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特表2023-517710ガラス物品を強化するための塩浴組成物、塩浴システム、および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】ガラス物品を強化するための塩浴組成物、塩浴システム、および方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20230419BHJP
【FI】
C03C21/00 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555787
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(85)【翻訳文提出日】2022-11-04
(86)【国際出願番号】 US2021019344
(87)【国際公開番号】W WO2021188264
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】62/990,730
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】アボット ジュニア,ジョン スティール
(72)【発明者】
【氏名】フレッチャー,トニア ハヴェワラ
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス-モウアー,シニュー
(72)【発明者】
【氏名】ハルディナ,ケネス エドワード
(72)【発明者】
【氏名】スターンクィスト,ダニエル アーサー
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB15
4G059HB23
(57)【要約】
ここに記載された実施の形態は、イオン交換過程に使用される溶融塩浴の有効期限を伸ばし、強化されたガラス物品の化学的耐久性を長期間に亘り維持するためにその塩浴中の分解生成物の濃度も最小にする、ガラス物品を強化するための組成物、システム、および方法に関する。その塩浴組成物は、概して、この塩浴組成物の総質量に基づいて、90質量%から99.9質量%の1種類以上のアルカリ金属塩および0.1質量%から10質量%のケイ酸凝集体を含むことがある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス物品を強化するための塩浴組成物であって、
前記塩浴組成物の総質量に基づいて90質量%から99.9質量%の1種類以上のアルカリ金属塩、および
前記塩浴組成物の総質量に基づいて0.1質量%から10質量%のケイ酸凝集体、
を含み、
前記ケイ酸凝集体は、50μmから200μmの平均サイズを有する、塩浴組成物。
【請求項2】
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、200μm以下の平均サイズを有する、請求項1記載の塩浴組成物。
【請求項3】
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、50μm以上の平均粒径を有する、請求項1記載の塩浴組成物。
【請求項4】
前記ケイ酸凝集体の比表面積が、200m/g以上である、請求項1記載の塩浴組成物。
【請求項5】
前記1種類以上のアルカリ金属塩が、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含む、請求項1記載の塩浴組成物。
【請求項6】
ガラス物品を強化するための塩浴システムにおいて、
少なくとも1つの側壁により取り囲まれた内部容積を画成する塩浴槽と;
前記内部容積内にある塩浴組成物であって、
該塩浴組成物の総質量に基づいて90質量%から99.5質量%の1種類以上のアルカリまたはアルカリ土類金属塩、および
該塩浴組成物の総質量に基づいて0.1質量%から10質量%のケイ酸凝集体、
を含み、該ケイ酸凝集体は、50μmから400μmの平均サイズを有する、塩浴組成物と、
を備える塩浴システム。
【請求項7】
前記システムが、前記側壁に連結された1つ以上の篩をさらに含み、前記ケイ酸凝集体の少なくとも一部が該1つ以上の篩内に収容されている、請求項6記載の塩浴システム。
【請求項8】
前記1つ以上の篩が、70以上のメッシュ数を有する、請求項7記載の塩浴システム。
【請求項9】
前記ケイ酸凝集体の前記一部が、該ケイ酸凝集体の総量の25%から80%を構成する、請求項7記載の塩浴システム。
【請求項10】
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、50μm以上かつ400μm以下の平均サイズを有する、請求項6記載の塩浴システム。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2020年3月17日に出願された米国仮特許出願第62/990730号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、広く、ガラス物品を化学的に強化する方法に関し、より詳しくは、ガラス物品を強化するための塩浴組成物、塩浴システム、および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
テンパードガラスまたは強化ガラスが様々な用途に使用されることがある。例えば、強化ガラスは、その物理的耐久性および耐破損性のために、スマートフォンやタブレットなどの消費者向け電子機器に使用されることがある。強化ガラスは、医薬品包装にも使用されることがある。そのような用途において、ガラスの化学的耐久性が、物理的耐久性に加え、医薬品包装の内容物の汚染を防ぐために重要である。しかしながら、従来のイオン交換過程のような従来の強化過程では、ガラスの化学的耐久性が低下することがある。これは、少なくとも一部には、イオン交換に利用される溶融塩浴の劣化および/または分解によって生じることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、ガラス物品を強化するための代わりの塩浴組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様によれば、ガラス物品を強化するための塩浴組成物は、この塩浴組成物の総質量に基づいて90質量%から99.9質量%の1種類以上のアルカリ金属塩、およびこの塩浴組成物の総質量に基づいて0.1質量%から10質量%のケイ酸凝集体を含み、このケイ酸凝集体は、50μmから200μmの平均サイズを有する。
【0006】
第2の態様は、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、200μm以下の平均サイズを有する、第1の態様の塩浴組成物を含む。
【0007】
第3の態様は、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、50μm以上の平均粒径を有する、第1または第2の態様いずれかの塩浴組成物を含む。
【0008】
第4の態様は、ケイ酸凝集体の比表面積が、200m/g以上である、第1から第3の態様のいずれかの塩浴組成物を含む。
【0009】
第5の態様は、1種類以上のアルカリ金属塩が、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含む、第1から第4の態様のいずれかの塩浴組成物を含む。
【0010】
第6の態様によれば、ガラス物品を強化するための塩浴システムは、少なくとも1つの側壁により取り囲まれた内部容積を画成する塩浴槽と;この内部容積内にある塩浴組成物であって、この塩浴組成物の総質量に基づいて90質量%から99.5質量%の1種類以上のアルカリまたはアルカリ土類金属塩およびこの塩浴組成物の総質量に基づいて0.1質量%から10質量%のケイ酸凝集体を含み、このケイ酸凝集体は、50μmから400μmの平均サイズを有する、塩浴組成物とを備える。
【0011】
第7の態様は、そのシステムが、側壁に連結された1つ以上の篩をさらに含み、ケイ酸凝集体の少なくとも一部がこの1つ以上の篩内に収容されている、第6の態様の塩浴システムを含む。
【0012】
第8の態様は、1つ以上の篩が、70以上のメッシュ数を有する、第7の態様の塩浴システムを含む。
【0013】
第9の態様は、ケイ酸凝集体のその一部が、ケイ酸凝集体の総量の25%から80%を構成する、第7または第8の態様いずれかの塩浴システムを含む。
【0014】
第10の態様は、システムが撹拌機(agitator)をさらに含む、第6から第9の態様のいずれかの塩浴システムを含む。
【0015】
第11の態様は、撹拌機が撹拌具(stirrer)を含む、第10の態様の塩浴システムを含む。
【0016】
第12の態様は、撹拌機がガス注入システムを含む、第10の態様の塩浴システムを含む。
【0017】
第13の態様は、ケイ酸凝集体が、50μmから200μmの平均サイズを有する、第6から第12の態様のいずれかの塩浴システムを含む。
【0018】
第14の態様は、ケイ酸凝集体が、200μmから400μmの平均サイズを有する、第6から第12の態様のいずれかの塩浴システムを含む。
【0019】
第15の態様は、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、400μm以下の平均サイズを有する、第6から第14の態様のいずれかの塩浴システムを含む。
【0020】
第16の態様は、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、50μm以上の平均サイズを有する、第6から第15の態様のいずれかの塩浴システムを含む。
【0021】
第17の態様は、ケイ酸凝集体の平均表面積が、200m/g以上である、第6から第16の態様のいずれかの塩浴システムを含む。
【0022】
第18の態様は、1種類以上のアルカリ金属塩が、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含む、第6から第17の態様のいずれかの塩浴システムを含む。
【0023】
第19の態様によれば、ガラス物品を強化する方法は、塩浴組成物をイオン交換温度に加熱して、1種類以上のアルカリまたはアルカリ土類金属塩を含む溶融塩浴組成物を形成する工程、その溶融塩浴組成物を、50μmから400μmの平均サイズを有するケイ酸凝集体を含む中和区域に循環させる工程、および溶融塩浴組成物とガラス物品との間でイオン交換が行われるように、ガラス物品を溶融塩浴組成物中に浸漬する工程を有してなる。
【0024】
第20の態様は、中和区域が、ケイ酸凝集体の充填床を含む、第19の態様の方法を含む。
【0025】
第21の態様は、充填床が、70以上のメッシュ数を有する篩で取り囲まれている、第20の態様の方法を含む。
【0026】
第22の態様は、塩浴組成物が、0.05体積/時から10体積/時の速度で中和区域に循環される、第19から第21の態様のいずれかの方法を含む。
【0027】
第23の態様は、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、400μm以下の平均サイズを有する、第19から第22の態様のいずれかの方法を含む。
【0028】
第24の態様は、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、50μm以上の平均サイズを有する、第19から第23の態様のいずれかの方法を含む。
【0029】
第25の態様は、ケイ酸凝集体の平均表面積が、200m/g以上である、第19から第24の態様のいずれかの方法を含む。
【0030】
第26の態様は、1種類以上のアルカリ金属塩が、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含む、第19から第25の態様のいずれかの方法を含む。
【0031】
第27の態様は、塩浴組成物が、この塩浴組成物の総質量に基づいて1種類以上のアルカリまたはアルカリ土類金属塩を90質量%から99.5質量%で含む、第19から第26の態様のいずれかの方法を含む。
【0032】
第28の態様は、中和区域が、塩浴組成物の総質量に基づいて、0.1質量%から10質量%を構成する、第19から第27の態様のいずれかの方法を含む。
【0033】
第29の態様によれば、ガラス物品を強化するための塩浴組成物を装填する方法は、1種類以上のアルカリ金属塩を含む第1の固体層を塩浴槽に加える工程、その塩浴槽にケイ酸凝集体を含む第2の固体層を加える工程、およびケイ酸凝集体を含む第2の固体層が第1の固体層と第3の固体層との間に位置付けられるように塩浴槽に1種類以上のアルカリ金属塩を含む第3の固体層を加える工程を有してなり、第1の固体層の質量パーセントと第3の固体層の質量パーセントの合計が、塩浴組成物の90質量%から99.5質量%であり、第3の固体層の質量パーセントに対する第1の固体層の質量パーセントの合計の比が、1:4から4:1である。
【0034】
第30の態様は、第2の固体層の質量パーセントが、塩浴組成物の総質量に基づいて0.5質量%から10質量%である、第29の態様の方法を含む。
【0035】
第31の態様は、方法が、第1の固体層、第2の固体層、および第3の固体層を加熱して、溶融塩浴を形成する工程をさらに含む、第29または30の態様いずれかの方法を含む。
【0036】
第32の態様は、第1の固体層、第2の固体層、および第3の固体層が、350℃から500℃の温度に加熱される、第31の態様の方法を含む。
【0037】
第33の態様は、ケイ酸凝集体が、50μmから400μmの平均サイズを有する、第29から32の態様のいずれかの方法を含む。
【0038】
第34の態様は、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、400μm以下の平均サイズを有する、第29から33の態様のいずれかの方法を含む。
【0039】
第35の態様は、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、50μm以上の平均サイズを有する、第29から34の態様のいずれかの方法を含む。
【0040】
第36の態様は、ケイ酸凝集体の平均表面積が、200m/g以上である、第29から35の態様のいずれかの方法を含む。
【0041】
第37の態様は、1種類以上のアルカリ金属塩が、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含む、第29から36の態様のいずれかの方法を含む。
【0042】
第38の態様によれば、ガラス物品を強化する方法は、1種類以上のアルカリまたはアルカリ土類金属塩を含む塩浴組成物をイオン交換温度に加熱して、溶融塩浴組成物を形成する工程、溶融塩浴組成物とガラス物品との間にイオン交換が生じるように、溶融塩浴組成物中にガラス物品を浸漬する工程、溶融塩浴組成物を、50μmから400μmの平均サイズを有するケイ酸凝集体と接触させる工程、および溶融塩浴組成物と第2のガラス物品との間にイオン交換が生じるように、溶融塩浴組成物中に第2のガラス物品を浸漬する工程を有してなる。
【0043】
第39の態様は、溶融塩浴組成物を、50μmから400μmの平均サイズを有するケイ酸凝集体と二度目に接触させる工程、および溶融塩浴組成物と第3のガラス物品との間にイオン交換が生じるように、溶融塩浴組成物中に第3のガラス物品を浸漬する工程をさらに含む、第38の態様の方法を含む。
【0044】
第40の態様は、溶融塩浴組成物をケイ酸凝集体と接触させる前に、ガラス物品が溶融塩浴組成物から取り出される、第38または39の態様いずれかの方法を含む。
【0045】
ここに記載された組成物、方法、および物品の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された実施の形態を実施することによって認識されるであろう。
【0046】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、様々な実施の形態を記載しており、請求項の主題の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供する意図があることを理解すべきである。添付図面は、様々な実施の形態のさらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、ここに記載された様々な実施の形態を示しており、説明とともに、請求項の主題の原理および作動を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1A】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換過程の一部を示す概略図
図1B】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換過程の一部を示す概略図
図2A】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換を経たガラス物品の表面加水分解抵抗(SHR)を示すグラフ
図2B】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換を経たガラス物品の圧縮応力(CS)を示すグラフ
図2C】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換を経たガラス物品の中央張力(CT)を示すグラフ
図2D】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換を経たガラス物品の圧縮深さ(DOC)を示すグラフ
図3】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換過程により製造された無欠陥ガラス物品の収率を示すグラフ
図4】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、塩浴システムを示す概略図
図5A】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、塩浴システムを示す概略図
図5B】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、塩浴システムを示す概略図
図5C】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、塩浴システムを示す概略図
図6】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、塩浴システムの中和区域を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0048】
ここに記載された実施の形態は、ガラス物品を強化しつつ、イオン交換過程に使用される溶融塩浴中の分解生成物の濃度を最小にして、その塩浴の有効期限を伸ばし、強化されたガラス物品の化学的耐久性を長期間に亘り維持するための組成物、システム、および方法に関する。その塩浴組成物は、概して、この塩浴組成物の総質量に基づいて、90質量%から99.9質量%の1種類以上のアルカリ金属塩および0.1質量%から10質量%のケイ酸凝集体を含むことがある。この組成物、システム、および方法の様々な実施の形態が、添付図面を具体的に参照して、ここに記載される。
【0049】
ここに用いられているような方向を示す用語-例えば、上、下、右、左、前、後、上部、底部-は、描かれた図面のみを参照して用いられ、絶対的な向きを暗示する意図はない。
【0050】
特に明記のない限り、ここに延べられたどの方法も、その工程が、特定の順序で行われることも、またはどの装置に関しても、特定の向きが要求されていることも決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程がしたがうべき順序を実際に列挙していない場合、または装置の請求項が、個々の構成要素に対する順序または向きを実際に列挙していない場合、もしくは工程が特定の順序に限定されるべきことが請求項または説明に他の具体的に述べられていない場合、または装置の構成要素に対する特定の順序または向きが列挙されていない場合、いずれに関しても、順序も向きも暗示されることは決して意図されていない。このことは、工程の配列または操作の流れ、構成要素の順次、または構成要素の向き;文法構成または句読法に由来する明白な意味;および明細書に記載された実施の形態の数またはタイプに関する論理事項を含む、解釈に関するどの可能性のある非表現基準にも適用される。
【0051】
ここに用いられているように、「イオン交換浴」、「塩浴」、および「溶融塩浴」という用語は、特に明記のない限り、同義語であり、ガラス物品の表面内にある陽イオンが、塩浴中に存在する陽イオンと置換すなわち交換される、イオン交換過程をガラス(またはガラスセラミック)物品に行うために使用される溶液または媒体を称する。塩浴は、熱により液化する、または他のやり方で実質的に液相に加熱することのできる、硝酸カリウム(KNO)および/または硝酸ナトリウム(NaNO)などのアルカリ金属塩を少なくとも1種類含むことがあるのが理解されよう。
【0052】
ここに用いられているように、「化学的耐久性」という用語は、特定の化学的条件に曝露された際の劣化に抵抗するガラス組成物の能力を称する。詳しくは、ここに記載されたガラス物品の化学的耐久性は、米国薬局方<660>「Containers-Glass」の「Surface Glass Test」にしたがって、水中で評価した。
【0053】
ここに用いられているように、名詞は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、複数の対象を含む。それゆえ、例えば、構成要素は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、そのような構成要素を2つ以上含む態様を含む。
【0054】
最初に図1Aおよび1Bを参照すると、従来のイオン交換過程が概略示されている。このイオン交換過程は、塩浴100中にガラス物品105を浸漬する工程を含む、実施の形態において、ガラス物品105は、米国薬局方(USP)<660>「Containers-Glass」に記載されたような、タイプIガラス基準を満たす、ホウケイ酸ガラスまたはアルミノケイ酸塩ガラスなどのケイ酸塩ガラスから作られることがある。タイプIガラスは、一般に、比較的高い加水分解抵抗および比較的高い耐熱衝撃性を有する。実施の形態において、ガラス物品105は、これもUSP<660>に記載されている、タイプIIIガラスから作られることがある。タイプIIIガラスは、一般に、ソーダ石灰シリカガラスである。タイプIIIガラスは、中程度の加水分解抵抗を有する。実施の形態において、ガラス物品105は、これもUSP<660>に記載されている、タイプIIガラスから作られることがある。タイプIIガラスは、一般に、ガラスの加水分解抵抗を改善するために表面処理が施されたタイプIIIガラスである。
【0055】
まだ図1Aを参照すると、ガラス物品105は、相対的に小さい陽イオン130、例えば、Liおよび/またはNa陽イオンなどのアルカリ金属陽イオンを含有することがある。塩浴100は、高温で相対的に大きい陽イオン120(すなわち、ガラス物品の陽イオン130に対して)を含有する溶融塩101を含むことがある。すなわち、大きい方の陽イオン120は、小さい方の陽イオン130の原子半径よりも大きい原子半径を有することができる。大きい方の陽イオン120は、例えば、カリウム(K)および/またはナトリウム(Na)陽イオンなどのアルカリ金属陽イオンを含むことがある。大きい方の陽イオン120は、溶融塩101が高温に加熱されたときに、塩浴100中に存在する、アルカリ金属硝酸塩などの塩から解離していることがある。ガラス物品105が塩浴中に浸漬されると、ガラス物品105内の小さい方の陽イオン130が、ガラス物品105から溶融塩101中に拡散することができる。ここで図1Bを参照すると、そのような拡散後、溶融塩101からの大きい方の陽イオン120が、ガラス物品105中の小さい方の陽イオン130を置換することができる。ガラス物品105中の小さい方の陽イオン130の大きい方の陽イオン120による置換で、層の深さ(DOL)まで延在するガラス物品105の表面に表面圧縮応力(CS)が生じ、次に、これにより、ガラス物品105の機械的強度が増し、ガラス物品105の耐破損性が改善される。
【0056】
イオン交換過程中、アルカリ金属硝酸塩などの、塩浴中に存在する金属硝酸塩は、金属亜硝酸塩および/または金属酸化物に分解することがあるのが分かった。例えば、アルカリ金属硝酸塩のアルカリ金属亜硝酸塩への分解が、以下の式:
MNO←→MNO+1/2O [M:IUPAC第1族金属]
に示されている。アルカリ金属硝酸塩およびアルカリ金属亜硝酸塩の両方とも、以下の式:
MNO←→MO+NO [M:IUPAC第1族金属]
に示されるように、アルカリ金属酸化物にさらに分解することがある。例えば、硝酸カリウム(KNO)塩が塩浴中に存在する場合、KNOは、約400℃より高い浴温度で2種類の主要な分解生成物:亜硝酸カリウム(KNO)および酸化カリウム(KO)に分解することが分かった。硝酸ナトリウムおよび硝酸リチウムなどの他のアルカリ金属硝酸塩は、KNOよりも低い温度(すなわち、400℃以下の温度)で対応するアルカリ金属亜硝酸塩およびアルカリ金属酸化物に分解することがあるのが分かった。
【0057】
塩浴中のKOなどのアルカリ金属酸化物の存在により、その中で処理されるガラス物品の性質が低下することがあることが見出された。具体的に、塩浴中のアルカリ金属酸化物が、イオン交換中にガラス物品の表面を非調和的にエッチングすることがあるのが分かった。このエッチングによりガラス物品の表面が劣化し、これにより、転じて、ガラス物品の多くの性質が悪影響を受けることがある。例えば、0.5質量%以上の濃度でKOを含む塩浴中でイオン交換を経たガラス物品は、ガラス物品上に目に見えるエッチングおよび表面損傷を形成することがあるのが分かった。ガラス物品が、0.5質量%未満の濃度でKOを含む塩浴中でイオン交換を経る場合でさえ、KOの存在により、ガラス物品の機械的強度が相当低下することがあるのが分かった。
【0058】
イオン交換中のガラス物品の表面の劣化は、塩浴の中和によって、低下させるか、防ぐことができる。すなわち、イオン交換中のガラス物品の表面の劣化は、塩浴内に存在するアルカリ金属酸化物を減少させるか、またはなくすことによって、低下させるか、防ぐことができる。このことは、少なくとも一部には、塩浴内にケイ酸を含ませることによって、達成することができる。ここに用いられているように、「ケイ酸」という用語は、オルトケイ酸(Si(OH))などのケイ酸、並びに対応するケイ酸塩(ケイ酸の共役塩基である)を称する。ケイ酸は、一般に、以下の式:
O+SiO→MSiO [M:IUPAC第1族金属]
に示されるように、アルカリ金属酸化物と反応して、非反応性生成物を形成する。
【0059】
どの特定の理論にも束縛されないが、塩浴中でイオン交換されたガラス物品の表面加水分解抵抗(SHR)は、塩浴が中和される程度を決定するための最も信頼性のある識別力のある測定基準であると考えられる。ガラス物品の表面加水分解抵抗は、USP<660>に詳述されているような、Surface Glass Testによって測定することができる。Surface Glass Testでガラス物品の表面加水分解抵抗を測定する場合、そのガラス物品からなるガラスバイアルまたは容器に、二酸化炭素を含まない水または純水を充填する。次に、充填されたバイアルまたは容器に、約1時間に亘り約121℃でのオートクレーブサイクルを施す。次に、このバイアルまたは容器内の結果として得られた浸出液を、メチルレッドの存在下で弱塩化水素酸(例えば、0.01MのHCl)によって中和するように滴定する。浸出液100mL当たりの滴定剤の体積を使用して、ガラス物品の表面加水分解抵抗を決定する。一般に、滴定剤の体積が大きいほど、化学的耐久性が劣る(すなわち、浸出液は、ガラスが放出したガラス成分をより多く含み、それゆえ、ガラス成分の存在によるpHの変化を相殺するためにより多くの滴定剤が必要になる)。次に、劣った化学的耐久性は、一般に、ガラス物品の表面のより多くの劣化およびイオン交換に使用された塩浴内のアルカリ金属酸化物のより大きい濃度に相当する。
【0060】
強化されたガラス物品において、小さい滴定剤の体積および/または高い化学的耐久性が望ましいであろう。一般に、タイプIガラスには、1.5mL未満の滴定剤の体積が望ましい。しかしながら、上述したように、イオン交換に使用される溶融塩浴内の、アルカリ水酸化物またはアルカリ金属酸化物などの分解生成物の存在により、ガラス物品の表面が腐食するおよび/またはエッチングされることがある。このエッチングにより、滴定剤の体積が増加することがあり、その増加は、化学的耐久性の低下に相当する。典型的に、強化されたガラス物品の滴定剤の体積は、受けているイオン交換の経過時間の関数として増加する。すなわち、ガラス物品が溶融塩浴と接触する時間が長いほど、滴定剤の体積が大きくなる。例えば、約3時間に亘りイオン交換を受けているガラス物品は、滴定剤の体積が約0.9mLになることがあり、一方で、約10時間に亘りイオン交換を受けているガラス物品は、滴定剤の体積が約1.1mLになることがある。
【0061】
ここで図2Aを参照すると、浸出液100mL当たりの滴定剤の体積(すなわち、滴定剤の体積)およびひいては、溶融塩浴中でイオン交換されたガラス物品の表面加水分解抵抗が、グラフで示されている。図2Aに示されるように、滴定剤の体積は、概して、ケイ酸が存在しない場合、14日間に亘って増加し、これは、溶融塩浴内のアルカリ金属酸化物の形成、および結果として、ガラス物品の表面の劣化を示す。しかしながら、図2Aは、ケイ酸の添加(すなわち、「SA後」)により、滴定剤の体積が、初期の滴定剤の体積より小さいか、それと同等の量まで著しく減少することも示す。すなわち、塩浴組成物中にケイ酸を含ませると、または溶融塩浴にケイ酸を添加すると、溶融塩浴を効果的に中和できることが示された。同様に、ここで図2Bを参照すると、ガラス物品の圧縮応力(CS)は、14日間に亘って着実に減少する。しかしながら、ケイ酸の添加後、イオン交換過程中に達成された圧縮応力が著しく増加し、溶融塩浴がまだ新鮮なときに達成された圧縮応力値に戻る。この結論は、図2C~2Dによってさらに支持されており、これらの図は、数日間に亘り使用された溶融塩浴にケイ酸が添加された場合、強化されたガラス物品の中央張力(CT)および圧縮深さ(DOC)が著しく増加することを示す。
【0062】
しかしながら、ケイ酸粒子の平均粒径が大きすぎる場合、ケイ酸は、溶融塩浴を効果的に中和し損なうことがあるのが分かった。具体的には、ケイ酸粒子の平均サイズが大きすぎる場合、ケイ酸粒子は、溶融塩浴の底に迅速に沈むことがあり、その結果、ケイ酸とアルカリ金属酸化物との間の相互作用と反応の可能性が低下することがあるのが分かった。したがって、溶融塩浴内のケイ酸粒子の浮力を増加させ、その結果、ケイ酸粒子が溶融塩浴内で沈降する速度を減少させるために、ケイ酸粒子の平均サイズを減少させることができる。
【0063】
反対に、ケイ酸粒子の平均粒径が小さすぎる場合、ケイ酸粒子は、溶融塩浴中でイオン交換されるガラス物品の表面に付着することがあるのが分かった。ガラス物品の表面へのケイ酸粒子がこのように付着すると、そのガラス物品が商業用途に不適になる、または少なくとも、製造費を増し、効率を低下させる追加の処理が必要になるという結果が生じることがある。例えば、ここで図3を参照すると、溶融塩浴中で生成される、無欠陥の強化済みガラス物品の収率が、時間の経過により次第に減少している。しかしながら、ケイ酸の添加後(点線により示される)、溶融塩浴中で生成される無欠陥の強化済みガラス物品の収率は、大幅に減少し、溶融塩浴中のケイ酸の存在が、その中で強化されたガラス物品の品質に悪影響を与えるであろうことを示す。
【0064】
したがって、本開示は、ケイ酸を利用して、溶融塩浴を効果的に中和しつつ、溶融塩浴中でイオン交換を経るガラス物品の表面へのケイ酸粒子の付着を低下させるか、または防ぐ、ガラス物品を強化するための塩浴組成物および塩浴システム、並びにガラス物品を強化する方法に関する。
【0065】
実施の形態において、塩浴組成物は、1種類以上のアルカリ金属塩を含むことがある。例えば、塩浴組成物は、硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸リチウム(LiNO)、またはその組合せを含むことがある。実施の形態において、塩浴組成物は、その塩浴組成物の総質量に基づいて、90質量%から99.9質量%の1種類以上のアルカリ金属塩を含むことがある。例えば、塩浴組成物は、その塩浴組成物の総質量に基づいて、90質量%から99.5質量%、90質量%から99質量%、90質量%から97質量%、90質量%から95質量%、90質量%から93質量%、93質量%から99.9質量%、93質量%から99.5質量%、93質量%から99質量%、93質量%から97質量%、93質量%から95質量%、95質量%から99.9質量%、95質量%から99.5質量%、95質量%から99質量%、95質量%から97質量%、97質量%から99.9質量%、97質量%から99.5質量%、97質量%から99質量%、99質量%から99.9質量%、99質量%から99.5質量%、または99.5質量%から99.9質量%の1種類以上のアルカリ金属塩を含むことがある。
【0066】
先に述べたように、塩浴組成物は、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含むことがある。実施の形態において、塩浴組成物は、その塩浴組成物の総質量に基づいて、5質量%から99.9質量%の硝酸カリウムを含むことがある。例えば、塩浴組成物は、塩浴組成物の総質量に基づいて、5質量%から75質量%、5質量%から50質量%、5質量%から25質量%、25質量%から99.9質量%、25質量%から75質量%、25質量%から50質量%、50質量%から99.9質量%、50質量%から75質量%、または75質量%から99.9質量%の硝酸カリウムを含むことがある。実施の形態において、塩浴組成物は、その塩浴組成物の総質量に基づいて、5質量%から99.9質量%の硝酸ナトリウムを含むことがある。例えば、塩浴組成物は、塩浴組成物の総質量に基づいて、5質量%から75質量%、5質量%から50質量%、5質量%から25質量%、25質量%から99.9質量%、25質量%から75質量%、25質量%から50質量%、50質量%から99.9質量%、50質量%から75質量%、または75質量%から99.9質量%の硝酸ナトリウムを含むことがある。実施の形態において、塩浴組成物中のアルカリ金属塩の濃度は、イオン交換過程後のガラス物品の表面での表面圧縮応力、並びに圧縮深さの両方を増加させるイオン交換過程を提供するために、ガラス物品の組成に基づいて、釣り合わされることがある。例えば、塩浴組成物は、その塩浴組成物の総濃度に基づいて、硝酸ナトリウムより大きい濃度で硝酸カリウムを含むことがある、または塩浴組成物は、その塩浴組成物の総質量に基づいて、硝酸カリウムより大きい濃度で硝酸ナトリウムを含むことがある。どの特定の理論にも束縛されないが、塩浴組成物中の硝酸カリウムよりも大きい濃度の硝酸ナトリウムは、溶融塩浴中のより長い滞留時間と併せて、ガラス物品中により深い圧縮深さをもたらすであろうと考えられる。
【0067】
実施の形態において、塩浴組成物は、ケイ酸凝集体を含むことがある。ここに用いられているように、「ケイ酸凝集体」という用語は、ケイ酸ナノ粒子の単一塊への収集により形成されるクラスターまたはユニットを称するものとする。先に記載されたように、ケイ酸凝集体は、塩浴組成物中の1種類以上のアルカリ金属塩の分解生成物と反応して、非反応性(例えば、ガラス物品の表面をエッチングも、腐食もしない)ケイ酸塩と水を形成することができる。したがって、ケイ酸凝集体は、溶融塩浴内のアルカリ金属塩の分解生成物の濃度を低下させることができ、その結果、従来の溶融塩浴(すなわち、ケイ酸凝集体を含まない溶融塩浴)中でイオン交換過程が施されたものと比べて、ガラス物品の化学的耐久性を増加させることができる。
【0068】
塩浴組成物は、溶融塩浴内の少なくとも1種類の分解生成物の濃度を効果的に減少させるのに十分な量のケイ酸凝集体を含むことがある。実施の形態において、塩浴組成物は、その塩浴組成物の総質量に基づいて、0.1質量%から10質量%のケイ酸凝集体を含むことがある。例えば、塩浴組成物は、その塩浴組成物の総質量に基づいて、約0.1質量%から7質量%、約0.1質量%から5質量%、約0.1質量%から3質量%、約0.1質量%から1質量%、約0.1質量%から0.5質量%、約0.5質量%から約10質量%、約0.5質量%から7質量%、約0.5質量%から5質量%、約0.5質量%から3質量%、約0.5質量%から1質量%、約1質量%から約10質量%、約1質量%から7質量%、約1質量%から5質量%、約1質量%から3質量%、約3質量%から約10質量%、約3質量%から7質量%、約3質量%から5質量%、約5質量%から約10質量%、約5質量%から7質量%、または約7質量%から約10質量%のケイ酸凝集体を含むことがある。塩浴組成物がそれより少なくケイ酸凝集体(すなわち、0.1質量%未満)を含む場合、溶融塩浴内のケイ酸凝集体の有効性は、分解生成物と効果的に相互作用するのに十分ではないであろう。反対に、塩浴組成物がそれより多くケイ酸凝集体(すなわち、10質量%超)を含む場合、過剰なケイ酸凝集体は、ガラス物品の表面に付着したり、表面を汚染したりして、イオン交換過程に干渉するであろう。
【0069】
実施の形態において、ケイ酸凝集体は、レーザ回折粒径分析で測定して、50μmから400μmの平均粒径を有することがある。例えば、ケイ酸凝集体は、レーザ回折粒径分析で測定して、50μmから350μm、50μmから300μm、50μmから250μm、50μmから200μm、200μmから400μm、200μmから350μm、200μmから300μm、200μmから250μm、250μmから400μm、250μmから350μm、250μmから300μm、300μmから400μm、300μmから350μm、または350μmから400μmの平均粒径を有することがある。そのような実施の形態において、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、レーザ回折粒径分析で測定して、400μm未満の平均粒径を有することがある。例えば、ケイ酸凝集体の少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%が、レーザ回折粒径分析で測定して、400μm未満の平均粒径を有することがある。さらに、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、レーザ回折粒径分析で測定して、375μm未満、350μm未満、325μm未満、300μm未満、275μm未満、250μm未満、225μm未満、200μm未満、または175μm未満の平均粒径を有することがある。それに加え、ケイ酸凝集体の少なくとも50%は、レーザ回折粒径分析で測定して、50μm超の平均粒径を有することがある。例えば、ケイ酸凝集体の少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%が、レーザ回折粒径分析で測定して、50μm超の平均粒径を有することがある。さらに、ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、レーザ回折粒径分析で測定して、175μm超、200μm超、225μm超、250μm超、275μm超、300μm超、325μm超、350μm超、または375μm超の平均粒径を有することがある。どの特定の理論にも束縛されないが、それより小さい平均粒径(すなわち、50μm未満)を有するケイ酸凝集体は、ガラス物品の表面に容易に付着し、ガラス物品を商業用途に適さなくする結果をもたらすことがあると考えられる。
【0070】
しかしながら、先に述べたように、それより大きい平均粒径(すなわち、200μm超)を有するケイ酸凝集体は、溶融塩浴内のケイ酸凝集体の有効性を確実にするいくつかの手段がなければ、溶融塩浴を効果的に中和し損なうであろう。したがって、実施の形態において、ケイ酸凝集体は、レーザ回折粒径分析で測定して、50μmから200μmの平均粒径を有することがある。例えば、ケイ酸凝集体は、レーザ回折粒径分析で測定して、50μmから180μm、50μmから160μm、50μmから140μm、50μmから120μm、120μmから200μm、120μmから180μm、120μmから160μm、120μmから140μm、140μmから200μm、140μmから180μm、140μmから160μm、160μmから200μm、160μmから180μm、または180μmから200μmの平均粒径を有することがある。実施の形態において、ケイ酸凝集体の少なくとも50%は、レーザ回折粒径分析で測定して、200μm未満の平均粒径を有することがある。例えば、ケイ酸凝集体の少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%が、レーザ回折粒径分析で測定して、200μm未満の平均粒径を有することがある。さらに、ケイ酸凝集体の少なくとも50%は、レーザ回折粒径分析で測定して、190μm未満、180μm未満、170μm未満、160μm未満、150μm未満、140μm未満、130μm未満、120μm未満、または110μm未満の平均粒径を有することがある。実施の形態において、ケイ酸凝集体の少なくとも50%は、レーザ回折粒径分析で測定して、50μm超の平均粒径を有することがある。例えば、ケイ酸凝集体の少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%が、レーザ回折粒径分析で測定して、50μm超の平均粒径を有することがある。さらにケイ酸凝集体の少なくとも50%は、レーザ回折粒径分析で測定して、110μm超、120μm超、130μm超、140μm超、150μm超、160μm超、170μm超、180μm超、または190μm超の平均粒径を有することがある。どの特定の理論にも束縛されないが、より大きい平均粒径(すなわち、400μm超)を有するケイ酸凝集体は、塩浴槽の底にあまりに速く沈降し、その結果、アルカリ金属塩の分解生成物と効果的に相互作用し損なうことがあると考えられる。
【0071】
実施の形態において、ケイ酸凝集体の比表面積は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法で測定して、200m/g以上であることがある。例えば、ケイ酸凝集体の比表面積は、200m/gから600m/g、200m/gから550m/g、200m/gから500m/g、200m/gから450m/g、200m/gから400m/g、200m/gから350m/g、200m/gから300m/g、200m/gから250m/g、250m/gから600m/g、250m/gから550m/g、250m/gから500m/g、250m/gから450m/g、250m/gから400m/g、250m/gから350m/g、250m/gから300m/g、300m/gから600m/g、300m/gから550m/g、300m/gから500m/g、300m/gから450m/g、300m/gから400m/g、300m/gから350m/g、350m/gから600m/g、350m/gから550m/g、350m/gから500m/g、350m/gから450m/g、350m/gから400m/g、400m/gから600m/g、400m/gから550m/g、400m/gから500m/g、400m/gから450m/g、450m/gから600m/g、450m/gから550m/g、450m/gから500m/g、500m/gから600m/g、500m/gから550m/g、または550m/gから600m/gであることがある。どの特定の理論にも束縛されないが、ケイ酸凝集体の比表面積は、ここに記載されたように、ケイ酸凝集体と、アルカリ金属塩の分解生成物との間の反応の反応速度定数(k)と直接的に相関があるであろうと考えられる。すなわち、ケイ酸凝集体の比表面積が大きいほど、溶融塩浴内に存在する分解生成物と反応する可能性が大きくなる。これにより、より少ないケイ酸凝集体を使用しつつ、塩浴組成物の性質をより制御でき、ガラス物品の化学的耐久性を増加させられるであろう。
【0072】
先に述べたように、本開示の塩浴組成物は、ガラス物品のアルカリ金属陽イオンを塩浴組成物のアルカリ金属塩のアルカリ金属陽イオンと交換する、イオン交換過程を行うために使用することができる。したがって、本開示の塩浴組成物は、ガラス物品を強化するための塩浴システムまたは方法に使用することができる。
【0073】
実際には、本開示の塩浴組成物は、最初に、塩浴槽に装填されることがある。ここで図4を参照すると、塩浴システム200が概略示されている。実施の形態において、塩浴システム200は塩浴槽210を含むことがあり、この槽は、概して、少なくとも1つの側壁220により画成される内部容積を規定する。本開示の塩浴組成物は、概して、単一組成物として塩浴槽210に装填されることがある、あるいは、塩浴組成物の各成分(例えば、アルカリ金属塩およびケイ酸凝集体)が、個別に、塩浴槽210に装填されることがある。すなわち、塩浴組成物の各成分は、個々の層で塩浴槽210に装填されることがある。例えば、図4に示されるように、塩浴組成物は、第1の固体層270、第2の固体層280、および第3の固体層290として、塩浴槽210に装填されることがある。すなわち、第2の固体層280が第1の固体層270と第3の固体層290との間に位置付けられるように、第1の固体層270を塩浴槽210に加え、次いで、第2の固体層280を塩浴槽210に加え、次いで、第3の固体層290を塩浴槽210に加えることができる。塩浴組成物を塩浴槽210に装填する場合、いくつの層を使用してもよいことを理解すべきである。例えば、塩浴組成物が3種類の異なるアルカリ金属塩およびケイ酸凝集体を含む実施の形態において、塩浴槽210に充填する場合、少なくとも4つの層(すなわち、各成分に1つ)が使用されることがある。
【0074】
まだ図4を参照すると、実施の形態において、第1の固体層270は、塩浴組成物の1種類以上のアルカリ金属塩を含むことがある。例えば、第1の固体層270は、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含むことがある。実施の形態において、第1の固体層270は、第1の固体層270の総質量に基づいて、塩浴組成物の1種類以上のアルカリ金属塩を90質量%以上含むことがある。例えば、第1の固体層270は、第1の固体層270の総質量に基づいて、塩浴組成物の1種類以上のアルカリ金属塩を、93質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、または99.9質量%以上含むことがある。
【0075】
実施の形態において、第2の固体層280は、塩浴組成物のケイ酸凝集体240を含むことがある。したがって、第2の固体層280は、第2の固体層280の総質量に基づいて、塩浴組成物のケイ酸凝集体240を90質量%以上含むことがある。例えば、第2の固体層280は、第2の固体層280の総質量に基づいて、塩浴組成物のケイ酸凝集体を、93質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、または99.9質量%以上含むことがある。実施の形態において、第2の固体層280は、塩浴組成物のケイ酸凝集体240の全てまたはかなりの割合を含むことがある。すなわち、第2の固体層280は、塩浴組成物のケイ酸凝集体240を90%以上含むことがある。例えば、第2の固体層280は、塩浴組成物のケイ酸凝集体240を、93質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、または99.9質量%以上含むことがある。したがって、第2の固体層280の質量パーセントは、塩浴組成物の0.1質量%から10質量%であることがある。例えば、第2の固体層280の質量パーセントは、塩浴組成物の0.1質量%から7質量%、0.1質量%から5質量%、0.1質量%から3質量%、0.1質量%から1質量%、0.1質量%から0.5質量%、0.5質量%から10質量%、0.5質量%から7質量%、0.5質量%から5質量%、0.5質量%から3質量%、0.5質量%から1質量%、1質量%から10質量%、1質量%から7質量%、1質量%から5質量%、1質量%から3質量%、3質量%から10質量%、3質量%から7質量%、3質量%から5質量%、5質量%から10質量%、5質量%から7質量%、または7質量%から10質量%であることがある。
【0076】
実施の形態において、第3の固体層290は、塩浴組成物の1種類以上のアルカリ金属塩を含むことがある。例えば、第3の固体層290は、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含むことがある。実施の形態において、第3の固体層290は、第3の固体層290の総質量に基づいて、塩浴組成物の1種類以上のアルカリ金属塩を90質量%以上含むことがある。例えば、第3の固体層290は、第3の固体層290の総質量に基づいて、塩浴組成物の1種類以上のアルカリ金属塩を、93質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、または99.9質量%以上含むことがある。
【0077】
先に述べたように、実施の形態において、第1の固体層270および第3の固体層290の各々は、塩浴組成物の1種類以上のアルカリ金属塩を含むことがある。実施の形態において、第1の固体層270および第3の固体層290は、一緒になって、塩浴組成物の1種類以上のアルカリ金属塩の全てまたはかなりの割合を含むことがある。すなわち、第1の固体層270および第3の固体層290は、一緒になって、塩浴組成物の1種類以上のアルカリ金属塩を90%以上含むことがある。例えば、第1の固体層270および第3の固体層290は、一緒になって、塩浴組成物の1種類以上のアルカリ金属塩を、93%以上、95%以上、97%以上、99%以上、99.5%以上、または99.9%以上含むことがある。したがって、第1の固体層270と第3の固体層290の質量パーセントの合計は、塩浴組成物の90質量%から99.5質量%であることがある。例えば、第1の固体層270と第3の固体層290の質量パーセントの合計は、塩浴組成物の90質量%から99.5質量%、90質量%から99質量%、90質量%から97質量%、90質量%から95質量%、90質量%から93質量%、93質量%から99.9質量%、93質量%から99.5質量%、93質量%から99質量%、93質量%から97質量%、93質量%から95質量%、95質量%から99.9質量%、95質量%から99.5質量%、95質量%から99質量%、95質量%から97質量%、97質量%から99.9質量%、97質量%から99.5質量%、97質量%から99質量%、99質量%から99.9質量%、99質量%から99.5質量%、または99.5質量%から99.9質量%であることがある。
【0078】
実施の形態において、第3の固体層290の質量パーセントに対する第1の固体層270の質量パーセントの比は、1:4から4:1であることがある。例えば、第3の固体層290の質量パーセントに対する第1の固体層270の質量パーセントの比は、1:4から3.5:1、1:4から3:1、1:4から2.5:1、1:4から2:1、1:4から1.5:1、1:4から1:1、1:4から1:2、1:2から4:1、1:2から3.5:1、1:2から3:1、1:2から2.5:1、1:2から2:1、1:2から1.5:1、1:2から1:1、1:1から4:1、1:1から3.5:1、1:1から3:1、1:1から2.5:1、1:1から2:1、1:1から1.5:1、1.5:1から4:1、1.5:1から3.5:1、1.5:1から3:1、1.5:1から2.5:1、1.5:1から2:1、2:1から4:1、2:1から3.5:1、2:1から3:1、2:1から2.5:1、2.5:1から4:1、2.5:1から3.5:1、2.5:1から3:1、3:1から4:1、3:1から3.5:1、または3.5:1から4:1であることがある。
【0079】
どの特定の理論にも束縛されないが、溶融塩浴を形成するために塩浴組成物が加熱される前に、塩浴槽をそのような様式で(例えば、各々を層状構造で、アルカリ金属塩の一部を加え、その後、ケイ酸凝集体を加え、その後、残りのアルカリ金属塩を加える)装填することにより、溶融塩浴内にケイ酸凝集体がより効果的に含まれるであろうと考えられる。例えば、溶融塩浴が形成された後に塩浴槽にケイ酸凝集体を加える試みにより、様々な望ましくない影響が生じるであろう。具体的には、溶融塩浴にケイ酸凝集体を加えると、ケイ酸のかなりの割合が、ある期間に亘り浴の表面上に固体粉末の形態で残ることがある。これにより、この期間中にガラス粒子が溶融塩浴から取り出されると、ガラス粒子の汚染が増すであろう。
【0080】
塩浴組成物(例えば、第1の固体層270、第2の固体層280、および第3の固体層290)が塩浴槽210に一旦装填されたら、塩浴組成物は、溶融塩浴を作り出し、それによって、イオン交換過程を促進するのに十分な高温(イオン交換温度とも称される)に加熱してよい。実施の形態において、塩浴組成物は、350℃から500℃の温度に加熱されることがある。例えば、塩浴組成物は、350℃から475℃、350℃から450℃、350℃から425℃、350℃から400℃、350℃から375℃、375℃から500℃、375℃から475℃、375℃から450℃、375℃から425℃、375℃から400℃、400℃から500℃、400℃から475℃、400℃から450℃、400℃から425℃、425℃から500℃、425℃から475℃、425℃から450℃、450℃から500℃、450℃から475℃、または475℃から500℃の温度に加熱されることがある。しかしながら、溶融塩浴の温度が高すぎると、イオン交換過程を適切に制御することが難しくなることがあり、塩浴中のアルカリ金属塩の劣化速度が増してしまうであろう。
【0081】
先に述べたように、ケイ酸凝集体は、溶融塩浴内に懸濁され、様々な速度で、その底に沈むことがある。ここで図5Aを参照すると、塩浴組成物がイオン交換温度に加熱され、溶融塩浴230が形成された後の塩浴システム200が概略示されている。図5Aに示されるように、ケイ酸凝集体240は、溶融塩浴230の全体に亘り分散されることがあり、ケイ酸凝集体の一部は懸濁されており、一部は、溶融塩浴230の底にある。先に述べたように、より大きい平均粒径(すなわち、400μm超)を有するケイ酸凝集体は、塩浴槽の底にあまりに速く沈降し、その結果、アルカリ金属塩の分解生成物と効果的に相互作用し損なうことがある。したがって、実施の形態において、塩浴システム200は、溶融塩浴230内のケイ酸凝集体の有効性を増加させるための手段を1つ以上含むことがある。
【0082】
例えば、ここで図5Bを参照すると、ケイ酸凝集体240の少なくとも一部は、塩浴槽210の側壁220に連結された、篩250などの1つ以上の篩内に収容されることがある。篩250は、ケイ酸凝集体を収容しつつ、溶融塩がメッシュを通過し、ケイ酸凝集体と相互作用できるようにする開放メッシュ構造を含むことがある。この篩は、ケイ酸凝集体を溶融塩浴230内の様々な位置で分散させ、ケイ酸凝集体の全体的な有効性を増し、溶融塩浴230内のより効果的な中和を可能にすることができる。これらの篩は、ケイ酸凝集体が溶融塩浴230の底にあまりに速く沈降するのも防ぎ、その結果、ケイ酸凝集体240と、溶融塩浴230中に形成される分解生成物との間の相互作用の可能性を増すことができる。
【0083】
実施の形態において、篩250は、溶融塩浴230を篩250に通過させつつ、ケイ酸凝集体240が篩250から出るのを防ぐのに十分なメッシュからなることがある。すなわち、そのメッシュは、篩250内に収容されているケイ酸凝集体の平均粒径より小さい平均開口サイズを有する。その結果、ケイ酸凝集体240は、溶融塩浴230を効果的に中和しつつ、ガラス物品の表面との接触およびその表面の汚染も防ぐことができるであろう。したがって、篩250などの、塩浴システム200の1つ以上の篩は、70以上のメッシュ数を有することがある。例えば、篩250などの、塩浴システム200の1つ以上の篩は、工業用織金網の米国標準規格(米国規格ASTM-E11)に基づく、70、80、100、120、140、170、200、230、270、325、400、450、500、または635のメッシュ数を有することがある。
【0084】
実施の形態において、篩250などの、塩浴システム200の1つ以上の篩は、溶融塩浴230を効果的に中和するのに十分な量のケイ酸凝集体を収容することがある。したがって、この1つ以上の篩内に収容されているケイ酸凝集体の割合は、塩浴組成物のケイ酸凝集体の総量の25%から80%を構成することがある。例えば、この1つ以上の篩内に収容されているケイ酸凝集体の割合は、塩浴組成物のケイ酸凝集体の総量の25%から75%、25%から65%、25%から55%、25%から45%、25%から35%、35%から80%、35%から75%、35%から65%、35%から55%、35%から45%、45%から80%、45%から75%、45%から65%、45%から55%、55%から80%、55%から75%、55%から65%、65%から80%、65%から75%、または75%から80%を構成することがある。
【0085】
それに加え、またはそれに代えて、塩浴システム200は、塩浴槽210内の溶融塩浴230を循環させるように作動する、撹拌具またはガス注入システムなどの撹拌機を備えることがある。ここで図5Cを参照すると、塩浴システム200は、撹拌具260を備えることがある。撹拌具260は、溶融塩浴230を撹拌し、これにより、ケイ酸凝集体240を溶融塩浴230の底から上昇させる、または分解生成物を含む、溶融塩浴230の一部をケイ酸凝集体240と接触させることがある。その結果、そのような撹拌により、ケイ酸凝集体が、ケイ酸凝集体を塩浴槽の底にあまりに速く沈降させることとなるより大きい平均粒径(すなわち、400μm超)を有する実施の形態においてさえ、溶融塩浴230の効果的な中和をもたらすことがある。
【0086】
実施の形態において、塩浴組成物内にケイ酸凝集体を含ませるよりもむしろ、溶融塩浴を、ケイ酸凝集体を含む中和区域に循環させることがある。例えば、溶融塩浴は、溶融塩浴を中和するために、ケイ酸凝集体の充填床にポンプで送り込まれるか、または通過させられることがある。もっと簡単に言えば、ケイ酸凝集体は、塩浴槽内の分解生成物と能動的に反応するのではなく、使用の間に溶融塩浴から分解生成物を除去するための濾過材として使用されることがある。ここで図6を参照すると、ケイ酸凝集体の中和区域または充填床の一例が示されている。図6に示されるように、中和区域310は、第1の篩312および第2の篩314により両端で拘束された複数のケイ酸凝集体240を含むことがある。分解生成物を含む溶融塩浴(例えば、1つ以上のガラス物品を強化するために使用された溶融塩浴)を中和区域310に通過させることができ、その結果、分解生成物は、ケイ酸凝集体240と接触し、反応することになる。例えば、図6に矢印で示されるように、溶融塩浴は、第1の篩312を通過することによって中和区域310に入り、ケイ酸凝集体240と接触し、第2の篩314を通過することによって中和区域310から出ることがある。これにより、溶融塩浴を効果的に中和することができる。
【0087】
先に述べたように、中和区域310は、ケイ酸凝集体の充填床を含むことがあり、実施の形態において、第1の篩312および第2の篩314などの1つ以上の篩により取り囲まれることがある。実施の形態において、その1つ以上の篩は、溶融塩浴を篩に通過させつつ、ケイ酸凝集体240が中和区域310から出るのを防ぐのに十分なメッシュからなることがある。すなわち、そのメッシュは、中和区域310内に収容されたケイ酸凝集体の平均粒径よりも小さい平均開口サイズを有することがある。したがって、1つ以上の篩は、70以上のメッシュ数を有することがある。例えば、1つ以上の篩は、工業用織金網の米国標準規格(米国規格ASTM-E11)に基づく、70、80、100、120、140、170、200、230、270、325、400、450、500、または635のメッシュ数を有することがある。
【0088】
実施の形態において、溶融塩浴は、この溶融塩浴を効果的に中和するのに十分な速度で中和区域310に循環されることがある。したがって、溶融塩浴は、0.05体積/時から10体積/時の速度で中和区域310に循環されることがある。もっと簡単に言えば、溶融塩浴の総体積の5%から1000%が毎時に中和区域310に循環されることがある。実施の形態において、溶融塩浴は、0.05体積/時から8体積/時、0.05体積/時から6体積/時、0.05体積/時から4体積/時、0.05体積/時から2体積/時、2体積/時から10体積/時、2体積/時から8体積/時、2体積/時から6体積/時、2体積/時から4体積/時、4体積/時から10体積/時、4体積/時から8体積/時、4体積/時から6体積/時、6体積/時から10体積/時、6体積/時から8体積/時、または8体積/時から10体積/時の速度で中和区域310に循環されることがある。
【0089】
先に述べたように、塩浴組成物がイオン交換温度に加熱されて、溶融塩浴を形成した後、かつ任意の随意的な循環または撹拌が行われる前または後、ガラス物品は、溶融塩浴とガラス物品との間でイオン交換を行うために、溶融塩浴内に浸漬されることがある。ガラス物品は、ガラス物品の表面に圧縮深さまで延在する表面圧縮応力を生じるのに十分な処理時間に亘り溶融塩浴と接触させられることがある。実施の形態において、ガラス物品は、約20分から約20時間の処理時間に亘り溶融塩浴と接触させられることがある。例えば、ガラス物品は、約20分から約15時間、約20分から約10時間、約20分から約5時間、約20分から約1時間、約1時間から約20時間、約1時間から約15時間、約1時間から約10時間、約1時間から約5時間、約5時間から約20時間、約5時間から約15時間、約5時間から約10時間、約10時間から約20時間、約10時間から約15時間、または約15時間から約20時間の処理時間に亘り溶融塩浴と接触させられることがある。
【0090】
実施の形態において、ガラス物品は、イオン交換過程後に溶融塩浴との接触から取り除かれる。イオン交換を経た、結果として得られたガラス物品は、その表面に圧縮深さまで延在する圧縮応力を有することができる。この圧縮応力および圧縮深さは、機械的傷害後の破壊に対するガラス物品の抵抗を増加させ、その結果、ガラス物品は、イオン交換過程後に強化されたガラス物品となることができる。しかしながら、上述したような、ケイ酸凝集体の中和効果のために、強化されたガラス物品は、イオン交換後にSHR滴定剤が示すように、化学的耐久性を維持するか、または改善された化学的耐久性を示しさえすることができる。それゆえ、実施の形態において、強化されたガラス物品のSHR滴定剤体積は、1.5mL未満、1.4mL以下、1.3mL以下、1.2mL以下、1.1mL以下、1mL以下、0.9mL以下、0.8mL以下、0.7mL以下、0.6mL以下、0.5mL以下、0.4mL以下、0.3mL以下、0.2mL以下、またさらには0.1mL以下であることがある。
【0091】
実施の形態において、強化されたガラス物品は、取出し後に濯がれる、または洗浄されることがある。具体的には、イオン交換過程により、上述したように、ガラス物品の表面上にアルカリ金属陽イオンが堆積されることがある。イオン交換過程により、同様に、ガラス物品の表面上に金属酸化物ナノ粒子も堆積されることがある。強化されたガラス物品を洗浄すると、そのアルカリ陽イオンおよび/または金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一部が除去されるであろう。これにより、医薬品包装などの所望の用途に、ガラス物品の準備ができるであろう。
【0092】
ここに記載されたイオン交換過程および塩浴組成物に曝されたガラス物品は、様々な形態を有してよい。例えば、ガラス物品は、ガラス板、シート、管、容器などであってよい。実施の形態において、ガラス物品は、液体、粉末などの医薬品組成物を収容するためのガラス製医薬品包装またはガラス製医薬品容器であることがある。例えば、ここに記載されたガラス容器は、Vacutainer(登録商標)、カートリッジ、注射器、アンプル、ボトル、広口瓶、フラスコ、バイアル(phial)、管、ビーカー、バイアル(vial)などであってよい。
【0093】
請求項の主題の精神および範囲から逸脱せずに、ここに記載された実施の形態に、様々な改変および変更を行えることが、当業者に明白であろう。それゆえ、本明細書は、ここに記載された様々な実施の形態の改変および変更を、そのような改変および変更が付随の特許請求の範囲およびその等価物の範囲に入るという前提で、包含することが意図されている。
【0094】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0095】
実施形態1
ガラス物品を強化するための塩浴組成物であって、
前記塩浴組成物の総質量に基づいて90質量%から99.9質量%の1種類以上のアルカリ金属塩、および
前記塩浴組成物の総質量に基づいて0.1質量%から10質量%のケイ酸凝集体、
を含み、
前記ケイ酸凝集体は、50μmから200μmの平均サイズを有する、塩浴組成物。
【0096】
実施形態2
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、200μm以下の平均サイズを有する、実施形態1に記載の塩浴組成物。
【0097】
実施形態3
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、50μm以上の平均粒径を有する、実施形態1に記載の塩浴組成物。
【0098】
実施形態4
前記ケイ酸凝集体の比表面積が、200m/g以上である、実施形態1に記載の塩浴組成物。
【0099】
実施形態5
前記1種類以上のアルカリ金属塩が、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含む、実施形態1に記載の塩浴組成物。
【0100】
実施形態6
ガラス物品を強化するための塩浴システムにおいて、
少なくとも1つの側壁により取り囲まれた内部容積を画成する塩浴槽と;
前記内部容積内にある塩浴組成物であって、
該塩浴組成物の総質量に基づいて90質量%から99.5質量%の1種類以上のアルカリまたはアルカリ土類金属塩、および
該塩浴組成物の総質量に基づいて0.1質量%から10質量%のケイ酸凝集体、
を含み、該ケイ酸凝集体は、50μmから400μmの平均サイズを有する、塩浴組成物と、
を備える塩浴システム。
【0101】
実施形態7
前記システムが、前記側壁に連結された1つ以上の篩をさらに含み、前記ケイ酸凝集体の少なくとも一部が該1つ以上の篩内に収容されている、実施形態6に記載の塩浴システム。
【0102】
実施形態8
前記1つ以上の篩が、70以上のメッシュ数を有する、実施形態7に記載の塩浴システム。
【0103】
実施形態9
前記ケイ酸凝集体の前記一部が、該ケイ酸凝集体の総量の25%から80%を構成する、実施形態7に記載の塩浴システム。
【0104】
実施形態10
前記システムが撹拌機をさらに含む、実施形態6に記載の塩浴システム。
【0105】
実施形態11
前記撹拌機が撹拌具を含む、実施形態10に記載の塩浴システム。
【0106】
実施形態12
前記撹拌機がガス注入システムを含む、実施形態10に記載の塩浴システム。
【0107】
実施形態13
前記ケイ酸凝集体が、50μmから200μmの平均サイズを有する、実施形態6に記載の塩浴システム。
【0108】
実施形態14
前記ケイ酸凝集体が、200μmから400μmの平均サイズを有する、実施形態6に記載の塩浴システム。
【0109】
実施形態15
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、400μm以下の平均サイズを有する、実施形態6に記載の塩浴システム。
【0110】
実施形態16
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、50μm以上の平均サイズを有する、実施形態6に記載の塩浴システム。
【0111】
実施形態17
前記ケイ酸凝集体の平均表面積が、200m/g以上である、実施形態6に記載の塩浴システム。
【0112】
実施形態18
前記1種類以上のアルカリ金属塩が、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含む、実施形態6に記載の塩浴システム。
【0113】
実施形態19
ガラス物品を強化する方法であって、
塩浴組成物をイオン交換温度に加熱して、1種類以上のアルカリまたはアルカリ土類金属塩を含む溶融塩浴組成物を形成する工程、
前記溶融塩浴組成物を、50μmから400μmの平均サイズを有するケイ酸凝集体を含む中和区域に循環させる工程、および
前記溶融塩浴組成物とガラス物品との間でイオン交換が行われるように、該ガラス物品を該溶融塩浴組成物中に浸漬する工程、
を有してなる方法。
【0114】
実施形態20
前記中和区域が、ケイ酸凝集体の充填床を含む、実施形態19に記載の方法。
【0115】
実施形態21
前記充填床が、70以上のメッシュ数を有する篩で取り囲まれている、実施形態20に記載の方法。
【0116】
実施形態22
前記塩浴組成物が、0.05体積/時から10体積/時の速度で前記中和区域に循環される、実施形態19に記載の方法。
【0117】
実施形態23
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、400μm以下の平均サイズを有する、実施形態19に記載の方法。
【0118】
実施形態24
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、50μm以上の平均サイズを有する、実施形態19に記載の方法。
【0119】
実施形態25
前記ケイ酸凝集体の平均表面積が、200m/g以上である、実施形態19に記載の方法。
【0120】
実施形態26
前記1種類以上のアルカリ金属塩が、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含む、実施形態19に記載の方法。
【0121】
実施形態27
前記塩浴組成物が、該塩浴組成物の総質量に基づいて前記1種類以上のアルカリまたはアルカリ土類金属塩を90質量%から99.5質量%で含む、実施形態19に記載の方法。
【0122】
実施形態28
前記中和区域が、前記塩浴組成物の総質量に基づいて、0.1質量%から10質量%を構成する、実施形態19に記載の方法。
【0123】
実施形態29
ガラス物品を強化するための塩浴組成物を装填する方法であって、
1種類以上のアルカリ金属塩を含む第1の固体層を塩浴槽に加える工程、
前記塩浴槽にケイ酸凝集体を含む第2の固体層を加える工程、および
1種類以上のアルカリ金属塩を含む第3の固体層を、前記ケイ酸凝集体を含む第2の固体層が前記第1の固体層と該第3の固体層との間に位置付けられるように、前記塩浴槽に加える工程、
を有してなり、
前記第1の固体層の質量パーセントと前記第3の固体層の質量パーセントの合計が、前記塩浴組成物の90質量%から99.5質量%であり、
前記第3の固体層の質量パーセントに対する前記第1の固体層の質量パーセントの比が、1:4から4:1である、方法。
【0124】
実施形態30
前記第2の固体層の質量パーセントが、前記塩浴組成物の総質量に基づいて0.5質量%から10質量%である、実施形態29に記載の方法。
【0125】
実施形態31
前記方法が、前記第1の固体層、前記第2の固体層、および前記第3の固体層を加熱して、溶融塩浴を形成する工程をさらに含む、実施形態29に記載の方法。
【0126】
実施形態32
前記第1の固体層、前記第2の固体層、および前記第3の固体層が、350℃から500℃の温度に加熱される、実施形態31に記載の方法。
【0127】
実施形態33
前記ケイ酸凝集体が、50μmから400μmの平均サイズを有する、実施形態29に記載の方法。
【0128】
実施形態34
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、400μm以下の平均サイズを有する、実施形態29に記載の方法。
【0129】
実施形態35
前記ケイ酸凝集体の少なくとも50%が、50μm以上の平均サイズを有する、実施形態29に記載の方法。
【0130】
実施形態36
前記ケイ酸凝集体の平均表面積が、200m/g以上である、実施形態29に記載の方法。
【0131】
実施形態37
前記1種類以上のアルカリ金属塩が、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、またはこれらの組合せを含む、実施形態29に記載の方法。
【0132】
実施形態38
ガラス物品を強化する方法において、
1種類以上のアルカリまたはアルカリ土類金属塩を含む塩浴組成物をイオン交換温度に加熱して、溶融塩浴組成物を形成する工程、
前記溶融塩浴組成物とガラス物品との間にイオン交換が生じるように、該溶融塩浴組成物中に該ガラス物品を浸漬する工程、
前記溶融塩浴組成物を、50μmから400μmの平均サイズを有するケイ酸凝集体と接触させる工程、および
前記溶融塩浴組成物と第2のガラス物品との間にイオン交換が生じるように、該溶融塩浴組成物中に該第2のガラス物品を浸漬する工程、
を有してなる方法。
【0133】
実施形態39
前記溶融塩浴組成物を、50μmから400μmの平均サイズを有するケイ酸凝集体と二度目に接触させる工程、および
前記溶融塩浴組成物と第3のガラス物品との間にイオン交換が生じるように、該溶融塩浴組成物中に該第3のガラス物品を浸漬する工程、
をさらに含む、実施形態38に記載の方法。
【0134】
実施形態40
前記溶融塩浴組成物をケイ酸凝集体と接触させる前に、前記ガラス物品が前記溶融塩浴組成物から取り出される、実施形態38に記載の方法。
【符号の説明】
【0135】
100 塩浴
101 溶融塩
105 ガラス物品
120 相対的に大きい陽イオン、大きい方の陽イオン
130 相対的に小さい陽イオン、小さい方の陽イオン
200 塩浴システム
210 塩浴槽
220 側壁
230 溶融塩浴
240 ケイ酸凝集体
250 篩
260 撹拌具
270 第1の固体層
280 第2の固体層
290 第3の固体層
310 中和区域
312 第1の篩
314 第2の篩
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
【国際調査報告】