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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-01
(54)【発明の名称】HER2二重特異的抗体の有効用量
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230424BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230424BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230424BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557670
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2022-11-17
(86)【国際出願番号】 CN2021083308
(87)【国際公開番号】W WO2021190636
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/081727
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518320030
【氏名又は名称】江蘇康寧杰瑞生物制薬有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュー ティン
(72)【発明者】
【氏名】シュー ジュンファン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジアヂュー
(72)【発明者】
【氏名】ワン ピーリン
(72)【発明者】
【氏名】チェン ティン
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045AA40
4H045BA10
4H045BA40
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
(57)【要約】
本願は、第1の軽鎖および第2の軽鎖、第1の重鎖および第2の重鎖を含み、軽鎖の可変領域がSEQ ID NO: 1-6のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する15 mg/kgから35 mg/kgの用量のHER2二重特異的抗体を投与することを含む腫瘍を治療するための方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者において腫瘍を予防、緩和または治療するか、または腫瘍増殖を阻害する方法であって、前記被験者に約15 mg/kgから約35 mg/kgの用量のHER2二重特異的抗体を投与することを含み、
前記HER2二重特異的抗体は、第1の軽鎖、第2の軽鎖、第1の重鎖および第2の重鎖を含み、
前記第1の軽鎖および前記第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブの重鎖およびトラスツズマブの重鎖と集合することができ、
前記第1の軽鎖および/または前記第2の軽鎖の可変領域はSEQ ID NO: 1-6のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する、
方法。
【請求項2】
前記第1の軽鎖および/または前記第2の軽鎖の可変領域はSEQ ID NO: 1で表されるアミノ酸配列を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の軽鎖および前記第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブまたはその変異体の軽鎖、トラスツズマブまたはその変異体の軽鎖から選ばれる、
請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の軽鎖はSEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有し、および/または前記第2の軽鎖はSEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
重鎖可変領域は、それぞれペルツズマブの重鎖可変領域およびトラスツズマブの重鎖可変領域である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 13で表されるアミノ酸配列を有し、前記第2の重鎖の可変領域はSEQ ID NO: 14で表されるアミノ酸配列を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の重鎖および前記第2の重鎖は、ヒトIgG定常領域に由来する定常領域を含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記重鎖のFc断片配列は、SEQ ID NO: 19-49、51-52のいずれかで表される配列を有する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の重鎖または前記第2の重鎖は、SEQ ID No: 15-18のいずれかで表される配列を有する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記用量は約20 mg/kg~約30 mg/kgである、
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記用量は約20 mg/kgである、
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記用量は約30 mg/kgである、
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記HER2二重特異的抗体は、2週間に1回または3週間に1回投与される、
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記HER2二重特異的抗体は、前記用量が約20 mg/kgであり、かつ2週間に1回投与される、
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記HER2二重特異的抗体は、前記用量が約30 mg/kgであり、かつ3週間に1回投与される、
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記被験者は、HER2関連腫瘍に対する従来の療法に反応しない、
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
HER2関連腫瘍に対する前記従来の療法は、HER2-ADC、MBCホルモン、タキサン、ピロチニブ、ネラチニブ、ツカチニブ、トラスツズマブおよび/またはペルツズマブを投与することを含む、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
HER2関連腫瘍に対する前記従来の療法は、ドセタキセル、カペシタビンおよび/またはラパチニブを投与することを含む、
請求項16~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記腫瘍は、固形腫瘍を含む、
請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記腫瘍は、転移性腫瘍、初期腫瘍および/または局所進行性腫瘍を含む、
請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記腫瘍は、HER2陽性腫瘍および/またはHER2低発現腫瘍を含む、
請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記腫瘍は、乳がんおよび/または胃癌を含む、
請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記乳がんは、HER2陽性乳がんおよび/またはHER2低発現乳がんを含む、
請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記乳がんは、初期乳がん、局所進行性乳がんおよび/または転移性乳がんを含み、および/または前記胃癌は、初期胃癌、局所進行性胃癌および/または転移性胃癌を含む、
請求項22~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記HER2二重特異的抗体は、静脈内投与を行うものである、
請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも5 μg/mLのHER2二重特異的抗体を含む、必要のある被験者における腫瘍の予防、緩和または治療あるいは腫瘍増殖の阻害に用いられる製剤であって、
前記HER2二重特異的抗体は、第1の軽鎖、第2の軽鎖、第1の重鎖および第2の重鎖を含み、
前記第1の軽鎖および前記第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブの重鎖およびトラスツズマブの重鎖と集合することができ、
前記第1の軽鎖および/または前記第2の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 1-6のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する、
製剤。
【請求項27】
前記第1の軽鎖および/または前記第2の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 1で表されるアミノ酸配列を有する、
請求項26に記載の製剤。
【請求項28】
前記第1の軽鎖および前記第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブまたはその変異体の軽鎖、トラスツズマブまたはその変異体の軽鎖から選ばれる、
請求項26~27ののいずれか1項に記載の製剤。
【請求項29】
前記第1の軽鎖は、SEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有し、および/または前記第2の軽鎖は、SEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する、
請求項26~28のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項30】
重鎖可変領域は、それぞれペルツズマブの重鎖可変領域およびトラスツズマブの重鎖可変領域である、
請求項26~29のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項31】
前記第1の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 13で表されるアミノ酸配列を有し、前記第2の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 14で表されるアミノ酸配列を有する、
請求項26~30のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項32】
前記第1の重鎖および前記第2の重鎖は、ヒトIgG定常領域に由来する定常領域を含む、
請求項26~31のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項33】
前記重鎖のFc断片配列は、SEQ ID NO: 19-49、51-52のいずれかで表される配列を有する、
請求項26~32のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項34】
前記第1の重鎖または前記第2の重鎖は、SEQ ID NO: 15-18のいずれかで表される配列を有する、
請求項26~33のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項35】
前記製剤は、少なくとも約12 μg/mLの前記二重特異的抗体を含む、
前記26~34のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項36】
前記製剤は、少なくとも約20 μg/mLの前記二重特異的抗体を含む、
請求項26~35のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項37】
前記製剤は、容器に包装されている、
請求項26~36のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項38】
少なくとも5 μg/mLのHER2二重特異的抗体を含む製剤を含み、必要のある被験者における腫瘍の予防、緩和または治療あるいは腫瘍増殖の阻害に用いられる薬物送達デバイスであって、
前記HER2二重特異的抗体は、第1の軽鎖、第2の軽鎖、第1の重鎖および第2の重鎖を含み、
前記第1の軽鎖および前記第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブの重鎖およびトラスツズマブ的重鎖と集合することができ、
前記第1の軽鎖および/または前記第2の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 1-6のいずれかで表される配列を有する、
薬物送達デバイス。
【請求項39】
前記第1の軽鎖および/または前記第2の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 1で表されるアミノ酸配列を有する、
請求項38に記載の薬物送達デバイス。
【請求項40】
前記第1の軽鎖および前記第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブまたはその変異体の軽鎖、トラスツズマブまたはその変異体の軽鎖から選ばれる、
請求項38~39のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項41】
前記第1の軽鎖は、SEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有し、および/または前記第2の軽鎖はSEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する、
請求項38~40のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項42】
重鎖可変領域は、それぞれペルツズマブの重鎖可変領域およびトラスツズマブの重鎖可変領域である、
請求項38~41のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項43】
前記第1の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 13で表されるアミノ酸配列を有し、前記第2の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 14で表されるアミノ酸配列を有する、
請求項38~42のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項44】
前記第1の重鎖および前記第2の重鎖は、ヒトIgG定常領域に由来する定常領域を含む、
請求項38~43のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項45】
前記重鎖のFc断片配列は、SEQ ID NO: 19-49、51-52のいずれかで表される配列を有する、
請求項38~44のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項46】
前記第1の重鎖または前記第2の重鎖は、SEQ ID NO: 15-18のいずれかで表される配列を有する、
請求項38~45のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項47】
前記製剤は、少なくとも約12 μg/mLの前記二重特異的抗体を含む、
請求項38~46のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項48】
前記製剤は、少なくとも約20 μg/mLの前記二重特異的抗体を含む、
請求項38~47のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項49】
前記製剤は、容器に包装される、
請求項38~48のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
HER2タンパク質は、I型膜貫通成長因子受容体チロシンキナーゼである。上記のHER2タンパク質は、細胞増殖、アポトーシス調節、および血管新生新生やリンパチューブ新生などの生物学的機能に関するシグナル伝達経路を媒介する。HER2陽性は、乳がんの約15~20%を占めている。それにもかかわらず、患者は新薬の開発を促す進行性疾患を余儀なく経験している。
二重特異的抗体の臨床応用は、標的エンゲージメントの変化や、前臨床腫瘍と臨床腫瘍の違いにより、困難な場合がある。モデリングフレームワーク内の母集団薬物動態(PK)-腫瘍増殖モデルの開発は、薬物曝露、薬力学、腫瘍反応の間の関連性を理解するのに役立ち、臨床用量の選択を最適化するためのツールを提供する。
【0002】
そして、ヒトにおけるHER2二重特異的抗体の最適用量の探索は、緊急かつ必要である。
【発明の開示】
【0003】
本願は、必要のある被験者において乳がんを治療するか、または乳房腫瘍増殖を阻害する方法であって、上記の被験者に15 mg/kgから35 mg/kgの用量の二重特異的抗体を投与することを含む方法を提供する。また、本願は製剤および上記の製剤に用いられる薬物送達デバイスを提供する。
【0004】
一方、本願は、被験者における腫瘍の予防、緩和または治療あるいは腫瘍増殖の阻害に用いられる方法であって、上記の被験者に約15 mg/kg~約35 mg/kgの用量のHER2二重特異的抗体を投与することを含み、上記のHER2二重特異的抗体が第1の軽鎖、第2の軽鎖、第1の重鎖および第2の重鎖を含み、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖が、それぞれペルツズマブの重鎖およびトラスツズマブの重鎖と集合することができ、上記の第1の軽鎖および/または第2の軽鎖の可変領域がSEQ ID NO: 1-6のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する方法を提供する。
【0005】
いくつかの実施形態において、上記の第1の軽鎖および/または第2の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 1で表されるアミノ酸配列を有する。
【0006】
いくつかの実施形態において、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブまたはその変異体の軽鎖、トラスツズマブまたはその変異体の軽鎖から選ばれる。
【0007】
いくつかの実施形態において、上記の第1の軽鎖はSEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有し、および/または上記の第2の軽鎖はSEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する。
【0008】
いくつかの実施形態において、重鎖可変領域は、それぞれペルツズマブの重鎖可変領域およびトラスツズマブの重鎖可変領域である。
【0009】
いくつかの実施形態において、上記の第1の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 13で表されるアミノ酸配列を有し、上記の第2の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 14で表されるアミノ酸配列を有する。
【0010】
いくつかの実施形態において、上記の第1の重鎖および第2の重鎖は、ヒトIgG定常領域に由来する定常領域を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、上記の第1の重鎖または第2の重鎖のFc断片配列は、SEQ ID NO: 19-49、51-52のいずれかで表される配列を有する。
【0012】
いくつかの実施形態において、上記の第1の重鎖または第2の重鎖は、SEQ ID NO: 15-18のいずれかで表される配列を有する。
【0013】
いくつかの実施形態において、上記の用量は約20 mg/kgから約30 mg/kgである。
【0014】
いくつかの実施形態において、上記の用量は約20 mg/kgである。
【0015】
いくつかの実施形態において、上記の用量は約30 mg/kgである。
【0016】
いくつかの実施形態において、上記のHER2二重特異的抗体は2週間に1回または3週間に1回投与される。
【0017】
いくつかの実施形態において、上記のHER2二重特異的抗体は、用量が約20 mg/kgであり、かつ2週間に1回投与される。
【0018】
いくつかの実施形態において、上記のHER2二重特異的抗体は、用量が約30 mg/kgであり、かつ3週間に1回投与される。
【0019】
いくつかの実施形態において、上記の被験者はHER2関連腫瘍に対する従来の療法に反応しない。
【0020】
いくつかの実施形態において、上記のHER2関連腫瘍に対する従来の療法は、HER2-ADC、MBCホルモン、タキサン、ピロチニブ、ネラチニブ、ツカチニブ(tucatinib)、トラスツズマブおよび/またはペルツズマブを投与することを含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、上記のHER2関連腫瘍に対する従来の療法は、ドセタキセル、カペシタビンおよび/またはラパチニブを投与することを含む。
【0022】
いくつかの実施形態において、上記の腫瘍は固形腫瘍を含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、上記の腫瘍は転移性腫瘍、初期腫瘍および/または局所進行性腫瘍を含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、上記の腫瘍はHER2陽性腫瘍および/またはHER2低発現腫瘍を含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、上記の腫瘍は乳がんおよび/または胃癌を含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、上記の乳がんはHER2陽性乳がんおよび/またはHER2低発現乳がんを含む。
【0027】
いくつかの実施形態において、上記の乳がんは初期乳がん、局所進行性乳がんおよび/または転移性乳がんを含み、および/または上記の胃癌は初期胃癌、局所進行性胃癌および/または転移性胃癌を含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、上記のHER2二重特異的抗体は静脈内投与を行うものである。
【0029】
他方、本願は、少なくとも5 μg/mLのHER2二重特異的抗体を含む、必要のある被験者における腫瘍の予防、緩和または治療あるいは腫瘍増殖の阻害に用いられる製剤であって、上記のHER2二重特異的抗体が第1の軽鎖、第2の軽鎖、第1の重鎖および第2の重鎖を含み、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖がそれぞれペルツズマブの重鎖およびトラスツズマブの重鎖と集合することができ、上記の第1の軽鎖および/または第2の軽鎖の可変領域がSEQ ID NO :1-6のいずれかで表される配列を有する製剤を提供する。
【0030】
いくつかの実施形態において、上記の製剤において、上記の第1の軽鎖および/または第2の軽鎖の可変領域はSEQ ID NO: 1で表されるアミノ酸配列を有する。
【0031】
いくつかの実施形態において、上記の製剤において、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖はそれぞれペルツズマブまたはその変異体の軽鎖、トラスツズマブまたはその変異体の軽鎖から選ばれる。
【0032】
いくつかの実施形態において、上記の製剤において、上記の第1の軽鎖はSEQ ID NO: 7-12で表されるアミノ酸配列を有し、および/または上記の第2の軽鎖はSEQ ID NO: 7-12で表されるアミノ酸配列を有する。
【0033】
いくつかの実施形態において、上記の製剤において、重鎖可変領域はそれぞれペルツズマブの重鎖可変領域およびトラスツズマブの重鎖可変領域である。
【0034】
いくつかの実施形態において、上記の製剤において、上記の第1の重鎖の可変領域はSEQ ID NO: 13で表されるアミノ酸配列を有し、上記の第2の重鎖の可変領域はSEQ ID NO: 14で表されるアミノ酸配列を有する。
【0035】
いくつかの実施形態において、上記の製剤において、上記の第1の重鎖および第2の重鎖は、ヒトIgG定常領域に由来する定常領域を含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、上記の製剤において、上記の重鎖のFc断片配列はSEQ ID NO: 19-49、51-52のいずれかで表される配列を有する。
【0037】
いくつかの実施形態において、上記の製剤において、上記の第1の重鎖または第2の重鎖はSEQ ID NO: 15-18のいずれかで表される配列を有する。
【0038】
いくつかの実施形態において、上記の製剤は少なくとも約12 μg/mLの二重特異的抗体を含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、上記の製剤は少なくとも約20 μg/mLの二重特異的抗体を含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、上記の製剤は容器に包装される。
他方、本願は、少なくとも5 μg/mLのHER2二重特異的抗体を含む製剤を含む、必要のある被験者における腫瘍の予防、緩和または治療あるいは腫瘍増殖の阻害に用いられる薬物送達デバイスであって、上記のHER2二重特異的抗体が第1の軽鎖、第2の軽鎖、第1の重鎖および第2の重鎖を含み、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖がそれぞれペルツズマブの重鎖およびトラスツズマブの重鎖と集合することができ、上記の第1の軽鎖および/または第2の軽鎖の可変領域がSEQ ID NO: 1-6のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する、薬物送達デバイスを提供する。
【0041】
いくつかの実施形態において、上記の薬物送達デバイスにおいて、上記の第1の軽鎖および/または第2の軽鎖の可変領域はSEQ ID NO: 1で表されるアミノ酸配列を有する。
【0042】
いくつかの実施形態において、上記の薬物送達デバイスにおいて、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖はそれぞれペルツズマブまたはその変異体の軽鎖、トラスツズマブまたはその変異体の軽鎖から選ばれる。
【0043】
いくつかの実施形態において、上記の薬物送達デバイスにおいて、上記の第1の軽鎖はSEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有し、および/または上記の第2の軽鎖はSEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する。
【0044】
いくつかの実施形態において、上記の薬物送達デバイスにおいて、上記の重鎖可変領域はそれぞれペルツズマブの重鎖可変領域およびトラスツズマブの重鎖可変領域である。
【0045】
いくつかの実施形態において、上記の薬物送達デバイスにおいて、上記の第1の重鎖の可変領域はSEQ ID NO: 13で表されるアミノ酸配列を有し、上記の第2の重鎖の可変領域はSEQ ID NO: 14で表されるアミノ酸配列を有する。
【0046】
いくつかの実施形態において、上記の薬物送達デバイスにおいて、上記の第1の重鎖および第2の重鎖は、ヒトIgG定常領域に由来する定常領域を含む。
【0047】
いくつかの実施形態において、上記の薬物送達デバイスにおいて、上記の重鎖のFc断片配列はSEQ ID NO: 19-49、51-52のいずれかで表される配列を有する。
【0048】
いくつかの実施形態において、上記の薬物送達デバイスにおいて、上記の第1の重鎖または第2の重鎖はSEQ ID NO: 15-18のいずれかで表される配列を有する。
【0049】
いくつかの実施形態において、上記の製剤は少なくとも約12 μg/mLの二重特異的抗体を含む。
【0050】
いくつかの実施形態において、上記の製剤は少なくとも約20 μg/mLの二重特異的抗体を含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、上記の製剤は容器に包装される。
【0052】
本願の追加の態様および利点は、本願の例示的な実施形態のみを示し、説明する以下の詳細な説明から、当業者には容易に明らかとなるであろう。実現されるように、本願は、他の異なる実施形態が可能であり、そのいくつかの詳細は、全て本開示から逸脱することなく、様々な明白な点で、修正が可能である。したがって、添付の図面および説明は、本質的に例示的なものとみなされ、限定的なものとはみなされない。
参照による組み込み
本明細書で言及されているすべての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許および特許出願が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に表されているのと同じ程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
本発明の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本発明の特徴および利点のより良い理解は、本発明の原理が採用される例示的な実施形態を示す以下の詳細な説明および添付図面(本明細書では「図」および「FIG」でもある)を参照することによって得られ、そのうち、
図1図1は、本願における上記のHER2二重特異的抗体の研究および用量レベルによる異種移植モデルにおける腫瘍体積動態を示す。
図2図2は、NCI-N87とCalu-3異種移植モデルの腫瘍阻害モデルの適合度(GOF)を示す。
図3図3A~3Dは、トランスレーショナルモデルによって予測された本願における上記のHER2二重特異的抗体の異なる曝露下でのヒトにおける腫瘍サイズの動態を示す。
図4図4Aは、本願における上記のHER2二重特異的抗体の投与サイクル1内の用量正規化された濃度を示す。図4Bは、母集団PKモデルの適合度プロットを示す。
図5図5は、異なる投与レジメンで予測されたベースラインからのSLDの変化の比較を示す。
図6図6は、本願の上記のHER2二重特異的抗体のヒトにおける曝露-SLD関係を構築するための構造モデルを示す。
図7図7は、中間ER分析で使用されるSLDデータを示す。
図8図8は、本願における上記のHER2二重特異的抗体の前臨床PK-PDを構築するための腫瘍増殖阻害(TGI)研究を示す。
図9図9は、研究によって得られた異種移植モデルによるベースラインからの腫瘍増殖の変化を示す。
図10図10は、本願における上記のHER2二重特異的抗体の投与レベルによるベースラインからの腫瘍増殖の変化を示す。
図11図11は、本願における上記のHER2二重特異的抗体の投与レジメンによるベースラインからの腫瘍増殖の変化を示す。
図12図12は、本願における上記のHER2二重特異的抗体の腫瘍体積に依存するマウスにおける目標濃度を示す。
図13図13は、候補投与レジメン間のCtrough濃度の比較を示す。
図14図14は、用量レベル別にスイマープロットに示される評価可能な患者の反応および反応の持続期間を示す。
図15図15A~15Bは、用量レベル別にウォーターフォールプロット(waterfall plot)およびスパイダープロット(spider plot)に示さる評価可能なすべての患者の腫瘍反応を示す。
図16図16A~16Fは、部分奏効を示した再発乳がん患者の治療前および治療後のスキャンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本明細書では、本発明の様々な実施形態が示され、記述されたが、当業者にとって、これらの実施形態が例として与えられたに過ぎないことが明らかであろう。当業者は、本発明を逸脱しない限り、いろんな変形、変更および置換が想到される。本明細書に記載の本発明の実施形態に様々な置換態様が適用され得ることが理解されたい。
【0055】
本出願において、本明細書で使用される「HER2」という用語は、一般に、c-erbB2、ErbB2またはNeuとしても知られる上皮成長因子受容体ファミリーに属するI型膜貫通型タンパク質を指すものとする。本出願の文脈において、上記の「HER2」という用語は、HER2の相同体、変異体およびスプライスアイソフォームを含むアイソフォームも包含する。上記の「HER2」という用語は、変異タンパク質(アイソフォームを含む)、相同タンパク質および/または断片がペルツズマブ、トラスツズマブおよびマルゲツズマブなどの1つ以上のHER2特異的抗体によって認識されることを条件として、HER2相同体、変異体およびアイソフォームの1つ以上の配列および該配列の断片を有するタンパク質も包含する。上記のHER2は、ヒトHER2であってよい。上記のヒトHER2遺伝子は、染色体位置17q12にマッピングされており、上記のHER2遺伝子のゲノム配列がGenBankのNG - 007503.1に掲載されている。ヒトの場合、A、B、C、DおよびEの5種類のHER2アイソフォームが存在し、上記の「HER2」という用語は、本明細書ですべてのHER2アイソフォームを総称するために用いられる。
【0056】
本出願において、本明細書で使用される「抗体」という用語は、一般に、免疫グロブリンまたはその断片もしくは誘導体を意味し、インビトロかインビボで産生されるかどうかにかかわらず、抗原結合部位を含む任意のポリペプチドを包含する。該用語には、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異的、多重特異的、非特異的、ヒト化、一本鎖、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、突然変異および移植が含まれるが、これらに限定されるものではない。本開示の目的のために、「無傷の抗体」のように「無傷の」という用語が別の意味で修飾されていない限り、「抗体」という用語は、Fab、F(ab')2、Fv、scFv、Fd、dAbなどの抗体断片や、抗原結合機能、すなわち例えばHER2に特異的に結合する能力を保持する抗体断片も含むものとする。典型的には、そのような断片は、抗原結合ドメインを含む。
【0057】
本出願において、「二重特異的抗体」という用語は、それぞれ2つの異なる抗原またはその抗原エピトープに結合することができる抗体を指す。例えば、上記の二重特異的抗体は、少なくとも1種類の軽鎖またはその断片、および少なくとも1種類の重鎖またはその断片を含み得る。例えば、上記の二重特異的抗体は、第1の抗原またはその抗原エピトープと第2の抗原またはその抗原エピトープの両方に特異的に結合し得る1本の軽鎖またはその断片を含み得る。例えば、上記の二重特異的抗体は、第1の抗原またはその抗原エピトープと第2の抗原またはその抗原エピトープにそれぞれ結合し得る2本の重鎖またはその断片を含み得る。例えば、上記の第1の抗原またはその抗原エピトープと第2の抗原またはその抗原エピトープは、2つの異なるHER2抗原であってよい。
【0058】
本出願において、本明細書で使用される「HER2陽性」または「HER2陽性」という用語は、一般に、HER2タンパク質が細胞表面に存在する細胞を含む腫瘍を指す。上記のHER2タンパク質は、例えば、遺伝子増幅によって過剰発現され得る。HER2を過剰発現する固形腫瘍は、細胞あたりに発現しているHER2分子のコピー数に従って免疫組織化学スコアで評価し、生化学的に決定され得る(Hudziakら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7159-7163 [1987]を参照)。例えば、HER2陽性固形腫瘍は、HER-2陽性乳癌を含み得る。上記のHER-2陽性乳癌は、エストロゲン受容体検査が陽性であり、HER2非増幅浸潤性乳癌であってよい。上記のHER2陽性乳癌は、進行性であり得る。上記のHER2陽性乳癌は、転移性であり得る。
【0059】
本出願において、「HER2低発現」という用語は非常に低いレベルのHER2を発現する細胞を含む腫瘍を指す。上記のHER2低発現は、IHC 1+または2+およびFISH-を検査するHER2陰性腫瘍を指し得る。HER2の発現レベルは免疫組織化学またはFISHによって測定され得る。例えば、HER2レベルの低い群は、高グレードのEGFR陽性およびER/HER3/HER4陰性である可能性が高い。
【0060】
本出願において、「固形腫瘍」という用語は、一般に、液体領域を含まない組織の異常な塊を指す。上記の固形腫瘍は、悪性の場合もあれば、がんに属する場合もある。異なる種類の固形腫瘍は、それを形成する細胞の種類に応じて命名される。例えば、上記の固形腫瘍は乳癌を含み得る。
【0061】
本出願において、「転移性」という用語は、腫瘍がその発生部位から身体の別の部位に広がることを意味する。多くの種類の腫瘍は、ステージIV (4)腫瘍と呼ばれることもある。転移性腫瘍は、腫瘍細胞が主腫瘍から離脱して血流またはリンパ系に入り込むと発達する。例えば、肺に転移した乳癌は、転移性乳癌と呼ばれることがある。
【0062】
本出願において、「初期腫瘍」という用語は、近傍の組織にまで深く進展していない腫瘍を指す。上記の初期腫瘍は初期がんと呼ばれてもよく、および/または、ステージI (1)腫瘍と呼ばれてもよい。上記の初期腫瘍は遠くまで広がっていない場合もある。
【0063】
本出願において、「局所進行性腫瘍」という用語は、腫瘍が発生した部位以外で増殖し、まだ他の部位に転移していないものを指す。例えば、局所進行性乳がんは、遠隔転移のない最も進行した乳房腫瘍を特徴とする乳癌のサブセットであり得る。
【0064】
本出願において、本明細書で使用される「治療」という用語は、一般に、治療される個体の自然経過を変えようとする試みにおける臨床的介入を指し、予防の目的または臨床病態の経過中のいずれかに実施することができる。治療の望ましい効果には、疾患の発症または再発の予防、症状の緩和、疾患の直接的または間接的な病理学的結果の軽減、転移の予防、疾患の進行速度の低下、疾患の状態の改善または緩和、寛解または予後の改善も含まれ得る。例えば、上記のHER2二重特異的抗体は疾患の発症を遅らせたり、疾患の進行を遅らせたりするために使用される。
【0065】
本出願において、本明細書で使用される「予防する」という用語は、一般に、疾患または障害のかかる損傷、影響または症状の発生を遅延させること、進行を妨げること、出現を妨げること、防御すること、出現を抑制または排除すること、または発生率を低下させることを意味する。
【0066】
本出願において、本明細書で使用される「緩和する」という用語は、一般に、障害の徴候または症状の重症度が減少するプロセスを指す。緩和することは、疾患または障害の徴候または症状が緩和されるが、除去されないことが含まれる場合がある。
【0067】
本出願において、本明細書で使用される「被験者」という用語は、一般に動物、例えばヒトを指す。例えば、上記の被験者は、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウシ、ブタおよび非ヒト霊長類などの哺乳類からなる「非ヒト動物」を含み得る。
【0068】
本出願において、本明細書で使用される「HER2関連腫瘍に対する従来の治療法」という用語は、一般に、HER2関連腫瘍増殖を遮断する任意の物質または薬剤を投与することを意味する。HER2関連腫瘍の従来の治療法は、HER2関連(例えばHER2陽性および/またはHER2低発現)腫瘍細胞の増殖および生存に関与する特定の分子の機能を妨害することができる。上記のHER2関連腫瘍の従来の治療法は、HER2関連腫瘍の治療に特異的な任意の承認された薬剤を含み得る(例えばHER2関連腫瘍は、固形腫瘍であってよく、また、例えばHER2関連腫瘍は任意のステージであり得る)。上記のHER2関連腫瘍の従来の治療法は、HER2関連腫瘍を治療するために承認された第1選択薬および/または第2選択薬を含み得る(例えば、HER2陽性乳癌を治療するために承認された場合がある)。HER2関連腫瘍の従来の治療法は、化学療法などの一般的な腫瘍治療で使用される薬剤のようなHER2関連腫瘍の治療に適した任意の承認された薬剤が含まれる。
【0069】
本出願において、本明細書で使用される「トラスツズマブ」という用語は、一般に、乳癌および胃癌を治療するために使用される全ヒトHER2モノクローナル抗体を指す。その商品名は、ハーセプチン、ヘルズマまたはオギブリである。上記のトラスツズマブは、特にHER2受容体陽性のがんに使用され得る。
【0070】
本出願において、本明細書で使用される「MBCホルモン」という用語は、一般に、乳癌を治療するためのホルモン療法を指す。いくつかの実施形態において、上記のホルモン療法は、ホルモン(例えばエストロゲンまたはプロゲステロン)が乳癌細胞内の受容体に付着するのを阻止し得る。例えば、上記のホルモン療法はタモキシフェンおよび/またはトレミフェンを投与することを含み得る。
【0071】
本出願において、本明細書で使用される「タキサン」という用語は、一般に、ジテルペンの1種を指す。上記のタキサンはまた、転移性乳癌の治療に用いられる。上記のタキサンのCAS番号は、1605-68-1であってよい。タキサンは、以下の式を有していてもよい:
【0072】
【化1】
【0073】
本出願において、本明細書で使用される「HER2-ADC」という用語は、一般に、HER2を標的とした抗体薬物複合体を指し、腫瘍細胞表面のHER2に結合することが可能である。例えば、上記のHER2-ADCは、HER2陽性転移性乳癌の治療に適応され得るトラスツズマブエムタンシン(T-DM1)を含んでいてもよい。例えば、上記のHER2-ADCは、切除不能または転移性HER2陽性乳癌を有する成人患者の治療に適応され得るトラスツズマブ デルクステカン(Ds-8201a)を含んでいてもよい。例えば、上記のHER2-ADCは、トラスツズマブが切断可能なリンカーを介してデュオカルマイシンプロドラッグであるセコ・ドゥカルマイシン-ヒドロキシベンザミド-アザインドールまたはセコ・ドゥバに連結されたSYD985を含み得る。
【0074】
本出願において、本明細書で使用される「ピロチニブ」という用語は、一般に、不可逆的な二重汎-ErbB受容体チロシンキナーゼ阻害剤を指す。上記のピロチニブは、EGFR、HER2およびHER4を標的としてもよい。上記のピロチニブは、HER2陽性の進行性固形腫瘍の治療に使用され得る。ピロチニブラセミ体は、ピロチニブのラセミ体であり、以下の式を有する化合物である。
【0075】
【化2】
【0076】
本出願において、本明細書で使用される「ネラチニブ」という用語は、一般に、チロシンキナーゼ阻害剤を指す。上記のネラチニブは、初期段階のホルモン受容体陽性のHER2過剰発現/増幅乳癌を有する成人の拡張補助治療に使用され得る。上記のネラチニブは、以下の式を有する化合物である。
【0077】
【化3】
【0078】
本出願において、本明細書で使用される「ツカチニブ」という用語は、一般に、HER2の小分子阻害剤を指す。上記のツカチニブは、進行した切除不能または転移性のHER2陽性乳癌に使用され得る。上記のツカチニブは、以下の式を有する化合物である。
【0079】
【化4】
【0080】
本出願において、本明細書で使用される「ペルツズマブ」という用語は、一般に、HER2陽性乳癌の治療に使用されるモノクローナル抗体を指す。上記のペルツズマブ(OMNITARG(商標))の可変軽鎖および可変重鎖のアミノ酸配列はWO2006033700A2を参照することができる。
本出願において、本明細書で使用される「トラスツズマブ」という用語は、一般に、HER2/neu受容体を妨害するモノクローナル抗体(商品名:ハークロン、ハーセプチン)を指す(Hudis, 2007, N. Engl. J. Med.3577(1):39-51)。
【0081】
本出願において、本明細書で使用される「ドセタキセル」という用語は、一般に、TAXOTERE(商標)の活性成分またはTAXOTERE(商標)自体を指す。上記のドセタキセルは、以下の式を有する化合物である。
【0082】
【化5】
【0083】
本出願において、本明細書で使用される「カペシタビン」という用語は、一般に、組織内で5-FUに変換されるプロドラッグである化学療法剤を指す。上記のカペシタビンの化学名は、ペンチル[1-(3,4-ジヒドロキシ-5-メチルテトラヒドロフラン-2-イル)-5-フルオロ-2-オキソ-1H-ピリミジン-4-イル]カーバメートである。
【0084】
本出願において、本明細書で使用される「ラパチニブ」という用語は、一般に、乳癌および他の固形腫瘍のための経口活性薬を指す。これは、HER2/neuおよび上皮成長因子受容体(EGFR)経路を遮断する二重チロシンキナーゼ阻害剤である。これは、これらの受容体に対して二重可逆的TKIとして機能するため、下流のMAPK/Erk1/2およびPI3K/AKT経路を遮断する。上記のラパチニブは、以下の式を有する化合物である。
【0085】
【化6】
【0086】
本出願において、本明細書で使用される「製剤」という用語は、一般に、本願のHER2二重特異的抗体を含む組成物を指す。例えば、上記の製剤は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤をさらに含み得る。例えば、上記の薬学的に許容される賦形剤は、Royal Pharmaceutical Society of Great Britain, Science & Practice Publishers 4th EditionまたはRemingtons:The Science and Practice of Pharmacy (19th Edition、Mack Publishing Company)に記載の賦形剤を含み得る。
【0087】
本出願において、本明細書で使用される「薬物送達デバイス」という用語は、一般に、本願における製剤を含むデバイスを指す。本出願において、上記の薬物送達デバイスは、上記のHER2二重特異的抗体を被験者における腫瘍部位および/または必要な部位に送達することができる。
【0088】
本出願において、本明細書で使用される「1つ/種類」という用語は、一般に、単数形に限定することを意味しない。ある実施形態では、「1つ/種類」という用語は、複数形を指す場合がある。本開示全体を通して使用される場合、単数形の「1つ/種類」および「該」は、文脈が明確に指示しない限り、複数の参照を含む。
【0089】
本出願において、本明細書で使用される「約」という用語は、一般に、当該技術分野における通常の許容範囲内にある変動を意味し、一般に、記載された値の10%以内、例えば、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%または0.01%以内の変動を意味する。なお、文脈から明らかな場合を除き、本明細書で提供されるすべての数値は、「約」という用語によって修飾される。
【0090】
一態様では、本願は、被験者において腫瘍を予防、緩和または治療するか、または腫瘍増殖を阻害する方法であって、上記の被験者に約15 mg/kgから約35 mg/kgのHER2二重特異的抗体を投与することを含み、上記のHER2二重特異的抗体は、第1の軽鎖、第2の軽鎖、第1の重鎖および第2の重鎖を含み、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブの重鎖およびトラスツズマブの重鎖と集合することができ、上記の第1の軽鎖および/または第2の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 1-6のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する方法を提供する。
【0091】
例えば、上記のHER2二重特異的抗体は、二重特異的抗体またはその抗原結合部分であってよく、その二重特異的抗体またはその抗原結合部は、同一のアミノ酸配列を有する第1の軽鎖と第2の軽鎖を含んでよい。例えば、上記の二重特異的抗体またはその抗原結合部分は、第1の軽鎖および第2の軽鎖が同一のアミノ酸配列を有するため、共通の軽鎖を含み得る。
【0092】
例えば、上記の共通の軽鎖は、ヒトHER2の異なるエピトープにそれぞれ結合することができる2つの異なる元のモノクローナル抗体から工学的に得られてもよい。いくつかの場合では、上記の共通の軽鎖は、元の2つのモノクローナル抗体のいずれかの軽鎖に由来することもある。いくつかの場合では、上記の共通の軽鎖は、元の2つのモノクローナル抗体のいずれかの軽鎖に基づいて改変されてもよい。
【0093】
例えば、上記の改変は、元の2つのモノクローナル抗体のいずれかの軽鎖のアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸位置における挿入、欠失および/または置換を含んでよい。いくつかの場合では、改変の目的は、二重特異的抗体またはその抗原結合部分と対応するエピトープとの間の親和性を維持することである。
【0094】
本出願において、上記の二重特異的抗体またはその抗原結合部分の軽鎖定常領域は、Km1、Km2およびKm3などのさまざまなアロタイプを含み得るκ型またはCL1、CL2、CL3、CL6およびCL7などのさまざまなアロタイプを含み得るλ型であってよい。
【0095】
本出願において、上記のHER2二重特異的抗体は、二重特異的抗体またはその抗原結合部分であってよく、上記の二重特異的抗体またはその抗原結合部分は、第1の重鎖および第2の重鎖を有していてもよい。
【0096】
本出願において、上記の第1の重鎖および第2の重鎖は、生理的条件下またはインビトロでのタンパク質発現中にそれぞれ軽鎖と正しく集合することができる。
【0097】
例えば、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブの重鎖およびトラスツズマブの重鎖と集合することができる。
【0098】
例えば、上記の第1の軽鎖および/または第2の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO:1で表されるアミノ酸配列を有してよい。
【0099】
例えば、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖は、ペルツズマブまたはその変異体の軽鎖、トラスツズマブまたはその変異体の軽鎖からそれぞれ選択されてよい。
【0100】
例えば、上記の第1の軽鎖の可変領域および第2の軽鎖の可変領域は、トラスツズマブの軽鎖の可変領域であってよい。例えば、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖は、トラスツズマブの軽鎖であってよい。
【0101】
例えば、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖は、SEQ ID NO:7~12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有してよい。例えば、上記の第1の軽鎖および第2の軽鎖は、SEQ ID NO:7で表されるアミノ酸配列を有してよい。
【0102】
例えば、上記の第1の重鎖の可変領域は、ペルツズマブの重鎖の可変領域であってよく、上記の第2の重鎖の可変領域は、トラスツズマブの重鎖の可変領域であってよい。例えば、上記の第1の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO:13で表されるアミノ酸配列を有してよく、上記の第2の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO:14で表されるアミノ酸配列を有してよい。
【0103】
本出願において、上記の第1の重鎖および/または第2の重鎖は、定常領域を含んでよい。例えば、上記の定常領域は、ヒトIgG定常領域に由来するものであってもよい。例えば、上記の第1の重鎖の重鎖定常領域および第2の重鎖の重鎖定常領域は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。いくつかの場合では、上記の第1の重鎖および第2の重鎖の可変領域およびCH1ドメインのアミノ酸配列は、元のモノクローナル抗体のアミノ酸配列と同一であることがある。
【0104】
本出願において、上記の二重特異的抗体またはその抗原結合部分は、リガンド依存性及びリガンド非依存性の両方のHER2シグナル伝達経路を遮断することができる。例えば、上記の二重特異的抗体またはその抗原結合部分のIgG1 Fc断片は、FcRγIIIaに結合し、強力なADCC効果を媒介することができる。例えば、上記の二重特異的抗体またはその抗原結合部分は、HER2の内在化を促進し、および/または前臨床モデルにおいて、元のモノクローナル抗体(例えば、トラスツズマブおよびペルツズマブ)を単独で使用するよりも優れた抗腫瘍活性を示し得る。
【0105】
いくつかの場合では、上記の二重特異的抗体またはその抗原結合部分の軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域は、より優れたADCC、CDC、エンドサイトーシス、安定性、免疫原性および/または半減期を得るための改変を含んでよく、さらに、上記の改変は、抗体発現中のヘテロ二量体のタンパク質の形成を促進することもできる。本出願において、重鎖のFc断片を改変ための技術は、当該技術分野で知られている。
【0106】
例えば、上記の第1の重鎖のFc断片は、SEQ ID NO:19~49、51~52のいずれかで表されるアミノ酸配列を有してよく;上記の第2の重鎖のFc断片は、SEQ ID NO:19~49、51~52のいずれかで表されるアミノ酸配列を有してよい。
【0107】
例えば、上記の第1の重鎖のFc断片は、SEQ ID NO:19で表されるアミノ酸配列を有してよく;上記の第2の重鎖のFc断片は、SEQ ID NO:20で表されるアミノ酸配列を有してよい。
【0108】
例えば、上記の第1の重鎖のFc断片は、SEQ ID NO:51で表されるアミノ酸配列を有してよく;上記の第2の重鎖のFc断片は、SEQ ID NO:52で表されるアミノ酸配列を有してよい。
【0109】
例えば、上記の第1の重鎖は、SEQ ID NO:17で表されるアミノ酸配列を有してよく;上記の第2の重鎖は、SEQ ID NO:18で表されるアミノ酸配列を有してよい。
【0110】
例えば、上記の第1の重鎖は、SEQ ID NO:15で表されるアミノ酸配列を有してよく;上記の第2の重鎖は、SEQ ID NO:16で表されるアミノ酸配列を有してよい。
【0111】
本出願において、上記のHER2二重特異的抗体は、第1の軽鎖、第2の軽鎖、第1の重鎖、および第2の重鎖を含んでよく、上記の第1の軽鎖および/または第2の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO:1で表される配列を有してよく;上記の第1の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO:13で表されるアミノ酸配列を有してよく;上記の第2の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO:14で表されるアミノ酸配列を有してよい。上記の第1の重鎖は、SEQ ID NO:15で表されるアミノ酸配列を有してよく;上記の第2の重鎖は、SEQ ID NO:16で表されるアミノ酸配列を有してよい。
【0112】
本願発明に係るアミノ酸配列はまた、少なくとも80%(例えば、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または少なくとも100%)配列リストのSEQ ID NO:1~52のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して同一性を有するアミノ酸配列である。例えば、本願発明に係るアミノ酸配列は、配列リストのSEQ ID NO:1~52のいずれかで表されるアミノ酸配列に1つ以上の(例えば、1~2、1~3、1~4、1~5、1~6、1~7、1~8、1~9、1~10またはそれ以上)のアミノ酸の欠失、挿入および/または置換のアミノ酸配列を有してよい。
【0113】
本出願において、上記の用量は、約20 mg/kgから約30 mg/kg(例えば、少なくとも約20 mg/kgの用量、少なくとも約20.5 mg/kgの用量、少なくとも約21 mg/kgの用量、少なくとも約21.5 mg/kgの用量、少なくとも約22 mg/kgの用量、少なくとも約22.5 mg/kgの用量、少なくとも約23 mg/kgの用量、少なくとも約23.5 mg/kgの用量、少なくとも約24 mg/kgの用量、少なくとも約24.5 mg/kgの用量、少なくとも約25 mg/kgの用量、少なくとも約25.5 mg/kgの用量、少なくとも約26 mg/kgの用量、少なくとも約26.5 mg/kgの用量、少なくとも約27 mg/kgの用量、少なくとも約27.5 mg/kgの用量、少なくとも約28 mg/kgの用量、少なくとも約28.5 mg/kgの用量、少なくとも約29 mg/kgの用量、少なくとも約29.5 mg/kgおよび少なくとも約30 mg/kgの用量)であり得る。例えば、上記の用量は約20 mg/kgであり得る。例えば、上記の用量は約30 mg/kgであり得る。
【0114】
本出願において、上記のHER2二重特異的抗体は、2週間に1回または3週間に1回投与され得る。例えば、上記のHER2二重特異的抗体は、用量が約20 mg/kgであり得、2週間に1回投与され得る。例えば、上記のHER2二重特異的抗体は、用量が30 mg/kgであり得、3週間に1回投与され得る。
【0115】
例えば、上記の被験者は、HER2関連腫瘍に対する従来の療法に反応しない場合がある。例えば、上記のHER2関連腫瘍に対する従来の療法は、HER2を標的とする特異的薬物を投与することを含み得る。例えば、HER2抗原結合タンパク質(例えば、抗HER2抗体)、そのコンジュゲートおよび/またはHER2特異的阻害剤を含み得る。例えば、上記のHER2関連腫瘍に対する従来の療法は、HER2-ADC、MBCホルモン、タキサン、ピロチニブ、ネラチニブ、ツカチニブ、トラスツズマブおよび/またはペルツズマブを投与することを含み得る。例えば、上記のHER2関連腫瘍に対する従来の療法は、腫瘍の治療に汎用されている薬物を投与することを含み得る。例えば、利用可能な任意の化学療法薬を含み得る。例えば、上記のHER2関連腫瘍に対する従来の療法は、ドセタキセル、カペシタビンおよび/またはラパチニブを投与することを含み得る。
【0116】
本出願において、上記の反応しないとは、被験者における腫瘍の症候群が、HER2関連腫瘍に対する従来の療法で投与した後に有意に緩和されていないことを指し得る。例えば、上記の症候群は、腫瘍の体積の減少を含み得る。例えば、上記の症候群は、OS、ORRおよび/またはPFSの拡張を含み得る。
【0117】
本出願において、上記の必要のある被験者は、HER2関連腫瘍に対する従来の療法に失敗した可能性があり、かつ、上記のHER2関連腫瘍に対する従来の療法は、トラスツズマブ、MBCホルモンおよび/またはタキサンを投与することを含み得る。
【0118】
例えば、上記の必要のある被験者は、HER2関連腫瘍に対する従来の療法に失敗した可能性がある。例えば、上記のHER2関連腫瘍に対する従来の療法は、トラスツズマブ、HER2 TKIおよびHER2 ADCを投与することを含み得る。例えば、上記の必要のある被験者において、HER2標的療法歴の中央値は2(範囲:1~12)であり得る。
【0119】
例えば、上記の必要のある被験者は、トラスツズマブおよび/またはタキサンによる治療後に疾患が進行したHER2陽性の転移性乳がんを有する可能性がある。
【0120】
例えば、上記の必要のある被験者は、従来のホルモン治療を受けた可能性がある。例えば、上記のホルモン治療は、エストロゲン受容体を遮断する薬物を投与することを含み得る。例えば、上記のホルモン治療は、タモキシフェンおよび/またはトレミフェンによる治療を含み得る。例えば、上記のタキサンは、パクリタキセル(タキソール(Taxol))およびドセタキセル(タキソテール(Taxotere))を含み得る。
【0121】
例えば、上記の必要のある被験者は、最初にホルモン治療を受け、次にトラスツズマブおよび/またはタキサンによる治療を受けた可能性がる。別の例として、上記の必要のある被験者は、最初にトラスツズマブおよび/またはタキサンによる治療を受け、その後、ホルモン治療を受けた場合がある。
【0122】
本出願において、腫瘍は、固形腫瘍を含み得る。例えば、上記の腫瘍は、転移性腫瘍、初期腫瘍および/または局所進行性腫瘍を含み得る。例えば、上記の腫瘍は、HER2陽性腫瘍および/またはHER2低発現腫瘍を含み得る。
例えば、上記の腫瘍は、乳がんおよび/または胃癌を含み得る。例えば、上記の乳がんは、HER2陽性乳がんおよび/またはHER2低発現乳がんを含み得る。例えば、上記の乳がんは、初期乳がん、局所進行性乳がんおよび/または転移性乳がんを含み得る。例えば、上記の胃癌は、初期胃癌、局所進行性胃癌および/または転移性胃癌を含み得る。例えば、上記の必要のある被験者は、局所進行性切除不能または転移性疾患の診断時に、HER2陽性乳癌の組織学的又は細胞学的に証明された診断を有していてもよい。
【0123】
例えば、上記の乳がんは、HR陰性(HR-)またはHR陽性(HR+)乳がんであり得る。例えば、上記の癌はHR- HER2陽性の陽性乳がんであり得る。また、例えば、上記の癌はHR+ HER2陽性の陽性乳がんであり得る。
【0124】
本出願において、上記の必要のある被験者は、疾患の進行、許容不能な毒性、またはインフォームドコンセントの撤回のいずれかが先に起こるまで、予定されたレジメンでHER2二重特異的抗体で治療することができる。
【0125】
本出願において、治療は疾患反応をもたらす可能性がある。例えば、上記の疾患反応は、腫瘍体積の減少を含み得る。例えば、RECIST 1.1基準に基づく腫瘍評価は、ベースラインで、12カ月以内に、8週間に1回(QWおよびQ2Wスケジュール)、6週間に1回(Q3Wスケジュール)、その後は12週間に1回実施される。
【0126】
本願におけるHER2二重特異的抗体は、同じ投与経路または異なる投与経路によって投与され得る。例えば、上記のHER2二重特異的抗体は、静脈内投与を行うものであり得る。
【0127】
例えば、上記のHER2二重特異的抗体は、初回用量として90分間の静脈内注入で投与され得る。例えば、HER2二重特異的抗体は、その後の投与用量について、60分間の静脈内注入に短縮して投与され得る。
【0128】
本出願において、1サイクルは、Q2W(2週間に1回)投薬については28日、Q3W(3週間に1回)投薬については21日と定義され得る。
【0129】
本出願において、製剤は、少なくとも約5 μg/mL(例えば、少なくとも約5 μg/mL、少なくとも約5.5 μg/mL、少なくとも約6 μg/mL、少なくとも約6.5 μg/mL、少なくとも約7 μg/mL、少なくとも約7.5 μg/mL、少なくとも約8 μg/mL、少なくとも約8.5 μg/mL、少なくとも約9 μg/mL、少なくとも約9.5 μg/mL、少なくとも約10 μg/mL、少なくとも約10.5 μg/mL、少なくとも約11 μg/mL、少なくとも約11.5 μg/mL、少なくとも約12 μg/mL、少なくとも約12.5 μg/mL、少なくとも約13 μg/mL、少なくとも約13.5 μg/mL、少なくとも約14 μg/mL、少なくとも約14.5 μg/mL、少なくとも約15 μg/mL、少なくとも約15.5 μg/mL、少なくとも約16 μg/mL、少なくとも約17 μg/mL、少なくとも約16.5 μg/mL、少なくとも約17 μg/mL、少なくとも約17.5 μg/mL、少なくとも約18 μg/mL、少なくとも約18.5 μg/mL、少なくとも約19 μg/mL、少なくとも約19.5 μg/mL、少なくとも約20 μg/mL、少なくとも約27 μg/mL、少なくとも約78 μg/mLまたはそれ以上)のHER2二重特異的抗体を含み得る。例えば、上記の製剤は、少なくとも約5 μg/mLの二重特異的抗体を含み得る。例えば、上記の製剤は、少なくとも約20 μg/mLの二重特異的抗体を含み得る。
【0130】
例えば、上記の製剤は、容器に包装され得る。例えば、上記のデバイスは、容器であり得る。本出願において、上記の容器は、「容器」、「ペン」または「注射器」であり得る。例えば、上記の容器は、充填済み容器、充填済みペンまたは充填済み注射器であり得る。例えば、静脈内投与は生理食塩水容器からのものである。例えば、上記の容器は、チューブおよび/または針を含む流路に接続され得る。
【0131】
本出願において、上記の製剤は、液体製剤であり得る。例えば、上記の製剤は、水性担体で調製され得る。例えば、安定剤は、静脈内投与に望ましくないまたは不適当な粘度を生じ得る量以下の量で添加され得る。例えば、上記の液体製剤は、さらに緩衝剤、界面活性剤および保存剤のうちの1つ以上を含み得る。
【0132】
例えば、上記の製剤は、静脈内投与を行うものであり得る。
【実施例
【0133】
以下の実施例は、当業者に本発明をどのように実施および使用するかについての完全な開示および説明を提供するように記載されており、本発明者らが発明とみなすものの範囲を限定することを意図するものではなく、また、以下の実験がすべてまたは唯一の実験であることを示唆するものでもない。使用される数値(例えば、数量、温度など)の正確さの確保に力を尽くしたが、いくつかの実験誤差および偏差を考慮すべきである。特に断らない限り、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏、圧力は大気圧または大気圧近傍を指す。sまたはsecは秒、minは分、hまたはhrは時間、i.mは筋肉内、i.pは腹腔内、s.cは皮下であるような標準的な略語を使用してよい。
【0134】
材料
HER2二重特異的抗体:HER2二重特異的抗体は、SEQ ID No: 7で表されるアミノ酸配列を有する共通の軽鎖、SEQ ID No: 15で表されるアミノ酸配列を有する第1の重鎖、および、SEQ ID No: 16で表されるアミノ酸配列を有する第2の重鎖を含む。
【0135】
ヒト癌細胞株:Calu-3(ヒト肺癌細胞株)およびNCI-N87(ヒト胃癌細胞株)は、Cell Resource Center of Shanghai Institutes for Biological Sciences, Chinese Academy of Sciences (Shanghai, China)から購入された。細胞株は、ベンダーによって特徴付けられ、さらなる細胞株の認証は行われなかった。
【0136】
前臨床異種移植モデル:HER2二重特異的抗体の抗腫瘍活性は、NCI-N87およびCalu-3異種移植モデルを使用して評価された。これらの実験では、BALB/cマウスの右脇腹に4~6×106個のNCI-N87またはCalu-3腫瘍細胞が皮下注射された。HER2二重特異的抗体の治療は、腫瘍細胞移植の8日後に開始され、最初の腫瘍は100~150 mm3の範囲であった。BALB/cマウス(n=5~6匹/群)にPBS、HER2二重特異的抗体を週に1回または2週間に1回、4~5週間腹腔内(i.p.)注射した。腫瘍のサイズをキャリパーで週に2回測定し、腫瘍体積を式:腫瘍体積(mm3) =(幅2×長さ) × 0.5を用いて算出した。
【0137】
マウスは、28~35日目、または腫瘍のサイズが2000 mm3に達した時点で、安楽死させた。安楽死の前に、血漿中のHER2二重特異的抗体の濃度の測定のために、各動物被験者からある時点の血液を採取した。プラセボ群における合計40匹の動物被験者およびHER2二重特異的抗体治療群における50匹の動物被験者は、780件の腫瘍体積の観察(プラセボ群からの246件の観察およびHER2二重特異的抗体群からの534件の観察)が含められて、分析に含まれている。
【0138】
マウス異種移植研究は、中国のSuzhou Alphamab社によって実施され、実験プロトコルの設計は動物福祉の3 Rsのの規則に準拠している。
【0139】
ソフトウェア:データセットの組み立ては、SAS(商標)(バージョン9.3)を使用して実行された。グラフィカルデータ探索、モデルベースのシミュレーションおよび追加のデータ処理は、R(バージョン3.5.1)を使用して実行された。非線形混合効果モデリングは、NONMEM(バージョン7.4、ICON Development Solutions、 Ellicott City, MD, USA)を使用して実行された。すべてのモデルは、η-ε相互作用を伴う一次条件付き推定法(FOCE-1)を使用して推定された。
【0140】
臨床試験
研究デザインと患者選択
この第I相多施設非盲検3+3用量漸増研究は、HER2陽性MBC患者におけるHER2二重特異的抗体の安全性、耐性、薬物動態(PK)、および予備的な抗腫瘍活性を評価するとともに、HER2二重特異的抗体の第II相試験推奨用量(RP2D)を特定する目的で計画された。この研究プロトコルは、患者募集前に機関審査委員会によって承認され、国際調和会議E6ガイドライン医薬品臨床試験実施基準にしたがって実施された。各患者は、研究登録前に署名入りのインフォームドコンセントを提供した。
【0141】
適格な患者は、18~75歳で、組織学的にHER2陽性の転移性乳がんが確認されている。HER2陽性状態は、ASCO/CAP 2018ガイドラインによって確認された。患者は、転移性設定で、少なくとも1回の抗HER2治療歴を受けており、RECIST 1.1ごとに少なくとも1つの測定可能な疾患があり、ベースラインの左室駆出率(LVEF)が55%以上であった。不安定な脳転移、悪性髄膜炎、症候性間質性肺疾患の既往歴、300 mg/m2を超えるまたはそれと同等のドキソルビシンの累積投与歴、または医学的に重大な心疾患を有する患者は除外された。インフォームドコンセントが署名される前に、患者が血液またはアーカイブ腫瘍サンプルからの次世代シーケンシング結果を持っている場合に、情報が収集される。
【0142】
3+3の用量漸増段階では、患者は、5 mg/kg QW、10 mg/kg QW、20 mg/kg Q2Wおよび30 mg/kg Q3Wの用量でHER2二重特異的抗体治療を受けた。適格な患者は、疾患の進行、許容不能な毒性、またはインフォームドコンセントの撤回まで、21日または28日のサイクルで、HER2二重特異的抗体を静脈内投与された。3人の患者は、最初に5 mg/kgの開始用量レベルに割り付けられた。用量制限毒性(DLT)は、重症度および/または不可逆性のために許容されず、さらなる用量上昇が制限された投与後の治療研究関連の毒性反応として定義された。DLT評価期間は、QWおよびQ2Wの投与頻度で28日間、Q3Wで21日間であった。特定の用量レベルで客観的奏効(部分奏効または完全奏効)が観察された場合に、用量レベルを拡大して、追加の23~25人の患者を登録し、HER2二重特異的抗体的有効性、安全性および耐性を探索した。6人の患者のうち1人以下の患者がDLTを発症した最高用量レベルを最大耐量(MTD)と見なした。MTDを特定できない場合に、集団薬物動態および薬力学アプローチによってRP2Dを決定した。
【0143】
安全性評価
安全性評価は、すべての有害事象(AE)、DLT(用量漸増段階)、臨床検査パラメータ、心電図(ECG)、ECOGパフォーマンスステータス、バイタルサイン、および身体検査を含めてサイクルごとに行われた。AEは、NCI CTCAE, VERSION 4.03にしたがって評価され、最後の投与から90日後まで監視された。
【0144】
臨床活性
腫瘍イメージング評価は、最初の12カ月間は6週間ごと、その後は12週間ごとに、研究者のレビューごとに、固形腫瘍の反応評価基準(RECIST)ガイドラインバージョン1.1に従って、疾患の進行、新しい抗腫瘍療法の開始、またはインフォームドコンセントの撤回まで実施された。客観的な反応を達成した患者は、少なくとも4週間間隔で確認された。この研究のインフォームドコンセントの前にベースライン組織および末梢血ctDNA第2代シーケンス(NGS)情報を持っていた22人の患者からの上記の情報を収集し、NGSと有効性の相関を分析した。
【0145】
PK分析
HER2二重特異的抗体の血清濃度のサンプルは、投与前のサイクル1および2の1日目、注入後30分、注入終了時(EOI)、EOIの2時間、6時間、24時間、72時間および168時間後、および投与前のサイクル3、4、5および6の1日目と15日目およびEOI(Q2W投与では、1サイクル=28日、Q3W投与では、1サイクル=21日)に収集された。サンプルは、ドライアイスで冷凍して出荷され、分析まで-80℃下で保存された。ヒト血清中のHER2二重特異的抗体の濃度は、定量的サンドイッチ電気化学発光(ECL)アッセイで測定された。MSD Quickplex120は、データ収集に用いられ、Watson LIMSはデータ処理に用いられた。データセットの組み立ては、SAS(商標)(バージョン9.3)を使用して実行された。グラフィカルデータ探索、モデルベースのシミュレーションおよび追加のデータ処理は、R(バージョン3.5.1)を使用して実行された。非コンパートメント分析は、Phoenix WinNonlin (Pharsight, Mountain View, CA)バージョン8.0を用いて実行された。非線形混合効果モデリングは、NONMEM(バージョン7.4,ICON Development Solutions, Ellicott City, MD, USA)を使用して実行された。
【0146】
サンプルサイズの決定と統計分析
用量漸増コホートの規模は、3+3フェーズI試験デザインに基づいている。拡大コホートのサンプルサイズは、用量拡大フェーズの各コホートに約60人の被験者が登録されると仮定して、片側正確検定法を用いて算出された。以前の抗HER2治療に失敗したHER2陽性MBC患者のORRが8-10%であると仮定すると、60人の患者の規模は、30%のレベルでのORR増加(α=0.05)を検出するために、80%の検出力を提供できる。安全性分析は、安全性分析セットに基づいており、有効性分析は、有効性の完全な分析セット(FAS)に基づいている。
【0147】
記述統計を使用して、人口統計、ベースライン特性、AE、実験室毒性、およびDLTを要約した。ORR、DCRおよびCBRは、点推定値とClopper Pearson法に基づく95%の正確な二項CIとして報告された。PFSおよびOSを含む生存転帰は、Kaplan-Meier法によって推定される。すべてのPKエンドポイントについて記述統計およびグラフ表示が行われた。Tmaxは、中央値、25および75個の百分位数、最小値および最大値で記述された。統計計算はSAS 9.4で実施された。
免疫原性評価
臨床免疫原性戦略は、バイオ医薬品の業界慣行と一致する段階的アプローチ(FDA, Guidance for Industry:Immunogenicity Assessment for Therapeutic Protein Products (Silver Spring, MD, August 2014))に従う。まず、二重特異的抗体の異なるドメインに対する潜在的な陽性反応を検出するために、検証済みの溶液内架橋ELISAでサンプルをスクリーニングした。次に、二重特異的抗体との競合結合ステップの後、同じELISAで陽性シグナルを示すサンプルを確認した。次に、二重特異的抗体成分との競合結合によって、確認された陽性サンプルのADAドメイン特異性を分析した。最後に、ADAの相対レベルは、力価によって決定された。
【0148】
統計分析
安全性分析は、安全性分析セットに基づいており、有効性分析は、有効性の完全な分析セット(FAS)に基づいている。安全性分析セットは、少なくとも1回の研究治療を受けた患者を含む。FASには、少なくとも1回の研究治療を完了し、腫瘍反応について評価された患者が含まれた。薬物動態解析集団には、評価可能な薬物動態データを持つ患者が含まれた。データの入手可能性に応じて、異なるPKパラメータの分析には異なる数の患者が含まれる場合がある。
【0149】
用量漸増段階の主要評価項目は、治療の最初のサイクルにおけるDLTである。用量拡大段階の主要評価項目は、研究者がRECIST 1.1に基づいて評価した完全奏効または部分奏効の患者の割合として定義されている客観的奏効率(ORR)である。副次評価項目は、最初に登録されたCRまたはPRから何らかの原因による疾患進行または死亡までの時間として定義されている奏効持続期間(DOR)、最初の試験治療から何らかの原因による疾患進行または死亡までの時間として定義されている無増悪生存期間(PFS)、およびCR、PRおよびSDが24週間以上の患者の割合として定義されている臨床的有効割合(CBR)である。安全性評価は、治療関連の有害事象(TRAE)のタイプ、発生率、重症度、臨床検査値異常、濃度-時間曲線下の総面積(AUC0-t)を含むがこれに限定されたいPKパラメータ、ピーク血漿濃度(C最大)、消失半減期(T1/2)を含む。
【0150】
実施例1 臨床研究
臨床研究デザイン:ファーストインヒューマン(FIH)臨床試験(NCT03619681、参加しているすべての臨床施設の倫理委員会によって承認されたプロトコル)は、HER2発現乳がん、胃/胃食道接合部癌、およびその他の局所進行/転移性固形腫瘍におけるHER2二重特異的抗体の進行中の第1相研究である。すべての患者は、研究に参加する前に、書面によるインフォームドコンセントを提供した。登録されたすべての被験者は、少なくともトラスツズマブを含む利用可能なHER2標的療法に失敗したHER2陽性乳がん患者である。HER2標的療法の前治療歴の中央値は2(範囲:1~12)であった。用量漸増中の患者は、5 mg/kg QW~30 mg/kg Q3Wの範囲の用量で治療された。用量拡大中の患者は、20 mg/kg Q2Wおよび30 mg/kg Q3Wのいずれかで治療された。HER2二重特異的抗体は、最初の投与では、90分間の静脈内注入で投与され、その後の投与では、60分間の静脈内注入に短縮された。HER2二重特異的抗体の血清濃度のサンプルは、投与前のサイクル1および2の1日目、注入後30分、注入終了時(EOI)、EOIの2時間、6時間、24時間、72時間および168時間後、および投与前のサイクル3、4、5および6の1日目と5日目およびEOI(Q2W投与では、1サイクル=28日、Q3W投与では、1サイクル=21日)に収集された。サンプルは、ドライアイスで冷凍して出荷され、分析まで-80℃下で保存された。被験者は、疾患の進行、許容不能な毒性、またはインフォームドコンセントの撤回まで(いずれかが最初に起こるかにかかわらず)、予定されたレジメンでHER2二重特異的抗体で治療された。RECIST 1.1基準による腫瘍評価は、ベースラインで、12カ月以内に、8週間に1回(QWおよびQ2Wスケジュール)、および6週間に1回(Q3Wスケジュール)実施され、その後は12週間に1回実施された。RECIST 1.1基準によって決定された標的病変の縦方向の直径の合計は、ヒトの腫瘍増殖モデルを構築するために使用される。
【0151】
実施例2 腫瘍増殖の阻害
トランスレーショナル腫瘍増殖阻害モデリング:NCI-N87およびCalu-3異種移植モデルにおける87匹のマウスからの780の観察結果を含む縦方向の腫瘍体積データを使用して、HER2二重特異的抗体のCtrough濃度と腫瘍体積動態との関係を説明した。異種移植モデルにおける自然な腫瘍増殖とHER2二重特異的抗体による腫瘍致死率の両方を考慮した腫瘍増殖阻害モデルが開発された。マウスにおける腫瘍増殖阻害モデルを認定するために、標準モデル評価を行った。
【0152】
HER2二重特異的抗体の抗腫瘍効果をヒトへの曝露にさらに関連付けるために、次に、マウスで開発された腫瘍増殖阻害モデルからトランスレーショナル腫瘍モデルが推定される。次に、シミュレーションを実施することにより、異なるHER2二重特異的抗体濃度下でのヒトの初期腫瘍体積と腫瘍倍加時間の異なるシナリオを探索した。
【0153】
腫瘍増殖阻害データとモデリング
マウス異種移植モデルからの腫瘍体積データは、もっともらしいHER2二重特異的抗体用量-反応関係を示している(図1)。確立された前臨床腫瘍モデルが採用した基本構造モデルからはじめて、さまざまな形態の腫瘍増殖成分がテストされた。類似の可飽和腫瘍増殖成分が、異種移植データを最もよく説明することがわかり、E最大薬物効果モデルが線形関係よりもHER2二重特異的抗体の抗腫瘍効果をよく説明することがわかった。マウスの異種移植データを説明する最終的な腫瘍増殖阻害モデルは次のとおりである。
【0154】
【数1】
【0155】
ここで、KGは最大の自然腫瘍増殖速度であり、KDは最大のHER2二重特異的抗体効果に関連する最大腫瘍殺傷速度である。TV(t)は、時間tにおける腫瘍体積であり、ConcはHER2二重特異的抗体のCtrough濃度である。TG50は、腫瘍増殖速度が最大速度の50%に減少した時の腫瘍体積であり、KC50は腫瘍殺傷速度がHER2二重特異的抗体の最大腫瘍殺傷効果の50%に減少する時のHER2二重特異的抗体のCtrough濃度レベルである。
【0156】
表1において、推定された腫瘍増殖モデルパラメータを提供する。適合度プロットは、モデルの適切な適合および最小バイアスを示した(図2)。
【0157】
【表1】
【0158】
最終的なモデルは、マウスの腫瘍増殖は、腫瘍体積が大きくなると減速し、腫瘍体積が小さくなると、同じ腫瘍増殖阻害の目標を達成するには、より高い濃度が必要であることを示している。具体的には、マウス異種移植モデルの腫瘍体積が200 mm3である場合に、95%の腫瘍増殖阻害を達成するには、78.1 μg/mLのHER2二重特異的抗体のCtrough濃度が必要である(表2)。
【0159】
【表2】
【0160】
HER2二重特異的抗体のヒト予測のためのトランスレーショナル腫瘍モデル
開発されたマウス腫瘍増殖阻害モデルにおいて、乳がん患者で観察された腫瘍増殖動態により関連する文献に記載されている腫瘍増殖方程式を使用して、腫瘍増殖成分を置き換えた。HER2二重特異的抗体のヒト予測のためのトランスレーショナル腫瘍モデルは次のとおりである。
【0161】
【数2】
【0162】
乳がん患者における腫瘍増殖の重要なパラメータは、文献に記載された値によって決定された。特に、λは腫瘍の指数増殖期からの増殖パラメータを表し、かつ25日間の指数増殖期中の腫瘍倍加時間から算出された(CV% = 200%)。λは腫瘍の線形増殖期からの増殖パラメータを表し、線形増殖期に関連する621日間の腫瘍倍加時間から算出された(CV% = 85%)。達成可能な最大腫瘍体積V最大は、達成可能な最大腫瘍半径5 cmに基づいて、523.8 cm3に設定された。指数関数増殖と線形増殖の間の経験的な形状パラメータの切り替えを反映するために、ψは20に定められた。最後に、初期腫瘍病変長さ19 mm(範囲7~70 mm)および初期病変幅17 mm(範囲7~80 mm)から初期腫瘍体積TV(0)=2745.5 cm3が算出された。
【0163】
一方、腫瘍殺傷の成分と腫瘍殺傷におけるHER2二重特異的抗体効果に固有のモデルパラメータ、すなわちKDとKC50は、種を超えて一定と仮定され、かつマウスの腫瘍増殖阻害モデルから推定されたものと同じである:KD = 0.106/日およびKC50 = 2.57 μg/mL。
【0164】
次に、ヒトにおける有効なHER2二重特異的抗体曝露レベルを予測するために、異なるHER2二重特異的抗体のCtrough濃度レベル下でまたは治療なしで、ヒトにおける腫瘍サイズ動態を予測するためのシミュレーションを行った(図3A~3D)。図3において、Aは、治療なし、指数関数的腫瘍倍加時間25日を表し、Bは、トラフHER2二重特異的抗体濃度5 μg/mL、指数関数的腫瘍倍加時間25日を表し、Cは、トラフHER2二重特異的抗体濃度5 μg/mL、指数関数的腫瘍倍加時間250日を表し、Dは、トラフHER2二重特異的抗体濃度20 μg/mL、指数関数的腫瘍倍加時間25日を表す。
【0165】
トランスレーショナル腫瘍増殖阻害モデルのシミュレーションの結果、HER2二重特異的抗体のCtrough濃度が20 μg/mL未満の場合に、腫瘍停滞を達成でき、かつ、より攻撃的な腫瘍(すなわち、倍加時間が250日のそれほど攻撃的でない増殖に対する25日の指数倍加時間)は、所定の濃度下で、腫瘍停滞を達成するためにより長い時間がかかることを示した。20 μg/mLのCtrough濃度は5 μg/mLのCtrough濃度よりも停滞モデルを構築する時間を著しく短縮することができるが、HER2二重特異的抗体のCtrough濃度が20 μg/mLを超える場合に、有効性の向上は非常に限られているようである。
【0166】
実施例3 PK測定
集団PKモデリング:FIH研究における20人の患者からの324のPK観察結果を含むHER2二重特異的抗体濃度データおよび非線形混合効果モデリングアプローチが母集団PK分析に使用された。HER2二重特異的抗体のPKプロファイルを説明するために、線形排除を含む2コンパートメントモデル(two-compartment model)が確立された。潜在的な共変量効果は、関連するPKパラメータで評価された。下記のように、中心および周辺の体積、クリアランスおよびコンパートメント間のクリアランスを含むすべてのPKパラメータについて、個人差が考慮された。
【0167】
=PPOP×exp(η)、ここで、Pは個体iの個体パラメータ推定値であり、PPOPは典型的な母集団パラメータ推定値であり、ηは平均0と平方偏差ωで正規分布していると仮定された。残差変動性は、比例成分と依存成分の両方によって説明された。
【0168】
obs,ij=Cpred,ij×(1+εp,ij)+εa,ij、ここで、Cobs,ijは、個体iと観察jの観察濃度を表し、Cpred,ijは個体の予測濃度を表し、εp,ijは比例誤差、εa,ijは習慣性誤差(addictive error)を表し、異なるσ2を持つ正規分布N~(0, σ22)に従っている。HER2二重特異的抗体の母集団PKモデルを認定するために、基準モデル評価が実施された。
【0169】
HER2二重特異的抗体の異なる候補投与レジメンでの曝露レベルをさらに決定するために、1000人の模擬患者ごとに、それぞれ30週間の投与時間で7つの投与レジメン(負荷なし:5 mg/kg QW、10 mg/kg QW、20 mg/kg Q2W、20 mg/kg Q3W;最初のサイクルでの負荷:1日目および8日目に20 mg/kg Q2Wで、20 mg/kg QW負荷、1日目と8日目に30 mg/kg Q3Wで20 mg/kg Qw負荷、1日目および8日目に30 mg/kg Q2Wで30 mg/kg Qw負荷)について、シミュレーションを実施した。模擬患者ごとに、個体のPKパラメータが母集団PK分析から推定された分布からサンプリングされた。個体の体重(母集団PKモデルにおける唯一の共変量)は、対数正規分布からサンプリングされ、平均値と標準偏差がPK分析データセットから算出された。その後、投与レジメンごとに、HER2二重特異的抗体のCtrough濃度、最大濃度および平均濃度の中央値および90%予測間隔をまとめて、すべてのシナリオで比較した。
【0170】
乳がん患者における母集団PK分析
母集団PK分析では、20人の患者からの324の投与後のHER2二重特異的抗体の血清濃度の観察結果が利用可能であり、分析に含まれている。これらの患者のベースライン人口統計および特徴が表3にまとめられた。全体として、濃度データは、2コンパートメント配置の明確な特徴を示し、かつ曝露は試験の用量範囲での用量に比例している(図4A)。
【0171】
【表3】
【0172】
【0173】
中央コンパートメントからの線形クリアランスを持つ2コンパートメントモデルは、データをよく表している(図4B)。体重は、中心体積とクリアランスの両方の有意な共変量であることがわかった。最終モデルのパラメータ推定値は適当な範囲と良好な精度で推定された(表4)。
【0174】
【表4】
【0175】
HER2二重特異的抗体の最終母集団PKモデルに基づくシミュレーションを実施することにより、異なる投与レジメンでの定常状態のCtrough濃度を予測した。前に説明したように、各候補投与レジメンについて、PKパラメータの被験者間変動性の推定値分布から、1000人の模擬被験者がパラメトリックにサンプリングされた。模擬被験者の体重は、母集団PK分析データセットにおける患者からの、線形スケールの平均値が58.7 kgで、対数スケールの標準偏差が0.148の対数正規分布からサンプリングされた。表5には、各模擬投与レジメンについて、20 μg/mLの閾値を超える定常状態Ctrough濃度および300 μg/mLの閾値を超える定常状態ピーク濃度を有する被験者の割合が提供される。
【0176】
【表5】
【0177】
結果は、模擬被験者の98%以上が定常状態で20 μg/mLを超えるCtrough濃度を達成することができることを示した。一方、模擬被験者の約80%が20 mg/kg Q2Wのレジメンで400 μg/mLを超える最大濃度を達成することができ、模擬被験者の95%以上が30 mg/kg Q3Wのレジメンで400 μg/mLを超える最大濃度を達成することができたが、5 mg/kg Qwのレジメンでは模擬被験者はおらず、10 mg/kg Qwのレジメンでは約20%の被験者のみがこの閾値を達成することができた。
【0178】
実施例4
患者に対するHER2二重特異的抗体の有効性の予備的なER分析:HER2二重特異的抗体の曝露と腫瘍サイズ(標的病変の縦方向の直径の合計で表される)またはSLDの反応との関係に関する予備的な中間分析は、投与後に少なくとも1回のSLD観察を行った24人の患者からの66の観察結果を含む最初のバッチのSLDデータが利用可能になった時に実施された。24人の患者のうち、20人が前述の母集団PK分析に含まれており、個々の事後PKパラメータを使用してHER2二重特異的抗体への曝露が導き出された。残りの4人の患者については、母集団PK分析からのPKパラメータの点推定値および個体体重を使用して、曝露量を導き出した。データの入手可能性が限られているため、8週間以内にSLDが20%増加すると仮定することにより、腫瘍増殖速度定数は、1週間あたり0.0228の経験値に定められ、すなわち、未治療のままである場合に、研究対象集団は、6~8週間以内で、RECIST 1.1基準に基づいて確認された進行性疾患に発症する。HER2二重特異的抗体による腫瘍殺傷速度定数は、個体差から推定された。ER分析では、異なる曝露指標(exposure metrics)(定常状態でのC最小、C最大およびC平均)がテストされた。SLDのためのERモデルが開発され、認定された後、異なる候補投与レジメン下でSLDの時間経過のシミュレーションが実施された。投与レジメンごとに、確立された母集団PKおよび中間ERモデルから100人の被験者のPKおよびERパラメータについてパラメトリックにサンプリングされ、ブートストラップにより、SLDデータセットにおける24人の被験者の共変量が置換され、再サンプリングされた。各被験者は合計30週間のHER2二重特異的抗体による治療を受けると想定し、6週間に1回SLD値を計算した。シミュレーション後、ベースラインからのSLDの割合の変化、非進行(ベースラインからのSLDの変化≦)率およびベースラインからの腫瘍縮小率が30%以上の時間経過がまとめられ、投与レジメンの間で比較された。
【0179】
ヒト有効性データの中間ER分析
進行中のFIH研究において、24人の乳がん患者からの66の投与後のSLD観察結果を使用して、予備的なER分析を実施した(図6)。24人の患者のうち、14人はベースライン観察に加えて投与後SLD観察が一つだけあり、残りは投与後SLD観察が2つ以上ある(図7)。現在、ERデータセットにおける個々の患者は、最大で5つの投与後SLD観察を持っている。
【0180】
中間分析データがまばらであるため、腫瘍増殖速度定数を確実に推定することはできなかった。一方トラスツズマブに基づく治療歴に少なくとも1回失敗したHER2陽性乳がん患者は、有効な療法による治療を受けない場合、一般に、6~8週間の間隔でRECIST 1.1によって定義された進行性疾患が観察された。これは、約8週間でベースラインから20%増加したことを示している。したがって、現在のモデルにおける腫瘍増殖速度定数は、8週間以内に20%の経験的増殖から導き出された1週間あたり0.0228に定められた。定常状態のC最小、C最大およびC平均は、ER分析において、腫瘍反応の曝露予測因子としてテストされ、定常状態C最大は現在のデータセットに基づいて最も優れる予測力をもたらすことがわかった。SLDの有効性を促進するための曝露指標としてC最大を使用すると、腫瘍殺傷速度定数は、許容可能な精度(RSE = 22.6%)で1週当たりに0.0943 mL/mgと推定された。腫瘍殺傷率定数の個体間変動性の平方偏差は100%を超えると推定され、24人の患者内でHER2二重特異的抗体効果に大きな変動があることを示している。SLDの中間ERモデルに基づくシミュレーションは、模擬個体の半数以上が30%の腫瘍縮小を達成するために、20または30 mg/kgのHER2二重特異的抗体の用量が必要であることを示している(図5)。また、より頻繁な初回負荷用量は、初期腫瘍殺傷を最大化する利点がある。
【0181】
用量の選択
トランスレーショナル腫瘍増殖阻害モデルは、予測された20 μg/mLに及ぶHER2二重特異的抗体のCtrough濃度が、腫瘍停滞までの時間を著しく短縮することができるが、HER2二重特異的抗体のCtrough濃度が20 μg/mLより高い場合に、さらなる腫瘍増殖阻害の増加が非常に限られているようであると示している。一方、現在のトランスレーショナル腫瘍増殖阻害モデルは、パラメータの変動性または不確かさを考慮していないことが認められている。従って、この20 μg/mLのCtrough濃度は、HER2二重特異的抗体の抗腫瘍活性の正確な閾値ではなく、大まかな参考値に過ぎないかもしれない。この分析に基づいて、HER2二重特異的抗体の抗腫瘍活性が最小限の目標濃度(C最小,ss駆動)、ピークレベル(C最大,ss駆動)または平均濃度(C平均,ssまたはAUC駆動)の維持に依存しているかどうかを探索するのに、十分な範囲を与えながら、20 μg/mLのCトラフに到達するように最初のヒト研究の臨床レジメンが選択された。FIH研究のデータを使用したHER2二重特異的抗体母集団PKモデルのシミュレーション結果(表4)は、テストされたすべてのHER2二重特異的抗体用量(範囲は5 mg/kg QW~30 mg/kg Q3W)が、ほぼすべての被験者(投与レジメンごとに>98%の模擬被験者)において、定常状態で>20 μg/mlのCtrough濃度を達成できることを示している。高い疾患制御率(66.7%)と長期的な臨床的利益が、5 mg/kg Qwの最低用量レベルで患者に観察されており、これは、前臨床研究からのの予測と一致している。同時に、FIH研究の予備的有効性データは、5または10 mg/kg Qwから20 mg/kg Q2Wまたは30 mg/kg Q3Wに用量を増やすと、SLD反応がまだ増加することを示しているようである。これは、ヒトにおける腫瘍増殖を阻害するには、異種移植モデルよりも高い曝露レベルが必要であることを意味しているようである。
【0182】
さらに、10 mg/kg Qwのレジメンは、20 mg/kg Q2Wのレジメンおよび30 mg/kg Q3Wのレジメンと平均曝露が基本的に同じであるため、より高い用量レベルであるがより低い頻度での有効性増加は、SLD反応がトラフまたは平均濃度ではなくピーク濃度によって駆動されることを示しているようである。実際に、全投与量が同じレベルであっても、定常状態のピーク濃度は、10 mg/kg投与群よりも20または30 mg/kg投与群の方がはるかに高い(表4)。ただし、前臨床研究では、Ctrough濃度のみが収集されたため、HER2二重特異的抗体のピーク濃度または平均濃度に関連するKC50およびKDが前臨床またはトランスレーショナル腫瘍増殖阻害モデルから直接に推定されることができなかった。臨床暴露反応分析は、HER2二重特異的抗体の有効用量選択に対する理解をさらに最適化し、トランスレーショナルPKPD評価の全経過を形成する前臨床分析を補完した。
【0183】
確かに、SLDに対する現在の母集団PKおよび曝露反応分析は、各投与群で利用可能な患者のデータがわずかしかない小規模なデータセットに基づいている。特に、5 mg/kg QW、10 mg/kg QWおよび30 mg/kg Q3Wの各群について、わずか3人の患者のSLDデータが利用可能である。したがって、SLD曝露反応分析の現在のパラメーターは、相対的に高い変動性および不確かさがあると推定される。これは、シミュレーション結果(図6)に反映されており、シミュレートされた各投与レジメンで広範囲のSLD反応が認められた。PKと有効性エンドポイントにより多くのデータが利用可能になるにつれて、両方のモデルを更新、改良し、現在の仮定の結果をさらに評価することが期待される。
【0184】
要するに、トランスレーショナルPKPDアプローチは、HER2二重特異的抗体の用量選択戦略に十分な情報を提供した。20 mg/kg Q2Wおよび30 mg/kg Q3Wは、将来の研究のためのRP2Dとして選択された。ヒトにおける予備的な曝露-有効性分析は、潜在的なC最大-駆動の抗腫瘍活性を示している。この観察結果は、今後の臨床有効性データによって検証される。モデリングとシミュレーション手法およびトランスレーショナルPK-PDアプローチの適用は、医薬品開発をサポートし、新規二重特異的抗体の用量選択戦略を改善するための強力なツールであることが明らかになった。
【0185】
実施例5 臨床試験の結果
5.1 患者の特徴と治療
表6には各スケジュールの患者のベースライン特性が示されている。2018年9月から2019年12月までに合計63人の女性患者(年齢中央値は54歳、範囲は31から69歳)が登録された。ほとんどの患者は、重度の前治療を受けており、転移性状況で以前の治療ライン3(範囲は1~12)の中央値および抗HER2治療ライン2(範囲は1~10)の中央値が投与された。このうち、57.1%の患者(36/63)が3回以上の姑息的療法を受けた。トラスツズマブは、以前にほぼすべての患者(61/63,96.8%)で使用され、HER2 TKIおよびHER2 ADC治療もそれぞれ50.8% (32/63)および23.8% (15/63)の患者に適用された。ペルツズマブとT-DM1がそれぞれ中国で承認されたのは2018年12月および2020年2月になってからであることに注意されたい。したがって、ペルツズマブまたはT-DM1による前治療を受けていない患者は、この研究に登録されることが許可された。ベースラインで60人の患者(95.2%)が内臓疾患を持っていた。転移の一般的な部位には肺(35例、55.6%)および肝臓(18例、28.6%)が含まれている。このレポートのデータカットオフ日である2020年5月22日までに、27人の患者がまだ試験治療を継続しており、36人の患者が疾患の進行(n=35)および治療関連の有害事象(TRAE) (n=1)により治療を中止した(図14)。図14において、Tはトラスツズマブを表し、Pはペルツズマブを表し、Aは抗HER2 ADCを表し、Sは、低分子抗HER2 TKIを表す。全集団の治療持続期間の中央値は5.6カ月(範囲は1.0~18.5カ月)であった。
【0186】
【表6】
【0187】
【0188】
5.2 安全性
すべての患者に対して安全性評価を行った(表7)。4つの用量レベルのいずれにもDLTが観察されなかった。全コホートの54人の患者(85.7%)であらゆるグレードのHER2二重特異的抗体TRAEが観察された。最も一般的な(≧ 10%)TRAEは、発熱(23.8%)、下痢(22.2%)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの増加(22.2%)、アラニンアミノトランスフェラーゼの増加(22.2%)、白血球数の減少(15.9%)、低カリウム血症(12.7%)、輸液関連反応(12.7%)および好中球数の減少(12.7%)である。研究者の評価によると、すべての発熱イベントは注入に関連するAEと見なされる。また、TRAEがグレード3未満のすべての患者は、対症療法によって良好に回復した。合計で4人の患者(6.3%)(20mg/kg Q2Wコホートの2人の患者と30 mg/kg Q3Wコホートの2人の患者)は、注入関連反応、トランスアミナーゼの増加、心室性不整脈および心臓粘液腫を含むグレード3のTRAEを報告した。グレード4または5のAEは報告されなかった。治療の中止につながるTRAEは20 mg/kg Q2Wコホートにおける1人の患者(1.5%)で発生した。患者は、試験に参加する際に、ECGに異常があり、以前にアントラサイクリンとタキサンを使用した投薬歴があった。HER2二重特異的抗体治療を2回受けた後、ECGは心室期外収縮(四重リズム)を示した。この患者は入院し、HER2二重特異的抗体の投与が中止された。安全なフォローアップの30日目に、患者は回復した。投与の遅延や減量は報告されなかった。
【0189】
【表7】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
5.3 PKおよび免疫原性の評価
HER2二重特異的抗体の静脈内注入後の単回および複数回投与の薬物動態と用量比例性について、HER2二重特異的抗体-CHN-001の最初のヒト研究の用量漸増コホートで治療された12人の中国人被験者で、1週間、2週間、または3週間の完全投与間隔で得られた集中的な濃度データに基づき標準非区画解析によって特性評価を行った。初回投与後の最大濃度(C最大)および濃度時間曲線下面積(AUC0-inf)でのHER2二重特異的抗体の曝露パラメータは、一般に、5 mg/kg~30 mg/kgの用量範囲でほぼ用量に比例するように増加した。総全身クリアランスは、20 mg/kgおよび30 mg/kgである場合に、それぞれ19.3 (± 5.7)および14.6 (± 4.7) mL/hであった。週末半減期は、用量とともに増加した。平均値は、20 mg/kgおよび30 mg/kgの用量で、それぞれ140 (±23)時間および242 (±66)時間であった。表8は、HER2二重特異的抗体の初回および複数回の投与後に評価された主なPKパラメータを示している。
【0194】
HER2二重特異的抗体の投与後に評価可能な63人の受験患者のうち、2人(3.2%)が抗薬物抗体陽性であることが確認された。2人の患者のPKプロファイル、安全性特徴または有効性結果には差異が観察されなかった(データは示していない)。
【0195】
【表8】
【0196】
5.4 臨床活性
すべての患者に対して反応評価を行った。追跡期間の中央値は8.2カ月(範囲は4.9~19.8カ月)で、少なくとも1回のポストベースラインスキャンを受けた測定可能な病変を有する63人の患者のうち、46人(73.0%)で腫瘍縮小が観察された(図15A~15B)。図15Aは、少なくとも1回の治療後のX線撮影評価を受けた患者について、RECIST v1.1によるベースラインからの腫瘍サイズの最大変化を示す。バーの長さは、標的病変の最大の減少または最小の増加を表す。図15Bは、RECIST v1.1に基づいて評価されたベースラインからの個体腫瘍負荷の経時的な変化を示す。腫瘍反応は、治療前に、最初の12カ月間は6週間に1回、その後は12週間に1回、疾患の進行、新しい抗腫瘍療法の開始、またはインフォームドコンセントの撤回まで評価された。
【0197】
57人の患者を含む第2相の試験推奨用量レベル(20 mg/kg Q2Wおよび30 mg/kg Q3W)のコホートでは、合計17人(29.8%)の患者はPRの最良の反応を達成し、25人(43.9%)の患者は疾患が安定しており(SD)、14人(24.6%)の患者は、進行性疾患であった(PD)。ORRは29.8%(95% CI, 18.4~43.4)であり、DCRは73.7%(95% CI, 60.3~84.5)であった。DORの中央値は7.2カ月(95% CI, 5.5, NE)であった。PFSの中央値は5.6カ月(95% CI, 4.2~8.2)であり、6カ月のPFSは44.6%(95% CI, 29.0~59.0)であった。12カ月のPFSとOSには達しなかった。合計63人の評価可能な患者を含むコホートでは、合計17人(27.0%)の患者がPRの最良の反応を達成し、28人(44.4%)の患者がSDであって、17人(27.0%)の患者がPDであった。ORRは27.0% (95% CI, 16.6~39.7)で、DCRは71.4% (95% CI, 58.7から82.1)であった。PFSの中央値は、5.5カ月(95% CI, 4.1~7.0)であり、6カ月のPFSは42.0%(95% CI, 27.8~55.6)であった(図14および表9)。興味深いことに、以前にペルツズマブで治療された2人の患者は、2人ともHER2二重特異的抗体治療後にPRを達成した。例えば、再発乳がんを患うレスポンダーの1人は、以前に補助化学療法と放射線療法(DFI=20カ月)、第一選択のドセタキセル/トラスツズマブ/ペルツズマブ(PFS=10カ月)、および第二選択のカペシタビン/ラパチニブ(PFS=7カ月)を受けた。PRを有する患者に対する第3選択のHER2二重特異的抗体(30 mg/kg Q3W)のPFSは、6.77カ月(図16A~16F)であった。図16では、患者は以前に補助化学療法および放射線療法、第一選択のドセタキセル/トラスツズマブ/ペルツズマブおよび第二選択のカペシタビン/ラパチニブ治療を受けた。本願の第三選択HER2二重特異的抗体(30 mg/kg q3w)の第4サイクルにおいて、腫瘍サイズが著しく減少した。標的病変には左肺(図16A、16B)、前縦隔リンパ節(図16C、16D)および前縦隔リンパ節(図16E、16F)が含まれた。左胸水(図16C、16D)は、非標的病変であった。患者のPFSは6.77カ月であった。
【0198】
表10には、トラスツズマブ6に対する耐性のタイプ、ホルモン受容体の状態、およびペルツズマブ、抗HER2 TKIまたは抗HER2 ADCの投与の有無によって分類された、推奨された第2相用量レベルのコホートにおける有効性がまとめられた。具体的には、トラスツズマブの一次耐性は、転移性設定での化学療法の有無にかかわらトラスツズマブの投与後8~12週間または3カ月以内の最初の放射線学的再評価での進行、または、補助トラスツズマブ投与中または投与後12カ月以内に診断された新たな再発と定義された。トラスツズマブ二次耐性は、最初の放射線学的評価で最初に疾患反応または安定化を達成したトラスツズマブを含むレジメンの後の疾患進行と定義された。63人の評価可能な患者のコホート全体において、分類された有効性が表11にまとめられた。
【0199】
【表9】
【0200】
【表10】
【0201】
【0202】
【表11】
【0203】
【0204】
実施例5の結果から、本願のHER2二重特異的抗体の推奨第2相用量は、安全性、臨床反応および薬物動態パラメータに基づいて、20 mg/kg Q2Wおよび30 mg/kg Q3Wであり得る。本願のHER2二重特異的抗体の安全性は、トラスツズマブおよびペルツズマブと類似点および相違点の両方を有し得る。また、本願のHER2二重特異的抗体は、トラスツズマブとペルツズマブを組み合わせた治療に匹敵する抗腫瘍効果を有し得る。有望な結果が得られる可能性があり、かつ以前にペルツズマブで治療されたすべての患者がPRを達成した。本願のHER2二重特異的抗体は十分に許容される可能性があり、抗HER2療法に失敗したHER2陽性乳がん患者で有望な抗腫瘍活性を示した。
【0205】
本発明は、好ましい実施形態が本明細書により示して記載されたとしても、当該技術分野における当業者にとって、これらの実施形態が例として与えられたに過ぎないことが明らかであろう。本発明は、本明細書における実施例に限定されない。本発明は、以上の本明細書により記述されたが、本明細書における実施形態の説明および図面が限定的に解釈されない。当業者は、本発明を逸脱しない限り、いろんな変化、改変および置換が想到される。なお、本発明は、あらゆる点で本明細書に記載の様々な条件および変数による具体的記述、配置または相対比率に限定されないことを理解されたい。本発明は、実施される場合に本明細書に記載の実施形態の各種の代替態様を用いることができることを理解されたい。したがって、本発明は、このような代替、変更、変化または同等のものもすべてカバーすることが期待される。以下の請求項は本発明の範囲を限定するものであって、これらの請求項およびその同等の範囲における方法および構造が含まれている。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
【配列表】
2023518507000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-12-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも5 μg/mLのHER2二重特異的抗体を含む、必要のある被験者における腫瘍の予防、緩和または治療あるいは腫瘍増殖の阻害に用いられる製剤であって、
前記HER2二重特異的抗体は、第1の軽鎖、第2の軽鎖、第1の重鎖および第2の重鎖を含み、
前記第1の軽鎖および前記第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブの重鎖およびトラスツズマブの重鎖と集合することができ、
前記第1の軽鎖および/または前記第2の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 1-6のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する、
製剤。
【請求項2】
前記第1の軽鎖および/または前記第2の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 1で表されるアミノ酸配列を有する、
請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記第1の軽鎖および前記第2の軽鎖は、それぞれペルツズマブまたはその変異体の軽鎖、トラスツズマブまたはその変異体の軽鎖から選ばれる、
請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
前記第1の軽鎖は、SEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有し、および/または前記第2の軽鎖は、SEQ ID NO: 7-12のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
重鎖可変領域は、それぞれペルツズマブの重鎖可変領域およびトラスツズマブの重鎖可変領域である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項6】
前記第1の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 13で表されるアミノ酸配列を有し、前記第2の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 14で表されるアミノ酸配列を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
前記第1の重鎖および前記第2の重鎖は、ヒトIgG定常領域に由来する定常領域を含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
前記重鎖のFc断片配列は、SEQ ID NO: 19-49、51-52のいずれかで表される配列を有する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項9】
前記第1の重鎖または前記第2の重鎖は、SEQ ID NO: 15-18のいずれかで表される配列を有する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項10】
前記製剤は、少なくとも約12 μg/mLの前記二重特異的抗体を含む、
請求項1~9のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項11】
前記製剤は、少なくとも約20 μg/mLの前記二重特異的抗体を含む、
請求項1~10のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項12】
前記HER2二重特異性抗体の被験者に投与される量が、約15 mg/kgから約35 mg/kgである、請求項1~11のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項13】
前記製剤は、容器に包装されている、
請求項1~12のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の製剤を含む、必要のある被験者における腫瘍の予防、緩和または治療あるいは腫瘍増殖の阻害に用いられる薬物送達デバイス。
【国際調査報告】