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特表2023-518743プレフェナートデヒドラターゼ活性強化によるL-トリプトファンを生産する方法
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  • 特表-プレフェナートデヒドラターゼ活性強化によるL-トリプトファンを生産する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-08
(54)【発明の名称】プレフェナートデヒドラターゼ活性強化によるL-トリプトファンを生産する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/60 20060101AFI20230426BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230426BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230426BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230426BHJP
   C12P 13/22 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C12N15/60 ZNA
C12N15/31
C12N1/21
C12N1/20 A
C12P13/22 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556021
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(85)【翻訳文提出日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 KR2021002763
(87)【国際公開番号】W WO2021187781
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0032783
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ソ, チャン イル
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヒョン ア
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ソン クアン
(72)【発明者】
【氏名】チョン, キ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョン, ム ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, テ ヨン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE34
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA11
4B065AA24X
4B065AA24Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA17
4B065CA27
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA44
(57)【要約】
本出願は、プレフェナートデヒドラターゼ(prephenate dehydratase, PheA)活性強化によるL-トリプトファンを生産する方法に関する。本出願は、プレフェナートデヒドラターゼ(prephenate dehydratase)活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を提供するものである。本出願は、プレフェナートデヒドラターゼ活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を培地で培養する段階を含む、L-トリプトファンの生産方法を提供するものである。本出願は、プレフェナートデヒドラターゼ活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を含む、L-トリプトファン生産用組成物を提供するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレフェナートデヒドラターゼ(prephenate dehydratase)活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物。
【請求項2】
上記プレフェナートデヒドラターゼは、配列番号1またはこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
上記活性強化は、上記プレフェナートデヒドラターゼをコードする遺伝子のコピー数の増加または上記遺伝子プロモーターの強いプロモーターへの交換によるものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
上記微生物は、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)である、請求項1に記載の微生物。
【請求項5】
上記微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項4に記載の微生物。
【請求項6】
プレフェナートデヒドラターゼ活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を培地で培養する段階を含む、L-トリプトファンの生産方法。
【請求項7】
上記方法は、培養された培地または微生物からL-トリプトファンを回収する段階をさらに含む、請求項6に記載のL-トリプトファンの生産方法。
【請求項8】
プレフェナートデヒドラターゼ活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を含む、L-トリプトファン生産用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、プレフェナートデヒドラターゼ(prephenate dehydratase, PheA)活性強化によるL-トリプトファンを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-トリプトファン(L-tryptophan)は必須アミノ酸の一つであり、飼料添加剤、輸液剤のような医薬品の原料及び健康食品の素材などとして広く使われてきた。合わせて、現在L-トリプトファン生産に微生物を用いた直接発酵法が主に用いられている。
【0003】
L-トリプトファン生産に用いられる微生物は、初期に化学的または物理的突然変異の選別を通じて、L-トリプトファン類似体の耐性を示す菌株を主に使用したが、1990年代に遺伝子組換え技術の急激な発展と分子レベルの多様な調節機序が究明されることにより遺伝子操作技法を利用した組換え菌株が主に用いられている。
【0004】
一方、組換えL-トリプトファン生産菌株には、一般に、コリスマート(chorismate)を基準に競争経路上にあるフェニルアラニン(Phe)またはチロシン(Tyr)の生合成経路を欠損または弱化させてトリプトファンの発酵収率を最大化しようとした。[J Ind Microbiol Biotechnol. 2011 Dec;38(12):1921-9], [Appl Environ Microbiol. 1999 Jun;65(6):2497-502] 。
【0005】
しかしながら、フェニルアラニンまたはチロシン要求性L-トリプトファン生産菌株は、成長段階(Growth-phase)及び生産段階(Production-phase)において上記両アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン)を投入する量を異なって調節しなければならない困難性、大量生産において追加的な費用の増加、及び上記両アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン)の低溶解度によるメイン(Main)、フィード(Feed)培地調製上の困難があった。
【0006】
このような問題を改善するために、本発明者らは、野生型コリネバクテリウム菌株からフェニルアラニンまたはチロシン経路の欠損及び弱化なしに高収率のL-トリプトファンを生産するコリネバクテリウム菌株を製作した(米国公開公報US 2020-0063219 A1)。上記高収率のL-トリプトファンを生産するコリネバクテリウム菌株を利用する場合、高濃度発酵槽での培養時に培養液でフェニルアラニンがたまる現象はなく、培養終了時点でチロシンは0.2g/Lのレベルで生成される点が観察された。しかし、上記菌株は、培養後半のアントラニレート(anthranilate)が生成されることにより、L-トリプトファン生成が最大化しないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国公開公報US 2020-0063219 A1
【特許文献2】米国登録公報US 8426577
【特許文献3】米国登録公報US 7662943 B2
【特許文献4】WO2019-164346 A1
【特許文献5】韓国登録特許第10-1968317号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J Ind Microbiol Biotechnol. 2011 Dec;38(12):1921-9
【非特許文献2】Appl Environ Microbiol. 1999 Jun;65(6):2497-502
【非特許文献3】Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)
【非特許文献4】Methods Enzymol., 183, 63, 1990
【非特許文献5】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【非特許文献6】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology
【非特許文献7】Introduction to Biotechnology and Genetic Engineering, A. J. Nair., 2008
【非特許文献8】Gene, 145 (1994) 69-73
【非特許文献9】DG Gibson et al., NATURE METHODS, VOL.6 NO.5, MAY 2009, NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix
【非特許文献10】Appl. Microbiol.Biotechnol. (1999) 52:541-545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記高収率のL-トリプトファンを生産するコリネバクテリウム菌株に追加的にプレフェナートデヒドラターゼ(prephenate dehydratase, PheA)活性強化を通じてプレフェナート(prephenate)からフェニルアラニンとチロシン間の生合成分配を補正した。このような競争経路のアロマティックアミノ酸生成補正は、培養液内のフェニルアラニンまたはチロシン最終生成量を調節するだけでなく、培養後半のアントラニレート生成を低減させ、結果的にL-トリプトファン生産量が画期的に向上することを確認して本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願は、プレフェナートデヒドラターゼ(prephenate dehydratase)活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を提供するものである。
【0011】
本出願は、プレフェナートデヒドラターゼ活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を培地で培養する段階を含む、L-トリプトファンの生産方法を提供するものである。
【0012】
本出願は、プレフェナートデヒドラターゼ活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を含む、L-トリプトファン生産用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本出願のプレフェナートデヒドラターゼ活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物は、アントラニレート(anthranilate)の蓄積を最小化し、L-トリプトファンを高効率で生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】PDCM2プラスミドの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用できる。即ち、本出願で開示された多様な要素のすべての組合せが本出願の範疇に属する。また、下記の具体的な叙述により本出願の範疇が制限されるとは見られない。
【0016】
本出願の一態様は、プレフェナートデヒドラターゼ(prephenate dehydratase)活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を提供する。
【0017】
本出願の用語「L-トリプトファン(L-tryptophan)」は、20種のα-アミノ酸の一つであり、ヒトを含む多くの生物体において生合成されない必須アミノ酸である。トリプトファンは、主に、生化学的前駆体として作用することが知られており、例えば、セロトニンのような神経伝達物質、メラトニンのような神経ホルモン、ナイアシン及びオキシンなど、多様な物質がトリプトファンから合成される。
【0018】
L-トリプトファンはコリスマート(chorismate;chorismic acid)から合成され、この過程に関与する酵素をコードしている遺伝子群は、トリプトファンオペロン(tryptophan operon;Trp operon)として知られている。上記トリプトファンオペロンは、構造遺伝子(Structure Gene)及び発現調節領域(regulatory region)を含むことが知られている。通常のトリプトファンオペロンは、細胞が要求する十分な量のトリプトファンを生産できるように活発に転写するが、細胞内トリプトファンが十分に存在する場合に抑制因子(repressor)がトリプトファンと結合してトリプトファンオペロンが不活性化するため、転写が抑制される。上記トリプトファンオペロンは、コリネバクテリウム属微生物、エシェリキア属微生物など、多様な微生物に由来することができる。上記トリプトファンオペロンの「発現調節領域」は、トリプトファンオペロンを構成する構造遺伝子のアップストリームに存在して構造遺伝子の発現を調節できる部位を意味する。コリネバクテリウム属微生物においてトリプトファンオペロンを構成する構造遺伝子は、trpE、trpG、trpD、trpC、trpB、trpA遺伝子で構成され得エシェリキア属微生物においてトリプトファンオペロンを構成する構造遺伝子はtrpE、trpD、trpC、trpB、trpA遺伝子で構成されてもよい。上記トリプトファンオペロンの発現調節領域は、トリプトファンオペロン構造遺伝子の5’位置にあるtrpEのアップストリームに存在するものであってもよい。具体的には、トリプトファンオペロンを構成できる構造遺伝子を除いたトリプトファンレギュレーター(trp regulator; trpR)、プロモーター(trp promoter)、オペレーター(trp operator)、トリプトファンリーダーペプチド(trp leaderpeptide; trp L)及びトリプトファン減衰因子(trp attenuator)を含むものであってもよい。より具体的には、プロモーター(trp promoter)、オペレーター(trp operator)、トリプトファンリーダーペプチド(trp leaderpeptide; trp L)及びトリプトファン減衰因子(trp attenuator)を含むものであってもよい。
【0019】
本出願の用語「プレフェナートデヒドラターゼ(prephenate dehydratase、以下、「PheA」)」は、コリスマートまたはプレフェナート(prephenate)においてL-フェニルアラニンを生産する経路の酵素であり、チロシン生合成経路と競争する段階にある酵素として知られている。上記タンパク質は、二重作用性コリスマートムターゼ/プレフェナートデヒドラターゼ(Bifunctional chorismate mutase/prephenate dehydratase)とも命名できる。上記タンパク質をコードする遺伝子は、その例としてpheA遺伝子であってもよいが、これに制限されず、上記pheA遺伝子は、前述のトリプトファンオペロンにより調節できる。本出願において「pheA遺伝子」は「プレフェナートデヒドラターゼをコードする遺伝子」及び「pheA遺伝子」と混用され得る。
【0020】
上記PheAは、配列番号1のアミノ酸配列を有するか、配列番号1のアミノ酸配列からなるか、または配列番号1で記載されるアミノ酸配列を含むものであってもよいが、これに制限されない。上記配列番号1の配列は公知のデータベースであるNCBI Genbankでその配列を確認することができる。
【0021】
具体的には、上記PheAは、配列番号1及び/または上記配列番号1と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性(homology)または同一性(identity)を有するアミノ酸配列であってもよい。また、このような相同性または同一性を有し、上記PheAに相応する機能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するPheAも本出願の範囲内に含まれることは明らかである。
【0022】
本出願の用語「相同性(homology)及び同一性(identity)」は、二つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列と関連した程度を意味し、百分率で表示することができる。用語の相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に利用され得る。
【0023】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、使用されるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に利用されてもよい。実質的に、相同性を有するか(homologous)または同一な(identical)配列は、中間または高いストリンジェントな条件(stringent conditions)において一般に、配列全体または全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%または90%以上にハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションはポリヌクレオチドにおいてコドンの代わりに縮退コドンを含有するポリヌクレオチドも考慮される。
【0024】
上記ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列に対する相同性または同一性は、例えば、文献によるアルゴリズムBLAST[参照:Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)]、またはPearsonによるFASTA(参照: Methods Enzymol., 183, 63, 1990)を用いて決定することができる。このようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(参照: http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。また、任意のアミノ酸またはポリヌクレオチド配列が相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、定義されたストリンジェントな条件下でサザンハイブリダイゼーション実験により配列を比較することにより確認でき、定義される適切なハイブリダイゼーション条件は当該技術範囲内であり、当業者によく知られている方法(例えば、J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989; F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology)であってもよい。
【0025】
本出願の用語「L-トリプトファンを生産する微生物」とは、自然にL-トリプトファンの生産能を有している微生物またはL-トリプトファンの生産能がない親株にL-トリプトファンの生産能が付与された微生物を意味する。具体的には、上記微生物は、PheA活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物であってもよいが、これに制限されない。
【0026】
具体的には、上記「L-トリプトファンを生産する微生物」は、野生型微生物や自然的または人為的に遺伝的変形が起きた微生物を全て含む。さらに具体的には、外部遺伝子が挿入されたり内在的遺伝子の活性が強化されたり不活性化するなどの原因により特定の機序が弱化または強化された微生物であり、目的とするL-トリプトファン生産のために遺伝的変異が起きたりL-トリプトファン生産活性を強化させた微生物であってもよい。本出願の目的上、上記L-トリプトファンを生産する微生物は、上記PheA活性が強化され、目的とするL-トリプトファン生産能が増加したことを特徴とし、遺伝的に変形された微生物または組換え微生物であってもよいが、これに制限されない。
【0027】
本出願の用語、タンパク質の「活性強化」は、タンパク質の活性が内在的活性に比べて増加することを意味する。上記「内在的活性」は自然的または人為的要因による遺伝的変異で形質が変化する場合、形質変化前に親株または非変形微生物が本来有していた特定タンパク質の活性を意味する。これは「変形前活性」と混用され得る。タンパク質の活性が内在的活性に比べて「増加」するということは、形質変化前の親株または非変形微生物が本来有していた特定タンパク質の活性に比べて向上したことを意味する。
【0028】
上記の「活性増加」は、外来のタンパク質を導入したり、内在的なタンパク質の活性強化を通じて達成できるが、具体的には、内在的なタンパク質の活性強化を通じて達成することであってもよい。上記タンパク質の活性強化可否は、当該タンパク質の活性程度、発現量または当該タンパク質から生産される産物の量の増加から確認できる。
【0029】
本出願において、上記活性強化の対象となるタンパク質、即ち、目的タンパク質はPheAであってもよいが、これに制限されない。
【0030】
また、本出願において、上記当該タンパク質から生産される産物はL-トリプトファンであってもよいが、これに制限されない。
【0031】
上記タンパク質の活性強化は、当該分野においてよく知られている多様な方法の適用が可能であり、目的タンパク質の活性を変形前の微生物より強化させることができれば、制限されない。上記方法は、遺伝子工学またはタンパク質工学を利用したものであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0032】
上記遺伝子工学を用いてタンパク質活性を強化する方法は、例えば、
1)上記タンパク質をコードする遺伝子の細胞内コピー数の増加、
2)上記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子発現調節配列を活性が強力な配列で交換する方法、
3)上記タンパク質活性が増加するように上記タンパク質の開始コドンまたは5’-UTR領域の塩基配列を変形させる方法、
4)上記タンパク質活性が増加するように染色体上のポリヌクレオチド配列を変形させる方法、
5)上記タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチドまたは上記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドの導入、または
6)上記方法の組み合わせなどにより行われ得るが、これに制限されない。
【0033】
上記タンパク質工学を用いてタンパク質の活性を強化する方法は、例えば、タンパク質の三次構造を分析し、露出部位を選択して変形したり、化学的に修飾する方法などにより遂行できるが、これに制限されない。
【0034】
上記1)タンパク質をコードする遺伝子の細胞内のコピー数の増加は、当業界において知られた任意の方法、例えば、当該タンパク質をコードする遺伝子が作動可能に連結された、宿主とは関係なく複製され、機能できるベクターを宿主細胞内に導入することにより行うことができる。または、上記遺伝子が作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体内に、上記の遺伝子を挿入させるベクターが宿主細胞内に導入されることにより遂行できるが、これに制限されない。
【0035】
本出願において用語、「ベクター」は適合した宿主内で目的とするタンパク質をコードする、ポリヌクレオチド配列を目的タンパク質を発現させるのに適した調節配列に作動可能に連結された形態で含有するDNA製造物を意味する。上記発現調節配列は、転写を開始できるプロモーター、そのような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適したmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、転写及び解読の終結を調節する配列を含むことができる。ベクターは、適当な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムとは関係なく複製されたり、機能することができ、ゲノムそのものに統合することができる。
【0036】
本出願で使用されるベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば、特に限定されず、当業界において知られた任意のベクターを利用することができる。通常使用されるベクターの例としては、天然状態であるか、組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びパクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとしてpWE15、M13、λMBL3、λMBL4、λIXII、λASHII、λAPII、λt10、λt11、Charon4A、及びCharon21Aなどを使用することができ、プラスミドベクターとしてpDZ系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを使用することができる。具体的には、本出願において使用可能なベクターは、コリネバクテリウム染色体内の遺伝子の挿入及び交換のために製作されたpDCM2(図1、配列番号3)であってもよいが、これに特に制限されるものではなく、公知となった発現ベクターを使用することができる。
【0037】
本出願において用語、「形質転換」は、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを宿主細胞内に導入して宿主細胞内で上記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドが宿主細胞内で発現できさえすれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置したり、染色体外に位置したりに関係なく、これら全てを含むことができる。上記形質転換する方法は、核酸を細胞内に導入する如何なる方法も含まれ、宿主細胞により、当分野において公知となった通り、適合する標準技術を選択して行うことができる。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、陽イオンリポソーム法、及び酢酸リチウム-DMSO法などがあるが、これに制限されない。
【0038】
また、上記において用語「作動可能に連結」されたとは、本出願の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介させるプロモーター配列または発現調節領域と上記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されていることを意味する。作動可能な連結は、当業界の公知となった遺伝子組換え技術を用いて製造することができ、部位特異的DNA切断及び連結は、当業界の切断及び連結酵素などを使用して製作することができるが、これに制限されない。
【0039】
上記2)タンパク質をコードする染色体上の遺伝子発現調節配列を活性が強力な配列で交換する方法は、当業界において知られた任意の方法、例えば、上記発現調節配列の活性をさらに強化するように核酸配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行ったり、より強い活性を有する核酸配列で交換することにより遂行できる。上記発現調節配列は、特にこれに制限されないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び解読の終結を調節する配列などを含むことができる。上記方法は、具体的には、本来のプロモーターの代わりに強力な異種プロモーターを連結させるものであってもよいが、これに制限されない。
【0040】
公知となった強力なプロモーターの例には、変異型lysCプロモーター(米国登録公報US 8426577)、CJ7プロモーター(米国登録公報US 7662943 B2)、CJ1プロモーター(米国登録公報US 7662943 B2)、lacプロモーター、Trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター及びtetプロモーターが含まれてもよいが、これに制限されない。具体的には、本出願において使用可能な強力なプロモーターは、変異型lyscプロモーター(米国登録公報US 8426577)の一部の配列を変更して製作されたPlysCm1(配列番号4)であってもよいが、これに特に制限されるものではなく、公知となったプロモーターを使用することができる。
【0041】
上記3)タンパク質の開始コドンまたは5’-UTR領域の塩基配列を変形させる方法は、当業界において知られている任意の方法、例えば、上記タンパク質の内在的開始コドンを上記内在的開始コドンに比べてタンパク質発現率がさらに高い他の開始コドンで置換されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0042】
上記4)上記タンパク質活性が増加するように染色体上のポリヌクレオチド配列を変形させる方法は、当業界において知られた任意の方法、例えば、上記ポリヌクレオチド配列の活性をさらに強化するように核酸配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせで変異を誘導して行ったり、より強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列で交換することにより遂行できる。上記交換は、具体的には、相同組換えにより上記遺伝子を染色体内に挿入するものであってもよいが、これに制限されない。
【0043】
この時に使われるベクターは、染色体挿入有無を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含むことができる。選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、即ち、導入しようとする遺伝子の挿入有無を確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を付与するマーカーが使用でき、これに限定されるわけではない。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみが生存したり、他の表現形質を示すため、形質転換された細胞を選別することができる。
【0044】
上記5)上記タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチドの導入は、当業界において知られている任意の方法、例えば、上記タンパク質と同一/類似した活性を示すタンパク質をコードする外来ポリヌクレオチド、またはそのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを宿主細胞内に導入して行うことができる。上記外来ポリヌクレオチドは、上記タンパク質と同一/類似した活性を示す限り、その由来や配列に制限なく使用できる。また、導入された上記外来ポリヌクレオチドが宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、そのコドンを最適化して宿主細胞内に導入することができる。上記導入は、公知となった形質転換方法を当業者が適切に選択して行うことができ、宿主細胞内で上記導入されたポリヌクレオチドが発現することによりタンパク質が生成され、その活性が増加することができる。
【0045】
最後に、6)上記方法の組み合わせは、上記1)~5)のいずれか一つ以上の方法を共に適用して行うことができる。
【0046】
このようなタンパク質の活性強化は、相応するタンパク質の活性または濃度が野生型や変形前の微生物菌株で発現したタンパク質の活性または濃度を基準として増加したり、当該タンパク質から生産される産物の量が増加するものであってもよいが、これに制限されるものではない。本出願において用語、「変形前の菌株」または「変形前の微生物」は、微生物に自然に発生しうる突然変異を含む菌株を除いたものではなく、天然型菌株自体であるか、人為的要因による遺伝的変異で形質が変化する前の菌株を意味する。本出願において、上記形質変化はPheAの活性強化であってもよい。上記「変形前の菌株」または「変形前の微生物」は「非変異菌株」、「非変形菌株」、「非変異微生物」、「非変形微生物」または「基準微生物」と混用され得る。
【0047】
本出願において、上記基準微生物は、L-トリプトファンを生産する微生物であれば特に制限されず、野生型に比べてL-トリプトファン生産能が強化された変異菌株も制限なく含まれる。その例として、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869菌株、CJ04-8321菌株(PCT公開公報WO WO2019-164346 A1)またはL-トリプトファン生合成経路を強化するために、上記菌株に一つ以上の遺伝的変形が追加された菌株が含まれてもよいが、これに制限されない。
【0048】
上記一つ以上の遺伝的変形は、例えば、L-トリプトファンオペロン(operon)の活性を過発現させたり;L-トリプトファンの前駆体の供給及び効率を改善したり;L-トリプトファンの排出を向上させたり;競争経路の遺伝子、L-トリプトファンオペロンの方向性経路の調節者、L-トリプトファン流入遺伝子、L-トリプトファン流入及び分解遺伝子の活性を弱化または不活性化させる;ことから選択されるいずれか一つ以上の遺伝的変形であってもよいが、これに制限されない。
【0049】
上記L-トリプトファンオペロンの活性を過発現させる遺伝的変形は、例えば、i)L-トリプトファン生合成遺伝子オペロンのプロモーターを強化することであってもよく、ii)L-トリプトファンオペロン内生産の向上に伴うTrpEタンパク質のフィードバック制限(feedback inhibition)を解消することであってもよく、ii)L-トリプトファン生合成遺伝子オペロンのプロモーターを強化することであってもよく、具体的には、上記i)はL-トリプトファン生合成遺伝子オペロンのプロモーターを強いプロモーターであるSPL7で交換して強化することであってもよく、上記ii)はフィードバック制限trpE形質を有するL-トリプトファンオペロンであるtrpE(P21S)DCBAまたはtrpE(S38R)DCBAを導入することであってもよく、上記iii)はL-トリプトファン生合成遺伝子オペロンのプロモーターを強いプロモーターであるSPL7で交換して強化することであってもよいが、これに制限されない。
【0050】
上記L-トリプトファンの前駆体の供給及び効率を改善する遺伝的変形は、例えば、E4P(erythorse-4-phosphate)のようなL-トリプトファンの前駆体の持続的な供給とエネルギーの効率的利用のために関連遺伝子の発現を強化することであってもよく、具体的には、tkt(トランスケトラーゼ)をコードする遺伝子を導入したり、その発現を強化することであってもよいが、これに制限されない。
【0051】
上記L-トリプトファンの排出を向上させる遺伝的変形は、例えば、L-トリプトファンの排出を向上させる外来膜タンパク質を導入することであってもよく、具体的には ハーバスピリラム・リゾスファエラエ(Herbaspirillum rhizosphaerae)由来の膜タンパク質をコードする遺伝子(登録番号NZ_LFLU01000012.1)を導入することであってもよいが、これに制限されない。
【0052】
上記一つ以上の遺伝的変形が追加された菌株は、例えば、ATCC13869菌株に強いプロモーターであるSPL7を含み、フィードバック制限trpE形質を有するL-トリプトファンオペロンであるtrpE(S38R)DCBAが導入されたCA04-8325(米国公開公報US 2020-0063219 A1)、CA04-8325菌株にtkt遺伝子が挿入されたCA04-8352(PCT公開公報WO WO2019-164346 A1)、CJ04-8352菌株にハーバスピリラム・リゾスファエラエ由来の膜タンパク質をコードする遺伝子を導入して製作したCA04-8405菌株(米国公開公報US 2020-0063219 A1)であってもよいが、これに制限されない。
【0053】
本出願の目的上、上記L-トリプトファンを生産する微生物は、前述の方法でPheA活性が強化され、L-トリプトファンを生産できる微生物であれば、全て可能である。本出願において上記「L-トリプトファンを生産する微生物」は、「L-トリプトファン生産微生物」、「L-トリプトファン生産能を有する微生物」と混用され得る。
【0054】
上記微生物は、例えば、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エシェリキア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterbacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、プロビデンシア(Providencia)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物であってもよく、具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物であってもよい。
【0055】
より具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・クルジラクティス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンスCxorynebacterium imitans)、コリネバクテリウム・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)またはコリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)などであってもよく、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよく、コリネバクテリウム属に属する微生物は制限なく含まれてもよい。
【0056】
本出願のもう一つの形態は、プレフェナートデヒドラターゼ活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を培地で培養する段階を含む、L-トリプトファンの生産方法を提供する。
【0057】
上記プレフェナートデヒドラターゼ、活性強化及びL-トリプトファンを生産する微生物については前述した通りである。
【0058】
上記方法において、上記微生物を培養する段階は、特に制限されないが、公知となった回分式培養方法、連続式培養方法、流加式培養方法などにより行われ得る。この時、培養条件は、特にこれに制限されないが、塩基性化合物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア)または酸性化合物(例:リン酸または硫酸)を使用し、適正pH(例えば、pH5~9、具体的にはpH6~8、最も具体的にはpH7.0)を調節することができ、酸素または酸素含有ガス混合物を培養物に導入させて好気性条件を維持することができる。培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃を維持することができ、約10~160時間培養できるが、これに制限されるものではない。上記培養により生産されたアミノ酸は培地中に分泌されたり、細胞内に残留することができる。
【0059】
併せて、用いられる培養用培地は、炭素供給源としては、糖及び炭水化物(例:グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、モラセス、澱粉及びセルロース)、油脂及び脂肪(例:大豆油、ひまわり種子油、ピーナッツ油及びココナッツ油)、脂肪酸(例:パルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸)、アルコール(例:グリセロール及びエタノール)及び有機酸(例:酢酸)などを個別に用いたり、または混合して用いられるが、これに制限されない。窒素供給源としては、窒素含有有機化合物(例:ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆粕粉及びウレア)、または無機化合物(例:硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウム)などを個別に用いたり、または混合して用いられるが、これに制限されない。リン供給源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、これに対応するナトリウム含有塩などを個別に用いたり、または混合して用いられるが、これに制限されない。また、培地にはその他の金属塩(例:硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄)、アミノ酸及びビタミンのような必須成長促進物質を含み得る。
【0060】
また、本出願による方法は、培養された培地または微生物からL-トリプトファンを回収する段階をさらに含むことであってもよい。本出願の上記培養段階で生産されたアミノ酸を回収する方法は、培養方法により当該分野において公知となった適合した方法を用いて培養液から目的とするアミノ酸を収集(collect)することであってもよい。例えば、遠心分離、ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化及びHPLCなどが使用されてもよく、当該分野において公知となった適合した方法を用いて培地または微生物から目的とするアミノ酸を回収することができる。
【0061】
また、上記回収段階は、精製工程を含むことができ、当該分野において公知となった適合した方法を用いて行うことができる。したがって、上記回収されるアミノ酸は、精製された形態またはアミノ酸を含有した微生物発酵液であってもよい(Introduction to Biotechnology and Genetic Engineering, A. J. Nair., 2008)。また、上記培養段階の前後、上記回収段階の前後に当該分野において公知となった適合した方法を追加し、目的アミノ酸の回収を効率的に行うことができる。
【0062】
本出願のもう一つの様態は、プレフェナートデヒドラターゼ活性が強化された、L-トリプトファンを生産する微生物を含む、L-トリプトファン生産用組成物を提供する。
上記プレフェナートデヒドラターゼ、活性強化及びL-トリプトファンを生産する微生物については前述した通りである。
【0063】
上記L-トリプトファン生産用組成物は、上記PheAをコードするpheA遺伝子を含み、上記PheAまたはpheA遺伝子を強化させる構成を制限なく含むことができる。具体的には、上記構成は導入された宿主細胞で作動可能に連結された遺伝子を発現させるようにベクター内に含まれた形態であってもよく、これについては前述した通りである。具体的には、上記プレフェナートデヒドラターゼをコードする遺伝子であるpheA遺伝子の発現は、遺伝子のコピー数の増加または強いプロモーターへの交換を通じて強化されるものであってもよい。
【0064】
本出願のもう一つの様態は、L-トリプトファン生産のための、組成物の使用を提供する。
【0065】
以下、本出願を、実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本出願を例示的に説明するためのものであり、本出願の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例1:プラスミドの製作
コリネバクテリウム染色体内の遺伝子の挿入及び交換のためのプラスミド(pDCM2、図1、配列番号3)をデザインし、バイオニクス(株)の遺伝子合成(Gene-synthesis)サービスを用いてプラスミドを合成した。一般に知られているsacBシステム関連の論文[Gene, 145 (1994) 69-73]を参考にしてクローニングに活用するのに容易な制限酵素(restriction enzyme)を含むようにプラスミドを設計した。このように合成されたpDCM2プラスミドは次のような特性を有する。
【0067】
1)大腸菌のみで作用する複製起点(replication origin)を有しており、大腸菌内では自己複製(self-replication)が可能であるが、コリネバクテリウムでは自己複製が不可能な特性を有する。
2)選別マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子を有する。
3)2次陽性選別(positive-selection)マーカーとしてレバンスクラーゼ(Levan sucrose)遺伝子(sacB)を有する。
4)最終製作された菌株にはpDCM2プラスミドに由来した、如何なる遺伝子情報も残らない。
【0068】
実施例2:プレフェナートデヒドラターゼ強化用プラスミドの製作
プレフェナートデヒドラターゼ(prephenate dehydratase、以下「pheA」)の活性を強化させるために、強いプロモーターとして知られた変異型lysCプロモーター(米国登録公報US 8426577 B2)を基盤に一部の配列を変更して配列番号4としてデザインし、バイオニクス(株)の遺伝子合成サービスを用いて合成し、これをPlysCm1プロモーターと命名した。上記PlysCm1プロモーターを利用し、pheA遺伝子を追加挿入したり、pheA遺伝子の野生型プロモーターをPlysCm1で交換することにより、プレフェナートデヒドラターゼ活性を強化するプラスミドを製作した。
【0069】
実施例2-1:遺伝子の挿入のためのプラスミドの製作
上記PlysCm1プロモーターを利用し、pheA遺伝子を追加挿入するために、野生種のコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869染色体DNAを鋳型とし、配列番号5及び配列番号6のプライマー対を用いて染色体上の相同組換え(Homologous recombiantion)が発生するアップストリーム(Upstream)領域を、配列番号7及び配列番号8のプライマー対を用いてダウンストリーム(Downsteam)領域を増幅した後、それぞれの遺伝子断片を得た。ここで使用されたプライマー配列は、下記表1の通りである。
【0070】
【表1】
【0071】
上記断片を得るためにPCRが行われた。重合酵素は、SolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを使用し、PCR増幅は95℃で4分間変性後、95℃で30秒間変性、60℃で30秒間アニーリング、72℃で50秒間の重合を27回繰り返した後、72℃で5分間重合反応する条件で行った。
【0072】
また、既に合成された配列番号4を鋳型として配列番号9と配列番号10を用いてPlysCm1プロモーター断片を得た。追加的に野生種のコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869染色体DNAを鋳型とし、配列番号11と配列番号12を用いてpheA遺伝子断片(配列番号2)を得た。ここで使用されたプライマー配列は下記表2の通りである。
【0073】
【表2】
【0074】
重合酵素はSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを使用し、PCR増幅は95℃で4分間変性後、95℃で30秒間変性、60℃で30秒間アニーリング、72℃で1分間の重合を27回繰り返した後、72℃で5分間重合反応する条件で行った。
【0075】
上記過程で得られた染色上の相同組換えが発生する領域のアップストリーム断片、ダウンストリーム断片、PlysCm1プロモーター断片、pheA遺伝子断片、そしてSmaI制限酵素で切断された染色体の形質転換用ベクターpDCM2をギブソン・アッセンブリー方法(DG Gibson et al., NATURE METHODS, VOL.6 NO.5, MAY 2009, NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix) を用いてクローニングすることにより組換えプラスミドを得、これをpDCM2-Tn::PlysCm1_pheAと命名した。
【0076】
実施例2-2:プロモーターの交換のためのプラスミド製作
pheA遺伝子の野生型プロモーターをPlysCm1で交換することにより、プレフェナートデヒドラターゼ活性を強化するプラスミドを製作しようとした。具体的には、野生種のコリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13869)染色体DNAを鋳型として配列番号13及び配列番号14のプライマー対を用いて染色体上の相同組換え(Homologous recombiantion)が発生するpheA遺伝子の野生型プロモーターアップストリーム(Upstream)領域の遺伝子断片を得た。そして先に製作したpDCM2-Tn::PlysCm1_pheAプラスミドを鋳型としてプライマー配列番号15及び配列番号16を用いてPlysCm1プロモーター及びそのダウンストリームを共に含む遺伝子断片を得た。ここで使用されたプライマー配列は、下記表3の通りである。
【0077】
【表3】
【0078】
上記断片を得るために、重合酵素はSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを使用し、PCR増幅は95℃で4分間変性後、95℃で30秒間変性、60℃で30秒間アニーリング、72℃で50秒間重合を27回繰り返した後、72℃で5分間重合反応する条件で行った。
【0079】
上記過程で得られたpheAプロモーターのアップストリーム断片、PlysCm1を含むプロモーター及びダウンストリーム断片、SmaI制限酵素で切断された染色体形質転換用ベクターpDCM2をギブソン・アッセンブリー方法を用いてクローニングすることにより組換えプラスミドを得、これをpDCM2-Pn::PlysCm1_pheAと命名した。
【0080】
実施例3:プレフェナートデヒドラターゼ発現が強化された菌株の製作及びトリプトファンの生産確認
ハーバスピリラム・リゾスファエラエ(Herbaspirillum rhizosphaerae)由来の膜タンパク質をコードする遺伝子(登録番号NZ_LFLU01000012.1)をトリプトファン生産菌株であるCA04-8352菌株(韓国登録特許第10-1968317号)に導入して製作されたCA04-8405の菌株(KCCM12099P、米国公開公報US 2020-0063219 A1)に上記実施例2-1で製作したpDCM2-Tn::PlysCm1_pheAを電気穿孔法(Appl. Microbiol.Biotechnol. (1999) 52:541-545)を用いて形質転換した後、2次交差過程を経て、PlysCm1_pheA遺伝子が追加で挿入された菌株を得た。当該相同組換えアップストリーム領域及びダウンストリーム領域の外部部位をそれぞれ増幅できる配列番号17及び配列番号18のプライマー対を用いてPCR増幅及びゲノムシーケンスを通じてその遺伝子が挿入されたことを確認した。上記遺伝子が挿入された菌株をCM05-9157と命名した。ここで使用されたプライマー配列は、下記表4の通りである。
【0081】
【表4】
【0082】
上記と同様の方法でCA04-8405菌株に上記実施例2-2で製作したpDCM2-Pn::PlysCm1_pheAを電気穿孔法を用いて形質転換した後、2次交差過程を経て野生型pheAプロモーターがPlysCm1プロモーターで交換された菌株を得た。当該相同組換えアップストリーム領域及びダウンストリーム領域の外部部位をそれぞれ増幅できる配列番号19及び配列番号20のプライマー対を用いてPCR増幅及びゲノムシーケンスを通じてプロモーターが交換されたことを確認した。上記プロモーターが交換された菌株をCM05-9158と命名した。ここで使用されたプライマー配列は下記表5の通りである。
【0083】
【表5】
【0084】
上記過程を通じて製作されたCM05-9157及びCM05-9158菌株のトリプトファン生産を確認するために、CA04-8405菌株を対照群として以下の方法で培養及びトリプトファン生産量を比較した。種培地25mlを含む250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃で20時間、200rpmで振とう培養した。培養後、菌株別にそれぞれ3個ずつ生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコを新たに準備し、これに上記種培養液を1ml接種し、30℃で24時間、200rpmで振とう培養した。振とう培養終了後、HPLCを用いてL-トリプトファンの生産量を測定した。
【0085】
種培地(pH7.0)
ブドウ糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KHPO 4g、KHPO 8g、MgSO 7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1000μg、パントテン酸カルシウム2000μg、ニコチンアミド2000μg(蒸溜水1リットルを基準)
【0086】
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖30g、(NHSO 15g、MgSO 7HO 1.2g、KHPO 1g、酵母抽出物5g、ビオチン900μg、チアミン塩酸塩4500μg、パントテン酸カルシウム4500μg、CaCO 30g(蒸溜水1リットルを基準)。
【0087】
CA04-8405、pheA発現が強化されたCM05-9157及びCM05-9158菌株の培養後、培地中のL-トリプトファン生産に対する結果は、下記表6の通りである。
【0088】
【表6】
【0089】
pheA発現が強化されたCM05-9157及びCM05-9158菌株の培養結果、それぞれ1.93及び1.94g/LのL-トリプトファンを生産した。これは、対照群であるCA04-8405菌株に比べて約0.37g/Lが増加したことであり、発酵収率は約23~24%向上したことである。また、pheA発現の強化によりアントラニレート(anthranilate)生成が減ったことを確認し、これによりトリプトファン生産量が増加したことを確認した。
【0090】
上記CM05-9157菌株は2020年02月20日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に国際寄託し、KCCM12670Pとして寄託番号の付与を受けた。
【0091】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。

【0092】
【化1】
図1
【配列表】
2023518743000001.app
【国際調査報告】