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特表2023-518156高磁場での誤差が小さな、2次元磁場を感知する磁気抵抗センサ素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-28
(54)【発明の名称】高磁場での誤差が小さな、2次元磁場を感知する磁気抵抗センサ素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/10 20230101AFI20230421BHJP
   G01R 33/09 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
H10N50/10 Z
H10N50/10 M
G01R33/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548871
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 IB2021051724
(87)【国際公開番号】W WO2021181203
(87)【国際公開日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】20315038.8
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509096201
【氏名又は名称】クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】デュクリュエ・クラリス
(72)【発明者】
【氏名】クシェ・レア
(72)【発明者】
【氏名】チルドレス・ジェフリー
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AD55
5F092AA20
5F092AB01
5F092AC12
5F092BB17
5F092BB22
5F092BB23
5F092BB35
5F092BB36
5F092BB42
5F092BB43
5F092BB53
5F092BC04
5F092BC07
5F092BC12
5F092BC13
5F092BE04
5F092BE06
5F092CA14
5F092CA15
(57)【要約】
【課題】2次元高磁場の感知における誤差を低減する。
【解決手段】本発明の2次元磁場センサ用磁気抵抗素子(2)は、固定参照磁化(210)を有する強磁性参照層(21)と、外部磁界の存在下で参照磁化(210)に対して自由に配向可能なセンス磁化(230)を持つ強磁性センス層(23)と、参照磁化層(21)とセンス強磁性層(23)との間のトンネル障壁層(22)とを備える参照層(21)は、参照ピン止め層(211)と参照被結合層(212)との間の参照結合層(213)を備える。参照被結合層(212)は、参照結合層(213)に接する第1被結合副層(214)と、第2被結合副層(215)と、第3被結合副層(217)と、第2及び第3被結合副層(215、217)の間の挿入層(216)とを備える。挿入層(216)は遷移金属からなり厚さが約0.1から約0.5nmであり、参照被結合層(212)の厚さは約1nmから約5nmの間である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された参照磁化(210)と、
外部磁場の存在下で参照磁化(210)に対して自由に配向可能なセンス磁化(230)を有するセンス強磁性層(23)と、
参照強磁性層(21)及びセンス強磁性層(23)との間のトンネル障壁層(22)と
を有する参照強磁性層(21)を備える、2次元磁界センサ用磁気抵抗素子(2)であって、
参照層(21)は、参照ピン止め層(211)と参照被結合層(212)との間の参照結合層(213)を備え、
参照被結合層(212)は、前記参照結合層(213)に接する第1被結合副層(214)と、第1被結合副層(214)に接する第2被結合副層(215)と、前記第3被結合副層(217)と、前記第2被結合副層(215)及び第3被結合副層(217)との間の挿入層(216)とを備え、
挿入層(216)は、第2被結合副層(215)及び第3被結合副層(217)間に強磁性交換結合を提供し、
Taを含有する挿入層(216)の厚さは0.2nmであり、参照被結合層(212)の厚さは1nmから5nmの間である、磁気抵抗素子(2)において、
前記参照ピン止め層(211)は、CoFe合金を含有して厚さ2nmを持ち、前記トンネル障壁層(22)はMgを含有し、前記挿入層(216)はTaを含有し、前記第1被結合副層(214)はCoFe合金からなり、厚さは0.5nmであり、第2被結合副層(215)はCoFeB合金からなり厚さは0.75nmであり、第3被結合副層(217)はCoFeB合金からなり、0.45nmから0.95nmの厚さを持つことを特徴とし、ここにおいて、磁気抵抗素子(2)は、約1Tで与えた磁場下で90分間、310℃で熱処理されていることを特徴とする、磁気抵抗素子(2)。
【請求項2】
挿入層(216)は、非晶質又は準非晶質又はナノ結晶である、請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
第1被結合副層(214)はCo又はCoFe合金を含有し、第2被結合副層(215)はCoFeB合金を含有する、請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
参照ピン止め層(211)は、Co、Fe、Ni、Cr、V、SiもしくはB、又はこれらの元素のいずれかの組み合わせを含有してよい、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
第2被結合副層(215)は、第3被結合副層(217)の厚さの1倍と2倍の間の厚さを持つ、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子(2)を備える、2次元磁場を感知する磁場センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高磁場で誤差が小さな、2次元(2D)磁場を感知する磁気抵抗センサ素子に関する。また、本発明は、前述の磁気抵抗素子を備える磁場センサに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル磁気抵抗(TMR)効果に基づく磁気センサ素子は、2D磁場検出に使用できる。このような磁気センサ素子は、典型的には、固定された参照磁化を持つ強磁性参照層と、磁場の存在下で参照磁化に対して自由に配向可能なセンス磁化を持つトンネル障壁層及び強磁性センス層とを備える。参照層は、反強磁性層に接する固定された第1強磁性参照層、結合スペーサ層及び第2強磁性参照層を備える合成反強磁性(SAF)構造を備えてよい。良好な精度を持つためには、磁気センサ素子は、高磁場における角度誤差は低くあるべきである。
【0003】
高磁場での低角度誤差は、SAF構造の剛性を高めることによって達成できる。SAF構造の剛性を高めることは、通常、第1強磁性参照層及び第2強磁性参照層の厚さを減少させることによって達成される。例えば、第1及び第2強磁性層の厚さは、1.0nmまで減少させられる。これは、磁気センサ素子の飽和場Hsatを増加させる結果となる。SAF構造の磁化は、高印加磁場でより安定(剛性)になる。しかしながら、第1及び第2第1強磁性参照層の厚さを薄くすることは、磁気センサ素子の磁気輸送特性を損なう。このような薄い厚さはさらに、反強磁性(AF)層によるピン止めを失う結果となり、磁気センサ素子のTMR応答は非常に低くなる。
【0004】
特許文献1(US2011134563)は、磁気ピン止め層と、磁気ピン止め層の上方に位置する自由磁性層と、トンネル障壁層を備える、磁気抵抗ヘッドに関し、ここで、磁気ピン止め層及び自由磁性層の少なくとも一方は層状構造を持ち、CoFe磁性層又はCoFeB磁性層と、CoFeB及び選択された元素を備える非晶質磁性層と、CoFeB磁性層と、Ta、Hf、Zr、及びNbから選択されたいずれかの元素を含有する結晶層を備える層状構造を持つ。ここで結晶層は非晶質磁性層よりもトンネル障壁層に近い位置にある。
【0005】
特許文献2(US2012257298)には、反強磁性(AFM)層と、AFM層の上方の第1強磁性層と、第1強磁性層より上の第2強磁性層と、第1及び第2強磁性層との間のAF結合層と、上述の第2強磁性層の上の固定層と、上述の固定層内又は上述の固定層の隣に挿入層と、固定層の上の障壁層と、障壁層の上に自由層とを持つ、TMRヘッドが記載されている。
【0006】
特許文献3(US2020066790)には、第1応答方向と反対に、外部磁場に対する第1応答方向を持つ第1磁気抵抗素子と、外部磁場に対する第2応答方向を持つ第2磁気抵抗素子とを備える材料の積層が記載されている。第1磁気抵抗素子は、第2磁気抵抗素子の下又は上に配置できる。絶縁層は、第1及び第2磁気抵抗素子を分離している。
【0007】
特許文献4(US8582253)は、AFM層の上に高スピン偏極参照層積層体を持つ磁気センサを開示している。上述の参照層積層体は、上述のAFM結合層の上に第1ホウ素非含有強磁性層を備え、上述の第1ホウ素非含有強磁性層上と上述の第1ホウ素非含有強磁性層とに接触する磁気結合層と、上述の磁性結合層上に堆積させて接触している、ホウ素を含有する第2強磁性層と、第2強磁性層上に接するホウ素非含有の第3強磁性体層とを持つ。
【0008】
特許文献5(US2015162525)は、参照磁性層、トンネル障壁層、及び自由磁性層を備えてよい磁気トンネル接合記憶素子を備える磁気記憶装置を開示している。参照磁性層は、第1固着層、交換結合層、及び第2ピン止め層を備えてよい。交換結合層は、第1及び第2ピン止め層の間であってもよく、第2ピン止め層は、強磁性層及び非磁性層を備えてもよい。第2ピン止め層は、第1ピン止め層とトンネル障壁層の間であってもよいし、トンネル障壁層は、参照磁性層と自由磁性層との間であってもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/134563号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/257298号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2020/066790号明細書
【特許文献4】米国特許第8582253号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2015/162525号明細書
【発明の概要】
【0010】
本開示は、2次元磁場センサ用磁気抵抗素子に関する。この磁気抵抗素子は、固定された参照磁化を持つ強磁性参照層を備え、
強磁性参照層は、外部磁場の存在下で上述の参照磁化に対して自由に配向可能なセンス磁化を持つ強磁性センス層と、参照強磁性層とセンス強磁性層の間のトンネル障壁層とを備える。参照層は、参照ピン止め層と参照被結合層との間の参照結合層を備え、
参照被結合層は、参照結合層に接する第1被結合副層、第2被結合服層、第3被結合副層、及び第2被結合副層と第3被結合副層との間に挿入層を備え、
遷移金属を含有する挿入層は、約0.1から約0.5nmの間の厚さを持ち、
参照被結合層の厚さは、約1nmと約5nmとの間である。
【0011】
一実施形態では、上述の参照ピン止め層は、CoFe合金を含有し、2nmの厚さを持つ。上述のトンネル障壁層はMgを含有し、上述の挿入層はTaを含有し、上述の第1被結合副層はCoFe合金を含有し、厚さは0.5nm、上述の第2被結合副層はCoFeB合金を含有し、厚さは0.75nmであり、第3被結合副層はCoFeB合金を含有し、0.45nmから0.95nmの間の厚さを持つ。磁気抵抗素子は、約1Tで与えた磁場下で90分間、310℃で熱処理されている。
【0012】
本開示はさらに、2次元磁場を感知する磁場センサに関するものであり、上述の磁気抵抗素子を備える。
【0013】
本明細書に開示される磁気抵抗素子は、高い飽和磁場Hsat及びトンネル磁気抵抗(TMR)応答を持つ。磁気抵抗素子はさらに、SAF参照層の高い剛性を有し、熱安定性が向上した。磁気抵抗素子は、高磁場でも角度誤差を低減し、精度を向上させる。高飽和磁場Hsat、交換剛性(SAF結合)及び磁気抵抗素子のTMR応答は、SAF構造の磁性層厚さを減らすことなく得られる。
【0014】
本発明は、例として与えられ、図によって例示される実施形態の説明の助けを借りてよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態に係る強磁性参照層、強磁性センス層及びトンネル障壁層を備える磁気抵抗素子の概略図を示す。
図2図2は、特定の構成によるセンス層の概略図を示す。
図3図3は、一実施形態による、参照ピン止め層と参照被結合層との間に参照結合層を備えるSAF構造を備える参照層を示す。
図4図4は、磁気飽和磁場と参照被結合層の厚さとの関係を報告するグラフである。
図5図5は、磁気抵抗素子の抵抗面積積と参照被結合層の厚さとの関係を報告するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、一実施形態に係る磁気抵抗素子2の概略図を示す。磁気抵抗素子2は、強磁性参照層21と、強磁性センス層23と、参照とセンス強磁性層21、23との間にトンネル障壁層22とを備える。参照層21は固定(された)参照磁化210を有し、センス層23は、外部磁場60の存在下で参照磁化210に対して自由に配向可能なセンス磁化230を持つ。換言すると、磁気抵抗素子2が外部磁場60の存在下にあるときにセンス磁化230が外部磁場60の方向に偏向している間、参照磁化210は実質的に動かない状態である。磁気抵抗素子2は、センス層23の側の覆層25と、参照層21の側のシード層27とをさらに備えてよい。
【0017】
覆層25は、TaN、Ru又はTaの層を備えてよい。覆層25は、窒化タンタル(TaN)、ルテニウム(Ru)もしくはタンタル(Ta)のいずれかの層、又はこれらの層の組み合わせを備える複数の層を備えてよい。特定の構成において、覆層25は、80nmのTaN層、5nmのRuの層、2nmのTaNの層、Ruの5nm層、Taの2nm層及びRuの1nm層を備える複数の層を備える。シード層27は、Ta、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)又はマグネシウム(Mg)のいずれかを備えてよい。
【0018】
トンネル障壁層22は、絶縁材料を備えてよく、又は絶縁材料で形成してよい。適切な絶縁材料には、酸化物、例えば酸化アルミニウム(例えば、Al)及び酸化マグネシウム(例えば、MgO)が含まれる。トンネル障壁層22の厚さは、約1nmから約3nmのようなナノメートル(nm)の範囲としてよい。トンネル障壁層22の最適な厚さは、複数(2層又は複数層)のMgO(又は別の適切な酸化物又は絶縁材料)層を挿入することによって得られる。トンネル障壁層22は、例えば80%以上の高いTMRを提供するように構成してよい。
【0019】
参照層21及びセンス層23は、磁性材料、特に強磁性タイプの磁性材料を備えてよく、又はそれらで形成してよい。強磁性体は、特定の保磁力を持つ磁化によって特徴付けてよく、これは、磁化230が一方向に飽和するように駆動された後、磁化230を反転させるのに必要な外部磁場60の大きさを示す。適切な強磁性材料には、遷移金属、希土類元素、及び(主族元素の有無にかかわらず)それらの合金が含まれる。例えば、適切な強磁性材料は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及びそれらの合金である。その合金とは、例えばNiFe又はCoFeの合金、Ni、Fe、及びホウ素(B)ベースの合金、Co、Fe、及びBベースの合金などである。いくつかの例では、Ni及びFe(及び任意選択でB)ベースの合金は、Co及びFe(及び任意選択でB)ベースの合金よりも小さい保磁力を持ち得る。
【0020】
特に、参照磁化210及びセンス磁化230は、参照層21及びセンス層23の平面内(図1に例示される面内)に配向可能にすることも、参照層21及びセンス層23の平面に対して実質的に垂直な面内(図示しない面外)に配向可能してもよい。
【0021】
図2は、特定の構成によるセンス層23の概略図を示す。センス層23は、トンネル障壁層22に接する第1強磁性センス副層231と、第2強磁性センス副層232と、第1及び第2強磁性センス副層231、232との間の非磁性センス副層233とを備える。第1強磁性センス副層231は、CoFeB合金、例えば(CoxFe1-x)80B20合金を備えてよい。ここで、x=0.1から0.9である。非磁性センス副層233は、Ta、W、Mo、Ti、Hf、MgもしくはAl、又はこれらの元素のいずれかの組み合わせを備える層を備えてよい。第2強磁性センス副層232は、低い平面異方性値を持つ軟磁性材料を備えてよい。例えば、第2強磁性センス副層232は、B又はCrを備えるNiFe合金又はNiFe合金を備えてよい。1つの特定ではあるが非限定的観点では、センス層21の構造は次の通り、CoFeB1.5/Ta0.3/NiFeであってここでは、第1強磁性センス副層231が厚さ1.5nmのCoFeB合金を含有し、非磁性センス副層233が厚さ0.3nmのTa層を備え、第2強磁性センス副層232は厚さ4nmのNiFe合金を備える。このようなセンス層23は、極めて低い異方性場Hkを持てる。
【0022】
磁気抵抗素子2は、参照磁化210を低温しきい値で固定(ピン止め)し、高温しきい値でこれを解放する参照層21を交換結合する、反強磁性層24を備えてよい。適切な反強磁性材料は、マンガン(Mn)ベースの合金が含まれる。この合金は例えば、イリジウム(Ir)及びMn(例えば、IrMn)ベースの合金、Fe及びMnベースの合金(例えば、FeMn)、白金(Pt)及びMn(例えば、PtMn又はCrPdM)ベースの合金、Ni及びMnベースの合金(例えば、NiMn)、あるいはNiOのような酸化物が含まれてよい。反強磁性層24に好適な材料は、NiOのようなの酸化物層をさらに備えてよい。可能な構成において、反強磁性層24は、約4nmから約30nmの厚さを持つ。代替的に、反強磁性層24は、各層が1から10nmの間又は1から2nmの間の厚さを持つ複数の層を備えてよい。別の配置では、反強磁性層24は、例えば、中央反強磁性層よりも低い遮断温度Tbを持つ2つの反強磁性層に挟まれた中央反強磁性層を備える3層構成を備えてよい。このような3層配置は、参照層21をプログラミングする際に参照磁化210の切り替えを容易にする。反強磁性層24は、下層26によってシード層27から分離されてもよく、ここでは、下層26は、Ru、Cu又はそれらの窒化物を備えてよい。下層26は、約1nmから約5nmとの間の厚さを備えてよい。
【0023】
図3に示す実施形態では、参照層21は、参照ピン止め層211と参照被結合層212との間の参照結合層213を備える合成反強磁性(SAF)構造を備える。参照ピン止め層211は、反強磁性層24によって固定されている。参照被結合層212は、参照結合層213を介してRKKY結合機構によって参照ピン止め層211に結合してよい。参照結合層213は、Ru、Irもしくは銅(Cu)又はそれらの組み合わせの非磁性層を備えてよい。
【0024】
一観点では、参照被結合層212は、参照結合層213に接する第1被結合副層214と、第2被結合副層215と、第3被結合副層217を備える。参照被結合層212は、第2被結合副層215及び第3被結合副層217の間の挿入層216をさらに備えてよい。
【0025】
挿入層216は遷移金属を備える。挿入層216は、Ta、Ti、W、Mo、Hf、Mgもしくはアルミニウム(Al)又はこれらの元素のいずれかの組み合わせを備える。代替的に、挿入層216は、Ni、クロム(Cr)、バナジウム(V)もしくはシリコン(Si)又はこれらの元素のいずれかの組み合わせを備えてよい。挿入層216は、非晶質又は準非晶質又はナノ結晶であってよい。
【0026】
挿入層216は、約0.1から約0.5nmの間の厚さを有してよい。挿入層216のこのような厚さは、強磁換結合を可能にし、したがって、互いに平行な第2被結合副層215及び第3被結合副層217の磁化の整合を維持する。挿入層216は、磁気抵抗素子2のトンネル磁気抵抗(TMR)をさらに大きくできる。例えばTMRは、挿入層216なしのときの約90%から、約120%まで大きくできる。TMRが大きいと、磁気抵抗素子2応答のSNR比が良好になり、磁気抵抗素子2応答の分散が低下する。
【0027】
薄い挿入層216は、参照結合層213の界面における参照被結合層212の平滑性の維持又は改善を可能にする。薄い挿入層216は、(参照結合層213を通る)参照ピン止め層211と参照被結合層212との間のRKKY(4人の物理学者名のイニシャル、Ruderman-Kittel-Kasuya-Yoshida)結合を増加し、それによって、参照ピン止め層211及び参照被結合層212の剛性を増加させる。高いRKKY結合の結果、参照磁化210が外部磁場60によって傾斜されにくくなる。したがって、参照ピン止め層211と参照被結合層212との間の高RKKY結合は、外部磁場60の高大さを備える角度誤差の低減を可能にし、したがって磁気抵抗素子2の高磁場動作性能の余裕(マージン)を広げる。RKKYの高い結合は、磁気抵抗素子2の熱安定性をさらに向上させる。一観点では、強磁性参照層21のRKKY結合定数エネルギー(J RKKY変数)は、約1erg/cmである。
【0028】
薄い挿入層216はさらに、参照層21の(磁気飽和場Hsat及びSAF結合交換場Hexような)磁気特性とトンネル障壁層22の(TMRのような)電気特性との間のテクスチャ遷移層として振る舞う。
【0029】
厚さ0.1から約0.5nmの薄い挿入層216を備える遷移金属を備える磁気抵抗素子2は、薄い挿入層216を有さない磁気抵抗素子2の磁気飽和磁場Hsatと比較して、磁気飽和磁場Hsatを約5%増加させる。この挿入はさらに、磁気抵抗素子2のTMRを約30%大きくできる。大きなTMRは、磁気抵抗素子2応答における磁気ノイズレベルを低減し、異なる磁気抵抗素子2間の磁気抵抗素子2応答における分散の減少を可能にする。
【0030】
参照層21のSAF構造は、参照ピン止め層211及び参照被結合層212の厚さを調整することにより、所与の磁場なしで巨視的な磁化がヌルになるように補償できる。
【0031】
一観点では、第1被結合副層214は、Co又はCoFe合金を備える。第2被結合副層215及び第3被結合副層217は、Co、Fe、Ni、Cr、V、SiもしくはB、又はこれらの元素のいずれかの組み合わせを備えてよい。
【0032】
参照ピン止め層211は、CoFe合金又はCoもしくはCoFe/CoFeB/CoFe又はCo/CoFeB/Coの複数の層、又はCo、CoFe及びCoFeBを含有する任意の他の層を備えてよい。
【0033】
第2被結合副層215の厚さは、約1nm以下としてよく、第3被結合副層217の厚さは、約1nm又は約2nm以下としてよい。第1被結合副層214の厚さは、約1nm以下としてよい。
【0034】
一観点では、第2被結合副層215は、第3被結合副層217の厚さの1倍から2倍の間の厚さを持つ。
【0035】
一実施形態では、参照被結合層212の合計厚さは、約1nmと約5nmとの間である。参照被結合層212の合計厚さは、約1nmと約3nmとの間、好ましくは約2nmと約3nmとの間であってよい。
【0036】
本明細書に開示される参照層21は、強化されたSAF剛性を持つ。磁気抵抗素子2は、高磁場下においても角度誤差が低く、熱安定性が向上し、SAFの飽和磁場HsatやTMRの増加など、磁気抵抗素子2の他の磁気特性に影響を与えない。
【0037】
図4は、磁気抵抗素子2の磁気飽和磁場Hsatと参照被結合層212の厚さとの関係を報告したグラフである。CoFe合金を含有して厚さ約2nmの参照ピン止め層211と、例えば自然又はプラズマ酸化プロセスを用いて酸化された堆積金属Mgを備えるトンネル障壁層22とを備える磁気抵抗素子2上で、磁気飽和磁場Hsatを測定した。この析出と酸化は、2回から4回連続して繰り返してよい。磁気抵抗素子2を、約1Tで与えた磁場下で90分間、310℃で熱処理した。
【0038】
第1構成(●印)において、参照被結合層212は、厚さ約1.9nmのCoFeB合金からなる単層を備える。第2構成(▲印)において、参照被結合層212の厚さは約1.9nmであり、参照被結合層212は、CoFe合金からなり厚さ約0.5nmの第1被結合副層214と、CoFeB合金からなり厚さ約1.4nmの第2被結合副層215とを備える。第3構成(★印)において、参照被結合層212は、厚さ約0.5nmのCoFe合金からなり厚さ約0.5nmの第1被結合副層214と、CoFeB合金からなり厚さ約0.75nmの第2被結合副層215と、厚さ約0.2nmのTaからなり厚さ約0.2nmの挿入層216と、CoFeB合金からなり約0.45nmから約0.95nmの間のいろいろな厚さの第3被結合副層217を備える。
【0039】
第1及び第2構成と比較して、第3構成では、磁気抵抗素子2は、約300Oe(5%)だけ高い飽和磁場Hsatを持つ。
【0040】
図5は、磁気抵抗素子2の抵抗面積積RAと参照被結合層212の厚さとの関係を報告するグラフである。上述した第1構成、第2構成、第3構成(図中、それぞれ●、▲、★)において、磁気抵抗素子2についてRAを測定した。図5は、磁気抵抗素子2の第1構成、第2構成、第3構成(図中、それぞれ○、△、☆)について、磁気抵抗素子2のTMR応答と参照被結合層212の厚さとの関係をさらに報告している。
【0041】
図5に示すように、磁気抵抗素子2の第3構成は、他の構成について観察されたTMRと比較して、より大きなTMR値をもたらす。約0.65nmの厚さを持つ第3被結合副層217を持つ第3構成の場合、TMRは約30%高い。約0.45nmから約0.95nmの間の厚さを持つ第3の結合副層217は、挿入層216を伴わない約90%から、約140%までのTMR増加をもたらす。
【符号の説明】
【0042】
2 磁気抵抗素子
21 強磁性参照層
210 参照磁化
211 参照ピン止め層
212 参照被結合層
213 参照結合層
214 第1被結合副層
215 第2被結合副層
216 挿入層
217 第3被結合副層
22 トンネル障壁層
23 強磁性センス層
230 センス磁化
231 第1強磁性センス副層
232 第2強磁性センス副層
233 非磁性センス副層
24 反強磁性層
25 覆層
26 下層
27 シード層
60 外部磁場
ex 合成反強磁性(SAF)結合交換場
異方性場
SAT 磁気飽和場
ex 結合エネルギー密度
RA 抵抗領域積
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-09-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された参照磁化と
外部磁場の存在下で参照磁に対して自由に配向可能なセンス磁化を有するセンス強磁性層)と
参照強磁性層及びセンス強磁性層)との間のトンネル障壁層と
を有する参照強磁性層を備える、2次元磁界センサ用磁気抵抗素子であって、
参照層は、参照ピン止め層と参照被結合層との間の参照結合層を備え、
参照被結合層は、前記参照結合層に接する第1被結合副層と、第1被結合副層に接する第2被結合副層と、前記第3被結合副層と、前記第2被結合副層及び第3被結合副層との間に挿入層とを備え、
挿入層は、第2被結合副層及び第3被結合副層)間に強磁性交換結合を提供し、
層の厚さは0.2nmであ、磁気抵抗素子において、
前記参照ピン止め層は、CoFe合金を含有して厚さ2nmを持ち、前記トンネル障壁層はMgを含有し、前記挿入層はTaを含有し、前記第1被結合副層はCoFe合金からなり、厚さは0.5nmであり、第2被結合副層はCoFeB合金からなり厚さは0.75nmであり、第3被結合副層はCoFeB合金からなり、0.45nmから0.95nmの厚さを持、ここにおいて、磁気抵抗素子は、約1Tで与えた磁場下で90分間、310℃で熱処理されている、磁気抵抗素子。
【請求項2】
挿入層は、非晶質又は準非晶質又はナノ結晶である、請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
固定された参照磁化と、
外部磁場の存在下で参照磁化に対して自由に配向可能なセンス磁化を有するセンス強磁性層)と、
参照強磁性層及びセンス強磁性層)との間のトンネル障壁層と
を有する参照強磁性層を備える、2次元磁界センサ用磁気抵抗素子であって、
参照層は、参照ピン止め層と参照被結合層との間の参照結合層を備え、
参照被結合層は、前記参照結合層に接する第1被結合副層と、第1被結合副層に接する第2被結合副層と、前記第3被結合副層と、前記第2被結合副層及び第3被結合副層との間に挿入層とを備え、
挿入層は、第2被結合副層及び第3被結合副層)間に強磁性交換結合を提供し、
挿入層の厚さは0.2nmである、磁気抵抗素子において、
前記参照ピン止め層は、CoFe合金を含有して厚さ2nmを持ち、前記トンネル障壁層はMgを含有し、前記挿入層はTaを含有し、前記第1被結合副層はCoFe合金からなり、厚さは0.5nmであり、第2被結合副層はCoFeB合金からなり厚さは0.75nmであり、第3被結合副層はCoFeB合金からなり、0.45nmから0.95nmの厚さを持ち、ここにおいて、磁気抵抗素子は、約1Tで与えた磁場下で90分間、310℃で熱処理されている、磁気抵抗素子を備える、
2次元磁場を感知する磁場センサ。
【国際調査報告】