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特表2023-518946自閉症スペクトラム障害の治療のための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-09
(54)【発明の名称】自閉症スペクトラム障害の治療のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230427BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/196
A61P25/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556082
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(85)【翻訳文提出日】2022-11-16
(86)【国際出願番号】 EP2021057162
(87)【国際公開番号】W WO2021186074
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】20164331.9
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518394097
【氏名又は名称】スタリクラ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】STALICLA SA
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ダラム,リン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA18
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA14
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA17
4C206NA14
4C206ZA18
4C206ZC41
(57)【要約】
【要約】
本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)患者のサブタイプを治療するための医薬組成物に関する。同様に、本発明は、ASDのサブタイプを診断する方法、及びASDの特定の治療に反応する患者を同定する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自閉症スペクトラム障害(ASD)表現型3の治療に使用するための、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質を含む医薬組成物。
【請求項2】
患者のASDの治療に使用するための、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質を含む医薬組成物であって、前記患者が、胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つを示す、医薬組成物。
【請求項3】
前記患者が、低カリウム血症、低血圧症、高リン血症及び低塩素血症を含む第2群の臨床徴候及び症状のいずれも示さない、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
患者のASDの治療に使用するための、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質を含む医薬組成物であって、前記治療が、
・前記患者がASD表現型3に罹患しているかどうかを決定すること、及び
・前記患者がASD表現型3に罹患している場合、前記患者に治療有効量の前記医薬組成物を投与すること、
を含み、
前記患者がASD表現型3に罹患しているかどうかを決定することは、GNAS及び/若しくはMIFの上方制御を検査すること、並びに/又は、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10、KCNV1、DRD1及び/若しくはSNAP25の下方制御を検査することを含む、医薬組成物。
【請求項5】
患者のASDの治療に使用するための、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質を含む医薬組成物であって、前記治療が、
・前記患者がASD表現型3に罹患しているかどうかを決定すること、及び
・前記患者がASD表現型3に罹患している場合、前記患者に治療有効量の前記医薬組成物を投与すること、
を含み、
前記患者が、胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つを示す場合、前記患者がASD表現型3に罹患していると決定される、医薬組成物。
【請求項6】
前記興奮性細胞が、神経細胞及び膵β細胞である、請求項1~5のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
前記興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な前記物質が、スルファニルアミド、特にアゾセミド、ベンズメタニド、クロフェナミド、クロパミド、クロレキソロン、フロセミド、インダパミド、メフルシド、メトラゾン、ピレタニド、トラセミド(トルセミド)及びキシパミド;メタアミノベンゾエート、特にブメタニド;ベンゾチアジアジン、特にベンドロフルメチアジド、クロロチアジド、シクロペンチアジド、シクロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メブチジド、メチルクロチアジド、ポリチアジド及びトリクロルメチアジド;チアゾール、特にエトゾリン、オゾリノン及びチゾレミド;キナゾリン、特にフェンキゾン及びキネタゾン;フタルイミド、特にクロルタリドン;フェノキシアセテート、特にエタクリン酸;インダン、特にインドクリノン;ピラゾール、特にムゾミミン;インドール、特にトリパミドからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
前記興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な前記物質が、4-置換-3-アミノ-5-スルファモイル安息香酸の誘導体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
前記4-置換-3-アミノ-5-スルファモイル安息香酸の誘導体が、ブメタニド、AqB007、AqB011、PF-2178、BUM13、BUM5、ブメパミン及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項8に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
前記患者が、高血圧症の家族歴と、他の前記臨床徴候及び症状の少なくとも1つとを示す、請求項2~9のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
前記患者が、前記第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも3つを示す、請求項2~10のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
前記興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な前記物質が、1日あたり合計0.01~10mgの、好ましくは合計0.5~4mgの1日総用量で患者に経口投与される、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
ASD患者コホートを、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質による治療に反応する患者と、前記治療に反応しない患者とに分ける方法であって、
・前記患者コホート内の各患者の生物学的サンプルにおける、GNAS、MIF、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10、KCNV1、DRD1及び/又はSNAP25の発現を検査するステップ、及び、
・患者が、GNAS及び/若しくはMIFの上方制御、並びに/又は、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10、KCNV1、DRD1及び/若しくはSNAP25の下方制御を示す場合、前記患者を、前記興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な前記物質による治療に反応する患者として分類するステップ、
を含む、方法。
【請求項14】
ASD表現型3を有するASD患者を診断するための方法であって、
・前記患者の生物学的サンプルにおける、GNAS、MIF、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10、KCNV1、DRD1及び/又はSNAP25の発現を検査するステップ、及び、
・前記患者が、GNAS及び/若しくはMIFの上方制御、並びに/又は、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10、KCNV1、DRD1及び/若しくはSNAP25の下方制御を示す場合、前記患者を、ASD表現型3を有すると診断するステップ、
を含む、方法。
【請求項15】
前記ASD患者が、胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つを示す場合、前記ASD患者を、ASD表現型3を有すると診断する、又は、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質による治療に反応する患者して分類する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記患者が、高血圧症の家族歴と、前記第1群の臨床徴候及び症状の他1つとを少なくとも示す、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)患者のサブタイプの治療のための医薬組成物に関する。同様に、本発明は、ASDのサブタイプを診断する方法、及び、ASDの特定の治療に反応する患者を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、最も広く認められた障害をもたらす神経発達障害(NDD)の1つである。ASDの有病率は現在、世界人口の1%、米国の学齢期の子供59人に1人(男児37人に1人、女児151人に1人)と推定されている(Baio et al. Prevalence of Autism Spectrum Disorder Among Children Aged 8 Years - Autism and Developmental Disabilities Monitoring Network(8歳の子供における自閉症スペクトラム障害の有病率)年-自閉症及び発達障害モニタリングネットワーク), 11 Sites, United States, 2014. MMWR Surveill Summ. 2018 Apr 27, 67(6): 1-23)。ASDは未だに、非定型行動の観察に基づいて診断される、以下により特徴付けられた単一の診断エンティティと見なされている:1)社会的相互作用とコミュニケーションにおける欠陥、社会的感情的相互作用における欠陥、社会的相互作用に使用される非言語的コミュニケーション行動における欠陥、対人関係の発達、維持、理解における欠陥;2)限定された又は反復する様式の行動についての、以下を含む少なくとも4つのサブドメイン環境。常同的又は反復的な運動動作、同一性へのこだわり又は日常動作への融通の効かない執着、非常に限定的かつ固定された興味、感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、又は感覚的側面への異常な関心(Baird G, et al. Neurodevelopmental disorders. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-Fifth Edition (DSM-5)(神経発達障害。米国精神医学会、精神疾患の診断と統計マニュアル第5版). Washington, D.C.: American Psychiatric Publishing, 2013: p. 31-86)。
【0003】
自閉症は、病因、表現型、重症度及び転帰における幅広い不均質性から、「スペクトラム障害」として知られている。これらの要因は、行動の特徴とコミュニケーション機能の多様な欠陥又は機能障害として現れる臨床的不均質性の一因となっている。この状態についての顕著な不均質性は、単一の障害、ASD又は「自閉症」ではなく、複数の病因と異なる臨床的実体を包含することの示唆につながるものである。したがって、ASD患者を診断するための現在の行動ベースのアプローチでは、遺伝的変化や妨害された分子経路(disrupted molecular pathway)に関する効率的かつ正確な分類が得られない。
【0004】
現在のところ、ASDの中核症状に対処するための認可された治療法は存在しない。
【0005】
ASDの治療薬として、熱ショック転写因子1及び熱ショックタンパク質の有力なモジュレーターであるスルフォラファンが提案されている(WO2013/067040)。しかしながら、in-vivo研究における結果は、臨床現場においてASD患者集団に対して実際に有益な可能性があることを実証するには十分でない。
【0006】
臨床現場では、スルフォラファンは一部のASD患者の行動を改善することが示されている(Singh et al. Sulforaphane treatment of autism spectrum disorder (ASD)(自閉症スペクトラム障害(ASD)のスルフォラファン治療). PNAS 2014; 111:43, 15550-5)。しかしながら、本執筆者らによれば、参加者の行動症状が大幅に改善するか、変化がないか、むしろ悪化するといった、不均質な反応が報告されていた。さらに、本執筆者らは、自身の研究の限界を認めていた。より詳細には、考察内にて報告されているように、本執筆者らは「我々のコホートでは発熱反応者の有病率が、ほとんどのASD集団(35%)と比較して異常に高かった(80%)ため、発熱時に行動が改善されたASDを有する参加者がスルフォラファンにも反応することを確証できなかった」と述べている。したがって、興味深い発見にもかかわらず、潜在的反応者の特徴付けが不足していることが、スルフォラファンの有効な治療法としての用途を妨げている。
【0007】
治療反応に関するASD患者のこの不均質性(アルバクロフェンまたはブメタニドの試験(Veenstra-VanderWeele et al. Arbaclofen in Children and Adolescents with Autism Spectrum Disorder: A Randomized, Controlled, Phase 2 Trial.(自閉症スペクトラム障害を有する小児及び青年のアルバクロフェン:第2相無作為化比較試験)Neuropsychopharmacology. 2017 Jun;42(7):1390-1398;Lemonier et al. A randomised controlled trial of bumetanide in the treatment of autism in children.(小児の自閉症の治療におけるブメタニドの無作為化比較試験) Transl Psychiatry. 2012; 11;2: e202;Lemonier et al. Effects of bumetanide on neurobehavioral function in children and adolescents with autism spectrum disorders(自閉症スペクトラム障害を有する小児及び青年の神経行動機能に対するブメタニドの影響). 2017; Translational Psychiatry volume 7, e1056)でも示されている)は、適切な治療を適切な患者に提供するために、分子的及び遺伝的不均質性の理解に向けて、「万能型」アプローチから早急にシフトする必要があることを裏付けている。
【0008】
ASDの根底にある原因は相変わらず捉えどころがないため、特定の遺伝子変化の特徴に焦点を当てることによって、ASD患者をより小さく、より均質なサブグループへと層別化する試みが既になされている(Bernier et al., Disruptive CHD8 mutations define a subtype of autism early in development(破壊的CHD8変異が、発達の早期に自閉症のサブタイプを定義する), Cell 2014 Jul 17; 158 (2): 263-276;Kuechler et al. Bainbridge-Ropers syndrome caused by loss-of-function variants in ASXL3: a recognizable condition.(ASXL3の機能喪失バリアントにより生じるBainbridge-Ropers症候群:認識可能な状態) Eur J Hum Genet. 2017 Feb;25(2):183-191)。重要なことに、これらの分析は、CHD8及びASXL3遺伝子の機能喪失変異の保因者における特定の遺伝子変化とASDとの関係についての証拠を示すものである。しかしながら、特定の明確に定義されたASD患者のサブセットに対して効率的な薬物治療を開発するためには、単一の遺伝子傷害と観察可能な表現型の結果との関係を特徴付けるだけでなく、これらの患者の根底にある妨害された経路を理解することも重要である。
【0009】
これに関連して、共通の調節不全パターンを共有する特発性ASD患者のサブセットを同定可能な方法がこれまでに報告されている(EP19383010及びEP20164353)。このアプローチによれば、共通の調節不全パターンによって生じる共通の臨床徴候及び症状に基づいて患者をクラスター化して、調節不全を遺伝的又は分子レベルで解決するのに適した治療法を同定することができる。
【0010】
しかしながら、ASDの不均質性を考慮すると、特定の治療法に反応するASDのさらなるサブタイプを同定することが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、解決すべき課題は、ASD患者のさらなるサブグループを効率的に同定する手段を提供すること、及び、このサブグループに対して効果的な治療を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)表現型3の治療に使用するための、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質を含む医薬組成物に関する。
【0013】
さらに、本発明は、患者のASDの治療に使用するための、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質を含む医薬組成物であって、該患者が、胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つを示す、医薬組成物に関する。
【0014】
本発明はまた、ASD患者コホートを、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質による治療に反応する患者と、前記治療に反応しない患者とに分ける方法であって、
・胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状に関するデータセットを含む患者データベースを提供すること、及び、
・患者が前記第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つを示す場合、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質による治療に反応する患者として患者を分類すること、
を含む、方法に関する。
【0015】
本発明はさらに、ASD表現型3を有するASD患者を診断するための方法であって、
・胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状に関する、患者に特有のデータセットを提供するステップ、及び、
・患者が前記第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つを示す場合、該患者を、ASD表現型3を有すると診断するステップ、
を含む、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ASD表現型3と称されるASD患者の特定のサブグループの治療に使用するための、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質を含む医薬組成物に関する。
【0017】
本明細書にて使用される場合、用語「自閉症スペクトラム障害(ASD)」は、社会的コミュニケーション及び社会的相互作用における持続的な欠損、並びに、行動、興味又は活動の限定的かつ反復的な様式を特徴とする神経発達障害群を包含するものと理解される。以下では、用語「自閉症スペクトラム障害」、「自閉症」及び「ASD」は、同じ意味で使用される。
【0018】
本明細書において、用語「ASD表現型3」及び「表現型3」は、同じ意味で使用される。
【0019】
用語「患者」は「ASD患者」のことを示し、ASDを有すると診断された人だけでなく、ASDを有する疑いのある人も意味する。
【0020】
当業者は、どのようにして患者がASDと診断され得るかについて、よく認識している。
【0021】
例えば、当業者は、「米国精神医学会、精神疾患の診断と統計マニュアル(DSM-5)第5版」に設定された基準に従って、被験者にASDの診断を下してもよい。同様に、ASD患者は、標準化された評価ツールに従って診断されてもよい。そのような評価ツールとしては、以下に限定されないが、CIM-10、ICD-10、DISCO、ADI-R、ADOS又はCHATが挙げられる。
【0022】
他の場合において、患者は、自閉性障害、アスペルガー症候群又は特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)の確立したDSM-IV診断を有し得る。
【0023】
さらに、本発明は、以下を示す被験者にとって有用であり得る:複数の状況で社会的コミュニケーション及び社会的相互作用における持続的な欠損があり、現時点又は病歴によって、以下により明らかになる;行動、興味又は活動の限定された反復的な様式で、現時点又は病歴によって、以下の少なくとも2つにより明らかになる;症状は早期発達段階に存在している(しかしながら、社会的要求が能力の限界を超えるまで症状が完全に明らかにならないかもしれず、その後の生活で学んだ対応の仕方によって隠されている場合もある);症状は、社会的、職業的又は他の重要な領域における現在の機能に臨床的に有意な障害を引き起こしている;これらの障害は、知的能力障害(知的発達障害)又は全般的発達遅延ではうまく説明できない。
【0024】
ASDは、知的障害及び/又は言語障害を伴って起こることもあり、それらを伴わずに起こることもある。そのような障害は、既知の健康状態、遺伝子状態若しくは環境因子、又は、他の神経発達障害、精神障害若しくは行動障害に関連し得る。
【0025】
ASDは、社会的コミュニケーションの障害に応じて、かつ、限定された反復的な行動の検知から分類され得る異なる重症度で起こることがある。重要なことに、用語「ASD表現型1」は、ASDの特定の重症度とは関係ない。本発明は、任意の重症度のASD罹患者に適用され得る。
【0026】
本発明者らは、驚くべきことに、膜チャネル又は重要な調節因子の発現の変化に起因する、様々な細胞型の膜の脱分極後における膜チャネルの長期にわたる再分極(すなわち、異常に長く持続する電位)ことを特徴とする、ASD表現型3と称されるASD患者のサブグループを同定した。いわゆるチャネロパチーは、最終的には神経伝達物質及びホルモンの放出の変化につながり、この放出の変化によって、膜の脱分極の繰り返しが引き起こされる(Schmunk et al. Channelopathy pathogenesis in autism spectrum disorders.(自閉症スペクトラム障害におけるチャネロパシーの病因)Front Genet. 2013 Nov 5;4:222)。このような変化は、神経細胞に限定されず、膵β細胞等の他の興奮性細胞においても生じる。
【0027】
ASD表現型3の患者では、長期にわたる膜の脱分極によって、ニューロンの分化及び成熟において病理学的変化を伴う異常な脳の発達が生じる(Sohya et al. Chronic membrane depolarization-induced morphological alteration of developing neurons.(慢性膜脱分極による発達中のニューロンの形態学的変化)Neuroscience. 2007 Mar 2;145(1):232-40)。この病理学的変化には、GABA及びセロトニン神経伝達物質を発現する細胞数の減少が含まれる(He at al. Prolonged membrane depolarization enhances midbrain dopamine neuron differentiation via epigenetic histone modifications.(長期にわたる膜の脱分極、後成的なヒストン修飾を介して中脳ドーパミンニューロンの分化が促進される)Stem Cells. 2011 Nov;29(11):1861-73)。したがって、このことは過剰なグルタミン酸の放出につながり、それによって炎症が助長され((Wen et al. Excitatory amino acid glutamate: role in peripheral nociceptive transduction and inflammation in experimental and clinical osteoarthritis.(興奮性アミノ酸グルタミン酸:実験的及び臨床的変形性関節症の末梢侵害受容伝達及び炎症における役割)Osteoarthritis Cartilage. 2015 Nov;23(11):2009-16; Osikowicz et al. The glutamatergic system as a target for neuropathic pain relief.(神経因性疼痛緩和の標的としてのグルタミン酸作動系)Exp Physiol. 2013 Feb;98(2):372-84;Swaim et al. Platelets contribute to allograft rejection through glutamate receptor signaling.(血小板は、グルタミン酸受容体シグナル伝達を通じて同種移植拒絶反応に寄与する)J Immunol. 2010 Dec 1;185(11):6999-7006)、膜の脱分極の繰り返しが引き起こされる。ASD表現型3患者では、長期にわたる膜の脱分極が、高インスリン血症を生じさせ得る(Daraio et al. SNAP-25b-deficiency increases insulin secretion and changes spatiotemporal profile of Ca2+oscillations in β cell networks.(SNAP-25b欠乏は、インスリン分泌を増加させて、β細胞ネットワーク内のCa2+振動の時空間プロファイルを変化させる)Sci Rep. 2017 Aug 10;7(1):7744)。慢性(又は先天性)の高インスリン血症は、脳内のエネルギー生産能力を低下させる低血糖の再発エピソードにつながる。これにより、ATP依存のナトリウム-カリウムポンプが機能しなくなり、その結果、細胞が安定した静止膜電位を維持できないようにすることによって、過剰な膜の脱分極が激化する可能性があり(Abend et al. Chapter 12 - Neonatal Seizures. Volpe's Neurology of the Newborn (Sixth Edition) 2018, Pages 275-321.e14)、それによって、発作のリスクが増加する(Sousa-Santos et al. Congenital hyperinsulinism in two siblings with ABCC8 mutation: same genotype, different phenotypes.(ABCC8変異を有する2人兄弟の先天性高インスリン症:同じ遺伝子型、異なる表現型)Arch Endocrinol Metab. 2018 Oct;62(5):560-565; Aka et al. Seizures and diagnostic difficulties in hyperinsulinism-hyperammonemia syndrome.(高インスリン症-高アンモニア血症候群における発作及び診断上の困難性)Turk J Pediatr. 2016;58(5):541-544)。長期的には、高インスリン血症は、インスリン抵抗性及び2型糖尿病につながる可能性があり、その結果、再発性の高血糖が生じる可能性がある(Shannik et al. Insulin resistance and hyperinsulinemia: is hyperinsulinemia the cart or the horse?(インスリン抵抗性及び高インスリン血症:高インスリン血症は荷車か?それとも馬か?)Diabetes Care. 2008 Feb;31 Suppl 2:S262-8)。
【0028】
したがって、本発明の目的は、これらの患者に対して、長期にわたる膜の脱分極の影響を緩和することを目的とした新規治療を提供することにある。このことは、細胞膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質を投与することによって達成される。
【0029】
本明細書において、用語「細胞膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質」は、異常に長期にわたる再分極(すなわち、異常に長く持続する活動電位)に対抗することによって、細胞静止膜電位をその生理学的範囲まで回復させることを補助する物質に関することが理解される。長期にわたる再分極は、多くの場合、チャネロパチーによって生じており、神経伝達物質及びホルモンの異常な放出、並びに、膜の過剰な脱分極につながる。当業者は、どのようにしてイオン恒常性の変化及び膜チャネルの発現が細胞膜電位を変更し、遺伝子発現、ミトコンドリア機能、タンパク質合成、タンパク質輸送又は神経伝達物質放出等の様々な細胞活動について機能障害を生じさせ得るかについて、よく認識している。
【0030】
本発明の一態様では、興奮性細胞は、神経細胞及び膵β細胞である。すなわち、医薬組成物は、神経細胞及び膵β細胞の膜の再分極を誘導可能な物質を含む。
【0031】
上記の機序は、特にASD表現型3患者のサブグループに当てはまるため、本発明は、ASD表現型3患者に使用するための、興奮性細胞の膜の再分極を誘導可能な物質を含む医薬組成物に関する。
【0032】
本発明によれば、ASD表現型3患者は、胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状の1つ以上の存在を検査することによって同定することができる。
【0033】
本明細書では、患者が胃粘膜の領域に開放性潰瘍を有する場合、患者は臨床徴候及び症状「胃潰瘍」を示すと定義される。
【0034】
本明細書では、患者が全身の筋肉の過剰な動きを伴う運動亢進を有する場合、患者は臨床徴候及び症状「多動症」を示すと定義される。
【0035】
本明細書では、患者が気体の交換に必要な速度よりも速い増加した肺換気速度を有する場合、患者は臨床徴候及び症状「過呼吸」を示すと定義される。
【0036】
本明細書では、患者の心拍数が、表2に定義されるように年齢に応じた通常の安静状態を超える場合、患者は臨床徴候及び症状「頻脈」を示すと定義される。
【表2】
【0037】
本明細書では、患者の首が手のひらの伸ばした指4本(親指を考慮しない)の幅よりも小さい場合、患者は臨床徴候及び症状「短頸」を示すと定義される。
【0038】
本明細書では、患者が2.5mg/dL未満(成人)又は4mg/dL未満(子供)の血清リン酸塩レベルを有する場合、患者は臨床徴候及び症状「低リン血症」を示すと定義される(Sharma et al. Hypophosphatemia.(低リン血症)St Treasure Island (FL): StatPearls Publishing)。
【0039】
本明細書では、患者がこれまでに「マッキューン・オルブライト症候群」のような医学的診断を受けたことがあるか、「マッキューン・オルブライト症候群」の診断に適合する症状を示す場合、患者は臨床徴候及び症状「マッキューン・オルブライト症候群」を示すと定義される。
【0040】
本明細書では、患者がこれまでに、けいれん、感覚障害又は意識喪失等の身体的症状を伴う脳内の過剰又は同期的なニューロン活動の突然の発作を経験したことがある場合、患者は臨床徴候及び症状「発作」を示すと定義される。
【0041】
本明細書では、患者又は患者の第1親等若しくは第2親等の家族が、140mmHg以上の収縮期血圧(SBP)若しくは90mmHg以上の拡張期血圧(DBP)(成人の場合;Chobanian et al. Seventh report of the Joint National Committee on Prevention, Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure. Hypertension.(高血圧症の予防、検出、評価及び治療に関する合同全国委員会の第7回レポート)2003 Dec. 42(6):1206-52)の病歴を有する場合、又は、患者又は患者の第1度親族又は第2度近親者の家族が、年齢に応じて95パーセンタイルを超える血圧の病歴を有する場合(Flynn et al. Clinical Practice Guideline for Screening and Management of High Blood Pressure in Children and Adolescents.(小児及び青年における高血圧症のスクリーニング及び管理のための臨床診療ガイドライン)Pediatrics September 2017, 140 (3) e20171904)、患者は臨床徴候及び症状「高血圧症の家族歴」を示すと定義される。
【0042】
本明細書では、患者が5.0mEq/Lを超える血清カリウム値(2歳を超える小児から成人まで;Simon et al. Hyperkalemia(高カリウム血症) St Treasure Island (FL): StatPearls Publishing)を有する場合、患者は臨床徴候及び症状「高カリウム血症」を示すと定義される。
【0043】
本明細書では、患者が、酸性の胃液が胃から下部食道括約筋を通って食道に逆流することにより、患者の胸又は喉に灼熱感を感じる場合、患者は臨床徴候及び症状「胃食道逆流症」を示すと定義される。
【0044】
本明細書では、思春期の発症が女の子で8歳、男の子で9歳より前に起こる場合、患者は臨床徴候及び症状「思春期早発症」を示すと定義される。
【0045】
本明細書では、患者が、表1で定義された正常/予想範囲と比較して高くなった血中インスリン濃度を有する場合、患者は臨床徴候及び症状「高インスリン血症」を示すと定義される。
【表1】
【0046】
本明細書では、患者がTh1サイトカインを含む免疫細胞若しくはタンパク質の過剰産生、自己免疫疾患の家族歴、又は、病気の際のASD症状の悪化を示す場合、患者は臨床徴候及び症状「炎症反応の亢進」を示すと定義される。
【0047】
本明細書では、患者又は患者の第1親若しくは第2親等の家族がこれまでに「胆管癌」の診断を受けたことがあるか、「胆管癌」の診断に適合する症状を示す場合、患者は臨床徴候及び症状「胆管癌の家族歴」を示すと定義される。
【0048】
本明細書では、患者が低下した音の感覚認知の大きさを示す場合、患者は「聴覚障害」の臨床徴候及び症状を示すと定義される。
【0049】
本明細書では、患者が106mEq/Lを超える血清塩化物濃度(Morrison. Clinical Methods: The History, Physical, and Laboratory Examinations.(臨床方法:病歴、身体及び臨床検査)3rd edition. Chapter 197. Boston: Butterworths)を有する場合、患者は臨床徴候と症状「高塩素血症」を示すと定義される。
【0050】
本明細書では、患者又は患者の第1親等若しくは第2親等の家族が「I型又はII型糖尿病」の診断を受けたことがあるか、「I型又はII型糖尿病」の診断に適合する症状を示す場合、患者は臨床徴候及び症状「糖尿病の家族歴」を示すと定義される。
【0051】
本明細書では、患者が正常な可動域を超えて動くことが可能な過可動性関節を有する場合、患者は臨床徴候及び症状「関節過可動性」を示すと定義される。
【0052】
本明細書では、患者の通常は乾燥硬化している糞便の便通が異常に遅れるか稀である場合、患者は臨床徴候及び症状「便秘」を示すと定義される。
【0053】
本明細書では、患者又は患者の第1親等若しくは第2親等の家族が乳癌の診断を受けたことがあるか、「乳癌」の診断に適合する症状を示す場合、患者は臨床徴候及び症状「乳癌の家族歴」を示すと定義される。
【0054】
本明細書では、患者がベンゾジアゼピンによる治療中において、興奮、動揺/多動、運動過剰、情緒不安定性の表れの増加、過敏性、攻撃性、敵意若しくは怒り及び自傷行為、多弁又は不適切な発声、叫び声及び/若しくは泣き声の増加、並びに/又は、パニック及び不安の発現の増加等のASD中核症状の深刻化を示す場合、患者は臨床徴候及び症状「ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化」を示すと定義される。
【0055】
本明細書では、患者又は第1親等若しくは第2親等の家族が「結腸直腸癌」の医学的診断を受けたことがあるか、「結腸直腸癌」の診断に適合する症状を示す場合、患者は臨床徴候及び症状「結腸直腸癌の家族歴」を示すと定義される。
【0056】
本明細書では、患者又は患者の第1度親族又は第2度近親者が「前立腺癌」の医学的診断を受けたことがあるか、「前立腺癌」の診断に適合する症状を示す場合、患者は臨床徴候及び症状「前立腺癌の家族歴」を示すと定義される。
【0057】
本明細書では、患者が増加した疼痛への感受性又は増強された疼痛感覚の強さを有する場合、患者は臨床徴候及び症状「痛覚過敏」を示すと定義される。
【0058】
好ましい実施形態では、ASD表現型3の患者は、第1群の臨床徴候及び症状のうち少なくとも2つ、3つ又は4つを示す。特に好ましい実施形態では、ASD表現型3の患者は、「高血圧症の家族歴」と、第1群の他の臨床徴候及び症状の少なくとも1つとを示す。これにより、ASD表現型3患者について、特に高信頼性かつ簡単な識別が可能になる。
【0059】
別の好ましい実施形態では、ASD表現型3の患者は、低カリウム血症、低血圧症、高リン血症及び低塩素血症を含む第2群の臨床徴候及び症状のいずれも示さない。
【0060】
本明細書では、患者が3.5mEq/L未満の血清カリウム値(2歳を超える小児から成人まで;Simon et al. Hyperkalemia(高カリウム血症) St Treasure Island (FL): StatPearls Publishing)を有する場合、患者は臨床徴候及び症状「低カリウム血症」を示すと定義される。
【0061】
本明細書では、患者が90mmHg未満の収縮期血圧(SBP)又は60mm未満の拡張期血圧(DBP)を有する場合(10歳を超える小児から大人まで)、患者は臨床徴候及び症状「低血圧症」を示すと定義される。
【0062】
本明細書では、患者が4.5mg/dLを超える(成人)又は7mg/dLを超える(子供)の血清リン酸塩レベルを有する場合、患者は臨床徴候及び症状「高リン血症」を示すと定義される(Sharma et al. Hypophosphatemia.(低リン血症)St Treasure Island (FL): StatPearls Publishing)。
【0063】
本明細書では、患者が90mEq/L未満の血清塩化物濃度を有する場合、患者は臨床徴候及び症状「低塩素血症」を示すと定義される。
【0064】
ポジティブ及びネガティブな臨床徴候及び症状の組み合わせによって、ASD表現型3患者と他の特発性ASD患者とをより適切に区別することができる。
【0065】
本発明によれば、ASD表現型3患者は、神経細胞及び膵臓細胞等の興奮性細胞の静止膜電位を安定化可能な物質の投与によって治療され得ると共に、該物質に対してポジティブに反応し得る。
【0066】
当業者は、どのようにして物質が興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能となるかについて、よく認識している。例えば、該物質は、SNAP25、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10及びKCNV1等の遺伝子の転写上方制御を通じて電位依存性陽イオンチャネル活性を調節することによってイオン濃度勾配のバランスをとることにより、再分極に寄与し得る。あるいは、チャネル活性は、GNASの下方制御によっても調節可能である。同様に、インスリン等のアゴニストの放出を減少させる物質もまた、SNAP25及びSLC12A5(KCC2)の転写上方制御及びGNASの下方制御による再分極に寄与し得る。
【0067】
したがって、当業者は、どのようにして興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極に寄与可能な物質を同定し得るかについても理解している。例えば、当業者は、物質がSNAP25、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10及び/若しくはKCNV1を上方制御するかどうか、又は、GNAS及び/若しくはMIFを下方制御するかどうかを試験することによって、そのような物質を同定することができる。そのような分析は、当業者の日常的な手段の範囲内である。
【0068】
興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質には、ループ利尿剤及びチアジド利尿剤が含まれ、スルホンアミド、特にアゾセミド、ベンズメタニド、クロフェナミド、クロパミド、クロレキソロン、フロセミド、インダパミド、メフルシド、メチクラン、メトラゾン、ピレタニド、トラセミド(トルセミド)及びキシパミド;メタアミノベンゾエート;ベンゾチアジド、特にベンドロフルメチアジド、クロロチアジド、シクロペンチアジド、シクロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メブチジド、メチルクロチアジド、ポリチアジド及びトリクロルメチアジド;チアゾール、特にエトゾリン、オゾリノン及びチゾレミド;キナゾリン、特にフェンキゾン及びキネタゾン;フタルイミド、特にクロルタリドン;フェノキシアセテート、特にエタクリン酸;インダン、特にインドクリノン;ピラゾール、特にムゾミミン;インドール、特にトリパミドからなる群から選択されてもよい。
【0069】
好ましい実施形態では、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質は、スルホンアミドである。
【0070】
本発明の好ましい実施形態では、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質は、ブメタニド、AqB007、AqB011、PF-2178、BUM13、BUM5、ブメパミン又はそれらの混合物である。特に好ましい実施形態では、興奮性細胞の膜の再分極を誘導可能な物質は、ブメタニドである。ブメタニドは、3-(ブチルアミノ)-4-フェノキシ-5-スルファモイル安息香酸とも称される有力なループ利尿剤である。
【0071】
本発明に係る医薬組成物は、治療有効量で投与されるものである。例えば、本発明に係る医薬組成物の0.01~10mgが、1日の用量で投与され得る。好ましい実施形態では、本発明に係る医薬組成物は、1日総用量として0.5~10mg、より好ましくは0.5~6mg、最も好ましくは0.5~4mgが、1日1回又は2回に分けて投与される。
【0072】
当業者は、本発明に係る医薬組成物を投与する手段及び方法を認識している。例えば、本発明に係る医薬組成物は、経口投与、経鼻投与、非経口投与又は静脈内投与される。好ましい実施形態では、本発明に係る医薬組成物は、経口投与される。
【0073】
所望の用量レベルを達成するため、本発明に係る医薬組成物は、1日1回、又は、1日につき複数回に分けて投与され得る。
【0074】
好ましい実施形態では、本発明に係る医薬組成物はブメタニドを含み、1日1回0.5~2mgが経口投与されるか、0.5~1mgが静脈内投与又は筋肉内投与される。一実施形態では、医薬組成物は、1mg/時~12mg/日の持続静脈内注入として投与される。
【0075】
別の実施形態では、医薬組成物は、6ヶ月未満の小児患者の治療に使用するためのものであり、この治療には、1日1回又は1日おきに0.01~0.05mg/kg、好ましくは0.04mg/kgのブメタニドを投与することが含まれる。別の実施形態では、医薬組成物は、6ヶ月超の小児患者の治療に使用するためのものであり、この治療には、1日1回又は1日おきに0.015~0.1mg/kgのブメタニドを投与することが含まれる。
【0076】
本発明に係る医薬組成物は、増量剤、崩壊剤、潤滑剤、接着剤、付着防止剤、結合剤、コーティング剤、流動促進剤、甘味剤、香料、吸着剤、着色剤及び保存剤等の薬理学的に許容可能な賦形剤をさらに含んでいてもよい。当業者は、薬物の吸収を促進する、粘度を低下させる又は溶解度を高める手段によって、どのように有効成分を処方するかについて理解している。
【0077】
一実施形態では、神経細胞及び膵臓細胞の静止膜電位を安定化可能な物質を含む医薬組成物は、患者のASDの治療に使用され、該治療は、
・患者がASD表現型3に罹患しているかどうかを決定すること、及び
・患者がASD表現型3に罹患している場合、患者に治療有効量の医薬組成物を投与すること、
を含み、
ここで、患者がASD表現型3に罹患しているかどうかを決定することは、GNAS及び/若しくはMIFの上方制御を検査すること、並びに/又は、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNJ10、DRD1及び/若しくはSNAP25の下方制御を検査することを含む、医薬組成物。本明細書では、GNASとは、ヘテロ三量体Gタンパク質αサブユニットを示し、MIFとは、マクロファージ遊走阻害因子を示し、CTNNA2は、α-2-カテニンを示し、GABRA1は、γ-アミノ酪酸受容体サブユニットα-1を示し、GABRA2は、γ-アミノ酪酸受容体サブユニットα-2を示し、NR3C1は、グルココルチコイド受容体(核受容体サブファミリー3、グループC、メンバー1)を示し、SLC12A5は、クロリドカリウムトランスポーターメンバー5を示し、KCNJ6は、Gタンパク質活性化内向き整流性カリウムチャネル2を示し、KCNQ3は、Kv7.3カリウムチャネルを示し、KCNJ10は、ATP感受性内向き整流性カリウムチャネル10を示し、DRD1は、ドーパミン受容体D1を示し、SNAP25は、シナプトソーム神経関連タンパク質25を示す。
【0078】
当業者は、どのようにして特定の遺伝子の上方制御及び下方制御の分析を行い得るかについて、よく認識している。例えば、遺伝子の上方制御又は下方制御は、qPCRやRT-qPCR等の定量的PCR技術、又は、RNAシーケンシングや蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)技術等の半定量的技術を使用して、mRNAレベルで検査されてもよい。同様に、遺伝子の上方制御又は下方制御は、ウェスタンブロット及び定量的ドットブロット等のタンパク質定量化技術を使用して、タンパク質レベルで決定されてもよい。上方制御は、対象群と比較した場合に、mRNAレベル又はタンパク質レベルが少なくとも20%増加することを意味すると理解されている。下方制御は、対象群と比較した場合に、mRNAレベル又はタンパク質レベルが少なくとも20%減少することを意味すると理解されている。
【0079】
別の実施形態では、患者が第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つ、すなわち、胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏の少なくとも2つを示す場合、該患者がASD表現型3に罹患していると決定される。
【0080】
本発明はまた、ASD患者コホートを、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質による治療に反応する患者と、前記治療に反応しない患者とに分ける方法であって、
・胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状に関するデータセットを含む患者データベースを提供するステップ、及び、
・患者が前記第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つを示す場合、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質による治療に反応する患者として患者を分類するステップ、
を含む、方法に関する。
【0081】
同様に、本発明は、ASD患者コホートを、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質による治療に反応する患者と、前記治療に反応しない患者とに分ける方法であって、
・前記患者コホート内の各患者の生物学的サンプルにおける、GNAS、MIF、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10、KCNV1、DRD1及び/又はSNAP25の発現を検査するステップ、及び、
・前記患者が、GNAS及び/若しくはMIFの上方制御、並びに/又は、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10、KCNV1、DRD1及び/若しくはSNAP25の下方制御を示す場合、前記患者を、前記興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な前記物質による治療に反応する患者として分類するステップ、
を含む、方法に関する。
【0082】
生物学的サンプルは、遺伝子発現の決定に適した任意のサンプルであってもよく、特に、血液、血漿、唾液、尿又は糞便等の液体サンプルであり得る。
【0083】
本明細書において、用語「反応する」は、治療の投与時に患者の状態が改善することを意味すると理解され、用語「反応しない」は、投与時に状態の改善を示さないか、状態の悪化すら起こる患者を包含することが意図される。特に、用語「反応する」は、本発明に係る医薬組成物の投与時にASD中核症状及びASD付随症状の改善を示すと定義される。ASD中核症状としては、以下に限定されないが、社会的相互作用の困難性、コミュニケーションにおける課題及び反復的な行動に従事する傾向が挙げられる。ASD付随症状としては、以下に限定されないが、知的障害、学習障害、泌尿生殖器の機能不全(すなわち、排尿開始障害)、下痢症状が挙げられる。
【0084】
したがって、本発明は、ASD患者の一般集団を、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質による治療に反応するサブグループと、前記治療に反応しないサブグループ、特にブメタニドに反応しないサブグループとに層別化するのに有用である。このような層別化は、ASDの不均質な性質を考慮すると多くの治療法が患者のサブグループでのみ有効性を示すため、臨床研究を設計する際に有利である。したがって、層別化されていない患者集団が臨床研究に使用される場合、患者のサブグループにおける治療の有効性は、残りの患者集団における非有効性によって覆い隠される可能性がある。
【0085】
反応はまた、(ADI-R、ABC(異常行動チェックリスト)固有のサブスケール(すなわち、ABC-I)により測定される)不服従/破壊的な行動、反復的な行動及び限定的な興味の低下、並びに、対人反応性尺度(SRS)により測定される既存の定性的及び定量的コミュニケーションの悪化並びに社会性の欠如を含み得る。
【0086】
特に、治療に対する反応者は、以下に限定されないが、アイコンタクトに対する反応若しくはアイコンタクトの確立の待ち時間減少、及び/又は、類似のコンテクスト環境での所与の時間間隔内における発語開始の平均数によって測定される発言の開始の改善、発語開始に対する反応の待ち時間減少、複数ステップの作業を計画及び実施する能力の増加を含む実行機能の増加、行動遵守の増加、興奮性の減少(すなわち、ABC興奮性サブスケール)、感覚刺激に対する感受性の低下、短期記憶保持力の増加、並びに、特異な行動及び姿勢の強度における著しい減少又は改善によって特徴付けられる、社会的反応性の増加を示すことがある。
【0087】
ポジティブな反応はまた、以下に示すような標準化された試験におけるスコアのポジティブな変動を含むか、それにより構成されることもある。
【0088】
自閉症診断面接改訂版(ADI-R):ADI-Rは、標準化された臨床医主導の半構造化親面接である。ADI-Rには、初期発達、言語/コミュニケーション、相互の社会的相互作用、並びに、限定された反復的な行動及び興味に焦点を当てた93の項目が含まれる(ADI-R; Rutter et al. 2003)。ADI-Rは、4つの異なるモジュールに分かれている。
【0089】
異常行動チェックリスト(ABC):ABCは、様々な状況における子供及び大人の問題行動を評価及び分類するために使用される症状評価チェックリストである。ABCには58の項目が含まれており、(1)興奮性、(2)無気力/社会的引きこもり、(3)常同行動、(4)多動/非コンプライアンス、(5)不適切な発言の5つのサブスケールに解決される。マイナスの変化は改善を意味し、プラスの変化は悪化を意味する。ポジティブ又はネガティブな反応を決定するための値は、本発明に従う医薬組成物の投与後のベースラインから3~5日までの変化である。
【0090】
対人反応性尺度(SRS):65項目のSRSは、自閉症の中核症状についての標準化された尺度である。各項目は4ポイントのリッカート尺度にて採点される。個々の項目のスコアが合計され、総合素スコアが作成される。総合スコアの結果は、以下の通りである:
・0~62:通常の制限内
・63~79:軽度の障害範囲
・80~108:中等度の障害範囲
・109~149:重度の障害範囲
ポジティブ又はネガティブな反応を決定するための値は、本発明に従う治療後のベースラインから3~5日までの変化である。総合スコアの範囲は、0~149である。マイナスの変化は改善を意味し、プラスの変化は悪化を意味する。
【0091】
臨床全般印象重症度尺度(CGI-S):CGI-Sは、評価時における患者の疾患の重症度を、同じ診断を受けた患者との臨床医の過去の経験と比較して査定することを臨床医に対して要求する7点尺度である。総合的な臨床経験を考慮して、査定時における精神疾患の重症度について患者が評価される:
・1:正常、無疾患
・2:精神疾患の境界線
・3:軽度の疾患
・4:中等度の疾患
・5:顕著な疾患
・6:重度の疾患
・7:非常に重度の疾患
ポジティブ又はネガティブな反応を決定するための値は、本発明に従うNrf2活性化剤の投与後のベースラインから3~5日までの変化である。総合スコアの範囲は、1~7である。マイナスの変化は改善を意味し、プラスの変化は悪化を意味する。
【0092】
臨床全般印象改善度尺度(CGI-I):CGI-Iは、臨床全般印象重症度尺度(CGI-S)によるスコアを使用した、親を対象とする問題(両親から報告された、スクリーニングにおける子供の2つの最も差し迫った問題)の全体的な変化についての7点尺度である。スコアの範囲は、以下の通りである:
・1:著明改善
・2:中等度改善
・3:軽度改善
・4:不変
・5:軽度悪化
・6:中等度悪化
・7:著名悪化
ポジティブ又はネガティブな反応を決定するための値は、本発明に従う治療後のベースラインから3~5日までの変化である。総合スコアの範囲は、1~7である。マイナスの変化は改善を意味し、プラスの変化は悪化を意味する。
【0093】
自閉症診断観察スケジュール(ADOS):ADOSは、コミュニケーション及び社会的相互作用の標準化された半構造化評価であり、ASDのゴールドスタンダード評価とみなされている。ADOSは、2つの特定のドメイン(社会的影響ドメイン、及び、制限された反復行動ドメイン)における障害を評定することにより、自閉症の診断を行って患者のASDの重症度を決定するために行われる。年齢及び患者の特性に応じて、異なるモジュールが使用される:
・モジュール1:フレーズ発言をほとんど又は全く使用しない子供。
・モジュール2:フレーズ発言を使用するが、流暢に話せない被験者。
・モジュール3:言葉が流暢な比較的若い被験者。
・モジュール4:言葉が流暢な青年及び成人。
これらのモジュールには、社会的/コミュニケーションの欠如の中核にある特質及び行動についての専門家による臨床判断が含まれる。マイナスの変化は改善を意味し、プラスの変化は悪化を意味する。ADOSスコアリングアルゴリズムは、単一の10点尺度において較正された2つの素ドメインスコアであるADOS-CSS(較正された重症度スコア)にて構成されている。
【0094】
ADOS-CSSにおけるスコアが6~10の人は「自閉症」の分類を受け、CSSが4~5の人は「ASD」、CSSが1~3の人はより下位の「スペクトラムでない」の分類を受ける。ポジティブ又はネガティブな反応を決定するための値は、本発明に従うNrf2活性化剤意訳組成物の投与後のベースラインから3~5日までの変化である。
【0095】
小児自閉症評定尺度(CARS)(Schopler et al. Toward objective classification of childhood autism: Childhood Autism Rating Scale (CARS). J Autism Dev Disord.(小児自閉症の客観的分類に向けて:小児自閉症評定尺度(CARS))1980 Mar;10(1):91-103):CARSは、自閉症に関係する行動を評価する14のドメインと、自閉症の一般的な印象を査定する15番目のドメインとにより構成される。各ドメインは1~4の範囲で評価され、より高いスコアは、より高い障害のレベルに関係する。総合スコアの範囲は、最低15~最高60であり、30未満のスコアは、その人が自閉症でない範囲にあることを示し、30~36.5のスコアは、軽度~中程度の自閉症を示し、37~60のスコアは、重度の自閉症を示す(Schopler et al. The Childhood autism rating sclares: (CARS).(小児自閉症評定尺度(CARS))Loas Angeles, Calif.: Western Psychological Services, 1988)。
【0096】
ASD症状の変化を測定する他の方法としては、以下のものが挙げられる:平均発話長(MLU)。MLUは、各自発的発話内の単語又は形態素の数として定義される。この測定は、幼児の言語習得についての最も頑強な指標の1つである。MLUは、幼児の言語障害を診断するために使用され、多くの場合、幼児の言語障害は、子供の年齢レベルの平均より1以上標準偏差の低いMLUレベルとして定義される。加えて、ASDの中核症状としての知的機能は、ヴァインランド適応行動尺度II(VABS-II)によって測定され得る。この尺度では、スコアの上昇は、改善すなわちポジティブな反応を示す。
【0097】
ポジティブな反応は、ASDの中核症状又は付随症状を測定する1つ以上の指標におけるポジティブな変化も含まれ得る。この指標には、観察者が報告するコンピューターで監視されたアイトラッキングが示す、物体に対する興味と比較した社会的刺激に対する興味のレベルの変化、社会的相互作用への関与及び応答性、言語的及び非言語的コミュニケーション能力、反復行動の発生、知的機能のレベル、注意力の測定、運動協調の質、睡眠の質、並びに、医学的併存症(例えば、胃腸症状)の症状の強さが含まれる。
【0098】
例えば、本明細書で定義されるポジティブな反応は、ADI-R ABC、ABC-I、SRS、CARS又はADOSスコアのいずれかにおいて、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%の可逆的な減少によって同定される。好ましい実施形態では、ネガティブな反応は、これらの尺度における合計スコアの少なくとも10%の増加、又は、CGI-I尺度における「軽度改善」(3)、好ましくは「中等度改善」(2)又は「著明改善」(1)評価に対応するいずれかの減少を含む。
【0099】
別の実施形態では、本発明は、ASD表現型3を有する患者を診断するための方法であって、
・胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状に関する、患者に特有のデータセットを提供するステップ、及び、
・患者が前記第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つを示す場合、該患者を、ASD表現型3を有すると診断するステップ、
を含む、方法に関する。
【0100】
さらに別の実施形態では、本発明は、ASD表現型3を有するASD患者を診断するための方法であって、
・前記患者の生物学的サンプルにおける、GNAS、MIF、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10、KCNV1、DRD1及び/又はSNAP25の発現を検査するステップ、及び、
・前記患者が、GNAS及び/若しくはMIFの上方制御、並びに/又は、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10、KCNV1、DRD1及び/若しくはSNAP25の下方制御を示す場合、前記患者を、ASD表現型3を有すると診断するステップ、
を含む、方法に関する。
【0101】
好ましい実施形態では、患者が、胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状の2つを示す場合、該ASD患者を、ASD表現型3として診断又は分類する。好ましい実施形態では、患者が「高血圧症の家族歴」と、前記第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも1つとを示す場合、患者はASD表現型3と診断又は分類される。別の実施形態では、患者が前記第1群の臨床徴候及び症状のうち少なくとも3つを示す場合、患者はASD表現型3と診断又は分類される。
【実施例
【0102】
実施例1-差次的発現遺伝子の同定
材料及び方法
これらの様々な細胞株及び治療条件(用量及び時間等)にわたる薬物のプロファイリングは、これまでに実証されたように、細胞株不変異体の作用機序を特徴付けるための代表的な生物学的状況を提供する(Iorio et. al. Discovery of drug mode of action and drug repositioning from transcriptional responses,(転写反応からの薬物作用機序及び薬物再配置の発見)Proc Natl Acad Sci U S A. 107(33):14621-6, 2010 Aug 17;Iorio et. al. Transcriptional data: a new gateway to drug repositioning?(転写データ:ドラッグリポジショニングへの新しいゲートウェイ?)Drug Discovery Today, 18, 7-8, 2013;Carrella D et al. Mantra 2.0: an online collaborative resource for drug mode of action and repurposing by network analysis,(薬物作用機序とネットワーク分析による転用のためのオンライン共同リソース)Bioinformatics 30 (12): 1787-1788, 2014;Sirci et. al. Computational Drug Networks: a computational approach to elucidate drug mode of action and to facilitate drug repositioning for neurodegenerative diseases,(計算薬物ネットワーク:薬物作用機序を解明し、神経変性疾患の薬物再配置を促進するための計算アプローチ)Drug Discovery Today: Disease Model, 19, 11-17, 2016;Pushpakom et. al. Drug repurposing: progress, challenges and recommendations,(薬物転用:経過、課題及び推奨事項)Nature reviews Drug discovery 18, 1, 41-58, 2019)。
【0103】
細胞株不変異体の作用機序を特徴付けるために、いくつかの癌細胞株(A549、MCF7、PC3、HT29、VAPなど)及び健康な組織の細胞(ASCやHA1Eなど)を含む様々なヒト細胞株にわたって、ブメタニドを試験した。これらの細胞株(表3)は、操作が容易であり、体系的なスクリーニングに適していることから選択した。細胞株に使用される増殖培地は、細胞購入会社の推奨事項によって示唆されているように、様々な細胞型の特性に応じて異なるものとした。細胞型のインキュベーションは、95%の加湿雰囲気及び5%のCO2を備えたインキュベーター内で、37℃の一定温度にて実行した。
【0104】
細胞は、全ての複製について10uMの希釈液を使用して、ブメタニドにより6時間又は24時間処理した。
【0105】
【表3】
【0106】
薬剤処理後、処理した各細胞株から抽出したRNAを、QuantSeqを用いて、サンプルあたり400万~600万カバレッジリード数で3重に(in triplicates)シーケンスした。次に、どの遺伝子がブメタニド処理後に最も高い発現変動性を示したかを評価するために、差次的遺伝子発現の解析(DGE)を行った。
【0107】
最後に、ブメタニドによって調節不全であることが判明した遺伝子と、STALICLA独自のASDに合わせた知識ベースに含まれる特定の臨床徴候及び症状に欠乏又は過剰が関連付けられた遺伝子とを比較する遺伝子セット濃縮分析を実施するために、STALICLA独自のHC-Matchモジュール(EP20164353)を適用した。この分析により、ブメタニド治療の恩恵を受けることができる患者を説明するASDに関する臨床徴候及び症状のサブセットを同定することができ、そのような中間表現型の遺伝子発現レベルでの是正効果が得られた。
【0108】
結果
発現の上方制御又は下方制御が興奮性細胞の膜を脱分極後に再分極する能力と関連付けられた、遺伝子のランキングを表4に示す。
【表4】
【0109】
これらの結果は、ブメタニドが以下のようにして興奮性細胞の脱分極後における再分極に寄与する能力を有することの証拠を提供する:
1.主要機能が興奮性細胞の脱分極後における再分極に寄与するカリウム電位依存性チャネル(KCNQ3、KCNK3及びKCNV1を含む)、並びに、細胞の静止膜電位の回復を助ける内向き整流カリウムチャネル(KCNJ6及びKCNJ10を含む)をエンコードする遺伝子を上方制御する。
2.SNAP25及びSLC12A5等の遺伝子の転写上方制御、及び、GNASの転写下方制御を通じて、カルシウム流入を減少させ、それによって活動電位の持続時間を短縮すると共に、興奮性細胞の脱分極をさらに引き起こし得る神経伝達物質及びホルモンの放出を減少させる(Mansvelder et al. The relation of exocytosis and rapid endocytosis to calcium entry evoked by short repetitive depolarizing pulses in rat melanotropic cells.(エキソサイトーシス及び急速なエンドサイトーシスの、ラットメラノトロピック細胞における短い反復脱分極パルスによって引き起こされるカルシウム侵入との関係)J Neurosci. 1998 Jan 1;18(1):81-92; Mansvelder et al. All classes of calcium channel couple with equal efficiency to exocytosis in rat melanotropes, inducing linear stimulus-secretion coupling.(カルシウムチャネルの全てのクラスは、ラットメラノトロープにおけるエキソサイトーシスと同等の効率で結合し、この結合には、線形刺激を誘導する分泌結合が含まれる)J Physiol. 2000 Jul 15;526 Pt 2:327-39)能力を有する遺伝子を調節する。
【0110】
実施例2-観察的臨床試験の予備研究
この予備研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)表現型3(ASD-Phen3)の治療に使用するために、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質を含む医薬組成物の臨床的利点を調査することを目的とするものであった。
【0111】
材料及び方法
これまでにブメタニドの経口溶液を0.5、1.0又は2mgの用量で1日2回3か月間投与した後に改善を示した特発性ASDの3人の患者を、本研究に参加させた。この予備研究の主要目的は、ASD表現型3を特徴付ける臨床徴候及び症状を示す患者におけるブメタニドの臨床的利点を検証することにあった。
【0112】
まず、合計38の健康診断の質問と73の病歴の質問を含む、カスタムの半構造化されたオンライン臨床質問アンケート(Questionnaire Q3(C) STALICLA SA 2021)が、最大90分の遠隔スクリーニング訪問中に臨床医によって(電話越しに)行われた。この遠隔スクリーニング訪問には、臨床的検証のために、ASD表現型3に関する詳細な病歴と臨床徴候及び症状とを患者/介護者と一緒に確認することが含まれていた。特に、臨床アンケートには、以下に関する質問が含まれる。
・胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状があること、並びに、
・低カリウム血症、低血圧症、高リン血症及び低塩素血症を含む第2群の臨床徴候及び症状がないこと。
【0113】
結果
表5に示すように、3人の患者全員が、第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つを示し、第2群の臨床徴候及び症状(CSS)をいずれも示さなかった。加えて、参加した3人のうちブメタニドに反応する患者のうち2人は、高血圧症の家族歴と、他の第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも1つとを有していた。
【表5】
【0114】
実施例3-観察的臨床試験
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)表現型3(ASD-Phen3)の治療に使用するために、興奮性細胞の膜の脱分極後における再分極を誘導可能な物質を含む医薬組成物の臨床的利点を調査することを目的としている。
【0115】
これまでにブメタニドの経口溶液を0.5、1.0又は2mgの用量で1日2回3か月間投与した特発性ASDの最大88人の患者を、本研究に参加させている。これには、この治療で改善を示した患者と、反応を示さなかった患者とが含まれる。この観察研究の主要目的は、ブメタニドによる治療に対してポジティブな反応を示す標的集団として、ASD表現型3とも称されるよく特徴付けられたASD患者のサブグループが存在する証拠を提供することにある。
【0116】
まず、合計38の健康診断の質問と73の病歴の質問を含む、カスタムの半構造化されたオンライン臨床質問アンケート(Questionnaire Q3(C) STALICLA SA 2021)が、最大90分の遠隔スクリーニング訪問中に臨床医によって(電話越しに)行われた。この遠隔スクリーニング訪問には、臨床的検証のために、ASD表現型3に関する詳細な病歴と臨床徴候及び症状とを患者/介護者と一緒に確認することが含まれている。特に、臨床アンケートには、以下に関する質問が含まれる。
・胃潰瘍、多動症、過呼吸、頻脈、短頸、低リン血症、マッキューン・オルブライト症候群、発作、高血圧症の家族歴、高カリウム血症、胃食道逆流、思春期早発症、高インスリン血症、炎症反応の亢進、胆管癌の家族歴、聴覚障害、高塩素血症、糖尿病の家族歴、関節過可動性、便秘、乳癌の家族歴、ベンゾジアゼピン下でのASD中核症状の悪化、結腸直腸癌の家族歴、前立腺癌の家族歴、及び、痛覚過敏を含む第1群の臨床徴候及び症状があること、並びに、
・低カリウム血症、低血圧症、高リン血症及び低塩素血症を含む第2群の臨床徴候及び症状がないこと。
【0117】
遠隔スクリーニングに続いて、採血のための対面訪問と、臨床アンケートの完了とを行う。採血は、マルチオミクスデータ(メタボロミクス、トランスクリプトミクス(RNA-seq)及び全ゲノムシーケンスデータを含む)を収集して、ASD表現型3の生物学的検証を得るために実行している。
【0118】
ASD表現型3の存在を検証するために、第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも2つを示す参加患者の数(グループ1)、並びに、この患者グループ内における反応する者(すなわち、ブメタニドによる治療後に、ASDの中核症状及び付随症状の改善を示した患者)及び反応しない者(すなわち、ブメタニドによる治療下でASDの中核症状及び付随症状の悪化を示した患者)の割合を評価する。
【0119】
さらに、高血圧症と、他の第1群の臨床徴候及び症状の少なくとも1つとを示す参加患者の数(グループ2)、並びに、この患者グループ内における反応する者及び反応しない者の割合を評価する。
【0120】
加えて、各グループでは、臨床徴候及び症状の第2群に関する状態が評価される。
【0121】
その後、各グループ内における反応する者の割合を、研究に参加した全患者の中における反応する者の割合と比較する。反応する者の割合は、全ての参加患者を含む層別化されていないグループよりも、グループ1及び2の方がはるかに高いことが予想される。
【0122】
さらに、臨床徴候及び症状の第2群に関する状態により、反応する者と反応しない者とをさらに区別できることが予想される。
【0123】
提案された疾患メカニズムをさらに検証するために、患者からのサンプルを、GNAS及び/若しくはMIFの上方制御、並びに/又は、CTNNA2、GABRA1、GABBR2、NR3C1、SLC12A5、KCNJ6、KCNQ3、KCNK3、KCNJ10、KCNV1、DRD1及び/若しくはSNAP25の下方制御について評価する。次に、患者は、上記の遺伝子の状態に基づいて異なるグループに分けられ、各グループ内におけるブメタニドによる治療に対して反応する者と反応しない者との比率を計算する。
【国際調査報告】