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特表2023-518663紫外線に当たると自動的に変色する可能性のある、化粧品のための透明着色化粧品成分
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-08
(54)【発明の名称】紫外線に当たると自動的に変色する可能性のある、化粧品のための透明着色化粧品成分
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20230426BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20230426BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230426BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20230426BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20230426BHJP
   C07D 491/107 20060101ALN20230426BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q17/04
A61Q19/00
A61Q1/10
A61Q1/04
C07D491/107
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022548443
(86)(22)【出願日】2021-02-15
(85)【翻訳文提出日】2022-09-14
(86)【国際出願番号】 EP2021053655
(87)【国際公開番号】W WO2021165207
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】102020000003134
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516200323
【氏名又は名称】インテルコス エッセ.ピ.ア.
【氏名又は名称原語表記】INTERCOS S.p.A
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】ガロット、ネラ
(72)【発明者】
【氏名】ピロヴァノ、クローディオ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルセシア、パトリチア
(72)【発明者】
【氏名】ベヴェリナ、ルカ
(72)【発明者】
【氏名】サリガリ、フェデリカ
(72)【発明者】
【氏名】ベティネリ、 サラ
(72)【発明者】
【氏名】デプタ、ガブリエレ
【テーマコード(参考)】
4C050
4C083
【Fターム(参考)】
4C050AA04
4C050AA07
4C050BB04
4C050CC18
4C050DD10
4C050EE01
4C050FF02
4C050GG03
4C050GG04
4C050HH01
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD071
4C083AD091
4C083AD151
4C083CC06
4C083CC11
4C083CC14
4C083CC19
4C083DD23
4C083DD30
4C083EE17
(57)【要約】
化粧品のための化粧品成分は、光に対して透明な皮膚軟化用又は膜形成用の化粧品ポリマーを含むポリマー構造を有する。有機発色団分子が当該ポリマーに挿入されて化学的に結合するが、これは固定色分子、又はある色から別の色に迅速に切り替え可能なフォトクロミック分子であってよい。着色分子又はフォトクロミック分子は、エステル交換により化粧品オイルに挿入されて化学的に結合し、化粧品オイルは、前記オイルに化学的に結合し、分子の化学的固定に適した官能基を備える。化粧品オイルは、紫外線照射後の無色状態と有色状態との間の遷移を確実にするように設計されたフォトクロミック誘導体で官能基化されたシリコーンマクロジオールであってよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧品のためのポリマー構造を有する化粧品成分であって、前記ポリマー構造は、皮膚軟化機能又は膜形成機能を有し、光に対して透明であり、有機発色団分子が前記ポリマー内で化学的に共有結合した化粧用ポリマーを含むことを特徴とする、化粧品成分。
【請求項2】
前記発色団分子が、フォトクロミック分子であることを特徴とする、請求項1に記載の化粧品成分。
【請求項3】
前記フォトクロミック分子が、ある色から別の色に迅速に切り替わることができるスピロピラン型の化学構造を有することを特徴とする、請求項2に記載の化粧品成分。
【請求項4】
前記フォトクロミック分子が、以下の構造FC-C3-Etを有することを特徴とする、請求項3に記載の化粧品成分。
【化1】
【請求項5】
前記ポリマー構造が、化粧膜形成機能を有するポリウレタン系ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の化粧品成分。
【請求項6】
フォトクロミック分子を皮膚軟化用の化粧品ポリマーに挿入する方法であって、該ポリマーの固定化に適した官能基を有するフォトクロミック分子とのエステル交換によって化粧品オイルが官能基化され、前記官能基化された化粧品オイルが美容オイルの化粧品機能を維持する、方法。
【請求項7】
前記化粧品オイルが、ポリシロキサンからなる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリシロキサンが、ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記化粧品オイルが、リノール酸由来のポリマーからなる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記フォトクロミック分子のエステル交換が、スズ錯体の存在下、高温(>100℃)且つ無溶媒で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記化粧品オイルが、紫外線照射後の無色状態と有色状態との間の遷移を確実にするように設計されたフォトクロミック誘導体で官能基化されたシリコーンマクロジオールである、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記フォトクロミック分子とエステル交換された前記マクロジオールが、膜形成機能を維持しながらポリウレタンの合成のためのモノマーとして使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリウレタンが、アルキル系のものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリウレタンが、シリコーン系のものである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記フォトクロミック誘導体が、スピロピランを含む、以下の模式図のように得られる構造FC-C3-Etを有しており、
【化2】
[「Distillazione」=蒸留]
触媒を用いたエステル交換反応により、インドール窒素に官能基化鎖を挿入し、マクロジオールに共有結合的に固定する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
構造FC-C3-Etを有する前記フォトクロミック誘導体が、以下の手順によって得られる、請求項15に記載の方法:
a)C2(ブロモ酢酸エチル)~C12(3-ブロモプロピオン酸エチル等)の間の鎖状オメガ-臭素酸から得られる低級アルコールのエステルを用い、窒素雰囲気下80℃~140℃で1~48時間、インドレニン対アルキル化剤の化学量論比を1:1(mol)~1:5(mol)として粘稠な液体を得るまで反応を行うことにより、無溶媒下でトリメチルインドレニンをアルキル化する;
b)前記粘稠な液体を水に溶解し、CH2CL2で抽出して、無色の有機抽出水相が得られるまで過剰なアルキル化剤を除去する;
c)前記水相を塩基性にし、約2時間撹拌下で放置した後、CH2CL2で抽出して有機相を得、これを無水塩で乾燥させて、インドレニンと無水塩基の混合物からなる赤色の粘稠油を生成する;
d)減圧蒸留によりインドレニンを除去し、純粋な無水塩基を超粘稠の赤色油として生成する;
e)無水塩基の2つの異なる溶液及びエタノール中のアルデヒドを調製し、その両方を約60℃で予備加熱し、60℃の浴中で急速に混合し、この温度で約120秒間維持し、浴を連続的に取り外して溶液を得、灰色の沈殿物が得られるまでこれを一晩撹拌し続け、これを無水エタノールで2回結晶化することで、白色の結晶性固体を得て、一般的な有機溶媒には非常によく溶けるが、高温のイソドデカンには部分的にしか溶けない、融点が約145℃の最終誘導体を得ることで、前記純粋な無水塩基とメトキシニトロレゾルシンアルデヒドとの縮合を行う。
【請求項17】
前記エステル交換が以下の手順に従って行われる、請求項6に記載の方法:
a)ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコン、構造FC-C3-Etを有する誘導体、並びに酸化ジブチルスズに基づく不均一相触媒からなる溶媒の懸濁液混合物を、その撹拌及び真空下に置くことにより調製する;
b)前記懸濁液が均一な溶液に変わるまで、前記混合物を約145℃に加熱する;
c)青色/緑色の油が得られるまで、約1時間加熱を維持する;
d)青色/緑色の油を室温まで冷却し、ヘプタンで希釈し、続いて約-20℃で一晩置いて、前記触媒及びその他のあり得る不溶性残留物を沈殿させ、それらを含まない混合物を得る;
e)得られた混合物を濾過し、フォトクロミック能力を有する美容オイルが得られるまで溶媒を除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線(UV)に晒されると自動的に変色する可能性のある、化粧品のための透明着色化粧品成分に関する。
【0002】
古来より、色は美、特に女性の美しさを高める基本的な要素である。
【0003】
エジプト人は粉末や混合物を使って体を飾り、戦士はそれらを使って敵に恐怖を植え付けた。同様に、肌を着色することは、南北アメリカ大陸で先住民とアメリカインディアンの両方において広まった習慣であった。
【0004】
第一印象は、昔も今も日常生活に欠かせない要素である。製品は、消費者に刺激を与える一連の感情的な反応を呼び起こすために、すべての感覚を参照する必要がある。
【0005】
時が経つにつれて、メイクアップはより複雑で精巧な意味を持つようになり、人体のイメージを改善することを目的とする美容習慣となった。
【0006】
従って、色彩心理学には長い歴史があるものの、その評価は、近年、色とその組み合わせに対する人間の感情的反応を予測できるモデルの開発に伴い、更により科学的なアプローチに達したばかりである。
【0007】
色の性質を説明することを目的とした最初の理論は、色が、光、電子レベルの物質、及び物体の形状の間の相互作用により何よりもまず物理的な特徴であることが認識された17世紀にまで遡る。
【0008】
化粧品には様々な染料が使用されており、その時代の流行や消費者の要望に応じて、光沢等の特性を改善する試みが長年にわたって行われてきた。化粧品市場における新しいトレンドや、化粧品に対する具体的かつ多様な要求が継続的に発展していることは、新しい利点と特別な効果をもたらす、より洗練された新たな化粧品成分を開発する必要性が常にあることを示している。
【0009】
消費者の新しいニーズを満たすために、既知の化学現象であるフォトクロミズムを利用して、処方の色の静的な性質を壊す可能性を検討したところ、驚くべき革新的で他に類を見ない製品を得た。
【0010】
フォトクロミズムは、分子が電磁波の吸収によって状態Aから状態Bに遷移する可逆反応に基づく物理現象である。2つの状態AとBは、光化学励起が分子の電子構造と核構造の再編成を引き起こすという点で、異性体である。これらは、主に吸収スペクトルが異なる。初期の定常状態Aは、紫外スペクトル領域で吸収を行う故に通常は無色である一方、高エネルギー状態Bは、可視領域で吸収を行い、強く着色されている。
【0011】
「フォトクロミズム」という言葉は、ギリシャ語の「phos」(光)と「chroma」(色)に由来し、「光の影響による色の変化」を意味する。この特定の現象を発現できる分子は「フォトクロミック」と定義される。
【0012】
このような分子は、変色プロセスの迅速な活性化(「スイッチ」とも呼ばれる)、高効率、そして最後に、分子が組み込まれる母材への溶解性等の特定の要件を満たす場合、産業分野での用途が見いだされる。
【0013】
太陽スペクトルで最も利用しやすい波長であるUV-A放射によって色が変化する、スピロピランやスピロキサジン等のフォトクロミック分子が開発されている。これらの化合物の高い効率と際立つスイッチング速度により、これら分子はフォトクロミックレンズの製造に使用できるようになった。
【0014】
分子のような低分子量の物質は皮膚に吸収される可能性があるため、化粧品への新しい分子の導入は常に慎重な作業である。
【0015】
日本公開特許公報特開昭61-275209号公報は、発色団分子がポリオレフィン鎖全体にわたって繰り返されるモノマーに直接連結されているポリオレフィンポリマーを用いた化粧品組成物の合成を記載している。
【0016】
米国特許公開第2003/193044号は、発色団分子がポリマーに化学的に結合しておらず、混合されているだけであり、化粧用途が期待されていない、架橋された非化粧品用ポリウレタンを備える発色団組成物を記載している。
【0017】
米国特許第5322945号明細書は、スピロキサジンクラスの発色団分子が、鎖全体に沿って繰り返されるモノマーに化学的に結合している直鎖状フォトクロミックポリシロキサンの調製方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開昭61-275209号公報
【特許文献2】米国特許公開第2003/193044号公報
【特許文献3】米国特許第5322945号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで、本発明の目的は、あらゆる形態及びあらゆる使用条件下で化粧品を着色すると同時に透明にすることができ、紫外線によって刺激されたときに自動的に変色する可能性のある、化粧品のための化粧品成分を提供することにある。
【0020】
本発明によれば、そのような目的は、請求項1に定義された化粧品用のポリマー構造を有する化粧品成分によって達成される。
【0021】
発色団分子は、静的タイプ、すなわち着色されたままの状態を保つことができる着色分子、又は動的フォトクロミックタイプ、すなわち紫外光によって刺激された場合に色を変えることができる着色分子であることができる。フォトクロミックタイプの場合、分子は、内部環境を外部環境に応じて迅速かつ可逆的に切り替えられるものになる。
【0022】
化粧品成分のポリマー構造は、ポリウレタン系ポリマー、ポリシロキサン、若しくは化粧品の膜形成又は皮膚軟化機能を有するリノール酸由来のポリマーを備えることができる。
【0023】
本発明による化粧品成分は、固定された色を有するか、又は紫外線によって刺激されたときに色を変えることができる可能性がある、透明着色化粧品の製造を可能にする。
【0024】
着色分子又はフォトクロミック分子をポリマーの内部、従って化粧品成分の内部に組み込むために、請求項6に定義された方法を使用することができる。
【0025】
フォトクロミック分子の場合、ポリマーへの挿入を可能にするために、ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコンからなる化粧品オイル(化粧品オイル)を、フォトクロミック分子とエステル交換することで官能基化し、ジメチコンへの固定化に必要な機能を持たせ、美容オイルの主な美容機能を維持する。エステル交換合成は、スズ錯体の存在下、高温(約140℃)且つ無溶媒で行うことができる。
【0026】
フォトクロミック分子がエステル交換を受けた後、分子自体は、主にアルキル又は完全にシリコーンであるポリウレタンの合成において、ヒドロキシル機能を持つモノマーとして使用できる。最初のケースでは、合成は、欧州特許出願公開公報第2349197号に従って、ポリウレタン(C12-15酒石酸アルキル等)の合成に一般的に使用されるジオール、イソシアネート、異なる構造のジイソシアネート(イソホロンジイソシアネート-IPDI、ヘキサメチレンジイソシアネート-HDI、ジイソシアネートジシクロヘキシルメタン-M12HDI、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等)の存在下で行われる。2番目のケースでは、合成は、欧州特許出願公開公報第1588686号に従って、化粧品に一般的に使用されるシリコーンジオール(ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコン等)や、異なる構造のジイソシアネート(イソホロンジイソシアネート-IPDI、ヘキサメチレンジイソシアネート-HDI、ジイソシアネートジシクロヘキシルメタン-M12HDI等)の存在下で行われる。初期分子の機能を適切に変更することにより、モノマーを他のタイプのポリマーに使用することができる。ポリウレタンの重合は、スズと亜鉛錯体の存在下、90/95℃の温度で行うことができる。
【0027】
シリコーンオイルを使用して得られたポリマーは、紫外線に晒されたときに色の変化機能を付与するという副次的な目的で、液体化粧品(例えば、唇用の液体)に使用できる。
【0028】
ポリマーはまた、結合油として粉末製品(例えばアイパウダー)に組み込むことができ、二次的な色変化の目的を有する。
【0029】
フォトクロミック分子の代替として、MillikenからReactintという名前で市販されている固定色分子(つまり、色は変化しないが、その本来の色で安定している)を使用でき、これにより、着色しているが透明なポリウレタンポリマーが得られ、この特徴を有する化粧品が得られる。
【0030】
紫外線照射後の無色状態と有色状態との間の遷移を確実にするように特別に設計されたフォトクロミック誘導体による化粧用途シリコーンマクロジオールの官能基化の好ましい例を以下に記載する。
【0031】
マクロジオールの官能基化の最良の候補は、スピロピランファミリーに属する分子であり、適切に官能基化されており、例えば、以下に模式的に示す合成アプローチで得られる誘導体FC-C3-Et等である。
【0032】
【化1】
[「Distillazione」=蒸留]
【0033】
この特定の構造の選択は、以下の特徴に基づいて行った。
A.フォトクロミック分子に典型的なスピロピランのクラスは、フォトクロミックコントラストに関して必要な性能を保証する。
B.インドール窒素に挿入された官能基化鎖は、触媒を用いたエステル交換反応によってマクロジオールへの共有結合的な固定を可能にする。
C.フェニル残基にニトロ基とメトキシ基が存在することにより、照射条件下と暗条件下の両方で光静電平衡の正しい位置が確保され、それぞれ、より優れた光化学的安定性が保証される。
【0034】
上記の手順に従って誘導体FC-C3-Etを得るために、トリメチルインドレニン(CAS1640-39-7)は、C2(ブロモ酢酸エチル)とC12(例えば、3-ブロモプロピオン酸エチル(CAS539-74-2))の間の鎖状オメガ-臭素酸から出発して得られる低級アルコールのエステルを使用して、溶媒の非存在下でアルキル化される。反応は、窒素雰囲気中、80℃~140℃で1~48時間行う。インドレニン対アルキル化剤の化学量論比は、1:1(モル)~1:5(モル)、好ましくは1:1.5である。
【0035】
このようにして得られた粘稠な液体を水に溶解し、無色の有機抽出水相までCH2CL2で抽出する。抽出には、過剰なアルキル化剤を除去する目的がある。
【0036】
こうして得られた水相を5MのNaOH(又は他の金属との塩基)で塩基性(pH<12)にし、2時間撹拌下で放置した後、CH2CL2で抽出して有機相を得、これを無水塩上で乾燥すると、出発インドレニンと無水塩基の混合物からなる赤色の粘稠油が生成される。減圧蒸留によりインドレニンを除去し、純粋な無水塩基を超粘稠の赤色油として生成する。
【0037】
これに続いて、純粋な無水塩基とメトキシニトロレゾルシンアルデヒド(CAS17028-61-4)との非常に重要な縮合段階が行われる:(前述の模式的に示した合成アプローチに従って)0.5M無水塩基の2つの異なる溶液を調製し、無水エタノール中のアルデヒドと両者を60℃に予備加熱する。アルデヒド溶液はこの温度で飽和する。2つの溶液を60℃の浴中で急速に混合し、この温度で120秒間維持する。恒温浴を取り外し、得られた深青色の溶液を一晩撹拌下で放置する。このようにして大量の灰色の沈殿物が得られ、これを無水エタノールで2回結晶化する。
【0038】
このようにして得られた誘導体FC-C3-Etの融点は約145℃であり、白色の結晶性固体として現れ、一般的な有機溶媒に非常によく溶ける:高温のイソドデカンには部分的にしか溶けない。
【0039】
その後のエステル交換反応は、最終的な官能基化マクロジオールのサンプル内に存在する有機残基の量を最小限に抑えるために、様々な異なる実験条件下で実施した。
【0040】
以下のパラメータを考慮した:
A.溶媒
B.温度
C.反応時間
D.触媒の種類と化学量論
E.高純度化
【0041】
まず、最適なエステル交換触媒を特定した。製品の化粧用途を考慮して、酸化ジブチルスズ(CAS818-08-6)に基づく不均一相触媒を使用した。この触媒は不均一相で機能し、反応の最後にろ過することがでる。以下の試験はすべて、別段の指示がない限り、触媒対ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコンの質量比1:0.0003を使用して実施した。
【0042】
予想通り、誘導体FC-C3-Etは、140℃を超える温度を除いて、イソドデカンにも純粋なビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコンにも溶解しない。FC-C3-Etの融解温度が、ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコンとイソドデカンでフォトクロミックの均一な溶液を得るために必要な最低プロセス温度に近いことを考え、反応は、最初に低沸点溶媒(沸点120℃~130℃未満)を使用して行われた。溶媒の存在下で行われる反応は、いずれの場合も遅く、それらを完全に変換することは困難である。
【0043】
従って、溶媒の非存在下で実施される手順が開発された(すなわち、ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコンを溶媒として直接使用)。この場合、フォトクロミック前駆体から放出されたエタノールを同時に蒸留するために、反応を真空下で行う必要があった。蒸留温度は、3~6時間の時間範囲において140℃~160℃の間で変化することがわかった。
【0044】
すべての場合において、この点に関する分析と観察は、おそらくエステル交換反応による、ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコン単独の変化も浮き彫りにした。実際、材料の分子量と粘度の両方が増加する。このプロセスは、時間と温度の両方に影響を受ける。
【0045】
このようにして、エステル交換の手順が最適化された:100gのビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコンの懸濁液である。10gのFC-C3-Et及び50mgの酸化ジブチルスズを、激しく撹拌しながら真空下に置く。混合物を約145℃にし、徐々に蒸気(エタノール)が発生し、沈殿物が徐々に溶解するのを観察する。約1時間後、懸濁液は均一な溶液に変化した。加熱を更に5時間維持し、反応を1H NMR分光により一定時間監視する。反応の終わりに、得られた青色/緑色の油を室温まで冷却し、100mlのヘプタンで希釈し、-20℃で一晩置く(触媒及びその他の不溶性残留物を沈殿させるため)。次いで、混合物を、プリーツフィルターを通してろ過し、重量が一定になるまで減圧下で溶媒を除去する。このようにして、誘導体FC-C3-Etを化粧品オイル(ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコン)とエステル交換することにより、サンプルIとして以下に示されるフォトクロミック原料が得られる。
【0046】
【化2】
[「catalizzatore」=触媒]
【0047】
説明されている手順には、幾つかの変形が含まれる場合があるが、主なものを以下に示す。
1.化学量論で1.4:1~50:1、好ましくは10:1(質量比)のビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコン/フォトクロミック。
2.触媒:酸化ジブチルスズ又はシュウ酸スズ、ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコンに対して1~0.00001重量%の化学量論を使用。
3.温度:120℃~180℃、好ましくは130℃~160℃、更に好ましくは140℃~150℃。
4.時間:1~48時間、好ましくは2~8時間。
【0048】
このように合成された化粧品素材又は成分は、様々な化粧品組成物に混合することができる。前記化粧品組成物は、4重量%~20重量%の範囲の割合で含まれ、化粧品オイル又は膜形成油の機能を有する、上記の少なくとも1つの化粧品素材又は成分を含む。更に、前記化粧品素材又は成分は、変色する能力及び/又は一定の方法で着色される能力を有し得る。
【0049】
以下は、化粧品オイル(サンプルI)が様々な割合で結合油として使用され、UV光で色が変化するという特徴を持つ、異なる化粧品組成物の例である。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
更に、本明細書では、本発明に係る少なくとも1つの化粧品素材(サンプルII)を29重量%の割合で使用した化粧品組成物の例が報告されており、これは膜形成機能及び一定の方法で着色される特徴を有するものである。
【0055】
【表5】
【0056】
本発明の主な利点は、当業者には予期せぬことであるが、美容オイル又は膜形成油の機能を有する化粧品原料を、発色団分子とのエステル交換に付すことにより、主な化粧品機能を維持し、フォトクロミック分子の場合には、化粧品が太陽放射の紫外線成分に晒されると色が変化する能力を付加していることである。
【0057】
明らかな技術的利点は、美容オイル又は最初の膜形成油で既に最適化された化粧調合品を用いると、この化粧調合品が、他の化粧品性能(感触、感覚、保持力等)を変更することなく、適用時にその色を変更する能力を容易に実現できることである。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧品のためのポリマー構造を有する化粧品成分であって、前記ポリマー構造は、皮膚軟化機能又は膜形成機能を有し、乾燥状態でも溶液状態でも光に対して透明であり、有機フォトクロミック分子が前記ポリマー内で化学的に共有結合した化粧用ポリマーを含み、前記フォトクロミック分子は、ある色から別の色に迅速に切り替わることができるスピロピラン型の化学構造を有しており、前記フォトクロミック分子は、以下の構造FC-C3-Etを有することを特徴とする、化粧品成分。
【化1】
【請求項2】
皮膚軟化機能を有する前記ポリマーが、ポリシロキサンでできていることを特徴とする、請求項に記載の化粧品成分。
【請求項3】
前記ポリシロキサンが、ヒドロキシエトキシプロピルジメチコンであることを特徴とする、請求項2に記載の化粧品成分。
【請求項4】
化粧膜形成機能を有する前記ポリマーが、ポリウレタンでできていることを特徴とする、請求項1に記載の化粧品成分
【請求項5】
フォトクロミック分子を皮膚軟化用の化粧品ポリマーに挿入する方法であって、該ポリマーの固定化に適した官能基を有するフォトクロミック分子とのエステル交換によって化粧品オイルが官能基化され、前記官能基化された化粧品オイルが美容オイルの化粧品機能を維持する、方法。
【請求項6】
前記化粧品オイルが、ポリシロキサンからなる、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリシロキサンが、ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコンである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記化粧品オイルが、リノール酸由来のポリマーからなる、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記フォトクロミック分子のエステル交換が、スズ錯体の存在下、高温(>100℃)且つ無溶媒で行われる、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記化粧品オイルが、無色状態と紫外線照射後の有色状態との間の遷移を確実にするように設計されたフォトクロミック誘導体で官能基化されたシリコーンマクロジオールである、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記フォトクロミック分子とエステル交換された前記マクロジオールが、膜形成機能を維持しながらポリウレタンの合成のためのモノマーとして使用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリウレタンが、アルキル系のものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリウレタンが、シリコーン系のものである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記フォトクロミック誘導体が、スピロピランを含む、以下の模式図のように得られる構造FC-C3-Etを有しており、
【化2】
[「Distillazione」=蒸留]
触媒を用いたエステル交換反応により、インドール窒素に官能基化鎖を挿入し、マクロジオールに共有結合的に固定する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
構造FC-C3-Etを有する前記フォトクロミック誘導体が、以下の手順によって得られる、請求項14に記載の方法:
a)C2(ブロモ酢酸エチル)~C12(3-ブロモプロピオン酸エチル等)の間の鎖状オメガ-臭素酸から得られる低級アルコールのエステルを用い、窒素雰囲気下80℃~140℃で1~48時間、インドレニン対アルキル化剤の化学量論比を1:1(mol)~1:5(mol)として粘稠な液体を得るまで反応を行うことにより、無溶媒下でトリメチルインドレニンをアルキル化する;
b)前記粘稠な液体を水に溶解し、CH2CL2で抽出して、無色の有機抽出水相が得られるまで過剰なアルキル化剤を除去する;
c)前記水相を塩基性にし、約2時間撹拌下で放置した後、CH2CL2で抽出して有機相を得、これを無水塩で乾燥させて、インドレニンと無水塩基の混合物からなる赤色の粘稠油を生成する;
d)減圧蒸留によりインドレニンを除去し、純粋な無水塩基を超粘稠の赤色油として生成する;
e)無水塩基の2つの異なる溶液及びエタノール中のアルデヒドを調製し、その両方を約60℃で予備加熱し、60℃の浴中で急速に混合し、この温度で約120秒間維持し、浴を連続的に取り外して溶液を得、灰色の沈殿物が得られるまでこれを一晩撹拌し続け、これを無水エタノールで2回結晶化することで、白色の結晶性固体を得て、一般的な有機溶媒には非常によく溶けるが、高温のイソドデカンには部分的にしか溶けない、融点が約145℃の最終誘導体を得ることで、前記純粋な無水塩基とメトキシニトロレゾルシンアルデヒドとの縮合を行う。
【請求項16】
前記エステル交換が以下の手順に従って行われる、請求項15に記載の方法:
a)ビス-ヒドロキシエトキシプロピルジメチコン、構造FC-C3-Etを有する誘導体、並びに酸化ジブチルスズに基づく不均一相触媒からなる溶媒の懸濁液混合物を、その撹拌及び真空下に置くことにより調製する;
b)前記懸濁液が均一な溶液に変わるまで、前記混合物を約145℃に加熱する;
c)青色/緑色の油が得られるまで、約1時間加熱を維持する;
d)青色/緑色の油を室温まで冷却し、ヘプタンで希釈し、続いて約-20℃で一晩置いて、前記触媒及びその他のあり得る不溶性残留物を沈殿させ、それらを含まない混合物を得る;
e)得られた混合物を濾過し、フォトクロミック能力を有する美容オイルが得られるまで溶媒を除去する。
【国際調査報告】