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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-01
(54)【発明の名称】XIX型コラーゲンのアッセイ
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20230424BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230424BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230424BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230424BHJP
【FI】
C07K16/18
G01N33/53 D ZNA
G01N33/574 A
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557131
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(85)【翻訳文提出日】2022-09-21
(86)【国際出願番号】 EP2021057319
(87)【国際公開番号】W WO2021191167
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】2004195.0
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503259129
【氏名又は名称】ノルディック・ビオサイエンス・エー/エス
【氏名又は名称原語表記】NORDIC BIOSCIENCE A/S
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウィルムセン,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】トルラチウス‐ウッシング,イェッペ
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA13
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、XIX型コラーゲンを標的とするモノクローナル抗体、ならびに前記抗体を用いるイムノアッセイおよびキットに関する。本発明のアッセイは、がんの診断およびモニタリングに用いることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有するペプチドを特異的に認識し、これと結合するモノクローナル抗体。
【請求項2】
C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して生起させたモノクローナル抗体である、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGNX(配列番号2)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項1または2に記載のモノクローナル抗体であって、Xがいずれかのアミノ酸を表すモノクローナル抗体。
【請求項4】
C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGNA(配列番号3)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項1から3のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
C末端アミノ酸配列SHAHQRTGG 配列番号4)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項1から4のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
C末端アミノ酸配列GVAPGIGPGG(配列番号5)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項1から5のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項7】
ヒト生体流体試料中のXIX型コラーゲンを検出するイムノアッセイの方法であって、ヒト生体流体試料を、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有するペプチドを特異的に認識してこれと結合するモノクローナル抗体と接触させることと、前記モノクローナル抗体と前記試料中のペプチドとの間の結合を検出することと、を含む方法。
【請求項8】
検出が定量的である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イムノアッセイが競合イムノアッセイである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記モノクローナル抗体が、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して生起されたモノクローナル抗体である、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGNX(配列番号2)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法であって、Xがいずれかのアミノ酸を表す方法。
【請求項12】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGNA(配列番号3)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項7から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGG(配列番号4)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項7から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列GVAPGIGPGG(配列番号5)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項7から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒト生体流体試料が、がんを示す医学的徴候または症状を有するヒト患者からのものである、請求項7~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
患者におけるがんの可能性を診断する、および/またはモニタリングする、および/または評価するイムノアッセイ法であって、前記患者から得られた生体流体試料をモノクローナル抗体と接触させることと、前記モノクローナル抗体と前記試料中のペプチドとの間の結合量を検出および決定することと、前記結合量を、通常の健康な被験者に関連する値、および/または既知の疾患重症度に関連する値、および/または以前の時点で前記患者から得た値と相関させることと、を含む、請求項7から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記がんが、乳房、肺、結腸、頭頸部、腎臓、肝臓、膵臓、前立腺、胃、メラノーマ、膀胱、または卵巣のがんである、請求項16または請求項17に記載の方法。
【請求項18】
C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有するペプチドを特異的に認識しこれと特異的に結合するモノクローナル抗体と:
-ストレプトアビジンコーティングされたウェルプレート;
-C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有するN末端ビオチン化ペプチド;および
-C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有する較正用ペプチド
のうちの少なくとも一つと、
を含む、アッセイキット。
【請求項19】
前記モノクローナル抗体が、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して生起されたモノクローナル抗体である、請求項18に記載のアッセイキット。
【請求項20】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGNX(配列番号2)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項21または請求項22に記載のアッセイキットであって、Xがいずれかのアミノ酸を表すアッセイキット。
【請求項21】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGNA(配列番号3)を有するペプチドを特異的には認識しない、請求項18から20のいずれか1項に記載のアッセイキット。
【請求項22】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGG(配列番号4)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項18から21のいずれか一項に記載のアッセイキット。
【請求項23】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列GVAPGIGPGG(配列番号5)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない、請求項18から22のいずれか一項に記載のアッセイキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、XIX型コラーゲンを標的とするモノクローナル抗体、ならびに前記抗体を用いるイムノアッセイおよびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
緒言
XIX型コラーゲンは、基底膜に関連するコラーゲンであり、その特性評価は進んでいない。このコラーゲンは、乳がんの進行時に制御変化を示し、NC1(XIX)ドメインが抗腫瘍性のシグナル伝達特性を示している。しかし、がんにおけるXIX型コラーゲンのバイオマーカーとしての可能性については、ほとんど知られていない。
【0003】
肺がんは、最も多く診断されるがんであり、がんによる死亡の主要原因である(非特許文献1)。非小細胞肺がん(NSCLC)は、肺がんの症例全体の約85%を占め、腺がん(AC)および扁平上皮がん(SCC)が最も一般的なサブタイプである(非特許文献2,3)。肺がんの症例の多くは末期に診断されるため、全5年生存率が19%という深刻な結果になっている(非特許文献4)。しかし、ほとんどの患者が外科的切除の恩恵を受けることができる限局期に診断される患者の場合には、5年生存率は56%である(非特許文献2,4)。したがって、早期発見が、肺がん患者の生存率を向上させる主要な方法の一つである。
【0004】
腫瘍微小環境は、がんの進行を規定する従来の特徴と複雑に関連している(非特許文献5)。腫瘍微小環境の主要な構成要素の一つは、組織の非細胞部分である細胞外マトリクス(ECM)であり、実際上これらすべての特徴に影響を与える(非特許文献6)。ECM中の最も主要なタンパク質はコラーゲンであり、異なる28種類が存在する(非特許文献7)。XIX型コラーゲンは、3本のα1(XIX)鎖が400kDaのホモトリマーを形成しているマイナーコラーゲンである。各鎖は、五つのコラーゲン性三重らせんドメインと六つの非コラーゲン性ドメインを含んでいる。XIX型コラーゲンはその一次配列に基づいて、線維性コラーゲンと他のECM構成成分との相互作用を仲介する、断続性三重らせんを有する線維付随性コラーゲン(Fibril-Associated Collagen with Interrupted Triple helices)のファミリーに属している(非特許文献8~10)。
【0005】
XIX型コラーゲンの発現は、発達期のマウスで広く見られるが、成体ではより制限され、そのほとんどが脳組織に蓄積している(非特許文献11)。成人では、脳、骨格筋、脾臓、前立腺、腎臓、肝臓、胎盤、結腸、皮膚、乳房組織での発現が見出されている(非特許文献12,13)。XIX型コラーゲンの機能は完全には理解されていないが、発達上の役割を担っていることは実際明らかであると思われる。XIX型コラーゲンは、胚性筋の分化や食道の発達に関与している(非特許文献10,14,15)。XIX型コラーゲンはまた、海馬におけるシナプスの形成や脊髄神経細胞における軸索の形成にも関与している(非特許文献16,17)。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の筋肉におけるXIX型コラーゲンの過剰発現も述べられており、予後の悪化と関連している(非特許文献18,19)。
【0006】
全体として、XIX型コラーゲンタンパク質の組織限局は、ほとんどが血管、神経、筋肉、およびいくつかの上皮の基底膜領域(BMZ)と関連している(非特許文献12)。興味深いことに、乳癌の上皮BMZにおけるXIX型コラーゲンのタンパク質染色は、限局性管状癌では部分的に失われ、浸潤癌では全く存在していない。この消失は、IV型コラーゲンやラミニンの消失よりも早く起こることから、XIX型コラーゲンレベルの減少は、前浸潤性腫瘍におけるBMZリモデリングの早期の結果であることが示唆されている(非特許文献13)。
【0007】
IV型、XV型、XVIII型コラーゲンのNC1ドメインからのマトリカインの放出と同様に、XIX型コラーゲンのC末端NC1ドメインは、切断され放出される可能性がある。結果として生じるペプチドは、メラノーマの増殖と血管新生をインビボで抑制し、浸潤をインビトロで抑制することができる(非特許文献20)。NC1ドメインは、プラスミンプロテアーゼによって切断され、αvβ3インテグリンと相互作用してFAK/PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路を阻害するとともに、GSK3βリン酸化を阻害する(非特許文献21,22)。興味深いことに、NC1ドメインは、抑制性神経終末の形成を誘発させるものの、その際、異なるインテグリン受容体であるα5β1と相互作用する(非特許文献23)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bray, F. et al. Global cancer statistics 2018: GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 36 cancers in 185 countries. CA. Cancer J. Clin. 68, 394-424 (2018).
【非特許文献2】Molina, J. R., Yang, P., Cassivi, S. D., Schild, S. E. & Adjei, A. A. Non-small cell lung cancer: epidemiology, risk factors, treatment, and survivorship. Mayo Clin. Proc. 83, 584-94 (2008).
【非特許文献3】Herbst, R. S., Morgensztern, D. & Boshoff, C. The biology and management of non-small cell lung cancer. Nature 553, 446-454 (2018).
【非特許文献4】Siegel, R. L., Miller, K. D. & Jemal, A. Cancer statistics, 2019. CA. Cancer J. Clin. 69, 7-34 (2019).
【非特許文献5】Hanahan, D. & Weinberg, R. A. Hallmarks of Cancer: The Next Generation. Cell 144, 646-674 (2011).
【非特許文献6】Pickup, M. W., Mouw, J. K. & Weaver, V. M. The extracellular matrix modulates the hallmarks of cancer. EMBO Rep. 15, 1243-1253 (2014).
【非特許文献7】Ricard-Blum, S. The collagen family. Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 3, a004978 (2011).
【非特許文献8】Yoshioka, H. et al. Synteny between the loci for a novel FACIT-like collagen locus (D6S228E) and α1(IX) collagen (COL9A1) on 6q12-q14 in humans. Genomics 13, 884-886 (1992).
【非特許文献9】Inoguchi, K., Yoshioka, H., Khaleduzzaman, M. & Ninomiya, Y. The mRNA for α1(XIX) Collagen Chain, a New Member of FACITs, Contains a Long Unusual 3′ Untranslated Region and Displays Many Unique Splicing Variants1. J. Biochem. 117, 137-146 (1995).
【非特許文献10】Myers, J. C. et al. The triple-helical region of human type XIX collagen consists of multiple collagenous subdomains and exhibits limited sequence homology to alpha 1(XVI). J. Biol. Chem. 269, 18549-57 (1994).
【非特許文献11】Sumiyoshi, H., Inoguchi, K., Khaleduzzaman, M., Ninomiya, Y. & Yoshioka, H. Ubiquitous Expression of the α1(XIX) Collagen Gene ( Col19a1 ) during Mouse Embryogenesis Becomes Restricted to a Few Tissues in the Adult Organism. J. Biol. Chem. 272, 17104-17111 (1997).
【非特許文献12】Myers, J. C. et al. Biochemical and immunohistochemical characterization of human type XIX defines a novel class of basement membrane zone collagens. Am. J. Pathol. 151, 1729-40 (1997).
【非特許文献13】Amenta, P. S. et al. Loss of types XV and XIX collagen precedes basement membrane invasion in ductal carcinoma of the female breast. J. Pathol. 199, 298-308 (2003).
【非特許文献14】Sumiyoshi, H., Laub, F., Yoshioka, H. & Ramirez, F. Embryonic expression of type XIX collagen is transient and confined to muscle cells. Dev. Dyn. 220, 155-62 (2001).
【非特許文献15】Sumiyoshi, H. et al. Esophageal muscle physiology and morphogenesis require assembly of a collagen XIX-rich basement membrane zone. J. Cell Biol. 166, 591-600 (2004).
【非特許文献16】Su, J., Gorse, K., Ramirez, F. & Fox, M. A. Collagen XIX is expressed by interneurons and contributes to the formation of hippocampal synapses. J. Comp. Neurol. 518, 229-253 (2010).
【非特許文献17】Hilario, J. D., Wang, C. & Beattie, C. E. Collagen XIXa1 is crucial for motor axon navigation at intermediate targets. Development 137, 4261-4269 (2010).
【非特許文献18】Shtilbans, A. et al. Differential gene expression in patients with amyotrophic lateral sclerosis. Amyotroph. Lateral Scler. 12, 250-256 (2011).
【非特許文献19】Calvo, A. C. et al. Collagen XIX Alpha 1 Improves Prognosis in Amyotrophic Lateral Sclerosis. Aging Dis. 10, 278-292 (2019).
【非特許文献20】Ramont, L. et al. The NC1 domain of type XIX collagen inhibits in vivo melanoma growth. Mol. Cancer Ther. 6, 506-514 (2007).
【非特許文献21】Oudart, J.-B. et al. Plasmin releases the anti-tumor peptide from the NC1 domain of collagen XIX. Oncotarget 6, (2015).
【非特許文献22】Oudart, J.-B. et al. The anti-tumor NC1 domain of collagen XIX inhibits the FAK/ PI3K/Akt/mTOR signaling pathway through αvβ3 integrin interaction. Oncotarget 7, 1516-28 (2016).
【非特許文献23】Su, J. et al. Collagen-derived matricryptins promote inhibitory nerve terminal formation in the developing neocortex. J. Cell Biol. 212, 721-736 (2016).
【非特許文献24】Kehlet, S. N. et al. A fragment of SPARC reflecting increased collagen affinity shows pathological relevance in lung cancer - implications of a new collagen chaperone function of SPARC. Cancer Biol. Ther. 19, 904-912 (2018).
【非特許文献25】Myers, J. C. et al. Type XIX Collagen Purified from Human Umbilical Cord Is Characterized by Multiple Sharp Kinks Delineating Collagenous Subdomains and by Intermolecular Aggregates via Globular, Disulfide-linked, and Heparin-binding Amino Termini. J. Biol. Chem. 278, 32047-32057 (2003).
【非特許文献26】Oudart, J. B. et al. Analytical methods for measuring collagen XIX in human cell cultures, tissue extracts, and biological fluids. Anal. Biochem. 437, 111-117 (2013).
【非特許文献27】Maatta, M., Virtanen, I., Burgeson, R. & Autio-Harmainen, H. Comparative Analysis of the Distribution of Laminin Chains in the Basement Membranes in Some Malignant Epithelial Tumors: The α1 Chain of Laminin Shows a Selected Expression Pattern in Human Carcinomas. J. Histochem. Cytochem. 49, 711-725 (2001).
【非特許文献28】Sedgwick, A. & D’Souza-Schorey, C. Wnt Signaling in Cell Motility and Invasion: Drawing Parallels between Development and Cancer. Cancers (Basel). 8, 80 (2016).
【非特許文献29】Giroux-Leprieur, E., Costantini, A., Ding, V. & He, B. Hedgehog Signaling in Lung Cancer: From Oncogenesis to Cancer Treatment Resistance. Int. J. Mol. Sci. 19, 2835 (2018).
【非特許文献30】Chaffer, C. L., San Juan, B. P., Lim, E. & Weinberg, R. A. EMT, cell plasticity and metastasis. Cancer Metastasis Rev. 35, 645-654 (2016).
【非特許文献31】Oudart, J.-B. et al. The anti-tumor NC1 domain of collagen XIX inhibits the FAK/ PI3K/Akt/mTOR signaling pathway through alphavbeta3 integrin interaction. Oncotarget 7, 1516-1528 (2016).
【非特許文献32】Caccavari, F., Valdembri, D., Sandri, C., Bussolino, F. & Serini, G. Integrin signaling and lung cancer. Cell Adh. Migr. 4, 124-129 (2010).
【非特許文献33】Singh, B., Fu, C. & Bhattacharya, J. Vascular expression of the α v β 3 -integrin in lung and other organs. Am. J. Physiol. Cell. Mol. Physiol. 278, L217-L226 (2000).
【非特許文献34】Schaffner, F., Ray, A. & Dontenwill, M. Integrin α5β1, the Fibronectin Receptor, as a Pertinent Therapeutic Target in Solid Tumors. Cancers (Basel). 5, 27-47 (2013).
【非特許文献35】Infante, J. et al. Identification of candidate genes for Parkinson’s disease through blood transcriptome analysis in LRRK2-G2019S carriers, idiopathic cases, and controls. Neurobiol. Aging 36, 1105-1109 (2015).
【非特許文献36】Calvo, A. C. et al. Genetic biomarkers for ALS disease in transgenic SOD1(G93A) mice. PLoS One 7, e32632 (2012).
【非特許文献37】Ana, C. C. et al. Collagen XIX Alpha 1 Improves Prognosis in Amyotrophic Lateral Sclerosis. Aging Dis. (2018). doi:10.14336/AD.2018.0917
【非特許文献38】Kabat, E. A., T. T. Wu, H. M. Perry, K. S. Gottesman and C. Foeller (1987), Sequences of Proteins of Immunological Interest, United States Department of Health and Human Services, Bethesda, Md., p. 1
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、XIX型コラーゲン、特にα1鎖のC末端を特異的に認識するモノクローナル抗体;およびイムノアッセイ、詳細には、生体流体試料中のXIX型コラーゲンを検出する酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)を開発した。本発明者らは、XIX型コラーゲンが、がん検出用のバイオマーカーとして使用できると判断した。詳細には、PRO-C19が、NSCLCと健康な対照との間の識別に特に優れており、NSCLCの早期発見用のバイオマーカーとして使用することができる。
【0010】
従って、第1の態様では、本発明は、XIX型コラーゲンα1鎖のC末端(本明細書では標的ペプチドとも称する)を特異的に認識し結合するモノクローナル抗体に関するものであり、C末端はアミノ酸配列SHAHRTGGN(配列番号1)(本明細書では、標的配列とも称する)を有する。
【0011】
好ましくは、モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して生起させたモノクローナル抗体である。抗体を生起させるのに使用される合成ペプチドは、そのN末端のところで輸送タンパク質に連結された合成ペプチドであってもよい。例示的な輸送タンパク質には、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などのタンパク質が挙げられるが、これには限定されない。合成ペプチドは、いずれかの好適な連結を介して輸送タンパク質に連結されてもよく、このペプチドは、ペプチドのN末端に1つ以上の追加のアミノ酸残基を含んでいてもよい。モノクローナル抗体は、マウスまたは他の哺乳動物を免疫する、免疫された哺乳動物から脾臓細胞を単離してハイブリドーマ細胞と融合させる、次いで、得られたハイブリドーマ細胞を培養してモノクローナル増殖を確保するなどであるがこれらには限定されない、当業者に公知の好適な技術を介して生起させたものであってもよい。
【0012】
好ましい実施形態では、モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGNX(配列番号2)を有するペプチドを特異的には認識せず、またはこれと特異的には結合せず、Xはいずれかのアミノ酸を表す。よって、モノクローナル抗体は好ましくは、標的アミノ酸配列をC末端のところで一つまたは複数のアミノ酸によって延長させた標的ペプチドの伸長変異体を特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない。好ましくは、モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGNA(配列番号3)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない。
【0013】
好ましい実施形態では、モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGG(配列番号4)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない。よって、モノクローナル抗体は好ましくは、C末端のところで一つまたは複数のアミノ酸によって標的アミノ酸配列を短縮させた標的ペプチドの短縮変異体を特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない。
【0014】
好ましい実施形態では、モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列GVAPGIGPGG(配列番号5)を有するペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない。よって、モノクローナル抗体は好ましくは、ナンセンス標準ペプチドを特異的には認識しない、またはこれと特異的には結合しない。
【0015】
第2の態様では、本発明は、ヒト生体流体試料中のXIX型コラーゲンを検出するイムノアッセイの方法に関するものであり、前記方法は、ヒト生体流体試料を、本発明の第1の態様によるモノクローナル抗体と接触させることと、モノクローナル抗体と試料中のペプチドとの間の結合を検出することと、を含む。
【0016】
好ましくは、検出は定量的である。よって、この方法は、モノクローナル抗体と試料中のペプチドとの間の結合量を検出し決定することを含んでいてもよい。
【0017】
好ましくは、イムノアッセイは、競合イムノアッセイである。
【0018】
好ましくは、イムノアッセイは、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)である。好ましくは、ELISAは、競合ELISAである。
【0019】
ヒト生体流体試料は、実例としては、血液、血清、血漿、または尿であってもよい。好ましくは、試料は、血清または血漿である。
【0020】
ヒト生体流体試料は、がんを示す医学的徴候または症状を有するヒト患者からの試料であってもよい。好ましくは、生体流体試料は、膵臓、大腸、腎臓、胃、卵巣、乳房、膀胱、肺、頭頸部、前立腺、または肝臓のがん、またはメラノーマ、好ましくは乳房、肺、または卵巣のがん、詳細には肺がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)を示す医学的徴候または症状を有するヒト患者からの試料である。
【0021】
本方法は、患者におけるがんの可能性を診断する、および/またはモニタリングする、および/または評価するイムノアッセイ法であってもよく、本方法は、前記患者から得られた生体流体試料をモノクローナル抗体と接触させることと、モノクローナル抗体と試料中のペプチドとの間の結合量を検出および決定することと、前記結合量を、通常の健康な被験者に関連する値、および/または既知の疾患重症度に関連する値、および/または前記患者から以前の時点で得られた値と相関させることと、を含む。好ましくは、がんは、膵臓、大腸、腎臓、胃、卵巣、乳房、膀胱、肺、頭頸部、前立腺、または肝臓のがん、またはメラノーマ、より好ましくは乳房、肺、または卵巣のがん、詳細には肺がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)である。
【0022】
第2の態様による方法のいくつかの実施形態では、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有するXIX型コラーゲンペプチドのエピトープに特異的なモノクローナル抗体の結合量は、一つまたは複数の所定のカットオフ値と相関がある。
【0023】
本明細書で使用されるとおり、「カットオフ値」は、がんを有する被験者である可能性が高いことを示すと統計的に決定される結合量を意味する。統計的カットオフ値以上である患者試料におけるバイオマーカー結合の測定値は、がんの存在または可能性の少なくとも70%確率、好ましくは少なくとも80%確率、好ましくは少なくとも85%確率、より好ましくは少なくとも90%確率、最も好ましくは少なくとも95%確率に対応する場合がある。「カットオフ値」は、がんと診断された患者と健康な対照から得られた結果を比較することによって計算することができる。
【0024】
C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)に特異的なモノクローナル抗体の結合量に対する所定のカットオフ値は、50.0~200.0ng/mLの範囲内であってもよい。好ましくは、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)に特異的なモノクローナル抗体の結合量に対する所定のカットオフ値は、75.0~150.0ng/mLの範囲内、より好ましくは90.0~120.0ng/mLの範囲内、最も好ましくは少なくとも118.9ng/mLである。この点に関して、統計分析の使用を通じて、50.0~200.0ng/mLの範囲内、詳細には少なくとも118.9ng/mL以上の、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)に特異的なモノクローナル抗体の結合の測定量であれば、がん、詳細には肺がん、例えばNSCLCを有する可能性がある患者であることが確定する場合のあることが見出された。50.0~200.0ng/mLの範囲内、詳細には少なくとも118.9ng/mLの統計的カットオフ値があることにより、本発明の方法を利用して、高い信頼度でがん診断の予測を行うことが可能である。詳細には、50.0~200.0ng/mLの範囲内、詳細には少なくとも118.9ng/mL以上の値で、NSCLCの患者が確定する場合がある。このような統計的カットオフ値を適用することは、独立した診断アッセイという結果が得られるので特に有利である;すなわち診断の結論に達するために、健康な個人および/またはがんであるとわかっている患者とのいかなる直接的な比較の必要性も、これによって取り除かれる。決定的な予測が簡易的になされることにより、患者がさらに早期に治療される結果となる場合があり、それによって今度は、生存の全体的な見込みが改善する、および/または入院のリスクが減少する場合がある。
【0025】
肺がん、詳細にはNSCLCと診断された患者において、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)に特異的なモノクローナル抗体の結合量に対する所定のカットオフ値を使用して、がんのステージの指標を提供することができる。C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)に特異的なモノクローナル抗体の結合量に対する所定のカットオフ値は、40.0~75.0ng/mLの範囲内、好ましくは少なくとも55.6ng/mLとすることができる。この点に関して、統計分析の使用を通じて、40.0~75.0ng/mLの範囲内、好ましくは少なくとも55.6ng/mL以上の、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)に特異的なモノクローナル抗体の結合の測定量であれば、ステージIIIまたはステージIVのNSCLCにおける末期がんを有する可能性のある患者が確定する場合のあることが見出された。40.0~75.0ng/mLの範囲内、詳細には少なくとも55.6ng/mLの統計的カットオフ値があることにより、本発明の方法を利用して、高い信頼度でがんのステージと進行の予測を行うことが可能である。詳細には、40.0~75.0ng/mLの範囲内、好ましくは少なくとも55.6ng/mL以上の値で、少なくともステージIIIのNSCLCの患者が確定する場合がある。決定的な予測が簡易的になされることは、患者におけるがんの進行のモニタリングや、治療の有効性のモニタリングに役立つ場合がある。カットオフ値の使用は、治療体制が奏功しないかどうか、そしてがんが進行しているかどうかを特定するのに役立つ場合があり、その結果、さらに早期で代替治療を探すことができ、それにより今度は、生存の全体的な見込みが改善する場合がある。
【0026】
第3の態様では、本発明は、
本発明の第1の態様によるモノクローナル抗体と:
-ストレプトアビジンコーティングされたウェルプレート;
-C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有する、N末端ビオチン化ペプチド;および
-C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有する較正用ペプチド
のうちの少なくとも一つと、
を含むアッセイキットに関する。
【0027】
キットは、本発明の第2の態様による方法と好ましくは組み合わせて、がんのリスクの診断または予測に使用するためのものであってもよい。好ましくは、がんは、膵臓、大腸、腎臓、胃、卵巣、乳房、膀胱、肺、頭頸部、前立腺、または肝臓のがん、またはメラノーマ、より好ましくは乳房、肺、または卵巣のがん、詳細には肺がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)である。
定義
【0028】
本明細書で使用されるとおり、用語「ペプチド」および「ポリペプチド」は、同義に使用される。
【0029】
本明細書で使用されるとおり、用語「モノクローナル抗体」は、抗体全体と、その抗体全体の結合特異度を保持するそのフラグメント、例えばFabフラグメント、Fvフラグメント、または当業者に公知の他のそのようなフラグメントなどとの両方を指す。同一の結合特異度を保持する抗体は、同一の相補性決定領域(CDR)を含む場合がある。抗体のCDRは、カバットら(Kabat et al.)[非特許文献38]によって記載されたものなどの当業者に公知の方法を用いて決定することができる。
【0030】
抗体は、実施例に記載されるとおり、B細胞クローンから生成することができる。抗体のアイソタイプは、ヒトIgM、IgG、もしくはIgAアイソタイプ、またはヒトIgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4サブクラスに特異的なELISAによって決定することができる。アイソタイプを同定するために、他の好適な方法を用いることができる。
【0031】
生成された抗体のアミノ酸配列は、標準的な技術を用いて決定することができる。例えば、RNAを細胞から単離し、これを使用して、逆転写によりcDNAを生成することができる。次いでこのcDNAを、抗体の重鎖および軽鎖を増幅するプライマーを用いるPCRにかける。例えば、全てのVH(可変重鎖)配列についてリーダー配列に特異的なプライマーを、あらかじめ決定されているアイソタイプの定常領域に位置する配列に結合するプライマーとともに使用することができる。軽鎖は、カッパまたはラムダ鎖の3’末端に結合するプライマーを、VカッパまたはVラムダリーダー配列にアニーリングされるプライマーとともに用いることにより、増幅することができる。全長の重鎖および軽鎖を生成し、配列決定することができる。
【0032】
本明細書で使用されるとおり、用語「C末端」は、ポリペプチドの先端、すなわちポリペプチドのC末端を指し、その一般的な方向の意味としては解釈されない。
【0033】
同様に、用語「N末端」は、ポリペプチドの先端、すなわち、ポリペプチドのN末端を指し、その一般的な方向の意味としては解釈されない。本明細書で使用されるとおり、用語「競合イムノアッセイ」は、抗体への結合に関して、試料中に存在する標的ペプチド(もしあれば)が、既知の量のペプチドの標的(例えば、固定基質に結合している、または標識されているもの)と競合するイムノアッセイを指し、これは当業者に公知の技術である。
【0034】
本明細書で使用されるとおり、用語「ELISA」(酵素結合免疫吸着測定法)は、試料中に存在する標的ペプチド(もしあれば)を、酵素、例えばホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)またはアルカリホスファターゼに結合した抗体を用いて検出するイムノアッセイを指す。次いで酵素の活性が、測定可能な生成物を生成する基質とのインキュベーションによって評価される。これにより、試料中の標的ペプチドの存在および/または量を、検出および/または定量することができる。ELISAは、当業者に公知の技術である。
【0035】
本明細書で使用されるとおり、用語「結合量」は、モノクローナル抗体と標的ペプチドとの間の結合の定量を指し、前記定量は、生体流体試料中の標的ペプチドの測定値を検量線と比較することにより決定され、検量線は、標的ペプチドの既知の濃度の標準試料を用いて作成される。C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有する標的ペプチドを生体流体中で測定する本明細書に開示の特定のアッセイでは、検量線は、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1、(そして特に、アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)からなっていてもよいもの)を有する較正ペプチドの既知の濃度の標準試料を使用して作成される。生体流体試料において測定される値を検量線と比較することにより、試料中の標的ペプチドの実際の量が決定される。
【0036】
本明細書で使用されるとおり、用語「PRO-C19」は、C末端アミノ酸配列SHAHQRTGGN(配列番号1)を有するXIX型コラーゲンを意味する。
【0037】
本発明を、以下の図を参照する以下の実施例において実証する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、PRO-C19アッセイの特異度を示す。標準ペプチド(SHAHQRTGGN - 配列番号1)、伸長ペプチド(SHAHQRTGGNA - 配列番号3)、短縮ペプチド(SHAHQRTGG - 配列番号4)のみならず、ナンセンス標準ペプチド(GVAPGIGPGG - 配列番号5)、およびナンセンスコーターペプチド(ビオチン-GVAPGIGPGG)についての阻害曲線である。ペプチドは、抗体結合に向け競合する傾向を評価するために、2倍の希釈系列とした。シグナルは、アッセイバッファーに対応するバックグラウンド吸光度(B0)の割合として、ペプチド濃度の関数として対数スケールで示した。エラーバーは二重反復測定からの標準偏差を示す。
図2図2は、PRO-C19の平行性を示す。希釈の直線性または平行性を評価するための、標準ペプチドおよび2倍希釈したヒト血清試料の阻害曲線。シグナルは、希釈ステップの関数として、アッセイバッファーに対応するバックグラウンド吸光度(B0)の割合として示される。エラーバーは二重反復測定からの標準偏差を示す。
図3図3は、コホート1におけるPRO-C19を示す。健康な対照(n=38)、およびNSCLC(n=11)、卵巣(n=8)、SCLC(n=7)、乳房(n=12)、結腸(n=7)、膵臓(n=2)、前立腺(n=13)、メラノーマ(n=6)、胃(n=9)を含む様々ながん種の血清におけるPRO-C19の定量。PRO-C19レベルは対数変換し、平均と標準偏差で表示した。LLMR未満と測定された試料には、PRO-C19の妥当性において決定されたLLMRの値を与えた。PRO-C19レベルの差は、ダネット(Dunnett)検定による多重比較のために補正された通常の一元配置ANOVAによって評価した。****は、0.0001未満のp値を示す。***は0.001未満のp値を示す。**は0.01未満のp値を示す。
図4図4は、コホート2におけるPRO-C19を示す。健康な対照(n=24)およびNSCLC(n=40)の血清におけるPRO-C19の定量。PRO-C19レベルは対数変換し、平均と標準偏差で表示した。LLMR未満と測定された試料には、PRO-C19の妥当性において決定されたLLMRの値を与えた。PRO-C19レベルの差は、対応なしの両側t検定により評価した。****は、0.0001未満のp値を示す。
図5図5は、コホート2のステージにおけるPRO-C19を示す。健康な対照(n=24)、およびNSCLCステージIII(n=20)、およびステージIV(n=20)の血清におけるPRO-C19の定量。PRO-C19レベルは対数変換し、平均と標準偏差で表示した。LLMR未満と測定された試料は、PRO-C19の妥当性において決定されたLLMRの値を与えた。PRO-C19レベルの差は、ダネット検定による多重比較のために補正された通常の一元配置ANOVAによって評価した。****は、0.0001未満のp値を示す。
図6図6は、コホート3におけるPRO-C19を示す。健康な対照(n=30)およびNSCLC(n=34)の血清におけるPRO-C19の定量。PRO-C19レベルは対数変換し、平均と標準偏差で表示した。LLMR未満と測定された試料は、PRO-C19の妥当性において決定されたLLMRの値を与えた。PRO-C19レベルの差は、対応なしの両側t検定により評価した。****は、0.0001未満のp値を示す。
図7図7は、コホート3のステージにおけるPRO-C19を示す。健康な対照(n=30)、ならびにNSCLCステージI(n=10)、ステージII(n=10)、ステージIII(n=9)、およびステージIV(n=5)の血清におけるPRO-C19の定量。PRO-C19レベルは対数変換し、平均と標準偏差で表示した。LLMR未満と測定された試料には、PRO-C19の妥当性において決定されたLLMRの値を与えた。PRO-C19レベルの差は、ダネット検定による多重比較のために補正された通常の一元配置ANOVAによって評価した。**は、0.01未満のp値を示す。
図8図8は、コホート4におけるPRO-C19を示す。健康な対照(n=33)、ならびに膵臓がん(n=20)、大腸がん(CRC、n=20)、腎臓がん(n=20)、胃がん(n=20)、卵巣がん(n=20)、乳がん(n=20)、膀胱がん(n=20)、肺がん(n=20)、メラノーマ(n=20)、頭頸部がん(H&N、n=20)、前立腺がん(n=20)、および肝臓がん(n=3)の血清におけるPRO-C19の定量。PRO-C19レベルは対数変換し、平均と標準偏差で表示した。LLMR未満と測定された試料には、PRO-C19の妥当性において決定されたLLMRの値を与えた。がんと健康な対照との間のPRO-C19レベルの差は、ダネット検定による多重比較のために補正された通常の一元配置ANOVAによって評価した。****は、がんと健康な対照の比較において、0.0001未満のp値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
方法
PRO-C19のELISAプロトコル:
XIX型コラーゲン(UniProtKB:Q14993)のC末端に見いだされる、10アミノ酸ペプチド1133SHAHQRTGGN1142(配列番号1)をジェンスクリプト社(Genscript(ピスカタウェイ(Piscataway)、ニュージャージー州、米国))から購入し、免疫化に使用した。モノクローナル抗体の製造は、別途記載されている(非特許文献24)。アッセイバッファーの選択、インキュベーションの時間、および温度のみならず、抗体およびペプチドの濃度を含む、いくつかの最適化をELISAに行った。最終的なPRO-C19プロトコルを、以下のとおり実行した:96ウェルのストレプトアビジンコーティングされたELISAプレートは、アッセイバッファー(25mMのTBS、1%のBSA(w/v)、0.1%のTween-20(w/v)、2g/lのNaCl、pH8.0)に溶解させた、100μl/ウェルの2.5ng/mlビオチン化SHAHRTGGNペプチドでコーティングし、20℃で30分間、300RPMで振とうしながらインキュベートした。洗浄バッファー(25mMのTris、50mMのNaCl、pH7.2)で5回洗浄後、20μl/ウェルの試料を2回に分けて加え、次いで、アッセイバッファー中、60ng/mlのHRP標識モノクローナル抗体100μl/ウェルを加え、20℃で1時間、300RPMで振とうしながらインキュベートした。第2の洗浄サイクルの後、100μl/ウェルのTMBを加え、暗所で20℃、300RPMで振とうしながら15分間インキュベートした。1%のHSO、100μl/ウェルを加えて反応を停止させた。吸光度を、650nmを基準として450nmで測定した。標準曲線を作成するために、2倍希釈系列の500ng/mlのSHAHQRTGGN(配列番号1)ペプチド、20μl/ウェルを、適切なウェルに加え、4パラメータの数学的合わせ込みを用いて、曲線を作成した。各プレートには、アッセイ内およびアッセイ間変動をモニタリングするための、一つのヒト血清、一つのウマ血清、一つのウシ軟骨摘出物、および二つのペプチドインアッセイバッファーの試料を含む、五つの品質管理試料が含まれていた。
【0040】
PRO-C19のELISAの技術的妥当性:
抗体の特異度は、標準ペプチド(SHAHQRTGGN - 配列番号1)、伸長ペプチド(SHAHQRTGGNA - 配列番号3)、短縮ペプチド(SHAHQRTGG - 配列番号4)のみならず、ナンセンス標準ペプチド(GVAPGIGPGG - 配列番号5)、およびナンセンスコーターペプチド(Biotin-GVAPGIGPGG)の2倍希釈によるシグナル阻害によって試験した。直線性または平行性は、ヒト血清試料を2倍の希釈系系列として、希釈度に対する回収率を計算することによって試験した。精度は、標準ペプチドをヒト血清試料にスパイクし、スパイク試料におけるペプチドの回収率を計算することにより試験した。ヘモグロビン、脂質、およびビオチンを含む一般的な干渉物質の影響は、高濃度または低濃度のいずれかの干渉剤(ヘモグロビン 低=2.5mg/ml、高=5mg/ml; 脂質 低=1.5mg/ml、高=5mg/ml; ビオチン 低=3ng/ml、高=9ng/ml)でスパイクされたヒト血清で評価した。アッセイ干渉は、非スパイク試料に対するスパイク試料の回収率として計算した。アッセイの変動は、二重測定において10個の品質管理試料のランを用いた10回の独立したランにより試験した。品質管理試料の五つはヒト血清であり、一つはウマ血清であり、一つはウシ軟骨抽出物であり、三つは様々な濃度のアッセイバッファー中の標準ペプチドであった。アッセイ内変動は、10回のランのそれぞれの二重測定の平均変動係数(CV%)として計算した。アッセイ間変動は、10回のランにわたる全CV%として計算した。測定範囲の下限および上限(それぞれLLMRおよびULMR)は、10回の独立したランにわたって測定され、標準曲線の線形範囲の境界を示す。分析物の安定性は、4または20℃で2、4、24、または48時間、インキュベートされた3種類のヒト血清試料に対して測定した。安定性は、-20℃で保存した対照試料に対するインキュベーション試料の回収率として計算した。凍結融解安定性は、ヒト血清試料を最高4サイクルまで凍結融解することにより評価した。安定性は、1回の凍結融解サイクルを経た試料に対する融解した試料の回収率として計算した。検出下限は、アッセイバッファーを含む21個のブランク試料の平均濃度として計算し、3標準偏差を加算した。検出上限は、10回の独立したランにわたる標準曲線の最高濃度に対応する標準ペプチドの平均濃度として計算し、3標準偏差を減算した。
【0041】
患者試料:
第1のコホートは、販売業者のアステランド・バイオサイエンス社(Asterand Bioscience)(デトロイト、ミシガン州、米国)から一部入手した。これは、乳房(n=12)、結腸(n=7)、胃(n=9)、メラノーマ(n=6)、NSCLC(n=11)、卵巣(n=8)、膵臓(n=2)、前立腺(n=13)、小細胞肺がん(SCLC)(n=7)を含む75人のがん患者からの血清とともに、販売業者、バレー・バイオメディカル社(Valley Biomedical)(ウィンチェスター、バージニア州、米国)から入手した38人の健康な対照を含んでいた。
【0042】
第2および第3のコホートは、販売業者であるプロテオジェネックス社(Proteogenex)(ロサンゼルス、カリフォルニア州、米国)から入手した。第2のコホートは、NSCLC患者40人を含み、そのうち20人はステージIII、20人はステージIVであった。これはまた、バレー・バイオメディカル社から入手した24人の健康な対照も含んでいた。第3のコホートは、34人のNSCLC患者を含み、そのうち10人がステージI、10人がステージII、9人がステージIII、5人がステージIVであった。これはまた、プロテオジェネックス社とバレー・バイオメディカル社から入手した30人の健康な対照も含んでいた。
【0043】
第4のコホートは、膵臓、大腸、腎臓、胃、卵巣、乳房、膀胱、肺、メラノーマ、頭頸部、前立腺のがん患者それぞれ20人を含んでいた。これはまた、3人の肝臓がん患者および33人の健康な対照も含んでいた。すべてのがん試料は、プロテオジェネックス社から、健康な対照は、BioIVT(ウェストベリー(Westbury)、ニューヨーク州、米国)から入手した。
【0044】
業者に従い、試料採取は、施設内審査委員会(Institutional Review Board)または独立倫理委員会(Independent Ethical Committee)の承認を受け、患者はインフォームドコンセントを受けた。すべての調査は、ヘルシンキ宣言(Helsinki Declaration)に従って行った。
【0045】
統計学:
PRO-C19レベルは対数変換し、ダゴスティーノ‐ピアソン(D’Agostino-Pearson)オムニバス検定で正規性について検定した。健康者とNSCLCの間のPRO-C19レベル、およびNSCLCサブタイプ間のPRO-C19レベルの比較は、対応なしの、両側t検定により行った。数通りの群にわたるPRO-C19レベルの比較は、ダネット検定を用いる多重比較のために補正された通常の一元配置ANOVAを用いて行った。群どうしの間の年齢の差は、対応なしの両側t検定を用いて評価した。性別と民族性の差は、フィッシャー(Fisher)の正確検定を使用して評価した。PRO-C19レベルとBMI、年齢、喫煙、および試料採取日の相関は、線形回帰を用いて評価した。診断精度は、受診者動作特性曲線下面積(AUROC)により検定した。感度および特異度は、ヨーデン指標(Youden Index)に従って推定された最適なカットオフ値のところで決定した。0.05未満であるp値を有意と見なした。アスタリスクは以下の有意水準を示している:*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001である。多重比較検定を行う場合、多重度調整されたp値を報告する。統計分析およびグラフは、GraphPad Prism(version 8.2 for Windows、グラフパッド・ソフトウェア社(GraphPad Software)、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国、www.graphpad.com)およびMedCalc(MedCalc Statistical Software version 18.11.6 (メドカルク・ソフトウェア社(MedCalc Software bvba)、オーステンデ(Ostend)、ベルギー; https://www.medcalc.org; 2019))を使用した。
【0046】
結果
PRO-C19アッセイの特異度は、モノクローナル抗体との結合に向け競合するペプチドの熟練度によって評価した。試験されたペプチドは、標準ペプチド(SHAHQRTGGN - 配列番号1)、伸長ペプチド(SHAHQRTGGNA - 配列番号3)、短縮ペプチド(SHAHQRTGG - 配列番号4)、ナンセンスペプチド(GVAPGIGPGG - 配列番号5)、およびナンセンスコーターペプチド(Biotin-GVAPGIGPGG)を含んでいた。標準ペプチドのみが、用量依存的にシグナルを阻害した(図1は、PRO-C19アッセイの特異度を示す)。ナンセンスコーターペプチドは、検出可能なシグナルを生じなかった。全てにおいてこれは、アッセイがXIX型コラーゲンのSHAHQRTGGN(配列番号1)エピトープに特異的であることを示している。
【0047】
PRO-C19アッセイの技術的妥当性が、表1に要約されている。希釈の直線性と平行性とは、血清試料が1:4に希釈された時点で許容範囲であり、その後、平均希釈回収率は101.7%であった(図2)。血清中のマトリクス精度は許容範囲内であり、1:4の最終希釈でヒト血清試料にスパイクされた標準ペプチドを用いて、平均スパイク回収率が118.6%であった。ヘモグロビン、脂質、ビオチンを含め、一般的な干渉剤の影響は観測されなかった。アッセイ間変動は、10.9%、アッセイ内変動は6.6%であった。測定範囲は、3.31~214.3ng/ml、検出限界は1.23~443.5ng/mlと決定した。分析物の安定性は、4℃で24時間まで、20℃で4時間まで許容範囲であった。凍結融解安定性は、4回を上回る凍結融解サイクルで許容範囲内であった。
【0048】
がんの状況でのPRO-C19の有用性を調査するために、PRO-C19を、12通りの乳がん試料、7通りの結腸がん、9通りの胃がん、6通りのメラノーマ、11通りのNSCLC、8通りの卵巣がん、2通りの膵臓がん、13通りの前立腺がん、7通りのSCLCのみならず、38通りの健康な対照を含む様々ながん種からなるコホートにおいて評価した(表2)。がんの群では、PRO-C19レベルと年齢、BMI、または喫煙歴との間に有意な関連は見られなかった。PRO-C19レベルは、NSCLC(p<0.0001)、SCLC(p=0.0081)、乳房(p=0.0005)、卵巣(p<0.0001)のがんで有意に上昇していた(図3)。結腸と膵臓のがんの群でも、有意ではなかったものの、健康な対照と比較して平均PRO-C19レベルは高く、胃がんでは低かった。カットオフ値を63.3ng/mlとして、PRO-C19は、健康者とNSCLCを0.995のAUROCで識別できる可能性があり、対応する感度は100%、特異度は94.74%である(表5)。PRO-C19はまた、健康者とSCLCを54.3ng/mlのカットオフ値のところで0.808のAUROCで識別できる可能性があり、対応する感度は71.4%、特異度は84.2%である。PRO-C19はまた、健康者と乳がんを41.85ng/mlのカットオフ値のところで0.814のAUROCで識別できる可能性があり、対応する感度は75%、特異度は78.9%である。最後に、PRO-C19はまた、健康者と卵巣がんを60.31ng/mlのカットオフ値のところで0.839のAUROCで識別できる可能性があり、対応する感度は75%、特異度は92.1%である。全体として、XIX型コラーゲンの循環血中レベルは、いくつかの異なるがん種で上昇しているように見える。次いで、NSCLCにおけるPRO-C19の役割について調査した。
【0049】
ステージIIIの患者20人とステージIVの患者20人のみならず、健康な対照24人を含むNSCLC患者のコホートにおいて、PRO-C19を評価した(表3)。対照群は、NSCLC群と比較して、有意に若く、男性の割合が少なく、白人の割合が少なかった。NSCLC群それ自体の内部では、PRO-C19レベルと試料採取日、性別、年齢、BMI、喫煙歴、腫瘍グレード、または組織学的サブタイプ(ACおよびSCC)との間に有意な関連性は見られなかった。平均PRO-C19レベルは、NSCLC群の場合には、対照と比較して最高3.5倍まで有意に上昇した(p<0.0001)(図4)。55.6ng/mlのカットオフ値のところで、PRO-C19は、健康者とNSCLCを0.980のAUROCで識別できる可能性があり、対応する感度は97.5%、特異度は91.67%である(表5)。ステージIIIとIVに分けると、各ステージのPRO-C19レベルもまた、健康な対照と比較して有意に上昇した(p<0.0001)(図5)。これらの結果から、NSCLC患者の循環血中でPRO-C19レベルが上昇することが確証される。
【0050】
次に、NSCLCのさらに早期におけるPRO-C19の使用を調査した。この目的のために、10人のステージI、10人のステージII、9人のステージIII、5人のステージIVのみならず、30人の健康な対照を含むNSCLC患者の別個のコホートにおいてPRO-C19を評価した(表4)。対照群は、NSCLC群と比較して、有意に若く、白人の割合が少なかった。両群の間に性別の有意差はなかった。NSCLC群の内部では、試料採取日、性別、年齢、BMI、喫煙歴、腫瘍グレード、または組織学的サブタイプ(ACまたはSCC)との間に有意な関連は見られなかった。平均PRO-C19レベルは、対照と比較してNSCLCでは最高2倍まで有意に上昇した(図6)。118.9ng/mlのカットオフ値のところで、PRO-C19は、健康者とNSCLCを0.823のAUROCで識別できる可能性があり、対応する感度は82.4%、特異度は76.7%である(表5)。個々のステージを健康な対照と比較すると、PRO-C19はまた、健康な対照と比較して、ステージII(p=0.0011)、ステージIII(p=0.0012)、およびステージIV(p=0.0041)においても有意に上昇していた(図7)。ステージが上がるほど、平均PRO-C19レベルが高くなる傾向が見られた。NSCLCの早期発見マーカーとしてのPRO-C19を評価するために、ステージI+IIに対する診断精度を評価した。PRO-C19は、健康者とステージI+IIのNSCLCを118.9のカットオフ値のところで0.762のAUROCで識別できる可能性があり、対応する感度は70.0%、特異度は76.7%である(表5)。96.7%というさらに高い特異度では、感度は35%に低下した。
【0051】
最後に、20人の膵臓がん患者、大腸がん(CRC)、腎臓がん、胃がん、卵巣がん、乳がん、膀胱がん、肺がん、メラノーマ、頭頸部(H&N)がん、前立腺がん、そして最後に3人の肝臓がんの患者のみならず、33人の健康な対照を含む別個のがんコホートにおいてPRO-C19を評価した(表6)。がんと健康な対照の間で、年齢や性別による有意差は見られなかった。
【0052】
しかし、がんの試料は白人患者からのみであったのに対し、健康な対照は白人、黒人、ヒスパニック系の民族が混在していた。PRO-C19レベルと試料採取日、性別、年齢、またはBMIとの間に有意な関連は見られなかった。平均PRO-C19レベルは、対照と比較して、全てのがんにおいて有意に上昇していた(図8)。PRO-C19は概して、全てのがん種において健康者とがんとの間の識別に優れていた。これは、表7にまとめられている。
【0053】
考察
本研究は、PRO-C19と名付けられたXIX型コラーゲンのC末端を測定するELISAの技術的妥当性を実証するものである。PRO-C19は、意図したエピトープに対して特異的であり、技術的に強固であった。PRO-C19は、生物学的関連性とバイオマーカーとしての可能性とを実証するために、健康な個人とがん患者からの血清試料のパネルで評価された。PRO-C19レベルは、いくつかのタイプのがんで有意に上昇し、NSCLCと健康な個人の間の識別に優れていることの証明となり、NSCLCの早期において中程度の診断精度を示した。
【0054】
成人では、臍帯組織の乾燥重量の10-6%という割合を占めるXIX型コラーゲンに例示されるとおり、XIX型コラーゲンの発現は非常に限定的である可能性がある(非特許文献25)。しかし、異なる組織抽出物や生物学的流体中のXIX型コラーゲンを定量する別個の研究により、循環血中で検出可能であることがわかった(非特許文献26)。このデータから、XIX型コラーゲンは健康な成人の循環血中に中程度の量で放出され、循環するXIX型コラーゲンレベルは、一部のがん種において著しく増加する。XIX型コラーゲンはこれまで、乳がんの進行と関連付けられてきた。この状況では、乳房腫瘍の周囲のBMZががんの進行中に破壊されるにつれ、XIX型コラーゲンタンパク質の染色性も失われていた(非特許文献13)。XIX型コラーゲンの発現は、一般にBMZと強く関連しており、乳房の上皮および血管のBMZが破壊されることで、XIX型コラーゲンが循環血中に放出される可能性がある。このデータから、循環するXIX型コラーゲンのレベルの増加は、乳がんとも関連付けられる。例えば、異なる腫瘍種のBMZの組織化に明確な差がある可能性がある。上皮BMZは、乳房の浸潤癌の周囲で破壊される一方、結腸、前立腺、および肺の上皮悪性腫瘍では浸潤腺の周囲で無傷のままである(非特許文献13,27)。XIX型コラーゲンの定量に対するこの手法の限界は、腫瘍が見つかる組織が要因である可能性が高いものの、その起源組織を決定することができないことである。
【0055】
XIX型コラーゲンはまた、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病を含む神経変性疾患にも関連付けられる。パーキンソン病患者の末梢血では、XIX型コラーゲンの発現が低下している(非特許文献35)。対照的に、ALSでは、XIX型コラーゲンは、疾患の進行とともに増加し、死亡リスクを増加させる(非特許文献18,36,37)。したがって、PRO-C19アッセイは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病を含む神経変性疾患の検出と診断にも使用できる可能性がある。
【0056】
肺がんに関連するXIX型コラーゲンの存在は、これまで実証されていない。それは、マウス胚の肺に中程度の量で観察されている一方で、成体では微量しか見られず、これは、肺におけるXIX型コラーゲンの発達上の役割を示唆している可能性がある(非特許文献11)。このような発現パターンは、がんの進行に重要ないくつかのタンパク質や経路で見られ、そして実際、EMT28-30を含め、発達過程のいくつかの側面が腫瘍形成中に再活性化される。よって、発達における役割は、がんにおける役割も示唆している可能性がある。
【0057】
抗腫瘍性はXIX型コラーゲンによるものとされている。興味深いことに、NC1ドメインは、一度切断されると、メラノーマにおいて浸潤と血管新生を阻害することができる(非特許文献22)。これは、インビボマウスモデルで、NC1(XIX)ペプチドが腫瘍成長を阻害し、MMP-14およびVEGF阻害による血管新生を阻害したとして実証された(非特許文献20)。その後、NC1(XIX)シグナル伝達が、αvβ3インテグリンによって媒介される可能性が高いことが発見された(非特許文献31)。別個の研究では、NC1(XIX)ペプチドが、α5β1インテグリンを通して抑制性神経終末の形成を促進することが実証された(非特許文献23)。これらのインテグリン受容体は、上皮および内皮の肺細胞によって発現し、NSCLCにおける役割を果たしているので、肺がんにおけるNC1(XIX)ペプチドの効果を見ることは興味深い可能性がある(非特許文献32~34)。
【0058】
PRO-C19アッセイは、プラスミン切断とそれに続くNC1ドメインの放出のさいに生成されるネオエピトープに対して特異的でない。しかし、C末端エピトープを含有するあらゆるフラグメントを定量することができる。XIX型コラーゲンがどのように切断されるのか、そうでなければどのように処理されるのかについての知識が欠けているので、PRO-C19は仮説の上では、すべてC末端エピトープを含有するXIX型コラーゲンフラグメントの大規模で多様な集団を測定できる可能がある。XIX型コラーゲンがどのように処理されるのか、そしていずれのフラグメントも循環血中に定量できるのかどうかについてのさらなる調査が必要である。プラスミン切断時に生成されるネオエピトープに特異的な別個のアッセイが、この点で役立つ可能性がある。
【0059】
診断精度に関して、PRO-C19は、NSCLC患者のステージIとIIにおいてはそれほどの性能ではなかった。試料サイズが小さいことを考えると、比較的広い信頼区間に、悪い診断能に対応する0.62から良い診断能に対応する0.87にわたるAUC値が含まれていた。PRO-C19の診断精度の妥当性を確かめ特定するフォローアップ研究が必要である。加えて、診断検査が通常最も適切である95%以上の高い特異度では、早期NSCLCにおけるPRO-C19の感度は35%まで低下した。今後の研究で、PRO-C19を他のNSCLCバイオマーカーと組み合わせて全体的な精度を向上させることを検討することも望まれる。さらに、早期発見に関する今後の研究で、最終的なNSCLC診断の前に、高リスクの個人におけるPRO-C19を評価することも可能である。
【0060】
本研究にはいくつかの大きな限界がある。すなわち、本研究の厳密に調査目的の性質を考えると、いわゆる「便宜的試料(samples of convenience)」の使用とポストホック分析によって偏りが持ち込まれ得る。数字の上で、この偏りは、比較された群の試料サイズ、年齢、性別、民族性の差によって証明されている。また、研究参加者の臨床データも限られているため、さらに隠れた偏りが生じる可能性もある。したがって、この研究の結果と結論は、がんにおけるXIX型コラーゲンの生物学を探る我々の最初の試みに過ぎない。
【0061】
結論として、PRO-C19と命名された、XIX型コラーゲンのC末端を標的とするELISAが開発されその妥当性が確かめられた。PRO-C19は、がん患者の血清中のXIX型コラーゲンを定量するのに使用され、XIX型コラーゲンは、健康な対照と比較して、調査された全てのがん種で有意に上昇していた。続いて、2つの別個のNSCLCコホートにおいてPRO-C19が評価され、この場合でもPRO-C19は有意に上昇し、早期NSCLCにおいて中程度の診断精度を示した。PRO-C19とXIX型コラーゲンは、がんのバイオマーカーとしての可能性を示している。
【0062】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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【国際調査報告】