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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20230419BHJP
【FI】
F16D13/52 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555804
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(85)【翻訳文提出日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 IB2021051993
(87)【国際公開番号】W WO2021186293
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】102020000005533
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515217546
【氏名又は名称】ピアッジオ エ チ.ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【弁理士】
【氏名又は名称】八木田 智
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルドーニ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】メンネーラ,フランチェスコ
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA38
3J056AA60
3J056AA62
3J056BB32
3J056CA07
3J056CC13
3J056CC33
3J056GA02
3J056GA13
(57)【要約】
クラッチ(1)は、駆動力入力部材(5)に接続されたハウジング(3)を有する。第一摩擦ディスク(7)が、それと共に回転するハウジング(3)に設けられている。第二摩擦ディスク(9)が、従動部材(11)に設けられている。圧力プレート(13)が、従動部材(11)に向けて弾性的に押圧され、第一及び第二摩擦ディスク(7,9)をお互いに対して押圧するようにされている。従動部材(11)及び圧縮プレート(13)と一体のカムプロファイル(31,33)が、第一及び第二摩擦ディスク(7,9)上に圧力プレート(13)によって及ぼされる圧力を低減させる必要がある場合に、従動部材及び圧力プレートを、相互に離れる方向に移動させる推力を生じさせる。角度ストロークリミッタは、従動部材(11)及び圧力プレート(13)間の相対回転を制限し、それによって、従動部材(11)から離れる方向の圧力プレート(13)の動きを制限する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからのトルクを車両の駆動輪に伝達するためのクラッチ(1)であって、
前記クラッチ(1)の回転軸線(A-A)を中心に、駆動力入力部材(5)と一体的に回転するように接続されたハウジング(3)と、
ハウジング(3)に取り付けられ、それと共に回転する第一摩擦ディスク(7)と、
その上に、第一摩擦ディスク(7)と同軸であり、それら間に介在する第二摩擦ディスク(9)が設けられ、駆動力出力部材(4)と一体的に回転するように接続可能な従動部材(11)と、
従動部材に取り付けられ、クラッチ(1)の回転軸線(A-A)と平行にそれに対して軸線方向に移動可能な圧力プレート(13)であって、従動部材(11)に向かって弾性的に押圧され、第一摩擦ディスク(7)及び第二摩擦ディスク(9)をお互いに対して押圧するようにし、従動部材(11)から離れる方向への移動によって第一摩擦ディスク(7)と第二摩擦ディスク(9)との間で圧力を減少させる圧力プレート(13)と、
前記従動部材(11)と一体であって、前記圧力プレート(13)と一体の第二カムプロファイル(33)と協働する第一カムプロファイル(31)と
を備え、
前記第一カムプロファイル(31)及び前記第二カムプロファイル(33)が、前記従動部材(11)から前記駆動力入力部材(5)に向かってトルクが伝達されると、前記従動部材(11)が前記クラッチ(1)の回転軸線(A-A)を中心に前記圧力プレート(13)と相対的に回転し、前記従動部材(11)と前記圧力プレート(13)の間の回転運動により、第一カムプロファイル(31)及び第二カムプロファイル(33)によって、圧力プレート(13)に軸線方向の推力を生じさせ、かつ、圧力プレート(13)の従動部材(11)から離れる方向への軸線方向移動を生じさせ、圧力プレート(13)が第一摩擦ディスク(7)及び第二摩擦ディスク(9)に与える圧力を減少させるように構成された
クラッチ(1)において、
前記従動部材(11)と前記圧力プレート(13)との間の相対回転を制限し、それによって前記圧力プレート(13)の前記従動部材(11)から離れる動きを制限する角度ストロークリミッタを備えている
ことを特徴とするクラッチ。
【請求項2】
前記角度ストロークリミッタが、前記従動部材(11)と前記圧力プレートとの間の最大相対回転を決定すし、
前記最大相対回転が、第二摩擦ディスク(9)と従動部材(11)との間の結合損失を防止するような、従動部材から離れる方向への圧力プレートの最大移動に対応する
ことを特徴とする請求項1に記載のクラッチ。
【請求項3】
前記角度ストロークリミッタが、圧力プレート(13)に形成された少なくとも一つのスロット(35)と、クラッチ(1)の回転軸線(A-A)にほぼ平行に延び、少なくとも一つのスロット(35)に係合する従動部材(11)の少なくとも一つの第一柱(19)とを備え、
少なくとも一つのスロット(35)が、好ましくはクラッチ(1)の回転軸線(A-A)周りのほぼ接線方向に延び、
少なくとも一つのスロット(35)の接線方向のサイズが、第一カム(31)及び第二カム(33)の推力下での従動部材(11)に対する圧力プレート(13)の軸線方向の最大ストロークを決定し、
第一柱(19)が第一スロット(35)の端部に突き当たることによって、従動部材(11)及び圧力プレート(13)間の相対回転が制限され
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のクラッチ。
【請求項4】
角度ストロークリミッタが、圧力プレート(13)に形成された少なくとも一つの第二スロット(35)と、クラッチ(1)の回転軸線(A-A)とほぼ平行に延び、少なくとも一つの第二スロット(35)に係合する従動部材(11)の少なくとも一つの第二柱(19)とを備え、
第二スロット(35)が、好ましくは、クラッチ(1)の回転軸線(A-A)周りのほぼ接線方向に延び、
少なくとも一つの第二スロット(35)の接線方向のサイズが、第一カム(31)及び第二カム(33)の推力下での従動部材(11)に対する圧力プレート(13)の軸線方向における最大ストロークを決定する
ことを特徴とする請求項3に記載のクラッチ。
【請求項5】
前記各スロット(35)の接線方向のサイズが、前記第一摩擦ディスク(7)及び前記第二摩擦ディスク(9)の少なくとも一方の厚さに応じたサイズである
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のクラッチ。
【請求項6】
各スロット(35)の接線方向のサイズが、前記第一摩擦ディスク(7)及び第二摩擦ディスク(9)のうちの一方であって、前記圧力プレート(13)に最も近いでディスクの厚みに応じたサイズである
ことを特徴とする請求項5に記載のクラッチ。
【請求項7】
各スロット(35)が、衝撃吸収機能を有する材料(35.1)、好ましくは、弾性柔軟材料で被覆された縁部を有する
ことを特徴とする請求項3~6の何れか一項に記載のクラッチ。
【請求項8】
圧力プレート(13)が、各柱(19)の周囲にシート(17)を有し、
前記シートが、圧力プレート(13)を従動部材(11)に向かって押圧する各弾性部材(15.1)を収容するための容積を形成し、
前記弾性部材(15.1)が、圧力プレート(13)と従動部材(11)の間で保持される
ことを特徴とする請求項2~6の何れか一項に記載のクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、例えばオートバイや他の鞍乗型車両のような二輪又は三輪を備えた車両におけるトルク伝達用クラッチに関するものである。より具体的には、本明細書に記載の実施形態は、クラッチによって操作される駆動輪の速度がエンジン回転数を超える傾向にある場合に、伝達されるトルクを自動的に減少させることができる部材を備えたクラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関によって作動される車両では、ギヤチェンジを可能にするために係合解除されるクラッチが、変速機に沿って配置されている。
【0003】
先行技術の幾つかのクラッチには、駆動輪又は車輪がエンジンによって設定された速度よりも速く回転する傾向がある場合に、自動的にクラッチを開くような、適切なカムの形をした機構を備えているものがある。例えば、高速走行中にドライバが高いギアから低いギアにシフトチェンジし、同時にアクセルを離すと、エンジンへの燃料の流れが悪くなってしまうことがある。この場合、エンジンはブレーキの役割を果たし(「エンジンブレーキ効果」と呼ばれる)、駆動輪や車輪を制動する傾向がある。
【0004】
過度のブレーキ効果が車両走行に悪影響を及ぼすのを防止するために、クラッチには、駆動輪又は車輪、ひいてはクラッチの従動部材の速度がクラッチの駆動力入力部材の回転速度を超える傾向がある場合に、クラッチを通じて伝達されるトルクを低減するように適合された装置が設けられ得る。この装置は、摩擦ディスクを互いに押し付ける圧力プレートからクラッチの従動部材を離す軸方向移動を発生させるために、互いに協働する一対のカムプロファイルを備え、摩擦によって駆動力入力部材から従動部材にトルクを伝達するように構成されている。前記カムプロファイルは、一方は従動部材と、他方はクラッチの圧力プレートと一体になっている。従動部材と圧力プレートが軸方向に離れることで、駆動輪からエンジンに向けて伝達されるトルクが減少し、エンジンブレーキ効果が減少する。
【0005】
請求項1の前文によるこのタイプのクラッチは、欧州特許EP2037142号に開示されている。このクラッチは、従動部材に対する圧力プレートの軸方向ストロークが軸方向停止部材によって制限されるという欠点を有する。
【発明の概要】
【0006】
一態様によれば、エンジンからのトルクを車両の駆動輪に伝達するためのクラッチであって、駆動力入力部材に接続され、クラッチの回転軸線を中心に、一体的に回転するハウジングを有するクラッチが提供される。第一摩擦ディスクは、ハウジングに回転可能に結合され、従動部材に回転可能に結合された第二摩擦ディスクが介在している。従動部材は、駆動力出力部材と一体的に回転するように接続可能である。圧力プレートは、従動部材に取り付けられ、クラッチの回転軸線と平行に軸方向に相対移動可能である。圧力プレートは、従動部材に向かって弾性的に応力を受け、第一ディスク及び第二ディスクを互いに向けて押圧する。前記クラッチは、さらに、前記従動部材と一体の第一カムプロファイルを備え、前記圧力プレートと一体の第二カムプロファイルと協働する。第一カムプロファイル及び第二カムプロファイルは、従動部材から駆動力入力部材に向かってトルクが伝達されると、従動部材がクラッチの軸線を中心に圧力プレートに対して回転し、従動部材と圧力プレートの間の回転運動により、第一カムプロファイル及び第二カムプロファイルによって、圧力プレートに対する軸方向の推力と圧力プレートの従動部材から離れる軸線方向の移動とを生じさせ、圧力プレートによって第一ディスク及び第二ディスクに及ぼされる圧力を低減するように構成されている。従動部材に対する圧力プレートの軸線方向の移動を制限するために、従動部材と圧力プレートとの間の相対回転を制限し、それによって圧力プレートの従動部材から離れる移動を制限する角度ストロークリミッタが設けられている。
【0007】
このようにして、圧力プレート及び従動部材の相互に離間する移動は、代わりに先行技術のクラッチにおいて通常必要である軸線方向停止部材を必要とせずに得られ、この場合、圧力プレートの軸線方向停止部材に対する衝撃によって発生する軸線方向の荷重は、クラッチのディスクを互いに押し付ける弾性部材によって与えられる軸線方向の荷重に付加される。
【0008】
実際には、角度ストロークリミッタは、従動部材と圧力プレートの間の最大相対回転を決め、この最大相対回転は、駆動ディスクと従動部材の間の結合損失を防止するように圧力プレートと従動部材の互いから離れる最大移動に対応することができる。
【0009】
一般に、角度ストロークリミッタは、様々な方法で構成することができ、一方が従動部材と一体であり、他方が圧力プレートと一体である少なくとも一対の相互停止要素を有し得る。これらの停止要素は、従動部材及び圧力プレートの構造に応じて、自由に組み合わせたり配置したりすることができる。
【0010】
特に有利な実施形態では、角度ストロークリミッタは、圧力プレートに形成された少なくとも一つのスロットと、クラッチの回転軸線とほぼ平行に延び、前記スロットに係合する従動部材の少なくとも一つの第一柱とを備えている。前記スロットは、クラッチの回転軸線を中心として接線方向に延びており、接線方向におけるその大きさは、第一カム及び第二カムの推力下での従動部材に対する圧力プレートの軸線方向における最大ストロークを規定する。従動部材と圧力プレートとの間の相対的な回転は、第一柱が第一スロットの両端部に突き当たることによって制限される。
【0011】
実際の実施形態では、複数のスロットと複数の柱を設けることができる。
【0012】
この配置は、公知の方法で、従動部材に対する圧力プレートの移動を案内するガイド柱を備え、その周囲に、典型的にはらせん圧縮ばねの形態で、圧力プレートを従動部材に向かって付勢し、摩擦ディスクを互いに押し付ける弾性部材が配置されているクラッチに、角度ストロークリミッタを設けることができる点で特に有利である。このように、限られた部品点数で、特にコンパクトな構成が得られる。
【0013】
クラッチの更なる有利な特徴及び実施形態は、本明細書の不可欠な部分を形成する添付の特許請求の範囲、及び例示的な実施形態の以下の説明において定義される。本発明は、本発明の実施形態の非限定的な例を示す説明及び添付図面に従うことにより、よりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】クラッチの回転軸線を含む平面に従ったクラッチの断面図である。
図2】クラッチの主要構成部品の分解図である。
図3】クラッチの主要構成部品の図2とは異なる角度から見た分解図である。
図4】クラッチの回転軸線に直交する図1の面IV-IVによる断面図である。
図5図4と異なる動作状態にある図4に対応する断面図である。
図6図5の断面図からバネを取り除いた図である。
図7図4のVII-VII線断面図である。
図8図5のVIII-VIII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
このクラッチは、一般的に公知の構成及び動作を有しており、本発明の理解を深めるために、主要部材を参照しながら簡単に説明する。クラッチは、全体を符号1で示し、駆動力入力部材5に回転可能に連結されたハウジング3を備え、ハウジング3がクラッチ1の回転軸線A-Aを中心に駆動力入力部材5と一体的に回転するように構成されている。駆動力入力部材5とハウジング3との間には、可撓性結合要素として作用する弾性連結部材6が配置され得る。
【0016】
図示の実施形態では、駆動力入力部材5はギアであり、不図示の駆動軸から直接又は間接的に動力を受け得る。
【0017】
第一摩擦ディスク7は、ハウジング3と同軸線にハウジング3に設けられ、ハウジング3の溝3.1に係合する径方向外方タブ7.1によってハウジング3に回転可能に結合される。第一摩擦ディスク7には、第一摩擦ディスク7と同軸の第二摩擦ディスク9が介在されている。従動部材11の溝付きプロファイル11.1及び第二ディスク9のそれぞれの内歯9.1によって、これらのディスクは、ハウジング3と同軸線上で、クラッチ1の従動部材11に回転可能に結合される。ディスク7及び9を互いに押し付けることにより、ディスク7及び9の相互接触面に摩擦力が発生し、それにより、駆動力入力部材5から駆動力出力部材4(図1にのみ図示)にトルクが伝達される。駆動力出力部材4は、不図示のギアボックスに機械的に接続され得、それにより、トルクが適切な変速比で車両の駆動輪又は車輪(図示せず)に伝達される。
【0018】
従動部材11の溝付きプロファイル11.2は、駆動力出力部材4を従動部材11に回転可能に結合している。
【0019】
従動部材11は、従動部材11と同軸線で、従動部材11に向けて及びそれから離れる方向に軸線方向に移動可能であり、即ち、クラッチ1の回転軸線A-Aと平行な方向に移動可能である圧力プレート13と機械的に結合される。軸線方向移動に加えて、圧力プレート13は、従動部材11に対して角度移動も行う。言い換えれば、従動部材11及び圧力プレート13は、後述する目的のために、クラッチの軸線A-Aを中心としてお互いに相対的に回転することができる。
【0020】
圧力プレート13は、弾性部材15によって従動部材11に向けて押圧される。図示の実施形態では、弾性部材15は、クラッチ1の軸線A-Aに平行に配置された三つの螺旋状圧縮ばね15.1を備えている。各圧縮ばね15.1は、圧力プレート13に形成されたそれぞれのシート17に収容される。各圧縮ばね15.1は、従動部材11の一部であるか、又はそれと一体である柱19を取り囲んでいる。各ばね15.1は、それぞれのシート17の底部17.1と、従動部材11に硬く接続されているか、又はその一部である停止部材21との間で部分的に圧縮された状態に維持される。より具体的には、図示の実施形態では、停止部材21は、実質的に環状形態であり、柱19と同軸線の複数の突起21.1を有する。ねじ23は、停止部材21を柱19に、ひいては従動部材11に堅固に接続するように、各突起21.1及びそれぞれの柱19の同軸線上に延在している。
【0021】
図示実施形態では、三つの柱19に拘束されて、かつ、三つの螺旋状圧縮ばね15.1を所定の位置に保持するための環状形状の単一の停止部材21を示しているが、それぞれが適切なねじ23によって各柱19に固定されている三つの別々の停止部材を使用することもできる。
【0022】
それ自体公知の方法で、ばね15.1は、第一ディスク7及び第二ディスク9の組立体に対して、及び従動部材11に対して、圧力プレート13のスラストを発生させる。ディスク7のディスク9に対する押圧により摩擦力が発生し、駆動力入力部材5から従動部材11にトルクを伝達することができる。
【0023】
クラッチを切る(係合解除する)ために、例えば駆動輪又は車輪への伝達比を変更するために、公知の方法で、圧力プレート13は、ばね15.1の圧縮によって従動部材11から離れるように移動され得る。この移動は、クラッチ1が搭載された車両のハンドルバーに設けられたレバーによって操作されるアクチュエータ、例えば手動で制御されるアクチュエータによって制御され得る。アクチュエータは、圧力プレート13に直接作用して、圧縮プレート13を軸線方向の動きで従動部材11から遠ざかるように移動させることができる。
【0024】
従動部材11は、少なくとも一つの第一カムプロファイル31を備え、この第一カムプロファイル31は、圧力プレート13と一体の少なくとも一つの第二カムプロファイル33と協働する。図示の実施形態では、実際には、従動部材11は、三つの第一カムプロファイル31を備え、圧力プレート13と一体の同数の第二カムプロファイル33と協働する。カムプロファイルは、圧力プレート13に対する従動部材11の軸線A-Aを中心とする相互回転により、従動部材11と圧力プレート13との間に、ばね15.1によって及ぼされる推力と反対方向に向けられた軸線方向の推力が生じるように構成されている。第一及び第二カムプロファイル31及び33が互いに協働することによって生じる推力によって、圧力プレート13が従動部材11から離れる軸線方向の移動が引き起こされる。より正確には、圧力プレート13は、ハウジング3に対して相対的に移動する従動部材11から、ばね15.1を圧縮するような方向に離れるように移動する。
【0025】
この軸線方向移動は、駆動力出力部材4によって従動部材11に加えられるトルクが、エンジンによって駆動力入力部材5に加えられるトルクを上回ったときに生じる。これは、例えば、ドライバが低いギアに入れ、アクセルを離すと、エンジンがブレーキとして作用する場合(エンジンブレーキ効果)である。このような状況では、クラッチ1がわずかにスリップして、それによって伝達されるトルクが減少し、ひいてはエンジンブレーキ効果が減少するようにできることが好ましい。これは、カムプロファイル31のカムプロファイル33に対する推力の結果として得られ、その結果、螺旋状圧縮ばね15.1が圧縮される。圧力プレート13と従動部材11とが互いに離れるように動くことにより、第二ディスク9が第一ディスク7に伝達する摩擦力が減少し、それらの間の相互摺動が可能となり、その結果、駆動力入力部材5に対する従動部材11の相対回転が実現される。
【0026】
圧力プレート13及び従動部材11が回転軸線A-Aの方向に互いに離れる動きが望ましくない効果をもたらすことを防ぐために、この動きを制限するための部材を設けることが望ましい。例えば、最も外側の摩擦ディスク9、即ちハウジング3の底部から最も遠い摩擦ディスク9が、軸線A-Aと同心の位置から離れることを防止するように、互いから離れる相対移動を制限することが望ましく、そうしないと、その後のクラッチの正しい完全な再係合が不可能となる。
【0027】
特徴的には、圧力プレート13及び従動部材11の互いに離れる動きを制限するために、角度ストロークリミッタが設けられ、即ち、従動部材11と圧力プレート13との間の相対回転のリミッタ、即ち、従動部材11と圧力プレート13との間の角度ストロークのリミッタが設けられる。この回転を制限し、従って、従動部材11と圧力プレート13との間に最大角度のずれを課すことにより、結果として、圧力プレート13が衝突する軸線方向の停止部材を必要とせずに、従動部材11に対する圧力プレート13の軸線方向の動きが制限される。
【0028】
図示の実施形態では、角度ストロークリミッタは、複数のスロット35を備え、各スロット35は、各シート17の底部17.1に設けられる。従動部材11のそれぞれの柱19は、各スロット35を貫通して延びている。
【0029】
各スロット35は接線方向に従って延び、即ち.、クラッチの回転軸線A-Aと同軸となる円周に従って細長く形成されている。従動部材11が回転軸線A-Aを中心に圧力プレート13に対して相対的に回転しようとすると、各柱19が、それが貫通して延びる各スロット35に沿って移動しようとする傾向がある。他に制約がない場合、(各スロット35が一体に設けられている)圧力プレート13と(柱19が一体に設けられている)従動部材11との間の最大相互回転は、スロット35の接線方向の長さによって決められる。各スロット35の接線方向のサイズ、即ち、各スロットの中心線を表す円の円弧がなす角度は、スロット35内の柱19の最大移動が、ばね15.1を最大圧縮状態にすることなく圧縮する圧力プレート13と従動部材11との間の相互軸線方向移動に相当するようにする角度である。いずれにしても、軸線方向の動きは、ディスク7とディスク9との間に滑りを生じさせるのに十分であるが、最後のディスクがその正しい位置から径方向に離れて変位するのを防ぐために十分に制限されたものである。
【0030】
図4及び図5並びに図7及び図8は、軸線A-Aに直角な断面、VII-VII線断面、及びVIII-VIII線断面を示しており、中立状態(図3及び7)及び相互に最大回転した位置(図5及び8、これらの図では、柱19がスロット35の各端部に接している)におけるスロット35及び柱19(ひいては圧力プレート13及び従動部材11)二つの相互位置関係を示している。
【0031】
スロット35の接線方向のサイズは、ディスク9、特に最後のディスク9の厚さ、柱19の直径、及びカムプロファイル31、33の傾きに応じたサイズである。実際には、従動部材11に対する圧力プレート13の軸線方向ストロークは、カムプロファイルの傾斜を介した圧力プレート13と従動部材11との相互の回転角度に連動している。回転軸線A-Aに直交する平面に対する傾きが大きいほど、同じ角度移動でも軸線方向の移動が大きくなる。
【0032】
衝撃及びそれに伴う振動を低減するために、符号35.1で示すように、スロット35の縁部を弾性のある柔軟な材料、又は、いずれにせよ衝撃吸収効果を有する材料で被覆することが有利である。
【0033】
図示実施形態では、三つのスロット35及び三つの柱19は同じであり、実際には、圧力プレート13に対する従動部材11の角度ストロークを制限するための三つの別個の停止部材を形成するようにされている。これは、より規則正しい動作に有利である。しかしながら、複数の柱19と相対するスロット35を有する場合であっても、スロット35のうちの一つだけ又は幾つかだけが、従動部材11と圧力プレート13との間の角度ストロークを制限するための接線停止部材として機能することも可能である。例えば、三つのスロット35のうちの一つだけをこの機能を果たすために設けることができ、他の二つは、スロット35の縁部と各柱19との間の相互接触がないように、より大きな接線方向の長さを有することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】