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特表2023-518443インターロイキン2変異体およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-01
(54)【発明の名称】インターロイキン2変異体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230424BHJP
   C07K 14/55 20060101ALI20230424BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230424BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230424BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230424BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230424BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230424BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230424BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20230424BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230424BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230424BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230424BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20230424BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230424BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/55 ZNA
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N5/10
C12P21/02 K
C12P21/08
A61K38/20
A61P37/04
A61P35/00
A61K47/68
A61K39/395 L
A61K39/395 N
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/22
C07K16/18
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556175
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-24
(86)【国際出願番号】 CN2021081841
(87)【国際公開番号】W WO2021185362
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】202010196689.5
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519274183
【氏名又は名称】イノベント バイオロジクス(スーチョウ)カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】フー フォンケン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ショアイシアン
(72)【発明者】
【氏名】ウー ウェイウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ホー カイチエ
(72)【発明者】
【氏名】リウ チュンチエン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG05
4B064AG27
4B064CA06
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA12
4C076AA94
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC41
4C076DD26Z
4C076DD60Z
4C076EE59
4C076FF63
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA44
4C084DA14
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB09
4C084ZB26
4C085AA14
4C085AA15
4C085AA21
4C085BB01
4C085BB36
4C085BB41
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA04
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、新規インターロイキン2(IL-2)変異タンパク質に関する。本発明は、当該IL-2変異タンパク質を含む融合タンパク質、免疫複合体、および当該IL-2変異タンパク質をコードする核酸、当該核酸を含むベクターおよび宿主細胞をさらに提供する。本発明は、当該IL-2変異タンパク質を調製する方法、当該IL-2変異タンパク質を含む医薬組成物、および当該変異タンパク質の治療的使用をさらに提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-2変異タンパク質であって、
前記変異タンパク質は、野生型IL-2(好ましくはヒトIL-2で、より好ましくは配列番号1の配列を含むIL-2)と比較して、以下の変異を含む:
(i)IL-2のCD25との結合界面に、特に位置35、37、38、41、42、43、45、61、68および72から選択される少なくとも1つの位置に、IL-2Rα受容体への結合親和性を排除または低減する変異を有し、好ましくは、K35D/E、T37D/E、R38Y/W/E/D、T41E、F42N/Q/V/L/I/A、K43D/E/F/Y、Y45R/K、E61R/K、E68R/K、およびL72Y/Fの1つまたはその任意の組み合わせから選択され、より好ましくは、K35D/E、T37D/E、R38W/E/D、T41E、F42Q/A、K43E/Y、Y45K、E61K、E68R、およびL72Fの1つまたはその任意の組み合わせから選択される、前記変異、および
(ii)短縮されたB’C’ループ領域(即ち、アミノ酸残基aa72とaa84を連結する配列)、好ましくは、10、9、8、7、6、または5未満のアミノ酸長を有し、且つ好ましくは7アミノ酸長を有し、好ましくは、前記短縮されたB’C’ループ領域はタンパク質の発現量および/または純度および/またはIL-2Rβ受容体への結合親和性の改善をもたらす、前記短縮されたループ領域、
ここで、前記アミノ酸の位置は配列番号1に従って番号付けされる、前記IL-2変異タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載の変異タンパク質であって、
前記変異(i)は、以下の組み合わせ(1)~(9)から選択される変異の組み合わせであり、特に組み合わせ(1)~(6)から選択される変異の組み合わせであり、
【表1】
好ましくは、前記変異(i)は、以下の組み合わせ(1)~(9)から選択される変異の組み合わせであり、特に組み合わせ(1)~(6)から選択される変異の組み合わせである、
請求項1に記載の変異タンパク質。
【表2】
【請求項3】
変異の組み合わせK35E+T37E+R38E+F42Aを含む、請求項1に記載の変異タンパク質。
【請求項4】
前記変異(ii)は、
(a)B’C’ループ領域のaa74~aa83に対する置換、例えば、IL15のB’C’ループ配列など、4ヘリックス短鎖サイトカインのILファミリーのメンバーからの短いB’C’ループ配列による置換、好ましくは配列GDASIHによる置換、または
(b)B’C’ループ領域のaa74~aa83に対する切断、例えばC末端からの1、2、3または4個のアミノ酸の切断、好ましくは配列(Q/G)S(K/A/D)N(F/I)Hを形成するための切断、より好ましくは以下から選択される配列を形成するための切断、を含む、
請求項1に記載の変異タンパク質。
【表3】
【請求項5】
野生型IL-2と比較して、
(i)変異の組み合わせK35E+T37E+R38E+F42A、および
(ii)以下から選択されるB’C’ループ領域配列:
-AQSKNFH、
-AQSANFH、
-AQSDNFH、
-SGDASIH、および
-AGDASIH、
場合により、(iii)変異T3A、を含む、
請求項1に記載の変異タンパク質。
【請求項6】
野生型IL-2と比較して、保存的アミノ酸残基変異など、0~5個以下のアミノ酸変異をさらに含む、請求項1~5に記載の変異タンパク質。
【請求項7】
-配列番号22-26から選択され、好ましくは配列番号23と26から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、または98%の同一性を有するアミノ酸配列、
-配列番号22-26から選択され、好ましくは配列番号23または26から選択されるアミノ酸配列、を含む、
請求項1~6に記載の変異タンパク質。
【請求項8】
野生型IL-2と比較して、前記変異タンパク質は、以下から選択される少なくとも1項、2項または3項すべての特性を有する:
-低減または排除されたIL-2Rα結合、
-増強されたIL-2Rβ結合、および
-哺乳動物細胞(例えば、293細胞またはCHO細胞)で発現される場合、例えばFc融合タンパク質の形態で発現される場合における改善された発現量および/またはより高い純度に精製されやすいこと(例えば、ワンステップアフィニティークロマトグラフィー後、SEC-HPLC検出により、より高い純度を有する)、
請求項1~7に記載の変異タンパク質。
【請求項9】
請求項1~8に記載の変異タンパク質であって、
野生型IL-2と比較して、以下の特性の1項または複数項を有する:
-低減された高親和性IL-2R受容体(IL-2Rαβγ)への結合親和性を有すること、
-増加された中程度の親和性IL-2R受容体(IL-2Rβγ)への結合親和性を有すること、
-CD25+細胞(例えばCD8+T細胞とTreg細胞)に対する活性化の低下、
-CD25+細胞(例えばCD8+T細胞)におけるIL-2媒介性シグナル伝達に対する刺激作用の低減、
-CD25+細胞(例えばTreg細胞)を優先的に活性化するIL-2の偏向性の除去または低減、
-IL-2誘導性Treg細胞による免疫応答のダウンレギュレート作用の低減、
-CD25-細胞(例えば、CD25-CD8+T細胞)の活性化作用の維持または増強、および
-増加されたCD25-エフェクターT細胞とNK細胞の増殖と活性化をもたらすこと、
場合により、さらに、前記変異タンパク質は、以下の1項または複数項の特性を有する:
-結腸がんに対する抗腫瘍効果など、インビボ抗腫瘍効果、
-例えば、投与後の被験者の体重変化により反映されるように、インビボ投与で有意な毒性がないこと(例えば投与前と比較して、体重の15%以下または10%以下または5%以下の減少であり、例えば投与20日後)、および
-保存安定性を有すること、例えば40℃でpH7.4のPBS緩衝液に14日間保存した後、SEC-HPLCにより検出されたタンパク質純度の降下は2%もしくは1%以下、またはCE-SDSにより検出されたタンパク質の純度の降下は3%もしくは2%以下である、
請求項1~8に記載の変異タンパク質。
【請求項10】
IL-2変異タンパク質融合タンパク質であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載のIL2変異タンパク質を含み、好ましくはFc抗体断片と融合され、好ましくはIL-2変異タンパク質はリンカーを介してFcと融合され、前記リンカーは好ましくはGSGS、より好ましくは2x(G4S)であり、ここで、好ましくはFcはヒトIgG1 Fcであり、好ましくはFcは、FcとFcγRとの結合を低減または排除する変異、例えばL234A+L235Aを含み、
好ましくは、前記融合タンパク質は、配列番号15-19から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも96%または100%の同一性を有する、
IL-2変異タンパク質融合タンパク質。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載のIL2変異タンパク質と抗原結合分子とを含み、好ましくは、前記抗原結合分子は、免疫グロブリン分子、特にIgG分子、または抗体もしくは抗体断片、特にFab分子およびscFv分子である、免疫複合体。
【請求項12】
前記抗原結合分子は、腫瘍細胞上または腫瘍環境中に存在する抗原、例えば、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、テネイシンCのA1ドメイン(TNC A1)、テネイシンCのA2ドメイン(TNC A2)、フィブロネクチンの外部ドメインB(Extra Domain B、EDB)、がん胎児抗原(CEA)、および黒色腫関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)から選択される抗原に特異的に結合する、請求項11に記載の免疫複合体。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載のIL-2変異タンパク質、請求項10に記載の融合体、または請求項11もしくは12に記載の免疫複合体をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項15】
請求項13に記載のポリヌクレオチドまたは請求項14に記載のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、哺乳動物細胞であり、特にHEK293細胞またはCHO細胞、または酵母である、前記宿主細胞。
【請求項16】
前記IL-2変異タンパク質または融合体または免疫複合体の発現に適した条件下で、請求項15に記載の宿主細胞を培養するステップを含む、IL-2変異タンパク質またはその融合体または免疫複合体を製造する方法。
【請求項17】
請求項1~9のいずれか一項に記載のIL-2変異タンパク質または請求項10に記載の融合体または請求項11もしくは12に記載の免疫複合体および薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物であって、好ましくは、前記組成物はリン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液を含み、好ましくは、前記組成物はpH6.0~7.6を有する、前記医薬組成物。
【請求項18】
請求項1~9のいずれか一項に記載のIL-2変異タンパク質または請求項10に記載の融合体または請求項11もしくは12に記載の免疫複合体または請求項17に記載の医薬組成物を前記被験者に投与するステップを含む被験者の疾患を治療する方法であって、好ましくは、前記疾患はがんである、被験者の疾患を治療する方法。
【請求項19】
有效量の請求項1~9のいずれか一項に記載のIL-2変異タンパク質または請求項10に記載の融合体または請求項11もしくは12に記載の免疫複合体を含む医薬組成物を前記被験者に投与するステップを含む、被験者の免疫系を刺激する方法。
【請求項20】
IL-2変異タンパク質を得るための方法であって、
-IL-2のIL-2Raとの結合界面に変異により1つまたは複数の変異を導入し、IL-2のB’C’ループ領域で変異により当該ループ領域配列を短縮させるステップ、
好ましくは、請求項2に記載の変異の組み合わせおよび/または請求項4に記載のB’C’ループ配列変異を導入するステップ、
-哺乳動物細胞(例えばHEK293またはCHO細胞)において、前記IL-2変異タンパク質を、例えばFc融合体(例えばFcLALA融合体)の形態で発現するステップ、
-(i)発現量および/または精製後のタンパク質の純度(例えば、SEC-HPLC検出による、ワンステップアフィニティークロマトグラフィー後の純度)、(ii)低減されたIL2Rα結合、(iii)増強されたIL2Rβ結合の1項または複数項の改善された特性を有する変異タンパク質を同定するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項21】
IL-2タンパク質B’C’ループ領域の改造方法であって、
(a)B’C’ループ領域のaa74~aa83に対する置換、例えば、IL15のB’C’ループ配列など、4ヘリックス短鎖サイトカインのILファミリーのメンバーからの短いB’C’ループ配列による置換、好ましくは配列GDASIHによる置換、または
(b)B’C’ループ領域のaa73~aa83に対する置換、例えば、IL15のB’C’ループ配列など、4ヘリックス短鎖サイトカインのILファミリーのメンバーからの短いB’C’ループ配列による置換、好ましくは配列AGDASIHによる置換、または
(c)B’C’ループ領域のaa74~aa83に対する切断、例えばC末端からの1、2、3または4個のアミノ酸の切断、好ましくは配列(Q/G)S(K/A/D)N(F/I)Hを形成するための切断、より好ましくは以下から選択される配列を形成するための切断、を含む、
方法。
【表4】
【請求項22】
請求項21に記載の方法によって改造して得られる、IL-2タンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規インターロイキン2(IL-2)変異タンパク質およびその使用に関する。具体的には、本発明は、野生型IL-2と比較して、改善された特性、例えば、改善された創薬可能性、低下したIL-2Rα受容体結合能力、および/または増加したIL-2Rβ受容体結合能力を有するIL-2変異タンパク質に関する。本発明は、当該IL-2変異タンパク質を含む融合タンパク質、免疫複合体、および当該IL-2変異タンパク質をコードする核酸、当該核酸を含むベクターおよび宿主細胞をさらに提供する。本発明は、当該IL-2変異タンパク質を調製およびスクリーニングする方法、当該IL-2変異タンパク質を含む医薬組成物、および当該変異タンパク質の治療的使用をさらに提供する。
【背景技術】
【0002】
T細胞成長因子(TCGF)とも呼ばれるインターロイキン-2(IL-2)は、主に活性化T細胞、特にCD4+Tヘルパー細胞によって産生される多能性サイトカインである。真核細胞において、ヒトIL-2(uniprot:P60568)は153個のアミノ酸の前駆体ポリペプチドとして合成され、N末端の20個のアミノ酸を除去した後、成熟した分泌性IL-2を産生する。他の種のIL-2の配列も開示されており、NCBI Ref Seq No.NP032392(マウス)、NP446288(ラット)またはNP517425(チンパンジー)を参照されたい。
【0003】
インターロイキン2は、その機能に不可欠な4次構造を形成する4つの逆平行両親媒性αヘリックスを有する(Smith,Science 240,1169-76(1988);Bazan,Science257,410-413(1992))。ほとんどの場合、IL-2は、インターロイキン2受容体α(IL-2Rα;CD25)、インターロイキン2受容体β(IL-2Rβ;CD122)、およびインターロイキン2受容体γ(IL-2Rγ;CD132)の3つの異なる受容体を介して作用する。IL-2RβおよびIL-2RγはIL-2のシグナル伝達に非常に重要であるが、IL-2Rα(CD25)はシグナル伝達に必須ではないが、IL-2の受容体への高親和性結合を与えることができる(Krieg et al.,Proc Natl Acad Sci 107,11906-11(2010))。IL-2Rα、β、γを組み合わせて形成される三量体受容体(IL-2αβγ)はIL-2高親和性受容体(KDが約10pM)であり、βとγからなる二量体受容体(IL-2βγ)は中間親和性受容体(KDが約1nM)であり、αサブユニットのみから形成されるIL-2受容体は、低親和性受容体である。
【0004】
免疫細胞は二量体または三量体IL-2受容体を発現する。二量体受容体は細胞傷害性CD8+T細胞とナチュラルキラー(NK)細胞で発現され、三量体受容体は主に活性化リンパ球とCD4+CD25+FoxP3+抑制性制御性T細胞(Treg)で発現される(Byman,O.およびSprent.J.Nat.Rev.Immunol.12,180-190(2012))。静止状態のエフェクターT細胞およびNK細胞は、細胞表面上にCD25を持たないので、IL-2に対して比較的非感受性である。一方、Treg細胞は一貫してインビボで最高レベルのCD25を発現しているため、通常IL-2はTreg細胞の増殖を優先的に刺激する。
【0005】
IL-2は、異なる細胞上のIL-2受容体との結合を介して、免疫応答において多重作用を媒介する。一方では、IL-2は免疫系刺激剤として、T細胞の増殖と分化を刺激し、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の生成を誘導し、B細胞の増殖と分化および免疫グロブリンの合成を促進するとともに、ナチュラルキラー(NK)細胞の生産、増殖、活性化を刺激することができるため、免疫治療剤としてがんや慢性ウイルス感染の治療に使用されることが承認されている。他方では、IL-2は、免疫抑制性CD4+CD25+制御性T細胞(即ち、Treg細胞)の維持を促進する(Fontenot et al.,Nature Immunol 6,1142-51(2005);D’CruzおよびKlein,Nature Immunol 6,1152-59(2005);MaloyおよびPowrie,Nature Immunol 6,1171-72(2005))とともに、活性化誘導細胞死(AICD)を媒介し、自己抗原および腫瘍抗原に対する免疫寛容の確立および維持に関与することができ(Lenardo et al.,Nature 353:858(1991))、それにより、患者においてAICDによる腫瘍耐性および活性化Treg細胞による免疫抑制を引き起こす。なお、高用量IL-2は、患者において血管漏出症候群(VLS)を引き起こす可能性がある。IL-2は、肺内皮細胞上のIL-2三量体受容体(IL-2αβγ)に直接結合することによって肺水腫を誘導することが証明されている(Krieg et al.,Proc Nat Acad Sci USA107,11906-11(2010))。
【0006】
IL-2免疫療法に関連する上記問題を克服するために、IL-2の異なる受容体に対する選択性または選好性を変化させることにより、IL-2療法の毒性を低下させ、および/またはその有効性を向上させることが提案されている。例えば、モノクローナル抗体とIL-2との複合物を用いて、IL-2をCD25ではなくCD122を発現する細胞に標的化することにより、CD122high集団に対する優先的増幅を誘導し、インビボIL-2治療効果を増強することが提案されている(Boyman et al.,Science 311,1924-1927(2006))。Oliver AST et al.(US2018/0142037)は、IL-2Rα受容体に対する親和性を低下させるために、IL-2のアミノ酸残基位置42、45および72に三重変異F42A/Y45A/L72Gを導入することを提案している。Aron M.Levin et al.(Nature,Vol 484,p529-533,DOI:10.1038/nature10975)は、「superkine」と呼ばれるIL-2変異体IL-2H9を提案し、当該変異体は、五重変異L80F/R81D/L85V/I86V/I92Fを含み、増強されたIL-2Rβ結合を有するため、CD25-細胞への刺激作用を高めるが、CD25への高い結合性が保持される。Rodrigo Vazquez-Lombardi et al.(Nature Communications,8:15373,DOI:10.1038/ncomms15373)は、三重変異ヒトIL-2変異タンパク質IL-23Xを提案し、当該タンパク質がアミノ酸残基位置38、43および61にそれぞれ残基変異R38D-K43E-E61Rを有するため、当該変異タンパク質はIL-2Rαに結合しないが、当該変異タンパク質はCD25-細胞を活性化する効果が弱く、CD25+細胞に対する活性化の偏向性が依然として存在する。なお、Rodrigo Vazquez-Lombardi et al.は、インターロイキン2-Fc融合体を調製することにより、インターロイキンの薬力学的特性を改善することも提案しているが、当該融合タンパク質の発現量が低く、且つ凝集体を形成しやすい。
【0007】
免疫調節および疾患におけるIL-2の役割を鑑み、改善された特性を有する新規IL-2分子、特に生産、精製に役立つことを示し、改善された薬力学的特性を有するIL-2分子を開発する必要性が本分野において依然として存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、野生型IL-2と比較して改善された創薬可能性および/または改善されたIL-2受容体選択性/偏向性を有する新規IL-2変異タンパク質を提供することにより、上記の要件を満たす。
【0009】
したがって、一態様において、本発明は、新規IL-2変異タンパク質を提供する。いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、以下の1つまたは複数の特性を有し、好ましくは少なくとも性質(i)および(ii)を有する:
(i)改善された創薬可能性、特に哺乳動物細胞で発現される場合における改善された発現量および/または精製性能、
(ii)IL-2Rαとの結合の低減または排除、
(iii)IL-2Rβとの結合の増強。
【0010】
いくつかの実施形態において、本発明は、IL-2のIL-2Rαとの結合界面で変異を含み、且つ短縮されたB’C’ループ配列を有するIL-2変異タンパク質を提供する。
【0011】
なお、本発明は、IL-2変異タンパク質を含む融合タンパク質および免疫複合体、医薬組成物および組み合わせ製品、IL-2変異タンパク質をコードする核酸、前記核酸を含むベクターおよび宿主細胞、ならびに本発明のIL-変異タンパク質、融合タンパク質および免疫複合体を産生する方法を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、本発明のIL-2変異タンパク質、融合体および免疫複合体を用いて疾患を治療する方法、ならびに被験者の免疫系を刺激する方法および使用も提供する。
【0013】
以下、図面および具体的な実施形態を参照して本発明をさらに説明する。しかし、これらの図面および具体的な実施形態は、本発明の範囲を限定するものと考えられるべきではなく、当業者が容易に思いつく変更は、本発明の精神および添付される特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】IL-2とIL-2Rαの複合物の結晶構造(PDB:1Z92)を示す。
図2A】IL-2結晶構造(PBD:2ERJ)(A)、ヒトIL-2およびヒトIL-15のB’C’loop構造superpose(B)を示す。
図2B】IL-2結晶構造(PBD:2ERJ)(A)、ヒトIL-2およびヒトIL-15のB’C’loop構造superpose(B)を示す。
図3】変異ライブラリーIBYDL029構築のためのプライマーを示す。
図4】変異ライブラリーIBYDL029からスクリーニングされたIL-2変異タンパク質およびその配列を示す。
図5A】選択および構築されたIL-2mutant-FC融合タンパク質がCD8+CD25-T細胞(A)とCD8+CD25+T細胞(B)でp-STAT5を活性化するシグナル曲線を示す。
図5B】選択および構築されたIL-2mutant-FC融合タンパク質がCD8+CD25-T細胞(A)とCD8+CD25+T細胞(B)でp-STAT5を活性化するシグナル曲線を示す。
図6A】IL-2mutant-FC融合タンパク質Y092のインビボ抗腫瘍効果(A)および投与後にモニタリングされた動物の体重変化(BとC)を示す。
図6B】IL-2mutant-FC融合タンパク質Y092のインビボ抗腫瘍効果(A)および投与後にモニタリングされた動物の体重変化(BとC)を示す。
図6C】IL-2mutant-FC融合タンパク質Y092のインビボ抗腫瘍効果(A)および投与後にモニタリングされた動物の体重変化(BとC)を示す。
図7A】IL-2mutant-FC融合タンパク質Y144のインビボ抗腫瘍効果(A)および投与後にモニタリングされた動物の体重変化(BとC)を示す。
図7B】IL-2mutant-FC融合タンパク質Y144のインビボ抗腫瘍効果(A)および投与後にモニタリングされた動物の体重変化(BとC)を示す。
図7C】IL-2mutant-FC融合タンパク質Y144のインビボ抗腫瘍効果(A)および投与後にモニタリングされた動物の体重変化(BとC)を示す。
図8】野生型IL-2タンパク質IL-2WT(配列番号1)のアミノ酸配列およびそのアミノ酸残基番号付けを示し、且つ変異タンパク質IL-23Xとの配列アラインメントを示す。
図9】酵母ディスプレイプラスミドpYDC011の全配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
別に定義しない限り、本明細書に用いられる全ての技術と科学用語はいずれも、当業者に通常に理解されている意味と同じ意味を有する。本発明の目的のために、以下、下記用語を定義する。
【0016】
「約」という用語は、数字または数値とともに使用される場合、下限として指定された数字または数値より5%小さく、上限として指定された数字または数値より5%大きい範囲内の数字または数値をカバーすることを意味する。
【0017】
「および/または」という用語は選択可能オプションのうちのいずれか1項または選択可能オプションのいずれか2項または複数項の組み合わせを指すと理解すべきである。
【0018】
本明細書で使用されるように、「包含する」または「含む」という用語は、記載される要素、整数またはステップを含むが、任意の他の要素、整数またはステップを排除しないことを意味する。本明細書において、「包含する」または「含む」という用語を用いる場合、特記しない限り、言及される要素、整数またはステップからなる場合も含まれる。例えば、ある変異または変異の組み合わせを「包含する」または「含む」IL-2変異タンパク質に言及する場合、前記変異または変異の組み合わせのみを有するIL-2変異タンパク質を包含することも意図される。
【0019】
本明細書において、野生型「インターロイキン-2」または「IL-2」とは、本発明の変異または変異の組み合わせを導入するテンプレートとしての親IL-2タンパク質、好ましくは天然に存在するIL-2タンパク質、例えば、未処理(例えば、シグナルペプチドが除されていない)の形態および処理済み(例えば、シグナルペプチドが除去された)の形態を含む、ヒト、マウス、ラット、非ヒト霊長類由来の天然IL-2タンパク質を指す。シグナルペプチドを含む全長の天然ヒトIL-2配列は配列番号2に示され、その成熟タンパク質の配列は配列番号3に示される。なお、この表現には、天然に存在するIL-2対立遺伝子変異体およびスプライス変異体、アイソタイプ、相同体、および種相同体も含まれる。この表現には、天然IL-2の変異体も含まれ、例えば、前記変異体は、天然IL-2と少なくとも95%~99%もしくはそれ以上の同一性を有してもよく、または1~10個以下もしくは1~5個以下のアミノ酸変異(特に保存的アミノ酸置換)を有してもよく、且つ好ましくは、天然IL-2タンパク質と実質的に同一のIL-2Rα結合親和性および/またはIL2Rβ結合親和性を有する。したがって、いくつかの実施形態において、野生型IL-2は、天然IL-2タンパク質と比較して、IL-2受容体へのその結合に影響を及ぼさないアミノ酸変異を含んでもよく、例えば、変異C125Sを125位に導入した天然ヒトIL-2タンパク質(uniprot:P60568)は、本発明の野生型IL-2に属する。C125S変異を含む野生型ヒトIL-2タンパク質の1つの実例は配列番号1に示される。いくつかの実施形態において、野生型IL-2配列は、配列番号1または配列番号2または配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも85%、95%、さらには少なくとも96%、97%、98%、または99%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有する。
【0020】
本明細書において、アミノ酸変異は、アミノ酸置換、欠失、挿入および付加であってもよい。置換、欠失、挿入および付加の任意の組み合わせを行うことで、所望の特性(例えば、低減されたIL-2Rα結合親和性および/または改善された創薬可能性)を有する最終的な変異タンパク質構築物を得ることができる。アミノ酸の欠失および挿入は、ポリペプチド配列のアミノ基および/またはカルボキシ基末端での欠失および挿入を含むとともに、ポリペプチド配列内での欠失および挿入も含む。例えば、全長ヒトIL-2位置1でアラニン残基を欠失するか、またはB’C’ループ領域で1つまたは複数のアミノ酸を欠失することで、当該ループ領域の長さを短縮することができる。いくつかの実施形態において、好ましいアミノ酸変異は、単一アミノ酸置換の組み合わせまたはアミノ酸配列セグメントの置換など、アミノ酸置換である。例えば、野生型IL-2のB’C’ループ領域配列の全体または一部を異なる配列で置換することができ、好ましくは、長さが短縮されたB’C’ループ領域配列を得ることができる。
【0021】
本発明において、IL-2タンパク質またはIL2配列セグメントにおけるアミノ酸位置に言及する場合、野生型ヒトIL-2タンパク質(IL-2WTとも呼ばれる)のアミノ酸配列配列番号1を参照することによって決定される(図8に示す)。配列番号1とのアミノ酸配列アラインメントによって、他のIL-2タンパク質またはポリペプチド(全長配列または切断断片を含む)上の対応するアミノ酸位置を同定することができる。したがって、本発明において、特記しない限り、IL-2タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸位置は、配列番号1に従って番号付けされるアミノ酸位置である。例えば、「F42」に言及する場合は、配列番号1の第42位のフェニルアラニン残基F、または他のIL-2ポリペプチド配列上にアラインメントされた対応する位置のアミノ酸残基を指す。アミノ酸位置決定のために実施される配列アラインメントは、https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiから得ることができるBasic Local Alignment Search Toolを使用して、デフォルトパラメータを用いて行うことができる。
【0022】
本明細書において、IL-2変異タンパク質に言及する場合、以下のように単一アミノ酸置換を説明する:[元のアミノ酸残基/位置/置換のアミノ酸残基]。例えば、グルタミン酸による位置35のリジンの置換は、K35Eと表すことができる。1つの所定の位置(例えば、K35位)に複数の選択可能なアミノ酸置換方式(例えば、D、E)があり得る場合、当該アミノ酸置換は、K35D/Eと表すことができる。対応的に、個々の単一アミノ酸置換は、プラス記号「+」または「-」によって連結されて、複数の所定の位置での組み合わせ変異を表すことができる。例えば、位置K35E、T37E、R38EおよびF42Aの組み合わせ変異は、K35E+T37E+R38E+F42A、またはK35E-T37E-R38E-F42Aと表す。
【0023】
本明細書において、「配列同一性パーセント」は、比較ウィンドウ内で2つの最適アラインメント配列を比較することによって決定することができる。好ましくは、配列同一性は、参照配列(例えば、配列番号1)の全長にわたって決定される。比較のための配列アラインメント方法は、当該分野において周知である。配列同一性パーセントを決定するのに適用されるアルゴリズムは、例えば、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムを含む(Altschul et al.,Nuc.Acids Res.25:3389-402,1977およびAltschul et al.J.Mol.Biol.215:403-10,1990を参照)。BLAST分析を実行するためのソフトウェアは、アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)から公的に入手可能である。本願の目的のため、同一性パーセントは、https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiから得ることができるBasic Local Alignment Search Toolを使用して、デフォルトパラメータを用いて決定することができる。
【0024】
本明細書で使用されるように、「保存的置換」という用語は、アミノ酸配列を含むタンパク質/ポリペプチドの生物学的機能に悪影響を及ぼさない、または変化させないアミノ酸置換を意味する。例えば、保存的置換は、部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発などの当該分野で既知の標準的な技術によって導入することができる。典型的な保存的アミノ酸置換は、1つのアミノ酸を、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する別のアミノ酸に置換することを指す。機能的に類似するアミノ酸の保存的置換表は、当該分野でよく知られているものである。本発明において、保存的置換残基は、以下の保存的置換表X、特に表Xにおける好ましい保存的アミノ酸置換残基に由来する。
【0025】
【表1】
【0026】
例えば、野生型IL-2タンパク質は、配列番号1-3の1つに対して保存的アミノ酸置換を有してもよく、または保存的アミノ酸置換のみを有してもよい。さらに例えば、本発明の変異IL-2タンパク質は、本明細書に具体的に示されるIL-2変異タンパク質配列(例えば、配列番号22-26のいずれか1つ)に対して保存的アミノ酸置換を有していてもよく、または保存的アミノ酸置換のみを有していてもよい。
【0027】
「親和性」または「結合親和性」は、結合対のメンバー間の相互作用の内部結合能力を反映するために使用することができる。分子Xのその結合パートナーYに対する親和性は、平衡解離定数(KD)によって示されてもよく、平衡解離定数は、解離速度定数と結合速度定数(それぞれkdisとkonである)との比率である。結合親和性は当該分野で既知の常用方法で測定されてもよい。親和性を測定するための1つの具体的な方法は、本明細書のForteBio親和性測定技術である。
【0028】
本明細書において、抗原結合分子は、抗原に特異的に結合し得るポリペプチド分子、例えば免疫グロブリン分子、抗体または抗体断片、例えばFab断片およびscFv断片である。
【0029】
本明細書において、抗体Fc断片とは、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC-末端領域であり、且つ天然配列Fc断片および変異体Fc断片を含むことができる。天然配列Fc断片は、様々なIgサブタイプおよびそのアロタイプのFc領域など、天然に存在する様々な免疫グロブリンFc配列を含む(Gestur Vidarsson et al,IgG subclasses and allotypes:from structure to effector functions,20 October 2014,doi:10.3389/fimmu.2014.00520.)。一実施形態において、ヒトIgG重鎖Fc断片は、重鎖のCys226から、またはPro230からカルボキシ基末端まで延びる。他の実施形態において、Fc-断片のC-末端リジン(Lys447)が存在してもよく、存在しなくてもよい。他のいくつかの実施形態において、Fc断片は変異を含む変異体Fc断片であり、例えば、L234A-L235A変異を含む。本明細書に特記しない限り、Fc断片におけるアミノ酸残基の番号付けは、EU番号付けシステムによるものであり、EUインデックスとも呼ばれる。例えば、Kabat,E.A.et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th editon,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991),NIH Publication 91-3242に記載される。
【0030】
本発明の種々の態様は、以下の各セクションにおいてさらに詳細に説明される。
【0031】
1.本発明のIL-2変異タンパク質
【0032】
本発明は、一態様において、改善された創薬可能性および/または改善されたIL-2受容体選択性/選好性を有する新規IL-2変異タンパク質を提供する。
【0033】
本発明のIL-2変異タンパク質の有利な生物学的特性
【0034】
本発明者らは、IL-2のIL-2Rα受容体との結合界面に1つまたは複数の特定の変異を導入することにより、IL-2変異タンパク質のIL-2Rαへの結合を低減または排除することができることを見出した。さらに、本発明者らは、IL-2自体のB’C’ループ配列を、IL-15などの他のインターロイキンサイトカイン由来の短いB’C’ループ配列に置換することにより、またはIL-2自体のB’C’ループ配列を切断することにより、IL-2の発現および/または純度を増加させ、および/またはIL-2Rβに対する親和性を増加させることができることも見出した。本発明者らは、前記IL-2Rα受容体との結合界面の変異と前記短縮されたB’C’ループ領域の変異とを組み合わせることにより、以下の1項または複数項から選択される改善された特性を有するIL-2変異を提供することができることをさらに見出した。(i)改善された発現および/または純度、(ii)低減または排除されたIL-2Rα受容体への結合、および/または(iii)増強されたIL-2Rβ受容体への結合。
【0035】
これにより、本発明は、上記の改善された特性(i)~(iii)の1項または複数項を有し、特に改善された特性(i)および(ii)を同時に有するIL-2変異タンパク質を提供する。
【0036】
改善された創薬可能性
【0037】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、改善された創薬可能性を有する。例えば、H293TまたはCHO細胞などの哺乳動物細胞で発現される場合、例えばFc融合タンパク質で発現される場合、以下から選択される1項または複数項の特性を有する。(i)野生型IL-2タンパク質より優れる発現量、および(ii)より高いタンパク質の純度に精製されやすいこと。いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、さらに保存安定性を有する。例えば、40℃でpH7.4のPBS緩衝液に14日間保存した後、SEC-HPLCにより検出されたタンパク質の純度の降下は5%、2%または1%以下であり、またはCE-SDSにより検出されたタンパク質の純度の降下は5%、3%または2%以下である。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して発現レベルの増加を示す。本発明のいくつかの実施形態において、発現の増加は哺乳動物細胞発現系で起こる。発現レベルは、細胞培養上清(好ましくはワンステップアフィニティークロマトグラフィー精製後の上清)中の組換えIL-2タンパク質の量を定量的または半定量的に分析することを可能にする任意の適切な方法によって測定することができる。例えば、試料中の組換えIL-2タンパク質の量は、ウェスタンブロットまたはELISAによって評価することができる。いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、哺乳動物細胞における発現量が少なくとも1.1倍、または少なくとも1.5倍、または少なくとも2倍、3倍もしくは4倍以上、または少なくとも5、6、7、8もしくは9倍、またはさらに10倍以上増加している。
【0039】
いくつかの実施形態において、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー後の精製タンパク質の純度を測定することによって示されるように、本発明のIL-2変異タンパク質-Fc融合体は、野生型IL-2タンパク質融合体と比較して、高い純度を示す。いくつかの実施形態において、タンパク質の純度は、SEC-HPLC技術によって検出される。いくつかの好ましい実施形態において、例えば、実施例2に記載されているIL-2融合タンパク質の精製方法に従って、ワンステップタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー精製後、本発明のIL-2変異タンパク質産物の純度は、70%、または80%、または90%以上、好ましくは92%、93%、94%、95%、98%もしくは99%以上に達することができる。
【0040】
改善されたIL-2受容体選択性/選好性
【0041】
IL-2タンパク質は、IL-2受容体と相互作用することによってシグナル伝達を開始し、機能を発揮する。野生型IL-2は、異なるIL-2受容体に対して異なる親和性を示す。野生型IL-2との親和性が低いIL-2βおよびγ受容体は、静止エフェクター細胞(CD8+T細胞およびNK細胞を含む)上で発現される。野生型IL-2との親和性が高いIL-2Rαは、制御性T細胞(Treg)細胞および活性化エフェクター細胞上で発現される。高い親和性のために、野生型IL-2は、細胞表面のIL-2Rαに優先的に結合し、さらにIL-2Rβγを動員し、IL-2Rβγを介して下流のp-STAT5シグナルを放出し、Treg細胞および活性化エフェクター細胞を刺激する。したがって、理論に束縛されることなく、IL-2のIL-2Rα受容体に対する親和性を低減または排除すると、CD25+細胞を優先的に活性化するIL-2の偏向性を低減し、IL-2により媒介されるTreg細胞の免疫ダウンレギュレート作用を低減する。理論に束縛されることなく、IL-2Rβ受容体に対する親和性を維持または増強すると、CD8+T細胞およびNK細胞などのエフェクター細胞に対するIL-2の活性化作用およびそれによるIL-2の免疫刺激作用を保持または増強する。
【0042】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、例えば、以下の1項または複数項から選択される改善された特性を有する:
(1)IL-2Rα受容体への結合親和性の低減または排除、
(2)IL-2Rβ受容体への結合親和性の増強、
(3)高親和性IL-2R受容体(IL-2Rαβγ)への結合親和性の低減、
(4)中程度の親和性IL-2R受容体(IL-2Rβγ)への結合親和性の増加、
(5)CD25+細胞(特に活性化されたCD8+T細胞およびTreg細胞)においてIL-2シグナル伝達を活性化する、特にSTAT5リン酸化シグナルを活性化する能力の低下、
(6)IL-2により媒介されるCD25+細胞(特に、活性化されたCD8+T細胞およびTreg細胞)の活性化および増殖の減少をもたらすこと、
(7)Treg細胞の増殖を優先的に刺激するIL-2の偏向の低減または排除、
(8)IL-2誘導下でのTreg細胞の免疫ダウンレギュレート作用の低減、
(9)CD25-細胞(特にCD25-Tエフェクター細胞およびNK細胞)に対する活性化作用の保持または増強、特に増強、
(10)IL-2により媒介されるエフェクターT細胞およびNK細胞の活性化および増殖の増加をもたらすこと。
【0043】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、上記(1)の特性を有し、好ましくは、(3)および(5)~(8)から選択される1項または複数項、特に全ての特性をさらに有し、より好ましくは、(2)、(4)および(9)もしくは(10)から選択される1項または複数項、特に全ての特性をさらに有する。いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、上記(2)、(4)の特性を有し、好ましくは、(9)もしくは(10)から選択される1項または複数項、特に全ての特性をさらに有し、より好ましくは、(1)、(3)および(5)~(8)から選択される1項または複数項、特に全ての特性をさらに有する。
【0044】
好ましい実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、例えば結腸がんに対する抗腫瘍効果など、インビボ抗腫瘍効果を示す。
【0045】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、高親和性受容体IL-2αβγへのIL-2の結合により媒介される低減したインビボ毒性をさらに有する。
【0046】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、例えば、投与後の被験者の体重変化によって反映されるように、被験者への投与後に有意な毒性がない。例えば、投与前と比較して、例えば、一定期間、例えば20日間またはそれ以上の時間投与後、体重の15%以下または10%以下または5%以下の減少である。
【0047】
いくつかの実施形態において、野生型IL-2(例えば、配列番号1に示されるIL-2WT)と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL-2Rα受容体に対する結合親和性が少なくとも5倍、少なくとも10倍、または少なくとも25倍、特に少なくとも30倍、50倍もしくは100倍以上低減した。好ましい実施形態において、本発明の変異タンパク質はIL-2受容体αに結合しない。ForteBio親和性測定技術により、Fc断片と融合された本発明のIL-2変異タンパク質などの本発明のIL-2変異タンパク質と受容体IL-2Rα受容体の平衡解離定数(KD)を測定することで、結合親和性を測定することができる。
【0048】
いくつかの実施形態において、野生型IL-2(例えば、配列番号1に示されるIL-2WT)と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL-2Rβ受容体に対する結合親和性が、例えば5~10倍またはそれ以上増強した。ForteBio親和性測定技術により、Fc断片と融合された本発明のIL-2変異タンパク質などの本発明のIL-2変異タンパク質と受容体IL-2Rβ受容体の平衡解離定数(KD)を測定することで、結合親和性を測定することができる。一実施形態において、IL-2-Fc融合タンパク質の形態で、ForteBio親和性測定(例えば、実施例に記載のForteBio親和性測定)において、本発明のIL-2変異タンパク質と受容体IL-2Rβ受容体との二価結合親和性KD値は、10.0E-09M未満であり、例えば1.0E-09M~7E-09M、または例えば1.0E-09M未満であり、例えば1.0E-10M~7.0E-10Mである。
【0049】
一実施形態において、野生型IL-2と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL-2により媒介されるCD25+細胞の活性化および/または増殖の低下をもたらす。一実施形態において、CD25+細胞はCD25+CD8+T細胞である。別の実施形態において、CD25+細胞はTreg細胞である。一実施形態において、STAT5リン酸化測定試験において、CD25+細胞を活性化するIL-2変異タンパク質の能力は、IL-2変異タンパク質によるCD25+細胞におけるSTAT5リン酸化シグナルの活性化を検出することによって同定される。例えば、最大半量有効濃度(EC50)は、本出願の実施例に記載されるように、フローサイトメトリーによって細胞中のSTAT5リン酸化を分析することによって決定することができる。
【0050】
一実施形態において、野生型IL-2と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、維持または増強したIL-2により媒介されるCD25-エフェクター細胞の活性化および/または増殖をもたらす。一実施形態において、CD25-細胞はCD8+エフェクターT細胞またはNK細胞である。一実施形態において、STAT5リン酸化測定試験において、CD25-細胞を活性化するIL-2変異タンパク質の能力は、CD25-細胞においてSTAT5リン酸化シグナルを活性化するIL-2変異タンパク質のEC50値を検出することによって同定される。一実施形態において、STAT5リン酸化測定試験において測定されるように、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2タンパク質(例えば、配列番号1のヒトIL-2)と比較して、CD25-細胞を活性化する能力が少なくとも1倍、例えば2倍、3倍、4倍、5倍、10倍増加した。
【0051】
一実施形態において、野生型IL-2と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、CD25+細胞を優先的に活性化するIL-2の偏向性を排除または低減する。一実施形態において、CD25+細胞はCD25+CD8+T細胞である。別の実施形態において、CD25+細胞はTreg細胞である。一実施形態において、STAT5リン酸化測定試験において、CD25-細胞を活性化するIL-2変異体の能力は、それぞれCD25-細胞およびCD25+細胞においてSTAT5リン酸化シグナルを活性化するIL-2変異タンパク質のEC50値を検出することによって同定される。例えば、CD25+細胞に対するIL-2変異タンパク質の活性化偏向性は、CD25-およびCD25+T細胞でSTAT5リン酸化シグナルを活性化するEC50値の比率を計算することによって決定される。好ましくは、野生型タンパク質と比較して、CD25+に対する変異タンパク質の偏向性は、少なくとも10倍、好ましくは少なくとも100倍、150倍、200倍、300倍またはそれ以上低減した。
【0052】
本発明の変異タンパク質
【0053】
IL-2タンパク質は、4つのαヘリックスバンドル(A、B、C、D)構造を有する短鎖I型サイトカインファミリーのメンバーに属する。結晶構造(PDB:1Z92)の分析によると、IL-2は、アミノ酸残基35-72領域にCD25(即ち、IL-2Rα)と相互作用するアミノ酸部位35、37、38、41、42、43、45、61、62、68、72を有する。本発明者らは、IL-2のアミノ酸残基35-72領域のCD25相互作用部位(即ち、部位35、37、38、41、42、43、45、61、62、68、72)に、特定の変異を導入することにより、IL-2RαへのIL-2の結合を低減または排除することができることを見出した。本明細書において、当該領域のこれらの部位で発生する変異は、「CD25結合領域」変異と略称される。
【0054】
なお、本発明者らは、IL-2モノマー(PDB:1M47)と複合物の結晶構造(PDB:2ERJ)を比較することにより、B’C’loopが溶液中で非常に活発であり、比較的安定したコンフォメーションを形成できないため、IL-2モノマーの結晶構造でB’C’loopが欠失していることを見出した。配列置換または切断などのB’C’loopの遺伝子工学の改善により、B’C’loopの安定性を向上させ、IL-2の創薬可能性および/またはIL-2Rβ受容体への結合親和性を改善することができる。本明細書において、当該B’C’ループ領域に発生するこれらの配列置換または切断変異は、「B’C’ループ領域の変異」と略称される。
【0055】
本発明者らは、IL-2の特性をさらに改善するために、「CD25結合領域」変異と「B’C’ループ領域の変異」とを組み合わせできることをさらに見出した。これにより、本発明は、野生型IL-2(好ましくはヒトIL-2で、より好ましくは配列番号1配列を含むIL-2)と比較して、(i)「CD25結合領域」変異、および(ii)「B’C’ループ領域の変異」を含むIL-2変異タンパク質を提供する。
【0056】
CD25結合領域の変異
【0057】
一態様において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、CD25結合領域で、好ましくは位置35、37、38、41、42、43、45、61、68および72で、IL-2Rα受容体への結合親和性を排除または低減する1つまたは複数の変異を含む。
【0058】
いくつかの実施形態において、本発明のCD25結合領域の変異は、以下の組み合わせ(1)~(9)の1つから選択される変異の組み合わせを含む:
【0059】
【表2】
【0060】
好ましい実施形態において、本発明のCD25結合領域の変異は、以下の組み合わせ(1)~(9)の1つから選択される変異の組み合わせ、特に組み合わせ(1)~(6)の1つから選択される変異の組み合わせを含む:
【0061】
【表3】
【0062】
1つの好ましい実施形態において、本発明のCD25結合領域の変異は、変異の組み合わせK35E+T37E+R38E+F42Aを含むか、または前記変異の組み合わせからなる。
【0063】
好ましい実施形態において、本発明のCD25結合領域の変異は、排除されたCD25結合、例えばForteBio親和性測定を使用して検出限界未満のCD25結合をもたらす。
【0064】
本発明に適用されるCD25結合領域の変異については、本出願人の同時係属中の出願PCT/CN2019/107055を参照することもできる。当該出願は、全て参照として本明細書に組み込まれている。
【0065】
B’C’ループ領域の変異
【0066】
IL-2タンパク質は、4つのαヘリックスバンドル(A、B、C、D)構造を有する短鎖I型サイトカインファミリーのメンバーに属する。本明細書において、「B’C’Loop」または「B’C’ループ領域」または「B’C’ループ配列」という用語は互換的に使用されてもよく、IL-2タンパク質のBヘリックスとCヘリックスとの間の連結配列を指す。IL-2の結晶構造の分析(例えばPDB:2ERJ)により、1つのIL-2タンパク質のB’C’ループ配列を決定することができる。本発明の目的のために、配列番号1の番号付けによれば、当該B’C’ループ配列は、IL-2ポリペプチドにおける位置72の残基と位置84の残基を連結する配列を指す。配列番号1、2および3の野生型IL-2タンパク質において、当該連結配列は、A73-R83の合計11個のアミノ酸を含む。
【0067】
本明細書において、「短縮されたループ領域」または「短縮されたB’C’ループ領域」という用語は、野生型IL-2タンパク質と比較して、長さが短縮されたB’C’ループ配列を有する変異タンパク質を指し、即ち、配列番号1の番号付けによると、アミノ酸残基aa72とaa84との間の連結配列の長さが短縮されている。「短縮されたループ領域」は、ループ配列の置換または切断によって実現することができる。前記置換または切断は、B’C’ループ配列の任意の領域または部分で発生することができる。例えば、置換または切断は、ループ領域A73-R83配列の置換または当該配列C末端の1つまたは複数のアミノ酸残基からの切断であってもよい。さらに、例えば、置換または切断は、ループ領域A74-R83配列の置換または当該配列C末端の1つまたは複数のアミノ酸残基からの切断であってもよい。前記置換または切断の後、必要に応じて、創薬可能性などの変異タンパク質の特性をさらに改善するために、グリコシル化を排除するためのアミノ酸置換などの単一アミノ酸置換、および/または逆変異をさらにループ領域配列に導入することができる。したがって、本明細書において、変異後の短縮されたB’C’ループ領域は、変異の導入後、位置72の残基と位置84の残基との間の配列を連結することにより説明することができる。
【0068】
一態様において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、B’C’ループ領域の変異を含み、好ましくは前記変異はB’C’ループ領域の安定性の向上をもたらし、より好ましくは前記変異は本発明のIL-2変異タンパク質が増加された発現量および/または純度など、改善された創薬可能性を有することをもたらす。
【0069】
いくつかの実施形態において、導入された変異は、野生型IL-2(好ましくはヒトIL-2で、より好ましくは配列番号1配列を含むIL-2)と比較して、変異タンパク質が短縮されたB’C’ループ領域(即ち、アミノ酸残基aa72とaa84との間の連結配列長が短縮された)を含むことをもたらし、好ましくは、前記短縮されたループ領域は、10、9、8、7、6または5未満のアミノ酸長を有し、且つ好ましくは7アミノ酸長を有し、ここで、アミノ酸残基は配列番号1に従って番号付けされる。
【0070】
本明細書において、本発明に適用されるB’C’ループ領域の変異はB’C’ループ領域の切断および置換を含む。一実施形態において、前記変異は、A(Q/G)S(K/A/D)N(F/I)Hを形成するための切断、またはSGDASIHによる置換など、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa73~aa83の切断または置換を含む。他の実施形態において、前記変異は、(Q/G)S(K/A/D)N(F/I)Hを形成するための切断、またはGDASIHによる置換など、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa74~aa83の切断または置換を含む。
【0071】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、B’C’ループキメラ変異を含む。野生型IL-2と比較して、前記変異タンパク質は、他の4ヘリックス短鎖サイトカインファミリーのメンバーからの短いB’C’ループ配列による置換など、aa72~aa84を連結する配列のすべてまたは一部に対する置換を含む。IL-15、IL-4、IL-21などの他の4ヘリックス短鎖サイトカインILファミリーのメンバー、または非ヒト種(例えば、マウス)由来のILファミリーのメンバーから、結晶構造のsuperposeにより、野生型IL-2を置換するのに適用される短いB’C’ループを同定することができる。一実施形態において、置換のための配列は、インターロイキンIL-15(特にヒトIL-15)由来のB’C’ループ配列である。一実施形態において、前記置換は、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa73~aa83の置換を含む。他の実施形態において、前記置換は、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa74~aa83の置換を含む。好ましくは、置換後、本発明のIL-2変異タンパク質は、SGDASIHまたはAGDASIHから選択されるB’C’ループ配列(即ち、aa72~aa84を連結する配列)を有する。
【0072】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、B’C’ループ切断変異を含む。野生型IL-2と比較して、前記変異タンパク質は、aa72~aa84を連結する配列に対する切断を含む。一実施形態において、前記切断は、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa73~aa83の切断を含む。他の実施形態において、前記切断は、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa74~aa83の切断を含む。例えば、C末端から1、2、3または4個のアミノ酸を切断することができる。好ましくは、切断後、本発明のIL-2変異タンパク質のB’C’ループ領域は配列A(Q/G)S(K/A/D)N(F/I)Hを有する。好ましくは、切断後、本発明のIL-2変異タンパク質は以下から選択されるB’C’ループ配列(即ち、aa72~aa84を連結する配列)を有する:
【0073】
【表4】
【0074】
1つの好ましい実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、AQSKNFH、AQSANFH、AQSDNFH、またはSGDASIHまたはAGDASIHから選択されるB’C’ループ領域配列を含む。
【0075】
本発明に適用されるB’C’ループ変異については、本出願人の同時係属中の出願PCT/CN2019/107054を参照することもできる。当該出願は、全て参照として本明細書に組み込まれている。
【0076】
好ましい例示的な変異の組み合わせ
【0077】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明のB’C’ループ変異と本発明のCD25結合領域の変異との組み合わせによって、(i)低減された(または排除された)IL-2Rα結合、(ii)増強されたIL-2Rα結合、および(ii)改善された発現レベルと純度の2項または3項すべてから選択される改善された特性を提供する。
【0078】
いくつかの実施形態において、本発明は、野生型IL-2と比較して、以下を含むIL-2変異タンパク質を提供する:
(i)以下の組み合わせ(1)~(9)の1つから選択される変異の組み合わせ、特に組み合わせ(1)~(6)の1つから選択される変異の組み合わせ:
【0079】
【表5】
【0080】
および(ii)以下から選択されるB’C’ループ領域配列:
【0081】
【表6】
【0082】
特に、AQSKNFH、AQSANFH、AQSDNFHまたはSGDASIHまたはAGDASIHから選択されるB’C’ループ領域配列。
好ましくは、本発明は、野生型IL-2と比較して、以下を含むIL-2変異タンパク質を提供する:
(i)変異の組み合わせK35E+T37E+R38E+F42A、および
(ii)AQSKNFH、AQSANFH、AQSDNFH、SGDASIH、およびAGDASIHから選択されるB’C’ループ領域配列。
【0083】
したがって、一実施形態において、本発明は、アミノ酸配列において配列番号1-3の1つに列挙された野生型IL-2タンパク質の成熟領域と少なくとも85%または90%の同一性を有する成熟領域を有し、且つアミノ酸の位置72と84との間にAGDASIH、SGDASIH、AQSKNFH、AQSANFH、AQSDNFH、AGSKNFH、AQSANFH、およびAQSANIHから選択される連結配列を含み、且つK35E+T37E+R38E+F42Aの変異の組み合わせを有するIL-2変異タンパク質を提供する。
【0084】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明は、配列番号22、23、24、25および26の1つから選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、または98%の同一性を有するアミノ酸配列を含むIL-2変異タンパク質を提供する。いくつかの実施形態において、前記変異タンパク質は、配列番号22、23、24、25および26のアミノ酸配列を含むか、またはこれらからなる。
【0085】
好ましくは、変異の組み合わせは、IL-2が低減されたCD25+T細胞におけるp-STATA5シグナル伝達を優先的に刺激する偏向性を有すること、且つ増強されたCD25-T細胞におけるシグナル伝達を刺激する特性を有することをもたらす。
【0086】
その他の変異
【0087】
上記「CD45結合」領域および「B’C’ループ領域」における変異を除いて、本発明のIL-2変異タンパク質の上記の1つまたは複数の有益な特性を保持すれば、本発明のIL-2変異タンパク質は、他の領域または位置に1つまたは複数の変異をさらに有してもよい。例えば、本発明のIL-2変異タンパク質は、発現または均質性または安定性の改善などのさらなる利点を提供するために、位置125での置換、例えばC125S、C125A、C125T、またはC125Vをさらに含むことができる(例えば、米国特許第4,518,584号参照)。さらに、例えば、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL2のN末端でのO糖修飾を除去するために、T3Aなど、位置3での置換をさらに含むことができる。さらに、例えば、本発明のIL-2変異タンパク質は、T細胞活性化の活性を増強するために、K76D/Aなど、位置76での置換をさらに含むことができる。当業者は、本発明のIL-2変異タンパク質に組み込むことができる追加の変異をどのように決定するかを知っている。
【0088】
IL-2変異タンパク質と野生型タンパク質との間の配列の相違は、配列同一性によって、または両者の間の異なるアミノ酸の数によって表すことができる。一実施形態において、IL-2変異タンパク質と野生型タンパク質との間に少なくとも85%、86%、87%、88%、89%の同一性、好ましくは90%以上の同一性、好ましくは95%であるが、好ましくは97%以下、より好ましくは96%以下の同一性を有する。他の実施形態において、本発明の上記CD25領域の変異およびB’C’ループ領域の変異の両方を除いて、IL-2変異タンパク質と野生型タンパク質との間に、15個以下、例えば1~10個、または1~5個の変異、例えば、0、1、2、3、4個の変異を有してもよい。一実施形態において、前記残りの変異は保存的置換であってもよい。一実施形態において、前記残りの変異はCD25領域とB’C’ループ領域以外で発生する。
【0089】
2.融合タンパク質および免疫複合体
【0090】
本発明は、本発明のIL-2変異タンパク質を含む融合タンパク質をさらに提供する。1つの好ましい実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、改善された薬物動態特性を付与することができる別のポリペプチド、例えばアルブミン、より好ましくは抗体Fc断片と融合される。一実施形態において、Fc断片は、エフェクター機能を低減または排除する変異、例えば、Fcγ受容体に対する結合を低減するL234A/L235A変異またはL234A/L235E/G237Aを含む。好ましくは、Fcを含む融合タンパク質は、増加した血清半減期を有する。1つの好ましい実施形態において、Fcを含む融合タンパク質はさらに、低減されたFc領域により媒介されるエフェクター機能、例えば低減または排除されたADCCまたはADCPまたはCDCエフェクター機能を同時に有する。
【0091】
いくつかの実施形態において、IL-2変異タンパク質と融合されるFc断片は、ヒトIgG1 Fc、ヒトIgG2 FcまたはヒトIgG4 FcなどのヒトIgG Fcである。一実施形態において、Fc断片は、アミノ酸配列配列番号7を含むか、またはそれと少なくとも90%の同一性、例えば95%、96%、97%、99%またはそれ以上の同一性を有する。
【0092】
いくつかの実施形態において、IL-2変異タンパク質は、リンカーによってFc領域と融合される。いくつかの実施形態において、CD25-T細胞に対するFc融合タンパク質の活性化作用を向上させるために、リンカーを選択することができる。一実施形態において、リンカーはGSGSであり、より好ましくは2x(G4S)である。
【0093】
いくつかの実施形態において、Fc融合タンパク質は、配列番号15-19から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、少なくとも95%、または少なくとも96%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、Fc融合タンパク質は配列番号15-19の配列からなる。
【0094】
本発明は、本発明のIL2変異タンパク質および抗原結合分子を含む免疫複合体をさらに提供する。好ましくは、抗原結合分子は、免疫グロブリン分子、特にIgG分子、または抗体もしくは抗体断片、特にFab分子およびscFv分子である。いくつかの実施形態において、前記抗原結合分子は、腫瘍細胞上または腫瘍環境中に存在する抗原、例えば、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、テネイシンCのA1ドメイン(TNC A1)、テネイシンCのA2ドメイン(TNC A2)、フィブロネクチンの外部ドメインB(Extra Domain B、EDB)、がん胎児抗原(CEA)、および黒色腫関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)から選択される抗原に特異的に結合する。したがって、本発明の免疫複合体は、被験者への投与後に腫瘍細胞または腫瘍環境を標的にすることができ、さらなる治療上の利点、例えば、より低い用量での治療の可能性およびそれによる副作用の低減、抗腫瘍効果の増強などを提供する。
【0095】
本発明の融合タンパク質および免疫複合体において、本発明のIL-2変異タンパク質は、別の分子または抗原結合分子に直接またはリンカーを介して結合することができ、且ついくつかの実施形態において、タンパク質加水分解切断部位が両者の間に含まれる。
【0096】
3.ポリヌクレオチド、ベクターと宿主
【0097】
本発明は、上記IL-2変異タンパク質または融合体または複合体のいずれかをコードする核酸を提供する。本発明の変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、当該分野で周知の方法により、新規固相DNA合成、または野生型IL-2をコードする既存の配列のPCR変異誘発によって産生することができる。なお、本発明のポリヌクレオチドおよび核酸は、分泌シグナルペプチドをコードするセグメントを含んでもよく、本発明の変異タンパク質をコードするセグメントに操作可能に連結されて、本発明の変異タンパク質の分泌発現を誘導することができる。
【0098】
本発明はまた、本発明の核酸を含むベクターを提供する。一実施形態において、ベクターは、例えば真核発現ベクターなどの発現ベクターである。ベクターは、ウイルス、プラスミド、コスミド、λファージまたは酵母人工染色体(YAC)を含むが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、本発明の発現ベクターはpCDNA3.1発現ベクターである。
【0099】
本発明はまた、前記核酸または前記ベクターを含む宿主細胞を提供する。変異IL-2タンパク質または融合体または免疫複合体の発現を複製および支持するのに適用される宿主細胞は、当該分野で周知である。特定の発現ベクターでこのような細胞をトランスフェクションまたは形質導入することができるとともに、ベクターを含む多くの細胞を大規模な発酵槽に接種するために増殖させることができ、臨床的使用のための十分な量のIL-2変異体または融合体または免疫複合体が得られる。一実施形態において、宿主細胞は真核細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞(例えばCHO細胞もしくは293細胞)から選択される。例えば、ポリペプチドは、特にグリコシル化を必要としない場合、細菌中で生成することができる。発現後、可溶性画分においてポリペプチドを細菌細胞ペーストから単離して、さらに精製することができる。原核生物の他、糸状菌または酵母などのような真核微生物は、ポリペプチドをコードするベクターに適切なクローンまたは発現宿主であり、グリコシル化経路が既に「ヒト化」される真菌と酵母菌株を含み、その結果、部分的または完全なヒトグリコシル化パターンを有するポリペプチドの生成を引き起こす。Gerngross,NatBiotech22,1409-1414(2004)およびLi et al.,NatBiotech24,210-215(2006)が参照される。有用な哺乳動物宿主細胞系の例は、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1系(COS-7)、ヒト胎児腎臓系(例えばGraham et al.,JGenVirol36,59(1977)に記載された293または293T細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ(sertoli)細胞(例えばMather,BiolReprod23,243-251(1980)に記載されたTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸がん細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、buffaloラット肝臓細胞(BRL3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(HepG2)、マウス乳房腫瘍細胞(MMT060562)、TRI細胞(例えばMather et al.,AnnalsN.Y.AcadSci383,44-68(1982)に記載された)、MRC5細胞およびFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、dhfr-CHO細胞(Urlaub et al.,ProcNatlAcadSciUSA77,4216(1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、およびYO、NS0、P3X63およびSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。一実施形態において、宿主細胞は真核生物細胞であり、好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞、またはリンパ球(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)などの哺乳動物細胞である。
【0100】
4.調製方法
【0101】
さらなる態様において、本発明は、本発明のIL-2変異タンパク質または融合体または複合体を調製する方法を提供し、前記方法は、IL-2変異タンパク質または融合体または複合体の発現に適した条件下で、前記タンパク質または融合体または複合体をコードする核酸を含む上記で提供されるような宿主細胞を培養するステップと、場合により前記宿主細胞(または宿主細胞培地)から前記タンパク質または融合体または複合体を回収するステップとを含む。
【0102】
5.測定方法
【0103】
当該分野で既知の様々な測定方法を利用して、本明細書により提供されるIL-2変異タンパク質に対して同定、スクリーニング、またはその物理的/化学的特性および/または生物学的活性の特性評価を行うことができる。
【0104】
一態様において、本発明のIL-2変異タンパク質に対してIL-2受容体へのその結合活性を測定することができる。例えば、ELISA、Westernブロットなどのような当該分野で既知の方法、または本明細書の実施例に開示されている例示的な方法によって、ヒトIL-2Rαまたはβタンパク質との結合を測定することができる。例えば、細胞表面上で変異タンパク質を発現するようにトランスフェクションされた酵母ディスプレイ細胞などの細胞を、標識された(例えばビオチン標識された)IL-2Rαまたはβタンパク質と反応させるフローサイトメトリーによって測定することができる。あるいは、結合動力学(例えばKD値)を含めて、変異タンパク質の受容体への結合は、組換え変異タンパク質-Fc融合体を使用してForteBio測定法において測定することができる。
【0105】
さらなる態様において、受容体結合の下流で起こるシグナル伝達および/または免疫賦活効果を測定することによって、IL-2変異タンパク質のIL-2受容体に結合する能力を間接的に測定することができる。
【0106】
したがって、いくつかの実施形態において、生物学的活性を有する変異IL-2タンパク質を同定するための測定法を提供する。生物学的活性は、例えば、IL-2受容体を有するTおよび/またはNK細胞および/またはTreg細胞の増殖を誘導する能力、IL-2受容体を有するTおよび/またはNK細胞および/またはTreg細胞におけるIL-2シグナル伝達を誘導する能力、低下したT細胞におけるアポトーシスを誘導する能力、腫瘍の退縮を誘導するおよび/または生存を改善する能力、ならびに低下した血管透過性などの低下したインビボ毒性特性を含んでもよい。本発明は、インビボおよび/またはインビトロにこのような生物学的活性を有する変異IL-2タンパク質も提供する。
【0107】
当該分野で周知の様な方法は、IL-2の生物学的活性を測定するために使用することができる。例えば、NK細胞によるIFN-γの生成を刺激する本発明のIL-2変異タンパク質の能力を試験するための適切な測定法は、培養されたNK細胞を本発明の変異IL-2タンパク質または融合体または免疫複合体とインキュベートし、その後、ELISAによって培地中のIFN-γ濃度を測定するステップを含むことができる。IL-2シグナル伝達は、いくつかのシグナル伝達経路を誘導し、JAK(Janusキナーゼ)およびSTAT(シグナル伝達物質および転写活性化因子)シグナル伝達分子に関与する。
【0108】
IL-2と受容体βおよびγサブユニットとの相互作用は、受容体およびJAK1とJAK3(βおよびγサブユニットとそれぞれ結合する)のリン酸化をもたらす。次に、STAT5はリン酸化受容体と結合し、それ自体が非常に重要なチロシン残基上でリン酸化される。これによりSTAT5が受容体から解離し、STAT5が二量体化され、STAT5二量体が細胞核に移行し、当該位置に標的遺伝子の転写を促進する。したがって、IL-2受容体を介してシグナル伝達を誘導する変異体IL-2ポリペプチドの能力は、例えばSTAT5のリン酸化を測定することによって評価することができる。この方法の詳細は、実施例に開示されている。例えば、PBMCを本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または免疫複合体で処理し、リン酸化STAT5のレベルをフローサイトメトリーによって測定することができる。
【0109】
さらに、腫瘍成長および生存に対する変異IL-2の影響は、当該分野で既知の様々な動物腫瘍モデルにおいて評価することができる。例えば、がん細胞系の異種移植片を免疫不全マウスに移植し、本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または免疫複合体で処理することができる。腫瘍抑制率(例えば、アイソタイプ対照抗体と比較して計算される)に基づいて、本発明の変異体IL-2ポリペプチド、融合体および免疫複合体のインビボ抗腫瘍効果を検出することができる。なお、動物の体重変化(例えば、投与前と比較して、絶対体重の変化または体重変化パーセント)に基づいて、本発明の変異体IL-2ポリペプチド、融合体および免疫複合体のインビボ毒性を測定することができる。死亡率、生存期間観察(行動、体重、体温などの有害作用の目に見える症状)および臨床的および解剖学的病理学(例えば、血液化学値の測定および/または組織病理学的分析)に基づいて、前記インビボ毒性を測定することもできる。
【0110】
さらなる態様において、当該分野で既知の方法によって、発現量と製品の純度などの本発明の変異タンパク質の創薬可能性を特徴付けることができる。発現量の測定について、変異タンパク質が培養細胞から分泌され、培養上清で発現される場合、遠心分離により収集された細胞培養液のタンパク質含有量を測定することができる。あるいは、収集された細胞培養液のワンステップの精製後に、例えばワンステップアフィニティークロマトグラフィー精製後に、測定することができる。製品純度の測定について、得られた生産細胞の培養上清に対してワンステップアフィニティークロマトグラフィー精製を実施した後、純度を測定して、変異タンパク質の精製性能を検出することができる。好ましくは、本発明の変異タンパク質は、このワンステップアフィニティークロマトグラフィーによる精製後、野生型タンパク質よりも有意に優れた純度を有し、本発明の変異タンパク質がより良好な精製性能を有することを示している。純度測定法は、SEC-HPLC法を含むが、これに限定されない、当該分野で既知の任意の従来の方法であってもよい。
【0111】
さらなる態様において、当該分野で既知の方法によって、本発明の変異IL-2タンパク質の保存安定性を検出することもできる。本発明において、「安定した」抗体は、緩衝液に調製された抗体が、特定の条件下での保存後に許容可能な程度の物理的安定性および/または化学的安定性を保持するものを指す。一実施形態において、緩衝液はpH7.4のPBS緩衝液である。他の実施形態において、緩衝液はpH6.5のヒスチジン緩衝液である。一実施形態において、40℃で、2週間またはそれ以上の時間など、一定の期間保存した後、抗体の安定性を検出する。SEC-HPLC法またはCE-SDS法により、保存後の抗体の純度の降下程度を検出して抗体の安定性を決定することができる。
【0112】
6.スクリーニング方法
【0113】
さらなる態様において、本発明は、改善された特性を有するIL-2変異タンパク質を得るための方法およびこの方法により得られたIL-2変異タンパク質を提供する。
【0114】
一実施形態において、本発明の方法は、
(1)IL-2のIL-2Raとの結合界面に変異により1つまたは複数の変異を導入し、IL-2のB’C’ループ領域で変異により当該ループ領域配列を短縮させるステップ、
好ましくは、前述のCD25結合領域の変異の組み合わせおよび/または前述のB’C’ループ配列のキメラまたは切断変異を導入するステップ、
(2)哺乳動物細胞(例えばHEK293またはCHO細胞)において、IL-2変異タンパク質を、例えばFc融合体(例えばFcLALA融合体)の形態で発現するステップ、
-(i)発現量および/または精製後のタンパク質の純度(例えば、SEC-HPLC検出による、ワンステップアフィニティークロマトグラフィー後の純度)、(ii)低減されたIL2Rα結合、(iii)増強されたIL2Rβ結合の1項または複数項の改善された特性を有する変異タンパク質を同定するステップ、を含む。
【0115】
一実施形態において、前記方法は、ステップ(1)の変異の組み合わせを行う前に、創薬可能性(例えば、発現量および/または製品安定性および/または均質性、例えば、ワンステップFcアフィニティークロマトグラフィー純度)が改善されたIL-2変異を同定するステップを含む。1つの好ましい実施形態において、B’C’loopループを短縮されたB’C’loopループに置換または切断することにより、変異タンパク質の創薬可能性を改善する。
【0116】
一実施形態において、前記方法は、ステップ(1)の変異の組み合わせを行う前に、野生型IL-2と比較して、低減された(好ましくは排除された)IL-2Ra結合能力を付与するIL-2変異を同定するステップを含む。一実施形態において、CD25結合領域における部位に対してアミノ酸置換または組み合わせ置換を行うことにより、CD25結合親和性を低減または排除する。
【0117】
当業者には明らかなように、これらの変異を、さらに改善された創薬可能性または他の改良された特性を付与する変異と組み合わせて、複数の改良された特性を有するIL-2変異タンパク質を得ることができる。
【0118】
一実施形態において、(例えば既知の)IL2Ra結合の低減をもたらすCD25領域の変異を、(例えば既知の)創薬可能性が改善されたB’C’ループ領域の長さの切断および/または置換変異と組み合わせて、IL-2タンパク質に導入して特性を同定する。1つの好ましい実施形態において、前記同定は、野生型IL-2と比較して、低減されたIL-2Ra結合および改善された創薬可能性(例えば改善された発現および/または純度、および/または製品安定性および/または均質性)、場合により、基本的に変化しないかまたは弱体化されたかまたは増強されたIL-2Rβ結合親和性を含む。
【0119】
いくつかの実施形態において、変異テンプレートとして使用される親野生型IL-2タンパク質は、好ましくは、配列番号1と少なくとも85%、または少なくとも90%もしくは95%の同一性を有し、より好ましくは、ヒト由来のIL-2タンパク質である。
【0120】
7.医薬組成物と医薬製剤
【0121】
本発明は、IL-2変異タンパク質またはその融合体または免疫複合体を含む組成物(医薬組成物または医薬製剤を含む)、およびIL-2変異タンパク質またはその融合体または免疫複合体をコードするポリヌクレオチドを含む組成物をさらに含む。これらの組成物はまた、当該分野で既知の薬学的に許容可能な担体、緩衝剤を含む薬学的に許容可能な賦形剤などの適切な薬学的に許容可能な補助材料を必要に応じて含んでもよい。
【0122】
本発明に適用される薬学的に許容可能な担体は、水、および石油とピーナッツオイル、大豆油、鉱油、ごま油などの動物もしくは植物に由来するまたは合成されたものを含む、油などの滅菌液体であってもよい。医薬組成物を静脉内に投与する場合、水はベクターとして好ましい。さらに、生理塩水溶液、水性デキストロースとグリセリン溶液を液体ベクターとして、特に注射可能な溶液に用いることができる。適切な薬学的に許容可能な賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂粉乳、グリセリン、プロピレン、ジオール、水、エタノールなどを含む。賦形剤の使用およびその用途に関しては、「Handbook of PharmaceuticalExcipients」,5th editon,R.C.Rowe,P.J.SeskeyおよびS.C.Owen,PharmaceuticalPress,London,Chicagoも参照される。必要に応じて、前記組成物は少量の湿潤剤、乳化剤、またはpH緩衝剤をさらに含有してもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末、持続性放出製剤などの形態を採用することができる。経口製剤は、薬用マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンなどの標準的なベクターを含んでもよい。
【0123】
所望の純度を有する本発明のIL-2変異タンパク質、融合体または免疫複合体を任意の1つまたは複数の薬学的に許容可能な補助材料(Remington′s Pharmaceutical Sciences,16th edition,edited by Osol,A.(1980))と混合することによって、本発明を含む医薬製剤を調製し、好ましくは凍結乾燥製剤または水溶液の形態で調製する。例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水性抗体製剤は、米国特許第6,171,586号およびWO2006/044908に記載されるものを含み、後者の製剤はヒスチジン-アセテート緩衝剤を含む。なお、持続性放出製剤を調製することができる。持続性放出製剤の適切な実例は、タンパク質を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスを含み、前記マトリックスは、フィルムまたはマイクロカプセルの形態などのように成形品である。
【0124】
一実施形態において、本発明の医薬組成物は、PBS緩衝液またはヒスチジン緩衝液など、pH6~8の緩衝液を含む。一実施形態において、PBS緩衝液は、例えば、約pH7.4のPBS緩衝液である。一実施形態において、ヒスチジン緩衝液は、例えば、10mMのヒスチジン、5%のソルビトール、および0.02%のポリソルベート80を含む、約pH6.5のヒスチジン緩衝液である。本発明の医薬組成物は、好ましくは、前記緩衝液において保存安定性が維持されている。
【0125】
本発明の医薬組成物または製剤は、1種または複数種の他の活性成分をさらに含んでもよく、前記活性成分は、特定の適応症の治療に必要であり、好ましくは互いに悪影響を与えない相補的な活性を有する活性成分である。例えば、化学療法剤、免疫チェックポイント阻害剤などの他の抗がん活性成分をさらに提供することが理想的である。前記活性成分は、意図した目的のために有効な量で適切に組み合わせた形態で存在する。
【0126】
8.組み合わせ製品
【0127】
一態様において、本発明は、本発明の変異タンパク質またはその融合体または免疫複合体、および1種または複数種の他の治療剤(例えば、化学療法剤、他の抗体、細胞傷害剤、ワクチン、抗感染症剤など)を含む組み合わせ製品をさらに提供する。本発明の組み合わせ製品は、本発明の治療方法において使用できる。
【0128】
いくつかの実施形態において、本発明は、組み合わせ製品を提供し、ここで、前記他の治療剤が、例えば、免疫応答を刺激して被験者の免疫応答をさらに増強、刺激または上方制御するのに有効な、抗体などの治療剤である。
【0129】
いくつかの実施形態において、前記組み合わせ製品はがんの予防または治療に用いられる。いくつかの実施形態において、がんは、例えば、直腸がん、結腸がん、結腸直腸がんなどの胃腸管のがんである。いくつかの実施形態において、前記組み合わせ製品は、例えば細菌感染、ウイルス感染、真菌感染、原生動物感染などの感染の予防または治療に用いられる。
【0130】
9.治療方法と使用
【0131】
本明細書において、「個体」または「被験者」という用語は、互換的に使用されてもよく、哺乳動物を指す。哺乳動物は、家畜(例えば、乳牛、綿羊、ネコ、イヌとウマ)、霊長類(例えば、ヒトとサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギおよびげっ歯類(例えば、マウスとラット)を含むが、これらに限定されない。特に、被験者はヒトである。
【0132】
本明細書において、「治療」という用語は、治療を受けている個体における疾病の天然過程を変化させようとする臨床的介入を指す。所望の治療效果は、疾病の発生または再発の防止、症状の軽減、疾病の如何なる直接的または間接的な病理学的結果の減少、転移の防止、病状進展速度の低減、疾病の状態の改善または緩和、および予後の緩和または改善を含むが、これらに限定されない。
【0133】
一態様において、本発明は、有效量の本発明のIL-2変異タンパク質または融合体または免疫複合体を含む医薬組成物を被験者に投与するステップを含む、被験者の免疫系を刺激する方法を提供する。本発明のIL-2変異タンパク質は、CD25-CD122+エフェクター細胞(細胞傷害性CD8+T細胞およびNK細胞)に対して高い活性および選択性を有し、且つ低減されたCD25+Treg細胞に対する刺激作用を有する。したがって、本発明のIL-2変異タンパク質は、被験者の免疫系を刺激するために低用量で使用することができる。
【0134】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、有効量の本明細書に記載の任意のIL-2変異タンパク質、またはその融合体または免疫複合体を被験者に投与するステップを含む、被験者の身体の免疫応答を増強する方法に関する。いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質またはその融合体または免疫複合体を、腫瘍を有する被験者に投与し、抗腫瘍免疫応答を刺激する。別のいくつかの実施形態において、本発明の抗体またはその抗原結合部分を、感染を有する被験者に投与し、抗感染免疫応答を刺激する。
【0135】
別の態様において、本発明は、有効量の本明細書に記載の任意のIL-2変異タンパク質、またはその融合体または免疫複合体を前記被験者に投与するステップを含む、がんなどの被験者の疾患を治療する方法に関する。がんは、早期、中期もしくは末期にあるがんまたは転移性がんであってもよい。いくつかの実施形態において、がんは、例えば、直腸がん、結腸がん、結腸直腸がんなどの胃腸管のがんであってもよい。
【0136】
別の態様において、本発明は、有効量の本明細書に記載の任意のIL-2変異タンパク質またはその断片、または前記抗体もしくは断片を含む免疫複合体、多重特異性抗体、または医薬組成物を前記被験者に投与するステップを含む、慢性感染などの被験者の感染性疾患を治療する方法に関する。一実施形態において、前記感染はウイルス感染である。
【0137】
本発明の変異タンパク質(およびそれを含む医薬組成物またはその融合体または免疫複合体、および任意の他の治療剤)は、非経口投与、肺内投与、鼻腔内投与を含む任意の適切な方法により投与されてもよく、且つ、局所治療に必要な場合、病巣内に投与されてもよい。非経口注入は、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与または皮下投与を含む。投与が短期であるか長期であるかによってある程度決まり、投与は、例えば、静脈内注射投与または皮下注射投与などの注射を含む任意の適切な経路によることができる。本明細書において、非限定的であるが、単回投与または複数の時刻での複数回投与、ボーラス投与、パルス注入などの様々な投与スケジュールが含まれる。
【0138】
疾患を予防または治療するために、本発明の変異タンパク質の適切な用量(単独で投与される場合または1種または複数種の他の治療剤と組み合わせて投与される場合)が、治療される疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重症度とその進行、予防目的の投与か治療目的の投与か、過去の治療、患者の臨床病歴および前記抗体に対する応答、主治医の判断によって決定される。前記抗体は、単回の治療で、または一連の治療にわたって患者に適切に投与される。
【0139】
さらなる態様において、本発明はまた、上記の方法に使用される(例えば治療のため)薬物の調製における、本発明のIL-2変異タンパク質、組成物、免疫複合体、融合体の使用を提供する。
【0140】
本発明の理解を補助するために、以下の実施例を説明する。如何なる方法によっても、実施例を、本発明の請求範囲を制限するものと解釈する意図はなく、そうすべきでもない。
【実施例
【0141】
実施例1:インターロイキン2点変異ライブラリーの設計と構築
【0142】
インターロイキン2点変異ライブラリーの設計
【0143】
インターロイキン2(Interleukin-2、IL-2と略称)とそのα受容体CD25(IL-2Rαと略称)複合物の結晶構造(PDB:1Z92)(図1に示す)に基づいて、相互作用部位のIL-2残基を表1に示されるように変異させた。各部位の元のアミノ酸は50%の割合を占め、残りの50%の割合は表1の「変異アミノ酸」で均等に分割された。IL-2とIL-2Rαの相互結合部位に対して設計されたライブラリーの理論的多様性は、3×8×8×9×6×6×3×6×6×5×6≒2.0×108であり、ライブラリーはIBYDL029(Innoventbio Yeast Display Library)と命名された。
【0144】
【表7】
【0145】
インターロイキン2点変異ライブラリーの構築
【0146】
野生型IL-2(uniprot:P60568,aa21-153,C125S,IL-2WTと略称)を酵母ディスプレイプラスミドpYDC011(プラスミドの全配列は図9に示す)の2つのBamHI酵素切断部位の間に配置した。IL-2WTの配列は、本出願において、ジスルフィド架橋IL-2二量体の形成を回避するために125位にC125S変異が導入された配列番号1に示されている。プラスミド構築の具体的なステップは以下のとおりである:
【0147】
1.プライマーAMP0210およびAMP0211を使用して、IL-2WT遺伝子をテンプレートとして増幅したこと(プライマー配列は図3に示す)、
【0148】
2.プラスミドpYDC011をBamHI(New England Biolab,製品番号:R3136V)で酵素切断した後、ゲル(QIAGEN Gel Extraction Kit,Cat.28704)で回収したこと、
【0149】
3.1%のアガロースゲルで増幅産物および酵素切断産物を回収したこと、
【0150】
4.回収した後、One Step Cloning Kit(Vazyme製品番号:C113-02)でインビトロ相同組換えを行ったこと、
【0151】
5.組換え後、産物を大腸菌Top10コンピテントセル(天根,製品番号:CB104-02)に移し、アンピシリン耐性を含むLBプレートに塗布し、37℃で一晩培養したこと、
【0152】
6.成長したモノクローナルコロニーを配列決定した後、正しいプラスミドをpYDC035と命名したこと。
【0153】
既存の文献によると、IL-2変異体IL-23XはIL-2Rαに結合せず、IL-2Rβへの結合力が一定に維持された(Rodrigo Vazquez-Lombardi et al,Nature Communications,8:15373,DOI:10.1038/ncomms15373)。IL-23Xを酵母表面にディスプレイし、対照として使用した。IL-23Xの配列は配列番号4に示され、当該タンパク質はIL-2WTと同様に、C125S変異も含む。
【0154】
表1のライブラリー構築プロトコルに従って、所望のプライマー(図3に示す)を設計し、蘇州金唯智生物科技有限公司によって合成した。
【0155】
IBYDL029ライブラリーDNA増幅:1.pYDC035をテンプレートとし、プライマーAMP0191、AMP0200を用いて断片029-Fを増幅し、2.pYDC035をテンプレートとし、プライマーAMP0201、AMP0199を用いて断片029-Rを増幅し、3.断片029-F、029-Rをゲルで回収してPCR増幅テンプレートとし、プライマーAMP0191とAMP0199を用いて全長断片029を増幅した。
【0156】
100μgのプラスミドpYDC011をBamHIで酵素切断し、酵素切断後にPCR産物回収キット(QIAGEN PCR Purification Kit,Cat.28104)で回収し、十分な量の線状化プラスミドを得た。線状化プラスミドとライブラリーDNAを4μg:12μgで混合し、既存の方法(Lorenzo Benatuil et al.,An improved yeast transformation method for the generation of very large human antibody libraries.Protein Engineering,Design&Selection vol.23 no.4 pp.155-159,2010)でライブラリーDNAと線状化プラスミドとの混合物をEBY100酵母菌株に電気的に導入した。電気的に導入した後、ライブラリーを勾配希釈してSD-Trp(TAKARA、製品番号:630309)のプレートに塗布し、成長したコロニーの数を統計した。得られたライブラリーの実際の多様性はIBYDL029:4.2×108であり、ライブラリーの理論的多様性よりも大きかった。
【0157】
実施例2:IL-2点変異ライブラリーのスクリーニングおよび同定
【0158】
IL-2Rα、IL-2Rβタンパク質の調製およびビオチン標識
【0159】
発現プラスミドの構築およびトランスフェクション
【0160】
IL-2受容体IL-2Rα(Uniprot:P01589,aa22-217)およびIL-2Rβ(Uniprot:P14784,aa27-240)は配列のC末端にaviタグ(GLNDIFEAQKIEWHE、当該タグペプチドはBirA酵素によって触媒されてビオチン化することができる)および6つのヒスチジンタグ(HHHHHH)を連結し、pTT5ベクター(Addgene)にそれぞれ構築し、IL-2RαおよびIL-2Rβタンパク質の発現に用いた。構築によって産生された受容体の配列は配列番号5および6に示されている。
【0161】
化学トランスフェクション試薬であるポリエチレンイミン(PEIと略称、Polysciences,製品番号:23966)を使用して、製造業者によって提供されたプロトコルに従って、培養されたHEK293-F(Invitrogen,製品番号:R79007)細胞を、上記で構築した発現プラスミドベクターで一過性トランスフェクションした。
【0162】
タンパク質の発現および精製
【0163】
IL-2RαおよびIL-2Rβタンパク質を発現する細胞培養液を4500rpmで30min遠心分離し、細胞を捨てた。上清を0.22μmのフィルターで濾過し、さらに精製した。簡単に言えば、精製に使用したニッケルカラム(5mL Histrap excel,GE,17-3712-06)を0.1MのNaOHで2h浸漬した後、5~10倍カラム体積の超純水ですすぎ、アルカリ液を除去した。精製前に5倍カラム体積の結合緩衝液(20mMのTris pH7.4,300mMのNaCl)で精製カラムを平衡化し、細胞上清を平衡化したカラムに通し、10倍カラム体積の洗浄緩衝液(20mMのTris pH7.4,300mMのNaCl,10mMのimidazole)でカラムを洗浄し、非特異的に結合するヘテロタンパク質を除去し、次いで目的のタンパク質を3~5倍カラム体積の溶出液(20mMのTris pH7.4,300mMのNaCl,100mMのimidazole)で溶出した。収集したタンパク質を限外濾過によって濃縮してPBS(Gibco,70011-044)に交換した後、superdex200 increase(GE,10/300GL,10245605)でさらに単離して精製し、単量体の溶出ピークを収集し、カラムの平衡化および溶出緩衝液はPBS(Gibco,70011-044)であった。100μgの精製後のタンパク質試料を取り、ゲル濾過クロマトグラフィーカラムSW3000(TOSOH製品番号:18675)でタンパク質の純度を測定した。
【0164】
IL-2RαとIL-2Rβタンパク質のビオチン化標識
【0165】
酵素触媒法によるIL-2RαとIL-2Rβタンパク質のビオチン標識方法は、以下のとおりである。上記のように発現および精製された適量のIL-2RαとIL-2Rβタンパク質溶液に、1/10(m/m)質量のHis-BirAタンパク質(uniprot:P06709)を加え、同時に最終濃度が2mMのATP(sigma製品番号:A2383-10G)、5mMのMgCl2、0.5mMのD-ビオチン(AVIDITY製品番号:K0717)を加え、30℃で1hインキュベートし、Superdex200 increase(GE,10/300GL,10245605)により精製し、余分なビオチンとHis-BirAを除去し、精製後の試料をFortebioのStreptavidin(SA)センサ(PALL,18-5019)により検証し、ビオチン標識の成功を確認した。本実施例で得られたビオチン標識されたIL-2Rα、IL-2Rβ IHタンパク質は、それぞれIL-2Rα-BiotinおよびIL-2Rβ IH-Biotinと略称される。
【0166】
IL-2変異ライブラリーによるIL-2mutantのスクリーニングおよび染色による同定
【0167】
IL-2Rαには結合しないがIL-2Rβには結合するIL-2mutantのスクリーニング
【0168】
酵母ベースのIL-2mutantディスプレイライブラリーIBYDL029から、2.0×109の酵母細胞を取って培養および誘導し、ライブラリーの多様性は2.0×108であった。IBYDL029ライブラリーの多様性が比較的大きいため、1回目のスクリーニングにおいて、Miltenyi社のMACSシステムを利用して磁気ビーズ細胞選別を行った。まず、FACS洗浄緩衝液(1×PBS、1%のウシ血清アルブミン含有)において、2×109の酵母細胞を室温で30minインキュベートし、緩衝液にビオチン標識されたIL-2Rβ(Acro Biosystems,EZ-Link Sulfo-NHS-LC-Biotinビオチン標識,IL-2Rβ-Biotinと略称)が500nM含有された。50mLの予め冷却されたFACS洗浄緩衝液で1回洗浄し、次に10mLの同じ洗浄緩衝液で細胞を再懸濁し、ストレプトアビジンマイクロビーズ(Miltenyi biotec、製品番号:130-090-485)を40μl加えて4℃で15minインキュベートした。3000rpmで3min遠心分離して上清を捨てた後、10mLのFACS洗浄緩衝液で細胞を再懸濁し、細胞溶液をMiltenyi LSカラムに加えた。添加が完了した後、FACS洗浄緩衝液でカラムを3回洗浄し、各回に3mLのFACS洗浄緩衝液を使用した。磁気領域からMiltenyi LSカラムを取り外し、5mLの成長培地で溶出し、溶出した酵母細胞を収集して30℃で一晩成長させた。
【0169】
1回のスクリーニング後に得られたライブラリー細胞を20℃下で24h振とう誘導してIL-2mutantをディスプレイし、フローサイトメトリーを用いて2回目の選別を行った。簡単に言えば、ライブラリーからの3×107の酵母細胞をFACS緩衝液で3回洗浄し、IL-2Rβ-Biotin(300nM)およびAnti Flag抗体を含有するFACS緩衝液に加え、室温で30minインキュベートした。細胞をFACS洗浄緩衝液で2回洗浄した後、細胞とSA-PE(フィコエリスリンで標識されたストレプトアビジン,eBioscience,製品番号:12-4317-87)およびヤギ抗マウスIgG結合Alex Flour-647(Thermo Fisher,製品番号:A21235)を含有するFACS洗浄緩衝液とを混合し、4℃下で遮光で15minインキュベートした。予め冷却されたFACS洗浄緩衝液で2回洗浄し、1mLの緩衝液に再懸濁し、細胞をフィルター付きの分離管に移した。MoFlo_XDPを使用して細胞を選別し、選別後の酵母細胞を30℃で一晩成長させた。3回目の選別プロトコルは2回目と同じで、3回のスクリーニングを経た後、モノクロナールを選んで配列決定した。
【0170】
IL-2Rβ-Biotinを使用して、3回のスクリーニングによりライブラリーIBYDL029から53個の変異配列が得られた。
【0171】
IL-2mutant染色同定
【0172】
配列決定後の単一変異配列を含む酵母細胞を20℃で24h振とう誘導してIL-2mutantをディスプレイし、その受容体IL-2Rα-Biotin、IL-2Rβ IH-Biotinとそれぞれ染色し、具体的なステップは以下のとおりである。
【0173】
I. IL-2mutantによりディスプレイされた酵母細胞とIL-2Rα-Biotin染色分析:
【0174】
1. 各試料からの1×106の細胞を遠心分離により上清を捨ててFACS緩衝液で1回洗浄した後に使用に備えた。
【0175】
2. 50nMのIL-2Rα-BiotinとAnti Flag抗体を含むFACS緩衝液を100μL加えて室温で30minインキュベートした。
【0176】
3. 予め冷却されたFACS緩衝液を使用して、3000rpmで4℃で3min遠心分離して2回洗浄した。
【0177】
4. SA-PE、ヤギ抗マウス結合Alex Flour-647を含むFACS緩衝液を100μL加え、氷上で遮光で20minインキュベートした。
【0178】
5. 予め冷却されたFACS緩衝液で2回洗浄した後、細胞を100μLの緩衝液で再懸濁し、フローアナライザー(BD,ACCURI C6)でIL-2mutantとIL-2Rαの結合レベルを分析した。
【0179】
II. IL-2mutantによりディスプレイされた酵母細胞とIL-2Rβ IH-Biotin染色分析:
【0180】
1. 各試料からの1×106の細胞を遠心分離により上清を捨ててFACS緩衝液で1回洗浄した後に使用に備えた。
【0181】
2. IL-2Rβ IH-Biotin(30nM~100nM)とAnti Flag抗体を含むFACS緩衝液を100μL加えて室温で30minインキュベートした。
【0182】
3. IL-2mutantとIL-2Rβとの結合レベルを、ステップ3~5と同様にして分析した。
【0183】
フロー染色の結果から分かるように、ライブラリーIBYDL029からスクリーニングして得られた53個のIL-2mutantの、IL-2Rαとの結合の平均蛍光シグナル強度はIL-23Xに近く、即ち、いずれも結合せず、IL-2Rβとの結合の平均蛍光シグナル強度はIL-23Xよりも強かった。
【0184】
IL-2mutant-FC融合タンパク質の発現および受容体との親和性(avidity)の測定
【0185】
発現プラスミドの構築
【0186】
IL-2mutant-FC融合タンパク質を発現するために、IL-2mutant配列を2つのGGGGSを介してFcLALAに連結するとともに、pCDNA3.1(Addgene)のベクターに構築した。
【0187】
なお、対照として、IL-2WT-FCおよびIL-23X-FC融合タンパク質を発現するために、IL-2WT、IL-23X遺伝子配列を2つのGGGGSを介してFcLALAに連結するとともに、pCDNA3.1に構築した。本実施例およびその後の実施例で使用されるFcは、変異L234AおよびL235Aを有するヒトIgG1のFc(FcLALAと略称、配列番号7)を指す。
【0188】
IL-2およびFC融合タンパク質の発現および精製
【0189】
化学トランスフェクション法によって上記融合タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターをHEK293細胞に導入した。化学トランスフェクション試薬PEIを使用して、製造業者によって提供されたプロトコルに従って培養されたHEK293細胞を一過性トランスフェクションした。まず超クリーンベンチでプラスミドDNAとトランスフェクション試薬を準備し、3mLのOpti-MEM培地(Gibco製品番号:31985-070)を50mLの遠心管に入れ、対応するプラスミドのDNAを30μg加え、プラスミドを含むOpti-MEM培地を0.22μmのフィルターヘッドで濾過し、続いて90μgのPEI(1g/L)を加え、20min静置した。DNA/PEI混合物を27mLのHEK293細胞に緩やかに注入して均一に混合し、37℃、8%のCO2の条件下で20h培養した後、最終濃度が2mMおよび2%(v/v)のFeedになるまでVPAを追加し、引き続き6日間培養した。
【0190】
細胞培養後、13000rpmで20min遠心分離し、上清を収集し、プレ充填カラムHitrap Mabselect Sureを用いて上清を精製した。操作は以下のとおりである。精製前に5倍カラム体積の平衡液(20mMのTris,150mMのNaCl,pH7.2)で充填カラムを平衡化し、収集した上清をカラムに通し、さらに10倍カラム体積の平衡液で充填カラムを洗浄し、非特異的に結合するタンパク質を除去し、5倍カラム体積の溶出緩衝液(1Mのsodium citrate,pH3.5)で充填剤をすすぎ、溶出液を収集し、溶出液1mLあたり80μLのTris(2MのTris)を加え、限外濾過濃縮管を用いてPBS緩衝液に交換し、濃度を測定した。100μgの精製後のタンパク質を濃度が1mg/mLになるまで調整し、ゲル濾過クロマトグラフィーカラムでIL-2-Fc二量体タンパク質の純度を測定した。結果は表2に示される。図4は、表2にリストされた本発明のIL-2変異体の配列を示す。
【0191】
【表8】
【0192】
IL-2mutant-FCとその受容体との親和性測定
【0193】
バイオレイヤー干渉(ForteBio)測定法を使用して本発明のIL-2mutant-FCとその受容体の平衡解離定数(KD)を測定した。
【0194】
ForteBio親和性測定は従来の方法(Estep,P et al.,High throughput solution Based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning.MAbs,2013.5(2):p.270-8)に従って行われた。簡単に言えば、候補IL-2mutant-FCのIL-2Rα、IL-2Rβのそれぞれとの親和性を次のように測定した。センサを分析緩衝液でオフラインで20min平衡化し、次にオンラインで120秒検出してベースラインを確立した。ヒトビオチン化標識されたIL-2RαまたはIL-2RβをSAセンサ(PALL,18-5019)にロードしてForteBio親和性測定を行った。プラトー段階になるまで、IL-2Rα-BiotinまたはIL-2Rβ IH-Biotinをロードしたセンサを、100nMのIL-2mutant-FCを含む溶液に配置した後、結合と解離の速度を測定するために、センサを分析緩衝液に移して少なくとも2min解離した。1:1結合モデルを利用して動力学的分析を行った。
【0195】
上記の測定法で行われった実験において、HEK293-Fで発現されたIL-2mutant-FCとその受容体との親和性KD値は表3に示される。対照として、同じ方法で測定されたIL-2WT-FCおよびIL-23X-FC融合タンパク質の親和性KD値も表3に示される。
【0196】
【表9】
【0197】
親和性データから分かるように、IBYDL029ライブラリーから得られた上記変異体は、いずれもIL-2Rαへの結合を遮断すると同時に、IL-2Rβへの結合を維持する。
【0198】
実施例3:IL-2キメラおよび切断変異体の構築、スクリーニングおよび同定
【0199】
IL-2 B’C’loopキメラ体と切断体の設計
【0200】
B’C’loop:IL-2のB helixとC helixとの連結配列(図2A)であり、A73-R83の合計11個のアミノ酸を含む。
【0201】
IL-2モノマー(PDB:1M47)と複合物の結晶構造(PDB:2ERJ)を比較したところ、B’C’loopが溶液中で非常に活発であり、比較的安定したコンフォメーションを形成できないため、IL-2モノマーの結晶構造でB’C’loopが欠失していることが見出された。
【0202】
B’C’loopを遺伝子操作することによって、B’C’loopの安定性を向上させ、IL-2の安定性およびIL-2Rβとの親和性を向上させる。したがって、ヒトIL15結晶構造(PDB:2Z3Q)をアラインメントし、そのB’C’loopが短くて安定であることを見出した(図2B)。したがって、1つのIL-2キメラ分子(L017)と4つの切断分子(L057~L060)を設計した(表4に示す)。
【0203】
【表10】
【0204】
発現プラスミドの構築
【0205】
野生型IL-2(uniprot:P60568,aa21-153,C125S,IL-2WTと略称)、およびIL-2変異体IL-23X(R38D、K43E、E61R)、B’C’loopキメラ体および切断体を、GSGS連結配列を介してヒトIgG1のFc(L234A、L235A,FcLALAと略称され、配列番号7)に連結するとともに、pTT5のベクターに構築し、以下のタンパク質を発現した:
【0206】
【表11】
【0207】
B’C’loopキメラ体(Y017)または切断体(Y057)をライブラリーからスクリーニングして得られた変異体Y30E1(K35E、T37E、R38E、F42A)と組み合わせて、2つのGGGGSを介してFcLALAに連結するとともに、pCDNA3.1のベクターに構築し、以下のタンパク質を発現した。ここで、Y092は、キメラB’C’loopループ配列AGDASIHを有し、Y017の71-73位のアミノ酸残基NLSによって引き起こされた潜在的なN糖修飾を除去した。Y093とY094は、B’C’ループ切断体のT細胞活性化の活性を向上させるために、Y089をもとに切断されたループ配列にアミノ酸置換K76AまたはK76Dをさらに導入した。Y144は、IL2のN末端のO糖修飾を除去するために、Y092をもとにT3Aを増加した。
【0208】
【表12】
【0209】
なお、IL-2WTおよびIL-23Xを2つのGGGGSを介してFcLALAに連結するとともに、pCDNA3.1のベクターに構築し、以下のタンパク質を発現した。
【0210】
【表13】
【0211】
上記タンパク質分子の具体的な配列情報は配列表に示す。
【0212】
IL-2融合タンパク質の発現および精製
【0213】
上記タンパク質分子は、それぞれ293細胞とCHO細胞で発現された。HEK293細胞での発現は、IL-2-Fc融合タンパク質の発現に用いられる実施例2の方法に従って行われた。CHO細胞での発現は、以下のように行われた。
【0214】
必要な細胞体積に応じて、ExpiCHO細胞(Invitrogen)を継代し、トランスフェクションの前日に細胞密度を3.5×106個の細胞/mLに調整した。トランスフェクションの当日に細胞密度(約8~10×106個の細胞/mL)を検出し、生存率は95%以上に達した。ExpiCHOTM Expression Medium(Gibco製品番号:A29100-01)で細胞密度を6×106個の細胞/mLに調整した。最終体積の8%(v/v)のOptiPROTM SFM(Gibco製品番号:12309-019)をトランスフェクション緩衝液として、対応する量(0.8μg/mL細胞)のプラスミドを加え、均一に混合し、0.22μmの濾過膜で濾過して除菌し、3.2μL/mLの細胞比でExpiFectamineTM CHO Transfection Kit(Gibco,製品番号:A29130)におけるreagentを加えた。トランスフェクション試薬とプラスミドDNAによって形成された複合物を室温で1~5minインキュベートした後、細胞に徐々に加え、37℃、8%のCO2の条件下で18h培養した後、0.6%(v/v)のEnhancerおよび30%(v/v)のFeedを加え、引き続き6日間培養した。
【0215】
細胞を培養した後、細胞培養液を13000rpmで20min遠心分離し、上清を収集し、プレ充填カラムHitrap Mabselect Sure(GE,11-0034-95)で上清を精製した。操作は以下のとおりである。精製前に5倍カラム体積の平衡液(20mMのTris,150mMのNaCl,pH7.2)で充填カラムを平衡化し、収集した上清をカラムに通し、さらに10倍カラム体積の平衡液で充填カラムを洗浄し、非特異的に結合するタンパク質を除去し、5倍カラム体積の溶出緩衝液(100mMのsodium citrate,pH 3.5)で充填剤をすすぎ、溶出液を収集した。溶出液1mLあたり80μLのTris(2MのTris)を加え、限外濾過濃縮管(MILLIPORE、製品番号:UFC901096)を用いてPBS緩衝液(Gibco、製品番号:70011-044)に交換し、濃度を測定した。100μgの精製後のタンパク質を濃度が1mg/mLになるまで調整し、ゲル濾過クロマトグラフィーカラムSW3000(TOSOH製品番号:18675)でタンパク質の純度を測定した。
【0216】
B’C’loopキメラ体(Y017)および切断体(Y057/058/059)の融合タンパク質は、野生型IL-2の融合タンパク質(Y001)と比較して、HEK293細胞での発現量およびワンステップアフィニティークロマトグラフィー純度がすべて有意に向上した。結果は下記の表5に示される。
【0217】
【表14】
【0218】
B’C’loopキメラ体(Y092/144)、切断体(Y089/093/094)およびさらなる変異Y30E1を含む融合タンパク質は、野生型IL-2の融合タンパク質(Y045)と比較して、CHO細胞での発現量およびワンステップアフィニティークロマトグラフィー純度も有意に向上した。結果は下記の表6に示される。
【0219】
【表15】
【0220】
IL-2変異体Fc融合タンパク質とその受容体との親和性測定
【0221】
実施例2で記載されるForteBio親和性測定方法に従って、以下の変異タンパク質の親和性KD値を測定した。結果は下記の表7に示される。
【0222】
【表16】
【0223】
上記データをまとめて分かるように、1)酵母ライブラリーからスクリーニングされたY30E1などの点変異分子は、IL-2Rαへの結合を遮断することができる。2)B’C’loopキメラ分子と切断分子は、分子の発現量と純度を増加させるだけでなく、分子とIL-2Rβとの親和性をさらに増加させた。3)Y30E1とB’C’loop変異体との組み合わせ分子は、IL-2Rαを遮断するとともに、分子の発現量と純度を増加させ、同時にIL-2Rβとの結合活性を向上させた。
【0224】
実施例4:IL-2変異体のインビトロ機能実験
【0225】
IL-2WTのIL-2Rαとの親和性はIL-2RβおよびIL-2Rγより高く、細胞表面のIL-2Rαに優先的に結合し、IL-2Rβγを動員し、IL-2Rβγを介して下流p-STAT5シグナルを放出し、T細胞とNK細胞の増殖を刺激する。Treg細胞表面にIL-2Rαがあり、エフェクターT細胞とNK細胞表面にIL-2Rαがないため、正常な場合にIL-2WTはTreg細胞の増殖を優先的に刺激し、免疫応答をダウンレギュレートさせる。IL-2mutantはIL-2Rαに結合せず、Treg細胞の増殖を優先的に刺激する選好を解消し、同時にT細胞とNK細胞の増殖を刺激し、エフェクターT細胞とNK細胞の数を効果的に増加させ、抗腫瘍効果を高める。
【0226】
本実施例は各IL-2mutant-FCによる初代ヒトCD8+T細胞におけるp-STAT5シグナルの活性化を検出することにより、各変異体のCD25+細胞に対する活性化偏向性の除去を検証し、CD25-細胞に対する活性化作用が強い変異体をスクリーニングした。具体的なステップは以下のとおりである:
【0227】
1. PBMC細胞の蘇生:
【0228】
a) 液体窒素からPBMC細胞(Allcells製品番号:PB005F,100M装)を取り出し、37℃の水浴釜中にすばやく入れ、PBMC細胞を蘇生させた。
【0229】
b) 細胞を予熱した5%のヒトAB血清(GemCell製品番号:100-512)と1‰のDNA酵素(STRMCELL製品番号:07900)を含む10mLのX-VIVO15(Lonza製品番号:04-418Q)培地に加え、400G、25℃で10min遠心分離して(その後の遠心分離はいずれもこの条件)1回洗浄した。
【0230】
c) 20mLの培地を加えて細胞を再懸濁し、37℃の二酸化炭素インキュベーターに入れて静置して一晩培養した。
【0231】
2. ヒトCD8+T細胞の精製:
【0232】
a) ステップ1の懸濁細胞液を吸引し、遠心分離して上清を捨てた。
【0233】
b) 1mLのRobosep緩衝液(STEMCELL 製品番号:20104)と100μLのヒトAB血清および100μLのヒトCD8+T細胞精製キット(Invitrogen 製品番号:11348D)に加えて抗体混合液を陰性スクリーニングして細胞を再懸濁した。
【0234】
c) 均一に混合した後、4℃で20minインキュベートし、5minごとに1回振とうした。
【0235】
d) インキュベートした後、10mLのRobosep緩衝液を加え、遠心分離して2回洗浄した。
【0236】
e) 同時に、1mLの磁性微小球(ヒトCD8+T細胞精製キット)に7mLのRobosep緩衝液を加えて磁気スタンドに1min置いて上清を捨て、磁性微小球を予備洗浄した。
【0237】
f) それぞれ1mLのRobosep緩衝液を加えてそれぞれ微小球と細胞を再懸濁し、均一に混合した後に室温で30min回転インキュベートした。
【0238】
g) インキュベートした後、6mLのRobosep緩衝液を加え、磁気スタンドに1min置き、上清を収集した。
【0239】
h) 収集液を再び磁気スタンドに1min置き、上清を収集した。
【0240】
i) 遠心分離して上清を捨て、予熱したT培地で再懸濁し、密度を1×106/mLに調整した。
【0241】
j) 細胞の1/3を採取して後に必要の場合にCD25発現を刺激し、残りの細胞を37℃の二酸化炭素インキュベーターに入れて静置して一晩培養した。
【0242】
3. CD8+T細胞を、CD25を発現するように刺激した:
【0243】
a) ステップ2で精製したCD8+T細胞の1/3に抗ヒトCD3/CD28抗体の磁性微小球(GIBCO製品番号:11131D)を加え、細胞と微小球の割合は3:1であった。
【0244】
b) 37℃の二酸化炭素インキュベーターに入れて3日間静置した。
【0245】
c) 10mLの培地を加えて2回洗浄した。
【0246】
d) 培地を加え、細胞密度が1×106/mLになるまで調整し、37℃の二酸化炭素インキュベーターに入れて静置して2日間培養した。
【0247】
4. 細胞の純度と発現レベルの検出:
【0248】
a) 抗ヒトCD8-PE(Invitrogen製品番号:12-0086-42)、抗ヒトCD25-PE(eBioscience製品番号:12-0259-42)、アイソタイプ対照抗体(BD製品番号:556653)を用いて細胞のCD8とCD25を検出した。
【0249】
b) ステップ2における細胞はCD8+CD25-T細胞であり、ステップ3における細胞はCD8+CD25+T細胞であった。
【0250】
5. 各IL-2mutant-FCによるCD8+CD25-T細胞に対するp-STAT5シグナル活性化のEC50の検出:
【0251】
a) CD8+CD25-T細胞を1ウェルあたり1×105細胞で96ウェルU底培養プレート(Costar製品番号:CLS3799-50EA)に敷いた。
【0252】
b) 100μLの各IL-2mutant-FC、市販IL-2(R&D製品番号:202-IL-500)、IL-2WT-FC、IL-23X-FCを加え、最高濃度は266.7nMから始めて4倍勾配希釈し、合計12個の勾配であり、37℃のインキュベーターで20minインキュベートした。
【0253】
c) 4.2%のホルムアルデヒド溶液を55.5μL加え、室温で10min固定した。
【0254】
d) 遠心分離して上清を捨て、200μLの氷メタノール(Fisher製品番号:A452-4)を加えて細胞を再懸濁し、4℃の冷蔵庫で30minインキュベートした。
【0255】
e) 上清を遠心分離し、200μLの染色緩衝液(BD製品番号:554657)で3回洗浄した。
【0256】
f) 抗p-STAT5-AlexFlour647(BD製品番号:562076、1:200希釈)を含む透過処理/固定用緩衝液(BD製品番号:51-2091KZ)を200μL加え、室温で遮光で3hインキュベートした。
【0257】
g) 染色緩衝液で3回洗浄し、100μLの染色緩衝液で細胞を再懸濁し、フローサイトメトリー検出を行った。
【0258】
h) IL-2分子の濃度を横軸として、AlexFlour647中間蛍光値を縦軸として、p-STAT5シグナルのEC50値を作成し、結果は図5Aおよび表8に示される。
【0259】
6. 各IL-2mutant-FCによるCD8+CD25+T細胞に対するp-STAT5シグナル活性化のEC50の検出:
【0260】
a) CD8+CD25+T細胞を1ウェルあたり1×105細胞で96ウェルU底培養プレートに敷いた。
【0261】
b) ステップ5におけるb-hと同様にして、p-STAT5シグナルのEC50値を作成し、結果は図5Bおよび表8に示される。
【0262】
【表17】
【0263】
実験結果から明らかなように、1)Y30E1のB’C’loop変異体Y089、Y092、Y093およびY094は、CD25-CD8+T細胞においてp-STAT5シグナルを活性化するEC50がいずれもY30E1より低く、最適化されたB’C’loopは、CD25-CD8+T細胞に対する分子の活性化を向上させることができることが示され、これはIL-2Rβ親和性データと一致する。2)CD25- EC50/CD25+ EC50倍数の結果から、Y045(IL-2WT-Fc)と比較して、変異タンパク質Y30E1、Y089、Y092、Y093およびY094は、CD25+細胞の活性化への偏向性を有意に低減し、Y30E1変異がCD25への結合を安全に遮断することが示される。
【0264】
実施例5:IL-2変異体の安定性
【0265】
Y089、Y092およびY094をPBS緩衝液(pH7.4,Gibco,製品番号:10010-023)またはヒスチジン緩衝液(10mMのヒスチジン,5%のソルビトール,0.02%のポリソルベート80,塩酸でpH6.5に調整)に保存し、40℃の恒温インキュベーター(志誠SHP-150)にそれぞれ7日間と14日間保存した安定性を評価した。検出指標は、それぞれSEC-HPLCとCE-SDSによって測定されたIL-2変異タンパク質の純度であった。
【0266】
【表18】
【0267】
【表19】
【0268】
結果により、Y089、Y092およびY094はPBS緩衝液およびヒスチジン緩衝液で14日間放置した後、いずれも優れた安定性が示された。
【0269】
実施例6:IL-2変異分子のインビボ抗腫瘍効果
【0270】
IL-2変異分子のインビボでの有効性を証明するために、CT26細胞(マウス結腸がん細胞系,ATCC)を使用してBalb/cマウスに接種し、本発明のIL-2変異分子(Y092)の抗腫瘍効果を測定した。実験にはSPFグレードの雌Balb/cマウス(18~20g,浙江維通利華実験動物技術有限公司から購入)を使用し、合格証明書の番号はNO.1811230011であった。
【0271】
CT26細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でCT26細胞を分散させ、細胞濃度が2.5×106個の細胞/mLの細胞懸濁液を調製した。0日目に0.2mLの細胞懸濁液をBalb/cマウスの右腹部に皮下接種してCT26担がんマウスモデルを確立した。
【0272】
腫瘍細胞接種の7日後に、各マウスの腫瘍体積を検出し、群分けを行い(1群あたり6匹のマウス)、投与量および投与方式は表10に示される。
【0273】
【表20】
【0274】
*:h-IgGはアイソタイプ対照抗体であり、Equitech-Bioから購入し、ロット番号は161206-0656であった。
【0275】
h-IgGとY092の使用濃度は、それぞれ10mg/mLと6.4mg/mLであり、7日ごとに、合計2回投与された(Q7D×2)。CT26細胞接種後の7日目、14日目にそれぞれ投与し、図6A、6Bおよび6Cに示すように、マウスの腫瘍体積と体重を週に2~3回モニタリングし、21日後にモニタリングを終了した。接種後の21日目に、相対腫瘍抑制率(TGI%)を計算した。計算式は、TGI%=100%×(対照群腫瘍体積-治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積-対照群投与前腫瘍体積)であった。腫瘍体積の測定:ノギスを用いて腫瘍の最大長軸(L)と最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は下記式:V=L×W2/2に従って計算された。電子天びんを用いて体重を測定した。
【0276】
腫瘍抑制率の結果は表11に示される。接種後の21日目に、h-IgGと比較して、Y092、0.004mg/kg、Y092、0.02mg/kg、Y092、0.1mg/kg、Y092、0.5mg/kgの単剤抑制率は、それぞれ3.7%、16.2%、43.8%、53.5%であった。結果から、改善後のIL2分子(Y092)は抗腫瘍作用を有し、且つ用量効果を有することが示された。同時に、マウス体重の検出結果(図6B~6C)から、接種開始から21日まで、高用量群(Y092,0.5mg/kg)で10%を超えた体重降下があり、他の群のマウスの体重降下は、5%を超えなかったことが示された。各投与群のマウスはすべて、死亡しなかった。
【0277】
【表21】
【0278】
実施例7:IL-2変異体分子のインビボ抗腫瘍効果
【0279】
さらに、分子Y092を変異させ(T3A)、その分子のグリコシル化を減らした。IL-2変異分子のインビボでの有効性を証明するために、MC38細胞(マウス結腸がん細胞系,ATCC)を使用してC57マウスに接種し、本発明のIL-2変異分子(Y144)の抗腫瘍効果を測定した。実験にはSPFグレードの雌C57マウス(15~18g、北京維通利華実験動物技術有限公司から購入)を使用し、合格証明書の番号はNO.1100111911070497であった。
【0280】
MC38細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でMC38細胞を再懸濁し、細胞濃度が5×106個の細胞/mLの細胞懸濁液を調製した。0日目に0.2mLの細胞懸濁液をC57マウスの右腹部に皮下接種してMC38担がんマウスモデルを確立した。
【0281】
腫瘍細胞接種の7日後、各マウスの腫瘍体積を検出し、群分けを行い(1群あたり6匹のマウス)。投与量および投与方式は表12に示される。
【0282】
【表22】
【0283】
*:h-IgGはアイソタイプ対照抗体であり、Equitech-Bioから購入し、ロット番号は161206-0656であった。
【0284】
h-IgGとY144の使用濃度は、それぞれ10mg/mLと0.5mg/mLであり、7日ごとに、合計3回投与された(Q7D×3)。MC38細胞接種後の7日目、14日目、21日目にそれぞれ投与し、図7A、7Bおよび7Cに示すように、マウスの腫瘍体積と体重を週に2回モニタリングし、24日後にモニタリングを終了した。接種後の24日目に、相対腫瘍抑制率(TGI%)を計算した。計算式は、TGI%=100%×(対照群腫瘍体積-治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積-対照群投与前腫瘍体積)であった。腫瘍体積の測定:ノギスを用いて腫瘍の最大長軸(L)と最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は下記式:V=L×W2/2に従って計算された。電子天びんを用いて体重を測定した。
【0285】
腫瘍抑制率の結果は表13に示される。接種後の24日目に、h-IgG、1mg/kg群と比較して、Y144の単剤抑制率は30.05%であった。同時に、マウス体重の検出結果(図7C)から、接種後の24日目に、マウスの体重は有意差がないことが示された。
【0286】
配列表の説明
【0287】
【表23-1】
【表23-2】
【表23-3】
【表23-4】
【表23-5】
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8
図9
【配列表】
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【国際調査報告】