(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-27
(54)【発明の名称】強誘電性ネマチック材料を含むデバイスならびにその製造方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/141 20060101AFI20230420BHJP
【FI】
G02F1/141
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552927
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(85)【翻訳文提出日】2022-10-26
(86)【国際出願番号】 US2021020741
(87)【国際公開番号】W WO2021178587
(87)【国際公開日】2021-09-10
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508214950
【氏名又は名称】ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・コロラド,ア・ボディー・コーポレイト
(71)【出願人】
【識別番号】399047002
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ノエル
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シー
(72)【発明者】
【氏名】グレイサー,マシュー・エイ
(72)【発明者】
【氏名】マクレナン,ジョセフ・イー
(72)【発明者】
【氏名】ドン,デンパン
(72)【発明者】
【氏名】ベドロフ,ディミトリー
【テーマコード(参考)】
2H088
【Fターム(参考)】
2H088EA31
2H088GA02
2H088GA10
2H088HA02
2H088JA17
2H088KA22
(57)【要約】
ネマチック液晶を形成する分子を含むデバイスを開示する。分子は、1つ以上の双極子を含み、強誘電性ネマチック状態で存在する。例示的デバイスは、例えば、面内方向に電場を印加する電極をさらに含んでもよい。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電性ネマチック液晶を形成する流体を含む体積と、前記流体を含有するための手段と、を含むデバイスであって、前記流体が、1つ以上の電気双極子を有する分子を含み、前記分子が、強誘電性分極密度を自発的に形成し、前記自発分極密度が、前記双極子の非ゼロ局所一方向平均配向を含み、前記分極密度が、前記体積中の大きさおよびベクトル方向を含む、デバイス。
【請求項2】
前記デバイスが、電場を前記体積に印加するための1つ以上の電極を含み、電磁場が前記体積中に伝播し、前記電場が前記分極密度の大きさを変化させ、それによって電磁場に変化を生む、電磁場の電気制御のための請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記デバイスが、電場を前記体積に印加するための1つ以上の電極を含み、制御される電磁場が前記体積中に伝播し、前記電場が前記分極密度のベクトル方向を変化させ、それによって電磁場に変化を生む、電磁場の電気制御のための請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記デバイスが、電場を前記体積に印加するための1つ以上の電極を含み、前記電場が、前記分極密度のベクトル方向および/または大きさを変化させ、それによって前記体積の物理的運動または形状の変化を生む、電動運動を生むための請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記デバイスが、前記体積中の電位または電流を測定するための1つ以上の電極を含み、前記電位および/または電流が、前記分極密度の変化によって発生し、前記変化が、前記体積中の応力の変動または前記体積の少なくとも一部の形状の変化に起因する、機械的検出を実行するための請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記デバイスが、前記体積中の電位を測定するか、または電流を得るための1つ以上の電極を含み、前記電位および/または電流が、前記分極密度の変化によって発生し、前記分極密度の前記変化が、前記体積の温度変化によって生み出される、電荷密度を熱的に発生させるための請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記体積が、平行面の間に含まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
電場/前記電場が、表面に平行に印加される、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
分極密度が、前記表面に平行である、請求項7に記載のデバイス。
【請求項10】
前記電磁場が、表面に平行の分極を有する、請求項7または8に記載のデバイス。
【請求項11】
前記電場、前記分極密度、および前記電磁場の分極が、同じ線に沿って存在する、請求項2または3に記載のデバイス。
【請求項12】
電磁場が、前記デバイス中で伝播するまたは前記デバイスから反射する、マイクロ波、赤外線、可視光、紫外線、およびx線のうちの1つ以上を含む、請求項2、3、または7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記分極密度が、分子規模の局所空洞を生成し、前記空洞が、前記体積中の双極子を有する分子を結合する、分子双極子の捕捉を実行するための請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記強誘電性ネマチック液晶を形成する流体が、ダイマー、オリゴマー、またはポリマー材料を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記強誘電性ネマチック液晶を形成する流体が、エラストマー材料を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
前記強誘電性ネマチック液晶を形成する流体がガラスを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
分子が、(1)ネマチック液相秩序化に適した分子長軸を有する棒状の形状;(2)分子長軸に平行な正味の実質的分子双極子であって、前記棒状分子の頭尾連鎖を安定化する双極子;(3)前記分子長軸に沿って分布する交互符号の局在電荷を与える分子長に沿って存在する分子副成分;(4)双極性電荷を相互作用できるようにするが、結晶化を抑制するのに十分な可撓性をもたらす最低可撓性尾部;および(5)極性秩序を促進するための、並列分子のダイレクタに沿った相対位置を制御するための横方向の基のうちの1つ以上を含む強誘電性ネマチック相の安定化に適したフィーチャを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
請求項1~17のデバイスのいずれかを使用する方法。
【請求項19】
強誘電性ネマチック相の安定化に適したフィーチャを有する分子構造を発見する方法であって、多数の試験分子のうちの少なくとも2つのサンプルの熱平衡を達成する原子論的分子力学コンピューターシミュレーションを含み、前記試験分子が分子双極子構造を有し、前記サンプルの片方が前記双極子の最大極性秩序で開始される極性試験分子群を含み、前記サンプルの他方が前記双極子のゼロ極性秩序で開始される無極性試験分子群を含み、前記方法が極性および無極性系における極性分子間相関の形成様式の決定および比較を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容が、本開示と矛盾しない程度まで、参照により本明細書に組み込まれる、「DEVICES INCLUDING FERROELECTRIC NEMATIC MATERIAL AND METHODS OF FORMING AND USING SAME」という標題の、2020年3月3日に出願された米国仮特許出願第62/984,739号の利益を主張する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、全米科学財団から授与された認可番号DMR1420736の連邦政府資金によって実施された。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ネマチック液晶は、凝縮相中に密に詰められるときに均一な相互配向を達成する、異方性形状の分子または粒子の材料である。例えば、棒状の分子は、長軸に合わせて配向し、共通の方向に沿って局所的に整列される傾向にある。この配向性秩序化は、光学的異方性(複屈折)の材料を作製し、電場または磁場などの外的影響の印加に対する応答を強化する有益な効果を有する。そのような応答性液晶は、携帯電話のディスプレイ、コンピュータモニター、TVディスプレイ技術などを可能にする電気光学素子として広範にわたって有用である。ディスプレイの応用例は、ネマチック液晶を用い、これは液体であるが、一般にネマチック液晶は液体、粘弾性、またはガラス状であってもよく、モノマー、オリゴマー、またはポリマーである分子種から作られている。本開示の目的のために、本発明者らは、これらのさまざまな部分的に流体様、部分的に固体様の液晶材料タイプを「ネマチック」および「流体」として言及する。
【0004】
立体棒形状(例えば、ホットドッグのような形状)に加えて、ネマチック液晶相を作る分子は、一端が他方と異なる(例えば、野球用バットまたは矢のような形状である)極性であってもよい。分子極性は、例えば、分子中の内部電荷の分布が空間的に一様でなく、むしろ過剰の正電荷または負電荷の分離領域(双極子)を有する「双極性」である内部分子構造を採用することによって導入されうる。双極子を有する分子は、分子の矢印が同じ方向に達する追加の種類の秩序化(極性秩序化)の可能性を有する。例えば、長軸に沿って双極子矢印を有する棒状分子は、矢筒中の矢または標的にはまり込んだもののように双極子が全て同じ方向にあって、自発的に平行して秩序化できる。そのような秩序化がネマチック液晶中で生じた場合、得られる材料は、最適に「強誘電性」であるということができる。
【0005】
強誘電性流体は、近年のモデリングによれば、双極子の最適に共通の配向を有することから、印加される電場に対する流体の応答を、極性秩序化を持たない流体よりかなり大きくするはずである、例えば、分子はずっと低い電圧で印加される電圧に応答して配向を変えるはずであるため興味深い。しかしながら、そのような有益な効果はこれまで一切観察されてこなかった。克服すべき一課題は、極性秩序を有する材料の十分に大きな体積(ドメイン)を達成することである。例えば、一部のネマチック材料は、材料柱または板の配列中の極性秩序化を達成しうるが、配列中の隣接する柱または板が逆方向の分極によって秩序化し、機能的体積中の全極性を相殺する。そのような秩序化は、「反強誘電性」と呼ばれ、流体の電気的応答を強化する上で若干の利益しかもたらさない。強誘電性ネマチック流体は、反強誘電性ドメインを排除する。
【0006】
強誘電性ネマチック液晶はまた、非強誘電性ネマチック液晶の技術分野において公知であるように表面で好ましい配向を示し、加えて、表面が回避不能なほど極性であるため、強誘電性分極の、表面との極性相互作用を示す。これらの極性および無極性表面相互作用を利用して、強誘電性ネマチック分子配向場の所望の幾何的機構を得ることができる。したがって、強誘電性ネマチックの特性を画定することによって、ナノメートル規模からそれ以上の範囲の巨視的体積にわたる回避不能の熱変動のみに限定される極性秩序の固定パターンを実現することができ、これは境界表面との相互作用によってのみ安定化される。
【0007】
強誘電性ネマチック流体を含む改善されたデバイス、特に反強誘電性秩序化を有さないデバイスが一般的に望まれる。
この項で記述する課題および解決法を含めた全ての説明は、本開示の内容を提供するためだけに本開示に含まれたものであり、一部または全ての説明が、本発明が作製された時点で知られていたか、またはそうでなければ先行技術を構成すると認められるものと解釈すべきではない。
【発明の概要】
【0008】
本開示のさまざまな実施形態は、ネマチック液晶を形成する流体を含むデバイスと、該デバイスの製造および使用の方法とに関する。本開示の例によれば、ネマチック液晶を形成する流体は、1つ以上の双極子を含み、1つ以上の双極子は強誘電性ネマチック状態で存在する。これは、デバイスが強誘電性の特性を用いて動作することを可能にする。
【0009】
本開示のさまざまな例によれば、強誘電性ネマチック液晶を含めたさまざまなデバイスが提供される。例示的デバイスは、強誘電性を利用して、強誘電性ネマチック液晶を形成する流体を含む体積内の電場とその体積内の比較的高い電荷への比較的高い連結を達成することによって得られる所望の分子配向および極性を有する分子を含み、これは、結果として、先例のない電気光学および電気機械応答を示す。これらの強力な応答は、高度に幾何特異的であってもよい。例えば、完全に配列された双極子の極性秩序化方向(例えば、細胞板のガラス面の近くの)は、細胞板に平行であることが断然好ましいことがあり、そのため、それらの簡易な再配向は、ほぼ板に対して垂直である。これらの再配向は、細胞板に平行になるように印加された電場によって誘起されうる。したがって、本開示の実施形態は、該体積の強誘電性分極の幾何学的配置および操作に関する。
【0010】
本開示の例によれば、デバイスは、強誘電性ネマチック液晶を形成する流体を含む体積と前記流体を含有するための手段とを含む。流体は、1つ以上の電気双極子を有する分子を含み、前記分子は、強誘電性分極密度を自発的に形成し、前記自発分極密度は、非ゼロ局所一方向平均配向の前記双極子を含み、前記自発分極密度は、前記体積中の大きさおよびベクトル方向を含む。これらの実施形態のさまざまな態様によれば、デバイスは、電磁場の電気制御のために使用することができる。この場合、デバイスは、前記体積に電場を印加するための1つ以上の電極を含んでもよく、電磁場は、前記体積中で伝播するが、ここで、前記電場は、前記分極密度の大きさを変化させ、それによって電磁場に変化を生む。追加の態様によれば、デバイスは、電磁場の電気制御のために使用することができる。この場合、デバイスは、前記体積に電場を印加するための1つ以上の電極を含んでもよく、制御される電磁場は、前記体積中で伝播し、前記電場は、前記分極密度のベクトル方向を変化させ、それによって電磁場に変化を生む。さらなる追加の態様によれば、デバイスは、電動運動を生むために使用することができる。そのような場合、デバイスは、前記体積に電場を印加するための1つ以上の電極を含んでもよく、前記電場は、前記分極密度のベクトル方向および/または大きさを変化させ、それによって前記体積の物理的運動または形状変化を作る。他の態様によれば、デバイスは、機械的検出を実行するために使用することができ、前記デバイスは、前記体積中の電位または電流フローを測定するための1つ以上の電極を含み、前記電位および/または電流フローは、前記分極密度の変化によって発生したものであり、前記変化は、前記体積中の応力変化または前記体積の少なくとも一部の形状変化に起因する。さらに追加の態様によれば、デバイスは、電荷密度を熱的に生成するために使用することができ、前記デバイスは、電位を測定するためのまたは前記体積中の電流フローを得るための1つ以上の電極を含み、前記電位および/または電流フローは、前記分極密度の変化によって発生したものであり、前記分極密度の前記変化は、前記体積の温度変化によって生まれる。さらなる例によれば、デバイスは、分子双極子の捕捉を実行するために使用することができ、前記分極密度は、分子規模の局所空洞を生成し、前記空洞は、前記体積中の双極子を有する分子を結合する。
【0011】
前記流体を含有するための手段は、例えば、板などの(例えば、平行かつ/または平面の)面を含んでもよい。電場を、1つ以上の面と平行に印加してよい。分極密度は、1つ以上の面と平行であってもよい。電磁場は、1つ以上の面と平行な分極を有していてもよい。電場、分極密度、および前記電磁場の分極は、同じ線に沿っていてもよい。電磁場は、マイクロ波、赤外線、可視光、紫外線、およびx線光のうちの1つ以上を含んでもよく、前記デバイス中で伝播するか、または前記デバイスから反射する。
【0012】
さらなる例によれば、分子は、(1)ネマチック液晶秩序化に適した分子長軸を有する棒状の形状;(2)分子長軸に平行な正味の実質的分子双極子であって、前記棒状分子の頭尾連鎖を安定化する双極子;(3)前記分子長軸に沿って分布する交互符号の局在電荷を与える分子長に沿って存在する分子副成分;(4)双極性電荷を相互作用できるようにするが、結晶化を抑制するのに十分な可撓性をもたらす最低可撓性尾部;および(5)極性秩序を促進するための、並列分子のダイレクタに沿った相対位置を制御するための横方向の基のうちの1つ以上を含む強誘電性ネマチック相の安定化に適したフィーチャを含む。
【0013】
本開示のさらなる例によれば、電磁場の電気制御のためのデバイスが提供される。デバイスは、ネマチック液晶を形成する流体を含む体積を含む。上述するとおり、流体は、1つ以上の双極子を含む分子を含み、前記1つ以上の双極子は、強誘電性ネマチック状態で存在する。強誘電状態は、前記体積中の位置で、平均局所一方向極性秩序化を有する巨視的電気分極密度を含むことができる。強誘電性ネマチック液晶は、電場の印加、力を印加する前記電位の勾配および双極子の配向を変化させる前記双極子へのトルクへの応答における前記双極子秩序に起因して電位エネルギーを獲得する。配向の変化は、電磁場における変化を生むことができる。
【0014】
本開示のさらなる例によれば、デバイスは、1つ以上の双極子を含むネマチック液晶を形成する分子(双極子は強誘電性ネマチック状態で存在する)と、ネマチック液晶を形成する分子に電場を印加するための1つ以上の電気接続と、を含む。
【0015】
さらなる例によれば、デバイスは、1つ以上の(例えば、平行の)板を含み、その板の少なくとも1つは、電場を印加するまたは形成する電極を含む。
本開示のさらなる例によれば、電動デバイスを提供する。デバイスは、ネマチック液晶を形成する流体を含む体積を含む。流体は、1つ以上の電気双極子を持つ分子を含み、前記1つ以上の双極子は、強誘電ネマチック状態で存在し、前記状態は、前記体積中の位置に、平均局所一方向極性秩序化を有する巨視的電気分極密度を有する。強誘電性ネマチック液晶は、電場の印加、力を印加する前記電位の勾配および双極子に運動または前記液晶体積の形状の変化を引き起こす前記双極子へのトルクへの応答における前記双極子秩序化に起因して電位エネルギーを獲得する。
【0016】
本開示のさらなる例によれば、前記流体を含有する手段は、1つ以上の本明細書に記載の表面などの1つ以上の表面を含む。
さらなる例によれば、分子は、一端に正電荷を含み、他方の端に負電荷を含む。さらなる例によれば、分子は、C6環状構造などの約2~約5個の環状構造を含んでもよい。加えて、または代替的には、分子は1つ以上の酢酸官能基を含んでもよい。いくつかの場合には、分子は、メトキシおよび/またはニトロ官能基を、例えば、分子のそれぞれの末端に含んでもよい。いくつかの場合では、分子は2つのメトキシ基を含む。
【0017】
本開示のさまざまな例によれば、電場は1V/cm未満または約1mV/cm~約1V/cmである。
本開示の追加の例によれば、強誘電性ネマチック流体は、ダイマー、オリゴマー、またはポリマー材料を含む。
【0018】
本開示の追加の例によれば、強誘電性ネマチック流体は、ガラスを含むか、もしくはガラスであり、またはガラス転位を示しうる。
本開示の追加の例によれば、強誘電性ネマチック流体は、エラストマー材料を含むか、またはエラストマー材料である。
【0019】
本開示の追加の例によれば、強誘電性ネマチック流体は、粘弾性材料を含むか、または粘弾性材料である。
本開示の追加の例によれば、強誘電性ネマチック流体は、降伏応力を示す。
【0020】
本開示のさらなる実施形態によれば、本明細書に記載のデバイスの使用方法を提供する。
さらなる例によれば、強誘電性ネマチック相の安定化に適したフィーチャを有する分子構造を発見する方法が提供され、前記方法は多数の試験分子のうちの少なくとも2つのサンプルの熱平衡を達成する原子論的分子動力学計算機シミュレーションを含み、前記試験分子は分子双極性構造を有し、前記サンプルの一方は、前記双極子の最大極性秩序で開始される極性試験分子群を含み、前記サンプルの他方は、前記双極子のゼロ極性秩序で開始される無極性試験分子群を含み、前記方法は極性および無極性系における極性分子間相関の形成様式の決定および比較を含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の例による体積の強誘電性ネマチック相を例示する。パネル(A)は、(分子に好適な)化合物1の構造および強誘電性ネマチック(NF)相中の分子配列の概略図を例示する。分子組織は、3Dにおいて翻訳的に対称性で、巨視的に一軸であり(局所平均分子長軸n(r)は概してバフ方向zに沿って整列している)、極性である(局所平均分子双極子配向P(r)はnに沿って整列している)。HおよびOは、それぞれ、分子のメトキシ末端およびニトロ末端を表すために使用される。パネルB~Gは、面内電場Eが図示のようにバフ方向に沿って印加された、NF相(t=11μm厚)中の化合物1の平面配向されたセルにおける強誘電性の電気光学的証拠を示すDTLM画像を例示する。より高温下のN相、P(r)=0だが、電場を印加せずにNF相に冷却した場合では、化合物1は、P>0またはP<0で巨視的ドメインを自発的に形成する。パネルB~Dは、明確な境界を有するドメインのパターン中のNF相末端における冷却時の粗大化プロセスを例示する。パネルEおよびGは、約1V/cmの極小電場Eの印加、結果として生じるn(r)の面内再配向を例示したものであり、Eの符号に応じてドメインの内側または外側のいずれかに暗帯が生成されることを示す。E(約1V/cm)のこの再配向の閾値電場は、これらのドメイン内のn(r)が、電子的に測定されたバルク分極密度に相当する分極P(約-6μC/cm2)によってEと結合することを示す。(F)より高い印加電場は、ドメイン境界を動かし、電場の面積を好ましい配向に拡げ、P(r)のヒステリシス反転に影響を与える。スケールバー=100μm。矢印は、ネームの流れを示す。
【
図2】逆極性配向の強誘電性ドメイン内の極性フレデリクスねじれ転移閾値を示す。(A)磁壁によって分離された3つのドメイン(各ドメインは、摩擦方向に沿ったn(r)を有する)を示す零電場初期状態。(B)Ez>0の印加は、上部ドメインおよび下部ドメイン内のn(r)の面内再配向がもたらす複屈折色変化を誘起する。中央ドメイン内には若干の光学変化または再配向がある。電場がE=0に戻る場合、系は初期状態(A)に戻る。(C)Ez<0の印加は、中央ドメイン内のn(r)の面内再配向を誘起し、上部ドメインおよび下部ドメインはそのまま変化しない。これらの観察は、ドメインの極性非対称を実証し、また、P(r)の方向の絶対決定を可能にし、印加電場中の好ましい配向を有するドメインは再配向しない。この実験では、場は、表面でピン止めされている磁壁を動かすのに十分大きくない。分極ベクトル202は、セルの中央面内のP(r)の電場誘起再配向を示し、この実験における表面で分極は再配向せず、zに平行なままである。P(r)がEにほぼ逆平行で開始する、これらの電場誘起再配向は、極性方位フレデリクス転移である。測定した
図3のP(約6μC/cm2)を用いて推定された閾値電場EP=(π/t)2(KT/P)は、本明細書で用いた電場に相当するEP(約1V/cm)である。この一致は、印加電場の不在下、これらのドメインが完全なP(約6μC/cm2)分極で形成されたことを示す。t=11μm。スケールバー=100μm。
【
図3A】電場による分極反転の特性を例示する。(A)d=1mmの間隔をあけた1cm幅のITO電極を有するt=15μm厚のセルに面内印加されたピーク電場Ep=95V/mm振幅の200Hz方形波を有するセル電流のTへの依存。I相およびN相(T>=133℃)では、電流が小さく容量性であり、一方、N
F相に冷却時、追加の電流ピークが出現し、その面積は電圧とは関係なく、正味分極電荷反転Q=2PA(式中、A=15μm×1cmは、面内印加電場によって再配向されるLC材料の体積の有効断面積である)に等しい。N
F相では、このピークは、冷却すると面積内で増大し、分極密度の増加を示し、また、時間が長くなり、配向性粘度の増加を反映する。暗色の矢印は、T=120℃での反転時間を示す[(C)の点線]。
【
図3B】電場による分極反転の特性を例示する。(B)黒色の四角-最低温度でP=約6μC/cm
2の飽和物質を冷却して得られる化合物1の分極密度P。転移近くの領域は、詳細には試験しなかった。
【
図3C】電場による分極反転の特性を例示する。(C)時間Δtの場依存性、半分の高さの分極で半分の幅またはT=110℃での、d=20μm、60μm、および1mmの間隔をあけた面内電極を有する平面配向セル中のピーク振幅E
pの100Hz方形波の段階的場によって誘起される光学的逆パルス。反転時間のスケール(1/E
p)は、強誘電性P×Eトルクによって動かされる再配向で予測されるとおりである。点線は、E
p=95V/mmについてのデータを示す[(A)中の暗色の矢印]。ライズタイムτ=1/PEは、約0.1Δtである。
【
図4】右への表面分極があり、場に好ましい表面の暗いバックグラウンドは収縮し、左に向かってバルク分極がある、ドメイン(402、404、または406)のDTLM画像を例示する。(A)ドメインおよび構造要素P、n、およびE。表面回位線が重なる場所にダークスポットが出現し(丸で囲った箇所)、セルを通るxに沿ってπダイレクタ再配向を均一にする。スケールバー=50μm。(B)P(r)の2D構造を示す断面図:均一(U)な場に好ましい状態;中心のPが回転してベクトル408で示すねじれ-非ねじれ(TU)状態を形成して、初期ドメインが反転される;右側にオリーブ(T
R)および左側に金(T
L)がある中間ねじれ状態。断面図は、(B)の画像の上端に沿ったx、z面内のドメインの2D構造を提供し、上部セル板(ライン412)および下部セル板(ライン414)での分極再配向を介したπ表面回位線(各点410)を示す。(C)Eが左から右に増加し、続けて中心ドメインのPの回転が増加し、それによって複屈折の色が変化する、初期ドメインの収縮。(A)表面回位線が重なる箇所(丸で囲った箇所)にダークスポットが出現し、セルを通るxに沿ってπダイレクタ再配向を均一にする。t=11μm。スケールバー=50μm。
【
図5】化合物1における一般的な分極反転のシナリオを例示する。ベクトル502は、電場誘起再配向を示す。(A)ストライプ形成。0<Ep<10V/cmの範囲のピーク振幅の逆転三角波動場5Hzの、初期に均一な面内ダイレクタを有する領域への印加は、zに沿ったn(r)およびP(r)の配向の周期変調、ダイレクタ曲げ波を誘起する。印加される場の強度が増すにしたがい、ストライプは、場の強度(白色の弧)および鮮明な境界によって決定される均一な内部配向を有する。ストライプ中のダイレクタのヘリングボーン配置は、Pの垂直成分がストライプ境界を越えて一定であることを確実にし、したがって該境界上に正味分極電荷が存在しない。(B)多角形ドメイン。逆磁場の間、分極電荷効果は、均一なn(r)のドメインの傾斜形成につながる。これらの多角形は、鮮明なドメイン境界を有し、これは、P・l(lは境界に沿って存在する)(パネル4)が境界の両側で同じになるように配向され、空間電荷が減る。(C)包含物周囲のダイレクタ場。セル中の気泡を使用して反転場におけるn(r)の配向を追跡することができる。各パネルの下に図示した気泡の近くのダイレクタ場は、局所的に歪曲され、気泡の末端の(赤点で示すことができる)2つの180°くさび型回位に閉じ込められたスプレイ変形を有する包含物周囲で湾曲する。パネル4および5では青色を肉眼で確認でき、表面回位を有する、
図4に示す種類のTU状態に相当し、これは、次いで気泡の境界から出ていき、パネル6に示す均一な状態になる。スケールバー:A=100μm;B=100μm;C=50μm。
【
図6】強誘電性ネマチック電場誘起流れを例示する。(A)T=120℃での、NF相中の、未処置のガラス板間の化合物1のt=10μm厚の平面配向セルのDTLM画像。下の黒色のバーは、d=60μmのギャップによって分離された、板のうちの片方の上の2つの蒸着金電極602である。電極602は、明確にするために白色の輪郭を描いた。電極およびセルの上端のみを示す。Vp=3V、0.1Hz方形波の電圧を電極に印加し、セルの面内に電場を生成する。この場は、画像全体にわたる欠陥運動のパターンおよび流量を動かし、欠陥速度v(r)(矢印604)は印加電場E(r)にベクトル的に平行であり、電極ギャップを中心とする半円の接線である。欠陥が濃厚な場合、欠陥運動は、周囲の流体を輸送する。場が存在するとき、ここで示される全領域は、磁力線に沿って移動する。この画像は、場の反転の時点で取り込まれたが、該場の反転の時点では、結果として生じる分極反転が、
図5のパネルAのダイレクタおよび電場に垂直の、この場合は放射線に沿ってある曲げドメイン壁の周期的配列を生じる。(B)(A)中の丸で囲った位置の、印加磁場方向に沿って移動するテクスチャの典型的な欠陥(左側では下方、右側では上方)。(C)場の反転に後続する白色の破線トラックに沿った初期欠陥速度の大きさの温度依存性。同様のTへの依存性が、N-NF転移を通る加熱または冷却で得られる。NF相において、速度は、転移近くのPの増加に伴って増加するが、粘度の増加が原因で、より低いTで減少する。スケールバー:A=1mm、B=100μm。
【
図7】強誘電性ネマチックの分極を活用するための例示的な幾何学的配置を例示する。(A)空間的に不均一な分極の使用;(B)不均一な分極の誘起;(C)強誘電性分極の再配向。
【
図8】分極性分子モデルを用いた、T=130℃でのRM734のPOL MDシミュレーション系から得た即時コンフィギュレーションを例示する。系は、極性状態で開始して平衡化され、終端間に反転が観察されないように、高度のネマチックおよび極性配向秩序を維持する。垂直セル寸法は70Åである。
【
図9】B3LYP/6-31G*レベルの理論で計算されたRM734の構造最適化された構造を例示したものであり、この特有の分子配座の11.4D分子双極子モーメント(矢印)の配向を示す。他の低エネルギー配座は、同等の双極子モーメントを有する。
【
図10】原子論的シミュレーションにおいて使用される静的サイト電荷分布を例示する。大型活字で示す特有の官能基の全電荷は、分子長に沿った群電荷の交番を示す。点線は、孤立電子対に相当する。
【
図11】双極子のグループ寄与への静的サイト電荷分布の分解を例示する。既約結合および環双極子モーメントを小さい矢印で示し、数値はデバイ(D)で表す双極子モーメントである。特有の官能基の双極子モーメントも示す(大きな矢印と大きな非イタリック体)。イタリック体の数は、特有の官能基の、算出した強誘電性分極密度Ps(単位μC/cm
2)への平均寄与である。ニトロ基および該ニトロ基に結合された環(ニトロ環)は、最大の双極子モーメントを有し、共に全分極密度の64%を占める。4つの官能基(ニトロ、ニトロ環、中心環、および末端メトキシ)は、全分極密度の90%を占める。エステル基および外側のメトキシは、実質的に横方向の双極子モーメントを持ち、これは分子間結合に寄与しうる。
【
図12】(A)に示すRM734の極性分子秩序化に関与する分子間相互作用および得られる位置/配向相関を発見するために特別に設計された原子論的分子動力学シミュレーションの結果を例示する。384個の分子を含有するナノスケールの体積を、これらのシミュレーションにおいて2つの別個のLC状態:全ての極性分子の長軸uが+zに沿って存在する極性系と半分が+zに沿って存在し、半分が-zに沿って存在する無極性系に平衡化する。分子配座の平衡化および充填は容易に達成されるが、終端間の反転は稀であり、したがって平衡化状態が、極性または無極性ネマチック秩序それぞれの制限内にとどまる。(B、F、G)POLシミュレーションは、条件付き確率密度g(ρ、z)の形態で、原点に分子の中心があり、zに沿って長軸uがある分子周囲の分子中心の、極性秩序化された分子に取り入れられる有力な対相関を直接示す。g(ρ、z)は、一軸対称性になるようにψ平均化され、NおよびN
F相の一軸対称性を反映する。これらは、分子の立体重複排除の結果として得られる原点周囲の分子形状の低密度領域(g(ρ、z)=約0);正規化された平均密度(g(ρ、z)=1)を与える大きなρでの一定の漸近値を示し、明確なピークは好ましい分子充填モードを示す。この分析は、POL系において2つの主に好ましい充填モード:(B、F)末端ニトロ基およびメトキシ基の引力によって安定化される極性頭尾会合と、(B、G)分子に沿って存在する群電荷、ニトロと横方向メトキシの引力、および横方向メトキシの立体相互作用によって調整される極性連鎖会合と、を明らかにする。(D、E)NOPOL系は、逆平行および平行の分子対の明確な相関関数gNP
anti(ρ、z)およびgNP
par(ρ、z)を示す。(E、H、I)好ましい逆平行の充填は、分子に沿った群電荷によって調整される強力な連鎖相関関係と;(E、J、K)より弱い逆極性ニトロ-ニトロ末端間会合をもたらす。(D、F、G)NONPOL系における並列相関関係は、強制極性無秩序の存在下で極性秩序化のための分子相互作用の固有傾向によって決定されるため、N
F相中の極性秩序の安定性に最も関連する。(B)と(D)の比較は、2つの系における並列会合の同一の好ましいモードを示し、POL系の相関関係は、NONPOL系においてさらに強い。これは、サンプルPOL MDコンフィギュレーション(F)および(G)によって例示される、相関関数(B)と(D)をもたらす極性充填モチーフが、強誘電性ネマチック相の極性秩序を安定化するという明確な証拠である。
【
図13】本開示のさまざまな例によるデバイスを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に記載する例示的実施形態の説明は、代表例に過ぎず、例示のみを目的とすることが意図され、以下の説明は、本開示またはクレームの範囲を制限することを意図しない。その上、指定される特徴を有する複数の実施形態の列挙は、追加の特徴を有する他の実施形態または指定される特徴の異なる組合せを採り入れた他の実施形態の除外を意図しない。
【0023】
本開示の例は、両方の場、特に(i)光学特性の電場制御;(ii)印加歪みおよび/または応力による電場(圧電気)の発生;(iii)温度変化による電場(ピロ電気)の発生;(iv)応力、歪み、および流れの電場発生(電気流体力学);(v)印加された光電場(非線形光学および電子電気光学)への極性応答などの分野における用途にとって新しい可能性を生み出す、改善された液晶および強誘電体を提供する。本開示のさらなる例は、該材料を含むデバイス、該デバイスの使用方法、およびデバイスの製造方法に関する。
【0024】
図13は、本開示のさまざまな例によるデバイス1300を例示する。デバイス1300は、強誘電性ネマチック液晶を形成する流体を含む体積1302と、前記流体を含有する手段(例えば板または面1304、1306)と、を含む。板または面は、例えば、ガラス、PETなどのポリマー、ポリカーボネートなどを含んでもよい。例示した例において、デバイス1300は、1つ以上のポリマー層1310、1312も含む。層1310、1312の例示的ポリマーとしては、ポリイミドが挙げられる。面1311および/または1313は、例えばベルベットを使用してバフ仕上げしてもよい。
【0025】
以下でより詳細に記載するように、流体は、1つ以上の電気双極子を有する分子を含んでもよく、前記分子は、強誘電性分極密度を自発的に形成し、前記分極密度は、前記双極子の非ゼロ局所一方向平均配向を含み、前記分極密度は、前記体積中の大きさおよびベクトル方向を含む。デバイス1300は、本明細書に記載される用途のようなさまざまな用途のために使用することができる。
【0026】
本明細書に記載のさまざまなデバイスおよび用途のための例示的な分子は、例えば、(1)ネマチック液晶秩序化に適した棒状の形状;(2)分子長軸に平行の実質的な正味分子双極子であって、前記棒状分子の頭尾連鎖を安定化する双極子;(3)分子長軸に沿って分布する局在電荷(前記電荷は、反対の電荷と相互作用する)を与える分子長に沿って存在する分子副成分;(4)双極子電荷を相互作用できるようにするが、結晶化を抑制するのに十分な可撓性をもたらす最低可撓性尾部;(5)極性秩序を促進するための、並列分子のダイレクタに沿った相対位置を制御するための横方向の基を含むことができる。これらの特性を持つ合成可能な有機分子の極度に広い潜在的パレットは、さまざまな強誘電性ネマチック分子の使用を可能にする。
【0027】
例として、分子は、長軸に平行の大きな電気双極子モーメントを有する棒状分子4-[(4-ニトロフェノキシ)カルボニル]フェニル2,4-ジメトキシベンゾエート(化合物1)を含んでもよい。本明細書に記載の配合物を使用して、この化合物が、4つの別個の相:等方性流体(I)-188℃-ネマチック流体(N)-133℃-強誘電性ネマチック流体(FF)-70℃-結晶(X)を示すことが発見された。ここで、温度は異なる相間の転移が生じる温度を示している。したがって、本発明者らは、この分子が、133℃>T>70℃の範囲の温度で冷却すると強誘電性流体(FF)を作製することを発見した。
【0028】
電気光学-観察は、偏光透過光顕微鏡(DTLM)を使用して、各ガラス板間の幅tの空隙中に材料を有するセル上で行ったが、片方のガラス板は一対の平坦ITO電極1308でコーティングされ、(x、z)セル面に概ね平行な該一対の電極は例えば均一に間隔をあけ、それによって該電極間の面内電場Eの印加を可能にした。板をポリマー層1310、1312で処理した。表面1311および1313に、電極ギャップに垂直のz方向でバス仕上げをし、したがって印加磁場はバフ方向に沿って存在した:E=zE。等方相T>188℃において、毛管現象によってセルを材料で充填した。N相とFF相の両方を試験し、結果は以下のとおりである。
【0029】
この結果の鍵となる証拠は、強誘電性の決定的特性の任意の流体における本発明者らの最初の観察である:(i)印加電場の不在下での、明確なドメイン境界によって分離された反対符号の分極の自発的電気的極性ドメインの形成;(ii)これらのドメイン境界の動きを介した電場誘起分極反転。
図1にまとめたこの観察は、この流体が強誘電性であることを特定するのを可能にし、それによって強誘電性流体のさまざまな新規の物理的挙動を発見した。
【0030】
N相では、
図1に例示した平面配向されたセルの局所テクスチャは、光学的に特徴がない。FF相に向かって冷却すると、バフ方向に沿って延伸するストライプのランダムパターンが出現するが、FF相中で、これらのストライプが粗大化されると、同様に局所的に光学的特徴がない(パネルB~D)が、より大きなスケールにおいて明確な線のパターンによって特徴付けられ、一部は明確なレンズ形状の延長線形ドメイン100μm以上程度を描き(パネルD~G)、全ては印加電場の不在下で形成されるテクスチャにつながる。面内バフおよびダイレクタnに平行して印加される極小(約1V/cm)面内DC試験場Eの印加は、E>0の場合、これらのドメイン内のダイレクタは再配向し始め、一方で外側の配向は固定したままであり(パネルE)、それに対し、E<0の場合、レンズ形状のドメインの外側の領域は再配向し、内側の配向は固定したままである(パネルG)ことを示し、ドメイン境界が、面内磁場に対して反対の応答、したがって逆の面内分極を有する領域を分離することを示す。場の増加は、ドメイン境界のピン止めを外し、収縮させ、消滅させ(パネルF)、ヒステリシス的に移動させて場に好ましい状態の面積を増やす。Eが増加するにしたがい、好ましい状態における分極P(r)は、場に沿って次第に十分に配列される必要がある。本発明者らは、所与のドメイン境界の片側におけるn(r)がEに沿ってよりよく配列されるようになる(例えば、パネルEのレンズの外側およびパネルGのレンズの内側を参照)という知見を光学的に得たが、この効果は小さく、これらが、Pが既にEにほぼ平行である領域であるという証拠であり、重要なことには、nがEに沿って存在するため、FF相においてnがPに平行または逆平行のいずれかであることを示唆する。これらの観察は、ネマチック強誘電性の第一原理の実証を構成するものであり、次に、より詳細に記載する。
【0031】
ネマチック(N)相-ネマチック相に冷却するとき、化合物1は、複屈折Δn=約0.2で示される、平板に平行な(平面配向)、局所平均分子長軸および光学軸、ネマチックダイレクタn(r)を有するテクスチャを形成した。セルの厚みを越えたn(r)の方位角ねじれ再配向が、面内の1kHz AC場と約1000V/cmのEを用いて、この平面配向された幾何学的配置におけるN相中で誘起されうる。この場の強度は、誘電性フレデリクス閾値電場ED=(π/t)√(K/ε0Δε)について推定されたものと一致し、セルギャップt=11μm、フランク弾性定数K=約5pN、および誘電異方性Δε=約5を仮定する。このEDは、典型的な面内誘電性ネマチック電気光学の場のスケールを設定する。
【0032】
強誘電性ネマチック流体(FF)相-N-FF転移を通して冷却すると、セルは、n(r)に平行に局所的に延伸する不規則ドメインのテクスチャでパターン化するようになり、これは最初にサブミクロンスケールで出現し、次いでほぼ2℃の間隔にわたってアニーリングして、同様に概ねn(r)に沿って配向される低光学コントラストの細長い線のパターンになる。これらの線は粗大化されて、n(r)に沿って伸びた、顕著なレンズ形状の特徴を有する、10~200ミクロン程度の閉ループを形成する。この発達によって得られるサンプルテクスチャを
図1に示す。転移が完了すると、これらのループから離れて、テクスチャは滑らかで、N相のテクスチャと非常に類似する。FF相は、N相中の誘電応答の閾値より4桁小さい、極めて小さな(<1V/cm)面内電場の印加に応答して開始する、DTLM中に顕著な電気光学挙動を示す。この感度を活用して、印加電場におけるn(r)およびP(r)の静的および動的変化を調べて理解した。これらの実験で観察された典型的なテクスチャならびに強誘電性ドメインの特定およびその分極配向の決定に用いられた応答を、
図2に示す。印加された場の不在下、これらのセル中のLCディレクタnは、概して、バフ方向zに沿って存在し、明確な境界によって分離されるドメインが観察される。
図1にあるように、1セットのドメインは、zに沿って印加された場に対して弱い応答があるのみであり、これらの領域内で、Pが既にEに平行にあり、したがって、場が印加される前に、Pがzに対してほぼ平行であるか、または逆平行であるかのいずれかで、いたるところにあることを示す。印加された場において、PがEに対してほぼ逆平行のドメイン中、分極は、Eへの回転によって応答する。試験場への光学的応答は、容易に区別できる極性の違いを生み、これらのドメインが極性であることを明確にする。
図2中のベクトルは、セルの中央平面中のP(r)の電場誘起再配向を示す:この実験におけるセル表面のn(r)はzに平行なままである。これらの電場誘起再配向は、極性フレデリクス転移であり、閾値電場E
P=(π/t)
2(K
T/P)を有する。実験閾値がE
P=約1V/cmおよびK
T=約5pNであると予測して、本発明者らは、対応する自発的分極をP=約6μC/cm
2であると予測することができる。
【0033】
交差型偏光子および検光子ならびにダイレクタnに沿った偏光子を用いて、プラスまたはマイナスEの制限状態のn(r)のこれらのテクスチャは、同等にまたは実質的に類似して黒色であるが、ドメイン壁の形成の顕著なシナリオをとり、粗大化および消失を全て-2V/cm<E<2V/cmの範囲の小さなDC場の中で行うことによって分離される。交差型偏光子間で場に沿った状態は消え、zと平行にあるいたるところでn(r)を有し、白色入射光に対して(例えばピンク色)複屈折色を示す。中間状態は、yz面内にn(r)を有するが、xの周囲の方位角配向φ(r)の空間的変動がある。これは、これらの領域の有効な遅延特性を低減させ、その複屈折を二次および一次ミシェル・レビ帯へ移動し、濃い複屈折色を生成する。逆磁場に後続して得られた一様に配向されたドメインは、バルクLC中でn、P対が再配向され、また、整合面上でも反転した状態(後者はドメイン壁運動を介して行われる)である。したがって、FFの温度範囲内で、2V/cm未満の大きさEの面内電場によって制御可能な、双極子モーメント密度Pの均一な配向を有するデバイスサイズのドメインを作製することができる。ミクロンギャップセル中のネマチック液晶中の分子配向の、印加電場に対するこの種の感度は、化合物1および同様の構造の液晶を形成する棒状分子の全ての従来研究を含めたネマチック液晶の科学において完全に前例がない。
【0034】
電場に対するこの極度の感度をさらに調べるために、分極の電場誘起反転に関連する電流を使用して、FFの電場誘起分極密度も直接測定した。従来の金またはITO電極ならびに直径0.5mmの円筒形キャピラリを有し、シリンダー軸に垂直の平坦電極間の150μmギャップ中に材料を有する、いくつかの異なる2つの末端を有するセル構造中で、方形波および三角波を動かす両方の場を使用した。これらの幾何学的配置を用いて得られた電流信号は、T>133℃で消失する明確な電流バンプを示し、時間積分の一貫した値を生成し、時間の関数としての分極密度を得た。得られたPは、転移時にTが小さい値から連続的に減少するのにしたがって増加し、約6μC/cm2のP値の低いTで飽和させる。約6μC/cm2のPの重要性は、分極推定Pe=ρ/ν(式中、ρ=11デバイは、化合物1の軸方向分子双極子モーメントであり、νは相中の体積/分子であり、ν=325cm3/モル=540Å3/分子であり、ρ=1.3g/cm3のLC質量密度を仮定する)を計算することによって理解することができる。これらのパラメータ値を使用し、分子長軸の完全極性秩序化を仮定して、Pe=約6.7μC/cm2を算出したところ、これは低Tで測定されたPと一致し、化合物1のFFが極度に強力な自発的巨視的極性秩序化を有することを示す。この極性秩序化の大きさは、分子軸が、本発明者らの調合物中、互いに平行かつ極性になるように最適に配列される状態を実現したこと、また、FF状態が液晶であるという本発明者らの言明を確定する。特に、この結果は、光学顕微鏡観察と合わせて、FFが、3Dの巨視的に均一に極性の一軸ネマチックであることを示す。極性ねじれ閾値から測定されたPとの合致は、これが、電場なしで成長させた、本発明者らのサンプルで実現した強誘電状態であることを示す。本発明者らのセルの幾何学的配置は、この極性秩序化の特有の利点が得られることを可能にし、分子再配向の印加電場との前例のないほど強力な結合が証明する。
【0035】
これらの非常に大きな分極の値の場合、キラルスメクチック強誘電性LCのこれらの知見の中で生じた、極性の電気光学、静電、および弾性的挙動の関連する特徴のいくつかをまとめることが有用であり、これらは現在、FFにも期待できる:(i)
極性フレデリクス転移-一様平衡状態にし、zに沿ってPを有する。小さな印加電場では、ダイレクタ場の電気的トルクτ
E=P×Eは、場と分極の結合から生じる。この結合をねじれフレデリクス転移の説明に適用すると、他の場合に一様なセルの厚さを横切る方位角配向場を説明する式ψ(x)は、K
Tψxx+PEsinψ=0になり、P(r)がEに逆平行で開始する再配向の電場閾値は、E
P=(π/t)
2(K
T/P)=約1V/cmによって与えられ、これは、上で推定された誘電閾値E
Dより10
4倍小さい
図1および
図2で用いられた電場と一致する。また、電場誘起回転がE=E
P近くで開始するという実験観察が、強誘電性ドメイン中で冷却時に出現する自発分極が、電場誘起分極反転の条件下の分極測定によって得られるものと大きさが一致することに注目することも重要である。(ii)
境界透過-y、z面内での代わりに、境界条件ψ(z=0)=0で、弾性定数(K)の一近似値を用いて、Kψ(z)
zz+PEsinψ(z)=0を解き、電場を印加して、大きなzでのψ(z)=180°を安定化して、π再配向壁が、LC中、z=0近くで構築される(ψ(z)=4tan
-1[1-exp(-z/ξ
E)]によって与えられる)。強誘電性電場の透過長さξ
E=√K/PEから壁の近似の幅が得られ、これは、壁などの局所配向ピン止めの効果が、隣接するLC中に浸透できる距離であり、後者は、Eによって所定の位置に保持されるPを有すると仮定される。透過の深さは、印加電場E=1V/cmの場合、ξ
E=約1μmである。(iii)
ブロック分極再配向およびスプレイの排除(スプレイ弾性硬化)-P(r)の空間的変動によって、一般に、それぞれ、ρ
P=∇・P(r)およびσ
P=P
S・sによって与えられるバルクおよび表面分極電荷密度が結果として得られる。バルク電荷によって生じる電場は、P(r)のバルク歪みと拮抗し、バルクエネルギーЦ
P=1/2∫dν∇・P(r)∇・P(r’)[1/|(r-r’)|]を生成させる。振幅Pδn
yおよび波数ベクトルq
yの周期的横変調δP
y(r)、したがって本発明者らの幾何学的配置において∇・P(r)=∂P
y(y)y=iq
yP
zδn
yであると仮定して、弾性エネルギー密度Ц
sp=1/2[K
sq
y
2+4πP
2/ε]|δn
y|
2を有し、分極項はq
y<π√2/ξ
P(式中、ξ
P=√εK/P
2は、分極自己浸透長さである)の場合に優勢である。P=6μC/cm
2の場合、ξ
P=約0.1nmを有するため、この優勢は、分子長スケールまで作用する。結果は、n、P結合の低エネルギー弾性歪みが曲げのみを可能にし、n(r)およびP(r)のスプレイがバルクから追い出され、固有幅ξ
Pの再配向壁に閉じ込められる。一方、縦方向変調δP
z(y、z)を考慮する場合、追加の静電自由エネルギー密度は、Ц
P=1/2[4πP
2q
z
2/ε(q
z
2+q
y
2)]|δP
z|
2になる。そのような分極をベースとする効果は全て、LC中のイオン性不純物およびその含有面、LC自体のイオン化、ならびに電極から射出される電荷などの自由空間電荷によって低減され、これらは全て、分極電荷を遮蔽する傾向がある。SmC* FLCセル中、分極が小さいとき(P<20nC/cm
2)、拘束分極電荷は実質的に遮蔽されうるが、大きな分極の場合(P>100nC/cm
2)、自由電荷の供給は消耗され得、分極効果が明らかにされる。最大SmC*分極(P=約800nC/cm
2)の場合、分極電荷はほとんど遮蔽されず、分極効果は非常に劇的である。(iv)
電場-ステップ再配向応答-分極電荷につながる再配向力学および印加電場の変化への電気光学(EO)的応答は、電場のトルクに加えて、弾性、粘性、表面、および流動誘起トルクによって複雑である。しかしながら、大きな電場ステップの適用により、最初、電気トルクが優勢であり、これらが光学的応答のライズタイムを決定する。電場と粘性トルクのバランスは、おおよそτ=γ
1/PE(式中、γ
1はネマチック回転粘度である)の特有の再配向ライズタイムをもたらす(
図3、パネルC)。
【0036】
面内電場が印加されたセル中のFF相の電気光学的応答は、独自に極性のフィーチャを示し、P(r)は、局所表面、弾性および電気トルクによって決定される方位角ψ(r)を通してy、z面内で再配向する。バフ仕上げした表面は、反対の符号のP(r)を持つ2つの平面配向状態(ψ=0およびψ=π)を安定化し、したがって、
図5に例示するように、セルは4つの安定な状態を有し、そのうちの2つは一様であり、2つはねじれている。これらの平衡状態は、π表面回位壁によって分離される(
図4の断面図中のマゼンタ色の点)。完全分極反転が印加電場によって達成される場合、両面上でPがオンに切り替えなければならない。分極ダイレクタ回位(PnD)として、nおよびPの両方が再配向するが、固定された相対符号を維持する、これらのようなドメイン境界を言及する。PnDのみを有するテクスチャにおいて、n(r)に対するP(r)の局所配向は、あらゆるところで平行または逆平行のいずれかになる。
図4において、一様(U)暗状態を好む印加電場は、中央ドメインを変形させるが、これは、分極を有しており、最初は電場と逆向きだったが、今では電場に向かって部分的に回転している(ベクトル408)。この中央ドメインは、結果としてねじれ-非ねじれ(TU)状態となり、該状態において、ダイレクタは、セルの中央平面内の沿電場配向に対する方位角ψ(x)を通して、1枚のセル板で、zに平行の表面に合わせた配列からxに沿ってねじれ、次いで他のガラス板上の表面に合わせた配列に戻る形でねじれる。電場は、ドメインを収縮させ、移動させ、最終的に回位壁を消失させて、完全分極反転を達成する。2つのセル表面上の壁の動きは異なるが、その理由は、ピン止めの強さが異なり、空間的に不均一であり、結果として、これらはレジスタにとどまらず、オリーブ(左側のT
L)およびゴールド(右側のT
R)ねじれ状態の形成につながり、これは中央ドメインの周囲で見られ、ここで、中央TUドメインの色(402、404、406)は、サンプル中央平面内のn、Pの電場誘起再配向の度合いによって決まる。
【0037】
図5は、電場誘起分極反転のいくつかの他の様式を示す。増加する面内DC電場(0<E<2V/cmの範囲であり、局所配向に対向する)への一様に配列された領域の初期応答は、n(r)およびP(r)の配向におけるジグザグ変調を形成するものであり、これはパネルAに例示され、非ゼロ空間変動は、ダイレクタに沿って∂n(r)/∂zであり、曲げ波にする。曲げは、nに対して垂直ではなく、nに平行のストライプを生成すると考えられる、スプレイ波(非ゼロの∂n(r)/∂x)より低い分極空間電荷エネルギーコストを有する。電場強さが増加するにしたがい、再配向の度合いが強まり、変調の半期間で明確な境界が出現し、一様な内部配向のストライプを分離する。数V/cmの電場が、nの完全な(+π、-π、+π、-π)再配向を駆動し、その場合、これらの境界は2π壁、サブ光学的分解能(約ξ
P)の幅になる。このプロセスは、
図5のパネルAに例示するように動的駆動によってさらにより劇的であり、ピーク振幅E
P=3V/cmの5Hz AC三角波の電場によって発生される交番逆電場配位のスナップショットが得られる。Eを印加してから数サイクル経た後、ストライプは、非常に規則的かつ狭い間隔になる。ストライプのジグザグパターンは、P
zが一定の全体構造を示し、ストライプ境界に正味分極電荷が存在せず、各ストライプ中で誘起される逆流がその隣のそれと一致することを確定する。この場合、電場は、表面を反転させるには十分強くない。
図5のパネルBにおいて、一様なPの電荷安定化領域が、鮮明なドメイン境界線によって閉じられ、それぞれ、パネル4にあるようにP・lが線のいずれの側でも同じ値を有するようにベクトルlに沿って配向される(ここで、n(r)の角度ジャンプは90°である)反転時に多角形ドメインが形成される。この幾何学的配置は、線上の正味分極荷電を低減する。同様の構造が、高Pキラルスメクチック強誘電体および強磁性体において見られる。電荷安定化ドメインのテクスチャを用いて、
図5のパネルCに示すように、電場反転中に円形気泡がn(r)の極性配向を追跡できる印加電場下でP(r)の再配向を直接視覚化することもできる。n(r)、P(r)構造を、以下の各パネルで図示する。ダイレクタは、泡表面に接して固定され、結果として、気泡の周囲を大きく湾曲するダイレクト場が生じ、スプレイは、2つの180°のくさび回位に集中する(赤点)。これらの欠陥をつなぐ線は、気泡周囲の領域内のn(r)に平行である。
強誘電性流体電気機械および流体力学-FF相の分極密度は、外部印加電場とその内部的に発生した分極空間電荷の両方に対して極めて優れた応答性を持つ流体を作り出す。上記の説明は、電場誘起分子再配向の効果に焦点を当てたものだったが、最も興味深く有用なFFの効果は、
図6に示す観察によって例証される、その強誘電性流体力学または強誘電性レオロジー挙動でありうる。この実験において、化合物1は、nのランダム平面配向を有するt=10μmのセル中に充填される。面内電場は、1枚のガラス板上にd=60μmのギャップで蒸着される一対の金電極(
図6(A)の下部に見られる)を使用して印加される。電極間で印加されるV
p=5Vの方形波電圧は、E(r)がギャップ中で一様であり、かつ周囲領域内で双極子様であり、電極ギャップの端を同心とする半円に沿って向けられる電場分布を生む。FF相において、この電場は局在欠陥の流れ(
図6(B))およびそれらの周囲の流体を、E(r)に対して局所的に平行に、速度場ν(r、t)で誘起し、電場によって反転し、電体力密度F(r)=ρ(r)E(r)(式中、ρ(r)は正電荷密度である)が示唆される。電場反転中、E(r)がE=0を通るとき、流れは止まり、ダイレクタ場は、+πドメインと-πドメインを通って交互に回転することによって
図5AのP反転曲げドメイン帯に分かれ、
図6A中の放射状テクスチャが得られる。したがって、電圧を印加したとき、動的にP(r、t)は、E(r、t)およびν(r、t)に平行であらゆるところにある。積P(r)・E(r)が印加電場の反転によって変化せず、一方でν(r)は符号を変えるという事実は、ρ(r)がP(r)で符号を変えず、すなわち、駆動が流体を帯電するようにさせたことを示す。
【0038】
本発明者らは、
図6(A)に示す位置で、電場の反転時の欠陥速度の初期値ν
iを測定した。この速度は、
図6(C)に示すように、温度に劇的に左右され、流れはN相中で本質的に存在せず、冷却時にN-FF転移を通して開始する。速度は、最終的に、Tの低下に伴って低減するが、これは推定するところ、LCの粘度の増加が理由である。したがって、印加電場は、正電荷密度の領域の作製を促進する。
【0039】
AC場印加によるFFの帯電は、その極性の非対称性により予測される。電極表面は、やがてはP交番の符号を有するFF材料と接触する。FFは、その極性の対照性のために、ダイオードのような極性依存性耐性を有し、これは電荷担体の符号および性質にも依存しうる。FF中のzに沿ったバルク電荷移動度も、電場方向に依存しうる。さらに、Pと流れの線形結合により、さまざまな帯電効果がある。例えば、一定した非圧縮性のネマチック層流を考慮する場合、ダイレクタは一般に、速度およびν(r)=ν(r)n(r)にほぼ平行である。∇・ν(r)=0であるため、∇・n(s)=∂[lnν(s)]/∂s(式中、sは流れに沿った位置変数である)を有し、ここで、速度が増加すると、ダイレクタが内側に傾斜する。しかしながら、FF相中、P(r)=Pn(r)(式中、Pは一定の分極である)を有し、したがって層流が分極電荷密度ρP(s)=P∇・n(s)=P∂[lnν(s)]/∂sを生成し、その符号は、Pがνに沿って配列されるか、それに対向するかによって決まる。そのため複合流は、分極電荷の複合パターンを生む。Pの再配向は、変位電流J=∂P/∂tであり、これは局所的にP(r)に垂直であり、電場によって駆動される場合、正味の電気伝導率σ⊥=P2/γ1(E⊥Pの場合)およびσ∥=0(E∥Pの場合)への高度に異方性な寄与をもたらす。化合物1では、σ⊥=約10-3/Ωcmであり、これは半導電性範囲内である。これらの状況下、印加されたAC場が分極反転によって相から出るとき、流体中の電荷の一符号の蓄積が生じうる。追加の固有の非対称性、例えば正および負のイオン性不純物間の移動度および化学的特性の違い、またはP(r)場それ自体のスプレイ歪みの固有の傾向も寄与しうる。
【0040】
ネマチック圧電気およびピロ電気-強誘電性ネマチックは、圧電気およびピロ電気などの永久巨視的強誘電性分極を有する材料を必要とする用途において明白な利点を与える。FFと接触する電極を有するセルは、明白な電極の帯電ならびに機械応力および/または温度変化に応答した電極間の電位差の発生を示す。ピロ電気の電荷発生は、∂P/∂Tが最大になるNからFF相への転移を通してサンプル温度を循環させたときに特に多い。
【0041】
幾何学的配置例-
図7は、本開示の例による電極を含む例示的デバイス702、704、706を例示する。デバイス702~706は、本明細書に記載の任意のデバイスおよび/または方法に関連して使用することができる。
【0042】
図7(A)は、機械的駆動に適したデバイスを例示する。デバイスは、表面709を有する(例えば可撓性の)菅708と、管の内部にネマチック液晶を形成する流体を含む体積710と、を含む。電場を、例示するように、ネマチック液晶を形成する流体を横切って印加して、偏向を生じさせることができる、または電場が、管内の偏向に応答しうる。これらの場合では、電動デバイスは、強誘電性ネマチック液晶を形成する流体を含む体積と、前記流体を含有するための手段(例えば、1つ以上の表面)と、を含んでもよく、前記流体は、1つ以上の電気双極子を有する分子を含み、前記分子は、強誘電性分極密度を自発的に形成し、前記分極密度は、前記双極子の非ゼロ局所一方向平均配向を含み、前記分極密度は、前記体積中の大きさおよびベクトル方向を含む。
【0043】
(B)は、機械的検出を例示する。機械的検出デバイスは、例えば、表面の偏向を測定するために使用することができる。これらの場合には、デバイスは、管の内部にまたはシート間に表面713およびネマチック液晶を形成する流体716を有する可撓性管712またはシートを含んでもよい。これらの場合、機械的検出デバイスは、本明細書に記載の体積を含んでもよく、前記強誘電性ネマチック液晶を形成する流体は、少なくとも一部の流体に対する応力または形状の変化に応答して電位および/または電流を生成する。
【0044】
(C)は、本開示のさまざまな実施形態に適した例示的電極配置を例示する。デバイス706は、少なくとも1つの表面を含む。正方形は、ネマチック液晶を形成する流体を含む体積718を例示する。網掛け部分は、面内電場を流体に供給できる電極などの電極714に相当する。
【0045】
原子論的分子力学(MD)シミュレーション-分子構造のフィーチャ、相互作用、および相関関係がNF相の極性秩序化にどのように関連するかの理解が得られる方向に向かってMDシミュレーションを実施する。これらの計算は、5CBネマチックおよびCB7CBねじれ曲げ相の従来研究において成功裏に適用されてきたAPPLE&P力場を用いて、N相およびNF相に及ぶ温度範囲でのp=1でNPT集合において平衡化した、周期的境界条件で、384個のRM734分子を含有するシミュレーションボックスを用いた。
力場-全ての分子力学(MD)シミュレーションを、Atomistic Polarizable Potentials for Liquids,Electrolytes and Polymers(APPLE&P)力場を用いて実施した。原子分極率および反発-分散相互作用のパラメータを、APPLE&Pデータベースから修正なしで取り、一方で、Gaussian 16ソフトウェアを使用してMP2/aug-cc-pVDZ量子化学計算から得た全ての分子断片の周囲の静電場を再生するように原子荷電を適合した。二面電位を消失するパラメータは、M052X/aug-cc-pVDZレベルの理論でのDFT計算から得られる配座エネルギースキャンを適合することによって得た。原子分極率をゼロに設定し、他の全てのパラメータを極性バージョンと同じに維持して、非分極性バージョンの力場も使用した。
【0046】
シミュレーションパラメータ-WMI-MDシミュレーションパッケージ(http://www.wasatchmolecular.com)を使用してシミュレーションを実施した。これらのシミュレーションでは、SHAKEアルゴリズムを使用して、全ての共有結合が拘束された。結合角曲げ、面外曲げ、および二面角のポテンシャルエネルギーを、調和ポテンシャルまたは余弦級数展開と共に記載した。ファン・デル・ワールス相互作用を、12.0Åのカットオフ距離の範囲内で算出し、11.5Åから開始してゼロまで円滑に漸減した。電荷-電荷および電荷誘起双極子相互作用は、エバルト加算法を用いて算出した。誘起双極子-誘起双極子相互作用は、12.0Åで切り捨てた。分極率「カタストロフィ」を回避するために、誘起双極子間の小さな分離に、0.2のThole選別パラメータを用いた。多重時間ステップ統合アプローチを用いて計算効率を強化した。結合(SHAKE)、結合角曲げ、二面角、および面外変形に関与するものを含めた、原子価相互作用の計算には、0.5fs時間ステップを用いた。短範囲の非結合相互作用(半径7.0Å)を1.5fs毎に算出したが、一方で残りの非結合相互作用およびエバルト加算の相反部分には3.0fsの時間ステップを用いた。
【0047】
系初期化およびシミュレーションプロトコル-分子の2つの異なる初期構成:(i)極性(POLAR)(POL-全ての分子が+z方向に沿って配向される)および(ii)無極性(NONPOLAR)(NONPOL-等しい数の分子が+zおよび-z方向に沿って配向される)を用いたシミュレーションセルを調製した。最初に、xおよびy方向に150Åならびにz方向に70Åの寸法のシミュレーションセルを用いて、384個の分子を、比較的低密度の格子上に配置した。次いで、630psの圧縮シミュレーションを実施して、約1.0g/cm3の質量密度(典型的なサーモトロピック液晶質量密度と同等)を達成したが、ここで、シミュレーションセルのz寸法は70Åで固定され、バイアスポテンシャルをメソゲンの末端に印加して、初期平衡化段階の間の配向を維持した。次いでバイアスポテンシャルを除去し、継続時間中の6nsのさらなる平衡化操業および20nsを超える生産操業を実施した。全てのシミュレーションは、NPT(等圧、等温)集合の中で実施したが、ここで、セルのz寸法は固定され、xおよびy寸法は、1atmの一定圧力を維持するために変動させた(NPT-XY集合)。各系を、極性および無極性力場を用いて、NF-N相転移にわたって110℃、130℃、150℃、および180℃の温度でシミュレートした。Nose-Hooverサーモスタットおよびバロスタットを用いて、温度および圧力を制御した。
【0048】
秩序パラメータ-T=130℃でのPOL系の即時構成を
図8に示し、系が、この温度で高度の配向秩序を保持することを明らかにした。この系におけるネマチック配向秩序を定量化するために、痕跡のない対称ネマチック秩序化テンソル
【0049】
【0050】
(式中、Iは恒等行列であり、合計は全分子にわたる)を測定する。スカラーネマチック秩序パラメータSは、時間平均秩序化テンソル最大固有値<Q>に相当し、二軸秩序パラメータBは、2つの最小固有値間の差として定義される。極性秩序は、(ベクトル)極性秩序パラメータ
【0051】
【0052】
を測定することによって評価され、この式からスカラー極性秩序パラメータP=<P>を得ることができる。
分極性モデルの130℃でのPOLシミュレーションの場合、大きなネマチック秩序パラメータS=0.787±0.009およびほぼ飽和した極性秩序パラメータΠ=0.924±0.003、ならびにごくわずかな双軸性(B=0.013±0.002)を測定する。その上、極性秩序パラメータPは、<Q>の主固有ベクトルnと同一線上にある。長い範囲の位置相関がないようにみえる(以下に示す)ならば、シミュレート状態は一軸の強誘電性ネマチック(NF)相であるようにみえる。
【0053】
これらの結果を、同じ条件下(T=130℃、分極性分子モデル)でNONPOLARシミュレーションから得た結果と比較すると興味深い。この場合のネマチック秩序パラメータは、S=0.782±0.018であり、極性系のものと非常に類似しており、一方で、従来の一軸ネマチック(N)状態で予測されるように、極性および二軸秩序パラメータは小さい(P=0.013±0.004、B=0.028±0.003)。Sの大きさが、POLおよびNONPOL状態でほぼ同じであるという事実は、一般に、N-N
F転移を通して複屈折が有意に変化しないという実験観察と一致する。T=130℃でシミュレートした質量密度は、δ=1.33g/cm
3である。
強誘電性分極密度-RM734のN
F相において測定された自発的強誘電性分極密度Pは大きく、N-N
F転移点未満で温度が低下するにしたがって、P=6μC/cm
2あたりの飽和値まで増加する(
図3)。これは、N
F相における高度な極性秩序を含意し、シミュレーションによって計算される分極率P
Sと比較することによってさらに定量化することができる。
【0054】
上述するように、RM734は、B3LYP/6-31G*レベルの理論での量子化学計算から決定される場合、大きな電気双極子モーメントp=11.4Dを有する(
図9)。より高レベルの量子化学計算を用いて、本発明者らの原子論的シミュレーションにおいて使用される分子力学モデル中の原子サイトおよび孤立電子対サイトへサイト電荷を割り当てた。結果として得られる静的サイト電荷(
図10に示す)も、約11Dの分子双極子モーメント(分極率
【0055】
【0056】
(式中、r1およびqiは、サイト位置および電荷であり、合計は、分子中の全てのnサイトにわたる範囲とする)を使用して計算する)と一致する。双極子モーメントは、分子配座、およびシミュレーション全体にわたって低エネルギー構造の集合体である該分子サンプルに対して弱い依存性を有することに注目されたい。分極性モデルの130℃でのPOLシミュレーションの場合、大きさ<pstatic>=11.24±0.01Dの平均静的分子双極子モーメントを(静的サイト電荷から)測定する。分極性モデルでは、<pinduced>=1.46±0.02Dの平均の大きさを有するが、ほぼ等方性の配向分布を有し、したがって合計の分子双極子モーメント(静的および誘起寄与の合計)の平均の大きさが静的寄与にほぼ等しく、<Ptotal>=11.20±0.01Dである、誘起分子双極子モーメント成分もある。誘起分子双極子がほぼ等方性の配向分布を有するという事実は、境界条件の結果であり、系におけるいずれの点においても平均電場がゼロである(系の表面に拘束電荷がなく、したがって脱分極場が消える)ことを確定し、したがって誘起双極子モーメントベクトルの平均の大きさはゼロに近く、|<pinduced>|=0.053±0.009Dである。
【0057】
特定の双極子基の寄与を、合計の強誘電性分極密度を決定することによってさらに見抜くことができる。これを達成するために、
図11に示すように、電荷の、素電荷-中性の双極子基(結合および環)への特有の分解を用いる。双極子の群は官能基にさらに集合することができ、これは、双極子モーメントおよび特定の官能基の強誘電性分極密度Psへの平均寄与と共に、
図11の色分けによって示される、または示されうる。末端ニトロ基およびそれが結合する環は、高度に双極性であり、Psへの主な(約64%)寄与を作る。4つの官能基(ニトロ、ニトロ環、中心環、および末端メトキシ)は、分子分極密度の約90%を占める。
【0058】
POLシミュレーションの130℃での最大極性平衡状態の平均強誘電性分極密度を
【0059】
【0060】
(式中、Vは系の体積である)から計算した。分極性モデルのPOLARシミュレーションの場合、分極密度の大きさPs=|<Ps>|=6.17±0.01μC/cm
2であり、0.13±0.03μC/cm
2のみが誘起分極に起因する。この算出されたPsは、実験的に測定された飽和分極密度Pと定量的に一致する(
図3)。この値はまた、上記のPOL系の極性秩序パラメータの高い値Π=0.924が得られることが推測できるように、100%の極性秩序だと仮定する文脈の中で与えられる簡単な推定値から得られるものとほぼ同じである。残りの配向無秩序は、n周囲の小さな配向ゆらぎに起因し、これは全て、基本的にPOL系において可能である。その結果、ΠはTにごく弱くしか依存せず、MDは、T=130℃でPs=6.170±0.008μC/cm
2およびT=110℃でPs=6.368±0.002μC/cm
2を与える。
【0061】
このN
F相の実験値との一致の重要な推論は、低Tで、RM734が本質的にPOL系になる、すなわち、分子反転のない極性ネマチック、および厳密に短い範囲(ほぼ数個の分子)のダイレクタ周囲の小さな角度配向ゆらぎである残りの極性無秩序であるということである。より高い温度で、N
F相におけるPは減少するが、それは、より長い規模のゆらぎおよび無秩序化の状態が成長するためである。しかしながら、これらは、低Tの飽和状態に冷却すると消失し、ここでは、N
F中のゆらぎは、POLシミュレーションのナノスケールの体積および周期境界条件において可能なゆらぎと一致するようになる。一方、シミュレーション体積は、次に説明する特異的分子間相互作用によって駆動する局所分子充填を観察するのに十分に大きくなるように選択される。
分子間相関-RM734における分子構造および相互作用の役割ならびにその極性秩序化との関係の理解を前進させるために、本発明者らは、原子論的シミュレーションを、POLおよびNONPOL系におけるプローブ分子会合および充填に適用した。分子の中心を原点で固定し、
図12(A)中のその長軸uはzに平行であり、+z方向を指す[ニトロ基は(ρ、z)=(0、-10Å)近くであり、メトキシ基は(ρ、z)=(0、10Å)近くである]、分子中心のいくつかの条件付き密度g(ρ、z)を測定することによって分子対の位置相関および配向相関を特性評価した。ここで、分子の中心は、
図12(A)中のuの中間点として定義し、g(ρ、z)は、原点における分子の方位角配向にわたる密度のz周囲の角度平均である。したがって、g(ρ、z)は、一軸ネマチック対称性を反映する方位角φと無関係である。これら全ては、原点周囲の相関ホール(g(ρ、z)、約0)を示し、約1.5分子長(立体反発および強力なネマチック配向秩序化により他の分子中心は除外する)でzに沿って延伸する。
図12(B)および
図12(C~E)にそれぞれ示すPOLおよびNONPOL系の対分布g
P(ρ、z)およびg
NP(ρ、z)は、特異的分子会合モチーフを示す多数の顕著なフィーチャを表す。
図12(C)に示す代表的な対の構成によって例示するように、POL系において、(ρ=0Å、z=±22Å)近くで観察される顕著な弧の形状のピークは、平行な分子対の頭尾会合の強い傾向を示す。そのような頭尾構成は、原点における分子の末端メトキシ基の正電荷を持つH原子とその隣接のニトロ基の負電荷を持つO原子との近接結合によって特徴付けられ、頭尾会合が主に特異的静電相互作用の結果であることを示唆する。ρ=5Å、z=±6Å近くの顕著な軸外ピークもg
P(ρ、z)中で観察され、これらのピーク(例えば、
図12E)と関連する対の構成の分析は、横方向メトキシ基の正電荷を持つH原子と末端メトキシ基の負電荷を持つO原子、およびニトロ基およびカルボニル基の負電荷を持つO原子とフェニル環の正電荷を持つH原子との間の近接を含めた、逆帯電した原子の近接結合を明らかにする。これらの観察は、極性の対の構成を安定化する特異的静電相互作用も示唆する。POLARシミュレーションにおいて、横方向メトキシは、極性秩序化を優先する並列分子会合の相対位置決めを確立する鍵になるようにみえる。ρ=5Å、z=0Å近くのg
P(ρ、z)の確率低下領域(「相関ホール」)の存在は、平行な分子対の並列構成が、推定するところ、その横方向メトキシ基の排除体積に起因して、比較的好ましくないことを示す。
【0062】
NONPOL系は、逆平行および平行の両方の分子対を強要し、非常に強力に発揮される極性依存性分子認識を示す相関関数g
NP
anti(ρ、z)およびg
NP
par(ρ、z)を与える。
図12G中のg
NP
anti(ρ、z)の軸上およびほぼ軸上ピークにおいて、g
NP
anti(ρ、z)のz→-z対称性の最も強力な破壊が観察されるが、これは、HO-OH会合がOH-HO会合と異なるため予測される。したがって、ρ=4Å、z=-18Å近くの顕著な弧の形状のピークが存在し、これは、
図12(G、K)中の代表的な対の構成によって例示される、末端ニトロ基のHO-OH逆平行横方向会合から生じる。このピークと関連する対の構成は、負電荷を持つニトロ基のO原子とニトロ基に隣接する正電荷を持つフェニル基のH原子との間の近接によって特徴付けられ、これらの構成が静電的に安定化されることを示唆する。対照的に、末端メトキシ基間のOH-HO会合(ρ=0Å、z=±21Å近くのピークと関連する)は非常に弱い(
図12(G、J))。
【0063】
NONPOL系の並列逆平行対からg
NP
anti(ρ、z)への寄与(
図12(G~I))は、正電荷を持つ横方向メトキシ基のH原子と負電荷を持つニトロ基のO原子との間の近接によって特徴付けられる対の構成と関連するρ=5Å、z=-8Å近くの顕著なピークを示す。ρ=5Å、z=-2Å近くのピークと関連する並列対の構成も同様に、エステル基およびフェニル環中の逆帯電したOおよびH原子間の近接を要する。これらの知見は、特定の逆帯電した原子間の静電相互作用が、本発明者らのシミュレーションで観察される特有の対の構成を安定化する上で主要な役割を果たすという仮説をさらに支持する。
【0064】
図12(F)中のNONPOL系の平行対相関関数g
NP
par(ρ、z)は、
図12C中のPOL系g
P(ρ、z)と非常に類似しており、par部分とanti部分、すなわちその界面にOH-HOを有するOH-OH-OH鎖とHO-HO-HO鎖との混合物のナノ分離を示す。注目すべきことには、g
P(ρ、z)の極性フィーチャがg
NP
par(ρ、z)において主要なだけではなく、g
P(ρ、z)それ自体においてはさらにより顕著である。これは、極性秩序全体を減少しうるPOL系における特定の極性会合が存在するが、NONPOL系における逆極性会合に置き換えられうる(近くの極性秩序により好ましい)ことを示唆する。いずれの場合においても、シミュレーションは、POLおよびNONPOL系の両方において発生する
図12(B、C、F、E)中の極性相関が、極性秩序を安定化する唯一の充填モチーフであり、したがってN
F相を安定化する主要な駆動体であるに違いないことを示す。
【0065】
PLUPOLARネマチック-POLシミュレーションは、末端間の反転が動力学的に阻止され、周期境界条件が、配向ゆらぎの許容される波長をλ
x<55Åおよびλ
z<70Åに制約する状態を平衡化する。残りの短い範囲のゆらぎは、
図12に示す対相関を作り、これは原点周囲の体積ρ<10Åおよびz<30Åに限定され、分子近傍分離規模であり、シミュレーションボックスの寸法内に十分に収まる。これらの条件は、拘束された極性秩序化のPLUPOLAR(plus quam polar)平衡化状態を作り、
図3中のシミュレートしたPs値(白丸)が得られる。一方で、これらの値とRM734データとの比較は、PLUPOLAR状態において、相転移につながるゆらぎは明確に抑制され、同時に残りの短い範囲のゆらぎは、温度に対して弱い依存性しか示さないPs値を与える。他方で、このPsは、低温でのN
Fの分極密度をよく説明し、低Tで、N
F相が、短い範囲のゆらぎしか持たない同等のPLUPOLAR様条件のいくつかにアプローチすることと、シミュレートしたg(ρ、z)がその残留相関を特性評価することと、の証拠になる。この状態は、粘性の強いT依存性がなんらかの指標になる場合、ガラス状であってもよい。
【0066】
NONPOL系は、逆向きの分子間の分子接触を最大数実施する。この最大極性無秩序の状況において、可能な平衡化分子相関は、(i)顕著に逆平行の末端間(例えば、強力に極性の分子の二層スメクチック中のような横方向極性相関を有するOH-HO-OH鎖)であることから、(ii)極性の末端間(横方向にOH-HO相互作用を有するOH-OH-OH鎖とHO-HO-HO鎖との混合物)であることまでを範囲としうる。RM734は、明らかに後者のカテゴリーに属するが、それは、特に、
図12(F、G)の主な極性秩序化モチーフが、POLよりNONPOL系においてさらに強力であり(
図12(B)と
図12(D)の比較)、逆極性相関がほとんど横方向にあるからである。
図12(J)のOH-HO末端間の逆極性会合が存在するが弱く、
図12(K)のHO-OH末端間の対も同様である。後者は結晶相において優勢であるが、NONPOL系の逆極性秩序化を達成する様式とは異なる。これらの結果から、POL系において特定される極性相関のみ(そして、実施される極性無秩序が最大限に存在する中でのNONPOL系において持続する)が、N
F相の安定化に関与しうることが明らかである。これらのピーク(例えば、
図1(F、G))と関連する対の構成の分析は、正電荷を持つ横方向メトキシ基のH原子と負電荷を持つ末端メトキシ基のO原子との間、ならびに負電荷を持つニトロ基およびカルボニル基のO原子と正電荷を持つフェニル間および末端メチルのH原子との間の接触を含めた、逆帯電した原子の近接結合を明らかにする。これらの観察は、特異的静電相互作用が、そのような対の構成の安定化において主要な役割を果たすことを示唆する。
【0067】
POLシミュレーションは、末端間の反転が動力学的に阻止され、周期境界条件が長波長の配向ゆらぎ(λ
x>55Åおよびλ
z>70Å)を抑制する状態を平衡化する。残りの短い範囲のゆらぎは、
図12に示す対相関を作り、これは、原点周囲の体積ρ<10Åおよびz<30Åに制約され、これはシミュレーションボックスの寸法内によく収まる分子近傍分離規模である。これらの条件は、
図3中のシミュレートされたP値(白丸)が得られる、拘束された極性秩序化のPLUPOLAR(plus quam polar)平衡化状態を作る。これらの値とRM734データとの比較は、一方で、PLUPOLAR状態において、相転移につながるゆらぎが明らかに抑制され、同時に、残りの短い範囲のゆらぎが、温度に対して弱い依存性しか示さないP値を与える。他方で、このPは、低温でのN
Fの分極密度をよく説明し、低Tで、N
F相が、短い範囲のゆらぎしか持たない同等のPLUPOLAR様条件にアプローチすることと、シミュレートしたg(ρ、z)がその残留相関を特性評価することと、の証拠になる。
【0068】
分子構造-強誘電性ネマチック相の安定性の統計物理分析は、強誘電性ネマチック相の生成に2つのタイプの分子間相互作用を要する。これらは、(1)平行の秩序化または隣接する双極子を優先する局所(最近傍)相互作用;および(2)分極の方向で巨視的電場を発生し、分子双極子に結合する、長い範囲の双極子-双極子相互作用である。後者は、転移付近での分極の温度依存性の性質に影響し、一方で、前者は所望の安定力である。所望の分子フィーチャは、(1)分子長軸に平行な正味の実質的分子双極子;(2)分子長軸に沿って分布されるいくつかの局所的双極子モーメントで構成されるこの双極子を有すること;(3)双極子電荷を極性式で相互作用できるようにするが、結晶化を抑制するのに十分な可撓性をもたらす最低可撓性尾部;(4)極性秩序を促進するための、並列分子のダイレクタに沿って相対位置を制御するための横方向の基であるようである。これらの特性を持つ合成可能な有機分子の極度に広いポテンシャルパレットは、液晶分野の歴史が指標である場合、さまざまな強誘電性ネマチック分子の開発を可能にする。
【0069】
本開示の範囲-本開示の例示的な実施形態を本明細書において説明したが、本開示はそのように限定されないことを理解されたい。例えば、デバイスは、特定の流体および分子と関連して記載されるが、本開示は、これらの例に必ずしも限定されない。本明細書に記載のデバイスおよび方法のさまざまな修正、変更、および付け足しが、本開示の趣旨および範囲に逸脱されることなく行われうる。
【0070】
本開示の主題は、本明細書で開示する、さまざまな系、構成要素、および配置、ならびに他のフィーチャ、機能、作用、および/または性質、ならびにこれらの任意のおよび全ての同等物の全ての新規かつ非自明の組合せおよび副次的組合せを含む。さらに、特許請求の範囲は、本明細書で、本開示の部分に組み込まれ、形成する。
【国際調査報告】