(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】ジスルフィド及びスルホキシド又はスルホンの共生成のための化学酵素プロセス
(51)【国際特許分類】
C12P 11/00 20060101AFI20230419BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20230419BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230419BHJP
【FI】
C12P11/00
C12N9/04
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554930
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(85)【翻訳文提出日】2022-09-09
(86)【国際出願番号】 FR2021050362
(87)【国際公開番号】W WO2021181029
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(71)【出願人】
【識別番号】521553117
【氏名又は名称】セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】517370250
【氏名又は名称】ユニヴェルスィテ デクス マルセイユ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フレミー、ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ブラッセレット、ユゴー
(72)【発明者】
【氏名】ルク、ジャン-クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】アルファン、ヴェロニク
(72)【発明者】
【氏名】デュケーヌ、カーティア
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050KK10
4B050LL05
4B064AE61
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC24
4B064CD11
4B064DA16
(57)【要約】
ジスルフィドとスルホキシド又はスルホンを共生成するための化学酵素的プロセスである。本発明は、以下を含む組成物Mからジスルフィドとスルホキシド又はスルホンを共生成するための化学酵素プロセスに関する:(1)硫化物、(2)任意選択的に酸化剤、(3)チオール基を少なくとも1つ有する有機化合物、(4)硫化物のスルホキシド又はスルホンへの酸化を触媒する酵素E、(5)チオール基を少なくとも1つ有する2当量の有機化合物間のジスルフィド架橋の形成を触媒し二量体を形成させる酵素D、(6)酵素E及びDに共通する補因子。特にこのプロセスを実施可能とする組成物にも関する。また、チオール基を少なくとも1つ有する有機化合物の2当量間に形成されたジスルフィド架橋を還元するためのメルカプタンの使用に関し、より詳細には、上記のプロセスの再生基質としてのその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ジスルフィドとスルホキシド又はスルホンとを共生成するためのプロセス:
(a)
(1)硫化物、
(2)任意選択的に(optionally)酸化剤、
(3)チオール基を少なくとも1つ有する有機化合物、
(4)上記硫化物のスルホキシドへの又はスルホンへの酸化を触媒する酵素E、
(5)チオール基を少なくとも1つ有する2当量の上記有機化合物間のジスルフィド架橋の形成を触媒し、二量体を形成させる酵素D、
(6)前記の2つの酵素E及び酵素Dに共通する補因子、
を含む組成物Mを準備すること;
(b)硫化物の酸化及びジスルフィド架橋の形成の(好ましくは同時)酵素的反応を行って、
・スルホキシド又はスルホン、及び
・二量体
を得ること;
(c)工程(b)で得られた二量体を、メルカプタンとの反応により還元して、
・対応するジスルフィド、及び
・チオール基を少なくとも1つ有する前記有機化合物
を得ること;
(d)任意選択的に(optionally)、
・工程(c)で得られたジスルフィド、及び/又は
・工程(b)で得られたスルホキシド又はスルホン
を回収すること、
ここで、前記メルカプタンは、工程(a)、工程(b)、及び工程(c)のいずれか1つにおいて添加されてもよく、好ましくはメルカプタンは工程(a)において添加される。
【請求項2】
メルカプタンが、一般式R
3-SHのものであり、
ここで、R
3は、任意選択的に置換されているか、飽和しているか、直鎖状であるか、分枝状であるか、又は環状である炭化水素ラジカルである、請求項1に記載の共生成プロセス。
【請求項3】
R
3が、メチル、エチル、オクチル、及びドデシルからなる群から選択され、好ましくはR
3はメチルである、請求項2に記載の共生成プロセス。
【請求項4】
メルカプタンが、メルカプトエタノール、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n-プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン(又は2-プロパンチオール)、n-ブチルメルカプタン、sec-ブチルメルカプタン、tert-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、tert-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、システイン、及びホモシステインからなる群から選択される、請求項2に記載の共生成プロセス。
【請求項5】
前記有機化合物が、チオール基を有するアミノ酸、チオール基を有するペプチド、マイコチオール、及びジヒドロリポ酸からなる群より選択され、好ましくは前記有機化合物がチオール基を有するアミノ酸、又はチオール基を有するペプチドである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の共生成プロセス。
【請求項6】
前記有機化合物が、システイン、ホモシステイン、グルタチオン、チオレドキシン、マイコチオール、及びジヒドロリポ酸からなる群から選択され、好ましくはグルタチオンである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の共生成プロセス。
【請求項7】
前記酵素Eが、オキシドレダクターゼ(好ましくは、モノオキシゲナーゼ及びジオキシゲナーゼからなる群から選択されるオキシドレダクターゼ)であり、より好ましくはモノオキシゲナーゼである、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の共生成プロセス。
【請求項8】
前記酵素Dが、(好ましくは、グルタチオンレダクターゼ、チオレドキシンレダクターゼ、システインレダクターゼ、ホモシステインレダクターゼ、マイコチオールジスルフィドレダクターゼ、及びジヒドロリポイルレダクターゼからなる群より選ばれる)レダクターゼ又はデヒドロゲナーゼであり、好ましくは酵素Dはグルタチオンレダクターゼである、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の共生成プロセス。
【請求項9】
前記スルフィドが下記の一般式のものであり:
R
1-S-R
2
ここで、R
1及びR
2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ独立して、(C
1-C
20)アルキル、(C
2-C
20)アルケニル、(C
2-C
20)アルキニル、(C
3-C
10)シクロアルキル、及び(C
6-C
10)アリールからなる群から選択されるか、又は、
R
1及びR
2は、これらが結合しているイオウ原子と共に、ヘテロシクロアルカン又はヘテロアレーン(heteroarene)を形成しており、
前記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクロアルカン基、及びヘテロアレーン基は、任意選択的に(optionally)1以上の置換基で置換されていてもよく、
前記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、及びアリール基は1以上のヘテロ原子を含んでいてもよい、
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の共生成プロセス。
【請求項10】
前記硫化物のラジカルR1及びR2が同じである、請求項9に記載の共生成プロセス。
【請求項11】
前記硫化物が、硫化ジメチル、硫化ジエチル、硫化ジプロピル、硫化ジブチル、硫化ジオクチル、硫化ジドデシル、及びテトラヒドロチオフェンからなる群から選択され、好ましくは硫化ジメチルである、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の共生成プロセス。
【請求項12】
前記酸化剤が、空気、酸素欠乏空気、酸素富化空気、及び純酸素からなる群より選択される、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の共生成プロセス。
【請求項13】
補因子が、ニコチン補因子及びフラビン補因子から選択される、請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の共生成プロセス。
【請求項14】
硫化物が硫化ジメチルであり、
チオール基を少なくとも1つ有する有機化合物がグルタチオンであり、
酵素Eがバイヤー・ビリガー・モノオキシゲナーゼ(BVMO)であり、好ましくはシクロヘキサノン・モノオキシゲナーゼ(CHMO)であり、
酵素Dがグルタチオンレダクターゼであり、
前記の2つの酵素E及び酵素Dに共通する補因子がNADPである、
請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の共生成プロセス。
【請求項15】
(1)硫化物、
(2)任意選択的に(optionally)酸化剤、
(3)チオール基を少なくとも1つ有する有機化合物、
(4)上記硫化物のスルホキシドへの又はスルホンへの酸化を触媒する酵素E、
(5)チオール基を少なくとも1つ有する2当量の上記有機化合物間のジスルフィド架橋の形成を触媒し、二量体を形成させる酵素D、
(6)前記の2つの酵素E及び酵素Dに共通する補因子、及び
(7)メルカプタン
を含む組成物。
【請求項16】
硫化物のスルホキシドへの又はスルホンへの酵素的酸化において使用される補因子を再生又は再利用するための、メルカプタンの使用。
【請求項17】
チオール基を少なくとも1つ有する2当量の有機化合物間に形成されたジスルフィド架橋を還元するための、請求項16に記載のメルカプタンの使用であって、
前記メルカプタンは好ましくは対応するジスルフィドに変換される、前記使用。
【請求項18】
メルカプタンがメチルメルカプタンであり、有機化合物がグルタチオンである、請求項17に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メルカプタン及び硫化物(スルフィド(sulfide))のそれぞれから、ジスルフィドとスルホキシド又はスルホンとを共生成するための化学酵素プロセス、及び、特にこのプロセスの実施を可能とする組成物に関する。本発明はまた、少なくとも1つのチオール基を有する2当量の有機化合物間に形成されたジスルフィド架橋を還元するためのメルカプタンの使用、より詳細には、硫化物の酸化を可能とする酵素カスケードの再生基質としてのメルカプタンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
メルカプタンは工業的に非常に興味深い物質であり、現在、化学工業において、特に、より複雑な有機分子の合成の出発物質として広く使用されている。例えば、メチルメルカプタン(CH3SH)は、動物栄養学で用いられる必須アミノ酸であるメチオニンの合成の出発物質として使用されている。また、メチルメルカプタンはジアルキルジスルフィドの合成にも使用され、特に石油留分の水素化処理触媒の硫化添加剤であるジメチルジスルフィド(DMDS)の合成などにも使用されている。
【0003】
メルカプタン(特にメチルメルカプタン)は、一般的に、アルコール類と硫化水素とから出発して、下記式(1)に従って触媒の存在下で高温で合成する公知の方法により工業的に合成されている。
【化1】
【0004】
しかし、この反応では、下記式(2)で示されるように硫化物(スルフィド)等の副生成物が生成される。
【化2】
【0005】
また、メルカプタンは、ハロゲン化誘導体とアルカリ金属、アルカリ土類金属又は硫化水素アンモニウムとから、下記式(3)に従い(例えば、塩素化誘導体と硫化水素ナトリウムを用いて)合成され得る。
【化3】
【0006】
この2つ目の合成経路では、不要な硫化物類も存在することになる。
【0007】
最終的に、メルカプタンは、対象が分枝状メルカプタンか非分枝状メルカプタンかに応じて、下記式(4)に従って、オレフィン類と硫化水素から酸触媒又は光化学的に合成することが可能である。
【化4】
【0008】
この合成の際にも、副産物として硫化物類が発生する。
【0009】
これらの硫化物は工業的に大量に得られるため、主に破壊するために送られる。これは、メルカプタンを製造する工程での効率ロスであり、また廃棄に伴うコスト増でもある。このような廃棄物の発生は、メルカプタン生産者にとって産業上の問題であり、副産物から価値を見出すことが求められている。その方法にはさまざまなものがある。
【0010】
まず、ジメチルスルフィドは、食品香料又は石油原料の水蒸気分解におけるアンチコーキング剤等として使用可能であり、スルフィド類自体に市場価値がある。しかし、これらの市場における需要は、硫化物の生産量に比べ非常に少ない。
【0011】
また、硫化物は、硫黄加水分解反応(sulfhydrolysis reaction)によって、対応するメルカプタンに変換することができる。しかし、この反応を行うための条件は比較的厳しく、新たな寄生反応が発生する。このため、工業的な利用は限定的である。
【0012】
最後に、生成した硫化物から価値を得るもう一つの方法は、硫化物の酸化反応によるスルホキシド及び/又はスルホンへの変換である。この種の化学的酸化反応はよく知られている。これらは、触媒の存在下又は非存在下で、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、酸素、オゾン又はN2O4等の窒素酸化物等のさまざまな種類の酸化剤を使用するものである。
【0013】
化学的酸化と同様に、硫化物の酸化は、生物学的プロセスにおいて、溶液中又は生物(一般に微生物)における酵素触媒作用によって触媒され得る。
【0014】
フランス国特許出願第FR1906488号及び第FR1906489号にはそれぞれ、酵素触媒作用により有機硫化物からスルホキシド又はスルホンを選択的に調製するプロセスが記載されている。これら2つの特許出願の内容は、その全体が参照によりここに組み込まれる。
【0015】
このように、これら2つの特許出願に記載されたプロセスでは、酵素反応中に存在する硫化物の量に応じて、硫化物のスルホキシドへの酸化又はスルホンへの酸化を触媒する酵素を用いることによって、スルホキシド又はスルホンを選択的に得ることが可能である。酵素的硫化物酸化反応を行う工程中で硫化物が完全に消費されない場合、スルホキシドが選択的に得られる。酵素的硫化物酸化反応を行う際に硫化物が完全に消費される場合は、スルホンが選択的に得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、使用する酵素は、補因子を必要とする場合があり、補因子は酵素による酸化反応が再び起こるように再利用(又は再生)できるものでなければならない。
【0017】
これは、補因子がその複雑さ及び経済的な理由から、一般的には工業的な酵素プロセスでは化学量論的に添加されないからである。そのため、補因子を再利用し、酵素カスケードを再生させるためのさまざまなアプローチが開発されてきた:
・補因子に類似した分子の使用。このアプローチでは、より単純な分子を使用することになるのでコストも低くなる。しかし、酵素と補因子との親和性は工業的な応用を考えるほど高くはなく、低付加価値製品を生産する工業プロセスにとっては受け入れがたいコストである。
・犠牲基質(sacrificial substrate)を使用する酵素的酸化還元システムの使用。この技術では一般的に、使用した補因子を再利用できるように、第二の酵素を使用する必要がある。しかし、犠牲基質のコストは、このようなプロセスの経済性に大きく影響する。特に、硫化物を酸化して付加価値の低いスルホキシド又はスルホンにする場合はそうである。
・全細胞の使用。この場合、使用される補因子を再生するのは、細胞機構である。そのため、このプロセスは発酵プロセスに近い。このシステムの性能特性を高めるために、炭素/水素含有分子(グルコース又はグリセロール等)を添加するのが一般的であり、これは追加コストとなる。
【0018】
そのため、硫化物を酸化するための酵素的プロセスで使用される補因子を再生するための工業的に実行可能な経路が必要である。
【0019】
また、工業的及び経済的に実行可能な、硫化物(特に、メルカプタン合成から生じる硫化物)からの価値を引き出すプロセスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の目的の1つは、上記ニーズの全て又は一部を満たすことにある。
【0021】
本発明のより詳細な目的の1つは、硫化物のスルホキシドへの又はスルホンへの酵素的酸化に用いられる補因子を再生(又は再利用)するための経路を提供することである。
【0022】
本発明の他の目的は、スルホキシド又はスルホンとジスルフィドとを化学酵素的に共生成するプロセスを提供することである。
【0023】
本発明の更なる目的は、工業的に実行可能な、スルホキシド又はスルホンとジスルフィドとの化学酵素的共生成プロセス、特に、簡単、有効かつ経済的な補因子の再利用経路を組み込んだプロセスを提供することである。
【0024】
本発明のもう一つの目的は、メルカプタン(より具体的にはメチルメルカプタン)を製造する際に生じる硫化物から価値を得ることを可能にするプロセスを提案することである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、酵素CHMOによって酸化反応が触媒された際の、反応液中に存在する硫化ジエチル(DES)、ジエチルスルホキシド(DESO)、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィド(ジスルフィド)の濃度(mM)を、時間の関数(時間単位で表示)として表したものである。補因子(cofactor)であるNADPの再利用を可能とするカスケードの要素も加えた:大腸菌由来のグルタチオンレダクターゼ(GR)を過剰発現させた細胞をCHMO発現細胞と同じ濃度で加え、酸化グルタチオン(GSSG)を触媒量で、2-メルカプトエタノールをDESに対して2倍の濃度で導入した。
【
図2】
図2は、酵素CHMOによって酸化反応が触媒された際の、反応液中に存在するジエチルスルホキシド(DESO)、ジエチルスルホン(DESO
2)、及びビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィド(ジスルフィド)の濃度(mM)を時間の関数(時間単位で表示)として表したものである。補因子であるNADPの再利用を可能とするカスケードの要素も加えた:大腸菌由来のグルタチオンレダクターゼ(GR)を過剰発現させた細胞をCHMO発現細胞と同じ濃度で加え、酸化グルタチオン(GSSG)を触媒量で、2-メルカプトエタノールをDESOに対して2倍の濃度で導入した。
【
図3】
図3は、酵素CHMOによって反応が触媒された際の、反応液中に存在するジエチルスルホキシド(DESO)の濃度(mM)を時間(時間単位で表示)の関数として表したものである。この実施例では、2-メルカプトエタノールを、プロトン供与体としてのメチルメルカプタン(MeSH)に置き換えた。補因子であるNADPの再利用を可能とするカスケードの要素も加えた:大腸菌由来のグルタチオン還元酵素(GR)を過剰発現する細胞をCHMOを発現する細胞と同じ濃度で加え、酸化グルタチオン(GSSG)を触媒量で導入し、MeSHを約4mmol/L/hの流量で反応液に徐々に加えた。
【
図4】
図4は、本発明に係る酵素カスケードを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者らは、硫化物の酸化を触媒する酵素の補因子を再利用するシステムを組み込んだ、(好ましくは選択的な)化学酵素法によるスルホキシド又はスルホンの製造方法を見出し、付加価値を付与した。
【0027】
本発明者らは、驚くべきことに、スルホキシド又はスルホンの製造プロセスと互換性があるだけでなく、犠牲基質を用いる代わりに、第2の目的物であるジスルフィドの共生成を可能にする化学酵素的カスケードを見出した。したがって、カスケードの最後にメルカプタンをジスルフィドに酸化することで、スルホキシド化で使用した補因子を再利用することが可能となる。
【0028】
例えば、酸化剤が酸素である場合、カスケードの全体方程式は以下のように書くことができる:
RSR’+O2+2R”SH⇒RS(O)R’+H2O+R”SSR”(スルホキシドについて)
RSR’+2O2+4R”SH→RS(O)2R’+2H2O+2R”(スルホンについて)
【0029】
したがって、メルカプタンは水素供与体であると考えることができる。
【0030】
本発明に係る酵素カスケードは、より詳細には以下に示すように進行する。
【0031】
硫化物のスルホキシドへの酸化を触媒する酵素(以下、酵素E)、その補因子及び好適な酸化剤の存在下で、硫化物はスルホキシド又はスルホンへ変換され、還元型補因子は酸化型に戻される。
【0032】
次に、少なくとも1つのチオール基を有する有機化合物と、2当量のこの有機化合物間のジスルフィド架橋形成を触媒する酵素(以下、酵素D)の存在下で:
・上記酸化された補因子が還元され(有機化合物から供与される水素原子によって再利用され)、
・2当量の上記有機化合物間のジスルフィド架橋によって二量体が形成される(有機化合物は還元された「単量体」形態から酸化された「二量体」形態に移行する)。
【0033】
そして、本発明によれば、「有機化合物」は式R-SHの化合物であり、この化合物の「二量体」は式R-S-S-Rの化合物と理解される(よく知られている一例は、グルタチオンG-SHの二量体が、G-S-S-Gであり、グルタチオンジスルフィドと呼ばれている)。
【0034】
そして、化学的な平衡状態によって、カスケード終了する:酸化された二量体は、2当量のメルカプタンとの反応によって還元され、対応するジスルフィドに変換される。
【0035】
つまり、メルカプタンの存在は、ルシャトリエの原理(Le Chatelier's principle)によって支配された化学平衡によって、以下のことを可能とする:
・二量体を2当量の有機化合物に還元する(したがって、メルカプタンによって提供される水素原子によって、後者も再利用される);及び
・ジスルフィドを形成する。
【0036】
化学平衡をジスルフィド形成の方向に変位させるのは、酵素反応である。
【0037】
メルカプタンは、硫化物に対して化学量論的な量で使用してもよい。
【0038】
より具体的には、スルホキシド1当量の生成には2当量のメルカプタンが使用され、スルホン1当量の生成には4当量のメルカプタンが使用される。
【0039】
酵素カスケードは、基質、反応物、又は補因子等が枯渇するまで、又は、酵素E及び/又はDの阻害、不活性化、又は破壊により、作動する。
【0040】
このカスケードにより、使用した補因子及び有機化合物を再生しながら、スルホキシド又はスルホンとジスルフィドとの共生成が可能となる。
【0041】
なお、このカスケードは逆方向に進む可能性も非常に高く、上記の反応は全て逆になる可能性がある。
【0042】
このようにして、本発明の利点の1つが理解される:つまり、メルカプタン(より詳細にはメチルメルカプタン)の製造から生じる副産物から価値を得るためのプロセス全体に挿入することができることである。メルカプタンの製造において、硫化物は、上記に示したように副産物である。本発明により、これらの硫化物は、好ましくは選択的にスルホキシド又はスルホンに酸化され、生成したメルカプタンは、部分的にはスルホキシ化に使用される補因子の再生に使用され、一方でそれ自体は他の興味のある生成物であるジスルフィドに変換され得る。
【0043】
したがって、本発明は、以下の工程を含む、ジスルフィドとスルホキシド又はスルホンとを共生成するためのプロセスに関する:
(a)
(1)硫化物(スルフィド(sulfide))、
(2)任意選択的に(optionally)酸化剤、
(3)チオール基を少なくとも1つ有する有機化合物、
(4)上記硫化物のスルホキシド又はスルホンへの酸化を触媒する酵素E、
(5)チオール基を少なくとも1つ有する2当量の上記有機化合物間のジスルフィド架橋の形成を触媒し、二量体を形成させる酵素D、
(6)上記の2つの酵素E及び酵素Dに共通する補因子、
を含む組成物Mを準備すること;
(b)硫化物の酸化及びジスルフィド架橋の形成の(好ましくは同時)酵素的反応を行って、スルホキシド又はスルホンと、(上記有機化合物の)二量体と、を得ること;
(c)工程(b)で得られた上記二量体を、メルカプタンと(特に化学反応により)反応させることにより還元して、(上記メルカプタンに対応する(対応するジスルフィドと、チオール基を少なくとも1つ有する上記有機化合物と、を得ること;
(d)任意選択的に(optionally)、工程(c)で得られたジスルフィド、及び/又は工程(b)において得有れたスルホキシド若しくはスルホンを回収すること;
ここで、上記メルカプタンについて、工程(a)、(b)又は(c)で添加することができ、メルカプタンは工程(a)で添加することが好ましい。
【0044】
[定義]
「炭素数1~20(C1-C20)のアルキル」という用語は、直鎖状又は分枝状であってもよい、1~20個の炭素原子からなる飽和脂肪族炭化水素を表す。アルキルは1~12個の炭素原子、又は1~4個の炭素原子からなることが好ましい。例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、及びtert-ブチルが挙げられる。「分枝状」という用語は、アルキル基がアルキル主鎖に沿って置換されていることを意味すると理解される。
【0045】
「炭素数2~20(C2-C20)のアルケニル」という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む、上記に規定されるアルキルを示す。
【0046】
「炭素数2~20(C2-C20)のアルキニル」という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含む、上記に規定されるアルキルを示す。
【0047】
「炭素数6~10(C6-C10)のアリール」という用語は、単環式、二環式、又は三環式の芳香族炭化水素化合物を示し、より詳細にはフェニル及びナフチルを示す。
【0048】
「炭素数(C3-C10)のシクロアルキル」という用語は、3~10個の炭素原子からなる単環式又は二環式の飽和脂肪族炭化水素(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、又はシクロヘキシル等)を示す。
【0049】
「炭素数3~10(C3-C10)のヘテロシクロアルカン」とは、3~10個の炭素原子を含み、少なくとも1つの硫黄原子(好ましくはテトラヒドロチオフェン)、及び任意選択的に(optionally)少なくとも1つの他のヘテロ原子を含むシクロアルカンであると理解される。
【0050】
「炭素数4~10(C4-C10)のヘテロアレーン」とは、4~10個の炭素原子を含み、少なくとも1つの硫黄原子(例えばチオフェン)、及び任意選択的に(optionally)少なくとも1つの他のヘテロ原子を含むアレーンであると理解される。
【0051】
ヘテロ原子は、特に、O、N、S、Si、P及びハロゲンから選択される原子であると理解される。
【0052】
「触媒」とは、一般的に、反応を促進し、この反応の終了時に変化しない物質であると理解される。一実施形態によれば、上記酵素Eは、硫化物のスルホキシドへの酸化反応又はスルホンへの酸化反応を触媒する。一実施形態によれば、上記酵素Dは、少なくとも1つのチオール基を有する2当量の上記有機化合物間のジスルフィド架橋の形成を触媒して、二量体を形成させる。
【0053】
「触媒量(catalytic amount)」とは、特に、反応を触媒するのに十分な量であり、より詳細には、硫化物のスルホキシドへの酸化又はスルホンへの酸化を触媒するのに、及び/又はジスルフィド架橋を形成するのに十分な量であると理解される。より詳細には、触媒量で使用される反応物(reactant)は、化学量論的割合で使用される反応物の重量での量に対して、より少ない量(例えば、約0.01重量%~20重量%の間)で使用される。
【0054】
反応の選択性は、一般的に、反応後に消費された反応物のモル数に対して、生成された生成物のモル数を表す。
【0055】
変換率(conversion)、選択率(selectivity)、及び収率(yield)の通常の定義は以下の通りである。
【0056】
変換率=(初期状態の反応物のモル数-反応後に残った反応物のモル数)/(初期状態の反応物のモル数)
選択率=目的生成物に変換された反応物のモル数/(初期状態の反応物のモル数-反応後に残った反応物のモル数)
収率=変換率×選択率
【0057】
したがって、「スルホキシドを調製するための選択的プロセス」とは、特に、スルホンが形成されることなく(又は、形成されるスルホンの量が無視できる程度であり)、硫化物を消費してスルホキシドを生成するプロセスであると理解される。一実施形態によれば、硫化物のスルホキシドへの酸化反応は、化学選択的である。
【0058】
「スルホンを調製するための選択的プロセス」とは、特に、スルホキシドが形成されることなく(又は、形成されるスルホキシドの量が無視できる程度であり)、硫化物を消費してスルホンを生成するプロセスであると理解される。一実施形態によれば、硫化物のスルホンへの酸化反応は、化学選択的である。
【0059】
例えば、本発明に係るプロセス、より詳細には工程(b)は、スルホキシド又はスルホンについて、95%~100%、好ましくは99%~100%の選択性をもたらす。
【0060】
二量体を形成するための、チオール基を少なくとも1つ有する2当量の有機化合物間のジスルフィド架橋の形成は、特に、上記有機化合物の2つの分子間のジスルフィド架橋の形成(すなわち、2R-SHがR-S-S-Rとなる)に相当すると考えられる。
【0061】
<ジスルフィドとスルホキシド又はスルホンを共生成するためのプロセス>
本発明は、より具体的には、ジスルフィドとスルホキシド又はスルホンとを共生成するためのプロセスに関し、このプロセスは以下の工程を含む:
(a)
(1)式R1-S-R2の硫化物(スルフィド(sulfide))、
(2)任意選択的に(optionally)酸化剤、
(3)チオール基を少なくとも1つ有する有機化合物、
(4)上記硫化物のスルホキシド又はスルホンへの酸価を触媒する酵素E、
(5)チオール基を少なくとも1つ有する2当量の上記有機化合物間のジスルフィド架橋の形成を触媒し、二量体を形成させる酵素D、
(6)上記の2つ酵素E及び酵素Dに共通する補因子、
を含む組成物Mを準備すること;
(b)硫化物の酸化及びジスルフィド架橋の形成の(好ましくは同時)酵素的反応を行って、
・式R1-S(O)n-R2(ここで、n=1又は2)のスルホキシド又はスルホン、及び
・二量体
を得ること;
(c)工程(b)で得られた二量体を、式R3-SHのメルカプタンとの反応により還元して、
・式R3-S-S-R3のジスルフィド、及び
・チオール基を少なくとも1つ有する上記有機化合物
を得ること;
(d)任意選択的に(optionally)、
・工程(c)で得られたジスルフィド、及び/又は
・工程(b)で得られたスルホキシド又はスルホン
を回収すること;
ここで、上記メルカプタンは工程(a)、(b)又は(c)のいずれか1つで添加することができ、好ましくはメルカプタンは工程(a)で添加することができ;
R1、R2及びR3は以下で定義される通りである。
【0062】
好ましい実施形態によれば、
硫化物はジメチルスルフィドであり、
チオール基を少なくとも1つ有する有機化合物はグルタチオンであり、
酵素Eは、バイヤー・ビリガー・モノオキシゲナーゼ(BVMO)であり、シクロヘキサノン・モノオキシゲナーゼ(CHMO)であることが好ましく、
酵素Dは、グルタチオンレダクターゼであり、
上記の2つの酵素E及びDに共通する補因子はNADPである。
【0063】
<スルホキシド又はスルホンの生成>
本発明に係るプロセスは、特に、硫化物のスルホキシド又はスルホンへの酵素酸化反応を行う工程を含み、上記反応は選択的であることが好ましい。
【0064】
第1の実施形態において、酵素的硫化物酸化反応を行う工程中に硫化物が完全に消費されない場合には、スルホキシドが選択的に得られる。したがって、一実施形態によれば、上記組成物Mは、酵素Eが硫化物をスルホキシドに変換するのに十分な量の硫化物を依然として含み、スルホンが形成されないことが好ましい。一実施形態によれば、上記硫化物は、上記組成物M中に過剰に供給される。
【0065】
この場合、酵素反応Eを行う工程(b)後に残存する硫化物の量は、硫化物の開始量(すなわち、工程(a)の量)に対して重量比で、0.0001重量%~99.9重量%、好ましくは0.1重量%~99重量%、好ましくは1重量%~50重量%、例えば1重量%~10重量%、であってもよい。
【0066】
第2の実施形態において、酵素的硫化物酸化反応を行う工程中に硫化物が完全に消費される場合には、スルホンが選択的に得られる。したがって、酵素的酸化反応を実施する工程は、特に以下の2つの工程を含んでいてもよい:
(b1)硫化物のスルホキシドへの酸化を完了すること;
(b2)スルホキシドのスルホンへの酸化。
【0067】
「硫化物の完全な酸化」とは、工程(b1)中に硫化物が完全に消費されることを意味する。一実施形態によれば、硫化物は、組成物Mにおける制限反応物(すなわち、赤字として存在する反応物)である。「完全に消費される」とは、特に、酵素反応を行う工程(b)後に残るスルフィドの量が、スルフィドの出発量(すなわち、工程(a)の量)に対して重量比で、0重量%~20重量%、好ましくは0重量%~5重量%、例えば0重量%~1重量%、より好ましくはさらに0重量%~0.01重量%であってもよい、ということを意味する。
【0068】
この反応は、スルホキシドの生成についてはフランス国特許出願第FR1906488号に、スルホンの生成についてはフランス国特許出願第FR1906489号に記載されている。
【0069】
<ジスルフィドとスルホキシド又はスルホンとの共生成>
工程(b)及び工程(c)、又は工程(a)、(b)及び(c)は、1つの同じ反応器で実施されることが好ましく、工程(b)と工程(c)は同時に進行することが好ましい。
【0070】
工程(a)において、組成物Mの様々な成分は、例えば、様々な成分の単純な混合によって、任意の順序で添加されてもよい。組成物Mは、反応器に導入する前に調製してもよいし、反応器内で直接調製してもよい(ここで、工程(b)、及び任意選択的に(optionally)工程(c)が進行する)。
【0071】
工程(b)において、酵素的硫化物酸化反応は、酵素的ジスルフィド架橋形成反応の前に行われてもよいし、酵素的ジスルフィド架橋形成反応と同時に行われてもよい。
【0072】
より詳細には、工程(b)では、得られた有機化合物の二量体は酸化型であるのに対し、工程(c)では、有機化合物は還元型である。
【0073】
工程(B)は、特に、以下のように複数の工程に細分化することが可能である:
(i)酵素Eとの酵素的硫化物酸化反応を行って、
・スルホキシド又はスルホン、及び
・酸化型の酵素E及びDに共通する補因子
を得ること;
(ii)酵素Dとの酵素的ジスルフィド架橋形成反応を行って、
・還元型の酵素E及びDに共通する補因子、及び
・上記有機化合物の二量体
を得ること。
【0074】
工程(i)は、工程(ii)の前、又は工程(ii)と同時に行ってもよい。
【0075】
酵素反応を行う工程(b)は、pHが4~10、好ましくは6~8、より好ましくは7~8、例えば7、で行ってもよい。
【0076】
酵素反応を行う工程(b)は、5℃~100℃、好ましくは20℃~80℃、より好ましくは25℃~40℃の温度で行ってもよい。
【0077】
以下に定義する細胞は、何も処理しない状態で直接、工程(b)に使用することが可能である。
【0078】
工程(c)は、工程(b)と同じ条件下、より詳細には同じpH及び同じ温度で行ってもよい。
【0079】
上記酵素反応及び/又は工程(c)に使用する圧力は、使用する反応物及び使用する装置に応じて、大気圧に対する減圧から数bar(数百kPa)の範囲としてもよい。
【0080】
一実施形態によれば、本発明に係るプロセスは、工程(b)と工程(c)の間に、酵素、及び/又は、酵素E及び/又はDの不活性化によって酵素反応を停止させる工程(b’)を含む。この工程(b’)は、熱ショック(例えば、約100℃の温度で)又は浸透圧ショック、高圧の適用、細胞及び/又は酵素E及び/又はDの破壊及び/又は沈殿を可能にする溶媒の添加、又は、pH変更(約2の低pH、又は約10の高pHのいずれか)等の公知の手段によって実施され得る。
【0081】
硫化物及び/又はメルカプタン及び/又は必要に応じて上記酸化剤を、好ましくは工程(a)において、連続的に添加してもよい。
【0082】
工程(d)において、スルホキシド、又はスルホン及び/又はジスルフィドは、液体又は固体の形態で回収され得る。スルホキシド、又はスルホン及び/又はジスルフィドは、それらの溶解性に応じて、水溶液で、デカンテーションによって液体形態で、又は、沈殿によって固体形態で回収されてもよい。ジスルフィドは、当業者によく知られた技術(例えば、限外濾過後の蒸留又は遠心分離)によって、有機相に抽出されてもよく、又は反応混合物から分離されてもよい。
【0083】
その後、得られた生成物を、任意選択的に(optionally)常法により精製してもよい。例えば、限外ろ過又は遠心分離による細胞(酵素E及びDを含む)の分離後、蒸留によってスルホキシド又はスルホンとジスルフィドの分離を可能にしてもよい。この蒸留は、当業者が何らかの利点を有すると判断すれば、大気圧、減圧(例えば真空下)、又は高圧下で行ってもよい。膜分離は、蒸留のための混合物の含水量を減少させる目的、又は結晶化プロセスを加速させる目的でも企図され得る。スルホキシド、又はスルホン及び/又は硫化物が水性反応混合物からデカンテーションによって回収された場合、モレキュラーシーブ上(又は他の任意の乾燥方法)での乾燥を行ってもよい。
【0084】
上記プロセスは、バッチ式に実施されてもよく、連続的に実施されてもよい。本発明のプロセスによって得られる利点は多数ある。これらの利点には、水溶液中、非常に穏やかな温度及び圧力条件下、及び中性に近いpH条件下で作業できることが含まれる。これらの条件はすべて、「環境に優しい(green)」又は「サステナブル」と呼ばれる生体触媒プロセスの典型的な条件である。
【0085】
組成物Mは、有機化合物、酵素E、酵素D、及び触媒量での補因子を含有していてもよい。組成物Mは、以下のものを含み得る:
(1)化学量論的量の硫化物、
(2)化学量論的量の酸化剤、
(3)触媒量の、チオール基少なくとも1つを有する有機化合物、
(4)触媒量の、上記硫化物のスルホキシドへの又はスルホンへの酸化を触媒する酵素E、
(5)触媒量の、チオール基を少なくとも1つ有する2当量の上記有機化合物間のジスルフィド架橋の形成を触媒し、二量体を形成させる酵素D、
(6)触媒量の、2つの酵素E及び酵素Dに共通する補因子、及び
(7)化学量論的量のメルカプタン。
【0086】
より詳細には、メルカプタン/スルフィドのモル比は、0.1~100であり、より好ましくは1~5、好ましくは2~4、例えば2である。
【0087】
<硫化物>
硫化物は、特に有機硫化物であり、これは少なくとも1つの-C-S-C-官能基を含む任意の有機化合物である。
【0088】
一実施形態によれば、組成物Mは、少なくとも1つの硫化物を含む。これは、例えば、1つ、2つ、又は複数の異なる硫化物を含んでいてもよい。
【0089】
上記硫化物は対称的であってもよく、これは、イオウ原子が化合物に対する対称性の中心を示すことを意味する。
【0090】
一実施形態によれば、上記硫化物は以下の一般式を有する:
R1-S-R2
ここで、R1及びR2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ独立して、(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、(C3-C10)シクロアルキル、及び(C6-C10)アリールからなる群から選択されるか、又は、
R1及びR2は、これらが結合しているイオウ原子と共に、環、好ましくは(C3-C10)ヘテロシクロアルカン又は(C4-C10)ヘテロアレーン(heteroarene)基を形成しており、
上記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクロアルカン基、及びヘテロアレーン基は、任意選択的に(optionally)1以上の置換基で置換されていてもよく、
上記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、及びアリール基は1以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0091】
上記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクロアルカン基、及びヘテロアレーン基は、任意選択的に(optionally)、以下からなる群より選択される1以上の置換基によって置換されていてもよく:
(C1-C20)アルキル、(C3-C10)シクロアルキル、及び(C6-C10)アリール;
限定されることなく且つ例として、アルコール、アルデヒド、ケトン、酸、アミド、ニトリル、及びエステル官能基、又は、イオウ、リン、及びケイ素を有する他の官能基から選択される1以上の官能基で任意選択的に(optionally)官能化されてもよい。
【0092】
一実施形態によれば、上記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクロアルカン基、及びヘテロアレーン基は、任意選択的に(optionally)、以下からなる群から選択される1以上の置換基で置換されてもよい:(C1-C20)アルキル、(C3-C10)シクロアルキル、(C6-C10)アリール、-OH、-C(O)OH、-C(O)H、-C(O)-NH2、-NH2、-NHR、-NRR’、-C(O)-、-C(O)-NHR’、-C(O)-NRR’、-COOR、及び-CN;
ここで、R及びR’は、それぞれ独立して、(C1-C20)アルキル基を表す。
【0093】
好ましい一実施形態によれば、R1及びR2は同じでも異なっていてもよく、互いに独立して、(C1-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、及び(C3-C10)シクロアルキルからなる群から選択されるか、又は
R1及びR2は、それらが結合しているイオウ原子と共に、(C3-C10)ヘテロシクロアルカン基を形成している。
【0094】
R1及びR2は、(C1-C20)アルキルから選択されるか、又は、R1及びR2は、それらを有するイオウ原子と共に(C3-C10)ヘテロシクロアルカンを形成していることが好ましい。上記硫化物のラジカルR1及びR2は、同じである(すなわち、そうして対称的な硫化物を形成している)ことが好ましい。
【0095】
硫化物は、硫化ジメチル、硫化ジエチル、硫化ジプロピル、硫化ジブチル、硫化ジオクチル、硫化ジドデシル、及びテトラヒドロチオフェンから選択されることがより好ましい。硫化物は、硫化ジメチル、硫化ジエチル、硫化ジ-n-プロピル、硫化ジイソプロピル、硫化ジ-n-ブチル、硫化ジイソブチル、硫化ジ-sec-ブチル、硫化ジ-tert-ブチル、硫化ジ-n-オクチル、硫化ジ-n-ドデシル、及びテトラヒドロチオフェンから選択されても良い。本発明によれば、硫化ジメチルが特に好ましい。一実施形態によれば、硫化物は対称的である。
【0096】
<メルカプタン>
メルカプタンとは、特に有機メルカプタンを意味し、すなわち、-C-SH型の官能基を少なくとも1つ有する有機化合物を意味する。
【0097】
一実施形態によれば、メルカプタンは一般式R3-SHのものであり、ここで、R3は任意選択的に(optionally)置換されているか、飽和しているか、直鎖状であるか、分枝状であるか、又は環状である炭化水素ラジカルである。
【0098】
より詳細には、メルカプタンは一般式R3-SHのものであり、ここで、R3は、飽和しているか、直鎖状であるか、分岐状であるか、又は環状である炭化水素ラジカルであり、この炭化水素ラジカルは、-OH、-C(O)OH、-NH2、-ORa、-C(O)ORa、-N(Ra)H、-NRaRb、及び(C6-C10)アリールからなる群から選択される少なくとも1つの基によって任意選択的に(optionally)置換されており、ここで、Ra及びRbは、それぞれ独立して、(C1-C20)アルキルから選択されている。
【0099】
メルカプタンは、好ましくは、一般式R3-SHのものであり、ここで、R3は、飽和しているか、直鎖状であるか、分枝状であるか、又は環状である炭化水素ラジカルであり、この炭化水素ラジカルは、-OH、-C(O)OH、-NH2、及び(C6-C10)アリール(より好ましくは、-OH、-C(O)OH、及び-NH2)からなる群から選択される少なくとも1つ(例えば、1つ又は2つ)の基によって任意選択的に(optionally)置換されている。
【0100】
R3は、メチル、エチル、オクチル、及びドデシルからなる群からより特に選択され、好ましくはR3はメチルである。
【0101】
メルカプタンは、メルカプトエタノール、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、システイン、及びホモシステインからなる群より選択されてもよい。
【0102】
メルカプタンは、特に、メルカプトエタノール、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n-プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン(又は2-プロパンチオール)、n-ブチルメルカプタン、sec-ブチルメルカプタン、tert-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、tert-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、システイン、及びホモシステインからなる群から選択される。
メルカプタンは、メチルメルカプタンであることが好ましい。
【0103】
<酸化剤>
酸化剤とは、硫化物をスルホキシド又はスルホンに酸化させることが可能な化合物であることが理解される。
【0104】
酸化剤は、空気、酸素欠乏空気(oxygen-depleted air)、酸素富化空気(oxygen-enriched air)、及び純酸素からなる群から選択されてもよい。
【0105】
空気(酸素が欠乏していても又は富んでいてもよい)を使用する場合、酸化剤として工程(b)で行われる酵素的酸化反応中に消費されるのは、当然ながら空気中の酸素である。
【0106】
酸化剤が気体の形態である場合、組成物M中に溶存気体の形態で存在する。酸素富化空気又は酸素欠乏空気中の酸素の割合は、反応速度及び酵素系との適合性に応じて、当業者に公知の方法で選択される。
【0107】
酸化剤は、組成物M中に化学量論的量であっても又は過剰であってもよい。過剰である場合、工程(b)で行われる酵素的硫化物酸化反応において、存在する硫化物は酸化剤とともに完全に消費される(スルホンの生成)。
【0108】
酸化剤は、組成物M中に化学量論的量で合ってもよい。この場合、存在するスルフィドは、工程(b)で行われる酵素的硫化物酸化反応において酸化剤と共に部分的に消費されるが、完全には消費されない(スルホキシドの形成)。
【0109】
上記酸化反応の最後に、使用される酵素Eがモノオキシゲナーゼである場合、酸素は一般的に水に変換され、酵素Eがジオキシゲナーゼである場合には、酸素は完全に消費される。したがって、本発明に係るプロセスは、排出量及び環境への配慮の点で特に有利である。
【0110】
<酵素E>
「酸化酵素(oxidizing enzyme)とは、特に、酵素E、すなわち、スルフィドのスルホキシド及び/又はスルホンへの酸化を可能にし、補因子の使用を必要とする酵素であると理解される。
【0111】
上記酵素Eは、オキシドレダクターゼであってもよく、好ましくは、モノオキシゲナーゼ及びジオキシゲナーゼからなる群から選択されるオキシドレダクターゼであり、より好ましくは、モノオキシゲナーゼから選択されるオキシドレダクターゼである。
【0112】
上記酵素Eは、バイヤー・ビリガー・モノオキシゲナーゼ(Baeyer-Villiger monooxygenase)(BVMO)であることが好ましい。
【0113】
より好ましくはさらに、BVMOのうち、酵素Eは、シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ(CHMO)、より詳細には、シクロヘキサノン1,2-モノオキシゲナーゼ、シクロペンタノンモノオキシゲナーゼ(CPMO)、より詳細には、シクロペンタノン1,2-モノオキシゲナーゼ、又はヒドロキシアセトフェノンモノオキシゲナーゼ(HAPMO)、より詳細には、4-ヒドロキシアセトフェノンモノオキシゲナーゼであってもよい。
【0114】
シクロヘキサノン1,2-モノオキシゲナーゼは、特にEC 1.14.13.22クラスに属するものである。
【0115】
ある特定の実施形態によれば、CHMOは、アシネトバクター属(Acinetobacter sp.)(例えば、NCIMB 9871株)由来のCHMO及び/又はクラスタAB006902に属する遺伝子chnBによりコードされるCHMOである。
【0116】
シクロペンタノン1,2-モノオキシゲナーゼは、特にEC 1.14.13.16クラスに属するものである。
【0117】
ある特定の実施形態によれば、CPMOは、Comamonas sp.由来のCPMO(例えば、NCIMB 9872株)及び/又は遺伝子cpnBによりコードされるCPMOである。
【0118】
ヒドロキシアセトフェノンモノオキシゲナーゼは、特にクラスEC 1.14.13.84に属するものである。ある特定の実施形態によれば、HAPMOは、遺伝子hapEによってコードされるPseudomonas fluorescens由来のHAPMOである。
【0119】
<酵素D及びチオール基を有する有機化合物>
チオール基を有する有機化合物は、ヘテロ原子を有するか若しくは有しない炭化水素化合物であって、及び/又は、-SH基を少なくとも1つ有する既知の任意のタイプの化学官能基(以下、有機化合物)であると理解される。本発明に係る有機化合物は、1つ又は2つのチオール基(-SH基)を含んでいてもよい。この化合物は二量体として存在してもよく、二量体は2当量の上記有機化合物間のジスルフィド架橋によって形成されている(2R-SHがR-S-S-Rとなる)。
【0120】
有機化合物は、チオール基を有するアミノ酸、チオール基を有するペプチド、マイコチオール(CAS番号192126-76-4)、及びジヒドロリポ酸(CAS番号462-20-4)からなる群から選択してもよい。上記有機化合物は、チオール基を有するアミノ酸、又はチオール基を有するペプチドであることが好ましい。前記有機化合物は、より詳細には、システイン、ホモシステイン、グルタチオン、チオレドキシン、マイコチオール、及びジヒドロリポ酸からなる群から選択される。
【0121】
一実施形態によれば、本発明に係るメルカプタンがシステイン又はホモシステインである場合、上記有機化合物は、システイン又はホモシステインとは(それぞれ)異なる。一実施形態によれば、有機化合物とメルカプタンとは異なっている。
【0122】
上記有機化合物は、より具体的には、システイン、ホモシステイン、グルタチオン、及びチオレドキシンからなる群より選択される。
【0123】
上記有機化合物はグルタチオンであることが特に好ましい。グルタチオン(GSH)/グルタチオンジスルフィド(GSSG)対は、生物学において広く知られている。還元型(グルタチオン)又は酸化型(グルタチオンジスルフィド)において、この実体は、細胞内で重要なレドックス対(redox couple)を形成している。
【0124】
酵素Dは、2当量の上記有機化合物間のジスルフィド架橋の形成を触媒して、二量体(本明細書では、二量体又はダイマーと呼ぶ)を形成させる。特に、2当量のチオール基を有するアミノ酸間、又は2当量のチオール基を有するペプチド間のジスルフィド架橋の形成を触媒して、ジアミノ酸又はジペプチドを形成させる。酵素Dは、還元型又は酸化型の共通補因子の「再利用酵素」と定義することができ、好ましくは、酸化型の共通補因子を還元型の共通補因子に再利用するものである。
【0125】
酵素Dは、レダクターゼであってもデヒドロゲナーゼであってもよく、好ましくは、グルタチオンレダクターゼ、チオレドキシンレダクターゼ、システインレダクターゼ、ホモシステインレダクターゼ、マイコチオールジスルフィドレダクターゼ、及びジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼからなる群より選択され得る。酵素Dは、グルタチオンレダクターゼ、チオレドキシンレダクターゼ、システインレダクターゼ、及びホモシステインデヒドロゲナーゼからなる群からより特に選択される。
【0126】
グルタチオンレダクターゼは、酵素分類番号EC 1.8.1.7又はEC 1.6.4.2、システインレダクターゼはEC 1.8.1.6、チオレドキシンレダクターゼはEC 1.8.1.9又はEC 1.6.4.5、ミコチオンレダクターゼはEC 1.8.1.15(この酵素はミコチオンディスルフィドレダクターゼともいう)で表すことも可能である。特に好ましくは、上記酵素Dは、グルタチオンレダクターゼである。
【0127】
より具体的には、各有機化合物は、対応する酵素Dと結合することにより、対応する二量体を形成することが可能となる。したがって、以下の有機化合物/酵素Dの酵素対又は複合体は、本発明に係るプロセスを実施するために特に有用である:
・グルタチオン/グルタチオンレダクターゼ、
・チオレドキシン/チオレドキシンレダクターゼ、
・システイン/システインレダクターゼ、
・ホモシステイン/ホモシステインレダクターゼ、
・マイコチオール/マイコチオールジスルフィドレダクターゼ、及び
・ジヒドロリポ酸/ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ。
【0128】
<共通する補因子(common cofactor(s))>
「共通する補因子」とは、特に、上記で定義した酵素E及び酵素Dの触媒活性に必要な補因子であり、及び/又はそれらの触媒活性を増強することを可能にするものと理解される。酵素E及びDに「共通する補因子」とは、好ましくは、これらの酵素の作用によって還元及び/又は酸化可能な補因子であると理解される。
【0129】
一実施形態によれば、1つ又は2つ以上の補因子が組成物M中に存在する。例えば、別の補因子に加えて、酵素E及び/又は酵素D中に既に天然に存在する補因子を組成物Mに混和することが可能である。
【0130】
上記補因子は、ニコチン補因子及びフラビン補因子から選択されてもよい。より詳細には、上記補因子は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、及び/又はその対応する還元型(すなわち、NADH,H+、NADPH,H+、FMNH2、FADH2)からなる群から選択されてもよい。
【0131】
上記の補因子は、有利には、それらの還元型(例えば、NADPH,H+)及び/又はそれらの酸化型(例えば、NADP+)で用いられ、すなわち、これらは還元型及び/又は酸化型で組成物Mに添加してもよく、好ましくは還元型である。
【0132】
好ましくは、使用される酵素Eはシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ(例えば、アシネトバクター属由来のシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ)であり、使用される補因子はNADP(任意選択的に(optionally)FADによって補充)であり、酵素Dはグルタチオンレダクターゼである。
【0133】
また、本発明に係る組成物Mは、以下のものを含んでいてもよい:
・任意選択的に(optionally)、水、リン酸緩衝液、Tris-HCl、トリス塩基、炭酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウム、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、CHES(N-シクロヘキシル-2-アミノエタスルホン酸)等の緩衝液、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩類、又はそれらの混合物から選ばれる1以上の溶媒;
・任意選択的に(optionally)、特に酵素反応の1つ以上の反応物又は基質の溶解性を促進するための、界面活性剤等の添加物。
【0134】
組成物Mは、水溶液であることが好ましい。例えば、上記組成物Mは、組成物Mの全重量に対して、50重量%~99重量%の水、好ましくは80重量%~97重量%以下の水を含んでいる。
【0135】
一実施形態によれば、組成物Mは、反応混合物を含むと言える。
【0136】
上述の工程(a)において調製される組成物Mの様々な成分は、商業的に容易に入手可能であるか、又は当業者によく知られた技術によって調製されてもよい。これらの異なる要素は、固体、液体又は気体の形態であってもよく、非常に有利には、本発明のプロセスで使用するために、水又は他の任意の溶媒に溶液化又は溶解させてもよい。使用される酵素はまた、支持体上にグラフト化されていてもよい(担持された酵素の場合)。
【0137】
一実施形態によれば、酵素E及び/又はD、任意選択的な有機化合物、及び任意選択的な共通する補因子は、以下の通りである:
・単離及び/又は精製形態(例えば水溶液中);
・又は、粗抽出物(すなわち、粉砕された細胞の抽出物中);又は
・全細胞中。
【0138】
全細胞が優先的に使用される。[硫化物](単位:mmol/L)/[細胞](単位:gcdw.L-1)比は、好ましくは酵素反応を実施する工程(b)において、0.01~10mmol/gcdw、好ましくは0.01~3mmol/gcdwであってもよい。乾燥細胞の質量濃度(グラム)(細胞乾燥重量についてのgCDW)は、従来の技術によって決定される。
【0139】
酵素E及び/又はDは、上記細胞(以下、宿主細胞と称する)において過剰発現されていてもよいし、過剰発現されていなくてもよい。
【0140】
宿主細胞は、対応するコーディング遺伝子の発現から酵素E及び/又はDを産生するのに適切な任意の宿主であってもよい。この遺伝子は、次に、宿主のゲノムに位置するか、又は以下に定義されるもののような発現ベクターによって運ばれるかのいずれかであろう。
【0141】
本発明の目的のために、「宿主細胞」は、特に、原核細胞又は真核細胞であると理解される。組換え又は非組換えタンパク質の発現に一般的に使用される宿主細胞は、特に、大腸菌(Escherichia coli)若しくはバチルス属菌(Bacillus sp.)若しくはシュードモナス(Pseudomonas)等の細菌の細胞、サッカロミセス・セレビス(Saccharomyces cerevis)若しくはPichia pastoris等の酵母の細胞、Aspergillus niger、Penicillium funiculosum若しくはTrichoderma reesei等の真菌の細胞、Sf9細胞等の昆虫細胞、又は、その他の哺乳類(特にヒト)細胞(例えば、HEK 293、PER-C6又はCHO細胞系統等)である。
【0142】
上記宿主細胞は、例えば、培養液から除去された定常増殖期にあるものであってもよい。
【0143】
好ましくは、酵素E及び/又はD、任意選択的な有機化合物、及び任意選択的な共通する補因子は、細菌である大腸菌内で発現される。CHMO及び/又はHAPMOは、好ましくは、例えば、大腸菌BL21(DE3)等の大腸菌の菌株内で発現される。
【0144】
<酵素E及び/又はDのコード配列を含む発現ベクターの細胞宿主への組み込み>
プラスミド等の発現ベクターを用いる場合、原核細胞及び真核細胞の形質転換は当業者によく知られた技術であり、例えば、リポフェクション、エレクトロポレーション、熱ショック、又は化学的方法によるものである。発現ベクター及び発現ベクターを宿主細胞内に導入する方法は、選択された宿主細胞に応じて選択される。この形質転換工程により、組換え酵素E及び/又はDをコードする遺伝子を発現する形質転換細胞が得られる。この細胞を培養/インキュベーション工程で培養して、酵素E及び/又はDを生産し得る。
【0145】
原核細胞及び真核細胞のインキュベーション/培養は、当業者にはよく知られた技術であり、例えば、培養液、又は温度及び時間の条件を決定することができる。使用するベクターによっては、誘導期間(酵素E及び/又はDの産生の増加に対応する)が観察され得る。弱い(例えば、ベクターpBadの場合はアラビノース)又は強い(例えば、ベクターpET22b、pRSF等の場合はイソプロピルβ-D-1-チオガラクトシド(IPTG))誘導剤の使用が考慮され得る。宿主細胞による酵素E及び/又はDの産生は、SDS-PAGE電気泳動法又はウェスタンブロット法などの手法を用いて確認してもよい。
【0146】
発現ベクターとは、目的の塩基配列を挿入できるようにサイズを小さくしたDNA分子のことである。プラスミド、コスミド、ファージ等、多くの既知の発現ベクターから選択可能である。
【0147】
ベクターは、特に、使用される細胞宿主の機能として選択される。
発現ベクターは、例えば、国際公開公報WO83/004261号に記載されているものであってもよい。
【0148】
<発現ベクター非存在下での、宿主細胞のゲノムへの酵素E及び/又はDのコード配列の組み込み>
酵素E及び/又はDをコードする塩基配列は、例えば、相同組換え、又はCRISPR-Cas9等のシステムにより、任意の公知の方法で宿主細胞のゲノムに組み込むことができる。宿主細胞による酵素E及び/又はDの生産は、SDS-PAGE電気泳動法又はウェスタンブロット法等の手法を用いて確認することができる。
【0149】
<単離及び/又は精製された形態での使用についての酵素E及び/又はDの単離及び/又は精製>
形質転換された宿主細胞の形質転換及び培養/インキュベーションに続いて、酵素E及び/又はDの単離、及び任意選択的に(optionally)精製、の工程を実施してもよい。このようにして、本発明に係るプロセスは、宿主細胞の存在下ではなく、組成物M中の溶液中(好ましくは水溶液中)の酵素E及び/又はDによって実施される。
【0150】
製造された上記酵素E及び/又はDの単離及び/又は精製は、当業者に公知の任意の手段により実施可能である。これは例えば、電気泳動、分子ふるい、超遠心分離、例えば硫酸アンモニウムによる示差沈殿、限外ろ過、膜若しくはゲルろ過、イオン交換、疎水性相互作用による分離、又はIMAC等のアフィニティークロマトグラフィーから選択される技法であってもよい。
【0151】
<宿主細胞の溶解様式、粉砕した細胞の粗抽出物の調製>
細胞溶解液は、超音波処理、加圧(フレンチプレス)、化学剤(例えば、Triton)の使用を介したもの等、様々な公知の技術によって得ることが可能である。得られた溶解液は、粉砕された細胞の粗抽出物に相当する。
【0152】
<組成物及び使用>
本発明は、以下を含む組成物にも関する:
(1)硫化物、
(2)任意選択的に(optionally)酸化剤、
(3)チオール基を少なくとも1つ有する有機化合物、
(4)上記硫化物のスルホキシドへの又はスルホンへの酸化を触媒する酵素E、
(5)チオール基を少なくとも1つ有する2当量の上記有機化合物間のジスルフィド架橋の形成を触媒し、二量体を形成させる酵素D、
(6)上記の2つの酵素E及びDに共通する補因子、及び
(7)メルカプタン。
【0153】
本発明は、補因子(酵素的補因子、特に上記に定義した通り)、好ましくは硫化物の酵素的酸化に使用される補因子を再生又は再利用するためのメルカプタンの使用にも関する。「再生(regeneration)」又は「再利用(recycle)」とは、特に、補因子の酸化型から還元型への経過、又はその逆の経過であると理解される。
【0154】
本発明はまた、チオール基を少なくとも1つ有する2当量の有機化合物間に形成されたジスルフィド架橋を還元するためのメルカプタンの使用にも関し、上記メルカプタンは、好ましくは、対応するジスルフィドに変換される。好ましくは、メルカプタンはメチルメルカプタンであり、有機化合物はグルタチオンである。メルカプタンのこの使用は、特に補因子、特に硫化物の酵素的酸化に使用される補因子を再生又は再利用するための経路として想定されるものである。
【0155】
また、本発明は、メルカプタンによって補因子を再生又は再利用する工程を含む、硫化物の酵素的酸化プロセスにも関する。
【0156】
また、本発明は、チオール基を少なくとも1つ有する2当量の有機化合物間に形成されたジスルフィド架橋を還元するためのメルカプタンを用いるプロセスに関し、上記メルカプタンは、好ましくは、対応するジスルフィドに変換される。
【0157】
より詳細には、硫化物、酸化剤、有機化合物、酵素E、酵素D、補因子、メルカプタン、並びに酵素反応及び化学反応は、特に本発明に係る共生成プロセスの文脈において、上記で定義されたとおりである。
【0158】
<図面の説明>
図1は、酵素CHMOによって酸化反応が触媒された際の、反応液中に存在する硫化ジエチル(DES)、ジエチルスルホキシド(DESO)、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィド(ジスルフィド)の濃度(mM)を、時間の関数(時間単位で表示)として表したものである。補因子NADPの再利用を可能とするカスケードの要素も加えた:大腸菌由来のグルタチオンレダクターゼ(GR)を過剰発現させた細胞をCHMO発現細胞と同じ濃度で加え、酸化グルタチオン(GSSG)を触媒量で、2-メルカプトエタノールをDESに対して2倍の濃度で導入した。
図2は、酵素CHMOによって酸化反応が触媒された際の、反応液中に存在するジエチルスルホキシド(DESO)、ジエチルスルホン(DESO
2)、及びビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィド(ジスルフィド)の濃度(mM)を時間の関数(時間単位で表示)として表したものである。補因子NADPの再利用を可能とするカスケードの要素も加えた:大腸菌由来のグルタチオンレダクターゼ(GR)を過剰発現させた細胞をCHMO発現細胞と同じ濃度で加え、酸化グルタチオン(GSSG)を触媒量で、2-メルカプトエタノールをDESOに対して2倍の濃度で導入した。
図3は、酵素CHMOによって反応が触媒された際の、反応液中に存在するジエチルスルホキシド(DESO)の濃度(mM)を時間(時間単位で表示)の関数として表したものである。この実施例では、2-メルカプトエタノールを、プロトン供与体としてのメチルメルカプタン(MeSH)に置き換えた。補因子NADPの再利用を可能とするカスケードの要素も加えた:大腸菌由来のグルタチオン還元酵素(GR)を過剰発現する細胞をCHMOを発現する細胞と同じ濃度で加え、酸化グルタチオン(GSSG)を触媒量で導入し、MeSHを約4mmol/L/hの流量で反応液に徐々に加えた。
図4は、本発明に係る酵素カスケードを説明する図である。
【0159】
メルカプタン及びスルフィドを、以下を含む反応液に導入する:
・CHMO(酵素Eに相当)、
・NADPH(共通する補因子)、
・グルタチオンレダクターゼ(酵素Dに相当)、
・グルタチオンジスルフィド又はグルタチオン(二量体、又はチオール基を少なくとも1つ含む有機化合物に相当)。
【0160】
特に、空気を連続的に導入することで、硫化物の導入方法に応じて、硫化物をスルホキシド又はスルホンへ酸化させることが可能である。このようにして、酵素カスケードが形成される。
【0161】
共通する補因子であるNADPHは、スルホキシド又はスルホンの生成と同時にNADP+に酸化される。NADP+は、2分子のグルタチオンの存在に応じて、再びNADPH,H+に還元され、2分子のグルタチオン(2GSH)はグルタチオンジスルフィド(GSSG)となる。このカスケードを終了させるために、グルタチオンジスルフィドは、化学的平衡を介して、2分子のメルカプタンを対応するジスルフィドに酸化させ、それによって2分子のグルタチオンを再生させることが可能となる。
【0162】
以下の実施例は、説明のために挙げられたものであり、本発明を限定するものではない。
【0163】
<実施例>
実施例1:2-メルカプトエタノールを用いた硫化ジエチルからの硫化ジエチルの選択的合成
(I)生体触媒の調製:
[シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ(CHMO)の生成]
プラスミドpET22b(Promega, Qiagenより販売)に挿入したchnB遺伝子を発現する大腸菌BL21(DE3)(Merck Milliporeより販売)株を予め構築しておいた。これにより、Acinetobacter sp.由来のシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ(CHMO)を異種発現させることができる。
【0164】
上記菌株は、CHMOと、CHMOの補因子であるNADP及びFADの両方を含むことが理解される。
【0165】
この菌株は、当業者に周知の技術で前培養及び培養したものである。
【0166】
最終濃度0.85mmol/Lのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトシド(IPTG)を添加することにより誘導期(induction phase)を引き起こした後、一定量の培養液を遠心分離(10分、5000g、4℃)して、所望の量の細胞を得る。
【0167】
[グルタチオンレダクターゼ(GR)の生成]
プラスミドpET26b+(Promega, Qiagenより販売)に挿入したgor遺伝子を発現する大腸菌BL21(DE3)(Merck Milliporeより販売)株を当業者に周知の技術に従って設計した。これにより、大腸菌由来のグルタチオンレダクターゼ(GR)を異種発現させることができる。
【0168】
上記菌株は、GR及びGRの補因子であるNADPの両方を含むことが理解される。
【0169】
この菌株は、当業者に公知の技術で前培養及び培養したものである。
【0170】
イソプロピルβ-D-1-チオガラクトシド(IPTG)の添加による誘導期を引き起こした後、一定量の培養液を遠心分離(10分、5000g、4℃)し、所望の量の細胞を得る。
【0171】
(II)生物変換(Bioconversion):
この実施例では、新鮮な細胞のペレットを32mLのpH8の0.1mol/L リン酸緩衝液に再懸濁した。これにより得られる細胞濃度は、CHMO及びGRを過剰発現する細胞について、62ODU/mL、又は20gCDW/L(ここで、CDWは細胞乾燥重量を表す)である。
【0172】
250mL容のフラスコにおいて、初期濃度が3mmol/Lである硫化ジエチル(DES)、6mmol/Lである2-メルカプトエタノール、及び0.25mmol/である酸化グルタチオン(GSSG)が、最終容量32mLで、t=0で存在する。
【0173】
一定時間毎に反応混合物200μLを抜き取り、1000μLのアセトニトリル溶液で希釈した。遠心分離(5分、12500g)後、上清をGCに注入し、反応中に生成したジエチルスルホキシド(DESO)及びビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィド(ジスルフィド)を、予め得ていた校正標準範囲により定量測定する。実施した分析条件では、最小測定可能濃度は50μMである。
【0174】
時間経過と共にDESOの量が直線的に増加することが測定されるが、スルホン(DESO
2)は検出されない。スルフィドの最初の酸化速度は、1時間当たり培地1リットル当たり1mmolのDESが酸化される(
図1)。DESOの生成と同時に同量のビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィドが生成され、補因子を再利用するGSSG/GR結合系が正常に機能していることが確認される。時間の関数としてのビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィドの濃度は、2-メルカプトエタノールの遅い自然酸化に伴うバックグラウンドノイズ(CHMOを過剰発現する細胞を除くカスケードの全ての要素の存在下(同じ条件下)で測定したバックグラウンドノイズ)を差し引いた後に決定したことに注目されたい。
【0175】
DESOがDESO2に変換される反応は、DESが完全に消費された場合にのみ起こるので、CHMOの触媒反応は化学選択的である。逆に言えば、反応媒体中にDESが存在する場合にはスルホンは生成しない。
【0176】
得られた選択性は約100%である。DESがまだ反応液中に存在する場合、使用した分析装置でスルホンは検出されない。反応終了時(t=4時間)には、約100%のDESOが得られ、使用した分析装置ではDESO2が検出されない。
【0177】
実施例2:2-メルカプトエタノールを水素供与体として用いたジエチルスルホキシドからのジエチルスルホンの選択的合成
(I)生体触媒の調製:
この実施例では、実施例1で説明したものと同じ株、すなわち大腸菌からCHMO及びGRを過剰発現させた株を使用した。
【0178】
遠心分離(10分、5000g、4℃)を行い、ペレットを0.1mol/Lのリン酸緩衝液(pH8)32mLに懸濁する。各株の細胞濃度が62ODU/mL(又はおおよそ20gCDW/L)となるようにし、反応試験に使用した。
【0179】
(II)生物変換:
250mL容のフラスコに、3mmol/Lのジエチルスルホキシド(DESO)、6mmol/Lの2-メルカプトエタノール、0.25mmol/Lの酸化グルタチオン(GSSG)を、最終容量32mLで、t=0で同時添加する。
【0180】
一定時間毎に反応混合物200μLを抜き取り、1000μLのアセトニトリル溶液で希釈した。遠心分離(5分、12500g)後、上清をGCに注入し、反応中に生成したジエチルスルホン(DESO2)及びビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィド(ジスルフィド)を、予め得た校正標準範囲を用いて定量的に測定する。
【0181】
時間経過と共にDESO
2の量が直線的に増加することが測定される。その後、スルホキシドの最初の酸化速度は、1時間当たり培地1リットル当たり0.75mmolのDESOが酸化される(
図2)。並行して、DESO
2の生成と同時に、同量のビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィドも生成される。その結果、添加した2-メルカプトエタノールによって、カスケード依存的な経路で補因子NADPを再利用することが実際に可能になる。なお、バックグラウンドノイズは、実施例1と同様の方法で差し引いた。
【0182】
実施例3:メチルメルカプタン(MeSH)を水素供与体として用いた硫化ジエチルからの選択的な硫化ジエチルの合成
(I)生体触媒の調製:
この実施例では、実施例1及び実施例2で説明したものと同じ株、すなわち、大腸菌のCHMO及びGRを過剰発現させた株を用いた。この生体触媒反応では、2-メルカプトエタノールをMeSHに置き換えた。
【0183】
(II)生体変換:
この実施例では、新鮮な細胞のペレットを200mLのpH8の0.1mol/Lのリン酸緩衝液に再懸濁する。このようにして得られた細胞濃度は、CHMO及びGRを過剰発現する細胞について、62ODU/mL、又は20gCDW/L(ここで、CDWは細胞乾燥重量を表す)である。
【0184】
1L容の反応器に、10mmol/Lの硫化ジエチル(DES)、0.25mmol/Lの酸化グルタチオン(GSSG)、及び予め調製した酵素溶液を、t=0で同時投入する。さらに、メチルメルカプタンナトリウムの硫酸酸性化によりメチルメルカプタンを反応液に徐々に添加する(流速は、おおよそ4mmol/L/hに調整)。その後、DES濃度を一定にするために純硫化ジエチルを40μL/hの流量で徐々に添加し、ブラダーにより反応に必要な酸素を定期的に添加する。反応は、30℃に制御された温度で撹拌しながら開始される。
【0185】
一定時間毎に反応混合物200μLを抜き取り、1000μLのアセトニトリル溶液で希釈した。遠心分離(5分、12500g)後、上清をGCに注入し、予め得た校正標準範囲を使用して、反応中に潜在的に形成されたジエチルスルホキシド(DESO)及びジエチルスルホン(DESO2)を定量測定する。今回の分析条件では、測定可能な最小濃度は50μMである。
【0186】
時間経過と共にDESOの量が直線的に増加することが測定されるが、スルホン(DESO
2)は検出されない。その後、スルフィドの最初の酸化速度は、1時間当たり培地1リットル当たり0.2mmolのDESが酸化される(
図3)。DESOの生成と同時にジメチルジスルフィド(DMDS)が生成され、補因子を再利用するGSSG/GR結合系が正常に機能することが確認される。
【0187】
CHMOを触媒とする反応は、反応中ずっとDESが反応液中に存在するため、DESOがDESO2に変換される反応が起きず、化学選択的な反応であると言える。
【国際調査報告】