(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】目的の遺伝子の発現および/またはシグナル伝達経路の調節のためのナノ粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20230428BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230428BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20230428BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230428BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20230428BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230428BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230428BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20230428BHJP
A61K 39/385 20060101ALI20230428BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20230428BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K31/713
A61K47/69
A61K48/00
A61K38/43
A61P35/00
A61P37/04
B82Y5/00
A61K39/385
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542683
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(85)【翻訳文提出日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 US2021012820
(87)【国際公開番号】W WO2021142355
(87)【国際公開日】2021-07-15
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522277537
【氏名又は名称】アプリキャン, アンドラニック アンドリュー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】アプリキャン, アンドラニック アンドリュー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA13
4C084BA44
4C084DC01
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZC521
4C085AA03
4C085DD90
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA13
4C086ZB09
4C086ZB26
(57)【要約】
本開示は機能的発現および/または活性のために、RNA構築物を細胞に送達するための方法および組成物を提供し、多官能化ナノ粒子を含む組成物を提供する。上記多官能化ナノ粒子は、少なくとも1個のRNA分子、少なくとも1個の細胞膜透過ペプチド(CPP)および少なくとも1個の正に荷電した部分で官能化されたコアを含み、それらの各々は、独立してリンカー部分で、上記コアに結合され得る。上記RNA分子は、その5’末端が上記コアに結合されているリンカー部分に結合されたキャップのないmRNA分子であり得る。上記多官能化ナノ粒子は実質的に電荷をもたないか、負に荷電しているかまたは正に荷電している。上記多官能化ナノ粒子は、種々の目的(ワクチン接種、がん処置、テロメアの伸長、細胞シグナル伝達経路の改変などが挙げられる)のために、細胞において目的のポリペプチドを送達し、その発現を引き起こす方法において使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、前記組成物は、
固体ナノ粒子コアであって、
前記固体ナノ粒子コアに第1のリンカーによって結合された少なくとも1個のRNA分子、
前記固体ナノ粒子コアに結合された少なくとも1個の細胞膜透過ペプチド(CPP);および
前記固体ナノ粒子コアに連結された少なくとも1個の正に荷電した部分、
で官能化された固体ナノ粒子コアを含み;
ここで前記官能化されたナノ粒子は、実質的に電荷をもたないか、負に荷電されるかまたは正に荷電される、組成物。
【請求項2】
前記固体ナノ粒子コアは、金属製または非金属製である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ナノ粒子コアは、超常磁性である、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記固体ナノ粒子コアは、鉄、金、または上記で記載されるとおりの他の金属を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記固体ナノ粒子コアは、直径50nmもしくはこれより小さいサイズを有する、請求項1~4の1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記RNA分子は、5’末端および3’末端でキャップのないmRNA分子であり、ここで前記キャップのないmRNA分子の5’末端は、前記第1のリンカーに共有結合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記RNA分子は、5’末端および3’末端でキャップ付加されたmRNA分子であり、ここで前記キャップ付加されたmRNA分子の3’末端は、前記第1のリンカーに共有結合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記mRNA分子は、少なくとも約150ヌクレオチドの長さである、請求項6または請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記mRNA分子は、目的の抗原をコードする、請求項6または請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記mRNA分子は、目的の酵素をコードする、請求項6または請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記mRNA分子は、テロメラーゼをコードする、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記mRNA分子は、検出可能なタンパク質マーカーをコードする、請求項6または請求項7に記載の組成物。
【請求項13】
前記第1のリンカーは、直線状のリンカーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記第1のリンカーは、前記固体ナノ粒子コアへの1個の接触点および複数の分枝を有する分枝状リンカーであり、ここで前記複数の分枝のうちの少なくとも2本は、個々のRNA分子に結合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記第1のリンカーは、少なくとも6Å長である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記第1のリンカーは、切断可能なリンカーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記切断可能なリンカーは、細胞内で切断されるように構成される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記切断可能なリンカーは、ジスルフィド結合を含む、請求項16または請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記切断可能なリンカーは、酸に不安定なまたは他のタイプのリンカーである、請求項16~18の1項に記載の組成物。
【請求項20】
前記少なくとも1個のCPPは、第2のリンカーによって固体ナノ粒子コアに結合され、ここで前記第1のリンカーおよび前記第2のリンカーは、同じかまたは異なる、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記第1のリンカーおよび第2のリンカーは異なり、前記第2のリンカーは、前記第1のリンカーより長い、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記少なくとも1個の正に荷電した部分は、第3のリンカーによって前記固体ナノ粒子コアに結合され、前記第1のリンカーおよび前記第3のリンカーは、同じかまたは異なる、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
前記第1のリンカーおよび第3のリンカーは異なり、前記第3のリンカーは、前記第1のリンカーより長い、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記少なくとも1個の正に荷電した部分は、荷電したペプチドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項25】
前記荷電したペプチドは、2個またはこれより多くの正に荷電したアミノ酸を含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記固体ナノ粒子コアは、複数のmRNAまたはsiRNA分子および前記固体ナノ粒子コアに結合した複数の正に荷電した部分を約100:1~約1:10の比で有する、任意の前述の請求項に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物は、前記固体ナノ粒子コアに結合した少なくとも2個のmRNA分子を含み、ここで前記mRNA分子は、同じであっても異なっていてもよく、前記mRNA分子のうちの少なくとも一方は、5’末端および3’末端でキャップのないmRNA分子であり、前記キャップのないmRNA分子の5’末端は、前記第1のリンカーに共有結合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項28】
前記少なくとも1個のCPPは、5~9個の塩基性アミノ酸を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項29】
前記少なくとも1個のCPPは、5~9個の連続する塩基性アミノ酸を含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記固体ナノ粒子コアに結合した少なくとも1個のsiRNA分子をさらに含み、ここで前記少なくとも1個のsiRNA分子は、目的の遺伝子に特異的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項31】
前記固体ナノポアコアに結合した2個またはこれより多くの異なるsiRNA分子をさらに含み、ここで前記2個またはこれより多くのsiRNA分子の各々は、異なる目的の遺伝子または目的の遺伝子における異なる配列に特異的である、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記siRNA分子およびRNA分子は、約1:20~約20:1の比で存在する、請求項30または請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
請求項1~32の1項に記載の官能化されたナノ粒子を含む細胞。
【請求項34】
細胞において目的のポリペプチドを発現させる方法であって、前記方法は、請求項1~32のいずれかに記載の組成物を前記細胞に送達する工程および前記RNA分子の発現を可能にする工程を包含し、ここで前記RNA分子は、前記目的のポリペプチドをコードする、方法。
【請求項35】
前記ポリペプチドは、抗原である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記ポリペプチドは、酵素である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記酵素は、テロメラーゼである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記ポリペプチドは、検出可能なマーカーまたは構造タンパク質である、請求項34に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2020年1月10日出願の米国仮出願第62/959,790号および2020年1月13日出願の米国仮出願第62/960626号(これらの各々は、その全体において本明細書に参考として明示的に援用される)に基づく利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本開示は、生体活性分子(ペプチド、タンパク質、低RNA分子(例えば、低分子干渉RNA(siRNA))、およびより長いRNA分子(例えば、メッセンジャーRNA(mRNA))が挙げられるが、これらに限定されない)で官能化されたナノ粒子を使用して、遺伝子発現および遺伝子生成物の活性の制御のための組成物ならびに上記組成物を使用および製造する関連方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
細胞が正常に増殖し、移動し、種々の細胞タイプへと分化する能力は、胚発生において、および成熟細胞(心血管系、免疫系、腸系、および脳系の細胞が挙げられるが、これらに限定されない)の機能において極めて重要である。細胞のこの機能的能力は、後天性または遺伝性の変異に起因して、種々の病的状態において変化する。上記変異は、異なる細胞内シグナル伝達経路の活性化および種々の遺伝子(例えば、発癌遺伝子)の過剰発現をもたらし得、それらの各々は、悪性形質転換、過剰増殖および悪性細胞の拡大に寄与し得る。
【0004】
さらに、過剰増殖はまた、上記細胞が正常に機能するために必要とされるいくつかの極めて重要な遺伝子(例えば、癌抑制遺伝子)の発現の異常な喪失によって誘発され得、このような機能喪失は、悪性形質転換ならびに異なる腫瘍およびがんの発生をもたらし得る。
【0005】
さらに、ウイルス感染の間に、新たなおよび/または変化した遺伝子(ウイルス起原の、または宿主細胞ゲノムへのウイルスDNAの組み込みによって誘発されるか、もしくはウイルスRNAから発現されるデノボ変異の生成物のいずれかの)は、細胞において発現され、ウイルス複製を助け、これは、種々の重篤な、およびときおり生命を脅かす合併症をもたらし得る。免疫系は頻繁に、いくつかのウイルス感染と戦うにあたって効果的であるが、ワクチン接種は、生物に、より効果的に感染に抵抗しかつ戦う準備をさせるために、世界的に一般に使用されるアプローチである。しかし、ワクチン接種は頻繁に、DNAを含む部分的不活性化または完全不活性化ウイルスの使用に基づく。外因性DNAが細胞で使用されるたびに、このようなDNAは、細胞ゲノムに組み込まれ、腫瘍形成および/または他の有害な結果を誘発し得る。従って、細胞ゲノムを完全にそのまま保存するタンパク質またはmRNAを使用する非DNAベースのワクチン接種は、ワクチン接種の遙かにより好ましい経路を表す。
【0006】
近年の科学的発展は、外因性低分子インヒビター、低分子干渉RNA(siRNA)、miRNA、またはメッセンジャーRNA(mRNA)の投与を組み込む発癌遺伝子様分子の異常な発現を制御する種々のアプローチを提示する。さらに、ウイルス遺伝子特異的mRNAは、ウイルス遺伝子生成物の発現を誘導し、免疫系の細胞を訓練して、ウイルスに対する抗体を生成するワクチン接種のために使用され得る。にもかかわらず、siRNA、miRNA、mRNA、および他のRNAベースの分子の効果的な使用に対する主な障壁は、細胞膜を経て種々のヒト細胞の細胞質へとsiRNAを輸送し得る非常に効率的な送達ビヒクルがないことである。同じ問題がまた、遺伝子の復元を妨げており、その遺伝子の発現は、悪性形質転換および腫瘍形成の間に喪失される。
【0007】
よって、当該分野での進歩にもかかわらず、生物学的に活性な分子を、単独でまたは種々の組み合わせにおいて、細胞の内部へと速達して、遺伝子発現の調節を効果的に誘導する効率的アプローチの必要性が未だにある。例えば、染色体構造に対する損傷を回避しながら、1もしくはこれより多くの異なる異常なシグナル伝達経路を標的にする、および/または種々の細胞において目的の標的遺伝子の発現を誘導する必要性は未だにある。本開示は、これらのおよび関連する必要性に対処する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
いくつかの局面において、本開示は、細胞機能を調節するために、タンパク質、ペプチド、siRNA、microRNAおよびmRNAを生体適合性ナノ粒子に連結する官能化および製造の方法を提供する。いくつかの局面において、本開示は、多官能化生体適合性ナノ粒子自体に関する。さらに他の実施形態において、本開示は、本開示の多官能化生体適合性ナノ粒子を使用する方法に関する。他の局面において、本開示は、多官能化ナノ粒子、上記多官能化ナノ粒子を含む組成物、キット、および細胞を提供する。
【0009】
本開示のこれらのおよび他の局面は、添付の図面とともに以下の詳細な説明を参照する場合に、当業者により容易に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面の説明
本発明の上記の局面および付随する利点の多くは、添付の図面とともに理解される場合に、以下の詳細な説明を参照することによって、よりよく理解されることになることから、より容易に理解されることになる。
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の例示的な多官能化ナノ粒子が、初代細胞における遺伝子特異的siRNA分子の細胞質送達において非常に効率的であることを示すヒト初代線維芽細胞の2枚の写真を示す。左のパネルは、siRNAを含まないナノ粒子で処理したコントロールヒト初代線維芽細胞を示す。右のパネルは、生体活性ペプチドおよび癌抑制遺伝子PT10を標的にするsiRNA構築物で多官能化したFITC標識ナノ粒子で処理し、続いて、結合されていないナノ粒子を除去するために広範に洗浄したヒト初代線維芽細胞を示す。細胞核をDAPIで染色した。示された蛍光(例示的な蛍光シグナルを示す矢印を参照のこと)は、qRT-PCRによって決定される場合、標的PT10遺伝子発現を60%ノックダウンする、細胞質中のPTEN特異的siRNAで官能化されたナノ粒子の存在を示す。
【0012】
【
図2】
図2は、本開示の例示的な多官能化ナノ粒子が、細胞へのmRNAの送達および翻訳において非常に効率的であることを示すヒト初代線維芽細胞の2枚の写真を示す。左のパネルは、mRNAを含まないナノ粒子に曝したコントロールヒト初代線維芽細胞を示す。右のパネルは、赤色のmCherryタンパク質をコードするキャップのないmRNAで官能化したNPで処理した細胞を示す。mCherry mRNA発現を、赤色蛍光(例示的な蛍光シグナルを示す矢印を参照のこと)によって決定される場合、処理の26時間後に評価した。その示された蛍光から、mRNA(多官能化ナノ粒子によって送達されるキャップのないmRNAを含む)が、mRNAペイロードの効率的翻訳を成功裡に生じ得ることが確認される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本開示は、種々の細胞タイプへの種々の器官の1またはこれより多くの生体活性分子(siRNA、miRNA、mRNA、ペプチドおよびタンパク質が挙げられる)の非組み込み送達を効果的に促進する効率的なナノ粒子ベースの送達機序の本発明者らの開発に基づく。上記RNA構築物は、高い機能性を示すが、細胞ゲノムをそのまま保存する。このプラットフォームは、例えば、多数の経路を同時に標的とするために、多数の生体活性ペイロードと多重化され得、標的遺伝子発現の非常に効率的な調節のための新規なアプローチを提供する。このプラットフォームは、増強されたワクチン接種を実行する、テロメア伸長を促進する、ヒト悪性疾患を効果的に処置する、種々の病的状態を引き起こす遺伝子の発現を制御するなどを含む多くの適用のために利用可能である。
【0014】
生物学的に活性な分子を細胞内に送達するために、本開示は、種々の起源の生物学的に活性な分子が共有結合により連結された細胞膜透過ナノ粒子を含む組成物に基づく普遍的なプラットフォームを提供する。この目的のために、本開示は、ナノ粒子への、タンパク質、ペプチドおよび異なるRNAの共有結合による連結を確実にする新規な官能化アプローチを本明細書で提示する。本発明の改変された細胞膜透過ナノ粒子は、細胞機能の調節および/または正常化のための生物学的に活性な分子の同時の細胞内送達のための普遍的機序を提供し、これは、細胞もしくは器官の機能および/またはヒトにおける感染に対する体の抵抗性を改善するために、研究開発、薬物スクリーニングおよび治療適用において引き続き使用され得る。
【0015】
前述によれば、1つの局面において、本開示は、RNAペイロードを細胞の内部に送達するように構成された組成物を提供する。上記組成物は、多官能化ナノ粒子コアであって、
上記固体ナノ粒子コアにリンカーによって結合された少なくとも1個のRNA分子、
上記固体ナノ粒子コアに結合された少なくとも1個の正に荷電した細胞膜透過ペプチド(CPP)、
官能化された多官能化ナノ粒子コアを含み;ここで上記官能化されたナノ粒子は、実質的に電荷をもたないか、負に荷電されるかまたは正に荷電される。
【0016】
上記ナノ粒子コアは、好ましくは、生体適合性である(例えば、超常磁性酸化鉄もしくは金ナノ粒子または科学文献中に以前に記載されたものに類似のポリマー性の生分解性ナノ粒子が挙げられる(Lewin Mら, Nat. Biotech. 2000, 18, 410-414; Shen T,ら, Magn. Reson. Med. 1993, 29, 599-604; Weissleder, R.ら American Journal of Roentgeneology 1989, 152, 167-173))。このよううなナノ粒子は、例えば、磁気共鳴画像化法に関する臨床状況において使用され得る(潜在的用途のうちの1つは、細胞内で標的とした細胞を標識し、細胞の細胞外標識および画像化によって行われるように、骨髄細胞、リンパ節、脾臓および肝臓のインビボでそれらの経路を画像化することであるからである)(例えば、Shenら, Magn. Reson. Med. 29, 599 (1993); Harisinghaniら, Am. J. Roentgenol. 172, 1347 (1999)を参照のこと)。例えば、50nm未満のサイズにされかつ架橋された細胞膜透過性Tat由来ペプチドを含む磁性酸化鉄ナノ粒子は、1細胞あたり30pgまでの超常磁性鉄ナノ粒子の量において、造血およびニューロン前駆細胞へと効率的にインターナライズする(Lewinら, Nat. Biotechnol. 18, 410 (2000))。さらに、上記ナノ粒子組み込みは、骨髄由来CD34+ 初期前駆細胞の増殖および分化特性または細胞生存能力に影響しない(Maite Lewinら, Nat. Biotechnol. 18, 410 (2000))。これらのナノ粒子は、遺伝子発現が腫瘍発生の間に失われようが、またはワクチン接種のために必要とされようが、実質的に任意の目的の遺伝子のインビボ発現のために使用され得る。
【0017】
いくつかの実施形態において、上記ナノ粒子コアは固体である。例えば、上記固体ナノ粒子コアは、金属製または非金属製(キトサンまたはヒドロキシアパタイトベースのナノ粒子が挙げられるが、これらに限定されない)であり得る。本開示によって包含される例示的な金属製ナノ粒子としては、磁性ナノ粒子、および超常磁性鉄ベースのナノ粒子、銀ナノ粒子、チタンナノ粒子が挙げられる。例えば、上記ナノ粒子コアは、鉄(例えば、酸化鉄)であり得るかまたは鉄を含み得る。別の例示的なナノ粒子コアは、金であるかまたは金を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、上記ナノ粒子コアは、生体適合性ポリマーを含む。例えば、上記ポリマーコーティング(例えば、デキストランポリサッカリドのような)は、X/Y官能基を有し得、これらに対して、機能的エレメントまたは種々の長さのリンカーが結合され得る。上記リンカーは、次には、RNA分子のような官能基、ならびに/または必要に応じて上記CPPおよび/もしくは正に荷電した部分に共有結合される。上記リンカーはまた、それらのX/Y官能基を通じて、例えば、さらなるタンパク質、microRNAおよび/またはペプチド(または他の低分子)に結合されるように構成され得る。架橋のための例示的な官能基は、より詳細に記載され、本開示のこの局面によって包含される。
【0019】
いくつかの実施形態において、上記ナノ粒子コアは、金属または固体コア構造がないポリマーの集合体である。代わりに、ポリマーの集合体は、内部に捕捉された生体活性分子を含み、経時的に脱ぎ落とされ、長時間持続する効果をもたらし得る。このようなポリマー性ナノ粒子は公知であり、本明細書で記載されるように多官能化されるように当業者によって構成され得る。
【0020】
いくつかの実施形態において、上記ナノ粒子コアは、直径50nmもしくはこれ未満のサイズ(例えば、直径約5nm~約50nm、直径約25~約45nm、直径約30nm~約45nm、直径約35nm~約45nm、直径約40nm~約45nm、直径約40nm~約50nm、直径約20nm~約30nmの間、またはこれらの中の他の部分範囲)を有する固体ナノ粒子コアである。例示的な実施形態において、上記ナノ粒子コアは、約5nm、約10nm、約20nm、約23nm、約25nm、約28nm、約30nm、約33nm、約35nm、約38nm、約40nm、約45nm、および約50nmの直径を有する。
【0021】
上で示されるように、上記ナノ粒子ベースの組成物は、例えば、細胞内事象を標的にし、目的の種々の細胞タイプの細胞機能および特性を調節するために適用され得る生物学的に活性な分子の細胞内送達のための優れたビヒクルとして働く。従って、この局面の組成物は、1またはこれより多くの機能的ペイロードを運ぶために多官能化されたナノ粒子ベースの組成物を提供する。示されるように、上記ナノ粒子コアは、少なくともRNA分子ペイロードで官能化される。上記RNA分子は、短い干渉RNA(siRNA)、microRNA(miRNA)、またはコードRNA(例えば、メッセンジャーRNA(mRNA))であり得る。
【0022】
いくつかの実施形態において、上記RNA分子は、キャップのないmRNA分子である。メッセンジャーRNA(mRNA)は一般に、目的のペプチドまたはポリペプチドをコードする配列を含む1本鎖RNA分子をいう。いくつかの実施形態において、上記mRNAは、「成熟(mature)」mRNAであり、これがコードエキソンの間に散在するイントロン配列を欠いていることを意味する。mRNAはまた、代表的には真核生物細胞において起こるさらなる改変を有し得る。例えば、上記mRNAは、5’キャップ構造を有し得、これは、付加されたRNA7-メチルグアノシンキャップを含む。これは、5’-5’-三リン酸結合を介して代表的には連結されている改変グアニンヌクレオチドである。上記5’キャップ構造は、RNAseによる分解から保護することによって、その分子の安定性を正統的に(canonically)保存し得る。さらに、上記mRNAは、3’末端においてポリアデニリルテールを含み得る。上記
「ポリ(A)(poly(A))」テールはまた、エキソヌクレアーゼによる分解から保護することによって、上記mRNAの安定性を促進する。
【0023】
いくつかの実施形態において、上記mRNAは、キャップのないmRNA分子である。本明細書で使用される場合、「キャップのない(uncapped)」とは、5’-5’-三リン酸結合を介して連結された標準的な5’キャップ構造がないことをいう。このような実施形態において、上記mRNAのキャップのない5’末端は、リンカーに連結され、これは次に、上記ナノ粒子コア構造に結合される。上記mRNA分子は、その5’末端において上記ナノ粒子につなぎとめられる場合には、安定なままであることが見出された。いかなる特定の理論によっても拘束されないが、本明細書で記載される他の官能基を有する上記ナノ粒子の存在は、上記細胞に存在するヌクレアーゼによる分解から上記mRNAの一部を保護すると考えられる。
【0024】
他の実施形態において、上記RNA分子は、キャップ付加されたmRNA分子であり、ここで上記キャップ付加されたmRNA分子の3’末端は、第1のリンカーによって共有結合される。上記第1のリンカーは、次に、上記ナノ粒子コアの表面に結合される。
【0025】
キャップ付加またはキャップのない構成とは無関係に、上記mRNA分子は、当該分野で公知のタンパク質およびコード配列の広範囲の知識に従って、目的のペプチドまたはポリペプチド(例えば、機能的タンパク質)をコードするように構成され得る。例えば、上記mRNA分子は、所望のペプチドおよびポリペプチドの中でもとりわけ、目的の抗原、目的の酵素(例えば、テロメラーゼ)、または検出可能なマーカーをコードし得る。
【0026】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、上記固体ナノ粒子コアに結合された少なくとも2個のRNA分子を含む。上記RNA分子の各々は、独立してリンカーによって結合され得、上記リンカーは、同じかまたは異なり得る。上記RNA分子は、同じかまたは異なり得、上記RNA分子のうちの少なくとも一方は、キャップのないmRNA分子であり、上記キャップのないmRNA分子の5’末端は、上記第1のリンカーに共有結合され、これは次に、上記ナノ粒子コアに共有結合される。
【0027】
示されるように、上記RNA分子は、第1のリンカーによって上記ナノ粒子コアに結合される。上記リンカーは、直線状のリンカーまたは分枝状リンカーであり得る。分枝状リンカーは、単一の接触点を介して上記ナノ粒子コアに共有結合され、1またはこれより多くの分枝点で起こる複数の分枝を有する。代表的には、上記複数の分枝のうちの少なくとも2本が、個々のRNA分子に結合される。
【0028】
いくつかの実施形態において、上記リンカーは、1またはこれより多くのリンカーから構成され、各々、少なくとも6Å長(例えば、少なくとも6Å長、7Å長、8Å長、9Å長、10Å長、11Å長、12Å長、13Å長、14Å長、15Å長、16Å長、17Å長、18Å長、19Å長、20Å長、またはこれより長いÅ長)である。いかなる特定の理論によっても拘束されないが、この長さのリンカーによって提供される距離は、十分な可撓性および上記ナノ粒子コアからの距離が上記mRNAペイロードへのリボソームのアクセスを可能にし、従って、上記mRNAの、ペプチドまたはポリペプチド生成物への翻訳を可能にする。
【0029】
いくつかの実施形態において、上記第1のリンカーは、切断可能なリンカー(例えば、細胞内で切断されるように構成され、上記ペイロード分子の上記ナノ粒子コアからの放出を生じるリンカー)である。このような放出は、mRNAテンプレート上のリボソーム複合体の形成が、翻訳を促進することを可能にし得る。いくつかの実施形態において、上記切断可能なリンカーは、ジスルフィド結合を含む。
【0030】
適切なリンカー基および官能基を上記ナノポアに結合させる関連方法は、公知である。例えば、米国特許第9675708号(その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。上記RNA分子(および潜在的には他の官能基)を上記ナノ粒子に架橋するために使用され得るリンカー官能基の例証的で非限定的な例としては、以下が挙げられる:
-NH2(例えば、リジン、a-NH2);
-SH;
-COOH;
-NH-C(NH)(NH2);
炭水化物
-ヒドロキシル(OH);および
上記リンカー上のアジド基の光化学を介する結合。
【0031】
架橋試薬の例証的で非限定的な例としては、以下が挙げられる:
SMCC[スクシンイミジル 4-(N-マレイミド-メチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート](sulfo-SMCCを含み、これは、アミノ基およびチオール基を架橋するためのスルホスクシンイミジル誘導体である);
LC-SMCC(長鎖SMCC)(sulfo-LC-SMCCを含む);
SPDP[N-スクシンイミジル-3-(ピリジルジチオ)-プロピオネート](N-Succinimidyl-3-(pypridyldithio)-proprionate)(sulfo-SPDPを含み、これは、アミン基と反応し、チオール基を提供する);
LC-SPDP(長鎖SPDP)(sulfo-LC-SPDPを含む);
EDC[1-エチルヒドロクロリド-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド](これは、-COOH基を-NH2基と連結するために使用される試薬である;
SM(PEG)n(ここでn=1、2、3、4…24のグルコールユニットであり、sulfo-SM(PEG)n誘導体を含む);
SPDP(PEG)n(ここでn=1、2、3、4…12のグルコールユニットであり、sulfo-SPDP(PEG)n誘導体を含む);
カルボキシル基およびアミン基の両方を含むPEG分子;ならびに
カルボキシル基およびスルフヒドリル基の両方を含むPEG分子。
【0032】
キャップ付加試薬およびブロッキング試薬の例証的で非限定的な例としては、以下が挙げられる:
シトラコン酸無水物(これは、NHに特異的である);
エチルマレイミド(これは、SHに特異的である);および
メルカプトエタノール(これは、マレイミドに特異的である)。
【0033】
上記少なくとも1個の細胞膜透過ペプチド(CPP)および/または上記少なくとも1個の正に荷電した部分はまた、リンカー構築物を介して上記ナノ粒子コアに結合され得る。任意の適切なリンカー構築物は、上記少なくとも1個の細胞膜透過ペプチド(CPP)および/または上記少なくとも1個の正に荷電した部分を上記ナノポアコア(例えば、上で記載されるもの)に結合するために使用され得る。1つの実施形態において、上記少なくとも1個のCPPは、第2のリンカーによって上記固体ナノ粒子コアに結合される。上記第1のリンカーおよび上記第2のリンカーは、同じタイプまたは異なるタイプのリンカーであり得る。いくつかの実施形態において、上記第1のリンカーおよび第2のリンカーは異なり、上記第2のリンカーは、上記第1のリンカーより長い。1つの実施形態において、上記少なくとも1個の正に荷電した部分は、第3のリンカーによって上記固体ナノ粒子コアに結合される。上記第1のリンカーおよび上記第3のリンカーは、同じタイプまたは異なるタイプのリンカーであり得る。1つの実施形態において、上記第1のリンカーおよび第3のリンカーは異なり、上記第3のリンカーは、上記第1のリンカーより長い。いかなる特定の理論によっても拘束されないが、上記第1のリンカーと比較して、上記第2のおよび/または第3のリンカーがより長いことで、より小さな部分(すなわち、上記CPPおよび/または上記正に荷電した部分)が、はるかによりかさ高いRNA分子の存在にもかかわらず、上記ナノポアコアの表面からさらに伸びることが可能になる。このように配置されると、上記CPPおよび/または上記正に荷電した部分は、周囲の環境と相互作用するより多くの機会を有し得る。
【0034】
上記少なくとも1個の正に荷電した部分は、かさ高いRNA分子によって提供される負電荷を相殺するためにさらなる正電荷を提供する。同じナノ粒子コアに連結された同じ正に荷電した部分の多数のユニットが存在し得る。さらに、または代わりに、同じナノ粒子コアに結合された荷電した部分の多数の異なる種類の1またはこれより多くのユニットが存在し得る。いくつかの実施形態において、上記少なくとも1個の正に荷電した部分は、荷電したペプチドである。例示的な荷電したペプチドは、2個またはこれより多くの正に荷電したアミノ酸、例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、またはこれより多くの荷電したアミノ酸を含み得る。
【0035】
いくつかの実施形態において、上記固体ナノ粒子コアは、複数のmRNAおよび/またはsiRNA分子、ならびに上記分子に連結された複数の正に荷電した部分を、約100:1~約1:10の比で、例えば、約100:1、約90:1、約80:1、約70:1、約60:1、約50:1、約40:1、約30:1、約20:1、約10:1、約5:1、約1:1、約1:5、および約1:10、ならびにこれらの間の任意の範囲の比で有する。
【0036】
上で示されるように、上記多官能化ナノ粒子コアは、実質的に電荷をもたないかまたは正に荷電されている。この点において、結合されたmRNA分子によって付与される実質的負電荷は、正電荷によって相殺される。用語「実質的に電荷をもたない(substantially neutral)」とは、中性付近の電荷(わずかな負電荷または正電荷は許容される)をいう。
【0037】
細胞膜透過ペプチド(CPP)は、会合した構築物の細胞取り込みを促進する短いペプチドである。一般的な実施形態において、上記少なくとも1個のCPPは、正に荷電したアミノ酸(例えば、リジンまたはアルギニン)の比較的高い存在量を含むか、または極性の荷電したアミノ酸および非極性の疎水性アミノ酸の交互のパターンを有する。いくつかの実施形態において、上記少なくとも1個のCPPは、5~9個の塩基性アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、上記少なくとも1個のCPPは、5~9個の連続する塩基性アミノ酸を含む。例示的なCPPとしては、HIV-1から得られるトランス活性化転写活性化因子(transactivating transcriptional activator)(TAT)、またはその誘導体が挙げられ、これらは、本開示によって包含される。他の代表的なCPPの考察については、例えば、Okuyama M.ら、(February 2007). 「Small-molecule mimics of an alpha-helix for efficient transport of proteins into cells」. Nature Methods. 4(2): 153-9(その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。
【0038】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、上記固体ナノ粒子コアに結合された少なくとも1個のsiRNA分子をさらに含み、ここで上記少なくとも1個のsiRNA分子は、目的の遺伝子に特異的である。この文脈において使用される場合、用語「に特異的(specific for)」とは、siRNA分子構築物が目的の遺伝子の転写物に特異的にハイブリダイズし得、従って、機能的タンパク質への翻訳に干渉するsiRNA分子構築物の配列特異性をいう。よって、上記siRNAは、目的の標的遺伝子の機能的発現のノックダウンを誘導し得る。いくつかの実施形態において、上記組成物は、上記固体ナノポアコアに結合した2個またはこれより多くのsiRNA分子をさらに含む。上記2個またはこれより多くのsiRNA分子の各々は、異なる目的の遺伝子に特異的であるか、または目的の遺伝子における異なる配列に特異的である。上記siRNA分子およびRNA分子(例えば、mRNA分子)は、約1:20~約20:1、例えば、約1:20、約1:15、約1:10、約1:5、約1:1、約5:1、約10:1、約15:1、および約20:1の比で存在し得る。種々の病的状態において、1個またはこれより多くのシグナル伝達分子は、異常に過剰発現されるのに対して、他の遺伝子の発現は、サイレントにされる。従って、上記多官能化ナノ粒子でこれらの分子を同時に標的として、siRNAによって過剰発現される遺伝子の発現をノックダウンするか、あるいはmRNAもしくはmiRNAまたは他の生体活性分子(例えば、ペプチドもしくはタンパク質)によってサイレントにされた遺伝子の発現を誘導することは、正常な表現型を回復させる強力な手段を提示する。
【0039】
本開示は、多官能化ナノ粒子コアがまた、他の機能的分子(例えば、タンパク質、ペプチドおよび他の低分子)を含む実施形態をも包含する。さらなる機能的分子は、細胞内で遺伝子転写またはシグナル伝達経路をさらに改変または調節するために合理的に選択され得る。例えば、米国特許第9675708号(その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。
【0040】
上記組成物は、培養物中または被験体においてインビボでのいずれかで、生細胞への投与を促進するさらなる構成要素をさらに含み得る。例示的な構成要素としては、当該分野で公知のように、用量および投与様式に対して適切に製剤化される受容可能なキャリア、賦形剤、選択肢的な緩衝化剤などが挙げられる。
【0041】
別の局面において、本開示は、上記の官能化されたナノ粒子を含む細胞を提供する。いくつかの実施形態において、上記細胞は、上記組成物の投与を受け、その後、上記RNA分子は、ある種の方法で上記細胞を改変または調節する機能的タンパク質へと発現される。いくつかの実施形態において、さらなる選択肢的な構成要素(例えば、siRNA構築物)は、上記細胞においてシグナル伝達経路または他の遺伝子発現パターンをさらに調節する。その得られる細胞はまた、被験体への投与の際に治療上の価値を有し得る。よって、上記細胞は、エキソビボで上記の組成物の投与に伴って改変され得る。
【0042】
別の局面において、本開示は、細胞において目的のポリペプチドを発現する方法を提供する。上記方法は、上で記載されるように、上記組成物を上記細胞に送達する工程および上記RNA分子の発現を可能にする工程を包含し、ここで上記RNA分子は、上記目的のポリペプチドをコードする。例示的で非限定的なポリペプチドとしては、抗原、酵素(例えば、テロメラーゼ)、および検出可能なマーカーが挙げられる。例証するために、1つの実施形態において、上記の組成物は、テロメラーゼをコードするmRNAのための送達プラットフォームとして使用される。上記細胞への上記組成物の投与は、インビトロまたはインビボのいずれでも、上記細胞へのテロメラーゼをコードするmRNAの効率的な送達および翻訳を生じ得る。その発現されるテロメラーゼは、細胞染色体のテロメアを伸長し得、従って、上記細胞のより強い寿命を促進する。全体的に、このことは、被験体におけるアンチエージング処置の不可欠な構成要素であり得る。別の例示的な実施形態において、上記組成物は、癌抑制遺伝子(TSG)(その正常な機能は、細胞形質転換および悪性クローン増殖を阻害することであり、その不活性化は、腫瘍細胞増殖に有利である)をコードするmRNAを含み、種々のがんにおいて頻繁にサイレントにされている。例示的なTSGは、PTEN、TP53、p16および固形腫瘍組織もしくは血液のがんである白血病においてサイレントにされていると報告された他の遺伝子である(Oliveira AM、 Ross JS、 Fletcher JA. Tumor suppressor genes in breast cancer: the gatekeepers and the caretakers. Am J Clin Pathol. 2005 Dec;124 Suppl:S16-28. doi: 10.1309/5XW3L8LU445QWGQR; Wang L、 Wu C、 Rajasekaran N、 Shin Y: Loss of Tumor Suppressor Gene Function in Human Cancer: An Overview. Cell Physiol Biochem 2018; 51:2647-26930)。
【0043】
以下は、多官能化ナノ粒子を組み立てるための例示的アプローチを記載する。
【0044】
本開示のプラットフォームに有用なナノ粒子は、例として、酸化鉄、ヒドロキシアパタイト、もしくは金を含むコアを含み得るか、またはコアがないが、経時的に脱ぎ落とされ、長時間持続する効果をもたらす、内部に被包され、捕捉された生体活性分子を含むポリマー性ナノ粒子であり得る。
【0045】
生体適合性ナノ粒子は、種々の手段(例えば、米国特許第9675708号(その全体において本明細書に参考として援用される)に記載される)によって、タンパク質、核酸分子および短いペプチドを化学的に結合するために、表面上の官能基(例えば、アミン基またはカルボキシ基)で処理される。簡潔には、上記超常磁性または代替のナノ粒子は、サイズが50nm未満またはより大きく、ナノ粒子1個あたり10またはこれより多くのアミン基を有する、1mlあたり1012~1020個のナノ粒子であり得る。
【0046】
SMCC(Thermo Fisher製)を、1mg/ml 濃度で、ACROSから得られるジメチルホルムアミド(DMF)(密封されたバイアルおよび無水)中に溶解し得る。サンプルを密封し、ほぼ直ぐに使用する。
【0047】
上記溶液のうちの10マイクロリットルを、200マイクロリットル容積にあるナノ粒子に添加する。これは、大過剰のSMCCを、存在する利用可能なアミン基に提供し、その反応は、1時間にわたって進められる。過剰のSMおよびDMFを、3、000ダルトンのカットオフを有するAmicon遠心分離フィルターカラムを使用して除去し得る。適切な緩衝液交換を確実にするためには、5回の容積交換が概して必要とされる。過剰のSMCCがこの段階で除去されることは重要である。
【0048】
上で記載されるとおりの任意のRNA、および必要に応じてsiRNA、ペプチドベースの分子、および目的のタンパク質は、上記活性化ナノ粒子に添加される。上記生体活性分子-ナノ粒子溶液は反応させられ、反応していない分子は、適切なMWカットオフ(GFPタンパク質の場合には、それは、50、000ダルトンカットオフである)を有する遠心分離フィルターユニットによって除去される。上記サンプルは、-80℃の冷凍庫でまたは4℃で貯蔵される。Amiconスピンフィルターカラムを使用する代わりに、固体サイズフィルタリング構成要素(例えば、Bio Rad Pサイズ排除カラム)を含む小さなスピンカラムがまた、使用され得る。SMCCがまた、SMCCをより水溶性にするスルホ誘導体(Sulfo-SMCC)として購入され得ることはまた、注記されるべきである。DMSOはまた、標識試薬のための溶媒キャリアとしてDMFの代わりに使用され得る;繰り返しになるが、DMSOは無水であるべきである。
【0049】
RNA分子が負に荷電しており、よって、それらが細胞膜に容易に透過しないことは公知である。記載されるように、本明細書では、組み合わせアプローチが、正に荷電したペプチドおよび負に荷電したRNA分子の均衡を提供する。さらに、siRNA/miRNA分子は通常は短く(通常は、50ヌクレオチドの長さ未満)、よってそれらの累積負電荷は比較的小さいが、遺伝子特異的mRNAは、遙かにより長く(通常は、500ヌクレオチドの長さを超え、より頻繁には、1500ヌクレオチドを超える)、実質的により大きな累積負電荷を有する。従って、このようなRNA分子を細胞内に送達するために、ある特定の比の正に荷電した分子(例えば、2個またはこれより多くの正に荷電したアミノ酸から構成されるエピトープ)が、このようなペプチドおよび1個またはこれより多くのmRNA分子で多官能化されたナノ粒子の透過を確実にするために必要とされる。
【0050】
核酸は、5’末端または3’末端のいずれかで上記ナノ粒子に結合され得る。キャップのないmRNA分子は、上で記載されるように、5’末端によって上記リンカーに結合され得る。あるいは、T4 RNAリガーゼが、硫黄基を有するヌクレオチドをRNA分子の3’末端に付加するために使用され得、これは次いで、上記ナノ粒子に結合するために使用され得る。
【0051】
3’末端標識の例示的なプロトコールは、1本のRNase非含有微量延伸チューブの中で以下を合わせる工程を包含する:
2μl 10× T4 RNAリガーゼ緩衝液
50~100pmol RNA
等モル量(50~100pmol) [32P]pCp
最終容積18μlになるまでRNase非含有水
2μl T4 RNAリガーゼ(10U)を添加する;
4℃で一晩(10~12時間)インキュベートする;上記混合物を、製造業者の推奨に従ってRNase非含有Sephadex G-25またはG-50スピンカラム(例えば、NucAway Spin Columns)に適用することによって、組み込まれていない標識を除去する。
【0052】
他の架橋試薬は全て、類似の様式で適用され得る。SPDPはまた、SMCCと同じ様式でタンパク質/適用可能なペプチドに適用される。それは、DMF中で容易に溶解する。ジチオールは、1時間またはこれより長いDTTとの反応によって切断される。副生成物および反応していない物質の除去後に、それは、3,000MWカットオフを有するAmicon遠心分離フィルターカラムの使用によって精製される。
【0053】
ナノ粒子をペプチド、異なるRNA分子またはタンパク質で標識するための別のアプローチは、米国特許第9675708号(その全体において本明細書に参考として援用される)に記載されるように、2種の異なる二官能性カップリング試薬を使用することであり得る。
【0054】
1つの実施形態において、SMCC標識タンパク質およびペプチドの種々の比が、ビーズに添加され、反応させられる。上記リンカーは、その結合した分子に立体構造の可撓性を提供し、その結果、それらは、回転し、相互作用するパートナーと結合することができる。さらに、上記リンカーは、細胞内プロテアーゼによって切断可能であり得、より具体的には、切断される可能性が高いか、または上記細胞の中で、NPを上記生体活性分子から一旦分離するように、細胞内分子によって還元される可能性が高い。
【0055】
別の局面において、本発明はまた、腫瘍発生を誘発もしくは媒介するか、または悪性腫瘍細胞の拡大をもたらすことが公知の発癌遺伝子または他の遺伝子の発現をノックダウンすることを目的とした、ならびに/あるいは腫瘍発生の間に失われる遺伝子生成物の発現の誘導を目的とした、または強い免疫応答および種々の感染に対して防御的であるために必要とされる細胞内活性の調節のために、官能化されたナノ粒子に結合したいくつかの生体活性分子を(例えば、異なる目的の遺伝子に特異的な1より多くのsiRNAを、単独でまたは遺伝子特異的mRNAとの組み合わせにおいて)同時に送達する方法に関する。市販されているか、または標準的なもしくは改変された実験手順を使用して得られるかのいずれかである例えば、ヒト細胞、線維芽細胞または他の細胞タイプは、細胞が接着する基材(フィーダー細胞、ゼラチン、マトリゲル、フィブロネクチンなど)ありまたはなしの固体表面上に、無菌条件下で先ずプレートされる。そのプレートされた細胞は、細胞分裂/増殖または受容可能な細胞生存能の維持を可能にする特異的な因子の組み合わせとともに一定時間培養される。例は、血清および/または細胞タイプに適切な場合、種々の増殖因子である。これらは、後に取り出され得るか、または新しくされ得、培養が継続され得る。そのプレートされた細胞は、磁場の存在または非存在下で、本明細書および他の場所(例えば、US 2014/0342004(その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと)で簡潔に記載される種々の方法を使用して結合された、共有結合により連結された心臓特異的サイプログラミング因子とともに、官能化された生体適合性細胞膜透過ナノ粒子の存在下で培養される。超常磁性ナノ粒子の場合に磁石を使用することは、細胞とナノ粒子との間の接触表面積の重要な増大を与え、それによって、細胞膜を経る官能化されたナノ粒子の透過のさらなる改善を増強する。必要な場合には、細胞集団を、上記官能化されたナノ粒子で反復して処理して、上記生体活性分子を細胞内に送達する。
【0056】
上記細胞は、培養培地中で、結合または懸濁されて維持され、組み込まれなかったナノ粒子は、遠心分離または細胞分離によって除去され、塊として存在する細胞を残す。次いで、上記細胞は再懸濁され、新鮮な培地中で適切な期間にわたって再培養される。上記細胞は、標的とした特異的生体活性分子および/またはシグナル伝達経路における変化が観察されるまで、分離、再懸濁、および再培養の多数回のサイクルを経て採取され得る。本発明は、使用され得る広い範囲の細胞タイプ(例えば、ヒト線維芽細胞、血球、上皮細胞、間葉系細胞など)に適用可能である。
【0057】
さらに、これらの多官能化ナノ粒子はまた、直接的に、またはカテーテル媒介性送達を経るか、またはワクチン接種目的で腫瘍へ直接的に(がんを処置するために)もしくは他の組織へ(例えば、筋肉内に)、いずれかで導入され得る。
【0058】
細胞活性の調節は、直接的であろうと間接的であろうと、種々のタンパク質、ペプチド、低分子、microRNA、siRNA、mRNA等を含み得る生体活性分子での種々の細胞タイプまたは組織の処理に基づく。これらの生体活性分子は、細胞膜を経て透過しなくてもよく、特別な送達ビヒクルなしで細胞核に達しなくてもよい。さらに、これらの生体活性分子のみが、短い半減期を有し、種々のプロテアーゼおよびヌクレアーゼへの曝露の際に分解をうける。これらの欠点は、上記生体活性分子の有効性の低減を生じ、あるとすれば、顕著な効果を達成するために、処置の遙かにより高い用量または反復用量を必要とする。従って、本発明において、官能化されたナノ粒子は、上述の欠点を克服するために使用される。より具体的には、これらの生体活性分子は、上記ナノ粒子に種々の比で連結され、もとの「裸の」状態と比較される場合、細胞膜透過および細胞内活性標的化能力を付与する新たな物理的、化学的、生物学的な機能特性を獲得し、早過ぎる分解に対する抵抗性の改善、およびいくつかの目的の標的遺伝子の発現および/または細胞内シグナル伝達経路を同時に調節および制御する能力の獲得を生じる。
【0059】
1つの局面において、本開示は、細胞においてテロメアを増大させるための方法および組成物を提供する。細胞が分裂するときは常に、染色体のテロメアは短くなる。多数回、例えば、約40回の分裂後、テロメアは、その細胞の生存能および健康状態を変化させるほどに短くなり得、加齢した表現型および最終的には細胞死をもたらし得る。組織または生物レベルでは、これは、加齢およびより低い生物学的活性において出現する。ウイルスベースの研究は、テロメラーゼをコードする外因性核酸の細胞への送達が、テロメラーゼ酵素の発現を生じ得ることを示してきた。Ojeda, Diego,ら 「Increased in vitro glial fibrillary acidic protein expression, teromerase activity, and telomere length after productive human immunodeficiency virus‐1 infection in murine astrocytes.」 Journal of Neuroscience Research 92.2 (2014): 267-274;およびHong, Jin Woo, and Chae-Ok Yun. 「Telomere Gene Therapy: Polarizing Therapeutic Goals for Treatment of Various Diseases.」 Cells 8.5 (2019): 392(これらの各々は、その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。その発現したテロメラーゼは、標的細胞のテロメアを長くし、より若い細胞表現型、ならびに上記細胞および関連組織の寿命の増大を生じる。上で示されるように、本開示のナノ粒子は、mRNAで官能化された場合に、異種遺伝子のウイルスベースの発現に代わる効率的な手段を提供する代替の細胞形質転換ビヒクルを提供する。さらに、本開示のナノ粒子ベースのアプローチは、長期間安定性というさらなる利益を有し、染色体への外来分子の組み込みを回避し、従って、ウイルスベースの遺伝子治療の潜在的に有害な副作用を回避する。従って、本明細書で記載されるとおりの多官能化されたナノ粒子を介して実行されるテロメラーゼベースの処置は、標的細胞においてテロメラーゼの発現を成功裡に引き起こし、若い表現型を促進するにあたって少なくとも等しい結果を達成し、妨害するようなおよび有害な染色体挿入のリスクなしに、細胞の寿命を延ばす。
【0060】
この局面は、処置または治療の方法において適用され得、それによって、インビボでの標的細胞、細胞、組織などは、治療上有効な量の、テロメラーゼをコードするmRNAで官能化された本開示のナノ粒子と接触される。上記方法は、上記細胞/組織/身体においてテロメラーゼを概して伸長し、それによって、より若い表現型、増大した寿命を促進し、加齢の影響を低減または改善するために適用され得る。投与は、全身または局所であり得る。いくつかの実施形態において、標的細胞または組織が中枢神経系の中にある場合、上記投与は、例えば、髄腔内注射を介するものであり得る。
【0061】
本明細書で包含される送達プラットフォームの別の使用は、細胞活性に対する効果に関する生体活性分子(化合物またはさらに2つの化合物の組み合わせ)のスクリーニング/試験である。これは、本明細書で開示される方法を使用して上記多官能化ナノ粒子に結合された化合物と、目的の細胞集団(例えば、線維芽細胞、血球、間葉系細胞)とを合わせる工程、または組織注射の際に、適切な期間にわたって培養/インキュベートする工程および次いで、多官能化ナノ粒子で送達される化合物の活性から生じる任意の調節効果を決定する工程を包含する。
【0062】
本明細書で包含される送達プラットフォームの別の使用は、医薬としての、またはヒトもしくは動物の身体の処置が意図された送達デバイスにおいて特別な細胞の製剤化である。これは、臨床医が、官能化されたナノ粒子を、目的の正常または異常な組織の中またはその周りに、血管系からまたは筋肉もしくは器官壁へ直接的に、のいずれかで投与することを可能にし、それによって、使用される上記生体活性分子が、細胞に侵入し、損傷を制御し、組織の筋系の再生/再増殖、および特別な機能の回復に関与することを可能にする。
【0063】
さらなる定義
本明細書で具体的に定義されなければ、本明細書で使用される全ての用語は、本発明の当業者が有するものと同じ意味を有する。実施者は、技術の定義および用語に関しては、Sambrook J.ら,(編) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第3版, Cold Spring Harbor Press, Plainsview, New York (2001); Ausubel F.M.ら,(編), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (2010);およびColigan J.E.ら,(編), Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons, New York (2010)に特に方向付けられる。
【0064】
請求項の中での用語「または(or)」の使用は、明示的に選択肢のみをいうことがしめされなければ、または選択肢が実質的に排他的でなければ、「および/または(and/or)」を意味するために使用されるが、本開示は、選択肢および「および/または」のみに言及する定義を支持する。
【0065】
長く続いている特許法に従って、文言「1つの、ある(a)」および「1つの、ある(an)」は、請求項または明細書の中で文言「含む、包含する(comprising)」とともに使用される場合、具体的に注記されなければ、1またはこれより多いことを示す。
【0066】
文脈が明らかに別のことを要求しなければ、詳細な説明および請求項全体を通じて、文言「含む、包含する(comprise)」、「含む、包含する(comprising)」などは、排他的なまたは網羅的な意味とは対照的に、包括的な意味において;すなわち、「が挙げられるが、これらに限定されない(including, but not limited to)」の意味において解釈されるべきである。単数または複数を使用する文言はまた、それぞれ、複数および単数を含む。さらに、文言「本明細書において(herein)」、「上で(above)」、および「以下の(below)」、ならびに類似の趣旨の文言は、本明細書で使用される場合、全体として本出願に言及するのであって、本出願の何らかの特定の部分に言及するのではないものとする。文言「約(about)」とは、述べられた参照数字をわずかに上回るまたは下回る変動の範囲内の数字を示す。例えば、「約」は、その示された参照数字を10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%上回るまたは下回る範囲内の数字に言及し得る。
【0067】
用語「被験体(subject)」、「個体(individual)」、および「患者(patient)」は、処置が評価されているおよび/または処置されている哺乳動物をいうために、本明細書で交換可能に使用される。ある特定の実施形態において、上記哺乳動物は、ヒトである。用語「被験体」、「個体」、および「患者」は、がんを有する個体を含むが、限定されない。被験体はヒトでありうるが、その用語はまた、他の哺乳動物、特に、ヒト疾患の実験モデルとして有用なそれら哺乳動物(例えば、マウス、ラット、イヌ、非ヒト霊長類など)を包含する。
【0068】
用語「処置する(treating)」およびその文法上の変化形は、任意の客観的または主観的パラメーター(例えば、減少;寛解;症状の減少もしくは疾患の状態が患者にとってより許容できるものになること;変性もしくは衰弱の速度が遅くなること;または変性の最終点の衰弱が小さくなること)を含め、疾患または状態(例えば、がん、感染性疾患、または自己免疫疾患)の処置または改善または防止における何らかの成功の指標に言及しうる。
【0069】
症状の処置または改善は、医師による検査の結果を含め、客観的または主観的パラメーターに基づき得る。よって、用語「処置する」とは、疾患または状態(例えば、がん、感染性疾患、または自己免疫疾患)と関連する症状または状態の発生を防止するかもしくは遅らせる、軽減する、または停止させるかもしくは阻害するための本開示の化合物または薬剤の投与を包含する。用語「治療効果(therapeutic effect)」とは、上記疾患もしくは状態、上記疾患もしくは状態の症状、または上記被験体における上記疾患もしくは状態の副作用の低減、排除または防止をいう。
【0070】
本開示の方法および組成物のために使用され得るか、ともに使用され得るか、その調製において使用され得るか、またはその生成物である材料、組成物、および構成要素が、開示される。これらの材料の組み合わせ、部分セット、相互作用、群などが開示される場合、各々およびあらゆる1つの組み合わせならびにこれら化合物の並べ替えへの具体的な言及が明示的に開示されなくてもよいとしても、種々の個々のおよび集合的な組み合わせの各々が具体的に企図されることは、理解される。この概念は、記載される方法における工程が挙げられるが、これらに限定されない本開示の種々の局面にあてはまる。従って、任意の前述の実施形態の具体的要素は、他の実施形態における要素と組み合わされ得るか、またはその要素の代わりに使用され得る。例えば、行われうる種々のさらなる工程が存在する場合、これらのさらなる工程の各々は、任意の具体的方法工程または本開示の方法の方法工程の組み合わせとともに行われうること、および各このような組み合わせまたは組み合わせの部分セットが、具体的に企図され、開示されていると見做されるべきであることは、理解される。さらに、本明細書で記載される実施形態が、本明細書中の他の箇所で記載されるものまたは当該分野で公知であるとおりのもののような任意の適切な材料を使用して実行されうることは、理解される。
【0071】
本明細書で引用される刊行物およびそれらが引用される主題は、それらの全体において本明細書に具体的に援用される。
【実施例】
【0072】
実施例
以下の実施例は、本発明をどのように作製し、使用するかの完全な開示および記載を当業者に提供するために示され、本発明者らがそれらの発明と考えるものの範囲を限定することを意図せず、以下の実験が行われる全てのまたは唯一の実験であることを表すことを意図しない。
【0073】
実施例1
この実施例は、本開示によって包含される多官能化ナノ粒子が、標的遺伝子の機能的発現を測定可能に低減し得るsiRNAペイロードを成功裡に送達するために使用されたアッセイを記載する。
【0074】
表面上に利用可能な遊離アミン基を有する細胞膜透過ナノ粒子を、上記ナノ粒子上のアミン基と共有結合を形成しうる二重特異的リンカーで処理すると、リンカー-官能化されたナノ粒子を生じる。例えば、マレイミドを含むナノ粒子リンカーの遊離末端を結合するように化学改変されたヒトPTEN siRNAは、共有結合を形成するために添加され、続いて、広範な洗浄または結合されていないPTEN siRNA分子からの分離の他の手段が行われる。その得られるナノ粒子は、PTEN遺伝子を発現する細胞に添加される場合、
図1に示されるように、細胞質へとそのPTEN特異的siRNAカーゴを送達している。一旦細胞の細胞質の中に入ると、上記siRNA分子は、PTEN mRNAと相互作用し、PTEN遺伝子発現における低減を生じるmRNA分解として公知のマルチ工程プロセスを誘発する。このアプローチを使用すると、種々の程度のPTENノックダウンが達成され得、上で記載されるように生成されるPTEN-多官能化ナノ粒子は、PTEN特異的プライマーを使用する定量的リアルタイムRT-PCR、ならびにsiRNA処置細胞およびsiRNAの非存在下でナノ粒子で処置されたコントロール細胞から単離されたRNAによって決定されるように、正常なPTEN発現レベルの少なくとも60%をノックダウンし得る。
【0075】
これらのデータは、本開示の多官能化ナノ粒子が、RNAベースのペイロードを、機能的な役割をそのままに細胞の内部へと効率的に送達し得るという概念実証を確立する。より具体的には、上記データは、上記多官能化ナノ粒子が、siRNA構築物を送達して、目的の標的遺伝子の発現を成功裡にノックダウンし得ることを示す。
【0076】
実施例2
この実施例は、本開示によって包含される多官能化ナノ粒子を、mRNAを成功裡に送達するために使用したアッセイを記載する。このmRNAは、測定可能な遺伝子発現を生じるために細胞翻訳機構によって効率的に発現された。
【0077】
この場合、翻訳の際に、赤色蛍光タンパク質を発現するmCherry mRNAを、T7プロモーターの制御下でクローニングされたmCherry cDNAを使用して生成する。T7インビトロ転写キット(New England Biolabs, Ipswich, MA)を使用して、キャップのないmCherry mRNAを生成し、これを、Qiagen RNA精製カラム(Qiagen, Germantown, MD)を使用して引き続き精製し、アルカリホスファターゼおよびS-γ-ATPを、製造業者の指示(New England BioLabs)に従って使用して化学的に改変し、上の実施例1に記載されるように生成したリンカー官能化細胞膜透過ナノ粒子と反応させる。得られたmRNA多官能化ナノ粒子またはmCherry mRNAが存在しないナノ粒子を、上記細胞に添加し、上記細胞を、CO2インキュベーターの中で培養する。
図2は、mRNAを欠くコントロールナノ粒子で処理した正常細胞(これは、赤色mCherryタンパク質発現の欠如を示す実質的に赤色蛍光がない正常ヒト細胞を示す)の蛍光顕微鏡検査を示す。対照的に、mCherry mRNA-多官能化ナノ粒子で処理した細胞は、細胞質全体に分布した赤色mCherryタンパク質の成功裡の発現を示す明らかな赤色染色を示す(右側パネルの白色の点状領域を矢印で指す)。
【0078】
これらのデータは、本開示の多官能化ナノ粒子が、mRNAベースのペイロードを、機能的な役割をそのままに細胞の内部へと効率的に送達し得るという概念実証を確立する。より具体的には、上記データは、上記多官能化ナノ粒子が、上記mRNAが、成功裡に翻訳される細胞質へとmRNA分子を送達し得、目的の標的遺伝子の発現を生じ得ることを示す。これらの組み込まれない官能化されたナノ粒子の調製が、細胞ゲノムへと組み込まれ得、正常な遺伝子発現パターンを破壊し得るいかなるDNA分子をも含まないことがまた、強調される。
【0079】
これらのデータは、本開示の多官能化ナノ粒子が、コードmRNA構築物を効率的に送達し得、目的の標的遺伝子の効率的な発現をもたらし得るという概念実証を確立する。
【0080】
実施例3
上の実施例1および2に記載されるsiRNAおよびmRNA多官能化アプローチを使用すると、正に荷電したペプチド、種々のヒト腫瘍で過剰発現されるシグナル伝達分子特異的siRNAのセット(β-カテニン、mTORおよびRaf1のmRNAを標的とし得る)で官能化した組み込まれないナノ粒子が、生成されうる。簡潔には、ヒトがん細胞株または腫瘍を、官能化されたナノ粒子で1回または反復して(2回またはこれより多くの回数)処置する。これは、その処置した細胞または組織の細胞質へのこれらの生体活性分子の送達およびこれらの標的遺伝子mRNAからの発現のノックダウンを生じる。がんシグナル伝達経路におけるいくつかの異常のこのような同時の調節(阻害)の転帰は、種々の分子生物学、生化学および細胞生物学の技術を使用してモニターされる。具体的には、標的化された遺伝子の発現は、RNA単離、続いて、逆転写PCR(RT-PCR)もしくはリアルタイム定量的qRT-PCR、適切な抗体を使用する細胞の免疫染色、または培養細胞のフローサイトメトリー分析によって決定されうる。siRNA-多官能化ナノ粒子を使用するこれらの遺伝子特異的標的化は、悪性細胞増殖に寄与する異常なシグナル伝達を阻害し得、それによって、正常な表現型を回復させ得る。
【0081】
実施例4
遺伝子特異的siRNA(上で言及されたもののような)のセットおよびTP53腫瘍サプレッサー特異的mRNA(TP53の発現は、多くのヒトがんにおいて失われていることが公知である)で多官能化したナノ粒子は、これらの分子をがん細胞に、またはサイレントにされたTP53発現を有する腫瘍に直接的に速達するために使用される。上の実施例1~3で生成され記載されるとおりの細胞へと同時に導入された、生体活性siRNAおよびmRNA分子のこの組み合わせは、異常なシグナル伝達経路を阻害し、イレントにされたP53遺伝子の発現を回復させ、腫瘍細胞の細胞増殖低減または排除を生じる、新規かつ強力な方法である。
【0082】
これらの組み込まれない官能化されたナノ粒子の調製は、細胞ゲノムへと組み込まれ得るおよび正常な遺伝子発現パターンを破壊し得るいかなるDNA分子をも含まない。本発明は、その趣旨または本質的な特徴から逸脱することなく、他の具体的形態において具現化され得る。
【0083】
実施例5
ワクチン接種に関しては、上記ナノ粒子は、正に荷電した細胞膜透過ペプチドおよび遺伝子特異的mRNA分子の組み合わせで官能化される。ヒト細胞の直接的処置またはこれらの多官能化細胞膜透過性ナノ粒子の直接的な筋肉内、静脈内、鼻内もしくは皮膚にわたる投与は、細胞質へのmRNAの非常に効率的な送達、続いて、mRNAの翻訳および適切な免疫応答もしくは他の所望の効果を誘発するために必要な抗原の生成を生じる。単独でまたは他のタイプの分子(例えば、タンパク質)との組み合わせでのさらなる遺伝子特異的mRNAはまた、必要とされる場合、送達されるmRNAからの発現および免疫原性応答を強調するために、上で記載される類似の官能化経路を使用してナノ粒子上に官能化され得る。
【0084】
例証的な実施形態が例証されかつ記載されているが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、種々の変更がその中でなされ得ることは、理解される。
独占的な所有権または権利が主張される本発明の実施形態は、以下のとおり定義される。
【国際調査報告】