(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】異なる組成の少なくとも2つの領域を有する透明セラミック体を製造するためのリソグラフィベースの方法およびこのようにして得られた透明セラミック体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/50 20060101AFI20230419BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20230419BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230419BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230419BHJP
B33Y 40/10 20200101ALI20230419BHJP
【FI】
C04B35/50
C04B35/622
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y40/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555938
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(85)【翻訳文提出日】2022-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2021057169
(87)【国際公開番号】W WO2021186076
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】102020000005998
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502346002
【氏名又は名称】コンシッリョ ナツィオナーレ デッレ リチェルケ
【氏名又は名称原語表記】CONSIGLIO NAZIONALE DELLE RICERCHE
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ビアジーニ ヴァレンティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ホスターシャ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】エスポージト ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ピアンカステッリ アンドレアーナ
(72)【発明者】
【氏名】トーチ グイド
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェンテンヴァイン マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ブロウチェク ドミニク フィリップ
(57)【要約】
種々のガーネット組成を有する少なくとも2つの領域を有する透明セラミック体を製造する方法であって、特に、上記領域の1つが、Y
3Al
5O
12の組成を有する方法が記載されている。本発明は、予め設定された複雑な形状および/またはドーピングイオンの制御された複雑な分布を有する透明セラミック体の製造に特に有用である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のステップを含む、透明セラミック体の製造方法:
(a) 下記のものを含む第1の懸濁液を調製すること、
(1) 溶媒、
(2) 酸化物相A
3B
5O
12+xを生成するのに必要な化学量論比の金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩または塩化物の粉末の混合物であって、-0.1≦x≦0.1であり、AがY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luおよびそれらの混合物の中から選択され、BがAl、Fe、Cr、Sc、Gaおよびそれらの混合物の中から選択される、混合物、
(3) 粉末状の酸化ケイ素、テトラアルキルオルトシリケート、酸化カルシウム粉末、酸化カルシウム前駆体、酸化マグネシウム粉末、酸化マグネシウム前駆体、およびこれらの混合物の中から選択される焼結助剤、および
(4) ポリエチレングリコール、メンハーデン魚油、リン酸エステル、ジカルボン酸、ステアリン酸およびシランの中から選択される分散剤、
(b) ステップ(a)の懸濁液から溶媒を取り出して混合物を得ること、
(c) ステップ(b)の混合物と光硬化性樹脂とを含む均質なスラリーを調製すること、
(d) 少なくとも、下記のものを含む第2の懸濁液を調製すること、
(1’) 溶媒、
(2’) 酸化物相A
3B
5O
12+xを生成するのに必要な化学量論比の金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩または塩化物の粉末の混合物であって、-0.1≦x≦0.1であり、AがY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luおよびそれらの混合物の中から選択され、BがAl、Fe、Cr、Sc、Gaおよびそれらの混合物の中から選択される、混合物、
(3’) 粉末状の酸化ケイ素、テトラアルキルオルトシリケート、酸化カルシウム粉末、酸化カルシウム前駆体、酸化マグネシウム粉末、酸化マグネシウム前駆体、およびこれらの混合物の中から選択される焼結助剤、および
(4’) ポリエチレングリコール、メンハーデン魚油、リン酸エステル、ジカルボン酸、ステアリン酸およびシランの中から選択される分散剤、
(e) ステップ(d)の懸濁液から溶媒を取り出して混合物を得ること、
(f) ステップ(e)の混合物と光硬化性樹脂とを含む均質なスラリーを調製すること、
(g) 20~30℃の間の温度で操作し、ステップ(c)および(f)のスラリーの層を含む堆積物を、層ごとの3Dプリント技術によって形成し、固結体を得ること、ここで、スラリーの各層の堆積の後、光硬化性樹脂の光重合操作を行い、その上またはその隣に第2の組成のスラリーの層を堆積する前に、第1の組成の一連の光重合層の洗浄操作を行って第1の組成の非重合スラリーを除去する、
(h) ステップ(g)の固結体を、固結体の有機成分および揮発性成分を除去するために、100~1000℃の範囲の温度で空気中または酸素に富む雰囲気中で熱処理し、脱脂体を得ること、ならびに
(i) 1600℃~1900℃の範囲の温度で6時間~32時間の範囲の時間、ステップ(h)の脱脂体を真空中で焼結熱処理して、焼結体を得ること、または
(i’) 1400℃~1800℃の範囲の温度で2時間~20時間の範囲の時間、ステップ(h)の脱脂体を真空中で焼結熱処理し、続いて、1400℃~1800℃の範囲の温度で100~300バールの範囲の印加圧力で1時間~4時間の範囲の時間、熱間静水圧加圧して、焼結体を得ること、
ここで、前記第1の懸濁液および前記少なくとも1つの第2の懸濁液は、異なる組成を有する。
【請求項2】
ステップ(i)またはステップ(i’)で得られた焼結体を、可能なドーパントの酸化状態を調整するために、酸化雰囲気または還元雰囲気中でアニール処理するステップ(j)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
混合物(2)および(2’)の金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩または塩化物の粉末が、10μm未満、好ましくは5μm未満の平均粒径、0.8~1.0のアスペクト比、および少なくとも99%、好ましくは99.99%超の純度を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記焼結助剤(3)および(3’)が粉末の形態の化合物であるかまたはそれを含む場合、これらが、2μm未満、好ましくは1μm未満の粒径を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒(1)または(1’)がアルコールであり、その重量が(2)または(2’)の粉末の混合物の重量の1.5~2.5倍である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記焼結助剤(3)および(3’)が、それぞれ金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩または塩化物の前記混合物(2)および(2’)の1グラム当たり0.0005~0.003gの範囲の重量で使用される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記光硬化性樹脂が、ステップ(c)または(f)のスラリーの50~60体積%の量で使用される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記分散剤(4)の量が、ステップ(a)で調製された懸濁液の1.5~2.5重量%であり、前記分散剤(4’)の量が、ステップ(d)で調製された懸濁液の1.5~2.5重量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(g)が、リソグラフィベースのセラミック製造(LCM)によって行われる、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(h)が、550~800℃の範囲の温度、最大72時間、0.05℃/分~2℃/分の加熱速度、かつ115~250℃の範囲の温度では0.25℃/分未満で実施される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
不均一で制御された空間分布の化学組成を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法に従って得られた透明セラミック体(10、20、30、40、50、60)であって、異なる領域は、一般式A
3B
5O
12+xの異なる組成を有し、-0.1≦x≦0.1であり、AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luおよびそれらの混合物の中から選択され、BはAl、Fe、Cr、Sc、Gaおよびそれらの混合物の中から選択される、透明セラミック体。
【請求項12】
前記領域の少なくとも1つが、Y
3Al
5O
12の組成またはY
3Al
5O
12の組成中のYおよび/またはAlの部分的な置換によって得られる組成を有する、請求項11に記載の透明セラミック体。
【請求項13】
異なる組成の2つの層(11、12;21、22;31、32)からなる、請求項11に記載の透明セラミック体(10、20、30)。
【請求項14】
組成の傾斜プロファイルを有する単一部分からなる、請求項11に記載の透明セラミック体(40)。
【請求項15】
外側領域(51、52)が異なり、均一な組成を有し、かつ中央領域(53)がその厚さにわたって組成の傾斜プロファイルを有する、同心領域からなる、請求項11に記載の透明セラミック体(50)。
【請求項16】
異なる組成の同心領域からなる請求項11に記載の透明セラミック体(60)であって、外側領域(61)が、半径方向に傾斜した組成のプロファイルを有し、かつ中央領域(62)が、半球状に傾斜した組成のプロファイルを有する、透明セラミック体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変の3次元(3D)組成および複雑な形状を有するセラミック系透明材料の製造方法に関し、本発明はまた、レーザ利得媒体、シンチレータおよび照明に使用されるドープ透明セラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
技術水準
限定されないが、特に、光学分野における用途において、透明性が必要とされる材料は、伝統的にガラスまたは単結晶に基づいている。前者は容易に成形することができ、大きな寸法で製造することができるが、その熱的および熱機械的特性は、高い性能のためには充分ではない。単結晶は、好ましい特性を有するが、形状およびサイズに制限があり、大部分はかなりの量のスクラップを伴う後処理を必要とする。さらに、例えば高ドーパント濃度を有するいくつかの材料または組成物は、単結晶を製造するために使用される溶融成長法によって製造することができない。
【0003】
透明セラミックは、単結晶の良好な性能を維持しながら、様々な成形技術および可能性の利点を提供する。これらの材料は、所望の形状に切断されなければならない大きな透明ブール(boules)を提供するために必要とされる溶融物からのゆっくりとした凝固を必要としないので、それらの単結晶対応物と比較してより費用効果的であり得る。さらに、セラミック技術は、従来の結晶成長方法と比較して、より低いプロセス温度を必要とする。
【0004】
透明セラミックの用途は、固体レーザ利得媒体、シンチレータ、蛍光体、照明、防護具、保護窓およびドームを包含する。
【0005】
機能性透明セラミックの中で、最も重要で最も一般的に使用されるものは、いわゆるガーネット、一般式A3B5Oxの化合物であり、式中、AおよびBは異なる金属であるか、またはAおよび/またはBは金属の混合物を表す。最も広く使用されているガーネットは、Y3Al5O12であり、当該分野において一般にイットリウムアルミニウムガーネットまたはその略語YAGで呼ばれている。YAGの技術的関連性のために、本明細書の残りの部分では主にこの材料を参照するが、本発明は任意の透明なセラミックガーネットに一般的に適用可能である。
【0006】
YAGは、意図された用途を考慮してその特性を調節および微調整するために、特定の遷移金属イオンまたは希土類イオンでドープされてもよい。
【0007】
論文「固体レーザのための高性能多結晶Nd:YAGセラミックの製造および光学特性」、A.Ikesueら、Journal of the American Ceramic Society、78(1995)1033-1040は、レーザ発振を可能にするのに充分な高品質の透明セラミックネオジムドープYAGの製造を記載している。本論文の製造プロセスでは、酸化物粉末の混合物を出発材料として使用している。
【0008】
ドープされたYAGの製造に対する別のアプローチは、論文「イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)透明セラミックへの共析出合成経路」、J.Liら、Journal of the European Ceramic Society、32(2012)2971-2979に提示されている。この方法では、YAG粉末を析出によって調製し、次いで、一般に真空焼結によって透明YAGセラミックに緻密化する。
【0009】
焼結添加剤は、好ましくは細孔の除去を助けるために使用される。時には、真空焼結は、例えば、論文「透明Nd:YAGセラミックスの熱間静水圧加圧」、S-H.Leeら、Journal of the American Ceramic Society、92(2009)1456-1463に報告されているように、熱間静水圧加圧と併用される。
【0010】
一様なドーパント分布および製造された部品の単純な形状の場合、加圧(「YbドープYAGセラミックの製造および特性評価」、J.Hostashaら、Optical Materials、2013、35、798-803)、テープキャスティング(上記で引用したLeeらによる論文)、またはスリップキャスティング(「透明イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)セラミックの水性スリップキャスティング」、K.A.Appiagyeiら、Ceramics International、2008、34、1309-1313)のような成形方法が試験され、透明YAGセラミックの製造に関して良好な結果を得て成功している。
【0011】
しかしながら、光学技術およびフォトニック技術の最近の発展に伴い、従来の均一にドープされたYAGベースの構成要素に加えて、例えば、縁部クラッドまたは導波路を有する複合構造が必要とされ、ドーパント濃度の機能的変更が光ガイドまたは熱管理のために使用される。
【0012】
場合によっては、そのような構造は、拡散接合を使用して、注意深く切断および研磨された単結晶光学部品に接合することで調製してもよい(米国特許第5441803号明細書に開示されている技術)。しかしながら、この技術は、接合される結晶の事前の調製を必要とし、マイクロメートルの範囲で変化する組成を有する光学部品の製造を可能にしない。
【0013】
代替案として、様々なドーパントプロファイルを有する構造は、高度なセラミック技術によってより容易に生成され、材料構造は、完全な緻密化の前の未焼結段階で成形され、焼結プロセスの後にさらなる結合は必要とされない。
【0014】
この目的のために、様々な技術が利用可能である。
【0015】
第1の可能な技術は、テープキャスティングである。この周知の技術では、所望の無機材料の粉末、溶媒、および結合剤(および場合によってはさらなる成分、例えば焼結助剤)からなるスラリーを支持体上に堆積させ、次いで、溶媒を蒸発させて、無機粉末を埋め込む結合剤の固結されたテープを得る。このテープは、支持体から取り外されて取り扱われるのに充分な機械的強度を有する。異なる組成で調製されたテープの部分は、積み重ね、プレスし、熱処理に供して、有機成分を除去しかつ異なる無機粉末の層を固結することができる。様々なドーパント濃度を有するセラミック体の製造へのこの技術の適用例は、例えば、論文「テープキャストを介して製造された構造化Ybドーピングを有する透明層状YAGセラミック」、J.Hostashaら、Optical Materials、65(2017)21-27、および論文「大型Nd:YAGおよび複合材料Yb:YAG透明セラミックスラブの製造、微細構造および光学特性」、S.Yuら、Ceramics International、45(2019)19340-19344に提供されている。
【0016】
テープキャスティング技術の可能な変形は、例えば国際公開第2009/038674号A2に記載されている「共キャスティング」(そこでは、異なる組成のスラリーが支持体上に並列に堆積されている)、および、例えば論文「高度な結合技術による複合レーザセラミック」、A.Ikesueら、Materials、11(2018)271に記載されているセラミック未焼結体の「共焼結」である。
【0017】
これらのセラミック成形方法は、層状および勾配状ドーピング分布の導入を可能にする。しかしながら、これらの方法は、一部には組成的および構造的特徴の精度が低いという欠点があり、その上、上述の成形技術は成形の可能性をかなり単純な構造に依然として制限し、例えば、半径方向に傾斜した物体の製造さえ極めて困難である。
【0018】
透明セラミック体の製造のための別の可能なアプローチは、セラミック粉末のスラリーの3Dプリント(積層造形とも呼ばれる)に基づく。
【0019】
このアプローチは例えば、論文「初の3Dプリントによる複合無機多結晶シンチレータ」、G.A.Dosovitskiyら、CrystEngComm、vol.19、30(2017)4260-4264、論文「3Dプリントセラミック蛍光体および青色レーザ励起下のフォトルミネセンス特性」、S.Huら、Journal of the European Ceramic Society、vol.39、8(2019)2731-2738、および中国特許出願公開第108530070号Aにて踏襲されている。これらの文献では、3Dプリントは、均一な組成を有する、すなわち、ドーパントの分布が物体内の任意の方向に変化しないドープセラミックの物体を製造するために使用される。
【0020】
国際公開第2017/218895号A1において、3Dプリントは、レーザ利得媒体の製造のためのYAGベースの透明セラミックを製造するために使用される。本明細書に記載される方法は、合成されたYAG粉末を使用し、ドープされた/ドープされていない1次元プロファイルを有する部品を製造するために試験される。
【0021】
最後に、中国特許出願公開第109761608号Aは、物体の半径方向のドーピングイオン濃度の二次元濃度勾配分布を有する複合(ドープ)透明円筒状セラミック体を製造するための3Dプリント方法について記載している。この方法は、異なる組成のセラミック粉末の2つのスラリー(例えば、希土類がドープされたセラミックスラリーおよびドープされていないセラミックスラリー)を調製し、これらを2つの別個のリザーバーに装填すること;2つのリザーバーを、圧力制御装置、および直接筆記型ラピッドプロトタイピングマシンのキャビティに配置されたノズルに接続すること;コンピュータ支援ソフトウェアを用いて2つのリザーバー内の圧力を調整して、ノズルキャビティに入る2つの異なるスラリーの比率を制御し、半径方向に異なるスラリーを層ごとに積層し、印刷し、成形して棒状中間体を得ること;この中間体を100~200MPaの範囲の圧力(保持時間1~2分)で冷間静水圧加圧し、続いて700~800℃の範囲の温度かつ酸素雰囲気中で熱処理(この熱処理は当該分野で脱脂処理と呼ばれる)すること;最後に、脱脂体を高温真空焼結(10-3Pa未満の圧力で1600~1900℃)して緻密なセラミックス焼結体を得た後、酸素含有雰囲気中で高温(1300~1600℃)アニールしかつ精密研磨することを含む。
【0022】
しかしながら、本発明者らの経験では異なる組成の2つのスラリーが同時に堆積される場合、スラリーの交差汚染が生じる可能性があり、このことは、中国特許出願公開第109761608号Aの目的が傾斜構造を得ることであるため、この文献の場合には問題ではない。一方、このアプローチでは、ドーパント分布の高度な定義を有する2つ以上の異なる化学組成によって形成される部品を得ることは不可能であることに留意しなければならない。さらに、スラリー間の汚染はまた、材料の性能を低下させる光学的欠陥(望ましくないイオン-不純物の存在)の生成をもたらし得る。
【0023】
複雑な形状および/または複雑なドーパント分布プロファイルを有する透明セラミック体の調製において、先行技術の方法を使用して遭遇し得る他の問題は、次のものである:
- 部分焼結、これは、完全に反応していないか、あるいは反応しているが過渡的な相を形成している出発粉末の存在に関連するため、高い透明性の獲得を妨げる。また、部分焼結は、拡散した細孔を伴う;
- 散乱中心として作用し、したがって透明性を低下させる残余細孔;
- 散乱および/または吸収中心として作用し、したがって透明性を低下させ、望ましくない吸収を導入し得る二次相の存在;
- 散乱中心としても作用する界面または層におけるおよびその周囲の欠陥;
- 必要な透明性を得るために必要とされる化学相の形成を妨げる、各スラリー中のセラミック粉末の選択的偏析;
- 必要な形状および寸法の物体が形成されることを妨げる、焼結時の変形。
【0024】
次世代の光学的透明セラミックの商業的利用は、3D透明体のための工業的に適した製造プロセスの欠如によって遅れている。
【0025】
本発明の目的は、透明なセラミック材料体の製造方法を提供することであり、この方法は、透明な材料体の形状および組成、並びにドープされた材料の場合にはドーピングイオン分布の完全な3D制御を可能にする。本発明の別の目的は、この方法で得られた透明セラミック体を提供することである。
【発明の概要】
【0026】
これらの目的は本発明によって達成され、第1の態様の本発明は、透明セラミック体の製造方法であって、下記ステップを含むものである:
(a) 下記のものを含む第1の懸濁液を調製すること、
(1) 溶媒、
(2) 酸化物相A3B5O12+xを生成するのに必要な化学量論比の金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩または塩化物の粉末の混合物であって、-0.1≦x≦0.1であり、AがY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luおよびそれらの混合物の中から選択され、BがAl、Fe、Cr、Sc、Gaおよびそれらの混合物の中から選択される、混合物、
(3) 粉末状の酸化ケイ素、テトラアルキルオルトシリケート、酸化カルシウム粉末、酸化カルシウム前駆体、酸化マグネシウム粉末、酸化マグネシウム前駆体、およびこれらの混合物の中から選択される焼結助剤、および
(4) ポリエチレングリコール、メンハーデン魚油(menhaden fish oil)、リン酸エステル、ジカルボン酸、ステアリン酸およびシランの中から選択される分散剤、
(b) ステップ(a)の懸濁液から溶媒を取り出して混合物を得ること、
(c) ステップ(b)の混合物と光硬化性樹脂とを含む均質なスラリーを調製すること、
(d) 少なくとも、下記のものを含む第2の懸濁液を調製すること、
(1’) 溶媒、
(2’) 酸化物相A3B5O12+xを生成するのに必要な化学量論比の金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩または塩化物の粉末の混合物であって、-0.1≦x≦0.1であり、AがY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luおよびそれらの混合物の中から選択され、BがAl、Fe、Cr、Sc、Gaおよびそれらの混合物の中から選択される、混合物、
(3’) 粉末状の酸化ケイ素、テトラアルキルオルトシリケート、酸化カルシウム粉末、酸化カルシウム前駆体、酸化マグネシウム粉末、酸化マグネシウム前駆体、およびこれらの混合物の中から選択される焼結助剤、および
(4’) ポリエチレングリコール、メンハーデン魚油、リン酸エステル、ジカルボン酸、ステアリン酸およびシランの中から選択される分散剤、
ここで、少なくとも1つの第2の懸濁液は、第1の懸濁液とは異なる組成を有し、
(e) ステップ(d)の懸濁液から溶媒を取り出して混合物を得ること、
(f) ステップ(e)の混合物と光硬化性樹脂とを含む均質なスラリーを調製すること、
(g) 20~30℃の間の温度で操作し、ステップ(c)および(f)のスラリーの層を含む堆積物を、層ごとの3Dプリント技術によって形成し、固結体を得ること、ここで、スラリーの各層の堆積の後、光硬化性樹脂の光重合操作を行い、その上またはその隣に第2の組成のスラリーの層を堆積する前に、第1の組成の一連の光重合層の洗浄操作を行って第1の組成の非重合スラリーを除去する、
(h) ステップ(g)の固結体を、固結体の有機成分および揮発性成分を除去するために、100~1000℃の範囲の温度で空気中または酸素に富む雰囲気中で熱処理して、脱脂体を得ること、ならびに
(i) 1600℃~1900℃の範囲の温度で6時間~32時間の範囲の時間、ステップ(h)の脱脂体を真空中で焼結熱処理して、焼結体を得ること、または
(i’) 1400℃~1800℃の範囲の温度で2時間~20時間の範囲の時間、ステップ(h)の脱脂体を真空中で焼結熱処理し、続いて、1400℃~1800℃の範囲の温度で100~300バールの範囲の印加圧力で1時間~4時間の範囲の時間、熱間静水圧加圧して、焼結体を得ること。
【0027】
本発明の方法は、ステップ(i)またはステップ(i’)で得られた焼結体を、ドーパントの酸化状態を調整するために、酸化雰囲気または還元雰囲気中でアニール処理する任意のステップ(j)をさらに含むことができる。
【0028】
第2の態様では、本発明は、上記の方法で得られた透明セラミック材料、およびこれらの材料に基づく光学デバイスに関する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、異なる化学組成の材料の2つの部分によって構成される、本発明の第1の可能なセラミック透明体を概略的に示す。
【
図2】
図2は、第2の化学組成の領域に部分的に埋め込まれた第1の化学組成の領域によって構成される、本発明の第2の可能なセラミック透明体を示す。
【
図3-6】
図3~6は、複雑な3D構造を有する本発明のさらなる可能なセラミック透明体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、透明セラミック体の製造方法が一般に当技術分野で公知であるが、3Dプリント技術にも基づいているが、本発明の方法の条件および工程の組み合わせのみが、3つの空間方向における最終透明セラミック体の組成プロファイルの完全な制御を得ることを可能にし、特に、20~30℃の間の温度での層の堆積、分散剤の使用、および光重合後の任意の層の洗浄が、所望の結果を得るために不可欠であることを確認した。
【0031】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
【0032】
第1の態様において、本発明は、予め設定された複雑な形状および/またはドーピングイオンの制御された複雑な分布を有する透明セラミック体を製造する方法に関する。
【0033】
本発明の目的のために、本方法において使用される化合物は高度に純粋でなければならず、例えば、以下に記載される酸化物、水酸化物または硝酸塩は、少なくとも99%、好ましくは99.99%より高い純度を有していなければならない。
【0034】
簡単にするために、本方法は、2つの異なるスラリーの調製および使用に関して以下に記載されるが、本方法の工程はより複雑な組成プロファイルの透明セラミック体を得るために、3つ以上のスラリーを用いても実施することができることは当業者には明らかであろう。
【0035】
本方法は以下に詳細に記載されるように、ステップ(a)~(i)または(i’)、またはステップ(a)~(j)を含む。
【0036】
本方法の第1のステップ、ステップ(a)は、(1)溶媒、(2)所望のガーネット相の前駆体の粉末の混合物、(3)1種以上の焼結助剤、および(4)分散剤の均質なスラリーを調製することからなる。
【0037】
溶媒(1)は、アルコール、例えば、エタノールまたはイソプロパノールの中から選択することができ、通常、溶媒の重量は、粉末の混合物(2)の重量の1.5~2.5倍、好ましくは約2倍である。
【0038】
成分(2)は、所望の酸化物相A3B5O12+xを生成するために必要とされる厳密な化学量論的比率の、金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩または塩化物の混合粉末からなり、ここで、A、Bおよびxは、上記の意味を有する。これらの粉末は10μm未満、好ましくは5μm未満の平均粒径を有さなければならず、加えて、粉末粒子の形状は0.8~1.0のアスペクト比を有する本質的にまたはほぼ球形でなければならない。
【0039】
これらの粉末は、多くの供給業者から一般に商業的に入手可能であり、例として、希土類酸化物は、アルファ・エーザー社(米国)およびメルク社(ドイツ)によって販売されている。
【0040】
希土類元素のより一般的な酸化状態は+3であるが、+2(例えば、Sm2+、Eu2+またはYb2+)または+4(例えば、Ce4+)の酸化状態も可能であり、同様に、金属Sc、FeおよびCrは+3の酸化状態で存在し得るが、他の酸化状態でも存在し得る。-0.1~0.1の間で変化し得るパラメータxは、+3とは異なる酸化状態を有するイオン材料の存在による酸素の化学量論の変動性を考慮し、xは、金属AおよびBのイオンの酸化状態が平均して>3である場合には正であり、上記金属の酸化状態が平均して<3である場合には負である。所望の特定の組成の式が与えられると、ステップ(a)の混合物の調製に使用される異なる酸化物、水酸化物、硝酸塩または塩化物の量の計算は、平均的な化学者にとって簡単である。
【0041】
焼結助剤(3)は、酸化ケイ素(SiO2、一般にシリカと呼ばれる)粉末、テトラアルキルオルトシリケート(一般式Si(OR)4、式中、Rは一般にC1-C4アルキルである)、酸化カルシウム粉末、酸化カルシウム前駆体、酸化マグネシウム粉末、酸化マグネシウム前駆体、またはそれらの混合物から選択される。この成分は、ステップ(i)または(i’)における焼結をより容易かつより効率的にする。焼結助剤として使用される成分が、粉末の形態の化合物であるかまたはそれを含む場合には、これらは、2μm未満、好ましくは1μm未満の粒径を有さなければならない。酸化ケイ素の有用な形態は、コロイダルシリカ、ナノメートルサイズのシリカ粒子の凝集体からなるシリカ粉末の懸濁液である。酸化物として使用される場合、焼結助剤成分は、ガーネット相の前駆体の混合物(2)1グラム当たり0.0005~0.003gの範囲の重量で添加される。
【0042】
最後に、分散剤(4)は、ポリエチレングリコール、メンハーデン魚油、リン酸エステル、ジカルボン酸、ステアリン酸およびシランの中から選択される。ポリエチレングリコールは一般にPEGと呼ばれる。以下で略語MFOによっても示されるメンハーデン魚油は、好ましくはブローされる(すなわち、その不飽和結合の部分酸化を引き起こすために、その中で空気をブローすることによって処理される)。
【0043】
これらの物質はすべて市販されている。本発明の目的に有用なPEGの分子量は、200~600Daである。分散剤の量は、ステップ(a)の懸濁液の0.5~5重量%、好ましくは1.5~2.5重量%である。
【0044】
成分(1)、(2)、(3)および(4)は任意の混合方法で均質化されて、均質な懸濁液を得ることができる。
【0045】
本発明の方法のステップ(b)は、ステップ(a)で調製された懸濁液から溶媒を取り出すことにあり、任意の方法によって実施され、湿潤混合物が得られる。
【0046】
本発明の方法のステップ(c)は、ステップ(b)で得られた混合物と光硬化性樹脂との均質なスラリーを調製することからなる。
【0047】
光硬化性樹脂は、広く知られており、特に半導体およびマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)の製造の分野において極めて一般的であり、多くの供給業者によって販売されている。本発明の目的に有用な適切な光硬化性樹脂は、例えば、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、アクリル化オリゴアミン、ベンジルアルコール、カンファーキノンおよびエチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエートの混合物である。スラリーは、任意の混合方法で均質化することができる。光硬化性樹脂の総量は、スラリーの50~60体積%である。
【0048】
本発明の方法のステップ(d)~(f)は、第2の均質なスラリーの調製からなる。このスラリーの成分、ならびにそれらの重量または体積比は、ステップ(a)~(c)で調製されたスラリーと同じであるが、セラミック体の製造に使用される第1および第2のスラリーの具体的な組成は異ならなければならない。2つのスラリー中の光硬化性樹脂の総量は、それらを用いて印刷された部分間の線収縮の差が3%未満となるように、3体積%を超えて異ならせてはならない。
【0049】
2つより多いスラリーが調製され、使用される場合、これらの最後の条件は全てのスラリーについて認められなければならず、すなわち、これらは全て異なる組成を有し、樹脂の総量は、使用される樹脂の任意の対の間で3体積%を超えて異なるべきではない。
【0050】
ステップ(g)では、ステップ(c)および(f)で調製されたスラリーを使用して、予め設定された堆積およびパターンの時間的順序に従って第1および第2のスラリーの層を堆積させ、その後、スラリーの任意の変化の前に洗浄することによって、3Dプリントにより所望の構成の堆積物を形成する。層堆積の各ステップは、20~30℃の範囲の温度で行われなければならず、本発明者らは、30℃より高い温度で操作すると、酸化物の選択的沈降が、印刷された層中で起こり、一方、20℃未満の温度ではスラリーを分配および拡散することが困難であることを確認している。
【0051】
本発明の目的のための好ましい技術は、立体リソグラフィの変形であるリソグラフィベースのセラミック製造(LCM)である。この技法では、ステップ(c)および(f)で調製された第1および第2のスラリーの薄層は、最初の工程で試料ホルダーである基材上に堆積され、次の工程で既に固結された層上に堆積される。各堆積層は一般に、約10~100μmの厚さを有し、CAD設計によって画定され、事前設定された幾何学的形状に従って堆積され、適切な物理的マスクまたはデジタルマスクを使用した光照射によって固結される。
【0052】
LCM方法は、以下のように記述することができる。定義された光スペクトルを有する強いLEDがミラーアレイ(デジタルミラーデバイス-DMD)を露光する。DMDは、光を部分的に透過するか(ポジション1の個別ミラー)、または光を吸収フィールドに送る(ポジション0の個別ミラー)。転送された光は、ピクセルパターン(露光フィールド)としてのレンズを通して、スラリーを含むバット(vat)上に投影される。感光性材料のこの選択的露光は、光重合による露光領域での材料の硬化を引き起こす。この方法では、セラミック粒子が均一に分散された光硬化性有機バインダーを層状に塗布し、次いで上述の方法に従って領域的に硬化させる。光重合光波長は、使用される樹脂に依存し、一般に製造者によって示され、本発明の好ましい樹脂では、光重合波長は375~460nmである。
【0053】
したがって、固結体の構築は、スラリー堆積の操作と、それに続く層の樹脂の光重合の操作とを含むサイクルで、層ごとに達成される。所望の最終体の構造が、既にある固結層と接触して(すなわち、固結層の上および/または隣接して)、固結層を形成したスラリーとは異なる組成を有するスラリーの堆積を必要とするときはいつでも、最後の光重合操作後に得られた中間生成物は、例えば、溶剤を使用して、前のスラリーの非固結残留物を除去するために洗浄されねばならない。
【0054】
このようにして得られた固結体において、種々の酸化物の粒子は、樹脂の光重合(「光硬化」)によって得られた硬化ポリマーのマトリックス中に埋め込まれる。この固結体は、最終的な透明セラミック体の3つの空間方向の形状および所望の組成プロファイルを既に有する。
【0055】
本方法の次のステップ(h)は、樹脂の光硬化によって生成されたポリマー、分散剤、および固結体の他の可能な揮発性成分を除去することにある。この操作は「脱バインダー」と呼ばれ、好ましくは空気または酸素に富む雰囲気中で実施される。このステップにおいて、固結体は、室温から100~1000℃、好ましくは550~800℃までの範囲の温度にして実施される最大72時間の熱処理に供される。この段階における加熱は、ポリマーの分解または軽質化合物の蒸発によって生成されるガスの局所的な蓄積を回避するために、急速すぎてはならず、これは物体の変形または物体を破壊し得る圧力バーストさえも引き起こし得る。特に、加熱速度は0.05℃/分~2℃/分でなければならず、好ましくは115~250℃の範囲では0.25℃/分未満である。このステップの結果として得られる生成物は、完全密度の40~60%の密度を有する脱バインダー体である。
【0056】
このプロセスの次のステップは、最終セラミック体を得るために、脱バインダー体を真空中で焼結することにある。「真空」とは、10-1Pa未満の圧力を意味する。
【0057】
焼結は2つの可能な代替方法、すなわち、純粋に熱焼結ステップ(i)を行うか、または熱焼結ステップと、それに続くステップ(i’)による熱間静水圧加圧によって行うことができる。これらのステップのいずれかの間に、ガーネット相は混合物(2)および(2’)の酸化物から形成され、材料は高密度化する、すなわち、脱バインダー体の細孔が除去される。
【0058】
ステップ(i)は、ステップ(h)の脱バインダー体を、1600℃~1900℃の範囲の温度で、6時間~32時間の範囲の時間、真空中で熱処理に供することによって実施され、本発明の目的とする透明セラミック体が得られる。
【0059】
ステップ(i’)は、ステップ(h)の脱バインダー体を、1400℃~1800℃の範囲の温度で2時間~20時間の範囲の時間、真空中で焼結熱処理し、続いて1400℃~1800℃の範囲の温度で100~300バールの範囲の印加圧力で1時間~4時間の範囲の時間、熱間静水圧加圧(HIP)に供することによって実施され、本発明の目的とする透明セラミック体が得られる。HIPは、ガスおよびコンプレッサを用いて、所望の焼結温度を設定することによって行うことができる。概して、より高い圧力はより低い温度での作業を可能にし、これは、結晶粒成長を遅くし、したがって、透明性の点で利点を提供する。
【0060】
ステップ(i)または(i’)の両方において、1200~1600℃の温度範囲における加熱速度は、100℃/h未満でなければならない。
【0061】
清浄な雰囲気(グラファイトを含まない)を有する真空炉は、好ましくはステップ(i)または(i’)のいずれかにおける焼結プロセスのために使用される。
【0062】
本方法は、ステップ(i)または(i’)で得られた透明セラミック体を、ドーパントイオンを所望の酸化状態にするために、酸化雰囲気または還元雰囲気中でアニール処理する任意のステップ(j)を更に含むことができ、これは、例えば、脱バインダーステップ(h)中にドーパントイオンが酸化された場合、または真空中で実施される焼結ステップ(i)または(i’)中に還元された場合に必要であり得る。
【0063】
第2の態様では、本発明は、シンチレータおよび他の同様の用途として、レーザビームの生成、増幅、成形または誘導における光学システムの部品として使用され得る透明セラミック体を提供する。
【0064】
本発明の好ましい物体は、ドーピングイオンで変性された2つのYAG組成物に基づき、または1つの純粋なYAG組成物および1つのドーピングイオンで変性されたYAG組成物に基づく。
【0065】
本発明の方法は、単純な形状および複雑な形状の物体の両方の場合において、3つの空間方向におけるドーピングイオンの不均一で制御された空間分布を有する透明セラミック体の製造に有用であり、有利である。
【0066】
本発明の方法で製造することができる可能な透明セラミック体のいくつかの例を以下に記載する。
【0067】
簡単にするために、以下に説明する図では透明セラミック体のほとんどが円板形状として示されているが、本発明の方法では明らかに他の形状を製造することができる。以下の図に示されるものと同様の物体(すなわち、複雑な構成であっても、ドーパント濃度の傾斜プロファイルを有する層状体または物体)は、任意の形状、例えば、正方形、長方形、または他の多角形もしくは不規則な形状を有することができる。図では本発明の方法と同様に、2D構造および3D構造の両方が表されており、ドーパントの複雑な3D形状および3D分布も製造することが可能である。
【0068】
図1は、異なる組成(例えば、ドープされたYAGおよびドープされていないYAG)の2つの部分(11および12)が並んで印刷された透明セラミック体10を上面図および側面図で示しており、この物体は、実施例3に記載されているように製造することができる。
【0069】
図2は、上面図および側面図において、異なる均一な組成(例えば、ドープされたYAGおよびドープされていないYAG)の2つの部分(21および22)からなる物体20を示す。同心のインセット22は、ドープされたYAG組成物を有し、外側ゾーン21は、ドープされていないYAG組成物を有し、この物体は、実施例7に記載されるように製造することができる。
【0070】
図3は、上面図および側面図において、異なる組成の2つの層31および32(例えば、ドープされたYAG層およびドープされていないYAG層)からなる物体30を示す。物体は、本発明の方法のステップ(g)において、最初に、ステップ(c)において製造されたスラリーの一連の層、次いで、ステップ(f)において製造されたスラリーの第2の一連の層を印刷することによって製造され得る。次の焼結ステップ(i)または(i’)の間に、通常、ドープされたYAGとドープされていないYAG層との間に限られた量のイオンが拡散し、全体的な物体の階段状の性質に影響を及ぼさない薄い段階的な中間層(最大150μm)を形成する。
【0071】
図4は、本発明の別の可能なセラミック透明体40を上面図および側面図で示す。この物体は、物体の厚さにわたって化学組成の段階的プロファイル(段階的ドーパント濃度)の層が存在する単一の部分として形成される。この物体は、(c)および(f)の種類の複数ステップにおいて、異なる濃度のドーパントを有するいくつかのスラリーを調製し、および、ドーパント濃度を下げながら(または上げながら)異なるスラリーを堆積させてステップ(g)を繰り返すことによって、製造され得る。異なるスラリーを用いてステップ(g)を繰り返して調製された固結体は、その厚さにわたってドーピングイオンの段階的プロファイルを有するが、その後の焼結ステップ((i)または(i’))の間に、ドーピングイオンは、より高い濃度の領域からより低い濃度の領域に向かって拡散し、得られる濃度プロファイルは本質的に連続的な勾配となる。
【0072】
図5および6は、上面図および側面図において、複雑な3D構造を有する本発明のさらなる可能なセラミック透明体を示す。これらの構造もまた、
図4を参照して上述したように、異なるスラリーを適切に調製し、複数のステップ(g)で印刷することによって製造することができる。
【0073】
特に、
図5は、異なる組成の3つの同心領域(それぞれ、最外側領域から中央領域までの51、52および53)から作製された物体50を示し、外側領域51および中間領域52は均一な組成物を有し、一方、中央領域53はその厚さにわたって傾斜した組成を有する。この種の物体はまた、円形または多角形の断面を有する細長いロッドの形状で製造され得る。この物体は、(c)または(f)の種類の複数ステップにおいて、異なる濃度のドーパントを有するいくつかのスラリーを調製し、および、ドーパント濃度を下げながら(または上げながら)異なるスラリーを印刷してステップ(g)を繰り返すことによって、製造され得る。異なるスラリーを用いてステップ(g)を繰り返して調製された固結体は、その物体の厚さにわたってドーピングイオンの段階的プロファイルを有するが、その後の焼結ステップ((i)または(i’))の間に、ドーピングイオンは、より高い濃度の領域からより低い濃度の領域に向かって拡散し、得られる濃度プロファイルは本質的に連続的な勾配となる。
【0074】
図6は、異なる組成の同心領域からなる本発明の別の可能な透明体60を示し、外側領域(61)は、半径方向に傾斜した組成のプロファイルを有し、中央領域(62)は、半球状に傾斜した組成のプロファイルを有し、この構成も、円形または多角形の断面を有する細長いロッドの形状を有する物体において得ることができる。
【0075】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。
【実施例】
【0076】
実施例1
本実施例では、Yb0.3Y2.7Al5O12の組成を有するYbドープYAGの試料の調製について説明する。
【0077】
調製に際しては、市販の原料、すなわち、大明化学工業社製のAl2O3TM-DAR、アルファ・エーザー社製のY2O3REacton(登録商標)、およびシグマ・アルドリッチ社製のYb2O3を用いた。全ての粉末は、99.9%以上の純度レベルを有していた。
【0078】
酸化物粉末は、YbによるYの10%原子置換の化学量論(Yb0.3Y2.7Al5O12)に従って秤量し、すなわち、Al2O3は41.19g、Y2O3は49.26gおよびYb2O3は9.55gである。200gのエタノールと、0.5gの焼結剤としてのテトラエチルオルトシリケート(シグマ・アルドリッチ社製)と一緒に、0.5~2cmの範囲の直径を有するAl2O3ミリング媒体300gを用いて、プラスチック容器中でのボールミリングにより、酸化物粉末の混合物を48時間混合した。次いでエタノールをロータリーエバポレーションにより抽出した。次いで、得られた粉末を、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、アクリル化オリゴアミン(Genomer*5695、RAHN社製、スイス)およびベンジルアルコールと一緒に、遊星ミルを用いて300rpmで30分間混合した。その後、カンファーキノンおよびエチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエートを光開始剤として添加し、スラリーを24時間ボールミルにかけて、光硬化性懸濁液を得た。固形積載は42体積%であった。
【0079】
25℃、層厚20μm、露光エネルギー170mJ/cm2で印刷した。その後、印刷体を洗浄し、120℃で乾燥させた。
【0080】
印刷された試料のサイズは13.5mm×13mmであり、厚さは1.75mmであった。脱バインダーは、600℃の温度で空気中にて行った。焼結は、温度1750℃、ソーキング時間16時間で、タングステン加熱素子を備えた真空炉中で行った。焼結体を鏡面研磨し、真空焼結時に生成したYb2+イオンがYb3+に酸化されるまで大気中でアニールした。最後に、標準的な光学研磨機を用いて、30μmから0.25μmまでの粒径を有するダイヤモンドペーストで試料を研磨した。
【0081】
実施例2
この実施例では、実施例1で製造されたドープされたYAGの試料の光学的特徴付けについて説明する。
【0082】
実施例1のYb0.3Y2.7Al5O12試料を、ファイバーカップリング半導体レーザによって長手方向にポンピングされたレーザキャビティ内で試験した。これは、レーザ材料候補のレーザ発光性能を評価するための典型的な試験台である。準連続ポンピング条件下で、波長1030nm、最大傾斜効率17%、最大出力2.2W、吸収ポンプパワー13.6W(変換効率15.5%)で、試料からレーザ発光を得た。
【0083】
実施例3
この実施例では、
図1に示すような形状を有する並列構造のYAG/YbドープYAGの試料の調製について説明する(ここで、YAGはY
3Al
5O
12の組成物を有し、ドープYAGはYb
0.3Y
2.7Al
5O
12の組成物を有する)。
【0084】
調製に際しては、市販の原料、すなわち、大明化学工業社製のAl2O3TM-DAR、アルファ・エーザー社製のY2O3REacton(登録商標)、およびシグマ・アルドリッチ社製のYb2O3を用いた。全ての粉末は、99.9%以上の純度レベルを有していた。2つの混合物を調製した。
【0085】
第1の混合物について、酸化物粉末は、YbによるYの10%原子置換の化学量論(Yb0.3Y2.7Al5O12)に従って秤量し、すなわち、Al2O3は41.19g、Y2O3は49.26gおよびYb2O3は9.55gである。200gのエタノールと、0.5gの焼結剤としてのテトラエチルオルトシリケート(シグマ・アルドリッチ社製)と、2.0gのMFO(Blown Menhaden Z3/Defloc Z3、ワーナー・Gスミス社製)と一緒に、0.5~2cmの範囲の直径を有するAl2O3ミリング媒体300gを用いて、プラスチック容器中でのボールミリングにより、酸化物粉末の混合物を48時間混合した。次いでエタノールをロータリーエバポレーションにより抽出した。次いで、得られた粉末を、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、アクリル化オリゴアミン(Genomer*5695、RAHN社製、スイス)およびベンジルアルコールと一緒に、遊星ミルを用いて300rpmで30分間混合した。その後、カンファーキノンおよびエチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエートを光開始剤として添加し、スラリーを24時間ボールミルにかけて、光硬化性懸濁液を得た。固形積載は42体積%であった。
【0086】
第2の混合物については、酸化物粉末を、YAG(Y3Al5O12)の化学量論に従って秤量し、すなわち、Al2O3は42.94g、Y2O3は57.06gである。200gのエタノールと、0.5gの焼結剤としてのテトラエチルオルトシリケート(シグマ・アルドリッチ社製)と、2.0gのMFO(Blown Menhaden Z3/Defloc Z3、ワーナー・Gスミス社製)と一緒に、0.5~2cmの範囲の直径を有するAl2O3ミリング媒体300gを用いて、プラスチック容器中でのボールミリングにより、酸化物粉末の混合物を48時間混合した。次いでエタノールをロータリーエバポレーションにより抽出した。次いで、得られた粉末を、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、Genomer*5695およびベンジルアルコールと一緒に、遊星ミルを用いて300rpmで30分間混合した。その後、カンファーキノンおよびエチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエートを光開始剤として添加し、スラリーを24時間ボールミルにかけて、光硬化性懸濁液を得た。固形積載は42体積%であった。
【0087】
25℃、層厚20μm、露光エネルギー170mJ/cm2で印刷した。
【0088】
各20μm層の半分を第1混合物で印刷し、半分を第2混合物で印刷した。洗浄操作は、印刷体から未重合スラリーを完全に除去するために、混合物の各変更の後、行った。
【0089】
その後、印刷体を洗浄し、120℃で乾燥させた。
【0090】
印刷された試料のサイズは13.5mm×13mmであり、厚さは1.75mmであった。脱バインダーは、600℃で空気中にて行った。焼結は、温度1750℃、ソーキング時間16時間で、タングステン加熱素子を備えた真空炉中で行った。焼結体を鏡面研磨し、真空焼結時に生成したYb2+イオンがYb3+に酸化されるまで大気中でアニールした。最後に、標準的な光学研磨機を用いて、30μmから0.25μmまでの粒径を有するダイヤモンドペーストで試料を研磨した。
【0091】
所望の構造が得られた。
【0092】
例4(比較)
実施例3の手順を同様に繰り返したが、印刷段階における混合物の各変更後の洗浄操作が行われなかったことのみが異なる。
【0093】
物体の両方の部分に混合組成物をもたらしたスラリーの交差汚染のために、所望の構造を得ることができなかった。
【0094】
例5(比較)
実施例3の手順を同様に繰り返したが、印刷ステップが40℃で行われたことのみが異なる。
【0095】
この温度でのスラリーのレオロジー特性のために、所望の並列構造を得ることができなかった。
【0096】
例6(比較)
実施例3の手順を同様に繰り返したが、2.0gのMFOの代わりに2.0gの市販の分散剤Tego(登録商標)Dispers652(エボニック・インダストリーズ社製、エッセン、ドイツ)を使用してセラミック相の前駆体の2つのスラリーを調製したことのみが異なる。
【0097】
スラリーの粘度が印刷を可能にするには高すぎたため、所望の結果を得ることができなかった。
【0098】
実施例7
この実施例では、
図2に示される複合体の3D構造の調製について説明する。
【0099】
2つのスラリーを、実施例3に記載のように調製した。
【0100】
印刷は、
図2に従い、25℃、層厚20μm、露光エネルギー170mJ/cm
2で行った。洗浄操作は、印刷体から未重合スラリーを完全に除去するために、スラリーの各変更の後、行った。
【0101】
その後、印刷体を洗浄し、120℃で乾燥させた。
【0102】
印刷された試料のサイズは13mm×13mmであり、厚さは2mmであった。円形のインセットは、1mmの厚さおよび6mmの直径を有していた。脱バインダーは、600℃の温度で空気中にて行った。焼結は、温度1750℃、ソーキング時間16時間で、タングステン加熱素子を備えた真空炉中で行った。焼結体を鏡面研磨し、真空焼結時に生成したYb2+イオンがYb3+に酸化されるまで大気中でアニールした。最後に、標準的な光学研磨機を用いて、30μmから0.25μmまでの粒径を有するダイヤモンドペーストで試料を研磨した。
【0103】
所望の構造が得られた。
【符号の説明】
【0104】
10、20、30、40、50、60 透明セラミック体
11、12 異なる組成の2つの層
21、22 異なる組成の2つの層
31、32 異なる組成の2つの層
51、52 外側領域
53 中央領域
61 外側領域
62 中央領域
【国際調査報告】