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特表2023-519083細胞がん治療の強化の為のT細胞死関連遺伝子8(TDAG8)調節
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】細胞がん治療の強化の為のT細胞死関連遺伝子8(TDAG8)調節
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230428BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230428BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230428BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230428BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230428BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230428BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230428BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20230428BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230428BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230428BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
A61K35/17 Z
A61K45/00 101
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K47/68
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022543434
(86)(22)【出願日】2021-01-19
(85)【翻訳文提出日】2022-08-19
(86)【国際出願番号】 US2021013980
(87)【国際公開番号】W WO2021146719
(87)【国際公開日】2021-07-22
(31)【優先権主張番号】62/963,121
(32)【優先日】2020-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レズヴァニ、ケイティ
(72)【発明者】
【氏名】ラフェイ、ヒンド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C087BB65
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
【課題】 固形腫瘍の微小環境における活性を促進するために、癌治療の技術分野において長年望まれていたニーズに対する解決策を提供する。
【解決手段】 本開示の実施形態は、固形腫瘍微小環境を含む癌治療に対して、細胞をより効果的にできることによる、細胞治療の改善を包含する。具体的な態様において、細胞は、CRISPR遺伝子編集などによって、T細胞死関連遺伝子8(TDAG8)の発現レベルが低下または阻害されるように改変される。具体的な態様において、細胞は、例えば、1つ以上の操作された受容体、1つ以上のサイトカイン、及び任意に自殺遺伝子を発現するようにさらに改変される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作された免疫エフェクター細胞であって、前記細胞における内因性のT細胞死関連遺伝子8(TDAG8)(GPR65)が発現において低下又は阻害されるように操作されている、細胞。
【請求項2】
T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、NK T細胞、マクロファージ、B細胞、インバリアントNKT細胞、ガンマデルタT細胞、MSC、腫瘍浸潤リンパ球または樹状細胞である、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記NK細胞が臍帯血に由来する、請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
1つまたは複数の操作された受容体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項5】
前記操作された受容体が、操作された抗原受容体である、請求項4に記載の細胞。
【請求項6】
前記操作された抗原受容体が、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体である、請求項5に記載の細胞。
【請求項7】
前記抗原ががん抗原である、請求項5または6に記載の細胞。
【請求項8】
前記抗原が固形腫瘍抗原である、請求項5~7のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項9】
前記抗原が、5T4、8H9、αβインテグリン、BCMA、B7-H3、B7-H6、CAIX、CA9、CD5、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD70、CD123、CD138、CD171、CEA、CSPG4、CS1、CLL1、CD99、DLL3、EGFR、ErbB2(HER2)を含むEGFRファミリー、EGFRvIII、EGP2、EGP40、ERBB3、ERBB4、ErbB3/4、EPCAM、EphA2、EpCAM、FAP、FBP、胎児AchR、FRα、GD2、GD3、グリピカン-3(GPC3)、HLA-A1+MAGE1、HLA-A1+NY-ESO-1、IL-11Rα、IL-13Rα2、ラムダ、ルイスY、L1CAM、カッパ、KDR、MCSP、メソテリン、Muc1、Muc16、NCAM、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、PRAME、PSC1、PSCA、PSMA、ROR1、SP17、サバイビン、TAG72、TEM類、HMW-MAA、VEGFR2、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項5~8のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項10】
前記操作された受容体が、サイトカイン受容体、ケモカイン受容体、ホーミング受容体、またはそれらの組み合わせである、請求項4~9のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項11】
1つまたは複数の外因性ケモカインならびに/あるいは1つまたは複数のサイトカインの発現を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項12】
前記サイトカインが、IL-15、IL-12、IL-21、IL-2、IL-18、IL-7またはそれらの組み合わせである、請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
自殺遺伝子を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項14】
前記内因性のTDAG8遺伝子が、相同的組換えまたは非相同的組換えから、発現低下または阻害された、請求項1~13のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項15】
前記内因性のTDAG8が、CRISPR-Cas9によってノックアウトされる、請求項1~14のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項16】
個体に関して自家であるか、同種であるか、または異種である、請求項1~15のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項17】
NKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、CD5およびCD7の1つまたは複数の発現においてさらに低下、または阻害される、請求項1~16のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項18】
請求項1~17に記載の細胞のいずれか1つの集団。
【請求項19】
医薬的に許容され得る賦形剤に含められる、請求項18に記載の集団。
【請求項20】
がんを個体において処置する方法であって、治療効果的な量の請求項18または19に記載の細胞集団を、前記個体に投与する工程を含む、方法。
【請求項21】
前記がんが、固形腫瘍であるか、または固形腫瘍ではない、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記がんが、肺、脳、乳房、血液、皮膚、膵臓、肝臓、結腸、頭頸部、腎臓、甲状腺、胃、脾臓、胆嚢、骨、卵巣、精巣、子宮内膜、前立腺、直腸、肛門または子宮頸部のがんである、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記個体が哺乳動物である、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記個体が、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタまたはげっ歯類である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記個体には、さらなるがん治療法が施される、請求項20~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記さらなるがん治療法が、手術、放射線、化学療法、ホルモン療法、免疫療法、またはそれらの組み合わせである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
がんを前記個体において診断する工程をさらに含む、請求項20~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞集団を作製する工程をさらに含む、請求項20~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞が前記個体に関して自家である、請求項20~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞が前記個体に関して同種である、請求項20~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞がNK細胞である、請求項20~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記NK細胞が臍帯血NK細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記NK細胞が1つまたは複数の操作された抗原受容体を発現する、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞が、CAR発現NK細胞またはTCR発現NK細胞である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記細胞がCAR発現NK細胞である、請求項20~34のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年1月19日に出願された米国仮特許出願シリアル番号62/963,121の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の実施形態は、少なくとも、細胞生物学、分子生物学、免疫学、および癌医学を含む医学の分野を含む。
【背景技術】
【0003】
リンパ腫および白血病患者の治療に対するCAR-T細胞療法の2017年食品医薬品局(FDA)承認を受けて、養子細胞療法は、がん免疫療法分野の関係者の間で急速に注目されるようになった。この治療法は、前例のない患者の反応を示し、特定の血液悪性腫瘍に対して重要な治癒の可能性を提供していたが、低酸素、酸性pH、栄養枯渇、および免疫抑制によって特徴付けられる固形腫瘍微小循環の独特な特徴のため、固形腫瘍における成功は依然として捉えにくい(Rennerら、2017年)。酸性は、主に酸性代謝物、例えば、低酸素条件下での酸性の解糖による乳酸のために、固形腫瘍微小環境の普遍的な特徴である(Huberら、2017年)。酸性は、免疫抑制、腫瘍の進行、および予後不良を媒介する。具体的には、組織のアシドーシスは、ナチュラルキラー(NK)およびT細胞の細胞毒性、サイトカイン産生、および腫瘍監視の減少など、免疫細胞媒介応答の抑制につながる。T細胞死関連遺伝子8(TDAG8)は、Gタンパク質共役型受容体65(GPR65)としても知られ、T細胞やNK細胞などの免疫細胞やがん細胞に発現し、細胞外の酸性度で活性化される膜貫通型タンパク質受容体またはpHセンサーである(Ludwig et al.2003;Ishii et al.2005;Onozawa et al.2012;Maghazachi et al.2004).プロトンに遭遇すると、TDAG8は負のフィードバックループを介してサイトカイン産生を制御し、アポトーシスを誘導することによってNK細胞やT細胞の活性化を抑制し、それゆえ免疫代謝チェックポイントとして作用するのである。TDAG8は、cAMP蓄積をもたらすGs/cAMP/プロテインキナーゼA(PKA)経路を介して作用し、その結果、抗炎症応答を促進する転写因子であるcAMP応答要素結合タンパク質(CREB)をリン酸化する(Wangら、2004;RobertおよびMackay、2018;Wenら、2010)。
【0004】
本開示は、固形腫瘍の微小環境における活性を促進するために、TDAG8の阻害を通じてPKA経路を操作することによって、癌治療の技術分野において長年望まれていたニーズに対する解決策を提供するものである。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態には、養子細胞療法を含めた細胞療法に伴う方法および組成物が含まれる。本開示の特定の実施形態が、がん免疫療法、抗病原体免疫療法、または両方のための方法および組成物を包含する。病原体には、ウイルス、細菌、真菌および寄生虫が少なくとも含まれる。本開示は、免疫エフェクター細胞療法で、その効力を改善する細胞に1つまたは複数の特性を与えるという明確な目的のために改善されている免疫エフェクター細胞療法を包含する。具体的な実施形態において、免疫エフェクター細胞が、標的細胞(例えば、がん細胞など)をより良好に殺傷することができるように改変される。具体的な実施形態において、免疫エフェクター細胞が、操作が行われない場合と比較して、操作された細胞が固形腫瘍の微小環境において効果的であることを可能にする1つまたは複数の遺伝子産物の低下した発現を有するように操作され、だが、操作された細胞はまた、固形腫瘍を欠くがん(例えば、血液学的がんなど)についても効果的である。特定の実施形態において、操作された細胞は、低酸素である環境、酸性pHを有する環境、栄養枯渇を有する環境、および/または免疫抑制に見舞われる環境においてがん細胞を殺傷するために効果的であるようによりよく整えられる。
【0006】
特定の実施形態において、TDAG8(これはGPR65とも呼ばれる)の低下した発現レベルを有するように操作されている、またはTDAG8の検出可能な発現を本技術分野における常法的な方法により欠くなど、TDAG8発現の完全な阻害を有する免疫エフェクター細胞が、本明細書中に包含される組成物に含められ、また、本明細書中に包含される方法において使用される。特定の実施形態において、内因性のTDAG8遺伝子がTDAG8のゲノム遺伝子座の遺伝子操作によって改変されている。TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現を有する免疫エフェクター細胞は、1つまたは複数の外部から提供された遺伝子産物を発現することがあるなど、人の手によってさらなる様式で改変されてもよく、または改変されなくてもよい。具体的な実施形態において、遺伝子産物は、受容体、サイトカイン、ケモカイン、自殺遺伝子、またはそれらの組み合わせである。特定の場合において、受容体は抗原受容体であり、ただし、抗原は、固形腫瘍細胞表面の抗原を含めてがん抗原であってもよく、またはがん抗原でなくてもよい。具体的な場合において、抗原受容体はキメラ抗原受容体(CAR)または非天然型T細胞受容体である。
【0007】
本開示により、TDAG8をコードする遺伝子(TDAG8またはGPR65)が、様々な細胞療法で使用される免疫エフェクター細胞からノックアウトされ、またはノックダウンされ、これにより、免疫エフェクター細胞が酸性の免疫抑制効果に対して非感受性化され、したがって、その生存、増殖および免疫機能を、少なくとも酸性の固形腫瘍微小環境においてである場合を含めて増大させることができる。遺伝子編集のCRISPR/Cas9技術を使用したとき、一例として、TDAG8をノックアウトすることの実現可能性が、TDAG8を標的とする化学合成されたcrFNA:tracrRNA二重鎖が予め組み込まれたCas9を利用して確認される。データにより、TDAG8をNK細胞からノックアウトすることにより、その細胞傷害性効果、同様にまた、活発な解糖およびがん微小環境の顕著なアシドーシスによって特徴づけられるがんの細胞株に対する抗腫瘍活性が改善されることが明らかになる。TDAG8を標的とするこの遺伝子操作戦略は、固形腫瘍を含めて様々なタイプのがんに対して細胞療法を強化するために、CAR-T細胞、CAR-NK細胞、T細胞受容体(TCR)-T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、またはそれらの組み合わせを含めて異なる形態の細胞療法と組み合わせることができるであろう。
【0008】
操作される免疫エフェクター細胞はどのような種類のものであってもよく、しかし、具体的な実施形態において、免疫エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、NK T細胞、マクロファージ、B細胞、腫瘍浸潤リンパ球、樹状細胞、間葉系幹細胞(MSC)、およびそれらの組み合わせなどである。特定の場合において、免疫エフェクター細胞は、臍帯血由来のNK細胞を含めて、NK細胞である。
【0009】
医学的状態はどれも、包含された開示中の操作された免疫エフェクター細胞の治療効果的な量を投与することによって処置され得る。特定の実施形態において、細胞は、どのような種類のがんであれがんの処置のための組成物において利用される。
【0010】
本開示は、TDAG8遺伝子を免疫細胞からノックアウトして、少なくとも固形腫瘍を含めてどのような種類のがんであれがんに対する細胞療法としての能力を免疫細胞に与え、かつ、そのような細胞療法としてのその抗腫瘍活性を増強するために、高度な遺伝子編集技術(CRISPR/Cas9)を利用する新規戦略に関する。治療用細胞を遺伝子操作するというこのアプローチは他に類を見ないものであり、例えば、細胞療法が未だに大きな成功を示していないタイプの腫瘍に対する様々な形態の細胞療法に取り組む新しい方法である。
【0011】
本開示の実施形態には、細胞における内因性のTDAG8遺伝子が発現において低下させられるか、または完全に阻害される、操作された免疫エフェクター細胞に関する組成物およびその使用が含まれる。具体的な実施形態において、細胞は、T細胞、NK細胞、NK T細胞、マクロファージ、B細胞、インバリアントNKT細胞、ガンマデルタT細胞、MSC、腫瘍浸潤リンパ球、樹状細胞、またはそれらの混合物である。1つの具体的な実施形態において、NK細胞は臍帯血に由来する。いくつかの場合において、細胞は、操作された抗原受容体(例えば、CAR、ケモカイン受容体、ホーミング受容体および/または非天然型T細胞受容体など)を含めて1つまたは複数の操作された受容体を含む。抗原は、固形腫瘍の抗原を含めてがん抗原である場合がある。抗原の具体的な例には、5T4、8H9、αvβ6インテグリン、BCMA、B7-H3、B7-H6、CAIX、CA9、CD5、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD70、CD123、CD138、CD171、CEA、CSPG4、CS1、CLL1、CD99、DLL3、EGFR、ErbB2(HER2)を含むEGFRファミリー、EGFRvIII、EGP2、EGP40、、ERBB3、ERBB4、ErbB3/4、EPCAM、EphA2、EpCAM、FAP、FBP、胎児AchR、FRα、GD2、GD3、グリピカン-3(GPC3)、HLA-A1+MAGE1、HLA-A1+NY-ESO-1、IL-11Rα、IL-13Rα2、ラムダ、ルイスY、L1CAM、カッパ、KDR、MCSP、メソテリン、Muc1、Muc16、NCAM、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、PRAME、PSC1、PSCA、PSMA、ROR1、SP17、サバイビン、TAG72、TEM類、HMW-MAA、VEGFR2、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される抗原が含まれる(受容体は、異なる抗原と結合する2つ以上の抗原結合ドメインを有する場合がある)。
【0012】
ある特定の実施形態において、細胞は、1つまたは複数の外因性ケモカインあるいは1つまたは複数のサイトカインの発現を含む。サイトカインの例には、IL-15、IL-12、IL-21、IL-2、IL-18、IL-7、またはそれらの組み合わせが含まれる。加えて、または代替において、細胞は自殺遺伝子を含む。
【0013】
内因性のTDAG8遺伝子は、相同的組換えまたは非相同的組換えから、発現において低下、または阻害され得る。ある特定の場合において、内因性TDAG8はCRISPR-Cas9によってノックアウトされる。どのような細胞であれ本開示の細胞には、レシピエント個体に関して自家であるか、同種であるか、または異種である細胞が含まれる。
【0014】
具体的な実施形態において、細胞は、NKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、CD5およびCD7の1つまたは複数の発現がさらに低下させられ、または阻害される。
【0015】
本開示の実施形態には、本明細書中に包含される細胞のいずれか1つの集団が含まれる。具体的な実施形態において、集団は、医薬的に許容され得る賦形剤に含有される。
【0016】
本開示の具体的な実施形態には、NK細胞を、その機能性が改善されるように操作する方法であって、一過性でない様式を含めてどのような様式においてであれ、そのように操作されないNK細胞と比較して、改善がもたらされる方法が含まれる。具体的な実施形態において、NK細胞における遺伝子改変は、そのように操作されないNK細胞と比較して、がん細胞に向かう細胞傷害性が増強されている、かつ/あるいは拡大、持続性および/または増殖が増強されている細胞をもたらす。本開示の方法には、単に例としてであるが、T細胞および/またはNK細胞を用いた養子細胞療法を含めてどのような種類の養子細胞療法であれ養子細胞療法を受けている個体でのインビボにおいて免疫細胞媒介応答を抑制する方法が含まれ、そのような場合において、細胞は、TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現を有するように操作される。
【0017】
本開示の実施形態には、そのように操作されない細胞と比較して、本明細書中に包含されるような操作された細胞を利用することによる、どのような種類の養子細胞療法であれ養子細胞療法の腫瘍微小環境における改善が含まれる。具体的な実施形態において、本開示には、細胞における内因性TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現をもたらすように操作されていない細胞と比較して、細胞における内因性TDAG8の操作された(細胞に対して自然のままであるとは対照的に)低下した発現または完全に阻害された発現のために、細胞傷害性、持続性および拡大が増強されている免疫エフェクター細胞の産生および使用が含まれる。
【0018】
どのような種類の免疫エフェクター細胞であれ、例えば、NK細胞などの免疫エフェクター細胞を、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織、腹水、胸水、脾臓組織、腫瘍からを含めて数多くの限定されない供給源から得ることができ、または商業的に入手することができる。利用可能であり、当業者に知られている多くの免疫細胞株が使用される場合がある。
【0019】
免疫エフェクター細胞は、内因性TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現を有するように操作されることに加えて、少なくともいくつかの場合において、操作された免疫エフェクター細胞は1つまたは複数の他の面で操作される。具体的な実施形態において、細胞はまた、(細胞に対して内因性である受容体とは対照的に)1つまたは複数の操作された受容体、1つまたは複数のサイトカイン、ならびに/あるいは1つまたは複数の自殺遺伝子を発現するように操作される。操作された受容体は、1つまたは複数のCAR、1つまたは複数のT細胞受容体、1つまたは複数のケモカイン受容体、およびそれらの組み合わせなどを少なくとも含めてどのような種類のものであってもよい。どのような操作であれ免疫エフェクター細胞の操作は、TDAG8の発現のノックアウト(またはノックダウン)の後で行われてもよく、または行われなくてもよい。TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現を有する操作された免疫エフェクター細胞がまた、2つ以上の他の遺伝子を発現するように操作される場合、これら2つ以上の他の遺伝子を発現させるための操作は、互いに同時に行われてもよく、または行われなくてもよい。例えば、TDAG8ノックアウト(KO)(またはノックダウン)細胞が、CARおよびサイトカインを発現するように操作される場合、CARおよびサイトカインを発現させるための操作は、実質的に同時に行われてもよく、または行われなくてもよい。細胞のための他の導入遺伝子はどれも、同じベクターから発現させられてもよく、または発現させられなくてもよい。例示的な場合において、(単に代表的な例としての)CARおよびサイトカインが、トランスフェクションまたは形質転換が免疫エフェクター細胞に行われた際の同じベクターから発現させられてもよく、または発現させられなくてもよい。
【0020】
本開示の実施形態には、がんを個体において処置する方法であって、治療効果的な量の本開示の細胞集団を個体に投与する工程を含む方法が含まれる。いくつかの場合において、がんは固形腫瘍であり、または固形腫瘍ではない。がんは、肺、脳、乳房、血液、皮膚、膵臓、肝臓、結腸、頭頸部、腎臓、甲状腺、胃、脾臓、胆嚢、骨、卵巣、精巣、子宮内膜、前立腺、直腸、肛門または子宮頸部のがんである場合がある。個体は、哺乳動物、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタまたはげっ歯類などである場合がある。個体には、さらなるがん治療法、例えば、手術、放射線、化学療法、ホルモン療法、免疫療法、またはそれらの組み合わせなどが施されてもよく、または施されなくてもよい。具体的な実施形態において、本方法はさらに、がんを個体において診断する工程を含む。いくつかの場合において、本方法はさらに、細胞集団を作製する工程を含む。細胞は、個体に関して自家または同種である場合がある。
【0021】
具体的な実施形態において、細胞は、1つまたは複数の操作された抗原受容体を発現するNK細胞を含めたNK細胞、例えば、臍帯血NK細胞などである。細胞は、CAR発現NK細胞またはTCR発現NK細胞である場合がある。
【0022】
本発明の1つの実施形態に関して議論される限定はどれも、本発明のどのような他の実施形態に対しても当てはまる場合があることが特に意図される。さらに、本発明の組成物はどれも、本発明のどのような方法においても使用される場合があり、本発明の方法はどれも、どのような組成物であれ本発明の組成物を製造するために、または利用するために使用される場合がある。実施例において示される1つの実施形態の様々な局面がまた、異なる実施例においてどこか他のところで、または本出願においてどこか他のところで、例えば、発明の概要、詳細な説明、請求項、および図面の簡単な説明などで議論される実施形態との関連において実行されることがある実施形態でもある。
【0023】
上記では、本開示の特徴および技術的利点が、下記の詳細な説明がよりよく理解され得るためにかなり広く概説されている。本明細書中における請求項の主題を形成するさらなる特徴および利点が本明細書中下記において記載されるであろう。開示される概念および具体的な実施形態は、本件設計の同じ目的を実施するために他の構成を変更するための、または設計するための基礎として容易に利用され得ることが、当業者によって理解されなければならない。そのような同等な組立ては、添付された請求項において示されるような精神および範囲から逸脱しないこともまた、当業者によって認識されなければならない。さらなる目的および利点と一緒にではあるが、構成および操作方法の両方に関して、本明細書中に開示される設計に特徴的であると考えられる新規な特徴が、添付されている図面に関連して検討されたとき、下記の説明からよりよく理解されるであろう。しかしながら、図面のそれぞれが例示および説明のためだけに提供されており、本開示の限界の定義として意図されないことが、明確に理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本開示のより完全な理解のために、次に、添付されている図面と併せて理解される下記の説明が参照される。
【0025】
図1】免疫細胞表面でのTDAG8(GPR65)の遺伝子発現レベル。このグラフは、免疫細胞発現データベース(DICE)を使用して作成された。
【0026】
図2】PCRによるTDAG8ノックアウト(KO)の確認。2つの臍帯血(CB)供給源からの野生型(WT)NK細胞対KO NK細胞のDNAを、TDAG8についての下記の特異的プライマーを用いてPCR増幅した:5’-ACTTTCTCTCCTGCCTTGTG-3’(配列番号1)および5’-CGCACAGCTTGGTAGACTTT-3’(配列番号2)。
【0027】
図3】TDAG8を標的とする化学合成されたcrRNA:tracrRNA二重鎖が予め組み込まれたCas9によるヌクレオフェクションの前後での臍帯血由来NK細胞におけるTDAG8発現についてのフローサイトメトリー(Pre-KOのピークが、右側にシフトしたピークである)。
【0028】
図4】異なる濃度(5mM、10mMおよび20mM)の乳酸塩の存在下または非存在下で48時間インキュベーションされたTDAG8 KO-NK細胞(棒の各対の右側の棒)、ならびにCas9が予め組み込まれたNK細胞(コントロール;棒の各対の左側の棒)の両方と遭遇した後におけるRaji細胞によるアネキシンVの発現割合。
【0029】
図5A】2つの異なる臍帯血(CB)供給源CB1に由来する、コントロール(Cas9が単独で予め組み込まれたNK細胞)と比較されるTDAG8ノックアウト(KO)-NK細胞の、10mMの乳酸の存在下での48時間のインキュベーションの後における細胞傷害性指数。
図5B】2つの異なる臍帯血(CB)供給源CB2に由来する、コントロール(Cas9が単独で予め組み込まれたNK細胞)と比較されるTDAG8ノックアウト(KO)-NK細胞の、10mMの乳酸の存在下での48時間のインキュベーションの後における細胞傷害性指数。アッセイを、腫瘍細胞の成長およびNK細胞による殺傷の生細胞画像化を用いたIncucyte(登録商標)装置で786-O腎細胞がん細胞株に対して実施した。<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns:有意性がない、TDAG8 KO対Cas9-NKについての対応のあるT検定。
【0030】
図6】原発性腎明細胞がんと正常腎臓との間におけるいくつかの解糖経路遺伝子の示差的発現。これらの遺伝子は、原発腫瘍と正常(左側の列)との間において、FDR q値が0.05未満であり、変化倍数が1.5超である。
【0031】
図7A】786-O細胞株から(本文に記載されるような)3D腫瘍スフェロイドで成長させられる腎細胞がんに対する、WT NK細胞と比較されるTDAG8 KO NK細胞の増強された細胞傷害性。
図7B】A498細胞株から(本文に記載されるような)3D腫瘍スフェロイドで成長させられる腎細胞がんに対する、WT NK細胞と比較されるTDAG8 KO NK細胞の増強された細胞傷害性。合計したみがNK細胞による腫瘍細胞死を反映する。<p0.05、**p<0.01、***p<0.001、WT-NK対KO-NKについての対応のあるT検定。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書では、本開示の様々な実施形態が示され、説明されてきたが、そのような実施形態が例示としてのみ提供されていることは、当業者には明らかであろう。本発明から逸脱することなく、多数の変形、変更、及び置換が当業者に生じ得る。本明細書に記載された開示の実施形態に対する様々な代替案が採用され得ることを理解されたい。
【0033】
I.定義の例
長年の特許法の慣例に従い、特許請求の範囲を含め、本明細書でcomprisingという単語と一緒に使用される場合、単語「a」及び「an」は、「1つ又は複数」を表す。 本開示のいくつかの実施形態は、本開示の1つ以上の要素、方法ステップ、及び/又は方法から構成されてもよいし、本質的に構成されてもよい。本明細書に記載される任意の方法又は組成物は、本明細書に記載される任意の他の方法又は組成物に関して実施することができ、異なる実施形態が組み合わされてもよいことが企図される。
【0034】
本明細書を通じて、文脈上他に必要とされない限り、単語「含む(含有する)」、「含む(含有する)」及び「含んでいる」は、述べられたステップ又は要素又はステップ又は要素のグループを含むが、他のステップ又は要素又はステップ又は要素のグループを排除しないことを意味すると理解されるであろう。「からなる」は、フレーズ「からなる」の後に続くものを含む、およびそれに限定されることを意味する。したがって、「~からなる」という表現は、列挙された要素が必須または必須であり、他の要素が存在しない可能性があることを示す。「から本質的になる」とは、フレーズの後に列挙された任意の要素を含み、列挙された要素について開示で指定された活性又は作用を妨げない又は寄与する他の要素に限定されることを意味する。 したがって、フレーズ「から本質的になる」は、リストされた要素が必須または必須であるが、他の要素は任意であり、リストされた要素の活性または作用に影響するか否かに応じて存在してもしなくてもよいことを示す。
【0035】
本明細書を通じて、「一実施形態」、「実施形態」、「特定の実施形態」、「関連する実施形態」、「ある実施形態」、「追加の実施形態」、又は「さらなる実施形態」又はそれらの組み合わせへの言及は、実施形態と関連して説明される特定の特徴、構造又は特性が本発明の少なくとも一実施形態に含まれることを意味している。 したがって、本明細書中の様々な場所における前述の語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指しているわけではない。 さらに、特定の特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において、任意の適切な方法で組み合わされることができる。
【0036】
本明細書で使用される場合、「又は」及び「及び/又は」という用語は、互いに組み合わせて、又は排他的に複数の構成要素を説明するために利用される。例えば、"x、y、及び/又はz "は、"x "単独、"y "単独、"z "単独、"x、y、及びz"、"(x及びy)又はz"、"x又は(y及びz)"、又は "x又はy又はz "を指す場合がある。x、y、またはzは、実施形態から具体的に除外され得ることが特に企図される。
【0037】
本出願を通じて、用語「約」は、値を決定するために採用される装置又は方法についての誤差の標準偏差を含むことを示すために、細胞及び分子生物学の領域におけるその平易で通常の意味に従って使用される。
【0038】
本明細書で使用する「操作された」という用語は、細胞、核酸、ポリペプチド、ベクターなどを含む、人の手によって生成される実体を指す。少なくともいくつかの場合において、操作された実体は合成であり、天然には存在しないか、または本開示において利用される方法で構成された要素からなる。
【0039】
本明細書で使用する「外来性」という用語は、免疫細胞などの哺乳動物細胞内に内因的に存在しないか、または組換え技術などによって哺乳動物細胞の外で合成的に生成されるポリヌクレオチド(遺伝子産物または遺伝子産物の一部をコードするものなど)を指す。
【0040】
本明細書で使用する場合、用語「発現」は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写される過程及び/又は転写されたmRNAがその後ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質に翻訳されている過程を指す。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現は、真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含み得る。したがって、本明細書において「遺伝子産物」とは、転写されたmRNA、スプライシング前の転写RNA(例えば、非コード領域を含むRNA)、翻訳されたポリペプチド(例えば、シグナルペプチドや成熟タンパク質に存在しない他の領域を含むもの、含まないもの)、およびタンパク質である。遺伝子の発現レベルは、細胞または組織試料中のmRNAまたはタンパク質の量を測定することにより決定することができる。1つの態様において、1つの試料からの遺伝子の発現レベルは、対照試料または参照試料からのその遺伝子の発現レベルと直接比較されてもよい。別の態様では、1つの試料からの遺伝子の発現レベルは、化合物の投与後の同じ試料からのその遺伝子の発現レベルと直接比較され得る。
【0041】
本明細書で使用する「単離された」という用語は、分子又は生物学的物質又は細胞物質が他の物質から実質的に遊離されていることを指す。一態様において、用語「単離された」は、天然源に存在するような、それぞれ他のDNAもしくはRNA、またはタンパク質もしくはポリペプチド、または細胞もしくは細胞小器官、または組織もしくは器官から分離された、DNAもしくはRNAなどの核酸、またはタンパク質もしくはポリペプチド、または細胞もしくは細胞小器官、または組織もしくは器官のことを指す。また、「単離された」という用語は、組換えDNA技術によって製造された場合には細胞材料、ウイルス材料、または培養液、あるいは化学的に合成された場合には化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない核酸またはペプチドを意味する。さらに、「単離された核酸」とは、断片として天然に存在せず、天然状態では見出されないような核酸断片を含むことを意味する。用語「単離された」はまた、本明細書において、他の細胞タンパク質から単離されたポリペプチドを指すために用いられ、精製ポリペプチドおよび組換えポリペプチドの両方を包含することが意図されている。用語「単離された」はまた、本明細書において、他の細胞または組織から単離された細胞または組織を指すために用いられ、培養された細胞または組織および操作された細胞または組織の両方を包含することが意図される。
【0042】
本明細書で使用されるように、「予防する」、及び「防止する」等の類似の語は、疾患又は状態、例えば癌の発生又は再発を予防、抑制、又はその可能性を減少させるためのアプローチを示している。 また、疾患または状態の発症もしくは再発を遅延させること、または疾患または状態の症状の発生もしくは再発を遅延させることを意味する。 本明細書で使用される場合、「予防」及び同様の言葉は、疾患又は状態の発症又は再発に先立って、疾患又は状態の強度、効果、症状及び/又は負担を減少させることも含む。
【0043】
本明細書で使用される「試料」という用語は、一般に、生物学的試料を指す。 試料は、個体からの組織又は細胞から採取されてもよい。いくつかの例では、試料は、組織生検、血液(例えば、全血)、血漿、細胞外液、乾燥血液斑、培養細胞、廃棄された組織からなる、又はそれらに由来してもよい。試料は、採取前に供給源から分離されていてもよい。非限定的な例としては、血液、脳脊髄液、胸水、羊水、リンパ液、唾液、尿、便、涙、汗、又は粘膜排泄物、及び収集前に一次供給源から分離された他の体液が挙げられる。いくつかの例では、サンプルは、サンプル調製中にその一次ソース(細胞、組織、血液などの体液、環境サンプルなど)から単離される。 試料は、その一次産品から精製または濃縮されてもされなくてもよい。場合によっては、一次産品は、さらなる処理の前にホモジナイズされる。サンプルは、バフィーコート、脂質、または粒子状物質を除去するために、濾過または遠心分離される場合がある。サンプルはまた、核酸を精製または濃縮することもでき、RNaseで処理することもできる。試料は、無傷、断片化、又は部分的に分解された組織又は細胞を含むことができる。
【0044】
本明細書で使用する「対象」という用語は、一般に、処理又は分析中の生体試料を有する個人を指し、特定の場合には、癌を有するか又は癌を有する疑いがあることを意味する。対象は、哺乳類、例えば、ヒト、実験動物(例えば、霊長類、ラット、マウス、ウサギ)、家畜(例えば、牛、羊、ヤギ、豚、七面鳥、鶏)、家庭用ペット(例えば、犬、猫、齧歯類)、馬、及びトランスジェニック非ヒト動物などの方法又は材料の対象となる任意の生物又は動物対象であり得る。対象は、例えば、良性もしくは悪性の新生物、または癌などの疾患(病状と呼ばれることもある)を有する、またはその疑いがある、患者であってもよい。対象は、治療中であってもよいし、治療を受けたことがあってもよい。被験者は、無症状であってもよい。対象は、健康な個人であってもよいが、癌の予防を希望している個人であってもよい。 用語「個体」は、少なくともいくつかの場合において、互換的に使用され得る。 本明細書で使用される「対象」又は「個人」は、医療施設に収容されていてもいなくてもよく、医療施設の外来患者として扱われていてもよい。個人は、インターネットを介して1つ又は複数の医療用組成物を受け取っていてもよい。 個体は、ヒトまたは非ヒト動物の任意の年齢を含んでよく、したがって、成人および少年(すなわち、子供)および幼児の両方を含み、子宮内の個体も含む。この用語が医学的治療の必要性を意味することは意図されておらず、したがって、個体は、臨床的であろうと基礎科学研究の支援であろうと実験の一部となることを自発的にまたは非自発的に行うことができる。
【0045】
本明細書で使用される「治療」又は「治療する」は、疾患又は病的状態の症状又は病理に対する任意の有益な又は望ましい効果を含み、治療される疾患又は状態、例えば癌の1又は複数の測定可能マーカーの最小限の減少さえ含む場合がある。 治療は、任意に、疾患又は病態の症状の軽減若しくは改善、又は疾患又は病態の進行の遅延のいずれかを含むことができる。 「治療」は、必ずしも疾患や状態、またはそれらに関連する症状の完全な根絶や治癒を示すものではない。
【0046】
本開示は、細胞療法におけるその後の使用のための、免疫エフェクター細胞における内因性TDAG8遺伝子の操作を包含する。 TDAG8(TDAG8またはGPR65)をコードする遺伝子を、免疫エフェクター細胞からノックアウトすることは、酸性による免疫抑制効果に非感受性にし、したがって、酸性固体腫瘍微環境における生存、増殖および免疫機能を増加させるために、様々な細胞療法において本明細書で使用されている。遺伝子編集技術であるCRISPR/Cas9を例として、TDAG8を標的とする化学合成したcrRNA:tracrRNA二重鎖をあらかじめCas9に搭載し、TDAG8のノックアウトの可能性を確認した。その結果、NK細胞からTDAG8をノックアウトすることにより、その細胞傷害性、および活発な解糖とその微小環境の顕著な酸性化を特徴とする癌の細胞株に対する抗腫瘍活性が改善されることが示された。特定の実施形態では、TDAG8を標的とするこの遺伝子工学戦略は、例えば、CAR-T細胞、CAR-NK細胞、TCR-T細胞、または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を含む異なる形態の細胞療法と組み合わせて、固体腫瘍を含む種々の種類の癌に対して増強させる。
II. TDAG8発現のレベルが低下又は阻害された細胞の遺伝子編集
【0047】
本開示の細胞の拡大及び遺伝子改変に先立ち、細胞の供給源は、様々な非限定的方法によって対象から得ることができる。NK細胞などの任意の種類の免疫細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織、腫瘍、または市販のものからなど、多数の非限定的な供給源から得ることができる。利用可能で当業者に知られている任意の数の免疫細胞株が、使用され得る。
【0048】
特定の実施形態において、あらゆる種類の免疫エフェクター細胞は、細胞内の内因性TDAG8の発現を改変するために遺伝子編集される。特定の態様において、細胞は、TDAG8の発現の完全な阻害を含む、TDAG8の発現の低減レベルを有するように改変される(それは、ノックアウトと呼ばれ得る)。 このような細胞は、製造前及び/又は使用前に拡大されてもよく、拡大されなくてもよい。
【0049】
特定の態様において、TDAG8遺伝子は、発現が部分的に又は完全に減少しており、発現が破壊されている。 特定の態様において、TDAG8遺伝子は、本開示のプロセスを用いてノックダウンまたはノックアウトされる。
【0050】
当業者は、任意の免疫細胞を含む任意の細胞を、TDAG8遺伝子の発現が低減または完全に阻害されるように操作する方法を承知している。特定の実施形態は、発現が減少または完全に阻害されることが望まれる特定の遺伝子のヌクレオチド配列のターゲティングを包含する手段を利用する。TDAG8ヌクレオチド配列の一例は、アクセッション番号NM_003608のNational Center for Biotechnology Information GenBank(登録商標)Databaseにあり、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。 TDAG8ヌクレオチド配列の一例は、以下に提供される。
>NC_000014.9:88005135-88014811 Homo sapiens chromosome 14, GRCh38.p13 Primary Assembly- GPR65
AGCAGTGTTGGTTTCTCTTCTTGACTTGATGCAGGCACAGATTTATCAAGCTCCTCAGTCAACAAACACATCACCGGAAGAAATATGGGTAAGTATAAGATTAAAAAATAAAATAATATTTTAAAGTAGATAACATGCTTTGGCATAATTGTCAGTGATGTTCGCAACATTCTTCCTGGTTTAGGCTGTATAAATGTGGTAATGCAAAGCATGATAAGAGAGAAAGAAATGAGGAAGACACATGGTTTCCTCTACTTTGAGCAGTGGTAAAGGGCCAAACTTTAAATTTAGAACTAATTAGGCAAAACCATAGATATAGAAAAAGGGGGTTGTTCATACTTTATTTTCTTTTCAGGAAACAGTGCTTTGGCAAACTTCATTCAGTATTAGGAAGAAGCCTACCAGCCCCTGGCTTTAGAGCTATCTGGCACCAATCCCTCATCTGTACAATGGTCCAGTAAATACTTTTTATATCCATCAGAAAAAAATGTGATATTAGGAAAGAATATTTCCAGTATTAATAAATGTCAAGTAATAATTATTAGTTAATAAGTGACTACCACAGTGCCTGAAATATATAGTAGAGTCTTAATAAGTAACTATTAAACTGATAGATGAAAGCAAGCATTTTCTATAACACTGTAGGAAAATATTGTACTTTTGGTCATCGTCATCAATGATTTGTACTATTTTTAGATCTGTTCAAGAATAGATATACTTTAATATACTGTAGATTGTCTTTTTTGACATCTGGTAAAAATTAAAAAATTAAAAACTCACCAAAATTTCTCAGTGCTTGTTCTAAAAACAATTTTCTCAAAATTTGATTAAAGGAGGCAAAATAATATCTGAAAAGATATGTGAATACTGTAATAGGAATTATATACAGTATTCCACTAAAATCTCAGATCCACCCAAATTAAATGAACAACTATTATCTGCAGAGCCTAGTATTATACGTGAAGTGTTACCATATAAATTACACTCTGAGCACCTCCAGCTTTTCTGCTATGCTGTGGCTAGATGACTAAAGATGATTTCTTTTCAGAAAATGTAGGGGACAGCACAAAGATTGGTGCAGACTACCAATGTCATTAAAACAATATTACCAGCTAACGTACAGTGAATGCCTCCCATGTGCTAGGAACTTTGCTTCATATGTCGTTTCATTTAACCCTCACAACAATCTTAGAAACTGGGTACTAACTTACACATGTGAAAACTGGAACTTAGAGAGGTGAAGAAACACCAATGGGCCCAGAGTGCTGTTGAGAGGCATTCGAATTGTCTCCAGAGCCCACGCTCTTAACCACAAGCCTGTACTGCCTCTGCGTCACTACAAAGAAGAGGGCCTCTGCTTCATCAACCCATCCTGTCTTGTGGTTAAGTCAAGGCAGGAAATGCTTTTACAGCTAGAGAAATGTATTCCATTGAAAACTTTATAAACCTTTCTAAAAATCATTTTTTCATTTAATCTGTCATACCATTTTTAAAGAAAATGATGACTATCTATTGAGTAACACGGACAAAGGAGGAAGAGGCACATGCTGCCCATTACCCGACTTTCTCGGTCCTGGTCTTAAGGGGAGGATGTTTTCATGGTTCAGGTGTTCTTCCCAAGACACATGAGCCTGGTGTTGGACGTGTTGTGTGTGCATCAGAGTCCCATCCGCGGGGGCTGATTCAATCTTCCTGCATCGCAGACATTACCCTAGTGTCCTTTTCCTACTTCAGTTATATCCTTTAGAAGTTTCTTTAGTGGGGATTTTGGATGTAAATGTTCTGAGTGGTAGTTTACCTGAAAATGTCCTAATTCTTGCTCTGGTCCTTGAAATTTAGTTCTGTTGAGTATATAATTATAGGATGACATATATTTTCTTAGCAATTTGGAACTTTTAATCTTCTGCTGTCTGTTATCGCTGTTGAGAAGTCTTTTGTCCGTCTAAATTCCATCCTTCATAGGTAGTCCATCTTTCCTCTCTGGCTCTTTTTTCCTTAGTCTTTGGTGAACTGCAATTTTATTGCAATGTGTCTAAGTATAGGTTTCCATTTTTGTGTTTTTAATCCTATTTGGGATTTTCTAAGCTTCATAAATCTGCAGATTTCATGAGGATTGAAGATGCATGAGGATTCTTCATCCATCCTCAAGATTCCTTCATCAGTTCTAGAAAGCTCATCATCTTTGTGAATATTGCCTTTTCAACATTCTCTCTTTTCGATCTTTATGGAATTCCAATTATGTATATGCCACCCTTTTCACCTTTTCTCCATATCTCTTATATTTTCCCATGTCCTTAACATGCTGATAATTTTGTGTTATTTCTTTATCTCTATCTTGCAATATACAAATTTTCTCTTCAGCTGGATCTAATCAGTTGGTTACTCCCTGTGTTTATTTTTAAATTTAAATTATTATTATTTTTATTTTTAGAAAGTCTTTTTCAATCTTTCTAAAAATATGGCTTGTCATTTTTTAATCTCTTCCTCCTTACTCATGTGTTTAAATCCCTTCTTTTGTTTCTTTAAACATATTAAACATATTTTGTGTTTTTTATATATATATATATAAATTTTATCTCTAAAGTTTTGTGGATCTGGTTTACTTTGTTGTTTCTGCTCAATCTGACACGTAGTTGCTTATTATTCTCTCTGTGTGTATGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGAATAAGGTCATATTTGTTAGAACTCTATCTGTAGGATTCTTTGAGGCCTGAGTTAAAGAGGACTTGTTCAAGGGGGGATCTGTGTCAACTTCTTCCAGGAGCCTAGAATTTATTTTTTCATATATAGTTAACCTTTATTTTTGGTGAAGTTATTTTCATAATTAGGTAAATTATTTATTTATTGTTTTCTCTCAATTACATTTTATGTATGAGGATAGAAATAAGATCAGATTTCTTAAAAAGGCATATATGTTCCATCTGTGGGTAAAACAGATGTTTGTTTGTCAAGATGCTCTACATGCCATCTCACACAGCCTTTTGATTCCACTTTTTAATGTTTCCATTGCAATACAATACACATGCAGCAAAATGCACATATCCTAAGTGTACAGCTTGATGCATTTCTACAAACTGAGCATGCTCATGGAACCAGCCACCCCTACCAAGAGATAGAACATTGCCAAATCTCAGAAGTCCTCCTCATGCCCTCTTCCAACAGTACTCAGCCTTTCCCCAGAGGTAGCCACTACCCAGACTCCTAACATCATAGATTAACTTTGCCTGGTTTGTATCAGATAATACATACTCTTTTGTGTCTTTTTTTTTATCACTCAGAATTACATTTGTGATCTTCAACCATGCGATTGCATGTAGCAATAATTTATTCATCTTCATTGAGGTGTAGATTTCAGTGGTGTTACTATATCCCAATTTACTCATCTATTATACTGCTAGTGGGCATTCTAGTTAAGGGATATTACAAGTAGTGTTACTGTGAATATTCTAATTCTAGTACCTGTCTTTTGGTTAACATATGTATGCGTTTATGTTGAACAAATACCTAGAGGTGGAATTGCTGGATCATATGGCATGCATAAGTGCCTAGTGTTTTTTTACTCAACAGCATATGAGTCAAGATGTTCTATTTCCTTCCTAACACTTGATATTTTGTCTTATTTTCATTTCATTTGTTGTGTTGGGTGTGTAGTGGTATATCATTTTAATTTTAGCTTGAATTCCTCTGATGACTAATGAAGTTGAGCATGTAGGTTGGCCTGAAGTTTGCAGGATCAAACTAATAATGTAGACCCAGACCTAGTTTCCAAGTGAGGACCCCACAGGCCACAACTACTTAGGGTAGAATTTTTTATTGTAACTCCTCACAGAAACCAAGCAGAGGCAGGGAAATTGCCATCTTTTCTCTACTGTCTGCAAATGTCTGTGGAATTTATTTTATTTTGTTTATTTTCTAGTTCACCCTTTCCCTGACAGCAGAGGTTCTGGATCCCATGTGTTTGGGATGGTCAAGGACCCCTTCTTACCTGCATAGGCCCAAGTTTTGTCTCTAGTTTCTCTGATCCCTAGTGAGTTCCTCCAGATCTACATATGTCTTCAGGCCATCCAGAGCTCCGGCGCTCACTCACCTCCCTGATAACAGCTCCCACCTCCTTTCTTCCATCACAAATTTTCCCCCCCTTTGGAAGCTTCCCTATTTATTTAAAAGGCTGTTTTTCACATTTTATTCCTGTTTTTTAGGTTGATAAAGCTAAAAGTTTTCAGGAGTTTTAGTTACCTGTTTAAGAGTGAAATATGATATATTTTCCCATATGATTTACTCTGCTAGTAGAATTCTTGTGACTTGTGATGGCAGGTCTTTTTGTGCTCAGGATTCATCAACAGTTGGGAGGGAGTGATTCTGGTGCCCTGAATAGTGTTTCTAGAAAGCTTTCTGTGAAGGTATTCACCATGTAAATGATCTCAGCCACCAGTAGGCCTCAGCAGCAAAGGGATATAGACAAAGTATTTCTCTACTCCAGTATGGAGAGAAGGATGGAACCTTTACTCTTATGTGAATCTATGACATCATAGCTTTAAAAAGACACTAACCTCTTAAACCATCAGATATAAAGGTGGAAATTAATGATTCCAAGATTTTACCCAGAATAAGAACATTCTGTCCTCTCATTTATAAAAGTATAAGAAAAATAAAGTGAGTTAGTCGACAAAGGAAATAAAAAGATAAACAGAAGTAGGATTGTCTAATTATATGCTAAGGCTTAACAAACTGCTACATTTTAAAATTCTAAAACTTTATTGTATTTCTATTATAGTATTTCTTTGGATAATAAGGTGATTTTTGAAAGTGCCGTACACCTAGATTGAATATGAAATTAGAAATTTGAAATCACATAACCATACAGTTGATCACACATGCAAAAGTATTTACCAATCACAGACAAATAACAGAATTTTTTATCTTTAGCTGCTGAAATGACTTTTTAAATTGAGTTTTGTGTTCTTGGGTTATATCC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(配列番号:28)
【0051】
配列番号:28中の特定の配列の例示は以下の通りである。
TDAG8のコード配列は以下の通りである。
ATGAACAGCACATGTATTGAAGAACAGCATGACCTGGATCACTATTTGTTTCCCATTGTTTACATCTTTGTGATTATAGTCAGCATTCCAGCCAATATTGGATCTCTGTGTGTGTCTTTCCTGCAAGCAAAGAAGGAAAGTGAACTAGGAATTTACCTCTTCAGTTTGTCACTATCAGATTTACTCTATGCATTAACTCTCCCTTTATGGATTGATTATACCTGGAATAAAGACAACTGGACTTTCTCTCCTGCCTTGTGCAAAGGGAGTGCTTTTCTCATGTACATGAATTTTTACAGCAGCACAGCATTCCTCACCTGCATTGCCGTTGATCGGTATTTGGCTGTTGTCTACCCTTTGAAGTTTTTTTTCCTAAGGACAAGAAGATTTGCACTCATGGTCAGCCTGTCCATCTGGATATTGGAAACCATCTTCAATGCTGTCATGTTGTGGGAAGATGAAACAGTTGTTGAATATTGCGATGCCGAAAAGTCTAATTTTACTTTATGCTATGACAAATACCCTTTAGAGAAATGGCAAATCAACCTCAACTTGTTCAGGACGTGTACAGGCTATGCAATACCTTTGGTCACCATCCTGATCTGCAACCGGAAAGTCTACCAAGCTGTGCGGCACAATAAAGCCACGGAAAACAAGGAAAAGAAGAGAATCATAAAACTACTTGTCAGCATCACAGTTACTTTTGTCTTATGCTTTACTCCCTTTCATGTGATGTTGCTGATTCGCTGCATTTTAGAGCATGCTGTGAACTTCGAAGACCACAGCAATTCTGGGAAGCGAACTTACACAATGTATAGAATCACGGTTGCATTAACAAGTTTAAATTGTGTTGCTGATCCAATTCTGTACTGTTTTGTAACCGAAACAGGAAGATATGATATGTGGAATATATTAAAATTCTGCACTGGGAGGTGTAATACATCACAAAGACAAAGAAAACGCATACTTTCTGTGTCTACAAAAGATACTATGGAATTAGAGGTCCT (配列番号:29)
【0052】
以下のDNA配列は、配列番号:28の5’-3’配列の例示であり、TDAG8をCRISPR/Cas9技術でノックアウトするために、例示的なガイドRNAによって標的化されるものである。CRISPR/Cas9技術は、二本鎖DNAの切断を行うために、ガイドRNA(標的遺伝子上の短い標的DNA配列に相補的なもの)を利用するものである。ガイドRNAには正鎖と負鎖があるが、CRISPR/Cas9技術による切断は標的DNAの両鎖に作用するため、ここでは標的配列の正鎖のDNAを示す。
【0053】
例示的なAAガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列はGCATTGCCGTTGATCGGTAT (配列番号:30)である。
【0054】
例示的なABガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列はAACTTGTTCAGGACGTGTAC (配列番号:4)である。
【0055】
例示的なACガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列はTGTGCGGCACAATAAAGCCA (配列番号:5)である。
【0056】
例示的なADガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、GCCTTGTGCAAAGGGAGTGC (配列番号:31)である。
【0057】
例示的なAEガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、GCCAATATTGGATCTCTGTG (配列番号:32)である。
【0058】
例示的なAFガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、GTCCATCTGGATATTGGAAA (配列番号:33)である。
【0059】
例示的なAGガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TTATGGATTGATTATACCTG (配列番号:34)である。
【0060】
例示的なAHガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TATTGAAGAACAGCATGACC (配列番号:35)である。
【0061】
例示的なAIガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、GTCTTTCCTGCAAGCAAAGA (SEQ ID N:36)である。
【0062】
例示的なAKガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、CAACTTGTTCAGGACGTGTA (配列番号:37)である。
【0063】
例示的なALガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TACAGGCTATGCAATACCTT (配列番号:38)である。
【0064】
例示的なAMガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、CACCTGCATTGCCGTTGATC (配列番号:39)である。
【0065】
例示的なANガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、GGAAAGTCTACCAAGCTGTG (配列番号:21)である。
【0066】
例示的なAOガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、CTTTATGGATTGATTATACC (配列番号:40)である。
【0067】
例示的なAPガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TCACCATCCTGATCTGCAAC (配列番号:41)である。
【0068】
例示的なAQガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、CAGCCTGTCCATCTGGATAT (配列番号:42)である。
【0069】
例示的なARガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、AAGGACAAGAAGATTTGCAC (配列番号:43)である。
【0070】
例示的なASガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、GACAAGAAGATTTGCACTCA (配列番号:44)である。
【0071】
例示的なATガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TTGGTCACCATCCTGATCTG (配列番号:45)である。
【0072】
例示的なGuide-GPR65-B1ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、CAGTCAACAAACACATCACC (配列番号:46)である。
【0073】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TCAGTCAACAAACACATCAC (配列番号:10)である。
【0074】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、CAGTTGATGCTTGTGGGCTG (配列番号:47)である。
【0075】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、GTTCTGTGATAATGAACACA(配列番号:12)である。
【0076】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、GCAAAGAAGGAAAGTGAACT (配列番号:13)である。
【0077】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、CTTCAGTTTGTCACTATCAG (配列番号:48)である。
【0078】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TGTGCAAAGGGAGTGCTTTT (配列番号:49)である。
【0079】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TCTGGATATTGGAAACCATC (配列番号:50)である。
【0080】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TCCTGATCTGCAACCGGAAA (配列番号:51)である。
【0081】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TTACACAATGTATAGAATCA (配列番号:22)である。
【0082】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、AAACAGGAAGATATGATATG (配列番号:23)である。
【0083】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、TATTAAAATTCTGCACTGGG (配列番号:24)である。
【0084】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、GAGGTCCTTGAGTAGAACCA (配列番号:25)である。
【0085】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、CAAGGATGTTTTGAAGGGAA (配列番号:26)である。
【0086】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、CTAGGTGACGATCGTGTTCT (配列番号:52)である。
【0087】
例示的なGuide-GPR65-B2ガイドRNAが、配列番号:28中でターゲットとする配列は、CTCAGCAGTGTTGGTTTCTC (配列番号:53)である。
【0088】
下の表は、TDAG8の遺伝子編集のためのCRISPRに使用するためのガイドRNAの例を示している。これらのガイドRNAは、上に示した正のDNA鎖に相補的であるか、あるいは反対側(負)のDNA鎖に相補的であるかのいずれかである。
【表1】
【0089】
CRISPR/Cas9によるノックアウトの後、本発明者らは、ノックアウト効率について調べるためにPCRを使用する。PCR反応のために、編集された領域を包含するプライマーを使用する。使用することができるであろうプライマーのいくつかの例を以下に示す。プライマーの他の多くの組み合わせも同様に使用することができるであろう。
【表2】
【0090】
本開示の実施形態には、内因性TDAG8の発現を細胞においてノックアウトする、またはノックダウンする方法であって、細胞を、少なくともCas9または機能的に同等な代替物、およびTDAG8を標的とする適切なガイドRNAと接触させることを含む方法が含まれる。Cas9および/またはガイドRNAは、それらについてコードする1つまたは複数の発現ベクターからの発現により細胞に提供される場合がある。ベクターは、ウイルス性(レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)または非ウイルス性(ネイクドプラスミドDNAまたは化学修飾mRNA)である場合がある。
【0091】
具体的な場合において、TDAG8以外の遺伝子(1つまたは複数)がノックダウンまたはノックアウトされ、これは、TDAG8のノックアウトまたはノックダウンと同じ工程において生じてもよく、または生じなくてもよい。発現の低下または完全な阻害では、TDAG8についての遺伝子編集機構と同じ遺伝子編集機構が利用される場合があり、または利用されない場合があり、他の遺伝子(1つまたは複数)の発現の低下または完全な阻害が、TDAG8についての遺伝子編集の前に、その期間中に、またはその後で生じる場合がある。細胞において編集される遺伝子はどのような種類の遺伝子であってもよく、しかし、具体的な実施形態において、遺伝子は、TDAG8 KO細胞の活性および/または増殖が遺伝子産物によって阻害される遺伝子である。具体的な場合において、TDAG8に加えて編集される遺伝子は、細胞が腫瘍微小環境においてより効果的に働くことを可能にする。具体的な場合において、遺伝子は、NKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、CD5およびCD7のうちの1つまたは複数である。具体的な実施形態において、TGFBR2遺伝子が細胞においてノックアウトされ、またはノックダウンされる。
【0092】
いくつかの実施形態において、細胞におけるどのような遺伝子編集も、1つまたは複数のDNA結合核酸を使用して、例えば、RNA誘導エンドヌクレアーゼ(RGEN)を介した変更などを使用して行われる。例えば、変更を、クラスター化された規則的配置の短い回文配列反復(CRISPR)と、CRISPR関連(Cas)タンパク質とを使用して行うことができ、だが、いくつかの実施形態において、CpF1がCas9の代わりに利用される。一般に、「CRISPRシステム」は、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現に関与する転写物または他の構成要素、またはCRISPR関連(「Cas」)遺伝子の活性を指図する転写物または他の構成要素を、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性な部分tracrRNA)、tracrメイト配列(これは、内因性CRISPRシステムとの関連では「直列反復配列」およびtracrRNAプロセシングされた部分的直列反復配列を包含する)、ガイド配列(これはまた、内因性CRISPRシステムとの関連では「スペーサー」として示される)、ならびに/あるいはCRISPR遺伝子座からの他の配列および転写物を含めてひとまとめにして示す。
【0093】
CRISPR/CasヌクレアーゼまたはCRISPR/Casヌクレアーゼシステムは、DNAに配列特異的に結合する非コードRNA分子(ガイド)RNA、およびヌクレアーゼ機能性(例えば、2つのヌクレアーゼドメイン)を有するCasタンパク質(例えば、Cas9)を含むことができる。CRISPRシステムの1つまたは複数の構成要素が、例えば、内因性CRISPRシステムを含む特定の生物(例えば、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)など)から得られるI型、II型またはIII型のCRISPRシステムに由来することができる。
【0094】
いくつかの局面において、Casヌクレアーゼと、(標的配列について特異的なcrRNAと、固定されたtracrRNAとの融合物を含む)gRNAとが細胞に導入される。一般に、gRNAの5’末端における標的部位により、Casヌクレアーゼは、相補的塩基対形成を使用して標的部位に、例えば、遺伝子に向けられる。標的部位は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列(典型的には、例えば、NGGまたはNAGなど)のすぐ5’側のその位置に基づいて選択される場合がある。この点で、gRNAは、標的DNA配列に対応するようにガイドRNAの最初の20ヌクレオチド、19ヌクレオチド、18ヌクレオチド、17ヌクレオチド、16ヌクレオチド、15ヌクレオチド、14ヌクレオチド、14ヌクレオチド、12ヌクレオチド、11ヌクレオチドまたは10ヌクレオチドを改変することによって所望の配列に標的化される。一般に、CRISPRシステムは、標的配列の部位におけるCRISPR複合体の形成を促進させる構成要素によって特徴づけられる。典型的には、「標的配列」は一般には、ガイド配列が相補性を有するように設計される配列で、標的配列とガイド配列との間におけるハイブリダイゼーションがCRISPR複合体の形成を促進させる配列を示す。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進させるための十分な相補性が存在するならば、完全な相補性は必ずしも要求されない。
【0095】
CRISPRシステムは、標的部位における二本鎖切断(DSB)、続いて、本明細書中で議論されるような破壊または変更を誘発することができる。他の実施形態において、「ニッカーゼ」とみなされるCas9バリアントが、標的部位において一本鎖に切れ目を入れるために使用される。切れ目が同時に導入されると、5’側突出端が導入されるように配列を標的化する一対の異なるgRNAによってそれぞれが導かれる対になったニッカーゼが、例えば、特異性を改善するために使用することができる。他の実施形態において、触媒不活性なCas9が、遺伝子発現に影響を及ぼすために異種のエフェクタードメイン(例えば、転写リプレッサーまたは転写活性化因子など)に融合される。
【0096】
標的配列は、どのようなポリヌクレオチドであれ含んでもよく、例えば、DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドなどを含む場合がある。標的配列は、細胞の核または細胞質(例えば、細胞のオルガネラの内部など)に位置する場合がある。一般に、標的配列を含む標的化された遺伝子座への組換えのために使用され得る配列またはテンプレートが、「編集用テンプレート」または「編集用ポリヌクレオチド」または「編集用配列」として示される。いくつかの局面において、外因性のテンプレートポリヌクレオチドが編集用テンプレートとして示される場合がある。いくつかの局面において、組換えは相同的組換えである。
【0097】
典型的には、内因性CRISPRシステムとの関連において、(標的配列にハイブリダイゼーションし、1つまたは複数のCasタンパク質と複合体形成するガイド配列を含む)CRISPR複合体の形成により、一方または両方の鎖の切断が標的配列において、または標的配列の近くで(例えば、標的配列から1塩基対以内、2塩基対以内、3塩基対以内、4塩基対以内、5塩基対以内、6塩基対以内、7塩基対以内、8塩基対以内、9塩基対以内、10塩基対以内、20塩基対以内、50塩基対以内、またはそれ以上の塩基対以内で)もたらされる。tracr配列は、野生型tracr配列の全体または一部分(例えば、野生型tracr配列の約20または約20超のヌクレオチド、約26または約26超のヌクレオチド、約32または約32超のヌクレオチド、約45または約45超のヌクレオチド、約48または約48超のヌクレオチド、約54または約54超のヌクレオチド、約63または約63超のヌクレオチド、約67または約67超のヌクレオチド、約85または約85超のヌクレオチド、あるいはそれ以上のヌクレオチド)を含む場合があり、あるいは野生型tracr配列の全体または一部分(例えば、野生型tracr配列の約20または約20超のヌクレオチド、約26または約26超のヌクレオチド、約32または約32超のヌクレオチド、約45または約45超のヌクレオチド、約48または約48超のヌクレオチド、約54または約54超のヌクレオチド、約63または約63超のヌクレオチド、約67または約67超のヌクレオチド、約85または約85超のヌクレオチド、あるいはそれ以上のヌクレオチド)からなる場合があり、そのため、tracr配列はまた、CRISPR複合体の一部を、例えば、ガイド配列に機能的に連結されるtracrメイト配列の全体または一部分に対してtracr配列の少なくとも一部分に沿ってハイブリダイゼーションすることによって形成する場合がある。tracr配列は、CRISPR複合体の形成に加わるための、tracrメイト配列に対する十分な相補性を有しており、例えば、最適にアラインメントされたとき、tracrメイト配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%などの配列相補性を有する。
【0098】
CRISPRシステムの1つまたは複数の構成要素を発現させる1つまたは複数のベクターを、CRISPRシステムの当該構成要素の発現により、CRISPR複合体の形成が1つまたは複数の標的部位で導かれるように細胞に導入することができる。様々な成分もまたタンパク質および/またはRNAとして細胞に送達されることが可能である。例えば、Cas酵素、tracrメイト配列に連結されるガイド配列、およびtracr配列はそれぞれが、別個のベクターにおいて別個の調節エレメントに機能的に連結され得るであろう。代替において、同じ調節エレメントまたは異なる調節エレメントから発現される構成要素の2つ以上が、ただ1つのベクターにおいて一緒にされることがあり、この場合、1つまたは複数のさらなるベクターにより、どのような成分であれ第1のベクターに含まれないCRISPRシステムの成分が提供される。ベクターは、1つまたは複数の挿入部位、例えば、制限エンドヌクレアーゼ認識配列(これはまた「クローニング部位」として示される)などを含む場合がある。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の挿入部位が1つまたは複数のベクターの1つまたは複数の配列エレメントの上流側および/または下流側に位置する。多数の異なるガイド配列が使用されるときには、ただ1つの発現構築物が、CRISPR活性を細胞内の多数の異なる対応する標的配列に向けさせるために使用される場合がある。
【0099】
ベクターが、Casタンパク質などのCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に機能的に連結される調節エレメントを含む場合がある。Casタンパク質の限定されない例には、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(これはCsn1およびCsx12としてもまた知られる)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csfl、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログ、またはそれらの改変型が含まれる。これらの酵素は知られており、例えば、S.pyogenesのCas9タンパク質のアミノ酸配列がSwissProtデータベースにおいて受入番号Q99ZW2により見出され得る。
【0100】
CRISPR酵素はCas9(例えば、S.pyogenesまたはS.pneumoniaに由来するCas9)が可能である。いくつかの場合において、CpF1が、Cas9の代わりにエンドヌクレアーゼとして使用される場合がある。CRISPR酵素は、一方の鎖または両方の鎖の直接的な切断を標的配列の場所において、例えば、標的配列の内部および/または標的配列の相補体の内部などにおいてもたらすことができる。ベクターは、変異させたCRISPR酵素が、標的配列を含有する標的ポリヌクレオチドの一方の鎖または両方の鎖を切断する能力を欠くように、対応する野生型酵素に関して変異させられるCRISPR酵素をコードすることができる。例えば、S.pyogenes由来のCas9のRuvC I触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)により、Cas9は、両方の鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼに変わる(一本鎖が切断される)。いくつかの実施形態において、Cas9ニッカーゼがガイド配列(1つまたは複数)との組み合わせで、例えば、DNA標的のセンス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ標的とする2つのガイド配列との組み合わせで使用される場合がある。この組み合わせは、両方の鎖に切れ目を入れ、両方の鎖が、NHEJまたはHDRを誘導するために使用されることを可能にする。
【0101】
いくつかの実施形態において、CRISPR酵素をコードする酵素コード配列が、真核生物細胞などの特定の細胞における発現のためにコドン最適化される。真核生物細胞は、特定の生物、例えば、限定されないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌまたは非ヒト霊長類を含む哺乳動物などの細胞、あるいはそれらに由来する細胞である場合がある。一般に、コドン最適化は、目的とする宿主細胞における強化された発現のために、生来型配列の少なくとも1つのコドンを、生来型のアミノ酸配列を維持しながら、その宿主細胞の遺伝子ではより頻繁に使用される、または最も頻繁に使用されるコドンで置き換えることによって核酸配列を改変するプロセスを示す。様々な生物種が、特定の片寄りを特定のアミノ酸のある特定のコドンについて示す。コドンの片寄り(生物間のコドン使用頻度における差)は多くの場合、とりわけ、翻訳されているコドンの特性、および特定の転移RNA(tRNA)分子の利用可能性に結果として依存していると考えられるメッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳効率と相関する。選択されたtRNAが細胞において優勢であることは一般に、ペプチド合成において最も頻繁に使用されるコドンの反映である。したがって、遺伝子を、コドン最適化に基づく所与の生物における最適な遺伝子発現のために合わせることができる。
【0102】
一般に、ガイド配列には、標的配列とハイブリダイゼーションし、標的配列に対するCRISPR複合体の配列特異的な結合を導くために標的ポリヌクレオチド配列との十分な相補性を有するポリヌクレオチド配列がどのようなものであれ挙げられる。いくつかの実施形態において、好適なアラインメントアルゴリズムを使用して最適にアラインメントされたとき、ガイド配列と、その対応する標的配列との間における相補性の程度は、約50%または約50%超、約60%または約60%超、約75%または約75%超、約80%または約80%超、約85%または約85%超、約90%または約90%超、約95%または約95%超、約97%または約97%超、約99%または約99%超、あるいはそれ以上である。
【0103】
最適なアラインメントが、配列をアラインメントするための好適なアルゴリズムをどのようなものであれ使用することにより求められることがあり、そのようなアルゴリズムの限定されない例には、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler変換に基づくアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、Clustal W、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies、ELAND(Illumina、San Diego、Calif.)、SOAP(soap.genomics.org.cnにおいて入手可能)、およびMaq(maq.sourceforge.netにおいて入手可能)が含まれる。
【0104】
CRISPR酵素は、1つまたは複数の異種タンパク質ドメインを含む融合タンパク質の一部である場合がある。CRISPR酵素融合タンパク質は、さらなるタンパク質配列をどのようなものであれ含む場合があり、また、必要な場合にはリンカー配列をいずれか2つのドメインの間に含む場合がある。CRISPR酵素に融合され得るタンパク質ドメインの例には、限定されないが、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、ならびにメチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写放出因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性および核酸結合活性である活性のうちの1つまたは複数を有するタンパク質ドメインが含まれる。エピトープタグの限定されない例には、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザ血球凝集素(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグおよびチオレドキシン(Trx)タグが含まれる。レポーター遺伝子の例には、グルタチオン-5-トランスフェラーゼ(GST)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)ベータガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自己蛍光タンパク質が含まれるが、これらに限定されない。CRISPR酵素が、マルトース結合タンパク質(MBP)、S-タグ、Lex AのDNA結合ドメイン(DBD)の融合物、GAL4AのDNA結合ドメインの融合物、および単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質の融合物(これらに限定されない)を含めて、DNA分子と結合するタンパク質または当該タンパク質のフラグメント、あるいは他の細胞分子と結合するタンパク質または当該タンパク質のフラグメントをコードする遺伝子配列に融合される場合がある。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得るさらなるドメインが米国特許出願公開第20110059502号(これは参照によって本明細書中に組み込まれる)に記載される。
III.免疫エフェクター細胞
【0105】
本開示は、TDAG8の部分的な発現低下または完全な発現阻害を含むように免疫エフェクター細胞を遺伝子操作することに関する。TDAG8の部分的な発現低下または完全な発現阻害が、固形腫瘍を含めたどのような種類のがんであれがんを処置するための革新的かつ効果的な細胞療法をもたらすために、少なくともCRISPR/Cas9技術によってであることを含めてどのような機構によってであれ生じ得る。
【0106】
本開示は、TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現を有するように改変される免疫エフェクター細胞をどのような種類の免疫エフェクター細胞であれ包含する。具体的な実施形態において、細胞におけるTDAG8の発現低下または完全な発現阻害は人の手による細胞の意図的操作の直接的または間接的な結果である。TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現を有するための免疫エフェクター細胞の操作は、相同的組換えまたは非相同的組換えによってであることを含めてどのような機構によってであってもよい。具体的な実施形態において、細胞は、例えば、TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現をCRISPR技術の結果として有するように操作される。
【0107】
免疫エフェクター細胞は、内因性TDAG8の低下した発現をもたらす1つまたは複数の変異を有する天然の細胞とは対照的に、特に遺伝子操作によって、TDAG8の低下した発現または阻害された発現を有する。したがって、具体的な実施形態において、免疫エフェクター細胞は、当該免疫エフェクター細胞のゲノムにおける内因性TDAG8の発現を低下させるために、または阻害するために遺伝子操作される。具体的な実施形態において、免疫エフェクター細胞は、内因性TDAG8の発現についてノックアウトされる。
【0108】
本開示は、従来のT細胞、ガンマ-デルタT細胞、NK細胞、NK T細胞、インバリアントNK T細胞、制御性T細胞、マクロファージ、B細胞、樹状細胞、腫瘍浸潤リンパ球、MSC、またはそれらの混合物を含めて、どのような種類の免疫エフェクター細胞であれ包含する。細胞は、当該細胞を必要としている個体(例えば、がんを有する個体など)を含めた個体に関して同種、自家、または異種である場合がある。
【0109】
特定の実施形態において、免疫エフェクター細胞は、TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現を有するようにもまた改変されること以外に1つまたは複数の遺伝子産物を発現するように、またはそうでない場合には産生するように人の手によって改変される。細胞に対するそのようなさらなる改変(1つまたは複数)は細胞において天然に存在しておらず、または細胞に関して外因性起源のものである。さらなる改変(1つまたは複数)はどのような種類であってもよく、例えば、例として、受容体、サイトカイン、自殺遺伝子、もしくはケモカイン、またはそれらの組み合わせを発現する免疫エフェクター細胞などである場合がある。
【0110】
TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現を有する免疫エフェクター細胞がまた、細胞において天然に存在しない遺伝子産物、または外因性起源である遺伝子産物を産生するように、または発現するようにさらに改変されるとき、免疫エフェクター細胞が改変される順序はどのような種類であってもよい。例えば、TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現を有する免疫エフェクター細胞は、1つまたは複数のさらなる改変を有するように改変されることがあり、ただし、他の場合において、免疫エフェクター細胞は、細胞において天然に存在しない遺伝子産物、または外因性起源である遺伝子産物を産生するように、または発現するように改変された後で、TDAG8の低下した発現または完全に阻害された発現を有するように改変される。
【0111】
特定の実施形態において、TDAG8の完全な発現または部分的な発現を欠く免疫エフェクター細胞は、抗原受容体などの受容体を発現するように改変される同じ細胞である。本開示によって包含される免疫エフェクター細胞はどれも、腫瘍抗原でもあることがあるがん抗原である抗原に向けられる受容体を含めて、どのような種類のものであってもよい抗原受容体を発現する。具体的な実施形態において、受容体は、例えば、キメラ抗原受容体またはT細胞受容体である。免疫エフェクター細胞は、TDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害を有するように特に設計される場合があり、また、個体におけるがん細胞表面の抗原を標的とする抗原受容体を有するように特に設計される。すなわち、細胞は、個体のがん細胞の表面に存在することが知られている抗原を標的とする1つまたは複数の抗原受容体を含むように調整される場合がある。
【0112】
特定の実施形態において、本開示の細胞は、既製の細胞として使用されるという目的のために製造される。例えば、TDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害を有する細胞が、例えば、貯蔵所に存在しており、この細胞が貯蔵所から得られ、TDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害を有する以外のさらなる改変を有するように操作される。他の場合において、TDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害を有する以外の改変を有する細胞が貯蔵所から得られ、TDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害を有するように操作される。貯蔵所から細胞を得た後における細胞に対するそのような改変の後、細胞は貯蔵される場合があり、または効果的な量の細胞が、それを必要としている個体に提供される。TDAG8 KO細胞またはノックダウン細胞のさらなる操作が、当該細胞を操作して、操作された受容体を発現するようにすること、例えば、個体の処置のために好適である腫瘍抗原を、当該抗原を発現する特定のがんを有する個体の処置のために標的とする操作された抗原受容体などを発現するようにすることである場合がある。
【0113】
特定の実施形態において、免疫エフェクター細胞はTDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害を有しており、1つまたは複数の操作された抗原標的化受容体もまた発現し、かつ/あるいは少なくとも1つのトランスフェクションされた、(細胞に対して内因性とは対照的に)サイトカインを発現し、かつ/あるいは少なくとも1つの自殺遺伝子を発現する。TDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害を有する細胞のいくつかの場合において、異なるベクターが、自殺遺伝子(1つまたは複数)および/またはトランスフェクションされたサイトカイン(1つまたは複数)をコードするとは対照的に、抗原標的化受容体(1つまたは複数)をコードする。NK細胞を含めて免疫細胞は、臍帯血、末梢血、人工多能性幹細胞(iPSC)、造血幹細胞(HSC)、骨髄、またはそれらの混合物に由来する場合がある。NK細胞は、例えば、細胞株に由来する場合があり、例えば、限定されないが、NK-92細胞などに由来する場合がある。NK細胞は、臍帯血単核細胞、例えば、CD56+NK細胞などである場合がある。
【0114】
本発明の実施例は、臍帯血バンクに貯蔵される臍帯血に由来するナチュラルキラー(NK)細胞からの、CRISPR/Cas9を使用するTDAG8遺伝子のノックアウト(KO)の成功を示す。TDAG8 KO NK細胞は、酸性条件において、または酸性であることが文献で示されたインビボ様条件において、TDAG8 WT NK細胞と比べて高まった抗腫瘍活性を有する。この高まった抗腫瘍活性は、活発な解糖および顕著な酸性腫瘍微小環境を有することが知られている固形腫瘍細胞株に対して示された。
【0115】
いくつかの場合において、TDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害を有する免疫エフェクター細胞は、どのような比率であれ好適な比率であることを含めて、効果的な量のユニバーサル抗原提示細胞(UAPC)の存在下で拡大されている。細胞は、例えば、1:2の比率を含めて、10:1~1:10、9:1~1:9、8:1~1:8、7:1~1:7、6:1~1:6、5:1~1:5、4:1~1:4、3:1~1:3、2:1~1:2、または1:1の比率でUAPCと培養される場合がある。いくつかの場合において、NK細胞はIL-2の存在下、例えば、10~500U/mL、10~400U/mL、10~300U/mL、10~200U/mL、10~100U/mL、10~50U/mL、100~500U/mL、100~400U/mL、100~300U/mL、100~200U/mL、200~500U/mL、200~400U/mL、200~300U/mL、300~500U/mL、300~400U/mL、または400~500U/mLの濃度で拡大された。
【0116】
どのようなベクターであれベクター(1つまたは複数)による遺伝子改変の後、TDAG8の部分的な発現低下または完全な発現低下を有する免疫エフェクター細胞は個体に直ちに送達される場合があり、または貯蔵される場合がある(あるいは細胞の一部が個体に送達され、残りの細胞が貯蔵される)。ある特定の局面において、遺伝子改変の後、細胞は、細胞内への遺伝子移入の後で約1日、2日、3日、4日、5日またはそれ以上のうちにバルク集団としてエクスビボで数日間、数週間または数ヶ月間にわたって増やされる場合がある。さらなる局面において、トランスフェクタントがクローン化され、ただ1つの組み込まれた、またはエピソームで維持された発現カセットまたはプラスミドの存在を明らかに示すクローンが、エクスビボで拡大される。拡大のために選択されるクローンは、TDAG8の発現が低下していること、またはTDAG8の発現がないことを明らかにする。組換え免疫細胞が、IL-2、または共通のガンマ鎖と結合する他のサイトカイン(例えば、IL-7、IL-12、IL-15およびIL-21など)による刺激によって拡大される場合がある。組換え免疫細胞が、人工抗原提示細胞による刺激によって拡大される場合がある。さらなる局面において、遺伝子改変細胞が凍結保存される場合がある。
【0117】
本開示の実施形態は、TDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害と、1つまたは複数の抗原受容体を含めて1つまたは複数の操作された受容体とを有する免疫エフェクター細胞を包含する。1つまたは複数の操作された抗原受容体は、例えば、組換え技術を使用して、人の手によって作製され、免疫エフェクター細胞にとって天然ではない。操作された受容体(1つまたは複数)はどのような種類のものであってもよいが、具体的な実施形態において、受容体は、キメラ抗原受容体、T細胞受容体、ホーミング受容体、CRISPR/Cas9媒介遺伝子変異、デコイ受容体、サイトカイン受容体、およびキメラなサイトカイン受容体などである。
【0118】
本開示の実施形態は、TDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害と、1つまたは複数の自殺遺伝子とを有する細胞を包含する。免疫エフェクター細胞は、TDAG8の完全な発現阻害または部分的な発現阻害を有する場合があり、また、どのような種類の自殺遺伝子であれ自殺遺伝子をコードする組換え核酸を含む場合がある。自殺遺伝子の例には、操作された非分泌型(膜結合型を含む)腫瘍壊死因子(TNF)-アルファ変異ポリペプチド(PCT/US2019/062009を参照のこと、これはその全体が参照によって本明細書中に組み込まれる)が含まれ、この変異ポリペプチドは、TNF-アルファ変異体と結合する抗体の送達によって影響を受ける場合がある。使用され得る自殺遺伝子/プロドラッグの組み合わせの例には、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HSV-tk)およびガンシクロビル、アシクロビルまたはFIAU;オキシドレダクターゼおよびシクロヘキシミド;シトシンデアミナーゼおよび5-フルオロシトシン;チミジンキナーゼチミジル酸キナーゼ(Tdk::Tmk)およびAZT;ならびにデオキシシチジンキナーゼおよびシトシンアラビノシドがある。大腸菌のプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(プロドラッグの6-メチルプリンデオキシリボシドを毒性プリンの6-メチルプリンに変換するいわゆる自殺遺伝子)が利用される場合がある。他の自殺遺伝子には、例としてであるが、CD20、CD52、誘導性カスパーゼ9、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)、シトクロームp450酵素(CYP)、カルボキシペプチダーゼ(CP)、カルボキシルエステラーゼ(CE)、ニトロレダクターゼ(NTR)、グアニンリボシルトランスフェラーゼ(XGRTP)、グリコシダーゼ酵素、メチオニン-α,γ-リアーゼ(MET)、およびチミジンホスホリラーゼ(TP)が含まれる。
【0119】
細胞は個体から直に得られる場合があり、あるいは保管施設または他の貯蔵施設から得られる場合がある。治療としての細胞は、細胞が治療として与えられる個体に関して自家または同種である場合がある。
【0120】
細胞は、医学的状態のための治療を必要としている個体からのものである場合があり、また、TDAG8の低下した発現または阻害された発現、随意的な自殺遺伝子、随意的なサイトカイン(1つまたは複数)、および随意的な受容体(1つまたは複数)を有するために(例えば、養子細胞療法のための形質導入および拡大のための標準的な技術を使用して)操作された後で、元々の供給源であった個体に戻される場合がある。いくつかの場合において、細胞は、当該個体または別の個体のためのその後の使用のために貯蔵される。
【0121】
免疫細胞は細胞集団に含まれる場合があり、その集団は、TDAG8の低下した発現または阻害された発現、ならびに/あるいは1つまたは複数の自殺遺伝子、ならびに/あるいは1つまたは複数のサイトカインを有する大多数を有する場合がある。細胞集団は、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%が、TDAG8の低下した発現または阻害された発現、ならびに/あるいは1つまたは複数の自殺遺伝子、ならびに/あるいは1つまたは複数のサイトカイン、ならびに/あるいは1つまたは複数の操作された受容体を有する免疫細胞から構成される場合があり、これらの遺伝子産物のそれぞれが別個のポリペプチドとして産生されてもよく、または産生されなくてもよい。
【0122】
免疫細胞は、具体的な目的に関してモジュール型であるという意図のために、TDAG8の低下した発現または阻害された発現、ならびに/あるいは1つまたは複数の自殺遺伝子、ならびに/あるいは1つまたは複数のサイトカインを有するように産生される場合がある。例えば、TDAG8の低下した発現または阻害された発現、ならびに/あるいは1つまたは複数の自殺遺伝子、ならびに/あるいは1つまたは複数のサイトカインを有する細胞が、商用配布のためであることを含めて作製される場合があり(あるいはその後の形質導入のための自殺遺伝子をコードする核酸とともに配布される場合があり)、また、使用者が、この細胞を、その意図された目的(1つまたは複数)に依存する目的とする1つまたは複数の他の遺伝子(治療用遺伝子を含む)を発現するように改変する場合がある。例えば、がん細胞を処置することに関心のある個体が自殺遺伝子発現細胞(または異種サイトカイン発現細胞)を得て、または作製して、TDAG8の低下した発現または阻害された発現を有するように当該細胞を改変する場合があり、あるいはその逆である場合がある。
【0123】
特定の実施形態において、NK細胞が利用され、TDAG8の低下した発現または阻害された発現、ならびに/あるいは1つまたは複数の自殺遺伝子、ならびに/あるいは1つまたは複数のサイトカインを有するNK細胞のゲノムが改変される場合がある。ゲノムは、どのような様式であれ改変される場合があり、しかし、具体的な実施形態において、ゲノムは、例えば、CRISPR遺伝子編集によって改変される。細胞のゲノムが、どのような目的のためであれ細胞の有効性を高めるために改変される場合がある。
IV.処置方法
【0124】
本開示の実施形態には、がん免疫療法または抗病原体免疫療法に関連づけられる処置方法であって、例えば、がん免疫療法または抗病原体免疫療法が、TDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有する免疫エフェクター細胞を含む組成物を少なくとも含む、処置方法が含まれる。本方法は、ガンおよび/または病原体を有する個体に、TDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有する免疫エフェクター細胞の効果的な量を与えることを含む。
【0125】
特定の場合において、TDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有する細胞の効果的な量が個体に与えられる。具体的な場合において、CRISPR/Cas9を使用するTDAG8ノックアウトが、様々な細胞療法において使用される免疫細胞を遺伝子操作して、固形腫瘍に対するそれらの有効性を増大させるために利用され、これらの細胞療法が個体に提供される。
【0126】
一例として、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞、例えば、白血病およびリンパ腫の処置のためにFDA承認されるCAR-T細胞などが、固形腫瘍の酸性TMEにおけるそれらの有効性を増大させるという目的で、TDAG8遺伝子を欠失するように遺伝子操作され、これより、特定の実施形態において、固形腫瘍へのこの治療法の拡張がもたらされる。そのうえ、この遺伝子操作戦略は、様々な他の形態の細胞療法において、例えば、CAR-NK細胞、操作されたTCR-T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)などにおいて、これらの細胞療法を様々な種類の固形腫瘍に対して強化するために使用される。
【0127】
ある特定の実施形態において、本開示の細胞は、医学的状態、例えば、がん(どのような種類のがんであれ)および/または病原体感染(どのような種類の病原体感染であれ)などを改善するという目的のために個体に与えられる。本明細書中で意図される細胞の使用は、当該細胞を含む医薬組成物を含めて、がん性疾患(例えば、腫瘍性疾患など)または病原体感染の防止、処置または改善のために使用される。特定の実施形態において、本開示の医薬組成物は、例えば、固形腫瘍であってもよい、または固形腫瘍でなくてもよいがんを含めて、がんを防止すること、改善すること、および/または処置することにおいて特に有用である場合がある。
【0128】
特定の実施形態において、本開示は部分的には、単独で、あるいはどのような組み合わせであれ1つまたは複数の他の治療法との組み合わせでのどちらであっても、そして少なくともいくつかの局面では医薬的に許容され得るキャリアまたは賦形剤と一緒に投与することができる本明細書中に包含される細胞の使用を意図する。ある特定の実施形態において、核酸分子またはベクターはどのようなものであれ、細胞が対象に送達される前に細胞のゲノムに安定的に組み込まれる場合がある。
【0129】
さらに、本開示は、腫瘍性疾患の防止、処置または改善のための方法であって、その必要性のある対象に、本明細書中で意図されるような、TDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有するどのような細胞であれその効果的な量を投与する工程を含む方法に関する。
【0130】
1つの実施形態において、どのような方法であれ好適な方法によって、または細胞株から得られ、本明細書中に包含されるように操作される単離された細胞が医薬品として使用される場合がある。医薬品は、それを必要としている個体においてがんまたは感染症を処置するために使用することができる。1つの実施形態において、本開示による単離された細胞は、それを必要としている個体におけるがんまたは感染症の処置のための医薬品の製造において使用することができる。
【0131】
いくつかの実施形態において、本開示は、処置をその必要性のある個体において行うための方法であって、下記工程の少なくとも1つを含む方法を提供する:
(a)免疫エフェクター細胞を提供する工程;
(b)免疫エフェクター細胞を、少なくともTDAG8の低下した発現または阻害された発現を有するように操作する工程;
(c)免疫エフェクター細胞を、1つまたは複数の操作された受容体を発現するように操作する工程(工程(c)は工程(b)と同時に、または工程(b)の前に行われる場合がある);
(d)免疫エフェクター細胞を、1つまたは複数のサイトカインを発現するように操作する工程(工程(d)は工程(b)または工程(c)と同時に、あるいは工程(b)または工程(c)の前に行われる場合がある;
(e)操作された細胞を、がんを有すると判定されている個体、またはがんを有する危険性がある個体(例えば、所与集団の平均的な人よりも大きい危険性を有する個体など)を含めて、それを必要としている個体に投与する工程。具体的な実施形態において、操作された細胞は、どのような種類の非操作細胞であれ非操作細胞と比較して、高まった拡大、持続性および/または細胞傷害性をもたらすという目的のために特に操作された。
【0132】
本開示の処置方法はどれも、個体のために改善的、治癒的、または予防的であることが可能である。処置方法は自己免疫療法の一部または同種免疫療法処置の一部のどちらであってもよい。具体的な場合において、本方法は、NK細胞(典型的にはドナーから得られるNK細胞)の同種非反応性細胞への形質転換を可能にする限り、同種免疫療法のために利用される。これは標準的プロトコルのもとで行われ、必要に応じて何度でも再現される場合がある。生じる操作された免疫細胞はプールされ、1名または数名の患者に投与される場合があり、これにより、「既製の」治療用製造物として利用可能になる。細胞は、凍結保存など、貯蔵される場合がある。
【0133】
いくつかの実施形態において、細胞の組成物(1つまたは複数)を投与することは、例えば、B細胞悪性腫瘍、多発性骨髄腫、肺、脳、乳房、血液、皮膚、膵臓、肝臓、結腸、頭頸部、腎臓、甲状腺、胃、脾臓、胆嚢、骨、卵巣、精巣、子宮内膜、前立腺、直腸、肛門または子宮頸部を含めて腫瘍性疾患を含めたどのような種類のがん性疾患であれがん性疾患のためにである。細胞の組成物(1つまたは複数)を投与するための例示的な適応症が、個体のがんに伴うある特定の抗原の1つまたは複数を発現する悪性腫瘍をどのようなものであれ含めたがん性疾患である。本開示の組成物(1つまたは複数)の投与は、例えば、微小残存病変、早期がん、進行がん、ならびに/あるいは転移性がんおよび/または難治性がんについてであることを含めて、すべてのステージ(I、II、IIIおよびIV)およびタイプのがんについて有用である。
【0134】
本開示はさらに、免疫細胞を介して作用する他の化合物(例えば、二重特異性抗体構築物、標的化された毒素、または他の化合物)との同時投与プロトコルを包含する。本発明の化合物(1つまたは複数)の同時投与のための臨床治療計画は、同時での同時投与、他成分を投与する前または投与した後での同時投与を包含する場合がある。特定の併用療法には、化学療法、放射線、手術、ホルモン療法、または他のタイプの免疫療法が含まれる。
【0135】
様々な実施形態が、細胞を産生させるための構築物、本明細書中で定義されるような核酸配列、本明細書中で定義されるようなベクター、および/または本明細書中で定義されるような宿主細胞(例えば、免疫エフェクター細胞など)を含むキットに関する。本開示のキットは、本明細書中上記で記載されるような医薬組成物を単独であっても、あるいは医学的な処置または介入を必要としている個体に投与されるためのさらなる医薬品との組み合わせであってもそのどちらであれ含むこともまた意図される。
V.遺伝子操作された受容体
【0136】
TDAG8の低下した発現または阻害された発現を有する本開示の免疫細胞は、1つまたは複数の非内因性遺伝子産物を発現するようにさらに改変される場合がある。遺伝子産物は、遺伝子操作された受容体である場合があり、または遺伝子操作された受容体でない場合がある。受容体は、例えば、抗原、ケモカインまたはサイトカインについての受容体を含めてどのような種類の受容体であってもよい。受容体が抗原についてのものである場合、抗原は、固形腫瘍抗原を含めてがん抗原である場合がある。
【0137】
TDAG8の低下した発現または阻害された発現を有する免疫エフェクター細胞は、特異的抗原を標的とする抗原受容体を発現するように遺伝子操作される場合があり、そのような細胞は、個体のがん細胞表面に存在する1つまたは複数の抗原を標的とするように特に設計される場合がある。
【0138】
具体的な実施形態において、TDAG8の低下した発現または阻害された発現を含む免疫エフェクター細胞は、操作された抗原受容体、例えば、操作されたTCRまたはCARなどを含む場合がある。例えば、免疫細胞は、1つまたは複数の特異的抗原について抗原特異性を有する1つまたは複数のCARおよび/またはTCRを発現するように改変されるNK細胞である場合がある。いくつかの局面において、免疫細胞は、例えば、CRISPRを使用するCARまたはTCRのノックインによって、抗原特異的CARまたは抗原特異的TCRを発現するように操作される。
【0139】
様々な好適な改変方法がこの技術分野では知られている。例えば、SambrookおよびAusubel(上掲)を参照のこと。例えば、細胞は、Heemskerk他(2008)およびJohnson他(2009)において記載される形質導入技術を使用して、がん抗原について抗原特異性を有するTCRを発現するように形質導入される場合がある。
【0140】
いくつかの実施形態において、細胞は、1つまたは複数の抗原受容体をコードする、遺伝子操作により導入される1つまたは複数の核酸、およびそのような核酸の遺伝子操作された産物を含む。いくつかの実施形態において、核酸は異種であり、すなわち、通常の場合、細胞または細胞から得られるサンプルには存在しておらず、例えば、別の生物または細胞から得られるもので、例えば、操作中の細胞、および/またはそのような細胞が由来する生物において通常見出されないものなどである。いくつかの実施形態において、核酸は天然に存在しておらず、例えば、自然界において見出されない核酸(例えば、キメラ)などである。
【0141】
CARおよび組換えTCRを含めて様々な例示的な抗原受容体、同様にまた、受容体を操作し、細胞に導入するための様々な方法には、例えば、国際特許出願公開番号WO200014257、同WO2013126726、同WO2012/129514、WO2014031687、同WO2013/166321、同WO2013/071154、同WO2013/123061、米国特許出願公開第2002131960号、同第2013287748号、同第20130149337号、米国特許第6,451,995号、同第7,446,190号、同第8,252,592号、同第8,339,645号、同第8,398,282号、同第7,446,179号、同第6,410,319号、同第7,070,995号、同第7,265,209号、同第7,354,762号、同第7,446,191号、同第8,324,353号および同第8,479,118号、ならびに欧州特許出願番号EP2537416に記載される抗原受容体および方法、ならびに/あるいはSadelain他(2013)、Davila他(2013)、Turtle他(2012)、Wu他(2012)によって記載される抗原受容体および方法が含まれる。いくつかの局面において、遺伝子操作された抗原受容体には、米国特許第7,446,190号に記載されるようなCAR、および国際特許出願公開番号WO/2014055668(A1)に記載されるものが含まれる。
【0142】
A.キメラ抗原受容体
一部の実施形態では、CARは、a)1又はそれ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン、b)膜貫通ドメイン、およびc)所望の抗原に特異的に結合する場合を含むターゲットに結合する抗原結合領域を含む細胞外ドメインを含む。
【0143】
一部の実施形態では、操作された抗原受容体には、活性化または刺激性CAR、共刺激性CAR(国際公開第2014/055668号を参照)、および/または抑制性CAR(iCAR、Fedorovら、2013を参照)を含むCARが挙げられる。CARは、一般に、一部の態様ではリンカーおよび/または1つまたは複数の膜貫通ドメインを介して、1つまたは複数の細胞内シグナル伝達成分に連結された細胞外抗原(またはリガンド)結合ドメインを含む。そのような分子は、一般に、天然の抗原受容体を介したシグナル、共刺激受容体と組み合わせたそのような受容体を介したシグナル、および/または共刺激受容体のみを介したシグナルを模倣するかまたは近づく。
【0144】
本開示の特定の実施形態は、細胞内シグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン、および1つまたは複数のシグナル伝達モチーフを含む細胞外ドメインを含む、免疫原性を低減するためにヒト化されたCAR(hCAR)を含む、抗原特異的CARポリペプチドをコードする核酸をはじめとする、核酸の使用に関する。特定の実施形態では、CARは、1つまたは複数の抗原間で共有された空間を含むエピトープを認識し得る。特定の実施形態では、結合領域は、モノクローナル抗体の相補決定領域、モノクローナル抗体の可変領域、および/またはそれらの抗原結合フラグメントを含み得る。もう一つの実施形態では、その特異性は、受容体に結合するペプチド(例えば、サイトカイン)に由来する。
【0145】
ヒトCAR核酸は、ヒト患者の細胞免疫療法を増強するために使用されるヒト遺伝子であり得ると想定される。具体的な実施形態では、本発明は、全長CARのcDNAまたはコード領域を含む。抗原結合領域またはドメインは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,190,304号に記載されているものなどの特定のヒトモノクローナル抗体に由来する単鎖可変フラグメント(scFv)のVH鎖およびVL鎖のフラグメントを含み得る。フラグメントは、ヒト抗原特異的抗体の任意の数の異なる抗原結合ドメインでもあり得る。より具体的な実施形態では、フラグメントは、ヒト細胞での発現のためのヒトコドン使用のために最適化された配列にコードされる抗原特異的scFvである。
【0146】
配置は、二重特異性抗体または多量体などの多量体であり得る。多量体は、軽鎖と重鎖の可変部分の交差対合によってジアボディを形成している可能性が最も高い。構造体のヒンジ部分は、完全に削除されているものから、第一システインが維持されているもの、セリンではなくプロリンで置換されているもの、第一システインまで切断されているものなど、複数の選択肢を有し得る。Fc部分は削除することができる。安定している、および/または二量体化するタンパク質は、この目的を果たすことができる。Fcドメインの1つだけ、例えば、ヒト免疫グロブリンのCH2またはCH3ドメインのいずれかだけを使用することができる。二量体化を改善するために修飾されたヒト免疫グロブリンのヒンジ、CH2およびCH3領域を使用することもできる。免疫グロブリンのヒンジ部分だけを使用することもできる。CD8αの部分を使用することもできる。
【0147】
一部の実施形態では、CAR核酸は、膜貫通ドメインおよび修飾されたCD28細胞内シグナル伝達ドメインなどの他の共刺激受容体をコードする配列を含む。他の共刺激受容体には、限定されるものではないが、CD28、CD27、OX-40(CD134)、DAP10、DAP12、および4-1BB(CD137)の1つまたは複数が含まれる。CD3ζによって開始される一次シグナルに加えて、ヒトCARに挿入されたヒト共刺激受容体によって提供される追加のシグナルは、NK細胞の完全な活性化に重要であり、インビボ持続性および養子免疫療法の治療的成功を改善するのに役立ち得る。
【0148】
一部の実施形態では、CARは、特定の抗原(またはマーカーまたはリガンド)、例えば、養子療法によって標的化される特定の細胞型に発現する抗原、例えば癌マーカーなど、および/または正常または非疾患細胞型で発現する抗原などの減衰応答を誘導することを意図する抗原などに対する特異性を持って構築される。したがって、CARは、一般に、その細胞外部分に1つまたは複数の抗原結合分子、例えば、1つまたは複数の抗原結合フラグメント、ドメイン、または部分、あるいは1つまたは複数の抗体可変ドメイン、および/または抗体分子を含む。一部の実施形態では、CARには、抗体分子の1または複数の抗原結合部分、例えば、モノクローナル抗体(mAb)の重鎖可変(VH)および軽鎖可変(VL)鎖に由来する単鎖抗体フラグメント(scFv)が含まれる。
【0149】
特定の実施形態では、腫瘍関連抗原の量が少ない場合に、CARをサイトカインと共発現させて持続性を改善することができる。例えば、CARは、IL-7、IL-2、IL-15、IL-12、IL-18、IL-21と共発現させてよい。
【0150】
キメラ受容体をコードするオープンリーディングフレームの配列は、ゲノムDNA源、cDNA源から得ることができるか、または(例えば、PCRを介して)合成することができるか、またはそれらの組み合わせであり得る。ゲノムDNAのサイズとイントロンの数によっては、イントロンがmRNAを安定化させることがわかっているため、cDNAまたはその組合せを使用することが望ましい場合がある。また、内因性または外因性の非コード領域を使用してmRNAを安定化することがさらに有利であり得る。
【0151】
キメラ構築物は、裸のDNAとして、または適切なベクターで免疫細胞に導入することができると想定される。裸のDNAを使用してエレクトロポレーションによって細胞を安定的にトランスフェクトする方法は、当技術分野で公知である。例えば、米国特許第6,410,319号を参照されたい。裸のDNAは、一般に、プラスミド発現ベクターに発現に適切な方向で含まれるキメラ受容体をコードするDNAを指す。
【0152】
あるいは、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、またはレンチウイルスベクター)を使用して、キメラ構築物を免疫細胞に導入することができる。本開示の方法に従って用いるのに適したベクターは、免疫細胞で非複製性の適したベクターである。細胞内に維持されるウイルスのコピー数が、細胞の生存能力を維持ほど十分に低い、ウイルスに基づく多数のベクターが公知であり、例えば、HIV、SV40、EBV、HSV、またはBPVに基づくベクターなどがある。
【0153】
一部の態様では、抗原特異的結合、または認識成分は、1つまたは複数の膜貫通型および細胞内シグナル伝達ドメインに連結されている。一部の実施形態では、CARには、CARの細胞外ドメインと融合した膜貫通ドメインが含まれる。一実施形態では、CAR内のドメインの1つに自然に関連付けられている膜貫通ドメインが使用される。一部の例では、膜貫通ドメインは、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小化するために、同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインとそのようなドメインとの結合を回避するアミノ酸置換によって選択または修飾される。
【0154】
一部の実施形態の膜貫通ドメインは、天然源または合成源のいずれかに由来する。供給源が天然である場合、一部の態様のドメインは、膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来する。膜貫通領域には、T細胞受容体のアルファ、ベータ、またはゼータ鎖、CD28、CD3ゼータ、CD3イプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、ICOS/CD278、GITR/CD357、NKG2D、およびDAP分子に由来する(すなわち、少なくともそれらの1つまたは複数の膜貫通領域を含む)ものが含まれる。あるいは、一部の実施形態での膜貫通ドメインは合成である。一部の態様では、合成膜貫通ドメインは、主に疎水性の残基、例えば、ロイシンおよびバリンなどを含む。一部の態様では、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが合成膜貫通ドメインの各末端に見出される。
【0155】
特定の実施形態では、NK細胞などの免疫細胞を遺伝子改変するために本明細書に開示されるプラットフォーム技術は、(i)エレクトロポレーションデバイス(例えば、ヌクレオフェクター)を使用する非ウイルス遺伝子移入、(ii)エンドドメイン(例えば、CD28/CD3-ζ、CD137/CD3-ζ、または他の組合せ)を介してシグナルを送るCAR、(iii)抗原認識ドメインと細胞表面を接続する可変長の細胞外ドメインを有するCAR、および、一部の例では、(iv)CAR+免疫細胞を強固にかつ数値的に拡大できるK562由来の人工抗原提示細胞(aAPC)(Singhら、2008;Singhら、2011)を含む。
【0156】
B.T細胞受容体(TCR)
一部の実施形態では、遺伝子操作された抗原受容体には、組換えTCRおよび/または天然に存在するT細胞からクローン化されたTCRが含まれる。「T細胞受容体」または「TCR」とは、可変aおよびβ鎖(それぞれTCRαおよびTCRβとして公知)または可変γおよびδ鎖(それぞれTCRγおよびTCRδとしても公知)を含み、MHC受容体に結合した抗原ペプチドに特異的に結合できる分子を指す。一部の実施形態では、TCRは、αβ型である。
【0157】
一般に、αβ型およびγδ型で存在するTCRは一般に構造的に類似しているが、それらを発現するT細胞は異なる解剖学的位置または機能を持っている場合がある。TCRは、細胞の表面に、または可溶性の形で見出すことができる。一般に、TCRは、T細胞(またはTリンパ球)の表面に見出され、そこでは一般に主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識を担っている。一部の実施形態では、TCRは、定常ドメイン、膜貫通ドメインおよび/または短い細胞質側末端も含み得る(例えば、Janewayら、1997を参照)。例えば、一部の態様では、TCRの各鎖は、1つのN末端免疫グロブリン可変ドメイン、1つの免疫グロブリン定常ドメイン、膜貫通領域、およびC末端に短い細胞質側末端を有することができる。一部の実施形態では、TCRは、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体の不変タンパク質に関連している。特に明記しない限り、「TCR」という用語は、その機能的なTCRフラグメントを包含すると理解されるべきである。この用語は、αβ型またはγδ型のTCRを含む無傷または全長TCRも包含する。
【0158】
したがって、本明細書において、TCRへの言及は、任意のTCRまたは機能的フラグメント、例えば、MHC分子に結合した特定の抗原ペプチド、すなわちMHC-ペプチド複合体に結合するTCRの抗原結合部分などを含む。同義的に使用することができる、TCRの「抗原結合部分」または「抗原結合フラグメント」とは、TCRの構造ドメインの一部を含むが、完全なTCRが結合する抗原に結合する分子(例えば、MHC-ペプチド複合体)を指す。場合によっては、抗原結合部は、一般に各鎖が3つの相補性決定領域を含むなどの、特定のMHC-ペプチド複合体に結合するための結合部位を形成するのに十分なTCRの可変a鎖および可変β鎖などのTCRの可変ドメインを含む。
【0159】
一部の実施形態では、TCR鎖の可変ドメインは、TCR分子の結合部位を形成し、ペプチド特異性を決定することにより、抗原認識を付与し、ペプチド特異性を決定する、免疫グロブリンに類似したループまたは相補性決定領域(CDR)を形成するために結合する。一般に、免疫グロブリンのように、CDRはフレームワーク領域(FR)によって分離される(例えば、Joresら、1990;Chothiaら、1988;Lefrancら、2003を参照)。一部の実施形態では、CDR3は処理された抗原の認識を担う主なCDRであるが、アルファ鎖のCDR1は抗原ペプチドのN末端部分と相互作用することも示されており、一方で、ベータ鎖のCDR1はペプチドのC末端部分と相互作用する。CDR2はMHC分子を認識すると考えられている。一部の実施形態では、β鎖の可変領域は、さらなる超可変性(HV4)領域を含むことができる。
【0160】
一部の実施形態では、TCR鎖は定常ドメインを含む。例えば、免疫グロブリンのように、TCR鎖(例えば、a鎖、β鎖)の細胞外部分は、2つの免疫グロブリンドメイン、すなわちN末端の可変ドメイン(例えば、VaまたはVp;一般に、Kabat番号付けに基づくアミノ酸1~116である。Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、US Dept.Health and Human Services、Public Health Service National Institutes of Health、1991、第5版)と、細胞膜に隣接する1つの定常ドメイン(例えば、a鎖定常ドメインまたはCa、一般にKabatに基づくアミノ酸117~259、β鎖定常ドメインまたはCP、一般にKabatに基づくアミノ酸117~295)を含み得る。例えば、一部の例では、2つの鎖によって形成されるTCRの細胞外部分は、2つの膜近位定常ドメインと、CDRを含む2つの膜遠位可変ドメインを含む。TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成し、2つの鎖間を連結する短い接続配列が含まれている。一部の実施形態では、TCRは、TCRが定常ドメインに2つのジスルフィド結合を含むように、α鎖およびβ鎖のそれぞれに追加のシステイン残基を有していてもよい。
【0161】
一部の実施形態では、TCR鎖は、膜貫通ドメインを含むことができる。一部の実施形態では、膜貫通ドメインは正に帯電している。一部の例では、TCR鎖は細胞質側末端を含む。一部の例では、この構造により、TCRはCD3のような他の分子と会合することが可能になる。例えば、膜貫通領域をもつ定常ドメインを含むTCRは、タンパク質を細胞膜に固定し、CD3シグナル伝達装置または複合体の不変サブユニットと会合することができる。
【0162】
一般に、CD3は、哺乳類で3つの異なる鎖(γ、δ、およびε)と、ζ鎖を持つことができる多タンパク質複合体である。例えば、哺乳類では、この複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖と、CD3ζ鎖のホモ二量体を含むことができる。CD3γ、CD3δ、およびCD3ε鎖は、単一の免疫グロブリンドメインを含む免疫グロブリンスーパーファミリーの高度に関連した細胞表面タンパク質である。CD3γ、CD3δ、およびCD3ε鎖の膜貫通領域は負に帯電している。これは、これらの鎖が正に帯電したT細胞受容体鎖と会合することを可能にする特性である。CD3γ、CD3δ、およびCD3ε鎖の細胞内テールは、それぞれ、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフすなわちITAMとして公知の保存されたモチーフを1つ含むが、各CD3ζ鎖は3つ有する。一般に、ITAMは、TCR複合体のシグナル伝達能力に関与している。これらのアクセサリー分子は負に帯電した膜貫通領域を有し、TCRから細胞にシグナルを伝播する役割を果たす。CD3鎖およびζ鎖は、TCRとともに、T細胞受容体複合体として公知の形態を形成する。
【0163】
一部の実施形態では、TCRは、2つの鎖αおよびβ(または任意選択でγおよびδ)のヘテロ二量体であってもよく、またはそれは単鎖TCR構築物であってもよい。一部の実施形態では、TCRは、例えば、1つまたは複数のジスルフィド結合によって連結された2つの別個の鎖(αおよびβ鎖またはγおよびδ鎖)を含むヘテロ二量体である。一部の実施形態では、標的抗原(例えば、癌抗原)のTCRが特定され、細胞に導入される。一部の実施形態では、TCRをコードする核酸は、公開されているTCRのDNA配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅などにより、多様な供給源から得ることができる。一部の実施形態では、TCRは、T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、T細胞ハイブリドーマ、または他の公開されている供給源などの細胞などの生物学的供給源から得られる。一部の実施形態では、T細胞は、インビボで分離された細胞から得ることができる。一部の実施形態では、高親和性T細胞クローンを患者から分離し、TCRを分離することができる。一部の実施形態では、T細胞は、培養されたT細胞ハイブリドーマまたはクローンであってよい。一部の実施形態では、標的抗原のTCRクローンは、ヒト免疫系遺伝子(例えば、ヒト白血球抗原系、すなわちHLA)で操作されたトランスジェニックマウスで生成されたものである。例えば、腫瘍抗原を参照されたい(例えば、Parkhurstら、2009およびCohenら、2005を参照)。一部の実施形態では、ファージディスプレイを使用して標的抗原に対するTCRを分離する(例えば、Varela-Rohenaら、2008およびLi、2005参照)。一部の実施形態では、TCRまたはその抗原結合部分は、TCRの配列の知識から合成によって生成することができる。
VI.サイトカイン
【0164】
1つまたは複数のサイトカインが、TDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有する免疫エフェクター細胞において利用される場合がある。いくつかの場合において、1つまたは複数のサイトカインが、操作された受容体と同じベクター分子に存在しており、だが、他の場合において、1つまたは複数のサイトカインが別個の分子に存在している。特定の実施形態において、1つまたは複数のサイトカインが、操作された受容体と同じベクターから共発現させられる。1つまたは複数のサイトカインが、抗原特異的受容体とは別個のポリペプチドとして産生させられる場合がある。一例として、インターロイキン-15(IL-15)が利用される。例えば、IL-15は組織限定的であり、病的状態のもとでのみ、どのようなレベルであれ血清中に、または全身的に認められるので、IL-15が用いられる場合がある。IL-15は、養子療法のために望ましい属性をいくつか持っている。IL-15は、ナチュラルキラー細胞の発達および細胞増殖を誘導し、確立された腫瘍の根絶を、腫瘍常在細胞の機能的抑制を緩和することにより促進し、かつ活性化誘導細胞死を阻害する恒常性サイトカインである。IL-15に加えて、他のサイトカインが想定される。これらには、ヒト適用のために使用される細胞の活性化および増殖に寄与するサイトカイン、ケモカインおよび他の分子が含まれるが、これらに限定されない。一例として、サイトカインは、IL-15、IL-12、IL-2、IL-18、IL-21、IL-7またはそれらの組み合わせである。TDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有しており、かつ、1つまたは複数のサイトカインを発現し得る細胞が利用される場合があり、この細胞は、注入後のその生存のために有用である継続した支援するサイトカインシグナル伝達が可能である。
【0165】
具体的な実施形態において、TDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有するNK細胞が、1つまたは複数の外因的に提供されるサイトカインを発現する。サイトカインは、細胞内の発現ベクターから発現されるので、細胞に外因的に提供される場合がある。代替となる場合において、細胞における内因性サイトカインが、内因性サイトカインの発現の調節を操作すると、例えば、サイトカインのプロモーター部位(1つまたは複数)での遺伝子組換えなどを行うとアップレギュレーションされる。サイトカインが発現構築物で細胞に提供される場合、サイトカインは、別の遺伝子産物(例えば、自殺遺伝子など)を発現するベクターと同じベクターからコードされる場合がある。サイトカインは、自殺遺伝子のように別個のポリペプチド分子として、かつ、細胞の操作された受容体とは別個のポリペプチドとして発現させられる場合がある。いくつかの実施形態において、本開示は、CARベクターおよび/またはTCRベクターのIL-15との共利用、特にTDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有するNK細胞における共利用に関する。
VII.自殺遺伝子
【0166】
特定の実施形態において、自殺遺伝子が、脂肪療法の使用を制御し、かつ、細胞療法を所望の状況および/または時点で終了させることに備えるために、どのような種類の細胞療法であれ細胞療法と併せて利用される。自殺遺伝子は、必要なときには形質導入細胞について死を誘発するという目的のために形質導入細胞において用いられる。本開示によって包含されるベクターを収容するために改変されている本開示の免疫エフェクター細胞は1つまたは複数の自殺遺伝子を含む場合がある。いくつかの実施形態において、用語「自殺遺伝子」は、本明細書中で使用される場合、プロドラッグまたは他の薬剤が投与されると、その宿主細胞を殺す化合物への遺伝子産物の移行をもたらす遺伝子として定義される。他の実施形態において、自殺遺伝子により、所望されるときには、自殺遺伝子産物を標的とする薬剤(例えば、抗体など)によって標的化される遺伝子産物がコードされる。
【0167】
使用され得る自殺遺伝子/プロドラッグの組み合わせの例には、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HSV-tk)およびガンシクロビル、アシクロビルまたはFIAU;オキシドレダクターゼおよびシクロヘキシミド;シトシンデアミナーゼおよび5-フルオロシトシン;チミジンキナーゼチミジル酸キナーゼ(Tdk::Tmk)およびAZT;ならびにデオキシシチジンキナーゼおよびシトシンアラビノシドがある。大腸菌のプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(プロドラッグの6-メチルプリンデオキシリボシドを毒性プリンの6-メチルプリンに変換するいわゆる自殺遺伝子)が使用される場合がある。プロドラッグ療法とともに使用される自殺遺伝子の他の例には、大腸菌のシトシンデアミナーゼ遺伝子およびHSVのチミジンキナーゼ遺伝子がある。
【0168】
例示的な自殺遺伝子にはまた、CD20、CD52、EGFRv3、または誘導性カスパーゼ9が含まれる。1つの実施形態において、EGFRバリアントIII(EGFRv3)の短縮型が、セツキシマブによって除去することができる自殺抗原として使用される場合がある。本開示において使用され得るこの技術分野において知られているさらなる自殺遺伝子には、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)、シトクロームp450酵素(CYP)、カルボキシペプチダーゼ(CP)、カルボキシルエステラーゼ(CE)、ニトロレダクターゼ(NTR)、グアニンリボシルトランスフェラーゼ(XGRTP)、グリコシダーゼ酵素、メチオニン-α,γ-リアーゼ(MET)、およびチミジンホスホリラーゼ(TP)が含まれる。
【0169】
特定の実施形態において、抗原標的化CARをコードするベクター、またはどのようなベクターであれ本明細書中に包含されるNK細胞におけるベクターは、1つまたは複数の自殺遺伝子を含む。自殺遺伝子は、抗原標的化CARと同じベクターに存在していてもよく、または存在していなくてもよい。自殺遺伝子が、抗原標的化CARと同じベクターに存在している場合、自殺遺伝子と、CARとは、例えば、配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントまたは2Aエレメントによって隔てられることがある。
【0170】
具体的な実施形態において、自殺遺伝子は、腫瘍壊死因子(TNF)-アルファ変異体で、TNFを自然界で切断する標準的な酵素(例えば、(TACEとも呼ばれる)TNF-アルファ変換酵素など)によって切断不能である変異体である。そのようなものとして、TNF-アルファ変異体は特定の実施形態において膜結合しており、非分泌型である。本開示において使用されるTNF-アルファ変異体は、この変異体と結合する1つまたは複数の薬剤(これには、少なくとも抗体が含まれる)によって標的化可能であり、その結果、薬剤(1つまたは複数)が細胞の表面のTNF-アルファ変異体に結合した後で、細胞が死滅するようになる。本開示の実施形態では、TNF-アルファ変異体が、これを発現する細胞のためのマーカーとして利用されることが可能である。
【0171】
切断不能型TNF-アルファ変異体を発現する細胞が、例えば、現在は診療所でのFDA承認TNF-α抗体(例えば、エタネルセプト、インフリキシマブまたはアダリルマブ(adalilumab)など)を使用することを含む選択的欠失のために標的化されることが可能である。変異型TNF-アルファポリペプチドが、細胞において、1つまたは複数の治療用導入遺伝子(例えば、CD70を標的とするTCRおよび/またはCARを含めて、TCRまたはCARをコードする遺伝子など)と共発現させられる場合がある。加えて、TNF-アルファ変異体発現細胞は、膜結合型TNF-アルファタンパク質の生物学的活性によって媒介される腫瘍標的に対する優れた活性を有する。
【0172】
野生型に関して、TNF-アルファは、26kDの膜貫通形態と、17kDの分泌成分とを有する。Perez他(1990)に記載されるいくつかの変異体が本開示において利用される場合がある。具体的な実施形態において、本開示のTNF-アルファ変異体の例には、17kDのTNFに関して少なくとも下記の欠失が含まれる:(1)Val1の欠失およびProl12の欠失;(2)Val13の欠失;(3)Val1の欠失およびVal13の欠失;(4)Val1からProl12までの欠失およびVal13の欠失(13aaが欠失する);(5)Ala-3からVal13までの欠失(14aaが欠失する)。具体的な実施形態において、TNF-アルファ変異体は、-3位、-2位、-1位、1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、9位、10位、11位、12位、13位におけるそれぞれのアミノ酸の欠失、またはそれらの組み合わせを含む。具体的な組み合わせには、-3位から13位までの位置、-3位から12位までの位置、-3位から11位までの位置、-3位から10位までの位置、-3位から9位までの位置、-3位から8位までの位置、-3位から7位までの位置、-3位から6位までの位置、-3位から5位までの位置、-3位から4位までの位置、-3位から3位までの位置、-3位から2位までの位置、-3位から1位までの位置、-3位から-1位までの位置、-3位から-2位までの位置、-2位から13位までの位置、-2位から12位までの位置、-2位から11位までの位置、-2位から10位までの位置、-2位から9位までの位置、-2位から8位までの位置、-2位から7位までの位置、-2位から6位までの位置、-2位から5位までの位置、-2位から4位までの位置、-2位から3位までの位置、-2位から2位までの位置、-2位から1位までの位置、-2位から-1位までの位置、-1位から13位までの位置、-1位から12位までの位置、-1位から11位までの位置、-1位から10位までの位置、-1位から9位までの位置、-1位から8位までの位置、-1位から7位までの位置、-1位から6位までの位置、-1位から5位までの位置、-1位から4位までの位置、-1位から3位までの位置、-1位から2位までの位置、-1位から1位までの位置、1位から13位までの位置、1位から12位までの位置、1位から11位までの位置、1位から10位までの位置、1位から9位までの位置、1位から8位までの位置、1位から7位までの位置、1位から6位までの位置、1位から5位までの位置、1位から4位までの位置、1位から3位までの位置、および1位から2位までの位置などにおける欠失が含まれる。
【0173】
TNF-アルファ変異体は、どのような方法であれ好適な方法によって生じ得るが、具体的な実施形態において、TNF-アルファ変異体は部位特異的変異誘発によって生じる。いくつかの場合において、TNF-アルファ変異体は、当該タンパク質を切断不能にする変異とは別の変異を有する場合がある。具体的な場合において、TNF-アルファ変異体は、Val1、Pro12および/またはVal13あるいはそれらの間の領域における欠失とは別の1つ、2つ、3つまたはそれ以上の変異を有する場合がある。変異体を非分泌型にする変異とは別の変異は、アミノ酸の置換、欠失、付加および反転などの1つまたは複数である場合がある。さらなる変異がアミノ酸置換である場合、置換は、例えば、保存的アミノ酸への置換である場合があり、またはそうでない場合がある。いくつかの場合において、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のさらなるアミノ酸が、タンパク質のN末端および/またはC末端に存在する場合がある。いくつかの場合において、TNF-アルファ変異体は、(1)変異体を非分泌型にする1つまたは複数の変異;(2)変異体についてのアウトサイド-イン(outside-in)シグナル伝達を防止する1つまたは複数の変異;ならびに/あるいは(3)変異体がTNF受容体1および/またはTNF受容体2に結合することを妨げる1つまたは複数の変異を有する。
【0174】
特定の実施形態において、TNF-アルファ変異体を発現する抗原CAR標的化細胞に結合させるために効果的な量の1つまたは複数の薬剤を送達すると、TNF-アルファ変異体発現細胞の大部分が排除される。具体的な実施形態において、TNF-アルファ変異体を発現する細胞の50%超、55%超、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、96%超、97%超、98%超または99%超が個体において排除される。細胞を排除する必要性が認識された後で、前記薬剤(1つまたは複数)の個体への送達が、1つまたは複数の症状がもはや存在しなくなるまで、あるいは十分な数の細胞が排除されてしまうまで継続する場合がある。個体における細胞数が、TNF-アルファ変異体をマーカーとして使用してモニターされる場合がある。
【0175】
本開示の方法の様々な実施形態が、効果的な量の細胞療法をその必要性のある個体に与える第1の工程であって、前記細胞が1つまたは複数の非分泌型TNF-アルファ変異体を含む第1の工程と、前記細胞を、前記TNF-アルファ変異体(1つまたは複数)を自殺遺伝子として使用して(どのような機構によってであれ細胞死を介して直接的または間接的に)排除する第2の工程とを含む。第2の工程は、個体についての少なくとも1つの有害事象の発生時に開始されることがあり、その有害事象は、細胞療法の始まりから継続していてもよい、または継続していなくてもよい日常的なモニタリングに基づいてであることを含めて、どのような手段によってであれ認識されることがある。有害事象(1つまたは複数)は診察および/または検査のときに検出される場合がある。個体が、(サイトカインストームとしてもまた示されることがある)サイトカイン放出症候群を有する場合、個体は、例えば、上昇した炎症性サイトカイン(1つまたは複数)(単に例として:インターフェロン-ガンマ、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、IL-10、IL-6およびTNF-アルファ);発熱;疲労;低血圧;低酸素、頻脈;悪心;毛細血管漏出;心臓/腎臓/肝臓の機能障害;またはそれらの組み合わせを有することがある。個体が神経毒性を有する場合、個体は、錯乱、せん妄、形成不全および/またはてんかん発作を有することがある。いくつかの場合において、個体は、サイトカイン放出症候群の発症および/または重症度に関連するマーカー(例えば、C反応性タンパク質、IL-6、TNF-アルファおよび/またはフェリチンなど)について検査される。
【0176】
さらなる実施形態において、非分泌型TNF-αと結合する1つまたは複数の薬剤をサイトカイン放出症候群または神経毒性の期間中に投与することには、例えば、治療の毒性の一因である高レベルの可溶性TNF-アルファを中和するというさらなる利点がある。可溶性TNF-アルファがサイトカイン放出症候群の期間中に高レベルで放出されており、CAR-T細胞療法に伴う毒性のメディエーターである。そのような場合において、本明細書中に包含されるTNF-アルファ抗体の投与は、二重の有益な効果、すなわち、TNF-アルファ変異体発現細胞の選択的な消去、同様にまた、毒性を引き起こす可溶性TNF-アルファの中和を有する。したがって、本開示の実施形態は、細胞が非分泌型TNF-アルファ変異体を発現する養子細胞療法を現在受けている、または受けたことがある個体においてサイトカイン放出症候群を排除する、またはその重症度を軽減する方法であって、非分泌型TNF-アルファ変異体と結合する薬剤の効果的な量を与え、前記薬剤により、(a)細胞療法の細胞の少なくとも一部の排除、および(b)可溶性TNF-アルファのレベルにおける低下が個体において引き起こされる、工程を含む方法を包含する。
【0177】
本開示の実施形態には、非分泌型TNF-アルファ変異体を発現する細胞による細胞療法を受けたことがある、または現在受けている個体においてサイトカイン放出症候群の影響を軽減する方法であって、(a)細胞療法の細胞の少なくとも一部の排除、および(b)可溶性TNF-アルファのレベルにおける低下を個体において引き起こすために前記変異体と結合する1つまたは複数の薬剤の効果的な量を与える工程を含む方法が含まれる。
【0178】
TNF-アルファ自殺遺伝子を利用する必要性が生じたとき、個体には、細胞表面のTNF-アルファ変異体を、例えば、細胞表面のTNF-アルファ変異体と直接的に結合することなどによって阻害することができる1つまたは複数の阻害剤の効果的な量が与えられる。阻害剤(1つまたは複数)はいくつかの実施形態において、全身的および/または局所的に個体に与えられる場合がある。阻害剤は、ポリペプチド(例えば、抗体など)、核酸、小分子(例えば、キサンチン誘導体)、ペプチド、またはそれらの組み合わせである場合がある。具体的な実施形態において、抗体はFDA承認されている。阻害剤が抗体であるとき、阻害剤は、少なくともいくつかの場合においてモノクローナル抗体である場合がある。抗体の混合物が用いられるとき、混合物における1つまたは複数の抗体がモノクローナル抗体である場合がある。小分子であるTNF-アルファ阻害剤の例には、例えば、米国特許第5,118,500号(これはその全体が参照によって本明細書中に組み込まれる)に記載されるなどの小分子が含まれる。ポリペプチドであるTNF-アルファ阻害剤の例には、米国特許第6,143,866号(これはその全体が参照によって本明細書中に組み込まれる)に記載されるポリペプチドなどのポリペプチドが含まれる。
【0179】
特定の実施形態において、少なくとも1つの抗体が、TNF-アルファ変異体を標的化して自殺遺伝子としてのその活性を引き起こすために利用される。抗体の例には、例えば、少なくともアダリムマブ、アダリムマブ-atto、セルトリズマブペゴール、エタネルセプト、エタネルセプト-szzs、ゴリムマブ、インフリキシマブ、インフリキシマブ-dyyb、またはそれらの混合物が含まれる。
【0180】
本開示の実施形態には、非分泌型TNF-アルファ変異体を発現するように細胞療法の細胞を改変することによって、個体のための細胞療法の毒性のリスクを低下させる方法が含まれる。細胞療法は具体的な実施形態においてがんについてであり、がん抗原を含む抗原を標的とする操作された受容体を含む場合がある。
【0181】
特定の実施形態において、本開示の本発明の細胞療法に加えて、個体には、医学的状態のためのさらなる治療法が提供されていたかもしれず、提供されるかもしれず、および/または提供されることになるかもしれない。医学的状態ががんである場合、個体には、手術、放射線、免疫療法(本開示の細胞療法とは別のもの)、ホルモン療法、遺伝子療法および化学療法などの1つまたは複数が提供されることがある。
【0182】
TDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有する細胞の集団が、それを必要としている個体に、効果的なレベルで与えられる。細胞は、注射によって、静脈内に、動脈内に、腹腔内に、気管内に、腫瘍内に、筋肉内に、内視鏡的に、病巣内に、頭蓋内に、経皮的に、皮下に、局所的に、灌流によって、腫瘍微小環境において、またはそれらの組み合わせによって個体に投与される場合がある。
【0183】
本方法の特定の実施形態において、細胞は、個体に1回または2回以上投与される場合がある。細胞が個体に投与される際の投与間の期間が、1~24時間、1~7日、1~4週間、1~12ヶ月、あるいは1年またはそれ以上である場合がある。
VIII.ベクター
【0184】
TDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有する免疫エフェクター細胞が、非内因性の操作された遺伝子産物または外因的に提供された遺伝子産物を含む場合、遺伝子産物は、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターを含めてどのようなベクターであれ好適なベクターによってレシピエント免疫エフェクター細胞に送達される場合がある。ウイルスベクターの例には少なくとも、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルスベクターが含まれる。非ウイルスベクターの例には少なくとも、プラスミド、トランスポゾン、脂質、およびナノ粒子などが含まれる。
【0185】
免疫細胞が、抗原標的化受容体をコードするベクターによる形質導入を受け、かつ、別の1つまたは複数の遺伝子の当該細胞への形質導入、例えば、自殺遺伝子および/またはサイトカインおよび/または随意的な治療用遺伝子産物などの形質導入もまた必要とする場合、抗原標的化受容体、自殺遺伝子、サイトカインおよび随意的な治療用遺伝子は、同じベクターに、または同じベクターにより含まれてもよく、あるいは含まれなくてもよい。いくつかの場合において、抗原標的化CAR、自殺遺伝子、サイトカインおよび随意的な治療用遺伝子は、同じベクター分子から、例えば、同じウイルスベクター分子などから発現させられる。そのような場合において、抗原標的化CAR、自殺遺伝子、サイトカインおよび随意的な治療用遺伝子の発現は、同じ調節エレメント(1つまたは複数)によって調節されてもよく、または調節されなくてもよい。抗原標的化CAR、自殺遺伝子、サイトカインおよび随意的な治療用遺伝子が同じベクターに存在するとき、それらは別々のポリペプチドとして発現させられてもよく、または発現させられなくてもよい。それらが別々のポリペプチドとして発現させられる場合、それらは、例えば、2AエレメントまたはIRESエレメントによってベクターにおいて隔てられることがある(あるいは両方の種類が1回または2回以上、同じベクターで使用されることがある)。
A.一般的な実施形態
【0186】
当業者は、本開示の抗原受容体の発現のために、ベクターを標準的な組換え技術(例えば、Sambrook他(2001)およびAusubel他(1996)を参照のこと、これらは両方が参照によって本明細書中に組み込まれる)により構築する能力が十分に備わっているであろう。
1.調節エレメント
【0187】
本開示において有用であるベクターに含まれる発現カセットは特に、タンパク質コード配列に機能的に連結される真核生物転写プロモーター、介在配列を含むスプライスシグナル、および転写終結/ポリアデニル化配列を(5’から3’の方向で)含有する。タンパク質コード遺伝子の転写を真核生物細胞において制御するプロモーターおよびエンハンサーは、多数の遺伝子エレメントから構成される場合がある。細胞機構は、それぞれのエレメントによって伝えられる調節情報を集め、統合し、これにより、異なる遺伝子が転写調節の別個の、多くの場合には複雑なパターンを展開することを可能にすることができる。本開示との関連で使用されるプロモーターには、例えば、構成的プロモーター、誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターが含まれる。ベクターががん療法の創出のために利用される場合には、プロモーターが低酸素の条件のもとで効果的であることがある。
2.プロモーター/エンハンサー
【0188】
本明細書中に提供される発現構築物は、抗原受容体および他のシストロン遺伝子産物の発現を行わせるためのプロモーターを含む。プロモーターは一般には、RNA合成のための開始部位の位置を定めるために機能する配列を含む。この配列の最もよく知られている例がTATAボックスであり、しかし、TATAボックスを欠くいくつかのプロモーター、例えば、哺乳動物のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のためのプロモーター、およびSV40の後期遺伝子のためのプロモーターなどでは、開始部位そのものに重なる離散したエレメントが、開始の場所を決定するために役立つ。さらなるプロモーターエレメントにより、転写開始頻度が調節される。典型的には、これらは開始部位の上流側の領域に位置しており、だが、多くのプロモーターが機能的エレメントを開始部位の下流側に同様に含有することが示されている。コード配列をプロモーターの「制御下に」するために、転写リーディングフレームの転写開始部位の5’末端が、選定されたプロモーターの「下流側」(すなわち、3’側)に配置される。「上流側」のプロモーターはDNAの転写を刺激し、コードされたRNAの発現を促進させる。
【0189】
プロモーターエレメント間の間隔はしばしば柔軟性があり、そのため、エレメントが逆になったとき、または互いに移動したとき、プロモーター機能は保持される。例えば、tkプロモーターにおいては、プロモーターエレメント間の間隔を、活性が低下し始める前に、50bp離れるまで増大させることができる。プロモーターに依存して、個々のエレメントが、転写を活性化するために協調的または独立的にそのどちらでも機能し得るようである。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用の調節配列を示す「エンハンサー」と併せて使用される場合があり、または使用されない場合がある。
【0190】
プロモーターは、コーディングセグメントおよび/またはエクソンの上流側に位置する5’側の非コード配列を単離することによって得られる場合があるように、核酸配列に天然において付随するものである場合がある。そのようなプロモーターは、「内因性」であるとして示すことができる。同様に、エンハンサーは、核酸配列の下流側または上流側のどちらにでも位置する、核酸配列に天然において付随するものである場合がある。代替において、ある種の利点が、コーディング核酸セグメントを組換えプロモーターまたは異種プロモーター(これは、核酸配列にその天然環境において通常は付随しないプロモーターを示す)の制御下に配置することによって得られるであろう。組換えエンハンサーまたは異種エンハンサーもまた、核酸配列にその天然環境において通常は付随しないエンハンサーを示す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、ならびにどのような他のウイルスまたは原核生物細胞もしくは真核生物細胞からであっても単離されるプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然には存在し」ないプロモーターまたはエンハンサー、すなわち、異なる転写調節領域の異なるエレメント、および/または発現を変化させる変異を含有するプロモーターまたはエンハンサーが含まれる場合がある。例えば、組換えDNA構築において最も一般に使用されるプロモーターには、β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトースおよびトリプトファン(trp)のプロモーター系が含まれる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成により作製することに加えて、様々な配列が、本明細書中に開示される組成物に関連して、PCR(商標)を含めて組換えクローニング技術および/または核酸増幅技術を使用して作製される場合がある。さらに、核を持たないオルガネラ(例えば、ミトコンドリアおよび葉緑体など)の内部において配列の転写および/または発現を導く制御配列が同様に用いられ得ることが意図される。
【0191】
当然のことながら、発現のために選定されるオルガネラ、細胞タイプ、組織、器官または生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に導くプロモーターおよび/またはエンハンサーを用いることが重要であろう。分子生物学の分野の当業者は一般に、プロモーター、エンハンサーおよび細胞タイプの様々な組み合わせがタンパク質発現のために使用されることを理解している(例えば、Sambrook他(1989)を参照のこと、これは参照によって本明細書中に組み込まれる)。用いられるプロモーターは、例えば、組換えタンパク質および/または組換えペプチドの大規模産生において好都合であるなど、導入されたDNAセグメントの高レベルの発現を導くための適切な条件のもとで構成的、組織特異的、誘導性および/または有用である場合がある。プロモーターは異種または内因性である場合がある。
【0192】
加えて、プロモーター/エンハンサーの組み合わせはどれも(例えば、epd.isb-sib.ch/でのワールドワイドウエブを介する真核生物プロモーターデータベースEPDBによる組み合わせ)もまた、発現を行わせるために使用され得るであろう。T3、T7またはSP6の細胞質発現系の使用が、別の可能な実施形態である。真核生物細胞は、適切な細菌ポリメラーゼが送達複合体の一部として、またはさらなる遺伝子発現構築物としてそのどちらかで提供されるならば、ある種の細菌プロモーターからの細胞質転写を支援することができる。
【0193】
プロモーターの限定されない例には、初期または後期のウイルスプロモーター、例えば、SV40の初期プロモーターまたは後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)の前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)の初期プロモーターなど;真核生物細胞のプロモーター、例えば、ベータアクチンプロモーター、GADPHプロモーター、メタロチオネインプロモーターなど;ならびに連鎖状応答エレメントプロモーター、例えば、最小TATAボックスの近くの環状AMP応答エレメントプロモーター(cre)、血清応答エレメントプロモーター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)および応答エレメントプロモーター(tre)などが含まれる。ヒト成長ホルモンのプロモーター配列(例えば、GenBank(登録商標)に記載されるヒト成長ホルモン最小プロモーター、アクセッション番号X05244、ヌクレオチド283~341)またはマウス乳腫瘍プロモーター(これはATCCから入手可能である;カタログ番号ATCC45007)を使用することもまた可能である。ある特定の実施形態において、プロモーターは、CMV IE、デクチン-1、デクチン-2、ヒトCD11c、F4/80、SM22、RSV、SV40、Ad MLP、ベータ-アクチン、MHCクラスIまたはMHCクラスIIのプロモーターであり、しかしながら、治療遺伝子の発現を行わせるために有用である他のプロモーターはどれも、本開示の実施に適用可能である。
【0194】
ある特定の局面において、本開示の方法はまた、エンハンサー配列、すなわち、プロモーターの活性を増大させ、かつ、シスで、しかも、その向きにかかわらず、(標的プロモーターから数キロベースにまで離れた)比較的長い距離にわたってさえ作用する可能性を有する核酸配列に関する。しかしながら、エンハンサーは所与のプロモーターのごく近傍でもまた機能することがあるので、エンハンサー機能はそのような長い距離に必ずしも限定されない。
3.開始シグナルおよび連鎖発現
【0195】
特異的な開始シグナルもまた、コード配列の効率的な翻訳のために、本開示において提供される発現構築物において使用される場合がある。これらのシグナルには、ATG開始コドンまたは隣接配列が含まれる。ATG開始コドンを含めて外因性の翻訳制御シグナルが提供される必要がある場合がある。当業者は、このことを決定し、必要なシグナルを提供することが容易にできるであろう。開始コドンは、インサート全体の翻訳を確実にするために所望のコード配列の読み枠と「インフレーム」でなければならないことが、広く知られている。外因性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは天然型または合成のどちらもが可能である。発現効率が、適切な転写エンハンサーエレメントを含むことによって増強される場合がある。
【0196】
ある特定の実施形態において、配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントの使用が、多重遺伝子またはポリシストロンメッセージを創出するために使用される。IRESエレメントは、5’メチル化Capに依存する翻訳のリボソームスキャンモデルを迂回し、翻訳を内部部位において開始させることができる。ピコルナウイルス科の2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)から得られる様々なIRESエレメントが、哺乳動物メッセージから得られるIRESと同様に記載されている。IRESエレメントを異種のオープンリーディングフレームに連結することができる。多数のオープンリーディングフレームが、それぞれがIRESによって隔てられて一緒になるように転写され、これによりポリシストロンメッセージをもたらすことが可能である。IRESエレメントによって、それぞれのオープンリーディングフレームが、効率的な翻訳のためにリボソームに接触可能である。多数の遺伝子を、ただ1つのメッセージを転写するためにただ1つのプロモーター/エンハンサーを使用して効率的に発現させることができる。
【0197】
本明細書中のどこか他のところで詳述されるように、ある特定の2A配列エレメントが、本開示において提供される構築物における遺伝子の連鎖発現または共発現を生じさせるために使用され得るであろう。例えば、切断配列が、ただ1つのシストロンを形成するために複数のオープンリーディングフレームを連結することによって複数の遺伝子を共発現させるために使用され得るであろう。1つの例示的な切断配列が、ウマ鼻炎Aウイルス(E2A)もしくはF2A(口蹄疫ウイルス2A)または「2A様」配列(例えば、トセア・アシグナ(Thosea asigna)ウイルス2A;T2A)またはブタテッショウウイルス-1(P2A)である。具体的な実施形態において、1つのベクターにおいて、多数の2A配列は同一でなく、だが、代替となる実施形態において、同じベクターが2つ以上の同じ2A配列を利用する。2A配列の様々な例が米国特許出願公開第2011/0065779号(その全体が参照によって本明細書中に組み込まれる)において提供される。
4.複製起点
【0198】
ベクターを宿主細胞において増やすために、ベクターは1つまたは複数の複製起点部位(これは「ori」と呼ばれることが多い)を含有する場合があり、例えば、複製が開始される特異的な核酸配列である、上記で記載されるようなEBVのoriPに対応する核酸配列、またはプログラミングにおける類似する機能もしくは高まった機能を有する遺伝子操作されたoriPを含有する場合がある。代替において、上記で記載されるような他の染色体外複製ウイルスの複製起点、または自律的複製配列(ARS)を用いることができる。
5.選択マーカーおよびスクリーニングマーカー
【0199】
いくつかの実施形態において、本開示のCD70標的化受容体構築物を含むNK細胞が、マーカーを発現ベクターに含むことによってインビトロまたはインビボで特定される場合がある。そのようなマーカーは、特定可能な変化を細胞に与え、これにより、発現ベクターを含有する細胞の容易な特定を可能にするであろう。一般に、選択マーカーは、選択について可能にする性質を与えるものである。正の選択マーカーは、マーカーの存在がその選択について可能にするものであり、一方、負の選択マーカーは、その存在がその選択を妨げるものである。正の選択マーカーの一例が薬物耐性マーカーである。
【0200】
通常、薬物選択マーカーを含むことにより、形質転換体のクローニングおよび特定が助けられる。例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ヒグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子が、有用な選択マーカーである。条件の実施に基づく形質転換体の識別について可能にする表現型を与えるマーカーに加えて、比色分析がその基礎であるスクリーニングマーカー(例えば、GFPなど)を含めた他のタイプのマーカーもまた意図される。代替において、負の選択マーカーとしてのスクリーニングマーカー、例えば、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(tk)、またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などが利用される場合がある。当業者はまた、免疫学的マーカーを場合によってはFACS分析と併せてどのように用いるかを知っているであろう。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現されることが可能である限り、重要でないと思われる。選択マーカーおよびスクリーニングマーカーのさらなる例が当業者には広く知られている。
B.マルチシストロンベクター
【0201】
特定の実施形態において、抗原標的化受容体、随意的な自殺遺伝子、随意的なサイトカインおよび/または随意的な治療用遺伝子は、マルチシストロンベクターから発現する(用語「シストロン」は、本明細書中で使用される場合、遺伝子産物が産生され得る核酸配列を示す)。具体的な実施形態において、マルチシストロンベクターは、抗原標的化受容体、自殺遺伝子、および少なくとも1つのサイトカイン、ならびに/あるいは操作された受容体(例えば、T細胞受容体および/またはさらなる抗原非標的化CARなど)をコードする。いくつかの場合において、マルチシストロンベクターは、少なくとも1つの抗原標的化CAR、少なくとも1つのTNF-アルファ変異体、および少なくとも1つのサイトカインをコードする。サイトカインは、ヒトまたはマウスまたはいずれかの生物種などの特定のタイプのサイトカインである場合がある。具体的な場合において、サイトカインは、IL-15、IL-12、IL-2、IL-18および/またはIL-21である。
【0202】
ある特定の実施形態において、本開示は、多数のシストロンを実質的に同一のレベルで発現させることができるポリシストロンベクターを利用する柔軟なモジュール型システムを提供する(用語「モジュール型(の)」は、本明細書中で使用される場合、シストロンまたはシストロンの成分であって、それらの互換性について、例えば、シストロン全体またはシストロンの成分を、例えば、標準的な組換え技術を使用することによってそれぞれ除くことおよび取り換えることなどによって可能にするものを示す)。このシステムは、多数の遺伝子の組み合わせ発現(過剰発現を含む)について可能にする細胞工学のために使用される場合がある。具体的な実施形態において、ベクターによって発現させられる遺伝子の1つまたは複数が、1つ、2つまたはそれ以上の抗原受容体を含む。多数の遺伝子は、CAR、TCR、サイトカイン、ケモカイン、ホーミング受容体、CRISPR/Cas9媒介遺伝子変異、デコイ受容体、サイトカイン受容体、およびキメラなサイトカイン受容体などを含む場合があり、しかし、これらに限定されない。ベクターはさらに、(1)1つまたは複数のレポーター、例えば、蛍光性レポーターまたは酵素レポーター、例えば、細胞アッセイおよび動物イメージングのためなどのレポーター;(2)1つまたは複数のサイトカインまたは他のシグナル伝達分子;ならびに/あるいは(3)自殺遺伝子を含む場合がある。
【0203】
具体的な場合において、ベクターは、どのような種類の切断部位によってであれ、例えば、2A切断部位などによって隔てられる少なくとも4つのシストロンを含むことがある。ベクターは、3’側および5’側のLTRをpsiパッケージング配列とともにpUC19骨格において含むモロニーマウス白血病ウイルス(MoMLVまたはMMLV)型である場合があり、またはそうでない場合がある。ベクターは、3つ以上の2A切断部位を有する4つ以上のシストロンと、遺伝子交換のための多数のORFとを含む場合がある。このシステムは、サブクローニングを介した迅速な組込みのための制限部位(1つまたは複数)と隣接する多数の遺伝子(7つ以上)の組み合わせ過剰発現について可能にし、いくつかの実施形態において、このシステムはまた、少なくとも3つの2A自己切断部位を含む。したがって、このシステムは、多数のCAR、TCR、シグナル伝達分子、サイトカイン、サイトカイン受容体および/またはホーミング受容体の発現について可能にする。このシステムはまた、限定されないが、レンチウイルス、アデノウイルスAAV、同様にまた非ウイルスプラスミドを含めて、他のウイルスベクターおよび非ウイルスベクターにも適用される場合がある。
【0204】
システムのモジュール特質はまた、ポリシストロン発現ベクターにおける4つのシストロンのそれぞれへの遺伝子の効率的なサブクローニング、および遺伝子の交換を、例えば、迅速な試験などのために可能にする。ポリシストロン発現ベクターに戦略的に設置される制限部位は、遺伝子を効率的に交換することについて可能にする。
【0205】
本開示の実施形態は、ベクターの少なくとも一部が、例えば、1つまたは複数のシストロン(あるいは1つまたは複数のシストロンの成分(1つまたは複数))の除去および取り換えを、例えば、ベクターのモジュール使用を容易にするために素性および配置が特異的に選択される1つまたは複数の制限酵素部位を利用することなどにより可能にすることによってモジュール型であるポリシストロンベクターを利用するシステムを包含する。このベクターにはまた、多数のシストロンがただ1つのポリペプチドに翻訳され、別々のポリペプチドにプロセシングされ、それにより、ベクターが別々の遺伝子産物を実質的に等モル濃度で発現させる利点を与える様々な実施形態がある。
【0206】
本開示のベクターは、モジュール性によりベクターの1つまたは複数のシストロンを変化させることができるように、ならびに/あるいは1つまたは複数の特定のシストロンの1つまたは複数の成分を変化させることができるように構成される。本開示のベクターは、1つまたは複数のシストロンの末端に隣接する特有の制限酵素部位、ならびに/あるいは特定のシストロンの1つまたは複数の成分の末端に隣接する特有の制限酵素部位を利用するように設計される場合がある。
【0207】
本開示の実施形態には、1つまたは複数の制限酵素部位とそれぞれが隣接する少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つのシストロンを含むポリシストロンベクターであって、少なくとも1つのシストロンが少なくとも1つの抗原受容体をコードする、ポリシストロンベクターが含まれる。いくつかの場合において、これらのシストロンのうちの2つ、3つ、4つまたはそれ以上がただ1つのポリペプチドに翻訳され、別々のポリペプチドに切断され、これに対して、他の場合において、これらのシストロンのうちの多数がただ1つのポリペプチドに翻訳され、別々のポリペプチドに切断される。ベクターにおける隣り合うシストロンは、自己切断部位によって、例えば、2A自己切断部位などによって隔てられる場合がある。いくつかの場合において、シストロンのそれぞれが別々のポリペプチドをベクターから発現させる。特定の場合について、ベクターにおける隣り合うシストロンがIRESエレメントによって隔てられる。
【0208】
ある特定の実施形態において、本開示は、例えば、1つ、2つまたはそれ以上の抗原受容体を含むことがある多数のシストロンの(過剰発現を含めた)組み合わせ発現について可能にする細胞工学のためのシステムを提供する。特定の実施形態において、本明細書中に記載されるようなポリシストロンクベクターを使用することにより、ベクターは、等モルレベルの多数の遺伝子産物を同じmRNAから産生させることができる。多数の遺伝子は、CAR、TCR、サイトカイン、ケモカイン、ホーミング受容体、CRISPR/Cas9媒介遺伝子変異、デコイ受容体、サイトカイン受容体、およびキメラなサイトカイン受容体などを含む場合があり、しかし、これらに限定されない。ベクターはさらに、1つまたは複数の蛍光性レポーターまたは酵素レポーターを、例えば、細胞アッセイおよび動物イメージングのためなどに含む場合がある。ベクターはまた、ベクターを含んでいる細胞がもはや必要とされないとき、または当該細胞が与えられている宿主にとって有害となるときには、当該細胞を終結させるための自殺遺伝子産物を含む場合がある。
【0209】
本開示の特定の実施形態において、ベクターにおけるシストロンの少なくとも1つが、シストロン内のモジュール型成分のそれぞれが1つまたは複数の制限酵素部位と隣接する2つ以上のモジュール型成分を含む。1つのシストロンが、例えば、3つ、4つまたは5つのモジュール型成分を含む場合がある。少なくともいくつかの場合において、1つのシストロンが、受容体の異なる部分が対応のモジュール型成分によってコードされる抗原受容体をコードする。シストロンの第1のモジュール型成分が受容体の抗原結合ドメインをコードする場合がある。加えて、シストロンの第2のモジュール型成分が受容体のヒンジ領域をコードする場合がある。加えて、シストロンの第3のモジュール型成分が受容体の膜貫通ドメインをコードする場合がある。加えて、シストロンの第4のモジュール型成分が第1の共刺激ドメインをコードする場合がある。加えて、シストロンの第5のモジュール型成分が第2の共刺激ドメインをコードする場合がある。加えて、シストロンの第6のモジュール型成分がシグナル伝達ドメインをコードする場合がある。
【0210】
本開示の特定の局面において、ベクターにおける2つの異なるシストロンがそれぞれ、同一でない抗原受容体をコードする。両方の抗原受容体が、2つ以上のモジュール型成分を含む別々のシストロンを含めて、2つ以上のモジュール型成分を含むシストロンによってコードされる場合がある。抗原受容体は、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)および/またはT細胞受容体(TCR)である場合がある。
【0211】
具体的な実施形態において、ベクターは、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクター)あるいは非ウイルスベクターである。ベクターは、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)の5’LTR、3’LTR、および/またはpsiパッケージングエレメントを含む場合がある。具体的な場合において、psiパッケージングが、5’LTRと、抗原受容体コード配列との間に組み込まれる。ベクターはpUC19配列を含む場合があり、または含まない場合がある。ベクターのいくつかの局面において、少なくとも1つのシストロンが、サイトカイン(例えば、インターロイキン15(IL-15)、IL-7、IL-21またはIL-2)、ケモカイン、サイトカイン受容体および/またはホーミング受容体をコードする。
【0212】
2A切断部位がベクターにおいて利用されるとき、2A切断部位は、P2A部位、T2A部位、E2A部位および/またはF2A部位を含む場合がある。
【0213】
CD70標的化CARをコードする1つのシストロンに加えて、ベクターのいずれかのシストロンが自殺遺伝子を含む場合がある。ベクターのいずれかのシストロンがレポーター遺伝子をコードする場合がある。具体的な実施形態において、第1のシストロンが自殺遺伝子をコードし、第2のシストロンがCD70標的化CARをコードし、第3のシストロンがレポーター遺伝子をコードし、第4のシストロンがサイトカインをコードする。ある特定の実施形態において、第1のシストロンが自殺遺伝子をコードし、第2のシストロンがCD70標的化CARをコードし、第3のシストロンが第2のCARまたは別の抗原受容体をコードし、第4のシストロンがサイトカインをコードする。具体的な実施形態において、CD70標的化CARおよび/または別の受容体の異なる部分が、対応するモジュール型成分によってコードされ、第2のシストロンの第1の成分が抗原結合ドメインをコードし、第2の成分がヒンジドメインおよび/または膜貫通ドメインをコードし、第3の成分が共刺激ドメインをコードし、第4の成分がシグナル伝達ドメインをコードする。
【0214】
具体的な実施形態において、シストロンの少なくとも1つが自殺遺伝子をコードする。いくつかの実施形態において、シストロンの少なくとも1つがサイトカインをコードする。ある特定の実施形態において、少なくとも1つのシストロンが抗原標的化CARをコードする。シストロンによって、レポーター遺伝子がコードされる場合があり、またはコードされない場合がある。ある特定の実施形態において、少なくとも2つのシストロンが2つの異なる抗原受容体(例えば、CARおよび/またはTCR)をコードする。シストロンによって、レポーター遺伝子がコードされる場合があり、またはコードされない場合がある。
【0215】
目的とする遺伝子カーゴの特定の構成において、ただ1つのベクターが、抗原標的化CARをコードするシストロンと、該抗原標的化受容体と同一ではない第2の抗原受容体をコードするシストロンとを含む場合がある。具体的な実施形態において、第1の抗原受容体が抗原標的化CARをコードし、第2の抗原受容体がTCRをコードし、あるいは逆に、第1の抗原受容体がTCRをコードし、第2の抗原受容体が抗原標的化CARをコードする。特定の実施形態において、抗原標的化CARと、第2の抗原受容体とをそれぞれコードする別々のシストロンを含むベクターはまた、サイトカインまたはケモカインをコードする第3のシストロンと、自殺遺伝子をコードする第4のシストロンとを含む。しかしながら、自殺遺伝子および/またはサイトカイン(もしくはケモカイン)はベクターに存在しない場合がある。
【0216】
特定の実施形態において、少なくとも1つのシストロンが、モジュール型である多数の成分自体を含む。例えば、1つのシストロンが、多成分の遺伝子産物、例えば、多数の部分を有する抗原受容体などをコードする場合がある;具体的な場合において、そのような抗原受容体は、ただ1つのポリペプチドを産生することが最終的にそれによりもたらされるただ1つのシストロンからコードされる。多数の成分をコードするシストロンは、これらの多数の成分が、シストロンを含むベクターに特有である1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上の制限酵素消化部位を含めて、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上の制限酵素消化部位によって隔てられる場合がある。具体的な実施形態において、多数の成分を有するシストロンが、受容体の特有の機能がそれぞれにより起因する多数の対応する部分を有する抗原受容体をコードする。具体的な実施形態において、多成分シストロンの成分のそれぞれまたは大部分が、ベクターに特有である1つまたは複数の制限酵素消化部位によって隔てられており、これにより、所望されるときにおける別個の成分の互換性が可能になっている。
【0217】
具体的な実施形態において、多成分シストロンのそれぞれの成分が、コードされた抗原受容体(例えば、抗原標的化CARなど)の異なる部分に対応する。例示的な実施形態において、成分1が受容体の抗原結合ドメインをコードする場合があり、成分2が受容体のヒンジドメインをコードする場合があり、成分3が受容体の膜貫通ドメインをコードする場合があり、成分4が受容体の共刺激ドメインをコードする場合があり、成分5が受容体のシグナル伝達ドメインをコードする場合がある。具体的な実施形態において、抗原標的化CARは、受容体内の共刺激ドメイン(1つまたは複数)の互換性のための特有の制限酵素消化部位によってそれぞれが隔てられる1つまたは複数の共刺激ドメインを含む場合がある。
【0218】
具体的な実施形態において、隣り合うシストロンが2A切断部位によって隔てられる4つの別個のシストロンを有するポリシストロンベクターが存在し、だが、具体的な実施形態において、2A切断部位の代わりに、別個のポリペプチドがそのようなシストロンから産生されることを直接的または間接的に生じさせるエレメント(例えば、IRES配列など)が存在する。例えば、4つの別個のシストロンが3つの2Aペプチド切断部位によって隔てられる場合があり、それぞれのシストロンが、シストロンのそれぞれの末端に隣接して、特定のシストロンの互換性、例えば、別のシストロンまたは他のタイプの配列との互換性、および標準的な組換え技術を使用したときの互換性などについて可能にする制限部位(X、Xなど)を有する。具体的な実施形態において、シストロンのそれぞれに隣接する制限酵素部位(1つまたは複数)は、容易な組換えを可能にするためにベクターに特有であり、だが、代替となる実施形態において、制限酵素部位はベクターに特有でない。
【0219】
特定の実施形態において、ベクターは、特定のシストロンの多数の成分の内部を含めて、特定のシストロンの内部における互換性について可能にすることによって、特有の第2のレベルのモジュール性を提供する。特定のシストロンの多数の成分が、シストロン内の1つまたは複数の成分の互換性について可能にするために、ベクターに特有な制限酵素部位を含めて1つまたは複数の制限酵素部位によって隔てられる場合がある。一例として、シストロン2が5つの別個の成分を含む場合があり、だが、シストロンあたり2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上の成分が存在する場合がある。一例として、ベクターが、異なる成分1、成分2、成分3、成分4および/または成分5を交換するための標準的な組換えについて可能にするために、特有の酵素制限部位(X、X10、X11、X12、X13およびX14)によってそれぞれが隔てられる5つの成分を有するシストロン2を含む場合がある。いくつかの場合において、異なる成分の間には、(特有である)多数の制限酵素部位が存在する場合があり(だが、代替においては1つまたは複数が特有でない)、また、多数の制限酵素部位の間には配列が存在する場合がある(だが、代替においては存在しない場合がある)。ある特定の実施形態において、シストロンによってコードされるすべての成分が、交換可能であるという目的のために設計される。特定の場合において、シストロンの1つまたは複数の成分が、交換可能であるように設計され、これに対して、このシストロンの1つまたは複数の他の成分が、交換可能であるように設計されない場合がある。
【0220】
具体的な実施形態において、1つのシストロンが、多数の成分を有する抗原標的化CAR分子をコードする。例えば、シストロン2が、成分1、成分2、成分3などによってその別々の成分が表される抗原標的化CAR分子をコードする配列から構成される場合がある。CAR分子は、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つまたはそれ以上の交換可能な成分を含む場合がある。具体的な一例において、成分1がscFvをコードし、成分2がヒンジをコードし、成分3が膜貫通ドメインをコードし、成分4が共刺激ドメインをコードし(だが、交換のための制限部位と隣接する第2またはそれ以上の共刺激ドメインをコードする成分4’もまた存在する場合があり)、成分5がシグナル伝達ドメインをコードする。特定の例において、成分1がscFvをコードし、成分2がIgG1ヒンジおよび/または膜貫通ドメインをコードし、成分3がCD28をコードし、成分4がCD3ゼータをコードする。
【0221】
当業者はベクターの設計においては、様々なシストロンおよび成分が、必要なときにはインフレームで保たれるように構成されなければならないことを認識している。
【0222】
特定の一例において、シストロン1が自殺遺伝子をコードし、シストロン2が抗原標的化CARをコードし、シストロン3がレポーター遺伝子をコードし、シストロン4がサイトカインをコードし、シストロン2の成分1がscFvをコードし、シストロン2の成分2がIgG1ヒンジをコードし、シストロン2の成分3がCD28をコードし、成分4がCD3ゼータをコードする。
【0223】
制限酵素部位はどのような種類のものであってもよく、その認識部位においてどのような数の塩基を含んでいてもよい(例えば、4塩基~8塩基の間など);認識部位における塩基数は、少なくとも4個、5個、6個、7個、8個またはそれ以上である場合がある。切断されたときの部位は平滑切断末端または付着末端を生じさせる場合がある。制限酵素は、例えば、I型、II型、III型またはIV型のものである場合がある。様々な制限酵素部位が、利用可能なデータベースから、例えば、Integrated relational Enzyme database(IntEnz)、またはBRENDA(The Comprehensive Enzyme Information System)などから得られる場合がある。
【0224】
例示的なベクターは環状である場合があり、慣例によって、位置1(円の上部における12時の位置、配列の残りが時計回り方向である)が5’LTRの開始部に設定される。
【0225】
自己切断2Aペプチドが利用される実施形態において、2Aペプチドは、ポリペプチドの「切断」を真核生物細胞における翻訳の期間中に媒介する18~22アミノ酸(aa)長のウイルスオリゴペプチドである場合がある。呼称「2A」はウイルスゲノムの特定の領域を示し、種々のウイルス2Aが一般には、それらが得られたウイルスにちなんで名付けられている。最初に発見された2AがF2A(口蹄疫ウイルス)であり、その後、E2A(ウマ鼻炎Aウイルス)、P2A(ブタテッショウウイルス-1 2A)、およびT2A(トセア・アシグナウイルス2A)もまた特定された。2A媒介「自己切断」の機構は、リボソームが2AのC末端におけるグリシル-プロリルペプチド結合の形成をスキップすることであると発見された。
【0226】
具体的な場合において、ベクターはγ-レトロウイルス移入ベクターである場合がある。レトロウイルス移入ベクターは、プラスミドに基づく骨格、例えば、pUC19プラスミドに基づく骨格(HindIII制限酵素部位と、EcoRI制限酵素部位との間における大きなフラグメント(2.63kb))などを含む場合がある。骨格は、5’LTR、psiパッケージング配列および3’LTRを含めてモロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)からのウイルス成分を運ぶ場合がある。LTRは、レトロウイルスのプロウイルスの両側に見出される長い末端反復配列であり、移入ベクターの場合、LTRにより、目的とする遺伝子カーゴ、例えば、抗原標的化CARおよび関連成分などが囲まれる。psiパッケージング配列(これはヌクレオカプシドによるパッケージングのための標的部位である)もまた、5’LTRと、CARコード配列との間に挟まれて、シスで組み込まれる。したがって、移入ベクターの一例の基本構造はそのようなものとして、すなわち、pUC19配列-5’LTR-psiパッケージング配列-目的とする遺伝子カーゴ-3’LTR-pUC19配列として構成されることが可能である。このシステムはまた、限定されないが、レンチウイルス、アデノウイルスAAV、同様にまた非ウイルスプラスミドを含めて、他のウイルスベクターおよび非ウイルスベクターにも適用される場合がある。
A.医薬組成物
【0227】
本明細書中にはまた、形質導入されたNK細胞と、医薬的に許容され得るキャリアとを含む医薬組成物および配合物が提供される。形質導入された細胞は、個体への移入のために好適である媒体、および/または個体への移入に先立つ保存(例えば、凍結保存など)を含めた保存(例えば、凍結保存など)のために好適である媒体に含められる場合がある。
【0228】
本明細書中に記載されるような医薬組成物および配合物は、所望の純度を有する有効成分(例えば、細胞など)を1つまたは複数の随意的な医薬的に許容され得るキャリア(Remington’s Pharmaceutical Sciences、第22版、2012年)と混合することによって、凍結乾燥配合物または水溶液の形態で調製することができる。医薬的に許容され得るキャリアは一般に、用いられる投薬量および濃度でレシピエントに対して無毒性であり、医薬的に許容され得るキャリアには、下記のものが含まれるが、それらに限定されない:緩衝剤、例えば、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸など;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩化物;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベンなど;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなど;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドンなど;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンなど;グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む単糖、二糖および他の炭水化物;キレート化剤、例えば、EDTAなど;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなど;塩形成対イオン、例えば、ナトリウムなど;金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体);ならびに/あるいは非イオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)など。本明細書中における例示的な医薬的に許容され得るキャリアにはさらに、間質性薬物分散剤、例えば、可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)など、例えば、ヒトの可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)などが含まれる。rHuPH20を含めて、ある特定の例示的なsHASEGPおよび使用方法が、米国特許出願公開第2005/0260186号および同第2006/0104968号に記載される。1つの局面において、sHASEGPが1つまたは複数のさらなるグリコサミノグリカナーゼ(例えば、コンドロイチナーゼなど)と組み合わされる。
B.併用療法
【0229】
ある特定の実施形態において、本実施形態の組成物および方法では、(NK細胞集団を含めた)免疫細胞集団が、少なくとも1つのさらなる治療法との組み合わせで伴う。さらなる治療法は、放射線療法、手術(例えば、乳腺腫瘤摘出術および乳房切除術)、化学療法、遺伝子療法、DNA療法、ウイルス療法、RNA療法、免疫療法、骨髄移植、ナノ療法、モノクローナル抗体療法、ホルモン療法、または前述の組み合わせである場合がある。さらなる治療法はアジュバント療法またはネオアジュバント療法の形態である場合がある。
【0230】
いくつかの実施形態において、さらなる治療法は小分子酵素阻害剤または転移抑制剤の投与である。いくつかの実施形態において、さらなる治療法は、副作用制限剤(例えば、処置の副作用の発生および/または重篤度を軽減するために意図される薬剤(例えば、制吐剤など)など)の投与である。いくつかの実施形態において、さらなる治療法は放射線療法である。いくつかの実施形態において、さらなる治療法は手術である。いくつかの実施形態において、さらなる治療法は放射線療法と手術との組み合わせである。いくつかの実施形態において、さらなる治療法はガンマ線照射である。いくつかの実施形態において、さらなる治療法は、PBK/AKT/mTOR経路を標的とする治療、HSP90阻害剤、チューブリン阻害剤、アポトーシス阻害剤、および/または化学予防剤である。さらなる治療法は、この技術分野において知られている化学療法剤の1つまたは複数である場合がある。
【0231】
免疫細胞療法が、さらなるがん療法(例えば、免疫チェックポイント療法など)の前に、その期間中に、その後で、またはそれに対して様々な組み合わせで施される場合がある。施すことが、同時から、数分にまで、数日にまで、数週間にまで及ぶ間隔である場合がある。免疫細胞療法がさらなる治療作因とは別に患者に与えられる実施形態においては一般に、意味のある期間がそれぞれの送達時の後で終了せず、その結果、2つの化合物が依然として、好都合な併用効果を患者に及ぼすことができるであろうことが保証されるであろう。そのような場合、患者には抗体療法および抗ガン療法が互いに約12時間~24時間または72時間の範囲内で、より具体的には互いに約6時間~12時間の範囲内で与えられ得ることが意図される。いくつかの状況では、処置のための期間を著しく延長することが望ましい場合があり、この場合、数日(2、3、4、5、6または7)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8)までがそれぞれの投与の間において経過する。
【0232】
様々な組み合わせが用いられる場合がある。下記の例について、免疫細胞療法が「A」であり、抗がん療法が「B」である:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0233】
本実施形態の化合物または細胞療法をどのようなものであれ患者に施すことは、もし存在するならば作用因の毒性を考慮して、そのような化合物の投与のための一般的プロトコルに従うであろう。したがって、いくつかの実施形態において、併用療法に起因し得る毒性をモニターする工程が存在する。
【0234】
1.化学療法
幅広い種類の化学療法剤が、本発明の実施形態に従って使用され得る。「化学療法」という用語は、癌を治療するための薬物の使用を指す。「化学療法剤」は、癌の治療において投与される化合物または組成物を暗示するために使用される。これらの薬剤または薬物は、細胞内でのそれらの活性モード、例えば、それらが細胞周期に影響を与えるかどうか、およびどの段階で影響を与えるかによって分類される。あるいは、薬剤は、DNAを直接架橋する能力、DNAにインターカレートする能力、または核酸合成に影響を与えることによって染色体分裂および有糸分裂の異常を誘発する能力に基づいて特徴付けることができる。
【0235】
化学療法剤の例には、チオテパおよびシクロホスファミド(cyclosphosphamide)などのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなどのスルホン酸アルキル;ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa)などのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド、およびトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)をはじめとするエチレンイミンおよびメチルメラミン;アセトゲニン(特にブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体のトポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシンおよびビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189およびCB1-TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコディクチン;スポンジスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロフォスファミド、およびウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン(ranimnustine)などのニトロソウレア(nitrosureas);エンジイン抗生物質(例えば、カリチアマイシン、特にカリチアマイシンγIIおよびカリチアマイシンωI1)などの抗生物質;ダイネマイシンAをはじめとするダイネマイシン;クロドロン酸などのビスホスホネート;エスペラミシン;ならびにネオカルチノスタチン発色団および関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団、アクラシノマイシン(aclacinomysins)、アクチノマイシン、アウトラルニシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシニス(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラルナイシン(nogalarnycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、およびゾルビシン;メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU)などの代謝拮抗薬;デノプテリン、プテロプテリン、およびトリメトレキサートなどの葉酸類似体;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、およびチオグアニンなどのプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、およびフロクスウリジンなどのピリミジン類似体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、およびテストラクトンなどのアンドロゲン;ミトタンおよびトリロスタンなどの抗副腎剤;フロリン酸(frolinic acid)などの葉酸補充剤;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジコン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);マイタンシンおよびアンサマイトシンなどのメイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT-2毒素、ベルカリンA(verracurin A)、ロリジンAおよびアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドセタキセルゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;シスプラチン、オキサリプラチン、およびカルボプラチンなどの白金錯体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(difluorometlhylornithine)(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド;カペシタビン;カルボプラチン、プロカルバジン、プリカマイシン、ゲムシタビエン(gemcitabien)、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランス白金、および上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が含まれる。
【0236】
2.放射線療法
DNA損傷を引き起こし、広く使用されてきたその他の要因には、一般にγ線、X線、および/または腫瘍細胞への放射性同位元素の指向性送達として知られているものが含まれる。マイクロ波、陽子線照射(米国特許第5,760,395号および第4,870,287号)、およびUV照射などのその他の形態のDNA損傷因子も想定される。これらの要因はすべて、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製と修復、および染色体の組み立てと維持に対する広範囲の損傷に影響を与えている可能性が最も高い。X線の線量範囲は、長期間(3~4週間)の一日線量の50~200レントゲンから、単回線量の2000~6000レントゲンに及ぶ。放射性同位元素の線量範囲は幅広く変動し、同位体の半減期、放出される放射線の強度と種類、および腫瘍細胞による取り込みに依存する。
【0237】
3.免疫療法
当業者は、追加の免疫療法が、実施形態の方法と組み合わせて、またはそれとともに使用されてよいことを理解するであろう。癌治療の状況において、免疫療法は、一般に癌細胞を標的にして破壊する免疫エフェクター細胞および分子の使用に依存する。リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))はそのような一例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上の一部のマーカーに特異的な抗体であってよい。抗体は単独で治療のエフェクターとして機能することもあれば、他の細胞を動員して実際に細胞の死滅に影響を与えることもある。抗体はまた、薬物または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)と結合されて、標的化薬剤としての機能を果たすこともある。あるいは、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的にまたは間接的に相互作用する表面分子を有するリンパ球であってよい。さまざまなエフェクター細胞には、細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0238】
抗体薬物複合体は、癌治療薬の開発への画期的なアプローチとして登場した。癌は世界の主な死因の一つである。抗体薬物複合体(ADC)は、細胞殺傷薬に共有結合されたモノクローナル抗体(MAb)を含む。このアプローチは、その抗原標的に対するMAbの高い特異性と、非常に強力な細胞傷害性薬物を組み合わせて、濃縮レベルの抗原を有する腫瘍細胞にペイロード(薬物)を送達する、「武装した」MAbをもたらす。薬物の標的化送達も、正常組織でのその曝露を最小限に抑えるので、毒性が低下し、治療指数が改善される。2011年のADCETRIS(登録商標)(ブレンツキシマブベドチン)と2013年のKADCYLA(登録商標)(トラスツズマブエムタンシンまたはT-DM1)の2つのADC薬がFDAに承認されたことにより、このアプローチは有効になった。現在、癌治療の臨床試験のさまざまな段階で30を超えるADC薬の候補がある(Lealら、2014)。抗体工学とリンカー・ペイロードの最適化がますます成熟していく中で、新しいADCの発見と開発は、このアプローチに適した新しい標的の特定と検証、および標的化MAbの生成にますます依存している。ADC標的の2つの判定基準は、腫瘍細胞における発現の増加/高レベルの発現と、強固な内部移行である。
【0239】
免疫療法の一態様では、腫瘍細胞は、標的化に適した、つまり、他の細胞の大部分には存在しないマーカーを有していなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらうちのいずかが、本発明の実施形態の状況において標的化に適している可能性がある。一般的な腫瘍マーカーには、CD20、癌胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニン受容体、erb B、およびp155が含まれる。免疫療法の別の態様は、抗癌効果と免疫刺激効果を組み合わせることである。免疫刺激分子も存在し、それには、IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、γ-IFNなどのサイトカイン、MIP-1、MCP-1、IL-8などのケモカイン、およびFLT3リガンドなどの成長因子が含まれる。
【0240】
現在調査中または使用中の免疫療法の例は、免疫アジュバント、例えば、マイコバクテリウム・ボビス、熱帯熱マラリア原虫、ジニトロクロロベンゼン、および芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および同第5,739,169号;HuiおよびHashimoto、1998;Christodoulidesら、1998);サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、IL-1、GM-CSF、およびTNF(Bukowskiら、1998;Davidsonら、1998;Hellstrandら、1998);遺伝子療法、例えば、TNF、IL-1、IL-2、およびp53(Qinら、1998;Austin-Ward and Villaseca、1998;米国特許第5,830,880号および同第5,846,945号);ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2、および抗p185(Hollander、2012;Hanibuchiら、1998;米国特許第5,824,311号)である。1つまたは複数の抗癌療法が、本明細書に記載される抗体療法とともに使用され得ることが想定される。
【0241】
一部の実施形態では、免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤であり得る。免疫チェックポイントは、シグナル(例えば、共刺激分子)を上げるか、シグナルを下げる。免疫チェックポイント封鎖によって標的化され得る抑制性免疫チェックポイントには、アデノシンA2A受容体(A2AR)、B7-H3(CD276としても公知)、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4、CD152としても公知)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン(KIR)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG3)、プログラム細胞死1(PD-1)、T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3(TIM-3)およびT細胞活性化のV-ドメインIgサプレッサー(VISTA)が含まれる。特に、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1軸および/またはCTLA-4を標的とする。
【0242】
免疫チェックポイント阻害剤は、小分子、リガンドまたは受容体の組換え体などの薬物であり得るか、または特に、ヒト抗体などの抗体であってよい(例えば、国際公開公報WO2015016718号;Pardoll、Nat Rev Cancer、12(4):252~64、2012;両方とも参照により本明細書に組み込まれる)。免疫チェックポイントタンパク質またはその類似体の既知の阻害剤を使用することができる、特に、キメラ化、ヒト化、またはヒト型の抗体を使用することができる。当業者であれば分かるように、本開示で言及される特定の抗体には、代替の名称および/または同等の名称が使用されていることがある。そのような代替の名称および/または同等の名称は、本開示の文脈において互いに交換可能である。例えば、ランブロリズマブは、MK-3475およびペンブロリズマブという代替の名称および同等の名称でも知られていることが知られている。
【0243】
一部の実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1とそのリガンド結合パートナーとの結合を阻害する分子である。特定の態様では、PD-1リガンド結合パートナーは、PDL1および/またはPDL2である。もう一つの実施形態では、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1とその結合パートナーとの結合を阻害する分子である。特定の態様では、PDL1結合パートナーは、PD-1および/またはB7-1である。もう一つの実施形態では、PDL2結合アンタゴニストは、PDL2とその結合パートナーとの結合を阻害する分子である。特定の態様では、PDL2結合パートナーは、PD-1である。アンタゴニストは、抗体、その抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドであってよい。例示的な抗体は、すべて参照により本明細書に援用される米国特許第8735553号、同第8354509号、および同第8008449号に記載されている。本明細書で提供される方法で使用するためのその他のPD-1軸アンタゴニストは、米国特許出願公開第20140294898号、同第2014022021号、および同第20110008369号に記載されるなど当技術分野で公知であり、これらはすべて参照により本明細書に組み込まれる。
【0244】
一部の実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体)である。一部の実施形態では、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、およびCT-011からなる群から選択される。一部の実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合したPDL1またはPDL2の細胞外またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。一部の実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、AMP-224である。MDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558、およびOPDIVO(登録商標)としても公知のニボルマブは、国際公開第2006/121168号に記載の抗PD-1抗体である。MK-3475、Merck 3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)、およびSCH-900475としても公知のペンブロリズマブは、国際公開第2009/114335号に記載の抗PD-1抗体である。hBATまたはhBAT-1としても公知のCT-011は、国際公開第2009/101611号に記載の抗PD-1抗体である。B7-DCIgとしても公知のAMP-224は、国際公開第2010/027827号および国際公開第2011/066342号に記載のPDL2-Fc融合可溶性受容体である。
【0245】
本明細書で提供される方法で標的化され得る別の免疫チェックポイントは、CD152としても公知の細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)である。ヒトCTLA-4の完全なcDNA配列のGenbankアクセッション番号はL15006である。CTLA-4は、T細胞の表面に見出され、抗原提示細胞の表面のCD80またはCD86に結合すると「オフ」スイッチとして機能する。CTLA4は、ヘルパーT細胞の表面に発現し、抑制性シグナルをT細胞に伝達する免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CTLA4はT細胞共刺激タンパク質であるCD28に類似しており、両方の分子が抗原提示細胞上のCD80およびCD86(それぞれB7-1およびB7-2とも呼ばれる)に結合する。CTLA4は抑制性シグナルをT細胞に伝達するが、CD28は刺激性シグナルを伝達する。細胞内CTLA4は制御性T細胞にも見出され、それらの機能に重要であり得る。T細胞受容体およびCD28によるT細胞の活性化は、B7分子の抑制性受容体であるCTLA-4の発現の増加を導く。
【0246】
一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体)、その抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドである。
【0247】
本発明の方法での使用に適した抗ヒト-CTLA-4抗体(またはそれから誘導されるVHおよび/またはVLドメイン)は、当技術分野で周知の方法を使用して生成することができる。あるいは、当技術分野で認められている抗CTLA-4抗体を使用することができる。例えば、抗CTLA-4抗体は、以下に開示されている。米国特許第8,119,129号、国際公開第01/14424号、国際公開第98/42752号;国際公開第00/37504号(トレメリムマブとしても公知のCP675,206;旧チシリムマブ)、米国特許第6,207,156;Hurwitzら(1998)Proc Natl Acad Sci USA 95(17):10067-10071;Camachoら(2004)J Clin Oncology 22(145):Abstract No.2505(抗体CP-675206);およびMokyrら(1998)Cancer Res 58:5301-5304は、本明細書に開示される方法で使用され得る。前述の刊行物のそれぞれの教示は、参照により本明細書に組み込まれる。CTLA-4への結合について、これらの当該技術分野で承認されている抗体のいずれかと競合する抗体も使用することができる。例えば、ヒト化CTLA-4抗体は、国際公開第2001014424号、同第2000037504号、および米国特許第8,017,114号に記載されており、すべて参照により本明細書に組み込まれる。
【0248】
例示的な抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101、およびヤーボイ(登録商標)として公知)またはその抗原結合フラグメントおよび変異体(例えば、国際公開第01/14424を参照)である。他の実施形態では、抗体は、イピリムマブの重鎖および軽鎖のCDRまたはVRを含む。したがって、一実施形態では、抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびにイピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態では、抗体は、上記の抗体と同じCTLA-4上のエピトープとの結合について競合する、かつ/または結合する。もう一つの実施形態では、抗体は、上記の抗体と少なくとも約90%の可変領域アミノ酸配列同一性(例えば、イピリムマブと少なくとも約90%、95%、または99%の可変領域同一性)を有する。
【0249】
CTLA-4を調節するためのその他の分子としては、すべて参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5844905号、同第5885796号および国際特許出願第WO1995001994号および同第1998042752号に記載されるようなCTLA-4リガンドおよび受容体;ならびに、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8329867号に記載されるようなイムノアドヘシンが挙げられる。
【0250】
4.手術
癌患者の約60%は、予防的、診断または病期分類、治癒的、緩和的手術を含む何らかの種類の手術を受ける。治癒的手術には、癌性組織の全部または一部を物理的に除去、切除、および/または破壊する切除術が含まれ、本発明の実施形態の治療法、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法、および/または代替療法などの他の治療法と併用することができる。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去を指す。腫瘍切除に加えて、手術による治療には、レーザー手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡制御手術(モース手術)が含まれる。
【0251】
癌性細胞、組織、または腫瘍の一部または全部を切除すると、体内に空洞が形成される場合がある。治療は、灌流、直接注射、または追加の抗癌療法を伴う領域の局所適用によって達成され得る。そのような治療は、例えば、1、2、3、4、5、6、または7日ごとに、または1、2、3、4、および5週間ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12か月ごとに繰り返されてよい。これらの治療は、投与量もさまざまであり得る。
【0252】
5.その他の薬剤
治療の治療効力を改善するために、その他の薬剤を本発明の実施形態の特定の態様と組み合わせて使用することができると想定される。これらの追加の薬剤には、細胞表面受容体およびGAP結合のアップレギュレーションに影響を与える薬剤、細胞分裂阻害剤および分化剤、細胞接着の阻害剤、アポトーシス誘導物質に対する過剰増殖細胞の感受性を高める薬剤、またはその他の生物学的製剤が含まれる。GAP結合の数を増加させることによる細胞間シグナル伝達の増加は、隣接する過剰増殖細胞集団に対する抗過剰増殖効果を増加させるであろう。他の実施形態では、細胞分裂阻害剤または分化剤を、本発明の実施形態の特定の態様と組み合わせて使用して、治療の抗過剰増殖効力を改善することができる。細胞間接着の阻害剤は、本発明の実施形態の効力を改善すると想定されている。細胞間接着阻害剤の例は、焦点接着キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。さらに、抗体c225などの、アポトーシスに対する過剰増殖性細胞の感受性を増加させる他の薬剤を、本発明の実施形態の特定の態様と組み合わせて使用して、治療効力を改善することができると想定される。
IX.本開示のキット
【0253】
本明細書中に記載される組成物のどれもがキットに含められる場合がある。限定されない一例において、TDAG8の低下した発現レベルまたは阻害された発現レベルを有する細胞、当該細胞を産生させるための試薬、ベクター、ならびにベクターおよび/またはその成分を作製するための試薬がキットに含められる場合がある。ある特定の実施形態において、NK細胞がキットに含められる場合があり、NK細胞はどのような様式においてであれ改変されている場合があり、またはまだ改変されていない場合がある。そのようなキットは細胞の操作のための1つもしくは複数の試薬を有する場合があり、または有しない場合がある。そのような試薬には、例えば、小分子、タンパク質、核酸、抗体、緩衝液、プライマー、ヌクレオチド、塩、および/またはそれらの組み合わせが含まれる。TDAG8をKOするためのCRISPR、自殺遺伝子産物、受容体および/またはサイトカインをコードするヌクレオチドがキットに含まれる場合がある。タンパク質、例えば、サイトカイン、またはモノクローナル抗体を含めた抗体などがキットに含まれる場合がある。操作されたCAR受容体またはTCR受容体の成分をコードするヌクレオチドが、当該成分を作製するための試薬を含めてキットに含まれる場合がある。
【0254】
特定の局面において、キットは本開示のNK細胞療法および同様に別のがん療法を含む。いくつかの場合において、キットには、細胞療法の実施形態に加えて、例えば、第2のがん療法、例えば、化学療法、ホルモン療法および/または免疫療法などもまた含まれる。キット(1つまたは複数)は個体について特定のがんに合わせて調整され、当該個体のためのそれぞれの第2のがん療法を含む場合がある。
【0255】
キットは、好適に等分された本開示の組成物を含む場合がある。キットの成分は水性媒体において、または凍結乾燥形態でどちらでも包装される場合がある。キットの容器手段には一般に、成分が入れられることがある、好ましくは好適に小分けして入れられることがある少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジまたは他の容器手段が含まれるであろう。2つ以上の成分がキットに存在する場合、当該キットはまた一般には、さらなる成分が別個に入れられることがある第2、第3または他のさらなる容器を含む場合がある。しかしながら、成分の様々な組合せがバイアルに含められる場合がある。本発明のキットはまた、典型的には、組成物と、どのような試薬容器であれ他の試薬容器とを商用販売のための厳重な閉じ込めで含有するための手段を含むであろう。そのような容器には、所望のバイアルが保持される射出成形プラスチック容器またはブロー成形プラスチック容器が含まれる場合がある。
【実施例
【0256】
X.実施例
下記の実施例は、本開示のある特定の限定されない局面を明らかにするために含まれる。下記の実施例において開示される技術は、開示された主題の実施において十分に機能することが本発明者らによって見出された技術を表すことが、当業者によって理解されなければならない。しかしながら、当業者は本開示に照らして、多くの変化を、開示される具体的な実施形態において行うことができ、また、多くの変化が依然として、同じような結果または類似する結果を、開示された主題の精神および範囲から逸脱することなくもたらし得ることを理解しなければならない。実施例1免疫細胞表面でのTDAG8発現
【0257】
免疫細胞発現データベース(DICE)のマイニングにより、TDAG8がNK細胞およびある特定のT細胞サブセットで高発現していることが見出された(図1)。TDAG8は、T細胞、NK細胞およびマクロファージを含めた免疫細胞で発現することが文献において以前に示されていた5、6。データからは、遺伝子ノックアウトデータにおいて後で示されるような臍帯血由来NK細胞でのTDAG8の発現が確認される。
CRISPR/Cas9によるTDAG8ノックアウト:
【0258】
高いオンターゲット活性スコアおよびオフターゲット活性スコアの両方を有しながら、TDAG8のエクソン領域における二本鎖切断を誘発するガイドRNA(gRNA)を設計した。下記のsgRNAを例として設計した:
【表3】
【0259】
下記の実験のために、下記のgRNAを組み合わせて使用した:5’-AUACCGAUCAACGGCAAUGC-3’(配列番号54)および5’-AACUUGUUCAGGACGUGUAC-3’(配列番号55)。NK細胞を臍帯血から単離し、培養した。1週間後、細胞を、コントロールとしてCas9単独により、またはTDAG8を標的とする化学合成されたcrRNA:tracrRNA二重鎖が予め組み込まれたCas9によりヌクレオフェクションした。その後、細胞をさらに1週間にわたって拡大した。遺伝子編集効率を2日目にPCRによって確認し(図2)、タンパク質発現における低下を7日目にフローサイトメトリーによって確認した(図3)。
インビトロでの酸性条件におけるNK細胞機能に対するTDAG8ノックアウトの影響:
【0260】
酸性環境におけるNK細胞に対するTDAG8ノックアウトの影響を調べるために、NK細胞を乳酸塩の非存在下または異なる濃度(5mM、10mMおよび20mM)での存在下で48時間インキュベーションし、その後、アネキシンVアッセイをRaji細胞の存在下で実施した。アネキシンVをこれらの異なるNK細胞条件のもとで発現するRaji細胞の割合が図4に示される。この実験は、アポトーシスのマーカーであるアネキシンVのRaji細胞による発現が、野生型(WT)NK細胞が乳酸塩の増大する濃度でインキュベーションされるにつれて低下することを示した。しかしながら、NK細胞からのTDAG8 KOは、酸性環境の存在下でさえ、Raji細胞においてアポトーシスを誘導するその能力を部分的に回復させる。
【0261】
WT-NK細胞対TDAG8 KO-NK細胞の殺傷能を調べるために、殺傷アッセイを、48時間にわたる10mMの乳酸および786-O腎細胞がん細胞株の存在下でインキュベーションされた後のそのようなNK細胞を使用して実施した。殺傷アッセイを、腫瘍細胞の成長およびNK細胞による殺傷の生細胞画像化を用いたIncucyte(登録商標)装置で実施した(図5A図5B)。10mMの乳酸の存在下におけるNK細胞の活性が、Cas9単独によりヌクレオフェクションされるコントロールNK細胞と比較して、TDAG8 KO-NK細胞では増強される。同じ実験をNK細胞の2つの臍帯血供給源で実施し、類似する結果が得られた。
【0262】
NK細胞の抗腫瘍機能に対するTDAG8 KOの影響を、インビボ固形腫瘍条件を模擬する条件において検討するために、本発明者らはNK細胞の殺傷アッセイを786-O腎細胞がん細胞株およびA498腎細胞がん細胞株の3D腫瘍スフェロイド培養モデルに対して実施した。腫瘍スフェロイドは固形腫瘍塊をモデル化しており、酸性pHを有することが文献において以前に示されている(Nunes他、2019)。腎細胞がんは顕著な「ワールブルク効果」によって特徴づけられ(Courtney他、2018)、それにより、解糖経路遺伝子がアップレギュレーションされている(図6)。このことは、腫瘍微小環境における乳酸の生成、および増大した酸性度をもたらしている(Courtney他、2018)。これらのアッセイを実施するために、786-O細胞およびA498細胞を生細胞染色により標識し、超低接着プレートに播種した。3D腫瘍スフェロイド培養モデルをIncuCyteにおいて48時間にわたって形成させることができ、その後で、カスパーゼ-3/7 Green試薬(アポトーシスシグナル伝達試薬)およびNK細胞を加えた。腫瘍成長および細胞死をIncuCyte(登録商標)生細胞分析システムにおいてリアルタイムでモニターした。データからは、TDAG8 KO-NK細胞は、WT NK細胞と比較して、3D腫瘍スフェロイドに対する増強された細胞傷害性を有することが示される(図7)。
【0263】
要約すると、データは、免疫代謝チェックポイントとして作用するプロトンセンサーをコードするTDAG8遺伝子をCRISPR/Cas9によりノックアウトすると、NK細胞の改善された抗腫瘍活性が、酸性条件において、同様にまた、インビボ酸性固形腫瘍条件を模擬する3D腫瘍スフェロイドのインビボ様条件において両方でもたらされることを示す。文献
【0264】
本明細書で言及されたすべての特許および刊行物は、本発明が属する技術分野の当業者のレベルを示すものである。 すべての特許および刊行物は、個々の刊行物が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
特許及び特許出願
U.S. Patent No. 4,870,287
U.S. Patent No. 5,760,395
U.S. Patent No. 5,844,905
U.S. Patent No. 5,885,796
U.S. Patent No. 6,143,866
U.S. Patent No. 6,207,156
U.S. Patent No. 6,410,319
U.S. Patent No. 6,451,995
U.S. Patent No. 7,070,995
U.S. Patent No. 7,265,209
U.S. Patent No. 7,354,762
U.S. Patent No. 7,446,191
U.S. Patent No. 7,446,190
U.S. Patent No. 7,446,179
U.S. Patent No. 8,017,114
U.S. Patent No. 8,119,129
U.S. Patent No. 8,252,592
U.S. Patent No. 8,324,353
U.S. Patent No. 8,329,867
U.S. Patent No. 8,339,645
U.S. Patent No. 8,398,282
U.S. Patent No. 8,479,118
U.S. Patent Publication No. US 2005/0260186
U.S. Patent Publication No. US 2006/0104968
U.S. Patent Publication No. US 2002/131960
U.S. Patent Publication No. US 2013/287748
U.S. Patent Publication No. US 2013/0149337
European patent application number EP2537416
PCT Application No. PCT/US19/62009
WO 1995/001994
WO 1998/042752
WO 2000/14257
WO 2000/37504
WO 2001/014424
WO 2013/126726
WO 2012/129514
WO 2013/166321
WO 2013/071154
WO 2013/123061
WO 2014/055668
WO 2014/031687
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【0265】
本開示及びその利点について詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義される設計の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更、置換及び改変を本明細書で行うことができることを理解されたい。 さらに、本願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、物質組成、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されることを意図していない。 当業者であれば本開示から容易に理解できるように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たすか、または実質的に同じ結果を達成する、現在存在するまたは後に開発されるプロセス、機械、製造、物質の組成物、手段、方法、またはステップが、本開示に従って利用され得る。 したがって、添付の請求項は、そのようなプロセス、機械、製造、物質の組成物、手段、方法、またはステップをその範囲内に含むことを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
【配列表】
2023519083000001.app
【国際調査報告】