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特表2023-518248出血性梗塞後の梗塞拡大の予防および治療介入
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-28
(54)【発明の名称】出血性梗塞後の梗塞拡大の予防および治療介入
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230421BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/16 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/4412 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/4196 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20230421BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/10
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K38/02
A61K31/16
A61K31/4412
A61K31/4196
A61K31/122
A61K31/165
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555953
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-18
(86)【国際出願番号】 US2021023292
(87)【国際公開番号】W WO2021188984
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】62/992,832
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514135801
【氏名又は名称】シーダーズ-サイナイ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ダルマクマール ロハン
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045DA36
4C084AA02
4C084AA17
4C084AA20
4C084BA44
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC16
4C086BC60
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB21
4C206GA02
4C206GA13
4C206GA23
4C206GA30
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA36
4C206ZC75
(57)【要約】
心筋梗塞を有する対象の治療方法が提供され、本方法は、心筋梗塞の異なる段階で時間依存的鉄産物を選択的に標的とする段階を含む。心筋梗塞の急性期にはヘム形態の第一鉄が蓄積し、多くの場合はその後に梗塞の拡大が起こり、慢性期には結晶形態の第二鉄が優勢になることが見出された。第一鉄、ヘム、または第二鉄に特異的なキレート剤は、心筋細胞の保護、梗塞拡大の抑制、または心筋梗塞後の心臓リモデリングの改善において実証される。また、血行再建術または再灌流療法の前後に心筋トロポニンの血漿レベルを測定することによって心筋内出血の存在を判定するための方法も提供され、この方法を用いることで、出血を制御しかつ梗塞拡大を軽減するための治療的処置または介入方法を誘導することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋梗塞と診断された対象または心筋梗塞の症状を示す対象を治療する方法であって、心筋梗塞の急性期に、有効量の第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項2】
心筋梗塞の急性期の後に、有効量の第二鉄キレート剤を前記対象に投与する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤が、デクスラゾキサン、2,2-ビピリジル、ヒノキチオール、ヘモペキシン、ヘムオキシゲナーゼ-1、ハプトグロビン、アルブミン、フェリチン、α1-ミクログロブリン、α1-アンチトリプシン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、肝臓型脂肪酸結合タンパク質、ヘム結合タンパク質23(ペルオキシレドキシンとしても公知)、p22ヘム結合タンパク質、およびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、核因子E2関連因子2(Nrf2)、ネコ白血病ウイルスサブグループC受容体1a(FLVCR1a)、FLVCR2、およびATP結合カセットサブファミリーGメンバー2(ABCG2)、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第二鉄キレート剤が、デスフェリオキサミン、デフェリプロン、デフェラシロクス、ヒノキチオール、ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン、サリチルアルデヒドイソニコチノイルヒドラゾン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
急性期における投与とは、心筋梗塞の発症から3日以内であるか、または心筋梗塞内もしくはその近傍に第二鉄が存在しないという証拠によって特徴付けられ;心筋梗塞の発症直後;再灌流の前、再灌流の間、および/もしくは再灌流の直後;または出血の直後である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
急性期の後の第二鉄キレート剤の投与が、心筋梗塞の発症の3日目より後に行われるか、または心筋梗塞内もしくはその近傍に第二鉄が存在するという証拠によって特徴付けられる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が心筋梗塞内に心筋内出血を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記対象が、第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、ヘムを調節する薬剤、または第二鉄キレート剤を投与する前に再灌流を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤の投与が、再灌流の前である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
心筋梗塞の後に、または急性期において第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、もしくはヘムを調節する薬剤を投与する前に、再灌流を受けている対象を選択する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
心筋梗塞の後に、または急性期において第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、もしくはヘムを調節する薬剤を投与する前に、心筋内出血があった対象を選択する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤が、10~100μg、100~200μg、200~300μg、300~400μg、400~500μg、500~600μg、600~700μg、700~800μg、800~900μg、1~5mg、5~10mg、10~20mg、20~30mg、30~40mg、40~50mg、50~60mg、60~70mg、70~80mg、80~90mg、90~100mg、100~200mg、200~300mg、300~400mg、400mg~500mg、500mg~1g、または1g~10gで個別に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記投与が、経口経路、静脈内経路、冠動脈内経路によるものであるか、または第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、もしくはヘムを調節する薬剤が、前記対象の閉塞した冠動脈を再疎通させるように構成されたステント内に組み込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
第二鉄キレート剤が、1週間、2週間、3週間、4週間、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、またはそれ以上の期間にわたって投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
MIの急性期に、またはMIの急性期の後に、前記対象に抗炎症剤を投与する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
MIの急性期に、またはMIの急性期の後に、前記対象にコルヒチンを投与する段階をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
出血性心筋梗塞後に対象における梗塞サイズを最小化または縮小する方法であって、心筋梗塞の急性期に、有効量の第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、ヘムを調節する薬剤、またはこれらの組み合わせを投与する段階を含む、方法。
【請求項18】
第一鉄キレート剤が、デクスラゾキサン、2,2-ビピリジル、またはヒノキチオールを含み、ヘムに結合する薬剤またはヘムを調節する薬剤が、ヘモペキシン、ヘムオキシゲナーゼ-1、ハプトグロビン、アルブミン、フェリチン、α1-ミクログロブリン、α1-アンチトリプシン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、肝臓型脂肪酸結合タンパク質、ヘム結合タンパク質23(ペルオキシレドキシンとしても公知)、p22ヘム結合タンパク質、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、核因子E2関連因子2(Nrf2)、FLVCR1a、FLVCR2、ABCG2、またはこれらの組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
心筋梗塞の急性期の後に、有効量の第二鉄キレート剤を前記対象に投与する段階をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
第二鉄キレート剤が、デスフェリオキサミン、デフェリプロン、デフェラシロクス、またはこれらの組み合わせを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
心筋梗塞サイズを縮小し、かつ/または心筋梗塞サイズの拡大を抑制するための方法であって、それを必要とする対象において、
有効量の第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、ヘムを調節する薬剤、またはこれらの組み合わせを含む組成物を、心筋梗塞の急性期の間にまたは心筋梗塞の発症から3日以内に投与する段階;
冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法の前および後、または冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法後の2つ以上の時点において、該対象のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルを測定する段階;および
トロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法後30分~12時間以内に、冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法前の該対象における該レベルと比較して少なくとも3倍上昇する場合には、該対象の心内腔からの出血を制御する処置を該対象に施す段階;あるいは冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法後30分~12時間以内のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法前の該対象における該レベルと比較して高くないか、3倍未満である場合には、該対象に出血を制御する処置を施さない段階
を含む、方法。
【請求項22】
前記対象がST上昇型心筋梗塞を有する対象である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が、再灌流療法を必要としている対象、または再灌流療法を受けたことのある対象である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、心筋内出血を発症するリスクのある対象である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法後30分~12時間以内のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法前の該レベルよりも少なくとも7倍、6倍、5倍、4倍、または3倍高い前記対象が、心筋内出血を有すると判定する段階
をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
心筋梗塞の慢性期または心筋梗塞の症状発現から3日目より後に、有効量の第二鉄キレート剤を前記対象に投与する段階をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記対象がヒト対象である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
再灌流療法を受けているかまたは受けたことのある対象における、出血性心筋梗塞の存在を判定するための方法であって、
再灌流療法後に経時的にヒト対象の生物学的サンプルからトロポニンのレベルを測定する段階を含み、
トロポニンのレベルが再灌流療法後18時間以内にピークに達するか、トロポニンのレベルが再灌流療法前のレベルと比較して再灌流療法後18時間以内に少なくとも1.5ng/mL増加するか、またはトロポニンのレベルが再灌流療法後12時間以内に少なくとも0.4ng/mL/時の速度で増加する、
方法。
【請求項29】
対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減するための方法であって、
心筋梗塞の急性期に、有効量の第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤を該対象に投与し、任意で、急性期の後に有効量の第二鉄キレート剤を該対象にさらに投与する段階を含み、
該対象が、再灌流療法を受けた後18時間以内にトロポニンの血中レベルがピークに達すると判定されたか、または再灌流療法前のレベルと比較して、再灌流療法後18時間以内にトロポニンの血中レベルが少なくとも1.5ng/mL以上増加すると判定されたか、または再灌流療法後12時間以内に少なくとも0.4ng/mL/時の速度でトロポニンのレベルが上昇すると判定されている、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月20日に出願された米国仮特許出願第62/992,832号に対する35 U.S.C. §119(e)に基づく優先権の主張を含むものであり、その全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府が支援する研究または開発に関する声明
本発明は、米国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって授与された助成金番号HL133407およびHL147133の下で政府の支援を受けて行われたものである。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、心筋梗塞の治療介入および/または梗塞拡大の予防のための、いくつかの態様では梗塞を伴う心筋内出血後の、標的治療薬に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
本明細書中の全ての刊行物は、個々の刊行物または特許出願が参照により組み入れられることが具体的かつ個別に示されている場合と同程度に、参照により組み入れられる。以下の説明には、本発明を理解する上で有用であり得る情報が含まれている。それは、本明細書に提供される情報のいずれかが先行技術である、または特許請求された本発明に関連すること、あるいは具体的または暗黙的に参照される刊行物が先行技術であることの承認ではない。
【0005】
再灌流療法、特に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は、急性心筋梗塞(MI)による即死から患者を救う上で重要な手段となっている。閉塞した心外膜冠動脈への血流回復(再灌流)により、急性心筋梗塞(MI)による即死が減ってきている。しかし、PCIが急性MIの治療の主流になって以来、同じ時期に、MI後の心不全の発生が広がってきている。再灌流MI後の心臓の機能回復は様々であり、心不全に向かって加速する心臓もあれば、そうでない心臓もある。非侵襲的イメージングは、再灌流を受けた出血性MIの患者を、広範かつ有害なLVリモデリングと心不全のリスクが最も高い患者として特定するのに役立っている。疾病管理センターの報告によれば、米国では慢性心不全(CHF)が原因で年間30万人より多くが死亡している。こうした患者の最後の頼みの綱は心臓移植であるが、移植はドナー心臓の入手可能性、適格性、および費用の面で制約を受ける。MIのサイズはCHFの長年にわたって確立された予測因子であり、最近のイメージングの進歩により、MIに対する再灌流療法の結果として起こりうる出血は、主要有害心血管イベント(MACE)の主な予測因子であることが示されている。いくつかの研究では、出血性MIの患者は、出血のない患者に比べ、MACEのリスクが2倍よりも高いことが示されている。しかし、どのような理由で出血性MIが心不全を発症するリスクが最も高いのかは不明であった。
【0006】
出血性(MI)は冠動脈の再灌流後によく見られる。心筋内出血(IMH)は、急性MI(AMI)の血行再建術に成功した患者のほぼ半数に認められると推定される。出血性AMIは、IMHのないAMIと比較して、その後のMIの慢性期における有害なLVリモデリングと予後不良に関連している。心臓では、過去の研究により、大規模な再灌流MIは出血を伴うことが多く、急性期の再灌流障害は酸化ストレスを引き起こし、最終的には心筋細胞死をもたらすことが分かっている。
【0007】
本発明は、出血性MIゾーンの時間依存的変化を検討し、LVリモデリングにおける出血性MIの相関的または因果的役割を特定し、かつ出血性梗塞後の梗塞拡大を抑制するための治療薬および投薬計画を提供するものである。
【発明の概要】
【0008】
以下の態様およびその局面は、組成物および方法との関連で記載および説明されており、例示的および説明的であることを意図しており、範囲を限定するものではない。
【0009】
心筋梗塞と診断された、または心筋梗塞の症状を示している対象を、急性期からの梗塞サイズを縮小することによって治療する方法が提供され、この方法は、心筋梗塞の急性期に、有効量の第一鉄キレート剤(ferrous iron chelator)、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤を該対象に投与することを含む。心筋梗塞の症状を治療し、かつ/または心筋リモデリングを改善する方法のさらなる態様が提供され、この方法は、心筋梗塞の急性期に、有効量の第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤を該対象に投与し、かつ心筋梗塞の慢性期に、有効量の第二鉄キレート剤(ferric iron chelator)を該対象に投与することを含む。
【0010】
いくつかの態様では、前記対象は心筋梗塞に伴う心筋内出血を有し、該対象は、梗塞の急性期に、第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、ヘムを調節する薬剤、または第二鉄キレート剤の投与のために選択される。いくつかの態様では、該対象は、第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、ヘムを調節する薬剤、または第二鉄キレート剤の投与前に再灌流を受けている。さらなる態様では、第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤の投与は、再灌流の前;再灌流中;再灌流の後;梗塞の急性期のうちの再灌流の前後;または再灌流中を含む組み合わせである。さらなる態様は、有効量の第一鉄キレート剤、またはヘムに結合もしくはヘムを調節する薬剤を対象に投与することを提供し、ここで、該対象は心筋梗塞の発症からせいぜい約3日しか経っていない。
【0011】
様々な態様では、心筋梗塞の急性期は心筋梗塞の発症から約3日以内であることが示される。様々な態様では、心筋梗塞内またはその近傍に第二鉄が存在しない場合に、第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤を投与することが示される。
【0012】
様々な態様では、回復期は急性期の後であり、それゆえ梗塞発症の3日後に始まることが示される。いくつかの態様では、慢性期は急性期の後に始まり、心筋梗塞内またはその近傍に第二鉄が存在するという証拠によって特徴付けることができる。いくつかの態様では、慢性心筋梗塞は、2、3、4、5、6ヶ月、1年、またはそれ以上にわたる。
【0013】
例示的な第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤、または心筋梗塞の急性期に投与するのに適した薬剤としては、デクスラゾキサン(ICRF-187)、2,2-ビピリジル、ヘモペキシン、ヘムオキシゲナーゼ、ヒノキチオールが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なヘム結合剤には、ハプトグロビン、アルブミン、フェリチン、α1-ミクログロブリン、α1-アンチトリプシン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、肝臓型脂肪酸結合タンパク質、ヘム結合タンパク質23(ペルオキシレドキシンともいう)、p22ヘム結合タンパク質、およびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼが含まれる。例示的なヘムを調節する薬剤は、(a)ヘム分解タンパク質、例えば、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)、核因子E2関連因子2(Nrf2)など;または(b)ヘム結合タンパク質もしくはヘム分解タンパク質の量を増加する因子、例えば、ネコ白血病ウイルスサブグループC受容体1a(FLVCR1a)、FLVCR2、ATP結合カセットサブファミリーGメンバー2(ABCG2)などである。
【0014】
例示的な第二鉄キレート剤としては、デスフェリオキサミン(デフェロキサミンともいう)、デフェリプロン、デフェラシロクス、ヒノキチオール、ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン、サリチルアルデヒドイソニコチノイルヒドラゾン、エキソケリン類(デスフェリ-エキソケリン類を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。デスフェリ-エキソケリン類は6座の分子であって、鉄と1対1の結合関係を形成することにより、フリーラジカル反応を防止する;一方、デフェリプロンは2座分子であり、デフェラシロクスは3座分子である。
【0015】
前記方法のさらなる態様は、出血性梗塞を有する対象に、1つまたは複数の抗炎症剤を急性期および/または慢性期に投与することを含む。例示的な抗炎症剤はコルヒチンである。
【0016】
いくつかの態様では、それを必要とする対象を治療する前記方法は、心筋梗塞の急性期にあり、任意で再灌流を受けた、または再灌流による治療を受ける予定の対象を選択し、続いて、急性期に第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤を投与し、任意でその後慢性期に第二鉄キレート剤を投与することを含む。
【0017】
他の態様では、それを必要とする対象を治療する前記方法は、急性心筋梗塞の間に心筋内出血を有する対象を選択し、急性期に第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤を投与し、任意でその後慢性期に第二鉄キレート剤を、いくつかの態様では抗炎症剤と併用して、投与することを含む。
【0018】
心筋梗塞と診断された、または心筋梗塞の症状を示している対象を、梗塞拡大を防止または抑制することによって治療する方法が提供され、この方法は、心筋梗塞の急性期(または発症から3日以内)に有効量の第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤を投与することを含む。この方法のさらなる態様では、有効量の第二鉄キレート剤を心筋梗塞の慢性期にさらに投与する。
【0019】
一局面では、前記方法における対象は、再灌流出血を経験している。別の局面では、前記方法における対象は、梗塞拡大を経験したか、または梗塞拡大を受けつつある。さらに別の局面では、前記方法における対象は、出血性梗塞に続いて梗塞拡大を受けつつある。さらなる態様では、該対象は、急性心筋梗塞後に心筋内出血を有する。
【0020】
また、心筋梗塞サイズを縮小し、かつ/または心筋梗塞サイズの拡大を抑制する方法も提供され、この方法は、それを必要とする対象において、有効量の第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、ヘムを調節する薬剤、またはこれらの組み合わせを含む組成物を、急性期または心筋梗塞の発症から3日以内に投与する段階;冠動脈血行再建術(coronary re-vascularization)もしくは再灌流療法の前後、または冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法後の2つ以上の時点において、該対象のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルを測定する段階;およびトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法後18時間以内に急速かつ急激に上昇するか、またはこの18時間以内に再灌流前のベースラインレベルよりも少なくとも1.5ng/mL増加するか、または再灌流後12時間以内に少なくとも0.4ng/mL/時の速度で上昇する場合に、該対象の心内腔(cardiac chamber)からの出血を制御する処置を該対象に施す段階を含む。
【0021】
また、対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減する方法も提供され、この方法は、心筋梗塞の急性期に、有効量の第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤を該対象に投与し、任意で、急性期の後に有効量の第二鉄キレート剤を該対象にさらに投与する段階を含み、該対象は、再灌流療法を受けた後18時間以内にトロポニンの血中レベルがピークに達すると判定されたか、または再灌流療法前のレベルと比較して、再灌流療法後18時間以内にトロポニンの血中レベルが少なくとも1.5ng/mL増加すると判定されたか、または再灌流療法後12時間以内に少なくとも0.4ng/mL/時の速度でトロポニンのレベルが上昇すると判定されたものである。
【0022】
本発明の他の特徴および利点は、本発明の態様の様々な特徴を例として示す添付の図面と併せて、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
例示的な態様が参考図に示される。本明細書に開示された態様および図は、制限的ではなく、例示的であるとみなされることが意図される。
図1図1は、動物群、心臓MRIの時点、安楽死、組織検査についての実施例5における研究タイムラインを詳細に示すフローチャートである。左側が観察研究の詳細であり、右側が治療介入研究の詳細である。
図2A図2Aおよび2Bは、MIの初期および後期慢性期における脂肪腫性化生が、MIの急性期における鉄濃度に依存することを示す。図2Aは、D3、Wk8およびM6での遠隔領域に対する、出血領域(IMH+)と非出血領域(IMH-)におけるR2*およびプロトン密度脂肪率(PDFF)の平均値を示す棒グラフである。IMH+の相対R2*は、IMH-のR2*よりも高く、D3とM6の間で変化しなかった。しかし、同時期に、相対PDFFはIMHのあるMIでは時間と共に増加したが、これはIMHのないMIでは明らかでなかった。図2Bは、D3、Wk8およびM6で測定された、相対PDFFと相対R2*の関係を示す散布図である。線形回帰分析からの結果を差し込み凡例に示す。D3(相対R2*=2での最低ライン;y=0.32+0.86×x)、Wk8(2に近い相対R2*での中間ライン;y=-1.42+2.52×x)、およびM6(相対R2*=2での最高ライン;y=-2.94+3.74×x)における相対PDFFと相対R2*の間の回帰分析からのベストフィットのラインが示される。(*)は、非MI(後壁)領域における周知のオフレゾナンスアーティファクト(off-resonance artifact)を表す。
図2B図2Aの説明を参照のこと。
図2C図2Cは、MI後3日目(D3)、8週目(Wk8)および6ヶ月目(M6)の動物からの代表的な、生および加工済みの、短軸遅延ガドリニウム造影(MIゾーンを示す)、R2*(鉄濃度を示す)およびPDFF(脂肪率を示す)の、図2Aおよび2Bに関連する、心臓MRI画像を示す。
図2D図2Dおよび2Eは、MIの初期慢性期における脂肪腫性化生が出血性MIに特有であり、鉄と脂質残滓の合流点でのみ観察されることを示す。図2Dは、心内膜下層(sub-endocardium)の梗塞周囲ゾーンからエラスチン改変マッソン・トリクローム(elastin-modified Masson's trichrome:EMT)(左側の列)、H&E(中央の列)、およびプルシアンブルー(PB)(右側の列)で染色された8週間の出血性MIからの連続パラフィン切片の顕微鏡画像を示す;ここで、上段の画像にαとβで表示されるズームインした領域は、同じ列の中段と下段の画像に示される。ズームインした領域は、上段の各画像に点線で囲まれた長方形により示される。個々の泡沫細胞(foam cell)は、出血性MIの梗塞周囲と境界域にのみ観察され、残留鉄沈着物と排他的に共局在していた。図2Dの画像のスケールバーは500μmである。図2Eは、EMT、H&E、オイルレッドO(ORO)およびPB染料で染色された8週間の出血性MIからの連続凍結切片を示す。上段は、泡沫細胞が鉄沈着物(PB染色領域)と脂質沈着物(ORO領域)の合流点でのみ観察されたことを示す。対照的に、鉄+/脂質-領域(中段)ならびに鉄-/脂質+領域(下段)はLMを示さなかった。図2Eの画像のスケールバーは100μmに等しい。
図2E図2Dの説明を参照のこと。
図2F図2Fおよび2Gは、MIの初期慢性期における脂肪腫性化生が出血性梗塞に特有であり、鉄と脂質の合流点でのみ観察されることを示す。図2Fは、心内膜下層(上2段)および心筋中層(midmyocardium)(下2段)の梗塞周囲ゾーンからエラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)(左の列)、H&E(中央の列)およびプルシアンブルー(PB)(右の列)で染色された8週間の出血性MIからの連続パラフィン切片の顕微鏡画像を示す;スケールバー=500μm。個々の泡沫細胞は、出血性MIの梗塞周囲と境界域にのみ観察され、残留鉄沈着物と排他的に共局在していた。図2Gは、オイルレッドO(ORO)およびPB染料で染色された8週間の出血性MIからの連続凍結切片の顕微鏡画像を示す;スケールバー=100μm。泡沫細胞は鉄沈着物(PB染色領域)と脂質沈着物(ORO領域)の合流点でのみ観察された。このことは、再灌流出血からのごく微量の鉄沈着物でも、壊死性心筋からの脂質残滓と接触すれば、LMのリスクを伴うことを示している。
図2G図2Fの説明を参照のこと。
図2H図2Hは、非出血性MIの初期慢性期に泡沫細胞と脂肪腫性化生がないことが、MIの急性期に再灌流出血がないことと関連していることを示す。左側の列では、8週間の非出血性MIからの連続パラフィン切片をエラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)、H&Eおよびプルシアンブルー(PB)で染色した;スケールバー=500μm。非出血性MIは、慢性MIの初期段階において、鉄と泡沫細胞について一貫して陰性であった。右側の列では、泡沫細胞陰性の瘢痕は、連続凍結切片においてORO染色された脂質残滓の痕跡を一貫して示していた;スケールバー=100μm。このデータは、脂質過酸化、泡沫細胞形成、LMおよび有害な心室リモデリングの引き金となる鉄沈着物の重要な役割を示している。
図2I図2Iは、出血性MIの初期慢性期における泡沫細胞の形成が、鉄に富んだMIゾーンにおけるセロイド脂肪色素(ceroid lipopigment)の高度に限局された沈着を伴っていることを示す。8週間の出血性MIの組織学的評価(上段)および共焦点顕微鏡による評価(中段と下段)を示す。MI後8週間の梗塞した内膜下心筋の連続パラフィン切片をエラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)、H&Eおよびプルシアンブルー(PB)で染色した。点線のボックス/長方形(2段目の画像)は、ズームインした領域(3段目の画像)として示される。図2Dおよび2Eと一致して、脂肪(泡沫細胞)および持続する鉄沈着物が広範囲に共局在している。セロイドの証拠は、共焦点顕微鏡によりPBで染色された切片の自家蛍光に基づいて判定され、パネルPB-1に励起波長405nm、発光波長428~496nmで示される。パネルPB-2は、PB-1の微分干渉コントラスト(DIC)を表す。パネルPB-3は、PB-1の自家蛍光とDIC(PB-2)のオーバーレイ(overlay)を示す。セロイドは鉄沈着物および泡沫細胞と広範囲に共局在している。スケールバーは100μmに等しい。
図2J図2Jは、脂肪腫性化生を受けている鉄に富んだ瘢痕領域には、慢性出血性MIの初期段階で、恒常的なマクロファージ侵入、M1マクロファージ分極化、泡沫細胞形成、および「デスゾーン」(death zone)の拡大が見られることを示す。8週間の出血性MIからの代表的な連続パラフィン組織切片を、エラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)染色、H&E、プルシアンブルー(PB)、ならびに抗Cleaved Caspase 3(CC3)、抗MAC387、抗E06、抗IL-1β、抗TNF-α、抗MMP-9、抗CD163、抗CD36、および抗GLUT-1抗体で染色した。セロイドの自家蛍光を、PB染料とE06抗体で染色された切片において調べた。(PB-1およびE06-1)励起波長:405nm、発光波長:428~496nm。(PB-2およびE06-2)微分干渉コントラスト(DIC)。(PB-3およびE06-3)オーバーレイ。セロイドは鉄沈着物(PB)および泡沫細胞と広範囲に共局在している。抗CC3抗体による陽性の免疫組織化学(IHC)染色により、シデロファージ由来の泡沫細胞(矢印)の進行中のアポトーシスが確認された。MAC387抗体による陽性のIHC染色は、アポトーシスを起こしたシデロファージ由来のセロイドに富んだ泡沫細胞を含む領域に、新しいマクロファージが恒常的に動員されていることを示している。また、泡沫細胞に富んだ領域には、セロイドがE06染色された酸化リン脂質(E06)と広範囲に共局在している。炎症性マクロファージマーカー(IL1-β、TNF-α、MMP-9)の陽性染色は、セロイドに富んだ領域内のシデロファージが優先的に炎症性M1表現型に分極化することを示している。LMを受けている鉄に富んだ領域でのCD163陽性染色は、鉄によるマクロファージの恒常的な誘導と、シデロファージから泡沫細胞への変換を示している。CD36抗体による強烈な染色により、泡沫細胞の存在が確認された。泡沫細胞変換を受けているマクロファージにおける解糖系M1マクロファージの表現型は、GLUT-1に対する強い免疫反応によっても実証された。スケールバーは50μmに等しい。
図2K図2Kは、慢性出血性MIの初期段階に脂肪腫性化生を受けている瘢痕組織の鉄を含んだ領域へのマスト細胞のホーミングを示す。8週間の出血性MIからの代表的な連続組織切片を、エラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)染色、H&E、プルシアンブルー(PB)、トルイジンブルー(TB)、ならびに抗Cleaved Caspase 3(CC3)、抗MAC387、抗E06、抗IL-1β、抗TNF-α、抗MMP-9、抗CD163、抗CD36、および抗GLUT-1抗体で染色した。鉄沈着物(PB)と泡沫細胞が広範囲に共局在していることに留意されたい。抗CC3抗体による陽性の免疫組織化学(IHC)染色により、シデロファージ由来の泡沫細胞(矢印)の進行中のアポトーシスが確認された。MAC387抗体によるIHC染色は、アポトーシスを起こしたシデロファージ由来のセロイドに富んだ泡沫細胞を含む領域に、新しいマクロファージが恒常的に動員されていることを示している。泡沫細胞変換を受けているマクロファージにおける解糖系M1マクロファージの表現型は、GLUT-1および他の炎症性マクロファージマーカー(IL1-β、TNF-α、MMP-9)に対する強い免疫反応によって実証された;このことは、セロイドに富んだ領域内のシデロファージが、炎症性M1表現型に優先的に分極化することを示している。LMを受けている鉄に富んだ領域でのCD163陽性染色は、鉄によるマクロファージの恒常的な誘導と、シデロファージから泡沫細胞への変換を示している。CD36抗体による強い染色により、泡沫細胞の存在が確認された。また、シデロファージに富んだ領域では、E06染色された酸化リン脂質(E06)が泡沫細胞と広範囲に共局在していることにも留意されたい。抗CC3抗体による陽性のIHC染色により、シデロファージ由来の泡沫細胞(矢印)の進行中のアポトーシスが確認された。LMを受けている瘢痕領域近傍の鉄に富んだ領域とシデロファージに富んだ領域は、TB染色によって明らかなように、マスト細胞のホーミングおよび脱顆粒が増加していたことに留意されたい。TB1~6の個々の脱顆粒したマスト細胞に注目されたい。スケールバーは50μmに等しい。
図2L図2Lおよび2Mは、MIの後期慢性期における脂肪腫性化生が出血性梗塞に特有であることを示す。図2Lは、エラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)、H&E、およびプルシアンブルー(PB)で染色された発症後6ヶ月の出血性MIからの連続パラフィン切片を示す;スケールバー=500μm。通常は瘢痕組織をその内部コア(ゾーンα)で貫通する、より大きな脂肪沈着物が観察された。注目すべきは、これらの大きな泡沫細胞クラスターは通常、脂肪貯蔵層周辺に沿って鉄沈着物と共局在していたが、成長しつつある脂肪組織のコアが微量の鉄沈着物を含んでいた(ゾーンβ、矢印)ことである。図2Mは、H&E、EMT、オイルレッドO(ORO)、およびPBで染色された発症後6ヶ月の出血性MIを有するイヌからの連続凍結切片を示す;スケールバー=100μm。留意すべき点は、出血性瘢痕の内部コアを貫通する脂肪貯蔵層に鉄沈着物と泡沫細胞が広範囲に共局在していることである。
図2M図2Lの説明を参照のこと。
図2N図2Nおよび2Oは、再灌流出血由来の鉄沈着が、MI後の瘢痕の後期慢性期に脂肪腫性化生のリスクを抱えていることを示す。図2Nは、エラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)、H&E、およびプルシアンブルー(PB)で染色された発症後6ヶ月の出血性MIからの、心内膜下領域を表す、連続パラフィン切片を示す;スケールバー=500μm。個々の泡沫細胞は梗塞周囲と境界域にのみ観察され、慢性鉄沈着物と排他的に共局在していた。図2Oは、上2段に、エラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)、H&E、およびプルシアンブルー(PB)で染色された発症後6ヶ月の出血性MIの、心筋中層領域を表す、連続パラフィン切片を示す;スケールバー=500μm。より大きな脂肪貯蔵層は通常、瘢痕組織をその内部コアで貫通していた。これらの大きな泡沫細胞クラスターは通常、脂肪貯蔵層周辺に沿って鉄沈着物と共局在していたが、成長しつつある脂肪組織のコアが微量の鉄沈着物を含んでいた。図2Oは、下2段に、オイルレッドO(ORO)およびPBで染色された発症後6ヶ月の出血性MIを有するイヌからの連続凍結切片を示す;スケールバー=50μm。個々の泡沫細胞は、壊死性心筋からの鉄沈着物と脂質残滓の合流点にのみ出現した。これは、再灌流出血からの微量の鉄沈着物でも、壊死性心筋からの脂質残滓と接触すれば、古い出血瘢痕にLMのリスクを抱えているという考えを支持している。
図2O図2Nの説明を参照のこと。
図2P図2Pは、出血性MIの後期慢性期における脂肪腫性化生が、鉄沈着物と脂質残滓を含む瘢痕領域に特有であることを示す。最初の2段は、H&E、エラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)、オイルレッドO(ORO)、およびプルシアンブルー(PB)で染色された発症後6ヶ月の出血性MIからの連続凍結切片を示す;スケールバー=500μm。心内膜下層の梗塞周囲ゾーンは点線の長方形で表示される。鉄沈着物と脂肪のミニクラスターが広範囲に共局在している。一方、鉄を含まないが脂質を含む領域(3段目と4段目)、および鉄を含むが脂質を含まない領域(最後の1段)はLMを示さなかった;スケールバー=100μm。重要な点として、最後の段の画像は、LMが起こるためには、鉄沈着物と脂質残滓がすぐ近くになければならないことを示している。脂質が鉄残滓の「すぐ近く」にあるという事実にもかかわらず(しかし、鉄残滓に接触していない)、鉄を含むこの領域に泡沫細胞/LMが存在しないことに注目されたい。
図2Q図2Qは、脂肪腫性化生が非出血性MIの後期慢性期にも見られないことを示す。左側の列には、エラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)、H&E、およびプルシアンブルー(PB)で染色された発症後6ヶ月の非出血性MIからの連続パラフィン切片が示される;スケールバー=500μm。古い非出血性MIは、鉄、泡沫細胞、および脂肪腫性化生について一貫して陰性であった。右側の列では、泡沫細胞陰性およびLM陰性の瘢痕は、古い瘢痕内の連続凍結切片に微量のORO染色された脂質残滓を一貫して示した(スケールバー=100μm);これは、梗塞心筋の脂肪腫性化生および脂肪変性を推進する上で鉄が重要な役割を果たすことを示している。
図2R図2Rは、発症後6ヶ月の出血性瘢痕内のシデロファージ由来の泡沫細胞の形成が、セロイドの細胞内蓄積を伴っていることを示す。マクロファージ細胞(1段目、左の画像)のTEM画像が示され、それはFeと脂質の顆粒を含んでいる(1段目、中央の画像)。その領域内の鉄分布の元素マップを1段目の右側の画像に示す。該細胞の脂質および鉄の領域から収集された典型的なEDSスペクトルが2つのスペクトルに示される。細胞内のセロイドはリング構造のクラスターとして観察された。電子密度の高い沈殿物がこれらのリング内に形成され、可視化された。これらの電子密度の高い沈殿物が鉄を含むことを確認するために、切片を電子密度分光法(EDS)で分析したところ、電子密度の高い沈殿物を含む部位に強い鉄のピークがあることが示された。さらに、パネルeで明らかなように、マクロファージ内のこれらの鉄沈殿物は、該細胞の広範囲の脂質に富む領域と高度に共局在していた。非出血性MIゾーンでは、TEM画像およびEDSスペクトル解析に基づいて、鉄球および脂質球が検出されなかった。
図2S図2Sは、シデロファージがM1からM2表現型に切り替われないことが、出血性MIの後期慢性期における泡沫細胞形成および脂肪腫性化生と一致していることを示す。H&E、エラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)、プルシアンブルー(PB)、トルイジンブルー(TB)、ならびに抗MAC387、抗E06、抗Cleaved Caspase 3(CC3)、抗CD36、抗CD163、抗MMP-9、抗TNF-α、および抗IL-1β抗体で染色された発症後6ヶ月の出血性MIからの代表的な連続パラフィン組織切片が示される。持続的な鉄沈着物は、古い出血性瘢痕内の脂肪貯蔵層と共局在していた。慢性MIの初期段階で観察されたように、LMを受けている鉄を含んだ領域におけるマスト細胞のホーミングの増加(TB、矢印)は、MIの後期慢性期にも見られた。TB1~4における個々の脱顆粒したマスト細胞に注目されたい。「鉄-マスト細胞-マクロファージ-脂肪領域」での酸化リン脂質の生成の増加は、強いE06染色によって証明された。抗CC3抗体による陽性の免疫組織化学的染色により、シデロファージ由来の泡沫細胞(矢印)の進行中のアポトーシスが確認された。新しいマクロファージ(MAC387+)が、LMを受けているE06+領域に持続的に動員された。泡沫細胞変換を受けているマクロファージに解糖系表現型が保持されていることは、GLUT-1に対する強い免疫反応によって確認された。「鉄-マスト細胞領域」内の脂肪貯蔵層は、CD36陽性に染色されて、マクロファージ由来の泡沫細胞の形成を示している。CD36-AおよびBにおける個々の泡沫細胞に留意されたい。CD163陽性マクロファージは泡沫細胞と共局在しており、鉄により誘導されたマクロファージから泡沫細胞への変換を示している。「鉄-マスト細胞-マクロファージ-脂肪領域」でのMMP-9、TNF-αおよびIL-1βの陽性染色は、出血性梗塞がマスト細胞を介した長期の炎症反応をもたらし、その結果としてMI後の瘢痕の脂肪変性に至らせることを示している。スケールバーは50μmに等しい。
図3A図3A~3Cは、MI後の期間におけるデフェリプロンによる残留鉄の減少が、出血性MIのイヌモデルにおける脂肪腫性化生の抑制を伴っていることを示す。図3Aは、DFP処置を受けたおよび該処置を受けなかった出血性MIを有する動物における、Wk8およびM6でのR2*に基づく残留鉄濃度(D3で得られた値に対して正規化)を示す棒グラフである。Wk8およびM6での残留鉄が、未処置群と比べて、処置群では著しく減少していることに留意されたい。図3Bは、DFP処置を受けたおよび該処置を受けなかった出血性MIを有する動物における、Wk8およびM6でのPDFFに基づく脂肪浸潤の程度(D3で得られた値に対して正規化)を示す棒グラフである。Wk8およびM6での脂肪含量が、未処置群と比べて、処置群では著しく減少していることに留意されたい。図3Cは、MI後3日目(D3)、8週目(Wk8)および6ヶ月目(M6)に取得された、出血性MIを有しかつDFP処置を受けているある動物(DFP+/IMH+)および出血性MIを有するがDFP処置を受けていない別の動物(DFP-/IMH+)からの代表的な、生および加工済みの、短軸遅延ガドリニウム造影(MIゾーンを示す)、R2*(鉄濃度を示す)およびPDFF(脂肪濃度を示す)の心臓MRI画像を示す。Wk8およびM6での処置動物の梗塞ゾーン内のR2*が、D3と比べて減少していることに留意されたい。未処置動物では、R2*はD3に上昇し、Wk8とM6で上昇したままであった。また、DFP処置動物では、Wk8およびM6に、MIゾーン内の脂肪の浸潤が未処置動物と比べて目に見えるほどに減少していることに留意されたい。(*)は、非梗塞(後壁)領域における周知のオフレゾナンスアーティファクトを表す。
図3B図3Aの説明を参照のこと。
図3C図3Aの説明を参照のこと。
図4-1】図4A~4Fは、経口投与されたデフェリプロンが、出血性MIのイヌモデルにおいて構造的LVリモデリングを有意に改善することを示す。3日目(D3)、8週目(Wk8)、および6ヶ月目(M6)での、処置動物(DFP+/IMH+)と未処置動物(DFP-/IMH+)(3日目にLGEおよびR2*心臓MRIで測定したMIサイズと鉄濃度が一致した)における遠隔領域、MI領域および複合リモデリング(梗塞/遠隔壁厚の比率として指標化)の拡張期壁厚の変化に基づく構造的リモデリングが示される。図4A、4Cおよび4Eは、各時点での拡張期壁厚の絶対値を示す。図4B、4Dおよび4Fは、D3からWk8まで(DFP+/IMH+群がDFP処置を受けたが、DFP-/IMH+群が受けなかった期間)、Wk8からM6まで(DFP+/IMH+群もDFP-/IMH+群もDFP処置を受けなかった期間)、およびD3からM6まで(試験期間全体)の構造指標の変化率を示す。DFP処置動物は、未処置対照と比較して、正の構造的リモデリングを実証した。
図4-2】図4G~4Lは、経口投与されたデフェリプロンが、出血性MIのイヌモデルにおいて機能的LVリモデリングを有意に改善することを示す。同じ時間間隔にわたる同じ動物におけるピーク円周方向ストレイン(circumferential strain)、収縮末期容積、およびLV駆出率の変化に基づいた、対応する機能的LVリモデリングが示される。参照用にベースラインデータ(BL、MI前に取得)が示される。構造的(図4A~4F)および機能的(図4G~4L)の両LVリモデリングとも、心不全に向けて有害なリモデリングを示すDFP-/IMH+群と比較して、DFP+/IMH+群においてより有益であることを示す。*はp<0.05、**はp<0.005を表す。
図5図5は、再灌流された急性MIのタイプ、出血を伴うMIの割合、および関連するMACEリスクの模式図である。筋細胞の死は、心内膜下層から、虚血時間の増加に伴って傷害の「波」として進行する。異なるMIタイプの主な特徴は以下の通りである:タイプ1:初期、筋細胞傷害のみを伴う再灌流;タイプ2:軽度のMOを伴う筋細胞傷害;タイプ3:後期MO(late MO)を伴う筋細胞傷害。ゾーンA:筋細胞傷害のみ;ゾーンB:筋細胞傷害と軽度のMO(やや遅い血流);ゾーンC:筋細胞傷害と後期MO(血流なし)。出血はゾーンCでその時期の約75%に発生する。hMIは、全てのMIタイプの中で最大の6ヶ月MACEリスク(16%対7%)を有する。
図6図6は、MI後の超急性期、急性期、亜急性期、および慢性期における出血の時間依存的変化と心臓へのその影響を示す模式図である。超急性期(数時間):初期MIゾーン(薄い円で囲った部分)は、IMHのゾーン(太い円で囲った部分)の領域とほぼ同じである;急性期(数日間):MIゾーンでの過剰なヘムによるROS活性の増大→フェロトーシス(ferroptosis)、すなわち梗塞拡大;亜急性期(1~2週間):ミトコンドリア内でのフェントン反応(FR)を介したFe2+→Fe3+への移行、FRの最終産物としてFe3+(細胞外);慢性期(数ヶ月間):有害なLVリモデリングにつながる持続的な炎症性負荷。
図7図7は、MI内の出血による急性損傷が、MIゾーンにおける心筋細胞のフェロトーシス媒介細胞死およびFe3+蓄積を介して梗塞拡大をもたらすことを示す模式図である。ボックス内は、出血が、I~IVを含む、心筋細胞のフェロトーシス媒介細胞死を引き起こすことを示す。I. ヘムの蓄積:赤血球の溶解によるヘムの放出、心筋細胞によるヘムの取込み、およびヘムの分解によるFe2+の放出;II. 過剰なROS:フェントン反応によりROSが発生する;III. ミトコンドリアの損傷:ROSとミトコンドリア膜との連鎖反応;IV. 心筋細胞死:Fe3+の放出。続いて48~72時間後に、梗塞がリスク領域を越えて拡大する。
図8図8は、EDTAではなく、遅延型DFPで処置した後のLVリモデリングの低減を示す。MI後に遅延型DFP処置を受けたhMIラット(DFP+)は、EDTAまたはPBSと比較して、構造的、組成的および炎症性リモデリングが低減していた。総短軸固定切片は、DFP処置ラットと比較して、PBSおよびEDTA処置ラットにおいてMI切片の著しい菲薄化、LV拡張を示す。ラットから得られた短軸(SAx)および長軸(LAx)T*2-CMRでは、EDTAまたはPBSを受け取った対応する対照と比較して、鉄沈着物およびLVリモデリングが低減された(より厚い壁;LV拡張の低減)。マッソン・トリクローム(EMT)により、瘢痕領域と遠隔領域の壁厚のCMR所見が確認された。プルシアンブルー(PB)により、DFP+ラットは、EDTAおよびPBS処置ラットに比べて、MIゾーンの鉄がかなり少ないことが確認された。組織化学的切片(EMT)では、瘢痕内の炎症誘発性マーカー(IL-1β、TNF-α、MMP9)の減少が示された。
図9図9は、実施例3-1および3-2の処置プロトコルをまとめたものである。ラットは90分I/Rプロトコルを受ける;再灌流後1時間未満でhMIをCMRで確認する。予防アーム(タスク1):プラセボ処置(グループ1);特定のICT(グループ2~4);ヘモペキシン(Hx、グループ5)。抑制アーム(タスク2):遅延処置(例えば、実施例2で決定された最も早い開始時点)-プラセボ処置(グループ6);特定のICT(グループ7~8);ヘモペキシン(Hx;グループ9)。ラットをCMRで追跡し、8週目に組織検査のため犠牲にする。処置の時間窓:(1)予防アーム:最初のCMRの直後(再灌流後1時間未満)に第一鉄キレート剤(DXZ)を用いて、かつAim 2で確認された鉄結晶化の最も早い時点で第二鉄キレート剤(DFP)を用いてまたは用いないで開始する。(2)抑制アーム:Aim 2で確認された鉄結晶化の最も早い時点で開始する。頭字語:心臓MRI(CMR);鉄キレート療法(ICT)。いくつかの態様では、ICTにはデフェロキサミンも含まれる。
図10-1】図10A~10Cは、梗塞サイズとMI内の鉄含量がMIのタイプに依存することを示す。図10Aは、各群の平均急性MIサイズ(%LV)を示す。図10Bは、各MIタイプ(IMH-、IMH+、NR)および非梗塞組織の鉄含量を示す。図10Cは、再灌流MI[出血あり(IMH+)、出血なし(IMH-)]および非再灌流(NR)MIの代表的MRI(LGEおよびT2*)を示す。
図10-2】図10Dは、出血性MIのラットモデルを示す。左半分:LAD動脈の90分I/Rは、一貫してhMIを引き起こす;これは、再灌流後24時間で犠牲にしたラットからのLGEおよびT2* CMRにより証明され、また、H&Eで赤血球の溢出を、PB染色で淡青色の領域を示す組織検査により検証される。しかし、MIおよび出血が陰性である領域(遠隔の心筋)には組織損傷が見られなかった。右半分:LADの30分I/Rは常にT2*で非hMI(暗黒のコアなし)をもたらす。H&E切片には、組織損傷が見られたが、赤血球の溢出はなく、MI内のPB染色領域は存在しなかった。遠隔心筋は組織損傷または出血の証拠を示さなかった。60分I/Rは不均衡なhMI(約60%のhMIと約40%の非hMI)をもたらす。このモデルの再現性は確認されている。特に、60分I/Rを受けたラットのMIサイズは、2つの研究所で差がなかった:32±6%(LSU)対35%±5%(Cedars),p=0.43。
図11-1】図11A~11Hは、90分I/Rを用いたMIにおける酸化ストレス、フェロトーシスバイオマーカーおよびオートファジーを示す。酸化ストレス(総ROS;図11A)、スーパーオキシド(図11B)、フェロトーシス(NOX遺伝子;図11D)、およびタンパク質発現(図11H)は、偽対照と比較して、急性期の梗塞周囲ゾーンでアップレギュレートされ、再灌流後4週間にわたって抗酸化物質のレベルが減少していた。重要なオートファジー遺伝子であるBCL-2(図11E)、LC3(図11F)、およびATG5(図11G)もアップレギュレートされ、4週間後も上昇したままであった。遅い再灌流はhMIにつながるので、これらのマーカーのアップレギュレーションは、hMIからの鉄の変化していく形態によって推進される可能性がある。
図11-2】図11-1の説明を参照のこと。
図12図12Aおよび12Bは、ヘモペキシン(Hx)の治療的有用性を示す。図12Aは、MI内において、総ROS発生が再灌流後24時間でPBS処置群に比べHx処置群で有意に低いことを示す。図12Bは、Hx群がまた、再灌流後1ヶ月で、PBS処置群よりも良好なLVリモデリングを示したことを示す。PBSで処置したラットの心室拡張に注目されたい(Hx処置ラットには見られない)。長軸および短軸(点線に沿った)像を示す。
図13図13は、急性出血性MIにおけるフェロトーシス介在梗塞拡大の提案されたメカニズムを示す。
図14図14は、MIの慢性期に、Fe3+結晶が持続的な炎症を引き起こすことを示す。血液から動員された単球は、組織マクロファージに分化し、マクロオートファジーを介してFe3+をリソソーム内に輸送する。リソソーム内の結晶化した鉄は、リソソーム膜を傷つけてリソソーム酵素を細胞質ゾルに流出させ、かつミトコンドリア膜を傷つけて酸化ストレスをもたらす。傷ついたミトコンドリアを除去できないアップレギュレートされたオートファジー経路は、結果的に、傷ついたミトコンドリアを蓄積させる。これらはインフラマソームの活性化を引き起こして、マクロファージに炎症誘発性サイトカインを放出させ、それらが有害なLVリモデリングを推進する。
図15図15は、MI後8週間での結晶形態の慢性鉄沈着物の特徴を示すTEM、原子分解能イメージング、およびX線EDSを示す。小塊(nodule)に組織化された電子密度の高い物質(印をつけた)を細胞内に含むマクロファージ(上左、上中)。鉄を含むリソソーム(上右)。小塊クラスターからのナノ結晶の原子分解能TEM画像(下左)。EDSにより鉄の強い存在を確認した(下中)。回折パターンは、6-HFOのパターンとの正確なフィットを明らかにする(下右)。
図16図16は、異なる薬剤または対照で処置した心筋細胞培養物における総ROS発生(μM/mgタンパク質/min)を示す棒グラフであり、治療標的である出血の分解産物の物理化学的状態の重要性を示している。
図17A図17A~17Cは、MIの初期段階におけるトロポニンTとMIサイズの経時的評価が、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者における出血の状態に依存していることを示す。図17Aは、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後12時間、24時間、72時間、5日~7日のIMH(-)およびIMH(+)患者における平均トロポニンT(TnT)値を示す。
図17B図17A~17Cは、MIの初期段階におけるトロポニンTとMIサイズの経時的評価が、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者における出血の状態に依存していることを示す。図17Bは、IMH(+)の平均TnT値が、MVO状態とは無関係に、12時間未満という早い段階でIMH(-)よりも有意に高く、24時間から5~7日目にかけて体系的に減少したが、IMH(-)よりも高いままであったことを示す。しかし、トロポニンTレベルのピークは、IMHを伴わない患者ではPCI後24時間でより遅く現れ、有意に低いレベルであった。
図17C図17A~17Cは、MIの初期段階におけるトロポニンTとMIサイズの経時的評価が、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者における出血の状態に依存していることを示す。図17Cは、CMRで評価したMIサイズ(左室質量のパーセンテージ)もまた、IMH(-)患者に比べて、IMH(+)患者群で有意に大きかったことを示す。
図18図18A~18Cは、急性期における出血性MIのある心臓の加工済み遅延ガドリニウム造影(LGE)、加工済みT2*およびPET画像を示す。図18Aは、0日目、1日目、3日目、5日目、および7日目の加工済みLGE(MIサイズを示す)の代表的な強調ピクセルを示す。図18Bは、T2*(出血を示す)を示す。再灌流後0日目と比較して、1日目には加工済みLGEの強調ピクセルが大幅に拡大し、これはPET画像(図18C)のAAR欠陥よりもさらに大きかった。LGEのブルズアイ(Bulls-eye)プロットのカラーコード領域も、PETのポーラーマップ(polar map)の欠陥より大きかった。AAR=リスク領域
図19図19A~19Cは、急性期における非出血性MIのある心臓の加工済みLGE、加工済みT2*およびPET画像を示す。非出血性MIを有する動物からの0日目、1日目、3日目、5日目、7日目の加工済みLGE(MIサイズを示す;図19A)の代表的な強調ピクセル、およびT2*(出血を示す;図19B)心臓MRIを示す。再灌流後0日目と比較して、1日目には加工済みLGEの強調ピクセルがわずかに拡大したが、これはPET画像(図19C)の欠陥よりもはるかに小さかった。LGEのブルズアイプロットのカラーコード領域も、PETのポーラーマップのAAR欠陥より小さかった。
図20図20Aおよび20Bは、出血性MIおよび非出血性MIを有するイヌにおける、LGEに基づいた梗塞サイズの経時的評価である。ボックスプロットは、出血性MIのないイヌでは、LGEを用いて測定され、PET AARにより正規化された梗塞サイズ(LV%)の中央値が1日目にわずかに拡大し、2日目から7日目にかけてわずかに縮小し、7日目のMIサイズが再灌流後0日目と同程度であることを示した(図20B)。しかし、出血性MIのあるイヌでは、LGEに基づいた梗塞サイズが再灌流後1日目に大幅に拡大し、1日目から7日目まで安定している傾向があり(図20A)、0日目と7日目の梗塞サイズの差は有意(p<0.001)である(図20A)。非出血性MIのイヌと比較して、出血性MIのイヌでは8週目のLGEに基づいた梗塞サイズが有意に大きくなっている。
図21図21Aおよび21Bは、出血状態と非出血状態との間のMIの初期および後期急性期における拡大指数(Expand index)の差、ならびに拡大指数と出血量との間の関係を示す。図21Aは、x日目の梗塞拡大率(%)を示す(Dx;0日目のD0と比較)=(x日目のMIサイズ-0日目のMIサイズ)/PET AAR。平均梗塞拡大率は、1日目、3日目、5日目、および7日目に、非出血性(IMH-)のイヌと比較して、出血性(IMH+)のイヌにおいて有意に高い。図21Bは、1日目対0日目、3日目対0日目、および7日目対0日目に測定された出血量と梗塞拡大率との間の関係を示す散布図である。線形回帰分析からの結果を差し込み凡例に示す。出血量と拡大指数との回帰分析からのベストフィットのラインを1日目について示す。
図22図22Aおよび22Bは、それぞれ、出血性MIまたは非出血性MIを有するイヌにおける心筋救済(myocardial salvage)の経時的評価を示す。ボックスプロットは、LGEに基づいた梗塞サイズとPETに基づいたAARを用いて算出された平均心筋救済率を示す。0日目には、出血のあるイヌとないイヌの間で、平均心筋救済率は同程度である。出血のないイヌでは、0日目(D0)から7日目(D7)にかけて、平均心筋救済率は安定した傾向にある(図22B)。しかし、出血性MIを有するイヌでは、平均心筋救済率は1日目に急激に低下し、1日目から7日目にかけて非常に低い状態が続いた(図22A)。
図23図23Aは、STEMI患者において[cTn]を測定した時点およびCMRを実施した時点を示した模式図である。図23Bは、STEMI患者において[cTn]を測定した時点およびCMRを実施した時点を示す模式図である。
図24図24A~24Cは、再灌流を受けたSTEMI患者における[cTn]動態と急性MIサイズが出血状態に依存することを示す。図24Aは、PCI後12時間、24時間、72時間、5~7日の心筋内出血のある患者(IMH+(赤))と心筋内出血のない患者(IMH-(青))における[cTn]のボックスプロットを示す。図24Bは、PCI後の全ての時点で、IMH-患者に比べて、IMH+患者では平均[cTn]が有意に上昇したことを示す。[cTn]は、MVO状態に関係なく、IMH-患者に比べて、IMH+患者でより早くピークに達した。図24Cは、IMH+群とIMH-群におけるピーク[cTn]と一致して、PCI後5~9日にCMRで評価したMIサイズ(%LV)がIMH-群に比べてIMH+群で大きかった(p<0.001)ことを示す。
図25図25A~25Cは、再灌流MIを有するイヌにおける[cTn]動態と急性MIサイズを示し、これらはSTEMI患者での所見に匹敵する。図25Aは、ベースライン時(BL)、再灌流後24時間、48時間、72時間、および7日の心筋内出血のあるイヌ(IMH+(赤))と心筋内出血のないイヌ(IMH-(青))における[cTn]のボックスプロットを示す。図25Bは、PCI後の全ての時点で、IMH-動物に比べて、IMH+動物では平均[cTn]が有意に上昇したことを示す。図25Cは、IMH+群とIMH-群におけるピーク[cTn]と一致して、再灌流後7日にCMRで評価したMIサイズ(%LV)がIMH-群に比べてIMH+群の動物で大きかった(p<0.001)ことを示す。重要なことは、IMH+群とIMH-群のイヌにおける[cTn]およびMIサイズの挙動が、血行再建術を受けたSTEMI患者における観察結果に匹敵していたことである。
図26A図26A~26Cは、IMHのあるイヌでは、再灌流がリスク領域内の急速かつ広範な心筋損傷につながることを示す。図26Aは、完全なLAD閉塞時に13N-アンモニアPETを用いて決定されたリスク領域(AAR)を示す。代表的な心尖部、中間部、および基部スライスを、AARに対応する「流血」領域を特定するポーラーマップと共に示す。図26Cは、再灌流後1時間未満、24時間、72時間、5日および7日の代表的な未加工(生、上段)の遅延ガドリニウム造影(LGE、上段)と、MI領域を特定する加工済みLGE(加工済み、2段目)を示す。加工された画像では、MVOが疑われる部分は茶色の陰影が付けられ、梗塞領域は黄色の陰影が付けられ、心外膜と心内膜の境界はそれぞれ緑と赤の輪郭で表される。図26Bの3段目と4段目は、それぞれ、セグメントレベル(segmental level)での梗塞心筋の割合と、梗塞貫壁性(infarct transmurality)のポーラープロット(polar plot)を示す。図26Bは、T2* CMR(再灌流後72時間)に基づいたMIゾーン内のIMHの証拠を、基部、中間部、心尖部の短軸像で示し、右側にセグメント表示で示す。再灌流後1時間以内のMIサイズに比べて、24時間後のMIサイズはかなり大きく、7日目までにリスク領域のほとんどを包含する。
図26B図26Aの説明を参照のこと。
図26C図26Aの説明を参照のこと。
図27A図27A~27Cは、IMHのないイヌでは、再灌流がリスク領域内の心筋損傷の軽度の増加をもたらすことを示す。図27Aは、完全なLAD閉塞時に13N-アンモニアPETを用いて決定されたリスク領域(AAR)を示す。代表的な心尖部、中間部、および基部スライスを、AARに対応する「流血」領域を特定するポーラーマップと共に示す。図27Cは、再灌流後1時間未満、24時間、72時間、5日および7日の代表的な未加工(生、上段)の遅延ガドリニウム造影(LGE、上段)と、MI領域を特定する加工済みLGE(加工済み、2段目)を示す。加工された画像では、MVOが疑われる部分は茶色の陰影が付けられ、梗塞領域は黄色の陰影が付けられ、心外膜と心内膜の境界はそれぞれ緑と赤の輪郭で表される。図27Cの3段目と4段目は、それぞれ、セグメントレベルでの梗塞心筋の割合と、梗塞貫壁性のポーラープロットを示す。図27Bは、T2* CMR(再灌流後72時間)に基づいたMIゾーン内のIMHの非存在を、基部、中間部、心尖部の短軸像で示し、右側にセグメント表示で示す。再灌流後1時間以内のMIサイズに比べて、リスク領域内に含まれる7日目までのMIサイズに実質的な変化はない。
図27B図27Aの説明を参照のこと。
図27C図27Aの説明を参照のこと。
図28-1】図28A~28Dは、リスク領域に正規化されたMIサイズの経時的進展が、出血のあるMIと出血のないMIとの間で異なることを示す。再灌流後1時間以内から再灌流後7日目までの出血性MIを有するおよび有しないイヌにおける、AARに正規化された梗塞体積のボックスプロットを、それぞれ、図28Aおよび図28Bに示す。図28Cに再プロットしたように、出血性MIを有するイヌでは、AARに正規化された梗塞体積が24時間までに大幅に拡大し、その後再灌流後7日間を通して安定していた;対照的に、非出血性MIは、24時間までにAARに正規化されたMI体積の軽度の増加のみを示し、その後再灌流後7日間を通して安定していた。図28Dは、再灌流後8週目の瘢痕体積(%LV)が再灌流後7日目の観察結果と一致したことを示し、急性期において、IMHのある梗塞の瘢痕サイズは、IMHのないMIに比べて、両方ともAARが同程度であるにもかかわらず、有意に大きいことが明らかである。
図28-2】図28-1の説明を参照のこと。
図29図29A~29Dは、梗塞貫壁性の経時的進展が、出血のあるMIと出血のないMIとの間で異なることを示す。再灌流後1時間以内から再灌流後7日目までの出血性MIを有するおよび有しないイヌにおけるMI貫壁性のボックスプロットを、それぞれ、図29Aおよび図29Bに示す。図29Cに再プロットしたように、出血性MIを有するイヌでは、梗塞貫壁性が24時間までに大幅に増加し、その後再灌流後7日間を通して安定していた;対照的に、非出血性MIはMI貫壁性の軽度の増加のみを示し、その後再灌流後7日間を通して安定していた。図29Dは、再灌流後8週目のMI貫壁性が再灌流後7日目の観察結果と一致したことを示し、急性期において、IMHのある梗塞のMI貫壁性は、IMHのないMIに比べて、AARが同程度であるにもかかわらず、有意に大きいことが明らかである。
図30図30A~30Dは、再灌流後のMI拡大率が再灌流後の時間および出血量に感応することを示す。図30Aは、再灌流後の数日間におけるMIが拡大する割合のボックスプロットを示す。図30Bは、再灌流後の主要な時間間隔でのMI拡大率と出血量の間の散布図を示す。図30Cは、再灌流後の数日間におけるMIの貫壁性が変化する割合のボックスプロットを示す。図30Dは、再灌流後の主要な時間間隔での梗塞貫壁性の変化率と出血量の間の散布図である。30Bおよび30Dでは、線形回帰分析からの結果も、それぞれのパネル内に示される。MIの梗塞サイズと貫壁拡張の変化は両方とも、再灌流後最初の24時間以内に最大になり、心筋内出血の程度に大きく依存している。D0-D1は再灌流後0日目~1日目、D1-D2は1日目~2日目、D2-D3は2日目~3日目、およびD3-D5は3日目~5日目を表す。
図31図31Aおよび31Bは、再灌流出血のあるイヌでは、再灌流後の心筋救済の程度が著しく低下していることを示す。31A:ボックスプロットは、再灌流出血のある動物における再灌流後の心筋救済の経時的変化を示す。31B:ボックスプロットは、再灌流出血のない動物における再灌流後の心筋救済の経時的変化を示す。再灌流出血がある場合には、再灌流出血がない場合に比べて、心筋救済が著しく低下することに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の説明
本明細書で引用された全ての参考文献は、完全に記載されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書で使用される技術用語および科学用語は、他に定義されない限り、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解している意味と同じ意味を有する。Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 第3版, 改訂版, J. Wiley & Sons (New York, NY 2006); March, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 第7版, J. Wiley & Sons (New York, NY 2013); およびSambrook and Russel, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 第4版, Cold Spring Harbor Laboratory Press (Cold Spring Harbor, NY 2012)は、当業者に、本出願で使用される多くの用語に対する一般的な指針を提供する。
【0025】
当業者は、本明細書に記載されたものと類似または同等の多くの方法および材料が、本発明の実施に使用され得ることを認識するであろう。実際、本発明は、記載された方法および材料に一切限定されない。本発明の目的のために、次の用語を以下で定義する。
【0026】
疾患、障害、または医学的状態に関して使用される場合、用語「治療する」、「処置する」、または「改善する」は、治療的処置と予防的または防止的措置の両方を指し、その目的は、症状または状態の進行もしくは重症度を予防、逆転、緩和、改善、抑制、軽減、減速または停止させることである。「治療する」という用語は、少なくとも1つの有害作用もしくは症状を軽減または緩和することを含む。治療は一般的に、1つ以上の症状または臨床マーカーが軽減される場合に「有効」とされる。あるいは、疾患、障害または医学的状態の進行が抑制または停止される場合、治療は「有効」である。すなわち、「治療」には、症状またはマーカーの改善だけでなく、治療を行わない場合に予想される症状の進行または悪化が止まるまたは少なくとも遅くなることも含まれる。また、「治療」は、有益な結果を追求または獲得すること、あるいは最終的に治療が成功しなかったとしても個体が発症する可能性を低くすることをも意味しうる。治療を必要とする個体には、すでに発症している個体だけでなく、発症しやすい個体、または発症を予防する必要がある個体も含まれる。
【0027】
「有益な結果」または「望ましい結果」には、病状の重症度を軽減または緩和すること、病状の悪化を防ぐこと、病状を治すこと、病状の進行を防ぐこと、患者が病状を進行させる可能性を下げること、罹患率と死亡率を減少させること、患者の寿命または余命を延ばすことが含まれるが、これらに決して限定はされない。非限定的な例として、「有益な結果」または「望ましい結果」は、1つ以上の症状の緩和;欠陥の程度の縮小;梗塞領域サイズ、梗塞心筋の壁厚、梗塞における脂肪沈着とリモデリング、梗塞における酸化ストレスの安定した(すなわち悪化しない)状態;および/または心筋梗塞もしくは梗塞を伴う心筋内出血に関連する症状の改善もしくは緩和であり得る。
【0028】
本明細書で使用する「疾患」、「状態」、および「病状」は、心血管の状態、疾患または障害の任意の形態を含むことができるが、それらに決して限定されない。心血管疾患は、心臓または血管が関与する疾患のクラスである。心血管疾患の非限定的な例としては、以下が挙げられる:心筋梗塞、急性心筋梗塞、出血性心筋梗塞、持続性微小血管閉塞(PMO)、微小血管閉塞(MO)、虚血性心疾患(IHD)、冠動脈疾患、冠動脈性心疾患、心筋症、脳卒中、高血圧性心疾患、心不全、肺性心疾患、急性冠動脈症候群、冠微小血管疾患、不整脈、リウマチ性心疾患(RHD)、大動脈瘤、心筋症、心房細動、先天性心疾患、心内膜炎、炎症性心疾患、心内膜炎、炎症性心肥大、心筋炎、心臓弁膜症、脳血管疾患、および末梢動脈障害(PAD)。
【0029】
「投与する」という用語は、本明細書に開示される薬剤を、所望の部位での該薬剤の少なくとも部分的局在化をもたらす方法または経路によって、対象に配置することを指す。「投与経路」は、エアロゾル、鼻腔、吸入経由、口腔、肛門、肛門内、肛門周囲、経粘膜、経皮、非経口、経腸、局所または局部を含むがこれらに限らない、当技術分野で知られている任意の投与経路を指す。「非経口」とは、一般に注射に関連する投与経路を指し、例えば、腫瘍内、頭蓋内、脳室内、髄腔内、硬膜外、硬膜内、眼窩内、点滴、嚢内、心臓内、皮内、筋肉内、腹腔内、肺内、脊髄内、胸骨下、髄腔内、子宮内、血管内、静脈内、動脈内、くも膜下、被膜下、皮下、経粘膜、または経気管を含む。非経口経路では、組成物は、注入または注射用の溶液または懸濁液の形態、あるいは凍結乾燥粉末の形態であり得る。経腸経路では、薬学的組成物は、錠剤、ゲルカプセル、糖衣錠、シロップ、懸濁液、溶液、粉末、顆粒、エマルション、マイクロスフェアもしくはナノスフェア、または制御放出を可能にする脂質小胞もしくはポリマー小胞の形態であり得る。局所経路では、薬学的組成物は、エアロゾル、ローション、クリーム、ゲル、軟膏、懸濁液、溶液またはエマルションの形態であり得る。本発明によれば、「投与する」は自己投与であり得る。例えば、対象が本明細書に開示される組成物を摂取することは、「投与する」とみなされる。
【0030】
「対象」とは、ヒトまたは動物を意味する。通常、動物は霊長類、げっ歯類、家畜、狩猟動物などの脊椎動物である。霊長類には、チンパンジー、カニクイザル、クモザル、マカク(例:アカゲザル)が含まれる。げっ歯類には、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギ、ハムスターが含まれる。家畜および狩猟動物には、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、バッファロー、ネコ科動物(例:イエネコ)、イヌ科動物(例:イヌ、キツネ、オオカミ)が含まれる。本明細書では、「患者」、「個体」および「対象」という用語は、交換可能に使用される。一態様では、対象は哺乳類である。哺乳類は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシであり得るが、これらの例に限定されない。さらに、本明細書に記載の方法は、家畜および/またはペットを治療するために用いることができる。本明細書で使用する「哺乳類」は、哺乳綱(Mammalia)のクラスの任意のメンバーを指し、例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類、例えば、チンパンジー、その他の類人猿およびサル類;家畜、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ;家庭用哺乳類、例えば、イヌ、ネコ;実験動物、例えば、マウス、ラット、モルモットなどのげっ歯類を含むが、これらに限定されない。この用語は、特定の年齢または性別を表すものではない。したがって、成体および新生児対象、ならびに胎児も、男女、雌雄を問わず、この用語の範囲内に含まれることが意図される。
【0031】
特定の疾患に対する診断または治療を「必要とする対象」は、その疾患が疑われる対象、その疾患があると診断された対象、その疾患の治療をすでに受けたもしくは治療を受けている対象、その疾患の治療を受けていない対象、またはその疾患を発症するリスクがある対象であり得る。いくつかの態様では、必要とする対象は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)を有する対象である。いくつかの態様では、必要とする対象は、胸痛、息切れなどの心筋梗塞の兆候を有する対象である。いくつかの態様では、必要とする対象は、心筋梗塞後の再灌流を経験するか、または再灌流を受けた対象である。いくつかの態様では、必要とする対象は、心筋梗塞後の治療介入(例えば、再灌流)に続いて出血しているか、または出血のリスクが高い対象である。
【0032】
本明細書で使用する「出血」は、血管内の血液の貯留または間質腔への血液の溢出を指す。
【0033】
「脂肪腫様化生」(LM)のプロセスは、MI後の治癒カスケードの一部として、慢性瘢痕内のコラーゲンが化生性脂肪組織(metaplastic adipose tissue)に置き換わる状態を指す。
【0034】
「トロポニン類」(またはトロポニン)は、骨格筋および心臓(心筋)の筋繊維に存在し、筋収縮を調節するタンパク質のグループである。トロポニン検査は、血液中の心筋特異的トロポニンのレベルを測定するもので、心臓の損傷を検出するのに役立っている。通常、トロポニンは血液中にごく微量ないし検出不能な量で存在している。心筋細胞にダメージがあると、トロポニンが血液中に放出される。ダメージが大きいほど、その血中濃度は高くなる。トロポニンタンパク質には、トロポニンC、トロポニンT、およびトロポニンIの3種類が存在する。トロポニンCはカルシウムと結合することによって収縮を開始し、かつトロポニンIを移動させて、これら2つのタンパク質が相互作用して筋繊維を短く引っ張れるようにする。トロポニンTは、トロポニン複合体を筋繊維構造に固定する。トロポニンCは骨格筋と心筋の間でほとんどまたはまったく違いがないが、トロポニンIとトロポニンTの形態は違っている。血液中の心筋特異的なトロポニンTまたはトロポニンIの量を測定することは、心臓にダメージを受けた個体を特定するのに役立つ可能性がある。いくつかの態様では、以下の実施例に示すように、「心筋トロポニン」レベルの測定は、動物における心筋トロポニンIの測定、およびヒト対象/患者における心筋トロポニンTの測定を指す。他の態様では、トロポニンレベルの測定は、トロポニンTのレベル、トロポニンIのレベル、トロポニンCのレベル、またはそれらの組み合わせを測定することを含む。
【0035】
心筋梗塞の非限定的な症状としては、胸の圧迫感または胸苦しさ;胸、背中、あご、他の上半身の痛みで、数分以上続くか、または治まるが再び起こる痛み;息切れ;発汗;吐き気;嘔吐;不安;咳;ふらつきまたは突然のめまいが挙げられる。
【0036】
一般的に、心筋梗塞の急性期とは、冠動脈閉塞または急性心筋梗塞の症状(梗塞ゾーンにおける過剰なヘムからの活性酸素種の増幅を含む)が現れてから、第一鉄が第二鉄に遷移するまでの期間を指す。いくつかの局面では、急性期には、症状の発現から最初の数時間、最初の数日(典型的には1~3日)、場合によっては、心筋梗塞の発症から約1週間までが含まれる。いくつかの局面では、急性期は、例えば大部分がヘムの形態である、第一鉄Fe(II)の優勢を測定することによって特定されるが、任意で、梗塞した心筋内またはその近傍での第二鉄結晶の欠如の証拠と結び付けてもよい。いくつかの局面では、梗塞領域は、心筋梗塞の急性期(例えば、冠動脈閉塞から48~72時間)に拡大する。いくつかの態様では、「約」1週間は5日~9日を指す。いくつかの態様では、「約」1週間は6日~8日を指す。いくつかの態様では、「約」1週間は5日~8日を指す。いくつかの態様では、「約」1週間は6日~9日を指す。
【0037】
さらなる局面では、亜急性期は急性期を過ぎて、慢性期の前であり、亜急性期はMI後数日から数週間である。急性期はMI後数時間から数日であり得る。慢性期はMI後数週間から数ヶ月であり得る。
【0038】
一般的に、心筋梗塞の慢性期は、冠動脈閉塞または梗塞症状の発現から数週間または数ヶ月間を指し、この時期には持続的な炎症誘発性または炎症性の負荷がかかっている。いくつかの局面では、慢性期は、梗塞症状の発現から7日以降、例えば、4週間、8週間、3ヶ月間、または6ヶ月間を含む。
【0039】
一般に、鉄キレート剤には、細胞内鉄キレート剤、細胞外鉄キレート剤、またはこれらの組み合わせが含まれる。細胞内鉄キレート剤は、第一鉄、第二鉄、およびこれらの組み合わせをキレート化することができる。細胞外鉄キレート剤は、第一鉄、第二鉄、およびこれらの組み合わせをキレート化することができる。
【0040】
治療または介入
様々なタイプのMIが「波面仮説」(wave front hypothesis)に基づいて提案されている。急性MIの60%より多くは、後期微小血管閉塞(late microvascular obstruction)(図5のタイプ3)を有しており、原因動脈で血流が再確立されているにもかかわらず、「no-reflow」(図5のゾーンC)が生じる。後期微小血管閉塞(後期MO)は、主要有害心血管イベント(MACE)の重要なリスク要因として浮上している。出血は、後期MOを有するMIの約75%に存在し、後期MOを有するが出血のないMIと比べて、MACEのリスクが50%より多く増加する。したがって、出血性MI(hMI)は、全てのMI患者の中でMACEの最大リスクを与える。急性期には、再灌流障害が梗塞サイズを大きくする可能性がある;また、大きいMIは出血を伴うことが多い。hMIは再灌流を受けていないMIよりも著しく大きく、このことは、出血が媒介して、MIがリスク領域を越えて拡大することを示している。さらに、後期MOは、MIへの炎症細胞の流入を制限し、それによって亜急性期における梗塞の治癒を遅らせる。
【0041】
本発明の様々な態様は、心筋梗塞、心筋の疾患に関連する心不全、および心筋関連疾患からの心臓リモデリングに対する治療的処置または介入を提供する。いくつかの態様では、本明細書に開示される治療的処置または介入方法は、心筋梗塞もしくは冠動脈梗塞、心筋機能不全(例えば、心筋症)に関連する心不全を治療し、かつ/または心筋機能不全に起因する心臓リモデリングを改善するために、1つまたは複数の鉄キレート剤、抗炎症剤(例えば、コルヒチン)などを投与することを含む。いくつかの態様では、該方法は、アテローム性動脈硬化症などの他の心血管疾患を治療することを意図していない。いくつかの態様では、本明細書に開示される治療的処置または介入方法は、アテローム性動脈硬化を有しない、心筋梗塞もしくは冠動脈梗塞、または心筋機能不全に関連する心不全を治療する対象に向けられる。
【0042】
急性期
理論に拘束されるものではないが、hMIの初期段階における赤血球からの大量のヘムは、MIの境界域で生き残った筋細胞のフェロトーシス(ferroptosis)を促進し、副産物として第二鉄をもたらし、かつ梗塞拡大につながる。出血の初期の分解産物はヘムであり、これが内在化されると、第一鉄(Fe2+)にさらに分解される。過剰なヘムが細胞外空間に存在すると、それは心筋細胞によって取り込まれる。その結果、細胞内Fe2+がフェントン反応(Fenton reaction)を増幅させて、ROSを発生させる。過剰なROSは、細胞の抗酸化能力を疲弊させ、ミトコンドリアを不安定にして、細胞死を促進する。その後、MIの亜急性期から慢性期では、MI内の鉄は第二鉄の状態にあり、それがマクロファージのリソソーム内に取り込まれると結晶化する;マクロファージは、MIゾーンの鉄をリソソーム内での分解のために内在化することによって、それを除去しようとする。このプロセスは、リソソームへの結晶性鉄の蓄積につながり、リソソームの漏出、二次的なミトコンドリアの機能不全、さらなる酸化ストレスを引き起こす;そして、フラックスが損なわれた(リソソームの損傷による)オートファジーのアップレギュレーションが起こり、それによって、傷ついたミトコンドリアのクリアランスが制限される。これらのプロセスは両方とも、インフラマソーム(inflammasome)の活性化とマクロファージからの炎症性サイトカインの放出を呼び起こし、それによって、有害なリモデリングを推進する。出血を伴う再灌流MIは、非再灌流MI(出血を伴わないMIを含む)よりも著しく大きくなる。hMIはMI内の持続的な鉄沈着をもたらす;鉄の現場に、新しいマクロファージが動員される;そしてMI内の鉄は、動物および患者では慢性期における有害なリモデリングの独立したリスク因子であり、hMI、鉄沈着、炎症、および有害なリモデリングの間に強い相関関係を提供する。これらの知見は、出血が再灌流MIにおける心筋障害の重要な推進力になり得るという考えを支持する。慢性瘢痕内のコラーゲンが化生性脂肪組織に置き換わるプロセスである、梗塞心筋の脂肪腫様化生(LM)は、有害な解剖学的および機能的リモデリングに至らせる出血性MIに特有のプロセスで、鉄による継続的なマクロファージ活性化、脂質酸化、泡沫細胞形成、セロイド産生、泡沫細胞アポトーシスおよび鉄リサイクルによって推進される;そして本発明のいくつかの局面には、これらの有害作用は、出血性MIゾーンから鉄を適時に減少させることによって、軽減され得ることが含まれる。
【0043】
梗塞ゾーン内の出血の進展していく変化は、急性MI領域で生き残った筋細胞のヘム鉄媒介死(フェロトーシス)を引き起こす;そして第二鉄の結晶が、それを除去しようとするマクロファージ内に形成され、これが慢性MIにおいてマクロファージを炎症誘発状態に分極化する。出血は一連の時間依存的イベントを促進し、MIの急性期には梗塞拡大を、慢性期には有害な左室リモデリングを介して、心臓にダメージを与える。一局面では、出血は、急性MIゾーンにおけるヘム媒介性フェロトーシスを介して筋細胞死を引き起こす;また、出血はオートファジー、リソソーム漏出およびミトコンドリア損傷をアップレギュレートし、インフラマソームの活性化を促進して、慢性MIゾーンにおいて炎症誘発性マクロファージ表現型に有利に働く。再灌流後の鉄の位置[細胞外対細胞内(筋細胞対マクロファージ)]、酸化状態(Fe2+対Fe3+)、および形態(遊離対結晶)は、時間依存的である。
【0044】
本発明のさらなる局面には、出血の経時的な副産物を考慮し、それに応じて副産物を標的とする改善された治療法であって、特に(心筋内)出血性心筋梗塞の症状を有するかまたはその兆候を示している患者に対して、hMIの急性期に梗塞拡大を抑制し、慢性期に有害なリモデリングを未然に防ぎ、それによって、梗塞拡大および急速な有害リモデリングから心臓を保護する治療法が含まれる。以前の研究でMIに対してキレート療法が試みられたが、hMIまたはヘムの適切な鉄誘導体を適切なタイミングで標的としなかったため、成功しなかった。
【0045】
例示的な鉄キレート剤とその特定の鉄標的が表1に示されており、鉄キレート剤は、心筋梗塞領域からの鉄分を結合し、占有し、または不活性化するために、心筋梗塞の症状を示しているかまたは心筋梗塞と診断された対象に有効量で投与される。2価カチオンのキレート剤を用いた以前の研究では、MACEを減らす上で有効であることが証明されていない。MI後の患者でキレート療法を評価するための最近の試験(TACT)では、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)療法をMIの6週間後に開始して6ヶ月間行ってもMACEは減らないことが示された。注目すべき点として、EDTAは第二鉄に特異的ではない(第二鉄に対して投与されていない);EDTAは細胞膜を通過できない;そして第二鉄-EDTA複合体は不安定であり、それはインビボで第一鉄-EDTAに変換され、フェントン化学に関与してROSの生成を可能にする。本出願人のデータからは、様々な態様において、MI後6週間で、MI内の鉄は細胞内にありかつ3価であること;およびMI後のラットでのEDTA処置は有害なLVリモデリングを低減させなかったことが示される。したがって、いくつかの局面では、梗塞拡大に対する予防および/または治療介入方法は、心筋梗塞の症状を示しているかまたは心筋梗塞と診断された対象に、EDTAを投与することを含まない。他の局面では、心筋梗塞の症状を示しているかまたは心筋梗塞と診断された対象に、EDTAを投与しない、予防および/または治療介入方法が提供される。いくつかの態様において、鉄キレート剤のカクテルには、以下が含まれる:(1)BPDとDXZ、(2)BPDとDFP、(3)BPDとDFX、(4)BPDとDFO、(5)DXZとDFP、(6)DXZとDFX、(7)DXZとDFO、(8)DFPとDFX、(9)DFPとDFO、(10)DFXとDFO、(11)BPDとDXZとDFP、(12)BPDとDXZとDFX、(13)BPDとDXZとDFO、(14)BPDとDFPとDFX、(15)BPDとDFPとDFO、(16)BPDとDFXとDFO、(17)DXZとDFPとDFX、(18)DXZとDFPとDFO、(19)DXZとDFXとDFO、(20)DFPとDFXとDFO、(21)BPDとDXZとDFPとDFX、(22)BPDとDXZとDFPとDFO、(23)BPDとDXAとDFXとDFO、(24)BPDとDFPとDFXとDFO、(25)DXZとDFPとDFXとDFO、または(26)BPDとDXZとDFPとDFXとDFO、または(27)上記のいずれかとEDTAとの組み合わせ、または(28)EDTAと、DFO、BPD、DXZ、DFPおよびDFXのうちの1つ、2つ、3つ、4つもしくは5つ全部との組み合わせ。
【0046】
(表1)治療のために単独でまたはカクテルとして組み合わせて使用される例示的な鉄キレート剤およびそれらの特性。
【0047】
梗塞拡大の可能性を予防もしくは低減し、心臓リモデリングの可能性を改善し、かつ/または再灌流の有害作用の可能性を低減する方法は、それを必要とする対象において、急性期(例えば、心筋梗塞の最初の兆候または症状後72時間以内)に、有効量の、ヘムに結合する薬剤、ヘム捕捉剤(scavenger)、ヘムを調節する薬剤、または第一鉄キレート剤を該対象に投与することを含み、ここで、それを必要とする対象は、心筋梗塞の症状を示すか、心筋梗塞を経験したか、または心筋梗塞と診断されたものである。該方法のいくつかの局面において、急性期には、第二鉄キレート剤を投与しない。様々な態様では、それを必要とする対象は、出血性心筋梗塞を有する対象である。いくつかの態様では、1つまたは複数の該方法における対象は、再灌流障害または再灌流後の心筋内出血を有するものである。さらなる態様では、1つまたは複数の該方法におけるそれを必要とする対象は、ベースラインレベルと比較して、再灌流療法後12~24時間以内にトロポニンの血中レベルが上昇した哺乳動物である(例えば、ベースラインレベルは、PCIなどの再灌流療法前に得られた同対象のものである;またはベースラインレベルは再灌流前12時間以内に得られたものである;またはベースラインレベルはMI症状の発現後であるが、再灌流前12時間以内に得られたものである)。
【0048】
現在の標準治療(SOC)は、出血性患者と非出血性患者を区別していない;したがって、両者を区別して管理することはない。本発明者らは、採血を繰り返しかつトロポニンレベルの経時的プロファイルを測定することに基づいて、出血性梗塞を遡及的に特定する方法、ならびに進行中の出血性梗塞を特定する方法を提供する。
【0049】
様々な態様では、それを必要とする対象は、心筋血行再建術(例えば、経皮的冠動脈インターベンション:PCI)の後に出血性であると特定された対象であって、そのトロポニンレベルがPCI後18時間以内にピークに達し、例えば、PCI後8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、または15時間でピークに達し(または上昇し続け)、該トロポニンレベルがPCI後18時間以降に低下し、そのトロポニンレベルには、得られた最高値とベースライン値(例えば、PCI前に測定)との間に1.5ng/mL以上の差がある対象である。いくつかの態様では、その差は1.5~3ng/mLである。いくつかの態様では、その差は3~4ng/mLである。いくつかの態様では、その差は4~5ng/mLである。いくつかの態様では、その差は5~6ng/mLである。いくつかの態様では、その差は6~7ng/mLである。いくつかの態様では、その差は7~8ng/mLである。いくつかの態様では、その差は8~9ng/mLである。いくつかの態様では、その差は9~10ng/mLである。いくつかの態様では、その差は10~12ng/mLである。いくつかの態様では、その差は12~15ng/mLまたはそれ以上である。そして、いくつかの態様では、その速度は、この段落で上に挙げたもののいずれか2つ以上の組み合わせである。いくつかの態様では、その差は少なくとも6ng/mLである。いくつかの態様では、その差は少なくとも7ng/mLである。いくつかの態様では、その差は少なくとも8ng/mLである。いくつかの態様では、その差は少なくとも9ng/mLである。
【0050】
他の態様では、該対象は、心筋血行再建術(例えば、PCI)の後に非出血性であると特定された対象であって、そのトロポニンレベルが、PCI後18時間以降にピークに達するかまたは上昇を続け、例えば、PCI後約20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、または25時間上昇し続け、その後減少に転じ、そのトロポニンレベルには、得られた最高値とベースライン値(例えば、PCI前に測定)との間に1.5ng/mL未満の差がある対象である。いくつかの態様では、その差は0.1~0.5ng/mLの差である。いくつかの態様では、その差は0.5~1ng/mLである。いくつかの態様では、その差は1~1.4ng/mLである。
【0051】
さらなる態様では、それを必要とする対象は、活動性/進行中の出血性MIを有すると特定された対象であって、血行再建術(例えば、PCI)後の最初の12時間以内のトロポニンレベルが0.2ng/mL/時を超える速度で上昇している対象である。いくつかの態様では、その速度は0.2~0.3ng/mL/時である。いくつかの態様では、その速度は0.3~0.4ng/mL/時である。いくつかの態様では、その速度は0.4~0.5ng/mL/時である。いくつかの態様では、その速度は0.5~0.6ng/mL/時である。いくつかの態様では、その速度は0.6~0.7ng/mL/時である。いくつかの態様では、その速度は0.7~0.8ng/mL/時である。いくつかの態様では、その速度は0.8~0.9ng/mL/時である。いくつかの態様では、その速度は0.9~1.0ng/mL/時である。いくつかの態様では、その速度は1.0~1.2ng/mL/時である。いくつかの態様では、その速度は1.2~1.5ng/mL/時である。そして、いくつかの態様では、その速度は、この段落で上に挙げたもののいずれか2つ以上の組み合わせである。いくつかの態様では、活動性出血性MIを有すると特定された対象は、血行再建術後12時間以内に0.4ng/mL/時以上の速度で上昇するトロポニンレベルを有する。いくつかの態様では、活動性出血性MIを有すると特定された対象は、血行再建術後12時間以内に0.7~1.2ng/mL/時の速度で上昇するトロポニンレベルを有する。これは、血行再建術後の最初の12時間にトロポニンレベルがせいぜい0.1~0.2ng/mL/時のペースで上昇する非出血性対象と比較したものである。
【0052】
一局面では、該対象は再灌流を受けたことがない、つまり、ヘムに結合する薬剤、ヘムの捕捉剤、ヘムを調節する薬剤、もしくは第一鉄キレート剤の投与は、梗塞拡大の可能性を予防もしくは低減し、心臓リモデリングの可能性を改善し、かつ/または再灌流の有害作用の可能性を低減する上記方法において、該対象に対して再灌流を行う前であり、それによって、前処置としての投与である。該方法のいくつかの局面では、第二鉄キレート剤は、急性期には投与されない。
【0053】
別の局面では、該対象は心臓の血流を回復させるために再灌流を試みたことがある、つまり、ヘムに結合する薬剤、ヘムの捕捉剤、ヘムを調節する薬剤、もしくは第一鉄キレート剤の投与は、梗塞拡大の可能性を予防もしくは低減し、心臓リモデリングの可能性を改善し、かつ/または再灌流の有害作用の可能性もしくは重症度を低減する上記方法において、該対象に対して再灌流を行った後である。
【0054】
さらなる局面では、該対象は心筋梗塞に伴う再灌流誘発性出血を有し、ヘムに結合する薬剤、ヘムの捕捉剤、ヘムを調節する薬剤、または第一鉄キレート剤の投与は、出血性心筋梗塞の直後である。
【0055】
別の局面では、該対象は心筋梗塞に伴う出血を有し、該対象はコラゲナーゼまたは血管内皮増殖因子などの毛細血管透過性を高める薬剤を服用しているか、投与されており、そのため、必ずしも再灌流と関連していない。
【0056】
別の局面では、該対象は、梗塞心筋に第二鉄結晶があるという証拠を示さない;または、該方法は、心臓イメージングを実施して、該対象の梗塞心筋に第二鉄結晶が確認されず、ヘムに結合する薬剤、ヘムの捕捉剤、ヘムを調節する薬剤、または第一鉄キレート剤を投与することをさらに含む。
【0057】
さらに別の局面では、該対象は心筋梗塞の症状もしくは発症の前または後にEDTAを投与されていない、つまり、梗塞拡大の可能性を予防もしくは低減し、心臓リモデリングの可能性を改善し、かつ/または再灌流の有害作用の可能性もしくは重症度を低減する上記方法は、該対象にEDTAを投与することを含まない。
【0058】
一態様では、心筋梗塞の症状を示すか、心筋梗塞を経験したか、または心筋梗塞と診断された対象において、梗塞拡大の可能性を予防もしくは低減し、心臓リモデリングの可能性を改善し、かつ/または再灌流の有害作用の可能性を低減する方法は、有効量の、2,2-ビピリジル、デクスラゾキサン、ヘモペキシン、ヘムオキシゲナーゼ(例:ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1))、ヒノキチオール、ハプトグロビン、アルブミン、フェリチン、α1-ミクログロブリン、α1-アンチトリプシン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、肝臓型脂肪酸結合タンパク質、ヘム結合タンパク質23、p22ヘム結合タンパク質、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、核因子E2関連因子2(Nrf2)、またはこれらの組み合わせを含む薬学的組成物を、心筋梗塞の急性期にまたは心筋梗塞の症状もしくは発症から72時間以内に、それを必要とする対象に投与することを含む。さらなる態様では、心筋梗塞の症状を示すか、心筋梗塞を経験したか、または心筋梗塞と診断された対象において、梗塞拡大の可能性を予防もしくは低減し、心臓リモデリングの可能性を改善し、かつ/または再灌流の有害作用の可能性を低減する方法は、ヘム結合タンパク質および/またはヘム分解タンパク質の量を増加させることによってヘムを調節する薬剤を投与することをさらに含み、該因子としては、ネコ白血病ウイルスサブグループC受容体1a(FLVCR1a)、FLVCR2、およびATP結合カセットサブファミリーGメンバー2(ABCG2)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
梗塞拡大の可能性を予防もしくは低減し、心臓リモデリングの可能性を改善し、かつ/または再灌流の有害作用の可能性を低減する方法のさらなる態様は、心筋梗塞の症状を示すか、心筋梗塞を経験したか、または心筋梗塞と診断され、任意でさらに、心筋梗塞の発症または最初の症状の直後に再灌流で治療された対象、あるいは心筋梗塞を伴う心筋内出血の症状を示すか、それと診断されたか、またはそれを経験した対象を選択する段階、および有効量の、2,2-ビピリジル、デクスラゾキサン、ヘモペキシン、ヘムオキシゲナーゼ、ヒノキチオール、ハプトグロビン、アルブミン、フェリチン、α1-ミクログロブリン、α1-アンチトリプシン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、肝臓型脂肪酸結合タンパク質、ヘム結合タンパク質23、p22ヘム結合タンパク質、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、Nrf2、またはこれらの組み合わせを含む薬学的組成物を、心筋梗塞の急性期にまたは心筋梗塞の症状もしくは発症から72時間以内に、それを必要とする対象に投与する段階を含む。
【0060】
急性期と慢性期
心筋梗塞を治療する方法、例えば、梗塞拡大の可能性を防止もしくは低減し、心臓リモデリングを改善し、かつ心筋梗塞後の再灌流に関連する有害作用の可能性もしくは重症度を低減する方法は、それを必要とする対象に、有効量の、ヘムに結合する薬剤、ヘムの捕捉剤、ヘムを調節する薬剤(例えば、ヘムオキシゲナーゼ-1、ハプトグロビン、アルブミン、フェリチン、α1-ミクログロブリン、α1-アンチトリプシン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、肝臓型脂肪酸結合タンパク質、ヘム結合タンパク質23、p22ヘム結合タンパク質、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、Nrf2)、または第一鉄キレート剤(例えば、2,2-ビピリジル、デクスラゾキサン、ヒノキチオール)を心筋梗塞の急性期に投与する段階、および有効量の第二鉄キレート剤を心筋梗塞の慢性期に投与する段階を含む。
【0061】
一態様では、心筋梗塞を治療する方法、例えば、梗塞拡大の可能性を防止もしくは低減し、かつ/または出血性心筋梗塞の重症度を治療もしくは低減し、それによって有害な心臓リモデリングの重症度もしくは可能性を低減する方法は、有効量の、2,2-ビピリジル、デクスラゾキサン、ヘモペキシン、ヒノキチオール、ヘムオキシゲナーゼ-1、ハプトグロビン、アルブミン、フェリチン、α1-ミクログロブリン、α1-アンチトリプシン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、肝臓型脂肪酸結合タンパク質、ヘム結合タンパク質23、p22ヘム結合タンパク質、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、Nrf2、またはこれらの組み合わせを含む薬学的組成物を、心筋梗塞の急性期にまたは心筋梗塞の最初の兆候もしくは症状から72時間以内に投与する段階、および有効量の、デフェロキサミン、デフェリプロン、デフェラシロクス、ヒノキチオール、ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン、サリチルアルデヒドイソニコチノイルヒドラゾン、またはこれらの組み合わせを含む薬学的組成物を、心筋梗塞の慢性期に、または心筋梗塞の最初の兆候もしくは症状から7日以降にまたはいくつかの態様では72時間以降に、それを必要とする対象に投与する段階を含む。さらなる局面では、該方法は、EDTAを投与することを含まない。別の局面では、該対象は、出血性心筋梗塞を有する。さらに別の局面では、該対象は、心筋梗塞に伴う再灌流誘発性出血を有する。
【0062】
心筋梗塞を治療する方法のいくつかの局面では、(1)ヘムに結合する薬剤、ヘムの捕捉剤、ヘムを調節する薬剤、または第一鉄キレート剤(例えば、2,2-ビピリジル、デクスラゾキサン、またはこれらの組み合わせ)と、任意でヘム結合タンパク質および/またはヘム分解タンパク質の量を高める1つまたは複数の因子、ならびに(2)第二鉄キレート剤(例えば、デフェリプロン、デスフェリオキサミン、デフェラシロクス、ヒノキチオール、ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン、サリチルアルデヒドイソニコチノイルヒドラゾン、またはこれらの組み合わせ)を順次投与し、好ましくは、それぞれ心筋梗塞の急性期および慢性期に投与する。
【0063】
他の局面では、心筋梗塞を治療する方法、例えば、梗塞拡大の可能性を防止もしくは低減し、かつ/または出血性心筋梗塞を治療もしくはその重症度を低減し、それによって有害な心臓リモデリングの重症度もしくは可能性を低減する方法は、(1)ヘムに結合する薬剤、ヘムの捕捉剤、ヘムを調節する薬剤、または第一鉄キレート剤(例えば、2,2-ビピリジル、デクスラゾキサン、またはこれらの組み合わせ)と、任意でヘム結合タンパク質および/またはヘム分解タンパク質の量を高める1つまたは複数の因子、ならびに(2)第二鉄キレート剤(例えば、デフェリプロン、デスフェリオキサミン、デフェラシロクス、またはこれらの組み合わせ)を同時に、それを必要とする対象に投与することを含む;好ましくは、急性期(例えば、再灌流直後)または心筋梗塞発症後3日以内、7日以内、もしくは1ヶ月以内に投与する。
【0064】
他の治療剤
様々な態様では、治療剤は薬学的組成物で提供される。様々な態様では、治療剤は、鉄キレート剤、抗炎症剤、細胞療法剤、脂質低下剤、一酸化炭素療法、ヘムオキシゲナーゼ調節薬、心臓の血流を促進できる薬剤、増強されたマクロファージ活性による鉄のクリアランスを促進できる薬剤、食作用増強剤、酸化鉄結晶の生合成を妨害できるか、ナノ結晶の凝集を防止できる薬剤、またはこれらの組み合わせである。
【0065】
様々な態様では、抗炎症剤は、コルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、抗IL-1β(例:アナキンラ)、抗TNF-a(例:エタネルセプトおよびインフリキシマブ)、抗IL-6(例:トシリズマブ)、抗MMP(例:PG-116800およびドキシサイクリン)、マクロファージモジュレーター(例:ホスファチジルセリン提示リポソーム)、NLRP3インフラマソーム阻害剤(例:16673-34-0(5-クロロ-2-メトキシ-N-[2-(4-スルファモイルフェニル)エチル]ベンズアミド))、インフラマソーム拮抗薬(例:P2X7アンタゴニスト)、抗糖尿病薬(例えば、インスリン(例:ヒューマリン、ノボリン、ヒューマログ)、メトホルミン(例:グルコファージ、グルコファージXR、Fortamet、Glumetza、Riomet)、スルホニル尿素、メグリチニド、インクレチン模倣薬、ビグアニド、アミリン類似薬(例:プラムリンタイド)、リパーゼ阻害剤、例えばオルリスタット(例:ゼニカル、アライ)、チアゾリジンジオン、ピオグリタゾン(例:アクトス)、ロシグリタゾン(例:アバンディア)、コルチコステロイド、例えばプレドニゾン(例:レイオス)、ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤、SGLT2阻害剤、およびグルカゴン様ペプチド-1アナログもしくは作動薬、例えば、エキセナチド(例:ビュドリオン、バイエッタ)およびリラグルチド(例:ビクトーザ))、またはこれらの組み合わせである。
【0066】
様々な態様では、脂質低下剤は、スタチン、コレステロール吸収阻害剤(例:エゼチミブ(ezetimbie))、胆汁酸結合樹脂/金属イオン封鎖剤(例:コレスチラミン)、ナイアシン、もしくはビタミンB3、またはこれらの組み合わせである。
【0067】
様々な態様では、心臓の血流を促進できる薬剤は、動脈CO2、アデノシン、レガデノソン、ジピリダモール、ペルサンチン、一酸化窒素、またはこれらの組み合わせである。
【0068】
投薬レジメン
上記方法における対象の単位重量あたりの、ヘムに結合する薬剤、ヘムの捕捉剤、ヘムを調節する薬剤、第一鉄キレート剤、または第二鉄キレート剤の例示的な投与量は、10~100μg、100~200μg、200~300μg、300~400μg、400~500μg、500~600μg、600~700μg、700~800μg、800~900μg、1~5mg、5~10mg、10~20mg、20~30mg、30~40mg、40~50mg、50~60mg、60~70mg、70~80mg、80~90mg、90~100mg、100~200mg、200~300mg、300~400mg、400mg~500mg、500mg~1g、または1g~10gを含む。対象の単位重量は、体重1kgあたり、または対象あたりであり得る。
【0069】
ヘムに結合する薬剤、ヘムの捕捉剤、ヘムを調節する薬剤、第一鉄キレート剤、または第二鉄キレート剤の例示的な投薬レジメンには、心筋梗塞の発症直後;再灌流の直後;再灌流後の出血の直後;1日1回を心筋梗塞後または再灌流後1、2、3、4、5、6、7日間またはそれ以上;週に1、2、3回またはそれ以上を1、2、3、4、5、6、7、8週間またはそれ以上;月に1、2、3回またはそれ以上を1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月間またはそれ以上;あるいはこれらの組み合わせが含まれる。
【0070】
いくつかの態様では、投与は、経口経路、静脈内経路、または冠動脈内経路によるものである。いくつかの態様では、第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、またはヘムを調節する薬剤は、対象の閉塞した冠動脈を再疎通させるように構成されたステント内に組み込まれる(例えば、表面にコーティングされる、ステントの材料に封入もしくは化学結合される、またはそこからの放出が可能であるよう構成される)。
【0071】
慢性期
ここで所見をまとめると、再灌流出血と、LMと、出血性MIを持続する心臓の構造的および機能的リモデリングと、の間には因果関係があることが示される。注目すべきは、MIの初期慢性期に心臓は機能的能力を回復しようとするが、鉄を減らす、ひいてはLMを減らす治療がない場合、MIの後期慢性期には心臓の補償努力は損なわれてしまう、ということである。細胞内鉄キレート剤を用いてMIゾーン内の脂肪分を調節することは、MIの慢性期における心臓の機能回復を大きく変えて、心不全の確立を防止する。
【0072】
出血性MIが慢性鉄沈着を引き起こし、その沈着がMIの慢性期を通じてマクロファージの恒常的な動員を促すことを示す証拠が相次いでいる。最新の証拠からは、異常な鉄含量を含むMI部位に動員されたマクロファージの機能的貪食能は著しく損なわれていることも示される。本研究では、臨床的に関連する再灌流出血性梗塞の大型動物モデルを使用して、出血性MIと非出血性MIの間の脂肪浸潤の違いを確認するという明確な目標をもって、梗塞ゾーンの組成ダイナミクスを検討した。最初に、連続CMRは、出血性MIにおける脂肪浸潤の程度が、MI亜急性期の鉄の程度に直接依存することを示した。その後、本研究は、出血性MI領域が、鉄により誘導されるマクロファージ活性化、脂質酸化、泡沫細胞形成、セロイド産生、泡沫細胞アポトーシス、および鉄リサイクルに密接に関与していることを実証した;これは、非出血性MIでは観察されない悪循環である。最後に、本研究では、FDA承認の細胞内第二鉄キレート剤を用いて、出血性梗塞ゾーン内の鉄をタイムリーに減少させることが可能であり、このような治療がMIゾーン内のLMを減少させ、MI後の期間に心臓を積極的な解剖学的・機能的回復に向かわせることが示された。
【0073】
本研究では、連続インビボCMRを用いて、MI内の急性鉄含量と脂肪浸潤の程度との時間依存的な関係を確認した。MIの急性期には、鉄と脂肪の関係はMI内に認められなかったが、時間の経過とともにその関係が強くなり、MI後6ヶ月で強い相関(R2>0.9)に達した。さらに、出血性MIゾーン内の鉄含量は6ヶ月の研究期間にわたって未変化のままであったが、MI後8週間までDFPで治療すると、治療終了までにMIゾーン内の鉄が大幅に減少したが、その後6ヶ月目まで未変化のままであった。MIゾーン内の鉄含量の減少に伴って、脂肪含量も治療期間の終了時に未治療の対照群と比較して急激に減少した。しかし、DFP治療を中止すると、8週目から6ヶ月目までの脂肪含量は、同じ期間中の未治療対照群よりも著しく少ない程度ながらも、増加した。
【0074】
いくつかの態様では、本研究は、中等量のDFPを用いて慢性MIに対する効果を実証するために、限られた期間にわたって臨床的中等量のDFPを用いて、出血性MIと脂肪浸潤との関係を精査した。観察的および治療介入的CMR研究により、出血性MIからの鉄とMIゾーン内の脂肪浸潤との間の因果関係を示す証拠が提供される。連続インビボイメージングからのこれらの所見は、再灌流MI後8週目と6ヶ月目に摘出された心臓の組織学的検査からより微細なスケールで形成されたサポートを強化するものである。
【0075】
本研究はまた、出血性梗塞内のマクロファージ集団が、炎症誘発性M1状態から抗炎症性M2状態への切り替えに失敗して、心筋の瘢痕治癒を効率的に促進できないことを実証する。慢性静脈下肢潰瘍での観察結果と同様に、データは、出血性MIでは、無制限な炎症誘発性M1活性化状態のマクロファージが、M2鉄スカベンジャー受容体CD163を高発現することを示している。このCD163+ M1集団が、鉄、細胞外脂質、アポトーシスを起こしたシデロファージ(siderophage)由来の泡沫細胞、および細胞外セロイドと排他的に共局在していることを考慮すると、鉄含有セロイドは、マクロファージの侵入と、慢性MIゾーンに浸潤するマクロファージのデスゾーン(death zone)の拡大との、自己永続的・増幅ループを促す強力な炎症誘発性化学誘引物質として作用するようである。
【0076】
以前の研究は、スカベンジャー受容体CD36がoxLDLのマクロファージ結合および内在化を促進する上で重要な役割を担っていることを示した。具体的には、CD36を介したoxLDLはマクロファージの遊走を阻害し、これはアテローム性動脈硬化病変においてマクロファージトラッピング(macrophage-trapping)機構として機能する。内在化されたoxLDLは、CD36の発現をアップレギュレートすることが知られており、これは「eat meシグナル」として公知である。次いで、これはoxLDLの連続的な取り込みを促進する。活性化されたマクロファージは、局所LDLを酸化する様々なメディエーターを分泌し、それによって利用可能なoxLDLのプールを増加させることが分かっている。また、CD36とoxLDLの相互作用は、免疫細胞浸潤物を動員するサイトカイン類の分泌を誘導することも知られている。梗塞心筋における細胞外脂質滴の蓄積は、急性MI(AMI)後2時間という早い時期に起こり、MI後48時間を通して次第に増加することが知られている。注目すべき点として、急性MI後6~12時間の間に、脂質は梗塞中心部から消失し始めるが、より古い梗塞の周辺部には少なくとも3週間は残存することが知られている。同様に重要な点として、梗塞周辺部の成熟肉芽組織は、脂肪滴を含んだ中程度の数のマクロファージを含むことが示されている。しかし現在まで、亜急性MIにおける細胞外脂質蓄積の空間パターンと古いMIにおける脂肪組織との間の関連性は不明であった。また、これらの脂質を含んだマクロファージが、MIの慢性期まで脂質負荷を持ち越すかどうかも不明であった。本観察および心臓以外の設定での他の所見に基づいて、シデロファージはMI領域の周辺部からの脂質を徐々に酸化して、CD36+ 泡沫細胞に変化することが示される。LMは梗塞コアに徐々に侵入するように見えるので、鉄分に富むが脂質含量の少ない、出血性瘢痕のコアにおけるCD36+ 泡沫細胞形成のための脂質基質は、主にアポトーシスを起こしたCD36+ 泡沫細胞に由来する可能性がある。この考えを裏付ける最も顕著な証拠は、発症後6ヶ月の瘢痕から得られた脂肪組織の大きな島が、梗塞のコアに向かう脂肪組織の境界に沿ってのみ鉄と共局在するのに対し、中心部の脂肪細胞(脂肪組織のコア)はセロイド陽性であるが、ほとんど鉄を含まないということである。対照的に、発症後8週間の瘢痕では、個々の泡沫細胞は、出血性MIの梗塞周囲および境界ゾーン内の、鉄と細胞外脂質とセロイドが豊富な領域から出現しているようである。また、これらの所見は、LMの過程で、泡沫細胞がエキソサイトーシスによって放出した鉄と、アポトーシスを起こしたシデロファージ由来の泡沫細胞からの鉄-セロイド複合体の両方が、新たに動員されたマクロファージ(MAC387+ MΦ、ここでMΦは非分極マクロファージを表す)によってリサイクルされ、心筋瘢痕の中心に向かって徐々に押し出されることを支持している。
【0077】
感染症、アルコール、火傷、敗血症などのストレス要因に反応したマクロファージの活性化は、代謝的に非常に高価である。炎症誘発性マクロファージ(M1 MΦ)で代謝される主要な燃料はグルコースである。それゆえ、M1 MΦの炎症反応には、特徴的なGLUT1の発現増加とグルコースの取込み増加が含まれる。さらに、GLUT1を介したグルコースの取込みと代謝の増加を示すMΦが、複数の炎症経路とタンパク質メディエーターの産生の増加を伴う過炎症性(hyperinflammatory)状態に追い込まれることを示唆する多くのデータが現在得られている。注目すべきことに、最近、グルコースがマクロファージCD36スカベンジャー受容体の発現を高めることも明らかにされた。本研究の一部において、本発明者らは、出血性MI領域でのMΦによるGLUT1、TNF-α、IL-1β、およびCD36マーカーの発現、特に泡沫細胞に変化する大きなシデロファージでの発現が、増加していることを報告する。これは、制御不能な鉄誘導性のM1反応/表現型が、GLUT1を介したグルコースの取込みと代謝の増加によって慢性的に維持され、このことが泡沫細胞の形成と脂肪性心筋変性の悪循環をさらに助長することを示唆している。逆に、M2 MΦがエネルギー生成のために主に脂肪酸のβ酸化に依存していることを知っていると、M2表現型に完全に切り替えられないことが、脂質の利用とは対照的に、脂質の細胞内蓄積の根底にあるように見える。
【0078】
梗塞後の有害な心筋リモデリングを媒介する際の心臓マスト細胞の役割が注目されている。マスト細胞は、様々なメディエーター(プロテオグリカン、ヒスタミン、プロテアーゼ、および炎症誘発性サイトカイン)を含む細胞質顆粒を分泌することにより、その生理学的かつ病理学的機能を発揮する。これらの生理活性メディエーターは、マスト細胞の活性化により放出され、局所的な組織微小環境に影響を与える。活性化されたマスト細胞は、マクロファージによるコレステロールの取込みを引き起こし、かつインビトロで泡沫細胞へのそれらの変換を促進すると考えられる。さらに、インビトロ研究から、マスト細胞は泡沫細胞からのコレステロールの流出を防ぐことができることが示されている。本発明者らの所見はまた、鉄が強力なマスト細胞活性化因子であるという理解に基づいて、出血性MIにおけるシデロファージの泡沫細胞への変換が持続的に活性化/脱顆粒されたマスト細胞によって微調整されることを示している。
【0079】
全体として、ここでの所見は、MI内の出血が有害なリモデリングをどのように引き起こすかの基礎を解明するものであり、観察研究により、出血性MIでは、(a)心臓にMI内への脂肪の浸潤を起こさせる;(b)脂肪性MIの心臓は、MIゾーンでの局所的な円周方向ストレインが比較的弱い;および(c)MI内の脂肪レベルの増加は、心臓の代償性リモデリングを圧倒し、心不全を特徴づける機能崩壊を起こす;ことが示された。本発明者らの介入研究により、MI後8週間までに投与された細胞内鉄キレート剤は、MIサイズと出血の程度が同じ対照群と比較して、(a)MI内の脂肪含量を減らす;(b)MIゾーンでの円周方向ストレインを増加させる;および(c)心臓を機能崩壊から遠ざける;ことが実証された。これらの研究は、まとめると、出血性MI後の心臓の脂肪性リモデリングが再灌流後の出血性MIにおけるLVリモデリングを加速すること;および出血性MIゾーンからの異常な鉄を減らすことで、MI後に心臓が心不全に進行するのを救済できることを、実証している。
【0080】
心筋梗塞後に再灌流を受けた対象において、鉄沈着、MI内の炎症性負荷、および/または有害な心臓リモデリングを低減し、それによって心筋梗塞の症状を治療する方法が提供され、該方法は、有効量の第二鉄キレート剤(例えば、デフェリプロン、デスフェリオキサミン、デフェラシロクス、またはこれらの組み合わせ)を再灌流の数日後(例えば、再灌流の3、4、5、6、または7日後;1週間~3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、または6ヶ月以上)に投与して、梗塞部における鉄沈着を減らし、梗塞部における炎症性負荷を低減し、または有害な心臓リモデリングを抑制するようにすることを含む。いくつかの局面では、該方法は、慢性期に第一鉄キレート剤(例えば、2,2-ビピリジルまたはデクスラゾキサン)を投与することを含まない。
【0081】
対象における鉄沈着、MI内の炎症性負荷、および/または有害な心臓リモデリングを低減し、それによって心筋梗塞の症状を治療する他の方法は、有効量の第二鉄キレート剤(例えば、デフェリプロン、デスフェリオキサミン、デフェラシロクス、またはこれらの組み合わせ)を、MIの慢性期に、例えば梗塞部のマクロファージにFe3+鉄結晶が存在することを特徴とする慢性期に、および/またはMIの発症から少なくとも7日後、より好ましくは少なくとも2週間後に投与して、梗塞部における鉄沈着を減らし、梗塞部における炎症性負荷を低減し、または有害な心臓リモデリングを抑制するようにすることを含む。該方法のいくつかの局面では、第二鉄キレート剤が投与される間、第一鉄キレート剤は慢性期に投与されない。
【0082】
対象における鉄沈着、MI内の炎症性負荷、および/または心筋梗塞(MI)後の有害な心臓リモデリングを低減し、それによって心筋梗塞の症状を治療するさらに他の方法は、有効量の第二鉄キレート剤(例えば、デフェリプロン、デスフェリオキサミン、デフェラシロクス、またはこれらの組み合わせ)を、MIの亜急性期またはそれより後に、例えば梗塞部にFe3+鉄が存在することを特徴とする亜急性期に、および/またはMIの発症の約1~2週間後に投与して、梗塞部における鉄沈着を減らし、梗塞部における炎症性負荷を低減し、または有害な心臓リモデリングを抑制するようにすることを含む。
【0083】
いくつかの局面では、鉄沈着、MI内の炎症性負荷、および/または心筋梗塞(MI)後の有害な心臓リモデリングを低減し、それによって心筋梗塞の症状を治療する上記の方法において、該対象は心筋内出血の症状を示すか、または心筋内出血を経験した対象である。別の局面では、該対象は出血性心筋梗塞を有する。さらに別の態様では、該対象は心筋梗塞を伴う再灌流誘発性出血を有する。
【0084】
これらの方法のさらなる局面は、心筋梗塞を伴う心筋内出血を経験した対象を選択する段階、および有効量の第二鉄キレート剤(例えば、デフェリプロン、デスフェリオキサミン、デフェラシロクス、またはこれらの組み合わせ)を再灌流の数日後、MIの慢性期または亜急性期の後に投与する段階を含む。他の局面は、心筋梗塞の症状を示すか、または心筋梗塞と診断された、任意でさらに再灌流治療を受けた対象を選択する段階、および有効量の第二鉄キレート剤を、それを必要とする対象に、好ましくはMIの慢性期に、またはMIの亜急性期の後に投与する段階を含む。
【0085】
様々な局面では、出血性心筋梗塞の重症度を治療もしくは低減し、かつ/または有害な心臓リモデリングの重症度もしくは可能性を低減する上記方法において、心筋梗塞のサイズは、第二鉄キレート剤を投与する前と比較して増加していない。他の局面では、出血性心筋梗塞の重症度を治療もしくは低減し、かつ/または有害な心臓リモデリングの重症度もしくは可能性を低減する上記方法において、心筋梗塞のサイズは、第二鉄キレート剤を投与する前のサイズと同様であり、変化していない。さらなる局面では、上記の方法において、EDTAは該対象に投与されない。さらにいくつかの局面において、第二鉄キレート剤を投与された対象では、遠隔心筋に比べて、MI内の脂肪分が出血性心筋梗塞後(例えば、3日目から8週間の間)に経時的に増加しない;一方、有効量の第二鉄キレート剤を投与されていない出血性心筋梗塞の対照対象は、遠隔心筋に比べて、MI内の脂肪分が統計的にまたは検出可能に増加していた。さらにいくつかの局面では、第二鉄キレート剤を投与された対象の梗塞部の心筋壁の厚さは、出血性心筋梗塞後に経時的に増加し、例えば、第二鉄キレート剤による治療前または治療開始時と比較して、治療後6ヶ月まで顕著に大きくなる。さらなる局面では、第二鉄キレート剤を投与された対象は、第二鉄キレート剤の投与前の対象と比較して、または症状を有するが第二鉄キレート剤を投与されていない対照対象と比較して、MI領域内のLMが低減し、かつ左室駆出率が改善された。
【0086】
診断
対象における心筋出血の存在を診断または判定するための1つまたは複数の方法が提供され、例えば、1つまたは複数の医療用イメージング技術、心筋トロポニン測定、またはこれらの組み合わせが含まれる;これらはしばしば心筋梗塞の兆候もしくは症状後または再灌流療法後に数時間、数日間または数週間にわたって繰り返し実施され、様々な態様では、ベースラインを確立するために心筋梗塞の兆候もしくは症状が出る前または再灌流療法を行う前にも実施される。
【0087】
いくつかの態様では、対象における再灌流後の心筋内出血の存在を診断または判定する方法は、再灌流療法後のタイムスパンにわたって1回、2回またはそれ以上の回数、対象のトロポニンレベルまたは心筋トロポニンレベルを測定することを含む。
【0088】
いくつかの態様では、これらの方法は、再灌流療法後の第2のタイムスパンにわたって1回、2回またはそれ以上の回数、心臓で1つまたは複数の医療用イメージング技術(MRI、PET)を実施することをさらに含み、第2のタイムスパンは、トロポニン(または心筋トロポニン)レベルを測定するためのタイムスパンと同じでも異なっていてもよい。
【0089】
他の態様では、トロポニン(または心筋トロポニン)レベルを測定することを含むこれらの方法はまた、医療用イメージング技術を排除する(または置き換える)。したがって、いくつかの態様では、対象における再灌流後の心筋内出血の存在を診断または判定する方法は、再灌流療法後のタイムスパンにわたって1回、2回またはそれ以上の回数、対象のトロポニンレベルまたは心筋トロポニンレベルを測定することから成る。
【0090】
さらなる態様では、対象における再灌流後の心筋内出血の存在を診断または判定する方法は、トロポニンもしくは心筋トロポニンのベースラインレベルと比較して、または基準時点でのトロポニンレベルと比較して、再灌流療法後のタイムスパンにわたって1回、2回またはそれ以上の回数、対象のより高いトロポニンレベルまたは心筋トロポニンレベルを測定することを含む。さらなる態様では、対象における再灌流後の心筋内出血の存在を診断または判定する方法は、トロポニンもしくは心筋トロポニンのベースラインレベルと比較して、または基準時点でのトロポニンレベルと比較して、再灌流療法後のタイムスパンにわたって1回、2回またはそれ以上の回数、対象のより高いトロポニンレベルまたは心筋トロポニンレベルを測定することから成る。
【0091】
様々な態様では、再灌流後のトロポニンレベルを測定するためのタイムスパンは、再灌流療法後1~12時間、12~24時間、24~72時間、または5日~7日である。一態様では、前記方法は、再灌流後12時間以内に少なくとも1回トロポニンレベルを測定することを含む。別の態様では、該方法は、再灌流後12時間以内に少なくとも1回、再灌流後12~24時間の間に少なくとも1回、トロポニンレベルを測定することを含む。さらに別の態様では、該方法は、再灌流後12時間以内に少なくとも1回、再灌流後12~24時間の間に少なくとももう1回、さらに再灌流後24~72時間の間に少なくとももう1回、トロポニンレベルを測定することを含む。さらに別の態様では、該方法は、再灌流後24時間以内に少なくとも1回、再灌流後24~72時間の間に少なくとももう1回、トロポニンレベルを測定することを含む。さらに別の態様では、該方法は、(1)再灌流後12時間以内に少なくとも1回と、再灌流後12~24時間の間に少なくとも1回;または再灌流後24時間以内に少なくとも1回;および(2)再灌流後24~72時間の間に少なくとも1回、(3)再灌流後3日~5日の間に少なくとも1回、(4)再灌流後5日~7日の間に少なくとも1回、のうちの1つまたは複数で、トロポニンレベルを測定することを含む。さらなる態様では、該方法は、(1)再灌流後12時間以内に少なくとも1回と、再灌流後12~24時間の間に少なくとも1回;または再灌流後24時間以内に少なくとも1回;および(2)再灌流後24~72時間の間に少なくとも1回、(3)再灌流後3日~5日の間に少なくとも1回、(4)再灌流後5日~7日の間に少なくとも1回、のうちの2つまたは3つ全てで、トロポニンレベルを測定することを含む。
【0092】
様々な態様では、ベースラインレベルよりも高い、再灌流後12時間以内に測定された心筋トロポニンレベルは、心筋内出血の存在を示すものである。様々な態様では、ベースラインレベルよりも高い、再灌流後24時間以内に測定された心筋トロポニンレベルは、心筋内出血を示すものである。さらなる態様では、ベースラインレベルよりも高いレベルは、再灌流療法後12時間以内の時間枠で、少なくとも7倍、6.5倍、6倍、5.5倍、5倍、4.5倍、4倍、または3倍高く、ヒト対象では、IMHの存在を示している;一方、再灌流療法後にIMHを示さないヒト対象は、再灌流療法後12時間以内の時間枠で、自己ベースラインレベルと比較して、多くても約2倍高い心筋トロポニンレベルを有するだろう。一般に、ベースラインレベルは、同じ対象の再灌流前に得られたもの;または再灌流前24時間以内に得られたもの;または心筋梗塞の兆候もしくは症状の発現後であるが、再灌流療法前に得られたものである。いくつかの態様では、該方法は、冠動脈血行再建術または再灌流療法後の2つの異なる時点で、該対象のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルを測定することを含む。いくつかの態様では、該方法は、冠動脈血行再建術または再灌流療法後の3つの異なる時点で、該対象のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルを測定することを含む。いくつかの態様では、該方法は、冠動脈血行再建術または再灌流療法後の4つの異なる時点で、該対象のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルを測定することを含む。いくつかの態様では、該方法は、冠動脈血行再建術または再灌流療法後の5つの異なる時点で、該対象のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルを測定することを含む。いくつかの態様では、該方法は、冠動脈血行再建術または再灌流療法後の6つの異なる時点で、該対象のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルを測定することを含む。いくつかの態様では、該方法は、冠動脈血行再建術または再灌流療法後の7つの異なる時点で、該対象のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルを測定することを含む。さらなる態様では、該方法は、トロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、該対象において冠動脈血行再建術または再灌流療法前のそれより3倍~5倍高いレベルに上昇した場合に、該対象の心内腔からの出血を抑えるための処置を該対象に施すことを含む。他の態様では、該方法は、トロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、該対象において冠動脈血行再建術または再灌流療法前のそれより4倍~6倍高いレベルに上昇した場合に、該対象の心内腔からの出血を抑えるための処置を該対象に施すことを含む。他の態様では、該方法は、トロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、該対象において冠動脈血行再建術または再灌流療法前のそれより5倍~7倍高いレベルに上昇した場合に、該対象の心内腔からの出血を抑えるための処置を該対象に施すことを含む。他の態様では、該方法は、トロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、該対象において冠動脈血行再建術または再灌流療法前のそれより3倍~6倍高いレベルに上昇した場合に、該対象の心内腔からの出血を抑えるための処置を該対象に施すことを含む。さらなる態様では、該方法は、トロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、該対象において冠動脈血行再建術または再灌流療法前のそれより3倍~7倍、3倍~8倍、3倍~9倍、3倍~10倍、4倍~7倍、4倍~8倍、4倍~9倍、4倍~10倍、5倍~8倍、5倍~9倍、5倍~10倍、6倍~8倍、6倍~9倍、6倍~10倍、7倍~9倍、7倍~10倍、8倍~10倍、9倍~10倍、または少なくとも10倍高いレベルに上昇した場合に、該対象の心内腔からの出血を抑えるための処置を該対象に施すことを含む。
【0093】
いくつかの態様では、心筋梗塞を有しかつ再灌流療法(例えば、経皮的冠動脈インターベンション)を受けたヒト対象において、再灌流後12~24時間の間に測定された心筋トロポニンレベルと比較して、再灌流後12時間以内に測定された該レベルが高いことは、心筋内出血の存在を示すものである。さらなる態様では、該ヒト対象において、再灌流後24~72時間の間に測定された心筋トロポニンレベルと比較して、再灌流後12~24時間の間に測定された該レベルが高いことは、心筋内出血の存在を示す。対照的に、様々な態様では、心筋梗塞を有しかつ再灌流療法を受けたヒト対象において、再灌流後12~24時間の間に測定された心筋トロポニンレベルと比較して、再灌流後12時間以内に測定された該レベルが低いことは、該対象に心筋内出血がないことを示す。したがって、いくつかの態様では、トロポニンレベルの基準時点は、直前測定時点であり得る;または、他の態様では、基準時点は、直後測定時点であり得る。
【0094】
さらなる態様では、心筋内出血を有すると判定された対象は、例えば、鉄キレート剤、ヘム遮断剤および不活性化剤、止血剤、ヘムが分解するのを防ぐための一酸化炭素放出分子(CORM、例えば金属カルボニル錯体、Ru(グリシナト)Cl(CO)3)の使用、またはこれらの組み合わせなどの、心内腔からの出血を抑えるための処置を受ける。
【0095】
診断後の治療とモニタリング
また、対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減するための、1つまたは複数の方法が提供される。現在の標準的な慣行では、PCI前および/またはPCIテーブル上(PCI処置中または直前および直後)に抗血小板療法を提供することもあるが、トロポニンレベルの経時的な測定(サンプリング)に基づいて出血性梗塞を特定する本方法は、対象のその後の治療において鉄キレート剤療法を導入して、または1つ以上の抗炎症剤と併用して、梗塞サイズの拡大を軽減し、最終的に心筋リモデリングを改善することが可能である。
【0096】
いくつかの態様では、対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減するための方法は、対象の血液サンプルから、再灌流療法後18時間以内にトロポニンのピークレベル、および/または再灌流療法前のレベルと比較して、再灌流療法後18時間以内に少なくとも1.5ng/mLのトロポニンレベルの増加を検出することによって、該対象が出血性心筋梗塞を患っていたと診断する段階、および有効量の1つまたは複数の鉄キレート剤、抗炎症剤、またはこれらの組み合わせを上記の対象に投与する段階を含む。
【0097】
いくつかの態様では、対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減するための方法は、再灌流療法後12時間以内に0.4ng/mL/時以上のトロポニンレベルの増加を該対象の血液サンプルから検出することによって、該対象が進行中の出血性心筋梗塞を有すると診断する段階、および有効量の1つまたは複数の鉄キレート剤、抗炎症剤、またはこれらの組み合わせを上記の対象に投与する段階を含む。
【0098】
いくつかの態様では、対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減するための方法は、再灌流療法後の経時的なトロポニンの血中レベルの分析結果を取得する段階、および再灌流療法後18時間以内にトロポニンの血中レベルがピークに達し、かつ/または再灌流療法後18時間以内にトロポニンの血中レベルが再灌流療法前のレベルと比較して少なくとも1.5ng/mL増加する場合に、有効量の1つまたは複数の鉄キレート剤、抗炎症剤、またはこれらの組み合わせを上記の対象に投与する段階を含む。
【0099】
いくつかの態様では、対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減するための方法は、再灌流療法後の経時的なトロポニンの血中レベルの分析結果を取得する段階、およびトロポニンの血中レベルが再灌流療法後12時間以内に0.4ng/mL/時以上で増加する場合に、有効量の1つまたは複数の鉄キレート剤、抗炎症剤、またはこれらの組み合わせを上記の対象に投与する段階を含む。
【0100】
いくつかの態様では、対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減するための方法は、再灌流療法後の経時的なトロポニンの血中レベルの分析結果を要求する段階、および再灌流療法後18時間以内にトロポニンの血中レベルがピークに達し、かつ/または再灌流療法後18時間以内にトロポニンの血中レベルが再灌流療法前のレベルと比較して少なくとも1.5ng/mL増加する場合に、有効量の1つまたは複数の鉄キレート剤、抗炎症剤、またはこれらの組み合わせを上記の対象に投与する段階を含む。
【0101】
いくつかの態様では、対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減するための方法は、再灌流療法後の経時的なトロポニンの血中レベルの分析結果を要求する段階、およびトロポニンの血中レベルが再灌流療法後12時間以内に0.4ng/mL/時以上で増加する場合に、有効量の1つまたは複数の鉄キレート剤、抗炎症剤、またはこれらの組み合わせを上記の対象に投与する段階を含む。
【0102】
いくつかの態様では、対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減するための方法は、該対象が再灌流療法を受けた後18時間以内にトロポニンの血中レベルがピークに達し、再灌流療法前のレベルと比較して再灌流療法後18時間以内に少なくとも1.5ng/mL増加すると判定された対象に対して、上記のように、有効量の1つまたは複数の鉄キレート剤、抗炎症剤、またはこれらの組み合わせを投与する段階を含む。
【0103】
いくつかの態様では、対象における出血性心筋梗塞を治療し、かつ/または出血性心筋梗塞を有する対象における梗塞拡大を軽減するための方法は、トロポニンの血中レベルが再灌流療法後12時間以内に0.4ng/mL/時以上の速度で増加すると判定された対象に対して、上記のように、有効量の1つまたは複数の鉄キレート剤、抗炎症剤、またはこれらの組み合わせを投与する段階を含むる。
【0104】
トロポニンレベルの「ピークに達する」とは、上昇した後に低下することを指し、ある態様では、そのレベルが特定の時間枠内で最高点まで上昇した後に低下することを指す。
【0105】
様々な態様では、心筋梗塞と診断された、心筋梗塞を患っている、または心筋梗塞を患ったことのある対象において、心筋梗塞の拡大の程度を抑制し、またはその可能性を低減するための方法が提供され、該方法は、(A)第一鉄キレート剤、または第一鉄キレート剤と第二鉄キレート剤との組み合わせ、または鉄キレート剤を含む組成物を、適切な時期に該対象に投与する段階;および(B)トロポニンレベル(または心筋トロポニンレベル)をあるタイムスパンにわたって測定し、かつ/または医療用心臓イメージングを行って、特に再灌流療法後の、該対象における心筋内出血の有無を判定する段階を含む。さらなる態様では、該方法は、(C)該対象が心筋内出血を有すると判定された場合に、鉄キレート剤および/または止血剤を含む組成物を該対象に投与する段階を含む。
【0106】
さらなる態様では、冠動脈疾患などの心疾患のために経皮的冠動脈インターベンションを必要とする、またはそれを受けたことのある対象において、心筋梗塞の拡大の程度を抑制し、またはその可能性を低減するための方法が提供され、該方法は、(A)第一鉄キレート剤、または第一鉄キレート剤と第二鉄キレート剤との組み合わせ、または鉄キレート剤を含む組成物を、適切な時期に該対象に投与する段階;および(B)トロポニンレベル(または心筋トロポニンレベル)をあるタイムスパンにわたって測定し、かつ/または医療用心臓イメージングを行って、該対象における心筋内出血の有無を判定する段階を含む。さらなる態様では、該方法は、(C)該対象が心筋内出血を有すると判定された場合に、鉄キレート剤および/または止血剤を含む組成物を該対象に投与する段階を含む。
【0107】
いくつかの態様では、出血性心筋梗塞を有する対象、再灌流療法を受けたことのある対象、または心筋内出血を発症するリスクのある対象において、心筋梗塞サイズを縮小し、かつ/または心筋梗塞サイズの拡大を抑制する方法が提供され、該方法は、(A)心筋梗塞の急性期または心筋梗塞発症の3日以内に、有効量の第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、ヘムを調節する薬剤、またはこれらの組み合わせを含む組成物を投与する段階;(B)冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法の前後に、または冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法後の2つ以上の時間枠で、該対象のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルを測定する段階;および(C)トロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法後30分~12時間以内に上昇し、冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法前の該対象のレベルと比較して少なくとも7倍、6.5倍、6倍、5倍、4倍または3倍高い場合に、該対象の心内腔からの出血を抑える治療を該対象に施す段階;または(C)において、冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法後30分~12時間以内のトロポニンまたは心筋トロポニンの血中レベルが、冠動脈血行再建術もしくは再灌流療法前の該対象のレベルと比較して、高くないか、3倍を超えない場合に、心内腔からの出血を抑える治療を該対象に施さない段階を含む。
【0108】
いくつかの態様では、第一鉄キレート剤、ヘムに結合する薬剤、ヘムを調節する薬剤、またはこれらの組み合わせを含む組成物は、該対象の心筋に、または該対象の心臓に、または該対象の心臓に到達するように循環系に投与される。
【0109】
検出
さらに、対象におけるトロポニンのレベルを検出する1つまたは複数の方法が提供される。
【0110】
いくつかの態様では、心筋梗塞を有し、かつ再灌流療法を受けているまたは受けた対象におけるトロポニンのレベルを検出する方法は、出血性心筋梗塞に関する判定を望んでいる対象から得られた生物学的サンプル(例えば、血液)をアッセイする段階;および再灌流療法後18時間以内にトロポニンのレベルを経時的に検出する段階を含む。
【0111】
いくつかの態様では、心筋梗塞を有し、かつ再灌流療法を受けているまたは受けた対象におけるトロポニンのレベルを検出する方法は、出血性心筋梗塞に関する判定を望んでいる対象から得られた生物学的サンプルをアッセイする段階;および再灌流療法前のレベルと比較して、再灌流療法後18時間以内に1.5ng/mL以上のトロポニンレベルの増加を検出するか、または再灌流療法後12時間以内に0.4ng/mL/時以上の速度でのトロポニンレベルの増加を検出する段階を含む。
【0112】
いくつかの態様では、心筋梗塞を有し、かつ再灌流療法を受けているまたは受けた対象におけるトロポニンのレベルを検出する方法は、出血性心筋梗塞の症状を示す対象から得られた生物学的サンプル(例えば、血液)をアッセイする段階;および再灌流療法後18時間以内に経時的にトロポニンのレベルを検出する段階を含む。
【0113】
いくつかの態様では、心筋梗塞を有し、かつ再灌流療法を受けているまたは受けた対象におけるトロポニンのレベルを検出する方法は、出血性心筋梗塞の症状を示す対象から得られた生物学的サンプル(例えば、血液)をアッセイする段階;および再灌流療法前のレベルと比較して、再灌流療法後18時間以内に1.5ng/mL以上のトロポニンレベルの増加を検出するか、または再灌流療法後12時間以内に0.4ng/mL/時以上の速度でのトロポニンレベルの増加を検出する段階を含む。
【実施例
【0114】
以下の実施例は、特許請求される本発明をよりよく説明するために提供され、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。特定の材料が言及されている場合、それは単に説明のためのものであり、本発明を限定することを意図したものではない。当業者であれば、発明能力を行使することなく、また本発明の範囲から逸脱することなく、同等の手段または反応物を開発することが可能である。
【0115】
実施例1: 出血は、MIの急性期には梗塞拡大を介して、慢性期には持続的な炎症性負荷を介して心臓に継続的にダメージを与える、一連の時間的制約のある(time-sensitive)イベントを推進する。
設計と論理的根拠:hMIの患者はMACEのリスクが最も高い患者である。再灌流を受けた大きな急性MIは出血を伴うことが多い。慢性期には、再灌流出血を伴うMIは、炎症性負荷が長期化する傾向にある。MIのサイズと長期の炎症性負荷はいずれも、CHFに至る有害なLVリモデリングの重要な予測因子である。しかし、これらの観察結果に寄与するコア生物学は知られていない。
【0116】
予備的データ:
(a)再灌流を受けた出血を伴うMIは、再灌流を受けていないMIよりも大きい。
心臓の病態生理学における典型的な考え方は、急性MIサイズは初期の虚血ゾーン(リスク領域(AAR))に限定されるというものである。hMIはしばしば大きくなることから、本出願人は、出血が心筋細胞を大量の有毒ヘム鉄にさらすため、AARを越えてMIサイズを大きくする可能性があると仮定した。イヌ(n=40)は、LAD(第1対角枝より下)のno-flow虚血を3時間受けた;その後、20匹は再灌流を受け、他は受けなかった。MI後1週目と8週目にCMRを行って、MIサイズ(LGE)と出血/鉄(T2*)を評価した。MIサイズは、再灌流を受けた出血のある(IMH+)および出血のない(IMH-)動物と、再灌流を受けない(NR)群の間で比較した。NR群は、再灌流障害によって変わらないAARの対照としての役割を果たした。質量分析法を用いて、MI領域および遠隔領域内の鉄量を定量化した。全てのイヌがMIを発症したが、hMIのサイズは、非hMIまたはNRの動物より2倍を超えて大きかった(p<0.01)。出血の大きさとMIサイズは高い相関を示した(R=0.8,p<0.01)(図10A~10C参照)。非hMIはNR MIよりも小さかった。hMIは、鉄含量が非hMIより10倍以上多く、NRより4倍多かった。まとめ:再灌流が出血につながる場合、それは益となるよりも害となる可能性がある。注目すべきことに、出血を伴うMIのサイズは、関連するAARよりも大きい;そして、hMIの鉄含量は、他の全てのMIタイプよりも有意に多い。本出願人は、ヘム鉄がhMIにおいて梗塞拡大を推進するかどうかを試験する。
【0117】
(b)hMIの臨床的に関連するラットモデルの検証および再現性。
大型動物および患者における再灌流MI内での出血の発生は知られている;しかし、これはラットでは示されていない。方法:60匹の動物に、LADの90分虚血とその後の再灌流(I/R)(n=22)、60分I/R(n=20)、または30分I/R(n=18)のいずれかを実施した。90分I/Rの約80%および他の群からの全てのラットが生き残った。再灌流の24時間後にラットにGdを注入して、犠牲にした。摘出した心臓に対して9.4TスキャナーでLGEおよびT2* CMRを行った。H&Eにより、LGEで検出された組織損傷を確認し、プルシアンブルー(PB)染色により、T2*-CMRで鉄の存在を確認した。結果を図10Dに示す。90分I/Rを受けた全ての動物はhMIについて陽性であり、30分I/Rを受けた全ての動物は出血性でなかった(非hMI)。60分I/Rでは、12匹がhMIを発症したが、8匹は非hMIであった。まとめ:90分I/Rでは常にhMIが生じるが、30分I/Rでは一貫してno reflowなしの非hMIが生じる。しかし、60分I/Rでは、hMI(60%)と非hMI(40%)の両方が生じ、両群ともno reflowを有する。本出願人は、これらのモデルを使用して、no-reflowを伴うおよび伴わない非hMIからの出血の示差的影響を評価する。
【0118】
(c)90分I/Rにさらされたラットは、急性期に梗塞周囲ゾーンでの著しい酸化ストレス、フェロトーシスマーカーのアップレギュレーション、およびMI後にわたってオートファジーの持続的なアップレギュレーションを示す。
本出願人は、90分I/Rを受けたラットの梗塞周囲ゾーンにおける酸化ストレス、フェロトーシス、およびオートファジーを検討した。方法:ラット(n=15)に90分I/R(3匹死亡)または偽手術(n=12)を施した。動物(1群3匹)を再灌流または偽手術の1、4、24時間後および4週間後に犠牲にした。梗塞周囲領域または偽心臓において、酸化ストレスとフェロトーシスマーカー(マロンアルデヒド抗酸化酵素、グルタチオンペルオキシダーゼ、NOX)、およびオートファジー遺伝子を測定した。結果:酸化ストレス、フェロトーシスマーカーおよびオートファジー遺伝子の優先的な上昇、ならびに抗酸化物質レベルの低下が、梗塞周囲ゾーンで観察された(図11A~11H)。結論:90分I/Rは、超急性期に著しい酸化ストレスとフェロトーシスのアップレギュレーションを、MIの急性期と慢性期にはオートファジーの持続的なアップレギュレーションをもたらす。90分I/RはhMIをもたらすことから、これは、hMIがMI後の期間を通して広範な組織損傷にさらされることを示している。本出願人はこれらの所見を確立しかつ拡張して、出血が梗塞周囲ゾーンにおける心筋細胞の広範なフェロトーシス;およびオートファジーの長期アップレギュレーションを促進することを明らかにする。
【0119】
(d)ヘモペキシンは、90分I/Rを受けたラットにおいて、酸化ストレスを軽減し、かつLVリモデリングを改善する。
背景:ヘモペキシン(Hx)は、出血の際の重要な副産物であるヘムの捕捉剤として知られている。本出願人は、90分I/R(hMIを起こすことが知られている)を受けたラットをHxで処置することが、急性期に酸化ストレスを軽減し、慢性期にLVリモデリングを改善できるかどうかを調べた。方法:ラット(n=12)に90分I/Rを施した;50%の動物をHx(700μg、再灌流直後と2日後にi.p.)で処置し、残りをPBSで処置した。LV機能はエコーで判定した。各群の半数を24時間で犠牲にし、残りをMI後1ヶ月で犠牲にした。結果:総ROSは24時間で対照群と比べてHx群で有意に低かった(図12Aおよび12B参照)。LVEFは、32±5%(対照)に対して51±4%(Hx+)であった;p<0.05。まとめ:ヘム特異的捕捉剤であるHxは、hMIの有害作用を弱めることができる。
【0120】
研究方法:本出願人は、2つのタスクを実行する:タスク1では、出血が梗塞周囲の心筋細胞のフェロトーシスを介して急性期に梗塞拡大を促進するかどうかを検証する;タスク2では、慢性期に、出血の副産物である鉄が、それを除去しようとするマクロファージを、瘢痕形成を損ないかつ有害なリモデリングを引き起こす炎症性サイトカインを産生するように分極化するかどうかを検証する。この研究のエンドポイントは、MI内の出血が、非hMIと比較して、急性期(再灌流後3日未満)に最大の再灌流障害を引き起こすこと;およびMI内の出血が、慢性期に、有害なLVリモデリングを支持する持続的な炎症誘発性表現型を媒介することを示すことである。動物群:60分I/Rプロトコルを用いて、出血ありおよび出血なしの再灌流MIを生じさせる;予想される収率は出血あり60%、出血なし40%。これにより、再灌流に先立つ虚血持続時間に戸惑うことなく、出血の影響を調べることができる。
【0121】
タスク1: hMIの急性期における梗塞拡大のメカニズムとしてのフェロトーシス。
フェロトーシスがhMIにおける梗塞拡大を推進するかどうかを検証する。フェロトーシスは、細胞膜の酸化的損傷の修復を任される重要な酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4)の活性喪失により引き起こされる;図13参照。通常、システイン(グルタチオン(GSH)合成の基質)は、グルタミン酸と引き換えに細胞に取り込まれる。このステップが阻害されると、GSHが枯渇し、リン脂質ペルオキシダーゼであるGPX4が不活性化される。GPX4は、潜在的に有毒な脂質ヒドロペルオキシド(L-OOH)を無毒な脂質アルコール(L-OH)に変換する。エラスチンによるGSHの枯渇、またはGPX4の直接阻害剤である(1S,3R)-RSL3(別名RSL3)によるGPX4の不活性化は、最終的に高度の脂質過酸化をもたらし、細胞死を引き起こす。GPX4は通常、鉄依存性脂質過酸化の危険な産物を除去し、細胞膜をこの損傷から保護している;GPX4が欠乏すると、結果としてフェロトーシスが起きる。梗塞拡大がフェロトーシスを介してヘムにより媒介されることを確認するために、ヘモペキシン(Hx)を用いてヘムの影響をブロックし、Hx処置したhMIラットとPBS処置したhMIラットとの比較において、GSH枯渇が存在しないだけでなく、マロンアルデヒドとタンパク質カルボニルレベル(フェロトーシスの主要マーカー)の上昇がないことを実証する。データ収集:300匹の動物(hMIの均等でない誘導による20%削減を含む)を使用する:120匹のhMI(60匹のヘモペキシン処置(Hx+);60匹のHx処置なし(Hx-));120匹の非hMI(60匹Hx+;60匹Hx-);時点ごとに10匹のラット(6時点、詳細は下記)。Hxで処置される動物には、700μgの薬物を週2回、1ヶ月間i.p.投与する。
【0122】
ラットを以下の時点で犠牲にする:再灌流または開胸(偽)直後、MIまたは開胸後4時間、1日目、2日目、3日目、および1週間。リスク領域(AAR)をエバンスブルー染料で確定する。心臓を半分に切断する(半分の一方は面積測定法に基づいてAARの測定と、TTCに基づく梗塞サイズ(IS)の測定に使用する;他方は梗塞周囲(BZ)、梗塞中心(IZ)、および遠隔(Rm)の領域からのサンプル用に切片化する)。BZ、IZ、およびRm切片において、フェロトーシスをGSH枯渇と脂質過酸化(タンパク質カルボニル、マロンアルデヒド)に基づいて評価し、オートファジー/ミトファジーのマーカーを前述のように測定する。BZ、IZ、およびRm中の鉄含量は、先に述べたように質量分析を用いて測定する。データ解析:BZ、IZ、およびRm切片からのROSマーカー、GSHレベル、および他の特定のフェロトーシスマーカー(マロンアルデヒド、タンパク質カルボニル)を反復測定ANOVAにより各時点で比較する。フェロトーシスを抑制する上でのHxの有効性は、hMIラット(Hx+対Hx-)のBZにおけるROSマーカー、GSH、タンパク質カルボニルおよびマロンアルデヒドのレベルに基づいて評価される。hMIが梗塞拡大を促進するかどうかを判定するために、hMI群と非hMI群において、再灌流直後とMI後1週目のIS/AARの相対変化を検討する。ヘムが梗塞拡大を促進するかどうかを判定するために、(i)hMI/Hx-のIS/AAR>hMI/Hx+のIS/AAR;および(ii)hMI/Hx+群のIS/AARの変化が非hMI群と変わらないかどうかを検討する。hMI/Hx-とhMI/Hx+とのBZ中の鉄含量の差を、対応のあるt検定(paired t-test)により各時点で比較する。
【0123】
データ解釈:hMIは再灌流を受けていない梗塞よりも大きいことを示す予備的データから、hMI/Hx-のIS/AAR>hMI/Hx+のIS/AAR;および再灌流直後と1週目とのIS/AARの相対変化はhMI/Hx-群>hMI/Hx+群となると考えられる。ヘムは酸化ストレスを促進し、かつフェロトーシス遺伝子をアップレギュレートすることが知られているので、hMIのBZのNOX>非hMIのBZのNOXとなるが、IZまたはRmでは差がないと考えられる。もしヘムがBZで筋細胞のフェロトーシスを引き起こすならば、BZ中の鉄濃度は1週目でhMI>非hMIとなる。もし梗塞拡大がフェロトーシスを介して進行するならば、梗塞サイズが安定すると予想される3日目頃に、非hMIと比較してhMIでは、BZがフェロトーシスマーカー(マロンアルデヒド、タンパク質カルボニル、GPX4)のレベル上昇を示すことになる。もしヘムがフェロトーシスと梗塞拡大を促進するならば、Hx+ラットでは、Hx-と比べて、再灌流後にIS/AARとGSH転写産物が減少することになる。予備的データ(b)に基づくと、60分I/Rを受けた全ての動物はno-reflowを起こすと予想される(出血あり60%、出血なし40%)。したがって、60分I/Rを受けたhMI動物と非hMI動物を比較することは、組織損傷に対するno-reflowと出血の示差的影響を評価する機会を提供する。これらの研究は、hMIからのヘムがAARを越えて梗塞拡大を引き起こすこと、およびhMIの再灌流障害がno reflowありの非hMIよりも大きいこと、を示す最初の研究となり得る。
【0124】
Hx処置は、hMIの細胞外空間に高レベルのHxをもたらし、瀕死の赤血球からヘムが外部に放出されるhMIの急性期に、ヘムの効率的な捕捉を促進すると考えられる。これは、Hxの用量が最適でない可能性があるため、ヘム媒介再灌流障害を完全には排除できない可能性がある。あるいは、フェロトーシスが明らかであるならば、Hxをヘムオキシゲナーゼ(HO)で補完して、ヘムの自然な解毒を可能にするだろう。このメカニズムは通常、インビボでヘムを解毒するために機能しているが、出血は内因性の能力を圧倒しそうである。
【0125】
タスク2: hMIにおける慢性的な鉄沈着はマクロファージでの炎症誘発性細胞カスケードにつながる。
ここでは、非hMIではなく、hMIにおいて慢性的な鉄沈着物が炎症誘発性カスケードを推進するかどうかを検討する。マクロファージのリソソーム内の鉄蓄積は、オートファジー、酸化ストレス、およびミトコンドリア損傷を推進し、その結果として、インフラマソームの活性化と、抗炎症性(M2)表現型よりも炎症誘発性(M1)表現型へのマクロファージの分極化が起こるという提案されたメカニズムを検証することにする(図14)。このタスク2のエンドポイントは、MI後2~8週目で、hMIのM1:M2>非hMIのMI:M2であることを証明することである。
【0126】
データ収集と分析:100匹のラットを研究対象とする(hMIと非hMIの収率が不均等であるため20%削減):40匹のhMIおよび40匹の非hMI;時点ごとに10匹のラット(下記参照)。ラットをMI後1、2、3、4および8週間で安楽死させる。オートファジー:RT-PCRおよびウェスタンブロッティングを用いて、オートファジー遺伝子(LC3、ATG5、12、16、BCL2およびBECLIN)のアップレギュレーションを評価する。SQSTMI/p62を用いて、オートファジーフラックス(autophagic flux)を推測する。オートファゴソームを定量化するために、免疫染色によって点状LC3を評価する。リソソームの漏出は、アクリジンオレンジまたは他の酸親和性(acidotropic)蛍光色素の取込みに基づいて、リソソームカテプシンの細胞質ゾルへの再分配により判定する。ミトコンドリアと細胞質ゾルにおける酸化ストレスを、本発明者らが以前に記載したように組織で測定する。ミトコンドリアの損傷は、TEMを用いて、シトクロムcの放出によって評価する。ミトコンドリアの構造と機能の変化を、心臓組織および分離したミトコンドリアにおいて測定する。機能研究は、ミトコンドリアを分離して、膨潤アッセイ(swelling assay)を行うことで実施する。ミトコンドリア膜透過性遷移は、Ca2+の非存在下または存在下で、膨潤バッファー中の540nmでの変化としてモニタリングされる。ミトコンドリア呼吸機能は酸素電極を用いて測定する。酸化的リン酸化(OXPHOS)のためのミトコンドリア遺伝子発現はRT-PCRを用いて測定し、タンパク質レベルは本発明者らが過去に行ったようにウェスタンブロッティングを用いて測定する。インフラマソームの活性化は、カスパーゼ1のタンパク質分解活性化に基づいて、ウェスタンブロッティングおよび蛍光発生基質を用いた活性アッセイにより測定する。マクロファージの分極化:NOS2とARG1は、それぞれ、M1およびM2マクロファージの確立されたマーカーであるため、hMIおよび非hMI領域でNOS2対ARG1のタンパク質発現比率を測定して、炎症誘発性または抗炎症性表現型へのマクロファージの分極化を評価する。組織学、免疫組織化学、炎症誘発性遺伝子およびタンパク質の発現、質量分析:組織学(プルシアンブルー、PB)および免疫組織化学(CD68、CD163、IL-1β、TNF-α、MMP、IL-10およびTGF-β)は、以前に記載したように実施して定量化する。
【0127】
鉄および免疫マーカーが陽性の領域は後退する。qRT-PCRおよびウェスタンブロット分析を用いて、IL-16、TNF-a、MMP、TIMP、IL-1βおよびTGF-αの遺伝子およびタンパク質の示差的発現のレベルを調べて、以前に記載したように質量分析から測定された鉄含量に対して相関させる。データ解釈:酸化ストレス(ミトコンドリアと細胞質ゾルの酸化ストレス)およびオートファジー遺伝子が再灌流障害の急性期と慢性期に上昇することが想定される。具体的には、MIの急性期に虚血が冠血管系での低酸素状態を引き起こし、再灌流により酸化ストレスが増加してフェロトーシスが起こり、その結果、オートファジーがアップレギュレートされると考えられる。慢性期には、Fe2+(ヘム由来)からFe3+への変換が酸化ストレスを増強し、オートファジー遺伝子のより大きな活性化、オートファゴソームの形成、リソソーム機能の障害、およびマクロファージにおける損傷ミトコンドリアの蓄積につながる。ウェスタンブロットおよび遺伝子発現は、鉄とIL-β、TNF-α、およびMMPとの間の仮説的関係に関する証拠を提供することができる。IL-βとTNF-αは予備的データに基づいてMMPをアップレギュレートすることが知られているため、サイトカインとMMPの両方のレベルは鉄と直接相関していると考えられる。これらの研究は、鉄の蓄積が炎症誘発性サイトカインとMMP(どちらも有害なリモデリングの重要な原因である)を増加させることを示唆する直接的なメカニズム上の証拠を提供する可能性がある。
【0128】
60分I/Rを用いてhMIラットと非hMIラットを作成すると、おそらく非hMIよりもhMIが多くなる。虚血時間に戸惑うことなくhMIと非hMIを作り出す別の方法は、ラットを、さもなければ非hMIをもたらすであろう30分I/Rにさらし、再灌流前に毛細血管の透過性を高める薬剤(例えば、コラゲナーゼ、VEGFなど)にさらすことである。MIの慢性期には、心臓が有害なリモデリングを受けるため、酸化ストレス、オートファジー、および炎症が重なり合って、原因と結果の分離を複雑にしている可能性がある。マクロファージの死もまた、急性hMIの部位で増強されるのであれば、これは、梗塞コアへのマクロファージの浸潤が、単にno-reflowゾーンの不可入性(impenetrability)によるのではなく、ヘム媒介毒性によるものであるという最初の証拠を提供することになろう。
【0129】
実施例2: 梗塞の急性期および慢性期に持続的な心筋損傷を促進するhMI内の鉄の空間的、時間的および生化学的特徴の時間依存的変化。
設計と論理的根拠:予備的データは、MI内の出血からの鉄が、梗塞後の期間に心臓への継続的な損傷を媒介する可能性が高いという考えを支持する。本出願人は、梗塞ゾーンから鉄を除去することで、この損傷をなくすことができるという仮説を立てている。しかし、ポルフィリン環に結合し始めた鉄(ヘム鉄)は、赤血球が血管外に漏出すると、位置(細胞外対細胞内)、酸化状態(第一鉄対第二鉄)、および物理的状態(遊離、結晶質対非結晶質)が時間依存的に複数の変化を受ける。鉄キレート剤は組織から鉄を除去するのに有効であり得るが、そのキレート効果は鉄の物理化学的性質と結びついているため、全ての鉄キレート剤が同じというわけではない。したがって、hMIに対する最適な鉄キレート化戦略には、MI後の環境で進展していく鉄の特徴に関する知識が必要である。この研究のエンドポイントは、最適な治療戦略が可能となるように、hMI内の鉄の時間依存的な特徴(具体的には、どの鉄キレート剤をいつ使用するか)を決定することである。
【0130】
予備的データ:MI後2ヶ月における鉄の局在、結晶性、および酸化状態。本出願人は、慢性hMI内に鉄が沈着することを示した;しかし、そのMI内での正確な位置およびその物理化学的特徴は不明である。本出願人は発症後8週間のMI領域でこれを研究した。方法:鉄について陽性のエクスビボ切片に対して、高分解能電子顕微鏡法(TEM)、原子分解能イメージング、およびエネルギー分散型分光法(EDS)を実施した。結果:TEMは、マクロファージ内の電子密度の高い物質を明らかにした。原子イメージングは、この物質がナノ結晶に組織化されることを示した(図15)。まとめ:MI後2ヶ月では、鉄は細胞内にあり、結晶質であり、損傷したリソソーム内ではFe3+の形態をしている。
【0131】
出血の分解産物の物理化学的特徴は、最適な治療法を決定するために重要である。出血の初期副産物は細胞外ヘム(Fe2+複合体)であり、これは最終的に心筋細胞によって内在化される。本出願人は、培養中の心筋細胞をヘム捕捉剤であるヘモペキシン(Hx)で前処理することが、細胞内Fe3+キレート剤であるデフェリプロン(DFP)と比較して、該細胞を酸化ストレスから救済できるかどうかを調べた。方法:研究は心筋細胞培養物で行った。Hx、DFP、ヘミン、ヘミン+Hx、ヘミン+DFPで処理した後の総ROSを測定した。結果:HxまたはDFPで細胞を処理しても、総ROSは対照と比較して増加しなかった;しかし、ヘミンはROSを著しく増加させた。Hxで前処理した後にヘミンにさらすと、ヘミンおよびDFPでの前処理に比べて、ROSが有意に減少した(図16)。まとめ:出血副産物の位置(細胞内対細胞外)と酸化状態は、hMIに対する治療法の開発において考慮する必要がある重要な特徴である。hMIに対する最適なICT戦略を開発するために、本発明者らは、hMIのラットを異なる時点で犠牲にして、出血副産物の物理化学的特徴を特定する予定である。
【0132】
方法:データ収集:MI直後、MI後4時間、1、2、3日目、ならびに1、2、3、4、および8週目に採取したhMIおよび非hMIラット組織における鉄の空間的、時間的、および生化学的特徴を調べる。TEMとEDSを用いて、関与する細胞の種類およびオルガネラを特定する。EDSと走査型TEMを用いて、鉄が遊離であるか結晶質であるかを判定する。鉄の酸化状態は、電子エネルギー損失分光法を用いて決定する。オルガネラの3Dイメージングを行って、膜の完全性を評価する。データの解析と解釈:出血の副産物はヘムであり、ヘムは疎水性で細胞膜を容易に通過し、結果としてMIの1週目に筋細胞内の細胞質Fe2+とミトコンドリアFe2+を増加させる。本出願人は、Fe2+の程度をフェロトーシス(GSH枯渇)と相関させる。予備的データに基づくと、鉄(Fe2+を変換するフェントン反応の副産物)はMIゾーンにマクロファージと共局在し、2~8週目のうちに結晶としてリソソームに蓄積すると考えられる。本出願人は、鉄沈着の程度をTNF-αおよびIL-1βと相関させて、Fe3+濃度と炎症誘発性サイトカイン発現との間の依存性を評価する。マクロファージ内の結晶はリソソーム膜を損傷すると予想され、これは8週目までに明らかになるはずである。これらの所見は、hMIに特有のものであると考えられる。これは、hMIと非hMIの間の鉄の主要な時間依存的特徴を明らかにする最初の研究となる。
【0133】
MIの急性期に、梗塞周囲のマクロファージもまた鉄を蓄積して死滅するならば、これは、鉄がマクロファージに対して有毒であり、それによってMI領域でのクリアランスが弱まるために治癒過程を遅らせることを示すであろう。
【0134】
実施例3: 出血性MIの急性期にフェロトーシスと梗塞拡大を、慢性期に炎症性負荷と有害なリモデリングを抑制するための鉄キレート療法。
設計と論理的根拠:hMIの有害作用を克服するための治療法は存在しない。心臓MRI(CMR)と鉄キレート療法(ICT)は、非虚血性心疾患において心筋鉄を管理するために臨床的に使用されているが、hMIの治療には使用されていない。再灌流MIのマウスを用いた最近の研究では、DFO(Fe3+キレート剤)ではなく、BPD(Fe2+キレート剤)で虚血前に前処理すると、ミトコンドリア鉄と再灌流障害を軽減できることが示されたが、hMIとの関連は明らかにされなかった。本出願人は、鉄の時空間的分布、レドックス状態、および結晶化度に合わせたICTが、hMIの急性期には梗塞拡大を、慢性期には有害なリモデリングを最小限に抑えられるという仮説を立てている。本出願人は、FDA承認の鉄キレート剤が再灌流後の期間を通してhMIの有害作用を有意に軽減できるかどうかを試験する。この研究からの前向きな結果は、hMIと梗塞拡大と有害なLVリモデリングの間の因果関係を確立するであろう;そして、hMI後のCHFの軽減に向けた効果的なICT戦略の橋渡し可能性(translatability)を示す、大型動物のみならず小型動物の最初の証拠を提供する。
【0135】
予備的データ:再灌流後の、EDTAではなく、遅延型デフェリプロン(DFP)は、出血性心筋梗塞のラットにおいて有害な炎症性、組成的、構造的および機能的リモデリングの顕著な抑制をもたらす。
【0136】
hMI(90分の虚血とその後の再灌流、I/R)を受けたラットにおいて、DFPの治療効果をEDTAに対して試験した。方法:hMI(n=15)を生じさせ、心エコー検査で左室駆出率(LVEF)<35%であることを確認した。ラットを次のように処置した:再灌流後3日目にDFP(100mg/kg/日、強制経口投与)で処置(DFP+、n=5);プラセボ(PBS)処置(n=5);または再灌流時にEDTA(EDTA+、n=5、40mg/kg/日、強制経口投与)。生存している全ての動物を術後4週間追跡した後、犠牲にしてT2*-w CMR、組織検査および免疫組織化学染色(H&E、EMT、PB、IL-1β、TNF-αおよびMMP9)を実施した。LVEFは、ベースライン時、1週目、および犠牲前に心エコー検査を用いて評価した。
【0137】
結果:遅延型DFPを投与したラットでは、EDTA処置ラットまたはプラセボ対照と比較して、複数の保護指標が観察された:(a)LVEFは、42±4%(DFP)対32±3%(EDTA)対30±4%(PBS)であった;(b)MIゾーンの鉄はほとんどまたはまったくなく、壁(梗塞部および遠隔部)が厚く、LV拡張が低下した;(c)瘢痕のある心筋では鉄と炎症誘発性マーカーが減少した。図8を参照されたい。まとめ:(a)遅延型DFP治療は、MI内の鉄を減らし、かつ構造的、機能的、および炎症性LVリモデリングを改善する上で安全かつ有効である;(b)EDTA処置はDFPのような心臓保護を提供しない、そのためキレート剤の特異性が治療結果の重要な決定要因となる;(c)ラットモデルは、hMIの結果を研究するための大型動物モデルの実行可能な代替モデルである。
【0138】
実施例3-1: 予防アーム - MIの急性期に梗塞拡大を抑制し、慢性期に有害なリモデリングを軽減する。
実施例2で特定された時点(例えば、それぞれ急性期および初期慢性期)に送達されたFe2+およびFe3+鉄キレート療法の有効性を試験する。本出願人は、ラットと大型動物モデルとヒトの間で、hMIの主要な側面(鉄沈着とリモデリング)が類似していること;およびラットでの側副血行路(collateral)の欠如を使用して心筋損傷を正確に予測できることを確認している。
【0139】
5群のラット(1群10匹、20%削減を含む;合計63匹)をhMI(LAD(左前下行冠動脈)の90分I/R)にさらす。鉄キレート剤の特異性(細胞内(DXZ、DFP)対細胞外(EDTA)、Fe2+(DXZ)対Fe3+(DFP))を、臨床的に安全な用量である1日あたり100mg/kgで試験する。所見をヘモペキシン(Hx)処置群と比較する。全ての処置を再灌流後に開始する。処置群:グループ1 - PBS;グループ2 - DXZを8週間;グループ3 - 鉄の結晶ができるまでDXZ、その後DFP;グループ4 - DFP;グループ5 - Hx。図9は、そのダイアグラムを示す。ラットは、心臓MRI(CMR)(シネ、T2*、LGE)をベースライン時、急性MI(1~2時間、1、2、3、および7日目)、およびMIの後期(2、3、4、および8週目)に受ける。最後の心臓MRIの後、心臓を摘出し、梗塞をTTCで染色して、遺伝子、タンパク質および免疫組織化学を実施する。鉄キレート剤を100mg/kg/日の用量で投与(強制経口投与)する。統計学:統計ツールを用いて、平均鉄含量(T2* CMRからの[Fe])、梗塞拡大(急性期LGE CMR)、遺伝子およびタンパク質発現を検証する。炎症の程度をDefiniensソフトウェアで定量化し、局部的な梗塞リモデリング(0日目と8週目の間)と全体的なリモデリング(MI後の0日目と8週目の間のシネCMRからのLVEFの変化)を測定する。本発明者らは、梗塞拡大と有害なリモデリングを最大限に抑制する治療戦略を特定するつもりである。変量切片(random intercepts)の混合モデルを使用して、様々な処置群間で鉄および他の連続結果の平均値を比較する。
【0140】
心臓MRI(CMR):全心臓、ECG-および呼吸-ゲート(gated)2Dシネ(機能の正確な評価)、T2*(鉄濃度の正確な定量化)、LGE(梗塞サイズ)CMRは、9.4Tシステム(ラット試験)または3.0T PET/MRシステム(イヌ試験)で取得する。組織の遺伝子&タンパク質発現およびTEM:取り出したMI切片を、遺伝子およびタンパク質発現ならびにTEMに使用する。RT-PCRによる遺伝子発現解析、およびウェスタンブロットによるタンパク質発現解析を行う。TEMを用いて心筋細胞の形態を評価する。電子常磁性共鳴(EPR):フリーラジカル発生率を、総活性酸素種(ROS)およびスーパーオキシド(O2・-)のレベルと共に、EPRを用いて測定する。
【0141】
データ解釈:hMIはリスク領域より大きく、広範なROSおよびNADPH酸化を伴うことを示す上記の予備的データに基づいて、グループ2(DXZ ICT)、3(DXZとDFP)および5(Hx)のMIサイズは、グループ1(PBS)とグループ4(Fe3+ ICT)よりもはるかに小さいと考えられる。グループ2(DXZ ICT)のMIサイズはグループ5(Hx)よりもさらに小さくなる可能性がある。もしそれが起これば、それは、DXZ鉄キレート剤療法による処置が、出血からだけでなく、他の供給源(例えば、心筋細胞からのミオグロビン貯蔵所)からのFe2+の減少にも関与していることを示すことになる。しかし、急性MIにおけるFe2+の主要な供給源は出血からであるため、その差は小さいと考えられる。DXZはFe2+を除去し、DFPはFe3+を除去すると考えられるので、急性期に高用量のDXZを投与し、鉄結晶の形成後にDFPを投与するグループにおいて、最適な結果(急性MIサイズの縮小およびLVリモデリングの抑制)が最も明らかになると、本出願人は予想している。もしそれが観察されず、グループ2、3および5が全て同じようにリモデリングされた(ただし、グループ1および4より良好)ならば、それは、出血の初期副産物(細胞外ヘムまたはその細胞内Fe2+対応物)を除去することが、再灌流出血の急性および慢性の両方の影響を制限するのに十分であることを示しているだろう。これらの所見は、鉄の選択的ターゲティングが出血の有害作用を著しく軽減し得ることを示す、最初のインビボ証拠となるであろう。
【0142】
キレート剤DXZの制限された浸透がno reflowのために観察される場合は、より小さな鉄キレート剤BPDが、急性期にMIサイズを縮小させる上でより有効であるかもしれない。あるいは、HxはDXZの利点をまねる可能性がある。CMRスキャンに基づくと、[Fe]はMI内で減少しないが、梗塞拡大は抑制される可能性がある;これは、鉄をMIゾーンから除去できないものの、鉄がキレート化されて無効になっていることを示している。
【0143】
実施例3-2: 抑制アーム - hMIの慢性作用を制限し、鉄結晶が形成された後の有害なリモデリングを抑制する。
本出願人は、鉄の結晶が形成された後の有害なリモデリングを抑制するためにFe3+キレート剤の遅延送達の能力を試験し、そしてげっ歯類モデルで得られた所見を検証済みのhMIイヌモデルに橋渡しする。
【0144】
4群のラット(1群10匹、20%削減を含む;合計50匹)を、実施例3-1と同様にhMIにさらす。この実施例と実施例3-1の間には、2つの主要な違いがある。第一に、鉄結晶が形成される最も早い時点(実施例2で判定;図9参照)で処置(PBS、ICT(DXZとDFP))を開始する。第二に、梗塞拡大はMI後1週間以内に完了すると考えられるため、MI後1、2、3、4および8週目にCMRを実施する。統計学:鉄、遺伝子およびタンパク質発現ならびに免疫組織化学、構造的および機能的リモデリングを、1週目にT2*に対して回帰させる。一元配置ANOVAを用いて、処置後のスキャン間の関心対象の変数の平均値の変化が、グループ間で異なるかどうかを判定する。統計的検出力の推定は、実施例3-1と同様である。データ解釈:上記の予備的データに基づいて、リモデリングは、他の全てのグループよりもグループ8(DFP ICT)で良好であると考えられる。これは、抑制アームでは、Fe3+の長期的な作用のみが軽減され、出血の急性作用を軽減するDXZとHxの利点はもはや利用できないことを示している。ここでの所見は、遅延型ICT処置でさえhMI患者にとって有益であり得ることを示す最初のものである。
【0145】
DXZは有害なリモデリングを抑制することも観察されるが、DFPと同程度ではない可能性がある。これは、この効果が残留Fe2+鉄の除去によって媒介され、Fe3+への変換を制限している可能性があることを示している。鉄結晶が形成されるときのFe2+とFe3+の比率を定量化するための追加の研究を実施することができる。
【0146】
実施例3-3: 橋渡し研究 - hMIのイヌモデルでの予防アームの評価。
処置プロトコル&データ収集:4群のイヌ(1群11匹、10%削減を含む;n=44)はhMIを受け、急性期(再灌流後72時間(3日)以内)にMI拡大を、慢性期(8週目)に有害なリモデリングを抑制する予防アームの能力を検証する。処置群:グループ1 - PBS;グループ2 - DXZを8週間;グループ3 - 鉄の結晶ができるまでDXZ、その後DFP;グループ4 - DFP。イヌのLADに、MI誘導前に水圧式オクルーダー(hydraulic occluder)を装着する。動物がスキャナー内にいる間に水圧式オクルーダーを膨張させて、LAD領域にhMIを起こさせる。全ての試験を全身用PET/MRシステムで行うことにする。側副血行路の潜在的な影響を取り除くために、LAD結紮後にN-アンモニアPET灌流を用いて測定されたAARに対してMIサイズを正規化する。データ解析:鉄、遺伝子およびタンパク質発現ならびに免疫組織化学、ならびにリモデリングのパラメータを、1週目にT2*に対して回帰させる。統計ツールは実施例3-1と同じにする。データ解釈:本出願人がラットとイヌの間に見た密接な関係(出血、鉄沈着および炎症)に基づいて、その所見は実施例3-1のものと同様であると考えられる。これらの所見は、鉄の選択的ターゲティングがhMIに関連する有害な結果を著しく減少させることができるという、大型動物による最初の証拠を表している。
【0147】
実施例2の研究が、Fe2+およびFe3+キレート剤を試験できる明確な時間枠を提供しない場合は、実験を変更して、再灌流直後に開始するDXZのみ、DFPのみ、およびカクテルとして送達されるDXZとDFPに関連する結果が示差的結果をもたらすかどうかを試験する。これは、異なるキレート剤の時間依存的効果を独立して評価して最適な治療戦略を特定する機会を得るために、最初からは試験されないだろう。鉄がDXZとDFPによって部分的にしか除去されない場合、本出願人がとる1つのアプローチは、鉄キレート剤の用量を増やすことである。
【0148】
この研究でイヌはラットと同じ用量の鉄キレート剤療法を受けるが、ラットと比較してイヌの代謝率は低いため、より低用量でも効果があるかもしれない。いずれにせよ、100mg/kgの用量の鉄キレート剤はイヌで安全であることが示されている。
【0149】
実施例4-1: 出血性または非出血性MIを有する対象における梗塞拡大研究
心筋梗塞は、心筋への血流量の顕著な低下によって引き起こされる筋細胞の細胞死を特徴とする病理学的プロセスである。それは、血栓症に続発する上流の冠動脈閉塞によって最も頻繁に開始される。心筋梗塞の重症度は、1)血流低下にさらされた心筋の体積、2)虚血イベントの持続期間、および3)他のあまり明確でない要因、の関数である。
【0150】
血流の停止に続いて、心筋組織内の筋細胞と内皮細胞は、細胞内エネルギー貯蔵量が枯渇し、血小板が活性化され、フィブリンが虚血毛細血管床に沈着していくにつれて、膨脹する。その後、傷ついた細胞内でアポトーシス経路が活性化され、組織構造が破壊される。その結果として生じる微小血管への損傷は、引き金となる心外膜の閉塞が解消される場合でさえも、組織への正常な血流の回復を不可能にする。
【0151】
実験モデルと臨床試験の両方において、虚血心筋への血流の回復が遅れると、多くの場合、冠動脈閉塞が修正されないままの場合よりも梗塞サイズが大きくなることが観察されている。この再灌流障害は、遅い血行再建術に関するガイドラインの勧告につながっており、梗塞ゾーン内の心筋内出血により特徴づけられる。梗塞に伴う出血の存在が心筋損傷の一因となるのか、それともバイスタンダー現象であるのかについては、依然として議論の余地がある。
【0152】
心臓MRIイメージング技術の進歩により、梗塞サイズ、心筋血流、微小血管閉塞、および出血の存在を画像化する技術が利用できるようになったため、心筋梗塞の病態生理学への洞察が深まった。本発明者らは、これらの技術を使用して、出血性梗塞と非出血性梗塞を比較した場合に、梗塞発生の病態生理学の違いが検出されるかどうかを検討した。
【0153】
本研究における患者
この研究は、本発明者らの治験審査委員会(Institutional Review Board Committee)によって承認され、全ての患者は書面によるインフォームドコンセントを提出した。2017年7月から2019年3月にかけて、プライマリーPCI(primary PCI)を受けた継続的STEMI患者が前向きに登録され、PCIの5~8日後に3.0T(MAGNETOM Verio, Siemens Healthcare社, ドイツ)でCMRスキャンを受けた。CMRスキャンでは、心臓シネ(機能のため)、T2*マッピング(IMHのため)、および左心室全体をカバーする遅延ガドリニウム造影(LGE;MIサイズとMVOのため)が取得された。主な除外基準は、以前の心筋梗塞(MI)、進行中の不整脈、心不全の病歴、腎不全、金属製人工装具インプラント、造影剤に対するアレルギー(または禁忌)、および閉所恐怖症であった。最初に募集された全70名の患者うち、画質不良(n=3)、以前の心臓ステント(n=2)、およびLGEがない(n=1)という理由で6名が除外された。最終的に、64名のSTEMI患者が研究コホートを構成した。
【0154】
イヌでの概念実証研究
外科的に冠動脈狭窄を誘発したイヌ(n=25、20~25kg)を研究対象とした。全ての動物は、動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)の承認を得て、NIHの「実験動物の管理と使用に関する指針」(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って調査研究した。全ての動物はベースラインスキャンを受け、その後冠動脈狭窄研究を強行するために(左)開胸術を施した。左開胸術中に1匹の動物が死亡し、残りの24匹(n=24)は、左前下行冠動脈(LAD)の流量制限狭窄を外科的に3時間誘発し、その後スキャナー内で再灌流を行った。冠動脈狭窄を導入するために、左側開胸術を以前に記載したように行い、左前下行冠動脈(LAD)の第一枝のすぐ遠位に20MHzドップラープローブを取り付けて、冠動脈血流速度(CBFV)の測定を可能にした。外部作動型の水圧式オクルーダーをドップラー血流プローブの近位に取り付けた。その後、胸を閉じた。
【0155】
動物を再灌流直後にスキャンした。動物が周囲を認識して、胸を床につけて腹ばいになる姿勢(sternal recumbent)をするようになるまで、動物を術後にモニターした。手術後、動物に通常の術後鎮痛を行い、不快症状または苦痛について動物を毎日モニターした。不快症状および/または苦痛の兆候は、無気力、便および/または尿が出ない、食べられない、通常の動きやすさの兆候が見られない、手術部位の赤みまたは腫れを含む異常な身体症状と定義された。術後、各イヌが目覚める前に、痛みとストレスを緩和するために該動物にブプレネックス(0.1mg/kg IM)を投与した。この投与量は、動物の快適さのレベルに応じて、6時間ごとに24~36時間継続した。抗生物質セファゾリン(25mg/kg, IV)を術後動物に8時間ごとに少なくとも24時間投与した。麻酔の導入は、ブレビタール(Brevital)(メトヘキシタールナトリウム、11mg/kg IV)を、麻酔前の精神安定剤イノバール(Innovar)(フェンタニルクエン酸塩0.4mg/mlとドロペリドール20mg/ml)と共に用いて行った。全てのイメージング検査の前に、動物を絶食させ、鎮静させ、挿管して、プロポフォール(2.0~5.0mg/kg、IV)で麻酔した。イメージング検査中はプロポフォールの連続注入(0.03~0.1mg/kg/min, IV)により麻酔を維持した。
【0156】
患者のトロポニンT評価
患者の梗塞サイズの生化学的尺度としてトロポニンTを測定した(Elecsys Troponin T; Roche社)。このアッセイは0.01pg/mLの検出レベルに達し、参照集団の99パーセンタイルに相当する0.03pg/mLで10%未満の変動を達成する。全ての患者は、トロポニン測定のための静脈血サンプリングを5回、すなわち、PCI前、PCI後12時間未満、24時間未満、72時間未満、および5~7日に受けた。
【0157】
イヌのトロポニンT評価
患者の梗塞サイズの生化学的尺度としてトロポニンTを測定した(Elecsys Troponin T; Roche社)。このアッセイは0.01pg/mLの検出レベルに達し、参照集団の99パーセンタイルに相当する0.03pg/mLで10%未満の変動を達成する。全ての患者は、トロポニン測定のための静脈血サンプリングを5回、すなわち、ベースライン時、I/R直後、PCI後1日、3日、5日、および7日に受けた。
【0158】
患者における心血管MR
心臓MR検査は、PCI後10日以内に1.5Tおよび3.0T(MAGNETOM AeraおよびVerio, Siemens Healthcare社, Erlangen, ドイツ)の臨床MRスキャナーで実施した。短軸のバランスの取れた定常状態自由歳差運動(SSFP)シネイメージング、T2*マップ、および心臓全体をカバーする遅延ガドリニウム造影(LGE)をそれぞれ行った。
【0159】
1.5T:シネ-SSFPの典型的なイメージングパラメータは、TR/TE=2.5/1.1ms、フリップ角80°、およびパラレル加速係数2のGRAPPAであった。心筋内出血は、マルチグラジエントリコールド撮影(multi-gradient recalled acquisition)からのT2*マップを用いて評価した。典型的なイメージングパラメータは次のとおりであった:TR=800ms、TE=2.1、3.9、5.7、7.5、9.4、11.2、13、および14.8msの8エコー、フリップ角18°、スライス厚8mm、およびバンド幅=814Hz/ピクセル。セグメント化息止めLGE画像は、セグメント化位相感応反転回復(PSIR)再構成法(TR/TE/TI=11ms/3.2ms/300ms、フリップ角25°、バンド幅=140Hz/ピクセル)を用いて、造影剤注入の10分後に取得した。
【0160】
3.0T:シネ-SSFPの典型的なイメージングパラメータは、TR/TE=40.4/2.4ms、フリップ角12°、およびパラレル加速係数2のGRAPPAであった。T2*マップは、次のイメージングパラメータを用いて取得した:TR=149ms、TE=1.5、3.8、6.0、8.2、10.4、12.6、14.9、および17.1msの8エコー、フリップ角10°、スライス厚8mm、およびバンド幅=1030Hz/ピクセル。通常使用されるLGEイメージングパラメータは、TR/TE=750ms/1.6ms、TI=300ms、フリップ角20°、バンド幅=465Hz/ピクセルであった。
【0161】
イヌにおける心血管MR
CMRは、3T(Biograph mMR, Siemens Healthcare社, Erlangen, ドイツ)MRシステムを用いて8回(ベースライン時、I/R直後、I/R後1日、2日、3日、5日、7日、8週間に)実施した。
【0162】
遅延ガドリニウム造影(LGE)CMR:位相感応反転回復(PSIR)LGE取得は、梗塞を検出するために規定された。PSIR LGE画像は、Gd-DTPA(0.2mmol/kg, Gadovist, Bayer Healthcare社)注入の10分後に、GREリードアウトによる非選択的反転回復調製法を用いて取得した(TR/TE=3.2/1.5ms、FA=20°、BW=586Hz/ピクセル、マトリクス=96×192、面内解像度=1.3×1.3mm2、およびスライス厚=6.0mm)。TIスカウトシーケンス(TI-scout sequence)を用いて、健康な心筋を無効にするための最適なTI(240~270ms)を見つけた。
【0163】
スライスにマッチした短軸T2*マップを用いて、次のパラメータに基づき心筋内出血を評価した:TR=240ms、6TE=3.4~18.4ms(ΔTE=3.0ms)、フリップ角12°、およびバンド幅=566Hz/ピクセル。T2*マップを3.0Tで取得した(TR=20ms、6TE=2.0~21.5ms(ΔTE=3.9ms)、フリップ角10°、およびバンド幅=930Hz/ピクセル)。
【0164】
患者およびイヌにおけるCMR画像解析
患者およびイヌの全てのCMR画像解析は、CMRの経験が6年以上ある経験豊富な2名の放射線科医師がcvi42ソフトウェア(Circle Cardiovascular Imaging社, Calgary, カナダ)を用いて行い、不一致がある場合にはリーダー間で合意に達した。
【0165】
心筋梗塞(MI)は、LGE画像に基づいて、遠隔心筋の平均シグナル強度よりも5SD高く設定した閾値を用いて特定し、微小血管閉塞(MVO)の領域は、MIゾーンの一部として手動で描出した。出血ゾーンは、T2*マップ上のMI内で、対象となる参照領域(ROI)の平均シグナル強度(T2*)よりも少なくとも2SD低い平均シグナル強度を有する低シグナル領域として定義した。その後、出血のROIを、特定された心筋の周囲の各スライスで手動により描き、心臓全体のT2*値を取得した。出血量は左心室容積のパーセンテージとして測定した。非出血性MI症例については、LGEからコピーしたMIのROIを用いてT2*値を取得し、オフレゾナンス(off-resonance)アーチファクトの影響を受ける領域を手動で除外した。心筋救済率は、リスク領域のパーセンテージから梗塞サイズのパーセンテージを差し引くことにより算出した。心筋救済指数は、心筋救済領域を初期リスク領域で割ることにより算出した。
【0166】
イヌにおける13N-アンモニアPET検査
全てのPET画像は、全身臨床用Biograph mMR(Siemens Healthcare社)を使用し、血流トレーサーとして13N-アンモニア[100MBq、IVボーラス(30秒)、その後10cc生理食塩水洗浄]を用いて、3Dリストモードで取得した。各PETスキャンの前に、光子減衰を補正するためにMR画像を取得した。減衰補正は、2-point Dixon MR画像を用いて行った。PETデータを10分間にわたって取得し、13N-アンモニア注入の数秒前に開始した。無傷のグループでは、安静時にアデノシン注入中に画像を取得した。具体的には、アデノシンの下でのPET取得は、アデノシン注入の2分後に定めた。
【0167】
総灌流量減少の定量化と視覚的スコアリング
心筋灌流欠損は、QPETソフトウェアで安静時灌流解析(rest perfusion analysis)を用いて測定した。心筋の総灌流量(perfusion volume)減少は、総LV心筋容積の割合(TRP、%LV)として導き出した。また、灌流欠損の程度も、米国核心臓学会議(American Society of Nuclear Cardiology)のガイドラインに従って2名のオブザーバーの合意により測定した。画像は、17セグメントモデルと5段階スコアリング(0、正常な灌流;1、軽度のカウント減少;2、中程度のカウント減少;3、重度のカウント減少;4、取込みなし)を用いて採点した。3以上の視覚的スコアを疾患のカットオフとして定義した。
【0168】
統計分析
連続変数は、必要に応じて、平均±標準偏差(SD)または中央値および四分位範囲(IQR)として表した。カテゴリ変数は数値として報告し、パーセンテージはカイ二乗検定を用いて分析した。連続変数の正規性検定は、コルモゴルフ-スミルノフ(Kolmogorov-Smirnov)検定で評価した。サブグループ間の差は対応のないt検定で比較し、連続変数はピアソンの相関係数とスピアマンの相関係数を用いて相関させた。次に、参照標準として平均2SDアプローチを用いて受信者操作特性(ROC)分析を行い、ROCまたは独立ROC曲線(AUC)の比較をDeLong法により評価した。全ての検定は両側検定であり、p値<0.05は統計的有意性を示している。統計分析は、IBM SPSS Statistics, V.20.0(Chicago, IL, USA)およびMedCalcバージョン19(MedCalc Software社, Mariakerke, ベルギー)を用いて実施した。
【0169】
結果
64名の患者全員が、症状の発症から12時間以内(中央値:300分、範囲:240~594)にプライマリーPCIによる血行再建術を受けて成功していた(PCI後のTIMI flow≧2と定義)。人口統計学的特徴、血管造影、検査結果、入院中の投薬、およびCMR所見をそれぞれ表2に示す。原因血管は、左前下行枝、左回旋枝、および右冠動脈で、それぞれ43例、9例、および14例の患者であった。心筋出血は45例(70%)で検出された。出血性MI患者と非出血性MI患者の間に、年齢、症状発症から再灌流までの時間、狭心症の病歴、心血管リスク因子に有意差はなかった。出血性MI群では、より多くの患者がPCI前のTIMI flow 0または1を有していた(P<0.001)。PCI後のTIMI flowに差は見られなかった。全ての患者がPCIの間に抗血小板薬を投与されたが、これは本発明者らの施設では標準治療であった。
【0170】
登録された64名のSTEMI患者のうち、48名が1.5T MRを受け、残りの16名が3.0T MRを受けた。中央値5日(範囲4~9)のCMRでは、全ての患者が、梗塞関連動脈に囲まれた領域の遅延造影イメージングでハイパーエンハンスメント(hyperenhancement)を示した。遅延造影CMRでの平均梗塞サイズは、LV質量の31.6%であった。MVOは、患者の79.6%(n=51)において遅延造影CMRで造影欠陥(enhance defect)として存在し、それはLV質量の中央値1.58%(IQR 0.64~4.10)に及んでいた。心筋内出血は患者の70%(n=45)に存在し、これらのIMHの患者では、それはLV質量の中央値4.6%(IQR 2.2~6.0)に相当した。それは、対応するポストガドリニウム画像におけるMVOの領域よりも常に小さかった。
【0171】
STEMI患者の出血状態に関連したトロポニンTの動態の違い
IMHのありまたはなしに基づいて、患者を2群に分類した:19名のIMH(-)患者および45名のIMH(+)患者。出血のある患者は、PCI前に血圧のレベルがより低く、TIMI flow 1の割合がより高かった(p<0.001)。プライマリーPCIでは、64名の患者全員がTIMI 3 flowを有し、心外膜の結果に成功した。胸痛発症から再灌流までの時間は3群とも同様であった(p=0.82)。
【0172】
PCI前のベースライントロポニンT値は、全3群の患者間で類似していた(p=0.34)。しかし、再灌流後、トロポニンT値は、IMH(-)患者と比較して、PCI後12時間未満(p<0.001)、24時間(p<0.001)、72時間(p=0.001)、および5~7日(p=0.002)で、IMH(+)群の患者において有意に高かった。トロポニンのデータと一致して、CMRで評価した梗塞サイズ(左室質量のパーセンテージ)も、IMH(-)患者と比較して、IMH(+)群の患者で有意に大きかった(36.6±13.2対18.2±9.5)(表2、図17C)。IMHのある患者では、PCI後12時間未満という早い段階でトロポニンT値の急激かつ顕著な上昇が検出された。対照的に、トロポニンTレベルのピークは、MVOの有無にかかわらず、IMHのない患者ではPCI後24時間と遅く現れ、かなり低いレベルであった(図17B)。
【0173】
(表2)患者のベースライン特性
TCは総コレステロールを示す;TG,トリグリセリド;LDL-C,低密度リポタンパク質コレステロール;HDL-C,高密度リポタンパク質コレステロール;BUN,血中尿素窒素;Cr,クレアチニン。
データは適宜、平均値±SD、中央値(IQR)、またはn(%)として報告される。
【0174】
イヌのベースライン時の形態学的および梗塞パラメータ
研究に参加した25匹のイヌのうち、4匹が除外された:1匹は再灌流段階に死亡し、1匹は少なくとも1つの梗塞が存在せず、2匹は前処置で死亡した。残りの21匹のイヌのうち、4匹を3日で殺傷し、他の17匹全てを少なくとも8週間飼育した。トロポニンの連続測定値は全21匹のイヌにおいて入手可能であった。
【0175】
イメージングに利用できる21匹の動物のうち、12匹で出血が認められ、T2* CMRでは低輝度(hypointense)に見えた。他の動物(n=9)には出血が認められなかった。MIのこれらの連続スキャン(I/R直後、I/R後1日、2日、3日、5日、7日、8週間)における出血のあるおよび出血のない同じ動物からのLGE画像、および対応する非造影T2*、PET画像をそれぞれ図18A~18Cおよび19A~19Cに示す。PETで評価したリスク領域およびリスク領域に対する梗塞サイズの比率は、0日目には非出血群に比べて出血群で同等であった(47.6±6.3対45.4±9.7,p=0.590;45.1±11.2対42.5.0±11.8,p=0.644)。MVOは、出血性MIの動物の全てと、非出血性MIの動物のうち2匹(22%)に存在した。
【0176】
出血状態との関連での梗塞サイズの経時的進展
出血性MIは、LGE CMRで特定されたMI領域内の急性期および慢性期3.0-TのT2*マップ上で低輝度領域として可視化された(図19A)。I/R後24時間追跡した同じ動物は、その後I/R直後のMIサイズと比較して増加し(18.7±5.7対22.0±5.4,p<0.01)、その後7日目まで安定した状態(p=0.153)が続いた(図18Aおよび図20A)。MIサイズの減少傾向があっても、MIの慢性期(8週間)まで追跡した同じ動物の梗塞領域は、依然として、出血のない動物よりもはるかに大きく可視化された。
【0177】
非出血性MIは、急性期にT2*損失のないMIとして特定された(図19C)。I/R直後のLGE画像と比較して、I/R後1日経過した同じ動物は、MIサイズのわずかな増加を示し(21.5±5.8対39.0±6.2,p<0.001)、その後、数日にわたって減少して、7日目にI/R直後に観察されたものと同様の値に達する(p=0.153)(図18Aおよび図20A)。
【0178】
MI拡大とI/R後の心筋出血サイズとの相関関係
出血性MIを有するイヌは、1日目と7日目の両方で、非出血性MIよりも有意に大きな拡大指数を有していた(全てp<0.001)(図21A)。梗塞貫壁性の割合は、ベースライン時と8週目の両方で、出血性群において大幅に高かった。心筋出血のサイズは、LVの7.5~20%の範囲(中央値:13.2%)であった。図21Bは、出血と、1日目マイナス0日目の拡大指数(AARに対する梗塞サイズの比率に従う)との関係を示す。心筋出血サイズ(LV%)とMI拡大指数(%)との間には強い線形相関が認められた(r=0.8984;P<0.001)。
【0179】
出血状態との関連での心筋救済の経時的進展
LGEに基づいた心筋梗塞サイズとPETに基づいたAARにより算出する心筋救済率は、出血性MI群と非出血性MI群の両方でI/R直後には同等であった(52.2±19.4対57.4±11.8,p=0.538)。その上、非出血性MI群では、7日目までのI/R後の連続CMRのタイミングで救済可能な心筋量の有意な減少は見られない(50.1±12.7対57.4±11.8,p=0.538)。しかし、出血性MIを有する同じイヌでは、I/R直後よりも1日目から7日目までの救済可能な心筋が有意に少なかった(17.36±12.9対52.2±19.4,p<0.001)(図22A および22B)。
【0180】
実施例4-2: 再灌流障害の心筋内出血と「波面」
全般的
ST上昇型MIでの再灌流療法は救命効果がある;しかし、その効果は、心外膜冠動脈の血流が回復した後でも、MIサイズのさらなる増加により逆説的に減殺されることがある。この現象は、しばしば再灌流障害と呼ばれ、心筋への漸進的損傷だけでなく、微小血管損傷とも関連している。これまで、再灌流損傷を軽減するための実験的な治療法は成功しておらず、再灌流障害の理解の改善が求められている。再灌流の潜在的な結果である心筋内出血(IMH)は、より大きなMIと関連しているが、それが梗塞拡大の一因となるかどうかは不明である。本発明者らは、再灌流されたMIの出血性変化(hemorrhagic transformation)が、時間依存的な梗塞拡大を触媒し、かつ最終的なMIサイズの重要な決定要因である、という仮説を立てた。
【0181】
本発明者らは、出血性MI(70%)または非出血性MIと同定された、プライマリー経皮的冠動脈インターベンション(PCI)で処置されたST上昇型MI患者(n=70)について、PCI前とPCI後の複数の時点(12時間、24時間、48時間、72時間、5~7日)に心筋トロポニン動態(cTn)を調べた。臨床所見を検証するために、IMHあり(60%)とIMHなしのイヌ(n=25)で虚血-再灌流試験を実施し、再灌流後(1時間、24時間、28時間、72時間、5および7日)にcTnレベルを連続的に追跡し、かつタイムラプスイメージングに基づいてMIのサイズを測った。
【0182】
IMHのある患者では、cTnは再灌流後に急速に上昇し、IMHのない患者よりも早くピークに達し、高値を示し(8±4ng/ml(IMH+, 12時間)対2±2ng/ml(IMH-, 24時間),p<0.01)、動物での所見と同等であった。タイムラプスイメージングは、出血動物では再灌流により、非出血動物に比べて、最初の24時間以内にリスク領域内に急速かつ広範囲の心筋壊死(%LV/AAR)が生じること(35±5%対8±2%,p<0.001);および再灌流後のMI拡大の速度が再灌流後の時間(IMH+群とIMH-群の間のMIサイズの変化、24時間でp<0.001だが24時間以降はp>0.5)と出血量(r2=0.90、24時間でp<0.001)に依存することを示した。さらに、再灌流後の動物における梗塞拡大は、出血がある場合にのみ心外膜の関与を伴う波面パターンに従い(IMH+:52.7±9.9%(<1時間)~77.9±11.1%(約24時間),p<0.01;これに対して、IMH-:55.6±3.4%(<1時間)対59.2±1.7%(約24時間),p=0.284)、患者の最終的な梗塞特性と一致した。注目すべきことに、再灌流後1時間では、出血ありおよび出血なしの動物において、リスク領域に対して正規化された心筋救済率に差はなかったが(47.6±6.3%(IMH+)対45.4±9.7%(IMH-),p=0.59)、再灌流後最初の72時間以内に、出血がある場合にのみ救済可能心筋の著しい損失が明らかになった(20±10%(IMH+)対50±10%(IMH-))。
【0183】
心筋出血は、最終的な梗塞サイズの決定要因である。それは、再灌流後の救済可能心筋の実質的な損失を引き起こし、期待される再灌流の効果を損なう可能性がある。本発明者らの所見は、再灌流後に出血を回避/抑制できるか、またはその影響が緩和されるならば、再灌流療法は大きな追加の臨床的利益をもたらす可能性があるという考えを支持している。
【0184】
詳細
研究により、再灌流は、閉塞した微小血管(微小血管閉塞、MVO)のあるまたはない梗塞ゾーンをもたらす可能性がある、ことが示されている。MVOは再灌流後に拡大し、その拡大は再灌流障害後の心筋壊死と並行することが分かっている。また、MVOの領域が微小血管の破壊を伴い、心筋内出血(IMH)を生じる可能性があることも研究により示されている。しかし、これまで、IMHが梗塞拡大に関与しているかどうかは、大きなMIにはIMHが伴うという観察にもかかわらず、検討されたことがない。赤血球は酸素運搬に極めて重要な役割を果たす一方で、それらの間質腔への外在化は有害であり得ることが知られている。第一に、再灌流後、IMHは微小血管傷害を悪化させ、低酸素ゾーンを拡大する可能性がある。第二に、細胞外環境での赤血球の溶血により、心筋細胞がヘムにさらされる可能性があり、このヘムはヘモグロビンの鉄結合成分であって、細胞毒性がある。それゆえ、IMHの導入から生じる両方の結果は、梗塞ゾーンの拡大を推進すると考えられる。この前提に基づいて、本発明者らは、再灌流されたMIの出血性変化がMIゾーンの時間依存的な拡大を触媒し、それが、MVOとは無関係に、出血のない梗塞と比較して、より大きな最終MIサイズに寄与する、という仮説を立てた。
【0185】
本発明者らは、ST上昇型MI患者を磁気共鳴イメージング(MRI)に基づいて出血性または非出血性として層別化し、再灌流前と再灌流後の心臓バイオマーカーの繰り返しサンプリングを用いて、本発明者らの仮説を検討した。心筋における本発明者らの知見を検証するために、虚血-再灌流障害のイヌモデルを使用した。心臓バイオマーカーと共に、本発明者らは、臨床用デュアルモダリティシステム(MRIと同時に位置合わせする統合型陽電子放出断層撮影(PET)システム)を使用して、各動物をそれ自体の対照として用いる非侵襲的なタイムラプスイメージング研究を行った。これにより、ゴールドスタンダードのイメージングアプローチを使用して、リスク領域、MIサイズ、MVOおよびIMHを定量化し、かつIMHのあるおよびIMHのない再灌流された梗塞の超急性期、亜急性期および慢性期における心筋壊死の経時的進展を評価することができた。
【0186】
ST上昇型MI(STEMI)に対するプライマリー経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受ける患者(n=70)をこの研究に募集した。患者を対象とした研究では、PCI前の、さらにPCI後の複数の時点での、出血性および非出血性MIにおける心筋細胞壊死の指標とするために、心筋トロポニン動態を標的にした。IMHの存在は、PCIの5~7日後に行われた心臓磁気共鳴イメージング(CMR)検査に基づいて確認した。血液サンプルをPCIの前と後に患者から採取した。STEMI患者を、特にPCI後最初の72時間以内に、繰り返し画像化することの困難性を考慮して、出血性MIがあるおよびない大型動物(n=25)をも研究対象とした。出血あり/なしの動物における心筋トロポニン動態を、MIサイズの時間依存的変化に関連付けるという特別な目標でもって、患者の所見への洞察を収集するために動物実験を実施した。これらの研究は、デュアルモダリティ臨床用陽電子放出断層撮影(PET)/MRIシステムで実施し、虚血中に13N-アンモニアPETに基づいてリスク領域を評価し、再灌流後にCMRに基づいて梗塞サイズを評価した。これにより、依然として広く受け入れられている他の方法(T2ベースのCMRなど)ではなく、ゴールドスタンダードのアプローチでAARを測定することができた。MIサイズを追跡するために、追加のフォローアップCMR検査を実施した。心筋トロポニン動態の一致(congruence)を評価するために、患者の採血に対応する時点で動物から血液サンプルを採取した。
【0187】
心筋損傷の連続評価のための血液マーカーおよび非侵襲的な心血管イメージング
この研究における患者は、実施例4-1に記載した通りである。採血とCMR検査が実施された重要時点を概説するフローチャートを図23Aに示す。心臓MRI検査は、3.0T MRIシステム(MAGNETOM Verio, Siemens Healthcare社, Erlangen, ドイツ)でPCI後5~8日および6~8ヶ月に実施した。短軸のバランスの取れた定常状態の自由歳差運動(SSFP)シネイメージング、T2*マップ、および心臓全体をカバーする遅延ガドリニウム造影(LGE)を行った。シネ-FLASHの典型的なイメージングパラメータは、TR/TE=40.4/2.4ms、フリップ角12°、およびパラレル加速係数2のGRAPPAであった。T2*マップは、次のイメージングパラメータを用いて取得した:TR=149ms、TE=1.5、3.8、6.0、8.2、10.4、12.6、14.9、17.1msの8エコー、フリップ角10°、スライス厚8mm、およびバンド幅1030Hz/ピクセル。通常使用されるLGEイメージングパラメータは、TR/TE=750ms/1.6ms、TI=300ms、フリップ角20°、バンド幅=465Hz/ピクセルであった。
【0188】
動物実験は、実施例4-1に記載した通りである。外科的処置の概要を説明する追加の詳細には、以下が含まれる。冠動脈閉塞を導入するために、以前に記載したように左側開胸術を行い、左前下行冠動脈(LAD)の第一枝のすぐ遠位に外部作動式オクルーダーを取り付けて、no-flow虚血を確実にした。その後、胸を閉じて動物を回復させた。回復期には、イヌが周囲を認識して、胸を床につけて腹ばいになる姿勢をするようになるまで術後にモニターした。動物に通常の術後鎮痛を行い、術後およびイメージング前に不快症状または苦痛について動物を毎日モニターした。不快症状および/または苦痛の兆候は、無気力、便および/または尿が出ない、食べられない、通常の動きやすさの兆候が見られない、手術部位の赤みまたは腫れを含む異常な身体症状と定義された。術後、各イヌが目覚める前に、痛みとストレスを緩和するために該動物にブプレネックス(0.1mg/kg IM)を投与した。この投与量は、動物の快適さのレベルに応じて、6時間ごとに24~36時間継続した。抗生物質セファゾリン(25mg/kg, IV)を術後動物に8時間ごとに少なくとも24時間投与した。麻酔の導入は、ブレビタール(メトヘキシタールナトリウム、11mg/kg IV)を、麻酔前の精神安定剤イノバール(フェンタニルクエン酸塩0.4mg/mlとドロペリドール20mg/ml)と共に用いて行った。全てのイメージング検査の前に、動物を絶食させ、鎮静させ、挿管して、プロポフォール(2.0~5.0mg/kg、IV)で麻酔した。イメージング検査中はプロポフォールの連続注入(0.03~0.1mg/kg/min, IV)により麻酔を維持した。イメージングのタイミングを図23Bに示す。最初のイメージング区間では、ベースライン画像を取得し、その後、no-flow LAD閉塞を導入した。アンモニアPET画像を、no-flow LAD閉塞が始まって2時間で取得し、AARを確認した。LAD閉塞を3時間維持した後、LAD閉塞を穏やかに解放して血流を再確立した。続いて、再灌流後にCMR画像を取得した。動物のフォローアップCMRスキャンを再灌流後24時間以内、48時間、72時間、5日目、7日目、および8週目に実施した。
【0189】
イメージング検査は、3.0Tで作動するPET/MRシステム(Biograph mMR, Siemens Healthcare社, Erlangen, ドイツ)で行った。13N-アンモニアPET画像を、虚血を導入してから少なくとも2時間後(および再灌流前に)取得し、心筋血流欠損に基づいてリスク領域を決定した。3時間のno-flow虚血後、LADを再灌流し、ヒト患者での研究と同様のCMRスキャン(シネ、T2*、LGE)を行って、心機能、IMH、MIサイズ、およびMVOを評価した。静脈血採取とCMR検査は、ベースライン時、再灌流後1時間以内、24時間、48時間、72時間、5日、および7日に実施した。再灌流後8週目に再度CMR画像を取得し、障害の慢性的な状態を特徴付けた。CMRは3Tスキャナー(Biograph mMR, Siemens Healthcare社, Erlangen, ドイツ)を用いて8回(ベースライン時、虚血直後、再灌流後1日、2日、3日、5日、7日、および8週間に)実施した。遅延ガドリニウム造影(LGE)CMR:梗塞を検出するために位相感応反転回復(PSIR)LGE取得を定めた。PSIR LGE画像は、Gd-DTPA注入(0.2mmol/kg, Gadovist, Bayer Healthcare社)の10分後に、GREリードアウトによる非選択的反転回復調製法を用いて取得した(TR/TE=3.2/1.5ms、FA=20°、BW=586Hz/ピクセル、マトリクス=96×192、面内解像度=1.3×1.3mm2、およびスライス厚=6.0mm)。TIスカウトシーケンスを用いて、健康な心筋を無効にするための最適なTI(240~270ms)を見つけた。スライスにマッチした短軸T2*マップを用いて、次のパラメータに基づき心筋内出血を評価した:TR=240ms、6TE=3.4~18.4ms(ΔTE=3.0ms)、フリップ角12°、およびバンド幅=566Hz/ピクセル。T2*マップを3.0Tで取得した(TR=20ms、6TE=2.0~21.5ms(ΔTE=3.9ms)、フリップ角10°、およびバンド幅=930Hz/ピクセル)。全てのPET画像は、LAD動脈閉塞の2時間後に全身臨床用Biograph mMR(Siemens Healthcare社)を使用し、血流トレーサーとして13N-アンモニア[100MBq、IVボーラス(30秒)、その後10cc生理食塩水洗浄]を用いて、3Dリストモードで取得した。各PETスキャンの前に、以前に記載したように2-point Dixon MR画像を用いて光子減衰を補正するために、MR画像を取得した。PETデータを10分間にわたって取得し、13N-アンモニア注入の数秒前に開始した。
【0190】
心筋トロポニン濃度([cTn])は、血清サンプル(イヌ超高感度心筋トロポニン-I ELISA, カタログ番号CTNI-4-US, Life Diagnostics社, PA, USA)からメーカーの推奨プロトコルを用いて測定した。
【0191】
CMR画像の解析は、実施例4-1に記載した通りである。MVOの領域は、LGEで低輝度であったMIゾーンの部分として手作業で描出した。IMH量は、MI陽性のスライスごとに測定し、合計して、LV容積のパーセンテージとして記録した。T2*マップがIMHについて陽性で、IMH量がMIサイズの5%を超える場合、患者と動物はどちらも出血性MIを有していたと確認された。IMH陽性の対象はIMH+、そうでない対象はIMH-と表示した。MI拡大率は、PETリスク領域により正規化された、1日あたりのMIサイズの変化として計算した。梗塞貫壁性は、各スライス上の等間隔に配置された100本のコード(chord)に沿った梗塞の程度のパーセンテージとして決定した。平均貫壁性は、1%以上の瘢痕範囲を有する全てのコードの梗塞貫壁性を平均することによって取得した。増強された組織の壁厚と増強されていない組織の壁厚は、LGE CMRでLVの円周に沿って均等に分配された100本のコードに沿って測定した。梗塞心筋の平均厚さは、増強された各セグメントでの測定値を平均することによって決定した。
【0192】
PET:リスク領域(AAR)は、QPETソフトウェアを用いて、LAD完全閉塞時の安静時灌流画像上の総心筋灌流欠損領域として決定される。心筋の総灌流容積減少は、総LV心筋容積の割合(TRP、%LV)として導出した。また、灌流欠損の程度は、経験豊富な2名のレビュアーにより、米国核心臓学会議のガイドラインに基づいた合意で測定された。完全なLAD閉塞下の灌流欠損の容積をAARとして定義した。心筋救済率は、総灌流容積と梗塞体積(LGEに基づく)の差として決定し、これを心筋の総容積に対して正規化して、パーセンテージとして記録する。心筋救済指数は、心筋救済領域をAARで割ることによって算出した。画像がデュアルモダリティPET/MRシステムで取得されたことを考えると、PET画像とMR画像の間の画像位置合わせ(registration)はほぼ完璧であった。
【0193】
統計分析は、実施例4-1に記載した通りである。
【0194】
結果
本発明者らは、CMRにより出血性MI型と非出血性MI型に層別化された臨床梗塞のコホートを前向きに分析した。STEMIで大規模な三次医療病院を受診し、症状の発症から12時間以内(中央値:300分、範囲:240~594分)に成功した機械的血行再建術(PCI後のTIMI flow≧2と定義)によって管理された70名の患者が募集された。64名の患者がこの研究に参加した;CMRに基づいて画質不良(n=3)、LGEがない(n=1)、および以前の心臓ステント(n=2)という理由で6名の患者を除外した。出血性STEMIと非出血性STEMIに基づいて識別された集団のベースライン特性を表3に示す。原因血管は左前下行枝(41名の患者)、左回旋枝(9名の患者)、および右冠動脈(14名の患者)と特定された。T2* CMRに基づいて、64名中45名(70%)の患者に心筋出血が検出された。IMH+群とIMH-群の間に、患者の年齢、症状発現から血行再建までの時間、狭心症の病歴、または心血管リスク因子に有意差はなかった。PCI後のflowグレードに差は見られなかった。全ての患者はPCI時に抗血小板薬二剤併用療法を受けた。IMH+群とIMH-群の間に、再灌流までの時間に有意差は見られなかった(P=0.97;表3)。IMHのある患者は、IMHのない患者と比較して、血圧が低く(p<0.05)、左室駆出率の低下を示す可能性が高く(LVEF,p<0.001)、PCI前に低下したTIMI flow(TIMI flow 0または1,p<0.001)を示す割合が高かった。
【0195】
(表3)STEMI患者のベースライン特性
TCは総コレステロールを示す;TG,トリグリセリド;LDL-C,低密度リポタンパク質コレステロール;HDL-C,高密度リポタンパク質コレステロール;BUN,血中尿素窒素;Cr,クレアチニン。データは、平均値±SD、中央値(IQR)、またはn(%)として表示。
【0196】
心筋内出血のある再灌流STEMI患者はより大きなMIを有する
急性期CMRをPCI後の中央値5日(範囲4~9日)に実施した。全ての患者は、梗塞関連動脈に囲まれた領域にLGE CMRでハイパーエンハンスメントを示した。LGE CMRでの平均MIサイズはLV質量の31.6%であり、IMH+群(36.6±13.2%LV)ではIMH-群(19.7±10.9%LV)と比較してMIサイズが有意に大きかった。MI貫壁性に関して同様の観察を行い、80.3±7.9%(IMH+)対64.0±12.4%(IMH-)、p<0.001で、心外膜下に達するLGEを示した。MVOは、51名の患者において遅延造影領域内の欠陥として観察され、LV質量の1.58%の中央値容積(IQR 0.64~4.10%)に関係していた。心筋内出血は、45名の患者に認められ、LV質量の4.6%の中央値(IQR 2.2~6.0%)に及んだ。STEMI患者におけるCMR所見 - 心筋組織特性と心機能 - を表4にまとめてある。
【0197】
(表4)急性期およびフォローアップ時のCMR所見
LVは左室を示す;MVO,微小血管閉塞。データは、平均値±SD、中央値(IQR)として表示。
【0198】
心筋トロポニン動態は出血性STEMI患者と非出血性STEMI患者の間で異なる
初発症状時(PCI前)の心筋トロポニンの血漿濃度([cTn])は、IMH+群とIMH-群で統計的に差がなかった(0.6±1.0対0.3±0.5,p=0.22)。しかし、再灌流後、IMH-患者と比較して、IMH+患者では[cTn]が有意に上昇した:12時間(p<0.001)、24時間(p<0.001)、72時間(p=0.001)、および5~7日(p=0.002)(図24A~24C);これも表5にまとめてある。
【0199】
(表5)STEMI患者における心筋トロポニンの血漿濃度(cTn、ng/ml)
【0200】
さらに、IMH+患者ではPCI後12時間という早い段階で[cTn]の急激かつ有意な増加が観察されたが、IMH-患者ではこうしたことは起こらなかった。最大[cTn]は、IMH-患者ではIMH+患者と比較して各時点で有意に低かっただけでなく、よりゆっくりとピークに達した(PCI後約24時間でピーク)。[cTn]の上昇の違いは、微小血管閉塞(MVO)の状態とは無関係であった;このことは、IMHを伴うMIにおける再灌流後の心筋壊死が、IMHを伴わないMIと異なって進展することを示唆していた。臨床的交絡因子のない環境設定でこれらの観察結果をさらに検討するために、本発明者らは、以前に検証した出血性MIの大型動物モデルで対照比較試験に着手した。
【0201】
イヌでの心筋トロポニン動態は出血状態に依存し、STEMI患者における所見を再現する
イヌ(n=25)は、機械的に血行再建されたMIをシミュレートするために、LAD領域に制御された虚血-再灌流障害を受けた;6匹は再灌流後に死亡し(2匹は再灌流後1時間未満、4匹は再灌流後3日未満)、2匹はMIを発症することがなかった。したがって、17匹の動物が連続試験に利用可能であり、一定の間隔で最低8週間追跡された。[cTn]動態を評価するために採血を繰り返し、心筋組織特性の時間依存的変化を評価するためにCMRを繰り返した。再灌流後のCMRに基づいて、全ての動物でMI領域内にMVOが認められたが、IMHは10匹(60%)の動物にだけ観察され(IMH+群)、他の7匹はIMH-と確認された。IMH+およびIMH-動物からのベースライン時、再灌流後24時間以内、48時間、72時間および7日の[cTn]レベルを図25A~25Cに示す。STEMI患者で観察された[cTn]データと一致して、ベースライン時(再灌流前)の[cTn]は、IMH+群とIMH-群のイヌで同程度であった(0.34±0.07ng/mL対0.32±0.02ng/mL,p=1.00)。しかし、再灌流後に、[cTn]値は、IMH-群に比べて、IMH+群で有意に高いロバストな上昇を示した:約24時間(2.83±0.23ng/mL対1.33±0.38ng/mL, p<0.001)、約48時間(2.66±0.21ng/mL対1.21±0.03ng/mL, p<0.001)、約72時間(2.34±0.32ng/mL対1.19±0.03ng/mL, p<0.001)、および7日(1.76±0.52ng/mL対1.14±0.03ng/mL, p=0.03)(図25Aおよび25B)。さらに、IMH+群では、再灌流後24時間で[cTn]の急激かつ有意な増加が観察されたが、再灌流後24時間から168時間にかけて徐々に減少した。対照的に、IMH-群では、24時間と7日目の[cTn]に有意差はなかった(1.33±0.50(約24時間)対 1.12±0.03(約7日),p=0.288)。
【0202】
タイムラプス非侵襲的イメージングは、再灌流後のMIサイズの経時的進展がIMH状態に依存することを示す
虚血および再灌流の後に出血を起こした動物からの代表的な画像のセットを図26A~26Cに示す。13N-アンモニアPET画像を、LADの第1対角枝下で完全な血管閉塞時に取得して、「リスク領域」(AAR)を定めた。AARは血管の「流血の惨事」(bloodshed)であり、特定の閉塞で起こりうる障害の理論上の最大範囲を表している。再灌流後1時間以内、および再灌流後約24時間、約72時間、約5日、約7日、および8週間で取得されたLGE CMR画像を、MIサイズおよび貫壁性を示すブルズアイプロットと共に示す。再灌流後72時間で取得されたT2* CMR画像は、ブルズアイプロットと共に、LGEで確認されたMIゾーン内の出血の証拠を示している。再灌流後1時間未満から約24時間にかけてのMIサイズおよび貫壁性の急激な増加に注目されたい。
【0203】
同等の虚血期間後に出血を起こさず、その後再灌流を受けた動物からの代表的な画像の同様のセットを図27A~27Cに示す。出血のない症例では、出血のある症例に比べて、MIサイズおよび貫壁性の控えめで緩やかな増加に注目されたい。
【0204】
AAR(再灌流前に確定)に対する再灌流直後のMIサイズの比率は、出血群と非出血群で差がなかった(47.6±6.3%(IMH+)対45.4±9.7%(IMH-),p=0.59)。
【0205】
また、再灌流後1時間以内では、%LV質量としてのMIサイズは両群で差がなかった(21.0±4.8%(IMH+)対18.8±5.70%(IMH-))。ところが、再灌流後の他の全ての時点では、IMH+群の急性MIサイズ(%LV)はIMH-群のサイズより有意に高くなった:約24時間では、38.1±7.8%(IMH+)対22.0±6.0%(IMH-);約48時間では、41.9±5.3%(IMH+)対21.4±3.8%(IMH-);約72時間では、43.5±5.8%(IMH+)対22.4±6.2%(IMH-);5日では、41.6±6.9%(IMH+)対19.4±2.7%(IMH+);および7日では、37.4±7.8%(IMH+)対20.2±6.6%(IMH-)。注目すべきことに、IMH+群では、再灌流の最初の72時間以内にMIサイズが大幅に変化したが、再灌流の72時間後にはプラトーとなった。IMH+群およびIMH-群の動物特異的AARに対して正規化された再灌流後の平均MIサイズ(%LV)を、時間の関数として、図28A~28Cに示す。さらに、8週目には、LGEで評価したMIサイズ(%LV)は、IMH-群に比べて、IMH+群で83%大きかった(21.0±3.1%(IMH+)対11.5±4.9%(IMH-),p<0.001)。IMH+群およびIMH-群からの全ての動物におけるMIサイズの連続測定に基づいて、再灌流後1時間未満と24時間でのMIサイズの比率を動物ごとに計算し、全ての動物で平均化した。この比率はIMH-群に比べてIMH+群で有意に大きかった(1.80±0.18(IMH+)対1.18±0.0(IMH-),p<0.001);同じ比率を再灌流後1時間未満と7日の間で計算したところ、同様の著しい差が観察された(1.79±0.28(IMH+)対1.04±0.04(IMH-),p<0.001)。
【0206】
出血を伴うMIは、再灌流後に「波面」様式で貫壁的に拡大し、心外膜を巻き込む
出血性梗塞は、心内膜から心外膜へと再灌流後の期間に「波面」として拡大することが観察され、梗塞貫壁性は24時間までにピークに達し、その後再灌流の最初の1週間にわたって安定していた(図26A~26C対図27A~27C参照)。注目すべきことに、IMH+群では、52.7±9.9%(<1時間)から77.9±11.1%(約24時間)に貫壁的に拡大し、p<0.001であった。一方、IMH-群では、これは軽度にしか観察されず、統計的な有意差には達しなかった:55.6±3.4%(<1時間)対59.2±1.7%(約24時間),p=0.284。IMH+群における心外膜の顕著な関与を伴う、このような貫壁差(transmural difference)のパターンは、MI後8週目にも認められた(59.8±11.7%対37.3±9.0%,p=0.003)。図29A~29D参照。
【0207】
再灌流後のMI拡大率は出血の程度と相関する
IMH+群とIMH-群の心筋障害の進展速度をさらに特徴づけるために、本発明者らは、指標となる障害後の時間におけるMIサイズおよび貫壁性の変化を検討した。IMH-群とは対照的に、IMH+群では、最初の24時間の間に、最初の24時間以外の時間帯と比較して(24~48時間、48~72時間、72時間~5日、全てがp<0.001;図30A)、MI拡大の速度が有意に速いことが示された。最初の24時間以内のMI拡大率はIMH量と強い相関(r2=0.90,P<0.001)を示し、MI体積はIMH量(%LV)1%あたり2.35%LVの割合で増加した。24時間以外の期間のMI拡大間に有意な相関は見られなかった(図30B)。梗塞貫壁性に関しても同様の観察結果が明らかになった(図30Cおよび30D)。
【0208】
出血は再灌流後のMVOの程度とMVOの拡大速度を推進する
IMHの有無にかかわらず、全ての動物(同等の虚血負荷(虚血時間およびAAR)にさらした)は、MIの急性期(1時間~7日、再灌流後)を通して微小血管閉塞の証拠を示した。しかし、IMH陽性群では、再灌流の最初の1時間以内のMVOの程度(%LV)が非出血性MIに比べて4.7倍大きかった(10.5±4.0%(IMH+)対2.3±1.4%(IMH-),p<0.001)が、その後減少し7日まで安定した状態のままであった。再灌流の最初の1時間以内のMVOの程度は、IMH量と高度に相関していた(R2=0.81,p<0.001)が、再灌流の最初の1時間以内のMIサイズとはわずかに相関していたにすぎなかった(R2=0.21,p<0.05);このことは、MVOの程度が、虚血によって引き起こされるMIの初期サイズよりも主にIMHの程度によって調節されていることを示している。このことと一致して、MVO程度(%LV)対MIサイズ(%LV)の比率も、IMH陰性群に対してIMH陽性群で再灌流の最初の1時間以内に有意に高かった(0.49±0.17対0.12±0.07,p<0.0001)が、その他の時点ではそうでなかった(p>0.01)。
【0209】
出血を伴うMIでは心筋救済は時間依存的である
IMH+群とIMH-群の心筋救済率は、LGEによって決定されるMIサイズと、関連するPETベースの下流灌流床サイズ(AAR)との比率を、1から引いたもの(つまり(1-MIサイズ/AARサイズ)×100%)として算出され、再灌流直後(<1時間)には差がなかった(55.2±11.0%対57.5±11.9%,p=0.663)。しかし、再灌流の数日後には、IMH+群は救済可能な心筋の著しい損失を示し、その後の1週間にわたって救済可能な正味面積は回復しなかった(19.9±18.4%(再灌流後7日)対55.2±11.0%(再灌流の1時間未満),p<0.001;図S6)。対照的に、IMH-群は心筋救済率の有意な変化を示さなかった(56.1±7.3%(再灌流の1時間未満)対57.5±11.9%(再灌流後7日),p=0.781;図31Aおよび31B)。事実、再灌流の1時間未満では救済可能な心筋が異ならなかったにもかかわらず、IMH+群では再灌流後数日で救済可能な心筋が2.8倍減少した。この救済可能心筋の広範囲の損失は、IMH+群でのより大きな心筋腫脹によっては説明することができない;なんとなれば、MI領域の壁厚は両群間で有意差がなかったからである(54.3±7.4(IMH+)対46.8±13.0(IMH-),p=0.144)。このことは、IMH+群とIMH-群が虚血の終点で同等のAARを有していたにもかかわらず、両群間の8週目での瘢痕サイズと梗塞貫壁性の差が大きかったことからも証明された。これらのデータは、集合的に、出血を伴うおよび伴わないMIは、初期損傷直後には見かけのサイズに関して有意差はないが(図26A~26Cおよび27A~27C参照)、IMHの確認はその後の数日間にわたる損傷の大きく異なる進展の前兆である、ことを示している。IMHの存在は、梗塞発達の異なる動態と、最終的に悪化する心筋損傷の両方を予測している。
【0210】
本発明者らの橋渡し研究は、特に虚血および再灌流障害における心筋出血の有害な役割を特徴付ける、急性期における組織傷害の進展への新しい洞察をもたらす。再灌流障害は頻繁に起こり、MVOは患者の80%に、出血は患者の70%に起こった;全ての患者がPCI時の侵襲的な血管造影上の評価に基づいて再灌流療法後にTIMI 3 flowであったにもかかわらず、患者は虚血-再灌流障害の反映としてno-reflowに苦しんでいると血管造影法で確認されなかった。おそらく、微小血管床の傷害の一定の閾値が発生する必要があり、冠血流量の減少につながるのかもしれず、その閾値がPCI時にすぐには満たされなかった可能性がある。心臓MRIなどの洗練された組織特性評価法は、PCI時の冠血流量測定と比較して、再灌流障害を検出する感度が高い可能性があるため、さらなるリスク層別化が要求される場合に必要になり得る。
【0211】
ReimerとJenningsは、梗塞サイズを決定する2つの最も重要な要因は、原因病変に依存する血管床のサイズまたは心筋の量、ならびにその領域への虚血の持続時間であることを明らかにした。心筋細胞の壊死は、この依存する領域内において波面様パターンで進展し、再灌流療法が適時に適用されないならば、生存能力が完全に失われることになる。早期の再灌流療法は、壊死の波面を停止させ、かつ心筋の救済につながり、その結果、梗塞が小さくなり、心不全が少なくなり、予後が良くなる。本発明者らの調査研究では、梗塞サイズを決定する3番目の重要な要因として再灌流障害、特に出血が追加される。本発明者らは、再灌流療法を適用してからかなり後に、出血性MIが波面状に進展して、梗塞サイズのさらなる拡大をもたらすことを観察した。出血を伴わない微小血管閉塞は、梗塞サイズの20%程度の軽度な拡大と関連していたが、出血性MIの波面はむしろ津波に似ていて、梗塞サイズがほぼ2倍(80%増)となり、それによって、再灌流療法により当初達成された心筋救済がほぼ完全に消滅した。したがって、梗塞サイズは虚血障害だけで決まるのではなく、臨床の現場では虚血障害に加えて医原性の再灌流障害の結果であり得、再灌流出血は心筋救済の観点からすると壊滅的である可能性がある。
【0212】
この観察結果から、出血は新しい治療標的とみなされる:再灌流を改善することを目的とした初期の研究の大部分は、血小板凝集、酸化ストレス、および内皮機能障害に焦点を合わせていた。出血が引き金となる病態生理は様々であり得、さらなる基礎的な科学調査を必要とする。重要なことは、連続イメージングを用いた本発明者らのタイムラプスアプローチにより、出血によって引き起こされる梗塞拡大がほとんど72時間以内に進展することが確認され、心筋救済の可能性のある決定的な時間窓(time window)が特定されたことである。この72時間の時間窓内に治療的手段によって出血を回避または軽減することができれば、梗塞の拡大が遅延または停止する可能性があり、結果として、大きなさらなる臨床的利益が得られるであろう。
【0213】
本発明者らは、PCI後5~7日目に、T2* CMRを用いて心筋出血を起こした患者を特定した。本発明者らの研究は、トロポニン動態が出血性MIと非出血性MIで有意に異なることを示した;これにより、臨床上の日常使用のために出血性MIと非出血性MIを区別する診断の機会が得られる。患者でのトロポニン動態は、出血の有無にかかわらず動物でのそれと一致したが、患者を対象とした追加の研究により、患者における本発明者らの観察結果がさらに検証される可能性がある。これには、再灌流前と、再灌流後の複数の時点でのイメージングが必要となるが、急性期の状況でこのような検査を行うことはほぼ不可能であり、また、複数のパラメータ(リスク領域の特徴づけ、真の疼痛からバルーンまでの(pain-to-balloon)時間、傷害の急性期にイメージングを繰り返すための患者の安定性と適合性など)を考えて調整する必要があるだろう。これらの制限事項を考慮して、本発明者らは、組織傷害の既知のパラメータを常に調整しながら、梗塞拡大に対するIMHの寄与を系統的に研究するための大型動物の実験に取り組んだ。
【0214】
実施例5: 細胞内鉄キレート剤を用いた出血性心筋梗塞後の心臓の脂肪リモデリングの妨害
研究は、観察アームと治療介入アームを含む一連の試験において、3時間の虚血とその後の再灌流を受けたイヌ(n=77;25~30kg)で行った。観察アーム(n=36)では、IMHを伴うおよび伴わない再灌流MI後の鉄と脂肪の組織特異的変化を、心臓磁気共鳴イメージング(CMR)と組織検査により6ヶ月間にわたって連続的に観察した。治療介入アーム(n=41)では、細胞内鉄キレート剤が出血性MIにおける鉄沈着、脂肪浸潤、および有害なリモデリングを妨害できるかどうかを検討した。研究のタイムライン、動物群、および様々な調査研究の最終エンドポイントを図1に示す。
【0215】
MI内の脂肪腫様化生の程度は急性MIの鉄濃度に依存する
出血を伴うおよび伴わない再灌流MIの検証済みのイヌモデルで連続CMRを用いて、MI内の脂肪沈着およびそれと鉄との関係の経時的進展を検討した。CMRは、MI後、3日目(D3)、8週目(Wk8)、および6ヶ月目(M6)に実施した。交絡因子補正R2*(または1/T2*、MI中の鉄濃度([Fe])の有効な測定)およびプロトン密度脂肪率(PDFF)のマップを作成し、遠隔心筋に対するMI内の相対的[Fe]および脂肪率を分析した。MI後6ヶ月間にわたって追跡された、出血性MI(IMH+)の動物からのR2*およびPDFFに関する代表的な所見を図2Aに示す。IMH+症例では、R2*はD3とM6で差がなく(D3で1.20±0.36、Wk8で1.28±0.31、M6で1.46±0.57,p=0.12)、[Fe]は、MI後D3とM6で、わずかに上昇したものの、ほぼ一定していたことが示唆される。しかし、相対PDFFは、D3からM6にかけて、0.95±0.66(D3)から、1.72±1.06(Wk8)、2.68±2.17(M6)へと著しく増加した;これは、D3に対してWk8で約80%、M6で約180%の増加である(いずれもp<0.01)。非出血(IMH-)症例では、相対R2*(0.90±0.28(D3)、1.05±0.20(Wk8)、および1.07±0.18(M6),p=0.85)およびPDFF(0.92±0.34(D3)、1.13±0.44(Wk8)、1.28±0.50(M6),p=0.21)に関して、各時点間で有意差が見られなかった。回帰分析では、MI慢性期における相対R2*と相対PDFFの間に強い相関が見られ(図2B)、傾きとr2は、0.86±0.33(r2=0.14;D3)から2.52±0.55(r2=0.52;Wk8)、3.74±0.24(r2=0.92;M6)に増加した。これはIMH-動物には当てはまらなかった:r2はほぼゼロであった(r2=0.04,D3;r2=0.14,Wk8;r2=0.10,M6)。
【0216】
したがって、出血性MIでは6ヶ月間にわたって鉄のレベルが上昇しかつ安定しており、MI急性期の[Fe]の程度と慢性期の脂肪浸潤は高い相関があると結論付けられる;このことは、出血性MIからの鉄残滓がMIゾーン内の脂肪浸潤の程度に影響を及ぼし得ることを示している。
【0217】
出血性MIは、鉄による脂質過酸化、泡沫細胞形成、セロイド産生、泡沫細胞アポトーシス、および鉄リサイクルの自己永続性ループを媒介する
CMRにより、MI後の期間に脂肪沈着を連続的、全体的に監視し、かつ脂肪浸潤と鉄との関係を決定することができた。CMR所見の背後にある基礎をさらに探査し、MIにおける鉄と脂肪浸潤との関係への洞察を深めるために、Wk8およびM6に同じイヌのグループ(上記から)を連続的に犠牲にすることにより研究を行った。動物をR2* CMRに基づいてIMH+とIMH-に分類し、心筋組織を組織検査、免疫組織化学染色、および透過型電子顕微鏡を用いて分析した。
【0218】
MIの初期慢性期:IMH+対IMH-
Wk8に鉄沈着のあるIMH+動物だけが、慢性MIの初期段階(Wk8)に脂肪浸潤/LMの証拠を示した。まばらな脂肪沈着物(個々の泡沫細胞)がIMH+ MIの周辺と境界域で観察され、プルシアンブルー(PB)で染色された鉄およびオイルレッドO(ORO)で染色された細胞外脂質(壊死性心筋組織の残骸)とのみ共局在していた。図2D~2Gを参照されたい。一方、IMH-動物は鉄沈着物について陰性であり、LMを受けている瘢痕化MI領域も存在しなかった(図2H)。しかし、IMH+およびIMH-動物はどちらも、陽性のORO染色から明らかなように、Wk8でMI内に脂肪滴の存在を示した。これらの脂質残滓は、瘢痕化心筋の梗塞周囲と境界域に見られた。ORO染色により、脂肪沈着物は細胞外脂肪滴と持続的な鉄沈着物の両方を含む瘢痕領域にだけ見られることが確認された(Wk8/IMH+/脂質+/鉄+/LM+)。
【0219】
したがって、出血性MIの脂質陰性/鉄陽性(Wk8/IMH+/脂質-/鉄+/LM-)領域も、脂質残滓陽性/鉄沈着物陰性(Wk8/IMH+/脂質+/鉄-/LM-)領域も、脂質陽性/鉄陰性の非出血性瘢痕(wk8/IMH-/脂質+/鉄-/LM-)もLMの証拠を示さなかった。注目すべきは、少量の鉄でさえもLMをもたらすのに十分であるように見えたことである。
【0220】
重要なことに、鉄を含んだ領域でのLMは、強い/強烈な自家蛍光から明らかなように、セロイドの沈着/蓄積を伴っていた(図2I、2Jおよび2K)。特に、出血性MIの鉄を含んだ領域から現れるまばらな脂肪細胞は、免疫組織化学から明らかなように、CD36(泡沫細胞マーカー)陽性であり、酸化されたリン脂質生成物(EO6陽性脂質)と強く共局在していた。進行中の鉄による脂質過酸化のプロセスは共焦点顕微鏡によって確認され、PB染色された鉄沈着物、CD36染色された細胞、およびEO6陽性脂質と、自家蛍光シグナルとの非常に強い共局在が示された。
【0221】
さらなる研究により、出血性動物のMIゾーンでは、鉄、セロイド、および新たに動員されたマクロファージが共局在した領域に、泡沫細胞のアポトーシスが見られた。これは、鉄による脂質過酸化、泡沫細胞形成、セロイド産生、泡沫細胞アポトーシス、鉄のリサイクルという自己永続的なプロセスを示している。LMとマクロファージ/泡沫細胞アポトーシスを受けている鉄を含みEO6に富んだ領域では、鉄スカベンジャー受容体CD163陽性マクロファージおよび炎症誘発性マクロファージマーカー(IL-1β、TNF-αおよびMMP-9)の強い免疫染色が見られた。炎症誘発性の解糖系M1表現型から抗炎症性の酸化系M2表現型への切り替えに失敗したことは、泡沫細胞への変換を受けているシデロファージでの強烈なGLUT1免疫染色によって証明された。注目すべきことに、LMを受けている鉄を含んだ瘢痕領域には、脱顆粒マスト細胞も集まっており、これは、マクロファージの泡沫細胞への鉄誘導性変換におけるマスト細胞の役割を示唆している。まとめると、これらの所見は、MI領域のLMにおける出血性鉄の重要な役割を支持している。
【0222】
MIの後期慢性期:IMH+対IMH-
LMのプロセスは、図2L~2Pから明らかなように、IMH+ MIの後期慢性期に観察された。出血性MIのM6に、鉄を含んだ瘢痕にのみLMが存在した一方で、出血のないMIにはLMが見られなかった。Wk8と同様に、個々の泡沫細胞とそれらのミニクラスターは、MI後の鉄とORO染色脂質沈着物の合流点でのみ観察され(M6/IMH+/脂質+/鉄+/LM+)、これらは通常、出血性瘢痕の周辺に見られた。同様に、出血性MIのORO陽性/鉄陰性(M6/IMH+/脂質+/鉄-/LM-)およびORO陰性/鉄陽性(M6/IMH+/脂質-/鉄+/LM-)領域、ならびにORO陽性/鉄陰性の非出血性MI(M6/IMH-/脂質+/鉄-/LM-)(図2Q)は、泡沫細胞の存在を示せなかった。SMで示された組織学的所見は、MI後の瘢痕にわずかでも鉄があると、脂質過酸化、泡沫細胞形成、およびLMのリスクがあるようだ、というWk8での本発明者らの観察結果と一致した。Wk8と同様に、個々の泡沫細胞とそれらのミニクラスターは、セロイドと共局在していた。注目すべきことに、M6には、瘢痕組織を貫通してその内部コアの方に向かうより大きな脂肪貯蔵層も観察され、LMがMI周辺からMI内部へと伝播していることが示唆された。特に、泡沫細胞は通常、脂肪貯蔵層周辺に沿って鉄残滓および脂肪滴と共局在し(図2Lの領域「α」)、成長する脂肪組織の中心部は痕跡量の鉄沈着物を含んでいた(図2Lの領域「β」)。しかし、化生性(metaplastic)脂肪組織の中心部と周辺部の両方で観察されたセロイド凝集物の存在は、鉄による脂質酸化がMI後の状況における泡沫細胞形成と進行性LMの根底にある、という仮説をさらに支持するものである。
【0223】
鉄とセロイドの超微細構造的局在を調べるために、出血性MIの切片を透過型電子顕微鏡(TEM)、X線分光法で調べた。慢性MIにおけるシデロファージから泡沫細胞への変換の進行中のプロセスもまた、TEMとX線分光法で証明された(図2R)。細胞内のセロイドは、マクロファージ内の電子密度の高い沈殿物を含むリング構造のクラスターとして観察された。電子密度の高い沈殿物の元素含有量を測定するために、関心対象の領域を電子密度分光法で調べたところ、電子密度の高い沈殿物には強い鉄のピークがあることがわかった。さらに、マクロファージ内の鉄沈殿物の領域は、該細胞の広範な脂質に富んだ領域と高度に共局在していた。これは、非出血性MIゾーンでは見られなかった。
【0224】
M6で、アポトーシスを受けているセロイド含有泡沫細胞が鉄沈着物および新たに動員されたマクロファージと広範に継続的に共局在することは、鉄と脂質のリサイクルが出血性MIにおけるLM伝播を推進するという考えを支持している。また、マクロファージから泡沫細胞への変換を受けている鉄を含んだ領域でのIL-1β、TNF-α、MMP-9およびGLUT-1の強烈な免疫染色から明らかなように、M6で炎症誘発性から抗炎症性へのマクロファージ表現型の切り替えに失敗した証拠もあった(図2S)。さらに、マスト細胞がLMを受けている鉄を含んだ領域に優先的にホーミングすることから証明されるように、鉄はMIの後期慢性期にマスト細胞の化学誘引物質として作用するようである。かくして、MIの後期慢性期における観察結果は、出血性MI内のLMのプロセスを継続的に推進する上での鉄の重要な役割をさらに支持するものである。
【0225】
細胞内第二鉄キレート剤であるデフェリプロンは、出血性MI内の鉄を低減させ、かつMI後の有益な左室(LV)リモデリングを促進する
出血性MI内の鉄を減らすことができるか、できるとすれば、それが脂肪浸潤の程度を変更し、かつ有害なLVリモデリングの経過を変更できるか、についてさらに検討した。複数のキレート戦略がMIの設定で検討されており、その結果は様々であるが、これまでのところ、出血性MIを研究対象としたものはない。本発明者は、(他の心臓および非心臓適応症のために)FDAで承認された細胞内、3価、低分子量の鉄キレート剤であるデフェリプロン(DFP)が、MIゾーン内の鉄を低減させ、かつ脂肪浸潤の経過を潜在的に変えるのに有効であるかどうかを検討した。この研究は、再灌流出血を起こしたイヌ(n=41、図1)で実施し、処置群(DFP+/IMH+)とDFPを投与しない対照群(DFP-/IMH+)のいずれかにイヌを無作為に割り当てた。ベースライン時(MI前)の心機能を調べるためにCMRを使用した。やはりCMRを使用して、[Fe]の変化、脂肪沈着の程度、およびLVリモデリングの確立されたマーカーの構造的および機能的な違いに対するその潜在的な影響を、D3、Wk8、およびM6で各動物をそれ自体の対照として用いて、LV全体のシネ(機能用)、マルチグラディエントリコールドエコー(muli-gradient-recalled-echo)(鉄用)、およびLGE(MIサイズ用)で連続的に評価した。再灌流MIを受けた動物のうち、20匹は、D3でのMIサイズと[Fe]が同程度である出血性MIを有し、処置群(DFP+/IMH+(n=11))と未処置対照群(DFP-/IMH+)に無作為に振り分けたとき、M6まで生存した。両群のMIサイズは、D3で39.87±5.94%LV(DFP+/IMH+)対38.53±15.15%LV(DFP-/IMH+)、p=0.79であった。
【0226】
出血性MIにおける鉄濃度と脂肪浸潤に対するデフェリプロンの効果
MI心筋と遠隔心筋との相対[Fe](MIゾーンのR2*/遠隔ゾーンのR2*として算出)は、1.43±0.38(DFP+/IMH+)対1.44±0.49(DFP-/IMH+)、p=0.96であった。IMH+/DFP+群の動物は、DFP処置(50mg/kg、1日2回)の経口投与をWk8に受けた。マルチエコー水-脂肪分離アルゴリズムを用いて作成された代表的な交絡因子補正R2*およびPDFFマップを図3Cに示す。相対R2*として計算された残留鉄含量は、DFP+/IMH+群ではD3とWk8の間に顕著な減少を示した。相対R2*は、Wk8とM6の間に、減少率は低いものの、減少し続けた(図3A)。反対に、DFP-/IMH+群のMIゾーンの相対R2*は、D3とWk8、またはWk8とM6の間で差がなかった。重要なことは、Wk8とM6に、処置群と対照群の間で相対R2*に著しい差があったことである。出血性MIにおける脂肪浸潤に対するDFPの効果は、PDFFマップを用いて検討された。MIゾーンにおける相対PDFFは、DFP+/IMH+群ではD3とWk8の間に増加を示さなかったが、これは、D3とWk8の間に相対PDFFの増加を示したDFP-/IMH+群での観察結果とはまったく対照的であった。この食い違いはM6でより明らかになり、DFP+/IMH+群のMIゾーン内の脂肪浸潤はDFP-/IMH+群よりも有意に少なかった(図3B)。このように、DFPはMIゾーン内の鉄含量を著しく低下させ、かつMIゾーン内のLMを低減させた;このことは、鉄に富んだMIとLMには因果関係があることを示している。
【0227】
出血性MI後の構造的LVリモデリングに対するデフェリプロンの効果
MI後に有害なLVリモデリングを経験する心臓の一般的な構造変化は、遠隔心筋の肥厚と梗塞心筋の菲薄化である。遠隔部およびMI部の拡張期壁厚の時間依存的変化を検討し、同時に、梗塞部の壁厚と遠隔部の壁厚の比率(すなわち遠隔部とMI部の複合リモデリング)、ならびにD3、Wk8およびM6間のDFP処置の効果を検討した。
【0228】
遠隔部の壁厚:DFP-/IMH+群では6ヶ月間にわたって遠隔部の壁厚が増加したが、DFP+/IMH+群では減少した(図4A)。M6において、DFP-/IMH+群では、DFP+/IMH+群に比べて、遠隔壁厚が有意に大きかった(+28%,p<0.05)。注目すべき点として、Wk8およびM6における壁厚の相対的変化(ベースライン時と比較)は、DFP+/IMH+群に比べてDFP-/IMH+群で有意に大きく、壁厚の最大平均差がD3とM6の間に両群間で観察された(p<0.0001)。2つの期間D3からWk8までとWk8からM6までの間の両群における遠隔壁厚の変化率は異なっていた;DFP+/IMH+群では遠隔壁厚が減少し、その後軽度に増加した;一方、遠隔壁はWk8で軽度に増加し、Wk8とM6の間にはより速い速度で増加し続けた(図4B)。
【0229】
梗塞部の壁厚:MI壁厚は6ヶ月間にわたって着実に減少したが、Wk8とM6の間にはより顕著に減少した(図4C)。注目すべき点として、M6での梗塞壁厚は、未処置群に比べて処置群で有意に大きかった(+34%,p<0.05)。遠隔部と同様に、2つの期間D3からWk8までとWk8からM6までの間の両群におけるMI壁厚の変化率は異なっていた;DFP+/IMH+群ではWk8とM6の間よりも小さい速度でMI壁厚が減少した;一方、MI壁の厚さはWk8で軽度に増加し、Wk8からM6にかけてより速い速度で増加し続けた(図4D)。
【0230】
梗塞対遠隔の壁厚(I:RWT):I:RWTは、D3とWk8の間には一定のままであったが、Wk8とM6の間には両群とも有意に減少した(図4E)。しかし、M6では、DFP+/IMH+群のI:RWTはDFP-/IMH+群のそれよりも有意に大きかった(+67%,p<0.05)。また、2つの期間(D3からWk8とWk8からM6)の間の両群におけるI:RWTの変化率も異なっており、DFP-/IMH+群ではDFP+/IMH+群に比べて有意に速い速度でI:RWTが減少した(図4F)。
【0231】
これらの研究は、まとめると、出血性MI後の解剖学的LVリモデリングを変更するDFPの能力を示しており、これは、IMHがMI後の心臓の解剖学的リモデリングに因果的に関与しているという予測を支持するものである。特に、DFP処置の期間(すなわち、D3からWk8)にわたって、DFP-/IMH+群と比較して、DFP+/IMH+群では有害な解剖学的リモデリングが鈍化している。しかし、Wk8でDFP処置を中止すると、負の解剖学的リモデリングが再び始まるが、M6での未処置群に比べると、まだ正の解剖学的リモデリングが起こっている。このことは、控えめなDFP処置でさえも、出血性MIの結果として起こるはずの有害な解剖学的リモデリングを軽減できることを示している。
【0232】
出血性MI後の機能的リモデリングに対するデフェリプロンの効果
MI後の負の構造的LV変化は、心臓の有害な機能的リモデリング - 心不全を決定づける特徴 - につながる。DFP+/IMH+群とDFP-/IMH+群の間のLV機能状態の時間依存的変化を検討した。具体的には、LVの有害な機能的リモデリングに関与する確立されたパラメータである、MI部のピーク円周方向ストレイン進展の変化およびグローバル容積指数(収縮末期容積とLV駆出率)を、DFP処置を受けていない対照動物と比較して、DFP処置動物で6ヶ月間にわたって検討した。
【0233】
ピーク円周方向ストレイン(ピークεc):DFP+/IMH+群とDFP-/IMH+群ともに、D3からWk8にかけてピークεcの絶対値(magnitude)が増加した(p<0.001);しかし、Wk8とM6の間において、DFP+/IMH+群では差がなかった(p=0.34)が、DFP-/IMH+群では減少した(p<0.01)(図5A)。DFP+/IMH+群におけるD3からWk8までのピークεcの絶対値の増加率は、DFP-/IMH+群よりも高かったが、有意ではなかった(p=0.23);しかし、DFP+/IMH+群におけるWk8からM6およびD3からM6の期間中のピークεcの絶対値は、DFP-/IMH+群よりも有意に大きかった(p<0.05、図5B)。これらの所見は、脂肪組織でのストレインの発生が弱く、DFP+/IMH+群でのLMの減少により、DFP-/IMH+群に比べてDFP+/IMH+群ではεcがより大きくなることを示している。
【0234】
収縮末期容積(ESV):ESVは、DFP+/IMH+群とDFP-/IMH+群ともにD3からWk8まで着実に増加した(p<0.05)。しかし、Wk8とM6の間のESVはDFP+/IMH+群で差がなかった(p=0.90)が、DFP-/IMH+群ではESVはWk8とM6の間に増加する傾向が見られた(p=0.19)。特に、DFP+/IMH+群のESVは、Wk8およびMo6のいずれにおいてもDFP-/IMH+群より低かった(p<0.05、図5C)。DFP+/IMH+群でのD3からWk8までの期間中のESVの平均増加率の傾向は、DFP-/IMH+群よりも著しく低かったが、これは統計的に有意でなかった(図5D)。Wk8からM6までの間、DFP+/IMH+群とDFP-/IMH+群の間でESVの変化率に差はなかった。これらの所見は、DFPが出血性MI後のESVを正に調節することを示している。
【0235】
LV駆出率(LVEF):DFP-/IMH+群では、LVEFはD3時点でベースライン時より低く、Wk8までに上昇し、その後M6までに40%を大きく下回って低下した(いずれもp<0.05)。比較すると、DFP+/IMH+群では、LVEFはD3でベースライン時より低かった(p<0.05)が、Wk8まで未変化のままであり(p=0.12)、M6までに40%を超えて増加した(p<0.03)。特に、6ヶ月目では、DFP+/IMH+群のLVEFは、DFP-/IMH+群よりも著しく高かった(+36%、p<0.005、図5E)。また、2つの期間(D3からW8;およびWk8からM6)の間のLVEFの変化率も大きく異なっており、DFP+/IMH+群はD3からW8とWk8からM6の間で増加を示した(p<0.01)が、同じ期間中にDFP-/IMH+群は著しい減少を示した(p<0.0001、図5F)。これらの所見は、Wk8で脂肪浸潤が明らかになる一方で、脂肪含量が大幅に増加するのは8週間目と6ヶ月目の間であるという、本発明者らの以前の観察結果と一致する。この研究は、MIゾーンへのLMがDFP処置を介して減少されると、LVEFの著しい積極的改善が得られることを実証した。これらの所見は、出血性MI後のLVの有害な機能的リモデリングを促進する上での脂肪浸潤(IMHからの鉄により推進される)の因果的役割を示している。
【0236】
材料と手順
動物モデル、標本作製、および組織検査
動物実験委員会によって承認されたプロトコルに従って、合計77匹の雑種の雄イヌ(20~25kg)を研究対象とした。再灌流された心筋梗塞は、以前に記載したように作り出した。手短に述べると、左胸部切開後、左前下行(LAD)動脈の2~5mmセグメントを第1対角枝のすぐ遠位にある周囲組織から解離し、結紮手段としてその下に縫合糸を通した。LADを3時間一時的に結紮し、その後再灌流を行った。1回の再灌流後、胸壁を閉じて、動物を回復させた。CMRを3日目と8週目に実施した。一部の動物では6ヶ月目にもCMRを実施した。動物を再灌流後8週目または6ヶ月目に犠牲にし、心臓を摘出した。図1参照。
【0237】
摘出した心臓を基部から心尖部まで短軸方向に1cm厚にスライスし、塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)で染色して、生存心筋から梗塞領域を組織化学的染色により描出した。10%グルタルアルデヒドで固定した後、左室(LV)壁サンプルを連続する2等分に切断した。半分をパラフィンに埋め込み、もう半分を0.1M PBS中の30%スクロース中に浸してから、-80℃で凍結した。パラフィン包埋ブロックと凍結ブロックから、連続する5μm切片を梗塞部と遠隔部の代表的なセグメントから切り出し、壊死についてはヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色、置換性線維形成(コラーゲンとエラスチン)についてはエラスチン改変マッソン・トリクローム(EMT)染色、鉄沈着物についてはパールのプルシアンブルー(PB)、およびマスト細胞の可視化についてはトルイジンブルー(TB)で染色した。さらに、凍結切片の脂質/脂肪含量を測定するのに、オイルレッドO(ORO)染色を用いた。グルタルアルデヒドで固定した切片からの代表的な切片は、電子顕微鏡法で使用した。
【0238】
心臓MRI(CMR)-撮影、脂肪と鉄の複合定量化、およびLVリモデリングの解析
連続する、スライスと解像度をマッチさせた、短軸シネ(繰り返し時間(TR)=3.1ms;エコー時間(TE)=1.6ms;フリップ角=40°;リードアウトバンド幅(BW)=930Hz/ピクセル;25~30の心拍位相)、マルチプルグラジエントリコールドエコー(mGRE,TE=3.3~13.3msの6エコー;ΔTE=2ms、TR=20ms;リードアウトバンド幅=1371Hz/ピクセル、フリップ角=12°;ボクセルサイズ=1.5×1.5×8mm3)および遅延ガドリニウム造影(LGE,バランスの取れた定常状態自由歳差運動リードアウトによる反転回復法,TR=3.42ms,TE=1.47ms,リードアウトバンド幅=586Hx/ピクセル,フリップ角=20°)画像を、全身3T MRIシステム(Biograph mMR, Siemens Healthineers社, Erlangen, ドイツ)でMI後3日目(D3)、8週目(Wk8)、6ヶ月目に取得した。交絡因子補正R2*(または鉄濃度の確立した尺度である1/T2*)およびプロトン密度脂肪率(PDFF)マップは、マルチエコー水-脂肪分離アルゴリズムを用いて再構成した。LGE画像はMI領域と遠隔領域の特定に使用した。これらの関心対象の領域を用いて、MI領域の平均R2*およびPDFF、ならびに相対R2*および相対PDFF推定値(遠隔領域と比較)を決定した。これは、全ての時点での全てのイメージングスライスに対して行った。構造的変化(拡張末期球形度指数(EDSI)、拡張末期容積(EDV)、および収縮末期容積(ESV))と機能的変化(駆出率(EF)、壁肥厚(WT)、壁運動(WM)、ならびに収縮期(ESS)、拡張期ストレイン(EDS)およびピーク(PSS)ストレイン速度)をシネ画像から算出した。全ての測定値は、体表面積に対して正規化した。MIサイズおよび出血/鉄量は、LV全体の心筋体積を基準として算出し、それぞれ平均+5SDおよび平均-2SD閾値カットオフを利用した。
【0239】
免疫組織化学、解析、および共焦点顕微鏡法
免疫染色では、切片を、表6に記載したイヌマクロファージのマーカーに対する抗体でプロービングした。スライドをScanScope AT(Aperio Technologies社, Vista, CA, USA)装置でデジタル化し、形態計測による解析をDefiniens Tissue Studio(Definiens社, Parsippany, NJ, USA)ソフトウェアで行った。事前に定義された染色特異的アルゴリズムおよび分類ツールを、DEFINIENS ECOGNITIONNETWORK LANGUAGE(商標)を利用して作成し、各組織領域内の陽性および陰性染色領域(マーカー下面積、μm2)を非バイアス(non-biased)法で特定した。プルシアンブルーおよびオイルレッドOで染色した領域により評価された領域は、後退した。パールのプルシアンブルーで染色したパラフィン切片ならびにE06およびCD36抗体でプロービングしたパラフィン切片は、Leica SP5-X共焦点顕微鏡(Leica Microsystems社, Wetzlar, ドイツ)下でセロイドの自家蛍光について調べた。
【0240】
透過型電子顕微鏡法とX線分光法
エクスビボ切片からの鉄が陽性であるサンプルをさらに1mm3角に切り出し、2.5%グルタルアルデヒド(Electron Microscopy Sciences社, Hatfield, PA)で固定し、dH2Oで洗浄し、エタノール系列(25%、33%、50%、75%、および3×100%エタノール)を用いて徐々に脱水して処理した。OsO4などのコントラスト強調のための従来の染色は、バイオミネラルの酸化還元状態を維持するために、あえて省略した。その後、サンプルをLR白色アクリル樹脂(Electron Microscopy Sciences社)に浸潤させ、60℃で24時間重合させた。硬化した樹脂ブロックは、Leica EM UC6ウルトラミクロトームで45°ダイヤモンドナイフ(DiATOME社, Hatfield, PA)を用いて薄片にした。厚さ70ナノメートルの切片をホーリーカーボン(holey carbon)支持体(Pella Inc, Redding, CA)上の極薄カーボンをコーティングした銅グリッド上に集め、LaB6フィラメントを備えたTecnai T-12 TEM(FEI, Hillsboro, OR)で、120kVで作動させて画像化した。画像は、2×2K Ultrascan 1000 CCD(Gatan社, Pleasanton, CA)を用いてデジタル収集された。元素マッピングは、200kVで作動させたJEM-ARM200CF収差補正透過型電子顕微鏡で、走査型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光法(STEM/EDS)を用いて、以前に特定された関心対象の領域で実施した。EDSスペクトルは、高集光角のシリコンドリフト検出器(SDD)(約0.7srad, JEOL Centurio)を用いて、ビーム収束27.5mrad、ビーム電流270pAで取得した。スペクトルの取得と評価は、NSS Thermo Scientificソフトウェアパッケージを用いて行った。
【0241】
(表6)心筋組織のプロービングに使用される特異的標的、関連マーカー、および抗体
【0242】
鉄キレート化処置
再灌流梗塞を受けたイヌのコホートにおいて、細胞内外の鉄をキレート化することが知られているデフェリプロン(DFP)(C7H9NO2、分子量139g/mol)(Apopharma Inc., Toronto, ON, カナダ)を30~40mg/kg体重の用量で投与(BID、PO)した。この薬物処置は、MIの3日目にT2* CMRで再灌流出血を確認した直後に開始し、MI後8週間まで毎日続けた。動物から採取した血液サンプルを1ヶ月間隔で分析し、顆粒球減少症および貧血の証拠について評価した。
【0243】
統計分析
統計分析は、SPSS Statistics(バージョン21.0,IBM Corporation, Armonk, NY)を用いて行った。データの正規性を検定するためにShapiro-Wilk検定とQ-Q(quantile-quantile)プロットを使用した。データの正規性に応じて、異なる群間の測定値を比較するために、分散分析またはKruskal-Wallis検定と事後(post-hoc)解析を使用した。多重比較にはボンフェローニ補正を用いた。統計的有意性はp<0.05とした。
【0244】
本発明の様々な態様は、上記の詳細な説明に記載されている。これらの説明は、上記の態様を直接説明するものであるが、当業者は、本明細書に示され、説明された特定の態様に対する修正および/または変形を考え出すことができると理解される。この説明の範囲内に入るそのような修正または変形は、本明細書にも含まれることが意図される。特に断らない限り、本明細書および特許請求の範囲の語句は、当技術分野の当業者にとって通常かつ慣用的な意味を与えられる、ことが本発明者らの意図である。
【0245】
本出願のこの出願時点で本出願人に知られている本発明の様々な態様の前述の説明は、例示と説明の目的のために提示され、そのような目的で意図されたものである。本説明は、網羅的であることを意図するものではなく、また本発明を開示された正確な形態に限定するものでもなく、多くの修正および変形が上記の教示に照らして可能である。記載された態様は、本発明の原理およびその実用的応用を説明するのに役立ち、また、様々な態様で、企図された特定の用途に適するように様々な修正を加えて、当業者が本発明を利用できるようにするのに役立つ。したがって、本発明は、本発明を実施するために開示された特定の態様に限定されないことが意図される。
【0246】
本発明の特定の態様を示し、説明してきたが、本明細書の教示に基づいて、本発明およびそのより広い側面から逸脱することなく、変更および修正がなされ得ることは、当業者には明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、本発明の真の精神と範囲内にある全てのそのような変更および修正を包含するものとする。一般に、本明細書で使用される用語は、「オープン」な用語として意図されていることが、当業者には理解されよう(例えば、用語「含有する(including)」は「含有するがそれらに限定されない(including but not limited to)」と解釈すべきであり、用語「有する(having)」は「少なくとも有する(having at least)」と解釈すべきであり、用語「含有する(includes)」は「含有するがそれらに限定されない(includes but is not limited to)」と解釈すべきである、等々)
【0247】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」または「含む(comprises)」は、ある実施態様に有用であるが、有用か否かにかかわらず不特定の要素を含めることにオープンになっている、組成物、方法、およびそれらの各構成要素に関して使用される。一般に、本明細書で使用される用語は、「オープン」な用語として意図されていることが、当業者には理解されよう(例えば、用語「含有する(including)」は「含有するがそれらに限定されない(including but not limited to)」と解釈すべきであり、用語「有する」は「少なくとも有する」と解釈すべきであり、用語「含有する(includes)」は「含有するがそれらに限定されない(includes but is not limited to)」と解釈すべきである、等々)。本明細書では、含有する(including)、含有する(containing)、有する(having)などの用語の同義語としてのオープンエンド(open-ended)の用語「含む」は、本発明またはその実施態様を説明し、特許請求するために使用されるが、その代わりに、「からなる」または「から本質的になる」などの代替用語を用いて記載することもできる。
【0248】
特に指定されない限り、数量を表す全ての数値は、いかなる場合も、「約」という用語で修飾されていると理解すべきである。用語「約」は、言及されている値の±10%(例えば、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、±1%)を指すことがある。
【0249】
数値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限を含む、それらの間の各数値は、本明細書に開示されているものとする。本明細書に記載された数値範囲は、そこに含まれる全ての下位範囲を含むことを意図していると理解されたい。例えば、「1~10」の範囲は、列挙された最小値1と列挙された最大値10を含む、それらの間の全ての下位範囲を含むことを意図している;すなわち、1以上の最小値と10以下の最大値を有する。開示された数値範囲は連続しているため、最小値と最大値の間のあらゆる値が含まれる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J
図2K
図2L
図2M
図2N
図2O
図2P
図2Q
図2R
図2S
図3A
図3B
図3C
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26A
図26B
図26C
図27A
図27B
図27C
図28-1】
図28-2】
図29
図30
図31
【国際調査報告】