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  • 特表-分解方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-27
(54)【発明の名称】分解方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20230420BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20230420BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20230420BHJP
   C11D 3/48 20060101ALI20230420BHJP
   C11D 7/38 20060101ALI20230420BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20230420BHJP
   C07D 255/02 20060101ALI20230420BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20230420BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230420BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
C08L101/02 ZBP
C08K5/14
C08K5/56
C11D3/48
C11D7/38
A61L2/18 102
C07D255/02
C08L101/16
C12N15/09 Z ZNA
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022552256
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-09-30
(86)【国際出願番号】 EP2021054913
(87)【国際公開番号】W WO2021170840
(87)【国際公開日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】20160204.2
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522341676
【氏名又は名称】カテクセル テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CATEXEL TECHNOLOGIES LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】ファーテメ バクシャンデー ロスタミ
(72)【発明者】
【氏名】ファビエン ピエレ ガイ ガウラード
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド ヘイジ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C058
4H003
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4B065AA42X
4B065AA53X
4B065AC14
4B065AC15
4B065BB04
4B065CA22
4B065CA24
4B065CA54
4C058AA06
4C058AA07
4C058AA20
4C058AA24
4C058BB07
4C058JJ06
4C058JJ07
4C058JJ08
4H003EA20
4H003EB10
4H003FA28
4H003FA34
4J002AA001
4J002AB011
4J002AB051
4J002AH001
4J002EK006
4J002EK016
4J002EK026
4J002EK036
4J002EZ007
4J002FD206
4J002FD207
4J002GQ00
4J200AA00
4J200BA38
4J200BA39
4J200CA01
4J200DA24
4J200EA21
(57)【要約】
本発明は、バイオフィルムを、過酸化物型化合物及びマンガン錯体を含む水性混合物と接触させることによって、バイオフィルムを分解する方法であって、水性混合物が、大環状配位子を含む、方法に関する。本発明は、バイオフィルムを、過酸化物型化合物及び大環状配位子を含む水性混合物と接触させることによって、バイオフィルムを分解する方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオフィルムを、(i) 過酸化物型化合物及び(ii) 単核Mn(II)、Mn(III)若しくはMn(IV)マンガン錯体又は二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)若しくはMn(IV)Mn(IV)マンガン錯体を含む水性混合物と接触させることを含む、バイオフィルムを分解する方法であって、水性混合物が、式(I)又は式(II):
【化1】
【化2】
(式中、
Q=
【化3】
pが、3であり;
各Rが、水素、C~C24アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH、CHCOOH及びピリジン-2-イルメチルからなる群より独立に選択され;
Q’が、エチレン架橋又はプロピレン架橋であり;
、R、R及びRが、H、C~Cアルキル及びC~Cアルキルヒドロキシから独立に選択される。)
の配位子を含む、方法。
【請求項2】
配位子が、1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン又は1,2-ビス(4,7-ジメチル-1,4,7-トリアザシクロノナ-1-イル)エタンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マンガン錯体が、酢酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン及びヘキサフルオロリン酸イオンからなる群より選択される1種以上の非配位性対イオンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
マンガン錯体が、単核Mn(II)、Mn(III)及びMn(IV)錯体並びに二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)及びMn(III)Mn(IV)錯体からなる群より選択されるいずれか1つ又は組合せである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
マンガン錯体が、二核Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)又はMn(IV)Mn(IV)錯体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
マンガン錯体が、塩の一部であり、塩が、[MnIVMnIV(μ-O)(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)][CHCOO]、[MnIVMnIV(μ-O)(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)[SO]、[MnIVMnIV(μ-O)(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)][PF又は[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(1,2-ビス(4,7-ジメチル-1,4,7-トリアザシクロノナ-1-イル)エタン)][Cl]からなる群のいずれか1つである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
マンガンに対する式(I)の配位子のモル比が、約100:1~約1.001:1であり、又はマンガンに対する式(II)の配位子のモル比が、約50:1~約0.5001:1である、請求項1から第6項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記接触させることの前に、二核Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)又はMn(IV)Mn(IV)マンガン化合物を、還元剤、例えばアスコルビン酸と接触させて、マンガン錯体を得る、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
マンガン化合物が、請求項1又は2に記載の配位子を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
マンガン化合物が、[MnIVMnIV(μ-O)(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)][CHCOO]、[MnIVMnIV(μ-O)(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)[SO]、[MnIVMnIV(μ-O)(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)][PF又は[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(1,2-ビス(4,7-ジメチル-1,4,7-トリアザシクロノナ-1-イル)エタン)][Cl]である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
バイオフィルムを、過酸化物型化合物及び請求項1又は2に記載の配位子を含む水性混合物と接触させることを含む、バイオフィルムを分解する方法。
【請求項12】
過酸化物型化合物が、過酸化水素、ペルオキシ酸、アルキルヒドロペルオキシド及びフェニルアルキルヒドロペルオキシドからなる群のいずれか1つ又は組合せである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
過酸化物型化合物が、過酸化水素と過酢酸との組合せである、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
水性混合物のpHが、約6~約12である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
バイオフィルムが、アルギネートを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルムを、過酸化物型化合物及びマンガン錯体を含む水性混合物と接触させることによって、バイオフィルムを分解する方法であって、水性混合物が、大環状配位子を含む、方法に関する。本発明は、バイオフィルムを、過酸化物型化合物及び大環状配位子を含む水性混合物と接触させることによって、バイオフィルムを分解する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは、M.Vertら、Pure Appl.Chem.、2012、84(2)、377~410において、細胞外高分子物質(EPS)の自己産生基質中に埋め込まれていることが多い細胞が相互に付着し合い、及び/又はある表面に付着している、微生物の凝集物として規定されている。EPSは、基質中の微生物によって産生され、一般的には、アルギネート、ムレイン、コラン酸、バクテリアセルロース、デキストラン、ケフィラン、カードラン、ウェラン、ゲラン及びキサンタン等の多糖を含む(例えば、B.Vuら、Molecules 2009、14、2535~2554を参照されたい。)。一般にバイオフィルムの形成には水が必要であるため、バイオフィルムは、水性環境に頻繁に又は恒久的にさらされる設備、すなわち、水の存在下で動作する設備においては、特に一般的なものである。バイオフィルムは、すべての種類のろ過装置に存在する膜に頻繁に見受けられる。このような膜はすべて、バイオフィルムによるファウリングが起きやすいが、逆浸透システムにおいては、バイオフィルムによるファウリングが特に見受けられる。
【0003】
膜以外にも、他の設備、特に水性環境に頻繁にさらされる設備もまた、バイオフィルムの形成が起きやすいものであり得る。このような設備には、パイプ及び配管設備;流し台、風呂、シャワー、食器洗い機、洗浄機、タンブル乾燥機、ビデ及びクリーニングのために使用される空間内の表面(例えば、シャワールームの壁及び床)等のクリーニング設備(洗濯設備、食器洗い設備及び入浴設備を含む);冷却システム及び加熱システム;船(船舶及びボートの船体を含む);並びに船舶用装置(marine device)が挙げられる。水性混合物は、一般的に、石油及び天然ガスの操業中に使用されるが、例えばパイプライン及び他の生産設備におけるバイオフィルムの形成は、大きな問題である(例えば、D.Xu及びT.Gu、J.Microb.Biochem.Technol.2015、7(5)を参照されたい。)。
【0004】
バイオフィルムは、装置の中を通る流れを制限又は遮断する可能性があり、材料を腐食させることにより、材料の寿命を短くすることもあり得る。さらに、バイオフィルムは時に、水道内に存在すると害を与える可能性がある、レジオネラ等の病原体を含有することもある。バイオフィルムの予防及び/又は処理により、設備の整備及びクリーニングの必要性が減るため、メンテナンス及びシステム操業のコストを削減することができる。したがって、バイオフィルムの分解及び予防は、商業的な観点から有用なことである。しかしながら、バイオフィルムの分解は困難な場合もある。
【0005】
バイオフィルムは、様々な防御メカニズムを有する。EPSは、分解性物質に対する拡散バリアとして働くことが可能であり、バイオフィルム中の細胞は、分解性物質の存在下における細胞の代謝を低下させること、エフラックスポンプを用いて、細胞の内部から分解性物質を除去すること、及び、分解性物質が除去されたら素早く増殖し、これにより、分解性物質にさらされたバイオフィルムの素早い回収を可能にすることができる(上記のD.Xu及びT.Guを参照されたい。)。
【0006】
バイオフィルムのEPSは、多糖又はタンパク質を含有することが多い。この結果、分解方法は、大抵の場合、プロテアーゼの付加及び/又はアミラーゼの付加を含み、例えば、I.P.Molobela、T.E.Cloete及びM.Beukes、African J. of Microbiology Research、2010、4(14)、1515~1524を参照されたい。バイオフィルムは微生物のコロニーを含むため、分解方法においては、抗菌剤が利用されてもよい。しかしながら、バイオフィルム中の微生物の抗菌剤耐性は、プランクトンの抗菌剤耐性より高いことが判明しており、この結果、抗菌剤を用いるバイオフィルムの分解方法が有効なものにならないこともある(R.Patel、Clin.Orthop.Relat.Res.、2005、437、41~47を参照されたい。)。
【0007】
バイオフィルムは、有機ペルオキシ酸(両方ともEcolab USA Inc.のWO2019/160948A1及びWO2017/181005A1を参照されたい。)又は界面活性剤及び酵素(Advanced Biocatalytics Corp.のWO03/022752A1を参照されたい。)を含む洗浄液を使用して設備から除去することもできる。
【0008】
代替的には、対象とする表面への微生物の付着を低減するためにコポリマーを使用し(例えばWO2009/071451A2(Henkel AG&CO KGaA)を参照されたい。)、環状ケトンを含む組成物(WO2018/009076A1(Inhibio AS)を参照されたい。)を使用し、又は超音波(Harteel BVPAのWO2019/159021A1を参照されたい。)を使用することによって、バイオフィルムの形成を防止することもできる。
【0009】
一般的に見受けられるバイオフィルムは、大抵の場合、アルギン酸又はアルギネート(相互に置きかえ可能に使用される)を含む。アルギネートは親水性多糖であり、褐藻及び様々な他の微生物の細胞壁中に一般的に見受けられる。
【0010】
アルギネートを分解するために鉄塩及び過酸化水素を使用することは、O Smidsrodら、ACTA Chem.Scand.、1965、19、143~152に記載されている。好ましくは高レベル(0.1M超)の過酸化水素及び(100μM超の)塩化鉄(III)により、ヒドロキシルラジカルの形成及び関与に割り当てられるアルギネートの粘度が低下することが示されている。
【0011】
WO2018/115867A2(Marine Biopolymers Ltd.)においては、海藻部分を漂白するステップを含む、海藻から目的化学種を得るための方法が記載されている。漂白ステップは、漂白用組成物の使用を含み、漂白用組成物は、酸化触媒を含んでもよく、酸化触媒は、[(MnIV)(μ-O)(Me-TACN)2+、[(MnIII(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-TACN)2+若しくは[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)]2+;又は適切なその塩であってもよい。続いて任意選択によりアルギネート又はアルギン酸塩を解重合することも記載されているが、マンガン触媒を使用して、ポリマーを分解又は解重合することは、上記出願においては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2019/160948(A1)号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2017/181005(A1)号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/022752(A1)号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2009/071451(A2)号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2018/009076(A1)号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2019/159021(A1)号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2018/115867(A2)号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】M.Vertら、Pure Appl.Chem.、2012、84(2)、377~410
【非特許文献2】B.Vuら、Molecules 2009、14、2535~255
【非特許文献3】D.Xu及びT.Gu、J.Microb.Biochem.Technol.2015、7(5)
【非特許文献4】I.P.Molobela、T.E.Cloete及びM.Beukes、African J. of Microbiology Research、2010、4(14)、1515~1524
【非特許文献5】R.Patel、Clin.Orthop.Relat.Res.、2005、437、41~47
【非特許文献6】O Smidsrodら、ACTA Chem.Scand.、1965、19、143~152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
例えばEPS及び/又はバイオフィルムの微生物中の物質(微生物の細胞壁中のアルギネート等の物質を含む)の分解及び/又は解重合によって、バイオフィルムを分解するための少なくとも代替的な方法を開発することは、有益であると思われる。本発明は、これに対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、過酸化物型化合物、マンガン錯体及び大環状配位子を含む水性混合物は、バイオフィルムの分解に対する活性が驚くべきほどに高いという発見に基づく。バイオフィルムによって示される、バイオフィルムの分解を阻害する様々な防御メカニズムにより、バイオフィルムは、バイオフィルムの構成物質に比べて分解がより難しくなっており、バイオフィルムを分解するために本明細書に記載の水性混合物を使用することは、これまでに開示されていなかった。
【0016】
したがって、第1の態様という観点においては、本発明は、バイオフィルムを、(i) 過酸化物型化合物及び(ii) 単核Mn(II)、Mn(III)若しくはMn(IV)マンガン錯体又は二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)若しくはMn(IV)Mn(IV)マンガン錯体を含む水性混合物と接触させることを含む、バイオフィルムを分解する方法であって、水性混合物が、式(I)又は式(II):
【化1】
【化2】
(式中、
Q=
【化3】
pが、3であり;
各Rが、水素、C~C24アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH、CHCOOH及びピリジン-2-イルメチルからなる群より独立に選択され;
Q’が、エチレン架橋又はプロピレン架橋であり;
、R、R及びRが、H、C~Cアルキル及びC~Cアルキルヒドロキシから独立に選択される。)
の配位子を含む、方法を提供する。
【0017】
大抵の場合、バイオフィルムは、大環状配位子が加えられると、過酸化物型化合物の存在下でバイオフィルムの分解に対して活性があるマンガン錯体を形成する、マンガンイオンを含有する。したがって、第2の態様という観点においては、本発明は、バイオフィルムを、過酸化物型化合物及び第1の態様によって規定された配位子を含む水性混合物と接触させることを含む、バイオフィルムを分解する方法を提供する。
【0018】
本発明のさらなる態様及び実施形態は、下記の論述から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】アルギネートの濃度に応じた、溶液中のアルギネートの濃度で割ったアルギネートの比粘度のプロットを示す、図である。固有粘度は、下記の実験の部でより詳細に概説されているように、プロットのY切片から判定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
下記の論述においては、そうではないと文脈により示されていない限り、下記に定めされた意味を有する、いくつかの用語について言及している。本明細書において化合物、特に本発明による化合物を規定するために使用されている命名法は一般に、化合物に関するIUPAC組織の規則、具体的には「IUPAC Compendium of Chemical Terminology(Gold Book)」に基づく。疑義を回避するために、IUPAC組織の規則が本明細書に定めされた規定と矛盾する場合、本明細書の規定が優先されるものとする。さらに、ある化合物の構造が当該構造に対して定めされた名称と矛盾する場合、当該構造が優先されるものとする。
【0021】
本明細書において、「含む」という用語又はその変形形態は、記載された1つの要素、整数若しくはステップ又は複数の要素、整数若しくはステップからなる群の包含を含意するが、任意の他の要素、整数若しくはステップ又は複数の要素、整数若しくはステップからなる群の排除を含意しないことを理解すべきである。
【0022】
「からなる」という用語又はその変形形態は、記載された1つの要素、整数若しくはステップ又は複数の要素、整数若しくはステップからなる群の包含と、任意の他の要素、整数若しくはステップ又は複数の要素、整数若しくはステップからなる群の排除とを含意することを理解すべきである。
【0023】
本明細書において、「約」という用語は、ある数又は値を修飾している場合、指定された値の±5%内にある値を指すように使用されている。例えば、マンガンに対する式(I)のモル比は、約100:1~約0.1:1である場合、105:1~0.095:1のモル比も含まれる。
【0024】
物質の物理的な状態(液体又は固体等)への言及は、そうではないと文脈により定められていない限り、25℃及び大気圧における物質の状態を指す。
【0025】
上記において概要を説明したように、本発明は、バイオフィルムを、過酸化物型化合物、マンガン錯体及び式(I)又は式(II)の大環状配位子を含む水性混合物と接触させることにより、バイオフィルムが分解するという驚くべき発見に基づく。
【0026】
本明細書において、バイオフィルムの分解は、分子結合の開裂によって、バイオフィルムの分子構造の少なくとも一部が壊れることであると理解すべきである。分解は、バイオフィルムの分子構造の完全な破壊に限定されないことを理解すべきである。バイオフィルムの分子構造の部分的な分解も含まれる。バイオフィルムの分解は、例えばバイオフィルム中のポリマー状物質の解重合によって、達成することができる。分解は、種々の方法によって測定することができる(Wilson,C.ら、Res.Rev.J.Eng.Technol.、2017、6(4)、1~42;及びPaquet-Mercier, F.ら、Lab Chip.、2016、16(24)、4710~4717を参照されたい。)。分解は、バイオフィルムの質量、例えば、バイオフィルムの乾燥質量若しくは総炭素含量の減少;バイオフィルムの粘度若しくはバイオフィルム中の構成要素の粘度、例えば、バイオフィルム中のアルギネートの動的粘度の低下;又は、バイオフィルム自体若しくは適切な染色剤によって染色されたバイオフィルムの色若しくは吸光度の変化として測定することもできる。
【0027】
粘度は、(本明細書においては)流体の内部摩擦の尺度である。流体の動的粘度は、隣接する層どうしが異なる速度で互いに対して平行に移動したときのせん断力に対する、流体の抵抗性を表す。(バイオ)ポリマーのいかなる粘度測定においても、一定の溶液の温度を維持すること、及び、一定の重量%の水溶液中の(バイオ)ポリマーを使用することが重要であるが、その理由は、これらのパラメータが前記溶液の粘度に影響するためである。Vauchelら、J.Phycol.2008、44、515~517においては、アルギネートの動的粘度及びキャピラリー粘度の測定値を使用して、平均アルギネートポリマー鎖長を導出している。アルギネートの平均ポリマー鎖長は、アルカリ抽出の時間を長くするとより短くなり、すなわち、分解の度合いが増した。したがって、動的粘度の測定値を用いて、アルギネートの分解の度合いに関する情報を得た。
【0028】
バイオフィルムの分解は、分解後のバイオフィルム中の構成要素の動的粘度の低下を査定し、これを、分解前の同じ構成要素の動的粘度と比較することによって、測定することができる。例えば、アルギネートは、バイオフィルムのEPS中に存在することもある。分解前及び分解後のバイオフィルムから抽出されたアルギネートの動的粘度を用いて、バイオフィルムの分解の度合いの指標を得ることができる。アルギネートの動的粘度を査定するために、バイオフィルムからアルギネートを抽出する。J.Wingenderら、Methods Enzymol.、2001、336、302~314には、バイオフィルムからアルギネートを抽出するための方法が記載されている。(低分子量物質を除去するための)遠心分離及び透析によってEPSから微生物細胞を分離した後には、有機溶媒を加え、ヌクレアーゼ及びプロテアーゼによって処理する(これによって、核酸の構成要素及びタンパク質を分解すると、多糖の構成要素が完全な状態で残る)ことによって、残留物質から多糖を単離することができる。アルギネートは、カチオン、特にCa2+等のジカチオンに結合すると、取り扱いが難しいのものになる場合がある。酸の添加により、カルボキシレート基は、プロトン化及びゲル化したアルギン酸形態になる。この物質は、アルギン酸ナトリウム塩に変換し、ろ過することが可能であり、さらには、カルシウム塩を加えて、アルギン酸カルシウムの沈殿物を得ること、又は強酸を加えて、アルギン酸を単離することによって、精製することもできる。
【0029】
一部の実施形態において、本発明の方法は、バイオフィルム中のアルギネートの動的粘度を少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%低下させる(動的粘度は、一般的に、25℃で測定される。)。
【0030】
代替的には、本発明の方法を用いてバイオフィルムを分解する前のバイオフィルムの乾燥質量(一般的には、単位面積当たりの質量として与えられる)と、分解した後のバイオフィルムの乾燥質量との差を用いて、バイオフィルムの分解の度合いを査定することができる。バイオフィルムの分子構造に属する部分どうしは、分解時に切り離されることになるが、残存のバルク状バイオフィルムの塊から、例えば水又は他の液体でバイオフィルムをすすぐことによって容易に分離することができる。残存のバイオフィルムの乾燥質量は、バイオフィルムの分解がない(したがって、バイオフィルムの質量の損失もない)ようにして、水が除去されるまでバイオマスを高温(例えば、約60℃~約105℃)のオーブンの中に入れておくことによって判明させる。これは、加熱時間が経過してもバイオフィルムの質量が一定である場合に行われた。得られた質量の値を、(乾燥前の)バイオマスの試料によって覆われた面積によって割ると、単位面積当たりの質量として乾燥質量が得られる。
【0031】
一部の実施形態において、本発明の方法は、バイオフィルムの乾燥質量を少なくとも約1wt%、好ましくは少なくとも約10wt%低下させる。
【0032】
バイオフィルムの検出及び定量的な分析のために一般的に使用される方法は、C.Larimerら、Analytical and Bioanalytical Chem. 、2016、408、999に記載されている。この方法においては、広域スペクトル性の生体分子染色を用いて、バイオフィルム中の細胞、核酸及びタンパク質の視認性を高めている。次いで、染色後のバイオフィルムの色の濃さに基づいてデジタル画像を分析することによって、バイオフィルムの量を定量的に測定する。代替的には、クリスタルバイオレット等のカチオン性染料を使用することもできる。これらの染料は、バイオフィルムのアニオン性多糖及び負電荷を帯びた他の構成要素に付着する。バイオフィルムの存在量を査定するためには、大抵の場合、クリスタルバイオレットアッセイが使用される。マイクロプレートリーダーを用いてマイクロタイタープレート中のバイオフィルムの量を査定するためのクリスタルバイオレットアッセイの採用は、E.Burtonら、J.Ind.Microbiol.Biotechnol.、2007、34(1)、1~4に記載されている。同論文においては、バイオフィルム中に存在するN-アセチルグルコサミドへの蛍光プローブの結合をベースとする、分光蛍光分析アッセイも記載されている。次いで、蛍光プレートリーダーを使用して、バイオフィルムの量を定量的に測定する。
【0033】
本明細書にすでに規定のように、バイオフィルムとは、細胞外高分子物質(EPS)の自己産生基質中に埋め込まれていることが多い細胞が相互に付着し合い、及び/又はある表面に付着している、微生物の凝集物である(上記のM.Vertらを参照されたい。)。EPSは、基質中の微生物によって産生され、一般的には、アルギネート、ムレイン、コラン酸、バクテリアセルロース、デキストラン、ケフィラン、カードラン、ウェラン、ゲラン及びキサンタン等の多糖を含む(B.Vuら、Molecules 2009、14、2535~2554;及びSutherland,I.W.、Microbiology、2001、147、3~9を参照されたい。)。
【0034】
当技術分野におけるそれらの用語の使用と整合し、K.Yong Lee及びD.J.Mooney、Prog.Polym.Sci.2012、37(1)、106~126においてもレビューされているように、アルギネートという用語及びアルギン酸という用語は本明細書においては、1,4結合β-D-マンヌロン酸(M)構築ブロック及びβ-L-グルロン酸(G)構築ブロックから構成される直鎖状コポリマーを指すように、互換的に使用されている。これらのモノマーは、G残基(構造:GGGGGGGを有するブロック等のGブロック)、M残基(構造:MMMMMMを有するブロック等のMブロック)又は互い違いになったM残基及びG残基(構造:MGMGMGMGMGを有するブロック等のMGブロック)からなるホモポリマーブロック中に出現し得る。アルギネートは、Mブロック、Gブロック及び/又はMGブロックの組合せを任意の数だけ含むことができる。β-D-マンヌロン酸のpKa値(3.38)及びα-L-グルロン酸のpKa値(3.65)より高いpH値においては、アルギネートの水溶性は高いが、β-D-マンヌロン酸及びα-L-グルロン酸のpKa値より低いpH値においては、プロトン化した状態になる酸基の度合いが増えるため、ポリマーの溶解度が低下する。MGブロックを有するポリマーは、別々になったMブロックとGブロックとを有するポリマーより水溶性が高い。アルギネート中におけるM及びGの比率及びアルギネート中のブロックの長さは、アルギネートの供給源に応じて異なる。
【0035】
バイオフィルムは、異なる細菌属に由来のアルギネートを含むこともある。例には、アゾトバクター(Azotobacter)属及びシュードモナス(Pseudomonas)属が挙げられ、特には、細菌の細胞壁に由来のものが挙げられる。アルギネートは、大抵の場合、バイオフィルムの基質の主要な構成要素である。
【0036】
バイオフィルムは、ムレインを含むこともあるが、ムレインは、細菌の細胞壁中に見受けられることが多い。グラム陽性細菌は、(グラム陰性細菌に比べて)より厚い細胞壁を特徴とするため、一般的には、グラム陽性細菌がムレインの供給源である。大抵の場合、バイオフィルムは、異なる細菌、一般的には、スタフィロコッカス属の細菌、例えばスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus Epidermidis)等のグラム陽性細菌に由来のムレインを含む。ムレインは、糖及びアミノ酸からなるペプチドグリカンである。糖は、互い違いになったβ-(1,4)結合N-アセチルグルコサミン及びN-アセチルムラミン酸からなる。各N-アセチルムラミン酸残基は、乳酸残基を介して、4-又は5-アミノ酸鎖に結合している。アミノ酸鎖は、L-又はD-エナンチオマーであってもよい、アミノ酸の組合せを含む。例には、アラニン、グルタミン酸、グルタミン、リシン、グリシン及びmeso-ジアミノピメリン酸が挙げられる。アミノ酸鎖は、ムレイン中の別のアミノ酸鎖に架橋していてもよい。
【0037】
バイオフィルムは、腸内細菌科(Enterobacteriaceae family)の細菌、例えばエンテロバクター(Enterobacter)属及びクレブシエラ(Klebsiella)属の細菌等の細菌によって産生され得る、コラン酸を含むこともある。コラン酸は、グルコース、ガラクトース、フコース、グルクロン酸、アセテート及びピルベートを含む分岐状多糖である。
【0038】
バイオフィルムは、アセトバクター(Acetobacter)属、サルシナ・ヴェントリクリ(Sarcina ventriculi)属及びアグロバクテリウム(Agrobacterium)属等の細菌属に由来のバクテリアセルロースを含むこともある。バクテリアセルロースは、細菌によって産生されたβ1,4結合D-グルコース単位から構成されるポリマーを指す。バクテリアセルロースは、植物性セルロースとは著しく異なる高分子特性を有する。例えば、バクテリアセルロースは一般的に、化学的により純粋であり、親水性及び引張強度もより高い。バクテリアセルロースは一般的に、細菌の周囲に保護バリアを形成する、細胞外多糖として産生される。
【0039】
バイオフィルムは、ストレプトコッカス属の細菌等の細菌によって産生され得る、デキストランを含むこともある。デキストランは、α-1,6グリコシド結合を有する、微生物由来のポリ-α-D-グルコシドを指す。デキストランは、α-1,3グリコシド結合からの分岐がある、分岐状多糖である。デキストランの厳密な構造は、デキストランを産生した微生物の株に依存する。
【0040】
バイオフィルムは、ラクトバシラス(lactobacillus)属等の細菌によって産生され得る、ケフィランを含むこともある。ケフィランは、概ね等しい比率のグルコース及びガラクトースから構成される、分岐状多糖である。Ghasemlou,M.ら、Food Chem.、2012、133(2)、383~389で報告されているように、ケフィランは、(1→6)結合グルコース、(1→3)結合ガラクトース、(1→4)結合ガラクトース、(1→4)結合グルコース及び(1→2,6)結合ガラクトース(分岐は、ガラクトース残基のO-2に結合しており、末端にはグルコース残基がある。)の骨格を有する。
【0041】
バイオフィルムは、アグロバクテリウム属の細菌等の細菌によって産生され得る、カードランを含むこともある。カードランは、1,3-β-D-グリコシド結合の全体を含む、直鎖状β-1,3-グルカンである。カードランは、アグロバクテリウム属の細菌等の細菌によって、エキソポリサッカリドとして産生され得る。
【0042】
バイオフィルムは、アリカリゲネス(Alcaligenes)属の細菌等の細菌によって産生され得る、ウェランを含むこともある。ウェランは、2個のD-グルコースモノマー、D-グルクロン酸及びL-ラムノースを含む四糖繰返し単位からなる、分岐状多糖であり、いずれの1,4結合グルコースのC3にもモノマー状L-ラムノース側鎖又はL-マンノース側鎖がついている。
【0043】
バイオフィルムは、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属の細菌等の細菌によって産生され得る、ゲランを含むこともある。ゲランは、ウェランと構造が類似しているが直鎖状多糖であり、すなわち、ゲランは、L-ラムノース側鎖又はL-マンノース側鎖を含まない。
【0044】
バイオフィルムは、キサントモナス(Xanthomonas)属の細菌等の細菌によって産生され得る、キサンタンを含むこともある。キサンタンは、β-(1,4)-D-グルコースからなる骨格を有する、分岐状多糖を指す。互い違いのグルコース残基のそれぞれは、2個のマンノース残基間に位置するグルクロン酸残基からなる、三糖側鎖に結合している。アセチル基は、骨格の最も近くに位置するマンノース残基のC6位に結合していてもよく、ピルベート基は、末端マンノースのC4位及びC6位に結合していてもよい。
【0045】
理論に縛られるわけではないが、本発明の方法は、バイオフィルム中の微生物の細胞壁中の多糖及び/又はバイオフィルムの中のEPSを解重合し、これにより、微生物の細胞壁及び/又はEPSを壊し、バイオフィルムを分解して、慣例的なクリーニングプロセスによってより容易にバイオフィルムを除去できるようにすると理解されている。
【0046】
本発明の方法は、バイオフィルムを水性混合物と接触させることを含む。接触させることは、種々の方法によって達成することができることは、理解されよう。しかしながら、好ましくは、水性混合物は、バイオフィルム又はバイオフィルムを含む混合物に施用される。施用方法は、水性混合物とバイオフィルムとを接触させる、任意の方法であり得る。一般的に、水性混合物は、溶液、フォーム又は懸濁液、好ましくは溶液又はフォームとしてバイオフィルムに施用される。水性混合物は、水性混合物をバイオフィルムに吹きかけ、又はスプレーすることによって、バイオフィルムに施用することもできる。代替的には、バイオフィルムを含む混合物を水性混合物に施用することもできるし、又はバイオフィルムを水性混合物に直接施用することもできる。
【0047】
本明細書において、「混合物」は、2種以上の構成要素の組合せを指すように使用されている。例えば、本発明の第1の態様の水性混合物は、水、過酸化物型化合物、マンガン錯体及び大環状配位子を含む。水性混合物は、ある比率の過酸化物型化合物、マンガン錯体及び式(I)又は式(II)の大環状配位子が溶解した溶液を含み、残りの比率が溶液中の浮遊物である、懸濁液(例えば、スラリー又はペースト)であってもよい。代替的には、水性混合物は、過酸化物型化合物、マンガン錯体及び大環状配位子が溶解した溶液であってもよい。水性混合物は、一般的に、溶液である。
【0048】
溶液とする場合、本発明の第1の態様の水性混合物は一般的に、マンガン錯体、過酸化物型化合物及び(マンガン錯体に別々に加えられる場合は)式(I)又は式(II)の配位子を、(任意選択により緩衝されていてもよい)溶媒(一般的に水)に溶解させることによって形成される。下記の記述においては本発明の第1の態様に着目しているが、任意の適切な方法を使用して、本発明の水性混合物を形成することができることを理解すべきである(当業者ならば、水性混合物がマンガン錯体を含む必要がない本発明の第2の態様の方法に対しても適切な調整(例えば、マンガン錯体の省略)がなされ得ることは理解されよう)。過酸化物型化合物は、溶液として市販されていることもあるが、マンガン錯体及び任意選択による配位子の添加前、添加後又は添加と一緒に(すなわち、同時に)溶液として溶媒に加えることもできる。例えば、過酸化物型化合物を含む水溶液は、[MnIVMnIV(μ-O)(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)][CHCOO](慣例により、「μ」は、架橋リガンドを表す。)であってもよいマンガン錯体の添加前、添加後又は添加と一緒に水に加えることができる。代替的には、過酸化物型化合物が固体として市販されている場合、過酸化物型化合物を、(任意選択により緩衝されていてもよい)溶媒(一般的に水)に溶解させた後、マンガン錯体及び任意選択による配位子と接触させることもできる。固体状過酸化物型化合物の例には、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム一水和物及び過ホウ酸ナトリウム四水和物が挙げられる。
【0049】
式(I)又は式(II)の配位子が別々にマンガン錯体に加えられる場合、式(I)又は式(II)の配位子は、マンガン錯体の添加前、添加後又は添加と一緒に溶媒に加えることができ、同様に、過酸化物型化合物も、配位子の前、後又は一緒に加えることができる。例えば、1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン等の配位子は、マンガン錯体の添加及び過酸化物型化合物を含む水溶液の添加前、添加後又は添加と同時に水に加えることができる。過酸化物型化合物が固体である場合、過酸化物型化合物は、マンガン錯体及び任意選択による式(I)又は式(II)の配位子(マンガン錯体の一部ではない場合)と混合することができる。次いで、得られた混合物を溶媒に加え、溶解させて、水性混合物を形成することができる。例えば、固体状過炭酸ナトリウムと、マンガン錯体と、1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン等の配位子との混合物を水に加え、水に溶解させることもできる。しかしながら、一般的には、最初に固体状過酸化物型化合物を水に溶解させ、これにマンガン錯体及び任意選択による式(I)又は式(II)の配位子(マンガン錯体の一部ではない場合)を加え、得られた混合物をバイオフィルムと接触させる。代替的には、固体状過酸化物を水に溶解させ、バイオフィルムに加えることもできる。次いで、マンガン錯体及び任意選択による式(I)又は式(II)の配位子(マンガン錯体の一部ではない場合)を混合物に加えることができる。先ほど言及した変形形態に類似しているが、水性混合物が懸濁液である変形形態も実施可能である。
【0050】
さらなる変形形態も可能である。例えば、マンガン錯体は、そのままの状態で加える必要はない。マンガンイオンは、水性混合物、及び、適切な式(I)又は式(II)の配位子の添加によって水性混合物中に形成されたマンガン錯体の中に存在してもよいし、又はこれらの水性混合物及びマンガン錯体に加えられてもよい。さらに、本発明の第2の態様によれば、バイオフィルムは、本明細書に記載された適量の式(I)又は式(II)の配位子の添加により、本明細書に記載された有用な量のマンガン錯体を水性混合物中に生成できるようにする、十分な量のマンガンイオンを含み得る。
【0051】
本発明の第1の態様によれば、バイオフィルムと接触する水性混合物は、(i) 過酸化物型化合物及び(ii) 単核Mn(II)、Mn(III)若しくはMn(IV)マンガン錯体又は二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)若しくはMn(IV)Mn(IV)マンガン錯体を含み、水性混合物が、式(I)又は式(II)の配位子を含む。
【0052】
式(I)又は式(II)の配位子がマンガン錯体の一部である必要はなく、すなわち、このような配位子は、水性混合物中で錯化していなくてもよい。一部の実施形態において、マンガン錯体は、[MnIVMnIV(μ-O)(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)][CHCOO]の場合と同様に、配位子を含む。水性混合物は、マンガン錯体が配位子を含み、水性混合物が、錯化していないさらなる配位子を含むように、過剰な配位子を含むこともできる。
【0053】
本発明の態様及びその実施形態によって使用される水性混合物は、式(I)及び/又は(II)(式中、Rが、C~C24アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH、CHCOOH及びピリジン-2-イルメチルからなる群より独立に選択される。)の配位子を含む。
【0054】
バイオフィルムを、混合物の状態の本明細書に開示の水性混合物(例えば、溶液)と接触させる場合、水性混合物は、スラリー、ペースト又は懸濁液であってもよい。
【0055】
「アルキル」という用語は、当技術分野において周知であり、任意の炭素原子から水素原子を除去することによってアルカンから得られた、1価の基を規定し、「アルカン」という用語は、環状又は非環状の分岐状又は無分岐状炭化水素を規定するように意図されている。アルキルがC~Cアルキルである場合、アルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル及びtert-ブチルからなる群より選択される。
【0056】
「アリール」という用語も、当技術分野において周知であり、環炭素原子から水素原子を除去することによってアレーンから得られた、1価の基を規定し、「アレーン」という用語は、単環式及び多環式芳香族炭化水素を規定するように意図されている。「芳香族」という用語は、仮説上の局在化構造の安定性より著しく高い(非局在化による)安定性を有する、環状共役分子実体(molecular entity)を規定している。当技術分野においては、大抵の場合、ヒュッケル則を用いて、芳香族性を査定するが;(4n+2)個のπ電子(式中、nが、負ではない整数である。)を含む三角形をなすように混成した原子(trigonally hybridised atom)(又は場合によっては対角線方向に混成した原子(diagonally hybridised atom))からなる単環式平面系(又はほぼ平面系)は、芳香族性を示す。ヒュッケル則は一般に、n=0~5に限定される。
【0057】
Rは、C~C24アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH及びCHCOOHからなる群より独立に選択することができる。アルキルは、大抵の場合、C~C12アルキルであり、したがって、Rは大抵の場合、C~C12アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH及びCHCOOHからなる群より独立に選択される。
【0058】
一般的に、Rがアルキルである場合、Rは、C~Cアルキルである。好ましくは、アルキルは、メチルである。
【0059】
大抵の場合、RがCH~C10アリールであるとき、Rは、ベンジルである。したがって、一部の実施形態において、Rは、C~Cアルキル、ベンジル、CHCHOH及びCHCOOHからなる群より独立に選択される。
【0060】
Rは、C~Cアルキル又はCH~C10アリールから独立に選択することができる。一部の実施形態において、Rは、C~Cアルキル又はベンジルから独立に選択される。一般的に、Rは、メチル又はベンジルから独立に選択され、好ましくはメチルである。
【0061】
一般的に、各Rは、同じである。
【0062】
式(I)及び式(II)において、R、R、R及びRは、H、C~Cアルキル及びC~Cアルキルヒドロキシから独立に選択される。本明細書において、「アルキルヒドロキシ」という用語は、水素原子(-H)によってヒドロキシル基(-OH)を置換することによってアルキル基から得られた、1価の基を指すように使用されている。C~Cアルキルヒドロキシは、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシル-n-プロピル、ヒドロキシイソプロピル、ヒドロキシル-n-ブチル、ヒドロキシル-sec-ブチル、ヒドロキシイソブチル及びヒドロキシル-tert-ブチルからなる群より選択することができる。好ましくは、C~Cアルキルは、メチルであり、C~Cアルキルヒドロキシは、ヒドロキシメチルであり、したがって、R、R、R及びRは大抵の場合、H、メチル及びヒドロキシメチルから独立に選択される。一般的に、R、R、R及びRは独立に、H又はメチルである。好ましくは、R、R、R及びRは、Hである。
【0063】
式(II)中においてQ’がプロピレン架橋である場合、Q’は、1,3-プロピレン(-(CH)3-)又は1,2-プロピレン(-CHCH(CH)-)であってもよい。
【0064】
大抵の場合、Q’は、エチレン架橋であり、したがって、式(II)の配位子は、次の構造
【化4】

によって表される。
【0065】
大抵の場合、式(I)の配位子は、1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン(Me-TACN)であり、式(II)の配位子は、1,2-ビス(4,7-ジメチル-1,4,7-トリアザシクロノナ-1-イル)エタン(Me-DTNE)である。したがって、一部の実施形態において、配位子は、Me-TACN又はMe-DTNEである。数多くの実施形態において、配位子は、Me-TACNである。
【0066】
本発明の第1の態様の方法によれば、マンガン錯体は、単核Mn(II)、Mn(III)若しくはMn(IV)錯体又は二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)若しくはMn(IV)Mn(IV)錯体である。当業者は、単離なしでも水性混合物中に形成し得、又は明確に規定されたものであってもよい、このような錯体及びこのような錯体の塩を熟知している。
【0067】
(明確に規定された錯体という用語は、当技術分野において慣例的に使用されているが)本明細書においては、明確に規定された錯体は、キャラクタリゼーション(すなわち、規定)及び分析(例えば、構造及び純度を判定するための分析)にかけやすくなるように単離された錯体を意味する。対照的に、明確に規定されていない錯体は、当該錯体を調製した媒体(例えば、反応媒体)からの単離なしで用意された、錯体である。
【0068】
一般的に、錯体は、二核錯体である。しかしながら、単核マンガンイオンを含有する単核錯体の塩の使用も、本発明の範囲に含まれる。このような錯体の例は、特許出願公開EP0549271A1、EP0549272A1、EP0544519A2及びEP0544440A2(すべてUnilever)に記載されている。
【0069】
式(I)の配位子を含む単核マンガン錯体は、式(I)の配位子が配位するマンガンイオン1個ごとにつき、1個の式(I)の配位子を含む。式(I)の配位子を含む二核マンガン錯体は一般に、マンガンイオン2個ごとにつき、2個の式(I)の配位子を含み、式(I)の配位子のそれぞれは、1個のマンガンイオンに配位している。例えば、式(I)の配位子がMe-TACNであり、マンガン錯体が式(I)の配位子を含む場合、マンガン錯体は、1個のマンガンイオン及び1個のMe-TACN配位子を含む単核錯体であってもよいし、又は2個のマンガンイオン及び2個のMe-TACN配位子を含む二核錯体であってもよい。
【0070】
対照的に、式(II)の配位子を含む二核マンガン錯体は一般的に、マンガンイオン2個ごとにつき、1個の式(II)の配位子を含み、式(II)の配位子は、二核マンガン錯体中の各マンガンイオンに配位している。例えば、式(II)の配位子がMe-DTNEであり、マンガン錯体が式(II)の配位子を含む場合、マンガン錯体は、2個のマンガンイオン及び1個のMe-DTNE配位子を含む二核錯体であってもよい。
【0071】
上記のように、マンガン錯体が配位子を含み、水性混合物が錯化していないさらなる配位子を含むような特定の複数の実施形態において、水性混合物は、過剰な配位子を含む。本明細書において使用されているとき、「過剰な配位子」は、錯化していない配位子を含む水性混合物を生じさせる、マンガンイオンに対してある比率の配位子を指す。したがって、過剰な配位子は、マンガンイオンに対する比が1より大きい式(I)を指し、一般的には、マンガンイオンに対する比が0.5より大きい式(II)の配位子を指す。水性混合物が過剰な配位子を含む場合、水性混合物は、錯化していない配位子と、明確に規定されていない単核及び二核マンガン錯体との混合物を含むこともある。例えば、配位子がMe-DTNE等の式(II)の配位子である場合、水性混合物は、2個のマンガンイオン及び1個のMe-DTNE配位子を含む二核錯体と、1個のマンガンイオン及び1個のMe-DTNE配位子(配位子の大員環のうちの1つは、錯化していない状態である。)を含む単核錯体と、錯化していないMe-DTNE配位子との、明確に規定されていない混合物を含み得る。
【0072】
一部の実施形態において、マンガン錯体は、明確に規定されている。マンガン錯体は、明確に規定されたものであってもよく、水性混合物は、配位していない配位子をさらに含む。
【0073】
本発明によって使用され得る、錯化していない式(I)又は式(II)の配位子は、独力では、すなわち、マンガンイオンの非存在下ではバイオフィルムを分解しないが、本発明者らは、過剰な配位子(すなわち、式(I)又は式(II)の配位子)が存在する場合、バイオフィルムの分解が予想外により効果的なものになることを発見した。また、上記のように、バイオフィルムは、マンガンイオンを含むこともあり、これらのマンガンイオンは、式(I)又は式(II)の配位子に結合し、これにより、過酸化物の存在下でバイオフィルム分解活性を発揮させることができる。理論に縛られるわけではないが、過剰な配位子の存在は、マンガンへの配位子の錯化を促進するように平衡をシフトさせることができる。本発明の方法を実施する際、万一、マンガン錯体に錯化した配位子の一部が錯化していない状態になったら(例えば、分解し、又はそうでない場合は、マンガンイオンに錯化することができない状態になったら)、それらの配位子を、水性混合物中の過剰な配位子によって置きかえることにより、式(I)又は式(II)の配位子を含むマンガン錯体を再生することができる。
【0074】
一般的に、本発明の第1の態様の水性混合物中におけるマンガンに対する式(I)の配位子のモル比は、約100:1~約0.1:1、より一般的には約10:1~約0.5:1、さらにより一般的には約5:1~約0.8:1、最も一般的には約2:1~約1.001:1である。約1:1のモル比は、錯化していない配位子が水性混合物中にないようにして式(I)の配位子を含む、明確に規定されたマンガン錯体を指し、又は、等モル比のマンガン錯体と式(I)の配位子との混合物を指す。
【0075】
一般的に、本発明の第1の態様の水性混合物中におけるマンガンに対する式(II)の配位子のモル比は、約50:1~約0.05:1、より一般的には約5:1~約0.1:1、さらにより一般的には約3:1~約0.2:1、最も一般的には約1:1~約0.5001:1である。0.5:1のモル比は、錯化していない配位子が水性混合物中にないようにして式(II)の配位子を含む、明確に規定されたマンガン錯体を指し、又は、式(II)の配位子に対して2モル当量のマンガンイオンを含む、マンガン錯体と式(II)の配位子との混合物の混合物を指す。
【0076】
本発明によって使用されるマンガン錯体は、式(I)又は式(II)の配位子以外にも、配位している状態の配位子を含むことができる。マンガン錯体が二核マンガン錯体である場合、マンガン錯体は、1個以上の架橋配位子を含むことができる。これらの1個以上の架橋配位子は一般的に、オキシド、ヒドロキシド、水、フェニルボロネート及びRCOO(式中、Rが、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルからなる群より選択される。)からなる群より独立に選択され、これらの配位子は、2個のマンガンイオンを架橋している。大抵の場合、C~C12アルキルは、C~Cアルキル、特に大抵の場合はC~Cアルキル、好ましくはメチルである。大抵の場合、任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルは、任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニル、好ましくはメチル置換フェニルである。
【0077】
本明細書において使用されているときの「置換される」という用語は、言及された基にある水素原子を、言及された置換基によって置きかえることを指するように意図されている。例えば、任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルは、水素原子のうちの1個以上が、任意選択によりC~Cアルキル、一般的にはメチルによって置きかえられると、これによって、例えばベンジルを生じさせる、フェニルを指す。
【0078】
は一般的に、水素(すなわち、架橋配位子は、ホルメートである。)、C~C12アルキル、及び、任意選択により1個以上のメチル基によって置換されていてもよいフェニルからなる群より選択される。さらにより一般的には、Rは、水素、C~Cアルキル及びフェニルからなる群より選択される。さらにより一般的には、Rは、水素、C~Cアルキル及びフェニルからなる群より選択され、C~Cアルキルが、好ましくは、メチルである。好ましくは、Rは、メチル又はフェニル、最も好ましくはメチルであり、すなわち、カルボキシレート架橋が存在する場合、Rは、好ましくはアセテート又はベンゾエート、最も好ましくはアセテートである。
【0079】
特定の複数の実施形態において、1個以上の架橋配位子は、オキシド、ヒドロキシド、水、アセテート及びベンゾエートからなる群より選択される1つ又は組合せである。
【0080】
一部の実施形態において、二核マンガン錯体は、2個又は3個の架橋配位子、大抵の場合は3個の架橋配位子を含む。
【0081】
マンガン錯体は、二核であってもよく、すなわち、2個のマンガンイオンを含む。このようなイオンの両方がMn(II)、Mn(III)若しくはMn(IV)であってもよいし、一方のイオンがMn(II)であり、他方のイオンがMn(III)であってもよいし、又は一方のイオンがMn(III)であり、他方のイオンがMn(IV)であってもよい。一部の実施形態において、二核マンガン錯体は、Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)又はMn(IV)Mn(IV)錯体である。
【0082】
二核マンガン錯体がMn(III)Mn(III)錯体である場合、二核マンガン錯体は、一般的には、1個のオキシド型架橋配位子及び2個のカルボキシレート型架橋配位子(RCOO)を含む。大抵の場合、カルボキシレート型配位子は、アセテート型配位子である。Mn(III)Mn(III)錯体が2個のMe-TACN配位子を含む場合、Mn(III)Mn(III)錯体は一般的に、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-TACN)2+である。
【0083】
二核錯体がMn(III)Mn(IV)錯体である場合、二核錯体は、好ましくは、3個の架橋配位子を含み;一般的には、1個又は2個のオキシド型架橋配位子と、2個又は1個のアセテート型架橋配位子とを含む。Mn(III)Mn(IV)錯体が2個の式(I)の配位子を含む場合(例えば、2個のMe-TACN配位子がMnイオンをキレート化している場合)、Mn(III)Mn(IV)錯体は一般的に、1個のオキシド型架橋配位子及び2個のアセテート型架橋配位子を含む。したがって、二核錯体は、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-TACN)3+であってもよい。対照的に、Mn(III)Mn(IV)錯体が1個の式(II)の配位子を含む場合(例えば、Me-DTNEが錯体中の両方のMnイオンをキレート化している場合)、Mn(III)Mn(IV)錯体は一般的に、2個のオキシド型架橋配位子及び1個のアセテート型架橋配位子を含む。したがって、二核錯体は一般的に、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)]2+である。
【0084】
二核錯体がMn(IV)Mn(IV)錯体である場合、二核錯体は一般的に、2個又は3個のオキシド型架橋配位子及び0個又は1個のアセテート型架橋配位子を含む。Mn(IV)Mn(IV)錯体が式(I)の2個の配位子を含む場合(例えば、2個のMe-TACN配位子がMnイオンをキレート化している場合)、Mn(IV)Mn(IV)錯体は一般的に、3個のオキシド型架橋配位子を含む。したがって、二核錯体は、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+であってもよい。対照的に、Mn(IV)Mn(IV)錯体が1個の式(II)の配位子を含む場合(例えば、Me-DTNEが錯体中の両方のMnイオンをキレート化している場合)、Mn(IV)Mn(IV)錯体は一般的に、2個のオキシド型架橋配位子及び1個のアセテート型架橋配位子を含む。したがって、二核錯体は一般的に、[MnIVMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)]3+である。
【0085】
一部の実施形態において、マンガン錯体は、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)2+、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)3+、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]2+及び[MnIVMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]3+(式中、Rが、上記のとおりである。)からなる群のいずれか1つより選択される。好ましくは、Rは、メチルである。
【0086】
一般的に、マンガン錯体は、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-TACN)2+、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-TACN)3+、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)]2+及び[MnIVMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)]3+からなる群のいずれか1つより選択される。
【0087】
大抵の場合、マンガン錯体は、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+又は[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]2+(式中、Rが、上記のとおりである。)。好ましくは、上記のように、Rは、メチルである。
【0088】
上記のように、本発明のマンガン錯体は、明確に規定されたものでなくてもよい。例えば、2個及び/又は3個の架橋配位子を含む種々の二核Mn(II)錯体を使用することも可能であり、これらの二核Mn(II)錯体は、空気にさらされると、二核Mn(III)Mn(III)種、Mn(III)Mn(IV)種又はMn(IV)Mn(IV)種を形成する。このような種々の二核Mn(II)錯体は、例えば水性混合物がMn(II)(アセテート)等の1種以上のマンガン塩及びMe-TACN等の過剰な式(I)又は式(II)の配位子を含む場合に、水性混合物中に形成し得る。
【0089】
大抵の場合、単核又は二核マンガン錯体は、正に荷電している。一般的に、正電荷は、1個以上の非配位性対アニオンと釣り合っている。言い換えると、マンガン錯体は、1種以上の非配位性対イオンを含む塩の一部であってもよい。対アニオンの特定名(identity)は、本発明の本質的な特徴ではないが、水性媒体への溶解度の改善を目的として、一般には、テトラフェニルボレート等の非常に大きい対イオンは避けられる(ただし、必ずしも避けられるとは限らない)。
【0090】
大抵の場合、非配位性対イオンは、Cl、Br、I、NO 、ClO 、PF 、SO 2-、RSO 及びRCOO(式中、Rが、カルボキシレート型架橋配位子との関連で上記したとおりであり;Rが、任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニル、C~Cアルキル(例えば、メチル)又はCFである。)からなる群のいずれか1つより選択される。RがC~Cアルキル置換フェニルである場合、フェニルは、C~Cアルキルによって1回以上置換されていてもよい。一般的に、RがC~Cアルキル置換フェニルである場合、Rは、C~Cアルキル置換フェニルであり、C~Cアルキルは、好ましくはメチルである。Rは、任意選択により1個以上のメチルによって置換されていてもよいフェニルであってもよい。大抵の場合、フェニルは、1個のメチル基によって、一般的にはパラ位を置換されている。
【0091】
一部の実施形態において、非配位性対イオンは、SO 2-、RCOO、Cl、NO 、RSO 及びPF からなる群より選択される。大抵の場合、非配位性対イオンは、SO 2-、CHCOO、Cl、NO 、CHSO (トシレート)及びPF からなる群より選択される。
【0092】
マンガン錯体を含み、20℃で少なくとも30g/l、例えば、20℃で少なくとも50g/l又は20℃で少なくとも70g/l等の著しい水溶性を有する塩が、WO2006/125517A1(Unilever PLC)に記載されている。このような水に非常に溶けやすい塩、すなわち、(必ずしもそうであるとは限らないが)一般的にはWO2006/125517A1(Unilever PLC)に記載の塩、例えば、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン及び酢酸イオン等の小さい対イオンを含む塩等、20℃で少なくとも30g/l、例えば、20℃で少なくとも50g/l又は20℃で少なくとも70g/lの溶解度を有する塩の使用は、このような塩の高い水溶性が例えば、PF イオンを含む塩等の水に難溶の塩を使用した場合に比べてより高い濃度の塩を本発明の水性混合物中に使用することができることを意味するため、有利な場合がある。例えば、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PFの水溶性は、20℃でわずか10.8g/lである。
【0093】
さらに、PF を含む塩等の水に難溶の塩は一般的に、マンガン錯体の形成後にカリウム塩としてアニオン(PF )を導入することにより、マンガン錯体及び水に難溶の対イオン(PF )を含む塩の沈殿によって形成される。沈殿物は一般的に、本発明の第1の態様によって開示された水性混合物への添加前に、例えば水に再溶解させる。このようなさらなるステップは、複雑化及びコスト増を発生させ、さらには、溶解度(水溶性)が非常に低いため、比較的体積が大きい水又は他の溶媒を使用することも多くなる。
【0094】
したがって、非配位性対イオンは、Cl、NO 、SO 2-及び酢酸イオンからなる群より選択されることが好ましい。しかしながら、非配位性対イオンがPF6である場合、マンガン錯体は、一般的に、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+であり、すなわち、マンガン塩は、一般的に、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PFである。
【0095】
一部の実施形態において、マンガン錯体は、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][SO]、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)[SO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][SO]、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][NO、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PF、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)][Cl]及び[MnIVMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)][Cl](式中、Rが、上記のとおりである。)からなる群のいずれか1つより選択される塩の一部である。好ましくは、Rは、メチルである。
【0096】
好ましくは、マンガン錯体は、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][SO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][NO又は[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)][Cl](式中、Rが、上記のとおりである。)からなる群のいずれか1つより選択される塩の一部である。好ましくは、Rは、メチルである。
【0097】
マンガン錯体を含む塩(固体形態)は、当技術分野においては水和物として知られる、さらなる水分子を含有し得ることを理解すべきである。例えば、結晶質[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PFは一般的に、結晶格子の中に1個の水分子を含む。水和物の分子式は、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PF.HOである
【0098】
(マンガン錯体を含む)固体状マンガン塩は、さらなる塩と一緒になった状態で単離されるように合成することもできる。マンガン塩の合成中、所望の対イオンを生じさせるために使用する試薬が過剰に使用され、得られたマンガン塩を含む固体から分離されなかった可能性もある。例えば、ヘキサフルオロリン酸カリウムが、固体状[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PF中に存在することもあり得るし、WO2013/033864A1(Kemp,R.W.ら)の実施例2に例示されているように、塩化ナトリウムが[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)][Cl]中に存在することもあり得る。
【0099】
代替的には、第2の態様によれば、バイオフィルムと接触した水性混合物は、マンガンイオンの存在を必要とすることなく、過酸化物型化合物及び式(I)又は式(II)の配位子を含むことが想定されている。水性混合物を作製するために使用される溶媒は、不純物としてマンガンイオンを含み得るが、マンガンイオンは、式(I)又は式(II)の配位子に結合して、(明確に規定されていない)単核又は二核マンガン錯体を形成することができる。茶渋の漂白についても同様の所見がなされており、プロトン化したMe-TACN配位子の塩を過酸化水素と組み合わせて使用した場合には顕著な漂白効果が観察された(G.Reinhardt、J.Molecular Catalysis、2006、251、177~184)。さらに、バイオフィルムは、式(I)又は式(II)の配位子を加えたときに明確に規定されていない単核Mn(II)、Mn(III)、Mn(IV)錯体又は二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)若しくはMn(IV)Mn(IV)錯体を形成する、マンガンイオンを含有することもある。
【0100】
本発明の第2の態様によれば、バイオフィルムと接触した水性混合物が、マンガンイオンの存在を必要とすることなく、過酸化物型化合物及び式(I)又は式(II)の配位子を含む場合、水性混合物中に形成されたマンガン錯体の濃度は、一般的には約0.0001~約300μM、より一般的には約0.001~約200μM、さらにより一般的には約0.01~約100μM、さらにより一般的には約0.1~約50μMである。大抵の場合、マンガン錯体の濃度は、約0.01~約30μM、さらにより多くの場合では約0.05~約20μMである。
【0101】
本明細書に開示の水性混合物をバイオフィルムと接触させると、バイオフィルムが分解される。驚くべきことに、前述の接触の前に、マンガン化合物を還元剤と接触させて、マンガン錯体を生じさせた場合、分解の程度が増すことを本発明者らは見出した。「マンガン化合物」は、還元剤と接触すると、本発明の第1の態様に記載のマンガン錯体を形成する、任意のマンガンイオン含有化合物を指すことを理解すべきである。理論に縛られるわけではないが、還元剤の添加により、マンガン化合物中に存在する1個以上のマンガンイオンの酸化状態を低下させることができる。したがって、マンガン化合物中のマンガンイオンは、マンガン化合物を還元剤と接触させたときに形成するものである、対応するマンガン錯体中のマンガンイオンより酸化状態が高いものである。このような事情を鑑みて、還元剤は一般に、酸化状態が3以上のマンガンイオンを含むマンガン化合物と接触させる。一般的に、還元剤は、単核Mn(III)若しくはMn(IV)化合物又は二核Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)若しくはMn(IV)Mn(IV)化合物と接触させる。一部の実施形態において、マンガン化合物は、二核Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)又はMn(IV)Mn(IV)化合物である。
【0102】
一例として、1モル当量のアスコルビン酸等の二電子還元化合物を二核Mn(IV)Mn(IV)化合物に加えることにより、両方のMn(IV)イオンが還元されて、二核Mn(III)Mn(III)錯体が得られる。しかしながら、1モル当量のアスコルビン酸等の二電子還元剤を、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+を含むマンガン化合物等、明確に規定された二核Mn(IV)Mn(IV)化合物に加えたとき、必ずしも、明確に規定された二核Mn(III)Mn(III)錯体が形成されるとは限らない。むしろ、得られた混合物中には異なるマンガン錯体が存在する可能性があり、例えば、二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)又はMn(IV)Mn(IV)錯体の混合物が形成し得る(ここで、平均酸化状態は、Mn(III)Mn(III)である。)。配位子が解離して、単核マンガン錯体、すなわち、Mn(II)、Mn(III)及び/又はMn(IV)錯体が形成される(例えばB.C.GilbertらOrg.Biomol.Chem.、2004、2、1176~1180を参照されたい。)こともあり得るし、又は当然ながら、完全ではない還元(すなわち、化学量論的に計算されるものを下回る還元)が起きることもあり得る。
【0103】
マンガン化合物を還元剤と接触させることによってマンガン錯体を生じさせた場合、マンガン錯体は一般的に、溶液(一般的に水溶液)中に生じる。このような溶液は、任意の適切な方法によって形成することができる。例えば、マンガン化合物は、溶液又は懸濁液として得、又は調製することが可能であり、還元剤の添加前、添加後又は添加と一緒に溶液又は懸濁液として、任意選択により緩衝されていてもよい溶媒(一般的に水)に加えることができる。代替的には、マンガン化合物が固体として得られ、又は調製された場合、マンガン化合物は、還元剤と接触させる前に、任意選択により緩衝されていてもよい溶媒(一般的に水)に加えることもできる。還元剤が固体(アスコルビン酸等)である場合、還元剤は、マンガン化合物と混合されてもよく、得られた混合物は次いで、溶媒に加えることができる。代替的には、還元剤は、溶液又は懸濁液(一般的に、水溶液又は懸濁液)中に生じさせることもできる。
【0104】
マンガン化合物は、二核Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)及びMn(IV)Mn(IV)錯体からなる群より選択することができ、還元剤と接触させると、単核Mn(II)、Mn(III)及びMn(IV)錯体並びに二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)及びMn(III)Mn(IV)錯体からなる群より選択されるマンガン錯体のいずれか1つ又は組合せを生じさせることができる。
【0105】
還元剤は、マンガン化合物の酸化状態を低下させるのに適した任意の還元剤であってよい。適切な還元剤には、アスコルビン酸及びアスコルビルパルミテート又はアスコルビルステアレート等アスコルビン酸エステル誘導体、任意選択によりC~Cアルキル置換又はアリル置換されていてもよいカテコール、任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいヒドロキノン、ピロガロール、カフェイン酸、任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいマルトール、n-プロピルガレート並びにアルカリ金属亜硫酸塩、アルカリ金属重亜硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩が挙げられる。
【0106】
亜硫酸塩、重亜硫酸塩及びチオ硫酸塩のアルカリ金属は、大抵の場合、ナトリウム又はカリウムであり、一般的にはナトリウムである。
【0107】
還元剤は、アスコルビン酸、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、カテコール、ヒドロキノン、ピロガロール4-tert-ブチルカテコール、4-アリルカテコール、tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、n-プロピルガレート、カフェイン酸、マルトール、エチルマルトール、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウムからなる群より選択されるいずれか1つであってもよい。
【0108】
還元剤は大抵の場合、アスコルビン酸、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、カテコール、ヒドロキノン、ピロガロール、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウムからなる群より選択されるいずれか1つである。
【0109】
一部の実施形態において、還元剤は、アスコルビン酸、カテコール、ヒドロキノン、ピロガロール及び亜硫酸ナトリウムからなる群より選択される。特定の複数の実施形態によれば、還元剤は、アスコルビン酸である。
【0110】
大抵の場合において、還元剤がアスコルビン酸であるとき、マンガン化合物は、ヘキサフルオロリン酸対イオン、例えば、マンガン化合物は、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PFを含む。
【0111】
還元剤に対する、例えば二核Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)又はMn(IV)Mn(IV)錯体を含むマンガン化合物のモル比は、一般的には約0.1:1~約10:1、より一般的には約0.2:1~約3:1、最も一般的には約0:5:1~約1:1であり、すなわち、約1又は2モル当量の還元剤がマンガン化合物に加えられる。マンガン化合物に対して大過剰な還元剤は、過剰な還元剤が水性混合物中に存在する過酸化物型化合物と反応する可能性があるため、望ましいものではない場合もある。反対に、大過剰なマンガン化合物は、マンガン化合物の大部分が還元剤と反応せず、これにより、活性が低下した形態で残留し得るため、望ましいものではない可能性もある。
【0112】
本発明の第1の態様の特定の複数の実施形態において、マンガン化合物は、式(I)の配位子のうちの1個以上若しくは式(II)の配位子のうちの1個;本明細書に記載の架橋配位子のうちの2個若しくは3個、好ましくは3個;及び/又は、本明細書に記載の非配位性対イオンのうちの1個以上を含む。式(I)又は式(II)の配位子がマンガン化合物の一部である必要はない。このような配位子は、水性混合物に別々に加えることができ、遷移金属錯体を形成するときに遷移金属化合物と接触させることも可能であるし、又は、水性混合物中で錯化していない状態のままであってもよい。疑義を回避するために、マンガン錯体に適用される本発明の第1の態様の実施形態は、マンガン化合物にも準用される。例えば、マンガン化合物は、好ましくはMe-TACN又はMe-DTNEである式(I)又は式(II)の配位子を含むことができる。マンガン化合物は、SO 2-、RCOO、Cl、NO 、RSO 及びPF (式中、R及びRが、本明細書において規定のとおりである。)からなる群より選択される1種以上の非配位性対イオンを含むことができる。好ましくは、1種以上の非配位性対イオンは、酢酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン及びヘキサフルオロリン酸イオン、例えば、酢酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンからなる群より選択される。
【0113】
別の例において、マンガン化合物は二核であってもよく、二核である場合は、オキシド、ヒドロキシド、水、フェニルボロネート及びRCOO(式中、Rが、本明細書に規定のとおり(好ましくはメチル)である。)からなる群より独立に選択される2個又は3個の架橋配位子を含むことができる。
【0114】
さらに別の例において、マンガン化合物は、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)2+、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)3+、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]2+及び[MnIVMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]3+(式中、Rが、本明細書に規定のとおり(好ましくはメチル)である。)からなる群のいずれか1つを含むことができる。
【0115】
マンガン化合物は、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][SO]、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)[SO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][SO]、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][NO、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PF、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)][Cl]及び[MnIVMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)][Cl](式中、Rが、本明細書に規定のとおり(好ましくはメチル)である。)からなる群のいずれか1つであってもよい。
【0116】
別の例において、マンガン化合物は、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+又は[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]2+(式中、Rが、本明細書に規定のとおり(好ましくはメチル)である。)を含むことができる。
【0117】
さらに別の例において、マンガン化合物は、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][SO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][NO又は[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)][Cl]であってもよい。
【0118】
本発明の第1及び第2の態様による水性混合物は、過酸化物型化合物を含む。本明細書において使用されているとき、「過酸化物型化合物」は、構造ROOR’(式中、R及びR’が独立に、水素又はオルガニルであってもよい。)の化合物である。
【0119】
本明細書において使用されており、当技術分野において理解されている「オルガニル」は、炭素原子に自由原子価がある有機置換基を指す。同様に、「オルガニレン」は、2つの自由原子価を有する有機基であって、これらの2つの自由原子価が、有機化合物から2個の水素原子を除去することによって得られた同じ又は異なる炭素原子に存在し得る、有機基を指す。したがって、例えば、オルガニルは、-C(O)R’’、C~C12アルキル及びフェニルC~Cアルキル(式中、R’’が、アルキレン基又は置換アルキレン基である。)からなる群より選択されるいずれか1つであってもよい。RとR’は、同じオルガニル基であってもよいし、又は異なるオルガニル基であってもよい。Rが水素であり、R’が-C(O)R’’である場合、過酸化物型化合物は、ペルオキシ酸である。Rが水素であり、R’がアルキルである場合、過酸化物は、アルキルヒドロペルオキシドである。Rが水素であり、R’がフェニルアルキルである場合、フェニルアルキルヒドロペルオキシドである。R及びR’がアルキルである場合、過酸化物は、ケトンペルオキシドである。ペルオキシ酸、アルキルヒドロペルオキシド、フェニルアルキルヒドロペルオキシド及びケトンペルオキシドは、本明細書においてさらに規定されている。
【0120】
過酸化物型化合物は、過酸化水素、ペルオキシ酸、アルキルヒドロペルオキシド、フェニルアルキルヒドロペルオキシド及びケトンペルオキシドからなる群のいずれか1つ又は組合せであってもよい。
【0121】
大抵の場合、過酸化物は、過酸化水素、ペルオキシ酸、アルキルヒドロペルオキシド及びフェニルアルキルヒドロペルオキシドのいずれか1つ又は組合せである。より多くの場合においては、過酸化物は、過酸化水素とペルオキシ酸との組合せである。1種以上の異なる過酸化物型化合物を組み合わせて使用することもできる。
【0122】
本明細書において、「ペルオキシ酸」という用語は、少なくとも1個の酸性-OH基が-OOH基によって置換された、カルボン酸等の酸を指すように使用されている。一般的なモノ-又はジペルオキシ酸は、一般式HOO(CO)R’’Y(式中、Rが、1~約20個の炭素原子を含有し、任意選択により内部アミド結合を有してもよい、アルキレン基又は置換アルキレン基、又はフェニレン基若しくはC~C12アルキル置換フェニレン基であり;Yが、水素、ハロゲン、C~C12アルキル、C~C10アリール(好ましくはフェニル)、イミド、COOH若しくは(C=O)OOH基又は第四級アンモニウム基である。)を有する。
【0123】
「イミド」は、アンモニア又は第一級アミンのジアシル誘導体、すなわち、構造R’’’-C(O)NRC(O)-R’’’(式中、R’’’基が、独立に選択されるオルガニル基であり、又はより一般的には一緒になって、複数のカルボニル部分を連結することによって環状イミドを形成するオルガニレン基であり;R-が、ペルオキシ酸の残り部分を表し、すなわち、HOO(CO)R’’-である。)を備えるジアシル誘導体を意味する。一般的に、イミドは、環状であり、例えば、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド及びグルタルイミドからなる群の1つである。好ましくは、イミドは、フタルイミドである。
【0124】
一部の実施形態において、R’’は、任意選択により置換されていてもよいC~C12アルキレン又はフェニレンであり;Yは、-H、ハロ、C~C12アルキル、フェニル、フタルイミド、-COOH若しくは-(C=O)OOH又は第四級アンモニウムである。一般的に、R’’は、任意選択により置換されていてもよいC~Cアルキレン又はフェニレンであり;Yが、-H、ハロ又はC~Cアルキルであり、C~Cアルキレンが、メチレン、エチレン、n-プロピレン、イソプロピレン、n-ブチレン、sec-ブチレン、イソブチレン及びtert-ブチレンからなる群のいずれかより選択され、好ましくはメチレンであり、C~Cアルキルが、好ましくはメチルである。より一般的に、R’’は、任意選択により置換されていてもよいC~Cアルキレン又はフェニレンであり;Yは、-H又はハロである。一般的に、ハロは、クロロ又はフルオロである。
【0125】
モノペルオキシ酸の例には、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、フタロイルペルオキシド、m-クロロ過安息香酸等のペルオキシ安息香酸、ペルオキシラウリン酸、N,N-フタロイルアミノペルオキシカプロン酸及び6-オクチルアミン-6-オキソペルオキシヘキサン酸が挙げられる。一般的なジペルオキシ酸には、例えば、1,12-ジペルオキシドデカン酸及び1,9-ジペルオキシアゼライン酸が挙げられる。
【0126】
一般的に、ペルオキシ酸は、過酢酸、トリフルオロ過酢酸(trifluoroacetic peracid)及びm-クロロ過安息香酸から選択されるいずれか1つ又は組合せである。
【0127】
「アルキルヒドロペルオキシド」という用語は、-Hがアルキル基によって置換された、過酸化水素の一置換生成物を指す。アルキルは、C~C12アルキルであってもよく、大抵の場合、C~Cアルキル、好ましくはtert-ブチルである。
【0128】
「フェニルアルキルヒドロペルオキシド」という用語は、-Hがフェニルアルキル基によって置換された、過酸化水素の一置換生成物を指す。フェニルアルキルは、フェニルメチル、フェニルエチル、フェニル-n-プロピル、フェニルイソプロピル、フェニル-n-ブチル、フェニル-sec-ブチル、フェニルイソブチル及びフェニル-tert-ブチルからなる群より選択されるフェニルC~Cアルキルであってもよく、大抵の場合はフェニルイソプロピルであってもよい。
【0129】
「ケトンペルオキシド」という用語は、ケトンを過酸化水素と接触させたときに形成する、過酸化物型化合物を指す。このような過酸化物型化合物は、大抵の場合、明確に規定されたものではなく、ケトンと過酸化水素とを接触させたときに水性混合物中に形成し得る。適切なケトンには、アセトン、メチルエチルケトン(ブダノン)、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、エチルプロピルケトン、メチルフェニルケトン及びジフェニルケトンが挙げられる。ケトンペルオキシドは、一般的に、メチルエチルケトンペルオキシド又はアセトンペルオキシドである。
【0130】
本発明の第1及び第2の態様の過酸化物型化合物は大抵の場合、過酸化水素、ペルオキシ酸、アルキルヒドロペルオキシド及びフェニルアルキルヒドロペルオキシドからなる群より選択されるいずれか1つ又は組合せを含む水溶液等の水溶液(任意選択により、例えば水又はアルカリ性緩衝剤によって希釈されていてもよい)として得られ、又は調製される。液体状過酸化物型化合物の取り扱いは、一般に、より容易である。
【0131】
第1及び第2の態様の過酸化物型化合物は、適切な前駆物質から水性混合物中に形成し得る。過酸化物型化合物の適切な前駆物質は、当技術分野において公知であり、当業者は、本発明の第1及び第2の態様による使用に適した前駆物質を識別することができる。過酸化物型化合物が過酸化水素である場合、過酸化物型化合物は水性混合物中で、アルカリ金属過酸化物、尿素過酸化水素等の有機過酸化物、並びに、アルカリ金属過ホウ酸塩(例えば、過ホウ酸ナトリウム)、過炭酸塩、過リン酸塩、過ケイ酸塩及び一過硫酸カリウム等の過硫酸塩等の無機過酸塩を含む前駆物質から形成し得る。大抵の場合、過酸塩は、任意選択により水和していてもよい過ホウ酸ナトリウム(例えば、過ホウ酸ナトリウム一水和物及び過ホウ酸ナトリウム四水和物)又は過炭酸ナトリウムである。過炭酸ナトリウムは、過酸化水素及び炭酸ナトリウムに分解される。過炭酸ナトリウムは一般に、他の過酸化水素の供給源より環境に優しいものであると考えられており、この結果、過酸化水素の固体状供給源としてより幅広く使用されている。
【0132】
他の適切な過酸化水素供給源には、適切な基質と一緒になって過酸化水素を生成する、酵素系が挙げられる。この例は、C~Cアルコールオキシダーゼ酵素及びC~Cアルコールであり、例えば、メタノールオキシダーゼと、エタノールとの組合せである。このような組合せは、WO95/07972A1(Unilever N.V.及びUnilever plc)に記載されている。
【0133】
過酸化物型化合物がペルオキシ酸である場合、過酸化物型化合物は水性混合物中で、いわゆるペルオキシ前駆物質から形成し得る。ペルオキシ前駆物質は、過酸化水素と反応して、ペルオキシ酸を生成することができる。ペルオキシ前駆物質は当業者に周知であり、GB836988A(Unilever Ltd)、GB864798A(Unilever Ltd)、GB907356A(Konink ind Mij Voorheen Noury)、GB1003310A(Unilever Ltd)及びGB1519351A(Unilever Ltd);EP0185522A2(Clorox Co)、EP0174132A2(Proctor&Gamble)、EP0120591A1(Proctor&Gamble);並びにUS1246339A(Smit Isaac J)、US3332882A(FMC Corp)、US4128494A(Ugine Kuhlmann)、US4412934A(Proctor&Gamble)及びUS4675393A(Lever Brothers Ltd)に記載されている。
【0134】
適切なペルオキシ前駆物質には、US4751015A及びUS4397757A(両方ともLever Brothers Ltd)並びにEP0284292A(花王)及びEP0331229A(Unilever NV)に記載された、カチオン性の第四級アンモニウム置換ペルオキシ酸漂白剤前駆物質が挙げられる。これらの例には、2-(N,N,N-トリメチルアンモニウム)エチルナトリウム-4-スルホフェニルカルボネートクロリド(SPCC)及びN,N,N-トリメチルアンモニウムトリルオキシベンゼンスルホネートが挙げられる。
【0135】
別のクラスのペルオキシ前駆物質は、EP0303520A(花王)、EP0458396A(Unilever NV)及びEP0464880A(Unilever NV)に記載のカチオン性ニトリルによって形成される。本発明と併せて使用するための他のクラスの漂白剤前駆物質、例えば、6-(ノナンアミドカプロイル)オキシベンゼンスルホネートがWO00/15750A1(Proctor&Gamble)に記載されている。
【0136】
一般的に、ペルオキシ前駆物質は、スルホフェニルアルカノエート及びスルホフェニルフェニルアルカノエートを含むエステル;アシルアミド;並びに、カチオン性ニトリルを含む第四級アンモニウム置換ペルオキシ前駆物質からなる群より選択される。典型的なペルオキシ前駆物質(時に、ペルオキシ酸漂白活性化剤(bleach activator)と呼ばれることもある)の例は、4-ベンゾイルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム(SBOBS);N,N,N’,N’-テトラアセチルエチレンジアミン(TAED);1-メチル-2-ベンゾイルオキシベンゼン-4-スルホン酸ナトリウム;4-メチル-3-ベンゾイルオキシ安息香酸ナトリウム;トリメチルアンモニウムトルイルオキシベンゼンスルホネート;SPCC;ノナノイルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム(SNOBS);3,5,5-トリメチルヘキサノイルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム;並びにカチオン性置換ニトリルである。大抵の場合、ペルオキシ前駆物質は、TAED又はノナノイルオキシベンゼンスルホネート(NOBS)の塩、例えば、SNOBSである。
【0137】
1種より多い過酸化物型化合物が使用される場合、過酸化物型化合物の組合せは、過酸化水素、ペルオキシ酸、C~C12アルキルヒドロペルオキシド及びフェニルアルキルヒドロペルオキシドからなる群より選択することができる。水性混合物中に1種より多い過酸化物型化合物が存在する場合、これらの過酸化物型化合物は一般的に、過酸化水素と、ペルオキシ酸、C~C12アルキルヒドロペルオキシド及びフェニルアルキルヒドロペルオキシドからなる群より選択されるいずれか1つの過酸化物型化合物とから選択される。一般に、過酸化水素は、本発明の方法のための最も効果的な過酸化物型化合物である。しかしながら、カタラーゼ酵素(例えば、バイオフィルム中の微生物によって産生されたもの)又は過酸化水素と優先的に反応する遷移金属イオンが水性混合物中に存在する場合、水性混合物中の活性な過酸化水素の量が減少する。これとは逆に、本発明のマンガン錯体は、ペルオキシ酸、C~C12アルキルヒドロペルオキシド及びフェニルアルキルヒドロペルオキシドからなる群より選択される過酸化物型化合物と反応することができる。したがって、本発明の方法においては、過酸化水素ではない過酸化物型化合物の使用が有利なこともある。例えば、ペルオキシ酸の抗菌特性は周知であり、バイオフィルムを分解するときには、抗菌活性は望ましいものとなる可能性が高い(ペルオキシ酸の抗菌特性に関しては、Katara,G.ら、J.Patient Saf.Infect.Control、2016、4(1)、17~21;Shen,X.ら、Front.Microbiol.、2019、10、1196;Antonelli,M.ら、Water Sci.Technol.、2013、68(12)、2638~2644;及びWO2017/181005A1(Ecolab USA Inc.)を参照されたい。)。本発明の方法において、ペルオキシ酸は、過酸化水素と組み合わせて使用されることが多く、大抵の場合は、使用される過酸化水素のモル比がペルオキシ酸に対してより高い。
【0138】
一部の実施形態において、C1~12アルキルヒドロペルオキシド(好ましくは、tert-ブチルヒドロペルオキシド)と、過酸化水素との混合物が使用される。大抵の場合、過酸化水素に対するC1~12アルキルヒドロペルオキシドのモル比は、約10:1~約1:10である。
【0139】
代替的には、ペルオキシ酸(一般的には、過酢酸、m-クロロ過安息香酸、トリフルオロ過酢酸及びフタロイルペルオキシド、好ましくは過酢酸からなる群より選択される)と、過酸化水素との混合物が使用される。大抵の場合、過酸化水素に対するペルオキシ酸のモル比は、約10:1~約1:100、好ましくは約5:1~約1:10である。
【0140】
大抵の場合、過酢酸と過酸化水素との混合物が使用される。一般的には、過酸化水素に対する過酢酸のモル比は、約10:1~約1:100であり、より一般的には約3:1~約1:30、さらにより一般的には約1:1~約1:10である。
【0141】
過酸化物型化合物の濃度は変更することが可能である。疑義を回避するために、過酸化物型化合物の濃度は、過酸化水素、ペルオキシ酸、アルキルヒドロペルオキシド、フェニルアルキルヒドロペルオキシド及びケトンヒドロキシドを含む、水性混合物中のすべての過酸化物型化合物の総濃度を指す。一般的に、過酸化物型化合物の濃度は、約0.01~約500mM、より一般的には約0.1~約100mM、最も一般的には約0.3~約30mMである。
【0142】
本発明者らにより、バイオフィルムは、過酸化物型化合物、マンガン錯体及び式(I)又は式(II)の配位子を含む本発明の第1の態様の水溶液と接触すると分解することが発見された。配位子又は過酸化物型化合物が除去又は分解されたのであれば、バイオフィルムがさらに分解されることはない。
【0143】
本発明の第1及び第2の態様の方法は、種々の温度及びpH範囲で実施することができる。マンガン錯体の分解は、水性混合物のpHが適切な範囲外である場合に起き得る。水性混合物が高いpH値を有する場合、不溶性のマンガンの水酸化物又は酸化物が、例えば12超又は13超のpHで形成し得る。さらに、マンガン錯体による過酸化物型化合物の分解は、高いpH値、例えば10.5以上のpHで起き得る。このような過酸化物型化合物の分解は、バイオフィルムの分解を阻害する可能性がある。しかしながら、これは、例えば、水性混合物中の過酸化物型化合物の濃度を上昇させること、例えば、2000超のモル過剰等、マンガン錯体に対してより過剰な過酸化物型化合物を使用することによって、容易に回避することができる。
【0144】
低いpHでは、過酸化物型化合物及び/又は式(I)若しくは式(II)の配位子がプロトン化され得る。この結果、マンガン錯体による過酸化物型化合物の活性化を阻害することができ、及び/又は式(I)若しくは式(II)の配位子がマンガン錯体から解離することができる。さらに、バイオフィルムは、低いpHでは分解されにくいことが多い。バイオフィルムの分解の阻害は、4未満のpH又は3未満のpHで起き得る。したがって、水性混合物のpHは、一般的には約4~約12、より一般的には約pH6~約11である。水性媒体のpHは、酸若しくはアルカリ(例えば、HCl又はNaOH)の添加又は緩衝液の使用によって容易に変更され、すなわち、一部の実施形態において、水性混合物は、緩衝剤を含む。マンガン錯体が還元剤とマンガン化合物との生成物である場合、緩衝剤が水性混合物に加えられることが多い。一般的に、緩衝剤は、炭酸緩衝剤、リン酸緩衝剤又はホウ酸緩衝剤、好ましくは炭酸緩衝剤からなる群より選択される。大抵の場合、緩衝剤は、炭酸緩衝剤であり、水性混合物のpHは、約8~約10.5、大抵の場合は約8~約10、一般的には約8.5~9.5、最も一般的には約9である。溶液又は懸濁液として加えられる場合、緩衝剤は一般的に、固体状緩衝剤を溶媒(一般的に水)に溶解させることによって調製される。代替的には、緩衝剤は、固体として水性混合物に加えることもできる。緩衝剤は、マンガン錯体若しくはマンガン化合物、過酸化物型化合物及び/又は任意選択による式(I)又は式(II)の配位子の添加前、添加中又は添加と一緒に加えることができる。
【0145】
代替的には、特定の複数の実施形態によれば、固体状又は液体状緩衝剤は、水性混合物に加えられない。疑義を回避するために、このような複数の実施形態は、例えば大気から水性混合物中に二酸化炭素が溶け込むことにより、炭酸緩衝剤又は重炭酸緩衝剤が形成されることによって、水性混合物中に緩衝剤が自然に形成することを排除しない。他の複数の実施形態によれば、緩衝剤は、水性混合物に加えられない。
【0146】
マンガン錯体が還元剤とマンガン化合物との生成物ではない場合、水性混合物のpHは、一般的には約9.5~約11.5、より一般的には約10~約11、さらにより一般的には約10~約10.5である。これらのpH値では、金属イオン封鎖剤は一般的に、水性混合物中に含まれる。金属イオン封鎖剤については、後述する。
【0147】
水性混合物の温度は、一般的には約15℃~約90℃、より一般的には約20℃~約70℃である。好ましくは、水性混合物の温度は、約25℃~約50℃である。
【0148】
本発明の方法は、任意の長さの時間にわたって実施することができる。当業者ならば、反応時間が長いほど、バイオフィルムの分解の度合いが増すことについては認識している。たとえそうであっても、反応の方法は、10分未満の反応時間でバイオフィルムを効果的に分解するものである。一般的に、本発明の方法は、約0.1~約60分間、より一般的に約0.1~約30分間好ましくは約0.1~約10分間実施される。
【0149】
バイオフィルムと接触すると、本発明の第1及び第2の態様の水性混合物の分解活性は、時間が経つにつれて上昇していくことができる。理論に縛られるわけではないが、バイオフィルムの構成要素は、水性混合物中のマンガン錯体に電子を供与することにより、上記還元剤の様式と同様の様式によってマンガン錯体を完全することができる。水性混合物中のマンガン錯体の還元に適し得る構成要素には、水性混合物中のマンガン錯体の還元剤として作用することができるアミノ酸残基を含む、タンパク質が挙げられる。このような還元に適し得るアミノ酸残基には、チロシン残基及びシステイン残基が挙げられる)。Fe(II)等、酸化状態が低い金属イオンもバイオフィルム中に存在し得るが、やはり、水性混合物中のマンガン錯体の還元に適した構成要素であり得る。
【0150】
還元されたマンガン錯体、すなわち、酸化数が減じた正の酸化状態を有するマンガン錯体は、母体のマンガン錯体より活性が高いものであり得る。例えば、バイオフィルムの二電子還元構成要素は、二核Mn(IV)Mn(IV)錯体に属する両方のMn(IV)イオンを還元して、二核Mn(III)Mn(III)錯体を生じさせることができる。代替的には、明確に規定されていないマンガン錯体が形成されることもあり得、例えば、二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)又はMn(IV)Mn(IV)錯体の混合物が形成することもあり得る。二核マンガン錯体が分裂して、単核Mn錯体、すなわち、Mn(II)、Mn(III)及び/又はMn(IV)錯体が形成されることもあり得る(例えば、B.C.Gilbertら(上記)を参照されたい。)。
【0151】
本明細書に記載のように、第1及び第2の態様の水性混合物は、任意選択により緩衝されていてもよい溶媒を含み、この溶媒は、一般的には、水である。しかしながら、他の溶媒を使用することもできる。溶媒の特定名は、溶媒が水と混和することを条件にして、本発明の本質的な特徴ではない。水性混合物は、一般に、少なくとも1wt%の水を有するが、これは、液体状水性混合物を構成する水を含有する液体が、少なくとも1重量%水、より一般的には少なくとも10wt%、さらにより一般的には25wt%、最も一般的には少なくとも50wt%の水を含むことを意味する。水性混合物に属する水以外の液体状残部(もしあればの場合)は、任意の好都合な液体、例えば液体アルコール、例えば、メタノール又はエタノール等のC~Cアルコールであってもよい。大抵の場合において溶媒は完全に水であるが、少量(例えば、約10wt%未満、より一般的には約5wt%未満の総量)の他の液体が、例えば液体連続相が接触する他の物質中の汚染物質として存在することを排除しないことは理解されよう。
【0152】
一部の実施形態において、本発明の第1及び第2の態様の水性混合物は、アミノホスフェート、アミノカルボキシレート及びカルボキシレートからなる群より選択される金属イオン封鎖剤を含む。存在する場合、金属イオン封鎖剤は、一般的に、約0.001~約10g/lの濃度である。理論に縛られるわけではないが、金属イオン封鎖剤は、2つの機能を有することができる。第1には、金属イオン封鎖剤は、(例えば、WO2007/042192A(Unilever PLC)に開示のように)マンガン錯体の活性を改善することができ、及び/又は、水性混合物若しくはバイオフィルム中に存在し得るマンガン不純物に結合することができる。Cu、Mn又はFe等のマンガンイオンは、過酸化物型化合物、特に過酸化水素と反応して、過酸化水素を水及び二酸素に分解し、又は、超酸化物及び/若しくはヒドロキシルラジカル等のラジカルを形成することが周知である。この結果として、マンガン錯体によって活性化すべき水性混合物中で利用することができる過酸化物型化合物が減少し、これにより、バイオフィルムの分解が阻害される可能性がある。したがって、金属イオン封鎖剤は、水性混合物及び/又はバイオフィルム中に存在するマンガン不純物による、バイオフィルムの分解の阻害を防止することができる。
【0153】
好ましいアミノホスホネート型金属イオン封鎖剤には、ニトリロトリメチレンホスホネート、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラ(メチレンホスホネート)(Dequest 204(商標))及びジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-ペンタ(メチレンホスホネート)(Dequest 206(商標))が挙げられる。当業者ならば、各Dequest(商標)の様々な塩が、例えば、ホスホン酸若しくはナトリウム塩又はこれらの任意の混合物として存在することは認識されよう。
【0154】
好ましいアミノカルボキシレート型金属イオン封鎖剤には、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、N-ヒドロキシエチレンジアミンテトラ酢酸(HEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、N-ヒドロキシエチルアミノ二酢酸、N-ヒドロキシエチルアミノ二酢酸、グルタミン酸型二酢酸(glutamic diacetic acid)、イミノジコハク酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン-N,N’-二コハク酸(EDDS)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)及びアラニン-N,N-二酢酸が挙げられる。
【0155】
金属イオン封鎖剤は、塩の形態であってもよい。例えば、金属イオン封鎖剤は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン又は置換アンモニウムイオンからなる群より選択される1種以上のカチオンを含むこともできる。好ましくは、金属イオン封鎖剤は、遊離酸の形態であり、又は、ナトリウムカチオン若しくはマグネシウムカチオンを含み、すなわち、ナトリウム塩の形態又はマグネシウム塩の形態である。
【0156】
好ましいカルボキシレート型金属イオン封鎖剤は、コハク酸、マロン酸、(エチレンジオキシ)二酢酸、グルコン酸、マレイン酸、ジグリコール酸、酒石酸、タルトロン酸及びフマル酸の水溶性塩、並びにエーテルカルボキシレートを含む、2個のカルボキシ基を含有するポリカルボキシレートである。3個のカルボキシ基を含有するポリカルボキシレートには特に、水溶性のシトレート、アコニトレート(aconitrate)及びシトラコネート、並びに、カルボキシメチルオキシスクシネート等のスクシネート誘導体が挙げられる。4個のカルボキシ基を含有するポリカルボキシレートには、GB1261829A(Unilever Ltd)に開示のオキシジスクシネート、1,1,2,2-エタンテトラカルボキシレート、1,1,3,3-プロパンテトラカルボキシレート及び1,1,2,3-プロパンテトラカルボキシレートが挙げられる。スルホ置換基を含有するポリカルボキシレートには、GB1398421A(Unilever Ltd)及びGB1398422A(Unilever Ltd)並びにUS3936448A(Lever Brothers Ltd)に開示のスルホスクシネート誘導体と、GB1439000A(Henkel&CIE GMBH)に記載の熱分解されたスルホン化シトレートとが挙げられる。
【0157】
他の適切なカルボキシレート型金属イオン封鎖剤は、ポリカルボン酸が、2個以下の炭素原子によって互いに隔てられた少なくとも2個のカルボキシルラジカルを含む、ホモポリマー型若しくはコポリマー型ポリカルボン酸又はその塩である。後者の型のポリマーは、GB1596756A(Proctor&Gamble Ltd)に記載されている。このような塩の例は、分子量2000~5000のポリアクリレート、及び、20,000~70,000、特に約40,000の分子量を有する、このポリアクリレートと無水マレイン酸とのコポリマーである。
【0158】
さらには、少なくとも正式には、第1のモノマーであるマレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸及びメサコン酸等の不飽和ポリカルボン酸と、第2のモノマーであるアクリル酸又はα-C~Cアルキルアクリル酸等の不飽和モノカルボン酸とから形成される、コポリマー型ポリカルボキシレートポリマー。このようなポリマーは、Sokalan(登録商標)CP5(中和された形態)、Sokalan(登録商標)CP7及びSokalan(登録商標)CP45(酸性形態)という商標でBASFから入手することができる。
【0159】
一般的に、金属イオン封鎖剤は、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラ(メチレンホスホネート)(Dequest 204)、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-ペンタ(メチレンホスホネート)(Dequest 206)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、クエン酸、クエン酸のアルカリ塩及びグルコネートである。
【0160】
大抵の場合、金属イオン封鎖剤は、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラ(メチレンホスホネート)(Dequest 204)である。これは、本発明の第1の態様のマンガン錯体が、マンガン化合物と還元剤との生成物ではない場合、特に当てはまる。
【0161】
金属イオン封鎖剤は任意選択により、遷移金属錯体、過酸化物型化合物及び式(I)又は式(II)の配位子を含む水性混合物中に存在してもよい。代替的には又はさらには、バイオフィルムは、水性混合物と接触させる前に、上記金属イオン封鎖剤の1種以上と接触させてもよい。理論に縛られるわけではないが、バイオフィルムがマンガン不純物を含み、水性混合物が過酸化水素を含む場合、水性混合物と接触させる前にバイオフィルムを金属イオン封鎖剤と接触させることは、このようにしなかった場合には過酸化水素を分解する可能性があるマンガン不純物の数を減少させることができる。Ca2+又はMg2+等のイオンの除去により、バイオフィルムをより分解しやすいものにすることができる。
【0162】
溶液又は懸濁液として加えられる場合、金属イオン封鎖剤は一般的に、固体状金属イオン封鎖剤を溶媒(一般的に水)に溶解させることによって調製される。代替的には、金属イオン封鎖剤は、固体として水性混合物に加えることもできる。金属イオン封鎖剤は、マンガン錯体、過酸化物型化合物、任意選択による配位子及び/又は緩衝剤の添加前、添加中又は添加と同時に加えることができる。
【0163】
第1及び第2の態様の水性混合物は、バイオフィルムの分解を促進する、さらなる作用物質を含むこともできる。さらなる作用物質は、微生物細胞の分解を促進することにより、バイオフィルムの分解を増進する、抗菌剤であってもよい。さらなる作用物質は、バイオフィルムの成長を阻害することができる。
【0164】
ある表面上のバイオフィルムの除去又は部分的な除去は、当該表面上に存在する細菌を減少させ、この結果、新たなバイオフィルムの成長を減速させる。
【0165】
一部の実施形態において、バイオフィルムは、多糖のいずれか1つ又は組合せを含む。理論に縛られるわけではないが、バイオフィルム中の多糖の解重合は、EPSの基質を弱体化させることができ、弱体化した基質は後に、より容易にクリーニングし、又はさらには分解することができる。一般的に、多糖は、アルギネート、コラン酸、デキストラン、ケフィラン、カードラン、ウェラン、ゲラン及びキサンタンのいずれか1つ又は組合せである。より一般的には、バイオフィルムは、アルギネート、デキストラン、ケフィラン、カードラン、ウェラン、ゲラン及びキサンタンのいずれか1つ又は組合せを含む。多糖は、大抵の場合、アルギネートである。特定の複数の実施形態において、アルギネートは、細菌(好ましくはアゾトバクター及び/又はシュードモナス)又は藻(好ましくは緑藻)によって産生される。
【0166】
一部の実施形態において、バイオフィルムは、膜;パイプ;他の配管設備;クリーニング設備(流し台、風呂、シャワー、食器洗い機、洗浄機、タンブル乾燥機、ビデ等、洗濯用設備、食器洗い用設備及び入浴設備を含む);バスルーム;キッチン;ユーティリティルーム;例えばジム又はレジャーセンターの更衣室;壁及び床(及び/又はクリーニングのために使用される空間内の表面(例えば、シャワールームの壁及び床));冷却及び/又は加熱システム;船(船舶及びボートの船体を含む);並びに船舶用装置の表面上にある。
【0167】
バイオフィルムは水性混合物と接触させる前に、バイオフィルム中の糖及びタンパク質を分解するようにアミラーゼ酵素及び/又はプロテアーゼ酵素等の酵素と接触させることもできる。
【0168】
本発明の方法は、非連続式及び連続式のプロセスとして実施することが可能であり、例えば容器、パイプ及び/又は管の中で実施することもできる。水性混合物は、本発明の方法の最中にかき混ぜられ、又は撹拌されてもよい。これにより、バイオフィルムの分解速度を上昇させ、及び/又は、分解するバイオフィルムの量を増やすことができる。
【0169】
本発明の方法は、バイオフィルムの分解を改善する他のプロセスとの併用で実施することもできる。例えば、WO2014/102332A1(Dupont Nutrition Biosciences APS)に記載されたマイクロ波による支援を受ける型の解重合プロセスは、本発明の方法の実施前、実施後又は実施と同時に実施することができる。
【0170】
本明細書において言及されたすべての特許文献及び非特許文献は、これらの参考文献のそれぞれの全内容が余すことなく本明細書に記載された場合と同じように、当該特許文献及び非特許文献の全体を参照により本明細書に組み込む。
【0171】
本発明は、次の非限定的な項を参照することにより、さらに理解することができる。
1.
バイオフィルムを、(i) 過酸化物型化合物及び(ii) 単核Mn(II)、Mn(III)若しくはMn(IV)マンガン錯体又は二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)若しくはMn(IV)Mn(IV)マンガン錯体を含む水性混合物と接触させることを含む、バイオフィルムを分解する方法であって、水性混合物が、式(I)又は式(II):
【化5】
【化6】
(式中、
Q=
【化7】
pが、3であり;
各Rが、水素、C~C24アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH、CHCOOH及びピリジン-2-イルメチルからなる群より独立に選択され;
Q’が、エチレン架橋又はプロピレン架橋であり;
、R、R及びRが、H、C~Cアルキル及びC~Cアルキルヒドロキシから独立に選択される。)
の配位子を含む、方法。
2.
マンガン錯体が、配位子を含む、第1項に記載の方法。
3.
水性混合物が、式(I)又は式(II)の錯化していない配位子を含む、第1又は第2項に記載の方法。
4.
各Rが、C~C24アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH及びCHCOOHからなる群より独立に選択される、第1項から第3項のいずれか1つに記載の方法。
5.
各Rが、C~C12アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH及びCHCOOHからなる群より独立に選択される、第1項から第3項のいずれか一項に記載の方法。
6.
各Rが、C~Cアルキル及びベンジルからなる群より独立に選択される、第1項から第3項のいずれか一項に記載の方法。
7.
各Rが、同じである、第1項から第6項のいずれか一項に記載の方法。
8.
各Rが、メチルである、第1項から第3項のいずれか一項に記載の方法。
9.
、R、R及びRが独立に、水素又はメチルである、第1項から項8項のいずれか一項に記載の方法。
10.
、R、R及びRが、水素である、第1項から第8項のいずれか一項に記載の方法。
11.
Q’が、エチレン架橋である、第1項から第10項のいずれか1つに記載の方法。
12.
配位子が、Me-TACN又はMe-DTNEである、第1項から第3項のいずれか一項に記載の方法。
13.
マンガンに対する式(I)の配位子のモル比が、約100:1~約0.5:1である、第1項から第12項のいずれか一項に記載の方法。
14.
マンガンに対する式(I)の配位子のモル比が、約10:1~約0.5:1である、第1項から第12項のいずれか一項に記載の方法。
15.
マンガンに対する式(I)の配位子のモル比が、約5:1~約0.8:1である、第1項から第12項のいずれか一項に記載の方法。
16.
マンガンに対する式(I)の配位子のモル比が、約2:1~約1.001:1である、第1項から第12項のいずれか一項に記載の方法。
17.
マンガンに対する式(II)の配位子のモル比が、約50:1~約0.05:1である、第1項から第16項のいずれか一項に記載の方法。
18.
マンガンに対する式(II)の配位子のモル比が、約5:1~約0.1:1である、第1項から第16項のいずれか一項に記載の方法。
19.
マンガンに対する式(II)の配位子のモル比が、約3:1~約0.2:1である、第1項から第16項のいずれか一項に記載の方法。
20.
マンガンに対する式(II)の配位子のモル比が、約1:1~約0.5001:1である、第1項から第16項のいずれか一項に記載の方法。
21.
マンガン錯体が、SO 2-、RCOO、Cl、NO 、RSO 及びPF (式中、
が、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルからなる群より選択され;
が、任意選択によりC~Cアルキル置換フェニル、C~Cアルキル及びCFからなる群より選択される。)
からなる群より選択される1種以上の非配位性対イオンを含む塩の一部である、第1項から第20項のいずれか1つに記載の方法。
22. Rが、水素、C~Cアルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換フェニルからなる群より選択される、第21項に記載の方法。
23
が、メチル又はフェニルである、第21項に記載の方法。
24.
が、メチルである、第21項に記載の方法。
25.
が、任意選択により1個以上のメチル基によって置換されていてもよいフェニルである、第21項から第24項のいずれか一項に記載の方法。
26.
SO が、トシレートである、第21項から第24項のいずれか一項に記載の方法。
27.
非配位性対イオンが、酢酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン及びヘキサフルオロリン酸イオンからなる群より選択される、第21項に記載の方法。
28.
非配位性対イオンが、酢酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンからなる群より選択される、第21項に記載の方法。
29.
マンガン錯体が、二核である、第1項から第28項のいずれか1つに記載の方法。
30.
二核マンガン錯体が、オキシド、ヒドロキシド、水、フェニルボロネート及びRCOO
(式中、Rが、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルからなる群より選択される。)
からなる群より独立に選択される2個又は3個の架橋配位子を含む、第29項に記載の方法。
31.
が、水素、C~C12アルキル及び任意選択により1個以上のメチル基によって置換されていてもよいフェニルからなる群より選択される、第30項に記載の方法。
32.
が、水素、C~Cアルキル及びフェニルからなる群より選択される、第30項に記載の方法。
33.
が、メチル又はフェニル、例えばメチルである、第30項に記載の方法。
34.
二核マンガン錯体が、オキシド、ヒドロキシド、水、アセテート及びベンゾエートから独立に選択される2個又は3個の架橋配位子を含む、第29項に記載の方法。
35.
二核マンガン錯体が、3個の架橋配位子を含む、第29項から第34項のいずれか一項に記載の方法。
36.
二核マンガン錯体が、Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)又はMn(IV)Mn(IV)錯体である、第29項から第35項のいずれか一項に記載の方法。
37.
マンガン錯体が、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)2+、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)3+、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]2+及び[MnIVMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]3+(式中、Rが、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルから選択される。)からなる群のいずれか1つである、第1項から第28項のいずれか一項に記載の方法。
38.
マンガン錯体が、塩の一部であり、塩が、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][SO]、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)[SO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][SO]、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][NO、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PF、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)][Cl]及び[MnIVMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)][Cl](式中、Rが、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルから選択される。)からなる群のいずれか1つである、第1項から第28項のいずれか一項に記載の方法。
39.
マンガン錯体が、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+又は[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]2+(式中、Rが、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルから選択される。)である、第1項から第28項のいずれか一項に記載の方法。
40.
が、メチルである、第37項から第39項のいずれか一項に記載の方法。
41.
マンガン錯体が、塩の一部であり、塩が、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][SO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PF又は[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)][Cl]である、第1項から第28項のいずれか一項に記載の方法。
42.
上記接触させることの前に、マンガン化合物を還元剤と接触させて、マンガン錯体をする、第1項から第36項のいずれか一項に記載の方法。
43.
還元剤が、アスコルビン酸、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、カテコール、4-tert-ブチルカテコール、4-アリルカテコール、カフェイン酸、マルトール、エチルマルトール、ヒドロキノン、tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、ピロガロール及びn-プロピルガレート、アルカリ金属亜硫酸塩、アルカリ金属重亜硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩からなる群より選択される、第42項に記載の方法。
44.
還元剤が、アスコルビン酸、カテコール、ヒドロキノン、ピロガロール及び亜硫酸ナトリウムからなる群より選択される、第42項に記載の方法。
45.
還元剤が、アスコルビン酸である、第42項に記載の方法。
46.
還元剤に対するマンガン化合物のモル比が、約0.1:1~約10:1である、第42項から第45項のいずれか一項に記載の方法。
47.
還元剤に対するマンガン化合物のモル比が、約0.2:1~約3:1である、第42項から第45項のいずれか一項に記載の方法。
48.
マンガン化合物が、SO 2-、RCOO、Cl、NO 、RSO 及びPF (式中、
が、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルからなる群より選択され;
が任意選択により、C~Cアルキル置換フェニル、C~Cアルキル及びCFからなる群より選択される。)
からなる群より選択される非配位性対イオンを含む、第42項から第47項のいずれか一項に記載の方法。
49.
が、水素、C~Cアルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換フェニルからなる群より選択される、第48項に記載の方法。
50.
が、メチル又はフェニルである、第48項に記載の方法。
51.
が、メチルである、第48項に記載の方法。
52.
が、任意選択により1個以上のメチル基によって置換されていてもよいフェニルである、第48項から第51項のいずれか一項に記載の方法。
53.
SO が、トシレートである、第48項から第52項のいずれか一項に記載の方法。
54.
非配位性対イオンが、酢酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン及びヘキサフルオロリン酸イオンからなる群より選択される、第48項に記載の方法。
55.
非配位性対イオンが、酢酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンからなる群より選択される、第48項に記載の方法。
56.
マンガン化合物が、式(I)又は式(II):
【化8】
【化9】
(式中、
Q=
【化10】
pが、3であり;
各Rが、水素、C~C24アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH、CHCOOH及びピリジン-2-イルメチルからなる群より独立に選択され;
Q’が、エチレン架橋又はプロピレン架橋であり;
、R、R及びRが、H、C~Cアルキル及びC~Cアルキルヒドロキシから独立に選択される。)
の配位子を含む、第42項から第55項のいずれか一項に記載の方法。
57.
マンガン化合物の各Rが、C~C24アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH及びCHCOOHからなる群より独立に選択される、第56項に記載の方法。
58.
マンガン化合物の各Rが、C~C12アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH及びCHCOOHからなる群より独立に選択される、第56項に記載の方法。
59.
マンガン化合物の各Rが、C~Cアルキル及びベンジルからなる群より独立に選択される、第56項に記載の方法。
60.
マンガン化合物の各Rが、同じである、第56項から59項のいずれか一項に記載の方法。
61.
マンガン化合物の各Rが、メチルである、第56項から第59項のいずれか一項に記載の方法。
62.
マンガン化合物のR、R、R及びRが独立に、水素又はメチルである、第56項から第61項のいずれか一項に記載の方法。
63.
マンガン化合物のR、R、R及びRが、水素である、第56項から第61項のいずれか一項に記載の方法。
64.
マンガン化合物のQ’が、エチレン架橋である、第56項から第61項のいずれか一項に記載の方法。
65.
マンガン化合物の配位子が、Me-TACN又はMe-DTNEである、第56項に記載の方法。
66.
マンガン化合物が、二核Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)又はMn(IV)Mn(IV)化合物である、第42項から第65項のいずれか一項に記載の方法。
67.
マンガン錯体が、単核Mn(II)、Mn(III)及びMn(IV)錯体並びに二核Mn(II)Mn(II)、Mn(III)Mn(II)、Mn(III)Mn(III)及びMn(III)Mn(IV)錯体からなる群より選択されるいずれか1つ又は組合せであり、マンガン化合物が、二核Mn(III)Mn(III)、Mn(III)Mn(IV)及びMn(IV)Mn(IV)化合物からなる群より選択される、第42項から第65項のいずれか一項に記載の方法。
68.
二核マンガン化合物が、オキシド、ヒドロキシド、水、フェニルボロネート及びRCOO(式中、Rが、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルからなる群より選択される。)からなる群より独立に選択される2個又は3個の架橋配位子を含む、第66項又は第67項に記載の方法。
69.
マンガン化合物のRが、水素、C~C12アルキル及び任意選択により1個以上のメチル基によって置換されていてもよいフェニルからなる群より選択される、第68項に記載の方法。
70.
マンガン化合物のRが、水素、C~Cアルキル及びフェニルからなる群より選択される、第68項に記載の方法。
71.
マンガン化合物のRが、メチル及びフェニルら選択され、例えばメチルである、第68項に記載の方法。
72.
二核マンガン化合物が、オキシド、ヒドロキシド、水、アセテート及びベンゾエートから独立に選択される2個又は3個の架橋配位子を含む、第66項又は第67項に記載の方法。
73.
二核マンガン化合物が、オキシド、ヒドロキシド、水、アセテート及びベンゾエートから独立に選択される3個の架橋配位子を含む、第66項又は第67項に記載の方法。
74.
マンガン化合物が、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)2+、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)3+、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]2+及び[MnIVMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]3+(式中、Rが、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルから選択される。)からなる群のいずれか1つを含む、第42項から第55項のいずれか一項に記載の方法。
75.
マンガン化合物が、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][SO]、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)[SO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][SO]、[MnIIIMnIII(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][NO、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-TACN)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PF、[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)][Cl]及び[MnIVMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)][Cl](式中、Rが、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルから選択される。)からなる群のいずれか1つである、第42項から第47項のいずれか一項に記載の方法。
76.
マンガン化合物が、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)2+又は[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-RCOO)(Me-DTNE)]2+(式中、Rが、水素、C~C12アルキル及び任意選択によりC~Cアルキル置換されていてもよいフェニルから選択される。)である、第42項から第55項のいずれか一項に記載の方法。
77.
マンガン化合物のRが、メチルである、第74項から76項のいずれか一項に記載の方法。
78.
マンガン化合物が、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][CHCOO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][SO]、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][NO、[MnIVMnIV(μ-O)(Me-TACN)][PF又は[MnIIIMnIV(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)][Cl]である、第42項から第47項のいずれか一項に記載の方法。
79.
水性混合物中におけるマンガン錯体の濃度が、約0.0001~約100μMである、第1項から第78項のいずれか1つに記載の方法。
80.
水性混合物中におけるマンガン錯体の濃度が、約0.001~約50μMである、第1項から第78項のいずれか一項に記載の方法。
81.
水性混合物中におけるマンガン錯体の濃度が、約0.01~約30μMである、第1項から第78項のいずれか一項に記載の方法。
82.
水性混合物中におけるマンガン錯体の濃度が、約0.05~約20μMである、第1項から第78項のいずれか一項に記載の方法。
83.
過酸化物型化合物が、過酸化水素、ペルオキシ酸、アルキルヒドロペルオキシド、フェニルアルキルヒドロペルオキシド及びケトンペルオキシドからなる群のいずれか1つ又は組合せである、第1項から第82項のいずれか1つに記載の方法。
84.
過酸化物型化合物が、過酸化水素、ペルオキシ酸、C1~12アルキルヒドロペルオキシド及びクメンヒドロペルオキシドからなる群のいずれか1つ又は組合せである、第1項から第82項のいずれか一項に記載の方法。
85.
過酸化物型化合物が、ペルオキシ酸と過酸化水素との混合物である、第1項から第82項のいずれか一項に記載の方法。
86.
過酸化水素に対するペルオキシ酸のモル比が、約10:1~約1:100である、第85項に記載の方法。
87.
過酸化水素に対するペルオキシ酸のモル比が、約5:1~約1:10である、第85項に記載の方法。
88.
ペルオキシ酸が、過酢酸である、第83項から第87項のいずれか一項に記載の方法。
89.
過酸化物型化合物が、C1~12アルキルヒドロペルオキシドと、過酸化水素との混合物である、第1項から第82項のいずれか一項に記載の方法。
90.
過酸化水素に対するC1~12アルキルヒドロペルオキシドのモル比が、約10:1~約1:10である、第89項に記載の方法。
91.
1~12アルキルヒドロペルオキシドが、tert-ブチルヒドロペルオキシドである、第89項から第90項のいずれか一項に記載の方法。
92.
過酸化物型化合物の濃度が、約0.01~約500mMである、第1項から第91項のいずれか一項に記載の方法。
93.
過酸化物型化合物の濃度が、約0.1~約100mMである、第1項から第91項のいずれか一項に記載の方法。
94.
過酸化物型化合物の濃度が、約0.3~約30mMである、第1項から第91項のいずれか一項に記載の方法。
95.
水性混合物の温度が、約15℃~約90℃である、第1項から第94項のいずれか1つに記載の方法。
96.
水性混合物の温度が、約20℃~約70℃である、第1項から第94項のいずれか一項に記載の方法。
97.
水性混合物のpHが、約4~約12である、第1項から第96項のいずれか一項に記載の方法。
98.
水性混合物のpHが、約6~約11である、第1項から第96項のいずれか一項に記載の方法。
99.
水性混合物が、アミノホスホネート、アミノカルボキシレート及びカルボキシレートからなる群より選択される1種以上の金属イオン封鎖剤をさらに含む、第1項から第98項のいずれか1つに記載の方法。
100.
アミノホスホネート型金属イオン封鎖剤が、ニトリロトリメチレンホスホネート、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラ(メチレンホスホネート)(Dequest 204商標)及びジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-ペンタ(メチレンホスホネート)(Dequest 206商標)からなる群のいずれか1つ又は組合せであり;アミノカルボキシレート型金属イオン封鎖剤が、エチレンジアミンテトラ酢酸、N-ヒドロキシエチレンジアミンテトラ酢酸、ニトリロ三酢酸、N-ヒドロキシエチルアミノ二酢酸、N-ヒドロキシエチルアミノ二酢酸、グルタミン酸型二酢酸、イミノジコハク酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミン-N,N’-二コハク酸、メチルグリシン二酢酸及びアラニン-N,N-二酢酸からなる群のいずれか1つであり;カルボキシレート型金属イオン封鎖剤が、クエン酸、クエン酸のアルカリ塩及びグルコネートからなる群のいずれか1つである、第99項に記載の方法。
101.
アミノホスホネート型金属イオン封鎖剤が、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラ(メチレンホスホネート)(Dequest 204商標)又はジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-ペンタ(メチレンホスホネート)(Dequest 206商標)であり;アミノカルボキシレート型金属イオン封鎖剤が、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸及びメチルグリシン二酢酸から選択され;カルボキシレート型金属イオン封鎖剤が、クエン酸、クエン酸のアルカリ塩及びグルコネートから選択される、第99項に記載の方法。
102.
水性混合物が、緩衝剤を含む、第1項から第101項のいずれか一項に記載の方法。
103.
緩衝剤が、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤及びホウ酸緩衝剤からなる群より選択されるいずれか1つ又は組合せである、第102項に記載の方法。
104.
緩衝剤が、炭酸緩衝剤である、第102項に記載の方法。
105.
水性混合物のpHが、約8~約10.5である、第102項に記載の方法。
106.
水性混合物のpHが、約8~約10である、第102項に記載の方法。
107.
水性混合物のpHが、約8.5~9.5である、第102項に記載の方法。
108.
水性混合物のpHが、約9である、第102項に記載の方法。
109.
緩衝剤が、水性混合物に加えられない、第1項から第101項のいずれか一項に記載の方法。
110.
水性混合物のpHが、約9.5~約11.5である、第109項に記載の方法。
111.
水性混合物のpHが、約10~約10.5である、第109項に記載の方法。
112.
バイオフィルムが、アルギネート、バクテリアセルロース、コラン酸、デキストラン、ケフィラン、カードラン、ウェラン、ゲラン及びキサンタンからなる群より選択される構成要素のいずれか1つ又は組合せを含む、第1項から第111項のいずれか1つに記載の方法。
113.
バイオフィルムが、アルギネートを含む、第1項から第111項のいずれか一項に記載の方法。
114.
アルギネートが、細菌又は藻によって産生される、第112項又は113項に記載の方法。
115.
細菌が、アゾトバクター及びシュードモナスである、第114項に記載の方法。
116.
藻が、緑藻である、第114項又は第115項に記載の方法。
117.
バイオフィルムの質量を少なくとも1wt%低下させる、第1項から第116項のいずれか1つに記載の方法。
118.
バイオフィルムの質量を少なくとも10%低下させる、第1項から第116項のいずれか一項に記載の方法。
119.
バイオフィルムを、過酸化物型化合物及び式(I)又は式(II):
【化11】
【化12】
(式中、
Q=
【化13】

pが、3であり;
各Rが、水素、C~C24アルキル、CH~C10アリール、CHCHOH、CHCOOH及びピリジン-2-イルメチルからなる群より独立に選択され;
Q’が、エチレン架橋又はプロピレン架橋であり;
、R、R及びRが、H、C~Cアルキル及びC~Cアルキルヒドロキシから独立に選択される。)
の配位子を含む水性混合物と接触させることを含む、バイオフィルムを分解する方法。
【実施例
【0172】
実験
原料
・ WO94/08981A1に開示されているようにして、Me-TACNを得た。
・ WO2006/125517A1に開示されているようにして、[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)(2.4wt%の酢酸ナトリウムと1.8wt%の氷酢酸とから製造してpH5に調整したものである、pH5の酢酸緩衝剤中の3.5wt%水溶液の状態)を得た。
・ WO2011/106906A1に開示されているようにして、[Mn(μ-O)(μ-CHCOO)(MeDTNE)]Clを調製した。
・ アルギン酸ナトリウムをBDH Prolabo(WVR)から購入した。
・ 他の化学物質はすべて、標準的な化学物質の供給業者から入手した。
【0173】
初期アルギネート溶液の調製
最初に、メカニカルスターラーを使用して激しく撹拌しながら、7.5gの固体状アルギン酸ナトリウムを492.5gの脱塩水にゆっくり加えることによって、1.5wt%アルギネート水溶液を調製した。固体状アルギン酸ナトリウムが見えなくなるまで、混合物を室温(本明細書においては、20℃を意味する)で静置した。
【0174】
ストック溶液
- ストック1: 過酸化水素の5Mストック溶液を、4.29mLの市販過酸化水素(純度35%)を10mLメスフラスコに入れ、10mL線に達するまで脱塩水を満たすことによって調製した。
- ストック2: tert-ブチルヒドロペルオキシド(BuOOHと略す)の0.5Mストック溶液を、BuOOHの市販70%純度溶液0.685mLを10mLメスフラスコに入れ、10mL線まで脱塩水を満たすことによって得た。
- ストック3: NaHCOの39.6g/Lストック溶液を、3.96gの固体状NaHCO粉末を秤量し、100mLガラスビーカーに入れることによって得た。約50mLの脱塩水を加え、粉末が完全に溶解するまで溶液を撹拌した。溶解したらすぐに、希HClを使用してpHをpH7.4に調整した後、ビーカーの内容物を100mLメスフラスコに移した。ビーカーを脱塩水ですすぎ、洗浄液(rinsing media)もフラスコに移した。最後に、カルボネート溶液が入ったメスフラスコに、100mL線に達するまで脱塩水を充填し、内容物を振とうした。
- ストック4: 四ホウ酸ナトリウム十水和物の25g/L溶液を、2.5gの固体粉末を100mLメスフラスコに入れることによって調製した。次いで、脱塩水を加え、固体が完全に溶解するまでフラスコを回転させた。最後に、100mL線に達するまで脱塩水を加えた。
- ストック5: 5mMアスコルビン酸: 17.62mgの市販L-アスコルビン酸を秤量し、20mLメスフラスコに入れた。20mL線に達するまで、脱塩水をフラスコに加えた。次いで、フラスコを閉め、固体が完全に溶解するまで振とうした。
- ストック6: 中和された0.5mMアスコルビン酸: 2mLの5mMアスコルビン酸ストック溶液を20mLバイアルに入れ、続いて、15mLの脱塩水を入れた。溶液を撹拌し、pHを測定した。0.1M NaOHを加えて、溶液のpHをpH6~7にした(使用されたNaOHの厳密な体積を記録した。)。最後に、脱塩水を加えて、溶液の体積を20mLに増大させた。
- ストック7: 中和されたL-アスコルビン酸の2mMストック溶液を、次のようにして調製した。35.22mgのアスコルビン酸粉末を秤量し、100mLガラスビーカーに移した。約60mLの脱塩水を加えた後、溶液を撹拌した。固体が完全に溶解したらすぐに、NaOH希釈溶液を使用して、溶液のpHをpH6~7にした後、溶液を100mLメスフラスコに移した。ビーカーを脱塩水ですすぎ、洗浄水をメスフラスコに移し、最後に、脱塩水を使用して溶液の体積を100mLにした。
- ストック8: 硫酸マンガンの4mMストック溶液を、脱塩水を使用して13.52mgの硫酸マンガン一水和物を溶解させ、20mLメスフラスコに入れることによって作製した。溶液の総体積は、20mLだった。
- ストック9: 塩化マンガンの4mMストック溶液を、20mLメスフラスコ内で脱塩水を使用して15.83mgのMnCl.4HOを溶解させることによって作製した。溶液の総体積は、20mLだった。
- ストック10: Me-TACNの4mMストック溶液を、14.43mgのMe-TACNの純度95%市販溶液を20mLメスフラスコに入れることによって得た。約18mLの脱塩水を加え、続いて、80μLのHCl(1M)を加えた後、溶液をかき混ぜた。最後に、20mL線に達するまで脱塩水を加えた。フラスコに栓をし、溶液が均一になるまで振とうした。
- ストック11: [Mn(μ-O)(μ-CHCOO)(MeDTNE)]Clの10mLの2mM水溶液を、脱塩水を使用して24.24mgのこの触媒の純度50.5%市販バッチを溶解させ、10mLメスフラスコに入れることによって調製した。10mL線に届くまで水を加えた後、フラスコに栓をし、溶液が均一になるまで振とうした。
- ストック12: 0.327mLの3.5wt%溶液を、9.573mLの脱塩水によって希釈し、10mLメスフラスコに入れることによって、[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)の2mMストック溶液を得た。
- ストック13: 0.163mLの3.5wt%溶液を、19.827mLの脱塩水によって希釈し、20mLメスフラスコに入れることによって、[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)の0.5mMストック溶液を得た。
【0175】
手順1 固有粘度の測定
装置及び原理
PSL-Rheotekから購入した手動式SCAN管形粘度計C型を使用して、固有粘度を測定した。この粘度計は、試験中に温度を安定に保つことができるように25℃の水を循環させる水浴に接続された、ウォータージャケットを有する。
【0176】
分析は、溶液が管を流れ過ぎるのに必要とする時間(秒を単位とした流出時間)を測定することからなっていたが、流出時間は、試料の粘度に関連付けられている。測定をより信頼性の高いものにするために、粘度計には、管内の設定容積を区切る2つのマーキング(上側マーキング及び下側マーキング)をつけている。毎回の測定の前には、上側マークよりわずかに高い高さまで粘度計に試験溶液を充填し、温度を均一化できるように溶液を管内に数分間保持した。
【0177】
次に、管を開けて、液体を流れるままにした。メニスカスが管の上側マークを超えたら、時間の測定を開始し、液体の高さが下側マークに達したら、クロノメーターを停止させた。クロノメーターに表示された値は、流出時間に対応する。信頼性を高めるために、2回目の測定を繰り返し、平均流出時間を計算した。
【0178】
なお、0.1mM NaClを溶媒として使用したが;この溶液の流出時間は、53.26秒だった。
【0179】
固有粘度の計算
溶液の固有粘度を、Hugginsの式:
【数1】
(式中、
- [η] dL/gを単位とした固有粘度
- C: g/dLで表した、溶液中におけるバイオフィルムの濃度
- ηsp
【数2】
と規定される比粘度。)
を用いて得た。
【0180】
非常に希薄な溶液が使用されたため、溶媒の密度と試験溶液の密度は同じくらいであると仮定することができ、上記式は次のように単純化され得る:
【数3】
【0181】
式1から、前記試料を異なるバイオフィルム濃度に希釈した後、希釈済み溶液の流出時間を測定することによって、試料の固有粘度を得ることができる。次いで、各濃度の場合の
【数4】
を計算することが可能であり、有効に存在するバイオフィルムのレベル(単位はg/dL)に対してプロットすることができる。得られたデータ点は、直線を形成しており(図1の例を参照されたい。)、Y切片は、固有粘度に対応していた。
【0182】
アルギネート鎖の平均分子量の計算
アルギネート鎖の平均分子量を、Mark-Houwinkマーク式を用いて計算した。この場合、上記式の様々な定数の値は、AAPS Pharm.Sci.Tech.、第11巻、No.4、2010年12月で公開されたRheological Evaluation of Inter-grade and Inter-batch Variability of Sodium Alginateから得た。
【数5】
【0183】
上述のように、[η]は、dL/gを単位とした固有粘度に対応する。計算した平均分子量は、キロダルトン(kDa)で表されている。
【0184】
アルギネート溶液の処理
200mLの1.5wt%アルギネート溶液を500mLガラスビーカーに入れ、続いて、0.43mLのHストック溶液及び4.1mLの脱塩水を入れた。溶液を、マグネチックスターラーを使用して均一化し、0.37mL NaOH(1M)を加えて、pHをpH10.5まで上昇させた。次いで、アルギネート混合物のアリコート19.98gを、75mL容器(VWRから購入したDuma Container Special)に移した。
【0185】
4mLの[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)溶液(0.5mM、ストック13)を、20mLバイアル内で4mLの0.5mMアスコルビン酸溶液(ストック6)と予混合した。得られた試料を均一になるまで振とうした後、これを用いて、触媒をHDPEボトルに投入した。試料中における触媒の濃度は、0~10μMの範囲だった。
【0186】
最後に、脱塩水を各ボトルに加えて、内包される溶液の体積を21mLにした(すなわち、試料のアルギネート含量は、1.4wt%だった)。ボトルを閉め、振とうして、系を均一化した。その直後、50℃に設定した温水浴中で60分間ボトルを保管した。
【0187】
反応時間が終了したら、ボトルを水浴から取り出し、氷の中に入れて、反応を停止させた。
【0188】
固有粘度の測定:
すべての分析は、溶媒として0.1M NaClを使用して実施された。6種の溶液の固有粘度を測定した。
- 試料1:1.4%アルギネート(無処理)
- 試料2:10mM Hによって処理された、1.4%アルギネート
- 試料3: 10mM H及びアスコルビン酸と予混合された0.5μM [Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)(上記の記述を参照されたい。)によって処理された、1.4%アルギネート
- 試料4: 10mM H及びアスコルビン酸と予混合された1μM [Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)(上記の記述を参照されたい。)によって処理された、1.4%アルギネート
- 試料5: 10mM H及びアスコルビン酸と予混合された2μM [Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)(上記の記述を参照されたい。)によって処理された、1.4%アルギネート
- 試料6: 10mM H及びアスコルビン酸と予混合された10μM [Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)(上記の記述を参照されたい。)によって処理された、1.4%アルギネート
【0189】
分析した各溶液は、脱塩水及びNaCl(1M)を使用して、下記の表1に示された異なる3種のアルギネートレベルに希釈した。希釈溶液はすべて、0.1M NaClを含有していた。
【表1】
【0190】
各溶液の流出時間を2回測定した後、平均した。この値を使用して、溶媒の流出時間が53.26秒であると考えた上で上述のようにしてηspを計算した。
【0191】
C(C=g/dLを単位とするアルギネート含量)に対して
【数6】
をプロットした後、傾向線のY切片がdL/gを単位とした固有粘度に対応するようにして、線形回帰を実施した。この値を使用して、試験した試料中におけるポリマー鎖の平均分子量を計算した。
【0192】
手順2 動的粘度の測定
アルギネート溶液の処理
19.5mLの1.5wt%アルギネート溶液を、プラスチックボトルに入れ、続いて、酸化剤(過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過酢酸又はこれらの混合物)のストック溶液と、任意選択により金属イオン封鎖剤及び/又は緩衝剤と、pH調整用のNaOHと、(必要に応じて)[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)、[Mn(μ-O)(μ-CHCOO)(MeDTNE)]Cl、1モル当量のアスコルビン酸溶液と予混合された[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO) 注1又はMe-TACN)と混合されたMnSO.H注2とを入れた。次いで、脱塩水を加えて、溶液の体積を21mLに増大させた。この段階では、試料のアルギネート含量は、1.4wt%だった。
【0193】
ボトルを温水浴(50℃)に60分間入れた後で取り出し、氷浴中で冷却した。最後に、下記に概説のようにブルックフィールド粘度計を使用して動的粘度を測定した。
注1: [Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)(上記のストック12の説明を参照されたい。)の2mM溶液を、等体積の2mMアスコルビン酸ストック溶液(ストック溶液7)と混合した。アスコルビン酸と接触すると、触媒は、オレンジ色/赤色から赤色/紫色に変わった。
注2: 両方とも0.5mLのMe-TACN配位子(ストック溶液10)とMnSO.HO(ストック溶液8)とを混合し、撹拌し、触媒の供給源として使用して、アルギネート溶液に入れた。
【0194】
動的粘度の分析
スピンドルCPE-40を装着したBrookfield HBDV-IIコーン/プレート粘度計を使用して、試料の動的粘度を測定した。粘度計を水浴に連結して、温度を25℃に維持した。装置は、Rheocalcソフトウェアを使用するコンピュータ(外部モード)によって制御された。
【0195】
最初に、スピンドルなしで粘度計を0に合わせた。次いで、スピンドルCPE-40を取り付け、コーンの底部とカップの頂部との隙間を、Brookfieldの推奨に従って設定した。
【0196】
使い捨て型プラスチックシリンジを使用して、処理された0.5mLのアルギネート溶液を粘度計のカップに入れた後、装置を閉じ、試験プログラムを立ち上げた。このプログラムは、次のようにセットアップされた。
ステップ1:コーンスピドルの初期回転速度を150RPMに設定した。
ステップ2:前記速度でコーンを30秒間回転させた。
ステップ3:粘度測定を実施した。
ステップ4:回転速度を10RPM上昇させ、ステップ2~4を繰り返した。
200RPMの回転速度で粘度測定を実施した後、プログラムを停止させた。
【0197】
結果
実験1 Hと合わせた[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸によって処理されたアルギネートの分子量パラメータの測定。
アルギン酸ナトリウムの溶液を、10mM H及び1モル当量のアスコルビン酸と予混合された異なる濃度の[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)触媒によってpH10.5で処理した。処理は、50℃で60分間実施されており;完全な説明については、上記手順1で確認することができる。
【0198】
反応時間が終了したら、動的粘度の値と固有粘度の値との両方を、上述のように測定した。その結果は、表2に示されている。
【表2】
【0199】
表2に提示の結果により、アスコルビン酸と予混合された[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)による処理は、アルギネート溶液の動的粘度と固有粘度の両方を明確に低下させることが示されている。固有粘度はポリマー鎖の長さ(Mw。5番目のカラム)に関連付けられているため、触媒による処理はポリマー鎖を開裂させ、この結果、ポリマーが短くなり、可溶性がより高いものなると結論付けることができる。
【0200】
実験2 [MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)及びHによる、pH依存的なアルギネートの解重合。
これらの実験は、上記手順2に従って実施された。0μM(ブランク)、5μM及び10μMの[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)と合わせたpH9.0、9.5、10.0、10.5及び11.0の20mM Hによってアルギネート溶液を処理した後、アルギネート溶液の動的粘度を、50℃における60分間の反応後に測定した(下記の表3表を参照されたい。)。
【表3】
表3に提示のデータにより、様々なpH値の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)を使用して、効果的な粘度低下を達成することができることが示されている。試験された条件下では、アルギネートの解重合に最適なpHは約pH10であるが、pH9.0からpH11.0まで(試験されたpH値の上限及び下限)では著しい粘度低下が観察される。非常に低い濃度の触媒であっても、著しい粘度低下を起こすのに十分なものであることには留意すべきである。この粘度低下は、わずか2.5μMの触媒による処理の後でも観察された。
【0201】
実験3 [MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸及びHによる、pH依存的なアルギネートの解重合。
これらの試験は、上記「実験2」に提示の方法と同じようにして実施されたが、触媒溶液は、中和された1モル当量のアスコルビン酸と予混合した後で、アルギネート溶液に加えた。動的粘度測定の結果は、下記の表4に示されている。
【表4】
表4のデータにより、反応の前に触媒をアスコルビン酸と予混合すると、アルギネートの粘度が非常に顕著に低下し、大抵の場合は、アスコルビン酸なしで触媒が使用された場合より大幅に低下することが示されている(表3を参照されたい。)。これは、低レベルの触媒を使用した場合には特に顕著である。最も高い活性は幅広いpH範囲にわたって観察されているが、最適なpHは約9.5~10.5である。
【0202】
実験4 炭酸緩衝剤中の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)及びHによる、pH依存的なアルギネートの解重合。
4.7mM炭酸水素ナトリウムをアルギネート溶液に加えるようにして、「実験2」に記載の試験を繰り返した。pH8.0~10.5までで、pH範囲を調査した。結果は、表5に示されている。
【表5】
表に提示のデータにより、カルボネートを含有する溶液中に様々なpHの[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)を使用した場合、効果的な粘度低下を達成することができることが示されている。カルボネートをアルギネート溶液に加えることにより、約pH9であると判明した最適なpHが低下する。試験されたpH範囲(pH8~8.5)の下限でさえ、触媒は良好な解重合活性を示したことに留意すべきである。
【0203】
実験5 炭酸緩衝剤中の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸及びHによる、pH依存的なアルギネートの解重合。
「実験3」に記載のものと同様の実験を実施したが、今回は、4.7mM炭酸水素ナトリウムの存在下で実施された。動的粘度の測定の結果が、下記の表6に示されている。
【表6】
表6:アルギネートの解重合の、溶液中の[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)のpH及びレベルの影響。条件:20mM H、1モル当量のアスコルビン酸と予混合された0μM、2.5μM、5μM及び10μM [Mn(μ
[Mn(μ-O)(Me-TACN)2+と、アスコルビン酸との混合物は、アルギネートの解重合においては、非常に活性だった。「実験4」で見たように、炭酸緩衝剤の添加は、低いpHで活性を上昇させるが、最適なpHは約9である。アルギネート処理プロセスの前に触媒がアスコルビン酸と反応することができる場合、pH8.0~8.5における活性は、無処理の触媒溶液を使用した場合より明確に高い。
【0204】
実験6 炭酸緩衝剤中の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸及びHによる、アルギネートの解重合の時間依存性。
「実験5」に記載のものと同様の試験を、pH8.5及びpH9.5で実施した。10~60分間の範囲の異なる反応時間後に、動的粘度を測定した。その結果は、表7に示されている。
【表7】
表7に提示のデータにより、試験された条件下では解重合の速度が非常に高く、わずか10分間の処理後でも粘度の大きな低下が測定されたことが示されている。
【0205】
実験7 炭酸緩衝剤中の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸及びHによる、アルギネート処理温度の低下。
「実験5」に記載の実験と同様の実験を、50℃ではなく30℃で実施された。反応時間も、従来の60分間に対して30分間に短された。
【0206】
アスコルビン酸によって前処理された触媒を使用して、アルギネート溶液を様々なpH値で処理した後、動的粘度の値を測定した。結果は、表8に示されている。
【表8】
表8のデータにより、30℃において、アルギネートの解重合に対する触媒の活性は、種々のpH値で非常に高いことが示されている。
【0207】
実験8 炭酸緩衝剤中の低下したレベルのHと合わせた[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸による、アルギネートの解重合。
pHが9であり、H濃度が0.5~10mMの範囲の状態で、「実験7」に記載のようにして試験を実施した。処理後の溶液から測定された動的粘度の値が、表9に示されている。
【表9】
表9に集約したデータにより、低レベルのHが存在する場合でさえ、マンガン触媒が使用されたときには、高いアルギネート解重合活性が観察されることが示されている。
【0208】
実験9 炭酸緩衝剤中の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/様々な量のアスコルビン酸及びHによる、アルギネートの解重合。
「実験7」の実験と同様の同様の実験を、様々なアスコルビン酸:Mn触媒の比を用いて、pH9.5で実施した。結果は、表10に示されている。
【表10】
【0209】
実験10 炭酸緩衝剤中のBuOOHと合わせた[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸による、アルギネートの解重合。
「実験5」の実験と同様の実験を、BuOOHによってHを置きかえてpH9.5で実施した。結果は、表11に示されている。
【表11】
表11のデータにより、効果的なアルギネートの解重合は、様々なpHのMn触媒と合わせたBuOOHを使用した場合にも起きることが示されている。
【0210】
実験11 炭酸緩衝剤中のBuOOH及びHと合わせた[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸による、アルギネートの解重合。
「実験10」に記載の実験と同様の実験を、BuOOHとHとの混合物を使用して実施した。結果は、表12に示されている
【表12】
表12に提示のデータにより、Hと混合されたBuOOHを含む本発明の溶液の活性は、BuOOH又はHを含む本発明の溶液の活性(酸化剤の総濃度を等しく保っているとき)と非常に類似することが示されている。
【0211】
実験12 炭酸緩衝剤中の過酢酸及びHと合わせた[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸による、アルギネートの解重合。
「実験7」に記載の実験と同様の実験は、過酢酸(過酸化水素なし)を用いて、又は過酢酸(PAA)と過酸化水素(H)との混合物を用いて実施された。反応時間は、30分間から60分間に延びた。結果は、表13に示されている。
【表13】
表13に提示のデータにより、Mn触媒は、H、過酢酸又は2種の酸化剤の混合物と組み合わせて使用して、アルギネートを解重合することができることが示されいてる。アスコルビン酸を予混合していない触媒の活性は、PAAが溶液中に存在する場合、(H単体との対比で)格段に低くなるが、触媒をアスコルビン酸と予混合することにより、アルギネート鎖の解重合を著しく増大させることができる。
【0212】
実験13 炭酸緩衝剤中のMnSOと、Hと合わせたMe-TACN配位子とによる、アルギネートの解重合。
これらの試験は、MnSOと、過酸化水素と合わせたMeTACN配位子との混合物を使用して、「実験5」に記載のようにして実施された。結果は、表14に示されている。
【表14】
【0213】
表14に提示のデータにより、あらかじめ形成しておいた[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)錯体、及び、Mn2+とMeTACN配位子との組合せは両方とも、Hによるアルギネートの処理時に粘度を著しく低下させることが示されている。
【0214】
実験14 MnCl.4HOと、tert-ブチルヒドロペルオキシドと合わせたMe-TACN配位子とによる、アルギネートの解重合
緩衝剤としてのボレート及び酸化剤としてのtert-ブチルヒドロペルオキシドを使用して、「実験13」に記載の実験と同様の実験を実施した。これらの実験は、下記の表15に示されている。
【表15】
【0215】
表15に提示の実験の結果により、Mn2+とMeTACN配位子との組合せもまた、BuOOHと一緒に使用されたとき、アルギネートの解重合に対して活性であることが示されている。
【0216】
実験15 触媒と、MeTACN配位子と、過酸化水素との組合せによるアルギネートの解重合。
これらの実験は、1.4%アルギン酸ナトリウムと、20mM Hと、Me-TACN配位子と、MnSO、[Mn(μ-O)(Me-TACN)2+又は1当量のアスコルビン酸と混合された[Mn(μ-O)(Me-TACN)2+(手順2、注1を参照されたい。)とを含有する炭酸緩衝溶液(pH10)を処理することによって実施された。Me-TACN配位子を、配位子に対する触媒のモル比が1:1、1:2又は1:4になるようにすべての溶液に加えた。なお、2つの実験(下記の表16の項目番号7及び11)は、それらの結果を参考資料として使用することができるように、いかなる配位子もなしで実行された。
【表16】
【0217】
表16に提示のデータにより、MeTACN配位子をMnSO、[Mn(μ-O)(Me-TACN)2+又は1当量のアスコルビン酸と混合された[Mn(μ-O)(Me-TACN)2+に加えると、いかなる場合においても、アルギネートの粘度の著しい低下が起こり、すなわち、アルギネート鎖の解重合の増進が起こることが示されている。したがって、Me-TACN配位子を、Me-TACNを含有するマンガン触媒に加え、又はモル過剰なMe-TACN配位子をマンガン塩に加えることは、系の性能に有益な効果を及ぼす。
【0218】
実験16 Hと合わせた[Mn(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)]Clによる、アルギネートの解重合
これらの実験は、10mM過酸化水素及び[Mn(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)]2+によってアルギネート溶液(1.4%水溶液)を処理することによって実施された。pHの範囲はpH7.5~pH9であり、緩衝剤は使用しなかった。溶液中における触媒のレベルは、0μM(参考実験)、2.5μM又は5μMだった。実験の結果は、表17に列記されている。
【表17】
【0219】
表17に提示のデータにより、試験された条件下においては、[Mn(μ-O)(μ-CHCOO)(Me-DTNE)]2+を溶液に加えると、粘度の低下が起きることが示されている。さらに、この触媒によって処理されたアルギネート溶液の粘度も、溶液のpHが低く、中性に近い場合には低下した。これらの結果は、pHが高くなるほどより大きな粘度低下が観察された、[Mn(μ-O)(Me-TACN)2+を使用した場合に得られた結果(実験1を参照されたい。)とは著しく異なる。
【0220】
実験17 炭酸緩衝剤中の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)及びHによる、pH依存的なアルギネートの解重合。
「実験4」に記載の試験を、40℃で1時間繰り返した。pH8.0~10.5までで、pH範囲を調査した。結果は、表18に示されている。
【表18】
【0221】
表18に提示のデータにより、カルボネートを含有する溶液中に様々なpHの[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)を使用した場合、効果的な粘度低下を達成することができることが示されている。実験4の場合と同様に、アルギネートの粘度の明確な低下が、幅広いpH範囲にわたって観察されたことに留意すべきである。
【0222】
実験18 炭酸緩衝剤中の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸及びHによる、pH依存的なアルギネートの解重合。
「実験5」に記載の試験を、40℃で1時間繰り返した。pH8.0~10.5までのpH範囲を調査した。結果は、表19に示されている。
【表19】
【0223】
表19に提示のデータにより、様々なpHにおいて、カルボネートを含有する溶液では、アスコルビン酸と合わせた[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)を使用した場合、効果的な粘度低下を達成することができることが示されている。最も高い活性は、約pH9~9.5のpH範囲にわたって観察されている。やはり、実験5の場合と同様に、アルギネートの粘度の明確な低下が、幅広いpH範囲にわたって観察された。
【0224】
実験19 炭酸緩衝剤中の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸、Hによってアルギネートの解重合に及ぼされる、Dequest 2047を使用することの効果。
「実験18」に記載の試験を、金属イオン封鎖剤としてDequest 2047を使用して40℃で1時間繰り返した。pH8.0~10.5までのpH範囲を調査した。結果は、表20に示されている。
【表20】
【0225】
表20に提示のデータは、過酸化水素と、アスコルビン酸と予混合された異なる濃度の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)とを含むカルボネート含有溶液にDequest 2047を加えることの効果を示している。表19のデータにより、Dequest 2047の非存在下では、効果的な粘度低下は約8.5~10のpHで達成されることが示されている。表20のデータにより、Dequest 2047は、高いpH(約10~10.5)では、アルギネートの解重合に著しい良影響を及ぼすが、pH8では、Dequest 2047の強力な阻害効果がアルギネートの分解活性に及ぼされることが示されている。使用されるDequest 2047の量が0mMから1mMに増えた場合、より高いpHにおいても、粘度低下が増進する。
【0226】
実験20 炭酸緩衝剤中の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](PF/アスコルビン酸及びHによる、pH依存的なアルギネートの解重合。
「実験18」の実験と同様の実験は、炭酸緩衝剤中のアスコルビン酸と予混合された0μM、5μM及び10μM [MnIV (μ-O)(Me-TACN)](PF並びにHを使用して、pH値8~10.5の状態で40℃において実施された。結果は、表21に示されている。
【表21】
表21に提示のデータにより、様々なpHのカルボネート含有溶液においては、[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](PFを使用した場合、効果的な粘度低下を達成することができることが示されている。最も高い活性は、約pH8.5~9のpH範囲にわたって観察されている。
表19の結果と表21の結果とを比較することにより、両方の触媒塩(それぞれ酢酸対イオンと触媒との塩及びPF対イオンと触媒との塩)が、アルギネートの解重合において、ほとんど同じくらいの高い活性を示すことを確認している。
【0227】
実験21 炭酸緩衝剤中の[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸及びHによる、温度依存的なアルギネートの解重合。
40℃でアルギネートを解重合するための最良の条件を、室温で1時間繰り返した。その結果は、表22に示されている。
【表22】
【0228】
表22に提示のデータは、室温におけるアルギネートの解重合を示している。参照測定(Mn触媒なしでのアルギネート処理)により、90~100mPa.sの動的粘度の値を得た。
【0229】
表22に提示のデータにより、0又は1モル当量のアスコルビン酸と予混合された[Mn(μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)は、室温におけるアルギネート分解に著しい効果を及ぼすことが明らかにされている。特に、表19に提示のデータに比較すると、pH9.0で実施された実験により、温度が約20℃低下しても、アルギネート分解の度合いには控えめな低下しか起きず、最終的な粘度は、7.4(40℃のとき)から7.9(室温のとき)に上昇していることが示されている。
【0230】
実験22 過酸化水素の混合物による、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)のバイオフィルムの除去(参考実験)
この試験は、「ASTM standard design E2799-17 Standard Test Method for Testing Disinfection Efficiency against Pseudomonas aeruginosaBiofilm using the MBEC Assay」から改作したものだった。シュードモナス・エルギノーサ細菌接種原(bacterial inoculum)を、1(±0.5)×10CFU mL-1の細胞密度になるようにトリプトンソイブイヨン培地(TSB)中に調製した。150μLの各細菌接種原を、2つのマイクロタイタープレートの各ウェルに加えた。最小バイオフィルム消滅濃度(MBEC:Minimum Biofilm Eradication Concentration)のデバイスのそれぞれを、37℃及び110rpmで6時間インキュベートした。インキュベーション後、確保したバイオフィルムは、プランクトンを除去するために200μL無菌蒸留水中で3回すすいだ。すすいだバイオフィルムは、試験中の各H混合物200μLを内包するチャレンジ用プレートに40℃で1時間接触させた。次いで、プレートを200μL無菌蒸留水中で3回すすいだ後、300μLの95%エタノールを室温(22~24℃)で15分間加えることによって固定した。150μLの0.1%クリスタルバイオレット溶液によって、バイオフィルムを室温で15分間染色した。染色されたバイオフィルムは、過剰な染料を除去するために200μLの無菌蒸留水で3回すすぎ、放置して一晩乾燥させた。次いで、125μLの33%酢酸を加えて、クリスタルバイオレット染料を可溶化した。次いで、可溶化された染料を別の新たなマイクロタイタープレートに移した。マイクロタイタープレートリーダー(Tecan Infinite Pro200)を使用して595nmで光学密度を測定することによって、バイオフィルムのバイオマスを定量化した。これらの試験を、トリプリケートで実施した。
【0231】
次のコントロールがなされた。
(1) リン酸緩衝剤及び1%トリプトンソイブイヨン培地によってバイオフィルムを40℃で1時間処理する(ネガティブコントロール)。
(2) ヒポクロリト漂白剤溶液(10%)である溶液によってバイオフィルムを40℃で1時間処理する(ポジティブコントロール)。
【0232】
試験の結果は、次のとおりである(与えられているすべての値は、可溶化クリスタルバイオレットアッセイの595nmにおける光学密度であり、残存のバイオフィルムの量の尺度を与えるものである。値が低いほど、処理によってより多くのバイオフィルムが除去されたことを意味する。)。
【0233】
ネガティブコントロールは、0.56(±0.06)の光学密度(低度のバイオフィルムの除去)を与え、ポジティブコントロールは、0.07(±0.01)の光学密度(高度のバイオフィルムの除去)を与えた。
【表23】
【0234】
表23に提示のデータにより、過酸化水素を含む溶液は、バイオフィルムを除去して、0.22(混合物B2)~0.30(混合物B3)の光学密度を与えたことが示されている。これらの結果により、様々な過酸化水素溶液によっても、中等度のバイオフィルムの除去しか達成することができないことが示されている。
【0235】
実験23 [MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)又は[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸による、シュードモナス・エルギノーサのバイオフィルムの除去。
炭酸緩衝剤(0.396g/Lの炭酸ナトリウム;pH8~10.5)を含み、異なるレベルのH(5mM、10mM及び20mM)も含み、Dequest 2047(0.2mM及び1mM)も含み、又は含まず、1モル当量のアスコルビン酸と予混合された5μM又は10μMの[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)又は[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)も含む、溶液を、実験22に記載のようにバイオフィルムが入ったマイクロタイタープレートに加えた。
【表24】
表24に提示のデータにより、595nmにおけるクリスタルバイオレット染料の光学密度は、0.11~0.21だったことが示されている(この実験においては、ネガティブコントロールは0.46を与え、ポジティブコントロールは0.12を与えた。ネガティブコントロール及びポジティブコントロールに規定に関しては、実験22を参照されたい。)。混合物1、2、5及び8は、特に低い光学密度値を与えているが、これは、バイオフィルムの大部分が除去されたことを示している。しかしながら、中等度のバイオフィルムの除去を示した混合物(混合物10~13)であっても、それらのすべてが、実験22(B3~B5)に記載の参考例より著しく良好である。
【0236】
実験22及び23の結果により、低濃度の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)を含む混合物は、[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)を含有しない類似溶液との比較で、バイオフィルムの除去を著しく改善することが明確に示されている。明確なバイオフィルムの減少につながったのと同じ条件が、バイオフィルム用のモデル多糖としてアルギネートを使用して実施された実験においても、アルギネートの粘度を低下させたことは、注目に値した(上記の実験17~21)。
【0237】
実験24 過酸化水素の混合物による、スタフィロコッカス・エピデルミディスのバイオフィルムの除去(参考実験)
これらの実験は、ここではスタフィロコッカス・エピデルミディスを使用して、バイオフィルムを生成したという点を除いて、実験22に記載のものと全く同じようにして実施された。
【0238】
ネガティブコントロールは、0.32(±0.04)の光学密度(低度のバイオフィルムの除去)を与え、ポジティブコントロールは、0.06(±0.00)の光学密度(高度のバイオフィルムの除去)を与えた。
【表25】
【0239】
表25に提示のデータにより、異なるpHで過酸化水素を施用すると、中等度の量のバイオフィルムが除去されることが示されている(実験22と整合している)。
【0240】
実験25 [MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)又は[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸による、スタフィロコッカス・エピデルミディスのバイオフィルムの除去。
これらの実験は、ここではスタフィロコッカス・エピデルミディスを使用して、バイオフィルムを生成したという点を除いて、実験23に記載のものと全く同じようにして実施された。条件及び結果は、表26に示されている。
【表26】
【0241】
表26に提示のデータにより、アスコルビン酸による前処理の有無にかかわらず、[Mn(μ-O)(Me-TACN)2+を含む混合物の多くによって、スタフィロコッカス・エピデルミディスが産生したバイオフィルムを処理することにより、バイオフィルムの光学密度が0.07~0.1に低下した(すなわち、処理により、良好なバイオフィルムの除去が起きた)ことが示されている。特に、混合物1~8、10及び11は、バイオフィルムの除去において、非常に活性だった。混合物9及び12により、中等度のレベルのバイオフィルムの除去が起きたが、この中等度のレベルは、光学密度の表示値が0.31だったネガティブコントロールより大幅に良好である。
【0242】
実験23及び25により、低濃度の[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)を含む混合物は、[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)を含有しない参照用溶液との比較で、バイオフィルムの除去を著しく改善することが明確に示されている。
【0243】
大きく異なる細菌に由来する2種のバイオフィルムの分解は、[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)が存在する場合、明確に向上している。スタフィロコッカス・エピデルミディスは、グラム陽性細菌であり、ムレインを含有する。シュードモナス・エルギノーサは、グラム陰性細菌であり、EPS中にアルギネートを含有する。実験22~25に記載の結果により、[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)を含む水性混合物による、向上したバイオフィルムの分解は、アルギネートを含むバイオフィルムに限定されないことが示されている。
【0244】
実験26 CDC反応器内での[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)又は[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸による、シュードモナス・エルギノーサのバイオフィルムの除去
実験23及び25の結果に基づいて、さらなる試験が、バイオフィルムの形成及び除去を研究するために幅広く使用されている標準的な構成である、Center for Disease Control(CDC)バイオフィルム反応器内で実施された(バイオフィルムを調査するための様々な反応器についての最近のレビューに関しては、例えば、I.B.Gomesら、Critical Reviews in Biotechn.、38(5)、657~680(2018)を参照されたい。
【0245】
これは、バイオフィルムの除去を査定し、処理後の細菌の数をカウントするために使用することができる、大規模構成である。この大規模構成は、現実的なバイオフィルムの除去のための良好なモデルであると考えられている。
【0246】
24時間培養したシュードモナス・エルギノーサをトリプトンソイ寒天培地(TSA)プレートから回収し、これを使用して、トリプトンソイブイヨン培地(TSB)中に個別の1(±0.5)×10CFU mL-1懸濁液を調製した。各細菌懸濁液をTSBでさらに希釈して、1(±0.5)×10CFU mL-1懸濁液を調製した。400mLの細菌接種原(細菌懸濁液)を、バイオフィルムを成長させることになるポリカルボネートクーポン(BIOSURFACE TECHNOLOGIESから購入、直径約1.3cm、厚さ約3.00mm)を内包する別個の無菌CDC反応器に移した。1つのバイオフィルムは、120rpmのマグネチックスターラーにより、37℃で24時間成長させた。24時間のインキュベーション後、あらかじめ形成しておいたバイオフィルムを無菌蒸留水によって洗浄して、プランクトンを除去した。ポリカルボネートクーポンに付着したあらかじめ形成しておいたバイオフィルムは、マンガン錯体を含む混合物(後述)によって40℃で1時間処理した。処理された1組のクーポンを、クリスタルバイオレット染色(実験22において概説している)を用いて分析し、第2の組のクーポンを分析して、プレートカウント法を用いて細菌の数をカウントした。すべてのクーポンは、トリプリケートで試験又は分析された。
【0247】
第1の混合物は、20mM Hと、0.396g/Lの炭酸ナトリウム緩衝剤と、1モル当量のアスコルビン酸と予混合された10μM [MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)とを含有したが、pH9.0のDequest 2047を含有していなかった(下記では、「第1の混合物」と表記する)。
【0248】
第2の混合物は、20mM Hと、0.396g/Lの炭酸ナトリウム緩衝剤と、10μM [MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)とを含有したが、pH9.5のDequest 2047を含有していなかった(下記では、「第2の混合物」と表記する)。
【0249】
第3の混合物は、20mM Hと、pH10.5の1mM Dequest 2047と、0.396g/Lの炭酸ナトリウム緩衝剤と、10μM [MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)とを含有した(下記では、「第3の混合物」と表記する)。
【0250】
ネガティブコントロールは、リン酸緩衝剤及びTSB溶液中でバイオフィルムを室温で1時間処理することによってなされた。ポジティブコントロールは、バイオフィルムを40℃で1時間処理した後、クーポンを超音波処理し、蒸留水で3回洗浄することによってなされた。
【0251】
これらの実験の結果は、次のとおりだった。
【0252】
ネガティブコントロールは、0.18(±0.11)の光学密度を与え、ポジティブコントロールは、0.00の光学密度、又は、ネガティブコントロールとの比較で100%低下した光学密度を与えた。
【0253】
第1の触媒の混合物は、0.02(±0.01)の表示値、又は、ネガティブコントロールとの比較で89%低下した表示値を与えた。
【0254】
第2の触媒の混合物は、0.05(±0.03)の表示値、又は、ネガティブコントロールとの比較で70%低下した表示値を与えた。
【0255】
第3の触媒の混合物は、0.02(±0.03)の表示値、又は、ネガティブコントロールとの比較で87%低下した表示値を与えた。
【0256】
さらに、バイオフィルムは、処理後に残存する細菌の数についても分析された。この目的のために、ネガティブコントロールから、6.19(±0.14)log CFU mL-1の生存シュードモナス・エルギノーサを回収した。ポジティブコントロール処理の後には、生存シュードモナス・エルギノーサが回収されなかった。
【0257】
第1~第3の混合物によって処理されたバイオフィルムを分析すると、次のLog細菌数、及び、ネガティブコントロールに比較した細菌数の対数減少値が得られた。
【0258】
第1の触媒の混合物は、4.57(±0.24)の回収又は1.63の対数減少値を与えた。
【0259】
第2の触媒の混合物は、4.91(±0.30)の回収又は1.28の対数減少値を与えた。
【0260】
第3の触媒の混合物は、3.04(±0.20)の回収又は3.15の対数減少値を与えた。
【0261】
実験27 CDC反応器内での[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)又は[MnIV (μ-O)(Me-TACN)](CHCOO)/アスコルビン酸による、スタフィロコッカス・エピデルミス(Staphylococcus epidermis)のバイオフィルムの除去
ここではスタフィロコッカス・エピデルミスのバイオフィルムをCDC反応器内で使用したという点を除いて、実験26に記載のものと同じ構成及び手順に従った。
【0262】
これらの実験の結果は、次のとおりだった。
【0263】
ネガティブコントロールは、2.99(±0.64)の光学密度を与え、ポジティブコントロールは、0.10(±0.64)の光学密度を与えたが、この0.10(±0.64)の光学密度は、ネガティブコントロールとの比較で96.5%低下している。
【0264】
第1の触媒の混合物は、0.95(±0.34)の表示値、又は、ネガティブコントロールとの比較で68%低下した表示値を与えた。
【0265】
第2の触媒の混合物は、0.79(±0.13)の表示値、又は、ネガティブコントロールとの比較で74%低下した表示値を与えた。
【0266】
第3の触媒の混合物は、0.42(±0.18)の表示値、又は、ネガティブコントロールとの比較で86%低下した表示値を与えた。
【0267】
さらに、バイオフィルムは、処理後に残存する細菌の数についても分析された。この目的のために、ネガティブコントロールから、7.29(±0.36)log CFU mL-1の生存スタフィロコッカス・エピデルミスを回収した。ポジティブコントロール処理後には、生存スタフィロコッカス・エピデルミスが回収されなかった。
【0268】
第1~第3の混合物によって処理されたバイオフィルムを分析すると、次のLog細菌数、及び、ネガティブコントロールに比較した細菌数の対数減少値が得られた。
【0269】
第1の触媒の混合物は、6.02(±0.40)の回収又は1.27の対数減少値を与えた。
【0270】
第2の触媒の混合物は、6.44(±0.87)の回収又は0.85の対数減少値を与えた。
【0271】
第3の触媒の混合物は、5.12(±0.83)の回収又は2.17の対数減少値を与えた。
【0272】
実験26及び実験27に記載の結果により、第1~第3の混合物は、異なる2種の細菌によって生成されたバイオフィルム基質を分解させることが明確に示されている。これらの結果は、実験23及び実験25に記載の結果と完全に合致している。さらに、第1~第3の混合物による処理後には、バイオフィルムの部分的な除去により、残存細菌の数が著しく減少していたことも示された。
図1
【配列表】
2023517850000001.app
【国際調査報告】