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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-28
(54)【発明の名称】新規の組換え細胞表面マーカー
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230421BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 1/11 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 1/13 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230421BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230421BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230421BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230421BHJP
   A61K 47/68 20170101ALN20230421BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/47 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/867 Z
C12N1/11
C12N1/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/113 Z
A61P35/00
A61K48/00
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61K39/395 P
A61K35/17
A61K35/76
A61K47/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556560
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 US2021023337
(87)【国際公開番号】W WO2021189008
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】62/992,806
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/137,022
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522368949
【氏名又は名称】ライル・イミュノファーマ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ハウエル・フランクリン・モフェット
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ジョセフ・ラジョワ
(72)【発明者】
【氏名】スコット・エドワード・ボイケン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA13
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB021
4C084ZB091
4C084ZB261
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB12
4C085BB22
4C085BB36
4C085BB50
4C085CC03
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG02
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BC83
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB02
4C087ZB09
4C087ZB26
4H045AA10
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、短膜近傍配列、それらをコードする核酸、および短縮EGFRマーカーの細胞表面発現を向上させるためにそれらを使用する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外領域と、膜貫通領域と、細胞内領域とを含む組換えポリペプチドであって、
該細胞外領域は、ヒト上皮増殖因子受容体(EGFR)ドメインIII配列を含み、
該細胞内領域は、(i)最初の少なくとも3つのアミノ酸が正味中性の、または正味正電荷を持つ膜近傍ドメインを含むが、(ii)活性EGFRチロシンキナーゼドメインを欠く、前記組換えポリペプチド。
【請求項2】
膜近傍ドメインの半数を超えるアミノ酸が、グリシン、セリン、アルギニン、リシン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、トリプトファン、ヒスチジンおよび/またはプロリンである、請求項1に記載の組換えポリペプチド。
【請求項3】
膜近傍ドメインの各位置におけるアミノ酸は、表1に従って選択される、請求項1または2に記載の組換えポリペプチド。
【請求項4】
膜近傍ドメインは、RRRHIVRKR(配列番号16)、RRRHIVRK(配列番号17)、RRRHIVR(配列番号18)、RRRHIV(配列番号19)、RRRHI(配列番号20)、RRRH(配列番号21)、RRR、RKRまたはRRを含む、請求項1に記載の組換えポリペプチド。
【請求項5】
細胞内領域は、リン酸化された残基を含まない、請求項1~4のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項6】
ドメインIII配列は、配列番号2を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項7】
細胞外領域は、ドメインIII配列のC末端側に、(i)EGFRドメインIVに由来する配列、(ii)人工配列、または(iii)(i)および(ii)の両方をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項8】
細胞外領域は、配列番号1のアミノ酸334~504、334~525または334~645を含む、請求項7に記載の組換えポリペプチド。
【請求項9】
膜貫通領域は、場合により配列番号5を含むヒトEGFR膜貫通ドメインに由来する、請求項1~8のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項10】
ヒトEGFR、ヒト顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、ヒトIgカッパ、マウスIgカッパ、またはヒトCD33に由来するシグナルペプチドをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項11】
配列番号26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39もしくは40;またはそれと少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組換えポリペプチド。
【請求項12】
核酸分子であって、請求項1~11のいずれか1項に記載の組換えポリペプチドのコード配列を含む前記核酸分子。
【請求項13】
キメラ抗原受容体(CAR)のコード配列をさらに含む、請求項12に記載の核酸分子。
【請求項14】
組換えポリペプチドおよびCARのコード配列は、2つのコード配列が共転写されるように、同一のプロモーターに動作可能に結合され、
場合により、2つのコード配列が、(i)内部リボソーム侵入部位(IRES)、または(ii)自己切断性ペプチドのコード配列によって離間され、組換えポリペプチド、CARおよび自己切断性ペプチドのコード配列が互いにインフレームになる、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項15】
第3のポリペプチドのコード配列であって、場合により第3のポリペプチドがヒトc-Junまたはその機能的類似体であるコード配列をさらに含む、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項16】
組換えポリペプチド、CARおよびヒトc-Junのコード配列は、3つのコード配列が共転写されるように同一のプロモーターに動作可能に結合され、
場合により、3つのコード配列が、(i)内部リボソーム侵入部位(IRES)、または(ii)自己切断性ペプチドのコード配列によって互いに離間され、組換えポリペプチド、CAR、ヒトc-Junおよび自己切断性ペプチドのコード配列が互いにインフレームになる、請求項15に記載の核酸分子。
【請求項17】
プロモーターは、構成的または誘導的プロモーターであり、場合により、プロモーターはMNDプロモーターであり、
自己切断ペプチドは、2Aペプチドであり、かつ/または
CARは、場合により、AFP、BCMA、CD19、CD20、CD22、CD123、EpCAM、GPC2、GPC3、HER2、MUC16、ROR1およびROR2から選択される腫瘍抗原に特異的である、請求項12~16のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項18】
核酸分子は、ウイルスベクター、場合によりレンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである、請求項12~17のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項19】
細胞であって、請求項12~18のいずれか1項に記載の核酸分子を含む前記細胞。
【請求項20】
ヒトT細胞である、請求項19に記載の細胞。
【請求項21】
医薬組成物であって、請求項19もしくは20に記載の細胞、請求項12~18のいずれか1項に記載の核酸分子、または請求項18に記載の核酸分子を含む組換えビリオン;および医薬として許容し得る担体を含む前記医薬組成物。
【請求項22】
治療を必要とする患者を治療する方法であって、請求項19または20に記載の細胞を患者に投与することを含み、場合により該細胞は該患者に由来する、前記方法。
【請求項23】
請求項20に記載のT細胞を患者に投与することを含み、患者はがんを有し、T細胞は、前記がんに存在する腫瘍抗原に特異的であるCAR、T細胞受容体(TCR)、改変TCRまたはTCR模倣体を発現する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
患者が治療された後に、ヒトEGFRに特異的な有効量の抗体を患者に投与することを含み、抗体は、組換えポリペプチドを発現する細胞に対する細胞毒性を生じさせ、場合により抗体はIgGまたはIgGであり、場合により抗体はセツキシマブである、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
請求項22~24のいずれか1項に記載の方法に使用するための、請求項19もしくは20に記載の細胞、または請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項26】
請求項22~24のいずれか1項に記載の方法において治療を必要とする患者を治療するための医薬品の製造のための請求項12~18のいずれか1項に記載の核酸分子、または請求項19もしくは20に記載の細胞の使用。
【請求項27】
遺伝子改変ヒト細胞を製造する方法であって、単離ヒト細胞を準備すること、および請求項12~18のいずれか1項に記載の核酸分子をヒト細胞に導入することを含む、前記方法。
【請求項28】
ヒト細胞はヒトT細胞である、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月20日に出願された米国仮出願第62/992,806号および2021年1月13日に出願された米国仮出願第63/137,022号の優先権を主張するものである。前述の仮出願の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み入れられている。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含む。該配列表は、その全体が参照によって組み入れられている。2021年3月19日に作成されたASCIIのコピーは、026225_WO012_SL.txtと命名され、サイズが60,198バイトである。
【背景技術】
【0003】
受容体型チロシンキナーゼ(ErbBs)の上皮増殖因子ファミリーは、4つのメンバー:EGFR/ErbB1/HER1、ErbB2/HER2/Neu、ErbB3/HER3およびErbB4/HER4(非特許文献1)からなる。これらの受容体は、上皮、間葉および神経組織に広く発現され、細胞の増殖、分化および成長に重要な役割を果たす(非特許文献2)。それらは、上皮増殖因子受容体(EGFR)相同体のホモまたはヘテロ二量体化を誘発するリガンドによって活性化される。EGFRは、大きな細胞外領域、単一のスパニング膜貫通ドメイン(single spanning transmembrane domain)、細胞内膜近傍領域、チロシンキナーゼドメインおよびC末端調節領域を含む180kDaのモノマー糖タンパク質である。細胞外領域は、4つのドメインを含む:ドメインIおよびIIIは、相同性のリガンド結合ドメインであり、ドメインIIおよびIVは、システインリッチのドメインである(非特許文献3)。
【0004】
ヒトEGFRの構造化ドメインIIIは、FDAの認可を受けたモノクローナル抗体セツキシマブ(Erbitux(登録商標))の標的になる。受容体の選択的欠失によりEGFRの生物活性からそのセツキシマブ結合能を除くと、不活性な完全ヒト細胞表面マーカーになる可能性がある(非特許文献4;および非特許文献5)。しかし、臨床的に有用な細胞表面マーカーの重要な特徴は、必要に際して改変細胞を十分に識別して標的とすることができるように、マーカーが改変細胞に一定して高濃度で発現される必要があることである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】WieduwiltおよびMoasser、Cell Mol Life Sci.(2008)65(10):1566~84頁
【非特許文献2】Yanoら、Anticancer Res.(2003)23(5A):3639~50頁
【非特許文献3】Ferguson、Annu Rev Biophys.(2008)37:353~3頁
【非特許文献4】Liら、Cancer Cell(2005)7(4):301~11頁
【非特許文献5】Wangら、Blood(2011)118(5):1255~63頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、細胞外領域と、膜貫通領域と、細胞内領域とを含む組換えポリペプチドであって、細胞外領域は、ヒト上皮増殖因子受容体(EGFR)ドメインIII配列を含み、細胞内領域は、(i)最初の少なくとも3つのアミノ酸が正味中性の、または正味正電荷を持つ膜近傍ドメインを含むが、(ii)活性EGFRチロシンキナーゼドメインを欠く組換えポリペプチドを提供する。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、活性チロシンキナーゼドメインを有さない。
【0007】
いくつかの実施形態において、膜近傍ドメインの半数を超えるアミノ酸が、グリシン、セリン、アルギニン、リシン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、トリプトファン、ヒスチジンおよび/またはプロリンである。いくつかの実施形態において、膜近傍ドメインの各位置のアミノ酸は、表1に従って選択される。例えば、膜近傍ドメインは、RRRHIVRKR(配列番号16)、RRRHIVRK(配列番号17)、RRRHIVR(配列番号18)、RRRHIV(配列番号19)、RRRHI(配列番号20)、RRRH(配列番号21)、RRR、RKRまたはRRを含む。ある実施形態において、細胞内領域は、リン酸化された残基を含まない。
【0008】
いくつかの実施形態において、ヒトEGFRドメインIII配列は、配列番号2、または配列番号2と少なくとも90%の同一性を含む配列などのその機能的変異体を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、細胞外領域は、ドメインIII配列のC末端側に、(i)EGFRドメインIVに由来する配列、(ii)人工配列、または(iii)(i)および(ii)の両方をさらに含む。特定の実施形態において、細胞外領域は、配列番号1のアミノ酸334~504、334~525または334~645を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、膜貫通領域は、場合により配列番号5を含むヒトEGFR膜貫通ドメインに由来する。
【0010】
いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、ヒトEGFR、ヒト顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、ヒトIgカッパ、マウスIgカッパ、またはヒトCD33に由来するシグナルペプチドを含む。例えば、シグナルペプチドは、配列番号22、23、24または25を含んでいてもよい。
【0011】
特定の実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39もしくは40;またはそれと少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0012】
別の態様において、本開示は、本開示の組換えポリペプチドのコード配列を含む発現コンストラクトなどの核酸分子を提供する。いくつかの実施形態において、核酸分子は、キメラ抗原受容体(CAR)のコード配列をさらに含む。CARは、例えば、AFP、BCMA、CD19、CD20、CD22、CD123、EpCAM、GPC2、GPC3、HER2、MUC16、ROR1またはROR2などの腫瘍抗原を標的とすることができる。さらなる実施形態において、CARは、二重特異性であり、例えばCD19およびCD20またはCD19およびCD22を標的としてもよい。特定の実施形態において、組換えポリペプチドおよびCARのコード配列は、2つのコード配列が共転写されるように、同一のプロモーター(例えば、構成的または誘導的プロモーター;例えばMNDプロモーター)に動作可能に結合され、場合により、2つのコード配列が、(i)内部リボソーム侵入部位(IRES)、または(ii)自己切断性ペプチド(例えば2Aペプチド)のコード配列によって離間され、組換えポリペプチド、CARおよび自己切断性ペプチドのコード配列が互いにインフレームになる。
【0013】
いくつかの実施形態において、核酸分子は、第3のポリペプチドのコード配列であって、場合により第3のポリペプチドがヒトc-Junまたはその機能的類似体であるコード配列をさらに含む。さらなる実施形態において、組換えポリペプチド、CARおよびヒトc-Junのコード配列は、3つのコード配列が共転写されるように同一のプロモーター(例えば、構成的または誘導的プロモーター;例えばMNDプロモーター)に動作可能に結合され、場合により、3つのコード配列が、(i)IRES、または(ii)自己切断性ペプチド(例えば2Aペプチド)のコード配列によって互いに離間され、組換えポリペプチド、CAR、ヒトc-Junおよび自己切断性ペプチドのコード配列が互いにインフレームになる。
【0014】
いくつかの実施形態において、核酸分子は、ウイルスベクター、場合によりレンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである。
【0015】
他の態様において、本開示は、本明細書に記載の核酸分子を含む細胞(例えば自己または同種異系ヒトT細胞);該核酸分子を含む組換えビリオン;ならびに該細胞、該核酸分子または該ビリオン、および医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物を提供する。
【0016】
別の態様において、本開示は、治療を必要とする患者を治療する方法であって、場合により自己または同種異系細胞である細胞を患者に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、患者は、がんを有し、本明細書に記載のT細胞製剤を投与され、T細胞は、そのがんに存在する腫瘍抗原に特異的であるCAR、T細胞受容体(TCR)、改変TCRまたはTCR模倣体を発現する。さらなる実施形態において、該方法は、患者が治療された(例えば、がんが退行した)後に、ヒトEGFRに特異的な有効量の抗体を患者に投与することを含み、抗体は、組換えポリペプチドを発現するT細胞に対する細胞毒性を生じさせ、場合により抗体はIgGまたはIgG(例えばセツキシマブ)である。
【0017】
本開示は、該治療方法に使用するための細胞、核酸分子、組換えウイルス、医薬組成物、ならびに本明細書に記載される、患者を治療するための医薬品の製造のための細胞、核酸分子またはウイルスをも提供する。
【0018】
さらに別の態様において、本開示は、遺伝子改変ヒト細胞(例えば改変T細胞)を製造する方法であって、単離ヒト細胞を準備すること、および本明細書に記載の核酸分子または組換えウイルスをヒト細胞に導入することを含む方法を提供する。
【0019】
本発明の他の特徴、目的および利点は、以下の詳細な説明に明示されている。しかし、詳細な説明は、発明の実施形態および態様を示しており、例示のみを目的とし、限定することを意図しないということが理解されるべきである。発明の範囲内の様々な変更および修正は、詳細な説明により当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】R12CAR-P2A-EGFRtもしくはR12CAR-P2A-EGFRt-DEARKAIARが形質導入された生CAR+T細胞、または非形質導入生細胞に対する抗EGFR抗体AY13の結合を示すグラフである。図1A:フロープロット。図1B図1Aの幾何平均蛍光強度(gMFI)データを定量化した棒グラフ。「DEARKAIAR」:膜近傍配列DEARKAIARVKRESKRIVEDAERLIREAAAASEKISREAERLI(配列番号41)。R12CAR:ROR1に対するCAR。P2A:自己切断ペプチド。EGFRt:EGFR細胞外ドメインIIIおよびIVならびにEGFR膜貫通ドメインを含むが、EGFRドメインIおよびIIならびにEGFR細胞内配列を欠く短縮ヒトEGFR。
図1B】R12CAR-P2A-EGFRtもしくはR12CAR-P2A-EGFRt-DEARKAIARが形質導入された生CAR+T細胞、または非形質導入生細胞に対する抗EGFR抗体AY13の結合を示すグラフである。図1A:フロープロット。図1B図1Aの幾何平均蛍光強度(gMFI)データを定量化した棒グラフ。「DEARKAIAR」:膜近傍配列DEARKAIARVKRESKRIVEDAERLIREAAAASEKISREAERLI(配列番号41)。R12CAR:ROR1に対するCAR。P2A:自己切断ペプチド。EGFRt:EGFR細胞外ドメインIIIおよびIVならびにEGFR膜貫通ドメインを含むが、EGFRドメインIおよびIIならびにEGFR細胞内配列を欠く短縮ヒトEGFR。
図2A】NCBI参照配列NP_005219.2のヒトEGFRのドメイン構造を示す図である。膜貫通ドメインは配列番号5であり、膜近傍ドメインは配列番号15である(配列番号43で示される完全長配列)。膜近傍ドメインにおいて、塩基性残基は赤および「+」で示され、酸性残基は青および「-」で示される。さらにリン酸化残基(緑)を以下に示す。
図2B】(RRR、配列番号16、配列番号12または配列番号13(出現順にそれぞれ配列番号44~47で示される完全長配列)の膜近傍ドメインを含まない、または含む配列番号5の膜貫通ドメインを含む)本EGFR由来ポリペプチドの特定の実施形態の設計を示す図である。S.ペプチド:シグナルペプチド。GMCSF:GM-CSFに由来するシグナルペプチド。星印は、ポリペプチドのC末端を示す。
図3図3A~3Cは、2つのドナーから得られ、発現コンストラクトが形質導入された初代T細胞におけるEGFR由来ポリペプチドに対する一連のバイシストロニック発現コンストラクトの発現を示すグラフである。図3Aは、R12CARのコード配列を含むコンストラクトの基本構造を示す。図3Bおよび3Cは、それぞれ、R12CAR+形質導入生細胞、または非形質導入条件での生細胞における結合ROR1-Fc融合タンパク質およびAY13に対するgMFIを示す。形質導入の8日後にフローサイトメトリーが行われた。図3Bおよび3Cは、出現順にそれぞれ配列番号16、12、13、16、12および13を示す。
図4A】R12CAR発現によって示される形質導入T細胞の割合を示す棒グラフである。T細胞は、図3A~3Cに示されるとおりであった。形質導入の5日後にフローサイトメトリーが行われた。図4Aは、出現順にそれぞれ配列番号16、12、13、16、12および13を示す。
図4B】ドメインIII特異的セツキシマブおよびドメインIII特異的AY13によるEGFRt検出の比較を示すグラフである。形質導入の5日後にフローサイトメトリーが行われた。図4Bは、出現順にそれぞれ配列番号16、12および13を示す。
図5図5Aおよび5Bは、それぞれ、図3A~3Cのバイシストロニック発現コンストラクトが形質導入された初代T細胞におけるR12CARおよびEGFRt表面発現に対する形質導入効率の影響を示すグラフである。形質導入の4日後にフローサイトメトリーが行われた。図5Aおよび5Bは、出現順にそれぞれ配列番号16、12および13を示す。
図6図6A~6Cは、2つのドナーから得られ、発現コンストラクトが形質導入された初代T細胞におけるEGFR由来ポリペプチドに対する一連のトリシストロニック発現コンストラクトの発現を示すグラフである。図6Aは、コンストラクトの基本構造を示す。図6Bおよび6Cは、それぞれ、R12CAR+形質導入生細胞または全非形質導入生細胞における結合ROR1-Fc融合タンパク質およびAY13に対するgMFIを示す。形質導入の8日後にフローサイトメトリーが行われた。図6Bおよび6Cは、それぞれ配列番号16を示す。
図7図3AのバイシストロニックコンストラクトからEGFR由来ポリペプチドを発現するCAR-T細胞におけるセツキシマブによって誘発された抗体依存性細胞毒性(ADCC)を示すグラフである。図は、4時間のセツキシマブ処理後に残留するCAR-T細胞の部分を、抗体で処理されていないCAR-T細胞と比較して示す。Ritux:リツキシマブ。
図8図6AのトリシストロニックコンストラクトからEGFR由来ポリペプチドを発現するCAR-T細胞におけるセツキシマブ誘発細胞毒性を示すグラフである。図は、4時間のセツキシマブ処理後に残留するCAR-T細胞の部分を、抗体で処理されていないCAR-T細胞と比較して示す。図8は、配列番号16を示す。
図9図6AのトリシストロニックコンストラクトからEGFR由来ポリペプチドを発現するCAR-T細胞におけるセツキシマブ誘発細胞毒性を示すグラフである。図は、24時間のセツキシマブ処理後に残留するCAR-T細胞の部分を、抗体で処理されていないCAR-T細胞と比較して示す。図9は、配列番号16を示す。
図10】EGFRtが形質導入されたROR1 CAR+生細胞、もしくはさらなる細胞内膜近傍配列(R、RR、RRRもしくはRKR)を有するその変異体、または非形質導入条件での全生細胞における抗EGFR抗体結合に対するgMFIを定量化した棒グラフである。
図11図11Aおよび11Bは、モノシストロニック(図11A)またはバイシストロニック(図11B)であるMP71レトロウイルスコンストラクトが形質導入されたマウスT細胞におけるEGFRt(白)またはEGFR-RRR(RRR膜近傍ドメインを含むEGFRt;グレー)の表面発現量を示すグラフである。MFI:平均蛍光強度。
図12A】指定されたCAR-T点滴製品(中図)のインビボ試験の概略(上図)、およびEGFRポリペプチドEGFRtまたはEGFR-RRRの発現量を示す(下図)図である。
図12B】セツキシマブ(Cetx)処理の後のEGFRtおよびEGFR-RRR CAR-T細胞(白丸)の循環の動態を、リツキシマブ(対照:Ritx)(黒丸)と比較して示すグラフ図である。グレーの線は、枯渇時点(depletion time point)を表す。
図12C】循環EGFRtおよびEGFR-RRR形質導入T細胞の枯渇動態(depletion kinetics)のインビボ試験の結果を示す図である。上図:EGFRT細胞の養子移植を示す概略図。下図:セツキシマブによる処理の後のEGFRT細胞の循環の動態を示すグラフ(白丸)。グレーの線は、枯渇時点を表す。
図13A】セツキシマブ(白丸)または媒体(黒丸)による処理の後のEGFRt(左)およびEGFR-RRR(右)CAR-T細胞の循環の枯渇動態のインビボ試験の結果を示す図である。陰影部は、枯渇後の範囲を表す。
図13B図13Aに示される試験におけるB細胞の循環の反発動態を示すグラフである。図示されているように2つの異なる用量のセツキシマブが使用された。
図13C】高用量(1mg)または低用量(0.1mg)のセツキシマブの投与後のB細胞再生不良の動物(全CD45のうちのCD19が3%未満)の頻度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
細胞療法の重要な構成要素は、改変細胞の検出、選択および富化、ならびにインビボ細胞剥離に使用されるコンパクトで機能不活性の細胞表面マーカーである。本開示は、これらの目的に使用される新規のEGFR由来タンパク質を提供する。これらのタンパク質は、野生型のEGFRのリガンド結合機能および/またはシグナル形質導入機能を欠くが、なおも一般的な抗EGFR抗体によって認識される。
【0022】
それらの配列の設計により、本EGFR由来タンパク質は、細胞表面に高濃度で発現されるため、細胞療法における安全スイッチ(自殺遺伝子)として特に有用である。該療法における改変細胞が体内で必要とされなくなると、セツキシマブ、パニツムマブ、ニモツズマブまたはネシツムマブなどの医薬グレードの抗EGFR抗体を患者に投与することによって、抗体依存性細胞毒性(ADCC)、補体依存性細胞毒性(CDC)および/または抗体依存性細胞食作用(ADCP)により改変細胞を除去することができる。
【0023】
別段の指示がなければ、本明細書に用いられるEGFRは、ヒトEGFRを指す。ヒトEGFRポリペプチド配列は、UniProtデータベース(識別子番号P00533-1)に見いだされ、以下の配列を有する:
【化1】
【0024】
上記配列において、各種EGFRドメインは、以下のように記述される。シグナルペプチドは、アミノ酸1~24にまたがる。細胞外配列は、アミノ酸25~645にまたがり、ドメインI、ドメインII、ドメインIIIおよびドメインIVは、それぞれアミノ酸25~188、189~333、334~504および505~645にまたがる。膜貫通ドメインは、アミノ酸646~668にまたがる。細胞内ドメインは、アミノ酸669~1,210にまたがり、膜近傍ドメインは、アミノ酸669~703にまたがり、チロシンキナーゼドメインは、アミノ酸704~1,210にまたがる。別段の指示がなければ、本明細書に記載のEGFRアミノ酸位置は、配列番号1における位置、または配列番号1の変異体(例えば、天然の多型変異体または遺伝子改変変異体)における対応する位置を指す。
【0025】
I.EGFR由来ポリペプチド
本開示の組換えポリペプチドは、EGFRに由来するが、EGFRの全体配列ではなく、部分配列のみを含む。これらのポリペプチドは、哺乳動物細胞に発現される場合は細胞表面タンパク質である。ポリペプチドの細胞外領域、膜貫通領域および細胞内領域を以下に説明する。
【0026】
A.細胞外領域
本EGFR由来ポリペプチドの細胞外領域は、セツキシマブなどの抗EGFR抗体によって結合されるエピトープを含む。例として、該領域は、以下のドメインIII配列などのEGFRのドメインIII、またはその機能的変異体を含んでいてもよい:
【化2】
【0027】
「機能的変異体」とは、配列の所望の生物学的機能に影響を及ぼさない欠失、挿入および/または置換(例えば同類置換)などの配列変異を有する配列を意味する。配列番号2の機能的変異体は、なおもセツキシマブによって結合される。
【0028】
ドメインIII配列の三次構造を維持するために、細胞外領域は、ドメインIII構造におけるジスルフィド結合を安定化させやすくするEGFR配列などのさらなるEGFR配列をさらに含んでいてもよい。例えば、細胞外領域は、ドメインIII配列の後に、EGFRのドメインIVに由来する配列を含んでいてもよい。ドメインIV由来配列は、以下のドメインIV配列を含んでいてもよい:
【化3】
【0029】
あるいは、ドメインIV由来配列は、配列番号3の機能的変異体を含んでいてもよい。当該機能的変異体は、ドメインIIIの三次構造を維持して、セツキシマブなどの抗EGFR抗体によりポリペプチドを結合させやすくすることが可能である。機能的変異体は、天然EGFRドメインIVの一部を含んでいれば、EGFRに非相同のさらなる配列(例えば、天然EGFR配列の一部ではない配列)を含んでいてもいなくてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態において、ドメインIV由来配列は、天然EGFRドメインIV配列の一部を含み、その部分は、ドメインIIIの構造的折りたたみの維持に関与するアミノ酸残基を含む。当該アミノ酸残基は、成熟EGFRのW492残基(配列番号1のW516および配列番号3のW12に対応し;上記配列の囲み部分)、ならびに場合によりそれに隣接する1つまたはそれ以上の残基を含む。W492は、この残基がドメインIIIの核に入り込み、重要な側鎖パッキング相互作用を生じさせるため、EGFRドメインIIIの折りたたみに重要であることが構造解析により証明される。ドメインIV由来配列の例は、成熟EGFRの残基492~496(配列番号1の残基516~520および配列番号3の残基12~16に対応する)を含むものである。
【0031】
ドメインIV由来配列の1つの特定の例は、
【化4】
であり、天然ドメインIVの残基482~491および497~612が除去され、V481が、合成4残基リンカー(上記の囲み部分)を介してW492に接続され、P496の後に、それを本ポリペプチドの膜貫通領域に結合するG/Sリンカー(上記の下線部分)が続く。
【0032】
いくつかの実施形態において、本EGFR由来ポリペプチドは、EGFおよびTGF-アルファなどのリガンドを結合するEGFR細胞外部分を欠く。例えば、細胞外領域は、EGFRのドメインIおよび/またはドメインIIの配列を含まない、またはそれらのドメインのいずれか、もしくは両方の部分配列のみを含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドの細胞外領域は、さらなる配列を含む。例えば、細胞外領域は、膜貫通領域のすぐN末端側に茎部を含んでいてもよい。茎部は、例えば、G/Sリッチのペプチドリンカーなどの柔軟な茎、または抗体定常領域からのCH2-CH3ドメイン、もしくは別のタンパク質からの細胞外ドメインなどの構造化された茎であってもよい。細胞外領域は、抗原結合領域(例えば、scFvまたは設計アンキリン反復タンパク質(DARPin))などのさらなる機能的ドメインをも含んでいてもよい。
【0034】
B.膜貫通領域
本ポリペプチドの膜貫通領域は、疎水性配列を含む。この領域は、人工配列を含んでいてもよく、例えば、ERBB1(EGFR)、ERBB2(HER2)、ERBB3(HER3)、ERBB4(HER4)、INSR、IGF1R、INSRR、PGFRA、PGFRB、KIT、CSF1R、FLT3、VGFR1、VGFR2、VGFR3、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、PTK7、NTRK1、NTRK2、NTRK3、ROR1、ROR2、MUSK、MET、RON、UFO、TYRO3、MERTK、TIE1、TIE2、EPHA1、EPHA2、EPHA3、EPHA4、EPHA5、EPHA6、EPHA7、EPHA8、EPHAA、EPHB1、EPHB2、EPHB3、EPHB4、EPHB6、RET、RYK、DDR1、DDR2、ROS1、LMTK1、LMTK2、LMTK3、LTK、ALK、またはSTYK1であってもよい任意の膜貫通タンパク質に由来する。
【0035】
膜貫通領域の1つの特定の例は、IATGMVGALLLLLVVALGIGLFMの配列(配列番号5)を有するEGFR、またはその機能的変異体に由来する。
【0036】
C.細胞内領域
発明人らは、適切な膜近傍ドメインをEGFR由来タンパク質の細胞内領域に含めると、タンパク質の細胞表面の発現量が顕著に増加することを思いがけなく発見した。膜近傍ドメインとは、膜貫通ドメインのすぐC末端側の細胞表面タンパク質の細胞内部分を指す。細胞表面の発現量が大きいと、タンパク質を発現する細胞が抗EGFR抗体によって認識されることで、細胞が例えばADCC、CDCおよび/またはADCPにより根絶される。
【0037】
本ポリペプチドにおける膜近傍ドメインは、長さが1~20(例えば、2~20、3~20、4~20、5~20、2~18、3~18、4~18または5~18)アミノ酸であってもよい。長さが20アミノ酸を超えることもできる。いくつかの実施形態において、本ポリペプチドの最初の1つまたはそれ以上の(例えば、最初の2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個)のアミノ酸は、正味中性の、または正味正電荷を持つ配列である(例えば、アルギニンおよびリシン残基の数は、アスパラギン酸およびグルタミン酸残基の数以上である)。さらなる実施形態において、それらの第1のアミノ酸は、親水性アミノ酸を30%超(例えば、40、50、60、70、80または90%超)含む。膜貫通ドメインのC末端に付加される配列の各位置におけるアミノ酸選択肢の非限定的な例を以下の表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
当該膜近傍ドメインのいくつかの非限定的な例を以下に示す:
【0040】
【表2】
【0041】
本膜近傍ドメインは、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)またはフォスファチジルイノシトール-4,5-ビスフォスフェート(PIP2)と相互作用するヒト受容体チロシンキナーゼの膜近傍領域(例えば、最初の20個の膜近傍アミノ酸の全体または部分配列)などの天然細胞表面タンパク質の膜近傍領域に由来する(例えば、Hedgerら、Sci Rep.(2015)5:9198頁参照)。受容体チロシンキナーゼは、ERBB1(EGFR)、ERBB2(HER2)、ERBB3(HER3)、ERBB4(HER4)、INSR、IGF1R、INSRR、PGFRA、PGFRB、KIT、CSF1R、FLT3、VGFR1、VGFR2、VGFR3、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、PTK7、NTRK1、NTRK2、NTRK3、ROR1、ROR2、MUSK、MET、RON、UFO、TYRO3、MERTK、TIE1、TIE2、EPHA1、EPHA2、EPHA3、EPHA4、EPHA5、EPHA6、EPHA7、EPHA8、EPHAA、EPHB1、EPHB2、EPHB3、EPHB4、EPHB6、RET、RYK、DDR1、DDR2、ROS1、LMTK1、LMTK2、LMTK3、LTK、ALKおよびSTYK1である。所望により、誘導された配列は、本タンパク質の意図しないシグナル伝達能を回避するようにリン酸化されることが知られる残基を除去する変異(例えば置換または欠失)を含んでいてもよい。
【0042】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドの膜近傍ドメインは、以下のような膜近傍領域を含む:
【化5】
【0043】
いくつかの実施形態において、EGFR由来膜近傍ドメインは、天然EGFR膜近傍領域(例えば配列番号15)の最初の19個のアミノ酸に由来し、本ポリペプチドの二量体化を回避するように、天然膜近傍領域の残留部分の全体を含まない。いくつかの実施形態において、リン酸化することが知られる残基(上記囲み部分、配列番号1のT678、T693およびS695に対応する)が欠失、または置換される。EGFR由来膜近傍ドメインの非限定的な例は、以下の配列の1つを含む:
【0044】
【表3】
【0045】
いくつかの実施形態において、細胞内領域は、膜近傍ドメインのC末端側のさらなる配列、例えば機能的ドメイン(例えばスイッチ受容体)をも含む。
【0046】
本EGFR由来タンパク質は、タンパク質がシグナル伝達能を欠くように、EGFRの機能的チロシンキナーゼドメインを欠く。例えば、該タンパク質は、配列番号1のアミノ酸704~1,210に対応する領域の全体を欠く。いくつかの実施形態において、細胞内領域は、可能性のあるリン酸化モチーフ(phosphorylation motif)を含まない。
【0047】
D.シグナルペプチド
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドのコード配列は、シグナルペプチドのコード配列を含む。シグナルペプチドは、ポリペプチドの細胞表面の発現を容易にすることができ、成熟ポリペプチドから切断される。シグナルペプチドは、任意の細胞表面タンパク質または分泌タンパク質のペプチドに由来する。例えば、シグナルペプチドは、以下に示すシグナルペプチドであってもよい:
【0048】
【表4】
【0049】
本ポリペプチドの細胞外領域、膜貫通領域および細胞内領域について以上に記載した各種ドメインは、直接、またはペプチドリンカーを介して結合される。
【0050】
E.EGFR由来ポリペプチドの例
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、膜近傍ドメイン(不図示)が膜貫通ドメインのC末端に付加され、シグナルペプチド(不図示)を含む、または含まない、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、ドメインIV(下線部分)および膜貫通ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化6】
【0051】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、シグナルペプチド(不図示)を含む、または含まない、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、EGFRドメインIVの改造部(太字および下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン、ならびに膜貫通ドメインのC末端に付加された膜近傍ドメイン(不図示)を含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化7】
【0052】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、シグナルペプチド(不図示)を含む、または含まない、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、合成配列(太字および下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン、ならびに膜貫通ドメインのC末端に付加された膜近傍ドメイン(不図示)を含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化8】
【0053】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、EGFRドメインIV(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにRRRの配列を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化9】
【0054】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、EGFRドメインIV(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにRRRHIVRKRの配列(配列番号16)を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化10】
【0055】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、EGFRドメインIV(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにRRRSGGGGSGGGGSの配列(配列番号12)を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化11】
【0056】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、EGFRドメインIV(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにSGGGGSGGGGSの配列(配列番号13)を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化12】
【0057】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、EGFRドメインIVの改造部(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにRRRの配列を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化13】
【0058】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、EGFRドメインIVの改造部(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにRRRHIVRKRの配列(配列番号16)を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化14】
【0059】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、EGFRドメインIVの改造部(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにRRRSGGGGSGGGGSの配列(配列番号12)を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化15】
【0060】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、EGFRドメインIVの改造部(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにSGGGGSGGGGSの配列(配列番号13)を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化16】
【0061】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、合成配列(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにRRRの配列を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化17】
【0062】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、合成配列(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにRRRHIVRKRの配列(配列番号16)を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化18】
【0063】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、合成配列(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにRRRSGGGGSGGGGSの配列(配列番号12)を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化19】
【0064】
いくつかの実施形態において、本ポリペプチドは、GM-CSFシグナルペプチド(太字部分)、EGFRドメインIII(イタリック体部分)、合成配列(下線部分)、EGFR膜貫通ドメイン(太字およびイタリック体部分)、ならびにSGGGGSGGGGSの配列(配列番号13)を有する膜近傍ドメインを含む、それらからなる、またはそれらから実質的になる:
【化20】
【0065】
本開示では、配列が以上に例示した配列と少なくとも90%(例えば、少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98または99%)同一であるEGFR由来ポリペプチドも提供される。
【0066】
II.EGFR由来タンパク質に対する発現コンストラクト
本開示は、細胞療法に使用される細胞においてEGFR由来タンパク質を発現するのに好適な発現コンストラクトを提供する。本開示の発現コンストラクトは、1つまたはそれ以上の転写調節要素に動作可能に結合されるEGFR由来ポリペプチドのコード配列(好ましくはシグナルペプチドを含む)を含む発現カセットを含む。本明細書に用いられているように、「転写調節要素」とは、例えば、EGFR由来ポリペプチドコード配列の組織特異的発現パターンおよび転写効率、RNA転写物の安定性、およびRNA転写物の翻訳効率を調節することによってコード配列の発現を制御する発現コンストラクトの塩基配列を指す。これらの要素は、プロモーター、コザック配列、エンハンサー、RNA安定化要素(例えばWPRE配列)、ポリアデニル化シグナル、およびそれらの任意の組合せの1つまたはそれ以上であってもよい。
【0067】
いくつかの実施形態において、発現カセットは、標的細胞において構成的に活性または誘導可能である哺乳動物プロモーターを含む。有用なプロモーターの例は、限定することなく、マロニーマウス白血病ウイルス(MoMuL V)LTR、MND(骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサーによる改造MoMuL V LTRのU3領域を含む合成プロモーター)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、CMV前初期プロモーター(immediate early promoter)、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)プロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、EFlαプロモーター、チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、テトラシクリン応答性プロモーター(TRE)、E2因子(E2F)プロモーター、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)プロモーター、およびRU-486応答性プロモーターである。
【0068】
ある実施形態において、発現カセットは、さらなる調節配列、例えば内部リボソーム侵入部位(IRES)、またはEGFR由来ポリペプチドに加えて別のポリペプチドの共発現を可能にするための自己切断ペプチドをコードする配列をも含む。(リボソームスキッピングペプチドとしても知られる)自己切断ペプチドの例は、典型的な長さが18~22アミノ酸のウイルス由来ペプチドであり、T2A、P2A、E2AおよびF2Aを含む2Aペプチドである(Liuら、Sci Rep.(2017)7:2193)。
【0069】
いくつかの実施形態において、本発現コンストラクトは、抗原受容体および/または別のさらなるポリペプチドをも発現する。抗原受容体は、例えば、抗体、scFvなどの改変抗体、CAR、改変TCR、TCR模倣体(例えば、抗体-T細胞受容体(abTCR)もしくはキメラ抗体-T細胞受容体(caTCR))、またはキメラシグナル伝達受容体(CSR)であってもよい。例として、abTCRは、TCR(例えば、アルファ/ベータTCRまたはガンマ/デルタTCR)の抗原結合ドメインが(抗体の定常ドメインを含む、または含まない)抗体の抗原結合ドメインに置き換えられた改変TCRを含んでいてもよく;次いで改変TCRは、TCRのシグナル伝達機能を保持しながら抗体の抗原に特異的になる。CSRは、(1)細胞外結合ドメイン(例えば、天然/改変受容体細胞外ドメイン、天然/改変リガンド細胞外ドメイン、scFv、ナノボディ、Fab、DARPinおよびアフィボディ)、(2)膜貫通ドメイン、ならびに(3)細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、転写因子を活性化する、またはJAK/STAT、キナーゼ、ホスファターゼおよびユビキチンを補充および/または活性化するドメイン;SH3;SH2;ならびにPDZ)。例えば、EP340793B1、WO2017/070608、WO2018/200582、WO2018/200583、WO2018/200585、およびXuら、Cell Discovery(2018)4:62参照。
【0070】
抗原受容体は、対象の抗原(例えば、腫瘍抗原または病原体の抗原)を標的とすることができる。抗原としては、限定することなく、AFP(アルファフェトプロテイン)、αvβ6もしくは別のインテグリン、BCMA、B7-H3、B7-H6、CA9(炭酸脱水酵素9)、CCL-1(C-Cモチーフケモカインリガンド1)、CD5、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD40、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD45、CD47、CD56、CD66e、CD70、CD74、CD79a、CD79b、CD98、CD123、CD138、CD171、CD352、CEA(がん胎児性抗原)、クローディン18.2、クローディン6、c-MET、DLL3(デルタ様タンパク質3)、DLL4、ENPP3(エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼファミリーメンバー3)、EpCAM、EPG-2(上皮糖タンパク質2)、EPG-40、エフリンB2、EPHa2(エフリン受容体A2)、ERBB二量体、エストロゲン受容体、ETBR(エンドセリンB受容体)、FAP-α(線維芽細胞活性化タンパク質α)、胎児性AchR(胎児性アセチルコリン受容体)、FBR(葉酸結合タンパク質)、FCRL5、FR-α(葉酸受容体アルファ)、GCC(グアニルシクラーゼC)、GD2、GD3、GPC2(グリピカン-2)、GPC3、gp100(糖タンパク質100)、GPNMB(糖タンパク質NMB)、GPRC5D(Gタンパク質共役受容体5D)、HER2、HER3、HER4、B型肝炎表面抗原、HLA-A1(ヒト白血球抗原A1)、HLA-A2(ヒト白血病抗原A2)、HMW-MAA(ヒト高分子量メラノーマ関連抗原)、IGF1R(インスリン様増殖因子1受容体)、Igカッパ、Igラムダ、IL-22Ra(IL-22受容体アルファ)、IL-13Ra2(IL-13受容体アルファ2)KDR(キナーゼ挿入ドメイン受容体)、LI細胞接着分子(LI-CAM)、Liv-1、LRRC8A(8ファミリーメンバーA含有ロイシンリッチリピート)、ルイスY、メラノーマ関連抗原(MAGE)-A1、MAGE-A3、MAGE-A6、MART-1(メランA)、マウスサイトメガロウイルス(MCMV)、MCSP(メラノーマ関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、メソテリン、ムチン1(MUC1)、MUC16、MHC/ペプチド錯体(例えば、AFP、KRAS、NY-ESO、MAGE-AおよびWT1由来ペプチドと錯体を形成するHLA-A)、NCAM(神経細胞接着分子)、ネクチン-4、NKG2D(ナチュラルキラー群2メンバーD)リガンド、NY-ESO、腫瘍胎児抗原、PD-1、PD-L1、PRAME(メラノーマの優先発現抗原)、プロゲステロン受容体、PSA(前立腺特異抗原)、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、PSMA(前立腺特異膜抗原)ROR1、ROR2、SIRPα(シグナル調節タンパク質アルファ)、SLIT、SLITRK6(NTRK様タンパク質6)、STEAP1(前立腺6膜貫通上皮抗原1)、スルビビン、TAG72(腫瘍関連糖タンパク質72)、TPBG(栄養膜糖タンパク質)、Trop-2、VEGFR1(血管内皮増殖因子受容体1)、VEGFR2、ならびにHIV、HBV、HCV、HPVおよび他の病原体からの抗原を挙げることができる。
【0071】
いくつかの実施形態において、抗原受容体は、二重特異性であり、上記抗原のうちの2つのような2つの異なる抗原を標的とするものであってもよい。例えば、CARなどの抗原受容体は、CD19およびCD20、またはCD19およびCD22を標的とする。
【0072】
さらなるポリペプチドは、例えば、サイトカイン(例えば、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-23、およびそれらの改変変異体)、サイトカイン受容体(例えば、IL-12R、IL-7R、およびそれらの改変変異体)、ケモカイン、転写因子(例えば、v-Junまたはc-fos;例えばWO2019/118902参照)、それらの機能的類似体、他の改変受容体(例えばTGFBetaR)、ならびに他の改変エフェクター(例えば、分泌性二次エフェクター;例えばWO2018/200585参照)。「機能的類似体」とは、同種のポリペプチドまたはペプチドと配列の相違があるが、対象とする生物活性がその同種の分子と同一または同様である分子を意味する。
【0073】
これらのさらなるポリペプチドのコード配列は、EGFR由来ポリペプチドコード配列と異なるプロモーターの制御下にあってもよい。あるいは、それらは、EGFR由来のコード配列と同じプロモーターの制御下にあってもよいが、それらのコード配列を同じプロモーター下で共発現できるように、IRES、または2Aペプチドのためのインフレームコード配列を介して互いに離間される。
【0074】
本開示の発現コンストラクトは、電気穿孔法、細胞超音波処理、ウイルス形質導入、リポフェクション、顕微注入、バイオリステック法、ビロソーム、リポソーム、免疫リポソームおよびナノ粒子(例えば、ポリマーまたは脂質ナノ粒子)などの好適な手段によってインビトロ、エクスビボまたはインビボで標的細胞に送達される。いくつかの実施形態において、発現コンストラクトは、ウイルスベクターであり、それらのコンストラクトを含む組換えウイルスを介して標的細胞に送達される。ウイルスベクターは、EGFR由来ポリペプチド発現カセット、ならびに(該当する場合は)パッケージングおよびそれに続く宿主への統合に必要な最小限のウイルス配列を含む。足りないウイルス機能は、組換えウイルスをパッケージングするのに使用されるパッケージング細胞株により移行中に補充される。ウイルスベクターは、例えば、ワクチンベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、単純疱疹ウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびハイブリッドウイルスベクターであってもよい。一部にウイルス型に応じて、EGFR由来ポリペプチド発現カセットは、標的細胞のゲノムに安定的に統合され、エピソームとして細胞に残留する。宿主ゲノムへの統合は、レトロウイルスおよびレンチウイルスにて可能である。
【0075】
III.EGFR由来タンパク質を発現する細胞の製薬学的用途
本発現コンストラクトは、細胞療法に使用される細胞に導入される。これらの細胞は、例えば、造血性幹細胞、造血系の各種原始細胞または前駆細胞、および各種免疫細胞(例えば、ヒト自己または同種T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞またはB細胞)などの多能細胞である。治療用細胞集団を生成するのに使用できるヒト胚性幹細胞および誘発多能性幹細胞などの多能性幹細胞(PSC)であってもよい。いくつかの実施形態において、多能性細胞および多能細胞は、患者に移植される前にインビトロで所望の細胞型に分化される。
【0076】
いくつかの実施形態において、本開示は、EGFR由来タンパク質を発現するとともに、同一のコンストラクトまたは別個のコンストラクトから1つまたはそれ以上のさらなるポリペプチドを発現する改変Tリンパ球を提供する。1つまたはそれ以上のさらなるポリペプチドは、上記のように、抗体などの抗原受容体、svFvなどの改変抗体、CAR、改変TCR、TCR模倣体(例えばabTCRもしくはcaTCR)、またはCSRであってもよい。抗原受容体は、例えば、上記の抗原を標的としてもよい。さらなるポリペプチドは、例えば、サイトカイン、サイトカイン受容体、ケモカイン、転写因子、それらの機能的類似体、別の改変受容体、または上記の改変エフェクターであってもよい。これらのさらなるポリペプチドのコード配列は、EGFR由来ポリペプチドコード配列と異なるプロモーターの制御下にあってもよい。いくつかの実施形態において、本開示は、改変受容体を発現する改変自己または同種NK細胞、および抗体、改変抗体、または治療用タンパク質を発現する改変組織特異的細胞を発現する改変Bリンパ球を提供する。
【0077】
本明細書に記載の遺伝子改変細胞は、該細胞および医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物にて提供される。医薬として許容し得る担体は、動物由来成分を場合により含まない細胞培地であってもよい。保管および輸送に際して、細胞は凍結保存される。使用に先立ち、細胞は解凍され、無菌細胞培地で希釈される。細胞は、患者に(例えば静脈注射もしくは注入により)全身投与される、または(例えば、局部組織、例えば固形腫瘍の部位に対する直接注射により)局所投与される。
【0078】
治療有効数の改変細胞が患者に投与される。本明細書に用いられているように、「治療有効」という用語は、疾患、障害および/または状態に罹患している、または罹患しやすいヒト被験体に投与して、その疾患、障害および/または状態を治療する、予防する、および/またはその症状の発症もしくは進行を遅らせる場合に十分である細胞の数または医薬組成物の量を指す。例えば、改変CAR-T細胞の治療有効量は、腫瘍増殖の停止、腫瘍退縮、腫瘍代謝の防止または腫瘍再発の防止を生じさせるのに十分な量である。
【0079】
改変細胞が患者において所望されなくなったとき、例えば細胞が適切に機能しなくなったとき、または治療目標が達成されたとき、抗EGFR抗体は、抗体を媒介して細胞を殺すのに十分な量で患者に投与される。例えば、セツキシマブ(例えばErbitux(登録商標))が、患者に残留する改変細胞の数に応じて適宜判断される1つまたはそれ以上の用量にて、注入により投与される。
【0080】
本明細書に別段に規定されていない限り、本開示に関して用いられている科学技術用語は、当業者に一般に理解される意味を有するものとする。例示的な方法および材料を以下に説明するが、本明細書に記載のものと同様または同等の方法および材料を本開示の実践および試験にも使用できる。矛盾する場合は、本明細書が、定義を含めて、優先する。一般に、本明細書に記載の細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、分析化学、合成有機化学、医薬品および製薬化学、ならびにタンパク質および核酸化学およびハイブリダイゼーションに関連して用いられる用語体系およびそれらの技術は、当該技術分野で周知であり、広く用いられている。酵素反応および精製技術は、当該技術分野で一般に遂行される、または本明細書に記載されるように、製造元の仕様に従って実施される。さらに、文脈によって別段に定められていない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含む。本明細書および実施形態の全体を通じて、「有する(have)」および「含む(comprise)」という用語、または「有する(has)」、「有している(having)」、「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」などの変形は、明記された整数または整数群を含めるが、任意の他の整数または整数群を除外しないことを暗示するものと理解される。本明細書に記載されるすべての出版物および他の参考文献は、それらの全体が参照によって組み入れられている。いくつかの文献が本明細書に引用されているが、この引用は、これらの文献のいずれも当該技術分野における一般的な常識の一部を形成していることを認めるものではない。
【実施例
【0081】
本開示がより良く理解されるために、以下の実施例を記載する。これらの実施例は、例示に過ぎず、いかなる形においても本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきでない。
【実施例1】
【0082】
EGFR由来ポリペプチドの表面発現
本実施例は、EGFR由来ポリペプチドの細胞表面発現量に対する各種膜近傍ドメインの影響を分析する試験について記載する。
【0083】
方法
発現コンストラクト
レンチウイルスコンストラクトをバイシストロニックまたはトリシストロニック発現カセットにより生成した。バイシストロニック発現カセットによるコンストラクトでは、(i)ROR1特異的R12CAR、(ii)P2A自己切断ペプチド、および(iii)EGFRt(ドメインIIIおよびIVならびに膜貫通ドメインのみを有する短縮EGFR;配列番号26)またはさらに細胞内膜近傍ドメインを有する変異体のコード配列をインフレームで結合し、MNDプロモーターの制御下に置いた。トリシストロニック発現カセットによるコンストラクトでは、(i)c-Jun、(ii)P2Aペプチド、(iii)ROR1特異的R12CAR、(iv)P2Aペプチド;および(v)EGFRt、またはさらに細胞内膜近傍ドメインを有する変異体のコード配列をインフレームで結合し、MNDプロモーターの制御下に置いた。R12CARは、R12抗ROR1抗体に由来し(Yangら、PloS One.(2011)6:e21018)、CD28由来膜貫通ドメイン、4-1BB共刺激ドメインおよびCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む。
【0084】
細胞培養およびレンチウイルス形質導入
ジャーカット細胞をアメリカンタイプカルチャコレクション(ATCC;バージニア州Manassas)から入手した。レンチウイルス形質導入については、形質導入の前に細胞に新鮮培地を4~16時間供給した後、完全培地+製造元が推奨する濃度のLentiBOOST(商標)(Sirion Biotech)にてレンチウイルスとともにインキュベートした。形質導入の18時間後に、レンチウイルスおよびLentiBOOST(商標)を1容量の新鮮培地の添加によって希釈した。
【0085】
通常のドナーからの予め選択され冷凍保存された初代ヒトCD4+およびCD8+T細胞をBloodworks(ワシントン州Seattle)から入手した。ヒトT細胞を、Immune Cell Serum Replacement(Thermo Fisher)、2mMのL-グルタミン(Gibco)、2mMのグルタマックス(Gibco)、200IU/mlのIL-2(R&D systems)、120IU/mlのIL-7(R&D systems)および20IU/mlのIL-15(R&D systems)が補充されたOpTmizer培地(Thermo Fisher)にて培養した。レンチウイルス形質導入では、T細胞をT細胞TransAct(Miltenyi)の1:100希釈物で30時間刺激した。次いで、ウイルスをT細胞に18~24時間かけて添加した。次いで、TransActを含まない7容量の新鮮培地を添加することにより刺激およびウイルス感染を終了させ、分析前に細胞をさらに3~7日培養した。
【0086】
フローサイトメトリー
Ze5サイトメーター(Bio-Rad Laboratories)でフローサイトメトリーを行った。細胞表面マーカーの発現を測定するために、約1×10~2×10個の全細胞を底がV字形の96ウェル培養皿(Corning)に移した。細胞をフローサイトメトリー染色バッファー(eBioscience)で2回洗浄し、全容量が50μlのフローサイトメトリー染色バッファー中にて適切な試薬により氷上で30分間染色した。染色後、細胞をフローサイトメトリー染色バッファーで2回洗浄し、FluoroFixバッファー(BioLegend)にて固定し、分析するまで4℃で暗所にて維持した。FlowJo10(Tree Star)を使用してフローサイトメトリーデータを解析した。
【0087】
フローサイトメトリー分析では、蛍光色素BV421(BioLegend)で標識したAY13抗体を使用して、EGFR変異体を検出した。R12CARを検出するために、ヒトIgFcに融合した精製組換えROR1を自家製造し、Alexa647染料に結合させた。一次抗体染色時にeFluor780Fixable Viability染料(eBioscience)を1:8000の希釈率で含めた。
【0088】
結果
EGFRtの細胞表面発現を調節するために、その膜貫通C末端を、膜近傍に2つの酸残基(アスパラギン酸およびグルタミン酸)を含む43アミノ酸合成配列(DEARKAIARVKRESKRIVEDAERLIREAAAASEKISREAERLI;配列番号41)に融合させた。形質導入した初代T細胞においてC末端融合されていないEGFRtと比較してEGFRtの細胞表面検出が劇的に低減されていることを見いだした(図1Aおよび1B)。これに対して、EGFRtの膜貫通C末端を(GS)(配列番号42、n=2)に融合させると、融合されていないEGFRtと比較して、検出された融合タンパク質の細胞表面における濃度が劇的(5倍に)に増加していた(ジャーカット細胞;データ不図示)。これらのデータは、適切な膜近傍細胞内部分を含めると、EGFRt変異体の表面発現が調節されることを示唆している。
【0089】
膜近傍細胞内領域における特定のアミノ酸組成物は、タンパク質合成時に膜挿入を増強すること、および/または膜貫通タンパク質の安定性を向上させることによって、EGFRtマーカーの表面発現を増大させることができると仮定した。この仮説を試験するために、EGFRドメインIII-IV、EGFR膜貫通ドメイン、および原生EGFR配列または合成配列に由来する短い細胞内ドメインを含むEGFRtモジュールを生成した。ヒトEGFRのT678は調節的リン酸化のサイトになり得るため、アミノ酸669~671(RRR)または669~677(RRRHIVRKR;配列番号16)を含む試験タンパク質(図2Aおよび2B)を選択した。グリシンは、α-螺旋構造を破壊でき、他の受容体チロシンキナーゼタンパク質の膜近傍領域に富むため、構造化されていないグリシン/セリンリッチのリンカーを含む細胞内ドメイン(SGGGGSGGGGS;配列番号13)、またはその後ろにグリシン/セリンリッチのリンカーが続く原生膜近傍ドメインの短部分(RRRSGGGGSGGGGS;配列番号12)についても試験した。この試験では、P2Aスキップ配列によりEGFRt変異体に結合されたROR1特異的R12CARを発現するレンチウイルスを初代T細胞に形質導入した(図3A)。R12CARおよび共発現されたEGFR由来ポリペプチドの発現をフローサイトメトリーによって測定した。
【0090】
それらのデータにより、膜に近接した酸残基(図1Aおよび1B)を含む膜近傍配列を除いて、膜近傍配列を含むEGFRt変異体は、膜近傍配列を含まないEGFRtポリペプチド(図3B)と比較して、一定して高い平均蛍光強度を示したことが実証される。とりわけ、翻訳的に結合されたR12CARの表面発現は、すべてのコンストラクトに対して一定であり(図3B)、CARおよびEGFRtの両方の発現に影響を与えるのは、mRNA安定性または翻訳効率の調節に対する影響ではなく、EGFRt安定性に対する膜近傍配列の直接的な影響であることが示される。
【0091】
EGFRドメインIII特異的AY13モノクローナル抗体の結合が正確にセツキシマブの結合を反映することを確認するために、AY13とセツキシマブバイオシミラーとで測定されたEGFRtの発現量(gMFI)を比較した。それら2つの抗体のgMFI間の直線的関係、および膜近傍配列を有するEGFRt変異体に対するセツキシマブバイオシミラーの結合の明白な増加(図4Aおよび4B)が、データにより実証された。EGFRtの発現に対するウイルスコピー数の役割を調べるため、ある範囲のレンチウイルス価にわたって初代T細胞を形質導入した。先述の結果と同様に、R12CARの表面gMFIは、一致した形質導入頻度ですべてのコンストラクトを通じて均一であった。これに対して、細胞内配列を含むすべてのEGFRt変異体の表面gMFIは、この配列を欠くEGFRtマーカーの約3~5倍であった(図5Aおよび5B)。これらのデータは、好適な細胞内ドメインが存在すると、共発現R12CARの発現量によって測定された場合に、翻訳効率が同等であってもEGFRtタンパク質の細胞表面提示が向上することを示している。これらの結果は、タンパク質合成時の膜挿入の増強または膜タンパク質安定性の向上が、EGFR由来タンパク質の表面発現を向上させる役割を果たすことを実証するものである。
【0092】
2A含有発現カセットにおけるシストロン要素の数が増加すると、一部にリボソームの脱落および2A要素の不十分な切断によりそれらの要素の発現が5’から3’に低下するという一般的傾向がある。この理由により、EGFRt変異体の有効表面発現を最大限に大きくすることが、トリシストロニックおよびより高次元のベクターにとって特に重要である。トリシストロニック発現カセットにおけるEGFRt発現に対する膜近傍配列の影響を試験するため、c-Jun転写因子、R12CAR、およびP2Aスキップ配列により結合されたEGFRtモジュールを含むレンチウイルスベクターを生成した(図6A)。EGFRtモジュールは、細胞内ドメインを含まないもの、またはヒトEGFR配列のアミノ酸669~671もしくは669~677を含む細胞内ドメインを含むものであった。バイシストロニックベクターについて観察すると、R12CAR発現は、すべてのコンストラクトを通じて同様であった。これに対して、EGFRtの表面発現は、膜近傍配列の追加により約4倍に増加した(図6Bおよび6C)。
【実施例2】
【0093】
EGFRt変異体を発現するCAR-T細胞のセツキシマブ媒介ADCC
本実施例では、細胞療法における安全スイッチとしての本明細書に記載のEGFR由来タンパク質の効率を分析する試験について説明する。EGFRtの表面発現の変化は、このマーカーのインビボでの選択マーカーおよび安全スイッチとしての有用性に影響を及ぼす可能性がある。セツキシマブは、腫瘍細胞のADCCをEGFR依存的に誘発する(Kimuraら、Cancer Sci.(2007)98(8)1275~80頁)。試験した4つ膜近傍配列がすべて表面EGFRt発現の同様の増大を誘発したため、膜近傍配列を含まない、またはヒトEGFR由来RRRおよびRRRHIVRKR(配列番号16)配列を含むEGFRtコンストラクトをADCC試験のために選択した。
【0094】
方法
ADCC試験において、初代ヒトナチュラルキラー(NK)細胞をエフェクター細胞として使用した。EasyStep Human NK Cell Kit(StemCell)を製造元のプロトコルに従って使用して、陰性選択によりナチュラルキラー細胞を、凍結保存したT細胞枯渇(CD4-/CD8-)PBMC(AllCells)から単離した。それらの細胞溶解性機能を活性化させるために、単離したNK細胞を、使用前に、10ng/mlのヒトIL-15が補給されたRPMI-10にて一晩培養した(Wagnerら、J Clin Invest.(2017)127(11):4042~58頁;Derer 2012、J Immunol.(2012)189(11):5230~9頁)。
【0095】
凍結保存された形質導入原始T細胞を解凍し、上記のようにOpTmizer培地+サイトカインにて一晩予備培養した。次いで細胞をカウントし、RPMI-10に再懸濁し、底がV字形の96ウェルプレートに100μl容量添加し、(i)指定最終濃度のセツキシマブバイオシミラー、(ii)無抗体(0)、または(iii)2,000ng/mlのリツキシマブバイオシミラー(R&D Systems)とともに37℃で15分間インキュベートした。次いで、IL-15で感作されたNK細胞をNK:CAR-T細胞が10:1の割合になるように添加し、底がV字形のプレートに緩やかに(100xgで30秒)遠心分離を施して、エフェクターと標的細胞を一緒にした。4時間の共培養後、残留するCAR+T細胞をFACSによって識別した。サンプルを抗CD3、抗CD56、ROR1-FcおよびFVD780で染色し、固定し、容量計数方式のZe5サイトメーターに配置した。抗体で処理された、または処理されていない全生CD56-CD3+ROR1-Fc+集団を比較することによってT細胞の抗体特異的ADCCを評価した。
【0096】
【表5】
【0097】
結果
それらのデータにより、膜近傍配列を欠くEGFRtは、NK細胞およびセツキシマブの存在下で低ADCCを示したのに対して、3アミノ酸RRR膜近傍配列を含むEGFRtは、5ng/mlの低いセツキシマブ用量においてもNK細胞の存在下で効率的に死滅させられた(図7)。
【0098】
3’位にEGFRt配列を含むトリシストロニックコンストラクト(図6A)では、4時間の処理後に、膜近傍配列を欠くEGFRtのADCCが最小になった。これに対して、RRRまたはRRRHIVRKR(配列番号16)膜近傍ドメインを含むEGFRtは、4時間の処理後に、用量依存的に有意なセツキシマブ媒介ADCCを示した(図8)。24時間のセツキシマブ処理後に、膜近傍配列を欠くEGFRtは、セツキシマブおよびNK依存的に部分的なアブレーションを示したのに対して、RRRまたはRRRHIVRKR(配列番号16)膜近傍配列を含むEGFRtは、セツキシマブおよびNK依存的にほぼ完全なアブレーションを示した(図9)。
【実施例3】
【0099】
さらなるEGFR由来ポリペプチドの表面発現
本実施例では、EGFR由来ポリペプチドの細胞表面発現量に対する各種短膜近傍配列および残基交換膜近傍配列の影響の分析について検討する。
【0100】
EGFR由来ポリペプチドの細胞表面発現を最大にするための最小限の配列要件を試験するために、(i)c-Jun、(ii)ROR1特異的CAR、および(iii)EGFR由来ポリペプチドを含むトリシストロニックコンストラクトを実施例1に記載したように設計した。これらのトリシストロニックコンストラクトは、EGFRt、またはさらなる短膜近傍配列:(i)アルギニン残基が1つ(R)、(ii)アルギニン残基が2つ(RR)、(iii)アルギニン残基が3つ(RRR)、もしくは(iv)1つのアルギニン残基をリシンと交換(RKR)を有するその変異体をコードした。
【0101】
2つの異なるヒトドナーからの初代T細胞に指定のトリシストロニックコンストラクトを形質導入するか、または形質導入しなかった。形質導入の6日後に、細胞をROR1-Fc抗原結合、EGFR発現および固定性生死判定染料に関して染色した。
【0102】
図10は、ROR1 CAR+形質導入細胞、または形質導入しない条件での全生細胞中で結合する抗EGFR抗体についてのgMFIを示す。図に示されるように、RKR膜近傍配列を含むEGFR由来ポリペプチドは、強い細胞表面発現を維持した。アルギニン残基が1つ、2つまたは3つ(R、RRまたはRRR)の膜近傍配列を含むEGFR由来ポリペプチドの細胞表面発現量を比較すると、細胞内膜近傍ドメインをRRRからRRに短縮することにより表面発現が2.7%低下したことが分かる。これに対して、細胞内膜近傍ドメインをRRRからRに短縮することにより表面発現が22%低下した。
【実施例4】
【0103】
インビボにおけるEGFR由来ポリペプチドのキルスイッチ機能
本実施例では、セツキシマブ投与後の短縮EGFRのインビボのキルスイッチ機能に対する膜近傍RRRドメインの影響の評価について検討する。
【0104】
方法
発現コンストラクト
MP71レトロウイルスベクターを使用して、これらの試験に使用するコンストラクトを生成した。ヒトEGFRt(MP71-EGFRt)、膜近傍ドメインRRRを有する変異体(MP71-EGFR-RRR)、mCD19scFv.28z CAR(m19.28zまたはmCD19.28zとも表記される)およびEGFRtもしくはEGFR-RRR(MP71-mCD19scFv.28z.EGFRt/EGFR-RRR;本明細書ではMP71_m19.28z.P2A.EGFRt/EGFR-RRRとも表記される)をコードするバイシストロニックCAR発現カセット、またはc-Jun、mCD19scFv.28zおよびEGFRtもしくはEGFR-RRR(MP71-cJun.mCD19scFv.28z.EGFRt/EGFR-RRR;本明細書ではMP71_cJun.T2A.m19.28z.P2A.EGFRt/EGFR-RRRT、もしくはcJun.m19.28z.EGFRt/EGFR-RRRとも称する)をコードするトリシストロニックCAR発現カセットのコード配列を含めるようにベクターを改造した。
【0105】
バイシストロニックCARコンストラクトは、マウスCD8aシグナルペプチド(UniProt P01731アミノ酸1~27)、ID3ハイブリドーマに由来するマウスCD19特異的scFv(Davilaら、PLoS One(2013)8(4):e61338)、マウスCD8aヒンジおよび膜貫通領域(UniProt P01731アミノ酸151~219)、マウスCD28細胞内領域(UniProt P31041アミノ酸177~218)、ならびにマウスCD3z細胞内ドメイン(UniProt P24161アミノ酸52~164)を含むCAR(mCD19.28z CAR)のコード配列を含んでいた。このCARコード配列を、P2A自己切断ペプチド配列のコード配列によりヒトEGFRポリペプチドのコード配列(ヒトEGFRtのためのUniProt P00533アミノ酸334~668)に結合させた。トリシストロニックコンストラクトでは、マウスc-Junのコード配列(UniProt P05627アミノ酸1~334)をmCD19.28z CARコード配列の上流でクローン化し、T2Aペプチドコード配列により結合させた。
【0106】
細胞培養、形質導入、および養子移植
レトロウイルス製造では、リン酸カルシウム(Takara)を使用してPlat-E細胞(Cell Biolabs)を過渡的に形質転換した。48時間後に上清を回収し、0.45μmフィルタでろ過し、ドライアイスで急速冷凍してから-80℃で保管した。C57BL/6JおよびB6.SJL(CD45.1)ドナーマウスをJackson Laboratoryから入手した。
【0107】
T細胞の形質導入では、単一細胞懸濁液を6~8週齢のCD45.1ドナーマウスの脾臓および末梢リンパ節から得て、40μmのメッシュでろ過した。マウスCD8T細胞を陰性選択(StemCell)により濃縮し、50U/mlのマウスIL-2(PeproTech)が補給された完全RPMI(RPMI1640、10%加熱不活性化FBS、1mMのHEPES、100U/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、1mMのピルビン酸ナトリウムおよび50μMのβ-メルカプトエタノール)中37℃および5%COにて1μg/mlのプレート結合抗CD3(145-2C11)および抗CD28(37.51)で20時間刺激した。予め力価を測定したレトロウイルスを、12.5μg/mlのRetroNectin(登録商標)(Takara)がプレコートされた無組織培養プレート上に加え、32℃にて2560rcfで2時間遠心分離を施すことによって取り込んだ。刺激したCD8T細胞を採取し、50U/mlのIL-2および抗CD3/28マウスT活性化因子Dynabeads(商標)(Thermo Fisher)が1:1の割合で補給された完全RPMI中にて1×10個/mlで再懸濁した。ウイルスがコートされたウェルを吸引し、PBSで濯いだ後、T細胞を添加し、32℃にて800rcfで30分間遠心分離を施し、5%CO中37℃でインキュベートした。
【0108】
24時間後、IL-2が補給された完全RPMI培地を取り換え、T細胞をさらに24時間インキュベートした。T細胞を採取し、50U/mlのマウスIL-15(PeproTech)が補給された完全RPMIに1×10個/mlで再懸濁し、さらに48時間インキュベートした。続いて、磁性活性化ビーズを除去し、T細胞形質導入効率(40~60%EGFR)をフローサイトメトリーにより確認した。次いで、CD8T細胞を無血清RPMI1640に3×10EGFR/100μlで再懸濁することによって養子移植のための形質導入細胞を調製し、養子移植に先立って氷上に維持した。
【0109】
CAR-T細胞養子移植では、6~8週齢のC57BL/6Jマウスを200mg/kgのシクロホスファミドの腹腔内注射により前処置し、6時間後に、3×10EGFRCAR-T細胞を後眼窩注射により静脈内注射した。末梢血の分析では、CAR-T細胞移植から指定日数後に、EDTAコートされた管内に後眼窩から出血させることによって100μlの血液サンプルを回収し、表面染色に先立って血液サンプルをACK溶解バッファーにより2回処理した。LIVE/DEAD(商標)Fixable Aqua Dead Cell染色キット(Invitrogen)を使用して4℃で15分間サンプルを染色した。また、細胞を、抗CD8aFITC(53-6.7、別段に指定されていない限りBioLegend)、抗CD19PerCP-Cy(商標)5.5(1D3)、抗CD4PE-Cy(商標)7(PM4-5)、抗CD45.2APC/Fire(商標)750(104)、抗CD45.1 Brilliant Violet421(商標)(A20)、hEGFR APCまたはPE(AY13)を含む流動バッファー(PBS、1mMのEDTAおよび2%FBS)中暗所にて4℃で30分間染色し、BD FACSCelesta(商標)細胞分析装置に配置した。
【0110】
移植EGFRCAR-T細胞の枯渇では、8日目にセツキシマブをマウス1匹あたり1mgまたは0.1mg注入した。フローサイトメトリーにより、血液サンプル中のCAR-T細胞の増加および枯渇を監視した。マウスは、CD19B細胞の頻度が、全循環内因性CD45.2細胞の3%未満に維持されているときにB細胞形成不全を示すことが実証された。
【0111】
結果
EGFR-RRRは、注入生成物において優れた表面発現量を示す
インビトロにおける短縮EGFRの表面発現に対する膜近傍改造の影響を評価するために、マウスCD8T細胞に、RRR膜近傍ドメインを含む、または含まないヒトEGFRtのマウスコドン最適化配列を含むレトロウイルスコンストラクトを形質導入し、先述のようにフローサイトメトリーによる分析を行った。CD8T細胞に同様のレベル(50~56%)で形質導入を行った場合、EGFRT細胞は、EGFRtと比較して、3倍を超えるEGFR-RRR表面発現の増加を示した(図11A)。
【0112】
マルチシストロニックコンストラクトに関する膜近傍ドメインの影響を測定するために、EGFRポリペプチドのコード配列をP2A自己切断ペプチドのコード配列によりCAR標的マウスCD19のコード配列の3’末端に結合させた。同様の形質導入効率において、EGFR-RRRコンストラクトが形質導入されたCAR-T細胞は、EGFRtコンストラクトが形質導入されたCAR-T細胞より高レベルのEGFR染色を示した(図11B)。そのため、同様の形質導入レベルのT細胞サンプルにおいて表面発現をフローサイトメトリーにより測定すると、EGFR-RRRは、CAR T細胞注入生成物での表面発現量の増加を示した。
【0113】
EGFR-RRRは、インビボでの抗体媒介枯渇の安定標的である
安定的に発現されるEGFRtをEGFR標的抗体セツキシマブによる枯渇のための標的とすることができる(Paszkiewiczら、J Clin Invest.(2016)126(11):4262~72頁)。インビボにおいてEGFR-RRR表面発現が維持され、枯渇のための標的とされるかどうかを評価するために、EGFRtまたはEGFR-RRRをバイシストロニックコンストラクト(mCD19CARの下流)またはトリシストロニックコンストラクト(cJun.mCD19CARの下流)にて、コンジェニック標識された(congenically marked)CD45.1ドナーCD8T細胞上に発現させた。それらのデータは、EGFR-RRRが注入生成物においてより高い量の表面発現を示したことを実証している(図12A、下図)。3×10個のEGFRCAR-T細胞を含むバルクT細胞注入物をリンパ球枯渇(lymphodepleted)マウスに養子移植した。示されるように、血液中の循環CAR-T細胞量を追跡した(図12A、上図)。EGFRCAR-T細胞は、注入の1~2週間後に増加ピークを迎え、その後は減少した。
【0114】
EGFR-RRRを枯渇のための標的とすることができることを確認するために、14日目に、各群のマウスの半分に1mgのセツキシマブまたは1mgのリツキシマブ(対照)を投与した。注射後、セツキシマブでは、EGFRtおよびEGFR-RRR CAR-T細胞の大部分が枯渇したのに対して、リツキシマブ群では、CAR-T細胞が観察期間を通じてより高い量を維持していた(図12B)。CARを含まない場合のT細胞がEGFRtまたはEGFR-RRRを発現したときも同様の枯渇結果が得られた(図12C)。これらの結果は、EGFR-RRR表面発現量がインビボで維持され、セツキシマブによる枯渇のために効率的に標的とされたことを実証している。
【0115】
EGFR-RRRは、セツキシマブによるT細胞枯渇の後のB細胞のより迅速な回復を媒介する
膜近傍ドメインの追加によりEGFRの表面量が増加したため、次に、EGFR-RRRがインビボで差別的なCAR-T細胞枯渇動態および機能的成果を示すかどうかを判断した。その目的のために、EGFRtまたはEGFR-RRRを発現するコンジェニック表式されたmCD19.28z CAR-T細胞をリンパ球枯渇マウスに養子移植した。T細胞生着およびB細胞形成不全を血液中で経時的に追跡した(図13A)。EGFRtとEGFR-RRR mCD19.28z CAR T細胞との枯渇動態の差を明確にするために、セツキシマブの用量滴定を行った。0.1mgのセツキシマブの単一投与により枯渇のためにEGFRを標的とすることは、抗体注射の3日後に循環EGFRtおよびEGFR-RRR CAR-Tを枯渇するのに十分であった。表面EGFRの発現量は、インビボでのmCD19.28z CAR T細胞の枯渇動態を決定づけることが既に実証されている(Paszkiewiczら、2016)。EGFR-RRRは、セツキシマブ後のより迅速なB細胞回復の動態を媒介できるかどうかを判断するために、事後の枯渇が発生する場合、または発生しない場合において、mCD19.28z CAR T細胞が投与されたマウスでの循環B細胞を追跡した。mCD19.28z CAR T細胞で処理されたマウスは、持続的なB細胞形成不全を示したのに対して、セツキシマブ処理マウスにおけるB細胞は、抗体投与から3週間以内に回復した。既にEGFR-RRR CAR-T細胞が注入されたマウスへのセツキシマブ投与は、より低用量の投与の場合も含めてB細胞のより迅速な回復(図13B)、およびより迅速なB細胞形成不全の解消(図13C)をもたらした。したがって、EGFR-RRRは、CAR-T細胞のより効率的な枯渇を媒介することで、セツキシマブ後のCAR-T細胞応答のより迅速な停止動態が得られる。
【0116】
要約すると、mCD19.28z.EGFR-RRR CAR-T細胞は、より高いEGFR発現量を示す。この発現は、インビボで維持され、セツキシマブによる枯渇のために効率的に標的とされた。EGFRtと異なり、セツキシマブでEGFR-RRRを標的とすることにより、インビボにおけるmCD19.28z.CAR T細胞の完全な枯渇およびB細胞のより迅速な回復がもたらされた。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
【配列表】
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【国際調査報告】