(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-02
(54)【発明の名称】マルチモーダル網膜撮像プラットフォーム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/12 20060101AFI20230425BHJP
A61B 3/10 20060101ALI20230425BHJP
A61B 3/14 20060101ALI20230425BHJP
G03B 13/36 20210101ALI20230425BHJP
G02B 7/28 20210101ALI20230425BHJP
【FI】
A61B3/12
A61B3/10 100
A61B3/14
A61B3/12 300
G03B13/36
G02B7/28 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557200
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(85)【翻訳文提出日】2022-10-26
(86)【国際出願番号】 EP2021057680
(87)【国際公開番号】W WO2021191331
(87)【国際公開日】2021-09-30
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512008613
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル デ ローザンヌ (イーピーエフエル)
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】クンツィ マチュー
(72)【発明者】
【氏名】ラフォレスト ティモテ
(72)【発明者】
【氏名】モゼ クリストフ
【テーマコード(参考)】
2H011
2H151
4C316
【Fターム(参考)】
2H011AA06
2H151AA00
4C316AA09
4C316AA10
4C316AB02
4C316AB06
4C316AB09
4C316AB11
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4C316FA08
4C316FA18
4C316FB22
4C316FB26
4C316FY02
4C316FY05
4C316FY07
4C316FY10
(57)【要約】
本発明は、光コヒーレンス・トモグラフィイメージングと組み合わせた暗視野法を可能にする眼の周りの少なくとも1つの物理的点光源による眼底の斜光経強膜照明に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科用照明システムであって、
眼底(1)の斜光照明を提供し、測定の対象となる眼(6)の強膜(4)又は目の周りの皮膚(5)それぞれに向けて経強膜照明光又は経眼瞼照明光を放射する1つ又は複数の光源(3)を有する斜光光送達システム(2)と、
測定の対象の眼(6)の瞳孔(8)に向けられた光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)システム(7)であって、OCT光源(9)、参照アーム(10)、サンプルアーム(11)及び検出アーム(14)を備えた光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)システム(7)と、の組み合わせを含み、
前記システムは更に、前記眼底(1)によって散乱された前記斜光照明の光を収集し、1つ又は複数の正面を向いた、すなわちen-faceの前記眼底(1)の画像(51)を作成する光学撮像システム(17)を備え、
前記光学撮像システムは、前記OCTシステム(7)によって提供される深度関連信号に応じて前記光学撮像システムの撮像面の深度を調整するように構成された焦点システムを更に備えることを特徴とする、眼科用照明システム。
【請求項2】
前記光コヒーレンス・トモグラフィシステム(7)は、
前記眼底(1)の1次元(16)、2次元(17)又は3次元(18)のOCT画像を作成するように更に構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記光学撮像システム(19)は、前記眼底(1)の前記正面向きの画像(51)を提供するために、1つ又は複数の光感受性検出器又はカメラ(35、36)を更に備える、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
一連の前記正面向き画像(51)を分析及び処理して、時間相関情報を抽出し、血管(52)などの時間変化する生体のコントラストを強調する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記深度関連信号(15)は、前記眼底の組織内の前記正面向き画像(51)の前記深度の情報を提供する、請求項1~4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記深度関連信号(15)は、前記正面向き画像(51)の撮像の前記深度を制御するためにリアルタイム閉ループフィードバック(56)を提供するように処理される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記深度関連信号(15)は、前記正面向き画像(51)の撮像の前記深度の開ループ制御を提供するように処理される、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記正面向き画像(51)の少なくとも1つについて眼の光学収差を補正するための補正手段を更に含む、請求項3~7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
前記補正手段は、静的光学素子又は計算手段の中から選択される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記光学収差の前記補正は、経瞳孔プロービング光源(30)、波面センサ(31)と、前記正面向き画像(51)を形成する光の波面を空間的に成形することができる波面補正器(32)とを備える、適応光学閉ループを用いて、リアルタイムで行われることを特徴とする、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記経瞳孔プロービング光源(30)は、前記OCT光源(9)と同じであることを特徴とする、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
経瞳孔投光照明源(44)と、前記経瞳孔投光照明源(44)から導出された後方散乱光(23)から前記眼底(1)の正面画像(51)を生成する撮像システムと、を更に備える、請求項1~11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
前記眼底(1)の経強膜斜光照明を提供する経強膜光送達システム(2)は、異なる波長を有する、請求項1~12のいずれかに記載のシステム。
【請求項14】
前記異なる波長は、血流酸素化及び網膜色素上皮細胞の活性を含むリストから選択される機能情報を提供する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
眼科用照明及び撮像デバイスであって、経強膜光送達システム(2)は、請求項1~14のいずれかに記載のOCTシステム(7)と組み合わされ、前記眼科用照明及び撮像装置は、
前記OCTシステム(7)を用いて前記眼底(1)を走査する走査システム(45)と、
プロービング光源(30)と、波面センサ(31)と、波面補正器(32)とを含む収差補正システムと、
高解像度カメラ(36)を用いた高解像度経強膜解剖学的構造又は血管造影撮像(28、29)のためのシステムと、
広視野カメラ(35)を用いた広視野経強膜解剖学的構造又は血管造影撮像(26、27)のためのシステムと、
前記経瞳孔投光照明源(21)と、高解像度カメラ(36)とを含む経瞳孔解剖学的構造又は血管造影撮像(24)のためのシステムと、
を備える、眼科用照明及び撮像デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光コヒーレンス・トモグラフィ撮像と組み合わせた撮像(例えば暗視野)を可能にする、眼の周囲に少なくとも1つの物理的点光源を備えた眼底の斜光経強膜照明による眼科用照明及び撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
網膜疾患は、先進国における失明の主な原因である。例えば、2020年には推定1億9600万人が加齢黄斑変性症に罹患すると言われている。網膜ニューロン及び網膜色素上皮(RPE)を救うための新規な治療戦略を開発するために多大な努力がなされているが、そのような治療の効果を評価するための最適な手段は未だない。通常の眼底検査のために眼科クリニックで使用される器具では、疾患変性プロセスの初期段階に存在する細胞形態の微細な変化を観察することはできない。
【0003】
網膜は、多くの層から構成される複雑に入り組んだ組織である。個々の細胞の撮像は、眼球収差が横方向の解像度を低下させるだけでなく、眼球運動アーチファクト及び透明な細胞のコントラスト不足など、多くの理由で非常に困難である。
【0004】
もう1つの制限は、瞳孔に入る光の大部分が光受容体(photoreceptor、視細胞)セグメントの境界面で吸収又は反射され、ニューロン又はRPE細胞から後方散乱される弱いシグナルを圧倒することである。光受容体シグナルは、照明光が瞳孔の中心に入射すると最大となり、その端に入射すると急激に減少する。網膜のこの角度依存的な反射は、一般に、光学スタイルズ・クローフォード効果(SCE)と呼ばれる。
【0005】
光受容体によって反射された光は、適応光学(AO)を使用して、投光型(flood illumination)光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)又は走査レーザ検眼鏡(SLO)と組み合わせて眼球収差を補正して、それらの観察を可能にする。最近の研究では、オフセットアパーチャ、分割検出器(split detector)、暗視野、自動蛍光、又はAO-OCTを有するAO-SLOを使用する神経網膜及びRPE細胞を観察するための光学的方法が提案されている。
【0006】
得られた高品質の結果にもかかわらず、これらの方法は、非常に小さい視野(FOV)、画像鮮明度の欠如、安全性の懸念、又は臨床使用には長すぎる取得時間に悩まされる。
【0007】
本出願人は、WO/2017/195163 A1(ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE(EPFL)[CH])において、眼の組織を撮像するための方法であって、光送達デバイスの複数の放射領域によって、眼に斜光照明を提供し、複数の放射領域は、独立して制御可能であり、眼の網膜及び虹彩のうちの少なくとも一方に光を導くように配置されるステップと、斜光照明によって網膜及び虹彩の少なくとも一方から後方散乱された光から出力ビームを生じさせ、出力ビームを撮像システムで捕捉して眼の眼底の一連の画像(sequence of images)を与え、眼底の一連の画像から位相及び吸収コントラスト画像を取り出すステップと、前記撮像ステップの一連の眼底の画像は、前記斜光照明を提供するステップにおいて、前記複数の放射領域のうちの1つ以上を順次点灯させることによって取得されるステップと、を含む方法を記載する。言い換えれば、経強膜照明の方法は、眼底の散乱特性を使用することによって暗視野及び位相勾配技術を可能にする。経強膜斜光投光照明は、網膜層を構成する多くの生体構造のコントラストを強調し、適応光学(adaptive optics、補償光学)高解像度撮像と組み合わせて、疾患関連変性プロセスにおいて重要な役割を果たす細胞の観察を可能にする。細胞レベルの高解像度画像を得ることで、網膜の構造に関する新しい見解が得られ、その結果、網膜の変性疾患プロセスに関するより良い理解が得られる。
【0008】
ヒトの網膜を細胞レベルでインビボ観察することは、不可逆的視力喪失が起こる前に病変を検出し、網膜疾患の時間経過を追跡し、処置の早期効果を評価及びモニタリングするために重要である。光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)及び適応光学システムの驚異的な進歩にもかかわらず、いくつかの網膜細胞のインビボ撮像は依然として分かりにくい。
【0009】
Laforest T.et al.“Transcleral Optical Phase Imaging of the Human Retina-TOPI”https://arxiv.org/abs/1905.06877は、高コントラスト、高解像度で臨床使用に適した取得時間内に網膜細胞を画像化することを可能にする経強膜光学位相撮像(TOPI)を開示した。TOPIは、網膜の高角度斜光照明と適応光学を組み合わせて、透明細胞の位相コントラストを高めることに依拠している。
【0010】
経強膜光学位相撮像(TOPI)は、長い露光時間の欠点なしに、広い視野に渡る網膜層の細胞解像度の無標識高コントラスト画像を提供する。この方法は、網膜の経強膜投光照明に基づき、これは、経瞳孔照明と比較して、多くの網膜構造の信号対雑音比(SNR)を大幅に増加させる。強膜を透過した光は、網膜後部を斜光照明し、これを経瞳孔AO全視野カメラシステムで撮像する。
【0011】
TOPIは、RPE細胞や他の網膜構造の画像を提供し、細胞の定量化を可能にすることが、瞳孔拡張を行わない健康なボランティアで実証された。また、インビボデバイスと同様のパラメータを持つ実験用位相顕微鏡を用いて、エクスビボ試料に対するこの技術の可能性が実証された。厚い網膜試料中の細胞の無標識位相画像は、共焦点蛍光顕微鏡法の品質に適合することが示された。
【0012】
WO/2018/197288 A1(IMAGINE EYES[FR])に記載された方法は、走査システムと結合されたいくつかの照明モジュールを有するマルチスケールデバイスである。走査システムは、適応光学系を有するSLO法又はOCT法のいずれかによって作られる。マルチスケールは、眼底上での高解像度画像の局在化を可能にするが、経瞳孔照明モジュールは、変性網膜疾患において重要な役割を果たす網膜色素上皮細胞の観察を可能にしない。
【0013】
経強膜照明又は経眼瞼照明を用いた眼底カメラシステムが開発されている。WO/2017/151921 Al(BIOLIGHT ENG LLC[US])は、光投影システム及び形状ならびに強膜/皮膚組織のための異なる装置を使用する広視野経強膜又は経眼瞼システムを記載する。WO/2004/091362 A2(MEDIBELL MEDICAL VISION TECHNOLOGIES LTD.[IL])は、強膜へのビームの投影による眼底撮像システムを開示している。脈絡膜を撮像するために経強膜照明を使用する別のデバイスは、US2015/055094 A1(ANNIDIS HEALTH SYSTEMS CORP[CA])に開示されている。
【0014】
2017年についに、Lingenfelderらは、LEDを使用する経強膜照明システムを発表したTransscleral LED illumination pen’,Biomed. Eng.Lett.7,2017。これらの方法はいずれも、眼底画像を広視野で撮像し、血管などの大きな構造を示すことを目的としているが、組織の内部を顕微鏡スケールや細胞レベルで見ることを目的としているわけではない。
【0015】
これらの方法はいずれも、適応光学系を用いて眼球収差を補正し、解像度の回折限界に到達していない。したがって、これらの方法のいずれも、網膜組織を構成する個々の細胞の観察を提供できない。
【発明の概要】
【0016】
先行技術のシステムのいずれも、網膜の正面(en-face)細胞レベルの高解像度画像を同時に提供する斜光(oblique)経強膜/経眼瞼照明を使用するシステム、及び撮像された網膜の詳細な(in-depth)断面積を視覚化する光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)システム(optical coherence tomography、光干渉断層計)を提供するものはないと考えられる。
【0017】
細胞レベルの高解像度撮像(imaging)の欠点は、多層網膜組織内のイメージングゾーンの深さを選択し、位置づけすることが困難であることである。OCTは、組織の構造を詳細に観察するために特に開発された方法である。斜光投光照明によって生成された細胞レベルの高解像度画像にOCTシステムを組み合わせることで、細胞レベルの高解像度画像の正確な位置特定を可能にし、医師がどの層の細胞を撮像するかを選択することを可能にする。広視野の眼底可視化(fundus visualisation)の追加と同様に、網膜の断面深度図も有することで、眼底組織のどの部分が細胞レベルの高解像度画像上に撮像されているかの理解を可能にする。水平又は横方向の位置は、広視野によって提供され、垂直又は深さ方向の位置は、OCTによって提供される。その付属の走査システムの速度に応じて、OCTシステムは、広視野画像と断面画像の両方に同時に使用することができる。
【0018】
有利なことに、本発明によれば、光コヒーレンス・トモグラフィ深度関連信号は、眼底組織内の正面画像、言い換えればen-face画像の深度情報を提供する。深度関連信号は、眼底組織の詳細な生体構造に関する情報を含む。正面画像は、同じ組織内の正面撮像面を示しているが、この撮像面の正確な深さは、単独で特定することは容易ではない。正面画像を生成する光学撮像システムは、撮像面の深さを変化させることができる焦点システムを有する。例えば、OCTシステム及び正面撮像焦点システムの既知の較正を用いて、正面撮像面の深度は、OCT深度関連信号から推測することが可能である。
【0019】
本発明によれば、深度関連信号は、正面画像の撮像深度を調整するための直接フィードバックを提供するように処理される。
【0020】
例えば、本発明は、深度関連信号の深度スケールを経強膜信号の深度スケールと一致させる較正(calibration)ステップを更に備えることができる。
【0021】
本発明によれば、OCTシステムからの深度関連信号は、撮像システムの撮像深度に関する直接フィードバックとして使用される。
【0022】
このフィードバックは、撮像深度の深度制御を実行するために使用される。この制御は、撮像深度の自動-閉ループ(automatic-closed loop)深度制御として、又は撮像深度の開ループ(open loop)ユーザ制御として実行することができる。
【0023】
したがって、光学撮像システムの撮像深度の制御は、OCTシステムのフィードバック信号に直接リンクされる。これは以下、
- 所与の関心深度における「正面」斜光照明画像を取得する。これは、層状構造に損傷がある病的網膜に特に有用である。
- OCTシステムの正確な深さと直接相関する「正面」画像のスタックを取得する。
- OCTシステムを用いて得られた異なる網膜層の形態と「正面」画像を正確に位置決めし、相関させる。
- 「正面」画像に存在する細胞又は組織構造のタイプを正確に識別する。
- OCTシステムから、画像化したい特定の網膜層にリンクする撮像システムにおける正しい光学的焦点ぼけ(defocus)を知ることによって、より良好な品質の「正面(en face)」画像を生成することを可能にする。
【0024】
したがって、本発明の目的の一つは、瞳孔を通して眼底をプロービング(探索)する光コヒーレンス・トモグラフィシステムと組み合わせた経強膜照明のための眼科用照明システム及び方法を提供することである。
【0025】
特に、本発明は、以下の組み合わせ、
- 測定対象の眼の強膜又は周囲の皮膚に向かって光を放射する1つ又は複数の光源を有する経強膜光送達システムであって、眼底(1)の経強膜斜光照明を提供する、経強膜光送達システム、及び
- OCT光源と、参照アームと、サンプルアーム及び検出アームとを備える、測定対象の眼の瞳孔に向けられた光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)システムとの組み合わせを備える眼科用照明システムを提供する。
【0026】
本発明の他の目的は、好ましくは以下のものの組み合わせを含む眼科用照明及び撮像システムである。
- 眼底への斜光照明を提供し、測定対象の眼の強膜又は周囲の皮膚に向かってそれぞれ経強膜又は経眼瞼照明光を照射する1つ又は複数の光源を有する斜光光送達システム、及び、
- OCT光源と、参照アームと、サンプルアームと、検出アームとを備える、測定対象の眼の瞳孔に向けられた光コヒーレンス・トモbグラフィシステムの組み合わせを備える眼科用照明及び撮像システムであって、
前記システムは、眼底によって散乱された斜光照明光を収集し、眼底の1つ又は複数の正面画像を作成する光学撮像システムをさらに備え、
光学撮像システムは、OCTシステムによって提供される深度関連信号に応じて撮像光学システムの撮像面の深度を調整するように構成された焦点システムをさらに備えることを特徴とする。
【0027】
本発明の他の目的は、経強膜光送達システムがOCTシステムと組み合わされ、前記眼科用照明及び撮像デバイスが以下を含む眼科用照明及び撮像デバイスを提供することであって、
- 前記OCTシステムを用いて眼底を走査する走査システムと、
- プロービング光源と、波面センサ、及び波面補正器とを含む収差補正システムと、
- 高解像度カメラを用いた高解像度経強膜解剖学的構造又は血管造影撮像システムと、
- 広視野カメラを用いた広視野経強膜解剖学的構造又は血管造影撮像システム、及び
- 経瞳孔投光照明源及び高解像度カメラを含む経瞳孔解剖学的構造又は血管造影撮像のためのシステムと、
を備えることを特徴とする。
【0028】
本発明の利点は、経強膜散乱光及び眼の光学収差の能動的又は受動的補正を用いて、細胞レベルで高解像度の眼底組織の撮像を提供し、OCTシステムにより撮像の深度を位置特定することである。受動収差補正は、特注のレンズ又はミラーであるが、これに限定されない。能動収差補正は、変形可能なミラー、調整可能なレンズ又は液晶位相変調器であるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明の他の目的又は利点は、光コヒーレンス・トモグラフィシステムからの信号を用いて、経強膜高解像度撮像システムの撮像深度に対する直接フィードバックを提供することである。このフィードバックは、好ましくは、撮像深度の自動-閉ループ-深度制御を実行するため、又は撮像深度の開ループユーザ制御を実行するために使用される。したがって、高解像度撮像深度の制御は、OCTシステムのフィードバック信号に直接結び付けられる。
【0030】
本発明の他の目的及び利点は、以下の例示的な図面及び添付の特許請求の範囲を参照して続く以下の詳細な説明の検討から当業者に明らかになるであろう。
【0031】
本発明の更なる特定の利点及び特徴は、添付の図面を参照する本発明の少なくとも1つの実施形態の以下の非限定的な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】OCTシステムと光送達システムによる眼の経強膜照明との組み合わせを示す図である。
【
図2】眼底の経強膜照明の原理を説明する図である。
【
図3】眼底の経眼瞼照明の原理を説明する図である。
【
図4】2つの異なる光検出器(カメラ)により眼底の正面向き画像を提供する正面向き光学撮像システムで実装された
図1のシステムを示す図である。
【
図5】一連の解剖学的画像からの血管情報を抽出し、血管造影画像を生成する原理を示す図である。
【
図6】経瞳孔プロービング光源、波面センサ及び波面補正器から構成される適応光学原理の概略図である。
【
図7】多波長経強膜照明を生成することができる眼科用照明システムの装置を示す図である。
【
図8】
図1に説明される撮像モードを実施するシステムのデバイスを示し、広視野の網膜画像は、走査(点ごとの)撮像システムによって生成されることを示す図である。
【
図9】
図2に説明される撮像モードを実装するシステムの装置を示し、経瞳孔投光照明モダリティが、主要経強膜照明に追加されることを示す図である。
【
図10】経強膜高解像度及び広視野、血管造影の解剖学的構造、経瞳孔高解像度、経瞳孔OCTを含むマルチモーダル撮像システムのブロック図である。
【
図11】
図1から
図10に記載される原理を実施する眼科用照明及び撮像デバイスを示す図である。
【
図12】OCTシステムから取得された深度関連信号に基づく閉ループ深度制御を例示する図である。
【
図13】本発明に記載の多くのシステムの組み合わせを実施する眼科用照明及び撮像装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書に記載のものと類似又は同等の方法及び材料を本発明の実施又は試験において使用することができるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。本明細書で考察される刊行物及び出願は、本出願の出願日前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書中のいかなる内容も、本発明が、先行発明によりかかる公開に先行する権利を有しないことを認めるものとして解釈されるべきではない。さらに、材料、方法、及び実施例は例示に過ぎず、限定することを意図しない。
【0034】
矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先する。
【0035】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本明細書の主題が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、以下の定義は、本発明の理解を容易にするために提供される。
【0036】
用語「備える(comprise)」は、一般に、含むという意味で使用され、すなわち、1つ又は複数の特徴又は構成要素の存在を可能にする。
【0037】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈から明確に別段の指示がない限り、複数形の参照を含む。
【0038】
本明細書で使用される場合、「対象」又は「患者」という用語は、当技術分野でよく認識されており、哺乳動物、最も好ましくはヒトを指すために本明細書で互換的に使用される。いくつかの実施形態では、対象は正常対象であり得る。この用語は、特定の年齢又は性別を意味しない。したがって、成人及び新生児対象は、男性であろうと女性であろうと、包含されることが意図される。
【0039】
光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)は、低コヒーレンス光を使用して、光散乱媒体(例えば、生体組織)内からマイクロメートル分解能の1次元、2次元、及び3次元画像を捕捉するイメージング(imaging)技法である。それは、医療用画像診断及び産業用非破壊検査(NDT)に使用される。光コヒーレンス・トモグラフィは、一般的には、近赤外光を用いる低コヒーレンス干渉法に基づく。比較的長い波長の光を使用することで、それが散乱媒体中に浸透することを可能にする。他の光学的技法である共焦点顕微鏡法は、一般的には、試料中にあまり深く浸透しないが、より高い分解能を伴う。
【0040】
散乱は、電磁放射線(例えば、光)又は粒子が、物質との相互作用の結果として偏向又は拡散されるプロセスである。
【0041】
後方への散乱(又は後方散乱)は、電磁放射線、粒子、又は信号が来た方向に戻る反射である。これは、通常、鏡からの鏡面反射とは対照的に、散乱による拡散反射であるが、鏡面後方散乱は、表面との垂直入射で生じ得る。
【0042】
白眼としても知られる「強膜」は、主にコラーゲン及びいくつかの弾性繊維を含有する、ヒトの眼の不透明な線維性保護外層である。強膜は、主に白色コラーゲン線維からなる結合組織である。これは、後方では脈絡膜の下(外側)にあり、前方では虹彩と瞳孔の上で透明となり、角膜と呼ばれる。
【0043】
眼の「眼底(eye fundus)」又は眼底(fundus of the eye)は、水晶体の反対側の眼の内面であり、網膜、視神経乳頭、黄斑、中心窩、及び後極(posterior pole)を含む。眼底は、検眼鏡検査及び/又は眼底撮像によって検査することができる。
【0044】
用語「経強膜」は、眼の強膜、すなわち白目を横切ることを意味する。
【0045】
用語「経眼瞼(transpalpebral)」は、眼瞼又は眼を取り囲む皮膚を通り、その後の強膜を通ることを意味する。
【0046】
本発明の第1の目的は、眼科用照明システムを提供することであって、システムは、
- 測定対象の眼の強膜(4)又は目の周りの皮膚(5)に向かって光を放射する1つ又は複数の光源を有する経強膜光送達システム(2)であって、眼底(1)の経強膜斜光照明を提供する、経強膜光送達システムと、
- OCT光源(9)と、参照アーム(10)と、サンプルアーム(11)と、光ビームスプリッタ(12)及び検出アーム(14)とを備える、測定対象の眼(6)の瞳孔(8)に向けられた光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)システム(7)との組み合わせを備える。
【0047】
好ましくは、光送達システム(2)は、測定しようとする眼を取り囲む皮膚又は強膜と接触しない。
【0048】
有利なことに、光コヒーレンス・トモグラフィシステムは、眼底組織の生体構造の深度関連信号(15)を生成し、前記眼底(1)の1次元(16)、2次元(17)又は3次元(18)のOCT画像を作成する。
【0049】
好ましくは、本発明は、眼底(1)によって散乱された経強膜斜光照明光を収集し、1つ又は複数の光感受性検出器又はカメラ(35、36)上で眼底(1)の1つ又は複数の正面(en-face)画像(51)を作成する光学撮像システム(19)をさらに備える。
【0050】
一実施形態によれば、一連の正面向き画像(51)を分析および処理して、時間相関情報を抽出し、血管(52)などの時間変化する生体のコントラストを強調する。
【0051】
本発明によれば、前記光コヒーレンス・トモグラフィシステム深度関連信号(15)は、眼底組織内の正面向き画像(51)の深度情報を提供する。
【0052】
一実施形態によれば、前記光コヒーレンス・トモグラフィシステム深度関連信号(15)は、正面向き画像(51)の撮像深度を制御するためにリアルタイム閉ループフィードバック(56)を提供するように処理される。
【0053】
他の実施形態によれば、前記光コヒーレンス・トモグラフィシステム深度関連信号(15)は、正面向き画像(51)の撮像の深度開ループ制御を提供するために処理される。
【0054】
有利なことには、本発明の眼科用照明システムは、少なくとも1つの正面向き画像(51)に対する眼の光学収差補正を更に備える。
【0055】
一実施形態によれば、光学収差の補正は、静的光学素子又は計算手段によって実行される。
【0056】
他の実施形態によれば、光学収差の補正は、瞳孔プロービング光源(30)と、波面センサ(31)と、正面向き画像(51)を形成する光の波面を空間的に成形することができる波面補正器(32)とを備える適応光学閉ループを用いてリアルタイムで行われる。
【0057】
好ましくは、経瞳孔プロービング光源(30)は、OCT光源(9)と同じである。
【0058】
更に他の実施形態によれば、本発明の眼科用照明システムは、経瞳孔投光照明源(44)と、前記経瞳孔投光照明源(44)から導出された後方散乱光(23)から眼底(1)の正面画像(51)を生成する撮像システムとを更に備える。
【0059】
好ましくは、眼底(1)の経強膜斜光照明を提供する光送達システム(2)は、異なる波長を有する。有利なことには、前記異なる波長は、血流酸素化及び網膜色素上皮細胞の活性を含むリストから選択される機能情報を提供する。
【0060】
本発明の他の目的は、経強膜光送達システム(2)が上述のOCTシステム(7)と組み合わされた眼科用照明及び撮像デバイスを提供することであって、
- 前記OCTシステム(7)を用いて眼底(1)を走査するための走査システム(45)と、
- プロービング光源(30)と、波面センサ(31)と、波面補正器(32)とを含む収差補正システムと、
- 高解像度カメラ(36)を用いた高解像度経強膜解剖学的構造又は血管造影撮像(28、29)のためのシステムと、
- 広視野カメラ(35)を用いた広視野経強膜解剖学的構造又は血管造影撮像(26、27)のためのシステム、及び
- 経瞳孔投光照明源(21)及び高解像度カメラ(36)を含む経瞳孔の解剖学的構造又は血管造影撮像のためのシステム(24)と、
を備える。
【0061】
本発明は、以下の様々な特定の実施形態に関して更に説明される。
【0062】
経強膜光送達システム(2)(
図1参照)は、眼(6)に向けて光ビーム(59)を放射する少なくとも1つの光源(3)を備える。光ビームは、強膜(4)の表面又は目の周りの皮膚(5)に到達し、組織内で拡散する。一部は強膜(4)及びアイエンベロープ(58)を透過し、硝子体(57)内を伝播し、眼底(1)を斜光照明する。この照明は、眼底の経強膜斜光照明と呼ばれる。
【0063】
照明は、発光ダイオード、スーパールミネッセントダイオード、量子ドット源、ランプ、黒体放射源、及びレーザ源などの400nm~1200nmの波長範囲の単一又は複数の光源の組み合わせによって提供されるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
光は、光源を組織(強膜又は皮膚)と直接接触させるか、又は限定されないが、水、ポリマー、もしくはガラス等の誘導材料を用いて光源から組織に誘導されるか、又は光源から照射表面(角膜、強膜、又は皮膚)まで空気中を伝播させることによって送達される。光ビームは、選択された照明技術に応じて、収束、発散又は平行化(collimated)することができる。光は、直線偏光、円偏光、非偏光(いかなる既知の選択的偏光も示さないことを意味する)、及び異なる偏光の混合物であり得るが、これらに限定されない。
【0065】
フーリエ領域では、平面波による斜光照明は、より高い空間周波数へのシフトに相当する。加えて、より高い角度で眼底に光を当てることはまた、より斜めの後方照明を生成し、より高いコントラストが得られる。
【0066】
有利には、光コヒーレンス・トモグラフィシステム(7)は、眼底組織の生体構造の深度関連信号(15)を生成し、眼底(1)の1次元、2次元又は3次元の深度関連信号を生成する。OCT光源9は、参照アーム(10)とサンプルアーム(11)とに分割された光を放射している。サンプルアーム(11)の光ビームは眼底(1)組織まで伝播し、一部が反射してOCTシステム検出アーム(14)に戻る。参照アーム(10)の光ビームは、ミラー面(33)で反射されるとともに、検出アーム(14)に戻る。サンプルアーム(11)及び参照アーム(10)から反射された2つの光ビームは、検出アーム(14)において干渉し、この干渉の強度は、検出アームの端部の光検出器(13)によって測定される。検出器(13)は、スペクトルドメインOCTの場合、回折格子(37)及びラインアレイ検出器(38)を備える分光器(38)、又は掃引源OCT用のフォトダイオードであるが、それらに限定されない。検出器から出る電気信号は、眼底の生体構造の深度関連信号(15)である。走査システム(45)の構成に応じて、深度関連信号(15)はさらに、眼底の1次元、2次元又は3次元のOCT画像を生成するためにコンピュータによって使用される。いかなる走査システムも、眼底組織内の深度線を示す1次元(16)の深度関連信号の計算をすることはできない。単軸走査システムでは、眼底組織内の断面を示す眼底の2次元(17)の深度関連信号の計算が可能である。2軸走査システム又は2つの単軸走査システムにより、眼底組織内の体積を示す眼底の3次元(18)の深度関連信号の計算が可能である。走査システムは、組織の領域又は体積にわたって深度関連信号(15)を記録するために、サンプルアーム(11)の光ビームを眼底内の異なる点に向けるように連続的に傾斜される。
【0067】
好ましくは、本発明は、
図4に示す光学撮像システム(19)をさらに備え、この光学撮像システムは、眼底(1)によって散乱された経強膜斜光照明光を収集し、1つ又は複数の光感受性検出器(カメラ)(35、36)上で眼底の1つ又は複数の正面(en-face)画像(51)を作成する。光学撮像システム(19)は、眼底面をカメラの検出器平面と共役(conjugate)させるための光学レンズ及びミラーを備える。したがって、カメラは、眼底によって散乱された光を捕捉し、眼底の画像を生成することができる。光学レンズの焦点距離を再生することによって、眼底の異なる倍率の画像を異なるカメラで生成することができる。
【0068】
一実施形態では、
図4によれば、長い焦点距離の撮像レンズ(47)により、カメラ(36)上に高解像度正面画像が生成される。同じ実施形態では、より短い焦点距離の撮像レンズ(46)により、カメラ(35)上に広視野正面画像が生成される。
【0069】
一実施形態によれば、
図5に示すように、一連の正面向き画像(51)が分析及び処理されて、時間相関情報を抽出し、血管などの時間変化する生体のコントラストを高める。
【0070】
図6によれば、眼底の一連の正面画像51は、網膜血管(52)及び他の組織構造(53)が、時間の経過とともに静的に含まれる。血液信号は時間とともに変化するので、時間相関画像(41)を計算するとき、血管画像(血管造影)のみが一連の画像(画像シーケンス)から抽出される。
【0071】
好ましくは、強膜(4)を照射する光源は、機能情報を提供する2つのLED(40及び41)(
図7)によって異なる波長を有する。異なる波長が正面画像に使用され、画像は、限定されないが、血流酸素化又は網膜色素上皮(RPE)細胞の健康状態などの網膜の機能情報を抽出するために処理される。
【0072】
LED(40及び41)は、810nm及び890nmのピーク波長を有し、酸素化ヘモグロビン対非酸素化ヘモグロビンの異なる吸収曲線により、血管の酸素化の区別を可能にする。
【0073】
異なるピーク波長A1及びA2を有する2つのLED(40及び41)が、経強膜照明の2つの光源を提供するために使用される実装形態が
図7に従って示される。これらはダイクロイックミラー(39)によって結合され、経強膜光送達システム(2)によって眼(6)の強膜を照明する。
【0074】
本発明の特定の実施形態によれば、光コヒーレンス・トモグラフィ深度関連信号(15)は、眼底組織内の正面向き画像の深度情報を提供する。上述したように、深度関連信号は、眼底組織の詳細な生体構造に関する情報を含む。正面画像は、同じ組織の内側の正面撮像面を示しているが、この撮像面の正確な深度は、単独で特定することは容易ではない。正面画像(26、27、28、29)を生成する光学撮像システム(19)は、撮像面の深度を変化させることができる焦点システムを有する。OCTシステム(7)及び正面撮像焦点システムの既知の較正により、正面撮像面の深度をOCT深度関連信号(15)から推測することができる。
【0075】
他の実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つの正面画像に対する眼の光学収差の補正を更に含む。眼球内の撮像の横方向解像度は、その瞳孔サイズ及び眼の光学収差によって制限される。撮像の横方向解像度は、眼底組織内で観察可能な最小要素に直接結び付けられる。横方向の解像度が高ければ高いほど、より小さな要素を観察することができ、組織内部をより詳細に見ることができるようになる。この横方向解像度を増加させ、組織内に見える細部を最大にする方法は、計算手段又は光学素子によって眼の収差を補正することである。収差が完全に補正されると、眼の内部でいわゆる回折限界結像性能に達する(すなわち、眼の瞳孔の有限の開口サイズによる光の回折によってのみ制限される)。
【0076】
有利には、収差の補正は、静的光学素子によって実行される。静的光学素子は、デフォーカス、非点収差、バダルシステム(badal system)を補正するミラーのカスタムレンズであるが、それらに限定されない。
【0077】
あるいは、収差の補正は、画像処理技術を用いて記録された画像に対して計算的に実行される。収差の計算補正は、眼及び光学撮像システムの収差の測定値を使用し、前記収差を考慮し補正するために画像をデジタル的に修正することからなるが、これらに限定されない。
【0078】
あるいは、収差の補正は、
図6による収差の測定によってリアルタイムで実行され、経瞳孔プロービング光源(30)及び波面センサ(31)と、収集された光波面を空間的に整形することができる波面補正器(32)とを有する。眼の収差の補正のこの原理は、通常、適応光学ループと呼ばれ、以下からなる。経瞳孔プロービング光源(30)は、眼底に焦点を合わせる。集光された光の一部は後方散乱され、共役瞳孔面(42)に配置された波面センサ(31)を照射する。波面センサは、好ましくはシャックハルトマンセンサとして実装される。波面センサは、眼の瞳孔平面に共役な平面に配置される。波面センサに記録された画像は、眼の収差に関連する光波面収差の測定を可能にする。波面補正器(32)に対する制御が計算され、適用される。波面補正器は、変形可能なミラー、チューナブルレンズ、液晶変調器であるが、これらに限定されない。波面補正器は、瞳孔(8)と波面センサ(31)との間の共役瞳孔面に配置される。波面補正器(32)の形状の変化は、眼の収差を打ち消そうとする。
【0079】
さらに他の実施形態によれば、
図9に示すように、本発明は、経瞳孔投光照明源(44)と、前記照明源からの後方散乱光を通して眼底(1)の正面画像を生成する撮像システムとを更に備える。
【0080】
本発明によれば、深度関連信号(15)は、正面向き画像の撮像深度を調整するための直接フィードバックを提供するように処理される。
【0081】
好ましくは、収差測定用の経瞳孔プロービング光源(30)は、OCT光源(9)と同じである。
【0082】
本発明は、深度関連信号(15)の深度スケールを経強膜信号の深度スケールと一致させる較正ステップを更に含む。
【0083】
画像取得プロセスは、必要とされる撮像モダリティ、暗視野又は位相/吸収に応じて異なる。暗視野の場合、画像処理なしで、ただ1つの照明点を用いて撮像を行うことができる。異なる撮像領域について得られた画像をつなぎ合わせることで、より広い視野が得られる。
【0084】
経強膜照明は、経瞳孔投光照明で観察される網膜の低コントラストを増加させる2つの興味深い特性を有する。第1に、SCEにより、高角度の経強膜照明光が光受容体にほとんど結合されず、光の大部分がRPE層に到達することを可能にする。第2に、瞳孔を通る集光経路との重なりがないので、直接後方散乱照明光は撮像システムによって集光されない。したがって、異なる網膜層によって多重散乱された光のみが光学系に入射してカメラに到達し、暗視野撮像条件を提供する。照明角度は、瞳孔を通した照明を介して得られるものよりはるかに大きく、透明物体のコントラストを高める網膜空間周波数の不均一な励起を生成する。
【0085】
上述したように、本発明は、経強膜照明、細胞レベルの正面高解像度撮像、広視野撮像、及び眼底の詳細な可視化のための眼科用照明システム及び撮像デバイスに関する。高解像度画像は、眼の光学収差の補正と結合された経強膜照明により提供され、詳細な可視化は、光コヒーレンス・トモグラフィによって提供される。
【0086】
第1の実施形態では、
図1によれば、このシステムは、1つ又は複数の放射領域(3)を備え、強膜(4)を非接触で照射し、次に眼底(1)を斜めに照射することを目的とした経強膜光送達システム(2)と、OCT光源(9)、光ビームスプリッタ(12)、参照アーム(10)、サンプルアーム(11)、及び光検出アーム(14)を備え、深度関連信号(15)を提供するOCTシステム(7)を組み合わせて構成されるが、これに限定されない。
【0087】
他の実施形態では、
図4によれば、システムは、限定はしないが、2μm/ピクセルより小さいデジタルサンプリングにより、高解像度で網膜を撮像する主網膜高解像度カメラ(36)と、20pm/ピクセルのデジタルサンプリングにより、より広い視野(典型的には30°より大きい)にわたって網膜を撮像する第2の広視野網膜カメラ(35)とを備える。
【0088】
加えて、主網膜カメラ光路は、眼の収差を補正するために適応光学ループを含む。適応光学ループは、限定されないが、眼の瞳孔に向けられた波面検出光源と、眼底から来る後方散乱光を測定するシャックハルトマン波面センサ(31)と、変形可能ミラー(33)とを備える。波面センサ(31)は、リアルタイムで眼の光学収差を測定し、変形可能ミラーに制御フィードバックを送信する。波面検出光源は、レーザ光源、スーパールミネセントダイオード(17)又は発光ダイオード(LED)であるが、これらに限定されない。経瞳孔プロービング光源(30)は、干渉を行うための2つのアーム(サンプルアーム(11)と参照アーム(10))に分割されている。網膜から後方散乱された信号は、2つの部分に分離され、一方の部分は波面測定(5)に使用され、他方の部分は参照アーム(10)との干渉を測定するために使用される。
【0089】
他の実施形態では、
図4によれば、広視野正面向き画像は、OCTシステム(7)又は走査レーザ検眼鏡(SLO)などの他の眼走査システムによって生成される。2軸回転ミラー(31)、又は単一軸回転ミラーの対は、OCT又は走査システム(45)が、3次元(18)の深度関連信号(15)にわたって眼底組織をイメージングすることを可能にする。
【0090】
別の実施形態では、
図9によれば、システムには、広い領域(34)にわたって眼底(1)の経瞳孔投光照明を提供するために、経瞳孔投光光源(44)が含まれる。経瞳孔光源(30)は、LEDであるが、これに限定されない。この光源から照射され、眼底(1)で後方散乱された光は、主網膜カメラ(25)上の光受容体に高解像度画像を生成するために使用される。光受容体は、瞳孔(8)に入る光の一部を反射する指向性細胞であり、したがって、経強膜照明と比較して、経瞳孔照明を使用する場合により良好に観察可能である。
【0091】
図10によれば、光ビームは、強膜(4)に向かって、又は眼(6)の瞳孔(8)に向かって方向付けられる。
経瞳孔照明からの後方散乱光(23)は、以下を生成するために収集される。
- 経瞳孔網膜解剖学的構造又は血管造影画像(24)
- 光コヒーレンス・トモグラフィ網膜解剖学的構造画像(25)
【0092】
経強膜照明(22)からの多重散乱光は、以下を生成するために収集される。
- 経強膜広視野網膜解剖学的構造画像(26)
- 経強膜広視野網膜血管造影画像(27)
- 経強膜高解像度網膜解剖学的構造画像(28)
- 経強膜高解像度網膜血管造影画像(29)。
【0093】
図11によれば、眼(6)を照明した後、多重散乱された光は、眼科用照明システムによって収集される。OCT用の光源(9)又は波面経瞳孔プロービング用の光源(30)は、瞳孔(8)を通して眼(6)を照射する。波面検知用経瞳孔プロービング光源(30)は、波面センサ(31)に記録され、眼球収差を補正するために波面補正器(32)にフィードバックを与える。波面検出用の同じ経瞳孔プロービング光源(30)は、OCT光源(9)と同じとすることができる。OCTシステム(7)は、その参照ミラー(33)のための参照アーム(10)にある。ファイバビームスプリッタ(12)は、眼(6)との間で光を送信又は収集する。また、ビームスプリッタ(12)は、OCT光源(17)との間で光を送受信する。経強膜光源(16)は眼(6)を照明し、経強膜照明からの多重散乱光(22)が収集される。網膜(14)は、広視野カメラ(35)及び高解像度カメラ(36)に撮像される。カメラのセンサは、共役網膜面(43)である。
【0094】
以下のスキームは実施形態として提示される。
- 経強膜照明システムは、光コヒーレンス・トモグラフィシステム(7)に結合される。
【0095】
図1及び
図4によれば、OCTシステム(7)は、瞳孔(8)に向かう光ビームと、OCT光源(9)と、参照ミラー(33)と、ファイバビームスプリッタ(12)と、回折格子(37)と、マルチピクセル光感応検出器(27)とから構成される。網膜を照明した後、経瞳孔照明から後方散乱された光(23)は、ビームスプリッタ(12)によって収集され、OCTシステム(7)に送られ、回折格子(37)及び光検出器(13)から構成される分光計(38)に記録される。
【0096】
高解像度撮像システムは、瞳孔(8)から出る経強膜照明光を収集し、適応光学系を用いて眼の光学収差を補正する。
【0097】
図1及び
図2によれば、強膜に向かうビーム(経強膜光送達システム)(2)は、アイエンベロープ(eye envelope)組織の内部を透過及び拡散した後、眼底(1)を照明し、経強膜照明から多重散乱された光(22)は、撮像システムによって集光され、網膜は、高解像度カメラ(36)及び広視野カメラ(35)上に撮像される。波面センサ(31)及び波面補正器(32)によって光学収差が補正される。
【0098】
適応光学システムは、瞳孔に向けられ、眼底(1)上で反射するプロービング光源と、プロービング光源反射を分析することによって眼球収差を測定する波面センサ(31)と、波面センサ(31)の測定値に基づいて眼球収差を補正する波面補正器(32)とから構成される。
【0099】
図2によれば、プロービング光源(18)は網膜上に合焦され、波面センサ(31)は眼球収差を測定する。
【0100】
波面プロービング光源は、一方の部分について波面を測定し、他方の部分について干渉を生成するために使用される。
【0101】
図2によれば、プロービング光源(18)は、OCT光源(9)にも使用される。分割は、ビームスプリッタ(12)、ダイクロイックミラー(39)による強度、又は波長のいずれかで行われるが、これらに限定されない。
【0102】
光コヒーレンス・トモグラフィ信号(7)は、高解像度撮像システムを選択された深さに合焦させるために、適応光学系にフィードバックを送達するように処理される。
【0103】
深度関連信号(15)に基づいてフィードバックを計算するために、OCTシステム7で得られた光学的深度を他の撮像モダリティの光学的深度と一致させるために、較正ステップが必要である。較正は、参照ミラー(33)の位置決めと、波面補正器に適用されるヌルデフォーカス項に対する調整撮像深度及び、両者の波長に依存する他の撮像モダリティ深度のOCT深度間の関係の知識が含まれる。
【0104】
図12によれば、分光計(38)からの深度関連信号(15)は、波面補正器(32)を適合させ、所望の網膜層に焦点を合わせるために分析される。
【0105】
深度関連信号(15)は、波面プロービング源(18)と結合されたフーリエ領域設定により得られるが、これに限定されない。
【0106】
経強膜ベースの画像は、限定されないが、時間相関法を用いて処理され、血流の機能的画像を抽出する。
【0107】
図11によると、全視野OCTとして実装されたOCTシステム(7)により、経瞳孔投光照明源(44)を用いて深度関連信号(15)が得られる。
【0108】
図10によれば、強膜(2)に向かうビームは、以下を提供するために使用される。
- 経強膜的広視野網膜解剖学的構造画像(26)
- 経強膜広視野網膜血管造影画像(27)
- 経強膜高解像度網膜解剖学的構造画像(28)
- 経強膜高解像度網膜血管造影画像(29)。
【0109】
当業者は、本明細書に記載される本発明が、具体的に記載されるもの以外の変形及び修正を受けやすいことを理解するであろう。本発明は、その精神又は本質的特徴から逸脱することなく、全てのそのような変形及び修正を含むことを理解されたい。本発明はまた、個々に又は集合的に、本明細書において言及又は示されるステップ、特徴、組成物及び化合物のすべて、ならびに任意の及びすべての組み合わせ又は前記ステップもしくは特徴の任意の2つ以上を含む。したがって、本開示は、例示された全ての態様において限定的ではないとみなされるべきであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示され、均等物の意味及び範囲内に入る全ての変更は、その中に包含されることが意図される。
【0110】
様々な参考文献が本明細書を通して引用される。これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0111】
【国際調査報告】