(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-28
(54)【発明の名称】不均一ハイブリッドヒドロゲル、その製造方法、および非分解性in situフィラーインプラントとしての使用
(51)【国際特許分類】
A61L 27/16 20060101AFI20230421BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20230421BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20230421BHJP
A61F 2/08 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
A61L27/16
A61L27/22
A61L27/52
A61F2/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022555660
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(85)【翻訳文提出日】2022-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2021056753
(87)【国際公開番号】W WO2021185881
(87)【国際公開日】2021-09-23
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522364181
【氏名又は名称】ニューロバイオマット
【氏名又は名称原語表記】NEUROBIOMAT
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】ステファヌ、ウエーリー
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081AB18
4C081BA11
4C081BA12
4C081BA16
4C081CA101
4C081CA181
4C081CC01
4C081CD111
4C081DA11
4C081DA12
4C081DB06
4C097AA20
4C097BB01
4C097DD01
4C097EE18
(57)【要約】
フィラーインプラントは、エチレンラジカルにより官能化されたデンドリマーモノマーと、N-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドから選択されるアクリルアミド化合物と、架橋剤と、共重合可能な生体活性材料とを備えるコポリマーにより形成される不均一ハイブリッドヒドロゲルから作製された足場を備えている。足場は、直径が1.5ミクロン~10ミクロンの間であるとともに重量の大部分をアクリルアミド化合物が占めるマイクロビーズにより形成される。マイクロビーズは集合することで、5~50個の間のマイクロビーズを含有する凝集体を形成する。凝集体は、架橋点により連結されることで、三次元パーコレーション経路を画定する貫通多孔質アレイを画定する。貫通多孔質アレイは細孔により形成されており、この細孔の細孔体積の大部分の直径は、10~30ミクロンの間である。足場は、弾性率が1~200kPaの間である粘弾性的性質を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のモノマー:
不飽和エチレンラジカルを備えた1本の分枝により官能化されたデンドリマーモノマー、
N-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドから選択されるアクリルアミド化合物、ならびに
架橋剤
のうち少なくとも3つから得られるコポリマーにより形成される不均一ハイブリッドヒドロゲルであって、
前記不均一ハイブリッドヒドロゲルは、直径が1.5ミクロンを超え10ミクロン未満であるとともに重量の大部分をN-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドが占める複数のマイクロビーズにより主に形成され、前記マイクロビーズは、大きさが20nm未満の閉じた非連通型マイクロ細孔を画定し、前記マイクロビーズは、互いに集合することで、5~50個の間のマイクロビーズを含有する凝集体を形成し、前記凝集体は、架橋点により互いに連結されることで、三次元パーコレーション経路を画定する貫通多孔質アレイを画定し、前記貫通多孔質アレイは細孔を画定しており、前記細孔の多孔質部分の大部分は、直径が10~30ミクロンの間である細孔により形成され、直径が30~300ミクロンの間である細孔の割合は20%を超えており、前記不均一ハイブリッドヒドロゲルは、粘弾性的性質を有するとともに弾性率が1~200kPaの間であることを特徴とする、不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項2】
前記マイクロビーズの直径が主に2~5ミクロンの間である、請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項3】
前記マイクロビーズが、少なくとも90重量%の前記アクリルアミド化合物を備える、請求項1から2のいずれか一項に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項4】
前記マイクロビーズが、架橋された前記アクリルアミド化合物で構成される、請求項3に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項5】
前記凝集体が、10~30個の間のマイクロビーズを含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項6】
前記凝集体が圧縮変形可能である、請求項1から5のいずれか一項に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項7】
官能化された前記デンドリマーモノマーが、ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝を1または複数本備え、前記ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝のうち少なくとも1本が、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドの誘導体、および脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体からなる群から選択される1または複数の共重合可能な生体活性材料により官能化されており、前記1または複数の共重合可能な生体活性材料が、三次元パーコレーションアレイの壁を被覆している、請求項1から6のいずれか一項に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項8】
前記三次元パーコレーションアレイの壁が、いくつかの異なる共重合可能な生体活性材料により官能化される、請求項7に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項9】
前記1または複数の活性分子が、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドまたは血管新生活性を有するペプチドの誘導体、神経再成長を刺激するペプチドの誘導体、細胞の増殖と分化を刺激するペプチドの誘導体、脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体、および間質由来因子-1(SDF-1)クラスのケモカインからなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項10】
官能化された前記デンドリマーモノマーが、中心コアAと、ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝とを備え、前記樹状分枝の少なくとも1本が、重合可能なアクリレートラジカルまたはメタクリレートラジカルにより官能化される、請求項1から9のいずれか一項に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項11】
前記アクリルアミド化合物が、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)であり、官能化された前記デンドリマーモノマーが、組織再生のための生体活性特性を付与する生体活性剤により周囲を官能化されたポリオキシエチレンの樹状分枝を備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項12】
器官または組織の解剖学的欠損の縁部間に挿入されるよう設計された永久フィラーインプラントとしての、請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルの使用。
【請求項13】
中枢神経系の実質内腔を満たすための、請求項12に記載のフィラーインプラントとしての不均一ハイブリッドヒドロゲルの使用。
【請求項14】
中枢神経系または二分脊椎の先天性奇形を矯正するための、請求項12に記載のフィラーインプラントとしての不均一ハイブリッドヒドロゲルの使用。
【請求項15】
前記フィラーインプラント、および前記フィラーインプラントを受容した後に腔の中に備え付けるよう設計された前記腔の側壁に対する部分脱水と、前記腔の中での前記フィラーインプラントに対する水和とを備える、請求項12に記載のフィラーインプラントとしての不均一ハイブリッドヒドロゲルの使用。
【請求項16】
不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法であって、以下のモノマー:
不飽和エチレンラジカルを備える1本の分枝により官能化されたデンドリマーモノマーであって、他の分枝がエチレンラジカルを欠いている、デンドリマーモノマー、
N-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドから選択されるアクリルアミド化合物、ならびに
2つの反応性ビニル結合を備える少なくとも1つの二官能性不飽和エチレン架橋剤
のうち少なくとも3つと、
フリーラジカル開始剤と
を含む反応混合物から、45℃~55℃の間の温度での共重合およびフリーラジカル共重合により誘導される相分離によるマイクロビーズ形成を備えており、
前記マイクロビーズは、大きさが20nm未満の閉じた非連通型マイクロ細孔を画定し、
前記マイクロビーズは、直径1.5ミクロンを超え10ミクロン未満であるとともに重量の大部分をN-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドが占めており、
前記マイクロビーズは、互いに集合することで、5~50個の間のマイクロビーズを含有する凝集体を形成し、前記凝集体は、架橋点により互いに連結されることで、三次元パーコレーション経路を画定する貫通多孔質アレイを画成する不均一ハイブリッドヒドロゲルを画定し、前記貫通多孔質アレイは細孔を画定しており、前記細孔の多孔質部分の大部分は、直径が10~30ミクロンの間である細孔により形成され、直径が30~300ミクロンの間である細孔の割合は20%を超えており、
前記不均一ハイブリッドヒドロゲルは、粘弾性的性質を有するとともに弾性率が1~200kPaであり、
重合が第1の温度プラトー、続いて第2のプラトーまたは温度勾配で行われることで、前記マイクロビーズが形成され、前記第1の温度プラトーの温度は45℃~55℃の間であり、前記第2のプラトーまたは前記温度勾配の温度は、前記第1の温度プラトーの温度より少なくとも5℃高く、
前記反応混合物は、緊密な円筒状の熱伝導モールドに注入される、方法。
【請求項17】
官能化された前記デンドリマーモノマーと前記架橋剤とのモル比が、0.1~0.8の間である、請求項16に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法。
【請求項18】
官能化された前記デンドリマーモノマーの分子質量が、6,220g/mol~23,280g/molの間である、請求項17に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法。
【請求項19】
前記マイクロビーズを形成する前記反応混合物には共重合可能な生体活性材料が存在し、前記共重合可能な生体活性材料は、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドの誘導体、および脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体からなる群から選択される、請求項16から18のいずれか一項に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法。
【請求項20】
前記反応混合物が、内壁をポリテトラフルオロエチレンで被覆されているモールドに注入され、前記モールドが優先的に水浴で加温される、請求項16から19のいずれか一項に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法。
【請求項21】
前記マイクロビーズを形成するために第1の温度で少なくとも80分間行われる前記反応混合物の重合を備えており、前記重合の後、前記モールドと前記反応混合物の温度が少なくとも5℃上昇する、請求項16から20のいずれか一項に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法。
【請求項22】
請求項16に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルのマイクロビーズ凝集体を形成すること、および三次元印刷法により前記凝集体を互いに集合させてフィラーインプラントを形成することを備える、フィラーインプラントを製作するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不均一ハイブリッドヒドロゲル(hybrid heterogeneous hydrogel)、より具体的には、フィラーインプラントとしての不均一ハイブリッドヒドロゲルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脊髄の神経実質に対する損傷は、それが局所外傷、虚血、腫瘍もしくは血管奇形の除去手術、または他の原因によるものであっても、神経線維の接続を切断してしまうことで、脳が伝達する運動機能を命令する神経インパルスの伝達を中断し、その結果、感覚機能の治療の妨げとなる。これにより、完全麻痺または不全麻痺が生じてしまう。
【0003】
脊髄損傷の場合、圧迫、または椎骨髄質に対するその他何らかの衝撃による傷害は、その中心から外側に向けて進行して次第に初期損傷の慢性期に移行する神経変性現象を経て進行する。慢性期において、傷害は嚢胞腔により表されており、グリア細胞、線維芽細胞、周皮細胞、髄膜細胞、および細胞外マトリクス分子、特にプロテオグリカンとコラーゲンで構成される不均一な瘢痕組織により仕切られて周囲を取り囲まれている。このような形の癒合は、髄内腔と同じように、内向型および外向型軸索経路の神経線維を修復できない原因である。
【0004】
再生療法は、髄質損傷の慢性期にある嚢胞腔の細胞修復、および、椎体高さが2から6まで変動する相当な体積減少を表す場合のある傷ついた領域の再血管構築を行うことを目的とする。再生療法はさらに、脊髄神経回路の再接続を促進して運動機能と感覚機能を再び確立させるために、この嚢胞腔を介して神経線維を成長させることも目的とする。この戦略では、再成長しつつある神経線維と損傷位置より下にある無傷のニューロンとの間に中継回路を再び形成可能な、神経系の損傷後可塑性が考慮される。組織工学に使用される戦略は、多孔性で許容性のある基質を(急性期または慢性期のいずれかにある)傷害の位置に導入することで、この基質を内因性細胞、血管、および神経の修復プロセスにおける物理的、化学的、および機械的な足場として作用させ、神経組織の組織学的な再構築を生じさせることである。
【0005】
実験段階および臨床試験で一般的に使用される足場は、特定のクラスの生体材料、すなわちヒドロゲルにより表される。これらの足場は、水で飽和され架橋された高分子アレイを形成するポリマーマトリクスである。このポリマーマトリクスは、組織工学、特に神経系が関与する場合に使用される。ポリマーマトリクスは、時間的に不安定な多孔質構造を構築するために、分解性または生体吸収性のポリマーから調製される。これらのポリマーは、アルギネート、アガロース、キトサン、コラーゲン、ヒアルロン酸、フィブリン、またはペプチドなどの天然ポリマーであるか、あるいはポリカプロラクトン、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(α-ヒドロキシエステル)、またはポリ無水物などの合成ポリマーである。このため、分解性および/または生体吸収性のヒドロゲルは、実験モデル、またはヒトへの臨床試験において、脊髄損傷の神経再生を促進させることが提唱されている。
【0006】
生分解性ヒドロゲルは、生体内に注入されると、ポリ無水物、ポリ(オルトエステル)、およびポリ(α-ヒドロキシエステル)に対する自発的な化学加水分解により分解可能なヒドロゲルである。チオエーテルエステルは水の存在下で分解し、生体ポリマー(オリゴペプチド、タンパク質、または多糖)は、細胞が産生する酵素または他のタンパク質の作用により分解する。
【0007】
例えば、米国特許第7,163,545号明細書には、治療薬と併用しての軸索再生における誘導チャネルを含む、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)マトリクスが開示される。米国特許第8,377,463号明細書では、30~60日の間にin situで分解する急性期の脊髄損傷を治療する、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)から形成されるデバイスが報告されており、このデバイスは、治療薬および/または幹細胞と組み合わせることができる。米国特許出願公開第2018/0037865号明細書には、幹細胞および治療分子と組み合わされる、ヒアルロン酸、コラーゲン、フィブリン、キトサン、メチルセルロース、ポリオキシエチレン、またはそれらの組合せの分解性マトリクスを備える複合ヒドロゲルが記載されており、このヒドロゲルは、ポリマーの性質に応じて様々な速度で、in situで分解する。米国特許出願公開第20060002978号明細書には、乳酸および/またはグリコール酸および/またはポリ(カプロラクトン)のホモポリマーあるいはコポリマーから形成される多孔質ポリマー材料を含有する管状マトリクスが開示されている。このポリマーマトリクスは、脂肪族ポリエステル、ポリ無水物、ポリホスファジン、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、またはアルギネートを備えることができる。米国特許第8,877,498号明細書では、神経線維の誘導再生を可能にする、壁に沿って高度に整列されたチャネルおよび隆起部を備えた階層化構造を備えているとともに、キトサン、キチン、セルロース、アルギネート、ゼラチン、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、またはそれらの組合せを備えた組成物を提示するマトリクスが報告されている。国際公開第2014013188号には、脊髄損傷を治療するための、ミクロゲル懸濁液の形態にあるか2~3mm3ゲルの形態にあるアセチル化キトサン生体材料が開示される。米国特許出願公開第2015/0166786号明細書および国際公開第2013010087号では、ヒトの脊髄の急性損傷を治療するための、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)から構成されるか、またはポリ(L-リジン)と組み合わせたポリ(ε-カプロラクトン)を備えるヒドロゲルが明らかにされている。米国特許出願公開第2015/0044259号明細書には、神経線維の成長を促進するための、ポリ-Dリジンとペプチドグリカンとで構成されるマトリクスが記載される。欧州特許出願公開第2,347,763号明細書および米国特許出願公開第2011/0177170号明細書には、ペプチド、ウロン酸、およびヘキソサミンで構成される均一なゲルに含まれるコラーゲン微粒子から構成されるとともに、中枢神経系の傷害の治療において細胞移植片と一体的に植え込まれるマトリクスが記載されており、マトリクスの分解は、数週間から数か月の間に生じる。国際公開第2013/084137号には、ヒトの脊髄の完全損傷を治療するための成長因子と組み合わせた平行な幾何学的形状のチャネルを含む硫酸カルシウム半水和物を使用した分解性インプラントが開示される。
【0008】
米国特許第8,815,277号明細書または国際公開第2011/002249号に提示されるものなどの生分解性ヒドロゲルも、提唱される。これらの系は、侵襲的でないという利点を呈する、すなわち、植込みを行うために脊髄の開放手術を必要としないことが示されている。一般に、これらの系はin situで、2週間で分解し、再生プロセスと比較して非常に速く分解する。
【0009】
脊髄の神経チャネルを修復するための、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)基材から作製したヒドロゲルも提唱されている。このヒドロゲルは、ラットでは30~60日で分解するが、これらの結果をヒトに置き換えた場合、この期間は組織再生を成功させるにはあまりに不十分である。比較試験では、単離された軸索の成長時間はラットよりもヒトの方が長く、再生速度はヒトの方が3倍遅いことが示された(Gordonによる2007年の「The potential of electrical stimulation to promote functional recovery after peripheral nerve injury-comparisons between rats and humans」、Acta Neurochir Suppl.、2007年、100巻、3~11頁)。脊髄の場合、多数の神経線維が再成長して機能的運動回復を達成する必要があることから、成長時間はさらに長くなる。外科的修復部位を介した軸索の成長は、損傷位置より下にある脊髄節の適切な標的に達するまでは遅く、同時には生じない。
【0010】
脊髄損傷の修復を試みるこれらの方法は、傷ついた髄節の解剖学的構造を、神経機能の機能的回復の達成と同時に修復することができないため、ヒトに適用すると中枢神経組織の再生効率が大きく制限され、不完全となる。
【0011】
分解性ヒドロゲルマトリクスは、一旦器官に植え込まれると、細胞、血管、および再成長する神経線維の移動とコロニー形成が組織リモデリングの過程で起こると同時にポリマー鎖が切断されることにより分解する。このように、脊髄の組織再構築が行われて新たな神経組織の形成が助長されると、分解性ヒドロゲルマトリクスは高い分解速度を呈し、初期の機械的支持特性が急速に減少してしまう。組織再生を最適、すなわち時間の面で完全とするためには、ヒドロゲル足場において、組織リモデリングのプロセス全体にわたって空間と時間の面で一定の構造的完全性を保つことが不可欠である。
【0012】
ポリ(α-ヒドロキシ酸)のエステル結合の加水分解は酸性化合物を放出し、この酸性化合物は移植部位に蓄積するとpHを低下させることも明らかである。Bostman OMとPihlajamaki HK(2000)による「Adverse tissue reactions to bioabsorbable fixation devices.」、Clin Orthop Rel Res、371巻、216~227頁に例示されるように、pHが低下すると、インプラントの中心における加水分解速度が表面と比較して加速され、インプラントの初期の機械的特性が急速に減少して異物に対する局所反応が生じる。
【0013】
国際公開第2010/097524号には、不均一ハイブリッドヒドロゲルであって、以下のモノマー:
中心コアA、ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝(macromolecular dendritic branch)を備えるデンドリマーモノマーであって、高分子樹状分子の少なくとも1本がアクリレートラジカルまたはメタクリレートラジカルにより官能化される、デンドリマーモノマー、
N-置換メタクリルアミドまたはN-置換アクリルアミド、ならびに
複合糖の誘導体、組織接着ペプチドの誘導体、および脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体からなる群から選択される共重合可能な生体活性材料
から得られるコポリマーである不均一ハイブリッドヒドロゲルが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第7,163,545号明細書
【特許文献2】米国特許第8,377,463号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2018/0037865号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第20060002978号明細書
【特許文献5】米国特許第8,877,498号明細書
【特許文献6】国際公開第2014013188号
【特許文献7】米国特許出願公開第2015/0166786号明細書
【特許文献8】国際公開第2013010087号
【特許文献9】米国特許出願公開第2015/0044259号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第2,347,763号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2011/0177170号明細書
【特許文献12】国際公開第2013/084137号
【特許文献13】米国特許第8,815,277号明細書
【特許文献14】国際公開第2011/002249号
【特許文献15】国際公開第2010/097524号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Gordonによる2007年の「The potential of electrical stimulation to promote functional recovery after peripheral nerve injury-comparisons between rats and humans」、Acta Neurochir Suppl.、2007年、100巻、3~11頁
【非特許文献2】Bostman OMとPihlajamaki HK(2000)による「Adverse tissue reactions to bioabsorbable fixation devices.」、Clin Orthop Rel Res、371巻、216~227頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的の1つは、先述の欠点を修正すること、より具体的には、先行技術のヒドロゲルと比較して分解速度が低いとともに、細胞コロニー形成に関連する機械的応力への適合が良好であるヒドロゲルから作製したインプラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の1つの特徴によれば、以下のモノマー:
不飽和エチレンラジカルを備えた1本の分枝により官能化されたデンドリマーモノマー、
N-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドから選択されるアクリルアミド化合物、ならびに
架橋剤
のうち少なくとも3つから得られるコポリマーにより形成される不均一ハイブリッドヒドロゲルが提唱される。
【0018】
この不均一ハイブリッドヒドロゲルは、直径が1.5ミクロンを超え10ミクロン未満であるとともに重量の大部分をN-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドが占める複数のマイクロビーズにより主に形成され、マイクロビーズは、互いに集合することで、5~50個の間のマイクロビーズを含有する凝集体を形成し、凝集体は、架橋点により互いに連結されることで、三次元パーコレーション経路(three-dimensional percolating path)を画定する貫通多孔質アレイを画定し、貫通多孔質アレイは細孔を画定し、この細孔の多孔質部分の大部分は、直径が10~30ミクロンの間である細孔により形成されており、上記不均一ハイブリッドヒドロゲルは、粘弾性的性質を有するとともに弾性率が1~200kPaの間であることを特徴とする。
【0019】
一展開によれば、マイクロビーズの直径は、2~5ミクロンの間である。
【0020】
優先的には、マイクロビーズは、少なくとも90重量%のアクリルアミド化合物を備える。さらに優先的には、マイクロビーズは、架橋アクリルアミド化合物により構成される。
【0021】
特定の実施形態では、凝集体は、10~30個の間のマイクロビーズを含有する。圧縮変形可能である凝集体提供するのが有利である。
【0022】
有利には、官能化されたデンドリマーモノマーは、ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝を1または複数本備え、上記ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝のうち少なくとも1本は、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドの誘導体、および脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体からなる群から選択される1または複数の共重合可能な生体活性材料により官能化され、前記1または複数の共重合可能な生体活性材料は、三次元パーコレーションアレイ(three-dimensional percolating array)の壁を被覆している。
【0023】
優先的には、上記三次元パーコレーションアレイの壁は、いくつかの異なる共重合可能な生体活性材料により官能化される。
【0024】
有利な構成では、上記1または複数の活性分子は、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドまたは血管新生活性を有するペプチドの誘導体、神経再成長を刺激するペプチドの誘導体、細胞の増殖と分化を刺激するペプチドの誘導体、脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体、および間質由来因子-1(Stromal-derived factor-1)(SDF-1)クラスのケモカインからなる群から選択される。
【0025】
官能化されたデンドリマーモノマーは、中心コアA、ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝を備えるものとして提供されるのがさらに有利であり、この高分子樹状分枝の少なくとも1本は、重合可能なアクリレートラジカルまたはメタクリレートラジカルにより官能化される。
【0026】
別の構成によれば、アクリルアミド化合物はN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)であり、官能化されたデンドリマーモノマーは、組織再生のための生体活性特性を付与する生体活性剤により周囲を官能化されたポリオキシエチレンの樹状分枝を備える。
【0027】
本発明の別の目的は、器官または組織の解剖学的欠損の縁部間に挿入されるよう設計されたフィラーインプラントとして、前述の構成のうち1つによる不均一ハイブリッドヒドロゲルを使用することにある。
【0028】
優先的には、不均一ハイブリッドヒドロゲルは、中枢神経系の実質内腔を満たすためのフィラーインプラントとして使用される。
【0029】
有利には、不均一ハイブリッドヒドロゲルは、中枢神経系または二分脊椎の先天性奇形を矯正するためのフィラーインプラントとして使用される。
【0030】
本発明の1つの特徴によれば、工業生産での実施が容易である、不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法であって、この方法により、特に物理化学的仕様に関する範囲で、フィラーインプラントの形成にさらに適した不均一ハイブリッドヒドロゲルを産生することができる、方法が提唱される。
【0031】
不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法は、以下のモノマー:
不飽和エチレンラジカルを備える1本の分枝により官能化されたデンドリマーモノマーであって、他の分枝がエチレンラジカルを欠いている、デンドリマーモノマー、
N-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドから選択されるアクリルアミド化合物、ならびに
2つの反応性ビニル結合を備える少なくとも1つの二官能性不飽和エチレン架橋剤
のうち少なくとも3つと、
フリーラジカル開始剤と
を備える反応混合物から、45℃~55℃の間の温度での共重合およびフリーラジカル共重合により誘導される相分離によるマイクロビーズ形成を備えており、
マイクロビーズは、直径が1.5ミクロンを超え10ミクロン未満であるとともに重量の大部分をN-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドが占めており、
マイクロビーズは、互いに集合することで、5~50個の間のマイクロビーズを含有する凝集体を形成し、この凝集体は、架橋点により互いに連結されることで、三次元パーコレーション経路を画定する貫通多孔質アレイを画成する不均一ハイブリッドヒドロゲルを画定し、貫通多孔質アレイは細孔を画定しており、この細孔の多孔質部分の大部分は、直径が10~30ミクロンの間である細孔により形成され、
上記不均一ハイブリッドヒドロゲルは、粘弾性的性質を有するとともに弾性率が1~200kPaの間であり、
上記反応混合物は、緊密な円筒状の熱伝導モールドに注入されることが、注目される。
【0032】
一展開によれば、官能化されたデンドリマーモノマーと架橋剤とのモル比は、0.1と0.8の間である。優先的には、官能化されたデンドリマーモノマーの分子質量は、6,220g/mol~23,280g/molの間である。
【0033】
優先的には、マイクロビーズを形成するための反応混合物には、共重合可能な生体活性材料が存在し、この共重合可能な生体活性材料は、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドの誘導体、および脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体からなる群から選択される。
【0034】
有利な構成では、反応混合物は、内壁をポリテトラフルオロエチレンで被覆されている金属モールドに注入される。このモールドは、優先的には水浴で加温される。優先的には、上記反応混合物の重合は、マイクロビーズを形成するために第1の温度で少なくとも80分間行われ、その後、金属モールドと反応混合物の温度は、少なくとも5℃上昇する。
【0035】
有利には、上述の構成のうち1つによる不均一ハイブリッドヒドロゲルのマイクロビーズの凝集体を形成する方法は、フィラーインプラントを製作するための方法で実施される。フィラーインプラントを製作するための方法は、不均一ハイブリッドヒドロゲルのマイクロビーズの凝集体を形成すること、および三次元印刷法により凝集体を互いに集合させてフィラーインプラントを形成することを備える。
【0036】
その他の利点と特徴は、非限定的な例示目的のためだけに与えられるとともに添付図面に表される、本発明の特定の実施形態と実装態様に関する以下の説明から、より明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】三次元貫通チャネルを画定する不均一ハイブリッドヒドロゲルを備えたインプラントを概略的に例示する図である。
【
図2】壁をPTFE製の表面により被覆されている4つの円筒状ウェルを画定する金属体を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
ヒドロゲル基材から作製したインプラントは、組織の体積減少を表す腔、例えば髄腔に植え込まれるように設計される。ヒドロゲルの分解速度(Vd)が細胞再生速度(Vr)よりも速い場合、組織再構築に対するあらゆる支持が急速になくなる。組織再構築は植込み領域の周辺部に制限され、細胞再生プロセスは不完全なものとなる。加えて、髄内損傷に植え込まれるポリマーの足場に生分解が生じると、インプラント本体と脊髄組織との間に物理的な隔たりが生じてしまう。インプラントと組織を隔てている空間は脳脊髄液で満たされており、ヒドロゲルが神経組織に統合されるのを防止する。この空間は、再生の過程で軸索が、インプラントにより形成された足場本体に到達するのも防止する。
【0039】
酸分解産物が生成されると、急性炎症反応が生じる場合がある。他の分解産物には細胞レベルでの毒性作用があり、器官の恒常性に干渉する場合がある。これら分解産物は、ポリマー支持体が完全に破壊されるまで経時的に生成される。分解産物は、全身循環により輸送されて標的器官に順次蓄積することができ、分解産物が長期的に蓄積されると、器官を傷つけてしまうおそれがある。
【0040】
再生プロセスが最適かつ完全なものであるためには、インプラントのポリマーアレイの分解速度を組織修復速度に一致させる必要があり、そうすることで、総ゲル体積の減少は、細胞バイオバーデンの体積が増加するにつれても一定のままとなり、宿主器官との境界面に機械的圧迫応力がかからない。このような応力は、虚血性圧迫による傷害を引き起こす。厳密に制御された実験条件下、in vitroでポリマーヒドロゲルの分解速度を制御することは可能であるが、in vivoでヒドロゲルマトリクスの分解速度を制御すること、およびin vivoで細胞バイオバーデン速度に対するポリマーマトリクスの分解速度をモニタリングすることは不可能である。そのため、再生プロセスにおいて生分解性インプラントを効率的に使用するのは不可能である。
【0041】
全体として、インプラントの細胞再生プロセスと分解プロセスは、脊髄と接触状態にある境界面から始まり、腔の内部へと及ぶ。さらに、ヒドロゲルマトリクスの中心は完全には分解せず、成長基質としての構造と機能を失ったオリゴマー鎖の形で残る。いずれの機械的支持も行わず、最終的に再構築を妨げると、インプラントは使用できなくなる。
【0042】
マトリクスが分解すると、さらにヒドロゲルの構造内に移動した細胞間に存在する接続部が切り離される可能性がある。これらの接続部は、機能性組織の形成と凝集に不可欠なものである。
【0043】
そのため、組織、特に神経系の体積減少を最適に修復するための組織工学におけるインプラントとして分解性ポリマーヒドロゲルを使用するには、新たな生体組織が形成されるまで構造的完全性を保つように分解性ポリマーヒドロゲル使用中のヒドロゲルマトリクスの機械的挙動の進展と、ヒドロゲルマトリクスの実際のin vivo分解速度の両方を考慮する必要がある。この使用は、マトリクスが分解するにつれてその構造トポグラフィ、したがってその初期構造により画定される機械的特性を徐々に失うため、可能ではない。インプラントの構造的完全性は、時間とともに維持することができない。インプラントの構造的完全性は、組織再構築の全体にわたり組織再構築の形成を維持するのに不可欠な特徴である。
【0044】
神経線維は、損傷の後、伸長または側枝発芽のいずれかにより自然に再生する能力を有する。この能力は、再生する線維の末端、すなわち成長円錐が、接着して伸長させるいずれの基質も見つけられない場合、大幅に低下する。
【0045】
しかし、マトリクスが分解される場合、成長円錐が軸索再生プロセスで進行可能となるのに経由する基質は、連続していない可能性がある。そのため、分解速度Vdが組織の再生速度Vr以下であるヒドロゲルから作製したインプラントを使用することが、有利である。
【0046】
特に、非分解性である、すなわち分解速度が再生速度よりも低い不均一ハイブリッドヒドロゲルを使用することが、有利である。優先的には、非分解性不均一ハイブリッドヒドロゲルが意味するものは、人体に相当する生理学的条件下、化学加水分解反応もしくは酵素加水分解反応によるin situ分解、または光分解による開裂を受けないポリマー組成物である。例えば、化学分解は、少なくとも1年または2年に等しい参照期間にわたって低い、またはゼロである。
【0047】
不均一ハイブリッドヒドロゲルの分解性の試験は、pHが1に等しい酸溶液とpHが14に等しいアルカリ溶液の中、40℃で有利に実施される。一片のヒドロゲルを上述の溶液それぞれに入れ、各溶液は、例えばホットプレートにより40℃に維持する。溶液を撹拌する。不均一ハイブリッドヒドロゲル試料と溶液を定期的に観察する。例えば、1週間後、非分解性不均一ハイブリッドヒドロゲルの様相は変化せず、溶液は透明のままであったことが観察される。溶液中、試料の浮遊残渣は観察されない。また、ヒドロゲル質量のいかなる減少も観察されない。
【0048】
酸溶液は、有利には0.1mol/Lの塩酸溶液である。アルカリ溶液は、有利には1mol/Lのソーダ溶液である。
【0049】
不均一ハイブリッドヒドロゲルは、高速液体クロマトグラフィーによっても分析される。25%体積のメタノールと75%体積の水を含有する混合物を溶離剤として優先的に使用する。溶離剤の流速は、有利には1mL/分である。使用したカラムは、Nova-Pack C18 150mm 3.9mm逆相型のカラムであってよい。クロマトグラムの分析によって、ヒドロゲルの分解は、ヒドロゲル構成成分の探索により検出可能となる。
【0050】
非分解性不均一ハイブリッドヒドロゲルでは、クロマトグラムの分析により、時間の経過とともにごく僅かで新たなピークが認められた。例えば、本発明によるヒドロゲル、例えばHPMA(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)を含有するヒドロゲルの主な構成成分をモニタリングするために、クロマトグラムを分析した。高速液体クロマトグラフィー分析では、HPMA系ヒドロゲルの分解はいずれも認められない。これらの観察結果は、HPMA系ゲルを脊髄に植え込む「in vivo」試験により裏付けられる。電気泳動による脳脊髄液の分析では、脳脊髄液にオリゴマー型の分解産物はいずれも認められない。このように分解産物が存在しないことから、ヒドロゲルの分解は存在しないことが認められる。
【0051】
ヒドロゲルは生体吸収性ではなく圧縮性とすることも有利である。このようなヒドロゲルはフィラーインプラントとして使用できるとともに、器官、例えば神経系の解剖学的欠損の縁部間、具体的には外傷後の髄内嚢胞腔に挿入することができる。
【0052】
しかし、インプラントがほとんどまたは全く分解しない場合、そのインプラントの体積により細胞再構築が妨げられてはならない。貫通孔を有する多孔質の不均一ハイブリッドヒドロゲルから作製した足場を備えるフィラーインプラントを形成し、そうしてフィラーインプラント内で細胞再生を可能にすることが、特に有利である。
図1に例示するように、不均一ハイブリッドヒドロゲル1には多孔質構造があることが特に有利であり、この多孔質構造の細孔は、ゲルの三次元体積にパーコレーションアレイ2を作り出すよう互いに連通している。この細孔で形成された貫通アレイにより、細胞はヒドロゲルのコアにまで移動して増殖し、細胞代謝に必要な栄養素の輸送と拡散により繋がり合い生存することが可能になる。
【0053】
ヒドロゲルが非分解性であると、細孔アレイは、ヒドロゲルの分解が進んで毒性分子または刺激性分子を細孔内に停滞させるのを誘導しない。
【0054】
上記インプラントは、インプラントを通過して三次元ヒドロゲル中のパーコレーション経路を画定する開孔を有する多孔質構造である。この開孔により、組織からインプラントのコアまでの細胞および血管のコロニー形成のほか、インプラントを介した体液、細胞成長因子、細胞修復因子、および生理的栄養素の循環が向上する。様々な流体がインプラントを通って流れることで、インプラントに生成される組織の血管構築が促進される。インプラントは三次元支持体マトリクスを形成し、これを通る細孔により、細胞、神経線維、および血管の成長が誘導される。この細胞成長は、インプラントと接触状態にない場合よりインプラントと接触状態にある場合の方が良質である。インプラントは、ヒドロゲルのみにより形成される必要がある。
【0055】
優先的には、インプラントを形成するヒドロゲルの多孔質部分は、体積が85%を超え、より優先的には少なくとも90%に等しく、さらに優先的には少なくとも92%に等しい。この多孔質部分は、水銀ポロシメトリ技術を用いて算出可能である。
【0056】
不均一ハイブリッドヒドロゲルは、その多孔質部分の大半が、直径10~30ミクロンの間の細孔により形成されるようにすることが好ましい。優先的には、多孔質部分の少なくとも60%が、直径10~30ミクロンの間の細孔により形成される。要するに、多孔質体積の少なくとも60%が、直径10~30ミクロンの間の細孔により構成される。
【0057】
不均一ハイブリッドヒドロゲルにおいて、直径30~300ミクロンの間の細孔が、直径10ミクロン未満の細孔よりも大きな割合を呈するようにすることも、有利である。優先的には、直径30~300ミクロンの間の細孔の割合は、20%を超え、より優先的には30%を超える。この直径30~300ミクロンの間の細孔の割合は、サイズが大きな多細胞組織などの生物体を収容するのに特に有利である。有利には、直径10ミクロン未満の細孔の割合は15%未満、さらに優先的には10%未満である。不均一ハイブリッドヒドロゲルにおいて、細孔体積の2%未満を貫通多孔質アレイ中で1ミクロン未満のサイズとすることが、さらに有利である。
【0058】
このような細孔次元の分布により、生体化合物は、生組織の生体化合物の次元スペクトル全体を覆うインプラントを確実に通り抜ける。この結果、インプラントを修復対象である器官の組織等価物として使用することが容易になる。
【0059】
上記インプラントの細孔は、炎症細胞が分泌するケモカインの循環に適合する。このインプラントの構成により、グリア細胞、間葉細胞、SDF-1因子を分泌する軟膜に付随する幹細胞/前駆細胞、および神経分化能を有する中心チャネルの上皮に付随する幹細胞/前駆細胞の浸潤、血管の浸潤、ならびに再生神経線維の成長が可能となる。
【0060】
細胞コロニー形成が進むにつれ徐々に自身の多孔質アレイの構成を、または細胞バイオバーデンの量を変化させる特性を呈する材料から、不均一ハイブリッドヒドロゲルを形成することも、有利である。不均一ハイブリッドヒドロゲルは、細胞コロニー形成および/または細胞バイオバーデンによりかかる応力下で変形可能である。インプラントは、再生が生じるにつれ、細胞組織によりかかる圧力下で徐々に変形する。このヒドロゲルは、細胞バイオバーデンの機械応力により変形可能でなければならず、そうすることでパーコレーションチャネルを有する構造の維持が可能となる。
【0061】
多孔質の不均一ハイブリッドヒドロゲルから作製した足場を備えるフィラーインプラントを形成することが、特に有利であり、このヒドロゲルは、該ヒドロゲルを非分解性の不均一ハイブリッドヒドロゲルとみなすほど十分に低い分解速度で粘弾性的に変形可能である。多孔質インプラントが占める体積は、再生が生じてヒドロゲルの周囲と内部の再生速度が部分的に一致すると、変化する。
【0062】
細胞と神経の再生が生じると、不均一ハイブリッドヒドロゲルの高分子骨格は、一定の体積またはほぼ一定の体積で変形する。インプラント中での細胞蓄積の間、および形成されつつある新組織の拡張の間、ポリマーアレイは、細胞蓄積によりかかる機械圧力下で変形する。インプラントの構造は、細胞バイオバーデンによりかかる応力に適合させるために、弾性率が1~200KPaの間の材料から作製される。弾性率の値は、切断前のその変形量の50%で測定することができる。
【0063】
細胞バイオバーデンが徐々に増加すると、インプラントは、インプラント中で細胞バイオバーデンが導入する機械応力に応じて変形する。インプラントは、特に貫通チャネル中で細胞成長を妨げないよう弾性的に、次いで粘弾性的に変形する。インプラントは、変形が生じても、完全な組織再生を確実にするよう伸張する三次元パーコレーショングアレイを維持する。一旦、組織が再構築されると、インプラントの残余ポリマーアレイは、機械歪みを及ぼすことにより形成される新組織を安定させる細胞間支持体マトリクスとして作用する。
【0064】
インプラントの表面の粗度は、接触状態にあるインプラントと組織細胞との間にある接触面を大きくすることにより宿主組織との接着性が良好になるほど大きく、こうして2つの環境間での接着が促進される。パーコレーションアレイに連結されるインプラントの表面にある開孔により、体液、細胞成長因子、および細胞に必要な生理的栄養素が循環すると同時に、接触状態にある組織からインプラントのコアまで細胞および血管のコロニー形成が促進される。
【0065】
器官および/または組織の再生の治療と修復に適した弾性特性と多孔質構造を有するマトリクスを形成可能な不均一ハイブリッドヒドロゲルの使用、具体的には植込み型生体材料としての使用は、仏国特許第2,942,408号明細書から公知である。このような材料の分解速度は、細胞組織の再生速度よりも遅いことが観察された。
【0066】
仏国特許第2,942,408号明細書から公知である不均一ハイブリッドヒドロゲルを改良することで、三次元でパーコレーションチャネルを特異的に画定するとともに弾性率が1~200kPaの間の粘弾性挙動を有する多孔質構造を有する非分解性足場を形成することが、特に有利である。
【0067】
少なくとも3つのモノマー、すなわち、エチレンラジカルにより官能化されたデンドリマーモノマー、アクリルアミドモノマー、および架橋剤から得られるコポリマーである不均一ハイブリッドヒドロゲルを使用することが、有利である。特定の構成では、不均一ハイブリッドヒドロゲルは、共重合可能な生体活性材料を備える。別の構成では、不均一ハイブリッドヒドロゲルは、いずれの共重合可能な生体活性材料も含有しない。生体活性化は、その後形成されたヒドロゲル上で行うことができる。
【0068】
共重合可能な生体活性材料は、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドの誘導体、および脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体を備える群から選択される。優先的には、共重合可能な生体活性材料は、複合糖、組織接着ペプチド、および脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートそれぞれのメタクリロイル誘導体またはメタクリルアミド誘導体である。
【0069】
共重合可能な生体活性材料は、好ましくは、例えばグルコサミン、N-アセチル-グルコサミン、N-ジグリシジル-グルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸(シアル酸)、およびポリシアル酸から選択される複合糖のメタクリロイル誘導体またはメタクリルアミド誘導体とすることができる。
【0070】
共重合可能な生体活性材料は、好ましくは、Arg-Gly-Asp、Ile-Lys-Val-Ala-Val、Ala-His-Ala-Val-Ser-Glu、Tyr-Ile-Gly-Ser-Argなどのアミノ酸配列を含有する組織接着オリゴペプチド、組織分化分子のオリゴペプチド誘導体、例えば骨形成タンパク質またはSDF-1(間質細胞由来因子-1)ファミリーのタンパク質、CXCR4受容体を発現する内因性幹細胞を動員して引き付ける能力を有するとともに組織再生が生じたときに軸索の成長を刺激する能力を有するケモカインから選択される組織接着ペプチドの、メタクリロイル誘導体またはメタクリルアミド誘導体とすることができる。
【0071】
共重合可能な生体活性材料は、好ましくは、ミエリンに対する抗体およびその軸索関連型の脂質誘導体に結合したポリマーコンジュゲートのメタクリロイル誘導体またはメタクリルアミド誘導体とすることができる。
【0072】
アクリルアミドモノマーは、有利にはN-置換メタクリルアミドまたはN-置換アクリルアミドである。弾性率の値は、ヒドロゲルの架橋密度により、すなわち、アクリルアミドモノマーから形成される高分子鎖間の共有結合の数により、好ましくは高分子HPMA鎖間の共有結合の数をモニタリングすることにより部分的に定められる。
【0073】
N-置換メタクリルアミドは、好ましくは、N-モノアルキルメタクリルアミド、N,N-ジアルキルメタクリルアミド、
N-ヒドロキシアルキルメタクリルアミド、
優先的にはN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、
N-アルキル、N-ヒドロキシアルキルメタクリルアミド、
およびN,N-ジヒドロキシアルキルメタクリルアミドからなる群から選択される。
【0074】
N-置換アクリルアミドは、好ましくは、N-モノアルキルアクリルアミド、N-ヒドロキシアルキルアクリルアミド、
N,N-ジアルキルアクリルアミド、N-アルキル、N-ヒドロキシアルキルアクリルアミド、および
N,N-ジヒドロキシアルキルアクリルアミドからなる群から選択される。
【0075】
デンドリマーモノマーは、優先的には中心コアAと、ポリエチレンオキシド(PEO)の高分子樹状分枝とを備える。樹状分枝のうち1本のみが、有利には末端位置にてエチレンラジカルにより官能化される。少なくとも1個の反応性ビニル二重結合を備えるモノマーと反応させるために、エチレンラジカルは飽和されない。他の樹状分枝は、好ましくはヒドロキシル官能基により終端化され、エチレンラジカルを含まない。他の樹状分枝はさらに、共重合の前に、エステル官能基またはアミド官能基などの他の官能基によっても官能化することができる。エチレンラジカルは、有利にはアクリレートラジカルまたはメタクリレートラジカルである。デンドリマーの構造は星形であるため、多官能性の可変幾何学的形状をヒドロゲルに導入して、他の材料に想定される複数の相互作用に特異的な形で応答することが可能となる。分枝のうち1本のみが官能化されることを示す指標は、概ねデンドリマーモノマーが、不飽和エチレンラジカルを備えた1本の分枝により官能化されることを示す統計結果に相当する。
【0076】
不均一ハイブリッドヒドロゲルにおける官能性ヒドロキシル基は、実体、例えば、ポリペプチド、有効成分、リガンド、重合可能な基、またはオリゴ糖などの生体活性剤を付着することにより改変することができる。
【0077】
特定の実施形態によれば、中心コアAは、カルボシラン、ポリカルボシラン、星形構造ポリカルボシラン、または以下の式(1):
【化1】
による基から選択され、
式中、nは1~20の間、好ましくは6に等しい整数である。
【0078】
一変形形態によれば、中心コアAはポリ(ジビニルベンゼン)である。
【0079】
優先的な実施形態によれば、デンドリマーモノマーは、以下の式(2):
【化2】
に準ずるものであり、式中、
RはHまたはCH
3であり、
XとYは、1~100の間の整数であり、X+Yの合計は4の倍数であり、
ZとZ’は、同じまたは異なるものであるとともに、1~100の間であり、
Aは、好ましくはカルボシラン、ポリカルボシラン、星形構造ポリカルボシラン、または式(1)による基である。
【0080】
別の優先的な実施形態によれば、デンドリマーモノマーは、以下の式(3):
【化3】
に準ずるものであり、式中、
RはHまたはCH
3であり、
nは、1~20の間、好ましくは6に等しい整数であり、
ZとZ’は、同じまたは異なるものであるとともに、1~100の間であり、
Xは、1、2、または3に等しく、
Yは、式Y=4-Xに準ずるものである。
【0081】
有利には、デンドリマーモノマーは、メチルメタクリレートラジカルにより官能化され、PEOの樹状分枝4本と、ヘキサノール架橋を有する、すなわちR=CH3、n=6、X=3、Y=1、およびZ=Z’である式(3)の構造を有するシラン中心コアAとを有している。明瞭化のために、このデンドリマーモノマーは、Si-PEO4-MMAという表記で特定される。
【0082】
ヒドロゲルの機械特性と化学特性は、親水性、疎水性、および/または引張活性など特定の特性を有する官能基を、樹状分枝の遊離ヒドロキシル終端上でグラフト化することによっても調整可能である。ヒドロキシル官能基は、その酸素原子の求核性に起因して容易に官能化することができる。この官能基は、例えば塩基性処理により容易に活性化されることが知られている。不均一ハイブリッドヒドロゲル固有の特性は、ヒドロゲル骨格に組み込んだデンドリマーモノマーの数および中心コアAの性質を変動させることによっても改変することができる。樹状分枝の数により、水および有機溶媒中の高分子の溶解性が調整される。
【0083】
不均一ハイブリッドヒドロゲルは、互いに集合して貫通多孔質アレイを画定する複数のマイクロビーズにより主に形成されるか、または構成される。マイクロビーズは、球形またはほぼ球形の形状を呈し、主に直径が1.5ミクロンを超え10ミクロン未満である。優先的には、マイクロビーズは、細胞バイオバーデンによりかかる応力に応じたチャネルの変形をより良好に調節するために、主に2~5ミクロンの間の直径を呈する。
【0084】
三次元パーコレーションアレイの立体構造をより良好に制御するには、少なくとも5個以上50個未満のマイクロビーズ、優先的には少なくとも10個以上のマイクロビーズを備える凝集体の形でヒドロゲルマイクロビーズを凝集させることが好ましい。有利には、マイクロビーズは、互いに凝集することで、10~30個のマイクロビーズが群をなす凝集体を形成する。ヒドロゲルマイクロビーズは、「ブドウの房」と呼ばれる構成で互いに凝集し合うようにすることも特に有利であり、そうすることで、効率的な多孔質アレイの形成が容易になると同時に、足場の良好な変形性が確保される。凝集体は、直径が5~10ミクロンの間であるマイクロビーズにより形成されるのが好ましい。凝集体は、優先的にはヒドロゲルマトリクスの主アレイを形成する。凝集体は、付着点により互いに固定されることで、1つの凝集体が別の凝集体に対して移動するのを可能にする。ブドウの房状の構成では、断面は一端から他端に向かうにつれ大きくなり、凝集体の長さに対して垂直にほぼ円形である。細胞とインプラントとの相互作用を助長することにより多細胞組織構造の形成および/または神経線維の成長を助長するのに、このブドウの房状の立体構造は線形構成よりも有利である。このブドウの房状の立体構造により、接着性も改善する。
【0085】
凝集体中、マイクロビーズは、変形可能な架橋点により互いに固定されることにより、互いに対して移動するとともに、かけられる機械応力に応じて不均一ハイブリッドヒドロゲルの足場の立体構造を適合させることが可能となる。凝集体は、圧迫させることができる。ポリマー鎖は、伸長させることにより架橋点間で変形する。架橋点が互いから離れるよう移動することで、ヒドロゲルの多孔質部分が増加する。細胞および神経の再生が生じると、インプラントの多孔質体積全体は、異方性構成をなして一定の体積で増加する。
【0086】
マイクロビーズ凝集体は、マイクロビーズの表面と接触状態にある移動細胞によりかかる毛細管圧に応答してマイクロビーズ凝集体の収縮を可能にするよう、互いに対して移動可能な形で構築される。マイクロビーズ凝集体は、その収縮により多孔質アレイを拡張させ、形成組織の拡張に利用可能な多孔質体積を増加させるという効果が得られるように構成される。
【0087】
凝集体は、互いに固定されることで、メソ多孔領域とマクロ多孔領域を備える多孔質アレイを形成する。凝集体が画定する複数の細孔は、互いに接続されることで、ある一定の屈曲度を呈するとともに初期の構成でヒドロゲルを通過するパーコレーションアレイを形成する。微視的なレベルでは、このパーコレーションアレイにより、組織の生体再構築プロセスが生じたときに、細胞、血管、および神経線維を、ヒドロゲルを介して三次元空間にて浸潤させることが可能となる。並行して、マイクロビーズは、大きさが20nm未満、好ましくは大きさが1.5~11ナノメートルの範囲内で変動し、平均直径が6ナノメートルであるマイクロ細孔を画定する。これらのマイクロ細孔は閉じており、連通していない。マイクロ細孔は、マイクロビーズの表面にクレータを形成し、そうすることでヒドロゲルマイクロビーズの表面はハニカム状になる。これらのマイクロ細孔は、表面を作り出して、これらヒドロゲルマイクロビーズから形成される高分子ヒドロゲルアレイの内部比表面の増大に寄与する。このように高分子アレイ表面、およびマイクロビーズの表面トポグラフィが増大すると、細胞膜との相互作用、特に移動細胞の焦点接着が促進される。
【0088】
優先的には、上記パーコレーションアレイは、少なくとも25m2/g、有利には少なくとも50m2/gに等しい大きな内部比表面を画定する。
【0089】
先行技術では、ヒドロゲルマトリクスの分解に起因し、細胞バイオバーデンの質量は時間とともに増加し、ヒドロゲルマトリクスにより減少した体積を部分的に充填することが観察された。ヒドロゲルの分解速度は細胞コロニー形成速度よりも大きく、これによりインプラントが最初に占める体積中のバイオバーデンの分布が複雑になってしまうことも、明白である。対照的に、多孔性で粘弾性変形可能な非分解性ハイブリッドヒドロゲルでは、バイオバーデンは、ヒドロゲルの圧迫と変形を利用して、組織欠損の体積単位ごとに増加する。細胞コロニー形成は、より良好に制御される。変形可能な高分子アレイは、新たな機能性組織を形成するよう自律的に組織化し、移動し、かつ分化する細胞が成長するとともに、経時的に改変される。
【0090】
架橋密度が不均一であるインプラントを形成することが、特に有利である。架橋度の差は、使用する製作方法により定めることができる。反応混合物の相分離を実施する方法によりヒドロゲルの共重合を使用することが優先的であるが、熱的手段により誘導される重合から相分離が生じる共重合方法を実施することも、有利である。定めた温度範囲で架橋を行うことにより相分離を制御することが、特に有利である。例えば、40℃~60℃の間での相分離により、良好な結果が得られた。45℃~55℃の間での架橋では、パフォーマンスがより良好な足場が得られた。49℃~51℃の間での架橋では、パフォーマンスがさらに良好な足場が得られた。このような温度範囲の使用により、マイクロビーズの寸法をより良好に定めることが可能となる。
【0091】
良好な機械的パフォーマンスと貫通チャネルを伴うヒドロゲルの形成を確実にするべく重合速度を制限することも、有利である。優先的には、インプラントを形成するための架橋時間は、6時間を超えるか、さらには12時間を超える。
【0092】
凝塊を架橋密度の高いヒドロゲルアレイの領域とするインプラントを製作することが、特に有利である。ヒドロゲルは、架橋の弱い領域によって互いに強く架橋された凝集体により形成される。架橋の強い凝集体は、架橋の弱い領域によって互いに対して移動可能である機械的支持領域を形成する。
【0093】
凝集体間にある架橋点は、共有結合、すなわち、非分解性とみなすことのできる化学結合により形成され、そうして凝集体間の機械的強度が良好となる。ポリマー鎖濃度が高い領域、およびポリマー鎖濃度が低いとともに遊離水を含有する腔を形成する領域を画定するヒドロゲル体積中に統計的に分布されることとなる凝集体を提供することが、有利である。
【0094】
架橋の強い領域にある2つの架橋点間の平均距離は、架橋の弱い領域にある2つの架橋点間の平均距離の20%未満、好ましくは、架橋の弱い領域にある2つの架橋点間の平均距離の10%未満である。
【0095】
架橋の強い領域の比率は、ヒドロゲルが侵入する総体積の少なくとも60%を呈することが好ましい。架橋の強い領域の比率は、ヒドロゲルが侵入する総体積の80%未満を呈することも有利である。
【0096】
インプラントの表面は、平坦ではない。この表面は、欠損部、例えばマイクロビーズの集合から生じる隆起を呈する。
【0097】
マイクロビーズに弾性特性を与えて細胞負荷によるインプラントの変形を確実にするために、マイクロビーズが、少なくとも90重量%、もしくはさらに少なくとも95重量%のアクリルアミド化合物、例えばN-置換メタクリルアミドまたはN-置換アクリルアミドを備えるか、あるいはこのアクリルアミド化合物で構成される、不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作することが、特に有利である。具体的には、大半をアクリルアミド化合物で作製したか、またはアクリルアミド化合物単独から作製したマイクロビーズの直径は、1.5~10ミクロンの間、好ましくは2~5ミクロンの間である。
【0098】
優先的には、マイクロビーズは、重量の大部分をHPMA、好ましくは架橋の強いHPMAが占めている。有利には、架橋の強いマイクロビーズは、クロスリンカーの1mol%を超える架橋速度を有する。このような架橋速度の使用により、ヒドロゲルの体積単位ごとに、線状ポリマー鎖間に十分な数の横方向化学結合が存在することが確実となる。この構成によりヒドロゲルは、ポリマーアレイ、例えばHPMAの十分な凝集を得て、平衡状態での膨潤比は96%の最終質量(水1g/乾燥物質1g)となる。この場合、この膨潤比は優先的に0.95mol%である。さらに架橋の弱い材料(例えば、HPMA)を使用すると、マイクロビーズ間に結合を形成し、マイクロビーズ凝集体を画定することができる。
【0099】
マイクロビーズにより画成されることとなるインプラントの貫通チャネルを提供することが特に有利であり、マイクロビーズの官能化されたデンドリマーモノマーは、ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝を1または複数本備える。ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝は、1または複数の活性分子、例えば上述の共重合可能な生体活性材料のうち1つにより官能化される。その後、パーコレーションアレイの表面を官能化することで、インプラント内の細胞再構築を助長することが可能である。
【0100】
活性分子は、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドまたは血管新生活性を有するペプチドの誘導体、神経再成長を刺激するペプチドの誘導体、細胞の増殖と分化を刺激するペプチドの誘導体、脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体、および間質由来因子-1(SDF-1)クラスのケモカインからなる群から選択される。
【0101】
アクリルアミド化合物がN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)であり、エチレンラジカルにより官能化されたデンドリマーモノマーが、組織再生のための生体活性特性をもたらす生体活性剤により周囲を官能化されたポリオキシエチレンデンドリマーを備える、マイクロビーズの使用を提供することも、有利である。
【0102】
仏国特許第2,942,408号のものと同様に、不均一ハイブリッドヒドロゲルは、ラジカル共重合により製作することができる。優先的な重合方法は、極性有機媒体、有利には二極性有機媒体、例えばアセトン/DMSO混合物中で行われる。
【0103】
有利には、ラジカル共重合に加えて、共重合には重合誘導相分離(PIPS)が付随する。このようにして、モノマーと極性溶媒からなる最初の均一溶液は、共重合の間に分離することで、マイクロビーズを形成する。有利には、官能化されたデンドリマーモノマーと架橋剤とのモル比は、0.1と0.8の間であり、例えば、PEO-MMA/MbisAA比は0.1と0.8の間である。この比の値では、相分離は、コイルと呼ばれる撚糸のボールを画定して、マイクロビーズを形成する。45℃~55℃の温度範囲では、直径1.5~10ミクロンの間のアクリルアミド化合物から作製されるコイルを主に取得することが、さらに容易となる。この比の値では、三次元パーコレーションアレイの形成も可能になる。分子質量が6,220g/mol~23,280g/molの間である官能化されたデンドリマーモノマーを選択することにより、生成されるコイルの数とコイルのサイズ分布を制御することが、さらに容易となる。この特定の範囲では、官能化されたデンドリマーモノマーのモル質量が増加すると、コイル数が増加し、サイズ分布が減少する。
【0104】
不均一ハイブリッドヒドロゲルを形成するための方法は、コイル状のポリマー鎖が構成する不溶性核を形成する、反応混合物の第1の反応段階を備える。
図2に例示するように、この反応混合物は、反応混合物と接触状態にあるPTFE製の壁4を有する、緊密な円筒状の熱伝導性のモールド3に注入される。反応混合物は、アルゴンで脱気されていてもよい。
【0105】
マイクロビーズは、会合することで凝集体を形成し、この凝集体同士が連結することにより、フィラーインプラントを形成するべく設計される不均一ハイブリッドヒドロゲルが形成される。
【0106】
また、三次元印刷法により、マイクロビーズ凝集体とともに、この凝集体同士の集合体を供給して、フィラーインプラントを形成することも可能である。インプラントの形状は、三次元印刷装置により直接画定される。
【0107】
共重合は、架橋剤により行われる。この架橋剤は、メチレンビスアクリルアミド(MbisAA)などのアクリルアミド、その前駆体、またはジビニルベンゼン(DVB)などのジビニル化合物とすることができる。フリーラジカル重合開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)または過酸化ベンゾイルなどの既知の開始剤から選択される。
【0108】
架橋剤は、優先的には2つのビニル基を有するメチレンビスアクリルアミド(MbisAA)である。メチレンビスアクリルアミドにより、ビニル基を1個しか有していないN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)と比較して反応性を大きくすることが可能となる。これにより、マイクロビーズの形成前に核を形成する成長鎖に、メチレンビスアクリルアミドをより迅速に組み込むことが可能になる。
【0109】
ポリオキシエチレンは神経膜に対する神経保護効果を示し、傷害後の酸化ストレスを軽減することから、ポリオキシエチレンヒドロゲルを使用することが特に有利である(Luoらによる「Polyethylene glycol immediately repairs neuronal membranes and inhibits free radical production after spinal cord injury」、J.Neurochem、2002年83巻、471頁)。ポリオキシエチレン分枝を有する星形分枝構造における1または複数のポリマーから形成されるヒドロゲルを使用して、特に血液タンパク質の非特異的吸収を防止することによりヒドロゲルの生体適合性を向上させることで、C3タンパク質を、貪食細胞の動員を担うペプチドへと開裂することにより補体活性化を減少することにより局所炎症応答を調節することが、好ましい(Nilsson,B.らによる、「The role of complement in biomaterial-induced inflammation.」、Mol Immunol、2007年44巻、82頁)。
【0110】
これらの分枝状分子は、ポリオキシエチレン分枝の末端位置でのバイオコンジュゲーションにより、ペプチド、生体活性の糖、およびケモカインのクラスの官能基により改変することができる。N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドで構成される構造と、官能基の分枝状ポリオキシエチレン・ポリマー・ベクターにより形成される分枝構造とを備える足場に多孔質構造が形成されているヒドロゲル材料を形成することが、特に有利である。官能基は、優先的には、細胞のインテグリン受容体と相互作用するオリゴペプチドなどの短いペプチドであり、例えば、次の配列:Arg-Gly-Asp(RGD)、Arg-Gly-Asp-Ser(RGDS)、Ile-Lys-Val-Ala-Val(IKVAV)であるが、これらに限定されるものではない。他の官能基は、1または複数のシアル酸とのオリゴマーコンジュゲート、例えばシアリルラクトース(Neu5Ac-α2,3-Gal-β1,4-Glc)のほか、HNK1(SO4-3-GlcAβ1-4Galβ1-4GlcNac-R)などの硫酸オリゴ糖、またはフコシル化オリゴ糖、例えばFucα(1-2)Galとすることができる。生体活性剤はまた、BDNF(「脳由来神経栄養因子」)、IGF-1(「インスリン様成長因子」)、NT-3(「ニューロトロフィン」)、GDNF(「グリア由来神経栄養因子」)を含むがこれらに限定されない、軸索再生を刺激する成長因子、あるいは、FGF(「線維芽細胞増殖因子」)、およびEGF(「上皮成長因子」)、PDGF(「血小板由来成長因子」)、VEGF(「血管内皮成長因子」)、PIGF(「胎盤成長因子」)、NGF(「神経成長因子」)、およびTGF(「形質転換成長因子」)など、神経前駆体の増殖を刺激する成長因子から選択することもでき、かつPOEとコンジュゲートを形成することができる。
【0111】
受容体CXCR4を発現する内因性幹細胞を引き付け、組織再生が生じたときに軸索成長を刺激する能力を有するSDF-1(間質由来因子-1)ケモカイン、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、またはSCF(幹細胞因子)サイトカインおよびインターロイキン(IT-8)などの前駆幹細胞の動員を刺激する生体活性剤。
【0112】
ヒドロゲルの一実施形態は、有利には不活性雰囲気中で製作され、反応混合物の総重量の30.4重量%に対して100:1のモル比、二極性有機溶媒アセトン/DMSO(93/7 v/v)で、2つのビニル基を含む架橋剤すなわちN,N’-メチレンビスアクリルアミドまたはN,N’-メチレンビスメタクリルアミドに、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドを組み合わせたヒドロゲルを備える。
【0113】
反応混合物はアルゴンで脱気され、反応混合物と接触状態にあるPTFE製の壁を有する、緊密な円筒状の熱伝導性のモールドに注入される。有利には、初期の反応混合物は、内壁をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で被覆されているステンレス鋼から作製されるのが好ましい金属モールドに入れられる。この反応混合物は、金属モールドの内部で直接、不活性ガスでパージされる。優先的には、金属モールドは、高さが直径の少なくとも2倍である円形断面を呈する。金属モールドの使用により、重合の間、金属モールドと反応混合物の温度を固定する水浴とともに反応混合物を使用することがより容易になる。この構成により、マイクロビーズと細孔の寸法をより良好に制御することが可能となる。
【0114】
ラジカル重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル開始剤の存在下、50℃で優先的に行われる。重合の過程で、金属モールドと反応混合物の温度を少なくとも5℃、好ましくは10℃以上上昇させることが特に有利であることが観察された。温度上昇は20℃未満であることが有利である。最大の重合温度は、キセロゲル、すなわち水で飽和する前のヒドロゲルが分解されないために、70℃未満、さらに優先的には65℃未満であることも、有利である。この温度上昇により、ヒドロゲル中のポリマー鎖のより均一な分布、およびより良好な効率を得ることが可能となる。優先的には、温度上昇は、マイクロビーズまたはその大部分が形成された後に行われる。温度上昇は、少なくとも重合の80分後、さらに優先的には重合の90分後に生じさせることができる。重合は、マイクロビーズの形成に使用される第1の温度プラトー、例えば45℃~55℃の間、好ましくは50℃に等しい温度プラトーで行うことができる。次いで、第1の温度プラトーの後、第2のプラトーが続くか、または場合により、第1の温度プラトーの温度より少なくとも5℃高い温度にアニーリングする温度勾配もしくは別の形態が続く。2つの異なる温度範囲の使用により、マイクロビーズの寸法のより良好な制御、および凝集体の寸法のより良好な制御の達成が可能となる。好ましくは、第1の温度プラトーの間、重合は、オリゴマー濃度が、オリゴマーの縮合によりさらに長い鎖が形成されるのを可能にする閾値に達するまで行われる。オリゴマーが縮合した結果、異なる密度を有する少なくとも2つの相が出現する。重合温度を改変することにより相分離を行うことが、有利である。
【0115】
オリゴマー濃度が閾値に達したことを検出するには、反応の吸光シグナルをモニタリングすることが有利である。例えば、吸光シグナルは、紫外線可視域での吸光分析(光学密度)によりモニタリングされる。オリゴマーの縮合により得られる十分な量の長鎖の検出は、吸光閾値、または閾値に達する吸光の進捗率に相当することができる。閾値が検出されると、長鎖の量は十分であると把握される。第2の重合工程は、さらに高温で、優先的には先のプラトーより少なくとも5℃高い第2のプラトーで行われる。第2のプラトーでは、核形成を速めて重合を継続させることにより共重合の達成が可能となる。マイクロビーズを形成する架橋オリゴマーコイルが形成される。マイクロビーズはランダムに凝集し、架橋点が形成される。さらに高温での第2の重合段階の間、吸光度値は低下する。代わりの手段として、第2のプラトーは、最低温度が第1のプラトーの温度より少なくとも5℃高い温度勾配、すなわちより複雑な温度推移と置き換えられる。
【0116】
重合の間、例えば、有利にはシール5が付随するポリテトラフルオロエチレンカバーにより、モールド3を堅く閉じることが好ましい。このカバーを使用することで、反応混合物からの溶媒の蒸発が制限され、より良好な再現性を達成することが可能になる。
【0117】
優先的には、モールドの寸法は、モールドから形成されるヒドロゲルが、水和ゲルに対して175mmに等しい直径と400mmに等しい高さを呈するように選択される。また、いくつかのウェル6の形で、いくつかのモールドを画定する1個の同じ金属部品を使用することも、有利である。モールド3は、ネジと協働してウェル6を塞ぐように設計された開口部7を備えることができる。
【0118】
重合の終了時点で、キセロゲルは乾燥形態または無水形態にあり、モールドから取り出される。モールドの内壁をポリテトラフルオロエチレンで被覆することは、乾燥形態にあるヒドロゲルの取出しを容易にすることでヒドロゲルに傷がつくのを防止するので、特に有利である。モールド内に存在するキセロゲルは脆く、そのためキセロゲルは、先行技術の方法に使用されるバイアルから抽出したときに傷がつきやすい脆い材料となる。
【0119】
キセロゲルをエタノール/発熱性物質除去水の中で洗浄することで、キセロゲルは96%の平衡状態で膨潤比に達することが可能となる。代わりの手段として、エタノールはメタノールと置き換えられる。有利には、キセロゲルは、穴の開いた籠体の形にある第1の受容器に移され、この籠体は、有利にはポリテトラフルオロエチレンから作製される。優先的には、第1の籠体は、液体を含有する第2の籠体の中に備え付けられる。この液体は、水、エタノールもしくはメタノール、または水とエタノールもしくはメタノールとの混合物であってよい。第2の受容器にある液体は、第1の受容器の穴を通り抜けてキセロゲルを洗浄する。
【0120】
第2の受容器は、可視放射線に対して不透性であることが特に有利である。第2の受容器は、ポリカーボネートから作製することができる。
【0121】
第1の受容器に備え付けられるキセロゲルは、有利にはいくつかの連続する洗浄浴の適用を備える洗浄サイクルにかけられる。キセロゲルを洗浄してこれを水で飽和することでヒドロゲルを形成するために、様々な洗浄浴中の含水量が増やされる。
【0122】
ヒドロゲルは、有利には、ヒドロゲルにフィラーインプラントとして有利な物理特性をもたらす1mol%に等しいか実質的に等しい比で、メチレンビスアクリルアミドと架橋される。
【0123】
無菌条件下で取り扱われることとなるフィラーインプラントとしてヒドロゲルを手術に使用するには、生成物の滅菌性を確保する必要がある。このゲルは、有利には、ハイグレードPTFE、すなわちゲルの化学性質と相互に作用しない材料から作製される円筒状容器に入れられ、発熱性物質を除去した注入可能なグレードの水を充填される。ゲルを含むPTFE容器は、121℃で30分間のオートクレーブ処理により滅菌されてネジ止めカバーにより再び堅く閉じられ、そうすることで、ゲルは水との飽和および滅菌性を維持する。この容器は、滅菌手術野に面している「スナップ・セーフ・キャップ」を有するポリスチレン製の第2の容器の中に配される。こうして、PTFE容器は滅菌状態で取り扱うことができる。ポリスチレン製の第2の容器は、54mmに等しい高さ、34mmに等しい内径、および1.5mmに等しい厚みを呈することができる。
【0124】
不均一ハイブリッドヒドロゲルは、有利には、多孔性幾何学的空間の構成およびポリマーアレイの構成を変化させる特性を有する粘弾性マトリクスの存在下、再生現象により充填を行うことにより自然癒合現象を改変するべく、充填戦略に使用される。ヒドロゲルの弾性作用により、基質の機械的弾性特性を改変するとともにin vivo細胞に近い機械的環境を再構築することが可能という利点が得られる。このようなヒドロゲルは、細胞、神経線維、および血管の束を受容して誘導することができる。
【0125】
不均一ハイブリッドヒドロゲルは、弾性変形可能で連続的な多孔質媒体を画定し、この媒体は、非分解性かつ非生体吸収性であり、幾何学的形状が細胞、血管、および神経の再生動態に適合する。ヒドロゲルマトリクスは、切開領域に植え込まれると脊髄に固着し、こうしてヒドロゲルマトリクスは、脊柱の動作およびこの器官を灌注する動脈の拍動により生じる脊髄の動作に追従することで、移植部位への固着を維持することが可能となる。インプラントは、その開放多孔質構造よって細胞流動が多孔質アレイのパーコレーション経路に従いポリマーマトリクスへと移動可能となることから、支持体構造を形成する。
【0126】
特定の実施形態では、不均一ハイブリッドヒドロゲルは、移植腔、例えば骨髄腔にインプラントを形成する。この腔は、傷害の内縁から非生存瘢痕組織を切断して除去することにより形成することができる。腔の縁部は、健常な神経組織により形成される。有利な実施形態では、腔を設けた後、脳脊髄液が排出される。これにより、内因性細胞修復の炎症プロセス(幹細胞動員、神経末端発芽、血管新生)を再び活性化する急性傷害と同等の「デノボ」傷害を作り出すことが可能となる。この植込み法はさらに、骨髄腔へのヒドロゲル注入による外傷後腔に対する充填工程を備える。ヒドロゲルは、切断することで腔の形状と幾何学的形状に合わせることができる。
【0127】
ヒドロゲルを部分的に脱水してからヒドロゲルを腔に挿入することが、特に有利である。ヒドロゲルは、腔に備え付けられた後、腔を循環する流体との接触に続き、ヒドロゲルインプラントが腔の表面全体と接触状態になるまで膨潤し、そうして傷害周囲にある無傷の神経組織の白質と一体的(100%)な界面を形成する。ヒドロゲルは、大量の水を吸収して、水、および水を含有する生体液体の存在下で膨潤することができる。ヒドロゲルは、平衡状態で体積が少なくとも80%の水を含有することが有利である。含水量が体積で75%以下のヒドロゲルを提供することが有利である。優先的には、インプラントは、体積が10%~30%の間で減少するように脱水される。腔の表面、例えば実質表面の脱水を行うことも有利である。壁を眼用スポンジで脱水することが好ましい。その後、インプラントは腔、好ましくは実質内腔に挿入され、次いで初期体積の少なくとも95%、好ましくは初期体積の100%に達するように再び水和される。インプラントを初期体積とするための水和は、1分未満で行うことができる。優先的には、膨潤比が100%に等しいインプラント体積は、充填対象である腔の体積の80%~100%の間を呈する。インプラントが再び水和されると、インプラントの多孔質表面は腔の表面と接触し、それにより接着が向上する。勾配は、周辺部分よりも中心部分が多く水和される脱水速度とすることが有利である。さらに大量の脱水を表面にて行うことで、続く腔の壁との接触の質が改善する。
【0128】
インプラントと腔の壁との接着性を向上させるには、接触するように設計された壁を脱水してから水和することが好ましい。インプラントは、マイクロビーズが形成する複数のブドウの房状の形とすることも好ましい。上述のマイクロビーズを有するインプラントの立体構造は、突起部および突出部を有する表面粗度を画定する。粗度は30マイクロメートル以下、好ましくは15マイクロメートル以下、さらに有利には5マイクロメートル以下とするのが有利である。粗度を0.1マイクロメートル以上とすることも有利である。このような粗度の範囲により、ヒドロゲルの表面と実質との間で間質液の循環が促進される。この表面テクスチャは、ヒドロゲルマイクロビーズの束構造により生じるものである。接着性はさらに、突出部上の表面細孔によりナノメートルスケールで向上する。
【0129】
内向型神経線維、外向型神経線維、および連合神経線維を備える傷害周囲の生白質によりヒドロゲルの表面を被覆することが、特に有利である。インプラントは、特に腔の表面の幾何学的形状に密接に従うように設計される。これらの工程により、脊髄の解剖学的再構築は、脊髄の外傷領域の位置に生じる。生体組織に対するインプラントの生体接着特性を利用するには、内向型神経線維、外向型神経線維、および連合神経線維を備える傷害周囲の生白質によりインプラントを被覆することが、特に有利である。
【0130】
再構築の質を改善するには、インプラントに生体接着特性を持たせるか、またはインプラントの生体接着特性を改善することが有利である。インプラントの表面特性を適合させることにより、インプラントと生体組織との接着性が改善される。
【0131】
インプラントの生体接着特性が改善すると、インプラントは腔内に挿入可能となり、生体組織に対し外科的縫合を用いることなく、質の高い細胞再構築を達成することができる。
【0132】
インプラントは、止血、より具体的には止血の第1段階を積極的に刺激することが、特に有利である。インプラントが血小板凝集を積極的に刺激することも有利である。このようにして、インプラントは血液凝固を誘導し、良好な組織再構築の達成を容易にする。この特定のインプラント構成により、インプラントと腔との間にある界面の可能な限り近くで微小出血を制御し、これによりインプラントと組織との間にある界面に分解が生じるのを防止することが可能となる。血液凝固と血小板凝集に対するin vitro試験に加えてin vivo試験でも、インプラントによる十分な止血の制御が明らかとなった。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のモノマー:
不飽和エチレンラジカルを備えた1本の分枝により官能化されたデンドリマーモノマー、
N-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドから選択されるアクリルアミド化合物、ならびに
架橋剤
のうち少なくとも3つから得られるコポリマーにより形成される不均一ハイブリッドヒドロゲルであって、
前記不均一ハイブリッドヒドロゲルは、直径が1.5ミクロンを超え10ミクロン未満であるとともに重量の大部分をN-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドが占める複数のマイクロビーズにより主に形成され、
前記マイクロビーズは集合することで、三次元パーコレーション経路を画定する貫通多孔質アレイを画定し、
前記貫通多孔質アレイは細孔を画定しており、前記細孔の多孔質部分の大部分は、直径が10~30ミクロンの間である細孔により形成され、
前記マイクロビーズは、大きさが20nm未満の閉じた非連通型マイクロ細孔を画定し、前記マイクロビーズは、互いに集合することで、5~50個の間のマイクロビーズを含有する凝集体を形成し、前記凝集体は、架橋の弱い領域よりも大きな架橋密度を呈することで、前記凝集体が相互に関連して移動するのを可能にし、
直径が30~300ミクロンの間である細孔の割合は20%を超えており、
前記不均一ハイブリッドヒドロゲルは、粘弾性的性質を有するとともに弾性率が1~200kPaの間であることを特徴とする、不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項2】
前記貫通多孔質アレイにおいて、直径が30~300ミクロンの間である細孔の割合は20%を超えており、直径が10~30ミクロンの間である細孔の割合は60%を超えている、請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項3】
前記マイクロビーズが、少なくとも90重量%の前記アクリルアミド化合物を備える、請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項4】
前記マイクロビーズが、架橋された前記アクリルアミド化合物で構成される、請求項3に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項5】
前記凝集体が、10~30個の間のマイクロビーズを含有する、請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項6】
前記凝集体が「ブドウの房状」の立体構造を呈し、各凝集体が、前記凝集体の長さに沿って一端から他端に向かうにつれ大きくなる断面を有し、断面は、前記凝集体の長さに対して垂直にほぼ円形の断面を呈する、請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項7】
官能化された前記デンドリマーモノマーが、ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝を1本備え、前記ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝が、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドの誘導体、および脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体からなる群から選択される1つの共重合可能な生体活性材料により官能化され、前記1または複数の共重合可能な生体活性材料が、三次元パーコレーションアレイの壁を被覆している、請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項8】
前記三次元パーコレーションアレイの壁が、いくつかの異なる共重合可能な生体活性材料により官能化される、請求項7に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項9】
前記1または複数の活性分子が、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドまたは血管新生活性を有するペプチドの誘導体、神経再成長を刺激するペプチドの誘導体、細胞の増殖と分化を刺激するペプチドの誘導体、脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体、間質由来因子-1(SDF-1)クラスのケモカインからなる群から選択される、請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項10】
官能化された前記デンドリマーモノマーが、中心コアAと、ポリオキシエチレンの高分子樹状分枝とを備え、1本の樹状分枝が、重合可能なアクリレートラジカルまたはメタクリレートラジカルにより官能化される、請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項11】
前記アクリルアミド化合物が、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)であり、官能化された前記デンドリマーモノマーが、組織再生のための生体活性特性を付与する生体活性剤により周囲を官能化されたポリオキシエチレンの樹状分枝を備える、請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲル。
【請求項12】
永久フィラーインプラントとしての請求項1に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルの使用。
【請求項13】
不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法であって、以下のモノマー:
不飽和エチレンラジカルを備える1本の分枝により官能化されたデンドリマーモノマーであって、他の分枝がエチレンラジカルを欠いている、デンドリマーモノマー、
N-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドから選択されるアクリルアミド化合物、ならびに
2つの反応性ビニル結合を備える少なくとも1つの二官能性不飽和エチレン架橋剤
のうち少なくとも3つと、
フリーラジカル開始剤と
を備える反応混合物から、45℃~55℃の間の温度での共重合およびフリーラジカル共重合により誘導される相分離によるマイクロビーズ形成を備えており、
前記マイクロビーズは、大きさが20nm未満の閉じた非連通型マイクロ細孔を画定し、
前記マイクロビーズは、直径1.5ミクロンを超え10ミクロン未満であるとともに重量の大部分をN-置換メタクリルアミドおよびN-置換アクリルアミドが占めており、
前記マイクロビーズは、互いに集合することで、5~50個の間のマイクロビーズを含有する凝集体を形成し、前記凝集体は、架橋点により互いに連結されることで、三次元パーコレーション経路を画定する貫通多孔質アレイを画成する不均一ハイブリッドヒドロゲルを画定し、前記貫通多孔質アレイは細孔を画定しており、前記細孔の多孔質部分の大部分は、直径が10~30ミクロンの間である細孔により形成され、直径が30~300ミクロンの間である細孔の割合は20%を超えており、
前記不均一ハイブリッドヒドロゲルは、粘弾性的性質を有するとともに弾性率が1~200kPaであり、
重合が第1の温度プラトー、続いて第2のプラトーまたは温度勾配で行われることで、前記マイクロビーズが形成され、前記第1の温度プラトーの温度は45℃~55℃の間であり、前記第2のプラトーまたは前記温度勾配の温度は、前記第1の温度プラトーの温度より少なくとも5℃高く、
前記反応混合物は、緊密な円筒状の熱伝導モールドに注入される、方法。
【請求項14】
官能化された前記デンドリマーモノマーと前記架橋剤とのモル比が、0.1と0.8との間である、請求項13に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法。
【請求項15】
官能化された前記デンドリマーモノマーの分子質量が、6,220g/mol~23,280g/molの間である、請求項14に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法。
【請求項16】
前記マイクロビーズを形成する前記反応混合物には共重合可能な生体活性材料が存在し、前記共重合可能な生体活性材料は、複合糖の誘導体、組織接着ペプチドの誘導体、および脂質誘導体に対する抗体に結合したポリマーコンジュゲートの誘導体からなる群から選択される、請求項13に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法。
【請求項17】
前記反応混合物が、内壁をポリテトラフルオロエチレンで被覆されているモールドに注入され、前記モールドが優先的に水浴で加温される、請求項13に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法。
【請求項18】
前記マイクロビーズを形成するために第1の温度で少なくとも80分間行われる前記反応混合物の重合を備え、前記重合の後、前記モールドと前記反応混合物の温度が少なくとも5℃上昇する、請求項13に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルを製作するための方法。
【請求項19】
請求項13に記載の不均一ハイブリッドヒドロゲルのマイクロビーズ凝集体を形成すること、および三次元印刷法により前記凝集体を互いに集合させてフィラーインプラントを形成することを備える、フィラーインプラントを製作するための方法。
【国際調査報告】