(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-08
(54)【発明の名称】AAVを産生する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20230426BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N7/01 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022569478
(86)(22)【出願日】2021-11-23
(85)【翻訳文提出日】2022-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2021082615
(87)【国際公開番号】W WO2022112218
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517238400
【氏名又は名称】ツェヴェック ファーマシューティカルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コロネル ジュリアナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィッシンク ジルケ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA01
4B065BC25
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、安定なAAVプロデューサー宿主細胞株を準備する工程であって、AAVの産生に必要な成分をコードする少なくとも幾つかの又は全ての遺伝子が、細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、工程と、AAV産生工程の間(すなわち、N工程の間)に上記細胞を灌流培養で培養する工程であって、上記灌流培養が、使用済培地の新鮮な培地との連続的な置換を包含し、使用済培地の新鮮な培地との上記連続的な置換がAAV産生の誘導後に続く、工程とを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)を産生する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)安定なAAVプロデューサー宿主細胞株を準備する工程であって、AAVの産生に必要な成分をコードする少なくとも幾つかの又は全ての遺伝子が、宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、工程と、
(b)AAV産生工程の間(すなわち、N工程の間)に前記細胞を灌流培養で培養する工程であって、前記灌流培養が、使用済培地の新鮮な培地との連続的な置換を包含し、使用済培地の新鮮な培地との前記連続的な置換がAAV産生の誘導後に続く、工程と、
を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)を産生する方法。
【請求項2】
少なくとも以下の遺伝子:
AAV Repタンパク質Rep78又はRep68をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52又はRep40をコードする遺伝子、並びに、
アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子、
が前記宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも以下の遺伝子:
AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep78又はRep68をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52又はRep40をコードする遺伝子、
アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子、並びに、
AAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、
が前記宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記AAVが、AAV血清型1(AAV1)、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAVDJ、AAVDJ8、AAVrh10、2つ以上の異なる前記血清型の混成物及びAAV血清型の向性を変化させる突然変異を有する前記血清型からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
AAVの産生に必要な成分をコードする全ての遺伝子が前記宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記AAVの産生に必要な成分をコードする遺伝子が、AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep78、Rep68、Rep52及びRep40をコードする遺伝子;アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6、E2A及びVA-RNAをコードする遺伝子;Ad5ヘルパー遺伝子E1A及びE1Bをコードする遺伝子;並びにAAV逆位末端反復配列(ITR)が隣接する目的の遺伝子(GOI)からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
以下の更なる遺伝子:
AAV Repタンパク質Rep78とRep68との両方をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52とRep40との両方をコードする遺伝子、及び、
アデノウイルスのヘルパー機能E1A、E1Bのいずれか一方又は両方をコードする1つの遺伝子又は複数の遺伝子、
が、前記宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記安定なAAVプロデューサー宿主細胞株が、CAP細胞、AGE1.hn細胞、HEK293細胞、PER.C6細胞、NSO1細胞、COS-7細胞、BHK細胞、CHO細胞、CV1細胞、VERO細胞、HeLa細胞、MDCK細胞、BRL3A細胞、W138細胞及びHepG2細胞からなる群から選択される細胞株である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
灌流培養が、撹拌槽バイオリアクター(STR)、軌道振盪バイオリアクター(OSB)、ロッキングベッドバイオリアクター、エアリフトバイオリアクター、管状バイオリアクター、中空糸バイオリアクター(HFBR)、固定床バイオリアクター又は流動床バイオリアクター中で実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
灌流培養に使用される灌流デバイスが、TFF(接線流濾過)モード又はATF(交互接線流)モードで使用される中空糸フィルター;浮遊膜、スピンフィルター、回転筒状フィルター、回転ディスクフィルター、遠心分離機、重力沈降機、ラメラ沈降機、小型細胞沈降機、アコースティック沈降機又は液体サイクロンである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
灌流培養のために使用される前記灌流デバイスがATFモードで使用される中空糸フィルターである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
使用済培地の新鮮な培地との前記連続的な置換が、AAV産生の誘導後少なくとも24時間、少なくとも48時間又は少なくとも72時間にわたって、及び/又はAAVの回収まで続く、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
細胞特異的灌流速度(CSPR)が約0.01nL/細胞/日~約0.20nL/細胞/日である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記灌流速度が約1vvd(新鮮な培地の量/リアクターの作業量/日)~約20vvdである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記灌流培養の播種時の細胞密度が約0.5×10
6細胞/mL~約5×10
6細胞/mLである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
AAV産生の誘導時点の細胞密度が約20×10
6細胞/mL以上である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記灌流培養の保持液からAAVを回収する工程を更に含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、アデノ随伴ウイルス(AAV)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定なAAVプロデューサー宿主細胞株を準備する工程であって、AAVの産生に必要な成分をコードする少なくとも幾つかの又は全ての遺伝子が、宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、工程と、AAV産生工程の間(すなわち、N工程の間)に上記細胞を灌流培養で培養する工程であって、上記灌流培養が、使用済培地の新鮮な培地との連続的な置換を包含し、使用済培地の新鮮な培地との上記連続的な置換がAAV産生の誘導後に続く、工程とを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)を産生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、AAV由来のベクターに基づく遺伝子療法の治験及び製品の数が急速に増加している。遺伝子療法におけるAAVベクターの利点は、優れた安全性プロファイル、そのようなベクターは病原性でない、すなわち、あらゆる疾患と関係がないという事実、導入遺伝子の長期の発現、並びに分裂細胞及び非分裂細胞を形質導入する可能性である。しかし、この有望な研究を臨床開発に移行させるための主な課題は、かなりの量のAAVウイルスベクターを高品質で送達するという課題である。
【0003】
組換えAAVの産生は、トランスで供給される組換えウイルスの産生のために、通常AAVゲノムにコードされるAAV Rep及びCapタンパク質の発現を特に必要とする。さらに、異なるヘルパーウイルスに由来し得るヘルパー遺伝子が使用され、最も一般的なものは、アデノウイルス(AV)から得られるヘルパーウイルス遺伝子、例えば、E1A、E1B、E2A、E4orf6又はVA RNAである。さらに、AAV逆位末端反復配列(ITR)が隣接する目的の遺伝子(GOI)を含むトランスファーベクターが必要とされる。
【0004】
AAVの現在の産生システムは、以下の技術に大抵依拠するが、幾つかの欠点がある。
【0005】
組換えAAVを産生する最も一般的なシステムは、AAV産生に必要である全ての遺伝子を一過性トランスフェクションによって産生細胞中に導入することに依拠する。一過性トランスフェクションは、通常、2つ又は3つのプラスミドシステム:目的の遺伝子を含むトランスファーベクター;アデノウイルスのヘルパー機能を有するpHelper;並びにカプシド及びレプリカーゼ機能を供給するpAAV-Rep2CapX(CapX=異なるAAV血清型のカプシド機能)を必要とする。しかし、このアプローチには幾つかの欠点がある。特に、一過性トランスフェクション工程が理由で、この方法は、高費用のプラスミドDNAを必要とし、十分な拡大縮小性、頑強性及び再現性を欠く。
【0006】
また、一過性トランスフェクションの工程は、大規模な培地及び供給最適化、並びにpH、温度又は細胞密度のようなプロセスパラメーターの産生中の変動のような、他の組換え型生物学的製剤の産生でよく見られる生成物の力価又は生成物の品質を高めるための或る特定のプロセス最適化工程を妨害する。特に、後者は、全体的な生成物の力価を高めるための有望なアプローチである。より高い細胞密度は、一般に、細胞特異的生産性が低下しない限り、力価が高まることにつながる(「細胞密度効果」)。特に、一過性トランスフェクションを使用している間は、細胞密度を高めると同時に細胞特異的生産性が低下する場合がある。これは、特に、ウイルスベクターの産生についても記載されている。
【0007】
AAVの産生は、特定の産生プロセスとは無関係に、AAV ITRが隣接するパッケージングされた目的の遺伝子(GOI)を意味する完全なAAV粒子と、パッケージングされたGOIを含まない空粒子との混合物を常にもたらす。例えばHEK293細胞等の哺乳動物懸濁細胞の一過性トランスフェクションによって達成されるAAVの力価は、プロセスに応じて、1×1013vg/L(ウイルスゲノム/L)~1×1015vg/Lの範囲である。一過性トランスフェクションによって、完全な粒子の割合は最大で約30%の完全な粒子と報告されたが、通常は10%~18%の範囲である。これは、82%~90%が望ましくない空粒子であることを意味する。空粒子は治療的に不活性であり、患者の免疫応答を高める可能性がある。したがって、産生後の精製プロセスにおいて、これらの空粒子は、できるだけ効率的に除去されなければならない。これは、有効であるが、拡大縮小可能ではないプロセスである遠心分離を介するか又はクロマトグラフィー法によるかのいずれかで達成することができる。後者は、大量産生にも利用可能であるが、完全な粒子の倍数濃縮は通常たった約3倍~6倍の範囲である。したがって、例えば、およそ10%の完全な粒子をともなう試料の濃縮は、たった約30%~60%の完全な粒子という最終的な割合をもたらす。
【0008】
既に安定して組み込みこまれた目的の遺伝子を有する、いわゆるプロデューサー細胞株は、HEK細胞又はHeLa細胞に大抵基づく。しかし、これらは、ヘルパーウイルス、例えばアデノウイルスによる更なる感染を必要とする。AAV産生中のヘルパーウイルスのこの追加は、対応するヘルパーウイルスの最初の産生の後に、産生されたAAVベクターの大規模な精製により最終的な生成物からヘルパーウイルスを除去すること、及び費用をかけてヘルパーウイルスが存在しないことを証明することを必要とする。単純ヘルペスウイルス(HSV)ベースのシステムにも同じことが当てはまる。さらに、バキュロウイルスベースのシステムは、十分な拡大縮小性及び頑強性を欠き、昆虫宿主細胞タンパク質及び免疫原性の昆虫細胞特異的グリコシル化構造物が混入する危険性を加える。
【0009】
したがって、現在のAAV産生システムは、拡大縮小性、頑強性、再現性、使いやすさ及び費用効率に関してだけでなく、生成物の品質に関しても制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、特に、生成物の力価及び/又は細胞特異的収率及びさらにいっそう重要なことに、特に完全な粒子の割合の点から生成物の品質を高めることを目的として、一過性トランスフェクション又はヘルパーウイルスを必要とせず、AAV遺伝子療法ベクターの頑強な、産業的及び拡大縮小可能な産生、並びに大規模な上流プロセスの開発の最適化を可能にする、AAVベクターを安定して産生する拡大縮小可能なシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の技術的課題の解決は、特許請求の範囲を特徴とする実施の形態によって達成される。
【0012】
特に、第1の態様において、本発明は、
(a)安定なAAVプロデューサー宿主細胞株を準備する工程であって、AAVの産生に必要な成分をコードする少なくとも幾つかの又は全ての遺伝子が、宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、工程と、
(b)AAV産生工程の間(すなわち、N工程の間)に上記細胞を灌流培養で培養する工程であって、上記灌流培養が、使用済培地の新鮮な培地との連続的な置換を包含し、使用済培地の新鮮な培地との上記連続的な置換がAAV産生の誘導後に続く、工程とを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)を産生する方法に関する。
【0013】
本発明のAAVは特定のAAV血清型に限定されない。したがって、AAVは、AAV血清型1(AAV1)、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAVDJ、AAVDJ8、AAVrh10、2つ以上の異なる上記血清型の混成物及びAAV血清型の向性を変化させる突然変異を有する上記血清型からなる群から選択することができる。好ましくは、AAVは、AAV2、AAV5、AAV6、AAV8及びAAV9からなる群から選択され、ここでは、AAV8が特に好ましい。
【0014】
本発明によれば、AAVの産生に必要な成分をコードする少なくとも幾つかの又は全ての遺伝子が、宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる。好ましくは、上記遺伝子の少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ又は全てが、宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる。より好ましくは、上記遺伝子の全てが宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる。
【0015】
この文脈では、本発明によれば、AAVの産生に必要な成分をコードする遺伝子は、AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep78、Rep68、Rep52及びRep40をコードする遺伝子;アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6、E2A及びVA-RNAをコードする遺伝子;Ad5ヘルパー遺伝子E1A及びE1Bをコードする遺伝子;並びにAAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)からなる群から選択される。好ましくは、AAVの産生に必要な成分をコードする遺伝子は、AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep78又はRep68をコードする遺伝子、AAV Repタンパク質Rep52又はRep40をコードする遺伝子;アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6をコードする遺伝子;並びにAAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)を含む。特定の実施の形態においては、AAVの産生に必要な成分をコードする遺伝子は、AAV Repタンパク質Rep78、Rep68、Rep52及びRep40をコードする遺伝子の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は全て;並びにアデノウイルスのヘルパー機能E2A及びVA-RNAをコードする遺伝子;並びにAd5ヘルパー遺伝子E1A及びE1Bをコードする遺伝子を更に含む。
【0016】
したがって、特定の実施の形態においては、本発明の方法の工程(a)で準備される安定なAAVプロデューサー宿主細胞株では、以下の遺伝子:
AAV Repタンパク質Rep78又はRep68をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52又はRep40をコードする遺伝子、並びに、
アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子、
が宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる。
【0017】
他の特定の実施の形態においては、本発明の方法の工程(a)で準備される安定なAAVプロデューサー宿主細胞株では、以下の遺伝子:
AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep78又はRep68をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52又はRep40をコードする遺伝子、
アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子、並びに、
AAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、
が宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる。
【0018】
更に特定の実施の形態においては、本発明の方法の工程(a)で準備される安定なAAVプロデューサー宿主細胞株では、以下の遺伝子:
AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep78又はRep68のいずれか一方又は両方をコードする1つの遺伝子又は複数の遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52又はRep40のいずれか一方又は両方をコードする1つの遺伝子又は複数の遺伝子、
AAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、並びに、
場合により、アデノウイルスのヘルパー機能E1A、E1B、E4orf6及びE2Aのいずれか1つ、いずれか2つ、いずれか3つ又は全てをコードする1つの遺伝子又は複数の遺伝子、
が宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる。
【0019】
関連した特定の実施の形態においては、本発明の方法の工程(a)で準備される安定なAAVプロデューサー宿主細胞株では、以下の遺伝子:
(i)AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep78若しくはRep68をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep52若しくはRep40をコードする遺伝子;並びにAAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、又は、
(ii)AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep78若しくはRep68をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep52若しくはRep40をコードする遺伝子;アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6をコードする遺伝子;並びにAAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、又は、
(iii)AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep78若しくはRep68をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep52若しくはRep40をコードする遺伝子;アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子;並びにAAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、又は、
(iv)AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep78若しくはRep68をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep52若しくはRep40をコードする遺伝子;アデノウイルスのヘルパー機能E1A、E1B、E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子;並びにAAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、又は、
(v)AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep78、Rep68、Rep52及びRep40をコードする遺伝子;アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子;並びにAAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、又は、
(vi)AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep78、Rep68、Rep52及びRep40をコードする遺伝子;アデノウイルスのヘルパー機能E1A、E1B、E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子;並びにAAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、
が宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる。
【0020】
特定の一実施の形態においては、本発明によるAAVを産生する方法は、
(a)安定なAAVプロデューサー宿主細胞株を準備する工程であって、AAVの産生に必要な成分をコードする少なくとも幾つかの又は全ての遺伝子が、宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、工程と、
(b)AAV産生工程の間(すなわち、N工程の間)に上記細胞を灌流培養で培養する工程であって、上記灌流培養が、使用済培地の新鮮な培地との連続的な置換を包含し、使用済培地の新鮮な培地との上記連続的な置換がAAV産生の誘導後に続く、工程とを含み、
ここで、少なくとも以下の遺伝子:
AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep78又はRep68をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52又はRep40をコードする遺伝子、
アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子、並びに、
AAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、
が宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる。
【0021】
この特定の実施の形態においては、以下の更なる遺伝子:
AAV Repタンパク質Rep78とRep68との両方をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52とRep40との両方をコードする遺伝子、及び、
アデノウイルスのヘルパー機能E1A、E1Bのいずれか一方又は両方をコードする1つの遺伝子又は複数の遺伝子、
を宿主細胞ゲノム中に安定して組み込むことができる。
【0022】
本発明の文脈において使用されるGOIは特に限定されず、例えば、眼疾患、失明疾患、筋疾患、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、GM2ガングリオシドーシス及び脊髄小脳失調型、ALS、ハンチントン病、X連鎖重症複合免疫不全(X-SCID)、アデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA-SCID)、中枢神経系疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、肝疾患、肝臓酵素オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症、レーバー先天黒内障、血友病、β-サラセミア、癌疾患、頭頸部癌、転移性黒色腫、心疾患、肺疾患又は嚢胞性線維症、ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)、異染性白質ジストロフィー(MLD)及び重症リポタンパク質リパーゼ欠損障害(LPLD)感染症、重症複合免疫不全症候群、HIV感染症、ニーマン・ピック病C型及びオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症をはじめとする希少疾患の治療のための、AAVベクターの受容者へのその移行が目的である任意の遺伝子を含む。
【0023】
本発明で使用される安定なAAVプロデューサー宿主細胞株は、当該技術分野で既知の任意の適切な細胞株に由来し得る。しかし、好ましい実施の形態においては、上記細胞株は、CAP細胞、AGE1.hn細胞、HEK293細胞、PER.C6細胞、NSO1細胞、COS-7細胞、BHK細胞、CHO細胞、CV1細胞、VERO細胞、HeLa細胞、MDCK細胞、BRL3A細胞、W138細胞及びHepG2細胞からなる群から選択される細胞株に由来するか、又はこれらの細胞からなる群から選択される細胞株であり、ここでは、CAP細胞及びHEK293細胞が特に好ましい。特定の態様においては、上記の細胞株はCAP細胞に由来するか又はCAP細胞株である。別の特定の実施の形態においては、上記の細胞株はHEK293細胞に由来するか又はHEK293細胞株である。この文脈では、用語「安定なAAVプロデューサー宿主細胞株は細胞株Xに由来する」は、上記安定なAAVプロデューサー宿主細胞株が、上記で示されるそれぞれの遺伝子を細胞株Xの細胞中に安定して組み込むことによって生成されることを示す。したがって、上記の用語は、前述のように、安定なAAVプロデューサー宿主細胞株が細胞株Xであることを明確に包含する。この文脈では、用語「安定なAAVプロデューサー宿主細胞株は細胞株Xに由来する」は、「安定なAAVプロデューサー宿主細胞株は細胞株Xに基づく」と読み取ることができ、それぞれの用語は本明細書において互換的に使用することができる。
【0024】
本発明によるAAV産生のスケールは、産生の実行あたり、ミリリットル範囲の小量から中程度の量を超えて例えば、2000L又は25000Lの量を用いる大規模な量まで変動し得る。
【0025】
本発明の方法の工程(b)の灌流培養は、当該技術分野で既知の任意の適切な培養容器又はシステムで行うことができる。この点において使用することができる異なるタイプのバイオリアクターには、撹拌槽バイオリアクター(STR)、軌道振盪バイオリアクター(OSB)、ロッキングベッドバイオリアクター(例えば、WAVE、Rocking Motion)、エアリフトバイオリアクター又は管状バイオリアクターが含まれる。これらのバイオリアクタータイプのいずれについても、ガラス、ステンレス鋼又は使い捨てのバイオリアクター容器を使用することができる。また、灌流デバイスに連結されたハイスループットバイオリアクターを含めて、妥当なマルチパラレルバイオリアクターを使用することができる。接着細胞用に設計された灌流バイオリアクター、例えば、中空糸バイオリアクター(HFBR)、固定床バイオリアクター(例えば、充填床バイオリアクター)及び流動床バイオリアクターも使用することができる。
【0026】
灌流培養の操作モードには、特に限定されないが、当該技術分野で既知のように、標準的な灌流(連続的)、濃縮灌流(連続的)、ハイブリッド灌流/フェドバッチ、量を拡大した灌流及び2段階連続プロセスが含まれる。灌流デバイスには、TFF(接線流濾過)及びATF(交互接線流)等のストラテジーの下で操作される中空糸フィルター、浮遊膜、スピンフィルター及び回転筒状フィルター(別名、渦流フィルター又は外部スピンフィルター)並びに回転ディスクフィルター(別名、制御剪断(controlled-shear)フィルター)が含まれ、ここでは、ATF灌流培養が特に好ましい。ペリスタルティックポンプ、ダイヤフラムポンプ又は磁気浮上に基づく遠心ポンプ(例えば、Levitronix)を用いて操作する中空系ベースの又は管状の膜モジュール等の他のタイプの濾過デバイスも使用することができる。また更なる灌流デバイスには、当該技術分野で既知のように、重力沈降機(ラメラ沈降機、小型細胞沈降機(compact cell settlers))、アコースティック沈降機(acoustic settlers)(別名、アコースティックフィルター(acoustic filter))、遠心分離機及び液体サイクロンが含まれる。
【0027】
本発明によれば、灌流培養は、使用済培地の新鮮な培地との連続的な置換(すなわち、連続的培地交換)を包含し、ここでは、使用済培地の新鮮な培地との上記連続的な置換がAAV産生の誘導後に続く。好ましい実施の形態においては、使用済培地の新鮮な培地との上記連続的な置換は、誘導後少なくとも24時間、誘導後少なくとも48時間、誘導後少なくとも72時間にわたって、及び/又はAAVの回収まで続く。当該技術分野で既知のように、用語「使用済培地の新鮮な培地との連続的な置換」又は「連続的培地交換」は、使用済培地の新鮮な培地との間断なく行われる置換(すなわち、間断なく行われる培地交換)を必ずしも必要とせず、当該技術分野で既知のように、1日数回間隔をあけて上記置換を休止することも可能である。例として、置換又は培地交換の可能な休止は、例えば、1日1回、2回、3回、4回、5回若しくは6回の1時間まで若しくは2時間までの休止であり、又は例えば、1日1回若しくは2回の6時間まで若しくは12時間までの休止である。
【0028】
好ましい実施の形態においては、灌流培養の間の細胞特異的灌流速度(CSPR)は、約0.01nL/細胞/日~約0.20nL/細胞/日である。さらに、灌流速度は、好ましくは約1vvd(新鮮な培地の量/リアクターの作業量/日)~約20vvdである。
【0029】
本発明によれば、方法は、約0.1×106細胞/mL~約2.0×106細胞/mLの範囲の低い生存細胞密度(VCD)又は約2.0×106細胞/mL~約20×106細胞/mLの範囲の高いVCDの播種時の細胞密度で開始することができる。好ましい実施の形態においては、灌流培養の播種時の細胞密度は約0.5×106細胞/mL~約5×106細胞/mLである。
【0030】
さらに、AAV産生の誘導時点の細胞密度は、約1.0×106細胞/mL~約10×106細胞/mLの範囲の低いVCD、約10×106細胞/mL~約100×106細胞/mLの範囲の高いVCD又は約100×106細胞/mL~約200×106細胞/mLの範囲の非常に高いVCDであり得る。好ましい実施の形態においては、AAV産生の誘導時点の細胞密度は約20×106細胞/mL以上である。
【0031】
特定の実施の形態においては、本発明の方法は、灌流培養の保持液からAAVを回収する工程を含むことができる。
【0032】
本発明の方法では、播種後からAAV産生の誘導までのプロセス時間は0日~21日の範囲であり得る。さらに、誘導後のプロセス時間は誘導後2日~10日の範囲であり得る。
【0033】
AAVの最大力価を達成するために、当該技術分野で既知のように、プロセスパラメーター、例えば、播種細胞密度、温度、撹拌速度、pH、DO(溶存酸素)、モル浸透圧濃度及び/又はバイオリアクターの作業量等を産生プロセスの間に変えることができる。また、当該技術分野で既知のように、或る特定のアミノ酸、サッカリド、有機酸、補助因子、ビタミン、ミネラル及び/又は他の要素の欠乏を回避するために、不足している成分を細胞培養に補充することは、産生プロセスの一部であり得る。
【0034】
第2の態様においては、本発明は、上記で定義された本発明による方法によって得ることができるアデノ随伴ウイルス(AAV)に関する。
【0035】
本明細書において使用する場合、用語「含む」("comprising"/"comprises")は、用語「から本質的になる」("consisting essentially of"/"consists essentially of")及び「からなる」("consisting of"/"consists of")を明確に含み、すなわち、上記用語の全ては互いに互換的である。
【0036】
本明細書において使用する場合、用語「約」は、特定の値の±10%、好ましくは±7%、±5%、±4%、±3%、±2%、±1%又は±0.5%の変動である。例として、本明細書において使用する場合、用語「約10」は9~11の範囲を指すことができる。
【0037】
本発明では、十分に安定なAAVプロデューサー細胞株は、AAVベクターの大規模製造のための有効な方法を提示する。これらの十分に安定なAAVプロデューサー細胞は、例えば、カプシド遺伝子(VP1、VP2、VP3)、調節遺伝子(Rep78、Rep68、Rep52、Rep40)、アデノウイルスのヘルパー機能(E1A、E1B、E4orf6、E2A及びVA-RNA)並びにITR隣接性導入遺伝子(目的の遺伝子;GOI)の安定な組み込みを有する細胞からなる。このシステムでは、4つのrepタンパク質並びにヘルパー機能E2A及びE4orf6の発現は誘導性システムの制御下にある。誘導因子の添加によって、前述のタンパク質が発現し、組換えAAV(rAAV)ベクターが産生される。
【0038】
この安定なシステムは、一過性トランスフェクション工程又はヘルパー感染工程を必要としないため、幾つかの利点を有する。したがって、プラスミド費用又はヘルパーウイルスの産生のための更なる費用が省かれるので、物品の費用が低減する。本システムは拡大縮小可能で、非常に再現性があり、バッチ間変動がごくわずかであるか又はない。
【0039】
最も重要なことに、一過性トランスフェクション又はウイルス感染の必要がない、本発明で使用される安定なAAV産生細胞株は、例えば、ウイルス力価収率(容積生産性及び/又は細胞特異的ウイルス収率)を高めるために、及び/又は特に完全な粒子の割合の点から、生成物の品質を高めるために、大規模な上流細胞培養プロセスの開発及び最適化も可能にする。
【0040】
一般に、上流細胞培養プロセスは、バッチで、フェドバッチで、連続的に、又は細胞再循環(灌流)モードをともなって連続的に、又は混成モード(例えば、灌流とフェドバッチとの混成型)で操作され得る。操作モードによって、増殖プロファイル及び産生動態が決定される。
【0041】
灌流モードでは、新鮮な培地の供給(入口)及び使用済培地の除去(出口)は、通常、入口及び出口で同じ流速を使用して行われ、その結果、バイオリアクター量が一定に維持される。細胞は、細胞保持(又は灌流)デバイスを使用して、産生システム(バイオリアクター)中に保持される。したがって、高い細胞密度を得ることができる。典型的には、灌流によって、他の操作モードと比較して、より少ない設置面積(footprints)でより高い容積生産性が可能になる。
【0042】
細胞分離のための様々なメカニズム:沈降(重力又は遠心力場の下)、超音波場下の凝集(それに続く沈降)及び濾過を使用した、様々な灌流デバイスを使用することができる。したがって、分離効率はデバイスの選択に依存する。例は、遠心分離機、重力沈降機(ラメラ沈降機、小型細胞沈降機)、アコースティック沈降機(別名、アコースティックフィルター)、遠心分離機、液体サイクロン及びフィルターである。濾過は以下の様々なストラテジー下で操作される:TFF(接線流濾過)及びATF(交互接線流)、浮遊膜、スピンフィルター及び回転筒状フィルター(別名、渦流フィルター又は外部スピンフィルター)並びに回転ディスクフィルター(別名、制御剪断フィルター)。様々なタイプのフィルターの中で、TFF及びATFが灌流のために一般に使用される。両方の場合で、フィルター膜を備える中空糸モジュールが使用される。ATFの場合には、ダイヤフラムポンプを介して二方向の流れが得られる。現在では、ATFは、組換えタンパク質産生(生物製剤)に大抵使用される細胞保持デバイスである。灌流は生物製剤製造プロセスについては十分に確立されているが、ウイルスベクターの拡大縮小可能な製造にはまだ利用可能でない。
【0043】
要約すると、本発明によるrAAV産生の灌流プロセスによって、安定なAAVプロデューサー細胞を用いた従来のバッチプロセスと比較して、より高い力価(vg/L)及びより高い細胞特異的ウイルス収率(vg/細胞)が可能になった。予想外に、安定なAAV産生システムで灌流を適用すると、従来のバッチプロセスと比較して、完全なウイルス粒子と空ウイルス粒子との比が劇的に増加した。また、AAVウイルスベクターの回収は、透過液の代わりに保持液(バルクでバイオリアクターから収集された全細胞懸濁液)から行うことができ、これは、引き続くAAV精製プロセスの量を劇的に低減させた。これにより、全体的なプロセスがより効率的になる。
【0044】
本発明で記載される十分に安定なAAVプロデューサープラットフォームの利用は、完全に一過性のアプローチと比較して、完全な粒子について同様のパーセンテージをもたらす。しかし、これは、バッチ又はフェドバッチアプローチにおけるAAV粒子の製造にしか当てはまらない。予想外に、灌流を利用する十分に安定なプロデューサー細胞システムを用いたAAVウイルスベクターの製造は、好都合なことに、参照バッチプロセスと比較して、完全な粒子のパーセンテージを最大で約10倍まで劇的に増加させる。したがって、例えばAEXクロマトグラフィーを利用することによる、引き続く完全な粒子の濃縮工程において、完全な粒子について75%以上という最終的な割合を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】疑似灌流モードでの振盪フラスコ(SF)における安定なCAP AAVプロデューサーの増殖を示すグラフである。A)高細胞密度までの振盪フラスコ(SF)1及び2(生物学的複製物)における培養の細胞増殖及び生存率。B)生物学的複製物の平均VCDを用いて計算した細胞特異的灌流速度(CSPR)。
【
図2】rAAV産生のためのATFベースの灌流プロセスの概略図である。新鮮な培地の連続的添加(供給)及び使用済培地の除去(透過)が行われる。ATF(交互接線流)を灌流デバイスとして示す。
【
図3】安定なCAP AAVプロデューサー細胞を用いたrAAV産生のためのATFベースの灌流プロセスを示すグラフである。灌流バイオリアクターにおけるCAP AAVプロデューサー細胞株の生細胞密度(VCD、実線)及び生存率(破線)。3回の独立の培養:実行1(◆)、2(◇)及び3(●)。灌流モードは、接種後3日目(灰色の垂直線)に開始する。rAAVの産生は、接種後7日目(垂直破線)に開始する。産生フェーズは、誘導後5日目まで行う。
【
図4】安定なCAP AAVプロデューサー細胞を用いたrAAV産生のための従来のバッチプロセスを示すグラフである。バッチモードでのバイオリアクターにおけるCAP AAVプロデューサー細胞株の生細胞密度(VCD、実線)及び生存率(破線)。2回の独立の培養:実行1(■)及び2(□)。rAAVの産生は、接種後3日目(垂直破線)に開始する。
【
図5】安定なCAP AAVプロデューサー細胞を用いた、バッチプロセスと比較した灌流モードでのrAAVの産生を示すグラフである。CAP AAVプロデューサー細胞株を用いて、灌流モードでの3回の実行及びバッチモードでの2回の実行を行った。A)qPCRによって決定したAAV8のゲノム力価。B)ELISAによって決定したカプシドの濃度。データは、誘導後5日目の2回のバッチプロセスの平均値に対して正規化される。
【
図6】安定なCAP AAVプロデューサー細胞を用いた灌流モードでの全カプシドのより高いパーセンテージを示すグラフである。バッチ参照プロセスとの比較。ゲノム力価(
図5A)対カプシド力価(
図5B)の比として、パーセンテージを計算した。データは、バッチの実行に対して正規化される。A)灌流モード(n=3)及びバッチモード(n=2)でのプロセスのタイムコース。nは生物学的反復の数を表す。B)全カプシドのデータは、生物学的反復の平均±標準偏差として表す。
【
図7】安定なCAP AAVプロデューサー細胞を用いた灌流モードでの細胞特異的ウイルス収率(CSVY)の増加を示すグラフである。バッチ参照プロセスとの比較。回収時のゲノム力価対誘導時の生細胞密度の比として、収率を計算した。データは、生物学的反復の平均±標準偏差として表す(灌流:n=3、バッチ:n=2)。データは、誘導後5日目のバッチに対して正規化される。
【
図8】灌流及びバッチで産生中のCAP由来AAV粒子の感染力を示すグラフである。データは、各産生の実行の誘導後3日目に対して正規化される。
【
図9】AAV産生フェーズの間のATFベースの灌流プロセスの中断が誘導後の生細胞密度及び細胞生存率の低下をもたらすことを示すグラフである。生細胞密度(VCD、実線)及び生存率(破線)。灌流モードは、接種後3日目(灰色の垂直線)に開始する。rAAVの産生は、接種後8日目(垂直破線)に開始する。産生フェーズは、誘導後4日目までバッチモードで行う。
【
図10】AAV産生フェーズの間のATFベースの灌流プロセスの中断がAAVの力価の劇的な低下をもたらすことを示すグラフである。qPCRによって決定したAAV8のゲノム力価。回収時に測定した高細胞密度(HCD)バッチの力価。データは、誘導後5日目の従来の低細胞密度(LCD)バッチに対して正規化される。
【
図11】安定なHEK293 AAVプロデューサープール細胞を用いた、安定なrAAV産生のためのATFベースの灌流プロセスを示すグラフである。灌流バイオリアクター(◆)における安定なHEK293 AAVプロデューサープールの生細胞密度(VCD、実線)及び生存率(破線)。灌流は、接種後3日目(灰色の垂直線)に開始する。rAAVの産生は、接種後6日目(垂直破線)に開始する。産生フェーズは誘導後4日目まで続く。
【
図12】バッチモードで安定なHEK293 AAVプロデューサープール細胞を用いた、安定なrAAV産生を示すグラフである。バッチ振盪フラスコ(□)における安定なHEK293 AAVプロデューサープールの生細胞密度(VCD、実線)及び生存率(破線)。バッチモードでの産生は接種後3日目(垂直破線)に開始し、誘導後5日目まで行う。
【
図13】安定なHEK293 AAVプロデューサープール細胞を用いた灌流モードでのrAAVの産生を示すグラフである。灌流モードでの1回の実行及びバッチモードでの1回の実行。A)qPCRによって決定したAAV8のゲノム力価。B)ELISAによって決定したカプシドの濃度。データは、バッチ対照の誘導後3日目に対して正規化される。
【
図14】安定なHEK293 AAVプロデューサープール細胞を用いた灌流モードでの細胞特異的ウイルス収率(CSVY)の増加を示すグラフである。ピークゲノム力価対誘導時の生細胞密度の比として、収率を計算した。結果は、バッチ対照に対して正規化される。
【
図15】安定なHEK293 AAVプロデューサープール細胞を用いた灌流モードでの全カプシドのより高いパーセンテージを示すグラフである。正規化したゲノム力価(
図13A)対正規化したカプシド力価(
図13B)の比として、パーセンテージを計算した。データは、バッチ対照に対して正規化される。
【
図16】AEXの実行の様々な画分からのAAV粒子のSyproRuby染色によって約1:1:10のVP1対VP2対VP3の比が明らかになることを示す写真である。2回の異なるAEXの実行の様々な画分からのカプシドをSyproRuby染色によって可視化した。
【
図17】AEX精製後の完全対空の比を示すグラフである。ELISAによるウイルス粒子及びqPCRによるウイルスゲノム力価の決定後、ATF灌流を利用するAAV産生からの2回のAEXの実行に由来する様々な画分の完全粒子対空粒子の比を計算した。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、以下のヌクレオチド配列に関する:
配列番号1
SV40ポリAフォワードプライマー
AGCAATAGCATCACAAATTTCACAA
配列番号2
SV40ポリAリバースプライマー
CCAGACATGATAAGATACATTGATGAGTT
配列番号3
SV40ポリAプローブ
AGCATTTTTTTCACTGCATTCTAGTTGTGGTTTGTC
配列番号4
GFPフォワードプライマー
TTCTTCAAGTCCGCCATGCC
配列番号5
GFPリバースプライマー
AAGTCGATGCCCTTCAGCTC
配列番号6
GFPプローブ
CGCACCATCTTCTTCAAGGACGACGGCAACTACA
【0047】
以下の実施例によって本発明を更に説明するが、本発明はそれらに限定されない。
【実施例】
【0048】
実験手順
プロデューサー細胞株:
AAVの産生に必要な全ての成分を有する安定なAAVプロデューサー細胞株を灌流プロセスの開発のために選択した。(1)CAP細胞に基づく細胞株及び(2)HEK293細胞に基づく細胞株の2つの細胞株を使用した。
(1)血清型特異的カプシド(AAV8)の誘導因子Tet3G、誘導性レプリカーゼ、誘導性ヘルパー(E2A、E4orf6)、VA-RNA、VP1、VP2及びVP3並びにITR隣接性の目的の遺伝子(GOI)GFPに対する配列を含む、安定なCAP AAVプロデューサー単一細胞クローン。また、Ad5ヘルパー遺伝子E1A及びE1Bは、CAP細胞がこれらによって既に不死化されていたように、CAP細胞に既に安定して組み込みこまれている。
(2)血清型特異的カプシド(AAV8)の誘導因子Tet3G、誘導性レプリカーゼ、誘導性ヘルパー(E2A、E4orf6)、VA-RNA、VP1、VP2及びVP3並びにITR隣接性の目的の遺伝子(GOI)GFP-ルシフェラーゼに対する配列を含む、安定なHEK293 AAVプロデューサープール。また、Ad5ヘルパー遺伝子E1A及びE1Bは、HEK細胞がこれらによって既に不死化されていたように、HEK細胞に既に安定して組み込みこまれている。
【0049】
細胞培養:
(1)通常の培養については、振盪インキュベーターにおいて37℃、5%CO2及び120rpm~185rpmで、非バッフル振盪フラスコにおいて、4mM GlutaMAX(Gibco)が補充されたタンパク質発現培地(PEM)(Life Technologies/Gibco)中でCAP細胞を培養した。3日~4日ごとに、0.5×106細胞/mL~1×106細胞/mLの生細胞密度にするように、新鮮な培地でルーチン的に細胞を継代した。
(2)通常の培養については、振盪インキュベーターにおいて、37℃、5%CO2及び170rpm~200rpmで、非バッフル振盪フラスコにおいて、4mM GlutaMAX(Gibco)が補充されたタンパク質発現培地(PEM)(Life Technologies/Gibco)中で、HEK293細胞を培養した。2日~3日ごとに、0.3×106細胞/mL~0.5×106細胞/mLの生細胞密度にするように、新鮮な培地でルーチン的に細胞を継代した。
【0050】
安定なAAV産生プラットフォームを利用するAAVの産生:
培養へのドキシサイクリンの添加により、AAV産生を誘導した。
【0051】
ウイルス力価を決定するためのqPCR:
SV40ポリA又はGOI(GFP)に対する以下のプライマー/二重標識プローブの組合せ(MWG、Eurofins;表1)を使用して、ウイルス力価を測定した。
【0052】
【0053】
標準として、定義されたコピー数を有する直鎖状導入遺伝子プラスミドを使用した。qPCR反応は以下の成分を含んでいた:2×Brilliant Multiplex qPCR Master Mix(Agilent)、ヌクレアーゼフリーH2O(Thermo Fisher Scientific)、プライマー/プローブ混合物及び試料/標準物質。qPCRは、製造者の指示書に従ってAgilent Mx3005Pで実行した。
【0054】
アセンブルされたカプシドに対するELISA:
アセンブルされたカプシドに対して特異的なELISAは、製造者の指示書に従って市販のELISAキット(Progen)を用いて行った。
【0055】
SDS-PAGE及びSyproRuby染色:
カプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3の比を決定するために、カプシドタンパク質をSDS PAGEで分離し、SyproRuby染色によって可視化した。手短に言えば、試料を4×LDS緩衝液と混合し、次いで、ドライヒートブロック中にて10分間70℃でインキュベートした。チューブを遠沈し、10μLの試料をウェルにロードした。MES SDS緩衝液中にて200Vで40分間、4%~12%ビス-トリスゲルを流した。SyproRuby染色は、染色溶液中での一晩のインキュベーション、それに続く、10%メタノール、7%酢酸中での30分間の洗浄工程及びddH2O中での最終的な洗浄によって行った。
【0056】
陰イオン交換クロマトグラフィーによる完全なAAV粒子と空のAAV粒子の分離:
全細胞懸濁可溶化液からのAAV粒子をクロマトグラフィーによって濃縮した。完全対空の分離は、陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを利用することによって達成した。
【0057】
実施例1:
疑似灌流実験(細胞増殖)
大抵の細胞培養培地を使用した場合、細胞生存率を維持し、細胞増殖を持続するために、細胞密度が高いほど速い灌流速度を必要とする。細胞密度は産生プロセスの間に変化するので、細胞特異的灌流速度(CSPR)は、細胞密度に基づいた、全プロセス中の灌流速度の決定要因である。
【0058】
CSPRは、連続プロセスにおける1日ごとの細胞あたりの栄養素供給を示す:
CSPR=P/VCD
式中、P=灌流速度(1/日)であり、VCD=生細胞密度(1×106細胞/mL)である。
【0059】
灌流バイオリアクタープロセスについてCSPRを決定するために、安定なCAP AAVプロデューサー(単一細胞クローン)を、非バッフル振盪フラスコにおいて4mM GlutaMAXを含むPEM中で振盪フラスコにて培養した。培養3日目から毎日培地を交換した。遠心分離してから、使用済培地を捨てた。次いで、等量の新鮮な培地に細胞ペレットを再懸濁した、すなわち、生存率の低下が観察されるまで灌流速度を1vvdで維持した。
【0060】
指数関数的な細胞増殖及び高い生存率(90%超)が7日目まで観察され、これらは、20×10
6細胞/mLのVCD及び約0.05nL/細胞/日のCSPRに対応した(
図1)。これらのパラメーターを、灌流バイオリアクターに対するスケールアップの目標として選択した。灌流培地として補充されるPEM培地を使用してより高い細胞密度を持続するために、より速い灌流速度が適用されるべきである。
【0061】
実施例2:
安定なCAP AAVプロデューサー単一細胞を使用した灌流モードでのAAV産生
従来のバッチプロセスと比較してATFベースの灌流を使用する利点を評価するために、バッチプロセスで又はATFベースの灌流プロセスとしてのいずれかで、安定なCAP AAVプロデューサー細胞を用いたAAV産生を行った。制御条件下の撹拌槽バイオリアクター中で両方とも行った。
【0062】
従来のバッチプロセス:
細胞は、撹拌槽バイオリアクター、例えば、使い捨ての10c容器(Eppendorf)容器、BioFlo320システム(Eppendorf)中で培養した。4mM GlutaMAXが補充されたPEM培地中の匹敵する低細胞密度(0.5×106細胞/mL~1×106細胞/mL)でバイオリアクターに接種した。このプロセスはバッチモードで操作した。AAV産生のための目標生細胞密度に細胞が増殖した後(典型的には、播種後3日目)、1μg/mLドキシサイクリンを用いてAAV産生の産生を開始した。
【0063】
灌流の構成:
ATFベースの灌流の構成は、ATFユニットに接続された撹拌槽バイオリアクターからなっていた。細胞は、撹拌槽バイオリアクター、例えば、使い捨ての3c容器(Eppendorf)容器、BioFlo320システム(Eppendorf)中で培養した。
【0064】
灌流ベースのAAVプロセス:
4mM GlutaMAXが補充されたPEM培地中の匹敵する低細胞密度(0.5×106細胞/mL~1×106細胞/mL)でバイオリアクターに接種した。このプロセスはバッチモードで3日間操作した。その後、約0.05nL/細胞/日~約0.10nL/細胞/日の細胞特異的灌流速度(CSPR)に従って、灌流を開始し、補充されたPEM培地を供給した。細胞が約20×106生細胞/mLに増殖した後(7日目)、1μg/mLドキシサイクリンを用いてAAV産生を誘導した。産生フェーズの間、灌流速度を約1vvdでほぼ一定に維持した。
【0065】
3回の灌流の実行において20×10
6細胞/mLへの頑強な細胞増殖が観察された(
図3)。灌流バイオリアクターにおける細胞増殖は、振盪フラスコにおける半灌流実験(
図1)に匹敵した。バッチプロセスと比較して、誘導時のVCDのおよそ5倍の増加が観察された(
図4)。
【0066】
灌流モードでは、ゲノム力価(vg/mL)が異常に高かった(
図5)。最大力価を考慮すれば、参照バッチプロセス(2回の独立の培養の平均)と比較して、CAP灌流プロセスで42倍の増加が得られた(3回の独立の培養の平均)。これは、より高いVCDが部分的な理由であるが、更に重要なことに、灌流で平均して9倍高い、細胞特異的ウイルス収率(vg/細胞)の有意な増加が理由である(
図7)。
【0067】
予想外に、完全な粒子の割合もバッチプロセスと比較して灌流プロセスで有意に増加した(
図6)。灌流における完全な粒子の最大パーセンテージ(およそ4d.p.i.)は、同じ時点の参照バッチプロセスで得られた値と比較して約10倍高かった。3回の灌流の実行と2回のバッチの実行のデータを比較すると、平均して、完全なAAV粒子の最大パーセンテージは灌流の実行について9.3倍高かった。灌流環境がより良好なAAVベクターDNA増幅に、又はAAV粒子中へのウイルスゲノムのパッケージングの増加に寄与することが、考えられる説明であり得る。
【0068】
形質導入アッセイによって感染性AAV粒子を決定した。形質導入単位(TU)対ウイルスゲノム(VG)の比を計算した(TU:VG)。バッチの実行2については、誘導後3日目~6日目(d.p.i.)にTU:VGを決定した。最大値は3d.p.i.に得られた。灌流の実行1及び2についても、最大値は3d.p.i.に得られた。したがって、各実施について、各試料のTU:VGの比を3d.p.i.に対して正規化した。
【0069】
結果(
図8)は、バッチと比較して、灌流モードにおいてより高い感染力が経時的に維持されたことを示唆する。誘導後3日目~5日目の間に、バッチでは感染性AAV粒子の約30%が感染力を失ったが、灌流モード(1vvd)では、同じ期間で18%未満の喪失であった。
【0070】
実施例3:
高細胞密度CAPプロデューサー細胞培養の生成のためのATF灌流の利用
細胞特異的生産性の有意な増加、容積力価(volumetric titer)の増加及び完全な粒子のパーセンテージの増加が主にAAV産生の誘導前の灌流モードによるものであったかどうかを確認するために、以下の実験を行った。20×106細胞/mLの目標生細胞密度が達成されるまで、実施例2に記載されているように、Nバイオリアクター中にて灌流モードで細胞を培養した。しかし、ドキシサイクリン誘導によるAAV産生の誘導の直後に、灌流を止め、バッチモードで産生フェーズを操作した。これは、更なる培地交換が産生フェーズで行われなかったことを意味する。
【0071】
灌流の構成:
ATFベースの灌流の構成は、ATFユニットに接続された撹拌槽バイオリアクターからなっていた。細胞は、撹拌槽バイオリアクター、例えば、使い捨ての3c容器(Eppendorf)容器、BioFlo320システム(Eppendorf)中で培養した。
【0072】
灌流/バッチAAVプロセス:
4mM GlutaMAXが補充されたPEM培地中の匹敵する低細胞密度(0.5×106細胞/mL~1×106細胞/mL)でバイオリアクターに接種した。このプロセスはバッチモードで3日間操作した。その後、約0.05nL/細胞/日~約0.10nL/細胞/日の細胞特異的灌流速度(CSPR)に従って、灌流を開始し、補充されたPEM培地を供給した。細胞が約20×106生細胞/mLに増殖した後、1μg/mLドキシサイクリンを用いてAAV産生を誘導した。誘導後、灌流を止めた。
【0073】
灌流培養は以前の実行(
図3)と同じ増殖プロファイルに従い、誘導の時点で2.0×10
6細胞/mLに達した(
図9)。操作モードをバッチに変えた後、細胞濃度は誘導後24時間の間維持された。続いて、細胞濃度及び生存率の激しい低下があった。興味深いことに、容積生産性及び細胞特異的生産性は極度に低く、誘導後4日目のゲノム力価は参照バッチプロセスと比較して約40倍低かった(
図10)。この結果は、単に誘導前の灌流モードだけでなく、したがって、誘導時点の生細胞密度の増加が、前述の容積生産性、細胞特異的生産性の驚くべき増加、及び完全なAAV粒子のパーセンテージの増加に関与することを示す(実施例2)。
【0074】
本実施例(実施例3)の結果は、灌流モードが誘導後更に、したがって、全産生フェーズの間続けられる場合のみ、細胞の持続可能性が確かなものとなり、高い細胞特異的ウイルス収率及び完全なAAV粒子のパーセンテージの増加をともなう効率的なAAV産生が得られることを明白に示す。
【0075】
実施例4:
AAV産生のために安定なHEK293 AAVプロデューサー細胞を使用した灌流モード
細胞特異的ウイルス収率、容積生産性及び完全なAAV粒子のパーセンテージの増加に関する灌流プロセスの有益効果は、安定なCAP AAVプロデューサー細胞(実施例2)に限定されるのではなくて、他のAAV産生システムに移行させることができることを実証するために、本実験を行った。したがって、安定なHEK293 AAVプロデューサープールについて同様の灌流プロセスを開発した。さらに、内部対照として、振盪フラスコ中で培養し、バッチモードで操作するHEK293 AAVプロデューサープール細胞を使用して、AAVを産生した。
【0076】
バッチプロセス:
細胞は、30mLの培養量で125mLの非バッフル振盪フラスコ中で培養した。4mM GlutaMAXが補充されたPEM培地中の匹敵する低細胞密度(0.5×106細胞/mL~1.0×106細胞/mL)で培養物に接種した。このプロセスはバッチモードで操作した。3日間の細胞増殖期間後、1μg/mLドキシサイクリンを用いてAAV産生の産生を開始した。
【0077】
灌流の構成:
ATFベースの灌流の構成は、ATFユニットに接続された撹拌槽バイオリアクターからなっていた。細胞は、撹拌槽バイオリアクター、例えば、使い捨ての3c容器(Eppendorf)容器、BioFlo320システム(Eppendorf)中で培養した。
【0078】
灌流ベースのAAVプロセス:
4mM GlutaMAXが補充されたPEM培地中の匹敵する低細胞密度(0.5×106細胞/mL~1×106細胞/mL)でバイオリアクターに接種した。このプロセスはバッチモードで3日間操作した。その後、約0.05nL/細胞/日~約0.10nL/細胞/日の細胞特異的灌流速度(CSPR)に従って、灌流を開始し、補充されたPEM培地を供給した。細胞が約20×106生細胞/mLに増殖した後(7日目)、1μg/mLドキシサイクリンでAAV産生を誘導した。産生フェーズの間、灌流速度を約1.25vvdでほぼ一定に維持した。
【0079】
高い生存率をともなって灌流において20×10
6細胞/mLへの細胞増殖が誘導前に観察され(
図11)、これは、バッチの誘導時の生細胞密度のおよそ6倍に相当した(
図12)。
【0080】
実施例2において安定なCAP AAVプロデューサー単一細胞について既に見られたように、全産生フェーズ(すなわち、AAV産生の誘導の前後)の間、安定なHEK293 AAVプロデューサープール細胞を灌流モードで培養することによって、約30倍という容積生産性の莫大な増加(
図13)を達成することができた。再度、容積生産性の増加は、誘導時点の生細胞数の増加がたったおよそ6倍であったので、単に誘導時点の生細胞数の増加によるものではない。したがって、全体的な力価の増加は、バッチモードと比較して、灌流モードにおいて5倍高い細胞特異的ウイルス収率によって達成された(
図14)。
【0081】
安定なCAP AAVプロデューサー単一細胞について見られるように(実施例2)、安定なHEK293 AAVプロデューサープール細胞を用いた灌流プロセスは、バッチプロセスと比較して、完全なAAV粒子の割合をおよそ4倍増加させる(
図15)。CAP灌流プロセスと比較した場合の安定なHEK293灌流プロセスに関するより低い倍数増加は、HEK293プロセスについては多クローン性のプールが利用され、一方でCAP灌流プロセスについては単クローン性の単一細胞クローンが利用されたという事実による可能性が最も高い。
【0082】
実施例5:
AEXを介した灌流材料からの完全なAAV粒子の濃縮
予想外に、十分に安定なAAVプロデューサーCAP細胞株を用いたAAV粒子の産生にATF灌流を適用することで、従来のバッチプロセスと比較して、完全な粒子の比において有意な約9倍の増加を達成することができることが見出された。
【0083】
既により高いパーセンテージの完全な粒子から始めて、AEXクロマトグラフィーを利用した完全な粒子の更なる濃縮も達成することができるかどうかを試験するために、以下の実験を行った。
【0084】
安定なCAP AAVプロデューサー細胞を用いた灌流の実行の保持液由来の細胞懸濁液(実施例2)を溶解し、クロマトグラフィーによってAAV粒子を濃縮した。次いで、AAV粒子を含むプール画分を陰イオン交換クロマトグラフィーにかけた。溶出勾配において、灌流AEX実行1の画分2及び灌流AEX実行2の画分5~画分7に完全なAAV粒子が濃縮された(
図16)。
【0085】
図16に示すように、灌流プロセスからの材料の分離は、最大で78%までの完全な粒子のパーセンテージをもたらした。
【0086】
カプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3の比を決定するために、2回の別々のAEX実験からの様々な画分をSDS PAGEで分離し、SyproRuby染色によって可視化した。
図17に示すように、両方の実験の全ての画分にわたって、3種のカプシドタンパク質は、約1:1:10という期待される比を示し、これは、灌流プロセスがAAVカプシドの組成を変化させていないことを証明する。
【0087】
要約すると、これは、ATF灌流を用いて開発されたプロセスが、最終的な生成物において完全なAAV粒子の高いパーセンテージを保証するための傑出した方法であることを証明する。
【0088】
考察:
本発明は、細胞特異的ウイルス収率が、バッチプロセスと比較して、本発明による灌流プロセスで有意に増加したことを明確に示す(
図7)。これは、本発明で見られる力価の増加は、誘導時点の生細胞密度の増加が理由だけでなく、細胞あたりの力価の増加も理由であることを証明する。
【0089】
さらに、実施例3並びに
図9及び
図10は、灌流プロセスによるドキシサイクリンを介したAAV産生の誘導の前に生細胞密度が増加したが、誘導直後に灌流プロセスを止めた灌流プロセスを示す。したがって、AAVの産生は高細胞密度のバッチプロセスの状態にあり、これは、生産性の増加は、誘導時点の高細胞密度によるだけでなく、その後の灌流プロセスも理由であったことを証明する。
【0090】
さらに、実施例4及び
図11~
図15は、安定なHEK293 AAVプロデューサー細胞を用いた本発明による灌流プロセスを示し、これは、AAV生産性(容積及び細胞特異的)の増加並びにより高い完全対空の比によるAAVの品質の向上は、CAP細胞に限定されず、別の細胞株、すなわちHEK293でも再現性があることを証明する。
【0091】
したがって、本発明は、好都合なことに、本発明の方法における細胞特異的生産性の増加だけでなく、完全なAAV粒子対空のAAV粒子の増加も提供し、これらの両方とも予想外であり、驚くべきことである。これらの有利な特性は、
図9及び
図10に示すように単なる全細胞数の増加によるものではなく、誘導後の灌流の継続に起因するものである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-07-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)安定なAAVプロデューサー宿主細胞株を準備する工程であって、AAVの産生に必要な成分をコードする少なくとも幾つかの又は全ての遺伝子が、宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、工程と、
(b)AAV産生工程の間(すなわち、N工程の間)に前記細胞を灌流培養で培養する工程であって、前記灌流培養が、使用済培地の新鮮な培地との連続的な置換を包含し、使用済培地の新鮮な培地との前記連続的な置換がAAV産生の誘導後に続く、工程と、
を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)を産生する方法
であって、
少なくとも以下の遺伝子:
AAV Repタンパク質Rep78又はRep68をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52又はRep40をコードする遺伝子、並びに、
アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子、
が前記宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、方法。
【請求項2】
少なくとも以下の遺伝子:
AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep78又はRep68をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52又はRep40をコードする遺伝子、
アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6及びE2Aをコードする遺伝子、並びに、
AAV ITRが隣接する目的の遺伝子(GOI)、
が前記宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記AAVが、AAV血清型1(AAV1)、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAVDJ、AAVDJ8、AAVrh10、2つ以上の異なる前記血清型の混成物及びAAV血清型の向性を変化させる突然変異を有する前記血清型からなる群から選択される、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記AAVの産生に必要な成分をコードする遺伝子が、AAV Capタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする遺伝子;AAV Repタンパク質Rep78、Rep68、Rep52及びRep40をコードする遺伝子;アデノウイルスのヘルパー機能E4orf6、E2A及びVA-RNAをコードする遺伝子;Ad5ヘルパー遺伝子E1A及びE1Bをコードする遺伝子;並びにAAV逆位末端反復配列(ITR)が隣接する目的の遺伝子(GOI)からなる群から選択される、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
以下の更なる遺伝子:
AAV Repタンパク質Rep78とRep68との両方をコードする遺伝子、
AAV Repタンパク質Rep52とRep40との両方をコードする遺伝子、及び、
アデノウイルスのヘルパー機能E1A、E1Bのいずれか一方又は両方をコードする1つの遺伝子又は複数の遺伝子、
が、前記宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記安定なAAVプロデューサー宿主細胞株が、CAP細胞、AGE1.hn細胞、HEK293細胞、PER.C6細胞、NSO1細胞、COS-7細胞、BHK細胞、CHO細胞、CV1細胞、VERO細胞、HeLa細胞、MDCK細胞、BRL3A細胞、W138細胞及びHepG2細胞からなる群から選択される細胞株である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
灌流培養が、撹拌槽バイオリアクター(STR)、軌道振盪バイオリアクター(OSB)、ロッキングベッドバイオリアクター、エアリフトバイオリアクター、管状バイオリアクター、中空糸バイオリアクター(HFBR)、固定床バイオリアクター又は流動床バイオリアクター中で実施される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
灌流培養に使用される灌流デバイスが、TFF(接線流濾過)モード又はATF(交互接線流)モードで使用される中空糸フィルター;浮遊膜、スピンフィルター、回転筒状フィルター、回転ディスクフィルター、遠心分離機、重力沈降機、ラメラ沈降機、小型細胞沈降機、アコースティック沈降機又は液体サイクロンである、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
灌流培養のために使用される前記灌流デバイスがATFモードで使用される中空糸フィルターである、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
使用済培地の新鮮な培地との前記連続的な置換が、AAV産生の誘導後少なくとも24時間、少なくとも48時間又は少なくとも72時間にわたって、及び/又はAAVの回収まで続く、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
細胞特異的灌流速度(CSPR)が約0.01nL/細胞/日~約0.20nL/細胞/日である、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記灌流速度が約1vvd(新鮮な培地の量/リアクターの作業量/日)~約20vvdである、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記灌流培養の播種時の細胞密度が約0.5×10
6細胞/mL~約5×10
6細胞/mLである、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
AAV産生の誘導時点の細胞密度が約20×10
6細胞/mL以上である、請求項1~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記灌流培養の保持液からAAVを回収する工程を更に含む、請求項1~
14のいずれか一項に記載の方法。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
本発明の文脈において使用されるGOIは特に限定されず、例えば、眼疾患、失明疾患、筋疾患、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、GM2ガングリオシドーシス及び脊髄小脳失調型、ALS、ハンチントン病、X連鎖重症複合免疫不全(X-SCID)、アデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA-SCID)、中枢神経系疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、肝疾患、肝臓酵素オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症、レーバー先天黒内障、血友病、β-サラセミア、癌疾患、頭頸部癌、転移性黒色腫、心疾患、肺疾患又は嚢胞性線維症、ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)、異染性白質ジストロフィー(MLD)及び重症リポタンパク質リパーゼ欠損障害(LPLD)、感染症、重症複合免疫不全症候群、HIV感染症、ニーマン・ピック病C型及びオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症をはじめとする希少疾患の治療のための、AAVベクターの受容者へのその移行が目的である任意の遺伝子を含む。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
細胞分離のための様々なメカニズム:沈降(重力又は遠心力場の下)、超音波場下の凝集(それに続く沈降)及び濾過を使用した、様々な灌流デバイスを使用することができる。したがって、分離効率はデバイスの選択に依存する。例は、遠心分離機、重力沈降機(ラメラ沈降機、小型細胞沈降機)、アコースティック沈降機(別名、アコースティックフィルター)、液体サイクロン及びフィルターである。濾過は以下の様々なストラテジー下で操作される:TFF(接線流濾過)及びATF(交互接線流)、浮遊膜、スピンフィルター及び回転筒状フィルター(別名、渦流フィルター又は外部スピンフィルター)並びに回転ディスクフィルター(別名、制御剪断フィルター)。様々なタイプのフィルターの中で、TFF及びATFが灌流のために一般に使用される。両方の場合で、フィルター膜を備える中空糸モジュールが使用される。ATFの場合には、ダイヤフラムポンプを介して二方向の流れが得られる。現在では、ATFは、組換えタンパク質産生(生物製剤)に大抵使用される細胞保持デバイスである。灌流は生物製剤製造プロセスについては十分に確立されているが、ウイルスベクターの拡大縮小可能な製造にはまだ利用可能でない。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0062
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0062】
従来のバッチプロセス:
細胞は、撹拌槽バイオリアクター、例えば、使い捨ての10c容器(Eppendorf)、BioFlo320システム(Eppendorf)中で培養した。4mM GlutaMAXが補充されたPEM培地中の匹敵する低細胞密度(0.5×106細胞/mL~1×106細胞/mL)でバイオリアクターに接種した。このプロセスはバッチモードで操作した。AAV産生のための目標生細胞密度に細胞が増殖した後(典型的には、播種後3日目)、1μg/mLドキシサイクリンを用いてAAV産生を開始した。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0063
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0063】
灌流の構成:
ATFベースの灌流の構成は、ATFユニットに接続された撹拌槽バイオリアクターからなっていた。細胞は、撹拌槽バイオリアクター、例えば、使い捨ての3c容器(Eppendorf)、BioFlo320システム(Eppendorf)中で培養した。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0071
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0071】
灌流の構成:
ATFベースの灌流の構成は、ATFユニットに接続された撹拌槽バイオリアクターからなっていた。細胞は、撹拌槽バイオリアクター、例えば、使い捨ての3c容器(Eppendorf)、BioFlo320システム(Eppendorf)中で培養した。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0076
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0076】
バッチプロセス:
細胞は、30mLの培養量で125mLの非バッフル振盪フラスコ中で培養した。4mM GlutaMAXが補充されたPEM培地中の匹敵する低細胞密度(0.5×106細胞/mL~1.0×106細胞/mL)で培養物に接種した。このプロセスはバッチモードで操作した。3日間の細胞増殖期間後、1μg/mLドキシサイクリンを用いてAAV産生を開始した。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0077
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0077】
灌流の構成:
ATFベースの灌流の構成は、ATFユニットに接続された撹拌槽バイオリアクターからなっていた。細胞は、撹拌槽バイオリアクター、例えば、使い捨ての3c容器(Eppendorf)、BioFlo320システム(Eppendorf)中で培養した。
【国際調査報告】