(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-08
(54)【発明の名称】感染性疾患又は呼吸器疾患の予防的処置又は曝露後処置に使用するための抗ウイルス剤の組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230426BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230426BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20230426BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20230426BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230426BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20230426BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20230426BHJP
A61K 31/7052 20060101ALI20230426BHJP
A61K 31/53 20060101ALI20230426BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230426BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230426BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230426BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230426BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230426BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230426BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230426BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230426BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P31/14
A61K9/127
A61K47/28
A61K47/24
A61K31/4706
A61K45/06
A61K31/7052
A61K31/53
A61K9/12
A61P31/16
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/20
A61K47/10
A61P33/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554352
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(85)【翻訳文提出日】2022-10-28
(86)【国際出願番号】 US2021023405
(87)【国際公開番号】W WO2021194927
(87)【国際公開日】2021-09-30
(32)【優先日】2020-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522149326
【氏名又は名称】インスパーメッド コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120857
【氏名又は名称】渡邉 聡
(72)【発明者】
【氏名】タイ ティエン-ツー
(72)【発明者】
【氏名】ツェン ユン-ロン
(72)【発明者】
【氏名】チェン ティン-ユー
(72)【発明者】
【氏名】シー シュエ-ファン
(72)【発明者】
【氏名】チェン ヘ-ル
(72)【発明者】
【氏名】ホン キールン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジョナサン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA24
4C076BB21
4C076CC15
4C076CC34
4C076CC35
4C076DD22
4C076DD23
4C076DD24
4C076DD25
4C076DD26
4C076DD30A
4C076DD42
4C076DD43
4C076DD57
4C076DD63
4C076DD66
4C076DD70
4C076EE23
4C076EE38
4C084AA17
4C084AA20
4C084AA24
4C084MA24
4C084NA05
4C084NA10
4C084ZA591
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZB352
4C084ZB381
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086CB05
4C086EA11
4C086MA13
4C086MA55
4C086NA10
4C086ZA59
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZB38
(57)【要約】
病原菌感染に対する予防又は治療に使用するための抗ウイルス剤の組成物が提供される。この組成物のリポソーム性抗ウイルス剤は、リポソームと、このリポソーム中に捕捉された抗ウイルス剤とを有する。この抗ウイルス剤は、リポソーム中に安定に封入されており、得られたリポソーム性抗ウイルス剤は、吸入経路による投与のために安定にエアロゾル化又は霧化されることが明らかになっており、必要とする対象を副作用が低減した状態で治療する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソーム性抗ウイルス剤を含む、呼吸器疾患又は感染性疾患の予防又は治療に使用するための抗ウイルス剤の組成物であって、前記リポソーム性抗ウイルス剤は、
少なくとも1種の脂質を含むリポソームと、
前記リポソームに封入された抗ウイルス剤と
を含む、使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項2】
前記感染性疾患が、ウイルス感染及び任意選択でコロナウイルス感染によって引き起こされる請求項1に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種の脂質が1種以上のリン脂質及びステロールを含み、前記ステロールに対する総リン脂質のモル比が1:1~2:1の範囲にある請求項1に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項4】
前記ステロールがコレステロールである請求項3に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種の脂質が、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、ホスファチジルエタノールアミン脂質、例えば1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項3に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項6】
前記リポソーム性抗ウイルス剤が、50nm~1,000nm、50nm~500nm、100nm~300nm及び150nm~250nmからなる群から選択される範囲の平均粒径を有する請求項1に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項7】
前記抗ウイルス剤が、キニーネ化合物、ヌクレオシド化合物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項8】
前記抗ウイルス剤が、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、アモジアキン及びこれらの薬学的に許容できる塩からなる群から選択される請求項1に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項9】
前記抗ウイルス剤が構造式Iのヌクレオシド化合物であり、
【化1】
各R
1、R
2、R
3、R
4又はR
5は独立に、H、OR
a、N(R
a)
2、N
3、CN、NO
2、S(O)
nR
a、ハロゲン又はメチルであり、nは0、1又は2であり、
R
6はCN又はHであり、
各R
aは独立に、H、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、アリール(C
1~C
8)アルキル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、-C(=O)R
11、-C(=O)OR
11、-C(=O)NR
11R
12、-C(=O)SR
11、-S(O)R
11、-S(O)
2R
11、-S(O)(OR
11)、-S(O)
2(OR
11)、又は-SO
2NR
11R
12であり、
R
7はHであり、
各X
1又はX
2は独立に、C-R
10又はNであり、
R
8は、ハロゲン、NR
11R
12、N(R
11)(OR
11)、NR
11NR
11R
12、N
3、NO、NO
2、CHO、CN、-CH(=NR
11)、-CH=NHNR
11、-CH=N(OR
11)、-CH(OR
11)
2、-C(=O)NR
11R
12、-C(=S)NR
11R
12、-C(=O)OR
11、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、アリール(C
1~C
8)アルキル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、-C(=O)(C
1~C
8)アルキル、-S(O)
n(C
1~C
8)アルキル、アリール(C
1~C
8)アルキル、OR
11又はSR
11であり、各アリール又はヘテロアリールは独立に、1つ以上のZ基で置換されていてもよく、
各R
9又はR
10は独立に、H、ハロゲン、R
11、OR
11、SR
11、NR
11R
12、N(R
11)(OR
11)、NR
11NR
11R
12、N
3、NO、NO
2、CHO、CN、-CH(=NR
11)、-CH=NHNR
11、-CH=N(OR
11)、-CH(OR
11)
2、-C(=O)NR
11R
12、-C(=S)NR
11R
12、-C(=O)OR
11であり、
各R
11若しくはR
12は独立に、H、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、-C(=O)(C
1~C
8)アルキル、-S(O)
n(C
1~C
8)アルキル若しくはアリール(C
1~C
8)アルキルであり、各アリール若しくはヘテロアリールは独立に、1つ以上のZ基で置換されていてもよく、
又は、R
11若しくはR
12は、それらがともに結合している窒素とともに、3~7員の複素環を形成し、前記複素環のいずれか1つの炭素原子は、任意選択で、-O-、-S-若しくは-NR
a-で置き換えられてもよく、
各Z基は独立に、ハロゲン、-O
-、=O、-OR
b、-SR
b、-S
-、-NR
b
2、-N
+R
b
3、=NR
b、-CN、-OCN、-SCN、-N=C=O、-NCS、-NO、-NO
2、=N
2、-N
3、-NHC(=O)R
b、-OC(=O)R
b、-NHC(=O)NR
b
2、-S(=O)
2-、-S(=O)
2OH、-S(=O)
2R
b、-OS(=O)
2OR
b、-S(=O)
2OH、-S(=O)R
b、-OP(=O)(OR
b)
2、-P(=O)(OR
b)
2、-P(=O)(O
-)
2、-P(O)(OR
b)(O
-)、-C(=O)R
b、-C(=O)X、-C(S)R
b、-C(O)OR
b、-C(O)O
-、-C(S)OR
b、-C(O)SR
b、-C(S)SR
b、-C(O)NR
b
2、-C(S)NR
b
2、-C(=NR
b)NR
b
2であり、各R
bは独立に、H、アルキル、アリール、アリールアルキル又は複素環であり、各前記(C
1~C
8)アルキルの非末端炭素原子のうちの1つ以上は、-O-、-S-又は-NR
a-で置換されていてもよい
請求項1に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項10】
抗生物質をさらに含む請求項1、請求項8又は請求項9に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項11】
前記抗生物質がキュリマイシン及びアジスロマイシンからなる群から選択される請求項10に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項12】
1mM~100mM、5mM~100mM、5mM~90mM、10mM~80mM、15mM~70mM及び20mM~60mMからなる群から選択される範囲の脂質濃度を有する請求項1、請求項8又は請求項9に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項13】
遊離型の抗ウイルス剤をさらに有する請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項14】
0.01モル/モル~2.0モル/モル、0.05モル/モル~2.0モル/モル、0.03モル/モル~0.5モル/モル、0.03モル/モル~0.15モル/モル、0.03モル/モル~0.1モル/モル、0.05モル/モル~1.5モル/モル、0.05モル/モル~1.0モル/モル、0.05モル/モル~0.5モル/モル、0.05モル/モル~0.3モル/モル、0.05モル/モル~0.2モル/モル、0.05モル/モル~0.15モル/モル、0.01モル/モル~1モル/モル、0.05モル/モル~0.15モル/モル、0.05モル/モル~0.1モル/モルからなる群から選択される範囲の薬物対脂質比を有する請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項15】
前記抗ウイルス剤がヒドロキシクロロキン又はその薬学的に許容できる塩であり、前記抗ウイルス剤の総量が、約0.1mg/mL~約80mg/mL、約0.1mg/mL~約80mg/mL、約0.5mg/mL~約60mg/mL、約0.5~約30mg/mL及び約0.5mg/mL~約15mg/mL、約0.5mg/mL~約10mg/mL、約0.5mg/mL~約8mg/mL、約1.0mg/mL~約6mg/mL、約1.5mg/mL~約5.0mg/mL、約1.5mg/mL~約3.0mg/mL又は約2mg/mLである請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項16】
リポソーム性抗ウイルス剤及び遊離型の抗ウイルス剤を含む、呼吸器疾患又は感染性疾患の予防又は治療に使用するための抗ウイルス剤の組成物であって、前記リポソーム性抗ウイルス剤は、
1種以上のリン脂質及びコレステロールを含むリポソームと、
前記リポソーム封入されたヒドロキシクロロキン、クロロキン、又は(2R,3R,4S,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-カルボニトリルと
を含み、
前記組成物は、0.5mg/mL~15mg/mL、0.5mg/mL~5mg/mL、又は0.5mg/mL~4mg/mLの範囲の前記抗ウイルス剤の総量の濃度、5mM~60mMの範囲の脂質濃度、及び0.01モル/モル~2モル/モル、0.01モル/モル~0.3モル/モル、0.03モル/モル~0.5モル/モル、0.03モル/モル~0.15モル/モル、0.03モル/モル~0.1モル/モル、任意選択で約0.05モル/モル、又は0.05モル/モル~0.15モル/モルの範囲の薬物対脂質比を有する、使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項17】
前記組成物が噴霧スプレーである請求項1に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物。
【請求項18】
吸入による感染性疾患又は呼吸器疾患の予防又は治療に使用するための、請求項1に記載から請求項16のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤の組成物を含む粒子のエアロゾル化組成物であって、前記抗ウイルス剤の組成物は、
少なくとも1種の脂質を含むリポソームと、
前記リポソームに封入された抗ウイルス剤と
を含む、粒子のエアロゾル化組成物。
【請求項19】
複数の粒子が、約0.5μm~5μmの範囲の空気動力学的質量中央粒子径を有する請求項18に記載の粒子のエアロゾル化組成物。
【請求項20】
感染性疾患又は呼吸器疾患を治療又は予防する方法であって、
有効量の請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の使用するための抗ウイルス剤の組成物を、必要とする対象に投与する工程
を含む方法。
【請求項21】
前記呼吸器疾患が、重症肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む急性呼吸器感染症(SARI)、敗血症及び敗血症性ショックからなる群から選択される請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記感染性疾患が、ウイルス、任意選択でインフルエンザウイルス又はレトロウイルス、任意選択でコロナウイルス、及び任意選択でSARS-Co V-2によって引き起こされたものである請求項20に記載の方法。
【請求項23】
抗ウイルス剤の組成物を、それを必要とする対象に投与するためのシステムであって、
請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤の組成物と、
前記抗ウイルス剤の組成物をエアロゾル化することができる肺送達デバイスと
を含み、エアロゾル化された前記抗ウイルス剤の組成物は、即時抗ウイルス活性を提供するのに有効な量の遊離抗ウイルス剤及び持続抗ウイルス活性を提供するのに有効な量の前記リポソーム性抗ウイルス剤を含有する粒子を含むシステム。
【請求項24】
リポソーム性抗ウイルス剤を含む、感染性疾患の治療に使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物であって、前記リポソーム性抗ウイルス剤は、
少なくとも1種の脂質を含むリポソームと、
捕捉剤を用いたリモートローディングによって前記リポソームに封入された抗ウイルス剤と
を含み、前記捕捉剤は、アンモニウム化合物及びアニオン性対イオンから構成され、前記アニオン性対イオンは、オクタ硫酸スクロースアニオン、デキストラン硫酸アニオン、硫酸アニオン、クエン酸アニオン、グルコン酸アニオン、スルホン酸アニオン、リン酸アニオン、ピロリン酸アニオン、酒石酸アニオン、コハク酸アニオン、マレイン酸アニオン、ホウ酸アニオン、カルボン酸アニオン、炭酸水素アニオン、グルクロン酸アニオン、塩化物アニオン、水酸化物アニオン、硝酸アニオン、シアン酸アニオン、臭化物アニオン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物。
【請求項25】
脂質二重層が、総脂質に基づいて、0.0001モル%~10モル%の範囲、任意選択で6モル%未満、任意選択で0.001モル%~5モル%の範囲の量のポリエチレングリコール(PEG)修飾脂質を含む請求項24に記載の使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物。
【請求項26】
前記PEG修飾脂質が、1,000g/モル~5,000g/モルの範囲の平均分子量を有するPEG部分を有する請求項25に記載の使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物。
【請求項27】
前記PEG修飾脂質が1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)](DSPE-PEG)である請求項25に記載の使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物。
【請求項28】
前記1種以上のリン脂質が中性リン脂質であり、前記リポソームのDSPE-PEGの量が、リン脂質及びステロールの総量に基づき、0.001~5モル%の範囲にある請求項27に記載の使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物。
【請求項29】
前記抗ウイルス剤が抗マラリア剤又は抗レトロウイルス剤である請求項24に記載の使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物。
【請求項30】
前記抗ウイルス剤が構造式(I)のヌクレオシド化合物であり、
【化2】
各R
1、R
2、R
3、R
4又はR
5は独立に、H、OR
a、N(R
a)
2、N
3、CN、NO
2、S(O)
nR
a、ハロゲン又はメチルであり、nは0、1又は2であり、
R
6はCN又はHであり、
各R
aは独立に、H、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、アリール(C
1~C
8)アルキル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、-C(=O)R
11、-C(=O)OR
11、-C(=O)NR
11R
12、-C(=O)SR
11、-S(O)R
11、-S(O)
2R
11、-S(O)(OR
11)、-S(O)
2(OR
11)、又は-SO
2NR
11R
12であり、
R
7はHであり、
各X
1又はX
2は独立に、C-R
10又はNであり、
R
8は、ハロゲン、NR
11R
12、N(R
11)(OR
11)、NR
11NR
11R
12、N
3、NO、NO
2、CHO、CN、-CH(=NR
11)、-CH=NHNR
11、-CH=N(OR
11)、-CH(OR
11)
2、-C(=O)NR
11R
12、-C(=S)NR
11R
12、-C(=O)OR
11、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、アリール(C
1~C
8)アルキル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、-C(=O)(C
1~C
8)アルキル、-S(O)
n(C
1~C
8)アルキル、アリール(C
1~C
8)アルキル、OR
11又はSR
11であり、各アリール又はヘテロアリールは独立に、1つ以上のZ基で置換されていてもよく、
各R
9又はR
10は独立に、H、ハロゲン、R
11、OR
11、SR
11、NR
11R
12、N(R
11)(OR
11)、NR
11NR
11R
12、N
3、NO、NO
2、CHO、CN、-CH(=NR
11)、-CH=NHNR
11、-CH=N(OR
11)、-CH(OR
11)
2、-C(=O)NR
11R
12、-C(=S)NR
11R
12、-C(=O)OR
11であり、
各R
11若しくはR
12は独立に、H、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、-C(=O)(C
1~C
8)アルキル、-S(O)
n(C
1~C
8)アルキル若しくはアリール(C
1~C
8)アルキルであり、各アリール若しくはヘテロアリールは独立に、1つ以上のZ基で置換されていてもよく、
又は、R
11若しくはR
12は、それらがともに結合している窒素とともに、3~7員の複素環を形成し、前記複素環のいずれか1つの炭素原子は、任意選択で、-O-、-S-若しくは-NR
a-で置き換えられてもよく、
各Z基は独立に、ハロゲン、-O
-、=O、-OR
b、-SR
b、-S
-、-NR
b
2、-N
+R
b
3、=NR
b、-CN、-OCN、-SCN、-N=C=O、-NCS、-NO、-NO
2、=N
2、-N
3、-NHC(=O)R
b、-OC(=O)R
b、-NHC(=O)NR
b
2、-S(=O)
2-、-S(=O)
2OH、-S(=O)
2R
b、-OS(=O)
2OR
b、-S(=O)
2OH、-S(=O)R
b、-OP(=O)(OR
b)
2、-P(=O)(OR
b)
2、-P(=O)(O
-)
2、-P(O)(OR
b)(O
-)、-C(=O)R
b、-C(=O)X、-C(S)R
b、-C(O)OR
b、-C(O)O
-、-C(S)OR
b、-C(O)SR
b、-C(S)SR
b、-C(O)NR
b
2、-C(S)NR
b
2、-C(=NR
b)NR
b
2であり、各R
bは独立に、H、アルキル、アリール、アリールアルキル又は複素環であり、各前記(C
1~C
8)アルキルの非末端炭素原子のうちの1つ以上は、-O-、-S-又は-NR
a-で置換されていてもよい
請求項24に記載の使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物。
【請求項31】
前記抗ウイルス剤が、
【化3】
【化4】
又はこれらの薬学的に許容できる塩からなる群から選択される請求項24に記載の使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物。
【請求項32】
0.1~80mg/mLの範囲の前記抗ウイルス剤の濃度を有する請求項24から請求項31のいずれか1項に記載の使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物。
【請求項33】
0.5~5mg/mLの範囲の前記抗ウイルス剤の濃度を有する請求項24から請求項31のいずれか1項に記載の使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物。
【請求項34】
感染性疾患の治療に使用するための、リポソーム性抗ウイルス剤を含有する粒子のエアロゾル化組成物であって、請求項24から請求項31のいずれか1項に記載の、呼吸器疾患の治療に使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物の複数の粒子を含む、粒子のエアロゾル化組成物。
【請求項35】
前記複数の粒子が、約0.5μm~5μmの範囲の空気動力学的質量中央粒子径を有する請求項34に記載の粒子のエアロゾル化組成物。
【請求項36】
感染性疾患又は呼吸器疾患を治療する方法であって、
請求項24から請求項31のいずれか1項に記載の使用するための抗ウイルス剤の医薬組成物を、必要とする対象に投与する工程
を含む方法。
【請求項37】
前記呼吸器疾患が、重症肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む急性呼吸器感染症(SARI)、敗血症及び敗血症性ショックからなる群から選択される請求項36に記載の方法。
【請求項38】
ヒト対象における呼吸器疾患又は感染性疾患の治療と関連する合併症を前記合併症について低減する方法であって、
請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の組成物を、必要とする対象に投与する工程
を含む方法。
【請求項39】
前記合併症が心毒性又は肝毒性を含む請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記合併症が補正QT時間(QTc)の延長を含む請求項38に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤の送達のための薬物送達系に関する。本発明は、この薬物送達系の調製方法に関する。本発明は、全身性副作用が低減された、肺への送達系に適合した持続放出性医薬組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
感染性疾患は、接触感染、飛沫感染、及び血液媒介感染等の異なる感染経路によって伝染する可能性があり、罹患した物理的環境における薬物のバイオアベイラビリティは、薬物の全身投与では低い可能性がある。標的組織の標的細胞上への薬物送達系の浸透は、肺の感染性疾患等の感染性疾患を吸入により効果的に治療するための重要な障害である。薬物送達系が標的上皮細胞に付着する前のリポソーム内の薬物物質の保持は、リポソームの脂質膜を横切る遊離の、電荷を帯びていない薬物物質の拡散速度に基づいて、リポソーム薬ごとに変化する可能性があるが、これは、リポソームの外側の微小環境の存在下での脂質バリアの物理化学的特性、並びにリポソームの内部の水性環境に大きく依存する。
【0003】
感染又は他の不明の理由によって引き起こされる呼吸器疾患は、とりわけ、ウイルス誘導性細胞溶解又は免疫病理によって引き起こされる後続の効率的なウイルス複製及び細胞損傷を特徴とするものの中で、早期死をもたらす極めて重篤な衰弱性の肺疾患である。感染細胞株及び死後肺組織は、アポトーシス、壊死、又は時には合胞体形成による細胞変性変化を示した。
【0004】
リポソームは、米国特許出願公開第20110104259A1号明細書に記載されるように、喘息の治療において吸入の際の薬物の不快な味をマスキングするための薬物担体として利用されている。薬物物質のリポソーム封入は、薬物物質の薬物動態プロファイルを変更し、局所物理的環境において遅い薬物放出を提供し、薬物投与の頻度を少なくして最適な投与用量を可能にし、かつ/又は副作用及び毒性を低減する可能性がある。しかしながら、吸入経路を介した場合に、リポソーム全体によって送達されるキニーネ化合物又は他の抗ウイルス剤が、ウイルスの細胞内標的部位への侵入のためのドケット部位として好適な受容体を発現する標的細胞株上への沈着等の、必要な機能を効果的に発揮し、インビボで所望の薬物動態プロファイルを行うかどうかは知られていない。
【0005】
抗ウイルス剤を再構築するためにリポソーム技術を利用することが、重症急性呼吸器症候群を予防するための予防用量又は副作用を低減して呼吸器疾患又は感染性疾患を治療するための治療用量で吸入用のリポソーム製剤をもたらしうることは容易には明らかではない。現在、予防、軽症例の治療、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)又はSARS-CoV2としても知られるコロナウイルスCOVID-19等のウイルスの感染によって引き起こされる重症急性呼吸器症候群(SARS)の治療等の化学的予防のための薬物製品としての吸入のための実用的なリポソーム性薬物製剤は存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第20110104259A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
キニーネ化合物及びヌクレオシド化合物等の抗ウイルス剤についての投与頻度及び/又は投与量を減少させること、並びに肺送達のための所望の予防的又は治療的な濃度域(ウィンドウ)を標的とすることによってバランスを達成するための所定の封入効率を有する吸入可能な製剤に対する満たされていない必要性が依然として存在する。加えて、呼吸器疾患に適した製剤は、吸入可能であること、吸入投与後に充分な封入効率を示すこと、肺表面活性物質等の局所物質による破壊に対して改善された安定性又は適切な耐性を有すること、さらには、肺環境において所望の有効性に達する可能性を確実にする所望の用量強度を有すること、等の特性を有するべきである。本発明は、この必要性及び他の必要性に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特に吸入による呼吸器疾患又は感染性疾患の治療のためのリポソーム性薬物製剤であって、少なくとも1種の脂質、任意選択でリン脂質(複数種可)及びステロール、並びに/又はポリエチレングリコール(PEG)修飾リン脂質と、リポソームの水性内部に封入された抗ウイルス剤とを含むリポソーム性薬物製剤を提供する。
【0009】
呼吸器疾患又は感染性疾患の既存の治療パラダイムを改善し、ゆっくりとした持続的な薬物放出の利点を利用するために、本発明者らは、呼吸器疾患の予防的処置又は増強された治療のためにエアロゾル化及び吸入されることができる水性懸濁液中にリポソーム性抗ウイルス剤及び所定量の遊離抗ウイルス剤を含む抗ウイルス剤の組成物を開発した。特に、SARSの予防又は治療のための吸入可能な製剤が必要とされている。
【0010】
本開示は、以下の利点を有する、呼吸器疾患又は感染性疾患、特にSARSの予防又は治療に使用するための抗ウイルス剤の組成物を提供する:1)吸入された遊離薬物物質と比較してより長い治療効果を達成すること、2)薬物を疾患部位若しくはウイルス感染部位に直接送達すること、3)作用のより迅速な開始、4)有害な薬物反応及び全身作用を低減すること、5)経口投与において観察される初回通過代謝を迂回し、従って、薬物物質のバイオアベイラビリティを増加させる(加えて、場合によっては、心毒性、網膜症の眼症状、悪心、嘔吐、下痢及び腹部不快感を含む胃腸(GI)効果、並びに肝毒性を低減させる)こと、6)リポソーム性薬物からの持続放出を介して標的組織における薬物物質の滞留時間を増加させること、7)薬物投与の頻度を減少させること、8)非侵襲的吸入送達、並びに/又は9)患者の転帰及びコンプライアンスを改善すること。
【0011】
特定の実施形態では、本開示に係る抗ウイルス剤は、好ましい放出プロファイル、及び毒性、特に心臓毒性の低減を伴う組成物を達成するために、リポソーム中に所定の量で封入されて、本開示に係る抗ウイルス剤の組成物が形成される。
【0012】
吸入可能でありリポソーム性抗ウイルス剤を含む、呼吸器疾患の治療又は予防に使用するための抗ウイルス剤の組成物であって、このリポソーム性抗ウイルス剤は、
少なくとも1種の脂質を含むリポソームと、
このリポソームに封入された抗ウイルス剤と
を含む抗ウイルス剤の組成物が提供される。
【0013】
いくつかの実施形態では、上記リポソームは、1種以上のリン脂質及びステロールから構成される脂質二重層を含み、このステロールはコレステロールであり、リン脂質(複数種可):コレステロールは、1:1~2:1、任意選択で3:2のモル比である。
【0014】
いくつかの実施形態では、上記1種以上のリン脂質は、ホスホコリン(PC)を含み、これは、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、又はこれらの混合物であってもよいが、これらに限定されない。いくつかの他の実施形態では、1種以上のリン脂質は、1:1又は3:2のモル比でDSPC及び1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、当該リポソーム性抗ウイルス剤は、4-アミノキノリン化合物を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、上記4-アミノキノリン化合物は、クロロキン及びヒドロキシクロロキン、並びにアモジアキンからなる群から選択される。
【0017】
いくつかの実施形態では、上記抗ウイルス剤は、構造式Iのヌクレオシド化合物を含み、
【化1】
各R
1、R
2、R
3、R
4又はR
5は独立に、H、OR
a、N(R
a)
2、N
3、CN、NO
2、S(O)
nR
a、ハロゲン又はメチルであり、nは0、1又は2であり、
R
6はCN又はHであり、
各R
aは独立に、H、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、アリール(C
1~C
8)アルキル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、-C(=O)R
11、-C(=O)OR
11、-C(=O)NR
11R
12、-C(=O)SR
11、-S(O)R
11、-S(O)
2R
11、-S(O)(OR
11)、-S(O)
2(OR
11)、又は-SO
2NR
11R
12であり、
R
7はHであり、
各X
1又はX
2は独立に、C-R
10又はNであり、
R
8は、ハロゲン、NR
11R
12、N(R
11)(OR
11)、NR
11NR
11R
12、N
3、NO、NO
2、CHO、CN、-CH(=NR
11)、-CH=NHNR
11、-CH=N(OR
11)、-CH(OR
11)
2、-C(=O)NR
11R
12、-C(=S)NR
11R
12、-C(=O)OR
11、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、アリール(C
1~C
8)アルキル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、-C(=O)(C
1~C
8)アルキル、-S(O)
n(C
1~C
8)アルキル、アリール(C
1~C
8)アルキル、OR
11又はSR
11であり、各アリール又はヘテロアリールは独立に、1つ以上のZ基で置換されていてもよく、
各R
9又はR
10は独立に、H、ハロゲン、R
11、OR
11、SR
11、NR
11R
12、N(R
11)(OR
11)、NR
11NR
11R
12、N
3、NO、NO
2、CHO、CN、-CH(=NR
11)、-CH=NHNR
11、-CH=N(OR
11)、-CH(OR
11)
2、-C(=O)NR
11R
12、-C(=S)NR
11R
12、-C(=O)OR
11であり、
各R
11若しくはR
12は独立に、H、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、-C(=O)(C
1~C
8)アルキル、-S(O)
n(C
1~C
8)アルキル若しくはアリール(C
1~C
8)アルキルであり、各アリール若しくはヘテロアリールは独立に、1つ以上のZ基で置換されていてもよく、
又は、R
11若しくはR
12は、それらがともに結合している窒素とともに、3~7員の複素環を形成し、この複素環のいずれか1つの炭素原子は、任意選択で、-O-、-S-若しくは-NR
a-で置き換えられてもよく、
各Z基は独立に、ハロゲン、-O
-、=O、-OR
b、-SR
b、-S
-、-NR
b
2、-N
+R
b
3、=NR
b、-CN、-OCN、-SCN、-N=C=O、-NCS、-NO、-NO
2、=N
2、-N
3、-NHC(=O)R
b、-OC(=O)R
b、-NHC(=O)NR
b
2、-S(=O)
2-、-S(=O)
2OH、-S(=O)
2R
b、-OS(=O)
2OR
b、-S(=O)
2OH、-S(=O)R
b、-OP(=O)(OR
b)
2、-P(=O)(OR
b)
2、-P(=O)(O
-)
2、-P(O)(OR
b)(O
-)、-C(=O)R
b、-C(=O)X、-C(S)R
b、-C(O)OR
b、-C(O)O
-、-C(S)OR
b、-C(O)SR
b、-C(S)SR
b、-C(O)NR
b
2、-C(S)NR
b
2、-C(=NR
b)NR
b
2であり、各R
bは独立に、H、アルキル、アリール、アリールアルキル又は複素環であり、各上記(C
1~C
8)アルキルの非末端炭素原子のうちの1つ以上は、-O-、-S-又は-NR
a-で置換されていてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、本開示に係る抗ウイルス剤の組成物は、抗生物質、サプリメント、抗レトロウイルス剤又はこれらの組み合わせをさらに含む。抗生物質の例は、ペニシリン類(アンピシリン・スルバクタム合剤、ピペラシリン・タゾバクタム合剤)、マクロライド類、セファロスポリン類、アミノグリコシド類及びグリコペプチド類である。いくつかの実施形態では、抗生物質は、キュリマイシン(currimycin)及びアジスロマイシンからなる群から選択される。
【0019】
別の態様では、本開示は、感染性疾患若しくは呼吸器疾患の予防若しくは治療に使用するための抗ウイルス剤の組成物、又はこの抗ウイルス剤の組成物を含有する粒子のエアロゾル化組成物であって、少なくとも0.01モル(mol)/モル、及び任意選択で0.01モル/モル~2.0モル/モル、0.05モル/モル~2.0モル/モル、0.05モル/モル~1.5モル/モル、0.05モル/モル~1.0モル/モル、0.05モル/モル~0.5モル/モル、0.05モル/モル~0.3モル/モル、0.05モル/モル~0.2モル/モル、0.05モル/モル~0.15モル/モル、0.01モル/モル~1モル/モル、0.05モル/モル~0.1モル/モル、0.07モル/モル~0.09モル/モル、又は約0.085モル/モルの薬物対脂質比、並びに0.1mg/mL~10mg/mLの範囲の抗ウイルス剤の濃度を有する組成物も提供する。
【0020】
別の態様では、本開示は、本開示に係る呼吸器疾患の予防又は治療に使用するためのリポソーム性キニーネ化合物を含む粒子のエアロゾル化組成物であって、少なくとも0.01モル/モル、任意選択で少なくとも0.05モル/モル、任意選択で0.01モル/モル~2.0モル/モル、0.05モル/モル~2.0モル/モル、0.05モル/モル~1.5モル/モル、0.05モル/モル~1.0モル/モル、0.05モル/モル~0.5モル/モル、0.05モル/モル~0.3モル/モル、0.05モル/モル~0.2モル/モル、0.05モル/モル~0.15モル/モル、任意選択で約0.5モル/モルの薬物対脂質比、及び当該組成物に基づいて1mg/mL~10mg/mLの範囲のキニーネ化合物の濃度を有する粒子のエアロゾル化組成物も提供する。
【0021】
別の態様では、本開示は、本開示に係る感染性疾患の予防又は治療に使用するためのリポソーム性ヌクレオシド化合物を含む粒子のエアロゾル化組成物であって、少なくとも0.01モル/モル、任意選択で少なくとも0.05モル/モル、任意選択で0.01モル/モル~1モル/モル、0.03モル/モル~0.5モル/モル、0.03モル/モル~0.15モル/モル、0.03モル/モル~0.1モル/モル、任意選択で約0.05モル/モル、0.05モル/モル~0.5モル/モル、0.05モル/モル~0.15モル/モル、0.05モル/モル~0.1モル/モル、0.07モル/モル~0.1モル/モル、任意選択で約0.085モル/モルの薬物対脂質比、及び当該組成物に基づいて0.1mg/mL~5mg/mLのヌクレオシド化合物の濃度を有する粒子のエアロゾル化組成物も提供する。
【0022】
別の態様では、本開示は、本開示に係る使用のための抗ウイルス剤の組成物を含む噴霧スプレー(吸入投与用スプレー)も提供する。
【0023】
別の態様では、本開示は、呼吸器疾患又は感染性疾患の予防又は治療に使用するための抗ウイルス剤の組成物を含有する粒子のエアロゾル化組成物であって、本開示に係るリポソーム性抗ウイルス剤を含む粒子のエアロゾル化組成物も提供する。
【0024】
別の態様では、本開示は、呼吸器疾患又は感染性疾患を治療又は予防する方法であって、有効量の、本開示に係る呼吸器疾患の治療又は予防に使用するための抗ウイルス剤の組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法も提供する。
【0025】
別の態様では、本開示は、抗ウイルス剤の組成物を、それを必要とする対象に投与するためのシステムも提供する。当該システムは、本開示に係る抗ウイルス剤の組成物と、肺送達デバイスとを含む。この肺送達デバイスは、抗ウイルス剤の組成物をエアロゾル化することができ、エアロゾル化後に、リポソーム性抗ウイルス剤を含有する形成された粒子は、即時抗ウイルス活性を提供するのに有効な量の遊離抗ウイルス剤と、持続抗ウイルス活性を提供するのに有効な量の上記リポソーム性抗ウイルス剤とを含む。
【0026】
別の態様では、本開示は、ヒト対象における呼吸器疾患又は感染性疾患の処置に関連する合併症を、その合併症について軽減する方法であって、本開示に係る組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法も提供する。本開示によれば、合併症としては、心毒性又は肝毒性が挙げられるが、これらに限定されない。本開示によれば、合併症としては、補正QT時間(QTc)の延長を含むが、これに限定されない。
【0027】
本開示の他の目的物、利点及び新規な特徴は、添付の図面と併せて解釈すると、以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本開示に係る組成物及び遊離HCQの投与後のラット肺におけるHCQの薬物動態プロファイルを描く。
【
図2】
図2は、本開示に係る組成物及び遊離HCQの投与後のラット血液中のHCQの薬物動態プロファイルを描く。
【
図3】
図3は、本開示に係る組成物及び遊離HCQの投与後のラット心臓におけるHCQの薬物動態プロファイルを描く。
【
図4A】
図4A及び
図4Bは、SBECD製剤化GS-441524(GS-441524溶液-IV)の単回IV投与、又はISPM21としても表されるリポソーム性GS-441524の単回IT投与(ISPM21-IT)後のラットの肺(
図4A)及び血漿(
図4B)中のGS-441524の平均濃度-時間プロファイルを示す一連のグラフを示す。LLOQ:定量下限。
【
図4B】
図4A及び
図4Bは、SBECD製剤化GS-441524(GS-441524溶液-IV)の単回IV投与、又はISPM21としても表されるリポソーム性GS-441524の単回IT投与(ISPM21-IT)後のラットの肺(
図4A)及び血漿(
図4B)中のGS-441524の平均濃度-時間プロファイルを示す一連のグラフを示す。LLOQ:定量下限。
【発明を実施するための形態】
【0029】
上記及び本開示を通して用いられる場合、以下の用語は、特段の記載がない限り、以下の意味を有すると理解されるものとする。
【0030】
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈と明らかに矛盾しないかぎり、複数形の指示対象を含む。
【0031】
本明細書におけるすべての数値は、「約」によって修飾されると理解されてもよく、この「約」は、量、時間的継続時間等の測定可能な値に言及する場合、指定の値から±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±1%、さらにより好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味する。これは、特段の記載がないかぎり、そのような変動は、所望の量のリポソーム性薬物を得るために適切であるからである。
【0032】
本明細書で使用される用語「治療すること」、「処置すること」、「治療される」、「処置される」、「治療」又は「処置」は、防止的(例えば、予防的)、緩和的、及び治癒的な使用又は結果を含む。用語「対象」は、呼吸器疾患若しくは他の疾患を有するか、又はウイルス感染が疑われる脊椎動物を含む。好ましくは、この対象は、哺乳動物、好ましくはヒトを含む温血動物である。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「薬物」は、本開示に係る所望の治療効果に対する活性に関連するキニーネ化合物又はヌクレオシド化合物等の抗ウイルス剤を指す。本明細書で使用する場合、用語「薬物対脂質比(D/L)」は、本開示に係る組成物中の少なくとも1種の脂質に対する抗ウイルス剤の比を指す。本開示に係るリポソーム性薬物の組成物の遊離型薬物又はリポソーム性薬物中の薬物含有量は、紫外可視吸光度測定又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によって決定されることが可能であるが、これらに限定されない。リポソーム及びリポソーム性薬物のリン脂質含有量又は濃度は、リンアッセイ(G.Rouserら、Lipids 1970、5、494-496から適合させる)又はHPLC法を使用して、リポソーム及びリポソーム性薬物試料のリン含量をアッセイすることによって決定されることが可能であるが、これに限定されない。
【0034】
本明細書で使用する場合、薬物動態データはラットにおいて得られたが、本開示に係る吸入組成物と相関する薬物動態プロファイルは、吸入組成物を開発するために、ネコ、イヌ、ウマ、マウス、ブタ、非ヒト霊長類及びヒトを含むがこれらに限定されない他の哺乳動物において得ることができる。
【0035】
感染性疾患及び呼吸器疾患
本開示において、感染性疾患及び病原菌感染は、ウイルス、寄生生物及び細菌等の生物によって引き起こされる障害を指す。1つの態様では、感染性疾患は、糞口感染、飛沫接触、性行為感染、経口感染、直接接触、媒介物感染、垂直感染(母子感染)、医原性感染、又は宿主媒介性感染を介して感染したものである。別の態様では、感染性疾患は、尿路感染症、皮膚感染症、呼吸器感染症、歯原性感染症、膣感染症及び羊膜内感染症を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0036】
いくつかの実施形態では、感染性疾患としては、急性弛緩性骨髄炎(AFM)、アナプラズマ症、炭疽病、バベシア症、ボツリヌス中毒、ブルセラ症、カンピロバクテリウム症、カルバペネム耐性感染症(CRE/CRPA)、軟性下疳、チクングニアウイルス感染症(チクングニア)、クラミジア、シグアテラ(有害藻類ブルーム(HABS))、クロストリジウム・ディフィシル感染症、クロストリジウム・パーフリンジェンス(ウェルシュ菌)(イプシロン毒素)、コクシジオイデス症(コクシジオイドミセス)真菌感染症(渓谷熱、バレー熱)、covid-19(新型コロナウイルス感染症)、クロイツフェルト・ヤコブ病、伝染性海綿状脳症(CJD)、クリプトスポリジウム症(クリプト)、シクロスポラ症、デング熱、1、2、3、4(デング熱)、ジフテリア、大腸菌感染症、志賀毒素産生(STEC)、東部ウマ脳炎(EEE)、エボラ出血熱(エボラ)、エーリキア症、脳炎、アルボウイルス性又は後感染性、エンテロウイルス感染症、非ポリオ(非ポリオエンテロウイルス)、エンテロウイルス感染D68(EV-D68)、ジアルジア症(ジアルジア)、鼻疽、淋菌感染症(淋病)、鼠径肉芽腫、インフルエンザ菌感染症、b型(HIB又はh-flu)、ハンタウイルス肺症候群(HPS)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、A型肝炎(Hep A)、B型肝炎(Hep B)、C型肝炎(Hep C)、D型肝炎(Hep D)、E型肝炎(Hep E)、ヘルペス、帯状疱疹(Zoster)、帯状疱疹VZV(帯状疱疹(shingles))、ヒストプラスマ症感染(ヒストプラスマ症)、ヒト免疫不全ウイルス/エイズ(HIV/AIDS)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、インフルエンザ(flu)、鉛中毒レジオネラ症(レジオネラ病)、ライ病(ハンセン病)、レプトスピラ症、リステリア症(リステリア)、ライム病、鼠径リンパ肉芽腫症(LGV)、マラリア、麻疹、類鼻疽、髄膜炎、ウイルス性(髄膜炎、ウイルス性)、髄膜炎菌性疾患、細菌性(髄膜炎、細菌性)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、小児多系統炎症症候群(MIS-C)、流行性耳下腺炎、ノロウイルス、麻痺性甲殻類中毒(麻痺性貝中毒)(麻痺性甲殻類中毒、シガテラ)、シラミ寄生症(シラミ、頭部及び身体のシラミ)、骨盤内炎症性疾患(PID)、百日咳(百日ぜき(whooping cough))、ペスト(腺ペスト、敗血症性ペスト、肺ペスト)、肺炎球菌性疾患(肺炎)、脊髄灰白質炎(ポリオ)、ポワッサン、オウム病(オウム熱)、シラミ寄生症(毛ジラミ;鼠径部シラミ寄生)、膿疱性発疹疾患(天然痘、サル痘、牛痘)、Q熱、狂犬病、リシン中毒、リケッチア症(ロッキー山紅斑熱)、先天性を含む風疹(風疹(german measles))、サルモネラ症胃腸炎(サルモネラ)、ヒゼンダニ寄生(ヒゼンダニ)、スコンブロイド(スコンブロイド食中毒)、敗血症性ショック(敗血症)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、細菌性赤痢胃腸炎(赤痢菌)、天然痘、ブドウ球菌感染、メチシリン耐性(MRSA)、ブドウ球菌性食中毒、エンテロトキシンB中毒(ブドウ球菌食中毒)、ブドウ球菌感染症、バンコマイシン中等度耐性(VISA)、ブドウ球菌感染症、バンコマイシン耐性(VRSA)、連鎖球菌性疾患、a群(侵襲性)(A群連鎖球菌(侵襲性))、連鎖球菌性疾患、b群(B群連鎖球菌)、連鎖球菌毒素ショック症候群、stss、毒素ショック(STSS、TSS)、梅毒、第1期、第2期、早期潜伏性、後期潜伏性、先天性、破傷風感染症、破傷風(咬痙)、トリコモナス症(トリコモナス感染症)、旋毛虫感染症(旋毛虫症)、結核(TB)、結核(潜伏)(LTBI)、野兎病(ウサギ熱)、腸チフス(D群)、チフス、膣症、細菌(酵母菌感染症)、ベイピング関連肺障害(電子タバコ関連肺障害)、水痘(水疱瘡)、コレラ菌(ビブリオ・コレラエ)(コレラ)、ビブリオ症(ビブリオ)、ウイルス性出血熱(エボラ、LASSA、マールブルグ(Marburg))、西ナイルウイルス感染症、黄熱病、エルセニア(Yersenia)(エルシニア(Yersinia))、及びジカウイルス感染(ジカ(Zika))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本開示に係る呼吸器疾患としては、流体が肺に漏出し、呼吸を困難又は不可能にすることを含む主な合併症を伴う、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)又は重症急性呼吸器症候群(SARS)が挙げられるが、これらに限定されない。症状としては、典型的には、発熱、咳、湿性咳嗽、乾性咳嗽、呼吸困難及び疲労又は筋肉痛、胸部の絞扼感、及び息切れの段階的発症が挙げられる。合併症としては、肺高血圧症、心不全、肺炎、又は肺塞栓症が挙げられる。
【0038】
いくつかの実施形態では、本開示に係る抗ウイルス剤の組成物は、コロナウイルス又はその誘導体によって引き起こされる、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)又は重症急性呼吸器症候群(SARS)の防止としての予防、軽度症例の治療、治療における使用に適している。
【0039】
リポソーム及びリポソーム性抗ウイルス剤
本明細書で使用する場合の用語「リポソーム」又は「リポソーム性」は、小胞の集団あって、各小胞が、1つ以上の二重層膜(二重膜)の膜によって外側媒体から隔離された水性内部空間を有することを特徴とする小胞の集団に向けられる。リポソームの二重層膜は、典型的には、1つ以上の脂質、すなわち、空間的に分離された疎水性ドメイン及び親水性ドメインを含む、合成又は天然起源の両親媒性分子によって形成される。
【0040】
リポソームの内部水性空間は、トリグリセリド等の中性脂質、非水性相(油相)、水-油エマルション、第2のリポソーム又は非水性相を含有する他の混合物を実質的に含まない。リポソームの非限定的な例としては、50nm~10000nm、50nm~500nm、50nm~450nm、50nm~400nm、50nm~350nm、50nm~300nm、50nm~250nm、50nm~200nm、100nm~500nm、100nm~450nm、100nm~400nm、100nm~350nm、100nm~300nm、100nm~250nm、又は100nm~200nmの範囲の平均直径を有する小型単層小胞体(small unilamellar vesicle、SUV)及び大型単層小胞体(large unilamellar vesicle、LUV)、並びに多層小胞(MLV)が挙げられ、これらは、滅菌フィルタを通過することができる。例えば、MLVは、捕捉剤を有する選択された脂質組成物の水和脂質薄膜、噴霧乾燥粉末又は凍結乾燥ケーキによって直接形成されてもよく、SUV及びLUVは、超音波処理、ホモジナイゼーション、マイクロフルイダイゼーション(微少溶液操作)又は押出によってMLVからサイズ調整することができる。
【0041】
一般に、リポソームは、典型的には、二脂肪族(dialiphatic)鎖脂質、例えばリン脂質、ジグリセリド、二脂肪族糖脂質、単一脂質、例えばスフィンゴミエリン及びスフィンゴ糖脂質、ステロール、例えばコレステロール、並びにこれらの誘導体並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の脂質を含む脂質混合物を含む。
【0042】
本開示に係るリン脂質の例としては、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PSPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DMPG)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DPPG)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(PSPG)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DSPG)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(DOPG)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DMPS)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DPPS)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DSPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DMPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DPPA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DSPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DOPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-ミオイノシトール)(アンモニウム塩)(DPPI)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホイノシトール(アンモニウム塩)(DSPI)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-ミオイノシトール)(アンモニウム塩)(DOPI)、カルジオリピン、L-α-ホスファチジルコリン(EPC)、及びL-α-ホスファチジルエタノールアミン(EPE)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本開示に係るリポソーム性抗ウイルス剤は、任意選択で、ポリエチレングリコール(PEG)修飾ホスファチジルエタノールアミン(PE)を小胞の膜に組み込むことによって、有意義な量のPEG部分を小胞の表面に組み込んで、安全で、有効で、投与頻度が低い、より長く、持続的な薬物放出を達成する。
【0044】
本開示に係るリポソーム性抗ウイルス剤は、任意選択で、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミン(PE)又は脂肪酸を小胞の膜に組み込むことによって、有意義な量の負電荷部分を小胞の表面に組み込んで、貯蔵中の溶液中でのリポソーム凝集又は凝結(綿状沈殿)プロセスを防止する。
【0045】
上記ポリエチレングリコール修飾脂質は、脂質とコンジュゲートしたポリエチレングリコール部分を含む。いくつかの実施形態では、PEG部分は、約5,00~約20,000ダルトンの分子量を有する。特定の実施形態では、PEG修飾脂質はリン脂質と混合されて、1つ以上の二重層膜を有するリポソームが形成される。いくつかの実施形態では、PEG修飾脂質の量は、総リン脂質及びステロールに基づいて、0.0001モル%~40モル%、任意選択で0.001モル%~30モル%、任意選択で0.01モル%~20モル%、任意選択で0.0001モル%~10モル%、任意選択で0.001モル%~5モル%、特に、6モル%以下、任意選択で5モル%以下、3モル%以下又は2モル%以下の範囲である。いくつかの実施形態では、PEG修飾脂質は、1,000g/モル~5,000g/モルの範囲の平均分子量を有するPEG部分を有する。特定の実施形態では、PEG修飾脂質は、ポリエチレングリコール基に連結されたホスファチジルエタノールアミン(PE-PEG)である。さらなる実施形態では、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミンは1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)](DSPE-PEG)である。
【0046】
特定の実施形態では、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミン(PE)は、リポソームの全脂質含有量の0.0001モル%~40モル%、任意選択で0.01モル%~20モル%の範囲の量のDSPE-PEGであり、2,000g/モルの平均分子量を有するPEG部分を有する。
【0047】
用語「リポソーム性抗ウイルス剤」及び「リポソーム性薬物」は、本開示において互換的に使用される。本開示に係るリポソーム性抗ウイルス剤は、膜貫通pH勾配駆動リモートローディング(pH gradient-driven remote loading)法によって抗ウイルス剤をリポソームの水性内部に封入することによって調製される、抗ウイルス剤が捕捉されたリポソームを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、リポソームは、ヒドロキシクロロキン又はGS-441524等の薬物物質と一緒に形成されて、リポソームの水性内部にその薬物物質を封入するか、又はリポソーム性薬物を形成するための、リモートローディングとしても知られる能動ローディング法としての薬物ローディングプロセスにおいて後で使用するための膜貫通勾配を有する空のリポソームとして単独で形成される。
【0049】
いくつかの実施形態では、膜貫通pH勾配は、抗ウイルス剤をリポソームにリモートローディングするための捕捉剤を使用することによって作り出され、この捕捉剤はアンモニウム化合物及びアニオン性対イオンから構成される。
【0050】
用語「アンモニウム化合物」は、NR4
+によって提示されるカチオン性イオンである非置換又は置換のアンモニウムを含み、式中、各Rは独立に、H又は有機残基であり、この有機残基は独立に、アルキル、アルキリデン、複素環式アルキル、シクロアルキル、アリール、アルケニル、シクロアルケニル、又はこれらのヒドロキシル置換誘導体であり、任意選択で、その炭化水素鎖内にS、O、又はN原子を含み、エーテル、エステル、チオエーテル、アミン、又はアミド結合を形成する。1つの実施形態では、アンモニウム化合物はアンモニウムである。
【0051】
用語「アニオン性対イオン」は、アニオン性イオン、又は1つのアニオン性官能基に共有結合している実体を指す。アニオン性イオン又はアニオン性官能基は、生理的環境下で負の電荷を有する。
【0052】
アニオン性イオン又はアニオン性官能基は、硫酸アニオン、クエン酸アニオン、スルホン酸アニオン、リン酸アニオン、ピロリン酸アニオン、酒石酸アニオン、コハク酸アニオン、マレイン酸アニオン、ホウ酸アニオン、カルボン酸アニオン、炭酸水素アニオン、グルクロン酸アニオン、塩化物アニオン、水酸化物アニオン、硝酸アニオン、シアン酸アニオン又は臭化物アニオンのうちの1つ以上から選択することができる。
【0053】
1つの実施形態では、アニオン性イオン及びアニオン性官能基は、クエン酸アニオン、硫酸アニオン、スルホン酸アニオン、リン酸アニオン、ピロリン酸アニオン及びカルボン酸アニオンのうちの1つ以上から選択される。
【0054】
さらに別の実施形態では、アニオン性官能基に連結された実体は、天然又は合成の有機化合物又は無機化合物であることができる。この実体の例としては、アルキル基又はアリール基、例えばベンゼン、ヌクレオチド及び糖類から選択される非ポリマー物質が挙げられるが、これらに限定されない。アルキルは、指示された数の炭素原子を有する飽和炭化水素ラジカルを指す。例えば、アルキルは、炭素数1~4のアルキル(C1~4アルキル)、炭素数1~6のアルキル(C1~6アルキル)、炭素数1~8のアルキル(C1~8アルキル)、炭素数1~10のアルキル(C1~10アルキル)、炭素数1~12のアルキル(C1~12アルキル)、炭素数1~14のアルキル(C1~14アルキル)、炭素数1~16のアルキル(C1~16アルキル)、炭素数1~18のアルキル(C1~18アルキル)及び炭素数1~20のアルキル(C1~20アルキル)からなる群から選択される。
【0055】
いくつかの実施形態では、アニオン性対イオンは、硫酸アニオン、リン酸アニオン、クエン酸アニオン、グルコン酸アニオン、オクタ硫酸スクロースアニオン、デキストラン硫酸アニオン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0056】
いくつかの実施形態では、上記捕捉剤は、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、オクタ硫酸スクロースアンモニウム塩、デキストラン硫酸アンモニウム、硫酸ジメチルアンモニウム、リン酸ジメチルアンモニウム、クエン酸ジメチルアンモニウム、硫酸ジエチルアンモニウム、リン酸ジエチルアンモニウム、クエン酸ジエチルアンモニウム、オクタ硫酸スクロースジエチルアンモニウム塩、デキストラン硫酸ジエチルアンモニウム、硫酸トリメチルアンモニウム、リン酸トリメチルアンモニウム、クエン酸トリメチルアンモニウム、硫酸トリエチルアンモニウム、リン酸トリエチルアンモニウム、クエン酸トリエチルアンモニウム、オクタ硫酸スクローストリエチルアンモニウム塩、デキストラン硫酸トリエチルアンモニウム、グルコン酸銅、グルクロン酸銅及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0057】
いくつかの実施形態では、リポソーム性抗ウイルス剤は、50nm~1,000nmの平均粒径を有する。リポソーム性抗ウイルス剤の非限定的な例は、50nm~20μm、50nm~10μm、50nm~1000nm、50nm~500nm、50nm~400nm、50nm~300nm、50nm~250nm、50nm~200nm、100nm~300nm又は150nm~250nmの範囲の平均直径を有する。
【0058】
いくつかの実施形態では、上記抗ウイルス剤としては、抗マラリア剤、抗レトロウイルス剤又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。特に、抗ウイルス剤は、キニーネ化合物、ヌクレオシド化合物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0059】
用語「キニーネ化合物」は、キナ属の樹木の樹皮から抽出された抗マラリア活性を有するリード化合物であるキニーネに由来する物質を指す。キニーネ化合物、例えばヒドロキシクロロキンは、肺炎の増悪の阻害、画像所見の改善、ウイルス陰性化の促進、及び疾患経過の短縮において潜在能力を有することが示されている。しかしながら、キニーネ化合物の全身投与は、視朦(かすみ目)、悪心、嘔吐、腹部疝痛、頭痛及び下痢等の副作用を示す可能性がある。
【0060】
本開示に係るキニーネ化合物としては、キニーネ及び他の4-アミノキノリン、例えば、キニーネ、キニジン、シンコニン、シンコニジン、クロロキン(CQ)、ヒドロキシクロロキン(HCQ)等が挙げられるが、これらに限定されない。例示的なキニーネ化合物であるCQ及びHCQは、細胞内オルガネラの酸性化を防止し、ウイルスゲノムのリソソーム放出を阻害することができることが示唆されている。加えて、これらの薬物は、宿主細胞上のアンジオテンシン変換酵素-2(ACE2)受容体のグリコシル化を妨害し、受容体とコロナウイルスの表面上のスパイクタンパク質との間の結合効率を低下させることができる。
【0061】
RNAウイルス感染の有望な治療法として使用されている、RNA依存性RNAポリメラーゼ等の非構造ウイルスタンパク質の阻害剤としてのヌクレオシドが報告されている。ヌクレオシドは、細胞によって取り込まれ、インビボで三リン酸(トリホスフェート)に変換されて、ポリメラーゼヌクレオチド結合部位と競合し、ポリメラーゼ連鎖反応を終結させると予想される。三リン酸へのこの変換は、通常、細胞キナーゼによって媒介され、これは、潜在的なヌクレオシドポリメラーゼ阻害剤にさらなる構造的要件を付与する。ヌクレオシドキナーゼによる一リン酸(モノホスフェート)の形成は、一般に、3つのリン酸化事象の律速段階とみなされる。米国特許第7,964,580号明細書は、ヌクレオシド一リン酸の細胞内濃度を親ヌクレオシド単独の投与と比較して劇的に増強する、細胞への取り込み及び輸送を最適化するための適切な分配係数を得るために中性親油性基でマスクされているホスホロアミデート部分を含有するプロヌクレオシドを開示する。論争の的となる観察予見は存在するが、リン酸エステル部分の酵素媒介加水分解は、おそらく標的ヌクレオシド一リン酸の代わりにヌクレオシド自体を、所望の部位へのその標的化の前に循環の直後に生成する。例えば、静脈内投与を介すると、公知のヌクレオシド化合物である(2R,3R,4S,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-カルボニトリル(GS-441524としても知られる)は、その一リン酸形態よりも安定なレムデシビルの代謝産物である(Humeniuk R、Mathias A、Cao Hら、Safety,Tolerability,and Pharmacokinetics of Remdesivir,An Antiviral for Treatment of COVID-19,in Healthy Subjects. Clin Transl Sci. 2020;13(5):896-906. doi:10.1111/cts.12840)。重要な律速ヌクレオシドキナーゼに関して濃縮された標的細胞部位へのヌクレオシド化合物の効率的な送達は、広範囲のヌクレオシド化合物の異なるプロヌクレオシドの複雑な製造プロセスを回避するための普遍的なプラットフォーム手段(ソリューション)である可能性がある。
【0062】
いくつかの実施形態では、本開示に係る抗ウイルス剤の組成物は、抗生物質、サプリメント、又はこれらの組み合わせをさらに含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、抗ウイルス剤は、米国特許第8,008,264号明細書及び米国特許第9,481704号明細書に記載される1種以上の1’-置換カルバ-ヌクレオシド化合物又は2’-置換カルバ-ヌクレオシド化合物を含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、抗ウイルス剤は、1’-置換カルバ-ヌクレオシド化合物及びその薬学的に許容できる塩を含むがこれらに限定されないヌクレオシド化合物に向けられる。
【0065】
いくつかの実施形態では、抗ウイルス剤は、RNA依存性RNAウイルスポリメラーゼの阻害剤を含み、この阻害剤は、構造式(I)のヌクレオシド化合物を含み、
【化2】
各R
1、R
2、R
3、R
4又はR
5は独立に、H、OR
a、N(R
a)
2、N
3、CN、NO
2、S(O)
nR
a、ハロゲン又はメチルであり、nは0、1又は2であり、
R
6はCN又はHであり、
各R
aは独立に、H、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、アリール(C
1~C
8)アルキル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、-C(=O)R
11、-C(=O)OR
11、-C(=O)NR
11R
12、-C(=O)SR
11、-S(O)R
11、-S(O)
2R
11、-S(O)(OR
11)、-S(O)
2(OR
11)、又は-SO
2NR
11R
12であり、
R
7はHであり、
各X
1又はX
2は独立に、C-R
10又はNであり、
R
8は、ハロゲン、NR
11R
12、N(R
11)(OR
11)、NR
11NR
11R
12、N
3、NO、NO
2、CHO、CN、-CH(=NR
11)、-CH=NHNR
11、-CH=N(OR
11)、-CH(OR
11)
2、-C(=O)NR
11R
12、-C(=S)NR
11R
12、-C(=O)OR
11、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、アリール(C
1~C
8)アルキル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、-C(=O)(C
1~C
8)アルキル、-S(O)
n(C
1~C
8)アルキル、アリール(C
1~C
8)アルキル、OR
11又はSR
11であり、各アリール又はヘテロアリールは独立に、1つ以上のZ基で置換されていてもよく、
各R
9又はR
10は独立に、H、ハロゲン、R
11、OR
11、SR
11、NR
11R
12、N(R
11)(OR
11)、NR
11NR
11R
12、N
3、NO、NO
2、CHO、CN、-CH(=NR
11)、-CH=NHNR
11、-CH=N(OR
11)、-CH(OR
11)
2、-C(=O)NR
11R
12、-C(=S)NR
11R
12、-C(=O)OR
11であり、
各R
11若しくはR
12は独立に、H、(C
1~C
8)アルキル、(C
2~C
8)アルケニル、(C
2~C
8)アルキニル、(C
4~C
8)カルボシクリルアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、-C(=O)(C
1~C
8)アルキル、-S(O)
n(C
1~C
8)アルキル若しくはアリール(C
1~C
8)アルキルであり、各アリール若しくはヘテロアリールは独立に、1つ以上のZ基で置換されていてもよく、
又は、R
11若しくはR
12は、それらがともに結合している窒素とともに、3~7員の複素環を形成し、この複素環のいずれか1つの炭素原子は、任意選択で、-O-、-S-若しくは-NR
a-で置き換えられてもよく、
各Z基は独立に、ハロゲン、-O
-、=O、-OR
b、-SR
b、-S
-、-NR
b
2、-N
+R
b
3、=NR
b、-CN、-OCN、-SCN、-N=C=O、-NCS、-NO、-NO
2、=N
2、-N
3、-NHC(=O)R
b、-OC(=O)R
b、-NHC(=O)NR
b
2、-S(=O)
2-、-S(=O)
2OH、-S(=O)
2R
b、-OS(=O)
2Or
b、-S(=O)
2OH、-S(=O)R
b、-OP(=O)(OR
b)
2、-P(=O)(OR
b)
2、-P(=O)(O
-)
2、-P(O)(OR
b)(O
-)、-C(=O)R
b、-C(=O)X、-C(S)R
b、-C(O)OR
b、-C(O)O
-、-C(S)OR
b、-C(O)SR
b、-C(S)SR
b、-C(O)NR
b
2、-C(S)NR
b
2、-C(=NR
b)NR
b
2であり、各R
bは独立に、H、アルキル、アリール、アリールアルキル又は複素環環であり、各上記(C
1~C
8)アルキルの非末端炭素原子のうちの1つ以上は、-O-、-S-又は-NR
a-で置換されていてもよい。
【0066】
いくつかの実施形態では、抗ウイルス剤は、
【化3】
【化4】
又はこれらの薬学的に許容できる塩からなる群から選択される。
【0067】
1つの態様では、当該リポソーム性抗ウイルス剤は、1種以上のリン脂質、ステロール、及び任意選択のポリエチレングリコール(PEG)修飾脂質、特にPEG修飾ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質二重層と、この脂質二重層によって包含され、1種以上の抗ウイルス剤を含有する水性内部とを含む。
【0068】
1つの実施形態では、上記1種以上のリン脂質は中性リン脂質であり、PEG修飾脂質はDSPE-PEGである。DSPE-PEGの量は、総リン脂質及びステロールに基づいて、0.001~5モル%、任意選択で0.0001モル%~40モル%、任意選択で6モル%未満の範囲にあり、任意選択で0.001モル%~30モル%の範囲にある。
【0069】
1つの実施形態では、当該リポソーム性抗ウイルス剤の組成物は、少なくとも0.01モル/モル~0.1モル/モルである薬物対脂質比(少なくとも1種の脂質に対する抗ウイルス剤の比)を有し、かつ、DPPC及びコレステロールを含む脂質二重層と、この脂質二重層によって包含され、捕捉剤によって捕捉された抗ウイルス剤を含有する水性内部とを含み、この抗ウイルス剤は(2R,3R,4S,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-カルボニトリル(GS-441524)であり、捕捉剤は硫酸アンモニウムである。
【0070】
吸入可能な(吸入用)組成物及びそのエアロゾル化粒子
本開示に係る抗ウイルス剤の組成物は、上述のリポソーム性抗ウイルス剤を含有する粒子の吸入可能なエアロゾル化組成物の調製に適合される。この組成物は、噴霧スプレー若しくはエアロゾルとして吸入のために、又は髄腔内投与によって投与することができる。吸入投与が好ましい。全体的な結果は、遊離薬物又はその薬物の非経口形態と比較して、投与頻度が少なく、治療指数が高いことである。この組成物中のリポソーム性抗ウイルス剤は、肺内層又は肺表面活性物質と適合性でありながら薬物を保護するそれらの能力に起因して、特に有利である。
【0071】
1つの実施形態では、本開示に係る抗ウイルス剤の組成物は、少なくとも0.01モル/モル、任意選択で少なくとも0.1モル/モル、好ましくは0.05モル/モル~1モル/モル、任意選択で0.1モル/モル~0.7モル/モル、任意選択で0.15モル/モル~0.6モル/モル、及び任意選択で0.15モル/モル~0.2モル/モルの範囲の薬物対脂質比(D/L)を有する。薬物対脂質比は、少なくとも1種の脂質に対する抗ウイルス剤のモル比を指す。特定の実施形態では、少なくとも1種の脂質は、1:1又は3:2のモル比で中性リン脂質及びステロールを含む。任意選択で、この中性リン脂質はDPPCであり、ステロールはコレステロールである。
【0072】
1つの実施形態では、当該抗ウイルス剤の組成物は、1mM~200mM、1mM~100mM、5mM~100mM、10mM~180mM、15mM~140mM、20~160mM、30mM~140mM、及び40mM~120mMの範囲の濃度の少なくとも1種の脂質を有する。あるいは、当該抗ウイルス剤の組成物は、1mM~100mM、5mM~100mM、5mM~90mM、10mM~80mM、15mM~70mM又は20mM~60mMの範囲の濃度の1種以上のリン脂質を有する。
【0073】
1つの実施形態では、当該抗ウイルス剤の組成物は、0.1mg/mL~80mg/mL、0.5mg/mL~60mg/mL、1~30mg/mL及び2mg/mL~15mg/mL、0.5mg/mL~70mg/mL、0.5mg/mL~60mg/mL、0.5mg/mL~50mg/mL、0.5mg/mL~40mg/mL、0.5mg/mL~30mg/mL、0.5mg/mL~20mg/mL、0.5mg/mL~10mg/mL、0.5mg/mL~8mg/mL、0.5mg/mL~5mg/mL、1.0mg/mL~6mg/mL、1.5mg/mL~5.0mg/mL、1.5mg/mL~4.0mg/mLの範囲、又は約2.0mg/mLのキニーネ化合物の総濃度を有する。
【0074】
1つの実施形態では、当該抗ウイルス剤の組成物は、1mM~100mM、5mM~100mM、5mM~90mM、10mM~80mM、15mM~70mM又は20mM~60mMの範囲の濃度の1種以上のリン脂質、及び0.01モル/モル~1モル/モル、0.03モル/モル~0.5モル/モル、0.03モル/モル~0.15モル/モル、0.03モル/モル~0.1モル/モル、約0.005モル/モル、0.05モル/モル~0.1モル/モル、0.07モル/モル~0.09モル/モルの範囲、又は0.085モル/モルの薬物対脂質(D/L)比を有し、抗ウイルス剤は、遊離5’-OH基を有する1’-置換カルバ-ヌクレオシド化合物、2’-置換カルバ-ヌクレオシド化合物である。
【0075】
いくつかの実施形態では、当該リポソーム性抗ウイルス剤の組成物は、遊離型抗ウイルス剤をさらに有し、本開示に係る組成物の遊離型抗ウイルス剤は、当該組成物の抗ウイルス剤の総量の60%未満、50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満未満、又は10%~40%、15%~35%、又は10%~30%の範囲の量である。
【0076】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物を含有する粒子のエアロゾル化組成物は、エアジェットネブライザ、超音波ネブライザ、振動メッシュネブライザ、凝縮エアロゾル発生器、電気流体力学的ネブライザ、又は当該技術分野で公知の他の肺送達デバイスからなる群から選択されるネブライザ(噴霧器、霧化器)を用いて上記組成物をエアロゾル化することによって生成される。
【0077】
いくつかの実施形態では、当該粒子のエアロゾル化組成物は、0.5μm~5μm、任意選択で1μm~3μmの空気動力学的質量中央粒子径(mass median aerodynamic diameter)を有する。
【0078】
エアロゾル化の後、本開示に係る組成物中のリポソーム性抗ウイルス剤のリポソームからの抗ウイルス剤の漏出は、抗ウイルス剤の一部が、リポソームによって捕捉されない遊離型になることをもたらす。エアロゾル化組成物中の生じた遊離型の抗ウイルス剤は、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満又は5%未満であり、任意選択で、0.1%~50%、0.5%~40%、0.5%~30%、0.5%~20%、0.5%~10%、0.5%~5%、10%~50%、15%~45%、20%~45%、25%~35%の範囲の制御された割合である。
【0079】
具体的な実施形態では、当該粒子のエアロゾル化組成物は、投与された薬物用量の約0.5%~25%/時間の放出速度を行う必要がある対象への肺送達に供され、抗ウイルス剤の完全な放出は、最低約12~24時間後に生じる。
【0080】
本開示は、以下の特定の非限定的な実施例を参照してさらに説明される。
【実施例】
【0081】
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態の調製及び特性を例示する。
【0082】
実施例1 リポソーム性抗ウイルス剤の安定性
本開示に係るリポソーム性抗ウイルス剤は、当該技術分野で公知の能動ローディング又は受動ローディングによって調製された、抗ウイルス剤が捕捉されたリポソームを含む。
【0083】
A. 能動ローディングによるリポソーム性抗ウイルス剤の調製
I. 空リポソームの調製
リモートローディングのための空リポソームを調製するプロセスは、薄膜水和法又は溶媒注入によって行った。これらの方法は、以下の工程を含んでもよい。
1. DSPE-PEG2000の存在下又は不存在下で所定のモル比のリン脂質、コレステロールの脂質混合物を秤量し、それらを丸底フラスコ中で10mLのクロロホルムに加える工程、
2. 脂質組成に応じて適切な温度のロータリーエバポレーターにフラスコを取り付け、このフラスコを撹拌して脂質混合物を溶解させた後、フラスコを撹拌しながら真空下に置いてクロロホルムを蒸発させて乾燥脂質薄膜を得る工程、
3. 蒸留水に捕捉剤を添加し、溶液をボルテックスして粉末を溶解させて捕捉剤溶液(例えば、硫酸アンモニウム(A.S.))を調製する工程、
4. 乾燥した脂質薄膜に上記捕捉剤溶液を添加し、脂質組成に応じて適切な温度で撹拌してリポソーム溶液を形成する工程、
5. このリポソーム溶液を液体窒素、及び脂質組成に応じて水浴により適切な温度を用いて凍結融解し、リポソーム試料を得る工程、
6. 得られたリポソーム試料を、0.2μmのポリカーボネート膜、0.1μmのポリカーボネート膜を通して脂質組成に応じて適切な温度で押出し、設計された粒子サイズを得る工程、
7. 押し出されたリポソーム試料を透析して遊離捕捉剤を除去し、続いて試料を透析バッグ(MWCO:25kD)に添加し、バッグを密封し、100×容量の9.4%(w/v)スクロース溶液又は生理食塩水又は適切な緩衝液中で透析バッグを撹拌し、さらに、1時間、4時間後にスクロース溶液又は生理食塩水又は適切な緩衝液を交換し、一晩撹拌する工程、並びに
8. 透析したリポソーム試料を0.45μmのPTFE膜を通して濾過することによって滅菌し、空リポソームを得る工程。
【0084】
II. リポソーム性抗ウイルス剤を得るための抗ウイルス剤のリポソームへの薬物ローディング
以下の方法は、リモートローディングによるリポソームへのヒドロキシクロロキン又はクロロキンの封入(カプセル化)のための典型的なプロトコルを表し、このプロトコルは以下の工程を含む。
1. 9.4%(w/v)スクロース又は適切な媒体中の40mg/mL又は適切な濃度のヒドロキシクロロキン又はクロロキンの溶液を調製し、それを適切な温度で短時間加熱して、ヒドロキシクロロキン又はクロロキンを含有するストック溶液(以下、ストック溶液と表す)を得る工程、
2. 実施例1のセクションA(I)に係るプロセス[典型的な実施形態では、3:2のDPPC:コレステロールのモル比、300mMの硫酸アンモニウム(A.S.)及び30mMのリン脂質濃度の条件を用いる]によって調製した空リポソーム、生理食塩水、及びストック溶液を円錐管の中で一緒に混合し、D/L比が100g/モル又は0.19モル/モルを目標とするローディング溶液を得る工程、
3. 適切な温度で30分間又は設計された時間、ローディング溶液を連続的に振盪して、薬物ローディング済みリポソームの試料を形成する工程、
4. 必要に応じて、遊離薬物を除去するか、又は緩衝液を変更するか、又は透析法若しくは膜ベースのタンジェンシャルフロー濾過(TFF)によって薬物濃度を調整する工程、並びに
5. サイズ排除カラムクロマトグラフィー及びHPLC分析を使用して最終試料の薬物封入量(すなわち、ローディング効率)を決定して、組成物全体に基づき、2mg/mL~10mg/mLの範囲の薬物濃度及び0.05モル/モル~1.5モル/モルの脂質に対する抗ウイルス剤の比のリポソーム性抗ウイルス剤の組成物を得る(以下の製剤番号1~番号3を参照)工程。
【0085】
【0086】
B. 受動ローディングによるリポソーム性抗ウイルス剤の調製
リポソームは、薄膜水和法又は溶媒注入法によって調製することができる。溶媒注入法によりリポソーム性抗ウイルス剤を調製するプロセスは、以下の工程を含む方法によって具体化される。
1. DSPE-PEG2000の存在下又は不存在下で所定のモル比のリン脂質、コレステロールの脂質混合物を秤量し、それらをフラスコ中で10mLのエタノールに添加して、脂質を含有する溶媒相を形成する工程、
2. 水相を形成するために、40mg/mL~60mg/mL又は適切な濃度の、0.9%塩化ナトリウム(生理食塩水)又は適切な媒体中のヒドロキシクロロキン又はクロロキン溶液を調製する工程、
3. 40mLの指示された水相(40mg/mLヒドロキシクロロキン)を50℃で少なくとも30分間予熱する工程、
4. 溶解した脂質混合物、すなわち溶媒相を、予熱した水相に撹拌下でシリンジによって添加してプロリポソーム試料を形成し、次いでこのプロリポソーム試料を50℃で5分間撹拌し続ける工程、
5. 上記プロリポソーム試料を、脂質組成に応じて適切な温度で0.2μmポリカーボネート膜を通して押し出して、設計された粒子サイズを得る工程、
6. 押し出したリポソーム試料を透析濾過して、遊離薬物物質を生理食塩水(0.9%NaCl)で除去する工程、及び
7. 透析濾過したリポソーム試料を、0.2μmのポリカーボネート膜を通して濾過することによって滅菌し、リポソーム性抗ウイルス剤を得る工程。
【0087】
本開示に係る抗ウイルス剤の組成物は、それぞれ組成物全体に基づき、1.0mg/mL~4mg/mLの濃度の抗ウイルス剤の濃度、及び少なくとも0.05モル/モル~0.30モル/モルの脂質に対する抗ウイルス剤の比を標的にするための遊離型の抗ウイルス剤を添加することによって製剤化することができる(以下の製剤番号4~番号6を参照)。
【0088】
【0089】
C. リポソーム性抗ウイルス剤の保存安定性
4℃で保存した上記セクションA及びBで調製したリポソーム性ヒドロキシクロロキン又はクロロキンの安定性を、少なくとも2週間又は設計された期間モニターすることができた。空リポソームに、硫酸アンモニウムを用いた能動ローディングによって、又は受動ローディングによってローディングしてリポソーム性薬物試料を得たヒドロキシクロロキン又はクロロキンを研究することができた。上記リポソーム性薬物試料を4℃又は適切な温度で2週間又は設計された期間にわたって保存した後に、リポソームの薬物効力、物理化学的特性を経時的に研究することができた。
【0090】
実施例2 動物モデルにおける吸入リポソーム性抗ウイルス剤の前臨床評価
動物における実施例1Bで調製したリポソーム性ヒドロキシクロロキン(HCQ)の例示的な組成物(TLC19とも表す)の毒性を検討した。HCQ硫酸塩溶液(遊離HCQ)の単回用量静脈内(IV)/気管内(IT)投与又はTLC19のパイロット製剤(試験番号PK20021)のIT投与後のスプラーグドーリー(Sprague-Dawley、SD)ラットにおける1つの予備的な概念実証の薬物動態(PK)及び組織分布試験を行った。この研究は、HCQの組織分布、主に肺、及び全身曝露を検討するように設計した。
【0091】
合計52匹のラットを3つの処置群に割り当てた。各ラットは、IT投与又はIV注射を介してHCQの単回投与を受けた。血液及び肺を含む臓器/組織試料を、投与後0.25時間、1時間(血液のみ)、4時間、24時間及び72時間の予め指定した時間点で収集し、タンデム質量分析を伴う液体クロマトグラフィーによるHCQの決定に使用した。研究設計を下記表1に要約する。
【0092】
【0093】
血液、肺及び心臓中のHCQの濃度を、Analyst(登録商標)又はMassL ynx Softwareを使用することによって計算し、薬物動態PKパラメータを、Phoenix(登録商標)WinNonlin(登録商標)を使用して決定した。TLC19パイロット製剤及び遊離HCQの投与後の肺、血液及び心臓におけるHCQ濃度対時間プロファイルを、それぞれ
図1、
図2及び
図3に示す。肺、血液及び心臓におけるHCQの平均PKパラメータを表2に列挙する。
【0094】
【表4】
a:T
maxは中央値(メジアン)として示した。
b:肺及び心臓についての単位:μg/g;血液についての単位:μg/mL
c:肺及び心臓についての単位:hr
*μg/g;血液についての単位:hr
*μg/mL
d:適用なし
【0095】
遊離HCQを投与したラットにおける肺分布に関して、HCQ濃度は、とりわけ遊離HCQ IT投与群において、投与後最初の24時間の間に着実に急速に低下した。平均HCQ濃度は、IT群では47.8μg/gから2.16μg/gに、IV群では9.4μg/gから3.77μg/gに低下した。対照的に、肺におけるHCQ沈着の程度は、遊離HCQ群と比較してTLC19(パイロット製剤)群で有意に上昇し、これはリポソーム性薬物の持続放出特性に起因する。TLC19群は、遊離HCQ用量の半分の投与後の最初の投与後24時間の間に平均HCQ濃度が129μg/gから57.1μg/gに低下したので、肺におけるHCQの放出をある期間持続した。
【0096】
遊離HCQ IV及びIT群における肺におけるHCQの半減期は、それぞれ15.2時間及び17.7時間であり、これは、HCQが生理学的pHで迅速に細胞膜を自由に移動することができるというHCQの物理化学的特性と整合する。TLC19(パイロット製剤)群におけるHCQの半減期(37.5時間)は、遊離HCQ群の約2倍であった。TLC19(パイロット製剤)群のAUC0-72及びCmaxに関する肺曝露は、用量で正規化した場合、それぞれ、遊離HCQ IV群の肺曝露の35倍及び29倍であった。これらの結果は、HCQの持続放出製剤であるTLC19(パイロット製剤)が、IV又はIT投与による遊離HCQと比較して、HCQの肺滞留時間を首尾よく延長したことを示唆する。また、本発明者らの研究では、遊離HCQのIV投与もIT投与も、肺におけるHCQ濃度を長期間維持することができなかった。
【0097】
全身曝露については、HCQは、HCQ投与後に迅速に吸収され、系に分配された。3群の血液中のHCQのTmax中央値は、投与後0.25時間であった。Cmax及びAUCを含む全体的な全身曝露は、遊離HCQ IV及びIT群において同様であった。TLC19(パイロット製剤)については、血液中のHCQのCmaxは、遊離HCQのCmaxよりも有意に低かった。少量のHCQは、TLC19(パイロット製剤)の投与後1時間以内に初期ピーク濃度をもたらした。残りのHCQは肺に留まり、長い滞留時間及び投与後24~72時間の間のTLC19(パイロット製剤)の着実な低い平均血中濃度を可能にした。経時的に観察されたより低い血中HCQ濃度レベルは、HCQが局所部位で徐々に放出されたことを示唆する。TLC19(パイロット製剤)のより長い半減期によって反映されるように、TLC19(パイロット製剤)は、非製剤化HCQ溶液よりも長い放出プロファイルを示した。
【0098】
HCQは、補正QT時間(QTc)の延長を含む心臓障害を引き起こすことが示されている。心臓におけるTLC19の分布を決定するために、心臓組織におけるHCQ PKプロファイルを決定した(
図3)。TLC19は、HCQ溶液と比較した場合、より低い心臓曝露(C
max)を有した。用量を正規化した場合、同様のAUCがすべての群で観察された。全身投与(すなわち、経口又はIV)よりもむしろ局所投与(すなわち、IT投与)に必要とされるより低い用量を考慮すると、これらの結果は、TLC19が従来のHCQ投与よりも少ない心毒性を引き起こしうることを示唆する。
【0099】
2つの前臨床PK研究を、スプラーグドーリー(SD)ラットにおけるIT投与によるTLC19最適化製剤について実施した。説明は以下の通りである。
【0100】
(1)SDラットにおける単回用量PK試験:TLC19の単回用量IT投与後の血液薬物動態及び組織濃度試験をSDラットにおいて実施することができた。血液及び肺を含む主要な臓器は、予定されたサンプリング時間点で収集することができた。HCQの濃度は、全血及び臓器について決定される。TLC19の予備的PKプロファイルを決定することができた。肺におけるTLC19の薬物分布のパーセンテージも計算することができた。
【0101】
(2)SDラットにおける複数回用量PK試験:本試験は、複数回用量IT投与後のTLC19の薬物蓄積を特徴付け、評価するように設計される。最初の投与及び最後の投与後の予定されたサンプリング時間点で、血液及び肺を含む主要な臓器を収集することができた。血液及び肺におけるTLC19の蓄積速度を計算することができた。
【0102】
実施例3 リポソーム性抗ウイルス剤の調製
スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン(SBECD)は、Zibo Qianhui Biological Technology co.,ltd(ズーボー・チエンフイ生物科技有限公司)、中国から購入した。SBECD製剤化GS-441524(1.0mg/mLのGS-441524を含有する)を、約4.4のpHを有する150mg/mLのSBECD溶液にGS-441524(抗ウイルス剤)を溶解することによって調製し、試験品(1)GS-441524溶液-IVとして使用した。
【0103】
試験薬物(リポソーム性GS-441524、ISPM21とも表す)は、Taiwan Liposome Company,Ltd.(台湾リポソーム)、台湾、によって調製された。これは、約200nmの平均粒子サイズを有するリポソームに封入されたGS-441524から構成される。GS-441524は、純粋な淡黄色粉末としてFormosa Pharmaceuticals,Inc.(台新薬股彬有限公司)によって提供された。リポソームは、ジパルミトイルホスファチジルコリン(日本精化株式会社、日本)及びコレステロール(Dishman(ディッシュマン)、オランダ)から構成され、これらは両方とも肺表面活性物質の天然成分である23。空の予め形成されたリポソームを溶媒注入によって調製した。簡潔には、適切な量の脂質混合物(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)及びコレステロール)をエタノール(J.T.Baker(ジェイ・ティー・ベーカー)、米国)に溶解し、50℃で撹拌しながら硫酸アンモニウム溶液に注入した。押出機を用いて、0.2μmのポリカーボネート膜を通して50℃で押し出すことによって、リポソームのサイズを約200nmに調整した。封入されていない硫酸アンモニウム及びエタノールを透析濾過によって除去して、最終的な空リポソームを得た。
【0104】
リポソームへのGS-441524の封入は、能動ローディング法を用いて行った。空の予め形成されたリポソームをGS-441524薬物溶液と混合し、50℃でインキュベートして、6~7のpHを有する最終ISPM21試料(リポソーム性薬物懸濁液)を得て、これを試験品(2)ISPM21-ITとして使用した。
【0105】
A. リポソーム性ヌクレオシド化合物の調製
I. 空リポソームの調製
リポソームは、薄膜水和法又は溶媒注入法によって調製することができた。
【0106】
溶媒注入法によって空リポソームを調製するためのプロセスは、以下の工程を含む方法によって具体化される。
1. DSPE-PEG2000の存在下又は不存在下で所定のモル比のリン脂質、コレステロールの脂質混合物を秤量し、それらをエタノールにより高温で溶解する工程、
2. 蒸留水に捕捉剤(例えば、硫酸アンモニウム(A.S.))を添加してこの溶液を混合し、塩を溶解させることにより捕捉剤溶液を調製する工程、
3. 上記脂質混合物を脂質組成に応じて適切な温度で上記捕捉剤溶液に添加してリポソーム溶液を形成する工程、
4. 得られたリポソーム溶液を、脂質組成に応じて適切な温度でポリカーボネート膜を通して押し出して、設計された粒子サイズを得る工程
5. スクロース溶液又は生理食塩水又は適切な緩衝液に対する押出されたリポソームの透析濾過により、遊離の捕捉剤及びエタノールを除去する工程。
【0107】
II. 抗ウイルス剤のリポソームへの薬物ローディング
以下の方法は、リモートローディングによるリポソームへのヌクレオシド化合物の封入のための典型的なプロトコルを表し、このプロトコルは以下の工程を含む。
1. 適切な媒体中の15.4mg/mL又は適切な濃度のヌクレオシド化合物の溶液を調製して、ヌクレオシド化合物を含有するストック溶液(以下、ストック溶液と表す)を得る工程、
2. 実施例1のセクション(A)、セクション(I)に係るプロセス[典型的な実施形態では、3:2のDPPC:コレステロールのモル比、捕捉剤として300mMの硫酸アンモニウム(A.S.)、及び20~50mMのリン脂質濃度の条件を用いる]によって調製した空リポソーム、及び上記ストック溶液を円錐管の中で一緒に混合し、D/L比が25g/モル又は設計されたD/L比を目標とするローディング溶液を得る工程、
3. 適切な温度で60分間又は設計された時間、上記ローディング溶液を連続的に振盪して、薬物ローディング済みリポソームを形成する工程、
4. NaOH溶液又は緩衝溶液を薬物ローディング済みリポソームに添加して、溶液のpHを6.0~7.0に調整する工程、並びに
5. サイズ排除カラムクロマトグラフィー及び紫外可視吸光度測定又はHPLC分析を使用して、最終試料の薬物封入量(すなわち、ローディング効率)を決定する工程。
【0108】
【表5】
*封入効率(EE)は、次式によって計算する。薬物の総形態(TF)で割った薬物のリポソーム形態(LF):EE(%)=LF/TF×100%。
【0109】
B. リポソーム性抗ウイルス剤の保存安定性
4℃で保存したリポソーム性ヌクレオシド化合物の安定性は、少なくとも2ヶ月間又は設計された期間モニターすることができた。300mMの硫酸アンモニウム又は75mMのオクタ硫酸スクローストリエチルアンモニウム塩を、リポソーム性薬物試料(表A)を得るための捕捉剤として用いて空リポソームにローディングしたヌクレオシド化合物を研究することができた。リポソーム性薬物試料を4℃又は適切な温度で2ヶ月以上又は設計された期間にわたって保存した後に、リポソームの薬物効力、物理化学的特性を経時的に研究することができた。
【0110】
実施例4 リポソーム性抗ウイルス剤の放出プロファイル
模擬肺液におけるインビトロ薬物放出
実施例1によって調製したリポソーム性抗ウイルス剤の放出プロファイル実験を実施して、それらの持続放出特性を実証することができた。インビトロ放出(IVR)実験のプロトコルの概要は以下の通りである。
1. リポソーム性抗ウイルス剤の各試料0.5mLをSLF4.5mL(37℃で予熱)と混合することによって試験品を10倍希釈し、希釈した試料を15mL遠心管に入れ、
2. 希釈した試料を含む遠心管をIntelliミキサー回転子の試料ウェル上に置き、20rpmで回転させ、37℃でインキュベートし、
3. 封入効率を分析するために所定の時間点で1mLの希釈試料をサンプリングする。
【0111】
ヌクレオシド化合物の封入効率を決定するための分析方法は以下の通りである。
a. 2mLのG50カラムを条件溶液で充填及び洗浄し、
b. 0.1mLの試料をカラムに添加し、次いで0.45mLの溶離液を添加し、溶液が溶出するのを待ち、
c. 0.8mLの溶離液をカラムに加え、溶出物をリポソーム形態として収集し、
d. カラム前及びカラム後の試料(リポソーム形態及び全形態)を適切な溶媒によって破壊し、
e. 紫外可視又はHPLC法を使用して、示された波長での試料の吸光度を測定して、各試料の薬物濃度を決定する。
【0112】
リポソーム中の抗ウイルス剤の封入効率(EE)を計算し、下式によって得ることができた:薬物の総形態(TF)で割った薬物のリポソーム形態(LF):
EE(%)=LF/TF×100%
【0113】
放出プロファイルをプロットして、放出速度(%)対時間を描くことができた。放出速度は、下式によって計算することができた:初期のリポソーム形態から各時間点におけるリポソーム形態を引いたものを、次いで初期リポソーム形態で割る:
(LFt0-LFt)/LFt0×100%
【0114】
薬物物質の長期放出プロファイルは、有効性の改善及びより低い投与頻度での治療のために望ましい。それゆえ、選択されたリポソーム性抗ウイルス剤は、すべての製剤の中でより遅い又は適切な放出プロファイルを有し、以下の毒性試験においてそれらを使用した。
【0115】
実施例5 動物モデルにおける吸入リポソーム性抗ウイルス剤の薬物動態
研究設計
合計48匹の雌SDラット(BioLASCO Taiwan Co.,Ltd.(バイオラスコ・タイワン))を、2つの処置群のうちの1つに割り当てた:(1)GS-441524溶液-IV:24匹のラットに、0.20mg GS-441524/動物の単回用量をIV注射により投与した;(2)ISPM21-IT:24匹のラットに、臨床設定における吸入を模倣するために使用する投与経路であるIT点滴注入を介して0.20mgのISPM21(1.0mg/mLのGS-441524を含有するリポソーム懸濁液)/動物の単回用量を投与した。血液試料のサンプリング時間点は、投与後0.25時間、1時間、4時間、24時間、及び72時間であり、肺試料のサンプリング時間点は、投与後0.25時間、4時間、24時間、及び72時間であった。動物に関するすべての手順は、TLC動物施設において、TLC、台湾におけるInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC、組織内動物実験委員会)の倫理ガイドラインに従って行った(番号TLC20IACUC037)。
【0116】
血液及び肺の試料の採取及び取扱い
血液を、予定されたサンプリング時間点で頸静脈から抗凝固剤としてのK2EDTAが入った採取チューブに収集した。各採取チューブを穏やかに反転させて、試料が抗凝固剤と完全に混合されることを確実にした。実際のサンプリング時間を記録した。採取した血液試料を1,500×gで10分間、2~8℃で遠心分離して血漿を得た。上清血漿を直ちに標識マイクロチューブに移した。直ちに処理しない場合には、血漿を-80℃に設定した冷凍庫に移した。血漿採取は、血液採取後2時間以内に完了した。
【0117】
予定された肺試料採取時間で動物を安楽死させた。各ラットを、KD Scientific(登録商標)シリンジポンプにより少なくとも8分間、約100mLの2mM K2EDTA/生理食塩水溶液で灌流した。灌流後、肺を採取し、液体窒素中で凍結した。凍結後、肺を秤量し、-80℃の冷凍庫に移すまで湿った氷上に置いた。すべての肺試料をホモジナイズ(均質化)するまで-80℃の冷凍庫に保存した。
【0118】
生物学的分析及びPK計算
血液試料に内部標準(6,7-ジメチル-2,3-ジ-2-ピリジルキノキサリン)を添加した後、タンパク質沈殿のためにメタノールとよく混合した。遠心分離後、分析のためにタンデム質量分析計(Waters(ウォーターズ) Xevo(商標) TQ-S)と連結した液体クロマトグラフィー(Waters I-Class UPLC)(LC-MS/MS)に上清を注入した。肺試料については、組織/臓器を0.1%ギ酸を含む50%メタノールでホモジナイズした。組織/臓器ホモジネートに内部標準(IS)を添加した後、タンパク質沈殿のためにメタノールとよく混合した。得られた試料上清を、遠心分離後の分析のためにLC-MS/MSに注入した。GS-441524の濃度は、MassLynxソフトウェアを使用して計算した。線形範囲は、肺アッセイ及び血漿アッセイについて、それぞれ10~10000ng/mL及び0.5~500ng/mLであった。GS-441524のPKパラメータは、Phoenix(登録商標)WinNonlin(登録商標)(バージョン8.0以上)を用いたスパースサンプリング計算を適用するノンコンパートメント法によって計算した。
【0119】
結果
肺におけるGS-441524薬物動態
ISPM21の単回用量IT投与後、肺における長い半減期(22.8時間)及びより高いGS-441524レベル(
図4A)が、GS-441524溶液-IVと比較してISPM21-ITについて観察された(表3)。肺におけるGS-441524溶液-IVの半減期及びAUCは、濃度が最初の時間点(0.25時間)でのみ測定可能であったため、計算することができなかった。特に、0.2mgのISPM21-ITの単回投与は、74.9μg/gのC
max及び369h
*μg/gのAUC
0-72を達成し、GS-441524溶液-IVと比較して207倍のC
maxで劇的に高い肺曝露を示した(表4)。
【0120】
【0121】
【0122】
血漿中のGS-441524薬物動態
単回用量投与後、ISPM21-ITは、GS-441524溶液-IVと比較して血漿中で同様のPKプロファイル(
図4B)及びAUC(表3及び表4)を示した。ISPM21-ITの血漿半減期(9.98時間)は、GS-441524溶液-IVの血漿半減期(7.43時間)よりもわずかに長かった。特に、ISPM21-ITは、GS-441524溶液-IVと比較して血漿中でより低い全身曝露(C
maxの37%)を示した(表4)。
【0123】
このラットPK研究において、吸入可能なISPM21の肺への標的化送達を検討し、肺におけるGS-441524の有意により高い曝露を伴う持続放出を実証した。ISPM21の単回IT投与後、投与後72時間後の肺におけるGS-441524の平均濃度は1.07μg/g(3.67μM、肺組織試料の密度が1g/mLであると仮定)であり、これは、肺におけるSARS-CoV感染したヒト気道上皮(HAE)細胞に対する0.18μMのインビトロ抗ウイルスEC50よりも19倍高く、ISPM21が比較的高いGS-441524濃度を維持できることを示す。
【国際調査報告】