(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-08
(54)【発明の名称】ウイルス感染に使用するための方法、データベース、及びシステム
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20230426BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20230426BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230426BHJP
G01N 33/497 20060101ALI20230426BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20230426BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/70
A61K45/00
G01N33/497 A
C12N7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556089
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(85)【翻訳文提出日】2022-10-14
(86)【国際出願番号】 IL2021050297
(87)【国際公開番号】W WO2021186444
(87)【国際公開日】2021-09-23
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522055337
【氏名又は名称】レスピレーション スキャン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ラピドット,ヤロン
(72)【発明者】
【氏名】バー イラン,イガール モーシェ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA25
2G045BB20
2G045CB01
2G045CB22
2G045DA77
2G045FB06
2G045JA03
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
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4B065CA02
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA02
4C084NA20
4C084ZB33
(57)【要約】
本明細書に開示される発明は、ウイルス複製に関連する化合物のスクリーニング及び検出、並びに様々なウイルス感染の早期検出のためのその使用に関する。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるウイルス感染を決定する方法であって、前記対象の呼気試料を分析することを含み、前記分析が、
a.前記呼気試料から、宿主細胞における所定のウイルスの複製に関連する1つ以上の揮発性有機化合物(VOC)を指定する入力データを取得することと、
b.前記入力データを使用してデータベースを照会して、前記指定された1つ以上のVOCのうちの少なくとも1つに関連するマーカープロファイルを同定することと、
c.前記データベースにおける前記マーカープロファイルの前記同定を条件として、前記マーカープロファイル及び前記所定のウイルスを含む出力データを提供することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記1つ以上のVOCが、前記所定のウイルス及び所定の宿主細胞に特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上のVOCが、所定のウイルス株に特異的である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上のVOCの同定が、感染状態を示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記データベースが、ウイルス感染クラスターを含み、各クラスターが、所定のウイルスのマーカープロファイルを定義する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記データベースが、ウイルス感染クラスターを含み、各クラスターが、所定のウイルス及び所定の宿主細胞のマーカープロファイルを定義する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記マーカープロファイルが、培養培地中の少なくとも1つの所定の宿主細胞に所定のウイルス株を接種することと、前記所定のウイルス株の複製中に前記培養培地の周囲に放出されたVOCの存在又は不在を決定することと、を含むインビトロアッセイによって決定される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記インビトロアッセイが、複数の試験を含み、各試験が、培養培地中の異なる所定の宿主細胞に同じ所定のウイルス株を接種することと、前記複数の試験に共通する前記所定のウイルス株の複製中に培養培地の周囲に放出されたVOCの存在又は不在を決定することと、を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記インビトロアッセイが、前記ウイルス複製中に感染宿主細胞から放出されたVOCを収集することを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
収集されたVOCからバックグラウンドVOCを推定することを含み、前記バックグラウンドVOCが、インビトロアッセイにおいて同じ培養培地の周囲に放出されたVOCであり、前記宿主細胞が、ウイルスを接種せずに前記培養培地で培養される、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記共通のVOCが、前記所定のウイルス株のマーカープロファイルを定義する、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記培養培地の周囲に放出されたVOCの存在を決定することが、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)検出を利用することによる、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記出力データが、前記対象における前記ウイルス感染を引き起こすウイルスの種類の決定を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記出力データが、前記ウイルス感染を引き起こす決定ウイルス染色を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記出力データが、前記ウイルスに感染した宿主細胞の種類の決定を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記出力データが、前記ウイルス感染に対する少なくとも1つの治療プロトコルと、任意選択的に、前記治療の成功の可能性に関する統計データと、を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
対象におけるウイルス感染を監視する方法であって、
a.前記対象の呼気試料から、1つ以上の揮発性有機化合物(VOC)を指定する入力データを取得することであって、前記試料が決定時点で取得される、取得することと、
b.前記入力データを使用して、データベースを照会して、前記指定された1つ以上のVOCのうちの少なくとも1つに関連するマーカープロファイルを同定することと、
c.前記データベース内の前記指定された1つ以上のVOCの同定を条件として、前記所定のウイルスに関連する前記マーカープロファイルを含む出力データを提供することと、
d.前記出力データを、決定時点より前の時点で前記対象について得られたマーカープロファイルに対応する以前のデータと比較することであって、前記マーカープロファイルの変化がウイルス感染状態を示す、比較することと、を含む、方法。
【請求項18】
前記決定時点が、前記ウイルス感染に対する前記対象の治療中である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記前の時点が、前記ウイルス感染に対する前記対象の治療の開始前である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記プロファイルマーカーが、前記ウイルス感染状態を示す、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記出力データが、前記ウイルス感染に対する少なくとも1つの治療プロトコルを含む、請求項17~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ウイルス感染を有すると疑われる対象の治療プロトコルを決定する方法であって、
a.前記対象についてウイルスマーカープロファイルを決定することであって、前記決定が、
i.前記呼気試料から、宿主細胞における所定のウイルスの複製に関連する1つ以上の揮発性有機化合物(VOC)を指定する入力データを取得すること、
ii.前記入力データを使用して、データベースを照会して、前記ウイルスマーカープロファイルを同定することであって、前記マーカープロファイルが、前記データベースにおいて所定のウイルス及び所定の宿主細胞に関連付けられている、同定すること、並びに
iii.前記ウイルスマーカープロファイルの同定を条件として、前記所定のウイルス及び所定の前記宿主細胞に関する出力データを提供することであって、前記出力データが、前記対象における前記ウイルス感染を引き起こすウイルスの種類の決定を含む、提供すること、を含む、ウイルスマーカープロファイルを決定することと、
b.前記同定されたウイルスの治療プロトコルを決定又は選択することと、を含む、方法。
【請求項23】
前記マーカープロファイルが、所定のウイルス株に特異的である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記マーカープロファイルが、所定のウイルス及び所定の宿主細胞に特異的である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記同定されたウイルスが、ウイルス株である、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記マーカープロファイルが、培養培地中の少なくとも1つの所定の宿主細胞に所定のウイルス株を接種することと、前記所定のウイルス株の複製中に前記培養培地の周囲に放出されたVOCの存在又は不在を決定することと、を含むインビトロアッセイによって決定される、請求項17~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記インビトロアッセイが、複数の試験を含み、各試験が、培養培地中の異なる所定の宿主細胞に同じ所定のウイルス株を接種することと、前記複数の試験に共通する前記所定のウイルス株の複製中に培養培地の周囲に放出されたVOCの存在又は不在を決定することと、を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記インビトロアッセイが、前記ウイルス複製中に感染宿主細胞から放出されたVOCを収集することを含む、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
収集されたVOCからバックグラウンドVOCを推定することを含み、前記バックグラウンドVOCが、インビトロアッセイにおいて同じ培養培地の周囲に放出されたVOCであり、前記宿主細胞が、ウイルスを接種せずに前記培養培地で培養される、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記共通のVOCが、前記所定のウイルス株のマーカープロファイルを定義する、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記培養培地の周囲に放出されたVOCの存在を決定することが、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)検出を利用することによる、請求項17~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ウイルス感染を有する対象の治療方法であって、前記対象に抗ウイルス治療を提供することを含み、前記抗ウイルス治療が、請求項22~32のいずれか一項に記載の方法によって決定される、方法。
【請求項33】
所定のウイルスのバンクに関連付けられたマーカープロファイルのバンクを含む構造化された記録のコレクションを含むデータベースであって、前記ウイルスマーカープロファイルが、所定のウイルスによるウイルス複製中に少なくとも1つの所定の宿主細胞から放出される指定されたVOCを含む、データベース。
【請求項34】
前記ウイルスマーカープロファイルが、所定のウイルス株のウイルス複製中に2つ以上の異なる所定の宿主細胞から一般的に放出される指定されたVOCを含む、請求項33に記載のデータベース。
【請求項35】
前記ウイルス感染を引き起こす前記所定のウイルスに感染した少なくとも1つの宿主細胞のデブリからの1つ以上のVOCの同定を含むインビトロアッセイにおいて、前記マーカープロファイルが、所定のウイルスと事前に関連付けられている、請求項33に記載のデータベース。
【請求項36】
前記デブリが、ウイルス複製中に又はウイルス複製の結果として形成される、請求項35に記載のデータベース。
【請求項37】
前記マーカープロファイルの各々が、所定のウイルス株及び所定の宿主細胞の間を関連付ける指定されたVOCを含む、請求項33~36のいずれか一項に記載のデータベース。
【請求項38】
前記マーカープロファイルの各々が、ウイルス株及び2つ以上の所定の宿主細胞に共通する指定されたVOCを含む、請求項33~36のいずれか一項に記載のデータベース。
【請求項39】
治療プロトコルのバンクを更に含み、各治療プロトコルが、マーカープロファイル及び所定のウイルス株を含むクラスターに関連付けられている、請求項33~38のいずれか一項に記載のデータベース。
【請求項40】
治療プロトコルのバンクを更に含み、各治療プロトコルが、マーカープロファイル、所定のウイルス株、及び所定の宿主細胞を含むクラスターに関連付けられている、請求項33~38のいずれか一項に記載のデータベース。
【請求項41】
システムであって、
a.1つ以上のVOCを指定する入力データを受信するための入力インターフェイスと、
b.それぞれのマーカープロファイルを返すための前記1つ以上のVOCを指定するクエリに応答するデータベースを含む管理モジュールと、
c.出力データとして、マーカープロファイルに関連付けられている所定のウイルスのうちのいずれか1つ又はその組み合わせを提供するように適合された出力提供モジュールと、を含み、
前記データベースが、所定のウイルスのバンクに関連付けられたマーカープロファイルのバンクを含む構造化された記録のコレクションを含み、前記マーカープロファイルの各々が、前記所定のウイルスによるウイルス複製中に少なくとも1つの所定の宿主細胞から放出される指定されたVOCを含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウイルス感染に関係する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在開示されている主題の背景として関連すると考えられる参考文献を以下に挙げる。
・国際特許出願公開第2021/028928号
【0003】
本明細書における上記の参考文献の認識は、これらが本開示の主題の特許性に何らかの形で関連していることを意味するものとして推論されるべきではない。
【0004】
背景技術
WO2021/028928は、対象からの呼気試料中の少なくとも1つの疾患関連マーカーの同定に基づく、様々な疾患状態のスクリーニング及び早期検出を記載している。具体的には、方法が開示されており、呼気試料中の揮発性物質を可逆的に会合させることができる吸着領域を含むサンプリングユニットを呼気試料に曝露することと、サンプリングユニットを分析して吸着領域上に吸着された揮発性物質を同定することと、少なくとも1つの疾患関連マーカーの存在を決定することと、を含み、より早い時点で測定された当該マーカーの量と比較した当該マーカーの量の増加又は減少が、疾患状態の存在を示す。同様に、以前に検出されたマーカーの出現又は消失も、病状の指標となる可能性がある。
【0005】
概要
本開示は、ウイルス感染細胞におけるウイルスの複製中にその細胞から放出される揮発性有機化合物(VOC)及び半揮発性有機化合物(sVOC)(本明細書ではまとめて「VOC」と称する)の同定に依存する独自の方法論の開発と、ウイルス感染を検出するためのこの独自の方法論の結果の使用と、に基づいており、ウイルスの種類を同定して、それによって、早期介入及び治療を可能にすることを含む。VOCが、特定のウイルス感染に関連して同定されたら、それらは特定のウイルス/ウイルス感染の特徴的な(signatory)ウイルスマーカープロファイルに由来する可能性があり、この特徴的なウイルスマーカープロファイルは、ウイルスに感染していると疑われる個体又はウイルスに感染していると特定された個体の呼気試料から同定することができる。
【0006】
本開示はまた、異なるウイルスが、異なるVOC(例えば、揮発性代謝産物)又はかかるVOCのコレクションによって特徴付けられるという実験的な実証にも基づいている。したがって、VOCのかかるコレクションは、本開示の文脈において、ウイルス感染の同定、監視、及び/又は治療に関与する様々な方法において使用される。
【0007】
次いで、異なるウイルスの特徴的なマーカープロファイルの同定は、かかる特徴的なマーカープロファイルのデータベースを確立するために使用することができ、これは、様々な診断方法及び医療方法で利用することができる。
【0008】
したがって、その第1の態様によれば、本開示は、対象におけるウイルス感染を決定する方法を提供し、本方法は、当該対象の呼気試料を分析することを含み、当該分析は、
a.当該呼気試料から、所定の宿主細胞における所定のウイルスの複製に関連する1つ以上の揮発性有機化合物(VOC)を指定する入力データを取得することと、
b.当該入力データを使用してデータベースに照会して、当該指定された1つ以上のVOCのうちの少なくとも1つに関連するマーカープロファイルを同定することと、
c.当該データベースにおける当該マーカープロファイルの同定を条件として、当該マーカープロファイル及び所定のウイルスを含む出力データを提供することと、を含む。
【0009】
第2の態様によれば、本開示は、対象におけるウイルス感染を監視するための方法を提供し、本方法は、
a.当該対象の呼気試料から、1つ以上の揮発性有機化合物(VOC)を指定する入力データを取得することであって、当該試料が決定時点で取得される、取得することと、
b.当該入力データを使用して、データベースを照会して、当該指定された1つ以上のVOCのうちの少なくとも1つに関連するマーカープロファイルを同定することと、
c.当該データベースにおける当該指定されたマーカープロファイルの同定を条件として、所定のウイルスに関連する当該マーカープロファイルを含む出力データを提供することと、
d.当該出力データを、決定時点より前の時点で当該対象について得られたマーカープロファイルに対応する以前のデータと比較することであって、当該マーカープロファイルの変化がウイルス感染状態を示す、比較することと、を含む。
【0010】
その第3の態様によれば、本開示は、ウイルス感染を有すると疑われる対象の治療プロトコルを決定する方法を提供し、本方法は、
a.当該対象についてウイルスマーカープロファイルを決定することであって、当該決定が、
i.当該呼気試料から、宿主細胞における所定のウイルスの複製に関連する1つ以上の揮発性有機化合物(VOC)を指定する入力データを取得すること、
ii.当該入力データを使用して、データベースを照会して、当該ウイルスマーカープロファイルを同定することであって、マーカープロファイルが、当該データベースにおいて所定のウイルス及び所定の宿主細胞に関連付けられている、同定すること、並びに
iii.当該ウイルスマーカープロファイルの同定を条件として、所定のウイルス及び所定の宿主細胞に関する出力データを提供することであって、当該出力データが、当該対象における当該ウイルス感染を引き起こすウイルスの種類の決定を含む、提供すること、を含む、ウイルスマーカープロファイルを決定することと、
b.同定されたウイルスの治療プロトコルを決定又は選択することと、を含む。
【0011】
更に、第4の態様によれば、本開示は、ウイルス感染を有する対象の治療方法を提供し、本方法は、当該対象に抗ウイルス治療を提供することを含み、当該抗ウイルス治療が、本明細書に開示されるウイルス感染を決定する方法によって決定される。
【0012】
更に、本開示は、その第5の態様によれば、開示された方法のいずれかにおいて使用するためのデータベースを提供し、データベースが、所定のウイルスのバンクに関連付けられたマーカープロファイルのバンクを含む記録の構造化されたコレクションを含み、当該ウイルスマーカープロファイルが、所定のウイルスによるウイルス複製中に、少なくとも1つの所定の宿主細胞から放出される指定されたVOCを含む。
【0013】
最後に、本開示は、システムを提供し、
a.1つ以上のVOCを指定する入力データを受信するための入力インターフェイスと、
b.それぞれのマーカープロファイルを返すための1つ以上のVOCを指定するクエリに応答するデータベースを含む管理モジュールと、
c.所定のウイルス及び所定の宿主細胞のうちのいずれか1つ又はその組み合わせを出力データとして提供するように適合された出力提供モジュールであって、各々がマーカープロファイルに関連付けられている、出力提供モジュールと、を含み、
当該データベースが、所定のウイルスのバンク、及び任意選択的に、所定の宿主細胞のバンクに関連付けられたマーカープロファイルのバンクを含む記録の構造化されたコレクションを含み、当該マーカープロファイルの各々が、所定のウイルスによるウイルス複製中に、少なくとも1つの所定の宿主細胞から放出される指定されたVOCを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本明細書に開示されている主題をより良く理解し、実際にそれがどのように実行され得るかを例証するために、添付の図面を参照して、非限定的な例としてのみ、実施形態をここで説明する。
【0015】
【
図1A-1B】ウイルス複製中に培養培地から放出される揮発性有機化合物を同定するための2つの可能なインビトロシステムの画像を提供する。
【
図2A-2B】229Eコロナウイルスに感染したA549細胞から放出されたトリデカン(
図2A)及び1,4ジクロロベンゼン(
図2B)の(相関した)量を、接種からの時間の関数として示す棒グラフである。
【
図3A-3C】OC43コロナウイルスに感染したHCT8、MRC5、及びA549細胞からそれぞれ放出された2,2,4,6,6-ペンタメチル-ヘプタン(
図3A)、2-エチル-オキセタン(
図3B)、及びロギホレン(Logifolene)((1R,2S,7S,9S)-3,3,7-トリメチル-8-メチレントリシクロ-[5.4.0.0
2,9]ウンデカン)(
図3C)の(相関した)量を、接種からの時間の関数として示す棒グラフである。
【
図4A-4B】H1N1インフルエンザAウイルスに感染したA549細胞から放出された2-フルオロ安息香酸のヘプタデシルエステル(
図4A)及び2,3-ジメチルヒドロキノンのビス-トリメチルシリルエーテル(
図4B)の(相関した)量を、接種からの時間の関数として示す棒グラフである。
【
図5A-5K】SARS CoV2(野生型)を接種したVero細胞の接種時(t=0)(
図5A、5B)、24時間後(
図5C、5D、5E)又は48時間後(
図5F、5G)、及び72時間後(
図5H、5I、5J、5K)の顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
呼気中に存在する化合物は、哺乳動物の健康状態を示し、病気の早期診断又は改善された管理を提供する可能性がある。ウイルス感染の管理を目的とする場合、状況は、他の病原体誘発性感染(すなわち、例えば細菌)とは幾分異なる可能性があり、呼気中に存在する化合物が、それ自体ウイルス起源及び/又はウイルスが複製する宿主細胞のものであることが本発明者らによって発見されている。
【0017】
一般に、ウイルスは、その複製のために標的宿主細胞を必要とする非生物性寄生体である。そのゲノムの豊富なコピーの生成及びこれらのコピーのパッケージングを通して、ウイルスは新しい宿主細胞に感染し続ける。宿主細胞におけるウイルス複製の結果、常に宿主細胞が破壊され、その結果、標的宿主細胞の細胞質要素が周囲に放出される。宿主細胞のデブリの中には、ウイルスの複製中に産生された細胞質の細胞代謝産物及びウイルスに由来する代謝産物が残っている。ウイルス複製のプロセスは正確に再現可能なプロセスであるため、特定のウイルスに感染した特定の宿主細胞の細胞デブリは、再現性があり、また、本質的に正確であると予想される。
【0018】
したがって、細胞デブリの揮発性代謝産物の同定により、細胞に侵入したウイルスの種類が示され、同定され得ると考えられてきた。第一に、各ウイルスは、複製時に独自の特徴的な代謝産物を有する。第二に、特定のウイルスに感染した特定の宿主細胞の特定の細胞デブリも、特定のウイルス感染に対するフィンガープリント/バイオマーカーとして使用され得る。
【0019】
更に、今では、ウイルス複製細胞由来の細胞デブリには、ウイルス自体及び所定の宿主細胞内のウイルスに固有の揮発性有機化合物(VOC)及び半揮発性有機化合物(sVOC)が含まれていることがわかっている。したがって、かかる宿主/ウイルス特異的VOC及び/又はsVOCのコレクションは、任意選択的に、それが感染した特定の宿主細胞との関連性を伴う、特定のウイルス感染に対する化合物のプロファイル又はウイルスの特徴的なマーカープロファイルを定義する。
【0020】
したがって、ウイルス複製細胞のデブリから放出されたVOC及び/又はsVOCの同定(細胞の溶解の結果として)は、任意のエクスビボアッセイを使用して(例えば、インビトロ培養を使用して)、以下で更に定義されるウイルス/宿主特異的マーカープロファイルの独自のデータベースを構築するために使用することができ、このデータベースを様々な病期におけるウイルス感染の管理に使用することができる。
【0021】
具体的には、上記の実現は、気道におけるウイルス感染(例えば、気道の被覆層(lining)に標的細胞を宿すウイルスによって引き起こされる感染)の検出及び/又は管理に有益であり得る。例えば、コロナウイルスは、鼻腔と咽頭の上皮被覆層の宿主細胞に結合して侵入し、複製を進める。複製が完了すると、上皮細胞デブリの少なくとも一部のVOC及び/又はsVOCが息とともに吐き出される。
【0022】
上記の実現は、実験データによっても裏付けられており、少なくとも一般的なコロナウイルス、野生型(致死)コロナウイルス、及びインフルエンザA N1H1ウイルスについて、これらのウイルスが特定の宿主細胞の範囲内で接種された場合、高い確率で固有のウイルスマーカープロファイルを同定することが可能であったことを示している。
【0023】
したがって、本開示は、データベース(これはまた本開示の一部を形成する)を利用する方法及びシステムを提供し、ウイルス感染細胞のデブリの周囲に放出される、かつウイルス複製とそれによる感染に直接関連する1つ以上のVOC及びsVOCのインビトロ同定に基づいて構築される。
【0024】
簡単にするために、VOCに言及する場合、これは、VOC又はsVOCを包含すると理解されるべきである。1つ又は複数のVOCという用語は、同じ意味で使用される。
【0025】
VOCに関して、ウイルス感染細胞のデブリの周囲にある化合物は、デブリを保持する媒体を取り巻く気体環境(例えば、媒体の上又は近くの空間)及び/又は痰中(すなわち、デブリを保持する液体媒体)に放出される化合物であることが理解されるべきである。
【0026】
ウイルスに特異的であり、したがって、ウイルスの特徴的なマーカープロファイルを形成する固有のVOCのデータベースを確立するには、ウイルス複製及びウイルス複製細胞のデブリから(細胞の溶解の結果として)生じる放出化合物と、バックグラウンド揮発性化合物(すなわち、ウイルスの存在に関係なく(例えば、ウイルスの複製前に)細胞から生じる化合物)、及び/又は増殖培地から放出された化合物、及び/又は更に細胞・培地・ウイルスを収容する装置を形成する材料から放出された化合物とを区別する必要がある。このようなバックグラウンド化合物は、「ノイズ」とみなされ、以下で更に論じられるように、全て差し引かれる。
【0027】
場合によっては、バックグラウンドVOCは、複数のウイルスに共通するVOCである。言い換えると、所定のウイルスに対する特異性を高めるために、2つ以上のウイルスに共通の/共有されるVOCが特定された場合、これらの共通の/共有されるVOCはウイルスの同定において考慮されない。
【0028】
ウイルス及びそれが複製した特定の宿主細胞又はウイルスに対する特定の宿主細胞に特異的な固有のVOCの同定に基づいて、データベースが構築され、このデータベースが様々な決定方法に使用され得る。データベースは、所定のウイルス、及び任意選択的に、所定の宿主細胞に関連付けられた指定されたVOCの新しい「クラスター」で継続的に更新され得る。例えば、単離されたことがあるウイルス(既知のウイルスであってもなくても)(その変異のいずれか)、又は新しく同定されたウイルス(例えば、既存のウイルスの変異)が単離されると、その特徴的なVOCは、単純なインビトロ法(例えば、以下に記載される方法)によって決定され得、次いで、指定されたVOCが、データベースに追加されて、個体におけるウイルスの存在を手早く迅速に同定するために使用され得る。
【0029】
データベースには、所定のウイルス及び所定の宿主細胞に関連するVOCのクラスターが含まれているため、データベースは、個体の呼気試料からウイルス感染又はウイルス感染の状態を同定するために最良に使用され得る。したがって、その最も広い態様によれば、本開示は、対象の呼気試料を分析することを含む方法を提供する。かかる方法は、最初のステップとして、対象の1つ以上の呼気試料から1つ以上のVOCを指定する入力データを取得することと、入力データを使用して、データベースを照会して、特徴的なウイルスマーカープロファイルを同定することであって、マーカープロファイルが、データバンクにおいて所定のウイルス及び任意選択的に所定の宿主細胞に関連付けられている、同定することと、データベースにおけるマーカープロファイルの同定を条件として、所定のウイルス及び任意選択的に所定の宿主細胞に関する出力データ(その両方が当該マーカープロファイルに先験的に関連付けられている)を提供することと、を含む。データは、とりわけ、対象におけるウイルス感染の種類、及びウイルスに感染している宿主細胞又は組織又は臓器の種類の決定を含むことができる。
【0030】
本開示の文脈において、「ウイルス感染」に言及する場合、複製ウイルスによる宿主細胞の保有を含む任意の状態を包含すると理解されるべきである。本開示の目的のために、ウイルス感染は必然的に宿主細胞内でのウイルスの複製も含む。
【0031】
ウイルス感染は、コロナウイルス科などのファミリー内の異なるウイルスによる感染、コロナウイルスのグループなどのグループ内の異なるウイルスへの感染、並びに特定のウイルス株による感染に該当し得る。1つの特定の例では、ウイルス感染に言及する場合、それは株特異的であると理解されるべきである。
【0032】
本開示の文脈において、「ウイルス感染の決定」に言及する場合、とりわけ、感染の開始、感染のレベル、感染の進行/退行の程度などのうちのいずれか1つを含む、ウイルス感染の状態に関する任意の決定を包含すると理解されるべきである。
【0033】
一部の例では、ウイルス感染は、気道の一部/器官/セグメントに沿った感染を含むか、又はそれである。
【0034】
一部の例では、ウイルス感染は、上気道に沿った感染を含むか、又はそれである。
【0035】
一部の例では、ウイルス感染は、鼻腔及び/又は咽頭を覆う上皮細胞の感染を含む。
【0036】
本開示の範囲内に入るウイルス感染の非限定的なリストには、コロナウイルス、アデノウイルス、オルトミクソウイルス、ピコルナウイルス、及びライノウイルスのウイルス科のうちのいずれか1つに由来するウイルスによって引き起こされるものが含まれる。これらは、上気道に疾患を引き起こすことが知られている。
【0037】
一部の例では、アルボウイルス、アレナウイルス、パラミキソウイルス、ポックスウイルス、及びレトロウイルスのウイルス科が含まれる。これらは気道を介して伝染し、主に異なる臨床症候群として現れるが、上気道の徴候がある場合もある。
【0038】
一部の例では、ウイルスは、SARS-CoV-2などの人獣共通感染症を介してヒトに感染するウイルスから選択される。これらのウイルスは、ヒトの上気道ではまだ顕在化していない可能性がある。しかしながら、それらの出現は統計的に確実であり、その出現及び効果は本開示の範囲内である。
【0039】
一部の例では、ウイルスはエンベロープウイルスである。エンベロープウイルスの例には、インフルエンザウイルス及びコロナウイルスが含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
コロナウイルスについて言及する場合、SARS-CoV-2、SARS-CoV-19(Covid-19疾患)、MERS-CoV(MERS疾患)、SARS-CoV(SARS疾患)、並びにコロナ229E、ML63、OC43、及びHKU1として知られている一般的なヒトコロナウイルス株のうちのいずれかが含まれ得る。
【0041】
一部の実施形態では、ウイルスは、ノロウイルス又はパルボウイルスなどの非エンベロープウイルスである。
【0042】
本明細書に開示された方法は、対象の呼吸のアプリオリ分析を利用した。
【0043】
「呼気試料」は、対象の呼気から能動的又は受動的に得られた試料である。
【0044】
受動的サンプリングは、特定の物理的介入を適用することなく、揮発性物質及び/又は半揮発性物質を捕捉することを伴う。能動的サンプリングの例は、ベンチュリ効果のために設計された開口部を備えたサンプリングユニットである。
【0045】
能動的サンプリングは、例えば、ポンプ(機械式、電気式、ヘリウム、若しくはその他)又は吸引ユニットなどの実装を通して揮発性物質及び/又は半揮発性物質を捕捉することを伴う。
【0046】
通常、試料は、サンプリングユニットに直接収集され、揮発性物質及び/又は半揮発性物質が、1つ以上の吸着領域への吸着によって相互作用することができる。対象の完全な協力が提供される場合、対象はサンプリングユニットに息を吐き出し、その後試料は処理される。対象の協力が不可能な場合、試料は対象の口腔又は肺から収集され得る。本明細書に開示されるように、人工呼吸器上の対象からの試料は、サンプリングユニットを呼吸ユニットの出口ラインに結合させることによって得ることができる。
【0047】
一部の例では、本方法は、当該技術分野で既知の任意の非侵襲的手段を用いることによって、対象から呼気試料を取得することを含む。呼気試料を収集するための非限定的な方法は、American Thoracic Society/European Respiratory Society(ATS/ERS)によって承認された装置の使用を伴う場合があり、例えば、Silkoffら、Am.J.Respir.Crit.Care Med,2005,171,912を参照されたい。
【0048】
一部の例では、試料は、WO2021/028928(その内容全体が参照により本明細書に援用される)に記載されている脱着ツールなどの測定デバイス又は装置への息の直接呼気によって取得され得る。
【0049】
簡潔に、呼気は、吸着/サンプリングユニットによって収集される。
【0050】
「サンプリングユニット」は、収集するための任意の手段であり得る。一部の例では、サンプリングユニットは、専用の吸着領域を介して呼気試料、又は揮発性物質を含む呼気とともに吐き出された液体溶液を受容及び保持するように構成された任意の形状若しくはサイズのコンテナ又は容器又はキャニスターであり、各々が、呼気化合物に可逆的に結合することができる。この目的のために、吸着領域は、揮発性及び/又は半揮発性化合物を物理的に捕捉するように構成された材料かならなる。吸着領域材料は、表面細孔の存在、表面粗さ、増大した表面積などによって特徴付けることができる。構造上の特徴にもかかわらず、吸着表面又は材料は、本明細書に開示されているように、選択的吸着又は非選択的吸着用に調整することができる。
【0051】
一部の例では、吸着領域は、ポリ(2,6-ジフェニル-p-フェニレンオキシド(PPPO)、スルホン化ポリマー、イオン交換樹脂、カーボンモレキュラーシーブ(ポリ(塩化ビニリデン)又はスルホン化ポリマーなどの制御された熱分解によって調製される)などの有機多孔性ポリマーから選択される材料から形成される。吸着領域における使用のための考えられる材料の非限定的なリストは、WO2021/028928に提供されている(その内容は、その全体が参照により本明細書に援用される)。
【0052】
一部の例では、吸着領域は、あらゆる種類の金属ナノ粒子、金属表面、金属マトリックスなどの金属ベースの材料を含むが、これらに限定されない。
【0053】
一部の例では、吸着領域は、5~1,500m2/gの表面積、0.2~0.7の密度、及び/又は4~300Åの微細孔直径を有する吸着剤で設計される。
【0054】
対象の呼気へのサンプリングユニットの曝露は、ユニットを呼気の経路に配置することによって達成可能であり得る。これは、対象がユニットに直接息を吹きかけることによって(例えば、マウスピースを介して)、又は対象に接続される換気ユニットにユニットを結合させることによって、又は対象の肺から試料を取り出すことによって達成することができる。手段にかかわらず、曝露は、単一の曝露、複数の曝露、ある期間にわたる連続的な曝露、又は時限曝露であり得、例えば、ユニットは、所定の期間、ある時点において曝露される。
【0055】
例えば、2つの異なる時点からの各曝露セッションの持続時間は、同じであっても異なっていてもよく、数分から数時間又はそれ以上の間で変化し得る。
【0056】
吸着領域を呼気試料に曝露した後、様々な揮発性物質が領域の表面に吸着され、同定するまで捕捉/結合される。必要に応じて(例えば、同定の目的で)、吸着された揮発性物質は、様々な手段によって(熱的、不活性ガス流下、真空下などを含むが、これらに限定されない)、脱着又は解離され得る。
【0057】
脱着された揮発物質の同定は、脱着された化合物の化学的又は分光学的同定を可能にする任意の分析機器によって達成することができる。これには、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC連結質量分析(GC-MS)、陽子移動反応質量分析(PTR-MS)、電子鼻デバイス、水晶振動子マイクロバランス(QCM)、赤外分光法(IR)、紫外分光法(UV)などが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0058】
同定ステップ/手段は、単一の揮発性化合物、2つの化合物、又は複数のかかる揮発性化合物を同定するように設計することができる。同定は、化学的同定(例えば、化学式)及び/又はピークプロファイルの同定であり得る。
【0059】
一部の例では、分析機器は、MSを含む。かかる典型的なケースでは、得られるMSクロマトグラムは、全ての分離された化合物を、それらの保持時間によって配置されたクロマトグラフのピークとして含む。各ピークは、いくつかの点を結ぶ連続した線からなり、各点は物質分子が断片化されて生成したフラグメントイオンの存在量の合計である。ピーク面積は、式1から導き出されるように、ピークの開始点から終了点までの時間(d
abundance/dt)に従ってイオンの存在量の積分導関数を実行することによって計算される。
【数1】
ここで、式1では、PS-Tはピーク開始時間、PE-Tはピーク終了時間、daはイオンの存在量の導関数、dtは保持時間の導関数である。
【0060】
同定された揮発性物質(すなわち、VOC)は、疾患マーカープロファイルの同定に使用される入力データとして使用される。したがって、本開示の文脈において、呼気試料から得られた「入力データ」に言及する場合、特定の評価セッション(1つ以上の呼気試料の分析を含むセッション)で特定の対象の1つ以上の呼気試料から同定された1つ以上のVOCを定義するデータを包含することが理解されるべきである。
【0061】
次いで、入力データを使用してデータベースを照会して、ウイルス感染を引き起こす特定のウイルスの特徴的なウイルスマーカープロファイルを同定する。
【0062】
本開示の文脈において、「特徴的なウイルスマーカープロファイル」又は簡潔に「マーカープロファイル」に言及する場合、宿主細胞内での複製を伴うウイルス感染を引き起こすウイルスのフィンガープリントを表すものとして、先験的に一緒にクラスター化された1つ以上のVOCを包含すると理解されるべきである。
【0063】
各ウイルス感染について、マーカープロファイルは、培養培地中の宿主細胞にウイルスを接種し、複製段階でVOCが定性的及び定量的の両方で同定されるインビトロアッセイによって先験的に決定することができる。次いで、VOCの同定を、ウイルスを接種せずに同じ宿主細胞及び/又は培地(すなわち、非感染細胞)から放出されたバックグラウンドVOCの同定を含む対照(「対照群」)と比較する。ウイルス感染培養で放出されたVOCと対照群からのVOCに共通するVOCは、同定されたVOCのリストから差し引かれ、次いで、残りのVOCがウイルス特異的であるとみなされ、具体的に調べられたウイルスのウイルスの特徴的なマーカープロファイルを構成する。
【0064】
したがって、一部の例によれば、インビトロアッセイは、培養培地中の少なくとも1つの所定の宿主細胞に所定のウイルスを接種することと、当該所定のウイルス株の複製中に当該培養培地の周囲に放出されたVOCの存在又は不在を決定することと、を含む。
【0065】
一部の更なる例では、インビトロアッセイは複数の試験を含み、各試験は、培養培地中の異なる所定の宿主細胞に同じ所定のウイルス株を接種することと、当該複数の試験に共通する当該所定のウイルス株の複製中に培養培地の周囲に放出されたVOCの存在又は不在を決定することと、を含む。
【0066】
一部の例では、インビトロ法は、当該ウイルス複製中に感染宿主細胞から放出されたVOCを収集することを含む。次いで、一般的なVOCを使用して、ウイルス株のマーカープロファイルを定義する。
【0067】
一部の更なる例では、インビトロ方法は、収集されたVOCからバックグラウンドVOCを推定することを含み、当該バックグラウンドVOCが、インビトロアッセイにおいて同じ培養培地の周囲に放出されたVOCであり、当該宿主細胞が、ウイルスを接種せずに当該培養培地で培養される。
【0068】
ウイルスの特徴的なマーカープロファイルには、対照群からの同定されないVOCが含まれるであろう。
【0069】
アッセイは、選択された宿主細胞の増殖に好適な任意の培養培地を使用して行うことができる。しかし、これらに限定されないが、培地は、血液寒天培地、マッコンキー寒天培地、チョコレート寒天培地、ミュラー・ヒントン寒天培地、ミュラー・ヒントン血液寒天培地、マンニット食塩寒天培地、連鎖球菌選択寒天培地、サブロー寒天培地、及びニューヨーク市寒天培地から選択される任意のものであり得る。
【0070】
一部の例では、アッセイは、好適な担体(培養培地又は対象の身体から取り出された組織若しくは洗浄材の一部としての適切な担体溶液である)中の指定されたウイルス(ウイルス播種溶液)を、一定量(「ヘッドスペース」と称されることもある)配置される増殖培地(液体寒天培地、寒天皿)上に提供することと、ウイルスが数時間から数日間(例えば、少なくとも3時間、時には少なくとも4時間、時には少なくとも7時間、時には少なくとも12時間、時には少なくとも18時間、時には少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、更には最大7日間)増殖/複製できるようにすることと、を含む。
【0071】
VOCを同定するために、ヘッドスペースは、典型的には、WO2021/028928に記載されているもののような熱脱着管(TDT)を、増殖培地上の特定の所定の位置に装備する。複製しているウイルスの培地から出たVOCは、TDTによって捕捉及び吸着される。
【0072】
ウイルス複製の開始から所定の頻度で、TDTは、上に列挙された光学、電気、又は光電子デバイスを含む分析ユニットで、それらの内容物について分析される。
【0073】
対照群では、培養培地自体(宿主細胞を含むが、ウイルスは含まない)がサンプリングされ、ウイルスを含む培地を測定するのと同じ条件/パラメーターの下で、それぞれの「対照」ヘッドスペースのVOCが分析される。
【0074】
患者の呼気中の少なくとも1つのウイルスの存在を解明するために上記のデータを使用するには、更なる対照研究が必要である。これらは、患者自身のバックグラウンド、呼気をサンプリングする前の患者の体内のウイルスの存在を特定している。これは、患者の体から洗浄液を採取することによって行うことができる。
【0075】
以下に記載される種類のヘッドスペースを使用する場合、病院の緊急治療室(ER)及び集中治療室(ICU)などに存在し得るものなどの空気感染ウイルスの複製の結果である化合物を分析から除外するための措置を講じる必要がある。
【0076】
一部のより具体的な例では、特定のウイルス、特定の宿主細胞、及びマーカープロファイルの間の関連付けは、当技術分野で知られている細胞培養プロトコルに従って確立することができる。
【0077】
特定のウイルス及び特定の宿主細胞の複数のクラスターに対して上記の例示的なプロトコルを実行して、特異的に関連するマーカープロファイルを取得することは、本明細書に開示されるデータベースの基礎を提供する。かかるデータベースは、以下に更に記載されるように、ウイルス/宿主/メーカープロファイルの新しいクラスターで定期的に更新され得る。
【0078】
興味深いことに、宿主細胞の種類に関係なく、特定のウイルス(例えば、株)について、所定のウイルスに関連する特定のマーカープロファイルが存在することが見出された。したがって、本明細書でも例示されるように、ウイルスに固有であり、それに感染した異なる宿主細胞から同定されるであろうVOCを同定することが可能である。
【0079】
更に、特定のウイルスについて、複数のウイルスマーカープロファイルを有することが可能であることに留意されたい。すなわち、第1のマーカープロファイルが、ウイルス自体を同定し(宿主細胞の種類に関係なく)、第2のマーカープロファイルが、特定の宿主細胞に関連したウイルスを同定する(すなわち、特定の細胞に関連して同定され、同じウイルスに感染した別の宿主細胞に関連して同定された別のVOCのセットと異なるか、又は部分的に重複するVOCのセット)。
【0080】
したがって、一例では、ウイルスマーカープロファイルは、1つ以上のVOC及びウイルスの間を関連付ける。
【0081】
一部の例では、ウイルスマーカープロファイルは、1つ以上のVOC及び同じ科に由来するウイルス群の間を関連付ける。
【0082】
一部の他の例では、マーカープロファイルは、1つ以上のVOC及び特定の所定のウイルス株の間を関連付ける。
【0083】
他の一例では、ウイルスマーカープロファイルは、1つ以上のVOC、及びウイルス(好ましくはウイルス株)、及びそれに感染した一群の宿主細胞の間を関連付ける。
【0084】
一部の更なる例では、ウイルスマーカープロファイルは、1つ以上のVOC、ウイルス株、及びウイルス株に感染した特定の宿主細胞の間を関連付ける。
【0085】
本開示の1つの特定の例は、特定のウイルスに感染した一群の宿主細胞、並びに特定の宿主細胞について、VOCの固有で識別可能なコレクションが存在する(あるものは一群の宿主細胞に共通であり、あるものは特定の宿主細胞に固有である)という、本発明者らによる発見に基づいている。
【0086】
一部の例では、VOCは、各々、ウイルス(特に、ウイルスによる感染状態)に関連する固有の濃度(ピーク)によっても特徴付けられる。VOCは、複製が進行するにつれて出現して、その後(すなわち、全ての細胞が感染及び溶解したときに)、消失し得ることを理解されたい。VOCには、感染の進行とともにピーク面積(相関量)が増加し、その後、相関量が安定化又は減少するものもある。出現して消失するVOCもある。したがって、検出されるVOCが出現し、関与している化合物の種類及び性質、並びに感染の状態/レベルに応じて検出される。
【0087】
更に、異なる宿主細胞に感染する特定のウイルスが、各々、VOCの明らかに異なるプロファイルを提供することを、発明者らは発見した。言い換えれば、異なる宿主細胞は、同じ特定のウイルスに感染したとしても、異なるマーカープロファイルを提示する。
【0088】
したがって、特定のウイルスは、それに感染した一群の宿主細胞に固有のマーカープロファイルを有し得る(本明細書では、これを群レベルの同定と称することができる)が、宿主特異的なレベルの同定も存在し、マーカープロファイルが、所定のウイルス株及びそれに感染している宿主細胞に固有のVOCから先験的に構築される。
【0089】
したがって、指定された(1つ以上の呼気又は液体試料から同定された)VOCでデータベースを照会することによって、感染するウイルスの種類だけでなく、それに感染した宿主細胞の種類も、本質的に明確に同定することが可能である。
【0090】
データベースの照会は、ウイルス、及び任意選択的に(ただし、好ましくは)、データベース内でウイルス(すなわち、ウイルス感染の種類)に関連付けられた宿主細胞を指定する出力データを提供する。データベース内でウイルスに関連付けられたVOCのコレクションは、ウイルスクラスター又はウイルス感染クラスターと称される。データベースは、複数のかかるクラスターを含み、各クラスターが、所定のウイルスについて、場合によっては、所定の宿主細胞についても、特定かつ固有のマーカープロファイルを定義する。
【0091】
一部の例では、出力データはまた、当該ウイルス感染に対する少なくとも1つの治療プロトコル、及び任意選択的に、当該治療の成功の可能性に関する統計データを提供する。
【0092】
出力データは、以前に決定されたデータと比較することができ、後者が参照を構成し得る。一部の例では、参照と比較したマーカープロファイルのVOCの統計的に有意な変化は、以下で論じられるように、感染の状態を示している。
【0093】
本開示の文脈において、「感染状態」に言及する場合、ウイルス感染の存在自体を言及すると理解されるべきであり、以前の決定(すなわち参照)と比較した場合、ウイルス感染の発症、ウイルス感染の進行、ウイルス感染の退行、ウイルス感染の定常状態などのうちのいずれか1つにも言及される。
【0094】
一部の例では、対象がウイルス自体に感染しているかどうか(すなわち、単なるウイルス感染の存在及びウイルス感染の種類)を確立するために方法ステップが実施される。
【0095】
一部の他の例では、感染の状態を確立するために方法ステップが実施され、これは典型的には、参照及び/又は参照マーカープロファイルと比較される。そのような場合、決定されたマーカープロファイルは、参照マーカーと比較される。参照マーカーは、当該対象についてより早い時点で又は統計的に有意な数の健常対象からの呼気試料の分析に基づいて同定されたVOCから得ることができる。
【0096】
参照マーカーからの統計的に有意な変化は、ウイルス感染の状態の変化を示している可能性がある。
【0097】
本開示の文脈において、「より早い時点」に言及する場合、対象の状態を評価する目的で方法ステップを実行する前の任意の時点として理解されるべきであり、本方法を実行する時点は、「より早い時点」又は「決定時点」又は「評価時点」と称される。
【0098】
一部の例では、評価時点は、対象のウイルス感染に対する治療中であり、より早い時点は、治療開始前である。
【0099】
一部の他の例では、評価時点は、対象のウイルス感染に対する治療中であり、より早い時点は、治療中のより早い時点である。
【0100】
一部の他の例では、評価時点は、抗ウイルス治療の終了又は完了後であり、より早い時点は、治療中である。
【0101】
更に一部の他の例では、評価時点は、抗ウイルス治療の終了又は完了後であり、より早い時点は、治療の開始前である。
【0102】
一部の例では、2つの異なる時点で対象について決定されたプロファイルマーカーの比較により、ウイルス感染状態の監視が可能になる。したがって、いくつかの例によれば、本開示は、対象におけるウイルス感染に対する疾患の進行を監視する方法及び/又は治療を監視する方法を提供し、本方法は:
a.当該対象の呼気試料から、1つ以上のVOCを指定する入力データを取得することであって、当該試料が決定時点で取得される、取得することと、
b.当該入力データを使用して、データベースを照会して、当該指定された1つ以上のVOCのうちの少なくとも1つに関連するマーカープロファイルを同定することと、
c.当該指定された1つ以上のVOCに関連するマーカープロファイルの同定を条件として、所定のウイルス及び任意選択的に所定の宿主細胞に関する出力データを提供することと、
d.当該出力データを、決定時点より前の時点で当該対象について得られたマーカープロファイルに対応する以前のデータと比較することであって、当該マーカープロファイルの変化がウイルス感染状態を示す、比較することと、を含む。
【0103】
本明細書に開示される方法は、ウイルス感染を有すると疑われる対象の治療プロトコルを決定するためにも用いることができる。この例によれば、本方法は、
a.対象についてウイルスマーカープロファイルを決定することであって、決定が、
i.当該呼気試料から、1つ以上のVOCを指定する入力データを取得すること、
ii.当該入力データを使用して、データベースを照会して、ウイルスマーカープロファイルを同定することであって、マーカープロファイルが、当該データベースにおいて1つ以上のVOCに関連付けられている、同定すること、並びに
iii.ウイルスマーカープロファイルの同定を条件として、所定のウイルス及び任意選択的に所定の宿主細胞に関する出力データを提供することであって、当該出力データが、当該対象におけるウイルス感染の種類の決定を含む、提供すること、を含む、ウイルスマーカープロファイルを決定することと、
b.同定されたウイルス感染の治療プロトコルを決定又は選択することと、を含む。
【0104】
更に一部の他の例では、本明細書に開示される方法は、ウイルス感染を有する対象を治療するために利用することができ、治療方法は、対象に抗ウイルス治療を提供することを含み、抗ウイルス治療は、
a.当該対象の呼気試料から同定された1つ以上のVOCを指定する入力データを取得することと、
b.ウイルスマーカープロファイルについての当該入力データを使用して、データベースを照会することであって、ウイルスマーカープロファイルが1つ以上の指定されたVOCに関連付けられている、照会することと、
c.ウイルスマーカープロファイルの同定を条件として、所定のウイルス及び任意選択的に所定の宿主細胞に関する出力データを提供することと、
d.当該アウトプットデータに基づいて、当該対象における当該ウイルス感染に好適な抗ウイルス治療を決定することと、によって決定される。
【0105】
本技術の基礎は、プロファイルマーカー、特定のウイルス、及び特定の宿主細胞の間の固有の関連性を提供するデータベースの確立にある。本明細書に開示されるデータベースは、ウイルス感染に関する任意の決定に用いることができ、これには、感染の実際の存在の決定、治療プロトコルの決定、疾患の治療の監視、疾患の進行の監視、疾患の退行の監視などが含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
本明細書に開示されるデータベースは、所定のウイルスのバンクに関連付けられたウイルスマーカープロファイルのバンクを含む構造化された記録のコレクションを含み、当該マーカープロファイルは、所定のウイルスによるウイルス複製中に、所定の宿主細胞から放出される指定されたVOCを含む。
【0107】
上記のように、データベースは、固有のマーカープロファイルを、特定の宿主細胞及び特定のウイルスと関連付けることによって構築される。
【0108】
データベースは、特定のウイルス感染に対して使用される治療の種類に関する情報、特定の治療の成功率に関する統計情報、代替治療なども含むことができる。
【0109】
一部の例では、また上記のように、各固有のマーカープロファイルは、インビトロアッセイにおいて、ウイルス感染(ウイルス/宿主細胞)に事前に関連付けることができ、アッセイは、ウイルス感染を引き起こす所定のウイルスに感染した所定の宿主細胞のデブリからマーカープロファイルを指定する1つ以上のVOCの同定を含む。
【0110】
一部の例では、データベースは、治療プロトコルのバンクを含み、各治療プロトコルは、マーカープロファイル、所定の宿主細胞、及び所定のウイルスを含むクラスターに関連付けられており、関連する特定のウイルス感染を打ち負かす可能性が最も高い治療であると先験的に決定されている。
【0111】
一部の例では、データベースは、本明細書にA549細胞(ヒト細胞)で例示されるように、肺胞上皮細胞に感染するコロナOC43ウイルスなどのベータコロナウイルスの同定クラスターを含む。
【0112】
一部の例では、データベースは、大腸腺癌細胞HCT8に感染するコロナOC43ウイルスなどのベータコロナウイルスの同定クラスターを含む。
【0113】
一部の例では、データベースは、MRC5細胞(肺組織からの正常な線維芽細胞)で例示されるように、ベータコロナウイルス、特に、例えば、肺の線維芽細胞に感染するコロナOC43ウイルスなどのコロナウイルスの同定クラスターを含む。
【0114】
一部の例では、データベースは、ウイルスと複数の宿主細胞との関連付けを含む。例えば、本明細書に示されるように、HCT8(大腸腺癌細胞)、A549(ヒト細胞)、MRC5細胞の各々に感染するコロナOC43ウイルスなどのベータコロナウイルスであり、異なる種類の細胞に感染する各ウイルスが、その固有のマーカープロファイルを提供する。更に、ウイルスと複数の宿主細胞との関連は、同一のウイルスに感染した場合、これらの3つの例示された細胞(HCT8、A549、MRC5細胞)に共通の2つの一般的に指定されるVOC(5.27分の保持時間を有するC9H13NO及び18.37分の保持時間を有するC8H4N2)を示すことがわかった(1)。したがって、2つの化合物は、ウイルスに由来し、宿主細胞に特異的ではない。この発見は、宿主細胞自体から放出された揮発性物質に関係なく、ウイルスが複製される細胞のデブリがウイルスに特異的な揮発性物質を放出するという理解を支持する。
【0115】
表1Aは、様々な宿主細胞を用いたコロナウイルスOC43感染細胞のマーカープロファイル(すなわち、VOC及びsVOCのリスト)を提供する。列挙された化合物は、一致レベルによって示されるように、80%超の確率で同定された化合物である。
【0116】
本開示の文脈において、マーカープロファイルは、ウイルス及びそれに関連する宿主細胞を特異的に同定するために、表1Aに提示された化合物のリスト内の化合物のうちの1つ又はその組み合わせが十分に特徴的である限り(例えば、化合物の相対量、すなわち質量対電荷比m/zも考慮する場合)、それらの化合物のうちの1つ又はその組み合わせを含む。
【表1】
【0117】
一部の例では、データベースは、肺胞上皮細胞に感染するコロナ229Eウイルスなどのアルファコロナウイルスの同定クラスターを含む。
【0118】
表1Bは、異なる宿主細胞を用いたコロナウイルス229E感染細胞のマーカープロファイル(すなわち、VOC及びsVOCのリスト)を提供する。ここでも、列挙された化合物は、一致レベルによって示されるように、80%超の確率で同定された化合物である。
【0119】
本開示の文脈において、マーカープロファイルは、ウイルス及びそれに関連する宿主細胞を特異的に同定するために、表1Bに提示された化合物のリスト内の化合物のうちの1つ又はその組み合わせが十分に特徴的である限り(例えば、化合物の相対量も考慮する場合)、それらの化合物のうちの1つ又はその組み合わせを含む。
【表2】
【0120】
更に一部の他の例では、データベースは、肺胞上皮細胞に感染するインフルエンザA(H1N1)株などのインフルエンザウイルスの同定クラスターを含む。
【0121】
表1Cは、インフルエンザA型H1N1感染A549細胞のマーカープロファイル(すなわち、VOCのリスト)を提供する。ここでも、列挙された化合物は、一致レベルによって示されるように、60%超の確率で同定された化合物である。
【0122】
本開示の文脈において、マーカープロファイルは、ウイルス及びそれに関連する宿主細胞を特異的に同定するために、表1Cに提示された化合物のリスト内の化合物のうちの1つ又はその組み合わせが十分に特徴的である限り(例えば、化合物の相対量も考慮する場合)、それらの化合物のうちの1つ又はその組み合わせを含む。
【表3】
【0123】
同様に、表1Dは、MEM-イーグル・アール塩ベース(赤色培地)+2% FCS/FBS(ウシ胎児血清)の培地で増殖したSARSコロナウイルス-2(Covid-19を引き起こす)WT(野生型ウイルス感染Vero細胞(上皮腎細胞)のマーカープロファイル(すなわち、VOCのリスト)を提供する。ここでも、列挙された化合物は、一致レベルによって示されるように、60%超の確率で同定された化合物である。
【0124】
本開示の文脈において、マーカープロファイルは、ウイルス及びそれに関連する宿主細胞を特異的に同定するために、表1Dに提示された化合物のリスト内の化合物のうちの1つ又はその組み合わせが十分に特徴的である限り(例えば、化合物の相対量も考慮する場合)、それらの化合物のうちの1つ又はその組み合わせを含む。
【表4】
【0125】
同様に、表1Eは、MEM-イーグル・アール塩ベース(赤色培地)+2% FCS/FBS(ウシ胎児血清)の培地で増殖したコロナウイルス(Covid-19)UK型感染Vero細胞(上皮腎細胞)のマーカープロファイル(すなわち、VOCのリスト)を提供する。ここでも、列挙された化合物は、一致レベルによって示されるように、60%超の確率で同定された化合物である。
【0126】
本開示の文脈において、マーカープロファイルは、ウイルス及びそれに関連する宿主細胞を特異的に同定するために、表1Eに提示された化合物のリスト内の化合物のうちの1つ又はその組み合わせが十分に特徴的である限り(例えば、化合物の相対量も考慮する場合)、それらの化合物のうちの1つ又はその組み合わせを含む。
【表5】
【0127】
本開示は、システムも提供する。
【0128】
システムは、典型的には、本明細書において上で定義されたデータベースを使用するコンピュータベースであり、記録の構造化されたコレクションは(とりわけ、所定の宿主細胞のバンクと関連する所定のウイルスのバンク、メモリユニットに記憶されている記録の構造化されたコレクション)を含むと理解されるべきである。
【0129】
一部の例では、システムは、
a.1つ以上のVOCを指定する入力データを受信するための入力インターフェイスと、
b.それぞれのマーカープロファイルを返すための1つ以上のVOCを指定するクエリに応答するデータベースを含む管理モジュールと、
c.所定のウイルス及び任意選択的に所定の宿主細胞のうちのいずれか1つ又はその組み合わせを出力データとして提供するように適合された出力提供モジュールであって、各々がマーカープロファイルに関連付けられている、出力提供モジュールと、を含み、
当該データベースが、所定のウイルスのバンク及び所定の宿主細胞のバンクに関連付けられたマーカープロファイルのバンクを含む記録の構造化されたコレクションを含み、当該マーカープロファイルが、所定のウイルスによるウイルス複製中に、所定の宿主細胞から放出される指定されたVOCを含む。
【0130】
入力インターフェイスは、VOCに関するデータを取得又は受信するように適合させることができる。指定されたVOCに関するデータは、構造化ファイル(例えば、コンテンツとメタデータを含むフォーム)などの事前に記憶されたデジタルデータソースから自動的に抽出するか、システムのオペレーター/ユーザーが手動で入力することができる。
【0131】
特定の化合物に関するデータは、例えば、システムに直接接続されたキーボードを介して(「オンサイト」で)システムにローカルに供給されるか、又は特定の化合物に関するデータは、遠隔地から(例えば、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)などの通信ネットワークを介してシステムに動作可能に接続されたリモートコンピュータから)取得され得る。一部の例では、システムは、対象の性別、年齢、倫理的背景、ウイルスの亜型、慢性疾患、治療、ワクチン接種など、対象に関する更なる情報を取得することができる。
【0132】
一部の例では、データベースを含む管理モジュールは、指定されたVOCに関するデータを受信及び処理し、着信データの分析及び記憶を行う専用のソフトウェアアプリケーションを実行することによってデータを分析するための処理ユーティリティも含む。ソフトウェアアプリケーションは、メモリディスクなど、機械によって読み取り可能なプログラム記憶装置で具現化することができる。
【0133】
処理ユーティリティはまた、少なくとも1つの出力データを出力し、ウイルス感染の種類、治療の種類、治療の成功率に関する統計データ、並びに関心のある他の情報のうちのいずれか1つ又はそれらの組み合わせを含む。
【0134】
処理ユーティリティは、入力ユーティリティ及び出力ユーティリティに接続されている。入力ユーティリティは、典型的には、特定の評価セッションに関する情報(指定された化合物、検査対象の詳細など)を入力するために使用されるキーボード又はタッチスクリーンなどのユーザーインターフェイスユニットである。
【0135】
出力ユーティリティは、コンピュータ及び/又はウェアラブルデジタル表示ユニットを含むいくつかの(組み合わせた又は代替の)デジタル出力ユニットから構成され得る。
非限定的な例の詳細な説明
【0136】
インビトロアッセイモジュール
本明細書に開示されるデータベースの構築は、
図1Aに示されるようなマルチアレイ培養システムを利用することができる。具体的には、マルチアレイ培養システム100は、互いに積み重ねられた4つの培養フラスコ102a、102b、102c、及び102dを含み、各フラスコは、それぞれのキャップ104a、104b、104c、及び104d、それぞれのコネクター106a、106b、106c、及び106d、並びにWO2021/028928に記載されている種類のそれぞれの熱脱着管(TDT)108a、108b、108c、及び108dを含み、各フラスコは、各管の遠位端で密閉される。
【0137】
動作中、キャップ、コネクター、及びTDTを収集ユニット(CU、図示せず)がそれぞれ接続される各フラスコ102a、102b、102c、及び102dを密閉する前に、各フラスコを、いずれか空のままにするか(対照#1)、又は所望の試験培地:細胞増殖培地のみ(対照#2)、宿主細胞のみを含む細胞増殖培地(対照#3)、若しくは宿主細胞及び複製中の所定のウイルスを含む細胞増殖培地(試験)で満たした。各試験フラスコからのVOCは、温度が33℃のインキュベーターで維持しながら、TDTを介して収集される。
【0138】
分析は、対照フラスコ(#1~#3)から収集されたVOCを同定し、試験群で収集されたこれらのVOCを差し引くことを含む。VOCの残りのコレクションは、所定の宿主細胞のウイルスに固有のVOCとして定義される。
【0139】
代替的な例では、データベースは、
図1Bに示されるようなマルチアレイ培養システムを利用して構築することができる。具体的には、
図1Bは、マルチアレイ培養システム120を示し、
図1Aに関して説明したように、それぞれコネクターに接続された3つのキャップ120a、120b、及び120cと、それぞれ培養ペトリ皿120dに接続された熱脱着チューブ(TDT)と、を含む。このシステムの動作は、
図1Aに関して説明したものと同様であり得る。
【実施例】
【0140】
以下の実施例では、異なるフラスコ群を使用した:
対照#1:細胞増殖培地のみ
対照#2:細胞を含む細胞増殖培地
対照#3:空のフラスコ
試験:細胞と複製しているウイルスを含む細胞増殖培地。
【0141】
各実施例は、熱脱着チューブ/採取ユニット(TDT/CU)を備えた30×75cm2フラスコを使用して実施され、表2に指定される条件に従って実施した。
【0142】
材料:
培地:MEM-イーグル・アール塩類ベース(赤色培地)+2% FCS/FBS(ウシ胎児血清);又はウシ胎児血清(FBS)培地
宿主細胞:A549細胞、HCT8細胞、Vero細胞、イスラエルのSheba病院から入手した全ての細胞。
ウイルス:229Eコロナウイルス、OC43コロナウイルス、SARS-Cov-2(WT)、イスラエルのSheba病院から入手した全てのウイルス
【0143】
表2A~2Cに従って、細胞及びウイルスの異なる組み合わせをアッセイした。
【表6】
【表7】
【表8】
【0144】
サンプリング:
サンプリングのために、インキュベーションの指定された各時点(時間)で、対照#1、対照#2、及び試験群からの指定された量のフラスコを、インキュベーターから取り出した。サンプリングは、WO2021//028928に記載されているように実施される(その内容は、参照により本明細書に援用される)。
【0145】
簡潔に、各フラスコからのTDTに吸着された代謝産物は、吸着領域を処理して、その表面から揮発性物質を脱着又は解離させることによって放出され、揮発性物質はその後分析される。吸着領域からの揮発物の脱着又は解離は、熱的に、不活性ガス流下、真空下、又は揮発物を分析器内に放出し得る任意の手段を用いることによって達成することができ、これらは全てWO2021/028928に記載されているとおりである(その内容は、参照により本明細書に援用される)。
【0146】
VOCの分析は、四重極GC-MSシステムに接続され、選択したカラムを装備した熱脱離オートサンプラーを使用して実施した。分離は、SGE PN99054140、20M×0.18mm ID-BPX5×0.18μm dfを使用して、0.5ml/分のHe流(定流量/圧力)を使用して行った。
【0147】
次いで、VOC及びsVOC化合物の保持時間とマススペクトルを使用して、GCMSデコンボリューションソフトウェアを使用して、VOCを同定及び区別した。
【0148】
結果
試験された各ウイルス及び宿主細胞について特定されたVOCを、以下の図に示す。
【0149】
図2A~2Bは、複製している229Eウイルスに感染したA549細胞に特異的な2つのVOCを同定する。
図2Aは、トリデカン化合物の同定を示し、
図2Bは、1,4-ジクロロベンゼン化合物の同定を示している。どちらも48時間のインキュベーション後にすでに存在しており、それらの存在は、168時間のインキュベーション後も継続していた。化合物のより包括的なリストは、上記の表1Bに列挙されている。
【0150】
図3A~3Cは、複製しているOC43ウイルスに感染したHCT8細胞に特異的な3つのVOCを同定する。
図3Aは、2,2,4,6,6-ペンタメチル-ヘプタン化合物の同定を示し、
図3Bは、2-エチル-オキセタン化合物の同定を示し、
図3Cは、ロンギホレン(C
15H
24)の同定を示している。3つ全てが24時間のインキュベーション後にすでに存在しており、それらの存在は、168時間のインキュベーション後も継続していた。化合物のより包括的なリストは、上記の表1Aに列挙されている。
【0151】
図4A~4Bは、複製しているH1N1インフルエンザAウイルスに感染したA549細胞に特異的な3つのVOCを同定する。
図4Aは、2-フルオロ安息香酸化合物のヘプタデシルエステルの同定を示し、
図4Bは、2,3-ジメチルヒドロキノン化合物のビス-(トリメチルシリル)エーテルの同定を示している。どちらも24時間のインキュベーション後にすでに同定されており、それらの存在は、168時間のインキュベーション後も継続していた。化合物のより包括的なリストは、上記の表1Cに列挙されている。
【0152】
特定されたSARS-Cov-2のVOCは、上記の表1D~1Eに列挙されている。
【0153】
更に、Vero細胞に対するSARS CoV-2の溶解効果が画像化され、VOCが実際には複製中及び宿主細胞溶解中にのみ放出されるという理解を支持する。具体的には、インキュベーションのゼロ時点(
図5A、5B)、24時間後(
図5C、5D、5E)、48時間後(
図5F、5G)、及び72時間後(
図5H、5I、5J、5K)の画像を捕捉した。毎回、同じセルの異なる拡大(ズームイン)を表す2、3、又は4つの画像が与えられる。
【0154】
様々な画像は、生存細胞の数が時間とともに減少することを明確に示しており、複製しているウイルスによる細胞溶解を示している。
【国際調査報告】