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特表2023-518191ブリキストリップを不動態化する方法及び不動態化されたブリキストリップを製造するための装置
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  • 特表-ブリキストリップを不動態化する方法及び不動態化されたブリキストリップを製造するための装置 図1
  • 特表-ブリキストリップを不動態化する方法及び不動態化されたブリキストリップを製造するための装置 図2
  • 特表-ブリキストリップを不動態化する方法及び不動態化されたブリキストリップを製造するための装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-28
(54)【発明の名称】ブリキストリップを不動態化する方法及び不動態化されたブリキストリップを製造するための装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/34 20060101AFI20230421BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20230421BHJP
   C23C 22/34 20060101ALI20230421BHJP
   C23C 22/82 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
C25D11/34 B
C23C28/00 C
C23C22/34
C23C22/82
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022554945
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(85)【翻訳文提出日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2021056440
(87)【国際公開番号】W WO2021180980
(87)【国際公開日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】20163185.0
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20164228.7
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20168114.5
(32)【優先日】2020-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ミヒル、ステーホ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、パウル、ペニング
(72)【発明者】
【氏名】マルク、ビレム、リッツ
【テーマコード(参考)】
4K026
4K044
【Fターム(参考)】
4K026AA10
4K026AA12
4K026AA22
4K026BB08
4K026CA28
4K026DA02
4K026DA03
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA10
4K044BA12
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB04
4K044BC02
4K044CA16
4K044CA17
4K044CA18
4K044CA53
4K044CA61
(57)【要約】
本発明は、1又は2以上のスズ層を電着した後、或いは、場合により電着した1又は2以上のスズ層を流動溶融した後に、ブリキストリップを不動態化する方法、及び不動態化されたブリキストリップを製造する装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続プロセスにおいてブリキストリップ(1)を不動態化する方法であって、
1又は2以上のスズ層を電着した後に、或いは、場合により前記電着した1又は2以上のスズ層を流動溶融した後に、前記ブリキストリップ(1)を、入口側通路において電気化学的処理タンク(2)中の塩基性水溶液に入れ、出口側通路において前記塩基性水溶液から出し、ここで、前記ブリキの表面上に事前に存在する酸化スズ層は、前記入口側通路において前記ブリキの表面から陰極除去され、次いで、前記ブリキの表面は、前記出口側通路において直ちに陽極再酸化され、前記ブリキの表面から前記事前に存在する酸化スズ層を陰極除去するための電荷は、Q1であり、前記ブリキを陽極再酸化するための電荷は、Q2であり、Q1<Q2であり、前記陽極再酸化のため及び前記事前に存在する酸化スズ層の前記陰極除去のために加える電荷密度は、Q2と同質且つ同等で、少なくとも15C/mであり、
前記陽極再酸化されたブリキを、前記塩基性水溶液から出した後にリンスし、乾燥させる、前記方法。
【請求項2】
陽極再酸化のために加える電荷密度が、最大100C/mである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記陽極再酸化されたブリキが、厚みDを有する酸化物層で覆われており、ここで、厚みDは、C/mで表され、酸化物層を金属スズに還元するのに必要な総電荷を表し、D=E×A×tにより再酸化時間(t)及び電流密度(A)に関連付けられ、Eは、電気化学的反応の効率であり、Dは、15~100C/mである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記リンスされ、乾燥させた陽極酸化されたブリキの表面に、クロムを含まない後処理剤の液体溶液を適用して、後処理されたブリキを製造し、前記クロムを含まない後処理剤が、アクリレートコポリマー;ポリエーテル側鎖を有するポリメチルシロキサン;酸性ポリエーテル;複素環式基を有するポリマー;並びに、二価~四価のカチオンを有する錯体金属フッ化物アニオン及びポリマー物質を含有する酸性の水性液体化合物から選択され、好ましくは前記クロムを含まない後処理剤が、フルオロチタン酸塩及びジルコニウムチタン酸塩を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
陽極酸化中の電流密度(A)が、少なくとも10A/m、好ましくは少なくとも50A/m、より好ましくは少なくとも100A/mである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、
【請求項6】
陽極酸化中の電流密度(A)が、最大4000A/m、好ましくは最大2000A/m、より好ましくは最大1000A/mである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基性水溶液が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩、塩基性アルカリ金属リン酸塩、及び塩基性有機アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩から選択され、好ましくは、前記塩基性水溶液が炭酸ナトリウムを含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基性水溶液のpHが、8.75~10.5である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
陽極再酸化時間(t)が、0.05~1.5秒である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
鋼ストリップ上に前記1又は2以上のスズ層を電着した直後、又は前記電着した1又は2以上のスズ層を流動溶融した直後に、前記ブリキを前記塩基性水溶液に導入する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記陽極再酸化後の酸化スズ層が主にSnOからなる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記リンスされ、乾燥させた再酸化されたブリキに直に、熱可塑性ポリマーコーティングを適用し、陽極再酸化後の前記酸化スズ層が主にSnOからなる、請求項1~3又は5~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記後処理されたブリキに直に、熱可塑性ポリマーコーティングを適用し、陽極再酸化後の前記酸化スズ層が主にSnOからなる、請求項4~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法により製造された不動態化されたブリキであって、陽極再酸化後の酸化スズ層が主にSnOからなる、前記不動態化されたブリキ。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法により不動態化されたブリキを製造するための装置であって、
・スズ層を溶融するための手段を備えていてもよい電解スズめっきライン、
・使用時に塩基性水溶液を保持するための電気化学的処理タンク、
・陰極ブリキを前記電気化学的処理タンク内にガイドして、入口側通路における陽極を通過させるための非導電性手段、例えば非導電性ガイドローラ、
・前記入口側通路から出口側通路に前記ブリキを向けて、陽極ブリキをガイドして、前記出口側通路における陰極を通過させるための、非導電性シンクロール、
・事前に存在する酸化物層の陰極除去及びブリキストリップの陽極再酸化のために、前記ブリキストリップと対電極との間に電位を印加するための手段、
・前記電気化学的処理タンクから、前記ブリキをリンスするための手段及び前記ブリキを乾燥させるための手段に、前記ブリキをガイドするための非導電性手段、例えば、非導電性ガイドローラ、及び
・場合により、クロムを含まない後処理剤の液体溶液を適用するための手段
を備える、前記装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1又は2以上のスズ層を電着した後、或いは、場合により電着された1又は2以上のスズ層を流動溶融(flow-melting)した後に、ブリキストリップを不動態化する方法、及び不動態化されたブリキストリップを製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブリキは、腐食から鋼シートを保護するために、両面が市販の純粋なスズでコーティングされている、軽量の冷間圧延された低炭素鋼シート又はストリップであり、主に包装産業で使用される。スズ層は、通常、電解的に堆積され、通常、連続生産ラインにおいて電解的に堆積される。
【0003】
ブリキは、鋼の強度及び成形性、並びにスズの耐食性、はんだ付け性及び外観の良さを1つの材料に組み合わせている。この幅広い内容の中で、今日、最終用途の要件を満たすようにあつらえた非常に幅広い製品が存在する。鋼基板の製造と、その後のスズによるコーティングとは互いに独立しているため、理論上、鋼のあらゆる特性をスズコーティングと組み合わせることができる。ブリキに使用される鋼の組成は、厳密に管理され、選択された等級及びその処理方法に応じて異なる成形性(「調質度(temper)」)を有する様々なタイプを製造することができる。ブリキは、約0.10~0.49mmの種々の鋼の厚みで販売されている。鋼は、異なる厚みのスズでコーティングされ得る。容器の内表面及び外表面で変化する条件に対応するために、2つの面で異なる厚み(異なるコーティング)を生成することもできる。多様な用途向けに、様々な表面仕上げも製造される。
【0004】
スズは、わずかに金属光沢のある白っぽいコーティングとして堆積される。必要に応じて、これを誘導加熱又は抵抗加熱(又は組み合わせ)によって流動溶融して、輝く鏡面仕上げを生成する。この流動溶融プロセスは、不活性なスズ-鉄合金層を形成することにより、製品の耐食性を高める。ほとんどのDWIブリキ(絞り及び壁しごき加工されたブリキ)は流動溶融されておらず、これは多くの製造業者にとって生産物(output)の重要な部分になり得る。
【0005】
ブリキ、特に流動溶融したブリキは、表面に薄い酸化スズの膜を有し、未処理の場合、保管中に厚みが成長する可能性がある。変色耐性及び有機コーティングへの接着性を向上させるために、化学的又は電気化学的な不動態化がストリップに適用される。何十年もの間、不動態化の最も一般的な形態は、重クロム酸塩又は重クロム酸塩を含むクロム酸溶液で50~85℃の温度における陰極処理を伴った。この処理は、クロム及びその水和酸化物の複雑な層(これは酸化スズの成長を抑制する)を堆積させて、黄変を防ぎ、塗料の接着を改善し、硫黄化合物による汚染(staining)を最小限に抑える。重クロム酸塩溶液又はクロム酸溶液は、Cr6+を含み、これらの溶液は、有害、特に食品産業向けの金属製品の場合に有害であるため、徐々に反対されている。EU規制(REACH)は、代替手段が利用可能な場合、これらの溶液の使用を禁止している。
【0006】
食料品を保存するための容器(缶)を製造するためにブリキを使用する場合には、不動態化は、保護層でコーティングされるまでのブリキ又はそれから製造された食品容器の保管の間、続いて、保存されている内容物が消費されるまで、酸化スズ層の非常に強力な成長を防止しなければならない。さらに不動態化はブリキ表面の変色を防止しなければならない。例えば、このような変色は、硫黄含有物質を収容する缶が滅菌される際に発生する。その理由は、十分に不動態化されていなければ、硫黄はコーティングされた鋼材表面のスズと化学反応するためである。包装容器の表面のくすんだ変色(matte discoloration)(マーブリング(marbling))又は金色の変色のために、消費者は内容物が汚染されていると考えるかもしれない。保護層の接着に関する問題もまた発生する場合もあり、これらはコーティングされた鋼シートの不動態化により回避され得る。さらに不動態化は、食料品で充填された後に、食品に含まれる酸に対する金属容器の耐性を保証しなければならない。ブリキの不動態化が適切でない場合には、缶の内容物中のそのような酸性アニオンは、容器の内側保護層の剥離を引き起こし、下に存在するブリキを腐食する可能性がある。
【0007】
EP2802688には、ブリキの表面を不動態化する方法であって、スズめっきの後に、四価の酸化スズから本質的になる酸化物層を形成するために表面を陽極酸化(anodically oxidise)して、次いで、クロムを含まない後処理剤(chromium-free after-treatment agent)の液体溶液を適用する方法が記載されている。EP2802688の方法は、クロムを含まない後処理剤による後処理の前に陽極酸化することにより、腐食及び硫黄との反応に対するブリキの耐性を大幅に高めることができると主張している。ナノメートル範囲の層厚を有する酸化物層は、陽極酸化によってスズめっきされた鋼ストリップ表面に生成される。酸化物層は、実質的に四価の酸化スズ(SnO)の層である。この酸化物層上に堆積したクロムを含まない後処理剤の薄い表面層は、スズめっきされた鋼ストリップの表面を腐食及び硫黄との反応から完全且つ効果的に保護すると主張されている。
【0008】
従来技術の方法に関する問題は、1)ストリップの酸化が、ストリップの幅にわたって均一ではなく、ブリキ表面を腐食及び硫黄との反応から保護する際のストリップの幅にわたる違い、並びに追加の保護層と鋼ストリップ上のスズ層との間の接着における違いをもたらすこと、及び2)新しく適用された酸化物層が、既に存在する不特定の酸化物層の上に形成されることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ブリキストリップの幅にわたって酸化物層の均一性が改善された、1又は2以上のスズ層を電着した後のブリキストリップを不動態化する方法を提供することである。
【0010】
本発明の目的はまた、さらなる保護層と鋼ストリップ上のスズ層との間の接着の均一性が改善された、1又は2以上のスズ層を電着した後のブリキストリップを不動態化する方法を提供することである。
【0011】
本発明の目的はまた、ブリキストリップの幅にわたって耐腐食性及びマーブリングへの耐性が改善された、1又は2以上のスズ層を電着した後のブリキストリップを不動態化する方法を提供することである。
【0012】
また、本発明の目的は、重クロム酸塩又はクロム酸溶液の使用に代わる、スズ層又は複数のスズ層を電着した後にブリキストリップを不動態化する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0014】
好ましい実施形態は、従属方法の請求項2~13によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明による方法のための装置を示す概略図である。
図2図2は、事前に存在する酸化スズ層の陰極除去を示す概略図である。
図3図3は、SnOに基づく事前に存在する酸化スズ層の陰極除去と、SnOに基づく事前に存在する酸化スズ層の陰極除去とのV-t応答の違いを示す図である。
図4図4は、原料としてのブリキ原板ストリップに基づく本発明による方法中の様々な段階を示す概略図である。
図5図5は、図4に示した層の様々な構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による方法を、以下に特定の非限定的な実施形態によってさらに説明する。本明細書で以下に言及される任意の範囲は、本発明による方法に一般的に適用可能であり、以下の実施形態に限定されず、独立して適用可能でもある。
【0017】
本発明による実施形態の第1の工程において、冷間圧延鋼ストリップ(ブリキ原板(blackplate))へのスズ層の電着は、少なくとも50m/分の速度で作動する連続電解スズめっきラインで行われる。片面又は両面をスズ層でコーティングすると、ブリキ原板はブリキになる。現在の工業用高速電解スズめっきラインは、約750m/分の速度まで作動することができる。スズ層を堆積させた後、スズ層を溶融するために、ブリキは、スズの融点(232℃)より高い温度まで加熱される。溶融の結果として、スズは、鋼ストリップ由来の鉄と一緒になって、鉄-スズFeSn金属間化合物を形成する。スズ層の表面はスズの状態を維持し、水中で急冷して固化すると非常に艶が出る。新しい酸化物層が新鮮な表面上に直ちに形成され、この酸化物層は保管中に成長し続け、本発明の文脈では事前に存在する酸化物層(pre-existing oxide layer)として定義される。記載のスズの再溶融は任意の特徴であるが、ほとんどのブリキはそのような再溶融又は流動溶融工程に供される。
【0018】
本発明による方法の第2の工程において、スズ上に事前に存在する酸化物層は、電解質として機能する塩基性水溶液、本実施例では炭酸ナトリウム水溶液を含む電気化学的処理タンク(II)内で完全に陰極除去(cathodically remove)される。ブリキは、非導電性ガイドローラ(3)によって下向きの方向で電気化学的処理タンクに入る(すなわち、入口側通路(entry-pass)は下り通路(down-pass)である)。垂直なタンクにおける底部近くには、非導電性シンクロールが存在し、それを横切ってブリキストリップが逆方向に移動する。電極(図1、参照番号6、7)は、電解液(8)を含むタンク(II)内に設けられる(例えば、ステンレス鋼の陽極)。ストリップ(1)は、電極に触れることなく電極間を移動する。入口側通路における電極(陽極、6)と出口側通路における電極(陰極、7)との間に整流器によって電位が印加される。その結果、ストリップは、電極を通過する際に電極の反対の電荷を帯びる。したがって、ストリップは、入口側通路において陽極(6)を通過すると陰極的になり、出口側通路で陰極(7)を通過すると、ストリップは陽極的になる。酸化物の除去後、スズ層はもはやその表面に酸化物層を有しない。すなわち、ブリキ表面は、以下に説明する理由により、ブリキの幅全体にわたって純粋な(むき出しの)スズ表面である。
【0019】
シンクロール(4)によってブリキの移動方向を反転させた後、ブリキは上向きの方向で出口側通路(exit-pass)を出発し(すなわち、出口側通路は上り通路(up-pass)である)、次いで、陰極を通過して陽極的になる。その結果、事前に存在する酸化スズの陰極除去により得られた純粋な(むき出しの)スズ表面上に、慎重に制御された条件下で新しい酸化物層が鋼ストリップ上で成長する。事前に存在する酸化物を除去するのに必要な電荷Q1は、新しい酸化物層を必要な厚みまで成長させて、酸化物層が十分な耐食性及びマーブリングへの耐性を備えるのに必要な電荷Q2よりもかなり低い。再酸化されたブリキは、非導電性ガイドローラ(5)によって電気化学的処理タンク(II)を出る。
【0020】
本発明による方法の第2の工程はまた、ストリップが陽極と陰極との間を実質的に水平方向に移動する配置においても実行され得ることに留意されたい。この場合には、入口側通路と出口側通路との間で移動方向は反転しないが、タンク内に1又は2以上の非導電性ガイドローラが存在し、陽極と陰極との間の移動においてストリップをガイド及びサポートしてもよい。
【0021】
本発明による方法では、ストリップを電気化学的処理タンクの中に、中で及び外にガイドするガイド手段、例えば、ガイドローラ及びシンクロールは電気的に非導電性であることが不可欠であり、その理由は、電流がストリップからガイド手段を通じてアースに流れることができないからである。電気的に非導電性であるべきガイドローラ又はシンクロールの場合には、ローラは、通常は金属製であり、ゴム層で覆われている。
【0022】
本発明による方法において、入口側通路において加えられる電荷は、出口側通路における電荷と同一である。これは、Q1の値が、事前に存在する酸化物層を除去するのに必要な値よりも大きいことと、陽極再酸化が開始すると、ブリキは常に純粋でむき出しのスズ表面を有することとを意味する。この実施形態では、陽極及び陰極がペアで動作する場合には整流器が1つだけ必要であり、上部(右)及び下部(左)の陽極/陰極が別個に動作する場合には整流器が2つ必要である。ほとんどの場合、単一の整流器で十分である。これにより、Q2が主要である(leading)ためプロセスを制御しやすくなり、すべての実際のケースでQ2がQ1よりも大幅に大きいため、技術的にも単純になる。本発明による実施形態では、事前に存在する酸化物が完全に除去されたか否かをチェックする必要はない。
【0023】
陽極酸化時間は、出口側通路における電気化学的酸化浴中のスズめっき鋼ストリップの滞留時間に対応する。これは、陽極の長さ及びストリップ速度によって決定される。約50m/分である典型的な遅いストリップ速度の場合には、約2~2.5秒である。約750m/分である速いストリップ速度の場合には、陽極酸化時間は、約0.1~0.2秒である。したがって、ほとんどの工業用ラインにおいて、陽極酸化時間は、0.1~2.5秒、好ましくは0.15秒~1.5秒、より好ましくは最大1.0秒、より一層好ましくは最大0.7秒、より一層好ましくは最大0.4秒である。
【0024】
電解浴内のブリキストリップと対電極との間隔は、システムに応じて設定される。それは、例えば、3~15cm、好ましくは5~10cm、特に約5cmである。
【0025】
電気化学的酸化浴の温度は、好ましくは25~60℃、より好ましくは25~50℃、特に約35℃である。
【0026】
方法の第3の工程において、陽極再酸化されたブリキストリップは、リンスされ、例えば、水又は脱イオン水又は脱塩水でリンスされ、次いで、乾燥され、例えば、温風により乾燥される。しかしながら、その他の乾燥手段も適切であり、例えば、吸水性溶媒による乾燥後の冷風又は温風送風機による乾燥(温風が好ましい)、対流空気を使用しない乾燥システム、例えば、IRラジエータ、誘導加熱若しくは抵抗加熱による乾燥、冷風若しくは温風送風機、好ましくは温風送風機のみによる乾燥である。
【0027】
この方法の第4の工程において、後処理剤による陽極再酸化ブリキストリップのコーティングが行われる。この工程は任意であり、第3の工程までで製造された製品は、不動態化されたブリキと既に見なされ得るが、この追加の第4の工程の使用は、長期的且つ一貫した不動態化のために好ましい。後処理剤の溶液、好ましくは水溶液若しくは有機溶媒の溶液、又は後処理剤のすぐに使用可能な調製物をストリップ速度で移動している鋼ストリップに噴霧する。後処理剤の1.5~10%水溶液が好都合であることが判明した。次いで、後処理剤の溶液の厚みは、均質化ローラ(homogenisation roller)によって均質化され、乾燥されることが好ましい。後処理剤の薄膜は、乾燥後にコーティングされた金属ストリップの表面に維持され、この薄膜の重量は、一般に、2~30mg/mである。後処理剤の適切な適用技術には、浸漬、スキージーロールによる浸漬、ローター-スプレー塗布、スムージングロールの使用によってサポートされるローター-スプレー塗布、スプレー塗布、スプレーバー、スプレー-スキージー塗布、ロールコーターシステムによる塗布、スロットコーティングによる塗布、スロットカーテンコーティングによる塗布等が含まれる。必要に応じて、後処理剤の適用後にストリップの移動方向に配置されたスクイズローラのペアによって余分な処理剤を取り除くことができ、場合によっては、余分な後処理剤を再使用することができる。
【0028】
本発明と組み合わせて使用可能な適切な後処理剤は、
・全体有機システム、例えば、有機酸(オレイン酸、アビエチン酸)、
・全体有機システム、例えば、アクリレート、ポリウレタン分散液、その他の種類の薄い有機コーティング、
・有機/無機カップリング剤、例えば、一成分及び二成分シロキサン系、
・無機システム、例えば、ケイ酸塩システム、
・有機マトリックス中の無機システム、例えば、有機ポリマーマトリックスと組み合わせたフルオロチタン酸塩又はジルコニウムチタン酸塩
である。
【0029】
有機マトリックス中の無機システム、例えば、有機ポリマーマトリックスと組み合わせたフルオロチタン酸塩又はジルコニウムチタン酸塩を使用することが好ましい。このような後処理剤は、以下に示すように、現在市販されている。
【0030】
再酸化及びリンス及び乾燥の後、後処理剤は、そのような不動態化システムに一般的な適用技術によって、陽極再酸化されたブリキ表面に適用される。後処理剤は、好ましくはクロムを含まない後処理剤、好ましくはクロムを含まず、リンスのない/その場で乾燥させる(no-rinse / dry-in-place)後処理剤である。この後処理剤は、ジルコニウム、チタン、ジルコニウム及びチタンの組み合わせ、リン酸塩、シロキサン等に基づいていてもよく、例えば、US10011915に記載されるような元素Zr、Ti、Hf及び/又はSiの水溶性無機化合物を含有する酸性の水性組成物に基づいていてもよい。例として、Gardobond(登録商標)X4744、Oxsilan(登録商標)MM0705(Chemetall製)又はPrimecoat(登録商標)Z801(AD Chemicals製)、Bonderite(登録商標)M-NT1455、Bonderite M-NT1456、Bonderite M-NT10456(Henkel製)が挙げられる。これは、スズめっきされ再酸化された鋼ストリップ表面において、乾燥カバレッジ(dry coverage)が0.2~2mg Ti/m、より好ましくは0.5~1.5mg Ti/m又は0.8~1.5mg Ti/m、特に1mg Ti/mである溶液として調製される。
【0031】
電解システムに対するリンスのない/その場で乾燥させる後処理剤の利点は、溶液の適用が簡単であること、コンパクトなアプリケーションユニットで簡単な装置の使用が可能であり、既存のラインに容易に取り付けることができること、及びより用途の広い化学薬品(chemistry)を利用することができることである。後処理剤は、そのような不動態化システムに一般的である適用技術によって、表面処理されたブリキ表面に適用され得る。適切な適用技術には、浸漬、スキージーロールによる浸漬、ローター-スプレー塗布、スムージングロールの使用によってサポートされるローター-スプレー塗布、スプレー塗布、スプレーバー、スプレー-スキージー塗布、ロールコーターシステムによる塗布、スロットコーティングによる塗布、スロットカーテンコーティングによる塗布等が含まれる。
【0032】
発明者らはまた、スズめっき及び任意の流動溶融の直後に、中断することなく、連続プロセスにおいて事前に存在する酸化物の陰極除去、陽極再酸化及び後続の処理剤による不動態化工程を実行することが好ましいが、この方法は、スズめっき及び任意の流動溶融の直後に陰極及び陽極処理、不動態化されていないブリキを処理することができることも見出した。本発明による方法は、事前に製造されたブリキのコイルを処理するためにも使用され得る。この状況は、例えば、ブリキストリップの製造と不動態化との間に遅延が存在する場合、例えば、何らかの理由で、ブリキストリップ、通常はコイル状のブリキストリップを一定期間保管した後に発生する。その間に起こる酸化物層の成長は、事前に存在する酸化物を陰極除去することで簡単に処理され得、スズめっき直後に連続してプロセスを実行した場合と同じくらい純粋でむき出しのスズ層をもたらす後続プロセスを開始する。本発明による方法は、Q2が事前に存在する酸化物を除去するのに必要な電荷よりもかなり大きいために、追加の自然成長酸化物に対処することができ、過剰な電荷を使用して追加の自然成長酸化物を除去する。
【0033】
事前に存在する酸化スズの陰極除去の間に、事前に存在する酸化物が陰極除去されると、水素が陰極ストリップで発生する。特に、Q1がQ2モードよりもはるかに小さい場合、安全上の理由及び環境上の理由から、水素捕捉手段によって水素を捕捉することが有益であり得る。スズめっき後のブリキがインラインで(すなわち、すぐに)処理されるか、又は非常に短時間で処理され且つスズめっきと不動態化処理との間に制御された保管により処理される場合に、Q1は通常、Q2よりもはるかに小さくなる。
【0034】
塩基性水溶液の唯一の目的は、陰極及び陽極処理を可能にすることであり、電解質に含まれる異物を基材表面に堆積させることではない。塩基性水溶液のpHは、あまりに低く(pH=8.75未満)することはできず、そうしないと、電気化学反応の効率があまりに低くなり、プロセスを既存の高生産性プロセスラインに組み込むことができなくなる。塩基性水溶液のpHはまた、11.0以下、好ましくは10.5以下であり、そうすると、スズ層が塩基性水溶液に溶解しやすくなるからである。
【0035】
本発明の文脈において、酸化スズ層の厚み(D)は、クーロン/mで表され、層を金属スズに還元するのに必要な総電荷を表す。酸化スズ層の厚みは、D=E×A×tにより再酸化時間(t)及び電流密度(A)に関連付けられ、Eは電気化学的反応の効率であり、Dは、少なくとも15C/mである。
【0036】
したがって、効率は、生成された酸化物層の厚みDの、適用された電荷密度(A×t)に対する比を表し、Dを(A×t)の関数としてプロットすることによって評価され得る。最初は、通過した陽極電荷の値50C/m未満において、曲線はおおよそ線形であるが、通過した陽極電荷が増加するに伴い、効率Eが低下し、酸化スズ層の成長速度が遅くなり、したがって、Dの増加は遅くなる。D<15C/mの場合には、酸化スズ層があまりに薄く、所望の硫化物汚染耐性(sulphide staining resistance)を達成するのに効果的ではない。したがって、Dの最小厚み15C/mが必要である。
【0037】
上記で特定した合計Dは、A及びtの任意の組み合わせによって達成され得るが、高速スズめっきラインでの加工性を考慮すると、短い処理時間(t<1秒)と組み合わせた高い電流密度(A>0.1A/dm、好ましくはA>1.0A/dm)の組合せが好ましい。陽極再酸化処理におけるA及びtの交換可能性は、適切に印加電流密度を調整することにより、短い処理時間でプロセスを作動させ得ることを意味する。したがって、本発明による方法は、300m/分を超えるライン速度から1000m/分までの速度で稼働する工業用スズめっきラインで使用され得る。さらに、処理時間tは、ライン速度vだけでなく、t=L/vに従って処理セクションの有効長又は「陽極の長さ」Lによっても決定される。このことは、陽極の長さLの適切な選択によってプロセスウインドウをさらに拡張することができることを意味する。例えば、600m/分(10m/秒)で稼働するラインにおいて、厚み50C/m(E=1と仮定)を有する層を堆積するには、電流密度A1000A/m及び処理長(treatment length)0.5mが必要である。処理長が5mの場合には、電流密度100A/mで行うこともできる。この設計及びプロセスの柔軟性は、この方法の大きな利点である。本発明による方法の利点は、再酸化された酸化物層の必要な厚みのために、陰極除去がその後の陽極再酸化よりも常に少ない電流を必要とすることである。事前に存在するスズ層が完全に陰極除去されると、陽極で水素が生成されるが、純粋でむき出しのスズの層はそのままの状態である。安全上の理由及び環境上の理由から、水素捕捉手段によって水素を捕捉することが有益であり得る。
【0038】
本発明の一実施形態において、陰極除去及び陽極処理は、電解スズめっき及び任意の流動溶融工程とインラインで且つその直後に実施される。事前に存在する酸化スズ層の陰極除去後の陽極再酸化の処理時間(t)は、最大5秒、好ましくは最大2秒、より好ましくは0.05~1.5秒である。この範囲及びより好ましい範囲は、高速プロセスラインと合致する。一実施形態において、陰極及び陽極処理は、工業用電解スズめっきラインとインラインで実施され、陽極処理における電流密度(A)は、少なくとも10A/m、好ましくは少なくとも50A/m、より好ましくは少なくとも100A/m、及び/又は最大4000A/m、好ましくは最大2000A/m、より好ましくは最大1000A/mである。この範囲及びより好ましい範囲は、高速プロセスラインと合致する。
【0039】
塩基性水溶液の主な機能は、陰極及び陽極処理によって意図された電気化学的反応をサポートすることであるが、塩基性水溶液に存在するイオン種は、ブリキ表面の電気化学的修飾には関与しない。好ましい塩基性水溶液は、周期表の第1族からの陽イオン(例えば、Na、K)若しくは第2族からの陽イオン(例えば、Mg2+、Ca2+)又は多原子陽イオン(例えば、NH )、及び多原子陰イオン(リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、炭酸塩等)を含有する。陰イオンはまた、有機酸(例えば、酢酸塩、クエン酸塩)の共役塩基であってもよい。pHを特定の境界内に維持することが重要であるため、緩衝溶液を使用してもよい。塩基性水溶液は、単原子ハロゲンアニオン(第17族)、例えば、Cl、Fを含有しないことが好ましい。
【0040】
好ましくは、緩衝水溶液は、炭酸ナトリウムを含有し、好ましくはホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩等を含有しない。緩衝水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度は、少なくとも0.25重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%、好ましくは1重量%~10重量%、特に2重量%~8重量%、好ましくは3重量%~7重量%、とりわけ4重量%~6重量%、特に約5重量%である。1重量%の炭酸ナトリウムは、電解液中の約10g/Lの炭酸ナトリウムに相当する。
【0041】
さらに、塩基性水溶液は、電気化学的処理をサポートするために、ただし、事前に存在する酸化スズ層の除去及び酸化スズ層の再形成に悪影響を及ぼさないという条件で、その他の化学添加剤、例えば、界面活性剤、湿潤剤、消泡剤を含んでもよい。
【0042】
スズめっきされた表面の陽極処理は、電気化学的酸化により、スズ表面の最外層を金属スズから酸化スズに変換する。このように生成された酸化スズ層(特定の厚みの範囲内)は、硫化物汚染に対するバリアを形成する。しかしながら、酸化スズ層それ自体は十分に安定しておらず、且つ/或いは、不動態でない。酸化スズ層は、周囲条件及び/又は湿度の高い条件下での長期保管中、或いは、熱処理、例えば、ベーキング(baking)及びストーブ(stoving)中に、望ましくない特性(低い濡れ性、黄色がかった外観、低いラッカー接着性)を有する、より厚い酸化スズ層に成長し続ける。後処理剤は通常、それ自体で安定した不動態化層を形成させて、制御されない酸化スズの成長からブリキを保護し、さらに有機コーティングの良好な接着を提供する。しかしながら、調査したほとんどすべてのケースにおける不動態層は、硫化物汚染に対する耐性が低い。本発明を適用することにより、望ましい特性の組み合わせが達成される。先ず、適切なプロセス条件下で陰極及び陽極処理を使用することによって、適切な厚み及び適切な組成、すなわち、主にSnOからなる(すなわち、優勢的にSnOからなる)、好ましくはSnOのみからなる酸化スズ層を適用し、次に、酸化スズ層は、その上に後処理剤不動態化システムを適用することにより、無電解塗布法を使用して後処理されたブリキを生成することにより、不動態化され、且つ/或いは、さらなる制御不能な成長に対して安定化される。
【0043】
陽極処理が適用される前のCr(VI)を含まない不動態化システムは、リンスのない、その場で乾燥させる不動態化システム(no-rinse, dry-in-place passivation system)の適用のための化学的不動態化処理、好ましくは、いわゆるリンスのないプロセスである必要がある。
【0044】
発明者らは、ストリップ上の酸化スズ層の厚みが15~100C/mでなければならないことを見出した。酸化スズ層の厚みDは、最大100C/mであることが好ましい。100を超える値は、高速スズめっきプロセスで経済的に魅力的ではないだけでなく、酸化物層内のSnOの存在が増加するため、特にブリキの端部において、その後に適用される有機コーティングの接着性の低下にもつながる。少なくとも15C/mの値は、酸化物層のさらなる自発的成長が起こらなくても、事前に存在する酸化物を確実に除去するために必要な最小値であると考えられる。15C/m未満の値では、酸化物の残余物が見られる。発明者らは、ストリップ上の酸化スズ層の厚みが少なくとも25C/mであることが好ましいことを見出した。プロセス効率及び酸化スズ種の観点からのDの適切な最大値は、80C/m、好ましくは70C/m又は60C/mである。ストリップ上の厚みが30~60C/mの場合に良好な結果が得られた。優れた結果が得られるDの適切な最小値は35C/m又は40C/mである。
【0045】
効率E=1と仮定すると、上記の値はまた、陽極再酸化工程に関する整流器の設定も反映する。しかしながら、保存中の自然成長の結果として、酸化物層が成長する可能性があり、したがって、整流器の設定に基づいて予想されるよりも厚い酸化物層をもたらすことに注意すべきである。しかしながら、自然成長が起こらないと仮定すると、Eの値は、本明細書に記載の方法によりストリップの厚みを測定し、その結果を整流器設定と相互に関連付けることにより、容易に決定可能である。このようにして、整流器の設定をストリップの酸化物層の厚みに「変換」することができ、15~100C/mの好ましい値が確実且つ再現可能に得られる。
【0046】
一実施形態において、物品は、少なくとも片面にスズ層を備えた包装用鋼のストリップである(典型的な化学組成については、例えば、EN10202-2001又はASTM 623Mを参照)。このストリップは既知の方法、例えば、適切な組成の鋼ストリップを冷間圧延し、アニーリングし、場合により調質圧延し、次いで、電解スズめっきすることにより製造される。
【0047】
場合により後処理剤により処理された、陰極処理及び陽極処理されたブリキは、保管及び輸送のために巻き取られ、後で巻き戻すことができる。本発明に従って製造された不動態化されたブリキは、有機コーティング層、例えば、エポキシフェノールゴールドラッカー、エポキシ無水物ホワイトラッカー、PVC若しくはビニルオルガノゾルコーティング、ポリエステルラッカー、エポキシアミノ若しくはエポキシアクリルアミノ水性コーティングをさらに備えることができる。不動態化されたブリキへの有機コーティング層の優れた接着性により、CDC処理及びその後のポリマーコーティングシステムの代替としてこの製品を提供することができ、したがって、クロム酸塩の使用を完全に回避することができる。
【0048】
或いは、場合により後処理剤により処理された、陰極処理及び陽極処理されたブリキを、ラミネート層がインラインでブリキにラミネートされるラミネート加工ユニットに移相することができる。
【0049】
ラミネート層のブリキへの適用プロセスを、好ましくは、押出コーティング及びラミネーションによって実施する。ポリマーを溶融し、フラット(共)押出ダイにおいて薄いホットフィルムに成形し、次いで、押出されたポリマーフィルムを、キャストロール又は冷却ロールに誘導し、次いで、加熱されたブリキ基材にラミネートして、ラミネートされたブリキを形成させる。次いで、ラミネートされたブリキを通常、ロールニップ装置(roll-nip assembly)に通過させる。ロールニップ装置は、ラミネート層を基材にしっかりとプレスして、完全な接触及び接着を保証する。
【0050】
別の方法はフィルムラミネーションであり、固体ラミネート層が供給され、予熱されたブリキにコーティングされ、ロールニップ装置によってブリキにプレスされて、予熱されたブリキへのラミネート層の完全な接触及び接着を保証する。
【0051】
適切な単層又は多層ポリマーは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート(IPA-PET)、シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート(CHDM-PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、又はそれらのコポリマー若しくはブレンド、又は重縮合物、例えば、ポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)の1種又は2種以上を含むか、又はそれらからなる。
【実施例
【0052】
TS245~TS290及びTH415~TH620の様々な調質度においてブリキを製造した。表1は調質度の概要及び使用例を示す。スズ層の厚みは使用目的に応じて変化し、片面は1.4~11.2、反対の面は1.7~5の範囲であった。本発明による不動態化の結果は、調質度及びスズ層の厚みとは無関係であることが証明された。ほとんどのブリキを流動溶融工程に供した。
【0053】
【表1】
【0054】
スズめっき及び任意の流動溶融の後、ブリキを本発明による方法工程に供した。
【0055】
発明者らは、陽極再酸化後のストリップ上に見られる酸化スズ種及び酸化物層の厚みが、ストリップの幅にわたって著しく一貫していることを見出した。EP2802688に記載された先行技術に従って行われた以前の実験は、幅にわたって酸化物層の厚み及び酸化物種に違いが存在することを明らかにした。従来技術には、酸化物種がSnOであることが好ましいことが記載されている。先行技術では事前に存在する酸化物の陰極除去が存在しないため、従来技術のプロセスにより、この酸化物層は事前に存在する層の上に堆積される。発明者らは、この陰極除去が、ブリキの先行する処理(流動溶融か否か、長期保管か否か、好ましい保管条件か否か等)とは無関係に純粋でむき出しのスズ表面と、その後の、ブリキストリップの幅にわたって厚みが均一であり、SnOではなく主にSnOからなる新しい酸化物層のこの純粋でむき出しの表面上への堆積とを得るために重要であることを見出した。発明者らは、この表面が、容器の製造におけるブリキストリップの包装用途に向けたさらなる処理のために理想的な酸化スズ表面を形成することを見出した。
【0056】
クーロメトリー法を使用して、酸化スズ層の厚みを決定する。窒素でスクラビング(scrubbing)することによって酸素を除去した0.01M 臭化水素酸(HBr)溶液中で、制御された低い陰極電流によって、酸化スズ層を還元する。還元電位を測定することによって酸化物の還元の進行をモニターする。完全な還元のために通過した電荷(A×t)は、酸化スズ層の厚みの尺度となる。試験には、一端に直径約4cmの円形の開口部とAg/AgCl参照電極とを有する円筒形セルを使用する。セルのもう一方の端は、白金対極を備える。試験片は開口部を覆い、O-リングを使用してそれを密閉して、明確な領域の水密接続部(water-tight connection)を確立し、空気圧シリンダーを使用して所定の位置に締め付ける。セルは、窒素雰囲気下で充填し得、及び空にし得るように、柔軟なチューブによって電解質溶液に接続されている。ポテンショスタット-ガルバノスタットを使用して、-0.50A/mの陰極電流密度をサンプルに印加し、還元が完了するまで電位を測定する。試験結果は、酸化物層を還元するために必要な総電荷密度(C/m)として表される。典型的な電位時間曲線を図2に示す。発明者らは、これらの曲線を使用して、酸化スズ層中の酸化スズ種を区別することができることも見出した(図3を参照)。
【0057】
不動態化されたブリキストリップの幅にわたって採取されたサンプルを測定及び比較することにより、発明者らは、優勢的にSnOからなる酸化スズ層を備えるブリキの場合における酸化スズの組成が、端部で同じであるのに対し、酸化スズ層が優勢的にSnOからなるサンプルの場合には、そうではないことを見出した。優勢的にSnOからなる酸化スズ層を備えるブリキの幅の様々な位置(端部を含む)で測定された25秒での電位の差は、約-0.52Vの電圧レベルにおいて0.025V未満であったが、酸化スズ層にSnOが存在するブリキでは、幅にわたる差がかなり大きくなり、-0.60Vの電圧レベルにおいて-0.045の値に達する。
【0058】
接着性及び硫黄汚染耐性を試験すると、SnOを含まない試験片は有機コーティングへのより良好な接着性を有することが見出された。重要なことに、優勢的にSnOからなる酸化スズ層を有する試験片はまた、ストリップの端部においてより良好な接着性及び硫黄汚染耐性も示す。したがって、得られる不動態化されたブリキは、ブリキストリップの中央部で良好な接着性及び硫黄汚染耐性を示すだけでなく、端部でも同様である。
【0059】
Q1=Q2モードの実験結果は、Gitterschnitt試験における重要なホワイトエポキシラッカーの乾燥接着が、中央部及び端部(ストリップの端部から5cm)の両方で良好に機能することを示している。0及び1の値は、良好な結果と認められる。端部と中央部との中間値は同等の結果をもたらす。
【0060】
【表2】
【0061】
この試験では、フラットシートから7.5×7.5cmのパネルを切り出した。ISO 2409:1992、第2版に記載される方法に従って、パネルの平坦な部分に4×5mmのクロスハッチを適用し、次いで、粘着テープを適用する。その後、0(優良)~5(不良)にわたるGitterschnittスケールを使用して、剥離を評価する(表3)。すべての試験を、表2の各金属-ラミネートのバリアントの各面に対して3回実行した。次いで、3回の結果のスコアを平均した。0/1の値は、3つのサンプルのうち1つのGitterschnitt値が1になり、2つのGitterschnitt値が0であったことを示す。
【0062】
【表3】
【0063】
130℃で1時間のレトルト処理の後、エポキシゴールド標準ラッカーを使用した硫黄汚染試験は、ストリップの位置(端部又は中央部)に関係なく、いくつかの外れ値を有する許容可能な値という結果が得られる。
【0064】
図面の簡単な説明
本発明を以下の非限定的な図によって説明する。
【0065】
図1は、本発明による方法のための装置の概略図を示す。
図2は、事前に存在する酸化スズ層の陰極除去の概略図を示す。
図3は、SnOに基づく事前に存在する酸化スズ層の陰極除去と、SnOに基づく事前に存在する酸化スズ層の陰極除去とのV-t応答の違いを示す。
図4は、原料としてのブリキ原板ストリップに基づく本発明による方法中の様々な段階の概略図を示す。
図5は、図4に示した層の様々な構成の概略図を示す。示されているブリキ原板の厚み及び様々な層の厚みは縮尺通りではない。
【0066】
図1は、本発明による方法を実行するための本発明の実施形態を示す。ブリキを製造するためのスズめっきセル(I)が示され、その中で、ストリップ(1)は、めっきされるべき陰極としてめっき溶液(2)中に導かれる。1又は2以上のそのようなスズめっきセルにおけるスズめっき及び任意の流動溶融(図示せず)の後、ブリキは塩基性水溶液(8)を含む電気化学的処理タンク(II)に導かれる。ブリキは、非導電性ガイドローラ(3)を介して、入口側通路(下り通路)において陰極としてタンク(II)に入り、事前に存在する酸化物を陰極除去するために陽極(6)を通過し、むき出しの純粋なスズ表面を生成する。非導電性カウンターシンクロール(counter-sink roll)(4)によって向きを変えられた後、ブリキは出口側通路(上り通路)を出発し、陰極から陽極に変化する。出口側通路において、ブリキは、むき出しの純粋なスズ表面に新鮮な酸化スズ層を適用するために陰極(7)を通過する。非導電性ガイドローラ(5)を通過して浴を出た後、場合により、ストリップはリンス浴(III)に入り、乾燥される(図示せず)。セクションIVでは、後処理剤(11)が適用手段(10)によってブリキストリップに適用される。次いで、必要に応じてストリップを乾燥させることができる(図示せず)。ガイドローラ3及び5は非導電性ガイドローラである必要がある。本発明の一般的な文脈における非導電性という用語は、ローラが電気を通さないことを意味する。
【0067】
典型的な電位時間曲線を図2に示す。そこから、-0.7Vにおける曲線の接線と-0.85V付近の曲線の接線との交差がC/mにおける酸化スズ層の厚みの計算のための基準として得られる時間に基づいて、酸化スズ層の厚みを決定する。図2の例において、時間は約190秒×0.50=95C/mである。C/mで表される酸化スズ層の厚みDは、D[C/m]=t[秒]×0.50[A/m]から得られる。
【0068】
図3では、薄い層に関する曲線と厚い層に関する曲線との間にt=25において観測可能な明確な違いが存在する。いずれの層も新鮮なスズ表面で生成されている(すなわち、事前に存在する酸化物は完全に陰極除去されている)。厚い層でのt=25秒における落ち込みは、一貫しており、酸化スズ層にSnOが存在することに関連している。その他の2つの曲線は、主にSnOで構成される酸化スズ層と一致する形状を有する。
【0069】
図4では、図1のセットアップが再現されており、文字A~Gは、ブリキ原板上の層の発達の様々な段階を表す。
【0070】
図5において、文字は、
A:ブリキ原板ストリップ原料、
B:ブリキ(すなわち、スズめっきセルI内でスズ層によりコーティングされたブリキ原板)、
C1:事前に存在する酸化物を有し、処理が中断されない(追加の酸化物成長なし)ブリキ、
C2:長期間の保管及び/又は追加の酸化物層の成長をもたらす条件下での保管により、事前に存在する酸化物と追加の酸化物層とを有するブリキ、
D:事前に存在する酸化物層を除去した後のブリキ原板上の純粋でむき出しのスズ層、
E:陽極再酸化されたブリキ、
F:洗浄してリンスした陽極再酸化されたブリキ、
G:後処理剤を適用した陽極再酸化されたブリキ
を表す。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】