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特表2023-518608XRFによるウイルスの検出のための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-02
(54)【発明の名称】XRFによるウイルスの検出のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20230425BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20230425BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20230425BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/6844 Z
G01N23/223
G01N33/569 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558173
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(85)【翻訳文提出日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 IL2021050325
(87)【国際公開番号】W WO2021191899
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】63/000,277
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518274043
【氏名又は名称】セキュリティ マターズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SECURITY MATTERS LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】バレケット,イファット
(72)【発明者】
【氏名】ナホム,テヒラ
(72)【発明者】
【氏名】ファーステンバーグ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】タル,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】カピンスキー,モル
(72)【発明者】
【氏名】シャーデー,ハギット
(72)【発明者】
【氏名】ガスパール,ダナ
(72)【発明者】
【氏名】アロン,ハッガイ
(72)【発明者】
【氏名】ダフニ,ロン
(72)【発明者】
【氏名】ナハミアス,チェン
(72)【発明者】
【氏名】シュミュエリ,ガル
(72)【発明者】
【氏名】トラットマン,アヴィタル
(72)【発明者】
【氏名】ムスニコウ,ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】チュチャエフ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ヨラン,ナダフ
【テーマコード(参考)】
2G001
4B063
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA02
2G001BA04
2G001CA01
2G001KA20
2G001LA01
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ05
4B063QR50
4B063QS28
4B063QS36
4B063QX02
4B063QX07
(57)【要約】
本発明は、生物学的試料および非生物学的試料中の微生物病原体による感染の直接的および間接的な検出のための方法およびツールを提供し、より詳細には、現在のCOVID-19のパンデミックを含む、哺乳動物およびヒトにおける広範な流行の原因となるウイルス性および細菌性病原体による感染を検出するためのXRF(蛍光X線)方法論の適用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の生物学的病原体を検出するための診断プラットフォームであって、生物学的病原体またはその一部を検出するための少なくとも1つの機能性成分に動作可能に連結された少なくとも1つのXRF識別可能マーカーを含み、前記機能性成分は、前記試料中の病原体を前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカーで標識することを可能にする、診断プラットフォーム。
【請求項2】
前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび前記少なくとも1つの機能性成分が、少なくとも1つの非特異的(多機能性)成分によって動作可能に連結されることを特徴とする、請求項1に記載の診断プラットフォーム。
【請求項3】
前記XRF識別可能マーカーが、X線またはガンマ線放射に応答してX線信号を放出する原子または原子団であることを特徴とする、請求項1または2に記載の診断プラットフォーム。
【請求項4】
前記XRF識別可能マーカーが、金属イオン、有機金属機能性、金属酸化物機能性または非金属原子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の診断プラットフォーム。
【請求項5】
前記XRF識別可能マーカーが、Si、P、S、Cl、K、Ca、Br、Ti、Fe、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、As、Fe、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Cs、Ba、La、Ta、W、SeおよびCeから選択される元素または元素を含む官能基であることを特徴とする、請求項1または2に記載の診断プラットフォーム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの機能性成分が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写、核酸ハイブリダイゼーション、抗体検査、血清学的抗体検査の成分であることを特徴とする、請求項1または2に記載の診断プラットフォーム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの機能性成分が、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、アミノ酸、ペプチド、誘導体、修飾物、融合構築物、それらのコンジュゲートであることを特徴とする、請求項1または6に記載の診断プラットフォーム。
【請求項8】
前記少なくとも1つの機能性成分が、一次または二次抗体であることを特徴とする、請求項1または6に記載の診断プラットフォーム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカー、前記少なくとも1つの機能性成分および/または前記少なくとも1つの非特異的(多機能性)成分が、共有結合によって動作可能に連結されることを特徴とする、請求項1または2に記載の診断プラットフォーム。
【請求項10】
前記生物学的病原体が、哺乳動物疾患におけるウイルス性または細菌性の病原体であることを特徴とする、請求項1に記載の診断プラットフォーム。
【請求項11】
前記哺乳動物疾患がヒト疾患であることを特徴とする、請求項1に記載の診断プラットフォーム。
【請求項12】
前記試料が、前記生物学的病原体に感染する危険性があるか、またはすでに感染している哺乳動物から得られる生物学的試料であることを特徴とする、請求項1に記載の診断プラットフォーム。
【請求項13】
前記試料が、前記生物学的病原体に感染する危険性があるかまたはすでに感染している哺乳動物と接触していたかまたは接触している疑いがある、表面、物体、またはその部分から得られた非生物学的試料であることを特徴とする、請求項1に記載の診断プラットフォーム。
【請求項14】
前記哺乳動物がヒトであることを特徴とする、請求項12または13に記載の診断プラットフォーム。
【請求項15】
前記ウイルスまたは細菌性病原体が、コレラ、ペストおよび黄熱病、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エボラ、ジカ、中東呼吸器症候群(MERS)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV/AIDS)、インフルエンザA(H1N1)pdm/09、結核(TB)およびコロナウイルス病19(COVID-19)の病原体から選択されることを特徴とする、請求項10~14のいずれか一項に記載の診断プラットフォーム。
【請求項16】
前記生物学的試料が、該生物学的病原体に感染する危険性があるか、またはすでに感染している哺乳動物から得られた体液、身体排出物、身体分泌物の試料であることを特徴とする、請求項12に記載の診断プラットフォーム。
【請求項17】
前記生物学的試料が、血液、血清、唾液、鼻または肺の分泌物の試料、尿または糞便試料、または涙滴の試料であることを特徴とする、請求項16に記載の診断プラットフォーム。
【請求項18】
室温で動作可能であることを特徴とする、請求項1または2に記載の診断プラットフォーム。
【請求項19】
前記XRF読取り装置が、ポータブルXRF読取り装置であることを特徴とする、請求項1に記載の診断プラットフォーム。
【請求項20】
XRF読取り装置によって検出可能な少なくとも1つのXRF識別可能マーカーで病原体を標識するための、生物学的病原体またはその一部を検出するための少なくとも1つの機能性成分に動作可能に連結された少なくとも1つのXRF識別可能マーカーを含む組成物。
【請求項21】
前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび前記少なくとも1つの機能性成分が、少なくとも1つの非特異的(多機能性)成分によって動作可能に連結されることを特徴とする、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記XRF識別可能マーカーが、X線またはガンマ線放射に応答してX線信号を放出する原子または原子団であることを特徴とする、請求項20または21に記載の組成物。
【請求項23】
前記XRF識別可能マーカーが、金属イオン、有機金属機能性、金属酸化物機能性または非金属原子であることを特徴とする、請求項20または21に記載の組成物。
【請求項24】
前記XRF識別可能マーカーが、Si、P、S、Cl、K、Ca、Br、Ti、Fe、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、As、Fe、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Cs、Ba、La、Ta、W、SeおよびCeから選択される元素または元素を含む官能基であることを特徴とする、請求項20または21に記載の組成物。
【請求項25】
前記少なくとも1つの機能性成分が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写、核酸ハイブリダイゼーション、抗体検査、血清学的抗体検査の成分であることを特徴とする、請求項20または21に記載の組成物。
【請求項26】
前記少なくとも1つの機能性成分が、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、アミノ酸、ペプチド、誘導体、修飾物、融合構築物、それらのコンジュゲートであることを特徴とする、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記少なくとも1つの機能性成分が、一次または二次抗体であることを特徴とする、請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカー、前記少なくとも1つの機能性成分および/または前記少なくとも1つの非特異的(多機能性)成分が、共有結合によって動作可能に連結されることを特徴とする、請求項20または21に記載の組成物。
【請求項29】
前記生物学的病原体が、哺乳動物疾患におけるウイルス性または細菌性の病原体であることを特徴とする、請求項20に記載の組成物。
【請求項30】
安定剤、抗酸化剤、酸化性物質、界面活性剤、溶解剤、糖、塩、pH安定剤、緩衝剤、浄化剤、希釈剤、保存剤、可溶化剤および乳化剤から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項20~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
試料中の生物学的病原体を検出するための方法であって、前記試料を、生物学的病原体またはその一部を検出するための少なくとも1つの機能性成分に動作可能に連結された少なくとも1つのXRF識別可能マーカーと接触させ、それによって、前記試料中の病原体を、XRF読取り装置によって検出可能な少なくとも1つのXRF識別可能マーカーで標識する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項32】
前記試料にX線またはガンマ線を照射し、それによって病原体の存在を決定する工程を含むことを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記試料をX線またはガンマ線放射によって照射し、それによってウイルスの存在を決定する工程を含み、前記試料中のウイルスの存在を決定するための、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび前記少なくとも1つの機能性成分が、少なくとも1つの非特異的(多機能性)成分によって動作可能に連結されることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記XRF識別可能マーカーが、X線またはガンマ線放射に応答してX線信号を放出する原子または原子団であることを特徴とする、請求項31または34に記載の方法。
【請求項36】
前記XRF識別可能マーカーは、金属イオン、有機金属機能性、金属酸化物機能性または非金属原子であることを特徴とする、請求項31または34に記載の方法。
【請求項37】
前記XRF識別可能マーカーが、Si、P、S、Cl、K、Ca、Br、Ti、Fe、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、As、Fe、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Cs、Ba、La、Ta、W、SeおよびCeから選択される元素または元素を含む官能基であることを特徴とする、請求項31または34に記載の方法。
【請求項38】
前記少なくとも1つの機能性成分が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写、核酸ハイブリダイゼーション、抗体検査、血清学的抗体検査の成分であることを特徴とする、請求項31または34に記載の方法。
【請求項39】
前記少なくとも1つの機能性成分が、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、アミノ酸、ペプチド、誘導体、修飾物、融合構築物、それらのコンジュゲートであることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記少なくとも1つの機能性成分が、一次または二次抗体であることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカー、前記少なくとも1つの機能性成分および/または前記少なくとも1つの非特異的(多機能性)成分が、共有結合によって動作可能に連結されることを特徴とする、請求項31または34に記載の方法。
【請求項42】
前記生物学的病原体が、哺乳動物疾患におけるウイルス性または細菌性の病原体であることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項43】
前記哺乳動物疾患がヒト疾患であることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項44】
前記試料が、前記生物学的病原体に感染する危険性があるか、またはすでに感染している哺乳動物から得られる生物学的試料であることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項45】
前記試料が、前記生物学的病原体に感染する危険性があるかまたはすでに感染している哺乳動物と接触していたかまたは接触している疑いがある、表面、物体、またはその部分から得られた非生物学的試料であることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項46】
前記哺乳動物がヒトであることを特徴とする、請求項44または45に記載の方法。
【請求項47】
前記ウイルスまたは細菌性病原体が、コレラ、ペストおよび黄熱病、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エボラ、ジカ、中東呼吸器症候群(MERS)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV/AIDS)、インフルエンザA(H1N1)pdm/09、結核(TB)およびコロナウイルス病19(COVID-19)の病原体から選択されることを特徴とする、請求項42~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記生物学的試料が、該生物学的病原体に感染する危険性があるか、またはすでに感染している哺乳動物から得られた体液、身体排出物、身体分泌物の試料であることを特徴とする、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記生物学的試料が、血液、血清、唾液、鼻または肺の分泌物の試料、尿または糞便試料、または涙滴の試料であることを特徴とする、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
室温で動作可能であることを特徴とする、請求項31または34に記載の方法。
【請求項51】
前記XRF読取り装置が、ポータブルXRF読取り装置であることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項52】
前記試料を前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび前記少なくとも1つの機能性成分と共にインキュベートする工程をさらに含むことを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項53】
過剰の前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび前記少なくとも1つの機能性成分を前記試料から除去する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項31または52に記載の方法。
【請求項54】
前記試料を、前記少なくとも1つの機能性成分に動作可能に連結された前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカーに接触させる前に、前記試料を溶解する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項31、52、または53に記載の方法。
【請求項55】
請求項1~19のいずれか一項に記載の診断プラットフォームまたは請求項20~30のいずれか一項に記載の組成物を含み、使用説明書をさらに含むことを特徴とする、キット。
【請求項56】
生物学的および非生物学的試料中の生物学的病原体の存在を検出または排除するための、請求項1~19のいずれか一項に記載の診断プラットフォームまたは請求項20~30のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、生物学的および非生物学的試料中の微生物病原体による感染の直接的および間接的検出のための方法およびツールに関し、具体的には、COVID-19の現在のパンデミックを含む、哺乳動物およびヒトにおける広範な流行の原因であるウイルス性および細菌性病原体による感染の検出のためのXRF(蛍光X線)方法論の適用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のコロナウイルス疾患(COVID-19)は、世界的な流行に関する我々の根強い懸念を呼び起こした。20世紀および21世紀だけでも、人類は、数多くの危険な流行に直面しなければならなかった:20世紀初頭のスペイン風邪、50年代初頭のポリオ流行、80年代後半のエイズ、20世紀後半のトリインフルエンザ(H5N1)、2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、2013年から2016年のエボラ出血熱、そして今日のCOVID 19(SARS-CoV-2)。これらの中には、流行した集団および地域にとどまったものもあれば、多くの地域および世界人口に広まったものもあった。
【0003】
一般的な見解は、ウイルス性および細菌性病原体による流行およびパンデミックが、我々の生活様式、人口増加、大都市圏へのクラスター化、グローバル化などと切り離せない部分であるということである。したがって、流行およびパンデミックは、今後も起こり続け、将来も我々を追い続けるであろう。
【0004】
したがって、ウイルス性であれ細菌性であれ、新生または進行中の流行の生物学的原因を迅速に検出し、その原因に対してナイーブであるかまたはこれまで曝されていない集団において伝播を防ぐことは、今日社会が直面する最も大きな課題の1つである。
【0005】
COVID-19の現在の流行は、1つのそのような例である。COVID-19は、2019年後半から2020年の初めに、最初は中国湖北省武漢市で発生した。この疾患は、コウモリに由来し、未知の二次中間宿主を介してヒトに伝染した可能性が高い。本疾患は主に、汚染表面または感染患者の肺や鼻汁との接触により、COVID-19の原因物質であるSARS-CoV-2ウイルスの吸入または接触によって主に感染し、潜伏期間は2~14日間であることが早くから明らかになった。
【0006】
現在、SARS-CoV-2は感染患者の唾液中にも存在し、唾液中のウイルスレベルは重症化を強く示すことが知られている。
【0007】
無症状の患者は大きな懸念材料となる。現在、約5人に1人の感染者が無症状であることを示唆する証拠がある。また、これは現在占有されている病院および医療施設にとって安心材料であるが、無症状感染がパンデミックの「サイレントドライバー」として作用しているかどうかについては、研究者の間で依然として意見が分かれている。
【0008】
SARS-CoV-2の検出には、多くの実験室検査が利用可能である。ポジティブセンスの一本鎖RNAであることから、ほとんどの検査は、鼻咽頭スワブにおける何らかの種類の核酸増幅(例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、転写媒介増幅(TMA)、またはループ媒介等温増幅)に基づく。過去の感染の検出は、血清学的検査で可能である。
【0009】
したがって、SARS-CoV-2の効率的かつ高感度な検査は、その新生変異体の全範囲にわたって、世界中の集団における地域および状態レベルでのCOVID-19感染を管理および制御する主な手段であり続ける。
【0010】
本発明者らは、特定の非生物学的材料および物体をマーキングおよび検出するための蛍光X線(XRF)技術の特定の用途を以前に説明した(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0095045号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、広範囲の生物学的病原体、特に世界の伝染病の大部分の原因である空気媒介性または水媒介性細菌およびウイルスを検出するための、迅速、高スループット、高感度かつ便利な方法およびツールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の核心は、対象物に特徴的な化学物質元素および/または組成成分を検出し、場合によっては定量化するために使用される、蛍光X線(XRF)マーキング技術である。XRF信号の読み取りは、材料および組成を示し、対象物のマーキングおよび検出に使用することができる。
【0014】
XRFは、高エネルギーX線またはガンマ線による照射によって励起された物質からの特徴的な「二次」(または蛍光)X線の放出である。この現象は、元素分析または化学分析のために、特に、地質化学、法医学、考古学および美術品において金属、ガラス、セラミックおよび建築材料の調査に広く使用されている。生体物質に適用されることはほとんどなかった。
【0015】
本発明は、生物医学的目的のためのXRF検出の用途を提供し、それによって、XRF識別可能マーカー、方法およびそれぞれの読取り装置は、様々な臨床標本における様々な生物病原体の検出に使用される高感度、特異的、および迅速な分子診断ツールを提供するために、追加の機能性要素を含むように適合される。この技術は、優れた微量元素感度および大きな浸透深さのため、分画または切片化を必要とせず、天然起源に近い全試料中のXRF識別可能マーカーを分析および定量することを可能にする。
【0016】
より具体的には、本発明によれば、XRF識別可能マーカーは、生物病原体の直接的または間接的な分子検出のための様々な技術と併せて動作可能である。これまで、病原体の直接検出および病原体に対する宿主抗体の血清学的検出のためのゲノムベースおよびタンパク質ベースの方法を含む、多数の高品質アプローチが、病原体の分子診断との関連で開発されてきた。また、そのような技術に関する既存の経験にもかかわらず、特にハイスループットスクリーニング用途におけるそのような検査の全体的な特異性、感度、および手頃さに関して、いくつかの未解決の問題が残っている。
【0017】
したがって、最も広い意味において、本発明は、危険にさらされているまたは病原体にすでに感染している集団において、細菌性またはウイルス性のいずれかの生物学的病原体を検出するための診断プラットフォームを提供する。本発明は、高度の柔軟性および汎用性を可能にし、それによって、XRF識別可能マーカーなどの多目的または多機能要素が、ゲノムベースまたはタンパク質ベースの分子アッセイの機能要素または成分と会合または連結され、その結果、病原体との反応時に、構築物全体がXRFベースの装置によって識別可能である。
【0018】
例えば、XRF識別可能マーカーは、X線またはガンマ線放射に応答してX線を放出する1つ以上の原子であってもよく、これは、金属イオン、有機金属または金属酸化物機能性、または非金属原子のいずれかであり得る。分子アッセイの機能性成分は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)もしくは逆転写における1つ以上の種類のヌクレオチド、または同じ試験に含まれる特異的抗体または二次ユニバーサル抗体の1つ以上の種類のアミノ酸であり得る。
【0019】
これらの2つの成分間の会合または連結の性質は、マーカーおよび機能性成分の種類に応じて変化し得る。具体例は、共有結合または1つ以上の非特異的多機能(またはユニバーサル)実体を介した結合である。成分の特異的な配向および結合は、所定の病原体の検出の感度および特異性を高めるために、2種類以上のマーカーおよび2種類以上の機能性成分を含むように調整することができる。
【0020】
重要なことに、構築物全体は、室温で動作可能かつ安定であり、標識された病原体の特異的XRFシグネチャーは、便利で携帯可能なXRFベースの装置によって識別可能である。根本的には、この技術は非侵襲的であり、したがって広範囲の潜在的用途が開かれる。
【0021】
この新しい診断プラットフォームは、所定の病原体、例えば、血液、血清、唾液の試料ならびに鼻および肺粘膜からの分泌物の試料、糞便および尿の試料などに感染する危険性があるか、またはすでに感染している個体から得られる様々な生物学的試料に適用することができる。言い換えれば、多くの種類の病原体、細菌およびウイルスの診断検査ルーチンに組み込むことができる。
【0022】
WHOおよびECDC PHE(欧州疾病予防管理センターおよび公衆衛生局)によると、21世紀において依然として関連する伝染病またはパンデミックは、コレラ、ペストおよび黄熱病などのいくつかの古い疾患、ならびに、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エボラ、ジカ、中東呼吸器症候群(MERS)、HIV(技術的には風土病)、インフルエンザA(H1N1)pdm/09およびごく最近ではCOVID-19などの新興疾患を含む。結核(TB)は、依然として単一の生物によって引き起こされる感染性疾患キラーのトップであり、2018年には150万人の死亡の原因であった。
【0023】
このリストが異種遺伝子性であることは明らかである。これは、細菌性(例えば、コレラ、TB)ならびにウイルス性(例えば、SARS、HIV、エボラ、およびCOVID-19)病原体、空気媒介性および水媒介性病原体、および感染した体液(例えば、血液、呼吸器系排出物)や汚染物体との直接接触を介して感染する病原体を含む。これらの病原体の多くは、肺に影響を及ぼす(例えば、SARS、結核、インフルエンザA、およびCOVID-19)。
【0024】
本発明の診断プラットフォームは、個々の検査ツールとして、さらに、危険性のある集団および病原体にすでに感染している集団における大規模スクリーニングツールとして、これらの病原体のすべてに適用可能である。
【0025】
また、研究および獣医学的目的にも適用可能である。例えば、上記リストの病原体の多くは、動物に由来する(例えば、エボラ、インフルエンザA、SARS、およびより最近ではCOVID-19)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
したがって、最も一般的な意味において、本発明は、ヒトにおける最近および現在の流行、ならびにこれらの病原体の変異体によって引き起こされる潜在的な将来の流行の原因となる生物学的病原体を検出するための診断ソリューションに関して明確にすることができる。全ての証拠は、それぞれのワクチンの成功した実施でさえ、既知の病原体は、世界人口または少なくとも特定の地理的および社会経済的ポケットに存在し続け、将来のパンデミックにおける変異体として再出現し得ることを示唆する。
【0027】
主な態様の1つにおいて、本発明は、生物学的または非生物学的試料中の生物学的病原体を検出するための診断プラットフォームを提供し、これは、本明細書でさらに詳述されるように、XRF読取り装置によって検出可能な少なくとも1つのXRF識別可能マーカーで試料中の病原体を標識するために、生物学的病原体またはその一部を検出するための少なくとも1つの機能性成分に動作可能に連結された少なくとも1つのXRF識別可能マーカーを含む。
【0028】
用語「XRF」(蛍光X線)は、本明細書では、材料の元素組成を決定するために使用される非破壊分析技術を指す。これはさらに、一次X線源によって励起されるときに試料から放出される蛍光(または二次)X線を測定することによって試料の化学的性質を決定するXRF分析器または装置を意味する。蛍光X線分析は、物質にX線を照射したときに発生する特徴的なX線(蛍光X線)を用いる方法である。
【0029】
したがって、XRF識別可能マーカーは、XRF分析器または装置(XRFリーダでもある)によって検出可能な任意のマーカーである。
【0030】
多数の実施形態において、本発明のXRF識別可能マーカーは、X線またはガンマ線放射に応答してX線信号を放出する原子または原子団である。
【0031】
X線は、本明細書では、可視光線に匹敵するが、100A~0.1Aの極めて短い波長を有する電磁波を包含する。さらに、物質を通過しやすく、通過する物質の原子番号が小さいほど強くなる光線も含まれる。
【0032】
特定の実施形態では、XRF識別可能マーカーは、金属イオン、有機金属官能基、金属酸化物官能基または非金属原子である。
【0033】
金属イオンの例には、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムおよび亜鉛のような分光学的にサイレントな金属イオン、ならびに、より分光学的にアクセス可能な鉄、銅、マンガン、および少数の他のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
有機金属化合物は、本明細書において、共有結合した組成物を含む、金属に結合した炭素原子を含有する任意の化合物を包含する。さらに、金属と有機配位子との間の有機金属錯体、および、アルカリ、アルカリ土類金属、ランタニドおよびアクチニドのようなイオン結合型有機金属化合物を含む。
【0035】
金属酸化物は、本明細書において、金属酸化物および混合メタ酸化物を指し、具体例としては、鉄、ケイ素、チタン、および酸化アルミニウムが挙げられ、これらは、含まれる酸素原子の数および元素の酸化数によってさらに区別される。
【0036】
さらなる実施形態では、XRF識別可能マーカーは、Si、P、S、Cl、K、Ca、Br、Ti、Fe、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、As、Fe、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Cs、Ba、La、Ta、W、SeおよびCeから選択される元素または元素を含む官能基である。
【0037】
「生物学的病原体またはその一部を検出するための機能性成分」という用語は、本明細書では、機能性成分と生物学的病原体との間の特異的反応を意味し、それによって生物学的病原体を検出、同定および/または増幅することができる。言い換えれば、機能性成分と生物学的病原体との間の反応は、生物学的病原体のゲノムまたはプロテオーム中の1つ以上のマーカー、構造または配列を検出する分子アッセイを意味する。
【0038】
多数の実施形態において、少なくとも1つの機能性成分は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写、核酸ハイブリダイゼーション、抗体試験、血清学的抗体試験の成分である。
【0039】
PCRは、病原体の特定のゲノム配列の標的増幅および個性化を可能にする分子アッセイの例である。PCRは、本明細書において、インビトロで特定のDNA領域の複数のコピー(アンプリコン)を生成する広範囲の技術を包含し、これには、古典的な3工程PCR(テンプレートの変性;プライマーのアニーリング;および新しいDNA鎖の伸長)、リアルタイムPCR(定量的PCRまたはqPCR)、逆転写酵素(RT-PCR)、マルチプレックスPCR、ネステッドPCR、ハイフィデリティPCR、高速PCR、ホットスタートPCR、GCリッチPCRが含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
逆転写は、RNAをDNAに変換するための逆転写酵素を用いる前工程を使用するRNA配列の増幅および個性化のためのPCRの特定の例である。このタイプの検出アッセイは、RNAウイルス(例えば、SARS-CoV-2、インフルエンザ)に特に適用可能である。
【0041】
核酸ハイブリダイゼーションは、病原体のDNA配列またはRNA配列の両方を標的とするゲノム検出アッセイの別のタイプである。核酸ハイブリダイゼーションは、本明細書において、より短いストレッチのオリゴヌクレオチド(例えば、21塩基)およびより長いストレッチ、ならびに誘導体として、任意の長さの標的DNAまたはRNA配列、および任意の長さのDNAまたはRNAプローブを包含する。
【0042】
抗体検査は、所定の病原体に特徴的な特定のペプチドまたはタンパク質の検出を可能にする分子アッセイの例である。抗体検査は、本明細書において、一次抗体および二次抗体(後者が特異的抗体と併せて使用される場合)、さらに病原体の表面上のタンパク質(例えば、ウイルスエンベロープタンパク質、ウイルススパイクタンパク質)および病原体の内部環境由来のタンパク質について産生される抗体を包含する。さらに、そのようなタンパク質の二次修飾に対して産生される抗体を包含する。
【0043】
血清学的抗体検査(または血清学的検査)は、生物学的病原体に応答して宿主において産生される特異的抗体の検出を可能にする分子アッセイの例である。血清学的検査は、本明細書において、凝結、中和、凝集、沈殿、補体固定および酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの異なるタイプの血清学的検査を包含する。さらに、無差別感染ウインドウで産生されるIgG型およびIgM型の宿主抗体を包含する。
【0044】
特定の実施形態では、少なくとも1つの機能性成分は、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、アミノ酸、ペプチド、誘導体、修飾物、融合構築物、またはそれらのコンジュゲートであり得る。
【0045】
特定の実施形態では、機能性成分は、所定の病原体(例えば、コレラ菌(Vibrio cholerae))の特定のDNA配列の標的化増幅および個性化のためにPCRにおいて使用されるヌクレオチドまたはポリヌクレオチド(プライマー)であり得る。
【0046】
他の実施形態では、機能性成分は、所定の病原体(例えば、SARS-CoV-2)の特異的RNA配列の標的化増幅および個性化のためにRT-PCRにおいて使用されるヌクレオチドまたはポリヌクレオチド(プライマー)であり得る。
【0047】
さらに他の実施形態において、機能性成分は、所定の病原体の特定のDNAまたはRNA配列の検出のために核酸ハイブリダイゼーションにおいて使用されるヌクレオチドまたはポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)であり得る。
【0048】
他の実施形態では、機能性成分は、アミノ酸、ペプチド、または所定の病原体の特定のタンパク質の検出に使用される抗体の一部であり得る。
【0049】
他の実施形態において、機能性成分は、アミノ酸、ペプチド、または所定の病原体に特徴的な抗原の一部であり得、これは、所定の病原体に対して宿主において産生される特異的IgGまたはIgM抗体の検出において使用される。
【0050】
より広い意味において、機能性成分は、アミノ酸、ペプチド、または所定の病原体に特徴的な抗原の一部であり得、これは、所定の病原体に対して産生される宿主免疫の任意の特定の成分の検出において使用される。
【0051】
特定の実施形態では、機能性成分は、前述の種類の機能性成分の誘導体、修飾体、融合構築物、コンジュゲートであり得る。
【0052】
重要なことには、多数の実施形態において、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび少なくとも1つの機能性成分は、動作可能に連結される。「動作可能に連結される」という用語は、本明細書において、室温で安定であり、XRF検出を妨害しない任意のタイプの化学結合を意味する。
【0053】
多数の実施形態において、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび少なくとも1つの機能性成分は、共有結合によって連結される。
【0054】
特定の実施形態では、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび少なくとも1つの機能性成分は、少なくとも1つの非特異的(多機能性)成分によって動作可能に連結される。「非特異的成分」(多機能性成分でもある)という用語は、XRFマーカーと機能性成分との間に架橋するユニバーサル化学リンカーを意味する。
【0055】
多数の実施形態において、非特異的成分または化学リンカーは、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび/または少なくとも1つの機能性成分を連結する連結原子または原子団であり得る。
【0056】
さらなる実施形態では、非特異的成分または化学リンカーは、脂肪族基、環状基、1つ以上の二重または三重二重結合を含有する基、芳香族基、ヘテロ芳香族基、炭素環式基、ケイ素系基、糖、アミノ酸、核酸、リン酸基などの炭素系基から選択することができる。
【0057】
さらなる実施形態では、非特異的成分または化学リンカーは、共有結合によって少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび/または少なくとも1つの機能性成分に結合される。
【0058】
特定の実施形態では、複合体全体は、複数のXRF識別可能マーカー、機能性成分および/または非特異的成分を含むことができる。
【0059】
多数の実施形態において、本発明の診断プラットフォームは、成分A-L-Bの構造として概略的に記載することができ、Aは病原体結合機能性であり、BはXRF識別可能マーカーであり、LはAおよびBを会合するリンカーである。
【0060】
本発明の診断プラットフォームの関連用途に関して、多数の実施形態において、関連する病原体は、ヒトにおける主要な伝染病およびパンデミックに関連するウイルスおよび細菌である。多くの場合、ヒト宿主は、同じまたは類似の病原体の二次宿主、三次宿主または三次宿主であるが、元の病原体の変異体は、ラット(例えば、ペスト)、ニワトリ(例えば、インフルエンザ)、サル(例えば、HIV/AIS)およびコウモリ(例えば、SARSおよびCOVID-19)などの別の種に由来した。大部分について、元の哺乳動物宿主における疾患は無症状である。
【0061】
したがって、多数の実施形態において、関連する病原体は、ヒトにおける主な伝染病およびパンデミックに類似する哺乳動物疾患におけるウイルスおよび細菌病原体である。
【0062】
多数の実施形態では、ウイルス性または細菌性病原体は、コレラ、ペストおよび黄熱病、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エボラ、ジカ、中東呼吸器症候群(MERS)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV/AIDS)、インフルエンザA(H1N1)pdm/09、結核(TB)およびコロナウイルス病19(COVID-19)の病原体から選択される。
【0063】
コレラは、本明細書において、コレラ菌の特定の細菌株によって引き起こされる小腸の感染症の部分的および完全な症状の全範囲を包含する。いくつかのタイプのコレラ菌がこの疾患に関連しており、いくつかのタイプは他のタイプよりも重篤な症状を生じる。コレラは、本明細書において、過去の感染に関連するクラスターIおよびクラスターII菌株、ならびにアフリカ大陸およびイエメンからのより最近の菌株も包含する。コレラは、汚染された水および食品によって主に感染する。
【0064】
ペストは、本明細書において、ペスト菌(Yersinia pestis)によって引き起こされる感染性疾患の全範囲を包含する。ノミ咬傷または感染した動物の取り扱いによって感染する水泡性および敗血症性ペスト、さらに感染した飛沫を介して空気感染する肺炎型形態が包含される。
【0065】
黄熱病は、本明細書において、フラビウイルス科に属する節足動物媒介性の黄熱病ウイルス(YFV)によって引き起こされる急性ウイルス性出血性疾患の症状の全範囲を包含する。YFVは、南米諸国およびサハラ以南のアフリカの多くに風土性である。
【0066】
SARSは、本明細書において、SARS関連コロナウイルスによって引き起こされるウイルス性呼吸器疾患の症状の全範囲を包含する。SARSは、空気媒介性ウイルスであり、唾液の小さな飛沫ならびに鼻および肺の分泌物を通して拡散することができる。表面および国際航空路を介して拡散する能力を有する。コロナウイルス、例えば、SARS MERSおよびCOVID-19は、ポジティブセンスRNAゲノムを有する。
【0067】
エボラ、またエボラ出血熱(EHF)は、本明細書において、ザイールエボラウイルス、スーダンエボラウイルス、タイフォレストエボラウイルス、コートジボワールエボラウイルス、ブンジブギョエボラウイルス、および哺乳動物宿主において類似の疾患を引き起こすさらなる種を含む、エボラウイルスの特定の種によって引き起こされる感染症の全範囲を包含する。エボラは一本鎖RNAウイルスである。
【0068】
ジカは、本明細書において、フラビウイルス科に属する節足動物媒介性ジカウイルスによって引き起こされる感染の症状の全範囲を包含する。ジカは、南米諸国に風土性である。
【0069】
MERSは、本明細書において、別のタイプのコロナウイルスによって引き起こされる、SARSに類似したウイルス性呼吸器疾患を指す。
【0070】
HIV/AIDSは、本明細書において、レトロウイルスHIV-1およびHIV-2によって引き起こされる感染症の全範囲を包含し、これまでに同定されたこれらのウイルスの複数の菌株および亜型を含む。
【0071】
インフルエンザAは、本明細書において、ヒトおよび家禽から単離された菌株および亜型を含む、ウイルス科オルソミクソウイルス属(Orthomyxoviridae)アルファ-インフルエンザウイルスの唯一の種であるインフルエンザウイルスによって引き起こされる感染症の全範囲を包含する。インフルエンザは、断片化されたRNAゲノム(8セグメント)を有する。
【0072】
本明細書におけるTBは、潜伏性および多剤耐性TBなどの様々なタイプのTB、さらに、中国、アフリカ、ロシアおよびラテンアメリカ由来のより最近のMTB分離株を含む、結核菌(MTB)細菌によって引き起こされる呼吸器症状の全範囲を包含する。
【0073】
本明細書におけるCOVID-19は、これまでに単離された遺伝子変異体を含む、新しいコロナウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされる呼吸器症状および他の感染症状の全範囲を包含する。
【0074】
多数の実施形態では、本発明の診断プラットフォームは、上記のウイルスまたは細菌の1つに感染し、それぞれの障害の部分的またはより完全な臨床症状を示す個体、またはこれらの障害に関連する重度または軽度の症状を有する感染個体に適用することができる。
【0075】
さらに他の実施形態では、本発明の診断プラットフォームは、無症状であり、上記障害に関連するいかなる症状も示さない感染個体に適用することができる。
【0076】
さらに他の実施形態では、本発明の診断プラットフォームは、ウイルスおよび細菌のうちの1つに感染する危険性があり、それぞれの感染の陰性診断を求める個体に適用することができる。
【0077】
これら2つの後者の用途は特に重要である。感染および非感染集団群の分離および隔離は、感染の広がりを抑制するための重要な手段の1つである。
【0078】
被験物質に関して、多数の実施形態では、本発明の診断プラットフォームは、生物学的病原体に感染する危険性があるか、またはすでに感染している個体から得られた生物学的試料に適用される。
【0079】
特定の実施形態では、本発明の診断プラットフォームは、哺乳動物の試料に適用される。
【0080】
多数の実施形態では、診断プラットフォームは、生物学的病原体に感染する危険性があるか、またはすでに感染している哺乳動物から得られた体液、身体排出物、身体分泌物の試料に適用される。
【0081】
さらなる実施形態では、診断プラットフォームは、血液、血清、唾液、鼻または肺の分泌物の試料、尿または糞便試料、または涙滴の試料に適用される。
【0082】
さらに他の実施形態では、診断プラットフォームは、生物学的病原体に感染している危険性があるか、またはすでに感染している哺乳動物と接触していたか、または接触している疑いがある表面、物体、またはその部分から得られた非生物学的試料に適用することができる。この適用は、汚染された表面または物体からの病原体の感染を排除するために重要である。
【0083】
多数の実施形態では、本発明の診断プラットフォームは室温で動作可能である。
【0084】
多数の実施形態において、本発明の診断プラットフォームは、病原体の特異的XRFシグネチャーの検出のためのXRF読取り装置と共に動作可能である。
【0085】
特定の実施形態では、前記装置は、ポータブルXRF読取り装置である。
【0086】
本発明はさらに、その特定の実施形態の全体を通して、上記の診断プラットフォームを使用する組成物および方法の形態で明確にすることができる。
【0087】
より具体的には、本発明の組成物および方法は、生物学的病原体またはその一部を検出するための少なくとも1つの機能性成分に動作可能に連結された少なくとも1つのXRF識別可能マーカーの投与を含むまたはそれを伴い、それによって、XRF読取り装置によって検出可能な少なくとも1つのXRF識別可能マーカーで病原体を標識する。
【0088】
多数の実施形態において、本発明の組成物および方法は、X線またはガンマ線放射に応答してX線信号を放出する原子または原子団であるXRF識別可能マーカーを使用する。
【0089】
多数の実施形態において、本発明の組成物および方法は、病原体の特異的XRFシグネチャーの検出のためのXRF読取り装置を使用する。
【0090】
XRFマーカー機能性成分構築物の他の特定の実施形態、その特定の成分の改変、およびその関連する適用は、上記で論じられている。
【0091】
特に本発明の組成物に関して、多数の実施形態において、組成物は、安定剤、抗酸化剤、酸化物質、界面活性剤、溶解剤、糖、塩、pH安定剤、緩衝剤、浄化剤、希釈剤、保存剤、可溶化剤および乳化剤から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含み得る。
【0092】
具体的には、本発明の方法において、必須の工程は、潜在的な生物学的病原体を有する試料を、生物学的病原体またはその一部を検出するための少なくとも1つの機能性成分に動作可能に連結された少なくとも1つのXRF識別可能マーカーと接触させ、それによって試料中の病原体をXRF読取り装置によって検出可能な少なくとも1つのXRF識別可能マーカーで標識する工程である。
【0093】
試料が機能性成分で処理されると、XRFによる検出が進行し得る。したがって、例えば、試料中のウイルスの存在を決定するための本発明の方法において、本方法は、前記試料にX線またはガンマ線放射を照射し、それによって病原体、例えばウイルスの存在を決定する工程を含む。XRFユニットは、当該技術で知られている任意のユニットであり得る。本発明に従って使用され得るXRFユニットおよび検出方法は、例えば、米国特許第10,607,049号明細書、同第10,539,521号明細書、および国際特許出願第PCT/IL2017/050121号明細書、同第PCT/IL2017/050354号明細書、同第PCT/IL2017/051050号明細書、および任意の米国対応出願に開示されており、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0094】
多数の実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび少なくとも1つの機能性成分と共に試料をインキュベートする工程をさらに含むことができる。
【0095】
他の実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーおよび少なくとも1つの機能性成分の過剰分を試料から除去する工程をさらに含むことができる。
【0096】
さらに他の実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つの機能性成分に動作可能に連結された少なくとも1つのXRF識別可能マーカーと試料を接触させる前に、試料を溶解する工程をさらに含むことができる。
【0097】
上記の本発明の診断プラットフォームまたは組成物を含み、使用説明書をさらに含むキットを提供することは、本発明の別の重要な態様である。
【0098】
キットは、それぞれの成分の所定量および配分、ならびに適切なパッケージまたは容器におけるその配分を意味する。
【0099】
最終的に、本発明は、生物学的および非生物学的試料中の生物学的病原体の存在を検出または排除するための、上記の本発明の診断プラットフォームまたは組成物の使用形態で明示することができる。
【0100】
具体的実施形態
その主な態様の1つにおいて、本発明は、生物学的試料中のウイルスの存在を診断/決定するための診断ツールを提供し、本ツールは、ウイルスの少なくとも1つの領域に会合するように選択されかつ動作可能な少なくとも1つの機能性およびXRFによって識別可能な少なくとも1つの機能性を有する多機能材料の形態である。
【0101】
多数の実施形態において、本発明のツールは、ウイルス病原体を含むことが疑われる試料である生物学的試料に適用される。
【0102】
ウイルスエンベロープは、膜、エンベロープおよびスパイク構造タンパク質が固定される脂質二重層からなる。コロナウイルスのサブセットはまた、ヘマグルチニンエステラーゼ(HE)と呼ばれるより短いスパイク様表面タンパク質を有する。一部のウイルスは、エンベロープとウイルスゲノムとを分離するタンパク質層であるキャプシドを有するウイルスエンベロープを有する。ウイルスエンベロープは、通常、リン脂質およびタンパク質からなり、ウイルス糖タンパク質を含み得る。
【0103】
エンベロープの内部で、ヌクレオカプシドは、連続ビーズ-オン-ストリング型立体構造でポジティブセンス一本鎖RNAゲノムに結合するヌクレオカプシドタンパク質の複数のコピーから形成される。
【0104】
本明細書に開示される本発明の発明者らは、生物学的試料中のウイルスの存在を診断するための容易かつ迅速なキットを開発した。この方法は、ウイルスに選択的に結合する能力を有する材料、および、蛍光X線(XRF)によってこのような結合事象を識別し、記録し、分析するためのシステムを利用する。
【0105】
したがって、本発明の第1の態様では、生物学的試料中のウイルスの存在を診断/決定するための診断ツールが提供され、本ツールは、ウイルス、ウイルス成分または抗体、細胞またはウイルスの存在に対する免疫応答によって生成される任意の他の材料は物質の少なくとも1つの領域に会合するように選択および動作可能な少なくとも1つの機能性、およびXRFによって識別可能な少なくとも1つの機能性を有する多機能材料の形態である。
【0106】
生物学的試料において同定されるウイルスは、1つ以上の宿主種において活性であり得る任意のウイルス種、タイプ、サブタイプ、または菌株である。このようなウイルスは、コロナウイルス科/コロナウイルス、オルトミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、ウイルスのコクサッキー科およびアデノウイルス科から選択され得る。
【0107】
いくつかの実施形態において、コロナウイルスは、COVID-19を引き起こす病原体、例えば、SARS-CoV-2である。当該技術で既知のように、SARS-CoV-2は、SARS-CoV-2株のゲノム全体、例えば、5’-UTR、ORFlabポリタンパク質、遺伝子間領域、エンベロープタンパク質、マトリックスタンパク質、遺伝子間領域およびヌクレオカプシドタンパク質に見出され得る変異を有するSARS-CoV-2を包含する。
【0108】
生物学的試料は、ヒトまたは非ヒト対象から得られる任意のものであり得る。試料は、血液試料、鼻排泄物、口腔排泄物、尿試料、涙適などであってもよい。生物学的試料は、前処理された試料、またはいかなる前処理または操作も受けていない試料であり得る。いくつかの実施形態では、試料は、細胞膜の溶解またはウイルス膜の溶解を引き起こす処理を受けている。
【0109】
生物学的試料は、ウイルス、任意の関連するウイルス成分、または、ヒトまたは動物の体内のウイルスの存在に対する免疫原性応答に関連する任意の物質、抗体または細胞を含有することが疑われる任意のそのような試料であり得る。
【0110】
診断ツールは、任意の数の機能性を有し得る多機能材料であり、そのうちの少なくとも1つは、ウイルスの少なくとも1つの領域に会合するように選択および動作可能であり(いわゆるウイルス結合機能性)、少なくとも別の1つはXRFによって識別可能な機能性(いわゆるXRF機能性)である。機能性は、機能性が関連する原子または原子鎖、例えば骨格の周囲に配置されてもよい。材料は、典型的には、それぞれが本明細書で定義される異なる機能性を画定する2つの領域を有する実質的に線状の材料である。
【0111】
ウイルスの領域、または、ウイルス成分または抗体、細胞またはウイルスの存在に対する免疫応答によって生成される任意の他の材料または物質と会合するように選択される少なくとも1つの機能性は、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、脂質、炭水化物、核酸と会合することができる任意のそのような化学的機能性、および、前記領域および成分に存在し会合が目標とされる他の天然の機能性である。いくつかの実施形態では、ウイルスの領域は、膜またはウイルスキャプシドの領域である。他の実施形態では、領域はウイルスヌクレオカプシドの一部である。
【0112】
多くの種類のウイルスには、宿主細胞に結合してそこに侵入する表面タンパク質ヘマグルチニン(HA)、宿主細胞からのビリオンの排出に関与するノイラミニダーゼ、水素イオン濃度を平衡化するためのM2イオンチャネル、およびウイルスの遺伝情報を含むリボ核タンパク質(RNP)が含まれる。
【0113】
本明細書で使用される「ウイルス」という用語は、核酸コードを有するDNAまたはRNAを含む細胞内体を指し、典型的には、ウイルスは、二分裂を通して増殖せず、それ自体ではATPを生成するための特定のシステムを有さない。本明細書に記載されるウイルスは、エンベロープを含むものであっても、エンベロープを含まないもの(すなわち、ネイキッドウイルス)であってもよい。
【0114】
概して、エンベロープを有するウイルスは、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、およびヘパドナウイルスなどのDNAウイルス;トガウイルス、コロナウイルス、D型肝炎、パラミクソウイルス、ラブドウイルス、フラビウイルス、ブニヤウイルス、オルトミクソウイルス、フィロウイルスおよびレトロウイルスなどのRNAウイルスを含んでもよい。オルトミクソウイルスは、インフルエンザウイルスA、インフルエンザウイルスB、インフルエンザウイルスC、イサウイルス、トゴトウイルスおよびクアランジャウイルス属から選択され得る。
【0115】
コロナウイルスは、アルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルスおよびデルタコロナウイルス属から選択され得る。パラミクソウイルスは、パラミクソウイルス、風疹ウイルス、モルビリウイルスおよびニューモウイルス属から選択される。さらに一般的に言えば、ウイルスは、核酸およびその周囲のタンパク質をさらに含む。ウイルスタンパク質は、概して、宿主細胞へのウイルス粒子のゲノム保護、付着、または融合に関与する。このようなタンパク質は、ウイルスの形態を維持する構造タンパク質、および、タンパク質および核酸合成に関連する非構造タンパク質を含み得る。
【0116】
本発明の文脈における「表面タンパク質」なる用語は、概して、構造タンパク質に関する。具体的には、このようなタンパク質は、ウイルスのエンベロープ上に存在する全ての周辺タンパク質を包含する。いくつかの実施形態において、このような表面タンパク質は、糖タンパク質および融合タンパク質を含み得る。いくつかの他の実施形態において、表面タンパク質は、ヘマグルチニン(HA)、スパイクタンパク質またはFタンパク質であり得る。いくつかの実施形態では、表面タンパク質は、ウイルスと標的宿主細胞との間の膜融合に関与するものであり得る。
【0117】
ある実施態様において、ウイルスは、ヘマグルチニン(HA)を含むインフルエンザウイルスである。
【0118】
本発明の別の実施形態では、ウイルスは、表面タンパク質としてスパイクタンパク質を含むコロナウイルスであり、このようなスパイクタンパク質は、S1およびS2部分を含む。S1部分が宿主細胞に結合すると、プロテアーゼによってS1およびS2に切断される。S2の末端の疎水性ドメインが露出し、したがって活性化される。
【0119】
さらなる実施形態において、ウイルスは、表面タンパク質としてHNタンパク質を含むパラミクソウイルスである。HNタンパク質は、宿主細胞にウイルスを付着させる。このような表面タンパク質は、不活性状態で前駆体HNOとして現れ、加水分解を介してC末端からアミノ酸残基を除去すると活性化される。さらに、パラミクソウイルスは、表面タンパク質としてFタンパク質を含む。
【0120】
本明細書で使用される「反応」という用語は、少なくとも1つのウイルス結合機能性と表面タンパク質との間の接触時の物理的および/または化学的状態の変化を指す。いくつかの特定の場合において、表面タンパク質が本発明のウイルス結合機能性と接触すると、そのような表面タンパク質は、その活性または不活性形態に転換され得る。
【0121】
本明細書で使用される「ウイルス結合機能性(VBF)」という用語は、単一の細胞またはヒトまたは動物の体における構造、機能または信号伝達に必要とされる分子を指す。そのような機能性は、機能または信号伝達のための特定の構造および/または領域を含み得る。いくつかの実施形態では、このような分子はリガンドである。機能性は、アミノ酸またはタンパク質、炭水化物、脂肪酸および脂質、ヌクレオチドまたは核酸を含み得る。また、このような用語は、ウイルス部分または任意の関連するウイルス成分に結合することができる任意の成分、または、ヒトまたは動物の身体におけるウイルスの存在に対する免疫原性応答に関連する任意の物質、抗体または細胞を指し得る。
【0122】
いくつかの特定の実施形態では、VBFは、抗体、酵素またはリガンドである。
【0123】
本発明によるウイルス結合機能性は、本明細書に記載されるXRF機能性(XF)にさらに連結される。
【0124】
したがって、本明細書では、生物学的試料中のウイルスの存在を決定する方法が提供され、本方法は、本明細書の発明に従った少なくとも1つの診断ツールで生物学的試料を処理する工程、VBFとウイルスの表面タンパク質との間で本明細書に記載の反応を可能にする工程、および、前記試料にx線またはガンマ線放射で照射する工程、および、照射に応答してそのような試料から受け取ったx線信号を検出する工程、および、必要に応じて信号を処理することによってウイルスの存在を決定する工程を含む。
【0125】
ウイルス培養は、ウイルス感染またはウイルスの利用可能性および伝播を検出するためのさらに別の既知の方法である。このような方法において、感受性細胞は、疑わしいウイルスを含有し得る物質と共にインキュベートされる。インキュベーション後、ウイルスタンパク質(例えば、ウイルスエンベロープおよびカプシドのタンパク質)が細胞中で証明され得る。したがって、細胞は、本発明による診断ツールで処理され、診断ツールは、細胞によって生成されるウイルスタンパク質に特異的なVBFを含む。前記VBFは、XRF識別可能なXRF機能性にさらに連結される。
【0126】
さらに、試料中の、ウイルス、任意の関連するウイルス成分または任意の物質、ヒトまたは動物の身体におけるウイルスの存在に対する免疫原性応答に関連する抗体または細胞を検出するためのELISAベースの方法が提供される。このような方法は、ウイルスの構造またはタンパク質に対して特異的なモノクローナル抗体、または、ヒトまたは動物の身体におけるウイルスの存在に対する免疫原性応答後に関連または産生される抗体または細胞を導入する工程を含む;このような抗体は、ウェルの表面に結合される。その後、当該試料の内容物をウェルに添加する。任意の関連抗原が添加懸濁液中に存在する場合、それらは結合した抗体と相互作用する。次の工程において、抗原-抗体複合体は、この特定の実施形態であるVBFを含む診断ツールの添加によって検出され、このような抗体は特異的であり、前記ウイルス構造またはタンパク質の他のエピトープに結合する。したがって、蛍光X線によって診断ツールを検出することができる。
【0127】
本発明の別の実施形態である検出のさらに別の選択肢は、ウイルス特異的タンパク質をウェルの壁に結合させ、ウイルスタンパク質に特異的な抗体で前記ウェルを処理し、その後、本発明による診断ツールでウェルを処理することによる。このような診断ツールは、通常、ウイルスタンパク質に結合するために前の工程で利用された抗体に特異的な抗体であるVBFを含む。通常、VBFの結合は、前記抗体のFc領域に対するものである。結合した抗体は、本明細書に記載されるようにXRFによって検出することができる。
【0128】
免疫蛍光法に基づく、試料中のウイルスまたはウイルス感染の存在を検出または決定する方法も本明細書で提供される。このような方法は、概して、ウイルス感染細胞をスライドに固定する工程、および前記細胞の透過性を高める物質を利用する工程を含む。その後、感染し固定された細胞を、検出すべきウイルスタンパク質に対して特異的な免疫グロブリンを含む懸濁液と共にインキュベートする。以下の処置は、先に利用された免疫グロブリンのFc領域に対する二次免疫グロブリンによるものであり、本発明に従ってXFと連結し、それによって診断ツールを構築する。上記の工程により、核、細胞質および細胞膜などの異なる区画におけるウイルスタンパク質を、XRFを介して検出することができる。
【0129】
生物学的試料中のウイルスまたはウイルス感染の存在を決定するためにウイルス核酸を検出する方法も本明細書で提供される。そのような方法は、潜在的に感染した細胞からのDNAまたはRNAの単離、次いで特異的制限酵素によるそのような分子の切断を含む。DNAの場合、まず分子を変性させて一本鎖を形成する。次いで、得られた一本鎖分子を、調べたヌクレオチド配列に相補的なXRF機能性を連結した一本鎖DNAまたはRNAプローブとインキュベートし、ハイブリダイズさせて二本鎖分子を形成する。一本鎖DNAまたはRNA分子(本明細書ではウイルス結合機能性)は、それに連結されたXRF識別可能マーカーと共に、本発明の診断ツールを形成する。
【0130】
本発明はまた、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(rt-PCR)に基づく、試料中のウイルスまたはウイルス感染の存在を検出または決定する方法を記載する。
【0131】
このような方法は、非常に少量のウイルスゲノムを増幅することを可能にする。この方法は、XFに連結されたプライマー(記載されるようにVBFとして作用する)、DNAポリメラーゼおよび4つのヌクレオシド三リン酸を混合物に添加し、それによってウイルス相補的DNA鎖を形成することを可能にする工程を含む。ウイルス物質がRNA分子である場合、逆転写酵素を用いてRNA分子をDNA分子に変換する必要がある。XFに連結されるプライマーは、それによって、本明細書の発明に従う診断ツールを形成し、以下に提供されるような検出装置を介して検出可能である。
【0132】
このようなプライマーは、5’末端または3’末端のいずれかでXRF識別可能マーカー(XF)に連結することができ、それぞれが本発明の実施形態である。
【0133】
PCR様プロセスの終わりに、増幅されたウイルスDNAまたはRNA配列は、本明細書に記載される検出装置を用いて定量的に検出することができる。
【0134】
ラテラルフローイムノアッセイ(LFIA)に基づく、サンプル中のウイルスまたはウイルス感染の存在を検出または決定する方法がさらに提供される。本方法は、ウイルス成分または免疫系成分(例えば、抗体または細胞)を含む試料に特異的な流動性抗体と、同じウイルス/免疫系成分に特異的な固定抗体の少なくとも1つの系統とを含むストリップを含む。試料がストリップを通って流れると、ウイルス成分に連結された抗体は、固定抗体によって捕捉され、それによってサンドイッチ様構造を形成する。流動性抗体をXFに(通常はFc部分を介して)さらに連結して、本発明による診断ツールをさらに構築する。陽性反応の場合、固定ラインは、ウイルス成分の抗原を介して流動性抗体に付着する。このような抗体は、XRFマーカーにさらに連結されるので、本明細書に提供される検出装置によって検出することができる。
【0135】
本明細書の発明による「免疫系成分」という用語は、ヒトまたは動物の体内のウイルスの存在に応答して生成または放出される任意の抗体(Ig)、化学物質、タンパク質(サイトカインなど)を指す。
【0136】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載の検出方法を提供する。本方法は、プローブ中のウイルスゲノムDNAまたはRNA分子を検出するためのものである。そのような方法は、4つのヌクレオチド(本明細書ではウイルス結合機能性またはVBFとして作用する)のすべてを含む混合物の添加を含み、各ヌクレオチドはXFに連結され、それによって本発明による診断ツールを形成する。
【0137】
標識されたヌクレオチド(または診断ツール)の各々は、それによってDNAポリメラーゼの作用によって相補的なDNA鎖に組み込まれ得る。
【0138】
VBFとXFとの間の連結は、本明細書に記載されるリンカーを介し得る。ある実施形態では、リンカーは脂肪族リンカーである。
【0139】
XRF機能性は、糖、塩基、またはリン酸基から選択されるその任意の部分の核酸に連結され得る。
【0140】
いくつかの実施形態では、結合は糖に対するものである。
【0141】
いくつかの実施形態では、結合は塩基に対するものである。
【0142】
いくつかの実施形態では、結合はリン酸基に対するものである。
【0143】
ウイルスの直接検出は、疾患の急性期においてのみ実行可能であり、通常は潜伏または持続感染形態では不可能である。場合によっては、ウイルスは症候期の前にのみ生体内に存在するため、ウイルスの直接検出は通常成功しない。したがって、ウイルスとの感染または接触は、通常、感染中に所定のウイルスに対して誘発される免疫応答の発生を特徴付けることによって間接的に検出される。通常、血清中のウイルスタンパク質に特異的に結合する患者抗体が検出される。IgM抗体は、概して、急性または最近の感染(例えば、ウイルス感染)を示す。過去または以前の感染は、血清またはプローブ中のIgG抗体を検出することによって推測することができる。特に急性感染の診断のために、感染中のIgMおよびIgG抗体の濃度を決定することが重要である。時には、IgA抗体についても検査する。
【0144】
前記抗体は、上記の手段のいずれか(例えば、記載されるXRFマーカーと組み合わせたELISAベースの技術)によって検出することができ、診断ツールは、XRF技術によって、または以下に記載される検出装置を介して識別可能なXRF機能性を含む。
【0145】
SARS-CoV-2は、ベータコロナウイルス属に属する一本鎖(+)RNAウイルスであり、このようなウイルスは通常、スパイク表面糖タンパク質(S)、小型エンベロープタンパク質(E)、マトリックス(膜)タンパク質(M)、およびヌクレオカプシドタンパク質(N)を含む。N-タンパク質は、そのようなウイルスにおいて最も多く含まれ、比較的保存されたタンパク質である。
【0146】
したがって、中和抗体による検出のための診断用抗原として簡便に利用することができる。
【0147】
コロナウイルスにおいて、S遺伝子は、受容体結合スパイクタンパク質をコードし、受容体結合および膜融合を可能にする。Sタンパク質は、宿主細胞への結合に必須である;これは、ウイルス粒子の表面上に存在し、高度に免疫原性である。
【0148】
MおよびEタンパク質は、ウイルスアセンブリに必須である。Nタンパク質は、SARS-CoV-2RNAの転写および複製、ならびにビリオン中のカプセル化されたゲノム(すなわち、RNAスタンダード)のラッピングに関連する。また、N-タンパク質は、感染中に最も急性の免疫原性活性を有する。SおよびNタンパク質はいずれも、試料中のウイルスを検出するための潜在的な抗原である。
【0149】
本発明は、上記の手段を介して、S、E、MおよびNタンパク質から選択されるウイルス成分を検出するための方法を提供する。一例として、ウイルスのスパイクタンパク質を検出する必要がある場合、スパイクタンパク質に特異的な抗体がそれに結合し、抗体が、本明細書に提供されるXRF技術または検出装置によって識別可能または検出可能なXRF機能性にさらに連結される、上記のELISAベースの方法を利用することができる。
【0150】
概して、IgMは、ウイルス感染に対して最初に産生される抗体である。IgGは、長期免疫および免疫記憶に重要である。観察されることは、コロナウイルス感染後、IgM抗体が6日後におよびIgGは10日後に対象の血清中に検出されることである。このような抗体は2~3年間持続する。したがって、IgM抗体の検出は、SARS-CoV-2への最近の曝露を示すが、IgG抗体の検出は、接触追跡を決定することを可能にする。IgMおよびIgG抗体の迅速な検出は、COVID-19疾患の診断および治療に有用である。
【0151】
さらに、患者の血清中のIgAの検出は、ウイルス感染状態に関する情報を提供する別の方法である。IgMおよびIgG抗体は、SARSおよびSARS-CoV-2のNタンパク質に対して主に産生され、IgAはウイルスのS1タンパク質に対して産生される。IgA応答はIgG応答よりもさらに早く始まるが、血清中のIgGの存在は感染期間中継続し、過去の感染を示し得ることが示される。
【0152】
したがって、試料中のウイルスまたはウイルス感染の存在を決定する方法であって、IgA、IgMおよびIgGから選択される中和抗体を検出するための上記の手段のいずれか1つを含む方法が、本明細書において提供される。
【0153】
本発明の文脈において、「ウイルス感染」という用語は、ヒトまたは動物の体内におけるウイルスまたはウイルス成分の存在に関し、また、体内におけるウイルスまたはウイルス成分の存在に応答して産生される免疫系成分(抗体および種々の細胞を含む)の存在に関する。
【0154】
本明細書の文脈における「中和抗体」は、病原体(例えば、ウイルス)が身体に及ぼす任意の生物学的効果を中和することによって、病原体から細胞を防御する抗体である。このような中和プロセスにより、病原体または感染性粒子は、もはや感染性でなくなる。いくつかの実施形態では、前記抗体は、IgG、IgMおよびIgAから選択される。
【0155】
上記で定義されるようなウイルス結合機能性は、第一級アミン、第二級アミンおよび第三級アミンなどのアミン;スルフヒドリル基、カルボン酸およびエステル、アミドなどのそれらの誘導体;アルコール、ジアルコールおよびそれらの高級ホモログ;チオール、ジチオールおよびそれらの高級同族体;チオエステル;ニトロ;エーテル;ジスルフィドなどから選択され得る。
【0156】
XRFによって識別可能な少なくとも1つの機能性(いわゆるXRF機能性)は、X線またはガンマ線放射によるインタロゲーション(照射)に応答してX線信号を放出するという意味で、XRF感受性である原子または原子団である。原子または原子団、すなわちXRFマーカーは、金属イオン、有機金属機能性、金属酸化物機能性、非金属原子の形態であり得る。
【0157】
いくつかの実施形態では、XRFマーカーは、Si、P、S、Cl、K、Ca、Br、Ti、Fe、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、As、Fe、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Cs、Ba、La、Ta、W、SeおよびCe
から選択される元素または元素を含む官能基である。
【0158】
元素または原子または原子団が金属原子またはイオンである場合、XRF機能性は、錯化相互作用またはイオン性相互作用によって金属またはイオンが配位されるリガンド基であり得る。例えば、XRF機能性は、そのような場合、対イオンが金属カチオンであるカルボキシレートアニオンであってもよい。同様に、機能性は、その非荷電形態で金属原子を錯体化することができるリガンド部分であり得る。XRFマーカーが非金属である場合、共有結合または異なる会合を介してXRF機能性において会合され得る。
【0159】
無機アニオンの非限定的な例としては、O-2、HO、F、Cl、Br、I、NO 、NO 、ClO 、SO -2、SO 、PO 、PO -3、Si-4、SiO -2、N 、MnO 、S -2、SeO -2,CrO -2,Cr -2およびCO -2が挙げられる。XRFマーカーは金属であり、XRF機能性は、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩などに由来する有機アニオンを含む物質の中から選択することができる。
【0160】
診断ツール、すなわち、少なくとも1つのウイルス結合機能性および少なくとも1つのXRF機能性を有する多機能材料は、2つ(またはそれ以上)の機能性が、例えば、同じ原子または同じ原子団に密接に位置付けられる有機材料または無機材料であってもよく、または材料原子骨格に沿って互いに距離をおいて位置付けられてもよい。特定の配置にもかかわらず、機能性および機能性配置は、(1)ウイルスへの容易かつ好ましくは室温での会合および(2)XRFマーカーの効果的な検出、を可能にするように調整され得る。したがって、診断ツールは、2つ以上の機能性を会合させる炭素鎖もしくは炭素基、または2つ以上の機能性を会合させるケイ素系材料などの無機材料の形態をとることができる。
【0161】
機能性が会合するそのような材料の非限定的な例としては、脂肪族材料、芳香族材料、炭素環式材料、シロキシ材料、糖、アミノ酸、核酸などが挙げられる。これらの各々は、1つ以上の官能基、例えば、アルキル基、芳香族基、二重結合または三重結合、ヒドロキシル基および他の酸素含有基、チオールおよび他の硫黄含有基、アミン基および他の窒素含有基、カルボン酸などのカルボキシル基、アルデヒド、アミドなど、酸化物基、ケイ素原子およびケイ素含有基などによって機能性および会合を修飾するために置換され得る。
【0162】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される本発明の方法において使用される本発明の診断ツールは、構造A-L-Bであってもよく、式中、Aは、1つまたは複数のウイルス結合機能性であり、Bは、1つまたは複数のXRFマーカーであり、Lは、AおよびBがそれぞれ上記のように選択され得るAおよびBを会合する連結結合(例えば、共有結合)または連結原子または原子団である。
【0163】
基Lは、結合または連結原子または原子団であり、結合であってもよく、この場合、AおよびBは、互いに直接会合している。Lが原子または原子団である場合、脂肪族基、環状基、1つまたは複数の二重結合または三重二重結合を含む基などの炭素系基;芳香族基;ヘテロ芳香族基;炭素環式基;ケイ素系基;糖;アミノ酸;核酸などの中から選択することができる。
【0164】
診断ツールは、機能性のいずれかの構造または同一性が互いに異なる1つまたは複数のそのような材料であり得る。異なるツールを使用して、試料中の異なるタイプのウイルスを検出するか、または他のウイルスと比較した1つのウイルスの相対的集団を定量的に決定することができる。
【0165】
本発明はさらに、診断ツールおよび担体を含む製剤を提供する。製剤は、安定剤、抗酸化剤、酸化性物質、界面活性剤、溶解剤、糖、塩、pH安定剤、緩衝剤、浄化剤、希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤などから選択される1つ以上の添加剤をさらに含んでもよい。
【0166】
本発明は、本発明による診断ツールおよび使用説明書を含むキットをさらに提供する。
【0167】
本発明はさらに、生物学的試料中のウイルスまたはウイルス感染の存在を決定する方法を提供し、本方法は、生物学的試料を本発明による少なくとも1つの診断ツールで処理する工程、診断ツールとウイルス、その任意の成分またはそれに対する免疫原性応答に関連する任意の抗体、物質または細胞との会合を可能にする工程、および、前記試料にx線またはガンマ線を照射してウイルスまたはウイルス感染の存在を決定する工程を含む。
【0168】
いくつかの実施形態では、本方法は、診断ツールまたはそれを含む溶液を得る工程をさらに含む。
【0169】
いくつかの実施形態では、ツールとウイルス/ウイルス成分/免疫系成分との間の会合は、室温で、数分~数時間のインキュベーション時間にわたって進行させられる。
【0170】
いくつかの実施形態では、本方法は、過剰な診断ツールを含む過剰な試薬を除去するために試料を洗浄する工程を含む。
【0171】
いくつかの実施形態では、本方法は、細胞溶解の工程を含む。
【0172】
いくつかの実施形態では、本方法は、診断ツールに関連するウイルス集団を遊離ウイルス集団から分離する工程を含む。そのような分離は、濾過、重力分離、遠心分離などの当該技術で既知の任意の手段によって達成することができる。
【0173】
いくつかの実施形態では、本方法は、x線またはガンマ線放射に応答して前記試料から受信されたx線信号を検出する工程、および信号を処理する工程を含む。信号は、X線またはガンマ線信号を試料に向けて放出するためのエミッタ(例えば、X線管)と、試料から到来する応答信号を検出するための検出器とを含み得るXRF分析器(リーダー)によって読み取られ得る。そのようなXRF分析器は、国際特許出願第PCT/IL2017/051050号明細書またはそれから派生した任意の米国特許出願に記載されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0174】
本方法は、x線またはガンマ線放射に応答して試料から到来するx線信号を検出する工程;検出された応答x線信号を処理して、ウイルスの存在を決定する工程をさらに含むことができる。
【0175】
本発明のいくつかの実施形態によれば、処理する工程は、検出された応答x線信号をフィルタリングして、最初に検出された応答x線信号と比較し、改善された信号対雑音比(SNR)および/または改善された信号対散乱比(SNC)を有する強化応答信号を取得する工程を含む。その後、強化応答信号は、ウイルスの存在に関連するXRFマーカーに関連する信号および/または補助信号を含むかどうかを決定するために処理される。例えば、処理する工程は、マーキングおよび/または補助信号に関連する1つまたは複数の周波数における応答信号の強度を分析し、それによって応答信号がマーキングおよび/または補助信号を含むかどうかを判定することによって、対象を認証する工程を含み得る。分析は、例えば、マーキングおよび/または補助信号の周波数と重複する特定の周波数帯域における応答信号のスペクトルを決定するためにスペクトル分析を実行する工程を含んでもよい、および/または、マーキングおよび/または補助信号の特定の1つ以上の周波数における応答信号の強度を検出/決定するように特に設計されてもよい。
【0176】
十分に高いSNRおよび/またはSCRを有する強化応答信号を得るために使用され得るそのようなフィルタリング技法の例は、例えば、米国仮特許出願第62/142,100号明細書および/または国際特許出願公開第2016/157185号明細書および/またはその優先権を主張する出願に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0177】
より具体的には、本発明のいくつかの実施形態によれば、フィルタリングは、検出されたX線応答信号の波長スペクトルプロファイルの少なくとも一部に時系列分析技術を適用することによって実行され、波長スペクトルプロファイルからトレンドおよび/または周期成分を抑制する。フィルタリングによって抑制されるトレンドおよび周期成分は、X線信号の検出された部分に現れるクラッタおよびノイズのうちの少なくとも1つに関連付けられ、以下のうちの1つまたは複数から生じる:検出装置の計器ノイズ、物体近傍の1つまたは複数の異物、後方散乱ノイズ、および隣接するピークからの干渉信号。したがって、スペクトル中のトレンドおよび/または周期成分が抑制される強化応答信号は、検出されたX線応答信号と比較して、より高いSNRおよび/またはより高いSCRを有し、これによりその中の弱いマーキングおよび/または補助信号の識別が可能となる。
【0178】
いくつかの実施形態では、本発明の診断ツールは、例えば、多くの異なる場所で(おそらく同時に)実施されるウイルスの存在に関する検査が、短時間で保存、分析、および/または公開され得るように、診断ツールを使用して、1つ以上のシステムによって得られた結果を記録するためのシステムに組み込まれてもよい。この目的のために、マーキングを読み取る装置(例えば、XRF分析器)は、データベースシステムと通信することができる。データベースシステムは、オンプレミス、クラウドベースのシステム、または分散型元帳であってもよい。一例では、データベースシステムは、複数の当事者が関連データ(例えば、医療施設および職員、病院、政府機関およびセキュリティ機関、被験者、および/または一般公衆)を記憶し、それにアクセスする分散型ブロックチェーンシステムとすることができる。そのようなブロックチェーンシステムでは、複数の当事者が、データを記憶しアクセスすることができ、記憶されたデータは、不変であり、容易に検証可能であり、分散設計により、本質的に修正に耐性がある。
【0179】
追加の具体的な実施形態
多数の実施形態では、本発明のツールは、血液試料、鼻排泄物、口腔排泄物、尿試料または涙滴である生物学的試料に適用される。
【0180】
特定の実施形態では、本発明のツールは、コロナウイルス科/コロナウイルス、オルトミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、コクサッキーウイルス科およびアデノウイルス科から選択されるウイルスに適用される。
【0181】
さらなる実施形態では、本発明のツールは、COVID-19、SARS-CoV-2の原因ウイルスに適用される。
【0182】
特定の実施形態では、本発明のツールは、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、脂質、炭水化物、核酸および天然の機能性から選択される機能性を含むウイルスの領域と会合するように選択される。
【0183】
さらなる実施形態では、領域は、ウイルス膜、ウイルスカプシドまたはウイルスヌクレオカプシドの領域である。
【0184】
特定の実施形態では、ウイルス結合官能基は、以下から選択される:第一級、第二級および第三級アミンなどのアミン;スルフヒドリル基、カルボン酸およびその誘導体;アルコール、ジアルコールおよびそれらの高級同族体;チオール、ジチオールおよびそれらの高級同族体;チオエステル;ニトロゴ;エーテル;ジスルフィド基。
【0185】
特定の実施形態では、XRFマーカーは、X線またはガンマ線放射によるインタロゲーション(照射)に応答してX線信号を放出する原子または原子団である。
【0186】
さらなる実施形態では、原子または原子団は、金属イオン、有機金属官能基、金属酸化物官能基または非金属原子の形態である。
【0187】
特定の実施形態では、XRFマーカーは、Si、P、S、Cl、K、Ca、Br、Ti、Fe、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、As、Fe、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Cs、Ba、La、Ta、W、SeおよびCeから選択される元素または元素を含む官能基である。。
【0188】
多数の実施形態では、本発明の診断ツールは、構造A-L-Bを有し、式中、Aは、1つまたは複数のウイルス結合機能性であり、Bは、1つまたは複数のXRFマーカーであり、Lは、AおよびBを会合する連結結合または連結原子または原子団である。
【0189】
別の態様では、本発明は、上記の診断ツールおよび担体を含む製剤を提供する。
【0190】
多数の実施形態において、本発明の製剤は、安定剤、抗酸化剤、酸化物質、界面活性剤、溶解剤、糖、塩、pH安定剤、緩衝剤、浄化剤、希釈剤、保存剤、可溶化剤および乳化剤から選択される1つ以上の添加剤をさらに含む。
【0191】
さらに別の態様では、本発明は、上記に詳述した本発明の診断ツールおよび使用説明書を含むキットを提供する。
【0192】
さらに別の態様から、本発明は、生物学的試料中のウイルスの存在を決定する方法を提供し、本方法は、診断ツールとウイルスとの間の会合を可能にするように、上記に詳述した本発明の少なくとも1つの診断ツールで生物学的試料を処理する工程、および、X線またはガンマ線放射で前記試料を照射し、それによってウイルスの存在を決定する工程を含む。
【0193】
特定の実施形態では、本発明の方法は、診断ツールまたはそれを含む溶液を得る工程を含む。
【0194】
多数の実施形態において、本発明の方法は、数分間から数時間までのインキュベーション時間の間、室温でツールとウイルスとの間で会合する工程を含む。
【0195】
特定の実施形態では、本発明の方法は、過剰な診断ツールを含む過剰な試薬を除去するために試料を洗浄する工程を含む。
【0196】
さらなる実施形態では、本発明の方法は、細胞溶解の工程を含む。
【0197】
特定の実施形態では、本発明の方法は、診断ツールに関連するウイルス集団を遊離ウイルス集団から分離する工程を含む。
【0198】
多数の実施形態では、本発明の方法は、X線またはガンマ線放射に応答して前記試料から受信したX線信号を検出する工程、および信号を処理する工程を含む。
【国際調査報告】