(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-27
(54)【発明の名称】イソシアネートアミン付加物に基づくモルタル組成物を製造するための多成分樹脂系、建設要素の留め付けのための方法および建設要素の留め付けのための多成分樹脂系の使用
(51)【国際特許分類】
C08G 18/32 20060101AFI20230420BHJP
C04B 26/16 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
C08G18/32 025
C04B26/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556474
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(85)【翻訳文提出日】2022-09-19
(86)【国際出願番号】 EP2021055982
(87)【国際公開番号】W WO2021185641
(87)【国際公開日】2021-09-23
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, LIECHTENSTEIN
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン プレンク
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ドリーマイヤー
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA02
4J034CA14
4J034CA15
4J034CA16
4J034CA17
4J034CC03
4J034CC12
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4J034CC67
4J034HA01
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4J034QB13
4J034QB14
4J034QD03
4J034RA08
4J034RA10
(57)【要約】
本発明は、建設要素の化学的留め付けのためのイソシアネートアミン付加物に基づくモルタル組成物を製造するための多成分樹脂系に関する。本発明はまた、多成分樹脂系から製造されるイソシアネートアミン付加物に基づくモルタル組成物を含む。本発明はまた、鉱物性基材への建設要素の化学的留め付けのための方法および鉱物性基材への建設要素の化学的留め付けのためのイソシアネートアミン付加物に基づくモルタル組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのイソシアネート成分(A)と、少なくとも1つのアミン成分(B)と、を含む、多成分樹脂系であって、
前記イソシアネート成分(A)は、
-2以上の平均NCO官能性を有する少なくとも1つの脂肪族および/または芳香族ポリイソシアネートを含み、
前記アミン成分(B)は、
-イソシアネート基に反応性であり、かつ2以上の平均NH官能性を有する少なくとも1つのアミンを含み、
前記多成分樹脂系が、ポリアスパラギン酸エステルを含まないこと、
前記イソシアネート成分(A)および/または前記アミン成分(B)が、少なくとも1つの充填剤と、少なくとも1つのレオロジー添加剤と、を含むこと、
前記イソシアネート成分(A)と前記アミン成分(B)とを混合することによって製造されるモルタル組成物の総充填レベルが、前記多成分樹脂系の総重量に基づいて、30~80%の範囲内にあること、
を特徴とする、多成分樹脂系。
【請求項2】
前記イソシアネート成分(A)および前記アミン成分(B)の両方が、少なくとも1つの充填剤と、少なくとも1つのレオロジー添加剤と、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の多成分樹脂系。
【請求項3】
前記イソシアネート成分(A)の充填レベルおよび前記アミン成分(B)の充填レベルが、各場合に、それぞれ、前記イソシアネート成分(A)および前記アミン成分(B)の総重量に基づいて、10~70重量%であることを特徴とする、請求項2に記載の多成分樹脂系。
【請求項4】
前記イソシアネート成分(A)および前記アミン成分(B)が、前記平均NCO官能性対前記平均NH官能性が0.3~2.0である量比で存在することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の多成分樹脂系。
【請求項5】
前記イソシアネート成分(A)が、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および/または2,6-トルイレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、ジフェニレンメタン-2,4’-および/または-4,4’-ジイソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネート、ビス-およびトリス-(イソシアナトアルキル)-ベンゼン、トルエンおよびキシレン、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの芳香族ポリイソシアネートを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の多成分樹脂系。
【請求項6】
前記イソシアネート成分(A)が、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルHDI(TMDI)、ペンタンジイソシアネート(PDI)2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート(MPDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,3-および1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H
6XDI)、ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)、3(4)-イソシアナトメチル-1-メチル-シクロヘキシルイソシアネート(IMCI)および4,4’-ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H
12MDI)、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの脂肪族ポリイソシアネートを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の多成分樹脂系。
【請求項7】
前記総充填レベルが、前記多成分樹脂系の総重量に基づいて、35~65重量%の範囲内にあることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の多成分樹脂系。
【請求項8】
前記イソシアネート成分(A)および/または前記アミン成分(B)が、少なくとも1つの接着促進剤を含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の多成分樹脂系。
【請求項9】
イソシアネート基に反応性である前記アミンが、4,4’-メチレン-ビス¥[N-(1-メチルプロピル)フェニルアミン]、6-メチル-2,4-ビス(メチルチオ)フェニレン-1,3-ジアミンと2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)フェニレン-1,3-ジアミンとの異性体混合物(Ethacure 300)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-sec-ブチルシクロヘキサンアミン)(Clearlink 1000)、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(ダプソン)、N,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミンおよび2,4,6-トリメチル-m-フェニレンジアミン、ならびにそれらの混合物からなる基から選択されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の多成分樹脂系。
【請求項10】
前記多成分樹脂系が、二成分樹脂系であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の多成分樹脂系。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の多成分樹脂系の前記イソシアネート成分(A)と前記アミン成分(B)とを混合することによって製造される、モルタル組成物。
【請求項12】
掘削孔内への建設要素の化学的留め付けのための方法であって、請求項11に記載のモルタル組成物または請求項1~10のいずれか一項に記載の多成分樹脂系が、前記化学的留め付けのために使用される、方法。
【請求項13】
化学(接着系)アンカーの耐温度性を改善するための、請求項11に記載のモルタル組成物または請求項1~10のいずれか一項に記載の多成分樹脂系の使用。
【請求項14】
高温、特に80℃での引き抜き強度を向上させるための、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設要素の化学的留め付け(接着系アンカー)のためのイソシアネートアミン付加物に基づくモルタル組成物を製造するための多成分樹脂系に関する。本発明はまた、多成分樹脂系から製造されるイソシアネートアミン付加物に基づくモルタル組成物を含む。本発明はまた、鉱物性基材(被留め付け材)への建設要素の化学的留め付けのための方法および鉱物性基材への建設要素の化学的留め付けのためのイソシアネートアミン付加物に基づくモルタル組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリレート樹脂などのラジカル硬化化合物またはアミン硬化剤と反応させたエポキシ樹脂に基づく結合剤系は、通常、アンカーロッド、補強バーおよび掘削孔内のネジなどの建設要素の化学的留め付けのためのモルタル組成物を製造するために使用される。これらの結合剤系に基づく多くの市販の製品が存在する。
【0003】
しかしながら、公知の結合剤系は、特に、高温、未洗浄の掘削孔、湿ったまたは水で満たされた掘削孔、ダイヤモンドドリルの掘削孔、ひびの入ったコンクリートの掘削孔などの重大な外部条件下では、十分な特性を有しない。
【0004】
そのため、既存の結合剤系の開発および改良に加えて、上記したもの以外の結合剤系を、化学的留め付け用のモルタル組成物の基礎としての適合性に関して検討する努力もなされている。例えば、特許文献1は、ポリイソシアネート成分およびポリアスパラギン酸エステル成分を含む多成分組成物から製造される接着系アンカーについて記載している。2つの成分が混合されると、ポリ尿素が重付加反応で形成され、これがモルタル組成物の結合剤を形成する。
【0005】
建設要素の化学的留め付け用のモルタル組成物は、しばしば数十年にもなるそれらのライフサイクルにわたって、大きな温度変動などの変化する気象条件に曝される。ヨーロッパにおけるような温暖な気候においてさえも、夏と冬との気温差は40~50℃である。アラブ首長国連邦など、平均気温が非常に高い国では、モルタル組成物は、50℃を超える極端な温度に曝される。安全上の理由から、使用するモルタル組成物が、破壊荷重を大幅に低下させることなく、温度変動または高温に耐え得るようにすることが不可欠である。一般に、この特性は、耐温度性と呼ばれる。
【0006】
メタクリレート樹脂またはエポキシ樹脂などのラジカル硬化性化合物に基づく多くのモルタル組成物は、適切な(inadequate)または十分(insufficient)な耐温度性を有しない。参照条件下(室温で24時間硬化)での破壊荷重は、イソシアネートおよびアスパラギン酸エステルに基づく硬化モルタル組成物が化学アンカーの結合剤として潜在的に適していることを示すが、特許文献1に記載されている化学アンカーもまた十分な耐温度性を有しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3447078号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、留め付け目的に適したイソシアネートアミン付加物に基づくモルタル組成物を提供することである。従来のモルタル組成物と比較して、モルタル組成物は、基準条件下で比較的高い引き抜き強度と共に改善された耐温度性を有するはずである。特に、本発明の目的は、80℃などの高温で改善された引き抜き強度を有する、イソシアネートアミン付加物に基づくモルタル組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、請求項1に記載の多成分樹脂系によって達成される。本発明の多成分樹脂系の好ましい態様は、従属請求項に提示されており、これらは、任意選択的に互いに組み合わせることができる。
【0010】
本発明はまた、建設要素の化学的留め付けを目的とし、本発明による多成分樹脂系から製造される、請求項11に記載のモルタル組成物に関する。
【0011】
本発明はまた、鉱物性基材への建設要素の化学的留め付けのための請求項12に記載の方法、および鉱物性基材への建設要素の化学的留め付けのための請求項に記載の本発明による多成分樹脂系またはそれから製造されるモルタル組成物の使用に関する。
【0012】
本発明の第1の態様は、
少なくとも1つのイソシアネート成分(A)と、少なくとも1つのアミン成分(B)と、を含む、多成分樹脂系であって、
イソシアネート成分(A)が、
-2以上の平均NCO官能性を有する少なくとも1つの脂肪族および/または芳香族ポリイソシアネートを含み、
アミン成分(B)が、
-イソシアネート基に対して反応性であり、かつ2以上の平均NH官能性を有する少なくとも1つのアミンを含み、
多成分樹脂系が、ポリアスパラギン酸エステルを含まないこと、
イソシアネート成分(A)および/またはアミン成分(B)が、少なくとも1つの充填剤と、少なくとも1つのレオロジー添加剤と、を含むこと、そして
イソシアネート成分(A)とアミン成分(B)とを混合することによって製造されるモルタル組成物の総充填レベルが、多成分樹脂系の総重量に基づいて、30~80%の範囲内にあること、
を特徴とする、多成分樹脂系に関する。
【0013】
驚くべきことに、化学的留め付け用のモルタル組成物に使用されるイソシアネートアミンに基づく結合剤系におけるポリアスパラギン酸エステルの存在は、硬化したモルタル組成物の耐温度性に負の影響を与えることが見出された。特に、対応する系は、80℃などの高温で、大幅に減少した結合応力を有する。
【0014】
したがって、本願の発明にとっては、多成分樹脂系、特に多成分樹脂系のアミン成分(A)が、ポリアスパラギン酸エステルを含まないことが不可欠である。本出願の発明における「ポリアスパラギン酸エステルを含まない」という表現は、多成分樹脂系におけるポリアスパラギン酸エステルの割合が、いずれの場合も多成分樹脂系の総重量に基づいて、好ましくは2重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、さらにはより好ましくは0.1重量%未満であることを意味する。上述の重量割合範囲内のポリアスパラギン酸エステルの存在は、潜在的な不純物に起因し得る。しかしながら、多成分樹脂系におけるポリアスパラギン酸エステルの割合は、多成分樹脂系の総重量に基づいて、特に好ましくは0.0重量%である。
【0015】
本発明をよりよく理解するために、本明細書で使用される用語の以下の説明が有用であると考えられる。本発明に於いては、
-「多成分樹脂系」とは、複数の成分を互いに別々に貯蔵し、全ての成分を混合した後に初めて硬化が起こる反応樹脂系である。
【0016】
-「イソシアネート」は、官能性イソシアネート基-N=C=Oを有し、構造単位R-N=C=Oを特徴とする化合物である。
【0017】
-「ポリイソシアネート」は、少なくとも2つの官能性イソシアネート基-N=C=Oを有する化合物である;ポリイソシアネートの定義にも含まれるジイソシアネートは、例えば、構造O=C=N-R-N=C=Oによって特徴付けられ、したがって、2のNCO官能性を有する。
【0018】
-「平均NCO官能性」は、化合物のイソシアネート基の数を表す。イソシアネートの混合物の場合、「平均NCO官能性」は、混合物中のイソシアネート基の平均数を表し、式に従って計算される:平均NCO官能性(混合物)=Σ平均NCO官能性(イソシアネートi)/ni、すなわち、個々の成分の平均NCO機能の合計を個々の成分の数で割ったもの。
【0019】
-「イソシアネート成分(A)」または成分Aもまた、少なくとも1つのポリイソシアネートと、任意選択で少なくとも1つの充填剤および/または少なくとも1つのレオロジー添加剤および/またはさらなる添加剤と、を含む、多成分樹脂系の成分を説明する。
【0020】
「アミン」は、官能性NH基を有し、1個または2個の水素原子を炭化水素基で置き換えることによってアンモニアから誘導され、一般構造RNH2(一級アミン)およびR2NH(二級アミン)を有する化合物である(A.D.McNaught and A.Wilkinson,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1997)によって編集されたIUPAC Compendium of Chemical Terminology,2nd ed.(the“Gold Book”)を参照されたい)。ポリアスパラギン酸エステルの化合物クラスは、本発明の文脈において、アミンという用語から明示的に除外される。これらは、ポリアスパラギン酸エステルという用語で、別に定義される。
【0021】
-「NH官能性」は、アミノ基中のイソシアネート基と反応し得る活性水素原子の数を表す。
【0022】
-「平均NH官能性」は、アミン中のイソシアネート基と反応し得る活性水素原子の数を表し、化合物に含まれるアミノ基、すなわち、アミンの数およびNH官能性から生じる。アミンの混合物の場合、「平均NH官能性」は、混合物中の活性水素原子の平均数を表し、次の式に従って計算される。平均NH官能性(混合物)=Σ平均NH官能性(アミンi)/ni、すなわち、個々の成分の平均NH官能性の合計を、個々の成分の数で割ったものである。
【0023】
-用語「ポリアスパラギン酸エステル」は、一般式(I)の化合物を指す。
【化1】
式中、
R
1およびR
2は同じでも異なっていてもよく、イソシアネート基に対して不活性な有機基を表し、
Xは、イソシアネート基に対して不活性なn価の有機基を表し、
nは、少なくとも2、好ましくは2~6、より好ましくは2~~4、特に好ましくは2の整数を表す。
【0024】
-「イソシアネートアミン付加物」は、イソシアネートとアミンの重付加反応によって形成されるポリマーである。本発明によるイソシアネートアミン付加物は、好ましくは、-[-NH-R-NH--NH-R’-NH-]の形態の少なくとも1つの構造要素を含むポリ尿素である。
【0025】
-「アミン成分(B)」または成分Bは、イソシアネート基に反応性である少なくとも1つのアミンと、任意選択で少なくとも1つの充填剤および/または少なくとも1つのレオロジー添加剤および/またはさらなる添加剤と、を含む、多成分樹脂系の成分を説明する。
【0026】
-「脂肪族化合物」とは、芳香族化合物を除く、非環式または環式の飽和または不飽和炭素化合物である。
【0027】
-「脂環式化合物」とは、ベンゼン誘導体または他の芳香族系を除く、炭素環構造を有する脂肪族化合物である。
【0028】
-「芳香脂肪族化合物」とは、官能化された芳香脂肪族化合物の場合、存在する官能基が化合物の芳香族部分ではなく脂肪族に結合しているような芳香族骨格を有する脂肪族化合物である。
【0029】
-「芳香族化合物」は、ヒュッケル則(4n+2)に従う化合物である。
【0030】
-「二成分反応樹脂系」は、別々に貯蔵された2つの成分、この場合はイソシアネート成分(A)およびアミン成分(B)を含み、2つの成分が混合された後に初めて硬化が起こる反応樹脂系を意味する。
【0031】
-用語「モルタル組成物」は、イソシアネート成分(A)とアミン成分(B)とを混合することによって得られ、それ自体が化学的留め付け(接着系アンカー)に直接使用され得る組成物を指す。
【0032】
-用語「充填剤」は、有機または無機、特に無機の化合物を指す。
【0033】
-用語「レオロジー添加剤」とは、貯蔵、塗布および/または硬化中に、イソシアネート成分(A)、アミン成分(B)および多成分樹脂系の粘度挙動に影響を与え得る添加剤を指す。レオロジー添加剤は、とりわけ、ポリイソシアネート成分(A)および/またはアミン成分(B)における充填剤の沈降を防止する。また、成分の混和性を改善し、起こり得る相分離を防ぐ。
【0034】
-用語「耐温度性」は、参照接着応力と比較した、高温での硬化モルタル組成物の接着応力の変化を指す。本発明の文脈において、耐温度性は、特に、参照応力に対する80℃での結合応力の比として指定される。
【0035】
-あるクラスの化学化合物に先行する、例えば、単語「充填剤」に先行する冠詞「a」または「an」は、このクラスの化学化合物に含まれる1つ以上の化合物、例えば、様々な「充填剤」が意図され得ることを意味する。
【0036】
-「少なくとも1つ」は、数値的に「1つ以上」を意味し、好ましい実施形態では、この用語は、数値的に「1つ」を意味する。
【0037】
-「含有する」および「含む」は、言及された構成成分に加えて、より多くの構成成分が存在し得ることを意味し、これらの用語は、包括的であることを意味し、したがって、「からなる」も含み、「からなる」は、排他的に意味され、さらなる構成成分が存在し得ないことを意味する。好ましい実施形態では、用語「含有する」および「含む」は、用語「からなる」を意味する。
【0038】
このテキストで引用された全ての標準(例えば、DIN標準)は、本出願の出願日に最新のバージョンで使用された。
【0039】
イソシアネート成分(A)
本発明による多成分樹脂系は、少なくとも1つのイソシアネート成分(A)と、少なくとも1つのアミン成分(B)と、を含む。使用前に、イソシアネート成分(A)およびアミン成分(B)は、反応を阻害する方法で互いに別々に提供される。
【0040】
イソシアネート成分は、少なくとも1つのポリイソシアネートを含む。当業者に公知であり、かつ2以上の平均NCO官能性を有する全ての脂肪族および/または芳香族イソシアネートを、個別にまたは互いの任意の混合物で、ポリイソシアネートとして使用し得る。NCO官能性は、ポリイソシアネート中にNCO基がいくつ存在するかを示す。ポリイソシアネートとは、2つ以上のNCO基が化合物に含まれていることを意味する。
【0041】
適切な芳香族ポリイソシアネートは、ジイソシアナトベンゼン、トルエンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジイソシアナトナファタレン、トリフェニルメタントリイソシアネートなどの芳香族結合イソシアネート基を有するものだけでなく、ビス-およびトリス-(イソシアナトアルキル)ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの、メチレン基などのアルキレン基を介して芳香族基に結合するイソシアネート基を有するものである。
【0042】
芳香族ポリイソシアネートの好ましい例は、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トルイレンジイソシアネート、2,5-トルイレンジイソシアネート、2,6-トルイレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、テトラメチル-1,3-キシリレンジイソシアネート、テトラメチル-1,4-キシリレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、エチルフェニルジイソシアネート、2-ドデシル-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4,6-トリイソプロピル-m-フェニレンジイソシアネート、2,4,6-トリメチル-1,3-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、ジフェニレンメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジフェニレンメタン-2,2’-ジイソシアネート、ジフェニレンメタン-4,4’-ジイソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’、4’’-トリイソシアネート、5-(p-イソシアナトベンジル)-2-メチル-m-フェニレンジイソシアネート、4,4-ジイソシアナト-3,3,5,5-テトラエチルジフェニルメタン、5,5’-ウレイレン-o-トリルジイソシアネート、4-¥[(5-イソシアナト-2-メチルフェニル)メチル]-m-フェニレンジイソシアネート、4-¥[(3-イソシアナト-4-メチルフェニル)メチル]-m-フェニレンジイソシアネート、2,2’-メチレン-ビス¥[6-(o-イソシアナトベンジル)フェニル]ジイソシアネートである。
【0043】
3~30個の炭素原子、好ましくは4~20個の炭素原子の炭素骨格(NCO基を含まない)を有する脂肪族イソシアネートが好ましく使用される。脂肪族ポリイソシアネートの例は、ビス(イソシアナトアルキル)エーテルまたはアルカンジイソシアネート、例えばメタンジイソシアネート、プロパンジイソシアネート、ブタンジイソシアネート、ペンタンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、HDI)、ヘプタンジイソシアネート(例えば、2,2-ジメチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、オクタンジイソシアネート、ノナンジイソシアネート(例えば、通常、2,4,4-および2,2,4異性体の混合物としてのトリメチルHDI(TMDI))、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート(MPDI)、ノナントリイソシアネート(例えば、4-イソシアナトメチル-1,8-オクタンジイソシアネート、5-メチルノナンジイソシアネート)、デカンジイソシアネート、デカントリイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート、ウンデカントリイソシアネート、ドデカンジイソシアネート、ドデカントリイソシアネート、1,3-および1,4-ビス-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)、ビス-(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)または3(4)-イソシアナトメチル-1-メチル-シクロヘキシルイソシアネート(IMCI)、オクタジドロ-4,7-メタノ-1H-インデンジメチルジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、5-イソシアナト-1-(イソシアナトメチル)-1,3,3-トリメチルシクロヘキサン、ウレイレン-ビス(p-フェニレンメチレン-p-フェニレン)ジイソシアネートである。
【0044】
特に好ましいイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルHDI(TMDI)、ペンタンジイソシアネート(PDI)、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート(MPDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,3-および1,4-ビス-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、ビス-(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)、3(4)-イソシアナトメチル-1-メチル-シクロヘキシルイソシアネート(IMCI)および/または4,4’-ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)またはこれらのイソシアネートの混合物である。
【0045】
さらにより好ましくは、ポリイソシアネートは、プレポリマー、ビウレット、イソシアヌレート、イミノオキサジアジンジオン、ウレトジオンおよび/またはアロファネートとして存在し、これは、二官能性イソシアネートをオリゴマー化することによって、またはイソシアネート化合物をポリオールもしくはポリアミンと個別にもしくは混合物として反応させることによって製造され得、2以上の平均NCO官能性を有する。
【0046】
適切な市販のイソシアネートの例は、Desmodur(登録商標)N 3900、Desmodur(登録商標)N 100、Desmodur(登録商標)Ultra N 3200、Desmodur(登録商標)Ultra N 3300、Desmodur(登録商標)Ultra N 3600、Desmodur(登録商標)N 3800、Desmodur(登録商標)XP 2675、Desmodur(登録商標)2714、Desmodur(登録商標)2731、Desmodur(登録商標)N 3400、Desmodur(登録商標)XP 2679、Desmodur(登録商標)XP 2731、Desmodur(登録商標)XP 2489、Desmodur(登録商標)E 3370、Desmodur(登録商標)XP 2599、Desmodur(登録商標)XP 2617、Desmodur(登録商標)XP 2406、Desmodur(登録商標)XP 2551、Desmodur(登録商標)XP 2838、Desmodur(登録商標)XP 2840、Desmodur(登録商標)VL、Desmodur(登録商標)VL 50、Desmodur(登録商標)VL 51、Desmodur(登録商標)ultra N 3300、Desmodur(登録商標)eco N 7300、Desmodur(登録商標)E23、Desmodur(登録商標)E XP 2727、Desmodur(登録商標)E 30600、Desmodur(登録商標)E 2863 XPDesmodur(登録商標)H、Desmodur(登録商標)VKS 20 F、Desmodur(登録商標)44V20I、Desmodur(登録商標)44P01、Desmodur(登録商標)44V70 L、Desmodur(登録商標)N3400、Desmodur(登録商標)N3500(全て、Covestro AGから入手可能)、Tolonate(商標)HDB、Tolonate(商標)HDB-LV、Tolonate(商標)HDT、Tolonate(商標)HDT-LV、Tolonate(商標)HDT-LV2(Vencorexから入手可能)、Basonat(登録商標)HB 100、Basonat(登録商標)HI 100、Basonat(登録商標)HI 2000 NG(BASFから入手可能)、Takenate(登録商標)500、Takenate(登録商標)600、Takenate(登録商標)D-132N(NS)、Stabio(登録商標)D-376N(全てMitsuiから入手可能)、Duranate(登録商標)24A-100、Duranate(登録商標)TPA-100、Duranate(登録商標)TPH-100(全てAsahi Kasaiから入手可能)、Coronate(登録商標)HXR、Coronate(登録商標)HXLV、Coronate(登録商標)HX、Coronate(登録商標)HK(全てTosohから入手可能)である。
【0047】
1つ以上のポリイソシアネートは、イソシアネート成分の総重量に基づき、好ましくは20~100重量%の割合で、より好ましくは30~90重量%の割合で、さらにより好ましくは35~65重量%の割合でイソシアネート成分に含まれる。
【0048】
アミン成分(B)
多成分樹脂系においてイソシアネート成分(A)とは別に反応を阻害する様式で提供されるアミン成分(B)は、イソシアネート基に反応性であり、かつ少なくとも2つのアミノ基を有する少なくとも1つのアミンを、官能基として含む。本発明によれば、アミンは2以上の平均NH官能性を有する。平均NH官能性は、アミンの窒素原子に結合している水素原子の数を示す。したがって、例えば、一級モノアミンは2の平均NH官能性を有し、一級ジアミンは4の平均NH官能性を有し、3つの二級アミノ基を有するアミンは3の平均NH官能性を有し、1つの一級および1つの二級アミノ基を有するジアミンは3の平均NH官能性を有する。平均NH官能性は、アミン供給業者から提供された情報に基づき得、実際に示されたNH官能性は、ここで理解される理論上の平均NH官能性とはおそらく異なって示される。「平均」という表現は、それが化合物のNH官能性であり、化合物に含まれるアミノ基のNH官能性ではないことを意味する。アミノ基は、一級または二級アミノ基であり得る。アミンは、一級または二級アミノ基のみ、あるいは一級および二級アミノ基の両方を含むことができる。
【0049】
好ましい態様によれば、イソシアネート基に反応性であるアミンは、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および芳香族アミンからなる群から、特に好ましくは脂環式および芳香族アミンからなる群から選択される。
【0050】
イソシアネート基に反応性であるアミンは、原則として当業者に公知である。イソシアネート基に反応性である適切なアミンの例を以下に示すが、本発明の範囲を制限することはない。これらは、個別に、または互いに混合して使用され得る。好適なアミンの例は、1,2-ジアミノエタン(エチレンジアミン)、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(ネオペンタンジアミン)、ジエチルアミノプロピルアミン(DEAPA)、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、1,3-ジアミノペンタン、2,2,4-または2,4,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサンおよびそれらの混合物(TMD)、1,3-ビス(アミノメチル)-シクロヘキサン、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジアミン(HMD)、1,2-および1,4-ジアミノシクロヘキサン(1,2-DACHおよび1,4-DACH)、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ジエチレントリアミン(DETA)、4-アザヘプタン-1,7-ジアミン、1,11-ジアミノ-3,6,9-トリオクスウンデカン、1,8-ジアミノ-3,6-ジオキサオクタン、1,5-ジアミノ-メチル-3-アザペンタン、1,10-ジアミノ-4,7-ジオキサデカン、ビス(3-アミノプロピル)アミン、1,13-ジアミノ-4,7,10-トリオキサトリデカン、4-アミノメチル-1,8-ジアミノオクタン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ジアミノペンタン、N,N-ビス(3-アミノプロピル)メチルアミン、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)、1,3-ベンゼンジメタンアミン(m-キシリレンジアミン、mXDA)、1,4-ベンゼンジメタンアミン(p-キシリレンジアミン、pXDA)、5-(アミノメチル)ビシクロ¥[¥[2.2.1]ヘプト-2-イル]メチルアミン(NBDA、ノルボルナンジアミン)、ジメチルジプロピレントリアミン、ジメチルアミノプロピルアミノプロピルアミン(DMAPAPA)、2,4-ジアミノ-3,5-ジメチルチオトルエン(ジメチルチオトルエンジアミン DMTDA)、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン(イソホロンジアミン(IPDA))、ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、ジエチルメチルベンゼンジアミン(DETDA)、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(33ダプソン)、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(ダプソン)、混合多環式アミン(MPCA)(例えば、Ancamine 2168)、ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタン(Laromin C260)、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、(3(4),8(9)ビス(アミノメチルジシクロ¥[5.2.1.02,6]デカン(異性体の混合物、三環式一級アミン、TCD-ジアミン)、メチルシクロヘキシルジアミン(MCDA)、N,N’-ジアミノプロピル-2-メチル-シクロヘキサン-1,3-ジアミン、N,N’-ジアミノプロピル-4-メチル-シクロヘキサン-1,3-ジアミン、N-(3-アミノプロピル)シクロヘキシルアミン、ならびに2-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)プロパン-1,3-ジアミンである。
【0051】
特に好ましいアミンは、ジエチルメチルベンゼンジアミン(DETDA)、2,4-ジアミノ-3,5-ジメチルチオトルエン(ジメチルチオ-トルエンジアミン、DMTDA)、4,4’-メチレン-ビス¥[N-(1-メチルプロピル)フェニルアミン]、6-メチル-2,4-ビス(メチルチオ)フェニレン-1,3-ジアミンと2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)フェニレン-1,3-ジアミンとの異性体混合物(Ethacure 300)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-sec-ブチルシクロヘキサンアミン)(Clearlink 1000)、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(33ダプソン)、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(44ダプソン)、N,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミンおよび2,4,6-トリメチル-m-フェニレンジアミン、4,4’-メチレンビス(N-(1-メチルプロピル)-3,3’-ジメチルシクロヘキサンアミン(Clearlink 3000)、2-プロペンニトリルと3-アミノ-1,5,5-トリメチルシクロヘキサンメタンアミンの反応生成物(Jefflink 745)および3-((3-(((2-シアノエチル)アミノ)メチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル)アミノ)プロピオノニトリル(Jefflink 136またはBaxxodur PC136)である。
【0052】
特に好ましいアミンは、4,4’-メチレン-ビス[N-(1-メチルプロピル)フェニルアミン]、6-メチル-2,4-ビス(メチルチオ)フェニレン-1,3-ジアミンと2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)フェニレン-1,3-ジアミンとの異性体混合物(Ethacure 300)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-sec-ブチルシクロヘキサンアミン)(Clearlink 1000)、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(ダプソン)、N、N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミンおよび2,4,6-トリメチル-m-フェニレンジアミンである。
【0053】
1つ以上のアミンは、アミン成分の総重量に基づいて、好ましくは、20~100重量%の割合で、より好ましくは30~70重量%の割合で、さらにより好ましくは35~70重量%の割合でアミン成分に含まれる。
【0054】
多成分樹脂系のポリイソシアネート成分(A)とアミン成分(B)との量比は、好ましくは、アミンの平均NH官能性に対するポリイソシアネート化合物の平均NCO官能性の比が0.3~2.0、好ましくは0.5~1.8、より好ましくは0.5~1.5、さらにより好ましくは0.7~1.5、最も好ましくは0.7~1.3であるように選択される。
【0055】
異なるイソシアネートおよび/または異なるアミンの混合物を使用して、硬化速度を調整することができる。この場合、量比は、イソシアネート混合物の平均NCO官能性とアミン混合物の平均NH官能性との比が0.3~2.0、好ましくは0.5~1.8、より好ましくは0.5~1.5、さらにより好ましくは0.7~1.5、最も好ましくは0.7~1.3となるように選択される。
【0056】
充填剤
イソシアネート成分(A)およびアミン成分(B)の両方は、少なくとも1つの充填剤と、少なくとも1つのレオロジー添加剤と、を含み得、2つの成分のうち少なくとも1つが充填剤およびレオロジー添加剤の両方を含むことが、本発明に不可欠である。イソシアネート成分(A)およびアミン成分(B)の両方が、それぞれ少なくとも1つの充填剤と、少なくとも1つのレオロジー添加剤と、を含むことが好ましい。
【0057】
多成分樹脂系のイソシアネート成分(A)とアミン成分(B)とを混合することによって製造されるモルタル組成物の総充填レベルは、本発明によれば、モルタル組成物の総重量に基づいて30~80重量%の範囲内であり、好ましくは35~65重量%の範囲で、より好ましくは35~60重量%の範囲内である。モルタル組成物の総充填レベルは、イソシアネート成分(A)およびアミン成分(B)の総重量に基づく充填剤およびレオロジー添加剤の重量パーセントに関係する。好ましい実施形態では、イソシアネート成分(A)の充填レベルは、イソシアネート成分(A)の総重量に基づいて、0~80重量%、好ましくは10~70重量%、より好ましくは35~65重量%である。アミン成分(B)の充填レベルは、それぞれの場合においてアミン成分(B)の総重量に基づいて、好ましくは0~80重量%、より好ましくは10~70重量%、さらにより好ましくは35~65重量%である。
【0058】
無機充填剤、特に、ポルトランドセメントまたはアルミン酸セメントなどのセメント、ならびに他の水硬性無機物、石英、ガラス、コランダム、磁器、陶器、重晶石、ライトスパー、石膏、タルクおよび/またはチョーク、ならびにそれらの混合物が、好ましくは充填剤として使用される。無機充填剤は、砂、粉末、または成形体の形態、好ましくは繊維またはボールの形態で添加され得る。タイプおよび粒子サイズ分布/(繊維)長さに関する充填剤の好適な選択を使用して、レオロジー挙動、押し出し力、内部強度、引張強度、引き抜き力および衝撃強度など、用途に関連する特性を制御することができる。
【0059】
特に好適な充填剤は、Millisil W3、Millisil W6、Millisil W8およびMillisil W12、好ましくはMillisil W12などの、表面処理されていない石英粉末、微細石英粉末および超微細石英粉末である。シラン化石英粉末、微細石英粉末および超微細石英粉末も使用することができる。これらは、例えば、QuarzwerkeからのSilbond製品シリーズから市販されている。製品シリーズSilbond EST(エポキシシラン修飾)およびSilbond AST(アミノシラン処理)が特に好ましい。さらに、Denka(Japan)からのASFPタイプ(d50=0.3μm)、またはタイプ指定45(d50<0.44μm)、07(d50>8.4μm)、05(d50<5.5μm)および03(d50<4.1μm)を有するDAWもしくはDAMなどのグレードの酸化アルミニウム超微細充填剤などの酸化アルミニウム系充填剤が可能である。さらに、Hoffman MineralからのAktisil AMタイプ(アミノシラン処理、d50=2.2μm)、およびAktisil EM(エポキシシラン処理、d50=2.2μm)の表面処理された微細および超微細充填剤が使用され得る。充填剤は、個別に、または互いの任意の混合物で使用され得る。
【0060】
イソシアネート成分(A)中の充填剤の割合は、イソシアネート成分(A)の総重量に基づいて、好ましくは10~70重量%、より好ましくは35~65重量%である。アミン成分(B)中の充填剤の割合は、アミン成分(B)の総重量に基づいて、好ましくは10~70重量%、より好ましくは35~65重量%である。
【0061】
流動特性は、本発明によれば、イソシアネート成分(A)および/またはアミン成分(B)に使用されるレオロジー添加剤を添加することによって調整される。好適なレオロジー添加剤は、ラポナイト、ベントンまたはモンモリロナイトなどのフィロケイ酸塩、ノイブルク珪質土、ヒュームドシリカ、多糖類;ポリアクリレート、ポリウレタンまたはポリ尿素増粘剤およびセルロースエステルである。最適化のために、湿潤剤および分散剤、表面添加剤、消泡剤および脱気剤、ワックス添加剤、接着促進剤、粘度低下剤またはプロセス添加剤もまた添加され得る。
【0062】
イソシアネート成分(A)中の1つ以上のレオロジー添加剤の割合は、イソシアネート成分(A)の総重量に基づいて、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.1~1.5重量%である。アミン成分(B)中の1つ以上のレオロジー添加剤の割合は、アミン成分(B)の総重量に基づいて、好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは0.5~3重量%である。
【0063】
さらなる態様では、イソシアネート成分(A)および/またはアミン成分(B)は、少なくとも1つの接着促進剤を含むことができる。
【0064】
接着促進剤を使用することによって、掘削孔壁とモルタル組成物との架橋が改善され、それによって、硬化状態での接着が増加する。好適な接着促進剤は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチル-ジエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル-トリエトキシシラン、3-アミノプロピル-トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノエチル-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、および3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどの少なくとも1個のSi結合加水分解性基を有するシランの群から選択される。特に、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(AMMO)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(AMEO)、2-アミノエチル-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン(DAMO)およびトリメトキシシリルプロピルジエチレンテトラミン(TRIAMO)が、接着促進剤として好ましい。さらなるシランは、例えば、EP3000792A1に記載されている。
【0065】
接着促進剤は、多成分樹脂系の総重量に基づいて、最大10重量%、好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは1.0~2.5重量%の量でイソシアネート成分(A)および/またはアミン成分(B)中に含有され得る。
【0066】
本発明はまた、多成分樹脂系のイソシアネート成分(A)とアミン成分(B)とを混合することによって製造されるモルタル組成物に関する。
【0067】
多成分樹脂系は、好ましくは、イソシアネート成分(A)およびアミン成分(B)が反応を阻害する様式で別々に配置される、2つ以上の別々のチャンバを備えることを特徴とする、カートリッジまたはフィルムパウチ内に存在する。
【0068】
多成分樹脂系の意図される使用のために、イソシアネート成分(A)とアミン成分(B)とは別々のチャンバから排出され、好適なデバイス、例えば、スタティックミキサまたは溶解器で混合される。次いで、イソシアネート成分(A)およびアミン成分(B)の混合物(モルタル組成物)を、既知の注入デバイスの手段によって、事前に清浄した掘削孔に導入する。次いで、留め付けられる部材をモルタル組成物に挿入し、位置合わせする。反応性構成成分のイソシアネート成分(A)は、重付加によりアミン成分(B)のアミン基と反応し、モルタル組成物が環境条件下で所望の期間内、好ましくは数分または数時間以内に硬化するようにする。
【0069】
本発明によるモルタル組成物または本発明による多成分樹脂系は、好ましくは建設目的に使用される。表現「建設目的」は、コンクリート/コンクリート、鋼/コンクリートまたは鋼/鋼、または他の鉱物材料との当該材料のうちの1種の構造的接着、コンクリート、レンガおよび他の鉱物材料で作製された成分の構造強化、繊維強化ポリマーを用いる建築物の強化用途、コンクリート、鋼または他の鉱物材料で作製された表面の化学的留め付け、特に、(強化)コンクリート、レンガ、他の鉱物材料、金属(例えば鋼)、セラミック、プラスチック、ガラスおよび木材などの掘削孔内の様々な基質への、建設要素のならびにアンカーロッド、アンカーボルト、(ネジ山付き)ロッド、(ネジ山付き)スリーブ、強化バー、ネジなどのアンカー留め付け手段の化学的留め付けを指す。最も特に好ましくは、本発明によるモルタル組成物および本発明による多成分樹脂系は、アンカー留め付け手段の化学的留め付けのために使用される。
【0070】
本発明はまた、掘削孔内の建設要素の化学的留め付けのための方法、建設要素の化学的留め付けのために上述のように使用されている本発明によるモルタル組成物または本発明による多成分樹脂系に関する。本発明による方法は、コンクリート/コンクリート、鋼/コンクリート、または鋼/鋼または他の鉱物材料との当該材料のうちの1種の構造的接着、コンクリート、レンガ、および他の鉱物材料で作製された建設要素の構造強化、繊維強化ポリマーを用いる建築物の強化用途、コンクリート、鋼または他の鉱物材料で作製された表面の化学的留め付け、(強化)コンクリート、レンガ、他の鉱物材料、金属(例えば鋼)、セラミック、プラスチック、ガラスおよび木材などの掘削孔内の様々な基質への、建設要素ならびにアンカーロッド、アンカーボルト、(ネジ山付き)ロッド、(ネジ山付き)スリーブ、強化バー、ネジなどの、アンカー留め付け手段の化学的留め付けに特に好適である。本発明による方法は、最も特に好ましくは、アンカー留め付け手段の化学的留め付けのために使用される。
【0071】
本発明はまた、本発明によるモルタル組成物の使用または鉱物性基材への建設要素の化学的留め付けのための多成分樹脂系に関する。
【0072】
本発明はまた、本発明による多成分樹脂系から製造される化学(接着系)アンカーの耐温度性を改善するための、本発明によるモルタル組成物または本発明による多成分樹脂系の使用に関する。これには、特に、80℃などの高温での引き抜き強度の増加が含まれる。
【0073】
本発明は、限定的な意味で理解されるべきではないが、実施例に基づいて以下により詳細に説明される。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0074】
使用した成分:
4,4’-メチレン-ビス¥[N-(1-メチルプロピル)フェニルアミン](ABCRから)、アスパラギン酸、N、N’-(メチレンジ-4,1-シクロヘキサンジイル)ビス-,1,1’,4,4’-テトラエチルエステル(CovestroのDesmophen NH 1420として)、(6-メチル-2,4-ビス(メチルチオ)フェニレン-1,3-ジアミンと2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)フェニレン-1,3-ジアミンの混合物(AlbermaleのEthacure 300 Curativeとして)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)(TCIの)およびジエチルトルエンジアミン(AlbermaleのEthacure 100として)を、アミン成分中のイソシアネート基に反応性であるアミンとして使用した。
【0075】
ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートホモポリマー(CovestroのDesmodur N 3600およびN 3900として)、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートビウレットオリゴマー化生成物(CovestroのDesmodur N 3200として)およびヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートホモポリマーの混合物イソホロンジイソシアネートホモポリマー(CovestroのDesmodur XP 2838として)を、イソシアネート成分中のイソシアネートとして使用した。
【0076】
3-アミノプロピルトリエトキシシラン(EvonikのDynasylan AMEOとして)および3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(EvonikのDynasylan GLYMOとして)を、接着促進剤として使用した。
【0077】
石英粉末(Quarzwerke FrechenのMillisil(商標)W3およびW12)および石英砂(Quarzwerke FrechenのF32)を充填剤として使用し、シリカ(Cabot RheinfeldenのCab-O-Sil(商標)TS-720)を増粘剤として使用した。
【0078】
比較例
RE500V3(Hilti、比較例1、エポキシ樹脂モルタル)およびHY200A(Hilti、比較例2)の2つの市販のモルタル組成物を、比較例として使用する。以下の表に挙げられている、EP3447078A1に基づく組成物を、比較例3として使用する。
【表1】
【0079】
本発明による実施例
イソシアネート成分およびアミン成分の本発明による組成物を以下の表2および3に示す。
【表2】
【表3】
【0080】
モルタル組成物および引き抜き試験
モルタル組成物を製造するために、イソシアネート成分およびアミン成分をそれぞ
れ最初に個別に製造した。この目的のために、表1~3に示されている構成成分を一緒に加え、互いに混合した。このようにして生成された液体イソシアネートおよびアミン成分を、それぞれスピードミキサー(HauschildのDAC-600)中で1500rpmで30秒間混合した。次に、イソシアネート成分とアミン成分とを互いに組み合わせ、スピードミキサー中、1500rpmで30秒間混合した。このようにして得られたモルタル組成物をハードカートリッジに充填し、押出装置を使用して掘削孔に注入した。
【0081】
上記の実施例に従ってイソシアネート成分とアミン成分とを混合することによって得たモルタル組成物の引き抜き強度を、C20/25コンクリート中の関連するモルタル組成物によって、14mmの直径および72mmの掘削孔深さを有するハンマードリルであけた掘削孔にダボで接合した、高強度ネジ山付きアンカーロッドM12を使用して決定した。掘削孔は、圧縮空気(2×6bar)、ワイヤブラシ(2×)および再び圧縮空気(2×6bar)の手段によって清浄した。
【0082】
掘削孔を、掘削孔の底部から3分の2まで、各々の場合に試験されるモルタル化合物で満たした。ネジ山付きロッドを、手で押し込んだ。硬化後、掘削孔から突き出たモルタルリングを切断した。
【0083】
基準接着応力を決定するために、23℃の温度で24時間の硬化時間の後、破壊荷重を、ネジ山付きアンカーロッドをしっかりと支えて中央に引き抜くことによって決定した。
【0084】
80℃での接着応力を測定するために、23℃の温度で24時間の硬化時間の後、コンクリートブロックを80℃に加熱し、その温度で24時間保持した。オーブンからコンクリートスラブを取り出した直後に、80℃での破壊荷重を、ネジ山付きアンカーロッドをしっかりと支えて中央から引き抜くことによって決定した。
【0085】
モルタル組成物を用いて得られた接着応力を、下の表4~6に示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【国際調査報告】