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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】フィルター
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20230419BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20230419BHJP
   A61L 9/015 20060101ALI20230419BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20230419BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20230419BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230419BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230419BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20230419BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20230419BHJP
   B01D 39/14 20060101ALI20230419BHJP
   B01D 46/10 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
B01D39/20 C
A61L9/01 F
A61L9/01 J
A61L9/015
A61L9/16 F
A61L9/16 Z
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
B01D71/48
B01D39/14 E
B01D39/14 Z
B01D46/10 A
B01D46/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552499
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-21
(86)【国際出願番号】 GB2021050684
(87)【国際公開番号】W WO2021186189
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】2004083.8
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】522087774
【氏名又は名称】キュー-フロー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Q-FLO LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100228120
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 蓮太朗
(72)【発明者】
【氏名】リロン イスマン
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン グレイヴス
(72)【発明者】
【氏名】ジェロニモ テッローネス
(72)【発明者】
【氏名】シュキ イエシュラン
(72)【発明者】
【氏名】メイア ヘフェッツ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ピック
(72)【発明者】
【氏名】アダム ボイス
【テーマコード(参考)】
4C180
4D006
4D019
4D058
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180DD01
4C180DD02
4C180DD03
4C180DD05
4C180DD08
4C180DD09
4C180DD20
4C180EA17X
4C180EA19X
4C180EA57X
4C180EB03X
4C180GG03
4C180HH01
4C180HH05
4C180MM08
4C180MM09
4C180MM10
4D006GA44
4D006HA41
4D006HA91
4D006JA08A
4D006JA08C
4D006JA08Z
4D006JA51Z
4D006KA31
4D006KA33
4D006KB01
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4D006KB30
4D006KD21
4D006KD23
4D006KD30
4D006MA03
4D006MA04
4D006MA09
4D006MA21
4D006MA40
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4D006MC05
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4D006PB17
4D006PB55
4D006PC41
4D006PC73
4D006PC80
4D019AA01
4D019BA03
4D019BA06
4D019BA13
4D019BB02
4D019BB03
4D019BB08
4D019BC06
4D019BC13
4D019BD01
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4D019CB03
4D019CB04
4D019CB06
4D058JA02
4D058JA12
4D058JB04
4D058JB14
4D058JB22
4D058JB39
4D058JB46
4D058SA13
4D058SA20
4D058TA08
4D058UA01
4D058UA30
(57)【要約】
本発明は、空気中に浮遊するウイルスの分離に有用な不織カーボンナノチューブの自立体を備えるフィルターに関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームワークと、
フレームワーク上又はフレームワーク内に取り付けられた不織カーボンナノチューブの自立体と、を備える、空気中に浮遊するウイルスを分離できるフィルター。
【請求項2】
前記ウイルスを不活性化する手段をさらに備える、請求項1に記載のフィルター。
【請求項3】
前記ウイルスを不活性化する前記手段が、前記不織カーボンナノチューブの自立体内で、電場を発生させるための電場発生器を備える、請求項2に記載のフィルター。
【請求項4】
前記電場発生器がAC電源である、請求項3に記載のフィルター。
【請求項5】
前記ウイルスを不活性化する前記手段が、前記不織カーボンナノチューブの自立体内で熱を発生させるための熱発生器を備える、請求項2に記載のフィルター。
【請求項6】
前記ウイルスを不活性化する前記手段が、化学的手段である、請求項2に記載のフィルター。
【請求項7】
前記不織カーボンナノチューブの自立体が、不織カーボンナノチューブの単層である、請求項1から6のいずれか一項に記載のフィルター。
【請求項8】
前記不織カーボンナノチューブの自立体が、積層体である、請求項1から6のいずれか一項に記載のフィルター。
【請求項9】
前記積層体が二重層である、請求項8に記載のフィルター。
【請求項10】
前記二重層が、不織カーボンナノチューブの層及び多孔質絶縁材料の層である、請求項9に記載のフィルター。
【請求項11】
前記多孔質絶縁材料がポリエステルである、請求項10に記載のフィルター。
【請求項12】
前記不織カーボンナノチューブの自立体の面密度が、0.1gm-2から14gm-2の範囲内である、請求項1から11のいずれか一項に記載のフィルター。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載のフィルターを備える、空気処理装置。
【請求項14】
エアコン、空気清浄機、空気加湿器、人工呼吸器、換気装置、呼吸用保護具、マスク、又は呼吸装置である、請求項13に記載の空気処理装置。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の不織カーボンナノチューブの自立体、又は請求項1から14のいずれかに記載のフィルターの、空気中に浮遊するウイルスの分離における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター、該フィルターを備える空気処理装置、及び空気中に浮遊するウイルスの分離における不織カーボンナノチューブの自立体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中に浮遊するウイルスの存在は、公衆衛生に対する一般的なリスクである。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされた世界的規模のパンデミックは、人命及び世界経済の両方に壊滅的な影響を与えている。長期間にわたってこれに対抗するために、ウイルスの拡散する主な媒介物を制限することにより病気の伝染を妨がなければならない。呼吸液体エアロゾル(液滴直径≦5μm)は、コロナウイルスなどの多くのウイルスの重要な主な媒介物であると考えられており、これは、咳、会話及び呼吸中の呼気により生成される。サージカルマスク及び人工呼吸器は、そのようなウイルスに対してわずかな保護しかもたらさないかもしれない。
【0003】
肺に侵入できる呼吸粒子は、何時間も漂ったままでいることができ、また、移流や拡散によって数十メートルにわたって移動もできるため、屋内環境において危険をもたらす。これらのエアロゾルは、密閉空間及び密集空間で高い感染率をもたらす活性SARS-CoV-2ウイルス粒子を、少なくとも三時間含むことができる。これらのリスクを軽減するために、換気の悪い(一時間当たりの換気回数<3)環境又は再空気循環が主な環境における空気ろ過が、病気の拡大を制限する手段として提案されている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、不織カーボンナノチューブの自立体が、空気中を浮遊しているウイルスの望ましい分離機能を有するという認識に基づいている。特に、不織カーボンナノチューブの自立体は、低い静圧損失で高いガス流動が可能でありながら、(例えばウイルスの捕集や不活性化により)ウイルス粒子の環境濃度を低下させる。それゆえ、不織カーボンナノチューブの自立体を組み込んだフィルターは、低い圧力降下でありながら、高いエアロゾルろ過効率を達成できる。「スリップ」機構により表面積を増加させること及びガス流量の抗力をより下げることができることで、ナノチューブの表面上で速度がゼロでなくなる。そのため、ナノチューブの直径がより小さいと、フィルターの性能がより良くなる。
【0005】
第一の態様を見ると、本発明は、空気中に浮遊するウイルスを分離できるフィルターを提供し、該フィルターは、
フレームワークと、
フレームワーク上又はフレームワーク内に取り付けられた不織カーボンナノチューブの自立体と、を備える。
【0006】
不織カーボンナノチューブの自立体を容易に形成できることにより、効果的な空気フィルター中での配置が容易になる。厚さ、(製造工程による)力学的性質、形状及び(例えばコーティングによる)表面化学特性を最適にできると、不織カーボンナノチューブの自立体は、多用途で、費用対効果が高い、高性能の空気中に浮遊するウイルスのバリアソリューションとなる。
【0007】
フレームワークは、硬くてもよいし、柔らかくてもよい。不織カーボンナノチューブの自立体は、硬くてもよいし、柔らかくてもよい。
【0008】
フィルターは、モジュール(例えばカートリッジ)であってもよい。この目的のためには、フレームワークは硬い。フィルターは、空気処理装置の一部(例えば取り付け可能又は取り付けられる)であってもよい。空気処理装置は、エアコン、空気清浄機又は空気加湿器などの非医療用機器であってもよいし、或いはマスク、人工呼吸器、換気装置、呼吸用保護具又は呼吸装置などの医療用機器であってもよい。
【0009】
フィルターは、顔に装着できてもよい。フィルターは、マスク(例えばサージカルマスク、フルフェイスマスク又はハーフフェイスマスク)、ヘルメット、フード又はひさしであってもよい(或いはこれらの一部であってもよい)。
【0010】
フレームワークは、柔らかくてもよい。柔らかいフレームワークを、調節してもよいし、顔のパーツに取り付けるように調節可能であってもよい。
【0011】
不織カーボンナノチューブの自立体は、顔に装着できてもよいし(例えば人の顔に装着できてもよい)、頭に装着できてもよい(例えば人の頭に装着できてもよい)。不織カーボンナノチューブの自立体は、顔のパーツ(例えば人の顔のパーツ)に合うように形成してもよいし、又は頭のパーツ(例えば人の頭のパーツ)に合うように形成してもよい。不織カーボンナノチューブの自立体は、顔にぴったり合ってもよい。
【0012】
不織カーボンナノチューブの自立体は、不織カーボンナノチューブの単層であることが好ましい。
【0013】
不織カーボンナノチューブの自立体は、積層体であることが好ましい。不織カーボンナノチューブの複数の層を、互いにかみ合わせてもよい。不織カーボンナノチューブの複数の層を、多孔質絶縁材料の複数の層と交互に配置してもよい。
【0014】
積層体は、二重層であることが特に好ましい。該二重層が、不織カーボンナノチューブの層と多孔質絶縁材料の層であることがより好ましい。
【0015】
多孔質絶縁材料は、ポリエステルであることが好ましい。
【0016】
好ましい実施形態において、フィルターは、
ウイルスを不活性化するための手段をさらに備える。
【0017】
ウイルスを不活性化するための手段は、電磁波照射、電気照射、マイクロ波照射、赤外線(熱)照射、紫外線照射、ガンマ線照射又は化学的手段であってもよい。
【0018】
化学的手段は、気体又は液体の供給源であってもよい。化学的手段は、塩素、二酸化塩素、オゾン、ホルムアルデヒド又はグルタルアルデヒドの供給源であってもよい。化学的手段は、高pH試薬又は低pH試薬の供給源であってもよい。
【0019】
ウイルスを不活性化する手段は、不織カーボンナノチューブの自立体内で、電場を発生させるための電場発生器を備えることが好ましい。
【0020】
電場は、低電圧電場(mV/cm)であってもよいし、高電圧電場(kV/cm)であってもよい。電場発生器は、容量モード又は抵抗モードで操作可能なDC電源又はAC電源であってもよい。DC電源又はAC電源は、抵抗を取り付けた電気回路内にあってもよいし、抵抗を取り付けていない電気回路内にあってもよい。
【0021】
電場発生器は、AC電源であることが好ましい。
【0022】
AC電源は、0.3Vから6.0Vの範囲内のAC電圧を印加できてもよい。AC電源は、10Hzから20MHzの範囲内の周波数でAC電圧を印加できてもよい。AC電源は、低周波(例えば50Hzから500Hzの範囲内の周波数)でAC電圧を印加できてもよい。AC電源は、高周波(例えば10MHzから20MHzの範囲内の周波数)でAC電圧を印加できてもよい。
【0023】
CNTが高いAC周波数で電流を流すことができることにより、フィルターに捕集されたウイルス分子と印加されたAC電流の間のカップリングが可能になる。マイクロ波領域の十分高い周波数(例えば8.3GHz)で、双極子カップリングは、ウイルスの不活性化を引き起こす。
【0024】
DC電源は、0.1Vから50Vの範囲内のDC電圧を印加できてもよく、0.6Vから3.0Vの範囲内のDC電圧を印加できることが好ましい。DC電源は、カソードであってもよいし又はアノードであってもよい。DC電源は、パルスDCを印加できてもよい。DC電源は、静的なDC電圧を印加できてもよい。DC電源は、周期的に反転するDC電圧を印加できてもよい。DC電源は、固定極性のパルス電圧を印加できてもよい。DC電源は、交互に反転する極性のパルス電圧を印加できてもよい。
【0025】
電場発生器は、ACの供給源及びDCの供給源であってもよい。電場発生器は、AC電源及びDC電源であってもよい。電場発生器は、ACとDCの間で切り替え可能であってもよい。
【0026】
ウイルスを不活性化する手段は、不織カーボンナノチューブの自立体内で熱(例えば抵抗熱)を発生させるための熱発生器を備えることが好ましい。
【0027】
熱発生器は、不織カーボンナノチューブの自立体の温度をウイルスの不活性化温度(例えば≧80℃)まで上昇させることができてもよい。
【0028】
ウイルスは、エアロゾル化したウイルス(例えばエアロゾル又は飛沫で伝染するウイルス)であってもよい。ウイルスは、コロナウイルス、AAV、Nora、ワクシニア、HSVヘルペス、インフルエンザ又はMHV PRRSVであってもよい。ウイルスは、コロナウイルス(例えばCOVID-19)であることが好ましい。
【0029】
不織カーボンナノチューブの自立体は、もとのままであってもよいし、又は官能化されていてもよい。
【0030】
不織カーボンナノチューブの自立体は、疎水性であってもよいし、又は親水性であってもよい。
【0031】
不織カーボンナノチューブの自立体は、繊維状であってもよい。例えば不織カーボンナノチューブの自立体は、繊維、ワイヤー、フィルム、リボン、より糸、シート、プレート、メッシュ又はマットであってもよい。
【0032】
不織カーボンナノチューブの自立体は、実質的に平面であってもよい。不織カーボンナノチューブの自立体は、実質的に環状であってもよい。不織カーボンナノチューブの自立体は、実質的に円筒状であってもよい。
【0033】
不織カーボンナノチューブの自立体は、コーティングされていてもよいし、コーティングされていなくてもよい。
【0034】
不織カーボンナノチューブの自立体は、ポリマー(例えば導電性ポリマー又は非伝導性ポリマー)でコーティングされていてもよい。ポリマーは、熱可塑性ポリマーであってもよいし、熱硬化性ポリマーであってもよい。
【0035】
不織カーボンナノチューブの自立体は、金属又は金属酸化物でコーティングされてもよい。該金属酸化物は、酸化銅であってもよい。
【0036】
好ましい実施形態において、不織カーボンナノチューブの自立体は、非導電性ポリマーでコーティングされる。該非導電性ポリマーは、フッ素ポリマーであることが好ましい。さらに好ましくは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はそのコポリマー若しくはそのターポリマーである。
【0037】
不織カーボンナノチューブの自立体の面密度は、60gm-2以下であってもよい。不織カーボンナノチューブの自立体の面密度は、30cm-2以下が好ましい。不織カーボンナノチューブの自立体の面密度は、20cm-2以下が特に好ましい。
【0038】
好ましい実施形態において、不織カーボンナノチューブの自立体の面密度は、0.1gm-2から14gm-2の範囲内である。
【0039】
不織カーボンナノチューブの自立体の表面は、実質的に一様であってもよい。不織カーボンナノチューブの自立体の表面は、一様でなくてもよい。例えば不織カーボンナノチューブの自立体の表面は、ひだ状であってもよいし、波形であってもよく、又は波状であってもよい。
【0040】
不織カーボンナノチューブの自立体の厚さは、最大20%まで変化することが好ましい。
【0041】
不織カーボンナノチューブの自立体には、ポリマーコアが設けられていてもよい。該ポリマーコアは、エラストマーコア又は熱硬化性ポリマーコア若しくは熱可塑性ポリマーコアであってもよい。
【0042】
好ましい実施形態において、不織カーボンナノチューブの自立体は、一組の相隔たる電極に取り付けられてもよい。
【0043】
典型的に、フィルターは、5kPa-1から40kPa-1の範囲内のフィルタークオリティファクターを示す。
【0044】
不織カーボンナノチューブの自立体は、
(a)金属触媒又は金属触媒の前駆体のフローを、温度制御された流通式反応器に導入することと、
(b)炭素源のフローを温度制御された流通式反応器に導入することと、
(c)金属触媒又は金属触媒の前駆体及び炭素源を、微粒子金属触媒を発生させること及びカーボンナノチューブを生成させるのに十分な温度帯に曝すことと、
(d)温度制御された流通式反応器の排出口を通じて、連続排出物としてカーボンナノチューブを移動させることと、
(e)不織カーボンナノチューブの自立体の形で又は調節可能な形で連続排出物を収集することと、
を含むプロセスから得ることができるか又は得られることが好ましい。
【0045】
典型的に、微粒子金属触媒はナノ粒子金属触媒である。ナノ粒子金属触媒のナノ粒子は、1nmから50nm(好ましくは1nmから10nm)の範囲内の平均直径(数平均直径、体積平均直径又は表面平均直径)であることが好ましい。ナノ粒子金属触媒の粒子の80%以上は、30nmより小さい直径であることが好ましい。ナノ粒子金属触媒の粒子の80%以上は、12nmより小さい直径であることが特に好ましい。微粒子金属触媒の濃度は、10から1010個cm-3の範囲内であってもよい。
【0046】
典型的に、金属触媒は、アルカリ金属、遷移金属、希土類元素(例えばランタニド)及びアクチニドからなる群の一つ又は複数である。金属触媒は、遷移金属、希土類元素(例えばランタニド)及びアクチニドからなる群の一つ又は複数であることが好ましい。
【0047】
金属触媒は、Fe、Ru、Co、W、Cr、Mo、Rh、Ir、Os、Ni、Pd、Pt、Ru、Y、La、Ce、Mn、Pr、Nd、Tb、Dy、Ho、Er、Lu、Hf、Li、及びGdからなる群のうちの少なくとも一つであることが好ましい。金属触媒は、鉄であることが好ましい。
【0048】
金属触媒の前駆体は、金属錯体又は有機金属化合物であってもよい。例は、ペンタカルボニル鉄、フェロセン又はフェロセニル誘導体(例えばフェロセニル硫化物)を含む。
【0049】
金属触媒の前駆体は、硫黄を含有することが好ましい。硫黄を含有する金属触媒の前駆体は、カーボンナノチューブの成長を促進し得る。
【0050】
金属触媒の前駆体は、硫黄含有有機金属であることが好ましい。金属触媒の前駆体は、硫黄含有鉄有機金属であることが特に好ましい。金属触媒の前駆体は、硫黄含有フェロセニル誘導体であることがより好ましい。さらに、金属触媒の前駆体は、モノ-(メチルチオ)フェロセン又はビス-(メチルチオ)フェロセンであることがより好ましい。
【0051】
金属触媒又は金属触媒の前駆体の流量は、1g/時間から50g/時間(例えば約7g/時間)であってもよい。
【0052】
金属触媒又は金属触媒前駆体は、硫黄含有添加剤と共に、ステップ(a)で導入してもよい。硫黄含有添加剤は、カーボンナノチューブの成長を促進し得る。硫黄含有添加剤は、チオフェン、硫化鉄、硫黄含有フェロセニル誘導体(例えば硫化フェロセニル)、硫化水素、又は二硫化炭素であってもよい。
【0053】
好ましい実施形態において、硫黄含有添加剤は、チオフェン又は二硫化炭素である。硫黄含有添加剤は、チオフェンであることが特に好ましい。
【0054】
好ましい実施形態において、金属触媒の前駆体は、任意で硫黄含有添加剤(好ましくは、チオフェン又は二硫化炭素)を加えたフェロセンである。
【0055】
硫黄含有添加剤の流量は、0.1g/時間から10g/時間(例えば約5g/時間)であってもよい。
【0056】
ステップ(a)で導入される金属触媒又は金属触媒の前駆体は、気体状、液体状又は固体状であってもよい。金属触媒又は金属触媒の前駆体は、非金属触媒改質剤又はその前駆体と共にステップ(a)で導入してもよい。非金属触媒改質剤は、カルコゲン含有物(例えば硫黄含有物)であってもよい。
【0057】
金属触媒又は金属触媒前駆体が金属種(例えば原子、ラジカル又はイオン)に変化する熱分解又は熱解離により、微粒子金属触媒の発生をステップ(c)で開始させてもよい。ステップ(c)での微粒子金属触媒の発生は、金属種が核形成した金属種(例えばクラスター)に変化する核形成を含んでもよい。微粒子金属触媒の発生は、核形成した金属種が微粒子金属触媒に変化する成長を含んでもよい。
【0058】
金属触媒又は金属触媒の前駆体を、ステップ(a)において、線形流路、軸方向流路、渦状流路、らせん状流路、薄板状流路又は乱流路で導入(例えば注入)してもよい。金属触媒又は金属触媒の前駆体を、複数の位置で導入してもよい。
【0059】
ステップ(a)では、金属触媒又は金属触媒の前駆体を、軸方向で又は半径方向で、温度制御された流通式反応器に導入してもよい。金属触媒又は金属触媒の前駆体を、プローブ又は注入器を通じて軸方向で導入してもよい。
【0060】
金属触媒又は金属触媒の前駆体は、搬送ガスとの混合物であってもよい。搬送ガスは、典型的に、窒素、アルゴン、ヘリウム又は水素のうちの一つ又は複数である。搬送ガスと混合された金属触媒又は金属触媒の前駆体の質量流は、通常、10 lpmから30 lpmの範囲内である。
【0061】
ステップ(b)の前に、炭素源を加熱してもよい。
【0062】
ステップ(b)の前に、炭素源は、赤外線エネルギー、可視光エネルギー、紫外線エネルギー又はX線エネルギーによる放射熱伝達を受けてもよい。
【0063】
ステップ(b)において、炭素源を、線形流路、軸方向流路、渦状流路、らせん状流路、薄板状流路又は乱流路で導入(例えば注入)してもよい。
【0064】
ステップ(b)において、炭素源を、軸方向又は半径方向で、温度制御された流通式反応器に導入してもよい。炭素源を、プローブ又は注入器を通じて、軸方向で導入してもよい。炭素源を、複数の位置で導入してもよい。炭素源は、一以上のヘテロ原子(例えば酸素)により任意で割り込まれた、任意で置換された及び/又は任意で水酸化された芳香族炭化水素若しくは脂肪族炭化水素、非環式炭化水素若しくは環式炭化水素(例えばアルキン、アルカン又はアルケン)であってもよい。好ましくは、任意でハロゲン化されたC1-6炭化水素(例えばメタン、プロパン、エチレン、アセチレン又はテトラクロロエチレン)、任意でモノ置換、ジ置換又はトリ置換されたベンゼン誘導体(例えばトルエン)、又はC1-6アルコール(例えばエタノール)である。
【0065】
炭素源は、任意で(しかし好ましくは)一以上のヘテロ原子(例えば酸素)で任意で割り込まれた、任意で置換された及び/又は任意で水酸化された芳香族炭化水素若しくは脂肪族炭化水素、非環式炭化水素若しくは環式炭化水素(例えばアルキン、アルカン又はアルケン)の存在下におけるメタンである。
【0066】
炭素源は、メタン、エチレン又はアセチレンなどのC1-6炭化水素であってもよい。
【0067】
炭素源は、エタノール又はブタノールなどのアルコールであってもよい。
【0068】
炭素源は、ベンゼン又はトルエンなどの芳香族炭化水素であってもよい。
【0069】
好ましい実施形態において、炭素源は、任意でプロパン又はアセチレンの存在下におけるメタンである。
【0070】
炭素源の流量は、50sccmから30000sccmの範囲内(例えば2000sccm)であってもよい。典型的には、ステップ(b)において、炭素源を、ヘリウム、水素、窒素又はアルゴンなどの搬送ガスと共に導入する。
【0071】
搬送ガスの流量は、1000sccmから50000sccmの範囲内(例えば3000sccm)であってもよい。好ましい実施形態においては、ステップ(a)とステップ(b)は同時に起こる。この目的のためには、金属触媒又は金属触媒の前駆体は、炭素源中に浮遊しているか又は溶解していることが好ましい。金属触媒又は金属触媒の前駆体及び硫黄含有添加剤は、炭素源中に浮遊しているか又は溶解していることが特に好ましい。例えばフェロセン及びチオフェンを、ブタノール、エタノール、ベンゼン又はトルエンなどの有機溶媒に溶解させてもよく、溶液を、温度制御された反応器に導入(例えば注入)してもよい。
【0072】
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ及び/又は多層カーボンナノチューブであってもよい。ステップ(c)において、カーボンナノチューブの構造は、3D連続網目形状を取ってもよい(例えばエアロゲル)。
【0073】
温度制御された流通式反応器は、円筒形状であってもよいし、又は他の形状であってもよい。温度制御された流通式反応器は、実質的に縦型であってもよいし、又は横型であってもよい。温度制御された流通式反応器は、実質的に横型であることが好ましい。
【0074】
温度制御された流通式反応器の壁は、水、液体窒素又は液体ヘリウムなどの冷却液に曝すことで、選択的に冷却してもよい。
【0075】
温度制御された流通式反応器は、軸方向温度勾配をもたらすように調節してもよい。軸方向勾配は、一様でなくてもよい(例えば段階的)。温度制御された流通式反応器の温度は、抵抗加熱、プラズマ又はレーザーにより制御してもよい。
【0076】
温度制御された流通式反応器における温度は、実質的に放物線状になることが好ましい。
【0077】
微粒子金属触媒を発生させるのに十分な及びカーボンナノチューブを生成するのに十分な温度帯は、少なくとも600℃から1300℃の範囲に及んでもよい。
【0078】
温度制御された流通式反応器は、噴射ノズル、ランス、プローブ又は複数開口部の注入器(例えばシャワーヘッド注入器)により反応物を導入するように調節してもよい。
【0079】
ステップ(d)を、機械力、静電気力又は磁力によって実行してもよい。
【0080】
ステップ(e)を、機械的に実行してもよい。例えば、ステップ(e)を回転スピンドル又はドラム上で実行してもよい。
【0081】
プロセスは、不織カーボンナノチューブの自立体を、切断すること、細断すること、成形すること、より合わせること、平らにすること、伸ばすこと、広げること、平行に配列すること、結合させること、加熱すること、振動させること、又は補強することをさらに含んでもよい。
【0082】
プロセスは、不織カーボンナノチューブの自立体を、化学的に変化させることをさらに含んでもよい。
【0083】
プロセスは、不織カーボンナノチューブの自立体を、(例えば1.5から2.5の範囲のファクターで)高密度化することをさらに含んでもよい。典型的には、高密度化に続いて空気乾燥をする。高密度化を、有機液体中で行ってもよい。好ましい有機液体は、アセトン又はメタノールである。
【0084】
プロセスは、不織カーボンナノチューブの自立体を、コーティングすることをさらに含んでもよい。
【0085】
不織カーボンナノチューブの自立体の電気伝導度は、10S/mから10S/mの範囲内であることが好ましく、10000S/mから80000S/mの範囲内であることが特に好ましい。
【0086】
ステップ(e)の時間を変化させることによって、不織カーボンナノチューブの自立体の面密度を変化させてもよい。
【0087】
プロセスは、不織カーボンナノチューブの自立体を、機械的に伸ばすことをさらに含んでもよい。
【0088】
不織カーボンナノチューブの自立体の平均細孔径は、75nmから150nmの範囲内であることが好ましい。
【0089】
不織カーボンナノチューブの自立体の細孔径分布は、75nmから150nmの範囲内であることが好ましい。
【0090】
ステップ(e)を、ボビン上で実行してもよい。ボビンは、積層体の形状(例えば二重層)の、不織カーボンナノチューブの自立体を形成するための多孔質絶縁材料で覆われていてもよい。
【0091】
さらなる態様を見ると、本発明は、前で記載したフィルターを備える空気処理装置を提供する。
【0092】
空気処理装置は、非医療用であってもよいし、医療用であってもよい。
【0093】
空気処理装置は、エアコン、空気清浄機、空気加湿器、人工呼吸器、換気装置、呼吸用保護具、マスク、フード又は呼吸装置であってもよい。
【0094】
フィルターは、フィルタリングされる気流を移動可能であってもよい。フィルターは、ベルト形状であってもよい。ベルトを、非線形配置(例えば蛇行配置)で、複数のローラー上に取り付けてもよい。
【0095】
フィルターを通して気流を移動させてもよい。例えば空気処理装置は、フィルターを通して気流を移動させるためのブロワ(例えば扇風機)をさらに備えてもよい。気流は、再循環してもよい。
【0096】
マスクにおいて、不織カーボンナノチューブの自立体は、積層体(例えば二重層)であってもよい。不織カーボンナノチューブの層を、互いにかみ合わせてもよい。不織カーボンナノチューブの複数の層を、多孔質絶縁材料の層と交互に配置してもよい。
【0097】
マスクにおいては、典型的に、不織カーボンナノチューブの自立体は、親水性である。
【0098】
エアコンにおいては、典型的に、不織カーボンナノチューブの自立体は、親水性である。
【0099】
他のさらなる態様を見ると、本発明は、前で記載した不織カーボンナノチューブの自立体、又は前で記載したフィルターの、空気中に浮遊するウイルスの分離における使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0100】
ここで、本発明を、添付の図を参照して限定しない程度に説明する。
図1】不織CNT材料のシートのろ過効率を示す。
図2】本発明によるフィルターの第一の実施形態の断面図である。
図3】本発明によるフィルターの第二の実施形態の断面図である。
図4】本発明によるフィルターの第三の実施形態の平面図である。
図5】本発明の第四の実施形態であるハイブリッドCNTフィルターに関する。(a)ハイブリットCNTフィルターを原位置で製造するためのポリエステルバッキングで覆われた捕集ボビンを使用する、適合した直接紡糸方法。(b)ハイブリッドCNTフィルターのコンセプトを示す図である。ハイブリッドCNTフィルターは、SARS-CoV-2ウイルス粒子とそれらを含むエアロゾルを保持することができ、二つの電極間に電位を印加することにより発生した抵抗加熱によって、能動的に殺菌することができる。(c)(i)マイクロメートルの薄いCNTマットから作製した上層、(ii)多孔質ポリエステルから作製した下層、(iii)バックライトにより明らかになったハイブリッドCNTフィルターの微細構造を示す写真である。
図6】CNTフィルターのパーミッタンスと濾過効率である。(a)面密度の関数としてのパーミッタンス(青色の円、左軸)及び通過率(赤色の四角、右軸)である。通気度傾向線(青色)は、傾き-0.946であり、理論値-1とよく一致する。通過率の値は、面密度によりわずかに異なり、0.1gm-2材料のみ微視的欠陥に関係する増加を示している。(b)CNTフィルター(0.1gm-2材料は別とする)が、「U」字型のプロファイルを表さずに、全粒子範囲にわたって一定の濾過効率を表すことを示す、粒子径の関数としての濾過効率である。ろ過効率は、H13クラスHEPAフィルターと同等である。FFP3マスク材料は、実験的にも(灰色の実線)、理論的にも(灰色の点線)、数百ナノメートルの範囲の最大通過粒子径(MPPS)で、標準的な「U」字型の挙動を示す。(c)Agナノ粒子(5~120nm)エアロゾルの濾過後のCNTフィルター表面を示すSEM画像である。ブラウン運動によって、見えている細孔径より小さいナノ粒子でさえも効率的に保持できる(スケールバー、500nm)。(d)フィルター表面に堆積したポリスチレンマイクロビーズ(2μm)を示すSEM画像である。微小粒子はフィルターの細孔径よりもかなり大きく、機械的に篩にかけられる(スケールバー、2μm)。エラーバーは少なくとも三つの異なる試料を使用した標準偏差を示す。
図7】CNTフィルターの電熱挙動である。(a)電熱実験に使用した特注の加熱治具である。本設計により、様々な寸法のCNT試料ストリップを使用でき、両端の電気接触を強固なものにできた。(b)面電力密度の関数としての温度上昇(ΔT)は、この温度範囲で線形相関を示す。7gm-2自立CNTフィルター及び0.2gm-2ポリエステルで裏打ちされたハイブリッドCNTフィルターについて、傾きは、それぞれ242.01℃cm-1及び272.96℃cm-1である。点線で縁取られた領域は、90%のデータ点を囲む(0.2gm-2ハイブリッドCNTフィルターについては±4.65℃、7gm-2自立CNTフィルターについては±4.42℃)。(c)赤外線画像により示されるフィルターの面加熱の均一性は、均質パターンを明らかにする(差し込み図)。ピクセル単位の温度分析により作製したヒストグラムは、7gm-2自立CNTフィルター(赤色のバー)及び0.2gm-2ハイブリッドCNTフィルター(青色のバー)について、それぞれ標準偏差3℃及び6℃の場合において、平均温度値82℃を示す。温度130℃に設定した0.2gm-2ハイブリッドCNTフィルター(暗い赤色のバー)は、100℃より冷たい領域にないことが示されている。(d)加熱応答時間は、0.2gm-2ハイブリッドCNTフィルターを30℃から70℃まで加熱するのに、3.54±0.24秒かかるが(赤色の線)、7gm-2自立CNTフィルターを同じようにするのに0.48±0.24秒しかかからないことを示している(青色の線)。設定値を130℃まで上昇させることによって(暗い赤色の線)、0.2gm-2ハイブリッドCNTフィルターは、7gm-2自立CNTフィルターで示される応答速度と同等の応答速度を示す。
図8】熱曝露によるウイルス感染価である。結果は、様々な温度に加熱するか又は異なる時間加熱したCNTマット上での、動物コロナウイルスの残存感染レベルを示している。(a)5μLウイルス含有液滴を90秒間加熱した。参照は、ストック溶液の感染レベルに基づく。RT(室温)は、アクティブ加熱を受けなかった試料の感染レベルを示す。CNTマットを80℃以上の温度に加熱したとき、完全な不活性化が見られる。(b)0.4μLウイルス含有液滴を温度80℃に加熱した。60秒後に完全な不活性化が見られる。エラーバーは、少なくとも三回繰り返したことによる標準偏差を表す。
図9】加熱したCNTフィルター上での液滴とエアロゾルの乾燥である。(a)T=80℃における、τ経過時のCNTフィルター上の0.4μL液滴の蒸発の画像であり、時間と完全蒸発時間tの比率として取られる。(上の行)画像は、t=15秒、スケールバー1mmの「一定の接触半径」(CCR)蒸発モデルを示す。(真ん中の行)液滴表面高についてのFEM計算結果の平面図は、実験条件と一致する。(下の行)t=19秒の温度プロファイル液滴のFEM結果の断面図である。(b)(副x軸上の初期の液滴直径に相当する)初期の液滴体積V 2/3の関数としてのtのプロット結果である。FEM結果は、70°の接触角を想定しており、上部のエラーバー及び下部のエラーバーは、それぞれ接触角100°及び30°を表す。実験測定値(赤色の円)は、FEM結果(黒色の四角)と一致する。線形相関(黒い点線)は、エアロゾル(≦5μm)が、分析的準定常状態のHuとWuモデル(Hu,D.;Wu,H.Volume Evolution of Small Sessile Droplets Evaporating in Stick-Slip Mode.Phys.Rev.E 2016,93,42805(https://doi.org/10.1103/PhysRevE.93.042805))と一致するt<1で蒸発し得ることを示唆する。着色した線は、ろ過時間(1分、5分、15分及び60分は、それぞれ赤色、オレンジ色、青色及び青緑色である)に基づいて異なる表面濃度を表す。(c)エアロゾルの関数としてのCNTフィルターの熱挙動を表す図であり、より高濃度だとより低温になる。(d)130℃に設定した5秒の閃光加熱での0.2gm-2ハイブリッドCNTフィルターの測定した温度応答のプロットである。
図10】アクティブろ過ユニットプロトタイプの開発と試験である。(a)プロトタイプユニットのセットアップを示す図である。プロトタイプユニットは、密閉体積(8.7m)内に配置した。(幾何平均直径119nmである)NaClナノ結晶を、20ジェット衝突噴霧器を通じてチャンバーに導入した。エアロゾル濃度を、凝縮粒子カウンター(CPC)を使用し、連続して測定した。(b)0.2gm-2ハイブリッドCNTフィルターに基づく濾過モジュールの構造を示す写真である。(c)プロトタイプユニットの内部部品の写真である。周囲の汚染された空気は、遠心ブロワによって上部のチャンバーに吸い込まれ、ろ過モジュールの内部体積中へ下向きに吹き出す。空気は、外側のフィルターを通り抜けた後、周囲に戻って再循環することにより浄化される。(d)流量134mhr-1(青色)及び200mhr-1(赤色)で、アクティブろ過中に記録した急激な減少挙動を示す減少プロットである。汚染物質の個数濃度をバックグラウンド濃度まで低下させるのに、143mhr-1及び200mhr-1の流量を使用すると、それぞれ約15分及び約11分かかった。実験結果(実線)は、完全に混合された密封体積内での汚染物質の減少速度を処理する理論モデル(破線)とよく合う。ろ過減少速度は、自然な減少速度(緑色の線)の減少速度で正規化することにより、測定した全体の減少速度から分離した。
図11】面速度と圧力降下である。圧力降下は、三つの異なるCNTフィルター(0.1gm-2、0.2gm-2及び7gm-2)及びH13クラスHEPAフィルターで面速度を変えて測定した。データは少なくとも三つの試料から収集した。点線は、線形回帰傾きの±1標準偏差を表す。H13 HEPAフィルター、0.1gm-2フィルター、0.2gm-2フィルター及び7gm-2フィルターについて、それぞれ傾きは、604.3mhr-1-2kPa-1、458.1mhr-1-2kPa-1、183.2mhr-1-2kPa-1、及び10.3mhr-1-2kPa-1である。
図12】ろ過効率試験のセットアップである。Agナノ粒子を、特注の粒子発生器により発生させ、ナノDMAによりサイズを選択した(上)。DOS液滴を、衝突噴霧器により発生させ、AACによりサイズを選択した(下)。導電性ゴブレットカセットに取り付け、OリングとSSメッシュの間に挟み込んだCNTフィルター材に、エアロゾルを通過させた。フィルターを通過したエアロゾルを、CPCを使用してカウントした。
図13】個別の単一繊維のメカニズムについての濾過効率である。個別の超極細繊維の濾過効率のメカニズム(及び全体の効率)は、黒色の曲線により示される。ナノ繊維(CNTの束)について、拡散(青色の曲線)及び遮断(赤色の曲線)を高めた単一繊維の効率を定性的に示している。
図14】CNTフィルターの加熱応答速度である。乾燥状態の0.2gm-2CNTフィルター及び7gm-2CNTフィルター(実線)、並びに約5μLのDIWを噴霧した0.2gm-2CNTフィルター及び7gm-2CNTフィルター(点線)の加熱速度である。水でコーティングした場合、水の蒸発及び加えられた水の熱容量によって、応答速度ははるかに遅くなった。
図15】加熱処理によるAAV9ウイルスの生存割合である。CNTマット上で温度80℃に加熱した0.4μLのAAV9含有液滴の生存割合(対照に対する)を示す結果である。結果は、ELISA(灰色)及びqPCR(黒色)分析に基づいた。対照は、ストック溶液中で見いだしたゲノムコピーに基づく。RT(室温)は、アクティブ加熱を受けなかった試料の感染レベルを示す。CNTマットを30秒間加熱した場合に、完全な不活性化が見られる。
図16】NaClエアロゾルの粒子サイズ分布である。密閉体積内で霧化されたエアロゾルのサイズ分布である。データ(円)は、10回実行した平均に基づいている。フィッティング(赤い線)は、総数の幾何平均直径及び幾何標準偏差が、それぞれ118.77nm及び2.08nmであることを示している。
図17】異なるフィルタータイプを使用したときのエアロゾルの減少速度である。それぞれ濾過効率が99.95%、95%、及び80%であるH13HEPAフィルター(鎖線)、E11HEPAフィルター(点線)、及び非HEPAフィルター(実線)を備える空気再循環ろ過システムを使用したときの、完全に混合された室内における減少速度である。
【発明を実施するための形態】
【0101】
例1
不織CNT材料のシートの濾過効率を測定し、これを図1で示している。これにより、ろ過効率は、(Covid-19を引き起こす)エアロゾル化したコロナウイルスサイズの粒子に対しては高いが、フィルター表面における面速度に非常に依存することが明らかになった。
【0102】
例2
図2は、通常参照数字1で示される、本発明によるフィルターの第一の実施形態の断面図である。フィルター1は、CNTマット2の積層体を備え、該積層体内で、個々のマット2aは、櫛歯状に配置され、薄い多孔質絶縁材料の層3と交互に配置される。フィルター1は、フェイスマスクに搭載できるカートリッチの形状をとる。気流を両矢印で示しており、CNTマット2の積層体により、ウイルスを分離する。気流の制限は、マット2aの数に比例し、CNT及び絶縁層3のガス通気度と、各マット2a及び各絶縁層3の面積とに反比例する。
【0103】
CNTマット2の積層により分離されたウイルスを不活性化させる(DC、パルスDC又は低周波AC)電圧を、電圧源Vによって印加する。薄いマット2a及び多孔質絶縁材料の薄い層3を使用する利点は、それらにわたる電界強度(V/mm)を、所定の電圧より大きくなることである。長時間強い殺菌をできるように、(例えば殺菌剤として塩素を使用する)個別の殺菌位置を設けてもよい。代わりに、高温(例えば100℃)まで温度を上げるために、個別の加熱器(例えばDC加熱器)を設けてもよい。
【0104】
絶縁層3は、(最小の印加電圧で最大の電界強度をもたらすために)できるだけ薄いことが好ましく、高いガス通気度を有する必要がある。候補材料としては、薄いティッシュペーパーやオープンセル発泡体が挙げられる。(特にフィルターが損傷した際に)スパークにより発火する恐れがあるため、可燃性材料は耐火性を必要とする。例として、9Vで電界強度45,000V/mを生み出せるように、中量ティッシュペーパーは厚さ200μmである。フィルター1を殺菌し、再使用できるように、絶縁層3は、殺菌ガス(例えば塩素)への化学的耐性があることが好ましい。
【0105】
印加電圧は、(おおよそ必要とされる供給電力が増加する順に)
a.静的なDC電圧
b.周期的に反転するDC電圧
c.固定極性のパルス電圧
d.交互に反転する極性のパルス電圧
e.低周波数(例えば50Hz~500Hz)のAC電圧
f.より高周波数(例えば13.4MHz)のAC電圧
のうちの一以上であってもよい。
【0106】
単一DC型の電力消費はとても低い(恐らく凝縮が絶縁層3で起こる程度によって決定される)。これは、屋内での使用には大きな影響はないかもしれないが、(例えば救急車の救急医療従事者にとって)寒冷な屋外での使用には大きな影響があり得る。RF型は、重要な医療電子機器に干渉する恐れがあるため、臨床環境では恐らく避けられる。フィルター(操作を監視する電子機器を含む)は、再充電可能な少なくとも標準9V電池(6LR61)でフルシフトをもたらすことが期待できる。監督機能は、(湿った又は汚染されたフィルターの)電池電圧のリーク電流の検査を含むことができ、また、使用時間、最後に殺菌してからの時間及び他の安全、管理機能を含むことができる。これらは、ID及びユーザーの位置を記録できる無線制御システムに自動的につなげられる。
【0107】
例3
図3は、通常、参照数字20で示される、本発明によるフィルターの第二の実施形態の断面図である。フィルター20は、コンパクトな体積で、広いろ過領域をもたらすCNTマット21の自立円筒体を備える。CNTマット21の円筒体は、本質的に図2で示されるCNTマット2の積層を「丸めた」バージョンである。CNTマット21の円筒体は、多孔質絶縁材料の薄い層23により分離された個別のマット22aを備える。
【0108】
例4
図4は、通常、参照数字41で示される、本発明によるフィルターの第三の実施形態の平面図である。フィルター41は、電圧源Vがある電気回路内にCNTマット42を備える。気流を、矢印で表しており、ウイルスは、CNTマット42で分離される。
【0109】
例5-ポリエステルで裏打ちされたハイブリッドCNTフィルター
この例は、ポリエステルで裏打ちされたハイブリッドCNTマットを使用する多数生産可能な空気フィルターに関する。ろ過効率は、最大99.999%と測定され、低面密度(0.1gm-2)の超薄マットは、市販のHEPAフィルターと同等の圧力降下を示した。導電性フィルターは、温度80℃以上での数秒間の抵抗加熱による熱閃光により自己消毒した。このような温度で、表面上に保持されたベータコロナウイルス及びアデノ随伴ウイルスの完全な不活性化を達成した。CNTフィルターモジュールを備える濾過プロトタイプユニット(約1.2m)は、1時間当たり26回の換気回数で、10分間、部屋の99%の空気浄化を達成することを示した。
【0110】
ハイブリッドCNTマットは、Li,Y-L;Kinloch,I.A.;Windle.A.H.Direct Spinning of Carbon Nanotube Fibres from Chemical Vapor Deposition Synthesis.Science 2004,304(5668),276-278(http://doi.org/10.1126/sciencee.1094982)参照)で説明されている浮遊触媒CVD(FCCVD)プロセスを適合することにより製造した。試験では、空気通気度はダルシーの法則に関係する傾向に従いつつ、フィルターは、厚さに無関係のHEPAフィルターと同等の効率を有することを示した。標準的な超極細繊維フィルターと対照的に、どの特定の粒子サイズについても、最小のろ過効率は検出されなかった。ハイブリッドCNTフィルターは、高い通気度、高い捕集効率及び低い熱質量を有する。熱分析は、ハイブリッドCNTフィルターが一次応答熱素子として機能できることを示し、ウイルス不活性化試験では、瞬間の熱曝露によって、ウイルスの不活性化が達成できることを裏付けた。モデリングによると、吸着したエアロゾルは、電力を印加されると容易に乾燥するため、効率的なエネルギー管理を達成できることが示された。
【0111】
(結果と考察)
圧力降下
超低面密度(<1gm-2)のハイブリッドCNTマットは、高いガス通気度を有するロバスト構造となるように開発した。CNTエアロゲルは、連続した簡便なプロセスによって、多孔質ポリエステル裏打ち材(PET開孔状スパンレース、N.R. Spuntech Inc.;図5参照)上に紡糸した。収集すると、厚さ0.4mmの多孔質ポリエステル裏打ち材(図5cii参照)の上に、薄いCNT層(数百ナノメートルから数マイクロメートルの厚さ、図5ci参照)が構成され、2層ハイブリッドCNTマットが形成される(図5b参照)。ハイブリッドCNTマットは、機械的完全性、操作の簡便さ及び高い濾過効率を維持したまま通気抵抗が最小になるように設計した。CNT層は、可視バックライトを、微細構造を明らかにするために使用した際に、容易に光を透過するほど十分薄かった(図5ciii参照)。合成プロセス及び堆積プロセスの利点は、後処理を必要とせず、プロセスの単一ステップの性質を失わないことである。
【0112】
ハイブリッドCNTフィルターの通気度を評価するために、圧力降下を測定し、多孔質媒体を通る層流をダルシーの法則
【数1】
により通気度を特定し、ここで、Uはフィルター面に垂直な気流速度、Kは固有透過率、ρはCNTの嵩密度、μは気流の動粘性係数、LはCNT層の厚さ、及びΔpは濾過マトリクスで発生する圧力降下である。
【0113】
膜厚と細孔の長さスケールが同程度である場合、CNT層の厚さは本質的に可変であるが、面密度ρは、スケーリングの信頼できる代わりのものとして機能する。CNTの固有透過率は、面密度、嵩密度及び動粘性係数と組み合わせて、フィルターを通る流量に対応する圧力降下に直接する係数(フィルターパーミッタンス(k≡Kρ/μρ))を作り出すことができる。期待通り、パーミッタンスは、べき乗則フィット近単位の絶対値(a=-0.95)を与える面密度に反比例して変化した(図6参照)。材料の固有透過率は、さまざまな面密度(0.1~約14gm-2)の試料にわたって非常に安定している(K=6.01×10-17±8×10-19)。それゆえ、CNT層の厚さを最小化することで、ろ過効率を維持したまま、所与の流量の圧力降下を減少させる手段をもたらす。
【0114】
ろ過効率
広い範囲のCNT粒子サイズ(6~2500nm)を選択し、ろ過能力を評価し、いわゆる最大通過粒子径(MPPS)を見いだした。固体Ag微粒子を、6nmから100nmのサイズの試料エアロゾルとして使用し、低揮発性セバシン酸ジオクチル(DOS)油滴を300nmから2.5μmのサイズの試験エアロゾルとして使用した。この範囲は、典型的なウイルスのサイズ(AAV約20nmからSARS-CoV-2約100nm)からウイルスを含むエアロゾル化した液滴(約0.5μmから>5μm)をカバーする。図6bで示すように、CNTフィルターは、全0.2gm-2以上の面密度で、粒子径の範囲にわたって、高く、ほぼ一定の濾過効率(>99.95%、透過率の逆数)を示している。ρ≧0.2gm-2のCNTフィルターは、H13クラスのHEPAフィルターと同等の効率を有する。SEM画像は、小さな粒子(例えば<100nm、図6c参照)の拡散捕集から、より大きいサイズ(>1μm、図6b参照)の粒子の遮断/固着までの粒子ろ過の極値を示している。MPPSで濾過効率の最小値を示す標準的な超極細繊維ろ過材(図6bのFFP3マスク参照)で通常観測されるのと対照的に、ハイブリッドCNTフィルターは、拡散ろ過から遮断ろ過までMPPSを示さない。CNTフィルターが、一桁以上“薄い“場合であっても、通過率の値は一定のままだった。面密度0.1gm-2で形成された最も薄い材料だけ、通過率の顕著な増加を示した(図6b参照)。このような低い面密度において、合成又は操作における欠陥は、CNTマットの微細な欠陥につながり、ろ過効率の著しい低下を引き起こす。
【0115】
明らかなMPPSがない高い濾過効率は、従来のフィルターに使用されている超極細繊維(0.8~20μm)よりも小さい桁(10~50nm)のハイブリッドCNTフィルターのナノ構造(すなわち、数個から数十個のCNTの束)の結果である。3M FFP3フィルター媒体についての実験モデル及び理論モデルのような従来の濾過曲線(図6bにおける灰色の点線)は、製造業者の要求に応じて100から500nmで99.97%という傾向がある特徴的な最小ろ過効率を示す。このサイズ範囲では、ブラウン運動による拡散もフィルターファイバーから1粒径以内に来る粒子による遮断も、十分な効果を発揮しない。超極細繊維と反対に、CNTフィルターの堅さ及び表面積は、従来のファイバーよりも大きく、遮断形式及び拡散形式による濾過の重なりを可能にする(図13参照)。これにより、MPPSを示さず、その均一さの材料欠陥によって濾過効率が完全に決定される材料につながる。
【0116】
フィルタークオリティファクターは、固有の圧力降下に対する濾過効率の比を評価する共通手段であり、
【数2】
ここで、Qはクオリティファクター、PはMPPSにおける通過率である。7、0.2及び0.1gm-2のフィルターのクオリティファクターは、それぞれ、5.07kPa-1、45.56kPa-1及び39.75kPa-1であり、H13 HEPAフィルター(Camfil)のファクター約2以内である。0.1gm-2フィルターは、EPA E10クラスの濾過効率を示すが、最大病原体除去効率は、圧力降下と濾過効率の両方の関数であるため、空気再循環システムにおけるエアロゾルろ過には十分である。リサイクル空気ろ過システムについては、一定の体積流量で再循環するとき、除去機能は比較的ろ過効率への依存が低い(図17)。そうであるが、さらなる調査と特性評価では、0.2gm-2のハイブリッドCNTフィルター及びより固有の均一性を示す7gm-2の自立CNTフィルターに焦点を当てた。
【0117】
効果的なCNTフィルター及び初期反応加熱体
CNTは導電性であるため、抵抗加熱によって捕捉した病原体を熱的に変性させることにより、ウイルス成分を不活性化させることが可能である。ハイブリッドCNTマット及び自立CNTマットの消費電力熱比率を評価するために、試料ストリップを特注の加熱治具(図7a参照)に取り付け、赤外線熱カメラを使用して分析した。熱損失は、大体表面積に比例するため、単位面積当たりの消費電力は、異なる面密度及び抵抗で比較できる。図7bで分かるように、両マットの挙動は、マットの面密度(7及び0.2gm-2)について、それぞれ242℃cm-1及び273℃cm-1の熱で正規化された電力密度を表す勾配でΔT<100℃の温度上昇について線形である。印加電力に対するΔTの線形依存は、熱伝導及び熱伝達が、フィルター表面と環境の間の温度差がより大きいときに支配する放熱(∝ΔT)ではなく、熱損失の主要な機構(∝ΔT)であることを示唆する。ハイブリッドCNTマットの正規化された熱がより高いと、主にポリエステルバッキングの断熱及びより薄いCNT層の減少した熱伝導性を理由として、自立CNTマットよりもわずかに熱損失が少なくなることを示唆する。分析で使用する試料ストリップは、通常、4Ω(7gm-2)及び150Ω(0.2gm-2)の抵抗を有し、それによって、表面温度を80℃に維持する。7gm-2及び0.2gm-2のマットで、それぞれ0.75A及び0.11Aの電流を生成するために、3Vと16Vの電圧を使用した。ほとんどの場合、0.20~0.25Wcm-2の範囲内の電力密度は、アデノ随伴ウイルス、E型肝炎ウイルス又はSARS-CoV-2などのウイルスを不活性化するために必要とされる70℃より高い温度である80℃に達し、維持できることが見いだされた。
【0118】
加熱の均一性を評価するために、図7cでまとめるように赤外線画像を使用した。挿入図は、異なる平均温度での二つの試料ストリップの赤外線画像を示しており、ヒストグラムはピクセル単位(約100μm×100μm)温度を示している。平均温度82℃における加熱の均一性は、7gcm-2及び0.2gcm-2について、それぞれ3℃及び6℃の標準偏差により定めた。より薄い試料の加熱の均一性の増加は、導電性CNT(120~140Wm-1-1)の断面積がより大きくなったことによるものである。より低い温度の領域を除去するために、より高い設定温度も測定した。暗い赤色のヒストグラムで分かるように、設定を130℃に調節すると、最低温度点が100℃を下回らない。
【0119】
熱応答時間は、ウイルスを不活性化させられる速度の上限となる。熱応答は、試料ストリップをさまざまな設定値に加熱しながら、熱ビデオで平均温度のフレーム毎分析を使用して評価した。図7dで分かるように、設定値が80℃であると、両マットは、複合材料の熱容量(約800Jkg-1-1)及び低い面積熱容量(<6Jm-2-1)をもたらす超低面密度(0.2から7gm-2)に起因する<6秒の短い加熱の特性時間を示す。フィルターの熱容量が低いと、ウイルスを不活性化させるのに十分な温度により低い消費電力で達することができ、速く効率的な閃光照射による殺菌につながるため、好ましい。0.2gm-2ハイブリッドCNTマットを30℃から70℃まで加熱するのに、3.54±0.24秒かかったが(赤色の線)、同じように加熱するのに7gm-2自立CNTマットは0.48±0.24秒しかかからなかった(青色の線)。ハイブリッドCNTの応答がより遅いのは、ポリエステルの付加的な熱慣性が原因である(約10倍の増大)。しかしながら、設定値を130℃に上昇させることにより(暗い赤色の線)、0.2gm-2ハイブリッドCNTマットは、7gm-2の自立CNTマットと同等の応答速度を示した。これらの結果は、的確な加熱パラメーターを定めると、70℃以上のウイルスの不活性化温度を<1秒で達成でき、加熱時間がウイルスを不活性化する速度を制限する要因とならないことを保証する裏付けとなる。
【0120】
ウイルスの不活性化
細胞の感染性の試験を、マウスコロナウイルス(MHV-A59)を使用して行った。これは、封じ込めレベル3の実験室の外で扱えるベータコロナウイルス(SARS-CoV-2及びSARSと同一のグループ)である。ウイルスの感染性が著しい低下を示す「不活性化温度」を見いだすために、最初の実験を行った。7gm-2の自立CNTマットを、加熱治具(図7a参照)上に取り付け、ウイルスを含んだ5μLの液滴(濃度約8×10感染単位mL-1)をピペッティングした。実験は、参照試料(青い使い捨て実験用白衣)、対称試料(0V)及びさらなる四つの試料を、30℃、45℃、60℃及び80℃(それぞれ1.3、2.0、3.2及び4.0V)以下の表面温度となる異なる電圧で行った。図8aで見られる対照列(0V)で描かれているように、実験プロトコルは、CNTマットから得た試料を使用してウイルスの感染性を検出するのに十分であった。低い電圧を印加することによる場合でも、70℃(SARS-CoV-2及びSARSウイルスの通常の不活性化温度)未満の温度でウイルスの感染性の明らかな減少が示される。この現象は、直接の表面酸化がさらなる不活性化メカニズムであるかもしれないことを示唆している。印加電位4Vで、四種の感染性低下が検出限界(VOD)まで測定される。この電圧におけるウイルスの完全な不活性化は、90秒以内に液滴が完全に蒸発し、70℃より高い表面温度のCNTにウイルス粒子を直接曝すことによる結果である。
【0121】
次の一連の実験を、4Vの電圧を印加したときに、全体の不活性化が達成されるのに必要な最小の時間を詳しく調べるために行った。これらの実験においては、加熱サイクルを5、10、15、30、45及び60秒で実行しながら、より小さい、ウイルスを含んだ液滴(0.4μL)を、CNTストリップ上にピペッティングした。図8bで分かるように、5秒後に完全に蒸発していないにもかかわらず、表面酸化による感染力の明らかな減少が見られ、最初のウイルス量から約60%の機能の低下が見られた。30秒及び45秒加熱することにより、液滴の蒸発が起こり、約一桁の顕著な失活が見られた。60秒間の加熱で、完全な不活性化(LOD)を引き起こしており、これは不活性化温度に長時間曝したことによる結果と考えられる。さらなるウイルスの不活性化実験を、上記の方法を使用して、アデノ随伴ウイルス9(AAV9)で行った。0.2μL液滴中に含まれるAAV9の完全な不活性化は、CNTマットを80℃に加熱して、30秒後に達成された(図15参照)。
【0122】
これらの結果は、CNTフィルターの自己消毒のための抵抗加熱の原理が、SARS-CoV-2と同一のグループのウイルスに有効であることを示している。実験感度のために、これらの実験で使用した液滴は、ウイルスを広げる人間によって拡散させると推定されるよりもはるかに高い、非常に高濃度でロードした。そのため、実生活への適用において、含まれている病原体はより少ないため、許容できるレベルに殺菌することはより容易になると想定される。本結果は、完全な不活性化が、ミリメートルサイズの液滴上で達成可能であることを示している。これらの液滴は、マイクロメートルサイズのエアロゾル(<5μm)と比べて、蒸発にかなり高いエネルギーをより必要とする。CNTマット上でのエアロゾルの蒸発の動態をより理論的に理解することで、ウイルスを含むエアロゾルの完全な蒸発及び完全な不活性化に必要な時間枠の見識が得られるはずである。
【0123】
加熱されたCNTマット上での液滴及びエアロゾルの乾燥
表面に結合した水滴の蒸発プロセスを、実験的方法及び計算的方法を用いて研究した。計算モデルは、加熱されたCNTマットでの液滴の拡散律速蒸発をシミュレーションした。該モデルは、加熱されたCNTマットで蒸発する数ミリメートルから1ミリメートル未満の水滴の光学顕微鏡写真を使用して、連続形式で液滴について検証した(図9a参照)。測定では、蒸発する時間の大部分の間、液滴ベースの領域に変化がないことを示された。これは、表面上の水滴が、Picknett,R.G.;Bexon,R.The Evaporation of Sessile or Pendant Drops in Still Air.J.Colloid Interface Sci.1977,61(2),336-350.(https://doi.org/10.1016/0021-9797(77)90396-4)でさらに説明されている「接触半径一定」(CCR)の蒸発モードに従うことを示唆している。CCR蒸発モードは、液滴中の対流及び周辺環境との接触面からの水蒸気の拡散を考慮するモデルに含まれる。
【0124】
図9aは、測定した0.4μLの水滴について、測定した蒸発プロセスとモデル化した蒸発プロセスの間に時間的によい一致があることを示している。実験結果(15s)と比較してモデル(19s)の蒸発時間の小さな過大評価は、CNTマットへの水分の浸入がないことによる不確かさをモデル化することにより説明できる。0.1μL、0.4μL、1μL及び5μLについての実験と理論の間の一致は、図9bで視覚化されており、図9b中、赤色の円(実験的)は、黒色の四角(モデル化)を裏付けている。本結果は、CCR蒸発動態についての記録したべき乗則時間スケーリングと一致する(蒸発時間tと初期体積Vはt∝V 2/3の関係がある)。CCRべき乗則(黒色の点線)によると、マイクロ液滴及びナノ液滴の蒸発時間が、数ミリ秒未満であると推察できる。これらの結果は、定温条件下で付着した小さな液滴の蒸発についての上記のHuとWuによる解析的準定常状態モデルとよく一致する。界面温度が約70℃である場合から導かれる結果は、緑の線で描かれたHuとWuのモデルの50℃から70℃の等温線の間に位置している(図9b)。本モデルは、一定の容積熱がCNTマットにより既知の速度で発生される現在の状況により合う調節を必要としていたが、そのような一致により、適用の確実性をもたらされる。
【0125】
モデルの妥当性を確立した後、蒸発時間に影響を与える他のパラメーターを評価した。エアロゾルの表面濃度に直接影響を与える濾過時間は、蒸発時間にかなりの影響がある。図9bで分かるように、エアロゾルの表面濃度がより高いと(赤色からオレンジ色に変化する四角、赤色から青色に変化する四角、及び赤色から青緑色に変化する四角で表されている)、初期直径5μmのエアロゾルが数秒で到達しているように、蒸発時間はより長くなる。図9cで図を描写しているように、シミュレーションは、より液滴がCNTマットにより捕捉されるため、各表面に束縛された液滴へのエネルギーの流れが減少することを示した。エネルギーの流れが減少すると、液滴の界面温度がより低くなり、蒸発時間がより長くなる。しかしながら、動的な熱挙動で分かり(図7d)、図9bで示されるように、蒸発の時間スケールが数百ミリ秒オーダーであっても、全てのエアロゾルは、130℃の閃光パルスで、5s以内に十分蒸発するはずである(黄色の領域)。全てのエアロゾルが完全に蒸発すれば、ウイルス粒子は、モデル化されたウイルスを不活性化させることが示された80℃より高い表面温度に直接曝される。これらの結果は、ウイルスの不活性化を、短い先行パルスを使用して達成でき、それによって、アクティブフィルターシステムの高い熱効率を確保することを示唆している。また、エネルギー消費と使用中のフィルターのウイルス不活性化のバランスを保つために、閃光加熱の間隔とパルス継続時間の間の最適化のための適切な時間スケールを示している。
【0126】
プロトタイプユニットの性能評価
CNTマットを大量に製造することができるため、従来の再循環フィルターユニットに合うフルスケールのハイブリッドCNTろ過モジュールを備えるプロトタイプユニットを製造することが可能になった。図10aで示されているように、プロトタイプユニットは、遠心ブロワ(RG175/2000、ebm-papst UK)により周囲の空気を引き込むように設計されており、また、円筒状のフィルターモジュールを通って外側に空気を向かわせるように設計されている。ろ過された空気は、周囲の空気に戻って再循環されるため、環境において空気中に浮遊する粒子及び液滴の濃度を減少させる。図10bで示されるように、ろ過モジュールは、CNT層が内側を向くようにして、機械的支持を確保できるように、円筒状ステンレス鋼の粗目に、約1.2mの0.2gm-2のハイブリッドCNTマットを取り付けることにより製造した。その後、モジュールに濾過ユニットを取り付けた(図10c参照)。図10aで示されているように、モデルエアロゾルとして働く十分な濃度(約3×10#cm-3)のNaClのナノ結晶を導入した後、粒子が減少する効率を密閉体積(約8.0m)内で測定した。ナノ結晶の集計幾何平均直径を、フィルター媒体の典型的なMPPSと一致するように約120nm(図16)に調節し、それによって、最も調べたい試料エアロゾルを表した(SARS-CoV-2の病原体のサイズに近づけた)。密閉環境を浄化する効率を評価するために、隔離室(>12ACH)の現在のガイドラインと一致する内部容量の1時間当たり16回及び23回の換気回数(ACH)と一致する二種の流量(143mhr-1及び200mhr-1)を使用して、プロトタイプユニットを操作した。浮遊している粒子の減少速度を、濃縮粒子カウンターを使用して観察した。全体の速度から機能している濾過による減少速度を適切に切り離すために、(漏れ、拡散損失によって起こる)自然な減少速度を、全体の減少速度から差し引いた。図10dから、特徴ある急激な減少が見られる。ろ過のみでバックグラウンドレベル(約6.5×10#cm-3)まで汚染物質の個数濃度を下げるのに、143mhr-1及び200mhr-1の流量を使用すると、それぞれ約15分及び約11分かかった。緑色の線の外挿により比較すると、自然な減少は、約350分以内に同じようになるはずである。実験結果(実線)は、浮遊している粒子が密封体積内で十分に混合されていると仮定する理論モデル(点線)とよく一致した(方程式S9参照)。周囲の環境から密封体積への小さな漏れに起因して、わずかな逸脱が非常に低い粒子濃度(<3×10#cm-3)で見られる。これらの全体的な結果は、ハイブリッドCNTマットのフルスケールのろ過システムでの応用が期待できることを示している。
【0127】
(結論)
本結果は、活性ウイルスハイブリッドCNTフィルターが、圧力低下を低く保ちつつ優れた濾過効率(HEPA H13レベル)を表すことを示している。フィルターを、数秒以内に130℃まで閃光加熱し、全てのウイルスを不活性化させることができる。プロトタイプユニットに組み込まれた大きな濾過モジュール(約1.2m)にフィルターを搭載することで、空気汚染が数分間で10倍減少させることが可能であることを示した。換気が不十分である環境や混雑した環境(例えばオフィス、公共交通機関、レジャー施設及び娯楽施設)で配備されるこのようなユニットは、アメリカだけで総計$871億の社会的負担を負わせたCOVID-19や季節性のインフルエンザなどの空気感染性疾患のウイルスの拡散への対策に重大な影響を及ぼし得る。
【0128】
(測定方法)
ろ過効率とSEM画像
ろ過効率の試験は、導電性の空のカセット(Sure cassette blanks,SKC)に差し込まれたディスク型の試料(d=25mm)で行った。導電性の筐体は、特に約50nmより小さい粒子では、静電損失を最小化するために不可欠であった。頑丈に取り付け、円周の密封を確保するために、ディスク試料を、ステンレス鋼メッシュ支持体とシリコーンゴムOリング(OD=25mm;ID=20mm)の間に挟み込んだ。試験は、移動度直径範囲6~2500nmの粒子を使用して行った。6~100nmの範囲内で行った試験では、後に再びナノ粒子に凝縮する銀の蒸気を生成する特注の微粒子発生装置によって発生させたAgナノ粒子を使用した。銀は、専用の加熱炉に取り付けた石英試料管内に存在する。発生器を、温度範囲1280~1320℃まで加熱し、一分当たり2.2~2.5標準リットルの窒素フロー(slpm;HEPAろ過、BOC)で行った。Agナノ粒子を、3085DMAカラムの微分型移動度分析装置(DMA)及び3080静電分級器を使用して、6nm、10nm、15nm、25nm、50nm、75nm及び100nmのほぼ単分散の移動度直径に選別した。100~2500の範囲内で行った分析は、0.5~1slpmの窒素フローで動作する単一ジェット衝突噴霧器(CH Technologies)で作り出した、セバシン酸ジオクチル(DOS、Sigma Aldrich、純度≧90%)エアロゾル液滴を使用した。DOS液滴を、空力エアロゾル分級装置(AAC)により、300nm、500nm、1000nm及び2500nmのほぼ単分散の移動度直径に選別した。AACは、粒子の空気動力学径を使用して粒子を分類するため、空気動力学径から移動度直径への適切な変換が、方程式S6で示すように必要であった(以下参照)。カセットの下流のAg粒子濃度及びDOS粒子濃度を、TSIウルトラファイン凝縮粒子カウンター(UCPC)3025A及び3776のそれぞれで分析した(図12参照)。粒子濃度の測定は、(1)空試験として使用される空のカセットの実行;(2)(ハイブリッドフィルターの場合)ポリエステルバッキングを搭載したカセットの実行;(3)指定のCNTフィルターを搭載したカセットの実行という特定の順序でそれぞれ選択したサイズで行った。各測定を0.3slpmの窒素フローろ過カセットに通して、異なる三つの試料で繰り返した。ろ過効率は、以下の方程式:
【数3】
で計算され、ここで、E(d)は粒子の分別ろ過効率、Cupstream(d)及びCdownstream(d)は、それぞれフィルターなし及びフィルターありで測定したエアロゾル化した粒子の個数濃度である。
【0129】
SEM画像用の二つのCNTフィルターマットを作製した。一つ目は、エアロゾル化した(5~120nmのサイズ範囲の)Agナノ粒子を、45分間収集することによって準備した。二つ目は、脱イオン水(DIW)を用いて1:100の割合で希釈した2μmの水性懸濁ポリスチレンビーズ(Merck)の10μLの液滴を利用することにより生成し、該液滴は、周囲温度で風乾した。MIRA3電界放出銃SEM(Tescan)を使用して、フィルター表面を撮像した。撮像は、作動距離3~5mmで、E-T SE検出器を使用し、加速電圧1kV(ポリスチレンビーズ)で及びIn-Beam SE検出器を使用し、加速電圧5kV(Agナノ粒子)で行った。導電層は加えなかった。
【0130】
(フィルター圧力降下)
フィルター圧力降下の試験を、上述の同一のディスク型の試料及びカセットで行った。質量流制御装置(Alicat)を使用して、体積流量を0.1slpmから6slpmに制御し、スクロール真空ポンプ(nXDS、Edwards)により、吸引を行った。フィルターで発生した圧力降下を、カセットの吸気口と排気口に接続された差圧マノメーター(HD750、Extech Instruments)を使用して測定した。空のフィルターカートリッジの固有の圧力降下を差し引くことにより、全ての測定を補正した。
【0131】
(電熱分析)
自立CNTマット及びハイブリッドCNTマットの電熱分析を、FLIR T650赤外線カメラ(640×480px解像度、7.5~14μmスペクトル感度、24mmf/1.0光学)及び特注の加熱治具を用いて行った。該治具は、二つの調節可能で、平行な真鍮棒電極を有し、異なるサイズ(長さ75mmから120mm及び幅最大50mm)のサンプルをクランプできる試料ホルダーで構成される(図7a)。電極を、DC電力源(EX2020R、AIM-TTI instruments)の端子に接続した。たまに起こる気流による強制対流の影響を最小化するために、進行中の実験の近くで送風機やブロワを使用せず、治具を深いガラス容器内に置いた。
【0132】
75×10mmのCNT試料ストリップに印加される電圧を手動で調節することにより、カメラ内蔵ソフトウェアで420×55ピクセル四方の平均温度を測定しながら、温度対電力測定を記録した。各設定値で、直接電力源コンソールから電流を記録した。電圧ステップサイズ及び最大電圧は、試料の抵抗次第であった(それ自体の面密度に反比例する)。各実験を少なくとも三つの異なる試料で繰り返した。定性的な目視検査用の「FLIRツール」ソフトウェア、及び画像からピクセル温度情報をエクスポートするためのピクセル単位の定量分析(コードはSI付録に含まれる)用のカスタムMatLabスクリプトの両方を用いて、加熱実験の間に収集した静止画を使用し、試料の加熱均一性を評価した。
【0133】
試料の動的加熱及び動的冷却を、手動で電力源のオンとオフを切り替えながら、熱ビデオを記録することにより特徴付けた。試料が約80℃(又は130℃)の安定した温度に到達するように電圧を選択した。Matlabスクリプト(SI付録)を使用し、(フレームの420px×55pxの切り出しの)試料の平均温度及びビデオの各フレームのタイムスタンプを抽出した。各場合について、10加熱(及び関係ある場合、冷却)サイクルの最小値からの結果を平均化し、繰り返しの結果を得た。
【0134】
(ウイルスの熱不活性化及び感染性試験)
試験を、代わりとしてマウスコロナウイルス(MHV-A59)で行った。MHV-A59はSARS及びSARS-CoV-2と同一のグループのベータコロナウイルスである。専用の宿主細胞を一週間成長させ、96ウェルプレートにプレートした。溶出用の1mLのアリコートの培地を準備した。7gm-2のCNTストリップを、専用の加熱治具に取り付けた(図7a)。体積5μL又は0.2μLのたんぱく質リッチな溶液に約8×10感染単位mL-1(TCID50)の濃度を含む液滴を、ストリップに沿ってピペッティングした(合計4滴)。液滴を少しの間静置し、自然吸収を起こさせた。CNTストリップを、90秒間様々な温度(RT、30℃、45℃、60℃、80℃)で加熱するか、又は温度80℃で様々な加熱時間(0秒、5秒、10秒、15秒、30秒、45秒、60秒)加熱した(0.2μLの液滴の場合)。対照実験を、(水を吸収しない)青色の使い捨て白衣で行った。CNTストリップを、4つの部分に分け、溶出チューブに移動させて、10秒間ボルテックスした後、滴定するまでそのままにした。デキストランを含む培地で、8×10倍希釈の各生物学的反復を行った。細胞を含む96ウェルプレート内の培地を、(感染を促進する)2%FCS及びDEAEデキストランを含む培地と取り換えた。50μLのウイルス希釈溶液を、細胞を含む96ウェルプレートに生物学試料ごと4列ずつ移動させた。細胞は、37℃、5%COで、3~5日間培養した。プレートを、細胞変性効果(CPE)で記録した。
【0135】
(液滴の蒸発-実験及びモデリング)
液滴の蒸発プロセスを視覚化する実験を110×40mm、7gm-2のCNT試料で行った。75mmのゲージ長で、上記のストリップ加熱治具に試料を置いた。0.255Wcm-2の面電力密度と等しい、1.76Aの電流を流す4.35Vの電圧を印加することにより、試料を平均温度80℃まで加熱した。DIW液滴を、体積0.1μL、0.4μL、1μL及び5μLで、表面上にピペッティングした。各蒸発試験を、少なくとも三回繰り返した。液滴蒸発の画像及びビデオの取得は、Dino-Lite AM4113T USB顕微鏡(AnMo Electronics Corporation)を使用して、倍率X45で行った。画像分析は、Dino-Liteソフトウェアを使用して行った。
【0136】
CNTマット上の水滴の拡散律速蒸発をシミュレーションするために、COMSOL Multiphysics(バージョン5.5)を使用して、計算モデルを開発した。このモデルは、CNTマット、水滴及び周辺の空気を含む円筒ドメインを循環する2D軸対称形状を採用した。周囲の条件に与える蒸発の影響を下げるために、ドメインの全高は、液滴の高さの1600倍であり、25℃、相対湿度60%で一定に保った。実験中に使用される相対的な長さスケールと一致するように、特に規定のない限り、ドメインの半径は、0.4μLの液滴の底面半径の40倍にした。シミュレーションで使用される律速物理特性及び境界条件と共に他のシミュレーションパラメーターについてのさらなる詳細は、以下の補足情報で記載している(セクション5参照)。
【0137】
(CNTフィルターベースのプロトタイプの性能評価)
ろ過ユニットを、Rexrothフレーム(BOSCH)と相互接続された、プレキシガラスで作られた体積8mのチャンバー内に配置した。チャンバー内の粒子濃度のバックグラウンドスキャンを、各測定の前に行った。20ジェット衝突噴霧器(CH Technologies)をチャンバーの床に配置し、DIW溶液(体積300mL)中の20%w/wNaCl(>99.7%、Fisher Scientific)で満たした。(HEPAろ過された、BOC)窒素は、MFCを通して、流量37slpmで噴霧器に運ばれ、溶液を霧化し、集計平均直径及び幾何学標準偏差がそれぞれ118.77nm及び2.08nmであるNaClナノ粒子でチャンバーを満した(図16参照)。ろ過実験を、流量143mhr-1及び200mhr-1で、任意のアクティブろ過なしで実行し、自然な減少速度を決定した。二分間のエアロゾル化時間後、噴霧器への流量を止め、フィルターユニットをつけた。各実験は、少なくとも三回繰り返した。全ての粒子濃度測定は、TSI-UCPCモデル3776を使用して行った。
【0138】
補足情報
1.圧力降下
CNTフィルターのダルシー的挙動を、CNTフィルターで発生する圧力降下と、流量0.1slpm、0.3slpm、0.5slpm、1.0slpm、1.5slpm、3slpm及び6slpmを表面積3.14×10-4(20mmディスク直径)で正規化することによるCNTフィルターを通過する面速度の間の相関から評価した。ダルシーの法則及び方程式1(上記参照)によると、それらの間には線形相関があるはずであり、確かにそのような挙動が、0.1gm-2、0.2gm-2及び7gm-2の試料について図11で描かれている。方程式1から分かるように、これらの傾向線の傾き(0.1gm-2の試料、0.2gm-2の試料及び7gm-2の試料について、それぞれ458.1mhr-1-2kPa-1、183.2mhr-1-2kPa-1及び10.3mhr-1-2kPa-1)は、本文中で定義されるパーミッタンス値(k)である。三つの異なる試料において、各フィルタータイプについての圧力降下の分散は小さい。このため、パーミッタンス値の標準偏差は小さくなり、これは点線でグラフ化されている。これらの傾向線を作り出すこと及びこれらの傾きを評価することが本方法であり、本方法で全ての試料についてのパーミッタンス値を計算した。参照として、市販クラスのH13 HEPAフィルター(Camfil)を調べた。図11から分かるように、市販のフィルターのパーミッタンス(傾き)は、計算値604.3mhr-1-2kPa-1で、薄いCNTフィルターと同一の桁数であった。この結果は、さらなる最適化により、HEPAの濾過効率を保ちつつ、圧力降下がより高くならないハイブリッドCNTフィルターを作り出すことが可能であることを裏付ける。これにより、ろ過システム製造業者は、元の設計を利用し、市販のHEPAフィルターをハイブリッドCNTフィルターに取り変えるだけでよくなる。
【0139】
CNTの固有空気通気度Kを、以下に示すような線形方程式:
【数4】
により計算し、ここで、kはパーミッタンス、ρはCNTの物質密度、μは空気の動粘性係数、Δpは濾過マトリックスで発生する圧力降下、及びρは面密度である。ln(ρ)の関数として、ln(k)をプロットすることにより、線形曲線の切片から
の値1.47×10-8±2.81×10-10sを算出した。ρ=4400±50kgm-1-1であり、μ=1.8×10-5Pasであるため、CNT材料の通気度K=6.01×10-17±8.23×10-19と計算された。
【0140】
2.ろ過効率
ナノ粒子のサイズ選択は、移動度(B)として知られるプロパティを選択し、これを粒子の直径と関係させることが最も一般的に行われる。移動度は、
【数5】
と定義され、ここで、dは粒子の移動度相当直径であり、問題となっている粒子と同一の移動度(空力抵抗)を有する球体の直径を表す。球状粒子では、移動度直径は、粒子の物理的な直径と等しい。μはガス動粘性係数であり、Cはカニンガムの補正係数として知られる経験値である。非常に小さい粒子が、もはや連続流領域ではなく、遷移流領域又は自由分子流領域に属するため、受ける抗力の変化を説明するために必要である。カニンガムの補正係数は:
【数6】
であり、ここで、λはガス分子の平均自由行程である。さらに、粒子の電気移動度(Z)は、移動度と電荷の積で表せ:
【数7】
ここで、eは電気素量であり、nは粒子の電荷数である。粒子サイズは、電気移動度により粒子を分類する動的粘弾性測定装置(DMA)として知られている機器を使用して最も一般的に選択される。粒子の荷電状態は、例えばWeidensolarの電荷分布(Wiedensohler,A.An Approximation of the Bipolar Charge Distribution for Particles in the Submicron Size Range.J.Aerosol Sci.1988,19(3)、387-389)を使用して分かり、粒子の移動度相当直径を計算できる。このようにして、大部分のサイズ分布及びほぼ単分散の粒子集団がエアロゾル領域内に作られる。
【0141】
また、空気動力学径(d)として知られるプロパティにより粒子を分類する最新技術も開発されている。これは、問題となっている粒子と同一の沈降速度を持つ、密度1000kg/mの球状粒子の直径として説明できる。大きい、低密度の粒子が、より小さく、より密度が高い粒子と同一の沈降速度を持つことができるため、当然ながら、粒子のdは、粒子の物理的寸法だけでなく、密度を含む。Hinds,W.C.Aerosol Technology:Properties,Behaviour,and Measurement of Airborne Particle;Wiley,1999から、沈降速度(VTS)は、粒子の空気動力学径と移動度直径を関係させて使用でき:
【数8】
式中、gは重力加速度、ρは1000kg/mの単位密度、及びρeffは実行密度であり、球状粒子の嵩密度と等しい。上記方程式を簡略化することにより、空気動力学径と移動度直径の変換ができる。
【数9】
【0142】
ほぼ単分散の100nm以上の粒子サイズを選択するために、この研究では空力エアロゾル分級装置(AAC)を使用した。AACは、空気動力学径により選択するため、ろ過効率などの結果を、DMAを使用する結果と直接結びつけられるように、これらの直径を移動度直径に変換した。例えば、2500nmの移動度直径がDOS粒子(ρ=914kg/m)にとって望ましい場合、相当する空気動力学径は、2387nmと計算された。その後、2387nmの粒子を選択するようにAACをプログラムし、2500nmの移動度(及び物理的)直径を持つ粒子の分類をできるようにした。試験条件下において、二つの支配的な濾過機構は、遮断と拡散である。前者は、粒子がフィルター繊維から粒子半径未満を通過するガスの流れに追従し、粒子が接触し、保持される場合に起こる。粒子が、フィルター内でガスの流れから逸れ、ブラウン運動によりフィルター媒体と接触するときに、拡散による濾過が起こる。それらは、任意のフィルター繊維の粒子半径内に来ない流れにほとんど追従しないため、必然的に遮断は大きい粒子を最も効率的に捕集する。反対に、小さい粒子はブラウン運動によって大きい粒子よりも速く移動するため、拡散は、小さい粒子を効率的に捕集できる。それゆえ、小さい粒子は、流れから簡単に逸れ、近くのフィルター媒体と接触できる。従来のフィルターは、100から500nmで特徴的な最小の濾過効率を示す(図13)。このサイズ範囲内では、拡散曲線も遮断曲線も重ならないため、全体の濾過効率曲線は、いわゆる最大通過粒子径(MPPS)に位置する極小値を有して、「U」字型のプロファイルを示す。一方で、従来のフィルター媒体に対して、CNTネットワークの特有の特徴は、繊維(すなわち約10CNTの束)の直径が、桁違いに小さいことである。繊維の表面積が非常に大きいため、拡散により比較的大きい粒子でさえも捕集できる(青色のCNT拡散曲線)。同様に、繊維間の隙間や空間も従来のフィルターよりも小さいため、遮断により捕集されないためには、粒子は非常に小さくなければならない(赤いCNT遮断曲線)。以下は、ろ過効率のかなり特有の挙動である-機構が著しく効果がないサイズ範囲が存在せず、ろ過効率において、特徴的なU字型のプロファイルが観察されない。
【0143】
3.電熱分析
フィルター材を加熱するのではなく、捕集したエアロゾルを評価するために抵抗加熱を効率的に使用する高速応答発熱体としてのCNTフィルターの有効性をより明らかにするために、一連の追加実験を行った。これらの実験において、加熱治具(図7)に取り付けられたCNTストリップ(75×10cm)に、室温で約5μLの脱イオン水(DIW)を、エアブラシ(Gocheer)を使用して吹きかけた。このストリップ(0.2gm-2及び7gm-2)を、(上述の)設定値80℃まで加熱し、蒸発プロセスを熱的に記録した。図14で示されているように、(上記のように)試料が終点温度に到達する時間を測定するコマ送り分析を行った。「ウェット」7gm-2の自立CNTフィルターについて、30℃から75℃までの加熱時間は、「ドライ」材に対して10倍に増加し(0.48秒から4.98秒)、同一のパラメーターの0.2gm-2のハイブリッドCNTフィルターに対しては2倍増加した。これは、CNTフィルターの低い熱慣性によって、抵抗加熱エネルギーの大部分が、CNT層自体を加熱するのではなく、バッキング又は表面をコーティングしている水を加熱するため、無駄にならないことを示している。
【0144】
4.ウイルスの不活性化
追加のウイルスの不活性化試験を、AAV9ウイルス血清型で行った。AAV9は、安定したウイルスであると考えられているため(Bennett,A.;Patel,S.;Mietzsch,M.;Jose,A.;Lins-Austin,B.;Jennifer,C.Y.;Bothner,B.;McKenna,R.;Agbandje-McKenna,M.Thermal Stability as a Determinant of AAV Serotype Identity.Mol.Ther.Clin.Dev.2017,6,171-182参照)、選択した。AAV9-CMV-eGFP(Vector Biolabs)ウイルス株を、ストック濃度6.3×1013GC/mLで使用した。AAV9溶液の0.2μL液滴を、7gm-2のCNTストリップの上に体積2μLピペッティングし、合計1.26×1011のゲノムコピー(GC)を各CNTストリップにもたらした。ストリップを特注の加熱治具に取り付け(図7a)、0秒間(室温;RT)、30秒間、60秒間及び90秒間、(最低温度として)80℃に加熱した。各試料で、三回行った。液滴を含むストリップの領域を切り取り、5mLのFreeStyle293培地を含む15mL遠心分離管内に置いた。2μLのAAV9のストック溶液を含む対照培地を、希釈割合1:1000で準備した。全てのアリコートを、分析前に-80℃で貯蔵した。キットの説明書のとおりに、AAVリアルタイムPCR力価キット(Takara Cat#6233)を使用してAAVウイルス力価を行い、AAV力価ELISA(ProGen Cat#PRAAV9)を使用して、完全なままのAAV9の定量化を行った。図15から分かるように、CNTストリップからのAAV9の除去は、上記の方法を使用して達成可能であり、AAV9の完全な不活性化は、qPCRとELISAの両方で検証したところ、30秒加熱した後にすでに達成されていた。
【0145】
5.加熱されたCNTマット上での液滴とエアロゾルの乾燥
計算モデルを、CNTマット上の水滴の拡散律速蒸発をシミュレーションするために開発した。まず、液滴の乾燥の実験結果により実証し、エアロゾル液滴の一般的な乾燥時間を予測するために使用した。また、等温条件下の簡略化した偽定常状態分析モデルを、結果検証のために使用した(上記HuとWu参照)。
【0146】
COMSOLモデルの特徴
計算シミュレーションを、市販のソフトウェアCOMSOL Multiphysicsを使用して行った。このモデルは、CNTマット、水滴及び周辺の空気を含む円筒状のドメインに循環する2D軸対称形状を採用していた。周囲の条件の影響を減らすために、ドメインの全高は、液滴の高さの1,600倍であり、25℃、相対湿度60%で一定に保った。実験中に使用される相対的な長さスケールと一致するように、特に規定のない限り、ドメインの半径は、0.4μLの液滴の底面半径の40倍にした。
【0147】
体積密度が約500kgm-3であると、7gm-2のCNTフィルター試料は、厚さ10μmであると推定される。比熱容量は、800JK-1kg-1に設定し(Masarapu,C.;Henry,L.L.;Wei,B.Specific Heat of Aligned Multiwalled Carbon Nanotube.Nanotechnology 2005,16(9),1490-1494.(https://doi.org/10.1088/0957-4484/16/9/013)参照)、面内及び面外の熱伝導率は、それぞれ130Wm-1-1及び0.11Wm-1-1に設定した(Zhang,X.;Tan,W.;Smail,F.;Volder,M.De;Fleck,N.;Boies,A.High-Fidelity Characterization on Anisotropic Thermal Conductivity of Carbon Nanotube Sheets and on Their Effects of Thermal Enhancement of Nanocomposites Related Content.Nanotechnology 2018,29(36),365708.(htts://doi.org/10.1088/1361-6528/aacd7b)参照)。
【0148】
仮定
液滴が重力の影響を無視できるほど十分小さいため、液滴は、蒸発時間を通して一定の接触半径を保ち、球状キャップ形を維持していると仮定した。表面の水分フラックスの平均値を仮定することにより、移動メッシュ方法を気液界面の幾何変形をモデル化するために使用した。また、曲率、ステファンフロー及び速度効果は無視できると仮定した(Semenov,S.;Starov,V.M.;Rubio,R.G.;Velarde,M.G.Computer Simulations of Evaporation of Pinned Sessile Droplets:Influence of Kinetic Effects.Langmuir 2012,28(43),15203-15211参照)。本モデルは、蒸発冷却及び気液界面での温度勾配により引き起こされるマランゴニ対流を組み込んだ。
【0149】
物理特性及び境界条件の調節
滑りなし及びフラックスなしの境界条件を、液固界面及び気固界面の両方に適用し、非圧縮性ナビエ・ストークス方程式を使用して両液相内の流れをモデル化した。液気界面から離れた水蒸気の拡散律速移動は、空気ドメイン内の低濃度の化学種の輸送方程式により説明された。水分含量を、上部及び放射状領域の境界で周囲条件となるように設定した。フラックスなしの境界条件を気固界面に適用し、気液界面は、気液平衡とした。熱伝達方程式を三つ全ての相に適用した。最上部及び放射状領域の境界は、固定温度とした。底面領域の境界は、長さスケール40mm、実験で使用したマットの幅の自然対流の影響下にあった。マットの両面は、放射率を単位として、輻射により熱を放出する。CNTマットには、入力電力が供給され、図7dで示される結果と一致するように、入力電力の値は、定常状態温度が、蒸発なく80℃に到達するように決定した。
【0150】
エアロゾル液滴の表面濃度を関数としての蒸発時間に関するシミュレーション
上記の基本ケースモデルに加えて、エアロゾル液滴の表面濃度の効果も研究した。流入する全ての液滴を、フィルターが捕集し、活性熱サイクルの外では蒸発が起こらないと仮定すると、アクティブ加熱の開始時のエアロゾル液滴の表面濃度を「最悪の状況」下で導き出せる。言い換えると、この状況で必要とされる蒸発時間は、確実な推定である。
【0151】
通常の実験操作条件として、流量(Q)120m-1及び総面積(A)1.235mを使用した。空気中の飛沫濃度(c)は、1cm当たり1粒子、すなわち会話中の人間及び咳をしている人間によりもたらされるエアロゾル濃度の上限値(Johnson et al.Modality of Human Expired Aerosol Size Distributions.J.Aerosol Sci.2011,42(12),839-851.(https://doi.org/https://doi.org/10.1016/j.jaerosci.2011.07.009)参照)と仮定した。アクティブ加熱サイクル(t)は、1分、5分、15分又は60分となるように選択した。モデルの入力パラメーターに変えた際に、表面濃度は、以下の方程式S7で示されるように、シミュレーションドメインに含まれるCNTマットの長さスケール(R)になった。液滴ごとの面積の平均値を使用することにより、一つの液滴のシミュレーションで、各捕集サイクル後にフィルターを乾燥させるのに必要な全蒸発時間を表すことができる。表面濃度がより高いと、各液滴が占める面積は小さくなるため、蒸発に使われる電力はより小さくなる。結果値を表S1で示している。
【数10】
【表1】
【0152】
6.プロトタイプろ過ユニットの性能評価
DIW溶液に溶解した20%w/wNaCl(>99.7%、Fisher Scientific)で満たした20ジェット衝突噴霧器を、密閉試験体積(8.0m)中にモデルエアロゾルを発生させるために使用した。NaClナノ結晶のサイズ分布を分析するために、原位置で、TSIウルトラファイン凝縮粒子カウンター3776(UCPC)及びTSI差分移動度解析器3085(DMA)を含むTSI操作式移動度粒子寸法測定器3080(SMPS)システムを使用して、粒子測定を行った。図16は、サイズ分布データ(円)を収集した10回の平均を示しており、該データは、フィッティング(線)すると、全粒子濃度が6.39×10cm-3での集計幾何平均径及び幾何標準偏差が、それぞれ118.77nm及び2.08nmとなった。CMDは、単一のSARS-CoV-2の単一ウイルス粒子のサイズとよく一致するため、COVID-19の伝染を防ぐシステムの機能を評価することを目的する試験を、より現実的にする。
【0153】
ろ過システムの挙動をより理解するために、基本数値モデルを作成し、密封体積内のエアロゾルの減少速度を解決した。本モデルは、環境対し完全に密封され、完全に混合された部屋を仮定している。これに基づき、式S8:
【数11】
【0154】
空気再循環ろ過システムの性質によって、フィルターは、単一パスに基づくユニット(すなわち、個人のマスクやプロセスガス供給ライン)と比較すると、極端に高い濾過性能を必要としない。上記モデルを使用することによって、ろ過効率が経時的な汚染物質の減少にどう影響するかの感度分析が可能となった。このシミュレーションで使用したACH値(22.99hr-1)は、基本的なプロトタイプユニットを試験する際に使用される流量(200mhr-1)及び部屋のサイズ(8.0m)に基づいている。図17で分かるように、H13 HEPAフィルター(緑色の鎖線)が、99%まで部屋を浄化するにかかった時間は、より低グレードのE11 HEPAフィルター(青色の点線)と比較して、10%未満速かった。非HEPAフィルター(赤色の線)を使用すると、この時間を25%だけ増加させる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6ab
図6c
図6d
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】