(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-09
(54)【発明の名称】耐食性のねじロックワッシャ
(51)【国際特許分類】
F16B 43/00 20060101AFI20230427BHJP
【FI】
F16B43/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513660
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2021054845
(87)【国際公開番号】W WO2021190857
(87)【国際公開日】2021-09-30
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522076088
【氏名又は名称】テッケントループ ゲー・エム・ベー・ハー プルス コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】teckentrup GmbH + Co. KG
【住所又は居所原語表記】Elsetalstr. 6-10, 58849 Herscheid, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フォルボアト
【テーマコード(参考)】
3J034
【Fターム(参考)】
3J034AA07
3J034AA13
3J034BA03
3J034BA08
(57)【要約】
本発明は、ねじ頭と平坦な支持体(5)との間に配置するための、環状の特殊鋼製ワッシャ本体を備えた耐食性のねじロックワッシャであって、ワッシャ上面(6)と、ワッシャ下面(1)とを有している、ねじロックワッシャに関する。ワッシャ本体のワッシャ上面(6)およびワッシャ下面(1)の表面が、スタンピングプロセスによって圧縮されており、ワッシャ本体は、少なくとも1.5mmの材料厚さを有し、凸状に形成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ頭と平坦な支持体(5)との間に配置するための、環状の特殊鋼製ワッシャ本体を備えた耐食性のねじロックワッシャであって、ワッシャ上面(6)と、前記支持体の方へ向いた側のワッシャ下面(1)とを有する、ねじロックワッシャにおいて、
前記ワッシャ本体の前記ワッシャ上面(6)および前記ワッシャ下面(1)の表面が、スタンピングプロセスによって圧縮されており、前記ワッシャ本体は、少なくとも1.5mmの材料厚さを有し、凸状に形成されていることを特徴とする、ねじロックワッシャ。
【請求項2】
前記ワッシャ本体は、少なくとも2.0mm、好適には少なくとも2.5mmの材料厚さを有することを特徴とする、請求項1記載のねじロックワッシャ。
【請求項3】
前記ワッシャ本体の前記上面(6)および前記下面(1)の前記表面のうちの少なくとも一方の表面、好適には両表面が、刻み目(7)を備えていることを特徴とする、請求項1または2記載のねじロックワッシャ。
【請求項4】
前記ワッシャ本体の前記上面(6)および前記下面(1)の前記両表面は、刻み目深さおよび/または刻み目パターンに関して互いに異なる前記刻み目(7)を備えていることを特徴とする、請求項3記載のねじロックワッシャ。
【請求項5】
前記特殊鋼製ワッシャ本体は、DIN EN 10027-2:2015-7に準拠した材料番号1.4401または1.4301の特殊鋼から製作されていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のねじロックワッシャ。
【請求項6】
前記ねじロックワッシャの、前記支持体(5)の方へ向いた側の前記下面(1)に、外側の環状区分面(2)および内側の環状区分面(3)が互いに角度を成して配置されており、前記外側の環状区分面(2)の外縁は、前記ワッシャが締め付けられていない状態では前記支持体(5)に載置しており、両前記環状区分面(2,3)は、前記支持体(5)に対してそれぞれ鋭角を成しており、前記外側の環状区分面(2)と前記支持体(5)との間に形成された角度αは、好適には、前記内側の環状区分面(3)と前記支持体(5)との間に形成された角度βよりも大きいことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載のねじロックワッシャ。
【請求項7】
前記ワッシャ本体の前記上面(6)および前記下面(1)の前記両表面のうちの少なくとも一方の表面が研磨されていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載のねじロックワッシャ。
【請求項8】
前記外側の環状区分面(2)と前記支持体(5)との間の鋭角αは、締め付けられていない状態では、10°~20°、好ましくは12°~15°であり、前記内側の環状区分面(3)と前記支持体(5)との間の鋭角βは、締め付けられていない状態では、3°~15°、好ましくは5°~10°であることを特徴とする、請求項6または7記載のねじロックワッシャ。
【請求項9】
両前記環状区分面(2,3)の間の、前記平坦な支持体(5)の方へ向いた側の角度γが鈍角であることを特徴とする、請求項6から8までのいずれか1項記載のねじロックワッシャ。
【請求項10】
前記内側の環状区分面(3)と前記平坦な支持体(5)との間の前記鋭角βは、締め付けられていない状態では、前記外側の環状区分面(2)と前記平坦な支持体(5)との間の前記鋭角αのほぼ半分の大きさであることを特徴とする、請求項6から9までのいずれか1項記載のねじロックワッシャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ頭と平坦な支持体との間に配置するための、環状の特殊鋼製ワッシャ本体を備えた耐食性のねじロックワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
ねじロックワッシャは、ねじ結合部材における弛緩現象を阻止するという役割を有している。このような弛緩現象は、互いにねじ締結された部品における永久歪み現象および/またはクリープ現象の結果として発生する、ねじ結合部材におけるプリロード力の損失から生じる。
【0003】
この種の弛緩現象に対抗するために、ねじロックワッシャはばね弾性作用を有している。ねじロックワッシャのばね力は、ねじ結合部材の運用信頼性に必要なクランプ力が維持され続ける限り、ねじロックワッシャが永久歪み現象および/またはクリープ現象によって生じたプリロード力の損失を補償することができるように設定されていなければならない。
【0004】
防食への要求が特に食品分野でも高まるにつれて、特殊鋼製のねじ結合部材が使用されている。ねじロック要素は、特殊鋼製ねじに結合する場合には、同様に特殊鋼から製作されている。特殊鋼の良好な防食特性に加えて、ねじロック要素の同じ電位によって、接触腐食が回避される。
【0005】
特殊鋼は、基本的に極めてわずかなばね作用しか有していない。特有の特殊鋼合金の場合には、熱処理工程によってばね作用の向上を実現することができる。この特有の特殊鋼合金および熱処理工程は、一方では極めて高価であり、他方では熱処理工程によって腐食特性に不利な影響が及ぼされる。特に、結果として達成可能なばね特性は、通常、課された要求を満たすには不十分である。このような背景から、熱処理された特殊鋼材料は、ねじロック要素用に実際にはほとんど使用されない。
【0006】
DIN EN 10027-2:2015-07に準拠した材料番号1.4301または1.4401の特殊鋼(X5CrNi18-10またはX5CrNiMo17-12-2)は、良好なまたは極めて良好な腐食特性を備えたばね弾性的な特殊鋼として使用されることが多い。この特殊鋼では、帯材の圧延時の加工硬化によって表面の硬化が生ぜしめられる。この硬化により、1mmまでの薄い鋼板厚さの場合には、限定されたばね作用が得られ、鋼板厚さが減少するにつれて、このばね作用が増加する。この材料で注目すべきなのは、この材料が加工硬化されて、より大きな厚さの場合には、極めて限定されたばね作用しか有しておらず、このばね作用がねじ結合部材における永久歪みを補償するには不十分であるということである。加工硬化の後、この材料は、もはや限定された範囲でしか後続処理することができないかまたは変形加工することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、本発明について述べることとする。本発明の根底にある課題は、防食への要求が高い場合であっても、たとえば食品分野において使用可能であり、高いばね作用を有し、廉価に製作可能である、特殊鋼製ワッシャ本体を備えた耐食性のねじロックワッシャを提供することである。本発明によれば、この課題は、請求項1の特徴部に記載の特徴を備えたねじロックワッシャによって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって、防食への要求が高い場合であっても、たとえば食品分野において使用可能であり、高いばね作用を有し、廉価に製作可能である、特殊鋼製ワッシャ本体を備えた耐食性のねじロックワッシャが提供される。ワッシャ本体のワッシャ上面およびワッシャ下面の表面がスタンピングプロセスによって圧縮されており、ワッシャ本体が少なくとも1.5mmの材料厚さを有し、ワッシャ本体が凸状に形成されていることにより、ねじ結合部材のプリロード力を維持する目的で永久歪みの影響を補償するための高いばね弾性作用が達成される。十分な大きさで寸法設定することができる材料厚さを、変形加工された状態における表面層の硬化、および緊締する際に生じる表面応力と組み合わせることにより、所望のばね作用が得られる。この場合、驚くべきことに、材料厚さが増加するにつれて、ばね作用が増加することが判った。好ましくは、ねじロックワッシャは一体部品から形成されている。好適には、ワッシャ本体は、少なくとも2mm、特に好適には少なくとも2.5mm、特に少なくとも3.0mmの材料厚さを有している。
【0009】
本発明の一改良形態では、ワッシャ本体の上面および下面の表面のうちの少なくとも一方の表面が、刻み目を備えている。本改良形態では、表面に線形輪郭が圧刻加工され、これにより表面の点状のさらなる圧縮が達成される。これにより、ねじロックワッシャの表面応力、ひいては生じるばね作用が調整可能である。好適には、ねじロックワッシャのワッシャ本体の上面および下面の両表面が、刻み目を備えている。この場合、両表面は、刻み目深さおよび/または刻み目パターンに関して互いに異なる刻み目を備えていてよく、これによりばね作用を最大にすることができる。
【0010】
本発明の一構成では、特殊鋼製ワッシャ本体は、DIN EN 10027-2:2015-7に準拠した材料番号1.4401または1.4301の特殊鋼から製作されている。この特殊鋼は、卓越した腐食特性を有する廉価な材料である。このような市販された変形加工可能な出発材料を使用することにより、刻み目の圧刻加工が容易に可能になり、ねじロックワッシャの表面の良好な硬化が達成される。軟質の出発材料の硬化は、プロセスにおいて、表面の圧縮による形状付与、およびスタンピングプロセスによるねじロックワッシャの片面または両面への、刻み目の形態での点状のさらなる圧縮と組み合わされる。
【0011】
本発明の別の構成では、ねじロックワッシャの、支持体の方へ向いた側の下面に、外側の環状区分面および内側の環状区分面が互いに角度を成して配置されており、外側の環状区分面の外縁は、ワッシャが締め付けられていない状態では支持体に載置しており、両環状区分面は、支持体に対してそれぞれ鋭角を成しており、外側の環状区分面と支持体との間に形成された角度αは、内側の環状区分面と支持体との間に形成された角度βよりも大きい。これにより、取付力が平坦な支持体に対してより急角度に作用する、すなわち、垂直方向における力成分は、水平方向における力成分よりも高い。これにより、外側の環状区分面の外縁は、ねじを締め付ける際に平坦な支持体に、より強く押し付けられ、これによりロック作用の改善が達成される。さらに、ワッシャの外径は、ロック作用が高い場合には比較的小さく保つことができる。
【0012】
本発明の一改良形態では、外側の環状区分面と支持体との間の鋭角は、締め付けられていない状態では、10°~20°、好ましくは12°~15°である。これらの値により、ワッシャの良好なばね特性およびロック特性が得られる。好適には、内側の環状区分面と支持体との間の鋭角は、締め付けられていない状態では、3°~15°、好ましくは5°~10°である。
【0013】
有利には、両環状区分面の間の、平坦な支持体の方へ向いた側の角度γは、鈍角である。好適には、内側の環状区分面と平坦な支持体との間の鋭角βは、締め付けられていない状態では、外側の環状区分面と平坦な支持体との間の鋭角αのほぼ半分の大きさである。
【0014】
本発明のさらに別の構成では、当付け面のうちの少なくとも一方の当付け面の表面、好適には両当付け面は、研磨されて形成されている。これにより、ねじロックワッシャの特殊鋼材料の、いずれにせよ極めて良好な耐食性が、付加的に向上されている。
【0015】
本発明の他の改良形態および構成は、その他の従属請求項に記載されている。本発明の実施例を図面に示し、以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】特殊鋼製ねじロックワッシャの概略図である。
【
図2】
図1に示したねじロックワッシャの半分の概略的な断面図である。
【
図3】
図1に示したロックワッシャを含めた特殊鋼製ねじ締結部材の概略図であり、図の左側には、ロックワッシャが締め付けられていない状態で示されており、図の右側には、ロックワッシャが締め付けられた状態で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例として選択されたねじロックワッシャは、材料番号1.4401のV4A特殊鋼(X5CrNiMo17-12-2)から製作されており、2.5mmの材料厚さを有する、環状に形成された凸状のワッシャ本体を備える。ねじロックワッシャは、ワッシャ上面6とワッシャ下面1とを有しており、これらのワッシャ上面6およびワッシャ下面1の表面はそれぞれ、スタンピングプロセスによって圧縮されている。
【0018】
ワッシャ下面1は凸状に形成されており、2つの環状区分面2,3、つまり外側の環状区分面2と内側の環状区分面3とに分割されている。これらの環状区分面2,3は、互いに角度を成して設けられている。
【0019】
ロックワッシャは、締め付けられていない状態では、ロックワッシャの外側の環状区分面2の外縁4でもって平坦な支持体5に載置するように形成されている。締め付けられていない状態では、外側の環状区分面2は、平坦な支持体5に対して角度αを成し、内側の環状区分面3は、平坦な支持体5に対して角度βを成している(
図3参照)。角度α,βは、鋭角として形成されており、角度βは常に、角度αよりも小さな値を有する。本実施例では、角度αは14°であり、角度βは6°である。
【0020】
ねじロックワッシャの、支持体5から離反する側の上面6は、湾曲して形成されている。上面6の表面には、スタンピングプロセスの段階において、刻み目7が周方向に延在して形成されており、これにより付加的な硬化が達成される。刻み目7は、本実施例では、線列の配置形態によって形成されている(
図1参照)。表面の所望の部分硬化に応じて、別の刻み目パターンが形成されてもよい。本実施例では、上面6も下面1も刻み目7を備えている。耐食性を向上させるために、上面6および下面1の表面は研磨されている。
【国際調査報告】