(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】2,5-フランジカルボン酸の製造のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/58 20060101AFI20230419BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C12P7/58 ZNA
C12N9/04
C12N9/04 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554646
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(85)【翻訳文提出日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 US2021019690
(87)【国際公開番号】W WO2021183298
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522352199
【氏名又は名称】ソリュゲン インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,トニ エム.
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シュアイ
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ブライアン エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ウィエマン,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ホルク,ハンスイェルク
(72)【発明者】
【氏名】チャクラバルティ,ガウラブ
(72)【発明者】
【氏名】ハント,シーン
(72)【発明者】
【氏名】ミラー,コンラッド ブイ.
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050KK01
4B064AD21
4B064AD40
4B064BJ10
4B064CA21
4B064CB11
4B064CC01
4B064CC24
4B064CE15
4B064DA01
4B064DA16
(57)【要約】
2,5-フランジカルボン酸を製造する化学酵素的方法は、D-グルコースを(i)中間体を生成するためのガラクトースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、グルカル酸デヒドラターゼ、カタラーゼ、及びそれらの組合せから基本的になる群から選択される少なくとも2つの酵素と、(ii)2,5-フランジカルボン酸を形成するための不均一系金属触媒に接触させることを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5-フランジカルボン酸を製造する化学酵素的方法であって、
(i)ガラクトースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、グルカル酸デヒドラターゼ、カタラーゼ、及びそれらの組合せから基本的になる群から選択される少なくとも2つの酵素にD-グルコースを接触させて中間体を生成すること、及び
(ii)中間体を金属触媒及び酸触媒と接触させて2,5-フランジカルボン酸を形成すること
を有する。
【請求項2】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
D-グルコースはD-グルコジアルドースを形成するためにガラクトースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触され、
前記方法は、2-ケト-グルコジアルドースの形成に適した条件下でD-グルコジアルドースをピラノースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触させること、2-ケト-グルコジアルドースを不均一系金属触媒と接触させて2-ケト-グルカル酸を形成すること、及び、酸触媒の存在下で2-ケト-グルカル酸を脱水して2,5-フランジカルボン酸を形成することを更に有する。
【請求項3】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
D-グルコースはD-グルコジアルドースを形成するためにガラクトースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触され、
前記方法は、2-ケト-グルコジアルドースの形成に適した条件下でD-グルコジアルドースをピラノースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触させること、酸触媒を用いて2-ケト-グルコジアルドースを脱水して2,5-フランジカルボキシアルデヒドを形成すること、及び、不均一系金属触媒の存在下で2,5-フランジカルボキシアルデヒドを酸化して2,5-フランジカルボン酸を形成することを更に有する。
【請求項4】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
D-グルコースはD-グルコジアルドースを形成するためにガラクトースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触され、
前記方法は、D-グルコジアルドースを金属触媒と接触させてD-グルカル酸を形成すること、グルカル酸デヒドラターゼによりD-グルカル酸を脱水して5-ケト-4-デオキシグルコジアルドースを形成すること、及び、酸触媒の存在下で5-ケト-デオキシグルコジアルドースを閉環して2,5-フランジカルボン酸を形成することを更に有する。
【請求項5】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
D-グルコースは2-ケト-グルコースを形成するためにピラノースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触され、
前記方法は、2,5-フランジカルボキシアルデヒドの形成に適した条件下で酸触媒により2-ケト-グルコースを脱水すること、酸触媒により5-ケト-4-デオキシグルコジアルドースを脱水して2,5-フランジカルボキシアルデヒドを形成すること、及び、不均一系金属触媒の存在下で2,5-フランジカルボキシアルデヒドを酸化して2,5-フランジカルボン酸を形成することを更に有する。
【請求項6】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
ガラクトースオキシダーゼは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【請求項7】
請求項2に記載の化学酵素的方法であって、
ガラクトースオキシダーゼは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【請求項8】
請求項3に記載の化学酵素的方法であって、
ガラクトースオキシダーゼは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【請求項9】
請求項4に記載の化学酵素的方法であって、
ガラクトースオキシダーゼは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【請求項10】
請求項5に記載の化学酵素的方法であって、
ガラクトースオキシダーゼは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【請求項11】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
ガラクトースオキシダーゼは配列番号1の配列を有する。
【請求項12】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
ピルビン酸-2-オキシダーゼは配列番号7から配列番号11のいずれかの配列を有する。
【請求項13】
約100℃未満の温度で実施される請求項1に記載の化学酵素的方法。
【請求項14】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度である。
【請求項15】
請求項2に記載の化学酵素的方法であって、
2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度である。
【請求項16】
請求項3に記載の化学酵素的方法であって、
2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度である。
【請求項17】
請求項4に記載の化学酵素的方法であって、
2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度である。
【請求項18】
請求項5に記載の化学酵素的方法であって、
2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度である。
【請求項19】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
不均一系触媒は、炭素、シリカ、アルミナ、チタニア(TiO
2)、ジルコニア(ZrO
2)、ゼオライト、又はそれらの組合せを含有する担体を有する。
【請求項20】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
酸触媒、金属触媒、又はその両方は不均一系である。
【請求項21】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
酸触媒、金属触媒、又はその両方は均一系である。
【請求項22】
請求項1に記載の化学酵素的方法であって、
2,5-フランジカルボン酸を水晶析、溶媒晶析、及びヌッチェろ過に供することを更に有する。
【請求項23】
2,5-フランジカルボン酸を製造する化学酵素的方法であって、
アリール-アルコールオキシダーゼ(AAO)、クロロペルオキシダーゼ(CPO)、5-ヒドロキシメチルフルフラールオキシダーゼ(HMFO)、グリオキサールオキシダーゼ(GLOX)、ペリプラズムアルデヒドオキシダーゼ(PaoABC)、非特異的ペルオキシゲナーゼ(UPO)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、活性化酵素であるホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)有り無し両方のガラクトースオキシダーゼ(GAO)、ラクトペルオキシダーゼ(LPO)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、好酸球ペルオキシダーゼ(EPO)、ヨウ化物ペルオキシダーゼ(TPO)、オボペルオキシダーゼ、唾液ペルオキシダーゼ、バナジウムハロペルオキシダーゼ、非哺乳類脊椎動物のペルオキシダーゼ(POX)、ペルオキシダシン(Pxd)、微生物のペルオキシン(Pxc)、無脊椎動物のペルオキシネクチン(Pxt)及びショートペルオキシドケリン(PxDo)、ショートペルオキシドケリン(Pxt)、アルファ-ジオキシゲナーゼ(aDox)、デュアルオキシダーゼ(DuOx)、プロスタグランジンHシンターゼ又はシクロオキシゲナーゼ(PGHS/CyOx)、リノール酸ジオールシンターゼ(LDS)、それらの機能的変異体、並びにそれらの組合せからなる群から選択される一つ以上の酵素を含有する酵素的酸化組成物を用いて5-ヒドロキシメチルフルフラールを酵素的酸化して中間体を形成することと、
金属触媒を用いて中間体を酸化して2,5-フランジカルボン酸を形成すること
を有する。
【請求項24】
請求項23に記載の化学酵素的方法であって、
酵素的酸化は約100℃未満の温度で実施される。
【請求項25】
請求項23に記載の化学酵素的方法であって、
2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年3月12日に出願された「5-ヒドロキシメチルフルフラールからの2,5-フランジカルボン酸の製造のための組成物及び方法」の名称である米国仮特許出願第62/988,841の利益を主張し、当該出願の全てがあらゆる目的のために参照によって本明細書中に援用される。
【0002】
連邦政府から援助を受けた研究又は開発に関する陳述
適用無し。
【0003】
本開示は、高純度の2,5-フランジカルボン酸の製造に関する。より具体的には、本開示は、穏やかな条件下における高純度の2,5-フランジカルボン酸の化学酵素的な合成に関する。
【背景技術】
【0004】
2,5-フランジカルボン酸(FDCA)は、米国エネルギー省によりバイオマス由来の最も付加価値のある12個の化合物の一つとみなされている。FDCAはコハク酸、イソデシルフラン-2,5-ジカルボキシレート、イソノニルフラン-2,5-ジカルボキシレート、ジペンチルフラン-2,5-ジカルボキシレート、ジヘプチルフラン-2,5-ジカルボキシレート、及びポリ(エチレンドデカンジオアート-2,5-フランジカルボキシレート)(PEDF)を含む広範な化合物の製造に使用される。FDCAはヘキサン酸、大環状配位子、殺菌剤、腐食防止剤、及びチオレン(tiolene)フィルムの製造における重要な成分である。前記化合物は、ポリエステル、ポリアミド、及び可塑剤の製造用のジクロライド-、ジメチル-、ジエチル-、又はビス(ヒドロキシエチル)-誘導体などの単量体の合成における前駆体としても使用可能である。FDCAは、麻酔薬、抗生物質、及び腎臓結石を除去するためのキレート薬として医薬品にも使用される。FDCAは、石油由来のポリエチレンテレフタラート(PET)及びポリブチレンテレフタラート(PEB)の代替ポリマーであるポリエチレンフラノエート(PEF)の合成における前駆体であるため、非常に興味を集めている。PEFポリマーは、別の再生可能な化合物であるモノエチレングリコール(MEG)に結合されたフラン-2,5-ジカルボン酸(FDCA)からなる。PETモノマーであるパラ-テレフタル酸(PTA)とFDCAの構造的類似性は、現存するポリエステル用のインフラを用いてPEFの重合を可能にする。更に、PEFはPETと比較して向上したバリア性、熱的性質、及び機械的性質を示す。
【0005】
FDCAはグルコースやフルクトース等の再生可能な糖から製造可能である。現在、FDCAを生成する従来の方法は、2つの主要な競合する経路:1)HMF中間体を介するフルクトースの酸化及び脱水、2)フランの形成を促進するためのアルダル酸のC2又はC5の位置におけるケトンの形成を含む。
【発明の概要】
【0006】
本明細書の開示内容は、2,5-フランジカルボン酸を製造する化学酵素的方法であって、(i)ガラクトースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ(pyranose-2-oxidase)、グルカル酸デヒドラターゼ、カタラーゼ、及びそれらの組合せから基本的になる群から選択される少なくとも2つの酵素とD-グルコースを接触させて中間体を生成すること、及び、(ii)前記中間体を金属触媒及び酸触媒と接触させて2,5-フランジカルボン酸を形成することを含む。
【0007】
同様に本明細書で開示される内容は、2,5-フランジカルボン酸を製造する化学酵素的方法であって、アリール-アルコールオキシダーゼ(AAO)、クロロペルオキシダーゼ(CPO)、5-ヒドロキシメチルフルフラールオキシダーゼ(HMFO)、グリオキサールオキシダーゼ(GLOX)、ペリプラズムアルデヒドオキシダーゼ(PaoABC)、非特異的ペルオキシゲナーゼ(UPO)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、活性化酵素であるホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)有り無し両方のガラクトースオキシダーゼ(GAO)、ラクトペルオキシダーゼ(LPO)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、好酸球ペルオキシダーゼ(EPO)、ヨウ化物ペルオキシダーゼ(TPO)、オボペルオキシダーゼ、唾液ペルオキシダーゼ、バナジウムハロペルオキシダーゼ、非哺乳類脊椎動物のペルオキシダーゼ(POX)、ペルオキシダシン(Pxd)、微生物のペルオキシン(Pxc)、無脊椎動物のペルオキシネクチン(Pxt)及びショートペルオキシドケリン(short peroxidockerin)(PxDo)、ショートペルオキシドケリン(Pxt)、アルファ-ジオキシゲナーゼ(aDox)、デュアルオキシダーゼ(DuOx)、プロスタグランジンHシンターゼ又はシクロオキシゲナーゼ(PGHS/CyOx)、リノール酸ジオールシンターゼ(LDS)、それらの機能的変異体、並びにそれらの組合せからなる群から選択される一つ以上の酵素を含む酵素的酸化組成物を用いた5-ヒドロキシメチルフルフラールの酵素的酸化により中間体を生成することと、金属触媒を用いて前記中間体を酸化して2,5-フランジカルボン酸を形成することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
開示される方法及びシステムの態様の詳細な説明のため、添付の図面が参照される。
【0009】
【
図1】例1のサンプルのグルコース変換における特異的活性のグラフである。
【
図2】例2のサンプルのグルコース及びグルコネート変換における特異的活性のグラフである。
【
図3】0.5%及び2%グルコースに対するGAO-Mut47及びGAO-Mut107の活性のグラフである。
【
図4】パール(Parr)反応におけるグルコースの残存濃度のプロットである。
【
図5】グルコース及び酸化誘導体に対する酸化酵素の特異的活性のプロットである。
【
図6】グルコジアルドース又はグルコースの反応におけるピラノースオキシダーゼのHPLC-MSトレースの編集物である。
【
図7】本明細書で開示される種類の化学酵素的方法のプロセスフロー図の一態様である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用される用語をより明確に定義するため、以下の定義が提供される。異なる定義が示されない限り、以下の定義が本開示に適用可能である。ある用語が本開示に使用されているものの、本明細書で具体的に定義されていない場合、IUPAC Compendium of ChemicalTerminology, 2nd Ed (1997)における定義が本明細書において適用される他の開示や定義と矛盾せず、また、その定義が用いられる請求項が不明確化せず、実施不能にならない限り、当該定義が利用可能である。
【0011】
周期表の元素群は、Chemical and Engineering News,63(5), 27, 1985に公表された元素の周期表の版に示される命番方式を用いて示される。場合により、元素群は中でもグループに与えられた一般的な名称、例えば、グループ1の元素にアルカリ金属、グループ2の元素にアルカリ土類金属、グループ3~12の元素に遷移金属、グループ17の元素にハロゲン、を用いて示すこともできる。
【0012】
請求項の移行の用語又は文言に関して、「含む(including)」、「含有する(containing)」、「備える(having)」、又は「特徴とする(characterized by)」と同義である移行の用語「有する(comprising)」は、包括的又はオープンエンドであり、付加的な記述の無い要素又は方法の工程を除外しない。移行の用語「~のみからなる(consisting of)」は請求項で特定されていない要素、工程、又は成分を除外する。移行の文言「基本的に~からなる(consisting essentially of)」は、請求項の範囲を、特定された物質又は工程と、請求項に記載の発明の基本的で新規な特徴に実質的に影響を与えない物質又は工程とに限定する。文言「基本的に~からなる」は、「~のみからなる」形式で記載された閉鎖型の請求項と「有する」形式で記載された完全な開放型の請求項との間の中間に該当する。反対の表示が無い場合、「基本的に~からなる」化合物又は組成物を記載することは「有する」と解釈されることは無いが、用語が適用される組成又は方法を著しく変更しない要素を含む記載された構成要素を指すことを意図する。組成又は方法が、様々な要素又は工程を「有する」文言で記載されている場合、当該組成及び方法は様々な要素又は工程「から基本的になる」又は「のみからなる」であってもよい。
【0013】
上述の通り、FDCAを生成するための従来の方法は、一般に2つの主要な競合する経路、1)HMF中間体を介するフルクトースの酸化及び脱水、2)フラン形成を促進するためのアルダル酸のC2又はC5の位置におけるケトン形成、を含む。現在までのところ、FDCAのための経路の大半はHMF中間体を介するものである。しかし、FDCAを生成するための最新の化学的方法は、厳しい反応条件(例えば、高温)が必要であり、所望の生産物に対して選択性が低いという特徴がある。そのため、新規で費用対効果が高いFDCAの製造方法に対する需要が存在する。
【0014】
本明細書の開示内容は、FDCAを製造する化学酵素的方法である。ある態様では、FDCAを生成する化学酵素的方法は、グルコースをマルチ酵素システム(MES)、酸触媒、及び金属触媒と接触させることにより、最終産物である二酸を生成することを含む。ある態様では、金属触媒は不均一系であり、あるいは、金属触媒は均一系である。この方法の一態様をスキームIに示す。スキームIを参照すると、本方法では、D-グルコースがガラクトースオキシダーゼ(GAO)の変異体を用いて酸化されることにより、D-グルコジアルドースを形成する。ピラノースオキシダーゼ(POX)は、D-グルコジアルドースを2-ケト-グルコジアルドースに変換するために使用される。この分子は、その後に不均一系の貴金属触媒により二酸に変換され、酸触媒を用いてフランの形態に変換される。効率的な閉環はジアルデヒドの代わりに二酸を要してもよく、これは、酸触媒による反応の前に不均一系触媒による酸化が進行することを意味する。しかし、そうではなく、2,5-フランジカルボキシアルデヒド(DFF)の形成を促進するために2-ケト-グルコジアルドースが十分に高い割合で適切なフランを抽出できる場合、スキームIIに示されるように金属酸化の前に酸触媒の工程を実施してもよい。
【0015】
FDCAの製造のための別の態様では、D-グルコースをガラクトースオキシダーゼ(GAO)の変異体を用いて酸化することにより、D-グルコジアルドースを形成する。次に、グルカル酸デヒドラターゼ(GlucD)と呼ばれる酵素によりケト基が形成される。これはスキームIIIに示す。この酵素はグルコジアルドースを脱水して、4-ヒドロキシル基を水として除去する一方で5-ケト基を形成する。スキームIIに記載の反応サイクルと同様に、末端のアルデヒドの閉環及び酸化は酸触媒及び不均一系の貴金属触媒により進行する。閉環と末端の酸化の工程の順番は逆であってもよい。
【0016】
さらに別の態様では、D-グルコースはGAOにより酸化されることにより、グルコジアルドースを形成する。グルコジアルドースは、その後に金属触媒を用いてグルカル酸へと酸化され、5-ケト-4-デオキシ-グルコジアルドースを形成する。5-ケト-4-デオキシ-グルコジアルドースは続いて閉環されることによりFDCAを形成する。これをスキームIIIに示す。
【0017】
更に別の態様では、D-グルコースはPOXにより酸化されることにより、2-ケトグルコースを形成し、次に閉環されてDFFを形成する。DFFは、上述したように、その後に酸化されてFDCAを形成できる。これはスキームIVに示す。
【0018】
本開示の方法は化学酵素的であり、酵素、一つ以上の酸触媒、及び一つ以上の金属触媒の組合せを利用する。ある態様では、触媒はガラクトースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、グルカル酸デヒドラターゼ、カタラーゼ、又はそれらの組合せを含む。ある態様では、一つ以上の酸触媒、一つ以上の金属触媒、又はその両方は、均一系である。別の態様では、一つ以上の酸触媒、一つ以上の金属触媒、又はその両方は、不均一系である。
【0019】
ある態様では、MESは銅ラジカルオキシダーゼファミリーのメンバーを含む。例えば、限定はしないが、本開示における使用に適した銅ラジカルオキシダーゼはガラクトースオキシダーゼ(GAO、EC 1.1.3.9)である。GAOは、メカニズムの解析と実際の用途の両方に関して最も広く研究されているアルコールオキシダーゼの一つである。銅ラジカルオキシダーゼファミリーの他のメンバーも本開示の発明に使用するのに適している。
【0020】
GAOはいくつかの真菌の種、特にフザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)(ジベレラ・ゼアエ(Gibberella zeae)ともいう)から分泌され、過酸化水素を生じる一方で第一級アルコールのアルデヒドへの酸化を触媒することにより、細胞外の炭化水素である食料源の分解を促進する。GAOの本来の機能は、C6の位置でD-ガラクトースを酸化して、D-ガラクト-ヘキソジアルドースを生成することである。一般に、小分子(フェリシアン化カリウム)又は補助酵素(すなわち、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、又はHRP)を含むことにより、GAO活性を向上できる。通常、HRPはGAOの10分の1(重量%)を反応系に添加する。カタラーゼも過酸化水素を分解するために添加される。GAOは特異的ではないものの、天然型は、活性部位におけるF464及びF194とグルコースのエクアトリアルのC4のヒドロキシル基が立体的に衝突するため、グルコースに結合できない。D-グルコースを基質として受容してC6のアルデヒドを形成するようGAOを加工する試みにより、表1に示される向上した活性が得られた。M-RQW変異体(R330K,Q406T,W290F)は1.6Umg
-1の特異的活性を示した。別の変異体Des3-2(Q326E,Y329K,R330K)は、グルコースに対して天然型より4倍高い活性を示した。更に、C383Sの変異は、触媒の銅イオンの結合を改善して非天然型の基質であるグアーガム及びメチルガラクトースに対する酵素のK
Mを低下させることにより、触媒効率を最高で3倍に向上することが見出された。表1及び表2は、本開示の方法において有用な複数のGAO変異体のリストである。
表1
表2
【0021】
ある態様では、本開示における使用に適したGAOは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【0022】
ある態様では、MESはピラノースオキシダーゼ(EC 1.1.3.10)を含む。ピラノースオキシダーゼ(POX)はフラビン依存性酸化還元酵素であり、酸化還元酵素のグルコース-メタノール-コリン(GMC)スーパーファミリーのメンバーである。POXは、酸素を過酸化水素に還元すると同時に、D-グルコース、D-ガラクトース、及びD-キシロースを含む複数の単糖類を酸化する。例えば、リグノセルロース分解菌において、リグニンを溶解する際に、POXは過酸化水素の形成と同時に2-ケトグルコースへのα又はβ-D-グルコースの酸化を触媒する。
【0023】
菌類において、POXは、菌糸の周辺質空間において膜に結合する小胞又は他の膜構造体と細胞外で相互作用している。POXホモログは、放線菌(actinobacteria)、プロテオバクテリア(protobacteria)、バシラス網(bacilli)種でも発見されている。Spongipellis unicolor(別名、Polyporus obtusus)、Phanerochaete chrysosporium(PDB 4MIF)、Trametes multicolor(別名、Trametes ochracea PDB 1TT0)、Peniophora gigantea(PDB 1TZL)、Aspergillusnidulans、A. oryzae、Irpex lacteus、Arthrobactersiccitolerans、及びKitasatospora aureofaciens(別名、Streptomyces aureofaciens)由来のPOX酵素は特徴が明らかにされている。大半のPOX酵素はヒスチジンに共有結合したFADを有するホモ四量体として存在しているが、例外もある。POXは溶液中では単量体であり、FADと非共有結合により結合している。KaPOXは溶液中で二量体を形成している。この酸化活性に加えて、POXは様々なキノン又は(複合型の)金属イオンを含む代替の電子受容体で顕著な活性を示す。ある態様では、本開示における使用に適したPOXは配列番号7から配列番号11のいずれかの配列を有する。
【0024】
ある態様では、MESはグルカル酸デヒドラターゼ(EC 4.2.1.40)を含む。GluDは機構的に多様なエノラーゼスーパーファミリー、具体的にはグルカル酸デヒドラターゼサブグループに属する。GluDは、二つの基質のエピメリ化と同様に、5-ケト-4-デオキシグルカレート(KDG)を形成するためのD-グルカレート及びL-イダレート(L-idarate)の両方の脱水を触媒する。第1の工程では、339番目のヒスチジン残基がD-グルカレートのC5原子に対して一般塩基として作用し、207番目のリジンが関連するエピマーであるL-イダレートに対して一般塩基として作用する。それぞれの残基は異なる立体選択的な機能に関連しており、207番目のリジンはS特異的な塩基として機能するのに対し、339番目のヒスチジンはR特異的な塩基として機能する。エノラートアニオン中間体は、触媒として必須である二価のMgカチオンとの相互作用と同様に、205番目のリジン及び237番目のアスパラギン残基に対する水素結合により安定化する。
【0025】
ある態様では、本開示のMESはカタラーゼ(EC 1.11.1.61)を含む。CATは、全ての好気性生物に存在する四量体のヘム含有抗酸化酵素である。カタラーゼは、H2O2の水及び酸素への分解を触媒する。
【0026】
ある態様では、MES中に存在する酵素は野生型、その機能的断片、又はその機能的変異体のいずれでもよい。本明細書で用いられる場合、「断片(fragment)」は全長の酵素(例えばAOX)よりも短いアミノ酸配列を有することを意味するが、該断片は使用者の目的又は処理の目的を十分に満たす触媒活性を維持する。断片は、酵素の一部の配列と一致する単一の連続する配列を有してもよい。あるいは、断片は複数の異なる短い部分を含み、各部分のアミノ酸配列が酵素の配列の異なる部分と一致し且つ酵素とは異なる配列のアミノ酸で連結されていてもよい。本明細書において、酵素の「機能的変異体(functional variant)」は、保存的又は非保存的なアミノ酸の挿入、欠損、又は置換が一か所以上で生じているポリペプチドを指し、この種の変化は配列中に、一度又は複数回において、単独で又は一つ以上の他の変異と組み合わさって生じてもよいが、触媒活性を維持する。
【0027】
代替物又は上記変異との組み合わせにおいて、MES中の酵素は変異することにより触媒活性が向上する場合がある。変異はタンパク質又はホモログの活性を向上するため、生成物及び/又は過酸化水素の存在下でのタンパク質の安定性の向上するため、及びタンパク質の生産量を増加させるために実施してもよい。
【0028】
本明細書では、生体触媒又は酵素の「源(source)」に言及する。これは名前の付いた生物によって発現される生体分子を指すことと理解される。酵素は生物から得られるか、適切な発現システムに適した構成物として前記酵素(野生型又は組換え型)の態様で提供されると考えられる。
【0029】
ある態様では、本明細書で開示される種類の酵素は、適切な発現ベクターにクローニングされ、E. coli、Saccharomyces sp.、Pichia sp.、Aspergillussp.、Trichoderma sp.、又はMyceliophthora sp.等の発現システムの細胞を形質転換するために使用してもよい。「ベクター」は、プラスミド、ファージ、ウィルスコンストラクト、又はコスミド等の別のDNA断片を組み込めるレプリコンである。ベクターは、細胞内でDNA断片を変換して発現するために使用される。本明細書で使用される場合、用語「ベクター」及び「コンストラクト(construct)」はプラスミド、ファージ、ウィルスコンストラクト、コスミド、大腸菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、ヒト人工染色体(HAC)等の少なくとも一つの遺伝子発現カセットをライゲーションできるレプリコンを含む。本明細書において、例えばトランスフェクション試薬との複合体として又はウイルス粒子に内包されて核酸が細胞内に導入されると、細胞は外因性又は異種の核酸によって「形質転換」される。形質転換するDNAは細胞のゲノムに融合(共有結合により連結)されてもよいし、されなくてもよい。
【0030】
ある態様では、本明細書で開示される酵素の遺伝子はベクター中に組換え配列として提供されており、該配列は一つ以上の制御又は調節配列に機能するよう連結されている。「機能するよう連結されている」発現制御配列は、目的の遺伝子を制御するために反対側に位置して又は距離を隔てて作用する発現制御配列と同様に、目的の遺伝子を制御するために発現制御配列が目的の遺伝子と隣接する結合を指す。
【0031】
用語「発現制御配列」又は「調節配列」は、交換可能に使用されており、機能するように連結されたコード配列の発現に影響を与えるのに必要なポリヌクレオチド配列を指す。発現制御配列は、核酸配列の転写、転写後の処理、及び翻訳を制御する配列である。発現制御配列は、適切な転写の開始、終結、プロモータ、及びエンハンサ配列;スプライシング及びポリアデニル化シグナル等の効率的なRNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を向上する配列(例えばリボソーム結合領域);タンパク質の安定性を向上する配列;及び、必要な場合には、タンパク質分泌を促進する配列を含む。そのような制御配列の性質は宿主の生物によって異なる。原核生物の場合、そのような制御配列は、通常、プロモータ、リボソーム結合領域、及び転写終結配列を含む。用語「制御配列」は、最低でも、その存在が発現に必須である全ての要素を含むことを意図しており、その存在が有利に働く付加的な要素、例えばリーダー配列及び融合相手の配列を含んでもよい。
【0032】
本明細書で使用される用語「組換え宿主細胞」(「発現宿主細胞」、「発現宿主システム」、「発現システム」、又は単に「宿主細胞」)は、組換えベクターが導入された細胞を指すことを意図する。それらの用語は特定の対象細胞のみではなく、その細胞の子孫も指すことが理解される。ある種の変更が変異又は環境の影響により次代以降で生じる可能性があるため、実際にはその子孫は親細胞と一致しないかもしれないが、本明細書で使用される用語「宿主細胞」の範囲に含まれる。組換え宿主細胞は、単離した細胞又は培養された細胞株であってもよいし、生体組織又は生物中に存在する細胞であってもよい。
【0033】
ある態様では、本明細書で開示される形態のMESにおける使用に適した酵素は一つ以上の精製した補因子を含む。本明細書において、「補因子」は、酵素の生物学的活性を調節するタンパク質ではない化学物質を指す。多くの酵素が正常に機能するために補因子を必要とする。本開示における使用に適した精製された酵素の補因子の非限定的な例は、チアミンピロリン酸、NAD+、NADP+、ピリドキサールリン酸、メチルコバラミン、コバラミン、ビオチン、コエンザイムA、テトラヒドロ葉酸、メナキノン、アスコルビン酸、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチド、及びコエンザイムF420を含む。このような補因子は、MESに含まれてもよく、及び/又は、反応中の様々な時点で添加されてもよい。ある態様では、MESに含まれる補因子は、酸素で容易に再生できてもよく、及び/又は、酵素の寿命全体において安定であってもよい。
【0034】
一つ以上の態様において、MESの酵素成分は、使用者及び/又は方法に求められる触媒活性を提供するのに十分な量がMES中及び/又は反応混合物中に存在する。そのような態様では、本明細書に開示される酵素は、MESの総重量に対して約0.0001重量%~約1重量%、又は約0.0005重量%~約0.1重量%、又は約0.001重量%~約0.01重量%の範囲で存在してもよい。
【0035】
スキームIからVに示す反応において、MESは最初にグルコースを酸化するために作用し、グルコースは続いて反応がなされて脱水される中間体を形成する。例えば、本開示の方法は、DFFを形成するための中間体である5-ケト-4-デオキシグルカレート、5-ケト-4-デオキシグルコジアルドース、2-ケト-グルコジアルドース、2-ケト-グルカル酸、及び/又は2-ケト-グルコースの脱水を含む。ある態様では、脱水は酸触媒の存在下で実施される。
【0036】
ある態様では、上述の中間体の脱水を促進するために使用される酸触媒は、ブレンステッド酸である、又は、反応混合物中でプロトン又はヒドロニウムイオンを供給する能力を特徴とする強力なブレンステッド酸領域を含有する。本開示における使用に適したブレンステッド酸は、グルカル酸におけるフラン形成で試験される均一系の酸触媒又は不均一系の酸触媒を含む。ある態様では、酸触媒はイオン交換樹脂(DIAIONシリーズ、Amberlyst-15など)、スルホン化シリカ、ゼオライト、酸化ニオブ、HCl等の鉱酸、又はそれらの組合せを含む。ある態様では、酸触媒は中間体の変換を触媒するのに効果的な量が存在する。ある態様では、酸触媒はジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシド等の好適な溶媒中に存在する。例えば、酸触媒は反応混合物の総重量に対して約0.1~0.2重量%、又は約0.001~約2.0重量%、又は約0.001~約20重量%で存在する。
【0037】
本開示の一つ以上の態様では、スキームIからIVに示すように、最後の酸化工程が行われることにより、アルデヒドはカルボン酸に変換される。本開示のある態様では、酸化は金属触媒、又は担持金属触媒を用いて行ってもよい。ある態様では、金属触媒は、不均一系金属触媒又は均一系金属触媒(HMC)等の担持金属触媒を含む。ある態様では、担体は、炭素、シリカ、アルミナ、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、ゼオライト、又はそれらの組合せを含み、それらは、担体の総重量に対して約1.0重量%未満、又は約0.1重量%未満、又は約0.01重量%未満のSiO2バインダを含む。
【0038】
好適な担持物質は、主にメソポーラス又はマクロポーラスであり、ほぼミクロ細孔がない。例えば、担体は約20%未満のミクロ細孔を有してもよい。ある態様では、HMCの担体は、多孔質のナノ粒子の担体である。本明細書で使用される場合、用語「ミクロ細孔」は、IUPACに規定されるように、窒素吸着及び水銀圧入法で測定される直径が2nm未満の細孔を指す。本明細書で使用される場合、用語「メソ細孔」は、IUPACに規定されるように、窒素吸着及び水銀圧入法で測定される直径が約2nmから約50nmの細孔を指す。本明細書で使用される場合、用語「マクロ細孔」は、IUPACに規定されるように、窒素吸着及び水銀圧入法で測定される直径が50nmより大きい細孔を指す。
【0039】
ある態様では、HMC担体は、平均孔径が約10nmから約100nmであり、表面積が約20m2g-1より大きく且つ約300m2g-1より小さいメソポーラスの炭素押出成形物を含む。本開示における使用に適した担体は、いかなる好適な形状であってもよい。例えば、担体は0.8~3.0mmの三葉状(trilobe)、四葉状(quadralobe)、又はペレット状の押出成形物に成形されてもよい。そのように成形された担体により固定式トリクルベッド反応器の使用が可能になるため、最後の酸化工程を連続するフローで実施できる。
【0040】
ある態様では、HMCは主要なIV、V、VI族の金属を含有し、又は、金属はI、IV、V、VII亜族であり、又は、HMCは金Auを含有する。一つ以上の態様では、金属は8族の金属(例えば、Re、Os、Ir、Pt、Ru、Rh、Pd、Ag)、三番目の遷移金属、早期遷移金属、又はそれらの組合せを含有する。別の態様では、脱水触媒は、ゼオライト又はβ-ゼオライト等の担体上にハフニウム、タンタル、亜鉛、又はその組み合わせを有する。ある態様では、本開示における使用に適した金属触媒は、金属酸化物、アルカリ土類要素でドープされたジルコニア、希土類オルトリン酸触媒、ルテニウム、又はそれらの組合せを含有する。
【0041】
HMCは、任意の好適な方法を用いて調製できる。例えば、HMCは、約200℃~約600℃の範囲の温度の水素中で金属塩が浸透した担体(例えば炭素)の気相還元を用いて調製してもよい。別の態様では、HMCは、約0℃~約100℃の温度で酸素化物(例えば、ギ酸、グルコン酸、クエン酸、エチレングリコール等)の水溶液に浸された金属塩が浸透した担体の液相還元を用いて調製してもよい。または、浸透した担体は、非還元状態で水素化反応器に投入され、開始時に方法の反応物によってストリーム上で還元することもできる。液相還元(LPR)は、押出成形物の周面に活性冶金のコア-シェル分散を形成する合成方法である。
【0042】
ある態様では、本明細書で開示される種類の材料は、押出成形物の担体への金属前駆体塩溶液の初期の湿潤又は大部分の吸着後に、H2/N2雰囲気下における100℃~500℃での気相還元(GPR)又はアルカリ水溶液を用いた液相還元(LPR)を実施することにより調製される。
【0043】
一つ以上の別の態様では、本開示の方法は、中間体を生成するために穏やかな反応条件においてHMFを酵素により酸化することを含む。ある態様では、本開示の方法は、FDCAを生成するために金属触媒又は不均一系金属触媒(HMC)による中間体の酸化を更に含む。このスキームの概要をスキームVに示す。
【0044】
理論による限定は望まないが、それぞれ実行される酸化により一般に過酸化水素の分子を一つ生じるオキシダーゼは、過酸化水素を別の酸化を触媒するためのオキシダントとして利用するペルオキシゲナーゼ又はペルオキシダーゼと組み合わせることもできる。これは、溶液から高反応性の過酸化水素を除去するのみではなく、ペルオキシゲナーゼ/ペルオキシダーゼの機能に必要な過酸化物を供給する。
【0045】
ある態様では、FDCAを生成する方法は、酵素的酸化組成物(EOC)によるHMFの酵素的酸化を含む。ある態様では、EOCは、アリール-アルコールオキシダーゼ(AAO)、クロロペルオキシダーゼ(CPO)、5-ヒドロキシメチルフルフラールオキシダーゼ(HMFO)、グリオキサールオキシダーゼ(GLOX)、ペリプラズムアルデヒドオキシダーゼ(PaoABC)、非特異的ペルオキシゲナーゼ(UPO)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、活性化酵素であるホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)有り無し両方のガラクトースオキシダーゼ(GAO)、ラクトペルオキシダーゼ(LPO)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、好酸球ペルオキシダーゼ(EPO)、ヨウ化物ペルオキシダーゼ(TPO)、オボペルオキシダーゼ、唾液ペルオキシダーゼ、バナジウムハロペルオキシダーゼ、非哺乳類脊椎動物のペルオキシダーゼ(POX)、ペルオキシダシン(Pxd)、微生物のペルオキシン(Pxc)、無脊椎動物のペルオキシネクチン(Pxt)及びショートペルオキシドケリン(PxDo)、ショートペルオキシドケリン(Pxt)、アルファ-ジオキシゲナーゼ(aDox)、デュアルオキシダーゼ(DuOx)、プロスタグランジンHシンターゼ、シクロオキシゲナーゼ(PGHS/CyOx)、リノール酸ジオールシンターゼ(LDS)、それらの機能的変異体、並びにそれらの組合せからなる群から選択される一つ以上の酵素を含有する。本明細書で開示される種類の酵素は適切な供給源から単離可能である。本開示における使用に適した酵素の非限定的な例をそれらの触媒効率(Kcat)と共に表3に示す。また、表3は酵素により触媒されるスキームIの工程を示す。
表3
【0046】
本明細書において、Kcatは回転率、回転頻度、又は回転数を指す。この定数は、1個の酵素分子が単位時間当たり(通常は1分又は1秒当たり)に生成物へと変換できる基質分子の数を表す。
【0047】
当業者が本開示の利点と共に理解するように、本明細書に開示される種類の反応(例えば、HMFのAAO酸化)は、反応混合物の他の成分に有害な影響を与え得る副産物の生成を引き起こす場合がある。例えば、過酸化水素はEOCの酵素を分解し、酵素の効率を低減する可能性がある。その様な態様では、過酸化水素の有害な影響はカタラーゼ(EC 1.11.1.61)の導入などによって軽減可能である。カタラーゼは過酸化水素を分解するのみではなく、オキシダーゼを機能させるための酸素を生成する。
【0048】
ある態様では、本開示のEOCは、(i)オキシダーゼと(ii)ペルオキシダーゼと(iii)カタラーゼを含有する。あるいは、本開示のEOCは、(i)オキシダーゼと(ii)ペルオキシゲナーゼと(iii)カタラーゼ、(i)オキシダーゼと(ii)ペルオキシダーゼ、(i)オキシダーゼと(ii)ペルオキシゲナーゼ、オキシダーゼ、又は、ペルオキシダーゼを含有する。これらの酵素はそれぞれ本明細書で開示された種類であってもよい。
【0049】
ある態様では、本開示のEOCの一つ以上の酵素は、約9s-1以上、又は約50s-1以上、又は約100s-1以上のKcatを有する特徴がある。
【0050】
ある態様では、本明細書で開示される種類のEOCは、HMFをFDCAに変換する際の中間体の生成に使用されてもよい。本明細書で開示される種類のEOCを用いて生成可能な中間体の非限定的な例は、ジホルミルフラン(DFF)、5-ヒドロキシメチル-2-フロ酸(HMFCA)、及び5-ホルミル-2-フランカルボン酸(FFCA)を含む。ある態様では、本開示のEOCは、HMFと反応する際に、ジホルミルフラン(DFF)、5-ヒドロキシメチル-2-フロ酸(HMFCA)、及び5-ホルミル-2-フランカルボン酸(FFCA)からなる群から選択される一つ以上の中間体を形成する。EOCとHMFとの反応により生じる中間体(例えば、ジホルミルフラン)は、FDCAを生成するために遷移金属触媒を用いて更に酸化されてもよい。
【0051】
ある態様では、本明細書に開示される種類の化学酵素的方法は好適な反応器中で実施される。好適な反応器の一態様を
図7に図示する。
図7を参照すると、第1の酵素反応器40は、スパージャ式の気泡塔、エアリフトカラム、撹拌スパージャ式のバイオリアクタ、又は流下液膜式の高圧酸化容器であってもよい。反応物であるグルコース及びMESは、貯留容器10及び20からそれぞれ導管5及び7を介して反応器に導入される。ある態様では、酵素反応器40は約100℃未満の温度、又は約20~約60℃の温度において、約1~約15バールの圧力下で作動される。ある態様では、酵素反応器40内において、グルコースはGAO及びHRPによってD-グルコジアルドースへと酵素的に変換され、また、過酸化水素を分解して酵素を安定化するためにカタラーゼも存在する。更に、酵素反応器40は、エアーコンプレッサ30によって導管9を介して供給される両方の圧縮空気を(酸素分子のために)注入されてもよい。図示しないが、強酸、塩基、又は緩衝液の添加によりpHを調節可能である。酵素反応器40からの流出物は、酵素反応器内の酵素を保護するために導管13を介してタンジェンシャルフローフィルタ(TFF)45に送られ、導管11を介して残余分としてリサイクルされる。D-グルコジアルドースの浸透物は導管17を介して第2の酵素反応器60へと流下する。
【0052】
第2の酵素反応器60は、スパージャ式の気泡塔、エアリフトカラム、撹拌スパージャ式のバイオリアクタ、又は流下液膜式の高圧酸化容器であってもよい。ある態様では、第2の酵素反応器60は、約100℃未満の温度、又は約20~約60℃の温度において、約1~約15バールの圧力下で作動される。第2の酵素反応器60内において、D-グルコジアルドースがPOXにより2-ケト-グルコジアルドースへと酵素的に変換され、また、過酸化水素を分解して酵素を安定化するためにカタラーゼも存在する。スキームIIIに示す別の態様では、GlucDがPOXの代わりになる。第2の酵素反応器60は、(酸素分子のために)圧縮空気が注入されてもよい。図示しないが、強酸、塩基、又は緩衝液の添加によりpHを調節可能である。第2の酵素反応器60からの流出物は、酵素反応器内の酵素を保護するために導管21を介してTFF55に送られ、導管19を介して残余分をリサイクルする。2-ケト-グルコジアルドースの浸透物は導管23を介して金属酸化反応器65及び脱水反応器70へと流下する。
【0053】
ある態様では、第2の酵素反応器60からの浸透物は、2-ケト-グルコジアルドースが2-ケト-グルカル酸に変換される金属酸化反応器65に向けて下流に供給される。一つ以上の態様では、酸化反応器65は、本明細書で開示される種類の金属触媒を用いたトリクルベッド反応器として作動される。酸化反応器65は、頂部から2-ケトグルコジアルドースが供給され、底部から(酸素分子を供給するために)高圧の空気が供給されることにより、適切な層の湿潤と物質移動を確保できる。酸化反応器65は、約100~約200℃の温度において、約10~約100バールの圧力で稼働されてもよい。ある態様では、反応器の生成物は、底部から回収されて、脱水反応器70へと送られる。
【0054】
金属酸化反応器65を出た2-ケト-グルカル酸は、脱水反応器70において脱水されることによりFDCAに変換される。ある態様では、脱水反応器70は、上流側又は下流側の構成で作動される。脱水反応器70は、本明細書で上述したように、固定された強酸交換触媒を備えている。脱水反応器70は、約160~約200℃の温度で作動する。例えば、脱水反応は、高圧で液状の水を用いて行われてもよい。
【0055】
ある態様では、脱水反応器の生成物は、副産物の不純物と共に、水とFDCAの混合物を含む。脱水反応器の生成物ストリームは、導管37を介して水晶析ユニット75、溶媒晶析ユニット80、及びヌッチェ(Nustche)フィルタ85からなる精製列に移される。水に対するFDCAの溶解度は温度に強い相関関係があるため、水晶析ユニット75は冷却晶析装置又は冷却真空晶析装置であってもよい。ある態様では、FDCAの結晶はその後に濾過により分離され、第2の有機溶媒晶析装置に送られる。
【0056】
有機溶媒晶析装置80において、溶媒は1-ブタノール、イソブタノール、メタノール、又は他の好適な有機溶媒であってもよい。理論により限定されることは望まないが、水と溶媒との間で切り替えることにより、母液中の異なる不純物を除去することができる。FDCAは、その後に冷却又は真空結晶化により晶析され、結晶は回収されてヌッチェフィルタ85に送られる。有機溶媒は、非揮発性の不純物を除去するために、蒸留により回収及び再生できる。
【0057】
FDCAの結晶は、その後にヌッチェフィルタ85で洗浄されることにより、残留する不純物が除去される。アセトニロリルのような極性の非プロトン性溶媒は、(1)水、極性のプロトン性溶媒、又は1-ブタノール、非極性のプロトン性溶媒中において前段階で回収されなかった不純物を溶媒和にするため、及び(2)FDCAはアセトニトリル中で僅かにしか溶解しないため、使用可能である。ヌッチェフィルタ85を通過したアセトニトリルは、その後に非揮発性の不純物を除去するために蒸留により再生可能である。高純度のFDCAの結晶は、その後にヌッチェフィルタ85から最終産物として回収される。
【0058】
上述の図はプロセスフロー図レベルの詳細であるが、スピルバック、ブロックアンドブリード、リサイクルライン、制御弁、冷却/加熱機構、ポンプ、中間タンク、消泡機構などの全ての処理の相互接続が示されているわけではない。
【0059】
ある態様では、本明細書で開示される方法は、高純度のFDCAを調製できる。例えば、FDCAは、約80%より高い純度、約85%より高い純度、約95%より高い純度、約80%~約99%の純度、約85%~約99%の純度、又は約90%~約99%の純度を有する。
【0060】
追加の開示
本開示の以下に列挙される態様は、非限定的な例として提供される。
【0061】
第1の態様は、2,5-フランジカルボン酸を製造する化学酵素的方法であって、(i)ガラクトースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、グルカル酸デヒドラターゼ、カタラーゼ、及びそれらの組合せから基本的になる群から選択される少なくとも2つの酵素をD-グルコースと接触させることにより中間体を生成すること、及び(ii)前記中間体を金属触媒及び酸触媒と接触させることにより2,5-フランジカルボン酸を形成することを含む。
【0062】
第2の態様は第1の態様の化学酵素的方法であって、D-グルコースはD-グルコジアルドースを形成するためにガラクトースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触され、前記方法は、2-ケト-グルコジアルドースの形成に適した条件下でD-グルコジアルドースをピラノースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触させること、2-ケト-グルコジアルドースを不均一系金属触媒と接触させて2-ケト-グルカル酸を形成すること、及び、酸触媒の存在下で2-ケトグルカル酸を脱水して2,5-フランジカルボン酸を形成することを更に含む。
【0063】
第3の態様は第1又は第2の態様の化学酵素的方法であって、D-グルコースはD-グルコジアルドースを形成するためにガラクトースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触され、前記方法は、2-ケト-グルコジアルドースの形成に適した条件下でD-グルコジアルドースをピラノースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触させること、酸触媒の存在下で2-ケト-グルコジアルドースを脱水して2,5-フランジカルボキシアルデヒドを形成すること、及び、不均一系金属触媒の存在下で2,5-フランジカルボキシアルデヒドを酸化して2,5-フランジカルボン酸を形成することを更に含む。
【0064】
第4の態様は第1から第3の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、D-グルコースはD-グルコジアルドースを形成するためにガラクトースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触され、前記方法は、D-グルコジアルドースを金属触媒と接触させることによりD-グルカル酸を形成すること、グルカル酸デヒドラターゼによりD-グルカル酸を脱水して5-ケト-4-デオキシグルコジアルドースを形成すること、及び、酸触媒の存在下で5-ケト-4-デオキシグルコジアルドースを閉環して2,5-フランジカルボン酸を形成することを更に含む。
【0065】
第5の態様は第1から第4の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、D-グルコースは2-ケト-グルコースを形成するためにピラノースオキシダーゼ及びカタラーゼと接触され、前記方法は、2,5-フランジカルボキシアルデヒドの形成に適した条件下で酸触媒により2-ケト-グルコースを脱水すること、5-ケト-4-デオキシグルコジアルドースを酸触媒で脱水して2,5-フランジカルボキシアルデヒドを形成すること、及び、不均一系金属触媒の存在下で2,5-フランジカルボキシアルデヒドを酸化して2,5-フランジカルボン酸を形成することを更に含む。
【0066】
第6の態様は第1から第5の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、ガラクトースオキシダーゼは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【0067】
第7の態様は第2の態様の化学酵素的方法であって、ガラクトースオキシダーゼは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【0068】
第8の態様は第3の態様の化学酵素的方法であって、ガラクトースオキシダーゼは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【0069】
第9の態様は第4の態様の化学酵素的方法であって、ガラクトースオキシダーゼは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【0070】
第10の態様は第5の態様の化学酵素的方法であって、ガラクトースオキシダーゼは配列番号1から配列番号6のいずれかの配列を有する。
【0071】
第11の態様は第1から第5の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、ガラクトースオキシダーゼは配列番号1の配列を有する。
【0072】
第12の態様は第1から第11の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、ピルビン酸-2-オキシダーゼは配列番号7から配列番号11のいずれかの配列を有する。
【0073】
第13の態様は第1から第12の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、約100℃未満の温度で実施される。
【0074】
第14の態様は第1から第13の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度を有する。
【0075】
第15の態様は第2の態様の化学酵素的方法であって、2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度を有する。
【0076】
第16の態様は第3の態様の化学酵素的方法であって、2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度を有する。
【0077】
第17の態様は第4の態様の化学酵素的方法であって、2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度を有する。
【0078】
第18の態様は第5の態様の化学酵素的方法であって、2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度を有する。
【0079】
第19の態様は第1から第18の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、不均一系金属触媒は、炭素、シリカ、アルミナ、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、ゼオライト、又はそれらの組合せを含有する担体を有する。
【0080】
第20の態様は第1から第19の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、酸触媒、金属触媒、又はその両方は不均一系である。
【0081】
第21の態様は第1から第20の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、酸触媒、金属触媒、又はその両方は均一系である。
【0082】
第22の態様は2,5-フランジカルボン酸を製造する化学酵素的方法であって、アリール-アルコールオキシダーゼ(AAO)、クロロペルオキシダーゼ(CPO)、5-ヒドロキシメチルフルフラールオキシダーゼ(HMFO)、グリオキサールオキシダーゼ(GLOX)、ペリプラズムアルデヒドオキシダーゼ(PaoABC)、非特異的ペルオキシゲナーゼ(UPO)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、活性化酵素であるホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)有り無し両方のガラクトースオキシダーゼ(GAO)、ラクトペルオキシダーゼ(LPO)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、好酸球ペルオキシダーゼ(EPO)、ヨウ化物ペルオキシダーゼ(TPO)、オボペルオキシダーゼ、唾液ペルオキシダーゼ、バナジウムハロペルオキシダーゼ、非哺乳類脊椎動物のペルオキシダーゼ(POX)、ペルオキシダシン(Pxd)、微生物のペルオキシン(Pxc)、無脊椎動物のペルオキシネクチン(Pxt)及びショートペルオキシドケリン(PxDo)、ショートペルオキシドケリン(Pxt)、アルファ-ジオキシゲナーゼ(aDox)、デュアルオキシダーゼ(DuOx)、プロスタグランジンHシンターゼ又はシクロオキシゲナーゼ(PGHS/CyOx)、リノール酸ジオールシンターゼ(LDS)、それらの機能的変異体、並びにそれらの組合せからなる群から選択される一つ以上の酵素を含有する酵素的酸化組成物を用いて5-ヒドロキシメチルフルフラールを酵素的酸化して中間体を形成することと、金属触媒を用いて中間体を酸化して2,5-フランジカルボン酸を形成することを含む。
【0083】
第23の態様は第22の態様の化学酵素的方法であって、化学的酸化は約100℃未満の温度で実施される。
【0084】
第24の態様は第22又は第23の態様の化学酵素的方法であって、2,5-フランジカルボン酸は約80%より高い純度を有する。
【0085】
第25の態様は第1から第24の態様のいずれかの化学酵素的方法であって、2,5-フランジカルボキシル(2,5-furandicarboxylic)を水晶析、溶媒晶析、及びヌッチェろ過に供することを更に含む。
【0086】
実施例
ここで開示される発明は一般的な態様で説明されたが、以下の例は発明の具体的な態様として提供され、その実施及び利点を示す。これらの例は説明のために提供されており、どのような態様でも明細書又は請求の範囲を限定することを意図しない。
【0087】
例1
グルコースに対する表1の変異体の特異的活性が解析された。その結果を
図1に示す。グルコースをグルコジアルドースに変換可能な他のGAO変異体を作成した。指向性進化及び理論的な酵素開発により、改善されたGAO変異体はグルコースに対して35Umg
-1の特異的活性を示した。触媒の銅から10Å内の30か所の指向性進化が、元となる配列に施され、該配列は以下の追加変異:1)R330、Q406T、2)により発見されたW290F、2)C383S、及び3)Y405F,Q406Eを含む。表4に記載の他の変異は、グルコジアルドース生成活性に対する中立的な又は有害な効果を有することが見出された。我々は新たな組み合わせ配列にGAO-Mut1と名付けた。発現した構造の全配列は配列番号1に表されており、それはE.coliで発現及び精製するための“MGHHHHHHSSGHIEGRHM”のN末端ヒスチジンタグ及びリンカーを含む。
【0088】
NNSコドンを含むプライマを用いたQUIKCHANGE法により、GAO-Mut1中の選択した位置の合計20個のアミノ酸に対して変異を入れた。その後、構成物を以下のようにスクリーニングした。コロニーを採取し、溶原培地(LB)を入れた96ディープウェルプレートのそれぞれのウェルに播種した。そして、成長したクローンをタンパク質発現用の別々の96ディープウェルプレート中の自動誘導培地に播種した。回収した細胞を微生物タンパク質抽出試薬(B-PER)で溶解した後、過酸化水素を検出する比色ABTSアッセイにより溶解物をオキシダーゼ活性でスクリーニングした。
【0089】
簡潔に述べると、溶解物は加熱の有無それぞれで活性を測定された。加熱せずに活性を測定するために、溶解物は50倍に希釈された。5μLの希釈溶解物はABTS試験溶液(最終濃度、2w/v%のグルコース、0.0125mg/mlのホースラディッシュペルオキシダーゼ、pH8の50mMリン酸ナトリウム緩衝液、0.05%のABTS)と混合されて200μLの最終量に調節され、反応が終了するまで405nmの吸光度の変化を観測した。加熱した後の残存活性を測定するため、50μLの溶解物が50℃で10分加熱され、20μLの加熱処理された溶解物がABTS溶液に添加された後に、405nmの吸光度の変化を観測した。ΔA405/分を測定するための曲線の直線部分を利用し、405nmにおけるABTSの吸光係数を36.8mM
-1cm
-1とみなす以下の式から特異的な活性を算出した。
【0090】
GAO-Mut1より高いΔA405/分を示す変異体の溶解物が更なる特性解析のために選択された。DNA配列解析による変異の同定の後、成功したものが発現、精製され、特異的な活性と熱安定性が測定された。熱安定性は、最大活性の半分の活性が観察される温度(T50)で評価された。変異体は、24ウェルプレートにおいて自動誘導培地を用いた5mLの培養から精製された。回収された細胞はB-PERで溶解され、溶解物は4℃で15,000相対遠心力(rcf)で30分間遠心沈殿された。溶解物の上澄みをHisPur(商標)のNi-NTA Spin Plateを用いたタンパク質精製に使用した。溶出したタンパク質のサンプルを0.5mMのCuSO4を含むpH7.5の100mMリン酸カリウム緩衝液で希釈し、特異的な活性をABTSアッセイにより測定した。T50は、基質の不存在下でタンパク質を加熱し、冷却し、その後にABTSアッセイにより残存活性を測定することで解析した。加熱は、pH7.5の100mMリン酸緩衝液にタンパク質を2.5mg/Lの濃度になるよう希釈し、50μLずつ96ウェルPCRプレートの1列に分注し、10分間における最高及び最低の酵素作用を捕捉するのに十分な温度勾配をかけてインキュベーションすることにより実施した。加熱後すぐに混合物は氷上で冷却され、200μLの最終量のABTS溶液中の20μLの酵素溶液のΔA405/分が上述のように測定された。
【0091】
成功したものは精製され、活性及びT
50を試験され、指向性進化の工程から最終的な最良の変異体を作成するために遺伝子操作された。Mut1を基にして有益に組み合わせられた有望な点変異体はA193R、D404H、F441Y、A172Vを含んでおり、それらを表4に列挙する。これらの変異はGAO-Mut47と名付けられた単一の組合せ変異体中で組み合わせられており、該変異体は、27.3Umg
-1の特異的活性及び56.8℃のT
50を示した。表3は、実施された点変異とそれらの特性の一覧である。
表4
【0092】
例2
グルコース基質を更に受容し且つ安定な変異を特定するためのGAOの合理的な改変を、構造と多重整列(MSA)のデータに基づく算出方法の組合せで行った。GAO-M-RQW-Sがグルコースとグルコネートの両方を基質として受容し得ることを特定した。結果を
図2に示す。合理的な設計は、GAO-Mut1よりもGAO-M-RQW-S配列に対して行われた。採用した構造的手法は、GAO-M-RQW-Sの変異を含むよう改変されたタンパク質データベース(PDB)構造2WQ8にFoldX55(40個の予測の変異)とPROSS56(80個の変異)を適用する工程を含んだ。MSAを基にした予測は185個のメンバーのMSAに適用された。このMSAはJALVIEWによって精選された最初のセットである1000個の配列から生成されることにより、98%の余分な配列を除去し、炭化水素のオキシダーゼとして実験的に実証された配列のみを維持した。HIV感染症治療薬であるイスラトラビルの中間体を合成するためのGAOの設計において同定された30の変異もパネルに追加された。
【0093】
指向性進化のクローンをスクリーニングするための上述の方法と同じ方法を用いて、合計で202個の点変異体がスクリーニングされた。39個の目的物が最初のスクリーニングで特定され、2回目のスクリーニングで16個が特定された。指向性進化工程由来の最良の組合せ変異体(GAO-Mut47)を基にした組合せ変異体の生成により、N66S、S306A、S311F、及びQ486Lの変異は補足的及び有益であり、N28I、Y189W、S331R、A378D、及びR459Qはこの配列において有害と思われた。結果を表5に纏めた。Mut47の変異とN66S、S306A、S311F、及びQ486Lとを含む最終的なGAO-Mut107構造は、
図3に示すように、2%グルコースに対して34.96Umg
-1の特異的活性と60.56℃のT
50を示した。機械学習アルゴリズムで特定された追加の変異が後で導入され、GAO-mut142及びGAO-mut164を作成した。
表5
太字の変異は、Mut47配列において有益なA193R、D404H、F441Y、A172Vである。
a:データは他のデータから別々の実験で収集された。向上率は基にしたMut47コントロールと比較して算出した。
b:データは他のデータから別々の実験で収集された。向上率は基にしたMut47コントロールと比較して算出した。
【0094】
例5
50mlの反応が100psiに加圧された200mLの容器内で行われた。pH8の50mMリン酸ナトリウム緩衝液、50μMのCuSO
4、15w/v%のグルコース、0.005w/v%のカタラーゼ、0.001%のホースラディッシュペルオキシダーゼ、及び0.001w/v%の遺伝子操作されたGAOが容器に入れられた。反応物は、11℃で48時間にわたって500rpmで撹拌された。そして、0、24、48時間の時点でサンプルが採取され、残存グルコースを測定するためにHPLCで試験された。その結果を
図4に示す。開始物質の量は48時間で15%から5.7%(w/v)に低下した。
【0095】
例4
POXによるグルコジアルドースからの2-ケト-グルコジアルドースの生成
POXがD-グルコース又はD-グルコジアルドースをどのようにスキームIIIにおいて有用な生成物に変換するかを特定するために、市販のPOX酵素を入手して、pH6の50mMリン酸カリウム緩衝液中に20mMの濃度でD-グルコース、D-グルコジアルドース、2-ケト-D-グルコネート、2-ケト-D-グルコース、又は5-ケト-D-グルコースを用いた室温における比色用の2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチオアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)反応に使用した。グルコースをC1の位置でグルコノラクトンへと酸化することが周知のグルコースオキシダーゼ(GOX)及びGAO変異体がコントロールとして試験に用いられた。簡潔に述べると、4倍の原液が調製され、最終反応濃度が20mMの基質、0.025mg/mlのホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、pH6の50mMリン酸カリウム緩衝液、及び0.1%(w/v)ABTSに希釈された。この溶液は、反応を開始するために0.8μg/mlの最終濃度になるよう酵素と混合され、マイクロタイタープレート測定器においてA405を測定しながら25分間保温された。特異的活性は以下の式で計算された。
【0096】
活性スクリーニングの結果は、グルコジアルドースから2-ケト-グルコジアルドースを生成するためにPOXを使用するポテンシャルを示した。POXは、グルコジアルドースに対して8.8U/mgの特異的活性(自然のままのグルコース基質に対する77%の作用)を示した。この特異的活性は、変異により改善可能であった。結果を表6及び
図5に示す。2-ケトグルコース、2-ケトグルコネート、及び5-ケトグルコネートはPOXの基質ではなかった。いずれのGAO酵素も2-ケト-グルコースに対して活性が無かった。このデータから、2-ケト-グルコジアルドースの製造は、基質がグルコジアルドースを生成するためにGAOを含む第1の反応器を通過した後に2-ケト-グルコジアルドースを生成するためにPOXを含む第2の反応器に通されるデュアルリアクタシステム内で実施可能である。一つの酵素酸化反応器を介した製造は、2-ケト-グルコジアルドースを基質として受容可能なGAOの開発が必要である。期待された通り、GOXは天然の基質であるグルコースに対して高い活性を示した。
表6
【0097】
生成物の性質をHPLC-MSを用いて調べた。96ウェルマイクロタイタープレートに入れられた0.1%(w/v)のPOX、10%(w/v)の基質、0.005%(w/v)のカタラーゼ、及びpH6.0の80mMリン酸カリウム緩衝液を含有する50μlの反応物が、以下の方法で解析された:移動相A:50mMギ酸アンモニウム+1%ギ酸の水溶液、移動相B:1%ギ酸のアセトニトリル溶液、カラム温度:50℃、カラム:Torus2-Pic 1.7μm、3.0mm×150mm、選択イオン測定:173、175、177、179、193、195を実施、コーン電圧:デフォルト値。
【0098】
【0099】
期待される2-ケト-グルコジアルドース生成物に相当する175m/zチャンネルにおけるピークが早くも54分で検出され、グルコジアルドース(177m/z)の消失に伴い成長し続けた。これらの結果を
図6に示す。ネガティブイオンモードにおけるマスチャンネルは、上から下に向かって173、175、177、179、193、195m/zに相当する。173m/zチャンネルは、グルコースの0.9、1.6、又は2.8時間の反応において示されていない。
【0100】
グルコジアルドースは、通常、177m/zのチャンネルに3個のピークを示しており、それらは異なる閉環形状の化合物に相当する可能性がある。最も保持時間が長いグルコジアルドースのピークは他のピークよりもゆっくりと消失しており、これはPOXが基質の幾つかの形状を他の形状よりも好むことを示唆しており興味深い。複数のピークが193m/zチャンネルに出現しており、該ピークはグルクロニック(glucuronic)又はグルクロン酸に相当する可能性がある。
【0101】
本明細書に開示の発明の態様が上述されたが、該発明の意図及び教示を逸脱することなく当業者はその改変が可能である。本明細書で説明された態様は単なる例示であり、限定することを意図しない。本明細書で開示された発明の多数の変更及び改変が可能であり、開示された発明の範囲に属する。数値範囲又は数値限定が明確に記載されている場合、そのように表現される範囲又は限定は、明確に記載された範囲又は限定内に入る同程度の反復する範囲又は限定を含む(例えば、約1から約10は2,3,4等を含み、0.10より大きいは0.11、0.12、0.13等を含む)と理解されなければならない。請求項の構成要素に対する用語「任意」の使用は、対象の要素が必要である、又は必要でないことを意味することを意図する。両方の選択肢が請求項の範囲に属することを意図している。「有する(comprise)」、「含有する(includes)」、「備える(having)」等の広範な用語の使用は、「からなる(consistingof)」、「基本的に~からなる(consisting essentially of)」、「実質的に~からなる「comprisedsubstantialy of」」等の狭小な用語に対するサポートを提供すると理解されなければならない。
【0102】
したがって、保護の範囲は上述の説明で限定されることはなく、請求項の発明の全ての均等物を含む範囲である以下の請求項によってのみ限定される。それぞれ及び全ての請求項は、本開示の態様として明細書に援用される。そのため、請求項は更なる説明であり、本発明の態様の追加である。本明細書における参考文献、特に、本願の優先日後の発行日を有する参考文献の説明は、ここで開示された発明に対する従来技術とは認めない。本明細書で引用した全ての特許、特許出願、及び公報の開示内容は、本明細書に記載の内容に対してそれらが例示的な方法の又は他の詳細な事項を補う限度において、参照によって援用される。
【配列表】
【国際調査報告】