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特表2023-518955血圧降下のためのCHP(シクロ-ヒスプロ)の用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-09
(54)【発明の名称】血圧降下のためのCHP(シクロ-ヒスプロ)の用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/12 20060101AFI20230427BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230427BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20230427BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20230427BHJP
   C07K 5/078 20060101ALN20230427BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230427BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20230427BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20230427BHJP
【FI】
A61K38/12 ZNA
A61P9/12
A61P43/00 111
A61P9/10 101
A61P9/10
A61P9/04
A61P9/00
A61P13/12
A61P3/10
A61P27/02
A61P27/06
A61K38/22
A23L33/18
C07K5/078
C12N15/12
C12N15/53
C12N5/071
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556604
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(85)【翻訳文提出日】2022-11-16
(86)【国際出願番号】 KR2021003424
(87)【国際公開番号】W WO2021187942
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0034625
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517288254
【氏名又は名称】ノブメタファーマ カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】504314133
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ ホスピタル
(71)【出願人】
【識別番号】513246872
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン、フェ ユン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ホン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、スン ヒ
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018ME04
4B065AA90X
4B065BB19
4B065CA01
4B065CA24
4B065CA41
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA23
4C084DB24
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA33
4C084ZA36
4C084ZA42
4C084ZA81
4C084ZC35
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA11
4H045BA30
4H045CA40
4H045DA45
4H045EA01
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、血圧降下のためのCHP(シクロ-ヒスプロ)の用途に関し、より詳しくは、CHPを含む血圧降下用薬学組成物、および同構成を含む健康機能食品組成物;CHPを用いた血圧降下方法;血圧降下剤の製造時におけるCHPの用途;CHPを含む高血圧またはその合併症の予防もしくは治療用の薬学組成物、および同構成を含む高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用の健康機能食品組成物;CHPを用いた高血圧またはその合併症の予防もしくは治療方法;高血圧またはその合併症を予防もしくは治療するための薬剤の製造時におけるCHPの用途に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、血圧降下用薬学組成物。
【請求項2】
第1項において、前記シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩は、血管内皮細胞で、以下のa)ないしe)からなる群より選択される1つ以上の活性によって血圧降下効果を奏するものである、血圧降下用薬学組成物:
a)1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;
b)2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
c)VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
d)eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および
e)NOの生成の増加。
【請求項3】
シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む、血圧降下用健康機能食品組成物。
【請求項4】
第3項において、前記シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩は、血管内皮細胞で、以下のa)ないしe)からなる群より選択される1つ以上の活性によって血圧降下効果を奏するものである、血圧降下用健康機能食品組成物:
a)1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;
b)2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
c)VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
d)eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および
e)NOの生成の増加。
【請求項5】
シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を有効量としてこれを必要とする個体に投与するステップを含む、血圧降下方法。
【請求項6】
第5項において、前記シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩は、血管内皮細胞で、以下のa)ないしe)からなる群より選択される1つ以上の活性によって血圧降下効果を奏するものである、血圧降下方法:
a)1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;
b)2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
c)VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
d)eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および
e)NOの生成の増加。
【請求項7】
血圧降下剤の製造時における、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩の用途。
【請求項8】
第7項において、前記シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩は、血管内皮細胞で、以下のa)ないしe)からなる群より選択される1つ以上の活性によって血圧降下効果を奏するものである、用途:
a)1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;
b)2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
c)VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
d)eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および
e)NOの生成の増加。
【請求項9】
シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療用の薬学組成物。
【請求項10】
第9項において、前記合併症は、動脈硬化、冠状動脈疾患、心筋梗塞、心不全、狭心症、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳卒中、脳梗塞、脳出血、虚血性脳疾患、腎不全、糸球体炎、糖尿、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、蛋白尿、尿毒症、浮腫、目の血管狭窄による視力障害および緑内障からなる群より選択される、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療用の薬学組成物。
【請求項11】
シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用の健康機能食品組成物。
【請求項12】
第11項において、前記合併症は、動脈硬化、冠状動脈疾患、心筋梗塞、心不全、狭心症、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳卒中、脳梗塞、脳出血、虚血性脳疾患、腎不全、糸球体炎、糖尿、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、蛋白尿、尿毒症、浮腫、目の血管狭窄による視力障害および緑内障からなる群より選択される、高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用の健康機能食品組成物。
【請求項13】
シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を有効量としてこれを必要とする個体に投与するステップを含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療方法。
【請求項14】
第13項において、前記合併症は、動脈硬化、冠状動脈疾患、心筋梗塞、心不全、狭心症、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳卒中、脳梗塞、脳出血、虚血性脳疾患、腎不全、糸球体炎、糖尿、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、蛋白尿、尿毒症、浮腫、目の血管狭窄による視力障害および緑内障からなる群より選択される、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療方法。
【請求項15】
高血圧またはその合併症の予防もしくは治療のための薬剤の製造時における、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩の用途。
【請求項16】
第15項において、前記合併症は、動脈硬化、冠状動脈疾患、心筋梗塞、心不全、狭心症、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳卒中、脳梗塞、脳出血、虚血性脳疾患、腎不全、糸球体炎、糖尿、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、蛋白尿、尿毒症、浮腫、目の血管狭窄による視力障害および緑内障からなる群より選択される、用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧降下のためのCHP(シクロ-ヒスプロ)の用途に関し、より詳しくは、CHPを含む血圧降下用薬学組成物、および同構成を含む健康機能食品組成物;CHPを用いた血圧降下方法;血圧降下剤の製造時におけるCHPの用途;CHPを含む高血圧またはその合併症の予防もしくは治療用の薬学組成物、および同構成を含む高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用の健康機能食品組成物;CHPを用いた高血圧またはその合併症の予防もしくは治療方法;高血圧またはその合併症を予防もしくは治療するための薬剤の製造時におけるCHPの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、経済成長、教育水準の向上、および科学の発展などによって栄養状態が劇的に向上しており、食生活を含む様々な生活パターンの変化および平均寿命の延長によって引き起こされる疾病も多様化する傾向を見せている。
【0003】
韓国内で癌に次いで最も高い死因とされる脳血管疾患は、高脂血症と高血圧の高い発症に起因する。特に高血圧は、脳血管疾患、心血管疾患などの合併症を引き起こす代表的な原因疾患であり、食生活が西欧化され、高齢化が進むにつれて増加する傾向を見せている。
【0004】
腎障害を有する患者も次第に増加する傾向を見せており、このような原因としては、生活環境の変化、高齢化または糖尿病患者の増大による糖尿病性腎症の増加が挙げられる。腎機能の低下により腎不全が発生するか、透析を行うしかない患者の数は毎年増加しており、透析療法の場合、赤血球の産生障害、ミクログルブリンの蓄積などによる合併症、心血管病変の増加などの副作用が問題とされている。腎不全が発生した患者には、降圧療法に加えて血液中の電解質の上昇を抑制する薬剤の投与、低タンパク食の処方が行われており、腎性貧血を引き起こした場合は、エリスロポエチンの投与が行われているが、病態の進行を阻止するには十分でないとされている。腎炎や糖尿病性腎症、腎不全などの腎疾患では高血圧を伴う場合が多く、また高血圧は、腎疾患の悪化要因の1つとしてされているため、腎疾患の進行の抑制を期待する降圧剤の投与も行われている。
【0005】
高血圧を治療するための薬として、カルシウム通路遮断剤、利尿剤、アンジオテンシン転換酵素抑制剤などがあるが、化学合成方法などによって製造された高血圧治療剤は、頭痛、肝疾患、顔面紅潮、房室遮断、痛風などの副作用による問題があった。このような問題点を解決するために、最近、天然物質を用いて高血圧を予防および治療できる研究が続いている。
【0006】
細胞における高血圧モデルのうち最も知られているものは、アンジオテンシンII(AngII)モデルである。AngIIは、血管に存在するアンジオテンシン受容体と結合して多様な作用を行い、このうち1型受容体であるAT1(AT1R)は血管の収縮を誘導し、2型受容体であるAT2(AT2R)は血管を弛緩させてAT1と反対の作用をする(Elena Kaschina & Thomas Unger、Blood Press、12(2)、70-88、2003)。実際に、高血圧患者には、血中AngII濃度が高く維持されるか、またはAT1がAT2よりもさらに強く発現され、血管が弛緩されるより収縮された状態に維持されやすいため高血圧が現れる。よって、AT1の発現レベルを減少させる薬物や、AngIIとAT1受容体との結合を防止する遮断剤は、高血圧治療剤として活用することができる(Le TH、et al.Hypertension、42(4)、507-514、2003)。
【0007】
高血圧をはじめとする動脈硬化、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞および虚血性脳疾患などは血管収縮によって発生する疾患であり、血管収縮は、血管壁が収縮することによって大動脈を含む動脈または静脈などの血管が狭くなる現象をいう。円滑な血液循環のためには血管での血流の増加が行われるべきであり、血流の増加は血管の拡張を必ず必要とする。血管拡張のためには、血管内皮細胞の一酸化窒素合成酵素であるeNOS(Endothelial Nitric Oxide Synthase)作用による一酸化窒素(NO)が関与することになる(Ulrich Forstermann & Thomas Munzel、Circulation、113、1708-1714、2006)。実際に、高血圧の場合はNOの生成が減少されている。一般的に、血管平滑筋は様々な因子によって影響を受け、血管内皮細胞が生成して分泌するNOによる血管平滑筋細胞のcGMP信号伝逹経路が血管の弛緩において非常に重要な経路である(Zhu J、et.al.、Mol Brain、9、20、2016)。NOは、血管内皮細胞においてeNOSによってL-アルギニンから生成される。血管内皮細胞から分泌されたNOは、血管平滑筋細胞に流入し、sGC(Soluble Guanylyl Cyclase)を活性化させ、cGMPの生成を増加させる信号伝達体系によって血管平滑筋を弛緩させて血圧を調節する。よって、NOの生成促進剤も高血圧治療剤として活用することができる。
【0008】
一方、「シクロ-ヒスプロ(Cyclo-HisPro;CHP)」は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone、TRH)の代謝産物であるヒスチジン-プロリンで構成された自然発生する環状ジペプチド(dipeptide)、またはTRH代謝過程とde novoで体内で合成されることもある生理活性ジペプチドであり、その血糖調節効果(大韓民国公開特許第10-2013-0006170号)、線維症治療効果(大韓民国登録特許第10-2140910号)、腹膜線維症治療効果(大韓民国登録特許第10-2133151号)などが公知とされているが、CHPの血圧降下効果に対しては知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような背景下で本発明者らは、シクロ-ヒスプロ(Cyclo-HisPro;CHP)が血管内皮細胞において1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および/またはNOの生成増加活性によって血圧降下効果を奏することを確認して、本発明を完成した。
【0010】
したがって、本発明の目的は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む血圧降下用薬学組成物を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む血圧降下用健康機能食品組成物を提供することである。
【0012】
本発明のまた他の目的は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を用いた血圧降下方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、血圧降下剤の製造時における、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供することである。
【0014】
さらに、本発明の目的は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療用の薬学組成物を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用の健康機能食品組成物を提供することである。
【0016】
本発明のまた他の目的は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を用いた、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療のための薬剤の製造時における、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決するため、第1態様において、本発明は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む血圧降下用薬学組成物;およびシクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む血圧降下用健康機能食品組成物を提供する。
【0019】
本発明はまた、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩をそれを必要とする個体に投与することを含む、血圧降下方法;および血圧降下剤の製造時における、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供する。
【0020】
本発明の好ましい一実施例によると、前記シクロ-ヒスプロまたはその薬学的もしくは食品学的に許容可能な塩は、血管内皮細胞で、以下のa)ないしe)からなる群より選択される1つ以上の活性によって血圧降下効果を奏することができる:
a)1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;
b)2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
c)VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
d)eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および
e)NOの生成の増加。
【0021】
第2態様において、本発明は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療用の薬学組成物、およびシクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用の健康機能食品組成物を提供する。
【0022】
本発明はまた、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩をそれを必要とする個体に投与することを含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療方法;および高血圧またはその合併症の予防もしくは治療のための薬剤の製造時における、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供する。
【0023】
本発明の好ましい一実施例によると、前記合併症は、動脈硬化、冠状動脈疾患、心筋梗塞、心不全、狭心症、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳卒中、脳梗塞、脳出血、虚血性脳疾患、腎不全、糸球体炎、糖尿、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、蛋白尿、尿毒症、浮腫、目の血管狭窄による視力障害および緑内障からなる群より選択されることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のCHPを含む組成物は、血管内皮細胞において1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および/またはNOの生成増加活性によって血圧降下効果を奏するため、高血圧またはその合併症の予防、改善もしくは治療に有用であり、天然物来由の成分で人体に安全であるので、一部の副作用を現す従来の合成ACE阻害剤を代替できる治療剤および食品組成物などに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、5/6腎切除ラットを作製する3日前にシクロ-ヒスプロを投与(Pre-treatment)し、2、6および8週にそれぞれ収縮期血圧を測定した結果を示すグラフである。
図2図2は、5/6腎切除ラットを作製した2週後からシクロ-ヒスプロを投与(Post-treatment)し、2、6および8週にそれぞれ収縮期血圧を測定した結果を示すグラフである。
図3図3は、HUVEC細胞においてアンジオテンシンIIおよびCHP処理によるAT1R(Angiotensin II type I receptor)、AT2R(Angiotensin II type 2 receptor)およびVE-カドヘリン(VE-cadherin)タンパク質の発現レベルの変化を確認した図である。
図4図4は、SVEC4-10細胞においてeNOS遺伝子の発現がCHP濃度依存的に増加することを示すグラフである。
図5図5は、HMVEC-L細胞においてCHP処理によるNOの生成の増加を、DAF-FM DAを用いて確認した図である(スケールバー50μm)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
上述したように、化学合成方法などによって製造された従来の高血圧治療剤は、頭痛、肝疾患、顔面紅潮、房室遮断、痛風などの副作用を現すので、副作用の少ない天然物から血圧降下効果を奏する物質を探索し、これを医薬品、食品素材として開発しようとする試みが続いている。これによって本発明者らは、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone、TRH)の代謝産物であるヒスチジン-プロリンで構成された自然発生する環状ジペプチド(dipeptide)であるシクロ-ヒスプロ(Cyclo-HisPro;CHP)が副作用なしに血圧降下効果を奏することを確認し、上述した問題の解決方案を求めてきた。
【0027】
したがって、本発明の第1態様は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む血圧降下用薬学組成物、およびシクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む血圧降下用健康機能食品組成物に関する。
【0028】
本発明において、「シクロ-ヒスプロ(Cyclo-HisPro;CHP)」は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone、TRH)の代謝産物であるヒスチジン-プロリンで構成された自然発生する環状ジペプチド(dipeptide)、またはTRH代謝過程とde novoで体内で合成されることもある生理活性ジペプチドであり、脳全般と脊髓および胃腸管などに広く分布している物質をいう。
【0029】
本発明の組成物において、前記CHPは合成して使用するか、または市販中のものを使用してもよい。また、CHPが含有された物質、例えば、前立腺抽出物および大豆加水分解物などから精製して使用してもよい。
【0030】
用語「精製された」の使用により、CHPが、前立腺抽出物のような天然来由で得られる形態に比べて濃縮された形態であることを意味しようとする。精製された成分は、これらの天然源から濃縮させるか、または化学的合成方法により得ることができる。
【0031】
本発明の第1態様は、さらにシクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を有効量としてこれを必要とする個体に投与するステップを含む、血圧降下方法に関する。
【0032】
さらに、本発明の第1態様は、血圧降下剤の製造時における、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩の用途に関する。
【0033】
本発明の第1態様において、前記CHPまたはその薬学的もしくは食品学的に許容可能な塩は、血管内皮細胞で、以下のa)ないしe)からなる群より選択される1つ以上の活性によって血圧降下効果を奏することができる:
a)1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;
b)2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
c)VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
d)eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および
e)NOの生成の増加。
【0034】
したがって、本発明のCHPまたはその薬学的もしくは食品学的に許容可能な塩は、高血圧および/またはその合併症を予防、改善もしくは治療するために活用することができる。
【0035】
本発明の第2態様は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療用の薬学組成物、およびシクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用の健康機能食品組成物に関する。
【0036】
本発明の用語「高血圧(hypertension)」に関して、世界健康保健機構(WHO)では最高血圧が160mmHg以上で最低血圧が95mmHg以上の場合を高血圧と規定しており、高血圧疾患の種類としては大きく、原因が不明な本態性高血圧と原因疾病による続発性高血圧に区分され、このうちの90%以上が本態性高血圧に属すると知られている。
【0037】
本発明の用語「高血圧合併症」は、高血圧の原因になる症状または疾患であるか、または高血圧によって発生する症状または疾患であり得る。具体的に、高血圧合併症は、動脈硬化、冠状動脈疾患、心筋梗塞、心不全、狭心症、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳卒中、脳梗塞、脳出血、虚血性脳疾患、腎不全、糸球体炎、糖尿、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、蛋白尿、尿毒症、浮腫、目の血管狭窄による視力障害および緑内障からなる群より選択される症状または疾患であってもよい。
【0038】
本発明の高血圧またはその合併症の予防、改善もしくは治療用組成物において、用語「予防」、「改善」および/または「治療」は、疾病または病症の発症を抑制および遅延させるあらゆる行為、疾病または病症の状態を好転または有利に変更するあらゆる行為、および疾病または病症の進行を遅延、中断または逆転させるあらゆる行為を意味する。
【0039】
腎臓は水分とナトリウム代謝に関与し、レニン-アンジオテンシン系と密接な関係があるため、腎疾患自体、すなわち糸球体炎や腎不全が高血圧の原因になる可能性があり、原発性高血圧の発生にも重要な役割をする。よって、本発明の一実施例では、腎切除動物モデルでCHPの血圧降下効果を確認し、図1および2に示されたように、腎切除の前または/後のCHPの投与によって、収縮期血圧が有意に減少することが確認された。
【0040】
したがって、本発明のCHPは、特に腎不全、糸球体炎、糖尿病性腎症、蛋白尿または尿毒症のような腎疾患に関する合併症の予防、改善または治療に有用である。
【0041】
細胞における高血圧モデルのうち最も知られているものがアンジオテンシンII(AngII)モデルである。AngIIは、血管に存在するアンジオテンシン受容体と結合して多様な作用をするが、このうち1型受容体であるAT1(AT1R)は血管の収縮を誘導し、2型受容体であるAT2(AT2R)は血管を弛緩させてAT1と反対の作用をする(Elena Kaschina & Thomas Unger、Blood Press、12(2)、70-88、2003)。実際に、高血圧患者には、血中AngII濃度が高く維持されるか、またはAT1がAT2よりもさらに強く発現され、血管が弛緩されるより収縮された状態に維持されやすいため高血圧が現れる。よって、AT1の発現レベルを減少させる薬物や、AngIIとAT1受容体との結合を防止する遮断剤の開発が高血圧治療剤開発のために必要である(Le TH、et al.Hypertension、42(4)、507-514、2003)。これによって、本発明の他の一実施例では、HUVEC細胞においてAngIIおよびCHP処理によるAT1R、AT2RおよびVE-カドヘリン(VE-cadherin)タンパク質の発現レベルを確認し、図3に示されたように、CHP処理は、AngIIによって増加されたAT1Rタンパク質の発現レベルを減少させ、AngIIに減少されたAT2Rタンパク質の発現レベルを増加させ、AngIIによって減少されたVE-カドヘリンタンパク質の発現を増加させた。これによって、CHPは、血管の収縮を誘導するAT1Rタンパク質の発現レベルを増加させ、血管を弛緩させるAT2Rタンパク質の発現レベルを減少させることで、血圧降下効果を奏することを確認した。
【0042】
血管収縮によって発生する代表的な疾患としては高血圧があり、他にも動脈硬化、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞および虚血性脳疾患などがある。血管収縮は、血管壁が収縮されるによって大動脈を含む動脈または静脈などの血管が狭くなる現象をいう。円滑な血液循環のためには血管での血流の増加が行われるべきであり、血流の増加は血管の拡張を必ず必要とする。血管拡張のためには、血管内皮細胞の一酸化窒素合成酵素であるeNOS(Endothelial Nitric Oxide Synthase)作用による一酸化窒素(NO)が関与することになる(Ulrich Forstermann & Thomas Munzel、Circulation、113、1708-1714、2006)。実際に、高血圧の場合はNOの生成が減少されている。一般的に血管平滑筋は様々な因子によって影響を受け、血管内皮細胞が生成して分泌するNOによる血管平滑筋細胞のcGMP信号伝逹経路が血管弛緩において非常に重要な経路である(Zhu J、et.al.、Mol Brain、9、20、2016)。NOは、血管内皮細胞においてeNOSによってL-アルギニンから生成される。血管内皮細胞から分泌したNOは血管平滑筋細胞に流入され、sGC(Soluble Guanylyl Cyclase)を活性化させ、cGMP生成を増加させる信号伝達体系によって血管平滑筋を弛緩させて血圧を調節する。よって、血管疾患による血圧調節障害を治療するためには、NOの生成を促進できる薬物の開発が必要である。これによって、本発明のまた他の一実施例では、SVEC4-10細胞におけるCHP処理によるeNOS遺伝子発現レベル、およびHMVEC-L細胞におけるCHP処理によるNOの生成を確認した。その結果、図4で確認されるように、CHP処理によってeNOS遺伝子発現レベルが増加し、図5で確認されるように、CHP処理によってNOの生成が増加された。これによって、CHPは、NOの生成を増加させることで血管を弛緩させ、血圧降下効果を奏することを確認した。
【0043】
本発明の第2態様は、さらにシクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を有効量としてこれを必要とする個体に投与するステップを含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療方法に関する。
【0044】
さらに、本発明の第2態様は、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療のための薬剤の製造時における、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩の用途に関する。
【0045】
本願において、用語「薬学的に許容可能な」は、生理学的に許容されてヒトに投与したとき、一般的に、アレルギー反応またはこれと類似した反応を起こさないことを意味し、前記塩としては、薬剤学的に許容可能な遊離酸(free acid)によって形成された酸付加酸塩が好ましい。
【0046】
前記薬剤学的に許容可能な塩は、有機酸または無機酸を用いて形成された酸付加塩であってもよく、前記有機酸は、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、イソ酪酸、トリフルオロ酢酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、コハク酸モノアミド、グルタミン酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、アントラニル酸、ジクロロ酢酸、アミノオキシ酢酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸を含む。無機酸は、例えば、塩酸、ブロム酸、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸およびホウ酸を含む。酸付加塩は、好ましくは塩酸塩または酢酸塩の形態であってもよく、より好ましくは塩酸塩の形態であってもよい。
【0047】
他にもさらなる塩が可能な形態は、ガバ塩、ガバペンチン塩、プレガバリン塩、ニコチン酸塩、アジペート塩、ヘミマロン酸塩、システイン塩、アセチルシステイン塩、メチオニン塩、アルギニン塩、リシン塩、オルニチン塩またはアスパルト酸塩などがある。
【0048】
また、本発明の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含んでもよい。薬学的に許容される担体としては、例えば、経口投与用担体または非経口投与用担体をさらに含んでもよい。経口投与用担体は、ラクトース、澱粉、セルロース誘導体、マグネシウムステアレート、ステアリン酸などを含んでもよい。非経口投与用担体は、水、好適なオイル、食塩水、水性グルコースおよびグリコールなどを含んでもよい。また、安定化剤および保存剤をさらに含んでもよい。好適な安定化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムまたはアスコルビン酸のような抗酸化剤がある。好適な保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、メチル-またはプロピル-パラベンおよびクロロブタノールがある。その他の薬学的に許容される担体としては、次の文献に記載されているものを参照できる(Remington’s Pharmaceutical Sciences、19th ed.、Mack Publishing Company、Easton、PA、1995)。
【0049】
本発明の薬学組成物は、ヒトをはじめとした哺乳動物にいかなる方法でも投与し得る。例えば、経口または非経口で投与してもよく、非経口的な投与方法としては、これらに限定されるものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸内投与であってもよい。
【0050】
本発明の薬学組成物は、上述したような投与経路によって経口投与用または非経口投与用製剤で剤形化し得る。剤形化する場合には、1つ以上の緩衝剤(例えば、食塩水またはPBS)、カルボヒドレート(例えば、グルコース、マンノース、スクロース、またはデキストランなど)、抗酸化剤、静菌剤、キレート化剤(例えば、EDTAまたはグルタチオン)、充填剤、増量剤、結合剤、アジュバント(例えば、アルミニウムヒドロキシド)、懸濁剤、濃厚剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤、希釈剤または賦形剤を用いて調剤されてもよい。
【0051】
経口投与のための製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁液またはカプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、本発明の薬学組成物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉(とうもろこし澱粉、小麦澱粉、米澱粉、じゃがいも澱粉などを含む)、カルシウムカーボネート(Calcium carbonate)、スクロース(Sucrose)、ラクトース(Lactose)、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチル-セルロースまたはゼラチンなどを混ぜて調剤され得る。例えば、活性成分を固体賦形剤と配合した後、これを粉砕し、好適な補助剤を添加した後、顆粒混合物で加工することにより、錠剤または糖衣錠を得ることができる。
【0052】
単純な賦形剤の他に、マグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も用いられる。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤またはシロップ剤などが該当するが、よく用いられる単純希釈剤である水またはリキッドパラフィン以外に、様々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤または保存剤などが含まれてもよい。
【0053】
また、場合に応じて、架橋結合ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはナトリウムアルギネートなどを崩解剤として添加してもよく、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤および防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0054】
非経口的に投与する場合、本発明の薬学組成物は、好適な非経口用担体と共に、注射剤、経皮投与剤および鼻腔吸入剤の形態で当業界に公知となった方法により剤形化されてもよい。前記注射剤の場合には、必ず滅菌されなければならならず、バクテリアおよび真菌のような微生物の汚染から保護されなければならない。注射剤の場合、好適な担体の例としては、これらに限定されないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、これらの混合物および/または植物油を含む溶媒または分散媒質であってもよい。より好ましくは、好適な担体としては、ハンクス溶液、リンガー液、トリエタノールアミンが含有されたPBS(phosphate buffered saline)または注射用滅菌水、10%エタノール、40%プロピレングリコールおよび5%デキストロースのような等張溶液などを用いてもよい。前記注射剤を微生物の汚染から保護するために、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどのような多様な抗菌剤および抗真菌剤をさらに含んでもよい。また、前記注射剤は、大部分の場合、糖またはナトリウムクロリドのような等張化剤をさらに含んでもよい。
【0055】
経皮投与剤の場合、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、外用液剤、パスタ剤、リニメント剤、エアロゾル剤などの形態が含まれる。上記で「経皮投与」は、薬学組成物を局所的に皮膚に投与し、薬学組成物に含有された有効な量の活性成分が皮膚内に伝達されることを意味する。
【0056】
吸入投与剤の場合、本発明によって用いられる化合物は、好適な推進剤、例えば、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適な気体を用いて、加圧パックまたは煙霧機からエアロゾルスプレーの形態で便利に伝達できる。加圧エアロゾールの場合、投薬の単位は、計量された量を伝達する弁を提供して決定できる。例えば、吸込器または吹込器に用いられるゼラチンカプセルおよびカートリッジは、化合物、およびラクトースまたは澱粉のような好適な粉末基剤の粉末混合物を含有するように剤形化できる。非経口投与用剤形は、すべての製薬化学に一般的に公知となった処方書である文献(Remington’s Pharmaceutical Science、15th Edition、1975.Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania 18042、Chapter 87:Blaug、Seymour)に記載されている。
【0057】
本発明の薬学組成物は、シクロ-ヒスプロを有効量として含むとき、好ましい血圧降下効果、高血圧またはその合併症の予防、改善もしくは治療の効果を提供することができる。本願において、用語「有効量」は、陰性対照群に比べてそれ以上の反応を示す量をいい、好ましくは、高血圧またはその合併症の予防、改善もしくは治療するのに十分な量をいう。本発明の薬学組成物にシクロ-ヒスプロが0.01~99.9%含まれ得、残量は、薬学的に許容可能な担体が占めることができる。本発明の薬学組成物に含まれるシクロ-ヒスプロの有効量は、組成物が製品化される形態などに応じて変わる。
【0058】
本発明の薬学組成物の総有効量は、単一投与量(single dose)で患者に投与されてもよく、多重投与量(multiple dose)で長期間投与される分割治療方法(fractionated treatment protocol)により投与されてもよい。本発明の薬学組成物は、疾患の程度に応じて有効成分の含量を異にしてもよい。例えば、シクロ-ヒスプロを基準として、一日に体重1kg当たり好ましくは0.001~100mg、より好ましくは0.01~70mgの量で投与されるように、1回~数回に分けて投与できる。しかし、前記シクロ-ヒスプロの用量は、薬学組成物の投与経路および治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌および排泄率など多様な要因を考慮して患者に対する有効投与量が決定されるので、このような点を考慮するとき、当業界における通常の知識を有する者であれば、前記シクロ-ヒスプロを血圧降下、または高血圧もしくはその合併症の予防、改善あるいは治療のための特定の用途に応じた適切な有効投与量を決定できるであろう。本発明による薬学組成物は、本発明の効果を示す限り、その剤形、投与経路および投与方法が特に限定されるものではない。
【0059】
本発明の薬学組成物は、単独でまたは手術、放射線治療、ホルモン治療、化学治療または生物学的反応調節剤を用いる方法と併用して使用してもよい。
【0060】
本発明の薬学組成物はまた、シクロ-ヒスプロを含む外用剤の剤形で提供することができる。このような側面で、本発明の組成物は、血圧降下、あるいは高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用医薬外品組成物、および前記組成物を含む医薬外品であってもよい。
【0061】
前記外用剤は皮膚に直接適用することができる。本発明の薬学組成物を外用剤として用いる場合、さらに、脂肪物質、有機溶媒、溶解剤、濃縮剤およびゲル化剤、軟化剤、抗酸化剤、懸濁化剤、安定化剤、発泡剤(foaming agent)、芳香剤、界面活性剤、水、イオン型乳化剤、非イオン型乳化剤、充填剤、金属イオン封鎖剤、キレート化剤、保存剤、ビタミン、遮断剤、湿潤化剤、必須オイル、染料、顔料、親水性活性剤、親油性活性剤または脂質小嚢など皮膚外用剤に通常使用される任意の他の成分のような皮膚科学分野において通常使用される補助剤を含有してもよい。また、前記成分は、皮膚科学分野において一般的に使用される量で導入されてもよい。
【0062】
本発明の薬学組成物が外用剤として提供される場合、これらに限定されるものではないが、液剤、軟膏、パッチ、ゲル、クリームまたは噴霧剤などの剤形であってもよい。本発明の一具現例によると、本発明の外薬外品は、軟膏剤、マスク、湿布剤、貼付剤および経皮吸収剤などを含んでもよい。
【0063】
本発明の薬学組成物を医薬外品組成物として用いる場合、シクロ-ヒスプロをそのまま添加するか、または他の医薬外品成分と共に通常の方法によって適切に用いることができる。有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康または治療的処置)によって好適に決定することができる。
【0064】
本発明の医薬外品組成物および医薬外品に対して、本発明の薬学組成物および健康機能食品組成物の内容を準用することができる。
【0065】
本発明において、用語「健康機能食品」は、「機能性食品」および「健康食品」の意味の両方を含む。
【0066】
本発明において、用語「機能性食品(functional food)」は、特定保健用食品(food for special health use、FoSHU)と同じ用語であり、栄養供給に加えて生体調節機能が効率的に現れるように加工された医学、医療効果の高い食品を意味する。
【0067】
本発明で用語、「健康食品(health food)」は、一般食品に比べて積極的な健康維持や増進の効果を有する食品を意味し、健康補助食品(health supplement food)は、健康補助を目的とする食品を意味する。場合に応じて、機能性食品、健康食品、健康補助食品の用語は互用される。前記食品は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、丸剤などの多様な形態で製造され得る。
【0068】
このような機能性食品の具体的な例として、前記組成物を用いて農産物、畜産物または水産物の特性をいかして変形させると共に、保存性を良子にした加工食品を製造することができる。
【0069】
本発明の健康機能食品組成物はまた、栄養補助剤(nutritional supplement)、食品添加剤(food additives)および飼料などの形態で製造されてもよく、ヒトまたは家畜をはじめとする動物を摂取対象とする。
【0070】
上記類型の食品組成物は、当業界に公知にされた通常の方法により多様な形態で製造することができる。一般食品としては、これらに限定されないが、飲料(アルコール性飲料を含む)、果実およびその加工食品(例えば、果物缶詰め、瓶詰め、ジャム、マーマレードなど)、魚類、肉類およびその加工食品(例えば、ハム、ソーセージ、コンビーフなど)、パン類および麺類(例えば、うどん、そば、ラーメン、スパゲッティ、マカロニなど)、果汁、各種ドリンク、クッキー、飴、乳製品(例えば、バター、チーズなど)、食用植物油脂、マーガリン、植物性タンパク質、レトルト食品、冷凍食品、各種調味料(例えば、みそ、醤油、ソースなど)などにシクロ-ヒスプロを添加して製造することができる。
【0071】
また、栄養補助剤としては、これらに限定されないが、カプセル、錠剤、丸剤などにシクロ-ヒスプロを添加して製造することができる。
【0072】
また、健康機能食品としては、これらに限定されないが、例えば、前記シクロ-ヒスプロをお茶、ジュースおよびドリンクの形態で製造して飲用(健康飲料)できるように、液状化、顆粒化、カプセル化および粉末化して摂取し得る。また、前記シクロ-ヒスプロを食品添加剤の形態で使用するためには、粉末または濃縮液の形態で製造して使用できる。また、前記シクロ-ヒスプロと、高血圧またはその合併症の予防もしくは改善に効果があると知られている周知の活性成分とを混合して組成物の形態で製造することができる。
【0073】
本発明の食品組成物が健康飲料組成物として用いられる場合、前記健康飲料組成物は、通常の飲料のように、さまざまな香味剤または天然炭水化物などをさらなる成分として含有できる。上述した天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカライド;マルトース、スクロースのようなジサッカライド;デキストリン、シクロデキストリンのようなポリサッカライド;キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールであってもよい。甘味剤は、タウマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤;サッカリン、アスパルタムのような合成甘味剤などが使用できる。前記天然炭水化物の比率は、本発明の組成物100mL当たり一般的に約0.01~0.04g、好ましくは約0.02~0.03gである。
【0074】
シクロ-ヒスプロは、血圧降下、あるいは高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用の食品組成物の有効成分として含有され得るが、その量は、前記予防もしくは改善の効果を得るのに有効な量であって、例えば、全体組成物の総重量に対して0.01~100重量%であることが好ましいが、これに特に限定されるのではない。本発明の食品組成物は、シクロ-ヒスプロと共に、血圧降下、あるいは高血圧またはその合併症の予防もしくは改善に効果があると知られている他の活性成分と混合して製造することができる。
【0075】
上記以外に、本発明の健康食品は、さまざまな栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸、ペクチン酸の塩、アルギン酸、アルギン酸の塩、有機酸、保護コロイド、増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコールまたは炭酸化剤などを含むことができる。その他、本発明の健康食品は、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料、または野菜飲料の製造のための果肉を含有できる。このような成分は、独立にまたは混合して使用できる。このような添加剤の比率は、さほど重要ではないが、本発明の組成物100重量部当たり0.01~0.1重量部の範囲で選択されることが一般的である。
【0076】
本発明の方法において、用語「個体」は任意の動物(例えば、ヒト、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、非ヒト霊長類、ウシ、ネコ、モルモットまたはげっ歯類)を含むがこれらに限定されない。このような用語は、特定年齢または性別を意味しない。よって、女性/雌であっても、男性/雄であっても、成人/成体および新生対象体だけでなく胎児が含まれるように意図される。患者は、疾患または障害にかかった対象体を指称する。患者という用語はヒトおよび獣医学的対象体を含む。
【0077】
本発明の方法において、CHPの効果およびその投与経路、投与回数、投与量などを含む構成についての説明は上述の通りであるので、その記載を省略する。
【0078】
以下、本発明を実施例によってより詳しく説明する。ただし、本発明は多様な変更を加えることができ、様々な形態を有することができるところ、以下で記述する特定の実施例および説明は本発明の理解のためのものであるだけ、本発明を特定の開示形態に限定しようとするものではない。本発明の範囲は、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物ないし代替物を含むのもと理解されなければならない。
【実施例
【0079】
[準備例]
下記実施例で用いたシクロ-ヒスプロ(CHP)はBACHEM社より購入して用いた。
[実施例1]
シクロ-ヒスプロ処理によるラットの血圧調節予防効果の測定
1-1. 5/6腎切除モデルの作製およびシクロ-ヒスプロの投与
腎臓は、水分とナトリウム代謝に関与し、レニン-アンジオテンシン系と密接な関係があるため、腎疾患自体、すなわち糸球体炎や腎不全が高血圧の原因になる可能性があり、原発性高血圧の発生にも重要な役割をする。ラットにおける腎切除による慢性腎不全は、高血圧、尿毒症、蛋白尿と糸救体硬化を継続して進行させる。
(株)コアテックより購入した7週齢のSDラットを1週間以上予備飼育した後、実験群は2段階を経て手術を行った。全身痲酔後、腹部の正中線を切開して左側腎臓を副腎および周りの組織と分離した後、出血を防ぐために腎血管を鉗子で把持した後に、左側腎臓の上部の1/3と下部の1/3を除去し、1週間後再び全身痲酔後、右側腎臓全体を除去して5/6腎切除モデルを完成した。
【0080】
8匹ずつ3グループに分け、第1グループは、腎切除を受けていない正常対照群(SHAM)と設定してリン酸緩衝食塩水を投与し、第2グループは、5/6腎切除(5/6 Nx.)後、シクロ-ヒスプロを投与されていない疾病対照群と設定してリン酸緩衝食塩水を投与し、第3グループは、腎切除手術3日前からシクロ-ヒスプロを35mg/kgで8週間、隔日で経口投与した。
【0081】
1-2. ラットの血圧測定
血圧測定の誤差範囲を減らすため、実験動物を血圧測定器(BP-2000 blood pressure analysis system、rat platform 2-channel、Visitech Systems、Apex、NC、USA)のホルダーに補正した後、37℃ヒーティングチャンバ(heating chamber)で30分間適応させ、尾動脈で最小5回以上収縮期血圧を測定して平均値を求めた。上記の実験結果は、疾病対照群(Nx)と正常対照群、シクロ-ヒスプロの投与群の集団別t検定を実施してその有意性を検定したところ、統計学的に有意な差を示した(**p<0.005、***p<0.0005、****p<0.00005)。
【0082】
その結果、図1に示すように、正常対照群(SHAM)に比べて疾病対照群(Nx)の収縮期血圧が時間依存的に著しく増加することが観察された。一方、シクロ-ヒスプロを投与した群では、収縮期血圧が疾病対照群(Nx)より著しく減少したことが確認された。具体的に、正常対照群(SHAM)の収縮期血圧は127.8mmHgであり、疾病対照群(Nx)の収縮期血圧は196.2mmHgであったが、シクロ-ヒスプロを投与した群の収縮期血圧は156.7mmHgであった。よって、シクロ-ヒスプロの投与が血圧降下に対する予防効果があることが確認された。
【0083】
[実施例2]
シクロ-ヒスプロによるラットの血圧調節治療効果の測定
2-1. 5/6腎切除モデルの作製およびシクロ-ヒスプロの投与
実施例1-1と同一の方法によって5/6腎切除モデルを作製し、8匹ずつ3グループに分け、第1グループと第2グループは同様に処理したが、第3グループは腎切除手術2週後からシクロ-ヒスプロを35mg/kgで6週間、隔日で経口投与した。
【0084】
2-2. ラットの血圧測定
実施例1-2と同一の方法によって各グループのラットの血圧を測定した結果、図2に示すように、正常対照群(SHAM)に比べて疾病対照群(Nx)の収縮期血圧が時間依存的に著しく増加することが観察された。一方、シクロ-ヒスプロを投与した群で収縮期血圧が疾病対照群(Nx)より著しく減少したことを確認した。具体的に、正常対照群(SHAM)の収縮期血圧は127.8mmHgであるり、疾病対照群(Nx)の収縮期血圧は196.2mmHgであったが、シクロ-ヒスプロを投与した群の収縮期血圧は171.6mmHgであった。よって、シクロ-ヒスプロの投与が血圧調節治療に効果があることが確認された。
【0085】
[実施例3]
HUVEC細胞においてアンジオテンシンIIおよびCHP処理によるAT1R、AT2RもしくはVE-カドヘリンタンパク質発現の確認
3-1. HUVEC細胞培養
ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human umbilical vein endothelial cells;HUVEC、CRL-1730)は、ATCC(American Type Culture Collection)より入手し、EBM-2基本培地とEGM-2 MV微小血管内皮細胞成長培地SingleQuots補充物はLonza社より購入した。
【0086】
HUVEC細胞は、EBM-2培地にEGM-2 MV SingleQuots補充物を入れ、37℃、5%COの条件で培養した。2~3日ごとに培地を交換し、70~80%コンフルエンシー(confluency)で継代培養を行った。
【0087】
3-2. AT1R、AT2RおよびVE-カドヘリンタンパク質の発現レベルの確認
HUVEC細胞は、表1に示すように、3つのグループに分けて処理した。
【0088】
【表1】
【0089】
アンジオテンシンIIとCHPを処理したHUVEC細胞を、プロテアーゼ(protease)およびホスファターゼ(phosphatase)阻害剤が添加されたRIPAバッファー500ulに入れ、IKA社のT10ホモジナイザー(homogenizer)を用いて粉砕した。15分間氷に放置させた後、4℃で15,000rpmで遠心分離した。上清液を集め、BCA定量法でタンパク質濃度を測定し、同量のサンプルをBolt TMタンパク質ゲル電気泳動システムを用いてタンパク質を分離させた後、ニトロセルローズメンブレン(Nitrocellulose membrane)に移した。メンブレンは、5%スキムミルク(skim milk)で常温で1時間の間ブロッキング(blocking)を行った後、一次抗体であるAT1R(Angiotensin II type I receptor)、AT2R(Angiotensin II type 2 receptor)、VE-カドヘリンおよびβ-アクチン抗体と4℃で一晩反応させた。TBSTで10分ずつ3回洗浄した後、二次抗体と常温で1時間の間反応させた。TBSTで10分ずつ3回洗浄した後、ECLで反応させて発現程度を測定した。現れるバンドの大きさはImageJプログラムを用いて定量し、各バンドの大きさ値をβ-アクチンバンドの大きさ値で除して補正した。統計的有意性は、アンジオテンシンII処理対照群(Ang II)とのスチューデントティー検定(Student’s t-test)統計法を用いて分析した(*p<0.05、**p<0.05、***p<0.0005)。
【0090】
実験の結果、図3に示すように、HUVEC細胞にアンジオテンシンII(AngII)処理によって血管の収縮を誘導するAT1(AT1R)のタンパク質の発現が増加し、血管を弛緩させてAT1と反対の作用をするAT2(AT2R)のタンパク質の発現が減少した。CHP処理群では、AT1Rが統計的に有意に減少し、AT2は増加する傾向が確認された。また、血管の形成に重要な役割をするVE-カドヘリンがアンジオテンシンII(AngII)処理によって減少したが、CHPを共に処理した群では、VE-カドヘリンタンパク質の発現が統計的に有意に増加することが確認された。
【0091】
本実施例の結果によって、CHPが血管の収縮を誘導するアンジオテンシンII受容体1(AT1R)の発現を増加させ、血管を弛緩させるアンジオテンシンII受容体2(AT2R)の発現を減少させることで、血圧降下効果を奏するということを確認し、これはCHPを高血圧治療に適用できることを十分に立証する。
【0092】
[実施例4]
SVEC4-10細胞におけるCHP処理によるeNOS遺伝子発現の確認
4-1. SVEC4-10細胞培養
マウス内皮細胞株であるSVEC4-10(CRL-2181)は、ATCC(American Type Culture Collection)より入手し、RPMI-1640培地とFBSはHyclone社より購入した。
【0093】
SVEC4-10細胞は、10%FBSと1%ペニシリン/ストレプトマイシンが含まれたRPMI-1640培地を用いて37℃、5%COの条件で培養し、2日ごとに継代培養を行った。
【0094】
4-2. eNOS遺伝子発現レベルの確認
SVEC4-10細胞を6-ウェルプレートに5×10個入れて24時間培養した。無血清(Serum free)培地にCHPをそれぞれ0、10、100および250μMの濃度で処理した後、37℃、5%COの条件で2時間培養した。その後、培地を除去し、冷たいPBSで1回洗浄した後、NucleoZOLを用いてすぐに溶かした。
【0095】
RNAの抽出のため、NucleoZOL(MACHEREY-NAGEL)を用いてメーカーの総RNA分離プロトコルによってRNAを抽出し、1μgのRNAをiScript cDNA合成キット(Bio-Rad)を用いて、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)によりcDNAを合成した。合成したcDNAは、eNOS遺伝子のプライマーセットを用いて、iQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad)によりリアルタイムPCRを行って分析した。このときに用いられたプライマーセットは、表2のような塩基配列でBioneer社に合成を依頼して用いた。
【0096】
【表2】
【0097】
各遺伝子の発現値は、ハウスキーピング遺伝子であるβ-アクチンの発現値で除して補正した。統計的有意性は、スチューデントティー検定(Student’s t-test)統計法で分析した(*p<0.05)。
【0098】
実験の結果、図4に示すように、酸化窒素を生成するeNOS遺伝子の発現がCHP処理によって有意に増加することを確認した。これにより、酸化窒素の生成が促進されることで、血管が弛緩され血圧調節が効果的に行われることと予想された。
【0099】
[実施例5]
HMVEC-L細胞におけるCHP処理によるNOの生成の確認
5-1. HMVEC-L細胞培養
ヒト肺来由の微小血管内皮細胞(Human Lung Microvascular cells;HMVEC-L、CC2527)は、ATCC(American Type Culture Collection)より入手し、EBM-2基本培地とEGM-2 MV微小血管内皮細胞成長培地SingleQuots補充物はLonza社より購入した。
【0100】
HUVEC-L細胞は、EBM-2培地にEGM-2 MV SingleQuots補充物を入れ、37℃、5%COの条件で培養した。2~3日ごとに培地を交換し、70~80%コンフルエンシー(confluency)で継代培養を行った。
【0101】
5-2. NOの生成の確認
黒色96-ウェルプレートに5×10個の細胞が入るように入れ、24時間培養した後、無血清(serum free)培地にそれぞれ0、1、10、100および500μMの濃度のCHPを処理し、37℃、5%COの条件で2時間培養した。5μM濃度のDAF-FM DA(DAF-FM Diacetate;Invtrogen)を添加して30分間さらに培養し、PBSで1回洗浄した後、FITC波長の蛍光顕微鏡で観察した。同一の露出時間で写真を撮影し、各細胞の蛍光強度をImageJツールを用いて測定した。統計的有意性は、一元配置分散分析(One-way ANOVA)統計法で分析し、CHPを処理していない対照群との比較は、ダネット検定法(Dunnett’s test)で分析した(****p<0.0001)。
【0102】
実験の結果、図5に示すように、CHPが処理されることによって、HMVEC-L細胞におけるDAF-FM DA蛍光強度が強くなることを確認した。蛍光強度は細胞内のNO量を反映するので、CHP処理によって血管内皮細胞においてNOの生成が有意に増加されたことが分かる。
【0103】
血管内皮細胞のNOの生成は、血管平滑筋細胞の弛緩を促進して血管弛緩と共に血圧を低める機能をする。よって、本実施例の結果によって、CHPは、NOの生成を増加させることで、血圧調節機能を改善させることができることを確認した。
【0104】
結果の統計分析
統計的有意性は、スチューデントティー検定(Student’s t-test)と一元配置分散分析(One-way ANOVA)統計法で分析し、外れ値(outlier)は、GraphPadのグラブの外れ値計算表(Grubb’s Outlier calculator)を用いて分析した。有意な外れ値は結果合算から除いた。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2023518955000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-11-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロ-ヒスプロ(Cyclo-HisPro)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、血圧降下用薬学組成物。
【請求項2】
請求項1において、前記シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩は、血管内皮細胞で、以下のa)ないしe)からなる群より選択される1つ以上の活性によって血圧降下効果を奏するものである、血圧降下用薬学組成物:
a)1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;
b)2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
c)VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
d)eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および
e)NOの生成の増加。
【請求項3】
シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む、血圧降下用健康機能食品組成物。
【請求項4】
請求項3において、前記シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩は、血管内皮細胞で、以下のa)ないしe)からなる群より選択される1つ以上の活性によって血圧降下効果を奏するものである、血圧降下用健康機能食品組成物:
a)1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;
b)2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
c)VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
d)eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および
e)NOの生成の増加。
【請求項5】
血圧降下剤の製造時における、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩の用途。
【請求項6】
請求項5において、前記シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩は、血管内皮細胞で、以下のa)ないしe)からなる群より選択される1つ以上の活性によって血圧降下効果を奏するものである、用途:
a)1型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type I receptor)遺伝子またはタンパク質発現の減少;
b)2型アンジオテンシンII受容体(Angiotensin II type II receptor)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
c)VE-カドヘリン(VE-cadherin)遺伝子またはタンパク質発現の増加;
d)eNOS遺伝子またはタンパク質発現の増加;および
e)NOの生成の増加。
【請求項7】
シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療用の薬学組成物。
【請求項8】
請求項7において、前記合併症は、動脈硬化、冠状動脈疾患、心筋梗塞、心不全、狭心症、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳卒中、脳梗塞、脳出血、虚血性脳疾患、腎不全、糸球体炎、糖尿、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、蛋白尿、尿毒症、浮腫、目の血管狭窄による視力障害および緑内障からなる群より選択される、高血圧またはその合併症の予防もしくは治療用の薬学組成物。
【請求項9】
シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む、高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用の健康機能食品組成物。
【請求項10】
請求項9において、前記合併症は、動脈硬化、冠状動脈疾患、心筋梗塞、心不全、狭心症、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳卒中、脳梗塞、脳出血、虚血性脳疾患、腎不全、糸球体炎、糖尿、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、蛋白尿、尿毒症、浮腫、目の血管狭窄による視力障害および緑内障からなる群より選択される、高血圧またはその合併症の予防もしくは改善用の健康機能食品組成物。
【請求項11】
高血圧またはその合併症の予防もしくは治療のための薬剤の製造時における、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩の用途。
【請求項12】
請求項11において、前記合併症は、動脈硬化、冠状動脈疾患、心筋梗塞、心不全、狭心症、末梢血液循環障害、血管狭窄、脳卒中、脳梗塞、脳出血、虚血性脳疾患、腎不全、糸球体炎、糖尿、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、蛋白尿、尿毒症、浮腫、目の血管狭窄による視力障害および緑内障からなる群より選択される、用途。
【国際調査報告】