(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】IFN-γの抗腫瘍補助薬の調製への応用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/21 20060101AFI20230419BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230419BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230419BHJP
C07K 14/57 20060101ALI20230419BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230419BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20230419BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230419BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230419BHJP
C12N 15/23 20060101ALI20230419BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20230419BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230419BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230419BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20230419BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230419BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230419BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230419BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230419BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230419BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20230419BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230419BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20230419BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230419BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
A61K38/21
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
C07K14/57
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z
C12N15/63 Z
C12N15/12
C12N15/23
C12N15/867 Z
C12N15/86 Z
A61P35/00
A61P13/00
A61P25/00
A61P1/00
A61P17/00
A61P11/00
A61P13/12
A61P13/10
A61P1/16
A61P13/02
A61K35/17
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554580
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(85)【翻訳文提出日】2022-11-07
(86)【国際出願番号】 CN2021078858
(87)【国際公開番号】W WO2021179967
(87)【国際公開日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】202010159630.9
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010487110.0
(32)【優先日】2020-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512330318
【氏名又は名称】四川大学華西医院
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 寒朔
(72)【発明者】
【氏名】董 娥
(72)【発明者】
【氏名】岳 小竺
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA17
4B063QA19
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4H045AA30
4H045BA09
4H045DA18
4H045EA20
4H045EA31
4H045EA51
(57)【要約】
本発明は、抗腫瘍免疫療法を補助する抗腫瘍薬及びその応用に関するものである。本発明は、IFN-γの抗腫瘍補助薬の調製への応用を提供し、前記IFN-γは、腫瘍細胞を感作することによってT細胞製剤の前記腫瘍細胞に対する殺傷効果を高め、前記T細胞製剤には、非遺伝子組み換えT細胞及び/又は遺伝子組み換えT細胞が含まれ、前記IFN-γには、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片が含まれる。本発明は、従来の技術における、IFN-γに対する認知を打破し、IFN-γが腫瘍細胞のIFN-γシグナル伝達経路を活性化することにより、PD-L1-PD-1を介した獲得免疫耐性を抑制し、免疫療法の抗腫瘍効果を高めることを見出したものである。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IFN-γの、T細胞製剤を補助する抗腫瘍補助薬の調製への応用であって、前記IFN-γは、腫瘍細胞を感作することによって前記T細胞製剤の前記腫瘍細胞に対する殺傷効果を高め、前記T細胞製剤には、非遺伝子組み換えT細胞及び/又は遺伝子組み換えT細胞が含まれ、前記IFN-γには、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片が含まれる、ことを特徴とする応用。
【請求項2】
前記遺伝子組み換えT細胞は、CAR-T細胞及び/又はTCR-T細胞からなる、ことを特徴とする、請求項1に記載の応用。
【請求項3】
前記IFN-γは、前記腫瘍細胞のIFN-γシグナル伝達経路を活性化することにより、前記腫瘍細胞を感作する、請求項1又は2に記載の応用。
【請求項4】
前記腫瘍細胞のIFN-γシグナル活性化は、ICAM-1をアップレギュレートして、前記T細胞製剤の前記腫瘍細胞に対する殺傷効果を高める、ことを特徴とする請求項3に記載の応用。
【請求項5】
前記抗腫瘍補助薬が用いられる腫瘍は、固形腫瘍である、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の応用。
【請求項6】
前記抗腫瘍補助薬が用いられる腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の応用。
【請求項7】
IFN-γの、免疫チェックポイント阻害剤を補助する抗腫瘍補助薬の調製への応用であって、前記IFN-γは、腫瘍細胞を感作することによって免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を補助し、前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤からなり、前記IFN-γには、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片が含まれる、ことを特徴とする応用。
【請求項8】
前記PD-L1阻害剤は、Atezolizumab、Avelumab及びDurvalumabから選ばれる1種又はそれ以上であり、前記PD-1阻害剤は、Pembrolizumab、Nivolumab、Cemiplimab、Toripalimab、Tislelizumab、Tyvyt及びCamrelizumabから選ばれる1種又はそれ以上である、ことを特徴とする請求項7に記載の応用。
【請求項9】
前記抗腫瘍補助薬が用いられる腫瘍は、固形腫瘍である、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の応用。
【請求項10】
前記抗腫瘍補助薬が用いられる腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである、ことを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載の応用。
【請求項11】
IFN-γの、T細胞製剤と免疫チェックポイント阻害剤とを補助する抗腫瘍補助薬の調製への応用であって、前記IFN-γは、腫瘍細胞を感作することによって前記T細胞製剤及び前記免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を補助し、前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤からなり、前記T細胞製剤には、非遺伝子組み換えT細胞及び/又は遺伝子組み換えT細胞が含まれ、前記IFN-γには、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片が含まれる、ことを特徴とする応用。
【請求項12】
前記遺伝子組み換えT細胞は、CAR-T細胞及び/又はTCR-T細胞からなる、ことを特徴とする請求項11に記載の応用。
【請求項13】
前記PD-L1阻害剤は、Atezolizumab、Avelumab及びDurvalumabから選ばれる1種又はそれ以上であり、前記PD-1阻害剤は、Pembrolizumab、Nivolumab、Cemiplimab、Toripalimab、Tislelizumab、Tyvyt及びCamrelizumabから選ばれる1種又はそれ以上である、ことを特徴とする請求項11又は12に記載の応用。
【請求項14】
前記補助薬は、腫瘍細胞によるICAM-1の産生を刺激して、前記T細胞製剤の前記腫瘍細胞に対する殺傷効果を高める、ことを特徴とする請求項11~13のいずれか一項に記載の応用。
【請求項15】
前記腫瘍は、固形腫瘍である、ことを特徴とする請求項11~14のいずれか一項に記載の応用。
【請求項16】
前記腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである、ことを特徴とする請求項11~14のいずれか一項に記載の応用。
【請求項17】
PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤からなる免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果検出用キットであって、前記キットは、腫瘍細胞におけるIFN-γシグナル伝達経路の開存性を検出する、ことを特徴とするキット。
【請求項18】
前記キットは、前記腫瘍細胞におけるICAM-1又はIFN-γR2の発現レベルを検出する、ことを特徴とする請求項17に記載のキット。
【請求項19】
前記PD-L1阻害剤は、Atezolizumab、Avelumab及びDurvalumabから選ばれる1種又はそれ以上であり、前記PD-1阻害剤は、Pembrolizumab、Nivolumab、Cemiplimab、Toripalimab、Tislelizumab、Tyvyt及びCamrelizumabから選ばれる1種又はそれ以上である、ことを特徴とする請求項17又は18に記載のキット。
【請求項20】
前記腫瘍は、固形腫瘍である、ことを特徴とする請求項17~19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項21】
前記腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである、ことを特徴とする請求項17~19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項22】
抗腫瘍免疫療法を補助する抗腫瘍薬であって、前記抗腫瘍薬は、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片を含み、腫瘍細胞を感作することによってT細胞製剤及び/又は免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を補助する、ことを特徴とする抗腫瘍薬。
【請求項23】
前記抗腫瘍薬は、ターゲティングベクターを含み、前記ターゲティングベクターは、前記野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片を前記腫瘍細胞に送達する、ことを特徴とする請求項22に記載の抗腫瘍薬。
【請求項24】
前記抗腫瘍薬は、前記T細胞製剤及び/又は前記免疫チェックポイント阻害剤と併用される、ことを特徴とする請求項22又は23に記載の抗腫瘍薬。
【請求項25】
前記抗腫瘍薬は、さらに任意の薬学的に許容されるベクター及び/又は補助剤を含む、ことを特徴とする請求項22~24のいずれか一項に記載の抗腫瘍薬。
【請求項26】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸と腫瘍細胞感作因子をコードする核酸とを含むCAR発現ベクターであって、前記腫瘍細胞感作因子をコードする前記核酸は、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片をコードする核酸である、ことを特徴とするCAR発現ベクター。
【請求項27】
前記CARをコードする前記核酸は、自己切断型ペプチドをコードする配列によって前記腫瘍細胞感作因子をコードする前記核酸に連結されている、ことを特徴とする請求項26に記載のCAR発現ベクター。
【請求項28】
前記CARをコードする前記核酸は、腫瘍特異抗原を標的とする単鎖抗体可変領域(ScFv)と、CD8aシグナルペプチドと、CD8ヒンジ領域と、CD8a膜貫通ドメインと、4-1BB細胞内共刺激要素と、CD3ζ細胞内ドメインとをコードする核酸からなる、ことを特徴とする請求項26に記載のCAR発現ベクター。
【請求項29】
前記腫瘍特異抗原は、HER2、Mesothelin、GPC-3、EGFRvIII、MUC1、CD19、CD30、BCMA、EGFR、CD123、CD133、PSCA、GD2及びLewisYから選ばれる1種又はそれ以上である、ことを特徴とする請求項28に記載のCAR発現ベクター。
【請求項30】
前記自己切断型ペプチドをコードする前記配列は、P2A配列である、ことを特徴とする請求項26に記載のCAR発現ベクター。
【請求項31】
前記CARをコードする核酸配列が配列番号1、前記IFN-γをコードする核酸配列が配列番号2、前記自己切断型ペプチドをコードする前記配列が配列番号3によって表される、ことを特徴とする請求項26に記載のCAR発現ベクター。
【請求項32】
請求項26~31のいずれか一項に記載のCAR発現ベクターを包含するレンチウイルス。
【請求項33】
前記レンチウイルスは、pWPXLdである、ことを特徴とする請求項32に記載のレンチウイルス。
【請求項34】
以下の(a)又は(b)に示すベクター:(a)請求項26~31のいずれか一項に記載のCAR発現ベクター、又は(b)CARをコードする核酸及びIFN-γをコードする核酸を含むCAR発現ベクター、が導入された、ことを特徴とするCAR-T細胞。
【請求項35】
請求項34に記載のCAR-T細胞と、薬学的に許容される副原料及び/又は補助剤とを含む、ことを特徴とする抗腫瘍薬。
【請求項36】
前記腫瘍は、固形腫瘍である、ことを特徴とする請求項35に記載の抗腫瘍薬。
【請求項37】
前記腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである、ことを特徴とする請求項35に記載の抗腫瘍薬。
【請求項38】
CAR及びIFN-γを発現する、ことを特徴とするT細胞。
【請求項39】
CARをコードする核酸とIFN-γをコードする核酸とを含む、ことを特徴とする請求項38に記載のT細胞。
【請求項40】
請求項38又は39に記載のT細胞と、薬学的に許容される副原料及び/又は補助剤とを含む、ことを特徴とする抗腫瘍薬。
【請求項41】
前記腫瘍は、固形腫瘍である、ことを特徴とする請求項40に記載の抗腫瘍薬。
【請求項42】
前記腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである、ことを特徴とする請求項40に記載の抗腫瘍薬。
【請求項43】
CAR及びIFN-γを発現するT細胞の調製方法であって、CARをコードする核酸とIFN-γをコードする核酸とをベクターで前記T細胞に再導入する、ことを特徴とする調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[1].本出願は、2020年3月9日に出願された中国特許出願公開第202010159630.9号明細書である、「IFN-γの抗腫瘍補助薬の調製への応用」という名称の特許出願の優先権、及び2020年6月1日に出願された中国特許出願公開第202010487110.0号明細書である、「CAR発現ベクター及びその応用」という名称の特許出願の優先権を主張する。これらの優先権発明特許出願の全てが、参照することにより組み込まれる。
【0002】
[2].本発明は、生物医学の分野に属し、詳しくは、抗腫瘍免疫療法を補助する抗腫瘍薬及びその応用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
[3].腫瘍免疫療法は、有機体自身の免疫機能を発揮させ腫瘍と闘う画期的な抗腫瘍治療法である。CAR-T療法は、免疫療法の分野に属する。CD19を標的として、CAR-T細胞は、血液腫瘍の治療において驚くべき成果を上げている。2018年4月現在、腫瘍を標的とした免疫療法は、中国では382種類、そして第III相及び第IV相臨床試験では227種類を含む、合計2,513種類あるものである。これまでに市販されてきたものには、小児急性Bリンパ性白血病の治療薬としてノバルティス社のKymriah、及び成人B細胞リンパ腫の治療薬としてカイト社のYescartaがある。そのうちKymriahの完全寛解(CR)率は82.5%で、再発確率は6カ月で75%、12カ月で64%である。FDAに承認されたもう一つのCD19特異CAR-T製品であるYescartaは、再発性・難治性DLBCL患者において43~52%のCRを達成できる。
【0004】
[4].しかし、固形腫瘍の治療に対しては、CAR-Tは有効ではなかった。例えば、再発性・難治性EGFR+非小細胞肺がんの治療において上皮成長因子受容体細胞を標的とするEGFR-CAR-Tの第I相臨床試験では、11人のがん患者のうち、奏効患者は2名のみで、安定(SD)患者は5名でした。HER2-CAR-T細胞を再発性・難治性HER2陽性腫瘍患者に投与した場合の実現可能性と安全性が、用量漸増臨床試験の第I/II相研究で評価された。しかし、その臨床的有益性は限定的であり、評価可能な患者のうちSDを示したのは4/17のみであった。つまり、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の効果は非常に限定的なものであった。固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の効果が低い理由はよくわかっていないが、複数の理由があるのではないかと推測されている。例えば、生体内でのCAR-T細胞は生存率が低く、体内に投入後すぐに死滅して殺傷効果に悪影響を与えてしまった。また、固形腫瘍は代謝、免疫回避、組織形成における多能性により、免疫抑制性微小環境を形成し、その結果、CAR-T細胞が固形腫瘍の組織内に浸潤して効果を発揮することが困難になったため、たとえ固形腫瘍に入ったとしても、CAR-T細胞が、様々な点で免疫系を制限しているので不活性化されて死滅してしまった。そのため、CAR-T細胞の固形腫瘍に対する治療効果をいかに高め、改善させるかは、従来の技術における喫緊の課題となっている。
【0005】
[5].PD-1は、共刺激シグナルにおける抑制分子として、T細胞のアポトーシスを誘導し、それによって免疫系ががん細胞を殺すのを妨げるという主な機能を持つことが最初に発見された。さらに、PD-1は、そのリガンドであるプログラム死リガンド1(PD-L1)と結合することにより、T細胞を介した免疫応答を負に制御することができる。すなわち、腫瘍細胞はPD-L1とPD-1の結合によりT細胞を「騙し」、T細胞による認識を回避するのである。そのため、このシグナル伝達経路を遮断することが有効ながん免疫療法と考えられている。2014年に最初のPD-1阻害剤であるpembrolizumabとnivolumabが承認されて以来、がん免疫療法としてPD-1/PD-L1阻害剤の臨床開発がかつてないほど盛んに行われてきた。PD-1/PD-L1阻害剤は、進行性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、ホジキンリンパ腫、肝がん、頭頸部扁平上皮がん、尿路上皮がん、メルケル細胞がんなど、様々ながん種に対して臨床試験で使用されている。現在までに、海外ではPembrolizumab、Nivolumab、及びCemiplimabの3種類のPD-1阻害剤が、中国ではToripalimab、Tislelizumab、Tyvyt、及びCamrelizumabの4種類が市場に出回っている。PD-L1/PD-1療法がより多くの固形腫瘍に使用されるようになった現在、PD-L1/PD-1療法をいかにしてより優れた抗腫瘍治療効果を発揮させるかは、喫緊の課題となっている。
【0006】
[6].養子細胞療法(Adoptive cell therapy,ACT)は、「生きた薬」と呼ばれるほど有効な抗がん戦略であり、がん免疫療法において重要な役割を担っている。ACTでは、腫瘍患者の体内から免疫担当細胞を分離し、生体外で増殖や機能同定を行った後、患者に戻して腫瘍を直接殺傷するか、体の免疫応答を刺激して腫瘍を死滅させる。現在、ACTには主にTIL、LAK、CIK、DC、NK、TCR-T、及びCAR-Tが含まれる。
【0007】
[7].CAR-T細胞の治療効果を高めるために、現在、CAR-T細胞自体をさらに遺伝子組み換えしたり、ナノ修飾したりすることが主に注目されている。例えば、マルチターゲットCAR遺伝子をCAR-T細胞に挿入し、CAR構造を最適化することによってT細胞の増殖や持続性に効果的に影響を与える。あるいは、CAR-T細胞にケモカインを発現させ、又は接着分子や化学基を直接修飾することによってCAR-T細胞の腫瘍組織に対する傾向や認識を強化するようにしている。 しかし、いずれの手法も多かれ少なかれ問題点や欠点がある。 例えば、マルチターゲットCAR-T細胞の場合、挿入された外来遺伝子が多すぎると、T細胞本来の活性に影響を与える可能性もある。したがって、CAR-T細胞の修飾は、プラスとマイナスの両方の要因を総合的に考慮しなければならず、また、関連する修飾がもたらすプラスとマイナスの両方の影響を比較しバランスをとることで、最終的にはより的を絞った、より効果の高い修飾方法を選択する必要もある。
【0008】
[8].これまでの研究から、抑制性シグナル伝達経路であるPD-1がCAR-T療法の効果に影響を及ぼす要因であり、PD-1経路を遮断することでCAR-T細胞の抗腫瘍効果を向上させることができることが分かった。したがって、PD-1を阻害可能な技術的手段は、実現可能なCAR-T修飾方法として考えられている。
【0009】
[9].従来の技術的経路のうち、PD-1又はPD-L1に対する抗体を分泌するようにCAR-T細胞を遺伝子組み換えする試みは、固形腫瘍に対する治療効果を大幅に改善させることができ、或いは、CAR-T細胞のPD-1をコードする遺伝子を遺伝子編集によってノックアウトすることで、CAR-Tの抗腫瘍活性を向上させることもできるようになった。
【0010】
[10].しかし、上記のこれらの技術的解決策や技術的経路の考え方は、CAR-T細胞の機能そのものを向上させることに主眼が置かれており、腫瘍細胞や固形腫瘍内の免疫抑制性微小環境にはほとんど影響を与えていない。つまり、現在の技術的解決策や技術的経路は、CAR-T細胞自体の改良にのみ焦点が当てられており、腫瘍細胞への作用という観点からCAR-T細胞療法の抗腫瘍効果をさらに高めることはできていないのである。
【0011】
[11].以上のことから、免疫細胞療法及び/又は免疫チェックポイント阻害剤療法及び/又は養子細胞療法等の従来の技術の抗腫瘍効果をいかに向上させ、より最適で効果的な抗腫瘍治療法を提案するかは、現在の腫瘍免疫療法分野において非常に重要な課題であり、本発明が緩解しようとする技術的課題である。さらに、本発明は、腫瘍細胞だけでなく、固形腫瘍内の免疫抑制性微小環境にも影響を与え、最適なCAR-T細胞治療戦略を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0012】
[12].本発明は、上記の技術的課題に対応し、II型インターフェロン(IFN-γ)を中心として調製された抗腫瘍補助薬及びその応用を提供するものであり、2つの下位発明(すなわち、発明A及び発明B)及びこれら2つの発明に基づく各展開から構成されるものである。
【0013】
[13].本発明の一態様は、IFN-γの抗腫瘍補助薬の調製への応用、免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果検出用キット、抗腫瘍免疫療法を補助する抗腫瘍薬、IFN-γとT細胞製剤との併用の腫瘍免疫治療薬の調製への応用、IFN-γと免疫チェックポイント阻害剤との併用の腫瘍免疫治療薬の調製への応用、IFN-γとT細胞製剤と免疫チェックポイント阻害剤との併用の腫瘍免疫治療薬の調製への応用、及び複合薬の組合せを提供するものである。
【0014】
[14].本発明の別の態様は、IFN-γで修飾された新規CAR発現ベクター及びその構築戦略も提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
[15].有益な効果
[16].本発明は、従来の技術における、IFN-γに対する認知を打破し、IFN-γが腫瘍細胞のIFN-γシグナル伝達経路を活性化することにより、例えば、腫瘍細胞におけるICAM-1の発現をアップレギュレートし、腫瘍細胞を免疫療法(T細胞製剤及び/又はPD-L1/PD-1阻害剤)に対して感作(sensitization)することにより、PD-L1-PD-1を介した獲得免疫耐性を抑制し、免疫療法の抗腫瘍効果を高めることを見出し、これにより、IFN-γを免疫療法補助薬として腫瘍と闘うための技術的提案がなされた。
【0016】
[17].インターフェロン(Interferon,IFN)は分泌タンパク質群からなる。IFNタンパク質ファミリーは、それらの遺伝子配列と、染色体の配置と、受容体特異性とによって、I型、II型、及びIII型インターフェロンの3つに分類される。そのうち、II型インターフェロンは、単一遺伝子ファミリーであるIFN-γからなり、免疫インターフェロンとも呼ばれる。通常の状態ではIFN-γは細胞内に低レベルで存在するが、ウイルスや他のインターフェロン誘導物質によって誘導されるとその発現が著しく増加する。IFN-γは抗腫瘍免疫に関与する最も主要なサイトカインであり、CAR-Tが抗原と接触した際に放出する免疫活性化サイトカインである。正常な組織は、活性化した免疫反応による損傷を避けるために、複数の制御経路を誘導することで、炎症が存在する生体内の細胞のホメオスタシスの再構築を促進する。従来の研究では、腫瘍細胞は免疫回避のためにこれらの保護制御経路を利用することが示唆されている。例えば、腫瘍細胞はIFN-γの放出によりPD-L1の発現をアップレギュレーションし、それによってT細胞による殺傷を抑制しており、この獲得免疫耐性がCAR-Tによる固形腫瘍の有効な殺傷を制限する理由の一つと考えられている。IFN-γによるPD-L1発現のアップレギュレーションが腫瘍細胞の獲得免疫耐性を誘導すると考えられているため、従来の免疫療法の技術的解決策ではIFN-γを十分に活用できていない。初期に臨床試験に入ったIFN-γ抗腫瘍治療法も、効果のなさから抗腫瘍薬として市販されるには至らなかった。現在では、IFN-γがPD-1の発現をアップレギュレートすることで抗腫瘍効果が低くなると考えられており、IFN-γに抗腫瘍効果を発揮させるためには、PD-L1阻害剤を併用してIFN-γによるPD-L1アップレギュレーションの弊害を中和する必要があると考えられている。しかし、これはあくまで理論的な推測であり、確かな研究成果によって確認されたわけではない。
【0017】
[18].本発明の実験結果により、IFN-γ(腫瘍細胞を前処理することでIFN-γシグナル伝達経路を活性化する)が腫瘍細胞のPD-L1発現をアップレギュレートする一方で、IFN-γは他の因子の発現にも影響を与え(例えば、ICAM-1の発現をアップレギュレートする)、結果としてIFN-γは、CAR-T細胞(又は他の種類の遺伝子組み換えT細胞)或いは非遺伝子組み換えT細胞の腫瘍細胞に対する細胞毒性を有意に増強し、また、IFN-γは、CAR-T細胞の腫瘍細胞に対する殺傷能力の持続性を向上させた。つまり、IFN-γは腫瘍細胞をT細胞に対して感作させ、つまり腫瘍細胞のT細胞に対する感受性を高めるということであった。それだけでなく、本発明の実験結果から、IFN-γシグナル伝達経路の障害は、CAR-Tの腫瘍細胞に対する殺傷効果に大きな影響を与えることも明らかになった。
【0018】
[19].以上の実験結果及び合理的な推論に基づき、本発明は、IFN-γを補助薬としてT細胞製剤と併用して固形腫瘍の治療に用いる技術的解決策、及びIFN-γを補助薬としての抗腫瘍治療への応用を提案するものである。INF-γを用いた腫瘍細胞シグナル伝達経路の活性化は、T細胞製剤(非遺伝子組み換えT細胞又は遺伝子組み換えT細胞(CAR-T、TCR-Tなど)を含む)の抗腫瘍効果を高めることができる。本発明の核心は、腫瘍細胞におけるIFN-γシグナル伝達経路の活性化であるから、野生型IFN-γでも突然変異型IFN-γでも、IFN-γ全長でも断片でも、腫瘍細胞におけるIFN-γシグナル伝達経路の活性化を達成する効果があれば、本発明に適用でき、本発明の技術的解決策の範囲内にあるといえる。
【0019】
[20].さらに、PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤の作用原理は、枯渇したT細胞を活性化して抗腫瘍効果を回復させることであるため、PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤の抗腫瘍効果も基本的にはT細胞が介することになる。そこで、本発明は、IFN-γによりPD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤を増強して腫瘍を抑制するための技術的解決策、及び、IFN-γによりPD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤とT細胞製剤との併用効果を増強して腫瘍を阻害するための技術的解決策をも提案するものである。ここで強調したいことは、本発明で提案する技術的解決策は、IFN-γを利用して腫瘍細胞を感作し、それによって免疫チェックポイント阻害剤(PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤)の抗腫瘍効果の増強を補助するものであり、これは、IFN-γシグナル伝達経路の活性化によって生じる腫瘍細胞におけるPD-L1ダウンレギュレーションを阻害するPD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤を用いることとは異なる技術的解決策である、ということである。また、前者の治療戦略は、PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤を主薬として用いるが、後者の治療戦略は、PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤を補助薬として用いるようになっている。
【0020】
[21].また、本発明の実験により、IFN-γシグナル伝達経路の欠損がCAR-T細胞の抗腫瘍効果に影響を与えることが示される。IFN-γシグナル伝達経路の欠損がPD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤の抗腫瘍効果に影響を与えるという研究結果と併せて、本発明はさらに、IFN-γシグナル伝達経路の活性化/欠損を検出する(例えば、腫瘍細胞上のICAM-1又はIFN-γR2の発現を検出する)ことにより、T細胞療法及び/又はPD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤が抗腫瘍治療の選択肢として適しているかどうかを事前に決定する方法を提供するものである。
【0021】
[22].以上、本発明の技術的解決策の貢献の1つは、従来の技術における、IFN-γに対する認知を打破し、細胞療法の抗腫瘍効果、及び細胞療法と組み合わせた免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を増強し、従来の免疫治療法の抗腫瘍効果をさらに高める、IFN-γを中心とする免疫療法補助薬を提案するものである。
【0022】
[23].一方、本発明の実験結果から、IFN-γは腫瘍細胞のT細胞に対する感受性を高めることができることがわかった。例えば、IFN-γは腫瘍細胞の前処理により腫瘍細胞のPD-L1発現をアップレギュレーションする一方、最終的にはCAR-T細胞(又はTCR-T細胞など他の種類の遺伝子組み換えT細胞)或いは非遺伝子組み換えT細胞の腫瘍細胞に対する細胞毒性を有意に増強することが示された。つまり、IFN-γは腫瘍細胞をT細胞に対して感作させ、腫瘍細胞のT細胞に対する感受性CRを高めるのである。
【0023】
[24].これに基づき、本発明は、IFN-γの発現量が高いT細胞(天然のT細胞又はIFN-γを高発現するように遺伝子組み換えされたT細胞、並びにIFN-γを高発現する遺伝子組み換えT細胞(CAR-T細胞、TCR-T細胞)を含む)を用いて腫瘍細胞を抑制するという技術的解決策を提案するものである。
【0024】
[25].具体的には、本発明は、新規CAR-T細胞の組み換え解決策を提案するものである。この解決策は、CAR-T細胞を活性化する機能を持つだけでなく、より重要なこととして、固形腫瘍内の免疫抑制性微小環境を変化させ、それによって腫瘍細胞を感作し、CAR-T細胞療法により強い抗腫瘍効果を発揮させることを可能にした。
【0025】
[26].本発明の技術的解決策は、CAR発現ベクターにIFN-γ遺伝子のセグメントを挿入することにより、インターフェロンサイトカインIFN-γを分泌できるCAR-T細胞を調製するものである。IFN-γ自体は、抗腫瘍免疫に関わる重要なサイトカインで、CAR-T細胞自体を活性化する(腫瘍細胞との接触によりCAR-Tをさらに活性化して、IL-2やIFN-γなど、より多くのサイトカインを放出する)だけではなく、IFN-γが腫瘍の微小環境に分泌されると、腫瘍細胞を感作し、CAR-Tによる殺傷に対する腫瘍細胞の感受性を高めることができるようになった。さらに重要なことは、IFN-γで感作された腫瘍細胞上に新たに高発現したICAM-1などの分子が、腫瘍細胞を免疫療法(T細胞製剤及び/又はPD-L1/PD-1阻害剤)に感作し、PD-L1-PD-1によるCAR細胞活性阻害が抑制されることである。したがって、本発明が提供するこの最適化技術により、CAR-Tの固形腫瘍に対する治療効果をさらに向上させることができる。
【0026】
[27].本発明の実施形態又は従来の技術における技術的解決策をより明確に説明するために、以下、実施形態又は従来の技術の説明で使用される添付の図面を簡単に紹介する。明らかに、以下の説明における図面は、本発明のいくつかの実施形態であり、当業者にとって、創造的な努力なしにこれらの図面から他の図面を取得することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】[28].
図1は、固形腫瘍細胞をCAR-Tで殺傷する際のCAR-T細胞の活性化とPD-L1、PD-1の発現を示す図である(aは上皮成長因子受容体2(HER2)-CAR細胞及びMesothelin(MSLN)-CAR細胞で、抗原刺激の存在下でCAR-T細胞上のPD-1の発現がアップレギュレートされたもので、bはPD-L1を高発現する腫瘍細胞を示すもので、cはGranzyme BとCD107aを高発現するCAR-T細胞による効果的な腫瘍細胞殺傷を示すものであり、dはMOCK、HER2-CAR minus、及びHER2-CAR plusという3つの場合を示すものである)。
【
図2】[29].
図2は、生体内の抗腫瘍環境を模擬してCAR-T細胞が腫瘍細胞と連続的に遭遇し、それを殺傷する実験の模式図である。
【
図3】[30].
図3は、CAR-T細胞が細胞毒性とサイトカイン放出能の向上を示す図である。
【
図4】[31].
図4は、腫瘍細胞にPD-L1が高発現していることを示す図である。
【
図5】[32].
図5は、CAR-T細胞が、IFN-γで前処理されPD-L1を高発現した腫瘍細胞に遭遇した場合、CAR-T細胞は、より高い潜在的細胞溶解活性とIFN-γ分泌能を持つことを示す図である。
【
図6】[33].
図6は、IFN-γを抗IFN-γ抗体で中和すると、CAR-T細胞の細胞毒性が著しく低下することを示す図である。
【
図7】[34].
図7は、IFN-γを中和しても、CAR-T細胞がIFN-γで前処理した腫瘍細胞を殺す能力を示す図である。
【
図8】[35].
図8は、ノックアウト-IFN-γR2腫瘍細胞をIFN-γ(3つの濃度:0、5、10 ng/ml)で処理すると、PD-L1を発現しなくなったことを示す図である。
【
図9】[36].
図9は、IFN-γR2がノックアウトされた腫瘍細胞に対するCAR-T細胞の殺傷効果は著しく低下し、IFN-γ処理によりIFN-γR2がノックアウトされた腫瘍細胞に対するCAR-T細胞の殺傷効果は向上しないことが示す図である。
【
図10】[37].
図10は、腫瘍細胞におけるPD-L1の過剰発現は、腫瘍細胞にCAR-Tの殺傷力を阻害させず、IFN-γ前処理によるCAR-T細胞毒性の増強も阻害しないことを示す図である。
【
図11】[38].
図11は、ノックアウト-IFN-γR2腫瘍細胞におけるPD-L1の高発現が、CAR-T細胞による腫瘍細胞の殺傷を有意に阻害していることを示す図である。
【
図12】[39].
図12は、連続生体外殺傷検出において、IFN-γで前処理した腫瘍細胞に対するCAR-T細胞の効果を示す図である。
【
図13】[40].
図13は、INF-γR2遺伝子をノックアウトした腫瘍細胞におけるICAM-1の高発現がCAR-T細胞の殺傷効果を高めることを示す図である。
【
図14】[41].
図14は、腫瘍細胞のINF-γR2遺伝子をノックアウトし、腫瘍細胞にIFN-γを前処理しても、CAR-T細胞の殺傷効果を高めることができないことを示す図である。
【
図15】[42].
図15は、通常のT細胞の殺傷能力を高めるIFN-γの効果を示す図である。
【
図16】[43].
図16は、NSGマウス腹部卵巣がんモデルの確立してIFN-γとCAR-T治療法の併用を示す模式図である。
【
図17】[44].
図17は、NSGマウス腹部卵巣がんモデルを確立してIFN-γとCAR-T治療の併用の効果を示す図である。
【
図18】[45].
図18は、CAR-T細胞が、IFN-γで前処理されPD-L1を高発現する腫瘍細胞に遭遇した場合、より高い潜在的細胞溶解活性とIFN-γ分泌能を示したことを示す図である。 (図aでは、CAR-T細胞はHER2-CARで、図bでは、CAR-T細胞はMSLN-CARである)。
【
図19】[46].
図19は、IFN-γを抗IFN-γ抗体で中和すると、CAR-T細胞の細胞毒性が著しく低下することを示す図である。
【
図20】[47].
図20は、CAR-T細胞が分泌するIFN-γが中和されているにもかかわらず、IFN-γで前処理した腫瘍細胞を殺傷する能力を示す図である。
【
図21】[48].
図21は、IFN-γで感作された腫瘍細胞が、通常のT細胞の殺傷能力を高める効果を示す図である。
【
図22】[49].
図22は、プラスミドベクター骨格を示す図である(22aは、発現カセット上の構成要素の構造と位置関係を示す参考図であり、22bは、プラスミドベクター骨格の参考図である)。
【
図23】[50].
図23は、CAR-T細胞の腫瘍細胞に対する殺傷効果の検出を示す図である。
【
図24】[51].
図24は、CAR-T細胞が腫瘍細胞を殺傷する際のサイトカインIFN-γの分泌の検出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[52].本発明の実施形態の目的、技術的解決策及び利点をより明確にするために、以下、本発明の実施形態における技術的解決策を添付図面と共に明確かつ完全に説明する。なお、記載した実施形態は、本発明の実施形態の一部であり、その全てではないことは明らかである。本発明における実施形態に基づき、当業者が創意工夫をすることなく得られる他のすべての実施形態は、本発明の保護範囲に含まれる。
【0029】
[53].言及された実施例は、本発明をよりよく説明するためのものであるが、本発明の内容はこれらの実施例に限定されない。したがって、当業者は、本発明の上述の内容に従って、実施形態に対して本質的でない改良や調整を行い、これらの改良や調整も本発明の保護範囲に属する。
【0030】
[54].注意すべきことは、ここにおいて、「含む」、「包含する」、又はそれらの任意の他の変形語という用語は、非排他的な包含をカバーすることを意図しているということである。したがって、一連の要素を含むプロセス、方法、物品、又は装置は、それらの要素だけでなく、明示的に列挙されていない他の要素、又はそのようなプロセス、方法、物品、又は装置に固有の要素も含む。さらなる限定がない場合は、「一つの……を含む」という語句によって限定される要素は、その要素を含むプロセス、方法、物品、又は装置における追加の同一要素の存在を排除しない。
【0031】
[55].例えば、本明細書で使用される「約」という用語は、典型的には記載された値の+/-5%、より典型的には該当値の+/-4%、より典型的には該当値の+/-3%、より典型的には該当値の+/-2%、さらに典型的には該当値の+/-1%、さらに典型的には該当値の+/-0.5%として表示される。
【0032】
[56].本明細書では、特定の実施形態をある範囲内の形式で開示することができる。この「ある範囲内」の説明は、ただ便宜や簡潔さを図るためのものであり、開示された範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の説明は、その範囲内の個々の数値だけでなく、すべての可能な部分範囲を具体的に開示したと見なされるべきである。例えば、1から6の範囲の説明は、1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6、など、及びこの範囲内の1、2、3、4、5、及び6などの個々の番号を具体的に開示したと見なされるべきである。上記のルールは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0033】
[57].用語解説:
[58].本発明で言う「補助薬」とは、主たる治療薬(すなわち主薬)の効果を高めるために補助的に使用される薬剤を指す。例えば、本発明で言うIFN-γは、主薬による治療前に前処理薬の形態で患者に投与され、後続の主薬に対する腫瘍細胞の感受性を高め、それによって後続の主薬の抗腫瘍効果を増強することが可能である。さらなる例によって、本発明で言うIFN-γは、前処理薬として、腫瘍細胞におけるICAM-1の発現をアップレギュレートし、CAR-T細胞又は非遺伝子組み換えT細胞による腫瘍細胞の殺傷及びサイトカイン放出を促進するためにも使用することができる。もちろん、補助薬は、必ずしも主薬治療の前に使用されるものではなく、状況に応じて主薬と並行して使用することも可能である。
【0034】
[59].本発明で言う「感作」とは、補助薬が腫瘍細胞の主薬(免疫療法)に対する感受性を高め、主薬の作用をより助長させ、腫瘍細胞をより効果的に殺傷することを意味する。例えば、本発明は、IFN-γを用いて腫瘍細胞のIFN-γシグナル伝達経路を活性化し、T細胞(生体内T細胞、養子注入によるT細胞製剤を含む)及び免疫チェックポイント阻害剤(PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤)に対する腫瘍細胞の感受性を高めることによって、T細胞及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法のよりよい結果を得られるものである。
【0035】
[60].また、本発明で言う「感作」とは、腫瘍細胞感作因子(例えば、野生型又は突然変異型IFN-γ)により腫瘍内の免疫抑制性微小環境を改変し、腫瘍細胞の免疫療法に対する感受性を高めることによって、腫瘍細胞をより効果的に殺傷することも意味する。
【0036】
[61].A 発明:IFN-γの抗腫瘍補助薬の調製への応用
[62].A本発明は、生物医学の分野に属し、詳しくは、抗腫瘍免疫療法を補助する抗腫瘍薬及びその応用に関するものである。
【0037】
[63].腫瘍免疫療法は、有機体自身の免疫機能を発揮させ腫瘍と闘う画期的な抗腫瘍治療法である。CAR-T療法は、免疫療法の分野に属する。CD19を標的として、CAR-T細胞は、血液腫瘍の治療において驚くべき成果を上げている。2018年4月現在、腫瘍を標的とした免疫療法は、中国では382種類、そして第III相及び第IV相臨床試験では227種類を含む、合計2,513種類あるものである。これまでに市販されてきたものには、小児急性Bリンパ性白血病の治療薬としてノバルティス社のKymriah、及び成人B細胞リンパ腫の治療薬としてカイト社のYescartaがある。そのうちKymriahの完全寛解(CR)率は82.5%で、再発確率は6カ月で75%、12カ月で64%である。FDAに承認されたもう一つのCD19特異CAR-T製品であるYescartaは、再発性・難治性DLBCL患者において43~52%のCRを達成できる。
【0038】
[64].しかし、固形腫瘍の治療に対しては、CAR-Tは有効ではなかった。例えば、再発性・難治性EGFR+非小細胞肺がんの治療において上皮成長因子受容体細胞を標的とするEGFR-CAR-Tの第I相臨床試験では、11人のがん患者のうち、奏効患者は2名のみで、安定(SD)患者は5名でした。HER2-CAR-T細胞を再発性・難治性HER2陽性腫瘍患者に投与した場合の実現可能性と安全性が、用量漸増臨床試験の第I/II相研究で評価された。しかし、その臨床的有益性は限定的であり、評価可能な患者のうちSDを示したのは4/17のみであった。つまり、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の効果は非常に限定的なものであった。CAR-T細胞の固形腫瘍に対する治療効果をいかに高め、改善させるかは、先行技術における喫緊の課題となっている。
【0039】
[65].PD-1は、共刺激シグナルにおける抑制分子として、T細胞のアポトーシスを誘導するという主な機能を持つことが最初に発見された。さらに、PD-1は、そのリガンドであるプログラム死リガンド1(PD-L1)と結合することにより、T細胞を介した免疫応答を負に制御し、腫瘍細胞の「逃避」を助ける。そのため、このシグナル伝達経路を遮断することが有効ながん免疫療法と考えられている。2014年に最初のPD-1阻害剤であるpembrolizumabとnivolumabが承認されて以来、がん免疫療法としてPD-1/PD-L1阻害剤の臨床開発がかつてないほど盛んに行われてきた。PD-1/PD-L1阻害剤は、進行性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、ホジキンリンパ腫、肝がん、頭頸部扁平上皮がん、尿路上皮がん、メルケル細胞がんなど、様々ながん種に対して臨床試験で使用されている。現在までに、海外ではPembrolizumab、Nivolumab、及びCemiplimabという3種類のPD-1阻害剤が、中国ではToripalimab、Tislelizumab、Tyvyt、及びCamrelizumabという4種類のPD-1阻害剤が市場に出回っている。PD-L1/PD-1療法がより多くの固形腫瘍に使用されるようになった現在、PD-L1/PD-1療法をいかにしてより優れた抗腫瘍治療効果を発揮させるかは、喫緊の課題となっている。
【0040】
[66].以上のことから、免疫細胞療法及び/又は免疫チェックポイント阻害剤療法などの従来の免疫療法の抗腫瘍効果をいかに向上させ、より最適で効果的な抗腫瘍治療法を提案するかは現在、腫瘍免疫療法分野において非常に重要な課題であり、A発明が緩解しようとする技術的課題である。
【0041】
[67].A発明の目的は、IFN-γの抗腫瘍補助薬の調製への応用、免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果検出用キット、抗腫瘍免疫療法を補助する抗腫瘍薬、IFN-γとT細胞製剤との併用の腫瘍免疫治療薬の調製への応用、IFN-γと免疫チェックポイント阻害剤との併用の腫瘍免疫治療薬の調製への応用、IFN-γとT細胞製剤と免疫チェックポイント阻害剤との併用の腫瘍免疫治療薬の調製への応用、及び複合薬の組合せを提供するものである。
【0042】
[68].上記を達成するために、A発明の技術的解決策は、以下のとおりである。
[69].IFN-γの、T細胞製剤を補助する抗腫瘍補助薬の調製への応用であって、前記IFN-γは、腫瘍細胞を感作することによって前記T細胞製剤の前記腫瘍細胞に対する殺傷効果を高め、前記T細胞製剤には、非遺伝子組み換えT細胞及び/又は遺伝子組み換えT細胞が含まれ、前記IFN-γには、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片が含まれる、応用。
[70].さらに、前記遺伝子組み換えT細胞は、CAR-T細胞及び/又はTCR-T細胞からなる。
[71].さらに、前記IFN-γは、前記腫瘍細胞のIFN-γシグナル伝達経路を活性化することにより、前記腫瘍細胞を感作する。
[72].さらに、前記腫瘍細胞のIFN-γシグナル活性化は、ICAM-1をアップレギュレートして、前記T細胞製剤の前記腫瘍細胞に対する殺傷効果を高める。
[73].さらに、前記抗腫瘍補助薬が用いられる腫瘍は、固形腫瘍である。
[74].さらに、前記抗腫瘍補助薬が用いられる腫瘍は卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである。
【0043】
[75].A本発明はさらに、IFN-γの、免疫チェックポイント阻害剤を補助する抗腫瘍補助薬の調製への応用であって、前記IFN-γは、腫瘍細胞を感作することによって免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を補助し、前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤からなり、前記IFN-γには、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片が含まれる、応用を提供するものである。
[76].さらに、前記PD-L1阻害剤は、Atezolizumab、Avelumab及びDurvalumabから選ばれる1種又はそれ以上であり、前記PD-1阻害剤は、Pembrolizumab、Nivolumab、Cemiplimab、Toripalimab、Tislelizumab、Tyvyt及びCamrelizumabから選ばれる1種又はそれ以上である。
[77].さらに、前記抗腫瘍補助薬が用いられる腫瘍は、固形腫瘍である。
[78].さらに、前記抗腫瘍補助薬が用いられる腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである、ことを特徴とする。
【0044】
[79].A 本発明はさらに、IFN-γの、T細胞製剤と免疫チェックポイント阻害剤とを補助する抗腫瘍補助薬の調製への応用であって、前記IFN-γは、腫瘍細胞を感作することによって前記T細胞製剤及び前記免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を補助し、前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤からなり、前記T細胞製剤には、非遺伝子組み換えT細胞及び/又は遺伝子組み換えT細胞が含まれ、前記IFN-γには、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片が含まれる、応用を提供するものである。
[80].さらに、前記遺伝子組み換えT細胞は、CAR-T細胞及び/又はTCR-T細胞からなる。
[81].さらに、前記PD-L1阻害剤は、Atezolizumab、Avelumab及びDurvalumabから選ばれる1種又はそれ以上であり、前記PD-1阻害剤は、Pembrolizumab、Nivolumab、Cemiplimab、Toripalimab、Tislelizumab、Tyvyt及びCamrelizumabから選ばれる1種又はそれ以上である。
[82].さらに、前記補助薬は、腫瘍細胞によるICAM-1の産生を刺激して、前記T細胞製剤の前記腫瘍細胞に対する殺傷効果を高める。
[83].さらに、前記腫瘍は、固形腫瘍である。
[84].さらに、前記腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである。
【0045】
[85].A 本発明はさらに、PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤からなる免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果検出用キットであって、前記キットは、腫瘍細胞におけるIFN-γシグナル伝達経路の開存性を検出するキットを提供するものである。
[86].さらに、前記キットは、前記腫瘍細胞におけるICAM-1又はIFN-γR2の発現レベルを検出する。ICAM-1又はIFN-γR2の発現レベルを検出する目的は、IFN-γシグナル伝達経路の開存性を検出することにあるので、ICAM-1及びIFN-γR2の全長又は断片は、野生型か突然変異型かを問わず、IFN-γシグナル伝達経路開存性の検出に有効であれば、本発明の保護範囲に入ることが強調されよう。
[87].さらに、前記PD-L1阻害剤は、Atezolizumab、Avelumab及びDurvalumabから選ばれる1種又はそれ以上であり、前記PD-1阻害剤は、Pembrolizumab、Nivolumab、Cemiplimab、Toripalimab、Tislelizumab、Tyvyt及びCamrelizumabから選ばれる1種又はそれ以上である。
[88].さらに、前記腫瘍は、固形腫瘍である、ことを特徴とする。
[89].さらに、前記腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである、ことを特徴とする。
[90].A 本発明さらに、抗腫瘍免疫療法を補助する抗腫瘍薬であって、前記抗腫瘍薬は、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片を含み、腫瘍細胞を感作することによってT細胞製剤及び/又は免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を補助する抗腫瘍薬を提供するものである。
[91].さらに、前記抗腫瘍薬は、ターゲティングベクターを含み、前記ターゲティングベクターは、前記野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片を前記腫瘍細胞に送達する。
[92].さらに、前記抗腫瘍薬は、前記T細胞製剤及び/又は前記免疫チェックポイント阻害剤と併用される。
[93].さらに、前記抗腫瘍薬は、さらに任意の薬学的に許容されるベクター及び/又は補助剤を含む、ことを特徴とする。
【0046】
[94].A本発明はさらに、野生型又は突然変異型IFN-γとT細胞製剤とからなる抗腫瘍組成物を含む、抗腫瘍薬を提供するものである。
[95].A 本発明はさらに、野生型又は突然変異型IFN-γと、PD-L1阻害剤及び/又はPD-1阻害剤と、T細胞製剤とを含む抗腫瘍組成物を提供するものである。
【0047】
[96].A発明の具体的な実施形態:
[97].本発明の実験により、CAR-T細胞による腫瘍細胞殺傷において、PD-L1及びPD-1の発現量のアップレギュレーションがCAR-T細胞の活性化、腫瘍細胞の殺傷、サイトカインの分泌と共存していることが判明した(
図1)。
図1aでは、上皮成長因子受容体2(HER2)-CAR細胞とMesothelin(MSLN)-CAR細胞の2種類のCAR-T細胞を使用し、抗原刺激の存在下で両方のCAR-T細胞でPD-1の発現量がアップレギュレーションされた。この場合、抗原はHER2やMSLNを発現している腫瘍細胞であった。
図1bでは、CAR-Tと腫瘍細胞を共培養し、CAR-Tを活性化して腫瘍細胞を死滅させ、細胞破片を遠心分離により除去された「上澄み」を得た。この上澄みは、CAR-Tが活性化されて他の腫瘍細胞に作用する「微小環境」となっていた。
図1cでは、CAR-T細胞を添加すると、腫瘍細胞溶解率が高くなり、また、CAR-T細胞でのGranzyme BとOD107a+がともにアップレギュレートされ、CAR-T細胞が活性化されて腫瘍細胞を死滅させる役割を担っていることがわかった。
図1dの実験では、MOCK、HER2-CAR minus、HER2-CAR plusの3群があり、そのうちMOCKはCAR構造を発現しなかった対照T細胞であった。
図1では、CAR-Tと腫瘍細胞を共培養し、24時間後にCAR-Tがすべての腫瘍細胞を死滅させ、その上澄み(supernatant)を遠心分離により取得した後、その上清で新しい腫瘍細胞を培養し、腫瘍細胞上のPD-L1発現を検出した。
【0048】
[98].T細胞枯渇マーカーであるTIM-3とLAG-3は、CAR-T細胞で有意に増加した。 CAR-T細胞が生体内の抗腫瘍環境で腫瘍細胞と連続的に遭遇しそれを死滅させるストレス実験(
図2)をシミュレートすると、腫瘍細胞上のPD-L1発現量が高いにもかかわらず、CAR-T細胞は細胞毒性とサイトカイン放出能が向上することが示された(
図3)。これらの結果から、CAR-Tによる腫瘍細胞の殺傷において、CAR-T自体がPD-L1-PD-1の抑制効果を有していることが示唆された。
【0049】
[99].亜濃度のIFN-γは、腫瘍細胞におけるPD-L1の高発現を誘導する。しかし、CAR-T細胞がIFN-γで前処理されPD-L1を高発現した腫瘍細胞に遭遇した場合、CAR-T細胞はより高い潜在的細胞溶解活性とIFN-γ分泌能を示した(
図5)。 一方、IFN-γを抗IFN-γ抗体で中和すると、CAR-Tの細胞毒性が著しく低下したことから(
図6)、IFN-γがCAR-T活性に重要であることが示された。
【0050】
[100].IFN-γ前処理試験では、IFN-γのCAR-T細胞への直接的な影響を排除するため、残留IFN-γが検出されない(10 pg/ml以下)ように培地を新鮮培地に交換した。
[101].本発明では、低濃度のIFN-γを用いて腫瘍細胞を前処理し、CAR-TのIFN-γを中和するのに十分な抗IFN-γ抗体を含む新鮮培地でCAR-Tの細胞毒性を測定した。IFN-γで前処理されなかった腫瘍細胞に対してCAR-T細胞が腫瘍殺滅効果を失った場合(
図6)とは異なり、IFN-γが中和された後でも、CAR-T細胞は依然として、低濃度のIFN-γで前処理された腫瘍細胞に対する殺滅能力を示した(
図7)。そのため、IFN-γは腫瘍細胞に作用してCAR-Tの殺傷能力を高めると考えられている。つまり、IFN-γで前処理することで、CAR-T細胞に対する腫瘍細胞の感受性を高めたのである。
【0051】
[102].その後、CRISPR-Cas9システムでIFN-γシグナル伝達経路を遮断し、腫瘍細胞上のIFN-γR2(IFNGR2)遺伝子の発現を阻害した。なぜなら、IFN-γR1は哺乳類の細胞に遍在しているが、IFN-γR2の発現はより動的で、特定の細胞集団におけるIFN-γ誘導シグナル伝達の程度を決定していると考えられるからである。ノックアウト-IFN-γR2(IFN-γR2-null)腫瘍細胞は、対照細胞と同様に正常に増殖し、ノックアウト-IFN-γR2腫瘍細胞は、IFN-γ(3つの濃度:0、5、10ng/ml)で処理するとPD-L1を発現しなくなった(
図8)。しかし、ノックアウト-IFN-γR2腫瘍細胞は、CAR-T細胞による溶解に対してより抵抗性であった(
図9)。いずれの腫瘍細胞(SK-OV-3、A549)においても、IFN-γ前処理によるCAR-T細胞毒性の増強効果は有意に抑制された(
図9)、すなわちIFN-γ前処理による腫瘍細胞の感作効果は抑制された。これらの結果から、腫瘍細胞に対するIFN-γの作用は、PD-L1及びPD-1の発現にもかかわらず、CAR-Tがその細胞活性(及び抗腫瘍効果)を維持又は増強する本質的なメカニズムであることが示唆された。
【0052】
[103].PD-L1-PD-1に対するIFN-γの抑制効果を直接的に特徴付けるために、我々の実験グループはPD-L1を安定的に発現する腫瘍細胞に対してCAR-T活性検出を実施した。腫瘍細胞上のPD-L1の過剰発現は、腫瘍細胞をCAR-Tによる殺傷に対して抵抗性にせず、IFN-γで前処理した腫瘍細胞に対するCAR-T細胞の毒性増強を阻害することもなかった(
図10)。つまり、IFN-γ前処理による、腫瘍細胞のCAR-T細胞に対する感受性の向上は、PD-L1によって阻害されることはないのである。しかし、IFN-γR2がノックアウトされた腫瘍細胞では、PD-L1高発現がCAR-T細胞の殺傷効果を有意に抑制した(
図11)。 これらの結果は、IFN-γシグナル伝達がPD-L1-PD-1の抑制効果を克服し、腫瘍細胞のCAR-T細胞に対する感受性を高め、CAR-T細胞の活性を向上させることを示唆している。
【0053】
[104].次に、本発明は、IFN-γがPD-L1-PD-1のCAR-Tに対する阻害作用をどのように克服するのかについても検討した。IFN-γは、PD-L1の発現を誘導するだけでなく、腫瘍細胞によるHLA分子の発現も誘導する。HLAは、TCRがT細胞を活性化する天然リガンドであるが、HLA-ABC分子を遮断しても、IFN-γのCAR-T細胞に対する増強効果に影響を与えない。
【0054】
[105].細胞間接着分子1(ICAM-1、別名CD54)は、抗原提示細胞(APCs)の細胞表面糖タンパク質であり、効果的な免疫応答に重要な役割を果たす。本発明では、IFN-γ受容体が機能する腫瘍細胞でICAM-1をノックアウトすると、腫瘍細胞のIFN-γ前処理によるCAR-T殺傷毒性の増強がほぼ完全になくなることが明らかになり(
図14)、CAR-T活性に対するICAM-1の重要性が予測された。同時に、IFN-γは腫瘍細胞のICAM-1産生を刺激し、腫瘍細胞に対するT細胞の殺傷能力を向上させた(
図15)。一方、正常なIFN-γシグナル伝達経路を持つ腫瘍細胞でICAM-1を過剰発現させても、CAR-Tによる腫瘍細胞の特異的な細胞溶解は有意に促進されなかった(
図13)。これは、活性化されたCAR-T細胞から放出されるIFN-γによって引き起こされるICAM-1のアップレギュレーションに起因していると考えている。そこで、本発明では、IFN-γR2ノックアウト細胞におけるICAM-1の過剰発現について検討したところ、腫瘍細胞がCAR-T細胞による殺傷に感受性が高くなることを見出した(
図13)。これらの結果から、IFN-γによるICAM-1の発現は、PD-L1-PD-1の機能を抑制し、CAR-T及びT細胞の抗腫瘍活性を高めることが示唆された。
【0055】
[106].そこで、本発明の実験では、IFN-γの前処理が、固形腫瘍に対するCAR-T細胞製剤の治療成績の向上に寄与するかどうかを検証した。連続的な生体外殺傷検出により、CAR-T細胞はIFN-γで前処理した腫瘍細胞に対して第5ラウンドまで殺傷活性を維持したが、非IFN-γ前処理腫瘍細胞に対する殺傷活性は第3ラウンドまでしか維持しなかった(
図12)。すなわち、IFN-γ(補助薬として)の前処理により、腫瘍細胞のCAR-T細胞に対する感受性が高まり、CAR-T細胞製剤の固形腫瘍に対する一次治療薬としての治療効果が促進された。
【0056】
[107].次に、本発明の実験では、CAR-T細胞の腹腔内注入前にIFN-γを2回注入したNSGマウス腹腔内卵巣がんモデルを確立した(
図16)。生物発光イメージングにより、IFN-γは腫瘍の成長を有意に抑制せず、CAR-T単独では腫瘍の成長を遅らせるだけであったが、IFN-γ前処理とCAR-T細胞の併用により、5匹中3匹で腫瘍が持続的に消滅し、残りの2匹ではコントロールマウス内の腫瘍より有意に小さくなった(
図17)。しかし、IFN-γR2欠損腫瘍は、併用療法に対してより抵抗性を示した(
図17)。これらの生体外及び生体内実験の結果から、IFN-γ(感作性補助薬として)とCAR-T(主薬として)の順次投与は、固形腫瘍治療において有効なアプローチであることが示唆された。
【0057】
[108].まとめると、本発明の実験では、以下のことがわかった。
[109].1)CAR-T細胞が腫瘍細胞と接触した後、抑制分子であるPD-1がCAR-T細胞に、PD-L1が腫瘍細胞に高発現した。同時に、活性化マーカーであるグランザイムB、パーフォリン、サイトカイン放出がCAR-T細胞でアップレギュレーションし、CAR-Tは腫瘍細胞を効率的に殺傷した。
[110].2)IFN-γはを前処理し、IFN-γは腫瘍細胞上のPD-L1発現をアップレギュレートしたが、同時にCAR-Tによる腫瘍細胞殺傷とサイトカイン放出を促進した(抑制はしなかった)。 (IFN-γは低濃度であり、腫瘍細胞を有意に抑制しなかった)。
[111].3)CAR-T細胞と腫瘍細胞を共培養した系で、IFN-γ中和抗体を用いてIFN-γを中和すると、CAR-T細胞の殺傷機能が著しく低下した。 腫瘍細胞のIFNγ受容体遺伝子(IFNγR2)をノックアウトすると、腫瘍細胞はPD-L1を発現しなくなったが、CAR-Tの殺傷機能は低下した。
[112].4)腫瘍細胞上のPD-L1の過剰発現はCAR-T活性を有意に阻害しなかったが、IFNγ受容体遺伝子(IFNγR2)をノックアウトした腫瘍細胞上のPD-L1の過剰発現は、CAR-Tの殺傷機能を有意に阻害した。
[113].5)IFN-γは、腫瘍細胞にICAM-1の高発現を誘導した。腫瘍細胞のICAM-1をノックアウトした後、IFN-γ前処理はもはやCAR-Tの殺傷活性を増強することができなくなった。
[114] .6)IFNγR2欠損の腫瘍細胞でICAM-1分子を過剰発現させ、CAR-Tの殺傷機能とサイトカイン放出能を促進させた。
[115].7)IFN-γは、マウス卵巣がん腹膜腫瘍モデルにおいて、CAR-T細胞の治療効果を高めることができる。
[116].8)腫瘍細胞をIFN-γで前処理すると、腫瘍細胞にICAM-1の発現が促され、腫瘍細胞に対する通常のT細胞の殺傷能力が向上した。
【0058】
[117].B 発明:CAR発現ベクターとその応用
[118] .B発明は、生物医学の分野に属し、詳しくは、CAR発現ベクター及びその応用に関するものである。
[119].養子細胞療法(Adoptive cell therapy,ACT)は、「生きた薬」と呼ばれるほど有効な抗がん戦略であり、がん免疫療法において重要な役割を担っている。キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)は、遺伝子操作されたT細胞で、血液悪性腫瘍の治療において目覚しい成果を上げているが、固形腫瘍の治療においては満足できるものではなく、未だ大きな課題を抱えている。固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の効果が低い理由はよくわかっていないが、複数の理由があるのではないかと推測されている。例えば、生体内でのCAR-T細胞は生存率が低く、体内に投入後すぐに死滅して殺傷効果に悪影響を与えてしまった。また、固形腫瘍は代謝、免疫回避、組織形成における多能性により、免疫抑制性微小環境を形成し、その結果、CAR-T細胞が固形腫瘍の組織内に浸潤して効果を発揮することが困難になったため、たとえ固形腫瘍に入ったとしても、CAR-T細胞が、様々な点で免疫系を制限しているので不活性化されて死滅してしまった。 そのため、固形腫瘍に対するCAR-T細胞や関連する薬剤製剤の殺傷効果をいかに高めるかが、この分野の喫緊の課題となっている。
【0059】
[120].CAR-T細胞の治療効果を高めるために、現在、CAR-T細胞自体をさらに遺伝子組み換えしたり、ナノ修飾したりすることが主に注目されている。例えば、マルチターゲットCAR遺伝子をCAR-T細胞に挿入したり、CAR-T細胞にケモカインを発現させたり、又は接着分子や化学基を直接修飾することによってCAR-T細胞の腫瘍組織に対する傾向や認識を強化するようにしている。 しかし、いずれの手法も多かれ少なかれ問題点や欠点がある。 例えば、マルチターゲットCAR-T細胞の場合、挿入された外来遺伝子が多すぎると、T細胞本来の活性に影響を与える可能性もある。化学修飾は通常、細胞活性の低下だけでなく、運動や移動能力の低下も引き起こす。したがって、CAR-T細胞の修飾は、プラスとマイナスの両方の要因を総合的に考慮しなければならず、最終的にはより的を絞った、より効果の高い修飾方法を選択する必要もある。
【0060】
[121].従来の技術的経路のうち、PD-1阻害の観点からCAR-Tを改変することは、実現可能な方法と考えられている。PD-1は、そのリガンドであるプログラム死リガンド1(PD-L1)と結合することでT細胞を介した免疫反応を負に制御するため、PD-L1-PD-1シグナル伝達経路を遮断することは有効な手段である。したがって、PD-L1-PD-1シグナル伝達経路を遮断することは、有効な抗腫瘍免疫療法戦略であり、良好な臨床結果が得られている。 PD-L1/PD-1を標的とした抗体医薬がいくつか上市されており、例えば、PD-1に対する抗体:Pembrolizumab、Nivolumab、Cemiplimab、PD-L1に対する抗体:Atezolizumab、Avelumab、Durvalumabなどが挙げられる。
【0061】
[122].PD-1などの抑制性シグナル伝達経路も、CAR-T治療の有効性を左右する重要な要素である。PD-1経路を遮断することで、CAR-T細胞の抗腫瘍効果を向上させることができることが研究で明らかにされている。そのため、従来の技術的経路では、PD-1やPD-L1に対する抗体を分泌するようにCAR-T細胞を遺伝子操作することで、固形腫瘍に対する治療効果を大幅に向上させる試みや、遺伝子編集によりCAR-T細胞のPD-1をコードする遺伝子をノックアウトすることでもCAR-Tの抗腫瘍活性を向上させることが可能である。
【0062】
[123].しかし、現在のこれらの技術的解決策や技術的経路の考え方は、CAR-T細胞の機能そのものを向上させることに重点を置いており、腫瘍細胞や固形腫瘍内の免疫抑制性微小環境にはほとんど影響を及ぼしていないのが現状である。つまり、現在の技術的解決策や技術的経路は、CAR-T細胞自体の改良にのみ注力し、腫瘍細胞に双方向に作用するという観点から、CAR-T細胞療法の抗腫瘍効果を高めるという発想には限界があるのである。
【0063】
[124].そこで、B発明は、腫瘍細胞だけでなく、固形腫瘍内の免疫抑制性微小環境にも影響を与え、CAR-T細胞製剤の抗腫瘍効果を最適化することができる新規CAR-T細胞製剤を提供しようとするものである。
[125].B発明の目的の一つは、新規CAR発現ベクター及び構築戦略を提供するものである。
[126].上記目的を達成するために、B発明の技術的解決策は、以下のとおりである。
[127].キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸と腫瘍細胞感作因子をコードする核酸とを含むCAR発現ベクターであって、前記腫瘍細胞感作因子をコードする前記核酸は、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片をコードする核酸である、CAR発現ベクター。
[128].さらに、前記CARをコードする前記核酸は、自己切断型ペプチドをコードする配列によって前記腫瘍細胞感作因子をコードする前記核酸に連結されている。
[129].さらに、前記CARをコードする前記核酸は、腫瘍特異抗原を標的とする単鎖抗体可変領域(ScFv)と、CD8aシグナルペプチドと、CD8ヒンジ領域と、CD8a膜貫通ドメインと、4-1BB細胞内共刺激要素と、CD3ζ細胞内ドメインとをコードする核酸からなる。
[130].さらに、前記腫瘍特異抗原は、HER2、Mesothelin、GPC-3、EGFRvIII、MUC1、CD19、CD30、BCMA、EGFR、CD123、CD133、PSCA、GD2及びLewisYから選ばれる1種又はそれ以上である。
[131].さらに、前記自己切断型ペプチドをコードする前記配列は、P2A配列である。
[132].さらに、前記CARをコードする核酸配列が配列番号1、前記IFN-γをコードする核酸配列が配列番号2、前記自己切断型ペプチドをコードする前記配列が配列番号3によって表される。
[133].本発明のさらなる目的は、レンチウイルスを提供するものである。
[134].前記CAR発現ベクターを包含するレンチウイルス。
[135].好ましい態様として、本発明の一実施形態において、前記レンチウイルスは、pWPXLdである。しかし、psPAX2、pMD2.G、pVSVGなどを含む当技術分野で一般的に用いられるレンチウイルス発現プラスミドも、本発明の技術的実施形態に含まれ得る。
[136].また、本発明の目的は、新規CAR-T細胞及びその製剤、並びに新規T細胞及びその製剤を提供するものである。
[137].以下の(a)又は(b)に示すベクター:(a)前記CAR発現ベクター、又は(b)CARをコードする核酸及びIFN-γをコードする核酸を含むCAR発現ベクター、が導入された、CAR-T細胞。
[138].前記CAR-T細胞と、薬学的に許容される副原料及び/又は補助剤とを含む、抗腫瘍薬。
[139].さらに、前記腫瘍は、固形腫瘍である。
[140].さらに、前記腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである。
[141].CAR及びIFN-γを発現する、T細胞。
[142].さらに、前記T細胞は、CARをコードする核酸とIFN-γをコードする核酸とを含む。
[143].CAR及びIFN-γを発現するT細胞と、薬学的に許容される副原料及び/又は補助剤とを含む、抗腫瘍薬。
[144].さらに、前記腫瘍は、固形腫瘍である。
[145].さらに、前記腫瘍は、卵巣腫瘍、乳がん、脳神経膠腫、胃がん、結腸がん、黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝がん又は尿路上皮がんである。
[146].CAR及びIFN-γを発現するT細胞の調製方法であって、CARをコードする核酸とIFN-γをコードする核酸とをベクターで前記T細胞に再導入する、調製方法。
【0064】
[147].B発明の具体的な実施形態
[148].B発明の実施例1:IFN-γは、免疫療法に対する腫瘍細胞の感受性を高める
[149].腫瘍細胞は、亜細胞毒性濃度のIFN-γでPD-L1を高発現するように誘導される(すなわち、腫瘍細胞はIFN-γで前処理される)。 次に、CAR-T細胞(HER2-CAR、MSLN-CAR)をIFN-γで前処理したPD-L1発現量の高い腫瘍細胞と共投与すると、CAR-T細胞はより高い潜在的細胞溶解活性とIFN-γ分泌能を示した(
図18)。 IFN-γ前処理試験では、IFN-γのCAR-T細胞への直接的な影響を排除するため、残留IFN-γが検出されない(10 pg/ml以下)ことを確認した後、新鮮な培地に交換した。
【0065】
[150].また、本発明では、低濃度のIFN-γを用いて腫瘍細胞を前処理し、CAR-TのIFN-γを中和するのに十分な抗IFN-γ抗体を含む新鮮培地でCAR-T(HER2-CAR)の細胞毒性を測定した。IFN-γで前処理されなかった腫瘍細胞に対するCAR-T細胞の殺滅効果は著しく低下した場合(
図19)とは異なり、IFN-γが中和された後でも、CAR-T細胞は依然として、低濃度のIFN-γで前処理された腫瘍細胞に対する殺滅能力を示した(
図20)。
[151].以上の実験から、IFN-γがCAR-Tによる腫瘍細胞の殺傷に重要な影響を与え、IFN-γが腫瘍細胞に作用してCAR-Tの殺傷能力を高めていることが明らかとなった。 つまり、IFN-γで前処理することで、CAR-T細胞に対する腫瘍細胞の感受性が高まったのである。
【0066】
[152].次に、本発明の実験チームは、CAR-T細胞の腹腔内注入前にIFN-γを2回注入したNSGマウス腹腔内卵巣がんモデルを確立した(
図16)。生物発光バイオルミネッセンスイメージングにより、IFN-γは腫瘍の成長を有意に抑制せず、CAR-T単独では腫瘍の成長を遅らせるだけであったが、IFN-γ前処理とCAR-T細胞の併用により、5匹中3匹で腫瘍が持続的に消滅し、残りの2匹ではコントロールマウス内の腫瘍より有意に小さくなった(
図17)。 しかし、腫瘍細胞内のIFN-γシグナル伝達経路が遮断されると(例えば、
図17の実験でIFN-γR2をノックアウトすることで)、腫瘍はIFN-γ前処理と組み合わせたCAR-T細胞の治療法に対してより抵抗性が高くなった(
図17)。
[153].さらに、本発明の実験により、IFN-γはCAR-Tによる腫瘍細胞の殺傷に重要なだけでなく、通常のT細胞(すなわち、非遺伝子組み換えT細胞)の腫瘍細胞に対する殺傷効果も増強することが示された(
図21)。
[154].以上、本発明の生体外及び生体内実験の結果から、遺伝子組み換えT細胞及び通常のT細胞のいずれも、IFN-γで前処理した腫瘍細胞と遭遇すると殺傷効果が高まる(すなわち、IFN-γシグナル伝達経路が活性化される)ことが示された。 IFN-γは、通常のT細胞系と遺伝子組み換えT細胞(例えば、様々な種類のCAR-T及び/又はTCR-T)の両方において、腫瘍細胞の殺傷能力を高めることが示唆されている。
[155].腫瘍細胞のIFN-γ前処理によって腫瘍細胞のT細胞に対する感受性を高めることに加えて、本発明は、遺伝子組み換えされたT細胞自体が腫瘍細胞を感作するためのIFN-γを分泌し、腫瘍細胞を殺すT細胞の効果を高めることができるように、T細胞(例えば、CAR-T細胞)を遺伝子組み換えする技術的解決策を提案するものである。腫瘍細胞のIFN-γ前処理よりも優れた、より簡便な治療戦略が提供される可能性がある。
【0067】
[156].B発明の実施例2:新規CAR発現ベクター
[157].本発明の実施例2は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸と腫瘍細胞感作性因子をコードする核酸とを含む新規CAR発現ベクターであって、前記腫瘍細胞感作性因子をコードする核酸は、野生型又は突然変異型IFN-γの全長又は断片をコードする核酸である、ことを特徴とする新規CAR発現ベクターを提供するものである。
[158].ベクター構造
[159].INF-γを特異的に分泌できるキメラ抗原受容体を発現する発現カセットを含むプラスミドベクターを構築する。発現カセット上の要素の構造及び位置関係については
図22aを、プラスミドベクター骨格については
図22bを参照する。具体的なステップは以下の通りである:レンチウイルスベクターpWPXLdは、HER2陽性腫瘍細胞上のキメラ抗原受容体を標的とする第1の発現カセットを含み、第1の発現カセット(HER2-CAR)は、CD8aシグナルペプチド、HER2単鎖抗体可変領域、CD8ヒンジ領域、CD8a拡張膜ドメイン、4-1BBの細胞内共刺激要素およびCD3ζの細胞内ドメイン、第2の発現カセットは、T細胞cDNAからヒトIFN-γの特異的断片を増幅するようにプライマーを設計し、IFN-γの第2の発現カセットと第1の発現カセットとをP2A配列(=自己切断配列)を介してレンチウイルスベクターpWPXLdで共発現させて、組み換えプラスミド全体を「HER2-CAR-IFN-γプラスミド」と名づけた。
【0068】
[160].本実施形態では、HER2を標的とするプラスミドベクターを構築したが、本発明が提供する方法はこれに限定されるものではない。 本発明が提供する方法は、HER2、Mesothelin、GPC-3、EGFRvIII、MUC1、CD19、CD30、BCMA、EGFR、CD123、CD133、PSCA、GD2、LewisYなどを含むがこれらだけに限らない、ありふれたターゲットを標的とするプラスミドベクターの構築も可能にする。
[161].本発明が提供する方法はまた、他のプロモーターを使用する、及び/又はT2AもしくはIRESを使用して第1の発現カセットを第2の発現カセットに連結する、などの他の分子生物学ツールを使用して同様の機能を有する組換えプラスミドを構築するこもできる。
[162].キメラ抗原受容体とIFN-γを発現するCAR-T細胞の構築
[163].リンパ球分離株から末梢血単核細胞(PBMC)を分離し、CD3及びCD28磁気ビーズを用いて活性化した後、設定したMOI値に従ってウイルス量を加えて活性化T細胞に感染させた。 得られた2つのCAR-T細胞をそれぞれHER2-CART細胞及びHER2-IFNG-CART細胞と名付け、T細胞におけるCARの発現レベルをフローサイトメトリーにより検出した。
【0069】
[164].B発明の実施例3
[165].CAR-T 殺傷機能及びサイトカイン分泌検出
[166].(1)HER2陽性を発現する標的細胞であるSK-OV-3を、MOCK群(MOCKはCAR発現構造を持たないT細胞)、HER2-CAR群、HER2-IFNG-CAR群、最大放出群、及び自然放出群に分けて96ウェルプレートに1×104でプレーティングした。細胞付着後、対応するエフェクター:標的(E:T)の比でCAR-T細胞を加え、24時間共培養し、LDH(乳酸脱水素酵素)キットを用いてCAR-Tの殺傷レベルを検出し、細胞上清をサイトカイン検出用に-80℃にて凍結保存した。
【0070】
[167].(2)サイトカイン検出
[168].IFN-γの発現は、Biolegend社のELISAキットを用いて、説明書にしたがって検出した。
[169].
図23及び
図24は、CAR-Tの殺傷機能及びサイトカイン分泌検出結果をまとめたものである。
図23に見られるように、本発明のCAR発現ベクター(IFN-γ核酸を含む)を発現するCAR-T細胞は、HER2-CARのみを発現するCAR-T細胞と比較して、腫瘍細胞の殺傷効果が有意に高いことが確認された。
図24に見られるように、本発明のCAR発現ベクター(IFN-γ核酸を含む)を発現するCAR-T細胞のサイトカインIFN-γ分泌能も、HER2-CARのみを発現するCAR-T細胞と比較して有意に向上していた。
[170].本発明の上記実験は、T細胞が自らIFN-γをより多く分泌するように遺伝子組み換えすることにより、腫瘍細胞の微小環境を変化させ、T細胞免疫療法に対する腫瘍細胞の感受性を向上させることができることを示している。 また、本発明により構築されたCAR発現ベクター及び該ベクターを発現するCAR-T細胞に加えて、天然にIFN-γを高発現する天然T細胞や、他の遺伝子組み換えを用いてIFN-γを高発現するT細胞(例えば、TCR-T細胞)なども腫瘍を殺す効果がより高くなると思われる。
[171].以上、本発明の実施形態を添付図面と共に説明したが、本発明は、単に模式的なものであって限定するものではなく、本発明の目的及び請求項によって保護される範囲から逸脱することなく、当業者が本発明に触発されて作り得る多くの形態があり、それらは全て本発明の保護範囲に入るものである。
【配列表】
【国際調査報告】