害剤の1つである抗PD-L1抗体)がドセタキセルと比べて生存に有利であることが示された(非特許文献3)。この結果は、腫瘍組織におけるPD-L1遺伝子発現の解析と一致していた(非特許文献3)。このような治療に対する患者の応答を予測するにあたっての腫瘍内PD-L1発現の有用性は、依然として完璧とは言えない。したがって、どの患者がPD-1/PD-L1標的療法の恩恵を受けるかを判定することは、重要な臨床的問題のままである。例えば、治療法の有効性を従来法で予測するためのバイオマーカーは、特定の目的のためのマーカーのタイプおよび組合せについて十分に最適化されていない(特許文献1~9)。一方で、PD-L1は、癌患者の腫瘍流入領域リンパ節中の樹状細胞(DC)上でも発現されることが報告されている(非特許文献4)。PD-1は、腫瘍組織中のT細胞上だけでなく肺腫瘍流入領域リンパ節中のT細胞上でも高発現されることが報告されている(非特許文献5および非特許文献6)。さらに、PD-L1はまた、抗原提示細胞上でのB7-1結合についてCD28と競合して、CD28/B7-1によるシグナル伝達を打ち負かすことによってT細胞プライミングを抑制することも報告された(非特許文献7)。しかし、腫瘍リンパ節におけるT細胞プライミングがPD-1/PD-L1標的療法の作用メカニズムで果たす役割は、まだ明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US 2015/0071910
【特許文献2】WO 2015/120382
【特許文献3】WO 2016/168133
【特許文献4】WO 2017/013436
【特許文献5】WO 2017/176925
【特許文献6】WO 2018/209324
【特許文献7】WO 2018/231771
【特許文献8】WO 2018/225063
【特許文献9】WO 2018/055145
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Zou W, Wolchok JD, Chen L., Science translational medicine 2016;8(328):328rv4
【非特許文献2】Butte MJ, Keir ME, Phamduy TB, Sharpe AH, Freeman GJ., Immunity 2007;27(1):111-22
【非特許文献3】Rittmeyer A, Barlesi F, Waterkamp D, Park K, Ciardiello F, von Pawel J, et al., Lancet (London, England) 2017;389(10066):255-65
【非特許文献4】Curiel TJ, Wei S, Dong H, Alvarez X, Cheng P, Mottram P, et al., Nature medicine 2003;9(5):562-7
【非特許文献5】Gros A, Robbins PF, Yao X, Li YF, Turcotte S, Tran E, et al., The Journal of clinical investigation 2014;124(5):2246-59
【非特許文献6】van de Ven R, Niemeijer AN, Stam AGM, Hashemi SMS, Slockers CG, Daniels JM, et al., ERJ open research 2017;3(2)
【非特許文献7】Butte MJ, Pena-Cruz V, Kim MJ, Freeman GJ, Sharpe AH, Molecular immunology 2008;45(13):3567-72
【発明の概要】
【0005】
技術的課題
PD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)の有効性を予測する従来の方法において、バイオマーカーには、阻害剤の標的であるPD-1およびPD-L1の腫瘍内発現レベル、ならびに腫瘍試料を用いて免疫活性化(例えば、IFN-γ経路の活性化)が既に顕在化していることを示す指標が含まれる。しかし、PD-1、PD-L1、またはIFN-γがマーカーとして使用される場合、薬物投与時に免疫活性化が腫瘍で既に起こっていた患者が主に選択される可能性があり、PD-1/PD-L1阻害剤に応答性であると予想される潜在的な患者、すなわち、PD-1もしくはPD-L1が低レベルで発現されているかもしくは発現されていないか、またはIFN-γ経路は活性化されていないが流入領域リンパ節において活性化が準備されている患者の同定に失敗する可能性がある。
【0006】
課題を解決するための手段
本発明は、PD-1/PD-L1阻害剤の主な作用メカニズムはPD-1とPD-L1との結合の阻害である、という概念に基づいている。このことを考慮すると、抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体などのPD-1/PD-L1阻害剤は、腫瘍細胞および免疫細胞においてPD-L1が少ないかまたは検出不可能である癌患者のサブグループに対してさえ臨床的利益をもたらすことが予想される。本発明者らは、PD-L1陰性腫瘍がPD-1/PD-L1標的療法に応答する際の作用メカニズムを調査した。結果として、本発明者らは、どの患者がPD-1/PD-L1標的療法の恩恵を受けそうかを判定する際に有用であることが予想される、作用メカニズムに基づく予測的バイオマーカーを発見した。
【0007】
具体的には、本発明のバイオマーカーの組合せは、腫瘍抗原提示能力を有する樹状細胞(DC)の存在と、腫瘍内で活性化T細胞を集積させるケモカインの存在との両方を含む。これら2種のマーカーのいずれか1つではなく、この組合せを検出することにより、リンパ節での準備の段階を検出し、治療法に対する患者の応答性の予測精度を高めることが可能である。現行の遺伝子セット中のT細胞活性化についてのマーカー、例えばPD-L1およびIFN-γ、を除外することにより、免疫が前もって活性化されている患者にかかる過剰なストレスを軽減することができる。注目すべきことには、抗原提示能力とT細胞動員を組み合わせた、提唱される遺伝子セットは、「炎症性腫瘍/免疫砂漠腫瘍」とも呼ばれる、免疫が前もって活性化されている/活性化されていないレスポンダー患者の両方を選択することを可能にし得る。
【0008】
より具体的には、本発明は、以下を提供する:
[1] 有効量のPD-1/PD-L1阻害剤の投与を含む治療法に応答性であるがんを有しているかまたは有していると疑われる患者を同定する方法であって、以下の段階を含む、方法:
患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン。
[1a] 有効量のPD-1/PD-L1阻害剤(PD-1とPD-L1との結合を阻害できるPD-1阻害剤もしくはPD-L1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体、であってよい;同じことが、本明細書において開示する他の態様に当てはまる)の投与を含む治療法に応答性であるがんを有しているかまたは有していると疑われる患者を同定する方法であって、以下の段階を含む、方法:
患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)抗原提示細胞マーカーまたは抗原提示マーカーである、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)少なくとも1つのケモカインまたは化学誘引物質。
[2] 治療法が、有効量の抗PD-L1抗体の投与を含む、[1]または[1a]に記載の方法。
[3] 治療法が、有効量のアテゾリズマブの投与を含む、[1]、[1a]、および[2]のいずれか1つに記載の方法。
[4] がんが、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、膀胱癌、および胞巣状軟部肉腫からなる群より選択される、[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5] 各マーカーが、T細胞活性化マーカーではない、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6] 前記少なくとも1つのマーカーが、XCR1、Clec9、Irf8、Batf3、CD205、CD103、およびCD141のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、またはすべてである、[1]~[5]のいずれか1つに記載の方法。
[7] 前記少なくとも1つのマーカーがXCR1である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
[8] 前記少なくとも1つのケモカインがCXCR3リガンドである、[1]~[7]のいずれか1つに記載の方法。
[9] 前記少なくとも1つのケモカインが、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のうちの1つ、2つ、またはすべてである、[1]~[8]のいずれか1つに記載の方法。
[10] 前記少なくとも1つのケモカインが、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のすべてである、[1]~[9]のいずれか1つに記載の方法。
[11] (i)を検出する段階が、マーカーのmRNA発現レベルを測定することであり、
(ii)を検出する段階が、ケモカインのmRNA発現レベルを測定することである、
[1]~[10]のいずれか1つに記載の方法。
[12] (i)および(ii)を検出する段階が、マーカーおよび1つまたは複数のケモカインのmRNA発現レベルの、平均値を測定することである、[1]~[11]のいずれか1つに記載の方法。
[13] マーカーがXCR1であり、1つまたは複数のケモカインが、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11より選択される、[12]に記載の方法。
[14] ケモカインが、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のすべてである、[13]に記載の方法。
[15] がん患者に対するPD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤の治療的効果を予測する方法であって、以下の段階を含む、方法:
患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン。
【0009】
さらに、本発明は、以下を提供する:
[16] 治療法が、有効量のヒト化抗PD-L1抗体の投与を含む、[1]または[2]に記載の方法。
[17] がんが肺癌である、[1]~[16]のいずれか1つに記載の方法。
[18] がんが非小細胞肺癌である、[1]~[16]のいずれか1つに記載の方法。
[19] 試料が肺組織試料である、[1]~[18]のいずれか1つに記載の方法。
[20] 前記少なくとも1つのマーカーが、XCR1、Clec9、Irf8、およびBatf3のうちの1つ、2つ、3つ、またはすべてである、[1]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
[21] (i)および(ii)を検出する段階が、以下の(a)および(b)、すなわち(a)マーカーのmRNA発現レベルおよび(b)1つまたは複数のケモカインのmRNA発現レベルの、平均値(AP/Tスコア)を求めることである、[1]~[12]のいずれか1つに記載の方法。
[22] 平均値(AP/Tスコア)が閾値に等しいかまたは閾値より大きいかを判定する段階をさらに含む、[13]または[21]に記載の方法。
[23] 平均値(AP/Tスコア)が閾値に等しいかまたは閾値より大きい場合には、患者を、治療法が実施される患者であると同定する段階をさらに含む、[22]に記載の方法。
[24] 治療法を患者に対して実施することを決定する段階をさらに含む、[23]に記載の方法。
[25] 治療法を患者に対して実施する段階をさらに含む、[24]に記載の方法。
[26] 有効量のPD-1/PD-L1阻害剤を患者に投与する段階を含む、[25]に記載の方法。
[27] 有効量のPD-1/PD-L1阻害剤の投与を含む治療法に応答性であるがんを、患者において治療する方法であって、以下の段階を含む、方法:
がんを有しているかまたは有していると疑われるヒトから組織試料を取得する段階;
前記試料中の、以下の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー、および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン;
治療法に応答性であるがんを有しているかもしくは有していると疑われる患者を同定する段階;または治療法を患者に対して実施することを決定する段階;ならびに
有効量の阻害剤を患者に投与する段階。
[28] 対象に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する方法:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)エフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン。
[29] 有効量のPD-1/PD-L1阻害剤の投与を含む治療法に応答性であるがんを有しているかまたは有していると疑われる患者を選択する方法であって、以下の段階を含む、方法:
がんを有しているかまたは有していると疑われる患者からなる患者群を決定する段階;
患者群の各患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)の、平均値(AP/Tスコア)を測定する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、マーカーのmRNA発現レベル、および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、1つまたは複数のケモカインのmRNA発現レベル;
患者群の全患者の一定のパーセンテージが、閾値に等しいかまたは閾値より大きい平均値(AP/Tスコア)を有するように、閾値を決定する段階;ならびに
閾値に等しいかまたは閾値より大きい平均値(AP/Tスコア)を有する患者を選択する段階。
[30] 患者群のうちのがん患者に対するPD-1/PD-L1阻害剤の治療的効果を予測する方法であって、以下の段階を含む、方法:
がんを有しているかまたは有していると疑われる患者からなる患者群を決定する段階;
患者群の各患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)の、平均値(AP/Tスコア)を測定する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカーのmRNA発現レベル、および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、1つまたは複数のケモカインのmRNA発現レベル;
患者群の全患者の一定のパーセンテージが、閾値に等しいかまたは閾値より大きい平均値(AP/Tスコア)を有するように、閾値を決定する段階;ならびに
阻害剤の治療的効果が、閾値に等しいかまたは閾値より大きい平均値(AP/Tスコア)を有する患者に対して高いことを示す段階。
[31] PD-1/PD-L1阻害剤を含む、がんを有する対象を治療するための薬学的組成物であって、対象が、[1]~[30]のいずれか1つに記載の方法によって同定/予測/治療/検出/選択され、該方法によって、患者群のうちのがん患者に対するPD-1/PD-L1阻害剤の治療的効果を予測することができる、薬学的組成物。
[32] [1]~[30]のいずれか1つに記載の方法を実施するための手段および取扱説明書を含む、キット。
[33] がんに罹患している個体にPD-1/PD-L1阻害剤を投与する治療法に対する感受性を予測するためのキットであって、[1]~[30]のいずれか1つに記載の方法を実施するために使用されるキットを製造するための、1種または複数種のmRNAおよび/またはタンパク質特異的プローブの使用。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】抗PD-L1モノクローナル抗体(mAb)の抗腫瘍活性とPD-L1発現の関係を示す(実施例1および2)。(A)代表的な腫瘍増殖曲線:腫瘍を有するマウスを無作為に複数の群に分けた。実線は対照、点線はPD-L1 mAb 10mg/kg。データは、平均値+SDとして示している(n=5~15/群)。統計学的解析にはウィルコクソン順位和検定を用いた。*はP<0.05を表し、NSは有意ではないことを表す。(B)PD-L1 mAb非感受性組織またはPD-L1 mAb感受性組織におけるPD-L1 mRNA発現(左)およびROC曲線解析(右)。影をつけた丸は、FM3Aモデルの結果を示す。
図2】FM3A腫瘍モデルにおけるPD-L1発現およびCD8α+T細胞浸潤を示す(実施例2)。(A)Colon38モデル(陽性対照)およびFM3Aモデルの、ベースライン時の腫瘍組織におけるPD-L1免疫染色。(B)ベースライン時の腫瘍組織におけるCD8α免疫染色。(C)FM3A腫瘍中の腫瘍浸潤免疫細胞および腫瘍細胞上でのPD-L1発現。(D)FM3A腫瘍中の細胞の構成。細胞はフローサイトメトリー解析によって判定した(C、D)。
図3】抗PD-L1 mAbは腫瘍内で特定のT細胞を増加させ、その結果、PD-L1陰性腫瘍モデルにおいてT細胞依存性の抗腫瘍活性をもたらすことを示す(実施例3)。(A)FM3A腫瘍モデルにおいてCD8α mAbまたはCD4 mAbに加えてPD-L1 mAbで処置したマウスの腫瘍体積(n=7/群、19日目)。データは、平均値+SDとして示している。統計学的解析にはウィルコクソン順位和検定およびホルム-ボンフェローニ法を用いた。*はP<0.05を表す。(B)腫瘍へのCD8α+T細胞の浸潤を、PD-L1 mAb処置後の腫瘍組織におけるCD8α免疫染色によって明らかにした(19日目)。(C)PD-L1 mAb処置後の腫瘍における各タイプのT細胞のパーセンテージ(19日目)(n=14/群)。細胞はフローサイトメトリー解析によって判定した。統計学的解析にはウィルコクソン順位和検定を用いた。*はP<0.05を表す。(D)PD-L1 mAb処置後の腫瘍におけるT細胞受容体α(TCRα)配列のパーセンテージ(19日目)。次世代シーケンシングを、バイアスがかかっていないTCRレパートリー解析技術を用いて実施した。シンプソンの多様度指数の逆数を用いて、各TCRクローン型のクローン顕性に基づいて多様性を調べた(n=3~5/群)。データは、平均値+SDとして示している。
図4】リンパ節でのT細胞プライミングにおけるPD-L1の役割を示す(実施例3)。(A)ベースライン時のリンパ節中の抗原提示樹状細胞(DC)上またはCD8α+T細胞上でのPD-L1発現またはPD-L1受容体(PD-1およびB7-1)発現。(B)PD-L1 mAb処置後のリンパ節中の、PD-L1受容体(PD-1およびB7-1)+CD8α+T細胞の数、ならびに各PD-L1受容体+CD8α+T細胞のうちでのCD69+細胞の出現率(4日目)(n=12/群)。統計学的解析にはウィルコクソン順位和検定を用いた。*はP<0.05を表し、NSは有意ではないことを表す。(C)腫瘍細胞との同時培養によってリンパ球を特異的に刺激した後の、IFNγの分泌(n=3/群)。IFNγはELISAによって定量した。統計学的解析にはスチューデントのt検定およびホルム-ボンフェローニ法を用いた。*はP<0.05を表す。データは、平均値+SDとして示している。
図5】活性化CD8α+T細胞の、リンパ節中での増加と、腫瘍中での増加の間のタイムラグは、TC0/IC0腫瘍へのT細胞トラフィッキングに起因することを示す(実施例4)。(A)FM3AモデルでのPD-L1 mAb処置後の腫瘍流入領域リンパ節および腫瘍におけるCD8α+T細胞活性化の経時変化(4日目、8日目)(n=12/群)。(B)PD-L1 mAb処置後のリンパ節中のCXCR3+活性化CD8α+T細胞の数(n=12/群)。(C)腫瘍におけるCXCR3リガンドの発現(n=6/群)。(D)PD-L1 mAb処置後のリンパ節中および腫瘍中の活性化CD8α+T細胞の数(8日目)(n=6/群)。(E)FM3A腫瘍モデルにおいて抗CXCR3 mAbに加えてPD-L1 mAbで処置したマウスの腫瘍体積(18日目)(n=6/群)。(F)FM3AおよびOV2944-HM-1の腫瘍におけるCXCR3リガンドの発現(左)。PD-L1 mAb処置後のリンパ節中(中央)および腫瘍中(右)の活性化CD8α+T細胞の数(8日目)(n=8/群)。データは、平均値+SDとして示している。統計学的解析にはウィルコクソン順位和検定およびホルム-ボンフェローニ法を用いた。*はP<0.05を表し、NSは有意ではないことを表す。
図6A図6(図6A~6D)は、マウス腫瘍モデルにおける、抗PD-L1 mAbの抗腫瘍活性と抗原提示DCに関係する遺伝子の発現および/またはCXCR3リガンドの遺伝子発現との関係を示す(実施例3および実施例5)。図6Aは、抗原提示DCに関係する遺伝子の発現に基づくROC曲線解析を示す。
図6B図6Bは、CXCR3リガンドの発現に基づくROC曲線解析を示す。
図6C図6Cは、PD-L1 mAb非感受性腫瘍組織またはPD-L1 mAb感受性腫瘍組織における、XCR1と3種のCXCR3リガンドのRNA発現の組合せ(「AP/Tスコア」)およびROC曲線解析を示す。
図6D図6Dは、PD-L1陰性かつ免疫砂漠に似た腫瘍モデルにおける抗PD-L1 Abの作用メカニズムについての仮説をがん免疫サイクルに基づいて示す。
図7A】第III相OAK試験での、臨床転帰と腫瘍組織中のXCR1、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のmRNA発現レベルの組合せ(「AP/Tスコア」)との関連を示す(実施例6)。図7Aは、ORRとAP/Tスコアの関係を示している。
図7B図7Bは、BEP集団および30パーセンタイル、50パーセンタイル、70パーセンタイルのカットポイントを上回るAP/TスコアでのOSのHEについてのフォレストプロットを示す。
図7C図7Cおよび図7Dは、アテゾリズマブ治療群およびドセタキセル治療群の高AP/Tスコアサブグループおよび低AP/Tスコアサブグループ(50パーセンタイルで分割)におけるカプラン・マイヤー推定およびOSのHRについてのフォレストプロットを示す。
図7D図7Cおよび図7Dは、アテゾリズマブ治療群およびドセタキセル治療群の高AP/Tスコアサブグループおよび低AP/Tスコアサブグループ(50パーセンタイルで分割)におけるカプラン・マイヤー推定およびOSのHRについてのフォレストプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
態様の説明
本明細書において説明されるかまたは参照される技術および手順は、通常、十分に理解されており、従来の方法論、例えば、以下の文献に記載の広範囲で利用される方法論を用いて、当業者によって一般的に使用されている:Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3d edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.; Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel, et al. eds., (2003)); the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.): PCR 2: A Practical Approach (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995))、Harlow and Lane, eds. (1988) Antibodies, A Laboratory Manual、およびAnimal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1987)); Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984); Methods in Molecular Biology, Humana Press; Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press; Animal Cell Culture (R.I. Freshney), ed., 1987); Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press; Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons; Handbook of Experimental Immunology (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds.); Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987); PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994); Current Protocols in Immunology (J.E. Coligan et al., eds., 1991); Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999); Immunobiology (C.A. Janeway and P. Travers, 1997); Antibodies (P. Finch, 1997); Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989); Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000); Using Antibodies: A Laboratory Manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999); The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995);およびCancer: Principles and Practice of Oncology (V.T. DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Company, 1993)。
【0012】
他に規定されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有している。Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., J. Wiley & Sons (New York, N.Y. 1994)およびMarch, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 4th ed., John Wiley & Sons (New York, N.Y. 1992)は、本出願において使用される用語の多くについての一般的指針を当業者に提供する。特許出願および刊行物を含む、本明細書に引用される参照文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。
【0013】
プログラム細胞死タンパク質1(PD-1;CD274またはB7-H1としても公知)は、T細胞調節因子のCD28/CTLA-4ファミリーに属するI型膜タンパク質である。PD-1には、2つのリガンド、すなわちB7ファミリーに属するPD-L1およびPD-L2がある。リガンドが結合したPD-1は、T細胞応答などの免疫応答を負に調節すると考えられている。PD-L1およびPD-1は、いくつかのタイプの癌で高発現されており、癌の免疫回避に何らかの役割を果たしていると考えられている。例えばPD-1とPD-L1の相互作用を阻害する「(免疫)チェックポイント阻害剤」などの阻害剤は、T細胞応答を強化し、抗腫瘍活性を高めることができる。
【0014】
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、限定されるわけではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、およびそれらの抗体断片を、所望の抗原結合活性を示す限りにおいて含む、様々な抗体構造物を包含する。
【0015】
本明細書において、「PD-1/PD-L1系阻害剤」とは、PD-1/PD-L1系結合パートナーと別の結合パートナーとの相互作用を阻害し、PD-1/PD-L1系におけるシグナル伝達に起因するT細胞機能障害を解消し、したがって細胞障害およびサイトカイン生成などのT細胞機能を強化する分子を意味する。用語「PD-1/PD-L1阻害剤」は、PD-1とPD-L1との相互作用を阻害することができかつPD-1/PD-L1系におけるシグナル伝達に起因するT細胞機能障害を解消し、したがって細胞障害およびサイトカイン生成などのT細胞機能を強化する分子を意味する。PD-1/PD-L1阻害剤には、例えば、PD-L1阻害剤およびPD-1阻害剤が含まれる。
【0016】
本明細書において、「PD-1阻害剤」とは、PD-1と結合相手、例えばPD-L1、との相互作用に起因するシグナルトランスダクションを阻害する分子を意味する。いくつかの態様において、PD-1阻害剤は、抗PD-1抗体である。
【0017】
本明細書において、「PD-L1阻害剤」とは、PD-L1と結合相手、例えばPD-1およびB7-1、との相互作用に起因するシグナルトランスダクションを阻害する分子を意味する。いくつかの態様において、PD-L1阻害剤は、抗PD-L1抗体である。いくつかの態様において、抗PD-L1抗体は、ヒト化抗PD-L1抗体である。いくつかの態様において、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ(Genentech;CAS登録番号:1422185-06-5)である。アテゾリズマブは、PD-L1に対するヒト化モノクローナル抗体である。アテゾリズマブはPD-L1に結合し、活性化T細胞上で発現されるPD-1へのPD-L1の結合およびPD-1の活性化を妨害し、T細胞媒介性免疫応答を強化する。アテゾリズマブのFc領域は、抗体依存性細胞障害(ADCC)または補体依存性細胞障害(CDC)を誘発しないように修飾されている。アテゾリズマブは、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、および膀胱癌、例えば尿路上皮癌、の治療用に承認されており、胞巣状軟部肉腫に有効であることが示されている。例えば、米国国立衛生研究所のNCIによる、National Center Institute (NCI) Drug Dictionaryを参照されたい。
【0018】
用語「抗PD-L1抗体」および「PD-L1に結合する抗体」は、十分な親和性でPD-L1に結合することができ、その結果、PD-L1を標的とする際に診断用物質および/または治療物質として有用である抗体を意味する。1つの態様において、PD-L1ではない無関係なタンパク質への抗PD-L1抗体の結合の程度は、例えばラジオイムノアッセイ法(RIA)によって測定された場合、PD-L1への該抗体の結合の約10%未満である。特定の態様において、PD-L1に結合する抗体は、1μMもしくはそれ未満、100nMもしくはそれ未満、10nMもしくはそれ未満、1nMもしくはそれ未満、0.1nMもしくはそれ未満、0.01nMもしくはそれ未満、または0.001nMもしくはそれ未満(例えば10-8Mもしくはそれ未満、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の解離定数(Kd)を有する。特定の態様において、抗PD-L1抗体は、様々な種に由来するPD-L1間で保存されている、PD-L1のエピトープに結合する。同じことが、PD-1などの他の抗原にも当てはまる。好ましい態様において、抗PD-L1抗体は、ヒトPD-L1に結合し、ヒトPD-L1の情報は、例えばUniProtKB:Q9NZQ7.1に示されている(例えば、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO: 1およびSEQ ID NO: 9に示されている)。
【0019】
本明細書において使用される用語「モノクローナル抗体(mAb)」は、実質的に同種の抗体集団から得られた抗体を意味する。すなわち、この集団を構成する個々の抗体は、存在し得る変異抗体を除いて、同一であり、かつ/または同じエピトープに結合する。該変異抗体は、例えば、天然に存在する変異を含むか、またはモノクローナル抗体調製物を製造する間に発生し、このような変異体は通常、少量で存在する。様々な決定基(エピトープ)を対象とする様々な抗体を典型的には含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から得られたものであるという抗体の特徴を示し、いずれかの特定の方法による抗体の製造を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用するためのモノクローナル抗体は、限定されるわけではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部分を含むトランスジェニック動物を使用する方法を含む、様々な技術によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのこのような方法および他の例示的な方法は、本明細書において説明される。
【0020】
「ヒト化抗体」とは、非ヒトHVRに由来するアミノ酸残基およびヒトFRに由来するアミノ酸残基を含むキメラ抗体を意味する。特定の態様において、ヒト化抗体は、HVR(例えばCDR)のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト抗体のものに相当し、FRのすべてまたは実質的にすべてがヒト抗体のものに相当する、少なくとも1つ、および典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含む。ヒト化抗体は、ヒト抗体に由来する抗体定常領域についての少なくとも1つの部分を任意で含んでよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化型」とは、ヒト化を受けた抗体を意味する。
【0021】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生される抗体のアミノ酸配列に相当する、またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を使用する非ヒト供給源由来の抗体のアミノ酸配列に相当する、アミノ酸配列を有している抗体である。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を具体的には除く。
【0022】
「エフェクター機能」とは、抗体アイソタイプによって異なる、抗体のFc領域に起因し得る、生物活性を意味する。抗体エフェクター機能の例には、C1q結合および補体依存性細胞障害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方調節;ならびにB細胞活性化が含まれる。エフェクター機能は、エフェクターT細胞によって示され得る。
【0023】
薬物、医薬品、組成物(例えば薬学的組成物)、または剤(例えば、治療剤もしくは薬学的製剤)の「有効量」とは、必要な投薬量および期間で、癌治療などの所望の治療的結果または予防的結果を得るのに有効な量を意味する。
【0024】
「有効量」に関連して、本明細書において「治療有効量」とは、患者の障害/疾患を治療または予防するための、薬物/医薬品/剤の量を意味する。いくつかの態様において、癌または腫瘍を治療する場合、治療有効量の剤は、癌細胞の数を減らし、かつ/または腫瘍サイズを小さくし;末梢器官への癌細胞浸潤を抑制し;腫瘍転移を抑制し;腫瘍増殖を抑制し;癌に付随する症状を緩和する。このような癌治療剤を用いる場合、治療法の有効性または治療的効果は、例えば、生存期間、無増悪期間(TTP)、奏効率(RR)、奏効期間、生活の質(QOL)などに基づいて評価される。
【0025】
「患者」、「対象」、または「個体」(これらの用語は、同義的に使用されてよい)は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物には、飼い慣らされた動物(例えば、雌ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類、例えばサル)、ウサギ、およびげっ歯動物(例えば、マウスおよびラット)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。特定の態様において、患者/対象はヒトである。いくつかの態様において、患者/対象は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の投与を含む治療法に応答性である癌を有しているかまたは有していると疑われる、患者/対象である。
【0026】
本明細書において使用される場合、「治療法」または「治療」(もしくはその文法的変形、例えば「治療する」もしくは「治療すること」)とは、治療される個体の自然経過を変化させようとする臨床的介入を意味し、予防のためにまたは臨床的病状の過程のいずれかで実施され得る。治療法/治療の望ましい効果には、疾患の発生または再発の予防、症状の軽減、疾患の直接的または間接的な任意の病理学的転帰の減少、転移の予防、疾患の進行速度の低下、疾患状態の改善または緩和、および寛解または予後改善が含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの態様において、本発明の抗体は、疾患の発症を遅らせるため、または疾患の進行を遅くするために使用される。
【0027】
1つの局面において、本発明は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の投与を含む治療法に応答性である癌を治療するための方法を提供する。1つの態様において、方法は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を、癌を有している患者/対象に投与する段階を含む。1つのこのような態様において、方法は、有効量の、本明細書において説明する少なくとも1種の付加的な治療物質を患者/対象に投与する段階をさらに含む。本明細書の態様のいずれかに記載の「患者/対象」は、ヒトであってよい。
【0028】
本明細書において、「検出/検出すること」とは、任意のタイプの検出、すなわち直接的検出および間接的検出を意味する。検出は、定性的または定量的な検出または測定であってよい。いくつかの態様において、本発明の方法は、マーカー(バイオマーカー)またはケモカインを検出する段階を含む。いくつかの態様において、検出は、マーカーもしくはケモカインの量もしくはレベル(例えばmRNA発現レベル)を測定すること、またはそのようなレベルの平均および/もしくは合計を測定することである。
【0029】
本明細書において、「マーカー」(「バイオマーカー」とも呼ばれる)とは、患者に由来する試料において検出または測定され得る、予測、診断、または予後判定などのための指標を意味する。マーカーは、ある種の病理学的特徴または臨床的特徴を有する癌、例えば、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の投与を含む治療法に応答性である癌の指標として役立ち得る。マーカーには、ポリヌクレオチド(mRNA、DNAなど)、ポリペプチド、ポリペプチド修飾およびポリヌクレオチド修飾(例えば翻訳後修飾)、炭水化物などが含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの態様において、マーカーは、ある遺伝子のmRNAまたは転写物である。本発明において、このようなマーカーには、樹状細胞マーカーおよびケモカインが含まれる。
【0030】
いくつかの態様において、試料中のマーカーの存在および/または発現のレベル/量は、当業者が理解する公知の方法によって測定または評価され得る。これらの方法には、RNA-Seq(RNA発現レベルを検出または定量することもできる最新式のRNAシーケンシング技術)、ノーザン解析、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)などのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ならびに他の方法、例えば、分岐DNA、NASBA(nucleic acid-based amplification)、およびTMA(transcription-mediated amplification)など、FISH、マイクロアレイ解析、遺伝子発現プロファイリング、遺伝子発現の連続解析(SAGE)、免疫組織化学的検査(IHC)、ウェスタンブロット法、免疫沈降法、ELISA、ELIFA、フローサイトメトリー(FCM)(蛍光活性化細胞選別(FACS)とも呼ばれる)、MassARRAY、プロテオミクス、血清ELISAなどの定量的血液アッセイ法、インサイチューハイブリダイゼーション、ならびにRNA、タンパク質、遺伝子に対して行われる他の任意のアッセイ法、および任意の組織アレイ方法が含まれるが、それらに限定されるわけではない。遺伝子発現を評価するためのプロトコールは、例えば、Ausubel et al., eds., 1995, Current Protocols In Molecular Biologyにおいて見出すことができる。
【0031】
いくつかの態様において、マーカーは、該マーカーのmRNA発現に基づいて試料中で検出または測定(例えば定量)される。いくつかの態様において、mRNA発現は、RNA-seq、qPCR、rtPCR、マルチプレックスなqPCRまたはRT-qPCR、マイクロアレイ解析、ナノストリング、SAGE、MassARRAY、FISHなどによって検出または測定される。
【0032】
病理学的特徴または臨床的特徴に関連付けられているマーカーの「発現レベル」、「レベル」、「量(amount)」、または「分量(quantity)」とは、患者に由来する試料中で検出可能なレベル/量である。これは、当技術分野において公知の方法または本明細書において説明する方法によって測定することができる。マーカーの発現レベルは、癌治療法に対する患者の応答を予測するために使用することができる。
【0033】
本明細書において、「発現レベル」とは、患者に由来する試料中のマーカーの量を意味する。用語「発現」は、細胞において遺伝子情報が分子構造体に変換されることを意味する。したがって、「発現」は、mRNAへの転写、ポリペプチド/タンパク質への翻訳、ポリヌクレオチド修飾、ポリペプチド修飾などを含む。選択的スプライシングによって生成された転写物、分解された転写物、および翻訳後プロセシング後のポリペプチドは、「発現された」分子に含まれてよい。
【0034】
いくつかの態様において、DCの発達および/またはケモカインに関係するマーカーの発現の増大は、患者がPD-1/PD-L1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を用いる治療法によって治療された場合に、より高い臨床的利益を該患者が得る可能性がより高いことを示す。いくつかの態様において、臨床的利益には、例えば、全生存(OS)、無増悪生存(PFS)、完全奏功(CR)、部分奏功(PR)などの相対的増加が含まれる。
【0035】
本明細書において、「試料」とは、患者もしくは対象から得られるかまたはそれに由来する物質であって、例えば、それらの量、分量、物理的、生化学的、化学的、および/または生理学的特徴に基づいて検出または測定され得る細胞分子を含む、物質を意味する。本明細書において、「腫瘍試料」または「癌試料」とは、特徴を決定しようとする患者の腫瘍または癌から得られた任意の試料を意味する。いかなる限定もされることなく、試料には、細胞(初代細胞または培養細胞)、細胞上清、細胞溶解物、羊水、血液由来細胞、脳脊髄液、卵胞液、リンパ液、血漿、乳、粘液、汗、血小板、唾液、精液、血清、痰、滑液、涙、組織培養用培地、組織抽出物、組織ホモジネート、腫瘍細胞、腫瘍細胞抽出物、腫瘍組織、腫瘍溶解物、尿、硝子体液、および全血が含まれる。
【0036】
いくつかの態様において、試料は、患者に由来する組織試料または腫瘍組織試料である。いくつかの態様において、組織試料は、腫瘍細胞、腫瘍浸潤免疫細胞、ストローマ細胞などを含み得る。いくつかの態様において、試料は臨床試料である。いくつかの態様において、試料は、患者を同定または選択するために使用される。いくつかの態様において、試料は、患者の原発性または転移性である腫瘍から得られる。組織試料を得るために、生検を使用して腫瘍組織の代表的な一部分を採取してよい。
【0037】
本明細書において、「組織試料」または「細胞試料」とは、試験される患者/対象から採取された組織または細胞を意味する。本明細書において、「腫瘍組織試料」または「腫瘍細胞試料」とは、患者/対象の癌または腫瘍から採取された腫瘍組織または腫瘍細胞を意味する。組織/細胞試料は、患者/対象の新鮮または凍結/保存された器官に由来する固形組織、生検材料、血液、血液成分、血漿、羊水、脳脊髄液、間質液、腹腔液、細胞から得られてよい。組織/細胞試料は、初代細胞または培養細胞を含んでよい。組織試料は、抗生物質、抗凝固剤、緩衝剤、固定液、栄養物、保存剤などを含む、付加的な非天然成分を含んでよい。
【0038】
いくつかの態様において、試料は、患者から得られた組織試料または腫瘍組織試料、例えば生検組織である。いくつかの態様において、組織試料は、以下の組織/細胞のうちのいずれかより得られる:膀胱組織;乳房組織;結腸直腸組織;食道組織;胃組織;頭頸部組織;肺組織;中皮組織;骨肉腫組織;卵巣組織;膵臓組織;前立腺組織;腎臓組織;皮膚組織;甲状腺組織;尿路上皮組織;血液細胞;骨;骨髄;肝臓組織;リンパ節など。いくつかの態様において、試料は、肺組織試料である。
【0039】
本明細書において、「応答」(またはその変形、例えば「応答性の」および「応答性」)とは、患者への利益を示すまたは示唆する任意のエンドポイントに基づいて評価される、患者の応答を意味する。これらには、癌/腫瘍進行の抑制、例えば、完全な阻止、減速など;癌/腫瘍サイズの縮小;末梢器官/組織への浸潤の抑制、低減、完全な停止、または減速;転移の抑制、低減、完全な停止、または減速;癌/腫瘍に付随する症状の緩和;生存(例えば、全生存および無増悪生存)期間の延長;ならびに癌治療法または癌治療後のある時点における死亡率の低下が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0040】
治療/治療法に対する腫瘍/癌の応答または応答性を評価するにあたって、最良総合効果(BOR)は、治療開始から癌の進行/再発までに記録された最良効果と定義される。応答については、以下の判定基準を使用することができる:完全奏功(CR);部分奏功(PR);安定病態(SD);および進行(PD)。これらの定義は当業者に公知である。
【0041】
本明細書において、医薬(例えば抗PD-L1抗体)を用いる治療法に対する患者の「応答性」(またはその文法的変形、例えば「(に)応答性(であること)」)とは、癌もしくは腫瘍などの疾患に罹患しているかまたは罹患していると疑われる患者に対する、臨床的利益または治療的利益を意味する。これらの利益には、以下のものが含まれるが、それらに限定されるわけではない:(i)生存(例えば、全生存(OS)および無増悪生存(PFS))の延長または長期化;(ii)関心対象の応答(例えば、完全奏功(CR)、部分奏功(PR)、安定病態(SD)、病勢コントロール率(DCR;CR+PR+SD)など);または(iii)癌/腫瘍の徴候の改善もしくは症状の寛解。マーカーの存在または発現増大を利用して、該マーカーが存在もせず発現増大もしていない患者と比べて、治療法に応答する可能性がより高い患者を同定することができる。マーカーの存在または発現増大を利用して、該マーカーが存在もせず発現増大もしていない患者と比べて、患者が治療法から利益を得る見込みが大きい可能性がある/大きいと考えられることを、予測または判定することができる。
【0042】
本明細書において、「治療法」(例えば「抗癌/腫瘍治療法」)とは、疾患(例えば、癌/腫瘍)を治療するのに有用な医学的介入を意味する。医薬または抗癌治療物質が、治療法において使用され得る。これらには、PD-1とPD-L1との結合を阻害するPD-1阻害剤およびPD-L1阻害剤を含む、PD-1/PD-L1阻害剤などの阻害剤、抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体などの抗体医薬品、放射線療法で使用される薬剤、抗血管新生剤、抗チューブリン剤、アポトーシス剤、化学療法剤、細胞障害剤、増殖抑制剤、ならびに癌/腫瘍を治療するための他の任意の薬剤または医薬品、血小板由来増殖因子阻害剤、COX-2阻害剤、インターフェロン、サイトカイン、癌関連分子に結合するアンタゴニスト/アゴニストなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0043】
「ケモカイン(化学誘引物質)」は、細胞の遊走、分化、および活性化を通してリンパ組織の維持および炎症の制御に関与していることが公知である。これらはまた、リンパ節だけでなく腫瘍組織においても、免疫細胞を動員するにあたって不可欠な役割を果たしていることが報告されている。ケモカインは、約70~100個のアミノ酸残基のタンパク質であり、システイン残基を有するアミノ酸配列モチーフに基づいて4種のサブファミリー:CC、CXC、CX3C、およびC、に分類されている。Cサブファミリーに属するケモカインについては、マウスXCL1ならびにヒトXCL1およびXCL2が公知である。XCR1(GPR5とも呼ばれる)は、XCL1およびXCL2に対する受容体である。すなわち、XCL1およびXCL2は、XCR1(本明細書において説明される樹状細胞マーカーである)に対するアゴニストとして機能する。マウスXCR1は、リンパ組織および末梢組織のCD8+/CD103+樹状細胞(DC)上で主に発現される。ヒトXCR1は、マウス樹状細胞(DC)に類似しているCD141+樹状細胞(DC)上で発現される。
【0044】
マウスXCR1+/CD8+/CD103+樹状細胞(DC)およびヒトXCR1+/CD141+樹状細胞(DC)は、強いクロスプレゼンテーション能力を有している。「正常な」抗原提示では、細胞それ自体によって合成されたタンパク質のみが、プロテアソームによって分解され、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI上に載せられ、CD8+T細胞に対して提示され;一方、食作用によって細胞の外側から取り込まれ、エンドソームおよびリソソームによって分解された産物は、MHCクラスII上に載せられ、CD4+T細胞に対して提示される。対照的に、クロスプレゼンテーションの場合、エンドソームおよびリソソームによって分解された産物は、MHCクラスI上に載せられCD8+T細胞に対して提示されて、細胞障害性T細胞への分化および増殖を誘導する。クロスプレゼンテーションは、腫瘍に対する細胞障害活性にとって重要であると考えられている。本明細書において、「クロスプレゼンテーション能力」または「クロスプレゼンテーションする能力」とは、樹状細胞(DC)がT細胞に産物を提示する能力を意味する。本明細書において、この能力を有する樹状細胞(DC)は、「クロスプレゼンテーション(クロスプレゼンテーションする)樹状細胞(DC)」と呼ばれる場合がある。CD8陽性T細胞の場合、この能力は「CD8陽性T細胞に対するクロスプレゼンテーション能力」または「CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーションする能力」と呼ばれる。
【0045】
ケモカインの重要な機能は、腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させることである。ケモカインの例には、CXCL9(MIGとも呼ばれる;UniProtKB:Q07325(ヒト);例えば、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO: 2およびSEQ ID NO: 10に示されている)、CXCL10(IP-10とも呼ばれる;UniProtKB:P02778(ヒト);例えば、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO: 3およびSEQ ID NO: 11に示されている)、ならびにCXCL11(I-TACとも呼ばれる;UniProtKB:O14625(ヒト);例えば、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO: 4およびSEQ ID NO: 12に示されている)が含まれる。要約すれば、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11は、CXCケモカインファミリーに属し、CXCR3に対するリガンドとして機能する。これらは、炎症性サイトカイン、特にインターフェロン-γによって刺激された、マクロファージ、樹状細胞(DC)、および線維細胞などの細胞によって産生される。CXCR3は、エフェクターT細胞において高発現され、T細胞トラフィッキングにあたって不可欠な役割を果たす、ケモカイン受容体である。CXCR3発現は、ナイーブT細胞の活性化によって誘導される。具体的には、CXCL9はCD8+T細胞と相互に作用して、リンパ球トラフィッキングにおいて重要な役割を果たす。CXCL10は、炎症性サイトカインによって刺激された、線維芽細胞およびマクロファージなどから分泌され、単球、マクロファージ、T細胞、およびNK細胞に対する走化活性を有する。CXCL11は、活性化T細胞、単球、B細胞、Th1リンパ球、およびNK細胞を誘引する低分子量ケモカインである。
【0046】
樹状細胞マーカーが本発明において使用され得る。癌患者から得られた腫瘍組織試料中の樹状細胞(DC)(例えば、クロスプレゼンテーションする能力(クロスプレゼンテーション能力)を有する腫瘍浸潤DCまたは機能的DC)の腫瘍内の量/分量/数は、抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体などのPD-1/PD-L1阻害剤に対する応答の指標となり得る。したがって、いくつかの態様において、本発明のマーカーは、DCの、腫瘍内の量を推定するためのマーカーであり得る。DCの、腫瘍内の量は、クロスプレゼンテーションする能力を有するDCの活性化、発達、および/または成熟化に関連しているマーカーの発現レベルを検出することにより、推定または測定することができる。マーカーには、XCR1、Clec9、Irf8、およびBatf3が含まれるが、それらに限定されるわけではない。これらのマーカーは、個々のマーカーとして別々に使用してもよく、またはマーカーの累積発現、例えば累積DC遺伝子スコア(DCスコア)として2種もしくはそれより多いマーカーを組み合わせて使用してもよい。複数のマーカーの発現は、DCスコアを求めるための当技術分野において公知である任意の適切な数学的方法によって、まとめ合わせることができる。DCスコアは、本明細書において説明するマーカーの発現レベルに基づいて求めることができる。
【0047】
いくつかの態様において、本発明は以下を提供する:
有効量のPD-1/PD-L1阻害剤(PD-1とPD-L1との結合を阻害できるPD-1阻害剤もしくはPD-L1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体であってよい;同じことが、本明細書において開示する他の態様に当てはまる)の投与を含む治療法に応答性であるがんを有しているかまたは有していると疑われる患者を同定する方法であって、以下の段階を含む、方法:
患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)抗原提示細胞マーカーまたは抗原提示マーカーである、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)少なくとも1つのケモカインまたは化学誘引物質。
【0048】
いくつかの態様において、本発明は以下を提供する:
有効量のPD-1/PD-L1阻害剤の投与を含む治療法に応答性である癌を有しているかまたは有していると疑われる患者を同定する方法であって、以下の段階を含む、方法:
患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン。
【0049】
明細書/特許請求の範囲の全体を通して、「患者を同定(する方法)」は、「患者を選択(する方法)」、「患者をスクリーニング(する方法)」、「患者についてスクリーニング(する方法)」などと言い換えられてよい。
【0050】
いくつかの態様において、抗原提示細胞マーカー(または抗原提示マーカー)は、樹状細胞(DC)上または樹状細胞(DC)中で発現される樹状細胞マーカーである。
【0051】
いくつかの態様において、ケモカインまたは化学誘引物質は、T細胞表面のT細胞ケモカイン受容体によって認識されるかまたは結合されることによってT細胞を誘引する、T細胞ケモカインまたはT細胞化学誘引物質である。
【0052】
いくつかの態様において、本発明は以下を提供する:
有効量のPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体)の投与を含む治療法に応答性である癌を有しているかまたは有していると疑われる患者を同定する方法であって、以下の段階を含む、方法:
患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン。
【0053】
いくつかの態様において、本発明は、ヒト対象に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する方法を提供する:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)エフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン。
【0054】
いくつかの態様において、本発明は、癌患者に対するPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)の治療的効果(または有効性)を予測する方法を提供し、この方法は、以下の段階を含む:
患者に由来する試料中の以下の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン。
【0055】
いくつかの態様において、治療法は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤の投与を含む。いくつかの態様において、PD-1/PD-L1阻害剤は、抗PD-1/PD-L1抗体である。いくつかの態様において、抗PD-1/PD-L1抗体は、ヒト化抗PD-1/PD-L1抗体である。いくつかの態様において、ヒト化抗PD-1/PD-L1抗体はアテゾリズマブである。好ましくは、治療法は、該治療法に応答性である癌を有しているかまたは有していると疑われる患者に対して行われる。
【0056】
「がん」および「がん性」という用語は、制御されていない細胞成長/増殖を典型的には特徴とする、哺乳動物の生理的状態を意味するか、または説明する。がんの例には、癌腫、リンパ腫(例えば、ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫)、芽細胞腫、肉腫、黒色腫、ならびに急性リンパ芽球性白血病などの白血病が含まれるが、それらに限定されるわけではない。このような癌のより具体的な例には、扁平上皮癌、肺癌、小細胞肺癌(SCLC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、肺腺癌、肺扁平上皮癌、腹膜癌、肝細胞癌、胃癌、消化管癌、膵臓癌、神経膠腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路上皮癌、ヘパトーマ、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、白血病および他のリンパ増殖性障害、ならびに様々なタイプの頭頸部癌が含まれる。いくつかの態様において、癌は、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体が適用可能な癌である。いくつかの態様において、癌は、アテゾリズマブが適用可能な癌である。癌に適用可能であるかどうか(または癌がそれで治療可能であるかどうか)は、当業者または医師が、米国食品医薬品局(FDA)などの管轄機関から与えられた医薬品承認または当該技術分野の知識に鑑みて、適切に理解することができる。いくつかの態様において、癌は、乳癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、および膀胱癌、例えば尿路上皮癌、ならびに胞巣状軟部肉腫からなる群より選択される。いくつかの態様において、癌は非小細胞肺癌である。
【0057】
用語「腫瘍」とは、悪性であるか良性であるかを問わず、すべての新生細胞の成長および増殖、ならびにすべての前がん性およびがん性の細胞および組織を意味する。用語「がん」、「がん性の」、および「腫瘍」は、本明細書において言及されるように、相互に排他的なものではない。
【0058】
本明細書において、「がんを有していると疑われる」患者とは、自覚症状、他覚症状、および予測的がん診断の結果を考慮するとがんを有している可能性が高いかまたはことによると/おそらくはがんを有している患者を意味し、予測的がん診断は、例えば、X線、コンピューター断層撮影法(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放射断層撮影法(PET)、および単一光子放射型コンピューター断層撮影法(SPECT)を用いる画像化解析;血液および尿などの体液の解析;患者に由来するDNAおよびRNAなどの核酸の解析;ならびにがんを診断するための任意の予測的解析である。
【0059】
いくつかの態様において、マーカーは、非T細胞活性化マーカーであり、すなわち、マーカーはT細胞活性化マーカーではない。このようなT細胞活性化マーカーが予測用のマーカーとして使用される場合には、PD-1/PD-L1阻害剤に応答性であると予想される潜在的な患者、すなわち、PD-1もしくはPD-L1が低レベルで発現されているかもしくは発現されていないか、IFN-γ経路が活性化されていないか、または活性化T細胞はほとんど腫瘍に浸潤していないが流入領域リンパ節において活性化が準備されている患者の同定に失敗する可能性があるという懸念がある。さらに、PD-L1が腫瘍内で構成的に発現されている患者すべてを含めることにより、PD-1/PD-L1阻害剤が無効である、がん抗原を持たない患者もまた選択される場合があるという懸念もある。したがって、好ましくは、本発明は、このようなT細胞活性化マーカーの使用を除外してよい。T細胞活性化マーカーは当技術分野において公知であり、CD69、CD25、CD28、CD38、CD40L、IFN-γ、PD-1、CD8、グランザイム、およびパーフォリンが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0060】
いくつかの態様において、マーカーは、抗原提示細胞(APC)マーカーまたは抗原提示マーカーである。いくつかの態様において、マーカーは、樹状細胞マーカーである。いくつかの態様において、マーカーは、クロスプレゼンテーションする(クロスプレゼンテーション)樹状細胞のマーカーである。いくつかの態様において、マーカーは、樹状細胞マーカー、特に、クロスプレゼンテーションする樹状細胞のマーカーの具体例であるXCR1、Clec9、Irf8、Batf3、CD205、CD103、およびCD141からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーである。いくつかの態様において、マーカーは、XCR1、Clec9、Irf8、およびBatf3からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーである。いくつかの態様において、マーカーは、XCR1、Clec9、Irf8、およびBatf3のうちの1つ、2つ、3つ、またはすべてである。いくつかの態様において、マーカーはXCR1のみである。
【0061】
いくつかの態様において、ケモカインは、T細胞化学誘引物質である。いくつかの態様において、ケモカインは、腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させるケモカインである。いくつかの態様において、ケモカインはCXCR3リガンドである。いくつかの態様において、2つ、3つ、またはそれより多いCXCR3リガンドが、ケモカインとして組み合わせて使用される。いくつかの態様において、ケモカインは、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のうちの1つ、2つ、またはすべてである。いくつかの態様において、ケモカインは、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のすべてである。
【0062】
本明細書において、「患者群」とは、同じタイプの疾患に罹患しているかまたは罹患していると疑われ、同じタイプの医学的治療を受ける(と考えられる)患者の集団を意味する。いくつかの態様において、本発明における患者は、患者群に属する。このような患者群は、適切に決めることができ、任意の規模であってよい。いくつかの態様において、患者群は、癌を有しているかまたは有していると疑われる患者からなる。いくつかの態様において、患者群は、低くても高くてもよい様々なレベルの腫瘍内PD-L1発現を示す患者からなる。いくつかの態様において、患者は、高い(より高い)腫瘍内PD-L1発現を示す患者だけでなく低い(より低い)腫瘍内PD-L1発現を示す患者も含む患者群に属する。本発明によって、治療法に応答性であると予想されかつ相対的に高いPD-L1発現を示す患者に加えて、治療法に応答性であると予想されかつ低いPD-L1発現を示すかまたはPD-L1発現を示さない、潜在的な患者を同定することが可能になる。本発明によって、腫瘍において相対的に低いPD-L1発現を示すかまたはPD-L1発現を示さない患者を含む、PD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)について有効な患者群全体を見つけることができる。「高/低」発現を定義する閾値は、本明細書の別の箇所で論じている。
【0063】
いくつかの態様において、本発明の方法は、(i)少なくとも1つのマーカー、および(ii)少なくとも1つのケモカインを検出する。いくつかの態様において、本発明の方法は、(i)少なくとも1つのマーカー、および(ii)1つ、2つ、3つ、またはそれより多いケモカインを検出する。いくつかの態様において、(i)を検出する段階は、マーカーのmRNA発現レベルを測定することであり、(ii)を検出する段階は、1つ、2つ、3つ、またはそれより多いケモカインのmRNA発現レベルを測定することである。いくつかの態様において、(i)および(ii)を検出する段階は、マーカーおよび1つ、2つ、3つ、またはそれより多いケモカインの、mRNA発現レベルの平均値(「AP/Tスコア」)を測定することである。本発明において、ケモカインは、エフェクターT細胞を集積させるケモカイン、例えば、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11を含み、バイオマーカーとして組み合わせて使用されてよい。いくつかの態様において、マーカーはXCR1であり、ケモカインは、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のうちの1つ、2つ、または3つ(すべて)である。単一のマーカーの使用と比べて、バイオマーカーを組み合わせることにより、予測的解析の精度が高まると予想される。
【0064】
いくつかの態様において、方法は、マーカーおよびケモカインが検出されるかどうかを判定する段階をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、マーカーおよびケモカインのmRNA発現レベル(または平均発現レベル;「AP/Tスコア」)が閾値に等しいかまたは閾値より大きいかを判定する段階をさらに含む。
【0065】
いくつかの態様において、方法は、マーカーおよび/またはケモカインのmRNA発現レベル(または平均発現レベル;「AP/Tスコア」)が閾値に等しいかまたは閾値より大きい場合には、患者を、治療法が実施される患者(対象)であると同定する段階をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、マーカーおよび/またはケモカインのmRNA発現レベル(または平均発現レベル;「AP/Tスコア」)が閾値に等しいかまたは閾値より大きい場合には、治療法を患者/対象に対して実施することを決定する段階をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、(同定された)患者/対象に対して治療法を実施する段階をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を、患者/対象に投与する段階をさらに含む。
【0066】
いくつかの態様では、本発明の方法において、検出(例えば、本明細書において言及する(i)および(ii)を検出する段階)は、以下の(a)および(b)、すなわち(a)マーカーのmRNA発現レベルおよび(b)ケモカインのmRNA発現レベルの、平均値(「AP/Tスコア」)を求めることである。いくつかの態様において、検出は、以下の(a)および(b)、すなわち(a)マーカーのmRNA発現レベルおよび(b)1つ、2つ、3つ、またはそれより多いケモカインのmRNA発現レベルの、平均値(「AP/Tスコア」)を求めることである。いくつかの態様において、マーカーはXCR1であり、ケモカインは、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11より選択される。いくつかの態様において、マーカーはXCR1であり、ケモカインは、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のすべてである。いくつかの態様において、方法は、平均値(「AP/Tスコア」)が閾値に等しいかまたは閾値より大きいかを判定する段階をさらに含む。
【0067】
いくつかの態様において、方法は、平均値(「AP/Tスコア」)が閾値に等しいかまたは閾値より大きい場合には、患者を、治療法が実施される患者/対象であると同定する段階をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、平均値(「AP/Tスコア」)が閾値に等しいかまたは閾値より大きい場合には、治療法を患者/対象に対して実施することを決定する段階をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、平均値(「AP/Tスコア」)が閾値に等しいかまたは閾値より大きい(同定された)患者/対象に対して治療法を実施する段階をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を、合計が閾値に等しいかまたは閾値より大きい患者/対象に投与する段階をさらに含む。
【0068】
いくつかの態様において、方法は、平均値(「AP/Tスコア」)が閾値に等しいかまたは閾値より大きい場合には、(平均値(「AP/Tスコア」)が閾値より小さい場合と比べて)、患者に対するPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)の治療的効果(または有効性)が高い(またはより高い)ことを示すかまたは予測する段階をさらに含む。いくつかの態様において、阻害剤の治療的効果(または有効性)の程度(高い/低い)は、当技術分野において公知の治療的指標、例えば、全生存(OS)、無増悪生存(PFS)、完全奏功(CR)、部分奏功(PR)、安定病態(SD)、病勢コントロール率(DCR;CR+PR+SD)などに基づいて評価される。いくつかの態様において、「高い」治療的効果(または有効性)とは、患者の癌が、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の投与を含む治療法に応答性であることを意味する。
【0069】
いくつかの態様において、本発明は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)の投与を含む治療法に応答性であるがんを患者において治療する方法を提供し、この方法は、以下の段階を含む:
がんを有しているかまたは有していると疑われるヒトから組織試料を取得する段階;
患者に由来する試料中の下記の(i)および(ii)を検出する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカー;および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、少なくとも1つのケモカイン;
治療法に応答性である癌を有しているかまたは有していると疑われる患者を同定する段階;
(同定された)患者に対して治療法を実施することを決定する段階;ならびに
(同定された)患者に対して治療法を実施する段階または有効量の阻害剤を患者に投与する段階。
本明細書において、「治療法を実施すること」とは、外科的治療法および/または医学的治療を実施することを意味する。
【0070】
本発明の方法の有効性または効果を予測する精度は、予測的アルゴリズムによって予測能を評価するために一般に使用される受信者動作特性(ROC)曲線を用いて評価することができる。ROC曲線は、弁別閾値を変化させて二項分類器システムの診断能力を示すプロットである。ROC曲線が作成される場合、(ROC)曲線下の面積(AUC)が算出される。AUCの範囲は、0~1である。AUCが0.5である場合、「偶然」であり、予測能がないことを意味する。通常、以下の分類がなされる:AUCが0.5~0.7の場合は「低い」精度;AUCが0.7~0.9の場合は「中程度の」精度;およびAUCが0.9~1.0の場合は「高い」精度。AUCが1である場合、完璧な性能、すなわち、感度100%および特異度100%を意味する。本発明の文脈において、例えば、AUC=1は、治療法に応答性であると予測されるマウスの100%が実際にすべて応答性であったこと、および治療法に非応答性であると予測されるマウスの100%が実際にすべて非応答性であったことを意味する。同じことがヒトモデルにも当てはまる。しかし、がんについてのヒト臨床試験では、陰性対照は、プラセボではなく従来の治療物質、例えばドセタキセルを投与される群であってよい。この場合、有効性を予測する能力は、ドセタキセルの場合の予測能より優れた、高い能力であり得る。
【0071】
いくつかの態様において、本発明の方法は、PD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)に対する患者の応答を予測する方法である。いくつかの態様において、本発明の方法は、患者に対するPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)の治療的効果(または有効性)を予測する方法である。いくつかの態様において、患者は、がん患者である。
【0072】
治療法に対する応答性および非応答性を判別または予測するための「閾」または「閾値」(「カットオフ値」または「カットオフポイント」とも呼ばれる)は、適宜に決定することができる。いくつかの態様において、閾値は、患者群/集団におけるバイオマーカー(例えば、細胞マーカーおよびケモカイン)のレベルに基づいて決定される閾値である。例えば、所与の患者群全体に対して、複数の患者のバイオマーカーの発現レベル(例えば、個々の発現レベル、発現レベルの合計、もしくは発現レベルの平均値(「AP/Tスコア」)、またはそれらの任意の組合せ)を測定し、バイオマーカー発現レベルの所与の閾値に応じて「高発現」群および「低発現」群にそれらを分類する。いくつかの態様において、閾値は、患者群の全患者のうちの一定のパーセンテージ(例えば、30%、50%、70%など)が閾値に等しいかまたは閾値より大きい発現レベルを有するように、決定される。いくつかの態様において、閾値は、全患者のうちの一定のパーセンテージ(例えば、30%、50%、70%など)が、閾値に等しいかまたは閾値より大きい発現レベルを有する「高発現」群に含まれ、かつ全患者のうちの残り(例えば、30%、50%、70%など)が、閾値より小さい発現レベルを有する「低発現」群に含まれるように、決定される。閾値を高くし、例えば、「高発現」群のパーセンテージを減少させた場合には、治療法に対して高い応答性が予想される患者を選択できる一方で、感度が低くなる場合があり、低い応答性が予想される患者が除外される場合がある。したがって、閾値は、治療法に対する所望の応答性および潜在的患者に対する所望の感度に応じて、適宜に決定することができる。いくつかの態様において、閾値は、全患者の30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、または70%が「高発現」群に含まれる、すなわち、全患者の70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、63%、62%、61%、60%、59%、58%、57%、56%、55%、54%、53%、52%、51%、50%、49%、48%、47%、46%、45%、44%、43%、42%、41%、40%、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、または30%が「低発現」群に含まれるように、変動してよい。いくつかの態様において、閾値は、患者群の全患者のうちのX%が、閾値に等しいかまたは閾値より大きい発現レベルを有するように決定され、Xが例えば30~70である場合、Xは、上記のパーセンテージのいずれか1つに等しい。いくつかの態様において、全患者に対するパーセンテージは、30%、50%、または70%である。閾値またはカットオフ値を明記するために、用語「パーセンタイル」が使用されてよい。例えば、「xパーセンタイル」とは、観察結果のx%、すなわち全患者のうちのx%のデータがそれより下に存在している値(またはスコア)を意味し、ここで、xは、上記のパーセンテージのいずれか1つ、例えば、30、50、70などを指す。
【0073】
いくつかの態様において、本発明は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体)の投与を含む治療法に応答性である癌を有しているかまたは有していると疑われる患者を選択する方法を提供し、この方法は、以下の段階を含む:
がんを有しているかまたは有していると疑われる患者からなる患者群を決定する段階;
患者群の各(かつ全ての)患者に由来する試料中の下記の(i)および(ii)の、平均値(AP/Tスコア)を測定する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、マーカーのmRNA発現レベル;および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、1つまたは複数のケモカインのmRNA発現レベル;
患者群の全患者の一定のパーセンテージが、閾値に等しいかまたは閾値より大きい平均値(「AP/Tスコア」)を有するように、閾値を決定する段階;ならびに
閾値に等しいかまたは閾値より大きい平均値(「AP/Tスコア」)を有する患者を選択する段階。
【0074】
いくつかの態様において、本発明は、患者群の癌患者に対するPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)の治療的効果(または有効性)を予測する方法を提供し、この方法は、以下の段階を含む:
癌を有しているかまたは有していると疑われる患者からなる患者群を決定する段階;
患者群の各患者に由来する試料中の下記の(i)および(ii)の、平均値(「AP/Tスコア」)を測定する段階:
(i)CD8陽性T細胞に対してクロスプレゼンテーション能力を有する樹状細胞(DC)の、腫瘍内の量を推定するための、少なくとも1つのマーカーのmRNA発現レベル;および
(ii)腫瘍内でエフェクターT細胞を集積させる、1つまたは複数のケモカインのmRNA発現レベル;
患者群の全患者の一定のパーセンテージが、閾値に等しいかまたは閾値より大きい平均値(「AP/Tスコア」)を有するように、閾値を決定する段階;ならびに
阻害剤の治療的効果(または有効性)が、閾値に等しいかまたは閾値より大きい平均値(「AP/Tスコア」)を有する患者に対して高いことを示す(または予測する)段階。
【0075】
いくつかの態様において、本発明は、がん/腫瘍を有する患者に由来する試料中の少なくとも1つのマーカーおよび/またはケモカインの存在または量を決定するための1種または複数種の試薬を含む、キット(製造品)を提供する。
【0076】
いくつかの態様において、本発明は、がん/腫瘍を有する患者に由来する試料中の少なくとも1つのマーカーおよび/またはケモカインの存在または量を決定するための1種または複数種の試薬;ならびに有効量のPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体)の投与を含む治療法に応答性であるがんを有しているかまたは有していると疑われる患者を該マーカー/ケモカインの存在または量に基づいて同定または選択するために該1種または複数種の試薬が使用されることを示す添付文書を含む、キット(または製造品)を提供する。いくつかの態様において、本発明は、がん/腫瘍を有する患者に由来する試料中の少なくとも1つのマーカーおよび/またはケモカインの存在または量を決定するための1種または複数種の試薬;ならびに有効量のPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体)の投与を含む治療法に応答性であるがんを有しているかまたは有していると疑われる患者を該マーカー/ケモカインの存在または量に基づいて同定または選択するために該1種または複数種の試薬が使用されることを示す添付文書を、包装容器中に組み合わせる段階を含む、キット(または製造品)を製造するための方法を提供する。
【0077】
いくつかの態様において、キット(または製造品)は、容器および該容器に接着または添付された添付文書またはラベル(本明細書において言及される)を含む。添付文書またはラベルは、紙、電子媒体、例えば、磁気的に記録された媒体、CD、DVDなどの任意の形態を有してよい。容器には、瓶、バイアル、シリンジなどが含まれてよい。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの材料で形成されてよい。キット(または製造品)は、反応のための他の材料、例えば、緩衝剤、希釈剤、フィルターなども含んでよい。
【0078】
いくつかの態様において、本発明は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体)の投与を含む治療法に応答性である癌を有しているかまたは有していると疑われる患者をマーカー/ケモカインの存在または量に基づいて同定または選択する際に使用するためのキット(または製造品)の製造における、がん/腫瘍を有する患者に由来する試料中の少なくとも1つのマーカーおよび/またはケモカインの存在または量を決定するための1種または複数種の試薬の使用を提供する。
【0079】
これらの試薬は、以下の検出/定量方法のいずれかにおいて使用されるものであってよい:RNA-Seq、ノーザン解析、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)などのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ならびに他の方法、例えば、分岐DNA、NASBA(nucleic acid-based amplification)、TMA(transcription-mediated amplification)など、FISH、マイクロアレイ解析、遺伝子発現プロファイリング、遺伝子発現の連続解析(SAGE)、免疫組織化学的検査(IHC)、ウェスタンブロット法、免疫沈降法、ELISA、ELIFA、フローサイトメトリー(FCM)(蛍光活性化細胞選別(FACS)とも呼ばれる)、MassARRAY、プロテオミクス、血清ELISAなどの定量的血液アッセイ法、インサイチューハイブリダイゼーション、ならびにRNA、タンパク質、遺伝子に対して行われる他の任意のアッセイ法、および任意の組織アレイ方法。いくつかの態様において、試薬は、1つまたは複数のマーカーおよび/またはケモカインのmRNAレベルを検出するRNA-Seqにおいて使用されるものである。
【0080】
いくつかの態様において、本発明は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体)の投与を含む治療法に応答性であるがんを有しているかまたは有していると疑われる患者を同定または選択するためのキット(または製造品)であって、(i)少なくとも1つのマーカーを検出するための試薬;および(ii)少なくとも1つのケモカインを検出するための試薬、を含む、キット(または製造品)を提供する。いくつかの態様において、本発明は、有効量のPD-1/PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体)の投与を含む治療法に応答性であるがんを有しているかまたは有していると疑われる患者を同定または選択するためのキット(または製造品)の製造における、(i)少なくとも1つのマーカーを検出するための試薬;および(ii)少なくとも1つのケモカインを検出するための試薬、の使用を提供する。いくつかの態様において、ケモカインは、1つ、2つ、3つ、またはそれより多いケモカインである。いくつかの態様において、(i)の試薬によって検出することは、マーカーのmRNA発現レベルを測定することであり、(ii)の試薬によって検出することは、1つ、2つ、3つ、またはそれより多いケモカインのmRNA発現レベルを測定することである。いくつかの態様において、キット(または製造品)は、マーカーのmRNA発現レベルおよび1つ、2つ、3つ、またはそれより多いケモカインのmRNA発現レベルの、平均値(「AP/Tスコア」)を測定する際に使用するためのものである。いくつかの態様において、ケモカインは、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11からなる群より選択される。いくつかの態様において、マーカーはXCR1であり、ケモカインは、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のすべてである。いくつかの態様において、マーカーはXCR1であり、ケモカインは、CXCL9およびCXCL10である。いくつかの態様において、マーカーはXCR1であり、ケモカインは、CXCL10およびCXCL11である。いくつかの態様において、マーカーはXCR1であり、ケモカインは、CXCL9およびCXCL11である。いくつかの態様において、マーカーはXCR1であり、ケモカインはCXCL9である。いくつかの態様において、マーカーはXCR1であり、ケモカインはCXCL10である。いくつかの態様において、マーカーはXCR1であり、ケモカインはCXCL11である。いくつかの態様において、キット(または製造品)は、マーカーのmRNA発現レベルおよびケモカインのmRNA発現レベルの、平均値(「AP/Tスコア」)が、閾値に等しいかまたは閾値より大きいかを判定する際に使用するためのものである。閾値は、本明細書の開示内容に従って決定してよい。
【0081】
本発明は、理解を明確にするために、例示および例としていくらか詳しく本明細書において説明してきたか、または説明されるであろうが、これらの説明および例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に引用されるあらゆる特許および科学文献の開示は、その全体が参照により明確に組み入れられる。
【実施例
【0082】
以下は、本発明の方法および組成物の例である。上記で提供した一般的説明を前提として、他の様々な態様が実践され得ることが理解される。
【0083】
実験計画の概要:
本発明者らは、抗マウスPD-L1モノクローナル抗体(mAb)の抗腫瘍効果を、マウスモデルにおいてインビボで調べた。単離した腫瘍または腫瘍流入領域リンパ節(dLN)に対して、フローサイトメトリー、腫瘍刺激IFNγ放出アッセイ法、レパートリー解析、RNAシーケンシング、タンパク質イムノアッセイ法、および免疫組織化学的検査を実施した。受信者動作特性(ROC)曲線解析により、17種の腫瘍モデルにおいて予測的マーカーの精度を評価した。
【0084】
材料および方法
細胞株:
17種の異なる細胞株を使用した。細胞はすべて、適切に維持しトランスフェクトした。
【0085】
腫瘍モデル:
マウスの右側腹部の皮下に癌細胞を移植した。
腫瘍体積が約50~200mm3に達したら、抗PD-L1抗体または対照IgGの投与を開始した(1日目)。抗マウスPD-L1 mAbまたはラットIgGを、週に3回、10mg/kgの用量でマウスに腹腔内投与した。抗マウスCXCR3 mAbまたはハムスターIgGを、週に2回、50μg/匹の用量で腹腔内投与した。式:V=L×W2×0.5(L=長さ;W=幅)から、腫瘍体積(V)を推定した。腫瘍増殖阻害のパーセンテージ(TGI%)を、次のようにして計算した:TGI%=[1-(最終評価日の処置群の腫瘍体積 - 1日目の処置群の腫瘍体積)/(最終評価日の対照群の腫瘍体積 - 1日目の対照群の腫瘍体積)]×100。
【0086】
フローサイトメトリー解析:
腫瘍浸潤リンパ球を解析するために、対照で処置したマウスおよび抗癌剤で処置したマウスから腫瘍組織を摘出し、gentleMACSディソシエーターを用いて破壊および消化することにより腫瘍を切り刻みそれらを均質化することによって、単細胞懸濁液を得た。LSRFortessa X-20細胞アナライザー(BD Biosciences)を用いて細胞を解析した。
【0087】
RNAシーケンシング(RNA-seq):
腫瘍組織から全RNAを単離した。シーケンシングは、Illumina HiSeq 2500シーケンシングシステム(100bpペアエンドシーケンシング)を用いて実施した。遺伝子発現を評価するために、RNA発現量のlog値(R)を次の式から推定した:R=log(標的RNAのマッピングされた断片100万個当たりの、エキソンの1キロベース当たりの断片(FPKM)の値) - log(ハウスキーピング遺伝子のFPKM値)。AP/Tスコア(すなわち平均値)は、次のようにして算出した:AP/Tスコア={R(XCR1)+R(CXCL9)+R(CXCL10)+R(CXCL11)}/4
【0088】
免疫組織化学的検査:
腫瘍組織におけるCD8α+T細胞の局在化を、CD8αの免疫組織化学染色によって評価した。腫瘍組織におけるPD-L1の発現を、PD-L1の免疫組織化学染色によって評価した。
【0089】
臨床試験の計画および評価:
OAKの試験計画が以前に報告されている(Rittmeyer A, Barlesi F, Waterkamp D, Park K, Ciardiello F, von Pawel J, et al., Lancet (London, England) 2017;389(10066):255-65)。全患者が、署名したインフォームドコンセントを提供し、試験は、医薬品の臨床試験の実施に関する基準のガイドラインおよびヘルシンキ宣言に全面的に従って行った。RNAシーケンシングによって腫瘍を転写プロファイリングするために、TruSeq RNA Access技術(Illumina(登録商標))を用いた。ベースライン時に、主に保管組織からRNA-シーケンシングデータを作成した。腫瘍遺伝子発現と臨床転帰の関係を解析するために、本実施例では、最も簡単な方法の1つとして、「AP/Tスコア」と呼ばれる、XCR1、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11の平均mRNAレベル、ならびにORRおよび全生存をそれぞれ選択した。
【0090】
統計学的解析:
マウスモデル実験において統計的有意性を評価するために、ウィルコクソン検定を用いてデータを解析した。2つの群の場合、P<0.05は有意差を示すとみなした。多数の群の場合、ホルム-ボンフェローニ法によってP値を調整した。受信者動作特性(ROC)曲線の作図を行い、ROC曲線下面積(AUC)を算出して、診断精度を評価し、試験した全パラメーターについてAUCを別々に比較した。OAK試験の臨床データを解析するために、BEPおよびそれらのサブグループにおいて層別化を行わずに単変量Cox比例ハザードモデルを用いて、治療群のOSを個別に比較した。P値にも95%CIにも多重性補正を適用しなかった。P値はすべて、両側である。P<0.05は有意差を示すとみなした。カプラン・マイヤー法を用いて、OS中央値を推定し、生存曲線を作図した。クラスカル・ワリス検定を用いてCR/PR群、SD群、およびPD群の遺伝子発現レベルを比較した。
【0091】
実施例1
腫瘍組織におけるPD-L1遺伝子発現による、抗PD-L1 mAbの抗腫瘍活性:
17種のマウス腫瘍モデルにおいて、PD-L1 mAbの抗腫瘍活性を調べた。PD-L1 mAbは、これらの腫瘍モデルのうちの6種において有意な抗腫瘍活性を示した。これら6種のモデルは感受性腫瘍に類別される。残りの11種の腫瘍モデルでは、PD-L1 mAbは有意な抗腫瘍活性を示さなかった。したがって、これらは非感受性腫瘍に類別される(図1A)。
PD-L1が腫瘍をPD-L1 mAb感受性またはPD-L1 mAb非感受性に分類する能力を調べるために、腫瘍試料におけるPD-L1 mRNA発現をRNAシーケンシングによって測定し、ROC曲線を解析した。感受性モデルでのPD-L1 mRNA発現レベルの範囲は広く、非感受性腫瘍モデルでの範囲と重なっていた。ROC曲線下面積(AUC)は0.848であった。ヨーデン指標によって示される最適カットオフポイントにおける特異度および感度は、それぞれ0.818および0.833であった(図1B)。
【0092】
実施例2
抗PD-L1 mAbは、PD-L1陰性かつ免疫砂漠に似た腫瘍モデルにおいて抗腫瘍活性を発揮した:
腫瘍内PD-L1 mRNA発現が、マウスモデルにおけるPD-L1 mAbの抗腫瘍活性を完全に予測することができなかった理由を調べるために、低PD-L1腫瘍モデルにおけるPD-L1 mAbの作用メカニズムを解析した。低PD-L1腫瘍モデルとして、抗PD-L1 mAb感受性として分類されているモデルのうちで最低の腫瘍内PD-L1 mRNA発現を示すFM3Aモデルを選択した(図1B)。
最初に、FM3A腫瘍の特徴を組織化学的に明らかにした。PD-L1免疫組織化学染色により、腫瘍組織中の細胞のほぼすべてが、別の感受性腫瘍であるColon38が部分的な陽性染色を示す条件下で陰性であることを示した(図2A)。CD8α免疫組織化学染色により、CD8α+T細胞はColon38腫瘍に浸潤するが、FM3A腫瘍にはCD8α+T細胞が非常にわずかであることが示された(図2B)。
次に、フローサイトメトリー解析を用いて、FM3A腫瘍中のF4/80+細胞は、PD-L1を発現するが腫瘍組織中に少数しか存在しないことが見出された(図2Cおよび2D)。腫瘍細胞(CD45-細胞)は、PD-L1をほとんど発現せず、腫瘍組織の大部分を構成していた(図2Cおよび2D)。これらの結果から、FM3A腫瘍がPD-L1陰性かつ免疫砂漠に似た表現型を有することが示される。
【0093】
実施例3
抗PD-L1 mAbは、リンパ節で既に起こっていたT細胞プライミングを強化した:
次に、FM3A腫瘍モデルにおけるPD-L1 mAbの抗腫瘍活性がT細胞に依存しているかどうかを調査した。CD8αまたはCD4が欠乏すると、PD-L1 mAbの抗腫瘍活性が無効になった(図3A)。PD-L1 mAbは、腫瘍内で、CD8α+細胞、Foxp3-CD4+細胞、およびFoxp3+CD4+細胞を含むT細胞集団を有意に増加させた(図3Bおよび3C)。PD-L1 mAbで処置した腫瘍におけるT細胞多様性のレベルを調べるために、シンプソンの多様度指数を用いてTCRレパートリーの多様性を評価した。PD-L1 mAbで処置した腫瘍におけるTCRαのバリエーションは対照腫瘍のものより小さく、TCRαレパートリーの特定の要素が、PD-L1 mAbで処置した腫瘍では増加した(図3D)。シンプソンの多様度指数は、対照群と比べてPD-L1 mAb処置群の方が有意に低いことが判明した(図3D)。
これらの結果から、PD-L1 mAb処置によって腫瘍反応性T細胞の比率が高められることが示唆された。したがって、腫瘍流入領域リンパ節およびT細胞プライミングでのPD-L1の役割に焦点を合わせた。最初に、リンパ節中の抗原提示DCにおけるPD-L1発現を調査した。CD103+CD11c+細胞は、リンパ節中でPD-L1を発現した(図4A、左)。
次に、リンパ節中のCD8+T細胞上でのPD-L1受容体(PD-1およびB7-1)の発現を解析した。ほとんどのCD8α+T細胞は、PD-1陰性かつB7-1陰性であるCD44-CD62L+ナイーブT細胞であったが、CD44+CD62L-CD8α+エフェクターT細胞の一部は、PD-1陽性かつ/またはB7-1陽性の細胞であった(図4A、右)。PD-L1 mAbは、B7-1+CD8α+T細胞、PD-1+CD8α+T細胞、およびB7-1+PD-1+CD8α+T細胞の数を増加させ、かつB7-1+CD8α+T細胞、PD-1+CD8α+T細胞、およびB7-1-PD-1-CD8α+T細胞のCD69+比率を高めた(図4B)。対照群のB7-1+PD-1+CD8α+T細胞のCD69+比率は、細胞数が少ないことが原因で検出することができなかった(図4B)。
次に、PD-L1 mAb処置期間中の腫瘍特異的T細胞応答を調査した。腫瘍流入領域リンパ節に由来するリンパ球を用いて、MBT2細胞(MHCを一致させた陰性対照細胞)によって刺激した場合と比べてFM3A細胞で刺激した場合の方が対照群のIFNγ産生が有意に増加し、かつ対照群と比べるとPD-L1 mAb群の方がIFNγ産生がさらに有意に増加することを見出した(図4C)。これらの結果から、FM3AモデルでのPD-L1 mAb処置前のベースライン時に腫瘍抗原提示およびT細胞プライミングがリンパ節で既に起こっていたが、抗原提示細胞の表面のPD-L1がT細胞プライミングを妨げており、PD-L1 mAbによってT細胞が解放されたことが示唆される(図6D)。
【0094】
実施例4
抗PD-L1 mAbにより、リンパ節中のCXCR3+活性化T細胞が増加し、その結果、腫瘍中で既に発現されているCXCR3リガンドへの応答を介して腫瘍へのT細胞トラフィッキングが起こる:
次に、FM3Aモデルのリンパ節および腫瘍における、PD-L1 mAb処置によるCD8+T細胞活性化の経時変化を解析した。PD-L1 mAb処置により、8日目に、リンパ節中のCD69+CD8α+T細胞の数および腫瘍中のこれらの細胞のパーセンテージが増加していた(図5A)。重要なことには、4日目には、PD-L1 mAb処置によりリンパ節中のこれらの細胞は増加していたが、腫瘍中では増加していなかった(図5A)。さらに、PD-L1 mAb処置により、リンパ節中のCXCR3+CD69+CD8α+、CXCR3+グランザイムB(GzmB)+CD8α+、およびCXCR3+Ki67+CD8α+T細胞の数が増加した(図5B)。FM3A腫瘍は、PD-L1 mAb処置に関わらず、CXCR3リガンド、特にCXCL9を発現した(図5C)。CXCR3 mAbは、PD-L1 mAb処置の結果として、活性化CD8α+T細胞が腫瘍中で増加するのを有意に防いだがリンパ節中ではそうではなく(図5D)、PD-L1 mAbの腫瘍増殖阻害を有意に弱めた(図5E)。対照的に、PD-L1 mAb処置に非感受性であるOV2944-HM-1モデルでは、腫瘍におけるCXCR3リガンドの発現がFM3Aモデルでの発現より低レベルであり、PD-L1 mAb処置によってリンパ節中のCD69+CD8α+T細胞の数は増加するが腫瘍中では増加しないことが確認された(図5F)。これらの結果から、PD-L1 mAbによって誘導されるリンパ節における活性化CD8+T細胞の増加と、腫瘍における活性化CD8+T細胞の増加の間のタイムラグは、リンパ節からCXCR3リガンドを発現する腫瘍への、T細胞のトラフィッキングに起因することが示された。
【0095】
実施例5
腫瘍組織中のクロスプレゼンテーションDCに関連する遺伝子の発現およびCXCR3リガンドの発現によって予測される、抗PD-L1 mAbの抗腫瘍活性:
リンパ節におけるT細胞プライミングを強化し腫瘍へのT細胞トラフィッキングを加速させることによる、PD-L1 mAb処置の抗腫瘍活性は、FM3Aモデルの次の2つの生物学的特徴によって説明がつくと思われる:(i)流入領域リンパ節中のT細胞への腫瘍抗原提示、および(ii)腫瘍におけるCXCR3リガンドの発現。
流入領域リンパ節中のT細胞への腫瘍抗原提示のためには、ひと続きの段階的事象が開始されなければならない(Chen DS, Mellman I., Immunity 2013;39(1):1-10)。第1の段階では、腫瘍中の腫瘍抗原が、プロセシングのために抗原クロスプレゼンテーション細胞(APC)によって捕捉される。XCR1 (Yamazaki C, et al., Journal of immunology (Baltimore, Md : 1950) 2013;190(12):6071-82; UniProtKB:P46094(ヒト);例えば、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 13に示されている)、Clec9a(Piva L, et al., Journal of immunology (Baltimore, Md : 1950) 2012;189(3):1128-32; UniProtKB:Q6UXN8(ヒト);例えば、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO: 6およびSEQ ID NO: 14に示されている)、Irf8(Tailor P, et al., Blood 2008;111(4):1942-5; UniProtKB:Q02556(ヒト);例えば、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO: 7およびSEQ ID NO: 15に示されている)、ならびにBatf3(Hildner K, et al., Science (New York, NY) 2008;322(5904):1097-100; UniProtKB:Q9NR55(ヒト);例えば、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO: 8およびSEQ ID NO: 16に示されている)が、APCのマーカーとして公知である。これらのAPCマーカーにより、腫瘍をPD-L1 mAb感受性またはPD-L1 mAb非感受性に分類する能力を調べるために、腫瘍中のこれらのmRNAを測定し、ROC曲線を用いてそれらを解析した。XCR1、Clec9a、Irf8、およびBatf3のAUC値は、それぞれ、0.894、0.621、0.742、および0.515であった(図6A)。これらの特異度/感度は、それぞれ0.818/0.833、0.727/0.667、0.818/0.667、および0.818/0.333であった。
次に、PD-L1 mAbの抗腫瘍活性とCXCR3リガンドの発現との関係を調べるために、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11のmRNA発現を測定し、ROC曲線を解析した。単一因子としての3種のCXCR3リガンド各々のAUC値はそれぞれ0.939、0.879、および0.833であり、これら3種の平均を用いて得られたAUC値は0.970であった(図6B)。3種のCXCR3リガンドの特異度/感度は、それぞれ1.000/0.833、0.818/0.833、および0.909/0.833であり、これら3種の平均を用いて得られた特異度/感度は0.909/1.000であった。したがって、任意の1つの因子についてのAUC、感度、および特異度は、完璧とは言えなかった。
感受性腫瘍は、特徴的な(i)流入領域リンパ節における腫瘍抗原提示、および特徴的な(ii)腫瘍におけるCXCR3リガンドの発現、の両方を、ベースライン時に示すであろうと考えられた。したがって、本発明者らは、組合せバイオマーカー、すなわち、XCR1およびCXCR3リガンドの発現平均と定義される、抗原提示に関係する遺伝子発現とT細胞誘因に関係する遺伝子発現とを組み合わせたバイオマーカー(AP/Tスコア)を作り、実施した。AP/TスコアのAUC、感度、および特異度は、それぞれ1.000に達した(図6C)。
【0096】
実施例6
AP/Tスコア、すなわち上記で定義した、XCR1およびCXCRリガンドの遺伝子発現レベルの組合せの予測性を、OAK臨床試験第3相のデータを用いてレトロスペクティブに評価した:
XCR1発現およびCXCR3リガンド発現の組合せが前臨床モデルにおける有効性に関連していることを実証したので、同様に、このAP/Tスコア、すなわち、XCR1、CXCL9、CXCL10、およびCXCL11の発現平均の有用性を、第3相臨床試験であるOAK試験において得られた患者組織の遺伝子発現データにもこれを適用することによって試験した。AP/Tスコアは、CP/PRに達したアテゾリズマブ治療患者のみで高く(図7A)、そのような傾向はドセタキセル群では認められなかった。さらに重要なことには、OAK試験において、バイオマーカーで評価可能な集団(BEP)と比べて改善した有利なOSが、3つのスコアカットオフポイント(30パーセンタイルを上回るかまたは等しい、50パーセンタイルを上回るかまたは等しい、および70パーセンタイルを上回るかまたは等しい)のすべてについて観察された(図7B)。AP/Tスコアが50パーセンタイルカットオフポイントを上回るかまたは等しいサブグループにおいて、OSハザード比(HR)は、0.76(95%CI:0.59~0.97);P=0.031)であり、BEPのものより数値的に低かった。OS中央値は、アテゾリズマブ治療群またはドセタキセル治療群においてそれぞれ15.0ヶ月および11.1ヶ月であった。AP/Tスコアが高い(50パーセンタイルを上回るかまたは等しい)患者は、ドセタキセルよりもアテゾリズマブによってOSが有意な恩恵を受けるが、AP/Tスコアが低い(50パーセンタイルを下回る)患者では、有意な差は観察されなかった。アテゾリズマブ群の高AP/Tサブグループおよび低AP/Tサブグループ(50パーセンタイルで分割)の推定OS中央値は15.0および11.8であったのに対し、ドセタキセル群の推定OS中央値はそれぞれ11.1および9.8であった(図7C、7D)。
【0097】
産業上の利用可能性
抗PD-L1 mAbが、dLNおよび腫瘍部位においてPD-L1を妨害することにより抗腫瘍活性を発揮することが示された。このことが、PD-L1発現がわずかである患者でPD-L1抗体が有効であることの論理的根拠になるであろう。さらに、腫瘍抗原提示に関係する遺伝子発現と、活性化されたT細胞トラフィッキングに関係する遺伝子発現とを組み合わせる新規なバイオマーカーは、アテゾリズマブへの応答の予測を与えることが実証された。これらのデータは、dLNにおける活性に焦点を合わせたこの新規なアプローチによって、腫瘍部位のみでの活性に焦点を合わせた従来のバイオマーカーよりも、抗PD-1抗体もしくはアテゾリズマブなどの抗PD-L1抗体、またはさらに範囲を広げて免疫チェックポイント阻害剤に対する優れた予測バイオマーカーが提供されるであろうことを示している。
図1
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図6A
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図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
【配列表】
2023517487000001.app
【国際調査報告】