(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-27
(54)【発明の名称】酵素を使用して核酸配列を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20230420BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
C12N15/10 Z
C12N9/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022565531
(86)(22)【出願日】2019-12-30
(85)【翻訳文提出日】2022-06-28
(86)【国際出願番号】 US2019068865
(87)【国際公開番号】W WO2021137845
(87)【国際公開日】2021-07-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522259245
【氏名又は名称】源點生物科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】YUANDIAN BIOLABS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 717, Innovation and Incubation Hall National Tsing Hua University No. 101, Sec. 2, Kuang-Fu Rd. Hsinchu 30013,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【氏名又は名称】藤田 尚
(72)【発明者】
【氏名】陳呈堯
(72)【発明者】
【氏名】顏睿康
【テーマコード(参考)】
4B050
【Fターム(参考)】
4B050KK07
4B050LL05
(57)【要約】
【課題】酵素を使用して核酸配列を調製するための方法を提供することである。
【解決手段】本発明の一実施例で提供される酵素を使用して核酸配列を調製するための方法は、以下のステップ(1)~(5)を含む。(1)前処理された表面を有する反応基質を提供するステップ。(2)反応酵素により前処理された表面に末端保護基を有するヌクレオチドを配置し、かつ反応温度は45℃~105℃であるステップ。(3)照射または加熱によりヌクレオチドの末端保護基を除去するステップ。(4)前記反応酵素により末端保護基を有する別のヌクレオチドをヌクレオチドに連結させ、かつ反応温度は45℃~105℃であるステップ。(5)核酸配列が完成しているかどうかを判断し、完成している場合は核酸配列を取得し、完成していない場合はステップ(3)と(4)を繰り返すステップ。本発明の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法は、核酸配列の調製効率を向上することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 前処理された表面を有する反応基質を提供するステップと、
(2) 反応酵素により前記前処理された表面に末端保護基を有するヌクレオチドを配置し、かつ反応温度は45℃~105℃であるステップと、
(3) 照射または加熱により前記ヌクレオチドの前記末端保護基を除去するステップと、
(4) 前記反応酵素により末端保護基を有する別のヌクレオチドを前記ヌクレオチドに連結させ、かつ反応温度は45℃~105℃であるステップと、
(5) 核酸配列が完成しているかどうかを判断し、完成している場合は核酸配列を取得し、完成していない場合はステップ(3)と(4)を繰り返すステップと、
を含む、酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項2】
前記反応酵素はDNAポリメラーゼである、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項3】
前記反応酵素はファミリーAのDNAポリメラーゼである、請求項2に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項4】
前記反応酵素はファミリーBのDNAポリメラーゼである、請求項2に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項5】
前記反応酵素はファミリーXのDNAポリメラーゼである、請求項4に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項6】
照射または加熱により前記ヌクレオチドの前記末端保護基を除去する方法は、パターン化された方法で部分的に除去することを含む、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項7】
照射により前記ヌクレオチドの前記末端保護基を除去する方法は、UVデジタル光処理(DLP)チップを使用して照射を行うことを含む、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項8】
反応温度は50℃~85℃である、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項9】
反応温度は55℃~75℃である、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項10】
前記前処理された表面は複数のプライマーを有し、前記前処理された表面上に前記末端保護基を有する前記ヌクレオチドを配置する方法は、前記反応酵素によって前記末端保護基を有する前記ヌクレオチドを前記複数のプライマーに連結することを含む、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項11】
(6)制限酵素によって前記前処理された表面から前記核酸配列を切断するステップをさらに含む、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子構造を調製するための装置および方法、特に、酵素を使用して核酸配列を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀半ばに、今日の医療分野の発展につながる遺伝的および生化学的研究におけるいくつかの進歩があった。これは、1941年にX線で誘発された遺伝子ノックアウト研究から始まった一連の出来事であり、遺伝子が酵素(enzyme)機能に直接関与しているという関係を築いた。その後、遺伝子は核酸(DNA)で構成されており、二重らせんは遺伝情報を保存する核酸の構造であり、DNAポリメラーゼによって正確に複製できることが発見された。
【0003】
核酸合成は、現代のバイオテクノロジーにとって重要である。DNAや、RNA、タンパク質を人工的に合成する科学界の能力は、バイオテクノロジーの分野を急速に発展させる。10億の成長する市場である人工DNA合成により、バイオテクノロジーおよび製薬会社は、例えば、糖尿病の治療のためのインスリンなどのさまざまなペプチド治療薬を開発することができる。これにより、研究者は細胞タンパク質の特性を明らかにし、心臓病や癌など、高齢者が現在直面している疾患の治療のための新しい小分子療法を開発することができる。
【0004】
しかし、現在のDNA合成技術は、バイオテクノロジー業界の要求を満たすことができない。DNA合成には多くの利点があるが、く言及される問題が人工DNA合成産業、およびバイオテクノロジー分野のさらなる成長を妨げている。DNA合成は成熟した技術であるが、実際には200ヌクレオチドを超える長いDNA鎖を合成することは非常に困難であり、ほとんどのDNA合成会社は120ヌクレオチドまでしか提供できない。比較すると、平均的なタンパク質コード遺伝子は2000~3000ヌクレオチドのオーダーであり、平均的な真核生物のゲノム数は数十億ヌクレオチドである。したがって、今日のすべての主要な遺伝子合成会社は、「合成と接着」技術アプローチに依存している。このアプローチでは、約40~60の重複する配列フラグメントが合成され、PCRによって接着される(Young, L. et al. (2004) Nucleic Acid Res. 32, e59)。遺伝子合成会社が提供する現在の方法では、通常、ルーチンの生産で最大3kbの長さが可能である。
【0005】
今日まで、核酸のインビトロ合成には、化学合成と酵素合成との2つの主要なタイプがある。最も一般的な核酸化学合成法は、Adams et al. (1983, J. Amer. Chem Soc., 105: 661) およびFroehler et al. (1983, Tetrahedron Lett, 24: 3171)によって記載されたホスホラミダイト法(phosphoramidite method)である。この方法では、添加される各ヌードオチドは、同じタイプのいくつかのヌクレオチドの制御されていない重合を回避するために、5'-OH基の保護基を構成されている。通常、トリチル基は5'-OH基の保護基として使用できる。強力な反応物の使用による分解の可能性を回避するために、ヌクレオチドによって運ばれる塩基も保護することもできる。一般に、使用される保護基はイソブチリル基を含む(Reddy et al. 1997, Nucleosides & Nucleotides 16: 1589)。次の重合ステップで使用できるように、新しいヌクレオチドが添加されるたびに、鎖の最後のヌクレオチドの5'-OH基が脱保護される。ヌクレオチドによって運ばれる窒素塩基は、すべての重合反応が完了した後にのみ脱保護される。
【0006】
WO95 / 0350 A1は、フォトリソグラフィを使用して基質の上でオリゴヌクレオチドプローブを合成することによりヌクレオチドアレイを調製するための方法を開示する。基質にオリゴヌクレオチドを固定し、5’末端ヒドロキシル基の感光性保護基を使用して3’から5’の方向で塩基を合成する。各合成サイクル中に、フォトリソグラフィーマスクを通して表面を照らすことにより、保護基が選択的に除去される。脱保護されたヒドロキシル基は、選択された5’-光保護されたデオキシヌクレオシドホスホラミダイトに連結されるが、表面の非照射領域の核酸配列は保護されており、反応できない。目的の核酸配列が得られるまで、必要に応じて1ラウンドの照明と異なるヌクレオチドとのカップリングを繰り返す。所望のオリゴヌクレオチドプローブのセットが得られるまで、必要に応じて異なる活性化デオキシヌクレオシドを用いて、照射と連結のラウンドを繰り返す。
【0007】
米国特許US20160184788A1には、表面上の1つまたは複数の部位を選択的にマスキングし、および分子アレイを合成する方法を開示している。基質上にヌクレオチドを固定し、5’末端ヒドロキシル基の感熱性保護基を使用して3’から5’の方向で塩基を合成する。異なる部位で加熱することにより、その部位のヌクレオチドの感熱性保護基を除去することができ、脱保護されたヒドロキシル基が選択された5’-光保護ヌクレオチドホスファイトに連結され、したがって、多数かつ異なる核酸配列を生成することができる。
【0008】
しかし、上記のような化学合成法は、環境および健康に影響を与える可能性のある、不安定で、危険で、高価な大量の反応剤を必要とする。さらに、この化学合成法で使用される装置は非常に複雑で、多額の投資が必要であり、資格のある専門の技術者が操作する必要がある。この化学合成方法の主な欠点の1つは、生産量が低いことである。各サイクルにおいて、カップリング反応の成功率はわずか98%から99.5%であるため、調製物中の核酸配列は正しい配列を持たない可能性がある。合成工程が進むにつれて、反応媒体の中に誤った配列のフラグメントで満たされる可能性がある。したがって、この削除タイプのエラーは深刻な結果をもたらす可能性があり、その結果、核酸フラグメントのリーディングフレームが変化する。
【0009】
例えば、カップリング反応が99%正確であるためには、70ヌクレオチドを含む核酸合成の生産量は50%未満になる。これは、70サイクルの添加後、反応媒体は正しい配列のフラグメントよりも間違った配列のフラグメントを多く含むことを意味する。この混合物は、その後の使用には不適切である。
【0010】
したがって、核酸を化学的に合成する方法は、不純物と見なされる多くの間違った配列のフラグメントが生成されるため、長いフラグメントの合成には効率的ではない。実際には、化学合成する方法で効果的に生成できるフラグメントの最大長は、50~100ヌクレオチドである。
【0011】
他方、酵素合成方法と化学合成方法との違いは、酵素合成方法が、カップリングステップを行うために酵素触媒を使用することである。従来、DNAポリメラーゼはDNAの合成によく使用される。DNAポリメラーゼは、アミノ酸配列に基づいて、7つの進化ファミリー、すなわち、A、B、C、D、X、Y、およびRTに分類される。DNAポリメラーゼのファミリーは関連していない。つまり、あるファミリーのメンバーは他のファミリーのメンバーとは同源(Homologous)ではない。DNAポリメラーゼは、そのファミリーの典型的なメンバーとの同源性により、特定のファミリーのメンバーであると判断される。例えば、ファミリーAのメンバーは大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼIと相同であり、ファミリーBのメンバーは大腸菌DNAポリメラーゼIIと相同であり、ファミリーCのメンバーは大腸菌DNAポリメラーゼIIIと相同であり、ファミリーDのメンバーはパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)DNAポリメラーゼと相同であり、ファミリーXのメンバーは真核生物のDNAポリメラーゼベータと相同であり、ファミリーYのメンバーは真核生物のRAD30Rと相同であり、ファミリーRTのメンバーは逆転写酵素と相同である。
【0012】
多数の文書(Ud-Dean et al. (2009) Syst. Synth. Boil. 2, 67-73、US 5763594及US 8808989)が、制御されたデノボ一本鎖DNA合成のための末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(terminal deoxynucleotidyl transferase、TdT)の使用を開示している。制御されたものとは対照的に、制御されていないデノボ一本鎖DNA合成は、一本鎖DNA上のTdTのデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)3'テーリング特性を利用して、例えば、次世代シーケンシングライブラリー調製用のホモポリマーアダプター配列を作成する(Roychoudhur R. et al. (1976) Nucleic Acids Res. 3, 10-116およびWO 2003/050242)。
【0013】
ただし、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼの主な目的は抗原受容体の多様性を高めることであったため、他のポリメラーゼのように、正常で予測可能な動作を示すことは難しい場合がある。これは、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼが、ヌクレオチド合成サイクルで高生産率の自動化を達成するために、依然として多くの課題に直面していることを意味する。
【0014】
要約すると、核酸の化学合成は、大量の核酸を合成することができる。ただし、使用する反応剤は高価で環境を汚染し、また、合成工程でエラーが発生する可能性が高い。核酸の酵素的合成は安価であり、核酸配列はより高い精度を持つ。ただし、酵素の反応速度により、大量の合成はできない。したがって、核酸を正しく大量に合成するという問題を解決できるより良い核酸合成法は現在も存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、酵素を使用して核酸配列を調製するための方法を提供し、これは、核酸配列の調製効率を改善することができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一実施例で提供される酵素を使用して核酸配列を調製するための方法は、以下のステップを含み:(1)前処理された表面を有する反応基質を提供するステップ。(2)反応酵素により前処理された表面に末端保護基を有するヌクレオチドを配置し、かつ反応温度は45℃~105℃であるステップ。(3)照射または加熱によりヌクレオチドの末端保護基を除去するステップ。(4)前記反応酵素により末端保護基を有する別のヌクレオチドをヌクレオチドに連結させ、かつ反応温度は45℃~105℃であるステップと。(5)核酸配列が完成しているかどうかを判断し、完成している場合は核酸配列を取得し、完成していない場合はステップ(3)と(4)を繰り返すステップ。
【0017】
本発明の一実施例では、上記の反応酵素はDNAポリメラーゼである。
【0018】
本発明の一実施例では、上記の反応酵素はファミリーAのDNAポリメラーゼである。
【0019】
本発明の一実施例では、上記の反応酵素はファミリーBのDNAポリメラーゼである。
【0020】
本発明の一実施例では、上記の反応酵素はファミリーXのDNAポリメラーゼである。
【0021】
本発明の一実施例では、上記の照射または加熱によりヌクレオチドの末端保護基を除去する方法は、パターン化された方法で部分的に除去することを含む。
【0022】
本発明の一実施例では、上記の照射によりヌクレオチドの末端保護基を除去する方法は、UVデジタル光処理(DLP)チップを使用して照射を行うことを含む。
【0023】
本発明の一実施例では、上記の反応温度は50℃~85℃である。
【0024】
本発明の一実施例では、上記の反応温度は55℃~75℃である。
【0025】
本発明の一実施例では、上記の前処理された表面は複数のプライマーを有し、上記の前処理された表面上に末端保護基を有するヌクレオチドを配置する方法は、反応酵素によって末端保護基を有するヌクレオチドを複数のプライマーに連結することを含む。
【0026】
本発明の一実施例では、上記の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法は、(6)制限酵素によって前記前処理された表面から前記核酸配列を切断するステップをさらに含む。
【0027】
本発明の実施例の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法は、酵素を使用して核酸配列を合成するので、化学合成の方法と比較して環境を汚染する可能性がより低い、かつコストを削減する可能性がある。また、反応温度は45℃~105℃であり、従来の37℃の酵素使用と比較して、本発明の実施形態は、45℃以上の酵素を使用することにより、より良好な活性を示し得る。これにより、核酸配列の調製効率を向上することができる。
【0028】
本発明の他の目的、特徴および利点は、本発明の実施例によって開示されるさらなる技術的特徴からさらに理解されるであろう。ここでは、本発明を実施するのに最も適したモードを単に例示するために、本発明の好ましい実施例が示され、説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明は、以下の詳細な説明および添付の図面を検討した後、当技術分野における通常の知識を有する者にさらに容易に明らかになるであろう、そのうち:
【0030】
図1は、本発明の一実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための方法を示す概略フローチャートである。
【0031】
図2Aおよび
図2Bは、本発明の一実施例によるヌクレオチドの末端保護基を除去することを示す概略図である。
【0032】
図3Aおよび
図3Bは、本発明の別の実施例によるヌクレオチドの末端保護基を除去することを示す概略図である。
【0033】
図4Aおよび
図4Bは、本発明の別の実施例によるヌクレオチドの末端保護基を除去することを示す概略図である。
【0034】
図5A~
図5Iは、本発明の一実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための方法を示すステップ概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、以下の実施例を参照して、本発明をより具体的に説明する。本発明の好ましい実施例の以下の説明は、例示および説明のみを目的として本文に提示されていることに留意されたい。網羅的であること、または、開示された正確な形式に限定されることを意図するものではない。
【0036】
図1は、本発明の一実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための方法を示す概略フローチャートである。
図1を参照すると、本実施例の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法は、以下のステップを含む。ステップS101:前処理された表面を有する反応基質を提供することを実行する。次に、ステップS102:反応酵素により前処理された表面に末端保護基を有するヌクレオチドを配置し、かつ反応温度は45℃~105℃、好ましくは50℃~85℃、より好ましくは55℃~75℃であることを実行する。具体的には、核酸配列を調製するための反応温度は、例えば、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、65℃、66℃、67℃、68℃、69℃、70℃、71℃、72℃、73℃、74℃または75℃、これらに限定されない。
【0037】
反応基質の材料は、例えば、シリコン、ガラス(SiO2)、金属またはポリマーを含み、ポリマーは、例えば、ポリカーボネートまたはポリメチルメタクリレートなどであるが、これらに限定されない。反応基質は、例えば、ウェーハまたは平板などの板状構造であり、前処理された表面は、板状構造の平面である。
【0038】
本実施例では、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)配列の合成を例にとると、その合成に必要なヌクレオチドの窒素塩基はさらにアデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアノ(G)の4つのカテゴリーに分類できるため、4種類のヌクレオチドが使用される(dAMP、 dTMP、dCMP、dGMP)。リボ核酸(RNA)配列を合成する場合、ウラシルヌクレオチド(UMP)の材料も必要である反応酵素は、例えば、DNAポリメラーゼ、特に耐熱性DNAポリメラーゼであるが、これに限定されない。DNAポリメラーゼには、例えば、ファミリーAのDNAポリメラーゼと、ファミリーBのDNAポリメラーゼと、ファミリーXのDNAポリメラーゼとを含み、その例には、TaqDNAポリメラーゼ、古細菌DNA、耐熱性逆転写酵素などを含む。これらのDNAポリメラーゼは、45℃以上の温度で、37℃で従来使用されている末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(TdT)よりも良好な活性を示し、核酸配列の合成効率を改善することができる。
【0039】
本発明の全文に記載されている「反応酵素」、「末端保護基を有するヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「制限酵素」などは、それらの実際の量を表すのではなく、これらの物質の総称と見なされるべきである。例えば、反応を実行する反応酵素および末端保護基を有するヌクレオチドの数は両方とも複数である。
【0040】
反応酵素により前処理された表面に末端保護基を有するヌクレオチドを配置する方法は、例えば、浸漬法または液体輸送法を含む。具体的には、反応酵素と末端保護基を有するヌクレオチドとを配合溶液に調製する。浸漬法では、反応基質を配合溶液に浸漬し、溶液の温度を45℃~105℃に維持し、反応が完了するまで待つ。液体輸送法では、配合溶液が反応基質の前処理した表面を通過し、かつ溶液の温度を45℃~105℃に維持する。上記の方法は、本発明の実施態様にすぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0041】
前処理された表面は、例えば、複数のプライマー(primer)を有するが、これらに限定されない。前処理された表面上に末端保護基を有するヌクレオチドを配置する方法は、反応酵素により末端保護基を有するヌクレオチドを複数のプライマーに連結することを含む。本実施例では、DNA配列の合成におけるプライマーの助けにより、DNAポリメラーゼ(反応酵素)が前処理された表面上に末端保護基を有するヌクレオチドをより容易に配置することができる。これらのプライマーは、例えば、一本鎖DNAであるが、それに限定されない。別の実施例では、前処理された表面は、例えば、プライマーを有さない場合もある。
【0042】
次に、ステップS103:照射または加熱によりヌクレオチドの末端保護基を除去し、末端保護基は、例えば、感光性または感熱性であることを実行する。末端保護基の例には、メチル、2-ニトロベンジル、2’-O-(2-シアノエチル)、アリル、アミン、アジドメチル、tert-ブトキシエトキシ(TBE)などが含まれるが、これらに限定されない。感光性末端保護基は照射により除去することができ、感熱性末端保護基は加熱により除去することができる。末端保護基の除去後、ヌクレオチドは次のヌクレオチドに連結し続けて配列を延長することができる。ヌクレオチドの末端保護基を除去する特定の実施形態を、図面を参照して以下にさらに説明するが、本発明の照射または加熱によりヌクレオチドの末端保護基を除去する特定の方法は、以下の実施例に限定されない
【0043】
図2Aおよび
図2Bは、本発明の一実施例によるヌクレオチドの末端保護基を除去することを示す概略図である。
図2Aおよび
図2Bを参照すると、本実施例は、感光性の末端保護基PGを使用するため、
図2Bに示すように、前処理された表面200を発光ユニット100で照射することができ、プライマー210に接続されたヌクレオチド220の末端保護基PGは、光Lが照射された後に分解される。発光ユニット100は、例えば、発光ダイオードまたはレーザーダイオードであるが、これらに限定されない。照明処理は、発光ユニット100の使用に限定されず、例えば、自然光を使用することができる。前処理された表面200は、同時に複数のヌクレオチド220を配置することができるため、一度に複数の核酸配列を調製することができ、調製効率が向上する。
【0044】
さらに、前処理された表面200は、複数の領域に分割することもできる。各領域はそれぞれが一つの調製中の核酸配列を含み、末端保護基PGはパターン化された方法で部分的に除去され、複数の異なる核酸配列を同時に調製する効果を達成できる。
図3Aおよび
図3Bは、本発明の別の実施例によるヌクレオチドの末端保護基を除去することを示す概略図である。
図3Aおよび
図3Bを参照すると、本実施例はまた、感光性の末端保護基PGを使用され、違うところは、本実施例ではUVデジタル光処理(digital light processing,DLP)チップを使用して照射を行うことである。具体的には、UVデジタル光処理チップは、発光ユニット300と反射光弁310とを含む。
図3Aおよび
図3Bの複数の領域は、破線で区切られている。発光ユニット300が光Lを反射光弁310に放出した後、前処理された表面400の複数の領域の一部が、パターン化された方法で反射光弁310によって照射される。
図3Bに示すように、これらの領域でプライマー410に連結されたヌクレオチド420の末端保護基PGは、光Lによって照射された後に分解され、ヌクレオチド420は、次のヌクレオチド420に連結されことができる。パターン化された方法を設計することにより、異なる核酸配列を各領域で同時に調製することができる。
【0045】
図4Aおよび
図4Bは、本発明の別の実施例によるヌクレオチドの末端保護基を除去することを示す概略図である。
図4Aおよび
図4Bを参照すると、本実施例の方法の利点は、上記の方法の利点と似ているが、違うところは、本実施例が感熱性末端保護基PGを使用することのみである。したがって、
図4Bに示すように、前処理された表面600は、加熱ユニット500により加熱され(熱エネルギー伝達は曲線矢印で示されている)、プライマー610に連結されたヌクレオチド620の末端保護基PGは、加熱後に分解される。たとえば、加熱処理は、パターン化された方法で、すなわち局所加熱の方法で、末端保護基PGを部分的に除去することもできる。例えば、シリコンチップを反応基板として使用する場合、各領域に回路を分散させて通過電流を制御し、局所加熱の効果を得ることができる。
【0046】
図1を再び参照すると、ヌクレオチドの末端保護基が除去された後、ステップS104:末端保護基を有する別のヌクレオチドを、反応酵素により前処理された表面に配置されたヌクレオチドに連結させることを実行する。ステップS104の反応はステップS102の反応と似ているが、違うところは、末端保護基を有するヌクレオチドは、以前にプライマーに連結されていたヌクレオチドに連結する。合成する核酸配列の長さの違いに応じて、ステップS105:設計された核酸配列が完成しているかどうかを判断し、完成している場合は核酸配列を取得し、完成していない場合はステップS103とS104を繰り返し、設計された核酸配列が完成するまで、核酸配列の長さを延長し続けることを実行する。ステップを繰り返すとき、ステップS103がパターン化された方法で異なる領域の末端保護基を部分的に除去することである場合、異なる領域の核酸配列の長さは異なる可能性がある。酵素を使用して核酸配列を調製する方法の具体的な実施態様を、図面を参照して以下にさらに説明するが、本発明の酵素を使用して核酸配列を調製する方法の具体的な実施態様は、以下の実施例に限定されない。
【0047】
図5A~
図5Iは、本発明の一実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための方法を示すステップ概略図である。
図1および
図5A~
図5Iを参照すると、
図5AでステップS101:前処理された表面700を有する反応基質を提供し、前処理された表面700は、複数のプライマー710を有することを実行する。この実施例では、複数のプライマー710は、例えば、一本鎖DNAであるが、これに限定されない。ここで前処理された表面700は、I、II、III、IVの4つの領域に分割される。各領域は、複数のプライマー710を有し、また、領域I、II、III、IVは、それぞれ異なる核酸配列を調製するように設計されている。
【0048】
図5BでステップS102:反応酵素により前処理された表面に末端保護基を有するヌクレオチドを前処理された表面700上の複数のプライマー710に連結され、かつ反応温度は45℃~105℃であることを実行する。本実施例で使用されるヌクレオチド720は、ヌクレオチド720a、720c、720g、720tを含み、それぞれアデニンヌクレオチド(dAMP)、シトシンヌクレオチド(dCMP)、グアノプリンヌクレオチド(dGMP)、およびチミジン(dTMP)に対応する。
図5Bに配置されたヌクレオチド720cは、シトシンヌクレオチドである。
【0049】
図5CでステップS103:照射または加熱によりヌクレオチド720の末端保護基PGを除去することを実行する。ここでは、異なる領域の末端保護基PGがパターン化された方法で部分的に除去されており、照明または加熱の実施方法が詳細に説明されているため、ここでは繰り返さない。
図5Cでは、領域IIおよびIIIのヌクレオチド720cの末端保護基PGが除去される。
【0050】
図5DでステップS104:反応酵素により末端保護基PGを有する別のヌクレオチド720を前処理された表面700に配置されたヌクレオチド720に連結させることを実行する。
図5Dでは、領域II、IIIのヌクレオチド720cのみが、反応酵素により別のヌクレオチド720gにさらに結合される。
【0051】
次に、ステップS105:設計された核酸配列が完成しているかどうかを判断し、完成していない場合はステップS103とS104を繰り返すことを実行する。
図5Eでは、ステップS103が再び実行され、領域Iのヌクレオチド720cの末端保護基PGおよび領域IIIのヌクレオチド720gの末端保護基PGが除去される。次に、
図5Fで工程S104が再度実行され、末端保護基PGを有する別のヌクレオチド720tが、反応酵素により領域Iのヌクレオチド720cおよび領域IIIのヌクレオチド720gに連結される。
【0052】
その後、ステップS105:設計された核酸配列が完成しているかどうかを判断し、完成していない場合はステップS103とS104を繰り返すことを再び実行する。
図5Gでは、領域Iのヌクレオチド720tの末端保護基PGおよび領域IVのヌクレオチド720cの末端保護基PGが除去される。
図5Hでは、反応酵素により、末端保護基PGを有する別のヌクレオチド720aを、領域Iのヌクレオチド720tおよび領域IVのヌクレオチド720cに連結する。
【0053】
図5Iに示すように、領域I、II、III、IVの異なる核酸配列Sがすべてそれぞれ合成されることが判断されるまで、ステップS103およびS104を繰り返す。上記は、パターン化された方法で照射または加熱により異なる領域I、II、III、IVの末端保護基PGを、部分的に除去する実施形態である。この方法により、多数の異なる核酸配列Sを短時間で調製することができる。これらの異なる核酸配列Sが同じ遺伝子の配列断片に属する場合、後続の配列断片は互いに連結し、すなわち、従来の技術と比較してより長い長さの核酸配列を大量生産することができる。
【0054】
核酸配列Sの合成が完了した後、酵素を使用して核酸配列を調製するための方法はステップS106:制限酵素により前処理された表面700から核酸配列Sを切断することをさらに含み、制限酵素が前処理された表面に配置された後、制限酵素は、前処理された表面700から合成された核酸配列Sを切断する。その後、核酸配列Sを収集し、すなわち、核酸配列Sの調製工程が完了する。制限酵素の例には、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)と、エンドヌクレアーゼVIIIと、USER酵素(NEB#M5508)とそれらの組み合わせを含む。例えば、ウラシルヌクレオチド(UMP)に切断される制限酵素が使用される場合、反応酵素が末端保護基PGを有するヌクレオチド720をプライマー710に配置する前に、ウラシルヌクレオチドは最初にプライマー710に配置される。核酸配列が完成すると、それらはDNA配列であるため、DNA配列にウラシルヌクレオチドを含まない。制限酵素には、最初に配置された単一のウラシルヌクレオチドのみを切断することができ、それにより、核酸配列Sを正しく切断することができる。異なる制限酵素は異なる切断部位を有し、本発明は特に限定されない。
【0055】
上記の前処理された表面200、400、600、および700は、異なる実施例を区別するために異なる数字記号のみを使用し、それらは、様々な実施例において交換可能に使用することができる。プライマー210、410、610、710およびヌクレオチド220、420、620、720a、720c、720g、720tも同じ方法で使用することができる。
【0056】
要約すると、本発明の実施形態の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法は、酵素を使用して核酸配列を合成するので、化学合成の方法と比較して、環境を汚染することが少なくなり、またコストを削減できる可能性がある。さらに、反応器の反応温度は45℃~105℃であり、従来の37℃の酵素の使用と比較して、本発明の実施例は、45℃以上で酵素を使用することにより、より良好な活性を示し得、それにより、核酸配列を調製する効率を高めることができる。
【0057】
以上は、現在最も実用的で好ましい実施例であると考えられているものに関して説明したが、開示された実施例に限定される必要はないことを理解されたい。それどころか、すべてのそのような修正および類似の構造を包含するように、最も広い解釈に一致し、添付の特許請求の精神および範囲に含まれる様々な修正および類似の配置を含むことを意図している。
【国際調査報告】