(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】炎症性腸疾患を治療するための方法II
(51)【国際特許分類】
A61K 35/545 20150101AFI20230419BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230419BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230419BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230419BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230419BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230419BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20230419BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230419BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20230419BHJP
【FI】
A61K35/545
A61P1/04
A61K47/20
A61K47/42
A61K47/02
A61K9/107
C12N5/0775
C07K16/18
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554677
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(85)【翻訳文提出日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 EP2021056193
(87)【国際公開番号】W WO2021180851
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065CA44
4C076AA22
4C076BB11
4C076BB29
4C076CC16
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4C076DD55
4C076EE41
4C084AA17
4C084ZA662
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA60
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA68
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
IBD及び/またはその関連病態もしくは症候を有する患者において治療的需要は満たされないままとなっており、新たな治療選択肢が必要とされている。本開示は、炎症性腸疾患(IBD)の治療または予防を、それを必要とする対象において行う方法であって、間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与することを含む、当該方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性腸疾患の治療または予防を、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、
間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を前記対象に投与すること
を含み、前記対象が少なくとも1つの生物学的療法に対して不応である、前記方法。
【請求項2】
前記対象が単一の生物学的療法に対して不応である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
単一の生物学的療法に対して不応のヒト対象において、炎症性腸疾患を治療または予防する方法であって、
間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を前記対象に投与すること
を含み、前記方法が、6億個未満の総用量の間葉系統前駆または幹細胞を投与することを含む、前記方法。
【請求項4】
前記生物学的療法が抗TNF療法である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記生物学的療法がインフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ベドリズマブまたはウステキヌマブである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記生物学的療法がインフリキシマブまたはアダリムマブである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が、
アザチオプリン、メルカプトプリン(6-MP)、メトトレキサート、シクロスポリンまたはステロイド
の1つ以上に対しても不応である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記炎症性腸疾患がクローン病または潰瘍性大腸炎である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記炎症性腸疾患がクローン病である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記クローン病が、前記対象の直腸及び/または結腸に現れている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルが23未満である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルが20未満である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が治療の少なくとも28後に部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が治療の少なくとも28~56日後に部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記部分的な臨床的奏効が、
- C反応性タンパク質(CRP)の25%よりも大きな低減;
- CD活動性指数(CDAI)の100点未満の減少;
- MRエンテログラフィーによって評価した場合の炎症の改善を伴う放射線撮影的治癒
のうちの1つ以上または全てによって特徴付けられる、請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記部分的な内視鏡的奏効が、
- 25%よりも大きく減少したクローン病単純内視鏡スコア(SES-CD)、及びSES-CD<50%;
- 10~15のSES-CDスコア
のうちの一方または両方によって特徴付けられる、請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が治療の少なくとも28後に臨床的及び/または内視鏡的奏効を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記対象が治療の少なくとも28~56日後に臨床的及び/または内視鏡的奏効を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記臨床的奏効が、
- CRPの50%よりも大きな低減;
- CRPの正常化;
- CDAIの100点以上の低下;
- MRエンテログラフィーによって評価した場合の炎症の改善を伴う放射線撮影的治癒
のうちの1つ以上または全てによって特徴付けられる、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記内視鏡的奏効が、
- 25%よりも大きくではあるが50%よりも小さく減少したSES-CD;
- 5~10のSES-CDスコア
のうちの一方または両方によって特徴付けられる、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が治療の少なくとも28日後に臨床的及び/または内視鏡的寛解の状態にある、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が治療の少なくとも28~56日後に臨床的及び/または内視鏡的寛解の状態にある、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記臨床的寛解が、
- 1リットルあたり2.87mg未満へのCRPの正常化;
- MRエンテログラフィーによって評価した場合の炎症の改善を伴う放射線撮影的治癒
のうちの一方または両方によって特徴付けられる、請求項21または請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記内視鏡的寛解が、
- 粘膜潰瘍状態の非存在;
- 0~5のSES-CDスコア
のうちの一方または両方によって特徴付けられる、請求項21または請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物が前記対象の消化管壁に投与される、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が前記対象の消化管壁の粘膜下層に投与される、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物が前記対象の消化管壁の炎症の部位に投与される、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物が前記対象の結腸及び/または直腸に投与される、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物が管腔内注射によって投与される、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物が前記対象の結腸壁の粘膜下層に投与される、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物が前記対象の消化管壁の複数の部位に投与される、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物が静脈内に投与される、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記組成物が静脈内にも投与される、請求項25~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記MLPSCが間葉系幹細胞(MSC)である、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記MLPSCが同種異系である、請求項1~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記クローン病が中等度~重度である、請求項9~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記対象のCDAIが300よりも大きい、請求項1~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記クローン病が、瘻孔を伴うクローン病である、請求項9~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)が内視鏡によって投与される、請求項1~31及び請求項33~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
1×10
7~2×10
8個の細胞を投与することを含む、請求項1~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記対象の消化管壁の2、3、4、5、6箇所またはそれよりも多くの部位に1×10
7~2×10
8個の細胞を投与することを含む、請求項1~31及び請求項33~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記組成物が、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)をさらに含む、請求項1~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
7.5×10
7個の細胞を投与することを含む、請求項1~39または請求項42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
1.5×10
8個の細胞を投与することを含む、請求項1~39または請求項42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記組成物が、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液をさらに含み、前記HSA溶液が5%のHSA及び15%の緩衝剤を含む、請求項1~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記組成物が、6.68×10
6個よりも多い生細胞/mLを含む、請求項1~45のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炎症性腸疾患(IBD)の治療または予防を、それを必要とする対象において行うための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(IBD)は、最初は若年成人に出現し、患者に生涯全体を通して影響を及ぼす可能性がある消耗性、再発性の病態である。IBDは、消化管が炎症を起こす一群の障害を包括したものである。IBDの主な種類には、消化管に沿った随所で炎症が腸管壁の厚み全体を侵すものであるクローン病、ならびに炎症が結腸及び直腸の内層(粘膜)を侵すものである潰瘍性大腸炎が含まれる。
クローン病は、米国では200万人近い人々、世界ではさらに100万人多い人々が罹患しており、未知の理由で発症例が増え続けている。FDAが2006年にインフリキシマブを承認して以来、モノクローナル抗体は中等度~重度の疾患のための医学療法の礎石となった。しかしながら、その利用は、一次的及び二次的非奏効、ならびに重篤な日和見感染のリスクによって制限される。さらには、生物学は臨床的改善を実証するには長期間を要し得る。それゆえ、この期間の間に非奏効患者は概して処置がなされ得ず、医学的奏効性の評価を待つ間にますます栄養不良になり得、貧血気味になり得、彼らの疾患の合併症に悩まされ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2018/182612
【特許文献2】WO2018/002930
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、IBD及び/またはその関連病態もしくは症候を有する患者において治療的需要は満たされないままとなっており、新たな治療選択肢が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、驚くべきことに、少なくとも1つの生物学的療法に対して不応の炎症性腸疾患を有する対象において、早期疾患寛解(28日目)が成し遂げられ得ることを明らかにした。かくして、第1の例では、本開示は、炎症性腸疾患の治療または予防を、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与することを含み、対象が少なくとも1つの生物学的療法に対して不応である、当該方法に関する。一例では、対象は単一の生物学的療法に対して不応である。換言すれば、一例では、対象は複数の生物学的療法に対して不応でない。
【0006】
本発明者らはまた、驚くべきことに、単一の生物学的療法に対して不応の炎症性腸疾患を有する対象が、複数の生物学的製剤に対して不応の炎症性腸疾患対象に比べてより低いレベルの炎症を有することを明らかにした。結果として本発明者らは、複数の生物学的製剤に対して不応の炎症性腸疾患対象が、CDAIスコアの少なくとも100点の低減を実現する前により多くの間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を必要とする傾向にあることを明らかにした。かくして、別の例では、本開示は、単一の生物学的療法に対して不応のヒト対象において、炎症性腸疾患を治療または予防する方法であって、間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与することを含み、組成物が6億個未満の細胞を含む、当該方法を包含する。
【0007】
別の例では、本開示の方法は、i)単一の生物学的療法に対して不応の炎症性腸疾患を有する対象を選択するステップ、及びii)間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与するステップを含み、組成物は6億個未満の細胞を含む。別の例では、本開示の方法は、i)C反応性タンパク質(CRP)レベルが25未満である炎症性腸疾患を有する対象を選択するステップ、及びii)間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与するステップを含み、対象に投与される総用量は6億個未満の細胞である。一例では、方法は、CRPレベルが23未満である対象を選択することを含む。別の例では、方法は、CRPレベルが20未満である対象を選択することを含む。別の例では、方法は、CRPレベルが15~25である対象を選択することを含む。別の例では、方法は、CRPレベルが20~23である対象を選択することを含む。
【0008】
一例では、生物学的製剤は抗TNF療法である。別の例では、生物学的療法はインフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ベドリズマブまたはウステキヌマブである。別の例では、生物学的療法はインフリキシマブまたはアダリムマブである。一例では、対象は、アザチオプリン、メルカプトプリン(6-MP)、メトトレキサート、シクロスポリンまたはステロイドの1つ以上に対しても不応である。
【0009】
一例では、炎症性腸疾患はクローン病または潰瘍性大腸炎である。一例では、炎症性腸疾患はクローン病である。一例では、クローン病は、対象の直腸及び/または結腸に現れているものである。一例では、対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルは23未満である。別の例では、対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルは20未満である。
【0010】
別の例では、対象は治療の少なくとも28後に部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効を有する。別の例では、対象は治療の少なくとも28~56日後に部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効を有する。一例では、部分的な臨床的奏効は、
- C反応性タンパク質(CRP)の25%よりも大きな低減;
- CD活動性指数(CDAI)の100点未満の減少;
- MRエンテログラフィーによって評価した場合の炎症の改善を伴う放射線撮影的治癒
のうちの1つ以上または全てによって特徴付けられる。
【0011】
一例では、部分的な内視鏡的奏効は、
- 25%よりも大きく減少したクローン病単純内視鏡スコア(SES-CD)、及びSES-CD<50%;
- 10~15のSES-CDスコア
のうちの一方または両方によって特徴付けられる。
【0012】
別の例では、対象は治療の少なくとも28後に臨床的及び/または内視鏡的奏効を有する。別の例では、対象は治療の少なくとも28~56日後に臨床的及び/または内視鏡的奏効を有する。一例では、臨床的奏効は、
- CRPの50%よりも大きな低減;
- CRPの正常化;
- CDAIの100点以上の低下;
- MRエンテログラフィーによって評価した場合の炎症の改善を伴う放射線撮影的治癒
のうちの1つ以上または全てによって特徴付けられる。
【0013】
一例では、内視鏡的奏効は、
- 25%よりも大きくではあるが50%よりも小さく減少したSES-CD;
- 5~10のSES-CDスコア
のうちの一方または両方によって特徴付けられる。
【0014】
別の例では、対象は治療の少なくとも28日後に臨床的及び/または内視鏡的寛解の状態にある。別の例では、対象は治療の少なくとも28~56日後に臨床的及び/または内視鏡的寛解の状態にある。一例では、臨床的寛解は、
- 1リットルあたり2.87mg未満へのCRPの正常化;
- MRエンテログラフィーによって評価した場合の炎症の改善を伴う放射線撮影的治癒
のうちの一方または両方によって特徴付けられる。
【0015】
一例では、内視鏡的寛解は、
- 粘膜潰瘍状態の非存在;
- 0~5のSES-CDスコア
のうちの一方または両方によって特徴付けられる。
【0016】
別の例では、組成物は対象の消化管壁に投与される。一例では、組成物は対象の消化管壁の粘膜下層に投与される。一例では、組成物は対象の消化管壁の炎症の部位に投与される。別の例では、組成物は対象の結腸及び/または直腸に投与される。別の例では、組成物は管腔内注射によって投与される。一例では、組成物は対象の結腸壁の粘膜下層に投与される。一例では、組成物は対象の消化管壁の複数の部位に投与される。一例では、間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)が内視鏡によって投与される。
【0017】
別の例では、組成物は静脈内に投与される。一例では、組成物は対象の消化管壁及び静脈内に投与される。
【0018】
一例では、MLPSCは間葉系幹細胞(MSC)である。別の例では、MLPSCは同種異系である。例えば、MLPSCは同種異系MSCであり得る。
【0019】
一例では、対象のクローン病は中等度~重度である。一例では、対象のCDAIは300よりも大きい。一例では、対象のクローン病は、瘻孔を伴うクローン病である。
【0020】
一例では、本開示の方法は、1×107~2×108個の細胞を投与することを包含する。例えば、1×107~2×108個の細胞の用量が3回投与され得る。一例では、本開示の方法は、対象の消化管壁の2、3、4、5、6箇所またはそれよりも多くの部位に1×107~2×108個の細胞を投与することを含む。一例では、7.5×107個の細胞を投与する。別の例では、1.5×108個の細胞を投与する。
【0021】
別の例では、組成物は、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)をさらに含む。一例では、組成物は、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液をさらに含み、HSA溶液は5%のHSA及び15%の緩衝剤を含む。
【0022】
一例では、組成物は、6.68×106個よりも多い生細胞/mLを含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】28日目にCDAIスコア150以下を達成している患者の百分率。FAS:全無作為化、少なくとも1回の処置、少なくとも1回のベースライン後評価;PP:主要なプロトコール事象を除く全てのFAS。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書の全体を通して、単一のステップ、組成物、ステップ群または組成物群に対する言及は、明記、または文脈による要求が特になされていない限り、それらのステップ、組成物、ステップ群または組成物群の1つ及び複数(つまり1つ以上)を包含すると解釈されるべきである。
【0025】
当業者であれば、本明細書に記載される本開示が、具体的に記載されている以外の変形形態及び改変形態を許容することを認識するであろう。そのような変形形態及び改変形態の全てが本開示に含まれることは理解されるべきである。本開示には、本明細書で言及または指示されているステップ、特徴、組成物及び化合物の全てが、個別にも、または一括りにも含まれ、上記ステップまたは特徴のありとあらゆる組合せ、または任意の2つ以上も含まれる。
【0026】
本開示は、例示の目的のみを意図したものである本明細書に記載の具体的な実施形態によって範囲が限定されるべきでない。機能的に均等な製品、組成物及び方法は明らかに、本明細書に記載される本開示の範囲に含まれる。
【0027】
特に明記されない限り、本明細書に開示されるいかなる例も、適宜変更を加えた上で他の任意の例に適用されると解釈されるべきである。
【0028】
特に明記されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、当技術分野(例えば、細胞培養、分子遺伝学、幹細胞分化、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学及び生化学)の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有すると解釈されるべきである。
【0029】
特に指定されない限り、本開示で利用される外科的技術は、当業者によく知られている標準的な手技である。
【0030】
間葉系統幹または前駆細胞の集団を得る及び濃縮する方法は、当技術分野で知られている。例えば、間葉系統幹または前駆細胞の濃縮集団は、間葉系統幹または前駆細胞の上に発現する細胞表面マーカーの利用に基づいてフローサイトメトリー及び細胞選別手法を用いることによって得られ得る。
【0031】
本明細書の中で、または参照により本明細書に援用される任意の文書の中で言及される任意の製品についての任意の製造業者の説明書、解説書、製品仕様書及び製品シートと合わせて、本明細書で引用または言及される全ての文書、及び本明細書で引用される文書の中で引用または言及される全ての文書は、これをもって参照によりそれらの全体が本明細書に援用される。
【0032】
定義の抜粋
「及び/または」という用語、例えば「X及び/またはY」は、「X及びY」か「XまたはY」かのどちらかを意味すると理解されるべきであり、両方の意味、またはどちらかの意味に対する明示的な支持を提供するものとして捉えられるべきである。
【0033】
本明細書で使用される場合、約という用語は、指定された値の+/-10%、より好ましくは+/-5%を指し、但し、そうでないことが述べられている場合を除く。
【0034】
本明細書の全体を通して、「含む(comprise)」という単語、または変化形、例えば「含む(comprises)」もしくは「含んでいる」が、述べられた要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を含むが他の任意の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を排除しないことを暗に意味していることは、理解されよう。
【0035】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は単数形及び複数形の意味を含み、但し、そうでないことを文脈が示している場合を除く。
【0036】
「単離された」または「精製された」は、細胞がその天然の環境の少なくともいくつかの成分から分離されていることを意味する。この用語は、細胞のその天然の環境からの巨視的な物理的分離(例えば、ドナーからの除去)を含む。「単離された」という用語は、例えば解離による、細胞とそのじかにある隣接細胞との関係性の変化を含む。「単離された」という用語は、組織切片中にある細胞を意味しない。細胞の集団に言及して使用される場合、「単離された」という用語は、本開示の単離された細胞の増殖によって得られる細胞の集団を含む。
【0037】
本開示の文脈において、「継代」、「継代すること」または「植え継ぎ」という用語は、細胞数が継続的に増加し得るように細胞を培養条件下で長期間にわたって生存及び成長させ続けるために用いられる既知の細胞培養技術を指して使用される。細胞株が経た植え継ぎの度合いは「継代数」として表されることが多いが、これは一般に、細胞の植え継ぎされた回数を指して使用される。一例では、1継代は、非付着性細胞を除去すること、及び付着性間葉系統前駆または幹細胞を残すことを含む。そのような間葉系統前駆または幹細胞はその後、(例えば、トリプシンまたはコラゲナーゼなどのプロテアーゼを使用することによって)基板またはフラスコから解離され得、培地が添加され得、任意選択の(例えば遠心分離による)洗浄が実施され得、その後、合計でより広い表面積を含む1つ以上の培養容器に間葉系統前駆または幹細胞が蒔き直しまたは再播種され得る。その後、間葉系統前駆または幹細胞は培養物中で増殖し続け得る。別の例では、非付着性細胞を除去する方法は、(例えばEDTAによる)非酵素的処理のステップを含む。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、コンフルエンスまたはそれに近い状態(例えば約75~約95%コンフルエンス)に継代される。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、約10%、約15%または約20%の細胞/ml培養培地の濃度で播種される。
【0038】
本開示の文脈で使用される「培地(medium)」または「培地(media)」という用語は、培養物中の細胞を取り囲む環境の成分を含む。培地は、細胞を成長させることに役立つ、及び/またはそれに適した条件を提供するものと予想される。培地は、固体、液体、気体、または相と物質との混合体であり得る。培地には、液体成長培地、及び細胞成長を維持しない液体培地が含まれ得る。例示的な気体培地としては、ペトリ皿または他の固体もしくは半固体支持体の上で成長している細胞が曝される気相が挙げられる。
【0039】
「消化管」または「GI管」という用語は、口から肛門までにわたるヒト器官系を包含する。消化管は、口、食道、胃及び腸を包含する。したがって、本開示における消化管の壁への言及は、口、食道、胃及び腸の壁を包含する。誤解を避けるために記すと、「腸」という用語は結腸及び直腸を含む。
【0040】
本明細書で使用される場合、「治療すること」、「治療する」または「治療」という用語は、間葉系統幹もしくは前駆細胞の集団、及び/またはその子孫、及び/またはそれに由来する可溶性因子を投与してそれによって炎症性腸疾患の少なくとも1つの症候を軽減または除去することを含む。一例では、治療は、培養増殖させた間葉系統幹または前駆細胞の集団を投与することを含む。一例では、治療は部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効をもたらす。一例では、部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも25後にもたらされる。一例では、部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも28後にもたらされる。一例では、部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも30後にもたらされる。一例では、部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも35後にもたらされる。別の例では、部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも28~65日後にもたらされる。別の例では、部分的な臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも28~56日後にもたらされる。
【0041】
一例では、部分的な臨床的奏効は、
- C反応性タンパク質(CRP)の25%よりも大きな低減;
- CD活動性指数(CDAI)の100点未満の減少;
- MRエンテログラフィーによって評価した場合の炎症の改善を伴う放射線撮影的治癒
のうちの1つ以上または全てによって特徴付けられる。
【0042】
一例では、部分的な内視鏡的奏効は、
- 25%よりも大きく減少したクローン病単純内視鏡スコア(SES-CD)、及びSES-CD<50%;
-- 10~15のSES-CDスコア
のうちの一方または両方によって特徴付けられる。
【0043】
一例では、治療は臨床的及び/または内視鏡的奏効を含む。一例では、臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも25後にもたらされる。一例では、臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも28後にもたらされる。一例では、臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも30後にもたらされる。一例では、臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも35後にもたらされる。別の例では、臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも28~65日後にもたらされる。別の例では、臨床的及び/または内視鏡的奏効は治療の少なくとも28~56日後にもたらされる。
【0044】
一例では、臨床的奏効は、
- CRPの50%よりも大きな低減;
- CRPの正常化;
- CDAIの100点以上の低下;
- MRエンテログラフィーによって評価した場合の炎症の改善を伴う放射線撮影的治癒
のうちの1つ以上または全てによって特徴付けられる。
【0045】
一例では、内視鏡的奏効は、
- 25%よりも大きくではあるが50%よりも小さく減少したSES-CD;
- 5~10のSES-CDスコア
のうちの一方または両方によって特徴付けられる。
【0046】
一例では、治療は臨床的及び/または内視鏡的寛解をもたらす。一例では、臨床的及び/または内視鏡的寛解は治療の少なくとも25後にもたらされる。一例では、臨床的及び/または内視鏡的寛解は治療の少なくとも28後にもたらされる。一例では、臨床的及び/または内視鏡的寛解は治療の少なくとも30後にもたらされる。一例では、臨床的及び/または内視鏡的寛解は治療の少なくとも35後にもたらされる。別の例では、臨床的及び/または内視鏡的寛解は治療の少なくとも28~65日後にもたらされる。別の例では、臨床的及び/または内視鏡的寛解は治療の少なくとも28~56日後にもたらされる。
【0047】
一例では、臨床的寛解は、
- 1リットルあたり2.87mg未満へのCRPの正常化;
- MRエンテログラフィーによって評価した場合の炎症の改善を伴う放射線撮影的治癒
のうちの1つ以上または全てによって特徴付けられる。
【0048】
一例では、内視鏡的寛解は、
- 粘膜潰瘍状態の非存在;
- 0~5のSES-CDスコア
のうちの一方または両方によって特徴付けられる。
【0049】
一例では、治療は、ベースライン値(すなわち、対照、あるいは間葉系統幹もしくは前駆細胞及び/またはその子孫及び/またはそれに由来する可溶性因子の投与前)と比較して、低減されたC反応性タンパク質(CRP);減少したCD活動性指数(CDAI);MRエンテログラフィーによって評価した場合の放射線撮影的治癒;減少したクローン病単純内視鏡スコア(SES-CD)をもたらし得る。
【0050】
一例では、治療奏効はベースラインに対して相対的に決定される。一例では、ベースラインは、単一の生物学的療法が失敗した時または頃に決定されるレベルである。
【0051】
本明細書で使用される「予防する」または「予防すること」という用語は、間葉系統幹または前駆細胞あるいはその子孫細胞の集団、及び/またはそれに由来する可溶性因子を投与してそれによって炎症性腸疾患の少なくとも1つの症候の進展を止める、または抑制することを含む。
【0052】
本開示の文脈において、「炎症性腸疾患」(IBD)という用語は、消化管の炎症性疾患、例えば、潰瘍性大腸炎(UC)、過敏性腸症候群、過敏性結腸症候群 クローン結腸炎及びクローン病(CD)を指して使用される。
【0053】
「潰瘍性大腸炎(UC)」という用語は、軽度~中等度の潰瘍性大腸炎を含み得る。軽度~中等度の潰瘍性大腸炎は、以下のうちの1つ以上または全てによって特徴付けられる:
- 潰瘍性大腸炎-疾患活動性指数(UC-DAI)での4~10のスコア;
- 4よりも大きいS状結腸鏡検査スコア;
- 2よりも大きい医師全般評価(PGA)スコア。
【0054】
「クローン病活動性指数(CDAIスコア)」は、クローン病の患者の症候を定量するために1976年にイリノイ州のMidwest Regional Health CenterのWR Bestと同僚らによって開発された研究ツールである。当該指数は、クローン病活動性の評価のために最も広く使用されている手段であり(Sandbom et al.(2002)Gastroenterology.,122:512-530)、8つの係数/変数からなる。8つの変数は、加重係数による調整の後に合計される。CDAIの構成要素、及び加重係数を以下の表に示す:
【表1】
【0055】
総CDAIスコアは0からおよそ600までの範囲であり、スコアが高ければ高いほど疾患はより活動性である。一例では、150点未満のCDAIスコアはクローン病の「臨床的寛解」を表す。一例では、150~219点は「活動性の軽度のクローン病」を表す。一例では、220~450点は「活動性の中等度のクローン病」を表す。一例では、450点超は「活動性の重度のクローン病」を表す。
【0056】
一例では、治療はCDAIの50点以上の低下をもたらす。別の例では、治療はCDAIの75点以上の低下をもたらす。別の例では、治療はCDAIの90点以上の低下をもたらす。別の例では、治療はCDAIの100点以上の低下をもたらす。別の例では、治療はCDAIの150点以上の低下をもたらす。別の例では、治療はCDAIの50~150点の低下をもたらす。別の例では、治療はCDAIの75~125点の低下をもたらす。別の例では、治療はCDAIの90~110点の低下をもたらす。
【0057】
「C反応性タンパク質」または「CRP」は炎症媒介因子であり、そのレベルは、急性炎症再発の条件下で上昇し、炎症が弱まった時点で速やかに正常化する。一例では、本開示に従って治療された対象の初期CRPレベルは25未満である。別の例では、対象の初期CRPレベルは23未満である。別の例では、対象の初期CRPレベルは20未満である。別の例では、対象の初期CRPレベルは18~25である。別の例では、対象の初期CRPレベルは20~23である。例えば、単回の生物学的療法が失敗した対象は、本開示に従って治療される前に上に言及されるCRPレベルを有する。例えば、単回の生物学的療法が失敗した対象は、本開示に従って治療される前に23未満のCRPレベルを有し得る。
【0058】
一例では、治療はCRPをベースラインから20%よりも大きく低減する。別の例では、治療はCRPをベースラインから30%よりも大きく低減する。別の例では、治療はCRPをベースラインから40%よりも大きく低減する。別の例では、治療はCRPをベースラインから50%よりも大きく低減する。別の例では、治療はCRPをベースラインから60%よりも大きく低減する。別の例では、治療はCRPをベースラインから20~60%低減する。別の例では、治療はCRPをベースラインから30~50%低減する。別の例では、治療はCRPを1リットルあたり2.95mg未満に低減する。別の例では、治療はCRPを1リットルあたり2.87mg未満に低減する。別の例では、治療は対象においてCRPレベルを正常化する。
【0059】
一例では、治療は0~5のSES-CDスコアを提供する。別の例では、治療は5~10のSES-CDスコアをもたらす。別の例では、治療は10~15のSES-CDスコアをもたらす。別の例では、治療は0~15のSES-CDスコアをもたらす。
【0060】
一例では、本開示の方法は、対象における疾患進行または疾患合併症を抑制する。対象における疾患進行または疾患合併症の「抑制」は、対象における疾患進行及び/または疾患合併症を予防または軽減することを意味する。
【0061】
本明細書で使用される「対象」という用語は、ヒト対象を指す。例えば、対象は成人であり得る。別の例では、対象は小児であり得る。別の例では、対象は青年であり得る。「対象」、「患者」または「個人」などの用語は、本開示において文脈の中で互換的に使用され得る用語である。
【0062】
本開示に従って治療される対象は、炎症性腸疾患を示唆する症候を有し得る。例えば、対象は、炎症性腸疾患を示唆する消化器系症候を有し得る。例示的な消化器系症候としては、下痢、便秘、吐き気、嘔吐、鼓腸、痙攣、膨満、腹痛、脂肪便、直腸出血が挙げられる。一例では、本開示に従って治療される対象は、疲労感、虚弱及び無気力、鉄分欠乏、貧血、ビタミン及びミネラル欠乏、発育障害、思春期遅発、体重減少、骨痛及び関節痛、再発性口腔内潰瘍及び/または口もしくは舌の腫れ、精神的な注意力及び興奮性の変化、皮疹、例えばヘルペス状皮膚炎、皮膚の痣の形成されやすさ、ならびに日常的な逆流からなる群から選択される1つ以上の症候を呈し得る。一例では、対象は以前に少なくとも1つの抗TNF療法が失敗したことがある。一例では、対象は生物学的療法に対する禁忌を有する。
【0063】
別の例では、対象は18~75歳である。別の例では、対象はクローン病を有する。別の例では、対象は潰瘍性大腸炎を有する。別の例では、対象はクローン病及び潰瘍性大腸炎を有する。別の例では、対象のクローン病は対象の腸に現れている。別の例では、対象のクローン病は対象の直腸及び/または結腸に現れている。
【0064】
別の例では、対象は少なくとも6ヶ月の持続期間にわたってクローン病を有していたことがある。別の例では、対象のクローン病は中等度~重度である。別の例では、対象のクローン病は、瘻孔を伴うクローン病である(例えば、Geese et al.2013 United European Gastroenterol J.,1:206-213を参照されたい)。
【0065】
別の例では、対象のCDAIは200よりも大きい。別の例では、対象のCDAIは250よりも大きい。別の例では、対象のCDAIは300よりも大きい。別の例では、対象のCDAIは200~450である。別の例では、対象のCDAIは250~400である。別の例では、対象のCDAIは300~400である。
【0066】
別の例では、本開示の方法は、活動性の軽度のクローン病を有する対象を予防または治療する。別の例では、本開示の方法は、活動性の中等度のクローン病を有する対象を予防または治療する。別の例では、本開示の方法は、活動性の重度のクローン病を有する対象を予防または治療する。別の例では、本開示の方法は、活動性の中等度または重度のクローン病を有する対象を予防または治療する。
【0067】
一例では、本開示の方法に従って治療される対象は少なくとも1つの生物学的療法に対して不応である。一例では、本開示の方法に従って治療される対象は単一の生物学的療法に対して不応である。例えば、本開示の方法は、生物学的療法に対して不応である活動性の中等度のクローン病を有する対象を予防または治療するために用いられ得る。例えば、対象のクローン病はTNF-アルファ拮抗薬に対して不応であり得る。
【0068】
ある例では、対象は、炎症性腸疾患に対する他の治療に対しても不応であり得る。一例では、対象は、少なくとも1つの生物学的療法、及びアザチオプリン、メルカプトプリン(6-MP)、メトトレキサート、シクロスポリンまたはステロイドのうちの1つ以上に対して不応であり得る。別の例では、対象は、単一の生物学的療法、及びアザチオプリン、メルカプトプリン(6-MP)、メトトレキサート、シクロスポリンまたはステロイドのうちの1つ以上に対して不応であり得る。
【0069】
本明細書で使用される場合、「不応の」という用語は、本開示の文脈において、「生物学的療法」などの特定の治療、例えばインフリキシマブまたはアダリムマブなどの生物学的製剤による治療が失敗するかまたはそれに対して耐性である対象を指して使用される。一例では、医学的管理における次のステップが医学的管理における拡大である場合、対象は生物学的療法に対して不応である。一例では、医学的管理における次のステップが代替生物学的療法である場合、対象は生物学的療法に対して不応である。別の例では、医学的管理における次のステップが全部未満の結腸切除である場合、対象は生物学的療法に対して不応である。一例では、対象は単一の生物学的療法に対して不応である。この例では、対象は、1つよりも多い生物学的療法によって治療されていない。
【0070】
「生物学的療法」という用語は、本開示の文脈において、生きている生物有機体に由来するかまたはそこから合成された組換えタンパク質を指して使用される。一例では、生物学的療法は、炎症性の病態、例えば炎症性腸疾患、例えばクローン結腸炎の治療のために用いられる。一例では、生物学的療法は抗体である。例えば、生物学的療法はモノクローナル抗体である。別の例では、生物学的療法は抗TNF療法である。本開示に包含される生物学的療法の例としては、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ベドリズマブまたはウステキヌマブが挙げられる。したがって、一例では、本開示によって包含される対象は、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ベドリズマブまたはウステキヌマブに対して不応であり得る。
【0071】
本明細書で使用される場合、「遺伝子改変されていない」という用語は、細胞が核酸によるトランスフェクションによって改変されていないことを意味する。誤解を避けるために記すと、本開示の文脈において、Ang1をコードする核酸によってトランスフェクトされた間葉系統前駆または幹細胞は、遺伝子改変されているとみなされよう。
【0072】
「総用量」という用語は、本開示の文脈において、本開示に従って治療された対象が受け取った細胞の総数を指して使用される。一例では、総用量は細胞の1回の投与からなる。別の例では、総用量は細胞の2回の投与からなる。別の例では、総用量は細胞の3回の投与からなる。別の例では、総用量は細胞の4回以上の投与からなる。例えば、総用量は、細胞の2~4回の投与からなり得る。
【0073】
間葉系統前駆細胞
本明細書で使用される場合、「間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)」という用語は、多能性を維持しながら自己再生する能力、ならびに間葉系由来のもの、例えば骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、間質細胞、線維芽細胞及び腱か、非間葉系由来のもの、例えば肝細胞、神経細胞及び上皮細胞かのどちらかである複数の細胞種に分化する能力を有する、未分化多能細胞を指す。誤解を避けるために記すと、「間葉系統前駆細胞」は、間葉系細胞、例えば、骨、軟骨、筋肉及び脂肪細胞、ならびに線維性結合組織に分化し得る細胞を指す。
【0074】
「間葉系統前駆または幹細胞」という用語は、親細胞及びその未分化子孫を両方とも含む。当該用語はまた、間葉系前駆細胞、多能性間質細胞、間葉系幹細胞(MSC)、血管周囲間葉系前駆細胞及びそれらの未分化子孫も含む。
【0075】
間葉系統前駆または幹細胞は、自家、同種異系、異種、同系または同種であり得る。自家細胞は、それを再移植されることになる同じ個体から単離される。同種異系細胞は、同種のドナーから単離される。異種細胞は、別種のドナーから単離される。同系または同種細胞は、遺伝学的に同一である生物、例えば、双子、クローン、または近親性の高い研究動物モデルから単離される。
【0076】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は同種異系である。一例では、同種異系の間葉系統前駆または幹細胞は、培養増殖させて冷凍保存したものである。
【0077】
間葉系統前駆または幹細胞は主として骨髄の中に存在するが、例えば、臍帯血及び臍帯、成人末梢血、脂肪組織、小柱骨、ならびに歯髄を含めた多様な宿主組織の中にも存在することが示されている。それらは、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、靱帯、腱、骨格筋、真皮及び骨膜の中にみられ、生殖細胞系、例えば中胚葉及び/または内胚葉及び/または外胚葉に分化することができる。このように、間葉系統前駆または幹細胞は、脂肪、骨、軟骨、弾性、筋肉及び線維性結合組織を含むがこれらに限定されない多数の細胞種に分化することができる。これらの細胞が入っていく具体的な系統専任性及び分化経路は、機序的影響力を有するもの及び/または内因性生物活性因子、例えば、成長因子、サイトカイン、及び/または宿主組織によって確立された局所微小環境条件からの様々な影響によって決まる。
【0078】
「濃縮された」、「濃縮」という用語、またはその変化形は、処理されていない細胞(例えばその天然の環境にある細胞)の集団と比較した場合に1つの特定の細胞種の割合または複数の特定の細胞種の割合が増加している細胞の集団を表して本明細書で使用される。一例では、間葉系統前駆または幹細胞が濃縮された集団は、少なくとも約0.1%または0.5%または1%または2%または5%または10%または15%または20%または25%または30%または50%または75%の間葉系統前駆または幹細胞を含む。これに関して、「間葉系統前駆または幹細胞が濃縮された細胞の集団」という用語は、X%を本明細書中で列挙される百分率とした、「X%の間葉系統前駆または幹細胞を含む細胞の集団」という用語に対して、明示的な支持を提供するものと解釈されよう。間葉系統前駆または幹細胞は、いくつかの例では、クローン原性コロニー、例えばCFU-F(線維芽細胞)を形成し得、またはそのサブセット(例えば50%または60%または70%または70%または90%または95%)がこの活性を有し得る。
【0079】
本開示の一例では、間葉系統前駆または幹細胞は間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、均一な組成物であってもよいし、またはMSCが濃縮された混合細胞集団であってもよい。均一なMSC組成物は、付着性骨髄または骨膜細胞を培養することによって得られ得、MSCは、独特なモノクローナル抗体によって識別される固有の細胞表面マーカーによって同定され得る。MSCが濃縮された細胞集団を得るための方法は、例えば、米国特許第5,486,359号に記載されている。MSCの代替供給源としては、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨及び軟骨膜が挙げられるが、これらに限定されない。一例では、MSCは同種異系である。一例では、MSCは冷凍保存されたものである。一例では、MSCは、培養増殖させて冷凍保存したものである。
【0080】
別の例では、間葉系統前駆または幹細胞は、CD29+、CD54+、CD73+、CD90+、CD102+、CD105+、CD106+、CD166+、MHC1+ MSCである。
【0081】
単離または濃縮された間葉系統前駆または幹細胞は、試験管内で培養によって増殖され得る。単離または濃縮された間葉系統前駆または幹細胞は、冷凍保存され得、解凍され得、その後、試験管内で培養によって増殖され得る。
【0082】
一例では、単離または濃縮された間葉系統前駆または幹細胞を50,000生細胞/cm2で(無血清の、または血清が補充された)培養培地、例えば、5%のウシ胎仔血清(FBS)及びグルタミンが補充されたアルファ最小必須培地(αMEM)に播種し、37℃、20%O2で一晩、培養容器に付着させる。その後、培養培地を必要に応じて交換及び/または変更し、37℃、5%O2でさらに68~72時間にわたって細胞を培養する。
【0083】
当業者には理解されるであろうが、培養された間葉系統前駆または幹細胞は、生体内の細胞とは表現型が異なる。例えば、一実施形態では、それらに以下のマーカー、CD44、NG2、DC146及びCD140bのうちの1つ以上が発現する。培養された間葉系統前駆または幹細胞は、生物学的にも生体内の細胞とは異なっており、生体内の概して非循環性である(静止している)細胞に比べて増殖速度がより速い。
【0084】
一例では、細胞の集団は、選択可能な形態のSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から濃縮される。これに関して、「選択可能な形態」という用語は、細胞にマーカー(例えば細胞表面マーカー)が発現してSTRO-1+細胞の選択が可能になっていることを意味するものと理解されよう。マーカーは、必ずというわけではないが、STRO-1であり得る。例えば、本明細書に記載及び/または例示されているように、STRO-2及び/またはSTRO-3(TNAP)及び/またはSTRO-4及び/またはVCAM-1及び/またはCD146及び/または3G5が発現している細胞(例えば間葉系前駆細胞)は、STRO-1も発現する(そして、STRO-1brightであり得る)。したがって、細胞がSTRO-1+であると示されていても、細胞がSTRO-1発現だけによって選択されることを意味してはいない。一例では、細胞は少なくともSTRO-3発現に基づいて選択され、例えばそれらはSTRO-3+(TNAP+)である。
【0085】
細胞またはその集団の選択に対する言及は、必ずしも特定の組織源からの選択を必要としてはいない。本明細書に記載されるように、STRO-1+細胞は多種多様な供給源から選択または単離または濃縮され得る。したがって、いくつかの例では、これらの用語は、STRO-1+細胞(例えば間葉系前駆細胞)を含む任意の組織、または血管形成組織、または周皮細胞(例えばSTRO-1+周皮細胞)を含む組織、または本明細書に列挙される組織の任意の1つ以上からの選択に対する支持を提供する。
【0086】
一例では、本開示において使用される細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+またはその任意の組合せからなる群から個々または集合的に選択される1つ以上のマーカーが発現するものである。
【0087】
「個々に」は、列挙されたマーカーまたはマーカーの群を個別に本開示が包含すること、ならびに個々のマーカーまたはマーカーの群が別個に本明細書に列挙されていない場合があるにもかかわらず別記の特許請求の範囲はそのようなマーカーまたはマーカーの群を互いに別個及び分割可能に規定している場合があることを意味する。
【0088】
「集合的に」は、列挙されたマーカーまたはマーカーの群を任意の数で、または組み合わせて本開示が包含すること、ならびにそのような複数の、または組み合わされたマーカーまたはマーカーの群が具体的に本明細書に列挙されていない場合があるにもかかわらず別記の特許請求の範囲はそのような組合せまたは部分的組合せを他の任意のマーカーまたはマーカーの群とは別個及び分割可能に規定している場合があることを意味する。
【0089】
本明細書で使用される場合、「TNAP」という用語は、組織非特異的アルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することを意図する。例えば、当該用語は、肝アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎アイソフォーム(KAP)を包含する。一例では、TNAPはBAPである。一例では、本明細書で使用されるTNAPは、バプテスト条約の規定の下に2005年12月19日にATCCに寄託受入番号PTA-7282の下に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されたSTRO-3抗体に結合し得る分子を指す。
【0090】
さらには、一例では、STRO-1+細胞はクローン原性CFU-Fをもたらすことができる。
【0091】
一例では、STRO-1+細胞の大部分は、少なくとも2つの異なる生殖細胞系に分化することができる。STRO-1+細胞に特化され得る系統の非限定的な例としては、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞への多能性を有するものである肝細胞前駆細胞;貧突起膠細胞及びアストロサイトに進化するグリア細胞前駆体を生成し得るものである神経限定細胞;ニューロンに進化する神経前駆体;心筋及び心筋細胞の前駆体、グルコース応答姓インスリン分泌性膵ベータ細胞株が挙げられる。他の系統としては、限定はしないが、象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、ならびに以下のものの前駆細胞が挙げられる:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、皮膚細胞、例えば角化細胞、樹状細胞、毛包細胞、尿細管上皮細胞、平滑及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管細胞、上皮細胞、グリア細胞、神経脂肪、アストロサイト及び貧突起膠細胞。
【0092】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、単一のドナーから得られるか、あるいは、ドナー試料または間葉系統前駆もしくは幹細胞を後にプールしてから培養増殖させる場合には複数のドナーから得られる。
【0093】
本開示によって包含される間葉系統前駆または幹細胞は、対象に投与される前に冷凍保存されてもよい。一例では、間葉系統前駆または幹細胞を培養増殖させ、冷凍保存し、その後、対象に投与される。
【0094】
一例では、本開示は、間葉系統前駆または幹細胞、ならびにその子孫、それに由来する可溶性因子、及び/またはそれから単離される細胞外小胞を包含する。別の例では、本開示は、間葉系統前駆または幹細胞、及びそれから単離される細胞外小胞を包含する。例えば、本開示の間葉系前駆細胞系統または幹細胞を、一定期間にわたって、及び細胞培養培地中への細胞外小胞の分泌に適した条件の下で、培養増殖させることが可能である。分泌された細胞外小胞は、その後、療法に使用するために培養培地から得られ得る。
【0095】
本明細書で使用される「細胞外小胞」という用語は、細胞から天然に放出される約30nmから10ミクロンまでもの範囲の大きさの液体粒子を指し、但し、それらの大きさは典型的には200nm未満である。それらは、放出している細胞(例えば、間葉系幹細胞、STRO-1+細胞)からのタンパク質、核酸、脂質、代謝産物または細胞小器官を含有し得る。
【0096】
本明細書で使用される「エキソソーム」という用語は、大きさの範囲が大抵約30nm~約150nmであり、哺乳動物細胞のエンドソーム区画に由来する、細胞外小胞の一種を指すが、それは、当該区画から細胞膜へと移動して放出されるものである。それは、核酸(例えば、RNA、マイクロRNA)、タンパク質、脂質及び代謝産物を含有し得、1つの細胞から分泌されて他の細胞によって取り込まれてその積荷を送達することによって細胞間伝達における機能を果たす。
【0097】
細胞の培養増殖
一例では、間葉系統前駆または幹細胞を培養増殖させる。「培養増殖させた」間葉系統前駆または幹細胞の培地は、細胞培養培地中で培養され継代(つまり植え継ぎ)されているという点で、単離して間もない細胞とは区別される。一例では、培養増殖させた間葉系統前駆または幹細胞は、約4~10継代にわたって培養増殖したものである。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10継代にわたって培養増殖したものである。例えば、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも5継代にわたって培養増殖したものであり得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも5~10継代にわたって培養増殖したものであり得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも5~8継代にわたって培養増殖したものであり得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも5~7継代にわたって培養増殖したものであり得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、10よりも多い継代にわたって培養増殖したものであり得る。別の例では、間葉系統前駆または幹細胞は、7よりも多い継代にわたって培養増殖したものであり得る。これらの例では、幹細胞を培養増殖させてその後に冷凍保存して中間冷凍保存MLPSC集団を得てもよい。一例では、本開示の組成物は、中間冷凍保存MLPSC集団から調製される。例えば、中間冷凍保存MLPSC集団をさらに培養増殖させてその後に以下にさらに記述されるように投与してもよい。したがって、一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、培養増殖させ冷凍保存したものである。これらの例の一実施形態では、間葉系統前駆または幹細胞は、単一のドナーから得られ得るか、あるいは、ドナー試料または間葉系統前駆もしくは幹細胞を後にプールしてから培養増殖させる場合には複数のドナーから得られ得る。一例では、培養増殖プロセスは、
-i.生細胞の数を継代増殖によって増やして少なくとも約10億個の生細胞を得ること
を含み、継代増殖が、単離された間葉系統前駆または幹細胞の初代培養物を確立し、その後、単離された間葉系統前駆または幹細胞の第1非初代(P1)培養物を先の培養物から段階的に確立することを含むものであり;
-ii.単離された間葉系統前駆または幹細胞のP1培養物を継代増殖によって増殖させて間葉系統前駆または幹細胞の第2非初代(P2)培養物を得ること;ならびに
-iii.間葉系統前駆または幹細胞のP2培養物から得られた間葉系統前駆または幹細胞工程内中間調製物を調製及び冷凍保存すること;ならびに
-iv.冷凍保存された間葉系統前駆または幹細胞工程内中間調製物を解凍し、間葉系統前駆または幹細胞工程内中間調製物を継代増殖によって増殖させること
を含む。
【0098】
一例では、増殖させた間葉系統前駆または幹細胞調製物は、
-i.約0.75%未満のCD45+細胞;
-ii.少なくとも約95%のCD105+細胞;
-iii.少なくとも約95%のCD166+細胞
を含む抗原プロファイル及び活性プロファイルを有する。
【0099】
一例では、増殖した間葉系統前駆または幹細胞調製物は、CD3/CD28活性化PBMCによるIL2Ra発現を対照に比べて少なくとも約30%阻害することができる。
【0100】
一例では、培養増殖した間葉系統前駆または幹細胞は、約4~10継代にわたって培養増殖したものであり、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも2または3継代後に冷凍保存されてその後にさらに培養増殖したものである。一例では、間葉系統前駆または幹細胞を、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5継代にわたって培養増殖させ、冷凍保存し、次いで少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5継代にわたってさらに培養増殖させ、その後に投与またはさらなる冷凍保存を行う。
【0101】
一例では、本開示の組成物の中の間葉系統前駆または幹細胞の大部分は、ほぼ同じ世代番号のものである(つまり、それらは互いの約1回目または約2回目または約3回目または約4回目の細胞分裂物である)。一例では、本発明の組成物において平均細胞分裂回数は約20~約25回の分裂である。一例では、本発明の組成物において平均細胞分裂回数は、初代培養物から生じた約9~約13回(例えば約11回または約11.2回)の分裂に1継代あたり約1回、約2回、約3回、約4回の分裂(例えば1継代あたり約2.5回の分裂)を足したものである。本発明の組成物において例示的な平均細胞分裂は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9及び約10継代によって生じる場合、それぞれ約13.5回、約16回、約18.5回、約21回、約23.5回、約26回、約28.5回、約31回、約33.5回及び約36回のいずれかである。
【0102】
間葉系統前駆または幹細胞の単離及び生体外増殖のプロセスは、当技術分野で知られている任意の装備及び細胞取扱い方法を用いて実施され得る。本開示の様々な培養増殖実施形態は、細胞の操作を必要とするステップ、例えば、播種、栄養補給、付着培養物の解離、または洗浄のステップを採用する。細胞を操作する任意のステップは、細胞を傷付ける可能性を有する。間葉系統前駆または幹細胞が一般には調製の間の一定量の損傷に耐え得るとはいえ、細胞に対する損傷を最小限に抑えながら所与のステップ(複数可)を適切に実施する取扱い手順及び/または装備によって細胞を操作することが好ましい。
【0103】
一例では、細胞源バッグ、洗浄液バッグ、再循環洗浄バッグ、入口及び出口ポートを有する旋回膜フィルター、濾液バッグ、混合領域、洗浄済み細胞のための最終生成物バッグ、ならびに適切な管類、例えばこれをもって参照により援用されるUS6,251,295に記載されているものを含む装置において、間葉系統前駆または幹細胞を洗浄する。
【0104】
一例では、本開示に係る間葉系統前駆または幹細胞組成物は、CD105陽性及びCD166陽性であること、ならびにCD45陰性であることに関して95%均一である。一例では、この均一性は、生体外での増殖を通して、つまり複数回の集団倍加にわたって持続する。一例では、組成物は、少なくとも1つの治療的用量の間葉系統前駆または幹細胞を含み、間葉系統前駆または幹細胞は、約1.25%未満のCD45+細胞、少なくとも約95%のCD105+細胞、及び少なくとも約95%のCD166+細胞を含む。一例では、この均一性は、凍結保存及び解凍の後でも持続しており、細胞は全体的に約70%以上の生存率も有する。
【0105】
一例では、本開示の組成物は、かなりのレベルのTNFR1、例えば、間葉系統前駆または幹細胞100万個あたり13pgよりも多いTNFR1が発現する間葉系統前駆または幹細胞を含む。一例では、この表現型は、生体外での増殖及び凍結保存の全体を通して安定している。一例では、間葉系統前駆または幹細胞100万個あたり約13~約179pg(例えば約13pg~約44pg)のレベルのTNFR1の発現は、生体外での増殖及び冷凍保存にわたっても持続する望ましい治療的可能性に関連している。
【0106】
一例では、培養増殖した間葉系統前駆または幹細胞には腫瘍壊死因子受容体1(TNFR1)が少なくとも110pg/mlの量で発現する。例えば、間葉系統前駆または幹細胞にはTNFR1が、少なくとも150pg/ml、または少なくとも200pg/ml、または少なくとも250pg/ml、または少なくとも300pg/ml、または少なくとも320pg/ml、または少なくとも330pg/ml、または少なくとも340pg/ml、または少なくとも350pg/mlの量で発現し得る。
【0107】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞にはTNFR1が少なくとも13pg/106細胞の量で発現する。例えば、間葉系統前駆または幹細胞には、TNFR1が、少なくとも15pg/106細胞、または少なくとも20pg/106細胞、または少なくとも25pg/106細胞、または少なくとも30pg/106細胞、または少なくとも35pg/106細胞、または少なくとも40pg/106細胞、または少なくとも45pg/106細胞、または少なくとも50pg/106細胞の量で発現する。
【0108】
別の例では、本明細書に開示される間葉系統前駆または幹細胞は、T細胞上でのIL-2Rα発現を阻害する。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、IL-2Rα発現を少なくとも約30%、あるいは少なくとも約35%、あるいは少なくとも約40%、あるいは少なくとも約45%、あるいは少なくとも約50%、あるいは少なくとも約55%、あるいは少なくとも約60阻害し得る。
【0109】
一例では、本開示の組成物は、例えば少なくとも約1億個の細胞または約1億2500万個の細胞を含み得る、少なくとも1つの治療的用量の間葉系統前駆または幹細胞を含む。
【0110】
細胞の改変
本開示の間葉系統前駆または幹細胞は、投与した時に細胞の溶解が抑制されるように改変され得る。抗原の改変は、免疫学的非応答性または忍容を誘発し得、それによって、正常免疫応答における外来細胞の拒絶を最終的に担う免疫応答のエフェクター段階(例えば、細胞傷害性T細胞生成、抗体産生など)の誘発を防止し得る。この目標を達成するために改変され得る抗原としては、例えば、MHCクラスI抗原、MHCクラスII抗原、LFA-3及びICAM-1が挙げられる。
【0111】
間葉系統前駆または幹細胞は、横紋骨格筋細胞の分化及び/または維持のために重要であるタンパク質が発現するように遺伝子改変されてもよい。例示的なタンパク質としては、成長因子(TGF-β、インスリン様成長因子1(IGF-1)、FGF)、筋原性因子(例えば、myoD、myogenin、筋原性因子5(Myf5)、筋原性調節因子(MRF))、転写因子(例えば、GATA-4)、サイトカイン(例えば、cardiotropin-1)、ニューレグリンファミリーのメンバー(例えば、ニューレグリン1、2及び3)、及びホメオボックス遺伝子(例えば、Csx、tinman及びNKxファミリー)が挙げられる。
【0112】
本開示の組成物
本開示の一例では、間葉系統前駆もしくは幹細胞及び/またはその子孫及び/またはそれに由来する可溶性因子は、組成物の形態で投与される。一例では、そのような組成物は、薬学的に許容される担体及び/または賦形剤を含む。したがって、一例では、本開示の組成物は、培養増殖した間葉系統前駆または幹細胞を含み得る。
【0113】
「担体」及び「賦形剤」という用語は、活性化合物の保存、投与及び/または生物学的活性を容易にするために当技術分野で従来使用されている組成物を指す(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Ed.,Mac Publishing Company(1980)を参照されたい。担体は、活性化合物の何らかの望ましくない副作用を軽減するものでもあり得る。好適な担体は、例えば、安定している、例えば、担体中の他の成分と反応することができない。一例では、担体は、治療のために採用される投薬量及び濃度ではレシピエントに大きな局所的または全身的副作用を生じさせない。
【0114】
本開示に適する担体としては、従来使用されているもの、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンガー液、緩衝液が挙げられ、ヒアルロナン及びグリコールは、特に(等張である場合の)溶液のための、例示的な液体担体である。好適な医薬担体及び賦形剤としては、澱粉、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
【0115】
別の例では、担体は、例えば細胞を中で成長または懸濁させる、培地組成物である。例えば、そのような培地組成物は、それが投与される対象において何ら副作用を誘発しない。
【0116】
例示的な担体及び賦形剤は、細胞の生存能、及び/または細胞の代謝症候群及び/または肥満を軽減する、予防する、もしくは遅らせる能力に悪影響を与えない。
【0117】
一例では、担体または賦形剤は、細胞及び/または可溶性因子を好適なpHに維持する緩衝活性を提供してそれによって生物学的活性を働かせ、例えば、担体または賦形剤はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、魅力的な担体または賦形剤に相当する、というのも、それは細胞及び因子と最小限に相互作用し、細胞及び因子の速やかな放出を可能にするからであり、そのような場合、本開示の組成物は、血流への、または組織を取り囲んでいるかもしくはそれに隣接する領域の中への例えば注射による直接適用のための液剤として製造され得る。
【0118】
レシピエント適合性であり、レシピエントに対して害がない生成物に分解する足場の中に、間葉系統前駆もしくは幹細胞及び/またはその子孫及び/またはそれに由来する可溶性因子を組み込んでもよい。これらの足場は、レシピエント対象の中に移植されることになる細胞に対して支持及び保護を提供する。天然及び/または合成の生分解性足場はそのような足場の例である。
【0119】
本開示の実践では多種多様な足場が首尾よく使用され得る。例示的な足場としては、分解可能な生物学的足場が挙げられるが、これらに限定されない。天然の生分解性足場としては、コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニン足場が挙げられる。細胞移植足場のための好適な合成材料は、細胞増殖及び細胞機能を広く支援することができなければならない。そのような足場は吸収性でもあり得る。好適な足場としては、(例えば、Vacanti,et al.J.Ped.Surg.23:3-9 1988、Cima,et al.Biotechnol.Bioeng.38:145 1991、Vacanti,et al.Plast.Reconstr.Surg.88:753-9 1991によって記載されているような)ポリグリコール酸足場;または合成ポリマー、例えば、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル及びポリ乳酸が挙げられる。
【0120】
別の例では、間葉系統前駆もしくは幹細胞及び/またはその子孫及び/またはそれに由来する可溶性因子をゲル足場(例えば、Upjohn CompanyからのGelfoam)の中に入れて投与してもよい。
【0121】
本明細書に記載の組成物は、単独で、または他の細胞との混合物として投与され得る。異なる種類の細胞を投与の直前または少し前に本開示の組成物と混合してもよいし、またはそれらを投与前に一定期間にわたって一緒に共培養してもよい。
【0122】
一例では、組成物は、有効量または治療的もしくは予防的有効量の間葉系統前駆もしくは幹細胞及び/またはその子孫及び/またはそれに由来する可溶性因子を含む。例えば、組成物は、約1×105個の幹細胞~約1×109個の幹細胞、または約1.25×103個の幹細胞~約1.25×107個の幹細胞/kg(80kgの対象)を含む。投与される細胞の厳密な量は、対象の年齢、体重及び性別、ならびに治療される障害の程度及び重症度を含めた様々な因子によって決まる。
【0123】
一例では、50×106~200×107個の細胞を投与する。他の例では、60×106~200×106個の細胞、または75×106~150×106個の細胞を投与する。一例では、75×106個の細胞を投与する。別の例では、150×106個の細胞を投与する。
【0124】
一例では、組成物は、5.00×106個よりも多い生細胞/mLを含む。別の例では、組成物は、5.50×106個よりも多い生細胞/mLを含む。別の例では、組成物は、6.00×106個よりも多い生細胞/mLを含む。別の例では、組成物は、6.50×106個よりも多い生細胞/mLを含む。別の例では、組成物は、6.68×106個よりも多い生細胞/mLを含む。
【0125】
一例では、本開示の方法は、6億個の総用量の細胞を投与することを包含する。例えば、本開示に従って治療される対象は、細胞の総用量が6億個の細胞を超過しない限りにおいて、上に言及される組成物の用量を複数回受け得る。例えば、対象は、2億個の用量の細胞を3回受け得る。一例では、細胞の総用量は5億個の細胞である。
【0126】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%を構成する。
【0127】
本開示の組成物は冷凍保存され得る。間葉系統前駆または幹細胞の冷凍保存は、当技術分野で知られている低速冷却法または「高速」凍結プロトコールを用いて行われ得る。好ましくは、冷凍保存の方法は、未凍結細胞と比較して、冷凍保存細胞の類似する表現型、細胞表面マーカー及び成長速度を維持する。
【0128】
冷凍保存された組成物は冷凍保存溶液を含み得る。冷凍保存溶液のpHは、典型的には6.5~8、好ましくは7.4である。
【0129】
冷凍保存溶液は、無菌の非発熱原性等張液、例えば、PlasmaLyte A(商標)などを含み得る。100mLのPlasmaLyte A(商標)は、526mgの塩化ナトリウム、USP(NaCl);502mgのグルコン酸ナトリウム(C6H11NaO7);368mgの酢酸ナトリウム三水和物、USP(C2H3NaO2・3H2O);37mgの塩化カリウム、USP(KC1);及び30mgの塩化マグネシウム、USP(MgCl2・6H2O)を含有する。それは抗菌剤を含有しない。pHは水酸化ナトリウムで調整される。pHは7.4(6.5~8.0)である。
【0130】
冷凍保存溶液はProfreeze(商標)を含み得る。冷凍保存溶液は、さらに、またはあるいは、培養培地、例えばαMEMを含み得る。
【0131】
通常は、凍結を容易にするために凍結保護剤、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)を冷凍保存溶液に添加する。理想的には、凍結保護剤は、細胞及び患者に対して無毒であり、非抗原性であり、化学的に不活性であり、解凍後の高い生存率をもたらし、洗浄なしでの移植を可能にするものでなければならない。しかしながら、最も一般的に使用される凍結保護剤であるDMSOはいくらかの細胞毒性を示す。冷凍保存溶液の細胞毒性を軽減するためにヒドロキシルエチル澱粉(HES)を代替物として、またはDMSOと組み合わせて使用することがある。
【0132】
冷凍保存溶液は、DMSO、ヒドロキシルエチル澱粉、ヒト血清成分及び他のタンパク質増量剤のうちの1つ以上を含み得る。一例では、冷凍保存される溶液は、約5%のヒト血清アルブミン(HSA)及び約10%のDMSOを含む。冷凍保存溶液は、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)及びトレハロースのうちの1つ以上をさらに含み得る。
【0133】
一実施形態では、細胞を42.5%Profreeze(商標)/50%αMEM/7.5%DMSOの中に懸濁させ、速度制御された冷凍庫内で冷却する。
【0134】
冷凍保存された組成物は、解凍され得、そのまま対象に投与され得るか、または別の溶液、例えばHAを含む溶液に添加され得る。あるいは、冷凍保存された組成物は、解凍され得、間葉系統前駆または幹細胞が投与前に代替担体中に再懸濁され得る。
【0135】
一例では、本開示の細胞組成物は、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びヒト血清アルブミン(HSA)を含み得る。例えば、本開示の組成物は、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液を含み得、当該HSA溶液は5%のHSA及び15%の緩衝剤を含みうる。
【0136】
一例では、本明細書に記載の組成物は単回用量として投与され得る。
【0137】
いくつかの例では、本明細書に記載の組成物は複数回用量にわたって投与され得る。例えば、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4回用量である。他の例では、本明細書に記載の組成物は、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回用量にわたって投与され得る。
【0138】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、対象に投与される前に培養増殖され得る。細胞培養の様々な方法が当技術分野で知られている。一例では、間葉系統前駆または幹細胞を約4~10継代にわたって培養増殖する。一例では、間葉系統前駆または幹細胞を少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10継代にわたって培養増殖する。一例では、間葉系統前駆または幹細胞を少なくとも5継代にわたって培養増殖する。これらの例では、幹細胞は、冷凍保存される前に培養増殖され得る。
【0139】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞を投与前に無血清培地中で培養増殖する。
【0140】
いくつかの例では、細胞は、細胞が対象の循環系中へと出ていくことを可能にしないが細胞によって分泌された因子が循環系に入ることを可能にする容器の中に収容される。このようにして、可溶性因子は、対象の循環系の中へ細胞が因子を分泌することを可能にすることによって、対象に投与され得る。そのような容器は、同様に、可溶性因子の局所レベルを上昇させるために対象の部位に埋植され得、例えば、消化管壁またはその近傍に埋植され得る。
【0141】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は対象の消化管の壁に投与され得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は消化管の管腔内壁に局所投与される。別の例では、間葉系統前駆または幹細胞は局部に投与され得る。例えば、間葉系統前駆または幹細胞は対象の消化管の壁内に投与され得る。例えば、間葉系統前駆または幹細胞は対象の消化管の壁の粘膜下に投与され得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は対象の消化管壁における炎症の部位に投与され得る。例えば、間葉系統前駆または幹細胞は対象の消化管壁における炎症の部位の中に投与され得る。これらの例では、炎症の部位は、投与前に内視鏡的に確認され得る。例えば、内視鏡的確認は、訓練された医師による目視検査、及び/または内視鏡生検材料の組織学的分析に基づき得る。一例では、消化管の壁は腸壁である。例えば、間葉系統前駆または幹細胞は対象の結腸壁及び/または腸管壁に投与され得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は対象の結腸壁及び/または腸管壁の粘膜下に直接投与され得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は対象の結腸壁及び/または直腸壁に直接投与され得る。別の例では、本開示の組成物は管腔内注射によって投与され得る。別の例では、本開示の組成物は静脈内に投与される。別の例では、組成物は静脈内及び局所に投与される。
【0142】
様々な例において、細胞の用量は、対象の消化管の複数の部位に投与される必要があり得る。1回用量あたりの必要とされる投与部位数は、投与される細胞の数によって決まり得る。例えば、おおよそ7500万個の細胞の用量は、消化管の5箇所の部位に投与される必要があり得る。別の例では、おおよそ1億5000万個の細胞は、消化管の15箇所の部位に投与される必要があり得る。他の例では、用量は、対象の消化管の2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20箇所またはそれよりも多くの部位に投与される必要があり得る。これらの例の一実施形態では、用量は、対象の盲腸、近位横行結腸、遠位横行結腸 下行結腸、S状結腸及び直腸の壁に投与される。この実施形態では、用量は、対象の盲腸、近位横行結腸、遠位横行結腸 下行結腸、S状結腸及び直腸の壁の1、2、3、4、5箇所またはそれよりも多くの部位に投与され得る。
【0143】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は内視鏡によって投与される。例えば、間葉系統前駆または幹細胞は、内視鏡によって対象の消化管壁の粘膜下に注射され得る。一例では、内視鏡は、間葉系統前駆または幹細胞を炎症の部位に直接投与する前に炎症の部位を視覚的に同定するために用いられる。
【0144】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は週1回投与される。例えば、間葉系統前駆または幹細胞は2週間毎に週1回投与され得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は月1回投与され得る。一例では、2回用量の間葉系統前駆または幹細胞が2週間かけて週1回投与される。別の例では、2回用量の間葉系統前駆または幹細胞が2週間毎に週1回投与される。別の例では、4回用量の間葉系統前駆または幹細胞が2週間かけて投与され、その後、次の用量が毎月投与される。一例では、2回用量の間葉系統前駆または幹細胞が2週間毎に週1回投与され得、その後、次の用量が月1回投与される。
【0145】
当業者であれば、本開示の広い全体的範囲から逸脱することなく上記実施形態に対して多数の変形及び/または改変がなされ得ることを認識するであろう。したがって、本発明の実施形態は、あらゆる点において限定的ではなく例示的のものとみなされるべきである。
【0146】
特定の例に従うことは、単なる例示であると解釈されるべきであり、決して本開示の残りの部分を限定すると解釈されるべきでない。当業者であれば、さらに労作することなく本明細書の記載に基づいて本発明を最大限に利用し得るものと考えられる。
【0147】
本出願は、2020年3月11日に出願された豪州仮特許出願第2020900743号による優先権を主張するものであり、参照によりその内容全体を本明細書に援用する。
【実施例】
【0148】
医学的に不応なクローン結腸炎の治療のための、生体外で培養増殖させた成人同種異系骨髄由来幹細胞(MSC)
組成物
組成物は、健常成人ドナーの骨髄から単離された、培養増殖した間葉系間質細胞(ceMSC)を含む。最終組成物は、Plasma-Lyte A(70%)、ジメチルスルホキシド(DMSO、10%)及びヒト血清アルブミン(HSA)(25%)溶液(20%。5%のHSA及び15%の緩衝剤を含む)で6.68×106個以上の生細胞/mLの濃度で製剤化されたceMSCを含む。各用量バイアルは、冷凍保存された細胞懸濁液を3.8mL含有する(バイアル1本あたりの総細胞≧25×106個)。
【0149】
目的
第1目的
医学的に不応なクローン結腸炎の治療のための生体外で増殖させた同種異系骨髄由来MSCであるMSCの内視鏡的送達の安全性を見極めること。
【0150】
第2目的
医学的に不応なクローン結腸炎の治療のための生体外で増殖させた同種異系骨髄由来MSCであるMSCの内視鏡的送達によってもたらされる管腔治癒の奏効を予備的な方法で評価すること。
【0151】
臨床的に
- 24時間便通回数の減少;
- 便中血液の減少;
- C反応性タンパク質の血清中レベルの低下;
- クローン病活動性指数(CDAIスコア)の低下。
【0152】
放射線撮影的に
- 磁気共鳴(MR)エンテログラフィーによる断面撮像。
【0153】
内視鏡及び組織病理学
- 大腸内視鏡検査でのクローン病単純内視鏡スコア(SES-CD)の改善;
- MSC送達前の内視鏡的生検と比較したときの内視鏡的生検または外科的病理学での組織学的治癒の改善。
【0154】
対象
24名の患者は管腔疾患を7500万個(n=12;8名は処置、4名は対照)または1億5000個(n=12;8名は処置、4名は対照)の用量のMSCで処置されることになる。MSCは、手術室で指向的内視鏡送達によって結腸壁の粘膜下層内に送達されることになる。MSC用量漸増は、2:1形式で処置:対照に4回割り振られることになる患者の2つの投薬量群について行われることになる(各投薬量群で8:4の比)。12名の患者は7500万個の細胞を受けることになり、12名は1億5000個の細胞を受けることになる。
【0155】
組入れ基準:
- 18~75歳の男女;
- 1つの抗TNF療法が失敗した医学的に不応な症候を伴ってクローン結腸炎が少なくとも6ヶ月間持続しており、次のステップが全部未満の結腸切除、または医学的管理における拡大である;
- コルチコステロイド、5-ASA薬、チオプリン、メトトレキサート、抗TNF療法、抗インテグリン及び抗インターロイキンへの曝露は許容されるが、コルチコステロイド、5-ASA、チオプリン、メトトレキサートについては2週間の洗い流し期間が実施されることになり、任意の生物学的療法については洗い流し期間を4週間とする;
- 大腸内視鏡検査によって除外した場合にMSC送達から30日以内に結腸異形成及び悪性腫瘍がない;
- 少なくとも1つの抗TNFが失敗しているか生物学的療法に対する禁忌を有していなければならない。
【0156】
主要評価項目
この研究の主要評価項目は、クローン結腸炎の治療のためのMSCの内視鏡注射の安全性及び実現可能性を見極めることである。
【0157】
副次評価項目
臨床的及び内視鏡的寛解:
- 臨床的治癒:
○ 1リットルあたり2.87mg未満へのCRPの正常化;
○ 150未満へのCDAI低下。
- 放射線撮影的治癒:
○ 炎症の改善を伴うMRエンテログラフィー。
- 内視鏡的治癒:
○ 粘膜潰瘍状態の非存在、及び0~5のSES-CDスコア。
【0158】
臨床的及び内視鏡的奏効:
- 臨床的治癒:
○ CRPの50%よりも大きな低減
○ CDAIの100点よりも大きな低下。
- 放射線撮影的治癒:
○ 炎症の改善を伴うMRエンテログラフィー。
- 内視鏡的治癒:
○ 50%よりも大きく減少した、または5~10のスコアまで減少したSES-CD。
【0159】
部分的な臨床的及び内視鏡的奏効:
- 臨床的治癒:
○ CRPの25%よりも大きな低減;
○ CDAIの100点未満の減少。
- 放射線撮影的治癒:
○ 炎症の改善を伴うMRエンテログラフィー。
- 内視鏡的治癒:
○ 25%よりも大きくではあるが50%よりも小さく減少した、または10~15のスコアに減少したSES-CD。
【0160】
奏効の欠如:
- 臨床的治癒:
○ 改善がないこと。
- 放射線撮影的治癒:
○ 炎症の消散を伴わないMRエンテログラフィー。
- 内視鏡的治癒:
○ SES-CDに改善がないこと。
【0161】
治療計画
対象は、生理食塩水を使用する対照と対比されるMSCによる処置に無作為化された後に7500万個の細胞または1億5000万個の細胞(ヒト血清アルブミン(5%)及びジメチルスルホキシド(10%)が補充されたPlasma-Lyte(登録商標)Aの3.8mLあたり2500万個)を受ける。第1コホートは7500万個の用量のMSCまたは生理食塩水を受け、次の12名の患者のコホートは1億5000万個のMSCまたは生理食塩水を受ける。7500万個の投薬量については、7500万個の細胞を11.4mLの中に懸濁させ、これを各場所につき1.9mLで盲腸、近位横行結腸、遠位横行結腸 下行結腸、S状結腸、直腸に送達する。1億5000万個の投薬量については、上記の各場所での結腸/直腸壁の12時、6時及び9時の位置における3回(各々1.3mL)の注射として22.8mLを送達する。手技の間、成人用大腸内視鏡を使用することになる。23ゲージの使い捨ての硬化療法針を使用して細胞を、粘膜下内の盛り上がった小さな水疱によって明らかになる粘膜下層の中に送達することになる。各注射部位において、MSC注射の後、硬化療法針から残存MSCを流しきるために0.5mLのPlasma-Lyte Aを続けて注射することになる。)
【0162】
訪問1回目(スクリーニング/ベースライン)MSC処置対象
患者は以下の検査及び手続をこの訪問時に完了することになる:
- 医学的に不応なクローン結腸炎のための、生物学的療法の変更または全部未満の結腸切除に関する消化器学的または外科的診察の時の適格性(組入れ/除外チェックリスト);
- 書面によるインフォームドコンセント;
- 以下の薬物療法のための洗い流し期間:
○ 5-ASA、コルチコステロイド、アザチオプリン、メトトレキサート及び6-メルカプトプリンを含めた免疫調節剤療法については2週間;
○ 生物学的製剤については4週間:抗TNF、抗インテグリン及びインターロイキン。
- 医学的及び外科的履歴;
- 腹部検査及びバイタルサイン(BP、脈拍数、呼吸速度及び体温)を含めた全身検査;
- クローン病活動性指数(CDAI)スコア;
- 炎症性腸疾患問診票(IBDQ)スコアを得ることになる;
- 過去30日間以内で以前に実施されていない場合の磁気共鳴エンテログラフィー(MRE);
- 過去30日間以内で以前に実施されていない場合の、生検を伴う大腸内視鏡検査;
- サイトメガロウイルス腸炎(CMV腸炎)は除外する;
- クローン病単純内視鏡スコア(SES-CD);
- 以下を含めた研究所試験:
○ 妊娠可能性を有する女性(WOCBP)に対してのみ、尿妊娠検査が実施されることになる
○ 肝機能検査、AST/ALT
○ 急性肝炎パネル
○ ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
○ 全血球算定(CBC)
○ 包括的代謝パネル(CMP)
○ プレアルブミン
○ C反応性タンパク質(CRP)
○ 赤血球沈降速度(ESR)
○ 便中Clostridium difficile(C.diff)
○ 便中カルプロテクチン
○ 併用薬
- 有害事象(医学的管理または術的管理の変更を含む。薬物療法に対するいかなる副作用も、及びいかなる術後合併症も報告する)
【0163】
訪問2回目(0日目-処置)
訪問2回目の7日前以内に患者は以下の検査及び手続をこの訪問時に完了することになる:
- 腹部検査及びバイタルサインを含めた全身検査;
- 炎症性腸疾患問診票(IBDQ)スコア;
- CDAIスコア;
- 処置群または対照群への無作為化;
- 大腸内視鏡検査(MSCを投与するために用いられることになる);
- 併用薬;
- 有害事象;
- MSCまたは生理食塩水の送達。
【0164】
訪問3回目(1日目)
翌日、以下の検査及び手続を完了させることになる:
- 腹部検査及びバイタルサインを含めた全身検査;
- 最後の訪問以来の医学的外科的履歴;
- CDAIスコア;
- 併用薬;
- 有害事象。
【0165】
訪問4回目(4週目+/-3日)
この訪問時に以下の検査及び手続を完了させる:
- 腹部検査及びバイタルサインを含めた全身検査;
- 最後の訪問以来の医学的外科的履歴;
- 生検を伴う軟性S状結腸内視鏡;
- 炎症性腸疾患問診票(IBDQ)スコア;
- CDAIスコア;
- 併用薬;
- 有害事象。
【0166】
訪問5回目(6週目+/-3日)
この訪問時に以下の検査及び手続を完了させる:
- 腹部検査及びバイタルサインを含めた全身検査;
- 最後の訪問以来の医学的外科的履歴;
- 生検を伴う軟性S状結腸内視鏡;
- 炎症性腸疾患問診票(IBDQ)スコア;
- CDAIスコア;
- 併用薬;
- 有害事象。
【0167】
訪問6回目(3ヶ月目+/-7日)
この訪問時に以下の検査及び手続を完了させる:
- 腹部検査及びバイタルサインを含めた全身検査;
- 最後の訪問以来の医学的外科的履歴;
- SES-CD及び生検を伴う大腸内視鏡検査;
- 炎症性腸疾患問診票(IBDQ)スコア;
- CDAIスコア;
- MRE;
- 研究所での精密検査:
○ CBC;
○ CMP;
○ プレアルブミン;
○ CRP;
○ ESR;
○ 便中カルプロテクチン。
- 併用薬;
- 有害事象。
【0168】
訪問7回目(6ヶ月目;+/-7日)
この訪問時に以下の検査及び手続を完了させる:
- 腹部検査及びバイタルサインを含めた全身検査;
- 最後の訪問以来の医学的外科的履歴;
- 炎症性腸疾患問診票(IBDQ)スコア;
- CDAIスコア;
- MRE;
- 研究所での精密検査:
○ CBC;
○ CMP;
○ プレアルブミン;
○ CRP;
○ ESR;
○ 便中カルプロテクチン。
- 併用薬;
- 有害事象。
【0169】
訪問8回目(9ヶ月目、+/-14日)
この訪問時に以下の検査及び手続を完了させる:
- 腹部検査及びバイタルサインを含めた全身検査;
- 最後の訪問以来の医学的外科的履歴;
- 炎症性腸疾患問診票(IBDQ)スコア;
- CDAIスコア;
- MRE;
- 研究所での精密検査:
○ CBC;
○ CMP;
○ プレアルブミン;
○ CRP;
○ ESR;
○ 便中カルプロテクチン。
- 併用薬;
- 有害事象。
【0170】
訪問9回目(12ヶ月目、+/-14日)
この訪問時に以下の検査及び手続を完了させる:
- 腹部検査及びバイタルサインを含めた全身検査;
- 最後の訪問以来の医学的外科的履歴;
- 炎症性腸疾患問診票(IBDQ)スコア;
- CDAIスコア;
- MRE;
- (処置患者のみにおける)生検を伴う大腸内視鏡検査。
- 研究所での精密検査:
○ CBC;
○ CMP;
○ プレアルブミン;
○ CRP;
○ ESR;
○ 便中カルプロテクチン。
- 併用薬;
- 有害事象。
【0171】
訪問10回目(15ヶ月目、+/-14日)
この訪問時に以下の検査及び手続を完了させる:
- 腹部検査及びバイタルサインを含めた全身検査;
- 最後の訪問以来の医学的外科的履歴;
- 炎症性腸疾患問診票(IBDQ)スコア;
- CDAIスコア;
- MRE;
- (MSC処置から12ヶ月目の)対照アームにおける生検を伴う大腸内視鏡検査;
- 研究所での精密検査:
○ CBC;
○ CMP;
○ プレアルブミン;
○ CRP;
○ ESR;
○ 便中カルプロテクチン。
- 併用薬;
- 有害事象。
【0172】
中間解析
単一の生物学的製剤に対して不応な、及び複数の生物学的製剤に対して不応なクローン病、ならびに瘻孔を伴う疾患を含む、最も療法が奏効した患者群の可能な同定を探索するために、小群解析を行った。これらのデータを以下の表1及び表2、ならびに
図1にまとめる。
【0173】
従来の療法であるステロイド及びTNF-アルファ阻害剤が失敗した中等度~重度の活動性クローン病の患者において、早期(28日目)寛解が明瞭に実証され、奏効率は対照と比較して統計的に有意であった(p=0.02、
図1)。28日目から56日目にかけて奏効率を比較した場合、持続的寛解の証拠が実証された。
【0174】
1つの生物学的製剤で処置された集団での28日目の主要評価項目。
【表2】
【0175】
【0176】
さらなる解析
単一の生物学的製剤に対して不応な、及び複数の生物学的製剤に対して不応なクローン病を有する対象においてCRPレベルも評価した。驚いたことに、単一の生物学的製剤に対して不応である対象は、複数の生物学的製剤に対して不応であるクローン病に対して相対的にCRPレベルがより低かった(CRPレベルを表3に示す)。さらには、複数の生物学的製剤に対して不応なクローン病を有する対象は、CDAIスコアの100点の低減を達成する前に2回の用量を必要とする傾向にあった(p=0.055;データを表4に示す)。総合すると、これらの知見は、単一の生物学的製剤に対して不応である対象はより少ない数の細胞で治療される可能性があることを示唆している。
【表4】
【表5】
【国際調査報告】