(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】ポリソルベートを検出する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20230419BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20230419BHJP
B01J 20/288 20060101ALI20230419BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20230419BHJP
G01N 30/34 20060101ALI20230419BHJP
G01N 30/64 20060101ALI20230419BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
G01N30/88 C
G01N30/88 N
G01N30/06 Z
B01J20/288
B01J20/281 G
G01N30/34 E
G01N30/88 J
G01N30/64 F
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556029
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(85)【翻訳文提出日】2022-11-16
(86)【国際出願番号】 IB2021052228
(87)【国際公開番号】W WO2021186363
(87)【国際公開日】2021-09-23
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513032275
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン、インテレクチュアル、プロパティー、ディベロップメント、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GLAXOSMITHKLINE INTELLECTUAL PROPERTY DEVELOPMENT LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ケイティ、エイ.カーンズ
(72)【発明者】
【氏名】ジャスティン、ダブリュー.シアラー
(57)【要約】
本発明は、医薬製品中のポリソルベートを検出する方法の提供に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を含有するサンプル中のポリソルベートを同定する方法であって、以下の工程:
(i)前記サンプルを有機プロトン性極性溶媒または有機非プロトン性極性溶媒に曝露することによって、前記タンパク質を沈殿させる工程;
(ii)沈殿させた前記サンプルを遠心分離して前記タンパク質またはペプチドをペレット化することによって、沈殿させた前記サンプルから前記タンパク質を分離し、液体上清を得る工程;
(iii)前記上清をクロマトグラフィーに供することによって、前記ポリソルベートを分離する工程、ここで、前記クロマトグラフィーは、前記上清を、固定化シアノ基を備える固定相カラムに適用すること、および移動相組成物グラジエントを使用して、結合した前記ポリソルベートを溶出させることを含む;および
(iv)発色団が不要な検出器を使用して、分離された前記ポリソルベートを検出し、ポリソルベートを同定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記方法が、インタクトなポリソルベートおよび/またはポリソルベート分解産物を同定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリソルベートを定量する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質サンプルが、抗体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、モノクローナル抗体またはそのフラグメントである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、PS80、PS60、PS40およびPS20のいずれか1つから選択されるポリソルベートを検出する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記発色団が不要な検出器が、荷電化粒子検出器(CAD)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質サンプルが、酢酸またはクエン酸バッファーを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記サンプル中の前記タンパク質が、約5mg/mL~約300mg/mLの濃度で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質の沈殿が、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、THFまたはアセトンから選択される溶媒を使用して実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリソルベートの分離が、固定化シアノ基を備える逆相HPLCカラムを使用して実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記カラムが、≧80オングストロームの孔径を有するシリカカラムである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記溶出が、バッファーAおよびバッファーBからなる移動相であるグラジエント分離移動相を使用して実施され、バッファーAが、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)のH
2O混合液であり、バッファーBが、メタノールまたはアセトニトリルである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリソルベートの分離が、約20℃~約80℃の温度を有する加熱カラムを使用して実施される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
以下の工程:
(i)前記サンプルをメタノールまたはIPAに曝露することによって、前記タンパク質を沈殿させる工程;
(ii)沈殿させた前記サンプルを遠心分離して前記タンパク質をペレット化することによって、沈殿させた前記サンプルから前記タンパク質を分離し、液体上清を得る工程;
(iii)前記上清を、約300オングストロームの孔径を有し、かつ固定化シアノ基を備えるシリカカラムによる逆相HPLCに適用し、AおよびBからなる移動相組成物グラジエントを使用して溶出させることによって、前記ポリソルベートを分離する工程、ここで、Aは、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)のH
2O混合液であり、Bは、メタノールまたはアセトニトリルである;および
(iv)荷電化粒子検出器(CAD)を使用して、分離された前記ポリソルベートを検出し、ポリソルベートを同定する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
タンパク質サンプルを同定する方法であって、
同定される前記タンパク質サンプルが、約10ppm~約5000ppmのインタクトなポリソルベートを含有し、
前記方法が、以下の工程:
(a)前記サンプル中のポリソルベートを測定する工程であって、以下の工程:
(i)前記サンプルを有機プロトン性極性溶媒または有機非プロトン性極性溶媒に曝露することによって、前記タンパク質を沈殿させる工程、
(ii)沈殿させた前記サンプルを遠心分離して前記タンパク質またはペプチドをペレット化することによって、沈殿させた前記サンプルから前記タンパク質を分離し、液体上清を得る工程、
(iii)前記上清をクロマトグラフィーに供することによって、前記ポリソルベートを分離する工程、ここで、前記クロマトグラフィーは、前記上清を、固定化シアノ基を備える固定相カラムに適用すること、および移動相組成物グラジエントを使用して、結合した前記ポリソルベートを溶出させることを含む、および
(iv)発色団が不要な検出器を使用して、分離された前記ポリソルベートを検出し、ポリソルベートを同定する工程
を含む工程;
(b)インタクトなポリソルベートの濃度が約10ppm~約5000ppmである前記タンパク質サンプルを、工程(a)から同定する工程;および
(c)工程(b)において同定された前記タンパク質を単離および回収する工程
を含む、方法。
【請求項17】
工程(c)において単離された前記タンパク質サンプルが、約10ppm~約700ppmのインタクトなポリソルベートを含有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリソルベートが、PS80である、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記発色団が不要な検出器が、荷電化粒子検出器(CAD)である、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項16~19のいずれか一項に記載の方法によって得ることができるまたは得られたタンパク質またはペプチドポリソルベート。
【請求項21】
モノクローナル抗体またはそのフラグメントである、請求項20に記載のタンパク質。
【請求項22】
医薬において使用するための、請求項20または21に記載のタンパク質。
【請求項23】
ヒト対象の治療または診断のための、請求項20または21に記載のタンパク質の使用。
【請求項24】
ヒト対象における疾患を治療するための医薬の製造における、請求項20または21に記載のタンパク質の使用。
【請求項25】
請求項20または21に記載のタンパク質を、1種または2種以上の医薬的に許容される賦形剤と組み合わせて含む、医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬製品中のポリソルベートを検出する方法の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリソルベートは、食品およびバイオ医薬製品の両方において一般に使用される非イオン性界面活性剤である。バイオ医薬製品において、表面、凝集物、および粒子製剤へのタンパク質吸着を防止するために使用され得る。しかしながら、それらのポリソルベートの分解産物が、非経口的に使用される場合に、例えば、注射部位の刺激を引き起こし得るという問題がある。この使用のために、ポリソルベート、特にポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)の完全性をモニターするための分析法の開発に非常に大きな関心が持たれている。商業的に入手可能なPS80は不均一であり、最も一般的なプロセス関連の下位種は、ポリオキシエチレン(POE)基、POEイソソルビドモノエステル、およびPOEソルビタン/イソソルビド ジ、トリ、テトラエステルである。そのため、分析法の開発は困難であった。いくつかの方法が報告されている。
【0003】
以下のことは達成されていない:(1)PS80モノエステルピークの特異性-免疫が、分解したサンプル中の定量を可能にする(specificity - immunity of the PS80 mono-ester peak enables quantification in degraded samples);(2)感度、≦20ppm;(3)確度、95~105%;(4)精度≦5%;(5)移転可能性、品質管理(QC)を含む;(6)従来の紫外可視高速液体クロマトグラフ(HPLC)法と類似する時間、およびほぼ等しいコストでバリデートする能力;(7)インタクトな(intact)PS80および分解されたPS80、ならびに関連する下位種をモニターする能力;(8)タンパク質含有バイオ医薬製剤のためのプラットホーム方法として役割を果たす能力;(9)線形性、R2>0.99;(10)脂肪酸の分解能;(11)質量分析で解釈可能;(12)誘導体化を利用しない;および/または(13)ミセルカプセル化に依存する定量を利用しない。
【0004】
従って、上に詳述した欠点に対処する、かつ/あるいはインタクトなポリソルベートおよび/またはポリソルベート分解産物を検出することができる、ポリソルベートを検出するための改善された方法を提供する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
従って、本発明は、(例えば、抗原結合ポリペプチド(例えば、モノクローナル抗体(mAb))などの医薬タンパク質製品の)タンパク質を含有するサンプル中のポリソルベート、例えばインタクトなポリソルベートおよび/またはポリソルベート分解産物を検出する方法を提供する。
【0006】
それゆえに、本発明の第1の態様において、タンパク質を含有するサンプル中のポリソルベート、例えばインタクトなポリソルベートおよび/またはポリソルベート分解産物を同定する方法であって、前記サンプルを以下の工程:
(i)前記サンプルを有機プロトン性極性溶媒または有機非プロトン性極性溶媒に曝露することによって、前記タンパク質を沈殿させる工程;
(ii)沈殿させた前記サンプルを遠心分離して前記タンパク質またはペプチドをペレット化することによって、沈殿させた前記サンプルから前記タンパク質を分離し、液体上清を得る工程;
(iii)前記上清をクロマトグラフィーに供することによって、前記ポリソルベートを分離する工程、ここで、前記クロマトグラフィーは、前記上清を、固定化シアノ基を備える固定相カラムに適用すること、および移動相組成物グラジエントを使用して、結合した前記ポリソルベートを溶出させることを含む;および
(iv)発色団が不要な検出器を使用して、分離された前記ポリソルベートを検出し、ポリソルベートを同定する工程
に供することを含む、方法が提供される。
【0007】
第2の態様において、本発明は、例えば複数のタンパク質から、タンパク質サンプルを同定する方法であって、
同定された前記タンパク質サンプルが、約10ppm~約5000ppmのインタクトなポリソルベートを含有し、
前記方法が、以下の工程:
(a)前記サンプル中のポリソルベートを測定する工程であって、以下の工程:
(i)前記サンプルを有機プロトン性極性溶媒または有機非プロトン性極性溶媒に曝露することによって、前記タンパク質を沈殿させる工程、
(ii)沈殿させた前記サンプルを遠心分離して前記タンパク質またはペプチドをペレット化することによって、沈殿させた前記サンプルから前記タンパク質を分離し、液体上清を得る工程、
(iii)前記上清をクロマトグラフィーに供することによって、前記ポリソルベートを分離する工程、ここで、前記クロマトグラフィーは、前記上清を、固定化シアノ基を備える固定相カラムに適用すること、および移動相組成物グラジエントを使用して、結合した前記ポリソルベートを溶出させることを含む、および
(iv)発色団が不要な検出器を使用して、分離された前記ポリソルベートを検出し、ポリソルベートを同定する工程
を含む工程;
(b)インタクトなポリソルベート、例えば、PS80の濃度が約10ppm~約5000ppmである前記タンパク質サンプルを、工程(a)から同定する工程;および
(c)工程(b)において同定された前記タンパク質を単離および回収する工程
を含む、方法を提供する。
【0008】
さらに、本発明の第2の態様の方法によって得ることができるまたは得られたタンパク質、さらにまた、医薬における前記タンパク質の使用、例えば、ヒト対象に投与するための医薬製剤の調製における前記タンパク質の使用も提供される。
【0009】
本発明の第1および第2の態様のある実施形態において、タンパク質を含有するサンプル(例えば、mAbなどの抗体サンプル)中のポリソルベート80(例えば、インタクトなPS80ポリソルベートおよび/または分解されたPS80ポリソルベート)を同定する方法が提供される。
【0010】
沈殿させる工程、および溶出と組み合わせた分離する工程は、サンプル中のポリソルベート産物の分離を可能にし、また、検出工程は、PS80および/またはPS60および/またはPS40および/またはPS20などのインタクトなポリソルベートおよび/またはポリソルベート分解産物の検出および分析を可能にする。
【0011】
本発明の第1および第2の態様のある実施形態において、タンパク質またはペプチド(例えば、本明細書において提供されるmAbサンプルなどの抗体)を含有するサンプル中のポリソルベートを同定する方法は、(例えば、PS80および/またはPS60および/またはPS40および/またはPS20の)インタクトなポリソルベートおよび/またはポリソルベート分解産物の測定を含む、サンプル中に存在するPS80および/またはPS60および/またはPS40および/またはPS20などのポリソルベートの量を測定するために使用され得る定量法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、PS80のための合成経路の最後の2工程を示す図である。
【
図2】
図2は、ポリソルベートにおける最も一般的な2種類の分解による分解産物を示す図である。
【
図3】
図3は、PS80モノエステルを定量し、下位種の他の4つのグループを定性的/半定量的にモニターするHPLC-CAD法を使用して得たクロマトグラムを示す図である。
【
図4】
図4は、PS80の種々の起源(実線)およびブランク(点線)についてのクロマトグラムを示す図である。
【
図5】
図5は、種々のポリソルベート(実線)およびブランク(点線)についてのクロマトグラムを示す図である。
【
図6】
図6は、HPLC-CAD法を使用して得た、PS80モノエステルのクロマトグラフィープロファイルを示す図である。
【
図7】
図7は、5℃、25℃、40℃、または-70℃における、21日間までの、サンプル中のPS80分解の動力学を示す図である。
【
図8】
図8は、PS80モノエステルの分解についての、(5℃、25℃および40℃における)速度定数のアレニウスプロットを示す図である。
【
図9】
図9は、クロマトグラム(200ppm標準溶液(複数の公定書に収載されているJ.T.bakerのPS80)、分解したPS80を含むmAbサンプルおよびブランク溶液)のオーバーレイを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書の中で、明確で簡潔な明細書を記述することが可能になるやり方で、実施形態を参照しながら、本発明が記載されている。それらの実施形態は、本発明から逸脱することなく、様々に組み合わされ得る、または分離され得ることが意図されており、そのように解釈されるべきである。
【0014】
別段の定めがない限り、本明細書で使用されている全ての技術的および科学的用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術および生化学における)当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。定量的分析のために、標準的な技術が使用される。
【0015】
本明細書において引用される全ての刊行物(それらに限定されないが、特許および特許出願を含む)は、完全に記述されているのと同じように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0016】
「タンパク質」、「ポリペプチド」、および「ペプチド」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために、本明細書において互換的に使用される。ポリペプチドは、天然(組織由来)起源であり得、原核または真核細胞調製物からのリコンビナントまたは天然発現であり得、または合成方法によって化学的に生成され得る。これらの用語は、1または2以上のアミノ酸残基が、対応する天然起源アミノ酸の人工の化学的模倣物であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然起源アミノ酸ポリマーおよび非天然起源アミノ酸ポリマーにあてはまる。アミノ酸模倣物は、あるアミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然起源アミノ酸と類似する様式で機能する化学物質を指す。非天然残基は、科学および特許文献に十分に記述されており、天然のアミノ酸残基の模倣物およびガイドラインとして有用な、いくつかの例示的な非天然成分を以下に示す。芳香族アミノ酸の模倣物は、例えば、D-またはL-ナフチルアラニン(naphylalanine);D-またはL-フェニルグリシン;D-またはL-2チエニルアラニン(thieneylalanine);D-またはL-1、2-、3-、または4-ピレニルアラニン(pyreneylalanine);D-またはL-3チエニルアラニン(thieneylalanine);D-またはL-(2-ピリジニル)-アラニン;D-またはL-(3-ピリジニル)-アラニン;D-またはL-(2-ピラジニル)-アラニン;D-またはL-(4-イソプロピル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルアラニン;D-p-フルオロ-フェニルアラニン;D-またはL-p-ビフェニルフェニルアラニン;K-またはL-p-メトキシ-ビフェニルフェニルアラニン;D-またはL-2-インドール(アルキル)アラニン;およびD-またはL-アルキルアラニン(alkylainines)によって置換することによって生成され得、ここで、アルキルは、置換または非置換のメチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、イソブチル、sec-isotyl、イソペンチル、または非酸性アミノ酸であり得る。非中性アミノ酸の芳香環としては、例えば、チアゾリル、チオフェニル、ピラゾリル、ベンゾイミダゾリル、ナフチル、フラニル、ピロリル、およびピリジル芳香環が挙げられる。
【0017】
用語「抗原結合ポリペプチド」は、本明細書で使用される場合、抗体、抗体フラグメント、および抗原に結合することができる他のタンパク質コンストラクトを指す。
【0018】
用語「抗体」は、本明細書において、免疫グロブリン様ドメインを有する分子(例えば、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE)を指すための最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、リコンビナント抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体(二重特異性抗体を含む)、およびヘテロコンジュゲート抗体;単一可変ドメイン(例えば、ドメイン抗体(DAB))、抗原結合抗体フラグメント、Fab、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合Fv、単鎖Fv、ジスルフィド結合scFv、二重特異性抗体、TANDABSなど、ならびに前述の任意のものの修飾形態が挙げられる(代替的な「抗体」形態の概要のために、HolligerおよびHudson、Nature Biotechnology、2005、Vol23、No.9、1126-1136を参照のこと)。代替的抗体形態もまた意図され、抗原結合タンパク質の1または2以上のCDRが、適切な非免疫グロブリンタンパク質スキャフォールドまたは骨格(例えば、アフィボディー、SpAスキャフォールド、LDL受容体クラスAドメイン、アビマーまたはEGFドメイン)上に配置されていてもよい、代替的なスキャフォールドが挙げられる。
【0019】
本明細書において互換的に用いられる用語、完全長(full)抗体、全長(whole)抗体またはインタクトな抗体は、分子量がおよそ150,000ダルトンである、ヘテロテトラマー糖タンパク質を指す。インタクトな抗体は、ジスルフィド共有結合によって連結された、2つの同一の重鎖(HC)と、2つの同一の軽鎖(LC)から構成される。このH2L2構造は、折り畳まれて、2つの抗原結合フラグメント(‘Fab’フラグメントとして知られる)と、‘Fc’結晶化可能フラグメントを含む、3つの機能ドメインを形成する。Fabフラグメントは、アミノ末端の可変ドメイン(可変重(VH)または可変軽(VL))と、カルボキシル末端の定常ドメイン(CH1(重)およびCL(軽))から構成される。Fcフラグメントは、対になるCH2およびCH3領域の二量体化によって形成される、2つのドメインから構成される。Fcは、免疫細胞上の受容体に結合することによって、またはC1q(古典的な補体経路の第1成分)と結合することによって、エフェクター機能を誘発し得る。抗体の5つのクラス(IgM、IgA、IgG、IgEおよびIgD)は、それぞれμ、α、γ、εおよびδと呼ばれる、異なる重鎖アミノ酸配列によって規定され、各重鎖は、κまたはλ軽鎖のいずれかと対になり得る。血清中の抗体の大部分は、IgGクラスに属し、ヒトIgGには、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4という4つのアイソタイプが存在し、それらの配列は、主にヒンジ領域において相異している。
【0020】
本明細書で使用される場合、「フラグメント」は、タンパク質またはポリペプチドに関して使用される場合、天然起源タンパク質/ポリペプチド全体のアミノ酸配列と、全部ではなく、一部が同一であるアミノ酸配列を有するタンパク質またはポリペプチドである。フラグメントは、「自立型」であり得、またはより大きなタンパク質またはポリペプチドの中に含まれ得る(単一のより大きなタンパク質/ポリペプチド中の単一の連続的な領域として、その部分または領域を形成する)。
【0021】
用語「単一可変ドメイン」は、抗体可変ドメインに特有な配列を含む、折り畳まれたポリペプチドドメインを指す。「単一可変ドメイン」には、従って、VH、VHHおよびVLなどの完全抗体可変ドメインおよび改変された抗体可変ドメイン(例えば、1つ以上のループが、抗体可変ドメインに特有ではない配列によって置換されている)、またはトランケートされているか、またはNもしくはC末端伸長を含んでいる抗体可変ドメイン、ならびに少なくとも全長ドメインの結合活性および特異性を保持する可変ドメインの折り畳まれたフラグメントが含まれる。本明細書で規定されている単一可変ドメインは、異なる可変領域またはドメインの抗原またはエピトープとは独立して、抗原またはエピトープと結合することができる。「ドメイン抗体」または「DAB」は、ヒト「単一可変ドメイン」と同じであるとみなされ得る。単一可変ドメインは、ヒト単一可変ドメインであり得るが、さらに、げっ歯類(例えば、WO00/29004に記載されているようなげっ歯類)、テンジクザメ科およびラクダ科のVHHなどの他の種由来の単一可変ドメインも含む。ラクダ科のVHHは、ラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、およびグアナコを含む種由来の免疫グロブリン単一可変領域ポリペプチドであり、天然に軽鎖を欠いている重鎖のみの抗体を産生する。このようなVHHドメインは、当該技術分野において利用可能な標準的な技術によってヒト化され得、またこのようなドメインは、「単一可変ドメイン」であるとみなされる。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「ポリソルベート」は、ポリソルベート80(PS80)、ポリソルベート60(PS60)、ポリソルベート40(PS40)およびポリソルベート20(PS20)から選択される一般的なインタクトなポリソルベート、ならびにそれらの分解産物のいずれか1つ(または全部)を指す。インタクトなポリソルベートは、モノエステルとして存在する場合のポリソルベートを指す。本発明の方法によって検出され得るポリソルベートの分解産物としては、長鎖脂肪酸(例えば、パルミチン酸、リノール酸、オレイン酸)、脂肪酸のPOEエステルを含むポリオキシエチレン(POE)基、および短鎖脂肪酸が挙げられる。
図2は、ポリソルベートにおける最も一般的な2種類の分解による分解産物を示す。
【0023】
ポリソルベートは、食品およびバイオ医薬製品の両方において、非イオン性界面活性剤として一般に使用される。ポリソルベートは、バイオ医薬製品において、表面、凝集物、および粒子製剤に対するタンパク質吸着を防ぐために使用される。しかしながら、インタクトなポリソルベートが分解される場合に、問題となることが知られており、例えば、ポリソルベート分解産物は、医薬製品の注射剤における刺激を引き起こし得、また、サンプル(例えば、医薬サンプル)における過剰な混濁度にもつながる。約10ppm~約5000ppmというインタクトなポリソルベートの量が、医薬製品における望ましい量であると一般に考えられている。
【0024】
ポリソルベート、特にポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートまたはTween(商標)80)(これは、最も一般的に使用されるポリソルベートである)の完全性を含む、このようなポリソルベートをモニターする方法の開発に非常に大きな関心が持たれている。商業的に入手可能なPS80は不均一であり、最も一般的なプロセス関連の下位種は、ポリオキシエチレン(POE)基、POEイソソルビドモノエステル、およびPOEソルビタン/イソソルビド ジ、トリ、テトラエステルである。
図1は、ポリソルベート80(PS80)のための合成経路の最後の2工程を示す。
【0025】
しかしながら、PS80、さらにPS60、PS40およびPS20などのインタクトポリソルベートだけではなく、それらの分解産物も検出するための分析法の開発は困難であり、そのような方法の必要性、特にタンパク質含有バイオ医薬製剤に適用し得る方法の必要性が存在する。さらに、FDAなどの機関による医薬的に許容されるタンパク質材料の許可は、そのタンパク質材料に含まれる、ある特定のポリソルベート産物を含むポリソルベートが所定のレベルであるかによって決まる。
【0026】
本発明は、従って、タンパク質を含有するバイオ医薬製剤などの医薬製剤中の、このようなポリソルベートの(例えばインタクトなポリソルベートおよび/またはポリソルベート分解産物の)同定を可能にする方法を提供する。
【0027】
本発明は、また、タンパク質またはペプチドを含有するバイオ医薬製剤中のポリソルベートの測定を可能にする方法も提供する。ポリソルベートの「測定」という用語は、本明細書で使用される場合、そのようなポリソルベートの同定を指し、さらには定量も指す。測定されるポリソルベートは、インタクトなポリソルベートおよび/またはポリソルベート分解産物であり得る。本明細書において提供される方法は、正確であり、従来のHPLCと同様の時間で実施することができ、問題となり得る誘導体化またはミセルカプセル化の使用に頼らないため、有利である。誘導体化またはミセルカプセル化は、サンプル調製の複雑性を増大させ得、平衡動力学に依存し得(これは、精度に悪影響を与え得る)、マトリックスに対する、信号雑音比に悪影響を与える追加の成分を利用することがあり得る。
【0028】
それゆえに、第1の態様において、本発明は、タンパク質を含有するサンプル(例えば、mAbサンプルなどの抗体)中のポリソルベート(例えば、インタクトなポリソルベートおよび/またはポリソルベート分解産物)を同定する方法であって、前記サンプルを以下の工程:
(i)前記サンプルを有機プロトン性極性溶媒または有機非プロトン性極性溶媒に曝露することによって、前記タンパク質を沈殿させる工程;
(ii)沈殿させた前記サンプルを遠心分離して前記タンパク質またはペプチドをペレット化することによって、沈殿させた前記サンプルから前記タンパク質またはペプチドを分離し、液体上清を得る工程;
(iii)前記上清をクロマトグラフィーに供することによって、前記ポリソルベートを分離する工程、ここで、前記クロマトグラフィーは、前記上清を、固定化シアノ基を備える固定相カラムに適用すること、および移動相組成物グラジエントを使用して、結合した前記ポリソルベートを溶出させることを含む;および
(iv)発色団が不要な検出器を使用して、分離された前記ポリソルベートを検出し、ポリソルベートを同定する工程
に供することを含む、方法を提供する。
【0029】
沈殿させる工程、および溶出と組み合わせて分離する工程は、サンプル中のポリソルベート産物(例えば、インタクトなポリソルベートおよびポリソルベート分解産物)の分離を可能にし、また検出工程は、ポリソルベート産物(例えば、インタクトなポリソルベートおよびポリソルベート分解産物、例えば、インタクトなPS80および/またはPS60および/またはPS40および/またはPS20ならびにそれらの分解産物)の検出、同定および定量を可能にする。一実施形態において、タンパク質含有サンプル(例えば、本明細書において提供されるmAbサンプルなどの抗体)中のインタクトなポリソルベートを測定する方法は、サンプル中に存在するPS80および/またはPS60および/またはPS40および/またはPS20などのインタクトなポリソルベートおよび/またはポリソルベート分解産物の量の測定を可能にする定量法である。
【0030】
ある実施形態において、本発明の方法は、タンパク質含有サンプル(例えば、mAbサンプルなどの抗体、または細胞、または異種治療遺伝子を発現するベクターを含有するタンパク質)などのサンプル中のインタクトなポリソルベートの分解を、例えば、そのようなタンパク質含有サンプルの安定性を評価するための時間にわたって、モニターするために使用され得る。
【0031】
本発明は、また、タンパク質含有サンプル中のインタクトなポリソルベートの量を、(例えば、そのようなサンプル中に存在するインタクトなPS80および/またはインタクトなPS60および/またはインタクトなPS40および/またはインタクトなPS20の量を測定するために)測定する方法の使用も提供する。
【0032】
第2の態様において、本発明は、例えば複数のタンパク質から、タンパク質サンプルを同定する方法であって、
同定された前記タンパク質サンプルが、約10ppm~約5000ppmのインタクトなポリソルベートを含有し、
前記方法が、以下の工程:
(a)前記タンパク質サンプル中のポリソルベートを測定する工程であって、以下の工程:
(i)前記サンプルを有機プロトン性極性溶媒または有機非プロトン性極性溶媒に曝露することによって、前記タンパク質を沈殿させる工程、
(ii)沈殿させた前記サンプルを遠心分離して前記タンパク質またはペプチドをペレット化することによって、沈殿させた前記サンプルから前記タンパク質を分離し、液体上清を得る工程、
(iii)前記上清をクロマトグラフィーに供することによって、前記ポリソルベートを分離する工程、ここで、前記クロマトグラフィーは、前記上清を、固定化シアノ基を備える固定相カラムに適用すること、および移動相組成物グラジエントを使用して、結合した前記ポリソルベートを溶出させることを含む、および
(iv)発色団が不要な検出器を使用して、分離された前記ポリソルベートを検出し、ポリソルベートを同定する工程;
を含む工程;
(b)インタクトなポリソルベートの濃度が約10ppm~約5000ppmである前記タンパク質サンプルを、工程(a)から同定する工程;および
(c)工程(b)において同定された前記タンパク質を単離および回収する工程
を含む、方法を提供する。
【0033】
本発明の第2の態様の一実施形態において、インタクトなポリソルベートは、PS80および/またはPS60および/またはPS40および/またはPS20である。
【0034】
さらに、本発明の第2の態様の方法によって得られたまたは得ることができるタンパク質、さらにまた、医薬における前記タンパク質の使用、例えば、ヒト対象に投与するための医薬製剤の調製における前記タンパク質の使用も提供される。
【0035】
本発明はまた、本発明の第2の態様の方法から得ることができるまたは得られたタンパク質(例えば、抗体)(前記タンパク質は、約10ppm~約4000ppm、または約10ppm~約3000ppm、または約10ppm~約2000ppm、または約10ppm~約800ppm、または約10ppm~約700ppmで存在するインタクトなポリソルベートを含有する)もまた提供し、さらにまた、医薬における、例えば、ヒト対象に投与するための医薬製剤における、前記タンパク質の使用も提供する。
【0036】
タンパク質が、細胞療法において使用するための抗体、または細胞、または異種治療遺伝子を発現するベクターを含有するタンパク質である実施形態において、タンパク質中に存在するインタクトなポリソルベートの量は、約10ppm~約700ppmである。サンプル中に存在する、および本発明の方法が適用され得るタンパク質の濃度は、約5mg/mL~約300mg/mL、約5mg/mL~約200mg/mL、約5mg/mL~約50mg/mL、約5mg/mL~約20mg/mL、約5mg/mL~約10mg/mL、約10mg/mL~約20mg/mL、約15mg/mL~約50mg/mLまたは約20mg/mL~約50mg/mLであり得る。
【0037】
本発明の方法は、任意の天然またはリコンビナントタンパク質に適用され得る。タンパク質サンプルは、例えば、治療的タンパク質、予防的タンパク質または診断的タンパク質を含み得る。例えば、方法は、抗原結合コンストラクト(例えば、抗体または抗体フラグメント(例えば、抗体の生物学的に機能性のフラグメント))を含むサンプルに適用され得、方法は、また、ワクチン組成物、細胞、または異種治療遺伝子を発現するベクターを含有するタンパク質にも適用され得る。
【0038】
タンパク質サンプルが抗体である場合、その抗体は、例えば、モノクローナル抗体(mAb)または二重特異性もしくは多重特異性抗体、またはそれらのフラグメントであり得る。抗体は、キメラ、ヒト化またはヒト抗体であり得る。タンパク質が抗体フラグメントである場合、その抗体フラグメントは、例えば、Fab、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合Fv、単鎖Fv、ジスルフィド結合scFv、二重特異性抗体、TANDABS(商標)、抗体のCDR、および前述の任意のものの修飾形態であり得る。
【0039】
抗体フラグメントはまた、ヒトVHもしくはVL単一可変ドメイン、またはラマもしくはラクダ科などの非ヒト起源の単一可変ドメイン(例えば、(なかでも、WO94/04678およびWO95/04079に記載されている)Nanobody(商標)を含むラクダ科のVHH)などの単一可変ドメイン(または、dAB)でもあり得る。これらの抗体または単一可変ドメインの任意のもののCDRの(例えば、タンパク質スキャフォールドの一部としての)使用もまた意図されている。
【0040】
本発明の方法において使用するためのタンパク質サンプルは、水性媒体中の液体または懸濁液形態であり得、または、例えば、凍結乾燥され、次いで水性媒体中で再構成され得る。タンパク質サンプルは、タンパク質および水に加えて、追加の希釈剤(例えば、医薬的に許容される希釈剤)をさらに含み得る。このような医薬的に許容される希釈剤としては、例えば、水などの溶媒、塩化ナトリウム溶液、糖、酢酸などのバッファー、塩化ナトリウムなどの塩、および/または他の賦形剤が挙げられる。一実施形態において、バッファーは、酢酸またはクエン酸バッファーであり得る。
【0041】
本発明の方法は、液体バイオ医薬製剤(例えば、mAb製剤)などの液体サンプルを含有するタンパク質中のポリソルベート(例えば、インタクトなポリソルベート)およびポリソルベート(例えば、PS80および/またはPS60および/またはPS40および/またはPS20)の分解した種を検出するために特に有用である。
【0042】
本発明の方法は、また、オリゴヌクレオチドを含むサンプル、細胞療法のための操作された細胞にも適用され得、さらにまた、ヒト対象に投与するための治療的遺伝子を含有する操作されたベクター(例えば、ウイルスベクター)などの遺伝子療法製品にも適用され得る。
【0043】
本発明の方法はまた、化学物質(NCE)である小分子を含むサンプル中のポリソルベートを測定するために使用され得、ここで、そのようなNCEサンプルは、タンパク質を含まず、ゆえにタンパク質沈殿を省略し得、かつ有機プロトン性極性溶媒または有機非プロトン性極性溶媒の量を調節し得る。
【0044】
本発明の方法は、pH値はこの方法の実施に決定的ではないため、幅広いpH範囲、例えば、約pH5~約pH10、または約pH6~約pH8にわたって実施することができる。本発明の方法に従って分析されるタンパク質サンプルは、約pH6.0~約pH8.0のpH、例えば、約7.4~約6.8のpHを有し得る。
【0045】
タンパク質沈殿工程において使用するための有機プロトン性極性溶媒は、当該技術分野においてよく知られており、この用語は、本明細書で使用される場合、化学変化を起こしやすいプロトンを含み、イオン化することができる有機溶媒を指す。本発明の方法において使用することができるこのような溶媒の例は当業者によく知られており、例えば、メタノール、エタノール、およびイソプロピルアルコール(IPA)が挙げられる。例えば、タンパク質が抗体である場合、タンパク質沈殿工程において、メタノール、IPAまたはアセトンが使用され得る。
【0046】
タンパク質沈殿工程において使用される有機非プロトン性極性溶媒は、当該技術分野においてよく知られており、この用語は、本明細書で使用される場合、化学変化を起こしやすいプロトンを含まない有機溶媒を指す。本発明の方法において使用することができるこのような溶媒の例は当業者によく知られており、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、およびアセトニトリルが挙げられる。
【0047】
この方法は、幅広い範囲の溶媒濃度にわたって実施することができ、この方法を、抗体を含むサンプルに対して実施する場合、体積/体積希釈は、サンプル約1部に対して溶媒約5部、9部または約19部であり得る。
【0048】
遠心分離工程は、タンパク質ペレットを得るために十分な速度および時間で実施することができ、例えば、少なくとも約10,000rpmで、少なくとも約10分間実施することができる。
【0049】
分離工程は、カラムクロマトグラフ法を使用して、例えば、逆相媒体またはミックスモード保持クロマトグラフィーを使用して実施することができる。このようなミックスモードクロマトグラフィーは、2つ以上の保持メカニズム、例えば、順相、カチオン交換およびアニオン交換を組み合わせて使用することを含む。
【0050】
ある実施形態において、本発明の方法の分離方法は、当業者に知られている方法を使用して、逆相クロマトグラフィーカラムで実施することができ、ここで、カラムは、C3またはそれより長い、例えば、C4~約C18の炭素鎖を有する基を含む。
【0051】
一実施形態において、固定化シアノ基を備えるカラム(例えば、固定相に固定化シアノ基を備える逆相クロマトグラフィーカラム)が使用される。シアノ基は、当該技術分野においてよく知られており、基-CNを含む任意の化学物質である。本発明の方法において、任意のシアノ基が使用され得る。本発明の方法に従って有用に使用され得る、CN基を備えるカラムは、Agilent Zorbax SB300-CNであり、Agilent Zorbax SB300-CN、Phenomenex Luna CN、またはAgilent InfinityLab Poroshell 120 EC-CNが挙げられる。
【0052】
カラムは、(例えば、孔径が約80オングストローム以上の)シリカビーズカラムであり得る。ある実施形態において、孔径は、約120~約300オングストロームである。例えば、約300オングストロームの孔径が使用され得る。適切なシリカカラムとしては、例えば、Agilent Zorbax SB300-CN、Phenomenex CN、またはAgilent InfinityLab Poroshell 120 EC-CNが挙げられる。一実施形態において、使用されるカラムは、Agilent Zorbax SB300-CN、3.5μm、150×4.6mm(Agilent Co.、Santa Clara、CA、USAから入手可能)である。カラムは、加熱してもよく、例えば、カラムの温度は、約20℃~約80℃、または約40℃~約60℃、または約50℃であり得る。
【0053】
ある実施形態において、溶出工程は、グラジエント分離移動相を使用して実施され、このグラジエント分離移動相は、例えば、AおよびBのグラジエント分離移動相であり得る。一実施形態において、AおよびBのグラジエント分離移動相が利用され、ここで、Aは、酸または酢酸アンモニウムの0.1%~約10%H2O混合液であり、この酸は、トリフルオロ酢酸(TFA)、ギ酸、酢酸、ジフルオロ酢酸から選択され得、Bは、メタノール、イソプロパノール(isopropranol)またはアセトニトリルであり得る。ある実施形態において、AおよびBのグラジエント分離移動相が利用され、これは、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)のH2O混合液であり、Bは、メタノールまたはアセトニトリルである。AとBのグラジエント分離移動相は、下記表1に詳述するようにして実現され得る。
【0054】
【0055】
本発明の方法において使用される検出器は、発色団が不要な検出器であり、そのような検出器は、検出するサンプルが発色団を欠く場合に機能するものである。
【0056】
ある実施形態において、本発明の方法において使用される検出器は、蒸発光散乱検出器であり得るか、または質量分析法が検出のために使用され得る。
【0057】
別の実施形態において、荷電化粒子検出器(CAD)が、本発明の方法における検出器として使用され、これは、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と組み合わせて使用される検出器であり、不揮発性および半揮発性分析物を、高電圧コロナワイヤーで荷電させてある窒素ガスで荷電させることによって機能する。この荷電させた分析物粒子を、次いで、高移動度種(すなわち、溶媒)を除去するイオントラップを通過させ、引き続いてコレクターに移動させ、そこで高感度の電位計によって測定される。使用され得るCADとしては、Corona Veo(Thermo Waltham、MA、USAから入手可能)、Corona Veo RS(Thermo Waltham、MA、USAから入手可能)、Vanquish(Waltham、MA、USAから入手可能)、Corona UltraおよびUltra RS(Thermo Waltham、MA、USAから入手可能)、Corona Plus(Thermo Waltham、MA、USAから入手可能)が挙げられる。
【0058】
CADが提供する特徴の1つは、荷電したフラグメントを生じさせる質量分析法とは異なり、分析物の表面を荷電させることによって、インタクトな種を測定する能力である。さらに、類似する表面積および密度を有する分析物について、応答は類似している。最後に、揮発性が非常に高い溶出液を使用する場合、CAD法は、また、非常に高感度(1ナノグラム未満)でもあり得る。
【0059】
CADは操作が容易であるが、標準的なHPLC-UV/Vis(紫外可視分光)分析法の開発において、さらに考慮すべきことがある。それらとしては、(1)脱落しないカラムを選択すること;(2)低く、再現性のあるベースラインのために、移動相中に高純度溶媒を利用すること;および(3)混入物による干渉の可能性がより大きいため、ガラス器具およびプラスチックを洗浄することが挙げられる。ダイオードアレイまたは質量分析計(MS)検出を利用する場合にはピーク純度を識別する方法が存在しないため、CADを利用する場合、高い特異性を実現することが重要である。特異性が実現できない場合、観測されるシグナルは、紫外可視分光光度測定における場合のように、単純に応答の合計ではなく、応答における相異は、移動相の成分に対する分析物の電荷、表面積、密度、および電圧の相異によってしばしば複雑化することにも留意すべきである。これらの理由により、CADは、PS80の分析のための検出器としてよく適している。
【0060】
ある実施形態において、本明細書に記載されている方法において使用される荷電化粒子検出器(CAD)は、Corona Veo RS(Thermo、Waltham、MA、USAから入手可能)である。
【0061】
CADを使用して実行される検出工程によって、結果として、選ばれたブランク溶液を使用してベースラインが得られるクロマトグラムであって、サンプル中のインタクトなポリソルベートについての、分解産物についての、ならびにタンパク質および賦形剤についてのピーク面積を含むクロマトグラムが得られる。曲線下面積計算を使用したピーク面積の評価によって、PS80、および/またはPS60、および/またはPS40、および/またはPS20などのポリソルベートならびにそれらの分解産物の定量が可能になる。ある実施形態において、この方法によって、PS80、例えばインタクトなPS80および分解されたPS80の同定が可能になる。
【0062】
本発明の方法を使用した分離に言及する場合、意味することは、インタクトなポリソルベートピーク(すなわち、モノエステル)が、オレイン酸ピークから分離されなければならないということである。オレイン酸ピークとインタクトなポリソルベートモノエステルピークの間の分解能は、1.5以上である。他のピークは、互いに単純に識別可能である必要がある。さらに、ある実施形態において、インタクトなポリソルベート(すなわち、モノエステル)の保持時間における、面積で約3%を超える妨害ピークが存在しないという特異性要件が存在する。ある実施形態において、本発明は、タンパク質(例えば、抗体サンプル)を含有するサンプル中のポリソルベートを同定する方法であって、以下の工程:
(i)前記サンプルをメタノールまたはIPAに曝露することによって、前記タンパク質を沈殿させる工程;
(ii)沈殿させた前記サンプルを遠心分離して前記タンパク質またはペプチドをペレット化することによって、沈殿させた前記サンプルから前記タンパク質を分離し、液体上清を得る工程;
(iii)前記上清を、約300オングストロームの孔径を有し、かつ固定化シアノ基を備えるシリカカラムによる逆相HPLCに適用し、AおよびBからなる移動相組成物グラジエントを使用して溶出させることによって、前記ポリソルベートを分離する工程、ここで、Aは、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)のH2O混合液であり、Bは、メタノールまたはアセトニトリルである;および
(iv)荷電化粒子検出器(CAD)を使用して、分離された前記ポリソルベート産物を検出し、ポリソルベートを同定する工程
を含む、方法を提供する。
【実施例】
【0063】
以下の実施例を参照しつつ、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の種々の態様を例証するためのものにすぎず、本発明を限定することを意図するものではない。
【0064】
実施例1:(i)PS80モノエステルを定量する能力を有する、本発明の方法による新しいHPLC-CAD解析と、(ii)蒸発光散乱検出-HPLC-ELSD法を使用した改変HPLC法のいずれかによる、mAb医薬製品中に存在するPS80およびその下位種の測定の比較。
【0065】
使用した試薬および方法は以下の通りである。
複数の公定書に収載されているJ.T.bakerのPS80は、Fisher Scientific(Atlanta、GA、USA、02-003-654)から購入した。PS80の2つの起源は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA)から購入した:(1)自然色のプラスチック容器(パーツ番号P1754-25ML)に保存したPS80、および(2)褐色のガラス容器(パーツ番号59925-100G)に保存したPS80。高度に精製されたPS80は、Croda Health Care(Edison、NJ、USA、SR48833)から購入した。全オレエートChP適合PS80は、NOF(White Plains、NY、USA)から購入し、非GMPのPS80、POLO80(HX2)(19B803364)であった。ポリソルベート60は、USP Reference Standard(Rockville、MD、USA、154794)から購入した。ポリソルベート40は、Fisher Scientific(Atlanta、GA、USA、AC334142500)から購入した。オレイン酸は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA、75090-5ML)から購入した。リノール酸は、Fisher Scientific(Atlanta、GA、USA、AC215040250)から購入した。パルミチン酸は、MP Biomedicals(Santa Ana、CA、USA、100905-10G)から購入した。パルミトレイン酸は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA、76169)から購入した。クロマトグラフィー(LC-MSまたはGC)グレードのメタノールは、Fisher Scientific(Atlanta、GA、USA、A456-4)またはVWR(Honeywell/Burdick&Jackson、GCグレード、純度≧99.9%、BJGC 230-4)から購入した。超純水(MilliQ水)を生成するために、Milli-Q純水製造装置(Millipore Corporation、Burlington、MA、USA)を使用した。トリフルオロ酢酸(TFA)は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA、91707-10x1mL)から購入した。他の沈殿溶媒(イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン(THF))は、クロマトグラフィーグレードであり、Sigma-Aldrichから購入した。HPLC-ELSD法のために、HPLCグレードのメタノール(646377-4L)およびアセトニトリル(439134-4L)をSigma-Aldrich (St.Louis、MO、USA)から購入した。Honeywell Flukaのギ酸(94318-250ML)は、Fisher Scientific(Atlanta、GA、USA、AC334142500)から購入した。
【0066】
使用した機器および分析条件は以下の通りである。
【0067】
タンパク質沈殿およびPS80抽出
新しいHPLC-CAD分析法のために、以下のように実施した。注入前にタンパク質[すなわち、mAb医薬製品]を除去するために、沈殿溶媒(メタノール、イソプロパノール、および/またはアセトン)によってタンパク質を沈殿させた。さらに、可能性のあるあらゆるタンパク質-PS80相互作用を妨害するため、およびリパーゼまたはエステラーゼによって起こるあらゆる分解を阻害するために、沈殿を利用した。濾過は、いくつかのポリソルベート種が除去されるため、実行可能な選択肢ではない。よって、900μLの沈殿溶媒を、事前に(メタノールまたは沈殿溶媒で)リンスした1.5mLエッペンドルフセーフロックチューブ(Hauppauge、NY、USA、022363204)中の100μLのサンプルに加えた。サンプル調製物を、次いで、ボルテックスして短時間(約5秒)混合し、14,000rpmで10分間遠心した。PS80種および脂肪酸は、上清中に可溶性のままであった。最小限の60μLの上清を、300μLのインサートを備えたHPLCバイアルに移した。
【0068】
100mLクラスAメスフラスコの中に複数の公定書に収載されているJ.T.BakerのPS80を100±10mg秤取し、容量までメタノールで希釈することによって、1,000ppmPS80ストック標準溶液を調製した。100μLのMilliQ水、20μLの1,000ppmPS80ストック標準溶液、および880μLのメタノールを、事前に(沈殿溶媒で)リンスした1.5mLエッペンドルフチューブ中でボルテックスして混合することによって、20ppmPS80ワーキング標準溶液を調製した。よって、標準のための最終的な希釈剤組成(90%沈殿溶媒:10%MilliQ H2O/水性)は、サンプルのものと同じであった。PS60、PS40、およびPS20溶液は、同様にして調製した。
【0069】
20ppmPS80および5ppmオレイン酸ストック標準溶液を含有する分解能チェック溶液を調製した。898μLの有機溶媒、100μLの水、および2μLの1,000ppmPS80ストック標準溶液を混合することによって、感度溶液を調製した。mAb製剤バッファーをバルクで調製し、アリコートし、分析の日まで-70℃で保存した。LC-MSまたはGCグレードのメタノールで希釈することによって、20ppmPS80製剤バッファー調製物を作製した。サンプル調製物はタンパク質を含まないので、遠心分離工程は不要であった。
【0070】
熱的ストレスサンプルのために、mAb/タンパク質含有製剤の複数のバイアルを-70℃、5℃、25℃、および40℃で3週間インキュベートし、各タイムポイント(開始時、1日、2日、3日、4日、7日、14日および21日)においてバイアルをオーブンから取り出し、分析の時まで-70℃で凍結させた。
【0071】
改変HPLC-ELSD分析法のために、以下のようにして実施した。疑われるPS80-タンパク質相互作用のために、およびあらゆる酵素的分解を停止させるために、水による希釈に代えて、タンパク質をメタノールで沈殿させた。タンパク質を沈殿させ、PS80を抽出するために、800μLの有機溶媒を、1.5mLマイクロ遠心管中の200μLのサンプルに加え、ボルテックスして混合した。混合後、サンプルを5℃、10,000rpmで、30分間遠心した。遠心後、200μLの上清を、300μLのインサートを備えたHPLCバイアルに移した。
【0072】
サンプル中のPS80含有量の定量は、較正曲線を作成することによって実現した。HPLC-ELSD検出器の特性のため、標準曲線のマトリックスは、サンプルの代表でなければならない。代表的マトリックスを実現するために、500mgの複数の公定書に収載されているJ.T.BakerのPS80を50.0mL低化学線クラスAメスフラスコに秤取し、容量までHPLCグレードのメタノールで希釈して、10,000ppmPS80ストック溶液を調製した。さらに、0.5mLの10,000ppmPS80ストック溶液を、次いで、10.0mLメスフラスコに加え、HPLCグレードのメタノールで容量にして500ppmストック溶液を調製した。500ppmストック溶液を使用して、メタノール/水溶液(80:20(v/v))中の較正標準(予期されるPS80濃度は10ppm、25ppm、50ppm、100ppm、150ppm、200ppm、および250ppmである)を調製した。20ppmPS80調製物は、HPLCグレードのメタノールで希釈することによって作製した。調製物はタンパク質を含まないため、遠心分離工程は行わなかった。サンプルクロマトグラムを
図9に示す。要約すると、
図9は、改変HPLC-ELSD法によって収集したクロマトグラム(200ppm標準溶液(複数の公定書に収載されているJ.T.BakerのPS80)、分解したPS80を含むmAbサンプル、およびブランク溶液)のオーバーレイを示す。
図9において、200ppmの標準は、最大のピークを有し、-20℃サンプル(-20 sample)は、中間の、より小さいピークを有する。
【0073】
新しいHPLC-CAD法:
Agilent HPLC1260システム(Santa Clara、CA、USA)は、二成分溶媒マネージャー、23℃に設定されたサンプルマネージャー、50℃に設定されたカラムオーブンおよび荷電化粒子検出器(CAD)Veo RS(Thermo、Waltham、MA、USA)を含んでいた。CADは、80cmの配管(Agilent、01078-87305)によって、分析カラムと直接接続され、分析カラムは、180mmの配管(Agilent、G1313-87305)によって3μLのペルチェと直接接続されていた。HPLCカラムヒーターは、標準的な配管によってHPLCオートサンプラーと直接接続されており、紫外可視分光光度計(UV/Vis)とカラム切り替えバルブは、両方ともバイパスされていた。
【0074】
分析カラムは、Agilent Technologies(Wilmington、DE、USA)から入手したZorbax SB300-CN(150mm×4.6mm、3.5μm 300Å、863973-905)であった。0.1%(v/v)TFAのMilliQ水溶液(MP A)と、100%LC-MSまたはGCグレードのメタノール(MP B)からなる揮発性移動相(MP)を使用した。さらに、清浄度、および上にリストしたパラメーターでCADのベースラインレベルが10mVを下回ることを確実にするために、移動相は、35%MP A:65%MP Bで1.2mL/分で流すことによって、プレスクリーニングした。PS80下位種の分離は、流速1.2mL/分でグラジエント溶出(0.1%TFAのMilliQ水溶液は、0分-100%;1分-100%;3分-50%;8分-50%;27分-5%;30分-5%;および30.1分-100%であった)することによって実現した。この方法の全体的なランタイムは、40分であった。インジェクションボリュームは、30.0μLであった。Thermo Veo RS CADは、以下の設定で稼働させた:蒸発温度、60℃;パワーファンクション、1.00;アウトプットオフセット、0%;フィルター、5.0秒;レンジ100pA。インハウスの窒素供給を使用した。CADアナログ信号を、e-SAT/INモジュール(Waters、Milford、MA、USA、668000230)を使用することによって、デジタル信号に変換した。
【0075】
改変HPLC-ELSD法:
本発明は、HewittとKoppoluの方法からの改変法であった。Agilent HPLC1100システム(Santa Clara、CA、USA)は、二成分溶媒マネージャー、25℃に設定されたサンプルマネージャー、30℃に設定されたカラムオーブンおよびAgilent 1260 Infinity G4260B蒸発光散乱検出器(ELSD、Agilent Technologies、Wilmington、DE、USA)を含んでいた。ELSDは、分析カラムと直接接続され、分析カラムは、3μLのペルチェと直接接続されていた。HPLCカラムヒーターは、標準的な配管によってHPLCオートサンプラーと直接接続されており、紫外可視分光光度計(UV/Vis)とカラム切り替えバルブは、両方ともバイパスされていた。
【0076】
分析カラムは、Waters Corporation(Milford、MA、USA)から入手したOasis(登録商標)MAX(20mm×2.1mm、30μm 80Å、パーツ番号186002052)であった。2%(v/v)ギ酸のMilliQ水溶液及び2%(v/v)ギ酸のイソプロパノール溶液からなる揮発性の移動相を使用した。フローは、ランの最初の4分間ELSDを迂回させ、分離は、流速1.0mL/分でグラジエント溶出(2%ギ酸のMilliQ水溶液は、0分-90%;1分-80%;3.4分-80%;3.5分-0%;4.5分-0%;4.6分-90%;および10分-90%であった)することによって実現した。インジェクションボリュームは、50.0μLであった。Agilent 1260 Infinity G4260B ELSDは、以下の設定で稼働させた:LED、10;ゲイン(PMT)、2;smooth(Smth)、1;データアウトプット、80Hz;蒸発温度、80℃;ネビュライザー温度、50℃;ガスフロー(SLM)、1。インハウスの窒素供給を使用した。CADアナログ信号を、e-SAT/INモジュール(Waters、Milford、MA、USA、668000230)を使用することによって、デジタル信号に変換した。
【0077】
新しいHPLC-CAD分析データ解析のために、積分および計算を以下のように実施した:
三つ組みの調製のPS80モノエステル濃度の平均を報告した。改変HPLC-ELSD法との比較のための全エステル(モノエステルおよびマルチエステル)を定量するために、線形性の準備において、PS80モノエステルおよびマルチエステルの面積をグループ化することによって全エステルのための較正曲線を作成した。よって、HPLC-CAD法における全エステル領域は、改変HPLC-ELSD法における単一ピークと類似しており;POE基は、各注入の最初の4分間の間にバルブ切り替えで廃棄用に迂回している時に溶出するため、単一ピーク中に含まれていない。
【0078】
アレニウス動力学モデリングを、PS80分解の速度を評価するために、および安定性または活性化エネルギー(Ea)を推定するために使用した。PS80モノエステルの加水分解性の分解は、以前に説明されているように、擬一次反応であると推定された。速度定数は、動的粘度の変化による影響を及ぼす変化がないという前提で、濃度対時間の自然対数プロットの傾きから決定された。全ての線形プロットについて、傾きの相対誤差解析を、以前に説明したようにして実施した。
【0079】
【0080】
式中、nは、データポイントの数であり、aは、傾きであり、bは、y切片である。
【0081】
改変HPLC-ELSD分析法データ解析のために、積分および計算は、バッチデータ処理によって、保持時間、ピーク面積、および他のクロマトグラフィー性能指数の取得が可能になるように、Empower3を使用して実施した。同様に、新しいHPLC-CAD法データ解析のために、積分および計算は、バッチ処理データ処理によって、保持時間、ピーク面積、分解能、S/N、および他のクロマトグラフィー性能指数の取得が可能になるように、Empower3を使用して実施した。
【0082】
結果:
上記の新しいHPLC-CAD法によって、正確かつ精密にPS80モノエステルが定量され、下位種の他の4つのグループが定性的/半定量的にモニターされることが見出された。本出願人らは、単純さのために、CAD応答は非線形であるが、線形である濃度範囲を選択した。較正曲線は、また、検出力関数アルゴリズムを適用することによっても線形化され得る;しかしながら、ベースラインの再現性がなければ、このようなアルゴリズムは、常にあてはまり得るわけではない。
【0083】
マトリックス干渉は、(1)PS80を含まないIgG医薬製品;および(2)完全に分解した(<定量限界(LOQ))PS80モノエステルを含むmAbサンプルにおける、添加(スパイク)したPS80の回収率を評価することによって評価した(表2および以下の議論を参照のこと)。分解したサンプルは、トレハロース、メチオニン、アルギニン、ヒスチジン、mM EDTA、およびPS80を含有する水性バッファー中に、タンパク質を含有していた。他のサンプルは、トレハロース、クエン酸、EDTA、およびPS80を含有する水性バッファー中に、タンパク質を含有していた。分解したサンプル中の特異性を評価するために、脂肪酸(リノール酸、パルミチン酸、オレイン酸、およびパルミトレイン酸)も、5ppmの濃度で、20ppmPS80ワーキング標準溶液の中に添加(スパイク)した(
図3参照)。要約すると、
図3は、PS80モノエステルを定量し、下位種の他の4つのグループを定性的/半定量的にモニターする、詳述したHPLC-CAD法を使用して得たクロマトグラムを示す。このクロマトグラムは、ブランク(破線)と、10ppmの脂肪酸を添加(スパイク)した20ppmPS80(複数の公定書に収載されているJ.T.baker)標準溶液(実線)のオーバーレイを示す。ピーク:1=保持されない製剤バッファー成分(トレハロース、アミノ酸、EDTA、溶媒中の塩不純物、および/またはサンプル残渣);2=POE基;3=パルミトレイン酸;4=リノール酸;5=パルミチン酸;6=オレイン酸;7=PS80モノエステル(ソルビタンおよびイソソルビド);8=ジエステル;9=トリエステル;10=テトラエステル;*(もしあれば)、エッペンドルフチューブ由来の混入物。PS80ピークの同定は、それらの相対的疎水性に基づいて予期される分析物の溶出順序によって、以前に報告されているLC-MS結果[17、30]と一致しているものと考える。
【0084】
mAb医薬製品による方法の検定は完了した。
【0085】
検定は、精度、線形性、確度、特異性、およびLOQからなる(表2)。各注入についてCAD応答を使用して、平均濃度、標準偏差、および相対標準偏差を算出した。精度は、2~3回の機会における三つ組みの調製物の平均の解析によって評価した。精度は、また、製剤バッファー(またはアッセイ対照)を使用して、2回の解析間で、5回のアッセイ機会における二つ組の注入の再現性解析によっても評価した。中間の精度は、1人の分析者が1つのシステムで2回の独立したアッセイ機会を実施し、2人目の分析者が2つ目のシステムで、3回の独立したアッセイ機会を実施することによって決定した。
【0086】
【0087】
mAb医薬製品は、三つ組みで試験し、結果を統計的に解析して、平均濃度、標準偏差、および相対的標準偏差を決定した。
【0088】
線形性は、2人の分析者による、5つの独立したアッセイ機会の反復によって評価した。各曲線の決定係数(R2)は、線形回帰によって決定した。確度は、添加(スパイク)回収アプローチを使用して決定した。2人の分析者が、5回のアッセイ機会における三つ組みで、20ppmPS80を、調合物中にPS80を含まないサンプルに導入した。この調製物は、また、特異性を裏付けるためにも使用した。特異性は、また、分解能チェック溶液中のPS80モノエステルとオレイン酸ピークの分解能によって、および90%有機溶媒/10%水ブランク注入におけるPS80モノエステルの溶出ウィンドウ(±0.5分)の中に、干渉ピークが存在しないことを確実にすることによっても評価した。CADは汎用性の検出器であり、混入物のわずかな痕跡を検出する場合があるため、ピーク特異性は、標準品が観察される面積に対して、2%を超える面積のピークが存在しないことによって示される。信号雑音比(S/N)は、2ppmPS80溶液について、≧10であると推定された。
【0089】
【0090】
PS80の種々の起源および種類を、この方法で試験した(表3)。
図4に示すように、各PS80源のクロマトグラムは、視覚的に同等であった。要約すると、
図4は、PS80の種々の起源(実線)およびブランク(点線)についてのクロマトグラムを示す:(A)全オレエートChP適合PS80;(B)褐色のガラス容器に保存したSigma-Aldrich PS80;(C)Croda super-refined PS80;(D)自然色のプラスチック容器に保存したSigma-Aldrich PS80;および(E)複数の公定書に収載されているJ.T.BakerのPS80。
【0091】
全オレエートPS80および複数の公定書に収載されているJ.T.BakerのPS80におけるPS80モノエステルが等しいと仮定すると、分子量がわずかに大きい結果として、全オレエートPS80のピーク面積は、より大きいであろう。ポリソルベートについての合成経路に一貫性がない結果として、バッチ間で下位種にいくらかの変動が観察されている。物理化学的特性がバッチごとに異なることが示されている。Sigma-Aldrich PS80の代替の保存容器によって示されるように、PS80標準溶液は、バイオ医薬製剤において使用されるPS80と同じ起源およびロット由来の材料から調製することが推奨される。
【0092】
ポリソルベート40(PS40、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)とポリソルベート60(PS60、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)もまた評価され(
図5)、各クロマトグラフプロファイルにおいて、モノエステルは、マルチエステルと分離していた。要約すると、
図5は、種々のポリソルベート(実線)およびブランク(点線)についてのクロマトグラムを示す:(A)ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート);(B)ポリソルベート40(PS40、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート);(C)ポリソルベート60(PS60、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート);および(D)ポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)。各クロマトグラフプロファイルにおいて、モノエステルは、マルチエステルと分離していた。PS60は、2つの主要なモノエステル形態、または相当量のPOEイソソルビドモノエステルを含有しているように思われ、これらのピークの素性を識別するために、質量分析法によるさらなる実験が必要であり得る。複数の公定書に収載されているポリソルベート20(PS20、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)もまた含まれていたが、複雑なクロマトグラムが得られた(SM
図7)。PS20による複雑なクロマトグラムは、以前に報告されており、全ラウレートPS20を使用することによって、より単純なクロマトグラムが得られた。PS60は、2つの主要なモノエステル形態、または相当量のPOEイソソルビドモノエステルを含有しているように思われ、これらのピークの素性を識別するために、質量分析法によるさらなる実験が必要であり得る。
【0093】
よって、この方法は、PS20、PS40、およびPS60に対する有用な用途を有している。
【0094】
PS80モノエステルに関する方法の確度および特異性を評価するために、完全なモノエステル分解サンプルを添加(スパイク)し、mAbを使用して分析した。PS80モノエステル分解は、サンプルを、5℃で36か月インキュベーションすることによって達成した(
図6)。要約すると、
図6は、HPLC-CAD法を使用して得られたPS80モノエステル(添加(スパイク)された完全モノエステル分解を含み、mAbを使用して分析されたサンプル)のクロマトグラフプロファイルを示す。PS80モノエステル分解は、サンプルを、5℃で36か月インキュベーションすることによって達成された。この図面は、新しいCAD法によって収集したクロマトグラムのオーバーレイを示し、5℃および-20℃で36か月保存されたmAb製品における酸化的分解によるマルチエステルのピークのブロード化を示している。さらに、モノエステルの完全に近い分解は、POE基の増加に対応する。標準品は、J.T.Bakerの複数の公定書に収載されているPS80であった。17.5分のピークは、事前にリンスしていないエッペンドルフチューブ由来の変動する混入物である。分解したサンプルを分析し、定量可能な量のPS80モノエステルを含まない(<LOQ)ことが確認された。予想したように、PS80モノエステルの分解によって、POE基の著しい増加が生じた。その後の分解がモノエステル定量を妨げるか否かを確認するために、添加(スパイク)回収アプローチを採用した。分解したサンプル調製物に20ppmPS80を添加(スパイク)した(これは、200ppmPS80サンプル濃度に相当する)。PS80モノエステルは、93%の値で回収され、分解産物の著しい増加が、モノエステルの検出に悪影響を及ぼさないことが確認された。さらに、マルチエステルピークは、わずかに減少し、ピークブロード化を示した。最もありそうな原因は、ラジカル的に誘発された分解に関与した後の、疎水性および/またはサイズがわずかに異なる酸化分解物の分解および再形成であり得る。
【0095】
ELSD法とCAD法の比較
一連のサンプルを調製し、両方の方法を使用して試験した。サンプルは、5℃および-20℃で36か月保存し、凍結融解(FT)サイクルを1回行った、または行っていない、製剤バッファーおよびmAb製品である。改変ELSD法は、最初の4分間の間に迂回が組み込まれているので、以前に報告されている方法から推測されるように、POE基およびタンパク質は、検出器を通らないとされている。これら2つの方法の直接的な比較は、表4にまとめられており、良好な一致を示す。
【0096】
【0097】
この方法は、IgG1mAb、IgG2mAb、IgG4mAbで検証されている(表5)。この実験の間に、いくつかの沈殿溶媒(例えば、アセトン、THF)によって、製剤バッファー中のPS80モノエステルまたは下位種の回収率が低い、または不十分であることが見出された(データ記載せず)。
【0098】
【0099】
実施例2:PS80動力学研究:濃度-時間データは、新しいHPLC-CAD法で、各タイムポイント(開始時、1日、2日、4日、7日、14日、および21日)について、PS80モノエステルと下位種の量を定量することによって得た(
図7)。要約すると、
図7は、5℃、25℃、40℃、または-70℃における、21日間までの、サンプル中のPS80分解の動力学を示す。(A)モノエステル、(B)マルチエステル(ジ、トリ、およびテトラエステル)、(C)POE基、および(D)全マスバランスを定量した。ここで、PS80モノエステルピークは、真に定量的であったが、下位種は、半定量的であった。濃度-時間データは、新しいHPLC-CAD法で、各タイムポイント(開始時、1日、2日、4日、7日、14日、および21日)について、PS80モノエステルと下位種の量を定量することによって得た。真に定量可能なPS80モノエステルについて、アレニウスプロットは、5℃、25℃、および40℃データについての速度定数によって、PS80モノエステルの分解についてコンパイルし、その結果、PS80モノエステルについての活性化エネルギーは、35.8±7.2kJ/molであり;線形最小二乗フィッティングはy=4311.5x-0.1696(R
2=0.961)であった(
図8)。観察された活性化エネルギーは、Kishoreが、PS80の最初の約30%の分解についての活性化エネルギーを約35kJ/molと報告しているように、PS80加水分解についての以前に発表された観察と類似している。しかしながら、採用された分析法は、モノエステル形態と、マルチエステル形態を識別する特異性を有していなかった。本出願人らの研究において、分解は、リパーゼの存在による最も可能性が高い加水分解性の分解であったため、本研究において、マルチエステルのピークのブロード化は非常に小さく、従って、POE基およびマルチエステルもまた定量された(
図7)。マスバランスは、POE基、PS80モノエステル、およびマルチエステルの濃度(ppm)を合計することによって算出され、全てのマスバランスデータについての精度は<10%であった。40℃において、無視できる量のオレイン酸が観察された。
【0100】
複数の公定書に収載されているJ.T.BakerのPS80中のPS80モノエステルは、マルチエステルと比較して、安定性が有意に低かった。これは、以前に発表されたデータと一致している。モノエステルは大幅に分解されているが、残存する大量のマルチエステルによって、タンパク質凝集からの保護、またはコロイド安定性をなおも実現することが可能である。
【0101】
以前は、疑われるタンパク質-PS80相互作用は、タンパク質含有医薬製品中で測定された初期のPS80量を低下させると考えられていた。興味深いことに、PS80モノエステル濃度は減少し、それに対応するPOE基の増加が起こるであろうことから、本方法は、急速な分解が起こっているか否かを決定することもできる。もしPOE基の増加がない場合、タンパク質または容器との相互作用がない可能性が最も高い。
【0102】
結論:
新しい、高感度な、かつ特異的なプラットホーム分析法が、バイオ医薬製剤中のPS80について、HPLC-CADを使用して開発された。本方法は、特異性を妨げるであろう潜在的な干渉を軽減し、かつあらゆる活性な分解酵素(例えば、リパーゼおよびエステラーゼ)を阻害するために、タンパク質の沈殿を利用する。特異性は、PS40、PS60、および種々の種類のPS80を使用して実証された。多くの種類のIgG mAbを使用した本発明の適用によって、新鮮で著しく分解した医薬製品を使用して、本方法によって実現され得る特異性のさらなる裏付けが提供されている。
【0103】
本方法は、分解について、PS80モノエステル、POEソルビタン/イソソルビド、脂肪酸、およびマルチエステル下位種をモニターするように、クロマトグラフィーの特異性を示すことが検定された。検定研究によって、方法は、再現性(2.2%RSD)、中間の精度(6.5%RSD)、確度(101%回収)、線形性(平均R2≧0.999)、特異性(マトリックス中に干渉ピークが観察されず、かつRs≧1.5オレイン酸/PS80モノエステル)、および定量限界(サンプルについて約20ppm、およびタンパク質を含まないサンプルについて2ppm)に関して、十分な性能を示すと結論付けられた。著しく分解したmAb医薬製品の研究によって、PS80モノエステルは、LOQ未満に分解され、許容できる回収率(93%)が達成できることが示された。PS80モノエステルの減少は、POE基の増加と対になっていたことに注目すべきである。著しく分解したものの研究によって、全てのエステル化されたPS種を定量することによる、特異的な方法と確立された方法の比較も可能となった。
【0104】
よって、結論として、上記の分析的CAD法は、バイオ医薬製品中のPS80についての、選択的な、高感度な、および特異的な定量的および定性的情報を提供することが示された。この方法の、目的にかなった検証としてのプラットホーム方法として使用される可能性が、IgG mAb(IgG1、IgG2、およびIgG4)の多数のサブタイプを使用して、沈殿溶媒に対する改変を利用することによって示された。よって、この方法は、これらのmAbおよび他のバイオ医薬製品のための安定性試験をサポートするための有用なツールである。
【国際調査報告】