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特表2023-517590高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230419BHJP
   C22C 38/18 20060101ALI20230419BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230419BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20230419BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/18
C21D9/46 Z
C21D6/00 102J
C21D1/18 P
C21D1/18 Y
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554348
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(85)【翻訳文提出日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 KR2020014029
(87)【国際公開番号】W WO2021187706
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0034294
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ビョン‐ジュン
(72)【発明者】
【氏名】コン,ジュンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨンホ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ソンイン
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,ギュジン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA06
4K037EA12
4K037EA15
4K037EA18
4K037EA27
4K037EB06
4K037FB00
4K037FF01
4K037FF02
4K037FF03
(57)【要約】
【課題】微細なクロム炭窒化物を均一に分布させて耐食性を向上させ、強化熱処理時に適正な硬度を持つ洋食器の用途として活用できる高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法を開示する。
【解決手段】本発明の一実施例において高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.14~0.21%、N:0.05~0.11%、Si:0.1~0.6%、Mn:0.4~1.2%、Cr:14.0~17.0%、C+N:0.2~0.32%、残りのFe及び不可避な不純物を含み、下記式(1)のPREN値が16以上であり、クロム炭化物の析出温度が950℃以下であることを特徴とする。
(1)Cr+3.3Mo+16N
(ここで、Cr、Mo、Nは、各合金元素の含量(重量%)を意味する)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.14~0.21%、N:0.05~0.11%、Si:0.1~0.6%、Mn:0.4~1.2%、Cr:14.0~17.0%、C+N:0.2~0.32%、残りはFe及び不可避な不純物からなり、
微細組織内に25個/100μm以上のクロム炭化物またはクロム窒化物が分布し、
前記クロム炭化物の析出温度が950℃以下であり、
下記式(1)のPREN値が16以上であることを特徴とする高耐食マルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
式(1)Cr+3.3Mo+16N
(ここで、Cr、Mo、Nは、各合金元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項2】
延伸率が20%以上であることを特徴とする請求項1に記載の高耐食マルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
【請求項3】
重量%で、C:0.14~0.21%、N:0.05~0.11%、Si:0.1~0.6%、Mn:0.4~1.2%、Cr:14.0~17.0%、C+N:0.2~0.32%、残りはFe及び不可避な不純物からなり、
下記式(1)のPREN値が16以上であり、
下記式(2)の値が950以下であることを特徴とする高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼。
式(1)Cr+3.3Mo+16N
式(2)674+569C-4.17Si+0.46Mn+10.3Cr+193N
(ここで、Cr、Mo、N、C、Si、Mnは、各合金元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項4】
ロックウェル硬度が47~53HRC範囲であることを特徴とする請求項3に記載の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項5】
25℃、3.5%NaCl水溶液下で、孔食電位が180mV以上であることを特徴とする請求項3に記載の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項6】
重量%で、C:0.14~0.21%、N:0.05~0.11%、Si:0.1~0.6%、Mn:0.4~1.2%、Cr:14.0~17.0%、C+N:0.2~0.32%、残りはFe及び不可避な不純物からなる鋳片を熱間圧延する段階と、
熱延材をバッチ焼鈍熱処理する段階と、
熱延焼鈍材を強化熱処理する段階と、を含み、
前記バッチ焼鈍熱処理は、720~900℃の温度範囲で5~25時間第1の亀裂を処理する段階及び500~700℃の温度範囲で5~15時間第2の亀裂を処理する段階を含み、
前記熱延焼鈍材は、フェライトを基地組織として25個/100μm以上のクロム炭化物またはクロム窒化物が分布していることを特徴とする高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項7】
前記バッチ焼鈍熱処理において、前記第1の亀裂を処理する段階前に400~600℃の温度範囲で5~10時間事前亀裂を処理する段階をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
前記事前亀裂を処理する段階以後、前記第1の亀裂を処理する段階に至るまで40~200℃/hの速度で昇温することを特徴とする請求項7に記載の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項9】
前記第1の亀裂を処理する段階以後、前記第2の亀裂を処理する段階に至るまで10℃/h以上の速度で冷却することを特徴とする請求項6に記載の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項10】
前記強化熱処理は、1,000℃以上の温度で1分以上オーステナイジング処理する段階、常温で0.15℃/s以上の速度で焼入れする段階を含むことを特徴とする請求項6に記載の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項11】
前記焼入れする段階後、-50~-150℃の温度で10秒~5分間ディープフリージングする段階、400~600℃の温度で30分~2時間焼き戻す段階をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、洋食器の素材として活用できる高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に広く使用される包丁、はさみ、かみそり及び医療用器具であるメスなどの刃物用素材は、切削性及び耐摩耗性維持のために高硬度が要求され、水分と容易に接触するか、湿った雰囲気で保管されるため、優れた耐食性が要求される。このため、刃物用素材としては高硬度の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼が主に使用される。
刃物用素材は、高硬度を要求されるため、脆性が非常に強い。それ故、加工が容易になるように刃物用素材を一定水準以上に軟化させる必要がある。このために脆性材の熱処理作業性が容易なバッチ焼鈍(BAF、Batch Annealing Furnace)または高温連続焼鈍工程を含んで製造することになる。
【0003】
焼鈍を行う間に、素材は、フェライト基地組織内に炭素とクロムが反応したクロム炭化物が微細な粒子として分散析出され、これにより基地組織内の固溶炭素の含量が低下して圧延及び酸洗のようなステンレス鋼の製造工程の適用が容易になる。それだけでなく、フェライト基地組織内に均一に分布された微細なクロム炭化物は、刃物類の最終メーカーで行われる強化熱処理工程において高温のオーステナイト相へのクロム及び炭素の速い再固溶を可能にし、急冷後のマルテンサイト組織の硬度及び耐食性を向上させることができる。
しかし、刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼の硬度及び耐食性を向上させるために炭素及び窒素とクロムを一定量以上に含有させた場合、硬度が過度に高くなり、光沢のための研磨工程において作業性の劣位及び表面欠陥の問題を引き起こす。クロム炭化物の析出温度が高くなり、強化熱処理温度の上昇問題及びクロム炭化物の残留問題のためにむしろ耐食性に劣る虞がある。
【0004】
したがって、優れた耐食性及び研磨作業に適した硬度を持つマルテンサイト系ステンレス鋼を確保するためには、微細なクロム炭化物の均一分布、及び強化熱処理温度で分解が容易になるようにクロム炭化物の析出温度を適切に制御できる鋼材の開発と焼鈍パターンの確立が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の問題点を解決するため、本発明は、基地組織内に微細なクロム炭窒化物を均一に分布させて耐食性を向上させ、強化熱処理時に適正な硬度を持つマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板、これを用いた高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、重量%で、C:0.14~0.21%、N:0.05~0.11%、Si:0.1~0.6%、Mn:0.4~1.2%、Cr:14.0~17.0%、C+N:0.2~0.32%、残りはFe及び不可避な不純物からなり、微細組織内に25個/100μm以上のクロム炭化物またはクロム窒化物が分布し、前記クロム炭化物の析出温度が950℃以下であり、下記式(1)のPREN値が16以上であることを特徴とする。
式(1)Cr+3.3Mo+16N
(式中、Cr、Mo、Nは、各合金元素の含量(重量%)を意味する)
【0007】
本発明のマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の延伸率が20%以上であることができる。
【0008】
本発明の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.14~0.21%、N:0.05~0.11%、Si:0.1~0.6%、Mn:0.4~1.2%、Cr:14.0~17.0%、C+N:0.2~0.32%、残りはFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)のPREN値が16以上であり、下記式(2)の値が950以下であることを特徴とする。
式(1)Cr+3.3Mo+16N
式(2)674+569C-4.17Si+0.46Mn+10.3Cr+193N
(式中、Cr、Mo、N、C、Si、Mnは、各合金元素の含量(重量%)を意味する)
【0009】
本発明の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼は、ロックウェル硬度が47~53HRCの範囲であることができる。
前記ステンレス鋼は、25℃、3.5%NaCl水溶液下で孔食電位が180mV以上であることがよい。
【0010】
本発明の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.14~0.21%、N:0.05~0.11%、Si:0.1~0.6%、Mn:0.4~1.2%、Cr:14.0~17.0%、C+N:0.2~0.32%、残りはFe及び不可避な不純物からなる鋳片を熱間圧延する段階、熱延材をバッチ焼鈍熱処理する段階、及び熱延焼鈍材を強化熱処理する段階を含み、前記バッチ焼鈍熱処理は、720~900℃の温度範囲で5~25時間第1の亀裂を処理する段階及び500~700℃の温度範囲で5~15時間第2の亀裂を処理する段階を含み、前記熱延焼鈍材は、フェライトを基地組織として25個/100μm以上のクロム炭化物またはクロム窒化物が分布していることを特徴とする。
【0011】
前記バッチ焼鈍熱処理において、前記第1の亀裂を処理する段階前に400~600℃の温度範囲で5~15時間の事前亀裂を処理する段階をさらに含むことがよい。
前記事前亀裂を処理する段階以後、前記第1の亀裂を処理する段階に至るまで40~200℃/hの速度で昇温することができる。
前記第1の亀裂を処理する段階以後、前記第2の亀裂を処理する段階に至るまで10℃/h以上の速度で冷却することが好ましい。
【0012】
前記強化熱処理は、1,000℃以上の温度で1分以上オーステナイジング処理する段階、常温で0.15℃/s以上の速度で焼入れする段階を含むことがよい。
-50~150℃の温度で10秒~5分間ディープフリージングする段階、400~600℃の温度で30分~2時間焼き戻す段階をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、本発明のマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、微細組織内の微細なクロム炭化物を均一に分布するように制御して加工性を向上させることができる。
本発明の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼は、炭化物析出温度の低下により強化熱処理後にクロム炭化物の残留を抑制でき、これを通じて相対的に高含量のクロム、炭素を含有しなくても優れた耐食性を示すことができる。
また、洋食器の用途に適した硬度のマルテンサイト系ステンレス鋼を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】鋼種F熱延焼鈍鋼板の微細組織のクロム炭化物を観察した走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2】鋼種B熱延焼鈍鋼板の強化熱処理後に微細組織のクロム炭化物を観察した走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】鋼種F熱延焼鈍鋼板の強化熱処理後に微細組織のクロム炭化物を観察した走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施例によるマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、重量%で、C:0.14~0.21%、N:0.05~0.11%、Si:0.1~0.6%、Mn:0.4~1.2%、Cr:14.0~17.0%、C+N:0.2~0.32%、残りはFe及び不可避な不純物からなり、微細組織内に25個/100μm以上のクロム炭化物またはクロム窒化物が分布し、前記クロム炭化物の析出温度が950℃以下であり、下記式(1)のPREN値(耐孔食指数)が16以上である。
式(1)Cr+3.3Mo+16N
ここで、Cr、Mo、Nは、各合金元素の含量(重量%)を意味する。
【0016】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野で通常の知識を持つ者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態で具体化されてもよい。図面は、本発明を明確にするために説明と関係のない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現することができる。
また、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
単数の表現は、文脈上、明らかに例外がない限り、複数の表現を含む。
【0017】
刃物用、特に洋食器用マルテンサイト系ステンレス鋼は、高い耐食性と硬度が要求される。熱延焼鈍後にフェライト基地に微細なクロム炭化物及び/又はクロム窒化物(以下、クロム炭窒化物という)を均一に分布させた後、強化熱処理を通じて高温のオーステナイト相に早く再固溶させることになるが、このとき、クロム炭窒化物の再固溶が容易なため、耐食性に優れたマルテンサイト組織を確保するためには、次のような条件が要求される。
【0018】
まず、熱延焼鈍材のフェライト組織内に微細なクロム炭窒化物を形成しなければならず、次にその析出温度を低くしなければならない。従来の420系マルテンサイト系ステンレス鋼の場合、0.3%以上の高炭素が添加されてクロム炭窒化物の析出温度が高くなり、クロム炭窒化物の粒界優先析出及び成長に起因して局部的に粒界に粗大なクロム炭窒化物が析出し、強化熱処理時にオーステナイト相への再固溶率を下げ、硬度及び耐食性の低下をもたらす。また、0.2~0.3%の範囲の炭素が添加された場合にもクロム炭窒化物の析出温度が高くなり、強化熱処理時により高い温度で熱処理を行わなければクロム炭窒化物をすべて分解できない。このため、最終のメーカーは、強化熱処理温度を上昇させるために多くのエネルギーが必要とされてエネルギー費用が高騰するか、または熱処理炉の加熱能力が限界でクロム炭窒化物が残留することになる。クロム炭窒化物が残留すると、炭化物が腐食の基点として作用し、高含量のクロムを添加しても期待した耐食性の改善が見られない虞がある。
【0019】
よって、本発明は、バッチ焼鈍パターンの確立によって基地組織内に微細なクロム炭窒化物を均一に分布させるとともに、クロム炭窒化物の析出温度を強化熱処理時にすべて分解可能な水準にまで低く制御して耐食性を向上させ、強化熱処理時に適正な硬度を持つことができる高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼の合金成分系を提供する。
【0020】
本発明の一実施例によるマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、重量%で、C:0.14~0.21%、N:0.05~0.11%、Si:0.1~0.6%、Mn:0.4~1.2%、Cr:14.0~17.0%、C+N:0.2~0.32%、残りはFe及び不可避な不純物からなる。
以下、前記合金組成について含有量を限定した理由について具体的に説明する。下記の成分組成は、特に記載のない限り、すべて重量%を意味する。
【0021】
炭素(C)の含量は、0.14~0.21%である。
Cは、含量が低い場合、強化熱処理以降に硬度が低下して切削性及び耐摩耗性の確保が困難な場合があるので、本発明において、Cは、0.14%以上添加されることがよい。ただし、C含量が過剰な場合、クロム炭窒化物が過度に形成されると、析出温度が高くなって強化熱処理後も残留することになり、耐食性が低下するだけでなく、炭素偏析により焼鈍組織内の粗大な炭化物が形成される虞がある。このため、本発明におけるC含量の上限は、0.21%に制限する。より好ましくは、0.145~0.17%の範囲である。
【0022】
窒素(N)の含量は、0.05~0.11%である。
Nは、耐食性と硬度を同時に改善するために添加される元素で、Cの代わりに添加しても局部的な微細偏析を誘発せず、粗大な析出物を形成しないという長所がある。この効果のために本発明におけるNは、0.05%以上添加されることがよく、0.08%以上がより好ましい。N含量が過剰な場合、鋳造時に溶鋼内に溶解する限度を超えることによって成分系制御が困難な場合があり、表面にピンホール欠陥が現れる虞がある。また、本発明では、洋食器用マルテンサイト系ステンレス鋼がロックウェル硬度53HRC超過の高硬度を要求されず、審美性のための高光沢の特性が要求されることから、N含量の上限を0.11%に制限する。
【0023】
シリコン(Si)の含量は、0.1~0.6%である。
Siは、脱酸のために必須的に添加される元素である。このため、本発明においてSiは、0.1%以上添加されることがよい。ただし、Si含量が過剰な場合、酸洗性を低下させて脆性を高めるという問題がある。このため、本発明でSi含量の上限は、0.6%に制限することが好ましい。
【0024】
マンガン(Mn)の含量は、0.4~1.2%である。
Mnは、脱酸のために必須的に添加される元素である。C及びN含量の低減によって減少するオーステナイト安定度の補完及びN固溶限の確保のために、本発明においてMnは、0.4%以上添加することがよい。ただし、Mn含量が過剰な場合、鋼の表面品質を低化させ、最終の熱処理材の残留オーステナイト形成により硬度を確保することが困難になる虞がある。このため、本発明においてMn含量の上限は、1.2%に制限することが好ましい。より好ましくは、0.8~1.1%の範囲である。
【0025】
クロム(Cr)の含量は、14.0~17.0%である。
Crは、代表的なステンレス鋼の耐食性向上元素であり、N固溶の限度を高める役割を果たす。本発明では、十分な耐食性確保のためにCrを14.0%以上添加する。ただし、Cr含量が過剰な場合、製造コストが上昇し、組織内のCr成分の微細偏析が増加して局部的にクロム炭窒化物の粗大化を誘発させて強化熱処理された鋼材の耐食性及び硬度を低下させる問題がある。これにより、本発明においてCr含量の上限は、17.0%に制限する。好ましくは、14.5%超過、15.5%未満の範囲である。
【0026】
炭素(C)及び窒素(N)含量の合計は、0.2~0.32%である。
C、Nは、強化熱処理後、鋼の硬度を確保するために0.2%以上添加することがよく、炭窒化物の個数の確保のためには、0.23%以上が好ましい。一方、C+N含量が過剰な場合、熱延鋼板のバッチ焼鈍時に分布するクロム炭窒化物の分率が増加して延伸率が低下する虞があり、本発明においてC+N含量の上限は、0.32%に制限する。また、洋食器の用途のマルテンサイト系ステンレス鋼の場合、一般刃物用途に対してのHRC53を超過する高硬度は要求されず、審美性を備えるための高光沢特性が要求される。このような高光沢洋食器の製造時、強化熱処理後の硬度がHRC53を超えると、光沢を出すための研磨作業の作業性が低下した上に、表面に波状などの表面欠陥を誘発して生産性が低下するという問題点が発生する。したがって、過度な高硬度化を防止し、適正な硬度範囲に制御するためにC+N含量の上限を0.28%以下に制限する。
【0027】
本発明の残り成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では原料または周囲環境から意図されない不純物が不可避に混入することがあり、これを排除することはできない。前記不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を特に本明細書では言及しない。
また、各合金元素の含量を上述の条件に限定する以外にも、これらの関係を次のようにさらに限定してもよい。
【0028】
本発明のマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板と強化熱処理されたマルテンサイト系ステンレス鋼は、下記式(1)で示す耐孔食指数(Pitting Resistanc Eequivalent Number:PREN、)値が16以上である。
式(1)Cr+3.3Mo+16N
合金元素の含量を上述の条件に限定する以外にも、式(1)の値を16.5以上になるように各合金元素の含量を制御することにより、優れた耐食性を確保できる。
【0029】
強化熱処理前にクロム炭窒化物が微細に分布されたマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の製造方法を説明する。
上記の合金組成を持つマルテンサイト系ステンレス熱延材は、連続鋳造または鋼塊鋳造によって鋳片として作製された後、熱間圧延して加工処理が可能な熱延鋼板として製造される。以後、製造された熱延鋼板は、刃物用として使用可能な厚さで精密圧延のような加工を行う前に良好な加工性の確保のためにバッチ焼鈍熱処理を行う。バッチ焼鈍熱処理後の微細組織は、フェライトを主組織とし、微細なクロム炭化物が均一に分布されることがよい。マルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍材は、後続する強化熱処理段階によってマルテンサイト系ステンレス鋼として製造される。
【0030】
まず、バッチ焼鈍熱処理について説明する。
バッチ焼鈍熱処理は、第1の亀裂を処理する段階、第2の亀裂を処理する段階を含む。また、選択的に第1の亀裂を処理する段階前に事前亀裂を処理する段階をさらに含んでもよい。
事前亀裂を処理する段階は、第1の亀裂段階前に亀裂を処理する段階で、素材の全般にわたって温度の均一な上昇のための前処理段階である。一例によれば、事前亀裂を処理する段階は、400~600℃の温度範囲で5~10時間一定温度で加熱することが好ましい。
加熱温度が400℃未満であるか、または600℃を超えると、素材の全般にわたって温度を均一に上昇させることができない。また、加熱時間が5時間未満であるか、または10時間を超えると、素材の全般にわたって温度を均一に上昇させることができない。
【0031】
第1の亀裂を処理する段階は、熱延鋼板の微細組織内にクロム炭窒化物を均一に分布させる段階である。一例によれば、第1の亀裂を処理する段階は、720~900℃で5~25時間一定温度で加熱することが好ましい。
加熱温度が720℃未満の場合、結晶粒界に局部的なクロム炭窒化物凝集部が形成され、一方、加熱温度が900℃を超えると、結晶粒界に粗大なクロム炭窒化物が形成される。
また、加熱時間が5時間未満の場合、クロム炭窒化物のサイズを微細化できるが、一部分にクロム炭窒化物が集中分布され、逆に、加熱時間が25時間を超えると、互いに近接したクロム炭窒化物が混合されて局部的に粗大に形成されてもよい。
凝集されるか、または粗大に形成されたクロム炭化物は、材質の不均衡をもたらして延性が低下し、最終製品の剛性、延性、耐食性が低下する虞がある。これを防止するために本発明は、第1の亀裂を処理する段階において加熱温度は、720~900℃、加熱時間は、5~25時間に限定する。
【0032】
第2の亀裂を処理する段階は、クロム炭窒化物を球状化する段階である。クロム炭窒化物を球状化させることにより、後続する加工工程における加工性を向上させることができるようになる。一例によれば、第2の亀裂を処理する段階は、500~700℃の温度範囲で5~15時間一定温度で加熱することが好ましい。
【0033】
クロム炭窒化物が球状化されるためには、少なくとも500℃以上の加熱温度が必要である。一方、その加熱温度が700℃を超えると、球状化されたクロム炭窒化物が過度に成長し、個数が減少して延性が低下する。また、加熱時間が5時間未満の場合、クロム炭窒化物が球状化されず、加熱時間が15時間を超えると、クロム炭窒化物が過度に成長して延性が低下する。
【0034】
事前亀裂を処理する段階以後、第1の亀裂を処理する段階に至るまで、40~200℃/hの速度で昇温させることができる。
昇温速度が40℃/h未満の場合にはクロム炭窒化物が粗大になる温度区間である700~750℃を経由する時間が増加することがあり、これによりクロム炭窒化物のサイズが粗大になって微細組織内に分布するクロム炭化物の個数が減少して延性が低下する虞がある。一方、昇温速度が200℃/hを超えると、クロム炭窒化物が粗大化される温度区間を経由する時間が減少し、微細なクロム炭窒化物を確保できる。しかし、クロム炭窒化物が拡散する時間が不足して不均一に分布されるという短所がある。
第1の亀裂を処理する段階以後、第2の亀裂を処理する段階に至るまで10℃/h以上の速度で冷却させることができる。
冷却速度が10℃/h未満であると、クロム炭窒化物が粗大化される温度区間を経由する時間が増加し、これにより、微細組織内におけるクロム炭窒化物が粗大化して高耐食及び高硬度を確保しにくくなる。
第2の亀裂を処理する段階以後は、空冷できる。
【0035】
上記のバッチ焼鈍熱処理する段階において、微細組織内の炭素とクロムが反応してクロム炭化物を形成し、窒素もクロムと反応してクロム窒化物を形成する。その結果、組織内に固溶された炭素含量が減少して加工性が向上し、後続するステンレス鋼の製造工程が容易になり、目的とする最終形状に加工できる。本発明の一実施例によるマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、延伸率が20%以上であることがよい。クロム窒化物も強化熱処理を通じて急冷後、マルテンサイト組織の硬度及び耐食性を向上させる。
また、上記のバッチ焼鈍熱処理段階で微細組織内に均一で微細に分布されたクロム炭窒化物は、後続する強化熱処理段階で高温のオーステナイト相への炭素、窒素及びクロムの速い再固溶を可能にし、急冷後のマルテンサイト組織の硬度及び耐食性を向上させることができる。
【0036】
本発明によれば、上記のバッチ焼鈍熱処理を通じてマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の微細組織内のクロム炭窒化物を微細化し、均一に分布させることができ、微細組織内に25個/100μm以上のクロム炭窒化物が分布される。微細組織内に25個/100μm未満でクロム炭窒化物が分布された場合、クロム炭窒化物の個数は少なく、サイズは粗大であるので、延性が低下し、後続する強化熱処理段階でクロム及び炭素の再固溶が難しく、目的とする硬度を確保できない。
【0037】
本発明によれば、バッチ焼鈍熱処理されたマルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍材は、最終形状に加工された後に強化熱処理する段階を経てマルテンサイト系ステンレス鋼として製造できる。
強化熱処理は、オーステナイジング処理する段階、焼入れする段階を含んでもよく、必要に応じてディープフリージング(deep freezing)する段階、焼き戻す段階をさらに含んでもよい。
【0038】
オーステナイジング処理する段階は、鋼材の基地組織をフェライトからオーステナイトに変態させる段階である。
当該段階でクロム炭窒化物がクロムと炭素、窒素の形態で基地組織として再固溶されて後続する焼入れまたはディープフリージング段階以後、マルテンサイトステンレス鋼の硬度を高めることができる。
【0039】
一例によれば、オーステナイジング処理する段階は、1,000℃以上の温度で1分以上熱処理できる。ここで、クロム炭化物(Cr23)の析出温度によってオーステナイジング時のクロムと炭素をすべて再固溶できるが、本発明が目的とするクロム炭化物の析出温度は、950℃以下である。クロム炭化物の析出温度は、合金成分の組成によって変化させることができ、下式(2)で表すことができる。式(2)から分かるように、特にクロムと炭素含量が高いほどクロム炭化物の析出温度が高くなる。
式(2)674+569C-4.17Si+0.46Mn+10.3Cr+193N
【0040】
耐食性向上のためにクロムを多量に含有するか、または硬度向上のために炭素及び窒素を多量に含有する場合、クロム炭化物の析出温度が高くなり強化熱処理のオーステナイジング温度範囲に制約が伴うことになる。上記のように、実際の強化熱処理時に加熱能力の限界による設備問題やエネルギーコストの増加問題によりクロム炭化物がすべて再固溶されずに残留した場合、むしろ耐食性が低下する。したがって、本発明では、合金組成とともに、クロム炭化物の析出温度を950℃以下に制限し、添加されたクロム及び炭素の全量が耐食性に寄与するようにする。
【0041】
オーステナイジング処理温度が1,000℃未満の場合、クロム炭化物をすべて分解することが難しくなり、処理時間が長くなり経済的でない。一方、処理温度が高すぎると、エネルギーコストが上昇して非経済的であり、炭化物の再固溶量の増加による残留オーステナイトの過多形成により硬度が低下する虞があり、結晶粒が過度に成長するため、1,200℃以下に制限することが好ましい。
また、オーステナイジング処理時間が1分未満の場合、クロム炭化物をすべて分解することが困難であり、目的とする硬度を確保できず、処理時間が長くなる場合、結晶粒が過度に成長して残留オーステナイトが発生する虞があるため、30分以下に制限することが好ましい。
【0042】
焼入れする段階は、オーステナイジング処理以後に0.15℃/s以上の冷却速度で常温まで急速冷却してオーステナイト組織を硬度の高いマルテンサイトに変態させる段階である。0.2℃/s以上の冷却速度で冷却すると、より高いマルテンサイト硬度が得られる。
ディープフリージングする段階は、常温で焼入れした鋼材を極低温でさらに冷却して残留オーステナイト組織をマルテンサイト組織にさらに変態させる段階であり、該当段階で鋼材の硬度がさらに上昇することになる。一例によれば、ディープフリージングする段階は、-50~-150℃の温度で10秒~5分間氷点下(subzero)の熱処理を行ってもよい。
【0043】
焼き戻す段階は、ディープフリージングする段階以降、硬度が高く、脆性の強いマルテンサイト組織に靭性を与えるための段階である。一例によれば、400~600℃の温度で30分~2時間熱処理できる。
【0044】
本発明によれば、上記の強化熱処理する段階でフェライト組織をマルテンサイト組織に最終変態させることがあり、目的とする硬度及び高耐食の特性を確保できる。例えば、強化熱処理によって再固溶させた後、素材の断面に残留するクロム炭窒化物の面積分率は、2%以下であることがよい。
本発明の一実施例による高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼は、25℃、3.5%NaCl水溶液下で、孔食電位が180mV以上であることがよい。これは上記の式(1)のPREN値を16.0以上及びクロム炭化物の析出温度を950℃以下に制御して炭化物をすべて再固溶することにより確保できる。
また、本発明の一実施例による高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼は、ロックウェル硬度が47~53HRCであることがよい。
【0045】
刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼の中で洋食器用途の場合、高い硬度が要求されず、光沢のための研磨においても作業生産性の問題が発生することがあり、53HRC超過の高硬度は要求されない。洋食器のナイフ基準で刃部位は、49~53HRC、取っ手部位は、47~51HRCの硬度範囲が適している。したがって、本発明では、C+N含量の上限を0.32%以下に制限し、クロム炭化物の析出温度の制御を通じて全量が再固溶されても適正硬度を持つように合金成分系を上述の範囲に制限する。これによる本発明の高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼は、47~53HRCのロックウェル硬度範囲を有することがよい。
【0046】
以下、本発明の好ましい実施例を通じて、より詳細に説明する。
〔実施例〕
下記表1に記載した合金成分系で鋳造して熱間圧延した後、バッチ焼鈍熱処理した。バッチ焼鈍は、500℃で7時間事前亀裂を処理し、約100℃/h速度で昇温して840℃で10時間第1の亀裂を処理し、15℃/hの速度で冷却して580℃で10時間維持した後、空冷した。
【0047】
【表1】
【0048】
表1において、クロム炭窒化物の析出温度(℃)と素材の表面に窒素ガスによるピンホール(pin hole)発生の有無を○、×で示した。
鋼種Bは、本発明の範囲を外れる多量のNが添加されて表面にピンホールが発生し、鋼種Eは、N含量が適正であるにもかかわらず、窒素固溶度に影響を及ぼすCrの含量が低く、オーステナイト安定化元素であるCとMnの含量も相対的に低く、固溶限を超えたNがガスとして発生してピンホールが発生した。本発明の合金組成範囲で該当する鋼種Fは、窒素ガスによるピンホールが発生せず、クロム炭化物の析出温度も937℃と低く、後述する強化熱処理時に有利に作用した。
【0049】
また、CとCrの含量が高い場合、クロム炭化物の析出温度は、990℃以上を示すが、CとCrを含む全体の合金組成範囲が本発明の範囲に属する場合には、析出温度が950℃以下であることが確認できた。
前記のように製造されたA~F熱延焼鈍材について走査型電子顕微鏡(SEM)で微細組織内のクロム炭窒化物の個数を観察し、JIS13B規格で引張試験を行って得られた延伸率を下記表2に示した。
【0050】
【表2】
【0051】
表2を参照すると、鋼種Aは、0.6%以上のCを含んでクロム炭窒化物が60個/100μm以上で多量観察されたが、延伸率が17.6%で極めて劣位であることが分かった。
鋼種BとCは、共にC含量が約0.25%と高いが、N含量に差異がある。鋼種Bは、C+N含量がさらに高いにもかかわらず、鋼種Cより少ない21個/100μmの炭窒化物の個数を示したが、これは析出されたクロム炭窒化物の分布分率が高すぎ、粗大化されたものと推定される。また、鋼種Bは、C+N含量が高く、延伸率が19.6%でやや劣位であることが分かった。鋼種Cは、クロム炭窒化物の分布個数が32個/100μm、及び延伸率が29.3%で良好であるが、クロム炭化物の析出温度が991℃と高く、強化熱処理後にクロム炭窒化物が残留している可能性が高い。
鋼種DとEの場合、延伸率は、28%以上で良好と測定されたが、クロム炭窒化物の個数が25個/100μm未満水準で少なく観察された。これはC+N含量は適正であるが、Cr含量が低いためであると推定された。
【0052】
図1は、鋼種F熱延焼鈍鋼板の微細組織のクロム炭窒化物を観察した走査電子顕微鏡(SEM)写真である。本発明の発明鋼に該当する鋼種F熱延焼鈍材は、フェライト基地組織に微細なクロム炭窒化物が均一に分布していることが確認でき、表2のように30個/100μm水準のクロム炭窒化物の分布を示し、延伸率も30.2%と優れていると測定された。
【0053】
以後、マルテンサイト系ステンレス熱延焼鈍材を1,050℃オーステナイジング、0.27℃/sの冷却速度で焼入れしてマルテンサイト鋼として製造した。下記表3には、耐食性判断のためにPRENと孔食電位測定値を示し、硬度判断のためにロックウェル硬度を測定して示した。PREN値は、式(1)に各合金元素の含量(重量%)を代入して導き出し、孔食電位は、25℃、3.5%NaCl水溶液下で測定した。
【0054】
【表3】
【0055】
0.6%以上の高炭素を含有する鋼種Aは、Cr欠乏による鋭敏化現象と高いクロム炭化物の析出温度によりクロム炭窒化物が残留して最も低い孔食電位を示した。
固溶限以上のNが添加されて窒素ガスピンホールが発生した鋼種Bの場合、Nの影響により最も高いPREN値と孔食電位を示したが、表面ピンホールの発生により製品への適用が不可能であった。
鋼種Cは、17.21のPREN値及び212mVの高い孔食電位を示したが、C含量が高く、硬度が54.7HRCと高く、上記した光沢のための研磨時に表面欠陥を防止できる適正な硬度範囲である47~53HRCを超えた。
【0056】
鋼種D及びEの場合、Cr及びN含量が類似しており、95mV前後の類似の孔食電位値及び類似の硬度値を示した。
本発明鋼に該当する鋼種Fは、PREN値が16.52で16.0以上を示し、199mVの優れた孔食電位値を示し、硬度値も51.4HRCと適正水準を示した。
【0057】
図2及び図3は、鋼種Bと鋼種Fの熱延焼鈍鋼板の強化熱処理後に微細組織のクロム炭化物を観察した走査電子顕微鏡(SEM)写真である。図2に示した鋼種Bは、高いC+N含量により熱延焼鈍材にクロム炭窒化物を均一に分布できず、粗大化されて偏析され、クロム炭化物の析出温度も高く、強化熱処理後にも再固溶されず、残留することが確認できる。一方、発明鋼である鋼種Fは、C+N、Crの含量とクロム炭化物の析出温度の制御を通じて強化熱処理後、ほとんどのクロム炭窒化物が再固溶され、断面に残留するクロム炭窒化物の面積分率2%以下を満たすことが分かる。
【0058】
上記のとおり、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野で通常の知識を持つ者であれば、次に記載する請求範囲の概念と範囲を外れない範囲内で様々な変更及び変形が可能であることを理解できるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によるマルテンサイト系ステンレス鋼は耐食性を向上させ、強化熱処理時に適正な硬度を確保できるので、洋食器の素材に適用可能である。
図1
図2
図3
【国際調査報告】