(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】動的共有結合ヒドロゲル、その前駆体及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C08J 3/24 20060101AFI20230419BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230419BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C08J3/24 Z CER
C08J3/24 ZBP
C08J3/24 CEZ
A61K9/06
A61K47/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554675
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(85)【翻訳文提出日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 EP2021056065
(87)【国際公開番号】W WO2021180795
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ナント・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】NANTES UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴィアネ・デルプラス
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ギシュー
(72)【発明者】
【氏名】カトリーヌ・ル・ヴィサージュ
(72)【発明者】
【氏名】アルノー・テシエ
【テーマコード(参考)】
4C076
4F070
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA95
4C076EE01
4C076FF31
4F070AA02
4F070AA47
4F070AA52
4F070AB01
4F070GA09
4F070GB02
4F070GB06
(57)【要約】
本発明は、ヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア、そのようなヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペアから調製された動的共有結合ヒドロゲル、そのような前駆体又はヒドロゲルを含む医薬組成物、並びに様々な用途におけるそれらの使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体で修飾された第1のポリマーからなる第1のヒドロゲル前駆体ポリマー、及び
(2)グルカミンで修飾された第2のポリマーからなる第2のヒドロゲル前駆体ポリマー
を含むヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア。
【請求項2】
第1のポリマーが、フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体とグラフトされており、第2のポリマーが、グルカミンとグラフトされている、請求項1に記載のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア。
【請求項3】
第1及び第2のポリマーが独立して、天然ポリマー、半合成ポリマー及び合成ポリマーから選択される、請求項1又は請求項2に記載のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア。
【請求項4】
第1及び第2のポリマーのうちの少なくとも一方が、生体適合性、生物分解性、親水性天然ポリマー、半合成ポリマー及び合成ポリマーから選択される、請求項3に記載のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア。
【請求項5】
フェニルボロン酸誘導体が、Wulff型フェニルボロン酸又はベンゾキサボロールである、請求項1から4のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア。
【請求項6】
第1のヒドロゲル前駆体ポリマー又は第2のヒドロゲル前駆体ポリマーが、バイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分に直接又は間接的に共有結合している、請求項1から5のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア。
【請求項7】
第1のヒドロゲル前駆体ポリマーが第1の水溶液中にあり、第2のヒドロゲル前駆体ポリマーが第2の水溶液中にあり、第1及び第2の水溶液が別個の水溶液である、請求項1から6のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア。
【請求項8】
第1及び第2の水溶液のうちの少なくとも一方が、細胞、生物活性剤、可視化剤及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される成分を含む、請求項7に記載のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載の架橋ペアの第1のヒドロゲル前駆体ポリマー及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーで構成される動的共有結合ヒドロゲルであって、第1及び第2のヒドロゲル前駆体が、動的共有結合によって架橋されている、動的共有結合ヒドロゲル。
【請求項10】
細胞、生物活性剤、可視化剤及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される成分を更に含む、請求項9に記載の動的共有結合ヒドロゲル。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア、又は請求項9若しくは請求項10に記載の動的共有結合ヒドロゲル、及び少なくとも1種の薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項12】
第1のヒドロゲル前駆体ポリマー及び第2の前駆体ヒドロゲルポリマーが、マルチバレルシリンジ、好ましくはダブルバレルシリンジに含有されている、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
治療剤として使用するための、請求項1から8のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア、又は請求項9若しくは請求項10に記載の動的共有結合ヒドロゲル、又は請求項11若しくは12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
治療剤が、細胞療法、組織工学、再生医療、関節内補充療法、in vivoにおける細胞及び/又は生物活性剤の送達に使用される、請求項13に記載の使用のためのヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア、又は動的共有結合ヒドロゲル、又は医薬組成物。
【請求項15】
請求項1から8のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア、又は請求項9若しくは請求項10に記載の動的共有結合ヒドロゲル、又は請求項11若しくは12に記載の医薬組成物、及び架橋ペア、動的共有結合ヒドロゲル又は医薬組成物の使用説明書を含むキット。
【請求項16】
動的共有結合ヒドロゲルを調製するための方法であって、請求項1から8のいずれか一項に記載の架橋ペアの第1のヒドロゲル前駆体ポリマー及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーを混合して、動的共有結合ヒドロゲルを得る工程を含む、方法。
【請求項17】
生理的条件下で実施される、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年3月10日に出願された欧州特許出願第EP2016202.2号への優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ポリマーネットワークは、官能性モノマー又はポリマー前駆体の物理又は化学架橋により形成される。物理的に架橋された材料は、共有結合ではない可逆的相互作用によって一緒に保持されている(De Greefら、Chem. Rev.、2009、109: 5687~5754頁)。これにより一般に、結合が機械負荷を含む外部刺激に応答して破壊及び再形成できる、ずり減粘(せん断増加の際の粘性流)及び自己治癒(せん断停止後のゲル特性の再形成)材料が得られる。しかしながら、このようにして得られた構造は、多くの場合、小さな環境摂動に対して不安定であり、頑強さを欠く。一方、化学的に架橋されたネットワークは、共有結合によって一緒に保持されている(Wichterleら、Nature、1960、185: 117~118頁)。これにより、物理ネットワークよりも一般に良好な機械的特性を有する弾性ゲルが得られる。しかしながら、化学架橋の不可逆性は、ずり減粘及び自己治癒特性を必要とする用途、例えば、3Dプリント及び最小限に侵襲的な薬物送達のためのそれらの使用を制限する。
【0003】
近年の研究は、動的共有結合化学に基づく新しいクラスのソフトマターを導入しており、これは、物理的及び化学的に架橋された材料の両方の利点を組み合わせる(Kloxinら、Chem. Soc. Rev.、2013、42: 7161~7173頁)。この手法において、実験的な時間規模で破壊し再形成できる可逆的共有結合がネットワーク中に形成される。したがって、これらの動的共有結合ネットワークは、結合の交換により再構成し、応力緩和及び材料流動が可能になる。動的共有結合ネットワーク形成に使用されている架橋反応としては、エステル交換、Diels-Alder環化付加及びボロン酸エステル複合体形成が挙げられる。ボロン酸及びcis-1,2又はcis-1,3ジオール含有分子の間のボロン酸エステルの可逆的形成は、刺激応答性生物医学材料の設計のための安全で合成しやすい動的共有結合架橋モチーフとして出現した。しかしながら、ボロン酸エステル複合体は、一般に、アルカリ性pHで支援され、一般的なジオールカップリングパートナーは、比較的不安定な縮合生成物を生じ、酸化感受性を示す傾向がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】De Greefら、Chem. Rev.、2009、109: 5687~5754頁
【非特許文献2】Wichterleら、Nature、1960、185: 117~118頁
【非特許文献3】Kloxinら、Chem. Soc. Rev.、2013、42: 7161~7173頁
【非特許文献4】Wulffら、Pure Appl.Chem.、1982、54: 2093~2102頁
【非特許文献5】Wulffら、Angew Chem., Int. Ed. Engl.、1984、23: 741~742頁
【非特許文献6】Cromwellら、J. Am. Chem. Soc.、2015、137: 6492~6495頁
【非特許文献7】Piestら、Soft Matter、2011、7: 11111頁
【非特許文献8】Liら、Chem. Commun.、2011、47: 8169頁
【非特許文献9】Kimら、J. Am. Chem. Soc.、2009、131: 13908~13909頁
【非特許文献10】Berubeら、J. Org. Chem.、2008、73: 6471~6479頁
【非特許文献11】Dowlutら、J. Am. Chem. Soc.、2006、128: 4226~4227頁
【非特許文献12】Curr. Med. Chem.、2018、doi: 10.2174/092986732566618100814443
【非特許文献13】Brooks及びSumerlin、Chem. Rev.、2016、3: 1375~1397頁
【非特許文献14】Guan及びZhang、Chem. Soc. Rev.、2013、42: 8106~8121頁
【非特許文献15】Tarusら、Macromol. Rapid Commun.、2014、35: 2089~2095頁
【非特許文献16】Tangら、Adv. Sci.、2018、5(9): 1800638
【非特許文献17】Yesilyurtら、Adv. Mater.、2015、28(1): 86~91頁
【非特許文献18】Kolbら、Angew. Chem., Int. Ed.、2001、40: 2004~2021頁
【非特許文献19】「Bioconjugate Techniques」、Greg T. Hermanson、1996
【非特許文献20】Pattersonら、ACS Chemical Biology、2014、9: 592~605頁
【非特許文献21】Spicerら、Nature Communications、2014、5: 4740頁
【非特許文献22】Madl及びHeilshorn、Advanced Functional Materials、2018、28(11): 1706046頁
【非特許文献23】Brighid Pappinら、Boron-Carbohydrate Interactions
【非特許文献24】Yannasら、Science、1982、215: 174~176頁
【非特許文献25】Lee及びMooney、Chem. Rev.、2001、101: 1869~1880頁
【非特許文献26】Peppasら、Adv.Mater.、2006、18: 1345~1360頁
【非特許文献27】Jeongら、Cell、2015、162: 662~674頁
【非特許文献28】Parkら、Nature Biotechnology、2015、33: 1280~1286頁
【非特許文献29】Whitesides、Nature、2006、442: 386~373頁
【非特許文献30】Casavantら、PNAS USA、2013、110: 10111~10116頁
【非特許文献31】Dongら、Nature、2006、42: 551~554頁
【非特許文献32】Choiら、Nature Photonics、2013、7: 987~994頁
【非特許文献33】Choiら、Advanced Materials、2015、27: 4081~4086頁
【非特許文献34】Kimら、Science、2008、320: 507~511頁
【非特許文献35】Rogersら、Science、2010、327: 1603~1607
【非特許文献36】Xuら、Science、2014、344: 70~74頁
【非特許文献37】Teeら、Science、2015、350: 313~316
【非特許文献38】Shepherdら、PNAS USA、201、108: 20400~20403
【非特許文献39】Morinら、Science、2012、337: 828~832頁
【非特許文献40】「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W.Martin、第18版、1990、Mack Publishing Co.: Easton、PA
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、当技術分野において、制御薬物放出、細胞培養、組織工学、3Dプリント等に使用できる動的共有結合ヒドロゲルを生成するのに好適な改善されたボロン酸/ジオールカップルへの必要性がなお存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、動的共有結合ヒドロゲルの形成のための新しいボロン酸/ジオールカップルを特定した。当技術分野で公知の系と比較して、本発明の新しいボロン酸/ジオールカップルは、いくつかの利点を示す。特に、ヒドロゲル形成が、生理的条件のpH及び温度で、単一工程において実施されうる。更に、架橋反応は、本質的に瞬時である。このようにして得られたヒドロゲルは、経時的に高度に安定であり、自己治癒性及び最小限の膨潤性であり、生体組織の粘弾特性と同様の粘弾特性を有する。それらの有利なずり減粘特性に起因して、ポリマー組成物は射出可能である。更に、ヒドロゲルの組成は、その生物分解性を調節する及び/又は生体組織若しくは環境を模倣するために、容易に変更できる。
【0007】
その結果、本発明は、(1)フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体で修飾された第1のポリマーからなる第1のヒドロゲル前駆体ポリマー、及び(2)グルカミンで修飾された第2のポリマーからなる第2のヒドロゲル前駆体ポリマーを含むヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペアに関する。
【0008】
ある特定の実施形態では、第1のポリマーは、フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体とグラフトされており、第2のポリマーは、グルカミンとグラフトされている。
【0009】
ある特定の実施形態では、第1及び第2のポリマーは独立して、天然ポリマー、半合成ポリマー及び合成ポリマーから選択される。
【0010】
ある特定の実施形態では、第1及び第2のポリマーのうちの少なくとも一方は、生体適合性、生物分解性、親水性天然ポリマー、半合成ポリマー及び合成ポリマーから選択される。
【0011】
ある特定の実施形態では、第1及び第2のポリマーは、同一である。他の実施形態では、第1及び第2のポリマーは、異なる。
【0012】
ある特定の実施形態では、フェニルボロン酸誘導体は、オルト、メタ又はパラ一置換フェニルボロン酸、Wulff型フェニルボロン酸又はベンゾキサボロールである。ある特定の好ましい実施形態では、フェニルボロン酸誘導体は、Wulff型フェニルボロン酸である。
【0013】
ある特定の実施形態では、第1のヒドロゲル前駆体ポリマー又は第2のヒドロゲル前駆体ポリマーは、バイオ直交型官能性部分又はクリッカブル(clickable)部分に直接又は間接的に共有結合により連結している。
【0014】
ある特定の実施形態では、ヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペアは、第1のヒドロゲル前駆体ポリマーが第1の水溶液中にあり、第2のヒドロゲル前駆体ポリマーが第2の水溶液中にあり、第1及び第2の水溶液が別個の水溶液であるようなものである。第1及び第2の水溶液のうちの少なくとも一方は、細胞、生物活性剤、可視化剤及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される成分を含んでもよい。
【0015】
本発明はまた、本明細書で定義される通りの架橋ペアの第1のヒドロゲル前駆体ポリマー及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーで構成される動的共有結合ヒドロゲルであって、第1及び第2のヒドロゲル前駆体が、動的共有結合によって架橋されている、動的共有結合ヒドロゲルに関する。動的共有結合ヒドロゲルは、細胞、生物活性剤、可視化剤及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される成分を更に含んでもよい。
【0016】
本発明は、本明細書に定義される通りのヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア、又は本明細書に定義される通りの動的共有結合ヒドロゲル、及び少なくとも1種の薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物に更に関する。
【0017】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、第1のヒドロゲル前駆体ポリマー及び第2の前駆体ヒドロゲルポリマーが、マルチバレルシリンジ、好ましくはダブルバレルシリンジに含有されているようなものである。
【0018】
本発明はまた、治療剤として使用するための、本明細書に定義される通りのヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア、又は本明細書に定義される通りの動的共有結合ヒドロゲル、又は本明細書に定義される通りの医薬組成物に関する。
【0019】
本発明はまた、例えば、細胞療法、組織工学、再生医療、関節内補充療法、in vivoにおける細胞及び/又は生物活性剤の送達において、治療剤として使用するための、本明細書に定義される通りのヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア、又は本明細書に定義される通りの動的共有結合ヒドロゲル、又は本明細書に定義される通りの医薬組成物に関する。
【0020】
本発明は、本明細書に定義される通りのヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア、又は本明細書に定義される通りの動的共有結合ヒドロゲル、又は本明細書に定義される通りの医薬組成物、及び架橋ペア、動的共有結合ヒドロゲル又は医薬組成物の使用説明書を含むキットに更に関する。
【0021】
本発明はまた、動的共有結合ヒドロゲルを調製するための方法であって、本明細書に定義される通りの架橋ペアの第1のヒドロゲル前駆体ポリマー及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーを混合して、動的共有結合ヒドロゲルを得る工程を含む、方法に関する。
【0022】
ある特定の実施形態では、動的共有結合ヒドロゲルを調製するための方法は、生理的条件下で実施される。
【0023】
本発明のこれら及び他の目的、利点及び特徴は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明を読むことで当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】Wulff-PBA修飾及びグルカミン修飾ポリマー前駆体の混合物から作製された動的共有結合ヒドロゲルの粘弾性挙動を示す図である。Wulff-PBA修飾ヒアルロン酸及びグルカミン修飾ヒアルロン酸を体積比1:2で混合すると、貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G")は、周波数の範囲にわたって測定した場合、予想されるクロスオーバーを示す。
【
図2】Wulff-PBA修飾及びグルカミン修飾ポリマー前駆体の混合物で作製された動的共有結合ヒドロゲルの自己治癒特性を示す図である。(A)定性的に、2種のヒアルロン酸(HA)ベースの動的共有結合ヒドロゲルは、数分以内に単一のヒドロゲルを形成し、これはそれ自身の質量を支持しうる。(B)高周波数におけるゲルの反復崩壊(G'<G")及び初期機械的特性の回復(G'>G")を示す、低(1Pa)及び高(500Pa)の交互応力下、1Hzの一定周波数での典型的なHAベースの動的共有結合ゲル配合物(体積比1:1でHA-グルカミンと混合した1%(w/v)HA-Wulff-PBA)に対する時間掃引測定。
【
図3】ヒアルロン酸ベースの動的共有結合ヒドロゲルの分子量(100kDa対500kDa)及びポリマー含有量(1%対3%(w/v))を変動させた動的共有結合ゲルの粘弾性挙動の調節可能性の概念実証を示す図である。貯蔵刺激(storage stimulus)(G')及び損失弾性率(G")は、周波数の関数として測定した。
【
図4】1%対2%(w/v)ポリマー濃度における、体積比1:1のHA-Wulff-PBA及びHA-グルカミンを使用した、ヒアルロン酸(HA)ベースのヒドロゲルの膨潤/安定性研究を示す図である。これらのゲルのポリマー濃度を調節することにより、3日以内に最小限の膨潤及び安定化、続いて長期安定性(少なくとも1か月)を示す最適な配合で、それらの膨潤及び安定性を制御することが可能になる。
【
図5】Wulff-PBA又はグルカミンのいずれかで修飾した種々の天然及び合成ポリマーから得られた動的共有結合ヒドロゲルの概念実証を示す図である。周波数の関数として測定した、(A)体積比1:1で1%(w/v)HA-グルカミンと混合した1%(w/v)ポリ(エチレングリコール)(PEG)-Wulff-PBA、(B)体積比1:1で1%(w/v)アルギネート-グルカミンと混合した1%(w/v)アルギネート-Wulff-PBA、及び(C)体積比1:1で1%(w/v)カルボキシメチルセルロース-グルカミンと混合した1%(w/v)カルボキシメチルセルロース-Wulff-PBAの貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G")。
【
図6】共焦点顕微鏡及び生/死染色を使用した、典型的な動的共有結合ヒドロゲル(体積比1:1で1%(w/v)HA-グルカミンと混合した1%(w/v)HA-Wulff-PBA)にカプセル化された脂肪由来の多能性間質細胞の生存の評価を示す図である。
【
図7】生理的条件のpH及び温度下でのヒアルロン酸(HA)に固定された異なるボロン酸-ジオールカップルのレオロジー特性(周波数掃引;G'、せん断弾性率)の比較を示す図である(実施例2、段落Iを参照されたい)。
【
図8】様々な粘弾性プロファイルを示すHA-Wulff-PBA及びHA-グルカミンの動的共有結合ヒドロゲルのこれらの特に最適化された配合物の貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G")を示す図である。異なる分子量(300kDa、200kDa又は100kA)、HAの異なる総濃度(1%又は3% w/v)、2種の成分について異なる置換度(HA-wPBA = 26%又は40%;HA-グルカミン - 52%)を有するHAポリマーを使用した一方、wPBA:グルカミンのモル比は、1:1で一定に維持した(実施例2、段落IIを参照されたい)。
【
図9】最小限から非収縮/非膨潤ボロン酸ベースのヒドロゲルの設計を示す図である。時間の関数としてのヒドロゲル質量比の変動を、(A)HA-Wulff-PBA及びHA-グルカミンの動的共有結合ヒドロゲル(300kDa HAポリマーは1%w/vの総濃度で存在し、HA-wPBAの置換度は26%であり、HA-グルカミンの置換度は52%であり、wPBA:グルカミンのモル比は1:1であった);並びに(B)HAポリマーが200kDaの分子量を有したことを除いて同一の、HA-Wulff-PBA及びHA-グルカミンの動的共有結合ヒドロゲルについて報告する。時間の関数としてのヒドロゲル質量比の変動は、PBS(A及びB)、2種の異なる培養培地(A)、並びにグルコース、グルカミン及びヒアルロニダーゼの存在下(A)で研究した(実施例2、段落IIを参照されたい)。
【
図10】ボロン酸エステルゲルの細胞適合性を示す図である。ネズミ線維芽細胞(L929細胞株)を、本発明によるボロン酸エステルヒドロゲル(300kDa HA;[HA]=1% w/v;Wulff-PBA置換=26%;グルカミン置換=52%;Wulff-PBA:グルカミン比=1:1)にカプセル化し、細胞適合性を、細胞生存率 (生/死細胞画像化)、代謝活性(CCK-8)及び増殖(PicoGreen)アッセイを介して評価した。結果は、ヒドロゲルへの細胞のカプセル化後0、1及び2日目について報告する。細胞生存率グラフの右側の画像は、3D細胞培養の2日後に観察された高細胞生存率(≧98%)の代表的な画像である(実施例2、段落IIIを参照されたい)。
【
図11】最適化動的共有結合ヒドロゲルは、プリント可能であることを示す図である。上の3つの画像は、良好なバランスの押出圧力及び速度が、どのようにボロン酸エステルヒドロゲルの連続し、十分に分解されたフィラメントのプリントを可能にするかを示す。中央のグラフは、成功裡に本発明のボロン酸エステルヒドロゲルをプリントするために使用できる押出/圧力カップルの大きな範囲を緑色で強調する一方、フィラメントの破壊につながる条件を黄色で、不十分に分解されたフィラメントをもたらす条件を赤色で示している。下の画像は、1層及び複数層のゲルから成功裡にプリントされた形状を例示する(実施例2、段落IVを参照されたい)。
【
図12】「クリック」化学反応との本発明の架橋機序の組合せを示す図である。(A)スキームは、得られるゲルの組成及び物理化学的特性を調節するための「クリック」化学反応との架橋機序の潜在的組合せを強調する。バイオプリントの特定の文脈において、そのような戦略は、プリント後構築物を機械的に強化するために使用できる。(B)は、適切な「クリッカブル」ポリマーを含有する媒体への浸漬の際のプリント後構築物の機械的強化の成功を示すグラフである。この例では、ビシクロニン(bicyclonyne)(BCN)及びアジド(N
3)の間の歪み促進アジド-アルキン環化付加(SPAAC)を、「クリック」反応のモデルとして使用した。ボロン酸エステルゲルを、BCNで化学修飾し、アジド修飾ヒアルロナン(100kDa)でのプリント後修飾を可能にした(実施例2、段落Vを参照されたい)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上で言及した通り、本発明は、ヒドロゲル前駆体ポリマー及び動的共有結合ヒドロゲル、そのような前駆体又はヒドロゲルを含む医薬組成物、並びに様々な用途におけるそれらの使用を提供する。
【0026】
I- ヒドロゲル前駆体ポリマーのペア
1. ヒドロゲル前駆体ポリマー
本発明は、一緒に混合された場合に架橋することが可能な架橋カップル又はヒドロゲル前駆体ポリマーのペアを提供する。本発明による架橋カップル又はヒドロゲル前駆体ポリマーのペアは、フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体によって修飾された第1のヒドロゲル前駆体ポリマー、及びグルカミンによって修飾された第2のヒドロゲル前駆体ポリマーで構成される。「カップル」、「ペア」、「架橋カップル」及び「架橋ペア」という用語は、本明細書において互換的に使用される。それらは、2種のヒドロゲル前駆体ポリマーの関係又は組合せを指し、ポリマーは、互いに分離されているが、混合された場合、架橋によって動的共有結合ヒドロゲルを形成する。言い換えると、「カップル」、「ペア」、「架橋カップル」及び「架橋ペア」という用語は、本明細書で使用される場合、それらの混合物、ブレンド及び同義のものを除外する。本明細書で使用される場合、「ヒドロゲル前駆体ポリマー」という用語は、架橋分子、例えば、ヒドロゲルのネットワークを形成する反応において役割を果たしうるポリマーを指す。したがって、本明細書に定義される通りのペアにおけるヒドロゲル前駆体ポリマーは、本発明による動的共有結合ヒドロゲルを形成する材料と同じ材料であるが、それらは、互いに接触せず、したがって、ペアとして架橋を受けることはない。
【0027】
A. ポリマー
ポリマー前駆体が生物学、生物医学又は医学用途に使用される本発明の実施形態では、第1及び第2のポリマーのうちの少なくとも一方は、生体適合性、生物分解性、親水性ポリマーである。「生体適合性」という用語は、ポリマーを特徴付けるために本明細書で使用される場合、細胞及び/又は生体組織に対して重大な毒性がなく、健康な個体において免疫病原性応答を誘発しないポリマーを指す。「生物分解性」という用語は、ポリマーを特徴付けるために本明細書で使用される場合、生きている生物の活動、光、空気、水又はそれらの任意の組合せにより分解するポリマーを指す。好ましくは、生物分解性ポリマーは、哺乳動物の身体内で、正常な生理的条件で代謝又は排泄されるのに十分小さい非毒性分子に経時的に崩壊するポリマーである。本明細書で使用される場合、「親水性ポリマー」は、水への親和性を有する基を有するポリマー(又はコポリマー)を指す。「親水性ポリマー」という用語は、ASTM D570試験によって決定して、24時間以内にその質量の0.5%超、及び平衡状態において4%超の水を吸収するポリマーを包含する。
【0028】
本発明によるペアの第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーは、独立して、天然ポリマー、半合成ポリマー及び合成ポリマーからなる群から選択される。ポリマー前駆体が生物学、生物医学又は医学用途に使用される本発明の実施形態では、ペアの第1及び/又は第2のヒドロゲル前駆体ポリマーは、独立して天然ポリマー、半合成ポリマー及び合成ポリマーからなる群から選択される生体適合性、生物分解性、親水性ポリマーである。
【0029】
ある特定の実施形態では、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーのうちの少なくとも一方は、天然ポリマーの中から選択される。「天然ポリマー」及び「バイオポリマー」という用語は、本明細書において互換的に使用され、天然に存在するポリマー(すなわち、天然に見出されるが、ヒトの介入が関与する方法、例えば、単離、精製、合成調製、組換え調製等を使用して得られたものであってもよいポリマー)を指す。ある特定の好ましい実施形態では、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーの両方が、天然ポリマーである。本発明における使用に好適な天然ポリマーの例としては、天然に存在する多糖、コラーゲン及びゼラチンが挙げられる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「多糖」という用語は、その分野で理解される意味を有し、鎖状に配置され、グリコシド結合を介して連結した10~最大数千個の単糖で構成される複合炭水化物を指す。多糖の部分として現れる最も一般的な単糖は、グルコース、フルクトース、ガラクトース及びマンノースである。天然に存在する多糖の分子量は、数百~数千ダルトンの間で様々である。
【0031】
例示的な多糖としては、これらに限定されないが、アラビナン、フルクタン、フカン、ガラクタン、ガラクツロナン、グルカン、マンナン、キシラン(例えば、イヌリン)、レバン、フコイダン、カラゲナン、ガラクトカロロース、ペクチン酸、ペクチン、アミロース、プルラン、グリコーゲン、アミロペクチン、セルロース、デキストラン、デキストリン、デキストロース、グリコース、ポリグルコース、ポリデキストロース、プスツラン(pustulan)、キトサン、キチン、アガロース、ケラチン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン、ヒアルロン酸、アルギン酸(アルギネート)、キサンタンガム及びデンプンが挙げられる。天然に存在する多糖の他の例としては、他の天然ホモポリマー又はヘテロポリマー、例えば、アルドース、ケトース、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、デキストロース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、エリトルロース、リブロース、キシルロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトース、セロビオース、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グルクロン酸、グルコン酸、グルカル酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、グルコサミン、ガラクトサミン及びノイラミン酸、並びに、天然に存在するそれらの誘導体のうちの1種又は複数を含有するものが挙げられる。
【0032】
ある特定の好ましい実施形態では、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーのうちの少なくとも一方は、ヒアルロン酸、アルギネート、セルロース、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、キトサン及びキチンからなる群から選択される天然に存在する多糖である。
【0033】
ある特定の実施形態では、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーのうちの少なくとも一方は、コラーゲンである。本明細書で使用される場合、「コラーゲン」という用語は、その分野で理解される意味を有し、哺乳類のプロテオーム中に最も遍在するタンパク質を指す。コラーゲンは、細胞外マトリックス及び結合組織の大部分を形成し、身体の組織に強度及び柔軟性を提供する。任意の種類のコラーゲンが、本発明の実施に使用されてもよい。したがって、コラーゲンは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、VI型コラーゲン及びそれらの任意の組合せの中から選択されうる。好ましくは、コラーゲンは、ヒト供給源又はブタ供給源に由来する。
【0034】
ある特定の実施形態では、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーのうちの少なくとも一方は、ゼラチンである。本明細書で使用される場合、「ゼラチン」という用語は、その分野で理解される意味を有し、極希酸により動物の皮膚及び骨から単離したコラーゲンの熱変性から調製した、又は魚の皮から抽出した動物性タンパク質を指す。ゼラチンは、一本鎖又は複数鎖ポリペプチドの異種混合物であり、各々、伸張左巻きプロリン螺旋構造を有し、50~1000の間のアミノ酸を含有する。ゼラチンの総アミノ酸含有量のうちのおよそ半分は、グリシン残基(3残基毎に配置された、ほぼ3つに1つの残基)、プロリン残基及び4-ヒドロキシプロリン残基である。
【0035】
ある特定の実施形態では、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーのうちの少なくとも一方は、修飾バイオポリマーの中から選択される。「修飾バイオポリマー」及び「半合成ポリマー」という用語は、本明細書において互換的に使用され、化学的に修飾された天然に存在するポリマーを指す。本発明における使用に好適な修飾バイオポリマーの例としては、誘導体化セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシ-プロピルセルロース、メチルセルロース及びメトキシ-セルロース);誘導体化ヒアルロン酸(例えば、アミン修飾ヒアルロン酸及びエステル化ヒアルロン酸);及び誘導体化コラーゲン(例えば、アミノ修飾コラーゲン及びエステル化コラーゲン)が挙げられる。
【0036】
ある特定の好ましい実施形態では、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーのうちの少なくとも一方は、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピル-セルロース、メチルセルロース及びメトキシセルロースからなる群から選択される生体適合性、生物分解性、親水性半合成ポリマーである。
【0037】
ある特定の実施形態では、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーのうちの少なくとも一方は、合成ポリマーから選択される。本明細書で使用される場合、「合成ポリマー」という用語は、天然に存在するポリマーでも半合成ポリマーでもないポリマーを指す。本発明の文脈における使用に好適な合成ポリマーの例としては、これらに限定されないが、ポリ(アクリル酸)及びその誘導体、ポリ(エチレングリコール)及びそのコポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(2-ヒドロキシ-エチルメタクリレート)、ポリホスファゼン、ポリカプロラクトン又はそのコポリマーが挙げられる。他の例としては、ポリアクリレート誘導体、ポリメタクリレート誘導体(例えば、PEGMA)、ポリイソプレン、ポリアミド、合成ポリペプチド(例えば、PBLG)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)及びポリカプロラクトン(PCL)が挙げられる。
【0038】
当業者であれば、上記に提供されるポリマーのリストは網羅的ではなく、他の同様のポリマーに拡大されうることを理解するであろう。
【0039】
本発明の文脈において、ヒドロゲル前駆体ポリマーは、任意の好適な分子量を有してもよい。例えば、ポリマーは、約5000g/mol~約3000000g/mol、好ましくは、約10000g/mol~約700000g/molの分子量を有してもよい。数を参照する「およそ」及び「約」という用語は、本文書で使用される場合、別途述べられない限り、又は別途文脈から明らかでない限り、一般に、数のいずれの方向(数よりも大きい又は小さい)にも10%の範囲内である数を含む(そのような数が可能な数の100%を超えると考えられる場合を除く)。
【0040】
B. フェニルボロン酸及びフェニルボロン酸誘導体
本発明による第1のヒドロゲル前駆体ポリマーは、フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体によって修飾されている。「フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体によって修飾された」という用語は、ポリマーを特徴付けるために本明細書で使用される場合、フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体とグラフトされたポリマー(すなわち、ポリマーがフェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体により官能化されるようにフェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体に共有結合により連結したポリマー)を指す。フェニルボロン酸(又はフェニルボロン酸誘導体)分子は、(ボロン酸基に対して)そのオルト、メタ又はパラ位を介してポリマーに共有結合していてもよい。
【0041】
「フェニルボロン酸」という用語は、本明細書で使用される場合、下記の化学式(I)を有し、PhB(OH)2又はPBAと略記される分子を指す。
【0042】
【0043】
本明細書で使用される場合、「フェニルボロン酸誘導体」という用語は、オルト、メタ又はパラ一置換フェニルボロン酸、Wulff型フェニルボロン酸及びベンゾキサボロールからなる群から選択されるフェニルボロン酸の誘導体を指す。
【0044】
本明細書で使用される場合、「置換」という用語は、記載されている特定の基又は化合物が、非水素置換基によって置き換えられた少なくとも1個の水素原子を有することを示す。本発明の文脈において、フェニルボロン酸分子は、そのような置換が化学的に意味をなす程度に置換されている。好適な置換基の例としては、これらに限定されないが、アルキル、ニトロ(-NO2)、スルホ(-SO4
-)、シアノ(-CN)、ハロゲン(F、Br、Cl又はI)、アミン(-NRR'、R及びR'の各々は独立して、H又はアルキルである)、ヒドロキシル(-OH)、スルフィドリル(sulfydryl)(-SH)、アルコキシ(alcoxy)(-OR、Rは、アルキルである)、アルキルチオ(-SR、Rは、アルキルである)、アルキルスルホ(-O-SO2-O-R、Rは、アルキルである)、アルデヒド(-CHO)、ケトン(-CO-R、Rは、アルキルである)、エステル(-COO-R又は-OCO-R、Rは、アルキルである)、アミド(-CO-NRR'、R及びR'の各々は独立して、H又はアルキルである)、カルボン酸(-COOH又は-COOM、Mは、好適なカチオン、例えば、ナトリウム又はカリウムである)、及びスルホン酸(-SO3H又は-R-SO3H、Rは、アルキルである)基が挙げられる。当業者は、置換基が、ポリマー上へのPBAのグラフトと不適合であるように置換フェニルボロン酸を選択する方法を知っているであろう。
【0045】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、1~10個の炭素原子(C1~C10アルキル)、例えば、1~8個の炭素原子(C1~C8アルキル)又は1~5個の炭素原子(C1~C5アルキル)の不飽和炭化水素から誘導された一価直鎖又は分枝鎖基を指す。代表的な飽和直鎖アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル及びn-デシルが挙げられ;一方、飽和分枝状アルキルとしては、イソプロピル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、イソペンチル等が挙げられる。アルキル基は、任意選択で置換されていてもよい。例えば、アルキル基は、ニトロ、スルホ、シアノ、ハロゲン、アミン、ヒドロキシル、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、カルボン酸及びスルホン酸基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基によって置換されていてもよい。
【0046】
一置換フェニルボロン酸の具体例としては、これらに限定されないが、2-(又は3-又は4-)ブロモフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)クロロフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)フルオロフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)ヨードフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)ニトロフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)メルカプトフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)ヒドロキシフェニルボロン酸、3-スルファモイルベンゼンボロン酸、2-(又は3-又は4-)アミノフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)(トリフルオロメトキシ)フェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)シアノフェニルボロン酸、2-(3-又は4-)ホルミルフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)カルボキシフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)(ブロモメチル)フェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)アミノカルボニルフェニルボロン酸、o-トリルボリン酸、m-トリルボロン酸、p-トリルボロン酸、2-(又は3-又は4-)(メチルチオ)フェニルボロン酸、2-メトキシ(又は3-又は4-)フェニルボロン酸、(又は3-又は4-)(ヒドロキシメチル)フェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)メチルスルフィニルフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)メチルスルホニルフェニルボロン酸、(2-(又は3-又は4-)[(メチルアミノ)スルホニル]-フェニル)ボロン酸、(2-(又は3-又は4-)[(メチルスルホニル)-アミノ]フェニル)ボロン酸、(2-(又は3-又は4-)アミノ-メチルフェニル)ボロン酸、3-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)フェニルボロン酸、4-(シアノメチル)ベンゼンボロン酸、4-シアノ-メトキシフェニルボロン酸、4-(2-ニトロビニル)フェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)ビニル-フェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)アセチルフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)メトキシカルボニルフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)アセトアミドフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)エチルフェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)エトキシフェニルボロン酸、3-(エチルチオ)フェニルボロン酸、3-エチルスルフィニルフェニルボロン酸、4-エチルスルフィニル-フェニルボロン酸、3(N,N-ジメチルアミノ)フェニルボロン酸、4-(メチルスルホニル-アミノメチルフェニル)ボロン酸、2-(又は3-又は4-)エトキシカルボニルフェニルボロン酸、(4-アセトアミドメチルフェニル)ボロン酸、2-(ジメチルアミノカルボニル)ベンゼンボロン酸、4-(ジメチルカルバモイル)-フェニルボロン酸、2-(又は3-又は4-)イソプロピルフェニルボロン酸、4-プロピルフェニルボロン酸、3-プロポキシフェニルボロン酸、[3-(3-ヒドロキシル-プロピル)フェニル]ボロン酸、4-(3-ヒドロキシプロピル)ベンゼンボロン酸、4-イソプロポキシル-フェニル-ボロン酸、4-プロポキシル-フェニルボロン酸、3-tert-ブチルフェニルボロン酸、4-tert-ブチルフェニルボロン酸、4-ブチルフェニルボロン酸、2-(3-又は4-)ブトキシ-フェニルボロン酸、2-イソブトキシ-フェニルボロン酸、3-イソブトキシフェニルボロン酸、4-(ジメチル-アミノ)フェニルボロン酸、3-(イソブチルアミノカルボニル)フェニルボロン酸、及び4-(イソブチルアミノカルボニル)フェニルボロン酸が挙げられる。
【0047】
「Wulff型フェニルボロン酸」という用語は、本明細書で使用される場合、正方晶ボロン酸アニオン(sp3)の形成を促進する分子間四配位B-N(化学式(II))結合を含有するフェニルボロン酸誘導体を指す。sp3ハイブリダイゼーションの状態は、中性又はわずかに酸性の条件下でさえ安定なままであり、cis-ジオールによるボロン酸エステル化を促進する。
【0048】
【0049】
Wulff型フェニルボロン酸は、記載されている(Wulffら、Pure Appl.Chem.、1982、54: 2093~2102頁;Wulffら、Angew Chem., Int. Ed. Engl.、1984、23: 741~742頁)。好適なWulff型フェニルボロン酸の例としては、これらに限定されないが、2-((ジメチルアミノ)メチル)フェニルボロン酸(DAPBA)が挙げられる。2-ジメチルアミノメチルフェニルボロン酸(DAPBA)の構造と同様のWulff型ボロン酸は、生物医学用途において大きな関心の対象である(Cromwellら、J. Am. Chem. Soc.、2015、137: 6492~6495頁;Piestら、Soft Matter、2011、7: 11111頁;Liら、Chem. Commun.、2011、47: 8169頁;Kimら、J. Am. Chem. Soc.、2009、131: 13908~13909頁)。
【0050】
ある特定の好ましい実施形態では、Wulff型フェニルボロン酸は、式(II)(式中、R及びR'は独立して、水素、置換又は非置換C1~C20アルキル、置換又は非置換C1~C10アルケニル、置換又は非置換C1~C10アルキニル、アシル(-C(=O)R1、R1は、置換又は非置換C1~C20アルキル基である)、及びカルボキシ(-C(=O)OR1、R1は、置換又は非置換C1~C20アルキル基である)から選択される。アルキル、アルケニル及びアルキニル基は、1つ又は複数の置換基、例えば、ハロゲン(F、Br、I、Cl)、ヒドロキシ(-OH)、アミノ(-NR2R3、R2及びR3は独立して、水素及び置換又は非置換C1~C20アルキルから選択される)、アルコキシ(-OR1、R1は、置換又は非置換C1~C20アルキル基である)、カルボキシ(-C(=O)OR1、R1は、置換又は非置換C1~C20アルキル基である)、アミド(-NR2C(=O)R3又は-C(=O)NR2R3、R2及びR3は独立して、水素及び置換又は非置換C1~C20アルキルから選択される)、ニトロ(-NO2)、オキソ(=O)及びシアノ(-CN)から選択される置換基で置換されていてもよい。
【0051】
式(II)のWulff型フェニルボロン酸はまた、R及びR'のうちの1つが、Wulff型フェニルボロン酸がグラフトされることになるポリマーに結合するか又はそれと反応することが可能な遊離(非結合末端)反応性基を含む連結部分又はスペーサーであるようなものであってもよい。「連結部分」、「リンカー」及び「スペーサー」という用語は、本明細書において互換的に使用され、少なくとも8個の原子の長さ、例えば、10個超、20個超、30個超、35個超、40個超又は50個超の原子の長さの主鎖を有する部分を指す。リンカーは、直鎖状、分枝状、環状又は単原子であってもよい。ある特定の場合、リンカーは、硫黄、窒素又は酸素ヘテロ原子で置換されている。主鎖原子間の結合は、飽和又は不飽和であってもよい。リンカーは、1つ又は複数の置換基を含んでもよい。
【0052】
ある特定の実施形態では、式(II)のWulff型フェニルボロン酸のフェニル基は、少なくとも1つの置換基で置換されている(上記の定義を参照されたい)。ある特定の実施形態では、置換基は、第1のポリマー上へのWulff型フェニルボロン酸のグラフトを可能にするように選択される。或いは、フェニル基の置換基は、第1のポリマー上へのWulff型フェニルボロン酸のグラフトに使用できる官能基で終端した連結部分である。
【0053】
式(II)のWulff型フェニルボロン酸のフェニル基はまた、ヘテロアリール基で置き換えられることも想定される。本明細書で使用される場合、「ヘテロアリール」という用語は、N、O及びSから選択される1、2又は3個の環ヘテロ原子を含有し、残りの環原子は炭素原子である少なくとも1つの芳香族環を有する5~10個の環原子の単環式又は二環式基を指し、ヘテロアリール基の結合点は、芳香族環上であることが理解される。ある特定の実施形態では、ヘテロアリールは、ヘテロフェニル基である。本明細書で使用される場合、「ヘテロフェニル」という用語は、少なくとも1個の炭素原子が、N、O及びSから選択されるヘテロ原子によって置換されたフェニル基を指す。
【0054】
「ベンゾキサボロール」という用語は、本明細書で使用される場合、環式ボロン酸半エステル、特に、化学式(III)を有する二環式有機ヘテロ環を指す。
【0055】
【0056】
分子間B-O配位を有するそのような化合物(Berubeら、J. Org. Chem.、2008、73: 6471~6479頁;Dowlutら、J. Am. Chem. Soc.、2006、128: 4226~4227頁)は、記載されている。
【0057】
ある特定の好ましい実施形態では、ベンゾキサボロールは、式(III)(式中、nは、1、2、3、4、5、6、7又は8に等しい整数であり、フェニル環は、少なくとも1つの置換基によって置換されている(上記の定義を参照されたい))を有する。したがって、式(III)において、Rは、1つ又は複数(すなわち、1、2、3又は4つ)の置換基である。置換基のうちの少なくとも1つは、第1のポリマー上へのベンゾキサボロールのグラフトを可能にするように選択される。或いは、式(III)のフェニル基の置換基は、第1のポリマー上へのベンゾキサボロールのグラフトに使用できる官能基で終端した連結部分である。式(III)のベンゾキサボロールのフェニル基はまた、ヘテロアリール基、例えば、ヘテロフェニル基で置き換えられることも想定される。
【0058】
C. グルカミン
本発明による第2のヒドロゲル前駆体ポリマーは、グルカミンによって修飾されている。本明細書で使用される場合、「グルカミンによって修飾された」という用語は、グルカミンとグラフトされたポリマー(すなわち、ポリマーがグルカミンで官能化されるようにグルカミンに共有結合により連結したポリマー)を指す。本明細書で使用される場合、「グルカミン」という用語は、下記の化学式(IV)を有する分子を指す。グルカミンはまた、D-グルカミンとしても公知であり、そのIUPAC名は、(2R,3R,4R,5S)-6-アミノヘキサン-1,2,3,4,5-ペントールである。
【0059】
【0060】
2. ヒドロゲル前駆体の調製
フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体によって修飾された第1のヒドロゲル前駆体ポリマー、及びグルカミンによって修飾された第2のヒドロゲル前駆体ポリマーは、当技術分野で公知の任意の好適な方法を使用して、又は当技術分野で公知の方法から適合した手順を使用して、調製されうる。ポリマーにフェニルボロン酸をグラフトするための方法は、当技術分野で公知である(Ryuら、Curr. Med. Chem.、2018、doi: 10.2174/092986732566618100814443、Brooks及びSumerlin、Chem. Rev.、2016、3: 1375~1397頁;Guan及びZhang、Chem. Soc. Rev.、2013、42: 8106~8121頁)。同様に、ポリマーにジオールをグラフトするための方法は、当技術分野で公知である(Tarusら、Macromol. Rapid Commun.、2014、35: 2089~2095頁;Figueiredoら、Tangら、Adv. Sci.、2018、5(9): 1800638;Yesilyurtら、Adv. Mater.、2015、28(1): 86~91頁)。
【0061】
ある特定の実施形態では、グラフトは、下記の実施例の節に記載される方法を使用して実施されうる。
【0062】
グルカミンによって修飾された第2のヒドロゲル前駆体ポリマーを得るための反応により、制御された方式で、広範囲(例えば、約0.5%~約100%、例えば、約1%~約99%のどこでも)にジオール置換レベルを変更することが可能になる。実際、グルカミンは完全に可溶性であるため、グルカミンがポリマーをより疎水性にすることはない。したがって、ポリマー及びグルカミンの間のモル比は限定されない。
【0063】
ヒドロゲル前駆体ポリマーは、当技術分野で公知の任意の方法を使用して精製されうる。好適な精製方法の例としては、これらに限定されないが、洗浄、ろ過、沈殿、デカンテーション、遠心分離、蒸留等又はそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0064】
所望の場合、調製後、第1及び第2のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は、使用前に又は保存のために溶液中に入れられる。好ましい溶液は、約6~約8の間のpHを有する水溶液である。ある特定の好ましい実施形態では、水溶液は、生理学的に適合性の溶液、例えば、緩衝等張生理食塩水である(下記の「配合物」を参照されたい)。
【0065】
或いは、所望の場合、調製後、第1及び第2のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は、真空下で、実質的に無水形態又は粉末に乾燥(例えば、冷凍乾燥又は凍結乾燥)される。その後、粉末は、使用前に再水和されてもよい。
【0066】
所望の場合、調製後、ヒドロゲル前駆体ポリマーは、滅菌されてもよい。滅菌は、当技術分野で公知の多様な滅菌技術のいずれかを使用して、例えば、バクテリア保持フィルターによって、ガンマ線照射によって、電子線照射によって、又は使用前に滅菌水若しくは他の滅菌注射用媒体に溶解又は分散できる無菌固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことによって実施されうる。
【0067】
ヒドロゲル前駆体ポリマーは、適切な条件下で、液体形態又は固体形態のいずれかで保存されうる。ポリマーのための適切な保存条件は、当技術分野で公知である。例えば、凍結乾燥/無水ヒドロゲル前駆体ポリマーは、-20℃で密封容器中に保存されうる。ヒドロゲル前駆体ポリマーは、数日、数週間又は数か月の期間、適切な条件下で保存されうる。
【0068】
ある特定の実施形態では、第1及び第2のヒドロゲル前駆体の各々は、レシピエント、例えば、バイアル、フラスコ又は他の密封性容器に入れられる。ヒドロゲル前駆体溶液が使用される場合、各々の溶液は、混合した第1及び第2のヒドロゲル前駆体を、ニードル(カニューレ)を通して、対象の身体に同時押出及び同時混合及び同時注射する前に、シリンジ、例えば、ダブルバレルシリンジ、又は第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーが物理的に分離された任意の他の好適なシリンジシステムに入れられてもよい(下記の「キット」を参照されたい)。
【0069】
3. 追加成分
ヒドロゲル前駆体の架橋ペアの意図される使用に応じて、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマー又はヒドロゲル前駆体溶液のうちの少なくとも一方は、細胞、生物活性剤、可視化剤又はそれらの組合せを含んでもよい。そのような細胞、生物活性剤及び可視化剤の例は、下記に提供される(下記の医薬組成物及びキットを参照されたい)。
【0070】
生物活性剤又は可視化剤は、共有結合又はイオンのいずれかにより、ヒドロゲル前駆体ポリマーのうちの少なくとも1種に結合していてもよい。或いは、生物活性剤又は可視化剤は、ヒドロゲル前駆体ポリマー又はヒドロゲル前駆体ポリマー溶液のうちの少なくとも1種と混合されてもよい。
【0071】
本発明の動的共有結合ヒドロゲルの生物医学用途の範囲を広げることを目的として、ヒドロゲル前駆体の架橋ペアの第1のヒドロゲル前駆体ポリマー又は第2のヒドロゲル前駆体ポリマーは、反応性化学部分、特にバイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分に共有結合により連結するように修飾されてもよい。バイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分の存在は、時間及び空間において、ヒドロゲルの物理化学的特性を調節するために使用されてもよい。例えば、その存在は、プリント後のバイオプリント構築物を安定化及び/又は機械的に強化するために使用できる。或いは、又は加えて、バイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分の存在は、目的の分子(例えば、ペプチド、成長因子、薬物、フルオロフォア等)のゲル化後の固定、細胞材料の相互作用が時間及び空間において調整される進化的な3D培養系の開発等を促進するために使用されてもよい。
【0072】
したがって、ある特定の実施形態では、ヒドロゲル前駆体の架橋ペアの第1のヒドロゲル前駆体ポリマー又は第2のヒドロゲル前駆体ポリマーは、バイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分に直接又は間接的に共有結合により連結している。本明細書で使用される場合、「バイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分」という用語は、「バイオ直交型化学反応又はクリック化学反応」に関与でき、化学反応パートナーのペアに属する反応性化学基を指す。バイオ直交型化学反応及びクリック化学反応は、当技術分野で公知のコンジュゲーション反応である。「バイオ直交型化学反応」という用語は、より詳細には、(1)生物系に天然に存在せず;(2)生物に存在する官能基と交差反応せず;且つ(3)細胞毒性触媒を必要としないか又は細胞毒性副生成物を生成しない化学反応ペアを使用する反応を指す。バイオ直交型化学反応の例としては、2種の反応パートナーであるアジド及び官能化トリアリールホスフィンを利用して安定なアミド結合を形成するStaudingerライゲーション;アジド及び歪みシクロオクチンを使用して、1,3-双極性環化付加を介した安定なトリアゾール連結を得る歪み促進アジドアルキン環化付加(SPAAC又は銅不含クリック化学);ニトロン及びシクロオクチンの間、又はノルボルネン及びニトリルオキシドの間(ノルボルネン環化付加)の1,3-環化付加;アルデヒド及びケトンからのオキシム/ヒドラジン形成;逆要求Diels Alder反応においてアルケン(例えば、trans-シクロオクテン、ノルボルネン)及びs-テトラジンを含み、続いて、逆Diels Alder反応により窒素ガスを除去するテトラジンライゲーション、イソシアニドベースのクリック反応、並びにクアドリシクランライゲーションが挙げられる。「クリック反応」、「クリック化学反応」及び「クリック化学」という用語は、本明細書において互換的に使用される。それらは、より詳細には、「モジュール式の、広範囲の、非常に好収率をもたらし、クロマトグラフィーによらない方法で除去できる害のない副生成物のみを生成し、立体特異的である」反応を指す(Kolbら、Angew. Chem., Int. Ed.、2001、40: 2004~2021頁)。そのような反応は、「単純な反応条件(理想的には、このプロセスは酸素及び水に感
受性であるべきではない)、容易に入手可能な出発材料及び試薬、溶媒を使用しないこと又は良性(例えば、水)若しくは容易に除去される溶媒を使用すること、並びに単純な生成物単離」を必要とするべきである(Kolbら、Angew Chem., Int. Ed.、2001、40: 2004~2021頁)。したがって、「クリック化学」という用語は、一部のクリック反応がバイオ直交型化学反応であるとしても、頑強であるが、生物学的文脈において目的外の効果を必ずしも有さないとは限らない、より広範囲の反応を包含する。クリック反応としては、1,4-コンジュゲート付加(すなわち、チオール-ビニルスルホン及びチオール-マレイミド反応)、アルデヒド-求核剤反応(ヒドラゾン及びオキシムライゲーション)、Diels-Alder反応、及び光活性化チオール-エンカップリングが挙げられる。
【0073】
本発明の実施において使用されるバイオ直交型官能性部分は、バイオ直交型パートナーのペアに属する一方、クリッカブル部分は、クリック反応パートナーのペアに属する。バイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分は、バイオ直交型パートナーのペア又はクリック反応パートナーのペアに属する任意の好適な化学基であってもよい。そのような反応パートナーの代表的なペアは、例えば、「Bioconjugate Techniques」、Greg T. Hermanson、1996、並びにPattersonら、ACS Chemical Biology、2014、9: 592~605頁;Spicerら、Nature Communications、2014、5: 4740頁;Madl及びHeilshorn、Advanced Functional Materials、2018、28(11): 1706046頁に記載されている。したがって、例えば、バイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分は、シクロオクテン; trans-シクロオクテン;テトラジン;アジド;歪みアルキンを含むアルキン、例えば、シクロオクテン又はシクロオクチン誘導体;アミン;活性化エステル;イソシアネート;イソチオシアネート;チオール;アルデヒド;アミド;ノルボルネン;アクリレート、メタクリレート等を含むビニル誘導体;ホスフィン、例えば、トリアリールホスフィン;ニトロン;クアドリシクラン;マレイミド;ヒドラゾン等からなる群から選択されうる。他のバイオ直交型官能性部分及びクリッカブル部分が使用されてもよい。
【0074】
バイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分は、直接又は間接的に(例えば、リンカーを介して)、ヒドロゲル前駆体の架橋ペアの第1のヒドロゲル前駆体ポリマー又は第2のヒドロゲル前駆体ポリマーに共有結合していてもよい。それは、第1のポリマー、フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体、第2のポリマー又はグルカミンに結合していてもよい。ある特定の好ましい実施形態では、バイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分は、直接又は間接的に(例えば、リンカーを介して)、第1のポリマー又は第2のポリマーに共有結合している。当業者であれば認識する通り、2つ以上のバイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分が、第1の又は第2のヒドロゲル前駆体に結合していてもよい。
【0075】
ある特定の実施形態では、バイオ直交型又はクリック反応を用いるコンジュゲーションは、典型的には、2工程戦略:まず、ヒドロゲル前駆体の架橋ペアの第1のヒドロゲル前駆体ポリマー又は第2のヒドロゲル前駆体ポリマーへのバイオ直交型官能性部分又はクリック部分の導入、続いて、動的共有結合ヒドロゲルの形成後、バイオ直交型又はクリックコンジュゲーションを介した所望の分子又は生体分子の導入を含む。
【0076】
他の実施形態では、バイオ直交型又はクリック反応を用いるコンジュゲーションは、二重格子ゲル(すなわち、2対2のネットワークを形成する4種のポリマーの混合物)の合成、又は共架橋(2つのネットワークに関与するポリマーとの3種のポリマーの混合物)に使用されてもよい。共架橋は、1工程又は2工程で実施されうる。
【0077】
II- 動的共有結合ヒドロゲル
本発明はまた、本明細書に記載される架橋ペアの2種のヒドロゲル前駆体ポリマーで構成される動的共有結合ヒドロゲルを提供する。本明細書で使用される場合、「ヒドロゲル」という用語は、その分野で理解される意味を有し、水又は他の水性媒体に不溶性であるが、水を吸収及び保持して、安定で、多くの場合軟らかくしなやかな構造を形成することが可能な3次元ポリマー構造を指す。ヒドロゲルが生物学、生物医学又は医学用途に使用される本発明の実施形態では、ヒドロゲルは、少なくとも1種の生体適合性、生物分解性、親水性ポリマーで構成されうる。架橋ヒドロゲルは、せん断応力の用途なしに流動又は変形しないことから、固体であると考えることができる。しかしながら、特定の配合を有する架橋ヒドロゲルは、重力の影響下で歪曲することがある。「ヒドロゲル」は、「ヒドロゲルスキャフォールド」又は「スキャフォールド」又は「粘弾性材料」と互換的に使用されてもよい。本発明によるヒドロゲルは、in vitroで形成できる。或いは、ヒドロゲルは、in situで形成されてもよく、すなわち、生きている動物又はヒトの身体の組織部位で形成されるヒドロゲルであってもよい(下記を参照されたい)。本発明によるヒドロゲルは、任意の数の細胞、生体分子及び/又は生物活性剤を更に封入するか又は含みうる(下記を参照されたい)。
【0078】
1. 動的共有結合ヒドロゲル
本発明によるヒドロゲルは、上記の通りのフェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体で修飾された第1のヒドロゲル前駆体ポリマー、及び上記の通りのグルカミンで修飾された第2のヒドロゲル前駆体ポリマーで構成され、第1及び第2のポリマーは、動的共有結合によって架橋されている。
【0079】
本明細書で使用される場合、「動的共有結合」という用語は、可逆的に形成及び解離できる共有結合を指す。例えば、動的系の構成成分は、化学環境(複合実体等)又は物理条件(温度、機械応力、電界、照射等)の変化に応答しうる。本発明の文脈において、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーは、第1のポリマーのボロン酸官能基及び第2のポリマーのジオール官能基の間に形成された動的共有結合によって架橋される。ボロン酸は、ボロン酸エステルの形成につながる1,2-及び1,3-ジオールとの可逆的共有結合を形成する能力を有する(Brighid Pappinら、Boron-Carbohydrate Interactions)。したがって、本発明によるヒドロゲルにおいて、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーは、ボロン酸エステル動的共有結合によって架橋される。
【0080】
本発明によるヒドロゲルは、「動的共有結合ヒドロゲル」である。ボロン酸エステル結合による架橋の動的特性は、せん断応力下での粘性流動(ずり減粘)及び適用された応力が緩和された場合の迅速な回復(自己治癒)を示すヒドロゲルをもたらす。本明細書で使用される場合、「自己治癒」という用語は、材料内で古い結合が破壊された場合の、新しい結合の自発的な形成を指す。したがって、本発明による自己治癒ヒドロゲルは、外部応力損傷を自律的に修復し、その元々の弾性率及び強度を実質的に回復する。応力は、典型的には、物理的な力及び/又は圧力を介して適用される。したがって、「自己治癒」は、外部応力にかけられたときに流動抵抗の低減したヒドロゲルが、外部応力が除去された後にその剛性及び強度をある程度又は全て取り戻すプロセスである。本明細書で使用される場合、「ずり減粘」という用語は、ヒドロゲルの粘度(流体の流動抵抗の測定値)が、せん断速度の増加又はせん断応力の増加に伴って減少する効果を指す。ずり減粘及び自己治癒ヒドロゲルは、外部調整可能な強度、成形性及び低エネルギー合成/加工を含む多くの固有の有用な特性を示す。ある特定の実施形態では、機械的せん断力の除去の際、元々のヒドロゲルは、30分以内、好ましくは約20分、若しくは約10分、若しくは約5分、若しくは約1分以内、又は約60秒、約45秒、約30秒、約15秒、約10秒、約5秒、若しくは約1秒以内に回復する。本発明者らによって調製されたヒドロゲルの場合、回復は数秒の桁であった。
【0081】
好ましくは、本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、生体適合性である。「生体適合性」及び「医学的に許容される」という用語は、本明細書において互換的に使用される。それらは、細胞及び/又は生体組織に対して重大な毒性がない材料を指す。医学用途において使用される場合、ヒドロゲルは、生理的環境に置かれた後に、炎症反応が最小限であり、アナフィラキシー反応がなく、生体材料の表面での望ましくない細胞成長が最小限である場合、生体適合性であると考えられる。宿主哺乳動物への移植の際、生体適合性ヒドロゲルは、ヒドロゲルの機能に悪影響を及ぼす程の宿主応答を誘発しない。そのような宿主応答としては、ヒドロゲル上又はその周りでの線維状構造の形成、ヒドロゲルの免疫拒絶、又はヒドロゲルから周囲の宿主組織及び/若しくは体液への毒性若しくは発熱性化合物の放出が挙げられる。
【0082】
好ましくは、本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、生物分解性である。本明細書で使用される場合、「生物分解性」という用語は、正常な生理的条件下で代謝又は排泄されるのに十分小さい分子へのヒドロゲルの予測可能な崩壊を指す。
【0083】
in vitro(又はex vivo)で調製された本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、任意の所望の形状(幾何)及び寸法(サイズ)のものであってもよい。当業者であれば理解する通り、形状及び寸法は、一般に、ヒドロゲルの意図される使用(例えば、3D細胞培養、組織工学等)によって規定される。形状決定及びサイズ決定は、埋込型デバイスを、画像化又は当業者に公知の他の技術によって決定される通りの、特定の患者における特定の処置部位に一致させる特注の形状決定及びサイズ決定を含みうる。
【0084】
ある特定の実施形態では、ヒドロゲルは、約50nm~約1000nmの間、好ましくは約100nm~500nmの間に含まれるサイズを有するミクロ粒子又はナノ粒子として形成されてもよい。これらのナノ粒子は、注射による投与に好適である。しかしながら、本明細書に記載されるヒドロゲルのずり減粘/せん断治癒特性に起因して、ミクロ粒子又はナノ粒子の使用は、易注射性に必要ではない。
【0085】
2. 動的共有結合ヒドロゲルの調製
本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、フェニルボロン酸又はフェニルボロン酸誘導体によって修飾された第1のヒドロゲル前駆体ポリマー、及びグルカミンによって修飾された第2のヒドロゲル前駆体ポリマーの間の架橋によって形成される。反応は、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーを混合する単一工程で行われ、各々のポリマーは、溶液に含有されている。
【0086】
架橋反応は、in vitro(ex vivoを含む、すなわち、対象への投与前のin vitro)で行われてもよい。或いは、ヒドロゲルは、in situ(例えば、生きている動物又はヒトの身体中の所与の部位で直接)形成されてもよい。この場合、ヒドロゲルの形成は、注射部位で2種のヒドロゲル前駆体ポリマーを混合することによって開始される。
【0087】
架橋反応は、生理的条件下、触媒の非存在下で実施される。本明細書で使用される場合、「生理的条件」という用語は、生体細胞と適合性である天然環境を模倣する人工環境、例えば、生体細胞と適合性である及び/又は任意選択で対象の投与若しくは作用部位において正常範囲内であると考え得られる温度、pH、浸透圧、質量オスモル濃度、酸化及び電解質濃度の主に水性条件を指す。架橋反応がin vitro(又はex vivo)で行われる場合、生理的条件は、約6~約8、好ましくは約7.2~7.4の範囲のpH、及び約4℃~約42℃の間に含まれる温度を有する水溶液を含む。架橋反応がin situで行われる場合、2種のヒドロゲル前駆体ポリマーは、およそ7.4(例えば、約7~7.6の間)の範囲のpH、及び約30℃~約42℃、好ましくは約37℃の温度を有する緩衝水溶液に入れられる。
【0088】
生理的pHでの動的ネットワークの形成は、アルカリ性pHでのみ安定に存在しうる他のボロネート-cis-ジオール複合体と比較して並外れている(Springsteenら、Tetrahedron、2002、58: 5291~5300頁;Peters、Coordination Chemistry Reviews、2014、268: 1~22頁)。
【0089】
反応混合物中、第1のヒドロゲル前駆体ポリマー及び第2のポリマー前駆体ポリマーの間のモル比は、動的共有結合ヒドロゲルを得られる任意の値であってもよい。ある特定の実施形態では、第1のヒドロゲル前駆体ポリマー及び第2のポリマー前駆体ポリマーの間のモル比は、約1:10~約10:1、例えば、約1:8~約8:1の間、又は約1:6~約6:1の間、又は約1:4~約4:1の間、又はなお約1:2~約2:1の間に含まれる。
【0090】
本発明の文脈において、架橋反応は、実質的に瞬時である。ある特定の実施形態では、架橋反応は、約1秒~約5分、例えば、約3秒~約1分、約10秒~約2分の時間フレーム内に起こりえ、例えば、ゲル化時間は、約30秒未満、又は約20秒未満、又はなお約10秒未満でありうる。例えば、架橋反応は、約10秒の時間フレーム内に起こりうる。
【0091】
所望の場合、in vitroにおける調製に続いて、動的共有結合ヒドロゲルは、当技術分野で公知の任意の好適な方法、例えば、ガンマ線照射、オートクレーブ処理、エチレンオキシド滅菌、赤外線照射及び電子線照射を使用して、滅菌されてもよい。滅菌方法は、それが、ヒドロゲルの有用な物理的及び/又は機械的特性の大幅な損失を誘導しない場合、使用に好適である。好適な滅菌方法を選択することは当業者の技能の範囲内である。
【0092】
in vitroにおいて調製された動的共有結合ヒドロゲルは、使用前に、低温(例えば、4℃)で無菌条件下で保存されてもよい。
【0093】
3. 動的共有結合ヒドロゲルの調製
本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、その粘弾性によって特徴付けることができる。「粘弾性」という用語は、ヒドロゲルを特徴付けるために本明細書で使用される場合、ローディングの時間及び/又は速度により変動しうるスキャフォールドによって提供される特徴を指すと意味される。したがって、適宜、粘弾性ヒドロゲルは、所定の組織又は部位において観察される特徴と一致する又はそれに近似するローディングの時間及び/又は速度の特徴を提供する(下記を参照されたい)。この特徴は、エネルギーの消散に関与し、これは、スキャフォールド自体によって及び/又はそこで成長する細胞との複合体としてのスキャフォールドによってもたらされうる。例えば、ヒドロゲルが修復、復元又は置換すること意図される組織の粘弾性特性に近似するスキャフォールドが提供されることが望ましい場合がある(下記を参照されたい)。
【0094】
本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、約10Pa~約10,000Paの間に含まれる、好ましくは約100Pa~約1000kPaの間に含まれるせん断貯蔵弾性率(G');及び約0.01Pa~約1000Paの間に含まれる、好ましくは約0.1kPa~約500Paの間に含まれるせん断損失弾性率(G")を有しうる。動的ゲルのG'及びG"値の測定は、典型的には、0.001~1000Hzの間に含まれる周波数の範囲で、0.1~10Paの間に含まれる応力拘束を使用して実施される。
【0095】
本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、最小限の膨潤を受け、高い安定性を示す。本明細書で使用される場合、「膨潤」という用語は、ヒドロゲルが流体(ここでは水)を吸収した場合に質量及び体積が増加するヒドロゲルの特性であると理解される。本明細書で使用される場合、「膨潤比」という用語は、実質的に完全に水和されたときのヒドロゲルの質量の、膨潤されていないときのその質量(すなわち、流体に浸漬される前の質量)に対する比を指す。膨潤比は、一般に、パーセンテージで提供される。当業者は、膨潤比を決定するための好適なプロセス及び測定方法を知っている。本明細書で使用される場合、「安定性」という用語は、ヒドロゲルを指す場合、経時的な膨潤比の変化がないことを意味する。本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、約100%~約300%の間に含まれる、例えば、約100%~約200%の間に含まれる膨潤比を有する。下記の実施例の節に提示される実験において(実施例1を参照されたい)、調製された動的共有結合ヒドロゲルの安定性は、35日にわたって(35日間実験について)観察された。本発明による動的共有結合ヒドロゲルが、数週間、最大数か月にわたって安定であることは疑いようがない。
【0096】
4. 追加成分
本発明による動的共有結合ヒドロゲルの目的の用途に応じて、ヒドロゲルは、細胞、生物活性剤、可視化剤若しくは任意の他の追加成分、又はそれらの組合せを含んでもよい。そのような細胞及び追加成分の例は、下記に提供される(医薬組成物及びキットを参照されたい)。
【0097】
生物活性剤、可視化剤又は任意の他の追加の成分は、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋前、架橋中又は架橋後にヒドロゲルに組み込まれてもよい。例えば、架橋工程前に、任意の追加成分が、典型的には、第1及び第2のヒドロゲル前駆体溶液のうちの少なくとも一方に添加されてもよい(上記に示される通り)。架橋工程中、任意の追加成分が、第1及び第2のヒドロゲル前駆体で構成される反応混合物に添加されてもよい。或いは、又は加えて、生物活性剤、可視化剤又は任意の他の活性成分が、ヒドロゲルの形成後にヒドロゲルに組み込まれてもよい。例えば、本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、任意の追加の活性成分を含有する溶液に浸漬して、ヒドロゲル中への成分の拡散を可能にしてもよく、又は任意の追加の活性成分は、動的共有結合ヒドロゲルを含有する溶液に添加してもよい。或いは、第1のヒドロゲル前駆体又は第2のヒドロゲル前駆体がバイオ直交型官能性部分又はクリッカブル部分に直接又は間接的に共有結合により連結しているヒドロゲル前駆体の架橋ペアから調製された動的共有結合ヒドロゲル(上記を参照されたい)は、所望の分子又は生体分子(例えば、ペプチド、成長因子、薬物、フルオロフォア等)を導入するために、バイオ直交型又はクリックコンジュゲーションを受けてもよい。
【0098】
本発明による動的共有結合ヒドロゲルが細胞を含む実施形態では、細胞は、ヒドロゲル内にカプセル化されていてもよい。本明細書で使用される場合、「カプセル化された」という用語は、その分野で理解される意味を有し、物理障壁(すなわち、前記構造の浸透性を低減又は制御する障壁)によって示される3次元構造内への1つ又は複数の細胞の含有、固定及び/又は捕捉を指す。
【0099】
III- ヒドロゲル前駆体ポリマー組成物及び動的共有結合ヒドロゲルの使用
射出可能ヒドロゲル等の軟質材料は、組織工学、細胞療法、薬物送達、生物医学デバイス、マイクロフルイディクス、光学、伸縮可能なバイオ統合電子工学及びソフトロボティクスを含む多様な現代技術を可能にしてきた(例えば、Yannasら、Science、1982、215: 174~176頁;Lee及びMooney、Chem. Rev.、2001、101: 1869~1880頁;Peppasら、Adv.Mater.、2006、18: 1345~1360頁;Jeongら、Cell、2015、162: 662~674頁;Parkら、Nature Biotechnology、2015、33: 1280~1286頁;Whitesides、Nature、2006、442: 386~373頁;Casavantら、PNAS USA、2013、110: 10111~10116頁;Dongら、Nature、2006、42: 551~554頁;Choiら、Nature Photonics、2013、7: 987~994頁;Choiら、Advanced Materials、2015、27: 4081~4086頁;Kimら、Science、2008、320: 507~511頁;Rogersら、Science、2010、327: 1603~1607;Xuら、Science、2014、344: 70~74頁;Teeら、Science、2015、350: 313~316;Shepherdら、PNAS USA、201、108: 20400~20403;並びにMorinら、Science、2012、337: 828~832頁を参照されたい)。したがって、本発明によるポリマー組成物及び動的共有結合ヒドロゲルは、多様な分野、特に、対象における疾患又は医学的状態の処置又は防止における用途を見出すことができる。
【0100】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、疾患又は障害を有していてもよく、有していなくてもよい、ヒト又は別の哺乳動物(例えば、霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ等)を指す。非ヒト対象は、トランスジェニック又は他の方法で改変された動物であってもよい。本発明の多くの実施形態では、対象は、多くの場合、「個体」又は「患者」と称される。「対象」、「個体」及び「患者」という用語は、特定の年齢を表さず、したがって、新生児、小児、10代及び成人を包含する。「患者」という用語は、より具体的には、疾患又は障害を罹患した個体を指す。
【0101】
「処置」という用語は、本明細書において、(1)疾患、障害若しくは状態の発症を遅延若しくは防止すること;(2)疾患、障害若しくは状態の進行、悪化若しくは憎悪を緩徐化若しくは停止すること;(3)疾患、障害若しくは状態の徴候を緩和すること;又は(4)疾患、障害若しくは状態を治癒することを目的とした方法又はプロセスを特徴付けるために使用される。処置は、治療作用のために、疾患、障害又は状態の開始後に投与されてもよい。或いは、処置は、予防又は防止作用のために、疾患、障害又は状態の発症前に投与されてもよい。この場合、「防止」という用語が使用される。
【0102】
1. 3D細胞培養及び細胞療法
本発明の動的共有結合ヒドロゲルは、MATRIGEL(登録商標)等の天然の動物由来マトリックスに対する魅力的な3D細胞培養代替物である。3D細胞培養は、生物細胞が、in vivoにおいてそれらが行うと考えられるのと同様に、成長又は3次元全てにおいてそれらの周囲と相互作用することを可能にする、人工的に作出された環境である。従来の培養と比較して、3D培養における細胞は、細胞形状及び細胞環境に関して、in vivo環境に、より近似している。構造及び材料の多様性は、2D基質よりも3Dマトリックスではるかに大きい。したがってある特定の実施形態では、本発明の動的共有結合ヒドロゲルは、3D細胞培養に使用される。
【0103】
「細胞培養」という表現は、細胞を、維持及び/又は成長に適切な条件で維持するプロセスを指し、条件は、例えば、温度、栄養素の利用性、雰囲気中CO2含有量及び細胞が維持される細胞密度を指す。ヒドロゲルにおいて、細胞は、in vitro又はin vivoで培養されうる。異なる型の細胞の増殖、拡大及び分化を維持するのに適切な培養条件は、周知であり、文献にまとめられている。本発明の方法による動的共有結合ヒドロゲルを使用して培養できる細胞は、3Dヒドロゲルマトリックスにおいて成長しうる任意の細胞を含む(下記を参照されたい)。
【0104】
3D細胞培養に使用される動的共有結合ヒドロゲルは、種々の生体分子のいずれかを含んでもよく、その存在は、細胞培養の文脈で望ましい。そのような生体分子の例としては、これらに限定されないが、プロテオグリカン又はグリコサミノグリカン鎖、ホルモン、成長因子、化学誘引物質等が挙げられる(下記の医薬組成物及びキットを参照されたい)。
【0105】
本発明による動的共有結合ヒドロゲルにおいて培養された後、細胞は、使用する前に収穫されてもよい。「収穫する」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞を、それらを培養した3Dヒドロゲルから取り出す又は解離する操作を指す。細胞は、ろ過によってヒドロゲルの酵素分解から得られたヒドロゲル断片から分離してもよい。ヒドロゲルスキャフォールドを分解するために使用できる酵素の例としては、これらに限定されないが、コラゲナーゼ、エラスターゼ、トリプシン、プルラナーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ(ABC)、セルラーゼ等が挙げられる。或いは、動的ゲルは、大量の、小さな遊離分子の形態の2つの反応性基のうちの1つの存在下で、分解するという大きな利点を有する。典型的には、グルカミン又は任意の他のジオールを添加することにより、ゲルが溶解し、材料の酵素反応又は研和を使用することなく、遠心分離によって細胞を取り戻すことが可能になる。
【0106】
収穫した後、動的共有結合ヒドロゲルにおいて培養された細胞は、多くの用途が見出されうる。したがって、例えば、収穫した細胞は、細胞療法に使用でき、生体細胞は、対象の疾患又は医学的状態を処置又は防止することを目的として、対象に注射され、移植され又は埋め込まれる。したがって、収穫した細胞は、ヒトの臨床状態(例えば、がん、感染症、自己免疫疾患)の処置、又は再生医療(例えば、関節の軟骨、脊髄等の損傷、負傷又は欠損組織の復元及び修復)に使用されてもよい。治療のための見込みのある候補として提案されている、大量の機能性幹細胞の利用性は、自家(患者由来)又は同種(別のドナー由来)移植の開発を促進しうる。同様に、本発明の動的共有結合3Dヒドロゲルマトリックスを使用して、遺伝子改変された幹細胞株由来の大量の細胞が、細胞ベースの治療のために生成されうる。本明細書に記載される動的共有結合3Dヒドロゲルはまた、治療用クローニング(体細胞核移植とも呼ばれる)における幹細胞の増殖に使用できる。
【0107】
或いは、収穫した細胞は、組織工学用途に使用されてもよい。大量の機能的細胞の利用可能性はまた、細胞生物学研究において有利である。本発明による動的共有結合ヒドロゲルの他の可能性のある使用としては、これらに限定されないが、系統依存ウイルスの産生、例えば、ワクチンとして使用するのに十分な粒子を生じる分化細胞を必要とするウイルスの産生;及びタンパク質製造(ヒドロゲル上の細胞が、培地から及び/又は細胞から単離され、次いで精製されうる因子を産生する)が挙げられる。このようにして産生できるタンパク質の例としては、これらに限定されないが、成長因子、ホルモン、シグナル分子、細胞成長の阻害剤及び抗体が挙げられる。
【0108】
2. 組織工学、オルガノイド形成及び用途
本発明の動的共有結合ヒドロゲルは、組織工学において使用されてもよい。組織工学は、一般に、細胞を、埋込みに好適なスキャフォールド上又は中に播種することによる、組織又は臓器等価物の作出と定義される。組織工学は、疾患、外傷、遺伝若しくは染色体異常、又は加齢によって損傷した全組織又は組織部分(例えば、骨、軟骨、血管、膀胱、皮膚、筋肉等)を修復又は置換するための新しい生存組織の形成のための組織スキャフォールドの使用を含む。したがって、ある特定の実施形態では、本明細書に記載される動的共有結合ヒドロゲルは、組織工学において使用される。
【0109】
当技術分野で公知の通り、応力又は配向等の刺激あり又はなしで、好適な培養培地において組織培養を実施する必要がある。更に、組織培養培地又は動的共有結合ヒドロゲルは、種々の生体分子のいずれかを含んでもよく、その存在は、そのような文脈において望ましい。そのような生体分子の例としては、成長因子、栄養素及び/又は細胞結合ドメイン、糖、組織接着剤等が挙げられる。
【0110】
組織等価物の例としては、オルガノイドが挙げられる。本明細書で使用される場合、「オルガノイド」という用語は、幹細胞から発生し、in vivoにおける状況と同様の方式での細胞選別及び空間拘束分化系列決定により自己組織化(又は自己パターン化)する臓器特異的細胞型の3次元培養系を指す。したがって、オルガノイドは、細胞の生来の生理を示し、細胞組成(残留する幹細胞及び特化した細胞型を含む)及び生来の状況に酷似する解剖学を有する。オルガノイドを生成する細胞は、分化して、自己組織化してin vivoにおける臓器と非常に同様の構造を形成する複数の細胞型を示す臓器様組織を形成する。したがって、オルガノイドは、ヒトの臓器及びin vivoにおける発達と非常に同様の系におけるヒトの臓器発達を研究するための優れたモデルである。オルガノイドは、薬物応答スクリーニング、毒性アッセイ又は再生医療に使用されてもよい。オルガノイドはまた、現在好適な組織培養又は動物モデルが存在しない、ノロウイルス等の病原体を培養するためにも使用できる。
【0111】
3. 細胞及び/又は生物活性剤のin vivo送達
ある特定の実施形態では、本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、in vivo(すなわち、それを必要とする対象の身体内)における細胞及び/又は生物活性剤の送達のための系として使用されてもよい。
【0112】
ある特定の実施形態では、本発明によるヒドロゲルは、細胞送達のために使用されてもよい。本発明のヒドロゲルは、治療又は診断の目的で対象に投与できる細胞送達系を調製するための原材料として使用されてもよい。ある特定の実施形態では、本発明のヒドロゲルは、細胞をローディングされうるパッチ、バイオフィルム又はドレッシング剤を調製するために使用されてもよい。例えば、本発明によるヒドロゲルは、皮膚(例えば、損傷又は受傷した皮膚)を再建又は治癒するために、皮膚に適用できるドレッシング剤を調製するために使用されてもよい。或いは、前記ドレッシング剤は、虚血(心筋梗塞)を処置するために対象の心臓に適用されてもよい。そのような実施形態では、ヒドロゲル中に捕捉された細胞は、標的組織又は臓器に遊走しうる。
【0113】
他の実施形態では、ヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペアは、細胞送達のために使用されてもよい。実際、in situにおけるゲル化ポリマーマトリックスは、これらの材料が射出可能ヒドロゲルとして使用できるため、組織再生において大きな関心の対象である。それらは、対応する組織腔の形状を取る能力を有する細胞ビヒクルとして作用しうる。更に、細胞は注射用溶液に直接組み込むことができるため、細胞接着に関する問題を最小限にできる。
【0114】
本発明による動的共有結合ヒドロゲル及びヒドロゲル前駆体ポリマーのペアは、少なくとも1種の生物活性剤の送達及び/又は制御放出のためのビヒクルとして使用できる。「生物活性剤」及び「生物学的活性剤」は、本明細書において互換的に使用され;これらに限定されないが、身体中で局所的又は全身に作用する生理的又は薬理学的活性物質、例えば、治療、予防又は及び/又は診断剤、身体の構造又は機能に影響する(例えば、組織成長又は細胞分化に影響する又は関与する)物質、免疫応答等の生物学的作用を起こすことができる、又は1つ若しくは複数の生物学的プロセスにおいて任意の他の役割を果たしうる化合物、生物学的に活性になる又は所定の生理的環境に置かれた後により活性になるプロドラッグ、並びに細胞成長、細胞分化及び/又は細胞埋込みを支持する又は支援する化合物又は作用物質が挙げられる。生物活性剤の例は、下記に示される(医薬組成物及びキットを参照されたい)。
【0115】
生物活性剤は、ヒドロゲルと混合、ヒドロゲルに共有結合及び/又はヒドロゲル中若しくは上に吸着されうる。或いは、又は加えて、生物活性剤は、動的共有結合ヒドロゲルを形成するために使用される架橋カップルの第1のヒドロゲル前駆体ポリマー又は第2のヒドロゲル前駆体ポリマーの溶液に含まれ、第1及び第2のポリマーの架橋後、こうして形成された動的共有結合ヒドロゲルは、生物活性剤を含む。
【0116】
4. 関節内補充療法/人工関節滑沢剤
ある特定の実施形態では、本発明によるヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア又は動的共有結合ヒドロゲルは、関節内補充療法において使用されてもよい。関節内補充療法は、ゲル様物質(例えば、ヒアルロネート)を関節に注射して滑液の粘性を補強することを含む手順である。粘弾性流体、最も一般的には架橋ヒアルロン酸の関節への注射は、骨関節炎の処置において20年超にわたって実施されている。これらの関節内補充療法処置の効果は、一部には、注射されたポリマー溶液の高い粘度に由来すると言われている。
【0117】
関節空間への投与中又は投与後に架橋を受けるポリマーヒドロゲルは、そのようなヒドロゲルが、投与後に関節空間内で粘度が増加するため、改善を示しうる。したがって、本発明によるヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペアは、比較的粘性の低い液体として投与されてもよく、次いで、短い時間フレーム内で関節の関節内空間においてはるかにより粘性又は粘弾性のゲルを形成する。加えて、in situにおける架橋によって付与されるより高い粘度は、関節中で長時間の滞留時間、したがって、単回投与により実現されるより長い処置持続時間をもたらしうる。
【0118】
したがって、本発明によるヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア又は動的共有結合ヒドロゲルは、骨関節炎若しくは関節リウマチ、又は他の炎症性関節炎、例えば、痛風若しくはピロリン酸カルシウム沈着症の(例えば、関節の関節内空間への注射による)処置のための関節内補充療法において使用されてもよい。関節としては、膝、肩、側頭下顎及び手根中手関節、肘、股関節、手首、足首、並びに脊椎の腰椎椎間板(椎間)関節が挙げられる。
【0119】
ある特定の実施形態では、ヒドロゲル前駆体ポリマー溶液のうちの少なくとも1種は、コルチコステロイド(例えば、トリアムシノロンアセトニド、酢酸コルチゾン)を含み、これは、骨関節炎を罹患している対象が経験する炎症に起因した疼痛及び膨潤の緩和をもたらすのに有用である。いくつかの利点は、in situにおけるヒドロゲル内のコルチコステロイドの捕捉/組込みと関連し:捕捉は、(1)ステロイドの大部分が関節組織と直接接触するのを防止するのに効果的であり、(2)関節中のステロイドの局所濃度を最大にする一方、その全身濃度を最小限にするのに効果的であり、(3)関節からのステロイドの早期排出を防ぐのに効果的であり、且つ(4)ヒドロゲル捕捉の非存在下で達成されると考えられるよりも低い総用量での治療効果を達成する一方、望ましくない局所及び全身副作用を最小限にすることが可能である。
【0120】
ある特定の実施形態では、ヒドロゲル前駆体ポリマー溶液のうちの少なくとも1種は、人工結合組織の細胞成分、特に、滑膜細胞及び軟骨細胞を活性化し、その結果、それらの細胞再生を確実にし、それらの内因性合成を刺激する線維芽細胞成長培地を含む。
【0121】
関節内補充療法は、罹患した関節に数週間の期間にわたって投与された単回注射又は複数回関節内注射を介して達成されうる。目的は、関節が動作中に衝撃を吸収し、少なくとも安静時に潤滑である能力をもたらすことである。ある特定の実施形態では、関節内補充療法は、人工股関節全置換又は人工膝関節全置換を遅らせることを目的として、投与される。
【0122】
5. 3Dプリント及び3Dバイオプリント
ある特定の実施形態では、本明細書に記載されるヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア及び動的共有結合ヒドロゲルは、3Dプリント又は3Dバイオプリントにおける用途が見出される。3Dプリントは、コンピューター支援設計モデルから、通常、材料を層毎に成功裡に添加することによって、3次元物体を構築する。3Dバイオプリントは、3Dプリント技術を利用して、生体適合性材料、細胞及び支持成分、例えば、細胞培地から機能的ミニチュア組織構築物を生成する。主な用途としては、高スループットのin vitro組織モデル、創薬及び毒物学、再生医療/組織工学用途における使用が挙げられる。それは、機能的成分の配置の空間制御により、生体材料及び生体細胞を層毎に正確に位置決定することを含む。この技術は、組織及び臓器、例えば、耳、鼻、骨、心臓、肝臓及び皮膚の臨床的復元に向けて大きな前進をなした。
【0123】
6. ソフトロボティクス
本明細書に記載されるヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア及び動的共有結合ヒドロゲルは、ソフトロボティクスに適用できる。ソフトロボティクスは、生物において見出されるものと同様の高度に適合する材料からロボットを構築することを取り扱うロボティクスの特定のサブ分野である(Robosoft、first IEEE International Conference on Soft Robotics、2018年4月24~28日、Livorno、Italy)。硬質材料から構築されるロボットとは対照的に、ソフトロボットは、タスクを達成するための柔軟性及び順応性の増加を可能にし、ヒトの周りで動作する場合の安全性を改善する。これらの特徴は、医学及び製造の分野におけるその潜在的な使用を可能にする。したがって、例えば、ソフトロボットは、医業において、具体的には、侵襲的手術に実装されうる。ソフトロボットは、それらの形状変化特性に起因して、手術を補助することができる。ソフトロボットは形態を調整することによってヒトの身体の異なる構造の周りを移動することができるため、形状変化は重要である。
【0124】
IV- 医薬組成物及びキット
本明細書に記載される通りのヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア及び動的共有結合ヒドロゲルを、ヒトを含む哺乳動物の治療処置のために使用するために、一部の実施形態では、ヒドロゲル前駆体ポリマー及び動的共有結合ヒドロゲルは、標準の薬務に従って医薬組成物として配合される。したがって、本発明は、本明細書に記載される動的共有結合ヒドロゲル及び少なくとも1種の薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む医薬組成物を提供する。本発明はまた、本明細書に記載される架橋ペアの第1のヒドロゲル前駆体ポリマーが、少なくとも1種の薬学的に許容される希釈剤又は担体と共に配合され、本明細書に記載される架橋ペアの第2のヒドロゲル前駆体ポリマーが、少なくとも1種の薬学的に許容される希釈剤又は担体と共に配合される医薬組成物を提供する。
【0125】
本発明による医薬組成物は、バルクで、単回単位用量として及び/又は複数の単回単位用量として、調製、包装及び/又は販売されうる。本明細書で使用される場合、「単位用量」という用語は、所定量の各々のヒドロゲル前駆体ポリマー又は所与の形状及び寸法の、所定数の動的共有結合ヒドロゲルを含む、個別量の医薬組成物を指す。
【0126】
本発明による医薬組成物は、良識的な医療行為と一致する様式、すなわち、量、濃度、スケジュール、経過、ビヒクル及び投与経路で、配合、投薬及び投与される。この文脈において考慮される因子としては、処置される特定の疾患又は臨床状態、処置されている特定の対象(年齢、体重等)、個々の患者の臨床状態(健康状態)、障害の原因、組成物の送達部位、投与方法、投与のスケジュール、及び医師に公知の他の因子が挙げられる。
【0127】
1. 配合物
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体又は賦形剤」という用語は、活性成分の生物学的活性の有効性と干渉せず、且つそれが投与される濃度において宿主に対して過剰に毒性ではない担体媒体を指す。この用語は、溶媒、分散媒、抗菌及び抗真菌剤、等張剤等を含む。薬学活性物質用のそのような媒体及び作用物質の使用は、当技術分野で周知である(例えば、参照により本明細書に組み込まれる「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W.Martin、第18版、1990、Mack Publishing Co.: Easton、PAを参照されたい)。
【0128】
好適な薬学的に許容される担体又は賦形剤の例としては、これらに限定されないが、食塩水及び/又は緩衝液(例えば、クエン酸緩衝溶液、酢酸緩衝溶液、リン酸緩衝溶液等)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、アルファトコフェロール、アスコルビルパルミテート、メチオニン等)、保存剤、低分子量(10残基未満)のペプチド、タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン又はイムノグロブリン)、親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン)、アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン)、単糖、二糖及び他の炭水化物(例えば、グルコース、マンノース又はデキストリン)、キレート剤(例えば、EDTA、クエン酸並びにその塩及び水和物、フマル酸並びにその塩及び水和物、リンゴ酸並びにその塩及び水和物等)、糖(例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトール)、塩形成対イオン(例えば、ナトリウム)、非イオン性界面活性剤(例えば、TWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)、ポリエチレングリコール)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、タルク、麦芽、ベヘン酸グリセリル(glyceryl behanate)、天然油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム等)、並びにそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0129】
好適な保存剤は、抗菌保存剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セトリミド、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、ヘキセチジン、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール及びチメロサール)、抗真菌保存剤(例えば、ブチルパラベン、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム及びソルビン酸)、抗原虫保存剤、アルコール保存剤(例えば、エタノール、ポリエチレングリコール、フェノール、フェノール化合物、ビスフェノール、クロロブタノール、ヒドロキシベンゾエート及びフェニルエチルアルコール)、酸性保存剤(例えば、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ベータ-カロテン、クエン酸、酢酸、デヒドロ酢酸、アスコルビン酸、ソルビン酸及びフィチン酸)、医薬組成物において有用であることが公知の任意の他の保存剤(例えば、トコフェロール、酢酸トコフェロール、メシル酸デテロキシム、セトリミド、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluened)(BHT)、エチレンジアミン、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、メタ亜硫酸カリウム等)、並びにそれらの任意の組合せでありうる。
【0130】
例えば、注射用調製物は、好適なビヒクル及び溶媒、例えば、水、Ringer溶液、U.S.P.及び等張塩化ナトリウム溶液を使用して、当技術分野で公知の通りに配合できる。更に、無菌固定油が、溶液又は懸濁媒体として好都合に用いられる。この目的で、合成モノ又はジグリセリドを含む任意のブランドの固定油を用いてもよい。オレイン酸等の脂肪酸もまた、注射用配合物の調製物において使用されてもよい。無菌液体担体は、注射による投与のための無菌液体形態組成物において有用である。注射用配合物は、例えば、バクテリア保持フィルターを通したろ過によって、又は使用前に滅菌水若しくは他の滅菌注射用媒体に溶解又は分散できる無菌固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことによって、滅菌できる。必要である又は所望の場合、注射用配合物は、注射部位の疼痛を鎮めるための局所麻酔薬を含んでもよい。
【0131】
局所適用される場合、例えば、細胞及び/又は生物活性剤を含む本発明によるヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア及び動的共有結合ヒドロゲルは、好適には、他の成分、例えば、担体及び/又はアジュバントと組み合わせられる。生理的に許容され、それらの目的の投与に有効でなくてはならず、組成物の活性成分の活性を分解しえないことを除いて、そのような他の成分の性質は、制限されない。ある特定の実施形態では、本発明による医薬組成物は、例えば、経皮パッチ、プラスター及び包帯を含みうる物品中にしみ込ませるか又はそれらの上に堆積されてもよい。他の実施形態では、本発明によるヒドロゲル前駆体ポリマーの架橋ペア及び動的共有結合ヒドロゲルは、細胞及び/又は生物活性剤をローディングされうるパッチ、バイオフィルム又はドレッシング剤を調製するために使用されてもよい。
【0132】
本明細書で提供される組成物についての記載は、基本的に、ヒトへの投与に好適な組成物に向けられているが、当業者であれば、そのような組成物が、一般に、全ての種類の動物の投与に好適であることを理解するであろう。組成物を種々の動物への投与に好適なものにするための、ヒトへの投与に好適な組成物の改変は、十分理解されている。
【0133】
2. 追加成分
本発明による医薬組成物は、細胞、生物学的活性剤、可視化剤又はそれらの任意の組合せから選択される少なくとも1種の追加成分を更に含んでもよい。上記で既に言及した通り、生物学的活性剤及び可視化剤は、共有結合又はイオンのいずれかにより、医薬組成物中に存在するヒドロゲル前駆体ポリマーのうちの少なくとも1種又は動的共有結合ヒドロゲルと会合していてもよい。或いは、又は加えて、生物学的活性剤及び可視化剤は、本発明によるヒドロゲル前駆体溶液又は医薬組成物と混合されてもよく、ヒドロゲル前駆体ポリマー又はヒドロゲルとの会合を形成しない。
【0134】
A. 細胞
ある特定の実施形態では、ヒドロゲル前駆体ポリマー溶液又は動的共有結合ヒドロゲルは、細胞を含有する。本発明の文脈で使用される場合、「細胞」という用語は、これらに限定されないが、細胞クラスター(例えば、膵島又はその部分)及び個々に単離された細胞を含む種々の形態の細胞を指す。ある特定の好ましい実施形態では、本発明によるヒドロゲル前駆体ポリマー溶液又は動的共有結合ヒドロゲルとの会合に使用される細胞は、哺乳動物(動物又はヒト)起源のものである。哺乳動物細胞は、任意の臓器、体液又は組織起源のもの(例えば、脳、肝臓、皮膚、肺、腎臓、心臓、筋肉、骨、骨髄、血液、羊水、臍帯血等)、及び任意の細胞型のもの(下記を参照されたい)であってもよい。細胞は、一次細胞、二次細胞又は不死化細胞(すなわち、確立された細胞株)であってもよい。それらは、当技術分野で周知の技術によって、ex vivo生物試料から単離若しくは誘導、又はボランティア若しくは患者から得られうる。再生医療及び組織工学に使用される細胞は、細胞が投与される患者(自家投与)又は他の個体(同種投与)に由来しうる。更に、動物由来のもの等の異種細胞も、再生医療戦略に適合することができる。或いは、細胞は、市販の供給源(例えば、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関、Manassas、VA)から購入してもよい。或いは、又は加えて、細胞は、目的の遺伝子、例えば、成長因子を発現する遺伝子若しくはレセプターを含有するように、又は欠陥遺伝子を含有するように、又はなお成人の体細胞からヒト誘導幹細胞を調製するためにOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Myc遺伝子を含有するように遺伝子操作されてもよい。
【0135】
本明細書に記載されるヒドロゲル前駆体ポリマー溶液又は動的共有結合ヒドロゲルと組み合わせて使用されうる細胞としては、分化細胞、幹細胞(誘導多能性幹細胞を含む)、及び前駆細胞が挙げられる。
【0136】
本明細書で使用される場合、「分化細胞」という用語は、特定の機能に特化しており、他の種類の細胞を生成する能力を有さない細胞を指す。分化細胞の例としては、これらに限定されないが、基底細胞、上皮細胞、血小板、リンパ球、T-細胞、B-細胞、ナチュラルキラー細胞、網状赤血球、顆粒球、単球、マスト細胞、神経細胞、神経芽細胞、神経膠芽腫(glioblastom)、巨大細胞、樹状細胞、マクロファージ、割球、内皮細胞、間質細胞、クッパー細胞、ランゲルハンス細胞、堤防細胞及び組織細胞が挙げられる。分化細胞の具体例としては、これらに限定されないが、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、滑膜細胞、骨髄間質細胞、幹細胞、線維軟骨細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、心筋細胞、筋細胞、角化細胞、肝細胞、白血球、マクロファージ、内分泌細胞、尿生殖細胞、リンパ管細胞、膵島細胞、筋細胞、腸細胞、腎細胞、血管細胞、甲状腺細胞、副甲状腺細胞、副腎視床下部下垂体軸の細胞、胆管細胞、卵巣又は精巣細胞、唾液分泌細胞、腎細胞、上皮細胞及び神経細胞が挙げられる。
【0137】
本明細書で使用される場合、「幹細胞」という用語は、持続的な自己再生の能力、及び分化した子孫(すなわち、異なる型の特化細胞)を生じる可能性を有する比較的未分化の細胞を指す。幹細胞の例としては、これらに限定されないが、胚幹細胞、成体幹細胞及び誘導多能性幹細胞が挙げられる。「胚幹細胞」及び「ES細胞」という用語は、本明細書において互換的に使用される。それらは、内部細胞塊と呼ばれる細胞の群に由来する幹細胞を指し、これは、胚盤胞と呼ばれる初期(4~5日齢)胚の一部である。「ヒト胚幹細胞」又は「hES細胞」は、一般に1週齢未満の受精卵に由来するヒト起源の胚幹細胞である。in vitroにおいて、胚幹細胞は、無期限に増殖しえ、これは、成体幹細胞には共有されない特性である。「成体幹細胞」という用語は、胚性起源ではなく、胚若しくは胎児組織に由来もしない幹細胞を指す。「成体幹細胞」という用語はまた、全年齢(例えば、ヒト乳児及び小児)の対象から単離された幹細胞を包含する。本明細書で使用される場合、「誘導多能性幹細胞」(又は「iPS細胞」)という用語は、非多能性細胞(例えば、成体体細胞)から人工的に誘導された多能性幹細胞の型を指す。誘導多能性幹細胞は、任意の分化細胞を形成する能力の点で胚幹細胞と同一であるが、胚に由来しない。誘導多能性幹細胞は、ヒト誘導多能性幹細胞であってもよい。「ヒト誘導多能性幹細胞」及び「ヒトiPS細胞」という用語は、本明細書において、互換的に使用される。それらは、ヒト起源の誘導多能性幹細胞を指す。典型的には、ヒト誘導幹細胞は、任意の成体体細胞(例えば、線維芽細胞)におけるOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Myc遺伝子の誘導発現により得ることができる。基本的に、体細胞は、レトロウイルス等のウイルスベクターをトランスフェクトされ、これは、Oct3/4、Sox2、Klf4及びc-Myc遺伝子を含む。
【0138】
「前駆細胞」及び「前駆体細胞」という用語は、本明細書において、互換的に使用される。それらは、胎児又は成人組織において生じ、部分的に特化した細胞を指す。これらの細胞は、分裂し、分化細胞を生じる。前駆又は前駆体細胞は、幹細胞に由来する細胞の一過性増幅集団に属する。幹細胞と比較して、それらは、自己再生及び分化の能力が限られている。自己再生(又は増殖)のそのような能力は、例えば、Ki-67核抗原等の増殖マーカーの発現によって実証される。更に、前駆細胞は、特定の分化プロセスを引き受けるため、前駆細胞はまた、特定のマーカーを発現する。前駆細胞の例としては、これらに限定されないが、造血前駆細胞、内皮前駆細胞、神経前駆細胞、間葉前駆細胞、骨形成前駆細胞、間質前駆細胞等が挙げられる。
【0139】
ヒドロゲル前駆体ポリマー溶液又は動的共有結合ヒドロゲル中に存在する細胞は、実質的に均質な集団又は異種細胞集団を形成しうる。「実質的に均質な細胞集団」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞の総数の大部分(例えば、少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約99%)が、単一の細胞型に属する細胞の集団を指す。「異種細胞集団」という用語は、本明細書で使用される場合、少なくとも2種の細胞型を含む細胞の集団を指す。
【0140】
細胞は、任意の好適な量でドロゲル前駆体ポリマー溶液又は動的共有結合ヒドロゲル中に存在してもよい。例えば、細胞は、ヒドロゲル前駆体ポリマー溶液又は動的共有結合ヒドロゲルに、約500~約1000個の細胞/μLの密度で添加されてもよい。
【0141】
B. 生物活性剤
ある特定の実施形態では、本発明による医薬組成物は、少なくとも1種の生物活性剤を含む。当業者に認識されるであろう通り、1種又は複数の生物活性剤の選択は、医薬組成物の意図される目的(例えば、関節内補充療法、関節の処置、細胞療法、3D細胞培養、組織工学等における使用)に基づくことになる。一般に、発明の医薬組成物中に存在する生物活性剤の量は、所与の投与経路により所望の結果を得るために必要な通常の投薬量になる。そのような投薬量は、薬学及び/又は医学分野の当業者に公知であるか、又は容易に決定される。
【0142】
好適な生物活性剤は、これらに限定されないが、小分子薬、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、遺伝子及び遺伝子産物、炭水化物、単糖、オリゴ糖、多糖、核タンパク質、ムコプロテイン、リポタンパク質、糖タンパク質、オリゴヌクレオチド、ステロイド、核酸、DNA、RNA、アプタマー、ヌクレオチド(nucleodides)、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、siRNA、脂質、ホルモン、ビタミン、並びにそれらの組合せを含む多様なクラスの分子に属しうる。生物活性剤は、単一化合物であっても、又は例えば、2種以上の生物活性剤の組合せを含む複数の化合物であってもよい。
【0143】
好適な治療剤の例としては、これらに限定されないが、鎮痛剤、麻酔薬、疼痛緩和剤、抗がん剤、抗菌剤、抗細菌薬、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗生物質、抗炎症剤、抗酸化剤、消毒剤、鎮痒薬、免疫刺激剤、血管新生阻害剤、抗悪性腫瘍剤、抗増殖剤、抗糖尿病薬、充血緩和剤、降圧剤、皮膚科用薬剤、抗コリン薬、免疫抑制剤、抗うつ剤、抗精神病薬、β-アドレナリン遮断薬、心血管活性剤、血管作動物質、非ステロイド剤、性ホルモン、ステロイド剤、骨形成剤、骨伝導剤、骨誘導剤、拒絶反応防止剤、抗関節炎薬、血栓溶解剤、抗線溶剤、血流促進剤(hemorheologic agents)、抗血小板剤等が挙げられる。
【0144】
好適な生物活性剤の他の例としては、サイトカイン、成長因子、プロテオグリカン又はその部分、接着分子及びそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0145】
サイトカイン及び成長因子は、哺乳動物細胞の遊走、増殖、分化及び代謝を制御するポリペプチド分子である。多様な範囲のこれらの生体分子が、治癒の制御において潜在的に重要な役割を果たすと同定されている。サイトカインは、リンホカイン、モノカイン又はケモカインであってもよい。サイトカインの例としては、これらに限定されないが、インターロイキン(IL)(例えば、IL-1、IL-2、IL-4及びIL-8)、インターフェロン(IFN)(例えば、IFN-α、IFN-β及びIFN-γ)、及び腫瘍壊死因子(例えば、TNF-α)、又はそれらの任意のバリアント、合成アナログ、活性部分若しくは組合せが挙げられる。成長因子の例としては、これらに限定されないが、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘパリン結合成長因子(HBGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様成長因子(IGF)、結合組織活性化ペプチド(CTAP)、形質転換成長因子アルファ(TGF-α)及びベータ(TGF-β)、神経成長因子(NGF)、コロニー刺激因子(G-CSF及びGM-CSF)等、又はそれらの任意のバリアント、合成アナログ、活性部分若しくは組合せが挙げられる。
【0146】
プロテオグリカンは、それらのグリコサミノグリカン(GAG)成分によって特徴付けられるタンパク質-炭水化物複合体である。GAGは、高度に帯電した硫酸化及びカルボキシル化ポリアニオン性多糖である。本発明の医薬組成物における使用に好適なGAGの例としては、これらに限定されないが、ヒアルロナン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸が挙げられる。
【0147】
接着分子は、細胞-細胞及び細胞-細胞外マトリックス接着、認識、活性化及び遊走に関与する細胞外及び細胞表面糖タンパク質の多様なファミリーを構成する。接着分子は、大部分の組織の構造完全性及び恒常機能性に必須であり、胚形成、炎症、血栓形成及び組織修復を含む広範囲の生物学的プロセスに関与する。接着分子は、マトリックス細胞タンパク質(例えば、トロンボスポンジン及びテネイシン)、及び細胞表面接着分子(例えば、インテグリン、セレクチン、カドヘリン及びイムノグロブリン)を含む。
【0148】
生物活性剤の他の例は、これらに限定されないが、ホルモン及びホルモンアナログ(例えば、成長ホルモン)、モルフォゲン(例えば、レチノイン酸、アラキドン酸等)、細胞外マトリックス分子(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、エラスチン等)、血液凝固/凝血因子(例えば、フィブリノーゲン、プロトロンビン、血友病A等);等が挙げられる。
【0149】
生物学的活性剤は、ヒドロゲルの表面に結合して、タンパク質吸着及びその後の細胞組織付着を促進しうる生物活性ペプチド配列であってもよい。例としては、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン及びコラーゲンに由来する接着性ペプチドが挙げられる。「RGD」又は「RGD配列」という用語は、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列であり、フィブロネクチンに結合する細胞を模倣する及び/又は接着依存性細胞の接着を促進するのに十分な最小(最小限)のフィブロネクチン由来アミノ酸配列である最小限の生物活性のRGD配列を指す。そのような短鎖RGD生物活性ペプチドは、当技術分野において公知である。
【0150】
例示的な診断剤としては、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子、並びに放射性核種、x線画像化剤及び造影剤が挙げられる。
【0151】
ある特定の実施形態では、生物活性剤は、生物活性ガラス、可溶ガラス、再吸収性リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、カルボン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ガラスセラミックス等の粒子である。
【0152】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される医薬組成物は、約80質量%未満、約75質量%未満、約70質量%未満、約60質量%未満、約50質量%未満、約40質量%未満、約30質量%未満、約20質量%未満、約15質量%未満、約10質量%未満、約5質量%未満、約1質量%未満、約0.5質量%未満、又は約0.1質量%未満の生物活性剤を含有する。
【0153】
C. 可視化剤
ある特定の実施形態では、ヒドロゲル前駆体ポリマー溶液又は動的共有結合ヒドロゲルは、可視性を改善する、例えば、外科医が、外科手技中にin situ形成ヒドロゲルを正確且つ好都合に配置できるようにするための可視化剤を含有してもよい。可視化剤は、種々の非毒性着色物質、例えば、埋込型医療デバイスにおける使用に好適な色素から選択されうる。好適な色素としては、例えば、in situで形成される際のヒドロゲルの厚さを可視化するための色素、例えば、FD&C Blue #1、FD&C Blue #2、FD&C Blue #3、D&C Green #6、メチレンブルー、インドシアニングリーン、他の着色色素及びそれらの組合せが挙げられる。蛍光化合物(例えば、フルオレセイン又はエオシン)、x線造影剤(例えば、ヨウ素化合物)、超音波造影剤、MRI造影剤(例えば、ガドリニウム含有化合物)、PET剤(例えば、フルオロデオキシグルコース又はFDG)、PS又はSPECT剤(例えば、放射性リガンド、例えば、11C-DASB、11C-フルマゼニル、11C-ラクロプリド等)等の他の可視化剤が使用されてもよい。
【0154】
可視化剤は、ヒドロゲル前駆体ポリマーのうちの少なくとも1種に共有結合していてもよい。しかしながら、好ましい実施形態では、可視化剤は、ヒドロゲル前駆体ポリマーに共有結合により連結していない。例えば、可視化剤は、前駆体ヒドロゲル溶液中に存在してもよい。可視化剤は、少量、例えば、1%質量/体積未満、又は0.01%質量/体積未満、又は更には0.001%質量/体積未満の濃度で使用されてもよい。
【0155】
3. 投与
本発明による医薬組成物は、任意の好適な投与経路を使用して投与されうる。投与経路としては、腸内(例えば、経口)、非経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、くも膜下腔内、皮下、脳室内、経皮、皮内(interdermal)、直腸、膣内、腹腔内、局所、粘膜、経鼻、頬側、舌下等が挙げられる。具体的には、本発明の文脈において好ましい経路は、罹患部位への直接投与(例えば、関節の関節内空間における、例えば、経皮注射による、損傷又は受傷した皮膚部位への局所配置による、外科手技と組み合わせた配置による等)である。
【0156】
せん断応力下での粘性流動(ずり減粘)及び適用された応力が緩和された場合の迅速な回復(自己治癒)を示す動的共有結合ヒドロゲルにより、直接注射又はカテーテルベースの送達によるin vivoにおける最小限に侵襲的な埋込みが可能になる。したがって、ある特定の実施形態では、本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、圧縮され、送達デバイス、例えば、カテーテル、内視鏡、シリンジ等にローディングされうる。送達デバイスは、意図される患者宿主の脈管構造又は他の脈管系を通って折れ曲がり、ヒドロゲルは、送達デバイスから放出され、任意選択で、固着される(例えば、標的修復又は再生部位に縫合される)。その部位で一旦放出されると、ヒドロゲルは、およそその本来の弛緩したサイズ及び形状に弾力的に広がる。
【0157】
他の実施形態では、埋込型ヒドロゲルは、開放外科手技によって挿入される。
【0158】
上記で言及した通り、本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、in situで(例えば、生きている動物又はヒトの身体の所与の部位で直接又はその近傍で)形成されてもよい。この場合、ヒドロゲルの形成は、2種のヒドロゲル前駆体ポリマーを注射部位で混合することによって開始される。したがって、ある特定の実施形態では、本発明による架橋ペアの2種のヒドロゲル前駆体は、in situでコーティング又は空間充填ヒドロゲルを形成するように組織へのスプレーを介して適用(例えば、注射)されてもよい。好ましくは、2種のヒドロゲル前駆体は、スプレーの別個のチャンバーに入れられる。スプレーが作動されると、緊急スプレーが組織に接触し、2種のヒドロゲル前駆体ポリマーが混合及び架橋し、ゲル化が起こり、身体の目的の部位でヒドロゲルが形成される。スプレーは、マルチバレルシステム、好ましくは、ダブルバレルシリンジシステムであってもよい。
【0159】
本明細書で使用される場合、「マルチバレルシステム」という用語は、少なくとも2つの別個のバレルを備え、2つ以上のプランジャーを有していてもよい任意のシステム又はデバイス、通常シリンジを指す。「ダブルバレルシステム」という用語は、本明細書で使用される場合、2つの別個のバレルを備え、1又は2つのプランジャーを有していてもよい任意のシステム又はデバイス、通常シリンジを指す。更に、マルチバレル(例えば、ダブルバレル)シリンジシステムは、一般に、シリンジシステムの末端を密封するためのチップキャップ、又はニードルシールドを有する若しくは有さないニードル若しくはカニューレを備える。バレルは、一般に、十分な第1及び第2のヒドロゲル前駆体溶液を含有するための保存容量を有する。バレルは、ガラス、プラスチック又は任意の他の材料で作製されていてもよく、様々な幾何形状、内径、材料組成、透明度等を有していてもよい。更に、マルチバレルシリンジシステムは、2つの一体化されたシリンジを、すなわち、2つの一体化されたバレル及び、バレルから内容物を吐出するためのモノ又はダブルプランジャーアセンブリを有するシリンジの形態のダブルバレルシリンジシステムであってもよい。また、シリンジシステムは、2つの取外し可能に接続されたバレル及び2つ以上の取外し可能に接続されたプランジャーを含んでもよい。更に、シリンジシステムはまた、バレルに含有される内容物を、アプリケーターチップを通して吐出する前に完全に混合するように構成された手段(例えば、アプリケーターチップ)を含んでもよい。したがって、バレルは、一般に、接続されており、プランジャーアセンブリは一般に、バレルから同時に内容物を吐出するように構成されており、ヒドロゲル前駆体溶液の適切な混合比が保持されることになる。
【0160】
本発明による処置は、単回用量又は複数回用量で(例えば、毎日、毎週、毎月、2か月毎、3か月毎、半年毎、毎年、2年毎等)で投与されてもよい。用量及び用量レジメンは、医師によって決定されることになる。
【0161】
用量は、所望の生物学的又は医学的応答を実現するのに十分な医薬組成物の任意の量であってもよい。例えば、用量は、約0.1μg~約1μgの間のヒドロゲル前駆体の架橋ペア、若しくはヒドロゲル、又は約0.001mg~約0.01mgの間、若しくは約0.01mg~約0.1mgの間、若しくは約0.1mg~約1mgの間の間、若しくは約1mg~約3mgの間、若しくは約3mg~約10mgの間、若しくは約10mg~約30mgの間、若しくは約30mg~約100mgの間、若しくは約100mg~約300gの間、若しくは約300mg~約1,000mgの間、若しくは1g~約10gの間のヒドロゲル前駆体の架橋ペア、若しくはヒドロゲルに対応しうる。
【0162】
4. キット
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される発明の医薬組成物の1種又は複数の成分を含有する1つ又は複数の容器(例えば、バイアル、アンプル、試験管、フラスコ又はボトル)を含む医薬パック又はキットを提供する。
【0163】
医薬パック又はキットの様々な成分は、固体(例えば、凍結乾燥された)又は液体又は半液体形態で供給されてもよい。各々の成分は、一般に、そのそれぞれの容器に取られる又は濃縮形態で提供されるのに好適である。本発明によるパック又はキットは、凍結乾燥成分を再構成するための媒体を含んでもよい。キットの個々の容器は、好ましくは、市販するために厳重に密閉して維持される。
【0164】
ある特定の実施形態では、本発明によるキットは、本明細書に記載される通りの架橋ペアの第1のヒドロゲル前駆体ポリマー及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーを含み、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマー(そのまま又は個々に溶液中に配合された)は、異なる容器に含有されている。他の実施形態では、第1及び第2のヒドロゲル前駆体ポリマーは、マルチバレルシリンジシステム、好ましくはダブルバレルシステムに含有される。
【0165】
ある特定の実施形態では、本発明によるキットは、第1の容器に含有された少なくとも1種の動的共有結合ヒドロゲル、並びにヒドロゲルを使用する少なくとも1種の培地及び/又は試薬を含む。そのような培地及び/又は試薬の例としては、これらに限定されないが、再水和培地及び/又は試薬;抗生物質;生体分子、本明細書に記載される通りの生物学的活性剤、細胞培養培地及び/又は試薬、細胞、播種手段、収穫培地及び/又は試薬、フィルター、洗浄培地及び/又は試薬等が挙げられる。
【0166】
ある特定の実施形態では、パック又はキットは、1種又は複数の追加の生物活性剤を含む。任意選択で、医薬又は生物学的製品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定された形態の注意書き又は添付文書が容器に添付され、この注意書きは、ヒト投与のための製造、使用又は販売の機関による認可を反映する。添付文書の注意書きは、本明細書に開示される処置の方法によるヒドロゲル前駆体ポリマーのペア又は動的共有結合ヒドロゲルの使用説明書を含有してもよい。
【0167】
識別子、例えば、バーコード、無線周波数、IDタグ等がキット中又は上に存在していてもよい。識別子は、例えば、品質管理、在庫管理、ワークステーション間の移動の追跡等の目的でキットを一意に識別するために使用できる。
【実施例】
【0168】
以下の実施例は、本発明を作製及び実施するいくつかの好ましいモードを記載する。しかしながら、例は、例示のみを目的とし、本発明の範囲を限定する意味はないことが理解されるべきである。更に、実施例における記載が、過去形で示されていない限り、本明細書の残りの部分のように、該当文は、実験が実際に実施された、又はデータが実際に得られたことを示唆することを意図しない。
【0169】
(実施例1)
I. 合成及びポリマー修飾 - アミン化Wulff型Bの合成
(2-(((4-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)ブチル)アミノ)メチル)フェニル)ボロン酸の合成。3mLのメタノール中BOC保護ジアミノブタン(BOC-DAB;2.66mmol;500mg)の溶液に、アルゴン下で2-ホルミルフェニルボロン酸(1eq;2.66mmol;398mg)を添加した。室温で16時間撹拌した後、水素化ホウ素ナトリウム(4.26mmol;161mg)を黄色がかった溶液に0℃でゆっくり添加した。次いで、反応混合物を室温で撹拌し、完了までTLC(ジクロロメタン/メタノール(7/3、vol/vol))によってモニタリングした。真空下で溶媒を除去した後、粗生成物を、水(12mL)及びジクロロメタン(25mL)の混合物に溶解した。水性相を、ジクロロメタン(5×12mL)で5回抽出した。得られた合わせた有機相を、MgSO4で乾燥し、真空中で濃縮し、予想化合物を白色固体として得た(0.76g;収率:93%)。
【0170】
(2-(((4-アミノブチル)アミノ)メチル)フェニル)ボロン酸の合成。上記生成物を、3mLのメタノールに溶解し、ゆっくりしたHClガスのバブリングを実施した。1H NMRによって反応のモニタリングを実施した。30分後、反応混合物を真空中で濃縮し、対応するアンモニウム塩を得た。得られた固体を純水(10mL)に溶解し、NaOH(1M)の滴下添加によってpHを11に調整した。反応混合物を、トルエンを使用した共溶媒蒸発によって濃縮した。固体残留物を、ジクロロメタンの添加によって分割した。Na2SO4で乾燥し、ろ過した後、有機相を真空中で濃縮し、予想したアミノ化Wulff型フェニルボロン酸誘導体を黄色がかった粉末(427mg;72%)として得た。
【0171】
ボロン酸修飾多糖の合成。典型的な合成は以下の通りであった:500kDaヒアルロン酸(HA)(100mg)を、MES緩衝液、pH5.5(10mL)に溶解した。DMT-MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)(69mg;1eq)を、HA溶液に添加し、撹拌下、室温で30分間反応させた。Wulff型フェニルボロン酸(wPBA;27.5mg;0.5eq)を、活性化HA溶液に添加し、撹拌下、室温で3日間反応させた。溶液をフィルター滅菌し、1×PBS緩衝液(pH7.4)に対して1日間、次いで、脱イオン水に対して2日間、透析した(MWCO 12~14kDa、Spectrum Labs社)。溶液を凍結乾燥し、4℃で保存した。置換度を、1H NMR(400MHz、D2O、δ)によって決定した。同様の手順を、試薬及び得られた修飾ポリマーの溶解度に基づいて当量を調整して、種々のアミノ化ボロン酸誘導体(すなわち、2-アミノフェニルボロン酸、3-アミノフェニルボロン酸、4-アミノフェニルボロン酸、5-アミノベンゾキサボロール)を種々の多糖(すなわち、20/100/500kDaヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、アルギネート)にグラフトするために適用した。
【0172】
ジオール修飾多糖の合成。典型的な合成は以下の通りであった:500kDa HA(100mg)を、MES緩衝液、pH5.5(10mL)に溶解した。DMT-MM(137mg;2eq)を、HA溶液に添加し、撹拌下、室温で30日間反応させた。グルカミン(90mg;1eq)を、活性化HA溶液に添加し、撹拌下、室温で3日間反応させた。溶液をフィルター滅菌し、1×PBS緩衝液(pH7.4)に対して1日間、次いで、脱イオン水に対して2日間、透析した(MWCO 12~14kDa、Spectrum Labs社)。溶液を凍結乾燥し、4℃で保存した。2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBSA)滴定を使用して、精製生成物の元素分析(窒素/炭素比)によって、又は粗製混合物中の未反応アミノ化分子の定量によってのいずれかで、置換度を決定した。同様の手順を、試薬及び得られた修飾ポリマーの溶解度に基づいて当量を調整して、種々のジオール含有アミノ化分子(すなわち、グルカミン、イソセリノール、グルコサミン、ガラクトサミン、フルクトサミン、ドーパミン、1-アミノ-1-デオキシ-D-ガラクチトール、トリス(ヒドロキシル-メチル)アミノメタン)を種々の多糖(すなわち、20/100/500kDaヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、アルギネート)にグラフトするために適用した。
【0173】
Wulff型ボロン酸修飾PEGの合成。4分岐PEG-NH2(MW=2kDa;2.418g)をメタノール(24mL)に溶解した。2-ホルミルアリールボロン酸(943mg;1.3eq)を、PEG溶液に添加し、撹拌下、室温で終夜反応させた。溶液を氷上で冷却し、NaBH4(274mg;1.5eq)をそれに添加した後、室温で48時間撹拌した。20mLの脱イオン水を添加し、ジクロロメタン(3×50mL)を使用して液-液抽出を実施した後、有機相を無水Na2SO4で乾燥した。溶液をろ過し、脱イオン水に対して1日間透析した(MWCO 1kDa、Spectrum Labs社)。溶液を凍結乾燥し、4℃で保存した。置換度を、1H NMR(400MHz、D2O、δ)によって決定した。
【0174】
ボロン酸ベースの多糖ヒドロゲルの合成。ボロン酸ヒドロゲル典型的な合成は以下の通りであった:2mL Eppendorf社製チューブ中、10mgのHA-wPBAを、室温で1~2時間、PBS(1mL)に溶解した。同様の手順を使用して、10mgのHA-グルカミンをPBS(1mL)に溶解した。2mL Eppendorf社製チューブ中、HA-wPBA及びHA-グルカミン溶液を体積比1:1で一緒に迅速に混合し、ピペッティング可能な動的ヒドロゲル溶液を、ゲル化前に使用した。同様の手順を使用して、種々のフェニルボロン酸修飾多糖及びジオール修飾多糖の組合せを試験した。必要な場合、ダブルバレルシリンジを便利のために使用した。
【0175】
II. 物理化学的特性
膨潤/安定性試験。ヒドロゲルを、上記の通りに調製した。ヒドロゲルのアリコート(3×100μL)を、事前に計量した2mL Eppendorf社製チューブに移し、37℃で30分間、平衡になるように静置した。ゲル含有チューブを計量し、900μLの温PBS(37℃)をそれぞれに添加した。指定の時点で、上清を除去し、ゲル表面をKimwipeで注意深く乾燥し、チューブを計量した。膨潤を、所与の時点でのヒドロゲル質量をその初期質量で割った比として決定した。
【0176】
動的ヒドロゲルのレオロジー評価。ヒドロゲルを、上記の通りに調製した。平行プレート測定のための20mmチタンコーン(Ti 20L;Thermo Fisher Scientific社、Germany)、及び温度制御のためのペルチェプレートを備えたHAAKE MARSレオメーター(Thermo Fisher Scientific社、Germany)を使用して、粘弾性データを収集した。測定中の蒸発を最小限にするために、溶媒トラップを使用した。ゲルのせん断貯蔵弾性率(G')及びせん断損失弾性率(G")を測定するために、周波数掃引(0.01~10Hz)を、1Paの一定せん断応力下、37℃で実施した。自己治癒特性を、1Paで100秒間(非破壊応力)及び500Paで50秒間(破壊応力)の交互応力下、1Hz及び7℃でG'及びG"を経時的に測定することによって評価した。
【0177】
III. 生物学的特性
ヒドロゲル成分の細胞適合性。L929線維芽細胞をモデル細胞株として使用して、HA-wPBA、PEG-wPBA及びHA-グルカミン溶液を細胞適合性について別々に試験した。ポリマー溶液(1%)を、無菌ポリマー及び細胞培地(10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))を使用して、無菌条件下で調製した。細胞を、標準ポリスチレン96ウェルプレート中、細胞培地に15,000個の細胞/ウェル(100μL)で播種し、終夜インキュベートした(37℃、5%CO2、95%湿度)。培地を100μLの1%ポリマー溶液と交換した後、細胞をインキュベートした。指定のインキュベーション時間(0、24時間及び48時間)後、CCK-8アッセイキットを使用し、供給元のプロトコルに従って、細胞を、代謝活性について試験した。その後、CCK-8培地をトリス/EDTA(TE)緩衝液と交換した後、細胞を終夜冷凍した(-80℃)。次いで、DNA定量のためのQuant-iT(商標)PicoGreen(商標)アッセイキットを使用し、供給元の推奨に従って、細胞増殖を評価した。
【0178】
3D細胞生存評価。細胞培地(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%アムホテリシンBを補充したDMEM)を使用して、1%HA-wPBA及び2%HA-グルカミン溶液を、無菌条件下で調製した。2%HA-グルカミン溶液を、8×106個の細胞/mLの脂肪由来多能性間質細胞(MSC)の溶液と、1:1比で混合して、4×106個の細胞/mLを含有する1%HA-グルカミン溶液を得た。0.5mLの1%HA-wPBA溶液を、0.5mLの1%HA-グルカミン/細胞溶液と混合し、100μLヒドロゲル(100K個の細胞/ウェル)を、96ウェルプレートにプレーティングした。細胞含有ヒドロゲルを、分析前に、150μLの細胞培地上でインキュベートし(37℃、5%CO2、95%湿度)、培地は1日おきに交換した。2D対照を、250μL細胞培地を1日おきに供給して、ウェル当たり5×103個の細胞の密度で実施した。指定のインキュベーション時間(0、1日及び7日)後、Calcein AM(生細胞、Sigma-Aldrich社)、エチジウムホモダイマー(死細胞、Sigma-Aldrich社)及びHoechst(全ての細胞対照、Invitrogen社)を、製造元の指示通りに使用して、細胞生存率を、生/死染色及び共焦点顕微鏡(Nikon社 A1)によって評価した。平均生存率を、3回の生物学的反復から得た。
【0179】
【0180】
概念実証として、本発明者らは、まず、Wulff-PBA修飾ヒアルロン酸(HA-wPBA)をグルカミン修飾ヒアルロン酸(HA-グルカミン)と混合した際の動的共有結合ヒドロゲルの合成の成功を実証した。1%(w/v)HA及び1:2のwPBA:グルカミン比を使用して、本発明者らは、レオメトリーによって、動的共有結合ヒドロゲルの特有の特徴である貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G")の周波数依存性クロスオーバーを観察した(
図1)。
【0181】
本発明者らは、動的共有結合ポリマーネットワークに固有の、新たに設計したヒドロゲの自己治癒特性を更に実証した。定性的な2つの別個のHAベースの動的ヒドロゲルを、互いに接触させると、数分以内に単一ゲルが形成した(
図2A)。1Hzの一定周波数において、低(1Pa)及び高(500Pa)交互応力下での時間掃引測定は、高せん断下でのゲルの反復崩壊(G'<G")に続いて、その初期機械的特性(G'>G")の効果的な回復を示し、自己治癒を更に確認した(
図2B)。
【0182】
次いで、本発明者らは、これらのHAベースヒドロゲルの粘弾性挙動に対する、それらの分子量及びポリマー含有量の効果を検討した。ポリマー前駆体の分子量を500kDaから100kDaに減少させることにより、ポリマー含有量を1%から3%(w/v)に増加させることが可能であり、前駆体溶液の加工可能な粘度及び設計したヒドロゲルについて広範囲の架橋密度を確証した。これにより、系の様々な粘弾性挙動及び高調節可能性を反映する、桁をまたいだ(数十~数千Pa)せん断貯蔵弾性率成分(G')を有する動的共有結合ヒドロゲルを得ることが可能となった(
図3)。
【0183】
新たに発見した架橋ペア(すなわち、wPBA及びグルカミン)を使用して、HAベースの動的共有結合ヒドロゲルの膨潤及び安定性を評価した。1%及び2%(w/v)ポリマー含有量を比較して、本発明者らは、これらの新しいヒドロゲルの最適な配合物が、ポリマーネットワークの可逆的な架橋にも関わらず、最小限の膨潤及び長期間安定性(少なくとも1か月)をもたらすことを示した(
図4)。これにより、これらの動的ヒドロゲルの膨潤及び安定性特性を様々な用途のために調節することが更に可能になる。
【0184】
その汎用性の概念実証として、新しい架橋ペアを様々なポリマーに適用した。動的共有結合ヒドロゲルは、1%(w/v)ポリ(エチレングリコール)(PEG)-wPBAを1%(w/v)HA-グルタミン(glutamined)と体積比1:1で(
図5A);1%(w/v)アルギネート-wPBAを1%アルギネート-グルカミンと体積比1:1で(
図5B);及び1%(w/v)カルボキシメチルセルロース-wPBAを1%(w/v)カルボキシメチルセルロース-グルカミンと体積比1:1で(
図5C)混合した際に成功裡に得られた。まとめると、これらの結果は、新しい架橋ペアが、様々な分子量、イオン強度及び分解性特性の合成及び天然ポリマーに適用できることを示唆している。
【0185】
最後に、本発明者らは、共焦点顕微鏡によって、3D培養の7日後にカプセル化脂肪由来多能性間質細胞(A-MSC)の生存(生/死アッセイ)を評価して、HA-HA及びHA-PEG動的共有結合ゲルの細胞適合性を評価した。これらの結果は、これらのゲル中にカプセル化されたA-MSCの優れた生存(>90%)を明らかにした。
【0186】
(実施例2)
実施例2は、動的ヒドロゲル設計のための本発明による様々なボロン酸-ジオールカップルの物理化学的及び生物学的特性に対するデータを報告する。
【0187】
I. ポリマーに固定された様々なボロン酸-ジオールカップルのレオロジー特性の比較
本発明者らは、生理的条件のpH及び温度下で、ポリマーに固定された場合に動的共有結合ヒドロゲルを形成するのに十分高い親和性を有する新しいボロン酸-ジオールカップルを同定することを試みた。
【0188】
ヒアルロン酸(HA)は、多くの場合、生物医学用途のために選択されるポリマーと考えられることから、これをポリマー主鎖として選択した。DMT-MMを活性剤として使用し(実施例1を参照されたい)、様々なアミノ化フェニルボロン酸(PBA)誘導体を、アミド化を介して各々HA上に固定した。同様の手順に従って、一連のジオール含有分子をHA上にグラフトした。様々なボロン酸-ジオールカップルを比較できるようにするために、反応条件を、様々なPBA(≒20~25%)及びジオール(≒30~35%)の置換度に一致するように調整した。興味深いことに、2-アミノ-フェニルボロン酸(2PBA)、3-アミノ-フェニルボロン酸(3PBA)、4-アミノ-フェニルボロン酸(4PBA)及びアミノ-ベンゾキサボロール(BX)は全て、≒20~25%の置換度に達するための少量のDMSOの使用を必要とし;合成中に3PBA修飾HAが沈殿した。これとは対照的に、Wulff型フェニルボロン酸(wPBA)は、その正荷電特性から、少なくとも40%の置換度まで、水性条件下で(すなわち、DMSOの使用なしに)固定できた。
【0189】
次いで、全てのボロン酸-ジオールカップルを、全てのPBA修飾及びジオール修飾HA成分を2種ずつ混合することによって、試験した。得られたレオロジー測定値(周波数掃引;G'、せん断弾性率)を、
図7に報告する。それらは、一連のカップルが、生理的条件下でヒドロゲルを形成することが可能であることを明らかにした(例えば、HA-グルカミン及びHA-wPBA;HA-フルクトサミン及びHA-wPBA;HA-ダルシトラミン及びHA-wPBA;HA-グルカミン及びHA-2PBA、並びにHA-ダルシトラミン及びHA-2PBA)。特に、HA-グルカミン及びHA-wPBAの会合は、他のカップルのいずれかよりも1~数桁高い弾性成分の粘弾性材料の形成をもたらした。興味深いことに、その化学構造のためにジオールの存在下でより容易にヒドロゲル形成を支援することが報告されたBX修飾ポリマーは、何ら顕著なゲル化特性をもたらさなかった。
【0190】
II. 改善された物理化学的(粘弾性)特性を有するHA-wPBA-HA-グルカミンゲルの最適化配合物
HA-wPBA及びHA-グルカミンで作製されたゲルの粘弾性挙動を調節するために、本発明者らは、ポリマーヒアルロン酸(HA)の分子量、HAの総濃度、2種の成分(HA-wPBA及びHA-グルカミン)の各々の置換度、並びにwPBA:グルカミンのモル比が様々である組成物の大パネルをスクリーニングした。
【0191】
レオロジー測定値を介して観察される通り(周波数掃引試験において、動的ゲルのG'/G"クロスオーバーは、その弛緩時間に直接関係する)、特定の粘弾性挙動を示す目的のいくつかの組成物が特定された。
図8は、そのような特定の最適化組成物のうちの3種を示す。1つ目は、HAの総濃度が1%であり、HAの分子量が300kDAであり、HA-wPBAの置換度が26%であり、HA-グルカミンの置換度が52%であり;2つ目は、HAの総濃度が1%であり、HAの分子量が200kDaであり、HA-wPBAの置換度が26%であり、HA-グルカミンの置換度が52%であり;3つ目は、HAの総濃度が3%であり、HAの分子量が100kDAであり、HA-wPBAの置換度が40%であり、HA-グルカミンの置換度が52%である。3種の特定の組成物の各々において、wPBA:グルカミンのモル比は1:1である。
【0192】
より重要なことに、ボロン酸ベースのヒドロゲルは収縮する傾向がある一方、本発明者らは、荷電された親水性ポリマーであるHAのネットワークの収縮傾向と膨潤傾向とのバランスを注意深く取ることによって、最小限から非収縮/非膨潤ボロン酸ベースのヒドロゲルを設計することができた(
図9(B)及び
図9(A)、PBSの曲線、培養培地1及び培養培地2を参照されたい)。最適な配合物はまた、生理的条件のpH及び温度下で数週間~数か月にわたって安定であり、これは、今日までのボロン酸ベースのヒドロゲルでは報告されたことがなかった。それらのネットワークの動的特徴のおかげで、新しいゲルは、競合する遊離ジオール含有分子、例えば、グルコース又はグルカミンを単に添加することによって、容易に溶解できる(
図9(A)を参照されたい)。HAベースのゲルはまた、ヒアルロニダーゼを使用することによって酵素分解でき、一緒に、本発明の動的共有結合ヒドロゲルを、糖反応性及び生物分解性にした(
図9(A)を参照されたい)。
【0193】
III. ボロン酸エステルヒドロゲルの細胞適合性
生物医学用途のための新しいゲルの使用を検証するために、細胞がカプセル化された本発明のボロン酸エステルヒドロゲルの細胞適合性を、モデル細胞株(L929ネズミ線維芽細胞)を使用して評価した。
図6に報告される実験に使用したゲルは、HA-Wulff-PBA及びHA-グルカミンのヒドロゲルであり、300KDa HAポリマーの総濃度は1%w/vであり、ボロ(boro):ジオールのモル比は1:1であり、HA-Wulff-PBAの置換度は26%であり、HA-グルカミンの置換度は52%であった。細胞適合性を、細胞生存率(生/死細胞画像化)、代謝活性(CCK-8)及び増殖(PicoGreen)アッセイを介して評価した。
【0194】
得られた結果を、
図10に報告する。2日後、収集したデータは、高い細胞生存率を示し、代謝活性及び細胞数の増加を伴い、一緒に、試験ゲルの優れた細胞適合性を示す。同様の結果が、本発明による.様々な他のヒドロゲルにより得られた。
【0195】
IV. 最適化ボロン酸ヒドロゲルは、プリント可能である
本発明による動的共有結合ヒドロゲルは、せん断下で一時的に流動するという特殊性を有する(実施例1を参照されたい)ため、本発明者らは、バイオプリントの文脈における革新的なバイオインクの開発のための新しいヒドロゲルの使用を想定した。予備データを
図11に示す。以下の組成物を、典型的な例として使用した。200kDa HA、HAの総濃度=1%w/v、HA-Wulff-PBAの置換度:26%、HA-グルカミンの置換度=52%、Wulff-PBA:グルカミンのモル比(ration)=1:1。得られた結果は、最適なプリント条件(例えば、ヘッド変位、押出圧力)と関連して、新しいヒドロゲルの最適化配合物が、良好な形状忠実度で容易にプリントできることを示す。
【0196】
V. 他の架橋機序との組合せ
新しいヒドロゲルの生物医学用途の範囲を拡大するために、本発明者らは、発見した架橋機序を他の化学反応、特に「クリック」及びバイオ直交型化学反応と関連させる実現性を実証することを試みた。
【0197】
予備データとして、クリッカブル部分は、ヒドロゲルの2種のポリマー成分のうちの1種上に共固定でき、ゲルの物理化学的特性を、時間及び空間において調節することを可能にすることが示される(
図12(A)を参照されたい)。例えば、ボロン酸をベースとするヒドロゲルの共架橋は、プリント後のバイオプリント構築物を安定化及び/又は機械的に強化するために使用できる。ビシクロニン(bicyclonyne)(BCN)及びアジド(N3)の間の歪み促進アジド-アルキン環化付加(SPAAC)を、「クリック」反応のモデルとして使用した。200kDaボロン酸エステルゲル(HAの総濃度=1%;Wulff-PBA置換=16%;グルカミン置換=52%;Wulff-PBA:グルカミンのモル比=1:1)を、BCN(HA-グルカミンへの共置換基(co-substituant)として4%置換)で化学修飾し、アジド修飾ヒアルロナン(100kDa;HA-N
3)によるプリント後修飾を可能にした。バイオプリントボロン酸エステルゲルを、PBS含有0.5%HA-N
3に終夜浸漬することによって、ゲルの硬度は、≒600Paから≒3000Paに増加した。
【0198】
この戦略は、目的の分子(例えば、ペプチド、成長因子、薬物、フルオロフォア)の固定、時間及び空間において調整された細胞-材料相互作用を有する進化的な3D培養系の開発等々に使用できる。
【国際調査報告】