IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シェブロンジャパン株式会社の特許一覧

特表2023-517562オートマチックトランスミッションのための潤滑油組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】オートマチックトランスミッションのための潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20230419BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20230419BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20230419BHJP
   C10M 125/24 20060101ALN20230419BHJP
   C10M 137/08 20060101ALN20230419BHJP
   C10M 133/44 20060101ALN20230419BHJP
   C10M 135/36 20060101ALN20230419BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20230419BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20230419BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230419BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230419BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20230419BHJP
【FI】
C10M169/04 ZHV
C10M137/04 ZAB
C10M137/02
C10M125/24
C10M137/08
C10M133/44
C10M135/36
C10N20:02
C10N40:04
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N30:12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022553690
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(85)【翻訳文提出日】2022-09-06
(86)【国際出願番号】 IB2021052067
(87)【国際公開番号】W WO2021186308
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】16/823,946
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391050525
【氏名又は名称】シェブロンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 浩一
(72)【発明者】
【氏名】不知 昌美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直也
(72)【発明者】
【氏名】中川 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】太田 悟
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA20C
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB23A
4H104BB24A
4H104BB41A
4H104BE29C
4H104BG19C
4H104BH02C
4H104BH03A
4H104BH03C
4H104BH05C
4H104CB14A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104EA02A
4H104EB08
4H104EB10
4H104LA03
4H104LA06
4H104LA20
4H104PA03
(57)【要約】
本発明は一般に、オートマチックトランスミッション、及び詳細には電池式電気車(BEV)、ハイブリッド車(HV)及びプラグインハイブリッド車(PHV)における自動車オートマチックトランスミッションのためのトランスミッション油に有用な潤滑油組成物に関する。潤滑剤は、金属化合物(例えば、Ca、Mo、またはZn)を含まず、高い体積抵抗率、摩耗保護、及び銅腐食耐性を実証する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機及び/または発電機を有する電池式電気車(BEV)、ハイブリッド車(HV)及びプラグインハイブリッド車(PHV)のための潤滑油組成物であって、
a.100℃で約1.5~約20mm/sの範囲の動粘性率を有する主要量の潤滑粘度油;
b.無機リン酸、酸性もしくは中性ホスファイトエステル、酸性もしくは中性ホスフェートエステル及びそれらのアミン塩、またはそれらの組み合わせから選択されるリン耐摩耗添加剤;
c.窒素ベースの腐食阻害剤であって、前記潤滑油組成物に前記腐食阻害剤によって提供される窒素の総量は、前記潤滑油組成物の重量を基準として125ppm以下である、前記窒素ベースの腐食阻害剤、
d.硫黄EP添加剤であって、前記潤滑油組成物に前記硫黄EP添加剤によって提供される硫黄の総量は、前記潤滑油組成物の重量を基準として300~1500ppmである、前記硫黄EP添加剤、
を含み、前記潤滑油組成物は、50ppm未満の金属を含有し、80℃で1.0×10Ω・cmを超える体積抵抗率を有する、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
前記リン耐摩耗添加剤は、ホスファイトエステル、ホスフェートアミン、リン酸、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記リン耐摩耗添加剤は、100~1000ppmのリンを前記潤滑油組成物に提供する、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記腐食阻害剤は、以下の構造:
【化1】

(式中、Rは、水素、または酸素、硫黄、もしくは窒素原子を任意に含有する1~20個の炭素原子を含むヒドロカルビル基である)
を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記腐食阻害剤は、アルキル化ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾトリアゾール化合物、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記潤滑油組成物に前記腐食阻害剤によって提供される窒素の総量は、前記潤滑油組成物の重量を基準として20~125ppmである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記硫黄EP添加剤は、以下の構造:
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、または6~18個の炭素原子を含むヒドロカルビル部位であり、mは2であり、n=2である)
を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記硫黄EP添加剤は、分岐状ジアルキルチアジアゾール化合物、線状ジアルキルチアジアゾール化合物、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記潤滑油組成物に前記硫黄EP添加剤によって提供される硫黄の総量は、前記潤滑油組成物の重量を基準として300~1200ppmである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
電動機及び/または発電機を有する電池式電気車(BEV)、ハイブリッド車(HV)及びプラグインハイブリッド車(PHV)のトランスミッションシステムにおける腐食を低減し、摩耗保護を改善する方法であって、
a.100℃で約1.5~約20mm/sの範囲の動粘性率を有する主要量の潤滑粘度油;
b.無機リン酸、酸性もしくは中性ホスファイトエステル、酸性もしくは中性ホスフェートエステル及びそれらのアミン塩、またはそれらの組み合わせから選択されるリン耐摩耗添加剤;
c.窒素ベースの腐食阻害剤であって、前記潤滑油組成物に前記腐食阻害剤によって提供される窒素の総量は、前記潤滑油組成物の重量を基準として125ppm以下である、前記窒素ベースの腐食阻害剤、
d.硫黄EP添加剤であって、前記潤滑油組成物に前記硫黄EP添加剤によって提供される硫黄の総量は、前記潤滑油組成物の重量を基準として300~1500ppmである、前記硫黄EP添加剤、
を含む潤滑油組成物で前記トランスミッションシステムを潤滑させ、作動させることを含み、前記潤滑油組成物は、50ppm未満の金属を含有し、80℃で1.0×10Ω・cmを超える体積抵抗率を有する、前記方法。
【請求項11】
前記リン耐摩耗添加剤は、ホスフェートエステル、ホスフェートアミン、リン酸、またはそれらの組み合わせである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記リン耐摩耗添加剤は、100~1000ppmのリンを前記潤滑油組成物に提供する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記腐食阻害剤は、以下の構造:
【化3】

(式中、Rは、水素、または酸素、硫黄、もしくは窒素原子を任意に含有する1~20個の炭素原子を含むヒドロカルビル基である)
を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記腐食阻害剤は、アルキル化ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾトリアゾール化合物、またはそれらの組み合わせである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記潤滑油組成物に前記腐食阻害剤によって提供される窒素の総量は、前記潤滑油組成物の重量を基準として20~125ppmである、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記硫黄EP添加剤は、以下の構造:
【化4】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、または6~18個の炭素原子を含むヒドロカルビル部位であり、mは2であり、n=2である)
を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記硫黄EP添加剤は、分岐状ジアルキルチアジアゾール化合物、線状ジアルキルチアジアゾール化合物、またはそれらの組み合わせである、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記潤滑油組成物に前記硫黄EP添加剤によって提供される硫黄の総量は、前記潤滑油組成物の重量を基準として300~1200ppmである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、オートマチックトランスミッション、詳細には電気車(EV)のオートマチックトランスミッションに有用な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オートマチックトランスミッション液と呼ばれるオートマチックトランスミッション用の潤滑油は、オートマチックトランスミッションのスムーズな作動を補助するために従来から使用されており、オートマチックトランスミッションは、自動車に設置され、トルクコンバーター、歯車機構、湿式クラッチ、及び油圧機構を含む。
【0003】
トランスミッションにビルトインされた電動機及び/または発電機を有する電池式電気車(BEV)、ハイブリッド車(HV)、及びプラグインハイブリッド車(PHV)は、潤滑産業にとって独自の課題を提示する。銅は、電気車及びHVのパワートレインの電気システムの多くに存在し、高温で腐食し得る。電気車及びHVにおける潤滑剤は、そのため、腐食を最小限に抑えるために十分な銅腐食保護を提供しなければならない。
【0004】
体積抵抗率(電流に対する液体の抵抗)も問題となり得る。抵抗率が低すぎる場合、パワートレインは、充電が漏れ、効率が低下する。金属イオンの存在は、液体の体積抵抗率を低下させる。従来の内燃機関用の潤滑剤において一般的に使用されている金属、例えば、Ca、Mo、及びZnは、そのため、体積抵抗率の要件を満たすために電気車において最小限に抑えなければならない。
【0005】
BEV、HV及びPHVにおけるさらに別の課題は、摩耗保護である。内燃機関を動力源とする従来の車とは異なり、電気車では同じ潤滑液が、電動機及びトランスミッションによって共有される。BEV、HV、及びPHVのトランスミッションシステムにおいて使用される遊星歯車は、摩耗保護に関する課題を提示し得る。リンベース及び硫黄ベースの極圧添加剤は、摩耗保護を提供し得るのに対し、硫黄化合物は、高温での酸性種に酸化し、腐食の増加に寄与し得る。
【0006】
BEV、HV、及びPHVの潤滑に関連する複雑性を考慮すると、摩耗保護と良好な銅腐食耐性及び十分な体積抵抗率とのバランスをとる潤滑剤のニーズが存在する。
【0007】
開示される技術は、トランスミッションにビルトインされた電動機及び/または発電機を備える電気車、ハイブリッド車、及びプラグインハイブリッド車において使用するのに好適な潤滑剤に関する。潤滑剤は、金属化合物(例えば、Ca、Mo、またはZn)を実質的に含まず、高い体積抵抗率、摩耗保護、及び銅腐食耐性を実証する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の1つの実施形態によれば、電動機及び/または発電機を備える電池式電気車(BEV)、ハイブリッド車(HV)及びプラグインハイブリッド車(PHV)のための潤滑油組成物であって、
a.100℃で約1.5~約20mm/sの範囲の動粘性率を有する主要量の潤滑粘度油;
b.無機リン酸、酸性もしくは中性ホスファイトエステル、酸性もしくは中性ホスフェートエステル及びそれらのアミン塩、またはそれらの組み合わせから選択されるリン耐摩耗添加剤;
c.窒素ベースの腐食阻害剤であって、潤滑油組成物に腐食阻害剤によって提供される窒素の総量は、潤滑油組成物の重量を基準として125ppm以下である、窒素ベースの腐食阻害剤、
d.硫黄EP添加剤であって、潤滑油組成物に硫黄EP添加剤によって提供される硫黄の総量は、潤滑油組成物の重量を基準として300~1500ppmである、硫黄EP添加剤、
を含み、潤滑油組成物は、50ppm未満の金属を含有し、80℃で1.0×10Ω・cmを超える体積抵抗率を有する、潤滑油組成物が提供される。
【0009】
本発明の別の実施形態によれば、電動機及び/または発電機を有する電池式電気車(BEV)、ハイブリッド車(HV)及びプラグインハイブリッド車(PHV)のトランスミッションシステムにおける腐食を低減し、摩耗保護を改善する方法であって、
a.100℃で約1.5~約20mm/sの範囲の動粘性率を有する主要量の潤滑粘度油;
b.無機リン酸、酸性もしくは中性ホスファイトエステル、酸性もしくは中性ホスフェートエステル及びそれらのアミン塩、またはそれらの組み合わせから選択されるリン耐摩耗添加剤;
c.窒素ベースの腐食阻害剤であって、潤滑油組成物に腐食阻害剤によって提供される窒素の総量は、潤滑油組成物の重量を基準として125ppm以下である、窒素ベースの腐食阻害剤、
d.硫黄EP添加剤であって、潤滑油組成物に硫黄EP添加剤によって提供される硫黄の総量は、潤滑油組成物の重量を基準として300~1500ppmである、硫黄EP添加剤、
を含む潤滑油組成物で前記トランスミッションシステムを潤滑させ、作動させることを含み、潤滑油組成物は、50ppm未満の金属を含有し、80℃で1.0×10Ω・cmを超える体積抵抗率を有する、方法が提供される。
【0010】
本発明の別の実施形態によれば、電動機及び/または発電機を有する電池式電気車(BEV)、ハイブリッド車(HV)及びプラグインハイブリッド車(PHV)のトランスミッションシステムにおける腐食を低減し、摩耗保護を改善するための潤滑油組成物の使用であって、
a.100℃で約1.5~約20mm/sの範囲の動粘性率を有する主要量の潤滑粘度油;
b.無機リン酸、酸性もしくは中性ホスファイトエステル、酸性もしくは中性ホスフェートエステル及びそれらのアミン塩、またはそれらの組み合わせから選択されるリン耐摩耗添加剤;
c.窒素ベースの腐食阻害剤であって、潤滑油組成物に腐食阻害剤によって提供される窒素の総量は、潤滑油組成物の重量を基準として125ppm以下である、窒素ベースの腐食阻害剤、
d.硫黄EP添加剤であって、潤滑油組成物に硫黄EP添加剤によって提供される硫黄の総量は、潤滑油組成物の重量を基準として300~1500ppmである、硫黄EP添加剤、
を含む潤滑油組成物で前記トランスミッションシステムを潤滑させ、作動させることを含み、潤滑油組成物は、50ppm未満の金属を含有し、80℃で1.0×10Ω・cmを超える体積抵抗率を有する、使用が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義:
以下の用語は、本明細書を通して使用され、別段示されない限り、以下の意味を有する。
【0012】
基油の「主要量」という用語は、基油の量が潤滑油組成物の少なくとも40重量%である場合を指す。いくつかの実施形態では、基油の「主要量」は、潤滑油組成物の50重量%を超える、60重量%を超える、70重量%を超える、80重量%を超える、または90重量%を超える基油の量を指す。
【0013】
金属を「実質的に含まない」という用語は、潤滑油組成物に50ppmまたは50ppm未満で存在する金属のレベルを指す。
【0014】
以下の説明において、本明細書に開示されるすべての数値は、用語「約」または「おおよそ」がそれに接続して使用されるかどうかにかかわらず、おおよその値である。それらは、1パーセント、2パーセント、5パーセント、または、時に、10~20パーセント変わり得る。
【0015】
用語「総塩基数」または「TBN」は、ASTM標準番号D2896または同等の手順に従って、組成物が腐食酸を中和し続ける能力を示す、油サンプルにおけるアルカリ度のレベルを指す。試験は、電気伝導率の変化を測定し、結果は、mgKOH/g(1グラムの生成物を中和するのに必要とされるKOHのミリグラムの同等数)として表される。そのため、高いTBNは、強度に過塩基性の生成物及び、結果として、酸を中和するためのより高い塩基保有量を反映する。
【0016】
用語「PIB」は、ポリ-イソブチレンを指す。
【0017】
潤滑粘度油
本明細書に開示される潤滑油組成物は通常、少なくとも1つの潤滑粘度油を含む。当業者に知られている任意の基油が、本明細書に開示される潤滑粘度油として使用され得る。潤滑油組成物を調製するために好適ないくつかの基油は、Mortier et al.,“Chemistry and Technology of Lubricants,”2nd Edition,London,Springer,Chapters 1 and 2(1996);及びA.Sequeria,Jr.,“Lubricant Base Oil and Wax Processing,”New York,Marcel Decker,Chapter 6,(1994);及びD.V.Brock,Lubrication Engineering,Vol.43,pages 184-5,(1987)(全ては参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。通常、潤滑油組成物における基油の量は、潤滑油組成物の総重量を基準として、約70~約99.5重量%であり得る。いくつかの実施形態では、潤滑油組成物における基油の量は、潤滑油組成物の総重量を基準として、約75~約99重量%、約80~約98.5重量%、または約80~約98重量%であり得る。
【0018】
所定の実施形態では、基油は、任意の天然または合成潤滑基油画分である、またはそれを含む。合成油のいくつかの非限定的な例には、エチレンなどの少なくとも1つのアルファ-オレフィンの重合から、またはフィッシャー・トロプシュプロセスなどの一酸化炭素及び水素ガスを使用する炭化水素合成手順から調製されるポリアルファオレフィンまたはPAOなどの油が含まれる。所定の実施形態では、基油は、基油の総重量を基準として、約10重量%未満の1つ以上の重質画分を含む。重質画分は、100℃で少なくとも約20cStの粘度を有する潤滑油画分を指す。所定の実施形態では、重質画分は、100℃で少なくとも約25cStまたは少なくとも約30cStの粘度を有する。さらなる実施形態では、基油における1つ以上の重質画分の量は、基油の総重量を基準として、約10重量%未満、約5重量%未満、約2.5重量%未満、約1重量%未満、または約0.1重量%未満である。またさらなる実施形態では、基油は、重質画分を含まない。
【0019】
所定の実施形態では、潤滑油組成物は、主要量の潤滑粘度基油を含む。いくつかの実施形態では、基油は、100℃で約1.5センチストーク(cSt)~約20cSt、約2センチストーク(cSt)~約20cSt、または約2cSt~約16cStの動粘性率を有する。本明細書に開示される基油または潤滑油組成物の動粘性率は、ASTM D 445(参照により本明細書に組み込まれる)に従って測定され得る。
【0020】
他の実施形態では、基油は、ベースストックまたはベースストックのブレンドである、またはそれを含む。さらなる実施形態では、ベースストックは、抽出、溶媒精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化、及び再精製を含むがこれらに限定されない多様な異なるプロセスを使用して製造される。いくつかの実施形態では、ベースストックは、再精製ストックを含む。さらなる実施形態では、再精製ストックは、製造、コンタミネーション、または先行使用を介して導入された物質を実質的に含まないものとする。
【0021】
いくつかの実施形態では、基油は、American Petroleum Institute(API)Publication 1509,Fourteen Edition,December 1996(すなわち、API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils)(参照により本明細書に組み込まれる)で既定されている、グループI~Vの1つ以上におけるベースストックの1つ以上を含む。APIガイドラインは、多様な異なるプロセスを使用して製造され得る潤滑成分としてベースストックを定義している。グループI、II及びIIIベースストックは、鉱油であり、それぞれが特定の範囲の飽和物量、硫黄含有量及び粘度指数を有する。グループIVベースストックは、ポリアルファオレフィン(PAO)である。グループVベースストックには、グループI、II、III、またはIVに含まれないすべての他のベースストックが含まれる。
【0022】
いくつかの実施形態では、基油は、グループI、II、III、IV、Vまたはそれらの組み合わせにおけるベースストックの1つ以上を含む。他の実施形態では、基油は、グループII、III、IVまたはそれらの組み合わせにおけるベースストックの1つ以上を含む。さらなる実施形態では、基油は、グループII、III、IVまたはそれらの組み合わせにおけるベースストックの1つ以上を含み、基油は、100℃で約1.5センチストーク(cSt)~約20cSt、約2cSt~約20cSt、または約2cSt~約16cStの動粘性率を有する。いくつかの実施形態では、基油は、グループIIの基油である。
【0023】
基油は、天然潤滑粘度油、合成潤滑粘度油及びそれらの混合物からなる群から選択され得る。いくつかの実施形態では、基油には、合成ワックス及びスラックワックスの異性化によって得られるベースストック、ならび粗製物の芳香族及び極性成分を(溶媒抽出ではなく)水素化分解することによって生成される水素化分解ベースストックが含まれる。他の実施形態では、潤滑粘度基油には、天然油、例えば、動物油、植物油、鉱油(例えば、液体石油及びパラフィン系、ナフテン系または混合パラフィン系-ナフテン系タイプの溶媒処理または酸処理鉱油)、石炭またはシェールに由来する油、及びそれらの組み合わせが含まれる。動物油のいくつかの非限定的な例には、骨油、ラノリン、魚油、ラード油、イルカ油、アザラシ油、サメ油、獣脂油、及びクジラ油が含まれる。植物油のいくつかの非限定的な例には、ヒマシ油、オリーブ油、ピーナッツ油、菜種油、コーン油、ゴマ油、綿実油、大豆油、ヒマワリ油、ベニバナ油、大麻油、亜麻仁油、キリ油、オイチシカ油、ホホバ油、及びメドウフォーム油が含まれる。そのような油は、部分的にまたは完全に水素化され得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、合成潤滑粘度油には、炭化水素油及びハロ置換炭化水素油、例えば、重合及び内部重合オレフィン、アルキルベンゼン、ポリフェニル、アルキル化ジフェニルエーテル、アルキル化ジフェニルスルフィド、ならびにそれらの誘導体、それらのアナログ及びホモログなどが含まれる。他の実施形態では、合成油には、アルキレンオキシドポリマー、インターポリマー、コポリマー及びそれらの誘導体であって、末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化などによって改変されていてもよいものが含まれる。さらなる実施形態では、合成油には、ジカルボン酸と多様なアルコールとのエステルが含まれる。所定の実施形態では、合成油には、C~C12モノカルボン酸ならびにポリオール及びポリオールエーテルから作製されたエステルが含まれる。さらなる実施形態では、合成油には、トリ-アルキルホスフェートエステル油、例えば、トリ-n-ブチルホスフェート及びトリ-iso-ブチルホスフェートが含まれる。
【0025】
いくつかの実施形態では、合成潤滑粘度油には、ケイ素ベースの油(ポリアクリル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-、ポリアリールオキシ-シロキサン油及びシリケート油など)が含まれる。他の実施形態では、合成油には、リン含有酸の液体エステル、ポリマーテトラヒドロフラン、ポリアルファオレフィンなどが含まれる。
【0026】
ワックスの水素異性化に由来する基油も、単独でまたは前述の天然及び/または合成基油と組み合わせて使用され得る。そのようなワックス異性化油は、水素異性化触媒での天然もしくは合成ワックスまたはそれらの混合物の水素異性化によって生成される。
【0027】
さらなる実施形態では、基油は、ポリ-アルファ-オレフィン(PAO)を含む。通常、ポリ-アルファ-オレフィンは、約1.5~約30、約2~約20、または約2~約16個の炭素原子を有するアルファ-オレフィンに由来し得る。好適なポリ-アルファ-オレフィンの非限定的な例には、オクテン、デセン、それらの混合物などに由来するものが含まれる。これらのポリ-アルファ-オレフィンは、100℃で約1.5~約15、約1.5~約12、または約1.5~約8センチストークの粘度を有し得る。いくつかの例では、ポリ-アルファ-オレフィンは、鉱油などの他の基油と一緒に使用され得る。
【0028】
さらなる実施形態では、基油は、ポリアルキレングリコールまたはポリアルキレングリコール誘導体であって、ポリアルキレングリコールの末端ヒドロキシル基が、エステル化、エーテル化、アセチル化などによって改変され得るものを含む。好適なポリアルキレングリコールの非限定的な例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソプロピレングリコール、及びそれらの組み合わせが含まれる。好適なポリアルキレングリコール誘導体の非限定的な例には、ポリアルキレングリコールのエーテル(例えば、ポリイソプロピレングリコールのメチルエーテル、ポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールのジエチルエーテルなど)、ポリアルキレングリコールのモノ及びポリカルボン酸エステル、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。いくつかの例では、ポリアルキレングリコールまたはポリアルキレングリコール誘導体は、他の基油、例えば、ポリ-アルファ-オレフィン及び鉱油と一緒に使用され得る。
【0029】
さらなる実施形態では、基油は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)と多様なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステルのいずれかを含む。これらのエステルの非限定的な例には、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステルなどが含まれる。
【0030】
さらなる実施形態では、基油は、フィッシャー・トロプシュプロセスによって調製される炭化水素を含む。フィッシャー・トロプシュプロセスは、フィッシャー・トロプシュ触媒を使用して水素及び一酸化炭素を含有する気体から炭化水素を調製する。これらの炭化水素は、基油として有用なものとするためにさらなる処理を必要とし得る。例えば、炭化水素は、当業者に知られているプロセスを使用して脱ろう、水素異性化、及び/または水素化分解され得る。
【0031】
さらなる実施形態では、基油は、未精製油、精製油、再精製油、またはそれらの混合物を含む。未精製油は、さらなる精製処理をせずに天然または合成源から直接的に得られるものである。未精製油の非限定的な例には、乾留手順から直接的に得られるシェール油、一次蒸留から直接的に得られる石油、及びエステル化プロセスから直接的に得られ、さらなる処理をせずに使用されるエステル油が含まれる。精製油は、前者が1つ以上の特性を改善するために1つ以上の精製プロセスによってさらに処理された場合を除き、未精製油に類似する。溶媒抽出、二次抽出、酸または塩基抽出、濾過、浸出などの多くのそのような精製プロセスが当業者に知られている。再精製油は、精製油を得るために使用されるものと類似するプロセスを精製油に適用することによって得られる。そのような再精製油は、再生利用または再処理油としても知られており、しばしば、使用済添加剤及び油分解生成物の除去に関するプロセスによって追加的に処理され得る。
【0032】
リン添加剤
一実施形態では、1つ以上のリン含有耐摩耗添加剤が、潤滑油組成物に存在する。
【0033】
いくつかの実施形態では、1つ以上のリン含有耐摩耗添加剤は、潤滑油組成物の重量を基準として、100~1000、200~500、250~450、275~425、275~415、290~400重量ppmで潤滑油組成物に存在する。
【0034】
リン添加剤は、ホスファイトエステル、ホスフェートエステル、ホスフェートアミン、リン酸、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0035】
(a)ホスファイトエステル
ホスファイトエステルには、モノ、ジ、及びトリヒドロカルビルホスファイトが含まれる。ジヒドロカルビル水素ホスファイトまたはトリヒドロカルビルホスファイトが好ましい。
【0036】
一実施形態では、リン含有耐摩耗添加剤は、ジヒドロカルビル水素ホスファイトである。ジヒドロカルビル水素ホスファイトは、以下の式(1):
O=P(OR)H 式(I)
(式中、Rは、1~30個の炭素を有する炭化水素基を表す)によって表される。
【0037】
ジヒドロカルビル水素ホスファイトの具体的な例には、アリールジヒドロカルビル水素ホスファイト、例えば、ジフェニル水素ホスファイト、ジクレシル水素ホスファイト、フェニルクレシル水素ホスファイト、モノフェニル2-エチルヘキシル水素ホスファイト;及び脂肪族ジヒドロカルビルホスファイト、例えば、ジブチル水素ホスファイト、ジオクチル水素ホスファイト、ジイソオクチル水素ホスファイト、ジ(2-エチルヘキシル)水素ホスファイト、ジデシル水素ホスファイト、ジオリエル水素ホスファイト、ジラウリル水素ホスファイト、及びジステアリル水素ホスファイトが含まれる。
【0038】
一実施形態では、リン含有耐摩耗添加剤は、トリヒドロカルビルホスファイトである。トリヒドロカルビルホスファイトは、以下の式(II):
P(OR) 式(II)、
(式中、Rは、1~30個の炭素を有する炭化水素基を表す)によって表される。
【0039】
トリヒドロカルビルホスファイトの具体的な例には、アリールトリヒドロカルビルホスファイト、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレシルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルモノ-2-エチルヘキシルホスファイト、及びジフェニルモノトリデシルホスファイト;及び脂肪族トリヒドロカルビルホスファイト、例えば、トリブチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリスデシルホスファイト、トリストリデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリラウリルホスファイト、及びトリステアリルホスファイトが含まれる。
【0040】
一実施形態では、ホスファイトエステルは、潤滑油組成物の重量を基準として、0.01~1.0、0.05~0.8、0.06~0.5、0.07~0.3、0.07~0.2、0.08~0.2、0.09~0.18、0.09~0.16、0.08~0.14、0.08~0.13、0.09~0.12、0.09~0.11、0.10重量%で存在する。
【0041】
一実施形態では、ホスファイトエステルは、ホスファイトエステルの重量を基準として、5~20、7~18、9~16、10~15、11~14、12~14、13.3重量%のリン含有量を有する。
【0042】
(b)ホスフェートアミン
具体的には、ホスフェートエステルアミン塩の例には、以下の式III:
(OR)x(OH)yP=O [式III]
(式中、x+y=3であり、Rは、1~30個の炭素を有するアルキル基を表す)によって表される酸性アルキルホスフェートエステルのアミン塩が含まれる。
【0043】
Rによって表されるアルキル基の具体的な例には、1~18個、好ましくは1~12個の炭素原子を有する線状または分岐状アルキル基が含まれ、その例には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、様々なブチル基、様々なペンチル基、様々なヘキシル基、様々なヘプチル基、様々なオクチル基、様々なノニル基、様々なデシル基、様々なウンデシル基、様々なドデシル基、様々なトリデシル基、様々なテトラデシル基、様々なペンタデシル基、様々なヘキサデシル基、様々なヘプタデシル基、及び様々なオクタデシル基が含まれる。
【0044】
アミンは、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、または第三級アルキル第一級アミンであり得る。また、前述のアミンの例には、一般式:
【化1】

(式中、R1、R2、及びR3は、1~20個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基または水素原子であり、R1、R2、及びR3の少なくとも1つは、1~20個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基である)によって表されるアミンが含まれる。ここで、脂肪族炭化水素基は、好ましくはアルキル基または1~2個の不飽和二重結合を有する不飽和炭化水素基であり、アルキル基及び不飽和炭化水素基はそれぞれ、直鎖、分岐状、及び環状基のいずれかであり得る。前述した脂肪族炭化水素基は、好ましくは6~20個の炭素原子を有するもの、及びより好ましくは12~20個の炭素原子を有するものである。アミンは、さらにより好ましくは、脂肪族炭化水素基が12~20個の炭素原子を有する第一級アミンである。
【0045】
一実施形態では、アルキルホスフェートアミン塩は、潤滑油組成物の0.05 0.01~1.0重量%で存在する。他の実施形態では、アルキルホスフェートアミン塩は、潤滑油組成物において0.01~0.5重量%、0.05~0.25重量%、0.06~0.25重量%、0.07~0.20重量%、0.08~0.19重量%、0.08~0.18重量%、0.09~0.17、0.09~0.16、0.1~0.15重量%で存在する。
【0046】
一実施形態では、ホスフェートアミンは、2.0~12.0重量%のリン含有量を有する。他の実施形態では、リン添加剤は、5.0~11.0重量%、6.0~10.0重量%、7.0~10.0重量%、7.5~9.5重量%、7.8~9.0重量%、8.0~8.5重量%のリン含有量を有する。
【0047】
一実施形態では、ホスフェートアミン塩は、0.10~5.0重量%の窒素総含有量を有する。他の実施形態では、ホスフェートアミン塩は、0.50~4.0重量%、0.70~3.0重量%、0.9~2.5重量%、1.0~2.3重量%、1.2~2.2重量%、0.15~2.0重量%、1.6~1.9重量%の窒素含有量を有する。
【0048】
(c)リン酸
リン酸は、式(IV)HPOの無機リン酸である。無機リン酸は、潤滑油組成物において0.01~0.09重量%、0.02~0.08重量%、0.02~0.07重量%、0.02~0.06重量%、0.025~0.055重量%、0.03~0.05重量%で存在する。
【0049】
硫黄ベースの極圧(EP)添加剤
本明細書に開示される潤滑油組成物は、極圧の条件下で摺動金属表面が焼き付くことを防止し得る極圧(EP)剤を含む。当業者に知られている任意の極圧剤が、潤滑油組成物において使用され得る。通常、極圧剤は、金属と化学的に組み合わさって、高荷重下で対向金属表面における凹凸の溶着を防止する表面膜を形成し得る化合物である。硫黄ベースの極圧剤の例には、硫化油及び脂肪、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィンジヒドロカルビルポリスルフィド、チアジアゾール化合物、チオリン酸エステル(チオホスファイト及びチオホスフェート)、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカルバメート化合物、チオテルペン化合物及びジアルキルチオジプロピオネート化合物が含まれる。
【0050】
一実施形態では、硫黄ベースの極圧添加剤は、チアジアゾール化合物である。チアジアゾール化合物、特に、金属間の表面の摩耗に対する良好な耐性を提供する。好ましくは、チアジアゾール化合物、例えば、1,3,4-チアジアゾール、1,2,4-チアジアゾール化合物、及び1,4,5-チアジアゾールが好ましい。
【0051】
一実施形態では、チアジアゾール化合物は、1,3,4-チアジアゾール、特に2,5-ビス(ヒドロカルビルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール(以下の式Vによって例示される)である:
【化2】
【0052】
上の構造において、R1及びR2はそれぞれ、1~30個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を有するアルキル基を表す。アルキル基は、線状または分岐状であり得る。R1及びR2は、相互に同じまたは異なり得る。
【0053】
上記一般構造におけるR1及びR2によって表されるアルキル基の具体的な例には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、様々なペンチル基、様々なヘキシル基、様々なヘプチル基、様々なオクチル基、様々なノニル基、様々なデシル基、様々なウンデシル基、様々なドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、及びエイコシル基が含まれる。
【0054】
一実施形態では、硫黄ベースの極圧添加剤の量は、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.01重量%~約3重量%、約0.05重量%~約1.5重量%、0.05重量%~約1.5重量%、0.05重量%~約1.0重量%、0.05重量%~約0.75重量%、0.05重量%~約0.5重量%、または約0.08重量%~約1.0重量%、0.08重量%~約0.7重量%、0.08重量%~約0.6重量%、0.08重量%~約0.5重量%、0.09重量%~約0.8重量%であり得る。
【0055】
一実施形態では、硫黄ベースの極圧添加剤からの硫黄の量は、潤滑油組成物の総重量を基準として300~1500、300~1400、300~1300、300~1200、300~1100、300~1050重量ppmである。
【0056】
腐食阻害剤
本明細書に開示される潤滑油組成物は、腐食を低減し得る腐食阻害剤を含む。腐食阻害剤は、窒素含有複素環式化合物及びその誘導体であり得る。実施形態では、本開示のトリアゾールは、それがいかなる活性硫黄基も含まないものである。トリアゾールのアルキル及びアリール誘導体が好ましい。トリルトリアゾールが最も好ましい。これらは、置換または非置換であり得る。本発明のトリルトリアゾール化合物は、以下の式VIによって例示される:
【化3】
【0057】
上の式において、R3は、水素または1~30個の炭素を有するアルキル基を表す。R3は、線状または分岐状であり得、それは、飽和または不飽和であり得る。それは、事実上アルキルまたは芳香族である環構造を含有し得る。R3はまた、N、OまたはSなどのヘテロ原子を含有し得る。
【0058】
本発明の置換トリアゾールは、塩基性トリアゾールをその酸性-NH基を介してアルデヒド及びアミンと縮合することによって調製され得る。いくつかの実施形態では、置換トリアゾールは、トリアゾール、アルデヒド及びアミンの反応生成物である。本開示の置換トリアゾールを調製するために使用され得る好適なトリアゾールには、トリアゾール、アルキル置換トリアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、または他のアリールトリアゾールが含まれるのに対し、一方では、好適なアルデヒドには、ホルムアルデヒド及びホルマリンのような反応性均等物が含まれ、一方では、好適なアミンには、第一級または第二級アミンが含まれる。いくつかの実施形態では、アミンは、第二級アミンであり、さらに分岐状アミンである。またさらなる実施形態では、アミンは、ベータ分岐状アミン、例えば、ビス-2-エチルヘキシルアミンである。
【0059】
一実施形態では、本発明の置換トリアゾールは、アルキル置換トリアゾールである。別の実施形態では、本発明の置換トリアゾールは、ベンゾトリアゾールである。本開示の潤滑油組成物は典型的には、約0.01~約1.0重量パーセントのトリアゾールを含むが、約0.02~0.08、0.02~0.07、0.02~0.06、0.02~約0.05、0.03~約0.05重量パーセントのトリアゾール化合物も含み得る。
【0060】
一実施形態では、腐食阻害剤は、潤滑油組成物の重量を基準として125重量ppm以下で存在する。他の実施形態では、腐食阻害剤は、潤滑油組成物の重量を基準として20~125、25~110、30~105、35~100、40~100、43~95重量ppmで存在する。
【0061】
他の添加剤
任意に、潤滑油組成物は、少なくとも、潤滑油組成物の任意の所望の特性を付与または改善し得る添加剤または改変剤(以下「添加剤」と称される)をさらに含み得る。当業者に知られている任意の添加剤が、本明細書に開示される潤滑油組成物において使用され得る。いくつかの好適な添加剤がMortier et al.,“Chemistry and Technology of Lubricants,”2nd Edition,London,Springer,(1996);及びLeslie R.Rudnick,“Lubricant Additives:Chemistry and Applications,”New York,Marcel Dekker(2003)(これらの両方が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。いくつかの実施形態では、添加剤は、抗酸化剤、耐摩耗剤、錆阻害剤、解乳化剤、摩擦改変剤、多機能性添加剤、粘度指数改善剤、流動点降下剤、発泡阻害剤、金属不活性化剤、分散剤、腐食阻害剤、潤滑性改善剤、熱安定性改善剤、抗ヘイズ添加剤、アイシング阻害剤、色素、マーカー、静電気消散剤、殺生物剤及びそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。通常、潤滑油組成物における添加剤の各々の濃度は、使用される場合、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.001重量%~約15重量%、約0.01重量%~約10重量%、または約0.1重量%~約8重量%の範囲であり得る。さらに、潤滑油組成物における添加剤の総量は、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.001重量%~約20重量%、約0.01重量%~約10重量%、または約0.1重量%~約8重量%の範囲であり得る。
【0062】
本明細書に開示される潤滑油組成物は、金属を実質的に含まない(すなわち、50ppm未満の金属を含有する)。Newcomb,T.,et al,“Electrical Conductivity of New and Used Automatic Transmission Fluids,”SAE Int.J.Fuels Lubr.9(3):2016,doi:10.4271/2016-01-2205において、極性またはイオン性化合物の存在は、トランスミッション液の伝導率を増加させる(それにより体積抵抗率を低下させる)ことが示された。特に、金属含有添加剤、例えば、洗浄剤は、潤滑油組成物の体積抵抗率に負の影響を及ぼし、そのため最小限に抑えるべきであるが、分散剤、摩擦改変剤、及び摩耗阻害剤の存在は同様に、バルク流体の伝導率の増加に寄与する。
【0063】
上記の任意の添加剤は、無灰(金属非含有)であることに加えて、潤滑油組成物の体積抵抗率が1.0×10Ω・cmを超えるように選択される。十分に高い体積抵抗率は、潤滑油組成物における適切な絶縁特性を提供するために必要である。
【0064】
本発明の潤滑油組成物は、1つ以上の無灰分散剤を含有し得る。典型的には、無灰分散剤は、アルケニルコハク酸無水物をアミンと反応させることによって形成された窒素含有分散剤である。そのような分散剤の例は、アルケニルスクシンイミド及びスクシンアミドである。これらの分散剤は、例えば、ホウ素または炭酸エチレンとの反応によってさらに改変され得る。長鎖炭化水素置換カルボン酸及びヒドロキシ化合物に由来するエステルベースの無灰分散剤もまた採用され得る。好ましい無灰分散剤は、ポリイソブテニルコハク酸無水物に由来するものである。これらの分散剤は、市販されている。
【0065】
任意に、本明細書に開示される潤滑油組成物は、摩擦改変剤をさらに含み得る。多様な既知の摩擦改変剤が、本発明の潤滑油組成物に含有される摩擦改変剤として使用され得るが、低分子量C~C30炭化水素置換スクシンイミド、またはポリオールが好ましい。摩擦改変剤は、単独でまたは摩擦改変剤の組み合わせとして使用され得る。いくつかの態様では、摩擦改変剤は、潤滑油組成物において0.01~5重量%の量で存在する。他の態様では、摩擦改変剤は、潤滑油組成物において0.01~3.0、0.01~2.0重量%、0.01~1.5、0.01~1.0、0.01~1.0の量で存在する。
【0066】
任意に、本明細書に開示される潤滑油組成物は、基油の酸化を低減または防止し得る抗酸化剤をさらに含み得る。当業者に知られている任意の抗酸化剤が、潤滑油組成物において使用され得る。好適な抗酸化剤の非限定的な例には、アミンベースの抗酸化剤(例えば、アルキルジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキルまたはアラルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化p-フェニレンジアミン、テトラメチル-ジアミノジフェニルアミンなど)、フェノール系抗酸化剤(例えば、2-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス-(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(6-ジ-tert-ブチル-o-クレゾール)など)、硫黄ベースの抗酸化剤(例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、硫化フェノール系抗酸化剤など)、リンベースの抗酸化剤(例えば、ホスファイトなど)、亜鉛ジチオホスフェート、油溶性銅化合物及びそれらの組み合わせが含まれる。抗酸化剤の量は、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.01重量%から約10重量%まで、約0.05重量%から約5重量%まで、または約0.1重量%から約3重量%まで変わり得る。いくつかの好適な抗酸化剤は、Leslie R.Rudnick,“Lubricant Additives:Chemistry and Applications,”New York,Marcel Dekker,Chapter 1,pages 1-28(2003)(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0067】
本明細書に開示される潤滑油組成物は、潤滑油組成物の流動点を低下させ得る流動点降下剤を任意に含み得る。当業者に知られている任意の流動点降下剤が、潤滑油組成物において使用され得る。好適な流動点降下剤の非限定的な例には、ポリメタクリレート、アルキルアクリレートポリマー、アルキルメタクリレートポリマー、ジ(テトラ-パラフィンフェノール)フタレート、テトラ-パラフィンフェノールの縮合物、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物及びそれらの組み合わせが含まれる。いくつかの実施形態では、流動点降下剤は、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、塩素化パラフィン及びフェノールの縮合物、ポリアルキルスチレンなどを含む。流動点降下剤の量は、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.01重量%から約10重量%まで、約0.05重量%から約5重量%まで、または約0.1重量%から約3重量%まで変わり得る。いくつかの好適な流動点降下剤は、Mortier et al.,“Chemistry and Technology of Lubricants,”2nd Edition,London,Springer,Chapter 6,pages 187-189(1996);及びLeslie R.Rudnick,“Lubricant Additives: Chemistry and Applications,”New York,Marcel Dekker,Chapter 11,pages 329-354(2003)(これらの両方は、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0068】
本明細書に開示される潤滑油組成物は、油における発泡を分解し得る発泡阻害剤または抗発泡剤を任意に含み得る。当業者に知られている任意の発泡阻害剤または抗発泡剤が、潤滑油組成物において使用され得る。好適な抗発泡剤の非限定的な例には、シリコーン油またはポリジメチルシロキサン、フルオロシリコーン、アルコキシル化脂肪族酸、ポリエーテル(例えば、ポリエチレングリコール)、分岐状ポリビニルエーテル、アルキルアクリレートポリマー、アルキルメタクリレートポリマー、ポリアルコキシアミン及びそれらの組み合わせが含まれる。いくつかの実施形態では、抗発泡剤は、グリセロールモノステアレート、ポリグリコールパルミテート、トリアルキルモノチオホスフェート、スルホン化リシンオレイン酸のエステル、ベンゾイルアセトン、サリチル酸メチル、グリセロールモノオレエート、またはグリセロールジオレエートを含む。抗発泡剤の量は、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.0001重量%から約1重量%まで、約0.0005重量%から約0.5重量%まで、または約0.001重量%から約0.1重量%まで変わり得る。いくつかの好適な抗発泡剤は、Mortier et al.,“Chemistry and Technology of Lubricants,”2nd Edition,London,Springerに記載されている。
【0069】
本明細書に開示される潤滑油組成物は、鉄の金属表面の腐食を阻害し得る錆阻害剤を任意に含み得る。当業者に知られている任意の錆阻害剤が、潤滑油組成物において使用され得る。好適な錆阻害剤の非限定的な例には、油溶性モノカルボン酸(例えば、2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、セロチン酸など)、油溶性ポリカルボン酸(例えば、トール油脂肪酸、オレイン酸、リノール酸などから生成されるもの)、アルケニル基が10個以上の炭素原子を含有するアルケニルコハク酸(例えば、テトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸など);600~3000ダルトンの範囲の分子量を有する長鎖アルファ、オメガ-ジカルボン酸及び組み合わせが含まれる。錆阻害剤の量は、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.01重量%から約10重量%まで、約0.05重量%から約5重量%まで、または約0.1重量%から約3重量%まで変わり得る。
【0070】
好適な錆阻害剤の他の非限定的な例には、非イオン性ポリオキシエチレン表面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、及びポリエチレングリコールモノオレエートが含まれる。好適な錆阻害剤のさらなる非限定的な例には、ステアリン酸及び他の脂肪酸、ジカルボン酸、金属石鹸、脂肪酸アミン塩、重スルホン酸の金属塩、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、及びリン酸エステルが含まれる。
【0071】
いくつかの実施形態では、潤滑油組成物は、少なくとも多機能性添加剤を含む。好適な多機能性添加剤のいくつかの非限定的な例には、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート、オキシモリブデンモノグリセリド、オキシモリブデンジエチレートアミド、アミン-モリブデン複合体化合物、及び硫黄含有モリブデン複合体化合物が含まれる。
【0072】
所定の実施形態では、潤滑油組成物は、少なくとも粘度指数改善剤を含む。好適な粘度指数改善剤のいくつかの非限定的な例には、ポリメタクリレート型ポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、水和スチレン-イソプレンコポリマー、ポリイソブチレン、及び分散剤型粘度指数改善剤が含まれる。
【0073】
いくつかの実施形態では、潤滑油組成物は、少なくとも金属不活性化剤を含む。好適な金属不活性化剤のいくつかの非限定的な例には、ジサリチリデンプロピレンジアミン、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、及びメルカプトベンズイミダゾールが含まれる。
【0074】
本明細書に開示される添加剤は、複数の添加剤を有する添加剤濃縮物の形態であり得る。添加剤濃縮物は、好適な希釈剤、例えば、好適な粘度の炭化水素油を含み得る。そのような希釈剤は、天然油(例えば、鉱油)、合成油及びそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。鉱油のいくつかの非限定的な例には、パラフィンベースの油、ナフテンベースの油、アスファルトベースの油及びそれらの組み合わせが含まれる。合成基油のいくつかの非限定的な例には、ポリオレフィン油(特に水素化アルファ-オレフィンオリゴマー)、アルキル化芳香族、ポリアルキレンオキシド、芳香族エーテル、及びカルボキシレートエステル(特にジエステル油)ならびにそれらの組み合わせが含まれる。いくつかの実施形態では、希釈剤は、軽炭化水素油(天然または合成の両方)である。通常、希釈油は、40℃で約13センチストーク~約35センチストークの粘度を有し得る。
【0075】
通常、希釈剤は、本発明の潤滑油溶性添加剤を容易に可溶化し、潤滑基油ストックまたは燃料に容易に可溶となる油添加剤濃縮物を提供することが所望である。また、希釈剤は、例えば、高揮発性、高粘度、及びヘテロ原子などの不純物を含む任意の望ましくない特性を潤滑基油ストックに、ひいては、最終的には完成した潤滑油または燃料に導入しないことが所望である。
【0076】
本発明は、不活性希釈剤及び総濃縮物を基準として2.0%~90重量%、好ましくは10%~50重量%の本発明による油溶性添加剤組成物を含む油溶性添加剤濃縮物組成物をさらに提供する。
【0077】
以下の実施例は、本発明の実施形態を例示するために提供され、本発明を示された特定の実施形態に限定することは意図されていない。逆に示されない限り、すべての部及びパーセンテージは重量による。すべての数値は、おおよそである。数値範囲が与えられる場合、記述された範囲外の実施形態は依然として本発明の範囲に入り得ることが理解されるべきである。各例に記載されている特定の詳細は、本発明の必要な特徴として解釈されるべきではない。
【実施例
【0078】
以下の非限定的な例は、本発明の例示である。
【0079】
それらの性能を評価するための潤滑油組成物を以下に記述する添加剤から調製した。
【0080】
比較用潤滑油組成物(C-1~C-9)及び本発明の実施例(I-1~I-8)を表2に記載の量(重量%)の後述する添加剤から調製した。R-1は、市販のDexron-VI ATFパッケージであり、R-2は、市販のFord Mercon ATFパッケージであり、そのため、それらの正確な含有量及び比は未知である。
【0081】
ホスファイトエステルは、アリールホスファイト(P:13.3重量%)である。
リン酸は、無機リン酸(P:27重量%)である。
リン添加剤は、アルキルホスフェートアミン塩(P:8.2重量%、N:1.8重量%)である。
硫黄EP添加剤Aは、分岐状ジアルキルチアジアゾール化合物(S:34.0重量%、N:6.0重量%)である。
硫黄EP添加剤Bは、線状ジアルキルチアジアゾール化合物(S:31.0重量%、N:4.5重量%)である。
腐食阻害剤Aは、アルキル化ベンゾトリアゾール化合物(N:14.6重量%)である。
腐食阻害剤Bは、ベンゾトリアゾール化合物(N:31.6重量%)である。
他の添加剤は、分散剤、摩擦改変剤、抗酸化剤、封止膨潤剤、及び発泡阻害剤である。
【0082】
摩耗傷跡試験
各潤滑油組成物の耐摩耗性能を1800rpm、80℃の油温度、及び60分間の392Nの荷重の条件下で4ボール摩耗傷跡試験ASTM D4172に従って決定した。試験の後、試験ボールを除去し、摩耗傷跡を測定した。摩耗傷跡直径が表1においてmmで報告されている。具体的には、摩耗傷跡直径が0.55mm以下である場合、サンプル油は、望ましい摩耗性能を示す。
【0083】
極圧摩耗試験
潤滑油組成物の極圧摩耗性能をファレックスピン及びV字ブロック試験(ASTM D3233,Method B、ピン材料:SAE 3135鋼、ブロック:AISI-C-1137鋼)を使用して決定した。この方法は、潤滑剤サンプルに浸された2つの固定されたV-ブロックに対して290rpmで回転する鋼ジャーナルを動作させることを含む。荷重を歯止め機構によってV-ブロックに適用する。試験方法Bでは、荷重が250-lbf(1112-N)の増分で適用され、荷重は各荷重増分で1分間一定に維持される。得られた破壊荷重値は、荷重保有特性のレベルについての基準である。具体的には、破壊荷重が1000lbs以上である場合、サンプル油は、望ましい摩耗性能を示す。
【0084】
Cu腐食試験
潤滑油組成物のCu腐食耐性は、Indiana Stirring Oxidation Test(ISOT,Test method JIS K 2514、2つの触媒プレート(銅及び鋼)及びガラスワニス棒を試験油に浸し、試験油を165.5℃まで加熱し、150時間撹拌することによって空気に曝露する)を使用して決定した。試験油のCu含有量の増加を測定し、表1においてppmで報告する。具体的には、油のCu含有量が50ppm以下である場合、サンプル油は、望ましい抗腐食性能を示す。また、スラッジまたはワニス形成の出現は、不十分な酸化腐食性能を示す。
【0085】
体積抵抗率
潤滑油組成物の電気絶縁能力をJIS C2101-1999-24に従って決定した。80℃及び250Vの印加電圧での試験油の体積抵抗率を測定し、Ω・cm単位で報告した。1.0×10Ω・cm以上の体積抵抗率は、電気車の用途にとって十分に高い。
【0086】
【表1】
【0087】
試験油の評価
比較例C-3及びC-4は、それぞれリン酸を有するまたは有さないホスファイト耐摩耗添加剤の使用が、不十分な摩耗の結果によって明らかにされるように、十分な耐摩耗性能を提供しないことを実証している。C-5は、ホスフェートアミンの添加が、耐摩耗及び極圧性能をいくらか改善するが、依然として不十分であることを示している。C-6における硫黄EP添加剤の添加は、良好な摩耗及びEP性能をもたらすが、高レベルのCu腐食(483ppmのCu)によって明らかにされるように、銅腐食性能に悪影響をもたらす。一方、C-7は、腐食阻害剤は単独で良好なCu腐食結果を提供するが、十分な摩耗性能を達成するには不十分であることを示している。
【0088】
本発明の実施例I-1~I-8は、硫黄耐摩耗添加剤と腐食阻害剤のバランスをとることが、優れた耐摩耗性能及びCu腐食の制御の両方を達成するのに重要であることを実証している。GpII及びGpIII基油の混合物を使用して製剤化された本発明の実施例I-7及びI-8は同様に、適切な摩耗及び腐食保護を提供した。
【0089】
本発明の実施例I-9は、体積抵抗率に対する効果を実証するためにより低下した処置割合のリン添加剤及び分散剤を用いて製剤化した。Newcomb,T.,“Electrical Conductivity of New and Used Automatic Transmission Fluids,”SAE Int.J.Fuels Lubr.9(3):2016,doi:10.4271/2016-01-2205に示されているように、金属含有洗浄剤は、バルク流体の電気伝導率に対して最も高い影響を有するが、他の添加剤、例えば、小分子耐摩耗添加剤及び分散剤もまた、体積抵抗率に影響を及ぼす。本発明の実施例I-9は、そのような極性添加剤の量を減少させることが、良好な耐摩耗及び銅腐食保護を依然として維持しながら、潤滑組成物の体積抵抗率を増加させ得ることを実証している。
【0090】
比較例C-8及びC-9は、それぞれ、許容され得る腐食阻害剤及び硫黄EP添加剤の最大閾値を決定するために製剤化された。C-8は、腐食阻害剤を過剰処理することが、不十分な耐摩耗性能につながることを示している。C-9は、1700ppmの硫黄で、黒色の堆積物がCuストリップの表面上及び試験セル内に生じ、厳しい腐食を示唆していることを示している。
【0091】
潤滑組成物の体積抵抗率に対するイオン性混入物質の作用をより良好に理解するために、本発明の実施例I-9を少量の金属含有添加剤の添加で改変した。カルシウム洗浄剤、モリブデン含有摩擦改変剤、及びZnDTP耐摩耗添加剤を比較例I-10、I-11、及びI-12にそれぞれ添加した。I-10、I-11、及びI-12におけるCa、Mo、及びZnの濃度は、すべておよそ50ppmであった。
【0092】
【表2】
【0093】
実施例I-10~I-12は、潤滑油組成物における50ppmの金属の存在が、体積抵抗率に対してわずかな影響しか有さないことを実証している。50ppmの金属コンタミネーションであっても、実施例の油I-10~I-12の体積抵抗率は、80℃で1.0×10Ω・cmを超えたままである。これらの実施例は、少量の金属コンタミネーションが、体積抵抗率に劇的に影響を及ぼすことなく許容され得ることを示している。
【0094】
様々な改変が本明細書に開示される実施形態に対してなされ得ることが理解される。そのため、上記の説明は、限定するものとして解釈されるべきではなく、単に好ましい実施形態の例示として解釈されるべきである。例えば、上述し、本発明を動作させるための最良の態様として実行される機能は、例示の目的のみのためのものである。他の構成及び方法は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく当業者によって実行され得る。その上、当業者は、本明細書に添付された特許請求の範囲の範囲及び趣旨内で他の改変を想定する。
【国際調査報告】