(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-27
(54)【発明の名称】遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20230420BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230420BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230420BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230420BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230420BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20230420BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20230420BHJP
A61K 38/39 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N15/11 Z
A61P13/12
A61K35/76
A61K48/00
A61K47/62
A61K47/69
A61K38/39
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554473
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(85)【翻訳文提出日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 GB2021050633
(87)【国際公開番号】W WO2021181118
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】300002942
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ブリストル
(71)【出願人】
【識別番号】518147817
【氏名又は名称】シンコナ インヴェストメント マネージメント リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】クズムク,ヴァレリイア
(72)【発明者】
【氏名】サレーム,モイン
(72)【発明者】
【氏名】ウェルシュ,ギャビン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC17
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA53
4C084DA40
4C084MA66
4C084NA13
4C084ZA811
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA13
4C087ZA81
(57)【要約】
ウイルスベクターであって、該ウイルスベクターがCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子を含む、該ウイルスベクター。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスベクターであって、COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子を含む、該ウイルスベクター。
【請求項2】
以下(i)~(iii)である、すなわち
(i)前記COL4A3導入遺伝子が、配列番号1に対して少なくとも70%の同一性を有するポリペプチド配列を含むかもしくは該ポリペプチド配列から構成されるCOL4A3ポリペプチド、もしくはその断片をコードする、
(ii)前記COL4A4導入遺伝子が、配列番号2に対して少なくとも70%の同一性を有するポリペプチド配列を含むかもしくは該ポリペプチド配列から構成されるCOL4A4ポリペプチド、もしくはその断片をコードする、および/または
(iii)前記COL4A5導入遺伝子が、配列番号3に対して少なくとも70%の同一性を有するポリペプチド配列を含むかもしくは該ポリペプチド配列から構成されるCOL4A5ポリペプチド、もしくはその断片をコードする、
請求項1記載のウイルスベクター。
【請求項3】
以下(i)~(iii)である、すなわち(i)前記COL4A3導入遺伝子が全長COL4A3ポリペプチドをコードする、(ii)前記COL4A4導入遺伝子が全長COL4A4ポリペプチドをコードする、および/または(iii)前記COL4A5導入遺伝子が全長COL4A5ポリペプチドをコードする、請求項1または2記載のウイルスベクター。
【請求項4】
前記ウイルスベクターが足細胞特異的プロモーターを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項5】
前記足細胞特異的プロモーターが最小ネフリンプロモーターNPHS1またはポドシンプロモーターNPHS2であり、好ましくは前記足細胞特異的プロモーターが最小ネフリンプロモーターNPHS1である、請求項1~4のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項6】
前記最小ネフリンプロモーターNPHS1が、配列番号10、または配列番号10と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される、請求項5記載のウイルスベクター。
【請求項7】
前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項1~6のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項8】
前記AAVベクターがAAVベクター粒子の形態である、請求項7記載のウイルスベクター。
【請求項9】
前記AAVベクター粒子が足細胞特異的AAVベクターである、請求項7または8記載のウイルスベクター。
【請求項10】
前記AAVベクターがAAV血清型2/9、LK03または3Bである、請求項7~9のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項11】
前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子がミニ遺伝子である、請求項1~10のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項12】
前記ウイルスベクターが、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)をさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項13】
前記ウイルスベクターが、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含まない、請求項1~11のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項14】
前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子がヒトCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子である、および/または赤血球凝集素(HA)タグを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項15】
前記ウイルスベクターが、前記プロモーターと前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子との間にコザック配列をさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項16】
前記ウイルスベクターが、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナルまたは初期SV40ポリアデニル化シグナルなどのポリアデニル化シグナルをさらに含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項17】
前記ポリアデニル化シグナルが初期SV40ポリアデニル化シグナルである、請求項16記載のウイルスベクター。
【請求項18】
ウイルスベクター遺伝子治療であって、該遺伝子治療が以下、すなわち
COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子の少なくとも一部を含む第1ウイルスベクター、および
対応するCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子の少なくとも一部を含む第2ウイルスベクター
を含む、該ウイルスベクター遺伝子治療。
【請求項19】
前記第1ウイルスベクターが請求項1~17のいずれか1項に記載のウイルスベクターであり、かつ/または前記第2ウイルスベクターが請求項1~17のいずれか1項に記載のウイルスベクターである、請求項18記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【請求項20】
アルポート症候群の処置または予防における使用のための、請求項1~19のいずれか1項に記載のウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療。
【請求項21】
前記ウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療がヒト患者に投与される、請求項20記載の使用のためのウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療。
【請求項22】
前記ウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療が全身投与される、請求項20または21記載の使用のためのウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療。
【請求項23】
前記ウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療が静脈内注射により投与される、請求項20~22のいずれか1項に記載の使用のためのウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療。
【請求項24】
前記ウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療が腎動脈内への注射により投与される、請求項20~23のいずれか1項に記載の使用のためのウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子および腎臓特異的プロモーターを含むウイルスベクター、ならびにアルポート症候群の処置における該ウイルスベクターの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルポート症候群(AS)は、ヨーロッパ大陸およびアメリカ合衆国における全個人のうちのおよそ5,000~10,000人に1人が罹患する遺伝性疾患である。ASは、家族性腎炎、遺伝性腎炎、菲薄基底膜病および菲薄基底膜腎症としても知られている。該疾患は通常幼少期に認められ、また腎機能の進行性の喪失を含み、さらに難聴および眼球異常も含みうる一連の表現型を伴う。
【0003】
ASは、基底膜のコラーゲンIVα345ネットワークの異常をもたらす、前記COL4A3、COL4A4およびCOL4A5遺伝子における病原性バリアントにより引き起こされる。この疾患はX連鎖型、常染色体優性、または常染色体劣性形式で遺伝する可能性があり、X連鎖型が一般的であって、常染色体劣性および常染色体優性はそれぞれ症例の約15%および20%を占める。
【0004】
処置しない場合、X連鎖型の全男性、および常染色体劣性型の全ての男性および女性において、腎臓病が顕微鏡的血尿からタンパク尿、進行性腎不全および末期腎臓病へと進行する。
【0005】
ASは遺伝子検査により診断可能であり、また現行の処置として、末期腎臓病の発症を遅らせるためのアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンギオテンシン受容体遮断薬(ARB)が挙げられる。しかし、現時点では末期腎不全を予防する方法はなく、腎臓移植が唯一の選択肢である。
【0006】
成果をもたらすASの遺伝子治療を開発する上で克服すべき重要な課題がある。1つ目は、前記COL4A5、COL4A3およびCOL4A4タンパク質は各々1685、1670および1690個のアミノ酸であり、アデノ随伴ウイルス(AAV)の積荷容量は限られているために、それらをAAVベクターによる輸送にとって困難なものとしているということである。2つ目の重要な課題は、糸球体基底膜においてコラーゲンIVを産生する、腎臓の糸球体中の足細胞に遺伝子治療を首尾よく施すことである。
【0007】
本発明は、COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子を足細胞に効率的に送達し、それによってアルポート症候群の処置のための治療を提供しうる、新規遺伝子治療ベクターを提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0008】
本発明はウイルスベクターを提供し、ここで該ウイルスベクターはCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子を含む。該ウイルスベクターを使用することにより、アルポート症候群を処置するために腎臓の糸球体内の足細胞を標的化することができる。
【0009】
理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、足細胞(podocyte)は腎臓病の遺伝子治療アプローチのための非常に扱いやすい標的を提供するものであり、またCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5を足細胞(ポドサイト)に標的化することで、糸球体基底膜のコラーゲンIVα345ネットワークが変更されうる、少なくとも部分的に正常化されうると考えている。
【0010】
ある態様では、本発明はウイルスベクターを提供し、ここで該ウイルスベクターはCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子を含む。
【0011】
前記COL4A3導入遺伝子は、配列番号1に対して少なくとも70%の同一性を有するポリペプチド配列を含むかもしくは該ポリペプチド配列から構成されるCOL4A3ポリペプチド、もしくはその断片をコードしていてもよく、前記COL4A4導入遺伝子は、配列番号2に対して少なくとも70%の同一性を有するポリペプチド配列を含むかもしくは該ポリペプチド配列から構成されるCOL4A4ポリペプチド、もしくはその断片をコードしていてもよく、および/または前記COL4A5導入遺伝子は、配列番号3に対して少なくとも70%の同一性を有するポリペプチド配列を含むかもしくは該ポリペプチド配列から構成されるCOL4A5ポリペプチド、もしくはその断片をコードしていてもよい。幾つかの実施形態では、該COL4A3導入遺伝子は全長COL4A3ポリペプチドをコードしており、該COL4A4導入遺伝子は全長COL4A4ポリペプチドをコードしており、および/または該COL4A5導入遺伝子は全長COL4A5ポリペプチドをコードしている。適切には、該COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子はヒトである(ヒトCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子である)か、および/または赤血球凝集素(HA)タグを含む。
【0012】
好ましくは、前記ウイルスベクターは、足細胞特異的プロモーターを含む。適切には、該足細胞特異的プロモーターは、最小ネフリンプロモーターNPHS1またはポドシンプロモーターNPHS2である。幾つかの実施形態では、該足細胞特異的プロモーターは最小ネフリンプロモーターNPHS1である。
【0013】
本発明者らは、既知の最小ネフリンプロモーターより短く、かつ驚いたことに足細胞における導入遺伝子の発現を駆動する能力を有する、最小ネフリンプロモーターを開発した。該プロモーターは、驚いたことに、足細胞特異性も保持している。かかる最小ネフリンプロモーターを使用することで、積荷のサイズを最小化し、かつ全長COL4A3、COL4A4またはCOL4A5のパッケージングを補助することができる。従って、この最小ネフリンプロモーターNPHS1は、配列番号10、または配列番号10と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0014】
適切には、前記ウイルスベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。適切には、該AAVベクターは、AAVベクター粒子の形態である。幾つかの実施形態では、該AAVベクター粒子は足細胞特異的AAVベクターである。幾つかの実施形態では、該AAVベクターはAAV血清型2/9、LK03または3Bである。
【0015】
幾つかの実施形態では、前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子はミニ遺伝子である。
【0016】
幾つかの実施形態では、前記ウイルスベクターは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Woodchuck hepatitis post-transcriptional regulatory element)(WPRE)をさらに含む。幾つかの実施形態では、該ウイルスベクターはウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含まない。
【0017】
幾つかの実施形態では、前記ウイルスベクターは、前記プロモーターと前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子との間にコザック配列をさらに含む。
【0018】
適切には、前記ウイルスベクターは、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナルまたは初期SV40ポリアデニル化シグナルなどのポリアデニル化シグナルをさらに含む。幾つかの実施形態では、該ポリアデニル化シグナルは初期SV40ポリアデニル化シグナルである。
【0019】
ある態様では、本発明はウイルスベクター遺伝子治療を提供し、ここで該ウイルスベクターはCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子を含む。
【0020】
好適な実施形態では、前記ウイルスベクターは、本発明によるウイルスベクターである。
【0021】
ある態様では、本発明はウイルスベクター遺伝子治療を提供し、ここで該遺伝子治療は以下、すなわち、
COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子の少なくとも一部を含む第1ウイルスベクター、および
対応するCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子の少なくとも一部を含む第2ウイルスベクター
を含む。
【0022】
好適な実施形態では、前記第1ウイルスベクターは本発明によるウイルスベクターであり、かつ/または前記第2ウイルスベクターは本発明によるウイルスベクターである。
【0023】
ある態様では、本発明は、アルポート症候群の処置または予防における使用のための、本発明によるウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療を提供する。
【0024】
適切には、前記ウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療をヒト患者に投与する。幾つかの実施形態では、該ウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療を全身投与する。幾つかの実施形態では、該ウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療を静脈内注射により投与する。幾つかの実施形態では、該ウイルスベクターまたはウイルスベクター遺伝子治療を、腎動脈内への注射により投与する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、最小ヒトネフリンプロモーター(NPHS1)のDNA配列の1例を示す図である。
【
図2】
図2は、WPRE配列のDNA配列の1例を示す図である。
【
図3】
図3は、bGHポリ(A)シグナル配列のDNA配列の1例を示す図である。
【
図4A】
図4は、ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4A3、COL4A4、およびCOL4A5を含む例示的AAVトランスファープラスミドを示す図である。(A)は、ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4A3を含むAAVプラスミドである、pAAV.265.Col4a3.3flag.sv40の概略図である。SmaI部位が図示されており、次の断片、すなわち1. 6238 bp、2. 2753 bp、3. 56 bp、4. 11 bp、5. 11 bpがSmaIによる制限後に予想される。
【
図4B】
図4は、ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4A3、COL4A4、およびCOL4A5を含む例示的AAVトランスファープラスミドを示す図である。(B)は、ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4A4を含むAAVプラスミドである、pAAV.265.Col4a4.3flag.sv40の概略図である。SmaI部位が図示されており、次の断片、すなわち1. 4052 bp、2. 2753 bp、3. 2224 bp、4. 56 bp、5. 11 bp、6. 11 bpがSmaIによる制限後に予想される。
【
図4C】
図4は、ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4A3、COL4A4、およびCOL4A5を含む例示的AAVトランスファープラスミドを示す図である。(C)は、ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4A5を含むAAVプラスミドである、pAAV.265.Col4a5.3fl-ag.sv40の概略図である。SmaI部位が図示されており、次の断片、すなわち1. 4272 bp、2. 2753 bp、3. 2032 bp、4. 56 bp、5. 11 bp、6. 11 bpがSmaIによる制限後に予想される。
【
図4D】
図4は、ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4A3、COL4A4、およびCOL4A5を含む例示的AAVトランスファープラスミドを示す図である。(D)は、SmaIによる制限消化を示す図である。MW=1 Kb DNAラダーであり、レーン1、2および3はそれぞれ(A)、(B)、および(C)に示すプラスミドについての消化物に対応している。
【
図5A】
図5は、AAV.COL4.ネフリン265.Sv40ウイルスを用いて形質導入した足細胞を示す図である。(A)は、抗-FLAG抗体でプルダウンした、ヒト分化Ci(条件的不死化)足細胞における全長FLAGタグ付きCol4a3 (LK03)またはCol4a5 (LK03)の免疫沈降実験を示す図である。抗-FLAG抗体はCol4a3とCol4a5の両方を沈降させた。ヒト-FLAG IgGを対照として使用した。
【
図5B】(B)は、ヒトまたはマウス分化Ci足細胞におけるCol4a3 (LK03 キャプシド血清型)、Col4a5 (LK03)およびCol4a5 (2/9キャプシド血清型)の発現レベルを示す、タンパク質ライセートのウェスタンブロットを示す図である。非感染ヒトおよびマウスCi足細胞を対照として使用した。
【
図5C】
図5は、AAV.COL4.ネフリン265.Sv40ウイルスを用いて形質導入した足細胞を示す図である。(C)は、Fアクチンと共に、ヒト野生型Ci足細胞/Col4a5 3xFlag AAV Ci足細胞における形質導入されたCol4a5の免疫蛍光染色を示す共焦点像を示す図である。Col4a5は、野生型対応物と比較して、Col4a5 3xFlag AAVウイルスに感染したヒト分化足細胞中に細胞質ゾルレベルで存在する。
【
図6】
図6は、最小ネフリンプロモーターの略図を示す図である。(A)全長ネフリンプロモーターは1249 bpの長さ(開始コドンを除く)であり、以後は「FL」ネフリンプロモーターと称する。(B)5’領域が欠失した例示的最小ネフリンプロモーターは819 bpの長さ(開始コドンを除く)であり、以後は「ミディ(midi)」ネフリンプロモーターと称する。(C)5’領域が欠失しかつ中心領域が欠失した例示的最小ネフリンプロモーターは265 bpの長さ(開始コドンを除く)であり、以後は「ミニ」ネフリンプロモーターと称する。(D)該ネフリンプロモーターの次の領域、すなわち(i)ヒトマウス相同性領域、(ii)レチノイン酸受容体(RAR)結合部位、(iii)WT1結合部位、(iv)転写因子結合領域、および(iv)転写開始部位が示されている。
【
図7A】
図7は、ミディネフリンプロモーターに操作しうる形で結合させたGFPを含むレンチウイルスベクターの概略図を示す図である。(A)pACE_hNPHS1プロモーターを鋳型として使用することにより、BamHIおよびClaI制限部位を導入した。
【
図7B】
図7は、ミディネフリンプロモーターに操作しうる形で結合させたGFPを含むレンチウイルスベクターの概略図を示す図である。(B)ミディネフリンプロモーターに操作しうる形で結合させたGFPを含む最終構築物であるベクターを示す図である。
【
図8A】
図8は、ミニネフリンプロモーターに操作しうる形で結合させたGFPを含むレンチウイルスベクターの概略図を示す図である。(A)pACE_hNPHS1プロモーターを鋳型として使用することにより、該プロモーターの2つのセクションをPCRに供してゲル抽出した。
【
図8B】
図8は、ミニネフリンプロモーターに操作しうる形で結合させたGFPを含むレンチウイルスベクターの概略図を示す図である。(B)ミニネフリンプロモーターに操作しうる形で結合させたGFPを含む最終構築物であるベクターを示す図である。
【
図9】
図9は、レンチウイルスベクターによる形質導入後のci足細胞におけるGFPの発現を示す図である。GFPタグ付きネフリンプロモーターを安定して発現するヒトCi足細胞を、レンチウイルスアプローチを利用して作製した。GFP発現を蛍光顕微鏡により観察した。(A)は非形質導入Ci足細胞を示す図である。(B)は、GFPタグ付きミニネフリンプロモーターを安定して発現するCi足細胞を示す図である。(C)は、GFPタグ付きFLネフリンプロモーターを安定して発現するCi足細胞を示す図である。
【
図10】
図10は、レンチウイルスベクターによる形質導入後の分化ci足細胞におけるGFPの発現を示す図である。ネフリンプロモーターに操作しうる形で連結させたGFPを含むレンチウイルスベクターで、分化させた条件的不死化足細胞(ci足細胞)に形質導入した。免疫沈降(IP)を利用してGFP発現を検出した。
【
図11】
図11は、レンチウイルス-GFP.ネフリンプロモーター(最小または265)を用いて形質導入したヒト糸球体細胞を示す図である。Novocyte Analyserを利用して条件的不死化ヒト足細胞(LY)および糸球体内皮細胞(GEnC)の全てのライブシングレット(live singlets)のGFP蛍光中央値(AFU)を表示したFACS解析。非形質導入細胞(細胞対照)を、全長ヒトネフリンプロモーター(hNPHS1.GFP)またはミクロヒトネフリンプロモーター(265.GFP)により制御されるGFP発現カセットを含むレンチウイルス構築物で形質導入したものと比較した。全細胞を10日間分化させて、トリプシン処理(100μL)してからPBS、2%FBS、1:1000 DRAQ7 (150μL)で希釈した。データおよびエラーバーは3回の技術的反復を表している(100μL、>2500個の細胞)±SEM。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ウイルスベクター
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
前記ウイルスベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)であってもよく、また適切なAAVベクターの血清型としては2/9、LK03および3Bが挙げられる。
【0027】
前記ウイルスベクターは、AAVベクター粒子の形態であってもよい。
【0028】
前記AAVベクター粒子は、キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。前記血清型は足細胞の形質導入、例えば足細胞の特異的形質導入を促進し得る。好ましくは、該AAVベクター粒子は、足細胞特異的ベクター粒子である。該AAVベクター粒子は足細胞特異的キャプシドによりキャプシドが形成されていてもよい。該AAVベクター粒子は足細胞特異的キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。該足細胞への標的化形質導入により、全身適用後の肝臓向性の影響が排除されるだろう。
【0029】
適切には、前記AAVベクター粒子は、ある血清型のITRを有するAAVゲノムまたは誘導体が、異なる血清型のキャプシドにパッケージングされている、トランスキャプシド化(transcapsidated)形態であってもよい。該AAVベクター粒子はまた、2つ以上の異なる血清型由来の非改変キャプシドタンパク質の混合物がウイルスキャプシドを構成している、モザイク形態も含む。該AAVベクター粒子はまた、キャプシド表面に吸着されたリガンドを持つ化学修飾形態も含む。例えば、かかるリガンドとして、特定の細胞表面受容体を標的化するための抗体を挙げることができる。
【0030】
誘導体がキャプシドタンパク質、すなわちVP1、VP2および/またはVP3を含む場合、該誘導体は、1つ以上の天然に存在するAAVのキメラ、シャッフルまたはキャプシド修飾誘導体であってもよい。特に、本発明は、同一ベクター内のAAVの異なる血清型、クレード、クローン、または分離株から得たキャプシドタンパク質配列(すなわち偽型ベクター)の提供を包含する。該AAVベクターは、偽型AAVベクター粒子の形態であってもよい。
【0031】
キメラ、シャッフルまたはキャプシド修飾誘導体は、典型的には、前記AAVベクターに1つ以上の所望の機能性を提供するよう選択される。従って、これらの誘導体は、天然に存在するAAVゲノムを含むAAVベクターと比較して、遺伝子送達の効率の増大、(液性もしくは細胞性の)免疫原性の低下、向性範囲の変化および/または足細胞の標的化の改善を示すし得る。遺伝子送達の効率の増大は、細胞表面における受容体または共受容体結合の改善、内在化の改善、細胞内および核内への輸送の改善、ウイルス粒子の脱殻の改善および一本鎖ゲノムの二本鎖形態への変換の改善により達成され得る。効率の増大は同様に、ベクター用量がそれを必要としない組織への投与により希釈されないような、向性範囲の変化または足細胞の標的化に関連し得る。
【0032】
キメラキャプシドタンパク質には、天然に存在するAAV血清型の2つ以上のキャプシドコード配列間の組換えにより作製されるものが含まれる。これは例えば、ある血清型の非感染性キャプシド配列を異なる血清型のキャプシド配列と共にコトランスフェクトし、さらに指向性選択(directed selection)を利用して所望の特性を有するキャプシド配列について選択する、マーカーレスキュー法により実施してもよい。この異なる血清型のキャプシド配列は、新規キメラキャプシドタンパク質を産生させるために、細胞内で相同組換えにより変更することができる。
【0033】
またキメラキャプシドタンパク質には、特定のキャプシドタンパク質ドメイン、表面ループまたは特定のアミノ酸残基を2つ以上のキャプシドタンパク質間、例えば異なる血清型の2つ以上のキャプシドタンパク質間で移行させるためにキャプシドタンパク質配列の操作により作製されるものも含まれる。
【0034】
シャッフルまたはキメラキャプシドタンパク質はまた、DNAシャッフリングにより、またはエラープローンPCRにより作製してもよい。ハイブリッドAAVキャプシド遺伝子は、関連のあるAAV遺伝子、例えば複数の異なる血清型のキャプシドタンパク質をコードするAAV遺伝子の配列をランダムに断片化し、その後続いて、配列相同性を持つ領域間の交差を引き起こし得るセルフプライミングポリメラーゼ反応において断片を再構成させることにより、作製可能である。このように幾つかの血清型のキャプシド遺伝子をシャッフルすることにより作製したハイブリッドAAV遺伝子のライブラリーをスクリーニングすることで、所望の機能性を有するウイルスクローンを同定することができる。同様に、エラープローンPCRを利用してAAVキャプシド遺伝子をランダムに変異させることにより、後に所望の特性について選択しうる、バリアントの多様なライブラリーを作製してもよい。
【0035】
前記キャプシド遺伝子の配列はまた、天然の野生型配列に対して特定の欠失、置換または挿入を導入するために遺伝的に改変してもよい。特に、キャプシド遺伝子は、キャプシドコード配列のオープンリーディングフレーム内、またはキャプシドコード配列のN-および/またはC-末端への、非関連タンパク質またはペプチドの配列の挿入により改変してもよい。該非関連タンパク質またはペプチドは、有利なことに、特定の細胞型に対するリガンドとして機能し、それによって標的細胞への改善された結合を与えるかまたは特定の細胞集団へのベクターの標的化の特異性を改善するものでありうる。該非関連タンパク質はまた、産生プロセスの一環としての前記ウイルス粒子の精製を補助するもの、すなわちエピトープまたはアフィニティータグであってもよい。挿入の部位は、典型的には、該ウイルス粒子の他の機能、例えば該ウイルス粒子の内在化、輸送に干渉しないように選択される。
【0036】
前記キャプシドタンパク質は、人工または変異キャプシドタンパク質であってもよい。本明細書中で使用する用語「人工キャプシド」は、該キャプシド粒子が、天然には存在しないアミノ酸配列を含むか、または天然に存在するキャプシドアミノ酸配列から操作されている(例えば改変されている)アミノ酸配列を含むことを意味する。言い換えると、該人工キャプシドタンパク質は、該人工キャプシドアミノ酸配列と親キャプシドアミノ酸配列をアラインメントした場合に、該人工キャプシドアミノ酸配列が由来する親キャプシドの配列と比較して、アミノ酸配列中に突然変異または変異を含む。
【0037】
前記キャプシドタンパク質は、野生型キャプシドタンパク質と比較して、非改変または野生型ウイルス粒子と比較して足細胞に形質導入する能力を改善する変異または改変を含んでいてもよい。足細胞に形質導入する能力の改善は、例えば、前記AAVベクター粒子により運搬される導入遺伝子、例えばGFPの発現を測定することにより測定してもよく、足細胞における該導入遺伝子の発現は、該AAVベクター粒子が足細胞に形質導入する能力と相関している。
【0038】
AAV9血清型
AAV 2/9血清型は、新生仔および成体マウスの腎臓に対して有意な向性を示し、糸球体および尿細管に局在し(Luoら、2011;Picconiら、2014;Schievenbuschら、2010)、また腎静脈注射と組み合わせたAAV2/9ベクターは、腎臓標的化遺伝子送達に適していることが示されている(Roccaら、2014)。AAV 2/9は、従って、本発明のウイルスベクターに使用するための1つの適切なベクターである。
【0039】
前記AAVベクター粒子は、AAV9キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、AAV9キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0040】
前記AAVベクター粒子は、AAV9 VP1キャプシドタンパク質、AAV9 VP2キャプシドタンパク質、および/またはAAV9 VP3キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、AAV9 VP1キャプシドタンパク質、AAV9 VP2キャプシドタンパク質、および/またはAAV9 VP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、AAV9 VP1、VP2、およびVP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0041】
適切には、前記AAV9 VP1キャプシドタンパク質は、配列番号31、または配列番号31と少なくとも90%同一であるバリアントとして示されるアミノ酸配列を含むかまたは該アミノ酸配列から構成されていてもよい。
【0042】
例示的AAV9 VP1キャプシドタンパク質(配列番号31):
【0043】
適切には、前記バリアントは、配列番号31に対して、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一でありうる。
【0044】
適切には、前記AAV9 VP2およびVP3キャプシドタンパク質は、配列番号31のN末端欠損型(N-terminus truncations)、または配列番号31と少なくとも90%同一、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であるバリアントのN末端欠損型であってもよい。
【0045】
AAV LK03血清型
LK03などの合成AAVキャプシドもまた、本発明のウイルスベクターに使用するための適切なベクターでありうる。このベクターは、in vitroおよびin vivoで、高い効率でヒト初代肝細胞に形質導入することが示されている。しかし、今まで該ベクターが腎臓標的化遺伝子送達に使用されたことはない。驚いたことに、AAV-LK03ベクターはin vitroでヒト足細胞において100%近い高い形質導入を達成することが可能であり、またin vitroで特異的に足細胞に形質導入するために使用することができる(PCT/GB2020/050097を参照されたい)。
【0046】
前記AAV-LK03キャプシド(cap)配列は、7つの異なる野生型の血清型(AAV1、2、3B、4、6、8、9)からの断片からなり、またLisowski, L.,ら、2014. Nature, 506(7488), pp.382-386に記載されているが、該キャプシド(cap)遺伝子配列の97.7%およびそのアミノ酸配列の98.9%はAAV-3Bである。
【0047】
前記AAVベクター粒子は、LK03キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、LK03キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0048】
前記AAVベクター粒子は、LK03 VP1キャプシドタンパク質、LK03 VP2キャプシドタンパク質、および/またはLK03 VP3キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、LK03 VP1キャプシドタンパク質、LK03 VP2キャプシドタンパク質、および/またはLK03 VP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、LK03 VP1、VP2、およびVP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0049】
適切には、前記LK03 VP1キャプシドタンパク質は、配列番号32、または配列番号32と少なくとも90%同一であるバリアントとして示されるアミノ酸配列を含むかまたは該アミノ酸配列から構成されていてもよい。
【0050】
例示的LK03 VP1キャプシドタンパク質(配列番号32):
【0051】
適切には、前記バリアントは、配列番号32と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0052】
適切には、前記LK03 VP2およびVP3キャプシドタンパク質は、配列番号32のN末端欠損型、または配列番号32と少なくとも90%同一、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であるバリアントのN末端欠損型であってもよい。
【0053】
AAV3B血清型
AAV-3Bはそのヒト肝細胞向性に関しても知られており、本発明のウイルスベクターに使用するためのもう1つの適切なベクターである。これまで該ベクターが腎臓標的化遺伝子送達に使用されたことはない。
【0054】
前記AAVベクター粒子は、AAV3Bキャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子はAAV3Bキャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0055】
2つの別個のAAV3分離株(AAV3AおよびAAV3B)がクローン化されている。他のAAV血清型をベースとするベクターと比較すると、AAV3ベクターは大抵の細胞型に非効率的に形質導入すると考えられている。しかし、AAV3Bは足細胞に効率的に形質導入しうる。AAV3BはRutledge, E.A.,ら、1998. Journal of virology, 72(1), pp.309-319に記載されている。
【0056】
前記AAVベクター粒子は、AAV3B VP1キャプシドタンパク質、AAV3B VP2キャプシドタンパク質、および/またはAAV3B VP3キャプシドタンパク質を含んでいてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、AAV3B VP1キャプシドタンパク質、AAV3B VP2キャプシドタンパク質、および/またはAAV3B VP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。適切には、該AAVベクター粒子は、AAV3B VP1、VP2、およびVP3キャプシドタンパク質によりキャプシドが形成されていてもよい。
【0057】
適切には、前記AAV3B VP1キャプシドタンパク質は、配列番号33、または配列番号33と少なくとも90%同一であるバリアントとして示されるアミノ酸配列を含むかまたは該アミノ酸配列から構成されていてもよい。
【0058】
例示的AAV3B VP1キャプシドタンパク質(配列番号33):
【0059】
適切には、前記バリアントは、配列番号33と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0060】
適切には、前記AAV3B VP2およびVP3キャプシドタンパク質は、配列番号33のN末端欠損型、または配列番号33と少なくとも90%同一、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であるバリアントのN末端欠損型であってもよい。
【0061】
AAVゲノム
前記のAAVベクターまたはAAVベクター粒子は、AAVゲノムまたはその断片もしくは誘導体を含んでいてもよい。
【0062】
AAVゲノムはポリヌクレオチド配列であり、該配列はAAV粒子の産生に必要とされる機能をコードしていてもよい。これらの機能としては、AAV粒子への該AAVゲノムのキャプシド形成を含む、宿主細胞におけるAAVの複製およびパッケージング周期において働く機能が挙げられる。天然に存在するAAVは複製欠損性であり、また複製およびパッケージング周期の完了をトランスでのヘルパー機能の供給に依存している。従って、本発明に使用するAAVゲノムは、典型的には複製欠損性である。
【0063】
前記AAVゲノムはプラスもしくはマイナス鎖のいずれかの一本鎖形態であってもよいし、またはその代わりに二本鎖形態であってもよい。二本鎖形態の使用により、標的細胞でのDNA複製ステップの回避が可能となり、そのため導入遺伝子の発現を加速することができる。一本鎖形態の最大パッケージング容量は二本鎖形態より大きい。適切には、該AAVゲノムは一本鎖形態である。
【0064】
天然に存在するAAVは、様々な生物学的系に従って分類しうる。前記AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型、分離株またはクレードからのものであってもよい。
【0065】
AAVは、その血清型の観点から言及しうる。血清型はAAVのバリアント亜種に相当し、該バリアント亜種は、そのキャプシド表面抗原の発現のプロフィールのために、他のバリアント亜種と区別するために利用できる特徴的な反応性を有する。典型的には、特定のAAV血清型を有するAAVベクター粒子は、任意の他のAAV血清型に特異的な中和抗体と効率的に交差反応することはない。AAV血清型には、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAV11が含まれる。幾つかの実施形態では、本発明のAAVベクターは、AAV3B、LK03、AAV9、またはAAV8血清型であってもよい。
【0066】
AAVは、クレードまたはクローンの観点からも言及しうる。これは天然由来のAAVの系統関係、および典型的には、共通の祖先まで遡ることが可能でありかつその全ての子孫を含むAAVの系統群を指す。さらに、AAVは、特定の分離株、すなわち自然界に見出される特定のAAVの遺伝的分離株の観点からも言及しうる。遺伝的分離株という用語は、他の天然に存在するAAVとの限定的な遺伝的混合を経たAAVの集団を表しており、従って遺伝子レベルで認識できるほど異なる集団を定義するものである。
【0067】
典型的には、AAVの天然由来の血清型、分離株またはクレードのAAVゲノムは、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)を含む。ITR配列はcisで作用することにより機能的な複製起点を提供し、かつ細胞のゲノムからのベクターの組込みおよび切除を可能にする。ITRは、治療遺伝子の隣にcisで必要とされる唯一の配列でありうる。
【0068】
前記AAVゲノムは同様に、パッケージング遺伝子、例えばAAV粒子に対するパッケージング機能をコードするrepおよび/またはcap遺伝子を含んでいてもよい。プロモーターは、該パッケージング遺伝子の各々に操作しうる形で連結されていてもよい。かかるプロモーターの具体例としては、p5、p19およびp40プロモーターが挙げられる。例えば、該p5およびp19プロモーターは一般に該rep遺伝子を発現させるために使用され、該p40プロモーターは一般に該cap遺伝子を発現させるために使用される。該rep遺伝子は、タンパク質Rep78、Rep68、Rep52およびRep40またはそのバリアントのうちの1つ以上をコードする。該cap遺伝子は、1つ以上のキャプシドタンパク質、例えばVP1、VP2およびVP3またはそのバリアントをコードする。これらのタンパク質は、前記AAV血清型を決定する、AAV粒子のキャプシドを構成している。VP1、VP2、およびVP3は選択的mRNAスプライシングにより産生され得る(Trempe, J.P. およびCarter, B.J., 1988. Journal of virology, 62(9), pp.3356-3363)。従って、VP1、VP2およびVP3は同一配列を有する場合があるが、その際VP2はVP1と比較してN末端でトランケートされており、またVP3はVP2と比較してN末端でトランケートされている。
【0069】
前記AAVゲノムは、天然に存在するAAVの全ゲノムであってもよい。例えば、全AAVゲノムを含むベクターを使用することにより、AAVベクターまたはベクター粒子を調製してもよい。
【0070】
好ましくは、前記AAVゲノムは、患者への投与のために誘導体化されている。かかる誘導体化は当分野では標準的であり、また本発明は、AAVゲノムの任意の公知誘導体、および当分野で公知の技術を応用することにより作製しうる誘導体の使用を包含する。該AAVゲノムは任意の天然に存在するAAVの誘導体であってもよい。適切には、該AAVゲノムは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11の誘導体である。適切には、該AAVゲノムはAAV2の誘導体である。
【0071】
AAVゲノムの誘導体としては、in vivoで本発明のAAVベクターからの導入遺伝子の発現を可能にする、任意のトランケート型または改変型のAAVゲノムが挙げられる。典型的には、最小ウイルス配列を含むが上記機能は保持するように該AAVゲノムを大幅にトランケートすることが可能である。これは、該ベクターの野生型ウイルスとの組換えのリスクを低減し、さらに標的細胞中のウイルス遺伝子タンパク質の存在による細胞性免疫応答の誘発を回避する安全上の理由から好ましい。
【0072】
従って、本発明の誘導体では次の部分、すなわち、1つの逆方向末端反復(ITR)配列、複製(rep)およびキャプシド(cap)遺伝子を除去しうる。しかし、誘導体は、1つ以上のrepおよび/もしくはcap遺伝子またはAAVゲノムの他のウイルス配列をさらに含んでいてもよい。天然に存在するAAVはヒト第19染色体上の特定の部位に高頻度で組み込まれ、無視できる頻度のランダムな組み込みを示し、従ってAAVベクターにおける組み込み能力の保持は治療環境において許容されうる。
【0073】
本発明はさらに、天然のAAVゲノムの配列とは異なる順序および配置のAAVゲノムの配列の提供を包含する。また本発明は、1つ以上のAAV配列もしくは遺伝子と、別のウイルスからの配列または2つ以上のウイルスからの配列で構成されるキメラ遺伝子との置換も包含する。かかるキメラ遺伝子は、異なるウイルス種の2つ以上の関連ウイルスタンパク質からの配列から構成されていてもよい。
【0074】
ミニ遺伝子アプローチ
約1700個のアミノ酸である、COL4A3、COL4A4およびCOL4A5は、AAVのパッケージング制限のために、その全長形態でAAVベクターにパッケージングすることは困難である。しかし、本発明者らは、既知の最小ネフリンプロモーターより短く、かつ驚いたことに足細胞における導入遺伝子の発現を駆動する能力を有する最小ネフリンプロモーターを開発した。かかる最小ネフリンプロモーターを使用することで、積荷のサイズを最小化しかつ全長COL4A3、COL4A4またはCOL4A5のパッケージングを補助することができる。
【0075】
全長COL4A3、COL4A4またはCOL4A5をパッケージングするための1つの代替的な選択肢は、該COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子をミニ遺伝子として提供することでありうる。該ミニ遺伝子アプローチは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを処置するための遺伝子治療の開発に成功裏に用いられている(Kodippiliら 2018)。このアプローチでは、導入遺伝子を、該導入遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を喪失することなく、ベクターに適合するようにトランケートする。
【0076】
COL4A3、COL4A4およびCOL4A5タンパク質は、非コラーゲン配列により隔てられることが多いコラーゲンGly-X-Y反復配列を含有しかつ三重らせんリピートを形成する、およそ170~185 kDaの相同ポリペプチドである。各ポリペプチドは、カルボキシル末端に大きな球状非コラーゲンドメインもまた含有する。ミニ遺伝子アプローチに適したトランケート化導入遺伝子を作製するためには、およそ200~300個のアミノ酸を該COL4A3、COL4A4およびCOL4A5ポリペプチドの各々から除去すべきである。該アミノ酸は前記三重らせんリピートから除去してもよい。該アミノ酸は非コラーゲン領域からは除去されないことが好ましい。
【0077】
N末端HAタグまたはN末端MyCタグを持つCOL4A5ミニ遺伝子を、ヒト最小ネフリンプロモーター(NPHS2)を含有するAAV2/9、AAVLK03およびAAVL3ベクターに連結してもよい。
【0078】
ウイルスベクター遺伝子治療
本発明はウイルスベクター遺伝子治療を提供し、ここで該ウイルスベクターはCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子を含む。
【0079】
前記ウイルスベクター遺伝子治療に使用するウイルスベクターは、本明細書中に記載した本発明の任意のウイルスベクターでありうる。従って、本明細書中でウイルスベクターに言及する場合、これは文脈上別段の指示がない限りウイルスベクター遺伝子治療を指す場合もあることが理解されよう。
【0080】
デュアルベクターアプローチ
前記ウイルスベクター遺伝子治療の代替的な選択肢は、デュアルベクターアプローチを利用することでありうる。このアプローチでは、該ウイルスベクター遺伝子治療は、COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子の少なくとも一部を含む第1ウイルスベクター、および任意の足細胞特異的プロモーター、および対応するCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子の少なくとも一部を含む第2ウイルスベクター、および任意の足細胞特異的プロモーターを含む。言い換えると、該導入遺伝子を2つの別々の配列に分けて、その各々を本明細書中に記載のウイルスベクター遺伝子治療に組み入れることができる。AAVデュアルベクターアプローチは、例えば、McClementsおよびMacLaren 2017(参照により本明細書中に組み込まれるものとする)に記載されている。該デュアルベクターアプローチに使用する導入遺伝子配列は重複するエキソン配列またはイントロン配列を有していてもよく、それらは形質導入されると、例えば、相同組換えを通じて結合し、単一の導入遺伝子配列を再形成する。あるいは、この2つの配列は重複していなくてもよく、代わりに例えば、インテインタンパク質トランススプライシングアプローチにより結合する。2つのベクターの一方にスプライス供与シグナルを組み込み、かつ2つ目のベクターにスプライス受容シグナルを組み込むことで、ITRにより媒介される頭尾結合型(head-to-tail)コンカテマー形成後に、成熟mRNAを生じるトランススプライシングを可能にすることもできる。さらに、これらのアプローチを、例えば、組換えをトランススプライシングと組み合わせる様々なハイブリッドアプローチに統合することが可能である。
【0081】
前記第1ウイルスベクターは本明細書中に記載の本発明によるウイルスベクターであってもよく、および/または前記第2ウイルスベクターは本明細書中に記載の本発明によるウイルスベクターであってもよい。好適な実施形態では、該第1ウイルスベクターおよび該第2ウイルスベクターは共に、本明細書中に記載の本発明によるウイルスベクターである。
【0082】
COL4A3、COL4A4およびCOL4A5導入遺伝子
前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子はイントロンまたはイントロン配列を含んでいてもよく、該配列を使用して遺伝子発現を改善する能力を有していてもよい。イントロンまたはイントロン配列を、前記ミニ遺伝子またはデュアルベクターアプローチのいずれかに使用してもよい。該デュアルベクターアプローチでは、これによりイントロンの相同配列を介した前記導入遺伝子の第1または第2部分の組換えを可能にすることができる。これは、エキソン配列を使用するとタンパク質の一部が切り出される(通常は望ましくない)ことになるため、該デュアルベクターアプローチをスプライス供与および受容方法と組み合わせる場合に特に有用である。
【0083】
前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子は、COL4A3、COL4A4もしくはCOL4A5ポリペプチド、またはその断片もしくは誘導体をコードしていてもよい。
【0084】
前記COL4A3、COL4A4もしくはCOL4A5ポリペプチドまたはその断片もしくは誘導体は、コラーゲンIVα345ネットワークを形成することができるものであり得る。適切には、該断片は約200~300個のアミノ酸が除去されている。
【0085】
幾つかの実施形態では、前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5ポリペプチドは全長ポリペプチドである。
【0086】
好ましくは、前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5ポリペプチドはヒトである。ヒトCOL4A3の1例は、UniProtKBアクセス番号Q01955を有するCOL4A3である。ヒトCOL4A4の1例は、UniProtKBアクセス番号P53420を有するCOL4A3である。ヒトCOL4A5の1例は、UniProtKBアクセス番号P29400を有するCOL4A5である。
【0087】
適切には、前記COL4A3ペプチドは、配列番号1、または配列番号1と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。適切には、該バリアントは、配列番号1と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0088】
適切には、前記COL4A4ペプチドは、配列番号2、または配列番号2と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。適切には、該バリアントは、配列番号2と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0089】
適切には、前記COL4A5ペプチドは、配列番号3、または配列番号3と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリペプチド配列を含むかまたは該ポリペプチド配列から構成されていてもよい。適切には、該バリアントは、配列番号3と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
COL4A3をコードするヌクレオチド配列の1例は、NM_000091.5である。COL4A4をコードするヌクレオチド配列の1例は、NM_000092.5である。COL4A5をコードするヌクレオチド配列の1例は、NM_000495.5である。
【0094】
適切には、前記COL4A3導入遺伝子は、配列番号4、または配列番号4と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリヌクレオチド配列を含むかまたは該ポリヌクレオチド配列から構成されていてもよい。適切には、該バリアントは、配列番号4と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0095】
適切には、前記COL4A4導入遺伝子は、配列番号5、または配列番号5と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリヌクレオチド配列を含むかまたは該ポリヌクレオチド配列から構成されていてもよい。適切には、該バリアントは、配列番号5と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0096】
適切には、前記COL4A5導入遺伝子は、配列番号6、または配列番号6と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるポリヌクレオチド配列を含むかまたは該ポリヌクレオチド配列から構成されていてもよい。適切には、該バリアントは、配列番号6と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
前記COL4A3、COL4A4、またはCOL4A5導入遺伝子は、コドンが最適化されていてもよい。異なる細胞は、その特定のコドンの使用頻度が異なる。このコドンバイアスは、細胞型における特定のtRNAの相対的存在量の偏りに相当する。配列中のコドンを、それらを対応するtRNAの相対的存在量と一致するよう調整するために変更することで、発現を増大させることが可能である。同じ理由で、対応するtRNAが特定の細胞型では稀であることが知られているコドンを意図的に選択することにより、発現を減少させることが可能である。従って、付加的な程度の翻訳調節が可能である。コドン使用頻度表は、哺乳動物細胞(例えばヒト)に関して、ならびに様々な他の生物に関して当分野で公知である。
【0101】
調節配列
プロモーター
本発明のウイルスベクターは、前記COL4A3、COL4A4、またはCOL4A5ポリペプチドの発現を促進するためのプロモーターを含んでいてもよい。適切には、該プロモーターは、該COL4A3、COL4A4、またはCOL4A5導入遺伝子に操作しうる形で連結されていてもよい。
【0102】
好ましくは、前記プロモーターは足細胞において操作可能である。好ましくは、該プロモーターは、足細胞における導入遺伝子の発現を駆動する能力を有する。好ましくは、本発明のウイルスベクターは足細胞特異的プロモーターを含む。適切には、COL4A3、COL4A4、またはCOL4A5導入遺伝子は、該足細胞特異的プロモーターに操作しうる形で連結されている。
【0103】
上記の通り、本発明者らは、既知の最小ネフリンプロモーターより短く、かつ驚いたことに足細胞における導入遺伝子の発現を駆動する能力を有する、最小ネフリンプロモーターを開発した。該プロモーターは、驚いたことに、足細胞特異性も保持している。かかる最小ネフリンプロモーターを使用することで、積荷のサイズを最小化しかつ全長COL4A3、COL4A4またはCOL4A5のパッケージングを補助することができる。
【0104】
最小ネフリンプロモーターなどの足細胞特異的プロモーターの使用により、前記ウイルスベクターを足細胞に特異的に標的化することができる(Moellerら、2002;Picconiら、2014)。適切な最小ネフリンプロモーターとしては、NPHS1およびポドシンプロモーターNPHS2が挙げられる。これは、導入遺伝子の発現を腎臓の糸球体基底膜中の足細胞に特異的に標的化することを可能とし、またオフターゲット発現を最小化する。足細胞は最終分化した非分裂細胞であるため、それらを導入遺伝子の安定発現のための標的とし、かつベクター希釈作用のあらゆるリスクを低減または回避することができる。本発明の好適な実施形態では、前記プロモーターはNPHS1である。該NPHS1プロモーターのための適切なDNA配列の1例を
図1に示す。導入遺伝子と同様に、プロモーターの種は患者種と一致することが好ましい。例えば、ヒト患者を処置する場合、典型的にはヒトNHPS1またはヒトNPHS2を使用する。
【0105】
本明細書中で使用する場合、「足細胞特異的プロモーター」は、足細胞において導入遺伝子の発現を優先的に促進するプロモーターであってもよい。適切には、足細胞特異的プロモーターは、他の細胞型と比較して、足細胞において導入遺伝子のより高い発現を促進してもよい。例えば、足細胞特異的プロモーターは、導入遺伝子の発現レベルを、他の細胞型での発現レベルと比較して、足細胞において少なくとも10%高く、少なくとも20%高く、少なくとも30%高く、少なくとも40%高く、少なくとも50%高く、少なくとも100%高く、少なくとも200%高く、少なくとも300%高く、少なくとも400%高く、少なくとも500%高く、または少なくとも1000%高く促進するプロモーターであってもよい。
【0106】
導入遺伝子の発現は、当分野で公知の任意の適切な方法により測定してもよい。例えば、前記プロモーターに操作しうる形で連結されているレポーター導入遺伝子、例えばGFPの発現を測定することによるが、ここで該レポーター導入遺伝子の発現は、該プロモーターが遺伝子の発現を促進するその能力と相関関係にある。該レポーター導入遺伝子、例えばGFPの発現は、任意の適切な方法、例えばFACSにより判定してもよい。例えば、足細胞特異的プロモーターは、他の細胞型、例えば糸球体内皮細胞と比較して、条件的不死化足細胞においてレポーター導入遺伝子のより高い発現を促進し得る。適切な足細胞系、例えばCIHP-1が当業者に周知である。不死化足細胞を作製する方法は当業者に周知である。適切な方法は、Ni, L.,ら、2012. Nephrology, 17(6), pp.525-531に記載されている。
【0107】
適切には、前記プロモーターは、最小足細胞特異的プロモーターであってもよい。該プロモーターは、約1.2 kb以下の長さを有していてもよい。適切には、該プロモーターは、約1.18 kb以下、約1.17 kb以下、約1.16 kb以下、約1.15 kb以下、約1.14 kb以下、約1.13 kb以下、約1.12 kb以下、約1.11 kb以下、または約1.10 kb以下の長さを有する。適切には、該プロモーターは、約1.15 kb以下の長さを有する。該プロモーターは、約1.1 kb以下の長さを有していてもよい。幾つかの実施形態では、該プロモーターは、約1.1 kb以下、1.0 kb以下、約0.9 kb以下、約0.8 kb以下、約0.7 kb以下、約0.6 kb以下、約0.5 kb以下、約0.4 kb以下、または約0.3 kb以下の長さを有する。
【0108】
幾つかの実施形態では、前記プロモーターは、約0.8 kb以下、約0.7 kb以下、約0.6 kb以下、約0.5 kb以下、約0.4 kb以下、または約0.3 kb以下の長さを有する。幾つかの実施形態では、該プロモーターは、818 bp以下の長さを有する。幾つかの実施形態では、該プロモーターは、800 bp以下の長さを有する。幾つかの実施形態では、該プロモーターは、約0.5 kb以下、約0.4 kb以下、または約0.3 kb以下の長さを有する。幾つかの実施形態では、該プロモーターは、約0.3 kb以下の長さを有する。
【0109】
前記プロモーターは、約250 bp以上の長さを有していてもよい。幾つかの実施形態では、該プロモーターは、約250~1100 bp、250~1000 bp、250~900 bp、250~800 bp、250~700 bp、250~600 bp、250~500 bp、250~400 bp、250~300 bpの長さを有する。該プロモーターは、約265 bp以上の長さを有していてもよい。幾つかの実施形態では、該プロモーターは、約265~1100 bp、265~1000 bp、265~900 bp、265~800 bp、265~700 bp、265~600 bp、265~500 bp、265~400 bp、265~300 bpの長さを有する。ある実施形態では、該プロモーターは、250~300 bp、250~280 bp、255~275 bp、260~270 bp、または約265 bpの長さを有する。ある実施形態では、該プロモーターは、800~850 bp、800~840 bp、810~830 bp、815~825 bp、または約819 bpの長さを有する。
【0110】
最小ネフリンプロモーター
本発明のウイルスベクターは、最小ネフリンプロモーターを含んでいてもよい。適切には、該最小ネフリンプロモーターは、前記COL4A3、COL4A4、またはCOL4A5導入遺伝子に操作しうる形で連結されていてもよい。
【0111】
前記最小ネフリンプロモーターは、最小NPHS1プロモーターであってもよい。例えば、該NPHS1プロモーターは、1.2 kb以下の長さを有していてもよい。該NPHS1遺伝子は、足細胞で選択的に発現される、ネフリンをコードしている。
【0112】
最小ヒトNPHS1プロモーターはMoeller ら 2002 J Am Soc Nephrol, 13(6):1561-7およびWong MA ら 2000 Am J Physiol Renal Physiol, 279(6):F1027‐32に記載されている。この最小NPHS1は1.2 kbの断片であり、また足細胞特異的であると思われる。この1.2 kbのプロモーター領域はTATAボックスを欠損しているが、他の転写因子、例えばPAX-2結合要素、EボックスおよびGATAコンセンサス配列のための認識モチーフを有する。
【0113】
適切には、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号7、または配列番号7と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい(
図1にも示す)。
【0114】
【0115】
適切には、前記バリアントは、配列番号7と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0116】
適切には、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号8、または配列番号8と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0117】
【0118】
適切には、前記バリアントは、配列番号8と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0119】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号9、または配列番号9と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される。
【0120】
例示的最小ネフリンプロモーター - 819 bp (配列番号9)
【0121】
適切には、前記バリアントは、配列番号9と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0122】
好適な実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号10、または配列番号10と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される。
【0123】
例示的最小ネフリンプロモーター - 265 bp (配列番号10)
【0124】
適切には、前記バリアントは、配列番号10と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0125】
適切には、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号8または配列番号8に対して少なくとも70%の同一性を有するバリアントに由来する。適切には、該最小ネフリンプロモーターは、配列番号8または配列番号8に対して少なくとも70%の同一性を有するバリアントと比較して1つ以上の欠失を有する。適切には、該バリアントは、配列番号8と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。例示的バリアントは配列番号7である。
【0126】
適切には、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号8によるものでありかつ1つ以上の欠失、例えば1つもしくは2つの欠失を有するヌクレオチド配列、または該ヌクレオチド配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を示すヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される。適切には、該最小ネフリンプロモーターは、配列番号8によるものでありかつ2つ以上の欠失を有するヌクレオチド配列、または該ヌクレオチド配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性同一性を示すヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される。該欠失は任意のサイズでありうる。適切には、該欠失は、各々少なくとも50 bp、少なくとも100 bp、少なくとも150 bp、少なくとも200 bp、少なくとも250 bp、少なくとも300 bp、少なくとも350 bp、または少なくとも400 bpのサイズである。適切には、該欠失は、各々50~500 bp、100~500 bp、150~500 bp、200~500 bp、250~500 bp、300~500 bp、350~500 bp、または400~500 bpのサイズである。
【0127】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号8によるヌクレオチド配列、ただしここで
(i)配列番号8の1位~n1位は欠失しており、ここでn1は整数1~430である、および/もしくは
(ii)配列番号8のn2位~n3位は欠失しており、ここでn3≧n2、n2は整数508~1061であり、かつn3は整数508~1061である、
または該ヌクレオチド配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を示すヌクレオチド配列、
を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される。
【0128】
例えば、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号8によるヌクレオチド配列、ただしここで
(i)配列番号8の1位~n1位が欠失しており、ここでn1は整数1~430である、および/または
(ii)配列番号8のn2位~n3位が欠失しており、ここでn3≧n2、n2は整数508~1061であり、かつn3は整数508~1061である、
に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0129】
適切には、n1は、整数50~430、100~430、150~430、200~430、250~430、300~430、350~430、または400~430である。幾つかの実施形態では、n1は整数100~430である。幾つかの実施形態では、n1=430である、すなわち配列番号8の1位~430位が欠失している。
【0130】
n3とn2との差により前記欠失のサイズを指定する。適切には、n3≧n2+49、n3≧n2+99、n3≧n2+149、n3≧n2+199、n3≧n2+249、n3≧n2+299、n3≧n2+349、n3≧n2+399、n3≧n2+449、n3≧n2+499、またはn3≧n2+549である。幾つかの実施形態では、n3≧n2+49である。
【0131】
n2およびn3がとる値が、前記欠失のある場所を決定する。適切には、n2およびn3は各々整数550~1050であり、n2およびn3は各々整数600~1000であり、n2およびn3は各々整数650~950であり、n2およびn3は各々整数700~900であり、n2およびn3は整数750~850である。幾つかの実施形態では、n2=508かつn3=1061である、すなわち配列番号8の508~1061位が欠失している。
【0132】
最小ネフリンプロモーター領域
本発明者らは、導入遺伝子の発現を駆動する前記ネフリンプロモーターの領域を決定した。
【0133】
プロモーターは、典型的には「コア」および「近位」領域を含む。「コアプロモーター領域」は、転写開始部位、RNAポリメラーゼ結合部位および基本転写因子結合部位を含んでいてもよい。「近位プロモーター領域」は、例えば、有効かつ制御可能な転写を促進するために必要とされる主要な調節エレメントおよび特異的転写因子結合部位を含んでいてもよい。該コアおよび近位プロモーター領域の両方のサイズおよび構成要素は、典型的には遺伝子特異的な様式で変化する。プロモーターはまた、該コアプロモーター領域の下流および開始コドンから上流に5’非翻訳領域(5’UTR)(リーダー配列としても知られる)を含んでいてもよい。
【0134】
前記最小ネフリンプロモーターは、ハイブリッドプロモーターであってもよい。本明細書中で使用する場合、「ハイブリッドプロモーター」は、異なるプロモーターに由来する要素の組み合わせを含む。例えば、ハイブリッドプロモーターは、所望の導入遺伝子の発現を達成するために、ある既存のプロモーターに由来する近位プロモーター領域と、別の既存のプロモーターからのコアプロモーターとを含んでいてもよい。筋ハイブリッドプロモーターがPiekarowicz, K., ら (2019). Methods & clinical development, 15, 157-169に記載されている。
【0135】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、(i)配列番号12、または配列番号12と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列、を含む。理論に束縛されることを望むものではないが、配列番号12に対して少なくとも約70%の同一性を有するヌクレオチド配列は近位プロモーター領域を提供しうると考えられる。
【0136】
【0137】
適切には、前記バリアントは、配列番号12と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号13として示される、配列番号12のバリアントを含んでいてもよい。
【0138】
例示的バリアント近位プロモーター領域(配列番号13)
【0139】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、(ii)配列番号14、もしくは配列番号14と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列、配列番号15、もしくは配列番号15と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列、および/または配列番号16、もしくは配列番号16と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列、を含む。
【0140】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、(ii)配列番号14、または配列番号14と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列、を含む。理論に束縛されることを望むものではないが、配列番号14に対して少なくとも約70%の同一性を有するヌクレオチド配列はコアプロモーター領域を提供しうると考えられる。
【0141】
【0142】
適切には、前記バリアントは、配列番号14と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号17として示される配列番号14のバリアントを含んでいてもよい。
【0143】
例示的バリアントコアプロモーター領域(配列番号17)
【0144】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、(ii)配列番号15、または配列番号15と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列、を含む。理論に束縛されることを望むものではないが、配列番号15に対して少なくとも約70%の同一性を有するヌクレオチド配列は5’UTRを提供しうると考えられる。
【0145】
【0146】
適切には、前記バリアントは、配列番号15と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号18として示される配列番号15のバリアントを含んでいてもよい。
【0147】
【0148】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、(ii)配列番号16、または配列番号16と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列、を含む。理論に束縛されることを望むものではないが、配列番号16に対して少なくとも約70%の同一性を有するヌクレオチド配列は、コアプロモーター領域および5’UTRを提供しうると考えられる。
【0149】
例示的コアプロモーター領域および5’UTR(配列番号16)
【0150】
適切には、前記バリアントは、配列番号16と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号19として示される配列番号16のバリアントを含んでいてもよい。
【0151】
例示的バリアントコアプロモーター領域および5’UTR(配列番号19)
【0152】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、(iii)配列番号20、またはその1つ以上の断片に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、を含む。適切には、該最小ネフリンプロモーターは、前記近位プロモーター領域のすぐ下流および/または前記コアプロモーター領域のすぐ上流に、配列番号20、またはその1つ以上の断片に対して少なくとも約70%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0153】
前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号20、またはその1つ以上の断片に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有していてもよい。該最小ネフリンプロモーターは、配列番号20、またはその1つ以上の断片のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0154】
【0155】
適切には、前記の1つ以上の断片は、(a)5’末端断片、および/または(b)3’末端断片である。適切には、該5’末端断片は、前記近位プロモーター領域のすぐ下流にあってもよい。適切には、該3’末端断片は、前記コアプロモーター領域のすぐ上流にあってもよい。例えば、前記最小ネフリンプロモーターは、以下、すなわち
(a)配列番号20の1~x位に対して少なくとも70%を有するヌクレオチド配列、および/または
(b)配列番号20のy~554位に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、ここでxおよびyは整数であり、かつy>xである、
を含んでいてもよい。
【0156】
配列番号20の断片(複数可)は、任意の長さでありうる。適切には、該断片(複数可)は、約500 bp以下、450 bp以下、400 bp以下、350 bp以下、300 bp以下、250 bp以下、200 bp以下、150 bp以下、100 bp以下、50 bp以下、40 bp以下、30 bp以下、20 bp以下、または10 bp以下の長さを有していてもよい。
【0157】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは配列番号20を含まない。
【0158】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、(iv)配列番号21、またはその断片に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。適切には、該最小ネフリンプロモーターは、前記近位プロモーター領域のすぐ上流に、配列番号21、またはその断片に対して少なくとも約70%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0159】
前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号21、またはその断片に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよい。該最小ネフリンプロモーターは、配列番号21のヌクレオチド配列、またはその1つ以上の断片を含んでいてもよい。
【0160】
例示的な任意の上流プロモーター領域(配列番号21)
【0161】
適切には、前記断片は3’末端断片である。例えば、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号21のz~430位(ここでzは整数である)に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0162】
配列番号21の断片は任意の長さでありうる。適切には、該断片は、約400 bp以下、350 bp以下、300 bp以下、250 bp以下、200 bp以下、150 bp以下、100 bp以下、50 bp以下、40 bp以下、30 bp以下、20 bp以下、または10 bp以下の長さを有していてもよい。
【0163】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは配列番号21を含まない。
【0164】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、5’から3’にかけて、以下、すなわち
(i)配列番号12に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(iii)任意で、配列番号20、またはその1つ以上の断片に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに
(ii)配列番号14に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、配列番号15に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、および/または配列番号16に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列
を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される。
【0165】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、5’から3’にかけて、以下、すなわち
(i)配列番号12に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(iii)任意で、(a)配列番号20の5’末端断片に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、および/または(b)配列番号20の3’末端断片に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに
(ii)配列番号14に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、配列番号15に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、および/または配列番号16に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列
を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される。
【0166】
最小ネフリンプロモーター要素
本発明者らは、導入遺伝子の発現を駆動する前記ネフリンプロモーターの機能要素を決定した。
【0167】
前記最小ネフリンプロモーターは、次の要素、すなわち(a)レチノイン酸受容体結合部位、(b)WT1結合部位、(c)エンハンサーボックス、(d)転写因子結合領域、および(e)転写開始部位、のうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0168】
適切には、前記最小ネフリンプロモーターは、次の要素、すなわち(a)レチノイン酸受容体結合部位、(b)WT1結合部位、(c)エンハンサーボックス、(d)転写因子結合領域、および(e)転写開始部位の全てを含む。
【0169】
レチノイン酸受容体(RAR)結合部位とは、RARα、RARβ、および/またはRARγを結合する能力を有するポリヌクレオチド配列を指す。該RAR結合部位は、配列番号22として示されるヌクレオチド配列、または配列番号22と比較して1つもしくは2つの置換、欠失、もしくは挿入を有するヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。該置換、欠失、または挿入は、該RAR結合部位がその内因性機能のうちの少なくとも1つを保持するような、単一ヌクレオチドの任意の置換、欠失、または挿入であってもよい。
【0170】
例示的RAR結合部位(配列番号22)
GGGGTCA
【0171】
WT1結合部位とは、ウィルムス腫瘍抑制遺伝子であるWT1によりコードされるジンクフィンガーポリペプチドを結合する能力を有するポリヌクレオチド配列を指す。該WT1結合部位は、配列番号23として示されるヌクレオチド配列、または配列番号23と比較して1つ、2つもしくは3つの置換、欠失、もしくは挿入を有するヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。該置換、欠失、または挿入は、該WT1結合領域がその内因性機能のうちの少なくとも1つを保持するような、単一ヌクレオチドの任意の置換、欠失、または挿入であってもよい。
【0172】
【0173】
エンハンサーボックスとは、タンパク質結合部位として機能する、一部の真核生物に見出されるDNA応答エレメントを指す。該エンハンサーボックスは、配列番号24として示されるヌクレオチド配列、または配列番号24と比較して1つもしくは2つの置換、欠失、もしくは挿入を有するヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。該置換、欠失、または挿入は、該エンハンサーボックスがその内因性機能のうちの少なくとも1つを保持するような、単一ヌクレオチドの任意の置換、欠失、または挿入であってもよい。
【0174】
例示的エンハンサーボックス(配列番号24)
ATGTG
【0175】
(a)レチノイン酸受容体結合部位、(b)WT1結合部位、および(c)エンハンサーボックスのうちの1つ以上が、前記近位プロモーター領域中に存在していてもよい。適切には、(a)レチノイン酸受容体結合部位、(b)WT1結合部位、および(c)エンハンサーボックスの各々が該近位プロモーター領域中に存在する。
【0176】
幾つかの実施形態では、以下の要素のうちの1つ以上が(i)配列番号12に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、中に存在する、すなわち、(a)配列番号12の7位~13位にほぼ対応する位置にRAR結合部位、(b)配列番号12の14位~30位にほぼ対応する位置にWT1結合部位、および(c)配列番号12の49位~53位にほぼ対応する位置にエンハンサーボックス、が存在する。幾つかの実施形態では、該要素の各々が、(i)配列番号12に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、中に存在する。
【0177】
幾つかの実施形態では、以下のヌクレオチド配列のうちの1つ以上が(i)配列番号12に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、中に存在する、すなわち、(a)配列番号12の7位~13位に対応する位置にGGGGTCA、(b)配列番号12の14位~30位に対応する位置にCGGAGGCTGGGGAGGCA、および(c)配列番号12の49位~53位に対応する位置にATGTG、が存在する。幾つかの実施形態では、該ヌクレオチド配列の各々が、(i)配列番号12に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、中に存在する。
【0178】
適切には、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号25として示されるヌクレオチド配列、または配列番号25と比較して1つ、2つ、3つ、4つもしくは5つの置換、欠失、もしくは挿入を有するヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される転写因子結合領域を含んでいてもよい。該置換、欠失、または挿入は、該転写因子結合領域がその内因性機能のうちの少なくとも1つを保持するような、単一ヌクレオチドの任意の置換、欠失、または挿入であってもよい。
【0179】
【0180】
他の適切な転写因子結合領域は当業者に周知である。例えば、他の適切な転写因子結合領域として、TACGAT (配列番号36)、TATAAT (配列番号37)、GATACT (配列番号38)、TATGAT (配列番号39)、およびTATGTT (配列番号40)が挙げられる。
【0181】
適切には、前記最小ネフリンプロモーターは、「AG」ジヌクレオチドを含むかまたは該「AG」ジヌクレオチドから構成される転写開始部位を含んでいてもよい。
【0182】
適切には、前記転写因子結合部位は、前記転写開始部位に操作しうる形で連結されている。適切には、該転写因子結合部位は、該転写開始部位のすぐ上流にあってもよい。理論に束縛されることを望むものではないが、該転写因子結合部位および該転写開始部位は、コアプロモーター領域を提供しうると考えられる。
【0183】
適切には、前記最小ネフリンプロモーターは、5’非翻訳領域を含んでいてもよい。該5’非翻訳領域は、配列番号15に対して少なくとも約70%、80%、90%、95%または99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。該5’非翻訳領域は、配列番号15を含むかまたは配列番号15から構成されていてもよい。
【0184】
適切には、前記5’非翻訳領域は、前記転写開始部位に操作しうる形で連結されている。適切には、該5’非翻訳領域は該転写開始部位のすぐ下流にあってもよい。
【0185】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、5’から3’にかけて以下、すなわち
(i)配列番号12に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、次の要素の各々が存在する、すなわち、(a)配列番号12の7位~13位にほぼ対応する位置にRAR結合部位、(b)配列番号12の14位~30位にほぼ対応する位置にWT1結合部位、および(c)配列番号12の49位~53位にほぼ対応する位置にエンハンサーボックス、が存在する、該ヌクレオチド配列、
(iii)任意で、配列番号20、またはその1つ以上の断片に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、ならびに
(ii)配列番号14に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、配列番号15に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、または配列番号16に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、
を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される。
【0186】
例示的最小ネフリンプロモーター
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号9、または配列番号9と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される。
【0187】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号9、または配列番号9と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含み、かつここで該プロモーターは約1.1 kb以下の長さを有する。
【0188】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号9、または配列番号9と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列から構成される。
【0189】
適切には、前記バリアントは、配列番号9と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号34として示される配列番号9のバリアントを含むかまたは該バリアントから構成されていてもよい。
【0190】
例示的最小ネフリンプロモーターバリアント - 819 bp (配列番号34)
【0191】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号10、または配列番号10と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成される。
【0192】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号10、または配列番号10と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含み、かつここで該プロモーターは約1.1 kb以下の長さを有する。
【0193】
幾つかの実施形態では、前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号10、または配列番号10と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列から構成される。
【0194】
適切には、前記バリアントは、配列番号10と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。前記最小ネフリンプロモーターは、配列番号35として示される配列番号10のバリアントを含むかまたは該バリアントから構成されていてもよい。
【0195】
例示的最小ネフリンプロモーターバリアント - 265 bp (配列番号35)
【0196】
最小ポドシンプロモーター
本発明のウイルスベクターは、最小ポドシンプロモーターを含んでいてもよい。適切には、該最小ポドシンプロモーターは、前記COL4A3、COL4A4、またはCOL4A5導入遺伝子に操作しうる形で連結されていてもよい。
【0197】
前記最小ポドシンプロモーターは、最小NPHS2プロモーターであってもよい。例えば、該NPHS2プロモーターは、0.6 kb以下の長さを有していてもよい。該NPHS2遺伝子は、足細胞で選択的に発現される、ポドシンをコードしている。
【0198】
最小ヒトNPHS2プロモーターは、Oleggini R,ら、2006. Gene Expr. 13(1):59-66に記載されている。この最小NPHS2は、in vitroで足細胞における発現を示した630 bpの断片である。
【0199】
適切には、前記最小ポドシンプロモーターは、配列番号11、または配列番号11と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0200】
例示的最小NPHS2プロモーター(配列番号11):
【0201】
適切には、前記バリアントは、配列番号11と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であってもよい。
【0202】
他のプロモーター
本発明に使用するための他の非-足細胞特異的プロモーターは当業者に周知である。幾つかの実施形態では、該プロモーターは、約300 bp以下の長さを有していてもよい。幾つかの実施形態では、該プロモーターは、約290 bp以下、280 bp以下、270 bp以下、260 bp以下、250 bp以下、240 bp以下、230 bp以下、220 bp以下、210 bp以下、または200 bp以下の長さを有する。長さが約300 bp以下であるプロモーターの使用により、COL4A3、COL4A4およびCOL4A5導入遺伝子のその全長形態でのAAVベクターへのパッケージングを補助してもよい。
【0203】
約300 bp以下の長さを有する例示的プロモーターがWang, D.,ら、1999. Gene therapy, 6(4), pp.667-675に記載されている。Wang らは、AAV ITR単独よりも有意に高い活性を有しかつ102 bp~200 bpのサイズである4つの短いプロモーターについて記載している。これらのプロモーターは、AAV-P5 (150 bp)、SV40e (200 bp)、TK1 (110 bp)ならびに遠位および近位要素間にさらなる10 bpの欠失を有する第2 TKプロモーター(TK2)(102 bp)である。
【0204】
ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント
前記ウイルスベクターは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)をさらに含んでいてもよい。適切には、該WPREは、前記COL4A3、COL4A4、またはCOL4A5導入遺伝子に操作しうる形で連結されていてもよい。WPREは、転写されると、発現を増強する三次構造を構築するDNA配列である。WPREを含めることで、該ベクターにより送達される該導入遺伝子の発現を増大させてもよい。該WPRE配列は、RNA増強活性を大幅に喪失することなく発がん性を低下させるために変異させてもよい(Schambachら、2005, 参照により本明細書中に組み込まれる)。適切なWPRE配列の1例を
図2に示す。
【0205】
適切には、前記WPREは、配列番号26、または配列番号26と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい(
図2にも示す)。
【0206】
【0207】
適切には、前記バリアントは、配列番号26と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0208】
幾つかの実施形態では、本発明のウイルスベクターはWPRE配列を含まない。
【0209】
タンパク質タグ
前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子は、タンパク質タグ、例えば赤血球凝集素(HA)タグを含んでいてもよい。HAはエピトープタグとして使用可能であり、また該タグを付加したタンパク質の生物活性または生体内分布に干渉しないことが示されている。該タンパク質タグは、該導入遺伝子の検出、単離、および精製を促進することができる。他の適切なタンパク質タグとしては、MyCタグ、ポリヒスチジンタグおよびflagタグを挙げることができる。
【0210】
幾つかの実施形態では、前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子は、1つ以上のflagタグを含む。幾つかの実施形態では、該COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子は3つのflagタグを含む。
【0211】
コザック配列
前記ウイルスベクターは、前記プロモーターと前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子との間にコザック配列をさらに含んでいてもよい。該コザック配列は、翻訳プロセスの開始において主要な役割を果たすことが知られており、またそれ故に、該COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子の発現を増強することができる。適切なコザック配列は当業者に周知である。
【0212】
適切には、前記コザック配列は、配列番号27、または配列番号27と少なくとも65%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。
【0213】
例示的コザック配列(配列番号27)
GCCGCCACCAUGG
【0214】
適切には、前記バリアントは、配列番号27と少なくとも75%、少なくとも85%、または少なくとも90%同一であってもよい。
【0215】
幾つかの実施形態では、本発明のウイルスベクターはコザック配列を含まない。
【0216】
ポリアデニル化シグナル
前記ウイルスベクターは、例えば
図3に示すように、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナルなどの、ポリアデニル化シグナルをさらに含んでいてもよい。適切には、該ポリアデニル化シグナルは、前記COL4A3、COL4A4、またはCOL4A5導入遺伝子に操作しうる形で連結されていてもよい。ポリアデニル化は、メッセンジャーRNAへのポリ(A)尾部の付加である。該ポリ(A)尾部は複数のアデノシン一リン酸からなり、言い換えると、該ポリ(A)尾部はアデニン塩基のみを有する一続きのRNAである。該ポリ(A)尾部はmRNAの核外輸送、翻訳、および安定性にとって重要である。ポリアデニル化シグナルの包含は、それ故に、前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子の発現を増強することができる。
【0217】
適切なポリアデニル化シグナルとしては、初期SV40ポリアデニル化シグナル(SV40pA)、ニワトリβ-グロビンポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(bGH)、または可溶性ニューロピリン-1ポリアデニル化シグナルが挙げられる。幾つかの実施形態では、該ポリアデニル化シグナルは、初期SV40ポリアデニル化シグナル(SV40pA)またはニワトリβ-グロビンポリアデニル化シグナルである。好ましくは、該ポリアデニル化シグナルは初期SV40ポリアデニル化シグナル(SV40pA)である。
【0218】
適切には、前記ポリアデニル化シグナルは、配列番号28、または配列番号28と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい(
図3にも示す)。適切には、該バリアントは、配列番号28と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0219】
例示的bGHポリ(A)シグナル配列(配列番号28):
【0220】
適切には、前記ポリアデニル化シグナルは、配列番号29、または配列番号29と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。適切には、該バリアントは、配列番号29と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0221】
例示的可溶性ニューロピリン-1ポリアデニル化シグナル(配列番号29XX):
aaataaaatacgaaatg
【0222】
適切には、前記ポリアデニル化シグナルは、配列番号30、または配列番号30と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。適切には、該バリアントは、配列番号30と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0223】
【0224】
適切には、前記ポリアデニル化シグナルは、配列番号41、または配列番号41と少なくとも70%同一であるバリアントとして示されるヌクレオチド配列を含むかまたは該ヌクレオチド配列から構成されていてもよい。適切には、該バリアントは、配列番号41と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であってもよい。
【0225】
例示的ニワトリβ-グロビンポリアデニル化シグナル(配列番号41)
【0226】
逆方向末端反復配列
前記ウイルスベクターは、該ベクターの両端に逆方向末端反復(ITR)配列をさらに含んでいてもよい。例えば、該ベクターの構造は、順番に以下、すなわちITR-プロモーター-導入遺伝子(任意でタンパク質タグを有する)-任意のWRPE-ポリアデニル化シグナル-ITRであってもよい。
【0227】
前記ITRはプロモーターとして機能する場合がある(Flotte, T.R., ら 1993. Journal of Biological Chemistry, 268(5), pp.3781-3790)。
【0228】
典型的には、AAVゲノムは、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)、好ましくは2つ以上のITR、例えば2つのITRまたはそれ以上を含む。該ITRの1つ以上が、異なる血清型を有するAAVゲノムに由来していてもよいし、またはキメラもしくは変異ITRであってもよい。好適な変異ITRは、trs (末端分離部位(terminal resolution site))の欠失を有するものである。この欠失により該ゲノムの連続複製を可能にすることで、コード配列および相補配列を共に含有する一本鎖ゲノム、すなわち自己相補的AAVゲノムを作製する。これにより、標的細胞におけるDNA複製の回避が可能となり、そのため導入遺伝子の発現を加速させることができる。しかし、scAAVの最大パッケージング容量は減少する。適切には、該AAVゲノムはscAAVゲノムではない。
【0229】
前記AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型、分離株もしくはクレードからの1つ以上のITR配列またはそのバリアントを含んでいてもよい。該AAVゲノムは、少なくとも1つ、例えば2つの、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、もしくはAAV11 ITR、またはそのバリアントを含んでいてもよい。適切には、該AAVゲノムは、少なくとも1つ、例えば2つの、AAV2 ITRを含んでいてもよい。
【0230】
1つ以上のITRを含めることは、例えば宿主細胞のDNAポリメラーゼの作用による一本鎖ベクターDNAの二本鎖DNAへの変換後に、宿主細胞の核における前記AAVベクターのコンカテマー形成を補助するために好ましい。かかるエピソームコンカテマーの形成は、該宿主細胞の寿命期間中は該AAVベクターを保護し、それによりin vivoでの導入遺伝子の長期発現を可能にする。
【0231】
適切には、ITRエレメントは、誘導体において天然AAVゲノムから保持されている唯一の配列である。誘導体は、好ましくは、該天然ゲノムのrepおよび/またはcap遺伝子ならびに該天然ゲノムの任意の他の配列を含まない。これは、上記の理由から、また宿主細胞ゲノム中にベクターが組み込まれる可能性を低下させるためにも、好ましい。さらに、該AAVゲノムのサイズを縮小することで、該ベクター内に導入遺伝子だけでなく他の配列要素(例えば、調節エレメント)を組み入れる際の柔軟性を高めることができる。
【0232】
バリアント、誘導体、類似体、相同体および断片
本明細書中で記述した具体的なタンパク質およびヌクレオチドに加えて、本発明はそのバリアント、誘導体、相同体および断片もまた包含する。
【0233】
本発明との関連において、任意の所与の配列の「バリアント」とは、特定配列の残基(アミノ酸残基か核酸残基かにかかわらず)が、当該ポリペプチドまたはポリヌクレオチドがその内因性機能のうちの少なくとも1つを保持するような様式で改変されている配列である。バリアント配列は、天然に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチド中に存在する少なくとも1つの残基の付加、欠失、置換、改変、交換および/または変異により取得することができる。例えば、バリアントプロモーター配列は、該配列を取得した元のプロモーター配列の活性および特異性を少なくともある程度保持する。
【0234】
本発明のタンパク質またはポリペプチドに関して本明細書中で使用する用語「誘導体」は、結果として生じるタンパク質またはポリペプチドがその内因性機能のうちの少なくとも1つを保持する場合に限り、その配列から、またはその配列に対する1つ(またはそれ以上)のアミノ酸残基の任意の置換、変異、改変、交換、欠失および/または付加を含む。
【0235】
典型的には、アミノ酸置換は、改変された配列が所要の活性または能力を保持する場合に限り、例えば1、2または3個から10または20個の置換を行ってもよい。アミノ酸置換は、天然に存在しない類似体の使用を含んでいてもよい。
【0236】
本発明において使用するタンパク質もまた、サイレント変化を生じかつ機能的に同等のタンパク質をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入または置換を有していてもよい。計画的なアミノ酸置換を、内因性機能が保持される限りは、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性および/または両親媒性の性質の類似度に基づいて行ってもよい。例えば、負荷電アミノ酸としてアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正荷電アミノ酸としてリジンおよびアルギニンが挙げられ、また同様の親水性値を有する非荷電極性頭部を持つアミノ酸としてアスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニンおよびチロシンが挙げられる。
【0237】
保存的置換は、例えば下記表に従って行ってもよい。2列目の同じ欄、および好ましくは3列目の同じ行に記載のアミノ酸は、互いに置換しうる:
【0238】
【0239】
本明細書中で使用する用語「相同体(ホモログ)」は、野生型アミノ酸配列または野生型ヌクレオチド配列との一定の相同性を有するバリアントを意味する。該用語「相同性」は、「同一性」と同一視することができる。
【0240】
この文脈において、相同配列は、対象配列と少なくとも50%、55%、65%、75%、85%または90%同一、好ましくは少なくとも95%、96%または97%または98%または99%同一でありうるアミノ酸配列を含むものとみなされる。典型的には、相同体は、対象アミノ酸配列と同じ活性部位などを含む。相同性は類似性(すなわち、類似した化学的性質/機能を有するアミノ酸残基)の観点から考えることもできるが、本発明との関連においては配列同一性の観点から相同性を表現することが好ましい。
【0241】
この文脈において、相同配列は、対象配列と少なくとも50%、55%、65%、75%、85%または90%同一、好ましくは少なくとも95%、96%または97%または98%または99%同一でありうるヌクレオチド配列を含むものとみなされる。相同性は類似性の観点から考えることもできるが、本発明との関連においては配列同一性の観点から相同性を表現することが好ましい。
【0242】
好ましくは、本明細書中に詳述した配列番号のうちの任意の1つに対して同一性パーセントを示す配列に言及する場合は、言及された該配列番号の完全長にわたってその記載された同一性パーセントを示す配列を指す。
【0243】
相同性比較は、目測で、またはより通常には、容易に入手可能な配列比較プログラムを採用して実行することができる。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列間の相同性または同一性パーセントを算出することができる。
【0244】
相同性パーセントを連続した配列にわたり算出してもよく、すなわち、一方の配列を他方の配列と整列させてから、一方の配列中の各アミノ酸またはヌクレオチドを、他方の配列中の対応するアミノ酸またはヌクレオチドと、一度に1残基ずつ直接比較する。これは「ギャップなし」アラインメントと称される。典型的には、かかるギャップなしアラインメントは、比較的少数の残基に対してのみ実施される。
【0245】
これは非常に簡便でありかつ一貫する方法であるが、該方法は、例えば、その他の点で同一の配列ペアにおいて、アミノ酸またはヌクレオチド配列における1つの挿入または欠失がそれ以降の残基またはコドンをアラインメントから締め出し、ひいては大域的アラインメントを実施した場合に相同性パーセントの大幅な減少をもたらす可能性がありうることを考慮していない。その結果として、大抵の配列比較法は、総合的な相同性スコアに過度にペナルティを課すこと無く可能性のある挿入および欠失を考慮した最適なアラインメントを生成するように設計される。これは、局所的相同性を最大化しようと試みる目的で、配列アラインメント中に「ギャップ」を挿入することにより達成される。
【0246】
しかし、これらのより複雑な方法は、同数の同一アミノ酸またはヌクレオチドに関して、2つの比較した配列間のより高い関連性を反映する、できる限り少ないギャップを含む配列アラインメントが、多数のギャップを含むものより高いスコアを獲得するように、アラインメント中に生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を割り当てる。典型的には、ギャップの存在に比較的高いコストを設定しかつ該ギャップ中のその後の各残基により小さいペナルティを設定する「アフィンギャップコスト」を使用する。これは最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティは当然ながら、より少ないギャップを含む最適化されたアラインメントを生じる。大抵のアラインメントプログラムは、ギャップペナルティを変更できる。しかし、配列比較のためにかかるソフトウェアを使用する場合には、デフォルト値を使用することが好ましい。例えばGCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合、アミノ酸配列に対するデフォルトのギャップペナルティは、ギャップに対しては-12、各伸長に対しては-4である。
【0247】
最大相同性パーセントの算出は、従って、ギャップペナルティを考慮した最適なアラインメントの作成を最初に必要とする。かかるアラインメントを実行するための適切なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, USA;Devereux ら (1984) Nucleic Acids Research 12: 387)である。配列比較を実施できる他のソフトウェアの具体例としては、限定するものではないが、BLASTパッケージ(Ausubel ら (1999) ibid - Ch. 18を参照されたい)、FASTA (Atschul ら (1990) J. Mol. Biol. 403-410)、EMBOSS Needle (Madeira, F.,ら、2019. Nucleic acids research, 47(W1), pp.W636-W641)およびGENEWORKSスイートの比較ツールが挙げられる。BLASTおよびFASTAは共に、オフラインおよびオンライン検索に利用可能である(Ausubel ら (1999) ibid, pages 7-58 to 7-60を参照されたい)。しかし、一部のアプリケーションに関しては、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。別のツールであるBLAST 2 Sequencesもまた、タンパク質およびヌクレオチド配列を比較するために利用可能である (FEMS Microbiol. Lett. (1999) 174(2):247-50;FEMS Microbiol. Lett. (1999) 177(1):187-8)。
【0248】
最終的な相同性パーセントは同一性の観点から測定できるが、そのアラインメントプロセスそれ自体は、典型的には全か無かの(all-or-nothing)ペア比較に基づくものではない。代わりに、化学的類似性または進化距離に基づいて各ペアワイズ比較に対しスコアを割り当てる、スケールを用いる(scaled)類似性スコアマトリックスを通常は使用する。一般的に用いられるかかるマトリックスの1例は、BLOSUM62マトリックス(BLASTスイートのプログラム用のデフォルトマトリックス)である。GCG Wisconsinプログラムは、通常はパブリックデフォルト値または提供されていればカスタムシンボル比較表のいずれかを使用する(さらなる詳細についてはユーザーマニュアルを参照されたい)。一部のアプリケーションに関しては、GCGパッケージ用のパブリックデフォルト値を使用することが好ましく、または他のソフトウェアの場合は、BLOSUM62などのデフォルトマトリックスを使用することが好ましい。
【0249】
前記ソフトウェアにより最適なアラインメントが生成されれば、相同性パーセント、好ましくは配列同一性パーセントを算出することができる。該ソフトウェアは、典型的には配列比較の一環としてこれを行い、数値結果を作成する。配列同一性パーセントは、言及した配列番号中の総残基に占める割合としての、同一残基の数として算出してもよい。
【0250】
「断片」はバリアントでもあり、またこの用語は典型的には、機能的に、または、例えばアッセイにおいて関心のあるポリペプチドまたはポリヌクレオチドの選択された領域を指す。「断片」は従って、全長ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの一部であるアミノ酸または核酸配列を指す。
【0251】
かかるバリアント、誘導体、相同体および断片は、部位特異的突然変異誘発などの標準的な組換えDNA技術を利用して調製してもよい。挿入物を作製する場合、挿入部位の両側の天然に存在する配列に対応する5’および3’隣接領域と共に該挿入物をコードする合成DNAを作製してもよい。該隣接領域は、天然に存在する配列が適当な酵素(複数可)により切断されかつ該合成DNAが切断部に連結されるように、該配列中の部位に対応する好都合な制限部位を含有するだろう。該DNAはその後、コードされるタンパク質を作製するために本発明に従って発現される。これらの方法は、DNA配列の操作のための当分野で公知の数多くの標準技術の例示に過ぎず、他の公知技術を使用することもできる。
【0252】
細胞
ある態様では、本発明は、本発明のウイルスベクターを含む細胞を提供する。該細胞は単離された細胞であってもよい。該細胞はヒト細胞、適切には単離されたヒト細胞であってもよい。
【0253】
前記ウイルスベクターは、当分野で公知の様々な技術、例えばトランスフェクション、形質導入および形質転換を利用して細胞に導入してもよい。適切には、本発明のベクターを、トランスフェクションまたは形質導入により細胞に導入する。
【0254】
前記細胞は、先行技術において公知である任意の細胞型でありうる。
【0255】
適切には、前記細胞はプロデューサー細胞であってもよい。用語「プロデューサー細胞」は、ウイルス粒子を産生するのに必要な全ての要素の一過性トランスフェクション、安定したトランスフェクションもしくはベクター形質導入後に該ウイルス粒子を産生する細胞、またはウイルス粒子を産生するのに必要な要素を安定して含むよう操作された任意の細胞を含む。適切なプロデューサー細胞は当業者に周知であろう。適切なプロデューサー細胞系としては、HEK293 (例えばHEK293T)、HeLa、およびA549細胞系が挙げられる。
【0256】
適切には、前記細胞はパッケージング細胞であってもよい。用語「パッケージング細胞」は、感染性組換えウイルスをパッケージングするために必要な要素の一部または全てを含有する細胞を含む。該パッケージング細胞は、組換えウイルスベクターゲノムが欠損していてもよい。典型的には、かかるパッケージング細胞は、ウイルスの構造タンパク質を発現する能力を有する1つ以上のベクターを含有する。エンベロープウイルス粒子の産生に必要とされる要素の一部のみを含む細胞は、その後のさらなる所要の要素それぞれの一過性トランスフェクション、形質導入または安定した組み込みのステップを通して、ウイルス粒子プロデューサー細胞系の作製における中間反応物として有用である。これらの中間反応物は、前記用語「パッケージング細胞」に包含される。適切なパッケージング細胞は当業者に周知であろう。
【0257】
適切には、前記細胞は、腎臓細胞または糸球体細胞、例えば足細胞であってもよい。適切には、該細胞は、不死化した腎臓細胞または糸球体細胞、例えば不死化足細胞であってもよい。適切な足細胞系、例えばCIHP-1は当業者に周知であろう。不死化足細胞を作製するための方法は当業者に周知であろう。適切な方法は、Ni, L.,ら、2012. Nephrology, 17(6), pp.525-531に記載されている。
【0258】
上記の通り、ウイルスベクターに言及することにより前記細胞を記載してきたが、ウイルスベクター遺伝子治療を代替的に利用しうることは理解されよう。
【0259】
アルポート症候群を処置または予防するための方法
ある態様では、本発明は、医薬として使用するための本発明によるウイルスベクター、細胞または医薬組成物を提供する。
【0260】
ある態様では、本発明は、医薬の製造における本発明によるウイルスベクター、細胞または医薬組成物の使用を提供する。
【0261】
ある態様では、本発明は、本発明によるウイルスベクター、細胞または医薬組成物を、その必要がある対象に投与する方法を提供する。
【0262】
ある態様では、本発明は、アルポート症候群の予防または処置に使用するための本発明によるウイルスベクター、細胞または医薬組成物を提供する。
【0263】
ある態様では、本発明は、アルポート症候群を予防または処置するための医薬の製造のための、本発明によるウイルスベクター、細胞または医薬組成物の使用を提供する。
【0264】
ある態様では、本発明は、本発明によるウイルスベクター、細胞または医薬組成物をその必要がある対象に投与することを含む、アルポート症候群を予防または処置する方法を提供する。
【0265】
標的とする足細胞のウイルスによるCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5遺伝子治療は、AS患者の糸球体基底膜を変化させて、少なくとも部分的に正常化しうる。かかる構築物が糸球体基底膜に及ぼす構造的影響を、in vitroで野生型およびアルポート症候群の足細胞のヒトスフェロイドモデルを使用して試験してもよい。該スフェロイドモデルを、糸球体基底膜の組成の変化について調べてもよい。また機能検査は、チャネルを介してタンパク質透過性を測定するために使用できる、成熟糸球体基底膜を生み出すためにチャネルの片側に共培養している糸球体内皮細胞と足細胞を含むチップモデルでネフロンを使用して実施してもよい。構築物をマウスα3、もしくはα5 KOマウス、またはα4自然発生マウス変異体で試験してもよい。構築物を尾静脈注射により投与してもよく、また有効性はタンパク尿レベルおよび生存により測定されることとなる。
【0266】
本発明のウイルスベクター遺伝子治療を利用して、アルポート症候群(AS)を処置または予防することができる。AS患者は、典型的には血尿を呈し、これはタンパク尿に進行する場合がある。血尿は、顕微鏡で検査した際の尿中の赤血球の存在により判定できる。30 mg/日未満の基礎微量アルブミン尿レベルは、通常は非病的とみなされる。約30 mg/日~約300 mg/日のレベルは微量アルブミン尿と呼ばれ、病的とみなされる。300 mg/日を超えるアルブミンレベルは顕性アルブミン尿と呼ばれ、また3.5 g/日を超えるタンパク尿のレベルはネフローゼ域のタンパク尿であるとみなされる。本発明のウイルスベクターにより処置する患者は、血尿、微量アルブミン尿、顕性アルブミン尿またはネフローゼ域のタンパク尿を示す場合がある。
【0267】
タンパク尿を発症する前の患者の処置は、タンパク尿の進行を遅らせるかまたは予防し、それによって末期腎不全を遅延させるかまたは予防しうる。ネフローゼ域のタンパク尿を呈する患者を同様に処置してもよい。糸球体基底膜のコラーゲンIVα345ネットワークが前記導入遺伝子により変更および正常化または修復されるので、タンパク尿レベルは遺伝子治療処置後に次第に低下するはずである。
【0268】
前記患者は、さらに、または代わりに、COL4A3、COL4A4またはCOL4A5の病原性バリアントの検査で陽性を示し得る。COL4A3およびCOL4A4の病原性バリアントは、ヘテロ接合性(常染色体優性)、または両アレル性(常染色体劣性)でありうる。COL4A5の病原性バリアントはヘミ接合性またはヘテロ接合性(X連鎖型)である。該患者は、好ましくは、該患者がその病原性バリアントを有する遺伝子(複数可)に対応する導入遺伝子を含む、1つ以上のウイルスベクターで処置する。例えば、病原性COL4A5バリアントを持つ患者を、COL4A5導入遺伝子を含むウイルスベクターで処置することができる。該患者は、COL4A3、COL4A4またはCOL4A5のうちの2つ以上の病原性バリアントの検査で陽性を示し得る。かかる患者は、異なる導入遺伝子を含む2つ以上のウイルスベクター、すなわち、該患者がその病原性バリアントを有する遺伝子に対応する導入遺伝子を含む、各ウイルスベクターで処置してもよい。
【0269】
特に、前記患者は、典型的にはCOL4A5の病原性バリアントと関連するX染色体連鎖型ASを有し得る。
【0270】
本明細書中で使用する用語「患者」は、ヒトを含む任意の哺乳動物を含んでいてもよい。該患者は成人または小児患者、例えば新生児または乳児であってもよい。該患者は男性または女性であってもよい。該患者はX染色体連鎖型ASを患う男性患者、特に青年期の男性患者であってもよい。
【0271】
本発明によるウイルスベクター、細胞または医薬組成物は、非経口的に、例えば、静脈内に、または注入技術により投与してもよい。該ベクター、細胞または医薬組成物は、他の物質、例えば、血液と等張の溶液を作製するのに十分な塩類またはグルコースを含有しうる滅菌水溶液の形で投与してもよい。該水溶液は、適切には、(好ましくはpH 3~9に)緩衝されていてもよい。該医薬組成物は適宜製剤化されていてもよい。無菌条件下での適切な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な製薬技術により容易に達成される。
【0272】
前記ウイルスベクター、細胞または医薬は、静脈内注射などにより全身投与してもよい。
【0273】
本発明によるウイルスベクター、細胞または医薬組成物は、例えば投与を腎臓に標的化することにより、局所投与してもよい。適切には、該ウイルスベクター、細胞または医薬組成物は、腎動脈内への注射により、または尿管もしくは被膜下注射により投与してもよい。本発明の実施形態では、該ウイルスベクターを腎動脈内への注射により投与してもよい。本発明の代替的実施形態では、該ウイルスベクターを逆行性投与により、例えば、尿路カテーテルを使用して尿管経由で投与してもよい。
【0274】
前記ウイルスベクター、細胞または医薬組成物は単回投与として投与してもよく、言い換えると、該ベクターのその後の投与が必要とされなくてもよい。反復投与が必要とされる場合には、異なるウイルス血清型を該ベクターに使用することができる。例えば、初回投与に使用するベクターはAAV-LK03またはAAV-3Bを含んでいてもよいが、その後の投与に使用する該ベクターはAAV 2/9を含んでいてもよい。
【0275】
前記ウイルスベクター、細胞または医薬組成物は、様々な用量(例えばベクターゲノム(vg)/kgで測定)で投与してもよい。いずれにせよ、医師が任意の個々の対象にとって最も適切であろう実際の投与量を決定するだろうし、該投与量はその特定の対象の年齢、体重、および反応によって異なるだろう。しかし、典型的には、本発明のAAVベクターの場合、1010~1014 vg/kg、または1011~1013 vg/kgの用量を投与してもよい。
【0276】
場合によっては、前記ウイルスベクター、細胞または医薬組成物を、例えば、経口ステロイドと同時に、または経口ステロイドによる処置後に該ウイルスベクターを投与することにより、前記患者の一時的な免疫抑制と組み合わせて投与してもよい。免疫抑制は、該ベクターに対する該患者の免疫応答を抑制するためには遺伝子治療処置の前および/またはその最中が望ましい場合がある。しかし、AAVキャプシドは該ベクターによりコードされていないため、形質導入細胞中には一時的にしか存在しない。従って、該キャプシドは徐々に分解および除去され、このことは、キャプシド配列が該形質導入細胞から除去されるまで該キャプシドに対する免疫応答を遮断する短期免疫調節レジメンにより前記導入遺伝子の長期発現が可能となりうることを意味している。免疫抑制はそれ故に、前記遺伝子治療の投与後約6週間が望ましい場合がある。
【0277】
前記ウイルスベクター、細胞または医薬組成物はさらに、または代わりに、レニン-アンギオテンシン治療戦略、例えばアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アルドステロン拮抗薬(例えば、スピロノラクトン)またはアンギオテンシン受容体遮断薬(ARB)と組み合わせて投与してもよい。
【0278】
医薬組成物
前記ウイルスベクターは、医薬組成物の形で投与してもよい。言い換えると、該ウイルスベクターを、1つ以上の製薬上許容される担体、希釈剤および/または賦形剤と組み合わせてもよい。適切な医薬組成物は、好ましくは無菌である。
【0279】
治療用途のための許容される担体、希釈剤、および賦形剤は、製薬技術分野では周知である。製薬上の担体、賦形剤または希釈剤の選択肢は、意図する投与経路および標準的な薬務に関して選択することができる。前記医薬組成物は、該担体、賦形剤または希釈剤として、またはそれに加えて、任意の適切な結合剤(複数可)、滑沢剤(複数可)、懸濁剤(複数可)、コーティング剤(複数可)または可溶化剤(複数可)を含んでいてもよい。
【0280】
製薬上許容される担体の具体例としては、例えば、水、塩類溶液、アルコール、シリコーン、ワックス、ワセリン、植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、リポソーム、糖類、ゼラチン、乳糖、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリドおよびジグリセリド、ペトロエトラル(petroethral)脂肪酸エステル、ヒドロキシメチル-セルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0281】
前記医薬組成物は、1つ以上の他の治療薬をさらに含んでいてもよい。
【0282】
本発明は、本発明のウイルスベクター、細胞および/または医薬組成物を含むキットの使用をさらに含む。好ましくは、該キットは前記方法で使用するためのものであって、本明細書中に記載した通りに使用され、例えば、本明細書中に記載の治療方法で使用される。好ましくは、該キットは該キットの成分の使用説明書を含む。
【0283】
上記の通り、アルポート症候群を処置または予防するための方法を、ウイルスベクターに言及することにより記載してきたが、ウイルスベクター遺伝子治療を代替的に使用しうることが理解される。
【0284】
(実施例)
糸球体基底膜のコラーゲンα3α4α5 (IV)ネットワークに影響を与える疾患であるアルポート症候群には、糸球体特異的な治療戦略がない。現在、処置の中心は高血圧を標的とすることである。アルポート症候群の早期指標である糸球体濾過量の増加および微量アルブミン尿は、いずれも糸球体基底膜における変化と関連がある。コラーゲンα3α4α5 (IV)は内皮細胞ではなく足細胞により産生される。
【0285】
本研究の目的は、アルポート症候群を処置するための成功戦略を、好ましくは疾患の初期およびタンパク尿の発症前にCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5遺伝子発現を足細胞にもたらすことができるように、安全かつ奏功する遺伝子送達アプローチと組み合わせることである。
【実施例1】
【0286】
実施例1-COL4A3、COL4A4、およびCOL4A5に結合させた最小ネフリンプロモーターの設計、構築、および試験
AAV構築物の設計および構築
ミニネフリンプロモーター(「265」、該ミニネフリンプロモーターの設計、構築および試験の詳細については実施例2を参照されたい)に結合させたCOL4A3、COL4A4、およびCOL4A5を含む以下のAAVトランスファープラスミド、すなわち、
・ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4A3を含むAAVプラスミドである、pAAV.265.Col4a3.3flag.sv40(
図4A参照)
・ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4A4を含むAAVプラスミドである、pAAV.265.Col4a4.3flag.sv40(
図4B参照)
・ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4A5を含むAAVプラスミドである、pAAV.265.Col4a5.3flag.sv40(
図4C参照)
を設計および構築した。
【0287】
前記プラスミドの同一性を確認するためにSmaI消化を実施した(
図4D~Eを参照されたい)。これにより、前記265bpミニネフリンプロモーターおよびSV40ポリA尾部を含めた、AAVへのCOL4 a3、a4およびa5のクローニングの成功が示された。
【0288】
AAV構築物の試験
以下のAAVウイルスベクター、すなわち、
・LK03血清型のAAV.COL4A3.ネフリン265.Sv40
・LK03血清型のAAV.COL4A5.ネフリン265.Sv40
・2/9血清型のAAV.COL4A5.ネフリン265.Sv40
を標準法を利用して調製した。
【0289】
図5Aは、抗-FLAG抗体でプルダウンした、ヒト分化ci足細胞における全長FLAGタグ付きCol4a3 (LK03)またはCol4a5 (LK03)の免疫沈降実験を示している。抗-FLAG抗体は、Col4a3とCol4a5の両方を沈降させた。ヒト-FLAG IgGを対照として使用した。
【0290】
図5Bは、ヒトまたはマウス分化ci足細胞におけるCol4a3 (LK03キャプシド血清型)、Col4a5 (LK03)およびCol4a5 (2/9キャプシド血清型)の発現レベルを示す、タンパク質ライセートのウェスタンブロットを示している。非感染ヒトおよびマウスci足細胞を対照として使用した。
【0291】
図5Cは、ヒト野生型Ci足細胞/Col4a5 3xFlag AAV Ci足細胞における形質導入したCol4a5の免疫蛍光染色をFアクチンと共に示す共焦点像を示している。Col4a5は、野生型対応物と比較して、Col4a5 3xFlag AAVウイルスに感染したヒト分化足細胞中に細胞質ゾルレベルで存在する。
【0292】
これらの結果は、本発明者らが、前記ミニネフリンプロモーターに結合させたCOL4a3およびCOL4a5の全長をヒト足細胞に予想外に首尾良く形質導入したこと、ならびに該ミニネフリンプロモーターが該ヒト足細胞において全長COL4a3またはCOL4a5の発現を予想外に駆動することを示している。
【実施例2】
【0293】
実施例2-最小ネフリンプロモーターの設計、構築、および試験
最小ネフリンプロモーターの設計
ヒトNPHS1プロモーターは、Moeller ら 2002 J Am Soc Nephrol, 13(6):1561-7およびWong MA ら 2000 Am J Physiol Renal Physiol, 279(6):F1027‐32に記載されている。このNPHS1プロモーターは1.2kbの断片であり、また足細胞特異的であると思われる。これを以後は「FL」ネフリンプロモーターと称し、
図6Aに示す。
【0294】
まず前記FLネフリンプロモーターを切断し、N末端配列を欠失させることにより、822 bp (開始コドンを除くと819 bp)とした。これを以後は「ミディ(midi)」ネフリンプロモーターと称し、
図6Bに示す。
【0295】
前記ミディネフリンプロモーターをさらに切断し、中心領域から推定上の一般的な転写ドメインを除去することにより、268 bp (開始コドンを除くと265 bp)とした。これを以後は「ミニ」ネフリンプロモーターと称し、
図6Cに示す。
【0296】
ベクター構築物の構築
ミディネフリンプロモーター
pACE_hNPHS1プロモーターを鋳型として使用することにより、
図7Aに示すようにBamHIおよびClaI制限部位を導入した。断片をその後、pLenti GFP Blastベクターへの連結反応の前にゲル抽出し、さらにClaIおよびBamHIにより37℃で1時間消化した。連結反応物により、さらに、安定したコンピテント大腸菌(E.Coli)細胞を形質転換し、DNAを抽出してから配列決定した(ミディプロモーター)。最終的なレンチウイルスベクターを
図7Bに示す。
【0297】
ミニネフリンプロモーター
pACE_hNPHS1プロモーターを使用することにより、
図8Aに示すオーバーハング(OH)をPCRに供した。OHを含有する該プロモーターの2つのセクションを、pLenti GFP BlastベクターへのNEBuilder HiFi Assembly反応のためにゲル抽出した。次に、この連結反応物を、安定したコンピテント大腸菌(E.Coli)細胞へのその形質転換に先立って、DNAクリーンアップキットを使用して精製した。DNAを抽出してから配列決定した。最終的なレンチウイルスベクターを
図8Bに示す。
【0298】
ベクター構築物の試験
前記最小ネフリンプロモーターを使用してin vitro細胞モデルでGFPを発現させることにより、有効性および足細胞特異性をチェックした。
【0299】
pLenti GFP Blastネフリンプロモーター構築物(全長、ミディおよびミニ)を使用してHEK293T細胞を48時間トランスフェクトすることによりウイルスを作製し、これをさらに使用することで、GFPタグ付きFL NPHS1、ミディまたはミニプロモーターのいずれかを安定して発現するヒト条件的不死化足細胞を作り出した。
【0300】
条件的不死化ヒト足細胞(ci足細胞)をレンチウイルスベクターでトランスフェクトすることにより、前記最小プロモーターがGFP発現を駆動できるかどうかを判定した。前記ミディおよびミニネフリンプロモーターは共に、GFP発現を駆動することが示された。
図9は、該ミニネフリンプロモーターからのGFP発現を示す代表的な蛍光顕微鏡画像を示している。
図10は、該ミニネフリンプロモーターからのGFP発現を示す代表的なウェスタンブロットを示している。これらの結果は、該最小ネフリンプロモーターが足細胞において導入遺伝子の発現を駆動できることを示している。
【0301】
前記レンチウイルスベクターを同様に使用して、ヒト糸球体細胞に形質導入した。ci足細胞および糸球体内皮細胞に、前記ミニネフリンレポーターに結合させたGFPを含むレンチウイルスを用いて形質導入した。
図11A~Cは、Novocyte Analyserを利用して条件的不死化ヒト足細胞(LY)および糸球体内皮細胞(GEnC)の全てのライブシングレット(live singlets)のGFP蛍光中央値(AFU)を表示したFACS解析を示している。非形質導入細胞(細胞対照)を、前記全長ヒトネフリンプロモーター(hNPHS1.GFP)または前記ミニヒトネフリンプロモーター(265.GFP)により制御されるGFP発現カセットを含むレンチウイルス構築物で形質導入した細胞と比較した。全細胞を10日間分化させて、トリプシン処理(100μL)してからPBS、2%FBS、1:1000 DRAQ7 (150μL)で希釈した。データおよびエラーバーは、3回の技術的反復を表している(100μL、>2500個の細胞)±SEM。これらの結果は、糸球体内皮細胞と比較した場合の、前記最小ネフリンプロモーターに関する足細胞特異性を示している。
【実施例3】
【0302】
実施例3-足細胞標的化遺伝子治療
本発明者らは、アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用してヒトおよびマウス足細胞における標的化遺伝子送達系を開発した(PCT/GB2020/050097を参照されたい)。足細胞特異的プロモーター(ネフリン)を使用すると、AAV血清型2/9はin vivoで足細胞に首尾良く感染し、ポドシン発現を誘導した。ポドシンをCre-Loxp系(NPHS2fl/fl)を使用してノックダウンした動物ではタンパク尿が生じ、AAV処置はポドシン発現を首尾良く回復させてタンパク尿を改善した。さらに、本発明者らは、同一プロモーターを使用して、ヒト足細胞へのAAV LK03によるGFPの効率的(AAV2/9より優れた効率)かつ特異的な形質導入を示した。
【0303】
参考文献
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【0304】
実施形態
本発明の様々な特徴および実施形態を、以下の番号を付けた項を参照してここに記載する。
【0305】
1.ウイルスベクター遺伝子治療であって、該ウイルスベクターが以下、すなわち
COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子、および
任意の足細胞特異的プロモーター
を含む、該ウイルスベクター遺伝子治療。
【0306】
2.前記足細胞特異的プロモーターが、最小ネフリンプロモーターNPHS1またはポドシンプロモーターNPHS2である、項1記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【0307】
3.前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)である、項1または2記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【0308】
4.前記AAVベクターがAAV血清型2/9、LK03または3Bである、項3記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【0309】
5.前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子がミニ遺伝子である、項1~4のいずれか1つに記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【0310】
6.前記遺伝子治療が以下、すなわち、
COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子の少なくとも一部を含む第1ウイルスベクター、および
任意の足細胞特異的プロモーター、および
対応するCOL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子の少なくとも一部を含む第2ウイルスベクター、および
任意の足細胞特異的プロモーター
を含む、項1~4のいずれか1つに記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【0311】
7.前記ウイルスベクターがウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)をさらに含む、項1~6のいずれか1つに記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【0312】
8.前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子がヒトである、および/または赤血球凝集素(HA)タグを含む、項1~7のいずれか1つに記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【0313】
9.前記ウイルスベクターが、前記プロモーターと前記COL4A3、COL4A4またはCOL4A5導入遺伝子との間にコザック配列をさらに含む、項1~8のいずれか1つに記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【0314】
10.前記ウイルスベクターが、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナルなどのポリアデニル化シグナルをさらに含む、項1~9のいずれか1つに記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【0315】
11.アルポート症候群の処置または予防における使用のための、項1~10のいずれか1つに記載のウイルスベクター遺伝子治療。
【0316】
12.前記ウイルスベクター遺伝子治療がヒト患者に投与される、項11記載の使用のためのウイルスベクター遺伝子治療。
【0317】
13.前記ウイルスベクター遺伝子治療が全身投与される、項11または12記載の使用のためのウイルスベクター遺伝子治療。
【0318】
14.前記ウイルスベクター遺伝子治療が静脈内注射により投与される、項11~13のいずれか1つに記載の使用のためのウイルスベクター遺伝子治療。
【0319】
15.前記ウイルスベクター遺伝子治療が腎動脈内への注射により投与される、項11~14のいずれか1つに記載の使用のためのウイルスベクター遺伝子治療。
【配列表】
【国際調査報告】