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特表2023-518302呼気ポートを備えた吸気抵抗弁システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-28
(54)【発明の名称】呼気ポートを備えた吸気抵抗弁システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/20 20060101AFI20230421BHJP
【FI】
A61M16/20 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556593
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(85)【翻訳文提出日】2022-11-15
(86)【国際出願番号】 US2021023402
(87)【国際公開番号】W WO2021189033
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】62/992,706
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522369360
【氏名又は名称】バイタリンク エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】VITALINC LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ルーリー、キース ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ウィルメリング、トム
(57)【要約】
陽圧呼吸、自発吸気およびCPR中に胸腔内圧を調節するための吸気抵抗弁システム(IRV)は、吸気ポートを有している。本IRVシステムは、患者ポートを有している。本IRVシステムは、別個の呼気ポートを有している。本IRVは、複数の大気圧感知弁を有している。複数の大気圧感知弁によって、呼気ポートと吸気ポートとが互いから隔離されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽圧呼吸、自発吸気およびCPR中に胸腔内圧を調節するための吸気抵抗弁システム(IRV)であって、
吸気ポートと、
患者ポートと、
別個の呼気ポートと、
複数の大気圧感知弁と、を備え、
前記複数の大気圧感知弁によって、前記呼気ポートと前記吸気ポートとが互いから隔離されている、吸気抵抗弁システム。
【請求項2】
前記複数の大気圧感知弁が同心円状に配置されている、請求項1に記載の陽圧呼吸、自発吸気およびCPR中に胸腔内圧を調節するための吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項3】
前記複数の大気圧感知弁が、陽圧呼吸送達中には前記呼気ポートを閉塞し、呼気または胸部圧迫中には前記吸気ポートを閉塞するとともに前記呼気ポートを開き、患者からの呼吸ガスの排出を可能にする、請求項1に記載の陽圧呼吸、自発吸気およびCPR中に胸腔内圧を調節するための吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項4】
前記吸気ポートおよび前記呼気ポートの領域に存在する前記複数の大気圧感知弁のすべてが、前記患者ポート内の圧力が約-490.3~-1961Pa(-5~-20水柱センチメートル)になるまで閉鎖位置に維持される、請求項1に記載の陽圧呼吸、自発吸気およびCPR中に胸腔内圧を調節するための吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項5】
前記呼気ポートに接続しているフィルタと、前記複数の大気圧感知弁のうちの1つの弁と、の一方または両方が、約196.1~980.7Pa(2~10水柱センチメートル)の呼気抵抗をもたらしている、請求項1に記載の陽圧呼吸、自発吸気およびCPR中に胸腔内圧を調節するための吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項6】
前記複数の大気圧感知弁のそれぞれが、ダックビルバルブ、ボールバルブ、環状バルブ、円形バルブ、バタフライバルブ、チェックバルブ、バルーンバルブ、マッシュルームバルブ、フィッシュマウスバルブおよびディスクバルブからなる群から選択される一方向弁を含む、請求項1に記載の陽圧呼吸、自発吸気およびCPR中に胸腔内圧を調節するための吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項7】
前記患者ポートが、前記吸気ポートから前記患者ポートへの実質的に無抵抗の陽圧換気を可能にする非再呼吸弁を含む、請求項1に記載の陽圧呼吸、自発吸気およびCPR中に胸腔内圧を調節するための吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項8】
吸気抵抗弁システム(IRV)であって、
上部領域、下部領域および呼気領域を有するハウジングと、
抵抗が約490.3Pa(5cmH2O)未満の陽圧換気を可能にし、前記下部領域の圧力が大気よりも低い場合にすべての呼吸ガスが前記上部領域から前記下部領域に流れることを防ぐために、前記上部領域と前記下部領域との間に配置されている第1の圧力感応一方向弁と、
前記上部領域と前記下部領域との間に配置されている第2の圧力感応弁であって、前記下部領域の圧力が閾値レベルより低くなることによって該第2の圧力感応弁が開いて、大気圧と前記下部領域内の圧力との間の圧力差によって呼吸ガスが患者の肺に流入することが可能となるまでは、閉じた状態に維持される第2の圧力感応弁と、
胸郭内の圧力が大気圧よりも高い場合にすべての呼気流体が前記上部領域に流れることを防ぐために、前記上部領域と前記呼気領域との間に配置されている第3の圧力感応弁と、
前記呼気領域に位置している第4の圧力感応弁であって、患者に接続している前記下部領域の圧力が大気圧よりも低くなると閉塞し、患者に接続している前記下部領域の圧力が大気圧を超えると開放する第4の圧力感応弁と、を備えている吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項9】
前記閾値レベルが、約-490.3~-1961Pa(約-5~-20水柱センチメートル)である、請求項8に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項10】
前記上部領域および前記下部領域の一方または両方内に配置された生理学的センサをさらに備えている、請求項8に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項11】
前記生理学的センサから、換気装置および圧迫装置の一方または両方に信号を送信する通信インターフェイスをさらに備えている、請求項10に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項12】
前記呼気領域に接続しているフィルタをさらに備えている、請求項8に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項13】
前記第2の圧力感応弁が、選択的に弁座と係合する外側面を有するダックビルバルブを含み、
前記外側面が前記弁座と係合して前記上部領域から前記呼気領域を閉塞している間に、前記ダックビルバルブが開くことによって患者に対する吸気流の送達が可能となり、
前記ダックビルバルブが閉じて、前記外側面が前記弁座から離れることによって、呼気流体が前記IRVから排出されるとともに、呼気流体が前記上部領域に流れることが防がれる、請求項8に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項14】
吸気抵抗弁システム(IRV)であって、
ハウジングと、
換気装置と接続するように構成された換気ポートと、
患者インターフェイス装置と接続するように構成された患者ポートと、
別個の呼気ポートと、
前記換気ポートおよび前記患者ポートと連通している陽圧換気流路であって、前記換気ポートから前記患者ポートに呼吸気を導くように構成されている陽圧換気流路と、
前記患者ポートと連通している患者吸気流路であって、患者の自発吸気時に前記患者ポートに空気を送達するように構成されている患者吸気流路と、
前記患者ポートと連通している呼気流路であって、該呼気流路は、患者からの呼気流体を、前記呼気ポートを介して前記IRVの外に導くように構成されており、呼気流体が吸気ガスと混合されないように流出から流入を分離するために、一連の圧力感応弁によって該呼気流路が前記陽圧換気流路および前記患者吸気流路の少なくとも一部から分離されていることによって、CPR中に患者により高濃度のOが送達される呼気流路と、を備えた吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項15】
前記一連の圧力感応弁が、
前記陽圧換気流路に接続している第1の大気圧弁と、
前記患者吸気流路に接続している第1の感圧弁と、
前記吸気流路と前記呼気流路との間に接続している第2の感圧弁と、
前記呼気ポート内に配置された第2の大気圧弁と、を含んでいる、請求項14に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項16】
前記第1の大気圧弁の閉鎖圧力が、約-98.07Pa(-1cmH2O)未満であり、
前記第1の感圧弁の開放圧力が約-490.3~-1961Pa(約-5~-20cmH2O)であり、
前記第2の感圧弁が、前記換気流路内の圧力が0Pa(0cmH2O)より高い場合に開き、前記呼気流路の圧力が0Pa(0cmH2O)より高い場合に閉じ、
前記第2の大気圧弁の開放圧力が約0~980.7Pa(約0~10cmH2O)であり、
前記第2の大気圧弁の閉鎖圧力が約-98.07Pa(-1cmH2O)未満である、請求項15に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項17】
前記第2の感圧弁および前記第2の大気圧弁が、単一の非再呼吸弁を形成している、請求項16に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項18】
前記第2の大気圧弁が、呼吸流体の患者への流入を可能にするが、肺からの呼吸流体が前記第1の大気圧弁と接触することを防ぐ、請求項15に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項19】
陽圧換気が送達されている間は、前記第1の大気圧弁および前記第2の大気圧弁が開放し、前記第1の感圧弁および前記第2の感圧弁は閉じており、
自発吸気の間は、前記第1の感圧弁および前記第2の大気圧弁が開放し、前記第1の大気圧弁および前記第2の感圧弁は閉じており、
CPRの胸部圧迫段階および患者の呼気の一方または両方の間は、前記第2の感圧弁が開放し、前記第1の大気圧弁、前記第1の感圧弁および前記第2の大気圧弁が閉じていることによって、呼吸流体が吸気ガスと混合することなく前記IRVを出ることが可能となり、
CPRの減圧段階の間は、前記第1の大気圧弁、前記第1の感圧弁および前記第2の感圧弁が閉じられることによって、胸腔内圧が低下し、呼吸ガスが患者に入ることが防がれ、前記減圧段階中に患者の心臓に戻る血液量を増加させるスペースが形成されることによって、患者の冠動脈への循環が増加し、頭蓋内圧が低下する、請求項15に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【請求項20】
前記陽圧換気流路の上面に連結された第1のダイアフラムと、
前記呼気流路の下面に連結された第2のダイアフラムと、をさらに備え、
前記第1のダイアフラムおよび前記第2のダイアフラムがそれぞれ、実質的に大気圧であるクラッキング圧を有している、請求項14に記載の吸気抵抗弁システム(IRV)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼気ポートを備えた吸気抵抗弁システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心肺蘇生術(CPR)および/または他の医療処置を行う際には、患者の胸腔内圧を調節する装置を用いる場合が多い。一部の手法では、インピーダンス閾値弁装置(ITD)と称する弁構造を用いて、肺への呼吸ガスの流れを周期的に防止または抑制することによって、患者の胸郭内での陰圧の発生が促進される。胸腔内圧が一定の陰圧に達すると、弁が開き、呼吸酸素が患者の肺に流入する。CPR中は、ITDを介して周期的な陽圧呼吸が行われることによって周期的に肺が膨らみ、酸素が供給される。従来の装置では、効果的に陰圧レベルを上げることができるが、肺水腫等によって患者の体液が気道から弁または他の装置に入ると、弁または装置の機能が低下または無効になる問題が発生する。さらに、従来のITDでは呼気ガスが吸気ガスと混合する。このため、胸腔内圧調整の改善が望まれている。
【発明の概要】
【0003】
本発明の実施形態は、CPRの反跳段階中および自発呼吸中に患者の胸部への血流を増加させる装置に関する。特に、実施形態は、吸気ポートと、別個の呼気ポートと、を備えていることによって呼気ガスが吸気ガスと混合することを防ぎ、これによって流出から流入を分離して、CPR中に患者により高濃度のOを送達できる、呼気ポートを備えた吸気抵抗弁システム(IRV)に関する。さらに、実施形態は、肺水腫に起因する流体等の流体の排出流路を形成し、このような流体をIRVの外に導いて、IRVの吸気流路から遠ざける。この点において、逆流防止を行うことによって、流体感応式弁機構の整合性の維持に寄与できる。いくつかの実施形態では、呼気ガスが呼気ポートに隣接するフィルタを通過するため、ウイルス粒子を含む潜在的な病原体から救助人が守られる。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のセンサが、IRV内で吸気流ポートと呼気流ポートとの間に配置される。
【0004】
一実施形態においては、陽圧呼吸、自発吸気およびCPR中に胸腔内圧を調節するための吸気抵抗弁システム(IRV)が提供される。IRVは、吸気ポート、患者ポート、別個の呼気ポートおよび複数の大気圧感知弁を有していてもよい。複数の大気圧感知弁によって、呼気ポートと吸気ポートとが互いから隔離されている。
【0005】
いくつかの実施形態では、複数の大気圧感知弁が同心円状に配置されている。複数の大気圧感知弁は、陽圧呼吸送達中には呼気ポートを閉塞し、呼気または胸部圧迫中には吸気ポートを閉塞して呼気ポートを開き、患者からの呼吸ガスの排出を可能にする。吸気ポートおよび呼気ポートの領域に存在する複数の大気圧感知弁のすべては、患者ポート内の圧力が約-490.3~-1961Pa(-5~-20水柱センチメートル)になるまで閉鎖位置に維持されてもよい。呼気ポートに接続しているフィルタと、複数の大気圧感知弁のうちの1つの弁との一方または両方が、約196.1~980.7Pa(2~10水柱センチメートル)の呼気抵抗をもたらしてもよい。複数の大気圧感知弁のそれぞれが、ダックビルバルブ、ボールバルブ、環状バルブ、円形バルブ、バタフライバルブ、チェックバルブ、バルーンバルブ、マッシュルームバルブ、フィッシュマウスバルブおよびディスクバルブからなる群から選択される一方向弁を含んでいてもよい。患者ポートは、吸気ポートから患者ポートへの実質的に無抵抗の陽圧換気を可能にする非再呼吸弁を含んでいてもよい。
【0006】
別の実施形態では、吸気抵抗弁システム(IRV)は、上部領域、下部領域および呼気領域を有するハウジングを備えている。IRVは、抵抗が約490.3Pa(5cmH2O)未満の陽圧換気を可能にし、下部領域の圧力が大気よりも低い場合にすべての呼吸ガスが上部領域から下部領域に流れることを防ぐために、上部領域と下部領域との間に配置されている第1の圧力感応一方向弁を備えていてもよい。IRVは、上部領域と下部領域との間に配置されている第2の圧力感応弁であって、下部領域の圧力が閾値レベルより低くなることによって第2の圧力感応弁が開いて、大気圧と下部領域内の圧力との間の圧力差によって呼吸ガスが患者の肺に流入することが可能となるまでは、閉じた状態に維持される第2の圧力感応弁を備えていてもよい。IRVは、胸郭内の圧力が大気圧よりも高い場合にすべての呼気流体が上部領域に流れることを防ぐために上部領域と呼気領域との間に配置されている、第3の圧力感応弁を備えていてもよい。IRVは、呼気領域に位置している第4の圧力感応弁であって、患者に接続している下部領域の圧力が大気圧よりも低くなると閉塞し、患者に接続している下部領域の圧力が大気圧を超えると開放する第4の圧力感応弁を備えていてもよい。
【0007】
いくつかの実施形態では、閾値レベルは、約-490.3~-1961Pa(約-5~-20水柱センチメートル)である。IRVは、上部領域および下部領域の一方または両方内に配置された生理学的センサを備えていてもよい。IRVは、生理学的センサから、換気装置および圧迫装置の一方または両方に信号を送信する通信インターフェイスを備えていてもよい。IRVは呼気領域に接続しているフィルタを備えていてもよい。第2の圧力感応弁は、選択的に弁座と係合する外側面を有するダックビルバルブを含んでいてもよい。ダックビルバルブの外側面が弁座と係合して上部領域から呼気領域を閉塞している間に、ダックビルバルブが開くことによって患者に対する吸気流の送達を可能としてもよい。ダックビルバルブが閉じて、外側面が弁座から離れることによって、呼気流体がIRVから排出されるとともに、呼気流体が上部領域に流れることが防がれてもよい。
【0008】
別の実施形態においては、吸気抵抗弁システム(IRV)は、ハウジングと、換気装置と接続するように構成された換気ポートと、患者インターフェイス装置と接続するように構成された患者ポートとを備えている。IRVは、別個の呼気ポートと、換気ポートおよび患者ポートと連通している陽圧換気流路とを備えていてもよい。陽圧換気流路は、換気ポートから患者ポートに呼吸気を導くように構成されていてもよい。IRVは、患者ポートと連通している患者吸気流路を有していてもよい。患者吸気流路は、患者の自発吸気時に患者ポートに空気を送達するように構成されていてもよい。IRVは、患者ポートと連通している呼気流路を有していてもよい。呼気流路は、患者からの呼気流体を、呼気ポートを介してIRVの外に導くように構成してもよい。呼気流路は、呼気流体が吸気ガスと混合されないように流出から流入を分離するために、一連の圧力感応弁によって呼気流路が陽圧換気流路および患者吸気流路の少なくとも一部から分離されていることによって、CPR中に患者により高濃度のOが送達されるように構成されていてもよい。
【0009】
いくつかの実施形態においては、一連の圧力感応弁が、陽圧換気流路に接続している第1の大気圧弁と、患者吸気流路に接続している第1の感圧弁と、吸気流路と呼気流路との間に接続している第2の感圧弁と、呼気ポート内に配置された第2の大気圧弁とを含んでいる。第1の大気圧弁の閉鎖圧力は、約-98.07Pa(-1cmH2O)未満であってもよい。第1の感圧弁の開放圧力は、約-490.3~-1961Pa(約-5~-20cmH2O)であってもよい。第2の感圧弁は、換気流路内の圧力が0Pa(0cmH2O)より高い場合に開き、呼気流路の圧力が0Pa(0cmH2O)より高い場合に閉じてもよい。第2の大気圧弁の開放圧力は、約0~約980.7Pa(約0~10cmH2O)であってもよい。第2の大気圧弁の閉鎖圧力は約-98.07Pa(-1cmH2O)未満であってもよい。第2の感圧弁および第2の大気圧弁は、単一の非再呼吸弁を形成していてもよい。第2の大気圧弁は、呼吸流体の患者への流入を可能にするが、肺からの呼吸流体が第1の大気圧弁と接触することを防ぐように構成されていてもよい。IRVは、陽圧換気流路の上面に連結された第1のダイアフラムを備えていてもよい。IRVは、呼気流路の下面に連結された第2のダイアフラムを備えていてもよい。第1のダイアフラムおよび第2のダイアフラムはそれぞれ、実質的に大気圧であるクラッキング圧を有していてもよい。
【0010】
陽圧換気が送達されている間は、第1の大気圧弁および第2の大気圧弁が開放し、第1の感圧弁および第2の感圧弁は閉じていてもよい。自発吸気の間は、第1の感圧弁および第2の大気圧弁が開放し、第1の大気圧弁および第2の感圧弁は閉じていてもよい。CPRの胸部圧迫段階および患者の呼気の一方または両方の間は、第2の感圧弁が開放し、第1の大気圧弁、第1の感圧弁および第2の大気圧弁が閉じていることによって、呼吸流体が吸気ガスと混合することなくIRVを出ることが可能であってもよい。CPRの減圧段階の間は、第1の大気圧弁、第1の感圧弁および第2の感圧弁が閉じられることによって、胸腔内圧が低下し、呼吸ガスが患者に入ることが防がれ、減圧段階中に患者の心臓に戻る血液量を増加させるスペースが形成されることによって、患者の冠動脈への循環が増加し、頭蓋内圧が低下してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】実施形態に係る呼気ポートを備えた吸気抵抗弁システム(IRV)の概略図。
図1B】陽圧換気送達中に図1AのIRVを通る気流を示す図。
図1C】自発吸気中に図1AのIRVを通る気流を示す図。
図1D】CPRの胸部圧迫段階中または患者の呼気中に図1AのIRVを通る気流を示す図。
図1E】CPRの減圧段階中の図1AのIRVの状態を示す図。
図2A】実施形態に係るIRVを示す斜視図。
図2B図2AのIRVを示す分解図。
図2C図2AのIRVを示す正面断面図。
図2D】陽圧換気送達中に図2AのIRVを通る気流を示す図。
図2E】自発吸気中に図2AのIRVを通る気流を示す図。
図2F】CPRの胸部圧迫段階中または患者の呼気中に図2AのIRVを通る気流を示す図。
図2G】CPRの減圧段階中の図2AのIRVの状態を示す図。
図3A】本発明の実施形態に係るIRVを示す分解図。
図3B図3AのIRVを示す正面断面図。
図3C】陽圧換気送達中に図3AのIRVを通る気流を示す図。
図3D】自発吸気中に図3AのIRVを通る気流を示す図。
図3E】CPRの胸部圧迫段階中または患者の呼気中に図3AのIRVを通る気流を示す図。
図3F】CPRの減圧段階中の図3AのIRVの状態を示す図。
図4図3AのIRV内に配置されたセンサを示す図。
図5図3AのIRVに組み込まれたサンプリングチューブを示す図。
図6】IRV有りおよび無しのCPR中の気道内圧および胸腔内圧を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照することによって、様々なIRVの実施形態の特性および利点をさらに理解できる。添付の図面においては、同様の部材または特徴には同じ参照符号が付されている場合がある。さらに、同じ種類の複数の部材には、参照符号の後に、ダッシュと、類似の部材と区別するための第2の符号とを付けることによって区別される。明細書において第1の参照符号のみが使用されている場合は、関連する記載は、第2の参照符号に関係なく、同じ第1の参照符号が付された類似の構成要素のすべてに適用される。
【0013】
本明細書においては、本発明の実施形態の主題に関して法定要件を満たすように具体的に説明されているが、以下の記載は必ずしも特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。特許請求の範囲に記載された主題は、他の方法で具体化可能であり、異なる要素または工程を含んでもよく、他の既存または将来の技術と組み合わせて使用できる。本記載は、個々の工程の順序または要素の配置が明示的に記載されている場合を除き、複数の工程または要素における特定の順序または配置を暗示していると解釈されるべきではない。
【0014】
心停止中の患者に対してCPRを施す際には、心臓、肺および脳等の、生命維持に必要な臓器への血液の循環を補助するための胸部圧迫(手動および/または自動装置を使用して実行される)を行う。いくつかの実施形態では、胸郭を自然に反跳させるのではなく、圧迫と圧迫の間に能動的に減圧を行う能動的圧迫減圧(ACD)CPRが実施される。CPRの圧迫段階中は、血液が心臓から大動脈に押し出され、空気が胸郭から気管および気道を介して大気中に押し出される。減圧段階(受動的および能動的の両方)中は、胸郭から離れた領域から血液が胸郭内に引き込まれ、空気が患者の気道を介して胸郭に引き込まれる。
【0015】
本出願に記載の方法および装置は、上記のCPRの方法のいずれかと併せて用いることによって、胸壁の反跳段階中に胸腔内に真空を発生させる。これによって、胸壁の減圧段階中に、冠動脈への循環が増加し、頭蓋内圧が低下する。肺を膨らませて酸素を供給するためには、陽圧換気を周期的に患者に送達する必要がある場合が多い。肺は、例えば、鉄の肺または胸部キュイラス装置を使用した周期的な陰圧換気によっても膨らませることができる。
【0016】
CPRの胸部減圧もしくは反跳段階の間や、自発吸気の間は、胸郭内の圧力は-98.07~-1471Pa(-1~-15cmH2O)の圧力レベルまで低下する。このため、回路内にIRVが無い場合は、呼吸ガスが肺に引き込まれる。IRVは、弁システムを利用して、人工呼吸器のガスが肺に入ることを抑制する。回路内にIRVが存在している場合は、受動的もしくは能動的な胸部の反跳または患者の吸気が行われると、CPRの胸部反跳段階中または自発吸気中に発生する陰圧の胸腔内圧によって真空が生じる。この真空によって、肺に戻る静脈血流が促進され、頭蓋内圧が下がる。その結果、CPRおよび自発呼吸の両方において、心前負荷が増加し、心臓の転帰が向上する。CPR実行中には、CPRの胸部反跳段階または減圧段階中に胸部を能動的に減圧することによって、上記プロセスが速められる。このプロセスは、CPR時または外傷性脳損傷が発生している状況において頭部および胸郭を高くすることによっても、より効率的に発生する。頭部および胸郭を高くすると、脳からの静脈血の排出が重力によって促進されるため、肺内の血液分布が改善される。
【0017】
胸部圧迫を行っている間、血液は心臓から脳および体の他の部分に押し出され、空気は肺から排出される。固定もしくは可変の低レベルの抵抗をもたらすIRVから排出される空気は、約0Pa~約1471Pa(約0cmH2O~約15cmH2O)である場合が多く、より一般的には約196.1Pa~約980.7Pa(約2cmH2O~約10cmH2O)である。この抵抗は調整可能であり、IRVシステムの1つもしくは複数の弁(本明細書に記載の呼気弁等)、フィルタ材料および/または低流量の陽圧ガス(酸素等)を有する他の手段によってもたらすことができる。
【0018】
胸部圧迫を行うたびに肺から空気が押し出され、弁システムが存在するため肺に空気が戻れない。このため、肺内の呼吸ガスが徐々に減少する。胸部圧迫のたびに肺から排出される呼吸ガスによってスペースが形成され、このスペースは、胸部圧迫によって胸郭に陽圧が加えられない減圧段階には、心臓および肺に戻るより多くの血液で満たされる。このプロセスは、CPRの胸部反跳段階または減圧段階に胸部を能動的に減圧すると、より速く発生する。胸部の圧迫と圧迫との間(減圧段階中)に患者の胸郭内の陰圧を高めるために、本発明に係る弁構造は患者の気道に接続される。このような弁構造は、胸部圧迫中に呼吸ガスが肺から出ることを可能にし、周期的な換気を可能としながら、肺への呼吸ガスの流れを周期的に防止または抑制できる。
【0019】
図1Aに、呼気ポートを備えた吸気抵抗弁(IRV)100の形態の弁構造の概略図を示す。IRV100は、患者の胸腔内圧を調節するように動作する複数の弁を有している。IRV100は、患者に対する呼吸ガスの出入りを可能とする複数の分岐部、チューブおよび/または他の管腔102を有していてもよい。図に示すように、IRV100は、患者吸気管腔102a、陽圧換気管腔102bおよび患者呼気管腔102cを有している(ただし、他の構成であってもよい)。複数の管腔102は互いに並列に連結され、管腔102の上端には換気ポート104が配置され、管腔102の下端には患者ポート106が配置されている。しかしながら、管腔102および/またはポートは他の配置であってもよい。患者に出入りする呼吸ガスの流れを制御するために、1つまたは複数の管腔102内に様々な一方向弁が設けられている。一方向弁は、チェックバルブ、フィッシュマウスバルブ、スプリングバルブ、ダックバルブ、ボールバルブおよび/または他の機械的または電子的に制御される弁およびスイッチの形態であってもよい。
【0020】
図に示すように、患者吸気管腔102aは安全弁として機能する一方向弁108を有している。一方向弁108は、患者による自発吸気時に、換気ポート104を介した患者気道内への呼吸ガスの吸引を可能としながら、IRV100からのガスの流出を防止する。多くの場合、一方向弁108のクラッキング圧は、約-490.3~-1961Pa(約-5~-20cmH2O)である。
【0021】
陽圧管腔102bは、患者の気道に陽圧換気を送達できるように構成されている。陽圧管腔102bは、陽圧管腔102bの上端を封止する可動および/または変形可能なダイアフラム110を有している。陽圧管腔102bは、空気が患者ポート106に入って患者の気道に送達されることを可能にする一方向弁112も備えている。さらに、一方向弁112は、肺からの呼吸ガスならびに/または他の流体(例えば、肺水腫流体および/もしくは血液)の陽圧管腔102bへの逆流を防止する。いくつかの実施形態では、ダイアフラム110のクラッキング圧は大気圧に略等しく、陽圧呼吸によってダイアフラム110が移動および/または変形して、陽圧管腔102bの内部に陽圧空気が送られる。いくつかの実施形態では、ダイアフラム110のクラッキング圧を大気圧と略等しくするために、ダイアフラム110が1つまたは複数の換気ポート118を有している。この換気ポート118によって、ダイアフラム110の動きによってもたらされる気流の通過が可能となり、ダイアフラム110の動きに関連する抵抗を最小限に抑制できる。流入する陽圧気流は、ダイアフラム110を通過した後に一方向弁112を押し開いて、患者の気道に入る。一方向弁112のクラッキング圧は、任意量の陽圧呼吸によって一方向弁112が開放するように、約98.07Pa(1cmH2O)未満、場合によっては0Pa(0cmH2O)であってもよい。ダイアフラム110および一方向弁112のクラッキング圧または開放圧力を低くするように設計することによって、IRV100による抵抗が無い状態または最小限である状態で、呼吸ガスがIRV100を通過して患者の気道に流入できる。
【0022】
呼気管腔102cは、患者からの呼気ガスおよび/または他の流体をIRV100から排出できるように構成されている。このため、呼気管腔102は、呼気ポート116に通じている一方向弁114を有している。呼気管腔102cの上部は、呼気ガスまたは他の流体が換気ポート104を通過することを防止するために、換気ポート104から封止されていてもよい。一方向弁114のクラッキング圧は、約0~1.600kPa(約0~12mmHg)である。このため、流体(気体および/または液体)が患者の気道から排出されるときに一方向弁114が開放することができ、呼気ポート116を介して流体がIRV100から出ることが可能になる。一方向弁114の抵抗は固定または可変であり、約0.2666~1.600kPa(2~12mmHg)の呼気圧力の範囲において調節可能であってもよい。CPR中に胸部圧迫を行うと、患者の肺から空気が押し出される。この空気は、一方向弁114を通過して呼気ポート116から出る。同様に、患者の呼気も、一方向弁114を通過して呼気ポート116から出る。いくつかの実施形態では、肺水腫が発生したために患者が吐き出した流体が、患者ポート106を介してIRV100内に送達される場合もある。このような流体も、一方向弁114を通過して呼気ポートから出ることができる。いくつかの実施形態においては、HEPAフィルタ等のフィルタが、呼気ポートと大気との間の境界面に装着されるか組み込まれる。これによって、有害な病原菌粒子(細菌およびウイルス)が患者の周囲の空気を汚染することを防止できるため、救助者を感染から守ることができる。フィルタは、所定のレベルの呼気抵抗を意図的にもたらすための手段として用いることもできる。
【0023】
図1B~1Eに、異なる呼吸状態下でのIRV100の動作を示す。特に、これらの図には、呼吸およびCPR全体にわたるIRV100の様々な弁の位置が詳細に示されている。図1Bの矢印は、陽圧換気の送達中にIRV100を通る気流を示す。陽圧換気は、換気ポート104に連結された手動および/または自動のレスピレータを用いて送達できる。例えば、換気は、口対口の人工呼吸、口マスク、蘇生バッグ、自動もしくは半自動の人工呼吸器、身体キュイラスおよび/または鉄の肺型の装置等を用いて送達してもよい。一般的に、換気時に換気ポート104を介してIRV100内に押し込まれる空気の圧力は、一方向弁108のクラッキング圧よりも低い(例えば、約490.3~1177Pa(5~12cmH2O)未満)。陽圧呼吸の空気圧が一方向弁108のクラッキング圧よりも低い場合、陽圧呼吸は一方向弁108を通過することができず、代わりにダイアフラム110の下側に向かって流れる。この空気圧により、ダイアフラム110が移動および/または変形して、気流が陽圧管腔102bに流入する。次いで、空気が一方向弁112を押し開き、患者ポート106を介して患者の気道に送達される。陽圧換気の間、一方向弁108および114は閉じたままであり、レスピレータによって送られる空気はすべて患者に送達される。いくつかの実施形態では、ダックビルバルブまたはフィッシュマウスバルブ等の一方向弁112が呼気管腔102cを閉じることによって、陽圧呼吸が一方向弁114を開くことを防止している。このような構成では、一方向弁112は、別個の呼気ポート116を備えたIRV100において、1)肺からの気体および液体の逆流の防止と、2)陽圧換気中の呼気ポート構造の閉塞との2つの機能を担っている。
【0024】
場合によっては、患者の自発吸気によって胸部内に陰圧が生じ、これによって、図1Cの矢印に示されるように患者ポート106内に空気が引き込まれる。空気が押し込まれるのではなく引き込まれた場合、ダイアフラム110は陽圧管腔102bの上面に対して引き寄せられるため、陽圧管腔102bを封止して、空気の通過を防止する。同時に、一方向弁114が閉じ、患者ポート106内の圧力が1気圧未満である場合はダイアフラム110および一方向弁の両方が閉じる。患者の吸気の力が一方向弁108のクラッキング圧を超えると、一方向弁108が開き、図示されるように、呼吸ガスが患者吸気管腔102aおよび患者ポート106を介して患者の気道に引き込まれる。一方向弁108は、所定のクラッキング圧または開放圧力で開くが、ダイアフラム110および一方向弁114は、患者ポート106内の圧力が1気圧未満である限り、閉じた状態に維持される。例えば、自発吸気中またはCPR中の圧迫後の胸壁反跳中には、胸郭内の陰圧によってダイアフラム110および一方向弁114が閉鎖位置に維持される。患者の自発吸気中、弁108が開く前に胸郭内に生じた陰圧によって、脳および胸郭の外側の他の構造から胸郭に静脈血が引き戻される。その結果、心拍出量、全身の血液循環および血圧が上昇する。弁108のクラッキング圧は、臨床上の必要性に応じて、約490.3~1961Pa(約5~20cmH2O)の間で変更可能である。一般的に、CPR中に最適な臨床効果をもたらすクラッキング圧は、約980.7~1569Pa(約10~16cmH2O)である。この範囲内では、循環が促進される。
【0025】
胸部が(手動および/または自動で)圧迫された場合や、患者が息を吐き出した場合は、図1Dの矢印で示すように、IRV100を介して呼吸ガスが患者から外に流れ出る。例えば、呼気ガスは患者ポート106を通過して一方向弁114を押し開く。次に、呼気ガスは一方向弁114を通って流れ、呼気ポート116から出る。一方向弁108および112の動作する方向に起因して、これらの弁108、112は、患者の呼気中は両方とも閉じている。この構成は、肺水腫が発生しており、肺に溜まった流体がIRV100を介して吐き出されるおそれのある患者に対して特に有益である。IRV100の一方向弁配置によって、流体(呼気ガスおよび/または肺水腫流体)が、一方向弁114を通って呼気ポート116から出るように導かれるため、肺水腫流体が一方向弁108および112を通過することや、一方向弁108および112の適切な動作を妨害することがない。いくつかの実施形態では、IRV100から放出された流体を収集するために、収集バッグまたは他の容器が、呼気ポート116および/または管腔102に連結される。さらに、IRV100の弁配置によって吸気流が呼気流から効果的に分離されるため、二酸化炭素を多く含んだ呼気ガスが、吸気ガスと混合することがない。その結果、CPR中により高濃度の酸素を患者に送ることが可能であるため、患者の血流内の酸素化レベルを高くすることができ、蘇生結果の向上につながる。
【0026】
CPRの減圧段階では、救助者の手(または胸部圧迫装置)が持ち上げられると、胸壁の反跳が起こる。ACD-CPRの場合、吸盤や接着剤を用いて胸部を上方に引き上げる等して、胸部を能動的に減圧する。CPRのこの段階では、胸郭内に陰圧が生じる(一方向弁108のクラッキング圧より低い)。図1Eに、CPRの減圧段階におけるIRV100の状態を示す。この段階では、一方向弁108および114ならびにダイアフラム110が閉じているため、呼吸ガスの患者への流入が防止されている。胸部圧迫および胸部反跳の複数のサイクルにわたって患者に対する呼吸ガスの流入を防ぐことによって、胸郭内の空気が減少していくため、胸壁の反跳段階でより多くの血液が心臓に戻るスペースが形成される。これによって、胸壁の減圧段階において、冠動脈への循環が増加し、頭蓋内圧が低下するため、蘇生の成功率が高くなる。また、CPRの減圧段階では、胸郭内の圧力は大気圧以下の圧力に維持される。この圧力のレベルは、仰臥位の患者の前胸壁を能動的に引き上げる場合、胸壁の上方への反跳(受動的または能動的)に応じて決まる。
【0027】
図2Aに、IRV200の一実施形態を示す。IRV200は、IRV100と同様に機能し、上記の特徴のいずれも含むことができる。IRV200のハウジング220は、呼吸ガスを患者に能動的に供給するための換気ポート204を有する上部キャップ226と、顔マスク、気管内チューブ、声門上気道器具、他の気道器具および/または他のインターフェイス等の患者インターフェイス(図示しない)と嵌合するように構成された患者ポート206を有する下部キャップ228とからなる。ハウジング220は、IRV100の弁の配置と同様の弁構造が配置される内部を画定している。いくつかの実施形態では、ハウジング220は、呼気ガスおよび/または他の流体がIRV200から排出されることや、自発吸気時に吸気ガスがIRV200に入ることを可能にする、複数の吸気/呼気ポート216を画定している。いくつかの実施形態では、吸気/呼気ポート216が別々に構成され、各個別ポート216は吸気または呼気のみに使用可能であるように構成される。図に示すように、吸気/呼気ポート216は、上部キャップ226の表面を貫通して放射状に配置されているが、吸気/呼気ポート216の配置および数量はこれ以外であってもよい。
【0028】
図2Bおよび2Cに、IRV200の内部構成要素を示す。各管腔102が並列に配置されていたIRV100とは異なり、IRV200は同心円状の3つの流体経路を有している。しかしながら、別の配置であってもよい。図に示すように、中央支持体222は、陽圧管腔102bと同様の陽圧流路として機能する中央管腔202bを形成している。ダイアフラム210が中央管腔202bの上面に接して配置されて中央管腔202bの上端を封止している。中央管腔202bの内部および/または下端に配置されたフロート式逆流防止弁212は、空気を患者ポート206内に通過させて患者の気道に送達させる一方、呼気流体が中央管腔202bおよび/または換気ポート204に入ることは防止する。フロート式逆流防止弁212は、上記の一方向弁112と同様であってもよい。
【0029】
フロート式逆流防止弁212は、フィッシュマウスバルブとして図示されているが、チェックバルブ、ダックビルバルブ、スプリングバルブ、非再呼吸弁等の任意の種類の一方向弁であってもよい。いくつかの実施形態では、ダイアフラム210のクラッキング圧は大気圧に略等しく、陽圧呼吸によってダイアフラム210が移動および/または変形して、中央管腔202bの内部に陽圧空気が送られる。いくつかの実施形態では、ダイアフラム210のクラッキング圧を大気圧と略等しくするために、ダイアフラム210および/またはダイヤフラムホルダ224が1つまたは複数の換気ポート218を有している。この換気ポート218によって、ダイアフラム210の動きによってもたらされる気流の移動が可能となり、ダイアフラム210の動きに関連する抵抗を最小限に抑制できる。流入する陽圧気流は、ダイアフラム210を通過した後にフロート式逆流防止弁212を押し開いて、患者ポート206を介して患者の気道に入る。一方向弁212のクラッキング圧は、任意の陽圧呼吸によって一方向弁212が開放するように、約133.3Pa(1mmHg)未満、場合によっては0Pa(0mmHg)であってもよい。ダイアフラム210および一方向弁212のクラッキング圧を低くするように設計することによって、IRV200による抵抗が無い状態または最小限である状態で、呼吸ガスがIRV200を通過して患者の気道に流入できる。いくつかの実施形態では、一方向弁212は、陽圧呼吸が起こるたびに開き、同時に呼吸ガスが呼気ポート216を介して流出することを阻止する。このような構成では、好適には、一方向弁212は、フィッシュマウスバルブまたはダックビルバルブとして設計され、1)肺からの気体および流体の逆流を防止することによって、このような流体によってダイアフラム210および圧力感応弁208が機能しなくなることを防止すること、2)吸気ガスと呼気ガスとの混合を防止することによって、患者に送達される酸素の減少を防止すること、3)陽圧呼吸中に呼気ポート構造を閉塞することの3つの機能を果たす。さらに、この構成は、IRVで流量センサが使用されている場合、分時換気量の測定を可能にする。
【0030】
また、IRV200は、上記の呼気管腔102cと同様に動作する呼気流路202cを画定している。図に示すように、呼気流路202cは、略環状をなし、中央管腔202bを中心に延在している。呼気流路202cは、患者からの呼気ガスおよび/または他の流体をIRV200から排出できるように構成されている。呼気流路202cは呼気弁214を有しており、この呼気弁214は一方向弁114と同様であってもよい。呼気弁214は、吸気/呼気ポート216に通じている。呼気流路202cは、呼気流体が換気ポート204および中央管腔202bを通過することを防止するために、換気ポート204および中央管腔202bから封止されている。例えば、フロート式逆流防止弁212およびハウジング220の堅固な壁によって、IRV200の動作中に換気ポート204および中央管腔202bに対して呼気流路202cが連通することが防止されている。呼気弁214のクラッキング圧は約0~1.333kPa(約0~10mmHg)であり、可変および調節可能であってもよい。これによって、流体(気体および/または液体)が患者の気道から排出されるときに呼気弁214が開放することができ、吸気/呼気ポート216を介して流体がIRV200から出ることが可能になる。例えば、CPR中に胸部圧迫を行うと、患者の肺から空気が押し出される。この空気は、呼気弁214を通過して吸気/呼気ポート216から出る。同様に、患者の呼気も、呼気弁214を通過して吸気/呼気ポート216から出る。いくつかの実施形態では、肺水腫が発生したために患者が吐き出した流体が、患者ポート206を介してIRV200内に送達される場合もある。このような流体も、呼気弁214を通過して呼気ポートから出ることができる。
【0031】
また、IRV200は、上記の患者吸気管腔102aと同様に動作する患者吸気流路202aを画定している。図に示すように、患者吸気流路202aは、略環状をなし、中央管腔202bを中心に延在している。患者吸気流路202aは、呼気流路202cの下部と部分的に重なり、呼気流路202cの上部の外側で環状に延在して吸気/呼気ポート216と接続している。図に示すように、患者吸気流路202aは、上記の一方向弁108と同様に動作する真空弁208を有している。例えば、真空弁208は安全弁として動作し、患者による自発吸気時に換気ポート204を介して呼吸ガスを患者の気道に引き込むことを可能にする。多くの場合、真空弁208のクラッキング圧は、約-0.6666~-2.666kPa(約-5~-20mmHg)である。
【0032】
呼気弁214および真空弁208は、略環状に図示されているが、いくつかの実施形態では、他の形態の弁であってもよい。例えば、一方または両方の弁は、IRV200内の1つまたは複数の位置に配置された別個の弁の形態であってもよい。一例においては、呼気弁214および真空弁208は、フィッシュマウスバルブまたはダックビルバルブであってもよい。IRV200は、離れた位置に配置された弁を1つまたは複数備えていてもよい。
【0033】
図2D~2Gに、異なる呼吸状態下でのIRV200の動作を示す。図2Dの矢印は、陽圧換気の送達中にIRV200を通る気流を示す。陽圧換気は、換気ポート204に連結された手動および/または自動のレスピレータを用いて送達できる。例えば、換気は、口対口の人工呼吸、口マスク、蘇生バッグ、自動もしくは半自動の人工呼吸器、身体キュイラスおよび/または鉄の肺型の装置等を用いて送達してもよい。一般的に、換気時に換気ポート204を介してIRV200に押し込まれる空気は、ダイアフラム210の周囲を流れてから、ダイアフラム210の下側に接触する。この空気流によってダイアフラム210が移動および/または変形して、空気流が中央管腔202bに流入できるようになる。次いで、空気がフロート式逆流防止弁212を押し開き、患者ポート206を介して患者の気道に送達される。好適にはダックビルバルブまたはフィッシュマウスバルブである逆流防止弁212も、この過程で呼気流路202cを閉鎖し、患者に対する陽圧呼吸の供給を可能とする。陽圧換気の間、真空弁208および呼気弁214は閉じたままであり、レスピレータによって送られる空気はすべて患者に送達される。
【0034】
場合によっては、患者の自発吸気によって胸郭内に陰圧が生じ、これによって、図2Eの矢印に示されるように吸気/呼気ポート216内に空気が引き込まれる。空気が換気ポート206を介して押し込まれるのではなく、吸気/呼気ポート216を介して引き込まれた場合、ダイアフラム210は中央管腔202bの上面に接した状態に保持され、フロート式逆流防止弁212は閉じた状態に維持される。このため、中央管腔202bが封止されて、空気の通過が防止される。患者の吸気の力が真空弁208のクラッキング圧を超えると、真空弁208が開き、図示されるように、呼吸ガスが患者吸気流路202aおよび患者ポート206を介して患者の気道に引き込まれる。真空弁208は、スプリング荷重弁、マッシュルームバルブ、ひずみゲージ弁および/または他の種類の感圧弁であってもよい。真空弁208のクラッキング圧または開放圧力は、約-490.3~-1961Pa(約-5~-20cmH2O)に予め設定されていてもよい。自発吸気の間、胸郭内の陰圧によって呼気弁214は閉鎖位置に維持される。
【0035】
胸部が(手動および/または自動で)圧迫された場合や、患者が息を吐き出した場合は、図2Fの矢印で示すように、IRV200を介して呼吸ガスが患者から外に流出する。例えば、呼気ガスは患者ポート206を通過して呼気弁214を押し開く。次に、呼気ガスは、呼気弁214を通過して吸気/呼気ポート216から出る。真空弁208およびフロート式逆流防止弁212の動作する方向に起因して、これらの弁208、212は、患者の呼気中は両方とも閉じている。この構成は、肺水腫が発生しており、肺に溜まった流体がIRV200を介して吐き出されるおそれのある患者に対して特に有益である。IRV200の一方向弁配置によって、流体(呼気ガスおよび/または肺水腫流体)が、呼気弁214を通って吸気/呼気ポート216から出るように導かれるため、肺水腫流体が真空弁208およびフロート式逆流防止弁212を通過することや、真空弁208およびフロート式逆流防止弁212の適切な動作を妨害することがない。さらに、IRV200の弁配置によって吸気流が呼気流から効果的に分離されるため、呼気ガスが吸気ガスと混合することがない。その結果、CPR中により高濃度の酸素を患者に送ることが可能であるため、患者の血流内の酸素化レベルを高くすることができ、蘇生結果の向上につながる。
【0036】
CPRの減圧段階では、救助者が手を持ち上げると、胸壁の反跳が起こる。ACD-CPRの場合、吸盤や接着剤を用いて胸部を上方に引き上げる等して、胸部を能動的に減圧する。CPRのこの段階では、胸郭内に陰圧が生じる(真空弁208のクラッキング圧より低い)。図2Gに、CPRの減圧段階におけるIRV200の状態を示す。この段階では、真空弁208、呼気弁214およびダイアフラム210が閉じているため、呼吸ガスが患者に入ることが防止されている。胸部圧迫および胸部反跳の複数のサイクルにわたって患者に対する呼吸ガスの流入を防ぐことによって、胸郭内の空気が減少していくため、胸壁の反跳段階でより多くの血液が心臓に戻るスペースが形成される。さらに、胸郭内の陰圧がより強くなる。これによって、胸壁の減圧段階において、より多くの静脈血が胸郭に引き戻されるため、冠動脈への循環が増加し、頭蓋内圧が低下するため、蘇生の成功率が高くなる。
【0037】
図面には、患者に出入りするガス交換を行うための可能な経路を示している。しかしながら、図2A~2GにおけるIRV200の寸法は例示であり、正確な縮尺ではなく、多数の可能な弁機構(例えば、ダックビルバルブ、ボールバルブ、環状バルブ、円形バルブ、バタフライバルブ、チェックバルブ、バルーンバルブ、フィッシュマウスバルブ、マッシュルームバルブ、ディスクバルブ等)のうちの1つであることに留意する必要がある。
【0038】
図示のIRVに加えて、IRVシステムには追加の特徴を組み込むことができる。追加の特徴としては、例えば、所定速度で換気を誘導するために役立つバッテリ駆動のタイミングライト、IRV内の圧力を測定するセンサ、生理学的特性を感知して他の受信機に対して信号を送受信する電子部品、聴覚的信号および聴覚的指示を提供できる(例えば、救助者に換気を速くまたは遅くするように伝える)マイクロフォンおよび電子システム等が挙げられる。
【0039】
図3Aおよび3Bに、IRV300の一実施形態を示す。IRV300は、IRV100および200と同様に機能し、上記の特徴のいずれも含むことができる。IRV300のハウジング320は、IRV300を換気装置に連結するための換気ポート304を受容する中央開口部328を画定している。換気ポート304は、ハウジング320の内部に嵌合して換気ポート304を中央開口部328内の所定の位置に保持するフランジ330を有している。フランジ330は、中央開口部328の径方向外側の位置においてフランジ330を厚さ方向に貫通している複数の開口部332を画定している。開口部332は、大気圧源と連通していてもよい。IRV300は、顔マスク、気管内チューブ、他の気道装置および/または他のインターフェイス(図示せず)等の患者インターフェイスと嵌合するように構成された患者ポート306を有している。患者ポート306は、換気ポート304と同様の構造を有し、開口部として形成された呼気ポート316を画定しているフランジ334を備えている。ハウジング320は、IRV100および200の弁の配置と同様の弁構造が配置される内部を画定している。呼気ポート316が設けられていることによって、IRV300の1つまたは複数の弁の背面が大気圧にさらされている。
【0040】
IRV200と同様に、IRV300は、同心円状の3つの流体経路を有しているが、別の配置であってもよい。図に示すように、中央支持体322は、例えば環状の中央管腔302を画定している。環状管腔302は、陽圧管腔102bおよび/または202bと同様に、陽圧流路として機能する。中央支持体322の下部は、環状管腔302と連通している複数の開口部338を画定している。環状管腔302の上端はダイアフラム310によって封止されている。ダイアフラム310のクラッキング圧は、大気圧に略等しい。ダックビルバルブ等の一方向弁312は、環状管腔302の下端内および/または下端付近に配置され、空気が患者ポート306に入った後に患者の気道に送達することを許容しながら、環状管腔302および/または換気ポート304に対する呼気流体の流入を防止している。一方向弁312は、上記の一方向弁112および/またはフロート式逆流防止弁212と同様であってもよい。動作時には、陽圧気流がダイアフラム310を開いて流れ、次いで、一方向弁312を押し開いてから患者ポート306を介して患者の気道に入る。一方向弁312のクラッキング圧は、任意の陽圧呼吸によって一方向弁312が開放するように、約133.3Pa(1mmHg)未満、場合によっては0Pa(0mmHg)であってもよい。ダイアフラム310および一方向弁312のクラッキング圧を低くするように設計することによって、IRV300による抵抗が無い状態または最小限である状態で、呼吸ガスがIRV300を通過して患者の気道に流入できる。
【0041】
中央プレート340は、換気ポート304のフランジ330の下側で中央支持体322上に位置している。中央プレート340は、環状に配置された複数の開口部342を画定している。さらに、中央プレート340は、自発吸気時に吸気ガスがIRV300に入ることを可能にする吸気ポートとして機能する中央開口部344を画定している。中央プレート340の開口部342は、フランジ330の開口部332と位置合わせされている。大気ダイアフラム310は、開口部342と開口部332との間に配置されている。詳細は後述するが、大気ダイアフラム310は、特定のクラッキング圧条件が満たされたときに、開口部332および開口部342を介したIRV300内への空気流の流入を可能にする。
【0042】
抵抗が低レベルである自発呼吸を可能にするために、中央支持体322内に安全チェック弁アセンブリを配置してもよい。例えば、安全チェック弁308は、中央プレート340の中央開口部344を中心に配置される。安全チェック弁308は、閉鎖位置にあるときには中央プレート340の中央開口部344を封止し、開放位置にあるときには環状管腔302内への空気流の流入を許容するように構成される。安全チェック弁308は、スプリング362によって閉鎖位置に付勢されている。例えば、スプリング362の下部は中央支持体322の下部に当接して配置され、スプリング362の上部はピストン364に対して押し付けられる。ピストン364は、安全チェック弁308の下側に当接して配置される。スプリング362のスプリング力は、安全チェック弁308のクラッキング圧が約-490.3~-1961Pa(-5~-20水柱センチメートル)、多くの場合は約-1177Pa(約-12水柱センチメートル)未満になるように選択される。これによって、患者がCPRを受けているときや、患者が自発呼吸を行っているときに、胸部の反跳によって十分に強い真空が形成された場合、安全チェック弁308が開いて患者ポート306に対する空気の送達が可能となる。
【0043】
呼気ポートプレート370は、中央支持体322の下端に接続している。呼気ポートプレート370は、環状管腔302と連通している複数の開口部372を画定している。開口部372は、患者ポート306のフランジ334の呼気ポート316と位置合わせされている。また、呼気ポートプレート370は中央開口部374も画定している。中央開口部374は、患者ポート306と位置合わせされており、一方向弁312の端部を受容する。中央開口部374の周囲には、弁座376が位置している。弁座376は、一方向弁312の外側面318が弁座376に押し付けられたときに、外側面318がIRV300の呼気流路を封止するように構成されている。呼気弁314は、開口部372と呼気ポート316との間に配置されている。呼気ポート316によって呼気弁314の背面に大気圧が供給されるため、呼気流体から圧力が加えられていない場合には呼気弁314が閉鎖位置に維持される。例えば、呼気弁314は環状をなし、呼気弁314が開口部372を介したIRV300に対する気流の流入を防止しながらも、開口部372を介したIRVからの呼気流の流出を可能とするように配向された一方向弁であってもよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、開口部372の下側にフィルタ390が設けられる。フィルタ390は、有害な病原菌粒子(細菌およびウイルス)が患者の周囲の空気を汚染することを防止することによって救助者を感染から守るHEPAフィルタであってもよい。フィルタ390の下側にはフィルタプレート392が配置され、ハウジング320の下端に連結されてIRV300の内部構成要素をハウジング320内で固定している。フィルタプレート392は、呼気を濾過した後に、IRV300の内部から通気等によって排出させる、複数の外側吐出ポート394を画定している。
【0045】
いくつかの実施形態では、一方向弁312および一方向弁312の外側面118は、患者ポート306の近傍の単一の「非再呼吸」弁として動作し、吸気流と呼気流との混合を防ぐ。例えば、一方向弁312の中心の弁部分(例えば、ダックビルバルブ等)が開くことによって、換気ポート304から患者ポート306への陽圧換気における抵抗を実質的に無くすことができ、外側面118は弁座376に当接して配置されて呼気流路を封止する。胸部が圧迫された場合または患者が息を吐き出した場合に、呼吸ガスが患者から出ると、このガスが外側面118を弁座376から押し離すことによって非再呼吸弁を押しのける。これによって呼気流路が開き、呼吸気が外側吐出ポート304を介し、かつ/またはフィルタ390を介してIRV300から排出される。この間、一方向弁312の中心の弁部分は閉塞して吸気流路を封止している。このような非再呼吸弁を用いることによって、いくつかの効果がもたらされる。例えば、上記のような弁を設けることによって、弁のデッドスペースが小さい場合、二酸化炭素を多く含む吐出ガスを再呼吸する可能性が排除または低減される。このため、IRV300を自発呼吸および/または制御された呼吸に対して使用でき、また、分時空気流量を測定できる。
【0046】
IRV300は、上記の呼気管腔102cおよび呼気流路202cと同様に動作する呼気流路を画定している。呼気流路は、略環状をなし、中央管腔302を中心に延在している。呼気流路は、患者からの呼気ガスおよび/または他の流体をIRV300から排出できるように構成されている。呼気流路は、患者ポート306から、弁座376と一方向弁312の外側面318との間の隙間を延び、開口部372、呼気弁314およびフィルタ390を通って、外側吐出ポート394を介して外に延びる。例えば、呼気流の圧力によって一方向弁312全体が押し上げられることによって、外側面318が弁座376から外れて呼気流路へのアクセスを可能とする隙間が形成される。呼気流路は、呼気流体が換気ポート304および環状管腔302を通過することを防止するために、換気ポート304および環状管腔302から封止されている。例えば、一方向弁312およびハウジング320の堅固な壁によって、IRV300の動作中に換気ポート304および環状管腔302に対して呼気流路が連通することが防止されている。呼気弁314のクラッキング圧は約0~1.333kPa(約0~10mmHg)であり、可変および調節可能であってもよい。これによって、流体(気体および/または液体)が患者の気道から排出されるときに呼気弁314が開くことが可能になり、その結果、流体が外側吐出ポート394を介してIRV300から流出できる。例えば、CPR中に胸部圧迫を行うと、患者の肺から空気が押し出される。この空気は、呼気弁314を通過して外側吐出ポート394から出る。同様に、患者の呼気も、呼気弁314を通過して外側吐出ポート394から出る。いくつかの実施形態では、肺水腫が発生したために患者が吐き出した流体が、患者ポート306を介してIRV300内に送達される場合もある。このような流体も、呼気弁314を通過して外側吐出ポート394から出ることができる。
【0047】
また、IRV300は、上記の患者吸気管腔102aおよび患者吸気流路202aと同様に動作する患者吸気流路を画定している。患者吸気流路は、略環状をなし、環状管腔302を中心に延在している。患者吸気流路は、呼気流路の下部と部分的に重なり、呼気流路の上部の外側で環状に延在して安全チェック弁308と接続している。例えば、患者吸気流路は、換気ポート304から、中央プレート340の中央開口部344、安全チェック弁308、環状管腔302、開口部338、一方向弁312および患者ポート306を通って延びている。安全チェック弁308は、患者による自発吸気時には開くため、中央開口部344を介して患者の気道に呼吸ガスを引き込むことができる。多くの場合、安全チェック弁308のクラッキング圧は、約-0.6666~-2.666kPa(約-5~-20mmHg)である。
【0048】
呼気弁314および安全チェック弁308は、略環状に図示されているが、いくつかの実施形態では、他の形態の弁であってもよい。例えば、一方または両方の弁は、IRV300内の1つまたは複数の位置に配置された別個の弁の形態であってもよい。一例においては、呼気弁314および安全チェック弁308は、フィッシュマウスバルブまたはダックビルバルブであってもよい。IRV300は、離れた位置に配置された弁を1つまたは複数備えていてもよい。
【0049】
図3C~3Fに、異なる呼吸状態下でのIRV300の動作を示す。図3C~3Eの矢印で示されるように、陽圧換気、自発吸気および呼気の間の呼吸空気の流路は、IRV300の軸線を中心に同心円状に位置合わせされている。図3Cの矢印は、陽圧換気の送達時にIRV300を通る気流を示す。陽圧換気は、換気ポート304に連結された手動および/または自動のレスピレータを用いて送達できる。一般的に、換気中に換気ポート304を介してIRV300に押し込まれる空気が、大気ダイアフラム310を押し開く。次に、空気は環状管腔302および開口部338に入ってから一方向弁312の内部に入る。次いで、空気が一方向弁312を押し開き、患者ポート306を介して患者の気道に送達される。陽圧換気の間、安全チェック弁308および呼気弁314は閉じたままであり、レスピレータによって送られる空気はすべて患者に送達される。いくつかの実施形態では、一方向弁312は、陽圧呼吸が起こるたびに開き、同時に呼吸ガスが呼気ポート304を介して流出することを阻止する。例えば、一方向弁312の外側面318は呼気ポートプレート370の弁座376に当接して、呼吸ガスに対して開口部372を塞ぐことによって呼気流路を閉鎖する。このような構成では、好適には、一方向弁312は、フィッシュマウスバルブまたはダックビルバルブとして設計され、1)肺からの気体および液体の逆流を防止すること、2)陽圧呼吸中に呼気ポート構造を閉塞することの2つの機能を果たす。
【0050】
場合によっては、患者の自発吸気によって胸郭内に陰圧が生じ、これによって、図3Dの矢印に示されるように患者ポート306内に空気が引き込まれる。胸郭内の陰圧によって一方向弁312が開かれ、陰圧が十分に低い場合、安全チェック弁308が、スプリング362のスプリング力に抗して下方に引き寄せられる。次に、中央開口部344を介して換気ポート304から環状管腔302および開口部338に空気が引き込まれる。自発吸気中、胸郭内の陰圧によって呼気弁314が閉鎖位置に維持され、一方向弁の外側面318が弁座376に対して付勢される。自発吸気中は、大気ダイアフラム310も閉鎖位置にある。上記構成によって、圧力センサを必要とせずに弁システムを適切に開くことができ、患者が息を吸い込むことによって自ら空気を吸引できる。このような自然吸気は、クラッキング圧が、約-490.3~-1961Pa(約-5~-20cmH2O)であることと、様々な弁の配置構成とによって可能とされている。代替的な実施形態では、クラッキング圧の上記範囲は、例えば、安全チェック弁内のスプリング張力を変更することによって調整可能である。
【0051】
胸部が(手動および/または自動で)圧迫された場合や、患者が息を吐き出した場合は、図3Eの矢印で示すように、IRV300を介して呼吸ガスが患者から外に流出する。例えば、呼気ガスが患者ポート306を通過して、一方向弁312の外側面318を弁座376から遠ざけることによって、開口部372へのアクセスが可能となる。次いで、呼気ガスは、呼気弁314を押し開いて、フィルタ390および外側吐出ポート394を通過する。安全チェック弁308および一方向弁312の動作する方向に起因して、これらの弁308、312は、患者の呼気中は閉じている。この構成は、肺水腫が発生しており、肺に溜まった流体がIRV300を介して吐き出されるおそれのある患者に対して特に有益である。IRV300の一方向弁配置によって、流体(呼気ガスおよび/または肺水腫流体)が、呼気弁314を通って外側吐出ポート394から排出されるように導かれるため、肺水腫流体が安全チェック弁308および一方向弁312を通過することや、安全チェック弁308および一方向弁312の適切な動作を妨害することがない。さらに、IRV300の弁配置によって吸気流が呼気流から効果的に分離されるため、呼気ガスが吸気ガスと混合することがない。その結果、CPR中により高濃度の酸素を患者に送ることが可能であるため、患者の血流内の酸素化レベルを高くすることができ、蘇生結果の向上につながる。
【0052】
CPRの減圧段階では、救助者が手を持ち上げると、胸壁の反跳が起こる。ACD-CPRの場合、吸盤や接着剤を用いて胸部を上方に引き上げる等して、胸部を能動的に減圧する。CPRのこの段階では、胸郭内に陰圧が生じる(安全チェック弁308のクラッキング圧より低い)。図3Fに、CPRの減圧段階におけるIRV300の状態を示す。この段階では、安全チェック弁308、呼気弁314および大気ダイアフラム310が閉じているため、呼吸ガスの患者への流入が防止されている。胸部圧迫および胸部反跳の複数のサイクルにわたって患者に対する呼吸ガスの流入を防ぐことによって、胸郭内の空気が減少していくため、胸壁の反跳段階でより多くの血液が心臓に戻るスペースが形成される。これによって、胸壁の減圧段階において、冠動脈への循環が増加し、頭蓋内圧が低下するため、蘇生の成功率が高くなる。
【0053】
図面には、患者に出入りするガス交換を行うための可能な経路を示している。しかしながら、図3A~3FにおけるIRV300の寸法は例示であり、正確な縮尺ではなく、多数の可能な弁機構(例えば、ダックビルバルブ、ボールバルブ、環状バルブ、円形バルブ、バルーンバルブ、フィッシュマウスバルブ、マッシュルームバルブ、ディスクバルブ等)のうちの1つであることに留意する必要がある。
【0054】
いくつかの実施形態では、IRV300は、複数の領域からなると解釈される。例えば、IRV300は、上部領域、下部領域および呼気領域を有している。ダイアフラム310および/または安全チェック弁308が上部領域を下部領域から分離し、上部領域は、換気ポート304を含む、ダイアフラム310および/または安全チェック弁308の換気ポート側にある吸気流路に含まれるIRVの各部からなる。IRV300の下部領域は、環状管腔302、開口部338および患者ポート306を含む、ダイアフラム310および/または安全チェック弁308の患者ポート側にある吸気流路に含まれるIRV300の各部からなる。呼気領域は、換気ポート304以外の呼気流路に含まれるIRV300の各部からなる。例えば、呼気領域には、外側面318と弁座376との間の隙間、開口部372、フィルタ390および外側吐出ポート304が含まれる。下部領域および上部領域は、2つの弁(いくつかの実施形態では、単一の非再呼吸弁とみなされる)によって分離されていてもよい。例えば、一方向弁312は、下部領域と上部領域との間に配置され、胸郭内の圧力が大気圧よりも高い場合、すべての呼気流体の上流領域への流入を防ぐように閉じる。外側面118と弁座376との間の境界面は、患者ポート304内の圧力が大気圧よりも低いときに呼気領域を閉塞するために閉じ、患者ポート304内の圧力が大気圧よりも高いときにIRV300から呼気流体を排出できるように開放する。
【0055】
いくつかの実施形態では、IRV300は1つまたは複数のセンサを有している。例えば、図4に示すように、IRV300は、換気ポート304内に配置されたセンサ400および/または患者ポート306内に配置されたセンサ402を有している。例えば、センサ400および/または402は、圧力センサおよび/または流量センサ等の生理学的センサである。センサ400および/または402からの測定値に基づいて、胸部圧迫/減圧サイクルを決定できる。センサ400、402からのデータは、Bluetooth(登録商標)接続を含む1つまたは複数の有線および/または無線接続を含む通信インターフェイスを使用して、換気装置および/または胸部圧迫装置に送信される。換気装置および/または胸部圧迫装置は、圧迫/減圧サイクルデータを用いて、陽圧呼吸の送達を圧迫/減圧サイクルと同期させることができる。IRV300上または内部には、ライトおよび/またはディスプレイ画面等の1つまたは複数のインジケータ機構が設けられていてもよい。例えば、ハウジング320上またはハウジング320内に、1つまたは複数のライト404を配置してもよい。ライト404は、換気サイクルの段階、換気速度のタイミングおよび/またはIRV300内の特定の圧力レベル等の様々なパラメータを表示できる。
【0056】
いくつかの実施形態では、IRV300は、胸郭内の圧力を感知するように構成される。例えば、図5に示すように、患者ポート306と換気ポート304との間を連通させるようにこれらの間を直接的に延在する管腔500をIRV300に設けてもよい。管腔500内には一方向弁502が配置される。胸部が圧迫されるたびに、呼気流の一部が一方向弁502を通過する(呼気流の大部分は呼気弁314を通過する)。代替的な実施形態では、管腔500は、患者ポートおよび換気ポートにおいて薄膜等の感圧材料で封止されているため、圧力は容易に伝達されるが、流体および/または気体は患者ポートから換気ポートに移動できない。このような実施形態では、圧力を伝達しやすくするために、封止された部分に流体または気体を充填してもよい。これによって、換気ポート304内のセンサを使用して胸郭内の圧力を感知し、上記のように陽圧呼吸送達を同期できる。いくつかの実施形態では、IRV300が人工呼吸器回路に連結され、患者ポートの管腔が、患者ポート領域または人工呼吸器回路内のセンサに接続される。このような実施形態では、IRV300は、換気源または換気源回路に対して可逆的または非可逆的に接続される。
【0057】
実施例
麻酔下のブタに対して、圧迫および能動的減圧を施す自動装置を用いてCPRを行った。吸気ポートと別個の呼気ポートとを含む、本明細書に記載されているような機能的IRV(IRV300に類似)を気管内チューブに取り付け、患者ポートの高さに配置された圧力トランスデューサを用いて圧力を測定した。図6に示すように、各陽圧呼吸において気道圧力が約2.666kPa(約20mmHg)まで上昇し、各減圧段階中に約-0.6666kPa(約-5mmHg)まで低下した。
【0058】
本明細書に記載のIRVは、生理学的センサ、気流センサ、圧力トランスデューサ、タイミングライトおよび/もしくはステータスライト、胸郭の空気/血液比を検出するインピーダンスセンサ、CPR装置のコントローラもしくは他のインターフェイス、人工呼吸器ならびに/またはAEDと併せて使用可能であり、CPRの実行方法に関するフィードバックの提供や、陽圧換気の供給や、患者へのショックの付加等を行うことができる。また、センサ、トランスデューサ、ライト、検出器および他のコントローラからの情報およびこれらの追加の制御は、装置間の直接配線接続、Bluetoothおよびその他のハードワイヤードでない通信手段によって転送できる。さらに、いくつかの実施形態では、一方向弁108、真空弁208および/または安全チェック弁308は、各弁の開放を検出する「ガスピング(gasping)ゲージ」またはセンサと連結されてもよい。センサによって、患者が呼吸しようとしていることを救助者に通知する光および/または音声を起動させてもよい。
【0059】
上記の方法、システムおよび装置は例示である。いくつかの実施形態は、フロー図またはブロック図に示されたプロセスとして説明された。動作は順次プロセスとして説明している場合もあるが、動作の多くが並行してまたは同時に実行できる。また、動作の順番を入れ替えてもよい。プロセスには、図示されていない追加の工程が含まれる場合もある。本明細書に記載の全試験方法は、出願時に使用されていた試験基準または出願後に開発された試験基準に基づいている場合もある。
【0060】
上記のシステムおよび装置は、単なる例示を意図している。様々な実施形態において、様々な手順または構成要素の省略、置換または追加が適宜可能である。また、特定の実施形態に関して説明された特徴は、他の様々な実施形態に組み込むことができる。実施形態の異なる態様および要素は、同様の方法で組み合わせ可能である。また、技術は進化しているため構成要素の多くは例示であり、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0061】
実施形態の理解を助けるために特定の詳細事項が説明されている。しかしながら、このような特定の詳細事項が無くても実施形態を実施できることは、当業者には理解されるであろう。例えば、周知の構造および技術については、実施形態が不明瞭になることを避けるために不必要な詳細事項を示していない。本説明は、例示的な実施形態のみを提供するものであり、本発明の範囲、適用可能性または構成を限定することを意図していない。上記の実施形態の記載は、本発明の実施形態を実施可能とする説明を当業者に提供するものである。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、構成要素の機能および配置において様々な変更を行うことができる。
【0062】
複数の実施形態について上記説明を記載したが、当業者であれば、本発明の精神から逸脱することなく、種々の修正、代替構造および均等物が可能であることを理解できる。例えば、上記の構成要素は、より大きなシステムの構成要素にすぎない可能性があり、他の規則が優先される等、本発明の適用が変更される可能性もある。また、上記の構成要素の検討の間またはその前後に、複数の工程を実行可能である。したがって、上記の説明は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0063】
また、「備える」、「備えている」、「含む」、「含んでいる」、「有する」および「有している」という用語は、本明細書および以下の特許請求の範囲において、記載された機能、整数、構成要素または工程の存在を示すが、1つまたは複数の他の機能、整数、構成要素、工程、行為またはグループの存在または追加を排除するものではない。
【0064】
他に定義しない限り、本明細書において使用される全ての科学技術用語は、従来から一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法的目的語の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指す。例えば、「要素(an element)」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。量、時間的長さ等の測定可能な値に言及する場合に本明細書で使用される「約」および/または「およそ」は、指定された値からの±20%、±10%、±5%または+0.1%の変動を包含する。このような変動は、本明細書に記載のシステム、装置、回路、方法および他の実装において妥当であるとみなされる。量、時間的長さ、物理的属性(周波数等)等の測定可能な値に言及する場合に本明細書で使用される「実質的に」も、指定された値からの±20%、±10%、±5%または+0.1%の変動を包含する。このような変動は、本明細書に記載のシステム、装置、回路、方法および他の実装において妥当であるとみなされる。
【0065】
特許請求の範囲を含む本明細書で使用される「および」は、「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」で始まる項目の列挙において使用される場合、列挙された項目の任意の組み合わせが可能であることを意味する。例えば、「A、B、およびCの少なくとも1つ」と列挙されている場合は、A、B、C、AB、AC、BCおよび/またはABC(すなわち、AおよびBおよびC)の任意の組み合わせを含む。さらに、項目A、BまたはCの複数の発生または使用が可能である場合は、A、Bおよび/またはCの複数の使用は、意図された組み合わせの一部を構成することができる。例えば、「A、BおよびCの少なくとも1つ」と列挙されている場合は、AA、AAB、AAA、BB等も含まれる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4
図5
図6
【国際調査報告】