IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティ・オブ・ジ・ウィトウォーターズランド・ヨハネスブルクの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-27
(54)【発明の名称】アルカリ金属四元系ナノ物質
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0352 20060101AFI20230420BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20230420BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20230420BHJP
   C01B 19/00 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
H01L31/04 342A
H01G9/20 115A
C01G19/00 A
C01B19/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554541
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(85)【翻訳文提出日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 IB2021052050
(87)【国際公開番号】W WO2021181334
(87)【国際公開日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】2020/01521
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ZA
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507198875
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・ジ・ウィトウォーターズランド・ヨハネスブルク
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF THE WITWATERSRAND, JOHANNESBURG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】モロト,ノシフォ
(72)【発明者】
【氏名】ムビアイ,カレンガ
(72)【発明者】
【氏名】ングベニ,グレイス
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA07
5F151AA14
5F151CB13
5F151CB14
5F151CB24
5F151FA06
5F151GA03
(57)【要約】
本開示は、一般式A:I‐II‐IV‐VI(式中、Iはナトリウム(Na)またはリチウム(Li)であり、IIおよびIVはZnまたはSnであり、VIは硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)からなる群から選択されるカルコゲンである。)を有する、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質に関する。アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の結晶相は、単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)であってもよく、空間群:
を有していてもよい。ナノ物質は、太陽電池を提供するように適合されてもよい。製造方法も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質であって、
一般式A:
‐II‐IV‐VI
(式中、Iが、ナトリウム(Na)またはリチウム(Li)であり、
IIおよびIVが、遷移金属であり、
VIが、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)から成る群から選択されるカルコゲンである。)
を有し、
前記結晶性ナノ物質の結晶相が、亜鉛黄錫鉱および/または黄錫鉱ではない、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質。
【請求項2】
前記ナノ物質の結晶相が単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)であり、前記ナノ物質が空間群:
を有する、請求項1に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質。
【請求項3】
前記ナノ物質がLiZnSnSe(LZTSe)であるように、式Aにおいて、IがLi、IIがZn、IVがSn、VIがSeであり、
前記ナノ物質の結晶相が単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)であり、
前記ナノ物質が空間群:
を有する、請求項2に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質。
【請求項4】
前記ナノ物質がNaZnSnSe(NZTSe)であるように、式Aにおいて、IがNa、IIがZn、IVがSnおよびVIがSeであり、
前記ナノ物質の結晶相が単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)であり、
前記ナノ物質が空間群:
を有する、請求項2に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質。
【請求項5】
前記ナノ物質がLiZnSnS(LZTS)であるように、式Aにおいて、IがLi、IIがZn、IVがSn、VIがSであり、
前記ナノ物質の結晶相が単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)であり、
前記ナノ物質が空間群:
を有する、請求項2に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質。
【請求項6】
前記ナノ物質がNaZnSnS(NZTS)であるように、式Aにおいて、IがNa、IIがZn、IVがSn、VIがSであり、
前記ナノ物質の結晶相が単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)であり、
前記ナノ物質が空間群:
を有する、請求項2記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質。
【請求項7】
太陽光電池を提供するように適合されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質。
【請求項8】
一般式A:I‐II‐IV‐VIを有するアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の化学合成方法であって、
硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)から成る群から選択されるVIを選択し、不活性条件下で両親媒性キャッピング剤中に溶解して、第1の溶液を形成する工程、
溶媒を還流下で約75℃~約120℃、好ましくは約100℃に加熱して、第2の溶液を形成する工程、
前記第1および第2の溶液を混合し、約120℃~約220℃、好ましくは約200℃に加熱して、第3の溶液を形成する工程、
CuCl、LiCl、Li(acac)、LiSおよびNaClから成る群のうちの少なくとも1つを両親媒性キャッピング剤中に溶解して、第4の溶液を形成する工程、
前記第4の溶液を前記第3の溶液に加えて、第5の溶液を形成する工程、
塩化亜鉛および塩化錫の少なくとも1つを第5の溶液に加えて、第6の溶液を形成する工程、並びに
前記第6の溶液を約120℃~約220℃、好ましくは約200℃で30分~2時間、好ましくは1時間加熱したままにする工程
を含む、化学合成方法。
【請求項9】
凝集剤、好ましくはアルコールを添加する工程を更に含む、請求項8に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の化学合成方法。
【請求項10】
前記キャッピング剤が、ヘキサデシルアミン、オレイン酸、トリオクチルホスフィンオキシド、およびオレイルアミンから成る群から選択される1つである、請求項8または9に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の化学合成方法。
【請求項11】
過剰なキャッピング剤を洗い流す工程を更に含む、請求項8~10のいずれか1項に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の化学合成方法。
【請求項12】
前記溶媒が、ヘキサデシルアミン、オレイン酸、トリオクチルホスフィンオキシド、およびオレイルアミンから成る群から選択される1つである、請求項8~11のいずれか1項に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の化学的合成方法。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質を適用した基板を含む太陽電池。
【請求項14】
前記基板がモリブデン被覆ガラスである、請求項13に記載の太陽電池。
【請求項15】
CdS、ZnOまたはAlコーティングを更に含む、請求項13に記載の太陽電池。
【請求項16】
(i)溶媒、好ましくはトルエン中の請求項1~7のいずれか1項に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の溶液を提供すること、
(ii)前記アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の溶液を、モリブデン被覆ガラス基板にコーティング、好ましくはスピンコーティングして、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質被覆基板を形成すること、
(iii)アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質被覆基板を約60℃~80℃で乾燥する工程、
(iv)溶媒、好ましくはトルエン中のCdSの溶液を提供すること、
(v)CdS溶液で乾燥アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質被覆基板をコーティング、好ましくはスピンコーティングして、CdS被覆基板を提供すること、および
(vi)前記CdS被覆基板上にZnOをコーティング、好ましくはスピンコーティングすること
を含む、請求項15に記載の太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
アフリカおよび発展途上国の状況において、正式な電気グリッドに接続されていない農村部およびインフォーマルな居住地における一定かつ信頼できる電力供給の提供は、依然として一定の課題である。特に、照明の供給は大きな課題であることが多い。
【0003】
適切なインフラがないため、多くの場合、ろうそくや灯油ランプを使用する必要がある。そのため、安全面や健康面でリスクがある。この問題を改善するために、革新的で費用対効果の高いソリューションが求められている。
【0004】
太陽電池による電力供給は、電力へのアクセスを向上させ、安定した電力供給を実現するために、広く研究されている。特に重要なのは、比較的小さなサイズのソーラーパネルで、効果的かつ安価に製造でき、遠隔地にも容易に持ち運びができ、信頼性の高い電力供給ができることである。近年、薄膜太陽電池は効率的な太陽電池として研究されている。
【0005】
特に、一般式I‐II‐IV‐VIを有する亜鉛黄錫鉱(またはケステライト;kesterite)系の構造体など、四元系材料が有望視されている。亜鉛黄錫鉱系の薄膜太陽電池の効率は最大で12.6%であったが、低迷を続けている。
【0006】
既存の亜鉛黄錫鉱系薄膜太陽電池の主要な技術的課題は、開放電圧(Voc)不足である。Voc不足は、結晶構造内に多くの欠陥や無秩序が存在することである。これらは吸収体の電子バンド構造に影響を与え、その結果、太陽光発電の変換効率に限界が生じる。他の四元系材料も合成されているが、亜鉛黄錫鉱系の構造を維持することが有利であり、黄錫鉱ベースの構造など他の構造より優れていることが示されている。
【0007】
一般的に、亜鉛黄錫鉱中の遷移金属に注目が集まっており、CuZnSnSe(CZTSe)などの銅含有亜鉛黄錫鉱が代表的である。遷移金属化学は非常に特殊であり、亜鉛黄錫鉱系の構造が別の結晶形態に変化することを避けるために、亜鉛黄錫鉱の先行技術のバリエーションは、記載された制限的非効率を改善するために、他の金属の最小限のドーピングを含むだけであった。しかしながら、過剰なドーピングは、効率に悪影響を与える空間群の変化を引き起こす危険性があった。亜鉛黄錫鉱は、使用時にその物理化学的特性を促進する特異な充填配置を有する空間群:
に属する。先行技術では、特定の結晶相が使用効率を提供することが示されているため、亜鉛黄錫鉱結晶相を変更することの阻害要因となる。
【0008】
更に、四元系材料の既知の合成方法は、過酷な合成条件を使用し、再現が困難であり、一旦合成されると、溶液ベースの合成技術を必要とする四元系太陽電池の製造方法に適合するようにコンパクト化することはできない。
【0009】
太陽電池や持続可能なエネルギー経済で使用するための新しい革新的なナノ物質が必要とされている。また、より過酷でなく、より費用対効果が高く、より時間のかからない合成法も必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本開示の第1の態様によれば、一般式A:
‐II‐IV‐VI
を有するアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質(またはナノマテリアル)が提供され、
式中、Iは、ナトリウム(Na)またはリチウム(Li)であってもよく、
IIおよびIVは遷移金属であってもよく、
VIは、硫黄(S)、セレン(Se)またはテルル(Te)を含むカルコゲンであってよく、
そして、結晶性ナノ物質の結晶相は、亜鉛黄錫鉱および/または黄錫鉱(またはスタンナイト;stannite)であってはならない。
【0011】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の結晶相が、単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA;primitive mixed Cu-Au like structure)(空間群:
を有する)であってもよい。
【0012】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質がLiZnSnSe(LZTSe)であってもよいように、式Aにおいて、IがLiであってもよく、IIがZnであってもよく、IVがSnであってもよく、VIがSeであってもよく、上記ナノ物質の結晶相は単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)であってよく、上記ナノ物質は空間群:
を有していてもよい。
【0013】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質がNaZnSnSe(NZTSe)であってよいように、式Aにおいて、IがNaであってもよく、IIがZnであってもよく、IVがSnであってもよく、VIがSeであってもよく、上記ナノ物質の結晶相が単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)であってよく、上記ナノ物質が空間群:
を有していてもよい。
【0014】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質がLiZnSnS(LZTS)であってよいように、式Aにおいて、IがLiであってもよく、IIがZnであってもよく、IVがSであってもよく、VIがSであってよく、上記ナノ物質の結晶相が単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)であってよく、上記ナノ物質が空間群:
を有していてもよい。
【0015】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質はNaZnSnS(NZTS)であってもよいように、式Aにおいて、IがNaであってもよく、IIがZnであってもよく、IVがSnであってもよく、VIがSであってもよく、上記ナノ物質の結晶相は単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)であってよく、上記ナノ物質は空間群:
を有していてもよい。
【0016】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、LiZnSnSe(LZTSe)であってよく、結晶相は、亜鉛黄錫鉱および/または黄錫鉱でなくてもよく、単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)(空間群:
を有する)であってもよい。
【0017】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、NaZnSnSe(NZTSe)であってよく、結晶相は、亜鉛黄錫鉱および/または黄錫鉱でなくてもよく、単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)(空間群:
を有する)であってもよい。
【0018】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、LiZnSnS(LZTS)であってよく、結晶相は、亜鉛黄錫鉱および/または黄錫鉱でなくてもよく、単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)(空間群:
を有する)であってもよい。
【0019】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、NaZnSnS(NZTS)であってよく、結晶相は、亜鉛黄錫鉱および/または黄錫鉱でなくてもよく、単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)(空間群:
を有する)であってもよい。
【0020】
本開示によるアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、ナノ粒子として提供されてもよい。
【0021】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、太陽光発電セルを提供するように適合されてもよい。
【0022】
本出願人は、結晶相が亜鉛黄錫鉱または黄錫鉱ではない、一般式Aのアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質を提供することに驚いた。本開示のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の独特の固体状態の性質は、強化された物理化学的特性を提供する。理論に限定されることなく、強化された物理化学的特性は、本明細書中に記載のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の独特の結晶構造、および/またはサイズおよび/または形態によって促進される量子閉じ込め効果に起因している可能性がある。
【0023】
本開示の第2の態様によれば、本開示の第1の態様に記載の一般式Aを有するアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の化学合成方法が提供され、本方法は、
硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)から成る群から選択されるVIを不活性条件下で両親媒性キャッピング剤中に溶解して、第1の溶液を形成する工程、
溶媒を還流下で約75℃~約120℃、好ましくは約100℃に加熱して、第2の溶液を形成する工程、
第1および第2の溶液を混合し、約120℃~約220℃、好ましくは約200℃に加熱して、第3の溶液を形成する工程、
CuCl、LiCl、Li(acac)、LiSおよびNaClから成る群のうちの少なくとも1つを両親媒性キャッピング剤中に溶解して、第4の溶液を形成する工程、
第4の溶液を第3の溶液に加えて、第5の溶液を形成する工程、
塩化亜鉛または塩化錫の少なくとも1つを第5の溶液に加えて、第6の溶液を形成する工程、並びに
第6の溶液を、約120℃~約220℃、好ましくは約200℃で、30分~2時間、好ましくは1時間加熱したままにする工程
を含む。
【0024】
本方法は、凝集剤、好ましくはアルコールを添加する工程を更に含んでもよい。
【0025】
本方法は、過剰なキャッピング剤を洗い流す工程を更に含んでもよい。
【0026】
本方法は、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の回収を提供するために、遠心分離する工程を更に含んでもよい。
【0027】
キャッピング剤は、ヘキサデシルアミン、オレイン酸、トリオクチルホスフィンオキシド、およびオレイルアミンから成る群のうちの1つであってもよい。
【0028】
溶媒は、ヘキサデシルアミン、オレイン酸、トリオクチルホスフィンオキシド、およびオレイルアミンから成る群のうちの1つであってもよい。キャッピング剤は、使用時に少なくとも4つの役割:ナノ粒子をキャップし;結晶性ナノ物質の成長を制御し;高沸点溶媒を提供し;そして還元剤を提供することを含んでもよいと解されるべきである。
【0029】
本開示の第3の態様によれば、第1の態様のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質を適用した基板を含む太陽電池が提供される。
【0030】
基板は、モリブデン被覆されたガラスであってもよい。
【0031】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、コーティング、好ましくはスピンコーティングの手段によって基板に適用されてもよい。
【0032】
太陽電池は、CdSコーティングを更に含んでもよい。
【0033】
太陽電池は、ZnOコーティングを更に含んでもよい。
【0034】
太陽電池は、更にAlを含んでもよい。
【0035】
典型的には、太陽電池は、層状配置として提供され、好ましくは、サンドイッチのように層状に配置される。
【0036】
本開示の第4の態様によれば、第3の態様の太陽電池の製造方法が提供され、本方法は、
(i)溶媒、好ましくはトルエン中の第1の態様のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の溶液を提供すること、
(ii)アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の溶液を、モリブデン被覆されたガラス基板にコーティング、好ましくはスピンコーティングして、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質被覆基板を形成すること、
(iii)アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質被覆基板を約60℃~80℃で乾燥すること、
(iv)溶媒、好ましくはトルエン中のCdSの溶液を提供すること、
(v)CdS溶液で乾燥アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質被覆基板をコーティング、好ましくはスピンコーティングして、CdS被覆基板を提供すること、および
(vi)CdS被覆基板上にZnOをコーティング、好ましくはスピンコーティングすること
を含む。
【0037】
好ましい実施形態では、製造方法を前述の順序で実施して、サンドイッチ層状配置を提供する。
【0038】
この方法は、CdS被覆された基板上に、好ましくは高真空中の熱蒸発下でアルミニウムを蒸着する(またはスプラッタリングする;splutter)工程を更に含んでもよい。本明細書中の実施例および/または図のいずれか1つを参照して本明細書中に記載、図示および/または例示されるように、第1から第4の開示のいずれか1つに実質的に提供されるものが更に存在する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】先行技術CZTSe、(a)亜鉛黄錫鉱および(b)黄錫鉱の結晶構造を示す図である。
図2】本開示によるCZTSeとLZTSeとNZTSeのXRDパターンを示す図である。
図3】(a)CZTSe、(b)LZTSe、および(c)NZTSeのラマンスペクトルを示す図である。
図4】(a)CZTSe、(b)LZTSe、および(c)NZTSeのTEM画像を示す図である。
図5】本開示による太陽電池の設計を、(a)図式的に示し、(b)作製された例示的な実施形態の写真として示す図である。
図6】(a)CZTSe、(b)LZTSe、および(c)NZTSe由来のデバイスのJ‐V曲線を示す図である。
図7】LZTSの合成手順を示す図である。
図8】(a)亜鉛黄錫鉱、(b)黄錫鉱、および(c)LZTSのPMCA構造体を示す図である。
図9ab】リチウム源LiClを用いて、前駆体比(a)1:1:1:1および(b)2:1:0.25:2で合成されたLZTSナノ粒子のX線回折パターンを示す。
図9cd】リチウム源Li(acac)を用いて、前駆体比(c)1:1:1:1および(d)2:1:0.25:2で合成されたLZTSナノ粒子のX線回折パターンを示す。
図9ef】リチウム源LiSを用いて、前駆体比(e)1:1:1:1および(f)2:1:0.25:2のLiSで合成されたLZTSナノ粒子のX線回折パターンを示す。
図10】異なるリチウム源(LiCl、Li(acac)、LiS)を用いて、異なる前駆体比(1:1:1:1および2:1:0.25:2)で、(a)リチウム源LiClを用いて、前駆体比1:1:1:1で、(b)リチウム源LiClを用いて、前駆体比2:1:0.25:2で、(c)リチウム源Li(acac)を用いて、前駆体比1:1:1:1で、(d)リチウム源Li(acac)を用いて、前駆体比2:1:0.25:2で、(e)リチウム源LiSを用いて、前駆体比1:1:1:1で、(f)リチウム源LiSを用いて、前駆体比2:1:0.25:2で、合成されたLZTSナノ粒子のTEM顕微鏡写真である。
図11】LiCl、Li(acac)、およびLiSのLi‐MAS‐NMRスペクトル、および対応するLZTSスペクトルを示す図である。
図12】異なるリチウム源((a)LiCl、(b)Li(acac)、(c)LiS)を用いて異なる前駆体比(1:1:1:1、2:1:0.25:2)で合成されたLZTSナノ粒子のUV‐vis(紫外‐可視)吸収スペクトルから得られたTaucプロットを示す図である。
図13】リチウム源LiSを用いて前駆体比2:1:0.25:2で合成されたLZTSナノ粒子のラマンスペクトルを示す図である。
図14】(a)走査速度50mV/sでのPtおよびLZTSのサイクリックボルタンメトリー、(b)GC上のLZTSを有する対称型セルに対するEISのNyquistプロット、および(c)電気化学等価回路を示す図である。
図15ab】(a)および(b)ITO基板上のPtとLZTSを用いた対称型セルのEISのNyquistプロットを示す図である。
図15cd】(c)および(d)FTO基板上のPtおよびLZTS電極のTafelプロットを示す図である。
図15e】(e)電気化学等価回路を示す図である。
図16ab】ITOおよびFTO基板上のLZTSのDSSCの(a)DSSC機構および(b)バンド図を示す図である。
図16cd】(c)ITO基板および(d)FTO基板上のLZTSのDSSCのJ‐V曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書において、[発明の概要]の一般的な規定は、それを参照することによって繰り返され、繰り返しを避けるために、必ずしも完全に繰り返されるわけではない。本明細書中における以下の詳細な説明および実施例は、本開示の特定の実施形態を含むものであり、いかなる点においても限定的であると考えるべきではない。本開示の範囲から逸脱しないいくつかの代替案が当業者によって想定され得る。
【0041】
本開示の第1の態様によれば、一般式A(I‐II‐IV‐VI)を有するアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質が提供され、式中、Iはナトリウム(Na)またはリチウム(Li)であり、IIおよびIVはZnまたはSnであり、VIは、硫黄(S)、セレン(Se)またはテルル(Te)からなる群から選択されるカルコゲンである。
【0042】
本開示によるアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の結晶相は、亜鉛黄錫鉱および/または黄錫鉱ではない。アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の結晶相は、単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)(空間群:
を有する)であってもよい。
【0043】
好ましくは、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、LiZnSnSe(LZTSe)であり、結晶相は、単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)(空間群:
を有する)であるか、または
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、NaZnSnSe(NZTSe)であり、結晶相は、単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)(空間群:
を有する)である。
【0044】
更なる実施形態において、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、LiZnSnS(LZTS)であり、結晶相は、単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)(空間群:
を有する)であるか、または
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、NaZnSnS(NZTS)であり、結晶相は単純混合Cu‐Au様構造体(PMCA)(空間群:
を有する)である。
【0045】
アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質は、太陽光電池を提供するように適合されてもよいと解され、その製造方法は、一例として以下に提供される。
【0046】
本開示の第2の態様によれば、本開示の第1の態様に記載の一般式Aを有するアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の化学合成方法が提供され、この方法は、
(i)硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)から成る群から選択されるVIを不活性条件下で両親媒性キャッピング剤中に溶解して、第1の溶液を形成する工程
(ii)溶媒を還流下で約75℃~約120℃、好ましくは約100℃に加熱して、第2の溶液を形成する工程、
(iii)第1および第2の溶液を混合し、約120℃と約220℃の間、好ましくは約200℃に加熱して、第3の溶液を形成する工程、
(iv)CuCl、LiCl、Li(acac)、LiSおよびNaClから成る群のうちの少なくとも1つを両親媒性キャッピング剤中に溶解して、第4の溶液を形成する工程、
(v)第4の溶液を第3の溶液に加えて、第5の溶液を形成する工程、
(vi)塩化亜鉛または塩化錫の少なくとも1つを第5の溶液に加えて、第6の溶液を形成する工程、並びに
(vii)第6の溶液を、約120℃~約220℃、好ましくは約200℃で、30分~2時間、好ましくは1時間、加熱したままにする工程、
を含む。
【0047】
本方法は、典型的には、凝集剤、好ましくはアルコールを添加する工程を更に含む。本方法は、典型的には、過剰なキャッピング剤を洗い流す工程を更に含む。
【0048】
本方法は、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の回収を提供するために、遠心分離する工程を更に含む。
【0049】
好ましい製造方法は、以下の本明細書中の実施例に提供される。
【0050】
本開示の第3の態様によれば、第1の態様のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質を適用した基板を含む太陽電池が提供される
【0051】
基板は、モリブデン被覆されたガラスであってもよい。モリブデン被覆されたガラスに、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質、CdS、ZnO、および最後にAlのスプラッタリングが層状に添加される。層状形式は、サンドイッチの形をとることが好ましい。
【0052】
本開示の第4の態様によれば、第3の態様の太陽電池の製造方法が提供され、本方法は、
(i)溶媒、好ましくはトルエン中の第1の態様のアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の溶液を提供すること、
(ii)アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質の溶液を、モリブデン被覆されたガラス基板にコーティング、好ましくはスピンコーティングして、アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質被覆基板を形成すること、
(iii)アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質被覆基板を約60℃~80℃で乾燥すること、
(iv)溶媒、好ましくはトルエン中のCdSの溶液を提供すること、
(v)CdS溶液で乾燥アルカリ金属四元系結晶性ナノ物質被覆基板をコーティング、好ましくはスピンコーティングして、CdS被覆基板を提供すること、および
(vi)CdS被覆された基板上にZnOをコーティング、好ましくはスピンコーティングすること
を含む。
【0053】
好ましい実施形態では、製造方法を前述の順序で実施して、サンドイッチ層状配置を提供する。この方法は、CdS被覆された基板上に、好ましくは高真空中の熱蒸発下でアルミニウムを蒸着する(またはスプラッタリングする;splutter)工程を更に含んでもよい。好ましい製造方法は、以下の本明細書中の実施例に提供される。
【0054】
非限定的な実施例は、本開示の好ましい実施形態を説明し、かつ例示するために以下の本明細書中に提供される。
【実施例
【0055】
実施例1:LiZnSnSe(LZTSe)およびNaZnSnSe(NZTSe)
化学物質
塩化銅(CuCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化亜鉛(ZnCl)、塩化第二錫(SnCl・5HO)、元素状セレン、オレイルアミン(OLA)、エタノールおよびトルエンは、Sigma-Aldrich社から購入して、更に精製することなく使用した。
【0056】
ナノ結晶の合成
3つ口丸底フラスコにキャッピング剤(OLA)15mLを加え、窒素ガスでパージして不活性化した。還流およびマグネティックスターラーによる強い撹拌下で、溶媒を100℃に加熱し、次いでキャッピング剤に溶解した4mmolのセレンを加え、温度を更に200℃に上げ、この時点で同じくキャッピング剤に溶解した2mmolのCuCl/LiCl/NaClを、続いて塩化亜鉛および塩化スズ1mmolを添加した。この反応を200℃で行い、1時間反応させた。エタノールを加えて、粒子を凝集させると同時に、過剰なキャッピング剤を洗い流した。その後、遠心分離によってナノ結晶を回収し、室温で乾燥させた後、特性評価を行った。
【0057】
特性評価技術
30kVおよび10mAで二次グラファイト単色Cu‐Kα線(λ=1.5418Å)を使用する、「Bruker D2 phaser(D2-205530)」回折計を使用して、合成したままの材料の粉末XRDパターンを測定した。測定は、入射角2°、2θの値が5~90°の範囲で0.036°ステップ、ステップ時間0.5秒、温度25℃での入射検出器の視射角を用いて行われた。
【0058】
ラマン分析は、HORIBA scientific, Jobin Yvon Technology社の「T64000 series II triple spectrometer system」を使用して行った。ラマンスペクトルは、514.5nmのアルゴンレーザーを用いて、50倍対物レンズとレーザー出力1.5mWのOlympus顕微鏡によって得られた。
【0059】
透過型電子顕微鏡(TEM)は、「FEI Technai T12」TEM顕微鏡を用い、加速電圧120kV、ビームスポット径3インチで、TEMモードで行った。試料は、まずトルエンに懸濁させ、そのナノ物質懸濁液をレース状(lacey)カーボン銅グリッド上に滴下した。グリッドは分析前に室温で乾燥させた。ナノ結晶の吸収測定を行うために、「Varian Cary Eclipse(Cary 50)」UV‐vis分光光度計を使用した。吸収スペクトルは、トルエン中で取得し、石英製セル(またはキュベット)(1cmの光路長)に入れた。
【0060】
太陽電池の作製
モリブデン被覆したガラス基板上に、異なるナノ粒子(CZTSe、LZTSe、NZTSe)のトルエン溶液50μLを300rpmでスピンコートして、デバイスアセンブリを作製した。形成された膜を70℃で乾燥およびベークした。CdSを含むトルエン溶液も5000rpmでスピンコートして、非常に薄い窓層を形成した。次いで、ZnO層を3000rpmでスピンコートした。アルミニウムのトップコンタクトは、シャドウマスクを通してスパッタリングし、パターン化された電極のアレイを作製した。アルミニウムは高真空中の熱蒸発によって蒸着された。最終的なデバイス面積は0.08cmで、これはMo電極とAl電極の重なりによって定義される。電流(I)や電圧(V)などの光起電力特性は、デジタルソースメーター(Keithley Instruments 社、Model 2400)を用いて、暗所およびAM1.5、100mWcm-2の標準条件で動作する「Newport ABA」ソーラーシミュレータの照明下で測定された。
【0061】
結果および考察
先行技術であるCZTSeおよびLZTSeのバルク結晶構造は、文献で既に報告されている。CZTSeは、正方晶系である亜鉛黄錫鉱および黄錫鉱として知られる2つの主要な結晶構造に結晶化する。この2つの結晶構造は非常によく似ており、どちらも陽イオンが四面体サイトに位置しているが、CuとZn原子のc軸方向の積層配置が異なっている。図1に亜鉛黄錫鉱と黄錫鉱の結晶構造と原子配置を示す。亜鉛黄錫鉱構造では、c軸に沿ったカチオン層がCu‐Sn、Cu‐Zn、Cu‐SnおよびCu‐Znの順で配列している。黄錫鉱構造では、Cu‐Cu層に挟まれたZn-Snカチオン層が周期的に繰り返され、Cu原子は4dに、Zn原子は2aに位置し、Madelung電位は‐15.30V、‐21.62Vであった。Sn原子の位置は両構造とも2bに位置している。理論的な研究から、亜鉛黄錫鉱は黄錫鉱相よりもわずかにエネルギーが低いため、熱力学的により安定であり、そのためほとんどの粒子は亜鉛黄錫鉱の形で結晶化することが予想される。
【0062】
LZTSe単結晶は、希少な六方晶ダイヤモンドであるロンズデーライトの上部構造とみなすことができるウルツ鉱‐亜鉛黄錫鉱構造に結晶化することが示されている。本出願人は、本開示によるLZTSeが、空間群:
を有する正方晶系を有するPMCA構造を示すことに非常に驚いた。これは驚きであり、予想外であった。理論に限定されることなく、特異な化学合成方法により、予想外の結晶系を提供した可能性がある。結晶構造および/またはサイズおよび/または形態などの物理的特性の組み合わせが、使用時に特異な特性をもたらすことが多い。
【0063】
図2に、合成されたCZTSe、LZTSe、NZTSeナノ結晶のXRDパターンを示す。CZTSeのXRDパターンは、亜鉛黄錫鉱相と一致するすべての回折ピークを示す(PDF 00‐052‐0868)。LZTSeの単結晶由来のX線回折パターンがウルツ鉱‐亜鉛黄錫鉱と一致することを除けば、LZTSeおよびNZTSeの他の報告はないが、本明細書中では、四元系材料に関連する一般的な亜鉛黄錫鉱および黄錫鉱パターンとは異なるパターンであることが示されている。また、観測されたパターンは、ZnSe、SnSe、LiSe、NaSeなどの一般的な不純物とは一致しない。ウルツ鉱‐亜鉛黄錫鉱相については、20°から30°の領域に3つのピークが予想されるが、観測されたLZTSeおよびNZTSeの回折図にはこれらのピークは存在しない。観察されたパターンはPMCAに似た相を示している。これは驚きであり、予想外であった。
【0064】
更に構造を調べるために、ラマン分光測定が行われ、その結果が図3に示されている。CZTSeのラマンスペクトルは、177cm-1、187cm-1、213cm-1、231cm-1に亜鉛黄錫鉱相と一致する4つの予想ピークを示す。LZTSeのラマンスペクトルは、CZTSeとは異なるピークをより低い波数(127cm-1)に示し、これはNZTSeのスペクトルでも確認される(121cm-1)。LZTSeの235cm-1はCZTSeの231cm-1のピークと似ているが、わずかにシフトしている。247cm-1のピークは、LZTSeおよびNZTSeの構造上の違いを示している可能性がある。ラマンの結果は、LZTSeおよびNZTSeナノ粒子の結晶構造がPMCAである可能性があるというXRDデータを裏付けるものである。PMCAは亜鉛黄錫鉱と黄錫鉱に似ているが、2つの亜鉛黄錫鉱と黄錫鉱の単位格子が組み合わされたものと考えることができる。この構造は、先行技術では実験的に観察されたことがない。
【0065】
図4のTEM画像により、すべての粒子が球状であることを示している。平均粒径はCZTSe、LZTSeおよびNZTSeに対して、それぞれ9.0±1.07nm、6.06±0.9nmおよび8.3±2.7nmである。NZTSe粒子の標準偏差はCZTSeおよびLZTSe粒子よりもわずかに大きく、より多分散な試料であることが示唆された。しかしながら、すべての粒子は10nm以下であり、量子閉じ込め効果の影響を受けている可能性が高い。
【0066】
太陽電池用のナノ結晶は、いずれも望ましい特性である、複数の励起子の発生やホットキャリア注入など、バルク材料とは異なる特異な特性をもたらすことができる。次いで、合成したままのナノ結晶を用いて、図5に示すような構成を有する太陽電池を作製した。各層には溶液処理を施し、Al電極はスパッタリング被覆した(sputter coated)。Mo電極とAlストリップの接続部に相当するデバイス面積は0.08cmであった。電極をパターン化することにより、小さなデバイスのアレイができ、欠陥を最小限に抑えることで太陽電池の出力を最大にすることができる。
【0067】
図6に、太陽電池の電流密度-電圧曲線(J‐V曲線)を示す。J‐V曲線は太陽電池の性能を評価するのに用いることができ、重要なパラメータを抽出することができ、以下の式:
(式中、Vocは開放電圧、Jscは短絡電流、FFは曲線因子である。)
を用いて効率を算出するのに用いることができる。太陽電池は、AM1.5および100mWcm-2という標準的な照明条件を用いて評価した。
【0068】
抽出されたパラメータを表1に示す。合成した材料のバンドギャップは、UV‐vis(紫外‐可視)吸光光度法を用いて決定した。本明細書中で参照した類似のデバイスでは,材料の正確なバンドギャップは提供されていないが、一般にCZTSeのバンドギャップは1.03~1.5eVであると報告されている。ここでは、CZTSe、LZTSeおよびNZTSeのそれぞれのバンドギャップは、1.03eV、1.91eVおよび1.59eVであった。これらは、太陽スペクトルの可視域に確実に存在している。LZTSeおよびNZTSeのサイズを小さくすると、バンドギャップは1.34eVで発生する望ましい「Shockley Queisser Efficiency Limit」に向かってシフトする。「Shockley Queisser Efficiency Limit」とは、単一p‐n接合を用いて太陽電池から電力を回収する理論上の最大効率である。
【0069】
【0070】
作製したCZTSe太陽電池は、報告されているCZTSeデバイスと比較して、Jsc、VocおよびFF値が低く、したがって効率も低いことがわかった。しかし、同じ作製条件を用いた場合、特にNZTSeおよびLZTSeはCZTSeと比較して改善された結果を示した。吸収層固有の特性であるJscおよびVoc(LZTSeは46.9mA/cmおよび486mV、NZTSeは19.5mA/cmおよび405mV)は、報告されているCZTSeデバイスよりもはるかに高いものであった。これは、本開示によるアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質が、先行技術において既知の開回路電圧(Voc)不足を改善することを示している。これは、予想外の驚くべき前進である。
【0071】
【0072】
この場合、活性層の品質と厚さを改善することによって、FFを向上させることができる。図5のデバイスでは、被覆膜の欠陥が目視確認できた。これは、トルエンのような粘性の低い溶媒をスピンコーティングの媒体に使用した場合によく見られる現象である。次の層を重ねると基板との密着性が悪くなるので、下層を再溶解してしまう。その結果、デバイスにピンホールが発生し、短絡してシャント抵抗が低下する。表2は、FFを60%まで増加させた場合の効果を示しており、文献にも見られるように、亜鉛黄錫鉱太陽電池に対して達成可能な値である。特にLZTSe太陽電池のFFを増加させることにより、効率が5.65%から18.95%へと3倍以上も劇的に向上することがわかった。これは、実験室規模の亜鉛黄錫鉱ナノ結晶溶液系太陽電池デバイスの報告例をはるかに上回るものである。
【0073】
実施例2:LiZnSnS(LZTS)
実験セクション
材料
塩化リチウム(LiCl、99.98%)、リチウムアセチルアセトナート(Li(acac)、99.95%)、硫化リチウム(LiS、99.98%)、塩化亜鉛(ZnCl2、98%)、塩化第二錫(SnCl・5HO、97.5%)、元素状硫黄(S、≧99%)、オレイルアミン(OLA、70%)、メタノール(96%)、エタノール(96%)、トルエン(無水、95%)、ヘキサン(無水95%)、イソプロパノール(無水、99%)、過塩素酸リチウム(≧95%)、ヨウ化リチウム(99.9%)、ヨウ化ナトリウム(無水、≧99.9%)、4‐tert‐ブチルピリジン(98%)、N‐メチル‐2‐ピロリドン(無水NMP、99.5%)、白色チタニアペースト反射剤(TiO、20.0重量%)、Whatman(登録商標)ガラス製マイクロファイバ濾紙、インジウムドープ酸化スズ被覆スライドガラス(表面抵抗率~8~12Ω/スクエア(平方インチ))、フッ素ドープ酸化スズ被覆スライドガラス(表面抵抗率~7Ω/スクエア)、N‐719色素(95%)は四級カルコゲン化物ナノ粒子の合成と分析で使用した材料である。化学物質は,Saarchem社から購入した塩化第二錫を除き、すべてSigma-Aldrich社から購入した。すべての化学物質は、更に精製することなく使用した。
【0074】
LZTSナノ粒子のコロイド合成
ナノ粒子の合成には、ホットインジェクションコロイド法を使用した。オレイルアミン(OLA‐10mL)を窒素ガス下で撹拌しながら100℃まで加熱した。これは、溶媒/界面活性剤のパージ工程を兼ねていた。100℃で、図7に表わした設定シーケンスに従って、構成前駆体を添加した。最後の前駆体を添加した後、200℃に昇温し、45分間保持した。前駆体のモル比を変化させ、3つの反応すべてにおいて、1:1:1:1および2:1:0.25:2のLi:Zn:Sn:S試料を得た。その後、得られた粒子を、エタノールを用いて凝集させ、3000rpmの遠心分離によって回収し、室温で乾燥させた。
【0075】
色素増感太陽電池(DSSC)の作製
DSSCは一般に、透明導電性酸化物(TCO)上に作製した色素で変性したナノ結晶性二酸化チタン(TiO)電極、白金(Pt)対向電極(CE)、および電極間に溶解したヨウ化物イオン/三ヨウ化物イオン酸化還元対を有する電解質液を含む。最高のDSCCは、12%弱の効率を達成した。このあまり良くない効率は、DSSCの価格を更に下げることでバランスをとることができる。これは、部品の一部を交換することで実現できる。白金は優れた電極触媒であるが、よく知られているように、高価な材料である。CZTSとその誘導体をDSSCのCEとして使用する研究はいくつか報告されている。PVP‐CZTSおよびCA‐CZTSナノ繊維を合成し、DSSCのCEとして使用して、それぞれ3.10%と3.90%の電力変換効率(PCE)を示したことが知られている。上記ナノ物質のPCEは7.4~7.8%の範囲にあることがわかった。
【0076】
対向電極の作製
対向電極のインクは、40mgのLZTSナノ粒子(LiS源を2:1:0.25:2の比で)を1mLのトルエンおよび0.1mLのNMPの混合物に分散させることにより調製された。24時間激しく撹拌した後、均質な溶液を10分間超音波処理した。続いて、予備洗浄および予備加熱(80℃)したITO/FTO基板(ITOおよびFTOは面積~3.13cm)上に溶液をドロップキャストした。インクが乾燥した後、各対向電極を80℃で更に10分間アニールした。比較検討のため、対照として、予備洗浄したITO/FTO基板上に白金をスパッタリング被覆した。
【0077】
光アノードの作製
チタニア(TiO)ペーストをドクターブレード法で予備洗浄したITO/FTO基板上に印刷した。次いで、スクリーン印刷した基板を350℃で30分間アニールして、残留する有機化合物を除去し、TiOとN‐719色素との接触を良好なものにした。次に、N‐719色素をメタノール(3.0×10-4M)中に溶解し、TiOを増感するのに使用した。この色素混合物をアニールしたTiO上に滴下し、周囲条件下の暗所で一晩乾燥させた。
【0078】
デバイスの組み立て
光アノード電極は、活性層を上に、対向電極を下に向けて配置した。2つの電極は互いにオフセットされ、それらの間にWhatman濾紙を挟んで活性領域を画定し、支持酸化還元電解質溶液のスポンジとして機能させた。酸化還元電解質溶液は、0.05Mヨウ素、0.1Mヨウ化リチウム、0.1Mヨウ化カリウム、0.1Mヨウ化ナトリウム、0.5Mの4‐tert‐ブチルピリジンから構成され、還元プロセスに負の電気化学的電位を提供するものである。組み立てられたデバイスは、均一な分布を形成するために、両側の折り返しクリップで長手方向に保持された。
【0079】
特性評価
ナノ粒子は、以下の技術を用いて特性評価を行った。UV‐Vis吸収測定は、「Varian Cary Eclipse(Cary 50)」UV‐Vis分光光度計を使用して行った。粉末試料をトルエンに分散させ、分光分析のために1cmの光路長の石英キュベットに入れた。X線回折(XRD)測定は、「Bruker D2 Phaser」粉末X線回折計を用い、Cu‐Kα線(λ=1.54060Å)、30kV/30mAで、2°の角度で、10~90°間の2θ値に対して0.026°ステップ、ステップ時間37秒、温度25℃で入射角検出器の視射角を使用して行った。数ミリグラムの試料をゼロバックグランドホルダーに置き、スライドガラスで平坦にした。200kVで作動させた透過型電子顕微鏡(TEM)「FEI Tecnai T12」を使用して、モルフォロジーを得た。試料をメタノールに分散させ、10分間超音波処理を行った。その後、懸濁したナノ物質の一滴をレース状カーボン付き銅グリッド上に置き、試料を分析する前に室温で乾燥させた。ラマン分光スペクトルは、石英ホルダー内に試料を置いた後、「Bruker Raman Senterra」分光光度計を用いて、532nmの励起レーザーを用い、非常に低いレーザー出力0.5mVで得た。X線光電子分光(XPS)分析は、Physical Electronics社製「PHI 5700」分光器を用いて、非単色Mg‐Kα‐X線(300W、15kV、1253.6eV)を励起光源として行った。固体Li‐MAS‐NMR実験は、「7.05 T Bruker Avance III 300 MHz」分光器(Liに対してm0=116.6MHz)で、「Bruker 2.5mm HFX MAS probe」を用い、30kHzの回転速度で行った。サイクリックボルタンメトリー(CV)、電気化学インピーダンス(EIS)、およびTafel分極測定は、Biologic社:「VMP 300」を用いた。無水アセトニトリルに溶解した0.1MのLiClO、0.01MのLiIおよび0.001MのIからなる三ヨウ化物(I/I3-)酸化還元電解質を用い、走査速度50mVs-1で、ガラス状カーボン電極(GC、活性面積0.07cm以下)にそれぞれプラチナ(Pt、活性面積=0.05cm)、ITOおよびFTO(活性面積1.56cm以下)をドロップキャスト後、対向電極にPt、参照電極にAg/AgCl、作用電極に合成したCZTS/CZTSeを使用するCV測定を行うのに、3電極システムを使用した。EIS測定は、暗所でDSSCに使用する酸化還元電解質中に2つの同一電極を有する対称型セルを用いて行われた。電極は、各試料の開回路電位を変えながら、100kHz~100MHzの間で分析された。Tafel分極分析は、-1.0~1.0Vの電位窓で、100mVs-1の走査速度で行った。DSCCの光電流‐電圧(J‐V)特性曲線は,HP 4141Bソースメジャーユニット(SMU)を用いて,100mWcm-2(AM1.5G)の制御照明下で、周囲条件下で測定された。
【0080】
結果および考察
LiZnS(LZTS)の合成と特性評価
一般にLZTSは、CZTSおよびCZTSeと同様の構造、亜鉛黄錫鉱(空間群I4)、黄錫鉱(空間群 I42m)、または単純混合Cu‐Au(PMCA;空間群:
)結晶構造に結晶化する可能性があり、これらは図8に示すとおりである。
【0081】
亜鉛黄錫鉱および黄錫鉱構造のは、
(c≒2a)の体心正方晶であり、2つの硫黄面心立方(FCC)格子を重ね、このFCC格子内の四面体の空隙の半分をLi、Zn、Snが占めると考えることができる。PMCA構造は、図8に示すように、
(c≒a)の単純正方晶である。四面体空隙内の金属カチオンの配置と積層構造の違いにより、これら3つの異なる構造が生まれる。亜鉛黄錫鉱構造では、LiとZn、またはLiとSnの2つのカチオン層が交互に並び、黄錫鉱構造およびPMCA構造では、Liの層とZnおよびSnの層が交互に並ぶ。黄錫鉱構造では、同じ層にあるZnとSnの原子が1層おきに位置を入れ替えている。PMCAではこのZnとSnの位置の入れ替わりが1層おきにないため、単純正方晶となり、黄錫鉱構造とは区別される。これらの構造のX線回折は非常によく似ており、小さな区別がつくだけである。亜鉛黄錫鉱相は黄錫鉱やPMCAより歪みが大きいため、通常0.2°シフトしている。黄錫鉱とPMCAはほとんど区別がつかないが、黄錫鉱はより安定な相である。しかし、X線回折の実験データを用いて、格子定数a、b、cを(3)式を用いて計算し、参照定数と一致させることで、両者を区別することができる。表3に格子定数を示す。
【0082】
【0083】
図9(a)~(f)に示すのは、異なるリチウム前駆体を用い、異なる前駆体比で本開示に従って合成されたLZTSのXRDパターン、および黄錫鉱の標準参照パターンである。両方のモル比構成におけるLiCl源およびLi(acac)源は、不純物の存在を示唆する参照パターンと完全には一致しなかった。しかし、LiS源に変更すると、2:1:0.25:2の比は参照パターンと完全に一致したが、すべての平面が回折されるわけではなく、優先的な配向が示唆された。PMCAには参照パターンがないため、式(3)を用いて格子定数の計算を行った。
【0084】
得られた値は、よりPMCAに近いものであった。LZTSがPMCA構造を形成する考えられる理由は、Cu(128pm)とLi(152pm)の原子半径の違いによるものである。また、遷移金属(Cu)はアルカリ金属よりも価電子帯の不対電子の数が多いため硬く、これがLZTSの正方晶構造の歪みを促進している可能性がある。異なるリチウム源と異なるモル比を用いて合成したLZTSのTEM画像において、LiCl系ナノ粒子は、準球状で、多分散で、および凝集していた。濃度が高くなるにつれて、サイズの増大が観察された。Li(acac)系ナノ粒子は非常に小さく、凝集した雲状のモルフォロジー(または形態)を形成していた。比を変えても、目に見える変化は観察されなかった。LiS由来の粒子は小さな準球状のナノ粒子であり、非常によく分散していた。比の変更に伴い、サイズの増加がわずかに観察された。
【0085】
X線光電子分光法(XPS)は、得られた粒子の表面化学および結合を評価するのに有用な手法である。リチウム源とモル比を変えて合成した粒子に対して、XPSサーベイスペクトルを得た。上記スペクトルは、リチウム以外のLZTSの全構成成分を示した。リチウムは原子番号が小さいため、XPSはリチウムに対する感度が非常に低い。すべてのスペクトルで観測されたC 1s、N 1sおよびO 1sは、キャッピング剤であるOLAとその酸化に起因するものである。
【0086】
異なるリチウム源(LiCl、Li(acac)、LiS)を用い、異なる前駆体比(1:1:1:1および2:1:0.25:2)で合成したLZTSナノ粒子のLi 1s高分解能スペクトルの測定を行った。すべての試料で、リチウムが検出された。高分解能スペクトルはサーベイスペクトルに比べ、低濃度に対して感度が高い。すべての試料で金属リチウム(Li)とLi‐Sが検出された。LiS由来の粒子(比2:1:0.25:2)の強度は他の粒子よりも非常に高く、これはLZTSの形成を示唆するものである可能性がある。これは観察されたXRDの結果と一致する。2:1:0.25:2の異なる前駆体比の異なるLiSを用いて合成したLZTSナノ粒子のZn 2p、Sn 3d、S 2p高分解能スペクトルを得た。LiCl源に対するZn 2pスペクトルは、1045.4eVと1022.3eVの2つのピークに分解されるダブレットを示し、ピーク間隔は23.06eVでZn2+種に起因する。更に、Snの3d内殻準位のスペクトルは、3d3/2(495.2eV)と3d5/2(486.7eV)に分解された二つのピークが見られた。8.41eVのピーク分離はSn4+種に起因する。S 2pの高分解能スペクトルは2つのピークを示し、それぞれをデコンボリューションして更に2つのピークを得た。2p3/2と2p1/2のダブレット(または二重線)がともにS2-種に関連していることがわかった。Li(acac)のZn 2pスペクトルがやはりZn2+イオンに起因するダブレットを示し、LiSのS 2pスペクトルがSOx種の存在を示した以外は、概ね同様の結果がLZTSナノ粒子とLiS由来で観察された。LZTSの形成を更に確認するために、使用した異なるリチウム前駆体と対応するLZTSナノ粒子のLi‐MAS‐NMRスペクトルを図11に示す。市販の前駆体であるLiCl、Li(acac)、LiSでは、2~3ppmに特徴的なリチウムピークが観測された。このピークは、わずかにシフトしているものの、対応するLZTSナノ粒子でも観測された。このシフトは、Liの配位を確認するものである。
【0087】
異なる前駆体および比率で合成したLZTSナノ粒子の光学特性を図12(a)~図12(c)に示す。1:1:1:1のLiCl、Li(acac)、LiS由来の粒子のバンドギャップはそれぞれ2.42eV、2.39eV、3.09eVであり、比率を変えるとそれぞれ3.13eV、3.23eV、3.14eVとなった。LiS由来のLZTSナノ粒子のバンドギャップは、比を変えても変化しなかった。
【0088】
XRD、TEM、XPSおよびNMRの結果から、LiSから2:1:0.25:2のLi:Zn:Sn:S比で合成したLZTSナノ粒子が最も優れた試料であることは明らかである。このため、以後、すべての特性評価と応用はこの試料に基づいて行われた。図13に、LZTSのラマンスペクトルを示す。318cm-1に正方晶PMCA構造のA1モードに起因する顕著なピークが観察された。また、248cm-1以下および330cm-1~363cm-1の更なるピークは、それぞれB2モードとA1モードに起因した。このことから、LZTSが形成されていることが更に確認された。更に、ラマン分析では、二次相の存在を示すものはなかった。
【0089】
LZTSの色素増感太陽電池の対向電極への応用
LiS(2:1:0.25:2)から合成したLZTSナノ粒子をガラス状カーボン電極上にドロップキャストして、三ヨウ化物イオンの還元に対する電極触媒活性を調べた。サイクリックボルタンメトリー測定を行うのに用いた3電極系により、サイクリックボルタンモグラム(CV)が得られた。2対の酸化還元ピークを有するCVは、以下の式に対応する。
【0090】
触媒活性は、ピーク電流|J_Red‐1|とピーク間距離(Epp)の2つのパラメータに依存する。それぞれ、PtおよびLZTSのピーク電流値は3.53および3.16mA/cmであり、Epp値は0.33および0.61Vであった(表4)。高いピーク電流値と低いEpp値は、より優れた触媒性能とより大きな還元速度を示唆している。また、低電位付近で観測されるRedIシフトは、反応の可逆性が低いことを示している。
【0091】
【0092】
CEから電解質への電荷移動を評価するために、EISを採用した。これは、暗黒条件下で、I /I電解質を挟んだ2つの同一電極を有する対称型ダミーセルで実施された。図14(a)~図14(c)にPtとLZTSのNyquistプロット、およびその要素が4つのインピーダンス特性を表す電気化学的等価回路を示す。略号Rsは直列抵抗を示し、RctはCE/電解質界面での電荷移動抵抗を示す。更に、略号Cdlは二重層容量に相当し、Nyquistプロットから完全半円が得られる場合に採用され、CEの電荷蓄積能力を説明する。最後に、ZwはNernst拡散要素を表し、低周波領域で線が半円に対して45°にある場合によく用いられ、CEと電解質との相互作用が拡散制御されているかどうかを説明するものである。2つの重要なパラメータであるRsとRctを表4にまとめた。Rctの値が高いことは、電荷移動がうまくいっていないことを示している。
【0093】
LZTSの電極触媒特性に対する基板の影響を評価するために、ITOおよびFTO基板上にナノ粒子をドロップキャストし、EISおよびTafelプロット測定に使用した(図15参照)。対称型セルのEIS測定では、図15(e)に示すように、GCと同じ等価回路モデルが観測された。ITOおよびFTOの両方におけるPtおよびLZTSのRsおよびRct値は、表5に報告されている。ITOを基板として用いた場合、PtはFTO基板と比較して最も低いRs値を有した。同様に、LZTSは、基板がITOの場合、Rs値が低くなった。両基板ともLZTSに比べてPtのRs値が低いことから、Ptの方が、導電性が高いことが示唆される。高周波領域での半円の直径で表される電荷移動の過程が、Rct値に反映されている。Rct値が低いと、JscおよびFFの値が高くなるため、ソートされる。基板をFTOに変更すると、ITOに比べRsおよびRct値が高くなった。このことから、FTOを使用した太陽電池は性能が劣る可能性があることがわかる。
【0094】
【0095】
対称型ダミー対向電極セルの界面電荷移動特性を調べるTafel分極曲線を、図15に示す。分極曲線からは、交換電流密度(J0)と限界拡散電流密度(Jlim)という2つの重要なパラメータが観測された。両パラメータは各対向電極のアノードまたはカソードの寄与によって影響を受け、以下の式:
(式中、Rは気体定数、Tは温度(298K)、Fはファラデー定数、n(n=2)は電子数、Rctは電荷移動抵抗、Dは拡散係数、CはI 濃度、lはスペーサ厚さである。)
を用いて記載することが可能である。式(6)より、J0はRctに反比例している。したがって、J0はCEの電極触媒活性と相関があり、J0の値が大きいと触媒活性が非常に良好であることを意味する。同様に、Jlimの値が大きいと拡散係数Dが大きくなり、式(7)から触媒活性が高くなることを意味する。LZTS-ITOのJ0値は、最先端のPtと同程度であり、良好な電極触媒活性を示唆している。しかし、ITO基板を用いたLZTSのJlim値は、Ptよりも小さく、触媒活性が低いことが示された。逆に、ITO基板を用いたLZTSのJ0とJlimは、対応するFTOよりも高く、ITOが選択されるべき基板であることが更に示唆された。
【0096】
次いで、LZTSナノ粒子をDSSCのCEとして使用した。図16(a)は、2つの基板から得られた太陽電池の構造、バンド構造、および電流密度‐電圧(J‐V)曲線である。LZTSの性能は、最先端のPt電極と比較されたが、これらのデバイスは最適化が必要であることに留意する必要がある。その結果もまた表6にまとめている。使用する基板の種類が、太陽電池の全体的な性能に影響を与えることが観察された。ITO基板はITO基板よりもわずかに性能が優れていたが、電気化学のデータと一致し、変化の度合いは予想よりも低かった。このことは、製造プロセスの最適化が必要であることを強く示唆している。また、図16および表6のデータから注目すべきは、すべての試料でFF値が低いことである。この低いFF値は、DSSCの界面での再結合の増加によって生じる高いRs値と低いシャント抵抗(Rsh)値によるものである。
【0097】
【0098】
LZTSナノ粒子をホットインジェクション法により初めて合成することに成功した。リチウム源をLiClからLi(acac)およびLiSに変え、Li:Zn:Sn:Sの比率を1:1:1:1から2:1:0.25:2に変化させることにより、結果として様々な特性を有するLZTSナノ粒子を形成した。LiClとLi(acac)由来の粒子は、使用した比率にかかわらず、XRDパターンから観察されるように不純物が形成された。XPS、Li‐MAS‐NMR、およびラマン分光法により、リチウムの存在およびLZTSの形成が確認された。LiS源と2:1:0.25:2の比率は最も純粋な粒子をもたらし、DSSCのCEとして初めて使用された。基板はITOとITOの2種類を使用した。LZTSを、DSSCの電極触媒として使用することに成功した。異なる基板を使用することにより、異なるPCEが得られた。ITO上のLZTSナノ粒子は、2.26%のPCEを有する最も優れた性能を示した。これは予備的な研究であり、デバイスはまだ最適化されていないことに留意する必要がある。それにもかかわらず、我々は、LZTSがDSSCのCEとして使用できることを実証した。
【0099】
出願人は、驚くべきことに、本明細書中に記載されたアルカリ金属四元系結晶性ナノ物質が、先行技術と比較して、より優れた特性を示すことを見出した。理論に限定されることなく、特異な固体特性に起因して付与される特異な物理化学的特性が、この点で重要な役割を果たすと考えられている。更に、製造方法は、特異な固体特性を達成するために重要である。本出願人は、先行技術の太陽電池デバイスと比較した場合の利点を明確に示すために、更なる実験を行うことを想定している。本開示は、特定の実施形態および/またはそれらの例に関して詳細に説明されてきたが、当業者は、前述のことを理解することにより、これらの実施形態に対する変更、変形および同等物を容易に思いつくことが理解される。従って、本開示の範囲は、特許請求の範囲およびその同等物の範囲として評価されるべきであり、その特許請求の範囲は、本明細書に添付されるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9ab
図9cd
図9ef
図10
図11
図12
図13
図14
図15ab
図15cd
図15e
図16ab
図16cd
【国際調査報告】