(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-27
(54)【発明の名称】機能のための機械的な停止および開始のシステムおよびそのシステムを有する時計
(51)【国際特許分類】
G04F 7/10 20060101AFI20230420BHJP
G04C 23/10 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
G04F7/10
G04C23/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555637
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(85)【翻訳文提出日】2022-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2021056102
(87)【国際公開番号】W WO2021185655
(87)【国際公開日】2021-09-23
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506059942
【氏名又は名称】カルティエ インターナショナル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【氏名又は名称】岡野 大和
(72)【発明者】
【氏名】ロマン モイーズ
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン バス
【テーマコード(参考)】
2F101
【Fターム(参考)】
2F101EG05
(57)【要約】
本発明は、それぞれ第一および第二の停止部により定義された、フレーム上の第一および第二の極限位置の間に動くように取りつけられ、前記機能のために制御部材に運動学的にまたは直接的に接続された質量、重力の影響下で前記質量が変位し、第一および第二の極限位置の間のばねに負荷を与え、第二および第一の極限位置の間の前記ばねを弛緩させ、時計を開始および停止させる機械的システムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計の機能を開始および停止するための機械的なシステムであって、
それぞれ第一および第二の停止部により定義される第一および第二の極限位置の間のフレーム上に可動になるように取りつけられた質量であって、前記質量は重力の影響下で変位し、第一および第二の極限位置の間のばね(14)に負荷を与え、第二および第一の極限位置の間の前記ばねを弛緩させる質量(10)を含み、
前記質量は前記機能のために制御部材(12)に運動学的または直接的に接続され、
前記質量(10)および前記ばね(14)の力は、前記機能を命令し制御部材を変位させるために必要な力と、前記ばねおよび重力によって及ぼされる力の合力によって前記質量がその一方の極限位置からもう一方の極限位置まで双安定的に変位するときの所定の前記フレームの空間的姿勢との関数として決定され、前記第一の極限位置から前記第二の極限位置への前記質量の変位が前記制御部材を介して前記機能を開始させることができ、第二の極限位置から第一の極限位置への質量の変位が制御部材を介して前記機能を停止させることができる、
システム。
【請求項2】
前記質量が回転可能となるように取りつけられており、かつ不均質であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記質量が速度調整器に接続されていることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載のシステム。
【請求項4】
前記速度調整器が脱進機、慣性ブレーキ、浴中粘性摩擦装置であることを特徴とする、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
システムで、前記質量をブロックするための装置を有することを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記制御部材が磁石を備えることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記機能のそれぞれ開始および停止をトリガーする前記フレームの向きが異なるように前記ばねが計算されていることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記機能の実施を可能とする要素が前記フレームに取りつけられていることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
時計であって、
前記請求項のいずれか一項に記載のシステムと、
前記機能の実装を可能とする機構であって、前記時計がそれぞれ第一の空間的姿勢または第二の空間的姿勢になった場合、前記質量が第一の極限位置から第二の極限位置および第二の極限位置から第一の極限位置に移動される機構と
を有する、時計。
【請求項10】
前記第一および第二の空間的姿勢が類似していることを特徴とする、請求項9に記載の時計。
【請求項11】
前記第一および第二の空間的姿勢が異なることを特徴とする、請求項9に記載の時計。
【請求項12】
前記時計が、前記第一の姿勢においては30から35°の角度alpha、Beta=0°、Gamma=0°を有し、前記第二の姿勢においては15から18°の角度alpha、Beta=0°、Gamma=0°を有することを特徴とし、
前記角度alphaが文字盤の位置9Hおよび3Hを通る軸を中心とした前記時計の回転角であって、前記文字盤が水平であるときにalphaが0と等しくなり、前記角度betaが軸12H-6Hを中心とした回転角であって、軸gammaが前記文字盤の中央を通る直行軸を中心とした回転角である、
請求項11に記載の時計。
【請求項13】
請求項9から12が請求項5に従属しているとき、前記質量をブロックする前記装置が時計の外部からもアクセス可能であることを特徴とする、請求項9から12のいずれか一項に記載の時計。
【請求項14】
前記機構がクロノグラフ機構、打撃機構、視覚的アニメーション機構の中から選択されていることを特徴とする、請求項8から13のいずれか一項に記載の時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は時計の分野に関し、機能の停止および開始をするための機械的システムに関する。「機能を開始する」という表現は、初期の休止状態から第二の活性状態へ機能を移行させることと定義され、「機能を停止する」という表現は、活性状態から休止状態へ機能を逆移行させることと定義される。
【先行技術】
【0002】
機械式時計の分野において、休止または停止状態および作動状態のある機能は知られている。例えば、押しボタンまたはトリガーピースにより作動するクロノグラフまたはミニッツリピータなどがその例である。時報機構またはアラーム機構もそうであるように、一部の機能は同様に複雑なトリガーシステムにより自動的に作動する。
【0003】
文献US3541781では、着用者が立っているか座っているかどうかの検知およびそれぞれの体勢で過ごした時間の計算を可能とする仕組みが開示されている。自由に回転させられるレバーが設置されており、その重量のみの影響で装置の位置に応じて回転する歯車列の雁木車を遮断または解放する。しかしながら、この仕組みはあまり精密ではなく、計測が開始または停止される装置の位置が定義されていない。
【0004】
本発明の目的は、機械式時計、すなわち電気または電子素子を使用しない時計で使用されうる、少なくとも部分的に先行技術の欠点を克服する機能の命令機構の提案である。
【発明の概要】
【0005】
より具体的には、本発明は、それぞれ第一および第二の停止部により定義された、フレーム上の第一および第二の極限位置の間に動くように取りつけられた質量、重力の影響下で前記質量が変位し、すなわち第一および第二の極限位置の間のばねに負荷を与え、すなわち第二および第一の極限位置の間の前記ばねを弛緩させ、時計の機能を開始および停止させ、前記質量は前記機能のために制御部材に運動学的にまたは直接的に接続された機械的システムに関する。
【0006】
質量およびばねの力は、前記機能を命令し制御部材を変位させるために必要な力、および質量が一方の極限位置からもう一方の極限位置まで双安定的に変位するときのあらかじめ決定されたフレームの空間的姿勢の関数として決定され、ばねおよび重力によって及ぼされる力の合力によっては、第一の極限位置から第二の極限位置への質量の変位が制御部材を介して機能を開始および停止させることができ、第二の極限位置から第一の極限位置への質量の変位が制御部材を介して機能をそれぞれ停止および開始させることができる。
【0007】
本発明の定義は、第一の状態および第二の状態、特にアニメーションを占有することができる、時計の機能を指令するコマンドシステムにもおよぶ。
【0008】
他の態様によると、本発明は同様に、上述のような停止および開始のシステムを備える時計に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明の他の詳細は、下記を含む添付図面を参照する以下の説明を読むことによってより明白になるだろう。
【
図1】着用時の時計の回転軸の選ばれた定義を示す。
【
図2】特定の実施形態における、第一の極限位置から見た停止および開始のシステムを示す。
【
図3】基準軸および角度の位置を参照の本発明によるシステムを含む時計を示す。
【
図4】特定の実施形態における、第二の極限位置から見た停止および開始のシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の目的は、機械的動作または圧力が直接与えられることなく機能の開始および停止を命令することを可能とする機械的スイッチの提案である。より具体的には、本発明による停止および開始のシステムにより、システム、すなわちそれが組み込まれている時計の空間的姿勢に応じて機能を開始および停止することが可能となる。以下で理解される通り、さまざまな寸法設定がありえるが、好ましい実施形態は、着用者が通常の時間を確認する動作を行った時に機能が開始され、例えば腕をより垂直な位置に戻すなど、手首を回転させた時に機能が停止されるように本発明によるシステムの寸法を設定し配置することである。
【0011】
より具体的には、本発明による機能の停止および開始のためのシステムは、第一および第二の極限位置の間にある時計フレーム上に動くように取りつけられた、振動質量タイプの質量を含む。これらの後者は、それぞれ第一および第二の停止部によって定義され、これらは衝撃を緩和するために弾性であってもよい。
【0012】
質量にはばねが接続されている。ばねとおもりの連結は、質量の変位がばねの巻き上げに直接的な影響を与えられるように、直接であることが望ましい。より具体的には、時計を動かす着用者の動作に続いて質量が重力の影響により変位するとき、ばねは第一および第二の極限位置の間で変位することで質量によって負荷がかかるように配置されている。逆に、質量が第二および第一の極限位置の間で変位するため、ばねが緩み、場合によっては重力の作用に逆らって蓄積されたエネルギーを質量に再供給する。
【0013】
質量は前記機能のために制御部材に運動学的または直接的に接続される。質量と制御部材との間の接続が非近接型であることが好ましい。この接続はピニオン式噛合式または制御部材と噛み合う綜合ラックでもよい。質量は同様に、例えば以下で詳細に説明される視覚的アニメーションタイプの機能など、磁気的に制御できる磁石を直接有してもよい。
【0014】
(質量の)質量およびばねの力は機能の命令および制御部材の変位に必要な力の機能として決定される。システムは同様に、質量がばねによって及ぼされる力および重力の結果に応じて一方の極限位置からもう一方の極限位置に変位される時計の所定の角度配向の関数として寸法が設定され、一方の極限位置からもう一方の極限位置への質量の前記変位は制御部材を介して前記機能のそれぞれ開始および停止を決定する。
【0015】
言い換えれば、(クロノグラフのシャトルまたはコラムホイールを回転させる、トリガーレバーを作動させる、磁石を変位させる、など……)機能をそれぞれ開始および停止させるために必要な力およびトルクが第一の工程で決定される。
【0016】
機能がそれぞれ開始または停止させられるために好ましい時計の方向は同様に決定される。好ましい実施形態においては、着用者が読むために時計を持ち上げ、読む位置になった時に機能が開始される。
図1で示されるように、角度alphaは軸9H-3Hを中心とする回転角度、角度betaは軸12H-6Hを中心とする回転角度、軸gammaは文字板の中心を通る直交軸を中心とする回転角度と定義される。これらの3つの角度は軸9H-3Hが肩の線とほぼ平行になるように時計が着用者に向けて水平に置かれたときにゼロとなる。機能を開始するときに理想とされる時間を読むための従来の位置では、以下が適用される:Alphaは30~35°、Beta=0°、Gamma=0°。
【0017】
先行する位置とは異なる位置に手首が回転された位置において機能の停止が望まれることが好ましいが、義務ではない。一つの方向を中心に停止および開始が意図せず交互に行われる危険性は、このように制限されている。停止の方向はAlphaが15~18°、Beta=0°、Gamma=0°で定義されることが好ましい。前記停止の方向は開始のために考慮される開始点の中立方向(この場合、Alpha=0°、Beta=0°、Gamma=0°)と異なることが好ましいことが留意される。このヒステリシスを利用してばねを計算することで、時計の向きを区別し、それぞれを機能の開始および停止に使用することが可能である。この区別により、時計が開始および停止の位置で振動した場合に起こりうる、開始および停止が意図せず交互に行われることを回避することが可能になる。
【0018】
これらの要素に基づいて、必要なトルクを発生させるために質量の移動および(質量の)重量が決定される。
【0019】
しかしながら、ばねの剛性および予荷重の両方の寸法を設定することも必要である。その機能は、時計が反対向きに配置されていない場合に、重力の作用に逆らって質量を第一の極限位置と隣接する位置で維持することである。向きがこれ以上になると、重力によって及ぼされる力のほうがばねによって及ぼされる力より大きくなり、質量の変位によって機能を開始する。ばねも同様に、質量が第二の極限位置と隣接している場合、質量を第一の極限位置に移動させる機能を有する。その時、質量は機能を停止する。
【0020】
質量、およびばねの特性の寸法設定および計算は、詳細に説明するまでもなく、当業者の理解の範囲内である。期待される結果を得るためのパラメータには複数の解があり、例えばより重い質量およびより強いばねで前記システムは必要な条件によってトリガーまたは停止される。
【0021】
自動で巻き取りを行うための振動質量と似た、回転中動くように取りつけられた不均質な質量を使用することも可能であり、これらには角度移動が制限された状態で動作するものもある。この場合、供給されるトルクに影響を及ぼす、偏心を含む質量の不均質性が考慮される。しかし、質量は同様に直線的または複雑な軌跡を描くことがある。
【0022】
開始時の方向および停止時の方向はこのようにあらかじめ決定される。質量は双安定型であり、開始時の方向から移動していない場合第一の極限位置に保持され、停止時の方向から移動していない場合第二の極限位置に保持される。
【0023】
本発明と異なり、自動巻き取りのための振動質量には巻き取り機能を停止させることはできない。いずれの場合においても、質量が一部の位置にあるとき、特に停止しているとき、香箱の巻き戻しがないことを考慮する必要があるとしても、巻き戻し位置および非巻き戻し位置はあらかじめ定義されておらず、時計の特定の空間的姿勢に対応するものではない。
【0024】
質量の変位および停止部との相互作用に関連する衝撃を低減するために、質量は速度調整器に接続されてもよい。この後者は、例えば一部の打撃機構で使用されるような摩擦停止脱進機などの脱進機、または同じく打撃機構で使用されるタイプの遠心慣性ブレーキなどの脱進機とすることができる。また、磁気または油浴式ブレーキ装置を使用することも可能である。
【0025】
機能をトリガーさせずにスイッチを回避させて時計を動かす可能性を使用者に提供するために質量をブロックするためのブロック装置が提供されてもよい。この装置は時計の外部からもアクセス可能であることが好ましい。この装置は、質量の動きを阻止するため、好ましくは極限位置の一つで質量と直接的または間接的に接する、押しボタンまたはボルトを含んでもよい。
【0026】
本発明にかかるシステムは、独自のフレームを含み土台となる機構部分上に搭載された独立したモジュールの形態で配置されてもよい。機能の実行を可能とする機構または構成要素は、同様にフレーム上または土台となる機構部分上に配置されてもよい。この場合、モジュールおよび土台となる機構部分の間に、運動学的接続または例えば磁気接続などの他の種類の接続が提供される。
【0027】
本発明にかかるシステムは命令、すなわち機能を実行させる機構が内部に配置された時計のための機能の開始および停止を行うことができる。
【0028】
本発明にかかるシステムによって制御可能な機能の例に、視覚的アニメーションがある。視覚的アニメーションは、質量が第一または第二の極限位置にあるとき、例えば香箱をそれぞれ解放または阻止することによって機械的に命令されてもよい。この香箱は、典型的には可動素子が押しつけられているところに対してカムを駆動することによって、ジャクマール型のオートマトンを駆動することができる。質量に磁石を取りつけるまたは質量によって駆動する磁石を有することによって、この磁石は自身の変位によって、磁石の変位に反応することができる常磁性または反磁性の可動要素の変位を駆動することができる。この変位は、例えば回転内またはガイドレール上などの前記可動素子の取りつけにより誘導することが可能である。
【0029】
図2では、開始および停止のシステムの本発明にかかる特定の実施形態の実施例を示す。この実施例によると、命令される機能は磁石の動きによって制御されるアニメーションである。
【0030】
質量は、可動となるように回転10に取りつけられた振動質量である。質量は、モジュールまたは時計のフレーム上での枢動が可能となるように取りつけられたレバー12の形態をとる、制御部材と一体の歯止め120と係合する歯止め100を備える。示されていないが、振動質量10の回転が2つの停止部により2つの極限位置の間に制限されていることから、歯止め100および120が不完全であること、すなわち360°未満の歯つきセクタ上に取りつけられていることが好ましい。例示的な実施形態において、歯の間の降圧比は-1に等しく設定されている。
【0031】
ばね14は螺旋型であり、この実施例のレバーの回転軸で、その端部の第一のものを介して制御部材に作用する。もう一方の端部はフレームに固定されている。
【0032】
回転軸とは反対側の端部において、レバー12は磁石16を有する。この後者は開始および停止のシステムが文字盤の下に隠されている間、使用者に見えるように可動、例えば文字盤の上に移動可能な磁気素子に対して作用する。
【0033】
時計が水平な位置にあるとき、重力は質量の回転軸に平行に作用する。その結果、質量の不均質性は軸に対してトルクを発生させない。
【0034】
さらに、この実施例において、ばね14には時計回り方向に予荷重がかけられている。すなわち、ばね14はレバーに対して、噛合接合部を介して振動質量10に伝達される時計回り方向のトルクを加え、そのトルクにはレバーを反時計回りに枢動させる傾向がある。しかし、この位置では、振動質量10は上停止部と呼ばれる停止部(図面には示されていない)に対して、第一の極限位置にある。このように、システムは第一の安定位置において平衡状態にある。磁石によって位置が決定された磁気素子も同様に第一の安定位置にある。この第一の位置において、磁気素子は着用者に視認できないようカバーの後ろに隠すことが可能である。
【0035】
時計の着用者が軸9H-3H(
図3)を中心に時計を角度alphaだけ回転させると、軸Xにおいて重力により発生する質量のトルクは以下の式に従って徐々に増加し、Betaは9h-3hに対する質量の中心の角度(三角法の規則に則った符号付き)である(
図2)。
質量のトルク=d*m*gravity*sin(alpha)*cos(beta)
【0036】
戻りばねのトルク(質量の回転の中心で得られるもの)はBetaが変化しない間一定であり、その値は以下になり、Beta0は質量が第一の安定位置にあるときのBetaである。
ばねのトルク=-K*(Theta0+Beta0-Beta)
【0037】
また、機能を停止状態から開始状態に移行させるための抵抗トルクも存在する。このトルクはこの例において一定(値Cresistifをもつ)かつ変位方向と反対であるとみなされる。
【0038】
したがって、質量にかかるトルクの平衡は以下のようになる。
C=d*m*gravity*sin(alpha)*cos(beta)-K*(theta0+beta0-beta)-Cresistif
【0039】
このトルクが負である間、質量は反時計回り方向に回転する傾向があり、すなわち接合点、第一の安定位置に留まる。
【0040】
このトルクはsin(Alpha)が(beta=beta0)より大きくなると正になる。
sin(alpha0)>(K*(Theta0)+Cresistif)/(d*m*gravity*cos(beta0))
トルクが正になる角度をAlpha0とする。
【0041】
振動質量10に加えられたトルクの合力が正になると、重力によって発生するトルクは機能および戻しばねの抵抗トルクより大きくなる。したがって、質量は軸を中心に時計回り方向に枢動する(Betaは減少する)。振動質量10は下停止部と呼ばれる停止部(示されていない)に対して、第二の極限位置(
図4)に到達していない限りまたは重力によって発生するトルクが再び抵抗トルクより小さくなるまで移動する。
【0042】
実際には、時計の角度alphaが変化しないとき角度Betaのみが変化し、(質量およびばねのさまざまなパラメータを賢明に選択することによって)重力によって発生するトルクがばねのそれより速く増加することが求められる。このように、質量が動き始めると、トルクは振動質量10の変位のみによって増加し、安定した中間位置を経ることなく(時計の角度を変更することなく)第一の極限位置から第二の極限位置への移動が連続的に起こり、したがって質量は双安定である。磁気素子も同様に第二の安定位置にある。この第二の位置において、磁気素子は着用者に視認可能である。
【0043】
時計の角度が変わらない限り、システムは第二安定位置において振動質量10との平衡状態を維持する。しかし、機能の抵抗トルクの符号が今度は変更されているため(このように機能を開始状態から停止状態に移行させるには、質量が反時計回りに回転しなければいけない)、トルクの等式が変わっている。
【0044】
C=d*m*gravity*sin(alpha)*cos(beta)-K*(Theta0+Beta0-Beta)+Cresistif
である。
【0045】
このトルクが正である間、振動質量10は時計回り方向に回転する傾向があり、すなわち接合点、第二の安定位置に留まる。
【0046】
このトルクはsin(Alpha)が(beta=betaF)より小さくなると負になる。
sin(alphaF)<(K*(Theta0+Beta0-BetaF)-Cresistif)/(d*m*gravity*cos(betaF))
トルクが負になる角度をAlphaFとする。
【0047】
振動質量10に加えられたトルクの合力が負になると、重力によって発生するトルクは機能および戻しばねの抵抗トルクより小さくなる。したがって、振動質量10は軸を中心に反時計回り方向に枢動する(Betaは増加する)。質量は第一の極限位置(
図4)に戻っていない限りまたは重力によって発生するトルクが再び抵抗トルクより大きくなるまで移動する。
【0048】
実際には、時計の角度alphaが変化しないときeのみが変化し、(質量およびばねのさまざまなパラメータを賢明に選択することによって)重力によって発生するトルクがばねのそれより速く減少することが求められる。このように、質量が動き始めると、トルクは振動質量10の変位のみによって減少し、安定した中間位置を経ることなく(時計の角度を変更することなく)第二の極限位置から第一の極限位置への移動が連続的に起こり、したがって質量は確かに双安定である。
【0049】
視覚的アニメーションの場合、機能の停止および開始の概念は第一および第二の状態に対応するものとして広義に理解されなければならないことに留意されたい。その価値があるなら、「停止および開始のシステム」に相当する用語として「命令システム」を用いることが可能である。
【0050】
香箱によって駆動される視覚的アニメーションと同様に、機能は打撃機構でもあってもよく、それは時間打撃機構によってトリガーされてもよい。香箱は、質量が第一の極限位置または第二の極限位置にあるとき、それぞれ解放または阻止される。
【0051】
言及された、香箱を実装する2つの実施例について、具体的にまたは動作の主体となる香箱の巻き取りを介して、これは巻き取り機構によって巻き取られる。この巻き取りは手動または自動であってもよい。2つの動力取り出し口を介したエネルギーの供給に適した香箱を用いることによって、香箱の動作を介して、アニメーションまたは打撃機構に動力を供給することは同様に可能である。
【0052】
噛合型(ピニオンまたはラック)の運動学的接続を介して、クロノグラフ制御部材によって、例えば1組のシャトルまたはクロノグラフのコラムホイールなどのホイールまたはピニオンを動かすことも可能である。ゼロ調整段階は、制御部材上および従来のゼロ調整要素(ハンマーなど)上で別々に作用する押しボタンによって行われることが好ましい。
【0053】
不均質な質量との運動学的接続は同様に、時計の外見の変更または特定の表示を可視化させるため、主文字盤、副文字盤、または文字盤の一部の上または下の少なくとも一つの可動シャッターを変位させることができる。偏光ガラスが使用されても、可動シャッターを介して変位させられてもよい。
【0054】
このようなシャッターは、上述と同様、香箱を解放することによって変位させることができる。
【0055】
したがって、本発明によるシステムは、時計がそれぞれ第一および第二の空間的姿勢にあるとき、機能を開始および停止させることによって、または第一の状態から第二の状態への移行およびその逆を命令することによって、機能を命令することを可能にする。これらの特定の空間的姿勢は質量の第一および第二の極限位置に対応する。これらの位置は決定され、質量の変位の双安定性により、機能のある状態から別の状態への移行は特定の空間的姿勢に対応して正確である。
【0056】
当業者なら、特許請求の範囲に定義された発明の範囲から逸脱することなく、上記の説明を改変することができる。彼らは、開始および停止の方向、ばねの種類、力、および予荷重、ならびに質量と制御システムとの間の接続を定義することができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計の機能を開始および停止するための機械的なシステムであって、
それぞれ第一および第二の停止部により定義される第一および第二の極限位置の間のフレーム上に可動になるように取りつけられた質量であって、前記質量は重力の影響下で変位し、第一および第二の極限位置の間のばね(14)に負荷を与え、第二および第一の極限位置の間の前記ばねを弛緩させる質量(10)を含み、
前記質量は前記機能のために制御部材(12)に運動学的または直接的に接続され、
前記質量(10)および前記ばね(14)の力は、前記機能を命令し制御部材を変位させるために必要な力と、前記ばねおよび重力によって及ぼされる力の合力によって前記質量がその一方の極限位置からもう一方の極限位置まで双安定的に変位するときの所定の前記フレームの空間的姿勢との関数として決定され、前記第一の極限位置から前記第二の極限位置への前記質量の変位が前記制御部材を介して前記機能を開始させることができ、第二の極限位置から第一の極限位置への質量の変位が制御部材を介して前記機能を停止させることができる、
システム。
【請求項2】
前記質量が回転可能となるように取りつけられており、かつ不均質であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記質量が速度調整器に接続されていることを特徴とする、
請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記速度調整器が脱進機、慣性ブレーキ、
または浴中粘性摩擦装置であることを特徴とする、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
システムで、前記質量をブロックするための装置を有することを特徴とする、
請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記制御部材が磁石を備えることを特徴とする、
請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記機能のそれぞれ開始および停止をトリガーする前記フレームの向きが異なるように
前記ばねが計算されていることを特徴とする、
請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記機能の実施を可能とする要素が前記フレームに取りつけられていることを特徴とする、
請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
時計であって、
前記請求項のいずれか一項に記載のシステムと、
前記機能の実装を可能とする機構であって、前記時計がそれぞれ第一の空間的姿勢または第二の空間的姿勢になった場合、前記質量が第一の極限位置から第二の極限位置および第二の極限位置から第一の極限位置に移動される機構と
を有する、時計。
【請求項10】
前記第一および第二の空間的姿勢が類似していることを特徴とする、請求項9に記載の時計。
【請求項11】
前記第一および第二の空間的姿勢が異なることを特徴とする、請求項9に記載の時計。
【請求項12】
前記時計が、前記第一の姿勢においては30から35°の角度alpha、Beta=0°、Gamma=0°を有し、前記第二の姿勢においては15から18°の角度alpha、Beta=0°、Gamma=0°を有することを特徴とし、
前記角度alphaが文字盤の位置9Hおよび3Hを通る軸を中心とした前記時計の回転角
であって、前記文字盤が水平であるときにalphaが0と等しくなり、前記角度betaが軸12H-6Hを中心とした回転角であって、軸gammaが前記文字盤の中央を通る直行軸を中心とした回転角である、
請求項11に記載の時計。
【請求項13】
前記時計が、時計の外部からも利用可能である前記質量をブロックする装置を含むことを特徴とする、
請求項9に記載の時計。
【請求項14】
前記機構がクロノグラフ機構、打撃機構、視覚的アニメーション機構の中から選択されていることを特徴とする、
請求項9に記載の時計。
【国際調査報告】