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特表2023-519089増強された蛍光バイオアッセイのための超高輝度蛍光ナノコンポジット構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(54)【発明の名称】増強された蛍光バイオアッセイのための超高輝度蛍光ナノコンポジット構造体
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20230428BHJP
   G01N 33/566 20060101ALI20230428BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20230428BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230428BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N33/566
G01N33/483 C
C12Q1/04
G01N21/64 G
G01N33/53 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546721
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(85)【翻訳文提出日】2022-07-29
(86)【国際出願番号】 US2021015750
(87)【国際公開番号】W WO2021155181
(87)【国際公開日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】62/968,314
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522305210
【氏名又は名称】オーラジェント バイオサイエンス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケルヒャー、クレア
(72)【発明者】
【氏名】チアン、チーション
(72)【発明者】
【氏名】クリック、スコット、エル.
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043EA01
2G043EA14
2G045CA18
2G045FA11
2G045GC15
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR56
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
本明細書には、蛍光ナノコンポジットが記載される。蛍光ナノコンポジット構造体は、少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有するプラズモンナノ構造体、少なくとも1つのスペーサコーティング、最大励起波長(λEX)を有する少なくとも1つの蛍光剤、および少なくとも1つのペプチド負荷主要組織適合性複合体(MHC)分子(pMHC)を含み得る。蛍光ナノコンポジット構造体は、少なくとも1つの蛍光剤単独の蛍光強度よりも少なくとも500倍大きい蛍光強度を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光ナノコンポジット構造体であって、
少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有するプラズモンナノ構造体と、
少なくとも1つのスペーサコーティングと、
最大励起波長(λEX)を有する少なくとも1つの蛍光剤と、
少なくとも1つのペプチド負荷主要組織適合性複合体(MHC)分子(pMHC)と、を含み、
前記蛍光ナノコンポジット構造体は、前記少なくとも1つの蛍光剤単独の蛍光強度よりも少なくとも500倍大きい蛍光強度を有する、蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項2】
前記少なくとも1つのλLSPRと前記λEXとの間の差は、75nm未満である、請求項1に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項3】
前記プラズモンナノ構造体は、銀でコーティングされた金ナノロッド(AuNR@Ag)である、請求項1に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項4】
前記少なくとも1つの蛍光剤は、少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約20、少なくとも約50、少なくとも約100、少なくとも約200、少なくとも約300、少なくとも約400、または少なくとも約500の蛍光剤を含む、請求項1に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項5】
前記スペーサコーティングは、約1nm~約20nmの厚さを有する、請求項1に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項6】
ビオチン結合分子をさらに含む、請求項1に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項7】
前記少なくとも1つのビオチン結合分子は、少なくとも約2個、少なくとも約5個、少なくとも約10個、少なくとも約15個、少なくとも約20個、少なくとも約25個、少なくとも約30個、少なくとも約35個、少なくとも約40個、少なくとも約45個、または少なくとも約50個のビオチン結合分子を含む、請求項6に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項8】
前記ビオチン結合分子は、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンまたはアビジンである、請求項6に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項9】
前記少なくとも1つのpMHC分子は、少なくとも約2個、少なくとも約4個、少なくとも約8個、少なくとも約12個、少なくとも約16個、少なくとも約20個、少なくとも約24個、少なくとも約28個、少なくとも約32個、少なくとも約36個、少なくとも約40個、または少なくとも約48個のpMHC分子を含む、請求項1に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項10】
前記少なくとも1つのpMHC分子は、ビオチン化されている、請求項6に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項11】
前記スペーサコーティングを覆うスキャフォルド層をさらに含む、請求項1に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項12】
蛍光ナノコンポジット構造体であって、
少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有するプラズモンナノ構造体と、
少なくとも1つのスペーサコーティングと、
第1の最大励起波長(λEX1)および第1の最大発光波長(λEM1)を有する少なくとも1つの蛍光剤と、
第2の最大励起波長(λEX2)および第2の最大発光波長(λEM2)を有する少なくとも1つの蛍光剤と、を含み、
前記蛍光ナノコンポジット構造体は、λEX1の光で励起され、λEM2の光を放出することができ、
λEM2での発光の強度は、λEM1での発光の強度よりも大きい、蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項13】
前記少なくとも1つのλLSPRと前記λEX1との間の差は、75nm未満である、請求項12に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項14】
λEX1を有する前記少なくとも1種の蛍光剤は、FRETアクセプターとして機能するλEX2を有する前記少なくとも1種の蛍光剤に対するFRETドナーである、請求項12に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項15】
第3の最大励起波長(λEX3)および第3の最大発光波長(λEM3)を有する少なくとも1種の蛍光剤をさらに含み、前記蛍光ナノコンポジット構造体は、λEX1の光で励起され、λEM3の光を放出することができ、λEM3の発光強度は、λEM1またはλEM2の発光強度より大きい、請求項12に記載の蛍光ナノコンポジット構造体。
【請求項16】
特異的T細胞受容体を有するT細胞を同定する方法であって、前記方法は、
T細胞を含有する試料を提供することと、
ペプチドが負荷された少なくとも1つの主要組織適合性複合体(MHC)分子(pMHC)を含む蛍光ナノコンポジット構造体に、T細胞を含有する前記試料を接触させることであって、前記pMHCは、前記ペプチドに特異的な受容体を含有するT細胞に特異的に結合することができる、接触させることと、
前記T細胞を空間的に分離することと、
蛍光発光を誘導する光の波長で前記蛍光ナノコンポジット構造体を励起することと、
前記蛍光ナノコンポジット構造体で標識された前記T細胞を検出することと、を含む、方法。
【請求項17】
前記蛍光ナノコンポジット構造体は、
少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有するプラズモンナノ構造体と、
少なくとも1つのスペーサコーティングと、
最大励起波長を有する少なくとも1つの蛍光剤と、を含み、
前記蛍光ナノコンポジット構造体は、前記少なくとも1つの蛍光剤単独の蛍光強度よりも少なくとも500倍大きい蛍光強度を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記T細胞は、フローサイトメトリーを使用して空間的に分離される、請求項16に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年1月31日に出願された米国特許出願第62/968,314号の優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、増強された蛍光バイオアッセイのための超高輝度蛍光ナノコンポジット構造体に関する。
【背景技術】
【0003】
生物学的流体および組織中の種々の生体分子の検出および定量化は、成分分子を正確かつ定量的に調べることを伴わずに複雑な非線形生化学系を完全に特徴付けることが不可能であることから、生物医学研究および臨床診断において根本的に重要である。この問題は、生物医学研究のすべての領域にわたって遍在するものであり、健康、老化、および疾患を完全に理解するための大きな障壁となっている。特に、核酸についてのPCRのような増幅スキームを有さないタンパク質およびペプチドの場合、がん、心疾患、および神経変性のような疾患に関連する分子の関連濃度は、fg/mLレベルからmg/mLまで何桁もの濃度範囲に及ぶ可能性があるため、この問題は、決して些細な問題ではない。同じ分子であっても、生理学的状態(例えば、健康対疾患)または試料環境(例えば、血液対脳脊髄液)に依存して、存在量が桁違いに変動する場合がある。最後に、研究機関にとって特に重要なことは、試料が非常に貴重であり、時には利用可能な量が極端に制限されることである。蛍光プローブおよび蛍光測定アプローチは、生物医学研究において、細胞および種々の亜細胞種の位置および動態ならびに細胞および組織における分子相互作用を可視化するための撮像ツールとしてだけでなく、分子バイオマーカーの検出および定量化のための蛍光イムノアッセイにおける標識/レポーターとしても用いられている。蛍光ベースの技術は、疾患の発症、進行、および治療に対する応答のゲノム、トランスクリプトーム、およびプロテオミクスシグネチャーを解明し、生物学および生命科学に根本的な変化をもたらしている。しかしながら、蛍光に依存する一連の検出および撮像技術においては、「シグナルが微弱であること」が永続的かつ繰り返し起こる問題であった。すべての蛍光ベースの生物分析技術では、最終的に、レポーターとして機能する個々の蛍光種から調査期間中に収集され得る光の量によって、その検出感度が制限されている。概して、個々のレポーターフルオロフォアからの弱い蛍光シグナルおよび関連する不十分なシグナル対ノイズ比により、現在、蛍光ベースのアッセイの最終的な感度は制限されている。
【0004】
この問題に対処する1つの手法は、より高い開口数の光学システムに結合されたより感度の高い検出器を使用することにより、検出機器を改善することである。このアプローチの欠点として、1)検出機器および光学システムに多大な費用を要すること、および2)高い開口数により、視野が著しく制限され、アッセイ読み出しが非常に長くなることがある。さらに、バイオアッセイで使用される典型的なフルオロフォアは、それらが光退色する前に光子を放出し得る使用可能な寿命が限られている。
【0005】
蛍光により、比色ELISAまたは化学発光などのアッセイ検出スキームを上回る複数の利点(多重化、高ダイナミックレンジ、広いプラットフォーム適用性(すなわち、細胞内、細胞上、組織、プレート、ビーズ、溶液などで使用され得る)を含む)が得られるが、蛍光は、不十分なシグナルのため基本的に制限される。プレートベースのアッセイでは、改善された蛍光検出感度を達成するために、ポリ-HRP、PCR-ELISA、アビジン-ビオチン複合体(ABC)ELISA、およびチラミドシグナル増幅(TSA)のような複雑なスキームが用いられる。これらのすべては、より複雑でより高価であり、概して、それらが置き換わるアッセイのバージョンよりもダイナミックレンジが劣っている。非常に高い検出感度を得るには、デジタルELISA(Quanterix Simoa System)または電気化学発光(Meso Scale Discovery)などの複雑な技術が必要となるが、それぞれ、特殊な基板、機器、およびワークフローが必要となる。
【0006】
スペクトル的に多重化された蛍光アッセイでは、異なる種がスペクトル的に異なる蛍光プローブで標識され、利用可能な固有のフルオロフォアが多いほど、アッセイはより高度に多重化される可能性がある。特に、励起スペクトルおよび発光スペクトルの固有の組み合わせを有することが重要となっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有するプラズモンナノ構造体と、少なくとも1つのスペーサコーティングと、最大励起波長(λEX)を有する少なくとも1つの蛍光剤と、少なくとも1つのペプチド負荷主要組織適合性複合体(MHC)分子(pMHC)とを含む蛍光ナノ構築物構造体が本明細書に開示される。蛍光ナノコンポジット構造体は、少なくとも1つの蛍光剤単独の蛍光強度よりも少なくとも500倍大きい蛍光強度を有する。
【0008】
一部の態様では、ナノ構築物は、350nmを超える少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有する銀コーティングされた金ナノロッド(AuNR@Ag)プラズモンナノ構造体と、少なくとも1つのスペーサコーティングと、最大に励起される波長(λEX)を有する少なくとも1つの蛍光剤と、少なくとも1つの生体認識要素とを含み得る。AuNR@Agを形成するために使用される金ナノロッド(AuNR)は、銀でコーティングする前に、650nmより大きい少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長を有する。蛍光ナノ構築物は、同様の照明および検出条件下で、少なくとも1つの蛍光剤単独の蛍光強度よりも少なくとも500倍大きい蛍光強度を有する。
【0009】
一態様では、蛍光ナノ構築物を作製する方法が本明細書に開示される。この方法は、概して、AuNR@Agプラズモンナノ構造体を提供することであって、AuNR@Agを形成するために使用される金ナノロッド(AuNR)は、650nmより大きい少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長を有する、提供することと、AuNR@Agプラズモンナノ構造体を少なくとも1つのスペーサコーティングでコーティングすることと、少なくとも1つの蛍光剤をスペーサコーティングにコンジュゲートすることと、スペーサ層を機能層でコーティングすることと、生体認識要素を少なくとも1つのスペーサコーティングまたは機能層のうちの1つにコンジュゲートすることと、を含む。
【0010】
一態様では、少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有するプラズモンナノ構造体と、少なくとも1つのスペーサコーティングと、第1の最大励起波長(λEX1)および第1の最大発光波長(λEM1)を有する少なくとも1つの蛍光剤と、第2の最大励起波長(λEX2)および第2の最大発光波長(λEM2)を有する少なくとも1つの蛍光剤とを含む蛍光ナノコンポジット構造体が本明細書でさらに開示される。蛍光ナノコンポジット構造体は、λEX1の光で励起され、λEM2の光を放出することができ、λEM2の発光強度は、λEM1の発光強度よりも大きい。
【0011】
一態様では、長いストークスシフトを有する蛍光ナノ構築物が本明細書に開示される。ナノ構築物は、概して、少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有するプラズモンナノ構造体と、少なくとも1つのスペーサコーティングと、最大に励起される波長(λEX_D)を有するフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)ドナーとして機能する少なくとも1つの蛍光剤、および最大に放出する波長(λEM_A)を有するFRETアクセプターとして機能する少なくとも1つの蛍光剤とを含み、FRETドナーとして機能する蛍光剤は、プラズモンナノ構造体のλLSPRの少なくとも1つである50nm以内のλEX_Dを有し、蛍光ナノ構築物は、λEX_Dで励起され、λEM_Aで光を放出することができる。
【0012】
一態様では、複数のペプチド-MHC(pMHC)分子で機能化され、MHCに結合したペプチドに特異的なT細胞抗原受容体(TCR)を認識することができる蛍光ナノ構築物が本明細書に開示される。pMHCで機能化された蛍光構築物は、現在の標準蛍光試薬である蛍光標識ストレプトアビジンに結合したpMHCと比較して、非常に高い検出感度を可能にする。これは、本明細書に開示される蛍光ナノ構築物が、蛍光ストレプトアビジンとは異なり、複合体当たり4つを超えるMHC分子のコンジュゲーションを可能にし、スペクトル的に等価なフルオロフォアで標識されたストレプトアビジンよりも非常に明るいという事実による。本明細書に開示されるpMHC修飾蛍光ナノ構築物は、複数のTCRが低い細胞表面密度で存在する場合であっても、複数のTCRに付着することができる。
【0013】
別の態様において、本明細書に開示されるのは、特異的T細胞受容体を有するT細胞を同定する方法である。この方法は、T細胞を含有する試料を提供することと、T細胞を含有する試料を、ペプチドに特異的な受容体を含有するT細胞に特異的に結合し得るペプチド(pMHC)が負荷された少なくとも1つの主要組織適合性複合体(MHC)分子を含む蛍光ナノコンポジット構造体と接触させることと、T細胞を空間的に分離することと、蛍光発光を誘導する光の波長で蛍光ナノコンポジット構造体を励起することと、蛍光ナノコンポジット構造体で標識されたT細胞を検出することとを含み得る。
【0014】
追加の実施形態および特徴は、以下の説明において部分的に記載され、本明細書を検討することによって当業者に明らかになるか、または開示された主題の実施によって習得され得る。本開示の性質および利点のさらなる理解は、本開示の一部を形成する明細書および図面の残りの部分を参照することによって実現され得る。
【0015】
本明細書は、本開示の種々の実施形態として提示され、本開示の範囲の完全な記述として解釈されるべきではない以下の図およびデータグラフを参照してより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】プラズモン蛍光体を生成するために使用される固有のプラズモンコアナノ粒子を生成するための概略図の例示的な実施形態である。この概略図では、810nmを超えるλLSPRを有するコアAuNRを銀でコーティングして、650nm~800nmの主要なλLSPRを有するAuNR@Agを作製することができ、または660nmを超え800nm未満のλLSPRを有するコアAuNRを使用して、450nm~650の主要なλLSPRを有するAuNR@Agを作製することができる。
図2】Cy2、FITC、およびAlexaFluor488などの460~500nmの光によって励起され得る蛍光剤を増強するのに適したAuNR@Agプラズモン粒子の例示的な実施形態について、その最大値で1に正規化された吸光スペクトルである。
図3】TRITC、Cy3、MB543、およびAlexaFluor532などの480~540nmの光によって励起され得る蛍光剤を増強するのに適したAuNR@Agプラズモン粒子の例示的な実施形態について、その最大値で1に正規化された吸光スペクトルである。
図4】Cy5、AlexaFluor633、およびIR Dye650などの620~650nmの光によって励起され得る蛍光剤を増強するのに適したAuNR@Agプラズモン粒子の例示的な実施形態について、その最大値で1に正規化された吸光スペクトルである。
図5】Cy5.5、IR Dye680LT、およびAlexaFluor680などの650~680nmの光によって励起され得る蛍光剤を増強するのに適したAuNR@Agプラズモン粒子の例示的な実施形態について、その最大値で1に正規化された吸光スペクトルである。
図6】Cy7.5、IRDye800CW、およびAlexaFluor790などの750~790nmの光によって励起され得る蛍光剤を増強するのに適したAuNR@Agプラズモン粒子の例示的な実施形態について、その最大値で1に正規化された吸光スペクトルである。
図7】長いストークスシフトを示すプラズモン蛍光体の例示的な実施形態である。2つの例がここに示されており、一方は単一のFRETペア(ドナーフルオロフォアおよびアクセプターフルオロフォア)を含み、もう一方は中間フルオロフォア(ドナー2/アクセプター1)が最初のドナーフルオロフォア(ドナー1)と最後のアクセプターフルオロフォア(アクセプター2)との間の架橋として機能するFRETトリプルを含む。いずれの場合も、得られたプラズモン蛍光体は、最短波長ドナーフルオロフォア(λEX_D)を励起し、最長波長アクセプターフルオロフォア(λEM_A)の最大発光波長で最大発光する波長で励起することができる。
図8】470nmの光によって励起された長いストークスシフトのプラズモン蛍光体の2つの例示的な実施形態の発光スペクトルのプロットであり、一方のプラズモン蛍光体はFRETペアFITC-Cy3でコーティングされ、他方のプラズモン蛍光体はFRETトリプルFITC-Cy3-Cy5でコーティングされている。両方の場合において、最長波長アクセプター分子(FITC-Cy3ペアにおけるCy3およびFITC-Cy3-Cy5トリプルにおけるCy5)から有意な蛍光が見られ、ドナー分子の蛍光は抑制され、効率的なFRETを示している。
図9】AuNR@Agプラズモンコア粒子を使用してプラズモン蛍光体を構築する例示的な実施形態である。AuNR@Agプラズモンコア粒子はスペーサ層でコーティングされ、その後、スペーサ層に蛍光色素分子がコンジュゲートされる。次いで、この色素-スペーサ層を、機能層(この実施例では、ビオチン化ウシ血清アルブミン(BSA)および遊離BSAの組み合わせ)でコーティングする。任意選択で、このビオチン化プラズモン蛍光体は、ストレプトアビジンを結合することによってさらに修飾され得、次いで、任意選択で、ビオチン化抗体で修飾され得る。
図10】AuNR@Agプラズモンコア粒子を使用してプラズモン蛍光体を構築する例示的な実施形態であり、AuNR@Agプラズモンコア粒子はスペーサ層でコーティングされ、その後、スペーサ層に蛍光色素分子がコンジュゲートされる。次いで、この色素-スペーサ層を、機能層、この例ではトランス-シクロオクテン(TCO)BSAおよび遊離BSAの組み合わせでコーティングする。任意選択で、このTCOコンジュゲートされたプラズモン蛍光体をテトラジン(TZ)結合抗体とさらに反応させることができる。TCOおよびTZは、「クリック」化学ペアの単なる一例であるが、任意のクリックペアが機能する。
図11】pMHC修飾プラズモン蛍光体およびそれを作製する方法の例示的な実施形態である。ストレプトアビジンコンジュゲートされたプラズモン蛍光体を使用して、過剰のビオチン化pMHCを含有する溶液にストレプトアビジンコンジュゲートされたプラズモン蛍光体を添加することによって、pMHC修飾プラズモン蛍光体を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、以下に記載される図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって理解され得る。説明を明確にするために、種々の図面における特定の要素は、一定の縮尺で描かれていない場合があることに留意されたい。デバイスのいくつかの変形例が、本明細書に提示される。異なる変形例の種々の構成要素、部品、および特徴は、一緒に組み合わせられてもよく、かつ/または互いに交換されてもよく、すべての変形例および特定の変形例が図面に示されていなくても、それらのすべてが本出願の範囲内であることを理解されたい。種々の変形例間の特徴、要素、および/または機能の混合および整合は、本明細書で明示的に企図され、したがって、当業者は、本開示から、別段の記載がない限り、1つの変形例の特徴、要素、および/または機能が別の変形例に適宜組み込まれ得ることを諒解することも理解されたい。
【0018】
ここで、本開示全体を通して適用されるいくつかの定義を提示する。本明細書で使用される場合、「約」は、明示的に示されているか否かにかかわらず、整数、分数、パーセントなどを含む数値を指す。「約」という用語は、概して、例えば、同じ機能または結果を有する、列挙された値と同等であると考えられる、列挙された値の±0.5~1%、±1~5%または±5~10%などの数値の範囲を指す。
【0019】
「含む(comprising)」という用語は、「含むが、必ずしもそれに限定されない」ことを意味し、具体的には、そのように記載された組み合わせ、群、シリーズなどにおけるオープンエンドの包含またはメンバーシップを示す。本明細書で使用される「含む(comprising)」および「含む(including)」という用語は、包括的かつ/またはオープンエンドであり、追加の列挙されていない要素または方法プロセスを除外しない。「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、「含む(comprising)」よりも限定的であるが、「からなる(consisting of)」ほど限定的ではない。具体的には、「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、指定された材料またはステップ、および特許請求される発明の本質的な特徴に実質的に影響を及ぼさないものへの帰属関係を限定する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「プラズモン蛍光体」または「蛍光ナノ構築物」という用語は、少なくとも、そのコアにおけるプラズモンナノ構造体と、プラズモンナノ構造体をコーティングするスペーサ層と、その表面にコンジュゲートされた少なくとも1つの蛍光剤とを有するコンポジット構造体を意味する。一部の変形例では、「プラズモン蛍光体」または「蛍光ナノ構築物」は、スキャフォルド層および/または生体認識要素(例えば、MHC、pMHC、ストレプトアビジンなど)をさらに含み得る。
【0021】
本明細書で使用される場合、「蛍光剤」という用語は、励起時に蛍光発光を生成することができる色素、蛍光プローブ、またはフルオロフォアを意味する。
【0022】
本明細書で提供されるのは、新規な銀含有プラズモンナノ構造体に基づく超高輝度蛍光ナノ構築物、プラズモン蛍光体(PF)である。さらに、本明細書に開示されるのは、大きなストークスシフト、フルオロフォアの励起スペクトルの最大位置と発光スペクトルの最大位置との間の差を示す新規なプラズモン蛍光体である。プラズモン蛍光体は、1つ以上の生体認識要素にコンジュゲートされ、既存の生物学的アッセイを増強するために使用され得る。さらに、これらのプラズモン蛍光体は、その優れた輝度により、新規な生物学的アッセイを可能にし得る。本明細書に開示されるプラズモン蛍光体技術は、それらが典型的な有機フルオロフォアよりも非常に明るい(すなわち、それらは所与の期間に多くの光子を放出する)ので、機器の要件を緩和することができる。
【0023】
プラズモン蛍光体は、励起と発光との間の有意な分離を可能にする長いストークスシフトを示し、超高輝度である。これにより、より長波長の検出を伴う広帯域励起源(例えば、LED)を使用することで、より単純でより安価な蛍光検出システムが可能となり得る。さらに、同じ励起源で多くの異なるフルオロフォアを励起し、異なるバンドパスフィルタまたはさらにはモノクロメータを使用して、それぞれを特異的に検出することが可能であり得る。これは、フローサイトメトリーおよび免疫組織化学/免疫細胞化学などの高度に多重化された蛍光アッセイにおいて特に重要であり、ここで、一部のフルオロフォアは、細胞集団を特異的に同定するために使用され、他のフルオロフォアは、これらの集団内で発現されるタンパク質についての情報を提供するために使用される。
【0024】
プラズモン蛍光体は表面積が比較的大きいため、多くの生体認識要素を機能化することができる。生体認識要素としては、MHC、pMHC、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、またはアビジンが挙げられるが、これらに限定されない。これは、単離された生体認識要素よりも見かけ上の親和性(またはアビディティ)が高い構造をもたらす。これは、抗原特異的T細胞の同定のための主要組織適合性複合体(MHC)アッセイなどにおいて、標的に対して親和性は低いが複数の標的が存在する複合体を標的としたい場合に特に重要である。ペプチド負荷MHC(pMHC)分子で官能化されたプラズモン蛍光体は、T細胞受容体の認識に利用可能な最も感度の高い試薬を表す。これは、それらの驚異的な明るさだけでなく、大量のpMHCが高密度で負荷される能力によるものである。
【0025】
本開示は、超高輝度蛍光ナノコンポジットまたはプラズモン蛍光体に関する。蛍光ナノコンポジットは、少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有するプラズモンナノ構造体、少なくとも1つのスペーサコーティング、最大励起波長(λEX)を有する少なくとも1つの蛍光剤、および少なくとも1つのペプチド負荷主要組織適合性複合体(MHC)分子(pMHC)を含み得る。蛍光ナノコンポジット構造体は、少なくとも1つの蛍光剤単独の蛍光強度よりも少なくとも500倍大きい蛍光強度を有する。
【0026】
一部の例では、プラズモンナノ構造体は、超高輝度蛍光ナノ構築物におけるコア粒子として使用される銀コーティングされた金ナノロッドナノ構造体(AuNR@Ag)である。典型的には、金は、600nmを上回る主要LSPRピークを有するナノ構造体(例えば、金ナノロッド(AuNR))のために選択される金属であり、600nm未満の主要LSPRピークについては、銀が好ましいと考えられる。プラズモン増強蛍光ナノ粒子を作成する目的では、銀は、金よりも強いプラズモンを有し、複数のプラズモンモードをサポートできるため、一般に金よりも好ましい場合がある。本明細書では、約390nm~約800nmの調整可能なLSPRピークを有するプラズモンコア粒子(AuNR@Ag)を示しており、表面上の金属として銀を有し、中心に金ナノロッドを有する。銀は、金よりも強いプラズモンを有しており、このようにプラズモン蛍光体に組み込むことで、結果として高い蛍光を得ることができる。AuNR上の銀コーティングは、元のAuNRの主要LSPRピークに対して、得られた主要LSPRピークを青色にシフトさせる。概して、得られるAuNR@Agの標的主要LSPRピークよりも100nm~400nm長い主要LSPR波長を有するAuNRが選択される。AuNR@Agナノ構造体は、銀によって複数のプラズモンモードを有するので、本明細書では、これらの非支配的なプラズモンモードであっても、コンジュゲートされたフルオロフォアの蛍光を増強するために使用され得ることが実証される。
【0027】
図1に示すように、AuNR@Agコア粒子は、より高いLSPR波長を有する金ナノロッドを銀でコーティングすることによって、460nm~800nmに主要LSPRピークを有する金ナノロッド(AuNR)から作製することができる。例えば、750~800nmに主要LSPRピークを有するAuNR@Agを作製するために、1050~1200nmのLSPRを有するAuNRから開始することになる。別の例は、850~950nmのLSPRを有するAuNRを使用して、510nm~680nmに主要LSPRピークを有するAuNR@Agを作製することである。別の例は、640nm~700nmの主要LSPRピークを有するAuNRを使用して、460nm~510nmに主要LSPRピークを有するAuNR@Agを作製することである。主要LSPRピークに加えて、395nmという低い波長に現れる有意なマイナーなLSPRピークが存在する。
【0028】
一実施形態では、少なくとも1つのλLSPRとλEXとの間の差は、75nm未満である。少なくとも1つの例では、AuNR@Agの主要LSPRピークは、増強されるフルオロフォアの励起極大値から50nm以内である。同定された支配的なピークを有する吸光スペクトルの例および得られたプラズモン蛍光体を作製するために使用されるフルオロフォアの例を図2~6に示す。別の実施形態では、AuNR@Agの有意なLSPRピークは、増強されるフルオロフォアの励起極大値から50nm以内である。例えば、図2~5に示されるスペクトルに対応するAuNR@Agナノ構造体は、390nm~410nmの範囲におけるこれらの構造の非支配的LSPRピークを利用して、Pacific Blueなどの405nmレーザで励起される色素を増強するために使用することができる。
【0029】
UV-VISスペクトルが図2~6に示されているAuNR@Agナノ構造体の合成は、銀オーバーグロースステップにおいて硝酸銀と金ナノロッドとの比を調整することによって達成される。図6に示されるような750~800nmの間の支配的な(主要な)ピークを有するAuNR@Agを合成するための例示的な手順として、1050nmのLSPRを有するAuNRに対して0.228の吸光度を有する10mM塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)中の380mLのAuNR溶液から開始して、15.2mLの10mM硝酸銀を添加する。この混合物を60℃に加熱し、3.8mLの100mMアスコルビン酸を添加し、急速に混合し、60℃で少なくとも6時間インキュベートする。異なるLSPRピークを伴うAuNR@Agを作製するには、得られるAuNR@Agの標的主要LSPRピークよりも100nm~400nm長い主要LSPR波長を伴うAuNRから開始しながら、化学成分(金ナノロッド、CTAC、硝酸銀、およびアスコルビン酸)の比に変更を加えるだけで、上記の手順に従えばよい。図2~6は、銀オーバーグロース手順を使用して作製された約390nm~約800nmの範囲のLSPRピークを有するAuNR@Agのスペクトルを示す。通常、表面に銀を含有するナノ粒子は、水溶液中で酸化されやすく、プラズモン特性を劣化させる可能性がある。蛍光ナノ構造体(プラズモン蛍光体)を作製するために使用されるAuNR@Agは、1週間以内に後述するように調製し、スペーサ層でコーティングすることにより、AuNR@Agを酸化から保護することができる。これらの粒子は水溶液中で6ヶ月超保存され、顕著な酸化またはプラズモン特性の変化はなかった。
【0030】
プラズモン蛍光体においてコアプラズモン微粒子としてAuNR@Agを使用することの利点は、その合成の容易さ、その強いプラズモン、および概して使用される蛍光色素の領域におけるそのLSPR波長の調整可能性であるが、プラズモン蛍光体はまた、金ナノロッド、銀ナノキューブ、銀または金ナノスフェア、バイメタルナノ構造、金コア銀シェルナノキューボイド、金または銀ナノチューブ、金ナノロッド、銀ナノキューブ、銀ナノスフェア、鋭い先端を持つナノ構造、ナノスター、中空ナノ構造、ナノケージ、ナノラトル、ナノバイピラミッド、ナノプレート、ナノラズベリーを含むがこれらに限定されない、適切な波長においてプラズモン共鳴を支持することができる一部の他の構造を使用して作製することもできることに留意されたい。
【0031】
一実施形態では、AuNR@Agナノ構造体は、プラズモン蛍光体のための中心コアとして機能する。次いで、AuNR@Agナノ構造体は、少なくとも1つのスペーサコーティングまたはスペーサ層でコーティングすることができる。例えば、AuNR@Agナノ構造体は、図9および図10に示すように、スペーサ層でコーティングされてもよい。このスペーサ層は、AuNR@Ag構造上にコーティングすることができ、精密に制御可能な厚さを有する任意の誘電体材料であってもよい。一部の実施形態では、スペーサコーティングは、約0.5nm~約20nm、約1nm~約10nm、または約2~約5nmの厚さを有する。
【0032】
スペーサ層は、蛍光色素分子のコンジュゲーションを可能にする反応性基を有し、コーティング後、溶液中で安定なままであることが理想的である。例示的なスペーサ層は、銀表面に結合し、追加のシラン層の成長を可能にする(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)を使用する開始層と、トリメトキシ(プロピル)シラン(TMPS)および(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS)の混合物を含有する成長層とからなる。TMPS対APTMSの比を変更して、コーティングされたナノ構造体のゼータ電位および表面上の反応性基の密度を調整することができる。図6に示されるスペクトルに対応するAuNR@Ag粒子を最適なスペーサ厚さでコーティングするために、例えば、最初に400マイクロリットルのMPTMSを1mM CTAC中のAuNR@Agの400mL溶液に添加する。ここで、AuNR@Agは約760nmの主要LSPRピークおよび6~10の吸光度を有する。この混合物を穏やかに振盪しながら、20℃で1時間インキュベートすることができる。1時間後、2mLのAPTMSおよび2mLのTMPSを添加し、混合し、この溶液を穏やかに振盪しながら20℃で4時間インキュベートする。次いで、これらのスペーサコーティングしたAuNR@Ag粒子を遠心分離し、1mM CTAC中に再懸濁して、スペーサコーティング反応を停止させる。別の例として、図3に示されるスペクトルに対応するAuNR@Ag粒子をコーティングするために、上記の正確な手順に従いつつ、約510nmの主要LSPRピークおよび45~50の吸光度を有するAuNR@Agを使用する。シランをベースとしたスペーサ層を使用することは、反応物の化学量論的な調整だけで簡単に厚さを寸法制御できるのが魅力的である。
【0033】
スペーサコーティングAuNR@Agナノ構造体は、図9および図10の第2のステップに示されるように、少なくとも1つの蛍光剤に直接コンジュゲートすることができる。種々の例において、少なくとも1つの蛍光剤は、少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約20、少なくとも約50、少なくとも約100、少なくとも約200、少なくとも約300、少なくとも約400、または少なくとも約500の蛍光剤を含んでもよい。スペーサ成長層としてTMPSおよびAPTMSを使用することで、一級アミン基が溶媒に露出され、このアミン基は、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、イソチオシアネート、テトラフルオロフェニル(TFP)エステル、またはペンタフルオロフェニル(PFP)を含有するものなどのアミン反応性蛍光染料で容易に官能化される。プラズモン蛍光体の合成のために、概して、蛍光色素の励起極大値がプラズモンナノ構造体の有意なLSPRピークから約50nm以内であるように、単一の種類の蛍光色素および適切なプラズモンナノ構造体コアを選択する。一例として、吸光度20で0.5Xリン酸緩衝生理食塩水を含む1mM CTACに溶解した図6のスペクトルに対応する1mLのスペーサコーティングAuNR@Agナノ構造体を標識するために、5mg/mLの濃度でジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した4マイクロリットルのNHS-スルホ-シアニン7.5を添加し、室温で12時間インキュベートする。別の例として、吸光度20で0.5×リン酸緩衝生理食塩水を含む1mM CTACに溶解した図3のスペクトルに対応する1mLのスペーサコーティングAuNR@Agナノ構造体を標識するために、5mg/mLの濃度でジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した2マイクロリットルの色素NHS-MB543を添加し、室温で12時間インキュベートする。最適な標識条件は、各色素/ナノ構造体の組み合わせについて経験的に見出され得るが、色素濃度の関数としての粒子当たりの蛍光が最大化されるように選択されるべきである。
【0034】
複数の異なるタイプの色素分子をプラズモン蛍光体に組み込むことによって、大きなストークスシフトを有するスペクトル的に固有のプラズモン蛍光体を生成することができる。図7に示すように、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)に関与し得る色素分子をプラズモン蛍光体に組み込むことによって、大きなストークスシフトを有するプラズモン蛍光体を作製することが可能である。具体的には、FRETペア、FRETトリプレット、FRETクアドルプレット、またはさらにFRETクインテットを形成する蛍光色素/薬剤を組み込むことができる。好ましい実施形態において、適切なナノ構造体コアは、FRET鎖における第1のドナー色素分子(すなわち、最も低い励起波長を有する色素分子)の励起極大値の近傍および励起のために使用される光源の近傍において、高いモル吸光度を有し、従って、局在化共鳴プラズモンモードを有する。
【0035】
一実施形態では、蛍光ナノコンポジット構造体は、少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有するプラズモンナノ構造体と、少なくとも1つのスペーサコーティングと、第1の最大励起波長(λEX1)および第1の最大発光波長(λEM1)を有する少なくとも1つの蛍光剤と、第2の最大励起波長(λEX2)および第2の最大発光波長(λEM2)を有する少なくとも1つの蛍光剤とを含み得る。蛍光ナノコンポジット構造体は、λEX1の光で励起され、λEM2の光を放出することができ、そのためλEM2の発光強度は、λEM1の発光強度よりも大きい。したがって、λEX1を有する少なくとも1種の蛍光剤は、FRETアクセプターとして機能するλEX2を有する少なくとも1種の蛍光剤に対するFRETドナーである。一部の例では、少なくとも1つのλLSPRとλEX1との間の差は、100nm未満、75nm未満、50nm未満、25nm未満、または15nm未満である。
【0036】
一部の実施形態では、蛍光ナノコンポジットは、FRETトリプル、クアドラプル、またはクインタプルをさらに収容することができる。例えば、FRETトリプルの場合、蛍光ナノコンポジットは、第3の最大励起波長(λEX3)および第3の最大発光波長(λEM3)を有する少なくとも1つの蛍光剤をさらに含んでもよい。蛍光ナノコンポジット構造体は、λEX1の光で励起され、λEM3の光を放出することができ、そのためλEM3の発光強度は、λEM1またはλEM2の発光強度よりも大きい。
【0037】
図7に示すように、FRET色素は、厚さが1nm~10nm、好ましくは2~5nmの同じスペーサ層にコンジュゲートさせることができる。あるいは、図7に示されるように、FRET色素は、異なるスペーサ層にコンジュゲートされ得、ここで、最も短い波長のドナー色素は、第1のスペーサ層にコンジュゲートされ、アクセプター色素は、第1のスペーサ層を覆い、1nm~3nmの厚さを有する第2のスペーサ層にコンジュゲートされる。このレイヤーバイレイヤー方式は、FRETトリプル、クアドラプル、クインタプルに対応するように拡張することができる。さらに、混合スキームをレイヤーバイレイヤー方式と組み合わせることができる。例えば、第1の層をドナー色素のみでコーティングし、第2の層を、ドナー色素に対するFRETアクセプターとして機能する別の色素対と、より長い波長のアクセプター色素に対するドナーとの混合物でコーティングしてもよい。
【0038】
一例として、図3に示されるスペクトルに対応するスペーサコーティングAuNR@Agナノ構造体は、FRETペアFITCおよびCy3を用いて1:1の化学量論比でコーティングされる。図8に、470nmで励起された際のこのプラズモン蛍光体の得られた発光スペクトルを示している。470nmで励起された場合、このプラズモン蛍光体は、520nm付近のFITCの発光極大値における抑制された発光、および570nm付近のCy3の発光極大値付近における強い発光を示しており、これらは両方とも効率的なFRETの指標である。ドナー分子として機能するFITCの非存在下では、Cy3のみを含有する同じプラズモン蛍光体は、470nmの光によって最小限に励起される。さらなる例として、図3に示されるスペクトルに対応するスペーサコーティングAuNR@Agナノ構造体は、FRETトリプレットFITC、Cy3、およびCy5を用いて1:1:1の化学量論比でコーティングされる。図8はまた、470nmで励起された際のこのプラズモン蛍光体の得られた発光スペクトルを示している。この実施形態では、FITCおよびCy3蛍光の両方が抑制され、Cy5蛍光が増強される。FITCの非存在下では、Cy3-Cy5粒子の蛍光は、470nmで励起した場合に最小となる。Cy3の非存在下では、FITC蛍光は最小限に抑制され、Cy5の蛍光は、FITCがドナーとして機能するFRET効率が低いため、最小限に抑えられ得る。最適な標識化学量論は、ドナー色素蛍光を最小にしながら、最終的なアクセプター(すなわち、最も長い発光波長を有する色素)の蛍光を最大にするように選択される。適切なナノ構造体(すなわち、最短波長ドナーの励起極大値(λEX_D)および励起源の近傍に有意なLSPRモードを有するもの)を適合させ、共鳴エネルギー移動を容易にするために適切なFRET色素鎖を選択し、ドナー色素の蛍光を抑制しながら、標識化学量論を最適化してFRET色素鎖中の最長波長アクセプター色素の最大発光波長(λEM_A)でプラズモン蛍光体の蛍光を最大化することによって、スペクトル的に固有の長いストークスシフトのプラズモン蛍光体を複数作り出すことができる。以下の表1は、列1に与えられる励起および発光波長を有する固有のプラズモン蛍光体を作成するために使用され得る色素鎖の組み合わせの例を提供する。これらは非限定的な例であり、スペクトル的に類似した色素(すなわち、以下に列挙される色素の15nm以内に励起極大値および発光極大値を有する)が、同じ効果を達成するために置換され得ることが、当業者によって認識されるはずである。例えば、Alexa488は、標識化学量論が最適化される場合、有意差なしにFITCまたはCy2で置換することができる。別の例として、Alexa546は、MB543、テトラメチルローダミン、またはCy3で置換することができる。別の例として、Alexa633をCy5またはIRDye 650で置換することができる。
【0039】
【表1-1】
【0040】
【表1-2】
【0041】
一部の実施形態では、プラズモン蛍光体は、スキャフォルド層をさらに含み得る。一例では、蛍光染料でコーティングした後、プラズモン蛍光体の調製における次のステップは、スキャフォルド層を追加することであってもよい。スキャフォルド層は、適切なブロッキング試薬を使用した場合、イムノアッセイにおける非特異的吸着を防止すること、蛍光色素標識プラズモン蛍光体を安定化させること、およびビオチン、ストレプトアビジン、核酸、または抗体などの生体認識に使用される標的化要素を容易にコンジュゲートすることができるベースとして役立つことなど、いくつかの目的を果たす。これらの標的化要素をスペーサ層に直接付着させることが可能であるので、スキャフォルド層は絶対的に必須ではないが、スキャフォルド層は、さらなる標識汎用性を提供し、プラズモン蛍光体の安定化を改善する。スキャフォルド層としてウシ血清アルブミン(BSA)を使用して、抗体コーティングされたプラズモン蛍光体を作製するためのプロセスの一例を図9に示す。このプロセスでは、蛍光色素標識されたプラズモン蛍光体を、溶液中のビオチン化BSAおよび天然BSAの混合物とともに、約30分間超音波処理しながらインキュベートする。標識密度は、天然BSAに対するビオチン化BSAの比を100%ビオチン化BSAから1%ビオチン化BSAに変えることによって容易に調整することができる。さらに、NHS-PEG4-ビオチンなどのアミン反応性ビオチン化試薬を使用して、ビオチン化BSAの標識度を1~10ビオチンに変更することができる。天然BSAに対するビオチン化BSAの両方の標識比の調整と、ビオチン化の程度の調整との組み合わせにより、プラズモン蛍光体の表面上のビオチンの密度および分布を自在に制御することができる。グルタルアルデヒドまたは別の適切な架橋剤を用いて安定性を増加させて、BSAスキャフォルド層をさらに架橋することができる。
【0042】
一実施形態では、プラズモン蛍光体は、スペーサコーティングおよび/またはスキャフォルド層上に、少なくとも1つのビオチン結合分子をさらに含み得る。例えば、少なくとも1つのビオチン結合分子は、少なくとも約2、少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約15、少なくとも約20、少なくとも約25、少なくとも約30、少なくとも約35、少なくとも約40、少なくとも約45、または少なくとも約50個のビオチン結合分子を含む。ビオチン結合分子の非限定的な例としては、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、およびアビジンが挙げられる。例えば、BSA/ビオチン化BSAスキャフォルド層でコーティングした後、プラズモン蛍光体は、ストレプトアビジンに対して機能的に反応性であってもよく、生物学的アッセイにおいてストレプトアビジンを特異的に検出するために使用することができる。また、ストレプトアビジンでコーティングされて、ストレプトアビジン官能化プラズモン蛍光体を生成し、これを使用して、生物学的アッセイにおいてビオチン化試薬を特異的に検出することができる。これらのストレプトアビジンでコーティングされたプラズモン蛍光体は、図9に示すように、別のビオチン化試薬、例えば抗体でさらに修飾することができる。別の例として、ビオチン化BSAは、「クリック」化学反応性部分、例えば、NHS-TCO試薬を介してBSAに結合したトランス-シクロオクテン(TCO)またはNHS-テトラジンを介してBSAに結合したテトラジン(Tz)で官能化されたBSAで置き換えることができ、スキャフォルド層は、図10に示すように、BSA:BSA-TCOまたはBSA-Tzの混合物を使用して形成することができる。当業者は、銅触媒クリック反応におけるアジド-アルキン対を含むがこれに限定されない任意のクリック反応対を、TCO/TZの代わりに使用できることを認識するであろう。さらに、図10に示すように、クリック官能化プラズモン蛍光体を、相補的クリック部分で標識された標的化要素とともにインキュベートすることによって、標的化要素(例えば、ストレプトアビジン、抗体、核酸など)をクリック官能化プラズモン蛍光体にコンジュゲートすることが可能である。
【0043】
一実施形態では、プラズモン蛍光体は、その外表面上に少なくとも1つのペプチド負荷MHC(pMHC)分子をさらに含み得る。種々の例において、pMHC分子は、ビオチン化されてもよく、ビオチン化pMHCは、スペーサコーティングおよび/またはスキャフォルド層上のビオチン結合分子に付着されてもよい。少なくとも1つのビオチン化pMHC分子は、少なくとも約2個、少なくとも約4個、少なくとも約8個、少なくとも約12個、少なくとも約16個、少なくとも約20個、少なくとも約24個、少なくとも約28個、少なくとも約32個、少なくとも約36個、少なくとも約40個、または少なくとも約48個のpMHC分子を含み得る。pMHCとコンジュゲートしたプラズモン蛍光体は、pMHCに負荷されたペプチドを特異的に認識するT細胞受容体(TCR)を含有する抗原特異的T細胞の同定に使用されるMHCテトラマーアッセイまたはテトラマー染色に非常に魅力的なプラットフォームを表す。いわゆるMHC-テトラマーアッセイ(テトラマー染色としても知られる)において抗原特異的T細胞を同定するために使用される標準試薬は、4つのビオチン化pMHC分子に結合した蛍光標識ストレプトアビジンである。単一のpMHC-受容体複合体は、比較的弱い親和性を有するので、4つのpMHC分子をストレプトアビジンを介して連結して単一の複合体中に組み合わせることによって、アビディティ、従って見かけの親和性が増加する。この概念は、これらのMHC四量体分子を複数連結して、例えばpMHC十二量体を作製することによってさらに拡張されている。別の代替法は、pMHCを蛍光標識されたデキストランに付着させて、いわゆるデキストラマーを作製することである。多くの、好ましくは8~40個以上のMHC分子で修飾されたプラズモン蛍光体を作製するための方法および組成物が本明細書に開示される。
【0044】
得られる組成物は、既存の材料に対して、以下のいくつかの利点を有する。1)プラズモン蛍光体自体は、PEを含む従来のフルオロフォアよりも少なくとも50倍明るく、より高いシグナルをもたらす。2)複数のpMHC分子(少なくとも12個)の存在は、非常に高いアビディティ/見かけの親和性を有するpMHC修飾プラズモン蛍光体を提供する。また、3)pMHC修飾プラズモン蛍光体の物理的サイズ(最長寸法>50nm)は、より広い面積にわたる細胞表面受容体の結合を可能にし、これは、より低密度の受容体を有するT細胞が検出され得ることを意味する。一部の実施形態では、プラズモン蛍光体は、蛍光剤単独の蛍光強度よりも少なくとも50倍大きい、少なくとも100倍大きい、少なくとも200倍大きい、少なくとも300倍大きい、少なくとも400倍大きい、または少なくとも500倍大きい蛍光強度を有する。
【0045】
例示的な実施形態において、ストレプトアビジンでコーティングされたプラズモン蛍光体をモル過剰のビオチン化pMHC分子を含有する溶液に添加することで、ストレプトアビジンコンジュゲートされたプラズモン蛍光体をビオチン化pMHCと組み合わせることにより、pMHC修飾プラズモン蛍光体を組み立てることができる。ここで、モル過剰は、図11に示すように、ストレプトアビジンコンジュゲートされたプラズモン蛍光体を含有する溶液中のストレプトアビジンのモル濃度に対して決定される。pMHCで装飾されたプラズモン蛍光体は、遠心分離によって遊離pMHCから分離することができる。反応後、遠心分離前に過剰の遊離ビオチンを添加して、すべてのビオチン結合部位が占有されるようにし、それにより、起こり得る架橋および凝集を最小限に抑えることができる。この設計におけるプラズモン蛍光体の表面上のpMHCの密度は、プラズモン蛍光体の調製において使用されるBSAに対するビオチン化BSAの比を単に変更することによって、またはBSAのビオチン化の程度を変更することによって、またはその両方によって、容易に変更することができる。これは、最終的に、プラズモン蛍光体の表面上に存在するストレプトアビジンの数を変化させる効果を有する。この文脈におけるBSAコーティングは、スキャフォルドとして機能し、多くの異なるタンパク質および類似の機能を果たし得る他のポリマーの代わりに使用され得ることを認識する必要がある。さらに、ビオチンは、(例えば、ビオチン-PEG-シラン)を使用してシランスペーサ層に直接組み込まれ得るか、またはビオチン-PEG-nhsエステルは、蛍光色素がコンジュゲートされる方法と同様に、曝露されたアミンを介して付加され得る。このシナリオにおいて、ストレプトアビジンは、これらのビオチンを介して直接コンジュゲートすることができ、スキャフォルドは不要となる。
【0046】
別の実施形態では、反応性クリック化学部分を含有するプラズモン蛍光体を、相補的クリック部分で標識されたpMHC(例えば、TCO-PEG-NHSエステルで標識されたプラズモン蛍光体およびテトラジン-PEG-NHSエステルで標識されたpMHC)と組み合わせることによって、pMHC修飾プラズモン蛍光体を組み立てることができる。このシナリオにおいて、PEGは、コンジュゲーション効率を改善するためのスペーサとして作用するが、省略されてもよい。PEGは、2~24モノマー単位長であり得る)。この「クリックされた」pMHCの実施形態において、プラズモン蛍光体は、最初に、TCO標識BSAおよび遊離BSAの混合物でコーティングされ、ここで、TCO-BSAの割合は、100%~約5%の範囲であり得、理想的には、80%~約10%である。次いで、このTCO-プラズモン蛍光体をモル過剰のテトラジン標識pMHC分子とともにインキュベートすることができる。プラズモン蛍光体の表面上のpMHCの密度は、単にTCO-BSA対BSAの比を変えることによって変更することができる。別の実施形態では、MHC分子は、C末端または溶媒露出ループに不対システインを有するように操作され、反応性クリック部分は、スルフヒドリル反応性試薬(例えば、マレイミド-PEG-Tzまたはマレイミド-PEG-TCO)を介してMHC分子に付加される。次いで、これを相補的官能化プラズモン蛍光体にコンジュゲートさせることができる。
【0047】
通常、MHC分子は細菌培養物中で発現され、BSPまたはAviTagなどのビオチン化タグを含む。MHC分子の精製およびリフォールディングの後、このタグはBirAなどのビオチンリガーゼで修飾され、ビオチンリガーゼはビオチン分子を部位特異的に付加する。プラズモン蛍光体のクリックバージョンを用いて、適切に修飾されたMHC分子を直接連結することが可能である。遺伝子コード拡張技術を用いて、非標準アミノ酸をタンパク質に部位特異的に導入することが可能である。このストラテジを使用して、例えばC末端領域のMHC分子中の少なくとも1つの天然アミノ酸を、クリック反応性部分を含有する非標準アミノ酸で置換することができる。Tz官能化プラズモン蛍光体と反応し得る例示的なアミノ酸は、TCO-L-リジン(TCO-Lys)であるが、プラズモン蛍光体が適切な相補的反応性単位で官能化される場合、アジド含有アミノ酸またはアルキン含有アミノ酸などのクリック官能基を有する任意のアミノ酸を使用することができる。クリック反応性アミノ酸をMHC分子に組み込むために、所望の修飾部位の天然コドンを、稀なコドン、例えばアンバー(TAG)終止コドンで単純に置換し、宿主翻訳機構に直交する追加のtRNA-tRNAシンテターゼ対(tRNA-RS)とともにタンパク質を発現させる。tRNAシンテターゼ酵素の活性部位は、レアコドンを認識するtRNAに組み込まれる特定のクリック官能化非標準アミノ酸のみを受容するように操作される。クリック官能化非標準アミノ酸は、単に増殖培地に添加され、それによって、特定の部位でMHCタンパク質に組み込まれる。このアプローチの利点は、MHCへのビオチンリガーゼ認識配列の付加の排除、およびビオチンリガーゼを使用するライゲーション反応の排除である。この同じアプローチを、クリック官能化抗体および他の生物学的に発現された分子に適用して、その後、それらを相補的クリック官能化プラズモン蛍光体にコンジュゲートすることができる。
【0048】
特異的T細胞受容体を有するT細胞を同定する方法が、本明細書においてさらに提供される。一実施形態では、本方法は、T細胞を含有する試料を提供することと、T細胞を含有する試料を蛍光ナノコンポジット構造体と接触させることと、T細胞を空間的に分離することと、蛍光発光を誘導する光の波長で蛍光ナノコンポジット構造体を励起することと、蛍光ナノコンポジット構造体で標識されたT細胞を検出することとを含み得る。一部の例において、T細胞は、フローサイトメトリーを使用して空間的に分離され得る。
【0049】
蛍光ナノコンポジット構造体は、ペプチドに特異的な受容体を含有するT細胞に特異的に結合することができるペプチド(pMHC)が負荷された少なくとも1つの主要組織適合性複合体(MHC)分子を含有し得る。一部の実施形態では、蛍光ナノコンポジット構造体は、少なくとも1つの局在表面プラズモン共鳴波長(λLSPR)を有するプラズモンナノ構造体と、少なくとも1つのスペーサコーティングと、最大励起波長を有する少なくとも1つの蛍光剤とを含む。蛍光ナノコンポジット構造体は、少なくとも1つの蛍光剤単独の蛍光強度よりも少なくとも500倍大きい蛍光強度を有する。
【実施例
【0050】
実施例1:ストレプトアビジン官能化プラズモン蛍光体の調製
1mLのLSPR波長における吸光度20の蛍光剤で標識されたプラズモン蛍光体を遠心分離してペレットを形成した。990μLの上清を除去した。別のマイクロ遠心分離管において、200μLのビオチン化BSA溶液(コーティングされるプラズモン蛍光体に対して少なくとも100倍モル過剰)を適切な緩衝液(例えば、pH9の50mM炭酸-重炭酸緩衝液)に添加した。プラズモン蛍光体ペレットの全体をビオチン化BSAの溶液に移し、水浴中で30分間超音波処理した。これを音波水浴から取り出し、溶液を4℃で15時間インキュベートした。ビオチン化BSAでコーティングされたプラズモン蛍光体の溶液を遠心分離してペレットを形成し、次いで10μL以外のすべての上清を除去した。別のマイクロ遠心分離管において、200μLのストレプトアビジン溶液(コーティングされるプラズモン蛍光体に対して少なくとも50倍モル過剰)を適切な緩衝液(例えば、pH9の50mM炭酸-重炭酸緩衝液)に添加した。ペレットビオチン化BSAコーティングプラズモン蛍光体の全体をストレプトアビジン溶液に移し、2時間インキュベートした。この溶液を遠心分離してペレットを形成し、上清を除去した。それを適切な緩衝液(例えば、1%BSAを含むpH9の50mM炭酸-重炭酸緩衝液)溶液に再懸濁した。これをさらに2回繰り返して、未結合ストレプトアビジンを除去した。
【0051】
実施例2:pMHC官能化プラズモン蛍光体の構築
実施例1と同様のストレプトアビジン官能化プラズモン蛍光体(Strep-PF)を、そのLSPR波長で20の吸光度に調整し、1mLを取り出し、マイクロ遠心分離管に入れた。この溶液を遠心分離してStrep-PFをペレット化し、約990μLの上清を除去した。別のマイクロ遠心分離管において、400μLの8μM(368μg/mLペプチド-MHC I複合体または232μg/mLペプチド-MHC II)溶液を、適合性緩衝液、例えば、1X PBS(リン酸緩衝生理食塩水)pH7.4中に氷上で添加した。遠心分離したStrep-PFペレットの全体をMHC-ペプチド複合体溶液に移し、これを10秒間ボルテックスし、次いで4℃で2時間インキュベートした。この反応は、直接使用され得るか、または任意選択で、モル過剰のビオチンを添加することによってブロックされ得、次いで使用され得る。
【0052】
実施例3:プラズモン蛍光体がpMHCで官能化されていることを確認するプレートベースのアッセイ
プラズモン蛍光体がpMHCとコンジュゲートしていることを確認するための簡単な方法は、MHC部分に対するイムノアッセイを行うことであった。これは、PBS中の1μg/mL濃度のMHC部分に特異的な抗体(抗β2-ミクログロブリンまたは抗MHCクラス特異的抗体のいずれか)でマイクロタイタープレートをコーティングすることによって行われた。次いで、プレートを適切なブロッキング剤(例えば、1X PBS中1%BSA)でブロッキングし、適切な洗浄剤(例えば、0.05%Tween20を含有する1X PBS)で洗浄した。次いで、pMHCにコンジュゲートされたプラズモン蛍光体を含有する特定量の溶液をプレート中で10分間インキュベートし、除去し、プレートを適切な洗浄剤で洗浄した。次いで、プレート表面上のプラズモン蛍光体蛍光を、適切なリーダーを使用して検出し、MHC部分に特異的な抗体でコーティングされていないマイクロタイタープレートの対照ウェルと比較した。ペプチドが結合していない場合、MHC複合体は迅速に解離するので、この手順は、pMHC複合体が機能的に活性であることが確認された。
【0053】
実施例4:特異的ペプチドを認識することができるT細胞集団の同定
目的の細胞(例えば、CD8陽性T細胞)を調製し、2×10個の細胞を96ウェルマイクロタイタープレートのウェルのマイクロ遠心分離管に添加した。適切な細胞染色緩衝液(例えば、5%ウシ胎児血清を含む1X PBS)で200μLに調整した。2μLのpMHC官能化プラズモン蛍光体溶液を、pMHCが目的のペプチドを含有する実施例2と同様に添加し、暗所で氷上で30分間インキュベートした。細胞を染色緩衝液で2回洗浄し、200μLの染色緩衝液に再懸濁した。細胞を、使用したプラズモン蛍光体の特異的蛍光シグナルを検出するための適切な設定を有するフローサイトメーターを使用して分析した。pMHC官能化プラズモン蛍光体の濃度の滴定は、最適な性能のために必要であり得る。
【0054】
いくつかの実施形態を説明してきたが、当業者であれば、本発明の趣旨から逸脱することなく、種々の修正形態、代替構成、および均等物を使用することができることを認識するであろう。さらに、本発明を不必要に不明瞭にすることを避けるために、一部の周知のプロセスおよび要素は説明されていない。したがって、上記の説明は、例示として解釈されるべきであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。以下の特許請求の範囲は、本明細書に記載のすべての一般的および特定の特徴、ならびに言語の問題としてそれらの間にあると言われる可能性がある本発明の方法および組成物の範囲のすべての陳述を網羅することを意図している。
図1
図2
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【国際調査報告】