(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-27
(54)【発明の名称】クロトーの検出
(51)【国際特許分類】
G01N 33/573 20060101AFI20230420BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230420BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
G01N33/573 A
G01N33/543 521
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554590
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(85)【翻訳文提出日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 EP2021055756
(87)【国際公開番号】W WO2021180636
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522357231
【氏名又は名称】サリオン・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スタングル、マンフレッド
(72)【発明者】
【氏名】アベンドロス、ディートマー
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、唾液または涙液中のクロトーの含有量を測定することにより、個人の健康状態を測定および/またはモニタリングするためのインビトロ方法に関する。このようなアッセイを行うための検査キットは、イムノアッセイ検査キットであり、特に二重抗体サンドイッチアッセイまたはコンペティティブアッセイで行うように適合されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
唾液または涙液中のクロトー含有量を測定することにより、個人の健康状態を測定および/またはモニタリングするためのインビトロ診断方法。
【請求項2】
前記個体の健康状態が、クロトーレベルの低下もしくは減少と相関する既存のもしくは以前の疾患もしくは状態、またはそのような疾患もしくは状態に対する体質を含む、請求項1に記載のインビトロ方法。
【請求項3】
前記疾患又は状態が、癌、炎症性疾患、慢性腎臓病(CKD)、神経変性疾患、慢性心臓病、器官線維症、動脈硬化症、認知症、糖尿病、勃起不全、自己免疫疾患又は自己免疫関連疾患、敗血症、早老及びその他の加齢性疾患から少なくとも1つを選択する、請求項2に記載のインビトロ方法。
【請求項4】
前記神経変性疾患が、モルブス・アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病を含む、請求項3に記載のインビトロ方法。
【請求項5】
前記自己免疫疾患又は自己免疫関連疾患が、患者の1型糖尿病、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス、自己免疫性脳脊髄炎、ループス腎炎、IgA腎症等の自己免疫性腎炎、変形性関節症等その他疾患の炎症を活
性化する請求項3に記載のインビトロ方法。
【請求項6】
個人の健康状態の前記測定および/またはモニタリングが、治療前、治療中および/または治療後にクロトーの含有量を測定することによって、疾患の治療上の措置の状況で行われる、請求項1~5のいずれかに記載のインビトロ方法。
【請求項7】
身体活動、特に身体トレーニング、筋肉トレーニング及び/又は持久力トレーニングが個人の健康状態に及ぼす影響をモニタリングするために、前記クロトー含有量を測定する、請求項1に記載のインビトロ方法。
【請求項8】
前記個人の生物学的年齢を測定するための、請求項1に記載のインビトロ方法。
【請求項9】
測定されたクロトーレベルが、血清中で測定された100pg/mlに相当する値以下、好ましくは血清中で測定された200pg/mlに相当する値以下の場合、前記個人にクロトーを投与することを含む、請求項1~6のいずれかに記載のインビトロ方法。
【請求項10】
クロトーを投与することが、クロトーを産生する、またはクロトータンパク質をエンコードする領域を含み、前記領域がプロモーターまたはプロモーター/エンハンサーの組み合わせに作動可能に連結されている核酸ベクターを含む治療上有効な数の間葉系幹細胞を投与すること、およびクロトーを発現する細胞を含む前記ベクターを含む、請求項9に記載のインビトロの方法。
【請求項11】
測定されたクロトーレベルが、血清中で測定された100pg/mlに相当する値以下、好ましくは血清中で測定された200pg/mlに相当する値以下の場合、前記個人の身体活動の増加、特に筋肉トレーニング及び/又は持久力トレーニングなどの身体トレーニングを施すことを含む、請求項1~6のいずれかに記載のインビトロ方法。
【請求項12】
前記体液が唾液である、請求項1~11のいずれかに記載のインビトロ方法。
【請求項13】
前記クロトー含量が、クロトーと特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはアプタマーを含むイムノアッセイを介して測定され、好ましくはイムノアッセイが二重抗体サンドイッチアッセイまたはコンペティティブアッセイとして、好ましくはラテラルフローアッセイとして行われる、請求項1から12のいずれかに記載のインビトロの方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の方法を実施するための検査キットであって、イムノアッセイ検査キットであることを特徴とし、好ましくは、前記検査が二重抗体サンドイッチアッセイまたはコンペティティブアッセイとして実施されることを特徴とする、検査キット。
【請求項15】
ラテラルフローアッセイに適し、以下、
a)被検査試料を塗布するための試料パッド、
b)クロトー特異的抗体の複合体、前記複合体は検出可能な標識を含む、またはそのような抗体/標識複合体とクロトーの複合体を含む複合体または試料パッド、
c)前記クロトータンパク質に特異的な抗体が固定化された、好ましくは固相の前記幅を横切る線状に設けられた反応または捕捉領域、および、
d)試料液、試料成分、余剰試薬または複合体を回収するための芯または廃液貯留槽、
であり、任意にさらに
e)対照領域:ステップb)の複合体に特異的に結合する抗体を含むが、クロトーには結合しない、
ことを含む固相を含むことを特徴とする、請求項14から16のいずれかに記載の検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体におけるクロトータンパク質レベルの測定のための診断方法、およびそのような診断方法を実施するための検査キットに関するものである。
【発明の背景】
【0002】
クロトーは1997年にクロオマコトによって発見され、マウスにおいてこのタンパク質を欠損すると、いくつかの病理学的表現型が早期に出現することをもたらすことが明らかにされた。クロトーを産生しないマウスでは、寿命が短くなるなど、ヒトの老化に類似した症候群が見られた。クロトーは、いくつかの老化の表現型の抑制に関与していることが示されている。マウスでクロトー遺伝子の発現が欠損すると、不妊、動脈硬化/血管石灰化、皮膚萎縮、骨粗鬆症、肺気腫、急性及び慢性腎臓病、腎線維症、糖尿病、癌が生じる(Kuro-o,M.他、(1997), Nature 390, 45-51)。一方、クロトーを過剰発現させるとマウスの寿命が延びることが示されている(Kurosu,H.他、Science 2005, 309, p 1829)。クロトータンパク質は腎臓、脳、下垂体に最も多く発現し、骨格筋、膀胱、卵巣、精巣内には低いレベルで存在している(Avin, K. G.他、(2014), Frontiers in physiology 5, 189)。
【0003】
WO2016/135295は、クロトーを発現する遺伝子組換え間葉細胞を開示し、タンパク質に関するさらなる情報、および様々な疾患との関連性を含み、その情報は、人間の健康と幸福に対するタンパク質の重要性を強調するために以下に再掲されている。
【0004】
ヒトのクロトー遺伝子は1012アミノ酸からなる1型膜透過タンパク質をエンコードしているが、選択的スプライシングにより、遺伝子は分泌型でも発現することが可能である。このように、クロトーは膜型クロトーと分泌型クロトーの2つの形態で存在する。膜型クロトーは、腎臓でのリン酸排出や活性型ビタミンDの合成を調節するホルモンの受容体として機能する。一方、分泌型クロトーは、成長因子シグナルの抑制、酸化ストレスの抑制、イオンチャネルやトランスポーターの制御などを含む、多面的な活性を持つ体液性因子である。
【0005】
線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーの一員である線維芽細胞増殖因子23(FGF23)は、常染色体優性低リン血症性くる病(ADHR)患者において上昇することが確認された。FGF23は、クロトー依存的にリン酸化ホルモンおよびビタミンD(カルシトリオール)の逆調節ホルモンとして機能する。高リン血症は、血管の狭窄、心筋梗塞、脳卒中、慢性腎臓病(CKD)患者の寿命の大幅な短縮につながる。腎臓でのFGF-シグナル伝達の欠如により、血清中リン酸濃度が上昇する。クロトーの分泌型と膜結合型のそれぞれがFGF-15受容体とともに複合体を形成し、それによってFGF23依存性のシグナル伝達が増加することが見出されている(Kurosu 他:6120-61)。FGF23シグナル伝達の補因子としてのクロトーの機能は、血清中リン酸濃度の調節に重要である。
【0006】
さらに、クロトーは、インスリン成長因子1(IGF-1)を含む様々なシグナル伝達経路を調節することによって機能する。クロトーの作用の一つは、多くの異なる病的過程に関与している酸化ストレスに対する細胞の抵抗性を高めることである。酸化ストレスに対する細胞応答の調節を通じて、クロトーはアルツハイマー病(Zeldich, E.他、 J Biol Chem 2014, 289(35):24700)や糖尿病などの神経変性疾患の状況でも保護的に働くことが示されている。クロトーはまた、コラーゲン合成の抑制因子であることが示唆されており、したがって、線維症の状況で有益である可能性がある(Ghosh, A. K.他、Exp Biol Med 2013, 238(5):461).
クロトーの発現が数種類のがん細胞を静めさせていることは、細胞増殖の促進やがん転移の形成と関連していることが示されている(Camili 他、 Pigment Cell & Melanoma Res 2011, 24(1), p 75; Wang 他; Am J Cancer Res 2011, 1(1):111, Lee et al, Molecular Cancer 2010, 9:109)。一方、がん細胞でクロトーを過剰発現させると、細胞増殖を抑制し、がん細胞のアポトーシスを促進することができる(Chen. B. 他、 J of Exp and Clin Cancer Res 2010, 29:99)。さらに、レニン-アンジオテンシン系阻害剤またはその化合物などの投与により間接的に刺激されたクロトーのアップレギュレーションは、腎線維症の抑制につながり(Ming Chang Hu 他、 Contrib Nephrol 2013, 180:47)、糖尿病ラットモデルには、もともと低いクロトー発現があるようである(Meng Fu Cheng 他、 Journal of Biomedicine and Biotechnology.2010, 513853)。
【0007】
以下に、クロトーレベルの変化が観察される様々な特定の疾患に関するさらなる研究を要約する。
【0008】
慢性腎臓病(CKD)についての背景
CKDは国際的な健康問題の一つであり、例えば2600万人以上のアメリカ人が罹患している。CKD患者では、腎臓のクロトーRNAが減少している。この臨床的観察は、多くの前臨床モデルで確認され、片側腎摘出術と反対側の虚血再灌流傷害が腎臓のクロトータンパク質とmRNAの発現の下方制御が示された。また、慢性糸球体腎炎モデルでも同じようにクロトーの発現低下が示された。クロトーの過剰発現は、このモデルにおいて腎機能を改善し、腎臓の組織学を改善した(Hu, M. C、他、(2011), Journal of the American Society of Nephrology: 22,124-136, Haruna, Y.、他、(2007) PNAS, 104, 2331-2336).
CKD患者では、冠動脈石灰化の有病率が非常に高く、心血管疾患の罹患率と死亡率を高めている。クロトー-FGF23軸は、血管の石化において重要な役割を果たす(Stompor.T. (2014) World journal of cardiology 6, 115-129)。慢性腎臓病(CKD)において、心血管(CV)の罹患率および死亡率が上昇することはよく知られている。サンフランシスコ・ベイエリアの成人1,120,295人を対象とした調査では、腎機能(推定糸球体濾過量、GFR)と心血管事象の間に強い相関が認められた(Go, A. S.他、 New England Journal of Medicine, 2004; 351: 1296-1305)。
【0009】
2000年6月から2006年2月の間に登録された中等度から重度のCKD(ステージ3-5)の成人(n=834)を対象とした腎臓研究学会(RRI)-CKD研究において、著者らは、心拍変動が臨床転帰および心血管疾患(CVD)を予測することを発見した(Chandra,R.他、(2012)欧州透析・移植協会-欧州腎協会公式出版 27, 700-709)。したがって、慢性腎臓病(CKD)は、罹患率の上昇と寿命の短縮につながる心血管疾患の主要な危険因子である。CKD患者の腎臓では、クロトーの発現が著しく低下している。MSC-クロトー(間葉系幹細胞由来クロトー)の注入によりクロトーの発現を回復させれば、腎臓の機能を改善し、その結果、心臓血管死のリスクを低減させることができると考えられる。
【0010】
心血管疾患の背景
心血管疾患(CVD)は、一般人口に広く見られる疾患で、全体の死亡原因の第一位である。クロトーは、CVDの発症の重要な調整として提唱されている。数少ない臨床研究において、可溶性クロトーの低値とCVDの発生および重症度との関係、また高値の場合には心血管リスクの軽減が観察されている。また、ヒトクロトー遺伝子の様々な多型が、心血管事象の発生率と関連している。さらに、いくつかの実験的研究から、このタンパク質が血管のホメオスタシスの維持に作用していることが示されている(Yamamoto M.他.)。クロトーは、NO産生促進による内皮機能障害の改善、接着分子発現抑制、核要素κB抑制、Wntシグナル伝達抑制などの抗炎症・抗加齢作用のメディエーターである。クロトーは、内皮型NO合成酵素(eNOS)の発現量を調節している。Sixらは、FGF23やリン酸誘導による血管収縮のクロトーによる減衰が、NOSのコンペティティブ阻害剤であるニトロ-L-アルギニンの添加により消失することを近年観察している。さらに、HUVECをクロトーに暴露すると、NOの産生が増加し、eNOSのリン酸化とiNOSの発現が誘導されることが観察された。興味深いことに、クロトーは培養ヒトVSMCのH202産生を増加させることができ、このことは、ROS/NOバランスの仲介を通じて血管の正常な状態の調節にこのタンパク質がより複雑に作用することを示唆している(Six I、他、(2014)、PLoS One.2014; 9:e93423)。
【0011】
さらに、このタンパク質は、血管石灰化の抑制や心臓肥大の予防に関係している。このタンパク質が血管壁に発現していることは、血管障害治療の新しいシナリオを示唆している。したがって、クロトータンパク質はCVDに関連し、機能的な血管の完全性の維持に役割を果たす(Martin-20 Nunez.M. (2014) World J Cardiol.6(12):1262-1269)。
【0012】
AD(モルブス・アルツハイマー)の背景
神経変性疾患、特にアルツハイマー病(Morbus Alzheimer: AD)が欧米で増加しています。アルツハイマー病協会によると、米国ではアルツハイマー病は死因の第6位であり、67秒ごとに誰かがアルツハイマー病と診断され、これらの患者の治療と介護にかかる費用は2050年までに1兆1千億米ドルを超えると推定されている。ADは、神経細胞やシナプスの消失だけでなく、神経毒性を持つアミロイドβペプチド(Aβ-プラーク)の生成や、神経原線維のもつれ形成に伴うその沈着によって特徴づけられている。アミロイドの沈着がこの疾患の中心的な特徴であることを示す証拠が増えてきている。活性化したアストロサイトは、IL-6、IL-l、TNF-aなどの炎症反応を促進するサイトカインを産生し、炎症反応を開始する。これらすべては、酸化ストレスに対する不適切な反応、酸素フリーラジカルの蓄積、高血糖、インスリン抵抗性から始まる(Kosales-C′orral, S.他、(2015) Oxidative medicine and cellular longevity, 985845)。
【0013】
最近、AD患者の脳脊髄液において、抗老化タンパク質であるクロトーの濃度が、若い患者やADでない老患者に比べて著しく低いことが示された(Semba, R. D.他、(2014) Neuroscience letters 558, 37-40)。
【0014】
脳では、クロトータンパク質は脈絡叢に局在し、上衣細胞の頂点の原形質膜の細胞膜に優位に局在していることが確認された。kl-/-マウスの脳では、海馬でシナプスの明らかな減少が見られ、クロトーが脳脊髄液中の体液性因子として機能していることが示唆された。腎臓におけるクロトータンパク質は、遠位腎臓小管に局在している(Li S A.他、(2004) Cell Structure and Function 29, 91-99)。
【0015】
Chenらは、クロトーの発現が失われると認知機能に障害が生じることを明らかにした。彼らは、インビトロでのラットの初代オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の成熟誘導や髄鞘形成などを含む、オリゴデンドロサイトの機能に対するクロトーの著しい効果を見出した。クロトーはOPCの成熟を促進した。クロトーノックアウトマウスと対照同腹子のインビボ研究では、ノックアウトマウスは主要なミエリンタンパク質と遺伝子発現が著しく減少していることが明らかになった。免疫組織化学的では、クロトーノックアウトマウスでは、全オリゴデンドロサイトと成熟オリゴデンドロサイトの数が有意に減少した。超微細構造レベルでは、クロトーノックアウトマウスは、視神経と脳梁の髄鞘形成が著しく損なわれていたことが示された(Chen, C. D.他、(2013) The Journal of neuroscience 33, 1927-1939)。
【0016】
多発性硬化症(MS)についての背景
MSはCNSの複合疾患であり、炎症と神経変性の両要素からなる異質な病態が特徴である。疾患の初期に最も一般的な病理組織学的特徴は、白質のパッチ内で急性炎症が断続的に発現し、脱髄を生じる。ミエリンは効率的な軸索伝導を維持するために重要であり、CNS内のミエリン産生および軸索の健康維持を担うオリゴデンドロサイトは、MS患者において損傷または破壊されている。内因性オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)は、ヒトのCNS内に普遍的に分散して存在し、MSの初期には一部の亜急性病変内に高密度に見出されることが分かっている。
【0017】
進行性MSは、寛解することなく徐々に症状が悪化することを特徴とする、この疾患の最も新しい病期である。重度の神経障害は個人の生活の質を劇的に低下させるが、これは主に運動機能に影響を及ぼす皮質病変の拡大に起因している。病理学的には、軸索変性と灰白質神経障害が広範囲に認められる。広範囲の白質と灰白質の炎症は、T細胞、B細胞やミエリンを運ぶマクロファージの存在と同様に、広範囲のミクログリアの活性化に関連していることが報告されている。さらに、損傷した白質及び灰白質領域を効率的に再ミエリン化するOPCの全体的な失敗があり、回復の可能性を劇的に低下させている(Chang, A.他、165-173).クロトーは、OPCの成熟オリゴデンドロサイトへの成熟を促進する(Chen, C. D.他、(2013) The Journal of neuroscience 33, 1927-1939)。
【0018】
パーキンソン病(PD)の背景
PDは進行性の神経変性疾患であり、休止時振戦、徐脈、歯車状硬直、姿勢不安定を主症状として臨床的に特徴づけられます。L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-DOPA)に対する反応性と脳画像により、PDは他の疾患と区別されます。PDの病理学的特徴は、黒質、緻密部におけるドーパミン作動性細胞の消失と、それに続く線条体におけるドーパミン神経支配の喪失である。運動症状は、この黒質線条体神経変性の最も明白な結果である。しかし、基底核疾患だけでなく、中枢神経系や自律神経系の他の部位も影響を受ける。その結果、さまざまな非運動症状が患者のQOLに影響を及ぼすことになる。また、PDの神経変性過程は、臨床症状が現れる何年も前に始まっているというのが、一般的な見解である。家族性PDと特発性PDの間の表現型の重複は、一般的に関与する経路を明らかにするのに十分である。これらの経路には、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、タンパク質のミスフォールディング、タンパク質分解、タンパク質凝集、炎症が含まれる。
【0019】
コサカイらは、クロトー欠損マウスにおいて、黒質、緻密部、腹部体節領域のチロシン水酸化酵素陽性ドーパミン神経細胞の数および線条体のドーパミンレベルが、年齢依存的に有意に減少していることを明らかにした。これらの表現型機能はビタミンD制限により完全に回復したことから、クロトー欠損による活性型ビタミンD生合成の異常な増加がドーパミン作動性ニューロンの変性を誘導することが示された(Kosakai, A.他、(2011) Brain research 1382, 109-117)。
【0020】
クロトーの様々なシグナル伝達経路への寄与と多くの器官系におけるその重要な機能、および様々な疾患の状況における該タンパク質のレベルの減少の観察に基づいて、クロトー投与を含む新規治療法は、有望な治療アプローチを表す可能性がある。例えば、WO2016/135295は、上記の疾患だけでなく、クロトーの投与が有益である個体における他の状態の治療を可能にするために患者に投与することができる間葉系幹細胞を提供するものである。
【0021】
クロトーレベルが低下していることが知られている疾患の治療の可能性に加えて、このタンパク質自体もまた、生物の健康と満足のいく状態のためのある種のマーカーとして考えられてきた。診断の分野では、特定の疾患に対する生物学的マーカーを考慮することは通常の概念であるが、様々な主要な健康側面に関して、健康や少なくとも満足のいく状態を示すことができる分子のモニタリングは、これまで無視されてきたのである。ファントゥッツィ(frontiers in IMMUNOLOGY, July 10 2014, Volume 5, Article 351)は、これまで十分に共鳴を得ることができなかった「健康の音」、または、実は健康の沈黙に着目している。彼は、むしろ、代謝のバランスが良く、生物に苦痛がないことのマーカーと考えられる分子よりも、苦痛のメッセージが好まれてきたと報告している。ファントゥッツィは健康メッセンジャーの候補の一つとして、クロトーを挙げ、これは健康で苦痛のない状態では、この分子は最適に生成、放出され、生物活性を示し、一方でストレスがかかると、クロトーレベルが低下することが観察されている。人のクロトーのレベルが最適であることは、例えば、定期的な健康診断で測定された場合、健康であることの重要な指標となり得る。
【0022】
特に、より重篤な状態に対して、クロトー産生間葉織幹細胞の投与は、タンパク質発現および治療法と考えられるタンパク質レベルへの到達を提供するが、特定の状態において、個人のクロトーレベルの予防的および治療的増加は、身体トレーニングによって達成することもできる。例えば、マツバラら(AM J Physiol Heart Circ Physiol. 306:H348-H355, 2014)は、有酸素運動トレーニング後の閉経後女性における血漿クロトーレベルの増加および動脈硬化の軽減を報告している。また、ジら(Experimental and Therapeutic Medicine 16:3511-3517, 2018)は、有酸素運動とそれに伴うクロトーの発現促進による老化および老化関連疾患に対するポジティブな効果を予測している。さらに、タンら(Journal of Circulating Biomarkers, Volume 7:1-7,2018)は、高強度の身体運動トレーニング後に健康なボランティアのクロトー血清レベルが上昇することを観察した。1回のトレーニングセッションでも、クロトーの形成を誘導することがわかった。最後に、アヴィンら(frontiers in Physiology, Volume 5, Article 189, June 2014)は、以前に発表された効果をまとめ、運動、特に骨格筋の、クロトー発現とその結果の血漿中のクロトーレベルの増加に対する効果を印象的に実証している。
【0023】
これらの観察は、特に糖尿病などの特定の疾患を持つ患者における身体活動の延命効果と、クロトーの存在およびクロトーの血漿レベルとを関連付けるものである。サントス-ディアスら(Br J Sports Med 2016; 0:1-2)は、単一の運動セッションでさえ、男女の血清クロトーレベルの上昇を有意に誘導することを示している。モスタフィジら(Nephro Urol Mon.2016 Jan; 8(1): e30245)は、非アスリートのグループと比較して、アスリートのグループの血漿中の遊離クロトーの濃度が有意に高く、血清の他の要素には2グループ間で有意差はなかったと報告している。
【0024】
有酸素運動、特に筋力トレーニングが血清クロトー値を上昇させるという観察は、非常に有望な知見である。これらの結果は、特定の条件だけでなく、一般的な健康状態も、身体トレーニングや体の鍛錬によって大幅に改善できることを示し、さらに、特に高齢者や神経変性疾患を患っている人においても、血漿クロトーレベルを上げることで、認知状況を改善したり、少なくとも認知機能の低下を遅らせることができるという結果も示している。(Shardell.他、 J Gerontolog A Biol Sci Med Sci, 2015, 1-6; Chengら , Acta Neurobiol Exp 25 2015, 75: 60-71)。
【0025】
クロトーレベルが健康や疾患の重要な指標であることは間違いなく、低すぎるレベルを最適なレベルまで上げることで、個人の長寿の実現に貢献することができる。しかし、現状では、個人のクロトー値を測定するためには、通常、医療機関で採血し、臨床検査室で分析する必要があるのが難点である。クロトーレベルの測定は、初期診断のために重要なだけでなく、一般に適用されている薬物療法やクロトー投与による疾患の治療中や治療後、あるいは運動による健康増進の取り組み中にも観察が必要である。特に、個人におけるクロトーレベルの定期的なモニタリングについては、現状では満足できるものではなく、本発明の目的は、費用対効果が高く、容易に適用できる方法で、人のクロトーレベルを測定する改良された手段を提供することであり、それは、最高でも、クロトーレベルをモニタリングするための身体運動中またはその直後に行うことができるものであった。
【発明の概要】
【0026】
第1の態様において、本発明は、体液中のクロトーの含有量を測定することにより、個人の健康状態を測定及び/又はモニタリングする方法に関し、ここで、体液は、唾液及び涙液から選択される。
【0027】
第2の側面において、本発明は、イムノアッセイを行うために必要な試薬を含むことを特徴とする、検査キットに関するものである。
【発明の詳細な説明】
【0028】
本発明は、患者におけるクロトーレベルの測定のための改良された方法を提供することによって上記目的を解決し、それは特に、診断方法を実行するための検査キットの形態の方法および手段を提供する。この検査は、個人または患者によって、そのような測定が適切であると思われる任意の時点で、容易に行うことができる。
【0029】
本発明方法は、特に唾液中のクロトーレベルが、血清試料で測定されたクロトーレベルと非常によく比例する、という本発明者らの驚くべき知見に基づいている。従って本発明の方法は、好ましくは、唾液を用いて行われる。
【0030】
本発明の検査の目的は、血清や尿を用いる方法と比較して、苦痛がなく、安価で、信頼性が高く、簡便かつ安全な、分子診断の効果に適した検査を提供することを目的とする。本発明の方法は、HPLC-技術と比較され、同等の結果が得られた。既に得られている結果は、血清および唾液中のクロトーレベルが患者と健康なボランティアとの間で有意な差があるという点で驚くべきものである。
【0031】
血清と唾液の実際の値は、同一人物や同一グループ内でもある程度異なるが、血清と他の体液、特に唾液中のクロトーレベルには信頼できる関係があることが判明した(
図1~
図5参照)。この観察は、クロトータンパク質が唾液中に有意かつ有意義なレベルで存在することを証明しており、これは他の多くのタンパク質には当てはまらない(Tekus他、 Acta Biol Hung, 2012; 63 (Suppl1):89-98; Ellisら、N Z Med JK、2012; 125(1353):47-58;Volkery他、Vet Rec、2012;171(8):195;Holten-Andersonら、Vet Rec、2012;171(8):195。195; Holten-Andersonら、Scand J Gastroenterol、2012; 47(10):1234-41; Rahnamaら, Endokr Res, 2012 Aug 15 epub; Pant Paiら, Lancet Infect Dis, 2012; 12(5):373-80; Mahboobi他、J Oral Pathol Med、2012; 41: 505-16; Yen Bee Ng他FEMS Immunol Med Microbiol、2007; 25 49(2):252-60; Castagnolaら, Acta Otorinologica Italica, 2011; 31: 347-57)。
【0032】
この観察を利用して、本発明は、個人の健康状態をモニタリングするための信頼性の高い検査方法および検査キットを初めて提供する。本発明の特定の実施形態では、この健康状態は、低い又は低下したクロトーレベルと相関する既存の又は以前の疾患又は状態、又はそのような疾患又は状態に対する体質を含むと考えられる。比較的低いクロトーレベルを伴うこのような疾患又は状態は、先行技術において、及び本明細書の導入部分において幾つか詳細に記載されている。しかしながら、これは、クロトーレベルの低下が将来においてのみ認識される可能性があるさらなる疾患を除外するものではない。したがって、本発明方法による比較的低いクロトーレベルの検出は、特定の疾患症状がまだ観察されていなくても、人の健康状態が満足でないことを示すものである可能性もある。したがって、さらなる診断方法を適用して、重篤な疾患を検出または除外することができる。
【0033】
好ましい実施形態において、健常者と比較してクロトーレベルの減少を伴う又は引き起こす、疾患又は状態は、癌、炎症性疾患、慢性腎臓病(CKD)、神経変性疾患、慢性心臓病、器官線維症、動脈硬化症、認知症、糖尿病、勃起不全、自己免疫疾患又は自己免疫関連疾患、敗血症及びまた早老及び他の加齢性疾患から少なくとも1つを選択される。
【0034】
本発明の方法によって測定される低クロトーレベルが適応症となり得る神経変性疾患、ならびに神経変性疾患の前駆症状には、モルブス・アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびハンチントン病が含まれる。さらに好ましい実施形態では、人の健康状態は、1型糖尿病、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス、自己免疫性脳脊髄炎、ループス腎炎、IgA腎症等の自己免疫性腎炎、変形性関節症等の自己免疫疾患、または患者における炎症またはその構成要素を活性化するその他の疾患によって影響を受けている。
【0035】
本発明の方法は、このような疾患の存在のリスクを検出するため、または疾患の進行および/または医療処置の効果をモニターするためのいずれかに適用することが可能である。
【0036】
特に、本発明方法を既存または既往の疾患との関連で使用する場合に関しては、治療の前、間および/または後にクロトーレベルをモニターし、測定することが好ましい。この状況では、治療には、クロトーの投与のほか、他の治療剤の投与またはそれらの組み合わせが含まれる。上述のように、クロトーはタンパク質として適用することも、例えば、クロトーを発現する幹細胞を投与するなどしてクロトーの形成を促進することもできる。治療中にクロトーのレベルを上げることができれば、人の健康状態は明らかに改善される。
【0037】
健康な人のクロトーレベルが低いということは、その人が十分に体を動かしていないことの強い示唆とも考えられる。このような運動不足は、この人がライフスタイルを変えない場合、多かれ少なかれ深刻な健康問題や早期老化につながる可能性がある。したがって、本発明のさらに好ましい実施形態は、個人の健康状態に対する身体活動の影響をモニターするために、クロトー含有量を測定するインビトロ方法である。上記で説明したように、身体活動、特に身体トレーニング、筋肉トレーニング及び持久力トレーニングは、個人の健康状態及び特に認知能力の増加も反映するクロトーレベルを増加させることが示されている。
【0038】
本発明のインビトロ法はまた、個人の生物学的年齢を測定するために使用することができる。再び、そのような生物学的年齢を測定することは、可能性のある健康問題および不健康な行動に対処し、したがって、次に、クロトーレベルを増加および調整する結果となる必要な行動をとることによって、長寿を改善するのに役立ち得る。
【0039】
血清と唾液を用いたイムノアッセイで得られる値の実際の相関は、どのようなアッセイフォーマットでも容易に測定、検証することができる。例えば、TRF法(時間分解蛍光免疫測定法)で測定した場合、血清と唾液中のクロトーの関係は3.6:1であると測定されている(
図1)。このように、本検査法のキャリブレーションにより、例えば血清と唾液の比較における健常者の「正常」値の関係が提供される。
【0040】
「正常」値はまた、健康であると考えられる、あるいは一定の許容偏差の範囲内にある、クロトーレベルがコホートの平均値である。適切に類似した人々のコホートについての検査結果を提供することによって測定することができる。コホートは、年齢が近い人、性別が同じ人、生活環境が似ている人等から選ぶことができる。さらに、特定の状況下で「正常」な値を選択するために、文献に報告されている値を含めることができる。
【0041】
本発明のインビトロ方法は、検出されたクロトーレベルが、例えば上記のように導き出され得るある閾値以下である場合、少なくとも1つの治療的措置を伴うことが好ましいであろう。治療的措置は、個体にクロトーを投与すること、または、上記に説明したような適切な関係に基づいて、100pg/ml未満の血清値に対応するクロトーレベルが測定されたそのような個体のクロトーレベルを上昇させることを含んでいる。好ましくは、クロトーレベルが200pg/ml未満、最も好ましくは300pg/ml未満の血清レベルに相当する場合、クロトーレベルを上げるための治療措置が既に開始されるべきである、治療措置が望ましい。このため、唾液中のクロトーレベルは、治療が望ましいとされる値から3.6倍程度に低下することが測定される。
【0042】
好ましくは、本発明の文脈におけるクロトーの投与は、クロトーを産生する、または治療有効数の核酸ベクター、またはクロトータンパク質をエンコードする領域を含み、前記領域がプロモーターまたはプロモーター/エンハンサーの組み合わせに作動可能に連結され、治療有効数の間葉織幹細胞を投与し、ここで、前記ベクターを含む細胞がクロトーを発現させることを含む。また、個体におけるクロトーレベルを上昇させるために、クロトー産生ウイルスベクター又はCRISPR-Cas9遺伝子編集を介してクロトー発現を誘導することも本発明の文脈で検討することができる。他の実施形態では、クロトータンパク質は、患者に直接送達または投与され、ここで、クロトータンパク質は、好ましくは、バイオテクノロジー的方法によって組換え的に産生される。
【0043】
投与するクロトーの量は、個人または患者において実際に測定されたレベルに依存し、好ましくは、血清で測定した場合に340pg/ml以上、対応して唾液で測定した場合に85pg/ml以上、好ましくは100pg/ml以上までレベルを上げることが好適である。
【0044】
別の好ましい実施形態では、患者へのクロトータンパク質の投与または上記に概説したようなバイオテクノロジー的方法による患者におけるその発現の誘導の代わりに、本発明はまた、個体に増大した身体活動を受けさせることを含む。特に、測定されたクロトーレベルが、健康な人のグループで測定された「正常」レベルに対応する値、特に上記のような値を下回る場合、身体トレーニング、特に筋肉トレーニングが、そのような患者において示される。
【0045】
本発明によれば、クロトーレベルは、クロトーと特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはアプタマーを含むイムノアッセイを介して測定されることが好ましい。本発明方法は、好ましくは、二重抗体サンドイッチアッセイまたはコンペティティブアッセイによるクロトーレベルの測定を含む。両アッセイは、最も好ましくはラテラルフローアッセイとして実施される。
【0046】
アッセイの具体的な設計は決定的なものではなく、適切な検査フォーマットが当業者には利用可能である。本発明のさらなる対象は、本発明方法を実施するための検査キットであるため、いくつかの具体的な好ましい実施形態について、以下にさらに詳細に説明する。かかる検査キットは、イムノアッセイを実施するために必要な反応物を含むものである。
【0047】
原則として、本発明方法を実施するために、任意のイムノアッセイ形式を適用することができる。好ましい実施形態では、検査は二重抗体サンドイッチアッセイまたはコンペティティブアッセイとして実施される。固相、抗体だけでなく、そのような方法で使用するためのラベルを含むアッセイ環境も当業者にはよく知られており、適用できる検査形式は特に限定されない。しかしながら、本発明の非常に好ましい実施形態では、本発明の検査キットによって提供される検査形式は、ラテラルフローアッセイ形式に適している。この種の試験および対応する検査キットについて、以下により詳細に説明する。
【0048】
ラテラルフローアッセイ
前述のように、本明細書に開示されるようなインビトロ法を実施するためのキットは、異なる原理に基づくものであってもよい。好ましい原理の1つは、ラテラルフローイミュノクロマトグラフィーアッセイとして知られている。このようなラテラルフローイムノクロマトグラフィーアッセイは、医師又は他の医学的訓練を受けた者の助けを借りずに、患者/スポーツマンによって容易に実施することができる。
【0049】
ラテラルフロー検査は、特殊で高価な装置を必要とせず、標的分析物試料の存在(または不在)を検出することを目的としたシンプルな装置であるが、読み取り装置によってサポートされているラボベースのアプリケーションも多く存在する。一般的に、これらの検査は医療診断のために、家庭での検査、ポイントオブケア検査(POC)、または実験室での使用のいずれかに使用されます。広く普及し、よく知られているアプリケーションは、家庭用妊娠検査薬である。
【0050】
この技術は、多孔質の紙片や焼結ポリマーなどの一連の毛細血管床に基づく。これらの要素はそれぞれ、液体(例えば唾液)を自発的に輸送する能力を持ち、最初の要素(試料パッド)はスポンジとして機能し、過剰な試料液を保持する。一旦浸漬されると、液体は、製造者がいわゆる複合体、好ましくは塩-糖マトリックス中の生物活性粒子(下記参照)の乾燥フォーマット、対照分子(例えば、クロトー)と粒子表面に固定化されたその化学的パートナー(例えば、抗体)の間の最適な化学反応を保証するすべてを含むものを保管した第2の要素(複合体パット)へと移動する。試料液は塩と糖のマトリックスを溶かすと同時に粒子も溶かし、複合輸送作用によって試料と複合体は混合されながら多孔質構造体の中を流れていく。このようにして、分析対象物は粒子に結合しながら、第3の毛細血管床をさらに移動していく。この材料には、製造元によって第3の分子が固定化された領域(反応または捕捉領域、しばしばストライプと呼ばれる)が1つまたは複数存在する。試料とカドミウムの混合物がこれらのストライプに到達するまでに、分析対象物は粒子上に結合し、3番目の「捕捉」分子は複合体を結合する。しばらくして、より多くの液体がストライプを通過すると、粒子が蓄積され、ストライプ部分の色が変化する。通常、ストライプは少なくとも2本ある。1本目(対照領域)はあらゆる粒子を捕捉し、それによって反応条件や技術がうまくいったことを示し、2本目は特定の捕捉分子を含み、分析対象分子が固定化された粒子のみを捕捉する。これらの反応領域を通過した液体は、最後の多孔質体である芯(または廃液貯留槽)に入り、単に廃棄物容器として機能する。
【0051】
このような検査設計は、検査キットを使用して実施されるイムノアッセイの性質に合わせることができる。ラテラルフロー検査は、コンペティティブアッセイまたはサンドイッチアッセイとして動作させることができる。
【0052】
複合体には原則としてどんな色の粒子でも使用できるが、ラテックス(青色)またはナノメートルサイズの金粒子(赤/黒色)が最もよく使用される。金粒子は局在表面プラズモン共鳴により赤色を呈している。蛍光標識や磁気標識の粒子も使用できるが、これらは検査結果を評価するために電子リーダーを使用する必要がある。
【0053】
試料はまず、標的分析物に対する抗体で標識された複合体または試薬パッド中の着色粒子に接触する。捕捉領域の検査ラインにも同じ対照に対する抗体が含まれるが、分析対象物の異なるエピトープに結合する可能性がある。陽性試料では、検査ラインは色のついたバンドで示される。サンドイッチアッセイの例として、サンドイッチELISAがある。厳密に必要というわけではないが、ほとんどの検査キットでは、検査が正しく行われたことを確認するために、ラテックスや金などのフリーパーティクルを拾う抗体を含む第2ラインを組み込むことが好ましいとされている。
【0054】
好ましい実施形態では、ラテラルフローアッセイの単一成分は、ある閾値以上のクロトーが試料中に存在する場合にのみクロトーの存在が示されるように適合される。
【0055】
本発明の好ましい検査キットは、以下の構成要素からなる。
1.試料パッドとして検査試料(唾液、涙液、尿)に吸収パッドを貼る。
2.複合体または試薬パッド-標的分析物クロトーに特異的な抗体を含み、標識された、好ましくは着色された粒子(通常コロイド金粒子、またはラテックスマイクロスフィア)に複合体化している。
3.反応または捕捉領域:膜-通常、疎水性のニトロセルロースまたはセルロースアセテート膜に抗標的分析物抗体を固定化し、捕捉領域または検査ラインとして膜を横切る線状にする(複合体抗体に対する特異抗体を含む対照領域も存在しうる)。
4.芯または廃棄領域またはリザーバー-細管現象によって反応膜を越えて試料を引き寄せ、回収するように設計されたさらなる吸収パッド。
ストライプの構成要素は通常、不活性な裏打ち材に固定され、単純な計深棒フォーマットで提供されることもあれば、試料ポートと反応窓を備えたプラスチックケースの中に捕捉領域と対照領域を表示することもある。
本発明の方法で使用される検査キット(ラテラルフロー免疫測定法)の好ましい実施形態は2つある。
【0056】
a.二重抗体サンドイッチアッセイ
この方法では、試料は試料パッドから複合体パッドに移動し、対照分析物であるクロトーが複合体に結合する。次に試料は、対照/複合体が固定化された抗体に結合し、膜上に可視のラインを形成する捕捉領域に到達するまで、膜を横切って移動し続けまる。この対照ラインは、試料が意図したとおりに膜を横切って移動したことを示す。膜上の2本の明確なラインは、陽性結果を示す。対照領域に1本の線があれば、陰性である。二重抗体サンドイッチアッセイは、病原菌病原体やウイルスなど、複数の抗原部位を持つ大きな分析対象物に最も適している。本発明では、クロトー上の異なるエピトープに結合する適切な抗体のペアを選択する。
【0057】
このような抗体は、市販品の中から選択することができ、あるいは、当技術分野で公知の方法によって異なるクロトーエピトープに対する抗体、特にモノクローナル抗体を上昇させることによって作製することができる。このような方法を実施するのに適した検査方法又はキットがクロトーに特異的に結合する抗体を用いる場合、用語「抗体」は、例えばウサギ、羊又はヤギのような実験動物の免疫化によって人工的に生産された抗体だけでないことを意味する。また、好ましい実施形態では、ハイブリドーマ技術に従って産生されたモノクローナル抗体も含まれる。さらに、用語「抗体」は、組換え産生された抗原結合断片のような抗体の抗原結合断片も含んでいる。このような構築物は、例えば、ファージ提示法およびそこから派生する技術によって製造することができる。
【0058】
b.コンペティティブアッセイ
コンペティティブアッセイは主に低分子の検査に用いられ、二重抗体サンドイッチ法とは異なり、複合体パッドには標的分析物またはその相似器官と既に結合している抗体が含まれる。試料中に標的分析物が存在する場合、複合体と結合せず、非標識のままとなります。試料が膜上を移動し、捕捉領域に到達すると、過剰な非標識分析物が固定化抗体に結合し、複合体の捕捉を阻害するため、可視光線は生じない。未結合の複合体は、対照領域の抗体と結合し、目に見える対照ラインを形成する。膜上に対照ラインが1本あれば、陽性となる。捕捉領域と対照領域に2本の可視線があれば、陰性となる。しかし、過剰の非標識標的分析物が存在しない場合、捕捉領域に弱い線が出ることがあり、結論が出ないことを示す。コンペティティブアッセイは、マイコトキシンのように複数の抗体に同時に結合できない低分子の検査に最適である。
【0059】
本発明による方法に使用することができるこれらの異なる検査フォーマットを考慮すると、検査キットは、以下を含む固相を含むことを特徴とする。
a)被検査試料を塗布するための試料パッド、
b)クロトー特異的抗体の複合体、前記複合体は検出可能な標識を含む、またはそのような抗体/標識複合体とクロトーの複合体を含む複合体または試料パッド、
c)前記クロトータンパク質に特異的な抗体が固定化された反応領域または捕捉領域、および
d)試料液、試料成分、余剰試薬または複合体を回収するための芯または廃液貯留槽
であり、任意にさらに
e)対照領域:ステップb)の複合体に特異的に結合する抗体を含むが、クロトーには結合しない。
【0060】
ラテラルフロー技術には様々なバリエーションがある。膜上の捕捉領域には、抗体ではなく、標的分析物に応じて抗原や酵素を固定化したものを使用することができます。また、複数の捕捉領域を適用してマルチプレックス検査を作成することも可能である。
【0061】
本発明の文脈において、抗体という用語は、クロトー結合抗体断片またはまたアプタマーをも包含することを意味する。したがって、上記に概説したような実施形態は、代替の好ましい実施形態において、上記のような領域b)、c)およびe)におけるそのような抗体断片またはアプタマーをも包含することができる。
【0062】
ラテラルフローイムノアッセイは、訓練を受けていないオペレーターでも簡単に使用でき、通常15分以内に結果が出る。また、安定性とロバスト性に優れ、保存期間が長く、通常、冷蔵を必要としない。また、比較的安価に製造することができる。これらの特徴は、ポイントオブケアでの使用や、実験室だけでなく現場での試料検査にも理想的である。しかし、濃縮や培養の手順を追加しなければ、その感度は限られたものになる。定量的な検査もあるが、本発明の目的は、好ましくは、ある範囲内の唾液または涙液の定性的な検査である。この文脈では、好ましい検査キットは、ある濃度以上に存在する場合にのみクロトーを測定するように調整される。このような濃度以下であれば、検査キットは陰性結果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】
図1は、TRF法(時間分解蛍光免疫測定法)で測定した血清と唾液中のクロトーの関係が、約3.6対1であることを示している。
【
図2】
図2は、ミュンヘンの健康な人から得た467人のプローブ(n=467、最小364、39pg/ml、範囲164-601、クラウドクローンエリザで測定)の血清中のクロトーレベルを測定した結果を示す。
【
図3】
図3は、ミュンヘンで得られた467のプローブに関するデータを、96のプローブを含むウルム市の血液提供者のコホートと比較したものである。クロトーの血清レベルはクラウドクローンエリザで検出された。年齢と性別の群の間に差があり、若いコホートほどクロトーの値が高い可能性がある。また、女性発端者と男性発端者の間にもわずかな差があり、男性の方が高い値を示している。
【
図4】
図4は、慢性腎臓病ステージIII及びIVの患者及び透析患者のミュンヘンデータとクロトー血清レベルとの比較を示す。患者において、本発明者らだけでなく他の者(例えば、Wang他、BioMed Research International, Vol 2018, Article ID9481475; Rotondiら、International Journal of Endocrinology, Vol 2015, Article ID872193; and Pedersenら; Clinical Biochemistry, 46 (2013) 1079-1083)は、以下の表に示すように腎機能と末梢血におけるクロトー濃度との間に強い相関を見いだした。
【0064】
【表1】
【
図5】
図5は、正常対照者と神経変性疾患患者で測定した血清中のクロトーレベルを示している。
【0065】
上記の図に示した結果について、クロトー量はクラウドクローン株式会社の酵素結合免疫吸着測定法SEH757HUを用いて測定したものである。試薬・材料、試薬・試料の調製、アッセイ手順、および計算は、すべて検査キットに付属の取扱説明書に従った。
【国際調査報告】