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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-02
(54)【発明の名称】TRBCβ抗体コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20230425BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230425BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230425BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230425BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
C07K16/28
A61K47/68
A61K39/395 L
A61P35/02
C12N15/13 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557873
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(85)【翻訳文提出日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 GB2021050719
(87)【国際公開番号】W WO2021191607
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】2004263.6
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517215973
【氏名又は名称】オートラス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】オヌオハ, シモビ
(72)【発明者】
【氏名】フェラーリ, マテュー
(72)【発明者】
【氏名】アクバル, ズライカ
(72)【発明者】
【氏名】ブグダ, レイサ
(72)【発明者】
【氏名】プーレ, マーティン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4C085AA26
4C085AA27
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA70
4H045BA71
4H045BA72
4H045DA76
(57)【要約】
本開示は、TCRβ鎖定常領域(TRBC)に特異的に結合する抗体のコンジュゲートであって、この抗体は速い解離速度定数(k)を有する、抗体コンジュゲートを提供する。本発明はさらに、本発明の産物を利用する個別化された医療の医療的使用および方法を提供する。本発明は、例えば、TCRβ鎖定常領域(TRBC)に特異的に結合する抗体コンジュゲートであって、前記抗体は0.001秒-1~0.3秒-1の範囲の解離速度定数(k)を有する、抗体コンジュゲートを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TCRβ鎖定常領域(TRBC)に特異的に結合する抗体コンジュゲートであって、前記抗体は0.001秒-1~0.3秒-1の範囲の解離速度定数(k)を有する、抗体コンジュゲート。
【請求項2】
前記抗体が、0.002秒-1~0.1秒-1の範囲のkを有する、請求項1に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項3】
前記抗体が、化学療法実体、放射性核種または検出実体にコンジュゲートされる、請求項1または2のいずれかに記載の抗体コンジュゲート。
【請求項4】
前記化学療法実体がチューブリン阻害剤である、請求項3に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項5】
前記チューブリン阻害剤がMMAEである、請求項4に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項6】
前記抗体コンジュゲートが、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体の内部移行と比較して、標的細胞への結合の際に増大した内部移行を有する、請求項1~5のいずれかに記載の抗体コンジュゲート。
【請求項7】
前記抗体がTRBC1に特異的に結合する、請求項1~6のいずれかに記載の抗体コンジュゲート。
【請求項8】
前記抗体が、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異または変異の組み合わせ:
-前記VHドメイン中のG106A;
-前記VHドメイン中のY32F;
-前記VHドメイン中のG31S;
-前記VHドメイン中のG26PおよびT28K;または
-前記VHドメイン中のY102M
の1つを含む、請求項7に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項9】
前記抗体が、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異:
-前記VHドメイン中のG106A
を含む、請求項8に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項10】
前記抗体がTRBC2に特異的に結合する、請求項1~6のいずれかに記載の抗体コンジュゲート。
【請求項11】
前記抗体が、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異または変異の組み合わせ:
-前記VHドメイン中のT28K、Y32F、A100N、Y102LおよびN103M、ならびに前記VLドメイン中のN35R;
-前記VHドメイン中のT28K、Y32FおよびA100N;または
-前記VHドメイン中のT28R、Y32FおよびA100N
の1つを含む、請求項10に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項12】
前記抗体が、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異の組み合わせ:
-前記VHドメイン中のT28K、Y32F、A100NおよびN103L、ならびに前記VLドメイン中のN35R
の1つを含む、請求項11に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項13】
T細胞リンパ腫または白血病の処置において使用するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項14】
対象におけるT細胞リンパ腫または白血病の前記処置が、悪性T細胞と同じTRBCを発現する正常T細胞と一緒に、前記悪性T細胞の選択的枯渇を引き起こすが、前記悪性T細胞によって発現されないTRBCを発現する正常T細胞の枯渇を引き起こさないようにするために、前記対象に前記抗体コンジュゲートを投与する工程を含む、請求項13に記載の使用のための抗体コンジュゲート。
【請求項15】
前記方法が、前記対象由来の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定するために、前記対象由来の悪性T細胞の前記TCRβ鎖定常領域(TCRB)を調べる工程をさらに含む、請求項14に記載の使用のための抗体コンジュゲート。
【請求項16】
前記T細胞リンパ腫または白血病が、末梢性T細胞リンパ腫、非特定型(PTCL-NOS);血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、腸症関連T細胞リンパ腫(EATL)、肝脾T細胞リンパ腫(HSTL)、節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型、皮膚T細胞リンパ腫、原発性皮膚ALCL、T細胞性前リンパ球性白血病およびT細胞急性リンパ芽球性白血病から選択される、請求項13~15のいずれかに記載の使用のための抗体コンジュゲート。
【請求項17】
対象中のTRBCを発現する細胞への化学療法薬の送達を標的とするための方法における使用のための、請求項3~12のいずれかに記載の抗体コンジュゲート。
【請求項18】
請求項1~12のいずれかに記載の抗体コンジュゲートと、薬学的に許容され得るキャリア、希釈剤、賦形剤または補助剤とを含む薬学的組成物。
【請求項19】
T細胞リンパ腫または白血病に罹患している対象を処置するための適切な療法を選択するための方法であって、
i)前記対象から単離された試料中の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定することと;
ii)前記悪性T細胞の前記TRBC1またはTRBC2発現に基づいて、請求項13~16のいずれかに記載の使用のための抗体コンジュゲートを選択することと;
を含む、方法。
【請求項20】
請求項13~16のいずれかに記載の使用のための抗体コンジュゲートを含む療法を受けるために、T細胞リンパ腫または白血病に罹患している対象を選択するための方法であって、
i)前記対象から単離された試料中の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定することと;
ii)前記悪性T細胞の前記TRBC1またはTRBC2発現に基づいて、請求項13~16のいずれかに記載の使用のための抗体コンジュゲートに基づく療法を受けるために前記対象を選択することと;
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、TCRβ鎖定常領域(TRBC)に特異的に結合する抗体のコンジュゲートであって、この抗体は速い解離速度定数(kd)を有する、抗体コンジュゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
リンパ性悪性腫瘍は、T細胞またはB細胞のいずれかに由来するものに大きく分けることができる。T細胞悪性腫瘍は、障害の臨床的におよび生物学的に不均一な群であり、合わせて非ホジキンリンパ腫の10~20%および急性白血病の20%を占める。最も一般的に同定される組織学的サブタイプは、末梢性T細胞リンパ腫、非特定型(PTCL-NOS);血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)および未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)である。すべての急性リンパ芽球性白血病(ALL)のうち、約20%がT細胞表現型のものである。
【0003】
これらの症状は、例えばB細胞悪性腫瘍と比較して、代表的には侵襲性に挙動し、推定5年生存率はわずか30%である。T細胞リンパ腫の場合には、播種性疾患、好ましくない国際予後指標(IPI)スコアおよびリンパ節外性疾患の有病率を呈する患者の割合が高い。化学療法単独では通常有効ではなく、患者の30%未満が現行の処置で治癒する。
【0004】
さらに、抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブなどの免疫療法が転帰を劇的に改善させたB細胞悪性腫瘍とは異なり、現在、T細胞悪性腫瘍の処置に対して利用可能な、同等に有効な最小限に毒性の免疫療法薬は存在しない。T細胞障害のための免疫療法の開発における重要な困難は、クローン性T細胞と正常T細胞のマーカー発現におけるかなりの重複であり、クローン性(悪性)細胞を明確に同定することができる単一の抗原は存在しない。
【0005】
T細胞受容体β鎖定常ドメイン1および2(TRBC1およびTRBC2)の相互排他的発現に基づくターゲティング戦略が報告されている(国際公開第2015/132598号;Maciociaら、2017,Nat Med 23:1416-23)。さらに、TRBC1またはTRBC2のいずれかを標的とするCARは、T細胞リンパ腫を処置する能力を与える一方で、許容され得る毒性プロファイルを提供する可能性があることが実証されている(Maciociaら、2017、Nat Med、23:1416-23;国際公開第2015/132598号)。
【0006】
しかしながら、ヒトT細胞白血病ウイルス、1型(HTLV-1)関連白血病およびリンパ腫などの疾患は、TRBC1/TRBC2標的薬で処置される可能性を有するにもかかわらず、細胞療法にあまり適していない可能性があり得る。これは、細胞ベースの療法はT細胞によって媒介される同士討ちの傾向があり得るからである。
【0007】
したがって、当技術分野では、T細胞リンパ腫および白血病の処置における細胞ベースの療法の潜在的な欠点を克服する代替の標的剤を提供する必要性が存在する。
【0008】
抗体薬物複合体(ADC)は、T細胞リンパ腫を標的とするために使用することができる別の免疫治療の様式を提供する。ADCは、T細胞によって媒介される同士討ちになりにくいという点で、細胞ベースの療法を上回るさらなる利点を提供する。さらに、ADCは、副作用の改善された管理を提供し得る。
【0009】
ADC戦略の効率は、癌細胞内への細胞傷害性コンジュゲートの内部移行に大きく依存する。TRBC特異的抗体に基づくADCは以前に記載されているが(国際公開第2015/132598号)、それらの内部移行特性は未知である。
【0010】
ADCに適した抗体の重要な特徴は、抗体がTRBCに特異的に結合することの他、高い内部移行能力を有することである。抗体の内部移行能力は、標的抗原と抗体の両方の特性に依存する。標的の分子構造から内部移行に適した抗原結合部位を予測することまたは抗体の結合強度、物理的特性などから高い内部移行能力を有する抗体を容易に予測することは困難である。したがって、高い効力を有するADCを開発することにおける重要な課題は、標的抗原に対する高い内部移行能力を有する抗体を得ることである。
【0011】
したがって、当技術分野では、最適な内部移行特性を有するTRBC特異的ADCが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2015/132598号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Maciociaら、2017,Nat Med 23:1416-23
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の局面の概要
本発明者らは、T細胞への結合時のTRBC特異的抗体の内部移行特性を明らかにする目的で、様々な親和性の多数のTRBC特異的抗体を使用して、T細胞リンパ腫および白血病に対するADC治療戦略を調査した。得られた結果は、特異的抗体に良好な内部移行特性を付与する結合親和性を同定するのに役立った。予想外にも、本発明者らは、抗体の良好な内部移行を達成するために、速い解離速度定数が重要であることを決定した。これらの結果は、当技術分野で一般的に受け入れられている見解、すなわち、高親和性抗体、したがって遅い解離速度定数を有する抗体は、高い内部移行能力を示すという見解とは対照的である。
【0015】
したがって、第1の局面において、本発明は、TCRβ鎖定常領域(TRBC)に特異的に結合する抗体コンジュゲートであって、抗体は0.001秒-1~0.3秒-1の範囲の解離速度定数(k)を有する、抗体コンジュゲートを提供する。
【0016】
抗体は、0.002秒-1~0.1秒-1の範囲のkを有し得る。
【0017】
抗体は、化学療法実体、放射性核種または検出実体にコンジュゲートされ得る。
【0018】
化学療法実体は、チューブリン阻害剤であり得る。
【0019】
チューブリン阻害剤はMMAEであり得る。
【0020】
抗体コンジュゲートは、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体の内部移行と比較して、標的細胞への結合の際に増大した内部移行を有し得る。
【0021】
抗体は、TRBC1に特異的に結合し得る。
【0022】
TRBC1特異的抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異:
-前記VHドメイン中のG106A;
-前記VHドメイン中のY32F;
-前記VHドメイン中のG31S;
-前記VHドメイン中のG26PおよびT28K;
-前記VHドメイン中のY102M
の1つを含み得る。
【0023】
TRBC1特異的抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異:
-前記VHドメイン中のG106A
を含み得る。
【0024】
抗体は、TRBC2に特異的に結合し得る。
【0025】
TRBC2特異的抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異の組み合わせ:
-前記VHドメイン中のT28K、Y32F、A100N、Y102LおよびN103M、ならびに前記VLドメイン中のVL N35R;
-前記VHドメイン中のT28K、Y32F、A100N;または
-前記VHドメイン中のT28R、Y32F、A100N
の1つを含み得る。
【0026】
TRBC2特異的抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異:
-前記VHドメイン中のT28K、Y32F、A100N、Y102LおよびN103M、ならびに前記VLドメイン中のVL N35R
を含み得る。
第2の局面において、本発明は、T細胞リンパ腫または白血病の処置において使用するための本発明の第1の局面による抗体コンジュゲートを提供する。
【0027】
対象におけるT細胞リンパ腫または白血病の処置は、悪性T細胞と同じTRBCを発現する正常T細胞と一緒に、悪性T細胞の選択的枯渇を引き起こすが、悪性T細胞によって発現されないTRBCを発現する正常T細胞の枯渇を引き起こさないようにするために、対象に抗体コンジュゲートを投与する工程を含み得る。
【0028】
方法は、対象由来の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定するために、対象由来の悪性T細胞のTCRβ鎖定常領域(TCRB)を調べる工程をさらに含み得る。
【0029】
T細胞リンパ腫または白血病は、末梢性T細胞リンパ腫、非特定型(PTCL-NOS);血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、腸症関連T細胞リンパ腫(EATL)、肝脾T細胞リンパ腫(HSTL)、節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型、皮膚T細胞リンパ腫、原発性皮膚ALCL、T細胞性前リンパ球性白血病およびT細胞急性リンパ芽球性白血病から選択され得る。
【0030】
第3の局面において、本発明は、対象中のTRBCを発現する細胞への化学療法薬の送達を標的とするための方法における使用のための本発明の第1の局面の態様による抗体コンジュゲートを提供する。
【0031】
第4の局面において、本発明は、本発明の第1の局面による抗体コンジュゲートと、薬学的に許容され得るキャリア、希釈剤、賦形剤または補助剤とを含む薬学的組成物を提供する。
【0032】
第5の局面において、本発明は、T細胞リンパ腫または白血病に罹患している対象を処置するための適切な療法を選択するための方法であって、
i)対象から単離された試料中の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定することと;
ii)悪性T細胞のTRBC1またはTRBC2発現に基づいて、本発明の第2の局面による使用のための抗体コンジュゲートを選択することと;
を含む、方法を提供する。
【0033】
第6の局面において、本発明は、本発明の第2の局面による使用のための抗体コンジュゲートを含む療法を受けるために、T細胞リンパ腫または白血病に罹患している対象を選択するための方法であって、
i)対象から単離された試料中の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定することと;
ii)悪性T細胞のTRBC1またはTRBC2発現に基づいて、本発明の第2の局面による使用のための抗体コンジュゲートに基づく療法を受けるために対象を選択することと;
を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】αβT細胞受容体/CD3複合体の概略図。T細胞受容体は、細胞表面上で発現されるために小胞体内で組み立てられなければならない6つの異なるタンパク質鎖から形成される。CD3複合体の4つのタンパク質(CD3ζ、CD3γ、CD3εおよびCD3δ)が、T細胞受容体(TCR)を覆っている。このTCRが、複合体に特定の抗原の特異性を付与し、TCRαおよびTCRβという2つの鎖から構成される。各TCR鎖は、膜に対して遠位の可変成分と膜に対して近位の定常成分とを有する。ほぼすべてのT細胞リンパ腫および多くのT細胞白血病は、TCR/CD3複合体を発現する。
図2】T細胞受容体再構成中のT細胞受容体β定常領域(TRBC)-1とTRBC2の分離。各TCRβ鎖は、特定のβ可変(V)、多様性(D)、連結(J)および定常(TRBC)領域のゲノム組換えから形成される。ヒトゲノムは、TRBC1およびTRBC2として知られる2つの極めて類似した機能的に等価なTRBC遺伝子座を含有する。TCR遺伝子再構成の間に、J領域はTRBC1またはTRBC2のいずれかと再結合する。この再構成は恒久的である。T細胞は、それらの表面上に単一のTCRの多くのコピーを発現し、したがって、各T細胞は、そのβ鎖定常領域がTRBC1またはTRBC2のいずれかによってコードされるTCRを発現する。
図3】TCRβとTRBC1特異的抗体Jovi-1のFab断片間の構造界面。
図4】HPB-ALL TRBC1、HPB-ALL TRBC2およびHPB-ALL KO細胞における、pHrodoレッドをコンジュゲートしたJovi-1、KFNおよび抗HEL抗体の内部移行プロファイル。
図5-1】親和性、会合および解離速度を確認するために様々な変異された抗体変異型に対して行われた表面プラズモン共鳴実験
図5-2】親和性、会合および解離速度を確認するために様々な変異された抗体変異型に対して行われた表面プラズモン共鳴実験
図5-3】親和性、会合および解離速度を確認するために様々な変異された抗体変異型に対して行われた表面プラズモン共鳴実験
図5-4】親和性、会合および解離速度を確認するために様々な変異された抗体変異型に対して行われた表面プラズモン共鳴実験
図6】変異された抗体変異型の結合速度論の分析。非常に類似した会合速度を有するが、異なる解離速度を有するいくつかの結合剤が同定された。
図7】9時間でのHPB-ALL TRBC1およびKO細胞におけるaTRBC1のpHrodoグリーンをコンジュゲートした変異体の内部移行プロファイル。TRBC1に対する解離速度を増加させながらクローンを選択した。フローサイトメトリは、内部移行がより速いオフ速度によって影響を受ける前に、最大Mut13までのより速い解離速度を有する結合剤の改善された内部移行を示す。抗体変異体は、表1および2に記載されている。
図8】HPB-ALL TRBC1+、HPB-ALL TRBC2+およびHPB-ALL TCR KO細胞での最適親和性TRBC1およびTRBC2抗体の内部移行。抗体変異体は、表1および2に記載されている。
図9A】A.MC-バリン-シトルリンリンカーを介した抗TCR PAB-MMAEコンジュゲーションの模式的表現。B.モノメチルアウリスタチンE(MMAE)へのMut11およびMut15抗体のコンジュゲーションは、抗体が内部移行される能力を損なわなかった。MFI:平均蛍光強度。C.MMAEをコンジュゲートしたMut11、Mut15および抗HELによる、HPB-ALL TRBC1+、HPB-ALL TRBC2+およびHPB-ALL TCR KOに対する細胞傷害性アッセイ。HPB-ALL TCR KOに対するフィットの比較により****P<0.0001。抗体変異体は、表1および2に記載されている。
図9B】A.MC-バリン-シトルリンリンカーを介した抗TCR PAB-MMAEコンジュゲーションの模式的表現。B.モノメチルアウリスタチンE(MMAE)へのMut11およびMut15抗体のコンジュゲーションは、抗体が内部移行される能力を損なわなかった。MFI:平均蛍光強度。C.MMAEをコンジュゲートしたMut11、Mut15および抗HELによる、HPB-ALL TRBC1+、HPB-ALL TRBC2+およびHPB-ALL TCR KOに対する細胞傷害性アッセイ。HPB-ALL TCR KOに対するフィットの比較により****P<0.0001。抗体変異体は、表1および2に記載されている。
図9C】A.MC-バリン-シトルリンリンカーを介した抗TCR PAB-MMAEコンジュゲーションの模式的表現。B.モノメチルアウリスタチンE(MMAE)へのMut11およびMut15抗体のコンジュゲーションは、抗体が内部移行される能力を損なわなかった。MFI:平均蛍光強度。C.MMAEをコンジュゲートしたMut11、Mut15および抗HELによる、HPB-ALL TRBC1+、HPB-ALL TRBC2+およびHPB-ALL TCR KOに対する細胞傷害性アッセイ。HPB-ALL TCR KOに対するフィットの比較により****P<0.0001。抗体変異体は、表1および2に記載されている。
図10】TRBC1およびTRBC2特異的キメラ抗原受容体(CAR)の構造の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
本発明は、標的細胞に結合したときに優れた内部移行特性を有する、TCRβ鎖定常領域(TRBC)に特異的に結合する抗体コンジュゲートを提供する。
【0036】
1.TCRβ鎖定常領域(TRBC)
T細胞受容体(TCR)は、Tリンパ球の表面上に発現され、主要組織適合複合体(MHC)分子に結合された抗原の認識を担っている。TCRが抗原性ペプチドおよびMHC(ペプチド/MHC)と結合すると、関連する酵素、共受容体、特殊なアダプタ分子、および活性化または放出された転写因子によって媒介される一連の生化学的事象を通じてTリンパ球が活性化される。
【0037】
TCRは、通常、インバリアントなCD3鎖分子との複合体の一部として発現される高度に可変性のアルファ(α)鎖およびベータ(β)鎖からなるジスルフィド結合され、膜に固着されたヘテロ二量体である。この受容体を発現するT細胞は、α:β(またはαβ)T細胞(全T細胞の約95%)と呼ばれる。少数のT細胞は、可変性のガンマ(γ)およびデルタ(δ)鎖によって形成される代替受容体を発現し、γδT細胞(全T細胞の約5%)と呼ばれる。
【0038】
各α鎖およびβ鎖は、いずれも逆平行βシートを形成する免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)ドメインである2つの細胞外ドメイン:可変(V)領域および定常(C)領域から構成される。定常領域は細胞膜に近接し、これに膜貫通領域および短い細胞質尾部が続き、一方、可変領域はペプチド/MHC複合体に結合する。TCRの定常領域は、システイン残基がジスルフィド結合を形成し、2本の鎖間の連結を形成する短い接続配列からなる。
【0039】
TCRα鎖およびβ鎖の両方の可変ドメインは、3つの超可変または相補性決定領域(CDR)を有する。β鎖の可変領域は、さらなる超可変領域(HV4)を有するが、これは通常抗原と接触せず、したがってCDRとは考えられない。
【0040】
TCRはまた、最大5つのインバリアント鎖γ、δ、ε(CD3と総称される)およびζを含む。CD3およびζサブユニットは、αβまたはγδによる抗原の認識後にセカンドメッセンジャーおよびアダプタ分子と相互作用する特定の細胞質ドメインを介してTCRシグナル伝達を媒介する。TCR複合体の細胞表面発現には、サブユニットの対を成す集合が先行し、この集合においては、TCRαおよびβならびにCD3γおよびδの膜貫通ドメインと細胞外ドメインの両方が役割を果たす。
【0041】
したがって、TCRは一般に、CD3複合体ならびにTCRα鎖およびβ鎖から構成され、TCRα鎖およびβ鎖は可変領域および定常領域から構成される(図1)。
【0042】
TCRβ鎖定常領域(TRBC)を供給する遺伝子座(Chr7:q34)は、進化の歴史において重複して、2つのほぼ同一の機能的に等価な遺伝子:TRBC1およびTRBC2を産生する(図2)。各TCRは、相互に排他的な様式でTRBC1またはTRBC2のいずれかを含み、したがって、各αβT細胞は、相互に排他的な様式でTRBC1またはTRBC2のいずれかを発現する。
【0043】
本発明者らは、TRBC1およびTRBC2の配列間の類似性にもかかわらず、TRBC1とTRBC2を区別することが可能であることを以前に決定した。本発明者らはまた、細胞、例えばT細胞の表面上にインサイチュで存在する間に、TRBC1とTRBC2のアミノ酸配列を識別することができることを以前に決定した(国際公開第2015132598号)。さらに、TRBC1またはTRBC2のいずれかに特異性を有する多数の抗体が作製されている(国際公開第2015132598号)。
【0044】
2.抗体コンジュゲート
第1の局面において、本発明は、TCRβ鎖定常領域(TRBC)に特異的に結合する抗体コンジュゲート、以下「本発明の抗体コンジュゲート」であって、前記抗体は0.001秒-1~0.5秒-1の範囲の解離速度定数(k)を有する、抗体コンジュゲートを提供する。
【0045】
本明細書で使用される「抗体コンジュゲート」という用語は、化学的リンカーを介して治療実体または搭載物に結合された抗体を含む化合物を指す。細胞の表面上の標的抗原に結合すると、抗体コンジュゲートは内部移行され、リソソームに輸送され、そこで切断可能なリンカーのタンパク質分解によって(例えば、リソソーム中に見出されるカテプシンBによって)、または非切断性リンカーを介して搭載物に結合されている場合は抗体のタンパク質分解によって、搭載物が放出される。
【0046】
2.1.抗体
本発明の抗体コンジュゲートは、TCRβ鎖定常領域(TRBC)に特異的に結合する抗体を含む。
【0047】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、少なくとも1つの相補性決定領域またはCDRを含む抗原結合部位を有するポリペプチドを指す。抗体は、3つのCDRを含み得、単一ドメイン抗体(dAb)、重鎖抗体(VHH)またはナノボディの抗原結合部位と同等の抗原結合部位を有し得る(図3b参照)。抗体は、6つのCDRを含み得、古典的な抗体分子の抗原結合部位と同等の抗原結合部位を有し得る。ポリペプチドの残りの部分は、抗原結合部位のための適切な足場を与え、抗原結合部位が抗原を結合するのに適した様式で抗原結合部位を提示する任意の配列であり得る。
【0048】
完全長抗体または免疫グロブリンは、代表的には、4つのポリペプチド:重(H)鎖ポリペプチドの2つの同一のコピーおよび軽(L)鎖ポリペプチドの2つの同一のコピーからなる。重鎖のそれぞれは1つのN末端可変(VH)領域および3つのC末端定常(CH、CHおよびCH)領域を含有し、各軽鎖は1つのN末端可変(VL)領域および1つのC末端定常(CL)領域を含有する。軽鎖および重鎖の各対の可変領域は、抗体の抗原結合部位を形成する。軽鎖および重鎖の各対の可変領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの超可変領域によって連結されたフレームワーク(FR)と呼ばれる比較的保存された領域によって構成される同じ一般的構造を特徴とする(Kabatら、1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.,NIH Publication No.91-3242,Bethesda,MD.;Chothia&Lesk,1987,J Mol Biol 196:901-17)。本明細書で使用される「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、抗原の形状を相補する抗体内の領域を指す。したがって、CDRは、特定の抗原に対するタンパク質の親和性および特異性を決定する。各対の2本の鎖のCDRはフレームワーク領域によって整列され、特定のエピトープを結合する機能を獲得する。その結果、VHおよびVLドメインの場合には、重鎖および軽鎖の両方が、3つのCDR、それぞれCDRH1、CDRH2、CDRH3およびCDRL1、CDRL2、CDRL3によって特徴付けられる。
【0049】
CDRのいくつかの定義が一般に使用されている。Kabatの定義は配列可変性に基づいており、最も一般的に使用されている(http://www.bioinf.org.uk/abs/参照)。また、ImMunoGeneTics情報システム(IMGT)を用いることもできる(http://www.imgt.org参照)。このシステムによれば、相補性決定領域(CDR-IMGT)は、Vドメインに対するIMGT固有ナンバリングに従って区切られた可変ドメインのループ領域である。可変ドメイン中には3つのCDR-IMGT:CDR1-IMGT(ループBC)、CDR2-IMGT(ループC’C’’)およびCDR3-IMGT(ループFG)が存在する。Chothia、AbMおよび接触定義などのCDRの他の定義も開発されている(http://www.imgt.org参照)。
【0050】
本発明の抗体コンジュゲートは、完全長抗体またはその抗原結合断片を含み得る。
【0051】
本発明の抗体コンジュゲートは、完全長抗体を含み得る。完全長抗体は、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgEであり得る。完全長抗体は、IgGまたはIgMであり得る。
【0052】
「抗体断片」、「抗原結合断片」、「抗体の機能的断片」および「抗原結合部分」という用語は、本明細書では互換的に使用され、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1またはそれを超える断片または部分を指す。抗体断片は、例えば、1またはそれを超えるCDR、可変領域(またはその一部)、定常領域(またはその一部)、またはこれらの組み合わせを含み得る。抗体断片の例には、Fab断片、F(ab’)断片、Fv断片、単鎖Fv(scFv)、ドメイン抗体(dAbまたはVH)、単一ドメイン抗体(sdAb)、VHH、ナノボディ、ダイアボディ、トリアボディ、トリマーボディおよびモノボディが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
本発明の抗体コンジュゲートは、非免疫グロブリン足場に基づく抗原結合ドメインを含み得る。これらの抗体結合ドメインは、抗体模倣物とも呼ばれる。非免疫グロブリン抗原結合ドメインの非限定的な例としては、アフィボディ、フィブロネクチン人工抗体足場、アンティカリン、アフィリン、DARPin、VNAR、iBody、アフィマー、フィノマー、アブデュリン/ナノ抗体、センチリン、アルファボディ、ナノフィチンおよびDドメインが挙げられる。
【0054】
抗体は二機能性であり得る。
【0055】
抗体は、非ヒト、例えばマウス、ラットまたはラクダ類、キメラ、ヒト化または完全ヒトであり得る。抗体は合成であり得る。
【0056】
当技術分野において現在公知であるか、または将来開発されるであろう、半減期を延長し、および/または薬物送達を増強するために使用される様々な抗体フォーマットおよび修飾も本発明の一部を形成する。
【0057】
本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、TRBCを特異的に結合する。抗原結合ドメインがTRBCに特異的に結合する能力は、当技術分野で利用可能な多数のアッセイによって決定することができる。好ましくは、抗原結合ドメインの結合特異性は、表面プラズモン共鳴(SPR)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および競合ELISAなどのインビトロ結合アッセイによって;免疫組織化学(IHC)、蛍光顕微鏡法およびフローサイトメトリなどの免疫蛍光技術によって;または免疫沈降によって決定される。
【0058】
本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、TRBC1またはTRBC2のいずれかを結合し得る。抗体がTRBC1またはTRBC2に対して特異的であるかどうかを決定する方法は、国際公開第2015/132598号に記載されている。
【0059】
抗体または抗体断片は、TRBCを発現する標的細胞に様々な搭載物を送達することができる。抗体-薬物コンジュゲート(ADC)の有効性は、抗原への結合親和性および特異性だけでなく、内部移行にも依存する。異なる結合親和性を有するTRBC特異的抗体を使用して、本発明者らは、TRBC特異的抗体コンジュゲートの速度論的速度定数が、標的細胞への結合時のTRBC特異的抗体コンジュゲートの内部移行特性を決定する因子であることを決定した。驚くべきことに、最良の内部移行は、速い解離を有する抗体を使用して得られる。さらに、本発明者らは、T細胞上で最適な内部移行特性を示す結合親和性を決定することができた。
【0060】
「内部移行」または「細胞取り込み」という用語は、本発明の文脈において区別なく使用され、本明細書で使用される場合、受容体によって媒介されるエンドサイトーシスとしても知られる過程を指す。エンドサイトーシスは、細胞膜包み込みを介して分子または物質が細胞内に輸送される細胞過程である。内部移行後、抗体コンジュゲート分子はリソソームに輸送され、そこで搭載物が放出される。したがって、抗体コンジュゲート内部移行の速度および程度は、抗体コンジュゲートの有効性にとって極めて重要である。
【0061】
所望の細胞取り込み速度を有する抗体を同定するために、顕微鏡法およびフローサイトメトリを含む多数の技術が使用され得る。免疫蛍光顕微鏡法をベースとするエンドソームタンパク質との共局在化もまた、細胞取り込みをモニターするために使用される。免疫蛍光顕微鏡法とは異なり、蛍光標識された抗体を用いるフローサイトメトリは、抗体内部移行のより迅速かつ定量的な評価を可能にし、潜在的により高い処理量を可能にする。フローサイトメトリをベースとするアッセイでは、インキュベーション期間後にどれほど多くの抗体が表面結合したままであるかを測定するために蛍光標識された二次抗体が使用され得る。あるいは、抗フルオロフォア抗体による細胞表面蛍光消光の前に、蛍光標識された一次抗体で細胞を処理し得る。ADCが効果的であるためにエンドサイトーシスおよびその後の酸性化を必要とすることを考えると、pH感受性標識は、抗体コンジュゲートの内部移行を追跡するために非常に有用である。pH感受性色素の非限定的な例としては、pHが低下するにつれて消光される明るい蛍光を呈するフルオレセイン、および中性pHで極めて低い蛍光を示し、pHがより酸性になるにつれて増加する蛍光を示すpHrodo色素が挙げられる。蛍光色素で抗体を標識する方法は、当技術分野で周知である。
【0062】
本明細書で使用される「親和性」という用語は、抗体の抗原結合部位とエピトープとの間の相互作用の強さを指す。親和性は、通常、抗体と抗原の間での解離速度定数(kまたはkoff)と会合速度定数(kまたはkon)の比、すなわちk/kまたはkoff/konである平衡解離定数(KD)として測定される。KDと親和性は逆の関係にある。本明細書で使用される「会合速度定数」または「オン速度」または「k」または「kon」という用語は、抗体がその標的にどれほど迅速に結合するかを特徴付けるために使用される定数を指す。本明細書で使用される「解離速度定数」または「オフ速度」または「k」または「koff」という用語は、抗体がその標的にどれほど迅速に結合するかを特徴付けるために使用される定数を指す。KDはMで測定され、kはM-1-1で測定され、kは秒-1で測定される。
【0063】
任意の所与の抗原に対する抗原結合ドメインの親和性は、直接的および間接的ELISAおよびラジオイムノアッセイ法などの標識依存的方法、ならびに表面プラズモン共鳴(SPR)およびバイオレイヤー干渉などのリアルタイムでの相互作用の直接的検出および測定を可能にする無標識方法を含むがこれらに限定されない任意の従来の方法を使用して定量化され得る。
【0064】
本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用される抗体のKDおよび速度論的速度定数は、SPRによって測定され得る。アッセイは、異なるパラメータを使用し、市販されている様々な装置を使用して実施され得る。例えば、KDおよび速度論的速度定数は、ランニングおよび希釈緩衝液(GE Healthcare BioSciences)としてHBSP1を使用して、25℃で30ml/分の流速でBiacore T200装置で測定され得る。速度論的速度定数は、1:1ラングミュア結合モデルに従うカーブフィッティングによって取得され得る。
【0065】
本発明者らは、抗体が0.001秒-1~0.3秒-1の範囲内の解離速度定数kを有する場合に、最適な内部移行特性が示されることを決定した。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.001秒-1~0.25秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.001秒-1~0.2秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.001秒-1~0.15秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.001秒-1~0.1秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.002秒-1~0.3秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.003秒-1~0.3秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.004秒-1~0.3秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.005秒-1~0.3秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.006秒-1~0.3秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.007秒-1~0.3秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.008秒-1~0.3秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.009秒-1~0.3秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.01秒-1~0.3秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.01秒-1~0.2秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.01秒-1~0.15秒-1の範囲のkを有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.01秒-1~0.1秒-1の範囲のkを有し得る。前記抗体が、0.002秒-1~0.1秒-1の範囲のkを有する、請求項1に記載の抗体コンジュゲート。前記抗体が、0.017秒-1~0.083秒-1の範囲のkを有する、請求項1に記載の抗体コンジュゲート。
【0066】
本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、1×10-1~1×10-1の範囲の会合速度定数(k)をさらに有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、5×10-1~5×10-1の範囲のkをさらに有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、1×10-1~5×10-1の範囲のkをさらに有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、5×10-1~5×10-1の範囲のkをさらに有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、1×10-1~1×10-1の範囲のkをさらに有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、5×10-1~1×10-1の範囲のkをさらに有し得る。
【0067】
本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、1×10ー10M~1×10ー5Mの範囲の親和定数(KD)をさらに有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、1×10-10M~5×10-6Mの範囲のKDをさらに有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、5×10-10M~1×10-6Mの範囲のKDをさらに有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、5×10-10M~5×10-7Mの範囲のKDをさらに有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、1×10-9M~5×10-7Mの範囲のKDをさらに有し得る。本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、5×10-9M~1×10-7Mの範囲のKDをさらに有し得る。
【0068】
本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、0.001秒-1~0.35秒-1の範囲のk、1×10-1~1×10-1の範囲のkおよび1×10-10M~1×10-5Mの範囲のKDを有し得る。
【0069】
本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体の内部移行と比較して、標的細胞への結合の際に増大した内部移行を有し得る。
【0070】
標的細胞への結合時の本発明の抗体コンジュゲートの内部移行は、参照抗体の内部移行より増加し得る。抗体コンジュゲートの内部移行は、標的細胞への結合の際に、参照抗体の内部移行より少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも400%、少なくとも500%、少なくとも600%、少なくとも700%、少なくとも800%、少なくとも900%、少なくとも1,000%、少なくとも5,000%、または少なくとも10,000%増加し得る。抗体コンジュゲートの内部移行を決定および定量化するための方法は、以前に詳細に記載されている。
【0071】
本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、TRBC1に特異的に結合し得る。
【0072】
TRBC1に対して特異的である本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異または変異の組み合わせ:
-VHドメイン中のG106A;
-VHドメイン中のY32F;
-VHドメイン中のG31S;
-VHドメイン中のG26PおよびT28K;
-VHドメイン中のY102M
の1つを含み得る。
【0073】
TRBC1に対して特異的である本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインおよび配列番号2に示される配列を有するVLドメイン、ならびに以下の変異または変異の組み合わせ:
-VHドメイン中のG106A;
-VHドメイン中のY32F;
-VHドメイン中のG31S;
-VHドメイン中のG26PおよびT28K;
-VHドメイン中のY102M;
-VHドメイン中のT28K、Y32F、A100NおよびN103L、ならびにVLドメイン中のN35K;
-VHドメイン中のT28K、Y32FおよびA100N、ならびにVLドメイン中のN35K;または
-VHドメイン中のT28K、Y32F、A100NおよびA107S
の1つからなり得る。
【0074】
TRBC1に対して特異的である本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異:
-VHドメイン中のG106A
を含み得る。
【0075】
TRBC1に対して特異的である本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインおよび配列番号2に示される配列を有するVLドメイン、ならびに以下の変異:
-VHドメイン中のG106A
からなり得る。
【0076】
これらの特異的な組み合わされた変異は、ADC治療戦略に有用な様式でTRBC1への結合を変化させることが示された(表1参照)。
【表1-1】
【表1-2】
【0077】
本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、TRBC2に特異的に結合し得る。
【0078】
TRBC2に対して特異的である本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異の組み合わせ:
-VHドメイン中のT28K、Y32F、A100N、Y102LおよびN103M、ならびにVLドメイン中のN35R;
-VHドメイン中のT28K、Y32FおよびA100N;または
-VHドメイン中のT28R、Y32FおよびA100N
の1つを含み得る。
【0079】
TRBC2に対して特異的である本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインおよび配列番号2に示される配列を有するVLドメイン、ならびに以下の変異:
-VHドメイン中のT28K、Y32F、A100N、Y102LおよびN103M、ならびにVLドメイン中のN35R;
-VHドメイン中のT28K、Y32FおよびA100N;または
-VHドメイン中のT28R、Y32FおよびA100N
の1つからなり得る。
【0080】
これらの特異的な組み合わされた変異は、ADC治療戦略に有用な様式でTRBC2への結合を変化させることが示された(表2参照)。
【表2】
【0081】
TRBC2に対して特異的である本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、以下の変異:
-VHドメイン中のT28K、Y32F、A100NおよびN103L、ならびにVLドメイン中のN35K
を含み得る。
【0082】
TRBC2に対して特異的である本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインおよび配列番号2に示される配列を有するVLドメイン、ならびに以下の変異:
-VHドメイン中のT28K、Y32F、A100NおよびN103L、ならびにVLドメイン中のN35K
からなり得る。
【0083】
本明細書で使用される場合、「参照抗体」という用語は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを含むヒト化JOVI-1抗体、すなわちhJOVI-1を指す。マウスJOVI-1は、Vineyらによって以前に開示されている(Vineyら、1992、Hybridoma、11:701-13)。
【化1-1】
【化1-2】
【0084】
本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを含み得る。
【0085】
その特異性および内部移行特性を維持する、本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体の変異型または変異体も、本発明の一部を形成する。本明細書で使用される「変異型」または「変異体」という用語は、例えば組換えDNA技術を使用してまたはデノボ合成によって作製された、アミノ酸の挿入、欠失および/または置換によって、具体的に列挙されたポリペプチド、すなわち参照または親ポリペプチドとは異なるポリペプチドを指す。変異型および変異体は、本発明の文脈において区別なく使用される。
【0086】
2.2.治療実体または搭載物
本発明の抗体コンジュゲートは、治療実体または搭載物に結合された抗体を含む。抗体コンジュゲートの内部移行特性を調べる目的で、搭載物は検出実体によって置き換えられ得る。
【0087】
本明細書で使用される「治療実体」または搭載物」という用語は、細胞の機能を阻害または抑制し、および/または細胞の破壊(細胞死)を引き起こし、および/または抗増殖効果を発揮する任意の分子を指す。搭載物は、薬物または放射性核種であり得る。
【0088】
本発明の抗体コンジュゲート中の抗体は、化学療法実体、放射性核種または検出実体にコンジュゲートされ得る。
【0089】
本明細書で使用される「化学療法実体」という用語は、細胞の機能を阻害または抑制し、および/または細胞死を引き起こし、および/または抗増殖効果を発揮する任意の分子を指す。以下では、得られたコンジュゲートは、「本発明の抗体薬物複合体(ADC)」という。化学療法実体は、細胞傷害性薬物または細胞毒であり得る。チューブリン阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼI阻害剤およびRNAポリメラーゼII阻害剤を含むが、これらに限定されない多数のクラスの細胞傷害剤は、抗体分子において潜在的な有用性を有することが当技術分野で公知であり、本明細書に記載されるADCにおいて使用することができる。
【0090】
これまでのところ、微小管は、5つの既知の結合部位:ビンカアルカロイド結合部位、タキサン結合部位、コルヒチン結合部位、マイタンシン結合部位およびラウリマライド結合部位を有する。微小管/チューブリン阻害剤は、それらの作用機序に従って、チューブリン重合を促進し、微小管構造を安定化させる作用物質(タキサン結合部位およびラウリマライド結合部位に結合する作用物質)およびチューブリン重合を阻害し、微小管構造を不安定化させる作用物質(ビンカアルカロイド結合部位、マイタンシン結合部位、コルヒチン結合部位に結合する作用物質)という2つの主要なカテゴリーに分類することができる。ビンカアルカロイド結合部位に結合するチューブリン阻害剤の非限定的な例としては、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンフルニン、ハリコンドリンB、メシル酸エリブリン、クリプトフィシンおよびドラスタチン、例えば、アウリスタチンMMAF、MMAE、PF-06390101、MMAD、アウリスタチンE、アウリスタチンW類似体、アウリスタチンf-HPA、アンベルスタチン269およびAGD-0182が挙げられる。マイタンシン結合部位に結合するチューブリン阻害剤の非限定的な例としては、マイタンシンおよびマイタンシノイド、例えばDM1およびDM4が挙げられる。コルヒチン結合部位に結合するチューブリン阻害剤の非限定的な例としては、コルヒチン、2-メトキシエストラジオール、スルホンアミドおよびアスペルギルス(Aspergillus)誘導体が挙げられる。タキサン結合部位に結合するチューブリン阻害剤の非限定的な例としては、パクリタキセル、ドセタキセル、シクロストレプチン、エリュテロビン、ABI-007、イクサベピロン、パツピロンおよびBMS-310705が挙げられる。ラウリマリド結合部位に結合するチューブリン阻害剤の非限定的な例としては、ラウリマライドおよびペロルシドAが挙げられる。
【0091】
DNA損傷剤としては、カリケアマイシン(オゾガマイシン)、例えばカリケアマイシンγ1;ピロロベンゾジアゼピン、例えばPDBタリリンおよびSG3249;デュオカルマイシン、例えばDUBA;カンプトテシン類似体、例えばSN38およびDX-8951;アントラサイクリン;およびドキソルビシン(アドリアマイシン)が挙げられるが、これらに限定されない。アルキル化剤、ニトロソ尿素、エチレンイミン/メチルメラミン、アルキルスルホナート、代謝拮抗物質、ピリミジン類似体、エピポドフィロトキシン、シスプラチンなどの白金配位錯体およびL-アスパラギナーゼなどのカルボプラチン酵素も含まれる。
【0092】
トポイソメラーゼI阻害剤には、イリノテカン、トポテカンおよびカンプトテシンが含まれるが、これらに限定されない。
【0093】
RNAポリメラーゼII阻害剤には、α-アマニチンなどのアマトキシンが含まれるが、これらに限定されない。
【0094】
ADCにおける使用に適した細胞毒素は、例えば、国際公開第2015/155345号および国際公開第2015/157592号にも記載されている。
【0095】
化学療法実体は、IFNα、IL-2、G-CSFおよびGM-CSFなどの生物学的応答調節剤;アントラセンジオン、ヒドロキシ尿素などの置換された尿素、N-メチルヒドラジン(MIH)およびプロカルバジンを含むメチルヒドラジン誘導体、ミトタン(o,p’-DDD)およびアミノグルテチミドなどの副腎皮質抑制剤;プレドニゾンおよび同等物、デキサメタゾンおよびアミノグルテチミドなどの副腎皮質ステロイドアンタゴニストを含むホルモンおよびアンタゴニスト;カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロールなどのプロゲスチン;ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオール同等物などのエストロゲン;タモキシフェンなどの抗エストロゲン;プロピオン酸テストステロンおよびフルオキシメステロン/同等物を含むアンドロゲン;フルタミド、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体およびリュープロリドなどの抗アンドロゲン;ならびにフルタミドなどの非ステロイド性抗アンドロゲンであり得る。
【0096】
本発明の抗体コンジュゲート中の抗体は、放射性核種にコンジュゲートされ得る。以下では、得られるコンジュゲートは、「本発明の抗体放射性核種コンジュゲート(ARC)」と称される。放射性免疫複合体は、独特のセラノスティック(すなわち、療法および診断)の可能性を有する。診断目的のために、抗体は、単一光子放射型コンピュータ断層撮影法または陽電子放射断層撮影法(PET)などの画像化手順に適合する放射性核種で標識され得る。治療目的のために、放射性核種の選択は、処置されるべき腫瘍のサイズに大きく依存し、90Yなどの高エネルギーβ放射体はより大きな腫瘍の療法に適しており、131Iおよび177Luなどの中エネルギーβ放射体はより小さな腫瘍の処置により効果的である。ARCにおける使用に適した放射性核種は当技術分野で周知であり、他の放射性核種も本発明で企図される。放射免疫療法の主な魅力的な特徴の1つは、クロスファイアーまたはバイスタンダー効果、すなわち抗体局在部位に近接した細胞を損傷する能力である。ほとんどの場合、抗体の放射性標識は、チロシンのヨウ素化によって、またはジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)もしくは1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)などの金属キレート剤の抗体分子へのコンジュゲーションによって達成される。
【0097】
検出可能な実体は、蛍光実体、例えば蛍光ペプチドまたは色素または標識であり得る。本明細書で使用される「蛍光実体」という用語は、励起後に検出可能な波長で光を放出する部分を指す。蛍光実体の例としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、強化されたGFP、赤色蛍光タンパク質(RFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)およびmCherryが挙げられるが、これらに限定されない。抗体コンジュゲートの内部移行を追跡するためのpH感受性色素または標識が特に有利である。pH感受性色素の非限定的な例としては、pHが低下するにつれて消光される明るい蛍光を呈するフルオレセイン、および中性pHで極めて低い蛍光を示し、pHがより酸性になるにつれて増加する蛍光を示すpHrodo色素が挙げられる。
【0098】
検出可能な実体にコンジュゲートされた本発明の抗体コンジュゲートは、悪性T細胞のTRBCを決定するために使用され得る。
【0099】
本発明の抗体コンジュゲートは、これにコンジュゲートされた少なくとも1つの治療用分子または搭載物分子(検出実体を含む)を含み得る。本発明の抗体コンジュゲートは、任意の適切な数を含み得る。所望の治療効果を達成するために、本発明の抗体コンジュゲートは、すなわち、これにコンジュゲートされた1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、またはそれを超える搭載物分子を含み得る。
【0100】
2.3.コンジュゲーション化学
本発明の抗体コンジュゲートは、コンジュゲーションまたは化学リンカーを介して化学療法実体、放射性核種または検出実体に結合される抗体を含む。
【0101】
抗体への搭載物の「伝統的な」化学的コンジュゲーションは、溶媒に露出したリジン残基を通じて(スクシンイミドエステル誘導体化を介して)、または鎖間システイン残基を介して(マレイミド化学)起こる。あるいは、抗体への細胞傷害剤の付着部位が正確に定義されている部位特異的コンジュゲーションを得るための様々なアプローチが開発されている。これらの技術は以下の通りである:(a)抗体の重鎖のみで部位特異的コンジュゲーションを可能にするTHIOMABなどの操作されたシステインを適用する;(b)p-アセチルフェニルアラニンまたはセレノシステインをIgG1中に組み込むなど、変異誘発を通じて非天然アミノ酸をタンパク質および抗体に導入する;(c)抗体の部位特異的官能化を形成するために、操作されたグリコトランスフェラーゼ、トランスグルタミナーゼ、トランスペプチダーゼソルターゼまたはホルミルグリシン生成酵素を使用するなど、部位特異的コンジュゲーションを生成するために酵素的方法および化学酵素的方法を使用する;(d)チューブリンタグ標識戦略を使用する。
【0102】
抗体が完全抗体またはモノクローナル抗体である場合、搭載物は、抗体のFc領域中の特定のKabat位置でシステインなどのアミノ酸の側鎖に化学的にコンジュゲートされ得る。部位特異的コンジュゲーションに適したFc領域上の位置は、当技術分野で周知である。あるいは、搭載物は、ヒンジおよび重軽鎖におけるチオール-マレイミド結合を介して抗体にコンジュゲートされ得る。
【0103】
化学リンカーは、全身循環において十分に安定でなければならず、癌細胞内での抗体コンジュゲートの内部移行時に細胞傷害剤を迅速かつ効率的に放出することができなければならない。薬物放出機構によれば、抗体コンジュゲートのためのリンカーは、一般に、切断可能なリンカー(酸不安定性リンカー、プロテアーゼ切断性リンカーおよびジスルフィドリンカー)および非切断性リンカーに分類される(表3)。非切断性リンカーを有する抗体コンジュゲートは、細胞傷害剤を放出するために抗体のリソソーム分解を必要とするが、切断可能なリンカーを有する抗体コンジュゲートは、抗体コンジュゲートが曝される生理学的環境に基づいて細胞傷害性薬物を選択的に放出するために加水分解、酵素反応または還元を伴う。
【表3】
【0104】
3つの主要なタイプの切断可能なリンカー:酸切断可能なリンカー、プロテアーゼ切断可能なリンカーおよびジスルフィドリンカーがADCにおいてしばしば使用される。ヒドラジンリンカー(AcBut)などの酸切断性リンカーは、循環の中性pHで安定であるが、低pH環境を有するリソソーム内で加水分解されることができるように設計されている。プロテアーゼ切断可能なリンカーはまた、抗体コンジュゲートを全身循環において無傷に保ち、癌細胞内のリソソーム酵素による抗体コンジュゲートからの細胞傷害性薬物の容易な放出を可能にするために使用される。例えば、バリン-シトルリン(Val-Cit)およびフェニルアラニン-リジン(Phe-Lys)は、抗体コンジュゲートに優れた安定性およびPK/PDプロファイルを与える。さらに、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ペンタノアート(SPP)およびN-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ブタノアート(SPDB)などのジスルフィドリンカーとの抗体コンジュゲートは、高い細胞内濃度を有する還元型グルタチオンを利用して、細胞内に遊離薬物を放出する。還元可能なジスルフィドリンカーとの抗体コンジュゲートは、隣接する細胞に拡散し、不均一な腫瘍を死滅させるのに有利であるバイスタンダー死滅を誘発することができる非荷電代謝産物を生成する。
【0105】
非切断性の非限定的な例としては、チオエーテルリンカー(N-スクシンイミジル-4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシラート[MCC])が挙げられる。
【0106】
他のリンカーとしては、β-グルクロニドリンカー、Sulfo-SPDBおよびMal-PEG4-NHSなどの親水性リンカーが挙げられる。
【0107】
3.薬学的組成物
別の局面では、本発明はまた、本発明の抗体コンジュゲートを含有する薬学的組成物、以下「本発明の薬学的組成物」に関する。
【0108】
薬学的組成物は、薬学的に許容され得るキャリア、希釈剤、賦形剤または補助剤をさらに含み得る。薬学的組成物は、必要に応じて、1またはそれを超えるさらなる薬学的に活性なポリペプチドおよび/または化合物を含み得る。このような製剤は、例えば、静脈内注入に適した形態であり得る。
【0109】
「本発明の抗体コンジュゲート」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、その特徴および態様は、本発明のこの局面に対しても等しく適用される。
【0110】
投与
本発明の抗体コンジュゲートの投与は、活性成分を生物学的に利用可能にする様々な経路のいずれをも使用して達成することができる。例えば、作用物質は、経口および非経口経路、腹腔内、静脈内、皮下、経皮、筋肉内、例えばカテーテルまたはステントによる局所送達を介して投与することができる。
【0111】
代表的には、医師は、個々の対象に最も適した実際の投与量を決定し、実際の投与量は特定の患者の年齢、体重および応答によって変化する。投与量は、悪性クローン性T細胞の数を低下または枯渇させるのに十分であるようなものである。
【0112】
4.処置の方法
別の局面では、本発明は、医薬において使用するための本発明の抗体コンジュゲートを提供する。
【0113】
別の局面では、本発明は、対象におけるT細胞リンパ腫または白血病を処置するための方法であって、本発明の抗体コンジュゲートを投与することを必要とする対象に本発明の抗体コンジュゲートを投与する工程を含む、方法、以下「本発明の処置の方法」を提供する。投与工程は、上記の薬学的組成物の形態であり得る。
【0114】
本発明のこの局面は、代替的に、T細胞リンパ腫または白血病の処置において使用するための本発明の抗体コンジュゲート、以下「本発明の使用のための抗体コンジュゲート」として製剤化され得る。
【0115】
本発明のこの局面は、代替的に、T細胞リンパ腫または白血病を処置するための医薬の製造における本発明の抗体コンジュゲートの使用として製剤化され得る。
【0116】
「本発明の抗体コンジュゲート」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、その特徴および態様は、本発明のこれらの局面に対しても等しく適用される。
【0117】
T細胞リンパ腫および/または白血病を処置するための方法は、疾患に関連する少なくとも1つの症候を軽減、低減もしくは改善するために、および/または疾患の進行を減速、低減もしくは遮断するために、既存のT細胞リンパ腫および/または白血病を有する対象に投与され得る本発明の抗体コンジュゲートの治療的使用に関する。
【0118】
T細胞リンパ腫および/または白血病を予防するための方法は、本発明の抗体コンジュゲートの予防的使用に関する。本明細書では、このような抗体コンジュゲートは、疾患の原因を抑制するもしくは減じるために、または疾患に関連する少なくとも1つの症候の発生を軽減もしくは予防するために、T細胞リンパ腫および/もしくは白血病にまだ罹患していない対象ならびに/またはT細胞リンパ腫および/もしくは白血病の任意の症候を示していない対象に投与され得る。対象は、T細胞リンパ腫および/または白血病に対する素因を有し得るか、またはT細胞リンパ腫および/または白血病を発症するリスクがあると考えられ得る。
【0119】
これらの治療用途は、治療有効量の本発明の抗体コンジュゲートの投与を含む。
【0120】
対象におけるT細胞リンパ腫または白血病の処置は、悪性T細胞と同じTRBCを発現する正常T細胞と一緒に、悪性T細胞の選択的枯渇を引き起こすが、悪性T細胞によって発現されないTRBCを発現する正常T細胞の枯渇を引き起こさないようにするために、対象に抗体コンジュゲートを投与する工程を含み得る。
【0121】
本発明の文脈で使用される「対象」または「個体」という用語は、哺乳動物種のメンバー、好ましくは任意の年齢または人種の男性または女性のヒトを指す。
【0122】
前記方法は、対象由来の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定するために、対象由来の悪性T細胞のTCRβ鎖定常領域(TCRB)を調べる工程も含み得る。この情報は、投与されるべき抗体コンジュゲートの適切なTRBC選択性について医療従事者を支援する。
【0123】
本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、T細胞リンパ腫および/または白血病の1またはそれを超える症候の認識可能な予防、治癒、遅延、重症度の低下または改善を達成するために必要とされる本発明の抗体コンジュゲートの量を指す。
【0124】
本発明の方法は、T細胞を処置するために使用され得る。「リンパ腫」は、代表的にはリンパ節において発生するが、脾臓、骨髄、血液および他の器官にも影響を及ぼし得る癌を指すために、その標準的な意味に従って本明細書で使用される。リンパ腫は、代表的にはリンパ系細胞の固形腫瘍として現れる。リンパ腫に関連する主な症候はリンパ節腫脹であるが、二次的(B)症候には、発熱、寝汗、体重減少、食欲不振、疲労、呼吸窮迫およびかゆみが含まれ得る。
【0125】
本発明の方法は、T細胞白血病を処置するために使用され得る。「白血病」は、血液または骨髄の癌を指すためにその標準的な意味に従って本明細書で使用される。
【0126】
以下は、本発明の方法によって処置され得る疾患の例示的で非網羅的なリストである。
【0127】
末梢性T細胞リンパ腫
末梢性T細胞リンパ腫は比較的まれなリンパ腫であり、全非ホジキンリンパ腫(NHL)の10%未満を占める。しかしながら、末梢性T細胞リンパ腫には侵襲性の臨床経過を伴い、ほとんどのT細胞リンパ腫の原因および正確な細胞起源はまだ明確に定義されていない。
【0128】
リンパ腫は通常、最初に頸部、脇の下または鼠径部の腫脹として現れる。脾臓などの他のリンパ節が位置する場合、さらなる腫脹が起こり得る。一般に、拡大したリンパ節は、血管、神経または胃の空間に侵入し、それぞれ腕および脚の腫れ、刺痛およびしびれ、または満腹感をもたらし得る。リンパ腫の症候には、発熱、悪寒、原因不明の体重減少、寝汗、嗜眠およびかゆみなどの非特異的な症候も含まれる。
【0129】
末梢性T細胞リンパ腫についての予後予測的および治療的に意味のある分類を描写するために、WHO分類は、臨床的側面およびいくつかの例では遺伝学と併せて形態学的および免疫表現型の特徴を利用する(Swerdlowら;WHO classification of tumours of haematopoietic and lymphoid tissues.4th ed.;Lyon:IARC Press;2008)。新生物性T細胞の解剖学的局在は、それらの提案されている正常細胞対応物および機能に部分的に類似しており、したがって、T細胞リンパ腫はリンパ節および末梢血に関連する。このアプローチは、T細胞リンパ腫の細胞分布、形態のいくつかの側面、さらには関連する臨床所見を含む、T細胞リンパ腫の所見のいくつかのより良い理解を可能にする。
【0130】
T細胞リンパ腫の最も一般的なものは、全体の25%を占める末梢性T細胞リンパ腫、非特定型(PTCL-NOS)であり、これに血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)が続く(18.5%)。
【0131】
末梢性T細胞リンパ腫、非特定型(PTCL-NOS)
PTCL-NOSは、全末梢性T細胞リンパ腫およびNK/T細胞リンパ腫の25%超を占め、最も一般的なサブタイプである。PTCL-NOSは、除外診断によって決定され、現行のWHO2008に列挙されている特定の成熟T細胞リンパ腫実体のいずれにも対応しない。したがって、PTCL-NOSは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、非特定型(DLBCL-NOS)に類似している。
【0132】
ほとんどの患者は成人であり、年齢の中央値が60歳、男女比が2:1である。症例の大部分はリンパ節起源であるが、患者の約13%ではリンパ節外性症状は発生し、最も一般的には皮膚および消化管に転移する。
【0133】
細胞学的スペクトルは非常に広く、多形性から単形性に及ぶ。リンパ上皮様(レンネルト)変異型、Tゾーン変異型および濾胞性変異型を含む3つの形態学的に定義された変異型が記載されている。PTCLのリンパ上皮様変異型は、豊富な背景上皮様組織球を含有し、一般にCD8陽性である。PTCLのリンパ上皮様変異型は、より良好な予後と関連している。PTCL-NOSの濾胞性変異型は、潜在的に異なる臨床病理学的実体として浮上している。
【0134】
PTCL-NOSの大部分は成熟T細胞表現型を有し、ほとんどの場合CD4陽性である。症例の75%は、少なくとも1つの汎T細胞マーカー(CD3、CD2、CD5またはCD7)の可変的な喪失を示し、CD7およびCD5はほとんどの場合下方制御されている。CD30およびまれにCD15が発現されることがあり、CD15は有害な予後特徴である。CD56発現も、まれではあるが、負の予後影響を有する。さらなる有害な病理学的予後因子には、KI-67発現に基づく25%を超える増殖率、および70%を超える形質転換された細胞の存在が含まれる。これらのリンパ腫の免疫表現型分析は、これらのリンパ腫の生物学への洞察をほとんど提供していない。
【0135】
血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)
AITLは、リンパ節を伴う多形性浸潤物、顕著な高内皮細静脈(HEV)および濾胞樹状細胞(FDC)網目構造の血管周囲の拡張を特徴とする全身性疾患である。AITLは、通常は胚中心に見られる濾胞性ヘルパー型(TFH)のαβT細胞に由来するデノボT細胞リンパ腫と考えられる。
【0136】
AITLは、末梢性T細胞リンパ腫およびNK/T細胞リンパ腫の中で2番目に一般的な実体であり、症例の約18.5%を占める。AITLは、中年から高齢成人に発生し、年齢の中央値は65歳であり、男性と女性でほぼ等しい発生率である。臨床的には、患者は通常、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫および顕著な全身症候を伴う進行期疾患を有する。掻痒を伴う皮疹が一般的に存在する。自己免疫現象に関連する多クローン性高ガンマグロブリン血症がしばしば存在する。
【0137】
AITLには、3つの異なる形態学的パターンが記載されている。AITLの初期病変(パターンI)は、通常、特徴的な過形成性濾胞を有する保存された構造を示す。新生物の増殖は、濾胞の周囲に局在する。パターンIIでは、結節構造が部分的に消失し、退縮した濾胞の保持はほとんどない。辺縁洞は保存され、拡張されさえする。傍皮質は、分岐するHEVを含有し、B細胞濾胞を超えるFDCの増殖が存在する。新生物細胞は、サイズが小~中程度であり、細胞学的非定型性は最小限である。新生物細胞は、多くの場合、透明から淡色の細胞質を有し、明確なT細胞膜を示し得る。多形性炎症性背景が、通常、明白である。
【0138】
AITLはT細胞悪性腫瘍であるが、B細胞および形質細胞の特徴的な拡大増殖が存在し、これはTFH細胞としての新生物細胞の機能を反映している可能性がある。EBV陽性およびEBV陰性B細胞の両方が存在する。時折、非定型的なB細胞は形態学的および免疫表現型的にホジキン/リード-シュテルンベルク様細胞に類似することがあり得、時折、その実体との診断的混同をもたらす。AITLにおけるB細胞増殖は広範であり得、一部の患者は続発性EBV陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)または-よりまれに-EBV陰性B細胞腫瘍を発症し、しばしば形質細胞性分化を伴う。
【0139】
AITLの新生物性CD4陽性T細胞は、CD10およびCD279(PD-1)の強い発現を示し、CXCL13について陽性である。CXCL13は、HEVへの付着を介したリンパ節への増加したB細胞動員、B細胞活性化、形質細胞分化およびFDC網目構造の拡大をもたらし、これらはすべてAITLの形態的および臨床的特徴に寄与する。濾胞周囲腫瘍細胞における著しいPD-1発現は、AITLパターンIを反応性の濾胞性および傍皮質過形成と区別するのに特に有用である。
【0140】
PTCL-NOSの濾胞性変異型は、TFH表現型を有する別の実体である。AITLとは対照的に、PTCL-NOSの濾胞性変異型は、顕著なHEVまたはFDC網目構造の濾胞外拡大を有しない。新生物細胞は濾胞内凝集物を形成し、B細胞濾胞性リンパ腫に似た症状を示し得るが、濾胞間増殖パターンを有することもあり得、または拡大した外套帯を伴うこともあり得る。患者は部分的なリンパ節転移を伴う早期疾患を呈することがより多く、AITLに伴う全身症候を欠如することがあるので、臨床的には、PTCL-NOSの濾胞性変異型は、AITLとは異なる。
【0141】
未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)
ALCLは、ALCL-未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)+またはALCL-ALK-として細分され得る。
【0142】
ALCL-ALK+は、末梢性T細胞リンパ腫の中で最も明確な実体の1つであり、馬蹄形の核を有し、ALKおよびCD30を発現する特徴的な「ホールマーク細胞」を有する。ALCL-ALK+は、すべての末梢性T細胞およびNK細胞リンパ腫の約7%を占め、人生の最初の30年間において最も一般的である。患者はしばしばリンパ節腫脹を呈するが、リンパ節外部位(皮膚、骨、軟組織、肺、肝臓)の転移およびB症候が一般的である。
【0143】
ALCL、ALK+は、5つの異なるパターンが記載されている幅広い形態的スペクトルを示すが、すべての変異型はいくつかのホールマーク細胞を含有する。ホールマーク細胞は、偏心性馬蹄形または腎臓形の核、および顕著な核周囲好酸球性ゴルジ領域を有する。腫瘍細胞は、接着性パターンで増殖し、副鼻腔転移が起こりやすい。小細胞変異型では、より小さい腫瘍細胞が支配的であり、リンパ組織球変異型では、豊富な組織球が、その多くは小さい腫瘍細胞の存在を覆い隠す。
【0144】
定義により、すべての症例がALKおよびCD30陽性を示し、発現は通常、より小さい腫瘍細胞においてより弱い。汎T細胞マーカーの喪失がしばしば存在し、症例の75%はCD3の表面発現を欠いている。
【0145】
ALK発現は、キメラタンパク質の発現をもたらす、染色体2p23上のALK遺伝子の多くのパートナー遺伝子の1つへの再構成からなる特徴的な反復性遺伝子変化の結果である。最も一般的なパートナー遺伝子は、症例の75%で生じる、染色体5q35上のヌクレオフォスミン(NPM1)であり、t(2;5)(p23;q35)をもたらす。異なる転座変異型におけるALKの細胞分布は、パートナー遺伝子に応じて変動し得る。
【0146】
ALCL-ALK-は、2008年のWHO分類に暫定カテゴリーとして含まれる。ALCL-ALK-は、接着性増殖パターンおよびホールマーク細胞の存在を有するが、ALKタンパク質発現を欠き、形態的にはALCL-ALK+と区別できないCD30陽性T細胞リンパ腫として定義される。
【0147】
小児および若年成人でより一般的であるALCL-ALK+とは対照的に、患者は通常40歳~65歳の成人である。ALCL-ALK-は、リンパ節およびリンパ節外組織の両方に存在し得るが、後者はALCL-ALK+におけるより一般的には見られない。ALCL-ALK-のほとんどの症例は、典型的な「ホールマーク」特徴を有する接着性新生物細胞のシートによるリンパ節構造の消失を示す。ALCL-ALK+とは対照的に、小細胞形態の変異型は認められない。
【0148】
ALCLのALK+対応物とは異なり、ALCL-ALK-は表面T細胞マーカー発現のより大きな保存を示すが、細胞傷害性マーカーおよび上皮膜抗原(EMA)の発現は起こりにくい。遺伝子発現シグネチャおよび反復性染色体不均衡は、ALCL-ALK-およびALCL-ALK+において異なり、それらが分子レベルおよび遺伝子レベルで別個の実体であることが確認される。
【0149】
ALCL-ALK-は、ALCL-ALK+およびPTCL-NOSの両方と臨床的に異なり、これらの3つの異なる実体間で予後に著しい差がある。ALCL-ALK-の5年全生存率は49%と報告されており、これはALCL-ALK+の5年全生存率(70%)ほど良好ではないが、同時にPTCL-NOSの5年全生存率(32%)より著しく良好である。
【0150】
腸症関連T細胞リンパ腫(EATL)
EATLは、腸の上皮内T細胞に由来すると考えられる侵襲性の新生物である。I型(EATLの大部分に相当する)およびII型(症例の10~20%を占める)という形態学的、免疫組織化学的および遺伝学的に異なる2つのタイプのEATLが2008年WHO分類で認識されている。
【0151】
I型EATLは、通常、明白なまたは臨床的に無症候性のグルテン過敏性腸症に関連し、北ヨーロッパ血統の患者の集団でのセリアック病の有病率が高いために、北ヨーロッパ血統の患者においてより多く見られる。
【0152】
最も一般的には、EATLの病変は空腸または回腸に見られ(症例の90%)、十二指腸、結腸、胃または胃腸管の外側の領域にまれに現れる。腸病変は通常、粘膜潰瘍を伴う多巣性である。EATLの臨床経過は侵襲性であり、ほとんどの患者は1年以内に疾患または疾患の合併症で死亡する。
【0153】
EATL I型の細胞学的スペクトルは広く、いくつかの症例は未分化細胞を含有し得る。いくつかの症例で新生物成分を目立たなくし得る多形性の炎症性背景が存在する。腫瘍に隣接する領域中の腸粘膜は、絨毛の鈍化および病変前駆細胞に相当し得る上皮内リンパ球(IEL)の数の増加を伴うセリアック病の特徴をしばしば示す。
【0154】
免疫組織化学により、新生物細胞は、しばしばCD3+CD4-CD8-CD7+CD5-CD56-βF1+であり、細胞傷害性顆粒関連タンパク質(TIA-1、グランザイムB、パーフォリン)を含有する。CD30は、ほとんどすべての症例において部分的に発現される。EATLにおいては、粘膜のホーミング受容体であるCD103が発現され得る。
【0155】
単形性CD56+腸T細胞リンパ腫とも呼ばれるII型EATLは、CD8およびCD56の両方を発現する小型から中型の単形性T細胞から構成される腸腫瘍として定義される。粘膜内での腫瘍の側方への広がりが存在し、炎症性背景が存在しないことが多い。大半の症例はγδTCRを発現するが、αβTCRに関連する症例が存在する。
【0156】
II型EATLはI型EATLより世界的に広く分布しており、セリアック病がまれであるアジア人またはラテンアメリカ人集団にしばしば見られる。ヨーロッパ系EATLの個体では、IIは腸T細胞リンパ腫の約20%に相当し、症例の少なくとも一部集団にはセリアック病の病歴が存在する。臨床経過は侵襲性である。
【0157】
肝脾T細胞リンパ腫(HSTL)
HSTLは、一般に自然免疫系のγδ細胞傷害性T細胞に由来する侵襲性の全身性新生物であるが、まれな症例ではαβT細胞にも由来し得る。HSTLは、最もまれなT細胞リンパ腫の1つであり、代表的には、青年および若年成人(年齢中央値35歳)が罹患し、強い男性優位性を有する。
【0158】
節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型
節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻型は侵襲性疾患であり、しばしば破壊性正中線病変および壊死を伴う。ほとんどの症例は、NK細胞由来であるが、いくつかの症例は、細胞傷害性T細胞に由来する。節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻型は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)と普遍的に関連している。
【0159】
皮膚T細胞リンパ腫
本発明の方法はまた、皮膚T細胞リンパ腫を処置するために使用され得る。
【0160】
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)は、様々な病変を出現させる悪性T細胞の皮膚への遊走を特徴とする。これらの病変は、疾患が進行するにつれて形状を変化させ、代表的には、発疹のように見えるものとして始まり、最終的には、身体の他の部分に転移する前に斑および腫瘍を形成する。
【0161】
皮膚T細胞リンパ腫には、以下の例示的な非網羅的リストで言及されるものが含まれる。菌状息肉症、パジェット様細網症、セザリー症候群、肉芽腫様弛緩皮膚、リンパ腫様丘疹症、慢性苔癬状粃糠疹、CD30+皮膚T細胞リンパ腫、続発性皮膚CD30+大細胞型リンパ腫、非菌状息肉症CD30-皮膚大細胞型T細胞リンパ腫、多形性T細胞リンパ腫、レンネルトリンパ腫、皮下T細胞リンパ腫および血管中心性リンパ腫。
【0162】
CTCLの徴候および症候は特定の疾患に応じて異なり、そのうちの2つの最も一般的なタイプは菌状息肉症およびセザリー症候群である。古典的菌状息肉症は3つの段階に分けられる。
-紅斑(萎縮性または非萎縮性):非特異性皮膚炎、体幹下部および臀部の紅斑;掻痒症が最小/無し;
-局面:強度に掻痒性の局面、リンパ節腫脹;および
腫瘍:潰瘍形成傾向
【0163】
セザリー症候群は、紅皮症および白血病によって定義される。徴候および症候には、浮腫性皮膚、リンパ節腫脹、手掌および/または足底の過角化症、脱毛症、爪ジストロフィー、眼瞼外反および肝脾腫が含まれる。
【0164】
すべての原発性皮膚リンパ腫のうち、65%がT細胞型である。最も一般的な免疫表現型はCD4陽性である。皮膚T細胞リンパ腫という用語は多種多様な障害を包含するので、これらの疾患に共通の病態生理は存在しない。
【0165】
皮膚T細胞リンパ腫(すなわち、菌状息肉症)の発症の主要な病因機構は解明されていない。菌状息肉症に先行して、T細胞媒介性慢性炎症性皮膚疾患が起こり得、時折、致死性リンパ腫に進行し得る。
【0166】
原発性皮膚ALCL(C-ALCL)
C-ALCLは、しばしば、形態によってはALC-ALK-と区別できない。C-ALCLは、75%を超える細胞がCD30を発現する未分化、多形性または免疫芽球性の形態を有する大きな細胞の皮膚腫瘍として定義される。C-ALCLは、リンパ腫様丘疹症(LyP)と共に、一群として菌状息肉症後の皮膚T細胞リンパ増殖の2番目に一般的な群を構成する、原発性皮膚CD30陽性T細胞リンパ増殖性障害の範囲に属する。
【0167】
免疫組織化学的染色プロファイルは、ALCL-ALK-に非常に類似しており、細胞傷害性マーカーについて陽性に染色する症例の割合がより高い。腫瘍細胞の少なくとも75%がCD30に対して陽性のはずである。CD15も発現され得、リンパ節転移が起こる場合には、古典的ホジキンリンパ腫との識別は困難であり得る。ALCL-ALK+のまれな症例は、局所的な皮膚病変を呈し得、C-ALCLに類似し得る。
【0168】
T細胞急性リンパ芽性白血病
T細胞急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)は、それぞれ小児コホートおよび成人コホートにおいてALLの約15%および25%を占める。患者は、通常、高い白血球数を有し、臓器肥大、特に縦隔腫大およびCNS浸潤を呈し得る。
【0169】
本発明の方法は、TRBCを含むTCRを発現する悪性T細胞に関連するT-ALLを処置するために使用され得る。
【0170】
T細胞性前リンパ球性白血病
T細胞性前リンパ球性白血病(T-PLL)は、侵襲性の挙動を有し、血液、骨髄、リンパ節、肝臓、脾臓および皮膚転移の傾向を有する成熟T細胞白血病である。T-PLLは主に30歳以上の成人に発症する。他の名称としては、T細胞慢性リンパ球性白血病、T細胞白血病の「こぶ状」型およびT前リンパ球性白血病/T細胞リンパ球性白血病が挙げられる。
【0171】
末梢血では、T-PLLは、単一の核を有する中サイズのリンパ球と、時折小疱または突起を有する好塩基性細胞質とからなる。核は、通常、円形から楕円形の形状であり、時折、患者は、セザリー症候群で見られる脳回状の核形状に類似するより不規則な核の輪郭を有する細胞を有する。小細胞変異型はすべてのT-PLL症例の20%を構成し、セザリー細胞様(脳回状)変異型は症例の5%に見られる。
【0172】
T-PLLは、成熟(胸腺後)Tリンパ球の免疫表現型を有し、新生物細胞は、代表的には、汎-T抗原CD2、CD3およびCD7について陽性であり、TdTおよびCD1aについて陰性である。免疫表現型CD4+/CD8-は症例の60%に存在し、CD4+/CD8+免疫表現型は25%に存在し、CD4-/CD8+免疫表現型は症例の15%に存在する。
【0173】
処置または予防されるべきT細胞リンパ腫または白血病は、末梢性T細胞リンパ腫、非特定型(PTCL-NOS);血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、腸症関連T細胞リンパ腫(EATL)、肝脾T細胞リンパ腫(HSTL)、節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型、皮膚T細胞リンパ腫、原発性皮膚ALCL、T細胞性前リンパ球性白血病およびT細胞急性リンパ芽球性白血病から選択され得る。
【0174】
処置の方法は、本発明の抗体コンジュゲートを投与する工程を含み得る。当業者は、患者に対して治療効果を発揮することができる本発明の抗体コンジュゲートの量を従来の方法によって決定することができるであろう。
【0175】
別の局面において、本発明は、対象中のTRBCを発現する細胞への化学療法実体、放射性核種または検出実体の送達を標的とするための方法における使用のための本発明の抗体コンジュゲートに関する。
【0176】
「本発明の抗体コンジュゲート」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、その特徴および態様は、本発明のこの局面に対しても等しく適用される。
【0177】
5.個別化された医療の方法
T細胞悪性腫瘍はクローン性であるので、すべての悪性細胞はすべてTRBC1またはTRBC2のいずれかを発現する。本発明者らは以前に、TRBC1またはTRBC2のいずれかを標的とする免疫療法がT細胞リンパ腫を処置する能力を提供する一方で、許容され得る毒性プロファイルを潜在的に提供することを実証した(Maciociaら、2017,Nat Med 23:1416-23;国際公開第2015/132598号)。本発明はまた、本発明の抗体コンジュゲートによる処置に適したT細胞リンパ腫または白血病を有する対象を同定するための方法であって、対象からのT細胞を含む試料中のTRBC1陽性またはTRBC2陽性T細胞の割合を決定することを含む方法を提供する。
【0178】
したがって、別の局面において、本発明は、T細胞リンパ腫または白血病に罹患している対象を処置するための適切な療法を選択するための方法であって、
i)前記対象から単離された試料中の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定することと;
ii)前記悪性T細胞の前記TRBC1またはTRBC2発現に基づいて、本発明による使用のための抗体コンジュゲートを選択することと;
を含む、方法、以下「本発明の個別化された医療の第1の方法」に関する。
【0179】
「本発明の抗体コンジュゲート」および「対象」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、それらの特徴および態様は、本発明のこの局面に対しても等しく適用される。
【0180】
本発明の個別化された医療の第1の方法では、試料中のTRBC1陽性T細胞の割合が70%、または75%、または80%、または85%、または90%、または95%、または96%、または97%、または98%、または99%、またはそれを超える場合に、対象は、TRBC1に対して特異的な本発明による使用のためのコンジュゲート化抗体に基づく療法を受けるのに適している。同様に、試料中のTRBC2陽性T細胞の割合が70%、または75%、または80%、または85%、または90%、または95%、または96%、または97%、または98%、または99%、またはそれを超える場合に、対象は、TRBC2に対して特異的な本発明の抗体コンジュゲートでの前記処置に適している。
【0181】
別の局面において、本発明は、本発明による使用のための抗体コンジュゲートを含む療法を受けるために、T細胞リンパ腫または白血病に罹患している対象を選択するための方法であって、
i)前記対象から単離された試料中の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定することと;
ii)前記悪性T細胞の前記TRBC1またはTRBC2発現に基づいて、本発明による使用のための抗体コンジュゲートに基づく療法を受けるために前記対象を選択することと;
を含む、方法、以下「本発明の個別化された医療の第2の方法」に関する。
【0182】
「本発明の抗体コンジュゲート」および「対象」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、それらの特徴および態様は、本発明のこの局面に対しても等しく適用される。
【0183】
本発明の個別化された医療の第2の方法では、試料中のTRBC1陽性T細胞の割合が70%、または75%、または80%、または85%、または90%、または95%、または96%、または97%、または98%、または99%、またはそれを超える場合に、対象は、TRBC1に対して特異的な本発明による使用のためのコンジュゲート化抗体に基づく療法を受けるのに適している。同様に、試料中のTRBC2陽性T細胞の割合が70%、または75%、または80%、または85%、または90%、または95%、または96%、または97%、または98%、または99%、またはそれを超える場合に、対象は、TRBC2に対して特異的な本発明の抗体コンジュゲートでの前記処置に適している。
【0184】
本発明の個別化された医療の第1および第2の方法では、生物学的試料などのT細胞を含む試料は、試験される対象から取得される。本明細書で使用される「試料」または「生物学的試料」という用語は、T細胞を含む罹患した器官の異なる種類の生物学的流体または組織の切片を含む。本発明の診断方法において有用な試料の例示的な非限定的な例には、血液、リンパ液および脊髄液などの、T細胞を含む様々な種類の生物学的流体が含まれる。これらの生物学的流体試料は、当業者に公知の任意の従来の方法によって取得することができる。あるいは、前記試料はまた、例えば生検または外科的切除による任意の従来の方法による他、組織学的目的のために採取された凍結切片から得ることができる、例えばリンパ腺、脾臓、扁桃または胸腺からの罹患器官組織試料の切片であり得る。
【0185】
試料は、血液試料であり得、または血液試料に由来し得る。
【0186】
対象から単離された試料中の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定する第1の工程(i)は、本発明の第1の局面に記載されているものなどの抗TRBC1および/または抗TRBC2抗体を使用して実施され得る。この第1の工程は、T細胞の総数を決定するために、OKT3などの抗CD3抗体を使用し得る。
【0187】
悪性T細胞が従来のTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定するために利用可能ないくつかの免疫学的方法が存在する。非限定的な例としては、免疫組織化学およびフローサイトメトリが挙げられる。
【0188】
T細胞リンパ腫または白血病は、末梢性T細胞リンパ腫、非特定型(PTCL-NOS);血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、腸症関連T細胞リンパ腫(EATL)、肝脾T細胞リンパ腫(HSTL)、節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型、皮膚T細胞リンパ腫、原発性皮膚ALCL、T細胞性前リンパ球性白血病およびT細胞急性リンパ芽球性白血病から選択され得る。
【0189】
6.本発明の他の局面
6.1.TRBC1特異的抗体
さらなる局面において、本発明は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、VHドメイン中に以下の変異の組み合わせ:
-VHドメイン中のG106A;
-VHドメイン中のY102M;
-VHドメイン中のG26PおよびT28K;ならびに
-VHドメイン中のG31S
の1つを含む、TRBC1に特異的に結合する抗体、以下「本発明のTRBC1特異的抗体」を提供する。
【0190】
TRBC2に対して特異的である本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、以下の変異:
-VHドメイン中のG106A;
-VHドメイン中のY102M;
-VHドメイン中のG26PおよびT28K;および
-VHドメイン中のG31S
と共に、配列番号1に示される配列を有するVHドメインおよび配列番号2に示される配列を有するVLドメインからなり得る。
【0191】
「抗体」という用語は、本発明の第1の局面との関連で詳細に記載されており、その特徴および態様は、本発明のこの局面に対しても等しく適用される。
【0192】
本発明の抗体は、TRBC1に特異的に結合する能力を維持する抗体断片であり得る。抗体断片は、scFvまたはFabなどの抗原結合ドメインであり得る。
【0193】
6.2.TRBC2特異的抗体
さらなる局面において、本発明は、配列番号1に示される配列を有するVHドメインと配列番号2に示される配列を有するVLドメインとを有する参照抗体と比較して、VHドメイン中に以下の変異:
-VHドメイン中のT28R、Y32FおよびA100N
の1つを含む、TRBC1に特異的に結合する抗体、以下「本発明のTRBC2特異的抗体」を提供する。
【0194】
TRBC2に対して特異的である本発明の抗体コンジュゲートにおいて使用するための抗体は、以下の変異:
-VHドメイン中のT28R、Y32FおよびA100N
と共に、配列番号1に示される配列を有するVHドメインおよび配列番号2に示される配列を有するVLドメインからなり得る。
【0195】
「抗体」という用語は、本発明の第1の局面との関連で詳細に記載されており、その特徴および態様は、本発明のこの局面に対しても等しく適用される。
【0196】
本発明の抗体は、TRBC1に特異的に結合する能力を維持する抗体断片であり得る。抗体断片は、scFvまたはFabなどの抗原結合ドメインであり得る。
【0197】
6.2.キメラ抗原受容体
別の局面では、本発明は、本発明のTRBC1特異的抗体または本発明のTRBC2特異的抗体、スペーサー、膜貫通ドメインおよびエンドドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)、以下「本発明のCAR」を提供する。
【0198】
「本発明のTRBC1特異的抗体」および「本発明のTRBC2特異的抗体」という用語は、前記局面において詳細に記載されており、それらの特徴および態様は本発明のこの局面に等しく適用される。
【0199】
本明細書で使用される「キメラ抗原受容体」または「CAR」または「キメラT細胞受容体」または「人工T細胞受容体」または「キメラ免疫受容体」という用語は、細胞外抗原認識ドメイン(結合剤)を細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)に接続するキメラI型膜貫通タンパク質を指す。結合剤は、代表的には、モノクローナル抗体(mAb)に由来する一本鎖可変断片(scFv)であるが、抗原結合部位を含む他のフォーマットに基づくことができる。結合剤を膜から分離し、結合剤に適切な配向を許容するために、スペーサードメインが通常必要である。使用される共通のスペーサードメインはIgG1のFcである。よりコンパクトなスペーサーは、抗原に応じて、例えばCD8αからのストーク、さらには単にIgG1ヒンジのみで十分であり得る。膜貫通ドメインは、タンパク質を細胞膜に固定し、スペーサーをエンドドメインに接続する。
【0200】
初期のCAR設計は、FcεR1のγ鎖またはCD3ζのいずれかの細胞内部分に由来するエンドドメインを有していた。その結果、これらの第一世代受容体は免疫学的シグナル1を伝達し、免疫学的シグナル1は、同族標的細胞のT細胞殺傷の引き金を引くのに十分であったが、増殖および生存するようにT細胞を完全に活性化することができなかった。この制限を克服するために、化合物エンドドメインが構築されている、すなわち、CD3ζの細胞内部分へのT細胞共刺激分子の細胞内部分の融合は、抗原認識後に同時に活性化シグナルおよび共刺激シグナルを伝達することができる第二世代受容体をもたらす。最も一般的に使用される共刺激ドメインはCD28の共刺激ドメインである。これは、最も強力な共刺激シグナル、すなわち免疫学的シグナル2を供給し、T細胞増殖の引き金を引く。生存シグナルを伝達する密接に関連するOX40および4-1BBなどのTNF受容体ファミリーエンドドメインを含むいくつかの受容体も記載されている。活性化、増殖および生存シグナルを伝達することができるエンドドメインを有する、さらにより強力な第3世代CARが現在記載されている。
【0201】
CARが標的抗原を結合すると、これは、標的抗原がその上に発現されているT細胞への活性化シグナルの伝達をもたらす。したがって、CARは、T細胞の特異性および細胞傷害性を、標的とされる抗原を発現する腫瘍細胞に向けさせる。
【0202】
したがって、CARは、代表的には、(i)抗原結合ドメイン;(ii)スペーサー;(iii)膜貫通ドメイン;および(iii)シグナル伝達ドメインを含むかまたはシグナル伝達ドメインと会合する細胞内ドメインを含む(図4参照)。
CARは、一般構造:
抗原結合ドメイン-スペーサードメイン-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)を有し得る。
【0203】
本発明のCARは、CARがT細胞などの細胞内で発現されたときに、新生タンパク質が小胞体に、続いて細胞表面に向けられ、細胞表面において発現されるように、シグナルペプチドを含み得る。
【0204】
シグナルペプチドのコアは、単一のαヘリックスを形成する傾向を有する疎水性アミノ酸の長い連なりを含有し得る。シグナルペプチドは、転位中にポリペプチドの適切なトポロジーを強化するのに役立つ短い正電荷を帯びたアミノ酸の連なりから始まり得る。シグナルペプチドの末端には、代表的には、シグナルペプチダーゼによって認識および切断されるアミノ酸の連なりが存在する。シグナルペプチダーゼは、転位の間または転位の完了後に切断して、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成し得る。次いで、遊離シグナルペプチドは特異的プロテアーゼによって消化される。
【0205】
シグナルペプチドは、分子のアミノ末端に存在し得る。
【0206】
シグナルペプチドは、配列番号3~5またはシグナルペプチドがタンパク質の細胞表面発現を引き起こすようになお機能することを条件として、5、4、3、2もしくは1個のアミノ酸変異(挿入、置換または付加)を有するその変異型を含み得る。
配列番号3:MGTSLLCWMALCLLGADHADG
【0207】
配列番号3のシグナルペプチドは、コンパクトで高度に効率的である。末端グリシンの後ろで約95%の切断を与え、シグナルペプチダーゼによる効率的な除去を与えると予測される。
配列番号4:MSLPVTALLLPLALLLHAARP
【0208】
配列番号4のシグナルペプチドは、IgG1に由来する。
配列番号5:MAVPTQVLGLLLLWLTDARC
【0209】
配列番号5のシグナルペプチドは、CD8に由来する。
【0210】
CARは、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインと連結し、抗原結合ドメインをエンドドメインから空間的に分離するためのスペーサー配列を含む。柔軟なスペーサーは、結合を促進するために抗原結合ドメインが異なる方向に配向することを可能にする。
【0211】
本発明のCARにおいて、スペーサー配列は、例えば、IgG1Fc領域、IgG1ヒンジまたはヒトCD8ストークまたはマウスCD8ストークを含み得る。あるいは、スペーサーは、IgG1Fc領域、IgG1ヒンジまたはCD8ストークと類似の長さおよび/またはドメイン間隔特性を有する代替のリンカー配列を含み得る。ヒトIgG1スペーサーは、Fc結合モチーフを除去するために変更され得る。スペーサーは、例えば国際公開第2016/151315号に記載されているように、コイルドコイルドメインを含み得る。
【0212】
本発明のCARは、配列番号6~10として示されている配列または少なくとも80%の配列同一性を有するその変異型から選択される配列を含み得る。
【化2-1】
【化2-2】
【0213】
COMPコイルドコイルドメインをN末端で切断し、表面発現を保持することが可能である。したがって、コイルドコイルCOMPスペーサーは、N末端で切断された配列番号18の切断された様式を含み得る、またはN末端で切断された配列番号18の切断された様式からなり得る。切断型COMPは、配列番号19の5個のC末端アミノ酸、すなわち配列CDACG(配列番号20)を含み得る。切断型COMPは、5~44個のアミノ酸、例えば、少なくとも5、10、15、20、25、30、35または40個のアミノ酸を含み得る。切断型COMPは、配列番号19のC末端に対応し得る。例えば、20個のアミノ酸を含む切断型COMPは、配列QQVREITFLKNTVMECDACG(配列番号21)を含み得る。切断型COMPは、多量体化に関与するシステイン残基を保持し得る。切断型COMPは、多量体を形成する能力を保持し得る。
【0214】
膜貫通ドメインは、膜にまたがるCARの配列である。
【0215】
膜貫通ドメインは、膜中で熱力学的に安定である任意のタンパク質構造であり得る。これは、代表的には、いくつかの疎水性残基から構成されるアルファヘリックスである。本発明の膜貫通部分を供給するために、任意の膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインを使用することができる。タンパク質の膜貫通ドメインの存在および全長は、当業者によって、TMHMMアルゴリズム(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)を使用して決定することができる。さらに、タンパク質の膜貫通ドメインが比較的単純な構造、すなわち、膜を貫通するのに十分な長さの疎水性アルファヘリックスを形成すると予測されるポリペプチド配列であることを考えると、人工的に設計されたTMドメインも使用され得る(米国特許第7052906 B1号は合成膜貫通成分を記載する)。
【0216】
膜貫通ドメインは、優れた受容体安定性を与えるCD28、CD8aまたはTYRP-1に由来し得る。
【0217】
一態様において、膜貫通ドメインはCD8aに由来する。
配列番号11:CD8a膜貫通ドメイン
IYIWAPLAGTCGVLLLSLVIT
【0218】
別の態様において、膜貫通ドメインは、TYRP-1に由来する。
配列番号12:TYRP-1膜貫通ドメイン
IIAIAVVGALLLVALIFGTASYLI
【0219】
エンドドメインは、CARのシグナル伝達部分である。抗原認識後、受容体はクラスタを形成し、天然状態のCD45およびCD148がシナプスから外され、シグナルが細胞に伝達される。最も一般的に使用されるエンドドメイン成分は、3つのITAMを含有するCD3ζのエンドドメイン成分である。これは、抗原が結合された後に活性化シグナルをT細胞に伝達する。CD3ζは、完全に能力を有する活性化シグナルを提供し得ず、さらなる共刺激シグナル伝達が必要とされ得る。共刺激ドメインの例としては、増殖/生存シグナルを伝達するためにCD3ζと共に使用することができる、CD28、OX40、4-1BB、CD27およびICOS由来のエンドドメインが挙げられる。
【0220】
一態様において、少なくとも1つの共刺激エンドドメインがCD3ζと共に使用される。特定の態様において、共刺激エンドドメインは、CD28、OX40、4-1BB、CD27およびICOS由来のエンドドメインからなる群から選択される。
【0221】
別の態様において、少なくとも2つの共刺激エンドドメインがCD3ζと共に使用される。特定の態様では、2つの共刺激エンドドメインは、任意の組み合わせおよび順序で、CD28、OX40、4-1BB、CD27およびICOS由来のエンドドメインからなる群から選択される。特に適切な組み合わせとしては、CD28およびCD3ζ由来のエンドドメイン、OX40およびCD3ζのエンドドメイン、4-1BBおよびCD3ζのエンドドメイン、CD28、OX40およびCD3ζ由来のエンドドメイン、ならびにCD28、4-1BBおよびCD3ζ由来のエンドドメインが挙げられる。
【0222】
活性化エンドドメインを有するCARの膜貫通および細胞内T細胞シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)は、配列番号13~18として示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその変異型を含み得る。
【化3-1】
【化3-2】
【0223】
配列が有効な膜貫通ドメインおよび有効な細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを提供する限り、変異型配列は、配列番号13~18と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有し得る。
【0224】
2つの抗体様結合ドメインを有するという基本概念に基づく多種多様な分子が開発されている。
【0225】
二重特異性T細胞誘導分子は、主に抗癌剤としての使用のために開発された二重特異性抗体型分子のクラスである。二重特異性T細胞誘導分子は、癌細胞などの標的細胞に対する宿主の免疫系、より具体的にはT細胞の細胞傷害活性を指示する。これらの分子では、一方の結合ドメインはCD3受容体を介してT細胞に結合し、他方は(腫瘍特異的分子を介して)腫瘍細胞などの標的細胞に結合する。二重特異性分子は、標的細胞およびT細胞の両方に結合するので、標的細胞をT細胞に近接させ、その結果、T細胞は、その効果、例えば、癌細胞に対する細胞傷害効果を発揮することができる。T細胞:二重特異性Ab:癌細胞複合体の形成は、T細胞におけるシグナル伝達を誘導し、例えば、細胞傷害性メディエータの放出をもたらす。理想的には、作用物質は、標的細胞の存在下で所望のシグナル伝達を誘導するのみであり、選択的死滅をもたらす。
【0226】
二重特異性T細胞誘導分子はいくつかの異なる形式で開発されているが、最も一般的なものの1つは、異なる抗体の2つの直列に配置された一本鎖可変断片(scFv)からなる融合物である。これらは、時にBiTE(Bi-specific T-cell Engagers(二重特異性T細胞誘導剤))として知られている。
【0227】
6.3.二重特異性T細胞誘導剤
本発明はまた、TRBC1を選択的に認識し、T細胞と誘導し、活性化することができる二重特異性分子を企図する。例えば、分子はBiTEであり得る。
【0228】
したがって、別の局面では、本発明は、本発明のTRBC1特異的抗体または本発明のTRBC2特異的抗体と、T細胞活性化ドメインとを含む二重特異性T細胞誘導剤(BiTE)、以下「本発明のBiTE」を提供する。
【0229】
「本発明のTRBC1特異的抗体」および「本発明のTRBC2特異的抗体」という用語は、前記局面において詳細に記載されており、それらの特徴および態様は本発明のこの局面に等しく適用される。
【0230】
本明細書で使用される「T細胞活性化ドメイン」という用語は、T細胞を活性化することができる第2のドメインを指す。T細胞活性化ドメインは、CD3に特異的に結合するscFvであり得る。本発明の目的に適した抗CD3 scFvの例は当技術分野で周知であり、OKT3に由来するscFvを含むが、これに限定されない。
【0231】
二重特異性分子は、その産生を助けるシグナルペプチドを含み得る。シグナルペプチドは、二重特異性分子を宿主細胞上清から採取することができるように、宿主細胞によって二重特異性分子が分泌されるようにさせ得る。
【0232】
シグナルペプチドは、分子のアミノ末端に存在し得る。二重特異性分子は、一般式:シグナルペプチド-本発明の変異型抗原結合ドメイン-T細胞活性化ドメインを有し得る。
【0233】
二重特異性分子は、本発明の変異型抗原結合ドメインとT細胞活性化ドメインとを接続し、2つのドメインを空間的に分離するためのスペーサー配列を含み得る。
【0234】
スペーサー配列は、例えば、IgG1ヒンジまたはCD8ストークを含み得る。あるいは、リンカーは、IgG1ヒンジまたはCD8ストークと類似の長さおよび/またはドメイン間隔特性を有する代替のリンカー配列を含み得る。
【0235】
6.4.核酸:
別の局面では、本発明はまた、本発明のTRBC1特異的抗体または本発明のTRBC2特異的抗体をコードする核酸配列を提供する。
【0236】
別の局面では、本発明はまた、本発明のCARをコードする核酸配列を提供する。
【0237】
別の局面では、本発明はまた、本発明のBiTEをコードする核酸配列を提供する。
【0238】
「本発明のTRBC1特異的抗体」、「本発明のTRBC2特異的抗体」、「本発明のCAR」および「本発明のBiTE」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、それらの特徴および態様は本発明のこれらの局面に等しく適用される。
【0239】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」および「核酸」という用語は、互いに同義であることを意図している。
【0240】
遺伝暗号の縮重の結果として、多数の異なるポリヌクレオチドおよび核酸が同じポリペプチドをコードし得ることが当業者によって理解されるであろう。さらに、ポリペプチドがその中で発現されるべき任意の特定の宿主生物のコドン使用を反映するために、当業者は、日常的な技術を使用して、本明細書に記載されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行い得ることを理解されたい。
【0241】
本発明の核酸配列および構築物は、相同組換えを回避するために、同じまたは類似のアミノ酸配列をコードする配列の領域中に代替コドンを含有し得る。
【0242】
本発明による核酸は、DNAまたはRNAを含み得る。本発明による核酸は、一本鎖または二本鎖であり得る。本発明による核酸は、それらの中に合成ヌクレオチドまたは修飾されたヌクレオチドを含むポリヌクレオチドでもあり得る。オリゴヌクレオチドに対する多数の異なるタイプの修飾が、当技術分野において公知である。これらには、メチルホスホナートおよびホスホロチオアート骨格、分子の3’および/または5’末端におけるアクリジンまたはポリリジン鎖の付加が含まれる。本明細書に記載されている使用のために、ポリヌクレオチドは、当技術分野において利用可能な任意の方法によって修飾され得ることを理解されたい。このような修飾は、関心対象のポリヌクレオチドのインビボ活性または寿命を増強するために行われ得る。
【0243】
ヌクレオチド配列に関する「変異型」、「相同体」または「誘導体」という用語は、配列からのまたは配列への1つ(またはそれを超える)核酸の任意の置換、変動、修飾、置き換え、欠失または付加を含む。
【0244】
6.5.ベクター
本発明はまた、本発明のTRBC1特異的抗体、本発明のTRBC2特異的抗体、本発明のCARまたは本発明のBiTEをコードする1またはそれを超える核酸を含むベクターまたはベクターのキットを提供する。このようなベクターは、宿主細胞が本発明のTRBC1特異的抗体、または本発明のTRBC2特異的抗体、または本発明のCAR、または本発明のBiTEを発現するように、核酸配列を宿主細胞中に導入するために使用され得る。
【0245】
「本発明のTRBC1特異的抗体」、「本発明のTRBC2特異的抗体」、「本発明のCAR」、および「本発明のBiTE」という用語、ならびにそれらをコードする核酸は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、それらの特徴および態様は本発明のこれらの局面に等しく適用される。
【0246】
ベクターは、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター、またはトランスポゾンベースのベクターまたは合成mRNAなどのプラスミドまたはウイルスベクターであり得る。
【0247】
ベクターは、T細胞またはNK細胞などの細胞溶解性免疫細胞を形質移入または形質導入することが可能であり得る。
【0248】
6.6.細胞
本発明の別の局面は、本発明のCARを含む細胞に関する。
【0249】
細胞は、本発明の核酸またはベクターを含み得る。
【0250】
「本発明のCAR」、「本発明の核酸」、「本発明のベクター」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、それらの特徴および態様は本発明のこれらの局面に等しく適用される。
【0251】
細胞は、T細胞またはNK細胞などの細胞溶解性免疫細胞であり得る。
【0252】
T細胞またはTリンパ球は、細胞性免疫において中心的な役割を果たすリンパ球の一種である。T細胞またはTリンパ球は、細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在によって、B細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)などの他のリンパ球と区別することができる。以下に要約されるように、様々なタイプのT細胞が存在する。
【0253】
ヘルパーTヘルパー細胞(TH細胞)は、B細胞の形質細胞およびメモリーB細胞への成熟、ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む免疫学的過程において他の白血球を支援する。TH細胞は、その表面上にCD4を発現する。TH細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面上のMHCクラスII分子によってペプチド抗原を提示されると活性化される。これらの細胞は、異なる種類の免疫応答を促進するために異なるサイトカインを分泌するTH1、TH2、TH3、TH17、Th9またはTFHを含むいくつかのサブタイプのうちの1つに分化することができる。
【0254】
細胞溶解性T細胞(TC細胞またはCTL)は、ウイルスに感染した細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植拒絶にも関与する。CTLはその表面にCD8を発現する。これらの細胞は、すべての有核細胞の表面上に存在するMHCクラスIに関連する抗原に結合することによってそれらの標的を認識する。制御性T細胞によって分泌されるIL-10、アデノシンおよび他の分子を介して、CD8+細胞は、アネルギー状態に不活性化され得、これにより、実験的自己免疫性脳脊髄炎などの自己免疫疾患が予防される。
【0255】
メモリーT細胞は、感染症が消散した後に長期間持続する抗原特異的T細胞のサブセットである。メモリーT細胞は、それらの同族抗原に再曝露されると迅速に多数のエフェクターT細胞に拡大し、したがって過去の感染症に対する「メモリー」を免疫系に提供する。メモリーT細胞は、3つのサブタイプ:セントラルメモリーT細胞(TCM細胞)および2つのタイプのエフェクターメモリーT細胞(TEM細胞およびTEMRA細胞)を含む。メモリー細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであり得る。メモリーT細胞は、代表的には、細胞表面タンパク質CD45ROを発現する。
【0256】
以前はサプレッサーT細胞として知られていた制御性T細胞(Treg細胞)は、免疫寛容の維持にとって極めて重要である。制御性T細胞(Treg細胞)の主な役割は、免疫反応の終了に向けてT細胞媒介性免疫を停止させること、および胸腺における負の選択の過程を免れた自己反応性T細胞を抑制することである。
【0257】
CD4+Treg細胞の2つの主要なクラス、すなわち天然に存在するTreg細胞および適応Treg細胞が記載されている。
【0258】
天然に存在するTreg細胞(CD4+CD25+FoxP3+Treg細胞としても知られる)は胸腺において生じ、TSLPで活性化された骨髄系(CD11c+)および形質細胞様(CD123+)樹状細胞の両方と発達中のT細胞との間での相互作用に関連している。天然に存在するTreg細胞は、FoxP3と呼ばれる細胞内分子の存在によって他のT細胞と区別することができる。FOXP3遺伝子の変異は、制御性T細胞の発達を妨げることができ、致命的な自己免疫疾患であるIPEXを引き起こす。
【0259】
適応Treg細胞(Tr1細胞またはTh3細胞としても知られる)は、正常な免疫応答の間に生じ得る。
【0260】
細胞はナチュラルキラー細胞(またはNK細胞)であり得る。NK細胞は自然免疫系の一部を形成する。NK細胞は、MHC非依存的な様式でウイルスに感染した細胞からの自然シグナルに対する迅速な応答を提供する
【0261】
NK細胞(自然リンパ系細胞の群に属する)は、大型顆粒リンパ球(LGL)として定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を生成するリンパ球系共通前駆細胞から分化した第3の種類の細胞を構成する。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃および胸腺において分化および成熟し、その後、循環中に入ることが知られている。
【0262】
本発明の細胞は、上記の細胞型のいずれでもあり得る。一態様において、本発明の細胞はT細胞である。別の態様において、本発明の細胞はNK細胞である。
【0263】
本発明のこの局面による細胞は、患者自身の末梢血(第一者)から、またはドナー末梢血(第二者)もしくは無関係のドナーからの末梢血(第三者)からの造血幹細胞移植の状況でエクスビボで作製され得る。
【0264】
あるいは、本発明のこの局面による細胞は、誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞の細胞溶解性細胞へのエクスビボ分化から誘導され得る。あるいは、その溶解機能を保持し、治療薬として作用することができる、TまたはNK細胞などの不死化した細胞溶解性細胞株が使用され得る。
【0265】
これらのすべての態様において、CAR発現細胞は、ウイルスベクターによる形質導入、DNAまたはRNAによる形質移入を含む多くの手段のうちの1つによって、キメラポリペプチドをコードするDNAまたはRNAを導入することによって作製される。
【0266】
本発明の細胞は、対象由来のエクスビボ細胞であり得る。細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)試料に由来し得る。細胞、特にT細胞またはNK細胞などの細胞溶解性細胞は、本発明のCARを提供する分子をコードする核酸で形質導入されるより前に、例えば抗CD3モノクローナル抗体での処理によって、活性化および/または拡大増殖され得る。
【0267】
本発明の細胞は、CARをコードする核酸配列を含む本発明のベクターで細胞を形質導入または形質移入する工程を含む方法によって作製され得る。
【0268】
本発明の細胞を作製するための方法は、形質導入または形質移入工程の前に、対象由来または上に列挙した他の供給源由来の細胞含有試料から細胞を単離する工程をさらに含み得る。細胞が細胞溶解性細胞である場合、試料は対象由来の細胞溶解性細胞含有試料である。
【0269】
本発明の文脈で使用される「対象」または「個体」という用語は、哺乳動物種のメンバー、好ましくは任意の年齢または人種の男性または女性のヒトを指す。
【0270】
次いで、本発明の細胞は、例えば、CARの抗原結合ドメインの発現に基づく選択によって精製され得る。
【0271】
6.7.薬学的組成物
本発明はまた、本発明のTRBC1特異的抗体、または本発明のTRBC2特異的抗体、または本発明の1つの細胞もしくは複数の細胞、または本発明のBiTEを含有する薬学的組成物に関する。
【0272】
「本発明のTRBC1特異的抗体」、「本発明のTRBC2特異的抗体」、「本発明のCAR」および「本発明のBiTE」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、それらの特徴および態様は本発明のこれらの局面に等しく適用される。
【0273】
本発明の前記局面の薬学的組成物の説明および態様は、本発明のこれらの局面に等しく適用される。当業者は、本発明の前記局面の薬学的組成物をこの局面に適合させるためにどの改変が必要であり得るかを直ちに知るであろう。
【0274】
6.8.処置の方法
別の局面において、本発明は、医療において使用するための、本発明のTRBC1特異的抗体、または本発明のTRBC2特異的抗体、または本発明の1つの細胞もしくは複数の細胞、または本発明のBiTEを提供する。
【0275】
別の局面では、本発明は、対象におけるT細胞リンパ腫または白血病を処置するための方法であって、本発明のTRBC1特異的抗体、または本発明のTRBC2特異的抗体、または本発明の1つの細胞もしくは複数の細胞、または本発明のBiTEを、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法を提供する。投与工程は、上記の薬学的組成物の形態であり得る。
【0276】
本発明のこの局面は、代替として、T細胞リンパ腫または白血病の処置において使用するための、本発明のTRBC1特異的抗体、または本発明のTRBC2特異的抗体、または本発明の1つの細胞もしくは複数の細胞、または本発明のBiTEとして製剤化され得る。
【0277】
本発明のこの局面は、代替として、T細胞リンパ腫または白血病を処置するための医薬の製造における本発明のTRBC1特異的抗体、または本発明のTRBC2特異的抗体、または本発明の1つの細胞もしくは複数の細胞、または本発明のBiTEの使用として製剤化され得る。
【0278】
「本発明のTRBC1特異的抗体」、「本発明のTRBC2特異的抗体」、「本発明のCAR」および「本発明のBiTE」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、それらの特徴および態様は本発明のこれらの局面に等しく適用される。
【0279】
T細胞リンパ腫および/または白血病を処置するための方法は、疾患に関連する少なくとも1つの症候を軽減、低減もしくは改善するために、および/または疾患の進行を減速、低減もしくは遮断するために、既存のT細胞リンパ腫および/または白血病を有する対象に投与され得る本発明の抗体コンジュゲートの治療的使用に関する。
【0280】
本発明の前記局面の処置の方法の説明および態様は、本発明のこれらの局面に等しく適用される。当業者は、本発明の前記局面の処置の方法をこの局面に適合させるためにどの改変が必要であり得るかを直ちに知るであろう。
【0281】
6.9.診断剤
TRBC1対TRBC2である健康なドナー由来のT細胞の割合は35%対65%である、すなわち、TRBC1を発現する総T細胞の百分率の中央値は35%(範囲、25~47%)であることが以前に決定されている(Maciociaら、2017,Nat Med,23:1416-23)。T細胞リンパ腫または白血病はクローン性癌であるので(Maciociaら、2017;上記)、T細胞リンパ腫または白血病に特徴的な悪性T細胞の調節解除された増殖は、著しく歪んだTRBC1またはTRBC2T細胞(すなわち、TRBC2またはTRBC1T細胞)の割合をもたらす。したがって、TRBC1に特異的に結合し、それ故、TRBC1とTRBC2を識別することができることによって、本発明の抗体は、T細胞リンパ腫または白血病の診断のための有用な作用物質を構成する。
【0282】
したがって、別の局面において、本発明は、本発明のTRBC1特異的抗体または本発明のTRBC2特異的抗体を含む診断剤、以下「本発明の診断剤」を提供する。
【0283】
「本発明のTRBC1特異的抗体」および「本発明のTRBC2特異的抗体」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、それらの特徴および態様は本発明のこの局面に等しく適用される。
【0284】
これらのアッセイにおいて使用されるべき本発明のTRBC1特異的抗体または本発明のTRBC2特異的抗体は、標識され得るか、または非標識であり得る。本明細書で使用される「検出可能な標識」または「標識剤」という用語は、例えば分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段による検出のための適切な手順および機器を使用して、その分子標識が結合している分子の検出、局在化および/または同定を可能にする分子標識を指す。抗体を標識するのに適した標識剤には、放射性核種、酵素、フルオロフォア、化学発光試薬、酵素基質または補因子、酵素阻害剤、粒子、色素および誘導体などが含まれる。当業者が理解するように、標識されていない変異型抗原結合ドメインおよび抗体は、追加の試薬、例えば標識された二次抗体で検出する必要がある。これは、信号が増幅されることを可能にするので、検出方法の感度を増加させるために特に有用である。標識されていない本発明の抗体(一次抗体)および標識されている本発明の抗体(二次抗体)を使用する、本発明において使用することができる広範囲の従来のアッセイが存在し、これらの技術には、ウエスタンブロッティングまたは免疫ブロット、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、競合EIA(競合酵素イムノアッセイ)、DAS-ELISA(二重抗体サンドイッチELISA)、免疫細胞化学的および免疫組織化学的技術、本発明の抗体を含むタンパク質マイクロスフェア、バイオチップまたはマイクロアレイの使用に基づくフローサイトメトリまたは多重検出技術が含まれる。本発明の変異型抗原結合ドメインまたは抗体を使用してTRBC1を検出および定量する他の方法には、アフィニティークロマトグラフィー技術またはリガンド結合アッセイが含まれる。
【0285】
診断剤は、T細胞リンパ腫または白血病を診断するために使用され得る。
【0286】
T細胞リンパ腫または白血病は、末梢性T細胞リンパ腫、非特定型(PTCL-NOS);血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、腸症関連T細胞リンパ腫(EATL)、肝脾T細胞リンパ腫(HSTL)、節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型、皮膚T細胞リンパ腫、原発性皮膚ALCL、T細胞性前リンパ球性白血病およびT細胞急性リンパ芽球性白血病から選択され得る。
【0287】
6.10.診断の方法
別の局面において、本発明は、対象におけるT細胞リンパ腫または白血病を診断するための方法であって、本発明のTRBC1特異的抗体または本発明のTRBC2特異的抗体を前記対象からのT細胞を含む試料に接触させる工程を含む、方法を提供する。
【0288】
「本発明のTRBC1特異的抗体」および「本発明のTRBC2特異的抗体」、「対象」および「試料」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、それらの特徴および態様は本発明のこの局面に等しく適用される。
【0289】
本発明の診断方法は、試料中のTRBC1陽性T細胞の総数を決定する工程をさらに含み得る。本発明の診断方法は、試料中のTRBC2陽性T細胞の総数を決定する工程をさらに含み得る。本発明の診断方法は、試料中のTRBC1陽性T細胞およびTRBC2陽性T細胞の総数を決定する工程をさらに含み得る。
【0290】
本発明の診断方法は、試料中のT細胞の総数を決定する工程をさらに含み得る。この工程は、T細胞の総数を決定するために、OKT3などの抗CD3抗体を使用し得る。
【0291】
本発明の診断方法は、試料中のTRBC1陽性T細胞の割合を決定する工程をさらに含み得る。
【0292】
本発明の診断方法の第1の工程によれば、本発明のTRBC1特異的抗体を、当業者に公知の適切な条件下で研究中の対象からの試料と接触させる。
【0293】
本発明の診断方法は、試料中のTRBC2陽性T細胞の割合を決定する工程をさらに含み得る。
【0294】
本発明の診断方法の第1の工程によれば、本発明のTRBC2特異的抗体を、当業者に公知の適切な条件下で研究中の対象からの試料と接触させる。
【0295】
当業者は、本発明の診断方法の第2の工程を実施するのに適した、試料中のTRBC1またはTRBC2を検出するための多数の従来の方法を使用することができる。免疫学的方法が特に有用である。したがって、本発明の診断剤の使用は、本発明による診断方法を実施するのに特に有用であり得る。本発明の診断剤の特徴および特定の態様は既に定義されており、本発明の診断方法に等しく適用される。
【0296】
本発明の診断方法では、試料中の70%、または75%、または80%、または85%、または90%、または95%、または96%、または97%、または98%、または99%、またはそれを超えるTRBC1陽性T細胞の割合が、T細胞リンパ腫または白血病の存在を示し得る。
【0297】
当業者によって理解されるように、100%正しいことが好ましいが、予測は、診断または評価される対象の100%に対して正しい必要はない。しかしながら、この用語は、対象の統計的に有意な部分が所与の転帰を有する可能性が増加したと同定され得ることを必要とする。対象から得られたデータが統計的に有意であるかどうかは、様々な周知の統計評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値決定、交差検証された分類率などを使用して、当業者によって困難なく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%である。p値は、好ましくは、0.01または0.005またはそれ未満である。
【0298】
さらに、本発明のTRBC1特異的抗体および本発明のTRBC2特異的抗体は、それぞれTRBC1陽性T細胞およびTRBC2陽性T細胞を特異的に結合するそれらの能力を考慮すると、T細胞リンパ腫または白血病のインビボ診断のためにも使用することができる。例えば、本発明のTRBC1特異的抗体および本発明のTRBC2特異的抗体は、疾患を明らかにする、診断する、または検査することを目指す医学的処置などの臨床目的のために、医療用画像化、すなわち、身体(またはその部分および機能)、例えば人体の画像を作成するために使用される一連の技術および過程において使用することができる。
【0299】
この目的のために、本発明の変異型抗原結合ドメインまたは抗体は、当技術分野で公知の適切な方法によって標識され、例えば、適切な分子、例えば放射性同位体または蛍光色素との結合および/または搭載を用いて、放射免疫診断法、陽電子放射型断層撮影法(PET)、内視鏡免疫蛍光法などの画像診断法のための作用物質として提供される。本発明の変異型抗原結合ドメインおよび抗体は、ガンマ線放射性同位体に結合され、ガンマカメラまたは単一光子放射型コンピュータ断層撮影法を使用する放射免疫シンチグラフィーにおいて使用され得る。本発明の変異型抗原結合ドメインおよび抗体は、陽電子放射体に結合され、PETにおいて使用され得る。本発明の変異型抗原結合ドメインおよび抗体は、Cy3、Cy2、Cy5またはFITCなどの蛍光色素に結合され、内視鏡免疫蛍光法において使用され得る。記載されたように修飾された本発明の変異型抗原結合ドメインおよび抗体は、任意の適切な経路によって、例えば静脈内に、個体に対して適切な用量で投与され、TRBC1陽性T細胞の位置は、当技術分野で周知の過程によって検出され、決定され、または測定される。画像診断を含む本明細書で使用される方法および技術は当業者に公知であり、当業者は適切な用量製剤も提供することができる。
【0300】
診断されるべきT細胞リンパ腫または白血病は、末梢性T細胞リンパ腫、非特定型(PTCL-NOS);血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、腸症関連T細胞リンパ腫(EATL)、肝脾T細胞リンパ腫(HSTL)、節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型、皮膚T細胞リンパ腫、原発性皮膚ALCL、T細胞性前リンパ球性白血病およびT細胞急性リンパ芽球性白血病から選択され得る。
【0301】
試料は、血液試料であり得、または血液試料に由来し得る。
【0302】
6.11.個別化された医療の方法
別の局面において、本発明は、本発明の細胞、TRBC1特異的抗体、TRBC2特異的抗体またはBiTEでの処置に適したT細胞リンパ腫または白血病を有する対象を同定するための方法であって、前記対象からのT細胞を含む試料中のTRBC1陽性T細胞および/またはTRBC2陽性T細胞の割合を決定することを含む方法を提供する。
【0303】
したがって、別の局面において、本発明は、T細胞リンパ腫または白血病に罹患している対象を処置するための適切な療法を選択するための方法であって、
i)前記対象から単離された試料中の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定することと;
ii)前記悪性T細胞の前記TRBC1またはTRBC2発現に基づいて、本発明による使用のための細胞、TRBC1特異的抗体、TRBC2特異的抗体またはBiTEを選択することと;
を含む、方法、以下「本発明の個別化された医療の第1の方法」に関する。
【0304】
別の局面において、本発明は、本発明による使用のための細胞、TRBC1特異的抗体、TRBC2特異的抗体またはBiTEを含む療法を受けるために、T細胞リンパ腫または白血病に罹患している対象を選択するための方法であって、
i)前記対象から単離された試料中の悪性T細胞がTRBC1またはTRBC2を発現するかどうかを決定することと;
ii)前記悪性T細胞の前記TRBC1またはTRBC2発現に基づいて、本発明による使用のための細胞、TRBC1特異的抗体、TRBC2特異的抗体またはBiTEに基づく療法を受けるために前記対象を選択することと;
を含む、方法、以下「本発明の個別化された医療の第2の方法」に関する。
【0305】
「本発明の細胞」、「本発明のTRBC1特異的抗体」、「本発明のTRBC2特異的抗体」、「本発明のBiTE」、「対象」および「T細胞を含む試料」という用語は、本発明の前記局面との関連で詳細に記載されており、それらの特徴および態様は本発明のこの局面に等しく適用される。
【0306】
本発明の前記局面の個別化された医療の方法の説明および態様は、本発明のこれらの局面に等しく適用される。当業者は、本発明の前記局面の個別化された医療の方法をこの局面に適合させるためにどの改変が必要であり得るかを直ちに知るであろう。
【実施例
【0307】
実施例
[実施例1]
実施例1:hJOVI-1およびKFN抗体の抗体内部移行
TRBC1のみ、TRBC2のみを発現するように操作された、またはTRBCがノックアウトされた(KO)HPB-ALL細胞で、抗TRBC1抗体hJOVI-1および抗TRBC2抗体KFNの細胞取り込みを試験した。この目的のために、560/585nmスペクトルを有するpH感受性フルオロフォアであるZenon pHrodo iFL red(Thermo Scientific)を使用して、製造業者の推奨に従ってIgG形式でhJOVI-1およびKFNをコンジュゲートした。無関係な抗HEL抗体も、対照として使用するためにコンジュゲートした。HPB-ALL TRBC1、HPB-ALL TRBC2およびHPB-ALL KO細胞と共に、37℃、5%COで24時間、コンジュゲートされた抗体をインキュベートした。100μlのRPMI10%FBS中に5×10細胞/ウェルを有する96ウェルプレート中に5μg/mlで、試験抗体hJOVI-1、KFNおよび抗HELを適用した。24時間後、細胞を洗浄し、採取し、1:100LIVE/DEAD(商標)Fixable Violet Dead Cell Stain(Thermofisher)で10分間染色した後、Fortessaフローサイトメータ(BD)を用いてフローサイトメトリによって分析した。
【0308】
図4に示される結果は、抗TRBC抗体であるhJOVI-1およびKFNはいずれも、HPB-ALL細胞中に良好に内部移行することを実証している。しかしながら、より低い親和性ではあるが同じエピトープでその標的に結合するKFN抗体は、より高い親和性のhJOVI-1よりも改善された内部移行を示した。hJOVI-1はHPB-ALL TRBC1細胞中にのみ内部移行し、KFNはHPB-ALL TRBC2細胞中にのみ内部移行したので、hJOVI-1およびKFNの特異性は抗体コンジュゲートとして維持された。
【0309】
[実施例2]
実施例2:TRBC抗体の親和性および結合速度論
親和性、会合および解離速度を確認するために、hJOVI-1の抗体変異型のいくつかのに対して表面プラズモン共鳴(SPR)を行った。本特許出願の実施例の節で使用されたこれらの変異型Mut1~Mut15の配列詳細を表1および表2に示す。これらの抗TRBC抗体変異型は、TRBC1またはTRBC2のいずれかに対して特異性を有する。
【0310】
ランニングおよび希釈緩衝液としてHBSP1(GE Healthcare BioSciences)を使用してBiacore T200装置を使用してSPR実験を行った。BIAevaluationソフトウェアバージョン2.0(GE Healthcare)をデータ処理のために使用した。結合速度論の決定のために、マウス抗ヒトIgG(GE Healthcare)をCM5 Sensor Chip(GE Healthcare)に共有結合させた。抗TRBC1または抗TRBC2抗体をフローセル上に捕捉し、様々な濃度の相互作用パートナータンパク質(TRBC1またはTRBC2)を25℃の温度で30ml/分の流速でフローセル上に注入した。緩衝液のみを用いて二重参照減算を行った。速度論的速度定数は、1:1ラングミュア結合モデルに従うカーブフィッティングによって取得された。
【0311】
SPRによって得られた親和定数および速度論的速度定数を図5および表1に示す。
【0312】
TRBC1に対する異なる結合特性を有する様々な変異体を選択して、TRBC1に対するそれらの速度論的プロファイルを比較した(図6)。非常に類似した会合速度を有するが、異なる解離速度を有するいくつかの結合剤が同定され、さらに評価した。
【0313】
[実施例3]
実施例3:抗TRBC1抗体の抗体内部移行
実施例2で選択された抗TRBC1抗体(図6)の内部移行をHPB-ALL細胞(TRBC1、TRBC2およびKO)で評価した。この目的のために、509/533nmスペクトルを有するpH感受性フルオロフォアZenon pHrodo iFLグリーン試薬(Thermo Scientific)を使用して、製造業者の推奨に従ってIgG形式で抗TRBC1抗体をコンジュゲートした。無関係な抗HEL抗体も、対照として使用するためにコンジュゲートした。HPB-ALL TRBC1、HPB-ALL TRBC2およびHPB-ALL KO細胞と共に、37℃、5%COで9時間、コンジュゲートされた抗体をインキュベートした。100μlのRPMI10%FBS中に5×10細胞/ウェルを有する96ウェルプレート中に5μg/mlで、試験抗体を適用した。9時間後、細胞を洗浄し、採取し、1:1000の固定可能な生存色素eFluor(商標)780(eBioscience)で10分間染色した後、Fortessaフローサイトメータ(BD)を用いてフローサイトメトリによって分析した。
【0314】
9時間で、細胞をPBSで洗浄し、400g5分で採取し、1:1000の固定可能な生存色素eFluor(商標)780(eBioscience(商標)、Thermofisher)で10分間染色した後、Fortessaフローサイトメータ(BD)を使用してフローサイトメトリによって分析した。
【0315】
結果は、すべての抗TRBC1抗体が十分に内部移行されたことを実証した(図7)。これらの変異型の内部移行能力の分析は、減少した親和性および増加した解離速度を有する抗体がより容易に内部移行されることを示した。しかしながら、おそらくは標的抗原結合の欠如を表すある特定の親和性(Mut14)では、内部移行が損なわれた。以前の報告は、最適な細胞取り込みを達成するためには高い親和性、したがって遅い解離速度が必要とされると主張していたので、これは驚くべきことである。
【0316】
[実施例4]
実施例4:最適なADCのための抗TRBC1および抗TRBC2抗体の選択
実施例3の知見、すなわち、改善された内部移行はより低い親和性で起こるという知見に基づいて、抗TRBC2クローンKFNの解離プロファイルを模倣するので、抗TRBC1抗体Mut11をさらなる調査のために選択した。同様に、最適な結合速度論を示すので、TRBC2抗体Mut15も選択した。
【0317】
Mut11およびMut15を使用する内部移行実験を実施例3に記載されるように行った。
【0318】
結果は、Mut11およびMut15の両方が良好に内部移行されたことを示した(図8)。さらに、結果は、これらの2つの抗体で得られた内部移行はhJovi1の内部移行と比較してはるかに改善されたことを実証した。変異型Mut11は、抗原特異性を維持しながら、TRBC1細胞で最大の内部移行を示した。同様に、KFN変異型Mut15は、TRBC2細胞に対する最適な内部移行および特異性を示した。
【0319】
[実施例5]
実施例5:TRBC特異的ADCの作製
TRBC1およびTRBC2 ADC分子の有効性を試験するために、Mut11およびMut15抗体をモノメチルアウリスタチンE(MMAE)にコンジュゲートした。対照抗HELを使用した。簡潔には、抗体を作製し、高純度に精製した。リンカー搭載物mc-vc-PAB-MMAEを使用して抗体薬物複合体を生成した(図9A)。簡潔には、まず、還元剤を使用して、還元された抗体の鎖間ジスルフィド結合から求核性システイン残基を遊離させた。還元されたシステインを薬物-リンカー複合体とコンジュゲートした。所望の薬物対抗体比(DAR)を有するADCを同定するために、複合体形成条件を最適化した。薬物-抗体比は、TSKgel Butyl-NPRカラム(2.5μm、4.6×100mm)での疎水性相互作用クロマトグラフィーによって評価され、Mut11、Mut15および抗HELについてそれぞれ3.1、3.2および3.3で評価された。
【0320】
モノメチルアウリスタチンE(MMAE)へのMut11およびMut15抗体のコンジュゲーションは、抗体が内部移行される能力を損なわなかった(図9B)。
【0321】
[実施例6]
実施例6:TRBC特異的ADCの機能的特徴決定
10ng/mlのヒトIL-7で刺激した5×10細胞/mlでのHPB-ALL TRBC1+、TRBC2+およびTCR KOに対して、インビトロ細胞傷害性アッセイを行った。8μg/mlの濃度で、標的細胞と共にADC構築物を37℃で116時間インキュベートし、次いで10%培養体積のAlamar Blueと共に4時間インキュベートした。560/590nm(励起/発光)フィルター設定で上清をプレートリーダー(Varioscan Lux、Thermo Scientific)で取得した。非処理細胞(処理×100/非処理)による標準化として生存率を表した。最大半量の細胞阻害が起こる濃度を決定するために、コンジュゲートされていない対照化合物と共に各試験化合物についてIC50を測定した。
【0322】
TRBC1およびTRBC2 ADC分子の有効性を試験するために、細胞死を誘導するそれらの能力について、MMAEをコンジュゲートしたMut11およびMut15抗体を試験した。Mut11-MMAEおよびMut15-MMAEがTRBC1発現細胞およびTRBC2発現細胞に対する細胞死を引き起こす最大半量阻害濃度は、それぞれ0.14および0.34μg/mlであった(図9C)。これらの結果は、抗TRBC1および抗TRBC2 ADC分子が、細胞死をもたらす内部移行を誘導するのに有効であることを実証する。
【0323】
[実施例7]
実施例7:hJOVI-1に基づく抗TRBC1 CARの作製
第2世代CAR構築物(図4)は、hJOVI1(配列番号1に示される配列を有するVHドメインおよび配列番号2に示される配列を有するVLドメインを有する)と比較して以下の変異の組み合わせ:
-VHドメイン中のG106A;
-VHドメイン中のY102M;
-VHドメイン中のG26PおよびT28K;ならびに
-VHドメイン中のG31S
の1つを含む以下の抗TRBC1抗体に基づいて生成される。
【0324】
これらのCAR構築物をレトロウイルスベクターにクローニングし、健常ドナーから得られた活性化されたPBMCを形質導入するために使用する。
【0325】
[実施例8]
実施例8:抗TRBC1 CARの機能的特徴決定:サイトカイン産生
TRBC1に対する抗TRBC1変異体CAR-T細胞の機能的能力を評価するために、CAR-T細胞の添加前にTRBC1またはTRBC2を固定化するプレート結合アッセイを使用する。72時間後、培養上清を回収し、IFN-γ産生をELISAによって測定する。
【0326】
[実施例9]
実施例9:抗TRBC1 CARの機能的特徴決定:細胞傷害性アッセイ
抗TRBC1三重変異体がTRBC1を標的とする能力を決定するために、標的細胞としてTRBC1またはTRBC2のいずれかを発現するように形質導入され、CAR-T細胞と共培養されたRaji細胞を使用して細胞傷害性アッセイを設定する。Raji WT、Raji TRBC1またはRaji TRBC2細胞のいずれかと共に、1:1(E:T)の比でhJovi-1 CAR-T細胞または抗TRBC1三重変異体CAR-T細胞を培養する。培養の72時間後にフローサイトメトリによって標的細胞の回収を測定し、CAR-T細胞の細胞傷害能力を確立するために使用する。
【0327】
上記の明細書で言及されたすべての刊行物は、参照により本明細書に組み入れられる。本発明の記載された方法および系の様々な改変および変形が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明は特定の好ましい態様に関連して説明されてきたが、権利が請求されている発明はそのような特定の態様に不当に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際に、分子生物学または関連分野の当業者に明らかである、本発明を実施するための記載された形態の様々な改変は、以下の特許請求の範囲内に属することが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
【配列表】
2023518566000001.app
【国際調査報告】