(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2ウイルスによって引き起こされるウイルス感染を処置するためのジルチアゼムを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/554 20060101AFI20230419BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230419BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20230419BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230419BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20230419BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20230419BHJP
A61K 31/427 20060101ALI20230419BHJP
A61K 31/235 20060101ALI20230419BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20230419BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
A61K31/554
A61K45/00
A61K31/675
A61K31/519
A61K31/7068
A61K31/505
A61K31/427
A61K31/235
A61K31/4706
A61P31/14 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554674
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(85)【翻訳文提出日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 FR2021050406
(87)【国際公開番号】W WO2021181044
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】514077888
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール ドゥ リヨン
(71)【出願人】
【識別番号】522279597
【氏名又は名称】シグニア・セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マニュエル・ローザ-カラトラヴァ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・テリエ
(72)【発明者】
【氏名】マリオ・アンドレ・ピッツォーノ
(72)【発明者】
【氏名】オーレリアン・トラヴェルシエ
(72)【発明者】
【氏名】ブランディーヌ・パディ
(72)【発明者】
【氏名】トマ・ジュリアン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084AA23
4C084NA05
4C084ZB33
4C086AA01
4C086AA02
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4C086BC92
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4C086GA07
4C086GA10
4C086MA01
4C086MA02
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4C086MA04
4C086MA59
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB33
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA31
4C206KA13
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA79
4C206NA05
4C206ZB33
(57)【要約】
本発明は、COVID-19疾患と称されるSARS-CoV-2ウイルスによって引き起こされるウイルス感染の予防及び/又は処置におけるその治療的使用のための、好適な医薬担体中にジルチアゼムを含む医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
COVID-19疾患と称されるSARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の予防及び/又は処置における治療的使用のためのジルチアゼム。
【請求項2】
COVID-19疾患と称されるSARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の予防及び/又は処置における治療的使用のための、好適な医薬担体中にジルチアゼムを含む医薬組成物。
【請求項3】
- ヌクレオシド類似体、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、
- クロロキン、及び
- 上記化合物の任意の混合物
から選択される少なくとも1つの他の有効成分を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
レムデシビル、ガリデシビル、モルヌピラビル及びこれらの組合せから選択されるヌクレオシド類似体を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ジルチアゼム及びレムデシビルの組合せを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ジルチアゼム及びガリデシビルの組合せを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
ジルチアゼム及びモルヌピラビルの組合せを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
ウイルスプロテアーゼ阻害剤、詳細にはロピナビル、好ましくはリトナビルと組み合わせたロピナビルを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項9】
膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、詳細にはメシル酸カモスタットを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1種の抗生物質を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
特に吸入による、鼻腔内投与に好適なガレノス形態であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ジルチアゼム、並びに
- ヌクレオシド類似体、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、
- クロロキン、及び
- 上記化合物の任意の混合物
から選択される少なくとも1つの他の有効成分を含む、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の予防及び/又は処置において、それらを同時に、別個に又は逐次的に使用するための、組合せ物。
【請求項13】
好適な医薬担体中にジルチアゼム及びレムデシビルの組合せを含む、医薬組成物。
【請求項14】
好適な医薬担体中にジルチアゼム及びモルヌピラビルの組合せを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、別名コロナウイルス2019疾患(COVID-19)と称される重症急性呼吸器症候群コロナウイルスSARS-CoV-2によるウイルス感染を処置するための、単独で又は他の有効成分との組合せでの公知の治療化合物の新規な治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト急性呼吸器感染(ARI)は、世界中で受診、入院及び死亡の主因の一つであり、詳細には幼児死亡の主要な原因であり、年間死亡数は約200万人である。ウイルスは、急性呼吸器感染に関与する病原体の中で重要な位置を占める。より特に、ウイルスは、小児肺炎の症例の大部分において見出され、成人の細菌性肺炎の素因である。
【0003】
コロナウイルスは、らせん対称を示すカプシドを有するエンベロープウイルスである。これらは、単一の正鎖RNAゲノムを有し、鳥及び哺乳動物の細胞に感染する能力がある。
【0004】
コロナウイルス感染は、感冒(詳細にはhCoV及びOC43ウイルスによって引き起こされる)、細気管支炎(NL63ウイルスによって引き起こされる)、又は更には2003年に流行したSARS-CoV(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス)によって引き起こされる重症急性呼吸器症候群、及び2012年に流行したMERS-CoVによる中東呼吸器症候群等のより重篤な疾患に類似した症状に関連する呼吸器疾患を引き起こし得る。
【0005】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2又はSARS-CoV-2は、コロナウイルス2019疾患(COVID-19)と命名された肺炎の形態をもたらす、2019年~2020年のコロナウイルス流行の起源のコロナウイルスである。この流行は、2020年1月30日に世界保健機関(WHO)により「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言された。最初の患者は、武漢市(湖北省、中華人民共和国)で報告された。2020年3月9日までに、109カ国での死者3892人を含む、111,321症例が全世界で確認されている。
【0006】
SARS-CoVウイルスに関連して、SARS-CoV-2ウイルスは、ベータコロナウイルス属及びコロナウイルス科ファミリーの重症急性呼吸器症候群に関連するコロナウイルスの種に属する(Gorbalenya等、2020)。ウイルス粒子の形態は、「コロナウイルス」の名前を持つ、詳細にはハロスパイクタンパク質を有するコロナウイルスのものに特有である。
【0007】
29,903のヌクレオチドを有する一本鎖RNAからなるそのゲノムは、上海のFudan University(中国)のチームにより2020年1月5日に初めて配列決定された。そのゲノムは、SARS-CoVのゲノムに79.5%及びコウモリコロナウイルスのゲノムに96%類似しており、SARS-CoV-2ウイルスの起源が人畜共通感染症であり、コウモリにおいて見出されることを示唆している(Zhou等、2020)。
【0008】
SARS-CoV-2による感染の症状は、季節性インフルエンザのものと主として似ている:症状としては、発熱、疲労感、乾性咳、息切れ、呼吸困難、肺炎及び腎不全が挙げられ、重症例においては患者の死に至る場合がある(Hui等、2020)。
【0009】
感染及び死亡が確認された諸国からWHOに提供された数字に基づく致死性の計算から、死亡率約2%と推定することができる(2020年2月のデータ)。それにもかかわらず、SARS-CoV-2に直接起因し得る確定症例数及び死亡数を実地で推定することが困難であるため、この致死率は依然として不確かである。実際に、WHOによれば、死亡患者の大部分は、高血圧、糖尿病又は心血管疾患等の他の健康問題により衰弱した免疫系を有していたことに留意されるべきである。
【0010】
SARS-CoV-2の潜伏期間は2~14日間と推定されるが、症例によっては潜伏期間が最大24日間と長い場合があった。
【0011】
SARS-CoV-2によるウイルス感染の予防及び/又は処置に利用できる、特異的な抗ウイルス処置又はワクチンは、現在存在しない。
【0012】
このウイルスに感染した患者が現在受ける処置の大部分は、発熱、咳及び呼吸困難の症状を軽減して、その自然治癒を促進することを本質的に目的とする。
【0013】
他のタイプのウイルスに対するその治療活性について公知である抗ウイルス化合物は、第2相及び第3相臨床治験で現在試験中である。これらは、詳細には、細胞又はウイルスプロテアーゼ阻害剤化合物、及びヌクレオシド類似体に関係する。これらの様々な治療化合物としては、詳細にはレムデシビル、ガリデシビル、ロピナビル、メシル酸カモスタット及びクロロキンが挙げられる。
【0014】
レムデシビル
レムデシビルは、ヌクレオシド類似体として、より特にアデノシン類似体として作用する広域スペクトルの抗ウイルス化合物である。凍結乾燥物の形態で利用できるため、この化合物は静脈内投与される。レムデシビルは代謝されて、その活性型ヌクレオチド類似体形態になる(GS-441524):その存在は、ウイルスポリメラーゼを誤った方向に導き、ウイルスRNA合成の減少をもたらす。
【0015】
レムデシビルは、エボラ及びマールブルグウイルスによる感染の処置のためにGilead Science社により開発された。これは、前臨床モデルにおいてニパ、ヘンドラ及びラッサウイルス、呼吸器合抱体ウイルス(RSV)並びにSARS及びMERSコロナウイルス等の他の一本鎖RNAウイルスに対しても抗ウイルス活性を有する(Lo等、2017)。
【0016】
診療所において、レムデシビルは、健康な志願者に対して及びエボラウイルスに感染した患者においてこれまで研究されてきた。SARS-CoV-2に感染した一部の患者に処方された処置では、SARS-CoV-2感染の処置における安全性及び/又は効力に関する情報が得られなかった。更に、限られた臨床経験を考えると、この化合物の毒性プロファイル及びしたがって安全性プロファイルは現在特徴づけられていない。レムデシビルは、未だ販売許可を得ていない。
【0017】
この文脈において、Gilead社はレムデシビルを中国に供給して、SARS-CoV-2に感染した患者(有症状又は無症状)を含む複数の臨床試験でレムデシビルを評価した。2020年2月26日、Gilead社は、この化合物を試験するための2つの第3相臨床治験の成績を公表した。
【0018】
ガリデシビル
ガリデシビル(BCX4430)は、BioCryst Pharmaceuticals社により開発された、詳細にはアデノシンのヌクレオシド類似体である。
【0019】
この抗ウイルス化合物は、最初はC型肝炎ウイルスに対して、次いでその後エボラウイルス及びマールブルグウイルス等のフィロウイルスに対する使用のために開発された。ガリデシビルは、ウイルスへの曝露後48時間までに投与された場合、げっ歯類及びサルにおけるエボラウイルス疾患及びマールブルグウイルス疾患から保護する。ヒトにおける使用のための開発は、西アフリカにおけるエボラウイルス疾患の流行に対抗するのに利用できる処置の不足を満たすために加速された。
【0020】
この化合物は、ブニヤウイルス、アレナウイルス、パラミクソウイルス、コロナウイルス及びフラビウイルス等のRNAウイルスの全ての他のファミリーに対して広域スペクトルの抗ウイルス活性を有する。
【0021】
モルヌピラビル
モルヌピラビル(略称EIDD-2801及びMK-4482でも示される)は、経口投与に好適な形態であるという利点を有する抗ウイルス化合物である。
【0022】
この化合物は、摂取後代謝されて、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼによりRNAの複製にエラーを起こすことによりRNAウイルスを阻害するヌクレオシド誘導体であるN4-ヒドロキシシチジンとなるプロドラッグである。
【0023】
この化合物は、その抗インフルエンザ活性について試験された。これは、いわゆるSARS、MERS及びCOVID-19疾患に各々関与するSARS-CoV、MERS-CoV及びSARS-CoV-2等のコロナウイルスに対しても何らかの活性を有する(Painter等、2021);(Sheahan等、2020)。
【0024】
ロピナビル
ロピナビルは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対する抗ウイルス薬として用いられる、ウイルスプロテアーゼ阻害剤である。これは、実質的にKaletraの名でAbbott Laboratories社によりリトナビルと組み合わせて販売されている。
【0025】
ロピナビルは、新しいウイルス粒子による機能タンパク質及び酵素の産生を阻害することにより作用し、ウイルス伝播を遮断する。
【0026】
ヒトにおいて、ロピナビルは、チトクロムP450系により生物体において急速に分解される。これが、ロピナビルがリトナビルと組み合わせて投与される理由である。プロテアーゼ阻害剤でもあるこの第2の薬物の機能は、チトクロムP450モノオキシゲナーゼを阻害し、したがってこれらの酵素によるロピナビルの分解を遅延させることである。これにより、患者に吸収される必要がある必要用量及びしたがって錠剤数を実質的に減少させることができる。
【0027】
2004年に公表された研究では、ロピナビル(iopinavir)/リトナビルの組合せが、SARS患者に対して「実質的な臨床利益」を有することが示された(Chu等、2004)。
【0028】
SARS-CoV-2の処置に関して、最初に確認された41人のCOVID-19疾患患者が処置されたWuhan Jinyintan Hospitalは、抗HIV薬のこの組合せによる無作為化対照治験を開始した。
【0029】
メシル酸カモスタット
メシル酸カモスタット(FOY-305)は、低分子量の合成プロテアーゼ阻害剤である。これは、トリプシン、プロスタシン、マトリプターゼ及び血漿カリクレインを阻害する能力がある。この化合物は、慢性膵炎を処置するための治療法で用いられる。更に、この化合物は、気道の上皮ナトリウムチャネルの機能を減弱させ、粘液線毛クリアランスを改善する。
【0030】
メシル酸カモスタット錠は、日本で承認され、FOIPAN(登録商標)のブランド名で流通している。これらは、慢性膵炎及び術後の逆流性食道炎の急性症状の処置又は寛解のために用いられる。
【0031】
特許EP2 435 064は、詳細にはインフルエンザウイルスによるウイルス感染の処置のためにセリンプロテアーゼHAT及びTMPRSS2を標的とすることを提案する。
【0032】
最近では、メシル酸カモスタットが、ウイルスの増殖に必要な酵素であるSARS-CoV-2の膜貫通セリンプロテアーゼ2、TMPRSS2を阻害することが示された(Hoffmann等、2020)。
【0033】
クロロキン
そのアンチパルディック(antipaludic)活性について当初は公知であったクロロキンは、インビトロで得られたデータによればSARS-CoVに対して抗ウイルス作用を有する(Vincent等、2005)。
【0034】
最近公表された研究では、SARS-CoV-2ウイルスの処置におけるリン酸クロロキンの明らかな効力が示された(Wang等、2020;Gao等、2020)。
【0035】
したがって、中国人専門家のコンセンサスでは、疾患の軽症、中等症及び重症例と診断され、クロロキンが禁忌でない患者に対して1日2回10日間500mgで、患者の処置にリン酸クロロキンを含むことが現在推奨される。
【0036】
しかし、臨床データは未だに限られている。
【0037】
新しい抗ウイルス化合物が、この新興ウイルスであるSARS-CoV-2の処置及び予防のために積極的に求められている。
【0038】
近年同定された新しい抗ウイルス化合物としては、詳細にはジルチアゼムが挙げられ、これは、直接ウイルスに作用するよりも、ウイルスの宿主細胞に作用し、したがって広域スペクトルの作用を有し、様々なウイルス感染を処置し得ることを可能にする、活性化合物である。
【0039】
国際出願WO87/07508は、サイトメガロウイルス又はヘルペスと関係があるウイルス感染を処置するためのジルチアゼムの使用を記載する。
【0040】
国際出願WO2011/066657は、口腔ヘルペス、性器ヘルペス及び帯状疱疹等のウイルス感染の処置又は予防のためのジルチアゼムの使用を記載する。
【0041】
国際出願WO2016/146836は、インフルエンザウイルスによる感染を処置するためのジルチアゼムの使用を記載する。
【0042】
(Fujioka等、2018)の論説は、Ca2+イオン輸送の阻害剤としてのその役割について公知であるジルチアゼムが、インフルエンザAウイルスによる細胞感染に対しても阻害作用を有することを教示する。
【0043】
国際出願WO2019/224489は、呼吸上皮及び腸上皮の細胞においてIII型インターフェロンをコードする遺伝子の発現を誘導する、ジルチアゼムの生物学的効果の一部を詳細に開示する。したがって、ジルチアゼムは、様々な治療用途、詳細には呼吸及び腸上皮におけるウイルス性及び細菌性呼吸器感染の処置に対して提案された。
【0044】
ジルチアゼムのように、ベルベリンは、抗ウイルス活性を有することが公知の活性化合物である。
【0045】
ベルベリンは、ある特定の植物により、詳細にはベルベリス属(Berberi)種により生成されるイソキノリンアルカロイドであり、アジア薬局方においてよく用いられる。
【0046】
インビトロ及びマウスモデルで行われた研究では、ベルベリンが様々な細胞経路に作用し、抗菌、抗真菌、抗ウイルス、抗炎症及び代謝特性を有し、高血糖症及びII型糖尿病並びに高脂血症を改善することが示された(Mohan等、2017)。
【0047】
ベルベリンは、詳細には、肺動脈圧を持続的に上昇させ、右室肥大(RVH)を引き起こす、肺動脈の平滑筋細胞の悪性増殖を伴う肺微小血管リモデリングのびまん性疾患である、肺動脈性肺高血圧症(PAHT)に対抗するように作用する。
【0048】
ベルベリンはまた、優れた抗炎症性を有し、関節腫張、組織の浸潤及び炎症細胞による組織破壊を減少させる。ベルベリンは、マクロファージの極性化を調節し、マクロファージの食細胞機能を減少させ、M1サイトカインの含有量を減少させ、M2サイトカイン(IL-10及び形質転換増殖因子β1又はTGF-β1)のレベルを増加させる。
【0049】
ベルベリンは、詳細にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による感染に対して広域スペクトルの抗菌活性を有する。ベルベリンがインビトロで及びメトキシヒドノカルピンとの組合せで適用された場合、黄色ブドウ球菌の増殖を阻害する。
【0050】
ベルベリンは、様々なウイルスに対する、詳細には、
- ヘルペスウイルスHSVに対する(Song等、2014)、
- インフルエンザウイルスに対する(Wu等、2011)、
- サイトメガロウイルス(HCMV)に対する:低(マイクロモル)濃度のベルベリンは、ウイルスタンパク質前初期-2(IE2)のトランス活性化活性を妨害することにより、臨床分離株、及びDNAポリメラーゼの承認された阻害剤に耐性である株を含む、HCMVの様々な株の複製を阻害する(Luganini等、2019)、
- C型肝炎ウイルス(HCV)に対する:ベルベリンは、細胞へのHCVの侵入を阻害する(Ting-Chun Hung等、2019)、
- ジカウイルス(ZIKV)に対する:ベルベリン及びエモジンは、幾つかのウイルスの侵入及び複製に対して特に効果があり、詳細にはZIKVに対して強力な殺ウイルス効果をトリガーすることを示した(Batista等、2019)
抗ウイルス活性を有する。
【0051】
コロナウイルスに関して、
- ベルベリンは、SARS-CoVに対する抗ウイルス作用を有し得る(WO2013/185126)が、実験データは存在しない;及び
- ベルベリンは、MERS-CoVに対する抗ウイルス作用を有する(WO2018/073549)。
【0052】
本発明の文脈において、複数の化合物が、ウイルス感染の細胞試験において及びインビトロで気液界面培養されたヒト呼吸上皮モデルに対して選択及び評価された。これらの化合物の一部は、単独で又は組合せで、全く予想外の方式でSARS-CoV-2コロナウイルスに対して抗ウイルス効果を示した。
【0053】
選択された化合物は、他の治療用途について以前に記載されている。驚くべきことに、現在、これらの化合物が、単独で又は組合せで、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を有し、このコロナウイルスによる感染の処置及び/又は予防を可能にすることが示された。
【0054】
詳細には、少なくとも2種の抗ウイルス化合物の組合せに基づく組合せ療法は、コロナウイルスSARS-CoV-2による感染の処置及び/又は予防に特に効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】
【特許文献1】EP2 435 064
【特許文献2】WO87/07508
【特許文献3】WO2011/066657
【特許文献4】WO2016/146836
【特許文献5】WO2019/224489
【特許文献6】WO2013/185126
【特許文献7】WO2018/073549
【特許文献8】WO02/094238
【特許文献9】US4,605,552
【特許文献10】EP1 117 408
【特許文献11】WO2015/157223
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0056】
本発明は、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染(いわゆるCOVID-19疾患)の処置におけるその治療的使用のための、ジルチアゼム、ベルベリン及びこれらの組合せから選択される化合物に関する。
【0057】
詳細には、本発明は、COVID-19疾患と称されるSARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の予防及び/又は処置におけるその治療的使用のためのジルチアゼムに関する。
【0058】
更に、本発明は、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染(いわゆるCOVID-19疾患)の処置におけるその治療的使用のための、好適な医薬担体中にジルチアゼム及びベルベリンから選択される少なくとも1種の化合物を含む医薬組成物に関する。
【0059】
本発明はまた、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の予防及び/又は処置におけるその治療的使用のための、好適な医薬担体中にジルチアゼムを含む医薬組成物に関する。
【0060】
本発明はまた、
- ヌクレオシド類似体、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、
- クロロキン、及び
- 上記化合物の任意の混合物
から選択される少なくとも1つの他の有効成分を含む、上記のその使用のための組成物に関する。
【0061】
ヌクレオシド類似体の中で、好ましい化合物としてはレムデシビル、ガリデシビル、モルヌピラビル及びこれらの組合せがある。
【0062】
ウイルスプロテアーゼ阻害剤の中で、好ましい化合物としてはロピナビル、及びより好ましくはリトナビルと組み合わせたロピナビルがある。
【0063】
膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤の中で、好ましい化合物としてはメシル酸カモスタットがある。
【0064】
本発明はまた、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の予防及び/又は処置における、同時、別個又は逐次使用のための、ジルチアゼム及びベルベリンから選択される少なくとも1種の化合物、並びに
- ヌクレオシド類似体、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、
- クロロキン、及び
- 上記化合物の任意の混合物
から選択される少なくとも1つの他の有効成分を含む、組合せ物に関する。
【0065】
本発明はまた、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の予防及び/又は処置におけるその同時、別個又は逐次使用のための、ジルチアゼム、並びに
- ヌクレオシド類似体、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、
- クロロキン、及び
- 上記化合物の任意の混合物
から選択される少なくとも1つの他の有効成分を含む、組合せ物に関する。
【0066】
最後に、本発明はまた、好適な医薬担体中に、ジルチアゼムとレムデシビルの組合せ;又はジルチアゼムとモルヌピラビルの組合せを含む、医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1】SARS-CoV-2ウイルスに感染させた培養下のVero E6細胞に対する単剤療法でのベルベリン及びレムデシビルの抗ウイルス効果を示す図である。
図1Aは、実験のタイミング図である。
図1Bは、単剤療法でのベルベリン及びレムデシビル分子の用量に対する効果の曲線、並びに感染後48及び72時間(hpi)での関連するIC50の決定を示すグラフである。レムデシビル及びベルベリンは、48hpiで、各々0.98及び17.47μMで決定されたIC50で抗ウイルス効果を有する。この抗ウイルス効果は、72hpiで、レムデシビル及びベルベリンについて各々0.72及び5.60μM未満のIC50でより顕著であった。
【
図2A】SARS-CoV-2ウイルスに感染させた培養下のVero E6細胞に対するジルチアゼム/レムデシビル及びベルベリン/レムデシビルの組合せの抗ウイルス効果を示す図である。実験のタイミング図である。
【
図2B】SARS-CoV-2ウイルスに感染させた培養下のVero E6細胞に対するジルチアゼム/レムデシビル及びベルベリン/レムデシビルの組合せの抗ウイルス効果を示す図である。ジルチアゼム/レムデシビル及びベルベリン/レムデシビルの組合せの用量に対する効果の曲線、並びに感染後48及び72時間(hpi)での関連するIC50の決定を示すグラフである。一定濃度のジルチアゼム(11.5μM)の存在下でのレムデシビルによる処置の組合せでは、48hpiで、0.32μMのIC50で抗ウイルス効力を得ることができる。同等の方式で、一定濃度のレムデシビル(2.5μM)の存在下でのジルチアゼムによる処置の組合せでは、48hpiで、0.55μMのIC50で抗ウイルス効力を得ることができる。更に、一定濃度のベルベリン(12.5μM)の存在下でのレムデシビルによる処置の組合せでは、48hpiで、0.65μMのIC50で抗ウイルス効力を有することができる。感染の更なる進行期(72hpi)で、一定濃度のジルチアゼム(11.5μM)の存在下でのレムデシビルによる処置の組合せでは、0.35μMのIC50で抗ウイルス効力を得ることができる。
【
図3A】
図1B及び2Bに提示したある特定の結果を視覚的に示す図である。実験のタイミング図である。
【
図3B】
図1B及び2Bに提示したある特定の結果を視覚的に示す図である。SARS-CoV-2ウイルスに感染させた培養下の、一面に広がるVero E6細胞のカーペットに対する、単剤療法で及び組合せでのレムデシビル及びジルチアゼムの抗ウイルス効果の光子顕微鏡による観察を示す図である。前述(
図2)と同じ実験条件下で、レムデシビル(0.625μM)及びジルチアゼム(11.5μM)の組合せは、未処置の対照及び単剤療法処置と比較して、感染の細胞変性効果を極めて明白に減少させる(カーペットから脱離した円形細胞)。
【
図5】実施例4の実験のタイミング図である。A549-ACE2細胞に、SARS-CoV-2のウイルス株を接種し、次いでそれに感染させた後、感染後1時間でジルチアゼム又はレムデシビルにより処置する。
【
図6】(A)10
-1のMOI濃度で感染させたA549-ACE2;(B)10
-2のMOI濃度で感染させたA549-ACE2細胞を示す図である。細胞は、未処置(黒の曲線)であったか、又はレムデシビル5μM(灰色の四角)により又はジルチアゼム45μM(灰色の三角)により処置した。結果は、ウイルス感染後の時間の関数として、未処置細胞のウェルで測定されたウイルス力価と比較した、上清で測定されたウイルス力価のパーセンテージで表される。
【
図7】(A)SARS-CoV-2のウイルス株に感染させたA549-ACE2細胞に対するジルチアゼムのIC50の測定を示す図である。ウイルス力価は、使用したジルチアゼムの濃度の関数として、未処置細胞のウェルで測定されたウイルス力価と比較した、上清で測定されたウイルス力価のパーセンテージで表される。(B)72時間の処置後のA549-ACE2細胞に対するジルチアゼムのCC50の測定を示す図である。細胞の生存率は、未処置細胞について測定された生存率のパーセンテージとして表される。結果は、使用したジルチアゼムの濃度の関数として提示される。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本発明は、COVID-19疾患と称されるSARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の予防及び/又は処置におけるその治療的使用のためのジルチアゼムに関する。
【0069】
本発明はまた、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染(COVID-19)の処置におけるその治療的使用のための、好適な医薬担体中にジルチアゼム及びベルベリンから選択される少なくとも1種の化合物を含む医薬組成物に関する。
【0070】
本発明はまた、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の予防及び/又は処置におけるその治療的使用のための、好適な医薬担体中にジルチアゼムを含む医薬組成物に関する。
【0071】
「SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染」は、ヒト又は動物生物体が、COVID-19の名でも称されるSARS-CoV-2コロナウイルスに感染した細胞を有するという事実を意味する。
【0072】
本発明の意味内で、表現「SARS-CoV-2ウイルス」は、一方では、中国の武漢で初めて同定され、上海のFudan Universityのチームにより2020年初頭に配列決定された(Zhouら、2020)コロナウイルスを意味し;他方では、この最初に同定されたウイルス株に関連する、その後出現した全ての変異株、詳細には下記のSARS-CoV-2変異株:
i. 実施例に記載される、本発明者らが使用した「武漢様」株;
ii. B.1系統のhCoV-19/France/ARA-104350/2020株(GISAID ID:EPI_ISL_683350)(この株は、そのスパイクタンパク質に少なくともD614G変異を有する;これは、以下に列挙する変異株と比較して、ヨーロッパで循環する野生株と現在考えられている);
iii. B.1.1.7系統の「イギリス変異株」hCoV-19/France/ARA-SC2118/2020(ID GISAID: EPI_ISL_900512)と称されるウイルス株;
iv. B.1.3.5.1系統の南アフリカ株(501Y.V2.HV001)及び
v. B.1.1.28系統のブラジル株
を含む。
【0073】
ウイルス感染は、感染患者の症状の観察に基づき医療専門家により一般に診断される。補完的な生検は、診断を裏付けるために必要であり得る:血液及び/又は喀痰及び/又は気管支肺胞液の分析。
【0074】
詳細には、感染は、呼吸器試料に基づく分子生物学及び/若しくはウイルス滴定による検出を行うことにより、又は血液中を循環するSARS-CoV-2の特異的抗体をアッセイすることにより確立され得る。
【0075】
感染した個人におけるこの特異的ウイルスの検出は、従来の診断方法、詳細にはこのSARS-CoV-2ウイルスに実際に関係することを確立することができる分子生物学(PCR)により行われ、この方法は当業者に周知である。
【0076】
用語「処置」は、ヒト又は動物生物体におけるコロナウイルスSARS-CoV-2による感染に対抗する事実を示す。本発明による少なくとも1種の組成物を投与することで、生物体におけるウイルス感染のレベル(感染力価)が低下し、好ましくはウイルスは、処置なしでの回復に予想される時間よりも短い時間内で生物体から完全に消滅する。
【0077】
用語「処置」はまた、ウイルス感染に関連する症状(呼吸器症候群、腎不全、発熱等)を軽減する事実を示す。
【0078】
本発明によるある特定の組成物はまた、SARS-CoV-2による感染の予防における使用に適応される。
【0079】
したがって、本発明は、
- SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の処置におけるその治療法のための、好適な医薬担体中にジルチアゼムを含む医薬組成物、
- SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の処置におけるその治療法のための、好適な医薬担体中にベルベリンを含む医薬組成物、及び
- SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染の予防におけるその使用のための、好適な医薬担体中にジルチアゼムを含む医薬組成物
に関する。
【0080】
本発明の意味内で、用語「予防」は、ヒト又は動物生物体におけるSARS-CoV-2による感染の出現の可能性を予防又は少なくとも低減するという事実を示す。本発明による少なくとも1種の組成物を投与することで、前記生物体のヒト又は動物細胞は、感染を許容しにくくなり、したがって前記コロナウイルスに感染する可能性が低いか、又は前記コロナウイルスによる感染中、あまり重篤でない症状を発生する可能性がある。
【0081】
本発明による組成物は、人間に投与されることが意図される医薬タイプ、又は非ヒト動物に投与されることが意図される獣医タイプのものであり得る。動物に関して、コロナウイルスSARS-CoV-2による感染の予防及び/又は処置におけるその使用のための獣医学用組成物は、このコロナウイルスに感染した動物に投与されることが意図されることが予想される。
【0082】
本発明によれば、用語「好適な医薬担体」は、本明細書で考察される感染に対してその独自の作用を有さない化合物である、医薬担体又は賦形剤を示す。これらの担体又は賦形剤は、薬学的に許容される。これは、担体又は賦形剤が、著しく有害な影響を与えずに個人又は動物に投与され得ることを意味する。
【0083】
表現「ジルチアゼム及びベルベリンから選択される少なくとも1種の化合物」は、医薬組成物が、ジルチアゼム若しくはベルベリンのいずれか又は2つの組合せを含むことを意味する。
【0084】
第1の態様によれば、本発明によるその使用のための医薬組成物は、少なくとも有効量のジルチアゼムを含む。この医薬組成物は、SARS-CoV-2ウイルスによる感染に対する治療的及び/又は予防的使用に適応される。
【0085】
第2の態様によれば、本発明によるその使用のための医薬組成物は、少なくとも有効量のベルベリンを含む。
【0086】
第3の態様によれば、本発明によるその使用のための医薬組成物は、少なくとも有効量のジルチアゼム及び有効量のベルベリンを含む。
【0087】
本発明の意味内で、用語「有効量」は、生物体内でのコロナウイルスの増殖及び/若しくは複製並びに/又はウイルス感染の発生を阻害するのに十分な活性化合物の量を意味する。この阻害は、本出願の実施例に示されるように、例えばウイルス力価を測定することにより定量化され得る。
【0088】
したがって、本発明の特定の態様によれば、上記のその使用のための医薬組成物は、ジルチアゼム及びベルベリンの組合せを含む。
【0089】
本発明の意味内で、用語「組合せ」は、少なくとも2種の別々の活性化合物を含む組成物を意味し、両方の化合物が抗ウイルス作用を有する。
【0090】
この組合せは、質量で同量の各抗ウイルス化合物、即ち質量で50%のジルチアゼム及び50%のベルベリンの組合せ、又は不均等用量の各化合物、例えば90%のジルチアゼム及び10%のベルベリン、80%のジルチアゼム及び20%のベルベリン、70%のジルチアゼム及び30%のベルベリン、60%のジルチアゼム及び40%のベルベリン、40%のジルチアゼム及び60%のベルベリン、30%のジルチアゼム及び70%のベルベリン、20%のジルチアゼム及び80%のベルベリン又は更には10%ジルチアゼム及び90%ベルベリンのいずれかで含み、パーセンテージは、組合せの総質量に対する化合物の質量で表される。
【0091】
ジルチアゼム
ジルチアゼムは、CAS番号42399-41-7で参照されるベンゾチアゼピンのファミリーのメンバーである分子である。
【0092】
本発明の意味内で、「ジルチアゼム」は、そのエナンチオマーL-cis若しくはD-cisのうちの1つ、又はその2つのラセミ混合物、又は更には塩酸ジルチアゼム等のジルチアゼム塩の形態の分子を示し、その拡大化学式は、以下に式(I)で表される:
【0093】
【0094】
ジルチアゼムは、30年超にわたって公知であり、ヨーロッパ及びアメリカ合衆国において医薬品規制当局により承認されている。これは、塩酸ジルチアゼムの形態で投与され得る。Cardizem(登録商標)、Cartia(登録商標)、Taztia(登録商標)及びDilacor(登録商標)は、その最も一般的な商標名である。
【0095】
多くの製剤、詳細には長期放出製剤が利用できる。ジルチアゼムは、局所適用のためのクリームの形態、経口投与のための錠剤若しくはカプセルの形態、注射可能な溶液の調製のための粉末の形態又は吸入のための医薬調製物の形態等の様々なガレノス形態で利用できる(WO02/094238、US4,605,552)。
【0096】
ヒトに対する従来の用法用量は、180~360mg/日であり、カルシウムチャネル遮断薬としてのその治療的使用のためにカプセル又は錠剤で投与される。
【0097】
この化合物の最初に同定される生理的性質は、カルシウムチャネルの遮断、及びしたがって細胞内カルシウム流動の遮断である。ジルチアゼムは、詳細には、心筋線維及び血管の平滑筋線維でのカルシウムの膜貫通侵入を遅延させる。これにより、収縮タンパク質に達する細胞内カルシウム濃度を低下させることができる。
【0098】
ヒトにおいて、ジルチアゼムの投与は、心仕事量を低下させるための、その血管拡大作用に適応される。したがって、これは、狭心症、動脈性高血圧症、心筋虚血及び頻脈症等の心及び循環障害に対処するために用いられる。
【0099】
ジルチアゼムはまた、腎及び末梢の観点から、アンジオテンシンIIの効果を逆転させることにより作用する。局所適用において、ジルチアゼムは、慢性裂肛の症例に適応され得る。
【0100】
特許EP1 117 408は、網膜光受容体の変性に関連する病態を処置するための、カルシウムチャネル遮断化合物としてのジルチアゼムの使用を記載する。
【0101】
ウイルス感染の処置のためのジルチアゼムの使用に関して、前述したように、これは、複数の特許出願に既に記載されている。更に、化学的治験が、この新規な治療上の抗ウイルス効能について販売許可を得る目的で現在進行中である(FLUNEXT PHRC#15-0442臨床試験。政府識別子:NCT03212716)。
【0102】
ベルベリン
ベルベリンは、多数の植物において、詳細にはベルベリス種において見出される天然のアルカロイドである。そのCAS番号は、633-66-9である。
【0103】
本発明の意味内で、「ベルベリン」は、あらゆる形態の分子を示す。その拡大化学構造は、以下に模式的に示される:
【0104】
【0105】
この分子は、その抗真菌、抗菌及び抗炎症特性のためにアジア薬局方において広く用いられる。
【0106】
細胞において、ベルベリンは、詳細にはミトコンドリアに位置し、そこでベルベリンは呼吸複合体Iを阻害し、したがってATPの産生及びAMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)のその後の活性化を低減する。この偏在性酵素は、細胞エネルギー恒常性に関わる。AMPK活性化の主な効果は、(i)肝脂肪酸酸化及びケトン体生成を刺激すること、(ii)コレステロール合成、脂質生成及びトリグリセリド合成を阻害すること、(iii)骨格筋の脂肪酸酸化及び筋肉によるグルコースの吸収を刺激すること並びに(iv)膵臓のベータ細胞によるインスリンの分泌を調節することである。
【0107】
ベルベリンのバイオアベイラビリティは低いが、ベルベリンの系統的な作用は、大部分が、腸内細菌叢及びその代謝物の改変、又はこの同じ細菌叢によるベルベリンの代謝後のいずれかを介して経過するため、これは問題にはならない。
【0108】
また、ベルベリンの半減期は短く、4時間のオーダーである。これは、一日量が理想的には3回の摂取量に分割されるべきであることを意味する。成人については、一日量は一般に500mg~1500mgである。
【0109】
別の有効成分との組合せ
本発明によるその使用のための組成物は、ジルチアゼム及びベルベリンから選択される少なくとも1種の化合物を含み、これはまた、好適な医薬担体に加えて他の活性化合物も含み得ることが意図される。
【0110】
より具体的には、ジルチアゼム及びベルベリン又はこれらの混合物は、単独で又は少なくとも1つの他の有効成分との組合せで、治療法で用いられ得る。
【0111】
これは、ジルチアゼム及び/又はベルベリンの抗ウイルス活性を改善するための化合物を含んでいてもよく、又は逆に、ジルチアゼム及びベルベリンが、これらの他の活性化合物の増強剤として作用してもよい。
【0112】
したがって、本発明は、SARS-CoV-2によるウイルス感染を処置及び/又は予防するために用いられる他の治療化合物、詳細には本出願に列挙されるものの抗ウイルス効果の増強におけるその使用のための、ジルチアゼム若しくはベルベリン又はこれらの組合せに関する。
【0113】
これらの追加の活性化合物は、出願WO2015/157223に列挙される薬剤の医薬クラスから、即ち抗菌剤、駆虫剤(anti-parasite agent)、神経伝達阻害剤、エストロゲン受容体阻害剤、DNA合成及び複製阻害剤、タンパク質成熟阻害剤、キナーゼ経路阻害剤、細胞骨格阻害剤、脂質代謝阻害剤、抗炎症剤、イオンチャネル遮断薬、アポトーシス阻害剤及びカテプシン阻害剤から選択され得る。
【0114】
したがって、本発明の特定の実施形態によれば、上記のその使用のための医薬組成物は、少なくとも1つの他の有効成分、詳細には抗ウイルス剤を含む。
【0115】
本発明の意味内で、用語「抗ウイルス剤」又は「抗ウイルス化合物」は、感染した生物体内でウイルス及び詳細にはこの場合にはコロナウイルスSARS-CoV-2の複製及び/又は播種を直接的又は間接的のいずれかで阻害することにより、ウイルス量(感染力価とも称される)に対して作用する有効成分を意味する。
【0116】
本発明の特定の態様によれば、コロナウイルスSARS-CoV-2による感染の予防及び/又は処置におけるその使用のための医薬組成物は、ジルチアゼム及び/又はベルベリンに加えて少なくとも1種の他の抗ウイルス剤を含む。
【0117】
この他の抗ウイルス剤は、抗ウイルス作用を示すのに必要な用量で用いられ、この用量は「効果がある」と示され、この投薬量は、当業者により容易に決定できることが意図される。
【0118】
この組合せは、質量で同量の各抗ウイルス化合物、即ち質量で50%のジルチアゼム及び/若しくはベルベリン並びに50%の別の抗ウイルス剤の組合せ、又は不均等用量の各化合物、例えば90%のジルチアゼム及び/又はベルベリン対10%の他の抗ウイルス剤、80%-20%、70%-30%、60%-40%、40%-60%、30%-70%、20%-80%又は更には10%のジルチアゼム及び/又はベルベリンと90%の別の抗ウイルス剤のいずれかを含み、パーセンテージは、組合せの総質量に対する化合物の質量で表される。
【0119】
「抗ウイルス活性」又は「抗ウイルス作用」は、
- ウイルスに対する直接的な作用、詳細にはウイルスの複製サイクル、若しくは宿主細胞において感染及び再生するその能力を阻害する作用、又は
- 標的細胞のある特定の遺伝子の発現を調節することによる、前記ウイルスの標的細胞に対する間接的な作用
のいずれかを意味するものとする。「標的細胞」は、コロナウイルスに感染した細胞及び/又は感染細胞と非常に近接しているため次に感染する可能性がある細胞を意味するものとする。
【0120】
抗ウイルス剤は、その作用機序に従って様々なカテゴリーに分類される。これらとしては、詳細には、
- DNA又はRNA合成を妨害又は阻止するヌクレオチド又はリボヌクレオシド類似体、
- DNA又はRNA合成に関与する酵素の阻害剤(ヘリカーゼ、レプリカーゼ)、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- その複製サイクル中にウイルスの成熟段階を阻害する化合物、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、詳細には2型のもの等、細胞膜結合、又は宿主細胞へのウイルスの侵入を妨害する化合物(融合又は侵入阻害剤)、
- 細胞内でのウイルス分解を遮断することにより、ウイルスがその侵入後宿主細胞内で発現することを予防する薬剤、
- 他の細胞へのウイルス伝播を制限する薬剤
が挙げられる。
【0121】
当業者に周知のこれらの抗ウイルス剤の中で、詳細にはRNAウイルスに対抗するために用いられるものとしては、ヌクレオシド類似体、ウイルスプロテアーゼ阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤及び膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤等の標的細胞へのウイルス侵入阻害剤がある。
【0122】
本発明の意味内で、「ヌクレオシド類似体」は、アシクロビル等、感染細胞内でのウイルス複製を防止するために用いられる化合物を意味する。これらの化合物は、複製中にウイルスDNA鎖に組み込まれるヌクレオシドに十分類似した構造を有するが、これらは、鎖停止剤として作用し、ウイルスDNAポリメラーゼの作用を停止する。
【0123】
このような化合物は、グアノシン(例えばリバビリン)、アデノシン(例えばレムデシビル又はガリデシビル)、シチジン(モルヌピラビル)若しくはチミジン、又はそのデオキシ-バージョンのヌクレオシド類似体から選択される。
【0124】
本発明の意味内で、「ウイルスプロテアーゼ阻害剤」は、新しい感染性ウイルス粒子を得るのに不可欠な方法である、ウイルスタンパク質の切断及び組立てを可能にするタンパク質である、少なくとも1種のウイルスプロテアーゼの作用を阻害することにより作用する抗ウイルス化合物を意味する。得られたウイルス粒子は、その場合には新しい細胞に感染する能力がない。この治療戦略は、詳細には、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)によるウイルス感染を処置するために用いられる。
【0125】
本発明の意味内で、「膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤」は、詳細にはTMPRSS2の略称で示される膜貫通セリンプロテアーゼ2に対するその作用により、細胞へのウイルスの侵入を阻害することにより作用する抗ウイルス化合物を意味する。
【0126】
本発明の特定の実施形態によれば、上記のその使用のための組成物は、
- ヌクレオシド類似体、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、
- クロロキン、及び
- 上記の化合物の任意の混合物
から選択される少なくとも1つの他の有効成分を含む。
【0127】
本発明の第1の実施形態によれば、組合せは、ジルチアゼム及び少なくとも1種のヌクレオシド類似体を含む。
【0128】
本発明の第2の実施形態によれば、組合せは、ジルチアゼム及び少なくとも1種のウイルスプロテアーゼ阻害剤を含む。
【0129】
本発明の第3の実施形態によれば、組合せは、ジルチアゼム及び少なくとも1種の膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、詳細には2型のものを含む。
【0130】
本発明の第4の実施形態によれば、組合せは、ジルチアゼム及びクロロキンを含む。
【0131】
本発明の第5の実施形態によれば、組合せは、ジルチアゼム、並びに
- ヌクレオシド類似体、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、及び
- クロロキン
から選択されるこれらの2種の化合物の混合物を含む。
【0132】
本発明の第6の実施形態によれば、組合せは、ベルベリン及び少なくとも1種のヌクレオシド類似体を含む。
【0133】
本発明の第7の実施形態によれば、組合せは、ベルベリン及び少なくとも1種のウイルスプロテアーゼ阻害剤を含む。
【0134】
本発明の第8の実施形態によれば、組合せは、ベルベリン及び少なくとも1種の膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、詳細には2型のものを含む。
【0135】
本発明の第9の実施形態によれば、組合せは、ベルベリン及びクロロキンを含む。
【0136】
本発明の第10の実施形態によれば、組合せは、ベルベリン、並びに
- ヌクレオシド類似体、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、及び
- クロロキン
から選択される少なくとも2種の化合物の混合物を含む。
【0137】
少なくとも1種のヌクレオシド類似体は、詳細にはレムデシビル、ガリデシビル、モルヌピラビル及びこれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0138】
少なくとも1種のウイルスプロテアーゼ阻害剤は、詳細にはロピナビル及び好ましくはリトナビル(rinotavir)と組み合わせたロピナビルであり得る。
【0139】
少なくとも1種の膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、詳細には2型のものは、詳細にはメシル酸カモスタットであり得る。
【0140】
他の実施形態によれば、本発明によるその使用のための医薬組成物は、
- ジルチアゼム及びレムデシビル、
- ジルチアゼム及びガリデシビル、
- ジルチアゼム及びモルヌピラビル、
- ジルチアゼム及びロピナビル、好ましくはリトナビルと組み合わせたもの、
- ジルチアゼム及びメシル酸カモスタット、
- ジルチアゼム及びクロロキン、又は更には
- ジルチアゼム、並びにレムデシビル、ガリデシビル、モルヌピラビル、ロピナビル、メシル酸カモスタット及びクロロキンの全ての可能な組合せ
を含むか、又はこれらからなる。
【0141】
他の実施形態によれば、本発明によるその使用のための医薬組成物は、
- ベルベリン及びレムデシビル、
- ベルベリン及びガリデシビル、
- ベルベリン及びモルヌピラビル、
- ベルベリン及びロピナビル、好ましくはリトナビルと組み合わせたもの、
- ベルベリン及びメシル酸カモスタット、
- ベルベリン及びクロロキン、又は更には
- ベルベリン、並びにレムデシビル、ガリデシビル、モルヌピラビル、ロピナビル、メシル酸カモスタット及びクロロキンの全ての可能な組合せ
を含むか、又はこれらからなる。
【0142】
他の実施形態によれば、本発明によるその使用のための医薬組成物は、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにレムデシビルの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにガリデシビルの組合せ、
- ジルチアゼム及びモルヌピラビルの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにロピナビル、好ましくはリトナビルと組み合わせたものの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにメシル酸カモスタットの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにクロロキンの組合せ、又は更には
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにレムデシビル、ガリデシビル、モルヌピラビル、ロピナビル、メシル酸カモスタット及びクロロキンの全ての可能な組合せの組合せ
を含むか、又はこれらからなる。
【0143】
これらの組合せは、実施例に示すように相乗的な抗ウイルス効果を有する。
【0144】
例えば、Table 2(表2)に提示される結果は、感染後48時間で、レムデシビルの効果が、ジルチアゼムの存在下(+68%)及びベルベリンの存在下(+33%)でより高いことを強調する。
【0145】
Table 3(表3)に提示される結果は、鼻上皮モデルに対して、感染後48時間で、レムデシビルの効果は、ジルチアゼム(ウイルス産生において+1.3logの減少)又はベルベリン(ウイルス産生において+0.89logの減少)の存在により増強されることを強調する。
【0146】
本発明の別の実施形態によれば、上記のその治療的使用のための組成物は、少なくとも1種の抗生物質を更に含む。
【0147】
このような抗生物質は、詳細には、進行中のウイルス感染と共に細菌性重複感染を予防するのに有用である。
【0148】
抗生物質は、当業者に周知の抗生物質、詳細には細菌性重複感染を回避するためにウイルス感染中に用いられるもの、及び詳細にはマクロライドファミリーのものから選択される。
【0149】
本発明による医薬組成物は、経鼻、経口、舌下、吸入、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、眼内又は直腸投与に好適である。
【0150】
好ましい実施形態によれば、上記のその使用のための組成物は、それが、詳細には吸入による経鼻投与、詳細には鼻腔内投与に好適なガレノス形態であることを特徴とする。
【0151】
鼻腔内経路は、医薬組成物が、様々な方法、例えば点滴剤、噴霧剤又は吸入剤により、患者の鼻腔に直接導入されることを特徴とする投与経路である。鼻腔内粘膜噴霧装置等の特定の装置の使用が推奨される。
【0152】
鼻腔内経路は、静脈内経路のものにしばしば匹敵する効力と共に、薬物を迅速に、無痛で、非侵襲的に投与する可能性を提供する。これは、小児科において若しくは高齢者にとって、又は医療的緊急事態において特に好適である。
【0153】
実施形態によれば、上記のその使用のための医薬組成物は、鼻腔内経路により投与される。
【0154】
別の好ましい実施形態によれば、上記のその使用のための医薬組成物は、吸入により投与される。
【0155】
吸入は気道による吸収を示す。これは、詳細には、治療目的の化合物、及びガス、微小液滴又は懸濁液中の粉末の形態のある特定の物質を吸収する方法である。
【0156】
吸入による、即ち経鼻及び/又は経口経路による医薬又は獣医学用組成物の投与は、当業者に周知である。
【0157】
吸入による投与の2つのタイプ:
- 組成物が粉末の形態である場合、通気による投与、及び
- 組成物がエアロゾル(懸濁液)の形態又は加圧液、例えば水溶液の形態である場合、噴霧による投与
がある。その場合には、アトマイザー又は噴霧器の使用が、医薬又は獣医学用組成物を投与するのに推奨される。
【0158】
したがって、本明細書で考察されるガレノス形態は、粉末、水性懸濁液の液滴又は加圧液から選択される。
【0159】
本発明はまた、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染(COVID-19)の予防及び/又は処置におけるその同時、別個又は逐次使用のための、ジルチアゼム及びベルベリンから選択される少なくとも1種の化合物、並びに
- ヌクレオシド類似体、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、
- クロロキン、及び
- 上記の化合物の任意の混合物
から選択される少なくとも1つの他の有効成分を含む組合せ物に関する。
【0160】
この組合せ物は、詳細には、
- ジルチアゼム及びレムデシビル、
- ジルチアゼム及びガリデシビル、
- ジルチアゼム及びモルヌピラビル、
- ジルチアゼム及びロピナビル、
- ジルチアゼム及びメシル酸カモスタット、
- ジルチアゼム及びクロロキン、又は更には
- ジルチアゼム、並びにレムデシビル、ガリデシビル、モルヌピラビル、ロピナビル、メシル酸カモスタット及びクロロキンの全ての可能な組合せ
からなる。
【0161】
他の実施形態によれば、この組合せ物は、詳細には、
- ベルベリン及びレムデシビル、
- ベルベリン及びガリデシビル、
- ベルベリン及びモルヌピラビル、
- ベルベリン及びロピナビル、
- ベルベリン及びメシル酸カモスタット、
- ベルベリン及びクロロキン、又は更には
- ベルベリン、並びにレムデシビル、ガリデシビル、モルヌピラビル、ロピナビル及びクロロキンの全ての可能な組合せ
からなる。
【0162】
他の実施形態によれば、この組合せ物は、詳細には、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにレムデシビルの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにガリデシビルの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにモルヌピラビルの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにロピナビルの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにメシル酸カモスタットの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにクロロキンの組合せ、又は更には
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにレムデシビル、ガリデシビル、モルヌピラビル、ロピナビル、メシル酸カモスタット及びクロロキンの全ての可能な組合せの組合せ
からなる。
【0163】
本発明による実施形態によれば、上記のこれらの組合せ物のうちの1つは、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染(COVID-19)の予防のために同時に、別個に又は逐次に使用される。
【0164】
本発明による別の実施形態によれば、上記のこれらの組合せ物のうちの1つは、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染(COVID-19)の処置のために同時に、別個に又は逐次に使用される。
【0165】
この組合せ物は、他の活性化合物、及び詳細には少なくとも1種の抗生物質を含み得る。
【0166】
本発明はまた、SARS-CoV-2ウイルスに感染した(いわゆるCOVID-19疾患に罹患している)患者を処置する方法であって、好適な医薬担体中に、ジルチアゼム及びベルベリンから選択される少なくとも1種の化合物を含む医薬組成物を前記患者に投与することを含む、方法に関する。
【0167】
本発明はまた、前記ウイルスに感染し得る個人において、SARS-CoV-2ウイルスによるウイルス感染(いわゆるCOVID-19疾患)の出現を予防する方法であって、好適な医薬担体中にジルチアゼムを含む医薬組成物を前記個人に投与することを含む、方法に関する。
【0168】
本発明はまた、SARS-CoV-2ウイルスに感染した(いわゆるCOVID-19疾患に罹患している)患者を処置する方法であって、好適な医薬担体中にジルチアゼムを含む医薬組成物を前記患者に投与することを含む、方法に関する。
【0169】
詳細には、この方法はまた、詳細には下記の化合物、
- ヌクレオシド類似体、
- ウイルスプロテアーゼ阻害剤、
- 膜貫通セリンプロテアーゼ阻害剤、
- クロロキン、及び
- 上記の化合物の任意の混合物
から選択される別の活性化合物を前記患者に投与することを含み得る。
【0170】
本発明はまた、好適な医薬担体中に、レムデシビルと共にジルチアゼム及び/又はベルベリンの組合せを含む医薬組成物に関する。
【0171】
本発明はまた、好適な医薬担体中に、ジルチアゼムとレムデシビルの組合せを含む医薬組成物に関する。
【0172】
本発明はまた、好適な医薬担体中に、ジルチアゼムとモルヌピラビルの組合せを含む医薬組成物に関する。
【0173】
より正確には、前記医薬組成物は、好適な医薬担体中に、ジルチアゼム、ベルベリン及びレムデシビルの組合せを含む。
【0174】
本発明はまた、好適な医薬担体中に、下記の組合せ
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにガリデシビルの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにロピナビルの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにモルヌピラビルの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにメシル酸カモスタットの組合せ、
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにクロロキンの組合せ、更には
- ジルチアゼム及びベルベリン、並びにレムデシビル、ガリデシビル、モルヌピラビル、ロピナビル、メシル酸カモスタット及びクロロキンの全ての可能な組合せの組合せ
を含む医薬組成物に関する。
【0175】
これらの組合せは、各化合物の全ての可能な比に従って製剤化され得る。詳細には、これらは、質量で同量の各抗ウイルス化合物(各33%)、又は不均等用量の各化合物のいずれかを含み、パーセンテージは、組合せの総質量に対する化合物の質量で表される。
【0176】
これらの組合せの全ての治療的使用も本発明の目的である。
【実施例】
【0177】
実施例1~3は、SARS-CoV-2による感染の処置について、一方ではジルチアゼム又はベルベリンによる単剤療法での処置の有効性、他方ではレムデシビルとの組合せでこれらの分子を使用する利点を示す。
【0178】
本明細書に提示されない他のデータは、ある特定のウイルス株、詳細にはMERS-CoVに対して抗ウイルス作用を有する別の化合物であるアピゲニンを用いて得られた(WO2018/073549)。しかし、この分子は、コロナウイルスSARS-CoV-2に対して著しい抗ウイルス作用を有さない。
【0179】
ウイルス量を、ジルチアゼム、ベルベリン又はレムデシビルによる単剤療法又はこれらの分子のうちの2つの組合せ(ジルチアゼム+レムデシビル、又はベルベリン+レムデシビル)で処置した、Vero E6細胞感染上清の試料だけでなく、頂端洗液及び再構成ヒト上皮細胞ライセート(HAE MucilAir、Epithelix社)においてもRT-qPCRにより及び/又はTCID50/mlにより定量化した。
【0180】
分子の濃度各々に対するウイルス産生を決定し、同じ条件下ではあるが未処置の感染細胞又はHAEからのウイルス産生に対して示す。半阻害濃度(IC50)を各処置条件に対して決定した。
【0181】
(実施例1)
材料及び方法
使用したウイルス
使用したウイルスは、SARS-CoV-2に感染した患者の試料から単離した。
【0182】
本研究に使用したSARS-CoV-2の株は、COVID-19患者を評価するフランスの臨床コホート(NCT04262921)に補充された47歳の患者から単離した。本研究はヘルシンキ宣言に従って行われ、地方倫理委員会により承認された。ウイルス株を、Illumina社MiSeqで配列決定し、参照BetaCoV/France/IDF0571/2020(識別番号EPI_ISL_411218)の下にGISAID EpiCoVTMデータベースに寄託した。参考のため、(Pizzorno等、2020)を参照のこと。
【0183】
ウイルスの単離を、Vero E6細胞(ATCC CRL-1586)への接種、次いで細胞変性効果の出現により行った。ウイルスによって誘導される最初の効果の出現後、感染上清を回収し、ウイルスRNAをQIAmp Viral RNA(QIAGEN社)キットを用いて抽出した。次いで、抽出したRNAに、500倍のカバー率でIllumina社MiSeq(Zymo-Seq RiboFree)による配列決定を行い、配列を、hisat2アラインメントプログラム及びコンセンサスを用いて組み立てた。
【0184】
次いで、配列を、BetaCoV/France/IDF0571/2020の名の下にGISAID EpiCoVプラットフォーム(アクセスID EPI_ISL_411218)に提出した。
【0185】
このウイルス株は、2020年1月/2月の数カ月間に中国の武漢地域での流行の開始時に循環したSARS-CoV-2株に系統的に非常に近い。したがって、この株は、世界中で現在観察される「COVID-19」と称される感染性疾患の起源のSARS-CoV-2株を代表する。
【0186】
Vero E6細胞感染プロトコル
Vero E6(ATCC CRL-1586)細胞を、L-グルタミン及びペニシリン/ストレプトマイシン及び10%不活性化ウシ胎児血清を補足したDMEM4.5g/lグルコース培地に37℃、5%CO2で培養した。
【0187】
感染を生じさせるために、細胞を無血清培地で2回リンスし、ウイルス希釈を含有する最小体積でカバーした。この希釈は、適切な感染多重度(MOI)を得るために感染力価から決定した(感染力価の決定についての項を参照のこと)。最小体積の存在下での1時間のインキュベーション後、培地を、L-グルタミン及びペニシリン/ストレプトマイシン及び2%不活性化ウシ胎児血清を補足したDMEM4.5g/lグルコース培地に置き換え、細胞を37℃、5%CO2で再びインキュベートした。
【0188】
上皮感染プロトコル
感染を生じさせるために、Costar Transwellインサート(Corning社、NY、USA)の特異的な培養培地で気液界面培養された、鼻検体で得られた初代ヒト細胞から得た再構成ヒト上皮モデル(HAE MucilAir、Epithelix社)も使用した。感染実験のために、頂極を、OptiMEM培地(Gibco、ThermoFisher Scientific社)を用いて2回静かに洗浄し、次いで0.1の感染多重度(MOI)で、OptiMEM培地中150μlのウイルス希釈に感染させた。37℃、5%CO2で1時間のインキュベーション後、ウイルス懸濁液を回収した。
【0189】
Vero E6細胞の感染力価の決定
感染力価の決定を、96ウェルプレート上のこれらのVero E6細胞に対して限定的な希釈技術を用いて行った。体積50μlの系列希釈を、ウェルに四連で堆積させた。次いで、細胞を37℃、5%CO2でインキュベートし、次いで3日間の感染後、細胞変性効果の存在を監視する。組織培養感染用量50%(DICT50/ml)、即ち接種細胞の50%で感染を形成するために必要とされるウイルス力価を、Reed and Muenchの技術を用いて算出した。
【0190】
定量的PCRによるウイルスゲノムの定量化
使用したプローブ及びプライマーは香港のSchool of Public Health/Universityにより記載された(Table 1(表1))。
【0191】
定量的「一段階」PCRを、10μlのsupermix Express qPCR(2×)、1μlの各プライマー(10μM)、3.1μlの水、0.4μlのRox色素(25μM)及び2μlのウイルスRNAを含有する20μlの反応体積において、EXPRESS One-Step Superscript qRT-PCR(Invitrogen社)試薬と共にStepOnePlusリアルタイムPCRシステムキット(Applied Biosystems社)を用いて行った。
【0192】
下記のプログラム:50℃で15分、次いで40サイクル(15秒95℃;1分60℃)を使用した。
【0193】
【0194】
FAM及びTAMRAは蛍光マーカーを示す。
【0195】
(実施例2)
Vero E6細胞モデルにおけるSARS-CoV-2ウイルスに対するジルチアゼム、ベルベリン及びレムデシビル、並びにジルチアゼム+レムデシビル及びベルベリン+レムデシビルの組合せのIC50の比較
SARS-CoV-2(MOI 0.1)に感染させたVero E6細胞を、感染後1時間で、増加濃度の
- ジルチアゼム(2.8~45μM)、
- ベルベリン(1.6~25μM)、及び
- レムデシビル(0.6~10μM)、
により単独(
図1)及び組合せ(
図2)で処置した。
【0196】
試験した組合せ処置毎に、一方の分子の用量を固定し、増加濃度の他方の分子(各々、単剤療法で使用したものと同じ濃度範囲)と組み合わせ、その逆も同様に行った。感染細胞(感染後48時間及び72時間でサンプリングした)の培養上清において測定されたウイルス感染力価は、様々な処置条件下で測定されたウイルス複製レベルを反映する。
【0197】
以下のTable 2(表2)は、SARS-CoV-2による感染の様々な時点でのVero E6細胞における様々な単剤療法処置についての及び/又は組合せで得られたIC50データを要約する。
【0198】
【0199】
この表は、ある特定の分子のIC50の低下に関して、これらの分子による単剤療法処置と比較した、処置の組合せによる利益を例示する。
【0200】
したがって、一定濃度のジルチアゼム(11.5μM)と組み合わせたレムデシビルは、48hpiでそのIC50の約68%の低下(0.98μMに対して0.32)、及び72hpiでそのIC50の52%の低下(0.72μMに対して0.35)を得ることができる。
【0201】
並行して、ジルチアゼムのIC50は48hpiで45μM超であるが、一定濃度のレムデシビルと組み合わせたジルチアゼムは、0.55μMのIC50を得ることができる。
【0202】
更に一定濃度のベルベリン(12.5μM)と組み合わせたレムデシビルは、48hpiでそのIC50の約33%の低下(0.98μMに対して0.65)を得ることができる。
【0203】
(実施例3)
再構成ヒト呼吸上皮感染モデルによるSARS-CoV-2ウイルスに対するジルチアゼム、ベルベリン及びレムデシビル、並びにジルチアゼム+レムデシビル、ベルベリン+レムデシビルの組合せの抗ウイルス活性の比較
鼻起源で、気液界面培養された再構成ヒト呼吸上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)を、SARS-CoV-2(MOI 0.1)に感染させた。基本培地を、感染後48時間又は72時間にわたって、下記の分子:
- ジルチアゼム(45又は90μM)、
- レムデシビル(20又は40μM)及び
- ベルベリン(4μM)
により単独又は組合せ処置で1日1回処置した。
【0204】
【0205】
様々な時点で、上皮を回収及び溶解した。全RNAを抽出し、ウイルスゲノムを、細胞遺伝子(GAPDH)産物の定量化を用いてデータを正規化することによりRT-PCRにより定量化した。
【0206】
これらのデータにより、ウイルス複製の相対的な測定により単剤療法処置及び組合せ処置の有効なウイルスへの効果を評価することができ、対照(未処置)におけるウイルス複製はパーセンテージで又は相対ウイルス産生は-log10で表される。
【0207】
【0208】
Table 3(表3)は、鼻起源のヒト呼吸上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるSARS-CoV-2ウイルスの複製に対するジルチアゼムによる、ベルベリンによる及びレムデシビルによる単剤療法処置、並びにジルチアゼム+レムデシビルによる及びベルベリン+レムデシビルによる組合せ処置の効果を示す。
【0209】
Table 3(表3)は、鼻又は気管支起源の再構成ヒト呼吸上皮感染モデルにおけるSARS-CoV-2ウイルスに対するジルチアゼム、ベルベリン、レムデシビルの、並びにジルチアゼム/レムデシビル及びベルベリン/レムデシビルの組合せの抗ウイルス活性のデータを要約する。
【0210】
レムデシビルは、単一の処置で、鼻起源の上皮において48hpiで著しい効力を有する(ウイルス複製において7.75log10超の減少)。
【0211】
レムデシビルとジルチアゼム又はレムデシビルとベルベリンの組合せ(単剤療法と同じ濃度条件下)は、抗ウイルス効果を著しく増加させる(ジルチアゼムとの組合せ及びベルベリンとの組合せについて、ウイルス複製において各々8.6及び8.29log10の減少)。
【0212】
ジルチアゼム又はベルベリンによる単剤療法処置はまた、48hpiで著しい抗ウイルス効力を有する(ジルチアゼム及びベルベリンで、ウイルス複製において各々0.35及び0.86log10の減少)。
【0213】
我々の実験条件下で、72hpiでのレムデシビルの効力は、鼻起源の上皮において、非常に高いままではあるが、48hpiでの効力より比較的低い(20μMで2.42及び2.05log10の減少、並びに40μMで2.30及び2.24log10の減少)。
【0214】
72hpiで、レムデシビル/ジルチアゼムの組合せは、鼻起源の上皮において効力を有するが、レムデシビルによる単一の処置と著しい違いはない。これは、ジルチアゼムの抗ウイルス効力がこれらの実験条件下で限られていることにより説明できる(鼻上皮において0.16/0.15log10の減少)。
【0215】
(実施例4)
A549-ACE2細胞モデルにおけるSARS-CoV-2ウイルスに対するジルチアゼム及びレムデシビルの抗ウイルス活性の比較
細胞株A549細胞は、腺癌由来のヒト肺胞基底上皮細胞である。この細胞株を、肺癌研究のモデルとしてだけでなく、気道を標的とする感染性ウイルスの標的細胞としても使用する。これらの細胞はその後、SARS-CoV-2ウイルスがACE2受容体を介して宿主細胞に浸透するので、ACE2受容体を発現するように改変した。このA549-ACE2細胞株はCreative Biogene(USA)から得た。
【0216】
Vero細胞に反して、これらのA549-ACE2細胞は、インターフェロンの完全で操作可能なシグナル伝達経路を有する。したがって、A549-ACE2細胞は、これらのシグナル伝達経路に作用するジルチアゼムの効果を研究するのにより好適である。
【0217】
実験プロトコルは、下記の通りである:
- A549-ACE2細胞の播種、
- SARS-CoV-2の武漢様株によるA549-ACE2細胞の感染後24時間(MOI 10-1及び10-2)、
- 感染後1時間(pi)で、細胞を45μMジルチアゼムにより処置する。
- 上清を、RT-PCRによるウイルス定量化のために感染後24時間、48時間、72時間及び96時間でサンプリングする。
【0218】
使用したインキュベーション培地は下記の通りである:
・ 播種培地:DMEM 1g/Lグルコース(Glc)、200mM L-グルタミン(L-Glu)、104単位ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)、10%ウシ胎児血清(FCS)
・ 感染培地:DMEM 1g/L Glc、200mM L-Glu、104U P/S、0%FCS
・ 処置培地:DMEM 1g/L Glc、200mM L-Glu、104U P/S、2%FCS
【0219】
図5は、実験プロトコルを示す:単一の処置を1hpiで行い、次いで上清を24、48、72及び96hpiでサンプリングする。
【0220】
図6は、ジルチアゼム(45μM)又はレムデシビル(5μM)による2つの異なる感染多重率(A:MOI=10
-1;B:MOI=10
-2)での感染細胞の処置後に得られた結果を示す。
【0221】
2つの化合物レムデシビル及びジルチアゼムは、単一の処置で、感染多重率にかかわらず、経時的なウイルス力価(RT-PCRで測定した)の同レベルの阻害を得ることができる。
【0222】
(実施例5)
A549-ACE2株におけるジルチアゼムのSARS-CoV-2に対するIC50及びCC50の決定
実験プロトコルは下記の通りである:
- A549-ACE2細胞の播種、
- SARS-CoV-2(MOI 10-1)の武漢様株によるA549-ACE2細胞の感染後24時間、
- 感染後1時間(pi)で、細胞を様々な濃度のジルチアゼムにより処置する。
- 上清を、RT-PCRによるウイルス定量化のために感染後72時間でサンプリングする。
【0223】
IC50は、半数阻害濃度、即ち試験されるSARS-CoV-2株のウイルス複製の50%阻害を得るために必要なジルチアゼムの量である。
【0224】
得られた結果を
図7Aに提示する:ジルチアゼムのIC50は19.7μMであり、これはインビトロでの良好な阻害効力を意味する。
【0225】
並行して、A549-ACE2細胞に対するジルチアゼムの細胞毒性を、同じ実験条件下で検証した。この目的のために、細胞の生存率を半減させるために必要なジルチアゼムの用量に対応するCC50(細胞毒性濃度50%)を、様々な濃度のジルチアゼムの存在下でのA549-ACE2細胞の生存率を監視することにより測定した。変動性を、処置開始の72時間後に行ったMTSにより決定した。
【0226】
MTS試験は比色定量法である:方法は、MTSテトラゾリウム化合物を生細胞により還元し、有色ホルマザン生成物を生成して、生細胞(有色)及び死細胞の計数を可能にすることに基づく。
【0227】
得られた結果を
図7Bに示す:細胞の生存率は、以前に測定したIC50よりはるかに高い用量374μMと等しいジルチアゼムの濃度で半減する。
【0228】
説明に列挙された順での文献照会
特許文献
EP2 435 064
WO87/07508
WO2011/066657
WO2016/146836
WO2019/224489
WO2013/185126
WO2018/073549
WO02/094238
US4,605,552
EP1 117 408
WO2015/157223
論文
[参考文献]
【配列表】
【国際調査報告】