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  • 特表-抗グリカン抗体及びそれらの使用 図1
  • 特表-抗グリカン抗体及びそれらの使用 図2A
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  • 特表-抗グリカン抗体及びそれらの使用 図2E
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-28
(54)【発明の名称】抗グリカン抗体及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230421BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230421BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230421BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/30 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/28
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P1/00
A61P1/04
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555661
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(85)【翻訳文提出日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 US2021022627
(87)【国際公開番号】W WO2021188591
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】62/990,927
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/037,374
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/074,956
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522364240
【氏名又は名称】ピーティーエム セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】プレスタ, レナード
(72)【発明者】
【氏名】リャン, トニー
(72)【発明者】
【氏名】チョン, ジェニファー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CE12
4B064DA05
4B065AA90X
4B065AA99Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085BB24
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、sLeA及びsLeCに結合する抗体またはそれらの抗原結合部位、ならびにそれらに関連するポリヌクレオチド、ベクター、宿主細胞、医薬組成物、及び方法を提供する。
【選択図】図2C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアリルルイスA(sLeA)及びシアリルルイスC(sLeC)に結合する抗体またはその抗原結合部位であって、前記抗体または抗原結合部位のsLeAに対する結合親和性が60μM以下のKであり、sLeCに対する結合親和性が100μM以下のKである、前記抗体またはその抗原結合部位。
【請求項2】
シアリルルイスX(sLeX)に結合しない、請求項1に記載の抗体または抗原結合部位。
【請求項3】
ヒト化抗体またはヒト化抗原結合部位である、請求項1または請求項2に記載の抗体または抗原結合部位。
【請求項4】
sLeA及びsLeCに結合する抗体またはその抗原結合部位であって、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含み、
前記重鎖可変領域が、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4と90~100%の配列同一性を有する配列を含み、
前記軽鎖可変領域が、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10または配列番号11と90~100%の配列同一性を有する配列を含む、前記抗体またはその抗原結合部位。
【請求項5】
sLeXに結合しない、請求項4に記載の抗体または抗原結合部位。
【請求項6】
前記重鎖可変領域が、配列番号12の配列を含むCDR-H1、配列番号13の配列を含むCDR-H2、及び配列番号14の配列を含むCDR-H3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号15~17からなる群から選択される配列を含むCDR-L1、配列番号18の配列を含むCDR-L2、及び配列番号19の配列を含むCDR-L3を含む、請求項4または請求項5に記載の抗体または抗原結合部位。
【請求項7】
前記重鎖可変領域が配列番号3の配列を含み、前記軽鎖可変領域が配列番号5~8からなる群から選択される配列を含む、請求項4に記載の抗体または抗原結合部位。
【請求項8】
前記軽鎖可変領域が配列番号8の配列を含む、請求項7に記載の抗体または抗原結合部位。
【請求項9】
前記重鎖可変領域が配列番号4の配列を含み、前記軽鎖可変領域が配列番号9~10からなる群から選択される配列を含む、請求項4に記載の抗体または抗原結合部位。
【請求項10】
sLeA及びsLeCに結合する抗体またはその抗原結合部位であって、重鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が配列番号3と90~100%の配列同一性を有する配列を含む、前記抗体またはその抗原結合部位。
【請求項11】
前記抗体または前記抗原結合部位が軽鎖可変領域を含み、前記軽鎖可変領域が配列番号5~11からなる群から選択される配列と90~100%の配列同一性を有する配列を含む、請求項10に記載の抗体または抗原結合部位。
【請求項12】
sLeA及びsLeCに結合する抗体またはその抗原結合部位であって、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含み、前記重鎖可変領域が、配列番号12の配列を含むCDR-H1、配列番号13の配列を含むCDR-H2、及び配列番号14の配列を含むCDR-H3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号15~17からなる群から選択される配列を含むCDR-L1、配列番号18の配列を含むCDR-L2、及び配列番号19の配列を含むCDR-L3を含む、前記抗体またはその抗原結合部位。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合部位をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項15】
請求項13に記載のポリヌクレオチド、または請求項14に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項16】
前記抗体が産生されるように、請求項15に記載の宿主細胞を培養することを含む、抗体の産生方法。
【請求項17】
前記宿主細胞から前記抗体を回収することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部位と、薬学的に許容されるキャリアとを含む、医薬組成物。
【請求項19】
消化器の疾患または障害の症状を治療または改善する方法であって、前記消化器の疾患または障害を有する個体に、有効量の、請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体もしくは抗原結合部位、または請求項18に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項20】
前記消化器の疾患または障害が、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、膵臓癌及び結腸癌からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記消化器の疾患または障害が炎症性腸疾患である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記炎症性腸疾患が、クローン病または潰瘍性大腸炎である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記個体がヒトである、請求項19~22のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月17日出願の米国仮出願第62/990,927号、2020年6月10日出願の米国仮出願第63/037,374号、及び2020年9月4日出願の米国仮出願第63/074、956号の利益を主張するものであり、これらは各々、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、抗シアリルルイスA(sLeA)抗体及び抗シアリルルイスC(sLeC)抗体を含む抗シアル酸付加グリカン抗体、ならびにこれらの使用方法に関する。
【0003】
ASCIIテキストファイルでの配列表の提出
ASCIIテキストファイルでの以下の提出物の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる:コンピュータ可読形態(CRF)の配列表(ファイル名:203462000140SEQLIST.TXT、記録日:2021年3月15日、サイズ:14KB)。
【背景技術】
【0004】
グリカンは、遊離であることができる、またはタンパク質に結合(糖タンパク質)もしくは脂質に結合(糖脂質)することができる、糖質ベースのポリマーである。糖タンパク質のグリカン、例えば糖タンパク質のシアル酸付加グリカンなどは、免疫及び炎症に関与することが知られている。ヒトの膵臓、結腸及び胃の細胞株、ならびに結腸、胃及び膵臓の腺癌では、sLeAの高発現が報告されている。さらに、潰瘍性大腸炎を有する患者のヒト結腸の炎症性領域において、CD44v6に呼応してsLeAが上方制御されることが研究によって示されている。さらに、研究によって粘膜炎症でのsLeAの機能的役割が示され、それによってsLeAを調節することで、炎症性腸疾患(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎などの疾患)に影響を与え得ることが示唆されている。
【0005】
加えて、異常なグリコシル化はがんの特徴の1つでもあり、免疫応答を調節すると報告されている。炎症性腸疾患組織で観察されたものと同様に、タンパク質の異常なグリコシル化は、悪性転換の間のがん関連糖鎖抗原の過剰発現につながる。がん関連糖鎖抗原は、がんの増殖、浸潤、血管新生及び転移など、がんが発症及び進行する様々な側面に寄与することが研究によって示されている(Fuster,Nat Rev Cancer,5:526-42(2005)及びDube,Nat Rev Drug Discovery,4:477-88(2005))。
【0006】
グリコシル化の1つの種類はシアル酸であり、シアル酸は通常、N-グリカン、O-グリカン及びグリコスフィンゴリピドの分岐末端であることが判明している。シアル酸の範囲内で、α結合を通して9個の炭素骨格間に多様性が生まれ、これらの炭素位置での修飾を通して第2の多様性が生まれる。明らかになっているシアル酸付加グリコシル化の例としては、sLeA、sLeC及びシアリルルイスXが挙げられる(各グリカンの構造は表1に記載している)。
【0007】
これらのグリカンは全て、末端シアル酸付加グリカンの例である。sLeCはsLeAの非フコシル化前駆体であり、一方、sLeXはsLeAの立体異性体である。一般に、sLeCは正常なヒト組織では通常見られないが、マウス組織上で見られる。したがって、sLeAとsLeCの両方に結合する抗体は、医薬品開発、特に疾患のインビボマウスモデルでの使用に有用であるだろう。
【0008】
一般に、疾患及び/または障害を治療する医薬品としての開発に適している抗体は、高い特異性、選択性及び親和性を有する。したがって、抗グリカン抗体は医薬品としての開発には通常適していない。その理由の1つとしては、糖鎖抗原が制限された免疫原性を有し、また観察される抗糖鎖抗体の親和性が通常、タンパク質抗原またはペプチド抗原に特異的な抗体の親和性よりも10~10倍低いことがある(Ghassemi,Glycobiology,25(9):920-952(Sept 2015))。糖質の全体的に弱い結合には、通常、相対的に速いkon及びkoff速度が伴い、それによって抗グリカン抗体の全体的に低いKがもたらされる。
【0009】
本発明は、炎症性腸疾患及び消化器系のがんを含む、消化器系に影響する障害を有する患者に向けた、グリカンのエピトープを標的とする代替的な抗体療法の必要性に対処するものである。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、糖鎖抗原または糖鎖抗原フラグメントに結合する可変領域を含む、抗体またはその抗原結合部位を提供する。
【0011】
一態様では、本明細書において、シアリルルイスA(sLeA)及びシアリルルイスC(sLeC)に結合する抗体またはその抗原結合部位であって、このような抗体または抗原結合部位のsLeAに対する結合親和性が60μM以下のKであり、sLeCに対する結合親和性が100μM以下のKである、抗体またはその抗原結合部位が提供される。いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合部位は、シアリルルイスX(sLeX)に結合しない。いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合部位は、ヒト化抗体またはヒト化抗原結合部位である。
【0012】
別の態様では、本明細書において、sLeA及びsLeCに結合する抗体またはその抗原結合部位であって、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含み、重鎖可変領域が、配列番号1、配列番号2または配列番号3と90~100%の配列同一性を有する配列を含み、軽鎖可変領域が、配列番号4、配列番号5、配列番号6または配列番号7と90~100%の配列同一性を有する配列を含む、抗体またはその抗原結合部位が提供される。いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合部位はsLeXに結合しない。いくつかの実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号12の配列を含むCDR-H1、配列番号13の配列を含むCDR-H2、及び配列番号14の配列を含むCDR-H3を含み、軽鎖可変領域は、配列番号15~17からなる群から選択される配列を含むCDR-L1、配列番号18の配列を含むCDR-L2、及び配列番号19の配列を含むCDR-L3を含む。いくつかの実施形態では、重鎖可変領域は配列番号3の配列を含み、軽鎖可変領域は配列番号5~8からなる群から選択される配列を含む。いくつかの実施形態では、重鎖可変領域は配列番号3の配列を含み、軽鎖可変領域は配列番号8の配列を含む。いくつかの実施形態では、重鎖可変領域は配列番号4の配列を含み、軽鎖可変領域は配列番号9または配列番号10の配列を含む。
【0013】
別の態様では、本明細書において、sLeA及びsLeCに結合する抗体またはその抗原結合部位であって、重鎖可変領域を含み、重鎖可変領域が、配列番号3と90~100%の配列同一性を有する配列を含む、抗体またはその抗原結合部位が提供される。いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合部位は軽鎖可変領域を含み、軽鎖可変領域は、配列番号5~11からなる群から選択される配列と90~100%の配列同一性を有する配列を含む。
【0014】
別の態様では、本明細書において、sLeA及びsLeCに結合する抗体またはその抗原結合部位であって、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含み、重鎖可変領域が、配列番号12の配列を含むCDR-H1、配列番号13の配列を含むCDR-H2、及び配列番号14の配列を含むCDR-H3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号15~17からなる群から選択される配列を含むCDR-L1、配列番号18の配列を含むCDR-L2、及び配列番号19の配列を含むCDR-L3を含む、抗体またはその抗原結合部位が提供される。いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合部位は、表6に示す単一抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。
【0015】
別の態様では、本明細書において、上記の実施形態のいずれか1つによる抗体またはその抗原結合部位をコードする1種以上のポリヌクレオチド(複数可)が提供される。別の態様では、本明細書において、上記の実施形態のいずれか1つによる1種以上のポリヌクレオチドを含むベクター(複数可)が提供される。別の態様では、本明細書において、上記の実施形態のいずれか1つによる1種以上のポリヌクレオチド(複数可)、または上記の実施形態のいずれか1つによるベクターを含む宿主細胞が提供される。別の態様では、本明細書において、抗体を産生する方法であって、抗体が産生されるように、上記の実施形態のいずれか1つによる宿主細胞を培養することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、本方法は、宿主細胞から抗体を回収することをさらに含む。別の態様では、本明細書において、上記の実施形態のいずれか1つによる抗体またはその抗原結合部位と、薬学的に許容されるキャリアと、を含む医薬組成物が提供される。
【0016】
別の態様では、本明細書において、消化器の疾患または障害の症状を治療または改善する方法であって、上記消化器の疾患または障害を有する個体に、本明細書に記載される抗体、抗原結合部位または医薬組成物の有効量を投与することを含む上記方法が提供される。いくつかの実施形態では、消化器の疾患または障害は、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、膵臓癌または結腸癌から選択される。いくつかの実施形態では、消化器の疾患または障害は炎症性腸疾患である。いくつかの実施形態では、炎症性腸疾患はクローン病または潰瘍性大腸炎である。いくつかの実施形態では、個体はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Aは、T84細胞を使用したインビトロ引っ掻き傷アッセイの、ヒトIgG対照または抗体クローン4772のいずれかで処理後、0時間及び24時間での顕微鏡画像を示す。Bは、処理後24時間に観察された創傷治癒活性の差を示す。
図2A】結腸炎の急性DSS誘発モデルの処理プロトコルの略図を示す。
図2B】ナイーブ(未処理、DSSなし)、PBS処理(試験1日目及び3日目に投与、DSS)、ヒトIgG処理(試験1日目及び3日目に投与、DSS)、及び抗体クローン4772処理(試験1日目及び3日目に投与、DSS)のマウスの、試験10日目の便の硬さを示す。
図2C】マウスの試験開始時の体重のパーセントとして表される、ナイーブ(未処理、DSSなし)、PBS処理(試験1日目及び3日目に投与、DSS)、ヒトIgG処理(試験1日目及び3日目に投与、DSS)、及び抗体クローン4772処理(試験1日目及び3日目に投与、DSS)のマウスの体重変化を示す。
図2D】ナイーブマウス(未処理、DSSなし)、PBS処理マウス(試験1日目及び3日目に投与、DSS)、ヒトIgG処理マウス(試験1日目及び3日目に投与、DSS)、及び抗体クローン4772処理マウス(試験1日目及び3日目に投与、DSS)の、最終的な屠殺処理後のマウス腸組織について、組織学観点からの炎症重症度を示す。
図2E】ナイーブマウス(未処理、DSSなし)、PBS処理マウス(試験1日目及び3日目に投与、DSS)、及び4772処理マウス(試験1日目及び3日目に投与、DSS)の、最終的な屠殺処理後のマウス組織の遠位結腸切片に存在する多形核好中球(PMN)のパーセントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で使用されるとき、冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法上の目的語のうちの1つまたは1つを超えるもの(すなわち、少なくとも1つ)を指す。例として、「(an)要素」は、1つの要素または1つを超える要素を意味する。
【0019】
用語「抗体」は、抗体、フラグメント、指定の部分及びそれらの変異体、例えば本発明の抗体に由来する一本鎖抗体及びそれらのフラグメントなどを包含することを意図する。抗体は、抗体フラグメント、抗体変異体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体及び組換え抗体を含む。抗体は、マウス、ラット、ウサギまたはヒトにおいて産生され得る。
【0020】
抗体は完全長であることができる、または非限定的にFab、Fab’及びF(ab’)、facb、pFc、Fd、dAbフラグメント、単離したCDR、ダイアボディ(diabodies)、トリアボディ(triabodies)、テトラボディ(tetrabodies)、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、抗体フラグメントから形成される二重特異性抗体及び多重特異性抗体などの抗原部分を有する、抗体のフラグメント(または複数のフラグメント)を含むことができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、抗体は、抗体の定常領域の全体または一部を含む。定常領域は、IgA(例えばIgA1またはIgA2)、IgD、IgE、IgG(例えばIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)、IgMから選択されるアイソタイプである。本明細書で使用されるとき、抗体の「定常領域」としては、天然の定常領域、アロタイプまたは天然の変異体、例えばヒトIgG1におけるD356E及びL358MまたはA431Gが挙げられる(例えば、Jefferies and Lefranc,MAbs,1(4):332-338(July-August 2009)参照)。
【0022】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ技術を介して産生した抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当該技術分野において利用できる、または既知である方法によって作られ、任意の真核生物、原核生物またはファージのクローンなど、単一のクローンに由来する。本発明のモノクローナル抗体は、当該技術分野において既知である様々な技法、例えばハイブリドーマの使用、組換え及びファージディスプレイ技術またはこれらの組み合わせなどを用いて調製できる。
【0023】
本明細書で使用される用語「キメラ抗体」は、ヒト以外の免疫グロブリン、例えばラットまたはマウス抗体に由来する変更可能な配列と、通常ヒト免疫グロブリンの鋳型から選択されるヒト免疫グロブリン定常領域と、を有する抗体を指す。キメラ抗体の産生方法は、当該技術分野において既知である。
【0024】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ免疫グロブリンである。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域の全てまたはほぼ全てが、非ヒト免疫グロブリンのものに相当し、フレームワーク領域の全てまたはほぼ全てが、ヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つの及び通常2つの可変ドメインのほぼ全てを含む。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンコンセンサス配列の定常領域の少なくとも一部を含み得る。抗体のヒト化の方法は、当該技術分野において既知である。
【0025】
本明細書で使用される「有効量」は、炎症性腸疾患または消化器系のがんなど、消化器系の疾患の症状と兆候を低減させるのに十分な、抗体または医薬組成物の用量を指す。このような炎症性腸疾患の症状としては、下痢、体重減少、血性の下痢、血便、疼痛、貧血、疲労感、直腸出血、及び腹部痙攣が挙げられる。消化器系のがんの症状としては、体重減少、疼痛、及び臨床的に触知可能な腫瘤として、または放射線学的に、またはその他の画像診断技術を通じて検出可能な腫瘤が挙げられる。「有効量」と「治療的有効量」という用語は、同義的に用いられる。いくつかの実施形態では、有効量の薬物、化合物、または医薬組成物は、別の薬物、化合物、または医薬組成物と組み合わせて得られても、または得られなくともよい。したがって、「有効量」は1種以上の化学療法剤またはその他の有効剤の投与に関連するとみなされてよく、また単剤は1種以上の他の薬剤と組み合わせて望ましい結果が達成される可能性がある、または達成される場合に、有効量で投与されているとみなされてよい。個々のニーズは異なるが、各構成成分の有効量の最適範囲の決定は、当該技術分野の範囲内である。典型的な投薬量は、0.1~100mg/kg体重を含む。好ましい投薬量は、1~100mg/kg体重を含む。最も好ましい投薬量は、10~100mg/kg体重を含む。
【0026】
用語「対象」または「個体」は、消化器系の疾患を有する脊椎動物、例えば炎症性腸疾患または消化器系のがんを有する脊椎動物を指し得る。対象は、全ての温血動物、例えば哺乳動物、例えばげっ歯動物を含み、好ましくは霊長類またはヒト以外の霊長類、より好ましくはヒトである。用語「対象」にはまた、飼育動物(例えば、ネコ、イヌなど)、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、及び実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、スナネズミ、モルモットなど)も含まれる。したがって、本明細書において、獣医学的使用及び医薬品製剤または薬学的製剤が考慮される。
【0027】
当業者は、抗体が本来「モジュラー」であることを理解しているであろう。本開示の全体にわたって、本発明の抗体を含む各種「モジュール」の様々な特定の実施形態が記載されている。特定の非限定例として、可変重鎖CDR、可変重鎖、可変軽鎖CDR、及び可変軽鎖の様々な実施形態が記載されている。全ての特定の実施形態は、それぞれの特定の組み合わせが個別に明示的に記載されているかのように、互いに組み合わせることができると意図される。
【0028】
本発明のヒト化抗体は、下表1からの重鎖可変領域を含むことができ、さらに下表2からの軽鎖可変領域を含むことができる。このような可変領域は、当該技術分野で周知の方法を使用して、ヒトIgG1骨格に組み込むことができる。
【表1】
【表2】
【0029】
その他の実施形態では、本発明のヒト化抗体は、下記の表3及び表4から選択される重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列を含むことができる。
【表3】
【表4】
【0030】
本発明は、sLeA及びsLeCに特異的に結合するが、シアリルルイスX(sLeX)には結合しない抗体及びフラグメント、抗体を含む組成物、抗sLeX抗体でなく抗sLeA/sLeC抗体をコードするポリヌクレオチド、このような抗体をコードするポリヌクレオチド、このような抗体及び結合フラグメントを作製するのに有用な方法及び組成物、ならびにこれらを用いる各種方法を包含する。sLeA、sLeC及びsLeXのグリカン構造を、下表5に示す。
【表5】
【0031】
糖質/グリカンに対する抗体は、通常、結合親和性が低いために医薬品開発に不向きであり得る。抗体の結合親和性を決定する方法は、当該技術分野において既知である。一般的には、特定の標的または基質に対する結合親和性は、平衡解離定数(K)を導くための結合速度(k(M-1-1))と解離速度(k(s-1))の関係によって決定する。Kが低いほど、親和性は高くなる。抗体の親和性を決定する方法の例としては、Octetシステム(Fortebio)、またはBiacoreシステム(GE Healthcare)、または会合定数及び解離定数を決定するその他のシステム測定器を利用したアッセイが挙げられる。したがって、本発明は、sLeAに対する結合親和性が約500μm以下のKであり、sLeCに対する結合親和性が約500μm以下のKであり、sLeXに結合しない抗体を含む。非限定例では、本発明の抗体は、sLeAに対する結合親和性が、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、40μM以下、30μM以下、20μM以下、10μM以下、1μM以下または0.1μM以下のKであり、sLeCに対する結合親和性が、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、40μM以下、30μM以下、20μM以下、10μM以下、1μM以下または0.1μM以下のKであり、sLeXに結合しない抗体を含む。一実施形態では、本発明で有用な抗体は、グリカン標的に対する結合親和性が、sLeAに対しては41μM以下のKであり、sLeCに対しては70μM以下のKであり、シアリルルイスX(sLeX)には結合しない。いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、特定の標的(例えばsLeX)に、抗体の標的に対する結合親和性が約1mM以上のKである場合、結合しない。
【0032】
本発明の抗体はまた、疾患の診断、例えば個体のがんの診断を補助する方法において使用されてもよい。そのようながんには、消化器系のがん、例えば膵臓癌または結腸癌が挙げられる。そのような方法としては、本発明の抗体を用いて、個体または個体の特定組織におけるsLeA及び/またはsLeCの結合レベルを決定する方法が挙げられる。本明細書で使用されるとき、「診断を補助する」方法は、これらの方法が、分類、または性質、またはがんに関して臨床的な決定を行う手助けとなり、確定診断に関して断定的であってもよく、または断定的でなくてもよい方法であることを意味する。したがって、がんの診断を補助する方法は、個体からの生体試料中のsLeA及び/またはsLeCのレベルを検出する工程、及び/または試料中のsLeA及び/またはsLeCのレベルを決定する工程を含み得る。また、エピトープまたはその一部を認識する抗体は、体液中、非限定的に血液、唾液、尿、肺液(pulmonary fluid)または腹水液などに放出される抗原決定基を検出する診断用イムノアッセイの作成に使用されてよい。同様に、本発明の抗体を使用するこの種のイムノアッセイを利用して、治療の有効性及び/または疾患の寛解を監視してもよい。このような場合、本発明の抗体に反応性の抗原決定基の存在及び/またはレベルは、疾患の活性及び/または進行を監視するためのバイオマーカーとして有用であってよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、個体または個体の特定組織中のsLeA及び/またはsLeCの存在を検出する方法及び/またはsLeA及び/またはsLeCのレベルを測定する方法で、本開示の抗体を使用してもよい。
【0034】
本開示の特定の態様は、本開示の抗体をコードするポリヌクレオチド(例えば、単離したポリヌクレオチド)及び/またはベクター(例えば、発現ベクター)、ならびにポリヌクレオチドまたはベクターを含む宿主細胞(例えば、単離した宿主細胞)に関する。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、原核生物の宿主細胞、例えば細菌宿主細胞(例えば、E.coli)である。好適な原核生物の宿主細胞には、真正細菌、例えばグラム陰性またはグラム陽性の生物、例えばEscherichiaなどのEnterobacteriaceae、例えばE. coli、Enterobacter、Erwinia、Klebsiella、Proteus、Salmonella、例えばSalmonella typhimurium、Serratia、例えばSerratia marcescans、及びShigellaなどが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、真核生物の宿主細胞、例えば酵母菌、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、またはその他の多細胞生物からの有核細胞である。例えば、糸状真菌または酵母菌は、抗体コードベクターに好適なクローニングまたは発現の宿主である。Saccharomyces cerevisiae、または一般的なパン酵母菌が、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用されているものである。グリコシル化抗体の発現に好適な宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)由来である。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。脊椎動物細胞または哺乳動物細胞の例としては、例えば、SV40によって形質転換したサル腎由来細胞CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651)、ヒト胎児腎細胞株(293細胞、または増殖のために懸濁培養でサブクローニングした293細胞、Graham et al.,J.Gen Virol.36:59(1977))、ベビーハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10)、マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.23:243-251(1980))、サル腎由来細胞(CV1 ATCC CCL 70)、アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587)、ヒト子宮頚部癌細胞(HELA、ATCC CCL 2)、イヌ腎由来細胞(MDCK、ATCC CCL 34)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442)、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75)、ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065)、マウス乳癌(MMT 060562、ATCC CCL51)、TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383:44-68(1982))、MRC 5細胞、FS4細胞、ヒト肝癌由来細胞株(Hep G2)、DHFR-CHO細胞(Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980))などのチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ならびにNS0及びSp2/0のような骨髄腫細胞株が挙げられる。
【0035】
本開示のその他の態様は、本開示の宿主細胞を使用した産生方法に関する。抗体またはそれらの抗原結合部位は、組換え方法を使用して産生され得る。抗体または抗原結合部位の組換え産生では、抗体/部位をコードする核酸を単離し、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のためにベクターに挿入する。抗体をコードするDNAは、単離され、従来の手順(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)を使用して配列決定され得る。ベクター構成成分としては、一般に、シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終結配列のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明の抗体は、消化器系の疾患または障害を有する個体において、治療目的のために使用されてよい。このような疾患には、炎症性腸疾患(例えば、クローン病及び潰瘍性大腸炎)、過敏性腸症候群、ならびに膵臓癌及び結腸癌を含む消化器系のがんが挙げられるが、それらに限定されない。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、1種以上の疾患の症状を治療または改善するために、単独で使用されてよい。その他の実施形態では、本発明の抗体は、1種以上の疾患の症状を治療または改善するために、その他の治療剤または薬剤と組み合わせて使用されてよい。
【0038】
投与には、本発明の抗体またはそれらのフラグメントの様々な製剤が使用されてよい。いくつかの実施形態では、本発明の抗体またはそれらのフラグメントは、未希釈で投与されてよい。本発明の組成物は、薬理活性剤に加えて、好適な薬学的に許容されるキャリアを含有してもよい。このキャリアには、当該技術分野で周知であり、比較的不活性な物質である賦形剤及び助剤が含まれ、賦形剤及び助剤は、薬理的に有効な物質の投与を促進する、または作用部位への送達のために、薬学的に使用可能な調製物内への活性化合物の処理を容易にする。例えば、賦形剤は、成形性もしくは均一性を提供できる、または希釈剤として作用できる。好適な賦形剤としては、安定化剤、湿潤剤及び乳化剤、浸透圧を変えるための塩、カプセル化剤、緩衝液及び皮膚浸透促進剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
非経口投与に好適な製剤としては、水溶性の形態、例えば水溶性塩での活性化合物の水溶液が挙げられる。加えて、油性注射剤懸濁液に適切な有効成分化合物の懸濁液が投与されてもよい。好適な親油性溶媒またはビヒクルとしては、脂油、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドが挙げられる。水性注射剤懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してもよく、物質の例としては、例えば、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトール及び/またはデキストランが挙げられる。場合によっては、懸濁液は安定剤を含有してもよい。また、薬剤を細胞内へ送達するために、リポソームを使用して薬剤をカプセル化することもできる。
【0040】
本発明による全身性投与用の医薬品製剤は、経腸投与、非経口投与、または局所投与用として調製されてよい。実際に、有効成分の全身性投与を達成するために、3種類全ての製剤を同時に使用してもよい。非経口及び非経口以外の薬物送達用の賦形剤ならびに製剤については、Remington,The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.Mack Publishing(2000)に記載されている。
【0041】
経口投与のための好適な製剤としては、硬ゼラチンカプセルもしくは軟ゼラチンカプセル、丸剤、コーティング錠剤などの錠剤、エリキシル剤、懸濁液、シロップ剤または吸入剤、及びそれらの制御放出形態が挙げられる。
【0042】
一般的に、これらの剤は、注射剤(例えば、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与など)による投与用として調製されるが、その他の投与形態(例えば、経口投与、粘膜投与など)もまた利用できる。したがって、本発明の抗体は、薬学的に許容されるビヒクル、例えば生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液などと組み合わせるのが好ましい。
【0043】
個々の投薬計画、すなわち、用量、タイミング及び反復は、特定の個体及びその個体の病歴によって決定されるものとする。一般的に、少なくとも約0.1mg/kg体重、またはより好ましくは少なくとも約1mg/kg体重、または少なくとも約5mg/kg体重、より好ましくは少なくとも約10mg/kg体重、または少なくとも約20mg/kg体重の用量が投与される。
【0044】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体またはそれらのフラグメントは、治療の過程で、1通り以上の用量で投与される。半減期などの経験的考察は、投薬量の決定に通常寄与するだろう。ヒト化抗体または完全にヒトの抗体などの抗体は、ヒト免疫系との適合性があり、これらを使用して、抗体の半減期を延長したり、宿主の免疫系から抗体が攻撃されるのを防ぐことができる。投与頻度は、治療の過程で決定及び調整されてよく、疾患の1種以上の臨床的な症状の低減に基づいてもよい。あるいは、本発明の抗体の持続的、連続的な放出製剤が適切であり得る。持続放出を獲得するための各種の製剤及び装置が、当該技術分野において既知である。
【0045】
以下の実施例は、本発明を例示するために提供されるものであって、限定するものではない。
【実施例
【0046】
実施例1:ヒト化抗体クローンの生成
上記の表1からの重鎖可変領域の1つを含む重鎖可変領域と、上記の表2からの軽鎖可変領域の1つを含む軽鎖可変領域とを有するヒト化抗体を合成し、IgG1骨格に組み込んだ。IgG1骨格に組み込み、合成した重鎖可変領域と軽鎖可変領域のペアは、下表6のものであった。
【表6】
【0047】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域のペアの上記の組み合わせを有するヒト化抗体を、哺乳動物細胞にプラスミドをトランスフェクションさせることによって産生し、親和性クロマトグラフィーを使用して精製した。
【0048】
表6の9種のヒト化抗体クローンのうち、2種の抗体クローン(4764及び4767)は弱い発現を示し、精製後、1mg未満の抗体という結果になった。これらの2種のクローンの産生レベルは、実用的な細胞株産生の最適化のためには低すぎるとみなした。続いて、sLeA、sLeC及びsLeXへの結合親和性について、残りの7種のクローンをスクリーニングした。
【0049】
実施例2:シアリルルイスA(sLeA)及びシアリルルイスC(sLeC)への結合親和性
実施例1からのヒト化抗体の、sLeA及びsLeCに対する結合親和性のインビトロ評価を、PBS-p(0.005%のTween-20)ランニングバッファーを用いるCM7センサチップを使用するBiocore T100 SPRバイオセンサを使用して、摂氏25度で実施した。抗体を、NHS/EDC活性化表面上で、pH5.0の酢酸ナトリウム10mMにおいて、50ug/mlで、約30,000RUで結合させた。参照表面を活性化しブロックすることで、対照として機能させた。糖質試料(sLeA、sLeC及びシアリルルイスX(全てDextra Labsより購入))を、10mMのストック濃度になるまでPBS-pランニングバッファー中に溶解させた。続いて、各試料を、2倍希釈系列において最大濃度300μmで調製し、抗体表面上で各濃度系列を試験した。参照表面及びバッファー注入から反応を差し引くことによって、反応データを処理した。摂氏25度での、結合定数を決定した。
【0050】
sLeA、sLeC及びsLeXに対する結合親和性について、マウス抗体(GM35)(Brazil,J Immunol 191:4804-4817(2013)に記載)を、上述の方法を使用して試験した。この抗体の結果では、sLeXへの結合は示されず、sLeAに対して41.5μM~46.8μMのK、及びsLeCに対して68.8μM~78.2μMのKを有した。比較として、別の抗体、NS19-9(Dako、Carpenteria、CA)の試験を行った。この抗体はsLeAに結合することが知られる抗体であり、sLeXには結合を示さず、sLeAに対して39.5μMのK、及びsLeCに対して1.5mMのKを有した。
【0051】
実施例3:ヒト化抗体クローンのシアリルルイスA(sLeA)及びシアリルルイスC(sLeC)に対する結合親和性
sLeA、sLeC及びsLeAに対する結合親和性について、実施例1からの7種のヒト化抗体クローンを試験した。sLeXは300μMの1種の濃度のみを用いた以外は、上述の実施例2と同様の方法を使用した。7種の各ヒト化抗体クローンの、sLeA及びsLeCへの平均結合K値を下表7に示す。
【表7】
【0052】
300μMの糖質濃度での3回の独立した試験では、上記の抗体クローンのいずれもsLeXへの結合を示さなかった。上記の結合親和性データから、HvCh3可変領域を有するヒト化抗体クローンが、sLeA及びsLeCの両方に対して最も高い親和性を有することが示された。
【0053】
実施例4:インビトロ創傷治癒活性
ヒト化抗体作用の創傷治癒メカニズムを、インビトロ引っ掻き傷アッセイで試験した。ヒト結腸上皮細胞、T84(CCL-248、ATCC、Manassas、Virginia)を、6ウェルプレートでコンフルエンシーまで増殖させた。各条件で、ピペットチップを用いて引っ掻き傷を作り、細胞をヒトIgG(hIgG)対照(Sigma-Aldrich)、10ug/ml、または上記の実施例3のヒト化抗体、10ug/mlのいずれかで処理した。処理から24時間後に、目視検査によって、及びImageJに基づく画像解析による引っ掻き傷の寸法の測定によって、創傷治癒活性を測定した。ヒト化抗体は、hIgG対照と比較して高い創傷治癒活性を示した。非限定例として、実施例3のヒト化抗体クローンの1つである、クローン4772の創傷治癒活性を図1A図1Bに示す。図1A及び図1Bに見られる創傷治癒活性の高まりは、抗体クローン4772を含む実施例3のヒト化抗体が、炎症性腸疾患などの消化器系の障害の治療において有効であり得ることを示す。
【0054】
実施例5:DSS誘発性結腸炎の急性モデルにおけるインビボ有効性
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性結腸炎のインビボマウス急性モデルにおいて、抗体クローン4772の有効性を試験した。試験1日目に、全ての動物を体重別に無作為化した。体重が18~22gである動物を試験に登録するものとする。試験0日目に開始し、「ナイーブ」グループに属さない試験に登録された全ての10週齢の雄、C57BL/6マウスに、滅菌水中に溶解させた2.5%のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を、7日間、適宜与えた。DSS水を、試験3日目に新しくした。試験7日目に、全ての測定完了後、全ての動物を飲み水のみに切り替えた。「ナイーブ」グループのマウスには、酸性水のみ適宜与え、試験物質による処理はなかった。
【0055】
抗体クローン4772またはヒトIgGを与えている動物に、試験1日目及び試験3日目の別々の2日に、適切な薬物を10mg/kg体重(4772)で、または25mg/kg体重(ヒトIgG)で、腹腔内(IP)注入を介して注入した。PBSを与えるように指定したグループのマウスには、試験1日目及び3日目にPBS IP注入を与えた。
【0056】
試験1日目から開始して体重を毎日測定し、便の硬さ評価を試験0日目、2日目、4日目、6日目、8日目、9日目、10日目及び13日目に実施した。この試験の結果を、図2A図2Eに示す。図2Aは、試験方法の略図である。図2Bは、試験10日目に測定した便の硬さの結果を示す。図示されるように、抗体クローン4772を与えられたマウスは、PBS対照及びhIgG対照と比較して、より良好な便の硬さ(低いy軸の値)を有した。同様に、図2Bでは、抗体クローン4772で処理したマウスは、PBS対照及びhIgG対照と比較して体重減少が少なかった。便の硬さと体重減少は、炎症性腸疾患を含む消化器系の疾患の症状を示唆する、2つの要素である。これらのデータは、抗体クローン4772を含む実施例3のヒト化抗体が、炎症性腸疾患を含む消化器系の障害の治療において有効であり得ることを示している。
【0057】
最終的な屠殺処理後に回収した腸組織試料を、炎症の重症度(結腸組織中で観察された壊死、びらん、過形成、多形核好中球(PMN)浸潤のパーセント、及び浮腫)について評価した。図2Dに示す通り、抗体クローン4772を与えられたマウスは、PBS対照及びhIgG対照と比較して、炎症の兆候が小さかった。さらに、抗体クローン4772を与えられたマウスは、PBSで処理したマウスと比較して、末端結腸におけるPMN浸潤が、50%を超えて小さかった(図2E参照)。これらのデータは、抗体クローン4772を含む実施例3のヒト化抗体が、DSSで誘発された損傷の後に腸組織の炎症を低減させ得る、また炎症性腸疾患を含む消化器系の障害の治療において有効であり得ることを示す。
【0058】
配列表
配列番号1:HvCh1のアミノ酸配列
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSTNAMSWVRQAPGKGLEWVSRLRPKSDNYATYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKGTGFWGQGTTVTVSS

配列番号2:HvCh2のアミノ酸配列
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSTNAMSWVRQAPGKGLEWVARLRPKSDNYATYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCVTGTGFWGQGTTLTVSS

配列番号3:HvCh3のアミノ酸配列
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSTNAMSWVRQAPGKGLEWVARLRPKSDNYATYYADSVKGRFTISRDDSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCVTGTGFWGQGTTLTVSS

配列番号4:HvCh4のアミノ酸配列
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSTNAMSWVRQAPGKGLEWVARLRPKSDNYATYYADSVKGRFTISRDDSTSTLYLQMNSLRAEDTAVYYCVTGTGFWGQGTTLTVSS

配列番号5:LiCh1のアミノ酸配列
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNSGNQKNYLTWYQQKPGQPPKLLIYWTSTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQNDYTSPYTFGQGTKLEIK

配列番号6:LiCh2のアミノ酸配列
DIVMTQSPDSLAVSLGERVTMNCKSSQSLLNSGNQKNYLTWYQQKPGQPPKLLIYWTSTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSVQAEDVAVYYCQNDYTSPYTFGQGTKLEIK

配列番号7:LiCh3のアミノ酸配列
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNSGNQKNYLTWYQQKPGQPPKLLFYWTSTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQNDYTSPYTFGQGTKLEIK

配列番号8:LiCh4のアミノ酸配列
DIVMTQSPDSLAVSLGERVTMNCKSSQSLLNSGNQKNYLTWYQQKPGQPPKLLFYWTSTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSVQAEDVAVYYCQNDYTSPYTFGQGTKLEIK

配列番号9:LiCh5のアミノ酸配列
DIVMTQSPDSLAVSLGERVTMNCKSSQSLLNSGNQKNYLTWYQQKPGQPPKLLFYWTSTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYTSPYTFGQGTKLEIK

配列番号10:LiCh6のアミノ酸配列
DIVMTQSPDSLAVSLGERVTMNCKSSQSLLQSGNQKNYLTWYQQKPGQPPKLLFYWTSTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYTSPYTFGQGTKLEIK

配列番号11:LiCh7のアミノ酸配列
DIVMTQSPDSLAVSLGERVTMNCKSSQSLLSSGNQKNYLTWYQQKPGQPPKLLFYWTSTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYTSPYTFGQGTKLEIK

配列番号12:重鎖CDR-1のアミノ酸配列
GFTFSTNAMS

配列番号13:重鎖CDR-2のアミノ酸配列
RLRPKSDNYATY

配列番号14:重鎖CDR-3のアミノ酸配列
VTGTGF

配列番号15:軽鎖CDR-1のアミノ酸配列
KSSQSLLNSGNQKNYLT

配列番号16:軽鎖CDR-1Bのアミノ酸配列
KSSQSLLQSGNQKNYLT

配列番号17:軽鎖CDR-1Cのアミノ酸配列
KSSQSLLSSGNQKNYLT

配列番号18:軽鎖CDR-2のアミノ酸配列
WTSTRES

配列番号19:軽鎖CDR-3のアミノ酸配列
QNDYTSPYT
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
【配列表】
2023518228000001.app
【国際調査報告】