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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-01
(54)【発明の名称】腫瘍併用治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20230424BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20230424BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K9/16
A61K41/00
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556078
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(85)【翻訳文提出日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 US2021022705
(87)【国際公開番号】W WO2021188630
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】62/991,298
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(71)【出願人】
【識別番号】513112245
【氏名又は名称】リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミネソタ
【氏名又は名称原語表記】REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MINNESOTA
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】フォーサイス、ブルース アール.
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チュン
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン、サミュエル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA51
4C076AA99
4C076BB32
4C076CC50
4C076EE12A
4C076EE13
4C076FF02
4C084AA11
4C084MA11
4C084MA41
4C084MA67
4C084NA14
4C084ZB261
(57)【要約】
いくつかの態様において、本開示は、(a)膜活性剤が組織体積に局所的に放出されるように、放出可能な膜活性剤を含む移植可能な組成物を標的部位に投与することと、(b)組織体積へのパルス電界の印加によって不可逆的、可逆的および/または熱的処理を実施することと、を含む組織体積を治療する方法に関する。他の態様において、本開示は、放出可能な膜活性剤を含む塞栓組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放出可能な膜活性剤を含む塞栓組成物。
【請求項2】
前記膜活性剤は、カチオン性分子、両親媒性分子およびアニオン性分子から選択される、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項3】
前記膜活性剤は、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマーおよび両親媒性ポリマーから選択される、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項4】
前記膜活性剤は、第一級、第二級、第三級および/または第四級アミン基を有する天然または合成のカチオン性ポリマーである、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項5】
前記膜活性剤は、アミノアルキルアクリレートホモポリマー、アミノアルキルアクリレートコポリマー、アミノアルキルメタクリレートホモポリマーおよびアミノアルキルメタクリレートコポリマーから選択される、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項6】
前記膜活性剤は、ポリ(6-アミノヘキシルメタクリレート)、ポリ(アミノエチル-コ-ブチルメタクリレート)、およびポリ(2-ヘキサメチレンイミノ)エチルメタクリレートから選択される、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項7】
前記塞栓組成物が、体内への導入時に固体塞栓組成物になる液体組成物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の塞栓組成物。
【請求項8】
前記塞栓組成物が、固体塞栓組成物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の塞栓組成物。
【請求項9】
前記固体塞栓組成物が少なくとも部分的に生体安定性であるか、または生体吸収性である、請求項8に記載の塞栓組成物。
【請求項10】
前記固体塞栓組成物が移植可能な粒子である、請求項8~9のいずれか一項に記載の塞栓組成物。
【請求項11】
前記固体塞栓組成物が足場である、請求項8~9のいずれか一項に記載の塞栓組成物。
【請求項12】
前記足場がディスク、ロッド、ステント、コイル、基準マーカ、プレート、チューブ、または半透過性織物メッシュから選択される、請求項11に記載の塞栓組成物。
【請求項13】
前記膜活性剤が、前記固体塞栓組成物の全体に存在するか、または前記固体塞栓組成物の一部のみに存在する、請求項8~12のいずれか一項に記載の塞栓組成物。
【請求項14】
前記膜活性剤は前記固体塞栓組成物の表面に存在するが前記固体塞栓組成物の大部分には存在しない、前記膜活性剤は前記固体塞栓組成物の大部分に存在するが前記固体塞栓組成物の表面には存在しない、前記膜活性剤は前記固体塞栓組成物中に均質に存在する、前記膜活性剤は前記固体塞栓組成物中に濃度勾配を有して存在する、前記膜活性剤は下層の基材材料上に配置された1つ以上の層に存在する、前記膜活性剤は封入材料内に封入される、前記膜活性剤はマトリックス材料内に分散される、あるいは前記膜活性剤はマトリックス材料にコンジュゲートされる、請求項8~13のいずれか一項に記載の塞栓組成物。
【請求項15】
対象における前記塞栓組成物の移植時に、前記膜活性剤は、バースト放出プロファイル、持続放出プロファイル、またはバースト放出プロファイルおよび持続放出プロファイルの組み合わせで局所的に放出される、請求項1~14のいずれか一項に記載の塞栓組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、腫瘍治療のための方法および腫瘍治療に使用するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
がんなどの異常な生体組織の治療には、熱アブレーション、冷凍アブレーション、超音波アブレーション、化学アブレーション、RF電気アブレーションおよび不可逆的エレクトロポレーションを含む様々なモダリティが使用されている。
【0003】
生物学的組織の破壊への新しい異なるアプローチが望まれている。本開示は、不可逆的エレクトロポレーションを使用した組織破壊のための新規な組成物および組み合わせアプローチを記載する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
いくつかの態様において、本発明は、(a)膜活性剤(membrane-active agent)が組織体積(tissue volume)に局所的に放出されるように、放出可能な膜活性剤を含む移植可能な組成物を標的部位に投与することと、(b)組織体積へのパルス電界(pulsed electric field)の印加によって組織体積の治療を実施することと、を含む組織体積の治療方法を開示している。例えば、不可逆的エレクトロポレーション、可逆的エレクトロポレーションおよび/または熱処理は、パルス電界の印加によって実施されてもよい。
【0005】
本明細書で使用する場合、「膜活性剤」は、カチオン性または両親媒性またはアニオン性分子などの細胞膜の構造および動力学に影響を与える薬剤または分子として定義される。カチオン性分子は、電荷-電荷引力を介して細胞膜に結合する。両親媒性分子は、荷電している官能基を介して細胞膜に結合し、疎水性相互作用を介して細胞膜の脂質に結合する。アニオン性分子は、プロトン化されると疎水性になり、細胞膜脂質と相互作用する可能性がある。本明細書で使用する「膜溶解剤(membranolytic agent)」は膜活性剤のサブセットであり、膜の完全性を破壊する薬剤または分子を意味する。膜活性剤は、十分に高い濃度で存在すると、しばしば膜溶解剤となる。
【0006】
いくつかの実施形態において、組織体積は、腫瘍および/または(血管系を介してマージンを形成するための)腫瘍を囲む健康な組織の全てまたは一部に相当する。腫瘍の例としては、膵臓、乳房、肺、前立腺、肝臓、腎臓、脳、子宮、卵巣、胃、十二指腸または皮膚の腫瘍が挙げられる。
【0007】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、移植可能な組成物は、放出可能な膜活性剤を含む塞栓組成物であり、塞栓組成物は、組織体積に血液を供給する1つまたは複数の血管に投与され、または塞栓組成物は注射によって経皮的または内視鏡的に投与される。
【0008】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、移植可能な組成物は、体内への導入時に固体移植物となる液体組成物である。例えば、移植可能な組成物は、液体として投与され、活性化または体液との接触により固体に変化する粘弾性特性を有するゲルであってもよい。
【0009】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、投与された移植可能な組成物は、少なくとも部分的に生体安定性であるか、または生体吸収性である。
【0010】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、移植可能な組成物は、固体の移植可能な組成物である。
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、固体の移植可能な組成物は移植可能な粒子である。これらの実施形態のいくつかにおいて、粒子は、最大断面寸法が10nm~10mm(例えば、10nmから、100nmまで、1000nmまで、10ミクロン(10μm)まで、100ミクロン(100μm)まで、1000ミクロン(1000μm)まで、10mmまで)の範囲であってよい。
【0011】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、固体の塞栓組成物は足場(scaffold)であってよい。足場の例としては、例えば、ディスク、ロッド、ステント、コイル、基準マーカ(fiducial marker)、プレート、チューブ、または半透過性織物メッシュが挙げられる。
【0012】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤は、固体の移植可能な組成物の全体に存在するか、または膜活性剤は、固体の移植可能な組成物の一部のみに存在する。
【0013】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤は固体の移植可能な組成物の表面に存在するが固体の移植可能な組成物の大部分(a bulk of)には存在しない、または膜活性剤は固体の移植可能な組成物の大部分に存在するが固体の移植可能な組成物の表面には存在しない、または膜活性剤は固体の移植可能な組成物に均質に存在する、または膜活性剤は濃度勾配にて固体の移植可能な組成物に存在する。
【0014】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤は、下層の(underlying)基材材料上に配置された1つ以上の層中に存在するか、膜活性剤は封入材料内に封入されているか、または膜活性剤はマトリックス材料中に分散している。
【0015】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤は、塞栓ビーズ上にコーティングされるか、塞栓ビーズに注入されるか、または共有結合を介して塞栓ビーズにコンジュゲートされている。
【0016】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤は、カチオン性分子、両親媒性分子およびアニオン性分子から選択される。例えば、膜活性剤は、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマーおよび両親媒性ポリマーから選択され得る。
【0017】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤は、バースト放出プロファイルで組織体積に局所的に放出されてもよく、膜活性剤は、持続放出プロファイルで組織体積に局所的に放出されてもよく、または膜活性剤は、バースト放出プロファイルと持続放出プロファイルの組み合わせで、組織体積に局所的に放出されてもよい。
【0018】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤の放出は、電気パルス、超音波、磁場変動、または熱入力(thermal inputs)によってトリガされる。
【0019】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、治療は、移植可能な組成物の投与と同じ手順(procedure)で実施される。
【0020】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、治療は、移植可能な組成物の投与に続く手順で実施される。
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、治療は、移植可能な組成物の投与後、同日、翌日、または2日目から、1週間まで、2週間まで、30日までの範囲の時間において、手順にて実施される。
【0021】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、治療のための1つ以上の電極が、組織体積内または組織体積に隣接して配置される。
【0022】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、(a)1つまたは複数の治療用の電極が、皮膚上の1つまたは複数の位置で組織体積に隣接して配置される、(b)1つまたは複数の治療用の電極が、組織体積内または組織体積に隣接して経皮的に配置される、(c)治療用の電極が、1つまたは複数の天然の(natural)体管腔に挿入するデバイスを介して組織体積内または組織体積に隣接して配置される、あるいは(d)前述の配置技術のいずれか2つまたは3つ全てを組み合わせたもの。
【0023】
本開示の他の態様は、放出可能な膜活性剤を含む塞栓組成物に関する。
これらの実施形態のいくつかにおいて、塞栓組成物は固体塞栓組成物である。
これらの実施形態のいくつかにおいて、塞栓組成物は、体内への導入時に固体塞栓組成物となる液体組成物である。例えば、塞栓組成物は、液体として投与され、活性化または体液の接触により固体に変化する粘弾性特性を有するゲルであってもよい。
【0024】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、固体塞栓組成物は、少なくとも部分的に生体安定性であるか、または生体吸収性である。
【0025】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、固体塞栓組成物は、移植可能な粒子である。これらの実施形態のいくつかにおいて、粒子は、最大断面寸法が10nm~10mmの範囲であってよい。
【0026】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、固体塞栓組成物は足場である。
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤は固体塞栓組成物の全体に存在するか、または膜活性剤は固体塞栓組成物の一部のみに存在する。
【0027】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤は固体塞栓組成物の表面に存在するが固体塞栓組成物の大部分には存在しない、膜活性剤は固体塞栓組成物の大部分に存在するが固体塞栓組成物の表面には存在しない、膜活性剤は固体塞栓組成物中に均質に存在する、または膜活性剤は固体塞栓組成物中に濃度勾配を有して存在する。
【0028】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤は下層の基材材料上に配置された1つ以上の層中に存在するか、膜活性剤は封入材料内に封入されているか、膜活性剤はマトリックス材料内に分散されているか、または膜活性剤はマトリックス材料にコンジュゲートされている。
【0029】
上記の態様および実施形態のいずれかと組み合わせて使用され得るいくつかの実施形態において、膜活性剤は、カチオン性分子、両親媒性分子およびアニオン性分子から選択される。例えば、膜活性剤は、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマーおよび両親媒性ポリマーから選択され得る。
【0030】
上記の態様および実施形態のいずれかと併せて使用され得るいくつかの実施形態において、対象における塞栓組成物の移植時に、膜活性剤は、バースト放出プロファイル、持続放出プロファイル、またはバースト放出プロファイルおよび持続放出プロファイルの組み合わせで局所的に放出される。
【0031】
本開示のさらなる態様および実施形態は、後に続く詳細な説明を検討すれば、当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1A~1Dは、蛍光標識されたPAHMでコーティングされたマイクロスフェアを示す。(図1A)異なる量のPAHM(μg PAHM/mg PMMA)でコーティングされたマイクロスフェアの代表的な蛍光顕微鏡画像。(図1B)個々のマイクロスフェア上のPAHMコーティングの蛍光強度。(図1C)異なる方法によりPAHMでコーティングされたマイクロスフェアの代表的な蛍光顕微鏡画像。(図1D)異なる方法によるコーティング後の個々のマイクロスフェア上のPAHMの蛍光強度。データは平均+/-SD(A)(n=16-63)(B)(n=165-186)として示されている。テューキーHSD検定を用いた分散分析(ANOVA)(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001)。
図2図2Aおよび2Bは、細胞培養培地中のPAHMの定量を示す。(図2A)異なるPAHM濃度のUV-Vis吸収スペクトル。(図2B)245nmでの吸光度対PAHM濃度の検量線。
図3図3は、37℃の細胞培養培地中のコーティングされたマイクロスフェアからのPAHMの放出動力学を示す。データは平均+/-SD(n=4)として示され、2相指数関連モデル(two-phase exponential association model)に適合している。
図4図4A~4Bは、別々に適用されたIRE(図4A)またはPAHM(図4B)処理後の細胞生存率を示す。データは平均+/-SD(図4A)(n=4-6)(図4B)(n=9-13)として示されている。テューキーHSD検定を用いた分散分析(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001)。
図5図5A~5Fは、15分間(図5A)、4時間(図5B)、24時間(図5C)のPAHM曝露と組み合わせたIRE処理後の細胞生存率を示す。データは平均+/-SD(n=3-12)として示されている。テューキーHSD検定を用いた分散分析(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001)。(図5D)組み合わせインデックス分析(CI<1、=0.9-1(破線)、>1はそれぞれ、相乗作用、相加作用に近い作用、拮抗作用を示す)。IRE(図5E)およびPAHM(図5F)についての用量(Dose)減少指数分析(DRI<1、=1(破線)、>1は、好ましくない用量減少、用量減少なし、好ましい用量減少をそれぞれ示す)。
図6図6A~6Bは、平均直径が71μm(図6A)、100μm(図6B)のコーティングされたマイクロスフェアから放出されたPAHMへの曝露後の細胞生存率を示す。データは平均+/-SD(n=6-12)として示されている、テューキーHSD検定を用いた分散分析(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001)。
図7図7は、コーティングされていない塞栓性マイクロスフェアへの曝露後の細胞生存率を示す。データは平均+/-SD(n=2)として示されている。
図8図8A~8Fは、コーティングされたマイクロスフェアから放出されたPAHMへの曝露と組み合わせたIRE処理後の細胞生存率を示す:(図8A)15分間(図8B)4時間(図8C)24時間。データは平均+/-SD(n=3-9)として示されている。テューキーHSD検定を用いた分散分析(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001)。(図8D)組み合わせインデックス分析(CI<1、=0.9-1(破線)、>1はそれぞれ、相乗作用、相加作用に近い作用、拮抗作用を示す)。IRE(図8E)およびマイクロスフェアコーティングPAHM(図8F)についての用量減少指数分析(DRI<1、=1(破線)、>1は、好ましくない用量減少、用量減少なし、好ましい用量減少をそれぞれ示す)。
【発明を実施するための形態】
【0033】
エレクトロポレーションは、生体細胞が細胞膜の孔を開くことによって電界に応答する現象である。低電界強度では細胞膜に孔は形成されない。エレクトロポレーション閾値を超えると、孔が可逆的に形成され始める。可逆的エレクトロポレーションは、そうでなければ細胞膜を通過することができない物質を生物細胞に導入するために長い間使用されてきた。例えば、化学療法で使用される遺伝物質または大きな分子を細胞の内部に導入することができる。電界を除去した後、誘導された孔は「過渡的(transient)」または「可逆的」エレクトロポレーションで閉じる。
【0034】
比較的高い振幅のエレクトロポレーション線量(doses)では、印加された電界に応答して形成される孔は、細胞膜が回復できないほど広範囲になることがある。細胞膜が回復しなければ、細胞は「不可逆的な」エレクトロポレーションとして知られているこのエレクトロポレーションのために死に至る。不可逆的エレクトロポレーションの閾値(IRE)は、細胞の大きさおよび形状、全体的な組織構造、および細胞間液の特徴によって変化する。閾値自体は、局所的な電界強度および持続時間によって定義することができ、例えば、より短い持続時間ではより高い振幅電圧が必要であり、より長い持続時間ではより低い振幅電圧が必要である。
【0035】
本開示において、組織体積を治療する方法は、(a)膜活性剤が組織体積に局所的に放出されるように、放出可能な膜活性剤を含む移植可能な組成物を標的部位に投与する工程と、(b)組織体積に対してIREを実施する工程とを含むことが記載されている。
【0036】
本開示に従うエレクトロポレーション治療の間、電圧が、治療される組織体積の内部または隣接して配置される2つ以上の電極にわたって印加され、それによって、組織体積内に電界が形成される。IREで調整できるパラメータには、電圧の大きさ、電圧の持続時間(パルス長)、パルスの数、電極の数、電極の間隔が含まれる。
【0037】
本開示に従う不可逆的エレクトロポレーション治療が適用され得る組織体積は、良性および悪性の腫瘍体積、ならびに境界付けられた腫瘍体積を構成する生存可能に機能する細胞を含む灌流された、または健康な組織体積を含む。腫瘍体積の例としては、膵臓腫瘍、食道腫瘍、膀胱腫瘍、胆管腫瘍、肝臓腫瘍、腎臓腫瘍、乳房腫瘍、肺腫瘍、前立腺腫瘍、脳腫瘍、子宮筋腫を含む子宮腫瘍、卵巣腫瘍、後腹膜腫瘍、四肢腫瘍、骨盤腫瘍、ならびに神経内分泌腫瘍または前癌性過形成性細胞クラスターまたは新生物構造に存在するものが挙げられる。
【0038】
広範囲の不可逆的エレクトロポレーション設定を、本開示の不可逆的エレクトロポレーション治療と組み合わせて使用することができ、これには、250~2500V/cm、より典型的には375~1750V/cmの範囲の電界強度、1~5000の範囲のパルス数、より典型的には5~300の範囲のパルス数、0.5~1000μsの範囲のパルス幅、より典型的には1~250μsの範囲のパルス幅、0.25~10Hzの範囲のパルス周波数、および0.1~2cmの範囲の電極間隔を提供する電圧が含まれる。電極は、複数の電極の組み合わせまたはプローブにわたって、モノポーラ・モード、バイポーラ・モードまたは多重化構成で操作され得る。
【0039】
電極は、(a)皮膚の1つまたは複数の位置への1つまたは複数の電極の配置(戻り電極配置を含む)、(b)1つまたは複数の組織の位置への1つまたは複数の電極の経皮的配置、(c)1つまたは複数の天然の体管腔(例えば、血管、消化管、胆管、リンパ管、尿路、肺気道、尿道腔、膀胱、または他の体管腔)内へのまたは同体管腔に隣接した1つまたは複数の電極の配置、または(d)これらの配置技術のうちの任意の2つまたは3つすべての組み合わせを含む、様々な方法を使用して、不可逆的エレクトロポレーションによって処理されるべき組織体積内にまたは同組織体積に隣接して配置されてもよい。
【0040】
1つ以上の電極を天然の体管腔内にまたは同体管腔に隣接して配置することに関して、カテーテル、内視鏡、気管支鏡、十二指腸鏡、または同様の最小侵襲性、単回使用または再使用可能な直接可視化プローブなどのデバイスを体管腔に進めてもよく、その場合、1つ以上の電極をデバイス上に配置して内腔壁と接触させてもよく、または1つ以上の電極をデバイスから挿入して、デバイスに近接する内腔壁を通して、内腔壁を取り囲む組織内に挿入してもよい。
【0041】
既に明記したように、本開示において、組織体積を治療する方法は、(a)膜活性剤が組織体積に局所的に放出されるように、放出可能な膜活性剤を含む移植可能な組成物を標的部位に投与する工程と、(b)組織体積に対してIREを実施する工程とを含むことが記載されている。この点に関して、膜活性剤は、所与の電界強度で死滅される細胞の数を増加させ、および/または所与の数の細胞を死滅させるのに必要な電界強度を減少させるために使用され得る。
【0042】
膜活性剤放出移植可能組成物は、少なくとも部分的に生体安定性である膜活性剤放出移植可能組成物、および生体吸収性である膜活性剤放出移植可能組成物から選択され得る。
いくつかの実施形態において、膜活性剤放出移植可能組成物は、膜活性剤を含む塞栓組成物であり得、塞栓組成物は、組織体積に血液を供給する1つ以上の血管に投与されてもよく、それによって塞栓/閉塞を形成し得る。このようにして、本開示の方法は、膜活性剤増強IREによって細胞を死滅させることに加えて、細胞の血液供給を遮断することによって細胞を死滅させることができる。
【0043】
膜活性剤の例には、カチオン性分子、両親媒性分子、およびアニオン性分子が含まれる。
膜活性カチオン分子は、第一級、第二級、第三級または第四級アミン基を有する天然および合成のカチオン性ポリマーから選択することができる。
【0044】
天然カチオンポリマーとしては、カチオン性ポリペプチド(ポリリジン、ポリアルギニン、ポリオルニチンなど)、カチオン性ポリアミン(スペルミジン、スペルミンおよびそれらの誘導体など)、カチオン性多糖類(キトサン、カチオン性ゼラチンなど)、リジンおよびアルギニンを含むカチオン性アミノ酸に富むカチオン性ペプチド(セクロピンA、マガイニン、ダーマセプチン、ボンビニン、メリチン、カテリシジン、ヒトディフェンシン、ラクトフェリシン、ヒスタチン、インドリシジン、トリトリプチシン、ホロトリシン、コレオプテリシン、ピルホコリシンなど)、が挙げられる。
【0045】
合成カチオン性ポリマーは、第一級、第二級、第三級または第四級アミン基を含有するポリマーである。これらのポリマーは、直鎖状、ブロック状、グラフト状、分枝状、樹枝状およびネットワーク状の構造の分子セグメントを含むことができる。これらのカチオン性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ(ベータ-アミノエステル)、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリアミドアミン、ポリノルボルネン、およびそれらのコポリマーのクラスから選択することができる。これらは、フリーラジカル重合、開環重合、重付加および重縮合反応によって合成することができる。合成カチオン性ポリマーはまた、細胞膜に結合することができる非天然配列を有するカチオン性ペプチドを含む。このようなカチオン性ペプチドはリシンおよびアルギニンに富み、この分野でよく知られている固相法を用いて合成することができる。
【0046】
膜溶解性両親媒性分子は、疎水基および、例えば、飽和および不飽和C-C結合を含有する直鎖状、分枝状、環状、芳香族炭化水素のような構造で修飾された上記の天然および合成カチオン性ポリマーを含む。膜活性両親媒性分子はまた、疎水性アミノ酸(アラニン、グリシン、ロイシン、イソロイシン、フェノアラニン、チロシン、トリプトファンなど)または疎水性構造(ヒドロカルボーン(hydrocarbone)など)を含有する前記カチオン性ペプチドを含む。
【0047】
膜活性アニオン性分子には、特定のカルボン酸含有合成ポリマー(ポリアルキルアクリル酸など)およびペプチド(“GALA”:WEAALAEALAEALAEHLAEALAEALEALAAなど)が含まれる。これらのポリマーおよびペプチドは酸性pHでプロトン化され、疎水性になり、細胞脂質膜との相互作用を促進するコンホメーションをとる。
【0048】
膜溶解剤は、細胞膜破壊を引き起こす特別な膜活性剤である。例としては、アミノ-C~C10アルキルアクリレートなどのアミノアルキルアクリレート、アミノ-C~C10アルキルメタクリレートなどのアミノアルキルメタクリレート、およびアミノアルキルアクリレートとアルキルアクリレートとのコポリマー、およびアミノアルキルメタクリレートとアルキルメタクリレートとのコポリマーが挙げられる。膜溶解性アミノアルキルメタクリレートの例としては、ポリ(6-アミノヘキシルメタクリレート)(PAHM)、ポリ(アミノエチル-コ-ブチルメタクリレート)およびポリ(2-ヘキサメチレンイミノ)エチルメタクリレートが挙げられる。
【0049】
種々の実施形態において、膜活性剤放出移植可能組成物は、体内に導入されると固体膜活性剤放出移植物となる液体組成物であり得る(例えば、組成物は、液体塞栓組成物の形態であってもよい)。
【0050】
種々の実施形態において、膜活性剤放出移植可能組成物は固体組成物であってもよい。膜活性剤は、固体組成物全体または固体組成物の一部のみに位置し得る。例えば、膜活性剤は、下層の基材材料上の1つ以上の層に存在してもよく(例えば、層は、完全に膜活性剤から形成されてもよく、または膜活性剤が放出される1つ以上のさらなる生体吸収性または生体安定性マトリックス材料と混合されてもよい)、膜活性剤は、封入材料(例えば、生体吸収性封入材料または膜活性剤に透過性である生体安定性封入材料)内に封入されてもよく、膜活性剤は、基材材料内に(例えば、基材材料の膜活性剤を既に存在する基材材料に浸漬することによって、基材を膜活性剤を含むマトリックスとして形成することによって、など)分散されてもよく、膜活性剤は、膜活性剤が放出される共有結合(アミド、エステル、エーテル、チオールエステル、ジチオール、オルトエステル、アセタール、ケタールなど)を介して1つ以上の固体組成物に結合されてもよく、膜活性剤は、膜活性剤が放出される非共有結合(ビオチン-アビジン、金属キレート、電荷-電荷静電相互作用、ポリエチレングリコール/シクロデキストリン、アダマンタン/シクロデキストリンなどのホスト-ゲスト複合体)を介して1つ以上の固体組成物に結合されてもよく、あるいは膜活性剤から完全に固体組成物を形成することによる。
【0051】
したがって、膜活性剤に加えて、本開示の移植可能な組成物は、基材材料、マトリックス材料、および生体吸収性および/または生体安定性であり得る封入材料を含み得る。生体吸収性および/または生体安定性材料の例には、生体吸収性および/または生体安定性ポリマー、生体吸収性および/または生体安定性金属および金属合金、ならびに生体吸収性および/または生体安定性セラミックおよびガラス材料が含まれる。
【0052】
本明細書で使用するための生体吸収性および生体安定性ポリマー、ならびにポリマー膜活性剤には、ホモポリマーおよびコポリマーが含まれる。本明細書で使用される場合、「ホモポリマー」は、単一の構成単位の複数のコピーを含むポリマーである。「コポリマー」は、少なくとも2つの異なる構成単位の複数のコピーを含むポリマーであり、その例には、ランダム、統計的、勾配、周期的(例えば、交互)およびブロック(例えば、ジブロック、トリブロックなど)コポリマーが含まれる。本開示で使用するためのポリマーは、直鎖状または分枝状であり得る。分枝配置には、星形配置(例えば、1つの分岐点から3つ以上の鎖が出ている構成)、櫛状配置(例えば、主鎖と複数の側鎖とを有する構成)、樹枝状配置(例えば、樹枝状および超分枝状ポリマー)など、が含まれる。
【0053】
生体吸収性ポリマーおよび生体安定性ポリマーの具体例は、例えば、以下のものから選択することができる:ポリアクリル酸を含むポリカルボン酸ホモポリマーおよびコポリマー、ポリ(メチルメタクリレート-b-n-ブチルアクリレート-b-メチルメタクリレート)およびポリ(スチレン-b-n-ブチルアクリレート-b-スチレン)トリブロックコポリマーを含むアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートホモポリマーおよびコポリマー、ナイロン6,6、ナイロン12を含むポリアミド、ポリエーテル-ブロック-ポリアミドコポリマー(例えば、Pebax(登録商標)樹脂)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニルなどのポリビニルハライド、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)などのビニルホモポリマーおよびコポリマー、ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸コポリマーなどのビニル芳香族ホモポリマーおよびコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレンコポリマー(例えば、Kraton(登録商標)Gシリーズポリマーとして入手可能なポリ(スチレン-b-エチレン/ブチレン-b-スチレン(SEBS))コポリマー)、スチレン-イソプレンコポリマー(例えば、ポリ(スチレン-b-イソプレン-b-スチレン)、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマーおよびスチレン-イソブチレンコポリマー(例えば、ポリイソブチレン-ポリスチレンブロックコポリマー、例えばポリ(スチレン-b-イソブチレン-b-スチレン)またはSIBS、これは、例えばPinchukらの米国特許第6,545,097号明細書に記載されている)を含むビニル芳香族アルケンコポリマー、アイオノマー、ポリエチレンテレフタレートおよびラクチド(d-,l-およびメソ-ラクチドを含む)(ポリ(L-ラクチド)およびポリ(d,l-ラクチド))のホモポリマーおよびコポリマーなどの脂肪族ポリエステルを含むポリエステル、グリコリド(グリコール酸)、およびε-カプロラクトン、ポリ(l-ラクチド-コ-グリコリド)およびポリ(d,l-ラクチド-コ-グリコリド)のようなポリラクチドコ-グリコリドを含む、トリメチレンカーボネート(およびそのアルキル誘導体)を含むポリカーボネート、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリエチレンオキシド(PEO)およびポリエーテルエーテルケトンなどのポリアルキレンオキシドポリマーを含むポリエーテルホモポリマーおよびコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン(ポリブタ-1-エンおよびポリイソブチレンなど)などのポリアルキレンを含むポリオレフィンホモポリマーおよびコポリマー、ポリオレフィンエラストマー(例えば、サントプレン)およびエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ヘキサフルオロプロペン)(FEP)、変性エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むフッ化ホモポリマーおよびコポリマー、ポリジメチルシロキサンを含むシリコーンのホモポリマーおよびコポリマー、ポリウレタン、ポリペプチド、タンパク質、多糖類、フィブリン、フィブリノーゲン、コラーゲン、エラスチン、キトサン、ゼラチン、デンプン、ヒアルロン酸などのグリコサミノグリカンなどのバイオポリマー、ならびに上記のブレンドおよびさらなるコポリマー。
【0054】
本開示で使用するための生体安定性ポリマーの例はまた、例えば、フッ素化オレフィンモノマーを含むオレフィンモノマー、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー、ビニルモノマー、ジアルキルシロキサンモノマーおよびそれらの組み合わせの1つ以上を含有するホモポリマーおよびコポリマー、ならびにポリウレタン、ポリウレア、ナイロンを含むポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ(エーテルケトン)(PEEK)およびポリ(アリーレンエーテルケトン)PAEKなどの種々の他のポリマー、から選択され得る。
【0055】
本開示で使用するための生体吸収性ポリマーの例はまた、生分解性ポリエステルホモポリマーおよびコポリマー、ポリ(オルトエステル)ホモポリマーおよびコポリマー、ポリ無水物ホモポリマーおよびコポリマー、チロシン系ポリマーを含むアミノ酸系ホモポリマーおよびコポリマー、ならびにポリエチレングリコールホモポリマーおよびコポリマーから選択され得る。
【0056】
膜活性剤は、拡散、溶解、生分解、加水分解(共有結合を介する)などの任意の種類の化学反応を含む、または結合の酵素的開裂、イオン化および脱イオン化、あるいは上記のいずれかの組み合わせによって、移植可能な組成物から放出され得る。
【0057】
膜活性剤は、バースト放出プロファイル(例えば、0~6時間の期間内)、持続放出プロファイル(例えば、6時間~3ヶ月の範囲の期間にわたって)、脈動放出(pulsatile release)プロファイル、二相性または多相性放出プロファイル、または前述の組み合わせで移植可能な組成物から放出され得る。
【0058】
膜活性剤は、トリガ可能な放出機構を介して、例えば、電気パルス(例えば、対応する相転移の有無にかかわらず、移植可能な組成物を加熱し、電気移動によって移植可能な組成物から膜活性剤を駆動するため、など)、超音波(例えば、移植可能な組成物を加熱するためまたは膜活性剤を含むカプセルを破裂させてそれにより膜活性剤を放出させるため、など)、磁場変動(例えば、磁性粒子が移植可能な組成物中に提供され、例えば、移植可能な組成物を加熱することによって、膜活性剤を含むカプセルを破裂させることによって、膜活性剤を放出するために振動させ得る)、化学物質の注入(例えば、酸または塩基、低張力塩または高張力塩を注入し、膜活性剤と移植用組成物の間の結合を破壊して膜活性剤の放出を引き起こす、など)、熱励起による拡散速度または膜輸送の変化、化学結合の弱化および放出の変更、または上記の組み合わせ、の結果として、移植可能な組成物から放出され得る。
【0059】
膜活性剤放出移植可能組成物は、例えば、膜活性剤放出粒子の形態であってもよい。そのような粒子は、球状および細長い形状を含む様々な形状になり得る。そのような粒子は、最大断面寸法(例えば、球体における直径)が10nm~10mmの範囲であってもよい。
【0060】
膜活性剤放出移植可能組成物は、例えば、膜活性剤放出足場の形態であってもよい。そのような足場は、ディスク、ロッド、ステント、コイル、基準マーカ、織物メッシュおよびチューブなどの様々な形態であってもよい。このような足場は、0.1nm~1mmの範囲の孔を含んでいてもよいし、全く多孔性でなくてもよい。
【0061】
膜活性剤放出移植可能組成物は、移植可能な組成物の経皮的配置、1つ以上の天然の体管腔(例えば、血流を塞ぐための遠位毛細血管または過血管病変を含む血管、胃腸管、胆管、リンパ管、尿路、または他の体管腔)内または同体管腔に隣接した移植可能な組成物の配置、あるいはそれらの組み合わせを含む任意の適切な移植方法を用いて標的組織に移植され得る。天然の体管腔内または同体管腔に隣接する1つ以上の移植可能な組成物の配置は、カテーテル、内視鏡、マイクロカテーテル、針、または体管腔を開いた状態に維持する他の柔軟なプローブなどのデバイスを使用して実施され得る。
【0062】
既に明記したように、本開示の様々な態様において、組織体積を治療する方法であって、(a)膜活性剤が組織体積に局所的に放出されるように、膜活性剤放出移植可能組成物を標的部位に投与することと、(b)組織体積にIREを実施することと、を含む方法が記載されている。
【0063】
いくつかの実施形態において、同じ手順で、移植可能な組成物を標的部位に投与し、かつ組織体積に対してIREを実施することができる。例えば、移植可能な組成物は標的部位に投与されてもよく、移植可能な組成物から組織体積へのバースト放出が生じるのに十分な時間(例えば、30秒~180分の範囲)を与えた後に、IREが組織体積に実施されてもよい。
【0064】
いくつかの実施形態において、IREは、移植可能な組成物が標的部位に投与される手順に続く1つ以上の手順において、組織体積に対して実施されてもよい。例えば(例えば、移植可能な組成物が徐放性組成物である場合)、1つ以上の後続の手順は、移植可能な組成物を標的部位に投与してから0.1日~6週間の範囲の時点において実施されてもよい。
【0065】
上記から分かるように、本開示の組成物および方法の利点は、所望とされる膜活性剤放出のための本質的に任意の時間経過および所望とされる本質的に任意のIREスケジュールを確立でき、これは腫瘍生物学に基づいて調整できるという点にある。
【実施例
【0066】
材料。ロズウェル・パーク・メモリアル研究所(Roswell Park Memorial Institute)(RPMI)1640培地、牛胎児血清(FBS)、ペニシリン-ストレプトマイシン(10,000U/mL;10,000μg/mL)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)(MTT)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール(200プルーフ(proof))、Alexa Fluor(登録商標)488 NHS Esterはサーモ・フィッシャー・サイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州、Waltham)より購入した。塩酸ヒドロキシラミンおよびPD-10脱塩カラム(Sephadex(登録商標)G-25媒体;排除限界:M5000)はミリポア・シグマ(Millipore Sigma、米国マサチューセッツ州、Burlington)から購入した。エレクトロポレーションキュベット(4mmギャップ)は、ハーバード・アパレイタス(Harvard Apparatus、米国マサチューセッツ州、Holliston)から得た。UV透明キュベット(セミマイクロ、1.5mL)は、USAサイエンティフィック(USA Scientific、米国フロリダ州、Ocala)から購入した。
【0067】
薬物相乗効果のCOMPUSYNモデリング。各治療組み合わせの組み合わせ指数(CI)および用量減少指数(dose reduction index)(DRI)を、CompuSynソフトウェアプログラム(コンボシン(ComboSyn)社、米国ニュージャージー州、Paramus)を用いてChou-Talalay法により算出した(Chou,T.-C.、「Theoretical Basis,Experimental Design,and Computerized Simulation of Synergism and Antagonism in Drug Combination Studies(薬物併用試験における相乗作用と拮抗作用の理論的根拠、実験計画、およびコンピュータによるシミュレーション)」、Pharmacol.Rev.、58、621-681(2006))。CI値は薬物相互作用を無次元で数値化したもので、CI=1は相加作用、CI<1は相乗作用、CI>1は拮抗作用を示す。DRIは、あるFaで併用した場合、各薬剤の投与量を各薬剤単独で投与した場合と比較してどれだけ減らすことができるかを示す指標で、DRI=1は投与量の減少なし、DRI>1は好ましい投与量の減少、DRI<1は好ましくない投与量の減少を意味する。
【0068】
統計解析。分散分析(ANOVA)およびテューキー(Tukey)HSD検定による多重比較により、異なる処理群間の細胞生存率(cell viability)の差の有意性を判定した。分散分析およびテューキーHSD検定による多重比較により、コーティングされたマイクロスフェアのPAHMの蛍光強度の差の有意性を判定した。PAHM放出プロファイルは、2相の指数関数関連モデルで適合させた。すべての分析は、GraphPad prism、バージョン9.0.0(グラフパッド・ソフトウェア(GraphPad software)社、米国カリフォルニア州、San Diego)を用いて行った。
【0069】
実施例1:ポリ(6-アミノヘキシルメタクリレート)(PAHM)の合成
ポリ(6-アミノヘキシルメタクリレート)(PAHM)の次のように合成した:N-(tert-ブトキシカルボニル)アミノヘキシルメタクリレート(tBocAHM)は、最初に、Zhu,C.他、「Cationic methacrylate copolymers containing primary and tertiary amino side groups:Controlled synthesis via RAFT polymerization,DNA condensation,and in vitro gene transfection(第1級および第3級アミノ基を側鎖に有するカチオン性メタクリレートコポリマー:RAFT重合による制御された合成、DNA縮合、およびインビトロでの遺伝子導入)」、J.Polym.Sci.Part A Polym.Chem.、(2010).doi:10.1002/pola.24064、に記載されているように合成した。次に、PAHMを、Ji, W.他、「Poly(2-aminoethyl methacrylate) with Well-Defined Chain Length for DNA Vaccine Delivery to Dendritic Cells(ポリ(2-アミノエチルメタクリレート)の鎖長制御による樹状細胞へのDNAワクチン導入)」、Biomacromolecules、12、4373-4385(2011)、によって報告された方法に基づいて、tBocAHMの原子移動ラジカル重合(ATRP)、続いてtBoc側鎖の脱保護を経由して合成した。このポリマーを、Ji,W.の「Ji,W.、Synthetic polymers with well-defined structures for DNA vaccine delivery and cancer therapy(DNAワクチン送達および癌治療のための明確な構造を有する合成ポリマー)」(ミネソタ大学博士論文、2013年11月)に記載されているように、H NMRおよびゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて特性決定した。PAHMの数平均分子量(M)は2.08×10、分散度(Dispersity)(D)は1.26、平均重合度(DP)は100であった。
【0070】
実施例2:ビーズ形成(Bead formation)
加水分解されていないポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)ビーズ(直径90~106μm)を、膜活性剤、具体的にはポリ(6-アミノヘキシルメタクリレート)(PAHM)、
【0071】
【化1】
【0072】
(式中、nは整数)で、さらに以下に詳述されるように、エタノール中のPAHMでビーズをインキュベートし、続いてエタノールを蒸発さることにより、でコーティングした。
【0073】
実施例3:PAHMの蛍光標識
PAHMは、製造業者のプロトコルに従って、Alexa Fluor(登録商標)488色素(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)(λex/λem:494/517nm;吸光係数=71,000cm-1-1)のNHSエステルで蛍光標識した。理論上の標識度は供給比率に基づいて1%であり、標識効率は25~33%であった(製造業者あたり)。PD-10脱塩カラム(Sephadex(登録商標)G-25媒体;排除限界:M5000)(ミリポア・シグマ)を用いたゲル濾過によって未反応色素を除去した。精製した蛍光標識PAHM溶液を-80℃で一晩凍結し、Maxima(商標)C Plus真空ポンプ(M8c型、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック、マサチューセッツ州Waltham)を装備したFreeZone(登録商標)凍結乾燥システム(ラブコンコ(Labconco)、ミズーリ州カンザスシティ)中で0.020mBar(0.002kPa)下で4日間凍結乾燥した。乾燥したポリマーは、使用するまで室温で(光から保護された)真空デシケータ内に保存した。
【0074】
実施例4:塞栓性マイクロスフェアをPAHMでコーティングする最適化方法
平均直径71μmまたは100μmのPMMAマイクロスフェアは、ボストン・サイエンティフィック・コーポレーション(Boston Scientific Corporation)(米国、ミネソタ州メイプルグローブ)によって提供された。PMMAマイクロスフェアを溶媒蒸発法によりPAHMでコーティングした。蛍光標識したPAHMおよび非標識PAHM(標識:非標識比1:8)の混合物を、総濃度0.1mg/mLまたは0.5mg/mLでエタノール(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)に溶解した。ガラスバイアル中で、1mLのPAHM溶液を50mgのPMMAマイクロスフェア(直径100μm)に添加した。バイアルは、エタノールを蒸発させるために、室温で3日間、オービタルシェーカー(ラブ-ライン・インスツルメンツ(Lab-Line Instruments)、米国イリノイ州Melrose Park)上に露出させた。供給比率に応じて、乾燥後、マイクロスフェアを2μg/mgまたは10μg/mg(μgPAHM/mgPMMA)の濃度のPAHMでコーティングした。コーティングされたマイクロスフェアを、使用するまで、真空デシケータ中、室温で(光から保護して)保存した。
【0075】
コーティングプロセスを最適化かつ高速化するために、PMMAマイクロスフェアを3つの異なる溶媒蒸発法を用いてPAHMでコーティングした。蛍光標識したPAHMおよび非標識PAHM(標識:非標識比1:8)の混合物を、総濃度0.8mg/mLでエタノールに溶解した。0.5mLのPAHM溶液をガラスバイアル中の100mgのPMMAマイクロスフェア(直径100μm)に添加した。コーティング方法1では、エタノールを上記のように蒸発させた(ゆっくり回転するオービタルシェーカー上で3日間)。コーティング方法2では、カバーされていないバイアルを、ゆっくりと回転するオービタルシェーカーの上の真空デシケータ内に12時間置いた。コーティング方法3では、エタノールを圧縮空気で10分間蒸発させた。コーティングされたマイクロスフェアを、使用するまで室温で(光から保護された)真空デシケータ中に保存した。
【0076】
PAHMコーティングを可視化するために、コーティングしたマイクロスフェアの蛍光および明視野画像を、Olympus(登録商標)DP72カメラおよびX-Cite 120広視野蛍光顕微鏡励起光源(エクセリタス・テクノロジーズ(Excelitas Technologies)、マサチューセッツ州Waltham)を装備したOlympus(登録商標)IX70倒立蛍光顕微鏡を用いて取得した。蛍光標識PAHMを480±50nmの励起波長と535±50nmの発光波長を用いて可視化した。個々のコーティングされたマイクロスフェアのPAHMの蛍光強度は、米国国立衛生研究所および光学計算機器研究所(ウィスコンシン大学LOCI校)で開発されたオープンソースのJava(登録商標)ベース画像処理プログラムであるImageJを用いて定量化した。
【0077】
塞栓マイクロスフェア(直径100μm)を溶媒蒸発法により蛍光標識PAHMでコーティングした。代表的な蛍光顕微鏡写真(図1A)は、10μg/mg(μgPAHM/mgPMMA)でコーティングされたマイクロスフェアが2μg/mg(μgPAHM/mgPMMA)でコーティングされたマイクロスフェアよりも10.5倍明るい蛍光を示したように、PAHMの濃度の増加がより厚いコーティングをもたらすことを示す(図1B)。
【0078】
コーティングプロセスを最適化するために、塞栓性マイクロスフェア(直径100μm)を、3つの異なる溶媒蒸発法により、4μg/mg(μgPAHM/mgPMMA)の蛍光標識PAHMでコーティングした。3つの方法によってコーティングされたマイクロスフェアの代表的な蛍光顕微鏡写真を図1Cに示し、蛍光強度の定量化を図1Dに示す。方法3では、エタノールは10分以内で迅速に蒸発され、明るく、比較的均一なコーティングを得た(図1C)。方法2では、12時間にわたるエタノールの遅い蒸発は、方法3と比較して1.2倍明るい蛍光によって示されるように、マイクロスフェア上にコーティングされたPAHMの量がわずかに増加したように見えた(図1D)しかしながら、方法3で蒸発をさらに3日間まで遅くすると、コーティングはずっと薄暗くなった(dimmer)(図1C、D)。その後のすべての実験では方法3を用いてマイクロスフェアをコーティングすることを選択したが、これは良好なコーティングを生成しながら高速であったためである。
【0079】
その後のすべての実験(PAHM放出動力学(kinetics)および細胞毒性アッセイ)は、濃度10μg/mg(μgPAHM/mgPMMA)の非標識PAHMでコーティングされたマイクロスフェアを使用した。PAHMを1mg/mLの濃度でエタノールに溶解した。ガラスバイアル中で、1mLのPAHM溶液を100mgのマイクロスフェア(71μmまたは100μm)に添加した。上記の方法1を用いてエタノールを蒸発させた。
【0080】
実施例5:コーティングされたマイクロスフェアのインビトロ放出動力学
12ウェルプレートにおいて、25mgのコーティングされたマイクロスフェア(直径71μmまたは100μm)を1mLの細胞培養培地(フェノールレッドなし)に懸濁し、5%COを含む37℃の加湿環境中で1週間インキュベートした。特定の時点で、750μLの上清をサンプリングし、新鮮な培地と交換した。次に、サンプリングした上清を、透明なUVキュベット(セミマイクロ、1.5mL)(USAサイエンティフィック、米国フロリダ州Ocala)中の0.75mL放出培地(最終体積:1.5mL)で希釈した。上清中のPAHMの量を、Cary100UV-Vis分光光度計(アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies)、米国カリフォルニア州Santa Clara)を用いて245nmでの吸光度を測定することによって測定した。図2Aおよび2Bは、細胞培養培地中のPAHMの定量を示す。図2Aは、異なるPAHM濃度のUV-Vis吸収スペクトルを示す。図2Bは、PAHM濃度に対する245nmでの吸光度の較正曲線を示す。
【0081】
放出動力学プロファイルは、経時的に放出された累積パーセンテージとして表され、図3に示されている。最初の4時間以内の最初のバースト放出の後、PAHMの持続放出は1週間にわたって継続した。PAHMは100μmよりも71μmのPMMAマイクロスフェアからわずかに速く放出された。最初の一時間以内に、PAHMの51%および38%が71μmおよび100μmのPMMAマイクロスフェアから放出された。4時間後、PAHMの69%および59%が71μmおよび100μmのPMMAマイクロスフェアから放出された。PAHMの20%以上は2日目~7日目の間に両サイズのマイクロスフェアから放出された。
【0082】
実施例6:細胞培養
ヒト膵臓腺癌細胞株AsPC-1をATCCから得た。AsPC-1細胞を、2g/Lのグルコース、2mMのL-グルタミン、2g/Lの重炭酸ナトリウム、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)、100U/mLのペニシリン(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)、および100μg/mLのストレプトマイシン(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)を含む、ロズウェル・パーク・メモリアル研究所(RPMI)1640培地(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック、米国マサチューセッツ州Waltham)からなる培地で培養した。AsPC-1細胞を組織培養フラスコで培養し、5%COの37℃の加湿環境でインキュベートした。細胞が約80%のコンフルエントに達したとき、培地を除去し、細胞を回収し、1:3~1:6に分割して培養を継続するか、または細胞毒性実験のために直ちに使用した。
【0083】
実施例7:遊離PAHMまたはコーティングしたマイクロスフェアから放出したPAHMと組み合わせたIREの細胞毒性
採取した細胞を遠心分離し、上清を廃棄した。細胞ペレットを細胞培養培地(フェノールレッドなし)に再懸濁し、675,000細胞/mLの密度に希釈し、1mLアリコートを2mLマイクロ遠心管に分注した。
【0084】
遊離PAHMを細胞培養培地に溶解して初期濃度250μg/mLとし、種々の濃度に希釈した。1mLの細胞懸濁液に、0.5mLのPAHM希釈液を加えて、0~50μg/mLの最終濃度を得た。コーティングされたマイクロスフェア(直径71μmまたは100μm)およびコーティングされていないマイクロスフェアを、細胞培養培地中に懸濁して初期濃度25mg/mLとし、様々の濃度に希釈した。1mLの細胞懸濁液に、0.5mLのコーティングされたマイクロスフェア希釈液を添加して、0~5mg/mLの最終濃度(0~50μg/mLのマイクロスフェアコーティングPAHMに相当)を得た。
【0085】
15分間インキュベーションした後、Shao,Q.他の「Physical and Chemical Enhancement of and Adaptive Resistance to Irreversible Electroporation of Pancreatic Cancer.(膵癌の不可逆的エレクトロポレーションの物理的および化学的増強および適応抵抗性。)」、Ann.Biomed.Eng.、46、25-36(2018)に記載されているように、細胞をIREで処理した。簡単に述べると、400μLの調製した細胞懸濁液を、2つのアルミニウムプレート電極(4mm離れている)の間のエレクトロポレーションキュベット(BTX45-0126、ハーバード・アパレイタス、マサチューセッツ州Holliston)にピペットで注入した。キュベットを、150、225、300、375または450V(375、562.5、750、937.5または1125V/cmの電界強度に対応)で50個の電気パルス(パルス持続時間100μs、周波数1Hz)を送達する電気パルス発生器(BTX ECM 矩形波エレクトロポレーションシステム、BTXモデルNo.830、ハーバード・アパレイタス、米国マサチューセッツ州Holliston)によって生成された外部電界内に配置した。
【0086】
曝露時間が15分間のサンプルについて、400μLの処理した細胞懸濁液をマイクロ遠心管に移し、遠心分離し、上清を廃棄した。PAHMを1mLのダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)で細胞から洗い流した(2回)。細胞ペレットを1mLの細胞培養培地に再懸濁し、12ウェルプレート(180,000細胞/ウェル)にプレーティングした。曝露時間が4時間および24時間のサンプルについて、400μLの処理した細胞懸濁液を12ウェルプレート(180,000細胞/ウェル)にプレーティングし、600μLの遊離PAHMまたはコーティングされたマイクロスフェア希釈液を添加して、適切なPAHM用量を維持した。5%COの37℃の加湿環境において4時間または24時間インキュベーションした後、細胞を1mLのDPBSで洗浄し(2回)、1mLの新鮮な細胞培養培地を与えた。
【0087】
細胞生存率は、MTT(3-(4,5-ジメチル-チアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)アッセイ(Mosmann,T.、「Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival:Application to proliferation and cytotoxicity assays.(細胞増殖と生存のための迅速比色アッセイ:増殖と細胞毒性アッセイへの応用)」、J.Immunol.Methods、65、55-63(1983))を用いて評価した。各ウェルに、100μLのMTT溶液(DPBS中5mg/mL)を添加した。5%COを含む37℃の加湿環境で4時間インキュベーションした後、850μLの培地を各ウェルから除去した。ホルマザン結晶を1mLのDMSO(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)に溶解し、Bio Tek Cytation(商標)3細胞イメージングマルチモードリーダー(Cell Imaging Multi-Mode Reader)(バイオテック・インスツルメンツ(BioTek Instruments)、バーモンド州Winooski)を用いて540nmで吸光度を測定した。細胞生存率は、未処理細胞の吸光度によって正規化することによって決定した(同じ曝露時間を用いて)。
【0088】
IREまたはPAHMへの曝露後のAsPC-1細胞の生存率を図4A~4Bに示す。より高い電界強度はIRE単独後の細胞生存率を低下させたが、細胞生存率の低下は比較的緩やかであった(図4A)。750V/cm以下に曝露した細胞では、70%以上の細胞が生存していた。最も高い電界強度(1125V/cm)でも、15分、4時間および24時間の時点で細胞の46%、50%および68%を死滅させた。これとは異なり、PAHMのみは、はるかに著しい細胞死滅効果を示した(図4B)。25μg/mL以上の用量でのPAHMで処理した細胞では、15分、4時間および24時間連続してPAHMに曝露した場合、45%、90%、85%を超える細胞が死滅した。40μg/mLまたは50μg/mLのPAHMで24時間処理すると、細胞の100%が死滅した。
【0089】
IRE処理後、4または24時間細胞をインキュベートしても細胞生存率に影響を及ぼさないように思われることから、IREの細胞死滅効果は時間依存性がほとんどないことがわかった(図4A)。1125V/cmに曝露した場合にのみ、細胞を24時間インキュベートすると、細胞生存率が低下した。IREとは異なり、PAHMによる細胞死は曝露時間に依存した。興味深いことに、細胞をPAHMで4時間処理すると、細胞を24時間処理するよりも細胞生存率が低下するようである。PAHM用量≦20μg/mLでは、4時間の曝露時間で細胞生存率の有意な低下が認められたが、細胞は24時間後に何らかの回復を示した。PAHMの用量が25μg/mL以上では、4時間および24時間の曝露時間で細胞生存率に統計的有意差が認められなかったため、この回復は認められなかった。
【0090】
IREによる細胞死滅効果を増強するPAHMの能力を評価するために、2つの電界強度を3つのPAHM用量と組み合わせた(図5A~5C)。全ての曝露時間に対して、PAHMとIREの併用は有意に多くの細胞死をもたらした。細胞をPAHMで15分間のみ処理した場合、562.5V/cmに曝露された細胞の生存率は、5μg/mL、15μg/mLおよび25μg/mLのPAHMで95%から64%、48%および33%に低下した(図5A)。PAHMへの4時間の曝露では、562.5V/cmに曝露された細胞の生存率は、5μg/mL、15μg/mL、および25μg/mLのPAHMで86%から37%、10%、および2%に低下した(図5B)。PAHM単独処理と同様に、IREおよびPAHMで24時間処理した細胞では、ある程度の細胞生存率の回復がみられる;しかしながら、562.5V/cmに曝露された細胞の生存率は、5μg/mL、15μg/mLおよび25μg/mLのPAHMでは91%から72%、17%および3%に低下した(図5C)。
【0091】
IREの有効性を増強するPAHMの能力を調べるために、IREとPAHMの各併用に対する併用指数(CI)と用量減少指数(DRI)を、CompuSynソフトウェアプログラム(コンボシン社、ニュージャージー州Paramus)を用いたChou-Talalay法によって算出した。CIは、図5DのIREおよび遊離PAHMの特定の組み合わせによって阻害される細胞増殖の画分である、画分影響(fractional affect)(Fa)に対してプロットされる。15分間のPAHM曝露では、大部分のCIが1.12より大きいため、IREと遊離PAHMの併用はわずかに拮抗的であると思われる。より長いPAHM曝露では、CIはFaが高くなると低下する傾向があった。4時間のPAHM曝露では、3つの最高Faとの組み合わせは相乗的であると思われる。24時間のPAHM暴露では、低Faとの併用は軽度から中等度の拮抗作用を示した;しかしながら、より高いFaとの組み合わせは、ほとんど相加的であるか、または中程度の相乗効果を示す。IRE電界強度およびPAHM用量(dose)のDRIを図5Eおよび図5Fに示す。IREのDRIは全ての3つの曝露時間でFaと共に増加する傾向があり、全てのDRIは1より大きい。このことは、PAHMとのいかなる組合せに対しても、より低い電界強度はより高い電界強度単独と同等の割合の細胞を死滅させることができることを示している。PAHMのDRIは、1つを除く全ての組み合わせで1より大きく、PAHMの用量も組み合わせて使用すると低下できることを示す。15分および24時間の暴露では、DRIはFaとともに低下する傾向がある;しかしながら、DRIはPAHMへの4時間の曝露でFaと共に増加する傾向があった。
【0092】
10μg/mg(μgPAHM/mgPMMA)でコーティングされたマイクロスフェア(直径71μmまたは100μm)への曝露後のAsPC-1細胞の生存率を図6A~6Bに示す。PMMAマイクロスフェア単独(コーティングなし)は毒性をほとんどまたは全く示さないので(図7)、全ての細胞死滅はコーティングされたマイクロスフェアから放出されたPAHMに起因する。遊離PAHMと同様に、71μmのコーティングされたマイクロスフェアから放出されたPAHMへの曝露時間は、細胞生存率に有意な影響を示した(図6A)。最高用量(50μg/mLのマイクロスフェアコーティングPAHM)でさえ細胞の47%しか死滅させなかったように、71μmのコーティングされたマイクロスフェアへの15分の曝露後に、中程度の細胞死滅のみが生じた。71μmのコーティングされたマイクロスフェアへの4時間曝露は細胞生存率を大きく低下させた。20μg/mL以上のマイクロスフェアコーティングPAHMでは、生存細胞は13%未満であった。細胞は71μmコーティングマイクロスフェアに24時間曝露後、15分曝露後に見られる生存性と同様に生存性の多くを回復した。50μg/mLのマイクロスフェアコーティングPAHM(microsphere-coated PAHM)でのみ、24時間の曝露では15分の曝露よりも統計的に有意に多くの細胞が死滅した。同様の結果は、100μmのコーティングされたマイクロスフェアで15分または24時間処理された細胞についても見られた;しかしながら、4時間の曝露では、細胞毒性はほとんど認められなかった(図6B)。50μg/mLのマイクロスフェアコーティングPAHMでも、19%の細胞生存率が100μmのコーティングされたマイクロスフェアへの4時間の曝露後に残った。25μg/mL以上のマイクロスフェアコーティングPAHMについてのみ、より長い曝露時間が15分曝露よりも有意に低い細胞生存率をもたらした。
【0093】
実施例8:コーティングされたマイクロスフェアから放出されたPAHMと併用したIREの細胞毒性
PAHMのより遅い放出および4時間と24時間の曝露時間の間の細胞生存率のはるかに小さな差のため、100μmのコーティングされたマイクロスフェアを選択して、コーティングされたマイクロスフェアから放出されたPAHMのIREを増強する能力を調べた(図8A~8F)。放出されたPAHMは15分後、特に4時間後にIREの細胞死滅効果を増強した;しかしながら、24時間の曝露時間は、細胞生存率を有意には低下しなかった。15分間の曝露では、コーティングされたマイクロスフェアを添加した場合、912.5V/cmに曝露された細胞の生存率は95%から40~54%に低下した;しかしながら、3つのマイクロスフェア用量間には統計的有意差はなかった(図8A)。562.5V/cmに曝露された細胞の生存率が5μg/mL、15μg/mL、および25μg/mLのマイクロスフェアコーティングPAHMで86%から65%、56%、および19%に減少したことから(図8B)、100μmのコーティングされたマイクロスフェアへの4時間の曝露で最も実質的なIRE増強が見られた。この増強は24時間曝露後にはほとんど消失した。IRE単独と比較した場合、細胞生存率を有意に低下させる唯一の組み合わせは、562.5V/cmの電界強度と25μg/mLのマイクロスフェアコーティングPAHMであった(図8C)。この減少もIRE単独の91%から併用の75%へと比較的緩やかであった。
【0094】
IREおよびコーティングPMMAマイクロスフェアの組み合わせに対するCIとDRIも計算した。図8DのCIによって示されるように、コーティングされたマイクロスフェアから放出されたPAHMへの15分間の曝露とIREとの組み合わせは、低Faでは強く拮抗的であるが、中間Faでは相乗的になる。4時間暴露では、ほとんどのCIは0.9~1.1の範囲内(またはそれに近い)であり、ほぼ相加的な影響を示している。全ての24時間曝露時間の組み合わせは、1.1以上のCIを示した。低Faではこの組合せは強い拮抗作用を示したが、Faと共に拮抗作用は減少した。IRE電界強度およびマイクロスフェアコーティングPAHM用量のDRIを図11Eおよび図11Fに示す。IREのDRIは3つの曝露時間の全てでFaと共に増加する傾向があり、Fa>0.1ではIREのDRIは全て1より大きい。マイクロスフェアコーティングPAHMのDRIは、15分と24時間の曝露時間についてはFaと共に増加する傾向があったが、4時間の曝露時間についてはFaと共に低下した。Fa>0.2の場合、マイクロスフェアコーティングPAHMのDRIは1より大きい。
図1
図2
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図6
図7
図8
【国際調査報告】