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特表2023-517731水素化処理ユニット及び水素化処理ユニットの腐食を防ぐ方法
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  • 特表-水素化処理ユニット及び水素化処理ユニットの腐食を防ぐ方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】水素化処理ユニット及び水素化処理ユニットの腐食を防ぐ方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 75/00 20060101AFI20230419BHJP
   C10G 45/00 20060101ALI20230419BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20230419BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20230419BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C10G75/00
C10G45/00
C09D1/00
C23C28/00 B
C23F11/00 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555824
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(85)【翻訳文提出日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 US2021022300
(87)【国際公開番号】W WO2021188406
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】16/820,312
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599130449
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オマー・レファ・コセオグル
(72)【発明者】
【氏名】アタ・カン・コセオグル
(72)【発明者】
【氏名】アナス・ファルカド・アルカニ
【テーマコード(参考)】
4H129
4J038
4K044
4K062
【Fターム(参考)】
4H129AA02
4H129CA01
4H129DA14
4H129HA02
4H129HB07
4H129LA12
4H129NA41
4J038HA021
4J038NA03
4J038PB04
4J038PC02
4K044AA02
4K044AA03
4K044AA06
4K044BA02
4K044BA06
4K044BA21
4K044BB01
4K044BB03
4K044BC02
4K044CA11
4K044CA53
4K062AA01
4K062BA02
4K062DA05
4K062DA10
4K062FA16
4K062GA10
(57)【要約】
水素化処理反応器を操作し水素化処理ユニットの腐食を防ぐ方法が提供される。水素化処理反応器は腐食性化合物にさらされる表面を含む。一態様において、グラフェン系コーティングが反応器の表面に塗布される。原油又はその留分及び水素を含む供給物を反応器に導入し、反応器の動作温度を36℃~600℃に上昇させる。反応器を10bar~250barの圧力で操作する。次いで供給物を反応器中で水素化処理し、コーティングは腐食を防ぐ反応器の表面上のバリアを画定する。別の態様では、コーティングの塗布後、コーティングが表面全体を覆っているかどうかを判断するためにコーティング済み表面を試験する。次いで、最初のコーティングにより覆われていないと判断された表面の1つ又は複数の領域に、追加のコーティングを塗布する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン系コーティングを反応器の表面に塗布する工程と、
原油又はその留分及び水素を含む供給物を反応器に導入する工程と、
反応器の動作温度を36℃~600℃の範囲の温度に上昇させる工程と、
反応器を10bar~250barの圧力範囲で操作する工程と、
反応器中の供給物を水素化処理する工程であって、グラフェン系コーティングが腐食を防ぐ反応器の表面上のバリアを画定する、工程と
を含む、腐食性化合物にさらされる表面を含む水素化処理反応器を操作する方法。
【請求項2】
グラフェン系コーティングが反応器の表面上で安定化及び官能化されるように、グラフェ系コーティングを化学的又は光化学的に修飾する工程
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
腐食が、水素脆化、高温水素侵食、焼戻し脆化、高温HS腐食、ポリチオン酸割れ、及び二硫化アンモニウム腐食のうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
グラフェン系コーティングが冶金法により反応器の表面に塗布される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
グラフェン系コーティングがグラフェンの層及びクラッディングの層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
グラフェンを含むコーティングを水素化処理ユニットの表面に塗布する工程と、
水素化処理ユニットの被覆済み表面を試験してコーティングが水素化処理ユニットの表面全体を覆っているかどうかを判断する工程と、
最初のコーティングにより覆われていないと判断された水素化処理ユニットの表面の1つ又は複数の領域に追加コーティングを塗布する工程と
を含む、水素化処理ユニットの腐食を防ぐ方法。
【請求項7】
コーティングを化学的又は光化学的に修飾する工程であって、それによりグラフェンが水素化処理ユニットの表面上で安定化及び官能化される、工程を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
腐食が、水素脆化、高温水素侵食、焼戻し脆化、高温HS腐食、ポリチオン酸割れ、及び二硫化アンモニウム腐食のうちの1つ又は複数を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
コーティングが冶金法により水素化処理ユニットの表面に塗布される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
コーティングがグラフェンの層及びクラッディングの層を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
コーティングが2つのクラッディングの層の間にグラフェンの層を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
水素化処理ユニットの表面が、水素化処理ユニットの反応器、圧縮機、ポンプ、ヘッド、ノズル、ジョイント、内部、分離器、ドラム、熱交換器、水冷却器、及び空気冷却器のうちの1つ又は複数の表面である、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
向上した寿命及び低下した腐食に対する感受性を有する、水素化処理ユニットであって、
1つ又は複数の表面を有する少なくとも1つの部材と、
1つ又は複数の表面に塗布されたグラフェン系コーティングであって、1つ又は複数の表面に直接塗布されたグラフェンの第1の層及びグラフェンの第1の層の上部に塗布されたクラッド材料の第2の層を含む、グラフェン系コーティングと、
を含み、
グラフェン系コーティングが1つ又は複数の表面上の腐食を防ぐ、水素化処理ユニット。
【請求項14】
少なくとも1つの部材が、反応器、圧縮機、ポンプ、ヘッド、ノズル、ジョイント、内部、分離器、ドラム、熱交換器、水冷却器、及び空気冷却器から成る群から選択される、請求項13に記載の水素化処理ユニット。
【請求項15】
少なくとも1つの部材が反応器を含み、反応器が10bar~250barの範囲の圧力で作動するように構成されている、請求項14に記載の水素化処理ユニット。
【請求項16】
少なくとも1つの部材が反応器を含み、反応器が36℃~600℃の範囲の温度で作動するように構成されている、請求項14に記載の水素化処理ユニット。
【請求項17】
1つ又は複数の表面が炭素鋼又はニッケル鋼又はCr-Mo合金鋼を含む金属表面である、請求項13に記載の水素化処理ユニット。
【請求項18】
グラフェン層が水素化処理ユニットの表面上で安定化及び官能化されるように、グラフェ層が化学的又は光化学的に修飾されている、請求項13に記載の水素化処理ユニット。
【請求項19】
腐食が、水素脆化、高温水素侵食、焼戻し脆化、高温HS腐食、ポリチオン酸割れ、及び二硫化アンモニウム腐食のうちの1つ又は複数を含む、請求項13に記載の水素化処理ユニット。
【請求項20】
グラフェン系コーティングが冶金法により水素化処理ユニットに塗布されている、請求項13に記載の水素化処理ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月16日に出願された、水素化処理ユニット及び水素化処理ユニットの腐食を防ぐ方法と題した米国特許出願第16/820,312号の利益及び優先権を主張し、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は一般に表面をコーティングする方法に関し、より詳細には、水素化処理ユニットの金属表面をグラフェン系コーティングによりコーティングし、それにより腐食を防ぎ長期のライフサイクルを有する改善された水素化処理ユニットを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
水素化処理及び水素化分解法の技術(一般に「水素化処理(hydroprocessing)」と呼ばれる)は様々な石油精製所で商業的に使用されている。水素化処理は、硫黄及び窒素等の望ましくない不純物を原油留分から水素により触媒の存在下で除去してクリーン輸送燃料を製造する又は他の精製プロセスのための原料を調製する工程を含む方法である。水素化処理はナフサから残油まで様々な供給物に適用される。
【0004】
水素化処理及び水素化分解法の技術は一般に高い水素分圧を必要とし、交換器、反応器、分離器等の高圧装置につながる。高圧装置で使用される金属はデザイン、使用される温度及び装置内の圧力によって決まる。従来、様々なステンレス鋼及び様々な金属比を有するクロム-モリブデン(Cr-Mo)鋼合金が水素化処理装置に使用されている。しかし、これらの金属及び金属合金はやはり腐食が起こりやすい場合があり、次いでこのことは安全な水素化処理操作を保証するために処理装置の交換を必要とする。装置の一部は場合により保護クラッディングを含むことがあるが、保護クラッディングは処理装置の寿命を限られた期間延ばすことができるだけである。
【0005】
これらの及び他の課題は本出願の方法及び装置により対処される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Golap Kalita, Masaki Tanemura、“Fundamentals of Chemical Vapor Deposited Graphene and Emerging Applications”、2017年5月
【非特許文献2】Koehler et al、“Selective Chemical Modification of Graphene surfaces: Distinction between Single and Bilayer Graphene”、Small. 2010年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様において、反応器が腐食性化合物にさらされる表面を含む、水素化処理反応器を操作する方法が提供される。この第1の態様において、グラフェン系コーティングを反応器の表面に塗布する。次いで原油又はその留分及び水素を含む供給物を反応器に導入する。反応器の動作温度を36℃~600℃の範囲の温度に上昇させ、反応器を10bar~250barの範囲の圧力で操作する。次いで反応器中の供給物は水素化処理され、グラフェン系コーティングは腐食を防ぐ反応器の表面上のバリアを画定する。
【0008】
別の態様において、グラフェン系コーティングが反応器の表面上で安定化及び官能化されるように、グラフェン系コーティングは化学的又は光化学的に修飾される。
【0009】
別の態様において、腐食は、水素脆化、高温水素侵食、焼戻し脆化、高温HS腐食、ポリチオン酸割れ、及び二硫化アンモニウム腐食のうちの1つ又は複数を含む。
【0010】
別の態様において、グラフェン系コーティングは冶金法により反応器の表面に塗布される。別の態様において、グラフェン系コーティングはグラフェンの層及びクラッディングの層を含む。
【0011】
第2の態様において、水素化処理ユニットの腐食を防ぐ方法が提供される。この第2の態様において、コーティングは水素化処理ユニットの表面に塗布され、コーティングはグラフェンを含む。次いでコーティングが水素化処理ユニットの表面全体を覆っているかどうかを判断するために水素化処理ユニットのコーティング済み表面を試験する。次いで、最初のコーティングにより覆われていないと判断された水素化処理ユニットの表面の1つ又は複数の領域に、追加コーティングを塗布する。さらなる態様において、コーティングは化学的又は光化学的に修飾され、それによりグラフェンが水素化処理ユニットの表面上で安定化及び官能化される。
【0012】
別の態様において、腐食は、水素脆化、高温水素侵食、焼戻し脆化、高温HS腐食、ポリチオン酸割れ、及び二硫化アンモニウム腐食のうちの1つ又は複数を含む。
【0013】
別の態様において、コーティングは冶金法により水素化処理ユニットの表面に塗布される。別の態様において、コーティングはグラフェンの層及びクラッディングの層を含む。別の態様において、コーティングは2つのクラッディングの層の間にグラフェンの層を含む。
【0014】
別の態様において、水素化処理ユニットの表面は、水素化処理ユニットの反応器、圧縮機、ポンプ、ヘッド、ノズル、ジョイント、内部、分離器、ドラム、熱交換器、水冷却器、及び空気冷却器のうちの1つ又は複数の表面である。
【0015】
第3の態様において、向上した寿命及び低下した腐食に対する感受性を有する水素化処理ユニットが提供される。水素化処理ユニットは、1つ又は複数の表面を有する少なくとも1つの部材を含む。水素化処理ユニットはまた、1つ又は複数の表面に塗布されたグラフェン系コーティングも含む。グラフェン系コーティングは、1つ又は複数の表面に直接塗布されたグラフェンの第1の層及びグラフェンの第1の層の上部に塗布されたクラッド材料の第2の層を含む。グラフェン系コーティングは、1つ又は複数の表面上の腐食を防ぐ。
【0016】
水素化処理ユニットの別の態様において、少なくとも1つの部材は、反応器、圧縮機、ポンプ、ヘッド、ノズル、ジョイント、内部、分離器、ドラム、熱交換器、水冷却器、及び空気冷却器から成る群から選択される。さらなる態様において、少なくとも1つの部材は反応器を含み、反応器は10bar~250barの範囲の圧力で作動するように構成されている。
【0017】
水素化処理ユニットの別の態様において、少なくとも1つの部材は反応器を含み、反応器は36℃~600℃の範囲の温度で作動するように構成されている。
【0018】
水素化処理ユニットの別の態様において、1つ又は複数の表面は、炭素鋼又はニッケル鋼又はCr-Mo合金鋼を含む金属表面である。
【0019】
水素化処理ユニットの別の態様において、グラフェン層が水素化処理ユニットの表面上で安定化及び官能化されるように、グラフェン層は化学的又は光化学に修飾されている。
【0020】
水素化処理ユニットの別の態様において、腐食は、水素脆化、高温水素侵食、焼戻し脆化、高温HS腐食、ポリチオン酸割れ、及び二硫化アンモニウム腐食のうちの1つ又は複数を含む。
【0021】
水素化処理ユニットの別の態様において、グラフェン系コーティングは冶金法により水素化処理ユニットに塗布されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】1つ又は複数の実施形態による、水素分圧及び温度の関数としての水素化処理動作における様々な鋼の作動限界を例示する、ネルソン曲線(API941)の図である。
図2】1つ又は複数の実施形態による、水素化処理ユニットで使用するための様々な金属合金及びその相対的コストをまとめる表である。
図3】1つ又は複数の実施形態による、グラフェンのハニカム構造の画像である。
図4】1つ又は複数の実施形態による、例示的な水素化処理ユニットの基本的略図である。
図5A】1つ又は複数の実施形態による、水素化処理ユニットの表面上のグラフェン-クラッディング「ダブルコーティング」を例示する略図である。
図5B】1つ又は複数の実施形態による、水素化処理ユニットの表面上のグラフェン-クラッディング「ダブルコーティング」を例示する略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1つ又は複数の実施形態によれば、本出願は、改善された水素化処理ユニット及び腐食を防ぐために水素化処理ユニットの表面をコーティングする方法を開示する。より具体的には、1つ又は複数の実施形態において、本出願は、水素化処理装置の耐久性を改善し腐食を防ぐ方法を開示しており、この方法はグラフェン系コーティングを水素化処理装置の表面に塗布する工程を含む。グラフェン系コーティングは水素化処理装置の金属表面を腐食から保護するための向上した保護層を付与する。グラフェン系コーティングは水素化処理装置の寿命及びライフサイクルを高め、結果として水素化処理操作のより少ない中断、より少ない装置交換、及びひいては節約の向上につながる。グラフェン系コーティングは例えば、水素化処理装置の表面に直接又は装置の表面上にあるクラッディング若しくは肉盛りの上に塗布されてもよい。1つ又は複数の実施形態において、本出願はまた、グラフェン系コーティングが反応器の表面に塗布された水素化処理反応器を操作する方法も開示する。
【0024】
本発明の水素化処理ユニット及び方法のこれらの態様並びに他の態様は、この方法の1つ若しくは複数の例証される実施形態及び/又は段取りが示されている、添付の図を参照して下記に更に詳細に説明される。本出願の方法は決して例証される実施形態及び/又は段取りに限定されない。添付の図に示すような方法は本出願の方法の単に例次的なものであり、これは当業者が認識するように様々な形態で実施できることを理解するべきである。したがって、本明細書で開示されるいかなる構造上及び機能上の詳細も本出願の方法を限定するものとして解釈されるべきではなく、むしろ本出願の方法を実施するための1つ又は複数の方法を当業者に教示するための代表的な実施形態及び/又は段取りとして提供されていると理解されるべきである。
【0025】
精製用途において水素化処理装置で利用可能である数種類の材料(例えば、金属、合金)が存在し、水素化処理ユニットのための特定の材料の選択はユニットのデザインパラメーターに基づく。水素化処理装置で使用するための利用可能な材料としては、限定されないが、炭素鋼、炭素-モリブデン及びクロム-モリブデン合金鋼、マルテンサイト系及びフェライント系クロムステンレス鋼、オーステナイト系クロム-ニッケルステンレス鋼、並びにニッケル合金材料(例えば、ニッケル鋼)が挙げられる。
【0026】
炭素鋼は精製装置の大多数で使用され、使用されている主な炭素鋼は構造用鋼、非キルド鋼、及びキルド鋼である。構造用鋼は多くの場合、全般的な精製の構造及び装置の支持体に使用される。少数の無圧式のタンク及びドラムも構造用品質の鋼を使用して作ることができる。これらの鋼は最低限の品質管理及び試験により製造される。キルド鋼は溶融プロセス中に完全に脱酸された鋼である。これははるかにクリーンな鋼をもたらし、そのため一般にはより均一で信頼できる特性を有する。脱酸素は、製造中に溶解ガス(例えば、酸素)と結合し溶解ガスを除去するためのケイ素、マンガン、及びアルミニウム添加物を使用して実現できる。非キルド鋼は、リムド鋼とも呼ばれ、キルド鋼品質が不要である大部分の精製用途で使用される。
【0027】
炭素-モリブデン(C-Mo)及びクロム-モリブデン(Cr-Mo)合金鋼は、低温及び中温の両方でより高い強度特性及び改善された耐腐食性が必要とされる場合、水素化処理ユニットにおいて使用される。例えば、一部の水素化処理ユニットは、C-1/2 Mo、並びに1~9 W% Cr及び1/2 W% MoまでのCr-Mo合金を利用する。これらの合金は改善された耐硫黄腐食性及び耐水素性が必要とされる用途で使用される。C-1/2 Moから2 1/2 Cr-1 Mo合金は、水素化処理及び水素化分解ユニットにおいてだけでなく改善された強度及び高温水素に対する耐性が必要とされるプラットフォームにおいても適用される。水素化処理ユニットのヒーターチューブもCr-Mo合金から製作することができる。1つ又は複数の実施形態による、水素分圧及び温度の関数としての様々な鋼の作動限界を例証する、ネルソン曲線(API941)を図1に示す。これらの曲線は、熱力学的又は速度論的原理よりもむしろプラント試験に基づいている。図2は様々な金属合金及びそれらの相対的コストをまとめた表を示す。
【0028】
図1及び図2の金属合金のいくつかは水素化処理ユニット向けの主要な材料として従来から使用されているが、これらの金属合金はやはり腐食が起こりやすく、具体的には、高温水素侵食(水素脆化)、焼戻し脆化、高温HS腐食、ポリチオン酸割れ、及び二硫化アンモニウム腐食が起こりやすい。したがって、1つ又は複数の実施形態によれば、本出願は、グラフェン系コーティングを水素化処理ユニットの金属系の(例えば、金属、金属合金)表面に塗布することによりこれらのタイプの腐食を防ぐ方法を提供する。
【0029】
1つ又は複数の実施形態において、この方法はグラフェンコーティングを水素化処理ユニットの表面に塗布する工程から開始することができる。グラフェンは図3に示すような炭素原子の六角形環のハニカムシートの構造を有する。グラフェンは、1 TPa(150,000,000 psi)のヤング率(剛性)及び130 GPa(19,000,000 psi)の固有引張強度を有する、耐久性のある、更に弾性の材料である。そのようにして、グラフェンはこれまでに測定された最も強い材料と考えられる。グラフェンは、2,630 m/gの高い比表面積、高い電子移動度も有し、良好な電気伝導体である。本出願のグラフェン系コーティングに関して、グラフェンシートは一般に小さい原子を拡散させない。言い換えれば、グラフェンは一般に水素及びヘリウム等の小さい原子に対してさえも不透過性であり、そのためそれらは無欠陥単分子膜グラフェンシートを通過できない。そのようにして、本出願のグラフェン系コーティングは高温及び高圧に耐えることが可能であり水素を拡散させず、したがって水素脆化を含む腐食の防止に効果的である。
【0030】
1つ又は複数の実施形態において、グラフェン系コーティングは冶金法により水素化処理ユニットの1つ又は複数の表面に塗布することができる。例えば、1つ又は複数の実施形態によれば、グラフェンシートは、真空中又はアルゴンガス中で高温(例えば、1300℃)においてSiCを熱分解させることによって、又は拘束制御昇華成長法によって製造できる。
【0031】
少なくとも1つの実施形態において、グラフェン系コーティングは、前駆体材料に応じて大気圧化学気相蒸着法又は低圧化学気相蒸着法等の化学気相蒸着法により、水素化処理ユニットの1つ又は複数の表面に塗布することができる。特に、大気圧化学気相蒸着法は、ガス入口及び出口に接続する水平石英管を使用できる。或いは、低圧化学気相蒸着法を使用できる。グラフェンを化学気相蒸着する様々な方法は、非特許文献1に記載されている。
【0032】
1つ又は複数の実施形態において、グラフェン系コーティングは、水素化処理ユニットの1つ又は複数の溶接継手の表面に塗布することができる。1つ又は複数の実施形態において、グラフェン系コーティングが塗布される1つ又は複数の表面としては、水素化処理ユニットの1つ若しくは複数の部材又は態様の表面を挙げることができ、限定されないが、水素化処理ユニットの反応器、ヘッド、ノズル、ジョイント、内部、分離器、ドラム、熱交換器(熱交換器のシェルチューブを含む)、水冷却器、及び空気冷却器、並びに鋼又は金属でできている水素化処理ユニットの任意の他の装置の表面が挙げられる。
【0033】
図4は1つ又は複数の実施形態による例示的な水素化処理ユニット100の基本的略図を示す。図4において例示されるように、水素化処理ユニット100は、炉110に動作可能に接続された水素化分解反応器(水素化分解装置)105を含む、様々な部材を含んでいてもよい。水素化処理ユニット100は、1つ又は複数の熱交換器115、1つ又は複数のポンプ120、メイクアップ圧縮機125、及びリサイクル圧縮機130も含んでいてもよい。水素化処理ユニット100は、空気冷却器135、水冷却器140、及び1つ又は複数の分離容器145を更に含んでいてもよい。1つ又は複数の実施形態において、水素化処理ユニット100は、1つ又は複数のさらなる形体又は態様を含んでいてもよく、限定されないが、ヘッド、ノズル、ジョイント、内部、及びドラム(図示せず)が挙げられる。1つ又は複数の実施形態において、グラフェン系コーティングは、水素化処理ユニット100の上記の部材、形体、及び態様のいずれか、又は鋼若しくは金属でできている水素化処理ユニット100の任意の他の装置のうちの1つ又は複数の表面に塗布することができる。
【0034】
1つ又は複数の実施形態において、水素化処理ユニットの表面は金属表面であってもよい。上記で論じたように、水素化処理ユニットは図1及び図2に記載されるような数種類の材料(例えば、金属、合金)を含んでいてもよい。そのようにして、グラフェン系コーティングで覆われている水素化処理ユニットの表面は、図1及び図2の金属若しくは合金、又は当技術分野において理解されるような水素化処理ユニットでの使用に適している他の金属若しくは合金のうちの1つ又は複数を含んでいてもよい。例えば、少なくとも1つの実施形態において、水素化処理ユニットの金属表面はCr-Mo合金鋼を含んでいてもよい。
【0035】
1つ又は複数の実施形態において、グラフェンが水素化処理ユニットの表面上で安定化及び官能化されるように、グラフェン系コーティングは化学的又は光化学的に修飾されていてもよい。例えば、グラフェンは、有機部位をグラフェンの表面上に共有結合させる、湿式化学法を使用して修飾されてもよい。グラフェンの表面における化学修飾及び官能化は、非特許文献2に開示される技術を介するものを含む、多くの方法で行うことができる。
【0036】
少なくとも1つの実施形態において、グラフェン系コーティングは水素化処理反応器の表面に塗布されてもよい。水素化処理反応器は一般に、水素設備における高圧容器である。1つ又は複数の実施形態において、水素化処理反応器は10bar~250barの範囲の圧力で作動している。1つ又は複数の実施形態において、水素化処理反応器は36℃~600℃の範囲の温度で操作される。
【0037】
1つ又は複数の実施形態において、グラフェン系コーティングは水素化処理ユニットの表面のクラッディング(クラッド材料)又は肉盛り上に塗布されてもよい。一般に、クラッディング又は肉盛りとは、水素化処理ユニットの表面の金属系被覆を指す。クラッディング(クラッド材料)又は肉盛りは溶接法により金属表面に塗布され、ここで、特定の特性を有する1つ又は複数の金属を表面の母材金属に塗布して所望の特性に改善する又は水素化処理ユニットの部材の元の寸法を修復する。例えば、クラッディングはタイプ309、タイプ316、及びタイプ347のステンレス鋼の1つ又は複数を含んでいてもよい。そのようにして、1つ又は複数の実施形態において、グラフェン系コーティングはクラッディング又は肉盛りの上部に塗布される。
【0038】
1つ又は複数の実施形態において、グラフェン系コーティングは2つのクラッディングの層の間に塗布されていてもよい。言い換えれば、グラフェン系コーティングが2つのクラッディング層の間に置かれるように、第1のクラッディング層が水素化処理ユニットの表面を覆っていてもよく、グラフェン系コーティングが第1のクラッディング層に塗布されていてもよく、次いで第2のクラッディング層がグラフェン系コーティングに塗布されていてもよい。
【0039】
少なくとも1つの実施形態において、グラフェン系コーティングは水素化処理ユニットの表面とクラッディングとの間に塗布されてもよい。言い換えれば、グラフェン系コーティングは、水素化処理ユニットの表面上に直接塗布されてもよく、クラッディングはグラフェンコーティングの上部に塗布されてもよい。したがって、1つ又は複数の実施形態において、「ダブルコーティング」は、a)水素化処理ユニットの表面上に直接塗布されたクラッディング(クラッド材料)層と、b)クラッディング層の上部に塗布されたグラフェン層とを含む。逆に、少なくとも1つの実施形態において、ダブルコーティングは、a)水素化処理ユニットの表面上に直接塗布されたグラフェン層と、b)グラフェン層の上部に塗布されたクラッディング(クラッド材料)層とを含んでいてもよい。図5A図5Bは、1つ又は複数の実施形態による、水素化処理ユニットの表面上の例示的なグラフェン-クラッディング「ダブルコーティング」を例証する略図を示す。図5Aに示すように、1つ又は複数の実施形態において水素化処理ユニットの表面10は、その上に直接塗布されたクラッディング層20と、クラッディング層20の上部に塗布されたグラフェン層30とを有していてもよい。逆に、図5Bに示すように、1つ又は複数の実施形態において水素化処理ユニットの表面10は、その上に直接塗布されたグラフェン層30と、グラフェン層30の上部に塗布されたクラッディング層20とを有していてもよい。クラッディング及びグラフェンのダブルコーティングが存在する1つ又は複数の実施形態において、クラッディング及びグラフェンは別々の工程で塗布される。
【0040】
グラフェン系コーティング(又はグラフェン及びクラッディングを含むコーティング)が水素化処理ユニットの少なくとも1つの表面に塗布されると、コーティングが表面全体を覆っているかどうか、又は表面のコーティングにおいて1つ若しくは複数の隙間が検出されるかどうか判断するためにコーティング済み表面を試験することができる。1つ又は複数の実施形態において、例えばコーティングはカメラ又は他の録画デバイスにより視覚的に試験することができる。1つ又は複数の実施形態において、コーティングは、透過電子顕微鏡法(TEM)、エネルギー分散X線解析(EDX)、ラマン分光法、X線光電子分光法(XPS)、又は誘導結合プラズマ光学発光分光法(ICP-OES)等の1つ又は複数の他の試験技術を使用して試験することができる。
【0041】
次いで、試験工程により、コーティング済み表面にコーティングの1つ又は複数の隙間が存在すると判断される場合、グラフェンの最初のコーティングにより完全に覆われていないと判断された溶接継手の表面の1つ又は複数の領域で追加コーティングを水素化処理ユニットの表面に塗布する。少なくとも1つの実施形態において、追加コーティングが最初のコーティングにおけるすべての隙間を埋めたことを検証するために、追加コーティングの塗布後に試験工程を繰り返してもよい。1つ又は複数の表面のコーティングが完了したことが検証される(例えば、視覚的試験により)まで、コーティングの試験及び追加コーティングの塗布の両方の工程を繰り返してもよい。
【0042】
本明細書に記載されるように、水素化処理ユニットは、水素化処理反応器を含む水素化処理操作の1つ若しくは複数の態様又は部材を指すことがある。1つ又は複数の実施形態によれば、水素化処理で使用される2つの主な種類の反応器:1)クラッド材料及びSA240タイプ347/タイプ304ステンレス鋼を含むクラッド型反応器、並びに2)二重層であるSS 309L + SS347/308Lステンレス鋼又は単層のSS347ステンレス鋼を有する肉盛り材料を含む肉盛り型反応器が存在する。そのような反応器の典型的なクラッド又は肉盛りは厚さが3mmである。水素化処理反応器は、下記で更に論じられる腐食性材料及び腐食性流体にさらされている1つ又は複数の表面を有していてもよい。
【0043】
原料の重質度の増加と共に、また設備のタイプにも応じて、水素化処理ユニットのプロセスの過酷さが増す。例えば、ナフサ(36~180℃の範囲の沸点の炭化水素)の水素化処理は10barsもの低い圧力及び300℃の温度を必要とする。対照的に、真空残渣油(520℃を超える沸点の炭化水素)の水素化分解は、250barsもの高い圧力及び450℃の温度を必要とする。従来の水素化処理システムにおいて、高圧及び比較的高い温度は厚肉の反応器及び重厚な壁を有する容器を必要とする。例えば、特定の従来の水素化処理ユニットでは、水素化処理反応器の厚さは355mm(およそ14インチ)を超える。
【0044】
しかし、本発明の方法、及び本出願で開示される水素化処理ユニットの表面上にグラフェン系コーティングを含有することは、水素化処理ユニット(例えば、水素化処理反応器)の厚さを薄くすることを可能にするというさらなる利益を有する。具体的には、グラフェン系コーティングの強度及びグラフェン系コーティングが様々なタイプの腐食を防ぐ能力は、水素化処理ユニットの部材の壁の厚さを薄くすることを可能にする。例えば、従来の水素化処理反応器では反応器壁の厚さはおよそ10~14インチである。しかし、反応器壁の表面上にグラフェン系コーティングを含有することにより、反応器壁の厚さを著しく薄くすることが可能になり、これは製造中の実質的なコスト削減につながる。例えば、1つ又は複数の実施形態において、反応器壁の厚さの減少は10インチ以下である。特定の実施形態において、反応器壁の厚さの減少は7インチ以下である。少なくとも1つの実施形態において、反応器壁の厚さの減少は5インチ以下である。そのようにして、水素化処理ユニットのより薄い部材上にグラフェン系コーティングを含有することにより、水素化処理装置の全体の重量、特に、水素化処理ユニットの反応器、圧縮機、及び他の主な容器の重量が削減される。
【0045】
グラフェン系コーティング並びにグラフェン及びクラッディングの複合コーティング(例えば、「ダブルコーティング」)は、様々なタイプの水素系及び硫黄系の腐食に対して効果的な保護を実現する。水素化処理操作では、硫黄及び窒素等のヘテロ原子を除去することにより並びに/又は芳香族化合物の水素化により、水素が炭化水素分子に付加される。水素化脱硫及び水素化脱窒素(HDN)の結果として、硫化水素及びアンモニアが放出され、水素化処理反応器の廃液は硫化水素及びアンモニアが豊富である。水素化処理反応器の廃液が冷えると、アンモニア及び硫化水素が二硫化アンモニウムを形成する。したがって水を流れに加えてシステム内に二硫化アンモニウムが堆積するのを防ぐ。水素化分解反応器の廃液は、多量の水素、並びに多くの場合、材料の分解及び腐食を引き起こすことがある相当量の硫化水素及び二硫化アンモニウムを含有する。
【0046】
高圧及び高温での水素の存在は潜在的な腐食の環境を作り出す(例えば、水素剥離割れ)。水素化処理ユニット内の腐食性の高い硫化水素の存在により状況は悪化する。水素化処理反応器は高い水素及び硫化水素の圧力下で腐食する傾向がある。
【0047】
以下の腐食のタイプ:高温水素侵食(HTHA)又は水素脆化;焼戻し脆化;高温硫化水素(HS)腐食;ポリチオン酸割れ;及び二硫化アンモニウム腐食は水素化処理反応器において一般的である。HTHAは水素化処理ユニットの鋼マトリックス中に原子状水素が拡散し(「水素拡散」)、炭化鉄と反応し、メタンを形成する現象である。炭素の損失は鋼の機械的特性の劣化につながる。更に、形成されたメタンガスは圧力を生じ、内部のブリスタリング及び割れにつながる。クロムはHTHAに対する鉄合金の耐性を改善する合金化元素である。しかし、クロム系合金は焼戻し脆化等の他のタイプの腐食がやはり起こりやすい。
【0048】
焼戻し脆化は水素化処理反応器における2 1/4 Cr及び3 Cr鋼の使用に関連する重大な冶金上の問題である。焼戻し脆化は、2 1/4 Cr及び3 Cr鋼等の、影響を受けやすい合金が約343~538℃の範囲の温度内で維持される又はその範囲を通過して冷却される場合に生じる脆性と定義される。脆化の度合いは延性破壊から脆性破壊への移行温度の上昇により示される。2 1/4 Cr及び3 Cr材料の別の欠点は高温HS腐食に対するそれらの耐性が低いことである。例えば、426℃及び0.2モルパーセントのHSにおいて、2 1/4 Cr鋼の見積もられる腐食速度は2mm/年である。この速度では、3mmの典型的な腐食しろを有する反応器は1.5年しかもたないことになる。
【0049】
300シリーズステンレス鋼を含む、水素化処理ユニットにおける他の金属の選択肢は、高温HS腐食に対するより高い耐性を有する場合があるが、やはりポリチオン酸割れが起こりやすい。具体的には、300シリーズステンレス鋼は360℃~700℃の温度範囲にさらされると感受性が高まる。感受性が高まると、炭化クロムが粒界において析出し、粒界に隣接したクロムが消耗されたゾーンを生じさせる。次いでこれらのクロムの乏しい領域はポリチオン酸により優先的に侵食される。侵食は重度の粒界腐食の形態又は粒界割れの形態である場合がある。硫化鉄スケールが水分及び酸素にさらされるとポリチオン酸が形成される。ポリチオン酸の形成は一般に水素化処理ユニットの運転停止中に生じる。
【0050】
最後に、水素化処理ユニットの反応器廃液配管及び反応器廃液コンデンサーは特に腐食が起こりやすく、特に二硫化アンモニウム腐食が起こりやすい。プロセス流が水素化処理ユニット内で冷えると、アンモニア及びHSが反応して二硫化アンモニウム結晶を形成する。これらの結晶がチューブ表面上に堆積するのを防ぐために、空気冷却器の上流に水を注入することが必要である。水注入により形成されるこの二硫化アンモニウム溶液は炭素鋼に対して腐食性である。更に、二硫化アンモニウムの濃度及びその速度が高いほど、腐食速度が速くなる。
【0051】
本出願の1つ又は複数の実施形態において、水素化処理反応器を操作する方法が提供される。上記のように、水素化処理反応器は、水素脆化、高温水素侵食、焼戻し脆化、高温HS腐食、ポリチオン酸割れ、及び二硫化アンモニウム腐食等の、様々なタイプの腐食を引き起こす可能性がある腐食性の化合物にさらされる1つ又は複数の表面を含んでいてもよい。
【0052】
この方法では、まずグラフェン系コーティングを水素化処理反応器の表面に塗布する。次いで原油又はその留分の供給物をその後の水素化処理及び水素化転化のために水素化処理反応器へ導入してもよい。1つ又は複数の実施形態において、反応器の動作温度は36℃~600℃の範囲の温度まで上昇させることができる。1つ又は複数の実施形態において、反応器の動作圧力は10bar~250barの範囲であってもよい。次いで反応器中の原油又はその留分の供給物を水素化処理する。しかし、反応器内の腐食を防ぐように、グラフェン系コーティングは反応器の表面上のバリアを画定する。
【0053】
水素化処理反応器を操作する方法の少なくとも1つの実施形態において、グラフェン系コーティングが反応器の表面上で安定化及び官能化されるように、グラフェン系コーティングは化学的又は光化学的に修飾されている。1つ又は複数の実施形態において、グラフェン系コーティングは上記のように冶金法により反応器の表面に塗布されている。更に、1つ又は複数の実施形態において、グラフェン系コーティングはグラフェンの層及びクラッディングの層を含んでいてもよい(ダブルコーティング)。少なくとも1つの実施形態において、グラフェン系コーティングは2つのクラッディングの層の間にグラフェンの層を含んでいてもよい。
【0054】
本出願のグラフェン系コーティングは上記の様々なタイプの腐食に対抗し、そのため水素化処理ユニットの様々な部材の寿命又はライフサイクルを引き延ばす。更に、グラフェン系コーティングにより実現される改善された腐食防止性により、水素化処理ユニットの金属部材の厚さを大幅に薄くすることができ、それにより水素化処理ユニット部材の製造におけるコスト削減を実現する。本出願のグラフェン系コーティングの実施及び本出願の方法は、水素化処理及び水素化分解ユニットの動作の持続的な改善を実現し、そのようなユニットの製作に使用される材料の量を削減する。
【0055】
前述の説明の大部分が改善された水素化処理ユニット及び水素化処理ユニットの腐食を防ぐ方法に向けられているが、本明細書で開示される装置及び方法は、参照されるシナリオをはるかに超えたシナリオ、状況、及び背景で同様に配備する及び/又は実施することができる。任意のそのような実施及び/又は配備も本明細書に記載の方法及び装置の範囲内であることを更に理解するべきである。
【0056】
いくつかの図にわたって図面における同様の数字は同様の要素を表すこと、並びに図を参照して説明され示されるすべての部材及び/又は工程はすべての実施形態又は配置に必要なわけではないことを更に理解するべきである。更に、本明細書において使用される専門用語は特定の実施形態のみを説明する目的のためのものであり、本発明を限定するものであることを意図していない。文脈上別途明確に示されない限り、本明細書で使用する、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、複数形も含むことを意図している。本明細書における「含む(including)」、「含む(comprising)」、又は「有する(having)」、「含有する(containing)」、「必要とする(involving)」という用語、及びそれらの変形語は、この明細書で使用される場合、記載される形体、整数、工程、操作、要素、及び/又は部材の存在を指定するが、1つ若しくは複数の他の形体、整数、工程、操作、要素、部材、及び/或いはそれらのグループの存在又は追加を排除しないことが更に理解されることになる。
【0057】
特許請求の範囲における請求の要素を修飾するための「第1の」、「第2の」、「第3の」等の通常の用語の使用は、それ自体が、1つの請求の要素が別の要素を上回るといういかなる重要度、優先度、若しくは順序、又は方法の行為が行われる時間的順序も含意するものではなく、単にある特定の名称を有する1つの請求の要素を同じ名称を有する別の要素と区別して(通常の用語の使用においてであるが)、請求の要素どうしを区別するためのラベルとして使用されることに注意するべきである。
【0058】
特に、記載される又は例証される要素の一部又はすべてを互いに交換することにより他の実施が可能であるので、上記の図及び例は本開示の範囲を1種類の実施に限定することを意図していない。更に、公知の部材を使用して本開示の特定の要素を部分的に又は完全に実施することができる場合、本開示の理解に必要であるそのような公知の部材のそれらの部分のみが説明され、そのような公知の部材の他の部分の詳細な説明は開示を不明瞭にさせないために省略される。本明細書において別途明確に記載されない限り、本明細書において、単数の部材を示す実施が複数の同じ部材を含む他の実施に必ずしも限定されるべきではなく、逆もまた同様である。更に、出願人は、そのようにして明確に示されない限り、本明細書又は特許請求の範囲におけるいかなる用語も非一般的又は特別の意味と見なされることを意図していない。更に、本開示は、本明細書において例証として言及される公知の部材に対応する現在及び未来の公知の等価物を包含する。
【0059】
関連する技術分野の技能の範囲内の知識を適用することにより(本明細書において引用され参照により組み込まれた文書の内容を含む)、過度の実験をすることなく、本開示の一般概念から逸脱することなく、他者がそのような特定の実施を容易に改変する及び/又は様々な用途に向けて改造することができるように、特定の実施の前述の説明は開示の一般的性質を完全に表す。したがってそのような改造及び改変は、本明細書に示される教示及び指導に基づき、開示される実施の、意義及び等価物の範囲内であることを意図している。本明細書における表現又は専門用語は説明を目的とするものであり限定を目的とするものではないので、本明細書の専門用語又は表現は、関連する当業者の知識と組み合わせて、本明細書に示される教示及び指導に照らして当業者により解釈されるべきであることを理解するべきである。図面で論じられる又は示される寸法は1つの例にしたがって示され、他の寸法は開示から逸脱せずに使用できることを理解するべきである。
【0060】
上記の主題は単に例証として示され、限定するものとして解釈するべきではない。説明及び記載される例となる実施形態及び応用にしたがうことなく、また下記の特許請求の範囲における一連の詳述により、並びにこれらの詳述に等価である構造、及び機能又は工程により定義される、本開示により包含される本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な改変及び変更を本明細書に記載の主題に対して行うことができる。
【符号の説明】
【0061】
100 水素化処理ユニット
105 水素化分解反応器(水素化分解装置)
110 炉
115 熱交換器
120 ポンプ
125 メイクアップ圧縮機
130 リサイクル圧縮機
135 空気冷却器
140 水冷却器
145 分離容器
10 水素化処理ユニットの表面
20 クラッディング層
30 グラフェン層
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
【国際調査報告】